衆議院

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第1号 令和4年2月15日(火曜日)

会議録本文へ
令和四年二月十五日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 根本  匠君

   理事 今枝宗一郎君 理事 島尻安伊子君

   理事 谷  公一君 理事 西村 康稔君

   理事 葉梨 康弘君 理事 大串 博志君

   理事 重徳 和彦君 理事 浦野 靖人君

   理事 稲津  久君

      青山 周平君    秋葉 賢也君

      井出 庸生君    伊藤 達也君

      石破  茂君    石原 宏高君

      今村 雅弘君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    奥野 信亮君

      加藤 勝信君    金田 勝年君

      亀岡 偉民君    神田 憲次君

      後藤田正純君    國場幸之助君

      笹川 博義君    下村 博文君

      杉田 水脈君    高木 宏壽君

      武井 俊輔君    辻  清人君

      土屋 品子君    中谷 真一君

      平沢 勝栄君    藤井比早之君

      古屋 圭司君    宮崎 政久君

      山本 有二君    鷲尾英一郎君

      渡辺 博道君    石川 香織君

      落合 貴之君    城井  崇君

      源馬謙太郎君    近藤 和也君

      階   猛君    堤 かなめ君

      長妻  昭君    道下 大樹君

      足立 康史君    市村浩一郎君

      岩谷 良平君    伊佐 進一君

      輿水 恵一君    中川 宏昌君

      斎藤アレックス君    前原 誠司君

      宮本  徹君    北神 圭朗君

      仁木 博文君

    …………………………………

   公述人

   (名古屋商科大学教授/マネックス証券株式会社専門役員)          大槻 奈那君

   公述人

   (株式会社政策工房代表取締役)          原  英史君

   公述人

   (東京大学大学院経済学研究科教授)        川口 大司君

   公述人

   (法政大学教授)     小黒 一正君

   公述人

   (株式会社日本総合研究所理事長)         翁  百合君

   公述人

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        石上 千博君

   公述人

   (大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授)    大竹 文雄君

   公述人

   (全国労働組合総連合議長)            小畑 雅子君

   予算委員会専門員     小池 章子君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月十五日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     神田 憲次君

  岩屋  毅君     井出 庸生君

  加藤 勝信君     笹川 博義君

  木原  稔君     宮崎 政久君

  北村 誠吾君     國場幸之助君

  中谷 真一君     藤井比早之君

  山本 有二君     杉田 水脈君

  鷲尾英一郎君     高木 宏壽君

  道下 大樹君     堤 かなめ君

  前原 誠司君     斎藤アレックス君

  緒方林太郎君     北神 圭朗君

同日

 辞任         補欠選任

  井出 庸生君     岩屋  毅君

  神田 憲次君     青山 周平君

  國場幸之助君     石原 宏高君

  笹川 博義君     加藤 勝信君

  杉田 水脈君     山本 有二君

  高木 宏壽君     鷲尾英一郎君

  藤井比早之君     中谷 真一君

  宮崎 政久君     木原  稔君

  堤 かなめ君     道下 大樹君

  斎藤アレックス君   前原 誠司君

  北神 圭朗君     仁木 博文君

同日

 辞任         補欠選任

  石原 宏高君     辻  清人君

  仁木 博文君     緒方林太郎君

同日

 辞任         補欠選任

  辻  清人君     武井 俊輔君

同日

 辞任         補欠選任

  武井 俊輔君     北村 誠吾君

    ―――――――――――――

本日の公聴会で意見を聞いた案件

 令和四年度一般会計予算

 令和四年度特別会計予算

 令和四年度政府関係機関予算


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     ――――◇―――――

根本委員長 これより会議を開きます。

 令和四年度一般会計予算、令和四年度特別会計予算、令和四年度政府関係機関予算、以上三案について公聴会を開きます。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。令和四年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず大槻奈那公述人、次に原英史公述人、次に川口大司公述人、次に小黒一正公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、大槻公述人にお願いいたします。

大槻公述人 ありがとうございます。名古屋商科大学並びにマネックス証券というところにおります大槻と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

 私からは、日本の金融市場の現状とリスク、そして、それを踏まえました日本の課題、期待についてということでお話をさせていただきたいと思います。

 まず、新型コロナの発生から約二年ということで、様々なインパクトがあると思いますが、当社の個人のアンケートからちょっとお伝えをしたいと思います。

 お手元の資料の二ページ目、上段のグラフを御覧いただければと思います。

 こちらは、新型コロナ発生当初の二〇年四月、そして各種経済対策発表後の二〇二一年一月に、それぞれ、自分の収入がどうなったか、あるいはどうなると思うかということについて聞いたものです。

 回答者は証券口座を持っている人ということですから、やや楽観的なバイアスがあるかと思われますが、それでも、コロナ発生当初は、収入が減った、あるいは減りそうだと答えた方が全体の五割に上り、増えると答えた方はほとんどいませんでした。これが、二一年一月時点では、右側になりますが、減った、減りそうだといった人が三割に減少しまして、変わらない又は増えたという方が合わせて七割程度に増えました。

 その背景の一つが、同じページの左下にございますように、過去と違う形での支援を行ったということだと思います。政府が、御存じのとおり、直接の給付金それから補助金等を比較的早期に支給したこと、これに加えまして、真ん中あたりのルートですが、保証協会を通じていわゆるゼロゼロ融資で銀行に貸出しを促したということが表れたと思います。

 右下にございますように、この結果として、リーマン・ショックのときに比べましても、広い業種についてしっかりと貸出しが伸びているということがお分かりいただけると思います。

 今回のスキームが奏功したために、次のページにございますように、邦銀は、当初は不良債権の増加による財務の悪化が相当懸念されたわけですが、実は、今期、もうすぐ三月が終わりますが、引き当てを取り崩して、一部の銀行では過去最高益を達成する見込みですし、貸出しを増やしてもなお、右側にございますように、余剰資金が増加して、一月時点ですが、三百三十兆円ということで史上最大となっています。

 下の方にございます資本につきましても、二〇一九年までは、実は、国内基準行、地域金融機関が主ですが、低下傾向にありましたが、コロナ禍を通じてむしろ充実しています。後ほど触れますが、このことは、今後の日本企業の正常化そして成長のプロセスのために極めて重要だと思っています。

 四ページ目を御覧いただければと思います。

 日本を含む各国で行われた財政政策などの結果、左上の図のとおり、御存じのとおりですが、世界のマネーが大きく増加しまして、右上にございますのが日本の個人預金ですが、こちらは増加しました。二一年九月時点の銀行の個人預金の残高は約五百三十兆円となっていますが、これはコロナ前のトレンドから推計される金額よりも十三兆円ぐらい膨らんでいる計算です。

 これらのマネーの伸びに押されまして、同じページの左下にございますように、二〇二〇年三月のパンデミック宣言で発生しました株価の暴落も、実は、一九二九年以来、史上最短のペースで回復しました。これらに支えられまして、右下にございますが、個人の金融資産ですが、米国と比べますと相当見劣りがするようではありますが、それでも安定的に増加をしています。

 このように、新型コロナ、今の時点ではございますが、金融市場への影響は、これまでのところ、我々市場関係者の当初の予想がいい意味で大外れだったということだと思います。しかし一方で、これからお話しさせていただきますように、足下の環境の変化、それに対する懸念材料も明らかになりつつあると感じています。

 五ページ目を御覧ください。

 まず、一点目の変化といたしましては、これまで持ちこたえてきた企業それから個人の体力に陰りが見えてきた点です。

 一部業種の不良債権なんですが、コロナ前から大きな増加が見られるのに加えまして、それ以上に目を引くのが、左上の図の一番右側の濃い青棒なんですが、不良債権の予備軍と言われる、その他要注意債権の増加が際立っています。また、これと表裏一体なんですが、下の方にございますように、一部の業種では、赤字それから減益となっている上、借入れの増加で財務力の大幅な悪化が見られるのは御存じのとおりかと思います。

 不良債権の予備軍と申し上げましたけれども、不良債権そのものの五倍ぐらいになっていまして、これらの企業をどのように再生し、成長軌道に乗せるのかというのが日本経済の明暗を分けるというふうに考えています。

 それから、同じページでもう一点だけ、個人について。

 右下なんですけれども、この赤い折れ線のグラフにございますように、預金残高が小さめな、三百万円未満の口座の一口座当たりの預金残高なんですが、ほかの大口の預金の口座はまだ安定的に増加をしているんですけれども、これが足下で減少に転じています。また、ここにはございませんが、一部民間企業のデータでは、住宅ローンの返済に困っている方々の相談件数が、コロナ前に比べて一・五から一・六倍になっていると言われます。

 第二の変化ということで、次のページ、六ページ目です。

 資産価格膨張の巻き戻しです。

 この上の二つのグラフは、日米それぞれの中央銀行の、資産残高を横軸に、縦軸に株価を取っています。様々な要因が関係していると思いますが、日米共に、近年の中央銀行の資産規模と株価にはやはり一定の関係があると見られます。

 株価は、中長期的には将来の企業収益を表すというものではあるんですけれども、市場のお金の流れに影響されないという考え方がある一方で、昨年、アメリカで発表された研究では、市場に一ドル流入すると株価の時価総額が五ドル程度上昇するというふうにも見られています。

 加えまして、下の二つの図表は、住宅価格の上昇と消費者物価の上昇の比較ですが、日本の場合、他の先進国に比べますとまだまだ行き過ぎ感というのは少ないんですが、それでも久々に上昇幅が拡大を続けているという状況です。

 こうした資産価格の上昇ということ自体を否定するものではございません。国民の富を増やすものということだとは思うんですが、御存じのとおり、年初来、市場は極めて不安定になっています。その影響については、今後の見通しとともに、後で少し触れたいと思います。

 戻りまして、三点目の変化ということで、七ページ目を御覧ください。

 こちらは四つの図表をお載せしていますけれども、全て我々が定期的に行っているアンケートです。

 左上にございますとおり、若干傾向は緩やかになっているんですが、まだまだマイナスの方にございます。これはどういうことを意味しているかというと、個人の財布のひもが、全世代で、前年比でまだ引き締めているということになっています。理由を聞いているんですが、広い世代の方々が年金や財政への不安を口にしています。右側を御覧いただきますとおり、これは、全世代をまたいで、いろいろな世代の方が同じような回答をしています。このことは、今後の歳出の在り方を考える上で十分考慮すべきではないかというふうに考えています。

 それでは、ここから、当面の金融市場のリスク、これを踏まえた日本の課題、機会についてお話をさせていただければと思います。

 まず、八ページ目、これは、皆さん本当に御存じのとおりのことだと思いますが、インフレ率の上昇です。日本のインフレ率は、消費者物価については、御存じのとおり、今のところ穏やかでございます。しかしながら、左下のとおり、海外からの輸入価格等に左右される企業物価指数はアメリカと連動して大きく上昇している結果、右下のとおり、日本企業が消費者に転嫁できずに耐えている部分、ここで申し上げますと矢印のところになりますが、これは過去最大となっています。

 足下では、御存じのとおり、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫化で原油価格も一バレル百ドルを目前としていますし、その他の資源価格も影響を受ける可能性が十分あると思います。

 こうなりますと、日本でも今後はさすがに消費者への価格転嫁は必至だと思われますし、それから、最近は、朝起きてから寝るまで、我々の日々の生活に欠かせなくなっているのが海外の商品とかサービスかと思いますが、これも円安も相まって急速に価格が上昇していまして、インフレが個人の消費行動に与える影響、これは可能性は十分あると思っています。

 こうした物価上昇から、九ページ目にございますように、上の方のグラフは、欧米の先進諸国について、今年織り込まれている金融の引締め、金利の上昇幅でございます。日本につきましては、この図でもお示しのとおり、この限りではございませんけれども、下段のとおり、左側は、まず中長期金利については、日米の金利の相関は高く、足下ですと、十年国債利回りが二〇一六年のマイナス金利導入後最高の〇・二三%を過日つけましたが、昨日の日銀の指し値オペで二ベーシスほど低下をしました。

 こうした日銀の施策で日本の市場金利は総じて安定しているというふうに言えますが、足下では、右側の下のグラフのとおり、日銀を除くベースで、投資家の中に占める海外の割合を示していますが、増加傾向にございますので、徐々にこうした海外の売買の動向も気にするべきになってきていると思います。

 また、米国の金融政策については、ここでは金利の話をしていますが、実際に不透明感が多いのはバランスシートの縮小でございます。FRBは金利を一年で二%程度引き上げたことはございますが、バランスシートの縮小は、二〇一九年に年間一割程度縮小したことはありますが、今回はそもそも資産の膨張が類を見ない状態になってございますので、市場としても大変読みにくくなっています。

 仮に、こうした不透明感から金利が大きく上昇し、株式市場等が動揺した場合についての日本の影響ですが、まず、国債の利払いにつきましては、財務省の試算等を見ましても大きな影響が直ちに出るわけではないと考えられますが、万一金利が一%上昇すれば、徐々に影響は拡大し、毎年数兆円程度の負担増となりますし、また、こうした財政の動向については、先ほどもお伝えしましたように、個人の関心が高まっているということは十分に意識しておくべきではないかと思います。

 そして、資産価格の膨張の巻き戻しについてですが、十ページには逆資産効果を表しています。

 実体経済に影響を与えるルートとして、資産価格が下落した場合、逆資産効果で消費に影響を与えるということが言われておりますし、アメリカではそれが特に顕著です。日本はそれほどではないですけれども、ただ、ここで考えなければいけないのは、一連の、この二年間のコロナの影響もございまして、個人、企業、昔に比べて投資を行っている方々の割合が非常に増えていますので、逆資産効果は過去よりも大きくなる可能性もあるかと思っています。

 さらに、中長期的に注意すべきところは、こうした短期的なものというよりはリスクテイクマインドの後退だと思います。個人が消費を減らせば当然企業の投資は減少しますし、さらに、金融機関やファンドが企業価値を将来の利益から算出していますけれども、金利が上昇し、収益の不確実性が高まれば、収益を現在価値に割り戻すときの割引率が上がってしまい、評価が下がる。これによって企業の調達にも影響が出る可能性があると思います。

 ここまで金融環境のリスクについて述べてきましたが、もちろん、一方で、新型コロナの収束に伴いまして、物、サービスの実需の巻き戻しも期待できると思いますし、これらを生かし、思い切った改革の機会にもなり得ると思います。

 そのような中で期待される施策を、金融以外も含めまして、やや広い観点から最後にお話をしたいと思います。

 十一ページ目ですけれども、仮に金融市場が動揺すると、コロナの前例から、再び緊急避難的な補助金等を求める声が高まる可能性はあると思います。もちろん場合によっては一定程度は必要かと思いますが、それでは成長の後押しにはなりにくく、個人が抱く財政への不安が高まりつつある中では効果が希薄化する可能性もあると思います。成長を促すには、民間の挑戦する人々、そしてリスクマネーが自律的に拡大していけるように促すことが重要であると思います。

 具体的には、まず、下支えから成長育成へのシフトということです。民間の力が鍵となりますが、さきにも触れましたとおり、金融機関は、このコロナ危機の二年間で、差はありますけれども、全体としては財務余力を維持向上できていますし、現在も一部の金融機関では既に地元企業を積極的に支援しています。今後は、更にこの余力の活用を広めることが望まれると思います。

 金融機関は、実はコロナ前までは貸出競争激化の影響などで企業のデットガバナンスが弱まっていた印象もございますけれども、今後の企業の再建過程では再び本領を発揮し、一層の成長を助けられるような、企業のエクイティー性の資金の相談、それから、この二年間停滞してきた海外進出の後押し、あるいは、状況によりましては、ニーズがより大きい業態への転換を促すなど、国では人的資源やノウハウの問題でやり切れないような取組を民間金融機関に期待したいと思いますし、また、それを促すような仕組みも必要だと思います。

 また、もう一つ、民間部門では個人の方々の力に期待したいと思います。

 今、地方に住む方々の多くは預金を地元の金融機関に預けているわけですが、その資金が地元向けの貸出しで使われる割合は五から六割程度です。また、地方には、御存じのとおり、上場企業が少ないので、個人が地元企業をエクイティー性の資金で助けて育てていくといっても、手だては限られているのが現状です。そういう地元マネーの地産地消を促せるような仕組みが求められているのではと思います。そのためには、例えば、地元企業の非財務情報として、根強いファンがいる、そういうブランドであるとか、ほかにはない技術が隠れているだとか、そういった情報を見える化して、定量化して、個人の方々であっても評価できるような仕組みというものができればというふうに思います。

 もう一つ、人のリスキリングによる変革です。

 働き方改革やコロナ禍の生活変容で、個人は、時間は工面しやすくなっているわけなんですが、学び直しについては質も量もまだまだこれからだと思っています。

 この背景なんですけれども、企業も個人もリスキリングの長期的なリターンを明確にできていないことが大きいのではと思います。一部の個人の方々は、先ほども少し触れましたが、手元資金を市場などへの投資に回しているわけですが、自分への投資の方が中長期的に見てリターンが高いということが分かれば、当然、自分への投資に熱心に取り組むのではと思っています。

 また、別の観点ですが、今は被雇用者が学び直しの支援の中心にどうしてもなっていますが、増加するフリーランスなどで働く方々にも、自らをアップグレードされる機会を広く与えるべきではと思います。

 また、リスキリングの中身ですが、ルーティンワークは、御存じのとおり、これから機械化できるということを念頭に、例えば、雇用されながらでも、いつでも自力で起業できるくらいの考える力、創造力、リーダーシップを育成できるようになれば、高齢になっても生き生きと働けるだけのものが身につくのではと思います。

 もう一つ、支援に対する考え方、手法の変革です。

 デジタル化は、政府のイニシアティブもあり、進展していると理解をしていますが、やはり、遠い地域、業界については、利便性がぴんときていないというのも現実だと思います。

 日本全体のデジタル化底上げには、ヒューマンタッチで、デジタル導入の手間暇を圧縮して、利便性を丁寧に周知していくこと。例えば、マイナンバーの普及で、一部の都市で、市の職員の方々が赴いて書類の作成を一括で担うという形で効果を上げたという例などは好事例だと思います。

 もう一つ、デジタルの先端技術やグリーンイノベーションに対しての理解、そして尊重する企業風土をより一層重視していきたいと思います。

 日本の東証株価指数の企業の創業から数えた年数、いわば企業の年齢ですが、中央値を取りますと六十年を超えていまして、アメリカのS&P五〇〇の三十年程度とはかなり異なります。それだけ企業が安定的に長寿であるということは日本の強みでありますが、そうした長寿安定社会を前提としつつイノベーションを育成するということでは、大企業がイニシアティブを取っていくという日本独自のモデルも必要ではと思います。

 一方で、伝統的な大企業では、まだやはり現状維持バイアスが強くて、とっぴなデジタル技術ですとかグリーンイノベーションに対して腹落ちしていないという印象もあります。経営陣の一層の意識改革を促すような施策を求めたいと思います。

 最後になりますが、今年、申し上げましたように、金融市場は大きな過渡期を迎えていると思います。ただ、非連続的な金融環境だからこそ、人も企業も非連続的に変われる機会になるのではとも思います。短期的な損失穴埋め的な支援からではなくて、中長期的な成長を促すような財政や仕組みづくりを期待したいと思います。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、原公述人にお願いいたします。

原公述人 政策工房代表取締役、原でございます。

 政策シンクタンクの会社を運営しているほか、政府の国家戦略特区ワーキンググループの座長代理などを務めております。

 今日は、国会における誹謗中傷の問題に絞ってお話ししたいと思います。

 野党合同ヒアリングについて問題点を指摘いたしますが、特定の議員個人、特定の政党の悪口を言うつもりはございません。国会全体で対応いただきたいこと、政府に対応いただきたいことなどをお話ししたいと思います。

 まず、私自身、国会での誹謗中傷を受けた当事者であります。その経過についてお話しいたします。

 二〇一九年六月十一日、毎日新聞が、一面トップで、私が、政府で会議の委員を務めています国家戦略特区に関して、不正を行ったという記事を掲載しました。記事では、私の顔写真が掲載されて、「特区提案者から指導料」「二百万円、会食も」という見出しで、要するに、私が不正な金銭を受領した、会食接待を受けたという内容です。

 こうした事実は全くありません。即日、事実無根であるという旨の反論文を公開しました。私が事実を直ちに説明しましたので、毎日新聞以外の他紙は一切、後追い記事を出していません。

 ところが、その中で、六月十三日、私の疑惑を追及する野党合同ヒアリングが設けられました。国家戦略特区利権隠ぺい疑惑野党合同ヒアリングという名称です。六月の十三日が第一回会合で、その後、十月までの間に十回以上開催されています。毎回、内閣府の職員らが呼び出されて、厳しい追及がなされていました。

 この会議は公開で行われました。今も、私が不正をしたと決めつけられて追及をされている様子が動画で公開され続けています。しかし、結果として、私が不正を行ったという事実は存在しないので、当たり前なんですが、結局、そんな不正の事実は全く出てきませんでした。

 そうした中で、二〇一九年の七月、篠原孝議員ですが、この野党合同ヒアリングに参加されていた篠原孝衆議院議員がブログを掲載され、その中で、八田達夫教授、国家戦略特区のワーキンググループの座長の八田達夫教授と私、原英史委員の利権コンビによるいかがわしい政策づくりが行われている、原は、悪辣なことばかりし、自分の懐を肥やしているといった激しい誹謗中傷をされたということです。

 それから、二〇一九年の十月ですが、これも野党合同ヒアリングの主力メンバーでいらっしゃった森ゆうこ参議院議員が、参議院予算委員会でこの疑惑を取り上げて、原さんが国家公務員だったら、あっせん利得収賄で刑罰を受けるんですよと言われました。これは、私が金銭を受け取った、犯罪相当の行為をしたという明らかな誹謗中傷なわけです。

 この後、私は、毎日新聞、篠原議員、森議員を名誉毀損で提訴いたしました。

 このうち、篠原議員との訴訟の判決が、先月、一月に確定しています。一審の東京地裁の判決は、昨年三月でしたが、私の主張を認めて、篠原議員に百六十五万円の賠償を命ずる内容でした。二審、東京高裁の判決が、先月、一月ですが、賠償額が更に上積みになって、二百二十万円の賠償が命じられました。上告はなされず、この判決が確定しています。

 訴訟の中で篠原議員は、五十年間、毎日新聞を取ってきた、全国紙であって、信用するのは当然だと主張されていましたが、こうした抗弁は認められませんでした。

 判決では、新聞記事などについて、特段その内容を吟味することもなく、全面的に信頼して、被告に相当軽率な面があることは否めないなどとされ、名誉毀損が成立するという判断になったわけです。

 この判決によって、野党合同ヒアリングで議員の方々がなさっていた疑惑追及は不当だったということが、これは司法の場で決着しています。つまり、そんな不正があった事実は認められない、また、新聞記事にそう書いてあったからと言っても許容されないということです。

 なお、ほかの二つの訴訟は係争中ですが、これらがどうなっても、野党合同ヒアリングにおける疑惑追及が不当だったという結論は変わりません。

 毎日新聞との訴訟では、毎日新聞は、記事には私が金銭を受け取ったとは書いていないなどの主張をしています。私は、そんなわけがないとして争っていますが、仮に毎日新聞の主張が通ったとしても、記事にも書いていない疑惑追及をしていた方々の責任がより重くなるだけです。

 森ゆうこ議員との訴訟、これは争点が異なります。なぜかというと、国会議員には免責特権があります。国会内での国会議員の発言は、原則、訴訟で争うことができないのです。ただ、森議員の場合には、国会での御発言以外にも、私の自宅住所の記載された文書をネットで拡散するなど、国会の外での不法行為がありました。これを訴訟の対象としています。

 したがって、これらの訴訟は係争中なんですが、どうなろうと、野党合同ヒアリングでの一連の疑惑追及が不当だったということは、司法判断では確定しているということです。

 こうした経過を踏まえて、お願いしたい事項、三つございます。

 第一に、事実に基づく国会質疑をお願いしたいということです。

 新聞や週刊誌報道をうのみにした誹謗中傷、これは一般社会では不法行為です。判決の言葉をかりれば、自ら事実関係を十分吟味せず、新聞報道をうのみにするような行為は、相当軽率との批判を免れません。もちろん、人間なので、間違ってしまうことはあると思います。誤った誹謗中傷を行ったときは、国民の代表にふさわしい責任ある御対応をお願いしたいと思っております。

 私の事案の場合、篠原議員が個人的に行った話ではありません。政党が野党合同ヒアリングを結成して行っていた組織的な誹謗中傷です。篠原議員と森議員以外にも、誹謗中傷していた国会議員が何人もいらっしゃいます。これは、今も公開されている動画のアーカイブを見ればすぐ分かることです。間違っていたことが司法の場でも明らかになったのですから、政党として責任を持って、動画アーカイブを消す、真実性の認められない疑惑追及だったことを正式に認める、こういった最低限の対応をお願いできないかと思っております。

 篠原議員の同僚議員の方々からは、篠原さんはとても知性的な方だ、本来、そんなことをする人ではないというお人柄を伺っております。私も、篠原議員のブログのほかの記事、幾つも拝見いたしました。ライフワークとして取り組まれている漁業政策の経過など、大変勉強になる内容でした。政策に真摯に取り組まれている政治家でいらっしゃるんだと思います。

 しかし、そんな篠原議員が何でこんな誹謗中傷をされたのかというと、これは、野党合同ヒアリングといういわば集団リンチの場に参加して、集団心理にのまれてしまったということなんだろうと思います。その意味で、野党合同ヒアリングという器を設けられた政党の責任は重いのでないかと思います。

 第二に、免責特権それから国会議事録の扱いについて、国会での議論をお願いできないかと思います。

 免責特権は、国会での自由な議論を妨げないため国会議員に与えられた特権です。これは必要な制度だと思います。しかし、事実に反する誹謗中傷を行うことまで免責特権による保護に値するんでしょうか。これは国会議員の免責特権の濫用ではないのでしょうか。一定の限界を設ける必要はないのでしょうか。免責特権の在り方について、憲法改正の可能性も含めて、国会で是非御協議いただけないかと思います。

 国会議事録の扱いについても協議をお願いできないかと思います。

 森議員の、先ほど申し上げた国会での発言、私が犯罪相当の行為をしたという発言は、国会議事録にそのまま掲載されています。これは私にとって大変不名誉なことです。もし同様の発言がネットメディアに掲載されていたら、私は直ちにそのメディアの運営者に削除を要請します。まともなネットメディアであれば、すぐに削除してくれます。

 これは実例があります。これは森議員ではなくて別の議員なんですが、お名前はもうあえて申し上げませんが、ある立憲民主党の議員の方、国家戦略特区の件で私が不正を行った疑惑のある人物だという記事をネットメディアに掲載されていました。私が、そのメディアに連絡をして、事実に反しています、ほかの議員のブログで判決も出ていますということをお伝えしたところ、迅速に削除をしていただけました。

 ところが、問題は、この議員の方はネットメディアに投稿したのと同じ内容を国会でも発言されていたことです。同様の文面が国会議事録にも掲載されています。国会議事録については、削除を要請しようにも、そんな窓口がないんです。名誉毀損をする内容がネットで公開されていても、何も手を出せない状態になっている。

 ネットメディアについては、よくデマだらけだといったことを言われがちです。しかし、こうした側面だけ見れば、ネットメディアよりもはるかにひどいのが国会議事録です。失礼な言い方に聞こえるかもしれませんが、この点に関する限り、国会議事録はデマを無責任に垂れ流している三流ゴシップメディア並みということだと思います。

 さらに、問題は、国会議事録はすぐに潰れてしまうメディアではないということです。私が犯罪相当の行為をしたといった国会発言が、恐らく百年後までネット上に残ると思います。今、私はこうやって事実ではないと発信していますから多くの人に御理解いただけますが、数十年たって、私の孫やひ孫たちがネット上で私の名前を見つけたときにどうなるのか。ひいじいさんはとんでもない不正をやっていた人物だったのかと、恥ずかしい思いをさせてしまうのではないかと思います。これはさすがに何とかしていただけないでしょうか。

 議事録からの削除は難しいのかもしれません。そうであれば、例えば、苦情申立てを受けて、この部分は事実ではないとか争いがあるといった注記を議事録に加えるといった仕組みを御検討いただけないものでしょうか。是非国会での御検討をお願いしたいと思います。

 三点目です。第三に、政府の対応について申し上げたいと思います。疑惑の追及に対して真摯に、かつ毅然とした対応をすべきだと思います。

 この種の疑惑追及に対し、情報を出さないといった対応がなされることがあります。情報を出すとそれを曲解して、あらぬ追及を更に受けかねないといったことを考えると、気持ちは分からないではないんですが、こうした対応をしていると無用な疑念を深めるだけです。森友問題での公文書の改ざん、こんな話はもう言うまでもなく論外です。

 一方で真摯に応えつつ、誤った追及には毅然と対処すべきだと思います。特に、役所の人たちの場合、不当な追及を受けたときであっても、ただ頭を下げて、言われっ放しになりがちです。これは健全な関係ではないと思います。不当な追及がなされがちになる元にもなると思います。ここは、大臣、副大臣、政務官が前面に出て毅然と対応いただくべきではないかと思います。

 篠原議員の訴訟の判決に関して、一月二十五日の衆議院の予算委員会ですが、岸田総理がこの判決についての見解を質問で求められて、お答えは、個別の判決にコメントしないという御答弁でした。役所で答弁を作るとまあこういう答弁になるのかなと思いましたが、率直に言ってこれはどうなのかなと思いました。

 私の事案に関しては、決して私個人だけの不正という話ではなくて、国家戦略特区の運営という、政府の行政運営について疑惑がかけられていたわけです。当時、北村大臣、特区担当の北村大臣が国会で何度も追及されていらっしゃいました。内閣府の職員、連日のように野党合同ヒアリングに呼び出されて、どなられて、私の会議謝金を支払った記録とか、膨大な資料提出を求められて、本来業務が止まるようなこともありました。

 司法の場で疑惑が晴らされて、不正はなかったと明らかになったんですから、本来は、政府として、その旨の公式見解を出して、疑惑追及を行ってこられた政党に訂正を求められてもよいのではないでしょうか。そうした対応をせずにいつも言われっ放しになっている、これが根拠のあやふやな疑惑追及がなされがちになる要因ではないかと思います。

 国家戦略特区はいまだに腫れ物扱いで、養父市の農業特区など、すばらしい動きが進んできているんですが、運営が停滞して、なかなか前に進みません。政府には、国家戦略特区を再起動するためにも、もう一段踏み込んだ対応をお願いできないかと思っております。

 それから最後に、関連して、ドラマの「新聞記者」についてのお話を少しだけしたいと思います。

 このドラマは、国会で長らく疑惑追及がなされた森友問題がモデルになっています。学園の名前などはもちろん変えられていますが、見ればすぐに森友問題の話だと分かります。ドラマの冒頭では、官邸の職員が財務省の理財局長に総理の意向だといって土地代金の十二億円の値引きを求める場面があります。国会で、こうした官邸の関与があったに違いないといって長らく疑惑追及がなされてきたことです。

 しかし、これは、明らかにされた赤木ファイルで否定されたのではなかったのでしょうか。赤木ファイルでは、本省から相手方である森友学園を厚遇したと受け取られる部分を削除するよう指示された、しかし、現場で厚遇した事実はないと記載されていたと認識しています。これに対して、ドラマでは、総理の意向による値引き要請があったという前提でこのストーリーが組み立てられています。

 これが真実かのごとく世界に配信される。日本ではこういった、途上国並みの、縁故主義の行政がなされているかのような認識を広げてしまう。これが真実なら仕方ないわけですが、前提となっていることが事実に反すると思われるわけです。これはまずいのではないでしょうか。

 政府はネットフリックスに抗議すべきではないか。この部分は事実とは異なるといったことを記載するなど、何らかの対処を求めるべきではないかと思います。

 ネットフリックスは恐らく、これはフィクションですと言われるんだろうと思います。しかし、過去に、モデル小説に関して、モデルとされた個人がプライバシー侵害や名誉毀損に当たるといって争われた事例が幾つかありました。三島由紀夫さんの「宴のあと」事件とか、「石に泳ぐ魚」事件といったものがありましたが、これらは訴訟で争われて、判決においては、小説の形を取っていても、真実らしく受け取られる内容であれば不法行為が成立するとされています。これになぞらえて考えれば、単にフィクションですとテロップを出しておけばよいということではないはずです。

 この件は訴訟で争う話ではないでしょうが、日本政府の信用が毀損されているわけですから、日本政府がネットフリックスに抗議をして、対処を求めるべきではないかと思います。こうしたことを放置していると、根拠のあやふやな疑惑追及、不当な誹謗中傷が起きる要因になってしまうのではないかと思います。

 以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、川口公述人にお願いいたします。

川口公述人 東京大学の川口と申します。

 本日は、このような場で意見を述べさせていただく機会を与えていただき、ありがとうございます。

 資料の二ページに私の略歴が書いてありますけれども、東京大学経済学研究科に設置されました政策評価研究教育センターのセンター長を務めておりまして、この五年ほど、エビデンスに基づく政策決定、いわゆるEBPMの実践に関わってまいりました。

 そのような立場から、予算編成過程におけるEBPMの必要性についてお話をさせていただければと存じます。EBPMの実践例として、コロナ禍での政策対応を例に取り、EBPMにおけるエビデンスが具体的にどのようなものであり、EBPMを実践する上でどのようなことが課題になっているか、お話しさせていただければと思います。

 資料の三ページを御覧ください。

 二〇二〇年の二月頃から新型コロナウイルス感染症が拡大する中、政府や自治体は次々に対応するための政策を行ってきました。第一義には公衆衛生上の政策対応だったわけですけれども、行動自粛に伴う経済的なダメージを和らげるための経済政策も数多く行われてきました。

