衆議院

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第6号 令和4年12月8日(木曜日)

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令和四年十二月八日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 上川 陽子君

   幹事 柴山 昌彦君 幹事 新藤 義孝君

   幹事 山下 貴司君 幹事 階   猛君

   幹事 中川 正春君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      池田 佳隆君    石破  茂君

      石橋林太郎君    石原 正敬君

      岩屋  毅君    上田 英俊君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      大塚  拓君    神田 憲次君

      工藤 彰三君    熊田 裕通君

      小森 卓郎君    下村 博文君

      田野瀬太道君    辻  清人君

      深澤 陽一君    古川 禎久君

      古屋 圭司君    細野 豪志君

      牧島かれん君    務台 俊介君

      渡辺 孝一君    新垣 邦男君

      大島  敦君    奥野総一郎君

      城井  崇君    近藤 昭一君

      篠原  孝君    本庄 知史君

      谷田川 元君    吉田はるみ君

      岩谷 良平君    前川 清成君

      和田有一朗君    金城 泰邦君

      國重  徹君    吉田 宣弘君

      玉木雄一郎君    赤嶺 政賢君

      福島 伸享君

    …………………………………

   参考人

   (一般社団法人日本インタラクティブ広告協会専務理事)           橋本 浩典君

   参考人

   (一般社団法人日本インタラクティブ広告協会事務局長)           柳田 桂子君

   参考人

   (慶應義塾大学大学院法務研究科教授)       山本 龍彦君

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

十二月八日

 辞任         補欠選任

  小林 鷹之君     工藤 彰三君

  國場幸之助君     石原 正敬君

  中西 健治君     牧島かれん君

  船田  元君     石橋林太郎君

  山本 有二君     上田 英俊君

  渡辺 孝一君     池田 佳隆君

  三木 圭恵君     和田有一朗君

  浜地 雅一君     金城 泰邦君

  北神 圭朗君     福島 伸享君

同日

 辞任         補欠選任

  池田 佳隆君     渡辺 孝一君

  石橋林太郎君     船田  元君

  石原 正敬君     國場幸之助君

  上田 英俊君     山本 有二君

  工藤 彰三君     小森 卓郎君

  牧島かれん君     深澤 陽一君

  和田有一朗君     三木 圭恵君

  金城 泰邦君     浜地 雅一君

  福島 伸享君     北神 圭朗君

同日

 辞任         補欠選任

  小森 卓郎君     小林 鷹之君

  深澤 陽一君     中西 健治君

    ―――――――――――――

十二月五日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(小宮山泰子君紹介)(第一七二号)

 同(志位和夫君紹介)(第二三四号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第二九五号)

 同(坂本祐之輔君紹介)(第三五九号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第四三八号)

 同(本村伸子君紹介)(第四三九号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第四六五号)

 憲法を生かし、生命・暮らしを守ることに関する請願(本村伸子君紹介)(第三六〇号)

は本憲法審査会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題(「ネットCMと国民投票運動」及び「ネット社会と憲法の関わり」))


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題、特に、「ネットCMと国民投票運動」及び「ネット社会と憲法の関わり」について調査を進めます。

 本日は、本件調査のため、参考人として一般社団法人日本インタラクティブ広告協会専務理事橋本浩典君、一般社団法人日本インタラクティブ広告協会事務局長柳田桂子君及び慶應義塾大学大学院法務研究科教授山本龍彦君に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。参考人それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、橋本参考人、山本参考人の順に、それぞれ御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対しお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際はその都度会長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできないこととなっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 それでは、まず橋本参考人、お願いいたします。

橋本参考人 ありがとうございます。日本インタラクティブ広告協会、橋本と申します。

 本日は、インターネット上のメディアに有料で掲載される広告、これを私どもではインターネット広告と呼んでおりますが、その事業者団体の立場から、市場の概要と、業界におけるガイドライン等の取組を御説明いたしまして、最後に今後の議論に向けて考えを申し述べさせていただきます。御議論の御参考になれば幸いでございます。

 資料、まず二ページを御覧ください。

 当協会は、平成十一年に設立したインターネット広告の業界団体です。会員は、インターネット広告を掲載する媒体社、プラットフォーム事業者、広告会社などの、広告主以外の事業者で、現在三百九社が加盟しております。インターネット広告の健全な発展と社会的信頼の向上のために、ガイドラインの策定、調査や啓発活動を行っております。

 次の三ページは、役員の一覧です。

 インターネットメディアを持つマスメディア、プラットフォーム事業者、広告会社など、主要な会員社から役員を選任しております。

 次の四ページには、当協会は、定款に定める目的と、会員の行動憲章と、インターネット広告倫理綱領を基本方針としております。インターネット広告は、デジタルコンテンツやネットワークコミュニケーションを支える経済的基盤であり、社会の信頼が欠かせないものと認識しており、法令遵守のみならず、高い倫理観を持って広告事業を行うことを定めております。

 次の五ページからは、インターネット広告市場の概要をお話しいたします。

 現在のインターネット広告市場やその周辺の状況としましては、運用型広告が拡大し、オープンマーケットでのオークション取引も行われております。パーソナルデータを利用したターゲティング広告は、法規制や自主的規制のほか、OSやブラウザー等の技術動向の影響により、現在、大きな転換期にあります。動画広告が伸長するとともに、コネクテッドTVのような動画視聴環境の変化により、新たな動画コンテンツサービスも登場しております。また、SNSは、有料の広告だけでなく、企業アカウントやインフルエンサー、口コミの活用が増え、マーケティングプロモーションの領域がますます広まっております。

 次の六ページには、電通、日本の広告費の概要ですが、二〇二一年の日本の総広告費は六兆七千九百九十八億円で、インターネット広告費は二兆七千五十二億円と、初めてマスコミ四媒体合計の広告費を上回ったと推定されております。

 そのうち、インターネット広告媒体費は二兆一千五百七十一億円で、その内訳を取引手法別に見ますと、運用型広告が八五%を占めており、主流となっております。この運用型広告とは、広告の出し手側が都度出稿条件を調整しながら入札方式で取引するものです。一方、予約型広告とは、掲載条件が確定している従来の取引で、構成比一〇%ほどです。

 広告の種類では、最も成長率が高いのが動画広告です。また、別の切り口で見ると、SNSや動画投稿サイトのソーシャルメディア上の広告が伸びております。次のページ以降に、御参考として図表を載せております。

 少しページをおめくりいただきまして、十一ページ、ここは広告取引の概念図となります。

 主流になっております運用型広告では、様々な媒体運営者の広告枠が複数の事業者を経由して取引されており、広告掲載までの経路が非常に複雑化しております。プラットフォームを介して自動で行われるプログラマティック取引は、広告主の広告の出稿条件と、媒体の広告枠の販売条件のマッチングによって取引が成立し、金融市場の取引のように、リアルタイムでの入札も行われています。

 次の十二ページは、御参考として取引手法の分類をまとめたもので、広告の出し手である広告主がニーズに合った様々な取引手法を選択することができます。

 次の十三ページのように、インターネット広告の取引が複雑になる中で、広告主を含め、各事業者は様々な対応をしております。

 特に、オープンマーケットプレースという売買に自由に参加できる取引手法では、不正な広告や不正な掲載サイトが紛れ込んでくるリスクがあります。リスクに対応するため、各社が自主的な取組を行っているとともに、当協会では、日本通信販売協会や警察庁のインターネット・ホットラインセンター、コンテンツ海外流通促進機構といった相談、通報受付機関と連携して、不正な広告や違法サイトの情報提供を受け、その情報を会員社に提供して、取組を支援しております。ただし、独占禁止法に抵触しないよう、対応はあくまでも各社の判断に委ねております。

 次の十四ページからは、当協会の広告掲載基準ガイドラインの内容を抜粋して御説明いたします。会員の媒体社各社は、この指針を参考にそれぞれに広告掲載基準を定め、掲載判断を行っています。

 次の十五ページ、まず一項では、本ガイドラインは、会員社の標準的な指針として定めたものではありますが、各社の判断については、それぞれが独自に定める広告掲載基準が優先され、本ガイドラインが各社の掲載基準を直接コントロールするものではないということを規定しております。

 二項では、媒体社や広告配信事業社が自社の基準に適合しないと判断した場合に、広告掲載を停止する権限を確保しておくことについて定めています。

 次の十六ページ、三項は、インターネット広告の定義です。インターネット広告のリンク先は広告主が管理するサイトですが、掲載判断にはその表示内容も考慮することを記載しております。

 十七ページ、五項は、広告主体は広告主であり、広告内容の責任は広告主が負うという原則です。媒体社は、原則として広告に対する責任を負わないものの、予見性がある場合には虚偽広告を掲載してはならないとしております。

 次の十八ページ、六項では、違法な広告を掲載してはならない、七項では、反社会的な広告は掲載すべきではないとしております。

 次の十九ページ、九項は、広告主体者の明示です。広告についての責任の所在を明確にするため、広告には広告の主体者を明示すべきであるとしております。

 次の二十ページ、十項では、消費者が広告でないと誤認するおそれのある場合は、広告である旨を明示することを定めています。

 次の二十一ページ、当協会では、インターネット利用者の個人に関する情報の取扱いについて、プライバシーポリシーガイドラインと行動ターゲティングガイドラインを策定しております。個人情報保護法等の法令遵守を前提として、グローバルでの規制動向や、技術やサービスの実態を踏まえて、自主ルールも含め、会員社が遵守すべき原則を定めております。

 次の二十二ページはガイドライン策定の背景ですけれども、行動ターゲティング広告は、利用者にとって興味、関心のある広告に接する機会が増えるという利点がある一方で、プライバシーに関する懸念や広告に対する不信感を抱くおそれがあります。利用者の安心、安全のためには、どの事業者が取得したどのような情報が広告に利用されているのか容易に知ることができ、可否を選択できる仕組みを提供することが必要です。そのため、二十三ページ、二十四ページにございます、利用者に透明性と選択の機会を提供する施策を行っております。

 最後に、二十六ページを御覧ください。ここでは、今後の議論に向けて、考えを述べさせていただきたいと思います。

 これまでの皆様の御議論は、公平公正な国民投票運動のために、広告規制の在り方については、放送法に基づく放送事業者の自主的なCM規制を念頭にされてきたと理解しております。

 また、有料広告や宣伝活動、利用者間のコミュニケーションを含めて、インターネットの適正な利用の在り方について問題提起がなされていると認識しております。

 例えば、政党等による真っ当な広告をどうするか、偽の情報を流布するような広告をどうするかという問題。有料の広告をどうするか、有料広告ではない無料のプロモーションをどうするか。SNSでのメッセージの拡散や動画の影響力をどう考えるか。個人に関するデータの利用についても、ターゲティングを可能とするのか、データの不正利用にどう対処するのかといった、様々な点から御議論されていると承知しております。

 また、広告規制の在り方については、公平公正という観点から、賛成、反対の広告の量的なコントロールを求める御意見があると伺っております。

 インターネットに限らず、メディアからの情報経路は様々ありますので、自由かつ公平公正な投票運動を確保するために、有料の放送CMとインターネット広告のみを規制することで効果があるのか、難しい問題であると考えます。

