衆議院

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第13号 令和4年4月5日(火曜日)

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令和四年四月五日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 薗浦健太郎君

   理事 井林 辰憲君 理事 越智 隆雄君

   理事 中西 健治君 理事 藤丸  敏君

   理事 稲富 修二君 理事 末松 義規君

   理事 吉田 豊史君 理事 角田 秀穂君

      井上 貴博君    石井  拓君

      石原 正敬君    門山 宏哲君

      神田 憲次君    神田 潤一君

      小泉 龍司君    高村 正大君

      塩崎 彰久君    鈴木 隼人君

      田野瀬太道君    中川 貴元君

      藤原  崇君    三ッ林裕巳君

      八木 哲也君    山田 賢司君

      山田 美樹君    若林 健太君

      鷲尾英一郎君    江田 憲司君

      櫻井  周君    下条 みつ君

      中川 正春君    野田 佳彦君

      伴野  豊君    赤木 正幸君

      沢田  良君    藤巻 健太君

      中川 宏昌君    岸本 周平君

      田村 貴昭君

    …………………………………

   財務大臣

   国務大臣

   (金融担当)       鈴木 俊一君

   内閣府副大臣       黄川田仁志君

   財務副大臣        岡本 三成君

   内閣府大臣政務官     宗清 皇一君

   財務大臣政務官      高村 正大君

   財務大臣政務官      藤原  崇君

   政府参考人

   (金融庁監督局長)    栗田 照久君

   政府参考人

   (財務省国際局長)    三村  淳君

   参考人

   (日本銀行総裁)     黒田 東彦君

   参考人

   (日本銀行理事)     内田 眞一君

   参考人

   (日本銀行理事)     山田 泰弘君

   参考人

   (日本銀行理事)     清水 季子君

   参考人

   (日本銀行理事)     加藤  毅君

   財務金融委員会専門員   鈴木 祥一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月五日

 辞任         補欠選任

  井上 貴博君     山田 賢司君

同日

 辞任         補欠選任

  山田 賢司君     井上 貴博君

    ―――――――――――――

四月四日

 公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案(内閣提出第四〇号)

三月三十日

 新型コロナ危機打開のため緊急に消費税率を五%に引き下げること等に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第六七四号)

 同(笠井亮君紹介)(第六七五号)

 同(穀田恵二君紹介)(第六七六号)

 同(志位和夫君紹介)(第六七七号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第六七八号)

 同(田村貴昭君紹介)(第六七九号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第六八〇号)

 同(宮本岳志君紹介)(第六八一号)

 同(宮本徹君紹介)(第六八二号)

 同(本村伸子君紹介)(第六八三号)

 消費税率の引下げと適格請求書等保存方式導入中止に関する請願(たがや亮君紹介)(第七二五号)

 同(山崎誠君紹介)(第七二六号)

 同(奥野総一郎君紹介)(第七三一号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第七四一号)

 同(笠井亮君紹介)(第七四二号)

 同(穀田恵二君紹介)(第七四三号)

 同(志位和夫君紹介)(第七四四号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第七四五号)

 同(田村貴昭君紹介)(第七四六号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第七四七号)

 同(宮本岳志君紹介)(第七四八号)

 同(宮本徹君紹介)(第七四九号)

 同(本村伸子君紹介)(第七五〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案(内閣提出第四〇号)

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

薗浦委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁黒田東彦君、理事内田眞一君、理事山田泰弘君、理事清水季子君、理事加藤毅君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として金融庁監督局長栗田照久君、財務省国際局長三村淳君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

薗浦委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

薗浦委員長 去る令和三年六月二十二日及び十二月十日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、それぞれ国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁黒田東彦君。

黒田参考人 日本銀行は、毎年六月と十二月に通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出いたしております。本日、最近の経済金融情勢と日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をいただき、厚く御礼申し上げます。

 まず、最近の経済金融情勢について御説明いたします。

 我が国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響などから一部に弱めの動きも見られますが、基調としては持ち直しています。海外経済は、国、地域ごとにばらつきを伴いつつ、総じて見れば回復しています。ただし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、国際金融資本市場では不安定な動きが見られるほか、原油などの資源価格も大幅に上昇しています。そうした下で、輸出や生産は、供給制約の影響を残しつつも、基調としては増加を続けています。三月短観では企業の業況感は小幅に悪化しましたが、企業収益は全体として改善を続けており、設備投資は持ち直しています。一方、個人消費は、年始以降のオミクロン株流行による下押し圧力の強まりから、持ち直しが一服しています。先行きの我が国経済は、資源価格上昇の影響を受けつつも、感染症による下押し圧力や供給制約の影響が和らぐ下で、財政金融政策の下支えもあって、回復していくと見ています。

 物価面を見ますと、消費者物価の前年比は、足下ではゼロ%台半ばとなっています。当面、エネルギー価格が大幅に上昇し、原材料コスト上昇の価格転嫁も進む下で、携帯電話通信料下落の影響も剥落していくことから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想されます。この間、マクロ的な需給バランスの改善や中長期的な予想物価上昇率の高まりなどを背景に、基調的な物価上昇圧力は高まっていくと考えています。

 先行きのリスク要因としては、引き続き、変異株を含む感染症の動向や、それが内外経済に与える影響に注意が必要です。また、ウクライナ情勢が国際金融資本市場や資源価格、海外経済の動向等を通じて我が国の経済、物価に及ぼす影響についても、極めて不確実性が高いと考えています。我が国の金融システムについて見ると、感染症の影響の下でも、全体として安定性を維持しています。より長期的な金融面のリスクとしては、金融機関収益の下押しが長期化すると、金融仲介が停滞方向に向かうおそれがあります。一方、利回り追求行動などに起因して、金融システム面の脆弱性が高まる可能性もあります。現時点ではこれらのリスクは大きくないと判断していますが、先行きの動向を注視する必要があります。

 次に、金融政策運営について御説明申し上げます。

 我が国のGDPは、依然として感染症拡大前の水準を下回って推移しています。消費者物価の前年比は、目先、プラス幅をはっきりと拡大すると予想されますが、主因はエネルギー価格の上昇です。こうした輸入コストの上昇に起因する物価上昇は、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて我が国経済に下押しの影響を与える可能性があります。

 このような経済、物価情勢を踏まえ、日本銀行としては、現在のイールドカーブコントロールを軸とする強力な金融緩和を粘り強く続けることで、感染症からの回復途上にある経済活動をしっかりと支え、二%の物価安定の目標の持続的、安定的な実現を目指してまいります。

 その上で、日本銀行としては、内外の情勢を注視しつつ、潤沢な流動性の供給等を通じて、引き続き金融市場の安定確保に努めるとともに、感染症対応融資を行う金融機関に対し、低利の資金を供給する新型コロナ対応金融支援特別オペを通じて、中小企業等の資金繰り支援に万全を期してまいります。

 ありがとうございました。

薗浦委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

薗浦委員長 質疑の申出がありますので、順次これを許します。神田潤一君。

神田(潤)委員 皆さん、おはようございます。自由民主党の神田潤一でございます。青森二区の選出でございます。

 まずは、ロシアによるウクライナ侵略によって、罪もないたくさんの方々が犠牲になっております。こうした方々に深い哀悼の意を表させていただきます。

 また、この残虐で非道な戦争を一日も早く終わらせるべく、経済制裁や金融制裁を速やかに導入し、また、継続している経済界、金融界の皆さんに深い敬意を表させていただきます。

 また、物価上昇、あるいはエネルギー価格の上昇の中で耐えている国民の皆さんに誇りを感じると同時に、やはり深い敬意を表させていただきたいと思います。

 さて、私は、昨年十月の衆議院議員選挙で初当選いたしましたが、元々は新卒で日本銀行に入行させていただきました。その間、金融庁や日本生命に出向したりしながら、二十三年間勤務させていただきました。その後、IT企業のマネーフォワードに転職をいたしまして、四年間勤めた後、大島理森前議長の後継として政治の道に入りました。

 本日は、私の古巣の日本銀行黒田総裁にもおいでいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず、インフレ率と日本経済の成長力について伺います。

 岸田政権では、新しい資本主義政策の下で、成長と分配の好循環を目指して取組を進め、賃上げ税制などによる効果もあって、二〇二二年の春季労使交渉、春闘ですね、こちらにおける賃上げ率は、連合によりますと、二・一四%程度と現時点で見込まれていると言われています。

 一方で、インフレ率の方は、ただいまの黒田総裁の御報告にもあったとおり、エネルギー価格の上昇や輸入品の高騰などにより足下は上昇傾向を強めていくというふうに考えられています。

 仮にこのインフレ率が二%程度で推移するということになりますと、先ほどの賃上げによる名目所得の上昇率のほとんどをこうしたインフレ率の上昇によって相殺してしまうということになってしまいます。そうすると、実質所得がほとんど増えずに、岸田政権の目指す、賃上げによって消費を拡大していくという好循環へと結びついていかないという懸念が出てまいります。

 日本銀行は、今、二%の物価上昇を達成することを目標に金融緩和を継続しておられますが、インフレ率を上回る所得向上を継続的に実現するためには、労働生産性や潜在成長力の上昇など、日本経済全体の成長力を抜本的に高めていく必要があると考えております。

 そこで、まず、日本銀行に質問です。

 今後のインフレ率の見通しをどのようにお考えでしょうか。また、インフレを上回る所得の上昇を達成する観点から、日本経済全体の成長力を高めていくことの重要性についても、併せて伺いたいと思います。

内田参考人 お答え申し上げます。

 消費者物価、生鮮食品を除くベースで見ますと、昨年の携帯電話通信料引下げの影響が見られますが、一方で、ガソリンなどのエネルギー価格、それから食料工業製品などの上昇を反映いたしまして、二月は前年比でプラスの〇・六%と上昇率を高めております。

 先行きは、ウクライナ情勢を受けた資源価格の上昇を背景に、エネルギー価格が大幅に上昇しますし、食料品を中心に原材料コストの上昇の価格転嫁も進むというふうに考えられますので、かつ、一方で、携帯電話通信料の下落の影響も剥落いたします。当面、CPIの前年比はプラス幅をはっきりと拡大するというふうに予測しております。

 先生御指摘のとおり、今後のエネルギー価格の動向、それから、それに対する政府の御対応等にもよりますが、四月以降、当分の間、二%程度の伸びとなる可能性が高いというふうに思っております。

 これも御指摘のとおりでございますが、二%の物価安定の目標を安定的に実現するためには、単に物価が上昇するということではなく、企業収益それから賃金が上昇して実質所得が増加する中で物価も上昇するという好循環が形成されることが必要であるというふうに考えております。

 そうした観点から、日本銀行といたしましては、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで経済をしっかりと支えていきたいというふうに思っております。また、これも御指摘のとおり、そうした緩和的な金融環境の下で、様々な主体の取組によりまして、我が国経済の生産性それから成長力が高まることが重要であると考えております。この点は、二〇一三年一月の政府と日本銀行の共同声明におきましても意識されているところでございます。

 こうした形で潜在成長率が上昇すれば、自然利子率の上昇などを通じて金融政策の有効性も高まっていくというふうに考えられますので、物価安定の持続的な実現につながるものと考えております。

神田(潤)委員 ありがとうございます。

 それでは、配付させていただきました資料を御覧いただきたいと思います。

 こちらは、二〇〇〇年以降の日米の株式の時価総額の推移になります。大槻先生から御提供いただいたものになります。

 こちらを見ますと、左側の図になりますが、米国のS&Pの株価指数の対象企業からグーグルやアマゾンなどGAFAMと言われる大型成長株を除いた時価総額と、日本の五大電気機器メーカーを除いたTOPIXの時価総額の推移を並べたものになります。

 こちらを見ますと、新型コロナが発生するまでの二〇〇〇年から二〇二〇年頃までの二十年間は、日米の株価の時価総額の推移は余り変わらなかったということが分かるかと思います。また、右側のグラフを見ますと、日米の株価時価総額の差の大部分はこの大型成長株の差であるということが分かると思います。

 つまり、変化のスピードが非常に速い現代においては、最も成長の速い最先端の分野で他の分野を牽引するような成長企業を生み出せるかどうかが国全体の経済成長力の大きな違いとなっているということが言えるのではないかと考えています。

 こうした観点から、成長スピードの速いデジタルやインターネットの最新分野であり、アニメやゲームといった日本の強みのある分野と相性のよいウェブ3やNFT、ノンファンジブルトークンと略しますが、こちらなどのデジタル分野の推進、あるいは成長企業を生み出していくためのスタートアップエコシステムの推進を今後の日本の成長戦略の柱として位置づけることが重要と考えており、先週、自由民主党のプロジェクトチームでこの二つのテーマに関する提言の案を取りまとめさせていただきました。

 そこで、金融庁に質問させていただきます。

 これらのペーパーの中では、こうした新しい分野の政策を推進していくためには、NFT取引などの基盤となる暗号資産やスタートアップ関連の規制、会計制度、税制など、関連する社会基盤やルールを整備する必要があると提言をしています。この点について金融庁のお考えを伺いたいと思います。

黄川田副大臣 神田先生がおっしゃいますウェブ3やNFTなどの基盤となるブロックチェーン技術については、様々な分野で利活用の可能性があると認識しております。

 金融庁としても、イノベーションの担い手でありますスタートアップの支援は日本企業の成長力強化のためにも重要と考えておりまして、これまでも、利用者保護や金融犯罪防止とのバランスを考慮しつつ、金融分野の技術革新に対応すべく、制度面での対応を含む所要の措置を行ってまいりました。

 例えば、イノベーション促進と利用者保護等のバランスを考慮しつつ、暗号資産交換業者に関する制度整備や見直しを実施してきたほか、特に、イノベーション支援の観点からは、金融庁内にフィンテックサポートデスクを設置し、スタートアップ企業を含む事業者からの相談にきめ細かく対応しております。

 そのほか、フィンテック実証実験ハブとして、金融庁内に担当チームを結成いたしました。スタートアップ企業や金融機関がイノベーションに向けた実証実験を行うことができるように支援するといった取組を行ってきております。

 金融庁としては、引き続き、こうした取組を含め、利用者保護等に十分配意した、責任あるイノベーションの実現に向けて取り組んでまいりたいと考えております。

神田(潤)委員 黄川田副大臣、ありがとうございます。

 こうしたウェブ3やNFTのほか、電子マネーや暗号資産、フィンテックなどの金融のデジタル化を推進していくためには、それらのアプリやサービスに基礎的な決済手段を提供するインフラとして、中央銀行デジタル通貨、つまりCBDCの役割が重要と考えられています。

 そこで、日本銀行に質問です。二つ質問させてください。

 CBDCのこれまでの取組状況について教えてください。また、海外の主要国におけるCBDCの検討状況や、それらを踏まえた日本銀行の取組、スタンスについても簡潔に教えてください。

内田参考人 お答え申し上げます。

 日本銀行では、昨年の四月、CBDCに関する実証実験を開始いたしまして、この三月までに、CBDCに求められる基本機能が技術的に可能かどうかの検証を終了いたしました。今月からは、より複雑な周辺機能の実現可能性や課題を検証する、実験の第二段階に移行しているところでございます。

 また、これらと並行いたしまして、中央銀行と民間事業者の協調、分担の在り方、それから、その下でのCBDCの活用方針、活用方法などにつきまして、制度設計面の検討にも取り組んでおるところでございます。

 一方、海外でございますが、欧州中央銀行は、昨年十月に正式にスタートいたしましたデジタルユーロプロジェクトの下で、様々な実務的な課題への対応を進めております。米国でも、本年一月、FRBが、CBDCの潜在的な利点やリスク、それから政策上の検討事項などを整理したディスカッションペーパーを公表し、様々な経済主体との対話を進めているところでございます。

 この間、私どもを含めました七つの主要中央銀行から成る共同研究グループにおきましても、CBDCの制度設計、それから先端的な技術に関する分析、検討を進めているところでございます。

 日本銀行として、現時点でCBDCを発行する計画はございませんが、御指摘のとおり、デジタル社会において、我が国の決済システム全体の安定性、それから効率性を確保することは極めて重要であると考えております。

 今後とも、様々な環境変化に適切に対応できるよう、しっかり検討を進めてまいりたいと思っております。

神田(潤)委員 内田理事、ありがとうございます。

 最後に、黒田総裁に伺います。

 黒田総裁は、先週のフィンテックサミット、通称フィンサムで、メタバースなどのデジタル化は消費者と事業者の新結合を生むイノベーションであるという御趣旨の御挨拶をされました。実は、私は、金融庁出向中の二〇一六年に第一回のフィンサムを企画し、運営した主担当でした。日銀総裁に御登壇いただけるというのは感慨無量でございました。

