衆議院

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第5号 平成30年5月15日(火曜日)

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平成三十年五月十五日(火曜日)

    午前九時四十五分開議

 出席委員

   委員長 櫻田 義孝君

   理事 穴見 陽一君 理事 伊藤信太郎君

   理事 勝俣 孝明君 理事 永岡 桂子君

   理事 堀内 詔子君 理事 大河原雅子君

   理事 柚木 道義君 理事 濱村  進君

      池田 佳隆君    石崎  徹君

      岩田 和親君    木村 弥生君

      小泉 龍司君    小島 敏文君

      佐藤 明男君    杉田 水脈君

      鈴木 貴子君    鈴木 隼人君

      武村 展英君    中山 展宏君

      原田 憲治君    百武 公親君

      藤井比早之君    船田  元君

      穂坂  泰君    松本 洋平君

      宮路 拓馬君    宗清 皇一君

      八木 哲也君    篠原  豪君

      森山 浩行君    山本和嘉子君

      大西 健介君    関 健一郎君

      森田 俊和君    鰐淵 洋子君

      黒岩 宇洋君    畑野 君枝君

      森  夏枝君

    …………………………………

   参考人

   (一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部副本部長)          長谷川雅巳君

   参考人

   (青山学院大学法務研究科教授)

   (前内閣府消費者委員会委員長)          河上 正二君

   参考人

   (適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク理事長)

   (弁護士)        野々山 宏君

   衆議院調査局第一特別調査室長           大野雄一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十五日

 辞任         補欠選任

  岩田 和親君     池田 佳隆君

  鴨下 一郎君     石崎  徹君

  小島 敏文君     八木 哲也君

  原田 憲治君     宗清 皇一君

  百武 公親君     穂坂  泰君

  尾辻かな子君     山本和嘉子君

  西岡 秀子君     森田 俊和君

同日

 辞任         補欠選任

  池田 佳隆君     岩田 和親君

  石崎  徹君     鴨下 一郎君

  穂坂  泰君     杉田 水脈君

  宗清 皇一君     原田 憲治君

  八木 哲也君     小島 敏文君

  山本和嘉子君     尾辻かな子君

  森田 俊和君     西岡 秀子君

同日

 辞任         補欠選任

  杉田 水脈君     百武 公親君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 消費者契約法の一部を改正する法律案(内閣提出第三一号)


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     ――――◇―――――

櫻田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、消費者契約法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 本日は、本案審査のため、参考人として、一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部副本部長長谷川雅巳君、青山学院大学法務研究科教授・前内閣府消費者委員会委員長河上正二君及び適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク理事長・弁護士野々山宏君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、参考人各位からお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず長谷川参考人にお願いいたします。

長谷川参考人 経団連の経済基盤本部の長谷川と申します。

 本日は、消費者契約法の一部を改正する法律案について意見を申し述べる機会を頂戴し、まことにありがとうございます。

 お手元にパワーポイントの資料を御用意させていただいております。これに基づきまして、経団連の考え方を申し上げたいというふうに思います。

 一枚目の下のスライドにあるとおり、本日は、五点について御説明申し上げたいと考えております。

 まず、消費者保護に関する経団連の取組です。おめくりいただいて、スライドの三をごらんください。

 経団連では、消費者保護への取組として、主として三つの取組を行っております。第一が、企業行動憲章の策定及びその実行の手引きの策定です。第二は、消費者庁と協力した消費者志向経営の推進です。第三が、消費者への啓発活動です。

 まず、企業行動憲章について御説明申し上げます。スライド四をごらんください。

 企業行動憲章は、対消費者についてのみならず、地域社会や投資家などとの関係についても規定する十の原則から構成されております。その中の原則五で、消費者、顧客の満足と信頼を獲得することを掲げております。また、原則の一では、社会に有用で安全な商品、サービスの開発、提供を会員企業に求めております。

 企業行動憲章につきましては、会員企業が具体的にどのような取組を行えばよいのかがわかるよう、実行の手引きも策定しております。この中で、原則遵守のための基本的心構えや姿勢、あるいは具体的アクションプランの例を示しております。

 また、企業行動憲章は昨年十一月に改定しておりますが、おめくりいただきまして、スライドの五にありますように、経団連として推進しておりますソサエティー五・〇の実現を通じたSDGsの達成を強く意識した改定を昨年行っております。

 スライド六からスライド十までは企業行動憲章の具体的な内容となっておりますが、やや細かい中身でございますので、後ほどごらんいただくとして、次にスライドの十をごらんいただければと思います。

 経団連では、消費者庁が進める消費者志向経営の推進活動にも取り組んでおります。消費者庁と協力しながら、会員企業に対し、消費者志向自主宣言の呼びかけを行っております。また、スライドの十二にありますとおり、消費者教育の重要性を踏まえ、業界団体の協力を得て、消費者教育を推進しております。

 続きまして、スライド十三をごらんください。ここでは、適切な消費者保護を推進するために、あり得る政策メニューをまとめております。

 釈迦に説法ではございますが、消費者被害を防止するための政策メニューといたしましては、本日審議の対象となっております消費者契約法のような民事法に加え、行政規制や刑事規制もございます。また、消費者教育の充実や、国民生活センター等の消費者行政の体制整備も有益ではないかと考えております。対応すべき課題に応じて、こうした政策メニューの中で効果的なものを動員していくといった対応が必要であると考えております。

 さまざまな政策メニューがある中で、今回、消費者契約法改正が提案されています。消費者契約法のあり方を考える上で、我々経済界が必要と考える視点をスライド十四に挙げさせていただきました。

 まず第一は、言うまでもありませんが、消費者保護が適切に図られることです。救済されるべき消費者に取消権がしっかり与えられること、情報提供も含め消費者取引に必要な環境が整備されることは、健全な経済社会にとって極めて重要であるというふうに考えております。

 第二点目は、規制の範囲が適切に設定され、健全な事業活動が阻害されないことです。規制が過度であれば事業者の活動が阻害され、結局、消費者にとっての選択肢が狭まったり、あるいは不要なコストが生じる懸念があります。

 第三点目は、内容が明確で、予見可能性が確保されていることです。予見可能性が確保されていなければ、事業者が規制内容を保守的に解釈してしまい、経済活動の萎縮を招くことが強く懸念されます。

 以上のような視点を踏まえた上で、今回の消費者契約法改正法案について申し上げます。スライドの十五をごらんください。

 総論的に申し上げますと、私も参加させていただいた専門調査会の報告書をベースに、本日御出席されている河上先生が委員長として取りまとめられた答申に沿って、極めて適切な内容としていただいているものと考えております。

 まず、消費者保護の観点からは、いわゆるデート商法や不安をあおる告知、あるいは契約締結前の債務の実施といった、従来から問題とされてきた取引に対し的確に対応した内容となっていると考えております。

 また、消費者が成年被後見人となった場合の契約解除を無効とし、社会の高齢化やノーマライゼーションの要請に応えたものとなっております。

 他方で、要件の設定につきましても、問題となる取引態様に対応しつつ、健全な事業活動は阻害しない形に設定されていると評価しております。また、明確性、予見可能性も確保されており、後ほど申し上げます逐条解説とあわせ、事業活動の萎縮を招いたりすることは回避されているものと考えております。

 最後に、今後の課題について三点申し上げます。スライド十六をごらんください。

 第一点目は、逐条解説におけるさらなる明確化でございます。御案内のとおり、消費者契約法については、消費者庁の御尽力により詳細な逐条解説がまとめられており、これにより予見可能性の確保が図られております。今回改正がなされた場合には、改正箇所について、解釈に疑義が生じる可能性がある部分については、国会での審議や専門調査会での議論を踏まえ、適切に解説を作成していただきたいと考えております。

 例えば、今回、三条一項二号で新たに設けられる情報提供に関する努力義務に関し、消費者の知識や経験について事業者の側で積極的に確認することまでは求められていないといったこと、あるいは、新たに不当条項として加えられる八条の二の内容について、既に取引社会に定着している反社会的勢力排除条項が無効となされないといった点については、ぜひ逐条解説で明記していただきたいと考えております。

 今後の課題の二点目は、政策効果の検証でございます。今回の改正によって、デート商法などの不適切な取引に対してどのような効果があったのか、しっかり検証していただきたいと考えております。第三点目とあわせて申し上げますが、消費者委員会消費者契約法専門調査会の検討過程では、問題となっている取引がどの程度起こっているのか必ずしも十分に示されていたとは言えません。今回の改正の効果を定量的にしっかり検証していただくとともに、今後の消費者契約法のあり方を検討する際には、定量的な分析をきちんと行う必要があると考えております。

 私からの説明は以上です。

 どうもありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、河上参考人にお願いいたします。

河上参考人 青山学院大学の河上と申します。

 最初に、こういう機会を与えていただいたということを心からお礼申し上げます。

 私自身、先ほどもお話がありましたけれども、今回の法案提出のもとになりました消費者委員会からの答申とも深くかかわっておりまして、前委員長として、消費者庁を始めとする関係者の方々の御尽力には敬意を表しますとともに、速やかな法律の成立、施行を望んでいるということを最初に申し上げたいと思います。

 ただ、率直に言って、消費者契約法にはかなりの数の改正を必要とする問題点、論点が含まれておりまして、今回提案された法案の論点に絞っても、消費者被害を予防して、被害救済のために、もっと使い勝手のよい消費者契約法とするには、なお改良の余地があるというふうに考えております。

 特に、消費者委員会が答申の中で、異例のと言われているほど、答申とは別の付言というのをつけたということについて必ずしも十分に理解されていないのではないかという気持ちが強くしております。その結果として、多くの論点について若干後退し、さらには検討が先送りになっているということについては、これまで先送りを随分経験してきた私としては大変残念に思っているところでございます。

 最初に、これはもう言わずもがなのことかもしれないのですけれども、消費者契約法という法律の性格について少し述べさせていただきたいというふうに思います。

 実は、消費者契約法というのは、民法などに次いでその適用範囲の広い、非常に包括的な性質を持った民事立法であるという事実であります。よく、特商法、特定商取引法とかいう個別の法律との関係で並べて議論されることがございますけれども、特定商取引法とかあるいは電子消費者契約法といったような、特定の業態あるいは特定の商品に限ってワンポイントで規制をかけているような法律とはやや性質が異なります。つまり、目的物に特化した特別法との関係では、むしろその上にある、一般的な包括民事法であるという事実であります。

 それだけに、その要件を余り個別に明確化して厳密化していくという作業にこだわってしまいますと、消費者契約法そのものの性質というか機能を失ってしまう可能性があるということであります。

 また、宅建業法であるとかあるいは保険業法のような業法というのは、これは一定の行政措置を可能にするための行政規制的法律であるのに対して、消費者契約法は民事法であるということであります。

 法における行政という原則から考えると、そうした行政規制的な法律については、かなり細かく要件を詰めて、場合によっては、行政が何ができるかできないかということをはっきり定めるということが求められます。授業で冗談のように言うんですけれども、例えば、健康診断をするときに、胸囲ははかってもいいんだけれども、バストをはかると違法なのです。これは、そういう形で、行政が国民に対して何ができるかできないかということをはっきりするためにも、そこは要件をきっちりと固めるということが求められるわけであります。

 ところが、民事法の場合は、当事者間で何かトラブルが起きたというときに、そのトラブルを解決するための公正な基準を提供するというところにあります。その意味では、紛争解決基準として、むしろ、市場においてそうした機能を果たすのにふさわしい公正な内容の基準かどうかということが肝になるということでございます。

 この点は、立法事実の扱いを含めまして、一般の方々だけでなく、法案を策定されていた方々にも、場合によっては十分理解されていなかったのではないかという気がするわけであります。

 先ほど経団連の委員の方から、予見可能性というようなことをしきりに主張されましたけれども、予見可能性を前提とした規制のあり方というのは、必ずしも行政規制的なほどのものは要求されていないということをあらかじめ申し上げたいと思います。

 以下、改正法案に限って、その具体的な問題点について意見を申し上げます。

 第一は、消費者の知識、経験、理解力、判断力なんかの不足を不当に利用して過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合、いわゆるつけ込み型勧誘に消費者取消権を認めるということを求めた、受皿としての包括的な救済を求めるバスケットクローズ、つまり受皿的な規定、それが欠けているという難点がございます。

 法案では、若干の具体的な取消権のための類型について規定をするということが用意されておりまして、これはこれで一歩前進なのですけれども、逆に、このまま放置すると、ここまでは取り消されない、ここまでやったら取り消される、そういうメッセージを与えることになります。ここで挙げたような具体的なものだけは取り消せるんだというメッセージになってしまうと、これはまずい。

 これまでも、いろいろ問題が起きてくるたびに、その問題に対して、いわゆるモグラたたきであるとか、あるいはイタチごっこというようなことがあった。それをやめて、包括的な消費者契約法にふさわしい対応をすべきであるとすれば、やはり、包括民事法としての消費者契約法の基本的な性格というものをきちんと思い起こして、そこに一般的な条項を入れることを考えていただければありがたいということでございます。

 さらに、その追加される予定になっている具体的な困惑類型についても、追加されることは一歩前進と申しましたけれども、そこに、「社会生活上の経験が乏しいことから」という、社会生活上の経験の乏しさと因果関係のある、そういったつけ込み行為というものを示す新しい要件が加えられているということであります。この要件上の絞り込みが行われているために、逆に保護の対象というものが狭まる可能性があり、特に高齢者あるいは障害者などの被害救済の妨げになるという危惧が拭えません。

