衆議院

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第2号 令和元年11月7日(木曜日)

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令和元年十一月七日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 佐藤  勉君

   幹事 岩屋  毅君 幹事 小林 鷹之君

   幹事 齋藤  健君 幹事 柴山 昌彦君

   幹事 新藤 義孝君 幹事 山下 貴司君

   幹事 奥野総一郎君 幹事 山花 郁夫君

   幹事 北側 一雄君

      稲田 朋美君    衛藤征士郎君

      越智 隆雄君    大串 正樹君

      鬼木  誠君    門山 宏哲君

      上川 陽子君    城内  実君

      黄川田仁志君    後藤田正純君

      田所 嘉徳君    中曽根康隆君

      中山 泰秀君    長島 昭久君

      丹羽 秀樹君    平沢 勝栄君

      福山  守君    藤井比早之君

      船田  元君    務台 俊介君

      森  英介君    逢坂 誠二君

      源馬謙太郎君    近藤 昭一君

      階   猛君    玉木雄一郎君

      辻元 清美君    照屋 寛徳君

      中川 正春君    古川 元久君

      前原 誠司君    道下 大樹君

      山尾志桜里君    國重  徹君

      浜地 雅一君    赤嶺 政賢君

      本村 伸子君    馬場 伸幸君

      井上 一徳君

    …………………………………

   衆議院憲法審査会事務局長 加藤 祐一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十八日

 辞任         補欠選任

  重徳 和彦君     階   猛君

十一月七日

 辞任         補欠選任

  石破  茂君     福山  守君

  田所 嘉徳君     門山 宏哲君

  福井  照君     中曽根康隆君

同日

 辞任         補欠選任

  門山 宏哲君     田所 嘉徳君

  中曽根康隆君     福井  照君

  福山  守君     石破  茂君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団の調査の概要)


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     ――――◇―――――

佐藤会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 この際、令和元年衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団団長の森英介君より報告を聴取いたします。森英介君。

森(英)委員 衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。

 私どもは、去る九月十九日から二十九日まで、ドイツ、ウクライナ、リトアニア及びエストニアの憲法及び国民投票制度について調査をしてまいりました。

 この調査団は、本審査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、団長を務めさせていただきました私から、調査の具体的な内容について御報告をさせていただき、委員各位の御参考に供したいと存じます。

 議員団は、私を団長に、本審査会の会長代理である立憲民主党の山花郁夫君を副団長とし、自由民主党からは新藤義孝君及び江渡聡徳君、国民民主党からは奥野総一郎君、公明党からは北側一雄君がそれぞれ参加され、合計六名の議員をもって構成されました。

 なお、この議員団には、衆議院憲法審査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員が同行いたしました。

 調査団は、ドイツ、ウクライナ、リトアニア及びエストニアの各国を訪問いたしましたが、訪問国に共通するテーマとして、第一、憲法改正について、第二、国民投票について、及び第三、緊急事態条項についての三つの関心事項を設定するとともに、第四、その他として、各国ごとに特色ある事項についても調査を行ってまいりました。

 そこで、この四つの関心事項に沿って調査の概要を報告いたします。

 まず、関心事項の第一、憲法改正について御報告いたします。

 最初の訪問地であるドイツのベルリンでは、当地の公法学の権威であるフンボルト大学のクリストフ・メラース教授、州メディア監督機関連盟ゼネラルマネジャーのアンドレアス・ハマン氏ら、連邦司法・消費者保護省のアレクサンダー・シェーファー課長ら、連邦教育研究省のインゴ・ルーマン課長らと相次いで意見交換を行いました。

 これらの訪問先のうち、憲法改正については、メラース教授より示唆に富んだ指摘を受けました。

 ドイツでは、戦後六十三回も、ドイツの憲法に当たるドイツ連邦共和国基本法の改正が行われています。

 六十三回もの改正が行われた原因として、メラース教授は、第一に、与野党の関係に代表される政治のあり方と、第二に、連邦制における連邦と州の関係という二点を挙げられました。すなわち、六十三回の改正のほとんどは、連邦制からくる連邦と州の権限分配の見直しなどの技術的な改正であり、連邦制における連邦と州の関係に由来するものであるということです。これは、第二の理由によるものです。

 一方、技術的な改正ではなく、政治色の強い改正の場合は、与党の提案と野党の提案について、合意に至る過程で抱き合わせて、両方とも成立させることがあるという政治のあり方に由来するものがあるとのことでした。これは、第一の理由によるものです。例えば、二大政党の一つであるキリスト教民主・社会同盟が提案した緊急事態条項を一九六八年に成立させ、二大政党のもう一つである社会民主党が提案した、国民が憲法裁判所に対して人権救済を訴えることができる憲法異議の制度を一九六九年に成立させるといったぐあいです。

 このように、与野党が基本法改正のために大胆な妥協をいとわない政治文化がある一方で、妥協が繰り返される結果、基本法になじまない法律レベルの事項まで基本法レベルで規定されてしまう傾向があり、憲法の安定性からすると、この点については批判もあるとのことでした。

 次の訪問国であるウクライナでは、まず、憲法裁判所を訪問し、オレクサンドル・トゥピツキー所長らと意見交換を行ったほか、国立戦略研究所のオレクサンドル・リトヴィネンコ所長らとも意見交換を行いました。また、オレクシー・ホンチャルク首相及びドミトロ・ラズムコフ最高会議議長を表敬訪問し、新しい大統領と議員が選ばれ、諸改革へ取り組んでいる最中であるウクライナについてのお話を伺いました。

 これらの訪問のうち、憲法改正については、まず、憲法裁判所のトゥピツキー所長から次のようなお話を伺いました。

 ウクライナ憲法裁判所は、法律などの違憲審査権だけでなく、憲法改正に際し、国会からの憲法改正案の送付を受けて、第一に、憲法改正の内容が憲法の定める枠内におさまっていることという内面的な側面と、第二に、憲法改正の手続が憲法の定めにのっとっているという手続的な側面の両面から客観的にチェックする権限も有しているとのことです。また、後ほど改めて言及いたしますが、懇談に同席されたオレフ・ペルヴォマイスキー裁判官は、緊急事態条項自体はどのような国家にも必要なものと思うと述べる一方で、これを憲法に規定する必要があるかどうかについては、国それぞれの事情によるのではないかという意見も述べられました。

 次いで、国立戦略研究所のイリーナ・パブレンコ局長からは、ウクライナでは、憲法改正を行うか否かに関して大統領が大きな権限を持っていること、ウクライナの政治体制が、大統領が強い政治体制である大統領・議会制と、議会が強い政治体制である議会・大統領制との間で揺れ動いていることに象徴されるように、ウクライナの憲法改正は大統領と議会との権力闘争の歴史であり、政治体制の変革のたびに大統領と議会のどちらかに権力が傾くことで、常に権力相互のバランスを欠くことになり、それが権力闘争を招く一因となっていること、その結果、いつまでも憲法が安定することなく、また、旧ソ連時代からの問題もいまだに克服されていないとの説明を受けました。

 第三の訪問地であるリトアニアでは、中央選挙管理委員会を訪問し、ラウラ・マティヨシャイティーテ委員長と意見交換を行い、次いで、憲法裁判所においてダイニウス・ジャリマス長官と意見交換、そして法務省を訪問し、イルマ・グジューナイテ副大臣と意見交換をいたしました。また、ビクトラス・プランツキエティス国会議長らを表敬訪問し、来年が杉原千畝氏の命のビザから八十周年であり、スギハラ・イヤーとする動きがあること、杉原氏が副領事として赴任していたカウナスが二〇二二年にヨーロッパ文化首都になることなどを伺いました。

 これらの訪問先のうち、憲法改正についての議論を御紹介いたしますと、憲法裁判所のジャリマス長官から、リトアニア憲法は、一九九二年の制定以来十回の改正をしたが、その根本は変わっていないこと、大きな改正と言うことができるのはEU加盟に伴うものだけで、憲法の安定性は維持されていること、憲法裁判所は、憲法保障機関として、このようなリトアニアにおける憲法の安定性に寄与しているとの紹介がありました。

