衆議院

メインへスキップ



第7号 令和4年3月31日(木曜日)

会議録本文へ
令和四年三月三十一日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 井上 貴博君 幹事 加藤 勝信君

   幹事 上川 陽子君 幹事 柴山 昌彦君

   幹事 新藤 義孝君 幹事 奥野総一郎君

   幹事 道下 大樹君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 北側 一雄君

      秋葉 賢也君    井出 庸生君

      井野 俊郎君    伊藤信太郎君

      伊藤 達也君    石破  茂君

      稲田 朋美君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      大串 正樹君    國場幸之助君

      下村 博文君    土田  慎君

      中川 貴元君    中西 健治君

      西村 康稔君    船田  元君

      古屋 圭司君    細野 豪志君

      松本 剛明君    山下 貴司君

      山本 有二君    新垣 邦男君

      梅谷  守君    近藤 昭一君

      櫻井  周君    末次 精一君

      中川 正春君    野田 佳彦君

      太  栄志君    谷田川 元君

      小野 泰輔君    三木 圭恵君

      和田有一朗君    大口 善徳君

      中野 洋昌君    吉田 宣弘君

      玉木雄一郎君    赤嶺 政賢君

      北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院法制局長      橘  幸信君

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月三十一日

 辞任         補欠選任

  岩屋  毅君     土田  慎君

  山田 賢司君     中川 貴元君

  本庄 知史君     梅谷  守君

  吉田はるみ君     末次 精一君

  足立 康史君     和田有一朗君

  國重  徹君     大口 善徳君

同日

 辞任         補欠選任

  土田  慎君     岩屋  毅君

  中川 貴元君     山田 賢司君

  梅谷  守君     本庄 知史君

  末次 精一君     吉田はるみ君

  和田有一朗君     足立 康史君

  大口 善徳君     國重  徹君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題(特に、諸外国憲法における緊急事態条項及び国民投票等におけるSNS対策について))


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題、特に、諸外国憲法における緊急事態条項及び国民投票等におけるSNS対策について討議を行います。

 本日の議事について申し上げます。

 まず、衆議院法制局当局から説明を聴取し、その後、各委員からの討議を行うことといたします。

 では、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局長橘幸信君。

橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。

 幹事会での御協議に基づきまして、諸外国の緊急事態条項及びSNS対策について論点説明をさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 資料の御説明に入る前に、本日のテーマである緊急事態という用語について、一言お断りをさせていただければと存じます。

 緊急事態と似た言葉に非常事態という表現がございます。この両者の概念については、昭和三十年代に内閣に設置された憲法調査会でも議論があったようで、その報告書でも、非常事態は緊急事態のうち特にその緊急性、異常性が高いものとする考え方と、これとは逆に、非常事態は緊急事態を包摂する、より広い概念と捉える考え方があったことに触れています。結局、両者を区別しないで使う委員がほとんどであったとして、非常事態という用語で議論が整理されております。

 また、最近の研究論文でも、両者は区別して議論すべきとの主張もございます。しかし、ここでは現在一般的に用いられている緊急事態という表現を用いることとし、これに非常事態と呼ばれている事項も含めて御報告をさせていただきます。

 それでは、お手元に配付の資料の表紙をめくっていただきまして、目次の後の本文一ページ目を御覧願います。

 最初に、緊急事態条項と国家緊急権の関係について御説明申し上げます。

 国家緊急権については、膨大な学問的蓄積があるところと承知しておりますけれども、芦部先生の教科書では次のように述べられています。戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するために、国家権力が、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を取る権限といった定義です。

 このような国家緊急権は、元来は超法規的な不文の法理を中心とした概念であり、これについては、資料中ほどの左側に示したように、国家存亡の危機に究極的に憲法秩序を守るための憲法保障措置であると肯定的に捉える見解と、逆に、右側に示したように、立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止するもので、立憲主義を破壊する危険なものと否定的に捉える見解とがあります。

 どちらかというと後者の見解が多いようですが、しかし、非常事態対応の実際的な必要性と不文の権限として行使された場合の危険性、この両方に鑑みて、多くの国では、これを成文憲法に取り込んで統制しようとする努力がなされてまいりました。これが実定法上の緊急事態条項でございます。

 ただ、その取り込み方については、それぞれの国の歴史や法制度などの事情に応じて様々であり、必ずしも一様ではないようでもございます。

 以上のことを念頭に置きつつ、まず、本論の一として、諸外国の憲法に取り込まれた緊急事態条項について、東京大学社会科学研究所のケネス・盛・マッケルウェイン先生の比較計量的な分析を御紹介申し上げたいと思います。先週、玉木先生が言及された御論文と同じものかと存じますけれども、マッケルウェイン先生から御許可いただきました資料を用いて御説明をさせていただきます。

 二ページを御覧ください。

 まず、憲法の比較計量分析という手法を御理解いただくために、マッケルウェイン先生の代表的論文による日本国憲法の特徴を示したものです。これによると、日本国憲法は、他国の現代憲法と比べて著しく分量の少ない憲法ということになります。より正確に言えば、人権規定に比べて統治機構に関する規定が非常に少なく、選挙制度を始めとする統治に関する制度設計の多くが法律に委任されているということであります。京都大学名誉教授の大石真先生は、これを簡短概括型の憲法、そのように名づけております。

 次に、三ページのグラフは、日本国憲法のこのような簡短概括性は明治憲法を引き継いだものと言われますが、このグラフからは、明治憲法自体はその制定当時の世界のスタンダードな憲法であったこと、しかし、二十世紀後半に入って、詳細な規定を持つ憲法が増えていったことなどが読み取れるかと存じます。

 このような比較計量分析の手法を使って諸外国の緊急事態条項の趨勢を示したのが、次の四ページのグラフです。一九五〇年代以降、憲法に緊急事態条項を定める国が著しく増加しており、二〇一三年時点で九三%を超えております。

 次に、五ページのグラフからは、その緊急事態条項で定められている事態として圧倒的に多いのが戦争、これに内乱が続き、近年では、自然災害を規定する憲法が増加していることが分かります。他方、事態の範囲を法律に委ねる憲法は一貫して少ないことも理解できます。

 その上で、次の六ページ、左側の表では、緊急事態認定の手続について、政府の長が宣言し、議会が承認する、このような制度を取っている国が五〇%を超えていることが示されています。

 また、右側の表では、緊急事態宣言の効果として最も多いのは人権制限規定で、六〇%を超えていることが示されています。ただし、その際には、併せて緊急事態においても制限してはならない人権規定を明記する、このようなスタイルの憲法があることにも留意が必要かと存じます。

 次いで、議会任期の延長や解散禁止といった議会機能の維持が二三%程度、憲法改正禁止が一二%程度と続いております。緊急政令について規定する憲法は七%程度にとどまっているようでございます。

 七ページには、以上の要旨について、箇条書的にまとめを載せておきました。

 次に、本論の二として、諸外国の主な緊急事態条項について御報告をさせていただきます。

 八ページを御覧願います。

 まず、詳細な緊急事態条項を定めるのがドイツの基本法でございます。そこでは、防衛事態、これに準ずる緊迫事態、そして内乱等の国内緊急事態や災害事態の四つの類型、さらには論者によって、これに重要事態を加えた五類型とする場合もありますが、これらを基本として、それぞれについて詳細な手続や効果を規定しています。

 その歴史的、制度的背景としては、ワイマール憲法の白紙委任的な緊急事態条項がナチスによって濫用されたことへの反省や、連邦制の下で、連邦と州の権限配分については明確な規定が必要となることなどが挙げられております。

 次に、九ページを御覧ください。

 ドイツと対照的に、極めて簡潔な緊急事態条項を定めるのがフランス憲法です。十六条には、一定の要件の下に、状況により必要とされる措置といった極めて広範な権限を大統領に与えた緊急措置権が定められています。また、三十六条には、戒厳といった表現で、要件効果の全てを表した条項も用意されています。

 その背景には、ナチスによる侵略やフランス革命といった歴史的事情があると説明されているようですが、これらの適用事例は極めて少なく、アルジェリア独立戦争の際に大統領の緊急措置権が発動されたのが唯一の例のようです。フランスの公法学者も、余りに抽象的で濫用の危険性があるため、これらの条項は今後とも適用されることはないだろうと述べているほどです。

 だからといって、フランスに緊急事態対応の法制度が全くないわけではありません。憲法の規定とは別に、緊急状態法といった法律の下で、令状なしの家宅捜索を含めた極めて強力な制度があり、パリ同時多発テロを含めて、これまで何度か発動されているようです。

 次に、時間の関係で二ページほど飛ばしまして、十二ページに、今まさに緊急事態の渦中にあるウクライナの緊急事態条項の概要をまとめておきました。

 現在、戒厳令が布告されているさなかですが、憲法には、その効果として、議会期の延長や一定の人権制限などが定められております。その際、注目されるのは、緊急事態においても制限することができない十八か条の人権規定が明記されていることです。

 次に、十三ページを御覧ください。

 以上の大陸法の国々に対して、英米法の国、まず、イギリスでは、不文の慣習法であるコモンローによって、緊急時においては女王陛下は、事態対処に必要な範囲内であらゆる措置を取ることができる非常大権、いわゆるマーシャルローが認められております。最近では、これを議会制定法として成文化するようにもなってきているようです。

 アメリカでは、本来は緊急事態対応の権限と責任は各州にあるはずですが、連邦憲法二条一節一項で大統領に帰属するとされている行政権を根拠に、実際には連邦の大統領が主導的な役割を果たしていると説明されています。これに対して連邦議会は、戦争権限法や国家緊急事態法を制定して、この大統領権限の統制を試みているようでもあります。