 そして、御説明いたしましたとおり、インターネット広告は、出稿の仕組みが複雑で、業界団体に属していない中小事業者や個人でも、広告主や媒体運営者として多数存在しております。その中で、当協会は、健全で円滑なビジネスを推進するため、ルールの整備や啓発活動に努めておりますが、個別の事業者間の取引には踏み込んでおらず、個別の取引に対して特定の規制に従うよう強制する権限は有しておりません。

 また、媒体やプラットフォームや広告会社の選定、取引形態や広告料や配信量、ターゲット設定などは、受け手側ではなく広告の出し手側が設定するものですので、受け手側でコントロールできることは限られております。実務に照らしても、実効性の点でも、自主的に公平性を担保することは難しいと考えております。

 広告規制の原則的な考え方は、法規則も自主規制も、広告については第一義的には広告主が責任を負うということにあります。実際に、景品表示法のような表示規制の一般法だけでなく、個別の業法による法規制や、広告主の業界による自主基準などによって、まず広告の出し手側での規制がなされています。

 公職選挙法では、平成二十五年にインターネット選挙運動等に関する各党協議会において改正公選法のガイドラインが作成されましたが、私どもは、そのガイドラインを踏まえて、選挙におけるインターネットの利用について作成していた参考資料を改訂し、各社も広告掲載基準を見直し、対応しております。

 インターネットでの選挙運動の有料広告は禁止されておりますが、政治活動の広告については有料広告も可とされております。

 公選法のガイドラインは各党協議会で知見を集めて取りまとめをされたものと思いますが、このような法律を踏まえた出し手側の基準が最も有効であり、私どもとしても、そのような基準があれば、それに沿ってしっかり対応を行ってまいりたいと考えております。

 私からは以上でございます。

森会長 ありがとうございました。

 次に、山本参考人、お願いいたします。

山本参考人 慶應大学の山本でございます。

 本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 私は、憲法学の中でもプライバシー権を中心に研究してまいりまして、その延長で、デジタル化、AI活用の進展と憲法原理との関係をいろいろと考えてまいりました。こうした視点から、本日、デジタル時代に深めるべき憲法論について意見を述べさせていただきます。

 まず、デジタル庁にはデジタル臨時行政調査会が設置され、各省庁の法令等がデジタル原則に適合しているかをチェックすることとされました。このことは高く評価されるべきですが、このデジタル原則は、デジタル完結・自動化原則、共通基盤利用原則など、インフラ整備や手続に関するものが多く、デジタル時代にどのような基本権のアップデートが必要なのか、言論空間や情報環境を含む憲法秩序全体をいかに再構築していくべきかといった、デジタル化を推進していく上での実体的な目的、目指すべき価値に関する具体的なコミットメントが十分に書かれていない。要するに、日本のデジタル法制の方向性を体系的に指導する憲法論が不在なのではないかと感じました。

 私は、アルゴリズムやAIが私たちの意思決定の領域に深く入り込むような時代にあっては、デジタル化は、個人の在り方、もっと言えば人間存在そのものの在り方、国家の在り方を根本的に変容させる可能性を持つと考えております。

 かつて産業構造の変化は、憲法の変化をもたらしました。十九世紀の産業革命がもたらした社会経済構造の変化は、二十世紀に入り、憲法における社会権の取り込みや行政権の拡充を帰結し、自由国家的な憲法から積極国家観を前提とした社会福祉国家的憲法への転換を導いたわけでございます。

 政府の推進するソサエティー五・〇は、デジタル化による産業構造の変化を包含するものと理解しておりますが、となれば、それに見合う新しい憲法論、私はこれを憲法論三・〇と呼んでおりますが、そうしたものを展開する必要性は大である、こう考えております。

 資料の二に入りますが、欧米におきましては、既にこのような憲法論が展開されていると認識しております。

 ところで、憲法論というのは、憲法典の改正か否かという議論に矮小化されるべきものではなく、国会法百二条の六がまさに憲法審査会の役割について言うように、憲法に密接に関連する基本法制についての議論も含むと考えております。その意味における憲法論は、デジタル化を踏まえ、欧米でかなり進んできているのではないかということでございます。

 例えばEUでは、既に二〇二〇年十二月に、デジタル時代の諸課題、例えば偽情報の拡散や、自由、公正な選挙の侵食といった問題ですが、これらに対応し、欧州の民主主義をより強固なものにしようという考えから、欧州委員会から欧州民主主義行動計画が公表されました。この骨太の計画が立法のロードマップのような役割を果たし、実際、昨年十一月には、公正な選挙の実現を目的に、政治広告の透明性とターゲティングに関する規則が提案されています。

 今年一月には、欧州委員会により、デジタル時代におけるデジタル権利及び原則に関する欧州宣言が提案されています。資料記載の全六章から成るこのデジタル権利宣言は、先月、欧州委員会、EU理事会、欧州議会の三者対話で合意がなされ、今月署名される予定のようでございます。

 米国に目を向けますと、例えば、昨年十月にホワイトハウスの科学技術政策局の局長らがAI権利章典なる文書の策定を提案し、今年の十月、同局から資料記載の五原則から成るブループリントが発表されました。

 詳細は割愛いたしますが、ここでは、昨年十月の提案時に、米国の建国期を想起しつつ、憲法が承認された直後、アメリカ人は権利章典を採択した、それは、今まさに我々が創造した強力なガバメントからの保護を目的とするものであった、この二十一世紀、我々は、今まさに我々が創造したテクノロジーからの保護を目的とする権利章典を必要としている、こう述べられたことに注目したいと思います。このデジタル時代に、改めて憲法的な含意を持った権利章典が必要だと主張しているわけであります。

 かように、欧米では、デジタル時代の憲法問題を見通し、法制度全体の再編を指導する骨太の憲法論が必要だと考えられている。問題は、この日本で同様の憲法論が展開されているかということでございますが、どうもそうではなさそうである。デジタル化に伴う制度論は確かに各省庁で個別によく議論されてはおりますが、憲法的な視野に立ってこれらを統合、体系化するような議論はどうも行われていない。何かパッチワーク的な議論に終始しているように思えるわけでございます。

 次に、資料の三でございますが、ここでは、憲法論三・〇が必要な理由をより明確にするために、プロファイリングとアテンションエコノミーの諸問題を提示させていただきます。

 まずはプロファイリング。EUのGDPRで定義されておりますが、要するに、ウェブの閲覧履歴といった個人データから、AIを用いて、個人の趣味、嗜好、精神状態、政治的な信条や犯罪傾向など、あらゆる私的側面を自動的に予測、分析することをいいます。

 この問題性を非常にセンセーショナルな形で世に知らしめたのは、ケンブリッジ・アナリティカ事件でございます。ここでは、二〇一六年の米国大統領選ではトランプ陣営を、英国のEU離脱を問う国民投票では離脱派をそれぞれ支援したとされる選挙コンサルタント会社ケンブリッジ・アナリティカが、フェイスブックのデータから詳細な心理的なプロファイリングを行い、ユーザーを、神経症で極端に自意識過剰、陰謀論に傾きやすい、衝動的怒りに流されるなどと細かく分類し、この分類に応じて政治広告を出し分けていた。

 こうした政治的マイクロターゲティングは、かなり効果的です。フェイクニュースにだまされやすい人にフェイクニュースをリコメンドすれば、その人の感情や意思決定を容易に操作できる。ロシアの介入いかんの問題はここではおきますが、この事件を契機に、プロファイリングを用いた政治的マイクロターゲティングが、プライバシーのみならず民主主義にも多大な影響を与え得ると認識されるようになりました。

 日本でプロファイリングが注目されたのは、二〇一九年のリクナビ事件だと思います。就活プラットフォームのリクナビは、学生のウェブの閲覧履歴などからAIを用いて内定辞退率を予測し、これを企業に販売していました。

 例えば、国内企業から採用をもらっても、外資系の企業に逃げてしまう学生がいる、そういう学生がどんなウェブを見ていたかをAIに学習させれば、内定辞退の可能性を予測するアルゴリズムを組める。それを利用したプロファイリングは、企業には有用ですが、学生からすれば、何げなく行っていたウェブの閲覧の記録がまさか内定辞退率の予測に使われ、内定が取り消される可能性があったとはと、ショックを受けたと思います。

 いわゆるクッキー情報などを使い、閲覧履歴をサイト横断的に収集すれば、認知的な傾向も含め、その人の特性をかなり詳細にプロファイリングできます。今後、メタバースが広がり、ヘッドギアをつけてVR空間に没入するようになれば、アイトラッキングといった視線の分析や脳波測定まで行えるようになり、認知領域に関するプロファイリングの精度はますます高まると思います。今や認知領域が標的とされていると言ってもいいかもしれません。

 次に、アテンションエコノミーですが、これは、情報過剰時代には、私たちが払えるアテンションや費やせる時間が、市場に供給される情報量に対して圧倒的に希少になるため、交換財として経済的に取引されるというビジネスモデルのことをいいます。

 SNS事業者などは、アテンション、具体的には閲覧数、ページビューとか、滞在時間、エンゲージメントとも言いますが、こうしたものをユーザーから獲得し、それを広告主に売るということでビジネスを成り立たせている。このビジネスモデルでは、いかにアテンションを奪うかが重要になります。ですから、事実に関する報道よりも、フェイクニュースの方が拡散しやすい。その方が刺激的だからであります。

 また、怒りや憎悪といった負の感情がアテンションを得やすいので、誹謗中傷も広がりやすい。フェイクニュースや誹謗中傷といった問題は、実はこのアテンションエコノミーという構造と深く関連しています。

 ところで、心理学の二重過程理論によれば、人間には、反射的で処理速度の速い思考モード、システム1と、論理的、熟慮的で処理速度のスローな思考モード、システム2がある。アテンションエコノミーでは、いかにシステム1を刺激できるかが戦略上特に重要になると言われています。

 米国コロンビア大学教授のティム・ウーは、現在、私たちは常にシステム1を砲撃されており、熟慮の上、自律的、主体的に情報を選別する機会を奪われていると指摘しています。こうした指摘を踏まえますと、アテンションエコノミーの論理に覆われた私たちの言論空間は、思想や言論がその説得力を競う思想の競争から、いかにユーザーの認知過程を刺激し反射を得られるかを競う刺激の競争へと大きく変容してきていると言えるでしょう。

 また、アテンションエコノミーは、フィルターバブルやエコーチェンバーを生み、社会的な分断や部族化をもたらすと言われています。事業者側は、アテンションを取るために、プロファイリングを用いて、その人が最も強く反応するコンテンツをリコメンドする。それにより、パーソナライズド化された情報の泡の中に各人を閉じ込める、フィルターバブルです。

 また、この閉鎖的情報空間には、政治的傾向の似た人の意見が次々と入ってきて、その声がこだまする。狭い空間の中でエコーがかかった状態になるわけです。そうすると、当初の政治傾向がより過激化、硬直化し、分断が深まっていくとも言われています。エコーチェンバーにより陰謀論を固く信じ込んだ者が物理的な暴力事件を起こす事態にも発展しています。こうした、いわば原始的な感情が増幅したカオティックな言論状況も、アテンションエコノミーなる構造と深く関連しています。

