衆議院

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第4号 平成30年11月20日(火曜日)

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平成三十年十一月二十日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 亀岡 偉民君

   理事 大見  正君 理事 神山 佐市君

   理事 馳   浩君 理事 村井 英樹君

   理事 義家 弘介君 理事 菊田真紀子君

   理事 城井  崇君 理事 鰐淵 洋子君

      池田 佳隆君    上杉謙太郎君

      小此木八郎君    尾身 朝子君

      大串 正樹君    大塚  拓君

      小林 茂樹君    繁本  護君

      下村 博文君    白須賀貴樹君

      高木  啓君    中村 裕之君

      根本 幸典君    鳩山 二郎君

      福井  照君    古田 圭一君

      穂坂  泰君    星野 剛士君

      三谷 英弘君    宮内 秀樹君

      宮川 典子君    宮路 拓馬君

      八木 哲也君    川内 博史君

      初鹿 明博君    道下 大樹君

      村上 史好君    吉良 州司君

      白石 洋一君    稲津  久君

      中野 洋昌君    中川 正春君

      高橋千鶴子君    畑野 君枝君

      杉本 和巳君    吉川  元君

      笠  浩史君

    …………………………………

   文部科学大臣政務官    中村 裕之君

   文部科学大臣政務官

   兼内閣府大臣政務官    白須賀貴樹君

   参考人

   (日本エネルギー法研究所理事長)         野村 豊弘君

   参考人

   (さくら共同法律事務所弁護士)          河合 弘之君

   参考人

   (東洋大学法学部教授)  大坂 恵里君

   文部科学委員会専門員   鈴木 宏幸君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月二十日

 辞任         補欠選任

  船田  元君     穂坂  泰君

  宮内 秀樹君     繁本  護君

  川内 博史君     道下 大樹君

  牧  義夫君     白石 洋一君

  畑野 君枝君     高橋千鶴子君

同日

 辞任         補欠選任

  繁本  護君     星野 剛士君

  穂坂  泰君     船田  元君

  道下 大樹君     川内 博史君

  白石 洋一君     牧  義夫君

  高橋千鶴子君     畑野 君枝君

同日

 辞任         補欠選任

  星野 剛士君     三谷 英弘君

同日

 辞任         補欠選任

  三谷 英弘君     鳩山 二郎君

同日

 辞任         補欠選任

  鳩山 二郎君     宮内 秀樹君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第二号)


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     ――――◇―――――

亀岡委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 本日は、本案審査のため、参考人として、日本エネルギー法研究所理事長野村豊弘君、さくら共同法律事務所弁護士河合弘之君及び東洋大学法学部教授大坂恵里君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、参考人各位から一人十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないこととなっておりますので、あらかじめ御了承ください。

 それでは、まず野村参考人にお願いいたします。

野村参考人 それでは、レジュメに沿って意見を述べます。

 最初の「原子力損害賠償制度との関わり」というのは、私の発言の趣旨を正確に理解していただくというために、これまで私が原子力損害賠償制度とどのようにかかわってきたかを示すものでございます。

 ごらんのとおりですが、まず、前回の原賠法の改正のもとになりました検討会に座長として加わっておりましたほか、経済協力開発機構の原子力法委員会、それから国際原子力機関のINLEX会合にも専門家として加わっております。そしてもう一つは、民間の団体ですけれども、国際原子力法学会というところに理事として長い間運営に加わっております。特に福島事故以後は、これらの海外の諸機関において、日本における損害賠償の状況について報告してまいりました。

 次に、(2)基本的視点ですが、これは、私の陳述においてどのような視点から何を述べるかというものを示すものでございます。一言で言えば、これまでの原賠法の改正の経緯、CSCの条約への加入とこの問題に関する国際動向を踏まえて、今回の改正案を概括的に検討するということでございます。

 それでは次に、二に移りますが、まず、原子力損害賠償法の変遷ですが、昭和三十六年に原賠法が制定されました。この法律には、無過失責任、責任集中、無限責任の原則等、原賠制度の骨格が含まれておりまして、このときに損害賠償の措置額が五十億円に定められております。その後、政府補償契約と国の援助に関する規定の延長のために、おおむね十年ごとの改正が行われてまいりました。すなわち、昭和四十六年、五十四年、平成元年、平成十一年の改正ですが、主な改正点は、賠償措置額の引上げが中心でした。

 ところが、平成二十一年の改正では、そのために設置されたあり方検討会では、ジェー・シー・オー事故の経験を踏まえた議論がなされました。その結果、改正法では、損害賠償措置額が六百億円から千二百億円に引き上げられるとともに、紛争審査会の役割として原子力損害の範囲に関する指針の策定が追加されました。

 このような状況において福島事故が生じたのですけれども、円滑な賠償のために追加的な枠組みの整備が行われました。すなわち、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じた事業者相互扶助の枠組み、紛争審査会のもとでの和解仲介実施体制、特例法によるADR手続中の時効中断及び時効期間の延長、政府による仮払金の立てかえ払い等の措置が講じられました。

 そして、実際の賠償実務では、紛争審査会の指針に基づいて東京電力が自主払いするということが中心でしたが、窓口体制と請求管理、処理体制の必要性、避難者等を対象とした仮払いの必要性が顕在化しました。そして、東京電力による仮払いも行われております。

 他方、三ですけれども、原子力損害賠償に関する国際的な枠組みに目を転じますと、パリ条約、ブリュッセル補完条約、両条約改定議定書というヨーロッパ中心の枠組みと、ウィーン条約、改定議定書という世界的な枠組みとが併存しております。そして、この二つを統合しようとするのが、一九八八年のジョイントプロトコール、それから原子力損害の補完的補償に関する条約、いわゆるCSC条約ですが、後者は日本の加入によって発効するに至りました。

 これらの国際的な条約に基づく枠組みにおいては、以下のような原子力損害に関する原則がとられております。すなわち、原子力事業者への賠償責任の集中、原子力事業者の厳格責任、原子力事業者の賠償責任の最下限、保険を中心とした損害賠償措置の義務、事故発生国の裁判所による専属裁判管轄、被害者の平等な取扱いなどです。

 日本の原賠法はこれらの諸原則を取り入れた内容になっていて、CSC条約に加入したときにも大きな改正はなされておりません。

 そしてさらに、諸外国では、国内法についてさまざまな動向が見られます。例えば、賠償措置額の引上げの模索については、保険市場における対応の困難さが指摘されるところです。また、米独において既に存在する事業者の相互扶助による追加的措置の枠組み、保険の機能にかわる代替措置又は追加的措置の議論、それから日本の取組を参考にする円滑な賠償金支払いのための方策の検討などが見られるところでございます。

 そして、今回の改正についてですけれども、今回の改正の主な内容としては、損害賠償実施方針の作成、公表の義務づけ、仮払い資金の貸付制度の創設、和解仲介手続の利用に係る時効中断の特例の三つが挙げられております。

 既に述べたように、東京電力福島原発事故の経験を踏まえて、今後の賠償対策に必要な措置としては、賠償措置額を超える損害について、原子力損害・廃炉等支援機構による支援、それから個別、多様な損害への対応として、ADRを安心して利用できる体制の整備、それから第三に、事業者自体の賠償への取組体制として、窓口の整備、賠償方針、事務処理方法等の事前検討、避難者への賠償などが考えられます。

 今回の改正内容は、こういった措置に必要な法整備を行うものと評価できるのではないかと考えております。

 最後に、今後の課題としては、既に専門部会で指摘されておりますように、賠償措置額及び賠償措置のあり方、原子力事業者の法的整理における課題の整理、クラスアクション制度の導入、ADRにおける仲裁制度の導入などがありますが、いずれも検討しなければならない多くの問題を含んでいると言わなければなりません。

 以上でございます。

亀岡委員長 ありがとうございました。

 次に、河合参考人にお願いいたします。

河合参考人 弁護士の河合でございます。

 私は、脱原発弁護団全国連絡会の代表といたしまして、日本全国の原発の差止めの裁判に直接、間接にかかわっており、損害賠償請求業務についてもかかわっておる実務家であります。

 意見を述べます。

 損害賠償額を一千二百億円に据え置くことについて。

 損害賠償額は、一次的責任主体である電力事業者が損害賠償義務の履行を確実にできるように定められています。それは原賠法第七条です。したがって、物価の上昇、実際に起きた事故によって発生した損害額の算定など、事情の変化によって逐次増額されてきました。現在の千二百億円という金額は、平成十一年のジェー・シー・オー事故の経験等を踏まえ、平成二十一年に六百億円から倍増されたものであります。一事故につき千二百億円を用意しておけば大体カバーできるという認識がありました。そして、万一それをオーバーしたときは、例外的に国が同法十六条により資金支援するというたてつけになっています。

 ところが、東京電力福島第一原発事故、以下福一事故と言いますが、それでは、損害賠償既払い額は既に八・六兆円になっています。これは東京電力のホームページによります。

 同法第六条は、原子力損害の賠償責任者は電力事業者だから、予想される原子力損害を賠償できる体制をとっておかなければ原発を運転してはならないとしております。したがって、賠償措置額は、福一事故によって現実に発生した八兆六千億円という金額に合わせることが当然であり、損害賠償額は少なくとも八兆六千億円とすべきであります。我々は福一事故に学ばなければなりません。

 賠償措置額を一千二百億円に据え置くと、現実に福島原発事故で発生した既払い額八・六兆円の一・四%しか電力事業者は用意しなくてよいことになります。これは、九八・六%、すなわち一千二百億円を八・六兆円で割った場合の割合ですが、要するに九九%です、九九%は国が面倒を見ると言っているのと同じであります。これは、原賠法の基本精神、すなわち、事故の損害賠償責任は電力事業者に負わせる、国の支援は例外的とするという基本精神に反します。資本主義経済、自由主義経済の大原則、自己責任原則に明らかに反するものであります。原則と例外を逆にしてしまうのであります。

 このようなことにすると、モラルハザードが必ず起きます。事故を起こしても国が面倒を見てくれる、それなら安全対策はなるべく低コストで最低限でいこうということになります。

 よって、賠償措置額は、少なくとも八兆六千億円にすべきであります。

 以上の論については、それでは保険料、補償料が高くなり過ぎて原発が採算に合わなくなるとの反論が考えられます。しかし、我が国の憲法が定める資本主義経済、自由主義経済のもとでは、それもやむを得ないのであって、電力事業者は、その条件のもとで企業努力によって採算が合うように努力すればよいのであります。それができない電力事業者は原発を断念すればよいのであります。国は、電力会社に原発の運転を強制することはできないのであります。現に、沖縄電力は原子力発電をしておりません。

 また、千二百億円に据え置いても、最終的には国が面倒を見るので、被害者救済には支障がないから据え置いてもよいのだという主張があり得ます。しかし、それは間違いであります。国民の被害救済にのみ着目するならば、原子力損害については電力事業者も免責し、国が全て賠償すると法律に定めればよいのであります。しかし、それでは、憲法が定める資本主義経済、自由主義経済の原則に反するので、原賠法は、一、被害者救済の確保、二、事業者の自己責任、すなわち事業を営む者はその事業によって発生する損害を賠償する責任を負うという、この二つの原則を法の主眼としているのであります。

 損害賠償額を千二百億円に据え置くことは、電力会社に対して九九%の責任を免除してやるのと同義であります。

 この議論に対しては、電力事業者は政府機関からの支援金については返済しなければならないのだから自己責任を負っているとの反論があり得ます。しかし、福一事故後の東電救済立法を見ても、その返済は、事実上の特別負担金によって長期的に薄く長くされるようになっており、いわば、あるとき払いの催促なしになっております。現に、東電はその恩恵により、毎年の決算において巨大な利益を計上しています。したがって、他電力会社も、事故を起こしても自己責任で倒産することはないと考えています。これこそモラルハザードであります。見直し立法担当者は、福島原発事故に学ぶことを忘れていると思います。

 立法担当事務局は以下のように言っております。

 損害賠償額を高くすると保険会社の損害保険を引き受ける意欲、能力に問題が出ると言っています。そうだとすれば、資本主義的に合理的な確率計算を本旨とする損害保険の物差しに合わないということであるからやむを得ません。国が考えて対策をとれることであります。

 二番目に、総括原価方式の見直しなど事業環境の変化があるので、千二百億円据置きもやむを得ないと事務局は言っております。しかし、事業環境が変化しようと、原発重大事故によって八・六兆円以上の損害賠償債務の発生が強く予想されることには変わりないのですから、理由になりません。

 三番として、事務当局は、新規制基準により事故発生確率が減少したのだから千二百億円で据え置いてもよいと言っています。しかし、それは余りに定性的な話であって、科学的、定量的ではありません。新規制基準によって従来より何%重大事故確率が低下したのだから措置額は何%低くしてよいというのでしょうか。千二百億円を増額するか否かという定量的な問題を論ずる場合、理由は定量的でなければなりません。しかも、田中俊一前原子力規制委員会委員長は、適合性審査に合格したからといって安全とは申し上げないと数回も明言しております。

 次に、原賠ADRの改善について申し上げます。

 事務当局の案は、原賠ADRがよく機能しているので改善の必要性はないと言っていますが、間違いであります。

 私は、飯舘村の村民約六千人の半分のおよそ三千人の住民のADRの代理人をしていますが、初期被曝慰謝料十五万円から五十万円というADRからの和解案を東電は拒否しました。また、浪江町の一万五千人の避難慰謝料月五万円増額も拒否され、今月末には訴訟提起となります。

 ADRパネル側は、東電が受諾する見込みのない和解案は出せないと弱腰になっており、東電はそれにつけ込んで賠償金の出し渋りをするようになっています。これでは被害者の泣き寝入りがふえるばかりです。それを解決するには、パネルの和解案は東電に対して強制力を持つ、すなわち一定期間に東電が訴訟を提起しないのであれば和解案に服するという法改正をすべきであります。

 次に、原発メーカーの免責について申し上げます。

 原賠法のこの規定は廃止すべきであります。この規定のせいで、福一事故におけるメーカー、GEと東芝の行動は極めて無責任であり、他人事のようでありました。今や、メーカーを免責して原発製造に邁進させるという立法理由は消滅したのですから、資本主義の原則に戻って、メーカーにも事故の責任を負わせるべきであります。

 なお、賠償責任を電力事業者に絞ることにより、損害賠償請求の相手方が明確になるから被害者救済に役立つというのは詭弁であります。被害者からすれば、電力事業者、メーカー、建設業者をまとめて共同不法行為で訴える方が、ずっと確率、回収額においてプラスであります。

 次に、原発重大事故を起こした電力会社に最後まで責任をとらせ、かつ停電を起こさせない方法を述べます。

 これは極めて簡単であります。

 その電力会社の電力事業を他の電力会社に譲渡させ、残った旧会社は、原子力損害賠償債務がある限り破産、民事再生、会社更生の申立ての手続をとってはならないという立法をし、その旧会社に対して国が資金援助をすればよいのであります。そうすれば、電力供給につき不安はなくなりますし、被害者救済にも不安はなくなります。

 以上でございます。

亀岡委員長 ありがとうございました。

 次に、大坂参考人にお願いいたします。

大坂参考人 東洋大学の大坂と申します。

 本日は、貴重な機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、民法及び環境法を専攻しておりまして、福島原発事故後は、事故賠償問題を中心に研究してまいりました。

 お手元の資料に沿って、原賠法改正について意見を述べさせていただきます。

 今回の原賠法改正案の趣旨は、簡単にまとめますと、原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会における検討を踏まえ、原子力損害の被害者の保護に万全を期するため、所要の措置を講じると説明されています。