 さて、以上の諸外国の法制を踏まえつつ、次に、我が日本国憲法について見てまいりたいと思います。

 十四ページを御覧ください。

 一九四六年二月にGHQ草案の提示を受けた日本国政府は、それを修正した三月二日案を作成し、GHQに提示いたしました。そこには、衆議院の解散その他の事由により国会を召集することあたわざる場合において公共の安全を保持するため特に緊急の必要があるときは、法律又は予算に代わる閣令、今で言う政令ですが、これを制定することを得とした緊急政令、緊急財政支出の条項を設けておりました。これに対してGHQは、いざとなれば不文の法理であるエマージェンシーパワーで対応すればよく、そのような規定は不要と主張し、最終的に参議院の緊急集会の規定に落ち着いたと言われております。

 この点について、現行憲法の制定論議が行われた第九十回帝国議会で、金森徳次郎憲法担当大臣は、確かに緊急勅令、政令は調法だが、国民意思を無視できる制度とも言える、民主政治の徹底等の観点からは、非常の場合の暫定措置は国会こそが対応すべきであり、立法により措置することが適当、このように答弁しています。

 この憲法の下で、我が国は、災害列島日本を反映するかのような度重なる自然災害のたびに、これに対応するために災害対策基本法を中心とした個別の法律を制定し、これらの法律において政府への権限集中や人権制限といった措置を定めることによって、緊急事態法制を構築、整備してきたわけでございます。

 次の十五ページを御覧ください。

 五千人を超える死者・行方不明者を出した伊勢湾台風を契機に災害対策基本法が制定され、そこには、国会閉会中に限って、かつ一定の事項に限定してのものではありますが、緊急政令の制度も盛り込まれております。我が国の災害対策法制は、その後も、阪神・淡路大震災、東日本大震災など大規模な自然災害を経験するたびに、その経験を踏まえて必要とされる措置を次々と追加し、整備されてまいりました。

 我が国の現行法令における緊急事態法制を概観したのが、次の十六ページの図です。

 災害対策法制のほか、武力攻撃に対処するための有事法制、内乱・テロなどの治安緊急事態法制、感染症対応の法制などに分類できるかと存じます。

 このような現行法制に対しては、一方には、法律ベースでかなりの法整備がなされており、今後ともこれを整備拡充していけばよいと評価する見解がございます。他方では、後追い的な法整備でよいのか、これまでも常に想定外の事態が生じてきたではないかといった懸念を示す指摘もなされているところです。

 以上の諸外国の事例やこれまでの国会での議論を踏まえて、緊急事態条項に関する主な検討項目をまとめたのが、十七ページのポンチ絵です。

 前回までの議論で多くの先生方から既に指摘されてきたことでございますが、大きく三つ。一つ、対象とする事態の範囲。二つ、緊急事態の宣言認定の主体や手続。三つ、盛り込むべき法的効果といった論点がございます。また、法的効果については、さらに、行政への権限集中、人権制限、議会の機能維持といった三つの小論点に分類することもできるかと存じます。

 次の十八ページと十九ページの表は、これら三つの小論点について、憲法改正の要否あるいは是非の観点から、それぞれの主張の概要をまとめてみたものです。

 まず、現行憲法下でも対応可能とするお立場からは、政府への権限集中や一般的、包括的な緊急政令は濫用の危険があること、必要かつ合理的な人権制限は、公共の福祉による比例原則の下でも可能であること、議会の機能維持は、任期延長によらずとも繰延べ投票や参議院の緊急集会で対応可能であることなどが指摘されていると存じます。

 これに対して、憲法改正が必要とするお立場からは、あらゆる事態をあらかじめ想定することは困難であり、想定外の事態への対応もできるように準備しておくべきこと、濫用のおそれは発動要件の明確化やチェック制度を設けることで対応できること、また、公共の福祉のような曖昧な概念に委ねることこそ危険であり、緊急時に制限できる権利、できない権利を明確に定めておくことこそ立憲主義にふさわしいこと、さらに、国会機能の維持のためには、限定された地域や期間を念頭に制度設計されている現行の繰延べ投票や参議院の緊急集会では不十分であることなどが指摘され、今まさに先生方において御議論されているところと拝察いたします。

 最後に、本論の三として、近年、緊急時、平時を問わずに問題となっているSNS等によるフェイクニュースに対する諸外国の対応状況について、ごく簡単に御報告申し上げます。

 二十ページを御覧ください。

 フェイクニュースとは、事実と異なる虚偽の情報、報道のことですが、必ずしも明確な定義はなく、ディスインフォメーションとかミスインフォメーションなどとも言われるようです。これが問題となったのは、二〇一六年のアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱国民投票の際に、プロファイリングといった手法によってフェイクニュースの影響を受けやすい人を選び出し、そのような人に集中的に偽情報が流されて、その投票行動に影響を与えたという事件でした。

 二十一ページを御覧ください。

 このようなフェイクニュースは、大なり小なり、これまでも存在していたわけですけれども、しかし、SNSの特性、すなわち、一般人でも容易に書き込むことができること、GAFAなどの巨大プラットフォームを通じて広範かつ迅速に拡散してしまうため、影響力が極めて大きいこと、エコーチェンバーやフィルターバブルといった現象によって同じ嗜好、意見の人々が集まり、その意見が極端化しやすいことなどといった特性によって、これまでとは比べ物にならないほどの重大な問題を生じさせていると指摘されています。特に選挙や国民投票においてこれが悪用されますと、民主主義の土台ともいうべき基本的なプロセスそのものが機能不全に陥るおそれすらあります。

 各国では、これに対処するため様々な取組がなされているところですけれども、問題は、その規制が、これまた民主主義社会の基本的な価値である表現の自由と抵触する可能性があることです。

 この問題への各国の対応姿勢は、おおむね次の二つに分けられるように存じます。

 二十二ページを御覧ください。

 一つはアメリカ型の対応姿勢で、基本的に表現の自由に重きを置き、国家による法的規制には慎重で、プラットフォーム事業者の自主的な取組に任せるものです。

 もう一つはヨーロッパ型、EU型の対応姿勢で、表現の自由だけではなくて、名誉やプライバシー、選挙の公正さなども重要な価値であるとして、国家が積極的に介入して理性的な言論空間を維持、構築することが必要といったものです。EUでは、この秋にもデジタルサービス法やデジタル市場法によって巨大プラットフォーム事業者に対する大幅な規制を導入する予定と報じられているようです。

 ただ、ここで御留意いただく必要があるのは、選挙や国民投票の場面に特化してフェイクニュース対策を取っているのではなく、あくまでもSNS全般の問題として位置づけられているということです。

 そのようなSNS対策の法規制の例として、最後に二十三ページのドイツのSNS法を御紹介したいと存じます。

 森会長を団長とする衆議院憲法審査会の調査議員団が二〇一九年の海外調査で訪問した際の報告書によりますと、この法律では、一定のプラットフォーム事業者に違法コンテンツの申告窓口を設ける義務を課し、利用者からの申告に対して審査をして、一定期間内の削除義務を負わせており、この義務違反に対しては最大五千万ユーロ、日本円で約六十五億円の過料が科されることとなっているとのことです。

 現に、連邦司法・消費者保護省を訪問した際のヒアリングでは、先方の担当課長さんは、フェイスブックに対して早速二百万ユーロ、約二億六千万円の過料を科したと述べて、その実効性を強調しておられました。

 以上、大変に駆け足で総花的な御報告になってしまいましたが、少しでも先生方の御議論の素材となれば幸いでございます。御清聴ありがとうございました。

森会長 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより討議に入ります。

 この討議につきましては、幹事会の協議に基づき、まず、各会派一名ずつ大会派順に発言していただき、その後、各委員が自由に発言を行うことといたします。

 発言の中には、事実確認等のため、衆議院法制局当局に対する質疑を含んでも結構です。

 それでは、まず、各会派一名ずつによる発言に入ります。

 発言時間は七分以内といたします。発言時間の経過につきましては、おおむね七分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 発言の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自由民主党の新藤義孝でございます。

 ただいまの法制局の論点説明は、日本国憲法の根本的性質を簡潔に指摘し、明確にしてくれたと思います。

 資料の二ページにありますように、我が国の憲法は諸外国に比べ文字数が少ない、すなわち、権力統制機能が弱く、その分、憲法附属法の役割が大きい、それがゆえに通常の国が憲法改正で行うことを法律の改正で行っている、だからこそ、憲法改正により必要な条項を整備し、規律密度を上げて権力統制機能を回復させるべき、これこそが日本国憲法の改正の意義だということだと思います。

 三ページのグラフを見ますと、この一八八九年の明治憲法、一九四六年の現行憲法、文字数はそれほど変わっておりません。ただ、その時期の諸外国の憲法も同様でございましたが、近年になるほど文字数が増えて、憲法の規定内容が豊富になっています。

 四ページのグラフでは、緊急事態条項を整備している憲法は、二〇一三年時点で九三・二%であります。一九九〇年以降に制定された外国の憲法で全て緊急事態条項が規定されている、こういう研究成果も発表されているところであります。

 日本国憲法は一九四六年の制定から時が止まっていると言われても仕方がないと私たちは認識すべきだと思います。憲法は、不磨の大典であってはならず、立憲主義に基づき権力を統制するとともに、時代や社会の変化に合わせてアップデートしていく必要があると私は考えています。日本国憲法の改正がいかに必要で重要であるか、この問題意識を原点に、憲法改正で盛り込むべき規定について、憲法審査会は更に議論を深めなければならないと考えます。

 本日は、緊急事態条項の残された重要論点について、私なりの意見を申し上げます。

 まず、先週も取り上げました議員任期の延長の問題でございますが、議員任期満了直前に緊急事態が発生した場合どうするのかという論点でございます。しかし、これに加えてもう一つ、衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合にどうするのかという問題が残されています。

 このような場合に備えて日本国憲法は参議院の緊急集会の制度を用意していますが、現行憲法の参議院の緊急集会が規定しているのは、かなり限定された事態です。すなわち、解散から総選挙まで四十日、その後の特別会召集まで三十日、合計すれば最長でも二か月程度の臨時的対応を想定しているにすぎないわけであります。