 最後の訪問国であるエストニアにおいては、まず、国会において、シーム・キースレル議員、オウデッキ・ローネ議員、アンティ・ポーラメッツ議員という、現在、連立政権を組んでいる与党のうち、所属政党の異なる三人の議員と意見交換を行いました。次いで、法務省のアーロ・モットス課長らと面談したほか、教育科学省のクリステル・リッロ次長及び経済通信省のラウル・リック課長と意見交換を行いました。

 これらの訪問先のうち、憲法改正については、議会において意見交換をした三人の国会議員から、憲法制定時に国民投票が行われたが、その後の五回の憲法改正のうち、国民投票が行われたのはEU加盟のときだけで、他の四回は議会の議決による改正だったこと、五回の憲法改正のうち三回は、地方議員の任期延長、国防軍司令官の任免規定の削除、前文にエストニア語保護を追加という技術的な改正であり、重要な改正は、EU加盟と、地方議会の選挙権年齢を十八歳から十六歳に引き下げたことの二回のみであったことの紹介がありました。

 その上で、ローネ議員からは、地方議会の選挙権年齢の引下げのための憲法改正は議会の議決によって行われ、国民投票は実施されなかったが、選挙権年齢の引下げは民主主義にとって重要な事柄であり、国民投票を実施した方がよかったのではないかという個人的な意見が述べられました。

 次に、第二の関心事項である国民投票について、その概要を御報告いたします。

 まず、ドイツには、国民投票の制度はありません。この点について、メラース教授によると、ナチスが国民投票を通じて政権を掌握していった経験から、ドイツにおいて国民投票が導入されることは将来的にも考えられないとのことでした。

 また、国民投票そのものの論点ではありませんが、我が国においても、近年、国民投票などに際してのフェークニュースの問題など、インターネットに関する問題が指摘されています。この点、ドイツのインターネット規制については、主に、連邦司法・消費者保護省のシェーファー課長らからお話を伺いました。

 最近制定されたSNS規制法で、SNSを運営する事業者は、誰もが容易にアクセスできる苦情処理手続を設けなければならないことが規定され、苦情処理状況について、半年に一度、報告書提出が義務づけられることになったとのことでした。ところが、ある事業者から提出された苦情件数が著しく少なかったため、不審に思って調べたところ、その事業者の苦情処理手続について法律違反が見つかったため、二百万ユーロ、邦貨にして約二億五千万円の過料を科したというエピソードが紹介されました。

 次に、ウクライナの国民投票については、主に、憲法裁判所のトゥピツキー所長らからお話を伺いました。

 トゥピツキー所長らからは、二〇一八年四月に憲法裁判所が国民投票法の違憲判決を出したため、憲法改正のうち国民投票が必須とされている憲法第一章総則、第三章選挙及び国民投票、住民投票及び第十三章憲法改正手続に規定されている条項については、現在、改正が不可能な状態にあるという説明がありました。したがって、早急に新たな国民投票法を制定する必要がありますが、その行方を見通すことは難しいとのことでした。

 リトアニアにおける国民投票については、主に、マティヨシャイティーテ委員長ら中央選挙管理委員会の委員らからお話を伺いました。

 リトアニアの国民投票は数多く行われていますが、承認までされたのは、リトアニア独立、駐留ソ連軍撤退、憲法制定及びEU加盟の四回のみとのことでした。これは、国民投票について、有権者総数の過半数という最低投票率の縛りと、テーマに応じて、有権者総数の四分の三、有権者総数の過半数などの三種類の絶対得票率の縛りという大変厳しい二重の縛りがあるためとのことでした。

 リトアニアの国民投票制度においては、国民投票運動をしようとする団体は、中央選挙管理委員会に登録するとともに、銀行口座を開き、この口座で個人、団体からの寄附を受けるとのことで、寄附総額の上限は百十万ユーロ、邦貨で約一億四千万円とのことでした。この範囲内で国民投票運動としてCMを流すことは可能だが、リトアニアでは、国民投票運動に際してコマーシャルを流すという文化がなく、CMはほとんど行われていないとのことでした。

 エストニアの三人の国会議員からは、基本的には、これまでの憲法改正において社会が分断されるようなテーマはなかったが、例えば、エストニアがEUに加盟する際の国民投票においては、政党間のみならず、政党内部においても意見が半々に分かれていたところ、このような状況においても国民投票に付さなければならないときもあるという意見が述べられました。

 また、エストニア憲法によると、国民投票が成立しなかった場合には自動的に議会が解散となるので、国民投票に付すことに慎重になりがちであり、そのため、現在の連立政権の合意として、そういう場合であっても必ずしも議会解散とならずに済むような、国民投票をもっと柔軟に行うことができる方策を検討中であるという意見がキースレル議員から述べられました。

 続いて、第三の関心事項である緊急事態条項について御報告申し上げます。

 緊急事態条項については、現在、ロシアと緊張関係にあるウクライナにおいて、憲法裁判所のペルヴォマイスキー裁判官が、緊急事態条項はどのような国家にも必要なものと思うと述べられたことは既に御紹介いたしましたが、ウクライナにおいては、緊急事態が宣言されると、緊急事態においても保障されるべき人権を制約しない範囲内で、さまざまな緊急措置が講じられるとのことでした。また、緊急事態宣言中は国政選挙も地方選挙も実施できなくなり、かわりに、現在の議員の任期が延長されることになります。そこで、選挙を実施して新しい議員を選出する必要があると判断されれば、あえて緊急事態を宣言しないこともあるとのことでした。

 そのほか、憲法そのものからは少し外れますが、憲法の周辺に位置する事項として、興味を引いた事項を幾つか御報告いたします。

 リトアニアでは、国会議事堂、杉原千畝記念館、また、KGB博物館等を視察いたしました。国会議事堂については、一九九一年、リトアニア独立を恐れるソ連が議会やテレビ塔など首都ビリニュスの主要施設を制圧しようとしたとき、数万人の市民が、犠牲者を出しながら議事堂の周りに人垣とバリケードをつくって言論の府を守り抜いたこと、第二次世界大戦の直前、カウナスの領事館の副領事だった杉原千畝氏が、要件に該当していない者に対してみずからの判断で日本通過ビザを発行し、六千人ものユダヤ人を救ったことが今なおリトアニア国民の尊敬を集めていることなど、団員一同、深く胸を打たれました。

 また、エストニアは、独立時からe―エストニアを国是とし、IT国家を建設してきましたが、これについては、エストニアが旧ソ連の科学技術の拠点の一つであり、旧ソ連時代から情報通信技術の分野に強い大学が存在していたこと、独立当初は国づくりに政府が忙しかったため、IT化については専門家に任せてしまったことが功を奏したとのことでした。IDカードは一〇〇%近く普及し、既に電子政府も実現しているとのことです。

 最後に、以上を踏まえて、団長として若干の所見を申し上げます。

 まず、ドイツでは、基本法改正が六十三回も行われていたことは承知していましたが、今回の調査を通じて、六十三という数字の背後にある事情について改めて考えさせられました。すなわち、国の基本法をよりよいものとするために、与野党の間で大胆な妥協をするという手法は、我が国でも当然考慮する必要があると思います。ただ、その際には、憲法の体系を崩すことがないように十分注意すべきであること、また、六十三回という改正回数に目を奪われがちですが、表面的な数字のみにとらわれることなく、その国の憲法をめぐる政治文化や背景も考慮しなければならないことに気づかされたところです。

 また、ウクライナの緊急事態条項については、憲法上、議員任期の延長が規定されており、今後の我が国の憲法改正論議で参考になると思われました。

 一方、国民投票運動等の際のCM規制やネット社会での表現の自由と人権との兼ね合いについては、各国ともまだ十分な検討が行われていないと感じました。したがって、我が国は、我が国の法制度のもとで現在の議論を深めていくことが望ましいと感じました。

 そのほか、エストニアのIT立国に向けての取組は、今後の世界が目指すべき方向でありましょうし、また、リトアニアにおける杉原千畝記念館等の視察は、万感胸に迫るものがありました。