 こちらに挙げたのはそのうちの数例ですが、最初の例は、雇用調整助成金、持続化給付金といった、ダメージを受けた事業者に対する補助金の給付であります。また、予算的により大きいのは、政府による利子補給や債務保証を通じた特別貸付けの実施です。この中では、実質無利子無担保のいわゆるゼロゼロ融資も行われてきました。

 今日は、この政策の評価について御紹介させていただきます。

 次の例は、公衆衛生上の政策であるとともに経済政策でもある、自治体が実施する飲食店における感染予防対策の認証制度についての評価でございます。今日は、山梨県が実施した認証制度の効果を評価した例を御紹介させていただきたいと思います。

 このほかに、より重要な経済政策として、二〇二〇年四月より行われた、一人当たり十万円を配る定額給付金政策というものがあるわけですけれども、これについては、早稲田大学の研究者のグループが、銀行口座の出入金状況や家計簿アプリであるマネーフォワード社のデータを用いて、十万円がどのように使われたのか、どのように貯蓄に回ったのか、大変興味深い研究を行っていますが、時間の関係で割愛させていただきます。参考文献を下の方につけておりますので、御関心がある向きにおかれましては御参照いただければと思います。

 さて、既に定着した感のあるEBPMという言葉ですが、内閣府によると、EBPMとは、政策の企画をその場限りのエピソードに頼るものではなく、政策目的を明確化した上で合理的根拠(エビデンス)に基づくものとすることとされています。このエビデンスを提示するという作業に経済学者が関わることが多いということです。

 エビデンスとしては、二種類、大きく分けてございまして、一つは、その政策が想定している人々に的確に届いているかという、ターゲティングについて評価するものであります。もう一つは、政策が所期の目標を達成しているかを調べるプログラム評価ということになります。

 資料の四ページを御覧ください。

 最初の例は、企業支援策の評価です。

 コロナ禍の中で企業支援が大きく拡大していて、それはあたかも当たり前の対策であるかのように行われていますが、実を言うと、経済学的に考えると、本来は、企業を支援するのではなくて、ダメージを受けた個人や世帯を助けるというのが、政府が国民に対して保険を提供する、こういう観点からは望ましいということになります。

 その中で、企業を支援するという政策を正当化しようとすると、企業が、取引ネットワークですとか労働者のスキルですとか、こういった無形資産を持っていて、一度倒産してしまうとその無形資産が不可逆的に散逸してしまう、これを防ぐために企業の存続を一時的に助ける、こういった理屈が必要になってきます。

 もしも企業を労働や資本といった有形資産の集合体だというふうに考えてしまえば、企業が一旦倒産しても、その企業に仮に存在意義があるとすればまた復活するということがあり得ますし、仮に、もとより業績が余り振るわないような企業であれば、倒産することによって、そこに存在していた労働や資本がほかの企業に移るという形によって経済の新陳代謝が起こるというふうに考えられます。

 もちろん、企業が潰れて次の企業に行くまでに労働者は失業を余儀なくされるわけで、資産を十分に持たない人々は塗炭の苦しみを味わうことになります。ただ、この痛みを和らげるためには失業保険を充実させた方がよくて、必ずしも企業を守るという話にはなりません。

 このように、経済理論が考える望ましい経済政策は複雑なのですが、政策評価という観点からは、比較的単純に整理することができます。

 一つは、企業支援策が適切な対象に当たっているかというターゲティングの視点になります。

 コロナ前には健全であったものの、一時的に売上げ減となっていて存続が難しくなっている企業を助けるというのが望ましいターゲティングだと考えられますけれども、もとより不健全な経営を行っていた企業がどさくさに紛れて支援策を受け、生き延びるということがあるとすれば、それは望ましくないということになります。

 次に、プログラム評価の視点では、企業支援策を受けた企業が、支援策が想定するように存続し、かつ雇用を維持しているかどうかを調べることが必要になります。

 資料の五ページを御覧ください。

 まず、ターゲティング評価の例を紹介します。

 同僚の星岳雄教授とコロナ対策について話をしているうちに、どのような企業が支援を受けているのか、違った仮説を持っていることに気づきました。星さんは、よくない企業の方が支援を受けているというふうに思っておられて、私は、よい企業の方が情報のアンテナ感度が高くて、事務処理能力も高くて、支援策を受けているのではないか、こういう仮説を持っておりました。もう一人、共同研究者に植田健一教授がいるんですけれども、彼の仮説も、どちらかというと星さんの仮説に近かったように思います。

 そこで、実際にデータでどういう企業が支援策を受けているかを調べる必要があるということになったわけですけれども、残念ながら、二〇二〇年秋の時点で、どのような企業が支援策を受けているかを示すデータはございませんでした。

 そこで、我々のセンターがふだんから共同研究をしている東京商工リサーチ、略してTSRというふうに言いますけれども、TSRと共同してアンケート調査を行うことにしました。このアンケートへの約五千社からの回答を整理して、コロナが起こる前の各企業のいわゆる評点と呼ばれるものと支援策受取の関係を分析いたしました。

 ここで、評点とは、TSRがつけた各企業への評価で、民間企業が取引先に与信をするかどうかを決める際に広く使われている指標になります。この評点が五十点を下回る企業を、TSRは一応警戒すべきだというふうに言っています。

 資料の六ページを御覧ください。

 ここに出ているグラフは、横軸に二〇一九年十二月時点の評点を取り、縦軸に特別貸付けへの申込みや承認の有無を取ったものになります。上のグラフが申込みの確率で、下のグラフが承認の確率を示すものになっております。特別貸付けが行われる経路というのは幾つかの金融機関を通してということになるんですけれども、ここでは、日本政策金融公庫、商工中金、民間金融機関をそれぞれ考えております。

 これは、御覧いただくと、どのグラフにおいても関係は右下がりになっています。左側にある企業というのは、評点が低い企業なんですね。コロナ前の評点です。低い企業の方が、特別貸付けに申し込んでいる、かつ、それが認められている、こういう傾向が認められます。右下がりですので、評点が高い企業の方がこのような融資を受けていないというようなことが明らかになっております。このことは、元々経営が健全でなかった企業ほど支援策を受ける可能性が高いということを示唆しております。

 また、貸出額についてのデータもございますので、このアンケートが聞いた二〇二〇年九月までの貸付総額の何割がいわゆる要警戒と呼ばれる企業に向かったのかというところを調べますと、約二割の貸出しは、そのような、TSRが要警戒だと言っているような企業に貸し付けられているということが分かりました。

 資料の七ページを御覧ください。

 次に、企業支援策、特に、特別貸出しを受けた企業が雇用を維持しているかどうかを調べようとしました。

 データを分析すると、特別貸出しを受けた企業ほど雇用を削減していることが分かりました。ただし、これは、足下の売上げが落ち込んだ企業が雇用を減らす一方で特別融資を受けていることの結果かもしれません。つまり、これは単なる相関関係であって、特別貸付けを受けると雇用が減る、そういう因果関係を示すものとは言えません。実証経済学の手法を用いるとこのような状況でも因果関係を推定することができるのですが、残念ながら、五千社のデータでは正確な結果を導くことができませんでした。

 この問題を解決するためには、より大きなデータセットが必要で、例えば特別貸付けの貸付先の全リストが必要です。このようなデータがあれば、どのような産業、企業規模、地域で政策の効果が大きいのかを知ることもできそうです。

 資料の八ページを御覧ください。

 これまでの結果から、金融支援策が市場をゆがめるという懸念について、これは多く語られてきたことだと思いますけれども、経営状態がもとより悪い企業に特別貸付けが行われる傾向があるということを示すことによって、定量的な証拠を得ることができたというふうに考えております。

 これは、最終的に国が債務保証をすることで金融機関の貸出し規律が緩んでしまい、そのことの当然の帰結としてこういったことが起こってしまった可能性があるということだと思います。この資金配分のゆがみは、コロナ後も長期にわたって日本経済の停滞をもたらすことにつながりかねないことであり、十分に警戒が必要だというふうに考えております。

 一方で、特別貸付けや雇用調整助成金といった企業の支援策が、現在の雇用を維持することに役立った可能性も否定できません。この点については、今後、よりよいデータを使って実証分析を深めていく必要があります。貸出先のリストというのは、とてもセンシティブな情報であることは間違いありませんが、今後の政策の望ましい在り方を見定めるためには必要な情報です。このようなデータを、個別企業の秘密を守りつつ統計分析に使えるように、環境を整備することが必要だと思います。

 資料の九ページを御覧ください。

 もう一つのエビデンスを紹介させてください。

 山梨県が行った飲食店の感染予防認証制度、いわゆるグリーンゾーン認証制度と呼ばれる制度の評価についてです。

 現在、我が国では、コロナ対策をめぐって、新規感染の抑制を優先すべきか、経済活動の維持を優先すべきかの議論が交わされています。この飲食店の感染予防認証制度は、飲食店が換気などの感染予防対策を取っているかどうかを実地調査して認証することによって、感染拡大を抑えつつ経済活動も維持しようとする、二兎を追うことを目的とした意欲的な政策です。

 この政策の効果は山梨県の政策担当者もよく分かっていなかったわけですけれども、本学の公共政策大学院で正木祐輔准教授と共同担当している授業において、山梨県と協力してプログラム評価に取り組みました。グリーンゾーン認証に関するデータは山梨県様から御提供いただき、新規感染者数はNHKのウェブサイトからダウンロード、飲食店の売上げに関するデータはポスタス社のデータを御提供いただきました。その他、官民のデータを統合して分析を行っています。なお、データ収集やデータ分析を担当したのは修士課程の学生たちです。

 資料の十ページを御覧ください。

 左の図は、新規感染者数のグラフで、赤い線がグリーンゾーン認証制度がなかった場合の新規感染者数です。これは仮想の値ということになります。緑の線がグリーンゾーン認証制度があった場合の新規感染者数です。これは実際の値ということになります。赤の線と緑の線の間の薄く色がついている部分が、グリーンゾーン認証制度のプログラム効果ということになります。計算してみると、グリーンゾーン認証制度の導入は新規感染者数を四五・三%減少させたことが明らかになりました。

 右の図は、売上げの推移を示したものです。赤の線はグリーンゾーン認証制度がなかった場合の仮想的な売上げ、緑の線はグリーンゾーン認証制度があるときの売上げとなります。これを見ると、グリーンゾーン認証制度は飲食店の売上げを増加させたことが分かります。計算してみると、売上げ増加の効果は一二・八%となることが分かりました。

 実は、このような大きな効果をこの政策が持っていたということに、政策担当者自身も驚いておられるようでした。

 資料の十一ページを御覧ください。

 この分析結果は、感染防止と経済活動の両立を実現する政策があることを示しています。山梨県の政策が他の都道府県の類似政策に比べてユニークだったのは、行政機関が立入調査をした上で認証をするという形で、行政のコミットメントが深かった点が挙げられます。その分、認証制度の信頼性が高かったと言うことができると思います。

 手前みそとなってしまいますけれども、この例は、データと適切な指導があれば大学院生でも役に立つプログラム評価ができることを示しています。なお、この授業では、内閣府が行ったアンケート調査で個人レベルの回答が公開されているデータを御提供いただきまして、リモートワークに関する分析を行い、山梨県の方に結果を御報告いたしました。

 回答者個人や回答企業の秘密を守るのは重要ですが、ある程度の地理的な単位で集計したり、個人が特定できないような匿名化を施したデータを公開することで、統計分析のためには有用なデータを提供することができます。このように、データをオープンな形で公開することは、エビデンスづくりに多様な人々が参加できる仕組みをつくることであり、自由闊達な政策論議のためには欠かすことができません。

 資料の十二ページを御覧ください。

 本日は、皆様の貴重な時間をいただき、EBPMのエビデンス例二つを紹介させていただきました。このように、過去の経験を振り返り、次の予算編成に生かしていくということは、厳しい財政状況の中、限られた予算を適切に配分するためには欠かすことができません。また、国が行う政策には、様々な規制など、財政支出を伴わないものもありますが、EBPMはそのような政策立案にも有用です。

 EBPMを進めていくためには周到な準備が必要で、エビデンスがない政策は行わないというのはばかげておりますけれども、これから行う政策をどう評価するか、こういったことに関してはあらかじめ考えておく必要があります。エビデンスを得るためにはスキルのある人と解像度の高いデータが必要であり、それらを手当てするために、あらかじめ予算措置をすることが必要だと思います。例えば、事業費全体の〇・一%から〇・五%程度をあらかじめ評価のためのコストとして計上しておくなどの工夫があり得るかと思います。

 同時に、政府が収集するデータを、できる限りオープンデータとして公開することも有用です。ワクチン接種状況を記録したVRSシステムは、そのデータを日時、都道府県別に集計して、ダウンロードできるように公開しています。これを成功事例として、他の行政データにも取組を広げていくことが求められていると考えます。

 最後に、資料の十三ページを御覧ください。

 現在は経済産業研究所長の森川氏が五年前に書かれた文章です。ここでは、国会における質疑内容がEBPMの普及に対して強い影響を与えるということが述べられています。私も同じ思いでございますので、是非御検討いただければというふうに思います。

 長い時間にわたり御清聴いただきまして、誠にありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、小黒公述人にお願いいたします。

小黒公述人 法政大学教授をしております小黒と申します。

 本日は、このような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。

 お手元の方に資料をお配りしてございますので、そちらの資料を使いながら説明させていただきます。

 なお、本日は、内閣府の一次速報が今日ございましたけれども、実質GDPが十月から十二月で年率五・四%という形で、二期ぶりにプラスになったということで、直近の七月から九月までのGDPですけれども、ピーク時が大体五百六十兆円だったものが五百三十八兆円という形で落ち込んでいる中で少し心配してございましたが、昨今のオミクロンの感染拡大もございますけれども、経済は何とか持ちこたえているのかなというふうに思っております。

 お手元の方の二ページ目、少し見ていただきますと、こちらの方に私の本日の主な意見が書いてございます。ここで、釈迦に説法でございますけれども、今、日本の財政、非常に厳しい状況の中で、しかも、感染拡大がまだ収まらないという中にございます。そういった中で、財政再建を進めながら、同時にコロナ問題にも対応していかなければいけないというような状況になっているということでございます。

 そこで、やはり、現政権もでございますけれども、まずコロナ問題について早急に解決するということが重要ではないか。そういった中で、財政的にはなかなか厳しい状況でございますが、思い切った財政政策も含めて、機動的な財政出動を行うということについて、これは致し方ないのかなというふうに思ってございます。

 他方で、今の財政状況を考えますと、これは昨今ずっと問題になってございますが、やはり、平時と非常時の財政を切り分けるという意味で、東京財団で我々が提言してございますように、東日本大震災の復興のときに特別会計をつくってその債務を処理してございますが、新型コロナ対策特別会計といったものを設置して、きちっとその債務を償還していくというようなことについても御検討いただけないかなというふうに思ってございます。

 それから、あともう少し中長期的な問題でございますけれども、人口減少それから少子高齢化の問題、それから経済成長率が低迷しているという問題、それから貧困化が進んでいるというこの三つの問題について、きちっと対応した予算を作っていくということも非常に重要な問題ではないかというふうに思っております。

 そういった意味で、二〇二二年度の今回の予算でございますけれども、完璧な予算というものは存在しませんので。ただ、実際は、限られた時間の中で予算編成をしなければいけないということもございます。

 ですので、この本予算に対して反対するものではございませんけれども、先ほど申し上げました新型コロナウイルスの対策の特別会計の創設みたいなものも含めて、あるいは、これからもう少しお話しさせていただきますけれども、やはり、社会保障費や国債費が膨張する中で財政が非常に硬直化してございますので、そういった中で、少子化対策であるとか成長促進のための予算の方に一部予算を組み替えていくというようなことも少し御審議いただけないかなというふうに思ってございます。

 ページを少しおめくりいただきまして、釈迦に説法でございますが、少し財政の現状についてお話しさせていただきます。

 四ページ目を御覧ください。

 これは政府が出している資料でございますけれども、令和四年度の一般会計の予算。ここで、政府は、二〇二五年度までにプライマリーバランスを黒字化させるという目標を掲げてございますが、その一般会計の予算から計算しますと、右側に赤いところがございますけれども、公債金が大体三十七兆円、それから国債費が二十四兆円でございますので、差引きしますと十三兆円がプライマリー赤字という形になってございます。

 ただ、ページを少しおめくりいただきますと、こちらの方に少し赤線で枠をくくってございますが、もしこのコロナ問題を脱却することができますれば、新型コロナウイルス対策予備費五兆円分は自然と消えていくということになりますので、実際は八兆円というふうに見ることもできるのではないかなというふうに思っています。

 そうしますと、かなり厳しい状況でございますけれども、財政の方、この当初予算ベースではかなり財政規律が働いたような形で今編成されているのではないかというふうに思ってございます。

 次のスライドになりますけれども、ただ、そうはいっても、今回当初予算を出してございますけれども、補正予算が組まれたりする中で、財政がまた膨らむということに多分なるということは当然あり得る。ただ、足下、この赤い線で示してございますが、法人税を中心として税収が増えてきているという中で、二〇二五年度のプライマリーバランスの赤字の方については何とか維持できるような状況に今進んでいるのではないかというふうに思ってございます。

 次のページになりますけれども、じゃ、本当に二〇二五年度のプライマリーバランスの黒字化が達成できるのか、あるいは債務の膨張を今のコロナ禍の中でどうにか安定的な水準に維持できるのかということでございますけれども、七ページ目が直近の内閣府の中長期試算でございます。

 こちらの右側の上のところに名目GDP成長率がございますけれども、赤い線が成長実現ケースでございますけれども、大体三%ぐらいの成長率になっていくと。他方で、青い方でございますけれども、二〇三〇年度ぐらいに一%ぐらいの成長率になっていくというような形になってございます。

 政府の方ではプライマリーバランスの黒字化目標を重要視してございますが、やはり、債務水準のGDP比を安定化するという意味では、国、地方の財政収支のGDP比がどうなっていくのかということの方が重要だということでございます。

 これは後の方でドーマー命題との関係で御説明させていただきますけれども、赤い方の成長実現ケースですと、若干マイナスのGDP比の赤字が二〇三一年度に残ると。他方で、一%の成長率のベースラインケースですと、一・七%の赤字幅が残るというような形になってございます。

 上の、その名目GDPの成長率ですけれども、次のスライドを見ていただきますと、政府が出しております名目GDPの成長率、これは実現できればいいわけですけれども、実際は、先ほども日本経済の問題ということで、低成長が続いているということでございますが、こちらの方は、一九九八年度から二〇一八年度までの政府の経済見通しと実績を見比べたものになってございます。実績の平均は〇・一六%ですけれども、政府の見通しの方の平均は一・六%という形で、大体十倍ぐらい違っているというような形になってございます。

 そうすると、一%もないようなのがここ最近の成長率になってございまして、次のスライドになりますけれども、この九ページ目のスライドを見ていただきますと、黒い実線が名目GDPの成長率の推移の平均になってございます。他方で、赤い線それから青い線が成長実現ケースとベースラインケースになってございますけれども、黒い線の平均をこの期間で取りますと、〇・三七%という形でやはり一%もないという形になってございます。

 したがいまして、足下ではかなり財政規律が働いた形で御努力いただいてございますが、次のスライドになりますけれども、ドーマー命題を使って長期的に収束する債務残高を計算しますと、こちらのような形になってございます。

 基本的に、今後大体これぐらいの財政赤字のGDP比が国、地方であるというものをqとしまして、それから、成長率の平均を今後大体これぐらいがnという形にしますと、n分のqというのを計算すると、どの辺に債務残高GDP比が収束していくのかということが分かります。nがここでは例えば〇・五%でGDP比の赤字幅が例えば一・七%というふうに計算しますと三・四という値が出ますので、三四〇%ぐらいまで膨らんでいくというような状況に今なっているということではないかというふうに思っております。

 したがいまして、名目GDP成長率が例えば〇・五%で推移するのであれば、債務残高GDP比をまず二〇〇%ぐらいにとどめようとすると、財政赤字のGDP比を一%水準程度まで、もう少し努力して圧縮するということが必要ではないかというふうに思ってございます。

 次のスライドの十一ページ目でございますけれども、これは過去の実績が黒い線になっておりまして、ほかのカラーリングされている線が、内閣府が出しております、過去の中長期試算の予測になっております。見ていただければ分かりますけれども、比較的、予測では全部なだらかに下がっていくというような形になってございますが、実績はどんどん膨らんでいるというような状況になってございます。

 次に、社会保障改革について、少し私の私見も交えて御説明させていただきます。

 十三ページ目になりますけれども、先ほど東京大学の川口先生がミクロ的な分析をされてございましたが、やはり、今、コロナ禍で経済が二極化していて、困っている方々もそれなりにいらっしゃるということだろうと思います。そういった中で、やはり、デジタル政府、デジタル庁をつくられましたけれども、こういったデータを使って、きちっと本当に困っている方々に手を差し伸べていく。そういう意味では、十四ページ目のところにございますけれども、プッシュ型の行政サービスをきちっと構築していくということが重要ではないかというふうに思ってございます。

 時間が限られてございますので余り細かいことは申し上げませんけれども、二つ、重要なことがあるのではないかというふうに思っております。

 一つは、やはりリアルタイムの所得情報をきちっと把握できる体制をつくるということです。

 このためには、日本にはイギリスとオーストラリアと同じような形で源泉徴収制度がございますので、この仕組みを、企業の方を使いながら、ソフトウェアでデータをタイムリーに報告させる仕組みをつくる。その場合、国税庁は、現在、大体年収が五百万円以下については源泉徴収の方を国税庁というか税務当局の方に提出する義務を免除してございますけれども、この部分の見直しということも考えていくということも重要ではないかというふうに思っております。

 そういった形でタイムリーな所得情報が手に入れば、もしソフトウェアで手に入ることができれば、年ごとではなくて、例えば月ごととか半月ごととか、そういった形でタイムリーな情報を集めることによって、本当に困っている人に集中的に支援するというようなことも次第に可能になっていくのではないかなというふうに思ってございます。

 それから、ページをおめくりいただきまして、十五ページ目になりますけれども、これは私が従来から少し提言しているものでございまして、今の話も、比較的モディファイ、モディファイというか、余り難しい改革をしないでできるような話をしたんですけれども、社会保障についても、大胆な改革というのはいろいろ提言することができますが、なるべくグラデュアルで、実現可能な改革というものがないかと。

 今回御提言させていただくのは、一番問題になるのは、十六ページ目でございますけれども、医療の方に年金と同じようなマクロスライドを導入することができないかという御提案でございます。

 今、財政の方で一番大きな問題になっているのは、こちらは二〇一八年に政府が出しているベースラインケースでの社会保障給付の見通しでございますけれども、二〇一八年に百二十一兆円であった社会保障給付費が、二〇四〇年になりますと百九十兆円に膨らむ。他方で、年金を見ていただきますと、五十七兆円から七十兆円という形で年金も膨らんでいるんですけれども、GDP比で見ますと、大体一〇%から九・三%という形で、それほど大きく伸びていない。

 政府は今、基本的には、医療費と介護費が伸びていくということで、ここについて大きなターゲットにしているわけですけれども、医療費を見ていただきますと、二〇一八年で三十九兆円だったものが大体、二〇四〇年度になりますと七十兆円ぐらいになるということで、これは年金と同様に膨らんでいるわけですね。

 ですけれども、医療の方が問題だと言っている最大の理由は、GDP比で二〇一八年は七%だったものが、二〇四〇年になりますと大体九%弱ぐらいまで膨らむという形になってございます。

 このGDP比で二%ポイントぐらい膨らむところは、これは財政的に裏側に、税収であったり社会保険料が、経済成長率が増えれば当然増えるわけですけれども、それ以上にGDP比で見て医費費が増えるということで、改革のターゲットにしているわけでございます。ここをコントロールすることができれば、もう少し違った方法で解決できるのではないかというふうに思ってございます。

 次のスライドを見ていただきますと、今お話しした内容が書いてございます。

 大体二十年間で、二〇一八年度から二〇四〇年度で、年金は大体一〇%から九・三%という形でGDP比が伸びていくわけでございますけれども、医療は七%から九%ぐらいまでという形で伸びていくわけです。

 次のスライドがお話ししたい内容でございまして、十八ページ目になります。

 じゃ、医療費のGDP比というものを見た場合、どういうものなのかということでございますが、これは名目GDPで医療費を割ったものでございますけれども、医療費は、ちょっと大ざっぱに申し上げれば、釈迦に説法ですけれども、診療報酬という公定価格Pに使った量のQを掛けたものでございます。

 これが、要は、価格を二十年間で二%調整できれば、GDP比で見た医療費をコントロールすることができる。じゃ、診療報酬をマイナスにしろということではなくて、現状でも診療報酬は若干プラスで改定していますので、その伸びを少し、若干緩めにするだけで、GDP比で見た医療費を安定化できるのではないかというふうに考えてございます。

 そのイメージを示したものが、十九ページ目のスライドになります。

 診療報酬本体全部ではなくて、一番大きなのは七十五歳以上の後期高齢者医療制度、これが高齢者の伸びに従って伸びていきますので、この部分の診療報酬について、例えば今回、診療報酬本体で〇・五五%伸ばすとすれば、それを例えば〇・四%ぐらいの伸びに抑えるというような形で少し伸びを抑えていくというようなメカニズムを入れたらどうかということの御提案でございます。

 二十ページは、令和二年度のときの診療報酬改定の実際のイメージを書いてございますけれども、今申し上げましたように、この〇・五五%というのを例えば〇・四%に抑えることができれば安定化できる。

 今の話は、次のスライドの二十一ページとも関係するんですけれども、私がちょっと心配しているのは、これは財政的な帳尻合わせだけの問題ではなくて、医師の需給推計について厚労省が出してございますけれども、二〇三〇年ぐらいに需給均衡が崩れて供給過剰になるというような話が出てございます。そうすると、例えば、二〇四〇年ぐらいにGDPに連動する形で医療費を伸ばしていけば、むしろ医療費の方が安定化できる可能性もあるのではないかなというふうに考えてございます。

 少し資料を飛ばせていただきまして、二十三ページ目、次世代投資や少子化対策について少しお話しさせていただきます。

 先ほど少し御説明させていただいたとおり、予算は、社会保障と国債費の方で相当財政が硬直化してございますので、成長を促進するためにも、やはり次世代への投資あるいは少子化対策の方に力を入れていくということが重要ではないかというふうに思ってございます。

 二十四ページ目のところで、岸田さんが総裁選のときに、日本でオーストラリアのようなHECS、要は出世払いの奨学金みたいなものを導入できないかということをおっしゃられていましたけれども、私もそれは非常に賛成で、そういったようなものを日本でも是非検討していただけないかというふうに思ってございます。

 これは、今コロナ禍で学費が払えなくて困っている学生さんもいらっしゃいますけれども、そういった方々の救済にもなる。可能であれば、ポートフォリオの中になるべく多くの学生が入った方がいいですので、例えば全大学生に一回全部入っていただくというようなことも、ちょっと暴論かもしれませんけれども、検討いただければというふうに思ってございます。

 それから、二十五ページ目と二十六ページ目でございますけれども、これはかなり奇策というか、今の非常に限られた財政の中で少子化対策に力を入れようとしますと、やはり財源的な面、これは例えば国債発行でやるのか、あるいは税収を新しく取ってきて増税をするのかという議論になると思います。非常にそれは難しい。

 でも、他方で、この資料の方に書いてございますけれども、元々、国立社会保障・人口問題研究所が予測していた人口減少のスピード、これは、出生数が大体八十万人を割るのが二〇三〇年ちょっと先だという話だったわけですけれども、もう既に割りそうになっているということでございます。

 そうすると、異次元緩和というのがございましたけれども、異次元の少子化対策として、例えば出産手当というものを創設して、子供一人当たりだと五百万円ぐらい、思い切った支援をしていくということも考えてもいいのではないかなというふうに考えてございます。仮に、年間の出生数が二百万人になりますと、これだけで年間十兆円になります。これを例えば十年間続けると百兆円ですね。二十年間続けると二百兆円ということで、これを全部国債発行あるいは増税でするというのは相当難しい。

 そういった中で、一つ可能性があるのが、デジタル通貨というものを今、日本銀行も考えてございますけれども、十年間で償却されてしまうというような通貨を発行してこの手当を出していくということも考えてもいいのではないかなというふうに考えてございます。

 詳細は二十六ページの方に書いてございますけれども、十年間で償却するデジタル通貨を出しますと、例えば出生数が毎年二百万人、今は大体もう八十万人近くになっていますけれども、これが二百万人になったとしても、最大ピーク時で発行する通貨の量は大体五十兆円ぐらいということになります。

 あるいは、累進型の出産手当というものも考えられるのではないかなというふうに考えてございます。

 それから、最後に二点だけ、厳しいお話と朗報を少しお話しさせていただければと思います。

 二十七ページの、まず、注意すべきリスクとして挙げてございますけれども、二十八ページ目、これはもう議員の先生方、釈迦に説法でございますが、今、金利がアメリカを中心にして上がり始めている。インフレも出てきてございます。そういった中で、もし金利が正常化しますと、政府と日本銀行を一体で見た場合、日本銀行が持っている超過準備、これはスーパー短期の国債みたいなものですから、政府と日本銀行を一体で見ると、やはり財政的なコストが顕在化してくるということになると思います。そういったところで、この問題をちゃんと処理していくようなところも少し考えていただければというふうに思ってございます。

 それから、二十九ページ目、三十ページ目でございますけれども、我々は今ちょっと自信をなくしているんだと思いますが、こちらの方は、頑張れば実は一人当たりGDPで見ても先進国の中でもう一度最高水準を取り戻せる可能性があるというような試算になってございます。

 これは三十ページ目に、ちょっと見ていただきますと、試算の概要が書いてございますが、例えば、一九九〇年、日本の一年間の平均、労働者が大体どれぐらい働いていたかといいますと、二千三十一時間働いていたわけです。この当時、アメリカは大体千七百六十四時間ですし、イギリスは千六百十八時間です。

 その後何が起こったかということなんですけれども、次のページを見ていただきますと、一九八八年、これはちょっと大分前の話ですけれども、閣議決定で、一人当たりの年間労働時間を千八百時間程度とするという、これは日米構造協議の中で日本の経済力を、ちょっと余り踏み込んで言うのはあれですけれども、そぐために突きつけられたもので、その後、九二年に時短促進法が制定されて、九四年に労働基準法が改正されるという流れになってございます。

 これはちょっと私の仮の推計なんですけれども、三十二ページ目を見ていただきますと、仮に一九九〇年と同じ労働時間を日本の労働者一人当たりが働いたとすると、じゃ、日本の一人当たり実質GDPはどうなるのかということですが、三十二ページ目の赤い太い線が日本になってございます。ここではイギリスとかアメリカとかそういった国々がありますけれども、この中で一番高い水準になるということです。他方で、現状の日本は細い方の赤い線になってございまして、下から二番目という形になってございます。

 このときにはマクロのGDPがどれぐらい増えるのかということですけれども、私の仮定計算では、大体百六十兆円ぐらい増えるというような形になってございます。

 最後の話は、ワーク・ライフ・バランスの話とかと少しバッティングする話ですので、そうしろという話ではないんですけれども、自信を取り戻すという意味では、そういったような仮定計算の話もございますということでございます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

根本委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。藤井比早之君。

藤井委員 おはようございます。自由民主党の藤井比早之です。

 本日は、大槻公述人、原公述人、川口公述人、小黒公述人、皆様、公聴会で貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 また、理事の皆様、委員の皆様、質問の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 早速質問をさせていただきたいと思います。

 実は、ちょっと私、感慨深いところがありまして、大槻公述人とは、一年間で、ちょっと数えてみたんですけれども、十七回以上は御一緒させていただいているんです、会議で。原公述人とも十四回以上御一緒させていただいていて、実は、こうして向き合って、目を合わせて、同じ空間で議論させていただくのはこれが初めてなんです、ずっとオンラインだったから。原公述人とは、たしか一遍、名刺交換だけさせていただいたんですけれども、こうして向かい合って議論するのは初めてです。

 じゃ、それで成果がなかったのかというと、そんなことはなくて、あの会議で、まさしく書面や押印の見直しが進んで、また、具体的なところでいくと、忘れもしないんですけれども、固定資産税とか自動車税の収納の効率化、QRコードとかデジタル化とか、えらい突っ込んだ具体的な話もしました、物流の効率化も、また再生可能エネルギー。そう考えますと、やはりデジタル化というものの未来、私は期待をしております。

 その点で、大槻公述人と原公述人に、デジタル化がもたらす未来とその期待、そしてまた可能性と克服すべき課題について、お答えをお願い申し上げます。

大槻公述人 御質問ありがとうございました。

 デジタル化の未来ということなんですけれども、確かに、今おっしゃっていただいたとおり、相当程度、省力化のステージというのはおかげさまでできたと思うんですけれども、やはりまだまだできていない部分というのはすごく多いと思っています。

 何かというと、やはり教育のところも、オンラインのところがまだ、対面の方がいいところもたくさんありますし、それをどうやって生かしながら効率化を図っていくか。あるいは、遠くにいても、例えばリモート、地方であっても、東京の方が卓越した教師の方がいるんだったらば、それをオンラインで受けられるような仕組みですとか、そういったところがもうちょっと柔軟化できるのではないかというのが一つあると思います。それを進めることによって、恐らく将来的には教育の質を上げることができると思います。

 今、オンライン授業については上限が様々な形で設けられているわけですが、そこで想定されていたオンラインというのは、あくまで、よくないとされていたのは、やはり一方方向で、そして同じ教材をずっと使って、それを流し続ける。そうではない形の、様々な形のオンラインということをより積極的に認めれば、効率化だけでなくて成長につながるというのが一点です。