 しかしながら、私は、この改正により、将来の原発事故の被害者の保護に万全を期する内容となり得るのか、疑問に思っているところでございます。それぞれの改正事項につきましては、特段の異議はございません。しかしながら、被害者の保護に万全を期するためには、より抜本的な改正が必要だと考えております。

 こうした観点から、法案及び専門部会の最終報告書に関しまして、資料では五つの論点を挙げさせていただきました。

 一、専門部会の審議過程において、東電福島原発事故の被害実態は適切に把握されたか。二、原賠法の目的に、原子力事業の健全な発達に資するということはなお必要か。三、原子力事業者への責任集中及び求償権の制限は必要か。四、原子力事業者の無限責任の維持は支持しますが、損害賠償措置額は千二百億円のままで十分か。五、現行の被害者救済手続の問題、特に原発ADRをめぐる問題が見過ごされてはいないか。

 以下では、二つ目の原賠法の目的と、五つ目の被害者救済手続がおおむね現状維持されたことにつきまして、補足の意見を言わせていただきます。

 二ページ目の二番をごらんください。

 現行の原賠法には、目的が二つあります。一つは被害者の保護、もう一つは原子力事業の健全な発展に資することです。

 原賠法は、不法行為の特則と位置づけられておりますが、不法行為法の主たる目的が被害者の受けた損害の填補であることは一般に認識されていることであります。

 不法行為に関する特別法には、目的の中に、被害者の保護に加えて、何らかの健全な発達や発展に資することをうたうものがございます。ただ、原賠法のように、特定の事業の健全な発達に資するということをうたっているものはございません。

 原賠法が、日本が原子力開発を再開するに当たって、原子力関連法の一つとして制定されたという事情におきましては、その目的に被害者保護と原子力事業の健全な発達が併記されたということについては理解できます。

 しかしながら、原子力開発の黎明期をとうに過ぎ、そして未曽有の被害をもたらした東電福島原発事故を経て、なお原子力事業だけを特別視し続ける扱いにつきまして、私は合理的な説明があるか疑問に思っております。

 この点、専門部会の最終報告書は、原子力事業の健全な発達を残すことにつきまして、原子力事業者が適切な賠償を行い、被害者の保護を確実に行うためには、原子力事業者の予見可能性の確保と事業の円滑な運営にも留意する必要があると説明しております。

 しかしながら、この原子力事業の予見可能性の確保という文言は、専門部会の審議においては、原子力事業者の責任の有限化に関する発言とたびたび結びつけて登場しておりました。

 私は、事故抑止の観点などから、原子力事業者の無限責任が維持されるということには強く賛成をしております。しかし、原子力事業の健全な発達が原賠法の目的に掲げられている限りは、原子力事業者の予見可能性の確保のための責任の有限化の議論が今後再燃するのではないかと懸念しております。

 原子力事業の健全な発展は、原子力利用を推進する原子力基本法そのほかの関連法令において語られるのはともかくとしまして、原賠法の目的として、被害者保護と並列的に語られるべきではないというふうに思っております。

 原賠法の目的に関する意見は、以上です。

 次に、三ページの五、被害者救済手続に関して補足意見を述べさせていただきます。

 専門委員会の最終報告書は、東電福島原発事故に係る原子力損害賠償が適切に行われているとの評価のもと、原子力損害賠償紛争審査会による指針の策定、和解の仲介、審査会の組織、運営等について現行規定を維持し、原子力損害賠償紛争解決センターについても現行どおりとしております。

 しかしながら、先ほど河合参考人もおっしゃっていたように、少なくとも和解の仲介に関しては、現在、適切に行われているとは言いがたい状況になっております。

 将来の原発事故被害者が損害賠償を請求する方法は、現行どおりといたしますと、原子力事業者への直接請求、原発ADR、そして訴訟という三ルートになると思われますが、これらは、いずれのルートをとっても、ほかのルートを排除しておりません。

 そして、現行の被害者救済手続において、東電は、国の支援を受けるに当たって、原子力損害賠償・廃炉等支援機構と共同で作成する特別事業計画の中で、和解仲介案の尊重を誓っております。

 しかしながら、東電は和解案を拒否するという事例が発生しております。東電社員及びその家族からの申立てに関する和解案受諾拒否は以前からございましたが、ことしに入ってから、集団申立てが次々と和解仲介手続を打ち切られるようになっております。浪江町住民の一万五千人による集団申立てにつきましては、多少詳しい経緯を載せておりますが、ほかの集団申立てにつきましても、センターの和解案提示後、東電の再三の受諾拒否に遭い、結局打ち切られるという結果になっております。現在進行中のものとしましては、相馬市玉野地区の集団申立てがございまして、つい先日、やはり東電が和解案の受諾拒否をしております。

 これら和解の仲介が成立しなかった被害者に残された道としましては、個別ADRをするか、あるいは訴訟をするか、はたまた諦めるかという選択になりますが、個別ADRを行う場合には、司法アクセスの問題がございます。センターへの申立てのうち弁護士が代理しているものは、二〇一七年末までの全期間合計で三七・六%、約四割にすぎません。訴訟を提起する場合であっても、事故から七年半を過ぎ、気力、体力が残っている被害者は少数であると思われます。実際、昨日、集団申立てが打切りとなった浪江町住民が、今月二十七日に提訴を予定しているというニュースが報道されておりましたが、まずは百人程度で開始するとのことでした。

 さらに、資料の四ページに進んでいただきますと、別のADR問題を報じた記事がございます。

 昨年、集団訴訟の判決が出始めたあたりから、ADRと裁判と並行して起こしている被害者らに対して、東電がADR手続を留保するようになっております。

 こうした対応が続いていけば、センターにも東電が受諾するような内容の和解案を提示するような意向が求められることになりまして、迅速かつ適正な紛争解決を提供するセンターの機能が損なわれていくことになると私は考えております。

 改正案では、原子力事業者に損害賠償実施方針の作成、公表を義務づけることとしておりますが、各原子力事業者が損害賠償実施方針の中で和解仲介案の尊重を誓うことにとどまっているのであれば、万が一、将来、原子力事故が起きたときに、同様の問題が起きることが懸念されます。

 専門部会の最終報告書では、仲裁手続の導入については将来的な検討課題とするとされておりますが、ほかのADR制度も参考にしつつ、原子力事業者に受諾義務を課すような制度設計を御検討いただければと思います。

 今回、改正が急がれているのは、原子力損害賠償補償契約の新規締結及び原子力事業者に対する政府の援助の適用期限の延長が必要だということが大きい理由かと思います。しかしながら、期限は来年の二〇一九年十二月三十一日でございます。ここは、しっかり御審議いただきまして、より実りの多い改正にしていただきたいと思っております。

 私の意見は以上でございます。御清聴どうもありがとうございました。

亀岡委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々からの意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

亀岡委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。大見正君。

大見委員 おはようございます。自由民主党の大見正と申します。

 本日は、野村参考人、河合参考人、大坂参考人のお三方につきましては、お忙しい中、また急な参考人質疑ということで十分な準備の時間もなかったのではないかと思いますけれども、丁寧な御発言をいただきましたことを心から御礼申し上げたいと思います。

 私は最初の質問者だというふうに思っておりますので、いささか私のお尋ねすることが総括的な御質問になろうかというふうに思います。また、論点をそれぞれ同じ目線で見ていきたいということもありますので、お許しをいただきたいと思います。

 先ほど、野村参考人からは、原賠法の歴史あるいは国際的な位置づけ、今後の課題等のお話もいただきました。河合参考人からは、主に損害賠償措置額のことについてお話を承りました。また、大坂参考人からは、主に二点の今後の問題点についてもお触れをいただいたということであります。

 今回の原賠法の改正、御存じのとおり、大きく四つの改正点であります。一点目が損害賠償実施方針の作成及び公表の義務化、また二点目が仮払金の貸付制度の創設、三点目が和解仲裁手続の利用に係る時効中断の特例、そして四点目が原子力損害賠償の保険契約の適用期限の延長、この中で賠償額の千二百億円は据え置くということが副次的に言われておるということであります。

 その最初の三点については、被害者保護の点では非常に新しい踏み出しをしていただいたのではないかなというふうに私自身は思っております。特に仮払金の制度の創設とADRの時効の中断については、議員立法から特例的にまとめたものを法律的にしっかりと位置づけていただいたというところでは、大きな変化ではなかったかなと思います。

 特に、この議員立法については、ちょうど亀岡委員長が御地元だということもあって、被災者の声、被災者の本当に苦しんでいる様子というのをいち早くまとめて、議員立法として実行ができるように前に進むようにということで大変御努力をされたという経緯がございまして、それが今回、この改正案の中で制度としてしっかりと一般的な原発の事故についても当てはめることができるようにしていただいたというのは、私どもとしては非常に前進ではないかなというふうに思っておりますけれども、それぞれの御意見がおありになろうかというふうに思っておりますので、まず、その一点目の作成、公表の義務化、仮払金の貸付制度の創設、時効の中断、この三点について、それぞれの参考人の皆さん方がどのように評価をされているか、お伺いをさせていただきたいというふうに思います。順番の方は、野村参考人からという発言の順番でお願いをさせていただきたいと思います。

 以上です。

野村参考人 それでは、私の意見を述べたいと思います。

 まず、第一の損害賠償実施方針の作成、公表の義務づけにつきましては、実際の損害賠償実務では紛争審査会の指針を活用した自主的な賠償が中心になりますので、事業者がそれにどう対応するかというのが重要であります。短期間に多数の被害者からの損害賠償請求が出るということで、全ての被害者を一方で平等に扱い、他方で個別的な事情をしんしゃくしながら紛争解決のために迅速、円滑な対応をするためには、事業者において事前に事務処理や紛争解決の方針を定めておくということは必要であり、この改正は実効性があるというふうに判断しております。

 ただ、今後、その方針の中にどういった項目を盛り込むのかということをきちっと定めていくという必要があるのではないかと考えております。

 それから、二番目の仮払い資金の貸付制度の創設につきましては、避難者、特にすぐにお金が必要になるわけですので、仮払いの必要性というのは非常に高いというふうに考えております。

 ただ、一方で必要性はあるんですけれども、他方で未確定の賠償を先払いするということになりますので、将来何らかの形で賠償額を確定して精算させるということになりますので、その場合の権利義務関係が余り複雑になるということは避けた方がいいというふうに考えております。つまり、複雑さを回避するために更に複雑なルールをつくるということになると、現実には仮払いが遅延して動かなくなるというおそれがありますので、事業者に支払い窓口を一本化して支払いの円滑化を図った上で、保険金等によって資金を貸し付けた者への返済を確保するという改正案の仕組みは合理的ではないかというふうに考えております。

 それから、三番目の和解仲介手続の利用に係る時効中断の特例につきましては、福島事故では、ADR手続利用期間中に時効中断をするという必要が出てきまして、特例法が制定されました。この制度も、今後も同様の事故があれば、それは不可欠でありますので、これは必要な改正であるというふうに考えております。

 以上です。

河合参考人 私は、まず、損害賠償対策、そういう体制を確立することを電力会社に義務づけるということについては賛成でございます。結構なことだと思います。

 実際、福島原発事故のときは、東京電力は非常にばたばたしておりまして、損害賠償担当者は疲弊をして、むしろそれ自身が原発被害だみたいなことがあって、うつになられたり、退職したりする人が相次いだということを聞いております。そのことは被害者にも反射的に不利益となって返ってきていると思いますので、あらかじめ、そういう体制をきちんと決めておいて、今言ったようなことがないようにしておくことは必要です。

 そしてまた、そういう体制をきちんと築いておくことを検討することによって、原発事故が起きたら大変なことになるんだなということを、あらかじめ電力会社に自覚させる効果があるというふうに思います。

 それから、仮払金のことについてですが、これも私は賛成でございます。大変結構なことだというふうに思います。

 ただ、確かに、今、野村先生がおっしゃったような後での精算という問題がありまして、後で返してもらうのには大変なあつれきがあると思います。したがって、そういうことがないように、今までも公害で、仮払いになったものの、返してもらうという問題で大変深刻な問題があって、被害者の方から、返す義務に心労をして自殺者が出たというような例もありますので、そこはよく注意しなきゃいけないと思います。

 私が一番関心があるのは、ADRと損害賠償債権の時効の問題でございます。

 これは、単純に、ADRの申立てをしたら時効が中断されるというふうに、ぴしっとしていただきたいと思います。ADRの結果が出た、若しくは取下げになった、打切りになった、そこから一定期間内に訴訟を起こさないと時効になるというような間接的な救済方法ではだめで、とにかくADRを申し立てたら時効は中断されるんだというふうにしておくことが極めて明確になり、かつ、被害者の救済に役に立つと思います。

 以上です。

大坂参考人 私も、三つの点につきましては、基本的に全て賛成をしております。

 多少補足いたしますと、まず、一つ目の損害賠償実施方針の作成、公表の義務づけでございますが、ちょっと懸念いたしますのは、先ほども申し上げましたけれども、紛争解決を図るための方策というものを書き込むことになってはおりますが、和解仲介への対応方針において尊重するという形に書き込んだことについて、それが実際にどうなるのかということにつきましては、やはり受諾義務というか、ほかの制度が必要ではないかというふうには思っております。

 二つ目の仮払い資金の貸付制度の創設につきましても、これも私も賛成しております。

 被害者の方たちは、当面帰れないということをわからずに避難をされるという状況になってしまいまして、本当に、現金というか、当日のお金にも困るという状況でございましたので、このたび、議員立法で仮払いということを行っていただいたのは非常によかったことだと思っておりますが、こういったことが法制度化される、原賠法の中に取り込まれるということで、私も賛成をしております。

 もっとも、既にお二人の先生が御指摘いただいたように、精算のことについては、少し考えていかなくてはいけないなというふうに思っております。

 三番目の和解仲介手続の利用に係る時効中断の特例につきましても、こちらも被害者保護に資するものだというふうに思っております。

 もっとも、これも先ほど申し上げました弁護士アクセスの問題が日本にはございまして、一月の間に訴訟を提起するということについて、もともと弁護士がついている形でADRをしていれば、それはそれほど難しくはないのかもしれませんが、改めて弁護士に相談をしたいというような被害者であれば、なかなか、こちらの一カ月というものは困難なのではないかというふうに思っております。

 以上でございます。

大見委員 それぞれ御見解をいただきまして、ありがとうございました。

 総じて言うならば、三点については、課題もあるけれどもいいのではないか、賛成ができるのではないかというお話だったというふうに受けとめさせていただきたいと思います。

 もう一つ、もう時間がございませんので、大変申しわけないんですけれども、一番肝心なところと言うかもしれませんが、四つ目の問題で、特に損害賠償措置額の千二百億円、これを据え置いたことについてもお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

 それぞれ、河合参考人の方のお話の中で、保険会社の引受けがなかなか難しいのではないか、あるいは、新しい、世界最高と言われる安全基準の中で必要性があるのかないかというところも触れていただいたわけでありますけれども、さまざまな視点を考慮した上で今回は据置きとなったと。野村参考人の資料では、数次の改正の中ではその都度上げていたということも御指摘をいただいたわけでありますけれども、今回は据置きになったということ。