 そこで、最後に、ここまでの総括として伺いたいと思います。

 日本経済の成長力を向上させる観点から、金融のデジタル化の基盤となるCBDCの導入に向けた検討や準備を着実に進めておくことは極めて重要と考えられます。日本銀行には引き続き前向きな取組を期待したいと思いますが、黒田総裁のお考えを伺えれば幸いです。

黒田参考人 先日のフィンサムの講演では、デジタルの世界には事業者と消費者との間で様々な新たな組合せが生まれてくる可能性があり、こうした結合が生まれる中で、中央銀行マネーがどのような役割を果たしていくべきか、内外の知見をかりながら考えていきたいという趣旨のことを申し上げました。

 先ほど内田理事から申し上げたとおり、日本銀行としては、現時点でCBDCを発行する計画はありませんが、やはり、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、引き続きしっかりと準備を進めていく必要があるというふうに考えております。仮にCBDCを発行するとした場合には、民間事業者の創意工夫によってCBDCを活用した様々なサービスが提供されるような、そういった制度設計とすることが重要であるというふうに考えております。

 いずれにいたしましても、決済システム全体として、デジタル社会にふさわしい安定的、効率的なシステムを構築していくよう貢献してまいりたいというふうに考えております。

神田(潤)委員 黒田総裁、大変力強い前向きな御答弁をありがとうございました。

 以上で質問を終了いたします。

薗浦委員長 次に、中川宏昌君。

中川(宏)委員 公明党の中川宏昌でございます。

 通貨及び金融の調節に関する報告書について、関連も含め質疑をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 初めに、日本の物価動向についてお伺いをいたします。

 現在の物価動向ですが、アメリカや欧州は、コロナ禍において、昨年の春以降、日本より早く感染対策を緩和し、経済活動を開始いたしました。アメリカでは、就業率が上がらず、供給が追いつかない状態となり、物価が上昇いたしました。

 アメリカや世界の影響下の中、日本でも、資材や原油の高騰となり、更にウクライナ情勢の影響もあり、いわゆるコストプッシュ型の物価上昇が起こりました。これは、日銀の目指している物価上昇とは違い、いわば好ましくない物価上昇と言われております。

 そこで、日本におけるコストプッシュ型の物価上昇は一時的なものなのか、それとも続いていくと見られているのか、お伺いをいたします。

内田参考人 お答え申し上げます。

 原油等の資源価格、それから小麦等の穀物価格ですが、ウクライナ情勢もございまして大幅に上昇しております。こうした下で、先行きの消費者物価の前年比は、エネルギー価格が大幅に上昇し、食料品を中心に原材料コスト上昇の価格転嫁も進む下で、一方で携帯電話通信料下落の影響が剥落していきますので、当面プラス幅をはっきりと拡大するというふうに予測しております。

 もっとも、御指摘のとおりですが、コストプッシュ型の物価上昇というのは、家計の実質所得の減少あるいは企業収益の悪化を通じまして景気に悪影響を及ぼしますので、結果的には基調的な物価上昇率に低下の圧力をかける面もございます。このため、現在のコストプッシュ型の物価上昇だけで物価が継続的に上昇するとは考えておりません。二%の物価目標を安定的に実現するためには、単に物価が上昇するということだけではなくて、企業収益や賃金が上昇し実質所得が増加する中で物価も上昇する、こういう好循環が形成されることが必要であるというふうに思っております。

中川(宏)委員 ありがとうございました。

 次に、金利差と為替の関係についてお伺いをいたします。

 アメリカでは、インフレの状態に対し、FRBはゼロ金利を解除し、金利の引上げも予定をしております。この状況から、日本でも金融の引締めに行くのではないかと市場から注目をされましたが、連続指し値オペや公開市場操作を行い、引き続き金融緩和策を続ける姿勢を示しました。

 これに対し、一部報道では、日銀の金融緩和の連続の姿勢によって円安が進んだ、このように報じられておりましたけれども、他国との金利差と為替相場の相関関係をどう捉えているのか、お伺いをしたいと思います。

内田参考人 為替相場でございますが、もちろん内外金利差からの影響を受ける面もございますが、それだけではございませんで、世界経済あるいは国際金融資本市場の動向、投資家のリスクセンチメント、さらには、需給という意味で、輸出入企業の動向、こういったものも影響いたします。現状に即して申し上げれば、資源高に伴って、本邦輸入企業のドル買い、こうしたものも影響するということで、様々な要因の影響を受けて形成されているものでございます。

 どのような要因が為替市場に、為替相場に影響するかについては、その時々の経済情勢、それから市場の状況によって変わり得るものというふうに考えております。

中川(宏)委員 次に、日本の成長予測と金融政策についてお伺いをしてまいります。

 実質GDPですけれども、アメリカは既にコロナ前のトレンドに戻るかそれ以上と言われ、欧州も、コロナ前のトレンドには届きませんが、コロナ前までは戻っています。一方で、日本は全く戻っていない状況で、コロナ前の九七・七%であります。また、各国の中央銀行の物価見通しは、二〇二二年で、アメリカで四・三%、欧州で五・四%、日本は一・一%です。さらに、日本での生産者物価を見ますと、この二月ではプラス九・三%に対し、消費者物価は〇%台半ばにとどまっております。

 このような状況で、今、日本がアメリカや欧州と横並びで緩和策の変更を考えるということは日本の経済にとって適切なのかどうかという点でありますけれども、アメリカや世界、また日本の潜在成長率の動向も踏まえ、御所見をお伺いしたいと思います。

内田参考人 米欧と我が国では、御指摘のとおり、経済、物価情勢が大きく異なっておりまして、このことがFRBやECBと私ども日本銀行の金融政策のスタンスの違いにつながっているというふうに認識しております。

 具体的に申し上げますと、米欧では、力強い景気回復を背景に労働需給の引き締まりが明確となっておりまして、消費者物価の上昇率は、米国では八%程度、ユーロ圏では七%台半ばまで高まっております。特に、米国の場合には、賃金と物価がスパイラル的に上昇するリスクが意識されておりまして、このことが最近の金融緩和縮小の動きにつながっているものというふうに考えております。

 一方、我が国でございますが、基調としては持ち直しているということでございますが、GDPは感染症拡大前の水準を回復しておりませんし、需給ギャップもマイナスでございます。

 先ほど申し上げましたとおり、消費者物価の前年比は、目先、プラス幅をはっきりと拡大し、四月以降二%程度になる可能性もございますが、この主因はエネルギー価格ということでございます。こうしたコストプッシュ型の物価上昇でございますと、これも先ほど申し上げましたとおり、我が国経済に下押しの影響を与える面もあるというふうに考えております。

 このように、我が国の経済、物価情勢は欧米と大きく異なっておりまして、日本銀行といたしましては、現在の強力な金融緩和を続けることで、感染症からの回復途上にある我が国経済をしっかりと支え、持続的、安定的な二%目標の実現を目指していくということが適当と考えております。

中川(宏)委員 ありがとうございます。

 アメリカの経済成長の展望もお伺いしたいと思います。

 アメリカは、GDPも回復し、物価も上昇、金利も引き上げていくなど、一見すると順調に成長路線に戻っているように見えますけれども、インフレは少し加速度がつき過ぎている、こういう見方もありまして、三月二十九日には、アメリカの債券市場で逆イールド、いわゆる長短金利の逆転が起きました。アメリカの現在の経済や金融政策の状態をどう見ているのか、成長の確実性はどうなのか、この点についても御所見をお伺いしたいと思います。

清水参考人 お答え申し上げます。

 米国経済は、労働市場の継続的な改善や既往の貯蓄の積み上がりもありまして、消費が堅調に推移しており、回復を続けております。この間、消費者物価の上昇率は、需給逼迫などから八%程度まで高まっております。

 そうした経済、物価情勢の下で、FRBは、先月、三月のFOMCで〇・二五%の利上げを決定しております。パウエル臨時議長は、その後の記者会見で、今後、利上げを続ける下でも力強い経済成長が続くとの見通しを示されています。

 もっとも、債券市場では、委員御指摘のとおり、長短金利が逆転する逆イールドとなっておりまして、投資家からは先行きの景気後退を懸念する声も聞かれております。もとより、ウクライナ情勢の帰趨をめぐる不確実性は極めて大きく、また、エネルギー価格等の国際商品市況や国際金融市場では神経質な状況が続いております。

 アメリカの経済、物価動向や、それを踏まえたFRBの金融政策が国際金融市場に与える影響については、引き続き注意深く見てまいりたいと思っております。

中川(宏)委員 ありがとうございました。

 今までお答えいただいた点を踏まえまして、日本人や日本の企業の体質を考えた対策についてお伺いをしたいと思います。

 黒田総裁となりまして、異次元の金融緩和策が九年にわたって行われてきました。一九七〇年頃には人口増加、消費の時代でしたが、一九九〇年のバブル崩壊以降は、人口減少、高齢化、物が余る時代となりました。昔と今とでは金融政策の効果が違ってきているのではないかと思うところがあります。

 フリードマンは、原油価格が上がっても貨幣量が増えない限り物価は上がらない、また、インフレもデフレも貨幣的現象、個別の商品への需要と供給で物価が決まるものではないと言われております。

 このような意見もある中で、日本を見ると、長い間、金融緩和策を講じ、さらに、この数年、コロナ対策で百兆円を超えるお金が出ておりますけれども、一向に物価は上がってきませんでした。このことからすると、今の日本はこれまでの金融緩和策が利きにくい体質になってしまっているのではないかと考えてしまうところであります。日本には、いつからか、デフレがずっと続いていくという相場観、ノルムがしみついていて、消費から、資産選好という、お金や富の保有願望の時代となっているという指摘もあります。

 二%の物価安定目標の達成のためには、企業が値上げをしづらい状況からの脱却、いわゆるデフレマインドからの脱却を図っていかなければと思うところでありますが、この点につきまして黒田総裁に御所見をお伺いいたします。

黒田参考人 この二%の物価安定の目標が達成されていない理由につきましては様々な要因があると思いますが、その一つとして、委員も示唆されておられたような、長期にわたるデフレの経験によって、賃金、物価が上がりにくいことを前提とした人々の考え方や慣行、ノルムと言ったらいいかもしれませんが、そういうものが我が国経済に定着して、その転換に時間がかかっているということが挙げられると思います。

 もっとも、二〇一三年以降、日本銀行が大規模な金融緩和を続ける下で、経済活動は押し上げられ、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状況は実現されたというふうに評価をしております。

 日本銀行としては、経済、物価の押し上げ効果を発揮しているイールドカーブコントロールを軸とする現在の強力な金融緩和を粘り強く続けてまいります。それによって、コロナ禍からの回復過程にある経済活動をしっかりとサポートし、企業収益や雇用、賃金が増加する好循環の下で、安定的な二%の物価安定目標の達成を目指してまいりたいと思っております。

 大変時間がかかっているということは残念でありますけれども、二%の物価安定の目標を安定的に達成するというために、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていく、それによって、先ほど申し上げた慣行というか考え方というもの自体も変わっていくことを期待しております。

中川(宏)委員 黒田総裁、ありがとうございました。引き続きよろしくお願いしたいというふうに思います。

 時間も少なくなってまいりましたので、質問を一つ飛ばさせていただきまして、ロシア問題について触れたいと思います。

 三月二十八日、ロシアがロシア産天然ガスをルーブルで購入するよう各国に求めたことに対して、G7で拒否する内容の共同声明を発表しました。また、各国で国内企業に対してルーブルでの決済を受け入れないよう求めることでも合意をしております。

 しかし、日本でもロシア側と商取引している企業は多くあり、現実にはルーブルでの決済を受け入れるしかない状況もあると思います。ロシアがデフォルトするとの懸念もある中、対ロシアの輸出代金をルーブルでしか受け取れず、経営が困難になる中小企業も出てくる可能性があります。こうした企業への支援について、地域金融機関にどのような資金繰りを求めるとともに、政府としてどのように資金繰りを支援していくのか、この点についてお伺いをいたします。

栗田政府参考人 お答え申し上げます。

 新型コロナに加えまして、ロシアへの制裁、ウクライナ情勢の変化によりまして影響を受ける中小事業者がいる中で、中小企業の資金繰り支援を徹底することは非常に重要であると認識をしております。

 こうした状況を踏まえまして、政府といたしましては、金融機関に対しまして、事業者の資金繰りに支障が生じることがないように、事業者の業況を積極的に把握し、資金繰り相談に丁寧に対応するなど、事業者のニーズに応じたきめ細かな支援を徹底することを関係大臣連名で要請いたしましたほか、先月には、鈴木大臣から直接、金融関係団体の代表者に対しまして、資金繰り支援に万全を期していただくよう、改めて要請をいたしました。

 また、日本政策金融公庫等において特別相談窓口を設置するとともに、セーフティーネット貸付けの要件緩和、金利引下げを実施いたしまして、ウクライナ情勢等の影響を受けた事業者の支援を図っているところでございます。

 加えて、総理からの指示も受けまして、四月末をめどに取りまとめる原油価格・物価高騰等総合緊急対策には中小企業の資金繰り支援を盛り込むこととしておりまして、今後とも、関係省庁と連携いたしまして、中小企業の資金繰り支援に万全を期していきたいというふうに考えております。

中川(宏)委員 時間となりましたので、以上で終わりたいと思います。ありがとうございました。

薗浦委員長 次に、野田佳彦君。

野田(佳)委員 皆さん、おはようございます。立憲民主党の野田佳彦でございます。

 先ほど黒田総裁は、御報告の中で日銀短観についても触れられました。どういう触れられ方をしたかというと、業況感は小幅に悪化という表現でございましたけれども、製造業も非製造業も七期ぶりに悪化をしているし、三か月後の見通しについては、より一段と悪化をするという傾向が出ていましたね。そのことは私はもっと重く受け止めるべきだろうと思います。

 私が短観の中で注目したのは、回答した企業の示した二〇二二年度の想定為替レートでございまして、どういう想定をしているかというと、百十一円九十三銭なんです。足下のレートはどうなっているかというと、恐らく百二十二円台の半ばぐらいじゃないでしょうか。ということは、想定為替レートと比べると、十円以上も今円安で推移をしているということであります。そのことをどう受け止めるか、足下の金融政策について私はお尋ねをしていきたいと思います。

 ウクライナ情勢、大きな影響がどんどん出てきていると思いますが、これは、ウクライナ情勢は世界経済にとっては有事でありますよね。有事は、安定資産の円を買うというのが近年のいわゆる定説のようになっていたと思います。二〇一四年のロシアのクリミア併合のときにも円高です。リーマン・ショックの後も円高です。忘れもしない、二〇一一年三月の東日本大震災で、地震が起こったのは我が国であります。多くの人たちが犠牲になりました。深刻な被災者がいっぱい出ました。そのときに、あろうことか、有事でありますけれども、我が国の有事ですよ、八十二円から七十七円と一挙に五円も円高になっていった。私は当時財務大臣でしたけれども、必死でそれを食い止めるために、場合によっては単独でも介入しようと思いました。幸いにしてガイトナー財務長官などが協力してくれて、協調介入をやりました。本当にしびれる思いだったですよね。一千億円投入する、二千億円投入する、少し動いていく。でも、どこかの壁があって、なかなか動かなくなったりとか、本当に一日中、胃が痛くなる思いでございました。

 私の地元は船橋で、競馬場は二つあるし、ついこの間までオートレース場があって、ギャンブルの町ですけれども、私は、政治人生がギャンブルだから自分はギャンブルはやらないんですが、あんなにお金を張ったのは初めてで本当に胃が痛くなりましたけれども。

 総裁も財務官時代に介入しているじゃありませんか。あのときは十三兆を超えている、溝口善兵衛さんに超えられるまでは史上最大の作戦ですよね。だから、経験があると思いますが、あのときは有事の円買いという評価はまだなかった頃じゃないかと思いますけれども、今は有事だけれども、なぜか円の独歩安ですね、独歩安。しかも、僅か一か月で十円以上も円安になってきている。私、これは過度の変動だと思います。その理由は何なのか、まずお尋ねしたいと思います。

黒田参考人 先ほど申し上げましたように、確かにこの為替レートの変動というのはなかなか、いろいろな要素によるもので説明が難しいわけですけれども、少なくとも、最近の為替市場の動向を見ますと、確かに、ロシアのウクライナ侵攻が始まったときは、実は、円もドルも、ユーロとかその他の通貨に対して強くなったんですが、ドル・円は百十五円程度で安定していたんですね。ところが、その後、やはりこのロシアによるウクライナ侵攻以降の資源価格が更に上昇して、一方で、オーストラリア・ドルとかブラジル・レアルなど新興国通貨が全般的に上昇いたしまして、資源輸入国の通貨は下落傾向にあります。その上で、円の対ドル相場につきましては、市場では、米国経済の堅調さ、それに伴う米国の金利上昇に加えまして、本邦輸入企業のドル買いなどの影響があるという見方が多いように思います。