 以上、プロファイリングとアテンションエコノミーを軸にデジタル化の問題を概観してまいりましたが、資料四では、これらと憲法との関連を確認しておきます。

 まず、プロファイリングですが、これは、取るに足らない個人データの束から、アルゴリズムを用いて、いわば錬金術的に、また秘密裏に個人の非常にセンシティブな属性を精度高く予測できるため、まずはプライバシー権と関わります。

 さらに、採用や融資の適性、犯罪者傾向など、個人の人格的側面を評価、分類することは、平等の問題、ひいては個人の尊重原理に関わる。AIの学習データに少数派からのデータが適切に反映されず、これを過少代表といいますが、AIが女性やアフリカ系アメリカ人、障害者などの少数派に不利な判断を行った事例も多数報告されており、欧米では、AI利用が差別を助長、再生産することになるのではないかと強く懸念されています。

 また、そもそもAIは、ある共通の属性を持った集団、セグメントといいますが、その集団に分類される者が一般にどう行動するのかといった確率的、統計的な予測を行うにすぎません。

 個人がセグメントに包含されない個性を持つこと、偶然的な出会いによって考えや嗜好が大きく変わることは当然あり得るわけですが、こうした具体的、偶発的な事情は、過去のデータから学ぶAIの確率的評価では捨象されてしまいます。セグメントに基づくAIの確率的評価は、憲法十三条の個人の尊重と矛盾し得る側面があり得ます。しかも、ディープラーニングのような複雑な学習方法を用いると、AIの判断は人間には理解できなくなるというブラックボックス問題が生じるために、AIに低い評価をされた者に、なぜそうなったのかの理由が説明されず、個人が再挑戦の機会を失って社会的に排除され続けるという事態、いわゆるバーチャルスラムですが、こうしたことが起こり得ます。

 また、AIを用いて認知過程に介入し、これを操作するようなマイクロターゲティングやハイパーナッジは、自由で自律的な意思決定という近代憲法の根本原則を脅かす可能性がある。私たちの認知領域をいかに保護し、自律的な意思形成過程を守るかは、AIは認知領域の分析が得意なだけに、認知戦と言われるように、戦争ですら認知領域が注目されている現状を踏まえますと、今後重要な論点になると思います。この点、私は、憲法十九条の思想、良心の自由の再発見が重要ではないかと考えております。

 それから、アテンションエコノミーに伴う諸問題は、知る自由、知る権利と深く関連します。最高裁はかつてこの権利を、個人の人格発展と民主主義の維持のため、各人が自由に様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことと述べました。アテンションエコノミーの下、常にシステム1を刺激され、特定の情報を摂取させられ続けているとすれば、様々な情報を主体的に摂取する自由を侵害されているとは言えないか。

 私は、最近、知る権利と関連して、情報的健康、すなわち、様々な情報をバランスよく摂取することで、フェイクニュース等に対する免疫を獲得している状態、これが大切だと主張しています。それは、この時代には、エンゲージメント至上主義の商業的アルゴリズムによって、私たちは情報を偏食させられているのではないか、こうした情報の偏食により情報的な健康を害しているのではないか、こう考えているからでございます。

 最後、選挙の公正です。

 現在の法制度の下では、ケンブリッジ・アナリティカ事件のような出来事が我が国で起きないとは言えない。他国からの選挙介入にも脆弱だと思います。また、現在の混沌とした言論空間の中で、果たして私たちは適切な選挙権行使ができるのか、自由で自律的な政治的意思決定ができるのか、疑問です。

 そもそも、フィルターバブルのような個別化した情報的環境の中では、今後は、メタバースという仮想空間にずっと没入する者も出てくるかもしれませんが、公共とのつながりを失い、今選挙が起きているかどうかさえ知らない者も出てくるかもしれません。そこでは、テレビでの政見放送はほとんど意味を成さないわけであります。

 同じ道理は、熟慮がより必要となる憲法改正国民投票にも基本的に妥当します。今のカオティックな言論空間の中で国民投票を行っても、その結果の正統性が、どちらに転んでも疑われることになるでしょう。

 問題は深刻だと思います。もちろん、だからといってデジタル化やAI活用を否定できない。今や私たちは、それなしで健康で文化的な最低限度の生活を送ることはできません。また、人間の判断が常に正しいわけではない。人間は弱く愚かな存在で、偏見に満ちた判断をすることもあります。データは、その弱さを補完し、より公平な判断をもたらすこともある。

 重要なのは、憲法の基本的価値をよりよく実現する形でテクノロジーを利用することです。そのためには、問題を切断して局所的に議論するのではなく、憲法的視点に立った総合的な議論が必要だと思います。欧米の憲法論は、まさにこのような試みとして理解することができるでしょう。

 では、どのような方向で議論していけばよいのか。最後、資料五ですが、その要点のみを申し上げます。

 まず、プライバシーについては、欧州でいう情報自己決定権、日本でいう自己情報コントロール権を憲法上の権利として承認することが重要だと考えています。日本では、こうした権利が判例上も法制度上も正面から承認されておりません。近年は、自己決定や同意を本質的な要素とせず、自己の情報の適正な取扱いを受けることこそプライバシー権の本質だと捉える見解が有力に主張されており、注目されています。

 確かに、有効な同意が難しい場合はある。本人の決定を上回る公共的利益がある場合もある。しかし、私は、専断的なプロファイリングを抑え、個人中心のデジタル社会を形成するためには、個人が自己のデータに対してコントローラビリティーを持つことが決定的に重要であり、また、それこそが、世界の潮流、また中央集権から自律分散を説くウェブ3・0の流れにも合致すると考えています。

 今後は、パッチワーク的な様相を呈する日本の個人情報保護法制が、情報自己決定というコンセプトを中心に再編され、体系化されることを強く期待します。

 次に、アテンションエコノミーの行き過ぎによって生じている様々な課題については、知る権利や情報的健康をキーコンセプトとして、言論空間全体を再構築していくことが急ぎ必要だと思います。

 現在も、プラットフォーム規制、放送制度の見直し、報道機関とそのニュースを使用するプラットフォームとの関係の検討、メディアリテラシーの実践など、言論空間の再構築に関わる議論がいわば局所的に進んではおりますが、各議論領域を体系的、総合的に指導する憲法論、それは国家の役割論を含みますが、必要だと思います。

 それから、選挙や国民投票に関しては、まず、その期間にかかわらず、今申し上げたように、言論空間全体を健全化することが重要です。政治的意思決定が操作されないために、EUで検討されているような政治広告の透明性を徹底的に高める規律も必要になると思います。EUの提案では、センシティブ情報を利用した政治的ターゲティング広告が一般的に禁止されています。

 また、現状のテレビ離れからすると、国民投票法のテレビ放送等を通じた国民投票広報の効果というのは限定的になるようにも思います。そうなると、主要プラットフォームを通じた国民投票広報も重要になるでしょうし、プラットフォームが情報の順位操作などを通じて秘密裏に特定の見解を支援したり抑圧したりすることがないよう、リコメンダーシステムの透明性とそのチェックのメカニズムを構築させる必要性もあるように思います。ファクトチェック記事など、信頼できるコンテンツを目立つ形で掲載するなどの措置も重要になるかもしれません。いずれにせよ、プラットフォームに対する一定の規律ないし協力が必要になるように思います。

 最後、国家がこうした巨大プラットフォームとどう対峙するのかという問題が、実はデジタル時代において最大の憲法問題になるかもしれないということを申し添えておきます。

 旧約聖書には、リバイアサンと二対一頭の怪獣としてビヒモスが登場します。現在、巨大プラットフォームは、リバイアサンとしての国家と対抗し得るほどの力を持ち、まさにビヒモスとして、デジタル空間における主権をリバイアサンと奪い合っているようにも思えます。となると、デジタル時代の立憲主義は、このビヒモスの権力をどう射程に収めるかという議論から逃れられないようにも思います。

 例えば、先ほどプラットフォーム規制などと簡単に口走りましたが、特に海外事業者の規制はそう容易ではなく、今後は、外交的、戦略的な関係というものを構築すること、国民がそれを民主的にチェックするといったメカニズムを持つことが必要になるように思います。

 以上、雑駁ではございますが、デジタル時代に必要な憲法論の方向性について意見を述べさせていただきましたが、この憲法審査会で、超党派的に、デジタル化を見据えた骨太の憲法論が展開されることを強く期待しております。

 御清聴、どうもありがとうございました。(拍手)

森会長 ありがとうございました。

 以上で各参考人からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。上川陽子君。

上川委員 自由民主党の上川陽子でございます。

 両参考人におかれましては、お忙しいところ、本審査会に御出席を賜りまして、ありがとうございました。

 私は、平成二十九年に憲法審査会の海外派遣に参加をいたしましたが、英国ではブレグジットに対する国民投票、イタリアでは憲法改正国民投票の経験をお聞きいたしました。その一端を申し上げますと、国民投票は時の政府への賛否の投票になりがちであること、したがって、賛成、反対双方の立場からの客観的で正確な情報提供の仕組みが大切であることなどの教訓を得ました。特に、英国のブレグジットに対する国民投票については、SNSにおけるフェイクニュースの拡散なども後に指摘をされました。

 このような他国の経験に鑑み、日本においては、国民投票におけるネット利用について、そのメリットとリスクのバランスをあらかじめ慎重に検討すべきと考えております。

 そこでまず、JIAA橋本参考人と山本参考人にそれぞれお伺いをいたします。

 国民投票に当たっては、国民投票運動の自由と公平公正のバランスが重要です。この点、放送CMにつきましては、民放連が既に一定の自主規制を導入しているほか、その扇情的な影響力に鑑み、法律により、投票日十四日前から勧誘CMが禁止されています。他方、その後伸長してきたJIAAの対象となるネットCMは、その扇情的な影響力の点では放送CM以上とも言えます。

 このような観点から、公平公正な国民投票を実施するに当たって、ネットCM特有の留意点、特に、ネットCM特有のリスクは何か、それに対してはどのように対処すれば克服できるのかなどにつきまして、お考えをお聞きしたいと思います。

 あわせて、もう一点。

 ネットの最大の特徴はSNSなどを利用して個人が自由に情報発信できるという点にあり、こうしたネット上を自由に行き交う情報をめぐっては、フェイクニュースだけでなく、フィルターバブルやエコーチェンバーといった、国民投票の公平公正性に直接悪影響を及ぼしかねない問題も指摘されております。

 さきの質問と併せて、このようなCMの領域を超えたネット全般に対する問題につきましても御所見を伺いたいと思います。

橋本参考人 御質問ありがとうございます。

 今いただきました御質問についてお答えをしたいと思いますけれども、まず、二つ問題がございます。広告の話、それから広告でないものの話というのがございます。私どもの方では、有料広告に関してのことはお答えできるのですけれども、SNSのことに関しては、ある意味難しいところもあるかと思います。