 その点についてそれぞれの参考人がどう受けとめておられるか、既に開陳をされた方もお見えになりますけれども、改めてお伺いをさせていただきたいと思います。

野村参考人 それでは、最初に申し上げたいと思いますが、賠償措置額を引き上げるというのは、保険市場が保険の上限額を許容しなければなかなか難しい問題であります。現に、保険市場の能力との関係で事業者の責任限度額を上げられない国も見られるところであります。

 平成二十一年改正では、当時、改正パリ条約の、これは二〇〇四年につくられているんですけれども、賠償措置額を七億ユーロにしているということを参考にしております。ところが、この議定書はいまだ発効しておりませんで、フランスやスイスなど、七億ユーロの措置額を国内的に導入したところはありますけれども、体制を整えられない国が多くて、国際水準としては達成されておりません。

 それから、今月初めにアブダビで開催された国際原子力法学会に出席しましたけれども、その折、この保険の上限額の引上げについて保険プール側は否定的な説明をしていたので、保険市場の現状からすると難しいのではないかということであります。

 ただ、賠償措置額を引き上げるということは原賠制度の課題であるということは言うまでもありませんで、今後もできる限り上げられるように追求していくという努力は必要ではないかというふうに思っております。

 以上です。

河合参考人 千二百億円に据え置くということは、実際に既に福一事故で発生している損害賠償額の一%強しか積まなくていいということなんですよね。逆に言うと、九九%は、国が責任を、尻を引き受けてやるよというのと同じなんです。九九%を引き受けてやる、九九%面倒を見てやるというのは、全部面倒を見てやるというのと同義です。

 これは、前は違ったと思います。それは、損害賠償額の予想がずっと低かったからです。大体一千億かそこらだろうな、じゃ、一千二百億、保険会社で、電力会社が保険で用意しておけよということだった。そういう立法趣旨だった。

 ところが、それが、何とそれの百倍近い損害賠償額が発生するんだということがわかってしまったのに、その保険額、損害賠償措置額を上げないというのは、それは、ただ上げないじゃなくて、決定的にほぼ全部を免除してやるという立法にするというのと同じことです。損害賠償措置額をゼロにするのと同じです。十兆円のうちの一千億用意してどうするんですか。それで用意したと言えるんですか。本当に、福島原発事故を踏まえて、福島原発事故が発生して膨大な損害賠償額が発生したという事実を踏まえていての立法作業なんですかということを私は言いたい。

 保険会社が受けない云々の問題がありますが、それは次の課題であります。とにかく、そういう備えをして、そして保険会社がどうしても受けないというのであれば、それは国で損害賠償補償措置というのを変えてやるという方法もあると思います。保険金額と損害賠償補償額を変化させる、変えるという方法もあり得ます。

 そこを工夫しないでおいて、保険会社が受けるところがないから、若しくは保険プールが受けないからこのままでいいんだというのは、非常に立法者としては怠惰であるというふうに考えます。

大坂参考人 私は、千二百億円、やはり足りないというふうに思っておりますが、では、具体的に幾らまで上げればいいのかというところにつきましては、正直わかりません、お答えできません。ただ、ここまで引き上げたので有限責任になるというふうな形の議論には持っていかれたくないなというふうに思っております。

 今回、専門部会におきましては、第十八回におきまして、賠償資力確保のための新たな枠組みということで、現状の損害賠償措置額の、そして国の支援の間に差し込むような形の御提案がされましたけれども、結局、四カ月ほど審議が中断しまして、その後出てきた見直し案の原案、素案ですかには載っていなかった。やはり非常に調整が難しい問題だというふうに思っております。

 ただ、河合参考人もおっしゃっていただいていたように、そこで中止というかやめるのではなく、今後も、どこまで引上げをしていくべきかということについてはやはり御検討いただけるというふうに専門委員会の部会の報告書にも書かれておりましたし、続けていただきたいというふうに思っております。

 以上です。

大見委員 時間が参りました。終わりたいと思いますけれども、被災をされた皆さん方、地元の皆さん方にとりましては、これからどうなっていくのか、不安しかないという状況の中でありますので、長い議論より一つの実行、これができるような制度設計、早く成立をしていくことを期待いたしまして、三人の参考人の皆さん方に改めて御礼を申し上げて、終わりにさせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

亀岡委員長 次に、初鹿明博君。

初鹿委員 立憲民主党の初鹿明博です。

 済みません、ちょっと風邪を引いていてお聞き苦しい声ですけれども、お許しをいただきたいと思います。

 まずは、きょう参考人としてこちらで御意見を承りました野村参考人、河合参考人、大坂参考人、ありがとうございました。急な呼びかけにもかかわらずお時間の調整をしていただき、我々に貴重な御意見をいただいたこと、本当に感謝を申し上げます。

 時間もないので、早速質問に入らせていただきますが、先ほど大坂参考人の方から、この原賠法の目的規定に「原子力事業の健全な発達に資すること」という文言が入っている、これはもう必要ないのではないか、被害者の保護や救済に特化する、そういう法律にするべきじゃないかというような御示唆がございました。

 この点について、野村参考人、河合参考人はどのように考えているのか、それぞれのお考えをお聞かせいただきたいというふうに思います。

野村参考人 私は、余りこの点について意見を持っておりません。

 ただ、この規定があることによって、具体的に法律の二条以下の部分でどのように変わってくるのかという、その辺を明らかにしないと、入っていることの意味がなかなかわからなくて、それに対して意見を申し上げるということはできないのではないかというふうに考えております。

 以上です。

河合参考人 私も、大坂参考人と同じで、「原子力事業の健全な発達」という目的を第一条から削除すべきだと思っております。

 理由は、原子力事業はもう日本では十分に発達し過ぎて、衰退期に入っております。それを、わざわざ今発達させる必要はないのであります。

 そしてもう一つは、この原子力損害賠償法という名前でもわかるように、これは被害者保護のための法律の名前をしておりますし、それに法の目的を純化すべきであります。原子力事業の発達ということを入れると、発達させなきゃいけないから有限責任の方がいいだろうとか、そういうことになっていく。それから、損害賠償措置額も低目に抑えて負担を少なくしてやろうとか、そういう余計な配慮が働く、余計な配慮の口実にされるというふうに私は思います。

 それは、今から約五十年前にこの原賠法がつくられたわけですけれども、そのときの社会情勢と明らかに変わっておりますし、また、国民の認識も変わっているわけです。

 原子力産業をこれからうんと国民で育てていかなきゃいけないとみんなが思っていた時期と、福島原発事故を経てひどい損害を国がこうむった、国民がこうむった後の今とでは認識が違ってしかるべきで、私は、この原賠法の法律の目的を被害者の救済の確保ということに純化すべきだというふうに考えております。

初鹿委員 ありがとうございます。特に、河合参考人から非常に的確な御指摘をいただいたというふうに思っております。

 今回の法改正は、福島の第一原発の事故が発生して、それを受けての改正ですので、やはり福島第一原発の事故の教訓というものをしっかりこの改正に反映させなければいけないというふうに思っております。

 しかし、残念ながら、その点については、損害賠償措置額の件を見ても十分に反映されているとは思えないわけでありますし、今お話がありましたとおり、この「健全な発達に資すること」という文言が入っていることによって、やはり有限責任になるのではないかとか、また、賠償措置額が低く抑えられる口実に使われるのではないかというのは、そのとおりではないかというふうに思っております。

 今回改正の中でやはり一番心配をされていたことは、無限責任が外されて有限責任になるのではないかということだったというふうに思います。この点はとりあえず、有限責任ではなく無限責任の原則が貫かれているわけですけれども、今、河合参考人が御指摘いただいたように、この「健全な発達に資すること」というものが入っている限りはいつ再燃するかわからないということは、本当におっしゃるとおりだなというふうに思わせていただきました。

 あともう一つ、福一の事故の教訓ということを考えると、今行われているADRのあり方について、やはりもう一度ちゃんと見直す必要があるんじゃないかというふうに思います。

 先ほど、河合参考人そして大坂参考人双方からこのADRについて、今非常に問題だという御指摘がありました。特に河合参考人からは、現在実際に代理人を務めているということで、多くの和解案が東電に拒否をされているという状況にあるというお話でありましたが、この状況を改善していくためにはどのような対策が必要であると考えているのかを、改めて河合参考人、大坂参考人にお聞かせいただきたいと思います。

河合参考人 私は、ADRに仲裁機能を持たせる、仲裁というのは強制力があるという意味でございます、べきだと思いますし、仲裁機能を持たせるのが究極ですが、少なくとも、先ほど申し上げましたように、ADRの和解案が出たら、東京電力はそれを原則としてのむ、拘束力を受ける、ただし、裁判を受ける憲法上の権利を侵害するわけにいかないので、例えば、一カ月以内に訴訟を起こしなさい、そうすればその拘束力から免れることができます、そうでない限り和解案は拘束力を持ちます、こういう制度で、これは実は、ほかの自動車損害賠償についての仲裁組織とかほかの公害とか、そういうものでもそういう制度があります。極めて奇異な制度ではありません。したがって、そういうふうにすべきだというふうに思っております。

 参考までに、今ADRがどういう状況になっているかというと、東京電力の側の代理人がすごく元気です。元気で、ばんばん拒否してきます。そして、ADRを突き上げます。そんな和解案を受け入れられるわけないだろう、そうしたらこんなに膨れ上がっちゃうぞとかいろいろなことを言って、それこそ、因果関係を立証してみろとか証拠がないとかいろいろなけちをつけて、受けないんです。

 最大の理由は、それをすると損害賠償額がほかにも同じ理屈になって広がるから、大きくなって収拾がつかなくなるからお断りだということなんですね。そして、結局打切りになってしまう例が続いているので、ADRの方が逆に萎縮して、東電さんが受け入れないような和解案を出したって無駄じゃないですか、だから私たちは和解案を出しませんという反応になってきているんです。非常に萎縮しているのは、東電ではなくてADRなんです。非常にこれは問題だと思います。

 それを打ち破るには、先ほど言った片面的な拘束力、強行性というものを持たせる必要がぜひともある。これは、このADR立法のときに日弁連はそこまで考えたんですが、強力な抵抗に遭って、とにかくではADRをつくろうということで、妥協の産物なんです。でも、その妥協の弊害が今もう出てきているんです。

 ですから、ぜひ、片面的強行性という法改正をしていただきたい。これは、憲法上の裁判を受ける権利とか財産権、東電のそういうものを侵害するものではありませんので、ぜひ、立法当局においてもそれから国会においても、その方向での検討をしていただかないと、皆さんが考えるように、裁判を起こすことは簡単ではないんです。私たちだって大変なんだけれども、頼む方ももっと大変です。

 福島県の人たちはおとなしいんです。おとなしいから、頼むよ裁判なんて言えないんですよ。裁判を起こせない人がほとんどです。皆さんも自分の身になって考えてください。では、百万円請求する、一千万円請求する、弁護士、はい、すぐ頼めると思いますか。すごく大変なんですよ。だから、司法というのは最後の最後の救済手段で、もっと簡単で庶民が気軽に利用できて実効性のある制度をぜひか弱い庶民のために考えていただきたい。お願いします。

大坂参考人 ほぼもう河合参考人の回答に私も乗りたいと思いますけれども、レジュメの四ページに少し説明がございますが、今、河合参考人がおっしゃっていた交通事故紛争処理センターによる和解あっせんでしたり、また金融ADRと言われております金商法上の裁判外紛争処理制度がございまして、そちらは受諾義務というものを金融機関に課すと。やはりこれも消費者保護の観点から導入されております。ということで、金融機関としては、裁判を提起しないとこの受諾義務があるという形になっておりまして、裁判を受ける権利は担保されているんですから、こういった方法もあるというふうに思っております。

 ADRにおきましては、東電の方は必ず代理人がつくということになりますけれども、一方で、先ほど、福島の方からなかなか物が言いにくいというふうにおっしゃっておりましたけれども、そういったことでも、ADR、中立な立場ではございますけれども、実際には現在そうなっていないということをよく踏まえていただきますと大変ありがたく存じます。

 以上です。

初鹿委員 どうもありがとうございました。

 片面的な強行性をしっかり持つような改正にしていただきたいというお話でありましたが、今の参考人お二人の御意見を聞いて、野村参考人も、最後ちょろっと本当に触れただけだったので、野村参考人の御意見もお聞かせいただきたいというふうに思います。

野村参考人 ADRで福島事故については二万件を超える事件を処理されておりまして、その役割は非常に大きくて、もしこれが全て訴訟に流れていたら多分裁判所は立ち行かなくなるということなんですね。だから、問題はADRをどのように仕組んでいくかということで、これはADR法制と別の組織ですので、もう少し改革すべきところはいろいろあるのかなというふうには思っております、具体的にどこをということではないんですけれども。

 それから、仲裁を入れ込むというのは、ほかの分野でもちょっと、仲裁制度を入れながら訴訟できる道はないかという、仲裁というのはワンチャンスで、仲裁を選んだら、そこの仲裁判断が出たらそれに拘束されるということなので、かなりリスキーなところがあるんですね。事業者間の取引であればそういうこともきちっと考えてやるからいいんですけれども、被害者と東電みたいな電力会社とか、こういうような仕組みの中に仲裁というのはちょっとなかなか難しいのではないかというふうに考えているところであります。

 以上です。

初鹿委員 もう時間がなくなってきたので、最後に皆さんにお聞かせいただきたいんです。

 先ほども大見委員からもお話がありましたが、今回の改正の中で一番私が気になっているというか問題だなと思っているのは、賠償措置額が一千二百億円で据え置かれたことだというように思います。福島第一原発の事故があって、実際に八・六兆円も損害賠償を既にしているわけであって、今のお話にありましたように、ADRの手続、和解などが進んでいくと、河合参考人が指摘したように、損害賠償額が更に広がる可能性もあるということもあるわけですから、そういうことを考えると、一千二百億円というのは余りにも低過ぎるということは私もそのとおりだと思います。

 そこで、野村参考人は、今後検証をしていかなければいけないというお話もありましたが、おおむねどれぐらいの額は最低限押さえておかなければいけないというように考えているのかということを最後にお聞かせいただきたいと思います。

野村参考人 具体的な金額はちょっと考えておりませんけれども、むしろ保険以外の方法というのを今諸外国では考えているということですね。福島事故が世界に与えたインパクトというのは、保険が役に立たないじゃないかということだったんですね。

 だからといって、保険を上げられるかというと、そこはおのずから限界がある。だから、上げる努力というのはすごく必要なんですけれども、やはりそこは恐らく限界があるので、保険以外の方法ということで、よく出てきているのは事業者間の相互扶助みたいなものですね。

 それから、先ほど河合委員もありましたけれども、政府補償契約というのも、今でも一部分、保険でない部分をカバーしているわけです。それから、パリ条約にも国際的な援助の仕組みというのはあって、日本が入ったCSC条約もそういうことなわけですけれども、保険だけという発想でいるとなかなか難しいのではないかというふうに思っております。

初鹿委員 参考人の皆様、ありがとうございました。時間が来ましたので、これで終わらせていただきます。

亀岡委員長 次に、城井崇君。

城井委員 国民民主党の城井崇です。

 野村先生、河合先生そして大坂先生、本日は急なお呼びかけにもかかわらず、参考人としての御協力ありがとうございます。

 私からも、今回の法改正の議論に当たりまして、本来、先取りをしてやるべき、見通しを持ってやるべき議論を、少し提案への議論の詰めも含めてお伺いできればというふうに思っております。よろしくお願いいたします。