 いずれにいたしましても、為替相場は経済や物価に大きな影響を及ぼしますので、引き続き注視してまいりますが、委員もインプリシットに前提しておられるように、大事なことは、為替相場が経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することであるというふうに考えております。ただ、為替相場の動きは委員御指摘のとおりなかなか難しく、また、私自身、個人的な経験でも、為替介入を単独でもあるいは米国やユーロ圏と協調してもやりました、介入しましたが、その効果というものは、なかなか一概に測れないというところがありまして、為替相場にはなかなか難しい要素があるとは思いますけれども、最近の、十年程度というかそのぐらいのタイムスパンで見ると、過去よりも為替相場の変動幅は小さくはなってきている、ただ、御指摘のような、今回の為替相場の変動はやや急じゃないかなというふうに思っております。

野田(佳)委員 私は、円安が進んだ理由、やはり最大の原因は金利差の問題があると思いますね。

 アメリカの利上げについては、サマーズあたりは遅過ぎると言っていますから、それに対し躍起になっていくと、五月ぐらいにまた〇・五パーぐらい上げる可能性もありますよね。年内に七回上げるわけでしょうから、そうすると、その金利差というのは間違いなく円安の要因になっていくし。ここでちょっと突っ込んだ議論をするつもりはありませんが、経常収支の赤字が、一月、極めて大きな額が出ました。これも構造的な円安の要因になっていくと思います。

 この議論はちょっとやめておいて、私がお尋ねしたいのは、三月十八日の総裁の金融政策決定会合の後の御発言で、円安が経済、物価にプラスとなる基本的な構図は変わっていないというお話をされました。私は、これは、さながら円安容認論のように受け止められかねないと思います。本来は、経済のファンダメンタルズを正確に反映すれば、プラスもマイナスもないんですよ。むしろ自国通貨は強い方がいいと思うのが一般的だろうけれども、円安容認のように受け止められる発言というのは、私はより円安を助長したのではないかと思いますが、この御認識は今も変わりませんか。お尋ねしたいと思います。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、為替相場につきましては、経済、金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが極めて重要であるという点は改めて申し上げておきたいと思います。

 その上で、為替の円安が全体として我が国経済にプラスに作用しているという基本的な認識に変わりはありません。もちろん、為替円安の影響が業種や企業規模、経済主体によって不均一であるということには、十分注意というか、留意が必要だと思います。

 具体的に円安が経済に影響を与える経路をやや詳しく見ますと、近年は、輸出数量の押し上げ効果は低下している一方で、企業収益へのプラス効果、その設備投資への波及効果が強まっているというふうに見られます。

 すなわち、円安は、輸出単価を押し上げることで輸出採算を改善させておりますし、また、海外子会社からの配当など、グローバル企業の円建てで見た海外事業収益を押し上げておりまして、実際、これらの要因もあって最近の企業収益は製造業を中心にしっかりと改善をしておりまして、このことが、研究開発投資など前向きな投資増加あるいは賃金引上げの動きにもつながってきているというふうに思っております。

 他方、円安が輸入物価の上昇につながりますと、家計の実質所得の減少あるいは輸入比率の高い内需型企業の収益悪化を通じて、我が国経済の下押し要因ともなり得ます。もっとも、最近の輸入物価の上昇については、これまでのところ、為替円安よりもドル建てで見た原油などの資源価格上昇の影響がはるかに大きくなっているということであります。

 為替レートの変動が我が国経済に及ぼす影響につきましては、その時々の経済、貿易構造などによって変化もしますし、それからその時々の国際経済情勢などによっても影響を受けますので、今後ともきめ細かく点検してまいりたいというふうに考えております。

野田(佳)委員 私は、総裁の御発言の背景には、アベノミクスというのはある程度やはり円安を前提とした経済運営だったと思うんです。円安になれば輸出が増える、そしてインバウンドの需要が増えて、訪日客が増えれば観光地が潤うということを相当に前提としたと思うんですね。

 でも、状況は今かなり変わってきていて、こういうコロナ禍ですから、インバウンドの需要とかはありません。しかも、企業が生産拠点を海外に移しているので、円安になったからといってストレートに輸出が増えるわけではないなど、効果は限定的になっている。

 一方で、お話にあったとおり、輸入物価が上がっていくことによって中小企業の経営が苦しくなり、そしていわゆる価格転嫁するようになってくれば、これは間違いなく国民にも甚大な影響が出てくると。むしろ、円安というのは多くの人が今痛みを伴うような状況に変わってきているというふうに私は認識すべきであり、円安を前提とした経済運営を私は変えていくときが来ているのではないかという認識を持っているので、ちょっとそこはまだかなり離れているなと思いました。

 加えて、円安の要因になったというのは、総裁の御発言だけではなくて、私は日銀の三月末のアクション、動きだと思っていまして、指し値オペについては、二月の財務金融委員会で議論したときにラストリゾートという言葉を使われました。最後の手段だと。

 実際に二月の段階では、構えた瞬間で〇・二五%以内に収まったというか、応札がなかったじゃないですか。私はあのときの説明を聞いたときに、眠狂四郎の円月殺法を思い浮かべましたね。構えた瞬間でもう勝負ありなんですよ。そして、抜いた瞬間、もう必殺なんですね。

 ところがですよ、そう思っていたら、三月末は異例の、伝家の宝刀を三日連続、連続オペ。加えて、臨時オペとか通常のオペもやって、二兆三千億も国債を買い込む。これは、伝家の宝刀をぶるんぶるん振り回しているという印象を持ちました。

 私は、日本は、世界のほかの国に比べて、ほかの国が利上げをやっているときに、そうじゃない路線、ユニークだという表現を穏やかに言ってきたけれども、あのぶるんぶるんと伝家の宝刀を振っている姿は、ヒステリックに見えましたね。

 そのイメージはどういうことになるかというと、もうとにかく金利は抑えるんだ、力ずくで抑えるんだ、円安になってもしようがない、まだそんな危険な水準じゃない、その結果物価が上がってもしようがないというメッセージを逆に発信しているように思えましたけれども、いかがでしょうか。

黒田参考人 そういった意図はございません。

 むしろ、先ほど来申し上げておりますように、四月以降、主としてエネルギー価格の上昇、これは国際的に上昇しているわけですが、それと携帯電話通信料引下げの効果の剥落などによって消費者物価の上昇率ははっきり上昇するというふうに見ておりますが、その大きな要因が国際的なエネルギー価格の上昇を反映したものでありまして、こういったコストプッシュ型のインフレというのは、企業収益や家計の実質所得を押し下げて、景気に対して下押しに利きますので、その物価上昇というのは長続きしない。

 むしろ、我々が求めているのは、金融緩和を続けることによって、コロナ禍からの回復を助け、まだマイナスのデフレギャップを解消しプラスに持っていき、そうした中で、企業収益や賃金が上がって、物価が安定的に上昇するという姿を目指しているわけでして、そのために必要なものとしてイールドカーブコントロールをしているわけであります。

 その際にも、政策金利をマイナス〇・一%、これは日銀当座預金のごく一部に適用されているわけですけれども、それの結果として、短期金利がマイナス〇・一%程度で安定しております。

 一方で、十年物国債の金利をゼロ%程度という形になるように、長期金利を、中期、短期、超長期まで含めて買入れをしているわけですけれども、その際に、ゼロ%程度というのも、非常に狭い範囲に市場から捉えられていましたので、プラスマイナス〇・二五%の範囲内で変動するということを認めつつ、ただ、ゼロ%程度というのを守るために必要な国債の買入れを行い、急激な変動に対しては指し値オペ、ラストリゾートと言ったのが適切な言葉でなかったかもしれませんが、基本的には国債の買入れ額の変動によって対応するわけですけれども、急激な長期金利の上昇に対しては指し値オペという手段も使って、長期金利がプラスマイナス〇・二五%の範囲内で安定的に推移するように金融政策を行っているということを御理解いただきたいと思います。

野田(佳)委員 ラストリゾート、撤回されるわけですか。それはまた驚くべき発言だと思うんですけれども。

 今、市場のメカニズムの話を含めて金利の話をしていただきましたけれども、短期の金利は、これは中央銀行が操作をする、コントロールする、これはあるんですよね、当然のことながら。ただ、長期金利は、これはマーケットが決めるというのが基本的には伝統的な金融政策じゃありませんか。非常時だから今は違う、イールドカーブコントロールをやっているということなんでしょうけれども、でも、基本は、やはりもうかるかもうからないかで参加者が市場に参加する、その結果、最適な資源配分が行われるというのがマーケットの意義だと思うんです。

 国債市場においては、私は、日銀の存在がもうモンスターのように大き過ぎると。モンスターのように大き過ぎるところが力ずくでコントロールすることの弊害、本当に私は市場を壊しているんじゃないかと。

 長期金利というのは経済の体温計じゃありませんか。その体温計が、景気が過熱しているよとか財政悪化しているよとか、シグナルを送ることを拒んで、それを壊していくことの弊害を、もっと私は強く自覚すべきだと思いますが、いかがですか。

黒田参考人 確かに、委員御指摘のとおり、中央銀行の金融政策は、伝統的に、操作目標である短期金利のコントロールを通じて物価の安定を目指すということで、長期金利は市場に任せるという形を取ってきたわけであります。

 ただ、こうした伝統的な金融政策というのは、我が国では、一九九〇年代後半以降のデフレへの対応の中で、それから欧米ではリーマン・ショック以降の金融危機対応の中で、短期金利の引下げの余地がなくなるという、いわゆるゼロ金利制約に直面しまして、その中で、日米欧の中央銀行は、いわば全て、長期国債などを大量に買い入れることによって長期金利にも直接的に働きかけるという、非伝統的な金融政策が導入されてまいりました。

 日本銀行も、二〇一六年に導入したイールドカーブコントロールでは、必要な国債の買入れを通じて短期金利だけでなく長期金利も操作対象とする非伝統的な金融政策でありますけれども、日本のように長く続いたデフレから脱却し、二%の物価安定の目標の実現を目指すためには、当面、やはり、短期金利だけでなくて長期金利も極めて低位に安定させることが必要であるというふうに考えております。

 他方で、委員が御指摘になったように、長期金利を低位に安定させるということによって国債市場の機能度に悪影響を及ぼす、国債市場が、いろいろな経済金融状況を示す指標になり得るもの、それが十分機能しなくなってしまうというおそれがあるということはそのとおりでありまして、その意味で、昨年三月の点検で、長期金利の変動幅について、プラスマイナス〇・二五%、全体〇・五%の幅で、長期金利が経済、物価情勢に応じて変動するということを許容したわけであります。

 そうした下で、今後とも、市場機能の維持に配慮しつつも、やはり、金利コントロールとの適切なバランスを取って、粘り強く強力な金融緩和を続けていく必要があるのではないかというふうに思っております。

 私も、かつて英国に留学した際に、英国の金融政策について修士論文を書いたんですけれども、英国の金融政策自体も、ずっともちろん短期金利コントロールは中心ではあるんですけれども、市場の手形の割引から短期国債の借入れ、それから金利のコントロールの仕方も変えてきて、その後、戦後になってからは、やはり金融政策の手段も相当変わってきておりまして、伝統的な金融政策というのが非常に好ましいことは私もそう思うんですけれども、現下の経済、物価情勢、経済金融状況を踏まえると、我が国の場合、今のような、長期金利に対しても低位に安定させるという政策が必要であり、不可欠である。

 欧米の場合は、最近のインフレ率の高まりを背景に、金融政策を、いわゆる正常化というか、そちらの方に踏み出していますけれども、依然として大量の国債を買い入れているということには、長期国債ですけれども、買い入れているということには変わりありません。

野田(佳)委員 イールドカーブコントロールというのは曲芸みたいな話で、そんな難しいことをずっとできないというのでFRBは導入を諦めたんじゃないですか。その曲芸をまだ荒っぽくやっているということに対して私はまだ違和感があるんですが。

 ちょっと小休止を総裁にしていただいて、副大臣、来ていただいているので。

 私は、今の日銀のやっていることは、結果的には、円安を誘発し、物価を上げていっているということになりかねないと思うので、政府が物価高対策を講じようとしているときに、これは整合性がないんじゃないかと思っているんです。

 そのことは、副大臣に聞いてもちょっとお答えしにくいと思うので、大臣がいるときにやりたいと思いますけれども、副大臣に来ていただいたのは、その物価対策の財源をどうするかなんです。

 巷間言われているのは、これは予備費を使うと。しかも、いわゆるコロナ対策の予備費の五兆円を使うと話が出ていますね。私は、予算総則に明記した範囲でしか使っちゃいけないと思います。そんな巨額のお金を政府の裁量で勝手に流用するのは、私はおかしいと思う。

 むしろ、追加のこういう経済対策が必要ならば、四月末にまとめるんだったらば、この国会に補正予算で出して、国会のチェックを受けるべきであり、あの五千円も年金受給者にばらまくというのは白紙になったようですけれども、どんなものが入っているか分からないので、それはちゃんと国会でチェックするということが必要だと思います。その意味では、御党の山口代表のおっしゃったことは正論だと思いますね。

 ですから、きちっと、こういう流用はしないで、予備費を流用するんじゃなくて、補正予算で組むということを明確に今日はお答えいただければと思います。

岡本副大臣 お答えいたします。

 現在、総理から御指示を受けまして、関係省庁において総合緊急対策に盛り込む施策を鋭意検討しておりまして、そのバックグラウンドには、政府として、ウクライナ情勢に関わることに加えまして、コロナ禍から経済社会活動の回復を確かなものにするためという目的を持っております。

 この際に、直面する危機に緊急かつ機動的に対応するためには、新たな財源措置を伴うものにつきましては、まずは、一般予備費、そしてコロナ予備費を活用した迅速な対応をしていくことが大切だというふうに考えておりまして、そちらを優先していくことというふうにしております。

野田(佳)委員 一般予備費は分かるんですけれども、コロナ予備費を充てる可能性もあるということですか。

 第七波が襲来する可能性、蓋然性は物すごく高くなっていると聞いてありますから、私は、コロナ対策にきちっと充てるというのが原則であって、ほかに流用すべきではないということ、そのための論陣を、副大臣には、財務省の中でしっかり張っていただきたいと要請をしておきたいと思います。

 また総裁に戻りますけれども、足下の金融政策から、私は、これからの後段の方は、異次元の金融緩和の総括的なお話をしていきたいというふうに思います。

 まず、異次元の金融緩和というのは、二年で二%と言っている頃は異次元でいいと思うんですよ、表現が。だけれども、九年やってきて、十年目だと。十年目に入って、異次元という表現はもう通用しないんじゃないか。ニューノーマルになっていますよ、ニューノーマル。ニューノーマルになってしまったことが、財政の肥大化につながり、財政規律を緩める大きな要因に私はなっているというふうに思っています。政府の打ち出の小づちのように日銀が事実上の財政ファイナンスをするようになってしまったことも、ニューノーマルになってしまったと思います。

 そのことについての、まず、総裁のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

黒田参考人 最初に現在の金融緩和政策を始めたときに、量的・質的金融緩和として、二年程度で二%の物価安定目標を実現するために必要な金融緩和を行うということで、異次元の金融緩和というふうに言われたわけですが、その後、確かに、その結果として、一時、消費者物価上昇率は一・五%程度まで上がり、予想物価上昇率もその程度まで上昇したのですが、その後、石油価格の下落などを受けて消費者物価の上昇率が低下し、マイナスになり、それに対応して金融緩和を拡大し、また、いわゆるイールドカーブコントロールという形で、国債買入れ額をいわば金融市場調節のターゲットにするのではなく、直接的に、長短金利、それに基づくイールドカーブを金融市場調節のターゲットにして運営してきたわけであります。

 そうした中で、一方で政府が大量に国債を発行されてきたわけですが、それが比較的円滑に消化されたということの背景に、日本銀行が、イールドカーブコントロール、その前の国債の買入れの目標等々を通じて、国債市場を安定的に維持してきたということがあったということは言えると思いますが、一方でそれは、あくまでも日本銀行としては二%の物価安定の目標を実現するために行ってきたわけであります。

 また他方で、政府は、中長期的には財政再建目標というものを維持して、中長期的な財政の持続可能性を高める政策も取ってきたわけでありまして、それが国債に対する信認を維持してきたという面もあったのではないかと思いますので、日本銀行の大幅な金融緩和政策が、いわゆる財政従属というか、財政ファイナンスというか、そういうものになっているということではないというふうに私どもとしては考えております。