 もう一つは、今実験的にやっているようなバーチャル会議ですね。今はZoomとか、皆さんも使っていらっしゃると思うんですが、そういったものから、今度は、アバターを使った、全くいないんだけれども、まるでいるように隣から声が聞こえるとか、ああいった形のものまでが高速で時差なくできるようになるという実験を我々も始めているんですけれども、これが発達すれば、もしかしたら、今あるオフィスの姿というのは、みんなで集まっていますけれども、十年後、二十年後にその写真を見た未来の方々は、こんなところに集まってわざわざ仕事をしていたのかというふうに見られるかもしれないので、そういったより一層の効率化というのを新しいデバイスを持ってやっていけるようになるということを期待したいと思います。

原公述人 ありがとうございます。

 最初に、規制改革の会議で十数回以上オンラインで御一緒したことを触れていただきました。それを伺っていて思いましたのは、やはりこの国会の会議も是非早くオンラインでやっていただけるといいんじゃないかなと思いました。

 それから、デジタル化の未来についてということでございます。

 デジタルトランスフォーメーション、それからその先の、今、今度はグリーントランスフォーメーションがどんどんと進んでいきます。これは産業革命なんだと思います。産業革命であって、この新しい社会構造にいち早く乗った企業や国が、その先の、恐らく数十年とか百年の覇権を握っていくという、その今非常に重要な局面にあるということなんだと思います。

 この十年ほどで何が起きたかということを考えれば、例えば、産業の中で、世界でどんな産業が成長したのかというと、例えばライドシェアです。これは従来の産業の枠とは全然関係ない。十年前に、ライドシェア産業を振興しようなんて言っていた人は一人もいないはずです。そんな産業が今や巨大な産業に世界では成長した。一方で、日本ではどうなっているかというと、規制の壁があって、いまだに食事のデリバリーしかできないわけです。

 これをやらないと、従来の産業の枠にとらわれて産業振興をやりますというところだけやっているのでは、これはもう世界の成長に取り残される。この先の産業革命に乗り遅れて、今後数十年とか百年とか、日本は貧しい国に転落をしていくということになりかねないのではないかという心配をしております。

 ありがとうございます。

藤井委員 ありがとうございます。

 日本の国のどこにいても会議ができると大槻公述人からお話がございましたけれども、特に教育ですね。先ほどお話しいただきました人材の育成、リカレント教育、もうまさにおっしゃるとおりで、私の子供の頃とかは、海外に行ったことがないという方が英語を教えていたというような状況でございます。

 どこにいてもひとしく平等に教育が受けられる、また人材育成の機会が得られる。まさにデジタル田園都市国家構想の実現ということなんだと思います。

 そこで、岸田内閣は、成長と分配を経済政策の大きな柱としております。今、先ほど原公述人から成長の鍵となるようなお言葉も出ましたけれども、成長のために、再び日本経済が復活するために何が必要だ、それをちょっと一言で、大槻公述人、原公述人、そして川口公述人にお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

大槻公述人 ありがとうございます。

 一言ですよね。一言、詰まってしまいますけれども、突き詰めていくと、どんな方とお話ししていても、これをやった方がいい、あれを、いろいろありますけれども、最終的にはやはり教育に行き着くと思います。

原公述人 一言で申し上げますと、構造改革、藤井副大臣にもお取り組みをいただいた規制改革などをしっかり進めていく必要があると思います。

川口公述人 女性の活躍推進が大事だと思います。

 日本の女性は、男性と同じぐらいのスキルを持っているんですけれども、スキルを使っていない、こういう統計の結果がありますので、そこの部分を、十分に活躍していただけるような仕組みというのを整備していくことが必要だと思います。

 ありがとうございます。

藤井委員 ありがとうございます。

 時間の都合もあって、一言でということで御回答いただきまして、ありがとうございます。

 やはり成長が必要なんだと思います、それで日本経済が復活することが。その上で、岸田内閣は成長と分配の好循環というのをうたっております。やはり、分配という点では、これは成長が欠かせない上で、私は、賃上げといいますか、若い方の所得というか給料を上げるということが何よりも大事なんだと思います。

 ただしかし、これは賃上げしようと思ったら、企業サイドの都合というのもあります。財務体質とか置かれた状況というのもありますし、今はコロナでございます。そういう状況も加味しながらも、しかしながら、やはり若い人の給料を上げるというのが大事だと思うんですけれども、こうした賃上げの必要性と、そしてまた、これを実現するための課題とはどういったものがあるとお考えか、大槻公述人と川口公述人と小黒公述人にお伺いしたいと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 まず、賃上げの必要性というところにつきましては、もうこれはマストですね。先ほどのお話でもさせていただきましたとおり、企業物価からの、CPIの方に移転することはもうほぼ間違いないということで考えると、当然、賃金の方が上がらない中ですと、生活のレベルが下がってしまうということになりますから、ここは、賃金の上昇というのはマストだと思います。

 一方で、これの課題というところなんですが、案外、若年の方々に聞くと、一斉の賃金上昇というのはどう思いますかと言うと、一斉はちょっとと言う方も意外といまして、モチベーションとして、自分が頑張ったから、それに応じて、ほかの方々と比べても自分がそれで評価をされているという評価軸として、生活のためというのに加えて自己実現としての賃金というのを考えているということで、それですと、やはり、分配の中でも、もう既に皆さんに取り組んでいただいているところだと思いますけれども、より頑張った人、成長を目指した人に対してのより深く広い分配ということが重要で、課題なんじゃないかなと思います。

川口公述人 賃上げに関しましては、めり張りをつけることが重要だと思います。

 若くても優秀で能力がある人には賃金をしっかりと上げていく、その結果として実現する不平等というものに関しては社会保障等を通して是正していく、二段階に分けて考えることが必要かなと思っております。

小黒公述人 ありがとうございます。

 賃上げにつきましては、まず、生産性に見合った賃金にするということ、それから、賃金を上げる場合に、構造改革にも資すると思いますので、それが企業に対してのプレッシャーになるということですね。

 もう一つ、中長期的にやはり一番重要なのは、人口を増やすことだと思います。先ほど申し上げましたとおり、もう少し抜本的なものとして、出生数を増やすような対策に力を入れていただければというふうに思います。

藤井委員 ありがとうございます。

 いずれの公述人も、賃上げの必要性というのはお認めになっておられる、ただ、しかしながら、様々な企業の置かれた状況というのも考えないといけないということなんだと思います。

 そこで、ちょっと最後にお伺いしたいんですけれども、今、物価が諸外国はすごく上がってきています。日本もどうなるかというのは非常に懸念されるところ、これはまた、金利もどうなるかというところが懸念されるというところなんですけれども、ちょっと、今後の経済運営としての必要な、そうしたいわゆる物価上昇についての対応策をどう考えるのか、金融的にどう考えるのかというところについて、大槻公述人にお伺いしたいと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 非常に難しいところだと思います。これほどの急激な物価上昇ということを久しく経験していなかった中での金融政策ということになりますので、様々な観点から考えなければいけないということだと思います。

 今の前提としましては、恐らく、基本的には、この消費者物価指数の上昇は比較的一時期的であろうということだと思います。それであれば、どうしても、金融政策、これから引締めということになりますと、それに伴う、先ほど来申し上げたようないろいろな副作用もあるということになりますので、それは少し時期を見定めてから動くことが必要だと思います。

 その上で、日銀も、からめ手というか金利ではない形で、昨日来の施策も指し値オペ等をやっていますけれども、そういう形で、少し金利を鎮静化させながら、消費者物価の動向を少し見ながらやっていくということが必要なんじゃないかなと思っています。

藤井委員 ありがとうございました。

 質問時間が終わりましたので、これで終わらせていただきますけれども、四人の公述人の皆様には、貴重な意見をいただきまして、ありがとうございました。

 どうもありがとうございました。

根本委員長 次に、輿水恵一君。

輿水委員 公明党の輿水恵一でございます。

 今日は、本当に貴重なお話を聞かせていただき、心より感謝を申し上げます。また、このように質問をさせていただくことに重ねて感謝を申し上げます。

 先ほど、大槻公述人の方から、本当に、企業物価指数が上がる中でなかなか景気が回復しない、また、様々なインフレ傾向のある中で賃金も上昇しない、こういった非常に厳しい状況に置かれている。あるいは、少子高齢化、人口減少、またGDPの伸び悩みと、そんな中で、これからどうそれを回復していくのか、大事な課題があると思います。

 そんな中で、大槻公述人の方から、最後、今後求められる施策と期待ということで、私も、まさに自分への投資というか学び直し、人のアップグレード、あるいは、自分で起業できるような力を持ちながら一人一人が創造力を持って、持てる可能性を国民がどう発揮してこれらを解決していくのかなということは本当に大事だなと思いました。

 そんな中で、先ほど川口公述人から、EBPMのお話をいただきました。私も、これから、人のアップグレードと、そのアップグレードのためには、デジタル化という新しい流れの中でどういう政策をそこに打ち出すのか。そういう面では、後ほど、デジタル化と人のアップグレードに向けてのターゲティングとかプログラミングについてどのように考えているのかなどということをまた聞かせていただきたいなと思っている。

 一方で、また、小黒公述人、GDPのアップとか医療費のという、そのGDPをアップする上で、やはり、かつて日本人がしっかり働いていたというか、あの時代というものをどういうふうに実現していくか。そういった中で、私も、本業と副業というか、自分の持っている仕事をやりつつ、デジタル化ということで、それと併せて、例えば、時間的、空間的な、そういった制約が大分軽減されるという中で、空いた時間をいかに新たな生産的な活動に持っていき、GDPを上げるか。こんな点についてどのように考えているかについて、後ほどお話を聞かせていただければと思います。

 また、原公述人からは、本当に、やはり物事を具体的に、発言する前にしっかり調査をして、そして、皆様が本当に持っている能力を、官僚の皆さんもどう引き出していただいて本来のあるべき仕事をしっかり進められるようにするか、大事なお話をいただきました。ありがとうございます。そういった中で、またいろいろお話を伺えればと思います。

 そういった流れの中で、まず、大槻公述人に伺いますけれども、人の可能性をしっかり伸ばしていく、これは、まさに人間が、特化型から、複数のことができるというか、そういう形のアップグレード、またそういう社会をつくっていく、またそういう文化をつくっていくということも必要なのかなと思いますけれども、この点についての見解をお聞かせ願えますでしょうか。

大槻公述人 ありがとうございます。

 まさに私も同じことを考えておりまして、クリエーティビティー、創造性ということがないと、恐らくは今から、先ほども述べましたように、ルーティンはもうやれる機械がありますから、そうすると、我々に求められるクリエーティビティーがどういう形で生まれるか。これについてはいろいろな研究などもされていますけれども、やはり、御指摘いただいたように、ダイバーシティーで、自分がいろいろなことをやったりとか、あと、いろいろな違う人からの意見とか、気が合わない人と話すことによって生まれていく、そういう新しい形の教育というのが重要なのではないかなと思っています。

 ただ、もう一つ問題は、クリエーティビティーが生まれて何かいいアイデアを出したとしても、それが報われて世の中に出てくるかどうかというのが、もうワンステップあるかと思います。それが、先ほど申し上げましたように、ベンチャーがいかに世の中で認められ、マネタイズというか、事業化できるかということは、日本においては、恐らく、大企業がこれだけ安定的に多く存在していますので、そことのコオペレーション、協業ということが必要になるんじゃないかなと思っています。

 ありがとうございます。

    〔委員長退席、葉梨委員長代理着席〕

輿水委員 ありがとうございます。

 まさに、日本の企業のその六十年、でもアメリカは三十年ということで、そういう新陳代謝、あるいは企業の体質の改善も含めながら、一人一人のクリエーティビティーがどう生かせるか、そういった構造改革も必要なのかなということで、ありがとうございます。

 そして、続きまして川口先生に、先ほど川口先生も、まさに企業の持っている可能性とか健全性、そういったものをどう生かせるか。そこには、私は、人も、ダイバーシティーとか、多様性も必要、企業も、自分が今までやってきた職種、業種と併せて、他とのコラボレーションの中で新しい価値も創造できる。そしてそこを、デジタル化も含めながら、企業も成長して人も成長していく。そういう新たな政策というか、先生は今、コロナとか、あとは山梨の取組、そういったもののやった評価をしていただいたんですけれども、今後進めるべきものについてのそういったターゲティングだとかプログラミング評価ということも必要かと思うんですけれども、このデジタル化、あるいは企業の体質転換等に向けてのそういった考えの下で、ターゲットとかプログラムというのはどのように考えればいいのか、お聞かせ願えますでしょうか。

川口公述人 御質問ありがとうございます。

 企業に対してどのような政策を打っていくべきなのかということに関しては、難しい問題だと思いますけれども、東京商工リサーチのデータを使った研究の中で明らかになってきているのは、取引先企業が多い企業、こういったところの方が成長の機会が多いというようなことが分かっておりまして、コロナ禍の中で人と人とが会うことが難しくなっていく中で、新たなビジネスとビジネスの出会いみたいな機会が減っていることも懸念されるわけで、そういった機会をまた取り戻していくといったような政策というのも必要になってくるのかなというふうに思います。

 また、地方の金融機関を通じて、これが合併するような流れというのがあると思うんですけれども、そういった金融機関を通じて、またビジネスとビジネスが新たなつながり方をしていくといったようなことを促進していくといったようなことも必要なのかなと思います。

 また、今御指摘いただきましたように、企業の中で大切なのはやはり人材ということになると思いますので、ここの部分の投資をいかに促進していくのか。企業にとっては、難しい問題があるのは、デジタル化が進んで人のスキルが一般化していく、あるいはモジュール化していくに従って、企業が人材投資をしてもその果実が他の企業に漏出してしまうという問題がどうしても出てくるわけですね。ですので、労働者が自分自身でファイナンスをしてスキル投資をする必要が出てくる、こういう社会に、デジタル化というのはそういうことを意味する変化だというふうに考えられます。

 このときに、若い労働者で、十分にお金がないんだけれども自己に投資をしたいという人々がいる場合に、今までは、大企業でしたら会社の負担でそれを行っていたわけですけれども、それができなくなってくるということを前提にして、この人たちのファイナンスをどういうふうに保っていくのか、こういったことを考えていく必要もあるのかなというふうに思います。

 ありがとうございました。

    〔葉梨委員長代理退席、委員長着席〕

輿水委員 どうもありがとうございます。

 まさに、一人一人にどうやってしっかりとした投資ができるのか、その可能性を伸ばせるのか、その辺の視点を持って政策をどう進められるかなということも今後しっかりと議論をさせていただければと思います。

 そして一方で、そういった、人への投資が最終的にはGDPのアップにつながる、そういった、時間と同時に人への投資を含めたGDPのアップ策について、小黒先生、どのようにお考えか、お聞かせ願えますでしょうか。

小黒公述人 輿水先生、ありがとうございます。

 労働時間で空いている時間について、副職という言葉がございますけれども、私、先ほど資料の方で、お配りさせていただいた資料の中に、「日本経済の再構築」という本を二〇二〇年三月に出しております。この中では、サブではなくてマルチという意味での、複数の複職ですね、こういったものをやはり権利として認めていただく、推進していただくことによって、労働者が空いている時間で別の仕事もしやすくする、こういうことによってGDPを増やしていくということも一つ重要なのかなと。

 また同時に、これが賃金の上昇にも結びつくと思ってございまして、これは私よりも先ほどの東京大学の川口先生の方が専門だと思いますけれども、よく経済学の実証分析で、転職しやすい国々の方が賃金が上昇しやすくなるというふうな話もございます。ですので、複職を幾つか持っていれば交渉力も高まりますので、そういったことによってGDPを増やしていく、スキルもためていくというようなこともできるんじゃないかというふうに思ってございます。

輿水委員 どうもありがとうございます。

 本当に、世界デジタル化という中で、一人一人の働き方とか、時間とか、様々変化していく、その変化にどうやってこの社会、日本も変革していくのか。そこで新しい文化とか働き方が生まれて、日本の新しい豊かな未来が開けるのかななんて、そのように感じているところでございますが、まさにその日本のデジタル化の欠点が、デジタル人材がIT企業にほとんど偏在しているとか、首都圏にいる、偏在している、こういった中で、現場になかなかデジタル人材がいない。一方で、今までの日本だと、デジタル人材がいないんだったら外注に頼もうとか、外にお願いする。でも、それだと今の人材育成にならない。

 今いる社員が、また職場の一人一人がデジタルを学んで、自分でその現場でデジタルを生かして業務を効率化したり新しいものを創造できる、そんな社会も必要かと思うんですけれども、そのデジタル人材を、外からお願いするとか外注委託じゃなくて、現場で育成していくためにはどのような取組が必要なのかについて、短めに全ての公述人の皆様にお聞きしたいと思いますので、大槻先生から、原先生、川口先生、小黒先生と、よろしくお願いを申し上げます。

大槻公述人 職場でのリスキリングという意味では、今はツールがいろいろございますから、私も実は五十を過ぎてからPythonをやりましたので、そういうことは十分あると思いますが、個人的に今問題だと思っているのは、人材として海外の優秀なIT人材、トップレベルの方々をなかなか採用できない。なぜならば、御存じのとおり、給与のレベルが日本と海外で大きく差がついてしまっていて、なかなか来てくれなくなっている。

 ここについては、やはり企業の側での努力が必要で、そういった異能というか特異な才能を持っている方々に対しての硬直的ではない給与の在り方というのが必要なんじゃないかなと思います。

原公述人 ありがとうございます。

 まず、リカレント教育、これは大変重要だと思います。それから、いわゆる日本型雇用慣行で、社内に閉じて人材を育成しているというだけでは限界があるということで、これも政府で取り組まれていることですが、ジョブ型への切替えなども含めた政策が必要だと思います。

川口公述人 御質問ありがとうございます。

 今、私、人材派遣の会社と共同研究をしておりまして、派遣先がサーバーの管理とかをするような、そのサーバーを管理するような人材を派遣している会社なんですけれども、そういった意味でちょっと利益相反があるかもしれないですけれども、しない範囲で私が感じたことを申し上げると、ビジネスモデルは、初心者の方を雇って二か月ほどトレーニングして、それで資格を取ってもらって、その後派遣するという形になっているんですね。

 これが普通の学校とちょっと違うなと思ったのは、このカリキュラムの二か月の間で十分に人材育成できないとビジネスにつながらないということで、あと、職業紹介の部分も同時に張りついているという形になっていて、どうも見ている範囲だと、うまくビジネスが回っているようにも見えます。それで、何年かすると、社員の方は辞めていって、恐らく直接雇用などに移行しているのではないかと思うんですけれども、ここはデータがないから分からないんですけれども。

 そういった意味で、様々な形の、学校以外の形の人材育成というビジネスモデルがあり得て、そこをやることが実を言うとビジネスとしても成功し得るというような余地があるわけですね。今、本当に人材が不足しているので、そこの部分を民間企業がやることによって、ビジネスを行うことができて、かつ効率性も上げることができる、こういった視点というのも人材育成の中には必要なのかなと今思っておるところです。

 ありがとうございます。

根本委員長 小黒公述人、大変恐縮ですが、時間が経過しておりますので、手短にお願いします。

小黒公述人 ありがとうございます。簡潔に。

 日本以外の国で幾つか取っている国があるというふうに聞いているんですけれども、コア人材を増やすという意味で、大手以外のところにいろいろなIT系の発注を例えば政府であるとか自治体がしていくということによって裾野を増やしていくというような方策もあるんじゃないかと思ってございます。

輿水委員 どうもありがとうございました。以上で終わります。

根本委員長 次に、近藤和也君。

近藤(和)委員 立憲民主党の近藤和也でございます。

 各公述人の皆様から貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 まず、川口先生から伺います。

 EBPM実行のための予算化、最初から入れておくべきだという御意見は、なるほどなというふうに思いました。ちなみに、このようなことをしている国がほかにあるのかということをまず伺いたいと思います。

 そして、いわゆるゼロゼロ融資やグリーンゾーン認証制度などは効果があったというお話を伺いましたが、一方で、例えば、現在進行形でワクチン接種そして重症化やお亡くなりになる方の情報を逐次取っていくことの難しさ、効果といったところの現在進行形での難しさもあると思います。これらに対しての対処、このスピード、時間軸をどうやって取っていくかということが二つ目。

 そして、三つ目なんですけれども、これらの、うまくいった例は今ほどおっしゃっていただきましたが、うまくいっていないんじゃないか、若しくは、調べたけれどもうまくいっていなかった、そういった、このコロナ対策の中で何かあれば教えていただければと思います。

川口公述人 御質問ありがとうございます。

 具体的に、どこまで評価のための予算を入れているのかということについて、具体的な数字を知っているわけじゃないんですけれども、少なくとも、アメリカで、リスキリングにも関わることですけれども、公共職業訓練というのが行われているんですけれども、こういった事業を行うに当たっては、あらかじめランダム化をして、参加する人をランダム化して、本当の意味での、トレーニングがその後の再就職につながる確率をどれだけ上げたのかとか、再就職後の所得をどれだけ上げたのかを評価することが求められるようになっているそうです。

 ですので、医薬の世界ですとそうだと思いますけれども、プロトコールが決まっていて、そのプロトコールに従って評価をして、それを次の予算につなげていくということがもう行政プロセスの中に組み込まれているというふうに聞いております。

 それで、ワクチン接種に関してなんですけれども、これはもう既に、やろうと思ったらできることはたくさんあると思います。私は公衆衛生の専門家ではございませんので、既に研究はあるかもしれないですけれども、VRSのデータベースを見ていて、都道府県別、日別の接種者数が分かるんですね。接種の対象になっている方の年齢別の接種者数も全部分かるようになっています。

 これを、例えば新規感染者数ですとか、あるいは経済活動の指標というものと相関させることによって、すぐにでも、このワクチン接種というものが経済活動ですとか新規感染の抑制にどのような効果を与えているのかということを評価することは、スキルがある先生がやればすぐにできるというふうに思います。

 ですので、スピードは、非常に速いスピードで実行することは理屈としては可能だというふうに思いますし、もう既にやられているのかもしれません。

 それで、ごめんなさい、三番目が……(近藤(和)委員「三番目は、うまくいっていなさそうなもの。うまくいっていないもの」と呼ぶ)うまくいっていない政策、率直に申し上げて、たくさんあると思いますけれども。

 大事なのは、うまくいっていないから、例えば、今回の企業支援に関しても、やや負の面があるということをお伝えした部分もあるんですけれども、政策というのは全ての人に同じように利くとは限らないんですね。この人には利かなかったんだけれどもこのタイプの人には利くというようなことがありまして、誰に対して利くのかというところを、ゼロ、一ではないので、この人には利いたんだというようなところを探り出して、そこにより重点的に予算を配分していくというような、何か駄目だったからゼロ点というような減点法ではなくて、うまくいっている部分はどこなんだ、そこに対して予算をより配分していくんだというような、そういうポジティブな考え方をしていくことも必要なのかなというふうに思っています。

 ありがとうございます。

近藤(和)委員 貴重な御意見、ありがとうございます。ワクチン等についてはまだまだやるべきことがあるということは、与党の皆様もお聞きいただいたのかなというふうに思います。

 それでは、マーケットのことについて大槻さんと小黒さんに伺えたらと思います。

 まずは、ゼロゼロ融資のことについては、私も大変これはよかったなというふうに思っています。一番のこの利益の享受者は、先ほど川口先生からもお話が伺えましたが、やはり厳しい企業なのかなという一方で、実は、地域の金融機関もかなりありがたかったんですよね。リスクがかなり低くて、そして利子補給してもらえるという、大体四十兆ぐらいですから、それだけで年間四千億円ぐらい安定して入ってくる。

 一方で、もう一年と九か月たちました。あと一年と数か月たてば、利子の分を払わなきゃいけない。三年と数か月たてば、元金の部分を返さなきゃいけない。

 一つありますのが、余裕のある企業も借りています、一方で。そして、あと一年と数か月して利子を払わなきゃいけないというときに、全部返すという可能性もあるんですよね。そこも含めて、そして、今、地域の企業がどんどんなくなってきていることを考えれば、先ほど不良債権のお話もありましたが、かなり厳しい企業がたくさん出てくるんだろうなというふうに思っています。

 その中で、今、このコロナ対応としては、世界中がありとあらゆる手を尽くして、リスクをうまく、まずは第一義的には逃れることができた、これはリーマン・ショックからの教訓だというふうに思います。

 そして一方で、傷口を浅くしたがゆえに、後々に、傷を未来へ送り込んでいるだけという見方も一方でできますので、これらのリスク要因について、今年についての最大のリスク要因は何だと思われるのかということ。いろいろあると思います。金融機関のリスクもあれば、企業のリスクもあれば、国債のリスクもあれば、日銀のリスクもあれば、財政のリスクもあれば、そして中国の恒大のリスクもあれば、資源高のリスクもあると思いますが、その中で今年最大のリスク要因というのを、お二方、大槻先生と小黒先生に伺いたいと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 最大というのは非常に難しいんですが、今御指摘、御質問いただいた趣旨に最も沿ったお答えとしては、やはり地域の活性化がどこまでいけるかということだと思います。

 ゼロゼロ融資につきましては、先ほども御指摘いただいたとおり、銀行としては、リスクを負っていない分、それ以外にやることがたくさんあって、プロパーの融資も、傷んでいくようなことがあれば、どうしても労力のかけ方が違ってしまうかもしれないので、そうではなくて、やはりゼロゼロ融資をやったということは、御指摘いただいたとおり余裕のあるところもありますが、助ける必要があったからやったということでしょうから、ここからが正念場だと思っておりまして、そこに対してどこまで、金融機関、特に地方の金融機関になると思いますけれども、積極的に、ハンズオンで再生、あるいは再生ではなくて業態転換をあえてお勧めするような形で手助けをしていけるのか、そこの見極めをしていくということが必要だと思います。

 逆に、それができないことというのが一番のリスクではないかと思います。

小黒公述人 先生、ありがとうございます。

 今年最大のリスクというのは、やはりアメリカが中間選挙がございますので、バイデンがインフレについて相当敏感になっている、これはFRBの議長の方にある程度プレッシャーになっていると思いますけれども。アメリカの金利が上がっていったときに、やはり日本との金利のギャップが拡大していく、それが日本にどう波及するのか。

 これは、日本銀行と政府が今いろいろシミュレーションとか真剣に考えていると思いますけれども、場合によってはそれが地方銀行の方に影響を与えるということもあると思いますので、その辺についてやはり少し踏み込んで考えていくということが重要ではないかというふうに思ってございます。

近藤(和)委員 ありがとうございます。

 今、金利上昇、特に海外のところはもうせざるを得ないという状況の中で、昨日は指し値オペ、実質的には見せ金といいますか、それで止まったということですが、突破したらどうなるんだろうなという、むしろ私も恐ろしさがあるのではないかなと思います。

 その中で、特に、この十年近くの金融政策での日本における来年、再来年の一つのリスクといいますか、心構えは、やはりポスト黒田日銀総裁なのではないかなと。ここまで、今、国債の残高は少し減り始めてはきていますが、ETFは減りようがないというところで、ポスト黒田に望むことということで、再度、小黒先生、そして大槻先生に伺います。

小黒公述人 先生、ありがとうございます。

 ポストコロナといいますか、これは、国会の先生方とか政権も含めて、日本銀行に滞留している国債をどうするのかということについて、外では余り議論はできないと思いますけれども、内々で議論していただくということ。だから、それができるような総裁ということがやはり一番重要ではないかと思ってございます。

大槻公述人 ありがとうございます。

 ポスト黒田ということで考えますと、一年後ということになりますからまだ読み切れないところはありますけれども、そこから先のところでは、どうしても、出口に近づく、そのタイミングとやり方ということが一番市場としては関心事項でもありますし、懸念でもあると思います。

 御指摘いただいたとおり、期限がないものについての減らし方というのは、これから何かやはり大きく変えない限りは実現できないところではありますので、それをどう議論していくのか。

 そして、一番は、やはりマーケットに対してどう伝えるかだと思います。パウエルFRB議長は去年はMVP並みに相当うまくコミュニケーションを取ってきたと思いますが、今までのお話でもあったとおり、市場は何も動きがないというのが日銀への今のところの期待感だと思いますが、それが中長期的に続くというふうには考えづらい中で、どういう形で前出しをしながら、市場に過度な影響を与えない形で正常化を図っていくか、このコミュニケーション能力に期待したいと思います。

近藤(和)委員 ありがとうございます。

 特に、黒田日銀総裁については、最初は、バズーカということで、むしろ難しいコミュニケーションの取り方で評価を得てきて、今は、むしろ何もしないことが期待されるという、ある意味大変な、かわいそうといいますか、そのような状況になってきているのかなと思います。

 ただ、一方で、その後始末をするのは私たち、皆様でございますから、ここについてはしっかりと前向きな議論をしていかざるを得ないのかなというふうに思います。ありがとうございます。

 時間が参りました。大変失礼いたしました。原先生におかれましては、様々な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 野党合同ヒアリングの在り方については、様々な議論があるということは承知をしています。私たちの思いとすれば、政府にちゃんと出てきてくれ、説明もちゃんとしてほしい、役人の人たちとのコミュニケーションもそうですが、ちゃんと政府、特に政治家とのコミュニケーション、出しにくい情報もちゃんと出していただく、それが国のために資するんだという思いでありますので、この国会の在り方については、しっかりと前向きな、私たちも姿勢を見せていきたいと思いますので、様々なことについてはまたいろいろな場で議論していけたらというふうに思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

 各先生の皆様、今日は大変貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございました。

根本委員長 次に、足立康史君。

足立委員 日本維新の会の足立康史でございます。

 公述人の皆様、今日はありがとうございます。

 今、近藤和也委員から一言コメントがあったのは、それはそれとするわけですが、謝罪がなかったので、謝罪した方がいいと思うんですけれどもね。ああ、関係ないですね。

 しかし、今日、こういう形で原公述人の方から話があって、私は大変重要な陳述であったと思っています。

 私たち日本維新の会は、この十年、国会の構造改革に取り組んできました。まさに、失礼ながら、万年与党、これからは違いますけれども、これまでの万年与党の皆様と万年野党が茶番劇を繰り返してきた。そういう中で、原先生のようにいろいろ被害を被っていらっしゃる方がいるわけですから、私は、今、近藤さん、こういう機会だったんだから、ちょっと一言ぐらい謝罪があってしかるべきだと思いますが、立憲民主党の方はとにかく謝りませんからね。

 委員長、これは是非、今日、原先生の方から、公述人の方からあった、国会への要望みたいなものがありました。これはもちろん予算委員会ののりを越えるところもあると思いますが、大事な指摘がありますので、是非、これをどう扱うかということを理事会で御検討いただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

根本委員長 これは理事会で協議します。

足立委員 是非お願いをしたいと思います。

 私たち日本維新の会は、とにかくそういう思いで、そういうことはあってはならないということでずっと取り組んできましたが、ようやく、昨年の総選挙を経て、今話題になっている野党合同ヒアリングはなくなりました。本当に、政治は選挙を経て国会も変わるし、日本の経済社会も変わるということを国民の皆様にはお伝えしていきたい、こう思います。

 さて、できるだけ四名の皆様に御質問したいと思いますが、まず、原公述人ですが、今日は忌憚のない御意見をありがとうございました。問題になっている篠原議員、謝罪はありましたか。

原公述人 ありませんでした。

足立委員 私は、しっかりと、これはもちろん篠原さんだけではありません、野党合同ヒアリングですから、政党としてしっかりと対応していくべきだと思うんですね。

 立憲民主党だけではないと思いますが、立憲民主党に、先ほどもちょっとおっしゃいました、何をしてもらいたいか。もちろん、今日こういう形で陳述いただくことで、お孫さんは今日の議事録を見れば真実が分かるということですから、一歩前進だと思いますが、立憲民主党に何をしてほしいか、ちょっと忌憚のないところをお願いします。

原公述人 ありがとうございます。

 先ほども少し申し上げましたけれども、やはり、野党合同ヒアリングにおける疑惑追及が不当なものであったということは、これは正式に認めていただきたいということです。それから、今も野党合同ヒアリングの動画のアーカイブが多く残されています。これはやはり消していただけないものかなと思っております。

 以上です。

足立委員 私たちは、別にこの問題だけを取り上げているんじゃないんですね。これは一つの事件です。ほかにもたくさんあるんですね。

 例えば、私が先日この予算委員会でも取り上げました、菅直人最高顧問による福島の子供たちに係る風評加害。これも、結局、今どうなっているか、何かまた環境大臣、環境省とやり取りが続いていて、一切、反省の色が全くないんですね。

 だから、私は、この予算委員会が開催されている間に、菅直人最高顧問そして立憲民主党が、この一連の、原公述人が今日おっしゃったこともそうです、福島の問題もそうです、様々な問題について一切弁明も謝罪もされていませんので、この予算委員会をやっている間にそれが前進するというか、対応されることをこの場で立憲民主党に求めておきたいと思います。

 さて、もう一問、原公述人にお願いしたいんですが、私たちがこの国会改革を求めてきたのは、ひとえに、日本の経済社会、日本の繁栄のためです。国会が遊んでいると日本の未来が危ういので、まず国会改革に取り組んできた。私たち日本維新の会が生まれて、この十年の私たちの活動で国会は変わってきたと思うし、昨年の総選挙を経て、野党の在り方も大分変わってきた。次、これからの十年は日本の新しい経済社会をつくっていかなあかん、こう思っています。

 原公述人の問題で大変私たちが危惧しているのは、規制改革、構造改革へのマイナスのインパクトです。予算委員会で、私、国家戦略特区の活動が低迷しているということを御紹介申し上げましたが、事実上、既得権側が勝利をしている側面があると思うんですね。やはり、改めて原さんの名誉回復をするとともに、この戦い、構造改革、規制改革をめぐる戦い、もう一回エンジンを吹かしていきたい、こう思っているわけですが、その点、御意見ありましたらお願いします。