 まず、私から冒頭は、この原子力賠償についての責任のあり方についてそもそも論を、お三方からそれぞれに御確認させていただきたいと思っております。

 政府は、国がこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることを踏まえ、国の責任を明確化することの必要性について検討し、必要な法制上の措置を講じるべき、こうした考え方を、今、国民民主党で議論しております。

 この国の責任の明確化という部分について、お三方からそれぞれお考えをお聞かせいただければと思います。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 責任のあり方につきまして、今、社会的責任というふうにおっしゃっていただきましたけれども、今般の福島原発事故につきましては訴訟も起こっておりまして、その中の大部分でやはり国の責任も問われているということになっております。

 ということで、集団訴訟ですか、まだ七判決の一審判決が出たばかりでございますけれども、国の責任を問う五つの判決のうち四つですね、責任が認められるということになっておりまして、こちらで最高裁まで上がっていって確定したというときには、今般の福島原発事故につきましては、社会的責任だけではなくて法的責任の観点からも考えるべきだというふうに思っております。

 ただ、今回の原賠法改正につきましては、これは将来の事故ということになりますので、やはり先生が御質問にいただいたように、社会的責任を明確に記載するということは非常に重要だというふうに思っております。

 以上です。

河合参考人 私は、日本の原発の歴史というのは国策民営だったと思うんですけれども、国の政策を民間会社が推進するということの基本的なねじれというのが、福島原発事故以降露見しているんだというふうに思います。

 今の時点での国の責任というのは何かというと、原発を早くソフトランディングで収束させて、そのために、電力会社に必要以上の負担がかからないようにいろいろな方策をしていくことだというふうに思います。それは、会計上もいきなり損金が出ないようにするとか、それから新しい産業を地元に供給していくとか、そういう方法によって、国の社会的責任、今まで国策民営でやってきたことのゆがみを正す責任がある、そういう形で国の責任があるんだというふうに思います。

 私は、事故が起きたときの手当てをこうやって原賠法の問題で真剣に処理するよりも、もうそんな原子力損害賠償をしなくてもいいような、要するに、そういう事故が起きないような体制に持っていくのが国の責任なのではないか、それこそが国の責任なのではないかというふうに考えています。

野村参考人 損害賠償に限定すると、恐らく原賠法の十六条、十七条に、国が必要な措置を講ずるとか援助をするということになっています。ただ、これは非常に抽象的ですね。だから、その中を具体的にどういうふうにやっていくのか。

 確かに、日本も、今まで余り具体的なイメージを持っていなかったと思うんですね、これは諸外国もそうなんですけれども。しかし、一旦福島事故が起きて、かなり具体的なことがわかるようになってきたので、そこで、どういうことを国がすべきなのかということを考えるべきじゃないかと思うんですね。

 それからもう一つは、重要なのは、CSC条約に加入したということなんですね。一応、国際的な原則に従っているということで、日本で今、地裁レベルですけれども、国の国家賠償責任を認めた判決が出ているわけですけれども、こういった判決については、なかなか外国からは理解されていないんですね。責任集中等の関係はどうなるんだろうかということなんです。

 それで、福島事故はCSC条約加入前なので、ある意味では条約のことを考えないで自由に裁判所が判断できるということだと思うんですけれども、これから先は、そういう条約との整合性をどういうふうに考えながら国として判断していくのかということが重要になるんじゃないかというふうに思っております。

城井委員 ありがとうございました。

 原子力事業者への責任の集中という法律の考え方はあるにしても、その部分を踏まえながら、どこまでぎりぎりまで詰めていけるかという部分での議論を今我々としても行っているところでございました。ありがとうございました。

 続いて、賠償金額の引上げの件について、野村先生に少し突っ込んだところをお伺いしたいと思います。

 本日の質疑に当たりまして、先生の書かれた、二〇一五年の商事法務に掲載された、原子力賠償制度の概要という論文を拝読いたしました。その中で、原子力損害賠償支援機構による援助についてのくだりがございました。

 この点でお聞きしたいことがあります。

 先ほども外国からの関心の話は触れていただきましたが、ここでも、原子力損害賠償法、福島の事故、その後の新たな措置について外国から大きな関心を持って見られている、原子力損害賠償支援機構による援助が外国で非常に問題になっているのは、日本の事故を見ていて、損害賠償の限度額及び損害賠償の措置をカバーしている保険の金額が余りに小さ過ぎて意味がないのではないかということです、それから、保険について、どのように原子力事業者の事業活動と保険の全体としてのキャパシティー能力とを調整していくかは今後の課題、こうした言及でございました。現実的な視点かというふうに受けとめております。

 この間、私どもも、原子力事業者等、聞き取りを実施してまいりました。事業者の側からの話によりますと、一千二百億円からの引上げを仮に法律として決めていただく、方針が出るということになりますと、その分はその分で受けとめながらで、保険の会社などとのやりとりをしながらで対応していくという気持ちはある、こうしたお話でございました。

 一千二百億円で打ちどめという話ではない、その部分は事業者としての受けとめはあるぞというお話を聞き取りで聞きまして、かなり意外な感じがいたしました。

 政府からの説明は、国際市場を見てもいっぱいいっぱいでございます、国としても、一千二百億円を超える分は仕組みとしてしっかり準備をいたして万全でございます、こういった説明だったわけでありますが、むむっと思ったわけであります。

 福島の事故の実際の賠償額、聞き取りの段階では、実賠償額ベースで十兆円を超える形になってきているというのが最新の聞き取りでございました。そうした中で、一千二百億円の賠償金額が本当に適当な金額でいっぱいいっぱいの上限なのかということ。例えば、地震の再保険での賠償金額の上限は一千七百億円だったりします。

 そうしたことも踏まえて、今、国民民主党でも議論を行っております。先ほど御指摘の外国の実例やあるいは声なども踏まえて、今後どのような形にしていけるか。引上げの部分での現実的なところ、事業者がそう言っているということを踏まえましたら、少し努力のいとまがあるのではないかというふうに思うわけですが、この点の受けとめ、いかがでしょうか。

野村参考人 保険は、先ほど申し上げましたように、日本に保険プールというのがあって、各国に同様の組織があって、その間で再保険という仕組みを使ってリスクを平準化しているわけですね。

 したがって、保険業界としてどこまでが受入れ可能かというのは、民間の保険ですので、どうしてもビジネスの世界ですので、例えば一兆円とこちらが要求しても、向こうはやはりノーと言わざるを得ないところがあるわけですね、受けられないということになるわけですので。

 私個人の考えでは、保険にはやはり限界があると考えざるを得ない。上げる努力はもちろん必要だと思うんですね、それは交渉マターですから。ただし、先ほども申し上げたように、事業者の相互扶助とか、あるいは最終的に国が負担するのかとか、その辺の全体的なスキームというのを考える必要があるんじゃないかというふうに思っております。

 諸外国でも、特にヨーロッパでは有限責任をとっている国が多いわけですけれども、有限責任をとりながらなおかつ被害者の保護はきちんとするということをよく言っていますので、そうすると、そのギャップは国が埋めるということになっているわけですね。

 ですから、いかに被害者の保護を完全にしながらその資金をファイナンスしていくかということで、全てを保険に頼って解決しようというのはなかなか難しいんじゃないかというふうに思っております。

城井委員 では、河合参考人、お願いします。

河合参考人 ありがとうございます。

 先生の、業者に聞いたら、いや、もっと上がったってそれはそれなりにやるよと言っているということは物すごく重要なことで、僕は八兆六千億にしろと言っていますけれども、それが無理なら、じゃ五千億にしようとか一兆にしようとか、ちょっと上げる努力を当局はしたのかということですよね。

 今回の案は、要するにオール・オア・ナッシングなんですよ。上げるか上げないか、千二百億据置きなのか据え置かないのか。オール・オア・ナッシング、そんなことでいいんですかと。僕は、すごくいい問題点を突かれたと思います。

 せめて三千億にするとか五千億にする、そういう試みを何でしないんだ。それは、本気にこの問題に向き合っていると言えるのか。僕は、当局が、立法と担当者が事業者にそんたくし過ぎていると思う。言わない方がいいよね、言ったって反撃されるよねと思って千二百億で据え置いたとしか思えない。

 実際に城井先生なんかが当たって、国民民主党が当たってみたら、いや、そうではないよ、それはそれなりに努力するよ、これがやはり実態だと思うんですよ。だから、そこを踏まえて、ぜひ考え直してもらいたいなというふうに思います。

城井委員 ありがとうございました。

 これまでも賠償金額の引上げは倍々で来ています。一千二百億円から例えば二千四百億円にした場合に保険が組めるかどうかという議論が、今のところまだ進んでいないというふうに実感をしています。

 実際に組むときにどうかという議論、課題として指を指すところからもう一歩前に出て、これを組み上げていく努力、それを組み上げている時間がかかるならば、その間は国が、政府が責任を持って支えるという仕組みがあれば十分前に進めるはずだというふうに考えております。

 さて、時間もなくなってまいりましたので、最後の質問になろうかというふうに思いますが、河合先生と大坂先生に一点確認をというふうに思います。

 原子力賠償制度における国の措置のあり方についてであります。

 原子力賠償請求に係る訴訟については、被害者の迅速な救済を図る観点から、先ほど野村参考人からも言及がありましたが、アメリカのクラスアクションのような団体訴訟制度の導入については政府は検討すべき、こうした意見があることを承知しております。

 国民民主党におきましても、この国の措置のあり方等ということに検討を加える必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすることという意見がありまして、このクラスアクションのような仕組みを念頭に置いた考え、いかにお考えか、先生方からお聞かせください。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 クラスアクション、先ほど集団訴訟のお話をしましたが、現在三十ぐらいの集団訴訟が提起されておりますが、それぞれの判決を被害者の方たちが待っている状況ということになっておりまして、なおかつ、それぞれの裁判所で出す判決の内容も、当然、被害者の属性も違っておりますのでいたし方ないところもございますが、結果としてそれぞれの被害者に差がついてしまうということになってしまっております。

 やはり被害者の多くの方が言われるのは、例えば避難指示区域内の中でも差がある、なおかつ区域内か区域外でも差があるということで、我々同じような被害を受けているのにということで非常に残念に思っているということをよく聞きます。

 クラスアクションは、一律的な訴訟というか集団的な解決になりますので、原発に限らないのかもしれませんが、多数当事者がかかわっている、被害者が発生するような災害、事故におきましては、そういった紛争処理の仕方も必要だというふうに私は考えております。

 ありがとうございます。

河合参考人 原発被害というのはクラスアクションに非常になじむ質の被害だというふうに思いますので、基本的に賛成です。

 現に、ロナルド・レーガンで海兵隊の人たちが被曝をしていろいろな病気が発生していることについて、カリフォルニアで既にクラスアクションが起こされております。

 ですから、原発被害についてクラスアクション制度を使うということは決して荒唐無稽なことではなくて、アメリカで既に始まっております。五百億だかの損害賠償基金をつくれ、治療を十全ならしめろ、それから、損害賠償を十全ならしめろ、そういう申立てがあります。立法する際にはそれの帰趨もよく見ながらつくると、いい立法ができるのではないかと思います。

城井委員 ありがとうございました。終わります。

亀岡委員長 次に、中野洋昌君。

中野委員 公明党の中野洋昌でございます。

 三人の参考人の先生方、野村先生、河合先生、また大坂先生、きょうは大変に御多忙のところ、意見をお述べいただきまして、ありがとうございます。しっかりとそれぞれの皆様の御意見を拝聴いたしまして、委員会質疑にしっかりと生かしていきたい、こういう思いでございますので、よろしくお願いを申し上げます。

 既にかなりさまざまな論点につきまして、いろいろな議論も出てきております。

 私、冒頭に野村先生の方に、ちょっと視点を変えましてお伺いをさせていただきたいのが、先ほど野村先生の方から、こうした、実際に東京電力の福島第一原子力発電事故が実際に起きて、国際的な、賠償措置額というものは千二百億ですとかそういう仕組みでいろいろな条約もやっておりますけれども、実際の賠償の金額というとやはり、八兆を超えた、あるいは廃炉であるとか中間貯蔵であるとかいろいろなことも含めると二十兆を超える、こういうような話もある中で、やはり、保険に頼ってこれを措置するというのは限界があるというふうな議論が国際的に今さまざま起きているということを紹介していただきました。

 そうしますと、実際、諸外国も、日本の今回の事故の賠償の措置のあり方、こういうものを踏まえたいろいろな議論をしていくということだと思います。

 この原子力損害賠償・廃炉等支援機構のスキームというのは、基本的には事業者間の相互扶助というのが一つの費用の負担のあり方というか、こういうものでやっていくということかなというふうに思っておるんですけれども、実際にこの日本の事故を受けまして、諸外国においては、じゃ、どういう形でこれを措置していこうとしているのかというのをもう少し詳しくお聞かせいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。

野村参考人 余り私も詳しく知っているわけではないんですけれども、今日本が入っているCSC条約というのは、加盟国のどこかで事故が起きたときに、一定金額まではそれぞれの国が優先的に準備するわけですけれども、その上にほかの締約国から援助が来るという、こういう仕組みになっておるわけですね。

 もちろん日本もお金を、受ければ出すということで、日本はそれの準備のための資金の確保を既に始めているわけですけれども、条約によってそういう相互扶助、国家間の相互扶助というのは一方である。これは、パリ条約の締約国の間ではブリュッセルの補完条約というのがあって、同じような仕組みをつくっているということなんですね。

 今回の福島事故のインパクトとしては、先ほど申し上げたように、民間の事業者間の相互扶助と言うんですかね、があるということなんですけれども、これについては、アメリカのプライス・アンダーソン法はもともとそういう形になっている。ただ、あちらの方は、日本の支援機構や何かと違って、事前に一般負担金というような形でお金を取るということではありませんで、恐らく、事故が起きてから、それから割りつけるということになるんではないかというふうに思っておりますけれども、それから、ドイツでも同じように相互扶助の制度があるというふうに承知していますが、ここはちょっと詳細、私も十分理解していないところです。

 今一番私が注目しているのは、まだ国がどうこうするというそういうレベルではなくて、専門家の間の、言ってみれば学者の間のアイデアのレベルで議論されているところがちょっとあって、それは、例えばですけれども、それぞれの国が民間の事業者間の相互扶助の仕組みをつくる、その上に、ちょうど保険と再保険のような、そういうような関係で、ほかの国の事業者間の相互扶助との間の協力関係みたいな、そういうことにだんだん広げていけば、全体としてカバーできる金額が上がっていくのではないか、そういうアイデアを述べている学者なんかいるんですけれども、ただ、実現にはこれはなかなか難しいところがあると思うんですね。

 事業者の相互扶助といっても、今日本でCSC対応でやっているのは、原子力事業者といっても原子力発電所からお金を取るという形になっていますので、原子力事業者というときに、どこまで相互扶助の対象を広げるかとか、原子力事業者によってはそれぞれリスクの度合いとか何かいろいろ違いますので、そういうスキームをつくるとなると、いろいろな検討しなければならない問題はたくさんあるのではないかというふうに思っております。

 以上です。

中野委員 ありがとうございます。

 もう一つ野村参考人にお伺いをしたいのが、今回改正をするいろいろな点を、今後の賠償対策に必要な措置ということで改正をするというのは、おおむね多くの皆様がそれは必要な措置だということで御理解いただいていると思うんですけれども、先ほど来いろいろな議論が出ている、改正を今回しない点というのがやはりいろいろな論点があるんだというふうに思っております。