野田(佳)委員 ネットなどを見ていると、日銀は政府の子会社だみたいな議論というのは物すごく多いんですよ、今。横行しています。

 中央銀行の独立性というのは、九八年の日銀法改正で制度化されましたよね。法改正の頃は、財務官でいらっしゃいますかね。よく、その議論、御承知だと思います。憲法論も含めていろいろあって、独立性というのも、法律上は自主性になっていますけれども、でも、セントラルバンカーの皆さんは、この独立性という言葉を矜持として持ってきているはずですが、その矜持からすると、四半世紀たって、日銀が政府の子会社だと言われるようになっているということは、私は、極めて重く受け止め、反省しなければいけないと思いますが、こういう子会社論について、どういう御見解をお持ちですか。

黒田参考人 日本銀行は、もちろん政府から過半の出資を受けておりますけれども、出資者には議決権が付与されておりません。

 また、日本銀行の金融政策及び業務の運営については、御指摘のとおり、九八年に施行された新日銀法によって自主性が認められております。

 したがいまして、日本銀行が政府が経営を支配する法人とか子会社というものではないというふうに考えております。

 日本銀行法で、三条で非常に明確に、「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。」それから、五条で、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない。」というふうにされております。

 こうした日銀法に沿って、日銀政策委員会が金融政策を決定し、業務の方針を決定していることに変わりはありませんので、何か日本銀行が政府の子会社のようになっているということは全くないというふうに考えております。

野田(佳)委員 全くないということをもうしょっちゅう言ってほしいと思いますね。

 というのも、借金を全部背負っているのは日本銀行だ、荒っぽい言い方だが、日本銀行は国の子会社だ、これは安倍元総理が講演で言っているんですよ。総理が、元総理が言っているんですよ、総理に言われちゃおしまいじゃありませんか。

 子会社じゃないということを明確に、政府と連携しなきゃいけないですよ、でも従属した機関じゃないんですよ、そこは明確に矜持を持って言っていただきたいと思います。

 私は、異次元の金融緩和の総括をしなきゃいけないと申し上げたのは、もうあと任期一年じゃありませんか、任期一年。本来は二年で二%、できなくて、数次にわたって延長してきて、総裁任期五年間だった、五年の後に再選をされた総裁というのは六十年ぶりでしょう。本当だったら、民間企業だったら、経営計画を立てて目標に達することができなかったら責任が問われます。でも五年の任期は終わって、そして間もなく今度は十年に差しかかろうとしている。

 これほどの最長不倒記録をつくっているわけですから、せめて次の後任が決まるまでの間に異次元の金融緩和の総括をすべきだと思います。

 少なくとも、デフレは貨幣的な現象なんて国会答弁がしょっちゅうあったけれども、金融政策だけではインフレ率を上げることは困難だということが高い代償を払ったけれども分かったということとか、あるいは、二%の目標が適正な数字だったのかどうか。

 今も二%を呪縛のように実現しようとおっしゃっているけれども、だけれども、九〇年以降二%を超えたというのは一回しかないんですよね。それをいまだに高く掲げていること自体がいいのかどうかを含めて、異次元の金融緩和の総括を、今、総裁でいらっしゃったときにきちっとやるというのが責任ある対応だと思いますが、最後にお答えいただきたいと思います。

黒田参考人 日本銀行は、この二%の物価安定の目標を実現するために、二〇一三年四月に量的・質的金融緩和を導入いたしました。その後も、それまでの政策効果を検証しつつ、その時々の情勢の変化に応じて、政策対応を適切なタイミングで行ってまいりました。

 具体的には、二〇一六年一月に、マイナス金利付量的・質的金融緩和を導入し、その後、二〇一六年九月には、それまでの金融緩和の下での経済、物価動向と政策効果について総括的な検証を行いました。それを踏まえて現在のイールドカーブコントロールは導入いたしました。

 さらに、昨年三月には、国債市場の機能度や金融仲介機能への影響などの副作用を抑制しつつ、より効果的で持続的な金融緩和を実施していくための点検を行って、必要な政策対応を講じてきたところであります。

 こうした金融政策の下で、経済、物価は着実に改善して、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではない状況を実現できたというふうに思っております。

 ただ、御指摘のとおり、二%の物価安定の目標の達成には至っておりません。デフレの経験を経て、我が国に深く根づいた物価が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行の転換には時間がかかるというふうに考えておりまして、私どもとしては、今後も、強力な金融緩和を粘り強く続けていくことで、二%の物価安定の目標を実現し、物価と賃金が共に緩やかに上昇していく好循環の形成を目指してまいりたいというふうに考えております。

 なお、二%の物価安定目標の合理性については、いろいろな議論が内外でありますけれども、御案内のとおり、海外での議論は、二%ではなくてむしろ三%とか、より高い目標を掲げて金融政策を運営するべきだという議論がほとんどであります。

野田(佳)委員 時間が来ましたので、中川委員の前座は終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

薗浦委員長 次に、中川正春君。

中川(正)委員 それでは、引き続きの議論をさせていただきたいというふうに思います。

 野田委員の、非常に、原点というか根幹に関わる議論というのを聞かせていただいて、改めて、今の状況というのを振り返って、これでいいのか、この国の経済の構造というのが、持続ということを前提に考えていくときに、このままで、いわゆる二%を追い続けていくこと、これに執着するだけで全てが解決するというふうな議論だけでいいのかということを実は改めて今感じていたところであります。

 その上で、今日は原点に返ってお話をする必要があるのかなというふうに思いました。

 ウクライナの危機があり、またコロナがありということで、今世界は揺れていますけれども、こんなときに、さっき為替の話が出ました、普通であれば、危機があれば円高に振るものが、その逆に今なってきている。あるいは、それぞれ、日本の経済の構造を見ていると、脆弱性というか、そんなものが表に出てきて、このまま大きな破綻というものに結びついていくという可能性が出てきているんじゃないか。特に、さっき財政の分野での指摘がありましたけれども。そんな構造的な不安に対する思いというのが市場にも、あるいは国民の中にもあって、それだけに、もう一回、黒田総裁の原点、これは、さっき話に出ましたように、二〇一三年の政府、日本銀行の共同声明、これに基づいて、その年、就任をされて、二%の物価目標で、二年程度で達成するために私は何でもやるんだと、就任挨拶でそういうお話が出ていますけれども、そこからスタートしたということであります。

 最初に、もう一回整理をしていきたいと思うんですけれども、この政府、日本銀行の共同声明、この中身、何が目的であったのか、どういう状況をつくり出そうとしていたのかということ、これをまず説明をしていただきたいと思います。

黒田参考人 この二〇一三年一月の政府と日本銀行の共同声明というものは、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のために、政府と日本銀行は、それぞれの役割をしっかりと果たしながら、連携してマクロ経済政策の運営に当たるということを示したものであります。

 すなわち、日本銀行は、金融緩和を推進し、二%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現することを目指す一方、政府は、成長力の強化に向けた構造改革を進めるとともに、機動的な財政運営を行いつつ、中長期的に持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に進めるということになっております。

 なお、昨年十一月には、政府と日本銀行の間で共同声明の考え方を再確認したところでありまして、引き続き、政府と日本銀行は、共同声明の考え方に沿って、それぞれが必要な政策を着実に実施していくことが重要であるというふうに考えております。

中川(正)委員 そこをもう一回振り返って確認した上で、十年後、もう十年近くになってくるわけですが、この評価というのはどのようにされていますか。

黒田参考人 政府と日本銀行が共同声明に沿って必要な政策を実施する下で、我が国の経済情勢は、感染症という逆風に直面しながらも、やや長い目で見れば、着実に改善してきたというふうに考えております。

 すなわち、企業収益は過去最高水準まで増加し、労働需給が引き締まる下で、賃金は、デフレ期には見られなかったベースアップの実現を含め、緩やかながらも上昇傾向をたどってまいりました。物価も、二%の物価安定の目標の実現に時間がかかっていることは事実でありますが、物価上昇率はプラスの状況が定着するなど、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなっております。この間、労働需給の改善が進む下で、政府が推進してきた働き方改革などの雇用関連施策により女性や高齢者の労働参加が増加するなど、日本経済の中長期的な課題についても前向きな動きが着実に進んできたというふうに考えております。

 このように、二%の物価安定目標の安定的、持続的な実現には至っておりませんが、生産性が向上する下で物価と賃金が共に上昇する好循環の形成に向けて、共同声明が掲げた政策連携は着実に成果を上げてきているというふうに考えております。

中川(正)委員 この共同声明の草案を十年前に起案したという門間一夫元日銀理事が、こんなふうにおっしゃっているんですよ。日本経済の課題は、金融政策にこだわり続けても解決はできないという結論に達したというのがこの十年間の評価、反省であろうということ。

 そうした意味からいくと、さっきおっしゃったように、企業の生産性、これを上げて、そして賃金を上げていくという好循環をつくっていく。これは、今現象的に、一時的に表れている話は触れられましたけれども、ここ十年間を見て考えていくと、この構造にはなっていないという評価が一般的になされている。

 GDP一つ取ってみても、十年前を遡って、もう一つその前の十年、このときに達成されたGDPの伸び率というのは、この十年間で、二〇〇三年から二〇一二年まで〇・四%ですよ。二〇一三年から二〇二〇年まで、これは平均すると〇・二%なんです。トータルで上がっていないんですね。逆に下がっているんですよ。

 同時に、財政再建、さっきこれは触れられたことですから。これも真逆の話になっておって、毎年というよりも、一定期間置いて、プライマリーバランス、こんなふうに取っていきますよという形で、政策的に、政治的に目標を掲げても、それが何回も何回も延長されて、結果的には、債務について、非常にリスクの高いところ、水準まで来ている。ほかの国と比べても、今、令和三年、二〇二一年で、GDPに対して二五六・九%の負債率。これは、イタリアでさえ一五四・八、英国で一〇八・五、米国で一三三。これはもう何回もそれぞれの領域で指摘をされておるということであります。

 一見、デフレは克服したように見えているけれども、実際には、二%の物価上昇目標を掲げた金融政策だけが持続的に先行して、そして異次元の量的緩和でマネタリーベースが膨らんで、今回は、それに加えて円安と輸入原料高のコストプッシュ型の物価高ということになっておって、これは見せかけのデフレではないのか。

 言い換えれば、本来の、生産性ということを基本にしながら、これを上げていって、賃金を上げていって好循環をつくっていくという結果で出てきたような現状の数字ではなくて、いわゆる金融政策で見せかけに、そこから始まったものが見せかけに回っているということ、これが日本の現状ではないかということだと思うんです。

 そういう意味でいけば、この構造改革、いわゆる経済の構造改革というのは、日本の今の現状からいくと達成はされていない、本来目指した経済の復活というのは今なされていない。それよりも、よく言われる、ゆでガエルと言われますけれども、経済自体の甘い構造の中で新陳代謝ができなくて、それで新しいものが生まれてこないという、そんな体質にこの経済をしてしまった、それが量的緩和であったのではないかということ、こんなことも指摘をされ始めてきました。

 こういう見解に対して、どういうふうに見ておられますか。

黒田参考人 成長率につきましては、どういう期間を取るかによって非常に変わってまいりますので、この二年間のコロナ禍で、異常な状況で、これは日本だけじゃなくて欧米も大幅なマイナス成長になったわけですけれども、そういったものを入れるか入れないかで、大分、成長率の平均水準というのは変わってくるということが指摘できると思います。

 また、この十年間を取ってみますと、生産年齢人口が引き続き大幅に下落、減少してきたということは非常に大きいわけでして、部分的には女性活躍とか高齢者の就業率の上昇でカバーはできましたけれども、やはり何といっても、生産年齢人口が引き続き毎年大幅に減少してきているということは潜在成長率に大きな影響を与えてきたというふうに思います。

 そうした下でも、先ほど来申し上げたように、財政金融政策によって、デフレでない状況をつくり出し、かつ、雇用をかなり拡大して、デフレ期に全く見られなかったベアというものが復活してきたとか、それから、企業収益は史上最高水準に達しているというようなことで、一定の成果があったということは認められると思いますが、他方で、確かに、日本経済の構造が大きく変化して、特にトータル・ファクター・プロダクティビティー、そういうものが大きく改善したかというと、落ちていないかもしれませんけれども改善していないということからいうと、経済全体の構造変化によって経済全体の全要素生産性が上がるということにはなっていないということは事実であります。ただ、それが、金融緩和政策が続いてきたからというふうには私は考えておりません。

 むしろ、金融を引き締めれば、健全な企業まで含めて成り立たなくなってしまいますので、そうではなくて、確かに、共同声明の下で政府と日本銀行はそれぞれの役割を追求してきたわけですけれども、結果的に見ると、構造改革、技術革新を進める、全要素生産性を引き上げるということは実現できていない。これは、もっとも、一九九〇年代以降、もう三十年間にわたってそういうことであります。

中川(正)委員 確かに、御指摘があったように、構造的な要因、さっきの、人口の老齢化あるいは少子化、人口自体が縮んできている、そういう意味での人口ボーナスというのが剥落されてきている、この十年、特にそれが顕著に表れてきたという、これは大きな要因だろうというふうに思うんですよ。

 そんな中で、じゃ、経済、どんなふうに立て直していくのかということであるとすれば、ここで一番最初に指摘されていたように、企業の中の生産性、これをいかに上げていくか。そのためには、政府も労働力を流動化をしていかなければならないということで、その政策を入れました。派遣という形でそれが入ったんですが、それが四〇%になって、結局、企業自体が新陳代謝をつくり上げていくというんじゃなくて、本当に単純労働の分野で特に労働力が流動化されただけで、それが固定化されて、逆に全体の企業環境としては新しいものが生まれなくなる、そんな環境をつくってしまったというふうなこと、これが一つあったのではないかと思うんです。

 それに輪をかけて、本来なら企業の新陳代謝に向いて持っていかなければいけないものが、低金利の中で逆に企業が保護されたというか、過去がよかったからこれからもその状況でいいんだという、そのマインドを企業経営者の中につくり上げてしまって、それが、今の日本の状況の中で新しいものが生まれてこない、先ほど指摘がありましたけれども、アメリカのGAFAが生まれてきたような、国の活力というか、それが阻害されてきたということ、こんなことが背景にあったのではないかというふうに私は理解をしています。

 そんな中で、恐らく、本来なら、金融政策というのは、今議論されているように、目の前の景気対策、いわゆる景気に対してどう作用していくかという、そこに主眼が置かれていく、いかれるべきだと思うんです。だから、最初に総裁が就任されたときに、二年の期限を区切って、やれることは何でもやるんだ、そういう体制だったはずなんですね。それが、ずっと同じ形で、同じ目標で十年続いたわけです。

 その結果、何が起こったか。さっき申し上げたように、目標としていたものが達成されるということよりも、そのことで様々な弊害が起こった。

 一つは、産業界そのものがぬるま湯につかってしまったというか、そのまま、新陳代謝を起こさずに競争力が低下をしていく、生産性が上がらないという状況をつくり出してしまった。

 もう一方で、財政がこれだけとんでもない形で膨れ上がってしまった。これは、本来なら政治が制御をしていかなきゃいけないことなんだと思うんです、財政は。それは日銀のせいだとは言いませんよ。だけれども、結果的に、国債を買い入れて金利を抑え込んでやれば、モラルハザードが起こって、そこでマーケットが本来は警鐘を鳴らしてくるものであるはずのものが、それがないということであるとすれば、政治はそこへ向いてしっかりくさびを打つことができない、できていないということ、こういうことだと思うんです。

 だから、私の言いたいのは、結果として、このままその状況を続けていくということが本当にいいのかどうかということですね。目の前のことは追っていくんだろうけれども、この国の経済の構造を考えていくときに、これでいいのかということ、そのマインドを持ってもう一度この十年間を振り返ったときにどんなふうに考えられるかということ、これをもう一度お尋ねをしたいと思います。

黒田参考人 二つのことを特に指摘されたと思います。

 一つは、金融緩和が長く続く中で、本来退出すべき企業が残って、いわゆるゾンビ企業が残ってしまっているのではないかという点と、もう一つは、低い金利を維持するという中で、国債が大量に発行されてもマーケットで金利の上昇という形で警鐘が鳴らされないという中で、国債の、国の借金が膨張していったのではないかという点であります。

 ちなみに、この二つの点は実はよくBISのエコノミストが指摘する点でありますが、前者につきましては、多くの中央銀行の総裁も否定しておりまして、というのは、実は欧米もずっとこの十年ぐらい大規模金融緩和を続けてきて、二%の物価安定目標を全然達成していなかったわけですが、今、足下では、エネルギー価格の高騰などによって、米国は八%程度、ユーロ圏も七・五%程度に物価が物すごく上がっておりますけれども、これは金融政策が成功して安定的二%が達成された話じゃ全然ないわけですね。