 今、御報告申し上げた調査の詳細は、現在、海外派遣報告書を鋭意作成中でございますが、こちらもあわせて御参照くださいますようお願いいたします。

 最後になりましたが、今回の派遣に御協力をいただきました全ての関係者の皆様方に心から感謝を申し上げまして、私の報告とさせていただきます。

佐藤会長 ありがとうございました。

 以上で海外調査の報告は終了いたしました。

 引き続きまして、調査に参加されました委員から海外調査報告に関連しての発言をそれぞれ七分以内でお願いをいたします。

 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前及び終了時にブザーを鳴らしてお知らせをします。

 それでは、まず、山花郁夫君。

山花委員 森団長、お疲れさまでございました。

 今の団長の御報告に、私自身の所見も加えまして、若干補足的に発言をさせていただきたいと思います。

 まず、ドイツに関してです。

 ドイツの連邦議会は、不祥事などの問題を解明するために、公開の審議において必要な証拠を取り調べる調査委員会を設置する権利というものを有し、調査終了後に連邦議会に報告書が提出されるという制度がございます。

 日本国憲法に置きかえた場合、これは国政調査権に類する制度と言えるのではないかと思いますが、しかし、国政調査権は、衆議院、参議院、この院の権能とされておりますので、院議をもって、つまり多数決によらなければその発動はできないことになっています。

 現代立憲主義において、議会による行政統制が重要な役割を担うべきところ、議院内閣制のもとでは、そもそも議会の多数派が内閣を構成しているわけですから、その内閣をチェックするために多数決をもって国政調査権を発動するということは実は困難であるということは、ここ数年の国会運営を見ても明らかなことと思われます。

 この点、ドイツでは、総議員の四分の一以上が要求する場合には調査委員会の設置が義務づけられ、少数者調査権と呼ばれる制度が注目されます。

 ただ、私自身は、この制度について若干の疑問を持って渡航いたしました。と申しますのも、もし四分の一という少数で調査委員会を設置をしたとしても、例えば議会による多数派が委員長を握って、理事会も多数決原理によるのだとすると、実効性は期待できないのではないかというような疑問を持っていました。

 先ほど団長からも御紹介がありましたフンボルト大学のクリストフ・メラース教授の御回答は、政府は議員の情報取得権に誠実に応えなければならないのがルールだというものでございました。そして、仮に与党が議長になったというケースであったとしても、不誠実なことはできないのだ、おかしなことをすれば、最終的には憲法裁判所で判断をするのだというようなお話を伺いました。

 法治主義ということが非常に貫徹されているということと、立憲主義の精神が生かされているということを感じてまいりました。

 次に、国民投票制度について発言いたします。

 ウクライナの国民投票は、税金、予算及び恩赦に関する法律案を除き、あらゆる課題について、国民発案、イニシアチブが認められているという特徴。

 リトアニアの国民投票は、拘束的及び諮問的な国民投票の二種類があって、いずれも最低投票率、絶対得票率の要件があること、また、有権者によるイニシアチブも認められております。

 エストニアの国民投票は、予算、租税、国の財政問題、国際条約の批准及び破棄、非常事態の宣言及びその終結、国防を除いて、国会の議決により国民投票が行われるというものでありました。

 ドイツは国民投票の制度がありませんが、全体を通じて共通しておりますのは、憲法改正とは別に、国民投票という制度が非常に重視をされていて、また、しばしば行われているということであります。これは、選挙が終われば全て白紙委任ということではなくて、間接民主制の補完原理がしばしば発動しているというふうに評価をすることができるのではないでしょうか。

 また、形式的には憲法改正といっても、テーマを見ると、日本国憲法に置きかえた場合、そのほとんどが法律事項や予算措置で済むものが見受けられます。

 国民投票制度のないドイツの例ではありますけれども、さきの第六十三回目の改正は、教育インフラの向上のため、また社会的弱者のための住宅建設について、連邦から地方自治体への財政支援を可能にするという内容であります。

 ほかの国でも、EU加盟についてはさすがに日本国憲法に置きかえても憲法改正に相当するような内容と言えましょうけれども、先ほど団長からも報告がありました、国会議員の定数であるとか地方議員の任期などが憲法に規定されておりまして、これを改めるためには憲法改正の手続が必要とされるわけでありますが、日本では、国会法や地方自治法など、法律改正によって対処しているものがほとんどでありました。

 間接民主制の補完原理としての国民投票という観点から申し上げますと、我が国の国民投票法の附則第五項に「必要な措置を講ずるもの」と定められ、平成二十六年改正時の衆議院憲法審査会における附帯決議において結論を得るように努めることとされ、当審査会ではまだ履行されていない宿題であります一般的国民投票に類することが、ドイツを除く訪問国でしばしば行われているということがよく理解できたと感じております。

 なお、ドイツにおいて、緊急事態条項のお話がございましたが、先ほどございましたメラース教授からは、緊急事態においては、絶対に民主主義を壊さない規定の仕方が必要である旨の指摘があったということ、また、ウクライナにおいては、国立戦略研究所のリトヴィネンコ所長から、緊急事態においては、人権制限について最小限度であるべき旨の発言があったことも補足をしたいと思います。

 比較法的に見ますと、大陸法系の国では憲法裁判所を設置したりとか緊急事態条項を持つ国が多いのに対して、英米法の国では司法型の憲法裁判を行い、緊急事態を持たないというのが一般的な分類です。日本は後者に属すると思いますが、今回の海外調査は大陸法系の国が中心であり、今後、この課題については、英米法系の国での海外調査を行うことが望まれると考えます。

 以上です。

佐藤会長 ありがとうございました。

 次に、新藤義孝君。

新藤委員 自民党の新藤義孝でございます。

 今回の調査に関しまして、若干の所見を申し述べたいと思います。

 まず、ドイツでございますが、ドイツは、ことしの三月に、ドイツの憲法に当たる基本法について六十三回目の改正を実施いたしました。このように改正回数が多いのは、必要があれば随時改正を行うという姿勢が堅持されている、こういうことはもちろんでありますが、一方で、ドイツ基本法には、我が国では法律レベルで規定されていることまで規定されている、そういう構造的な要因もあるということがわかりました。

 なお、六十三回目の基本法改正は、教育のデジタル化を推進するための連邦から州への財政援助をテーマとするものでございましたが、このことを題材に、デジタル時代の教育の将来像について、ドイツがどんなことを考えているのか、突っ込んだ意見交換をすることができました。

 次に、国民投票でございますが、ドイツには、ナチスの経験もございまして、国民投票制度は存在しません。したがって、国民投票に伴う広告規制も存在しないことになりますが、一方で、一般的なメディア規制については大変関心が高く、インターネットやSNSなどの新しいメディアに対する規制のあり方について意見交換を行いました。

 ウクライナでございます。

 ウクライナは、独立後、一九九六年に憲法を制定し、現在まで六回の改正を経ています。

 憲法改正について、内容面、手続の面から憲法裁判所が審査することは団長の報告にございましたとおりです。七月の総選挙を経て新しい国会が構成されてから、憲法改正論議が活発に行われております。我々が訪問した九月だけで、訪問時点で既に七件の憲法改正案が審査のために憲法裁判所に送付されているということでございました。

 このことは、現在のウクライナが大きな改革をしようとしていることのあらわれであり、また、憲法の安定のために憲法裁判所が大きな役割を果たしているということが感じられました。

 一方、国民投票制度につきましては、憲法裁判所判決によって国民投票法が違憲無効とされております。現在、国民投票は実施不能となっているところでありますが、総選挙で大統領の与党となった国民奉仕党は、直接民主制的な要素の導入を公約に掲げて選挙に勝った。そうしたことから、直接民主制の拡大が政治的要求となっているそうです。間接民主制と直接民主制のバランスを図ることは大変難しい、こうしたことも感じました。

 なお、ウクライナは、自由で民主的な国家を建設するため、旧ソ連からの独立以来の苦難、苦闘の道のりを歩んでおります。自由と民主主義、法のもとでの平等という価値観を共有できる国として、我が国は、ウクライナが発展していくことを期待をして、また、今後も支援していかなければならない、このようなことを感じました。

 リトアニアでございます。

 リトアニア憲法は、一九九二年の制定以来十回の改正を経ています。しかし、ほとんどは技術的な改正であり、憲法の根本は変わっていないとのことでございました。

 また、リトアニアはかなり幅広く国民投票を実施している国ですが、団長報告にございましたように、不成立や否決される例が多く、質問文について曖昧さをなくし、国民に理解される質問にしていく必要があるということでございました。また、国民投票運動において、CMはほとんど行われていないとのことでした。