 また、国会は衆議院と参議院の二院制であり、参議院の緊急集会は、その重大な例外規定です。長期間選挙が執行できず衆議院議員が不在となる場合にまで、参議院の緊急集会に国会機能を代替させてよいとはとても考えられないのではないか、このように思うわけであります。

 衆議院の解散により議員資格が失われた状態で、解散後に緊急事態が発生し、選挙が執行できなくなる事態となれば、衆議院議員は不在となり、新たな国会を構成することができなくなります。すなわち、国会機能が維持できないということになるわけです。このような場合に、解散前の衆議院議員に議員としての身分を復活させるか若しくは何らかの権限を与えることができないか、そうした議論も必要ではないでしょうか。この論点は、今後更に議論をしていきたいと考えています。

 そして、こうした議員の任期延長など、国会機能を維持する手だてを講じたとしても、国会が壊滅的被害を受ける最悪の事態が発生するおそれは依然として残ります。この究極のリスクに備えておくためには、国民の生命財産を守るため、内閣が暫定的に立法措置を行う緊急政令の制度についても議論をしておく必要が出てきます。

 緊急政令につきましては、これまでの審査会で、オンライン審議が実現すれば、緊急政令の必要性は低下するのではないかとの質問をいただきました。そのとおり、オンライン審議により国会機能を維持できるケースが増えれば、緊急政令を制定する頻度は少なくなるかもしれません。しかし、通信環境の壊滅的な被害などにより、オンライン審議さえも不可能となる事態がないとは言い切れません。どのような事態においても国家機能を維持するために、それには頻度ではなく可能性の問題として緊急政令の必要性に変わりはない、そのように考えているわけであります。

 加えて、この緊急政令の執行に必要な予算支出を可能とする緊急財政支出の仕組みは、セットで整備しておく必要があるのではないかと考えます。

 もう一つ、緊急事態条項の残された論点として、特別の人権制限が必要かという問題もあると思います。

 日本国憲法では、十二条や十三条の公共の福祉の規定によって必要な人権制限は可能と説く人もおりますが、いかなる場合にその制約が許されるのか、また、制約の限界はどこまでなのか、特に有事における制限について明確ではありません。緊急事態時には平時とは違う自由や財産の制限が必要な場合も考えられ、こうした有事の人権に関して憲法上の規定を置いておくことは、立憲主義の観点からも重要です。

 同時に、そうした緊急事態にあっても制限されてはならない人権を規定しておく、このことも重要ではないかと思います。

 ドイツ基本法の緊急事態条項においては、財産権や居住、移転の自由などの人権について、平時とは違う制限ができる規定になっています。

 他方、今、苦難を受けているウクライナにおいては、緊急事態条項の非常事態、戒厳の布告がなされています。ウクライナ憲法には、緊急事態期間中、人権に制限が加えられる場合であっても、市民権の保障、個人の尊厳の尊重、拷問の禁止、婚姻の自由、裁判を受ける権利など、制限されてはならない人権の規定が設けられています。

 我が国においても、緊急事態条項の創設に当たっては、平時と違う人権制限の規定とともに、緊急時においても制限してはならない人権、この規定を設けるべきか検討が必要ではないか、このように考えるわけであります。

 緊急事態条項に関する討議は、今回で三回目となりました。様々な御意見が出され、本日の論点説明を踏まえての集中討議により、議論はまたかなり深まるのではないかな、このように期待をしております。

 私は、今朝の幹事会において、来週も審査会を開催し、この間の議論を踏まえ、総括的な討議を行ってはどうかと提案をしております。引き続き、筆頭間で協議を行ってまいりますが、委員各位におきましては、緊急事態条項に関する論点整理が深まるよう積極的な討議を期待いたしまして、私の発言を終わります。

森会長 次に、奥野総一郎君。

奥野(総)委員 立憲民主党の奥野総一郎でございます。

 まず、SNSの話から入りますが、ウクライナではSNSの情報戦が戦われています。我々はスマートフォンを通して戦場の映像を見ることはできますが、その映像が本当に真実なのかという保証はありません。こうした現実を踏まえれば、選挙や憲法改正国民投票において、外国政府などの干渉で結果が左右されるおそれは否定はできません。

 本日の説明でも、資料の中にありましたけれども、投票結果がゆがめられたり、政治的分断が深まるおそれがあるなど、フェイクニュースの民主主義に与える影響が指摘をされています。

 諸外国でも対応を検討しており、ドイツは紹介ありましたけれども、フランスでも、選挙に関する偽情報について規定した情報操作との戦いに関する法律が制定されていますし、EUでは、プラットフォーマーに署名を求めて、行動規範に基づく自主的取組が推進をされ、不十分な場合には規制的な措置を講ずる可能性もEU当局が示唆をしているということであります。

 憲法が保障する表現の自由の観点から、国家による規制は望ましくないことを踏まえた上で、なお我が国においても、EUとかを参考にしながらSNS対策を検討すべきであります。この問題については、有識者を招いてのより深い議論、参考人招致を求めます。

 あわせて、国民投票への外国政府の干渉を防ぐために、これは表現の自由との関係でなかなか難しいところがありますから、運動資金が特定の者や外国に依存することを防ぐように、我々の法案に盛り込んであるよう、一人当たりの寄附の上限額の設定や外国人寄附の受領禁止などの寄附規制を行うべきであります。

 公平公正な憲法改正国民投票を確保するためには必要な措置であり、運動資金の在り方についても集中討議を求めていきたいと思います。

 このSNSの問題については、玉木代表が造詣が深くて、従来から指摘をされていましたので、こうした議論については御賛同いただけると思いますが、いかがでしょうか。後ほど伺いたいと思います。

 重ねて申し上げますけれども、国民投票の公平公正を確保できるまでは、憲法改正の発議はできません。我々の国民投票法改正案を国会に提出させていただきますので、たたき台として議論を求めていきたいと思います。

 次に、緊急事態ですが、先ほど新藤筆頭は規律密度を高める話をされていますが、規律密度が低いからこそ柔軟に対応できる、すぐに現実にアップデートすることができると思うんですね。毎年毎年憲法改正をやっていくというのはなかなか現実的ではないと思いますので、規律密度を高めるという考えには私は反対であります。本当に必要なところだけ考えていけばいいと思います。

 緊急事態条項については、憲法五十四条の緊急集会の制定経緯からも分かるように、日本国の法制では既に盛り込まれている、緊急事態というのは織り込まれているということであります。武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症、それぞれの基本法制があって、緊急事態等の認定も行える仕組みになっています。そのことは本日の資料でも明らかでありまして、ということは、では、どこが不十分なのかということをやはり考えていかなきゃいけないんですね。

 ですから、もう少し詳しく、専門家の意見、現代の緊急事態法制について話を聞いていかなきゃいけないと思うんですよ。深まったと言っていますが、全然まだ入口でして、どこが問題かもきちんと見えていないということではないでしょうか。余り粗雑な議論をこの憲法審査会で私はやっちゃいけないと思います。

 また、もう一つ言えば、アメリカもフランスも、今説明ありましたけれども、基本は法律で対処しようとしているんですね、緊急事態について。ドイツも、連邦と政府の関係については規定していますが、基本は法律で対処しようとしていますから、やはり、法律であらかじめ対処するというのが基本的な考え方だと思います。

 少なくとも、これまでの議論で言えるのは、緊急政令は要らない。まず、我が国については、国会で予算、立法措置を迅速に行うことによって、緊急政令は不要であります。ドイツやアメリカを始め多くの国でもこうした緊急政令の規定は設けておらず、全世界の憲法の実に九三%では、こうした強権的な規定、政府への権力集中の規定は設けられていません。むしろ設けないことがスタンダードであります。

 それから、人権制限については、憲法の公共の福祉に基づく規定が既に、先ほど申し上げた個別法、災害とか等について基本法に盛り込まれています。それから、諸外国を見ても、広範に制約を認めている国はありません。公共の福祉については、それなりに判例も我が国では積み重なっており、限界も明らかになってきています。新たに憲法に人権を制約する規定を設けるべきではないと思います。

 法制局に一点伺いますが、海外の事例で、人権制限、先ほどの表、こちらの資料の方の表には書かれているんですが、近年制定された憲法ほど人権制約が規定されていない、六三%の憲法は人権制約を規定されているといいますが、近年のものほどその率が下がってきていますね、その理由はなぜでしょうか。その理由を伺いたいと思います。そして、規定されている場合について、基本的人権の制約などもあるのでしょうか、その辺を伺いたいと思います。

 それから、緊急集会についてですが、衆議院解散以外の場合に招集できるかどうかですけれども、学説では、任期満了の場合でも使えるとする説が有力であります。

 内閣法制局は両論併記になっていますが、この資料にあるように、私の過去の予算委員会の答弁で、法制局長官が、「両論がありましたが、結論を得るに至っておりません。」「国会で御議論をいただくのが適当である」と述べています。任期満了時に緊急集会を招集できないとは法制局も言っていないんですね。

 先日、これも玉木さんですが、指摘したように、五十四条の解釈について有識者の見解をやはり聞いておく必要があると思いますので、緊急集会について、憲法解釈の有識者、参考人の招致を求めたいと思います。

 それから、議員任期の延長については、海外の事例を見ても、アメリカを始め多くの国では規定していません。二二%、解散の制約と合わせて二二%ですから、ほとんどの国は議員任期の延長も書いていないんですね。つまり、緊急時においても選挙が行われることを前提として多くの国は考えていると考えられます。

 我が国においても、一九四二年、昭和十七年、戦時中でも選挙は行われましたし、戦後すぐ、一九四六年四月にも衆議院選挙が行われています。選挙ができないまま衆議院が任期満了を迎える事態を想定するとすれば、日本全土が戦乱に巻き込まれた場合や致死性の高い感染症が全国に蔓延する場合などの究極の事態でしょうが、その際に、選挙ができるようになるまで参議院の緊急集会を活用する、選挙は繰延べ投票で延期をすることが考えられます。