 賠償措置額についてもかなりの議論が出ているんですけれども、野村参考人にお伺いをしたいのは、ほかの参考人の皆様からは、責任集中については、なぜ今回変わらないのかですとか、あるいは無限責任のところは、おおむねそれは見直さないということである程度コンセンサスはあるようではございますけれども、こうした無限責任あるいは責任集中、こうした点が今回特に変更していない、こういうことについてはどういう評価をされるかというのをお聞かせいただければと思います。

野村参考人 無限責任の方から先にお答えさせていただきますけれども、国際的には、条約によって原子力事業者の損害賠償責任の下限を定める、条約締約国はそれ以上の額を責任制限額として定めることはもちろん可能であり、更に無限責任にすることも可能だというのが大体条約のつくり方であります。パリ条約の改正とかウィーン条約の改正、あるいは、最近の諸外国の立法では原子力事業者の責任制限額を上げるという方向にある。それから、ドイツやスイスのように、もともと無限責任をとっている国もあるわけですね。

 こういう状況を踏まえると、国際的な傾向としては、むしろ有限責任から無限責任への方向にあるということが言えるのであって、福島事故後にさまざまな措置を講じて比較的円滑な損害賠償を実現してきた日本は、むしろ国際的な視点からはモデルになっていると言ってもいいのではないかというふうに感じているところであります。

 また、有限責任制度にすると、原子力損害の総額が責任制限額を超えるという場合には、制限額をどのように分配するのかという困難な問題が生ずるわけですね。例えば、損害の種類によって賠償順位に違いがあるのか、いや、人身損害を優先させるというふうに考えるのか、現実にそういう規定を持っている国も、フランスのようにあります。

 それから、晩発性の損害が出てきたときに、既に分配が終わっていて限度額まで行っちゃっているということになると、それはもらえないということになるわけですね。ですから、そういう後から発生するような損害をどう扱うのかといういろいろな問題を踏まえて、賠償されるべき損害を確定するという時点から各被害者へ分配するという、そういう手続を整備する必要があって、さらに、被害者に十分な保護を実現するためには、制限額を超える損害についても国が負担をするとか、何らかの措置を考えなければいけないということであります。

 このように考えていきますと、現在の無限責任制度から有限責任制度に変更するというのは、時代の流れに逆行するというもので、制度の無用な複雑化をもたらすものでもあり、余り賢明な方法ではないというふうに考えております。

 それから、責任集中については、これは一応国際的な基本原則で、現在も世界の主流はこれを維持するという方向であるということで、被害者からすると、誰を相手に損害賠償すべきかが明確になっているということ、それから他方で、原子力事業者に責任を集中するということによって、損害賠償実務の円滑化、迅速化のみならず、賠償責任者に対する支援というものがより容易に実現できるようになると考えられるところであります。

 例えば、メーカーに責任を負わせるということになると、今度はメーカーを対象とする保険をつくるということにならざるを得ないわけですね。そうすると、それをどういうふうに仕組むのかとか、なかなか新しい問題がいろいろ出てくるということですね。最近、CSCに加入しているインドが国内で立法しておりまして、その中に求償権をかなり広く認めた規定がありまして、これが責任集中に矛盾するということで、かなり諸外国からは異論が出ておりまして、インドからは一応矛盾しないという説明はあるんですけれども、いまだに世界的には納得されていないというところなんですね。

 そういう意味で、当面、責任集中は維持するということではないかというふうに考えております。もちろん、今でもメーカーと原子力事業者との間は求償を合意でやる道はもちろん残されているところであります。

 以上です。

中野委員 ありがとうございます。

 時間も迫ってまいりましたので、最後にちょっと、三人の参考人の皆様にもしお知恵があれば簡潔にお願いできればと思うんですけれども、賠償措置額につきましては、やはり、保険市場のキャパですとかいろいろな問題はあるにせよ上げていく努力をすべきであるとか、あるいは上げた方がいいであるとか、さまざまな御意見、頂戴をしたところでございます。

 これについて、とはいえ民間の保険の能力もあるというのも確かだというふうに思いますので、上げていくために、具体的にどういう努力をしていくべきか、あるいはどういう議論をしていくべきか、これについて簡潔にお聞かせいただければと思いますので、よろしくお願いします。

野村参考人 パリ条約の締約国間では、少額のリスクのあるものについては条約から外すという方向で議論が進んでおりまして、それからもう一つ、小規模の原子炉を推進する、そういう動きもあるんですね。そういう意味で、リスクを減らしていくということも必要ではないか。一方で、それに応じて保険の制度と関連させていくという、これはもう専ら技術の方なので私は何とも言えないんですけれども、そういう今のような一律のやり方でないという方法もあるのではないかというふうに考えております。

河合参考人 八兆六千億も損害が現実にあり、しかもそれが更にふえるということが予想されているのに千二百億円しか賠償措置を講じないということは、はっきり言うと、悪い言葉ですけれども、鼻くそみたいな金額です。鼻くそみたいな金額ですよ、皆さん。

 それで、原発の常識は世間の非常識ということがよく言われていますけれども、またその非常識がふえたんです。皆さん、交通事故の損害賠償で百万しか入っていませんと言ったら、おまえばかじゃないのと言われますよね。八兆六千億も現実に事故が起きるような、そういうものについての損害賠償、その百分の一しか保険に入っていないんだよと言ったら、おまえ無責任だなと言われますよね。そこを何で原子力をつかさどる人たちは考えないのか、それを統制する役所は考えないのか。

 僕は、本当に無責任で、また非常識がふえたというふうに思います。ですから、せめて、今まで倍々で来たわけですから、僕は八兆六千億に上げるべきだと思いますけれども、とりあえずよくわからないというんだったら、倍、倍、倍の二千四百億ぐらいにして、そしてどうなるか、その結果どうなるか動かしてみるぐらいの、そういう真摯な対応が必要だと思います。オール・オア・ナッシングということでいいはずがないんです。そこをぜひ考えていただきたいというふうに思います。最低限、とりあえずその倍、今まで、前は六百億から千二百億にしたわけですから、千二百億から二千四百億にするぐらいが最低限の配慮だろうというふうに思います、決してそれでいいと言っているわけではありませんが。

大坂参考人 相変わらず私は答えが出ておりませんけれども、二千四百億か一兆か八兆六千億に上げるか、私もちょっとそれは答えが出ておりません。

 ただ、二千四百億円に上げるとか一兆に上げるといったときに、それが上げられないということになっているのであれば、それはもう原子力事業の方の将来性というものが見えているのではないかというふうには思っております。

 ちょっと斜めからのお答えになってしまいましたけれども、以上でございます。

中野委員 以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

亀岡委員長 次に、中川正春君。

中川委員 ありがとうございます。

 三人の参考人の皆さんにも貴重な御意見を聞かせていただいて感謝を申し上げたいというふうに思います。大分論点がそれぞれ出てまいりまして、ある程度重なるところもあると思うんですが、御容赦をいただきたいというふうに思います。

 まず最初の入り口のところなんですが、先ほどから議論が出ていますように、目的が被害者の保護と原子力事業の健全な発達というところであるわけですが、百十四回国会、衆議院の科学技術委員会で、実は科学技術庁の原子力局長がこの二つの目的について次のように説明をしておりますが、これについてそれぞれどのように御意見を持っていただけるか、お聞かせをいただきたいというふうに思います。

 この二つの目的は、被害者の保護を図るために原子力事業者に非常に重い賠償責任を課しているわけでございます。こういうことによりまして事業経営上過度の負担になることになりますと、原子力事業の健全な発達を阻害するということになりますし、また、原子力の事業の健全な発達がなければ十分な賠償措置も講じられないということもございます。そういう意味で、二つのものを並列して目的として並べました。

 こういう政府の答弁なんですが、それぞれ、これに対してどのように今お考えか、お話をいただきます。

    〔委員長退席、馳委員長代理着席〕

野村参考人 被害者の保護と事業の健全な発展をはかりにかけて、その結果、被害者の保護が制約されるという、今そういうふうに考えている人はいないんじゃないかというふうに私は思いますけれども、あの規定があるから被害者の保護は完全じゃなくていいなんということを考えている人は誰もいないというふうに思います。

河合参考人 原子力事業の健全な発達ということについて、私の本音を言いますと、原子力事業がもともと健全なのかどうかという疑問があると思いますね。重大事故を起こせば国を滅ぼしかねないような、そういう被害を及ぼすようなことがわかったわけですね。

 あの福一事故の当時に、原子力委員会の当時の委員長、近藤駿介氏が最悪シナリオというのを書きました。このまま事故が進展して最悪の事態になればどうなるかということを時の首相から委嘱を受けて研究をして、即時に出しました。わずかな日にちだと思います。

 その結果は、福島原発から百七十キロは強制退去、それから二百五十キロ圏内は任意退去というか、退去した方がいい、そういう範囲。福島原発事故から二百五十キロというと、この国会も含む全て、国の中枢機関を全部含みます。ということは、国が滅びるというのと同じなんです。

 そういう重大な損害を国に及ぼすような事業を健全に発展させる方法はあるんだろうか。一番健全な発展は、電力をどんどん自然エネルギーにシフトしていって、原発が要らないようにしていくこと、ソフトランディングしていくことが原発の事業の健全な発展だ、発達だというふうに私は思います。でも、それを言っちゃうと話が終わっちゃうよという方は、苦笑された方はそういうことだと思いますけれども、じゃ、その問題をおいたにしても、この原賠法の中に原子力事業の健全な発達ということを入れるということは、被害者の救済の手を鈍らせたり曇らせたりするおそれがあります。

 要するに、予見可能な事業にしなきゃいけない、そのためには損害賠償額を有限にしなきゃいけないとか、そういう議論になっていきかねない。それから、いろいろな場面で、被害者の救済のためにこうしろという要求があると、いやいや、そこまでやっちゃ健全な発展のために阻害的になるからだめだよという意味で、この法律に原子力事業の健全な発展ということがいわば複合的に目的として掲げられることによって、被害者の救済がおろそかになる、若しくは手抜きになる、手薄になるきっかけを与えるという意味で、僕は削除した方がいい。純化して、はっきりと原子力損害賠償法と書いてあるんですから、そこに特化した方がいいというのが私の意見です。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 私も、はかりにかけるということは恐らくしないというふうに思っておりますけれども、ただ、先ほども意見の中で申し上げましたが、原子力事業の健全な発達、そこに結びつく原子力事業の予見可能性の確保というところにつきましては、やはり有限化がどうあの議論の中で出てきたかということをお伝えいたしました。

 有限化は逆行しているということでございますけれども、さらには、円滑に原子力事業が進められていくということにつきましては、やはり国がサポートするということの期待がどこかにあるのではないかというふうに思っておりまして、実際に専門部会の議論の中におきましても、やはり、今般の賠償におきまして反省というか教訓を見て、将来の損害賠償においては国の方もある程度大きい責任を負うべきだと。それは社会的責任を多分超えるような内容になってくるのだと思いますけれども、そういった議論の可能性を残さないということのために、やはり私としては、原子力事業の健全な発達というものは併記するべきではなくて、削除した方がよろしいというふうに思っております。

 以上です。

中川委員 削除すべきだというお話がそれぞれそろいました。政府に対しても、今回の改正の中で、この点については、改正をする、あるいは基本部分について改めて議論をし直すという、そういう姿勢が私も必要なんだというふうに思います。

 次に、千二百億円、それから八・六兆円、ここの課題でありますが、ある意味で、原子力発電というのを継続すべきかどうかという、その一つのポイントはコストだというふうに言われています。この八・六兆円というのが、今原子力を設計していく中で、どこまでそのコストに算入されているか、これが一つの課題になるんだと思うんです。

 そういう観点から考えていくと、保険制度なりあるいはさまざまな補償制度なりでコストをその中に見込んで、事前にそれを予知しながら原子力というのを考えていくということと、そうではなくて、それは起こったときにその対応をして、そのコストは事前の設計から除外をして原子力発電を考えていく、このところに一つ大きな分かれ目があるんだと思うんです。

 私は、八・六兆円、これからまだそれ以上になってくるんだと思いますが、それはコストの中に含めて、そういう事前の仕組みと、それから合意が要るんだろうというふうに思うんです。そういう観点から考えていくと、どういう工夫をすればそれが可能になるか。保険制度だけではなくて、さまざまに国際的にも定義をされているというお話がさっきありましたが、そういう観点も含めて、ひとつもう一度、この八・六兆円、あるいはそれ以上のものを、リスクを事前にそのコストに含めていく方策といいますか知恵といいますか、そんなものがもしあれば、お聞かせをいただければありがたいと思います。

    〔馳委員長代理退席、委員長着席〕

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 実際に、今回の福島原発事故の処理におきましては、電気料金の方から一部回収するというような形で、事故が起こった後で、この原発事故に係るコストを回収しようという形になりましたけれども、やはりそれではよろしくないと。

 不法行為法の原則は被害者の損害の填補というふうに申し上げましたけれども、不法行為法のもう一つの機能といたしましては、将来の事故の抑止ということがございますので、やはり現時点から、コストを含めて事故が起こらないような形で考えていくことが必要だというふうに私も思っております。

 そのコストをどのように計算するかという話になりますけれども、原子力のエネルギーというもののコストについて、やはり震災前とそして震災後では、見直しというか、いろいろな学者の方も見直しているところですので、そういった廃炉とか、そしてこういった事故が起こった場合のことも含めたコストをなるべく正確に計算した形で考えていく。

 そうなると、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、なかなか原子力事業というものを続けていくということは難しいような状況になっているかと思います。

 以上でございます。

河合参考人 福一事故による損害は、損害賠償債務だけではないことは御存じのとおりですね。事故を起こした原子炉の廃炉というのも大変お金がかかりますし、除染もお金がかかりますよね。その損害を政府は初め幾らと見たかというと、五兆円と言ったんですね。すぐ、一年たって十兆円にして、二年たったところで二十二兆円と見積もっているわけです。それが今のところの、現時点での政府の公式見解です。

 ところが、日経新聞系のシンクタンクでは、そんなものじゃないでしょう、四十兆円ですよということを言ったわけですね。それはおととしの四月ですね。そして、そのはかりようによっては、汚染水の問題をきちんとすると七十兆円かかりますと言ったんですね。七十兆円というと、国の税収は、年収で、一般税収は五十兆円です、予算が百兆円です。途方もない金額を一つの事故で起こしたということなんですね。

 これは本当に、国でさえ今の時点で二十二兆円と言って、日経新聞系のシンクタンクが最大七十兆円と言い、本当に気の遠くなるような金額が損失として出ている。そのときに、これから、原発のコストを考えるときに、少なくとも公式見解で出ている二十二兆円、それが順次上がっていくと思いますけれども、それを原発のコストとしてきちんと織り込んで計算をして、そして国民に開示すべきだというふうに思います。

 どこまでのコスト計算をすべきかということはいろいろ議論がありますけれども、少なくとも現実に起きた損失は、損害は算入すべきだ。それは結局、電力会社がそのときの燃料費を幾らと言っているのとは別の問題で、全国家的に見たときに原発のコストが幾らかというのが国民にとって問題なわけです。そのときに、現実に発生している福島原発事故の損失額、損害額を考慮しないというのはもう、これもまた原発業界の非常識ということになると思います。

 以上です。

野村参考人 事故の処理費用を料金に算入するかどうかとか、これは料金の定め方のところでいろいろルールがあって、簡単ではない話ですけれども、事業そのものとしては、やはりその事業の持つリスクというのは、当然、計算の中に入れてやるのが普通だと思うんですね。ですから、当然入れる。