 文理解釈からすれば、やはりこれは、若年成人を中心に意識してつくり上げられた規定であって、そうした者へと適用対象を限定する方向に作用するというふうに思われます。一部で説明されておりますように、解釈による拡張ということは可能かもしれません。可能かもしれませんけれども、そのような拡張解釈や類推の解釈を当初から予定するということが本当によいことかということでございます。そうした拡張解釈の結果は、決して保証されているわけではなく、時にハードルを高くする可能性が高いということでございます。最初から柔軟な拡張解釈に期待して不必要な要件を加えるということは、立法論としては不適切であるというふうに考えております。

 個人的には、この「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件は削除した上で、消費者の知識、経験、理解力、判断力等の不足を不当に利用して過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合には、消費者の取消権を認めるということを正面からきちんと規定するということが適当であって、それこそが今回の改正の最重要の課題であるというふうに認識しているところでございまして、消費者委員会からの付言の中でもこの点は強調させていただいたところでございます。

 それが難しい、現時点でどうしても無理だということであったとしても、せめて、社会生活上の経験の乏しさ又は判断力の不足若しくは低下によりというような言葉を補完することによって、少しでもこぼれていくものをすくっておくということが望ましいと考えているところでございます。

 消費者の不安な心理、あるいは依存心、興奮状態、急迫とか、無知、無経験など、いわゆる理性的判断ができないような状況につけ込んで不当な利益を追求する悪質な事業者の行為は、これは実質的に民法の暴利行為と評されてもおかしくないものでございます。

 したがって、民法でもカバーできるということなのかもしれませんが、この暴利行為の主張、立証というのはかなり難しいものでありまして、大変な苦労をするわけでありまして、それを考えると、せめて消費者契約法で当事者に取消権を付与して、契約的な拘束から離脱する可能性を認めておくということがぜひとも必要でございます。

 これはもうヨーロッパでは、一九八〇年代にこうした状況の濫用に対する規定は入っているというものでございまして、日本の消費者保護がここまでおくれてきたというのは、やはり、ワンポイントのモグラたたきのようなことをして、なかなか一般的な理念がそこに書き込まれなかったからだというふうに思います。

 第二ですけれども、第三条の努力義務の中で、高齢者、若年者、障害者などのいわゆる脆弱な消費者に配慮すべき、年齢等配慮義務というものを入れてくださいと申し上げたわけでございますけれども、これも、年齢等配慮義務は明言されなかったということでございます。

 消費者委員会に対する諮問の趣旨は、制定後二十年近く経過した社会経済的な変化、あるいは実務に生起している新たな問題に対処できるルールを策定することでありました。超高齢社会の中において高齢消費者の被害が増大しているということ、そして成年年齢の引下げという立法的な動きがあるというときに、こうした高齢者あるいは若年成人に一定のセーフティーネットを張っておくということは、当然、対応すべき喫緊の課題であって、私どもの責務であると感じているところでございます。

 高齢者、若年成人などに対する年齢等配慮義務を、せめて努力義務として宣言するということが必要で、これは消費者教育などだけで対処するには明らかに限界があると考えておるところでございます。

 第三番目でございますが、これは消費者契約法の九条一号の規定における平均的損害の立証責任に関する当初の原案の推定規定が、法案では完全に後退してしまいました。

 医療訴訟なんかでもそうですけれども、事業者側の責任領域あるいは被告になっているところの責任領域の中で起きた事柄について、原告が医療訴訟で立証するのはほとんど不可能であります。それで、裁判所でも事実上の立証責任の転換を行う解釈論が行われているところであります。その意味では、今回の、平均的損害に関するデータは全て事業者がお持ちなわけでありますから、立証責任の所在そのものを考え直すというところが必要であります。

 九条という条文は、実は、民法の四百二十条を例外的な規定として定めたという構造を持っているところにある種の限界があるんじゃないかというふうに感じているところでございますけれども、せめて専門調査会で合意できたところまでは確保していただきたい、推定規定を確保していただきたいというのが実際でございます。

 実のところ、民法の四百二十条は、当事者が損害賠償額の予定を合意したときには裁判所はそれに介入してはいけないという極めて当事者自治を尊重したルールでございますけれども、消費者契約において当事者が損害賠償額の予定をするということはまず実質的な合意の中ではあり得ないことでありますから、四百二十条そのものが動かないということを前提にした方がいいんじゃないかという気がいたします。

 そうすると、むしろ原則に戻って、損害が発生した事業者は、損害額、つまり、四百十六条に基づく通常損害あるいは特別損害の範囲でのみ賠償請求ができるんだという形に置きかえる必要があります。

 でも、それでは一々大変だからということであれば、合理的な根拠を持った形での損害賠償額というものを示すべきであるというふうに、立証責任を法律でもって転換してしまうというのが本当は一番いい方法ではないかというふうに考えているところであります。

 最後に、第四番目に、約款の事前開示について申し上げたいと思います。

 消費者契約法は、情報、交渉力の構造的な格差を前提として、契約締結過程の環境整備のために、第三条でわかりやすく明確な情報開示の徹底を要請しているところでございます。これは、消費者の選択権を保障するというために極めて重要な規定であります。

 他方、既に成立した改正民法の五百四十八条の二第一項第二号には、表示型約款というのがあらわれまして、相手方から事前事後の開示請求がない限り、自分のところの約款によるぞということを一言言っておけば、それで約款は契約内容とみなされるというふうに読めなくもない規定が入ってしまったわけでございます。

 これは、契約の基本原理ともぶつかるんじゃないかということで、国会でも随分議論されたというふうに記憶しておりますけれども、せめて消費者契約法三条三項には、消費者契約において、事業者は合理的な方法で、消費者が契約締結前に契約条項、つまり、民法五百四十八条の二以下の定型約款を含む、そのような契約条項をあらかじめ認識できるよう努めなければならないという形で、努力義務を条文として、遅くとも改正民法施行までに設けておくということをぜひ望みたいところでございます。

 どんなふうな開示の仕方をしたらいいかわからないなどと事業者の人が言うときがありますけれども、自分が提示しようとしている契約内容を相手に知らしめるという努力をすること自体を拒絶するというのは、私には信じがたいことであります。

 貴委員会におきまして、我が国の消費者契約法に明確な理念と、そしてその命を吹き込んでいただくということを心から期待したいと思います。二〇〇〇年にできて、今もう十八年になります。この間、小さく産んで大きく育てるというふうに言われながら、小さいまま捨て子になっていた、その実体法規定としては、何とか今回の改正でもって命を吹き込んでいただきたいというふうに考えるところでございます。

 本日述べたところは、実はさほどハードルの高い要請ではないというふうに思われます。したがって、最悪の場合、期限を切ってでも、改正に向けた迅速な作業をお願いしたいと考えている次第でございます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、野々山参考人にお願いいたします。

野々山参考人 野々山でございます。

 本日は、意見を申し上げる機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、適格消費者団体京都消費者契約ネットワーク、略称KCCNと言いますが、その適格消費者団体の理事長であります。

 一九九八年に消費者契約法の制定を求める団体としまして設立し、二〇〇二年にNPO法人化をいたしまして、二〇〇七年に内閣総理大臣から認定を受けて適格消費者団体となっております。以後、京都地域で、適格消費者団体に与えられました消費者団体訴訟制度に基づく請求権、差止め請求権を行使しまして、公正な消費者契約の実現と悪質な事業活動の是正に取り組んできております。

 これまで、差止め訴訟は累計で十七件を超しております。これは、適格消費者団体、全国で今十七ありますが、その中で最も多い数であります。

 その中で、消費者契約法に基づく訴訟も幾つかやっておるわけでありますけれども、使い勝手が不十分なところを実感しておりますので、その立場からまずお話をさせていただきます。

 それからもう一つ、私は弁護士でありまして、弁護士として消費者契約法などの消費者法を行使しまして、被害の救済活動をしております。

 また、消費者契約法につきましては、二〇〇〇年に制定された当時に、国民生活審議会の特別委員としてこの制定にも関与しておりまして、これまで、この消費者契約法の改正につきましては、継続的に、関心を持って取り組んで、意見も述べさせてもらっているところであります。

 そういう立場から、今回の消費者契約法の改正案について意見を述べさせてもらいます。

 まず、その評価でありますけれども、第一に申し上げたいのは、この消費者契約法の改正はぜひこの国会で実現をしていただきたいということであります。

 消費者契約法は、御承知のとおり、事業者と消費者の取引を公正にする重要な法律であります。事業者はこの法律によって販売方法などを正していくという、そういう一つの基準となっております。また、被害が起こったときに、消費者にとっては救済のよりどころとなる法律となっているわけであります。

 最近、二〇〇〇年のころと比べますと、高齢化、情報化、国際化という新しい環境が消費者契約の中にはあります。それに伴う消費者被害の増加があります。そしてさらに、成人年齢の引下げという課題がありまして、今、この国会でも議論をされているわけでありますけれども、もしそれが実現すれば、若者の被害の増加が懸念されるところであります。そういうものに対応するために、消費者契約法の改正というのは、この国会でぜひ改正する必要があるというふうに考えております。

 ただ、後に述べますように、不十分点はあります。不十分点はありますけれども、不安をあおったり、感情、人間関係を悪用したり、負い目を感じさせて勧誘する場合などの取消しの範囲が広がっております。そのような改正が提案されておりまして、これは高齢化社会、若年者被害にとって重要な改正でありますので、ぜひとも改正の実現を強く求めるところであります。

 ただ、しかしながら、問題点があります。私は、幾つか問題点があるわけでありますけれども、重要な問題点が三つあるというふうに考えております。

 一つは、余計なものが一つあります。それから、不足しているものが二つあるということであります。

 まず第一に、改正法案の四条三項三号、四号に、不安をあおったり、人間関係を濫用する勧誘に対する取消しが規定されているわけでありますが、その中に、社会生活上の経験の乏しいことからと要件が付加されております。これは、不要となるとともに、中高年の被害救済を狭める弊害のある要件であるというふうに考えておりますので、ぜひとも削除すべきだというふうに私は考えております。

 二つ目には、改正法案には、九条一号の解約金条項の無効を主張する際の平均的損害という一つの基準があるわけですが、その基準について、消費者が、事業者の平均的損害が何なのかについての立証責任があるわけでありますけれども、それを軽くする条項が、消費者委員会の報告書では改正すべきだとされていたのが、落ちてしまっていること。これが二つ目に問題であります。足りないところの問題点であります。

 それから、第三には、今、最も重要な課題となっております高齢者などが判断能力不足につけ込まれて被害を受けるということがあるわけでありますが、そのような勧誘に対する取消権が認められなかったことであります。

 さらに、幾つかの問題点として残っているというふうには考えております。

 まず最初の、社会生活上の経験の乏しいことからの要件について述べさせていただきます。

 この要件は、二つの新たな困惑類型に付加されているものでありますが、この二つの新たな困惑類型の特徴は何なのかといいますと、これは、判断力が十分でない状況を事業者がつくり出して、これを利用する勧誘の問題性に着目して取消しを認めたものであります。

 このような二つの類型の、事業者がつくり出した判断力が十分でない状況についての要件というものがあるわけでありますが、その勧誘行為そのものについては、十分高いハードルで、しかも明確に要件化されているというふうに考えております。そのため、消費者側がどうかということにつきましては、これは、この問題のある勧誘行為によって困惑したかどうか、消費者が困惑したかどうかで判断すれば足りるというふうに考えております。

 具体的にお話をさせていただきます。

 改正法四条三項三号の過大な不安をあおる勧誘の要件につきましては、その要件はどうなっているかといいますと、まず、ある方が、消費者が願望があるわけですね。願望といっても、健康になりたいとか、あるいは子供の進学に悩んでいるとか、そういうようなことでありますが、そういう願望の実現に過大な不安を抱いていることというふうに言われております、要件が。

 過大とは何か。これは、その年代の一般的、平均的消費者に比べてより強く深刻に不安を抱いているということであります。一般的な不安ではありません。より深刻に感じている、こういうことが一つの要件であります。そういう方が対象であります。

 それから、さらに、それを知った勧誘者は、その強く深刻な不安を抱いている消費者の不安を更にあおることであります。したがって、深刻に健康のこと、深刻に子供の進学のことで悩んでいる人に対して、それを更にあおる、強調していくわけですね。そういう勧誘をするということであります。

 さらに、実績や科学的根拠などの裏づけなどのない、正当な理由がないことを、深刻な不安を抱いている消費者にその願望の実現に必要であると告げる勧誘をする。すなわち、根拠のないことを言って、その願望の実現に必要だということを言うことであります。深刻な悩みを持っている、深刻な不安を抱いている人に、それをあおり、かつ、根拠のないことを告げて勧誘をしていく、こういうものであります。

 そういうものは、それ自体極めて十分悪質であります。これを更に、消費者が社会生活上の経験が乏しいということで、このような勧誘をする事業者を救済する必要がどこにあるのかと私は思う次第であります。

 次に、改正法案の四条三項四号でありますが、これは人間関係を濫用した勧誘の要件であります。

 要件は、まず、消費者が勧誘者に恋愛感情などの好意を抱いていること。すなわち、消費者側から勧誘者に対して好意を抱いていることでありますが、更に要件が必要です。

 勧誘者が自分に対して同様の好意を抱いていると誤信すること。両思い誤信要件と言われておりますが、相手も自分に同じような好意を持っていると誤信する。したがって、そこには誤った判断があるわけですね。

 それで、それを知った勧誘者が、その感情や誤信に乗じること。この人は、自分は好きではないけれども好きだと思っているんだということを思って、それに乗じて、その上で、契約をしなかったら関係が破綻すると告げるんですね。

