衆議院

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第5号 令和4年12月1日(木曜日)

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令和四年十二月一日(木曜日)

    午前十時十八分開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 上川 陽子君

   幹事 柴山 昌彦君 幹事 新藤 義孝君

   幹事 山下 貴司君 幹事 階   猛君

   幹事 中川 正春君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      石破  茂君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      大塚  拓君    神田 憲次君

      熊田 裕通君    小林 鷹之君

      國場幸之助君    下村 博文君

      田野瀬太道君    辻  清人君

      中西 健治君    中村 裕之君

      平沼正二郎君    船田  元君

      古川 禎久君    古屋 圭司君

      細野 豪志君    務台 俊介君

      山本 有二君    渡辺 孝一君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      奥野総一郎君    城井  崇君

      小山 展弘君    近藤 昭一君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    岩谷 良平君

      前川 清成君    三木 圭恵君

      國重  徹君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    玉木雄一郎君

      赤嶺 政賢君    北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院法制局長      橘  幸信君

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月二十一日

 辞任         補欠選任

  松本 剛明君     大塚  拓君

十二月一日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     中村 裕之君

  細野 豪志君     平沼正二郎君

  篠原  孝君     小山 展弘君

同日

 辞任         補欠選任

  中村 裕之君     青山 周平君

  平沼正二郎君     細野 豪志君

  小山 展弘君     篠原  孝君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 参考人出頭要求に関する件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題について討議を行います。

 この際、新藤幹事より発言を求められておりますので、これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 本日の討議に先立ちまして、私から一言申し上げたいと思います。

 緊急事態に関する論点については、この臨時国会におきましても三回にわたって討議を続けてきております。先通常国会からの議論を含めますと、一定の議論が蓄積してきているのではないかと考えているわけであります。

 この際、これまでにどのような議論がなされてきたのか、私なりに取りまとめをさせていただきたいと思い、衆議院法制局に対して、事務的に整理をするよう要請をいたしました。同様の意見は複数の会派からも頂戴しているところでありまして、まずは、これまでに出された論点について整理して、衆議院法制局に説明をしてもらいたいと思います。

 なお、今回取りまとめた内容は、各会派においてオーソライズされたものではなく、基本的に、審査会の一巡目に出された意見を私なりに取りまとめて、法制局に整理をしてもらおう、このような趣旨で作られたものであるということを御理解をいただきたいと思います。

 会長におきまして、お取り計らいをよろしくお願いいたします。

森会長 それでは、本日の議事について申し上げます。

 まず、幹事会の協議に基づき、衆議院法制局当局から説明を聴取し、その後、討議を行うことといたします。

 では、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局長橘幸信君。

橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。

 御指示に基づきまして、私より事務的な論点説明をさせていただきます。

 お手元にA3横長の一覧表を配付してございますが、この資料及び本日の私の説明は、ただいまの新藤先生の御発言にもございましたように、新藤先生の御要請により、各会派の委員の先生方の御発言を私どもが事務的に分類、整理をして、その議論の概要をお示しするものでございます。

 また、私どもが次に述べる一定の基準で分類、整理をしたものであって、それぞれ御発言された先生やその所属会派の御了承をいただいているものではございません。あらかじめ御承知おき願います。

 さて、その資料作成の基準ですが、次のようなものでございます。

 第一に、分類、整理の対象とした御発言は、基本的に、今国会の十一月十日及び十七日の各会派一巡目の先生方の御発言といたしております。同時に、これを補う必要があると思料される場合におきましては、まず、さきの通常国会で本件に関する総括的な御発言がなされた四月七日等の一巡目の御発言でこれを補うとともに、さらに、御指示があった場合やその他論点整理に有益と思料した場合には、二巡目以降の委員の御発言も、一部ですが取り上げることといたしております。

 第二に、資料の形式につきましては、各論点ごとの先生方の御発言のポイントやその比較が分かりやすくなるように比較対照表とし、同趣旨の御発言をまとめる形で要約いたしました。先生方の御発言の趣旨にたがわないように要約したつもりですが、その微妙なニュアンスまでは表現し切れていない部分もあるかと存じます。御容赦願います。

 第三に、一覧表への記載に当たっては、本件に関する御発言が多かった自民、維新、公明、国民、有志の各会派所属委員に関する部分と、御発言が少なかった立憲、共産の所属委員に関する御発言を区分するとともに、それぞれの区分内における掲載順序は大会派順といたしております。

 以上です。

 それでは、まず、議員任期延長及びこれに関する論点の御説明に入りたいと思います。

 ここでは大きく三つに区分して整理してございます。

 まず、参議院の緊急集会の位置づけについてですが、自民、維新、公明、国民、有志の五会派所属の委員は共に、参議院の緊急集会は、衆議院解散中の最大七十日の期間を想定した一時的、暫定的な制度であり、このことは、そこで取られた措置について衆議院の同意がないときはその効力を失うとされているところからも読み取れるといった、共通した認識を表明されているところです。その上で、いずれの会派の委員とも、議員任期延長の措置が必要と表明されています。

 なお、その際、有志の会の北神先生が、任期延長の対象を衆議院議員のみと明言されている点が注目されます。参議院議員は半数が必ず残っており、その機能不全は考えにくいといった御趣旨かと存じます。

 次に、議員任期延長に係る実体的要件についてですが、まず、対象とする緊急事態の範囲については、大規模自然災害、テロ・内乱、感染症蔓延、国家有事といった四つの事態と、これに加えて、これに匹敵する、あるいはこれに相当する事態を想定することについては、五会派の所属委員とも、ほぼ異論はないように見受けられます。国民民主の玉木先生も、基本的には限定列挙とすべきと述べつつも、同時に、準ずる事態として法律に定める緊急事態として追加することも一案と述べておられるところです。

 そして、五会派所属の委員は共に、このような四事態プラスアルファの緊急事態が発生しただけで議員任期延長が行われるのではなくて、そのような事態の発生によって適正な選挙の実施が困難な状態が生じた場合といった加重要件を満たして初めて、議員任期延長の措置が講じられるとの見解を表明しておられます。

 その上で、この適正な選挙の実施が困難な状態のより具体的な意味、内容については、例えば、広範な地域で長期間、明らかに、かつ客観的に困難な場合とか、七十日を超えた長期にわたって全国一斉の選挙が困難な場合、あるいは、選挙の一体性が害されるほどに長期にわたり困難な場合といったように、具体的な要件化を見据えた御議論に踏み込みつつある点が注目されるところです。

 次に、手続的要件に入ります。

 選挙実施困難要件の判断主体は、その情報収集や選挙事務執行に関する知見を有していることに鑑みて内閣とするのが適切であること。その上で、これに対する民主的統制の観点から、国会の事前の承認や議決を必要とするべきこと。この二点については、五会派所属の委員においては認識は一致しているものと拝察いたします。

 なお、その際の議決要件については、自民党以外の四会派の所属委員からは、重要な事項であり、三分の二以上の特別多数決を要するべきと述べられております。

 他方、この点に関して、自民党の新藤先生からの言及は現時点ではございません。

 また、内閣、国会といった政治部門の判断に対する司法による事後的コントロールについては、拘束力のある憲法裁判所による関与を主張する維新の三木、岩谷両先生と、勧告にとどめつつも最高裁判所による関与を主張する国民民主の玉木先生、有志の会の北神先生の御発言がございます。

 これに対して、公明党の北側先生からは、判断の基礎となる事実関係に関する材料などの情報を持たない司法の関与に疑問を呈する旨の御発言がなされているところです。

 なお、この論点につきましても、現時点で自民党の新藤先生からの御発言はございません。

 次に、三番目の、効果についてですが、ここではまず、議員任期延長の期間に上限を定めておくべきかといった論点がございます。

 これにつきましては、一年、半年、あるいは七十日といったように、その具体的な期間について様々な御発言がなされておりますが、何らかの上限期間の設定は必要といった点については、五会派所属の委員においておおむね共通認識が形成されつつあるように思われます。

 ただし、自民党の新藤先生は、議員任期を次の議会期の開始までなどとすることについても問題提起をされておりますので、この点も今後議論になっていくのではないかと拝察されます。