 最後に、数年の程度長期にわたり選挙ができない場合に、それでもなお議員任期を延長するという考え方はあり得ます。議員自らの手で身分の復活というのはあり得ませんが、議員任期については、頭の体操としてはあると思いますが、ただし、誰が延長を決めるのか。国会が自分で決めて、不必要に長期に延長されるおそれがあります。

 私は、議員任期の延長を考えるのであれば、憲法裁判所のような機関に判断させ、お手盛りは避けるべきだと思います。この点についても議論が必要ですので、論点にはしっかり入れておいていただきたいと思います。

 最後に、海外の事例については、議員任期延長については、規定しないか、緊急事態等の期間と連動している例が多数と考えられますが、法制局、それでよいでしょうか。規定しないか、少数規定したとしても、緊急事態の期間と連動している例が多いんですが、いかがでしょうか。そのことは、緊急事態があくまで異常な状況であり、長期にわたらないという考え方が背景と考えるとよいでしょうか。

 基本は、いついかなるときも国会を動かすことであって、きちんと民主的な統制が行われることであります。改憲ありきではなく、丁寧な慎重な議論、有識者を交えて一層の慎重な議論が必要であると申し上げて、私の意見表明といたします。

森会長 質問時間が過ぎておりますが、法制局から簡潔に御答弁を願います。

橘法制局長 奥野先生、御質問ありがとうございました。

 もしかしたら御質問の趣旨を取り違えているかもしれませんが、二点御答弁申し上げます。

 一点、近年、緊急事態条項が定められている国において人権制限を定める国が低下する傾向にあるという御指摘だったと思いますが、ちょっと私には、その理由は今持ち合わせておりません。

 先生御指摘の資料が、衆憲資九十八号の四ページ、私の論点説明資料では抜いたところですが、四ページの下の表で見ますと、緊急事態条項を定める国が九三・二%と増加傾向にあるのと同じように、人権制限規定を置く国も六三・七%へと増加傾向にあるように見えます。ただ、先生が御指摘の低くなっているというのは、この差分、差のところが広がっているのかという御指摘かと思いますが、私にそのように読めるかどうかは、ちょっと分析が足りなくて済みません。お答えするだけの十分な知識がないことをお許しください。

 もう一点、任期延長の規定だったと思いますが、現行日本国憲法で任期延長を直接にするには憲法改正が必要であることについては、多分、先生方、御異論はないと思います。任期延長をしないで済むために任期満了前に必ず総選挙をやる、あるいは参議院の緊急集会で対応するといったような事柄が議論されているのだと思います。

 さて、諸外国で任期延長規定がない国はどうやっているんだろうかということですが、このマッケルウェイン先生のデータの取り方は、諸外国の憲法をワードで選んできているというふうに先生から教わっていますので、任期延長という言葉がないと、多分ひっかかってこないんだと思います。ひっかかってこなくても、現在の議員の任期というのは、次の選挙で新たな議員が選ばれるまではその職務を継続するのだ、そういうのが平時の制度としてあるという国があるとすれば、多分、多くの国であるんだと承知していますけれども、それは多分、この議会任期の延長規定を定めている国に入ってきていないのではないかと勝手に推測しております。

 以上です。

森会長 玉木雄一郎君に対しましても御質問がありましたけれども、恐れ入りますが、御自身の発言の中で言及していただければと思います。

玉木委員 私の時間は守っていただきたいと思うんですが。

森会長 以後、注意するようにいたします。

 あと、参考人の件について御提案がございましたけれども、後刻、幹事会で協議をいたします。

 次に、馬場伸幸君。

馬場(伸)委員 日本維新の会の馬場伸幸です。

 本日は、橘法制局長より、緊急事態条項に関する諸外国の対応や国民投票におけるSNS対策など、貴重なお話をお伺いできました。是非、憲法審査会での今後の議論に大いに役立てたいと存じます。橘局長、ありがとうございました。

 こうしてつつがなく討議の場が持たれたことについて、各党会派の皆様にも感謝を申し上げます。憲法について不断に議論していくという立法府の責務からすれば、感謝するというのもおかしな話ですが、長らく一部の特定政党がありとあらゆる妨害を尽くし、この委員会室の扉が固く閉ざされていた前国会までの暗たんたる有様を鑑みれば、定例日に各党会派がしっかり憲法に向き合うことが軌道に乗りつつあることは大きな前進であると受け止めています。

 しかし、ただ集まって意見を述べ合っているだけでは意味がありません。私たちは、かねて夏の参議院選挙と同時に国民投票を実施するというスケジュール感で憲法改正に向けた論議を加速させるべきだと主張してきましたが、皆様におかれましても、そのような決意と覚悟で審議に当たっていただきたいとお願い申し上げます。

 何より重要なのは、オンライン審議の導入について方向性を打ち出したように、喫緊のテーマに関する議論が一定の決着を見たら、民主主義の原則である多数決によって結論を出すという作業を急ぐことです。前々回及び前回のテーマとなっている緊急事態における国会議員の任期延長問題についても、堂々巡りを続けるのではなく、そろそろ意見集約に入るべきだと考えます。

 緊急事態時の行政、立法府の在り方をめぐる論点の領域は広く、国会議員の身分に関わる問題はその一つにすぎません。例えば、今後の議論の論点を挙げれば、緊急事態の宣言を行う主体や国会の関与の在り方、緊急政令をどうするのか、また、財政上必要な措置や、行政機関の長の指揮監督、地方公共団体の長との関係性をいかようにするのかなど、解決すべき問題は尽きません。無駄に時間を費やすのではなく、一つ一つ迅速に議論して結論を導き出す必要があると考えます。

 緊急事態時の国会の機能維持に関する日本維新の会の立場は、憲法にしっかりと緊急事態条項を設け、次の二つを条文に明記することです。

 すなわち、一つは、緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、衆参両議員の任期及びその選挙日の特例を定めることができるということ、もう一つは、憲法七条による天皇の国事行為による衆議院解散を禁止し、衆議院解散後から総選挙の期日までに緊急事態の宣言が発せられたときには、その解散はなかったものとみなし、議員の地位回復を行うことであります。

 また、緊急事態時における憲法改正禁止の項目を盛り込むことによって、通常でも法律よりも厳格な手続を取らなければ改正できない硬性憲法の原則を維持できると考えます。

 我が党は、各党会派がそれぞれの見解を早期に提示し、意見が出尽くせば、民主的な多数決によって、当審査会としての結論を導き出すことを求めます。かつて、本会議における採決で見られた牛歩戦術のように、反対だからといって無駄に時間を引き延ばすことはやめ、前へ前へと突き進むべきだと強く申し上げておきます。

 なお、本日は、憲法審査会で取り上げるテーマとして、国会議員の免責特権を挙げさせていただきます。

 言うまでもなく、国会内における国会議員の発言、表決は院外で責任を問われないとする免責特権が憲法五十一条で定められています。議員の自由な議論を確保するために、免責特権自体は必要な制度ですが、特権とはいえ、濫用することはあってはなりません。濫用の扱いについては、憲法改正も視野に、真剣に議論しなければならないテーマだと考えています。

 国会議員同士であれば、意見を闘わせることにより、もし間違っているならば正すことは可能です。しかし、国会議員以外の一般の方への誹謗中傷については、その方が国会で反論して正すという手段、方法はありません。

 事実誤認に基づくものであろうが、意図的によるものであろうが、国会外なら侮辱罪や名誉毀損罪にも該当するような一般の方への誹謗中傷が院内でなされた場合は、発言者の国会議員は一切無罪放免とされ、被害者である一般の方は泣き寝入りするしかないのです。同じ内容の誹謗中傷発言が国会外でなされ、司法の判断で事実無根と認定されても、院内での発言なら国会議事録から削除することができない上、デマの内容を含んだ欠陥議事録がインターネットで公開され、世に広がってしまいます。

 国会議事録は、デマを無責任に垂れ流している三流ゴシップメディアと何ら変わりません。当該被害者は、終生ぬれぎぬを着せられ、子や孫も先祖の無実の罪に苦しむことになります。法治国家において、こんな理不尽なことがあるでしょうか。

 免責特権の濫用は、立法府の品位や議員のモラルが問われる極めて重要なテーマで、被害に遭った一般の方の人権にも関わる問題です。国会議員の免責特権にも一定の制約があるということを明確化するなど、是非、当憲法審査会で議論を進めていただくようお願い申し上げ、私からの意見表明といたします。

 ありがとうございました。

森会長 次に、中野洋昌君。

中野(洋)委員 公明党の中野洋昌でございます。

 本日、衆議院法制局から、緊急事態等に関する論点説明ということで、大変分かりやすく、また包括的な御説明をいただきました。ありがとうございます。

 そしてまた、先週は、ウクライナのゼレンスキー大統領、憲政史上初めての外国首脳によるオンライン国会演説ということで実現をいたしました。オンラインによる国会、我々議論してまいりましたけれども、これが実現をすれば、たとえ武力攻撃という緊急事態の中にあっても、首脳が外国の国会で演説をすることができるようになる。この活用で、様々な緊急事態において、国会が開けないという事態を相当程度回避できるのではないか、こう感じたところでございます。

 私も今国会から憲法審査会に所属させていただいておりますが、やはり緊急性の高いテーマ、そしてまた、各党の合意が最大限得られるものについて集中的に議論を行う、こういうことで意見を集約して改善、改革を行うことができる、このようにも感じております。そうした点に配慮をしながら、引き続き委員会の運営を望むものでございます。

 さて、本日の議題に入らせていただきます。

 先ほど包括的な説明、法制局からいただきまして、国によって緊急事態条項の在り方というのはそれぞれであると。日本における有事への対応の全体像、これも分かりやすく整理をしていただきました。歴史的な経緯、行政の在り方、また民主的統制の在り方、国によってそれぞれ考え方が異なりますけれども、日本は法律を中心として有事への対応を図ってきている、こういう現状を踏まえた上で、今後の議論を整理していく必要性があるのではないか、こう感じたところでもございます。