 そういうことが要件になっております。

 このような、両思いと誤信している消費者の感情に乗じて、買わなかったらこの関係が破綻するぞというようなことを言っている、そういう恋人商法は、それ自体十分に悪質であります。これを更に、社会生活上の経験が乏しいか否かでこのような勧誘をする事業者を救済する必要がどこにあるのかということを私は思っております。

 仮に消費者がしっかりしていれば、それは困惑をしなかった消費者が取消しをできないという、困惑類型でありますから、困惑はしなくちゃいけません。その困惑をしなかった消費者が取消しをできないとすることで、悪質な勧誘をした事業者を救済することで十分足りるというふうに私は考えております。

 さきの本会議の福井大臣の答弁では、本要件を置かなければ、本来法が規定していない場合についてまで取消しが主張されてしまうおそれがあるということでありますが、このような悪質性の高い、しかもかなり明確な、ハードルの高い要件を満たした、どのような事業者を、どのような事業態様を救済するのか、必要があるのかということは極めて疑問だと私は考えております。

 それから、社会生活上の経験の乏しいことからの要件によって切り捨てられるのは、結局誰なのかという問題であります。これは中高年であります。

 この要件によって、社会生活上の経験がある消費者は救済されないということになるわけでありますが、社会生活上の経験がある消費者は、一般に中高年がその対象になることは、もう文理上明らかであります。

 しかし、上記の事業者の積極的な問題のある勧誘におきまして、中高年を排除する理由はないと私は思うところであります。むしろ、今回の改正は、高齢化社会ということへの対応が重要な柱でありました。それが一つのミッションであります。それに、高齢者の救済を狭める改正であっては絶対ならないと私は思っております。

 この点、さきの本会議で福井大臣から、総じて経験の少ない若年者は本要件に該当する場合が多くなりますけれども、高齢者であっても該当し得る、し得るですね。それから、霊感商法のように、勧誘の態様に特殊性があり、積み重ねてきた社会生活上の経験による対応が困難な事案では、高齢者でも本要件に該当し、救済され得るという答弁でありましたが、これは、答弁全体を見れば、高齢者の保護が若年者よりも薄くなるということを示しているわけであります。これを解釈で対応するということでありますけれども、それでも高齢者の救済が薄くなっていくということになるわけであります。

 「社会生活上の経験が乏しいことから」の要件は、消費者委員会の報告書にはなかったものであります。そういう意味では、不意打ち的に導入された要件であります。不要であります。今のように十分明確でハードルの高い要件の中で、これを、弊害のある要件を不意打ち的に導入することは問題があると私は考えております。

 しかも、解釈でいろいろ対応するという御説明がありましたけれども、消費者契約法の最終的な解釈権者が裁判所であることから、解釈で対応するのは限界があると思います。

 私どもが起こした裁判でクロレラチラシ配布事件というものがありまして、これは、消費者契約法の勧誘というものが、消費者庁の解釈の本では、逐条解説では、チラシとか、それからインターネットの広告とか、そういうものは勧誘ではない、こう書いてあったわけです。ところが、それを私どもが争いまして、最終的に最高裁は、そういうものも勧誘に当たり得るという判断をしております。すなわち、解釈されて、そういう逐条解説とは異なる判断を裁判所はし得るわけであります。

 そういうことからしても、最終的な担保にはならないというふうに考えております。

 今回の消費者契約法の改正が、何のために改正されるのかをよく思い出していただきたいと思います。これは、増加している高齢者被害の予防と救済の改正が重要な目的なはずであります。高齢者の救済の範囲を狭める要件をわざわざ設ける必要はない。しかも、その要件は、解釈でいろいろ考えなくちゃならないような不明確な要件であります。このような、不明確かつ不要な、弊害のある「社会生活上の経験が乏しいことから」の要件は、削除すべきであるというふうに考えております。

 続きまして、九条一号の平均的損害の立証責任の緩和の問題について述べさせていただきます。

 私ども京都消費者契約ネットワークは、消費者契約法九条一号に基づく差止め請求をしております。これは、苦情の多い、結婚式場の非常に高い解約金条項があるわけですが、それの差止めをしております。

 ところが、この訴訟をしますと、損害を主張するだけで裏づけ資料を出さず、苦情が多いにもかかわらず、そのために敗訴してしまう、その立証ができないということで敗訴してしまうケースがあります。

 本来、当該事業者に生ずべき平均的損害を消費者に立証させるのは、不可能を強いるものであります。その事業者、結婚式場がどんな損害を受けるかは、私どもは外から見たらわからないわけであります。でも、それを立証しろと。立証しなかったら負けるわけであります。だから、立証責任を転換するのが正しいやり方だと私は思っておりますけれども、少なくとも推定規定を置くべきだというふうに思います。

 今回の改正の議論の中では、消費者委員会の報告書では推定規定を置くことが提案されていましたが、これが落ちていることは非常に問題であります。

 この点、福井大臣の答弁では、消費者契約一般に通ずる事業の内容の類似性判断の基礎となる要因を見出すことは困難だということで、類似性判断という一つの概念、それを法文化することは難しかったということで見送られて、今後の検討になっておりますが、実は、九条一号を見ますと、「当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い」と書いておりまして、立証しなくちゃいけないのは当該消費者契約と同種の消費者契約であります。例えば結婚式場のものとか、あと冠婚葬祭で一つくくることがあるかもしれませんが、解約料、あるいは結婚式の解約料とか、そういうことになるわけでありますが、そういうものであります。

 比較するために消費者が立証するのは、他の事業者の同種の契約条項で足りるというふうに私は考えるところであります。同種であるが規模など類似性が異なるということは、これは事業者が、一定の、ほかはこんなふうになっているよということを証明したときに、いや、うちは規模が違う、業態が違うということを、事業者の方で類似性がないことを立証する、こういう形でやっていけばいいことでありまして、そういう形で十分法文化は可能だというふうに考えております。

 さらに、足りないものの二つ目は、判断能力不足そのものを悪用した勧誘に関する取消権が認められないことであります。

 今回は、事業者がつくり出すのではなくて、認知症になっているなど判断能力に、陥っている状態をそのまま利用する、そういうものにつけ込んで販売をしていく、そういう勧誘方法についてはこの取消権が認められなかったわけでありますが、これは、高齢化社会の中ではこれこそ一番重要な課題でありまして、こういう状況濫用型の取消権が認められなかったことは極めて問題があるというふうに思っております。

 判断力不足に乗じて当該消費者の生活に不必要な商品、役務を目的とする契約や過大な不利益をもたらす勧誘については、取消しを認めるべきだと思います。

 その他にも幾つか問題があります。約款の事前開示の問題、努力義務の考慮要素へ年齢が付加されなかった問題、それから、サルベージ条項や消費者の生命身体に生じた損害の一部免除条項の無効などが規定されなかった問題があります。

 それから、最後に、これらの法律の改正は、もちろんぜひ今国会で改正していただきたいんですが、その後の執行、その実効化が重要であります。

 これは、消費者契約法を実効化するには、一つは、この消費者契約法に基づき公正な消費者契約の実現や被害救済のために活動している適格消費者団体や特定適格消費者団体に対する支援の拡充をぜひお願いしたいということであります。

 それから、もう一つは、これらの法律の実効化のために、この内容を広め、さらに、これを相談現場で使っていくのは自治体であります。そういう地方自治体の消費者行政の支援、財政的な支援の拡充ということもぜひお願いをしたいと思っております。

 以上、私の意見を述べさせていただきました。

 どうもありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

櫻田委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。勝俣孝明君。

勝俣委員 自由民主党の勝俣孝明でございます。

 本日は、参考人の皆様方におかれましては、それぞれのお立場お立場の中で貴重な御意見を聞くことができました。本当に改めて御礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

 これからの御質問は、本当に先生方のお立場お立場でお答えをいただければというふうに考えております。

 まず、今回の消費者契約法の改正案につきましては、まさに消費者のための、消費者の立場に立った法律にしていかなければなりませんし、本当に真面目に頑張っている事業者の皆さんに対して経済成長の足かせになってもいけないということでございます。まさに悪徳業者に市場から退場していただくということが重要なことだというふうに認識をしているところでございます。

 まず初めに、トップバッターでございますので、専門調査会にて合意された困惑類型の取消権追加に係る要件について、これは長谷川参考人と河上参考人のお二人に御質問をさせていただきたいというふうに思います。

 長谷川参考人は消費者委員会消費者契約法専門調査会委員を務められておりました。河上参考人は前内閣府消費者委員会委員長をお務めになられましたので、そういった立場でお答えをいただければというふうに考えております。

 専門調査会において二つの困惑類型の取消権が合意をされました。合意されたこの二類型において、報告書によれば、先ほど来からありますように、不安を抱いていることを知りながら、正当な理由がないのに願望実現のために必要であると強調して告げることや、緊密な関係を新たに築き、好意の感情を築き、契約を締結しなければ当該関係を維持することができない、破綻することを告げるなどが取消し要件となっております。

 これらの要件について、要件の明確化、それから、悪質性の高い被害事例を捉える等、要件の規定に係る合理性の観点からどのように判断され、合意されたのか、長谷川参考人と河上参考人に御見解をお伺いをいたします。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 専門調査会では、さまざまな立場の方々が委員を務められておられました。その中で、私どもの立場として申し上げさせていただいたのは、まさに、先ほど総論的に意見陳述の際に申し上げましたけれども、予見可能性を確保して、事業活動が萎縮しないようにというような形でお願いしてきたところでございます。

 そうした中で、今回、法律の文言と報告書の文言は必ずしも一致はしていないわけでございますけれども、私どもで合意させていただいた報告書の中身の文言につきましては、こういった文言であれば、事案に適切に対応しながら、かつ、事業活動の萎縮を生じさせないものであるというふうに評価していたところでございます。

河上参考人 委員会の中では、具体的な要件となる立法事実があるのかということがしきりに問われました。消費者庁の担当の方も、問題になるようなトラブル事例というものを一生懸命相談案件の中から探してくださいまして、例えばこういうものがありますというようなことで出してこられたものが、デート商法であったり、いろいろな、これまで特に若者の被害ということを意識されて抽出された案件が多かったんだろうと思います。

 そうなると、その立法事実に即して規制をするにはどうすればいいかというふうな話になっていってしまいまして、本来であれば、基本的に、もう少し、例えば相手に対する依存心であるとか不安心理であるとか、そういう実質的に合理的な判断ができないというような状況があったときに、そこにつけ込んでいくというような行為については許さないという形のルールを立てていただくのがベストだったわけでございます。

 ただ、立法事実との関係で対応するような要件かということを追求していくと、こういう奇妙な問い、奇妙なと言っては申しわけないんですが、状況が出てしまう。恋愛感情を抱き、相手も自分が好きだと思うということを誤信しというような、本当に恋愛をしたことがある人だろうかと思うような、それは、つまり、相手に対する恋愛感情というものを持って依存心を持ってしまったら、相手の言いなりになってしまうわけです。ですから、そういうことを考えていくと、妙に要件を固めることによって、本来救わなくちゃいけないような人を外してしまう可能性がある。

 先ほど私、立法事実のことでお話ししましたように、もちろん、私は委員長の立場でございましたので、余りしゃしゃり出て発言はしませんでしたけれども、それを根拠にしてもう少し実質的なところを要件を立ててくださいということは何度もお話ししていたところでございます。

勝俣委員 ありがとうございます。

 次の質問は三名の参考人の皆さんにお答えをしていただきたいというふうに思っております。

 先ほど来から参考人の皆さんからるるそれぞれお立場でお話がありました、いわゆる第四条三項に三号、四号を加えるに当たり、社会生活上の経験が乏しいという要件、これについて御質問をさせていただきたいというふうに思います。

 本改正案においては、困惑類型の取消しの要件に対し、社会生活上の経験が乏しいという、この要件が追加をされたわけでございます。私自身も、一番最初にこの文面を見たときに、社会生活上の経験が乏しい、率直に、若年層に焦点を当てているのかなというふうに感じたところでございます。

 しかしながら、我々、消費者問題に関する特別委員会で仕事をさせていただいていると、昨今の消費者問題を全般的に見てみますと、例えば、二十年前と比較しても消費者問題というのは大変変化しているのは参考人の皆さんも御承知だと思いますが、インターネットの普及、それからスマートフォンの普及、SNSに関するこうした消費者問題というのは高齢者の皆さんにも大変多くの相談をいただいているところでもございます。

 そういう中で、実は、スマートフォンやインターネットの経験の有無とか、こういったものを考えたときに、実は若い人の方が経験値としては非常に高いわけですね。高齢者の皆さんの方が低い。そういうことを考えると、いろいろな切り口で考えられるのかなというふうに私自身は思いました。先ほど河上参考人の方から、当初から拡張解釈は余りよくないというお話もありましたけれども、そういったことを考えていくと、非常に切りがないのかなというふうにも考えております。

 ここで、この要件が追加されたことによりまして、相談現場による交渉など、あるいは、先ほどありましたけれども、事業活動におけるリスクに対する予見可能性などの観点から、どのような弊害があるのかということでお伺いをしたいと思います。