原公述人 ありがとうございます。

 先ほどから国家戦略特区のお話をいたしました。国家戦略特区については、私の疑惑の話もありましたが、その前に加計問題もありました。こういった疑惑追及によって、国家戦略特区での取組が大きく停滞をしてきたということだと思います。初期には、岩盤規制改革の突破口にするんだということで、石破特区担当大臣がやっていらっしゃった頃にはこれはもう大きな前進があったわけですが、その後、加計問題が取り上げられた頃以降は、残念ながら、前進がないということになっています。ここをもう一回再稼働しないといけないんじゃないかと思っております。

足立委員 ありがとうございます。

 本当にこれは、一部、共産党の方だと思いますが、予算委員会でやる議論かというコメントがありましたが、もう全く予算委員会でやる議論ですね。

 今あったように、まさに国会の在り方が日本の経済社会の在り方を決めているんです。これまで、国会が遊んできたから日本経済も低迷しているんです。だから、私たち日本維新の会は、まず国会改革に取り組んできた。国会改革に一定のめどが立ちつつあるので、次は新しい経済社会の構築に取り組んでいきたいということで、ちょっと御質問をシフトさせていただきたいと思います。

 大槻参考人、今日はありがとうございます。大変貴重な御意見を賜りました。

 私は、いずれもごもっともで、一つ、労働市場改革についてちょっと御意見を賜りたいんです。というのは、岸田内閣は新しい資本主義と言っていますが、この予算委員会で論戦しましたが、結局何をやりたいか、よく分かりません。勤労者皆保険とおっしゃっていたのも、実は中身がないということが分かった。

 それから、私たちがいろいろ提案をしている大改革プランというのがあるんです。要は、今日、大槻参考人がおっしゃっていただいた、挑戦、リスクテイク。これは、別に企業のマインドだけじゃなくて、制度がそうなっているわけですね。様々な、労働市場、労働法制とか、あるいは税制とか、先ほど川口参考人がおっしゃった女性の問題もそうです。女性は、特に扶養の問題とかで、一定の、壁がいっぱいあるわけです。要は、働かないように働かないように、あるいは挑戦しないように挑戦しないように制度ができているんです。

 だから私は、やはり立法府ですから、様々な制度、税制から社会保障から労働市場まで、制度が悪いと思っているんです。まさに、これから挑戦を支援できるような制度的な大改革をそろそろ真面目に取り組んで、これからはそういう、構造改革とおっしゃいましたが、新しい経済社会をつくっていくための制度改革をちょっと本格的に取り組まないといけないという危機感が私たち日本維新の会にありますが、いかがですか。

大槻公述人 ありがとうございます。

 労働問題は本当に非常に難しい。私も、プライベートカンパニー、普通の企業におりますけれども、労働環境ということ、一般的、全般的に申し上げて、海外と仮に比較した場合、いろいろな条件の違いがあるので一概には言えないと思いますけれども、適材適所と、働きに見合った、ジョブ型という言い方になるのかどうかは分かりませんけれども、能力とそれから働きに応じた支払いのシステム、給与とかボーナスの仕組みというのは、やはりこれはマストだろうと思います。

 先ほども、一斉の賃上げについて意外と若い方々がそこまでよいというふうにおっしゃらなかったのは、やはり、自分がやっただけのものを評価されてこその給与であり、モチベーションであり、成長であるというふうに考えているからだと思います。

 だとしますと、おっしゃっていただいたように、労働に応じた、成果に応じたものに変えていくための一つの鍵としては、適材適所、それには、ひょっとしたら、流動性を、うまく回すような仕組みというのも重要になるかもしれないと思っております。

足立委員 ありがとうございます。

 時間は限られていますが、川口参考人、小黒参考人に一問ずつちょっとお願いしたいんです。

 川口参考人、本当に面白いというか、大事だと思います。ただ、多分英米ではもう当たり前の世界というか、私はちょっと知り合いがイギリスの官庁に勤めていますが、あらゆるセクションにエコノミストが張りついていて、そういうエコノミストが、いや、これはちょっと合理的じゃないよと言う政策はそもそも提案さえできない。もちろん、後のフォローもあるということで。

 私は、今日御提案いただいた話はもう当たり前にしていかないといけないと思っていますし、それから、いろいろデータの入手とかで御苦労が多いようですが、私に言っていただければ質問しますので、まあ迷惑かもしれませんが、是非、こういうものをもっとやっていく。

 今日、最後に御提案いただいたように、国会の議論が、そういう週刊誌の下請のような国会じゃなくて、まさに今日いただいたようなことを私たちが、国会議員と政府が議論できる、そんな国会にしていきたいと一応決意を申し上げますが、せっかくですから一言いただければと思います。

川口公述人 どうもありがとうございます。

 一点申し上げたいのは、今、議員からも御指摘ございましたとおり、イギリスの政府にはエコノミストがたくさんいて、博士号を取っている人たちが各セクションにいて、やっているわけですね。

 日本でも、公務員の方々、優秀な方々は多いですけれども、そういう博士号を持っているようなエコノミストをしっかりと処遇できるような人事の仕組みをつくっていただきたいなというふうに思います。

足立委員 ありがとうございます。

 小黒公述人、いつもありがとうございます。

 財政については様々な議論があります。自民党の中にも両派あります。しかし、私たち日本維新の会は、どちらかといえば、安倍さんに集まっていらっしゃる学者の先生方とかと同じ考え方です。

 少なくとも、今日申し上げたように、これから十年、構造改革を進めて日本をもう一回成長軌道に、中長期、長期のですね、成長軌道に戻していくためには、金融、財政、いわゆるアベノミクス的な世界標準の経済政策はこれからも必要で、今プライマリーバランスとかにこだわって何かまた減速するようなことは絶対にあってはいけないと思いますが、ちょっとお考えと違うかもしれませんが、どう思われるか、お願いします。

小黒公述人 先生、御質問ありがとうございます。

 一つ重要なことは、安倍政権下で消費税を二回増税したことによって、相当税収が増えてきているということ。それから、今、コロナ禍でも、先ほど御説明しましたとおり、プライマリーバランスの方については、予算編成も含めて、それなりに財政規律が働いた形で今動いているということ。

 ただ、長期で見ますと、この財政再建の問題というのは、バブルが崩壊してからしばらくずっとやってきたわけですけれども、一つだけ言えることは、やはり債務残高GDP比は依然として伸び続けているということは事実でございますので、経済との関係を含めながら、いろいろ御議論いただければというふうに思ってございます。

足立委員 本当にありがとうございました。参考になりました。

根本委員長 次に、前原誠司君。

前原委員 国民民主党の前原でございます。

 四名の公述人の皆様方、今日は、御多用のところ、わざわざ国会にお越しをいただきまして、貴重な意見をお述べいただきましたことに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 まず、一点目は、大槻公述人のお話を伺っていて、五枚目の資料ですか、不良債権予備軍の話をされました。不良債権の五倍ぐらいじゃないかということでありましたし、また、川口公述人のお話の中では、評点の低い方ほど融資を受けているということで、具体的な分析をされたわけでありますけれども、コロナ禍も三年目に入りまして、飲食それから旅行業、これは、インバウンド、アウトバウンド、国内旅行、こういった方々、あるいはそれに関連する産業、あるいは、政府がステイホームを推進し、テレワークを推進したり、オンライン授業、コンサートなどのイベントが自粛をされているという状況の中で、需要が減ったわけですね。

 そして、需要が減る中で、需要を埋める支援策もありました。十万円の定額給付金とかいろいろな支援策がございまして、雇用調整助成金なんかは一日上限を一万五千円に上げて特例措置を続けている、これはよかったと思います。

 ただ、需要というのは返ってくるわけじゃないんですね。じゃ、旅行客が戻ってきて、お土産を倍買ってくれるか、あるいは食事を倍食べてくれるか、あるいは新幹線で二往復してくれるかというと、そうではないわけですね。失われた需要というのがある。その需要を埋めているのが、先ほどからお話があるゼロゼロ融資などを含めた借金。そしてまた、納税や社会保険料についても、減免じゃなくて猶予しているんですね。猶予しているということは、その翌年に二年分とか三年分とかまとめて払わなきゃいけない、こういう状況になるわけですね。

 ここからが本当に正念場だというふうに私は思っていますけれども、先ほど大槻公述人からは、同僚議員の質問にお答えされて、企業の再生とか業態転換ということが必要だということをおっしゃいましたけれども、なかなかそれは、私、できる業種とできない業種もあると思いますけれども、この根雪のようなゼロゼロ融資とか、税や社会保険料のいわゆる猶予という問題がこれからいよいよ本格的に重くのしかかってくると思うんですが、これに対してどう対応したらいいかということについて、それぞれ一言ずつお答えをいただければありがたいと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 確かに非常に難しいと思いますが、需要はあるところにはあると考えますと、御指摘いただいたように、例えば、経営者の年齢等から考えてもそう簡単に転換できることではないというのは、物すごくよく分かります。ただ、一方で、ほかになかなかいい道があるわけではなく、できる範囲でもって新しい道を、例えば、おっしゃっていただいた飲食でしたらば、既にEコマースなどに一定程度振り向けているところはむしろ利益が伸びているなど、御存じのとおりだと思います。そういった形で、需要があるところにどうやってシフトをしていくか、それは多分単独では難しいと思いますので、先ほど申し上げたような形で伴走者が必要だと思います。

 それは、保証協会さんなども人を増やすなどのこともやられていつつあるとも聞いておりますけれども、やはり一義的には、貸出手でもあり、近くでフェース・トゥー・フェースで見ている地域金融機関さんにそこを期待をしたいと思います。

原公述人 ありがとうございます。

 業態転換できるところは進めていく、一方で、おっしゃるようにできないところもある、そこに対してセーフティーネットをきっちりと張っていくということが重要だと思います。できないところがあるので、みんなで我慢しましょうとか、みんなで貧しくなりましょうというのはやめた方がいいんじゃないかと思います。

川口公述人 ありがとうございます。

 例えばなんですけれども、今回のコロナ禍でテレコンファレンスが非常に広がって、企業の出張なんかというのがコロナが収まった後にどれぐらい戻ってくるかというところはかなり不確定なところがあって、構造的に縮小してしまうことがやむを得ないような場合もあるとは思うんですね。

 こういった構造変化というものを捉えて資金の流し先を変えていくというのは、やはり、先ほども大槻公述人の方から御指摘がありましたけれども、民間の金融機関がやるというのが資本主義の原則だというふうに思いますので、やはり、貸し手に一定のリスクを取ってもらう、貸出しの規律をしっかり取り戻してもらうといったことを考えていくことが必要なのかなというふうに思います。

小黒公述人 御質問ありがとうございます。

 非常に難しい問題だと思います。業種転換ができるところとできないところがある等ございますので。基本原則としては、まず、民間の金融機関などを使ってきっちりサポートしていくということ、ただ、それでも難しい場合については、やはり政府が後ろからサポートするということもある程度必要なのではないかなというふうに思っております。

 その上で、財政的な問題でコストがやはり跳ね返ってくる可能性もある等ございますので、その場合、冒頭、少し先ほど公聴会の陳述で述べさせていただきましたけれども、やはり特別会計をつくって債務をきちっと処理していくということも重要ではないかというふうに思ってございます。

前原委員 皆様、ありがとうございました。

 例えば、Eコマースの話を大槻公述人はされましたけれども、店頭販売が難しいので、そういうことをされているところというのは結構あるんですね。それは、でも、失われた需要が全て埋まるわけではありません。

 それからまた、川口公述人がおっしゃいましたけれども、ポストコロナで、テレコンファレンスの話をされました。こんなに便利なのかと。我々もZoomの会議が非常に多くなってきまして、恐らく国内的にも国際的にもそれが定着してくるということになると、公共交通機関というものは、恐らくこれから使われる方はコロナ前と比べると減っていくと思うんですね、人口動態に関係なく。

 ですから、こういったところの中で、やはり、もちろん経営努力ということもそれぞれやっていただかなきゃいけませんが、最後に小黒公述人がおっしゃったように、モラルハザードにならないという大きな線を引きながら、債務についての一定のやはり処理というのは私も必要になってくるのではないかなという気がしております。

 ありがとうございました。

 川口公述人、一点だけちょっとお伺いしたいんですけれども、EBPMというものについて、私、本当にこれは元々大事な考え方だというふうに思っていましたし、全ての予算にこういうものが予算編成の段階からビルトインされるということは大事なことだと思うんですね。

 その観点の中で、今回の予算委員会でも私、取り上げたんですけれども、租税特別措置。これは特別措置なんだけれども、だらだら続いているものがたくさんありますし、特に第二次安倍政権以降、例えば、賃上げの税制とか、あるいは研究開発税制ということで、この租特、租税特別措置についてかなり積み上げをしているんですけれども、結果を見ると、賃金はさほど変わっていないし、もっと変わっていないのは研究開発税制。これについては、額を増やしても、研究開発費というのは前と比べてもほとんど増えていない。賃金は若干上がったりしているんですけれども、ただ、効果が一%もないような状態でございまして、そういう意味では、このEBPMという観点から考えると、この租特、特に賃上げ税制、研究開発税制というものは、私は徹底的に検証されるべきだというふうに思いますが、お考えを聞かせていただけますか。

川口公述人 はい、検証されるべきだというふうに考えております。

 それで、賃上げ税制に関して申し上げると、そもそも法人税を払っている法人が半分以下というような現実もございまして、どこまでその政策が届くのかという段階でやや疑問もあるのかなというふうに思っております。

 それで、これが制度的に可能かどうかということはちょっと脇に置いた議論になってしまうのですけれども、労働者あるいは企業に係る租税負担を減らすということで申し上げると、社会保険料の企業負担、労働者負担分を減らすという方がストレートな政策なのかなというふうに思っておりまして、いろいろな方法を、法人税だけでなくて、様々な角度から、実質的な賃金をどうやって上げていくのかということを政策的に考える必要はあるかなというふうに思っております。

 ありがとうございます。

前原委員 ありがとうございました。

 小黒公述人にお伺いしたいわけでありますけれども、私は、先生の本は読ませていただいているのである程度理解はしているつもりなんですが、減価するデジタル通貨、異次元の少子化対策ということをお話をされましたけれども、この減価するデジタル通貨について、恐らく耳慣れない方もたくさんおられると思いますので、議事録に残す意味において、少し御説明をいただければと思います。

小黒公述人 先生、ありがとうございます。

 減価するデジタル通貨ですけれども、これは、ゲゼル貨幣とデジタル通貨を両方融合した話になります。

 ゲゼル貨幣については、経済学者というか経済思想家のゲゼルという方が、普通の財・サービスであれば、必ず時間を置くと摩耗していったり減価するというような特徴があるわけですけれども、貨幣については、インフレであれば違いますが、デフレのレベルでは全く減価しない。そうすると、やはり貨幣だけが特殊な財になるということで、ゲゼルのアイデアでは、一定期間ごとに、スタンプを取る、そのスタンプを取ることによって貨幣の価値が維持できるんだけれども、例えば、一か月後に一〇%減価するとか、二か月後に二〇%減価するという形で、次第に価値が減価していくようなものになるということでございます。

 当時はそういったことをやろうとすると相当難しかったわけですけれども、今は、ブロックチェーンとか、いろいろなデジタル技術が出てきておりますし、それから、中央銀行の方でもデジタル通貨というものを今検討中だということで、財務省の方でも、新しい部屋の中で体制が増員されているというような話も報道ベースで出ております。

 ですので、そういったデジタル通貨とゲゼル貨幣を両方併せれば、これはちょっと非常に微妙な話で、はっきり申し上げれば、財政ファイナンス的な部分もあるわけですけれども。ただ、普通に貨幣を発行してしまうと償還されませんけれども、毎年例えば一定パーセントで減価してきて十年後にゼロになるという形にすれば、ある程度、政府でもコントロール可能になる。

 仮に十兆円出したとしても、十年後にはその十兆円の貨幣はなくなりますので、若干インフレの圧力は当然高まるとは思うんですけれども、そういったものも少子化の財源として使っていけるのではないかということで御提案させていただきました。

前原委員 ありがとうございます。

 小黒公述人にもう一点お伺いしたいんですけれども、私も、今でもかなりの財政赤字の中で国家が運営されているわけでありますけれども、やはり、国際競争力も落ちて、そして、様々な面での劣化が見えるこの日本において、いかに、それこそアベノミクスの三本の矢の三本目、先ほどの原公述人の話ですけれども、規制改革とか構造改革とか、成長する体質に変えるために、やはりそこに集中的にしっかり投資をしながら、そして、成長する体質に変える中で財政再建を図るというバランスが必要なのかなという気がいたします。

 そういう意味では、私は教育というのはすごく大事だと思うんですね。我々は、教育国債というものを必要性を、当面、そして、その行う中で将来的には財源をということでお訴えをしております。質問しようと思ったんですけれども、時間が来ましたので。

 教育の必要性については全ての公述人の方がおっしゃいましたので、リカレント教育、リスキリングも含めて、しっかりと国がカバーできるように、公述をいただいた内容も参考にしながら取り組んでいきたいと思います。

 ありがとうございました。

根本委員長 次に、宮本徹君。

宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。

 今日は、公述人の皆様、大変お忙しい中、貴重な意見を賜りまして、ありがとうございます。

 予算委員会の公聴会は、やはり予算案の審議に当たって国民の皆さんの意見を伺い、その後の審議に生かすために開かれているわけでございます。先ほど、原公述人からの公述は、自らの抱える案件について私的な反論をとうとうと述べられるということでありました。予算委員会の公聴会の在り方としてふさわしいのかという点でいえば、私は甚だ疑問であるということを申し上げておきたいと思います。推薦した会派の責任も問われるということも申し上げておきたいと思います。

 その上で、国家戦略特区についてのお話がありましたので、あえて一問だけお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

 国家戦略特区を使って、加計学園の獣医学部の新設について、これは安倍政権による行政の私物化ではないのかということで、この間、さんざんこの場でも議論になってまいりました。

 当時、京都産業大学が、鳥インフルエンザの権威であった大槻先生を早くから招聘して、文科省やあるいは農水省に対して、獣医学部をつくりたいという働きかけをやられていたわけでございます。しかし、国家戦略特区の枠組みの中で、加計学園だけが獣医学部の新設の権利を手に入れるということになったわけです。

 その過程であったのが、平成三十年四月開学という条件がつけられたという問題がありました。一方の加計学園については、この平成三十年四月開学というスケジュールを、政府を通じて共有して準備を進めていた。もう一方の京都産業大学は、そのスケジュールは知らされていなかった。

 一方は教員の確保などの準備を進めていったわけでございますが、当然、獣医学部の先生をできる方々というのは限られているわけであります。一方だけが情報を持って準備を進めれば、他方は極めて不利な条件になるのは火を見るよりも明らかだったわけであります。

 平成三十年四月開学、この条件が大変決定的な条件になりまして、結局、京都産業大学は獣医学部新設については断念に追い込まれるということになったわけであります。

 そこで、原公述人にお伺いしたいんですけれども、この平成三十年四月開学という条件というのは一体誰の指示で入ったんですか。

原公述人 ありがとうございます。

 よろしゅうございましょうか、御質問の前に私が私的な反論をしたということをおっしゃられましたが、今日申し上げましたように、私は国会全体で御検討いただきたい事項をお話をしたつもりであります。是非お受け止めいただけませんでしょうか。済みません、先にそれだけ申し上げさせていただきます。

 その上で、国家戦略特区、獣医学部の新設についての御質問がありました。

 獣医学部の新設、これは二〇〇〇年頃以来の、もう二十年以上にわたってなされてきた議論です。大学や学部の新設について抑制をせず、新規に参入できるところは参入できるようにする、退出するところは退出する仕組みをつくるというのは、これはもう、二〇〇一年だったと思いますが、閣議決定がなされ、獣医学部については積み残しの課題として検討がなされてきたものでした。

 一校だけ優遇されたんじゃないかという御質問でありましたが、早く二校目、三校目、認めたらいいと思いますということに尽きると思っております。

 以上です。

宮本(徹)委員 私の質問に全くお答えにならなかったわけですよね。

 平成三十年四月開学という条件がなぜ途中で課されたのか、ここにこの問題の核心があって、ここでもさんざん議論されてきたわけですよ。二校目、三校目、つくりようがない条件が課されたわけであります。そんなにたくさん獣医学の教育をできる先生はいないというのは明らかなわけですから、そのために、実際、現に京都産業大学は獣医学部新設を断念せざるを得なくなったわけです。

 この決定的な問題についてもお答えになられないわけですよね。ですから、この国家戦略特区というのは極めて行政の私物化につながっている仕組みではないのかということを私たちは申し上げているわけでございます。

 さて、小黒参考人にお伺いをしたいというふうに思います。

 財政健全化に向けてのいろいろなお話があったわけですけれども、この間、防衛省の予算が増えております。民主党政権の頃は当初予算で四兆円台だったわけですけれども、今回、当初予算は財政規律は保たれているといいますけれども、補正予算で相当な額を積んでいますので、六兆円を超えるというところまで来ました。その上、昨年の自民党の選挙公約ではGDP比二%を念頭に増やしていくということになっておりますが、この防衛省予算をどんどん増やしていくということについては、財政の観点から見てどうお考えでしょうか。

小黒公述人 先生、御質問ありがとうございます。

 防衛費をどれぐらいのGDP比にするかということにつきましては、やはり、アメリカと中国のはざまで日本がどう生き残っていくのかということとの関係も考えていくということが重要ではないかというふうに思ってございます。

 ただ、私が先ほど少し申し上げましたのは、社会保障費と国債費がやはりかなりどうしても膨らんでいくという中で、ほかの予算が相当厳しい改革のプレッシャーにもさらされている。

 私、専門は安全保障ではないんですけれども、財政学者の立場から見ても、やはり安全保障と財政が本当に逼迫した場合、どっちが本当に大変な問題かというなれば、私は、やはり安全保障の方が上なのではないかというふうに思ってございます。

 ですので、そういった中で、やはり防衛費についても御議論いただければいいのではないかというふうに思ってございます。

宮本(徹)委員 際限のない軍拡競争ということになれば、それは本当に、私は、先のない、財政破綻の道だということは申し上げておきたいというふうに思います。

 あと、川口公述人にお伺いをしたいというふうに思います。

 先ほどのお話で、山梨県のグリーンゾーン認証制度のお話がございました。この中で、新規感染者を四五・三%減少させ、売上げを一二・八%増加させたという効果があったという話でございます。

 本当に、今、オミクロン株の下でもエアロゾル感染対策というのが極めて重要になっております。そういう下で、様々な場でしっかりとした制度をつくっていくというのは非常に大事だと思うんですけれども、その上でお伺いしたいのは、この四五・三%減少させたという計算の根拠といいますか、一般的にどうやってこれは比較したのかなと、大変興味深く聞いていたものですから、お聞かせいただけたらというふうに思います。

川口公述人 どうもありがとうございます。

 どのように計算したかということなんですけれども、やはり、このグリーンゾーン認証をやらなかったときにどういうことが起こっていたのかという仮想現実を計算する必要があるんですけれども、この部分に関しましては、近隣の五県のデータを使って再現をいたしました。

 具体的には、栃木県、茨城県、静岡県、群馬県、長野県、こういったところの新規感染者あるいは飲食店の売上げのトレンドというものを持ってきて、これらの五県に関しましては、グリーンゾーン認証が始まるまでの新規感染の動き方ですとか、特に飲食店の売上げ、ここの部分のトレンドが非常に似ているということを確認した上で、仮に山梨県がこの政策を打たなかったならばそういう状況が実現しただろう、こういった仮定の下で計算をしております。

宮本(徹)委員 大変ありがとうございました。

 続きまして、大槻参考人にお話をお伺いしたいというふうに思います。

 大槻参考人の配付されました資料の中で、七ページのところで、財布のひもがなかなか緩まらない原因として、将来の年金が不安だからという問題と財政が不安だからだという問題があるというお話がございました。これは本当に大変大きな問題だというふうに思います。今、財政のことが理由で、年金は、マクロ経済スライドということで、どんどんどんどん将来にわたって減る仕組みになっているということなわけですよね。

 逆に、じゃ、どうするのかという問題が出てくるかと思うんですけれども、安心の年金制度、減らない年金制度にしていくということと財政の状況ということを考えた場合には、やはりしっかりとした財源を持ってくるしかないということになると思います。しかし、それを消費税で頼るということになった場合は、当然、この財布のひもをまた締めつけていくということになってしまうというふうに思うんですね。

 ですから、そういう点では、この課題を解決していくためには、国際協調もしながら、しっかりと、富めるところに応分の負担を求めていく。日本でいえば、大企業が内部留保を大きく増やしている状況がございます。また、貧富の格差もかなり広がっている状況があるわけですけれども、そうした応能負担の原則に立った税収の増加というものをしっかり図っていく必要があるかと思うんですが、この年金が不安だから、財政が不安だからということについて、どういう対策をお考えでしょうか。

大槻公述人 ありがとうございます。

 確かに、そういう意味では、何をもってこれに対しての対策とするかということについては、ここのデータだけでは何とも言えないところではございますけれども、おっしゃるように、応能負担というのは、将来的に、資産に応じたもの等々も含めて、考えるべきポイントの一つかとは思います。

 一方で、そうしますと、こういった不安というものについては、もしかしたらなかなか減らないかもしれない。御指摘いただいたように、持っている人、持たざる人がいる中で、より持たざる方々に対してはそういった形があり得るかとは思いますが、一義的にはやはり、いかにして経済活動を活性化することによって税収を増やしていくか、企業とそれから民間、個人も含めた民間の力で活性化、そしてGDPを上げていき、税収を上げていくというのが一番、多分オプティマルな形なのではないかと思っています。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。

 あと少し時間がありますので、小黒公述人にもう一問お伺いしたいと思います。

 この間、ここの委員会なんかでもベーシックインカムというものも議論されておりますけれども、これについてはどういうお考えをお持ちでしょうか。

小黒公述人 先生、御質問ありがとうございます。

 基本的には、まずツーステップで考える必要があるというふうに思ってございまして、一つは、ベーシックインカムで一回配った後に、その財源を賄うために、先ほど少し議論になっておりましたけれども、少し所得が高くて資産がある方に多めに負担していただいて、そうじゃない方を少なめに、そういうことによって、実質的に、いわゆる負の所得税と呼ばれるものがございますけれども、本当に困っている人だけに集中的に給付するというような効果を出すということはある程度可能かなというふうに思ってございます。

 ただ、理論的にはベーシックインカムの方が調達する財源が大きくなりますので、そうしますと、経済学の用語であるディストーションというか、税率の二乗に比例する形で経済に影響、インパクトを与えますので、その影響を考えますと、可能であれば、やはり本当に困っている人だけに集中的に投下した方が効率的だというふうに考えてございます。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。時間になりましたので、終わります。

根本委員長 次に、北神圭朗君。

北神委員 どうもありがとうございます。

 公述人の先生方には、今日は本当に貴重なお時間をありがとうございます。大変勉強になりました。

 まず、コロナの間の経済対策、それから中長期的な経済政策、金融政策も含めて、これをちょっと、この流れに沿って質問したいと思います。

 まず大槻先生、コロナの間で、今までの経済対策はそれなりに効果があった、むしろ個人が豊かになったという皮肉な現象にもなっていると。

 今、オミクロンがまたぶり返して、蔓延をしていて、この中で、私は京都なんですけれども、信用保証機構とか、この辺の話を聞いていると、これまで倒産件数も減らして、非常にうまくいった、しかしながら、また厳しい状況に陥ってきて、そろそろ借換えの、今一応三月末が期限になっているので、この延長をすべきだという話があるんですが、それについてどう思われますか。

大槻公述人 ありがとうございます。

 資料の方でもお示ししましたように、銀行口座の規模が少ない方の預金の残高が少し減っている、マイナスに転じてしまっているというのは、御指摘いただいたとおり、御指摘のオミクロンとの関連というのは必ずしも分かりませんけれども、何らかの形で、今、豊かになったはずの個人の預金が取り崩されているフェーズに一部ではなっているということなのかと思っていますので、その意味では、御指摘のとおり、懸念をどこまで、どういう形でサポートしていくかというのは、ここから、恐らく今年の、二〇二二年の最も大きな問題だと思います。

 ただ、では、それをゼロゼロでやっていくのか。それはやはり、最初の図でお見せさせていただきましたように、今回の非常に特徴のある点だと思います。これがあったからこそ早くできましたし、金融機関がここから先の支援のための余力を残していたということになりますので、もしかしたらやり方を変えて、しかしながら御指摘の趣旨に沿った形で、支援が必要なところには早めに届けるということが、やはり三月以降も必要なんだろうと思います。

北神委員 ありがとうございます。

 だから、どういう方法でやるかということなんですけれども、私も、単純にゼロゼロで延長してもいいと思っている方なんですけれども、先ほど川口先生から、EBPMの分析によりますと、不健全な企業も救われてしまうということなんです。

 これは、考えてみますと、不況でもそうなんですけれども、経営者の責任をどこまで問うかという中で、当然、コロナという外的な要因で最初に厳しくなるのはふだんから不健全なところだというふうに思いますので、ある意味では当たり前の結果だと思うんです。

 二割でしたよね、たしか。二割ってむしろ少ないかなと思って、それなりに評価してもいいんじゃないかと思うんですが、それについてどう思われますか。

川口公述人 そうですね。二割という部分は、ひょっとしたら、少ないというのも、判断としてはあり得ると思います。こういう数字が出てくることによって議論が盛んになればというふうに思っております。

 それで、前段の部分の、元々悪いところの方が、今回、コロナ禍でのダメージが大きかったんじゃないかという御指摘は、全くそのとおりだと思います。

 その点を踏まえて分析を、実を言うとしておりまして、二〇二〇年の二月から九月にかけての対前年同月比の売上げの減少というのを整えた上での分析もやっているんですけれども、それをやった上でも、例えば、同じダメージを食らっている元々評点が高かった企業と低かった企業というのを比べると、それでもなおも評点が低い企業の方が貸付けを受けているというような結果が出てきておりまして、その意味では、我々が出してきた結果というのは、そこまで当たり前でもない部分があります。

 このような金融支援というものが非効率な企業を永続させてしまったんじゃないかという議論というのは、実を言うと、前の金融危機に対しての政策対応に関してもずっと言われていて、実を言うと、長期にわたって、この問題というのが日本経済を襲っているというか、覆っている問題なのかなというふうにも思います。

北神委員 ありがとうございます。

 もう一つ、川口先生にお聞きしたいのは、では、仮に、このゼロゼロ融資というのが少しモラルハザード的な問題があるとするならば、ほかの手段で、例えばドイツなんかは消費税を一定期間徴収しなかった。減税じゃないですね、減税じゃなくて、企業が本来税務署に払わないといけない分を、例えば半年間払わなくて、それを固定費に回すことができたという方法で、これは同じ税金なので、補助金も、いわゆる税金を取らないのも。

 逆に、補助金ですと、やはり、これは補助金との比較をちょっとさせてもらっているんですが、申請の手間とか、審査をしないといけないとか、振り込みの時間がかかるとか、いろいろな条件が、ある意味で非合理な条件があるとか、そういうことで、そういうEBPMで、効率性とか目的を果たすための一番効率的な手段という分析をされるんでしょうか。

川口公述人 御質問ありがとうございます。

 例えば、コロナの初期で、流動性制約に厳しく直面している企業を救うという意味でいうと、全ての企業を救うというような選択肢が短期的には合理的だった可能性というのも十分にあると思います。

 それで、政策の手段を考えるときには当然その実行可能性を考える必要がありまして、先ほど小黒公述人の方から、本当に困っている人にピンポイントで支援をという話があって、かつ、その所得の変動を年内で捉えられるような仕組みをつくり上げるような必要があるというような御指摘があったと思うんですけれども、それを例えば税務データを使ってどのように実現していくのかといったようなことも含めて、EBPMというのは考えていく必要があろうかというふうに思っております。

 ですので、実行可能性というものを考えるというのは非常に大切なことだというふうに考えております。

北神委員 ちょっと中長期的な話にも行きたいと思いますけれども、大槻先生、金利の話なんですけれども、当面、米国なんかは物価上昇が六%ぐらいですかね、今、そのぐらいだと思いますけれども、いわゆる政策金利を引き上げると。これは米国だけじゃなくて欧州もそうなんですが。

 これが日本に対して、日本はそれどころじゃないんですけれども、日銀も上げるつもりはないような感じなんですが、例えば欧米がどんどん上げていくと、日本の金利というのはどのように影響されるのか、短期的に。それをちょっと教えていただければと思います。

大槻公述人 ありがとうございます。

 短期については、おっしゃっていただいたとおり、政策金利に連動しますから、そういう意味では、日本だけ上がらない。そして米欧は、先ほどお示ししたように、少なくとも市場が織り込んでいる金利としては、一年の間にアメリカでいうと五回程度の利上げが既に織り込まれているというところだと思います。

 一方で、長期については、投資家の問題もありまして、そこは連動していきますので、そうしますと、長期については若干、もちろん中央銀行、日銀のコントロールがございますので、そこまでではないにしても、連動する。

 そうしますと、問題としては、おっしゃっていただいた点で、影響の方で気になることがあるとすれば、やはり金利の格差が拡大していきまして、そうすると円安になる。その場合というのは、輸出にはいいですけれども、釈迦に説法ですけれども、輸入、特に輸入物価が、先ほど申し上げたようなインフレにつながっていくということが懸念されるところだと思います。

北神委員 ありがとうございます。

 あともう一つは、中長期的に、これは当面は多分、世界、日本を除けば、欧米の金利というのはどんどん上がっていくと思うんですよ。

 ところが、中長期的にいくと、例えば世界の高齢化の進捗率でいえば、五十歳以上の方が現在たしか二五%ぐらいかな、これが二一〇〇年までに四〇%ぐらいまで比率が上がっていく。そうすると、貯蓄と投資の均衡上、どちらかというと貯蓄の方が増えていって、そして金利というものが、やはり長期的には非常に低い水準でかなり長期間推移するというふうに言う人がいるんですけれども、どう思われますか。