 長らく金融緩和が米欧でも続いてきましたけれども、その結果として、何か、退出すべき企業が生き残って、ゾンビ企業が生き残って、経済の成長率が低下したんじゃないかとか、逆に言えば、もっと早く金融を引き締めて、退出すべき企業を退出させた方がよかったんじゃないかという議論は、BISの一部のエコノミストはずっと昔から、この二十年以上言っていますけれども、欧米も含めて中央銀行総裁たちは、観念的にはそういうことを言えるかもしれないけれども、それでは、じゃ、早く引き締めていたらもっとよかったかと言われると、むしろまずかったということで、いわば現実的に可能な政策の間の比較をしてみないと意味がないので、そういった点からいうと、ゾンビ企業維持というマイナス議論というのは余り現実的でないというふうに言われていますし、私もそう思います。

 他方で、国の借金につきましては、御指摘のとおり、GDP比二〇〇%を超えるような国債残高になっている先進国はありませんので、その一方で、欧米と同じくとは言いませんが、欧米以上に金融緩和を続けてきた日本の中で、そういった国の借金が欧米諸国をはるかに上回る水準に達しているということの間に御指摘のような因果関係があるのではないかということは、エコノミストなども言っております。

 ただ、いつも申し上げますように、それから委員も御指摘になったように、財政政策自体は政府、国会が決めるものでありますので、日本銀行の政策がどういうものであれ、適切な財政政策は政府、国会において決められるべきものだというふうに考えております。

 なお、その上で、確かに政府の財政再建目標というのは一部先送りされてきたことは事実なんですけれども、他方で、たしか二〇一二年に三党合意で、野田政権の下で三党合意で行われた、消費税の税率を五%から二段階で一〇%に上げるということは、一部調整はありましたけれども実現されていますし、政府もそれなりの財政再建努力というのはされてきたとは思います。ただ、目標が先送りされてきたということは事実であります。

 ただ、その下でも、国債が市場で円滑に消化されているということ自体は、日銀がその金利を低位に据え置いているということだけでなく、国債の償還能力に対する信認というのがやはり前提になっているわけでして、もしその信認が失われたりすると、日本銀行が幾ら金融緩和しても、あるいはまさに長期金利を低位に維持しようとしても、国債金利が上昇してしまうということは十分起こり得るわけでして、その意味では、政府が、財政の持続可能性を中長期的に維持するための財政再建目標を堅持して、そのための努力をされるということが引き続き極めて重要であるというふうに考えております。

中川(正)委員 今、ウクライナの紛争、侵攻を契機にして、国の安全保障あるいは危機管理というものがそれぞれの領域で議論が始まっているというのは、これは大事なことですし、それを、実は、この金融それから財政の分野でも、やはりしっかりとこの危機管理、やるべきだというふうに思うんです。

 改めて聞きたいんですが、大災害や戦争あるいはテロなんかを想定して、あるいはこの周辺の有事ということも含めて、事が起こったときにそれをどのように克服していくか、あるいはそれに対してどう備えるかというふうな議論というのは、これまでになされてきたことがあるのかどうか。これは財務省も含めて聞いていきたいと思います。

岡本副大臣 お答えいたします。

 有事を想定した財政の危機管理、非常に重要だというふうに考えておりまして、足下の財政状況は新型コロナの対応等によりまして悪化をしておりますけれども、国債市場の信認を維持し、社会保障等の持続可能性を確保するとともに、いざというときの様々なリスクに備えて政府の対応余力を確保するという観点から、経済再生と財政健全化を両立していくことが重要だと考えています。

 こうした考え方の下、引き続き、二〇二五年度のプライマリーバランスの黒字化等の財政健全化目標に向けまして、歳出歳入両面の取組を続けていきたいと考えております。

黒田参考人 御指摘の、紛争とか金融危機あるいは自然災害といった不測の事態で金融市場に大きなショックが発生したような場合、中央銀行の最も重要な役割というものは、やはり、潤沢な流動性の供給を通じて金融市場の安定確保に万全を期すことであるというふうに考えております。

 この面では、二〇〇一年の米国同時多発テロ、二〇〇八年のリーマン・ショック、二〇一一年の東日本大震災などの有事の場合には、日本銀行は、発生直後から、潤沢な流動性の供給を通じて金融市場の安定に努めてまいりました。また、二〇二〇年春に感染症が急拡大した際にも、リーマン・ショック時の経験などを踏まえて、海外中銀と密接に提携しながら、円貨及び外貨の上限を設けない潤沢な供給を通じて、金融市場の安定確保に努めてきたところであります。

 なお、今申し上げたような不測の事態が起こったときには、基本的には、G7の財務大臣・中央銀行総裁会議などが電話、オンラインなどで行われて、対処の仕方について共同声明などを出す、そういう形で、どういう方向に向かうかということをマーケットに示すということはやっておりまして、私の記憶では、実は、英国がブレグジットするかどうかというのを国民投票にかけたときに、事前の予測では否決されるだろうと言われていたのが、国民投票で可決されてしまいまして、英国がEUから離脱するということになってしまったときに、急遽、G7の中央銀行総裁などは共同声明なんかを出していますけれども、そういうときにショックが一番表れるのが金融市場ですので、そこに潤沢な流動性を供給してショックが経済に波及していくのを防ぐということが、そういう事態に対して中央銀行ができる最大の貢献だと思いますけれども。

 今回も、そういったG7、あるいはBISなどでもやっていますけれども、意見交換をして共通の対処をするということをやっている。経済金融制裁の方は、もうちょっとポリティカルな話、中央銀行が直接関与するものではないものが多いですけれども、そういった金融制裁などもあり得ますけれども、通常の場合は、何といっても、マーケットに潤沢な流動性を供給して金融市場の安定を確保するということが最も重要であり、今後ともそういうことは心がけてまいりたいというふうに思います。

中川(正)委員 国策的に、連携をして抑え込んでいくという、これは基本だというふうに思うんですが、それは日銀の話なんですけれども。

 日本の国のいわゆる特徴というか、今置かれた状況というのは、やはりこのとんでもない財政赤字なんだというふうに思うんですよね。それに対して、いかにリスクが高いかということ、それがあるからちょっとしたことで事が揺れるという基本があるんだと思うので、これは、さっき財務省の話では、そうした意味での危機管理マインドというか、それが完全に欠落しているんじゃないかなというふうに私は思っています。

 この際、しっかり、そこの議論も踏まえて、この今の財政の状況をどうするかという話に持っていかなければならないということ、これを指摘をしておきたいというふうに思います。

 その上で、ずっと振り返ってきたんですけれども、実は、一つ、アメリカと日本、アメリカも量的緩和をやって、それをどういう形に持っていくかという、その前提で今利上げし始めてきたんだと思うんですけれども、アメリカの場合、見ていると、FEDの方で、いわゆる出口戦略というものに対して、事細かにプロセスを国会に対して説明をしていますよね。その資料というのが日本にも届いて、専門家の間では、それを見通しながらいろいろな判断ができていくということだと思うんです。

 日本の場合も、前提は、やはりどこかで出口はつくっていかなきゃいけないということはあるんだと思うんですが、そこに関してのコメントというか、あるいはそこに関しての日銀の議論とそれから国民に対する説明というのは、これは、総裁、最後の年を迎えて、やっていってもらうということでないと、次がまた同じように、私は黒田総裁の後を継いでいきます、もうそれは一行たりとも変えませんというふうなことを言わせてしまったら、これは元も子もないというふうに思うんですよ。そういう意味で、出口戦略に対してやはり責任があるというふうに私は思っています。

 そこの取組、この一年の間にやるということ、是非踏み出していただきたいと思うんですが、どうですか。

黒田参考人 出口戦略については、二%の物価安定目標が安定的に達成されるような状況が近づいた場合には、当然、政策委員会で議論して、それをまたマーケットにも詳しく伝えるということになると思います。

 米国の場合は、今そういう状況なので、マーケットにも伝えて、それに沿って金利の引上げを段階的に行おうとしているという状況だと思います。ちなみに、FRBは、以前、やはり出口戦略を示したんですけれども、それは出口に至らなくて、むしろ市場を混乱させたというふうに批判をされたわけです。

 いずれにせよ、どんな出口戦略であっても、米国の場合も同様ですけれども、低位に切り下げた政策金利をどのようなペースで引き上げていくかという話と、巨大化したバランスシートをどのように調整していくか、この二つの点、そのペースとか順序とか、そういうことが主たる出口戦略の内容になるということは前から申し上げておりますので、具体的な出口戦略を今申し上げることは時期尚早だと思いますけれども、出口に差しかかった際には、出口戦略をきちっと議論して、それを市場にも事前にはっきりと伝えるということは、中央銀行として当然だと思っております。

中川(正)委員 いろいろ指摘があったように、経済の構造は十年前と比べて非常に変わってきているという前提の中で、やはりこれからの出口戦略、どういうふうに持っていくか、知恵を集めて、公表して、皆でそれを前提にした経済運営をしていくということ、これが大切だということ、これを指摘をして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

薗浦委員長 次に、藤巻健太君。

藤巻委員 日本維新の会の藤巻健太でございます。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、質問の方に移らさせていただきます。

 為替市場、大きく動いております。今、市場では、ドル売り・円買いの為替介入が入るのではないかという観測があふれています。

 前回大規模な介入があったのは十一年前の二〇一一年。当時、私は銀行のマーケット部門で働いており、一市場参加者でございました。先ほど野田先生が、胃がひりひりするような難しい判断だったとおっしゃっておりましたが、当時、私たち市場参加者もすごい緊張に包まれておりました。そのときの為替レートは一ドル七十五円台。いつ介入が入るのか、今にも入るんじゃないか、パソコンの前にみんなかじりついておりました。トイレに行っている間に介入が入ったら対応できなくて大変なので、別に漏れそうでもないのにトイレに全力疾走で走って行った、そんなようなことを覚えております。日銀の介入が入った途端、物の数分のうちでしょうか、見る見るうちに円安が四円ほど、七十九円台まで進んだのを鮮明に覚えております。

 現状も、このまま円安が進めば財務省は為替介入をする可能性は僅かでもあるのでしょうか。例えば、一ドル百三十円になったらなどと、検討に入るラインがあるのでしょうか。

 今回のケースですが、当時と大きく違う点があります。それは、FRBとその思惑が大きく相違しているということです。今、米国の最大懸念材料はインフレです。インフレ対応の最大の武器は自国通貨高、すなわちドル高です。そのような状況でも、米国の意向にかかわらず、為替介入をする可能性はあるのでしょうか、それともないのか。お答えにくい部分はあるとは思うんですけれども、お答えください。

岡本副大臣 お答えいたします。

 前回の為替介入のときに私もマーケットで働いておりましたけれども、事前に政府が様々なコメントをしないからこそその効果が大きいわけでございまして、為替介入につきましてはコメントすることは差し控えさせていただきたいと思いますが、為替の安定は非常に重要でありまして、急速な変動は望ましくないというふうに考えています。政府といたしましては、特に最近の円安の進行を含め、為替市場の動向や日本経済への影響をしっかりと緊張感を持って注視してまいります。

藤巻委員 ありがとうございます。

 予想どおりの御回答というか、そういうふうに言わざるを得ないかなということは承知をしておりました。ありがとうございます。

 続いて、日銀の方の質問に移らさせていただきます。

 物価高騰に対して、政府と日銀の政策の整合性に関して御質問いたします。

 岸田首相が先月二十九日に物価高に対して緊急対策を指示しました。しかし、物価の変動に対し政府ができることは対症療法にすぎず、本来、物価の安定のために前面に出るべきは、金利の引下げ、引上げなどの政策手段を持っている日銀のはずです。それが日銀法第二条で決められている日銀の責務です。なぜ今回は日銀が前面に立ち、金利の引上げを行わないのでしょうか。それとも、政府とは認識が異なるということでしょうか。

 日銀は、先月十八日の金融政策決定会合で現在の大規模な金融緩和の継続を決めております。政府が物価を押し下げようとしているのに、日銀は相変わらず押し上げようという真逆の政策を取っているようにも見えます。また、欧米の中央銀行は、資源価格の高騰や半導体などの供給制約がもたらす悪いインフレにもかかわらず、大規模緩和から正常化する方向にかじを切っております。日銀だけ欧米の中央銀行や日本政府の政策と反対の行動をし続ければ国内経済は混乱するということも考えられますが、御見解の方をお聞かせください。

黒田参考人 消費者物価の前年比は、足下ではゼロ%台半ばとなっておりますが、目先、プラス幅ははっきりと拡大し、携帯電話通信料下落の影響が剥落する四月以降は二%程度になる可能性もあると考えています。

 もっとも、今回の物価上昇の主因は国際的なエネルギー価格の上昇でありまして、こうしたコストプッシュ型の物価上昇は、家計の実質所得や企業収益の減少を通じて我が国経済を下押しするため、日本銀行が目指している安定的な二%目標の達成にはつながらないと考えております。

 この間、政府は、三月上旬より原油価格高騰に対する緊急対策を実施するとともに、四月末にかけて新たに原油価格・物価高騰等総合緊急対策を取りまとめる意向を示しております。これらは、エネルギー価格上昇が国民生活や企業活動等に与える悪影響を緩和し、ひいては景気の下支えに貢献するものと理解しております。

 日本銀行といたしましても、金融緩和により、感染症からの回復途上にある経済活動をしっかりと支えることが重要であるというふうに考えておりまして、政府と基本的な方向性は同じであると認識しております。

 日本銀行としては、イールドカーブコントロールを軸とした現在の強力な金融緩和を粘り強く続けることで、コストプッシュ型の物価上昇ではなく、企業収益や賃金の増加を伴う好循環の下での安定的な二%目標の実現を目指していく考えであります。

藤巻委員 ありがとうございます。

 今、やはり、原油価格が高騰しております一方で安定的な価格上昇を目指すということで、非常に難しいかじ取りを迫られているとは分かっております。引き続き、そこの辺を注視しておきますので、どうぞよろしくお願いします。

 続いて、日銀の設定している長期金利の上限に関して御質問いたします。

 世界的にインフレ懸念が出ており、日本政府も物価上昇に対して先ほど申し上げたように緊急対策を発動しようとしております。

 一方、日銀は、十年新発債に対して〇・二五%の指し値オペを二十八日から期末まで連続して行い、長期金利の上昇を抑え込んでおります。また、三月三十日には、通常の国債買入れオペのほかに、超長期国債では異例の臨時オペを発動しました。その結果、合計で約二兆三千億円の買入れを行い、二〇一三年四月以来、九年ぶりの規模となりました。二〇一三年四月といえば、黒田総裁就任直後で、短期勝負で大規模な量的緩和を行うと宣言したときです。

 それと同規模、同程度の緩和をこの時期に行う必要があるのでしょうか。世界がインフレを懸念し、政府が物価対策を打とうとしているときに、真逆にも見えるデフレ脱却対策に走っているようにも見えます。各国の中央銀行や政府と反対の施策を打つことに合理性はあるのでしょうか。

 指し値オペに関しては、長期金利の変動幅の上限の〇・二五%に達したからとの理由なのでしょうが、なぜその〇・二五%を死守する必要があるのでしょうか。今の地合いならこの〇・二五%という上限を引き上げることが正しい判断かとも思いますが、そこの辺の御見解をお聞かせください。

黒田参考人 まず、欧米の金融政策との違いは、もう端的に言いまして、経済、物価状況が全く違うということであります。

 米国経済は、コロナ禍から急速に立ち直って、コロナ前のGDPの水準を上回っておりますし、現在の物価上昇率はもう八%程度に達している、その中で、賃金、物価のスパイラルも生じているのではないかと懸念されるということでありますので、当然、FRBは、金利を引き上げていくということを決定し、第一回目の金利引上げを実行したわけであります。

 ユーロ圏では、物価上昇率は七・五%程度に達していますが、その大半がエネルギー価格の上昇によるものであって、賃金、物価のスパイラルのようなものがまだ生じていないということで、引上げにはやや慎重ですけれども、既に七・五%程度のインフレになっていますので、当然、金融政策は正常化していくということになろうと思います。

 それに対して、我が国の物価上昇率は、先ほど来申し上げているとおり、足下でプラス〇・六%程度。四月以降、携帯電話通信料の引下げの効果が剥落する一方で、エネルギー価格の上昇が価格に転嫁されていくということを含めても、二%程度ということでありますので、金利、経済、物価情勢が全く違うということで、金融政策も異なっているということであります。