櫻田委員長 では、野々山宏参考人からお願いします。時間がせっぱ詰まっておりますので、簡潔によろしくお願いいたします。

野々山参考人 先ほど申し上げたことにつけ加えますと、相談現場で一番問題になるのは、恐らく、新たな論点になるということであります。

 社会生活上の経験の乏しいことがあるかないかが、相談現場で解決するときに、事業者の方から、そういう反論というんですかね、そういうのが出てきて、それが、今おっしゃるように、文理上だけじゃなくて非常に曖昧な広い概念になってきて解釈が非常に広がっているもの、これが相談現場で議論になってしまう。そこがやはり一番重要な問題だというふうに考えております。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 今回、二類型を困惑類型として新たに追加するに当たりまして、この「社会生活上の経験が乏しい」というのが追加されているわけでございますけれども、釈迦に説法でございますけれども、法制度の並びを考えますと、民法で詐欺、強迫というのがございまして、現行の消費者契約法である類型といたしまして、不退去、退去妨害というのがございます。これらの類型については、もう困惑していることが明らかでありまして、自由な意思表示がまさに阻害されているということが明らかな類型だというふうに理解しております。

 他方で、今回、デート商法でありますとか不安をあおる告知ということで記載されている勧誘方法につきましては、本当にそれだけで自由な意思形成が阻害されている、本当に困惑しているかどうかというのは必ずしも明らかでないというふうに思っておりまして、そういった観点から、この社会生活上の経験が乏しいという要件が追加されたものというふうに理解しております。

 あと、先生御指摘の、スマホ、インターネットで若者の方がリテラシーがあるのではないかというところは、専門調査会でも、成年年齢の引下げの観点からいろいろ若者というのが議論されまして、消費者庁にお願いしてデータを出していただいたところ、一人当たりの相談件数で見ると若者の方が少ないというデータが出ているというふうに理解しております。

 以上でございます。

河上参考人 社会生活上の経験が乏しいという表現は、卒然と読めば、リタイア後の高齢者か若者というものを想定するというのが通常だろうと思います。

 確かに、経験ということだけを言うと、当該契約になじみが薄いというのは、全部、みんな入ってしまうということになります。悪質な事業者からのアプローチになじみが薄い人は、皆さんそうでありますから、その意味では、皆さんこの経験が乏しい人になります。

 つまり、要件があってもなくてもいいようなものになってしまいかねないわけでして、あれも入る、これも入るというぐらいの要件であれば、もう外した方がよいというふうに思います。

勝俣委員 参考人の皆様、本当にお立場お立場の中で貴重な御意見をいただきましたことを改めて御礼を申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

櫻田委員長 次に、森山浩行君。

森山(浩)委員 立憲民主党の森山浩行でございます。

 本日は、参考人の皆様、お忙しいところをお時間をつくっていただきまして、また御説明においでいただきまして、ありがとうございます。

 私の方からは、まず、この消費者契約法の性格についてのお話をお聞きをしたいというふうに思います。

 河上参考人の方から、これは包括的な救済を認めるバスケットクローズであるべきだ、包括的な規定なんだからというようなところで法律の性格について触れておられます。この河上参考人の御意見、バスケットクローズが大事だという部分に関しまして、長谷川参考人あるいは野々山参考人、この法律の性格をどのようにお考えでしょうか。

長谷川参考人 河上先生にこの法律の性格はそういったものだと言われると、まあ、おっしゃるとおりという、ちょっと私の立場から申し上げるようなことはないんですけれども、繰り返しになるところがございますけれども、事業者の立場からいたしますと、要するに、性格づけというよりも、どういった効果をもたらすかということでございまして、一旦なされた意思表示に瑕疵があるかどうかというのがまさに問題になるわけでございますが、一旦なされた意思表示がその後取り消せるという効果をもたらす民事法だというふうに理解しております。

 その上で、そのような効果をもたらす法律がどのようなものであるべきかというところでございますけれども、これについては、繰り返しになりますけれども、しっかりと要件が明確で予見可能性があるものでなければ事業活動を萎縮させるのではないかというのが我々の考えでございます。

野々山参考人 私は河上参考人と同じ意見であります。

 行政規制法とそれから民事法というものが二つありまして、行政規制法というのは、行政処分とか、あるいは場合によっては刑事処分というのが行われますので、その要件、外延ははっきりしていなくちゃいけない。これ以上のことをやったら罰則がある、あるいは営業停止等の処分を受けるというものであります。

 そういう意味では明確性が必要でありますが、民事規定というのは、さまざまな取引や交渉の中でそれを調整をしていく、調整の一つの基準となる法律であります。民法が代表的なものでありますけれども。ですので、そういう意味では、さまざまな取引や交渉がその法律によって解決できなくちゃいけない。そういう意味では、一定の抽象性が必要だ、救うべきものを救うというそういう法律であるべきだというふうに考えておりまして、余り要件の明確化を言ってしまいますと、そういう調整機能を果たせなくなる、行政規制法と同じようになってしまうということが懸念されるわけであります。

 したがいまして、つけ込み型につきましては、今回の不安をあおる行為、あるいは人間関係を濫用する場合以外に、さまざまなつけ込み型というものについてのバスケット条項といいますか、そういうものを入れることについては私は賛成であります。

 以上です。

森山(浩)委員 ありがとうございます。

 そういった形で、消費者契約法の改正案という中で、今回、我々の中でも一番議論になっておりますのが、先ほどもちょっと出ましたけれども、「社会生活上の経験が乏しいことから」という部分、この表現であります。

 これは削除すべきだというようなお話があったり、あるいは、事業の萎縮性について、これは問題があるんじゃないかというようなことで、行ったり来たりしているわけなんですけれども、この条文があることによってこのような事業が萎縮するというような御事例、皆様の中に、いろいろな御相談を受けたり、あるいはいろいろな業態を見たりしている中であるかと思いますけれども、こういう事業が萎縮するんじゃないかというような部分がございましたら、各先生の方からお答えをいただければと思います。

長谷川参考人 森山先生、御質問いただきましてありがとうございます。

 この要件がないと困る事業者がいるかというのは、必ずしもよくわからないところがございます。

 ただ、他方で、先ほど申し上げたところと同じかもしれませんけれども、従来の詐欺、強迫、あるいは退去、不退去に比べると、明らかに、今回提案されている不安をあおる告知でありますとか恋愛感情に乗じた人間関係の濫用というのは、何といいますか、自由な意思表示を阻害の度合いがちょっと程度が違うのではないかというのが一点。

 あと、退去妨害あるいは不退去という、相当、通常の取引では行われないものだという一方、今回のも相当要件を絞っていただいているのかもしれませんけれども、退去、不退去と比べますと、ちょっと取引態様として差があるのではないかというふうに思っておりまして、そこの外延のところのラインをどの部分で引いていただくかということだと思っております。

 その意味で、繰り返しになりますけれども、今まで取消権の対象となっている取引態様といいますか行為と比べて相当下がるのではないかというふうに考えているところでございます。

河上参考人 そういう例があるかということですけれども、私は存じません。

 逆に、高齢者であっても恋愛感情を持つことがありますし、いろいろなところで次々販売の被害に遭っている人は、次々販売の勧誘行為には経験があるじゃないのと言われる可能性もございますけれども、それはむしろマイナスの方向で作用することであって、これがないと何か事業が萎縮するというようなものが想定できるかというと、ちょっと想像がつきません。

野々山参考人 先ほど私の方で述べさせていただきました非常に厳しい、高いハードルの勧誘要件があります。その勧誘要件を満たして、かつ、これを社会生活上の経験が乏しいか否かで救済するような事業は、ちょっと私は考えられません。

 むしろ、霊感商法であるとか恋人商法であるとか、あるいは根拠のないことを言って販売する健康食品とか、こういう業界の人たちに言いわけを与える、社会生活上の経験があるでしょうということで、そういう販売方法をむしろ容認する、そういう要件になり得るということであります。

 一般的な形でこれを入れなかったからといって萎縮する、そういう業態はないというふうに、業態というか、今言ったような業態はあるかもしれません、こういう活動をしているところは。だけれども、そうでなければ、考えられない。これで救わなくちゃいけない業態があるかというと、そうではないというふうに考えております。

森山(浩)委員 ありがとうございます。

 我々の中の議論でも、例えば霊感商法だ、あるいは恋愛感情につけ込むんだというような話の中で、いろいろな事例を検討していったわけなんですけれども、若年者では判断できるけれども、高齢者になったら判断力が落ちるんじゃないかとかいうような部分も含めて考えると、必ずしも社会生活上の経験が乏しいか否かというようなところでの判断というのはなかなか難しいよねというようなことでもございました。

 委員会の場ではございませんでしたけれども、役所とやりとりをしている中で、疑似恋愛を売る商売、いわゆるキャバクラでありますとかホストクラブというようなところで、このようなこと、法外なものを売りつける、あるいは関連の店で売りつけるというようなことがあったりした場合には、これは、疑似恋愛をわかって行っているんだから、そんなものにひっかかる方が悪いんだという話になるのか、それとも、この法律で救済をされる可能性があるのかというお話をしたときに、キャバクラはありませんけれども、ホストクラブはありますよなんということを言われたこともありました。それは、一方的に関係を切るというようなことを強く言うのはホストクラブだというような、これは思い込みの部分もあるかもしれませんが、議論の中ではそのような話も出てまいりました。

 だから、疑似恋愛をわかっていて行ったけれども恋愛感情を抱いてしまうなんというようなことも、これも社会生活上の経験があるかないかというようなことには関係ないのではないかなと思うんですけれども、そのあたりのところは、役所はそんな形で説明をされていましたけれども、どのようにお考えでしょうか。

野々山参考人 ホストクラブのそういうものが本当にいいのかどうか、そういう高額なものが許されるかどうかという問題もありますけれども、今言った社会生活上の経験とは関係ないですよね、今の問題は。全く関係ない。それで救われるかどうかという問題ではなくて、まさに、最初の方の勧誘行為のことで当たるかどうか、そして、あとは困惑というところで切るかどうかという問題でありまして、社会生活上の経験に乏しい要件とは無関係なことだというふうに思っております。

 困惑で切るとか、あるいは、そういう商法が問題であれば、それはそれで取消しの対象にしてもいいのではないかというふうに思っています。疑似であれば、わかっているということになりますので、そういうようなところで検討されていくというふうになるかと思います。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 実は、専門調査会で、私、委員を務めさせていただいておりましたけれども、その過程で、まさに、ちょっと文言は違うわけでございますけれども、緊密な関係を新たに築き云々というのが議論になった際に、私も、先生御指摘のように、そういった疑似恋愛というか、キャバクラとか、そういったところの取引というのはひっかかってしまうのではないかというような問題提起はさせていただいたところでございます。

 といいますのは、私どもの会員とは関係ないんですけれども、日本社会全体を見たときに、そういったところで生活されている方もおられるわけでございますので、あるいはそういうところで息抜きをされている方もおられるわけでございますので、そういった観点も重要ではないかと思ったものですから発言をさせていただいたんですけれども、この文言になっているということでございます。

 ただ、考えてみるに、先生がおっしゃられたこととほとんど同じなんですけれども、そういうことをわかって既に一定の危険を引き受けているといいますか、そういった観点で理解するのかなというふうに思っていたところでございます。

河上参考人 疑似恋愛の話は全く例外的な話なので、その部分こそ、QアンドAでこういうものについては入りませんと書いておけば済むことだろうと思います。

 それ以上に、恋愛感情という言葉で場面を区切るという方が私は気になっていまして、例えば、職場の中の上下関係とか友人関係とか、男同士でも恋愛はあるかもしれませんけれども、男同士の間で断り切れないような人間関係があって、それがつくられて契約に応じてしまうというふうなものまで考えていくとすれば、これはちょっと切っているところもかなり特殊な場面だけを切ってしまったという感じがします。しかも、それは社会生活上の経験とは関係がないところででき上がるものです。

 ただ、今回の提案で私が評価しているのは、みずから事業者がそのような関係を形成してそれにつけ込んだという、形成した上でのつけ込み型だけではなくて、既にある関係を利用したという場合も含めるような書き方になっているというのは、これは評価してよいと思うのです。

 ですから、もう少し、この部分も含めて受皿になるようなものさえあれば、そんなに気にしなくてよいんですけれども、これだけだったらまだ改良の余地はあったかなと思います。

森山(浩)委員 ありがとうございます。

 それじゃ、もう一点、平均的な損害の額、これの立証責任を業者が負うべきであるのか、あるいは消費者側で負うべきであるのかということで、消費者側にはそんな十分な知識あるいは資料がないんじゃないのというようなところも議論があったところでございます。これについては、皆さん、どのようにお考えでございましょうか。

野々山参考人 私は、適格消費者団体の理事長として、これらの訴訟にも関与しているわけでありますけれども、訴訟に行きますと、まず、一番対応として困るというんですか、主張だけして、これは平均的損害より上ですということを主張して、あとは一切何も言わない、幾らであるとか根拠を出さない、こういう対応もあります。

 それから、あとは、うちの損害はこれだけです、これはうちの平均的損害ですと金額を言って、キャンセル料はそれよりも少ないでしょう、そういうことをおっしゃるんですが、その根拠を一切出さないということ。あともう一つは、うちの損害はこういう形ですということでエクセルで表を出していただくんですね。だけれども、その表を裏づける証拠は一切出さないというパターンとあります。

 あと、裁判上の証拠を求める手続というのが、文書提出命令とかそういうものがあるわけですが、そういうものを盛んにやって、やっと出してくる。出してこないところもありますけれども。

 そういうことでやっていって、ようやく出てきたもので何とか対応しているということでありますけれども、それでも、平均的損害でありますので、その事業者の同種の契約の平均的損害を立証するのは非常に困難であります。

 むしろ、一定のところを立証した上で、それを覆してもらう、新たな主張をして。それが合理的だというふうに考えております。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 平均的損害の額については、専門調査会でも議論になったわけでございます。