 私たちの方で有料広告でのこの規制についてどう考えているかということにつきまして、柳田の方からお話しさせていただきたいと思います。

柳田参考人 柳田でございます。

 非常に、御質問いただいた点は、私どもとしてもしっかりと考えなければいけない点であると認識しております。

森会長 ちょっと聞こえにくいのですが。

柳田参考人 はい。

 恐らく御懸念と思われていることに関して言えば、ネットCMといいますと、やはり、動画をテレビと同じような全画面で見る、あるいは、橋本の方からも御紹介いたしましたコネクテッドTVのような、テレビでインターネットの画面、インターネットのコンテンツを見ることができる、そこにCMを流すということも十分考えられるわけでございます。

 そうなりますと、やはり、テレビCMと同じような規律が必要になってくるというお考えになってくるであろうと思いますし、私どもでも、そういったことに関しては、例えば、広告掲載基準であったり、事業者の自主的な基準であったりということを考えていくという必要があるというふうに思っております。

 それから、情報の拡散のことに関して言いますと、例えば、コンテンツではなく広告というところで考えますと、例えばキャンペーンを行うようなサイトに誘導するために有料の広告を出稿するというようなことが行われまして、キャンペーン全体で効果を高めるということがあり得ます。

 そうしたときに、有料の広告だけではなくて、例えばSNSを使うとか、キャンペーンのサイト、例えば政党の皆様もサイトを運営されていると思いますけれども、そういったものも使うとか、あるいは動画を無料のプロモーションで投稿するとか、そういったような様々な手法がございますので、それをどのように適切に使って公平公正を確保していくかということを考えていかなければいけないということだと思っております。

 ただ、私ども広告の業界団体として考えられることといたしましては、民放連さんがお作りになっている基準がございますけれども、そういったものを参考にさせていただきながら、もしまた法規制ということになりましたら、その法規制に合わせた形で自主基準を作っていくということになろうかと思っております。

山本参考人 ありがとうございます。

 まず、ネット特有のリスクは何かということでございますけれども、テレビ広告の場合も、やはりその扇情的な影響力が懸念されているのですが、ネット広告の場合には、その影響力というのは更に大きくなるのかなというふうに思います。

 特に、ネット広告の場合に、マイクロターゲティングできる、つまり、このユーザーがどういう精神傾向というか感情を持っているか、政治傾向を持っているのかということが予測できる、相手に応じてそういった広告を出し分けられるというところでも、やはり意思決定への介入の度合いというのが大きくなるようにも思います。

 あと、テレビ放送の場合には、現在では視聴データの利活用が制限されておりますので、広告を出し分けることというのはできない。みんな同じものを見るために、批判可能性が高いということもテレビ広告の場合には重要だと思いますけれども、ネットの場合には一対一になってしまう。その広告を私だけしか見ていない、ちょっとそれは極端な言い方ですけれども、そういう形になってくるということは、やはりその違いとして挙げられるのかなと思います。

 それから、フィルターバブル、エコーチェンバーに関しても、先生御指摘いただいたように、やはり重要な課題だと思っておりまして、先ほど私も申し上げたように、そういった非常に重要なイベント、これは、選挙にしても国民投票運動にしても、必要な情報というのが均等に行き渡らないということがあるようにも思います。

 特に、自分と同じ見解は非常に大量に入ってくるわけですけれども、まさにそれに反対する見解というものを吟味する機会というのを失ってしまう。そういう意味では、国民投票広報というものを主要なプラットフォーム事業者に掲載してもらうというようなことも法的には重要になってくる。あるいは、そういった国民投票広報をプロミネント、目立つところに置いてもらう。あるいは、そういった重要な時期に関しては、ファクトチェック記事ですとか信頼できるソース、これはコロナ禍でも、コロナに関する情報というのを、あるプラットフォームなんかは非常に目立つところに置いたりいたしましたけれども、そういった取組が必要になるかなというふうに思っております。

 以上です。ありがとうございました。

上川委員 近代立憲主義が想定する世界でございますが、自分の頭で考えて、自分の意思に基づき行動する多様な個人が集まってこそ、国民、国家としての健全な形成が成り立っているということでございます。

 自己決定を合理的に行う多様な個人の存在、このことが揺らいではいけない。しかし、先ほど来の御指摘もございましたけれども、この近代立憲主義が前提としている合理的な多様な個人の像が揺らぎかねない状況が今起こっているのではないかということも危惧するところでございます。

 先ほど、先生から憲法との関係の中で御指摘がございまして、全体的な体系の中で捉えていく必要があるということについて、極めて的確な御指摘をいただきました。改めて、大変短い時間でありますが、御指摘をいただきたいというふうに思います。

 今日は、ネット社会と憲法につきまして、国民投票法にとどまらない大きな問題であるということを改めて認識をさせていただきました。更に国の皆さんの声に耳を傾けながら考えを深めてまいりたいというふうに思っているところでございますが、今の最後のところをお伺いして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。

 よろしくお願いいたします。

山本参考人 今御指摘いただきましたように、近代の立憲主義の基本的な枠組みというのが、私の認識では揺らいできている。それはいろいろな角度から申し上げることはできると思いますけれども、特に、やはり認知領域というものへの介入ということが、AI、デジタル化を通じて起きてきている。そこが刺激されて、いわば合理的な判断というよりも、非常に反射的、動物的な、そういった、反応というものによって物事をファストに考えてしまうという傾向が、私自身はネット社会においては見られるのではないかというふうに認識しているところでございます。

 ですから、これをいかに熟慮を今後促進していけるか。これはもう何か特定の制度を変えるということではなくて、情報空間全体のやはり再構成、再構築が必要なのではないか。そういう意味では、今の、これは憲法事実と呼んでいいか分かりませんけれども、今の問題状況というものをしっかり調査をして、それから問題認識を示していく。問題状況がこうであるということを示して全体の方向性を示すという流れが、これをどこの場でやるかというのは非常に難しいと思いますけれども、私は、憲法審査会にその点は期待をしているところなんです。

 そういった形で全体的な見通しというものを総合的に示していくということが、こういった今の状況というものを憲法レベルで捉えるというためには必要なのかなというふうに思っているところでございます。

 ありがとうございました。

森会長 次に、階猛君。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 本日は、両参考人、ありがとうございました。

 最初にJIAAさんにお伺いしたいんですが、今日の御説明の最後のところで、皆さんのところでは個別の取引に対して特定の規制に従うよう強制する権限を有していないということがありました。したがいまして、仮に放送事業者における民放連のような規制を設けたとしても、なかなかそれは実効性がないのではないかと思いましたが、そのような理解でよろしいのかということが一点。

 そしてもう一つは、それも踏まえた上で、広告の出し手の自主的な基準や申合せに沿って対応することが現実的ではないかという結びになっていますけれども、なぜ法的規制ではなくて自主的な基準や申合せなのかということを教えてください。

柳田参考人 ありがとうございます。

 まず、強制できないということに関しましては、事業者団体という性格がございますので、例えば、ある基準を作って、その基準を会員に遵守するように推奨するということはしております。それから、先ほど来話題になっております、例えばプライバシーポリシーあるいはターゲティング広告といったようなガイドラインに関しましては、これは遵守を強く求めているものでございます。

 ですので、ガイドラインの内容によりましては一律に会員に強く遵守を求めるということはございますけれども、例えば広告の掲載基準ということになってまいりますと、これは放送とは違いまして、先ほど上川委員からも御質問がございましたけれども、インターネットとテレビの特徴、何が違うのかといいますと、インターネットは非常に様々な媒体がございます。媒体特性が放送局のような一律のものではございませんので、先ほど来話題にもなっております、大手のプラットフォームのそういったコミュニケーションといったことをコンテンツにしているものもございますし、マスメディア由来のもの、それから専門媒体、あるいは個人のサイトまで含めて、様々なものが広告の掲載先としてあるということになっております。そうしたときに、一律に掲載基準を設けて、それを遵守を強制するということがなじまないということになります。

 それが、では、法規制があった場合にそれを守らせることができるのかどうかということになりますと、これは、各社が法令を遵守するというのは当たり前のことですので、これは我々の最初に御説明いたしました基本方針の中にも定めているとおりですので、法律が守られないということはまずないというふうに御理解いただきたいと思っております。

階委員 後段の方がちょっと趣旨が違っていまして、ここでおっしゃっていることは、広告の出し手の自主的な基準や申合せに沿って対応することが現実的ではないかということをおっしゃっているわけですけれども、あえてここに法規制を入れなかったというのは何か意味があるんでしょうか。

 今のお話を聞いていると、法規制が設けられれば、それにはしかるべく対応するということですから、別に法規制が悪いということを言っているのではないというふうに理解していいでしょうか。そこだけ端的にお願いします。

柳田参考人 はい、そのとおりでございます。

階委員 ありがとうございます。

 それでは、山本先生にお伺いしたいんですが、先ほど言ったようなネット利用による様々な弊害といいますかリスクというのがある中で、こういうことは国民投票法の制定時には当然想定されていなかったということで、国民投票法を改正するに当たっては、当然、ネットによる国民投票運動であるとかネット広告への規制を盛り込む必要があると私たちは考えていますけれども、その点についての御見解をお願いします。

山本参考人 今、階幹事がおっしゃったように、国民投票法制定の時期に比べて相当メディア環境は変化してきているということは、やはり認識せざるを得ないのではないかなというふうに思います。

 そういう意味で、私は、先ほど申しましたとおり、例えば国民投票広報の方法ですよね、これは基本的に放送というものを中心として行うというような流れになっているかと現状思いますけれども、それが本当に十分なのかどうか、若者のやはりテレビ離れといったような問題もあるわけです。

 そういう意味では、プラットフォームを通じて国民投票広報というものを展開していく必要性というのはかなりあるのではないかなというふうに思っております。その点は、私は改正の必要性があるのではないかということであります。

 ただ、政治広告の透明性に関しては、果たして、国民投票の時期と申しますか、そのイベントだけに限っていいのかどうか。つまり、政治広告の透明性に関しては、むしろ常にそういった規律というものをかけていく必要性があるのではないかと思っていますので、国民投票期間に特に必要な規律と、一般的に、そこだけじゃなくて、例えばフィルターバブル、エコーチェンバーというのは恐らくその期間だけに限った問題ではないわけですし、フェイクニュースもまたしかりだというふうに思いますので、全体を見通した、つまり、期間だけじゃないやはり規律というものも、私はどうしても必要なのではないかというふうに思っているところでございます。

階委員 国民投票法の範囲にとどまらず、もっと幅広く規制の議論をすべきだというふうに承りましたけれども、先ほどのお話の中で、三つほど権利というか論点を挙げていらっしゃったと思って。

 一つは個人情報のコントロール権ですけれども、これについては、個人情報保護法の改正で対応すべきといったような趣旨のお話であったと思います。それから、知る権利、あるいは情報的健康ですか、こうしたものについては、どういうやり方、憲法で手当てするのか、あるいは何か特別な立法によって手当てするのか、そこについての御見解を伺えますか。

