衆議院

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第4号 令和5年3月23日(木曜日)

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令和五年三月二十三日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 柴山 昌彦君

   幹事 新藤 義孝君 幹事 山下 貴司君

   幹事 階   猛君 幹事 中川 正春君

   幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      越智 隆雄君    神田 憲次君

      熊田 裕通君    小林 鷹之君

      下村 博文君    杉田 水脈君

      田野瀬太道君    土田  慎君

      冨樫 博之君    中西 健治君

      西野 太亮君    深澤 陽一君

      船田  元君    古川 直季君

      古川 禎久君    古屋 圭司君

      細野 豪志君    務台 俊介君

      山本 有二君    渡辺 孝一君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      奥野総一郎君    城井  崇君

      近藤 昭一君    篠原  孝君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    岩谷 良平君

      小野 泰輔君    三木 圭恵君

      國重  徹君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    玉木雄一郎君

      赤嶺 政賢君    北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十三日

 辞任         補欠選任

  石破  茂君     冨樫 博之君

  岩屋  毅君     土田  慎君

  大塚  拓君     杉田 水脈君

  小林 鷹之君     古川 直季君

  國場幸之助君     西野 太亮君

  辻  清人君     深澤 陽一君

同日

 辞任         補欠選任

  杉田 水脈君     大塚  拓君

  土田  慎君     岩屋  毅君

  冨樫 博之君     石破  茂君

  西野 太亮君     國場幸之助君

  深澤 陽一君     辻  清人君

  古川 直季君     小林 鷹之君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題について討議を行います。

 この討議につきましては、幹事会の協議に基づき、まず、各会派一名ずつ大会派順に発言していただき、その後、各委員が自由に発言を行うことといたします。

 それでは、まず、各会派一名ずつによる発言に入ります。

 発言時間は七分以内といたします。

 発言時間の経過につきましては、おおむね七分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 発言の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自民党の新藤義孝です。

 本日は、国民投票法に関連して、先週、立憲民主党近藤委員の発言について、私なりの意見を申し上げたいと思います。

 まず、二〇二一年六月に成立した国民投票法改正、いわゆる七項目案の附則四条について、附則には法的な拘束力があり、法的措置を取ることは法的な義務であるとの発言がございました。

 この点については、七項目案の審議に際し、衆参両院の審査会において議論が整理されておりますので、改めて認識を共有していただきたいと思います。

 第一に、この附則は検討条項です。法的に拘束されるのは検討するということでありまして、あくまで、検討を加えて、その結果、必要と判断されれば法制上の措置その他の措置を講ずるものというものであり、必ず法的措置を取ることを義務づけているものではありません。

 第二に、附則第一号の規定は投票の外形的事項である投票環境の向上についてであり、投票の質に関する事項であるCM規制などについては、その検討は第二号の規定となっています。

 第一号に規定されている投票の外形的事項については、自民、維新、公明、有志の四会派が昨年四月に三項目案を提出し、更なる投票環境の向上を図ることを提案しています。附則四条の重要性を強調するのであれば、まずは、順番としても、第一号に規定されているこの三項目案について速やかに処理すべきと考えます。

 この三項目案の内容は、倫理選挙特別委員会の公職選挙法改正審議でも特に異論はなく、国会に提出され、憲法審で趣旨説明が行われてから一年が経過しても立憲民主党の反対により審議が行われていないのは、誠に残念と言うしかございません。

 また、この投票環境整備に関しては、近藤委員より、根本的欠陥があるとし、数点の検討項目が挙げられました。

 しかし、洋上投票制度や郵便投票制度などの一連の御指摘は、常に実施されている選挙に関する公選法で先行的に議論すべきものであり、国民投票法のみ若しくは国民投票法が先行して措置するべきものとは到底思っておりません。御指摘のような問題について議論が必要と主張されるのであれば、まず倫選特における公選法の議論を働きかけるべきであります。

 国民投票法の改正のうち投票環境整備については、今回の三項目案のように公選法の改正がなされたものを速やかに反映させるべきであり、近藤委員が指摘される点についても、公選法の改正があれば直ちに投票法の改正案を提出したいと考えております。

 次に、附則四条第二号に規定されている投票の質に関するCM規制については、数度にわたる参考人質疑を通じ、一定の整理がなされております。特に放送CMの問題については、受け手である民間放送事業者において、自主規制のガイドラインが量的なものも含めて既に整備されていることが確認されております。

 近藤委員は民放連が量的自主規制はしないと明言していますと発言されましたが、これまでの討議で明らかになっている事実を共有していただきたいと思います。

 令和元年五月九日の憲法審の参考人質疑において、民放連の田嶋参考人は、当然いろいろな意味の量の要素は私どもの自主規制の大事な要素であるというふうに理解してございますと述べ、令和四年四月二十一日の参考人質疑では、私からの、民放連は量に特化した自主規制ではないが、量も考慮要素の一つとした自主規制をもう既に準備していると理解してよいかとの質問に対し、民放連の永原専務理事が、そのとおりである旨明確に述べております。