大槻公述人 ありがとうございます。

 長期的には、国際的な金利の水準としては御指摘いただいたとおりだと私どもも考えていまして、高齢化の問題もございますし、そもそもお金に対してのニーズというのが減っていて、がっつり大きな工場というのが今やソフト化によって必要なくなっているということで、お金が必要じゃないということを考えますと、例えばですけれども、今のトレンドでいきますと、アメリカの十年国債利回りについては、二・五%を超えてくるようなものとなると、やや、おっしゃっていただいたトレンド線からすると高いかなという感じがいたします。

北神委員 ありがとうございます。

 小黒先生、財政健全至上主義者じゃないということが今日分かりましたので非常に喜んでおりますけれども、お聞きしたいのは、確かに、私も決してMMT論者ではなくて、それなりの財政規律は大事だというふうに思っています。ただ、何回も皆さんから話があったとおり、成長というのも非常に大事だと。

 この中で、一部の論者は、財政赤字があっても、金利がある程度低くて名目成長率の方がそれを上回る状態であれば、それなりに賄うことができるという議論がありますけれども、今の大槻先生の話のとおり、当面というか、五十年ぐらいの単位で少なくとも世界的にも超低金利というのが続くと思われるんですけれども、こういう中で、日本の財政について、どのようにお考えでしょうか。

小黒公述人 北神先生、ありがとうございます。

 資料の十ページにドーマー命題というのを載せてございまして、ここで重要になるのは、金利は関係ございません。一番重要なのは、財政赤字のGDP比、もし金利がゼロであればその分ゼロになりますので、プライマリー赤字ですね、これのGDP比と成長率の比で決まるということでございます。

 先ほど御説明しましたのは、例えば、二〇三一年ぐらいに、国と地方の財政赤字が例えば一・七%ぐらい、成長率が〇・五%ですと、大体三・四になりますので、今の債務残高GDP比、二五〇%ぐらいだったと思いますけれども、これが三四〇%ぐらいまで膨らんでいくような形になるというのが数式上の計算になるということでございます。

北神委員 今のドーマーの定理というのは、財政赤字の対GDP比というものを一定収束させるという話ですよね。でも、これは必ずしも、いわゆる財政破綻になるかどうかというのとはまた別だというふうに思いますので、これまた、ちょっと時間がない中、難しい話なので、議論したいと思いますけれども。

 最後に、原先生、中傷誹謗の問題、私もよく分かります。ただ、これはもう一つの視点として、官僚が、憲法十五条で全体の奉仕者とか、こういう言葉に勘違いをされる方がいて、やはり、例えば厚生労働省の官僚というのは厚生労働大臣の部下であって、国会議員全体の部下ではないわけですよ。こういった人たちが、ああいういわゆる党内ヒアリングであそこまで労働時間を奪われてがたがた言われるというのは、こういう観点からも考えるべきだと。

 ただ、反面、これは与党議員もそうで、あくまで、例えばイギリスなんかだったら、政治家に対する接触禁止の規定というものがあるわけですよ。つまり、厚生労働省の官僚は、厚生労働大臣や副大臣、政務官にしか接触できない。与党でも野党でもない。こういうことについてどう思われますでしょうか。

原公述人 大変ありがとうございます。

 かつて、二〇〇六、七年に公務員制度改革を政府の中でやっていて、私も担当しておりましたが、あの当時、イギリス型の政官接触の禁止についても議論がありました。議論があったんですが、最終的にはそれは法制化はされませんでした。ということでしたが、おっしゃられましたように、政治と行政との関係、これはもう、よく見直していくべき課題だと思います。

 先ほど、私、冒頭の発言の中でも少し申し上げましたように、野党合同ヒアリングのような形で政府の行政に問題があるんじゃないかということを追及していく、これは重要な機能だと思います。何かそれ自体がいけないことでは全くなくて、これは大事な役割です。ただ、そのときに、やはり、弱い立場にある役所の人たちをやっつけるということではなく、できれば政治家同士で、与党の政治家の方々、これは大臣、副大臣、政務官、あるいは足りなければもっとチームをつくっていただいてもいいと思いますし、政治家同士で闘うという仕組みをつくっていただけるといいんじゃないかと思います。

北神委員 ありがとうございました。

根本委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 午後一時から公聴会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

根本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 令和四年度総予算についての公聴会を続行いたします。

 この際、公述人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 公述人各位におかれましては、御多用中にもかかわらず御出席を賜りまして、誠にありがとうございます。令和四年度総予算に対する御意見を拝聴し、予算審議の参考にいたしたいと存じますので、どうか忌憚のない御意見をお述べいただきますようお願い申し上げます。

 御意見を賜る順序といたしましては、まず翁百合公述人、次に石上千博公述人、次に大竹文雄公述人、次に小畑雅子公述人の順序で、お一人二十分程度ずつ一通り御意見をお述べいただきまして、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 それでは、翁公述人にお願いいたします。

翁公述人 日本総合研究所の翁百合と申します。

 本日は、令和四年度予算に関する公聴会にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

 二〇二〇年から感染が拡大した新型コロナウイルス感染症により、日本でもまだ、今日も人々の生活そして経済活動に様々な深刻な影響が出ております。この影響を何とか克服し、日本は新しい豊かな経済社会へ発展していく必要があると考えておりまして、私からは、主にコロナ禍を経て目指すべき経済社会という視点からお話しさせていただきながら、今回の予算に関して意見を述べさせていただきます。

 第一は、日本はコロナ禍を社会の変革の機会と捉え、経済を立て直し、持続的な成長を実現することが重要であるということをまず指摘したいと思います。

 日本経済はコロナで大きな影響を受けましたが、実はコロナ以前からも経済成長率が低く、こうしたことも反映しまして、日本の賃金はほかの先進国に比較しても横ばいの状況となっております。

 お手元の参考資料を御覧いただきますと、図表一でございますが、一九九一年を一〇〇としますと、米国や英国、フランス、ドイツなどでは一・三から四倍になっておりますが、日本は僅かに一・〇五倍という水準になっております。

 また、今回、コロナ禍で、国民は、例えば行政のデジタル化の遅れ、ワクチン開発の遅れなど、日本が様々な課題を抱えていることを認識いたしました。東京一極集中に対する疑問、健康や環境などに関する意識の変化ももたらされています。

 ですので、こうした国民の意識の変化を機会と捉え、アフターコロナの新しい社会に向けて必要な政策を打って、成長を実現していくということが重要であると思っております。これによって賃金を引き上げていきながら、コロナ禍で広がりかねない格差の問題にしっかり対応していく必要があると思っています。

 特に、新しい社会をつくる土台となるここ数年の政策対応は重要と思っております。我が国にとって、グリーンとデジタル、また、後ほど述べる人への投資、これはアフターコロナの社会をつくる鍵であると思っておりまして、長期的な投資の効果が出るような政策の推進が求められると思っております。

 デジタル化は、行政手続を始め、民間企業、個人一人一人といった社会全体に広げる必要があると思います。企業のデジタル関連投資は、生産性向上とともに、価値をつくり出すという意味でも大事でございますし、行政サービスのデジタル化は、行政や企業の効率化や個人の安心や利便性向上につながり、高齢社会における社会的課題解決にも寄与すると思っております。

 したがって、自治体間、企業等の間でのシステム仕様の標準化など、地道な取組によって、行政と民間が共通のデジタル基盤で相互運用を確保し、情報を連携して活用できるデジタル社会を目指すということが重要かと思っております。

 また、地方創生も、今やデジタル化が重要な手段だと思っております。

 コロナ禍で内閣府が実施したアンケートを見ますと、図表の二でございますが、地方移住への関心は徐々に高まっておりまして、特に若者中心に関心が高い状況です。実際に、東京圏からの転出も増えております。

 テレワークやオンライン教育、副業などの可能性も広がり、二地域就業、二地域居住のライフスタイルも増えております。この機会に、デジタル化を活用して、全ての世代にとって魅力的な地方圏を競い合える環境を整備していくことが望まれます。その意味で、今回の予算で打ち出されているデジタル庁の情報システム関連予算、デジタル、グリーン、AIといった分野、研究開発推進などは、潜在成長率を高める上で重要と思っております。

 一方で、例えば、行政のデジタル化に当たっては、行政の仕事の仕方から見直し、利用者視点に立ったものでなければならず、予算が無駄に使われることがないように、しっかり効果を検証、プロセス管理をしながら進めることが重要と思っております。

 また、大学ファンド、これは財政融資を活用いたしますが、リスクのある市場運用をして、その運用益から支援する枠組みでございますので、世界最高水準の研究大学を形成しつつ、償還確実性を担保できるよう、制度設計やリスク管理に十分留意すべきと思っております。

 第二に、中でも人への投資が成長、分配の両面で大事であるということをお話しさせていただきたいと思います。

 日本では、残念ながら、当面、生産年齢人口は大きく減少していき、成長には負の影響を及ぼします。それを打開するのは、一人一人の質、人の質を高めて生産性を上げていくということが大事かと思っております。

 潜在成長率は、現状〇・五%程度と推計されておりまして、図表の三を御覧いただきましても、ここ十年ぐらい見ましても、横ばいから低下の状況でございます。

 その内訳を見ますと、資本投入量が増えているほか、近年は高齢者や女性などの就業も増えて労働投入量は増加しておりますが、一方で生産性が低下しております。この近年の生産性低下の原因には、人的資本の低迷があるといったことも、一橋大学の深尾京司名誉教授などから、最近の論文でも分析、指摘されています。

 前西村大臣いらっしゃいますが、昨年、民間の学者、経営者と議論して、選択する未来という報告書で提言をさせていただきましたが、今後の成長、分配両面で人への投資は大変重要だというふうに考えております。

 特に、必要な人への投資は三種類あると思っております。

 まず、第一に必要なのは、STEAM人材という社会的課題を認識した理系の人材でございます。こうした人材が厚くなり、革新的イノベーションを起こし、日本でスタートアップが次々と立ち上がる、そうして既存企業も新たな価値を創造するということが期待されます。特に、初等教育からそうでございますが、大学などの最先端のデジタル教育も多くの人にアクセス可能になるということが求められると思っております。

 データ、ソフトウェア、知的財産、人に埋め込まれている知識、組織能力などを無形資産といいますけれども、図表四を御覧いただきますと、無形資産GDP比率、先進国間で国際比較すると、低水準でございます。この赤い線でございます。特に、右側、人への資本を含む経済能力投資、これの低いことが見て取れます。

 現在はポスト産業資本主義の時代というふうに言われますが、大量生産時代の工場などの有形資産への投資だけでなく、製造業も非製造業も、これからはカスタマイズされたニーズに応えるための価値の高いサービスや商品をつくることが求められています。であるからこそ無形資産投資が重要となっており、人への投資こそ革新的なイノベーションを生み出し、価値を創造し、さらに、生産性向上に結びつくと思います。

 また、第二に、多くの働く人が学び直し、やり直しができるという意味で、リカレント教育が大事だと思っております。デジタル分野の変化のスピードは速く、知識が陳腐化しては、その職場でも、新しい職場でも新たな挑戦はできないと思います。

 第三は、残念ながら職を失ってしまった人や起業に失敗してしまった人、こういった人を新しい仕事に橋渡しする人への投資でございます。

 特に急がれるのは、コロナで影響を受けているシングルマザーなど非正規の方々への就労支援でございます。正規社員は職を失っても雇用保険がございますが、非正規の方は、雇用リスクを抱え、職を失ってもセーフティーネットがなく、正社員になるハードルも高いのが現状でございます。こうした方たちには、一時金のみならず、望む人には正規社員になれるように必要な教育や訓練を行って、次の仕事まで寄り添い、支援する仕組みが重要と考えております。

 北欧では、こういった就労政策を積極的労働政策といいまして、次の仕事につなぐ就労政策が充実しております。であるからこそ、失敗への許容力も高く、ダイナミックな構造転換も可能な社会になっていると考えられます。

 今回の予算には、科学技術立国に向けた人材育成支援、人への投資に三年間で四千億円の措置には、デジタル人材育成、リカレント教育、非正規雇用労働者のキャリアアップなどが含まれ、また、求職者支援制度への国庫負担引上げなども入っておりまして、これらの人的投資が、今お話ししたものが含まれているというように思います。

 今後、日本では、こうした積極的労働政策を一層推進する必要があると思っております。これは、継続的な賃上げの不可欠な条件である成長分野への円滑な労働移動にも結びつくものだと思っております。今後も環境変化に応じていや応なく産業構造は変わっていくと考えられますが、これに就労者が組織内だけでなく組織を超えて柔軟に対応できるようにする上でも、日本社会が取り組むべき重要な施策であり、多くの人が利用できることが期待されます。

 今後、若い人のみならず、ミドル層やシニア層などの潜在能力をもっと生かすことが求められると思いますが、特に、リカレント教育の拡大に当たっては効果をしっかり把握していただきたいと思っております。

 図表五のとおり、OECD調査でも、日本のリカレント教育は、柔軟性がない、ニーズに合っていない、賃金リターンなどの効果が乏しいといった点が低い評価となっております。

 先ほどの四千億の措置につきましても、民間の知恵を今後活用すると説明がございます。是非そうしていただきたいですし、どの予算もそうですが、データをきちんと把握し、意図した政策の効果が実現できているかを検証し、必要な修正を行うというPDCAを回す必要があると思っております。

 第三に、社会保障予算に関連して、医療提供体制の再構築と少子化対応の重要性について申し上げたいと思います。

 持続可能な社会保障制度は日本の将来にとって極めて重要で、特に、コロナを機にしまして、医療提供体制の問題、開業医や病院の間で危機時に適切、機動的な連携が取れなかった、保健所業務がオンライン化されていなくて過剰な負担がかかっているなどのことが明らかになりました。まずは医療提供体制の適切な見直しが重要ですが、そこでもデータ活用と連携が鍵になると思っております。

 データ利用と連携は、かかりつけ医と病院の機能分担と連携、病院間連携にも重要な手段でございます。また、診療データの蓄積、活用によって、データで医療を評価する仕組みも実装すれば、価値の高い医療が選択され、医療技術の発展や医薬品、医療機器の開発につながり、医療の質の改善が継続いたします。予算でも措置されておりますが、高齢化の中で、データ活用、連携は健康寿命の延伸にも寄与し、医療の効果的、効率的提供を担保し、持続可能性を確保する鍵の一つですので、しっかり進めるということが大事だと思っております。

 医療の持続性確保には、それ以外にも様々な取組が必要だと思っております。

 二〇二五年は、団塊の世代が、皆様、後期高齢者になります。本年十月から後期高齢者医療費負担が引き上げられますが、NIRA総合研究所というところで、私もプロジェクトに入り、昨年秋に、日経リサーチモニター、若年層から高年層まで四千名にアンケート調査を行いました。後期高齢者医療費、自己負担増加に賛成の方は約六割でございましたが、この問題に関する回答者にほぼ共通している問題意識は三つございました。第一は、高齢化により、このままでは現役世代の負担が大きくなり過ぎて医療制度が維持できないのではないかといった危機感、第二は、医療費の無駄があるのではないかという疑問、第三は、世代間の不公平があるのではないか、より応能負担を追求することができないかというような意見でございました。

 こうしたアンケート結果は、あくまでも参考の一つではございますが、国民の不安や疑問に応えるためにも、医療はより質を上げつつ、めり張りの利いた診療報酬体系にしていくことが望まれます。今後、医療提供体制整備、質の高い医療の促進、医師の働き方改革など、様々な視点から制度や診療報酬などを継続的に見直し、社会保障の持続可能性を担保していくことが重要だと思っております。

 また、今回、不妊治療の保険適用は大事な取組だと思っております。少子化が進む原因は様々ありますので、いろいろな施策を地道にしっかり財源を確保しながら進めていく必要があると思っております。コロナ禍で、出生数は、数年前までは百万人を超えていましたが、昨年は八十万人程度と大きく減少が予想され、今後について大変懸念をしております。非正規の若者の所得の向上なども、この観点から重要と考えております。少子化対策は日本の未来にとって最重要課題と言っても過言ではなく、しっかり取り組んでいただきたいと思っております。

 最後に、今後の財政健全化の考え方に関して意見を述べたいと思います。

 今回の予算は、一般会計総額が百七兆六千億円と十年連続で過去最高、名目GDP比率でも近年拡大傾向にあり、債務残高名目GDP比率は二・五倍に達し、国債に依存した財政運営では、今後、人口が減っていく将来世代へ過剰な負担が懸念されます。日本経済の厳しい現状を考えますと、成長を実現しながら中長期的な財政再建を両立していく必要があると思っております。

 まず、コロナなどの感染症に関連する財政支出は多額に上りますが、会計検査院からも繰越額や不用額があることが昨年十二月に指摘されております。コロナ対策が常態化して財政の持続化の信認を損なわないように、例えば通常の歳出と区別して整理するなど、費用の見える化をしていってはどうかと考えております。

 今後の財政支出の在り方としては、やはりワイズスペンディング、着実に重要な分野に支出をして、長期的な経済へのプラス効果を得る努力をしながら、真に経済的に厳しい方のサポートをしつつ、成長を実現しながら財政健全化を図っていくことが大切と思っております。

 二〇二〇年には、国民全員に十万円の給付金が配付されました。コロナで打撃を受けた家計にとっては助かるものでございましたが、同年の勤労者世帯の消費性向は下がっており、多くの部分は家計の預金増加、すなわち貯蓄に回っております。給付金にはいろいろな目的がございますが、消費につなげようと思っても、長期的に所得が安定する見通しがなければ難しく、先ほど申し上げた積極的労働政策の支援などの工夫が必要になってくると思います。感染症対策や困窮な方々への迅速な支援は重要であることを強調しつつ、しっかりとエビデンスベースで効果を出し、歳出の内容を改善、改革していく努力が大事だと思っております。

 現在、コロナ禍後の需要拡大に供給が追いつかず、世界経済はインフレに直面しており、金融市場の潮目が変わりつつございます。米国ではインフレ率は七%を超え、日本は円安傾向となっております。現状、日本銀行の金融政策で日本は低金利が続いており、急な金利上昇の可能性は高くないわけでございますが、景気が回復してきたりインフレ傾向が強まるなど金利への上昇圧力がかかっていくならば、中長期的には利払い費が増える懸念がございます。未来世代にツケを回さないように、しっかりとした財政運営を行う必要がございます。

 日本は先進国の中で公的債務残高が極めて大きく、中長期的な財政健全化への姿勢が見えることは今後の金融市場から信認を得るためにも重要であるということを最後に申し上げたいと思います。

 以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、石上公述人にお願いいたします。

石上公述人 ただいま御指名いただきました連合の石上でございます。

 本日は、このような場で、私たち連合の意見を表明する機会をいただき、感謝申し上げたいと思います。

 連合は、働くことに最も重要な価値を置き、誰もが公正な労働条件の下、多様な働き方を通じて社会に参加でき、社会的、経済的に自立することを軸とし、自己実現に挑戦でき、セーフティーネットが組み込まれている、活力あふれる参加型の社会、すなわち働くことを軸とする安心社会を目指しております。

 本日は、働く者の立場から、コロナ禍で浮き彫りとなった課題への対処と、連合が目指している社会像を実現するために必要な政策について申し述べさせていただきたいと思います。

 初めに、コロナ禍における雇用対策についてであります。

 お配りした資料二ページを御覧ください。

 御存じのとおり、雇用保険制度は、労使の保険料と国庫負担を財源として政府が運営しており、雇用のセーフティーネットとして多くの労働者の雇用を守ってきました。特に、交通、運輸、観光、サービス、飲食などの業種を中心に、多くの労働者が休業を余儀なくされた中、雇用調整助成金の特例措置や在籍型出向を通じた雇用維持を支援する産業雇用安定助成金を始めとした雇用保険二事業が失業者数の抑制に大きく貢献をしてまいりました。

 しかし、その財政は危機的状況にあります。資料三ページのとおり、失業等給付の積立金は、雇用保険二事業への貸出しなどによって次年度末にほぼ枯渇する見通しです。そして、雇用保険二事業は、資金残高が枯渇した状況が続く見通しであり、次年度予算さえも年度途中で不足する懸念があります。コロナ禍の影響を受ける労働者が安心して就労できるように、当面の雇用維持に必要な予算や今後の感染症の拡大による雇用への影響に対応するための予算を十分に確保しておく必要があると思います。

 また、失業等給付の国庫負担割合は、本来は二五%とされているところ、今年度末までの引下げ措置によって、現在、国庫負担割合は二・五%となっております。過去の国会の附帯決議においても触れられているとおり、国庫負担には政府の雇用政策に対する責任を明確にする意義があるということから、この間の審議会では、早急に本則に戻すべきと労使意見が出されております。

 しかし、今通常国会に提出された法案では、雇用情勢及び雇用保険の財政状況が悪化している場合のみ二五%とし、それ以外の場合は二・五%とする、別途国庫から機動的に繰入れ可能な制度を導入するとされております。

 政府による政策の判断が労働者の雇用により大きく影響する今のような状況だからこそ、本来の国庫負担割合を維持することが重要だと考えます。また、新たな国庫繰入れの制度についても、機動性と実効性が担保されることが必要だと考えます。

 現場からは、雇用調整助成金の特例措置を始めとする雇用保険制度が本当に重要だという切実な声も寄せられております。雇用保険制度が労働者の確かな支えとして機能し続けるために、国庫負担割合を本来の割合に戻すことも含め、財政基盤の確立を求めたいと思います。

 次に、コロナ禍における生活対策です。

 国民が安心して暮らし、社会経済活動を行えるようにするためには、ワクチン接種の体制確保とともに、事業所における感染検査の体制整備に向けた支援強化、検査キットの安定確保について、医療現場への安定供給と併せて求めたいと思います。

 また、変異株の特性や、それに応じた感染予防対策、ワクチンの副反応の情報など、国民への正確な情報提供を行うとともに、ワクチン接種の有無による差別、偏見が起きないよう、改めて啓発の徹底を求めます。

 次に、困難を抱える女性の支援についてです。

 コロナ禍の影響で、非正規で働く労働者、とりわけ女性に大きく影響が出ています。これは今突然出てきたという問題ではなく、コロナ禍により、非正規雇用の不安定さや雇用形態の違いによって生ずる男女間の賃金格差の深刻さが改めて浮き彫りになった結果です。信頼できる公的な相談体制の整備と、NPO等民間レベルでの取組の支援及び経済面を含む直接的な支援が求められております。

 また、オミクロン株の感染拡大により休校、休園が相次ぐ中、小学校休業等対応助成金に救われる人も多いというものの、そもそも制度を知らない、事業主に制度利用を拒否されたという声も聞きます。当事者に情報が届くように制度の認知向上策と、さらに、事業主への利用促進に努めていただきたいというふうに思います。

 次に、財政の基盤となる税制についてです。

 今回の税制改革関連法案は、喫緊の課題である格差是正に向けた所得再配分機能の強化、そして持続可能で包摂的な社会保障制度の構築に必要な安定財源の確保に向けた改革の全体像は示されませんでした。国民の暮らしと将来の希望を確かなものにし、社会の安定と持続的成長を確保するためにも、税制の抜本改革につながる政策として四点申し上げたいというふうに思います。

 資料四ページを御覧ください。

 一点目は、所得再配分機能の強化です。

 他の先進国との比較において、決して高いとは言えない税の所得再配分機能を強化すべきだと考えます。特に、金融所得課税の強化については、昨年の税制改革大綱の取りまとめにおいて課税強化が見送られたことは大変残念だと思っております。所得再配分機能の強化に向けては、将来的な総合課税化を見据えつつ、早急に結論を出すべきだと考えます。

 二点目は、将来に向けた安定財源確保です。

 現行制度を前提とした場合、社会保障給付費は二〇四〇年時点で約百九十兆円必要となると言われております。社会保障の安定財源と位置づけられている消費税の在り方も含め、財源調達機能の強化を念頭に置いた税制全体の抜本改革は不可避だと思います。

 三点目は、中長期的な財政運営、財政健全化に向けた取組についてであります。

 コロナ禍対策として、各分野において積極的な財政措置が取られ続けていますが、それらの検証も含め、中長期的な財政運営の客観的評価と分析を行う内閣から独立した機関の設置は、将来世代に対する責任を果たす上でも、今を機に検討されるべきものだと考えます。

 今後、様々な外的ショックが同時発生するおそれもあり、債務残高が極めて大きい我が国がこうした危機を乗り越えるためには、危機に対応できる財政余力を確保しておくことが不可欠だと考えます。

 四点目は、足下の課題となりますけれども、燃料価格の高騰に伴うトリガー条項の発動についてであります。

 原油価格の高騰が家計や中小企業の経営に与える影響は明らかであり、現在行われている石油元売会社への補助金適用だけでは不十分だと考えます。機動的な対策を行うためにも、トリガー条項の速やかな発動を求めたいと思います。

 次に、社会保障について申し述べます。

 社会保障は、社会の安心と安定の基盤であるとともに、活力の源泉でもあります。コロナ禍で明らかになった課題を解消するとともに、人口減少、超少子高齢化などの課題を克服していかなくてはなりません。政府には、全世代型社会保障構築会議での議論を進めるとともに、全ての国民が希望ある未来を展望できる社会保障制度の構築に向けて、財源の在り方も含めて、労使参画した上での検討を求めたいと思います。

 その上で、四点申し述べたいと思います。

 一点目は、医療提供体制についてです。

 人口減少下や感染症禍であっても、地域で安心して医療を受けられるよう、外来を含むあらゆる設置主体の医療機関の参画によって地域医療構想を再検討し、人口減少下や感染症禍であっても安心できる、切れ目のない効率的な医療体制の構築を求めたいと思います。

 二点目は、社会保障を担う人材の処遇改善と人材確保についてです。

 国民が将来にわたって質の高い社会保障サービスを利用できるようにするためには、医療、介護、障害者福祉、保育所や放課後児童クラブなどで働く労働者の更なる処遇改善を継続的に行い、人材確保につなげていくことが極めて重要だと思います。

 資料五ページに記載しておりますとおり、看護、介護、保育など各職種の年収は、全産業平均に比べ低水準で、介護や保育などでは約百三十万円もの格差が生じている職種もあります。とりわけ、放課後児童支援員の賃金の低さは問題だと思います。

 政府の処遇改善の方針は評価をしておりますけれども、対象の医療機関や事業所が限定されております。現場労働者に広く行き渡るものとなっておりません。特に、医療従事者については、処遇改善に係る加算の報酬制度がないために、確実に賃金が引き上がる仕組みの構築がまず必要です。また、二〇一九年には、保育士への報酬加算額が賃金改善に充てられていなかったことが会計検査院の指摘で明らかになっております。

 医療、介護、保育など、いずれの分野でも、現場で働く全ての労働者が確実に賃上げされる仕組みを確立し、労働者の処遇改善を継続的に実施する、実効ある施策を講じていただくよう求めたいと思います。

 三点目は、社会的セーフティーネットの拡充についてです。

 連合は、社会保障と生活保護制度の中間に、就労、生活支援を担う第二のネットの創設など、重層的なセーフティーネットの構築を提起し、生活困窮者自立支援制度として実現をしてまいりました。

 コロナ禍では、住宅確保給付金や緊急小口資金、臨時の給付金などによって対応されてまいりましたけれども、国民の安心のため、更にセーフティーネットの拡充が極めて重要だと考えます。とりわけ、自立の基盤となる住まい、住居を誰もが不安なく確保できる仕組みを充実するとともに、就労準備支援事業などの任意事業が全ての自治体で幅広く実施されるよう、体制確保支援と財源確保を求めたいと思います。

 四点目は、子ども・子育て支援の強化についてです。

 サービスの量的拡充及び質の向上に必要な一兆円超のうち、まだ確保されていない〇・三兆円の財源を早急に確保するように求めます。また、サービスの質の向上と職員の業務負担の軽減のため、一、四、五歳児の職員配置基準の見直しを求めたいと思います。さらに、児童虐待が相次いでいる事態を踏まえ、懲戒権規定の削除、体罰を禁止する規定を盛り込む民法改正法案の今通常国会への早期の提出を求めるとともに、児童相談所などの職員体制の強化、体罰のない子育ての啓発強化を求めたいと思います。

 一方、今回の予算案について、教員の加配定数の千三十人増員とスクールサポートスタッフ等の外部人材の配置促進が盛り込まれたことは評価をしておりますけれども、それでも、教員が一人一人の子供と向き合いながらきめ細かい教育を行うには、教職員が不足しております。就学前教育から中等教育までの更なる少人数学級の実現、部活動の地域への移行、スクールカウンセラーなどの常勤化、ICT支援員などの拡充など、外部人材の活用も含めた教職員の負担軽減策の推進を求めておきたいと思います。

 次に、雇用の安定と公正労働条件の確保について述べます。

 コロナ禍は、業務委託や請負など、雇用契約でない契約形態で働く就業者のセーフティーネットの脆弱性を顕在化させました。こうした就業者の保護に関しては、昨年三月にフリーランスガイドラインが策定されましたけれども、ガイドラインは従来の考え方をまとめたものであって、現下の社会の実態や就業形態の多様化を踏まえた対応が求められております。EUでは、昨年十二月にギグワーカーを保護するための法案を公表し、曖昧な雇用で働く就業者の権利保護に向けた取組を始めております。

 新しい資本主義実現会議の緊急提言ではフリーランス新法の制定も提言されておりますけれども、この会議の場で連合としても意見を出しておりますけれども、労働関係法令では対象とならない就業者の保護を喫緊の課題と捉えて、労働者概念の見直しを始め、法的保護の拡充に早急に取り組んでいただきたいと思います。

 次に、男女間の賃金格差の是正であります。

 日本の男女間賃金格差は国際的に見ても大きく、その要因は勤務年数や管理職比率の差異となっておりますけれども、その背景には、固定的性別役割分担意識による職務配置や仕事の考え方、キャリア形成による男女の偏り等があります。

 男女間賃金格差を是正していくためには、男女別の賃金実態の把握と分析を行って問題点を改善するとともに、男性の育児参加を促進するなど、固定的性別役割分担にとらわれることなく、女性が働き続けられる環境整備が重要だというふうに思います。

 次に、デジタル化の対応、グリーンリカバリーの推進についてであります。

 今回のコロナ禍は、我が国のデジタル化の遅れを明白にいたしました。プッシュ型支援を早急に実現をしていく必要があります。欧米諸国において、給付つき税額控除の仕組みが迅速な給付、所得に応じた給付に有用であったことから、我が国でも、マイナンバー制度を活用し、税情報と社会保障を連携させ一体的に運営する給付つき税額控除の制度設計を加速させることが必要だというふうに考えております。

 また、グリーンリカバリーの推進とカーボンニュートラルの実現に向けましては、イノベーションの創出、人材確保に向けた諸外国に引けを取らない積極的な投資、そして産業の予見可能性を確保するための複数のシナリオ、具体的なロードマップを早急に制定することを求めたい。その中では、経済、地域社会、雇用に対する負のインパクトを最小化する公正な移行が重要だというふうに考えております。

 最後に、私たちが目指す社会の根底には、自由と民主主義の普遍的原理、そして人権の尊重が貫かれていなければならないと考えております。一九五八年に採択されたILO百十一号条約、既に百七十五か国が批准しているにもかかわらず、日本はまだ未批准であります。昨年六月に可決、成立した法律に基づいて、ILO第百五号条約についても早期の国会承認と批准を求めたいというふうに思います。

 以上、申し上げまして、意見とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、大竹公述人にお願いいたします。

大竹公述人 大阪大学の大竹でございます。

 本日、予算に関して意見を述べる機会をいただき、ありがたく思います。

 配付した資料の最初のページと次のページに本日の意見の概要、そして三ページ目から意見の内容が書かれていますので、参考にしていただければと思います。

 初めに、令和四年度予算には、新型コロナ対策予算として五兆円の予備費が計上されております。予備費としての計上は、予期せぬ状況変化に備える点ではメリットがありますが、行政府に巨額予算を白紙委任している点は注意すべきことです。これについては、効果的な支出に努めること、事後的な検証が必要となります。中でも新型コロナ対策は、EBPM、証拠に基づく政策形成の観点から検討すべき論点が多いと考えております。

 ここでは、私が新型コロナ対策分科会、基本的対処方針分科会の構成員として議論してきた経験を基に、新型コロナ感染症対策とEBPMの観点から意見を述べさせていただきます。具体的には、政策目標を達成するための効率性、複数の政策目標がある場合のEBPM、リアルタイムのEBPM、情報提供の重要性とその効果検証、政策の見直しの必要性について述べさせていただきます。

 まず、政策目標を達成するために効果的な対策になっているかという点です。

 感染症対策として具体的な政策にどのような効果があるのかを、可能なら事前に分析し、事前に分析できないものは事後的に分析して、より効果的な対策に変更していくべきです。その際、具体的な因果関係が明確な政策と、緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置のように、効果が不明確であるが状況変化に応じて行うべき政策というのを分けて考える必要があります。後者については、事後的に効果検証を行うことが必要です。

 次に、複数の政策目標がある場合のEBPMの在り方について述べさせていただきます。

 政策には複数の目標があることが多いわけです。例えば、新型コロナ感染症対策は、感染抑制と社会経済の両立という二つの政策目標になっています。しかし、両者にトレードオフの関係がある場合には、次の点を検討すべきです。

 まず、政策目標に最初から明確な優先順位がある場合には、感染対策と経済活動の間にトレードオフが存在しても、感染対策を重視するという政策は合理的です。トレードオフを無視して、感染を抑えることに最も有効な対策を検討すればいいのです。例えば、感染による健康リスクが甚大である場合や感染対策の期間が短い場合には、感染対策を優先するという考え方には合理性があると思います。