 ただ、原子炉を動かして、それが万一事故が起きたときにどれぐらいの費用がかかるかというのは、ある意味では福島事故は一つの例で、見通しを立てやすくなったとも言えるかもしれないわけですね。

 だから、いずれにしろ、そういったリスクを四十年スパンなら四十年スパンで考えて、原子力発電に行くか行かないかという、そういう判断で使うのか、あるいは、むしろ単年度のリスクとして考えて金銭化してそれをずっと積み立てていくのか、それは事業者がどう考えるかということであって、余り我々法律家がこうしろというところではないんじゃないかというふうに思います。

中川委員 時間が来たようです。ありがとうございました。

亀岡委員長 次に、高橋千鶴子君。

高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、三人の参考人の皆さん、本委員会に大変お忙しい中御出席いただき、貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。

 早速質問をしたいと思います。

 まず、河合参考人に伺います。

 原賠法第十六条に基づく国の措置として、東電を債務超過に陥らせないということで、二〇一一年に原子力損害賠償支援機構法がつくられました。今度は、この機構法の附則に基づく原賠法の見直しとして二年以上専門部会を開いてきたわけですけれども、先ほど先生がおっしゃっているように、千二百億円の損害賠償措置額も据置き、また第一条の目的、「原子力事業の健全な発達に資する」ということもそのままになりました。

 私は、言ってみれば、今度の法案は東電救済の特別スキームを一般化し、全国の原発の再稼働に備えるということにほかならないんじゃないかと思うんです。先生の御意見を伺いたいと思います。

河合参考人 そうだと思います。

 千二百億円ということが本当に妥当なのかどうかは、先ほど、城井先生が業者に聞いてみたら、いや、それはそれなりで対応できるんだよと言ったという話で僕は腑に落ちたんですけれども、立法当局というか行政の人はそういうヒアリングもしていないんじゃないか。本当に、ではこれを上げたらどうなるというヒアリングをちゃんとしたんですか、二千億ならどうですかとか三千億ならどうですかとか、そういうことをやったんですか、やりもしないで千二百億据置きと決めたんじゃないんですかと僕は言いたい。

 東電救済策についても、東電を債務超過にさせない、東電を倒産させないということが大前提になっていたと思いますけれども、僕は、こんな重大な事故を起こしたところは責任をとってきちんと整理をすべきだというふうに思います。そうすると、一つは、停電になる、それからもう一つは、損害賠償主体がなくなる、だから生き残らせなきゃいけないんだというのが当時の政府の方針だったんです、当時の民主党政権の政府。

 僕はそれは間違いだと思います。法的に言っても、まず停電の心配は、電力事業は崩壊しないんです。会社は崩壊しても、電力事業は、従業員と送電線と発電所、事業譲渡をぽんとすればいいんです。それは、引き受けるところは幾らでもあります。中部電力だって喜んで引き受けますよ。東北電力だって引き受けますよ。とすると、事業は引き継がれるから停電はない。

 では、損害賠償主体がなくなる。確かに、法人格が破産すると債務は消滅するんです。それを心配したんでしょうけれども、それは至急立法すればよかったんです。旧会社、要するに事業譲渡後の抜け殻会社は破産の申立てをしちゃいけない、原子力損害賠償債務という重大な債務を負っている限り破産申立てをしちゃいけない、そういう法律を一条つくればいいんです。そして、そこが損害賠償を実行して、それがお金が足りないときは政府の支援措置を講ずるということをやれば、被害者の救済も全く問題ない。

 今、何が問題かというと、東電は生き残りに必死です。生き残りに必死だと、なるべく損害賠償債務を支払いたくないという方にインパクトが働きます。俺たちはもうあと仕事がなくて損害賠償だけなんだと思えば、抜け殻になった会社は一生懸命誠意を持って損害賠償を実行します。それで足りなければ、政府に、済みません、お願いしますと言います。今は、東電は自分が生き残るために借金をなるべく残したくないからということで、値切りに入っているんです。

高橋(千)委員 大変明快に、ありがとうございます。

 それで、大坂参考人に伺いたいと思うんですけれども、先ほどお話あった事業者の問題、千二百億円の問題は、専門部会の中では、電事連とか経団連は有限責任にすべきだということを盛んにおっしゃって、それができないのであれば、いわゆる措置額を引き上げるべきだと言っているんですね。

 そうすると、どういうことかというと、予見可能性は高まるかもしれないんだけれども、河合先生がおっしゃるように、全部、福島の分全部だという、そこまではっきりすればいいんだけれども、途中でとまってしまうと、それが限りなく有限責任に近づいていくのではないか、つまりそういう文脈で話していますからね。そこではまずい、そこはちゃんと国の責任も事業者の責任も書きながら、措置額というのを考えていかなきゃいけないし、実は賠償額というのは、八兆六千億円だけではなくて、今回のスキームの外にある除染ですとか、いっぱいあるわけですよね。そういうことも考えながらやっていく必要があるのかなと思うんですが、大坂参考人にも御意見を伺いたいと思います。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 先生がおっしゃるとおり、今回、原賠法改正ということで賠償のお話に特化しておりましたけれども、本来では、除染の費用につきましても、これは事故があったことで生じた損害ですので、本来なら東電が支払うべきものだと思いますし、実際に、特措法と言われております放射性物質汚染対処特措法におきましては、そういった費用については求償することになっておりますが、実際には、特定復興拠点でしょうか、帰還困難区域のところの中心となる除染につきましては国が行うということになりまして、環境法の立場からするとちょっとおかしい事態ではないかなというふうに思っているところではございます。

 先ほどの、幾らにするかと言い切れないのも、私も先生と全く問題意識を同じくしていると思いますけれども、ある程度で、ここまで上げられますというふうになったときに、もうそれ以上は責任を国の方で負ってもらうという形になるような議論を、私も専門部会の議事録等で拝見しておりまして、そういったことをさせないようなことのために、先ほどの目的規定とかについての御意見を申し上げた次第でございます。

 余り直接的なお答えになっておりませんけれども、以上でございます。

高橋(千)委員 ありがとうございます。

 今御指摘いただいた除染の部分は、一番深刻な被害を受けたところを東電に求償せずに国が責任を持ってやるということになっていますので、やはりその仕切りはおかしいのではないかと。

 それから、賠償も、国がきちんと責任を持って払わせるという立場に立つ、それが負担金という形で立てかえて後で返してもらうという形であっても、責任を持つというところがやはり法案に足りないのではないか、そういうふうに思っております。

 それで、どんどん時間がなくなってまいりましたので、野村参考人にも伺いたいと思います。

 東電の事故においては、第四次指針追補まで紛争審査会で指針を出されました。私たちは、指針の見直しを求めてきたわけですけれども、その際、指針にあることだけで賠償が終わりじゃないんだ、相当程度因果関係がある場合は賠償の対象とすると繰り返し答弁があったんです。ですが、事実、その後も、賠償の上乗せやADRもあるんだけれども、相当程度因果関係がどうなのか、どこかというのを決めているのは、現場では、実質加害者である東電であります。

 旅館やホテルが売上げが減ったと言っているのに、その証拠も出しているのに、別の資料を持ってきて、いやいやその最寄りの駅は利用者ふえていますよ、そういう形で東電がジャッジをしているんですね。この実態をどうお考えですか。

野村参考人 紛争審査会の役割は、損害の範囲について指針を出すということで、当然、ある程度一般化された損害を想定しているので、個別の事情は特に取り上げていないわけですね。これは指針の中にもきちっと書かれていて、個別事情は、それは東電と被害者との間の紛争で解決するということになっておりますので、それが東電に守られていないという話は僕もよく聞きますけれども、やはりそれは、紛争審査会の、ある意味でいうとやむを得ない限界じゃないかなというふうには思っていますけれども、余り個別のことをいろいろ紛争審査会で基準を出すということは、性質上できないと思うんですよね。ですから、どうしても一般化せざるを得ない。

 しかし、被害者の状況というのは千差万別なので、それはやはり東電に真摯に対応してもらうというしかないんじゃないでしょうか、余りお答えになっていませんけれども。

高橋(千)委員 では、今のお答えを受けてもう一度、野村参考人と、それから河合参考人、大坂参考人のお二人にも伺いたいと思います。

 個別は書けないからやむを得ないんだとおっしゃいました。ただ、結果として、加害者が基準を決める、要するに指針からはみ出した部分についてですね、ということを、では黙って見ていいのかということがあると思うんです。

 見直しについての専門部会の報告書の中では、やはり地域の被害者の声、あるいは商売をやっている方たちなどの声をもっと聞くということも盛り込まれました。

 そういう点で、もう一歩、法案に盛り込む、できることがあるのではないか。先ほどありましたADRの位置づけをきちんと書き込むということも一つの手だと思うんですけれども、お三人に伺いたいと思います。

大坂参考人 ありがとうございます。

 被災者の声を聞くということにつきましては、今回、専門部会でヒアリングをしておりますけれども、福島県そして関連事業者に対するヒアリングはございましたが、直接の被災者からの声が聞かれていなかったというふうに議事録からは確認しております。

 そういったところで、先ほど先生がおっしゃっていただいたように、見直しの中には盛り込まれましたけれども、専門部会自体でそういった取組が必要だったのではないかというふうに思っております。

 そして、指針につきましては、やはり第四次追補まで、紛争審査会の先生方も気にされていて、毎回のように、この指針は決して、最低限というか、この指針にとどまるものではないというふうにわざわざ毎回書いていらっしゃるのですけれども、にもかかわらず、東電の方で、それをあたかも最高基準のような形で、それ以上認めないという形で運用している。それについてどのように法律の中に取り込むかというのは、私もちょっとすぐに答えは出ませんけれども、やはりそういったことについてより多くの方々に、先生方を含めて知っていただくということが重要ではないかというふうに思っております。

 以上です。

河合参考人 その問題を解決するには、結局、ADR、パネルの方で踏み込んだ個別的な判断をすべきだということになるわけですけれども、それをしたときに東京電力が拒否をするということで、結局、泣く子と地頭には勝てないみたいな感じになっているわけですよね。

 僕は、それを解決するには、片面的強行性を法律で決めるしかない。東電がそんなわがままを言っているのを抑え込むには、やはり片面的強行性、すなわち、勧告が出たら原則として従う、一定期間内に訴訟を起こさないんだったらそれを守る、裁判を起こす権利だけは認めてやるという片面的強行性を法定すれば、今先生がおっしゃったような弊害はなくなると思います。

野村参考人 今回の指針も、四月に審査会が立ち上がって四月末にはもう既に出ている、テンタティブですけれども出ていますね。

 このように、なるべく早く出すということが重要なわけで、そういった意味で、ある程度一般化した損害項目を対象とせざるを得ないということだと思うんですね。

 それをいかに東電に尊重してもらうかというのは、今、河合参考人からもありますように、ADRのあり方をどういうふうにするかということの方が重要ではないかなというのが一つですね。

 それからもう一つは、今回の改正で損害賠償実施方針の作成が義務づけられていますので、どういう実質化をそこの中で図るかという中で、将来、万一事故が起きたときにきちっとそういう指針などに対する尊重の姿勢というのが現実になるようなことも工夫する必要があるのではないかというふうに思っております。

高橋(千)委員 ありがとうございました。

 まだまだ聞きたいことがありましたけれども、時間が来ましたのでこれで終了いたします。大変ありがとうございました。

亀岡委員長 次に、杉本和巳君。

杉本委員 きょうは、野村参考人、河合参考人、大坂参考人、お三方、大変貴重な、示唆に富む高い見識の御意見陳述、まことにありがとうございます。

 私の方は、ちょっと細かい御質問とか、今、高橋先生が、しようかなと思った質問を最後にしてくださったので、ちょっと大上段から伺いたいなというふうに思います。

 それぞれの御専門とかというお立場はわかりますし、それぞれのお役職とかもわかるんですけれども、そういうお立場をちょっと離れて、一日本国国民としてお言葉、御意見を陳述いただけないかなというふうに思っています。

 今回の賠償責任という法律の改正案、事故が起きて、そして、それに対する考え方の整理が、F1というか福島の事故を挟んで見直しという状況になっているわけでありますが、ここの部屋というのは、実は国土交通委員会をよく行う部屋で、国土強靱化だとかという議論をよくする部屋なんですが、ちょっと別の部屋で、経済産業委員会を行う部屋で、今は引退されました、党派を超えて、吉井英勝さんという京都大学の原子力の大変詳しい方がいらっしゃいまして、それで、福島第一原発が起きる一年前に全電源喪失の質問をされました。

 当時は与野党逆でございまして、当時は民主党政権で、私もその一翼を担わせていただいている立場の中で大変難しい質問を、大臣、副大臣、政務官に質問するのではなくて、専門家の原子力の委員会の方に全電源喪失はないかという質問を申し上げたところ、大丈夫だという答えを専門家が言い、そして大臣も最後は大丈夫だというような答弁をされたという結果として、あの福島第一原発の事故が起きました。私も何度か線量計を持って現地に入りましたし、立場として、中に入って防護服を着て視察もさせていただきました。

 先ほど、河合先生からは金額のお話があって、私の地元の中日新聞は、七十兆以上、七十五兆と書いてあった記憶を私は持っているんですけれども、まあ七十だったかもしれません。いずれにしても、一つの事故が起きれば国家予算がぶっ飛ぶというような状況で、私は、党も含めて、原発フェードアウト、脱原発という維新の立場におります。

 小泉純一郎さんは原発ゼロと言って、即座にやめるということを言われていたりするんですけれども、現実問題として、あるものを使うという考え方もあるし、走っているという現実の中で急にやめるというのは、理想としてはわかってもなかなか難しいかなというふうにも実は私思っているので、やはりきちっとした答えを出して整理をしていく必要があるというふうに思っています。

 そんな意味で、ちょっと自分の意見ばかり申し上げましたけれども、今の状況を考えて、国民の皆さんからも福島の事故というのはある意味忘れられぎみになっていて、私も、地元で私は脱原発ですという言い方をしたら、ばかやろう、原発で食っている人間がいるんだ、福井は大丈夫なんだみたいなことを言われて、ある意味ショックを受けるわけで、いろいろな考え方があるのが民主主義で、それでいいと思うんですけれども、今福島のことについての国民の皆さんの認識というものはどんなところにあるかなというお考えをお持ちかどうか、ちょっとお立場を離れるかもしれないんですが、それぞれの参考人から御意見を伺いたいと思います。お願いします。

野村参考人 これから原発を続けていくのかやめるのか、これは国の政策判断だと思うんですね。国民は、確かに、今の段階では反対がかなり多いというふうに私も思います。

 ただ、いずれにしろ、私自身はどちらとも決めかねているんですけれども、少なくとも、これから新しくつくるかどうかという問題と、今あるものをどうやってフェードアウトさせるのかあるいはそのまま続けていくのかということは、やはりリスクという観点でいえば、専門家の意見をどういうふうに考えて、決定権限のあるところが決めるということで、専門家はそれぞれの知見からいろいろなことを言いますけれども、我々は法律なら法律でいろいろな意見を持っているわけです。それを知見として得た上で決定していくというのは、それは立法なり行政の役割だというふうに思っております。

河合参考人 今、杉本先生の御質問なりお話は非常に茫漠としているわけですが、実は、その問題が一番重要なんです。

 原賠法をどうするかというのは、原子力発電を続けて事故が起きた場合どうするかという議論です。私たちや国民の多くが考えていることは、その前の、要するに事故なんか起こすなよということです。