 憲法を始めとする法制度の比較は、表面的ではなく、その国の背景や文化に立ち入ってまで行わなければならない、このことを感じた次第であります。

 憲法裁判所につきましては、ジャリマス長官、リトアニア憲法の安定に憲法保障機関としての憲法裁判所が大きく寄与しており、欧州各国では憲法裁判所設置の意義や必要性についてほぼ共通認識となっている、しかし、各国の憲法裁判所は、歴史、伝統を踏まえて少しずつ異なっており、憲法裁判所の設置を検討する際にはこの点に留意が必要だということをおっしゃっておりました。

 なお、リトアニアには、ロシアとドイツとの間で翻弄される苦闘の歴史を経ており、このような歴史がその憲法体制や憲法観に色濃く反映されているということを改めて強く感じました。

 最後に、エストニアでございます。

 エストニア憲法は、一九九二年の制定以来五回の改正が行われていますが、国民投票が行われたのはEU加盟の際の一回のみで、その他の四回は議会の議決による憲法改正だったということです。また、五回の改正のうち、重要な改正は、EU加盟と地方議員の選挙権年齢の引下げの二回のみとのことでありました。

 国民投票や選挙の際のCM規制につきましては、主要五政党のうち四党は、規制は不要と考えているとのことでございました。

 なお、エストニアに憲法裁判所はなく、我が国と同様、通常の司法裁判所が違憲審査権を持っているということでございます。

 また、e―エストニアの推進と到達度については、目を見開かされるものがございました。

 今回の海外調査を行い、憲法が国家の基本法であるとともに、その国の成立の歴史や背景が如実にあらわれていること、あわせて、憲法改正は各国それぞれのさまざまな事情に基づいて行われていることが改めてわかりました。各国とも、憲法は国家の骨格をなすものであり、憲法の安定性という点に大変腐心していることが理解できました。

 我が国は、七十二年間の運用の中で、憲法の安定性が確保され、それが国家の安定につながっているということが言えます。

 しかし、日本国憲法には、施行時に想定されなかった社会情勢の変化に対応するための規定の整備の必要性や、本来独立国として備えておかなければならない要素があるのではないか、このことも考えております。

 今回面談したエストニア法務省の幹部から、憲法には明確性が求められており、解釈運用によらず、できるだけ明文の規定整備を心がけているという言葉は、私の耳に深く残っております。

 このたびの海外調査により、憲法審査会の一員として、時代や社会情勢の変化に鑑み、我が国の実情を踏まえた憲法改正の議論をしていくことの重要性を改めて痛感したことを申し述べまして、私の発言といたします。

 ありがとうございました。

佐藤会長 ありがとうございました。

 次に、奥野総一郎君。

奥野(総)委員 国民民主党、立国社の奥野総一郎でございます。

 私が参加したドイツ、ウクライナについての所感、重複するところもあろうかと思いますが、述べさせていただきます。

 一九四九年の基本法制定以来ドイツでは六十三回、ウクライナでは、九六年の憲法制定以来六回の改正が行われています。

 結論から申し上げれば、それぞれ状況が異なっており、憲法改正の数が多いというだけを取り上げて、あるいは日本が一回も憲法改正をしていないということだけを取り上げて、我が国は特殊だという結論にはならないというふうに思います。

 ドイツ基本法は、その名称どおり法律でありまして、両院の三分の二の賛成で改正ができます。また、連邦制度をとっているため、州と連邦との権限について多く規定されており、日本なら、我が国ならば地方自治法の改正で済むものが、基本法改正によらなければなりません。

 直近の基本法改正、先ほどもございましたけれども、連邦教育省に伺いましたところ、デジタル教育について、中央政府から州政府に資金を交付できるようにする、こういう技術的な改正であったということであります。

 また、お話を伺ったクリストフ・メラーズ・フンボルト大教授によれば、ドイツの憲法改正は連邦制に起因する改正が大半ということでありまして、我が国では分権改革のような大きな改革が実際法律の改正で行われているということでありますので、状況が異なるというふうに言えると思います。

 ウクライナについては、基本的人権、憲法改正等にかかわる部分以外は国民投票が不要でありまして、一院制でありますから、二回の議会の決議を経て改正ができるということになっています。実際行われた改正は、いずれも国民投票が不要な統治機構に関する改正でありまして、憲法改正に関する国民投票はないということであります。

 ドイツにしても、ウクライナにしても、このように、国民投票が必須である我が国とは、また条文の立て方も含めて、大きく状況が異なるということであります。

 その上でなお、参考とすべきと私が感じた点を三つ申し上げたいと思います。

 第一点は、国民投票法制であります。

 メラーズ教授は、ドイツは国民投票はないんですが、国民投票により憲法改正案が否決され、そして連立内閣が退陣に至ったイタリアの改正の例を引きながら、国民投票法に、投票に必要なことは運動のお金の流れを明確にすべきことだという発言がありました。この点については、非常に印象的でありました。

 また、CM規制について、ドイツ・メディア監督局に聞いたところ、そもそもドイツでは選挙の際にスポットCMは行われていないのではないか、こういう答えもございました。この点について、制度をもう少し詳細に、後日送ってもらうことになっております。

 また、ネット規制についても、フェークニュースなどのネット規制、社会的に大きな影響があるネット広告等の規制についても、現在、EU指令に基づいて検討を行っているという発言もございました。

 ドイツの視察では、我が党国民民主党の国民投票法改正案に盛り込んでいるCM規制や国民投票運動資金の規制について改めて必要性を認識した、ドイツの例を見て我が党案の必要性を認識したということであります。

 また、ウクライナでは、議会での制定手続が違憲であったとの理由で、国民投票法は現在失効しています。国民投票法の制定や改正については、やはり与野党のコンセンサス、政局を持ち込んじゃいけない、コンセンサスが必要であると改めて考えさせられました。

 そして二点目は、憲法裁判所であります。

 我が国と違って、一定の要件を満たせば、憲法改正そのものや、あるいは、個別の法律が違憲かどうか、憲法違反かどうかについて判断を下せる抽象的違憲立法審査権を取り入れています。

 私がメラーズ教授に対して、日本では九条の解釈が問題となっている、日本の憲法は条文数が少なく解釈の余地がある部分が多いんだ、そこで、ドイツは非常に細かく書いていますから、例えば、九条の旧三要件あるいは新三要件のようなものをきちんと書き込めば、こうした解釈上の問題は解決するんじゃないかということを申し上げました。それに対してメラーズ教授は、どれほど細かく書いても憲法解釈の余地は生まれるんだ、だからこそ必要なのは憲法裁判所だ、こう断言をしました。ドイツの憲法裁判所に対する強い信頼がうかがわれる発言でありました。

 一方、ウクライナでも憲法裁判所がありまして、先ほど新藤幹事からもございましたけれども、事前に審査をしていく。多く憲法改正案が上がってきていますが、憲法裁判所でほとんどはねられるということでもありまして、非常に強い事前審査の権限も持っている。もちろん違憲の判決も下せるということであります。ただし、注意しなきゃいけないのは、強い権限を持っていますが、ウクライナでは憲法裁判所の政治的中立性が疑われておりまして、そのための憲法裁判所を改革する憲法改正なるものも二〇一六年に行われていることに留意しなきゃいけないということであります。政治的な中立性が問われるということですね。

 これを我が国に持ってきますと、最高裁は、御承知のように、ほとんど謙抑的に、憲法判断を行っていません。もちろん、具体的な、抽象的な違憲立法審査制をとっていないんですけれども、それにしても憲法判例が少ないんですね。ということで、我が国の憲法解釈を専ら担ってきたのは内閣法制局でありますが、これはあくまで政府の一機関でありまして、任免は自由にできます。政府・与党による恣意的な憲法解釈を防ぐために、やはり憲法裁判所が必要だと強く考えさせられました。