 さて、次に、前議員の身分復活あるいは職務継続を認めるべきかどうかといった大きな論点がございます。

 例えば、衆議院議員の任期満了直前に大規模自然災害が発生した場合と、解散直後に発生した場合とを念頭に置いてみましょう。

 災害発生により選挙実施が困難に陥って衆議院不在が長期間にわたることが予想されるときは、いずれの場合でも、二院制国会の機能維持の必要性は同じではないか。そして、この必要性を認めることとした場合、現職議員の身分を持っていれば任期延長で対応できるが、既に延長の対象となる現職議員としての任期がなくなってしまっている場合については、身分復活あるいは職務継続の容認、これが必要となるのではないか。このような問題意識が背景にあるものと拝察いたします。

 この論点については、四月七日の公明党の北側先生の御発言、そして、これを受けた十一月十七日の国民民主の玉木先生の御発言のように、解散権を行使した内閣自らによる選挙実施困難の判断は、一旦行使した解散権を撤回したものと理解することができ、これによって解散の効力が失われたものとして、前職の衆議院議員の身分は復活すると理解できるのではないのか、このような理論構成も披瀝されているところであります。

 このような議論を背景にして、前議員の身分復活の必要性については、自民党を除く四会派の所属委員においては必要との認識で一致しているものと拝察いたします。

 他方、自民党の新藤先生は、この論点は民主主義の根幹である議員の身分の取扱いに関する極めて重大な問題であり、更に議論が必要として、改めて各会派の意見を聞きたいと述べられているところです。

 次に、議員任期延長以外の国会機能維持策に関する論点に入ります。

 議員任期延長は、そもそも、選挙実施困難事態において、法律、予算の議決や行政監視機能といった国会機能を維持しようとするものですから、その前提として、国会が活動できる状態にしておかなければなりません。

 このような観点から、選挙実施困難事態においては、国会が開会中であれば閉会を禁止し、また閉会中であれば即時召集あるいは自動集会をすること、また、内閣による衆議院解散を禁止すること、そして、内閣、衆議院間のチェック・アンド・バランスの手段として、解散権とセットになっている衆議院の内閣不信任決議案についても、その議決を禁止することといった一連の措置も併せて講じておくべきではないか、そうしないと首尾一貫しないのではないかといった指摘が有識者からもなされているところです。

 この点については、当然のことで明文規定を設ける必要はないと述べる有志の会の北神先生も、明文規定を設けることそれ自体に反対するものではないと述べておられますので、五会派所属の委員においては、その必要性について認識は一致しているものと思われます。

 なお、国会が閉会中であった場合の国会の開き方については、内閣に即時召集の義務を課する考え方と、召集行為を要せずに国会が自動的に集会する考え方の二つの見解が表明されており、今後、御議論がなされていくものと拝察いたします。

 次に、大きな二つ目の分類である、議員任期延長以外のその他の緊急事態全般に関する御発言についてですけれども、ここでは大きく四つの論点にまとめました。

 一つ目は、様々な緊急措置の効果を生じさせる一般的要件として緊急事態宣言の仕組みを導入するべきか、それとも、議員任期延長とか緊急政令といったように、個別の緊急措置の発動に関する要件を一つ一つ制度設計していくべきかといった論点です。維新の三木先生と国民民主の玉木先生から、前者の一般的な緊急事態宣言の御提案がなされております。

 二つ目として、オンライン国会の導入や議員任期延長などによってぎりぎりまで国会機能を維持させることは当然だが、それでもどうしても国会が機能不全に陥る場合も想定され得ることに鑑みて、そのような究極の事態、いかなる事態においても国民の生命、自由、そして日々の生活を守るための備えとして、内閣の緊急政令や緊急財政処分の制度を整備しておくべきではないかといった問題提起がございます。

 これについては、自民、維新、国民の所属の委員から、あらかじめ法律で定めるところによりといった委任規定の下でこれを必要とする御発言がございます。これに対して、公明党の北側先生からは、そのようなことを認めることは国の唯一の立法機関としての国会の責任を放棄することになる、あくまでも個別法の政令委任や予備費で対応するべきとの御発言がなされておりますし、また、有志の会の北神先生からは、更に議論が必要との御発言もなされています。

 第三に、緊急事態においても制約できない人権規定の一覧を憲法に明記しておく必要性については、自民、維新、国民の三会派所属の委員から、必要との御発言がなされています。

 最後に、四つ目の論点である緊急事態中の憲法改正の禁止については、そのような明文規定を設けることに反対しないとの有志の会を含めれば、四会派所属の委員から、必要との御発言がなされているところです。

 なお、自民党の新藤先生は、憲法改正の禁止規定について、フランス憲法を始めとして多くの国の憲法に見られる規定であるが、あえて明文規定を設けておくべきかどうか、各会派の意見を聞きたいと述べておられます。

 以上が、議員任期延長を中心とする緊急事態に関する御発言が多かった自民、維新、公明、国民、有志の会の五会派所属委員の御発言に関する分類、整理の概要です。

 次に、立憲、共産の先生方の御発言について、その概要を御説明申し上げます。

 まず、立憲民主党の中川正春先生は、緊急事態条項に関する議論について、一つ、臨時会召集義務の無視、過剰な予備費の計上、恣意的な解散権の行使などにより、憲法の意図する民主主義が機能していないこと、二つ、そのような中での緊急事態条項の提案には疑念を抱かざるを得ないこと、そして三つ目として、民主主義が正しく機能する環境をつくることこそ先であることを述べておられます。

 なお、自由討議の中で、前野党筆頭幹事の奥野総一郎先生から、議員任期延長の論点に関する少し具体的な御発言もございましたので、補足して掲記してございます。

 奥野先生は、まず、参議院の緊急集会の位置づけに関して、国会機能の維持については各会派共に合意しているものと理解できる、また、参議院の緊急集会は、条文上は解散時のみとされているが、任期満了時への類推適用などを説く学説も有力であると述べられた上で、このように理解された参議院の緊急集会と現行公選法上の繰延べ投票をできるだけ活用すれば、基本的には緊急事態条項は不要ではないかと述べられています。

 他方、その上でと限定を付された上で、戦時等の究極の事態を念頭に、議員任期の延長を検討する余地はあるとも述べられています。そして、その際の議員任期延長の判断主体については、内閣では濫用のおそれがあり、国会ではお手盛りのおそれがあるとした上で、司法の関与が必要との有識者の見解があることに言及しておられます。

 また、議員任期延長の効果に関しては、何らかの期間を定める必要があると述べられています。

 さらに、国会の即時召集と衆議院解散の禁止に関連して、そもそも、緊急時に限らず、平時から国会機能の維持は必要であるとして、臨時会召集期限の明記と内閣による恣意的な解散権制限の必要性を指摘しておられます。

 その他、オンライン審議については、議運で速やかな結論を得るべきと述べられています。

 なお、緊急政令、緊急財政処分については、明確に不要であると述べられています。

 次に、共産党の赤嶺先生の議員任期延長に関する御発言を御紹介させていただきます。

 赤嶺先生におかれましては、さきの通常国会の四月七日の御発言を始め、一貫して、まず、国民の多くが改憲を重要課題と考えていない中、憲法審査会を動かすべきではないこと、そして、改憲のための議論ではなく、憲法の原則に反する政治を正す議論こそが必要であることを述べておられます。

 その上で、議員任期延長についても、一つ、戦時下の一九四一年に、国会議員の任期を延長し、戦争翼賛体制がつくられたこと、二つ、だからこそ、日本国憲法は緊急事態条項を廃し、国会議員の任期を明記したことに言及された上で、この歴史は極めて重いと述べられて、議員任期延長を含めて緊急事態条項は一切不要とされています。

 以上、御指示によりまして、議員任期延長を中心とした緊急事態に関して、各会派一巡目の先生方の御発言を中心とした事務的な論点説明をさせていただきました。御清聴ありがとうございました。

森会長 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより討議に入ります。

 この討議につきましては、幹事会の協議に基づき、各会派一名ずつ大会派順に発言をしていただくことといたします。

 発言の中には、事実確認等のため、衆議院法制局当局に対する質疑を含めても結構です。

 発言時間は十分以内といたします。発言時間の経過につきましては、おおむね十分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 発言の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自由民主党の新藤義孝であります。