 当時の立憲の筆頭幹事である奥野委員からは、いろいろな御努力も伺いましたし、できる範囲のことはやっておられると、一定の評価をする発言もございました。公明、維新、国民、有志の会からも民放連の自主的な取組を理解する発言があり、この問題は一定の整理がなされております。

 すなわち、CMの公平性を考慮するための残された議論は、広告の出し手である私たち政党と国民投票広報協議会の在り方についてということになるわけであります。この点も含め、CM規制については、今後、憲法審において、法整備の是非も加味した検討が行われるものと理解しております。

 民放連が量的自主規制はしないという旨の表現をしていたのは平成三十年九月の時点であり、その後のガイドラインの整備や憲法審での質疑において、この表現の趣旨は、量のみに特化したものではなく、量的なものも含めた自主規制を行うという意味であったことが整理をされているわけであります。

 なお、近藤委員からは、附則四条の趣旨からは、根本的欠陥が是正され、公平公正が確保されない限り、憲法改正発議はできないと考えますとの発言もございました。

 近藤委員が指摘する附則四条の法的な拘束力は、あくまで、国民投票法に検討を加えて、その結果、必要と判断されれば必要な法制上の措置その他の措置を講ずるというものであり、憲法改正発議に影響を及ぼす文言は規定されておりません。したがって、投票環境やCM規制などの議論にかかわらず、現行の国民投票法においても憲法改正発議ができないということは当たらないということになるわけであります。

 令和三年六月九日の参議院憲法審における七項目案の審議において、当時、野党筆頭幹事であった山花郁夫議員は、この検討条項の下でも憲法本体の議論や憲法改正の発議が条文上可能であるということについては、共通の認識であり、異論はないと明確に答弁をしておられます。

 もちろん、だからといって、私は、投票の質に関するCM規制の問題がこのままでよいと思っているわけではありません。既に私はその議論を始めております。国民投票におけるCM規制の在り方についての論点整理メモを提出し、方向性も示させていただきました。

 今後、放送CMの在り方やネット情報の在り方、これに関する私たち政党の取組、国民広報協議会の在り方について、法整備の是非も加味した検討を行うべきと、先ほども申し上げておるわけであります。

 次に、三月二日の審査会での階幹事の国民投票法改正に関する考え方について、私なりの意見を申し上げたいと思います。

 まず、放送CMについて、勧誘CMは国民投票運動の全期間において主体を問わず禁止、意見表明CMは政党等について禁止という提案をされておりますが、国民投票運動の自由及び投票の公平公正のバランスを取るという点で難しい問題があり、慎重な検討が必要と思います。

 国民投票運動は自由との原則は、法制定時に当時の民主党も主張され、共通の理解となっていたことであり、階幹事の提案は、この投票運動は自由との原則を放棄するに等しいことになりかねないのではないかと思います。

 また、ネットCMその他のネットでの表現一般の取扱いについて大変難しい問題が存在することは、おっしゃるとおりであります。

 全ての放送事業者が加盟している民放連という業界団体が存在し、かつ、放送法の枠組みにより自主規制を行っている放送CMと異なり、ネットCMについては、法的な枠組みがなく、全体を網羅した業界団体や自主規制もありません。また、CMに限らず、多様な人が様々な情報を個人単位で発信できるのがネットの特徴であり、CMと意見表明の境界は極めて不明確です。こうしたネット情報の特性を踏まえた国民投票運動への関わりについて、引き続き慎重な検討が必要だと考えます。

 最後に、前回、各会派から積極的な意見をいただきました緊急事態条項の論点については、五会派における相違点は、国会の議決要件は過半数か三分の二とするかと、裁判所の関与について不要とするか必要とするか、その場合に最高裁判所あるいは憲法裁判所のいずれとするかの二点におおむね絞られてきたと思われます。この点については、次回の審査会で私なりの意見を申し上げるつもりでございます。各会派からの御意見も是非頂戴したいと思います。

 今朝の幹事会におきましては、来週の定例日にも審査会を開催することを提案いたしました。今後も、憲法審査会が安定的に開催され、充実かつ深い論議が行われるよう、委員各位の御理解と御協力をお願いを申し上げて、私の発言とします。

森会長 次に、中川正春君。

中川(正)委員 立憲民主党の中川正春です。

 国民投票法に関して、ここで改めて私たちの論点の整理をしたいというふうに思います。

 国民が直接投票によってその判断を下すことになる国民投票というのは、人や政党を選ぶ選挙と違って、憲法の持つ価値や政策について国民一人一人が投票によって直接判断を下すということになるだけに、特別の配慮が必要であるというふうに思います。

 以下、前回の近藤委員の問題提起も踏まえて、特に法改正ないしそれに向けた議論が必要であると考える点を整理しましたので、申し上げます。これについても、委員各位の御意見をお聞きしたいというふうに思います。