 そうした下で、なぜ十年物国債の操作目標をゼロ%程度というふうにして、その下でプラスマイナス〇・二五%の幅の変動を許容するということにしたかということですが、これは昨年三月の点検で、金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和効果を損なわずに市場の機能度にプラスに作用するということを定量的に確認いたしました。そうした分析結果も踏まえて、市場機能の維持と金融コントロールの適切なバランスを取る観点から、長期金利の変動幅は上下にプラスマイナス〇・二五%程度であることを確認、明確化したわけであります。

 逆に言いますと、長期金利がプラス〇・二五%程度の上限を超えた状況が継続しますと、金融緩和効果が減殺されて、設備投資などの下支え効果も弱まるというふうに考えておりますので、こういった下で、必要に応じて国債の買入れを行い、あるいは指し値オペ等も活用するということで、十年物国債金利がゼロ%程度で推移するように、適切な金融市場調節を行っているということでございます。

藤巻委員 ちょっと先ほどの野田先生の質問ともかぶってしまうんですけれども、やはり、このまま金融緩和を継続していく、安定的な物価上昇を図っていくという大前提の下においては、金利を低く抑える。一方で、欧米の中央銀行の方は、欧米の各国は金利を上げていく。

 そういった意味において、やはり大規模金融緩和を継続していくという大前提の下において、円安やむなし、円安はその次の問題である、円安になってもそれは大規模金融緩和を続けるためには仕方がないという認識でよろしいのでしょうか。

黒田参考人 為替レートは経済や物価に大きな影響を与えるわけですので、当然日本銀行としても注視しているわけでありますが、為替政策自体は財務省が所管しておりますので、私から具体的に何か申し上げることは差し控えますけれども、財務省と、日本の財務省とだけでなくて、G7の財務省や中央銀行と合意されており、コミュニケなどに常にうたわれておりますとおり、経済や金融のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するということが望ましいということには変わりないというふうに思います。

藤巻委員 ありがとうございます。

 やはり、為替についてはなかなかセンシティブな話題でございますので、それ以上お答えにならないとは思います。

 続いて、次の質問に移らせていただきます。

 日銀のバランスシートに関して御質問いたします。

 先日、私、二月の方でも質問させていただいたんですけれども、その際、総裁は、債務超過になっても日銀には長期にわたって通貨発行益が出るから問題ないと答弁されました。また、日銀の収益が一兆円以上であることも強調されました。

 しかし、今、インフレが加速した場合、短期の金利の引上げは日銀当座預金への付利金利の引上げしかないと言われております。FRBもその方法を取っています。

 二〇二二年一月末現在、日銀当座預金は五百三十九兆円もあります。一%金利を上げれば、五兆三千九百億円の支払い金利増です。国債からの受取利息等が一兆円では全く足りません。

 総裁は、日銀には長年にわたる通貨発行益があるから大丈夫とおっしゃっておりましたが、このままでは、長年にわたる通貨発行損が発生してしまいます。

 また、前回、金利が上がれば保有国債からの受取利息も上がるとおっしゃいましたが、前回申し上げたように、ほとんどの保有国債は長期固定金利です。満期が来て、高い金利の国債に買い換えたときしか、新しい金利に変わりません。ですから、受取利息が付利金利の支払い増に追いつくということはないとは思います。

 ちなみに、二〇一五年から二〇一八年の米国の利上げの際は、FRBの受取利息はほとんど上昇していない一方、支払い利息は急増しております。それでも、債務超過になっても一時的なもので、大丈夫というふうに言えるのでしょうか。

黒田参考人 いわゆる出口の局面におきましては、日銀当座預金に対する付利金利の引上げ等によって支払い利息が上昇することも考えられます。

 もっとも、そうした局面においては、経済、物価情勢の好転とともに長期金利も上昇すると考えられますので、保有国債がより高い利回りの国債に入れ替わっていくということで、受取金利も上昇していくというふうに見られます。

 日銀の国債保有の平均残存期間は七年ぐらいだと思います。ということは、もっと短い残存期間の国債もたくさん持っている。

 FRBの保有する国債の残存期間はもっと長いわけでありまして、なかなか、高い金利の長期国債に振り替わっていくというテンポは非常に遅いと思います。

 そういう違いもありますけれども、いずれにせよ、利ざやの逆転が起こるかどうか、起こる場合に日銀の財務にどの程度影響を及ぼすかということを現時点で具体的に予測することは難しいと思いますから、何度も申し上げていますとおり、日銀を含めて、中央銀行には継続的に通貨発行益が発生いたしますので、長い目で見れば、必ず収益を確保できるという仕組みになっております。

 したがって、短期的な収益の振れはあっても、そのことで中央銀行や通貨の信認が毀損されるということはないというふうに考えております。

藤巻委員 FRBとの違いがあるのは分かっておりますが、残存期間がFRBに比べて短いとはいえ、やはり、受取利息が増えるまで時間がかかってしまう側面がある一方、当座預金の支払い利息の方が増えてしまうと、逆ざやは、決して短期で解消できるものではなく、長期的に続いてしまう可能性があるということを御認識いただければと思います。

 それでは、時間もなくなってきましたので、最後の質問に移らせていただきます。

 日銀の保有国債の評価方法に関して御質問いたします。

 日本銀行の内部組織である日本銀行金融研究所が、「日本銀行の機能と業務」という本の中で、資産の流動性が低下すると負債を機動的かつ円滑に調整することは困難になる、こうした観点から、日本銀行は、保有する資産について、償却期間のバランスに留意しつつ、全体として残存期間が長期化しないように、また、必要なときにはいつでも容易に売却できるように努めていると書いてあります。

 そうであるならば、現在保有の長期国債も容易に売却できる資産として捉えているはずです。

 一方、日銀が一九九八年に制定した会計規程では、第三条に、「会計処理の原則」として、「当銀行の会計処理は、中央銀行としての財務の健全性を踏まえつつ、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を尊重して行うものとする。」とあります。

 一般に、公正妥当と認められる企業会計の基準では、満期保有は簿価会計、途中売却の可能性があるものは時価会計とされております。よって、この規定に従えば、現在日銀が保有している国債は時価会計で評価すべきだと考えます。

 この規程が制定された一九九八年は、まだ日銀保有の国債は短期債が大部分だったと思います。そうであれば、原則満期所有であり、簿価会計でも問題がないかと思いますが、この規程が制定されたときと違い、現在、保有国債は長期国債が大部分という状況であり、全く状況が違います。

 いずれにせよ、やはり、時価会計が適切だと私は考えております。

 総裁は先日、過去、長期債はほとんど売ったことがないことに鑑み、簿価会計が適切と答弁されました。だとすると、今後、インフレを抑えるために日銀が国債を途中売却するような事態になれば、それ以降は長期債を時価会計するべきだというふうにも解釈ができますが、この部分に関しての御見解をお聞かせください。

黒田参考人 日本銀行では、有価証券の評価方法について、中央銀行としての財務の特性、あるいは保有の実態等を踏まえた方法を採用いたしております。こうした下で、国債については、一部の例外を除いて売却を行っていないという保有実態も踏まえて、時価により評価する時価法ではなく、簿価に基づくいわゆる償却原価法を採用いたしております。

 なお、日本銀行では、決算時に、参考情報として保有国債の時価情報についても公表をいたしております。

 いずれにいたしましても、先ほど来申し上げているとおり、日本銀行には中央銀行として継続的に通貨発行益が発生いたしますので、現在は保有する国債の時価の方が簿価よりもかなり高いわけですけれども、仮に、将来、保有する国債の時価が下落して、計算上の評価損が生じたといたしましても、日本銀行には中央銀行として継続的に通貨発行益が発生いたしますので、信認が毀損されたり、政策運営に支障が生ずることはないというふうに考えております。

 ちなみに、海外の中央銀行の中には、赤字になったり、あるいは資本金を上回る損失が生じたりしたこともありますけれども、いずれも中央銀行としては引き続き十全に機能をしております。

藤巻委員 時間が参りましたので、私の質問を終わらせていただきます。

 本日はありがとうございました。

薗浦委員長 次に、赤木正幸君。

赤木委員 日本維新の会、赤木正幸です。

 本日も、また貴重な質問の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 本日、私は、資産の買入れ方針で、特に長期国債以外の、ETFとか、あとJ―REIT、CP、いわゆるコマーシャルペーパー、社債等に関する質問をさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 私自身、以前、J―REITの運用会社に勤めていたことがあって、その際は、物件の取得や投資の責任者をしながら、一方でIR担当ということで、機関投資家さんとか個人投資家さんに向けて、自分たちの運用結果とか今後の方針について説明していったことがあります。まさに今回テーマとして取り上げさせていただいたこの資産買入れに関しては、買入れしてもらうサイド、いわゆる買ってもらう側という、恐らくこの中では結構特殊なポジションにいた経験がありますので、それに基づいた質問にもなっております。

 買入れしてもらうとき、REITの運用会社にいた場合というのは、非常にミクロな世界で、投資家の利益を追求する立場でしたので、個人的にはとてもありがたい政策と考えていたんですが、改めて、今、私の立場も考えて、資産の買入れを国民の皆様の利益にとってどのように評価して、どう位置づけるかということを考えると、かなり基本的な論点に立ち返る必要があるのかなというふうに考えるに至っております。

 よって、本日、かなり基本的な内容を改めてお聞きする場面もありますが、よろしくお願いいたします。

 では、早速、まず最初の質問になりますが、この資産の買入れ、そもそも論として、なぜこのような買入れを行うのか、そして、何を実現しようとしているのか、更に言うと、どのような効果を狙っているのかといったところを、黒田総裁に御見解をいただければと考えております。

黒田参考人 日本銀行によるCP、社債等やETF、J―REITといったリスク性資産の買入れは、二%の物価安定の目標を実現するための大規模な金融緩和の一環として実施しておるところでございます。

 これらリスク性資産の買入れの波及経路としては、市場のリスクプレミアムへの働きかけを通じて、経済、物価にプラスの影響を及ぼすことを想定しております。

 具体的には、CP、社債等の買入れは、企業等の資金調達コストを低下させることで、設備投資等を押し上げる効果を念頭に置いております。また、ETFやJ―REITの買入れは、金融市場における不安定な動きが企業や家計のコンフィデンス悪化につながるのを防止することによって、個人消費や設備投資を下支えする効果を期待いたしております。

 欧米の中央銀行も社債などは買い入れておりますけれども、確かに、ETF等の買入れは余りないようであります。それだけに、こういったリスク性資産の買入れによって経済、物価にプラスの効果をもたらすということについては、常にその検証をしているところであります。

赤木委員 ありがとうございます。

 実際、私もREITの現場にいたときに、周囲から、誰のお金で買って、何をしているのというのを聞かれたときに、なかなかすっきり回答できなかったんですけれども、今の御説明をまた私の回答にも利用させていただければと思います。

 そこで、次の質問になりますが、資産の買入れの方法、手段の話として、そもそも、買入れを決定するのは誰なのかとか、誰が実行するのか、あと、方法、手段、タイミング、金額。J―REITの場合なんかだと個別の銘柄にも関わってくるとは思うんですけれども、銘柄をどのような形で決めているのかといった点について、日本銀行の御説明をいただければと思います。

内田参考人 お答え申し上げます。

 リスク性資産の買入れにつきましては、政策委員会・金融政策決定会合におきまして、買入れの上限、それから買入れ対象銘柄の要件、こういった基本的な事項を決定しております。

 例えば、ETFにつきましては、上限として年間約十二兆円、対象はTOPIX連動のETFというふうにしているわけでございますし、CP、社債等につきましては、コロナ感染症への対応としまして、合計約二十兆円の残高を上限として買入れを行ってまいりましたが、市場が安定してまいりましたので、今月以降は感染症前と同程度のペースで買うということを決定しているわけでございます。

 そうした決定会合におきます決定に基づきまして、個々の買入れのタイミング、それから各回の金額などにつきまして、こういう具体的な事項につきましては、その時々の市場の動向を踏まえまして、執行部において実務的に決定しているということでございます。

赤木委員 ありがとうございました。

 まさに、きちんとしたルールに基づいて、経済状況を見ながら運用というか買入れがなされているということを理解させていただきました。

 実際に、相当な金額の買入れが継続されているというふうに理解しております。直近の日銀のバランスシート上では、ETFは三十六兆円以上ですね。J―REITは六千五百億円、ETFに比べると桁が二つぐらい違うんですが。これは私、ちょっと昨日の晩実際に計算してみたんですけれども、REIT六十銘柄ぐらいあるうちの下から時価総額が低い順に積み上げていくと、十三銘柄全部買えるぐらいの金額になるので、それなりな金額かなと考えております。ほかにも、社債は八・五兆円、CPは三・二兆円、相当な金額が買い入れられていると認識しています。

 そこで、質問になりますが、既に行われた買入れの実績と評価について、そもそもいつから買入れが行われていて、どれぐらいの実績値として積み上がっているかということと、あとは、この買入れによる効果を何とみなしており、この効果に対してどういった評価をされているかということについて、日本銀行より御説明と御見解をよろしくお願いいたします。

内田参考人 お答え申し上げます。

 各リスク性資産の買入れにつきまして、開始時期、それから、これは直近の三月二十日時点の買入れ残高を申し上げます。

 まず、CPにつきましては、二〇〇九年一月から買入れを始めまして、直近残高は約三兆円となっております。それから、社債につきましては、二〇〇九年三月から買入れを始めまして、直近残高は約九兆円となっております。ETFにつきましては、二〇一〇年十二月から買入れを行いまして、これは先生御指摘のとおり、簿価ベースで直近約三十七兆円。それから、J―REIT、同じ時期、二〇一〇年十二月から買入れを始めまして、直近約七千億円というふうになっております。

 効果でございますが、まず、CP、社債等につきましては、これはイールドカーブコントロールの下で長短金利を低位にコントロールしているということと併せてということでございますが、企業の資金調達コストの低位安定につながっているというふうに考えておりまして、例えば、コロナ感染症の下でも、CP、社債市場は極めて安定して推移しました。

 また、ETF、J―REITの買入れにつきましては、これも、例えば一昨年春の時点、コロナの欧米での流行が始まった時点でございますが、このときのように、株式市場が不安定になったときにリスクプレミアムの抑制に効果を発揮したというふうに考えております。

 こうした点につきましては、昨年三月に行いました点検におきましても、定量的な分析によって確認されているところでございます。

 日本銀行としましては、リスク性資産の買入れは所期の効果を発揮しているというふうに考えております。

赤木委員 相当な金額と期間、買入れを行っているということを理解させていただきました。

 ここで、これだけの資産の買入れを行っているからこその次の質問になるんですけれども、特に、この資産買入れに関する一番の大きなメイン論点かと個人的には考えております。つまり、資産の買入れと市場の中立性、まさしく介入している世界ではありますので、この資産買入れが例えば市場をゆがめることにはなっていないのかといった点について、黒田総裁より御見解をお願いできますでしょうか。

黒田参考人 日本銀行は、リスク性資産の買入れに際しまして、市場中立性の観点から、ミクロの資源配分への関与を極力避けるような様々な工夫を行っております。

 CPや社債等については、一発行体当たりの買入れ残高や保有割合の上限を設けております。

 また、ETFにつきましては、特に、個別銘柄の株価に偏った影響ができるだけ生じないよう、幅広い銘柄から構成されるTOPIXに連動するETFを対象として買入れを行っております。さらに、ETFについては、年間約十二兆円に相当する残高増加ペースを上限に、市場の状況を見極めながら、必要に応じてめり張りのある買入れを行っております。

 こうした工夫もあって、現在のリスク性資産の買入れが市場機能を著しくゆがめているとは考えておりませんけれども、中央銀行として、やはり引き続き政策の効果とコストを丹念に点検しながら、適切な金融政策運営に努めていく考えであります。

赤木委員 ありがとうございました。

 まさに、おっしゃられたとおり、金融政策と市場の中立性というか、市場の機能のバランスを巧みに取られているということを理解いたしました。

 ちょっと細かい追加質問になってしまうんですけれども、市場に流通する金額に対して買入れ資産がどの程度の割合になっているかというのを、これはちょっと細かいので黒田総裁ではなくて結構ですので、ちょっと参考までに、買入れがどれぐらいの割合を占めているかということを教えていただけるとありがたいのですが。

内田参考人 お答え申し上げます。

 J―REITにつきましては保有の割合が五・一%、CP等につきましては一四・四%、社債等については八・五%となっております。ETFの場合には、ETFそのものというよりも株式全体との割合ということになるかと思いますが、七・一%。いずれも昨年九月末の数字でございます。

赤木委員 ありがとうございます。

 そうですね、バランスシートの金額だけを見るとウン兆円という金額で非常に大きく感じるんですけれども、市場自体がかなり大きいので、今、例えば、ETF、REITを取っても、一〇%以下というところ、理解させていただきました。