 ただいまの衆議院法制局からの論点説明は、緊急事態について私なりに受け止めた各会派委員の発言を簡潔に整理し、その主張が明確になったというふうに思います。この論点説明も踏まえ、緊急事態について私の考えを改めて述べたいと思います。

 まず、なぜ日本国憲法に緊急事態に関する規定を定めるべきなのか、その基本的な意義を申し上げます。

 国家の最大責務は、国民の生命と財産を守り、自由で幸せな社会生活を提供することです。国家の基本法である憲法には、真っ先にそのことが定められているべきです。

 にもかかわらず、日本国憲法には、七十五年前の施行以来、緊急事態という国家の根本概念が規定されておらず、いわゆる有事においても、平時の延長線上での国家運営を行わざるを得ません。仮に緊急事態が発生したとしても、平時を想定した一般法の延長上で対応を強化するか、後追いでパッチワークのような特例法を作り、問題の箇所をその都度塞ぐような対応しかできていないわけです。

 緊急事態に際し、国家の責務と権限を明確にし、国民を守り抜くための最大機能を発揮させるためには、平時モードから有事モードに切り替える条項を憲法に定めておくことが必要不可欠であり、これこそが国家としての責任だと私は考えております。

 こうした点から見ると、参議院の緊急集会の憲法上の位置づけは、平時から有事へのモードの切替えを想定したものではなく、あくまでも平時の延長線上での対応と考えるべきではないでしょうか。

 すなわち、参議院の緊急集会は、衆議院の解散という、通常起こり得る平時の対応として規定された制度であり、想定された活動期間は最大でも四十日から七十日、そこで取られた措置は衆議院の事後的な同意がなければ効力を失うものであることから、この制度はあくまでも平時における一時的、暫定的なものと考えるべきです。

 一方で、この七十日を超えて長期にわたり全国的に選挙ができなくなるような緊急事態が発生した場合は、まさしく平時から有事へとモードを切り替えた対応ができるよう、準備をしておくべきではないでしょうか。この場合は、有事においても二院制を根幹とした国会機能を維持するという観点から、参議院の緊急集会ではなく、議員の任期延長を可能とする規定を憲法に整備することが必要と考えているわけであります。

 先ほどの論点説明にあった審査会の議論でも、七会派のうち、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の委員が明確に、議員任期延長を規定する憲法改正の必要性を述べられております。

 次に、対象とする緊急事態の範囲については、大規模自然災害事態、テロ・内乱事態、感染症蔓延事態、そして国家有事・安全保障事態の四つの事態と、さらに、この四事態を超える想定外の事態に備える意味で、その他これらに匹敵する事態という規定をつけ加えることについて、おおむね意見が集約されたと考えております。

 その上で、議員の任期延長は、これらの緊急事態が発生し、適正な選挙実施が困難な状態に陥った場合に発動される規定とすることについても、おおむね意見が一致しております。どのような場合が適正な選挙実施が困難な状態と判断するかは、今後、各会派との間で更に議論を詰めたいと考えております。

 次に、この選挙実施困難事態の認定主体については、そのような状況について総合的な情報を集約できる機能を持つ行政府、すなわち政府がふさわしいと考えます。この点につきましても、おおむねの意見は集約されております。選挙実施困難事態の認定を内閣が行うとしても、これに対する民主的統制の観点から、国会の事前の関与が必要であることは当然であり、この点についても、おおむね意見の一致があります。

 その議決要件の考え方につきましては、そもそも、議会における意思決定は、過半数の賛成で行われることが大原則です。一方、日本国憲法においては、除名など議員の身分を失わせるとき、秘密会にするとき、衆議院が法律案を再議決するときなどの場合は、出席議員の三分の二以上の多数とされています。憲法改正発議につきましては、総議員の三分の二以上の賛成という特別規定が設けられています。

 国会機能維持のための議員任期延長については、それが二院制国会を維持する原則的な規定と考えるか、若しくは、四年、六年の任期を延長する特別な規定と位置づけるか、言い換えれば、原則を回復させる事案として過半数を採用するのか、例外的、抑制的に処理すべき事案として三分の二の特別多数を採用するか、各会派と今後議論を詰めさせていただきたいと考えています。

 次に、緊急事態の認定に対する裁判所の関与についても議論がございました。

 緊急事態の認定に当たり、維新の委員は憲法裁判所によるチェックを提案し、国民民主と有志の会委員は最高裁によるチェックを提案されています。

 まず、憲法裁判所については、国家の統治機構の大変革であり、特別の国家機関の創設については別途議論が必要と考えます。すなわち、個別の事件について憲法判断を行う現行の最高裁による付随的審査制を離れて、新たに憲法裁判所を設置し、法律や行政処分について一般的な憲法判断を適宜行うような体制とするべきか、我が国の歴史的、文化的背景も含め、検証が必要と考えています。

 次に、最高裁による緊急事態の認定に関するチェックについては、そのような権限を与えるにふさわしい最高裁とするために、裁判官の任命制度を含め、別途議論が必要ではないか、このように考えるわけであります。

 次に、議員任期延長の上限につきましては、主権者国民の選挙機会を奪うことでもあり、その延長期間はできる限り短期間とすることが望ましいということは言うまでもございません。

 東日本大震災のときに行われた地方選挙の延長が発災から最長八か月であったことを念頭に、私は一年を上限とすることも考えられると発言をしておりますが、上限期間の考え方につきましては各会派で意見が分かれています。

 そもそも、ウクライナ憲法のように、延長期間について、選挙が実施され、新たな議員が選出されるまでとすることも考えられます。有事の際には将来の見通しが立たない可能性があり、このような任期の定め方も合理的ではないかとも考えられるわけであります。

 この点につきましては、引き続き皆さんと議論をしていきたいと思います。

 また、解散後の前衆議院議員の身分の復活については、失われた議員の身分を復活させるというよりも、解散を行った内閣が緊急事態の発生により選挙実施が困難と判断した場合には、解散の効力も失われることになり、それに従い、衆議院議員の身分も元に戻ると考えることもできます。

 この論点は、特に、民主主義の根幹である議員身分の取扱いという極めて重要なものであり、更に議論を深めていきたいと考えております。

 国会機能の維持の観点からは、議員任期延長の規定を設けるのであれば、その他の国会機能維持、すなわち、国会の閉会禁止、あるいは即時召集、衆議院解散の禁止、同時に、内閣不信任議決の禁止といった措置について手当てが必要という点につきましては、おおむね意見が集約されたと思います。

 そのほか、議員任期延長以外の緊急事態条項全般にわたる事項につきましても、各会派から活発な提言がありました。

 まず、緊急政令と緊急財政処分について、国会機能維持のために議員任期を延長したとしても、国会が機能不全に陥り、法律や予算の議決ができない状態に備え、規定を設けておく必要があることを私は提案しております。

 これは、政府に権限を集中することが狙いではなく、どのような緊急事態においても国会機能の維持をぎりぎりまで追求し、それでも困難となった場合に、政府による超法規的措置の執行を防ぎ、立憲主義の下で政府を行動させようという仕組みであります。

 あくまでも最後のセーフティーネットであることを御理解いただき、皆さんと引き続き議論したいと思います。

 また、緊急時においても人権が最大限保障されなければならないことは言うまでもありません。ウクライナ憲法には、あえて、必ず保障されなければならない国民の権利、自由が明記されています。ベニス委員会が推奨しているこのような比較的新しい考え方を、日本国憲法の改正を行うに際し規定しておくべきかどうか、皆さんと議論を深めたいと思います。

 最後に、先ほどの幹事会におきまして、来週の定例日である十二月八日に憲法審査会を開催し、国民投票におけるネットCMの取扱いとネット社会と憲法の関わりについて参考人質疑を行うことを提案いたしました。

 引き続き、憲法審査会の安定的かつ活発な運営がなされるよう、委員各位の御理解と御協力をお願いいたしまして、私の発言とさせていただきます。

森会長 次に、中川正春君。

中川(正)委員 中川正春です。

 まず冒頭、お話をしておきたいんですが、緊急事態という形で論点を、それぞれの主張をまとめたということでありますが、やはり、まだまだコンセンサスがつくられているというわけではないということと同時に、議員任期の延長だけに集中してこうした形で議論を持っていくということではないんだと思うんです。緊急事態そのものをトータルで捉えた形の議論が更に必要なんだろうということ、これが一つ。