 先ほど野々山先生が三類型おっしゃられていましたけれども、そのとき、京都ではなくて別の関西の消費者団体の方でしたけれども、が提示されたのは三つ目の類型で、エクセルの表が出てきてというような話でございましたが、そのエクセルの表を裏づける資料というのが出てきていなかったという事例を紹介されたというふうに記憶しております。

 これにつきましては、私ども、会員企業にもその議論の過程でいろいろお話を聞いたわけでございますけれども、今でも訴訟指揮で十分対応できるのではないかという議論がございまして、専門調査会の席で紹介のあった事例につきましても、裁判所が裏づけのある資料の提出を求めてもよかったんだと思うんですけれども、そこまで至らなくても判断ができたというようなことなのかなというふうに理解しておった次第でございます。

櫻田委員長 河上正二参考人、大変恐縮でございますが、質疑時間が過ぎておりますので、簡潔にお願いいたします。

河上参考人 類似性の判断というのが難しいという話でして、私も、類似性について、当事者間でまた争いの種になるだろうと思います。

 ですから、本当は立証責任の転換までいった方がよいというのが意見です。

森山(浩)委員 ありがとうございました。

櫻田委員長 次に、森夏枝君。

森(夏)委員 本日は、長谷川参考人、河上正二参考人、野々山宏参考人、大変御貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、日本維新の会、森夏枝と申します。

 それでは、質問をさせていただきたいと思います。

 民法改正案が成立すると、成人年齢が二十歳から十八歳に引き下げられます。十八歳、十九歳の若者が未成年取消権を失うことになり、消費者被害の増加が考えられると思います。不安をあおる告知、恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用などの取消権しか盛り込まれていないということで、十八歳、十九歳被害者をふやさないための対策、また若者を守るための対策について、三人の参考人の先生方から御意見を頂戴できればと思います。

河上参考人 十八歳まで下がるということになりますと、実は高校三年生まで含まれてしまいます。非常に狭い社会にいる中で、そういう被害というものが拡散するおそれが非常に強いということがございまして、その意味では、何とかして高校三年生までに、ある種の契約に対する耐性、これを身につけさせるというのが大事です。これは消費者庁でも随分力を入れています消費者教育を徹底していただくということなんでしょうけれども、これは一過性のものではだめで、恐らく中学ぐらいから少しずつ育てていって、高校三年生になったときにはある程度耐性があるという状態まで持っていくというのは、これはもうどうしてもやらないといけないことであります。

 しかし、それと同時に、大人でさえだまされてしまうような不当な勧誘行為がそうした新しい新成人に向けられたときに、彼らがそれにきちんと対応できるかというと、まだまだおぼつかない。

 ですから、その意味では、そうした新成人という者に対しても、つまり、若年成人というふうに消費者委員会では申しましたけれども、若年成人に対してもセーフティーネットを張ってやるということが必要で、少なくとも、消費者契約法の中で、理念としてもそうした年齢等に対する配慮義務を置いておくということや、さらに、取消権でもって場合によって取消しができるような条項を用意しておいてやるというのは、これはもう必須だろうと思います。

野々山参考人 私も、成年年齢の引下げがもし実現したら、十八歳から二十までの被害というのはふえてくるだろうということをすごく懸念しております。

 特に、お金を借りることができるわけであります。したがいまして、消費者金融であるとかクレジット等を使ってさまざまな被害に遭う可能性は極めて大きくなってくるだろうというふうに思っております。

 これを救うには、一つは消費者教育、これは非常に重要であります。消費者教育というより生活教育ですよね。やはり、生活をきちんと自分の責任でやっていく、自分の判断でやっていく、見きわめていく、そういう力をつけてもらう、そういう教育をしていくということが必要だと思いますけれども、まだまだ十分ではないというふうに思っています。

 ただ、そういう教育をしてそれが完全かというと、そうではないわけでありまして、被害が必ず生じます。これは大人の世界でも同じでありますけれども、その場合、やはり、被害を受けたときにそれを救済できる、そういう仕組みがないといけないというふうに思っております。

 これまでの未成年者取消権、これは一律なものであったわけですけれども、それは当然なくなるわけでありますけれども、やはり判断能力が未熟だから未成年者取消権があったわけであります。

 そういう者に対してつけ込むような形、それを利用して、過大なもの、不必要なもの、そういうものを売りつけるような、そういう行為があった場合についてはこれは救済すべきだというふうに思うところでありまして、やはり、先ほどから述べられておりますつけ込み型のバスケット条項、状況を利用したつけ込み型勧誘をした場合に取消権を認めるということは、成年年齢引下げを実現する上においては不可欠だというふうに私は考えております。

 以上です。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 私も、河上先生あるいは野々山先生もおっしゃられておりましたけれども、消費者教育というものが極めて重要だというふうに考えております。

 私が用意させていただいたスライドの十二ページでも、私どもの姉妹団体であります経済広報センターで企業の講師派遣等もしておりまして、そういった啓発活動を行わせていただいているところでございます。

 あと、消費者契約につきまして、消費者契約法の枠組みで議論しますと、どうしても契約関係に入って以降をどういうふうに考えるかというところがあるわけでございますけれども、先ほどインターネット等あるいはスマホ等の議論も出ましたけれども、最近よく、例えば、ネットで買物をしますと、その事業者が信頼できるものかどうかということで満足度の割合が出てきたりいたします。そういったリテラシーにつきましては若者の方が高いのではないかというふうに思っておりまして、先ほど、一人当たりの相談件数は若者の方が少ないんですということを御紹介申し上げましたけれども、必ずしも若者だからといって脆弱な消費者かどうかというのはわからないところだというふうに理解しております。

 実際に相談件数を見てみましても、二十歳から二十五歳ぐらいまでは確かに下がる傾向があるんですけれども、二十六歳以降、相談件数は上がっておりますし、あと、四十代、五十代の方が一人当たりの相談件数が多くなっているという実態がございますので、そういったデータを踏まえて御議論いただければというふうに思っているところでございます。

森(夏)委員 ありがとうございました。

 長谷川参考人にお伺いします。

 啓発活動等を行っていただいているということで、十年前に比べると相談件数も、デート商法等にしても就職セミナー商法などにしても減っているという実態を聞いておりますが、その相談件数が減っているという分析といいますか、お答えいただければと思います。

長谷川参考人 一般的な消費者への啓発活動は先ほど申し上げましたようにさせていただいていますが、会員企業に対して、デート商法をすべきでないであるとか、そういった啓発活動はしておりません。

 分析につきましてですけれども、私の記憶では、デート商法につきましては十年前の五分の三ぐらい、あと、就職セミナー等のものについても五分の四ぐらいになっているというふうに理解しておりまして、これにつきましては、まさにそういう商法があるんだということを、政府の皆様、あるいはここにおられる消費者団体の皆様も含めて、そういう流布をさせて、気をつけなさいということを浸透していただいたおかげかなというふうに思っているところでございます。

 もう少し学術的な分析があるかもしれませんが、私の印象はそういったところでございます。

森(夏)委員 突然の質問で申しわけなかったです。こういった啓発活動等にはしっかりと取り組んでいただきたいなという思いから質問をさせていただきました。

 一八八(いやや)という消費者の番号があるんですけれども、相談窓口として電話で連絡をするというのは、若者は余り利用しないかなと思っています。高校などでも消費者教育ということで取り組んでいただいておりますけれども、実際に、私も三十代ですけれども、何か問題が起きたときに電話をかけるかなと自分に問いましても、ネットで調べたりとかして解決をしてしまうような気がします。ですので、電話の件数などでは相談の件数というのはしっかりと把握できないのかなと思っております。

 また、高齢者の被害にしても、高齢者の方も、認知症を持たれている方であったり、電話を実際にかけて被害の件数が把握できているかなというのも疑問に思うところでございます。

 今回の法改正において、消費者の皆さんが守られるべき点もあると思いますが、改良すべき点について、改めて三人の参考人の方々にもう一度お伺いしたいと思います。

 河上参考人、野々山参考人に、まず、最も改良すべき点と思われるところについてお伺いします。

河上参考人 先ほど最初の段階でお話ししたことに尽きているところはあるんですけれども、今回の要件として、きつくなり過ぎている部分、特に「社会生活上の経験が乏しいことから」というような要件は、これはもう外した方がいいんじゃないかということであります。

 それから、他方で、一般的な事業者の情報提供のあり方において、年齢等、特に若年者、高齢者、そして障害者、場合によっては外国人もそうかもしれませんが、そういう人たちにわかりやすい形で情報を提供するということがやはり宣言されてしかるべきではないかというふうに思います。

 若年者の被害というのはこれからどういうふうに推移していくかわかりませんけれども、かなり注視しながら、必要に応じて、特商法であるとか不当条項規制といったものを更に今後検討していくということになるかと思います。

野々山参考人 私の方では、今回の改正法では、先ほどの意見陳述でも述べましたように、三つの重要な修正点があるのではないかというふうに思っております。

 一つの余計なもの、これが改正法案四条三項三号、四号の社会生活上の経験の乏しいことからという要件、これが余計なものとしてある、これを削除すべきだということであります。

 それから、足りないものが二つある。

 一つは、九条一号の平均的損害に関する立証責任の転換ないしは推定条項を入れるということですね。それは消費者委員会の報告書でももう指摘されてきたところであります。

 それから三つ目は、高齢者の問題。それから、先ほどの御質問でも指摘があったとおり、もし成年年齢の引下げが行われたときには、若年者に対してもでありますけれども、そういう判断能力不足の人たちに対してそれを悪用したような場合、そういう形で過大な商品を売ってしまうようなものについてのバスケット条項を入れるということ、つけ込み型勧誘に対する取消権を認めるということ、これが必要だというふうに考えております。

森(夏)委員 長谷川参考人からも、改良の点があればお答えいただければと思います。

長谷川参考人 現在提出されている法案に関しまして、改良すべきと考えている点はございません。

 ただ、他方で、先ほど参考人の方から御指摘がありましたバスケットクローズにつきましては、やはり、繰り返しになりますけれども、予見可能性の確保の観点から慎重に検討していただければというふうに考えているところでございます。

 あと、約款の事前開示、これについて義務とするのか努力義務とするのかというのがありますけれども、これにつきましては、改正民法でも、先生方が御議論いただいた末に、開示請求をすれば開示しなければならないということが義務化されているわけでございます。

 そういう中で、もちろん、極めて重要な取引であれば約款等をしっかり見て取引をするというのが消費者でありますし、それをしっかり見せるというのは、要請がなくても開示するのは当然だというふうに考えておりますが、例えば電車に乗るのにそれを見るかどうかとか、そういった自分にとっての取引の効率性というものがあるわけでございますので、そういったせめぎ合いの中で、どのような制度が望ましいかというのが設計されるのがよろしいのではないかというふうに考えているところでございます。

森(夏)委員 ありがとうございました。

 本日は、大変貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。これからの法案審議に生かしていきたいと思います。

 ありがとうございました。以上で終わります。

櫻田委員長 次に、濱村進君。

濱村委員 公明党の濱村進でございます。

 きょうは、三名の参考人の皆様、お越しいただきましてありがとうございます。大変貴重な意見をお伺いすることができました。

 まず冒頭に、どちらかというと事業者を代表してお越しになられている長谷川参考人、そしてまた、消費者の側をというわけではないんでしょうけれども代表するような形でさまざま御意見も出ているわけですけれども、私は、大前提としてここで確認しておきたいのは、消費者を守るということと事業者の健全な事業活動というのは相反するものでは決してないということを思っております。そこをまず、大前提に立った上での議論を進めないといけないな。

 どうも、消費者と事業者の対立項みたいなものが設定されてしまうと、非常にこれはよくないと思っておりまして、そもそも、先ほども少し質問の中でありましたが、デート商法に関連するようなことについて経団連として分析しているかというと、それはしているわけないと思うんですね。なぜならば、経団連の会員企業の皆様の中でそういう事業をおやりになっている方というのはいらっしゃるんですか。いないと私は思います。

 その上で申し上げますと、やはりそういう意味でいうと、悪質な一部の事業者、これは徹底的に取り締まらなければいけないというふうに思っているわけでございます。そういう意味で、悪質な事業者というところを、では、どのように要件化、定義していくのか、ここが非常に重要なんだろうということであろうと思っております。

 先ほど来、要件の明確化といったところについて御議論がありました。社会生活上の経験が乏しいというところでございますけれども、ここについても、私は、本来であれば、この文章を入れることによってどういう効果が生まれるのかということを明確にしておきたいなと思っているんです。

 片やハードルが高くなる可能性があるというような話もあるわけでございますが、これは、ハードルが高いというのはどういうわけかというと、取消しできる対象が狭くなっちゃうんじゃないんですかということなんだろうと思います。ただ、もう一方で、狭めなければ無尽蔵に広がるというような懸念があるので、こういう文章を入れているんであろうと思っております。

 ここで、まず河上参考人、野々山参考人にお伺いをしたいんですけれども、こうした要件の明確化をしてきたところの文言として「社会生活上の経験が乏しい」と追加されていると私は理解しておりますけれども、これは、先生方お二人共通して言えることが、削除するべきだとおっしゃっておられる。ですので、逆に申し上げますと、どういった要件を追加するべきと考えておられるのか、この点についてお伺いします。

 まず、河上参考人からお願いします。

河上参考人 この部分に何か別の要件を追加する方がよいかという御質問であるとすれば、要件は追加する必要はないということになります。

 むしろ、これでもなお、個別具体的なパターンの取消しというか、つけ込み案件しか拾えていないということになりますので、包括的な受皿が更に必要だろうというふうに申し上げたところでございます。