 それから、事故を絶対に起こさないためにはどうしたらいいか。原発を全部とめて、全部廃炉にすればいいんです。それは決してできないことではない。不可能ではない。現に、原発、今でも八基かそこらしか動いていないわけですし、それから、二年間ぐらいは原発が全部とまっていた時期があって、日本では停電なんか全く起きなかったわけですから、原発をとめればいいんです。

 そして、それがまさに国を愛する者の結論だと思います。さっき申し上げたように、原発事故は国を滅ぼすおそれがあります。本当に国を愛するならば原発は全部とめるべきです。

 そういう基本的な議論を杉本先生はされていて、僕もそれをしたかったんだけれども、それをしちゃうとこの場所にふさわしくないかなと思って遠慮申し上げていましたが、本音を言えば、やはり原発はやめた方がよい。

 そして、今すぐとめるのは杉本先生は無理だとおっしゃいましたけれども、そんなことはないです。現に、とまっていて何にも支障なかった、ゼロで支障がなかったし、あとは経済的な問題で、電力会社に対してはソフトランディングをするいろいろな支援をすればいい。私たちは、それの負担をする意思があります。電力会社ともうまく折り合いをつけていきながら、電力会社が不当な損害をこうむらないようにしながら、ドイツのようにフェードアウトしていく方法はあります。

 それから、地元の産業をきちんと育てていく方法もあります。自然エネルギーは、世界で大変大きな潮流になっているわけで、自然エネルギーの方がよっぽど将来のビジネスモデルが開けているんです。原発をこれ以上続けるビジネスモデルって世の中にあるんですか、世界にあるんですかということを言いたい。やはり、ITとIoTと自然エネルギーを組み合わせていくことが世界の経済の大きな流れだし、日本もそういうふうに乗っていけば、地元の産業も日本の経済も潤う。しかも、安全で豊かな社会ができるというふうに思うので、杉本先生の御意見に私は、今すぐ無理だということ以外は全面的に賛成いたします。

大坂参考人 御質問をありがとうございます。

 一国民としてということでございますけれども、やはり、私、大学で教えているということもございまして、私にとって七年半以上前の出来事といっても、非常に身近というかまだ近い、福島にも時々参りますし、私的にはまだまだそんな遠くない話なのですが、大学で教えておりますと、学生は、今の大学生はまだ小学校だったということで、私、東京の大学で教えておりますけれども、福島の出身、東北の出身の子はある程度まだ状況を理解しているような感じはいたしますが、かなり風化が始まっている、風化しているなというふうに感じているところでございます。

 一国民としてできることとしましては、こういうところで意見を述べさせていただくのも大事なんですけれども、ふだんから、そういった、まだ終わっていないということは伝えていきたいと思っております。

 あとは、脱原発すぐにできるのか、そうではないのか、意見がちょっと違うところもあるようでございますけれども、重要なベースロード電源ということで、政府の方では原発を今後も一応一つの基軸としていくということは読んでおりますけれども、もともと四十年で古い原発もやめるということが、今はもうそれが原則ではなくて、例外の方、延長が基本になってしまっているということで、それはちょっとおかしいのではないかというふうには個人的には思っているところでございます。

 あと、原発を将来的にも続けていくとか若しくはすぐには無理だというふうな御意見の中には、気候変動対策、地球温暖化対策で、原発は二酸化炭素を出さないということで理由にされているところもあると思いますけれども、むしろ今は、気候変動対策として石炭火力などもどんどん活用していくような動きになっておりますし、そういうことであれば、もう原発をやめて石炭に行くよりはというのは私も思っております。

 ただ、将来的に、やはり原発につきましては、先ほどからちょっと申し上げておりますように、将来性を考えると、もう将来は余りないのではないかというふうに思っておりまして、それをいつの段階ですっぱりやめるかどうかというところは、少なくともやめるというようなことについては私は賛成しております。

杉本委員 ありがとうございます。

 ちょっと例えの話で恐縮なんですけれども、国会の中に廊下がありまして、原発事故があった後は、渡り廊下は歩くエスカレーターがあったわけですけれども、それがとまっていたんです。それが、残念ながら最近は、節電意識というのがなくなって、電力使おうよじゃないのか、よくわからないんですけれども、動いているんですね。体のためにも決していいとは思わないんですけれども、そういう変化が実は国会の中にあったりします。

 数年前に、四年ぐらい前ですけれども、私は、安倍総理に予算委員会で質問する前に田中俊一委員長に、日本の原発の適性みたいなところで、地盤のかたさあるいは古さ、この辺をイの一番に質問させていただいたら、田中俊一委員長は、やはり新しい地層で、そして古くを調べられない、過去がないというようなことを、御意見というか言っていただいたという記憶がありますので、ちょっとこれは一方的に申し上げますけれども、フィンランドであったり、あそこは国会議事堂が岩盤の上に立っているんですよ、だからそれは象徴的なんですけれども、あるいは、ベトナムなんかは地盤が安定していて地震が少ないというので、そもそもいいか悪いかの議論があるかもしれませんが、日本自体は決して原発の土地として適切じゃないんじゃないかなというふうに私は思っているということであります。

 あと、もう一点ちょっと伺えるかどうかなんですが、一つだけ。

 もう一つ意見を言いますと、健全な育成という話があって、これをやめる、書く書かないという議論がまたこれから出ると思うんですが、一方で、廃炉していくにはやはり専門家というのも必要だということなので、この専門家をいかに、応募が減ってきているこの原子力分野においてきちっと育成していくかというのは、我々も問題意識として持っていなきゃいけないのかなというふうに勝手に思っております。

 さて、もう一つだけ。

 与野党が逆転していたときに、塩崎先生だとか、今はいらっしゃらない松野先生とかが原発の国有化という議論をされました。自民党が野党のときです。それで、その後、結局、原子力は民間企業の電力会社が持つのは限界があって、この事故を含めて、今後、原発は束ねて国が管理していって、そもそも国策で始めてもらった事業だからというような考え方があって、いつの間にか、与野党逆転しましたし、今別の立場にいる方も、この国策論に乗らずに、電力料金に乗せる形で走らせたというようなのが私の認識なんですけれども、与野党問わずというか、そういう感じなんです。

 これは理想論かもしれませんけれども、国策として始まったこの原子力について、やめていくというか収束に向けていくためには国有化という考え方は一つあると思うんですが、こういった、国が束ねて、最終的に少なくしてなくしていくという方向感について、それぞれの参考人の御意見を伺いたいと思います。

野村参考人 電力事業というのは日本では民間でずっと来たわけですね。恐らくアメリカと日本だけではないかというふうに思うんですけれども、多くの国はガスとか水道と同じように公共事業ということでやってきたと思うんですね。ですから、もともと国有ですね。ですから、電力会社が責任を負うといっても、結果的に国が責任を負うのと余り変わらないということでずっと来たと思うんですけれども、その後、例えばフランスなどでも民有化というか民営化してきているわけですね。

 こういう中で、国有化がいいのかというのは、それは一つの選択肢だと私も思いますけれども、民間にやらせてコントロールするのがいいのか、国が全部引き取って全部責任を持ってやるのがいいのか、これは非常に難しい問題じゃないかというふうに思います。

 特に、これから先、廃炉を経ていくと廃棄物が出てきますので、それは一千年とかじゃなくて、もっと数万年とか一千万年という単位で保管していかなくちゃいけないとか、そういう世界になるので、そのときに電力会社がどうなっているのかというのはなかなかわからないところでもありますので、外国での議論でも、万一事故が起きたときに、保管している廃棄物から事故が生じた場合に誰が責任を負うかというのが今かなりホットな議論になっているということだと思いますので、国が引き受けるかどうかというのは、ちょっとなかなか難しい問題じゃないかなというふうには思います。

亀岡委員長 簡潔にお願いいたします。

河合参考人 私は国有化に反対でございます。もっとエネルギッシュに、もっとがっちりと原発を推進されるおそれがあるので、反対です。そのときは私たちは手のつけようがないと思います。国有化に絶対反対します。

 それから、先ほど日本は地震が多いというお話がありました。確かにそうで、面積比例でいうと世界の百三十倍の率で地震が起きております。そういうところで原発をやっていることの恐ろしさを知るべきです。

 そして、耐震力設計をする基本は地震学なんですね。地震で、どれぐらいの地震が来そうだからということで予想を立てて、予想を立てるのを例えば六百ガルとか千ガルとかにして、それが基準地震動になって、それに耐える設計をやるから大丈夫だということになっているんですけれども、その基準地震動を決めるもとは地震学です。

 どういう地震がここに来そうかということなんですけれども、地震学は三重苦の学問ということで、地震学者はみずから言っております。地中何十キロ、何百キロ地下に起こる複雑系の事象なので、実際に見ることができない、見えない、複雑系でよくわからないというのが、まず一重苦。二重苦は、実験ができない。それは実験できませんよね。三重苦目は、データが余りに少ない。日本の、世界の地震学においてきちんとした測定ができるようになったのは、二十何年前のあの阪神・淡路大震災のときからなんです。

 だから、その三重苦によって地震の規模を予測することすら難しい。その難しい予測に基づいて基準地震動を決めている。そこに百三十倍の率で地震が発生している。その上に原発を建てているということの恐ろしさを日本国民はみんな知るべきだというふうに思っております。

亀岡委員長 済みません、簡潔にお願いします。

大坂参考人 私は、民有と国有どちらが安全かということで考えたときに、確かに、放射性廃棄物です、高レベルのものについては国が管理すると記録とかが残るかなというふうには思っておりますが、ただ、国の方でも、電源構成として原発を使うということを言っている状況におきましては、国が電源構成を確保するために多少安全ではなくてもということはあり得るような可能性もあるとは思っておりますし、あと、現在、福島原発の廃棄物について、低レベルのものについては、八千ベクレル以下のものについてはリサイクルしようということで土を使っていくみたいな形にもなっておりますので、必ずしも、国有化をするからといって原発が安全になるのか、原発関連のものが安全なのかということは、ちょっと私には疑問に感じております。

 以上でございます。

杉本委員 大変参考になりました。

 ありがとうございました。

亀岡委員長 次に、吉川元君。

吉川(元)委員 社会民主党の吉川元です。

 参考人の三人の方、大変貴重な御意見をまことにありがとうございます。私からも何点かお伺いしたいことがございますので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 まず、三人の参考人の方にお伺いをいたします。実は、これは今回の法改正ということではないんですけれども、原子力の災害の賠償のスキームを見ておりますと、非常に複雑になっているというふうに感じざるを得ません。

 といいますのも、原子力、原賠法ですが、まさにこの文部科学委員会で議論をして、文科省所管であります。一方で、賠償措置額を超えた部分については原子力損害賠償・廃炉等支援機構、これが扱うことになります。この所管はどこかというと、これは文科省ではなくて経産省になっております。

 経産省には既に東電委員会というのが置かれておりまして、東京電力改革・一F問題委員会、これが提言を出しておりますけれども、見ておりますと、今回の事故処理、これを電気料金に上乗せするというような話も出てまいりました。

 ずっとこの間専門部会で議論をしてきて、国民負担の最小化ということも議論の大きな課題になっていますけれども、それが、一方で、経産省の方は、経産省はどちらかというと原子力を推進する立場の人たちですから、私も何度か文科委員会でも質問したことがありますけれども、推進する立場にある。

 そういう方々が、賠償をするという、被災した人に寄り添いながら賠償していくということにかかわるということが果たして適切なのかどうなのか、そこは非常に疑問に思っているんですが、この点についてどのようにお考えになっていらっしゃいますか。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 確かに、私も、スキームについて説明することはすごく難しいのですけれども、経済被害の対応から、恐らく原発事故被害の対応がまず初めに進んで、そしてその後、原賠審というものが、紛争審査会ができたというふうに思っておりますけれども、先ほどの東電主導の原賠の制度になっているというところは、やはり東電を監督すべき立場であるそういった一部の省庁が多少そのサポートもしているような感じもしないでもありませんので、そういったところで、原子力損害賠償について一括してどこかでやるのかというところはまた難しい問題ですけれども、問題というふうには私も思っております。

 以上です。

河合参考人 原子力をどのように統治するかということについて、商業発電は経産省、それからそれ以外の研究開発等については文科省というすみ分けになっているかと思います。それは、今となってはかなり不自然な、無理があるので、今先生がおっしゃったような問題点が発生しているんだと思います。

 いわば原発をうんと促進したい、発展させたいと思っている省庁の管理下で、本当に被害者のための損害賠償をつかさどるというのは非常に無理があるのではないかなというふうに思っていて、損害賠償の関係は一律にこちらに持ってくるというような改正をしないと、いわば利益相反というか、双方代理みたいなことに実質上なりかねないというふうに、先生と同じように憂慮しております。

野村参考人 推進する立場と安全規制みたいに矛盾するところは、今、日本も一応分かれたわけですけれども、そういう中にあって、損害賠償の制度をどこに置くのかというのは、なかなか確かに難しい話ですけれども、これは我々がなかなか明確な意見は言えないんですけれども、抽象的ですけれども、被害者保護とか損害賠償に悪影響を及ぼすようなことのない省庁に任せるということではないかと思うんですね。

吉川(元)委員 ありがとうございました。

 次に、大坂参考人にお伺いをしたいと思います。

 先ほどからCSCの話が何度か出ておりましたが、三つ国際条約がある中で、あえてといいますか、日本がその三つのうちのCSCを選択いたしました。日本が、ほかのパリ条約を含めましてではなくて、CSCを選択したというその理由というのはどこら辺にあると考えればよろしいでしょうか。

大坂参考人 御質問ありがとうございます、恐らくもっと詳しい先生がいらっしゃいますが、私に聞いていただいて。

 一度、私もこの件に関して論文を書いたことがございまして、やはりCSCを日本が選んだ理由としましては、もちろん事故前から検討はされておりましたが、CSCはアメリカが主導して、条約を引っ張ってきたというところがございます。

 福島原発事故後、廃炉の問題もございましたけれども、やはり、日本でももちろん廃炉の専門の方たちがいらっしゃいますけれども、諸外国の力をかりたいというような意向もあったかと思います。

 そういったところで、例えば、アメリカの企業が廃炉に参加するに当たって、また何かちょっと事故みたいなことが起きたときに責任があるような形になると困るというようなこともあるかと思いますので、そこでCSCの条約に、締結に踏み切ったというふうに思っています。というのが私の意見でございます。

吉川(元)委員 先ほど野村参考人からもインドのお話がございましたが、大変今、国際的にも問題になっているということでありますけれども、このCSCを批准しながら、一方で、国内法でいわゆるメーカーの責任も問えるというような形になっておりますけれども、インド以外にこうしたことがやられている国というのはほかにございますでしょうか。もしわかれば教えていただければと思います。

野村参考人 余り、きちっと調べているわけじゃないですけれども、恐らく求償権は、条約そのものの中にも規定がありますので、どこの国も入っているんだと思います。

 ただ、現実には、ここは契約ベースなので我々が契約の中身まで見られるわけではないので、恐らくメーカーには求償しない形になっていると思いますけれども、そこの部分が、インドの場合は、むしろ当然に求償していくような印象を受ける内容になっていて、国際的に問題になっているということです。

 ただ、インドでも、いまだにインドの最高裁で憲法との関係が問題になっているようなので、まだこれからいろいろ展開があるのかもしれません。

大坂参考人 ありがとうございます。

 インドについては、今、野村参考人がおっしゃっていただいたとおりだと思いますけれども、インドはボパール事件という、かつて毒ガスのそういった被害がございましたので、海外資本に対してはとても心配しているんだというふうに思っております。