 まず第一は、広く国民投票への参加を促す投票環境の整備が必要です。安全対策や個人情報の十分な保護を前提としたインターネット投票の解禁であるとか、あるいは障害者や海外居住者などへの配慮など、いわゆる三項目案ではカバーされていない問題について具体的に法制化をしていくことが必要であるというふうに思います。

 第二は、国民が改正案に賛成か反対かの意思表示をなし得るに足る十分な判断材料を提供する必要があるということであります。国民投票のキャンペーンが、賛成のため、あるいは反対のための宣伝戦に終始するのでは十分ではないんだということであります。国民投票にかけられる改正案が国会で審議される過程の中でどのような論点が話し合われ、その論点に関わって、対象になる分野の専門家がどのような見解を示してきたか、それらの点も含めて国民に提示していくことが必要だと考えています。

 そうした観点から、我々は、国民投票法を改正して、国民投票広報協議会が主催をすることで憲法改正案に関する説明会を開催すること、また、インターネット等を利用する方法によって憲法改正案に関する広報を行うことを盛り込むことを提案しております。

 第三に、憲法改正を扱う放送分野について、二つの観点があります。一つは番組の公正性、もう一つはコマーシャルの公平性ということであります。

 番組の公正性については、放送法第四条の政治的公平について、二〇一五年に当時の高市総務大臣が示した、放送事業者の番組全体ではなくて一つの番組でも判断できるという解釈を改めた上で、表現の自由と政治的中立性の原則を基本に、業界のガイドラインで示された規範で運営されるということが望ましいんだというふうに考えます。

 今般指摘されているような政府による番組介入は、あってはならないことであります。一方で、情報の公平性を保つためには、法律によるコマーシャル規制は必要であります。

 すなわち、勧誘CMについては、主体を問わず、国民投票運動の全期間にわたり禁止、意見表明CMについては、政党等については公営放送などで代替できるため禁止、それ以外の団体については、表現の自由に配慮して直接の規制は設けずに、CMへの支出金額に上限を設けることで間接的に規制することが合理的であると考え、私たちの試案に含めております。

 なお、放送業者について、時間的に賛否平等とするための規制が必要なのかどうかについても議論の対象としていくべきだというふうに考えます。

 第四は、ネット規制です。これについても、番組ないしコンテンツの公正性とコマーシャルの公平性に分けて議論すべきだと考えております。

 そもそも、番組ないしコンテンツの部分とコマーシャルの部分に分けられるのかどうか、こうした議論も必要でありますし、分けられるとした場合に、コマーシャルの部分について、放送と同様の規制でいいのかどうか。

 また、番組ないしコンテンツの部分について、一般的な規制は無理だとしても、フェイクニュースなど事実に基づかない情報を拡散して世論を偏った方向に向かわせる行為には、何らかの対処が必要だというふうに考えます。我々は、民間のファクトチェック団体と国民投票広報協議会が連携することでフェイクニュースの拡散を防ぐということを提案しておりますが、どうぞ議論の対象にしていただきたいというふうに思います。

 いずれにしても、ネットに関する議論はまだまだ入口であります。論点も更に広がりそうです。この分野に精通した更に多くの参考人の皆さんをこの審査会にお呼びして、幅の広い議論をしながら成案を作成することが大切であり、幹事会において具体的な参考人招致のスケジュール作成がなされることを望んでいます。

 次に、緊急事態条項について、改めて私の基本的な考え方を述べます。

 最近の審査会では、議員任期の延長に議論が集中しているようでありますが、私は、問題の本質はそこにあるとは思っていません。戦争、国内騒乱、大規模な自然災害、パンデミックなどに国が直面したときに、一定の範囲で権力を集中させて危機対応を即応的に行うことを憲法に明記して保障することが改正の目的であるとすれば、私たちは改正は必要ないと判断しております。

 日本の法体系では、自衛隊法、国民保護法、災害対策基本法、新型インフルの特措法など、一連の法制の中で既に体系化し、緊急政令などの権限も付与しながら、後に国会の承認を取って、民主的な権力の統制もしていく体制は既に整えられていると理解をしています。

 したがって、もし憲法において緊急事態を論じるとすれば、私たちは、ここでは、緊急事態におけるもう一方の重要な観点、権力を集中することで権力の悪用と暴走を許す可能性がないかどうかという観点から再点検することの方が重要であるというふうに考えています。

 以上をもって今日の私の議論としますが、国民投票法に関連した論点については、先ほど申し上げたとおり、更に外部の有識者を参考人として招いて、積極的な合意形成を進めることを改めて強く求めていきたいというふうに思います。

 以上です。

森会長 次に、小野泰輔君。

小野委員 日本維新の会の小野泰輔です。

 今通常国会で憲法審査会が動き出してから今日でまだ四回目ですが、緊急事態条項の具体的な論点整理が進んでいることを大変うれしく思っています。三月中には、我が党と国民民主党、有志の会の二党一会派で取りまとめ案を作成する予定となっておりますので、我が党としては、それを基に、自民、公明各党のお考えも伺った上で整理を行い、憲法改正原案の策定にまでつなげていきたいというふうに思います。そして、今そういった議論にも乗ってきていない会派にも是非参加をお願いしたいと思います。