 そして三点目、最後に緊急事態条項についても少し触れておきたいと思いますが、ドイツは確かに緊急事態条項はありますが、しかし、これは冷戦下の一九六八年に大連立政権によりできたものであります。ただし、法律によらず命令で国民の権利を制限できるような規定はもちろんありません。また、自由権、基本的人権を制限するような規定もありません。メラーズ教授も、民主主義を侵すような形にはなっていない、こういうふうに明確に述べておられました。

 一方、ウクライナは、私権の制限、言論や表現の自由、こういったことも憲法上は制限できる規定になっています。ですから、非常に大きな権限を、非常事態を発令すると政府に与えることになります。これは非常に注意しなければならない。ただ、ウクライナでは、実際に非常事態宣言はほとんど発動されていないということも留意する必要があると思います。

 これらの例を見ても、我が国の現行法制で十分でありまして、いわゆる緊急事態条項について、直ちに日本国憲法の改正が必要だと言えないのではないかということを強く感じました。

 いずれにしても、公正に民意を反映できる国民投票法と、政権から中立的な憲法裁判所がセットになって初めて、憲法改正の議論ができるのではないかというのが私の今回の視察の感想であります。

 以上です。

佐藤会長 ありがとうございました。

 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 海外調査の概要は、森英介団長から御報告のあったとおりでございます。

 私は、ドイツのベルリン、ウクライナのキエフでの憲法調査に参加をいたしました。

 ドイツ、そしてウクライナも、二十世紀は幾度もの悲惨な戦争を経験した国であり、また、ウクライナでは今も、ロシアによるクリミア併合や東部ドンバス紛争など、ロシアとの緊張関係に直面しています。

 こうした歴史や背景のある中、ドイツの憲法に当たるドイツ連邦共和国基本法、またウクライナ憲法が、民主主義や基本的人権、そして国家の存立などをどう憲法保障しているのか、関心を持って参加をいたしました。

 以下、私の感じたところを若干述べさせていただきます。

 ドイツでは、戦後これまで六十三回の基本法改正がなされています。

 直近の改正はことしの三月。その内容は、学校のデジタルインフラの強化や社会的弱者のための住宅建設に関し、連邦から州への財政支援を可能とすることでございます。連邦制をとっているがゆえの改正でしょうが、我が国では恐らく予算措置だけでできることを憲法改正という手続をとっていることになります。

 なぜ六十三回もの改正がなされているのか。フンボルト大学のクリストフ・メラース教授は次の二点を挙げておりました。

 一つは、ドイツは連邦制をとっており、連邦の権限と各州の権限との配分が基本法に細かく規定されているため、それを変更するたびに基本法改正が必要で、その多くは技術的改正だと話されていました。

 もう一つは、政治的対立のある基本法改正の場合も、CDU、キリスト教民主・社会同盟と、SPD、社会民主党の二大政党が、自分たちがつくり上げてきた基本法という共通認識があり、どのように基本法を改正するかについても、政治的妥協をしても共同して合意を形成していこうという雰囲気が醸成されていると話されていました。

 自分たちのつくり上げた憲法、妥協しても合意を形成するとの言葉は、私どももそうありたいと感じます。

 一方で、メラース教授は、多くの国では法律でできるような事項まで基本法に取り込み過ぎていて、そのため改正が多くなっている、基本法になじまない事項を基本法に規定し過ぎ、憲法の安定性に欠けるとの批判が少なくないとも話されておられました。

 日本国憲法は憲法の規律密度が低いとよく言われますが、日本国憲法では基本的な理念、規範を明示し、この憲法規定に基づいて、国会法、内閣法、裁判所法、地方自治法、公職選挙法、皇室典範、財政法、教育基本法、労働基準法など、いわば準憲法的性格を有する重要な法律が制定され、これまで何度も改正されてきました。

 国によっては、ドイツのように、手続的、技術的な規定が憲法に多く書き込まれてしまっているため、憲法改正が多いという実情があるように思われます。

 日本国憲法はいわゆる硬性憲法であり、憲法改正のハードルは高い。一方で、ドイツでは、基本法改正にそもそも国民投票も要らないという違いもあります。

 いずれにしても、その国の憲法の内容、性格、改正手続等を別にして、憲法改正の実施回数だけを取り上げてこれを比較することにさほど大きな意味はないと思われます。

 次に、ドイツ基本法、ウクライナ憲法にも緊急事態条項が定められています。

 特にドイツ基本法では、緊急事態の類型ごとに極めて詳細な規定が設けられています。また、緊急事態類型の一つである防衛事態には、連邦議会議員の任期延長と議会の解散禁止規定が明記されていることも注目されます。

 ウクライナの憲法裁判所のペルヴォマイスキー裁判官からは、緊急事態に対処するための措置に関する条項はどんな国家でも必ず必要だが、ウクライナのように憲法で規定するか、憲法では規定せずに法律レベルで規定するかは国によってそれぞれで、憲法に規定しないといけないということではないとの指摘がありました。

 我が国においては、法律レベルでさまざまな危機管理法制が整備されています。

 災害対策基本法を始めとする災害対処法制、武力攻撃事態等対処法、国民保護法を始めとする有事法制、治安上の事態対処のための自衛隊法、警察法などです。いずれにしても、危機管理法制はその類型ごとに詳細な規定が必要で、憲法に全て書き込むことは不可能であり、各法律でその類型に応じた要件、手続、効果、政府の権限、制限される権利等を規定していくことになります。

 一方、ウクライナ憲法には、戒厳、非常事態の布告が発せられた場合には、招集を待たず、議会は二日以内に開かなければならず、さらに、議会の会期は、戒厳、非常事態が終了した後に選挙された新しい議会の最初の会期の最初の会議まで延長されると規定されています。議会の会期及び議員任期の延長規定を定めたものと理解されます。

 また、ウクライナ憲法では、緊急事態には期限付で権利、自由に対する特別な制限をすることができると規定していますが、一方で、緊急事態であっても制約してはならない権利と自由を憲法上明記しています。さらに、戒厳、非常事態における憲法改正は禁じられています。

 こうしたウクライナ憲法の緊急事態条項は、今後の我が国の憲法論議にも参考になると考えます。

 日本国憲法では、国会議員の任期について、憲法上、衆議院議員の任期は原則四年、参議院議員は六年と定められ、衆議院解散から四十日以内に総選挙を行うことと具体的に定められているため、特別法、特例法の制定によって、国会議員の任期の延長や国政選挙の選挙期日の延期はできません。

 阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害時などの場合には、少なくとも被災地では相当期間選挙が実施できないことが想定されます。国会議員の任期満了直前や衆議院解散直後の大規模災害時などに、国会議員の任期を延長し、国政選挙の選挙期日を延期しようとするならば、憲法改正が必要となってまいります。

 国難ともいうべき緊急事態に際し、国会が政府の危機対応を監視、補完し、また、場合によっては緊急に特別法等を制定するなどの立法機関の重要な役割を考えると、今後、憲法論議を進めるべき課題と考えます。

 ただし、憲法上定められた国会議員の任期は、議会制民主主義の根幹にかかわる事柄であり、当然のことながら慎重な論議が必要です。そもそも、緊急事態とは何か、誰がどのような手続で判断するのか、参議院の緊急集会との関係など、多岐にわたる論点があると思われます。

 このほか、フェークニュース問題に関連してインターネット規制のあり方、さらには欧州におけるポピュリズム政党の台頭の背景などについても両国の識者と意見交換してまいりました。

 以上、調査団の一員としての御報告とさせていただきます。

佐藤会長 ありがとうございました。

 これにて調査に参加された委員からの発言は終了いたしました。

    ―――――――――――――

佐藤会長 これより自由討議を行います。

 この際、委員各位に申し上げます。

 発言を希望される委員は、お手元にあるネームプレートをお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。発言が終わりましたら、ネームプレートは戻していただくようにお願いをいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。また、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただくようお願いをいたします。

 なお、幹事会の協議により、一回当たりの発言時間は五分以内といたします。委員各位の御協力をお願いをいたします。

 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前及び終了時にブザーを鳴らしてお知らせをいたします。

 各会派御発言できるようにいたしたいと存じますが、時間の都合上、御発言の希望のある委員全員を指名できない場合もございますので、あらかじめ御了承のほどお願いをいたします。