 それからもう一つは、実は、緊急事態以外にも、それこそ今の国会で更に、緊急的にしっかり議論の俎上にのせなければならない課題というのはあるわけでありまして、そこについても、審査会、これからの幹事会での協議事項の中でしっかり議論をしていかなければならないと思います。

 実は、それをまとめていただいたんですけれども、会長によって、こんな課題についてそれぞれやっていきたいという主張がありましたというようなことを皆さんに示してもらう予定でいたんですが、残念なことに、それが今回のこの審査会でできなかったということであります。これについても更に議論を進めていかなければならないと思います。

 冒頭、そのことをまず申し上げておきたいと思います。

 その上で、緊急事態における、今回の任期の延長についても、改めて私の見解を申し上げます。

 次の二つの選択肢を、憲法改正を経ずに緊急事態において国会機能を維持するための対応策として提示をいたします。

 一つは、憲法五十四条に基づいて、参議院の緊急集会で当座の国会機能を維持して、後に、選挙で選出された衆議院により改めて議決するという対応であります。

 この点、明文上、衆議院の解散のみが開催の要件となっているため、衆議院の任期満了の際にも開催し得るのかが問題となると考えられます。また、七十日を超える長期にわたり緊急集会が国会機能を担うということは憲法上予定されていないという見解を、当審査会において複数の委員が示されています。

 こうした論点について、憲法学者等の専門家を参考人として招致をして見解を伺い、参議院の緊急集会では不足なのかどうか、まず議論を深める必要があると思っております。

 もちろん、この問題については、参議院の機能に関わることであって、当事者である参議院側の議論にも十分配慮した上で、当審査会として結論を出すべきと考えております。

 また、もう一つは、先ほどウクライナの憲法が出てきましたが、この例に倣う選択肢であります。すなわち、議員の任期と実質の権能の消滅を、別個のものであって、四年の期限が来れば任期は終わることとするが、実質の権能は次の選挙で新しい議員が選出され国会に召集されたときまで継続するという対応であります。

 この選択肢については、国会法を改正して緊急事態に限った対応策として明記をしていくことで、憲法改正に至らずとも、現憲法下の対応策とすることは十分可能であるというふうに考えております。

 その上で、もう一つ大切な論議があります。議員任期の延長論議というのは、実はその前の緊急事態全般に関わる議論が先行されなければならないということであります。

 この緊急事態に対応するためには、権限の集中と、もう一方で私権の制限が必要だということは、私たちの経験則で誰もが認めるところであります。

 日本ではこれを、憲法上というより、個別類型に沿った法律の体系において整備をしてきました。自衛隊法、国民保護法、災害対策基本法、新型インフルエンザなどの特措法、感染症法等々であります。これらの法理においては、細部に改善の余地を残している部分はあるとしても、政府機関や総理大臣の権限の集中はおおむね所与のものとして、既に体系化をされております。

 しかしながら、今の世界では、武力による侵略、民族紛争やクーデター、コロナ対応でも、人権を無視した完全ロックダウンや暴動に対する戒厳令など、数々の権力の暴走というのが起こっております。

 いかに緊急事態とはいえども、権限の集中と私権の制限に対して、無制限にそれを認めるということは許されることではないということも私たちの共通した認識になっているんだと思うんです。

 たとえ緊急事態の中であっても、いや、緊急事態の中であるからこそ、しっかりとした歯止めができる機能が用意されていなければならない。にもかかわらず、日本は、平時からこの権力の暴走への歯止めが利いていないのではないか、これで大丈夫なのかということを、私たちは問い直していかなければいけないんだと思うんです。

 以上のことから、この憲法審査会において、緊急事態というテーマについて討議する際には、緊急事態の中での議員任期の延長というほんの一部分のみにこだわるということではなくて、更に広く深く課題を捉えて、権力の暴走を民主的に防ぐための歯止めをどのように憲法を含む法体系の中に準備しておくかということ、この問題を総合的に議論することが必要であるというふうに考えております。

 実は、近年の政府の行動を見ると、緊急事態下の事象ではありませんけれども、権力の暴走と言わざるを得ないような権力の行使がとみに目立ちます。これを私も何回もこれまで指摘をしてきました。

 まず第一、内閣総理大臣が国会の解散権を政権の都合のいいときに、権力の維持に有利なときに恣意的に行使してきていたのではないか。第二に、政権が国会の追及を避けるために国会召集に応じなかったということがあるのではないか。三番、内閣法制局の人事に政権による影響力を及ぼして、憲法解釈などの変更で統治の正統性を偽装しているのではないか。四番、国家に独占される情報について、政権に不利なものは国家機密として国民の知る権利から遠ざけて、時に政権が情報操作に及ぶことがあっても、現状では国民の知る権利を保障するための民主的な対応策に欠けているのではないか。五番、予見し難い予算の不足をはるかに超える、歴史上類を見ない多額の予備費を設けて、補正予算のたびに積み増しし、そして政府が自由に国費を支出することは、財政民主主義を骨抜きにしているということではないか。

 緊急事態を特に議論するのであれば、上記五つのような現に起きている問題を総合的に掘り下げて解決すべき、そして、それを憲法の下で深めて、そして、それにどう反映させていくかという、そのことを基本にした議論をしていくべきだというふうに思います。権力の暴走に対してどのような歯止めをかけることができるのか、この緊急事態下での議論の本質であるという、このことを強く望んでいきます。

 最後に、今後の審議会の議論について一言申し上げます。

 次回以降の審査会では、是非、国民投票法について、その公正性と公平性を担保するための更なる改正議論を進めるということを提案します。その上で、先ほど次の回には参考人質疑をしていこうということで合意をできたことはありがたいことだと思っています。

 この国民投票法、これこそ、まとめるところでまとめていくということをしていく、それでないと、憲法改正の国民投票ができない状況が続いているわけでありますから、そのことは改めて先行してやっていくべきだということを主張しておきたいというふうに思います。

 以上、私の議論とさせていただきます。ありがとうございました。

森会長 次に、前川清成君。

前川委員 日本維新の会、前川清成です。

 私は、緊急事態における国会議員の任期延長に関して、各党間の小さな違いを際立たせるためではなく、止揚して大きなコンセンサスを得るために、次のとおり論点を整理したいと思います。

 まず第一に、日本維新の会は、緊急事態宣言が発出されていることを任期延長の前提条件と考えています。緊急事態宣言が発出される要件としては、各党と同様に、外部からの攻撃などの四類型及びその他これに匹敵する緊急事態であって、かつ緊急事態宣言の発出が特に必要があるときとしております。

 すなわち、一方では、四類型に限定されず、四類型に匹敵する緊急事態を加えており、他方、四類型の発生だけでは足りず、緊急事態宣言の発出を特に必要があるときに限定しております。前者は予測困難な緊急事態に対応するためであり、後者は緊急事態宣言を必要不可欠な場合に限定するためです。

 次に、緊急事態宣言発出に関する国会の関与です。

 日本維新の会は、内閣が緊急事態宣言を発出し、国会には事後承認を求めることとしています。この点、緊急事態宣言に関する自民党、公明党の見解が明らかではありません。自民党は、二〇一二年の憲法改正草案と同様、緊急事態宣言の仕組みを設けた上で、その発出につき、事前又は事後に国会の承認を得なければならないとの立場でしょうか。そうであるならば、内閣が任意に事前か事後か選択できるのではなく、どのような場合は事前か事後か明記する必要があると考えます。

 国会の承認が事前か事後かに関してですが、緊急事態宣言が濫用されてしまうリスクを考えたならば、発出に関しても事前承認が好ましいとは思います。しかし、外部からの攻撃や内乱などで国会を召集するいとまがない場合、大規模な自然災害や感染症の大規模な蔓延などで国会議員が国会に参集できない場合を想定したならば、事後承認でやむを得ないのではないかと考えます。

 この点に関して、十一月十日、国民民主党の玉木委員は、原則事前承認、例外的に事後承認と述べておられますが、原則と例外の区分を説明していただいたならば議論が深まるのではないかと考えます。

 次に、議員任期の延長などを議論する前提としての参議院緊急集会の位置づけです。

 十一月十日、立憲民主党の奥野委員から、緊急集会については任期満了の場合でも招集できるとする説が有力であるとの発言がありました。しかし、先刻中川委員からも発言がありましたが、憲法五十四条は「衆議院が解散されたときは、」と明記しており、奥野委員が紹介した説は明らかに文理に反します。