 同様に、憲法改正に関するもう一つの論点である国民投票におけるCM規制についても、新藤幹事が冒頭におっしゃいましたように、投票環境の向上のための自主的取組を後押しするために何らかの法的措置を定める場合の例示として、同協議会による、各事業者の自主的取組に関するガイドラインの作成を挙げられております。改正を速やかに行った上で、着実に具体的な形を国民にお示しする作業を進める必要があると考えます。

 まず、テレビ、ラジオのCM規制について、我が党の考えを申し上げます。

 昨年四月二十一日に民放連の永原専務理事が参考人陳述されましたが、国民投票法により禁止されている投票日前十四日間以内の期間の在り方に関し、私どもは、報道の自由を守る立場から、考えを同じくしています。すなわち、自由な国民投票運動を基本としつつ、自主的、自律的に政治的公平を図るという放送法の原則にのっとり、放送事業者が民放連の定める考査ガイドラインに沿って自主規制を行い、また、政党側では申合せにより公平性を確保するなど、事業者と出稿者の双方の自主的な取組を基本とすべきと考えます。

 先ほどもお話が出ておりますけれども、非常に難しいのがネット規制です。

 ネットの世界は、新聞やテレビ、ラジオと比べ、出し手の数が格段に多く、フェイクニュースなどがあふれる可能性が高くなっています。さらに、デジタル社会における情報過多の中で、いかに注目を浴びるかが競われるアテンションエコノミーの下、マイクロターゲティングなど、ウェブの閲覧履歴などの個人データによるプロファイリング手法を用いて特定の情報を浴びせ、政治的傾向を意図した方向に過激化、硬直化させるフィルターバブルやエコーチェンバー効果を生みやすいとされています。

 昨年十二月八日に当審査会に参考人招致した山本龍彦慶大教授は、こうした状況に加え、確率的、統計的評価を行うAIの活用が進むことで、自由で自律的な意思決定過程が認知領域から侵害されるとともに、個別事情や個性が捨象され、個人の尊重が損なわれるなど、近代憲法の根本原則を脅かすおそれがあると指摘されました。そのため、情報自己決定権の観点からの個人情報保護や、知る権利や情報的健康の視点からのデジタル言論空間の再構築のほか、公正な選挙、投票制度のための規制などの必要性を提言されました。

 こうした諸課題への対応は、デジタル化やAIの進展がもたらした新たな憲法上の要請と認識しています。当審査会でも、それぞれの論点について活発に議論し、新たな憲法論を生み出すべきと考えます。

 これらの重要な問題について議論するため、当審査会に憲法改正論議とは別の分科会をつくるべきだと考えます。森会長におかれては、是非御検討をお願いいたします。

 しかしながら、それらの課題が解決しないからといって、国民投票の実施に向けた動きを止めることは適切ではないと考えます。ネットが我々の生活に密接で不可欠となっている現在、それがもたらす脅威は、国民投票の場面のみに問題となるのではありません。国民や住民の代表を選ぶという我々国民にとって重要な選挙が、これまで幾多にもわたって行われてきましたし、これからも立ち止まることなく行われます。それを黙認しておきながら、憲法改正の国民投票の際にはその脅威を持ち出してできない理由とするのは、かのカエサルが見れば、見たいものしか見ていないと言うに違いありません。

 社会は常に変容し、立ち止まることはありません。ゆえに、たとえ障害があろうとも、政治はそれを乗り越え、常に前に進む努力をしなければなりません。私は、政治家とは、それをやり切る決意のある人々だと考えています。

 ネット上でのフェイクニュースなどによる言論空間の攪乱のおそれがあるから選挙はできませんなどと言うのを許容する人が、およそ民主主義国家において存在するのでしょうか。それこそ、知る権利の侵害を口実にした民主的プロセスの妨害と言えましょう。

 ほかに国民投票法関連で具体的に進めるべきこととしては、先週公明党の北側幹事が指摘されたように、国民投票広報協議会の役割を明確化させ、規程の形まで落とし込むことが挙げられると考えます。

 現行の国民投票法では、国民投票協議会の事務として、同法第十四条において国民投票公報の原稿の作成、第百六条において憲法改正案の広報のための放送、第百七条において新聞広告などが定められています。

 そのほかに同協議会が担う役割としては、山本教授が提唱されていたように、玉石混交のネット上の情報の中から国民投票広報の情報を見てもらいやすくするため、プラットフォーム事業者などに対し、それを目立つところに置いてもらうような働きかけを行うべきと考えます。また、民間事業者が策定するガイドラインの内容や運用状況に関する意見交換を行うといった、オブザーバーの性格も持たせることも一案と考えます。

 このように、国民投票法についても早期実施のための詳細な検討を行うとともに、目下生じているデジタル社会の脅威にいかに対処するか、憲法論議を活性化させるべきと考えます。