 次に、事前に政策の優先順位が決まっていない場合という点について議論をしたいと思います。

 この場合、専門家の役割としては、トレードオフを明記した複数の政策オプションを示すべきだというふうに思っております。

 例えば、第六波に対する政策を小林慶一郎さんと仲田泰祐さんと私の三人で提言を出しました。その提言の出し方としては、三つのオプションを提示しております。一つ目、緊急事態宣言などの行動制限による感染抑制。二つ目のオプションとしては、医療逼迫に伴う人々の自主的な行動変容、人々の価値判断による感染抑制。そして三つ目のオプションとして、従来の感染症法の枠組みの中で一時的なコロナ医療体制の変更という三つの政策オプションについて、メリットとデメリットを提示しました。

 オプションにはそれぞれメリットとデメリットがあり、どのオプションを選ぶかは価値観に依存します。専門家の役割は専門的知識に基づいて選択肢を提示することであり、そのオプションからどの政策を選ぶかは、国民の代表である政治家がすべきことです。政策決定が価値観を伴った意思決定であることから、専門家は、その知見に基づいて提出した判断についての説明責任を負いますけれども、政策の結果責任は負わないというのが原則だと思います。

 コロナ対策分科会の提言は、一つのものが出され、それを国が採択するかどうかというプロセスになっていたことが多かったと思います。これは優先順位が事前に決められている段階では適切だと思います。しかし、感染対策を重視した場合と社会経済を重視した場合で異なる分野に影響が出ることについて、専門家では一つの意見に集約することはできません。

 例えば、第六波でどのような出口戦略を取るべきかを判断するのは、オプションを提示する専門家ではなく、政府です。感染力は高いけれども軽症者の比率が高いというオミクロン株の特性に応じた対策については、医療提供体制や保健所の対応の大きな変更も含めて、政府が決断すべきだと思います。

 トレードオフには、現在世代内でのトレードオフと、将来世代と現在世代のトレードオフがあります。

 新型コロナ感染症は、高齢者が感染した場合の健康リスクが非常に高く、死亡率も高いという特徴があるため、行動規制による便益は現在の高齢者に集中します。一方、行動規制による感染対策のコストは、元々重症リスクが低い子供あるいは若年層にとっては大きいものです。彼らは感染対策による便益よりも大きな費用を負担しています。これは現在世代内でのトレードオフです。

 一方、行動規制によって結婚数や出生数なども低下するということが分かってきていますので、将来世代の命を減らすという意味で、将来世代に費用を負担させていることになります。これは現在世代と将来世代の間のトレードオフということになります。

 次に、客観指標が得られやすい分野と得られにくい分野にEBPMとしては注意する必要があると思います。

 新規感染者数、死亡者数など感染に関わる情報は毎日報道され、人々の関心を集めやすいものです。そのため、政治的にも重視されています。

 一方、社会や経済に感染対策が与えるリスクは毎日数字としては表れるわけではありませんし、感染対策の影響かどうかも判断しにくいものが多いのです。例えば、コロナ対策が強化された時期に、特に子供、若者の自殺が増えたことが明らかにされています。コロナ危機による自殺は約四千九百人であり、これは失業率上昇で説明できる部分というのは四分の一ほどしかないという研究もあります。

 緊急事態宣言で既婚女性の就業率が低下し、ドメスティック・バイオレンスが増えたというエビデンスもあります。学校休校は、子供の学力、非認知能力、健康にマイナスの影響を与え、特に、恵まれない家庭の子供たちへの影響が大きかったということも分かっております。婚姻数は約十一万件も減ったため、もし、これが将来、婚姻数の埋め合わせがないということであれば、失われた出生数は約二十一万人というふうに予測されています。水際対策で海外からの留学生が激減し、国際的なビジネス交流が減り、日本人の国際交流が減ったことは、長期的に日本社会に大きな影響を与える可能性が高いというふうに思います。

 しかし、これらの指標は、感染者数のように毎日報道されるわけではなく、因果関係を特定することも容易ではありません。したがって、政策担当者は、これらの指標が政策判断で過小に評価されないように注意すべきだと思います。そのためにも、平時からこうした分野のデータの蓄積を進め、危機対応できるような研究を蓄積しておくことが重要だと思います。

 次に、リアルタイムのEBPMについて意見を述べたいと思います。

 日々刻々と変わる感染状況に応じて対策を迅速に変えていく必要があります。そのためには二つのことが重要です。

 第一に、リアルタイムデータを整備し、活用できるようにすることです。

 日々の行政から得られる行政データ、これも利用可能です。携帯電話の位置情報から得られる人流データ、あるいはクレジットカードの利用情報、POSデータなどの様々なリアルタイムデータがありますが、それらを個人情報保護の上で分析し活用する仕組みを整備すべきだと思います。

 特に、感染情報については、リアルタイムで得られるはずのものが、政府のデジタル化が遅れていたこと、個人情報の保護の問題があったことから分析が進まなかったという事実があります。政府のデジタル化を推し進め、平時からリアルタイムデータを用いてタイムリーに状況を把握できるようにすべきだと思います。これによって、政策効果をモニタリングし、効果検証を行い、エビデンスを蓄積することも可能になります。

 二番目として、不完全な情報の下でも迅速に政策判断に有益な分析を行える体制の構築が必要です。

 私も含め学術専門家は、厳密性、正確性を重視して、その成果を学術研究として発表されて、評価されてきます。そのため、感染の動き、政策効果について学術的専門家に意見を求めたとしても、まだエビデンスがないという下だと、分からないという答えを出すことが私を含めて多いというのが実際です。

 したがって、政策判断に有益な分析を迅速に行えるような体制を平時から維持しておく必要があります。だから、学術研究と政策分析には少し違いがあるということを認識しておく必要がある。その際には、政策側からどのような可能性があるかについて明確に示す、特に、基本ケース、楽観ケース、悲観ケースなど幅を持たせた上でシミュレーションを示すことが必要です。また、短期的、中期的、長期的な動きについての予測も重要です。当然、不正確な情報に基づいての予測ですから、事後的な検証をしていく必要があります。緊急事態において専門家にエビデンスを求める際には、学術的厳密性だけを追求し過ぎないこと、責任は政策を採択した政府にあることを明確にしておくことが重要だと思います。

 EBPMについては、厳密なエビデンスがない政策をすべきではないという間違った解釈がされることがあります。新しい政策であれば、当然、エビデンスがないものや不十分なものが多いわけです。しかし、エビデンスがないから政策をすべきでないということにはなりません。特に危機時には、エビデンスが出るのを待っている間に膨大なコストが発生するという、時間イコールコストの意識を政府が持って政策判断することが重要だと思います。

 時間的な余裕がない場合には、政策効果が見込めるというロジックがしっかりしているということが大事ですし、その場合には政策の価値があります。ロジックの中にはどのような仮定を置いているかを明確にしておけば、どの仮定が間違っていたために政策効果が十分でないかということも検証できます。

 次に、情報提供の重要性とその効果検証についてお話しさせていただきます。

 日本の新型コロナ対策の特徴は、諸外国のように罰則を持った規制ではなく、罰則を伴わない努力義務という形を取るものが中心でした。実際、人流の動きは緊急事態宣言よりも感染者数の情報によって引き起こされていたということを示した研究もあります。規制と罰金あるいは補助金という組合せが政策の基本であることは間違いありません。しかし、その政策や情報をどのように伝えるかによって政策効果が大きく異なっていることが、今回の新型コロナ対策でより明確にされたと思います。

 感染対策への呼びかけ、あるいはワクチン接種率向上などは、情報提供の内容、手段、タイミングによって効果が大きく異なります。政策効果を大きくするために、情報提供にもEBPMの手法を活用すべきだと思います。

 医療では、新薬を認可する前に、新薬と偽薬をランダムに処方して、その効果が認められた場合に認可するという仕組みになっています。重要な政策については、そうしたランダム化比較試験を取り入れていくことを条件にしていくということも考えていくべきだと思います。

 具体例を紹介します。

 私は、感染予防行動を呼びかけるメッセージの効果検証を二〇二〇年の四月から七月、ワクチン接種意欲を引き上げるメッセージの効果検証を二〇二一年の一月から三月にかけて行いました。その結果は、あなたの感染対策で身近な人の命を守れます、あるいは、あなたのワクチン接種が周囲の人の接種を後押ししますといった、感染対策の利他的側面を強調したものが有効でした。

 ただし、メッセージの効果には人によって違いがあります。ワクチン接種を早めにする人と最後までちゅうちょする人には異なるメッセージが必要だと思います。そうしたことを明らかにしながら、効果的な情報提供をしていく体制をつくることが必要だと思います。

 これはコロナ対策に限りません。特に、社会的弱者には、情報が届かず、アウトリーチも難しいという実態があります。人々の行動変容が重要な分野には、健康、環境、防災、教育など、様々な国の重要政策があります。行動経済学や行動科学の知見を生かして効果的な政策を行うことが重要だと考えます。

 次に、政策の見直しの必要性についてお話しします。

 新型コロナ対策では、エビデンスが不十分なまま様々な政策が行われ、多額の予算が投じられてきています。これは、危機的対応としては合理的なものです。しかし、これらの対策の効果が十分にあったのか、副作用がなかったのかという視点で見直して、必ずしも効果がなかったものは予算を支出しなくてもよいという形に柔軟に変更できる仕組みにしておくべきだと考えます。

 不確実性が大きい状況では、このような柔軟な予算編成をしておくという重要性は大きいのです。後で変更できないという政策の下だと、対策を講じないという方向の選択をすることが合理的なものになります。それは迅速性が要求される状況では好ましくありません。医療提供体制の逼迫を防ぐために様々な補助金制度の制度設計がなされましたけれども、十分に機能してこなかったというのは事実です。この点については、随時修正されてきましたけれども、やはり感染拡大のスピードに間に合わないことが多かったと思います。

 新型コロナ感染症という危機において、コロナ対策に一時的に多額の支出が行われるのは当然だと思います。しかし、それはショックが一時的だという前提があって、そのショックからの回復後、コロナ対策費を日本経済が十分に負担できるということを想定しています。東日本大震災の際でも、その財源についての議論はされていました。コロナ後の財源についても議論をすべきだというふうに思います。

 持続化給付金、雇用調整助成金を中心とする経済対策は、新型コロナ感染症による一時的ショックがなければ倒産せず、解雇もされなかったはずの人たちを守るためのものです。この政策の効果で日本の失業率の急上昇を防いでいることは評価できます。しかし、それが過剰になっていないかをチェックすべきだと思います。一時的なショックを防ぐために対策を行ったとしても、必要以上に倒産を防いで非効率な企業の延命策になっていないかどうかという観点から見直しが必要だと思います。

 命を守るという点での新型コロナ感染症対策も似たことが指摘できます。日本の平均寿命は毎年延びていますが、二〇〇五年の季節性インフルエンザ流行の際のように寿命が減少したこともあります。新型コロナ感染症に対してどの程度まで感染抑制策を行い医療的対応をするのかというのは、高度な政治的判断です。しかし、新型コロナ以外の病気では同等のリスクがあっても特別な医療的対応あるいは社会的な行動規制をしないということに比べて、新型コロナ感染症の場合だけ特別に対応すべきであるということについては、政府はしっかり説明する必要があると思います。

 若者の自殺を増やし、出生数が減るほどの行動制限を続けること、子供たちの発達や学力の低下につながるような制限をすること、あるいは国際的な日本の立場を弱めるような水際対策の継続をする必要性があるのかを国会でしっかり議論する必要があるかと思います。政府の予算は国民の税金から支出されています。その税金は、現在の国民も負担しますけれども、現在の子供あるいは将来の子供も負担していくことになるからです。

 新型コロナ対策では、感染対策の負担が集中している一部の事業者や家計にターゲットを絞った支援の予算額が非常に大きいと思います。しかし、制度の谷間に落ちる困窮者も多く存在します。この方式では、そういった人たちを救うことには不十分だと思います。普遍的な補助金と税制を通じた一般的な所得再分配制度を活用していく必要があるかと思います。

 最後に、まとめたいと思います。

 新型コロナ感染症対策の予算及び政策は、EBPMを有効に活用すべきことが多いわけです。不確実性が高く、新しい政策でその効果がはっきりしないものも含めて、迅速に政策対応する必要があります。その際、因果関係が明確になった上で行う政策と、それが不明確なまま行う政策、複数の政策目標がある政策なのか、そうでないのか、リアルタイムの政策分析に適した分析か、情報効果を考慮しているのか、政策の見直しを取り入れているのかという観点に注意すべきだと思います。中でも、複数の政策目標がある場合、計測しやすく目立ちやすい情報に偏った意思決定をしていないかに特に注意すべきだと思います。

 感染リスクに関する危機意識の共有だけではなく、コロナ禍での経済、文化、教育、健康に関する危機意識の共有も重要です。そのために、平時から社会経済的な課題についてデータエビデンスでしっかり把握し、平時及び危機時の両方に有効な政策的対応を進めるべきです。特に危機時には、エビデンスを待つ時間に膨大なコストが発生することを意識した政策判断が必要だと思います。

 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

 次に、小畑公述人にお願いいたします。

小畑公述人 全国労働組合総連合、全労連で議長をしております小畑です。

 二〇二二年度政府予算に関わって、労働者の立場、労働組合の立場からの発言の機会をいただき、ありがとうございます。

 コロナ禍が二年余りにわたって続く下で、労働者、国民の要求はますます切実なものがあります。現在、全労連は二二国民春闘の取組を進めているところですが、現場の声も踏まえ、働く仲間の切実な要求を実現する観点から、幾つかの点について意見を述べさせていただきます。

 第一に、コロナウイルス感染拡大の第六波が続く下で、今までの教訓を踏まえて、命を守る政策への転換を求めます。

 全労連は二月三日に、コロナ感染の急拡大を受けて、厚生労働大臣に対して緊急の要請書を提出いたしました。医療、介護、公衆衛生の抜本的な拡充、ワクチンの三回目接種の加速化、検査体制の強化、小学校休業等対応助成金の申請の簡素化、給付の迅速化などを求めたものです。全労連だけではなく、多くの国民の皆さんの声が寄せられる下で、この間、ワクチン接種や小学校休業等対応助成金の申請に関わって一定の前進がありましたが、さらに、検査体制の強化やワクチン接種の迅速化などを進めていただけるように、重ねて要望をさせていただきたいと思います。

 その上で、コロナ感染拡大が続く下で明らかになった、余りにも脆弱な日本の医療、公衆衛生体制を抜本的に拡充していくことが必要だというふうに思っております。

 第四波、第五波においては、医療崩壊とも言える状況が広がり、コロナに感染しても病院等に入院することができないまま自宅等で亡くなる方が続出することが大きな問題となりました。第五波までに八百人以上に上るとの報道もあります。現在、第六波においても、保健所や病院の体制が追いつかないほどの感染拡大の下で、自宅療養者数が今月九日の時点で五十四万人を超える状況となっています。

 こうした状況を生み出す原因となっているのが、感染症病床や集中治療室の大幅な不足、医師、看護師、介護職員の人員不足、保健所、保健師の不足です。

 これらの諸問題の背景として、九〇年代後半から続いてきた医療、介護、福祉などの社会保障費並びに公衆衛生施策の削減、抑制策があります。感染症対策を中心的に担う公立・公的病院の役割の重要性が増しているにもかかわらず、政府は公的・公立病院の統廃合を進めようとしています。コロナ禍における教訓は、医療、介護、福祉を始めとした社会保障拡充の重要性です。

 二〇二二年度の予算編成に当たって、公立・公的病院などの削減、縮小ありきの地域医療構想を撤回し、国民の命を守ることを最優先にする政策に転換し、医師、看護師、医療技術職員、介護職員等を大幅に増員し、夜勤改善等、勤務環境と処遇を改善すること、そして、公立・公的病院の再編統合や病床削減方針を見直すこと、さらに、保健所の増設など公衆衛生行政の体制を拡充し、保健師等を大幅に増員することなど、安全、安心の医療、公衆衛生、介護、福祉提供体制を確保することを強く求めます。

 第二に、誰もが人間らしく暮らせる賃金へと大幅引上げ、底上げをしていく課題です。このことは、コロナ禍で広がる格差と貧困の問題を解消し、日本経済を活性化していくことにもつながる課題です。

 御承知のとおり、日本の労働者の実質賃金は、この二十数年にわたって下がり続けています。三ページ目のグラフを見ていただければ分かりますとおり、実質賃金が下がり続けているのは日本だけです。

 一方で、大企業は内部留保を増やし続けてきました。大企業の社会的責任を果たし、生計費原則に基づいて、労働者の賃上げに回すべきであると考えます。

 岸田首相は、通常国会冒頭の施政方針演説において、新しい資本主義を掲げました。市場に依存し過ぎたことで公平な分配が行われず生じた格差と貧困の拡大など、新自由主義的な考え方が生んだ様々な弊害を挙げた上で、それを乗り越える方策の一つとして、分配戦略の第一に賃上げを掲げておられます。具体策として掲げられた中でも、労働者の切実な要求に基づいた施策については歓迎をします。

 しかし、残念ながら、首相のメッセージほどには多くの労働者の賃金を上げるものとはならない可能性があります。全ての労働者の大幅賃上げ、底上げへとつなげるために、四点指摘したいと思います。

 一点目は、昨年もこの場で取り上げた、ケア労働者の賃上げに関わる施策についてです。

 ケア労働者の賃金が低過ぎることが可視化され、解決に動き出したことは非常に重要です。全てのケア労働者が、コロナ禍で自らの生活を犠牲にし、命を張って、社会機能の維持のために全力を挙げています。

 しかし、この二月から始まる処遇改善事業については、大病院の看護師に限り一%アップ相当の四千円、介護士、保育士、福祉、学童保育は三%、九千円、この内容に、職場からは、戸惑いや不満、怒りの声すら上がっています。

 一つは、余りに低く、一桁足りないという声です。賃上げの対象にならない他の職種にも配分したら、千円にも満たないものです。

 二つには、対象となる職種を限定しているために、チームワークを基本とするケア職場に分断を持ち込んでしまうことです。

 三つは、制度導入が拙速過ぎて、この繁忙な二月から四月時期に要件を満たす手だてを取れないという声です。

 制度が閣議決定されたのは昨年十一月末でしたが、今年一月に入っても、制度の内容は案しか示されず、混乱とちゅうちょや諦めが広がっています。職場で労使合意を図り賃上げを行うには時間が足りず、逆に、交渉を制限するなどの看過できない事態も起こっています。

 そして四つには、条例改定が間に合わないなどの理由で処遇改善事業を取り扱わない自治体が続出している問題です。政府が意図した賃上げにつながらない事態となっています。

 ケア労働者の処遇を抜本的に改善するために、この処遇改善事業について、三月中に申請ではなく、申請受付期間を大幅に延長すること。一部の職種、職員に対象を限定せず、全てのケア労働者の賃上げを行うこと。月四万円以上、時間給二百五十円以上とすること。三分の二はベースアップにとされているんですけれども、定期昇給の原資に使うことが除外されていません。確実に賃上げにつながる制度設計とすること。そして、二〇二二年度の予算に盛り込まれる十月以降の賃上げの制度について、早期に明確にし、診療報酬、介護報酬の引上げを基本に、財源を国庫負担とすることなどが必要だと考えます。

 秋の段階で直ちに利用者に負担を転嫁するということではなく、ケア労働者の働きに見合った、専門職にふさわしい賃金に抜本的に引き上げられるような制度設計となるよう、政府としての責任を果たしていただきたいと思っております。

 二点目は、最低賃金千五百円、全国一律最低賃金制度の確立についてです。

 コロナ禍において、非正規労働者、女性労働者に矛盾が集中しています。その背景に、低過ぎる最低賃金の問題があります。

 現在の最低賃金は、全国加重平均で時間額九百三十円です。年収百七十万円にも満たないワーキングプアです。また、地域間格差は、時間額で二百二十一円、フルタイムで年額四十万円に上ります。同一労働でも働く地域で賃金格差があるのは、極めて不合理です。人口の大都市一極集中や地方経済の疲弊を招く原因となっています。地域間格差は、大幅な引上げの妨げになっています。

 後藤道夫都留文科大学名誉教授の試算によれば、資料の八ページですけれども、最低賃金近傍の割合は、二〇二〇年に一四・二%となりました。十年で二倍になっています。時給千五百円未満で働く人の割合は女性正社員で四九・八%と指摘しています。最低賃金の低さが男女の賃金格差を助長しているとの指摘です。

 この間、全労連に結集をする地方労連は、全国二十八都道府県で三万人が参加をして、最低生計費試算調査を進めてまいりました。若者一人が人間らしく暮らしていくために必要な最低生計費は、全国どこでも月額二十二万円から二十四万円、時間額千五百円から千六百円程度となることが明らかになっています。

 先日は大阪府の調査結果が出たんですけれども、資料八ページにありますけれども、これが千六百円というふうに発表したところです。政府による最低生計費調査を行うことを強く求めたいと思います。

 コロナ禍の中、低賃金労働者やエッセンシャルワーカーの生活を支えるとして、海外の各国政府は最低賃金の抜本的な引上げを次々に表明しています。七ページにあります。ドイツのショルツ政権は全国一律一五%引上げ。イギリス、全国一律六・六%引上げ。アメリカは、連邦最賃を三〇%引上げ、十五ドル、千六百円を目指すとしています。岸田政権が三%、二十八円で大幅に引き上げたと言っているわけですけれども、余りにも立ち遅れていると言わざるを得ないと思っております。

 低賃金状態をこのままにすれば、失われた十年を繰り返すことになります。最低賃金の抜本的引上げ、全国一律最低賃金制度の確立へ足を踏み出すことを求めます。

 三点目は、全ての労働者の賃上げ、最低賃金の引上げを実現するためには、中小企業支援が欠かせません。コロナ禍で苦しむ中小企業への支援を強めることが、労働者の雇用の確保、賃金の底上げを可能にし、地域経済を豊かにすることにつながります。

 例えば、政府が掲げている賃上げ税制は、賃上げができる黒字の法人だけが対象で、全体の六割となる赤字の法人や個人事業主は対象外となってしまいます。多くの中小・小規模企業には無縁な制度です。法人税減税はするべきではなく、むしろ課税強化で、体力のある大企業には社会の維持に必要な経費をしっかり分担してもらう必要があります。今の局面では、消費税の減税が効果的です。赤字の企業も含めて、全ての事業者に恩恵があります。コロナ禍で苦しむ中小企業に対する支援策が求められています。

 全労連は、資料の九ページ、十ページにありますけれども、この間、経営者団体の皆さんとともに議論を重ねながら、「最低賃金の改善、中小企業支援の拡充で地域経済の好循環を」と題する中小企業支援策に関わる提言をまとめてきました。ポイントは三つあります。

 第一に、中小企業が最低賃金の引上げによって手元資金が不足しないよう直接に助成金を支給するほか、大きな負担となっている社会保険料の減免を行うことです。

 第二に、公正取引の実現です。賃金引上げに伴う単価引上げなどが適正に行われるようにすることです。

 そして第三に、地方、地域の経済活動の生み出した利益を、東京に集中させたり国外に流出させたりすることではなく、地域で可能な限り循環させる仕組みづくりです。

 これらを実現させるためにも、中小企業対策費を大きく増額し、使えるものに施策を充実すること、中小企業が経営を継続できるための施策を強めること、公契約事業の在り方を地域循環型にし、契約の中に事業に関わる労働者の賃金保障をする条項を盛り込むことが求められています。

 また、中小企業の社会保険料の減免では、給付水準を下げることがないよう、社会保険料率を応能負担にする累進方式とし、大企業に相応の負担を求めるものとすること。先ほども述べましたように、消費税を五%に減税し、免税点の引上げを行うことは重要です。

 とりわけ、二〇二三年十月からの導入が予定されているインボイス制度が導入されれば、今まで一千万円以下の免税業者だった多くの中小、自営業者は商売が立ち行かなくなってしまいます。十一ページの資料にありますが、経営者団体の方も要望されているとおり、インボイス制度の中止を強く求めるものです。

 そして四点目に、労働者の生活保障の観点から、雇用保険制度についても要望させていただきます。

 コロナ禍の休業補償をめぐって、諸外国に比べ日本の制度は金額が低過ぎると批判が起こり、二〇二〇年、当時の安倍首相は、雇用調整助成金の助成額等が欧米より低いことは認識していると答弁し、雇用調整助成金の上限額を一万五千円に引き上げ、休業支援金などの個人が受け取る額も、日額一万円を超える水準に設定しました。

 ところが、当初の日額八千三百七十円という水準、この根拠となった雇用保険の基本手当日額の上限額は、これでは生活できないという声が国会で共有されたのに、改善されず、置き去りにされ、昨年の八月には更に引き下げられています。

 現在の雇用保険制度は脆弱です。完全失業者のうち、雇用保険を受給する割合は二割程度と、先進諸外国に比べ著しく低い上に、基本手当日額は、最高額が八千二百六十五円、最低額は二千五百五十円にすぎません。二〇〇〇年初頭に比べると、年齢区分ごとに違うのですが、日額二千円から二千七百円、月額換算では六万円から八万一千円も減らされています。これでは、雇用保険法の目的である、生活及び雇用の安定を図り、求職活動を容易にすることはできず、希望とかけ離れた職種や労働条件の求人であっても、とにかく再就職を急がざるを得ないことになります。

 雇用保険制度の見直しにおいては、基本手当日額の引上げを行うべきです。その際、財源の国庫負担分を本則どおり二五%へと、今の特例措置の十倍に戻し、その額を基本手当受給者に給付するべきです。それにより、四十七・五万人の現在の受給者に対し、一人月額三万五千円の給付増を行うことができます。

 貧困と格差の広がりを是正し、公正な社会に転換していくために、国の果たす役割は大きいと言わなければなりません。

 私たちは、以上述べてきた施策は、税の集め方や税の使い方を変えれば可能であると考えています。

 先ほども触れたように、二〇二〇年、コロナ禍であっても、資本金十億円以上の大企業は内部留保を新たに七・一兆円積み増して、その額は四百六十六兆円にも膨れ上がっています。ため込んだこの内部留保を、下請中小零細企業への支援や、生活できないほどに下げられてしまった労働者の賃上げに使うべきだと考えます。同時に、内部留保への課税や累進課税への転換によって税収を増やすことは可能です。

 岸田政権は、過去最大規模となった経済政策のために、二〇二一年度の第二次補正予算三十六兆円を組みましたが、そのうち七千七百億円は軍事費です。二〇二一年度は、一般予算を含め、軍事費は初の六兆円を超え、GDP比一・〇九%と、歴代内閣トップとなりました。世界的なコロナパンデミックの中で、何よりも一人一人の命を守ることが最優先のときに、軍事費を増やす必要はありません。軍事費を削って、コロナ対策、医療、公衆衛生への抜本支援、生活困窮者への支援に回すことを求めます。

 最後になりますが、現在、バス、タクシー、ハイヤー、トラック等の自動車運転者を対象とした労働時間の改善基準告示の議論が厚生労働省の審議会で進んでいます。勤務の間のインターバルを十一時間以上にする案に対して使用者側が抵抗し、十一時間か九時間かの議論が続いています。

 この休息期間に、通勤や食事その他の生活活動と睡眠を取るわけです。現状のインターバル八時間では、睡眠不足状態を生み出し、労働者の命と健康も、利用者の安全も守れないことが分かっています。九時間でも、交通事故も過労死も減らせません。

 トラック、バス、タクシー運転手の勤務と勤務の間の休息時間を十一時間以上とする基準を設定するということをこの場からも強くお願いいたしまして、私からの発言を終わらせていただきます。

 本日はありがとうございました。(拍手)

根本委員長 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

根本委員長 これより公述人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。神田憲次君。

神田(憲)委員 公述人の皆様方におかれましては、大変御苦労さまでございます。

 自由民主党、神田憲次でございます。

 やはり、分配を実現するためにどういった成長を国として導いていくか、この観点が重要かと思っております。そういった観点から、限られた時間ですが、質問をさせていただきますので、よろしくお願いを申し上げます。

 まず、政府は、三年間で四千億円規模の施策のパッケージに向けて、人への投資ということを促進するということで、その実現に当たりまして、先月までアイデアを募集していたわけです。成長分野を支える人材育成とか、非正規労働者の正規雇用化、さらには円滑な労働移動のために期待される更なる具体策について見解を伺いたいと存じます。これは、翁公述人と石上公述人にお願いをできればと存じます。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 人への投資は非常に、私は重要だと考えております。やはり三種類ぐらい考えていく必要があると思います。

 やはり、成長分野、この分野は、海外との競争に勝っていくためにも、非常に、成長分野に人材を輩出していくことは極めて重要でございまして、STEAM人材と申し上げましたが、理系で、かつデジタルの力があり、かつ社会的課題の認識のある、そういった方々をどんどん育てていくというのは、成長の上では極めて重要と思っております。

 それから、二番目に挙げられた非正規の方々、これも非常に重要だと思っております。今回、コロナで、シングルマザーの方とか女性で非正規の方が一番影響を受けていらっしゃいます。こういった方々が次の仕事に、サポートできるような、そういった形での人への投資というのは、これからも大事だと思っておりますが、今、非常に喫緊の課題と思っております。

 それから、それ自体がですね、また、リカレント教育、三番目がリカレント教育でございますが、リカレント教育とかアントレプレナー教育とか、一般の私たち働く人たちみんなにとって、そういったリカレント教育などが充実していくということも、人生百年時代ということを考えますと極めて重要でございまして、新たな仕事に就くといったような労働市場の流動化にも寄与する、そういった就労政策になるのではないかと思っております。

 以上でございます。

石上公述人 人への投資ということですが、今回の連合の春闘、本当にこの視点、投資というものを重要視して経営者には求めていく、交渉を進めているという状況でありまして、連合としては、今回の春闘を未来づくり春闘ということで、今回の春闘の中で、将来をつくっていく、そういう賃上げ、そして人への投資、そういうものを求めていくという目標で現在取り組んでいるということでございます。

 非正規の問題につきましては、私は先ほども申し述べさせていただきましたが、やはり、健全なというか、労働条件、そして賃金が正当なものとしてしっかり確保される、そういった職場を多くつくっていくこと、これが非常に重要だというふうに思っておりますし、非正規だけではなくて、先ほど触れさせていただいたフリーランスの問題、こういった人たちの賃金、そしてその結果に対する報酬というものをしっかり、不当なものとならないようにしていく、そういう制度づくり、こういうことも、日本社会においてはフリーランスの数ももう無視をできない状況になっておりますので、そういったものにも連合としては取り組んでいきたいというふうに考えております。

 イノベーション、そして、先ほども申し上げた、カーボンニュートラルなどを実現するためにはイノベーションをやはり成し遂げていかなきゃならない。そのためにも、当然、人材が、新たな人材が必要になってくる。これは二〇五〇年までに向けた継続した取組ですから、短期的なものとはなりませんけれども、そういった継続的な人材づくり、そこに向けた議論も是非お願いをしたいというふうに思います。

神田(憲)委員 ありがとうございます。

 翁公述人におかれましては、所得の再分配、これについて、若い人に対して余りうまくいっているとは言い難いという御発言もなされておるようですが、このうまくいかない理由、これについてはどのようにお考えでしょうか。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 若い方の所得が低いというのは、やはり、日本社会に根づいている年功序列の仕組みというのが大きいかなというふうに思っております。海外の国々と比べましても、やはり年功序列というのは特に正規の方々にとっては非常にしっかり根づいておりまして、その結果として、若い方がまず所得が小さいというのがございます。

 加えまして、やはり非正規の方々が多いということで、もちろん不本意な方々が特に問題になるわけでございますけれども、なかなか正規になれずに非正規のままにとどまってしまっている若い方が多い。こういった方々は、三百万円の壁と申しますけれども、なかなか正規になれない、そういった状況がございます。

 ですので、やはり様々な視点からこれを見直して、若い方がもっともっと所得を稼げるような、そういった環境にしていくということが大事だと思っております。

神田(憲)委員 ありがとうございます。

 続きまして、新しい資本主義実現会議の有識者メンバーとして、昨年の補正予算と一体として編成いたしました令和四年度予算について、特に成長戦略としてデジタル、グリーン等の研究開発への予算配分について、見解を翁公述人にお伺いしたいと存じます。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 これからの成長にとって、グリーンとデジタルというのは極めて重要だと思っております。

 グリーンにつきましては、これでカーボンニュートラルという大きな方向がもう出てきておりまして、様々な困難な課題はございますけれども、やはり未来世代のためにこのカーボンニュートラルの方向に向けて社会は変わっていかなければいけないというふうに思っております。

 その中で、グリーンというのはかなりいろいろなイノベーションに依存するところが多いと思っております。水素とか、アンモニアとか、又はCO2を埋める技術とか、いろいろございますけれども、まさにイノベーションの競争でございますので、こういったところをむしろ成長分野として、グリーンリカバリーと欧州では言っておりますが、まさにこういった分野でしっかりと取り組んでいくことが中長期的な日本の成長には寄与するというふうに思っております。

 また、デジタルに関しましても、先ほど申し上げたとおり、生産性の面でも、価値を創造していく面でも非常に重要な取組だと思っています。そのほかにも、AIやデジタル、様々な科学技術、こういったところにどんどん日本の優秀な方々が集まり、そして研究開発が進んでいくということが日本の研究の裾野を広げて、また成長にもつながっていくというふうに期待しております。

神田(憲)委員 ありがとうございます。

 今の御回答にも関連して、このデジタルとかグリーン分野への投資とか起業というのは、イノベーションを起こすという観点では社会的にもコンセンサスはあると思います。しかしながら、一方で、特定分野にお金を集中させること、この点においては、基礎研究という分野との不均衡が生じますし、我が国の技術開発力をゆがめるというような意見もあるんですが、これについての御見解を翁公述人にお願いを申し上げます。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 おっしゃるとおり、基礎研究があって初めて応用ができるという部分がございますので、やはりそこはバランスよく配分していく必要があるということは委員の御指摘のとおりだと思っております。