 私も繰り返し申し上げたとおり、法の支配とは、国民の基本的人権を保障するために、憲法というルールで国家権力を縛る仕組みです。文理に反する解釈を許容してしまったならば、憲法による縛りが骨抜きになってしまい、法の支配の否定につながるのではないでしょうか。

 次に、議員任期延長の実体的要件につき、十一月十日、自民党の新藤委員は、適正な選挙実施が困難な状態と述べておられますが、日本維新の会は、選挙の適正な実施が困難であると認める特別な事情と、より厳格な要件を設定しています。

 この点、十一月十日に有志の会北神委員、十一月十七日に玉木委員が更に具体的で詳細な提案をしておられますので、議論を深めるべきかと存じます。

 次に、司法の関与です。

 日本維新の会は、議員任期の延長に関して、日本維新の会が提案するところの憲法裁判所による憲法適合性審査を受けることを提案しています。この点、十一月十日、玉木委員と北神委員は、最高裁による勧告に言及しておられ、日本維新の会と国民民主党、有志の会は、憲法裁判所か最高裁か、あるいは法的拘束力か政治的拘束力かの違いはありますが、司法審査が必要だと考えています。

 これに対して、十一月十日、自民党の柴山委員は、裁判所に民主的な基盤がないことを理由に、司法の関与はよくよく慎重に考えなければならないと述べておられます。

 確かに、裁判官は選挙で選ばれていません。しかし、芦部信喜教授は「憲法訴訟の現代的展開」において、民主主義について、多数決原理に重きを置く多数派支配的民主主義と、自由、平等、それを基礎づける個人の尊厳、人権保障に重点を置く立憲民主主義に区別した後に、多数者支配は民主的な政治制度の要石と考えられてきたが、それは個人の自由、平等、生存の保障という立憲主義の目的を確立し伸長させるための手段であり、特に少数者の不可侵の人権が尊重、擁護されている体制の下でこそ、初めて実効的に機能することができる原則であることを理由に、違憲審査権について、むしろ民主的な制度だと述べておられます。

 したがって、司法審査を非民主的と結論づけることは適当ではありません。

 その上で、もしも国会の多数派が議員任期の延長を濫用してしまったとき、多数決原理が支配する国会の関与だけではその間違いを是正できません。したがって、日本維新の会は、議員任期の延長に関して司法審査が必要だと考えています。

 司法審査に関して、十一月十七日、公明党の北側委員は、司法の関与といっても、詳細な事実関係について材料がない限り、司法だって判断できないと述べておられます。

 しかし、例えば交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償を請求するごくありふれた民事訴訟であっても、裁判所は、被害者と加害者との間に交通事故があったのかなかったのか、あったとしても被害者にどのような損害が発生したのか、何も判断材料を持ち合わせていません。だから、被害者も加害者も当事者として、裁判所へ判断材料、つまりは主張や証拠を提出し、裁判所は当事者が提出した判断材料に基づいて判決を言い渡します。

 議員任期の延長に関しても同様に、司法審査を求める者やこれを争う者が裁判所へ判断材料を提出し、裁判所はこれらに基づいて判断することになります。

 次に、立憲民主党と共産党に伺います。

 緊急事態条項、とりわけ緊急事態における議員任期の延長に関してどのようにお考えでしょうか。その必要は明らかであり、現行憲法の足らざる点ではないのでしょうか。

 緊急事態条項が基本的人権と緊張関係に立つことは承知しています。したがって、私も、十一月十日、そのときの為政者が緊急事態を口実に権力を独占してしまう危惧に言及し、だからこそ慎重で明確な要件や司法審査が必要だと申し上げました。誰も緊急事態の発生など望みませんが、神ならぬ身の我々にとっては、明日何が起こるのか、予想できません。

 政府の地震調査委員会は、南海トラフにおいて今後四十年間にマグニチュード八ないし九クラスの地震が発生する確率を九〇%程度と述べています。万が一、緊急事態が発生し、現行憲法が定める統治機構では国民の生命や財産を守ることができない場合、つまりは、政治が生命を守るか憲法を守るかの選択を余儀なくされた場合、法の支配は踏みにじられてしまうのではないでしょうか。そうならないように、緊急事態でも憲法の下で国民の生命や財産を守ることができるよう、今のうちに現行憲法の足らざる点を書き加えておくべきではないでしょうか。

 本年四月七日、玉木委員も、緊急事態条項が危ないのではなく、まともな緊急事態条項がない中、曖昧なルールの下での恣意的な権力行使で憲法上の権利が制限され得る状態こそ危ないと述べておられます。この発言を、いわゆる護憲派の皆さんこそ、より強く共感していただけるはずです。

 最後に、もう一度申し上げます。

 私たち国会議員に課せられた憲法尊重擁護義務は、未来永劫、憲法の文言を一字一句変えないことではありません。憲法に基づいて国家権力が運営されること、すなわち、法の支配を守ることこそ憲法尊重擁護義務であり、立憲主義であることを是非共有したいと存じます。その上で、緊急事態においても法の支配を守るためには、緊急事態条項や緊急事態における国会議員の任期延長を現行憲法に書き加える必要があることを申し上げて、私からの意見陳述といたします。

森会長 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 まず、衆議院法制局の皆さん、この論点整理、ありがとうございました。これまでの緊急事態に関する幅広い論議について的確に整理をしていただきました。ありがとうございます。

 今回の緊急事態における国会議員の任期延長、また緊急事態条項というのは、何のためにそういう議論をしているかというと、これも改めて確認をしたいと思いますが、どんな緊急時においても、それが国民の生命そして自由、財産等に危機を招来するような、そのような緊急な事態が起こっても、国会の機能をきちんと維持をしている、国会の役割をきちんと果たしているということが一番のポイント、趣旨であるというふうに思っております。

 何度も申し上げますが、ウクライナでは戦争が始まりましてもう八か月以上たちました。しかし、二月の二十四日から今まで、ウクライナの最高会議はその役割を、機能をきちんと果たしております。あのような究極の、ある意味、緊急時においても、議会の役割というものをきちんと果たしているわけでございます。

 私は、一度、ウクライナの最高会議、議会が、この間どんな役割、機能を果たしてきたのか、また、その機能を果たすためにどのようなことについて、仕組みも含めまして、制度を取っているのか、こうしたことについても、本当に身近な実例があるわけでございますので、しっかり検証をする機会をつくった方がいいなというふうに思っております。

 その上で、この緊急事態における国会議員の任期延長問題を中心に、改めて意見を述べたいと思います。

 緊急事態における議員任期延長について、その必要性は、先ほど来お話がありますとおり、五会派では基本的な認識は一致をしております。その要件、効果等の制度設計の各論点についても、これから述べますとおり、五会派では共通するところがかなり多いと思います。ただ、意見が異なるところもございまして、更に論議を重ねてまいりたいと思います。

 まず、参議院の緊急集会の位置づけでございますが、これは二院制の例外として、衆議院の解散から最大七十日間、立場によりましては任期満了から最大七十日間の暫定的な制度であることは、五会派でも認識が一致をしていると思います。ただし、緊急集会というのは、憲法で定められた参議院の重要な権能でございまして、我々衆議院側で精力的に議論をしておりますが、参議院側の理解を得ていくということも非常に大事だということをつけ加えておきたいと思います。

 次に、議員任期延長の要件でございますが、議員任期延長の実体的要件としては二つ、第一に、緊急事態が起こったこと、この緊急事態の範囲をどう考えるか、第二に、緊急事態の発生により広範な地域で国政選挙の適正な実施が長期間困難という、この二つの要件が必要であることについて、これも五会派で認識は一致をしていると思います。

 広範な地域で国政選挙の適正な実施が長期間困難、これが選挙実施困難事態というふうに私は言えるかと思うんですけれども、ここが非常に大事なポイントであると思っております。緊急事態の発生、これによって選挙の実施が困難であることを判断するのは内閣であること、ただし、国会の事前承認が求められ、かつ出席議員の三分の二以上の特別多数が必要というのも五会派でほぼ一致をしているのかなと理解をしております。