 当審査会が時代のスピードに合わせて具体的成果を出せるよう、委員の皆様とともに尽力をしてまいります。

 以上です。

森会長 御提案の件につきましては、幹事懇等で協議をいたします。

 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 まず、国民投票法についてです。

 国民投票法とCM規制については、今月二日の審査会で私どもの基本的な立場を述べました。

 本日は、今後、憲法改正国民投票制度について、法改正を含め取り組むべき課題について、改めて申し述べます。

 第一に、投票環境の向上のため、昨年四月に本審査会に付託されています三項目の国民投票法改正案は、公職選挙法並びの改正で、速やかに成立を図るべきです。今後とも、公職選挙法と併せて、投票環境の向上、有権者の利便性向上に努めていかねばなりません。

 第二に、国民投票運動等に係るテレビ等の放送広告やネット広告について、事業者団体や放送事業者は、自主規制、自主的に定めるルールの策定を進めておられます。この内容を更に充実するため、事業者団体と私ども憲法審査会の幹事会等との意見交換を重ねていくべきと考えます。事業者団体で一定のルールが決められたにもかかわらず、それを遵守しない広告は、国民から見て情報の信頼性を欠くと見られるようにしていかねばなりません。

 第三に、新聞等の活字媒体、テレビ等の放送メディア、インターネットを通じた有料CMについて、広告主である政党が、広告の量や時期等についての自主規制ルールを早急に検討すべきです。

 第四に、国民へ正確な情報を提供するためには、インターネットの活用も含め、広報活動全般について、国民投票広報協議会の役割は極めて重要です。広報機能等を充実するため、両議院議長が協議して定める広報協議会規程の策定を早急に検討してまいりたいと思います。

 なお、先週の審査会で、改正国民投票法附則四条の検討事項に関連して、国民投票法が改正され、公平公正が確保されない限り、憲法改正発議はできないという意見がありました。先ほど、新藤幹事からるるあったとおりでございます。

 この附則四条の検討条項は憲法本体の議論や憲法改正の発議を妨げるものでないことは、これまで審査会で確認されている事項です。令和三年六月九日の参議院憲法審査会で、法案の共同提出者である立憲民主党の山花郁夫議員は、この検討条項の下でも憲法本体の議論や憲法改正の発議が条文上可能であるということについては、原案提出者である中谷議員、また私、北側議員と共通の認識でございまして、異論はございませんと答弁をしておられます。

 次に、緊急事態の発生と国会議員の任期延長問題について述べます。

 昨年来の憲法審査会の討議を通じまして、各論点について相当に整理されており、五会派間で一致するところが多々あると思います。以下、憲法改正条項案の表現ぶりも念頭に、先週、私への御質問もございましたので、私の意見を述べたいと思います。

 まず、選挙困難事態の認定の要件です。

 第一に、地震等による大規模な自然災害など緊急事態の発生により、選挙の一体性が害されるほど広範な地域において、国政選挙の適正な実施が七十日間を超えて困難であることが明らかであると認められるときは、内閣は、選挙困難事態の認定を行うというふうにします。七十日間を超えてとしたのは、その間は参議院の緊急集会の開催が可能であるからです。

 第二に、内閣は、直ちに国会の承認を求めなければならない。この国会の承認には、各議院の出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とするといたします。

 国会承認の議決要件については、三分の二の特別多数が妥当と考えます。憲法四十五条、四十六条で定められた国会議員の任期の例外となるもので、厳格な要件が必要と考えます。

 次に、選挙困難事態の認定の効果です。

 第一に、内閣は、速やかに、事態認定の日から最大六か月以内の日に選挙期日を延期します。憲法で定められた議員の任期が終了しているのですから、できるだけ早く国政選挙を実施すべきこと、また、東日本大震災時の地方選挙の選挙期日に係る延期期間を考慮すると、最大六か月以内とするのが適切と考えます。

 第二に、選挙困難事態の認定について国会の承認があったときは、延期された選挙期日の前日まで議員の任期を延長します。東日本大震災時の選挙期日延期等の特例法と同じ構成としております。

 さらに、議員任期の再延長についてです。

 延期後の選挙期日の前に、内閣は、選挙困難事態の再認定をする場合は、直ちに国会の承認を得なければならない。そして、内閣は、再認定の日から最大六か月以内の日に選挙期日を再延期し、同様に延期された選挙期日の前日まで議員の任期の延長をするというふうにします。

 国会承認の議決要件は、同様に、三分の二の特別多数とします。

 また、選挙期日の延期は、同一の事態で、最初の選挙困難事態の認定から通算して一年を超えることはできないとしてはどうかと考えております。これにより、一年以上の議員の任期延長を制限することにつながってまいります。

 議員任期の再延長について、司法を関与させるべきとの意見もあります。貴重な御意見だと思いますが、選挙困難事態の認定は、被災状況、復旧状況等の事情を総合的に判断して、国政選挙を適正に実施できるのかという判断であること、また、緊急を要することからすると、司法の関与にはなかなかなじまないのではないかと考えます。