野々山参考人 私も、削除だけすればよくて、新たな要件をつけ加える必要はないというふうに考えております。

 例えば、改正法案の四条三項三号の過大な不安をあおる勧誘要件では、先ほども申し上げましたように、過大な不安を抱いている方に対して、その不安をあおっていくわけであります。深刻になっている、落ち込んでいる人に対して、それを更にあおっていく、しかも、実績や科学的根拠、裏づけなどの正当な理由がないそういうものを告げて、更にそれを改善するにはこれが必要だよということを言っていく、そういうことを告げて勧誘をする、それで悪質性は十分でありまして、それに更に「社会生活上の経験が乏しいことから」ということをつけ加える必要は全くないのではないかというのが私の考え方であります。

濱村委員 ありがとうございます。

 その上で、ちょっとこちらの、私の考え方として、これが適切かどうかというのは一旦おいておいたとしても、業者ばかりが悪質ではなくて、ユーザーあるいは消費者と言ってもいいと思いますが、消費者の中にも多少クレーマーのような方々もおられるかと思っております。そうした方々からの要請にすべからく全て応えていくというのも、事業者にとっては負担がかかろうかと思っております。

 そうした意味においては、私は、こうした要件化、社会生活上の経験が乏しいとかというような修飾文がなければ、なかなかこれに該当し得りますよ、あるいはそういうところをもって争う、これは裁判の中で運用上争っていくというようなところがあるわけでございますので、そうした、ある程度の法律の幅の中で議論をしていく、議論をするための土俵をしっかりと設定していくことが重要であろうと思っておりますので、そうした意味においては必要なのではないかなと思っているのが私の考え方ではございます。

 その上で、野々山参考人のきょうの陳述の中にも、私が大臣から、社会生活上の経験が乏しいというのは高齢者も含みますよねということについての、入り得るという答弁を記載していただいております。そういう意味でいうと、しっかりこれは運用の中で、あるいは逐条解説の中で明らかにされていくべきものというふうにも考えているというのは、一応私がそのように考えておるところであるということをちょっと一言申し添えておきたいと思います。

 その上で、もう一点お話をお伺いしたいと思っておりますが、高齢者あるいは若者に対して、河上先生のお話で、事業者の年齢等の配慮に対する努力義務さえ否定するのかと、割と厳しい御口調であるわけですが、年齢等配慮義務を努力義務として宣言することが必要ではないか、この趣旨については非常に理解をするものでございますが、これはなかなか難しい点もあるのかなと思ったりもするんです。

 事業者側として、これは長谷川参考人にお伺いしたいんですけれども、私は別に努力義務を否定しているわけではないんだろうとは思っているんですけれども、こうした御意見についてどのようにお考えでいらっしゃるのか、この点、率直に御意見をお伺いしたいというふうに思っております。

 つまり、脆弱な消費者に対しての年齢等配慮義務について、せめて努力義務として宣言するべきだという河上先生の御意見でございますが、長谷川参考人の御意見を伺います。

長谷川参考人 濱村先生、御質問ありがとうございます。

 その点につきまして、脆弱な消費者に対する情報提供に係る配慮義務というのは重要なことだというふうに思っております。

 ただ、今回の改正で知識、経験というものが加えられるわけでございます。今議論に出ております年齢といいますものは外形的な要件でございますけれども、知識、経験は実質的な要件ということでございまして、その実質が考慮されていれば足りるのではないかというふうに考えているところでございます。

濱村委員 おっしゃるとおり、外形的なところと実質的なところ、そこを明確にしながら努力義務を果たすといいますか、ここも明確な形で配慮しているというところを定義化していくことが私は重要だと思っております。ですので、この点については更に今後も検討が必要なのかなと思っておるところであります。

 最後にお伺いをしたいと思っておりますが、平均的な損害額の立証責任についてでございます。

 これはお三方にお伺いをしたいと思っておりますが、まず、そもそも、事業者の中では類似性があって、そこにおいて平均的な損害額を算出していきましょうという話にはなっています。ただ、事業者間でもその類似性において争いがあるということで、これもなかなか難しいんじゃないかというような話があるわけでございますけれども、一方で、これはしっかりと事業者に転換していくべきだ、あるいは推定規定をせめて置くべきだというような御意見がありました。

 ありましたが、私、大事なのは、立証責任自体を誰に負わせるのかというところにおいて、先ほどの三類型がございましたが、エクセルに根拠があるとかそういう話がございましたが、それを事業者がやることによって得られる利益、不利益というところを明確にしていく必要があるのかなと思っているんですね。実際問題、自社のさまざまな事業活動をやるに当たって、自分のところはこれは余り言いたくないんだというようなことについても記載をしなければいけないというようなこともあり得ると思っておるんです。

 そういう意味において、事業者の皆さんにすればハードルがあるというところも思っておるんですが、その点については長谷川参考人がどのようにお考えであるのか、お伺いしたいと思っているのとともに、どちらかというと、やはり消費者の側にはそういう推認できるような資料はないということでありますので、それについて事業者に立証責任を転換するべきだということであれば、事業者にはそこをどうやって乗り越えていってもらうことが考えられると想定しているのか。これは河上先生と野々山先生にお伺いしたいと思います。

長谷川参考人 御質問いただきありがとうございます。

 まさに平均的損害額の議論がなされたときに私どもの会員に伺いましたときに、先生御指摘のとおり、立証責任がまるっきり転換されてしまう中で、営業秘密とかあるいは企業秘密に当たるようなところをどうやって確保すればいいんだろうかというのが議論になっていたところでございまして、そこは大きな懸念点というふうに認識しております。

河上参考人 先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、消費者契約法の九条という条文は民法の四百二十条の例外規定として定められるという構造を持っておりまして、四百二十条で、当事者が将来の損害について合意したとき、紛争で一々賠償額についてやるのは大変だから、これでいきましょうというふうに実質的に合意してくれたら、あとは裁判所はそれには介入しませんというのが四百二十条です。

 ところが、消費者がそのような実質的合意をするということは基本的にはあり得ないことであります。そうだとすると、むしろ、原則に戻れば、通常は、キャンセルをされてこれだけ損害を生じたということは、事業者がみずから賠償額を立証して請求しないといけない、そういうものなのです。

 ですから、その請求する額が適正なものであるかについて合理的な根拠を持っているということが、これが消費者契約法の中でも大事なことですから、法律でもって、ここはもう事業者側がみずからの賠償額については合理的根拠があるということの主張立証責任があるというふうにした方がよいのではないかということでございます。

櫻田委員長 野々山宏参考人、大変恐縮でございますが、時間が迫っておりますので、簡潔にお願いいたします。

野々山参考人 裁判の点ですけれども、先ほどのエクセルの関係のものは当団体のやったものでありますが、あれは結局閲覧禁止になっております。閲覧禁止になっておりまして、裁判上は見られます、当事者は。しかし、一般の方が閲覧したり、あるいは裁判の判決に添付することは、黒塗りになったりした形になっております。

 そういうエクセル表もそうですので、そういう措置は十分とられて、事業者側の皆さんの不利益はカバーできるというふうに考えております。

濱村委員 終わります。ありがとうございました。

櫻田委員長 次に、黒岩宇洋君。

黒岩委員 無所属の会の黒岩宇洋でございます。

 きょうは、三人の参考人の先生の皆様、貴重な御意見を陳述いただきまして、大変に参考になるということをまずは感謝を申し上げさせていただきたいと思います。

 その中で、きょうの陳述の中で何点か確認もさせていただきたいと思っておりますので、よろしく質疑に御答弁いただきたいと思います。

 まず、河上先生、先生のこのバスケットクローズというものを私も大変重要だと思っているんですね。先生、きょうは結構物言いを穏やかに、この二つの、不安をあおる告知、人間関係の濫用、この二類型に絞っただけではバスケットクローズまでいかないんじゃないか、そういうおそれがあるとおっしゃっているんですが、私、おそれどころか完全に固定化して、バスケットクローズどころの議論はここでとまっちゃうと思っているんですよね。

 その点について、河上前委員長の正直な懸念を再度私どもにお示しいただければと思います。

河上参考人 ありがとうございます。

 よくぞ質問していただいたと思うぐらいでして、あの二つはないよりましと私は思いますけれども、その背後にある、いわば相手方に対する弱みにつけ込んだ行為、それを取消権で否定して消費者を守るということをぜひこの消費者契約法の中で実現していただきたいというふうに思いまして、あの二つだけでは不備であるというのが実感でございます。

黒岩委員 先生の率直な今時点での評価というものを承りまして、私も同様に同感であると考えておりますので、むしろ、ないよりましならそれはあった方がいいわけですけれども、これがゴールじゃなくて、この先広がっていくような、そんな観点に立って、この後、消費者特においての政府質疑も私はやはりしっかりと確認をしていきたいと思っております。

 そこで、次に、また改めて河上先生にも確認させていただきたいんですけれども、平均的な損害の額の立証責任というところで、私はいささかまだちょっと疑問が解けないところが、それは、推定規定だけで、もっと言えば、立証責任の転換なくしてこの推定規定を設けることによってどれほどの効果があるのか。これはあと野々山先生に実務者としてもお聞きしたいと思っているんですけれども、まずこの点を、推定規定の効果の度合いというのは一体どのようなものと考えていらっしゃるのか、それをまたお聞かせください。

河上参考人 推定規定については、推定をする前の間接事実がうまくつかまえられるかどうかということが大事でありまして、正直言うと、類似の事業者の額を出したからといって、それでうまく間接事実になるかどうかということ自体、私は余り期待しておりません。

 その意味では、推定規定だけでは難しいので立証責任の転換までいった方がよいというふうに考えているのですが、これは余りあれですけれども、大学の授業では、ゼロの推定が働くというふうに学生たちには言っております。

 つまり、事業者は、キャンセルを受けたら、その穴を埋めるために最大限努力して、キャンセルがあったところをうまく埋めて事業をやっているから被害は起きないというゼロの推定が働くということにして、そうではなくて、やはりこれだけ損害があるんだということを逆に言ってもらうということにせざるを得ないんじゃないか。

 実は、大学の授業料の話が問題になったときに、大学の授業料に関しては、追試もある、追加合格もある、だから、そこが空の席になることはないからということで、ゼロの推定が働いているんですね。ですから、それを考えれば、転換までいった方がすっきりするということでございます。

黒岩委員 今の御説明ですごく合理的に理解できました。

 ゼロ推定に比べればまだましだということで、私は、現在の規定で平均的な損害の額をつかむこと自体が非常に困難な中で、類似の額をつかむことも、先生のおっしゃるとおり、大変困難だと思って、これは、実際には推定規定を入れたからどうなのというぐらいが私も当初からの疑問点だったんです。

 では、これで重ねて野々山先生にお聞きしますけれども、この点、実務者として、まさに司法の現場において、この推定規定というものがどれほどの効果が期待できるのか。

 あわせて、とにかく立証責任の転換までいかなければ、いや、この是非はともかくですよ、これが、別にそこまで必要ない、非と言うならそれでいいんですけれども、実際に平均的な損害額をちゃんと求めましょうよという目的に合致させる手段としたならば、私は、立証責任の転換までなければ、もちろん、事業者にとってはある程度の負担になるかもしれませんけれども、やはり消費者保護の観点、これのまさに利益衡量になるわけですから、この点について、私は、あくまでも立証責任の転換までなければ効果としては期待できないんじゃないか。ですから、効果を及ぼすことの是非はこの後また議論しますけれども、効果としては期待できないんじゃないか。

 この二点の、推定規定の効果のほど合いと、そして、今申し上げたように、立証責任を転換しなければ効果としての期待が余り持てないんじゃないかという、この点について、実務者としてのまさに感覚というものもお聞かせいただきたいと思います。

野々山参考人 おっしゃるとおり、立証責任の転換がないと抜本的な解決にはならないというふうに思っております。

 このキャンセル料の損害額を決めたのも事業者であります。一定の根拠を持って決めているかと思いますけれども、その根拠になる資料を持っているのも事業者でありますから、それを全て私どもの方で立証するということは、それは不可能なことでありますので、そういう意味では、不可能を強いられながら、その中でいろいろな努力をしているということであります。だから、そういう意味では、推定規定ではなくて立証責任の転換がやはり必要だというふうに思っております。

 ただ、それがなかなか難しいということであれば推定規定ということがありますが、これは先ほどの意見陳述でも申し上げましたが、同種で類似の消費者契約というような形で今推移していますが、私は、同種の消費者契約でいくべきだというふうに先ほども申し上げた例としては、非常に苦情の多いのが結婚式場のキャンセル料でありますけれども、そうしたら、そういう結婚式場のキャンセル料を幾つか持っていって、他の業者のキャンセル料の規定を持っていって、これとこんなに離れているじゃないかということを言ったら、実は自分のところはそうではないんだ、こういう違いがあるんだということで、しかも、こういう根拠で定めているんだということを出してもらったらいい。そういうもので集めていくことは可能だと思います。

 類似性ということになりますと、その類似性が何なのかということがやはり今問題になってきているんだろうと思いますけれども、規模であるとか内容であるとか、そういうことを細かく決められますと、それを集めることがまた今度不可能になるということになります、他のものが。開示しているところと開示していないところがありますし、いろいろなものがあるわけでありますので、その点について、やはり同種の消費者契約という形にしていただかないと実務的にはなかなか難しいなというふうに思っております。