 そしてまた、緊急事態条項の具体的な効果といたしましても、一つは内閣等への権限の集中、そしてまた人権の制限、そして三点目に国会機能の維持、こういう三つの要素について御説明もいただいたところでございます。

 こうしたことを踏まえまして、私の意見として二点述べさせていただきます。

 一点目は、今後の議論の在り方でもございますけれども、先週まで、また本日も議論を拝聴させていただきますと、先ほど法制局に整理をしていただいた、特に内閣等への権限集中でございますとかあるいは人権の制限の在り方については、各党が持たれているイメージ、あるいは導入の必要性について、様々な御意見があるように感じたところでございます。

 国会議員の任期延長を含む国会機能の維持につきましては、具体的な制度の在り方はともかく、少なくとも議論をし、論点の整理、こういう必要性について多くの会派が言及をしておられるように感じますので、例えば、国会機能の維持に絞って更なる議論を行っていく、こうしたことも考えられるのではないか、こう感じたところでございます。

 二点目に、国会機能の維持の在り方についても意見を述べさせていただきます。

 緊急事態条項の導入につきまして、権力の濫用を防がなければならない、慎重であるべきだ、こういう意見がございます。他方で、国会機能の維持につきましては、むしろ緊急事態においても国会の行政監視機能を発揮する、できる限り国会に民意を反映させる、このために必要なことでもあると思います。

 ですので、我々立法府の立場からは、どうやって有事において国会機能の維持ができるのかということをしっかり議論をしておかないといけない、このように感じております。もちろん、議員の任期、例えば延長のところにおきましては、当然、お手盛りの制度であってはならないですとか、あるいは、国民から参政権を奪って権力の濫用に結びつくものであってはならない、こうした指摘は十分に理解ができるところでございます。

 他方、だからといって、例えば衆議院選挙の直前に大災害が発生をした場合、憲法審査会上でも様々議論がずっとなされてまいりましたけれども、参議院の緊急集会だけで長期間対応すること、あるいは、仮に繰延べ投票で対応という議論もございましたけれども、被災地の選出の議員が長期間いない、あるいは比例ブロックの議員が長期間いない、このまま対応することが、果たして国会の行政監視機能の在り方として本当にあるべき姿なのかということかと思います。

 東日本大震災の例でいいますと、最も長い自治体では八か月以上選挙が延期をされた、こういう状況もございます。私たちは、首都直下地震あるいは南海トラフ地震、こうした巨大な災害が三十年以内に起こる確率が七割以上、こういう想定もしているわけでございますので、やはり立法府としてもしっかり備えていかなければいけないのではないか、こう感じたところでございます。

 前回、我が会派の北側委員からの御指摘もございましたけれども、やはり緊急集会については、こうした点からは一時的、緊急的な措置とすべきではないか、あるいは繰延べ投票についても、政策上の問題、あるいは選挙の公正性においても大きな問題が生じるのではないか、こうした点はこの憲法審査会で既に何度も議論をされてきたことではございましたけれども、私も改めて指摘をさせていただきたいというふうに思います。

 その上で、任期の延長の決定に当たりまして、やはり、十分に厳格な手続、あるいは濫用を防ぐ制度の構築、こうした点は当然に議論されていかなければならないテーマである、このようにも考えております。

 最後に、SNS等への規制について一言申し上げます。

 本日も御説明いただきましたけれども、デジタル社会の進展や巨大なプラットフォーマーなどの出現によりまして、ヨーロッパを中心に新たな規制の在り方が議論されております。情報自己決定権を始め、守るべき権利についても、何を守っていくのか、これもいろいろな議論が行われております。他方で、これは表現の自由とも関係をしている、これは法制局の指摘にもあったとおりであります。

 デジタル社会における基本的な権利の在り方、非常に重要なテーマであります。こうしたテーマも含めて、今後幅広く議論をしていく必要がある、このように申し上げまして、本日の意見表明とさせていただきます。

 ありがとうございました。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 今週も、こうして定例日に憲法審査会が開催されたことをまず歓迎したいと思います。

 また、緊急事態条項を中心としてテーマを絞って議論することは大変有意義だと思いますし、具体的な議論の成果が出せる議論となるよう、私も貢献していきたいと思います。

 まず、改めて、国民民主党の考える緊急事態条項についての基本的考え方を述べたいと思います。それは、緊急事態条項自体が危ないのではなく、まともな緊急事態条項がない中、曖昧なルールの下での行政による恣意的な権力行使で憲法上の権利が制限され得る状態こそが危ないということであります。

 私たち国民民主党の考える緊急事態条項は、行政の簡易迅速な権力行使を可能とする権力行使の容易化条項としての緊急事態条項ではなく、むしろ、公共の福祉など漠たる規定を根拠として行政府による権力の濫用や人権侵害の危険性が高まること、特に、緊急事態においては国全体が正気を失いがちになるという歴史の教訓に鑑み、これに対する立法や司法による統制を明示する、権力行使の統制条項としての緊急事態条項が必要だという考えです。

 前回紹介した、欧州評議会に置かれたベニス委員会の見解を改めて説明したいと思います。

 ベニス委員会は、憲法に明確な緊急事態権限について定めることこそが、人権保障や民主主義、法の支配にとって有益だと主張しており、特に、コロナ禍を経て二〇二〇年六月に策定された報告書の中では、緊急事態と緊急事態権限に関する基本的な規定を憲法に盛り込むべきであり、その中に、いかなる権利が制限され得るのかを定めた条項、いわゆるデロゲーション条項といいます、これに加えて、いかなる権利は制限が許されず、どんな状態にあっても尊重されなければいけない権利、これをデロゲートできない権利といいます、これを明確にする条項を含むべきとしています。

 私たち国民民主党は、このベニス委員会が指摘するように、政府による緊急権の濫用を防止するためには、行使できる状況、効果、発動に関する規定の本質的部分は明確に憲法に規定すべきだと考えます。

 そこで、国民民主党が考える、権力の統制条項としての緊急事態条項についての全体像をお示ししたいと思います。

 まず、権力統制のツールとして、大きく二つのカテゴリーを設けてはどうかと思います。一つは、国会の事前承認を求めるなどの手続的な統制、もう一つは、先ほど申し上げた、絶対に制限してはならない人権制限の限界を明示するなどの内容的な統制です。

 最初に、緊急事態の宣言発令の要件と手続について述べたいと思います。

 まず、行政府による権力濫用を防止する観点から、緊急事態の要件は極力限定列挙すべきだということは従来から申し上げています。具体的には、外国からの武力攻撃、内乱・テロ、大規模自然災害、そして感染症の大規模蔓延の四つのカテゴリーを原則として考えるべきだと思います。さらに、単にこれらの事態が客観的に発生するだけではなく、これらによって、通常の統治機能の運用によっては緊急事態の収拾が著しく困難であるときという要件を加重してはどうかと考えます。

 宣言を発令する際の手続としては、原則国会の事前承認を求め、例外的に事後承認を認めることとしてはいかがでしょうか。この点は、自民党の二〇一二年の憲法改正草案にも明記されており、建設的な合意がつくれるはずだと思います。

 次に、緊急事態が宣言されたときの効果における手続的統制と内容的統制について述べたいと思います。

 手続的統制の第一として、国民民主党では、国会機能の維持を最重視しています。

 具体的には、国会開会時の閉会の制限と閉会時の召集義務を課してはどうかと考えます。また、緊急事態宣言下での衆議院の解散制限の規定も検討しています。これは、緊急事態のときであっても、いや、緊急事態のときだからこそ、国会の立法機能や行政監視機能を可能な限り維持しようとする考えです。解釈で認められたオンライン出席についても、この際、明文で規定することも検討してはいかがでしょうか。

 加えて、任期満了時に緊急事態が宣言された場合の議員任期の延長と選挙期日の特例に関する規定は不可欠だと思います。これは、前回申し上げたように最優先で議論するテーマだと思います。

 さらに、ドイツにおけるミニ国会のような、両院合同委員会による国会機能の代替についても議論してはいかがでしょうか。

 手続的統制の第二として、裁判所による統制も必要だと考えます。

 具体的には、まず、緊急事態宣言の要件が果たして満たされているかどうかの要件充足性について、最高裁が勧告できるようにし、恣意的な宣言発令を抑制することを検討しています。また、緊急事態宣言発令中に取られた法令、命令、条例、規則等の合憲性について、最高裁が集中的に判断できる規定を設け、統治行為論で逃げられないようにすることで、最高裁が事実上の憲法裁判所として機能を発揮するようにしてはどうかと考えます。つまり、緊急事態においては、立法府に加えて司法府のチェックもしっかりと働くように設計することが大切だと考えます。

 続いて、緊急事態宣言の効果に関する内容的統制について概要を述べたいと思います。

 内容的統制の第一として、いついかなるときも国会機能を維持することが大前提でありますが、それでもなお、国会による法律の制定、予算議決を待ついとまがないときには、あらかじめ法律で定めるところにより、法律で定める政令や財政支出等を可能とする規定を創設すべきと考えます。

 内容的統制の第二として、人権制限の限界を明記することが重要だと考えます。

 具体的には、公共の福祉に基づく必要かつ合理的な限度での人権制限を前提とした上で、それでもなお踏み込んではならない絶対的禁止の部分について、一般的、個別的に規定すべきです。いわゆるデロゲートできない権利についての規定です。

 まず、ドイツ憲法のように、各人権の本質的内容の絶対的制限禁止を規定するとともに、自由及び権利の制限は必要最小限度のものでなければならない旨も規定すべきだと考えます。その上で、判例や学説の多数の見解等を踏まえて、奴隷的拘束、思想・良心・信教の自由の内心部分への制約や、検閲、拷問、残虐な刑罰の絶対的禁止を規定することを検討しています。例えば、内心の自由の侵害は絶対にこれを禁ずるなどの明文の規定を設けてはいかがでしょうか。