 次に、司法の関与の問題です。

 裁判所が関与すべきとの意見もありますが、さきのような実体要件の充足の有無を、こうした事態ですから迅速に判断しなければなりません。裁判所が果たして迅速に判断できるのかということは、やや疑問と言わざるを得ません。

 緊急事態においても議会制民主主義を貫徹するという趣旨からは、両議院で特別多数での事前承認を要するとすることで足りるのではないか。また、任期延長期間の上限を、これから述べますが、設けることで濫用防止も図られるのではないかと考えております。

 この議員任期の延長期間でございますが、この上限を決めるという点では五会派で共通しておりますが、その制度設計についてはやや違いがありまして、更に詳細な検討が必要と考えます。

 以下、私の意見を申し上げたいと思いますが、国政選挙の適正な実施が少なくとも七十日を超えて、任期が終了してから七十日を超えて困難であることが明らかとまず言えなければならないと思います。七十日以内であれば参議院の緊急集会で対応できるということは、これは憲法上規定があるわけでございますので、七十日を超えて困難だということが一つ要件になるかと思います。

 内閣は、緊急事態が発生して、その状況に応じて選挙実施困難期間というものを想定します。そして、その選挙実施困難期間を想定した上で、延期される国政選挙の期日を具体的に決定することになります。例えば、今緊急事態が発生した、その状況から、例えば三か月、これはもう選挙実施は明らかに困難というふうな、こういうことを認定して、延期される国政選挙の期日を具体的に決定する、こういうことになります。

 選挙期日の延期期間は、本来の議員任期が終了しているということ、また、東日本大震災時の地方選挙延期期間の実情を考慮しますと、最大六か月程度とすべきではないかと考えます。

 選挙期日の延期期間が、これはそのまま議員任期の延長期間となります。したがって、選挙期日の延期期間、すなわち議員任期の延長期間についても、国会の事前の承認事項となると考えます。また、想定した選挙実施困難期間が到来しても選挙実施が引き続き困難な状況のときには、国会の特別多数による承認を得て選挙期日を再延期し、その間、議員任期も再延長されるというふうな構成になるかと思います。

 衆議院解散後、総選挙前に選挙の実施が困難となった場合、どう取り扱っていくのか。非常に難しい問題でありますけれども、以前にも申し上げましたが、衆議院の解散は、衆議院議員の任期を終了させるという効果と、解散から四十日以内に総選挙を実施するということ、この二つの効果がありまして、これが不可分な関係であるというふうに考えます。

 総選挙を実施することが明らかに困難と認められるときは、衆議院解散の意義は失われて、解散権を行使した内閣自らの事態認定により、解散は効力を失い、衆議院議員の身分は回復すると考えた方がいいのではないかと思います。当然、これは重大な事柄でありますので、憲法明文で規定すべき事項と言えると思います。

 その他、事態認定効果として、国会の自動召集、閉会禁止、衆議院解散禁止、内閣不信任決議案の議決禁止、憲法改正の禁止について、これも五会派の意見はほぼ共通をしているかと思います。

 以上、憲法改正に向けての制度設計の内容について、私の考えを述べました。更に議論を深めまして、できるだけ多くの会派による合意形成を図ってまいりたいと思います。

 以上です。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木です。

 まず、論点整理していただいたことを、本当に感謝を申し上げたいと思います。

 一点だけ、これは新藤幹事の個人的なまとめではなくて、私も求めて、先週は開かずに幹事会をやって、意見の整理も、チェックもしたので、これはむしろ、個人的なメモではなくて、この審査会における意見の集約だということが正確な私は理解だと思いますので、そこは申し上げたいと思います。私も先週コメントして、それが反映されたものが今日出されていますので、これは我が党の考えということで結構でございます。

 その上で、今まで、議論しても、常に論点が拡散して同じことをいつも繰り返しているという批判がこの審査会にはつきまとってきましたけれども、コロナを経て、緊急事態にどう対応するのか、また、我が国を取り巻く安全保障環境が非常に厳しくなっているという中で、この緊急事態について一定程度、議論が非常に積み重なってきたことはよかったと思います。ですから、こうした論点整理ができたことは画期的だというふうに思っています。

 あとは、この中でも分かるように、一致点が非常に多い部分とまだ議論が分かれている部分が明確になりましたので、意見が分かれている部分について議論を更に深めて、できるだけ多くの論点で合意を得て、私は憲法改正の条文案作りに入っていくべきだと思いますし、国民民主党としても貢献をしたいと思います。

 その中でも、意見の分かれている幾つかの論点について、各会派の皆さんに質問をしたいと思います。今日は時間がないと思いますので、また今後の討論の中でお答えをいただきたいと思いますけれども、やはり一番意見が分かれているのは任期の延長期間の上限についてだと思います。

 まず、我々国民民主党の考えを改めて申し上げたいと思うんですが、結論から言うと、具体的な上限については党内でまだ決め切れていません。

 一つの考えは、東日本大震災のときに地方選挙の任期の特例を決めたときには原則六月、六か月というのが原則でしたから、これが一つ考え得る候補としてはあると思いますが、ただ、あの東日本大震災のときは、結果として延長しました。ですから、これは新藤幹事も言ったように、一年ということを置いておくことも合理的な理由があるかなと思います。

 加えて、我が党は、全国一斉の選挙の適正実施ができるまでは再延長が可能としており、同時に、可能となれば逆に延長任期を終了できるともしています。

 ただ、問題は、その判断を誰がするのかということについては現実的に考えておく必要があるなと思います。

 我が党の案では、議員任期の延長期間の決定は各議院の出席議員の三分の二以上の多数ということにしておりますけれども、ただ、特例延長中を含む緊急事態宣言中は内閣による衆議院の解散権を封じることとしていますので、延長や解除の決定に関して今度は内閣や司法がどう関与するのかは、全体のバランスを取って検討する必要があると思います。

 地方議員の任期特例延長法のように、例えば、何らかの形で中央選挙管理委員会の意見を聞く、こういった第三者の意見を踏まえるようなプロセスの導入も検討してはどうかと思います。

 なお、お手盛りを許さないという観点から、維新の案のように司法の判断に委ねることも一案だと思いますが、我が党の案は、任期の延長のときではなくて、そもそも緊急事態宣言を発令するという一番入口の段階で司法の関与を一定程度するようにして、ただ、それは、法的な効果を直接には認めず、勧告にとどめるということにしております。

 なお、裁判所が判断できないというような意見がありますけれども、我が党による最高裁による統制の関与の在り方は、緊急事態宣言が発せられた場合又は延長された場合に、いずれかの議院の総議員の四分の一以上による申立てがあったときに、最高裁がその要件が満たされているかどうかを審査するということになっているので、必ず最高裁が関与するということにもしていません。

 これはいいのかと議会側から、まさに今の臨時国会を開けというときの四分の一と同じように、それはちょっと違うんじゃないの、内閣はやり過ぎなんじゃないのということを、議会の側、四分の一が求めたときには最高裁が関与をする、そういうたてつけにしておりますので、いずれにしても、司法を、三権分立の中でどうこれを定めていくのかということは慎重な議論が必要だと思います。

 ちなみに、先ほど前川先生から、国会の事前承認ということに何でしているんだ、間に合わないじゃないかということを言われたんですが、これは自衛隊法七十六条の防衛出動の要件を参考にして書きました。つまり、防衛出動も、基本的には解散されていない限り国会の承認を得るということが原則になっているんですが、ただし、特に緊急の必要があるときには国会の承認を得ないで出動を命じることができるとなっているので、開かれていて取れるときは原則取った方がいい、民主的統制の観点から。ということで、原則事前承認、どうしてもいとまがないときは事後承認ということにしておりますので、お答えさせていただきたいと思います。

 その上で、以上申し上げた上で、まず自民党の新藤幹事に伺いたいのは、自民党では一年ということ、これも一つの考えだということを私は申し上げました。ただ、議員任期を次の議会の会期が始まるまでとすることも提案されているんですが、これは緊急事態に限った話なのか、平時においても同様に考えるのかというのは結構ポイントだと思うので、そこを教えてほしいなと。