 なお、憲法裁判所については、別の大きな憲法上の課題で多くの論点があります。いずれにしても、直ちにその創設ができるものではないと思われます。

 また、衆議院解散後に緊急事態が発生し、総選挙の実施が困難となった場合に、衆議院議員の身分が復活するのかという問題があります。

 衆議院の解散は、衆議院議員の任期を終了させること、そして解散から四十日以内に総選挙を実施することという不可分な二つの効果をもたらします。総選挙を実施することが明らかに困難と認められるときは、衆議院解散の意義は失われ、解散権を行使した内閣自らの選挙困難事態の認定により、解散は効力を失い、衆議院議員の身分は回復すると考えられます。当然のことながら、憲法明文で規定すべき事項と思います。

 以上、私の意見表明といたします。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 本日も、これまで議論を積み重ねてきた緊急事態条項について、残された論点について意見集約を進め、具体的な憲法改正の条文案作りに入ることを提案したいと思います。

 一部に緊急事態条項は危険だと決めつけるような言説がありますけれども、主権者たる国民の皆さんに正しい判断材料を提供するためにも、冷静で丁寧な議論を展開していきたいと思います。

 さて、先週、選挙困難事態の議決要件と緊急集会の位置づけの二点について、自民党の新藤幹事と立憲民主党の篠原委員に質問したので、この二点について改めて今日も伺いたいと思います。

 まず、選挙困難事態の議決要件について、新藤幹事から過半数ということの提案がありました。これも前回も聞きましたけれども、一方で、自民党の憲法改正四項目の条文イメージ、たたき台素案では、各議院の出席議員の三分の二となっています。まず、この自民党の条文イメージ案にはこだわらず、見直しもあり得るのか、伺いたいと思います。

 なぜなら、ここで議論して一定の結論を得ても、自民党の中でひっくり返るようなことがあると、ここでの議論が意味がなくなるので、まずその余地があるのか、可能性があるのかということについて伺いたいと思います。

 その上で、我が党の考え方を改めて申し上げると、以前、新藤幹事もおっしゃっていたんですが、我が国の憲法体系の中には、平時の統治モードから有事の統治モードへの転換をする、そういった仕組みがそもそもないということが問題なので、その仕組みを導入することが緊急事態条項創設の意味だと私は思っています。

 国民民主党の案では、この平時から有事のモード転換の際に、事前の国会承認と、そして最高裁による要件適合性審査をセットで導入することを提案しています。

 憲法に規定された原則、衆議院の四年、参議院の六年という、この特例を認めることは、緊急事態を前提に、原則や現状を変更し特別な状態をつくり出す場合なので、我々としては、加重要件として各議院の出席議員の三分の二以上が必要と考えているが、仮に、新藤幹事のおっしゃるような過半数で任期延長できるということであれば、その場合は、やはり司法による何らかの要件適合性審査とセットで導入することが不可欠だというふうに思います。

 次に、緊急集会の位置づけについて、前回は篠原委員に聞きましたけれども、立憲民主党さんの考え方を改めて伺いたいと思います。

 我々は、憲法五十四条二項の参議院の緊急集会の権限は、ある意味、平時のモードにおける一時的、暫定的、限定的なものだと考えます。

 先週、篠原委員に、この緊急集会がどれだけの期間、またどのような案件について対応できるかを質問させていただきましたけれども、特に私は、予算案に係る権限について考えることで、この問題を、その外縁を明らかにできると考えています。

 国民民主党は、緊急集会は、その性質上、二か月程度の暫定予算の処理が限界であって、本予算そのものや補正予算の処理はできないと考えます。立憲民主党の案では、緊急集会で本予算の対応ができると考えているのか、しかも複数年にわたって対応できると考えているのか、もしできるということであれば、その根拠と併せて考え方を伺いたいと思います。

 もう一点、前々回、篠原委員が述べた任期延長を可能とする特別法でありますけれども、憲法改正によらず、法改正でそもそも任期の延長ができるのかどうか、この論点については明らかにすべきだと思います。

 というのは、奥野委員がかつて提案した緊急集会と繰延べ投票の活用についてでありますけれども、繰延べ投票については、平成二十三年十一月十一日に当時の野田内閣が閣議決定した質問主意書の答弁書で、法律制定により国政選挙の選挙期日を延長するとともに、国会議員の任期を延長することはできないと、明確な閣議決定があります。

 仮に、投票は繰延べ投票で事実上延期できたとしても、議員任期は延長できないので、やはり法改正だけでは長期にわたり衆議院議員が不在となる事態を回避できないのではないか。やはり憲法改正が必要だと考えます。

 なお、国政選挙の繰延べ投票は戦後三回行われていて、最大の繰延べ日数は一週間です。

 次に、立憲民主党の小西洋之参議院議員が、衆議院の任期満了の際に緊急集会が開けず、改憲の必要ありという主張があるけれども、衆議院議員の任期満了の前に必ず総選挙をするように公選法等を改正すれば憲法改正は不要と主張されていますが、この案にもやはり問題があると思います。