 ほかの国としましては、私も存じ上げませんが、アメリカにつきましては、少なくとも、連邦のプライス・アンダーソンにつきましては、これは、アメリカの原子力事業者というか、不法行為責任につきましては州の法で決めるということになりますので、そもそもCSCの中に祖父条項というのがございまして、連邦のレベルでは経済的に原子力事業者に集中させるということにしておりますけれども、州レベルではどうなるかということは、ちょっと私の方も余り関知はしていないのですが。

 ただ、今回レジュメの方で私御紹介しませんでしたけれども、二ページのところをごらんいただきますと、福島原発事故がCSCの締結前の事故だったということでございますので、実はアメリカの、先ほど河合参考人からも説明がございましたが、ロナルド・レーガンの乗組員たちのクラスアクションが起こっていて、東電は被告でございますけれども、後からGE、エバスコ、東芝、日立といったメーカーを引き込んだという訴訟がございます。

 さらには、昨年のちょうど同じぐらいの時期ですけれども、GEを被告としまして、アメリカの連邦地裁にクラスアクションを提起されている。こちらは、日本人が原告になっておりますので、そういったところで、裁判の中で、責任集中ということで、日本では原賠法のもとでメーカーは免責されておりますけれども、そういったアメリカの中で福島原発事故賠償の訴訟にかかわるメーカーの責任というものが今後明らかにされていくというふうに思っております。

 以上でございます。

吉川(元)委員 河合参考人にお伺いしたいと思います。

 先生は、いろいろな裁判を手がけられて、私も本を読ませていただいて、こういう裁判もかかわられていたんだというような、そういう実務経験も豊富な先生ですのでちょっとお聞きしたいんですけれども、尊重するという言葉がございます。これは、東電が特別事業計画の中で、ADRについては、和解仲介案を尊重すると。この場合の尊重するという意味合いというのは、どういうふうに我々は受けとめればいいのか。敬して遠ざけるわけじゃないわけで、尊重するというのは、いわゆる法律の世界でいえば、こういう文言が書かれた場合には、普通どういうふうに我々は受けとめればよろしいんでしょうか。

 といいますのも、実は、これは今回の原賠法とは直接関係ありませんけれども、アメリカとの、我々はFTAだと思いますが、政府はTAGだと言った際に、総理含めて政府の方からは、TPP水準が最大限という日本の立場を尊重する、アメリカはというふうに述べて、だから大丈夫なんだというふうにおっしゃっておられました。

 だけれども、少なくとも、この東電のADRに対する対応を見ていると、とてもそのようには感じられないんですが、この点、どういうふうに理解をすればよろしいでしょうか。

河合参考人 この尊重するという言葉は、まさに、福島原発事故以後、ADRをとにかくつくろう、つくらないと大変なことになるということでつくったときに、電力側の抵抗に対する妥協策としてできた言葉です。

 私たちは、当時、片面的強行性の主張もしました。だけれども、それができないので、では、しようがない、尊重だということになったわけです。

 当時の尊重ということの意味の相互了解は、原則として拒否しないという意味だったと思います。それが、七年たって、喉元過ぎて熱さ忘れて、今度は東京電力は、自己の存続について非常に執着するようになり、利益に執着するようになってきて、その言葉が、いや、尊重するは法的拘束力はないよという意味だよねというところばかりが出てきて、悪い方に変化してきているというのが状況で、残念の限りでございます。

 やはり、もとの初心に戻れと。尊重するというのは、原則として拒否しない、よほどの理由がない限り拒否しないということではないかということを、もう一度東電側に確認したいなと思っています。

吉川(元)委員 それでは、最後に質問させていただければと思います。短くお答えいただければと思います。

 今回の法改正、かなり何回も議論はしていたんですけれども、出てきたものは後追い的なものしか出ていないなと、大山鳴動という言葉がいいのかどうかわかりませんが。その上で、今後、この原賠法を変えていくとすればどういった点を変えていけばいいかということを、短い時間で結構ですので、お話しいただければと思います。

野村参考人 これは、見直しの中に、いろいろな検討が尽くされていないのが出ていますね。そういうのをこれからもっと議論していくということだと思うんですね。

 他方で、日本もCSC条約に加入しましたので、国際的な整合性みたいなものを考えていかなくちゃいけないと思うんですけれども、先ほど、私の意見の中で、国際的な原則というのを御紹介しましたけれども、そういったことについても国際的にもいろいろ議論が出てくると思いますので、そういった動向を踏まえて、今後も改正の議論をしていくということじゃないかというふうに思います。

河合参考人 千二百億円を増額すること、僕は八・六兆円と思いますけれども、それが無理ならば、どこまで上げられるのか、限界までトライをすべきだというふうに思います。

 それからもう一つは、ADRにおける片面的強行性、これは確保していただかないと、泣き寝入りが本当にこれからめちゃくちゃふえていきます。福島の県民の人たちの恨みがどんどんどんどん集積していって、最後は爆発します。私はそれを恐れます。

大坂参考人 私も、一つ選ぶといたしましたら、原発ADRをめぐる問題を含めた被害者救済手続について、やはり、より検討を深めていただければというふうに思っております。

 以上でございます。

吉川(元)委員 本日は、貴重な御意見、本当にありがとうございました。

 終わります。

亀岡委員長 次に、笠浩史君。

笠委員 笠でございます。

 きょうは、本当に、野村参考人、河合参考人、大坂参考人には、こうして当委員会においでをいただき、また貴重な御意見をいただきましたことに、私からも感謝を申し上げたいと思います。

 最後でございますので、幾つかきょう朝から伺っていて、お三方とも、今回の改正事項について、損害賠償実施方針の作成、公表の義務づけ、あるいは仮払い資金の貸付制度の創設等々、そこには異論はない、おおむねいいんじゃないかというようなことでございました。

 まず最初に、一点だけ、この改正事項で具体的にちょっとお伺いをしたいんですけれども、特に、今後の方針についての作成と公表の義務づけということがあるわけでございますけれども、これは恐らく、今後、詳細については、文部科学省の方で検討して、政令で定めていくということになろうかと思いますけれども、この方針の内容として、損害賠償措置の概要、あるいは原子力損害の賠償に係る事務の実施方法であるとか紛争の解決を図るための方策等々があるんですけれども、先ほど野村参考人の方からも、どういう項目を盛り込むのかをある程度きちっと定めておかなければならないと。

 今後、文科省で検討されることについて、具体的には、一定のガイドライン、どういう基準で定めていくのか等々、御意見がございましたら、お三方にお伺いをしたいと思います。

 では、野村参考人の方から。

野村参考人 今、東電は、一万人規模で賠償体制を組んでいるわけですね。それは、一つの保険会社ぐらいの規模でやっているわけですけれども、いざ事故が起きるとそういう大きなことになるので、まず、損害賠償という点だけについて言えば、やはり組織をどういうふうにするのかということだと思うんですね。

 それから、請求とかも、今はちょっと私も承知していないんですけれども、当初は何十ページとかある書類を全部書かないと請求できないというような形になっていて、法律に明るくない一般の被害者が請求するのがすごく難しいという状況だったわけですけれども、そういう請求の仕組みとかですね。

 それから、処理についても、外国などでよく議論に出てくるのは、そういう支払いの仕事の経験のある人をどうやって組織するかということで、例えば保険会社のOBとか、そんなのが外国ではよく例として出てくるんです。

 そういった、円滑に賠償の事務を進めていけるような組織、それから、被害者側からすると比較的簡易に請求できる仕組みをつくる、そういうことについて方針で明確にするということが重要じゃないかというふうに思っております。

河合参考人 こんな面倒くさい複雑な議論をしなきゃいけないのはなぜなんだ、原発が動くから、原発が動いて、事故を起こすおそれがあるからなんだなということを改めて思います。

 我々が注力すべきは、原発事故が起きたらどうしようという備えをすることじゃなくて、原発事故を起こさないようにするにはどうしたらいいんだろうということに人知を傾けるのが本筋ではないかなと。お答えになりませんけれども、そういうふうに改めて思いました。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 今回の事故を教訓にするとしましては、東電の対応がモデルになるかと思いますけれども、今回、賠償について、訴訟を起こしていれば、幾ら払われたか大体わかってくる。ADRにつきましても、和解案の内容であったりとか拒否した場合の内容であったりとか、ある程度どういった状況に置かれた人はどういった賠償がされるということがわかるようになっているのですが、東電がどのぐらい支払っているのかということについては、東電基準が当然公開されてはおりますけれども、では実際にどういった状況の被害者の方はどのぐらいお支払いされているのかということが私よくわかっていないところもございまして、そういった、ある意味明快になるような支払い基準みたいなものについて、単なる基準だけではなくて、具体例をともに、やはりどの原子力事業者においても事前に明らかにしていくような取組が必要ではないかというふうに思っております。

 以上でございます。

笠委員 今、個別伺いましたけれども、ただ、私も、今回のこの改正案を議論するに当たって、我々は福島の原発事故というものを経験して初めての十年後の見直しということになるわけで、そもそも、原子力損害賠償が初めて適用されたのが、一九九九年のジェー・シー・オーの臨界事故であったわけでございます。

 ちょうどその年にもこの見直しが行われたんですけれども、確かに、六百億が千二百億になったりと、これは何で倍なのかよくわかりませんけれども、そういったことがあったにもかかわらず、やはりちょっと、抜本的な見直しということについてはほど遠かったのかなと。

 それを考えると、今回は、もっと抜本的に、原発政策も含めてどうしていくのかということも大事だし、しかし、現にこの賠償というものについてどのように行っていくのかということ、先ほど来ありますように、これは八・六兆円だけの話じゃなくて、これがひょっとしたら二十兆、除染等々も含めて二十兆、あるいは四十兆円になるかもしれないという、きょう参考人からのお話もありました。そういったことを受けとめながらこの改正というものを行っていくというには、全くこの中身がまだまだであろう。それでまた、恐らく今度十年後ということになるのでは私は遅いんじゃないか、本当に急ぎそういった抜本的な見直しというものに向けて検討をやはり議会でもしていかなければならないというふうに考えております。

 そういった観点から、それぞれの参考人の皆様方に、具体的には、どういうことについて検討をしっかりと早急にしていくことが大事なのかということを御示唆いただければというふうに思います。

大坂参考人 御質問ありがとうございます。

 やはり、こだわりますけれども、被害者救済手続についてはしっかりと御審議いただきたいというふうに思っておりますが、その前提として、被害実態の把握といいましょうか、先ほども、七年半以上たちまして、やはり当初の被害と、被害者の方たちが現在負っているというか体験されている状況はかなり違っていると思います。そういったところも含めて、改めて、どういった被害があるのか、そして、それに対してどういった、賠償だけでは実はないと思いまして、生活再建とかいろいろと政府も取り組んでいらっしゃると思いますけれども、そういったことが必要かということを、やはり被害の実態を検証した上で、先生がおっしゃっていただいたその議論に入っていくことが必要ではないかと思っております。

 以上でございます。

河合参考人 原発による被害、事故による被害というのは、お金で拾い切れない損害っていっぱいあるんですね。

 例えば、福島の山の方の人たちは、食費の四割ぐらいを自分たちが山菜でとって使ったりしています。そういうことはもう、一切キノコもとれない、野草もとれないということですから、そういう非常に生活に密着した、しかも金銭になかなかはかれない損害。それから、家族はもう、孫と四代一緒に住んでいたって全部分裂しています。それはもとに戻りません。

 そういう損害があるんだということをまず基本的に認識した上で、やはり具体的に、僕は、今回だめだったらそれで十年寝かせるというんじゃなくて、一つは、損害賠償措置額の増額をぜひ継続的に検討してもらいたい。少なくとも、とりあえず二千四百億ぐらいに上げるのは最低限でしょうというふうに思います。

 それからもう一つは、何回も言うようですが、被害者は本当に今泣いています。これからますます泣く人がふえます。大規模訴訟が起きると思います。若しくは、大規模訴訟を起こせないで、悔し涙に暮れて泣き寝入りする人がもっともっとふえます。それをなくすには、とにかく片面的強行性、電力会社はADRの和解勧告に従わなきゃいけない、それにどうしても不満があるなら訴訟を起こしなさい、訴訟を起こさないなら従いなさいという片面的強行性をぜひ、今回見送らないでいただきたいですけれども、仮に見送るんだったら継続的に審議してほしい、それが被害者たちを実質上救う道だというふうに考えています。

野村参考人 平成二十一年改正のときに、我々もジェー・シー・オー事故のことはかなり踏まえていたつもりではあります。

 ただ、当時は、保険金が十億円なんですね。それで、損害の規模が百五十億ぐらいということで、そのときに、スムースに賠償を進めていくにはやはり指針のようなものが必要ではないかということであのような改正になって、それは図らずも、よかったと喜んでいる場合ではないんですけれども、機能したということだと思うんですね。

 和解の仲介というのは、その当時、今もそうですけれども、紛争審査会の役割の一つなんですね。ただ、そのときには、仲介の申立てというのは非常に少なくて、それから、裁判所に持ち込まれた件も非常に少なかったということで、その辺の対応が不十分だったと言われればそうかもしれないなというふうには思います。

 今回の改正は、一応、専門部会である程度議論がまとまって方向性の出てきたものを改正するということで、全部が抜本的に結論が出るまで改正しないというのでは余り賢明じゃなくて、やはり、合意ができ、あるいはやれるところからどんどんやっていくということでよろしいのではないかというふうに思うんですね。

 ですから、ここで終わった、これから十年待ちましょうということでは必ずしもないのではないかというふうには思っています。

 いずれにしろ、ある程度、先が見えてきたとはいえ、福島事故の最終的な結果というのはまだ多少時間がかかるのではないかというふうに思っております。

 特に、今、裁判所に係属している事件もかなりありますので、そういったものがある程度出てきた段階で、今気づいていない新しい問題が意識されてくるのかもしれないので、そういった点も今後注目していく必要があるのではないかというふうに考えております。

笠委員 やはり、そうした中で、国策民営という中でこの原子力政策が進められてきたという中で、私は、いま一度、国の責任というものをしっかりと明確化していくということが大事だと思うんですけれども、その点で、参考人の方々に、一言ずつで結構なので、国の責任を明確化していくということで最も大事なことは何なのかということを最後にお伺いしたいと思います。

野村参考人 これは、明確化することは非常に重要だと思いますけれども、損害賠償という観点だけからにすると、責任集中との関係をどう考えるかというのが重要な論点ではないかというふうに思っています。

 以上です。

河合参考人 私は、今の国の原発についての責任は、原発をいかに安全にスローダウンして、社会のきしみを少なくしながら原発ゼロに持っていくというのが国の責任だというふうに思っています。その方向でこの原賠法の改正も考えるべきだというふうに思っています。

大坂参考人 国の責任につきましては、社会的責任と法的責任という形で分かれると思いますけれども、さて、今回の福島原発事故につきましては、国の責任の、法的責任の方を明確にすべきだというふうに思っておりますし、そして、今後の対応につきましては、社会的責任の方になると思いますけれども、やはりそれは、国が前面に立って賠償をしていくのではなくて、いかに原子力事業者に賠償させるかという観点だと思いますし、あとは、賠償だけではない、生活再建や環境回復なども含めたところについては、やはり国は社会的な責任を負っていくんだというふうに思っております。

 以上でございます。

笠委員 改めてお三方の参考人の方々に御礼を申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

亀岡委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の皆様におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、明二十一日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十四分散会


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