山本参考人 ありがとうございます。

 私は、自己情報コントロール権あるいは情報自己決定権というものを憲法上の権利として正面から承認することが必要だろうとまず思っております。

 この点は、ドイツの憲法裁判所などでは情報自己決定権というのが判例上認められてきている、あるいはIT基本権といったような、そういう基本権もドイツの憲法裁判所は導いているわけですけれども、その点は、憲法裁判所のある種の積極性というか特性があるんだろう。

 そういう意味では、日本の最高裁がそういった形で、解釈上、自己情報コントロール権なり、そういった今のデジタル化にふさわしい権利というものを導き出してくれるというのが一つのアプローチとしてはあり得ると思いますけれども、御承知のとおり、日本の最高裁に関しましては、ある種の消極性というものが言われているところでありますから、私は、そういう意味では、政治の動きというのが非常に重要だというふうに考えております。

 これが個人情報保護法のいわば目的規定のところの改正になるのか、あるいは、デジタル時代全体を見通したある種の基本法のようなものを作って、その中に自己情報コントロール権のような、どう定義するかはまた詳細な議論が必要だと思いますけれども、そういった基本法制、例えば、これはEUのデジタル権利宣言のようなものに近いかもしれませんし、アメリカのAI権利章典のようなものに近いかもしれませんけれども、そういった総合的な今後の方向性というものを示すような、そういう基本法に書き込んでいく。それによって個人情報保護法制全体の解釈というものが方向づけられる、こういうことも考えられるのではないかというふうに思っておるところであります。

 ただ、もちろん、それで本当に全体が個人中心の、個人がコントローラビリティーというものを持つような社会に変わっていくかどうかというのはやはり調査をしなければいけませんし、そういったことをしてもなお、なかなか日本では進まないという憲法事実が認められるのであれば、憲法改正ということもあり得るかもしれませんけれども、当面は、私は、まずはそういった基本法ないし法制度の変革というところで考えておるところです。

 それから、知る権利の問題については、これも、例えばEUのデジタル・サービス・アクトというのは、情報の受け取り方ですよね、例えば、リコメンデーションシステム、お勧めの仕組みのロジックというものの透明化を強く求めたりしております。

 例えば、ベリー・ラージ・オンライン・プラットフォームという、非常に超大規模なプラットフォームと言われているところに関しましては、そういった透明性の規律が一段と高まっておるわけですし、プロファイリングのかかっていない、少なくとも一つのリコメンデーションシステムを提供しなければいけないといったようなこともあるわけです。

 つまり、情報を摂取することの主体性ですよね、そういったものをある種保障していく、担保していくような仕組みをつくってきているところなのかと。

 今、私は、情報偏食させられている状態が今あるのではないかと申し上げましたけれども、そういった、ある種情報の受取の主体性というものを取り戻すような、そういう法律の制定というものが場合によっては必要になってくるのかなというふうに思っております。

 以上です。

階委員 時間が来たので終わりますけれども、我々の知る権利という文脈は、今おっしゃったような情報的健康を維持するための文脈だけではなくて、政府に対して正しい情報を開示させる権利という文脈でも、知る権利というのは重要なのかなと思っております。

 いずれにしましても、先生が今日おっしゃっていることは、我々も何らか法的な制度的整備が必要ではないかと思っておりますので、今後とも御指導よろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。

森会長 次に、岩谷良平君。

岩谷委員 日本維新の会の岩谷良平です。

 本日は、参考人としてお越しいただきましたこと、心から御礼を申し上げたいと思います。

 私は、二〇一五年と二〇二〇年に、二度の大阪都構想の住民投票というものを経験しております。二〇一五年の住民投票では、今、大阪府知事をしております我が党の吉村洋文共同代表と一緒に、党の戦略チームというところで、賛成票を獲得するための戦略立案も担いました。

 その際に、当時の橋下徹代表から実は一番強く指示を受けていたことは、デマ対策なんです。今でいうと、いわゆるフェイクニュース対策と言えるかと思うんです。実際に、住民投票が近づきますと、例えば、都構想になれば水道代が上がるとか、税金が上がるとか、生活保護が打ち切られるとか、様々なデマが流れたんですね。もちろん、我々としても全力でそのデマの打ち消しというのをやったんですけれども、圧倒的にデマの方が浸透力は強かったというのが私の印象です。

 そして、二回目の住民投票でも、同じくデマ、フェイクニュースがたくさん流布されました。同じようなことが憲法改正の国民投票でも起きる可能性があるのではないかと懸念をしております。

 そこで、お伺いをしていきたいと思うんですが、ちょっと重複することもあろうかと思うんですが、先ほど、ネットCMに規制をかけるとした場合、広告の出し手の自主規制とかあるいは法規制とかいうお話がありましたけれども、改めて、どんな規制が想定されて、そして、SNSとかユーチューブ等で個人、団体が自由に発信できるネット社会の中で、そういった規制で効果があると言えるのかどうか、そういったことをJIAAさん、そして山本先生にお伺いできればと思います。

柳田参考人 御質問の趣旨としてはデマ対策ということでございますけれども、それでいいますと、私ども、有料のインターネット広告という領域での自主的な基準、それからもちろん法令を遵守するということに関しても活動を行っているわけでございますけれども、そういった一般的なインターネット広告の有料広告の領域で、デマ対策ということでどのようなことができるかということに関しましては、その規制のイメージが、自主規制なり法規制なり、いずれにしても、効果的にデマ対策ということに当たるようなことができるのかということに関しましては、なかなか難しいところかと思っております。

 そういう意味で申し上げますと、例えば、説明いたしました中に、警察庁インターネット・ホットラインセンター、あるいはコンテンツ海外流通促進機構、JADMAといった民間の団体が、例えばそういった違法・有害情報みたいなものを通報を受けて、その通報を受けたものを我々は受け取って、それを会員社が対策に利用するというようなことを行っております。もしそういったデマ情報みたいなものをいただいて、それを有料広告の方で何らか役立てるようなことができるものがあるとすれば、そういった対策、それは規制ではないですけれども、対策としてそういったことは考えられるかもしれないとは思っております。

山本参考人 ありがとうございます。

 まず、ネットの問題については、先ほども少し申し上げましたけれども、やはり政治的なマイクロターゲティングというものがそういう意味では一番の問題なのかなというふうに考えております。

 先ほど申しましたとおり、フェイクニュースに対するある種の脆弱性、だまされやすさというものをプロファイリングして、そういう人にフェイクニュースを当てていけば、かなり有効に意思形成というものを歪曲できるという部分もあるかと思いますので、私自身は、先ほども申しましたとおり、政治的なマイクロターゲティングに関しては、原則として禁止のような規制の方向性を検討するべきなのではないかというふうに、まず考えております。

 それから、これも先ほどの繰り返しになりますけれども、やはり、フェイクニュースが投票の直前に流されると、かなり大きなダメージを受けてしまうということになるのではないかというふうに思います。

 そういう意味では、ファクトチェック記事ですとか信頼できるニュースソースからの記事というものを、プラットフォームが非常にプロミネントなところに置いていくということ、あるいは、プラットフォームがフェイクニュースを見た人に対してそのファクトチェックの記事を当てていくというような、そういう取組というもの。これを規制するのかどうかということは慎重に議論する必要があると思いますが、まず私は、国民投票広報については、プラットフォームに対して、ちゃんと出すようにというふうな義務づけをすることは考えられるのではないか。ただ、ファクトチェック記事というものを置けというふうに法律上規制するかどうかというのは、そこはなかなか難しいところかなというふうに思います。

 これはプラットフォーム側の自主的な取組に委ねられるところもあるかもしれませんが、理想的には、先ほど申しましたとおり、やはり、ファクトチェック記事あるいは信頼できるニュースソースからのコンテンツというものを、プロミネントな、非常に効果的なところに置く、あるいはそういったところへ効果的に送るということが今後は求められてくるのではないかなというふうに考えております。

 差し当たり、以上です。

岩谷委員 ありがとうございます。

 山本先生にお伺いしたいんですけれども、今の政治的マイクロターゲティングの禁止に関しては、やはり罰則で禁止ということなのか。それと、ファクトチェックに関しては、日本ではまだまだ未発達じゃないかという指摘もあろうかと思うんです。この辺り、お考えはいかがでしょうか。

山本参考人 罰則で設けるかどうかというのは、政治的マイクロターゲティングをどう定義していくのか、この辺りをしっかり議論して定義をしていかないと、そこが抽象的になると非常にまた萎縮効果も働いてしまうところですので、早々に今、罰則を設けるべきというふうに発言できませんが、やはりそこは毅然とした態度を示すということも重要でしょう。

 EUの規則案に関しては、例外も認めているところではあります。ですから、一般的に政治的マイクロターゲティングを禁止しているのですが、明示的な同意があれば、そういうのを受け入れますということであれば、そういったマイクロターゲティングも可能だというふうにされている。ただ、その場合には非常に徹底した透明性を求めるというようなやり方を取っていますので、そういった、どこまで例外を認めるかという議論も、私は早急に進めるべきなのではないかというふうに考えているところです。

 ファクトチェックに関しましては、まだ日本の場合にはようやくいろいろとスタートしてきているところですけれども、今後は、やはりこのファクトチェックについては、まずは周知していくと申しますか、しっかり信頼を積み上げて、周知、なるべく多くの人に知っていただく。あるいは、ファクトチェックの機関が多元的に存在するということも重要だと思います。

 ただ、しかし、これはなかなか、政府自身がやることは、何がファクトなのかどうかということを政府がやるということは、憲法上、検閲のリスクにもなりますから、これはやはり民間のそういった機関がしっかりやる、それをしっかり乗せるということですよね。こういったエコシステムを回していくということが何より重要なのではないかなというふうに思います。

岩谷委員 ありがとうございます。

 続いて、引き続き山本先生にお伺いしたいんですけれども、憲法十九条が思想の形成過程とか認知過程までも保護しているという御見解だと思うんですが、これは現在の憲法学の世界では通説的な見解なのか、また有力な反対説があるのかどうかをお伺いしたいのと、それから、認知過程の自由を保障するに当たって、憲法解釈で足りるのか、あるいは憲法改正によって明記していくべきなのか、その辺りのお考えをお聞かせいただければと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 何が通説か、なかなか難しいところがあるんですけれども、伝統的には、でき上がった信条というのですか、今持っている信条というものを保護していく。だから、そこの信条が形成されるまでの、非常にもやもやしたところからも含めた意思形成プロセスを保護していくという考え方よりも、やはりでき上がった信条を保護するという考え方の方が強かったのではないかなと思います。

 他方で、学説としては、その意思形成過程も含めて保護すべきという見解もあったところかと思います。

 ですから、そういった見解というものを我々は今の時代に再確認しておくということが非常に重要で、まさに認知領域に対する侵入ということを考えれば、自律的な意思形成過程を保護するというこの解釈を再発見し、強調していくということがまずは重要なのではないかなというふうに思います。