 仮に、平時においても議員任期は次の議会の会期が始まるまでということにするのであれば、先ほど北側幹事からもありましたけれども、解散ということの意味が変わってくるんじゃないかなと思うんですね。つまり、解散ということによって議員の身分を失わしめるという効果がなくて、とにかく次の議会が開くまでは身分があるということであれば、解散ということに、内閣から議会に対して身分を失わせるということがなくなってしまうということであれば、三権分立の観点から問題が出てこないのかという論点です。

 ただ、これを取れば、新藤幹事がおっしゃったように、身分が復活するのではなくてそのまま続くとウクライナのような説明がしやすくなるのは、そうだと思います。ただ、解散ということが議会の身分を失わせるという、チェック・アンド・バランスの三権分立の観点からの機能を奪ったときに全体のバランスが崩れないのかというところの議論は必要だというふうに思います。

 次に、維新の前川さんや皆さんからおっしゃっていただいたことで、維新の案だと六か月となっている、この根拠を改めてもしよければ教えていただきたいのと、あと、六か月を経過したときに憲法裁判所による職権審査が可能となっているんですけれども、そもそも職権審査というのはどういう内容なのかということを教えていただきたい。あと、先ほどもあったように、やはりなかなか厳密に現状把握を憲法裁判所がするのは難しいのではないかという懸念はあるので、憲法裁判所の人員とか人材の在り方をどう考えているのかという、体制の具体的問題もこれは併せて考えなきゃいけないので、この点をどう考えているのか。

 あと、任期を延長したときに、ああ、もう大丈夫だといって解除するときも、やはり憲法裁判所の関与を求めることにするのかどうか。あるいは、国会が自ら判断をする、短くするときは特に濫用しないので、早く正常に戻るときには無理に憲法裁判所をかまさなくてもいいのか。ここをちょっと教えていただきたいなと思います。

 あと、公明党、有志の会の両者にお伺いしたいのは、公明党さんは七十日、先ほど北側先生からあったように、四十日、三十日ということなので、それを超えてやるときにはやはり必要である、これは我が党とも同じ考えです。有志の会の北神さんは、一年ということにしています。いずれにしても、この再延長や、あるいは、延ばしたんだけれどもそれほど必要ないよねと今度解除するときに、誰がどのような手続でそれを判断していくのかというところの手続、ここは具体的にどう考えればいいのかということは、両者にお伺いしたいというふうに思います。

 最後に、立憲民主党さんにお伺いしたいのは、先ほど中川先生からもありましたけれども、大体、立憲民主党以外の各会派は、緊急集会での対応というのは、解散時のみならず任期満了で選挙できないときも解釈によってはいけるんじゃないかという議論があっても、やはり七十日を超えるような長期にわたるところはさすがに憲法の要請を超えるんじゃないか、つまり、一時的、暫定的だと。ここは大体一致しているのかなと思うんですね。

 奥野さんが幾つか発言をされていますけれども、七十日を超えた長期に仮に緊急集会の対応が及んでも、それは、二院制を採用する憲法の趣旨や、まさに文言で書いてある、基本的には解散時だけですよという文言からの考え方という意味での立憲主義に反しないのか。もし、七十日を超えて延ばすということであれば、憲法上の根拠は一体どこにあるのか。こういったことを、もし今の時点で何か整理できているところがあれば教えていただきたいなと。

 あわせて、先ほど中川先生がおっしゃったことの中で私も非常に賛同するところがあって、なので、私は三月の二十四日の時点に、やはり緊急時においても侵してはならない権利は何なのかということは憲法に明示すべきだということを、多分この憲法審査会で初めてベニス委員会のことを紹介させていただいたのは私だったと思うんですが、これをやはりちゃんと憲法に書いた方が権利侵害を防げるんじゃないのかという考えなので、その点についての考え方も教えていただきたいなというふうに思っております。

 以上です。

森会長 ただいまの玉木委員の御発言の中で、他党に対する御質問が幾つかありましたけれども、今日はちょっと時間がありませんので、今後の議論の中でそれぞれに、今後の議論の中でお答えいただくようにお願いいたします。

 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 まず、今日の運営について一言述べておきます。

 今日の審査会は、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制についての自由討議であり、その具体的な内容について、テーマは設定されておりません。にもかかわらず、新藤筆頭が私的に依頼した緊急事態に関する資料について、冒頭に法制局に報告させるということ自体が問題であります。今日の議論を誘導しようというものであり、看過できません。

 資料の中身も問題です。

 この間の審査会では、憲法に関わる現実の課題について様々な意見が出されました。私は、九条を破壊する大軍拡、憲法の上にある日米地位協定、自民党と統一協会との癒着など、憲法の諸原則をじゅうりんする現実政治の問題を提起してきました。他党からは、国民投票法や、政治と宗教の関係、沖縄と憲法などについての指摘がありました。

 ところが、今日出されている資料は、自分たちが進めたいテーマに沿う議論だけを取り上げて一覧にし、これからの議論を方向づけるようなものになっています。自分たちに都合のよい議論を進め、改憲内容を固めていくかのようなことは容認できないと強く指摘しておきたいと思います。

 議員任期延長の議論は、立憲主義の上から重大な問題があります。

 そもそも、任期とは、ある一定の者がその地位にとどまり権力が集中することを防ぐために定められたものです。国民主権に基づく議会制民主主義の下では、国会議員の任期満了が来たら選挙を行い、国民の意思を議会に反映させることによって、権力を民主的にコントロールしようというものです。これは、国民主権と民主主義に基づく近代立憲主義の大原則であります。

 ところが、今行われている議論は、有事を理由に選挙を停止し、国会議員の任期を延長できるようにしようというものです。そこでは、政府の一存によって有事を認定できることになっており、戦争などの事態やこれに匹敵する事態などと、政府の恣意的な判断を可能にするものとなっています。

 この間の議論では、ロシアのウクライナ侵略を挙げて、究極の緊急事態は安全保障問題だなどと強調し、いついかなるときも国会の機能を維持しておかなければならない、そのために任期延長が必要だということが繰り返し叫ばれました。

 しかし、重要なことは、有事を決定するのは政府で、国会が政府の決定を追認した場合、最終的にその是非を判断するのは国民であり、その機会が選挙だということです。選挙を行い、政権を交代させる機会を保障することが民主主義の要です。この選挙の機会を奪うことは、代表制民主主義の否定にほかなりません。

 しきりに戦争状態を強調しますが、問われているのは、米軍の軍事行動につき従って日本が参戦する仕組みであります。

 自民党は台湾有事は日本有事などと声高に言いますが、それは日本が独自に判断するものではなく、アメリカが台湾海峡をめぐる問題に介入し、それを日本が存立危機事態や重要影響事態に認定して米軍の軍事行動に参戦しようというものです。日米安保体制の下で、アメリカが軍事行動を起こすことを前提に、安保法制に基づき日本が米軍を支援し、アメリカの戦争に参戦する、ここに日本の直面する最大の危険があります。

 日本政府はあくまでも主体的に判断すると言いますが、憲法の上に日米地位協定がある下で、繰り返される米軍の事件、事故に対しまともに物も言えず、地位協定の改定すら提起できないのが現実です。これこそ米軍追従のあかしではありませんか。

 岸田政権は、敵基地攻撃能力の保有の議論を進めていますが、そこでは、日本が攻撃されていないにもかかわらず、相手国を攻撃することまで検討されています。その実態は、米軍の作戦と指揮の下に攻撃を米軍と分担するなど、米軍と一体となって敵基地を攻撃しようというものです。

 集団的自衛権に基づく敵基地攻撃は、相手国からすれば先制攻撃を受けたことにほかならず、日本がそれ以上の反撃を受けることは必至です。そのとき、真っ先に攻撃対象となるのは、米軍基地や自衛隊基地が集中する沖縄の島々です。

 政府は、南西諸島でのミサイル基地を増強して軍事要塞化し、さらに民間空港や港湾まで軍事利用することを狙っていますが、一たび戦争になれば、こうした軍事拠点がますます標的となるのは軍事の常識です。

 南西諸島だけではありません。今、政府は、本州からさらに北海道に至るまで、全国のあらゆる場所に長距離ミサイルを配備することを検討しています。そうなれば、日本全土が相手国からの攻撃にさらされることになります。そのとき犠牲になるのは、政府でも国会議員でもありません。基地と隣り合わせに暮らしている住民であり、日本国民です。