 ただ、この推定規定が働いてきますと、もしできますと、もちろん、立証がある意味ではできる、そういう意味で、個別事件での改善ができるということが一つありますが、もう一つの効果としまして、私どもがやっている実感としては、そんなにきちんと精緻な議論をしてキャンセル料を定めているのではないのではないかということが思われます。かなり、丼勘定と言ったら失礼ですけれども、ざっとこのくらいということでやっている。それはやはりよくないと。

 やはり今、消費者契約法の九条で求めているのは、一定の根拠を持って損害を定めて、自分たちの損害は担保するとしても、それでもうけてはいけない、それで利益を上げる、いわゆるキャンセルで利益を上げることは問題があるということのメッセージだというふうに思いますので、そういう意味では、そういう推定規定があって、これが活用されますと、自分たちの方でまたそれを覆す、そういう作業が必要になってきますので、キャンセル料の決め方がより具体的になってくる、より自分たちの損害をきちんと定めて、判断してやっていくということになっていくだろう。

 そうすると、訴訟指揮等で出してきてもらっても、それがわかる。訴訟指揮をやって出てこないのは、わかりませんよ、わかりませんが、ちゃんと決めていないから出せない、だから拒否をしているという可能性も十分あるわけでありまして、そういう意味では、そういう推定規定が一定の働きを及ぼすということはあり得るというふうに考えております。

黒岩委員 野々山さん、ありがとうございます。

 総論としては、ないことに比べれば、やはり推定規定があった方がよりよいと。ただ、立証責任の転換がなければ効果のほどは決定的にはならないということですけれども、今おっしゃったように、キャンセル料の設定の仕方についてもう少し、実務上でいえば、精緻にやってもらいたい、この要請については効果が持てる、こういった実務者の御説明というのは非常に納得できたので、私ども、今後、消費者委員会の報告にも推定規定という、この前向きな姿勢も、方向性も出されていますので、まずはそこからということでしたら私も納得させていただきます。

 野々山先生に、ちょっとこれは単純な疑問なんですけれども、人間関係を濫用した勧誘の要件のところで、先生の方から四つの要件がありまして、これだけでも大変悪質だということで、これはそうだと思います。それに加えて、社会生活上の経験が乏しいという新たな要件を課すことはいかがかというのはわかるんですけれども、ちょっとプロセスでお聞きしたいんです。

 まず一番目で、消費者が勧誘者にまず恋愛感情などの好意を抱いていること。まず、抱いているわけですよね、消費者が、デート商法の勧誘者。次に、二番目なんですけれども、勧誘者自体が、ああ、そうか。これは、勧誘者が自分に対して同様の好意を抱いているというのは、自分というのは被害者。そうか。それで両思いを誤信。済みません、私、これを逆に捉えていて、勧誘者自身が自分に対して同様の好意をというと、あれ、どういうことなんだろうと思ったんですが、やめました。大事な時間を使っちゃったな。済みません。

 そうしたら、長谷川参考人にお聞きしますけれども、きょうの陳述の先生の御指摘、もちろんこれは、先ほどの濱村委員の御指摘にもあったとおり、事業者側と消費者側というのが、ある意味、二項対立ということではなくて、どちらにとってもこれは良好な、是となる制度ということは私も重々認識しております。

 そこで、率直にお聞きしたいんですけれども、いろいろな懸念とかを示しながら、最終的にこの改正法案に対する評価という点では、(1)でも、つけ込み型については、デート商法や不安をあおる告知で、商法にしっかりと対応だという評価になっています。

 また、適切な要件設定、予見可能性の担保、多分、予見可能性のところには平均的損害の額ということも含まれると思うんですけれども、これに対して、でも、やはり今、消費者側から、専門家の先生からも大変なる疑念が生じています。私自身も、非常にこれは大きな懸念とともに疑念であるんですけれども、これについて、やはり真正面から応え切れているという評価で、認識でよろしいのかどうか、改めて確認させてください。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 平均的損害の額につきましては、請求する側が立証するというのが原則の中で、訴訟指揮の実務等で対応できないほど現在不都合が生じているのかにつきまして、やや疑問に思っているというところが私どもの認識でございます。

    〔委員長退席、永岡委員長代理着席〕

黒岩委員 わかりました。

 ある意味、評価については今分かれているという状況ですので、これは委員会質疑の中で溝を埋めていくということも私たちの与えられた責務でありますので、その職責を全うしながら、よりよきものができ上がるようにという観点で話を進めていきたいと思います。

 きょうはお聞きしたいことが山ほどあるんですけれども、限られた時間ですので、お三方の先生に大変貴重な参考意見をいただきまして、これを実質的な質疑にまさに取り入れていきたいと思いますので、きょうは感謝を申し上げて、私の質疑を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

永岡委員長代理 次に、畑野君枝君。

畑野委員 日本共産党の畑野君枝です。

 消費者契約法の改正案に関する参考人質疑、きょうは、長谷川雅巳参考人、河上正二参考人、野々山宏参考人にお越しいただきまして、ありがとうございます。

 私も、今回の消費者契約法改正案、流れを見てまいりまして、ちょっと複雑だなと思った点があるんです。

 それはどういうことかというと、一つは、当委員会でさきの改正がされたときに、残された課題について附帯決議もつきまして、これを引き続き検討しようということが行われてまいりました。同時に、その中で成年年齢引下げの問題が出てきて、このワーキンググループも消費者委員会の中につくられる。二つの流れの中で、専門調査会の報告書が、平成二十九年報告書ということで出され、そして、その直後に消費者委員会としての二次答申が河上委員長名で出された、こういう経過があると思うんですね。

 それで、まず、さきの改正以降、どんなふうに議論をされてきたのかということと、それから、もう一方で成年年齢引下げとの関係があるんですが、当初の議論、それが成年年齢引下げのワーキンググループとの関係で何か変わったのか、追加されたのか、そういう点についてお伺いをしたいと思っております。

 私、きょういろいろ議論になっております二つの困惑類型の取消権、河上参考人からは、これは不十分であるという御発言が先ほどありまして、そうかと思いましたけれども、しかし、その二つが追加されたことにあわせて、社会生活上の経験が乏しいという要件が、当初なかったものが入ったことによって、これがどういう法的な根拠と、その後に影響力を及ぼしていくのか、ここは大変私もよくわからないところで、専門家の皆さんに教えていただきたいと思っている点なんです。

 その二つの流れについて、順番としては、河上参考人、長谷川参考人、野々山参考人の順番でお伺いしたいと思います。

    〔永岡委員長代理退席、委員長着席〕

河上参考人 民法の成年年齢が引き下げられた場合の新たな成年となる者の消費者被害の防止の対応策についてということで、別途諮問がございました。消費者庁の長官名であったかと思います。

 それで、その前に既に消費者契約法についての専門調査会は走っておりまして、それなりに論点を整理して、次々と解決すべき問題について慎重に審議をしてきたというところでございますけれども、他方で、消費者委員会としては、今この新しい問題についてゼロから検討するというのは専門調査会としては大変なので、ワーキンググループをつくらせていただいて、集中的にヒアリングとか検討をして、そのワーキンググループ報告書というのが平成二十九年の一月に出たところでございます。

 そのときには、消費者教育だけではなくて、いろいろな成年年齢引下げに対する対応についての方策を述べたんですが、その中でも、新成人が対応する契約についてはやはり消費者契約法で対応する必要があるということは述べていたわけでございます。

 もしこのワーキンググループの意見をそのまま入れるんだとすれば、やはり年齢等に対する配慮義務を一方で定め、そして、年齢等を理由として判断力が落ちているという場合に、それにつけ込まれたという場合の取消権というものを入れてやる必要があるだろう。さらに、若者について非常に被害が多いマルチの被害なんかがありましたから、それはまた別途特商法等で手当てをする必要があるということで、差し当たって消費者契約法では先ほど申し上げたようなところでの手当てをお願いしたいというふうに申し上げて、今度は専門調査会に投げたことになります。

 そこで、専門調査会の方でこの部分についても検討してくださったんですが、他方で、高齢者に対するつけ込みの問題とか、判断力が低下しているというようなものについても、やはり同時に、もう既に議論をしていたところがありましたので、その意味ではちょっといびつな形で議論が進んだんじゃないかというふうに思います。

 今回の年齢等じゃないところでの知識、経験、これを利用したというような部分に関して言うと、実は年齢等というのを取消権の要件のところに入れてくださいというふうに申し上げたんですが、それは、年齢という言葉はやはり使いたくないということで落ちてしまっているというようなことがございます。

 全体として見ると、やはり若年成人に対する手当てというところに相当の意識があったためにこの要件がそこにくっついちゃったという印象を個人的には持っております。

長谷川参考人 畑野先生、御質問ありがとうございます。

 成年年齢引下げの、とりわけワーキンググループの議論との関係につきましては、ちょっと私は詳しく存じ上げておりませんで、先ほどの消費者委員会の委員長をされていた河上先生の御説明のとおりだというふうに思っております。

 一点、先生の御質問の中で、例の附帯決議との関係につきましては、私が委員として参加させていただいた専門調査会の中では、今後どういう論点を取り上げていきましょうかという議論が最初の方の段階でございまして、その中でるる論点が、附帯決議に挙げられている論点に加えて幾つかございましたけれども、それにつきましては、まず附帯決議に載っているものを議論していきましょうということで、それが議論されたのと、それにつけ加えられたのはもう一点だけ、たしか、きょうも議論になっていますけれども、約款の事前開示の論点があったかと思いまして、附帯決議を尊重しながら専門調査会では議論をさせていただいたということだと理解しております。

畑野委員 済みません、今のお話で、社会生活上の経験が乏しい、その点の議論はどうですか。

長谷川参考人 社会生活上の経験が乏しいという要件につきましては、直接的には専門調査会でその文言について議論されたということはございません。

 ただ、他方で、つけ込み型の類型としてどういったものが考えられるかというところで、今回、デート商法でありますとか不安をあおる告知でありますとかというのが類型化されて今回の法案になってきているということだろうと思います。

 報告書段階では社会生活上の経験が乏しいという文言はなかったわけでございますけれども、ちょっとそれがどういった経緯で入っていたかということについては、専門調査会の委員としての立場では存じ上げないということでございます。

野々山参考人 成年年齢引下げと今回の法改正の問題につきましては、やはり成年年齢引下げをすることによって生じる可能性のある若年成年の被害に対してはこの消費者契約法で手当てをするということが大前提だったと思います。その意味で、評価としましては、不十分ではありますけれども、一定の手当てをしているとは思っています。

 ただ、これは、先ほども申し上げた、バスケット条項がないということが決定的に欠陥として挙げられる、問題点として挙げられるかというふうに思いますので、それがないと本当は成年年齢引下げに対応する消費者契約法の改正ということにはならないだろうというふうに私自身は評価をしております。

 それから、この成年年齢引下げと社会生活上の経験が乏しいことの要件ですけれども、恐らくこれは成年年齢の引下げがあるから入ってきたんだろうというふうに文理上読めるわけであります。ところが、今の議論では、これは高齢者にも当たる、それから若年者も一般的には当たる、こういうふうな形で今答弁はされておるわけでありますけれども、実務に行きますと、恐らく、先ほどの勧誘要件の幾つかの要件に当たる、これ自体で十分悪質なわけでありますけれども、それに対して、いや、この若年者はこの分野では社会生活上の経験は積んでいるんだという反論を許す結果になってくるだろうというふうに思います。

 そういう意味では、今のこの議論の中では、社会生活上の経験が乏しいことが入ったことが、若年者に有利になるというよりも、若年者の人たちに対してまた反論を許すような一つの要素にもなるわけでありまして、そういうものについても、他の要件で十分悪質性はあるわけで、事業者の方は悪質性を争ったらいいわけですね、自分はあの要件に当たらないということを争ったらいいわけでありまして、消費者に社会生活上の経験があるかないかを争うべきではない、争う必要はないのではないかというふうに私は思っております。

畑野委員 そうしますと、当初議論を皆さんのところでされてきた点でいうと、社会生活上の経験が乏しいというのは、なくていいというか、ない方がいいというか、それぞれのお立場、先ほども御発言があったと思うんですが、確認ですが、いかがでしょうか。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 報告書の文言では、例えば不安をあおる告知に関しましては「強調して告げる」という文言がございまして、他方で、それが今の法律案では落ちているということでございます。

 いわゆるデート商法、恋愛感情等に乗じた人間関係の濫用に関しましては、「意思決定に重要な影響を与えることができる状態となったとき」でありますとか、そういった文言がございまして、今の法案として出てきているものよりも若干そっちの方で、行為の方のかかっているところで要件が厳しくなっているのかなというふうに思っております。

 そういったことで取りまとめに至ったわけでございますけれども、それが法案になる段階で若干文言が修正されたということでございまして、行為のところの要件が若干緩まっている一方、社会生活上の経験が乏しいという要件が付加されているのかなというふうに理解しておりまして、全体として見れば、報告書の文言のバランス感がそのまま維持されているのかなというふうに思っているところでございまして、必ずしもこれがなくてもいいということではないのかなというふうに思っております。

河上参考人 社会生活上の経験が乏しいというのは、一つの要素ではあると思うんです。判断力が十分でないということ、それから、若いですから、不安であったり、そういう一つの要素ではあるんだろうと思いますけれども、そうでなくても、普通の人間にもある種の不安心理があったり、場合によっては、高齢者なんかは依存心が出たり、通常の人でも、実は興奮状態に置かれると、SF商法なんかでははっと手を挙げてしまうようなところはあるわけです。