 それでは、発言を希望される委員は、ネームプレートをお立てください。

階委員 立国社会派の階猛と申します。

 発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございました。

 視察報告、興味深くお聞きしました。

 まず、ドイツなんですが、国民投票の制度がないということの理由として、ナチスが国民投票を通じて政権を掌握していったという過去の苦い経験を踏まえてということなんですけれども、裏を返せば、それほど国民投票というのは、やり方によっては政治を危うい方向に、国家を危うい方向に持っていくということなのかなというふうに感じました。

 私、国民民主党時代に、憲法調査会長として、まさに国民投票運動が国民の考えを間違った方向に誘導しないために、なるべく公平、適正な手続、国民投票運動にしようということで案をつくったという経験があります。そういう中で、CM規制というのは不可避ではないかというふうに思っておりました。

 今回、ドイツの過去の苦い経験を踏まえての国民投票の制度を設けないということを御報告を受けまして、改めて、国民投票の制度の危険性と、そして、公平、適正な制度にする必要性というものを感じた次第です。

 そしてまた、ウクライナの方では、憲法の改正の前に、その改正の内容、そして改正案に至る手続、これの事前審査を憲法裁判所ができるということも、これもなかなか興味深いお話でした。

 他方で、先ほど来御指摘があるとおり、日本の最高裁判所にはそういう事前審査の機能というものはないわけでございまして、そういう中におきまして、私が一つ個人的に思っているのは、憲法改正案というものが、国民がやはり関心のあるもの、そして必要性が高いと思われるもの、また、法律を改正すれば済む、そういったものではなくて真に憲法で変えなくてはいけないもの、こういったことから、国民の皆さんがこれは本当に憲法改正、必要があるなというときに憲法改正案を国会では議論すべきではないかということで、過去に憲法改正について予備的国民投票の制度というものも議論され、現に、国民投票法附則十二条に、国は、この規定の施行後速やかに、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性の有無について、検討を加え、必要な措置を講ずるということもあります。

 こうした予備的国民投票の制度、あるいは予備的国民投票というのは憲法改正絡みの投票でございますけれども、山花先生からも御紹介があった一般国民投票ということも視野に置きながら、こちらは附帯決議の方で、検討すべしということが過去にあったようでございますので、この一般国民投票も含めて議論していかなくてはいけないのではないかと思っております。

 最後になりますけれども、やはり我々、憲法尊重擁護義務というのが、憲法上、九十九条で認められておる中で、憲法改正の議論をしていくというのは、やはり、あくまで憲法尊重擁護義務というのがあるということを念頭に置きながら、そして、それは国民には課せられていないわけです。国民の側には憲法尊重擁護義務が課せられていないという中で、やはり憲法改正のイニシアチブは国民がまずとるべきではないか、憲法の改正について国民が真に欲するときに国会はそれに応えていくべきではないか、あくまでそれが原則であるということを申し上げたいと思います。

 そろそろ時間でしょうか。ありがとうございました。

小林(鷹)委員 自由民主党の小林鷹之です。

 森団長、山花副団長、そして新藤先生、奥野先生、北側先生、ありがとうございました。

 先生方の御報告を伺いまして、今回の調査の共通のテーマとして設定された憲法改正、国民投票、そして緊急事態条項のあり方を含めまして、大変有意義な調査であったことがわかりました。今回の調査で得られた成果を今後の憲法審査会の議論に生かしていく必要があると感じましたし、同時に、このような調査は継続していくことが重要だと思いますので、ぜひ来年以降も引き続き調査を実施していただきたいと思います。私も、機会があればぜひ参加をさせていただきたく存じます。

 私は、先生方の御報告を伺いながら、憲法は国家の基本法であって、国の形を示すものであることに鑑みまして、新藤先生の御報告にもございましたとおり、憲法改正論議を進めるに当たりましては我が国の実情を十分に踏まえる必要があることを改めて強く感じました。

 我が国は、歴史と伝統に根差して、これを大切にしながら、よりよい方向へと進歩してまいりました。日本国憲法は施行後七十二年が既に経過をしておりますが、この間、国民主権、基本的人権の尊重、そして平和主義といった基本原理は定着をし、そして、我が国の発展に寄与した役割は極めて大きいものがあったと考えております。

 ただ、一方で、日本国憲法には、今や現代の時代にそぐわないもの、現在の状況に対応するために改めるべき項目も見られると思います。森団長の御報告にもございましたとおり、必ずしも各国の憲法改正の回数の多さに目を奪われる必要はないと思うんですけれども、必要があれば、我が国の歴史と伝統を踏まえつつ、時代の変化、要請に即して憲法を改めることは、今を生きる我々にとって当然の責務なんじゃないか、私はそう思います。

 また、我が国には、古来から和をとうとぶ伝統がございます。憲法改正論議におきましても、和をとうとび、憲法審査会に出されたさまざまな意見を我々各委員が謙虚に受けとめながら、でき得る限り幅広い合意を目指して進められることが重要だと考えております。

 本日、憲法審査会におきまして久しぶりに自由討議が行われていることは、大変喜ばしいことだと私は感じています。今後も引き続き、憲法についての議論が積極的に行われること、そして、でき得る限り幅広い合意の形成を目指しながら、国民のための憲法改正論議が進められることを大いに期待をして、私の発言を終わります。

井上(一)委員 希望の党の井上一徳です。

 調査議員団の皆様、お疲れさまでした。また、充実した内容の報告をいただきまして、感謝いたします。

 私の方からは、団長所見にもありました、ウクライナの緊急事態条項について、憲法上、議員任期の延長が規定されており、今後の我が国の憲法改正論議で参考になると思われました、この点が非常に大事な指摘だというふうに思っております。

 特に、今、首都直下大地震、それから南海トラフ大地震、こういう事態の発生が指摘される中で、国会議員の任期そして選挙期日の特例を憲法に設けるということは、これは今日的な大事な課題だというふうに認識しております。

 希望の党としても、この国会議員の任期、選挙期日の特例について改正案をまとめていますので、ぜひ、与野党の共通理解のもと、この点についての議論を進めていただくことを切に願っております。

 以上です。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 海外視察の御報告、ありがとうございます。

 まず、報告を伺った私の感想を述べたいと思います。

 森団長が、ドイツでの調査を通じて、六十三回という改正回数に目を奪われがちだが、表面的な数字のみにとらわれることなく、その国の憲法をめぐる政治文化や背景も考慮しなければならないことに気づかされたと述べられたことは、本当に示唆的でありました。

 日本国憲法は、日本が起こした侵略戦争により、アジア諸国民二千万人以上、日本国民三百万人を超える犠牲者を出したことへの痛苦の反省から、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、つくられたものであります。憲法九条の平和主義を生かす政治こそ今求められているのであり、国民の多数は憲法改正を望んでいません。

 そもそも、今日の改憲議論の端緒は、安倍首相が二〇一七年五月三日の憲法記念日に期限を区切って九条改憲に言及したことにあります。そのもとで、自民党は、九条を含む改憲四項目をまとめ、審査会に提示し、改憲へと突き進もうとしているのです。まさに安倍改憲にほかなりません。

 しかし、ことし七月の参議院選挙では、安倍九条改憲反対を共通の公約に掲げる野党勢力が参議院の三分の一を超える議席を占めました。一方、早期憲法改正を目指すと公約に掲げた自民党は、単独過半数を維持することができませんでした。

 安倍首相は、この結果を受けて、少なくとも議論は行うべきであるというのが国民の審判だと強弁をしましたが、これに対して、与党の中からも、何の民意が得られたのかわからない、憲法議論をすべきだと受け取るのは少し強引だという声が出たのは当然であります。

 参議院選挙で、国民はこの三年間の安倍首相主導の改憲推進ストップを選択したことは明らかです。国民の多数が憲法改正を望んでいないもとで、改憲原案の発議を任務とする憲法審査会は動かすべきではないということを改めて指摘いたします。

 次に、国会での憲法議論のあり方について述べます。

 私たちは、憲法原則に反する現実を議論すべきだと述べてきました。その最たるものが沖縄です。

 そもそも、沖縄の米軍基地は、国際法に違反し、住民の土地を強権的に奪ってつくられたものです。一九七二年の本土復帰に際し、県民は、即時無条件全面返還を求めました。日本政府がこの要求を無視し、憲法をじゅうりんするやり方で米軍基地を存続させたことが問題なのです。