 だからこそ、アメリカと一体となって参戦し、戦禍をもたらそうとしている政権に対し、国民がその是非の審判を下すことが決定的に重要なのであります。米軍に追従する政府の判断を追認するだけの国会でいいのかということが真っ先に問われなければならないからです。

 その機会を国民から奪い取り、時の多数派が自らの都合のいいように権力を振るい、その延命のために任期を延長するなどということは絶対に許されません。緊急事態条項を最優先に議論するといって、その第一に国会議員の任期延長、自分たちの保身のための議論を進めようなどということはあってはなりません。

 国民の生命と財産を守るために重要なのは、国と国との争い事を絶対に戦争にしないことです。そのためには、九条を始めとした日本国憲法の平和主義の精神に基づいた外交努力に知恵と力を尽くすことこそ必要だと繰り返し強調し、発言といたします。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 私の方から、今法制局から説明のあった資料に沿って、有志の会の考えを申し述べたいと思います。

 まず、参議院の緊急集会につきましては、これはあくまで国会の二院制の例外であり、暫定的な措置だと捉えています。緊急事態という、国民の生命財産に関わり、権利の制限が求められかねない状況の中で、一院だけで長期間にわたり立法府としての機能を果たすことは、憲法が予定するところではないというふうに思います。より本質的にも、緊急集会で緊急事態に対応することは難しいと言わざるを得ません。

 緊急集会に関連する国会法第九十九条第一項を参照しますと、「内閣が参議院の緊急集会を求めるには、内閣総理大臣から、集会の期日を定め、案件を示して、参議院議長にこれを請求しなければならない。」とあります。また、第百一条に、「参議院の緊急集会においては、議員は、第九十九条第一項の規定により示された案件に関連のあるものに限り、議案を発議することができる。」さらに、第百二条には、「参議院の緊急集会においては、請願は、第九十九条第一項の規定により示された案件に関連のあるものに限り、これをすることができる。」というふうにあります。

 つまり、国会法上は、内閣が緊急集会を請求するときには、総理から具体的な案件を示さなければなりません。このいわゆる案件に限ってのみ緊急集会は審議、議決ができるのが国会法の考え方です。また、案件に関連のあるものに限って、議員による議案の発議と請願の受理が認められるのです。

 一方で、緊急事態といえども、国会も内閣も専らこの対応にいそしんでいればよいということではないというふうに思います。通常やらなければいけない教育とか年金、介護、医療、農林水産、中小企業、様々な幅広い分野の政策についても同時に粛々と実行していく必要も生じます。また、当然、行政監視機能も求められます。

 ところが、今申し上げた国会法上の案件という文言は、普通、法律用語としては、議題とされる事案その他処理されるべき問題として理解すべきであり、個別具体的なものに限定されます。この案件の中に、緊急事態対応だけでなく、通常処理をすべき政策課題等の全般を包括的に盛り込むことは難しいと考えます。

 したがって、我々が想定している緊急事態にあって、では、緊急集会によって国会としての全般的な立法機能、行政監視機能が果たせるのかと問われれば、難しいと言わざるを得ません。やはり、そういった意味で、議員任期の延長の制度が必要だというふうに考えます。

 次に、第二の要件については、まず、実体的要件のうち、対象とする緊急事態の範囲は、みんな実質一致しています。また、付加要件である、任期延長を総選挙の適正な実施が長期間困難と明らかに見込まれる場合に限定することについても、実質一致している。

 先ほど、我々が選挙を停止しようとしているという発言がありましたけれども、決して停止しようとしているわけではなくて、災害とかで実施が物理的に困難だ、これは空想ではなく、東日本大震災でも実際にあったわけであります。それで、身分の保障を我々は求めているわけではなくて、ちゃんと国民の声を反映して、内閣を行政監視するためにも、国会機能をこういう状態の中でも維持しなければいけない、そういう趣旨であるということを御理解いただきたいというふうに思います。

 ですから、任期延長を総選挙の適正な実施が長期間困難と明らかに見込まれる場合に限定することについても、これも実質一致しています。

 次に、手続的要件のうち、実体的要件の認定機関を内閣とすることについても、完全に一致しています。国会の関与等についても、事前承認が適当とされていることも共通しています。我々有志の会は、議決要件を、特別多数である国会の三分の二以上の多数、出席の数の三分の二ですけれども、半数というと、これはやはり、議員の任期を延長するというかなり重たい事案なので、三分の二以上が適当だというふうに考えています。もちろん、憲法の特別規定ほどではないという位置づけであります。

 裁判所の関与につきましては、前川委員とか玉木委員から話があったとおり、私も同じ考えでありますが、最高裁判所の実務上の負担や権限の実態など、現場の声も丁寧に聞いていかなければいけないとは思います。

 次、三に移りますと、効果、以上の要件が満たされた場合の法的効果につきましては、任期延長の期間に何らかの上限を設けることには、みんな一致しています。ただ、その制限の在り方が異なります。

 議員の任期延長が例外的な制度であることから、できるだけ短めに上限を設定する考えも十分理解できますが、これもなかなか厳密な基準が見当たらないため、我々は、一年間を上限にしつつ、国会の議決により再延長も可能とすることが適当だというふうに考えます。今回の感染流行が数年に及んでいることなども踏まえますと、余り短く設定して、小刻みに再延長することは避けた方がいいのではないでしょうか。

 先ほど玉木委員から質問がございましたけれども、どうやって任期延長を終了するかということにつきましては、緊急事態の収束が大体分かってきて、めどがついたときに、そして総選挙が実施できると判断された場合には、国会議決により、延長された任期の終了日を定めなければいけないということを、これも私は憲法上規定すべきだというふうに思っています。この場合は、例外から通常に戻すので、半数の議決でいいというふうに考えています。

 次の、任期満了後あるいは解散後に緊急事態が発生した場合、いわゆる前議員の取扱いについては実質的に一致していますが、先ほど新藤委員からお話があった、解散が無効となるという考え方もあるというふうに思います。これもちょっと検討してまいりたいというふうに思います。いずれにせよ、憲法第五十四条第一項、すなわち、選挙期日は解散の日から四十日以内という規定は適用しないという明文を、その場合、手当てする必要があることを指摘したいというふうに思います。

 最後に、議員任期延長以外の国会機能維持策、すなわち、国会の閉会禁止あるいは即時召集、衆議院解散禁止、内閣不信任決議案の議決禁止については、各党、基本的に一致しています。ただ、有志の会の考えとしては、内閣が議員任期延長のために緊急事態宣言を認定し、国会もこれを議決する以上は、閉会禁止などは言わずもがなのことなので、あえて明文化する必要はないというふうに考えています。

 最後の、緊急事態全般に関する論点については、まず、緊急政令、緊急財政処分については、前回申し上げたとおり、緊急事態における国会機能の維持とは別次元の論点であり、また、不要とする政党もまだありますので、引き続き議論を重ねていく必要があると思います。

 一部御意見が出ている、憲法上、あらかじめ法律の定めるところによりと規定をするのも、これは私の理解では、既存の緊急事態法制、今ある緊急事態法制にそのままのっとることになると思います。その場合でしたら、あえて憲法上新たに規定を設ける必要はないと考えます。ただ、そういうことでしたら、あえて反対することもないというふうに思います。仮にその方式を取る場合でも、既存の緊急事態法制で対応できない事態はあり得るのか、対応できない場合はこれを法律で補完するのか、憲法で補完するのかなど、本審査会で検討を加えるべきだと思います。

 次に、人権制約の限界明記については、本来は、緊急事態条項の効果として考えられる人権制限の論点との関係で議論すべきだというふうに思います。これを意識的に行ってこなかったような気がします。

 従来は、憲法第十三条の公共の福祉を根拠に人権制約が可能とされてきました。しかし、ここで新たに一部の人権のみ制約できないと明記することは、逆に、その他の具体的人権については制約できるということになります。

 この考え方に私は必ずしも異論はありませんが、仮に、緊急政令について既存の緊急事態法制によるのであれば、既に制約され得る人権が法律上明らかになっているわけです。したがって、これで足りるとするのか。いずれにせよ、緊急政令との関連で議論を続ける必要があるように思います。

 以上です。

森会長 これにて討議は終了いたしました。

    ―――――――――――――

森会長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題について調査のため、来る八日木曜日、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

森会長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、来る八日木曜日審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十分散会


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