 最後に、スペインやフランスの憲法を参考に、緊急事態の発令中は憲法改正、発議、国民投票を制限する規定も設けるべきだと考えます。なぜなら、国の基本法である憲法は、落ち着いた環境の中で議論し、手続を進めるべきと考えるからです。

 こうした全体像を視野に置きつつ、国民民主党としては、特に、緊急事態の定義と要件、そして議員任期の特例については議論をまず急ぐべきだと考えます。

 なお、任期の特例を創設するに当たっては、何度も申し上げておりますが、憲法五十四条二項の参議院の緊急集会を、解散時だけでなく任期満了時にも内閣は開催を求めることができるのかどうか、これは有識者に出席を求め、その解釈を本審査会で確定することを提案したいと思います。

 以上のような緊急事態における統制の具体的内容について、我が党内で今議論を深めております。いずれにせよ、まとまり次第、条文の形でお示しをしたいと思います。緊急事態条項については、議論すべき論点が多々ございますので、事の緊要性に鑑み、引き続き緊急事態条項に絞った集中的な審議を求めたいと思います。そのためにも、憲法審査会を毎週開催することを改めて求めたいと思います。

 最後に、奥野幹事から、SNSにおけるフェイクニュースが民主主義に与える影響に関しての参考人の話がありましたけれども、私も参考人は呼ぶべきだと思います。

 特に、二〇一六年の、以前この審査会で御紹介しましたけれども、ケンブリッジ・アナリティカ事件というのがありまして、もう今はこの会社はありませんけれども、トランプ対ヒラリーの大統領選挙にも大きな影響を与えたと言われるいろいろな操作が行われました。ここに関わった、当時ケンブリッジ・アナリティカで働いていたブリタニー・カイザー氏、彼女は今、各国の議会でこの実態を議会証言しています。ですから、実態をまず把握するためにも、ブリタニー・カイザー氏をこの審査会に、オンラインでも結構ですから、参考人で来ていただいて、発言を直接聞くことが適切な規制やルール作りには非常に役立つと思いますので、そのことを私からも提案して、終わりたいと思います。

森会長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 緊急事態条項について、幾つか意見を述べます。

 今、大規模災害や感染症の大規模な蔓延を理由に緊急事態条項が必要だという議論がされていますが、東日本大震災でもコロナ禍でも、憲法に緊急事態条項がなかったから対応できなかったという事態は起きていません。

 東日本大震災で被災した四十二自治体の首長に行ったアンケートで、憲法に緊急事態条項がなかったことが人命救助の障害になったと回答した方はいませんでした。むしろ、震災の教訓は、災害時には地方にこそ人、金、権限が必要だということです。

 コロナ対策も、地域の感染状況をよく知っている自治体が対応し、国は財政や物資といった支援を行うことが重要です。現場の医療スタッフからは、緊急事態条項があれば感染対策や命を救う仕組みがどう機能するのか、具体的な道筋が見えないと疑問が出ています。災害や感染症対策のために緊急事態条項を設け、国に権限を集中するというのは、筋違いの議論であります。

 内容も問題です。

 まず、内閣による緊急政令や財政処分です。

 これは、国会の立法権を奪い、内閣に巨大な権限を与えるもので、三権分立や基本的人権の保障など、憲法の原則を脅かす憲法停止条項です。国会が関与できるようにすればよいという議論がありますが、憲法に例外を認めることは常に濫用の危険があるというのが歴史の示すところです。

 戦前、最も民主的だと言われたワイマール憲法は、大統領の非常権限も停止できる人権条項を明示し、国会が要求すればその効力を失うとしていました。しかし、時の政権がこれを拡大解釈し、連発することで、国会は立法権を奪われ、機能不全に陥り、ナチス独裁政権を誕生させることにつながりました。

 明治憲法の緊急勅令も、公共の安全を保持し又はその災厄を避くるため緊急の必要がある場合、発することができ、議会が承認しなければその効力を失うとしていました。田中義一内閣は、これを濫用し、議会での反対により審議未了で廃案になった治安維持法の重罰化改正案を、議会が閉会した後に勅令によって成立させたのであります。

 緊急事態条項は常に濫用の危険と隣り合わせだというのが歴史の教訓であります。

 次に、国会任期の延長についてです。

 日本国憲法十五条一項は、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」と定め、国民が国政に関する最終的決定権者であると、その国民主権の原理を徹底しています。

 そして、衆議院の任期を四年、参議院は六年とし、三年ごとの半数改選とすることで、定期的に民意を国政に反映させ、権力を民主的に統制することを求めています。国会議員の任期延長を認めることは、国民の参政権を侵害し、国民主権と民主主義をゆがめることにつながります。

 災害や感染症などで選挙ができなくなることを想定し、任期延長が必要だという議論について、先ほど法制局の説明にありましたマッケルウェイン教授は、次のように言っております。国会議員の任期延長は、緊急時に対応できず、国民の支持を失った政府が政権を維持することを可能にしかねないという本質的な危険がある、このように指摘しておられます。ましてや、内閣の一存で任期を延長できるなど、権力の統制を幾重にも幾重にも緩め、時の政権の延命を認めようというものであり、許されません。緊急時こそ、国民が信任した政権の下で対応することが重要であります。

 法制局の資料にあるように、各国の緊急事態条項は、主に戦争を対象としたものです。特に議員任期の延長については、例えば、ドイツ、イタリア、カナダ、リトアニアなど、多くの国が戦争時に可能であるとしています。

 歴史的にも、国会議員の任期延長は、戦時に挙国一致体制をつくるために用いられてきました。日本では、戦前、一九四一年に、衆議院の任期が一年延長されました。その理由は、国民を総選挙に没頭させることは、不必要な議論、摩擦競争を誘発し、甚だ面白くない結果を招くため、今日の緊迫する時局において総選挙を行うことは適当ではないというものでした。その下で戦争翼賛体制がつくられ、太平洋戦争へと突き進んだのであります。

 この反省から、日本国憲法は、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、制定されたのであります。この歴史の教訓を重く受け止めるべきです。

 以上で発言を終わります。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 有志の会の北神圭朗でございます。

 私の方は、任期延長の話、かなり詳細な提案をしておりますので、先ほどからも若干意見がありますように、早く具体的な議論の土台をつくっていただいて、具体的に審議していきたいなというふうに要請したいと思います。

 せっかく法制局長さんの説明がありましたので、できれば一問一答方式でちょっと質問をしていきたいなというふうに思っています。

 議員の任期延長というのは、どんな緊急事態でも国会の立法機能、行政監視機能を守るという話で、そして、人権制限それから権力集中というのはまた一つ次元がちょっと違う問題で、さらに立法機能が物理的に、現実的に機能させられないといったときの緊急事態の話だというふうに思いますので、その点、ちょっといろいろ聞きたいというふうに思います。

 局長さん、まず、いわゆる不文の法理における緊急事態、国家緊急権、今までいろいろな議論を聞いていますと、ほとんど各党各会派、それを憲法に規定すべきなのか法律に規定すべきなのかの違いはあるけれども、それなりにみんな共通に、緊急事態、国家緊急権の定義はいろいろあると思いますけれども、大体一致しているように思うんですけれども、学説的にもそういうふうに日本国憲法において不文の法理として認められているのか、多数説なり通説なり、それをちょっと伺いたいと思います。

橘法制局長 北神先生、御質問ありがとうございます。

 我が日本国憲法における不文の法理としての国家緊急権を認めるか認めないかについては、何が多数説なのかということについては存じ上げません。

 ただ、先ほども日本国憲法の特徴が簡短概括型であるというふうに御紹介した京都大学名誉教授の大石真先生の教科書がたまたま手元にありますので、これについては、日本国憲法の法源は、日本国憲法という法典それ自体から含めて様々なものを挙げているわけですが、その中で、最後に条理というものを挙げて、不文の慣習法に言及しています。

 その代表的な例が国家緊急権であって、我が国では否定説と肯定説が対峙、対立しているというふうに言った上で、大石真先生は、国家緊急権が問題となるのは、憲法典が前提としている国家や政治的共同体の存立自体が脅かされている場面だ、したがって、たとい憲法典に明文の根拠規定がなくても、国家や政治的共同体というものの存立を認める限り、不文の憲法上の権能として認められると考えるべきであろうというふうに述べておられますので、多数、少数は分かりませんが、そのような著名な学者の肯定説はあるということは御紹介できると思います。

北神委員 ありがとうございます。

 もう一つは、各国の憲法の事例なんですけれども、不文の法理として認めている、しかし、その上で、民主的統制の趣旨なりで憲法に明文で規定している事例というのはあるんでしょうか。不文の法理として認められている、要するに憲法の条文、明文がなくても国家緊急権を発動できる、しかし、その上で、民主的統制という観点からあえて明文で規定をしているという事例というのはあるんでしょうか。

橘法制局長 どこどこの国が先生が今おっしゃられたような形で明文の国家緊急事態条項を設けたかということについては、つまびらかにいたしません。

 ただ、一般的に、御報告でも紹介いたしましたが、不文の法理として認められている国家緊急権を民主的統制の観点から実定法化してきたのだという一般論は、いろいろな国家緊急権に関する論考で見られますので、まさしく、実定化するというのは民主的統制のためだという先生の御指摘は、そのとおりかと存じます。

北神委員 ありがとうございます。

 もう一つは、今回の資料で、東大のマッケルウェイン先生のお話で、七ページに、いわゆる緊急政令を規定している国は少ない、非常に少数だということが書いてありましたけれども、その理由というのはお分かりでしょうか。

橘法制局長 非常に難しいこのデータ分析ですから、私が軽々に推測するわけにはいかないので、マッケルウェイン先生に御教示いただきました。

 マッケルウェイン先生がおっしゃることを私が理解できた限りで申し上げますと、次のようなことだと思います。マッケルウェイン先生も、データ分析でこうだということは言いにくいけれども、あくまでも理論レベルの推測だというふうに断られた上で、次のような御教示を頂戴しています。