 任期満了時に選挙困難事態が生じていることを前提に、前もって解散するとの内容だと理解していますが、その場合は、いずれにしても選挙を行うことは困難な状況が続いているのではないでしょうか。衆議院議員が不在の状態は継続することになります。

 また、解散することで緊急集会の憲法上の形式的な要件を満たすことにはなりますが、憲法が想定する緊急集会の一時的、暫定的、限定的な性質は変わらないので、先ほど述べたように、例えば複数年にわたって本予算を処理することはできないと考えます。よって、いずれにせよ、憲法を改正して議員任期の延長を認めないと国会機能の維持が図れず、三権分立が揺らぐのではないかと考えます。

 このように、法律改正では憲法で定める議員任期の延長はできず、国会機能を維持するためにも憲法改正が必要だと考えますけれども、改めて立憲民主党の考えを伺いたいと思います。

 最後に、国民投票法におけるSNS規制について一言申し上げます。

 中国当局がカナダの国政選挙に介入し、影響力を行使したことにカナダが抗議したと報じられています。今やSNSを使った偽情報、フェイクニュースの流布などによる世論操作は、民主主義そのものへの脅威となっています。よって、日本においても、憲法改正における国民投票のみならず、公選法も含めて包括的かつ整合性のある規制を検討していく必要があると考えます。

 他方、その際には、過度な規制にならず、国民の知る権利とのバランスの確保が重要です。特に、最も正しい情報の出し手である政党等の情報発信を投票日の前十四日間制限すると、冷静な判断を行うその期間にかえってフェイクニュースの蔓延、氾濫を許すことになり、国民の判断がゆがめられてしまう可能性も否定できないのではないでしょうか。

 SNSでの情報提供は、テレビと違って誰でもでき、しかも拡散力があるので、何かを伝えさせないかだけではなく、何を伝えさせるのかといった視点も重要だと考えます。その意味では、国民投票広報協議会の役割や機能、組織を具体的に決めて、国民投票広報協議会が、テレビやラジオ、新聞のみならず、ネットでどのような広報をすべきかを具体的に議論することを提案したいと思います。あわせて、有効なファクトチェック機能をどう確保するかも議論していきたいと思います。

 最後に、実効性あるSNS規制の参考とするため、ケンブリッジ・アナリティカ事件の当事者であるブリタニー・カイザー氏とティックトックの周CEOの二人の参考人の招致を求めて終わりたいと思います。森会長の取り計らいをお願いします。

森会長 玉木君から新藤幹事とそれから立憲に対しまして御質問がございましたけれども、玉木君の持ち時間がもう既に終了しておりますので、次回にお願いをいたしたいと思います。

 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 国民投票法をめぐる問題について意見を述べます。

 私たちは、国民が改憲を求めていない中、改憲の手続法である国民投票法を整備する必要はないという立場です。現行の国民投票法については、国民の民意を酌み尽くし正確に反映させるという点で、重大な欠陥があると考えています。

 具体的には、最低投票率の規定がないこと、公務員や教育に携わる者の投票運動を不当に制限していること、改憲案に対する広告や意見表明の仕組みが公平公正なものになっていないことの三点を指摘してきました。

 こうした根本的な欠陥に加えて、前回の審査会で、国民投票法の公平公正を確保する大前提の問題として、自民党政権が放送行政をゆがめ、放送による表現の自由が根底から揺らいでいることを挙げました。他の委員からも、安倍政権が放送法の解釈を変更し、政治的公平性を番組全体ではなく一つの番組のみで判断できるとしたことは、国民投票の結果をゆがめる危険があるという懸念が指摘されました。これは、国民投票法を考える上で、ゆるがせにすることのできない問題です。

 国民投票におけるテレビ放送の有料広告をめぐって、放送事業者の自主的な取組で公平性が担保されるのかということが議論されてきました。その前提として、放送事業者の自主自律が保障されているのかということが問われなければなりません。

 私は、前回、放送法による表現の自由は憲法二十一条によって保障されていること、にもかかわらず、歴代の自民党政権が放送法の趣旨をねじ曲げ、放送番組に干渉してきたこと、とりわけ安倍政権の下で、安保法制や改憲、沖縄基地問題などで、政権の意に沿わない番組を狙い撃ちにして圧力をかけ、放送の自由を侵害してきたことを指摘しました。

 改めて、憲法二十一条と放送法の原則について述べておきたいと思います。

 政府は、放送法四条を根拠に、放送事業者に対して行政指導を行うことができるとし、さらには、電波法七十六条に基づく電波停止もあり得るという見解を取っています。この見解は、政府による番組介入を正当化する論理にほかなりません。放送による表現の自由をじゅうりんするものです。