 そこで、次の質問に移らせていただきますと、金融政策とはいえども、見方によっては、価格をある意味、維持する部分もあるかと思われるんですが、こういった株とか債券等に投資ができる富裕層を優遇するような政策につながりかねないのではないかという懸念をしております。これについて、資産買入れと公平性について、日本銀行の御見解をいただけますでしょうか。

内田参考人 お答え申し上げます。

 リスク性資産の買入れは、これは先ほど総裁からも申し上げましたとおり、二%の物価安定の目標を実現するための大規模金融緩和の一環として行われているものでございます。

 そういう意味で、大規模緩和は、資金調達コストの低下、それから金融資本市場の改善を通じまして、緩和的な金融環境を提供しているということでございます。その結果といたしまして、経済活動全体として押し上げられておりまして、これも先ほど御議論がありましたように、企業収益は過去最高水準に達しておりますし、雇用環境は大幅に改善しております。こうした良好な経済環境の下で、デフレ期には見られなかったベースアップが実現するなど、賃金も緩やかに上昇しているということでございます。

 このように、金融緩和のプラスの効果というものは、もちろん、金融資産への投資を行っている方々だけではなくて、雇用・所得環境の改善などを通じて国民の皆様の各層に幅広く及んでいるというふうに考えております。

赤木委員 まさに日本の経済全体をよくしていくという趣旨を理解させていただきました。

 実際、私がJ―REITにいたときも、まさに、運用会社にいたときというのは、自分たちの株価を、投資口ですけれども、買ってくださっている投資家にどう利益を還元するかを追求していたんですが、一方で、J―REITは結構特殊で、やはり株価が維持できて、若しくは株価が上がれば、次の増資ができて、また次の不動産が買えるというような、さっき御説明いただいたようなサイクルをすごく短いサイクルで行っていくビジネスです。それによって不動産が動くと、当然流動性が高まって、その周囲に及ぼす経済の影響というのは非常に大きかったので、私個人としては、非常に実感を持って、この買入れが日本経済に貢献しているというのを理解しております。是非、今後も、国民全体の利益を、追求性を貫いていただきたいと考えております。

 それでは、もうそろそろ時間も参りましたので、最後の質問となりますが、資産買入れの今後の方針について、そもそも買入れ政策の継続の蓋然性とか、あとは、継続する際にどういったところを検討したり基準とされるのか、あと、買入れ金額そのものの増額はあり得るのかといった部分について、黒田総裁より御見解をいただければと思います。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、このようなリスク性資産の買入れは、大規模な金融緩和の一環として行っているものであります。したがいまして、二%の物価安定の目標の安定的な実現にはなお時間がかかると見込まれることを踏まえますと、リスク性資産の買入れを含む現在の大規模な金融緩和を粘り強く継続していくことが適当というふうに考えております。

 そうした認識の下で、その時々の金融経済情勢も踏まえて、リスク性資産の買入れについては、必要な調整を行いながら、これを継続してきております。

 例えば、先ほど来出ておりますとおり、CP、社債等の買入れにつきましては、二〇二〇年春の感染症拡大の際には、企業等の資金調達の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持する観点から、買入れを大幅に増額したわけですけれども、その後、本年四月以降は、CP、社債市場の発行環境の改善を受けて、感染拡大前と同程度まで買入れペースを戻しつつも、買入れ自体は継続いたしております。

 ETF買入れにつきましても、感染症の拡大として約十二兆円まで引き上げた上限を感染症収束後も維持することとした上で、従来以上にこのめり張りをつけて必要な買入れを実施していくということにしております。

 したがいまして、今後とも二%の物価安定目標を安定的に持続するために必要な時点まで大規模緩和を続ける下で、リスク性資産についても必要な買入れを実施していく考えでございます。

赤木委員 ありがとうございます。

 まさに経済の状況を見ながら、かなり大きな金額が動くとは思いますが、柔軟に広げたり縮めたりされているということを理解いたしました。

 今日は、二十分という質問時間もあり、この辺りで質問を終わらせていただきますが、次回、もし機会があったら、まさにこの買い入れた資産の、先ほどちょっとお話が出ていましたが、出口戦略をどうするのかとか、あとは、もうちょっと大きな意味合いとして、政府と中央銀行の役割分担がこの買入れについてどういった位置づけを取られているかという部分を、突っ込んだ話を、質問をさせていただければと考えております。

 私というか、日本維新の会の持ち時間も参りましたので、質問を終了させていただきます。ありがとうございました。

薗浦委員長 次に、岸本周平君。

岸本委員 国民民主党の岸本周平でございます。

 今日は、元上司の黒田総裁に質問をする機会を与えていただきまして、大変感慨深いものがあります。

 ちょうど二十年以上前になりますけれども、アジア通貨危機の後、新宮沢構想、それからチェンマイ・イニシアティブに至る過程で、国際局長、財務官としてお仕えをいたしました。

 今、こうして日銀総裁として大変権威のあるお立場ですけれども、当時は本当に気さくな上司であられて、我々、普通は財務官とか局長とかと呼ぶことがあるんですけれども、割と省内でも黒田さんとかいう感じで、物すごく議論のしやすい上司でした。

 タメ口は利きませんけれども、とても活発な議論ができましたし、また、マスコミの記者さんたちの間では、黒田さんのファーストネームの上の一字が東という字なのでクロトンと呼ばれていまして、クロトンという感じで愛されておられまして、今日は当時のことも少し触れたいと思っておりますけれども。

 ちょうど、その頃ですから、まだ日本のGDPが世界に占める比率が十数%あった時代です。中国なんかはまだ三とか四とかという時代。今の日本はもう六%を切ってしまったんですけれども、アジアの中で日本のステータスが非常に高くて、私も課長クラスでしたけれども、アジアの国に新宮沢構想を持って回りますと、場合によっては大臣クラスとか次官クラスの方と直接交渉するような時代でありましたし、また、当時の黒田さんはすごく部下に任せてくれますので、自由闊達に仕事ができまして、大変私のサラリーマン生活で楽しい時期でありました。

 今回、ウクライナの問題でいろいろ分かってきたことがありますけれども、経済制裁の一環としてロシアの一部の銀行がSWIFTから排除されています。SWIFTといいますのは、一九七三年にベルギーで発足しました。ヨーロッパ中心の仕組みでありましたけれども、これは支払い指図の情報の交換というような仕組みでありますが、何せ、中身は米ドルの決済が中心ですから、米国が非常に影響力を持っているということで、二百か国、一万一千以上の銀行が入っている仕組みであります。

 これから、そもそもロシアもそうでしょうし、中国もそうですが、ヨーロッパもそうなんですけれども、ドル主導の決済に対しては、これは国益、彼らの国益、日本もそうだったんですけれども、やはり全てドル決済に頼りたくないという思いがあります。実は日本も、当時、円の国際化ということを、国際金融局、国際局がもう本当に一生懸命やっていた時代。これも、黒田さんの指導の下、やっていました。

 中国も、実は二〇一五年にCIPSという決済機関をつくっています。これは、実際、決済まで行われるということですけれども、国は百か国で、金融機関も千三百ぐらいですから、まさに規模が小さいので、今回、ロシアのSWIFT排除の代替にはなり得ないというようなことだと思います。

 一方で、ロシアだって、二〇一四年には彼らなりの国際決済システムをつくっています。残念ながら、ほとんどロシア国内の銀行しか入っていませんから、ほとんど今は意味がありません。

 しかし、二〇一九年ですけれども、これまた英独仏が中心となって貿易決済システムをつくっています。彼らも、やはりユーロ、あるいはポンドで決済を取りたいという気分もあるんだろうと思います。ただ、これは始まったばかりです。恐らくすぐには効果がないと思いますし、まさに日本も円の国際化を狙っていた、当然だと思うんですね。

 その上で、日本銀行総裁として、過去の経験も踏まえて、ドル優位というのがいつぐらいまで、どのような形で続くのだろうか、それに対するいろいろな各国のチャレンジというのはどうなるんだろうか、御見解を伺えればと思います。

黒田参考人 御指摘のロシアの特定の銀行をSWIFTから排除するという金融制裁が行われまして、これがドルを中心とした国際的な決済の状況に影響が出るのではないかという議論がかなり行われております。それから、御指摘のような代替的な決済取決めが既に各地で起こっておりますので、それもドルの国際通貨としての役割を低下させるのではないかというふうに言われております。

 御指摘の円の国際化も、円をより国際通貨として使ってほしいということで行ったわけですけれども、これまでのところ、ドルの圧倒的な国際通貨としての優位というのは変わっておりません。

 これについては、有名なキンドルバーガー教授の説というのがありまして、なぜ英語が国際語として圧倒したのかというと、百数十か国の国があって、共通の言葉がないと、百数十か国語を使わないと百数十か国の人と対話ができない。それに対して、一つ国際言語があれば、自国通貨以外に国際言語一つさえ分かれば、世界中の人と交易もでき、対話もできる。そういう点から、国際言語というのはどうしても一つに集中してしまう。だから、現在、それから近い将来も、ずっと英語だろうと。それと同様に、国際通貨も、取引のいろいろなところで別々の通貨でやっていると非常に不便で、結局、一つの通貨、ドルに集中してしまう。ですから、これは当分、未来永劫とは彼は言いませんでしたが、変わらないだろう、こういうふうに言っているわけですね。

 その点は、確かに、ある国の通貨が主要な国際通貨として使われるためには、やはり、単に経済規模や貿易額が大きいというだけでなくて、通貨価値が安定しているとか、資本取引が自由で、流動性が高い市場が存在するとか、そういういろいろなことがあってドルというのが圧倒しているということは事実で、それは当分変わらないと思うんですけれども。

 他方で、今、いろいろな形でデジタル化が進んでいまして、デジタル化になってくると、通常の銀行預金とかドル紙幣で決済するというのはなくて、このパソコンの操作で様々な通貨同士の決済、取引ができるんじゃないか、それもコストは安くですね。そうなってくると、ドルだけがほとんど唯一の国際通貨として流通している事情が変わるのではないか、キンドルバーガー教授の言っていた説はデジタル化の世界で少し変わってくるのではないかということを言う経済学者も出てきております。

 ただ、私は、そうはいっても、やはり通貨というのは国際的な流動性とか信用とかそういうものに絡んでくるので、例えば、今回のSWIFTからロシアの特定の銀行を排除したこととか、中国がパラレルな決済取決めを広げているとか、そういうことで大きく変わるということはなかなか考えにくいのではないかというふうに思っております。

岸本委員 ありがとうございます。

 恐らく、私たちの目の黒いうちは変わらないんだろうというふうに私も思います。

 それで、少し戻るんですが、円の国際化は、二十世紀の最後の段階で、本当に当時の大蔵省、財務省は力を入れていたと思うんですけれども、副大臣に、財務省として現時点で、なぜあのとき、本当に世界第二位の経済大国で、GDPが十数%もあった時代ですら円の国際化ができなかったのか。これはどういうふうに分析、評価されているのかお聞きしたいと思います。

岡本副大臣 お答えいたします。

 円の国際化が進まなかった背景といたしまして、平成十一年四月の外国為替等審議会において言及がされておりまして、その中では、国内金融、資本市場の規制緩和や自由化などに取り組んできたものの、九〇年代のバブル崩壊に伴う我が国経済の不調に加えまして、我が国の輸入におきまして国際的にドル建てで取引される原油等の割合が高いことなどが指摘をされております。

 一方で、国際取引において円が利用されやすくなるということを含めまして、円の利便性を向上させることは引き続き重要な政策であるというふうに認識しております。

 こうした考え方の下、ASEAN4、ASEAN四か国と締結しております二国間の通貨スワップの取決めにおきましては、危機のときに、ドル建てのみならず、円でも引き出し可能とする仕組みを設けたほか、インドネシアにおける為替取引に係る規制の緩和によりまして、日本円とインドネシア・ルピアの直接の取引を推進するなど、具体的な取引を現在も進めているところであります。

岸本委員 今のが財務省の公式な見解ですけれども、これは実は質問通告していないんですけれども、黒田総裁、今の御説明を聞いて何か補足するようなことがあれば、お聞きしたいと思います。いかがでしょうか。

黒田参考人 補足することは特にありませんけれども、一つは、御案内のとおり、利子に対する源泉徴収というものが円の国際化にやや障害になっているんじゃないかという議論があったので、租税特別措置で、国債の金利については非居住者に対する源泉徴収を免除するという形をして、それは非居住者が円の取引をする上で、当然短期的に預金したり、短期証券あるいは国債で維持、保有するということがあるわけですので、そのときに源泉徴収されるということはないようにはしたので、それは少なくとも税制上の障害はなくなった。

 ただ、先ほど副大臣が言われたように、バブル崩壊後のやはり日本の金融機関の体力が非常に衰えた、あるいは日本の経済自体が、委員御指摘のとおり、世界に占める比率がどんどん小さくなってしまったというようなこともあって、十分な展開になっていないということではないかと思います。

岸本委員 ありがとうございます。

 それで、もう残り時間が余りないんですけれども、先ほど立憲民主党の野田委員、中川委員の議論が大変基礎的な、いい議論だったと思いますし、どちらの理論の立て方もよく理解できるわけであります。

 別に私は日銀の肩を持つつもりもないんですけれども、今、日銀が採用されているYCC、イールドカーブコントロールは、ある意味、今黒田総裁がるる答弁されていましたとおり、この非常時に、十年続くとはいえ中央銀行としてやるべきことは何でもやるんだということで、ある意味、優等生的に自分の所管の中では精いっぱい努力をするということをされているんだろうと思います。

 例えば、したがって、現状でイールドカーブコントロールをすれば、結果として円安が助長される。しかし、それは家計部門へのマイナスよりも企業部門にとってはプラスなんだ、こういう御説明なんだろうと思います。

 しかし、それは前提が、企業がもうかれば従業員の賃金を上げ、有形無形の設備投資をがんがんやって、それが回り回って日本の景気もよくし、潜在成長力も上げる、国際競争力が上がっていく、そういう前提であればそのとおりなんだろうと思うんですが、これも、もうこの二十年来、まさに岸田総理が新しい資本主義をやろうと思われるぐらい、企業はもうかっても、設備投資はこの二十年間増えていないんです。とんとんですよね。賃金に至っては、大企業、中小企業合わせますとマイナスになっている、二十年間たって。いろいろな統計はありますけれども、十三兆円ぐらいレベルが下がっているというようなこともあるわけであります。

 つまり、日本銀行さんの立場は分かりますが、前提として、家計にもマイナスだけれども、企業は確かに収益は増えたけれども、設備投資はしない、賃金は下げる、こういうことになったのではないか。

 もう一つ。

 これも先ほど来ありましたけれども、日本銀行とすれば、国会の方で、政府の方で、健全な財政政策、してくれるだろうという期待はあったはずだと思うんです。それを、税と社会保障の一体改革を野田内閣でやりましたけれども、いや、もちろん今は一〇%になりましたよ。でも、思い出してください。二回延期しているんです、延期しなくていいときに。二回も延期して、選挙の争点にして、これは日本銀行としては想定外だったと思いますよ。

 そして、与党も野党も、今やばらまき合戦なんです。本当に恥ずかしいです。もちろんコロナ対策はしようがありません、目の前のものは。しかし、将来のことを余り考えずに何でもばらまきを競っているというような状況は、これは日本銀行の想定外ではないかと思います。

 そういう意味で、こういう、日本銀行として言えないかもしれませんけれども、イールドカーブコントロールを優等生としてやられるんだけれども、クラスのほかの仲間は勝手なことをしていて、学級崩壊になっているんじゃないか、そう思うんですけれども、黒田総裁の御見解をお聞きしたいと思います。

黒田参考人 確かに、大規模な金融緩和を続けてきた中で、企業収益は大幅に改善し、史上空前の利益を上げ、その中で、確かにベアもデフレ期と違って復活はしているわけですけれども、その率は極めて低い率でありまして、企業収益の増加ほどには賃金は上がっていない。

 それから、設備投資は、これはかなり行われているわけですが、他方で、よく言われているように、先端技術とかDXとか、世界経済の成長を非常に引っ張ってきた部分の投資が必ずしも十分ではなかったということは言われております。

 そういう意味で、金融緩和の中で、経済が改善し、企業収益が非常に伸びた割には、賃金がなかなか上がらなかった。賃金が上がらないと物価は安定的に上がらないということで、ここに非常に大きな予想外というか、期待外れというか、そういうことがあったことは事実なんですけれども、ただ、振り返ってみると、やはり長きにわたる、一九九八年から二〇一三年まで十五年間、ずっとデフレだったわけですね。その間に、物価が上がらない、賃金が上がらないという、ノルムというか、そういう考え方に基づいた企業行動あるいは家計の行動が定着してしまっていたということがかなり大きくて、やはり、企業は、収益が増えてもすぐに賃金を上げようというふうになかなかならなかった。