 デジタル、グリーンというところは、特にデジタルはちょっと日本の遅れが目立っております。また、グリーンというのは世界的な競争になっております。いずれも大事だと思いますが、やはり基礎研究のところもしっかりと充実させていくことができればというふうには思っております。

神田(憲)委員 ありがとうございます。

 そのデジタルの分野ですが、先ほど、今、公述人も、大変遅れているというお話をされました。このデジタルのプラットフォームという技術の部分なんですが、世界的に見ましてもGAFAが圧倒しているような状況にございます。更に問題は、国内にこれに対抗し得るようなプラットフォームがないこと。これは、今後、日本のデジタル分野が成長していく上で大きな制約を受ける要因となると考えるわけなんですが、その点について翁公述人に見解をお伺いしたいと存じます。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 日本にも少しはプラットフォーマー企業はございますけれども、圧倒的に、GAFAと比べるとまだ規模も小さいということで、やはり一つの大きな課題は、日本はなかなかスタートアップが成長していかないというところがあるんだろうというふうに思っております。

 やはり、そういった新しいビジネスモデルというのは既存企業よりも新しいスタートアップから生まれてくるということが多うございます。その意味で、まあ欧州もこういったGAFA的な企業はおりませんけれども、やはり、アメリカで参考になるとすれば、こういったスタートアップがどんどん育っていく、そして新しいチャレンジができる、そういうチャレンジがしやすい環境をつくっていくということで、スタートアップ支援をしていくということが、人的な面でも、資金の面でも、またいろいろな、アントレプレナー教育などの面でも非常に重要なのではないかというふうに思っております。

神田(憲)委員 おっしゃるように、スタートアップを成長させるための国内の土壌というんですかね、これが大変、これから先、スピーディーに、かつ重要なところになってくると思います。そのためには、国としてどういうような法整備であるとかそれから政策を推進していくべきでしょうか。翁公述人にお願いします。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 スタートアップについては、今までもいろいろなことは行われてきてはいるんですけれども、まず、アントレプレナー教育、これを大学とか又はリカレント教育でももっと広げていくことができないかと思っております。

 それから、スタートアップでも人材不足が指摘されています。大企業の方でもすぐにスタートアップに移れるといった、人材の流動化ということも必要だと思っています。

 また、今回、グロース市場ということで東証の新しい市場ができますけれども、そういったところにもっと機関投資家なども入っていって、今、個人投資家中心のマーケットでございますが。そして、もっと活性化していって、成長ができるような、資金面での手当ても必要なのではないかと思っています。

 また、もっと挑戦するということがしやすい社会になっていくということで、さっき申し上げたような就労政策なんかもいろいろ工夫していくということが大事ではないかというように思っております。

神田(憲)委員 ありがとうございます。まさに、その挑戦しやすい市場をどうやってつくっていくかだと、私も同様に考えております。

 時間が参りましたので、質問を終わらせていただきたいと存じます。ありがとうございました。

根本委員長 次に、中川宏昌君。

中川(宏)委員 公明党の中川宏昌と申します。

 公述人の皆様方におかれましては、本日、御多用のところ、お話をお伺いする機会をいただき、心から感謝を申し上げます。ありがとうございます。

 私からは、まず、大竹公述人に何点かお伺いをさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 国全体の本年の取組といたしましては、一つはコロナ対策、そして経済活動、この両立が重要だと思います。大竹先生も種々お話をしていただいていると思いますけれども。

 今回、今審議している新年度予算案にもこの両方の政策が盛り込まれておりますけれども、先ほど大竹先生から示された中に、政策効果は政策や情報をどのように伝えるかによって大きく異なる、このようにお話がありました。それには、EBPMを活用して情報発信、情報提供の重要性、これが先ほどお話があったところでありますけれども、国としては、どのような情報発信また情報提供をすれば官民挙げて活力のある社会にしていけるのか、この点につきまして大竹先生の御所見をまずお伺いしたいと思います。

大竹公述人 御質問ありがとうございます。

 伝え方が重要ということなんですけれども、幾つか学問的にも発展していまして、行動経済学や行動科学の分野で、情報提示の仕方としてどのような形でするのがいいのか、例えば、損失を強調するのがいいのか、利得を強調するのがいいのか、あるいはもう少し、デフォルト設定というのがあるんですけれども、デフォルト設定を工夫する、あるいは情報提示の仕方を単純にしていくということも、いろいろあります。

 いろいろあるんですけれども、やはり、そのときにどういう人にどんな効果が一番大きいのか、平均的にはどんな効果が大きいのかというのは、できれば事前にテストしていく。そして、いろいろな今、技術があります。オンライン調査やスマホのデータを使うということもありますから、それで、今日申し上げたように、リアルタイムで効果を測定しながら一番よい方法というのを考えていくということが重要かと思います。

 以上です。

中川(宏)委員 ありがとうございます。

 リアルタイムでしっかりと見ていくということでありますけれども、コロナ対策と経済活動を両立させていく中で、目指していくものは社会の安定だと思います。

 コロナ禍の中で社会の安定を維持していくためには、国民全体となっての行動変容が必要でありまして、大竹先生は行動経済学の研究をされておりまして、先ほどもお話がございましたけれども、あなたのワクチン接種が周りの人のワクチン接種を後押ししますというメッセージに効果があると確認できたと先ほどもお話がありましたが、人の利他性が発現しやすい状況をつくり出すことが重要と大竹先生は御教示くださっております。

 コロナ禍の今、打撃を受けられている方は、やはり、飲食業や観光業を始めとしまして、行動制限によって収入が激減している方たちでありまして、その方々を救う、社会貢献のために行動変容を促すことは、ひいては自分自身を守る最適な手段になり得ると私自身考えております。こういった方々への支援として、国民の皆様の心に届くメッセージとしては具体的にどういったメッセージを発出していった方がいいのか、また、国が取り組むべき対策があれば御教示いただければと思います。よろしくお願いいたします。

大竹公述人 ありがとうございます。

 確かに、利他的メッセージは、全員じゃないですけれども、ある程度の人たちに効果があります。そして一方で、利己的メッセージで動く人たちも結構いる。難しいところは、利己的メッセージ、例えば、あなたにとってこれは得ですよということを言った場合に、それを目的としないで行動したいと思っていた人たちの意欲をそいでしまうということがあります。したがって、その人たちの意欲をそがないような形で、両方の人たちの行動を促進するような工夫が必要だと思います。

 確かに、一つは、何かクーポンをもらえる、あるいは援助をもらえる、例えば、ワクチンを打ったら援助をもらえる、ポイントがもらえるというふうな仕組みにしたときに、利己的な人たちはそれで動く。しかし、利他的な人たちはそれで動かなくなるという可能性を考えると、その援助が被害を受けている人たちにも貢献しますよというふうなメッセージというのは、確かに一つの方法だというふうに思います。

 以上です。

中川(宏)委員 御教示いただいてありがとうございました。

 そして、大竹先生にはもう一つ、午前中もお話がございましたけれども、EBPMであります。

 大竹先生も四年前にこの研究プロジェクトを立ち上げられまして、日本の政策にEBPMを根づかせていくことが非常に重要であるというふうに指摘をされておりますけれども、今、日本を取り巻く環境ですけれども、新型コロナウイルスに始まりまして、この数年は豪雨災害、自然災害もございます、そして自殺など、命に関わる深刻な問題もたくさんありますけれども、この命に関わる深刻な問題についてEBPMをどう活用するべきか、この点につきましてお尋ねしたいと思います。

大竹公述人 ありがとうございます。

 命に関わる点ということでは、例えば豪雨災害のことにつきまして私も研究したことがありまして、どういうメッセージで避難を呼びかけるとより早く避難されるかということについて、幾つかのメッセージを提示した後の行動、あるいは行動意欲というのを測定する。その中で一番効果があるというのは、例えば、あなたが避難をすると周囲の人の避難を後押しするというようなメッセージは効果的になります。

 それ以外のことにつきましても、そういうふうに、どのメッセージが効果的かということについては、先ほど申し上げた、ランダム化比較試験というんですけれども、異なるメッセージをランダムに渡してその効果を見ていくというふうな手法で効果検証をしていく。そして、効果が一番大きいというふうに認められたものを全面的に採用していく。あるいは、どの対象にどのメッセージや手法が効果的かということを明らかにすれば、対象ごとにメッセージや手法を変えていくということがEBPMの在り方だというふうに思います。

 以上です。

中川(宏)委員 ありがとうございました。今後の政策過程でのしっかりとした糧にしてまいりたいというふうに思っております。

 それから、翁公述人にお伺いをしたいと思います。

 今日お伺いした中で、全ての人にとってデジタルは大事な部分であるというふうに言及をしていただきました。そして、今日御提供いただいた資料の中に、地方移住の関心が非常に高まっているという、こんな資料も提供をいただきました。

 私も地方出身でございますので、今後を考えたときに、地方とデジタル、これは非常に重要であり、密接な関係にしていかなければいけないかなというふうに感じ取っているところでありますけれども、デジタルを活用した地方創生につきまして、公述人のお考えがございましたら、お示しいただきたいと思います。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 まさに、コロナで今回、デジタルをいや応なく使うようになったんですが、その結果として、やはり多くの気づきがあったと思います。地方に住みながらリモートワークができるようになってきている。それから、地方にいながらオンラインで教育を受けることができる、こういったことが徐々に当たり前の生活になってきているということだと思います。また、地方で起業するということも、デジタルを活用していろいろなビジネスができるようになってきているということで、今までは、都市と地方というのは割と対立的に捉えられていたわけですけれども、むしろ、非常にデジタルによって近づいて、また、二か所で仕事をしたり、二か所で住むとか、そういう多様な働き方、多様な生き方ができるようになってきている。

 そういった意味で、地方においていろいろなチャンスが出てきているのではないかというふうに思っております。

 例えば、高専生などがディープラーニングを学んで、その結果として自分の物づくりの知識等を生かして起業するというような、女性で起業する、若い方が。そういうこともできるようになってくるということで、まさに今のチャンスを生かして、地元の企業とか大学とか金融機関とか、またそれが都市部などとも結びついてうまくネットワーク化して、いろいろなサポートをして地域活性化をしていけるチャンスなのではないかなというふうに思っております。

中川(宏)委員 ありがとうございます。

 そして、翁先生にはもう一つだけお伺いしたいと思うんですけれども、冒頭、これからは社会の変革と継続的な成長が大事である、こういうお話がございました。

 今、日本を見回しますと、激しい分断ですとか、格差社会、アメリカほどではありませんけれども、中間層の厚みを誇っていた日本が、今、中間層が減少しまして、格差社会となっているというふうに思っております。そんな中で、日本の低成長、また格差というこの二つの課題については、冒頭お話がありましたが、グリーン化、デジタル化、これを押し上げていくことが大事だ、こういうふうにお話があったんですが、低成長と格差というこの二つの課題を克服していくためにまず着手していくべき対策はどのような対策が必要なのかという点について、最後、お伺いしたいと思います。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 おっしゃるとおり、ジニ係数というもので測りますと、アメリカはずっと上がっていて、日本はそれほど大きく上がっているわけではないのですけれども、このコロナによって、やはり、また、特に非正規の方とか飲食にお勤めの女性の方とか、そういった方々が非常に困難な状況に陥っておられて、しっかり格差の問題に対処していくというのは非常に政治として重要な課題だと思っております。

 日本の場合は、一番最初に私が申し上げたように、各国と比べますと、日本も成長してきているんですけれども成長がやはり緩やかで、また、賃金の伸びなんかも、最初に提供させていただきましたグラフでもありますように、全く、余り伸びていないんですね。

 ですから、やはり、全体としてはまず成長して、それを分配していくという形で、成長と分配、まさに好循環させていくということが非常に重要なんだろうというふうに思っています。

 ですから、まず成長戦略もしっかりやっていく必要がございますし、それをどうやって賃金に分配していくか、そして賃金から更に成長に結びつけるためには、やはり社会の不安とかそういったことが小さくなる必要があると思っています。ですから、社会保障とか、これから人口減少ということで人々が持っている不安とか、そういったことに対してもきちんと対処していくということも非常に重要なのではないかなというふうに思っております。

中川(宏)委員 大変御丁寧にありがとうございました。

 時間が参りましたので終わりにしたいと思いますが、やはり、成長と分配の好循環、これが非常に大事だということでありまして、それを今日はしっかりと確認をさせていただきました。

 以上で質疑を終わりにします。ありがとうございました。

根本委員長 次に、石川香織君。

石川(香)委員 立憲民主党の石川香織です。

 今日は、四人の公述人の皆さん、お忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきましてありがとうございます。

 私からは、一番最初に、カーボンニュートラルに向けた課題ということで、翁公述人と石上公述人にちょっとお伺いをしたいと思います。

 二〇五〇年のカーボンニュートラルの実現に向けて努力をしていくというのは、重要かつ必要な取組だと思います。ただ、その際の移行期の負の影響というのは最小限にとどめなきゃいけないと思います。いわゆる公正な移行というものですが、特に労働力の部分でこの公正な移行を確保するために、具体的には失業であったり労働条件が低下してしまうですとか、こういった雇用に悪影響が生じてしまう産業ですとか地域というものがあると思いますが、ここについてどのような対策が必要であるかという点について、お二人にまずお伺いをします。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 まず、委員がおっしゃったように、カーボンニュートラルについては不可逆的に進めていかなければいけない課題ですが、その移行期は、やはり、様々な産業の変化、構造変化というのが起こり得ると思います。その意味で、そういったところにお勤めになっていらっしゃる方をどういうふうにサポートしていくかということは、とても大事だと思っております。

 やはり、私は、先ほども少し述べましたけれども、そういった方々が、新たな技術とか新たな仕事とか、そういったものにスムーズに移行できるような、そういった就労政策というのをしっかりやっていくということがとても大事なのではないかと思っております。それは、企業内でやる部分もあるかもしれませんが、もしかしたら、企業を越えて、転職とかそういったときにも就労がスムーズにいくようにしていくということが大事だと思っています。

 まずもって、やはり、政府全体として、カーボンニュートラルに向けて、どういうシナリオで、予見可能な形で、大体どういうようなプロセスで進んでいくのかというのが見えてくるということもとても大事だと思っております。そういった全体の話と、あと、きめの細かい就労政策と、両方組み合わせてやっていくことが大事なのではないかというふうに思っております。

石上公述人 ありがとうございます。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、公正な移行というのは、連合としては、この間ずっと主張してまいりました。政府の様々な文書にもこの公正な移行というのが入るようになりまして、これはよかったなというふうに我々は思っているわけですが。

 労働組合ですから、労働力に対する公正な移行ということを中心的に申し上げておりますけれども、実際には、地域経済を含めて様々な社会に大きな影響を与えるカーボンニュートラル実現に向けての移行期において、その問題についてしっかり解決をしていく。そして、こういうふうに解決していくんだという道筋を皆さんに示していくということがなければ、カーボンニュートラルを実現することによって自分の仕事がなくなってしまうとか地域経済が衰退してしまう、そういう人たちが多くなればなるほどカーボンニュートラル実現というのは非常に難しくなる。だからこそ公正な移行が必要だというのが連合の主張であります。

 その意味では、様々な教育や訓練の実施ですとか住居や生活の支援ですとか、持続可能な雇用の創出とか再就職のあっせんとか、労働に対しては様々方策は考えていかなければならないと思いますけれども、一方では、中央でも当然必要だと思いますけれども、各地域でも、この影響を受ける各地域でも、様々な人たちが入った社会対話を進めていく。カーボンニュートラルを実現していくことが目標なんだけれども、それの実現に向けて、みんなで意見を出し合って議論をしていくという場が当然必要だというふうに思っておりまして、労働組合も含んだ関係当事者の参加が保証される対話の場の設置、まずこれをスタートさせていただきたいというふうに思います。

石川(香)委員 スムーズに移行できる仕組みが大切であったり、企業や地域、それから関係の当事者の社会対話が必要だということで、まさにそのとおりだと思います。

 石炭を始め化学燃料から脱却していくというのは、多くの産業に大きな構造転換を迫ってくるということで、世界では既に公正な移行が進んでいる国も多いということで、イタリアではエネルという会社、発電の大きな会社がありますけれども、石炭火力をたくさんの国に持っていて、それを二七年までにゼロにするということで地域からもかなり反対の声もあったり、かなりの議論になったそうですが、今では様々な脱炭素ビジネスも展開をしていくということで、逆に、再エネ企業としてこれからも続けていけるような可能性もつくり出し、うまくいけば前倒しで石炭ゼロも目標を達成できそうだということですので、カーボンニュートラルの話題と並行して、労働力の公正な移行、それから経済の持続可能性を保っていくということについても、政治も積極的に政策を打ち出すべきだと思います。ありがとうございます。

 続いて、石上公述人にお伺いをさせていただきます。

 今回、介護、保育、看護の職業の方々の処遇改善というものがありましたが、この点で、評価できる点、それから課題と感じている点をお伺いします。

石上公述人 ありがとうございます。

 先ほども申し上げましたが、政府が今般打ち出しました、介護、看護、保育などの現場で働いている方々の収入を増やしていくという方針、これは一歩前進だということで評価をしております。

 しかし、三%程度の改善では不十分だと思いまして、全産業平均に追いつくまで何年も要するという状況であります。

 人材確保が困難なこの分野で、働きに見合った抜本的かつ継続的な賃金の改善は非常に重要ですし、このことがなければ安定的なサービス提供にも支障が出るというふうに思っておりますので、全ての従業者を対象とした継続的な処遇改善、これが行われるように求めていきたいと思います。

石川(香)委員 不十分だという点も今指摘をしていただきましたが、現場の方に聞きますと、百三十万円の壁であったり、やはり、パートの方々を始め、いろんな働き方をしている方がいらっしゃる中で、必ずしも事業所にとってよかったと言えることだけではなくて、負担も当然大きくなるというお話も伺いました。

 ただ、こういった分野で働く方々の処遇を改善していく、ベースアップをしていくというのは当然必要なことでありますし、一方で、違う見方をすれば、今、家族の誰かを支えている人の生き方を制限せずに、学ぶ機会、働く機会、自分の自由な時間をつくるという、つまり、支える人を支える仕組みというものも必要なのではないかなと私は感じています。

 支える人を支える仕組みが必要だということで、ちょっと、ヤングケアラーについてもお伺いをしたいと思います。

 石上公述人と小畑公述人にお伺いしますが、近年、ヤングケアラーの問題が取り上げられるようになりまして、ただ、法律では定められていないんですが、一般的に十八歳未満とされていますが、この年齢の線引きを始め、ヤングケアラーの問題をどう捉えるべきかということについてお伺いをさせてください。

    〔委員長退席、葉梨委員長代理着席〕

石上公述人 ありがとうございます。

 このヤングケアラーの問題ですが、これによって教育や就業の機会を逃すという可能性もありますので、早期発見、そして支援、ニーズを把握をして、社会的な孤立、生活が困窮化することのないように、相談体制、そして生活、就学支援などの包括的な支援提供体制の整備が必要だというふうに思っております。

 十八歳未満ということですが、幅広い年齢のケアラーが幅広い年齢の人をケアしているというのが実態だというふうに思っております。例えば、学生のときに家族のケアを行い始めて、それが一時期で終わらずに、そのままケアをしながら年齢を重ねている。そういった、いつまでもケアが継続していくケースもあるというふうに思っておりまして、十八歳以上の方も含めて、若年層のケアラー、この方々の教育や就業の機会を妨げることのないように、一律に年齢で区切ることはせずに、切れ目のない包括的な支援が必要だというふうに考えています。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 このヤングケアラーの問題は、一つは、子どもの権利条約に定められている、子供の最善の利益を優先するということから考えれば、学び、成長を保障する、そういう場や時間が失われているということがあるわけですので、その学び、成長を保障するという、そのことを何よりも重視をして、どのような政策が必要かということを検討していくことが重要だということがまず一点です。

 それと同時に、委員もおっしゃいましたように、このケアを担うのは誰かという問題がありまして、もちろん家庭の中でケアしなければならない問題もあると思いますが、社会全体として、そのケアの問題をどのように考えていくのかということが重要になっていると思います。

 保育、介護、福祉のところの社会保障全体をどのように充実していくかという、その包括的な立場から、このヤングケアラーの問題も考えるべきだというふうに思っております。

 以上です。

石川(香)委員 ありがとうございます。

 労働組合もこのヤングケアラーの問題に力を入れているということと、それから、岸田内閣でも、三年間、このヤングケアラーについて周知に力を入れるということですので、一層、政策を考えていかなきゃいけないと。

 私も、先日、ALSの患者さんのお母さんを介護する十八歳の男の子、双方にお話を伺ったんですが、お母さんからすると、もう介護することが息子が当たり前になり過ぎて、洗脳という言い方をされていたのが印象的でしたけれども、どこまでがケアかというのは気づきにくいと。息子さんは息子さんで、何か困っていることはないかと聞いても別にないということで、なかなか表面化しづらい、心身の悩みとか。この実態をどのように問題化していくか、その負担をどうやって軽減していくかということは、非常にこの問題の難しさを感じました。ありがとうございます。

 では、大竹公述人にも伺わせていただきます。

 先ほどの委員の質問にもありましたが、行動経済学の専門家ということで、いろいろな、先ほどのお話の中でも非常に興味深いお話がございました。

 過去の記事をちょっと調べていたんですが、二〇二〇年の四月末から八月までオンライン調査をして、二十歳から六十九歳の方に、どのような言い方をすれば感染対策を促すことができるかという調査をされたと思います。

 その結果、本人の健康を守る利己的な利得ですとか、他人への感染を防ぐ利他的な利得というような論点があると思うんですが、このオンライン調査は二〇二〇年ということですので、今、この二〇二二年、それもオミクロン株に変化したことによって、人々への呼びかけとか受け取るメッセージが何か変わった点があれば教えていただきたいなと思うんですが、何かあればよろしくお願いします。

大竹公述人 ありがとうございます。

 端的に言うと、専門家としては、エビデンスがないので答えられませんとしか言いようがないんですけれども、恐らく変わっていると思います。

 当時は、一番最初、第一回の緊急事態宣言の最中で、非常に不安が大きかった時期です。そのときに効果的だったというのが、人の命を守れますというのが効果的でした。

 今、非常に不安が減ってきている中で、より効果的な、今の中で効果的なメッセージというのは、ひょっとしたら違ってきている可能性もあると思います。

 それから、元々、人によってメッセージは効果的なものとそうでないものがありますから、その違いも出てきているのかなというふうには思います。

 済みません、答えられないというのが正直な答えです。

石川(香)委員 エビデンスがない中、無理な質問をしてしまいまして申し訳ありません。

 どういうメッセージが響くかというのは、そのときの状況も含めて微妙に変化していくものだ、やはり先生のされている研究というのは、私たち政治家にとっても、政策を発信する上でも非常に大事なヒントになるなというふうに感じました。

 時間が来ましたので、終わります。ありがとうございました。

葉梨委員長代理 次に、市村浩一郎君。

市村委員 ありがとうございます。

 公述人の皆様、どうも本日はありがとうございます。

 質疑をさせていただきたいと存じます。

 まず、何といいましても、今度の令和四年度の予算を今審議をしているわけでありますけれども、まず、翁公述人もおっしゃったように、社会変革の機会にしなくちゃいけないということだと思います。もう始めなければならない。三十年間成長もしなかったということでありますから、やはり成長をどうやって達成していくかということだと思います。

 ただ、やはり何といいましても、諸外国の状況を見ていましても、急激に経済成長しているわけではありません。この三十年間、緩やかに経済成長していく、やはり、これがあってこそ賃金も伸びていくということでありますし、成長があって分配、また分配が更なる成長を呼び起こすということになってくるんだと思います。

 その中で、やはり選択と集中というのが私は必要ではないかと思っています。成長分野を選択し、集中をするということが大切だと思いますが、翁公述人におかれましては、これからの日本、どの分野が成長分野だとお考えでしょうか。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 私、先ほども申し上げましたが、やはり環境関連のグリーンの分野と、それから、何といってもデジタルの分野、これはやはり成長していく分野でありますし、この分野については集中してやっていくということはとても重要ではないかと思っております。

 それらは両方とも日本の社会的課題も解決するものだと思っておりまして、例えばデジタルにつきましては、やはり、高齢社会で、いろいろデジタルで、マイナンバーで個人が特定できていると早くサポートができるとか、そういう意味、あと、医療などでもオンラインでいろいろなことができるようになるということで、社会的課題を解決するものでもあると思うので、この二つの分野については特に集中してやっていくということについては、今回の予算でもそうなっておりますけれども、私も賛同しているところでございます。

    〔葉梨委員長代理退席、委員長着席〕

市村委員 成長分野はデジタルそれからグリーンということであります。

 そこで新しい市場をつくっていくということがやはり必要だと思うんですが、具体的に、なかなかこれは難しいと思いますが、どういう市場がこれから有望であるかということも、また翁公述人、よろしくお願いいたします。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 市場というと、どういうビジネスということかなというふうに思いますけれども、やはりデジタルの分野は、今回、非常に、生活のあらゆる分野にデジタルが入ってきていると思っております。先ほども少しお話しさせていただきましたけれども、教育の分野とか、そういったところも少しずつハイブリッドでやったり、それから働き方のところでもデジタルが入ってきていて、それから、大きいのはEコマースですね。皆さん、Eコマースで買物するようになり、その意味で、プラットフォーマー的な企業が様々なサービスを提供するというような形になってきているというふうに思っています。

 ですから、デジタルの分野は、やはり、いろいろなことがアプリ一つでできる、そういったプラットフォーマー的な、利便性の高いサービスというのがこれから大事になってくるかなと思っています。

 グリーンの分野というのは、やはりイノベーションが大分必要な分野だと思っております。やはり、これから新しい、水素とかアンモニア、先ほどもちょっと申し上げましたが、CO2を埋め込む技術、ありとあらゆるところでそういったイノベーションが必要になってきていると思っています。そういったイノベーションをうまく喚起するようなマーケット、それをクレジット化するとか、そういったことで売買するとか、そういったことも是非、海外なんかではそういう動きも出てきていますけれども、そういうマーケットも広がっていくといいなというふうに思っております。

市村委員 ありがとうございます。

 それでは、次は石上公述人にちょっとお伺いしたいんですが、先ほどトリガー条項のことも挙げていただきました。特に、中長期的な課題ということで、経済成長をどうやって緩やかにするかという話を今お伺いしたところなんですが、今は、一方で、短期的には、やはり、このコロナで傷ついた日本経済をどう立て直していくかというところも大切だと思います。

 そこで、私ども維新の会は、減税政策というのを中心に据えて、今話をさせていただいております。消費税減税もそうなんですが、トリガー条項もやはり減税ということになりますが、このトリガー条項につきまして、やはり連合さんとしても今力を入れていただいていると思います。まずは、その点につきまして改めて御見解をお伺いできればと思います。

石上公述人 ありがとうございます。

 先ほども申し上げさせていただいたんですが、石油の価格の高騰というのが経営だとか様々な生活に大きく影響しています。特に、コロナ禍において傷ついた生活や経済の中に更にこれが重なっている。ですから、こういった緊急事態については、やはり早急に解除していただきたいというか、何とかこれを回避していただきたい。その意味で、緊急的な取組として、このトリガー条項について連合としては要求している、そういうことでございます。

市村委員 是非とも、減税政策、頑張っておりますので、また応援くださいませ。

 それで、今まさに未来づくり春闘ということでやられているということであります。そのためにも、やはりこれから経済成長して、緩やかな経済成長において賃上げも成し遂げていくということ、つまり、昔から言われます労働分配率を高めるということになります。ただ、しかし一方で、先ほど、国庫負担割合が今本則二五パーじゃなくて二・五パーであるということもおっしゃられました。

 改めて、私は、今ゼロになっているという状況を考えますと、やはり本則に戻すべきだというふうに私も考えておるところですが、改めてその御見解もよろしくお願いいたします。

石上公述人 ありがとうございます。

 先ほども述べさせていただきましたが、雇用保険財政、非常に厳しい状況になっております。これは審議会等でも、経営者側も、そして労働側も申し上げておりますけれども、やはり本則に戻すべきだと。そして、政府がしっかり雇用に対する責任を果たすんだというメッセージを国民に対して出してほしい。そういった意味で、単なる財政論だけではなくて、国としてこういうコロナで傷んだ雇用の状況をしっかり支えるんだ、そういうメッセージとしても、この本則に戻すべきだというのが連合としての考え方です。

市村委員 ありがとうございます。

 それで、今度は大竹公述人にちょっとお伺いしたいのですが、大竹公述人は、今、感染症総合教育研究拠点の特任教授をされているということでありますが、私ども、今、例の感染症法の二表から五表にやはりするべきじゃないか、また、昨年の落ち着いていたときにしておくべきだったのではないかという思いも持っているところなんです。

 先日、予算委員会の方で担当大臣と御議論させていただいたんですが、なかなかそれは昨年の段階では予見できなかったというお答えだったんですが、しかし、一般的に、ウイルスは弱毒化するということもあるということで、本当にエビデンスがこの場合なかったのかなと。

 多分、特に大阪大学だけじゃなくて、いろんな教授の方が弱毒化しますよというデータも示しながらエビデンスを持って、いわゆる二表から五表にしてもいいんじゃないかということを昨年の段階で、暮れの段階で言われていたような気がするんですが、大竹公述人の御意見をちょっと賜れれば幸いでございます。

大竹公述人 御質問ありがとうございます。

 新型コロナ感染症を二類から五類にするということですけれども、弱毒化するかどうかということに、一般的な話というのはいろんな議論があってはっきりしていないと思います。

 私、先ほど、意見で紹介させていただきました三つのオプションというところで、医療提供体制を一時的に変更するという提案というのは、運用上でまずは変えてはどうかと。それで、オミクロン株に適した医療提供体制というのは、もう少し、実質的にはかなり五類に近いものというのを一時的に対応するということが望ましいのではないかというふうに思っています。

 ただ、今後、また違う変異株が出てくる可能性があるということで、それがはっきり見えてくるまでに大きな制度変更をするかどうかというのは、制度変更の難しさ、時間的な余裕がどのくらいあるかということにも関わってきますので、それは、政策のスピード感に応じてどちらを選ぶかということは決めていただければいいというふうに思っておりますが、まずは、運用上でできることをしていただくのがいいのではないかというのが私の個人的意見です。

 以上です。

市村委員 ここで、もうこの議論は尽きないんですが、ただ、要するに、今よく言われるように、変異というのは繰り返していくわけでありますから、じゃ、このままだと永遠に、変異を繰り返すたびにまた対応しなくちゃいけないということになってしまうので、どこかでやはり政治決断をしなくてはいけないかなというふうに思っていますが、ちょっと一言だけ御見解をいただければと思います。

大竹公述人 ありがとうございます。

 本日申し上げたとおり、そういった、だから、専門家はオプションを提示する、政治的な決断をしていただくというのが国会であり、政府であるというふうに思います。そういう大きな方向性を是非政治で議論していただければというふうに思います。

 ありがとうございます。

市村委員 では、小畑公述人にもお伺いしたいんですが、最低賃金を上げるという議論はもうずっと続いております。ただ、先ほども申し上げましたが、経済成長が緩やかにしていれば緩やかに最低賃金も上がっていったと思うんですが、今お示しいただいた資料にあるように、もう格差がすごい、諸外国との。ただ、これを一気に上げるというのは、やはりなかなか、中小企業をもっと支えなくちゃいけないという公述人のお考えなんですが、中小企業がもたない。私も中小企業の経営者の方々とお話ししますが、いや、ちょっとそんな、最低賃金をいきなり上げろと言われても、それはもたないよということで、もう倒産だということになってしまいます。

 ですから、やはり経済成長が必要だと思うんですが、ちょっと小畑参考人の御見解をまたいただければと思います。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 まず、最低賃金が低過ぎるという話を先ほどさせていただいたわけですけれども、その低過ぎる水準というのが、日本の場合は、一人一人の労働者が生活できないほど低い水準になってしまっているというところがまず問題なので、そこを生活できるような水準にまず上げるということが私たちは非常に重要だというふうに考えています。

 それで、それをやるためには、今お話があったように、今、コロナの問題で、中小企業の皆さん、大変な困難の中にいらっしゃいますので、もちろんその前からも様々な困難を抱えられていたわけですけれども、そこのところに必要な支援をしながら、労働者も生活ができるし、経済も回していくことができる。そして中小企業の皆さんのお仕事もきちんとできるというような、そういうところに国がきちんと政策として踏み込むべきではないかということを私どもとしては主張をしているところで、生計費原則というのが一番大事なところだというところを御理解いただければというふうに思っております。

 例えば、今日お示しした中小企業支援の政策にも書きましたけれども、韓国やフランスなどでは、社会保険料の負担軽減など中小企業支援を拡充して、最低賃金や労働者の賃金が上がるような施策をしているわけですので、是非そうしたことも研究していただいて、国としての政策を進めていただければありがたいと思っております。

 以上です。

市村委員 ありがとうございます。

 かつて、何かトゥーリトル・トゥーレートという議論があったのを覚えておりますが、もはや、そういうことを議論している間もないぐらいの状況だと思います。また日本経済が成長できるように、公述人の皆様にもまた御指導いただきながらやってまいりたいと思います。よろしくお願いします。

 今日はどうもありがとうございました。

根本委員長 次に、斎藤アレックス君。

斎藤(ア)委員 国民民主党の斎藤アレックスでございます。

 本日は、公述人の皆様、大変お忙しい中、また長時間にわたりまして、意見陳述、また御質問に答えていただき、大変ありがとうございます。

 私から、我々国民民主党が掲げている給料が上がる経済を実現するという観点で、少し御示唆をいただきたく、御質問を中心にさせていただければと思っております。

 まず、石上公述人にお伺いしたいと思います。

 今回の予算の中で、また岸田政権の政策の中で賃上げ税制というものがございまして、今審議をされております。我々国民民主党も賃上げを実現したい、もちろん労働者の皆様も賃上げを実現したいという思いは同じだと思いますけれども、今回の政権側から出てきた賃上げ促進税制に関してどういった評価をされているのか、また、どういったところを改善すべきだとお考えになっているのか、教えていただきたいと思います。