 にもかかわらず、今また安倍政権は、たび重なる選挙や県民投票によって示された民意を一顧だにせず、辺野古新基地建設を強行しています。この沖縄の実態は、憲法に照らして、絶対に許されるものではありません。

 最近では、表現の自由への政府の介入や、教育の機会均等をないがしろにする文科大臣の発言など、看過することのできない事態も起きています。こうした基本的人権をじゅうりんしている実態こそ議論すべきです。

 憲法を変えるのでなく、憲法原則に反する現実を変えることこそ今求められていると思います。その議論の場は、憲法審査会ではなく、予算委員会を始めとする各常任委員会で大いにやるべきだということを述べて、発言を終わります。

森(英)委員 恐れ入ります。

 今の赤嶺委員の、私の団長報告に言及していただきまして、各国の憲法改正の回数に目を奪われることはないと申し上げましたけれども、憲法改正の必要がないとは一言も申し上げておりません。

馬場委員 日本維新の会の馬場伸幸でございます。

 私からは、この憲法審査会の海外調査に、まず冒頭、所感を申し上げさせていただきたいと思います。

 我が党は、さきの通常国会終了後、臨時国会が始まるまでに行われました税金による海外調査、これには全て参加を辞退をさせていただいております。

 理由は二つです。

 一つ目。この十月一日に消費税が一〇%に上がりましたが、振り返りますと、七年前に、旧民主党、自民党、公明党の三党が三党合意を行って、税と社会保障の一体改革というものを決定いたしました。その際、党首討論で、国会議員の数を大幅に減らす、これを当時の野田総理と安倍総裁が合意をした。しかし、実態を見てみますと、さきの通常国会では、減らすどころか、参議院議員の定数を六人もふやしてしまっている。そのほか、国会改革、全く遅々として進みません。

 こういう状況の中で、大変な税金を使った海外調査については、我が党は反対をさせていただいております。今回のこの海外調査でも、総費用、調べさせていただきましたが、一千二百九十九万九千百四円という税金を使っておられます。

 二つ目の理由。この憲法審査会、調べますと、平成二十九年六月の八日に自由討議が行われてから二年半もの間、真っ当な議論、全く行われていません。テレビの、メディア等の討論番組、また本会議、予算委員会、そういった場では活発に憲法改正議論が行われるにもかかわらず、本来の土俵であります憲法審査会では全く議論がされないという状態が続いています。仕事をしないのに海外調査に行くのはどういうことだという怒りの声が、国民の多くから私のもとにも届いています。ぜひ、本来の仕事をした上で海外に調査に行かれる。

 きょうも、森団長始め多くの皆様方から御報告があって、この報告を受けて、いろいろな政党、会派の皆さん方が意見を表明されています。これが私は正常な状態だと思います。ぜひ、今後は、この憲法審査会の場での審議、自由討議、こういったものを進めていただきたいということを要望しておきたいと思います。

 以上、二つの観点から海外調査には参加をしないということを御理解いただけたと思いますが、そもそも、我が党は既に、党内で議論を行いまして、改憲項目三項目を決定いたしております。教育の無償化、統治機構の改革、そして憲法裁判所の設置。ぜひ、他の政党の皆様方も、各政党内、会派内で議論を行っていただいて、先ほどから申し上げておりますように、この憲法審査会の場に憲法改正項目を出していただく、それを委員間で討議をしていく、それが、最終的な憲法改正の主権者である国民が国民投票する際の投票態度を決める、理解を深める、そういうことにつながると思いますので、皆様方の御理解をお願いを申し上げたいと思います。

 私の方からは、最後に、この憲法審査会が設置される根拠になっています国会法の第百二条の六を読み上げさせていただきたいと思います。第百二条の六、「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するため、各議院に憲法審査会を設ける。」

 以上でございます。

山尾委員 立国社会派の山尾志桜里です。

 発言の機会をありがとうございます。

 せっかくこの国会でこうやって憲法審査会が開かれましたので、冒頭にこの審査会の今後の議論の進め方について私の意見を申し上げて、また、視察報告の方も意見、質問を申し上げたいと思います。

 この視察の討議が終わった後なんですけれども、恐らくCM規制、手続規制の議論に入っていくんでしょうし、私は入っていくべきだと思います。この審査会の場で民放連に量的規制の意思がないということは明らかになったと思いますので、次は、この投票法をつくったときの中心的な方が民放連の意思についてどんな前提で立法したのかということをみんなで確認をして、しっかり議論をして、これは手続法ですので、よい結論を出していけますし、出していこうということだと思います。

 私が申し上げたいのは、もう一つ、このCM、手続規制の議論とあわせて、憲法の中身についての自由討議を行うべきだということです。ここにいる一人一人の議員が、政党の代表者ではなくて、選挙の支援者の代弁者でもなくて、全国民の代表者としてみずからの憲法観を語るところから始めるべきだと思います。

 そして、自民党の方々には、この自由討議を改憲四項目を説明したという形式的実績づくりには利用しないと思いますし、利用しないでほしいとお願いしたいと思います。

 一方で、手続の議論が終わらない限り、一切中身に入れないというのもおかしいと思います。国民には、自分たちの代表者を通じて、今、この現代における憲法の論点を知ったり伝えたりする機会が保障されるべきだと思います。そして、その場はここ、憲法審査会しか私は本来的な場所としてはないんだというふうに思います。

 きょうも自由討議をやっておりますけれども、話せば化学反応もあると思います。意外な共通点も出てくると思います。案外、自民党の方にも自衛隊明記だけという案に消極的な議員が多かったりとか、野党の方にもさまざまな改憲テーマを持つ議員がいることも見えてくるかもしれません。憲法の議論は、まず、委員一人一人が、その背中にしょっている選挙とか、あるいは政党の空気や圧力を意識的に自分で取り外して、全国民の代表者、一人の国会議員として矜持を持ってこの場で自由に発言していく、そういうスタートをしたいというふうに思います。

 ここから、視察報告に対して意見と、できれば質問もさせていただきたいと思うんですけれども、まず一つ、報告を聞いて、やはり憲法裁判所の存在感ということを強く感じました。私自身は、九条を除けば、統治の憲法改正のテーマというのは、解散権の制約、そして憲法改正に限らない一般的あるいは予備的と言われる国民投票制度、そして憲法裁判所だというふうに思っています。

 とりわけ、ここから、今ある憲法で時代の要請に十分足りているという議論もあるでしょうし、足りていないという議論も出てくるでしょう。ただ、そのもう一つの輪っかとして、今、憲法をどのように守らせていくか、保障していくべきかという議論に憲法裁判所の議論は欠かせないというふうに思います。とりわけ、憲法裁判所は、今回の視察先でも、ウクライナでは改憲の限界を画したり手続適正を担保する役割まで負っている、リトアニアでは憲法保障機関として憲法の安定性に寄与している、こういう説明の御報告がありました。

 ここでお伺いしたいんですけれども、せっかくですので、新藤幹事ですか、エストニアでは通常司法裁判所でこれをやっているというお話がありましたけれども、日本でもちょっと問題になっているような、ちょっとそれでは足りないとか、保障機能が足りない部分をこういうふうに工夫しているとか、もしそういう工夫があったということであれば、その憲法保障の代替機能のところについて教えていただきたいと思います。

 山花会長代理にも、緊急条項を持つか否かと憲法裁判所を持つか否か、これは大陸法、英米法という御説明があったんですけれども、私自身は、緊急事態条項を持つか否かという、憲法でどういう規範を定めるかという問題と、その定められた規範をどうやって保障していくかという憲法裁判所の問題はちょっと理屈の上ではかみ合わないように思うんですけれども、ちょっとそこのつなぎを教えていただければ。

 奥野幹事も言及されて、憲法裁判所、ブログにも書かれていましたけれども、やはり肝は人事の中立公正だと思います。やはり、今、最高裁判所の裁判官の指名、任命権が内閣にある中で、実際その保障機能が果たせるのかという問題点はかなり共有できる問題点だと思いますので、この人事について少し、聞いたり考えたりしているところとか、あったら教えてほしいと思います。