 緊急事態対処のための政府への権限集中、強化というのはやむを得ない、そのように考えた場合でも、議会の立法権や行政統制機能を完全に手放すことは拒否する。これは、近代立憲主義の根幹である三権分立の理念と関わるからだ、このような考え方が多くの国で支配的だからではないか。ただし、この考え方の根幹は、議会がチェック機能を果たすという民主主義の原則によるものであるから、どのような事態まで想定するかによって結論は変わってくる。

 私の推測もちょっと入っています。マッケルウェイン先生の言葉そのものではありません、今のは。

 想定している事態によっては、このチェック機能を事前から事後に移すことを容認し、法律の定める手続の範囲内で限定的に政府に立法機能、緊急政令の一部機能を移譲し、国会は事後チェックに徹するといった方法もあり得るのではないか。

 この最後の部分は、マッケルウェイン先生もおっしゃっています。

 以上です。

北神委員 ありがとうございます。

 あともう一つは、例えば各国の憲法で、不文の法理としても認めない国というのはあるんですか。国家緊急権、もうそれ自体否定している。

橘法制局長 分かりません。申し訳ございません。

北神委員 ありがとうございました。

 最後、では、明文の規定なしで法律で全部対応している、さっき奥野委員から大体みんな法律で対応しているじゃないかという話があったけれども、彼が出した事例はフランスとかアメリカとか、一応憲法に規定がありますよね、抽象的な。憲法なしで法律で緊急事態、この資料で六ページに、災害事態法なんかは緊急政令を認めているわけですよね、内閣で、法律で。こんなことはほかの国であるのかどうか、最後に聞きたいと思います。

橘法制局長 これも難しくて、あるとかないとかということを直接にお答えするだけの知見を持ち合わせておりませんけれども、すぐに頭に思い浮かぶのは、報告でも御報告申し上げました、判例法の国であるイギリスとかアメリカというのは、不文の法理としての国家緊急権ではなくて、慣習法としての判例法主義、コモンロー主義の中において、しかし、コモンロー主義の中でも、議会制定法が定められたときにはそれが優位するという考え方が英米法系の考え方の基本ですから、不文のコモンロー上のマーシャルローあるいはエマージェンシーパワーを、成文法律でもって手続的にあるいは内容的に規定するということは当然あり得るわけです。それがイギリスの緊急事態法だったりアメリカの国家緊急事態法ではないかというふうに拝察します。

北神委員 ありがとうございます。

 終わります。

    ―――――――――――――

森会長 次に、委員各位による発言に入ります。

 発言を希望される委員は、お手元にある名札をお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 なお、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただくようお願いいたします。

 発言が終わりましたら、名札は戻していただくようにお願いいたします。

 また、幹事会の協議に基づき、一回当たりの発言時間は五分以内といたします。質疑を行う場合は、一回当たりの発言時間は答弁時間を含めて五分程度といたします。委員各位の御協力をお願い申し上げます。

 発言時間の経過につきましては、おおむね五分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、発言を希望される委員は、名札をお立てください。

細野委員 自民党の細野豪志でございます。

 発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。

 奥野幹事に簡潔に御質問申し上げたいというふうに思います。

 緊急事態における議員の任期の延長の問題、選挙の延長の問題については、先ほどの御発言を聞きますと、奥野幹事の方も必要性を認めているかのような印象もありますが、一方で、非常に慎重な議論の立て方をされています。

 そこで、簡潔にお伺いしたいのは、私も、東日本大震災のときに、与党の中で、私の場合は政府の中で事態を経験いたしました。奥野幹事もそのときに与党の一員として様々な議論をされていたと思います。あのときに統一地方選挙を被災三県については延長するという判断は、これはもう明確に全員のコンセンサスで延期をするということを決めたと思います。

 仮にあのときに国政選挙のタイミングが来ていたならば、衆議院の任期であるとか参議院の任期が来ていた場合は、奥野幹事であればどう判断をされたのか、ここを簡潔にお答えいただきたいというふうに思います。

奥野(総)委員 まず、基本は議会を動かすということですから、現行制度で考えたときには緊急集会というものがあります。これを動かすということが最優先だと思います。その上で、繰延べ投票などをつくって、選挙ができるときを待つというのが基本だと思うんですね、短期的には。

 さっき申し上げたように、選挙ができないところが一年とか二年とか長期にわたるときに、本当にそれでいいのかという問題はあると思います。ですから、議員任期の延長についてもきちんと考えるべきだと思っていますが、ただ、お手盛りの議論がありますから、議会が自分で判断をして、先ほども言いましたように、身分を復権するとか、あるいは何年も延ばす、十年も延ばすとかというふうなことがないように、きちんと統制をかけていく。議会が自分で判断する以外に統制をかけていくことが必要だというふうに思います。

細野委員 緊急集会で対応するというのは、憲法上規定がありますから理解をします。ただ、それが実際に実現できない事態、若しくは、仮に緊急集会をやったとしても、衆議院の場合、選挙をしなければならないわけですね、任期が来ていた場合。

 仮に、二〇一一年の三月、四月、あのタイミングに国政選挙の任期が来ていた場合は、奥野さんが内閣の責任者であれば、どういう判断をするんですか。つまり、もう被災地は投票をとてもできないような状況だけれども、選挙はやると憲法に基づいて決断をされるのか、若しくは、憲法秩序を取りあえず棚上げをして、半年先延ばしをするという超法規的な判断をされるのか、そこを聞いているんです。

 今年七月に参議院選挙があります。今年の参議院選挙の前だって、首都直下、東南海地震の可能性はあります。そのときにどう憲法秩序を守るのかという議論をするのが私はこの憲法審査会の役割だと思いますので、そこは奥野さん、逃げずに、仮にあのときに国政選挙の任期が来ていたらどう判断すべきだったのかというのを、ストレートにお答えをいただきたいと思います。

奥野(総)委員 東日本大震災というのは東北地域で、ほかの地域は選挙ができるわけですから、そこについては繰延べ投票をした上で対処するということになると思います。

細野委員 そうすると、極めて深刻な事態が起こるわけですね。つまり、福島、岩手、宮城という三県の、被災地の最も声を届けなきゃならない議員が不在になりますよ。そのような極めて被災地に寄り添わない判断をすることを、時の政権はやらざるを得なくなるわけですね。

 つまり、そうならない判断をするのをお互いに知恵を絞りましょうということを申し上げているので、もう一度聞きますが、すなわち、被災地の衆議院議員なり参議院議員が存在しないことを立憲民主党としては認める、許容するということですか。

奥野(総)委員 少なくとも参議院議員は、同時に存在しなくなるというのはよほどの大災害だと思いますから、同時に存在しないことはあり得ないので、まず参議院議員は、衆参どちらかの議員は存在しているわけですから、そこで地域の声を集約していくということになると思います。

細野委員 残念ですが、私は、それでは、仮に災害ということに限定したとしても、被災地の理解は到底得られないというふうに思います。

 当時の経験を共にした者として、是非、この議論だけは緊急性の極めて高いものとして進めていただきたい。憲法裁判所の議論も結構ですけれども、それは正直に言いまして十年単位の議論です。今申し上げた緊急事態の任期の延長の話というのは、まさに今決断をしなければならない問題です。そこを区別してしっかり考えていただきたいと思います。

 以上です。

奥野(総)委員 おっしゃっていることは非常によく分かります。

 ただ、申し上げているのは、慎重にきっちり議論をこの場では積み重ねていかないとということを申し上げています。

新垣委員 ありがとうございます。立憲民主党・無所属会派、社民党の新垣邦男です。

 先日の審査会、そして今日も出たんですが、緊急事態条項について、ベニス委員会が、憲法に明確な緊急事態権限について定めることこそが人権保障や民主主義、法の支配にとって有益だと主張しているとの御紹介がありました。確かにベニス委員会のこうした主張は、ただ、必ずしもEU諸国で支配的とは言い切れないと思います。

 例えばフランスでは、何度も憲法十六条の緊急事態条項の廃止が主張され、大統領であったミッテラン氏すら憲法十六条の廃止を主張していました。コロナの感染拡大に際しても、フランスのマクロン大統領は、二〇二〇年四月十三日のテレビ演説で、この流行が民主主義を弱めたり何らかの自由を侵害してはならないと述べ、憲法上の緊急事態条項を適用しませんでした。

 同様に、コロナ禍のドイツでは、二〇二〇年三月十六日にメルケル首相がテレビで、渡航や移動の自由が困難の末にかち取られてきた権利であることを経験してきた私のような人間にとり、権利の制約は絶対に必要な場合しか正当化できない、そうした制限は民主主義では決して安易に決められてはならず、あくまでも一時的に留めるべきだと発言をいたしました。旧東ドイツの独裁下で移動の自由が制約された苦悩を知るメルケル首相ならではの発言であります。結局、メルケル首相は、ドイツの基本法で定める緊急事態条項を発動しませんでした。

 このように、EU諸国において、憲法上の緊急事態条項が人権保障や民主主義に有益であるとの主張が必ずしも一般的だと考えられているわけではないと思います。むしろ、その発動について限りなく抑制的だと捉えるべきだろうと思います。憲法上の緊急事態条項は、危険で、その適用を警戒すべきとの考えが欧州各国にも根強くある事実から目を背けるべきではないと思っております。

 先ほどもありましたが、一九四六年七月の衆議院帝国議会憲法改正委員会で、新憲法への緊急事態条項創設の必要性を問われた金森徳次郎憲法審議担当大臣は、「随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、」と答弁をしております。

 緊急事態については、想定外に想定外を重ねて首相や内閣に権限を集中させるのではなく、憲法五十三条に基づく臨時国会召集の活用などを優先して考えるべきではないかと思っております。内閣や政令でなら対応できるが、国会や法律では対応できないと国会議員が言うのは、自らその能力を軽視しているのではないかと考えます。