 デフレの中で、御承知のように、日本企業は雇用は非常に守ったわけですね。ですから、組合と一緒になって、雇用は守る、しかしベアはしないという形でデフレをしのいできたわけですから、そのマインドセットというか、それがなかなか抜け切らなかったということで、何か意図的に、もうかっているけれども賃金は上げてやらないということではなかったと思うんですけれども。

 それから、もう一つの、財政政策につきましても、野田内閣の下で三党合意ができて、社会保障と税の一体改革という中で、社会保障の改革と消費税の二段階での五%から一〇%に引き上げるということで、その内容はそれぞれ過去十年ぐらいの間に、一定程度というか、もうかなり実現されたとは思うんですけれども、消費税の引上げが確かに遅れたということはそのとおりだと。

 ただ、これはなかなか、財政政策について、中央銀行から、こうしてくれとか、どうすべきだったと言うのもちょっとおこがましいと思います。あくまでも、これは政府、国会で決められたことですので。

 ただ、結果的には、野田政権の下での三党合意はほぼ実現されたと。これは、あれがなければこういうことになっていなかった可能性がありますので、大変大きな成果だったというふうには思っております。

岸本委員 ありがとうございます。そこまで言っていただいて大変ありがたいと思います。

 私も、野田内閣の下で三党合意を実現するために、まだ一回生でしたけれども、そんなに選挙は強くなかったんですけれども、一生懸命やったことを思い出しました。

 それで、今日は、本当に二十年前の局長室を思い出して、楽しい討論をさせていただきました。

 どうもありがとうございました。

薗浦委員長 次に、田村貴昭君。

田村(貴)委員 日本共産党の田村貴昭です。

 最初に、物価高騰対策について質問します。

 食料、エネルギーを始め、生活必需品の価格が急上昇をしています。昨年来の原油価格高騰に加えて、ロシアのウクライナ侵略が物価を一段と押し上げて、そして、コロナ危機で落ち込んだ日本経済に更なる打撃を与えています。

 しかし、日本銀行は、海外の中央銀行と違って、強力な金融緩和政策の継続を決定しています。家計や中小企業、農家などは既に重大な影響が出ているのに、なぜ緩和政策を続けるのでしょうか。総裁に伺います。あわせて、コストプッシュ型の物価上昇については、日本銀行は何もしないということなんでしょうか。

黒田参考人 本日も何度か述べさせていただいたように、二〇一三年の量的・質的金融緩和の導入以降の大規模な金融緩和によって、物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなったわけですけれども、二%の実現に時間がかかっていることは事実であります。

 そして、目先、消費者物価の前年比は、先ほど来申し上げているとおり、携帯電話通信料引下げの効果の剥落とか国際的なエネルギー価格の上昇などによって、目先二%程度になる可能性はありますけれども、その主因はエネルギー価格の上昇であって、持続的、安定的な物価上昇にはつながらないと見ております。

 このように、二%の物価目標の実現に時間がかかっている主な理由としては、やはり、我が国では、長きにわたるデフレ経験によって定着した、物価や賃金が上がりにくいことを前提とした考え方や慣行の転換に時間がかかっているというふうに思います。もっとも、人々が実際に物価や賃金の上昇の経験を積み重ねていけば、それが人々の考え方の前提に徐々に組み込まれていき、企業の価格設定行動や労使間の賃金交渉の在り方も変化していくというふうに考えております。

 先行き、感染症の影響が和らぎ、経済の改善が進んでいけば、物価は基調として緩やかに上昇し、二%の物価安定の目標の実現に近づいていくというふうに考えております。

 なお、コストプッシュ型の場合には、よく言われていますように、通常、かつて言われていたコストプッシュ型というのは、まず賃金が上がって、それから物価が上がって賃金というスパイラルになるということだったんですけれども、今回のコストプッシュは、御承知のように、基本的に、エネルギー、食料品の価格が上昇しているということでありまして、それが、御懸念されているように、仮に賃金、物価のスパイラル的上昇につながっていくということになれば、当然、金融の引締めということが必要になってくると思いますし、それはそれで、中央銀行間ではよく議論されているところであります。

 ただ、我が国の場合は、先ほど来申し上げているように、足下、プラス〇・六%で、四月以降、携帯電話通信料引下げの効果が剥落して、エネルギー価格上昇の影響も出てきて、二%になるかもしれないというようなことでありまして、基本的に、賃金、物価のスパイラルとか、そういう状況にはありません。

 米国の場合は、既に、インフレ率が七%を超えて八%になって、賃金、物価のスパイラルが懸念される状況になっていますので、当然、金融引締めということに踏み切って、金利の引上げを始めたわけでありますけれども、我が国の場合はそういう環境にありませんので、あくまでも、コロナ禍からの回復過程をきっちりと支援していく金融緩和を続けていくということが適切な金融政策だというふうに考えております。

田村(貴)委員 何もかも値上げで、国民にとってみたら、本当に今大変な状況なんですね。お話を伺えば、結局、影響を注視するだけ、そして、コストプッシュ型の物価上昇に対して、今すぐ日本銀行が手だてを打つという状況ではないということです。国民の感情とかなりかけ離れているんじゃないでしょうか。

 たとえプッシュ型の物価上昇であったとしても、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化で、我が国の経済に相当な影響を与えています。

 二月の消費者物価指数では、生鮮食品を除き、前年同月比で〇・六%上昇し、調査した全五百二十二品目のうち、六一%に当たる三百十九品目が上昇。ガソリンを始め、エネルギー価格の上昇が大きい。小麦は、四月の政府売渡価格が過去二番目の高騰。パンや麺類、あらゆるものに価格が上がっている。

 内閣府の日本経済二〇二一―二〇二二では、生鮮食料品を除く家計のエネルギー関連品目の価格が上昇によって家計負担を圧迫していると。五段階に、年収別に分けているんですけれども、最も低い二百五十五万円で年間二万一千百九十円の負担、最も高い一千二百十七万円の世帯で二万九千四百六十一円の負担が増えると試算しているわけです。これはもう大ごとであります。

 国民は物価対策を強く求めています。異次元の金融緩和の対策のために必要な対策が後手後手になるというのは、私は本末転倒だと思います。異次元の金融緩和は早急にやめて、現在の価格高騰対策を行うべきだと申し上げます。

 政府に対してお伺いします。

 岸田首相は、三月二十九日に、原油高、食料、飼料高、そして中小企業支援、生活困窮者支援の四つを総合緊急対策の柱とする方針を表明しました。

 岡本副大臣にお伺いします。この緊急対策の中で、減税については検討されているんでしょうか。

岡本副大臣 今御質問いただきました総合緊急対策ですが、その内容につきまして、現在鋭意検討を行っておりますが、消費税を含めまして、特に消費税につきましては、急速な高齢化等を背景に社会保障給付費が大きく増加する中で、全世代型社会保障制度を支える重要な財源でありますので、この税率を引き下げることは考えておりません。

田村(貴)委員 副大臣、私、まだ消費税と言っていないんですけれども、先におっしゃいました。

 EUの欧州委員会は、三月二十三日、ロシアによるウクライナ軍事侵攻後、食料品価格や生産コストの上昇で揺らぐ国際的な食の安全保障確保のための政策文書を発表しました。この中で、一般消費者、特に低所得者層向けの措置として、各加盟国の裁量に基づく食料品などの付加価値税の引下げなどを提案しました。

 付加価値税の減税が効果的との欧州委員会の判断は、これはもう当然のことだと思いますけれども、副大臣、いかがでしょうか、受け止めは。

岡本副大臣 先ほどの質問の中で、消費税については検討しておりませんと申し上げましたが、その他、例えば原油等につきます税金等、様々ほかの税金もありますので、それについてはまた別のことでございます。

 今御質問いただきました、EUにおけます物価高騰対策として、加盟国に食品に対する付加価値税率の引下げが提案されたこと、これは承知しております。

 その上で、我が国におきましては、先ほど申し上げましたように、消費税は全世代型社会保障制度を支える重要な財源であることから、その税率を下げることは考えておりません。

田村(貴)委員 欧州委員会の評価はないということですね。

 三月三十日現在で、八十一の国と地域が付加価値税の減税を実施あるいは予定しています。これは世界の流れですよね、副大臣。日本も仲間入りされたらいかがでしょうか。

 食料品、そして光熱費、これは生活に欠くことができない必要な費用であります。また、低所得者層の対策として、生活必需品である電気、ガスなどのエネルギーや食料品の価格を直接的に早急に引き下げることは、これは非常に大事なことだと私は考えます。そして、高齢者や住民税非課税世帯だけではなくて、学生、子育て世代、所得で区別されずに、消費税の引下げというのは、幅広く世帯を支援する方法だと思います。是非やるべきではないでしょうか。

 八%の軽減税率が課税されている食料品を一時的にゼロ%にすれば、高騰する食料品の負担を直接軽くすることができます。当然、低所得者世帯ほど恩恵が多いし、財政上の負担も軽く済みます。

 現在の軽減税率を仮に一年間ゼロ%とするならば、財源はどのぐらい必要となりますか。財務省にお伺いします。

岡本副大臣 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたように、消費税は社会保障の財源でありますので、引き下げることは考えておりませんが、その上で、お尋ねですのであえて申し上げますれば、軽減税率導入の減収額として見込んでいた約一・一兆円を基に、軽減税率八%分を試算いたしますと、国、地方を合わせまして年間約四・四兆円となります。

田村(貴)委員 導入時の試算を考えれば四・四兆円、政府が行おうとしている総合緊急対策の、これは範囲内の規模じゃないですか。そして、与党公明党は、補正予算も組むべしと言われていますよね。規模内で収まる額だと申し上げたいと思います。

 そして、副大臣、公明党の緊急提言では、物価高騰が続き、家計や中小企業に幅広い影響が及んでいる、展開次第では戦後最悪の危機を招くおそれがある、このように言われています。

 与党としてそんな重大な認識に立っているのであれば、これは思い切ったことをやらないといけないんじゃないですか。幅広い影響を認識しているのであれば、幅広い国民の暮らしを支えるために、消費税の減税こそが最も効果がある対処ではないかと思いますが、どうですか。

岡本副大臣 公明党を代表してここには立っておりませんで、副大臣として答弁申し上げますが、先ほど申し上げたように、消費税率の引下げは考えておりませんけれども、現在検討しております総合緊急対策の中身をしっかりとまとめまして、国民経済をしっかりと安定させる方向に支援をしていきたいというふうに考えています。

田村(貴)委員 やはり、野党はみんな消費税の減税を要求しているんです。それは国民の声であります。その国民の声をしっかり受け止めて、減税につなげていただきたいと思います。

 続いて、日本銀行の金融政策について質問します。

 二〇一三年四月四日の政策委員会・金融政策決定会合で、量的・質的金融緩和、いわゆる異次元の金融緩和政策の導入が決まってから、既に九年が過ぎました。消費者物価の前年比上昇率の二%の物価安定の目標を、二年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するとされましたけれども、今でも目的は、目標は達成されていません。

 当時の記者会見で、黒田総裁は、これからは、実体経済や金融市場に表れ始めた前向きの動きを後押しするとともに、高まりつつ、予想物価上昇率を上昇させて、日本経済を十五年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えています、そう述べられましたけれども、現在そのような経済状況になったとは言えないわけであります。

 お尋ねします。

 安倍晋三元総理が、退任後の二〇二〇年九月に、日本経済新聞社のインタビューで、二%物価目標が未達成なことについて、大胆な金融緩和の本当の目的は、名目GDPを持続的に発展させ、常に投資がなされ、給料が上がっていく状況をつくり出すことだ、雇用を新たに四百万人増やせた、目標は十分達成することができたと、安倍元総理、こういうふうに述べているわけであります。

 総裁に伺います。安倍元総理が言うとおり、本当の目的は、目標は十分達成することができたんでしょうか。

黒田参考人 政府と日本銀行の共同声明が一月に出されました。同じ時期に、日本銀行は、二%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現する、そのための金融緩和を行うということを金融政策決定会合で決めております。

 そうした下で、様々な経済状況を踏まえ、適切に金融政策の修正を行ってきたわけですが、残念ながら、二%の物価安定の目標は実現されていない。そういう意味では、二〇一三年の一月に、金融政策決定会合で決定し、政府と日本銀行の共同声明にもうたわれ、その後、一貫して日本銀行が努力してきた二%の物価安定目標の実現、これはもちろん、企業収益が改善し、賃金が上昇し、それに合わせて物価が上昇していくという形で二%を達成するということでありますけれども、その目標はまだ達成されていないということだと思います。

田村(貴)委員 少なくとも、アベノミクスを言い出した本人が、三本の矢の一つの大胆な金融緩和の目的は十分達成された、そういうふうに評価しているわけであります。ならば、金融緩和政策は継続する必要はないということになるんじゃありませんか。

 元日本銀行理事の門間一夫さんは、異次元金融緩和の実施について、次のように「エコノミスト」で述べています。二つのことが明確になった、一つは、日本では中央銀行ができることを全部やってもインフレ率を上げることは難しいこと、もう一つは、二%物価目標が達成できなくても特に問題はないこと、このようにおっしゃっているわけです。結果を見れば、そのとおりだと思います。

 黒田総裁は、それでも二%物価安定の目標を実現することが日本の経済にとって重要だとお考えですか。

黒田参考人 この二%の物価安定目標というのは今や世界的なスタンダードになっているわけですけれども、その趣旨は、やはり、消費者物価指数が実態よりも高めに出てくるというバイアスがあるということが一つと、もう一つは、余り低めのインフレ率、物価上昇率を目指してやっていますと、マイナス金利、あるいはそれ以外の様々な金融政策、伝統的なものでないものがしばしば必要になってくる。したがって、中央銀行として二%の物価安定目標を目指して金融政策を運営することが、実体経済を安定的な成長軌道に乗せるとともに、実際の物価の上昇が適切な範囲にとどまるということを狙って行ってきているわけでして、今やグローバルスタンダードになっていると思います。

 そうした下で様々な経済における影響、効果が出ているわけでして、私は、過去九年間の日本銀行、それは欧米の中央銀行も同じですけれども、金融緩和政策というのは、それなりの効果があったというか、まさに、金融緩和を通じて経済活動を再生させ、雇用を拡大し、そうした下で持続的な成長、二%の物価安定目標を達成するということに向かってみんな進んできている。ただ、残念ながら、日本においては物価安定目標二%がまだ達成されていないということから、引き続き、必要な金融緩和を通じて、そういった目標を達成することに努めてまいりたい。

 なお、欧米は、ずっと二%を下回っていたわけですけれども、このところのコロナ禍からの回復テンポやサプライチェーンの障害、それから、ウクライナへのロシアの侵略その他の関係で国際商品市況が急速に上昇した。

 もちろん、欧米では、ウクライナ侵攻が始まる前からかなりのインフレになっていたわけですけれども、足下では既に米国は八%、欧州でも七・五%程度のインフレになっていますので、それはそれとして、適切な金融政策の調整、引締めに行くということは正しいと思いますけれども、我が国の場合は、まだ、二%の物価安定目標を安定的に、持続的に実現できるようなことではありませんので、今金融を引き締めれば、むしろ景気が更に悪化して、物価はもっと上がらないかもしれませんけれども、雇用や賃金、企業収益に大きなマイナスの影響が出てしまうということを懸念いたしております。

田村(貴)委員 時間が来ました。

 少なくとも、長期にわたる低金利の環境というのが家計の利子所得を奪っています。地域金融機関の経営も苦しめています。異次元の金融緩和政策は出口に向けた検討を始めるべきだということを指摘して、今日の質問を終わります。

     ――――◇―――――

薗浦委員長 次に、内閣提出、公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。金融担当大臣鈴木俊一君。

    ―――――――――――――

 公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

鈴木国務大臣 ただいま議題となりました公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案につきまして、提案の理由及びその内容を御説明申し上げます。

 会計監査を取り巻く経済社会情勢の変化を踏まえ、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、企業財務書類の信頼性を高めていくことが、喫緊の課題となっております。このような状況を踏まえ、本法律案を提出した次第であります。

 以下、この法律案の内容につきまして、御説明申し上げます。

 第一に、上場会社等の財務書類について監査証明業務を行う監査法人等に関する登録制度を導入することとしております。

 第二に、監査法人の社員の配偶者が会社等の役員等である場合における当該監査法人に対する業務制限を見直すこととしております。

 その他、関連する規定の整備等を行うこととしております。

 以上が、この法律案の提案理由及びその内容であります。

 何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。

薗浦委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 次回は、来る八日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十六分散会


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