 先ほどから申しているとおり、私は、すぐに憲法改正ということではなくて、憲法事実というもの、つまり憲法改正が必要な事実というものをしっかり調査していくということが重要だと思いますので、そういう解釈というものを示したとしても、あるいは強調したとしてもなお、そういった認知領域に対する侵入、例えばマイクロターゲティングですとか、あるいはダークパターンと呼ばれるような、意思形成過程をゆがめるような、そういうユーザーインターフェースというものを作っていく、そういったことがなかなか減らない、こういうようなことであれば憲法レベルで議論をしていくという、そのプロセスが重要なのではないかなというふうに思っております。

岩谷委員 ありがとうございます。

 もう時間なので終わりますが、先ほど憲法裁判所についても言及がありましたが、我々維新は、憲法裁判所の設置というのも憲法改正において提案をさせていただいておりますので、そういった新しい人権に関しても、憲法裁判所があれば、必ずしも憲法に書き込まなくても対応していくことができる可能性が広がるんじゃないかというふうに考えております。

 以上で発言を終わります。ありがとうございました。

森会長 次に、國重徹君。

國重委員 参考人の皆様、本日は貴重な御意見を賜り、本当にありがとうございます。

 公明党の國重徹でございます。

 まず、山本先生にお伺いをいたします。

 私は、この審査会の場におきまして、デジタル社会において人権や民主主義をどのように守るのか、このテーマは極めて重要であって、議論していく必要があると繰り返し申し上げてまいりました。

 憲法的価値が実社会に反映されていないという状況があるのであれば、それは正していかなければなりません。その議論に当たっては、まず、憲法的価値が実社会に反映されていないという課題は何かということを明確化する、そして、それに対してどのような対策が必要かを検討する、その上で、そのために憲法改正をする必要があるのか、こういった思考経路で検討することが有用だと考えております。

 この点、山本先生は、デジタル社会において、人権が侵害され、民主主義に悪影響を及ぼすおそれがあるという課題が生じている旨、指摘をされております。そして、その対策として、自己情報コントロール権や情報自己決定権を憲法上の権利として確立していく必要があると御指摘されていると理解をしております。

 一方で、自己情報コントロール権や情報自己決定権は、憲法上の権利として位置づけるには概念が不明確である、このように指摘がされることがあると承知をしております。この指摘について山本先生はどのようにお考えか、お伺いいたします。

山本参考人 ありがとうございます。

 概念が不明確だという御指摘は以前からあるわけであります。他方で、憲法上の権利というのはいずれも非常に解釈に開かれているところがありますので、表現の自由というのも、その外延がどこにあるのかということはそれほど明確ではない、様々な解釈があり得るというところかと思います。

 そういう中で、自己情報コントロール権だけがとかく外延が不明確だというふうには私は考えておりませんし、この何十年間でヨーロッパなんかでの議論の蓄積が、まあ、ヨーロッパの情報自己決定権と日本で議論されてきた自己情報コントロール権の差分についてもこれは慎重に検討しなければいけないんですが、私は共通の根っこがあるというふうに思っておりますので、そういったヨーロッパの議論の蓄積もあるだろう。

 そういう意味では、数十年前にこの概念が不明確だという議論はあったかと思いますが、ここ数十年で世界的に様々な議論が蓄積されてきているところだと思いますので、必ずしもそれだけが極めて概念が不明確だというふうには、現状においては言えないのではないかというふうに思っております。

國重委員 ありがとうございます。

 引き続き、山本先生にお伺いします。

 自己情報コントロール権、また情報自己決定権を憲法上の権利として確立していくに当たって憲法改正が必要かという点については、これらの権利を現行憲法の解釈として読み込むことができるという見解に立てば、必ずしも明文の憲法改正は必要ではないと理解をしています。他方で、現行憲法で読み込めるとしても、権利を明確にするためには、改めて規定すべきという考え方もあり得ます。この点については今後も検討する必要があると考えます。

 その上で、これらの権利を憲法上に規定する、規定しないにかかわらず、デジタル社会においても守られるべき国民の権利を明記する基本法を新たに制定して、憲法上の権利を法律においても確認し、権利保障の実効性を高めることも検討に値すると考えております。この点、先生が先ほど来お話しされていますとおり、基本的に、私、方向性は一緒ではないかと思っております。

 他方で、デジタル社会において、データの利活用等による日本の諸課題の解決、また国民の生活の質の向上が重要であることも、これは忘れてはならないことだと思っております。

 そこで、自己情報コントロール権や情報自己決定権を憲法上の権利として明確化したときに、ほかの正当な利益との衡量も必要な場面があるのではないか、また、個人の情報から離れた統計的で集合的な情報との関係はどうなっているのか、こういった自己情報コントロール権や情報自己決定権の射程について、山本先生はどのようにお考えか、お伺いいたします。

山本参考人 ありがとうございます。

 今御指摘いただいたように、憲法上の権利というのはおよそ相対的なもので、対立する公共的な利益があればその制約が許容されるということになるわけで、バランシングということが重要だということになるかと思います。ですから、それはほかの権利も同じことが言えるということです。

 もう一つは、私はデータの世界には大きく二つの世界があると思っておりまして、個人に働きかけるようなデータの使い方、つまり、今の法律的な用語でいうと、いわゆる個人情報というものと、そうでない非個人情報というものがあると思っておりまして、その非個人情報につきましては、統計データとか匿名加工情報とか、そういったものがその典型だと思いますけれども、こういったデータというのは、私は徹底的に使い倒していくべきだというふうに考えております。ですから、そういった非個人情報に関しては、個人のコントローラビリティーが必ずしも及ぶものではなくて、セキュリティーの論理が重要であろう。

 ですから、個人情報と非個人情報をまずは峻別した上で、非個人情報については利活用の方向に今進めていく。例えば医療データに関しては、必ずしも個人データでなくてもよいという世界でございますから、そういったものは使っていくということだと思います。

國重委員 山本先生、ありがとうございました。

 次は、JIAAさんにお伺いしたいと思います。

 広告放送では、民放連が、CMには広告主名と連絡先を視聴者が確認できる形で明示したものでなければ取り扱わない、国民投票運動CMの場合にはその旨をCM内で明示したものでなければ取り扱わない、また、憲法改正に関する意見を表明するCMなどは意見広告である旨をCM内に明示したものでなければ取り扱わない、こういった自主規制を行うことを公表されております。

 この点、JIAAさんの広告掲載基準ガイドラインにおいては、広告の主体者を明示すべきであって、明示に当たっては、広告主の名称や連絡先などを表記することが望ましいとされていると伺いました。

 民放連の取組を参考にしますと、国民投票運動の広告である旨、意見広告である旨も表示することも考えられるように思われます。もちろん、JIAAに加盟している企業は三百九社ということでありますので、答弁のときに、この三百九社というのは全体のパイの中でどれぐらいの割合かということももし分かれば教えていただきたいと思いますけれども、三百九社ということでありますので、ネット広告事業者の全てに守ってもらうことは不可能かもしれませんけれども、JIAAさんのような事業者団体で一定のルールが決められているにもかかわらず、それを遵守しないネット広告は、国民から見て、情報の信頼性を欠くと見られるのではないかとも考えられます。

 そこで、国民投票運動の広告である旨、意見広告である旨を表示する自主的な取組は可能かどうか、また、国民投票運動の広告である旨、意見広告である旨を表示するという方策は、国民投票の公平公正の確保に資すると思われるかどうか、また、三百九社というのが全体から見てどのぐらいの割合なのかという点も含めて、以上三点についてお伺いします。

柳田参考人 ありがとうございます。

 意見広告である旨というものを表示することについて、それに関しましては、広告の主体者を表示する、あるいは連絡先を表示するということも含めて、これは、広告主の側で、広告の原稿を作成する際にそれを明記していただく、あるいは広告の原稿を入稿する際にそれを明示していただく、そういったことによって、メディア側、プラットフォーム側で掲載する際に、それを何らかの形で、例えば広告の主体者が表示されていなければ、そのプラットフォームの管理画面上で入力されたその広告の主体者の明示が自動的にできるようになっている、そういった仕組みもあるところでございます。

 あくまでも出し手側の自主基準ということを先ほど来申し上げておりますのは、出し手側が、意見広告である旨、あるいは広告の主体者を明示していただく、これが非常に大事なことというところでございます。

 それから、広告であることが分かるという明示に関しましては、これは、通常の有料広告ですと、メディア又はプラットフォーム側で行っているものでございます。

 それはどういうことかといいますと、広告枠というものは、メディア側で自由に広告商品として設定して広告主に販売するということを行っているわけですが、これが記事とかコンテンツと誤認されないようにするということが非常に消費者の利益にとっては重要なことでございますので、これを記事とかコンテンツと誤認されないように、広告である旨の明示をメディア側、プラットフォーム側で行っているというものでございます。

 ですので、広告主体者の明示、それから連絡先、連絡先は広告面にはなかなか書けないようなものもありますけれども、インターネット広告の特徴といたしまして、最初の御質問にありましたとおり、特徴の一つになるんですけれども、広告からのリンク先、これは広告主のサイトということになります。そうしますと、その広告主のサイトの方で連絡先も含めて適切な情報が提供されているということが、インターネット広告では行われているということでございます。

 それから、意見広告であることを明らかにすることが何らか効果があるのかということでいいますと、実は、意見広告の取扱いというのは、営利目的の広告と違いまして、各社によって、掲載するメディアによってポリシーが異なります。

 意見広告は、例えば公平性が担保できない、賛否が分かれるようなもの、あるいは一方的な意見のものというようなものに関しては一切掲載を認めないというようなメディアも中には存在いたしますし、それから、ターゲティングの話が先ほど来出ていますけれども、ターゲティングに関しましても、例えば政治的なターゲティングを一切認めないといったような運用をしているメディア、プラットフォームもございます。

 そういったことを考えますと、国民投票の賛否に関する意見広告であるといったようなことがあった場合に、それが明らかにされて広告が入稿されてくるということになりますと、各メディアが、法規制が導入されればまたその法律に基づいてということになりますけれども、自主的に判断するということにおいては非常に役に立つことだと思います。

 それから、三百九社というのは、インターネットは……

森会長 恐れ入りますが、質疑時間が終了しておりますので、手短にお願いいたします。

柳田参考人 はい。

 玉石混交の中で非常に多数の事業者があるというところでございますので、その中で、まともな、真っ当なビジネスをしているところが三百九社であるというふうに御理解いただきたいと思います。

 規律についても、私どもの中では規律は遵守できますけれども、それを全てに守らせるということの強制力は私どもにはないということでございます。

國重委員 終わります。ありがとうございました。

森会長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 憲法審査会、会派順でいきますと玉木先生がいつも私より先になっておりますが、今日は他の委員会と重なっておりまして、玉木先生の御理解も得まして、幹事会の御理解も得まして、先に質問をさせていただきます。

 まず、山本参考人に、デジタルの活用と個人情報保護の現状について、お話が繰り返されているところではありますが、お伺いをしたいと思います。

 今、日本政府は、データの利活用を成長戦略やイノベーションに資するものと位置づけて進めております。そこでは、専ら企業が消費者や利用者の個人データを収集し、利用しやすい仕組みづくりが中心で、人権擁護や個人情報保護という視点が置き去りにされているのではないかと私たちは考えています。