 前回、北側委員御案内の、戦時下でも機能しているウクライナ議会をお手本として、緊急事態での国会機能をいかに維持するかという議論に心を砕くべきだと思います。

 次に、憲法改正国民投票法におけるSNS対策について意見を申し上げたいと思います。

 樋口陽一東大名誉教授や、憲法学の権威と言われている故芦部信喜東大名誉教授の見解に従い、主権イコール憲法制定権力だと規定すれば、国民投票の際には、主権者たる国民の意思が正確かつ適切に反映される必要があります。この点、昨年六月に成立した改正国民投票法では不十分であると指摘をせざるを得ません。

 改正国民投票法の附則四条は、修正法案として提案され、加えられました。附則の法的意味が、附帯決議と異なり、所要の措置を講ずることを義務づける規定であることを鑑みれば、附則四条の趣旨を満たす法改正がなされない状態での国民投票は、国民主権の観点から正当化されないものと思います。

 SNSに関しては、先ほど玉木委員からもありましたが、ケンブリッジ・アナリティカ社が二〇一六年のイギリスの国民投票やアメリカ大統領選挙に影響を与えた可能性が指摘もされております。

 ジェイミー・バートレットの著書「操られる民主主義」では、二〇一六年のアメリカ大統領選挙にロシアのプーチン大統領が関わり、何千人ものコンテンツプロデューサーを雇い、トランプ氏あるいは反ヒラリーの情報を発信したと紹介をされております。

 国民投票が外国政府や外国資本の影響を受けるのでは、国民主権が実現されたとは言えません。

 また、二〇一八年の沖縄県知事選挙では、事実とは異なる情報や報道、いわゆるフェイクニュースがSNSやその他のインターネット上で拡散され、大きな社会問題となりました。

 国民投票法においても、これらに対する法的規制の議論が必要であると主張し、私の意見を終わります。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 今日で、通常国会が始まりまして、憲法審査会は七回目になっております。この七回を通じて共通をしておりますのは、緊急時でも国会機能をきちんと維持をしていくということが大変重要である、そういう認識の下で、この七回、議論してきたと思うんです。

 オンライン国会については、皆様の御議論を踏まえた上で、憲法審査会としてのオンライン国会についての考え方を、大方の意見を取りまとめて、議長の方に報告するということができたわけでございます。

 そして、今、この三回は緊急事態条項について議論をしている。この緊急事態条項についても、非常に多くの論点があります。今日も報告があったとおり、内閣等への権限集中、人権の制限、国会機能の維持、大きく言うと三つ。ただ、この三つも、それぞれ本当に広範な論点があるわけですね。

 私は、是非、今日の御議論を聞いておりましても、今後の進め方として、緊急事態における国会議員の任期の延長の問題、この問題にまず絞って議論をしていったらどうかというふうに提案します。

 これだけでも多くの論点があります。要件をどう考えるのか、また手続をどうするのか、さらにはその効果をどう考えていくのか。これだけでも相当な論点があるわけでございまして、今日もかなり具体的な御指摘がございました。玉木委員からはかなり具体的な提案もありましたけれども、非常に参考になる意見だと私は思いましたけれども、是非、緊急事態時においても国会機能を維持するんだ、そのために、国会議員の任期の延長問題、これにある程度絞った形で、この審査会としての意見を、方向性を取りまとめていく、そういう方向に是非議論を切っていただきたいというふうに思うんです。

 時間も限られておりますので、これだけでも多くの課題、論点がありますので、是非、次回以降、そういう形で進めさせていただければありがたいなというふうに思っております。

 以上です。

森会長 ただいまの御提案は、全体に対する御提案だと思いますが、いずれにいたしましても、幹事会で協議をいたします。

三木委員 会長、ありがとうございます。

 日本維新の会の三木圭恵です。

 本日は、橘法制局長の渾身の御説明、深く敬意を表します。ありがとうございました。

 御説明の中で、諸外国の憲法のうち、緊急事態条項を規定している憲法の割合は九三・二%とありました。いかに多くの憲法が戦争、内乱、災害の有事に備えて対応しているかがうかがえ、興味深く拝聴いたしました。

 また、ドイツの緊急事態条項については、ワイマール憲法の白紙委任を濫用したナチスの反省から、緊急事態を外的要因、内的要因に大きく二分類し、外的分類を更に防衛事態、緊迫事態と二分類、内的緊急事態を国内緊急事態と災害事態に二分類、合計で四分類に分けて、それぞれの要件、手続、効果について憲法に詳細に規定されている。つまり、緊急事態条項を独裁的に利用されないように細かく規定し、民主的に扱おうと努力している結果であると考えます。このことは、失敗から学び、よりよい方策を考えて前に進んでいくドイツの決意を見る思いです。

 日本国憲法において緊急事態条項を憲法に書き込むと言えば、最も民主的と言われたワイマール憲法がドイツ・ナチスを生んだ、緊急事態条項は危険な規定であるとの御意見を聞きますが、ドイツを見れば、既に緊急事態条項を制定し、白紙委任的にならないように多くの要件と手続を取ることによって、緊急事態時にも民主主義を最大限生かすことができる憲法になっています。是非、日本国でも緊急事態における憲法の整備を、各党の知見を集積し、制定していくべきと考えます。

 緊急事態条項の中に含まれる緊急事態時の議員の任期については、馬場幹事からあったとおりと思います。議員の任期については、イデオロギーも何も関係ございません。国会の機能を緊急事態時にいかに維持をするかであります。これは意見の集約にそれほど時間がかかるとは思えませんので、是非、早い段階での意見集約、取りまとめをお願いしたく存じます。

 私は、細野委員が奥野幹事に御質問された続きで、奥野幹事に御質問をさせていただきたいと思います。

 我が国会は、二院制を取っております。二院制の理念というものについて御質問したいと思います。

 参議院のホームページでは、二院制の仕組みで、二院制の利点として、国民の様々な意見をできるだけ広く反映させることができる、一つの議院の決めたことをほかの議院が更に検討することによって審議を慎重に行える、一つの議院の行き過ぎを抑えたり、抑制、足りないところを補ったり、補完できることなどがあります。

 奥野幹事の御意見では、一院、参議院の半数はどのような場合でも必ず残っているから大丈夫だというようにお伺いしたんですけれども、私は、やはり衆参そろって、様々な意見、また被災地の意見なども取り入れて議論を進めるべきだと思っておりますが、奥野幹事の御意見をお伺いいたします。

奥野(総)委員 全くそのとおりなんですが、今議論しているのは、究極の事態ですから。究極の事態というのはいろいろあって、隕石が降ってきてここで全員吹っ飛んだら、議員がいなくなりますよね。そのときにどうするかとか、もうちょっと言えば、衆参同時にいなくなることもないし、衆議院がたまたま解散しているときに大災害が襲ってくる確率というのはそんなに高くはないと思うんですよ。だから、通常の場合はそれぞれの院が機能している場合がほとんどだと思います。

 究極の事態として、短期的に参議院の緊急集会を使おうと言っているわけです。そこは、常にそれでいいと言っているわけではありません。

三木委員 ありがとうございます。

 私は、あらかじめやはり緊急事態条項を規定して、衆参、そして被災地の議員、そういった方々の御意見を広く取り入れる方策をまずは議論をするべきと考えておりますので、緊急事態条項を制定していくことがまず必要かというふうに思っております。

 これは日本の国会の二院性の理念にも広く反映させるということの中でも必要な議論だと私は思っておりますので、隕石が降ってきたというのが確率的にどれぐらいのものなのか、それが日本の国会に当たって日本の国会議員が全員いなくなるというのはどういう確率なのかというふうに今思いますけれども、その点は、私はちょっと意見が違いますので、またお伺いしたいと思います。

 それではまた、続きで、橘法制局長に一点お伺いしたいと思います。

 二点考えていたんですけれども、一点は緊急政令が非常に少ないという論点でありまして、それは北神圭朗議員の方から御質問されましたので、私の方からは一点お伺いいたします。

 緊急事態条項を制定して、例えばですが、緊急事態条項の下に緊急事態基本法を作った場合、現在ある緊急事態対応に関する現行法との関連というのはどのように位置づけられるのでしょうか。基本法で個別具体に様々なケースを想定した場合、緊急政令の代わりとなり得るでしょうか。それとも、やはり想定外の事態が起こり得ると考えるのが妥当でしょうか。

橘法制局長 三木圭恵先生、御質問ありがとうございます。

 緊急事態基本法を作った場合の我が国の現行法令体系への影響という御質問かと存じますけれども、我が国は、一つの法律を作った場合には、それに関連する関係法令を全て整序する、そういう法制執務を取っております。そのまま旧法令を放置して、後法は前法を廃する、あるいは特別法は一般法に優先するといったような法格言に任せることなく、国民に分かりやすい法令を作るというのが、私ども議院法制局としても心がけているところであります。となりますと、緊急事態条項に基づいて緊急事態基本法が作られるということになりますと、先ほど申し上げたような我が国の緊急事態法制全般に影響が及ぶかと思います。

 一般的、手続的な緊急事態の宣言や効果などについては基本法に書かれるということになりますと、各個別法は、その緊急事態、対象とする緊急事態の特例的な規定が残るという形で整理されるのではないでしょうか。また、憲法改正によって設けられた緊急事態条項によって、現行憲法以上の権限や効果が認められた場合には、それを基本法に盛り込むのか個別法に盛り込むのかといった議論をした上で、全般的な法改正がなされる。

 我が国の法体系は、平時の法から緊急事態の法体系という一大法体系が作られるように思われます。

 以上です。

三木委員 ありがとうございました。

 今後の検討課題として、私も調査研究していきたいと思います。ありがとうございます。

森会長 予定した時間が経過いたしました。

 この討議の取扱いについては、ただいま与野党の筆頭間で協議をいたしております。今後については、これを踏まえ、幹事会等において対応を決定いたしたいと存じます。

 これにて討議は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十二分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.