 最後に、二点目ですけれども、国民投票なんですね。非常に難しいテーマだと思います。リスクもあると思います。民意の熱狂、多数決の暴走というドイツの戒めも勉強になると思います。

 ただ、一方で、これだけ日本で国民と国会の距離が離れていて、投票率も全く上がらず、そして、なかなか国会にちゃんと酌み取れていないという民意が行く場所を求めてさまよっているような、こういう状態の中で、直接民主制ではないけれども直接民主的制度としての国民投票というのは、憲法改正に限らず、やはりこの場でしっかり検討すべきだというふうに思いますので、また今後の議論、させていただければというふうに思っています。

 以上です。

新藤委員 ありがとうございました。

 特に、冒頭に、自由討議を積極的にやろうではないか、この御提言については私も共感をする次第であります。そして、まさに自由討議ですから、いろいろなお考えのことを話をされればよいと思いますし、憲法の改正の論議を深めるべきだという国民の声は七割を超えている、こういう報道調査も、私、承知しております。ですから、恐れずに、ぜひ議論をやろうではないかと。

 一方で、もし皆さんの中にこの自由討議を行うことで何か御心配なことがあるとするならば、そのことはよく幹事間で、また筆頭の協議の中で意見交換しながら、まずは、国民のための憲法を、論議を深めていくことが極めて重要だ。それが、形式的に、場を設けることで時間をかけているというのは、私はこの状態は早く打開した方がいい、このように思っておりますので、よく皆さんとも相談しながら、しっかりと円滑な運営ができるように、活発な運営ができるように今後も心がけていきたい、このように思います。

 それから、エストニアの憲法の問題でございますけれども、これはまさに我が国とは違うわけであります。エストニアの場合は、最高裁判所の中に憲法部というのが設けられて、憲法裁判所ではございませんが、最高裁の中に憲法部が設けられていて、特定の事件、訴訟を契機とせずに、一般的な憲法判断をすることが認められているということです。

 リトアニアとエストニアは隣接されていて、リトアニアでは、もう憲法裁判所を設けることは欧州全体のオーソライズだ、こういうような御意見がございました。

 一方で、エストニアにおいては、やはり憲法裁判所の設置については、これについては慎重な判断があって、一方で、裁判所の中に、憲法を審査する、またチェックをする、そういうものが設けられている。ただ、一方で、この憲法部は常設機関ではありませんので、専門裁判官がいるわけではありません。必要になったときに臨時に判事が任命されるという仕組み、これも国の工夫ではないかなと思います。

 我が国においてはまた違う形がとられているわけですけれども、憲法の違憲審査制など、そういったものについてどうするかというのは、これはやはりこの中でも議論していけばいいんじゃないか、このように思います。

山花委員 今の新藤幹事のお話にもございましたように、エストニアでは、十七名の裁判官によって最高裁判所が構成をされておりますが、民事、刑事、行政の各部に分かれています。憲法訴訟になったときには、憲法審査部というのを裁判所内で構成をして、それぞれの、民事、刑事から出してという形で運用されているということでございました。

 その説明の際にも、ヨーロッパでは普通は憲法裁判所があるんだけれども、我が国の場合は憲法裁判所はありません、これは北欧の歴史とか伝統に立脚をするのだという説明がありました。

 先ほど申し上げたのは、大体分類すると大陸法系の国と英米法の国ではこういう傾向がありますよねということでありまして、この調査でも、このテーマだけではなく、ほかのテーマでも、各国で、それぞれのやはり歴史や伝統に基づいてこういう制度ですという説明がありました。論理的に、ロジックでこれが一番すぐれた制度なのだというのがあるのだとすると各国同じ制度をとっているはずですが、それぞれの歴史に基づいてということであります。

 ですので、必ずしも、例えば英米法系の国でも憲法裁判所を持つということも論理的には別に否定されることではないと思いますし、ロジカルな関係は必ずしも排他的な関係ではなくてと思いますが、申し上げたのは、歴史的にはそういった傾向があって、かつ、日本国憲法の場合には英国憲法が模範になっている、旧大日本帝国憲法の場合にはプロイセンが模範になっていましたので、それぞれ、旧ですと大陸法系で、現ですと英米法系というふうに一般的には分類されますので、そういった趣旨のことを申し上げたつもりでございます。

奥野(総)委員 憲法裁判所のことでありますが、先ほどちょっと触れましたけれども、ウクライナでは、議会の権限を強める、大統領の権限を弱める憲法改正が一回行われたんですね。ところが、政権がかわって大統領がかわった瞬間に、その改正は違憲だと憲法裁判所が判断した。要するに、大統領におもねった判決をしたわけですね。また大統領がかわる、政権交代が起きそうになると、今度は、いやいや、この間の違憲判決は間違いだったといって、また議会が強くなるとか、そういった、二転三転しているわけですね。これは非常に危険な話でありまして、やはり公正中立な判断をしてもらわなきゃいけない。

 そこで、やはり鍵になるのは憲法裁判所の人事だというふうに思います。

 ただ、日本のように、もちろん国会同意人事が思い浮かぶんですが、日本のようにやはり政権交代が少ない国だと、どうしても時の政権に近い人がなってしまう、過半数でいいとすればなってしまうので、やはり三分の二とか、通常の多数決よりは加重した多数決にして国会同意人事をかけては。これは全く私案ですけれども、つくるんだったら、そういう人事の公正中立性を担保した仕組みとセットであることが必須だと思います。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹です。

 御報告ありがとうございました。所感を少々述べさせていただきます。

 ドイツの基本法改正に関する御報告がありました。改正の必要性が高いのであれば、合意形成に向けて与野党間の大胆な妥協もいとわない、こういった姿勢は学ぶべきものがあると感じました。その一方で、ドイツにおいては、与野党間の妥協の産物として、本来基本法になじまない法律レベルの事項まで基本法に盛り込まれる傾向がある、これについては我が国は反面教師にする必要があると思います。

 我が国の憲法には国の根本規範、秩序が定められ、その理念のもとで多くの憲法附属法が定められております。また、日本国憲法の改正手続は、通常の法律の制定、改正と比較をして、厳格な要件が課されております。

 こういった日本国憲法の特性を踏まえますと、憲法改正の議論をするに当たりましては、いかなる状況でも基本的に維持すべきものと、その時々の状況に応じて柔軟に変更すべきもの、これをしっかりと見きわめて、憲法と法律の役割分担の体系、これを十分に意識して、この体系を崩すことのないように留意をする必要があります。

 憲法改正という手段それ自体が目的化をして、その目的達成のために安易な妥協がされるようなことがあってはならない、そう考えます。その上で、時代の変化に即した憲法のあるべき姿というのは、これはしっかりと議論していくべきであります。

 時代の変化ということに関しまして、いよいよ来春、通信の大変革、5Gがスタートいたします。この導入によりまして、あらゆる物や人がネットにつながって、分野横断的な膨大なデータがリアルタイムに収集できるようになる、そして、このビッグデータを人工知能、AIによって解析をして、その結果を実社会で活用することによって、新たな価値が生み出される、これまで解決できなかったような社会課題が解決できるようになる、我々に大きな利便性がもたらされる、こういったことが期待をされております。

 狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上新たな第五の社会、ソサエティー五・〇、この時代がまさに到来する、パラダイムシフトが起きる、このように言われております。その一方で、AI、またビッグデータなどの利活用によりまして、憲法の核心的な価値である個人の尊厳が脅かされるんじゃないかといった懸念も指摘されているところであります。

 こういった大きな時代の転換点において、時代の変化、さらには将来を見据えた憲法のあるべき姿、憲法をめぐるさまざまな課題について、改正ありきではなくて、今、議論をして、しっかりと備えておくべきこともこの憲法審査会の重要な責務であると私は考えます。

 委員の皆様と未来に責任を持つ真摯な議論を交わせることを願いまして、私の意見表明といたします。

佐藤会長 まだまだ発言の希望がございますが、予定の時間がございますので、本日はこのあたりとさせていただきます。

 この自由討議の取扱いについては、ただいま与野党の筆頭間で協議しておりますので、今後については、これを踏まえ、幹事会等において協議をいたしたいと存じます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時二十七分散会


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