 ですから、そうした不安心理、依存心、興奮状態、場合によっては無知、無経験というようなものも含めて、これは意思表示に瑕疵を生ずる可能性は高いわけですから、社会生活上の経験が乏しいという場合だけを切り出して、それに対する対応でよしというふうにするのはやはりちょっと狭いんじゃないかというふうに思います。

櫻田委員長 野々山宏参考人、恐縮でございますが、簡潔にお願いいたします。

野々山参考人 結論としては不要だというふうに考えております。

 先ほどの長谷川参考人の御意見の中で、「強調して」がないというふうにおっしゃいましたが、実は、「不安をあおり、」という要件があります。それがこれに変わっております。ですから、不安をあおるということが「強調して」と同じような形になっております。

 それからあと、三号の方では、報告書では「不安を抱いて」と単純に不安だったのが、「過大な不安」というのが、報告書になかったものとして要件が入っております。

 それからさらに、人間関係を濫用することについては、先ほどから問題になっている両思い誤信要件というものも報告書にないもので入ってきておりまして、そういう意味では、勧誘行為に対する要件は厳しくなってきております。

 さらにこれに「社会生活上の経験が乏しいことから」を入れる必要はないと考えております。

畑野委員 以上、質問させていただきました。

 本日はありがとうございました。

櫻田委員長 次に、柚木道義君。

柚木委員 国民民主党の柚木道義と申します。

 きょうは、参考人の皆様、本当にありがとうございます。

 実は隣で、法務委員会で民法改正、成人年齢引下げの参考人意見陳述並びに質疑がなされておりまして、ちょっと私、行ったり来たりだったものですから、それぞれ十全にお聞きできていない部分がありますので、そこは御容赦をいただき、また、その関係で質問時間を御配慮いただきました各会派の皆様、本当にありがとうございます。

 それでは、まず冒頭、まさに消費者契約法の改正案と、そして民法の成人年齢十八歳引下げとの関係性について、河上参考人から御意見を伺いたいんですが、この間、きょう議論もあるように、消費者契約法改正案においては、若年層などの保護を意図し、つけ込み型勧誘による消費者契約を取消しできる例として、社会生活上での経験が乏しいことを理由として取消しできるなどが盛り込まれております、これに意見ももちろんありますが。そして、民法改正案では、これとは逆に、十八歳を成人として契約行為をみずからできるようにするということでございます。

 ちなみに、野党提出、消費者契約法改正案修正案、これは今、内々にいろいろな御議論も賜っていると承知しておりますが、ここにおいては、まさに民法改正案や消費者契約法改正案のはざまで消費者が保護されない事態が生ずることを防ぐために、消費者の年齢、生活状況、財産状況を考慮する、そして、社会生活経験が乏しくなくてもつけ込み型勧誘による消費者契約を取消しできることなどを規定をし、また、検討事項としてつけ込み型勧誘などについての検討措置を設けているということでございます。

 これはぜひ、消費者委員会の答申を見ても、野党による修正案を盛り込んだ形で、河上参考人が委員長時代のそういった文案を見ても、ぜひ消費者契約法を野党の修正案を盛り込んだ形で改正することが、よりこの間の流れに資するものと承知をするわけでございますが、河上参考人の御意見を賜れればと思います。

河上参考人 どうもありがとうございます。

 十八歳を成人とするということによって、少しでも若い人たちも自立した契約ができるようにというのはわからないではないんですが、ただ、他方で、やはり新成人になっていく人たち、今私は大学で教えていますけれども、大学一、二年生あたりはやはりまだまだ危ないという感じがしておりまして、何らかの形でセーフティーネットを張ってやるということは、これは大事なことだというふうに思います。

 法制審でも、実は、セーフティーネットがちゃんと張られているということが前提になって成年年齢の引下げということが承認されたと理解しております。

 先ほどの話で、修正案というのを実は前に拝見させていただいたことがあって、そこで、消費者の年齢並びに生活、財産状況というのも追加的に考慮事由に入れてはどうかというお話があるやに伺っておりますが、ちょっとこれに関しては、生活や財産状況というものが入るとすると、これは投資取引の場合は必要なことで、適合性原則を実効ならしめるためにいろいろな調査をさせます。ところが、消費者契約の場合にこの生活や財産状況に対する配慮義務というのを入れた場合には、事業者は、いたずらにアンケートをしたり、調査義務とか調査権が欲しいというようなことを言いそうで、逆にちょっと心配な部分がございます。

 個人情報の保護という観点からは、ここにもし入れるのであれば、事業者の認識し得たというふうにして、積極的に情報収集しなくても、知っていたのにという形で、し得たぐらいを入れて限定する方がいいんじゃないかということであります。

 バスケットクローズで取消権を与えるということを規定するのが一番大事なことでありますけれども、ちょっと、その後、つけ込み型勧誘などについて検討措置を設けるというのは、検討事項に入っているのが、これがどういう関係にあるのかよくわからなくて、私は、当初から申し上げているように、検討せよではなくて、そういう改正を実現してほしいということを申し上げております。

柚木委員 非常に今後の与野党協議にも資する御示唆も賜りまして、ありがたく思います。

 限られた時間でございますので、ちょっと、先ほどの野々山参考人のお話を伺っていた中で三点、余計なものと不足のものということでございました部分をもう少し掘り下げて伺えればということで一問お聞きしたいんですが、これはまさに、社会生活上の経験の乏しいことからの要件によって切り捨てられるのは中高年であると、資料三ページ目、六番目にも書いていらっしゃって、これがまさに、高齢者の救済の範囲を狭める要件をわざわざ設ける必要はないんだということで、削除すべきだということを九番目にお書きをいただいているわけでございます。

 これは、もしお聞かせいただければ幸いなのは、削除しない場合のさまざまな影響、問題点を、もし可能でしたら、この間、さまざまな事例に取り組まれてきた、具体例も挙げて御教示をいただければと思いますが、いかがでしょうか。

野々山参考人 削除しない場合については、この要件自体で、解釈でどうなるかという問題がありますけれども、字面からしますと、例えば一定のサラリーマンであるとか家庭の主婦であるとか、そういう人たちが買物をしたり、あるいはいろいろなものを購入したときに、この人たちが先ほど言ったような勧誘を受けて契約してしまった場合に救われないということになります。

 それから、一定の高齢者の方であっても、リタイアした瞬間の人とか、あるいは社会経験というと、高齢者の人でもいろいろな活動をしているわけで、今ボランティアでもやっているわけですし、そういう人たちがどうなのかということがやはり問題となります。

 それと、私が一番懸念するのは、相談の現場であり、裁判の現場であります。そういう中で、一定のそういう問題のある勧誘行為が行われて、それは問題ですよと相談員の方が窓口で言ったとしても、いや、この方は社会的経験を積んでいますと字面で言うわけですね。いろいろな解釈がある。解釈で示されるといいますが、それに当たらないような場合にはどうなのかが議論になってくるわけであります。そうすると、せっかく定めたこの法律が、この要件があることによって十分に活用できない場面が十分想定されるというふうに思います。

 それから、裁判においても、裁判はやはりこの要件を、法律の文言をどう解釈していくかということが争いになるわけでありまして、この字面そのものからすると、やはり、一定の年齢に達して、一定の経験を積んでいる人は外れるんだということになります。その範囲が何なのかについては、もちろん消費者庁の方で逐条解説等で解釈は出してもらえると思いますけれども、そういう中でも漏れるところがある、そこはどうなっていくのか、それは議論をしていかなくちゃいけません。

 それから、先ほど言いましたように、裁判官は独自の判断をいたします。この法律の文言から考えていって判断をいたします。そういう中で、先ほども例を挙げましたクロレラチラシ事件という事件がありまして、その事件につきましては、消費者庁の逐条解説とは異なる判断を最高裁がしているということがありますので、そういう意味では、担保になるのかという懸念がありますので、そういう実務上の問題点も十分あるというふうに考えております。

柚木委員 ありがとうございます。

 これまた、法案修正審議をぜひしっかりと進めていただければという本当に御示唆をいただいていると思っておりまして、残りの時間、ちょっと具体で、機会があれば長谷川参考人にもお願いしたいと思っているんです。

 実は、隣の法務委員会でもやってきたんですけれども、委員の皆さんも御承知かと思いますが、今、インターネットやSNSを通じて、とりわけ、今回、民法改正案が、仮に若年成年、十八、十九が対象になれば、非常に懸念をされるさまざまな調査データがございます。

 例えば、三十年、ことしの三月二十三日に内閣府が取りまとめている、若年層を対象とした性暴力被害等の実態把握のためのインターネット調査の報告を見ると、これは私も驚きましたけれども、事前に聞いていない性的な行為等の撮影を求められた経験があるのは九人に一人、うち、実際に求められた行為に応じたのが約半数、そして、誰かに被害の相談をしたのが約六割。

 十八歳、十九歳の消費者センターへの相談の内容も、十八歳、十九歳いずれも、男女問わず、最上位はアダルト情報サイトあるいはそういった出会い系サイト、こういったものが一位、三位、四位と占めています。

 ですから、例示としてこれが適切かどうかはあれですけれども、具体的なところで河上参考人に伺いたいのは、象徴的な事例として、例えばAVビデオの出演の強要問題というのが実はことしになっても摘発もされていて、これは本当にゆゆしき問題だと思います。もちろん、年齢も問題なく、合意の上で職業としてされることに対して、私は何ら差別の感覚を持っておりません。

 ただ、問題は、同意なくこういう撮影を強要されて、人権問題だとも考えるわけでありますが、これは密室のことでもあって、警察による強要罪あるいは強制性交等罪の逮捕も実務上は難しいとも聞いておりまして、こういった象徴的な事例も含めて、被害当該者を、特に若年成年みたいな形になってくるとなおさらなんですけれども、そしてまた、消費者契約法の改正の中身も含めて、これは非常に懸念をされる部分だと思っておりまして、どのような取組が必要とお考えになられるか、河上参考人から御意見をいただければと思います。

河上参考人 私は民法の専門なので、そちらの方からしか申し上げられませんけれども、ひとまずは、当初の勧誘内容や契約条件と異なるAV出演の強要があるというような場合には、消費者契約法上の取消権をまずは認めておいてやるということ、これは大事でして、場合によってはクーリングオフのような形で契約から速やかに抜け出すということを可能にすることも考えられます。

 場合によってはですけれども、契約書にサインをさせられて、そして、あるところに違約金条項が入っていて、そこに拘束されるというようなこともあるやに伺っておりますので、そうした違約金条項についても無効化しておくということが必要だろうという気がするわけです。

 ただ、クーリングオフとか取消権とか、契約からの離脱というのは、これは、話が違うというふうにわかった時点、あるいはそういうふうに言った時点ですけれども、大体手おくれであります。

 ですから、それを考えると、実効性のある被害予防のためには、こうした出演強要行為があった場合には、一定の刑事責任、刑事罰で対応することが必要ではないかと思います。これは、要件面で今先生がおっしゃったような問題が若干あるわけですので、その部分について速やかに検討して、刑事罰を用意するという方向を一つ考えないといけないのかなという気がいたします。

柚木委員 これはお聞きいただいていると、まさに消費者契約法改正案と民法改正案が、ある意味、パラレルで課題を抱えていることを今おっしゃっていただいたと思っておりますので、仮に十八歳成人となると、それを理由としてAV出演契約の無効、取消しができないと逆に業者が主張するおそれもあるわけで、これは内閣府も認識は一致していたんですね、答弁をいただいたんですが。そういったことも踏まえた審議をおのおのの法改正でしていきたいと思っています。

 限られた時間ですので、あと一、二問できればと思っていますが、よく皆さん御承知のダイエット食品や健康食品などの通販ですね。お試し無料とか初回無料とか、こういうことでお試しの割引だけ申し込んだつもりが、二回目にも商品が届いて、初めて定期購入、継続購入の契約だったことがわかってトラブルになるケースがよくあります。

 これは、お試し購入の際に定期購入、継続購入という契約内容がわかりやすく表示されていないという問題もあるわけですが、何よりも、通販でも特定商取引法が適用されてクーリングオフが適用されるよう、法改正を行って対処すべきだと考えるわけであります。

 これは河上先生と、それから、きょう長谷川さんもお越しいただいておりますが、まさに悪質事業者を淘汰して、ちゃんとまともにやっているところを、ちゃんと正当な事業が行われるという観点からも、それぞれから一言コメントをいただければと思いますが、いかがでしょうか。

櫻田委員長 時間が経過しておりますので、ごく簡潔にお願いします。

河上参考人 御指摘のとおり、これは表示の問題が大きいわけでして、景表法上の優良誤認表示になる可能性は高いということであります。できれば、目につくうたい文句に続けて、同じ大きさの文言で、これは継続取引への勧誘であるということを明示させるという必要があるかと思います。

 先生御指摘のように、今日では、通信販売でも返品特約というのが実際にはかなりの部分がついています。ですから、それでトラブルが多くなって困ったという話は聞きませんので、この際、もう通信販売にもクーリングオフを導入するということが考えられてよい時期になっているんじゃないかとは思います。これは消契法の問題とは少し違ってきますけれども、以上でございます。

長谷川参考人 済みません、まことに申しわけないんですけれども、組織的にちょっと検討を経団連でしたことがございませんので、御指名とあれば検討させていただきたいというふうに考えております。

柚木委員 以上で終わりますが、ぜひ、それぞれ与野党、きょう全ての委員の皆さんの質疑の中で、この法案審議における課題が明確になってきていると思いますので、それぞれ反映をいただくことをお願いをして、参考人の皆さんにお礼を申し上げて、質疑を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

櫻田委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十七分散会


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