 例えば、非識別情報などを理由に、行政が保有する個人データの民間企業への提供、先ほど先生もお触れになっておりましたが、それを拡大して、企業間でビッグデータの共有を進める規制緩和が行われてきました。

 事業者が、自らが保有する顧客情報をプロファイリングして情報スコアを作成し、それを金融機関に提供する、こういう事業を政府が革新的データ産業活用事業として認定し、お墨つきを与えるようなことも行われてきています。

 一方で、保護の面では、例えば、いわゆるクッキーなどの端末識別情報も個人情報として保護対象に組み込もうという動きがありましたが、これは企業側の強い反発があって具体化されていないというのが現状です。

 今日の参考人のお話を伺っていますと、ヨーロッパは、個人情報の保護に徹底的に力を入れた上で、デジタル技術を活用した経済発展も目指すと、そのバランスを取って進めているように感じました。

 私は、日本のデジタル政策が、経済的合理性の下、利活用一辺倒に進んでいることに強い危機感を感じていますが、参考人は政府のデジタル政策の在り方をどのように見ておられるのでしょうか。

山本参考人 ありがとうございます。

 私も、そのバランスが非常に重要だというふうに思っております。経済成長と個人データの保護ということのバランスをどう図るかということが重要だというのは、そのとおりかと思います。

 その点において、先ほどのクッキー情報ですとか、そういったものをどういうふうに統制、規律していくのかということは重要な課題だと思いますし、一歩一歩そういったものの議論は進んできていると思いますけれども、私は、なお、自分のパーソナルデータが、今、先生方も、どの範囲で共有されて誰に共有されているのかを明確に知っている方というのは少ないのではないか。そういう意味では、データに関する個人の主体性というのが失われつつある、そういう世界になってきているのかな。

 そういう意味では、ウェブ3とかそういった流れからすれば、個人起点、個人中心の世界ということが目指されている中で、やはりもう少しその議論というものを加速させていくべきなのではないかなというふうに思っているところでございます。

 差し当たり、以上です。

赤嶺委員 引き続き山本参考人にお伺いいたしますが、自己情報コントロール権も繰り返し話題になりました。私たちも、これを基本的な権利として確立させるべきだ、このように思っています。

 そのほかにも、現在の個人情報保護法には、先ほどのクッキー情報の問題や、プロファイリングが規定されていないこと、同意の撤回ができないことなど、遅れが広く指摘されております。

 山本参考人は、日本の個人情報保護制度がどのように改善されていくべきか、先ほどからお話もありましたが、もう一度、具体的に詳しく、御意見がありましたら、よろしくお願いします。

山本参考人 これを個人情報保護法の中でどこまでやるのかとか、そういったような問題もあるかと思います。特に、マイクロターゲティングのような形で強く消費者に対して働きかけをしていくということになれば、それは消費者保護の法制ということにもなっていくでしょうし、様々、まさに青写真を全体として示した上で、その問題というものをどういうふうに今後、課題解決していくのかということがまず重要だというふうに思います。

 その上で、個人情報保護法に関して申しますと、これは様々な議論があるところではありますけれども、私は、やはり、情報自己決定あるいは自己情報コントロールということを保障するものだというふうな形で個人情報保護法を読み込んでいく、あるいはそういう形で必要な改正というものを行っていくということが重要だろうというふうに思っております。

 そういう意味では、プロファイリングというものに対する規律というのは、ガイドライン等でいろいろと書かれ始めましたけれども、なお十分でないところがあると思っておりますので、やはり、個人が自らの情報に対するコントローラビリティーというものを持つという方向での議論が私は重要であろうというふうに思っております。

赤嶺委員 ありがとうございました。

 大変時間も押してきましたけれども、橋本参考人に対しても、プロファイリングの問題や、ターゲティングの広告、個人の言論空間が狭められていること、フェイクニュースが広がりやすくなっていることなどについて、その対策の遅れが指摘をされていますけれども、思想形成などの影響については先ほどお答えできないということでしたが、様々出ている危険性、これを参考人はどのように受け止めておられるでしょうか。かなり時間が押していますけれども、手短によろしくお願いします。

柳田参考人 ターゲティングに関しましては、先ほど御説明いたしましたとおり、広告においては自主的な基準も設けております。もちろん法制度、法規制に従っている上のことでございますが、自主的にも、例えば、政治的な広告に関してはターゲティングをすることができないようにしている、あるいは、ターゲティング、政治的な思想信条に関わるセグメントを作らないといったようなことをプラットフォーム、メディア側では行っているということがございますので、そういったことで、法規制と自主規制と、併せて機能しているという状況があると認識しております。

 ですので、政治に関する広告だけではございませんけれども、実際の広告で、個人情報、あるいは個人に関する、個人情報に該当しない、今は個人関連情報というふうに定義されましたけれども、個人関連情報が個人に結びつくということがなければ、その利活用というのはバランスを持ってやっていけるものというふうに認識しております。

赤嶺委員 ありがとうございました。

 終わります。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 今日は、参考人の皆さん、ありがとうございます。

 まとめて、山本先生に三問、そしてJIAAの皆さんに一問、聞きたいと思います。

 まず、国民民主党は、二〇二〇年、ちょうど二年前の十二月の我が党における憲法改正の論点整理で、デジタル時代の人権カタログのアップデートとしてデジタル基本権を提起し、特に、思想、良心の形成の自由の確保のための憲法十九条の改正も訴えました。そして、プラットフォーマーに対する規律も憲法改正の論点に入れて、多様な言論空間を確保するためのプラットフォーマーの責任、これを二年前に提起したのは先進的かつ画期的だと自負をしております。

 なお、私たちは、ケンブリッジ・アナリティカのブリタニー・カイザー氏の憲法審査会への参考人招致も求めています。

 このうち、プラットフォーマーに対する規律のポイントは、従来の公権力対私人の関係では捉え切れない、新たな権力者に対する規律を、憲法あるいは憲法に密接に関連する基本法にどう入れていけるかだというふうに考えております。

 そこで、先生に伺います。

 グローバルプラットフォームと国家が結ぶ協定に対する民主的統制をどのように図っていくのかということです。

 なぜなら、国と、国家に匹敵するプラットフォーマーとの、特にグローバルプラットフォーマーとの協定は、まるで条約のようなものだと言えます。ちなみに、デンマークでは、デジタル大使が任命されています。

 憲法七十二条では外交関係についての国会報告を求め、憲法六十一条、七十三条の三号では条約締結の国会承認を定めていますが、国と、そして国に匹敵すると言われているグローバルプラットフォーマーとの間の協定に係る民主的統制の在り方について、まず伺います。

 二つ目です。

 近年、EUでは、情報通信領域における主権的権力をプラットフォーマーから取り戻そうとするデジタル主権を推進していますけれども、他方で、これを強調し過ぎることにも問題があると思います。

 例えば、トランプの議会襲撃事件を制御したのは、国家ではなく、フェイスブックやツイッターによるトランプ大統領のアカウントのバンでした。プラットフォーマーを規制し過ぎずに、国家に対抗するコミュニケーションインフラとして余白を残していたからこそ、このリバイアサンとも言える国家の暴走を抑制する歯止めになったとも言えます。

 共に権力を有する国とグローバルプラットフォーマー、先生の言葉で言うとリバイアサン対ビヒモス、この二重主権の関係を統治する公法理論はまだないと思いますけれども、この両者の抑制と均衡の関係を規律する際にどのようなビジョンが必要だと思うのか。また、今の日本の政治や永田町の憲法議論において欠けている視点があるとすれば、それは何なのか。先生の考えを聞かせていただきたいと思います。

 三つ目、最後です。

 先般、イーロン・マスクがツイッターを買収しましたが、これはまさに国家の併合みたいなものだと思います。特定の思想を持った巨大資本がビヒモスたるプラットフォーマーの経営権を掌握できてしまうような場合に、健全な民主主義の発展を阻害してしまうかもしれないリスクを憲法的観点からどのようにヘッジするのか、その方策はあるのか。

 以上三点、山本先生に伺いたいと思います。

 まとめて行きます。次に、JIAAの皆さんには一問。

 二〇二二年の六月の電気通信事業法改正において総務省は、ウェブの閲覧履歴など利用者情報の外部提供について本人同意を導入しようとしましたけれども、これはまさに、プラットフォーマーであるGAFAMも加盟する在日米国商工会議所等の反対で先送りになりました。

 そもそも、JIAAさんのような業界団体のみならず、日本国政府が、GAFAMのようなグローバルプラットフォームを法律やガイドラインで規制できると思っておられるのかどうか、率直な意見を伺いたいと思います。

 以上です。

山本参考人 ありがとうございます。

 今の巨大プラットフォーマー、特にグローバルプラットフォーマーの権力性というのがかなり強くなってきているというのは、御指摘のとおりだというふうに思います。通常の、今までもグローバルな民間企業というのはあったわけですけれども、今のデータの世界においては、やはり、データをあれだけ持っている、プロファイリングやアルゴリズムというものをどんどんどんどん開発、改善できるというのは、非常に強い権力性を持ってきているのではないかというふうに思います。

 そういう意味では、そういったメガプラットフォーマーと国家との関係というものをどういうふうに規律していくのかというのは非常に重要な課題だというふうに思いますし、この二つの権力が結びつく、リバイアサンとビヒモスが融合するということは、自由と民主主義との関係では非常に危険であるというふうに思います。

 ビヒモスが、プラットフォーマーが国家をのみ込む、例えばオーストラリアなどでは、プラットフォームの規制に関して、フェイスブックがそれに対抗してサービスを一時停止をするということで、ある種けんかを売るということをしているわけで、それによって国家がその規制を少し後退させた。そういう意味では、国家に対してけんかを売れる存在になりつつあるということで、むしろ国家がプラットフォーム側の条件をのまされるということも今後は出てくるようにも思います。

 そういう意味では、両者の関係というのを通常の国家と企業との関係として捉えるべきではなくて、一つの国際法的な政治主体としてある種捉えていく、まさに外交的なそういった関係が必要になるだろう。

 つまり、一省庁がプラットフォームに対抗するというのは非常に難しくて、まさに政府全体としての戦略性というものが求められると思いますし、その両者がどういう約束を結んだかということについては、条約そのものと言えるかどうかは別として、そういう類似のものとして、例えば憲法七十二条のように外交関係を内閣が国会に報告するということ、それに対して国会がちゃんとその両者の関係を吟味するような仕組みが必要なのではないかというふうに思っております。

 だから、欠けている視点としては、プラットフォーマーをそういうものとして捉えて、戦略的にどう関係性を結ぶかという視点がやはり欠けている。安全保障に関しても、プラットフォームとの関係は非常に今後重要だというふうに考えております。

 二番目と三番目の質問に、多分同時に今お答えしたように思います。

 一番目の質問は、国民民主党さんの憲法改正試案に対する感想ということですか。(玉木委員「はい」と呼ぶ)はい。

 非常に先端的なものが含まれているというふうに思います。

 ただ、私は、ですので、思想、良心の自由に形成過程を含めて考えていくという方向性、そういったことは非常に重要だと思っておりますけれども、先ほども言ったとおり、憲法事実をまず調査していくということがプロセスとしては重要だと思っておりますので、その上で、改正まで必要かどうかということをしっかりこういった場で検討することが重要だというふうに思っております。