石上公述人 ありがとうございます。

 今回の賃上げ促進税制ですが、政府による賃上げの環境整備の一環であるというふうに受け止めておりますけれども、ただ、この税制、一定長い期間行ってまいりましたが、実際には本当にこれが賃上げにつながっているのかどうか、現状の状況を見ると、効果があるのかどうかということについて、やはり検証が必要なのではないかというふうに思います。その意味で、こういった方法で本当に賃上げが実現できるのかどうか、その議論を是非お願いをしたいというふうに思います。

 それと、今回のこの制度設計に関しての懸念、二点申し上げますと、まず、中小企業については、先ほども申し上げましたが、全体の半分ほどしか対象にならないという状況でありまして、そういった意味では不十分ではないかというふうに思いますし、もう一点、休日出勤や時間外労働を増やしてもこの賃上げ税制の対象となるということで、長時間労働を是正するという意味では、これはやはり問題があるというふうに思いますので、是非適用要件の厳格化をお願いしたいというふうに思います。

斎藤(ア)委員 石上公述人、ありがとうございます。

 我々国民民主党としましても、月例賃金をしっかりと引き上げていくということが重要だと考えておりますので、こういった休日出勤や時間外労働が算定に含まれないよう、また、中小事業者、赤字企業が大変多くなっておりますので、こういった事業者も対象になって、賃上げに全体としてつながっていくよう、消費税の減免も含めて検討していくよう政府には求めていきたいと思っております。

 また、これに関連して翁公述人にお伺いしたいと思うんですけれども、今、石上公述人からもありましたが、これまでもこういった賃上げ促進税制というものが導入されてきて、今回それを拡充するという内容だと思うんですが、これまでこういった賃上げ促進税制が余り機能してこなかった理由というところにはどういったものがあるとお考えでしょうか。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 やはりEBPMで、大竹先生がおっしゃったような、こういったことで確認をしていかなければいけない分野ですが、それが必ずしもしっかり検証できていないということだと私は思っております。

 一つ、中堅・中小企業とか製造業、非製造業で分けて分析してみますと、賃金が上がっていない原因はいろいろございまして、中小企業などは、やはり労働生産性がなかなか上がっていないというところが大きな要因になっています。一方で、大企業の製造業とかは、労働分配率がやはり上がっていないというようなこともございまして、やはりそれぞれの置かれている企業によって課題がいろいろ違うのかなというふうに思っております。

 何といっても、やはり労働生産性に合った形で賃金が上がるようにしていくためには中小企業の支援も必要になってくると思いますし、また、労働分配率についてはしっかりそういった生産性と併せて議論していくということで、これも人への投資と関係ありますけれども、コーポレートガバナンスとかこういった方でも、しっかり賃金とか人への投資とか見ていくというようなこともこれから必要になってくるのかなというふうに思っております。

斎藤(ア)委員 ありがとうございます。

 ちょっと唐突かもしれないんですけれども、大竹公述人にも、もし御示唆であったり御知見があったらお伺いしたいんですけれども、日本でなかなか賃上げが生じないとか、あるいは消費が増えないとか、こういったところには多分に行動経済的なマインド面での影響というものがあると想像するんですけれども、こういったところに関して、なぜ賃上げが持続的に行われないのか、消費が日本で活性化しないのかというところについて、何か御知見であったり、対応策みたいなものについてお考えがあれば、是非教えていただければと思います。

大竹公述人 御質問ありがとうございます。

 日本で賃金が上がらない理由というのは、いろいろな分析がありまして、一旦上げると今度下げにくいという、これは世界各国どこでもそうなんですけれども。その背景には、物価がなかなか上がらない。物価が上がらないという前提だと、下げなきゃいけないときに名目で下げなければならない。それは非常に大きなショックを与えます。したがって、物価が継続的に上がる見込みがない下で賃金を上げるというのは、企業にとってはかなり大きな決断になるというわけです。

 では、どうして物価がなかなか上がらないのかということ、これもなかなか難しいんですけれども、物価が上がらないものだという社会規範が形成されてしまったというのは非常に大きい。それに伴って、やはり賃金も上がらないものだという規範になっていて、その前提で全て企業が行動しているというのはあると思います。

 したがって、こういった長いデフレの経験ででき上がってしまった社会規範をどうやって変えていくのかというのは、本当に政府一丸で工夫していく必要があるというふうに思います。

 以上です。

斎藤(ア)委員 突然の質問にもかかわらず、ありがとうございました。

 本当に参考になりまして、我々国民民主党も、こういった意味で、これまで日本政府としても、この三十年間ずっと何とかこの悪循環を断ち切ろうとして取り組んできたけれども実現できていないというところだと思いますので、デフレ予想であったり、賃金が上がらないといった状況、そういった固定観念みたいになってしまっているところを変えていくためにも、政策の力で一度ショックを与えて賃上げを促していくというところに全力を尽くしていきたいと考えておりますので、この点に関しても引き続き御指導いただければというふうに思っております。

 また、賃金が上がるということが実現できると何ができるかといえば、やはり消費が増えるというところだと思います。消費が増えて、そして企業の業績が上がって、さらに設備投資ができるようになって、さらに賃金が上がっていくという、内需がしっかりと機能している先進国であればこういったサイクルができていると思うんですけれども、これを実現するためにも日本で賃上げを実現しなければならないと考えています。

 しかし、先ほど公述人の皆様からも御意見がありましたけれども、やはり、賃上げができても、将来に対する不安というものが解消されなければなかなか消費を増やすことができないというようなお話もありましたけれども、こういった観点に関して、今、財政も非常に厳しい中でございますけれども、石上公述人にお伺いをしたいんですけれども、働く者の、皆様の立場から、今後、どういった形で財政再建であったり、あるいは社会保障制度の、セーフティーネットの機能を強化をすることが望ましいとお考えになっているか。ちょっと、ざっくりとした質問で恐縮ですけれども、教えていただければと思います。

石上公述人 ありがとうございます。

 先ほども述べさせていただきましたが、そこを支える財政的な基盤、そこはやはり非常に重要だというふうに思っておりまして、これは税だけではなく社会保障、保険料も含めてですが、そういったもの全体を国民としてどう負担をしていくのか、国民負担率ですね、それをどこに今設定をし、そして、どういう制度であるのかということを国民に提示をして、やはり議論をしていくということが必要だというふうに思います。

 特に、勤労者というか、納税する、保険料を払う人口というのはどんどん減っていく中で、こういった制度の持続可能性というものを国民にしっかり示していくこと、そこがなければ、やはり将来に対する不安というのは消えないだろうし、その意味では、新しいものにトライをしていく人たちというものもやはり出てこないというふうに思うんですね。

 だから、そういった意味では、国としての将来像をどう示していくかということが非常に重要だというふうに思います。

斎藤(ア)委員 ありがとうございます。

 これはまさしく政治の責任というところでございまして、いろいろなシナリオというものは、やはりこれも専門家の方からお示しをいただいていると思いますし、あとは政治がしっかりと決断をして、決断をする前に国民の皆様に説明をして、国民の皆様にも選んでいただく、そういった真正面からの政策、政治議論がこの社会保障制度改革で必要だと考えておりますので、いただいた御示唆もしっかりと生かしていきたいと考えております。

 これに関連いたしまして、先ほど翁公述人の方からも、安全、安心というものをつくっていくということが経済上も極めて重要だ、こういった御意見がありましたけれども、そういった安心、安全を生み出すための制度というもので、何か方向性であったりイメージというものをお持ちでいらっしゃいましたら、是非教えていただければと思います。

翁公述人 ありがとうございます。

 一つは、先ほど申し上げた就労政策ですね。残念ながら職を失ってしまったり、又はうまくいかなくなってしまっても、新たに教育や訓練を受けてステップアップしていけるというような、そういった社会にしていくということは非常に重要だと思っております。

 また、やはり正規社員と非正規社員には随分差があって、非正規の方の将来不安というのはすごく大きくて、やはり、消費の動向なんかを見ていても、若い方とか非正規の方の消費性向が低いという傾向がございます。そういった意味でも、そういった方々が仕事に就けるようにしていくということは極めて重要だと思っています。

 あとは、やはり社会保障制度の持続可能性、これが見えていないので、やはり老後の不安というのは多くの国民が抱えているというふうに思っています。ですので、ここはどのぐらいのこれから給付が必要になり、どのぐらいの負担が必要なのかというようなことをきちんと明らかにして、国民的な議論はちゃんとしていくということが非常に重要になってきているんじゃないかなというふうに思っております。

斎藤(ア)委員 ありがとうございます。

 生産性を引き上げるであったりとか将来の不安を解消していくために、挑戦もしやすい社会にしていかなければならないということは、これも広く今認識をされている、共有されていることかと思います。

 一方で、なかなか、起業家精神と一くくりに言われるこういったものが、日本でまだまだ育ってこないということも言われているので、そういった、非常にこう言ってしまうと抽象的なものですけれども、取り組んでいかなければならないと思っていますし、また、先ほど少し翁公述人の方からありました、グロースマーケットといいますか、新規公開企業の市場に関しても、改善であったり活性化が必要だというお話があったんですけれども。

 これも私、非常に認識を共有するところでございまして、特に、昨今すごく値段が下がってしまって、市場関係者に失望のようなものも広まってしまっているんですけれども、この新規公開企業の資金調達市場、これをもう一度活性化するというか健全な姿にしていくためにどういったことが必要だということを、こちら、突然で恐縮ですけれども、何か御示唆があれば、是非教えていただければと思います。

翁公述人 ありがとうございます。

 マザーズマーケットがかなり今価格が下がってしまっているということで、大きな問題になっているわけでございますが。

 やはり、大事なのは透明性かなと思っています。プライシング、価格のですね。ですから、やはりそういったことが非常に重要な、透明なマーケットにしていくということが大事だということと、あと、多くの投資家が入っていけるマーケットにしていくということ。日本のマザーズとかは割と上場の基準が、時価総額が低くても上場できるという、世界の中でも非常にその意味では上場しやすいマーケットなんですが、なかなかそこから成長しないということがありまして。ですから、やはり成長をしっかり見守る、モニターしていく、そういった投資家がグロース市場にどんどん入っていくということも非常に重要なのではないかなというふうに思っております。

 また、シンガポールとかそういったところにつきましては、かなり、例えばヘルスケアとか、こういったところについては上場しやすくするとか、割と戦略的にいろいろ考えて施策を打っているところもございます。

 いろいろなやり方があるかと思いますけれども、しっかりと、こういったスタートアップの支援というのを、あらゆる角度から是非御検討いただきたいなというふうに思っております。

斎藤(ア)委員 ありがとうございました。

 時間の関係で皆様に御質問できなくて、大変申し訳ございませんでした。しっかりといただいた御示唆はこれから生かしていきたいと思います。

 時間が来ましたので、終了させていただきます。ありがとうございました。

根本委員長 次に、宮本徹君。

宮本(徹)委員 日本共産党の宮本徹です。

 まず、小畑公述人にお伺いしたいと思います。

 政府が進めているケア労働者の皆さんの賃上げの問題に関わって、この二月からスタートする部分について職場で戸惑いや不満の声がいろいろ上がっているというお話がございましたが、もう少し詳しく御紹介いただけたらと思います。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 今日お配りしました資料の四枚目でしょうか、エッセンシャルワーカーの賃金という資料があると思いますけれども、そもそもケア労働者の賃金は、全産業平均の賃金からも大きく下回るような低賃金になっています。介護士、保育士、福祉、学童保育では、所定内の賃金が月に六万から七万も低いというような状況です。看護師は全産業平均とほぼ同程度ですけれども、諸外国の看護師や保健師の賃金は全産業平均よりも二割から三割高い水準だというふうに言われていますので、日本の場合は非常に低い。

 さらに、ケア労働者の賃金体系は経験を重ねても上がらない、まあ女性の方が多いわけですけれども、これは昨年も指摘をいたしましたが、寝たきり賃金というふうに言われているような賃金になっています。

 この低さに対して、今回、全ての職種ではなくて、一部に限定された人たちに対して、しかも、看護師では一%、四千円、そして、介護士、保育士、福祉、学童保育は三%、九千円ということに対して、非常に金額そのものが低いということが一つあります。

 それから、今も申し上げましたが、二つ目には、例えば看護師だったら、救急車が年二百台以上の大病院の看護師に限定をしている。介護や保育園なども、直接ケアに関わっている方に職員が限定されているというような限定条件がついていることで、非常に不公平だという、職場を分断するようなものに対しての不満の声が上がっているということです。

 三つ目には、非常に拙速過ぎるということで、これは先ほども申し上げたとおりです。

 それで、このことは公務の職場でとりわけ問題になっているんですけれども、条例改定が間に合わないので実施しない、できないとか、賃金の低い会計年度任用職員だけを実施するなどの消極的な自治体の姿勢があらわになっている中で、非常に、せっかく政府が上げると言っているのにそれが実現できないということに対しての不満、不安、怒りの声が上がっているということです。

 以上です。

宮本(徹)委員 今のお話で、自治体の中で条例が間に合わないだとか、そういうお話が出ているということで、これは大変、本来政府が立てた制度設計からしたら深刻な問題じゃないかというふうに思いますが、その辺り、具体的に自治体でどういうことが起きているのか、更に詳しくお聞かせいただけたらと思います。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 例えば、先ほども言いましたけれども、条例改定が間に合わないので実施しないということがあるんですが、まだそれぞれの労働組合と交渉中ですので自治体名までは申し上げられませんが、例えば、保育士の正規職員は賃金水準や近隣の動向を踏まえ賃上げを行わず、会計年度任用職員だけ行うというような自治体があったり、それから、正職員のケア労働者の賃上げは行わないというようなことが言われていたり、また、ある自治体では、賃金体系が変わってしまう、雇用が複雑になる、ほかの職員との公平性が保てなくなるという理由から実施しないという回答があったり、また、別の自治体では、既に十分な賃金を保障している、急に言われても困る、給与は一過性に定めるものではないなどの回答が自治体当局から出ているようです。

 先ほども申し上げましたけれども、政府が、この賃上げ、せっかく政策として打ち出しているわけですので、それが意図したように歓迎されていないということについては非常に問題だと考えているところです。

 以上です。

宮本(徹)委員 ありがとうございます。

 是非、与党の皆さんも地元の自治体でこの政府の策が活用されるように、様々な働きかけもお願いをしたいなというふうに思います。

 続きまして、大竹公述人にお伺いをしたいと思います。

 コロナ対策で極めてメッセージが大事だ、こういう研究があるというお話でございました。今回の日本の新型コロナ対策は、他国と違って、やはり国民の行動変容と自発的な協力というのが本当に鍵になって進めてきているわけですけれども、そういう点で、政府が行うリスクコミュニケーション、とりわけ政治リーダーが行うリスクコミュニケーションについて、どうこの間捉えられていて、どういう御意見をお持ちか、お伺いしたいと思います。

大竹公述人 御質問ありがとうございます。

 政府が行うリスクコミュニケーションについては、やはり、どこが情報発信するかというところがなかなか一本化していなかったように思います。当初の頃は、例えば専門家会議、あるいは分科会もそうです、それから西村大臣も情報発信されていましたし、あるいは時々総理からも発信があるという形で、様々な役割の人が発信をされていたということで、その役割分担が明確じゃなかったかなというふうには私自身は思っております。

 そのときに、今日お話ししたのは、どういう情報発信をすれば効果的なのかということを、もう少しエビデンスを基に政策に使っていくということをしていただければ、より効果的だったのではないかというふうに思います。

 御指摘のとおり、日本人の行動変容は非常に大きくて、厳しい規制でなくてもここまで感染を抑えることができたというのは大きな成果だというふうには思っていますけれども、まだ改善できる余地はあるんじゃないかというのが私の意見です。

 以上です。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。

 続きまして、石上公述人にお伺いしたいと思います。

 男女の賃金格差の是正が極めて大事だというお話がございました。私も本委員会で取り上げてきたんですけれども、例えばアイスランドでは男女の賃金格差の問題について是正のための法的な枠組みがある、事業主の側に男女の賃金が差別されていないということを実証する責任が負わされているという仕組みがございますが、この男女の賃金格差是正に向けての法的な枠組みといいますか、その点についてはどういうお考えをお持ちでしょうか。

石上公述人 ありがとうございます。

 法的な枠組みということですが、活躍推進法の状況把握項目で、選択項目となっています男女の賃金の差異を、義務である基礎項目、まずそこからスタートすべきだなというふうに思っております。

 あわせて、全ての事業主に対して、雇用の全ステージにおける男女別の比率、男女別の配置状況、教育訓練の男女別の受講状況、両立支援制度の導入や男女別の利用状況、男女別の一つ上位の職へ昇進した者の割合、男女の人事評価の結果による差異、非正規雇用から正規雇用への転換制度の有無と転換実績データの男女別データ、各項目に関する現状把握、分析、情報開示なども、義務として、格差是正に向けた具体的なデータによる取組を行うべきだというふうに思います。

宮本(徹)委員 ありがとうございます。

 続きまして、翁公述人にお伺いしたいと思います。

 人への投資が重要だというお話をいただきました。

 日本は、OECD諸国の中で女性が大学院でも四年制大学でも進学率が男性より低い唯一の国だということも先日予算委員会で取り上げさせていただきました。

 やはり、女性の皆さんが更に活躍できる社会にしていかなければならないと思うんですけれども、その点でどういう改善策が必要だとお考えなのか、お伺いしたいと思います。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 この問題は本当にいろいろなことを解決していく必要があるというふうに思っております。

 まず、やはり女性が働き続けるということがなかなか難しいです。一時的に正規社員になっても、今、M字カーブは大分解消しておりますけれども、非正規になってしまう方が多くて、パートに変わってしまう方が多くて、L字カーブといいますけれども。そういう意味で、やはり女性が家族の生活と両立して働くということがまだまだ日本全体ではできていないというふうに思っています。

 その意味で、しっかりとそういった働き方改革を進めていくということは非常に大事だと思っておりますし、あと、先ほど御指摘、ほかの公述人の方からありましたけれども、やはり性別役割分担の意識、こういったところも家族から変えて、男女が共に子育てもし、仕事もする、そういう社会にだんだん変わっていくということが大事かなと。そして、子供が育てやすい社会になっていくということも非常に大事だと思っています。

 また、女性の管理職、こういったこともかなりいろんな企業が努力するようになってきていますけれども、やはり、ある程度明確な目標を持って、女性にもどんどん、今まで余り人的投資はなかったかもしれませんけれども、そういった方々にもチャンスがあるということを自覚してもらって、しっかりと教育や訓練もし、そして管理職にどんどんなっていく、そういうのが当たり前になるような社会で、企業全体にもお取り組みいただきたいなというふうに思っております。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。

 まだ時間がありますので、小畑公述人に改めてお伺いをしたいと思います。

 雇用保険制度についても言及がございましたが、雇用調整助成金の特例措置が、今、三月までということになっているわけでございますが、この点について、現場の感覚からすればどうお考えなのか、お伺いしたいと思います。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 コロナ禍に対応した雇用調整助成金の特例措置については、これまでも公述人の皆さんからもお話がありましたように、失業者の発生を抑える効果を発揮してきたというふうに思っております。同時に、先ほども私も触れましたが、給付日額の限度を引き上げたことによって、休業中の労働者の生活を守ることもできました。

 全労連が組織をしている職場の労働組合からも、この助成金の活用によって雇用が守られたということが報告をされています。この制度を活用している事業所では労働者の雇用を確保してきたことから、事業再開が速やかに行うことができているということも聞いております。

 コロナ後の企業経営にとって労働者の確保は非常に重要な問題です。一度雇用関係が切れると労働者の確保が難しいというのはこの間様々なところで言われていることだと思いますが、経営に大きな影響を与えることがあるというふうに思います。

 コロナ禍の先行きがまだまだ見通せない中、特例措置を終了するということは早過ぎるというふうに考えています。政府には、是非この特例措置の延長を行っていただきたいというふうに思いますし、同時に、基本日額の特例措置も継続するようにお願いをしたいと思います。

 以上です。

宮本(徹)委員 ありがとうございます。

 最後に、石上公述人にもう一問お伺いしたいと思いますが、コロナ禍三年目を迎えることになるわけですけれども、労働組合に寄せられる労働者の皆さんの相談というのはどういう形になってきているでしょうか。特徴とか変化とかあれば、教えていただけたらと思います。

石上公述人 ありがとうございます。

 連合としては、この間もずっと労働相談を受け付けてきているわけですが、やはり、コロナ発生によって様々な相談が激増したというのが実態です。特に雇用の問題を含めて、多く上げられてまいりました。

 先ほどもお話ししたとおり、女性や非正規労働のところに多くのしわ寄せが行って、やはりそういった人たちからの相談も多くありましたし、我々としては、連合としては、取り組み始めたところですけれども、フリーランスの人たちの相談も実は受け入れて、今相談に乗っております。そういった人たちから、労働者とまだ認定をされてなく労働組合をつくれない人たち、そういった人たちからの相談も多くなっているというのが実態です。

宮本(徹)委員 ありがとうございました。時間になりましたので、終わります。

根本委員長 次に、仁木博文君。

仁木委員 有志の会の仁木博文と申します。

 今日は、四人の公述人の皆様方、本当にお話、ありがとうございます。

 私、ここにまた戻ってきましたが、医師として治療しておりまして、その際に、EBM、エビデンス・ベースド・メディスンという言葉がありますけれども、科学的根拠に基づいたいわゆる医療、まさに限られた資源ですから、手術をする、薬物療法をして患者さんがどのようになったかというのを、患者さんにも選んでいただきますけれども、私たちもそういうことを提示して選択の余地を与える、これは大切なことだと思いまして、後ほど、エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング、EBPMという形でお話しされている大竹先生にまた後で御質問したいというふうに考えております。

 そして、まず、私、端的に、今、地元徳島を歩いておりまして不安に思っていることがあります。それは、コロナ対策ということで様々な政府からの助成金があります。また、それに加わって、コロナ融資という言葉がありますように、多くの方々が何とか、特に中小企業中心ですけれども、雇用をつないだり、事業を継続することが可能になっていますが、御案内のように、三年間は無利子であったりすることが多い、けれども、本格的な返済が始まったときに、事業そのものがうまくいっていないのにどのようにして返済していくのか、事業本体が回っていないのにどのように雇用をつないでいくのかという不安なこともあるわけです。

 こういったことに対して、もちろん、そのときになったら、いわゆるアフターコロナショックなる、いわゆるリーマン・ショックの次のようなことが起こるかもしれませんので、そうならないように政府も頑張っていただくとは思いますが、例えば、こういった端的な状態、今日は翁公述人からは、中長期的な、いわゆるいろいろな業態がシフトしなければいけない、新たなデジタルとかグリーンとかそういった分野にシフトしていくべきだということもおっしゃったんですけれども、端的な、コロナで、そういった、今後近いうちに遭遇する、あるいはせざるを得ない中小企業の方々に対して、専門的なお立場から何か政策あるいはお考えがありましたら、教えていただきたいと思います。

翁公述人 御質問ありがとうございます。

 私も大変心配しております。来年あたりからゼロゼロ融資の期限が来ます。その意味では、もう今年ぐらいから、どういうふうにその企業のビジネスモデルをアフターコロナの社会に適合するように変えていくかということをしっかり議論していくということが大事だと思っております。

 やはり、過剰債務になっている企業も少なからずあると思います。その意味では、金融機関がやはりそういった相談にしっかり乗って、アフターコロナのビジネスモデルについてどう考えるのかということを早め早めに議論をしていくということが大事かと思っています。

 取りあえずコロナ対応で命をつないだ企業も多いので、この対応自体については評価をしているんですけれども、やはり、その後にしっかりとリストラクチャリングしていったり、又はビジネス転換していったり、ビジネスモデルを転換していくということをしっかり早めに議論を始めるということが今求められていると思っております。

仁木委員 これは帝国データバンクのデータではありますけれども、健全に、例えば好景気の中でも倒産というか、それはある程度あるわけですけれども、先ほど私が述べたことの裏返しかもしれませんが、結果的に、二〇二一年、特に前半、その前後一年というのは、政府あるいはその融資、そういった公的なサポート的なものが中小企業に加わって、実際に倒産件数が減っているんですね。ですから、健全な経済成長、いわゆる好景気の中でも倒産があるということは、やはり、健全な新陳代謝というか、企業の、今、翁公述人も、業態変化、いわゆるシフトのことをおっしゃられましたから、個々の企業も変わっていく、あるいは、個々の業界がまた新たな業界へ行って新たな市場を広げていくということは非常に重要だと思います。

 私も今日お話を聞いて改めて思いましたのは、時間はかかっても、やはり教育。特に、若者に向けての、子供時代からの、マネー教育も含めて、電子マネーを中心としたもの。お金の教育も余り今、公的な学校、義務教育の中ではないわけですけれども、今、実際、学校を出て、子供も十分電子マネーを使っていわゆる消費をするような時代でもありますし、そういったことをやはり政府的にも、行政としてもやっていくべきだというふうに思っております。

 片や、また、この四月から、伴走型のいわゆる支援、特別保証制度というのがありまして、私はやはり、この企業さん、この事業に融資してもいいですよということを担う人材、これは目利きというふうに言ってもいいかもしれませんが、そういった分野を民間のバンカーに頼っていくというふうなこともあります。そこに、政府系の金融、融資を担うような方々、あるいは、そうでなくても、こういった国の事業の中で、今、コロナ融資に象徴されるような公的なお金が注がれるようなところの目利きをするコンシェルジュみたいな人の存在というのは、非常に重要だと考えています。そのことに対してまたお答えいただきたいんです。

 もう一点。今、地元で、こういう中小企業の社長さんの声をお聞きします。それは食品メーカーであったりアパレル関係ですけれども、仁木さん、注文はあるんだけれども、増産できないと。その理由が、人がいないというんですね。例えば、技能実習生に象徴されるような外国人労働者、これがコロナ禍でなかなか日本に入国できない状況もあります。あるいは、そうでなくても、やはり地方においては労働者人口が減っています。高齢者は増えていますけれども、労働者は減っているというふうな実態がありますし。

 また、そういった方々に対しての、私、中で頑張っている企業さんもありまして、それは何かというと、障害者とか、今おっしゃったM字カーブに象徴されるような女性であるとか、あるいはがん患者さんに象徴される、一旦、がんと宣告されて、治療があるから最前線での前の会社を辞めたんだけれども、またある程度サバイブして元気になって働けるような状態の方も、結構数字としてはいると思うんですね。そういった方々をまた新たなところへつないでいくような、言ったら、スーパーハローワークみたいな人材。

 いわゆる、特に、障害者ということを先ほど私は申しましたが、最初の障害者、いろいろあるわけですけれども、知的障害であったとしても発達障害であったとしても、例えば、ある分野ではすごくたけているような方もたくさんいらっしゃいますし、そういった方々とコミュニケーションができて、そしてまた、企業が要求するような仕事のこともよく分かっていて、そこを結びつけるような、そういう人材というのも必要だと考えています。

 そういった、私、もろもろ二点を主に質問したわけでございますけれども、翁公述人の御回答をいただければうれしいです。

翁公述人 ありがとうございます。

 目利きというのは非常に重要だと思っております。特に金融機関の融資や保証をする際にも、やはり、そのビジネスがどのぐらいサステーナブルかということをしっかり見極めるということで、場合によってはそれをサポートしてアドバイスをする、そういうことがないとお金も生きていきませんし、やはり、そういった人たちが育っていくということは大事だと思っています。

 元々は、銀行とか地銀とかローカルバンク、信用組合、信用金庫とか、そういった人たちがいらっしゃるんですけれども、どうしても貸出しの方で見てしまうので、エクイティー目線というのがなくて、どうやったらビジネスが育っていくかということについての目線がまだ不十分なところもあります。そういう意味では、金融機関もそういった勉強をしていく必要があると思いますし、それ以外の方も一緒になってそういった支援をしていくということが大変重要かと思っています。

 それから、後半につきましては、いろいろな方が本当は社会で活躍したいと思っていると思います。その意味では、高齢者の方とか障害者の方でも、いろいろな活躍の場、又は社会に貢献したいというところの場というのはあるはずなので、そういう方をうまくマッチングしていく。それは、人材もありますし、デジタルの力をかりてもいいのかもしれません。そういう形で、うまくそういった人手不足のところに人が集まるような仕組み、又はそういったコンシェルジュ的な方、こういった方を地域地域で考えていくということは大きな課題であるというふうに思っております。

仁木委員 ありがとうございました。

 それでは、大竹公述人に質問したいと思います。

 今、私たち、例えば政治家が税金とかを使っていく際に、EBPMという中で、様々な政策があったときに、それが本当に有効だったのだろうか。乗数効果とかいろいろ言葉がありますけれども、かつて、例えば、ばらまきと言われた子ども手当とか、あるいは十万円の定額給付、コロナ禍でそういう形で実施されましたけれども、それが、お金に色がないので、実際どういう形で流れていったのかというのははっきりできないわけでございますが、やはり、私もいろいろな形で、例えば、ワクチン接種記録システム、VRSとかの活用をもっと広げて、利活用していこうということを言っても、例えば省庁の壁であったり法律の壁であったりすることがあって、なかなか、スタディー、こういうエビデンスを出したいからこういったデータを集めなきゃいけない、こういった方法で集めなきゃいけないときに妨げになっていることが結構あるんですね。

 私はまず、今、個人のあるいは企業の情報というときに、個人情報保護法というのがあります。これはある種いい法律かもしれないんですけれども、地元で例えば同窓会がしにくくなっているとか、そういう負の面もあると思いますし、そういう意味では、国民の側に立った情報基本法という、どなたがどういう権限を持って何のために使うのか、そして、悪用されたりミスがあったときにどういう罰則があるのかというのを決めることによって、具体的に、今そういったデジタル行政の中で回りつつあるマイナンバー制度を、加盟率を高めていって、先生が言われているようなEBPMをつくっていくということは非常に大切だというふうに私は思うわけでございますけれども、先生の御所見、改めていただけたらと思います。

大竹公述人 御質問、御意見ありがとうございます。

 おっしゃるとおりだと思います。私も、個人情報を守りながら、エビデンス、政策効果を検証する、事前、事後両方ですね、過去に行った政策の効果を検証していく、そして、これから行う政策についても事前に効果を検証しながら本格的に実装していく、そういうプロセスを進めるためにも、既に行政内にあるデータを有効利用できるようにするということが重要だと思います。

 特に、行政のデータ、今、ワクチン接種のデータもそうですけれども、リアルタイムにあるデータなんですね。リアルタイムにあるデータをより有効に使っていくということが、迅速で有効な政策形成に役立つというふうに思います。

 以上です。

仁木委員 済みません、最後の質問になるかもしれませんが、石上公述人そして小畑公述人にもお聞きしたいんですけれども、これは具体的なことなんですけれども、今、コロナに対して様々な、医療、介護の現場でしわ寄せが来ています。

 その中で、例えば介護の現場とかは特徴的なんですが、資格のある人というか、いわゆる制度上その方々がいないと例えば介護給付費等々が入ってこないということは、給与アップは多少は、まあ今少ないという議論が出ていますけれども、あったんですけれども、それに加えて、実際、個々の介護施設においては、事務の方とかが、そういった介護の現場の人たち、有資格者がやるようなことをやっていることも結構あるんですね。電話対応も本当にすごい時間を要します。コロナでなければすごく面会できたり、あるいは、いわゆる、直接会って、違うカウンターパートナーの方がいて済む話が、みんな事務の方にしわ寄せになっていくんだけれども、その事務の方々は実際評価をされていない、いわゆるそういう現実があります。

 そういったことに対して、もちろん例えば組合も加盟率は低いと思うんですけれども、そういう組合にも入っていただき、そういうのを政治に届けるということも一つの手法だと思いますけれども、何かそのことに関して、まず認識があるのかどうかと、何か対策がございましたら、お二人、お答えいただけたらと思います。

 ちょっと事前にお話ししていなかったので、済みません。

石上公述人 ありがとうございます。

 今言われたような状況、病院も介護も含めて、職場の中には様々あるというふうに思います。

 先ほども少しあったんですけれども、今回の賃上げなどでも、職場の中でそこの職種だけを引き上げるということはなかなか難しいみたいなことも含めて、職種間の様々な問題点というのはやはりあるんだというふうに思います。

 労働組合としては、やはり、その職場の中の公平性なり妥当性なりというものをしっかり担保していく、組合員の納得性みたいなところが重要になりますので、そこはどうしても難しい課題になるんですけれども、ただ、言われたとおり、組合の、特に介護職場においては組織率も低いですし、そういったことの展開も、是非我々としてはしっかりやっていきたいというふうに思っております。

小畑公述人 御質問ありがとうございます。

 私の最初の発言の中でも強調させていただいたところを更に強調していただいて、本当にありがとうございました。

 例えば、介護の分野でも、この賃金の上げるところにヘルパーさんは入っていないとか、様々な問題があるんですね。それで、私たちは、そういう限定されたことによって職場が分断されてしまうということは非常におかしなことなわけなので、労働組合として、そういう皆さんも、組織を広げながら、全てのケア労働に関わる皆さんの賃上げをということで、この春闘では、取り立ててこの問題は大きく取り上げて展開をしているところですので、更に頑張ってまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

仁木委員 ありがとうございました。

根本委員長 これにて公述人に対する質疑は終了いたしました。

 公述人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、誠にありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 以上をもちまして公聴会は終了いたしました。

 次回は、来る十八日午前八時五十五分から委員会を開会し、集中審議を行うこととし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時六分散会


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