 以上です。

柳田参考人 電気通信事業法の改正において、事業者側の反対によって規制が後退したといったような報道も見受けられましたけれども、あの改正法の議論は非公開で行われていたということもありまして、プラットフォーマーにかかわらず、広く事業者が知り得ないところで議論が行われていたという事情がございます。それがいきなり同意規制であるというふうに示されたときに、これは大手のプラットフォーマーにかかわらず、事業者全体、メディアを運営している事業者全てに係る、あるいは、広告主も含めてウェブサイト、アプリを運営している事業者全てに係るというような認識で、我々としてもなかなか簡単に同意規制に賛同できないということがございました。

 これは、大手のプラットフォーマーだからということではなくて、事業者にとっては、電気通信事業法という自分たちには関係のあると思っていなかった法律によって、何らか、同意規制という非常に厳しい規制が導入されるという可能性については、プラットフォーマーが反対したということだけではない、事業者の事情によって、なかなか簡単に受け入れられる状況にはなかったということを御理解いただきたいと思っております。

 それから、自主基準を含め、大手のプラットフォーマーをグリップできるのかといったような意味合いかと思いましたけれども、それで言いますと、もちろん広告という枠組みでの話になりますけれども、広告、日本の広告業界においてはもちろんパートナーになります。そうしたパートナーが日本の国内法を守るということはもちろんですし、私どもの業界団体に加盟しているということは、自主的に作っている我々の規律も、もちろんそれに従うということが前提になっております。

 更に言いますと、大手のプラットフォーマーは、EUの一番厳しい規則の案に従って今既に技術的にも対応が進んでいるというふうに聞いておりますので、逆に国内の事業者の方がなかなか、技術面あるいはコストの面、様々考えますと開発も含めて難しいというところを、既に大手のプラットフォーマーの方が実現している。先ほど来お話があります、自己情報コントロールということがありますが、そういった技術も既に提供がなされているということがございます。

 ですので、逆に、そういった施策がどのように効果があるのか、EUの法規制もそうですけれども、それが本当に消費者の保護、それからデータの安全な利活用というところにどのような貢献があるのかということを今後検証いたしまして、私ども協会としても考えてまいりたいと思っております。

玉木委員 ありがとうございました。終わります。

森会長 次に、福島伸享君。

福島委員 有志の会の福島伸享でございます。

 三人の参考人の皆さん、本日は、有益な話をありがとうございます。

 まず、JIAAさんにお聞きしたいんですけれども、そもそもインターネット広告とは何かという概念が、私はしっかりと、はっきりさせる必要があるのではないかと思っておりまして、というのも、同じ広告といっても、テレビや新聞の広告とインターネットの広告というのは全く別物ではないかと。

 先ほど来JIAAさんのお話を聞いていると、有料か無料かというのが一つのメルクマールのようにも思うんですけれども、ただ、有料無料の概念も恐らく違って、テレビや新聞の広告というのは、特定の例えば電波の枠とか紙面の枠というものの限られた資源の場所を取る対価としての有料制だと思うんですけれども、インターネット広告になると、それに関する手間とか手数料とか、あるいは技術的サポートとか、そういうもので発生をする有料であって、その有料だとするならば、あとは有料じゃない広告なるものがひたすら多く存在することになって、すなわち、インターネット広告を規制するというのは、何を規制するのかという概念が非常に曖昧なものになっているのではないかと思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

柳田参考人 御指摘のとおりかと思っております。

 私どもの団体は、あくまでも有料のテレビCMや新聞広告などと同じように、メディアに広告費を払ってそこに掲載されるというものを対象にしておりますが、おっしゃるとおり、例えば、無料で広告のような、プロモーションという領域になりますけれども、動画投稿サイトにCMの原稿を特にプラットフォームにはお金を払わずに投稿するといったようなことも可能な状況にございます。

 ですので、有料か無料かということが、その規制を考える上でそこの区分けが必要なのかどうか、どのような基準を設ければよいのかということに関しましては、非常に難しいところであるというふうに認識しております。

福島委員 それが、この資料にある「有料の放送CMとインターネット広告のみを規制することで効果があるのか、難しい問題である」ということの意味であると理解してもよろしいでしょうか。

柳田参考人 はい、そのとおりでございます。

福島委員 はい。

 それでは次に、山本先生にお伺いいたします。

 非常に本質的なお話をお聞きして、憲法審査会で議論しなければならないことの問題の深さというのを改めて認識させられたんですけれども。

 そもそも憲法とは何かということを考えれば、これは言うまでもなく、十七条の憲法とかありますけれども、西洋でいうコンスティテューションというのは、自律した個人がいて、その人間がつくる社会なり国家というのがあって、民主的な統制の下にその権力と個人との関係を規定するというのが憲法だと思うんです。

 デジタル社会になっていくと、この個人と個人の集団がつくる国家なり権力というものじゃない、個人が関われないところにいる、先ほど玉木さんがおっしゃったようなプラットフォームみたいなところと個人の関係をどうするという意味では、根本的な近代社会の憲法の概念を変え得るものになると思うので、先生が、デジタル化は、個人の在り方、人間存在のそのものの在り方、国家の在り方を根本的に変容される可能性を持つというふうにおっしゃったんだと思います。

 先ほど、アメリカと欧州の話をお聞きしましたけれども、説明の中で、この点、どういう議論がアメリカ、欧州でなされているのかということがちょっとよく分からなかったので、デジタル化が、西洋の生んだ憲法の体系の下で、個人とか国家というものに、どのような個人の概念とか国家の概念を変えるものと議論されているのかというあたりをお聞きできればと思います。

山本参考人 ありがとうございます。

 まず、EU、欧州におきまして、個人の自律ということが非常に重要なポイントになってきていると思いますので、やはり個人の自律というものは、このデジタル化によって脅かされる側面があるのではないか。これは人間の尊厳にも関わってくる問題かと思いますけれども、そういった観点から積極的な議論がなされているのではないかというふうに思っております。

 さらに、欧州においては、先ほど玉木委員からもありましたけれども、やはりデジタル主権という考え方も非常に強く出てきているところでありまして、これも定義がなかなか難しいのですが、デジタル領域において、やはりヨーロッパとしては、特にアメリカのプラットフォーマーがそういったデジタル領域において主権をある種行使するようになってきているのではないか、その主権をやはりEUが取り戻さなければいけない。それは、国民を基礎とした国家が、そのプラットフォームを海外プラットフォームから取り戻さなきゃいけない、このデジタル主権の考え方が非常に強くなってきて、これが安全保障の問題なんかにも関わって議論をされている。

 つまり、そういう意味では、個人を起点としたまた議論と民主主義を起点とした議論というものが両輪で走っているというのがEUの状況なのではないかというふうに思います。

 米国におきましては、そういった議論がやや遅れたわけですけれども、二〇一六年のケンブリッジ・アナリティカ事件の後は、やはりデジタルが民主主義というものを壊してしまうのではないかという懸念がかなり強くなってきた。さらに、AIによって人種差別等が助長されてしまうのではないかという懸念もこの頃から出てまいりましたので、かなりこのデジタル化とそれから市民権に関する議論が活発化してきているというのが状況であろうかと思います。

 まさに、十月にAI権利章典、アメリカがやはり権利章典という言葉を使ったというのは非常に大きなインパクトがあるわけですけれども、やはりそういう認識がなされるようになってきておりますし、連邦レベルでも個人データの保護に関する立法が検討されているということになりますから、やはりAI、デジタル化と憲法的な議論との関わりというものを模索し始めてきているのではないかというふうに認識しております。

 以上です。

福島委員 ありがとうございます。

 先ほどの先生の話をお聞きしていて私が感じたのは、デジタル技術の進歩によって、人間の意識だけじゃなくて、無意識に働きかけるというのが非常に私はこれまでの技術と違うところじゃないかと思っておりまして、意識に働きかけるのであれば、言論の自由とかそうしたものでできるわけですけれども、人間というのは意識の部分と無意識の部分があって、意識の部分は法律とかで対処できると思うんですけれども、今、統一教会の法案の問題が午後採決されますけれども、無意識とか、あるいはマインドコントロールとか宗教とか信仰心とか、そういうところにAIが働きかけるという意味では、ここにある、個人の在り方、人間存在そのものの議論は、欧州やアメリカではされているんでしょうか。

山本参考人 少なくともEUに関しましては、さっきの自律的な意思決定ということを守る。例えばAI規則というものが、EUではAIレギュレーションが議論されておりますけれども、その中では、潜在的意識に強く働きかけるような、いわゆるサブリミナル的なAIの利活用に関しては禁止という方向性を取っているわけであります。

 そういう意味では、先ほどお話をしたように、無意識に働きかける、認知領域に働きかけるようなAIの活用に関しては、かなり警戒が高まっている。それはやはり、個人の自律ということは非常に重要な価値としてみなされているからだろうというふうに思います。

 ですから、やはりAIの、長くなるとあれですけれども、認知領域をどういうふうに守っていくのかということは、早急に議論を始めなければいけない課題なのかなというふうに思っております。

福島委員 まさにおっしゃるとおりだと思うんです。

 それはなぜかといえば、例えば、先ほど来出ております憲法十三条ですと、全ての国民は個人として尊重されるという規定がされていて、これは、誰に尊重されるという、客体というか、その言葉がない言葉ですよね。十九条の、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」となっていて、それは思想及び良心の自由がそもそも存在することを前提にしているし、十三条では、個人というものはそもそも無意識を侵されない存在で存在するということを前提にしている規定なので、そもそもの前提が壊れるからこそ、そうした無意識に働きかけるようなものを場合によったら禁止するということも必要だと思うし、そのことはまさに憲法上に規定するかどうかということを議論すべき問題ではないかと思うんですけれども、その点については、先生、いかがお考えでしょうか。

山本参考人 まさに近代憲法が前提としてきたものが動揺してきているという認識は、私も共有しているところであります。

 ですから、今後、マーケティングに関しても、あるいは選挙運動、国民投票運動に関しても、やはり認知領域にある意味で直接侵入するような形のものをどういうふうに規律していくのかというのが、全体の方向性として、つまり、ビジネスに関しても、選挙に関しても、民主主義に関しても、恐らく、新たなエチケットと申しますかルール、競争のルールそのものをやはり新たに検討し直さないと、とにかく、説得力とかでなくて、いかに認知領域を刺激してマインドハッキングできるか、そういう世界になってくる。つまり、説得力とか政策の内容じゃなくて、いかに刺激して反応を得るかという世界に我々はならないように、今検討しなければいけないのではないかというふうに思っております。

福島委員 ありがとうございます。

 極めて根本的な、根源的な議論をしなければならないことがあるということがよく分かったかと思います。

 私の質問は以上とさせていただきます。ありがとうございます。

森会長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、誠にありがとうございました。憲法審査会を代表して、心から御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十九分散会


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