 この点について、放送倫理・番組向上機構、BPOの放送倫理検証委員会が二〇一五年に出した意見書に耳を傾けるべきだと思います。

 安倍政権下の二〇一五年四月、総務大臣、当時、高市総務大臣は、NHKに対して、番組「クローズアップ現代」の報道内容を問題として、厳重注意を行いました。厳重注意の根拠としたのが、放送法四条第一項の報道は真実を曲げないとの規定でした。これに対してBPOは、放送法四条は、放送事業者が自らを律するための倫理規範であり、総務大臣が個々の放送番組に介入する根拠ではないと厳しく批判しました。次のように述べています。

 放送法第一条が定める不偏不党、真実や自律は、放送事業者や番組制作者に課された義務ではない、これらの原則を守るよう求められているのは政府などの公権力である。放送法第四条も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、倫理規範である。したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠し、個別番組の内容に介入することは許されない。

 極めて明確であります。これが本来の放送法の大原則です。この原則に照らして、政府と政権党による放送の自由に対する侵害行為を明らかにすべきです。

 総務省が公表した行政文書では、安倍首相や礒崎補佐官、高市大臣は個別の番組名やキャスターの名前を挙げて批判し、今までの放送法の解釈がおかしいなどと迫っています。政権による言論封じにほかなりません。

 安倍政権の下で自民党がNHKや民放の経営幹部を呼びつけて、番組内容について説明させ、電波法に基づく電波停止もあり得ると威嚇したことは、放送法三条が保障する番組編成の自由への政権党による圧力そのものです。

 岸田政権は、安倍政権の解釈変更を踏襲し、批判的な放送や報道を萎縮させながら大軍拡を推し進めています。

 自民党政権が憲法違反の政治を進めるために憲法二十一条や放送法に反する行政を行ってきたことは、極めて重大です。この憲法違反と放送法侵害の実態を明らかにし、放送の自由を取り戻すことなしに国民投票法の公平公正を議論することはできないと指摘して、私の発言を終わります。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 有志の会の北神圭朗です。

 ここ数回にわたり、立憲民主党さんから国民投票法に関連する多くの発言がありました。本日は、有料広告の制限、資金規制、それからインターネット規制の三点について、私たちの意見を表明したいというふうに思います。

 まず、有料広告の制限についてです。

 この問題の本質は、報道の自由や表現の自由などの要請がありながら、他方では国民の判断形成にも関わる公平公正性の原則の要請があります。こうした中で、私はやはり、法的規制には頼らずに、報道機関やインターネットプラットフォーマーなどの自主的取組を重視する方向が適当だと考えます。

 実際、先ほどもお話があったとおり、民放連は参考人質疑で、賛成、反対、それぞれのCMの量や時間などについて公平公正に調整する意向を表明していると私は理解しています。一方で、政党の広告については、自分たちが国民投票広報協議会において自主的に上限を設定するなど対応する方が現実的ではないかというふうに思います。

 次に、国民投票運動の資金面での規制については、立憲民主党も主張しているとおり、資金力が大きい方がより多くの宣伝ができるといった野方図な自由は制限してしかるべきだと考えます。そのために、支出や寄附行為の金額について一定の上限を課すことについては賛成です。また、実際に行われた支出行為等を事後的に検証可能とするために、収支の透明性を確保し、支出する者の登録並びに収支報告書の提出を義務化することも必要でしょう。

 なお、外国人が国民投票に及ぼし得る影響については当然監視の目を光らせるべきであり、外国人からの寄附や、国籍等が不明となる匿名寄附については全面禁止にすべきです。

 三点目は、インターネットの規制についてです。

 せっかく玉木委員から、カナダが中国の選挙介入について抗議をしたという話がありましたので、少し詳細にお話をしたいと思います。

 外国政府の一部がインターネットなどを通じて、あからさまに情報工作を行っている事例が頻発しています。サイバー攻撃でロシアが得意とする認知戦というものがあります。これは、情報や国民の心理、認知への侵食を目的としています。

 手法としては、外国政府の公式メディアによる宣伝、偽情報を取り上げるサイトの立ち上げ、ネット上の不特定多数による言説の書き込み、インフルエンサーによる宣伝行為等があります。これらが同時並行的に展開され、偽情報等によって投票行動をその外国にとって有利なものとするように工作することであります。

 こうしたことに対して我が国は、これまでは、日本語の壁に守られていることもあり、危機感が広く共有できていません。しかし、最近は、自動翻訳の進化により、比較的自然な日本語で情報発信ができるようになってきているのも事実であります。今後は、外国政府からの偽情報がインターネット空間に侵入することに備える必要があるというふうに思います。

 対策としては、これは国内の広告規制についても言えることでありますが、やはり、言論の自由を最大限尊重して、可能な限りファクトチェックを行っていくことが重要となります。現時点で、インターネット上のファクトチェックについては、民間機関が一定の成果を上げています。

 他方で、アメリカ、イギリス、ドイツ等では、民間機関だけでなく、政府としても、偽情報による干渉、特に選挙干渉について何らかの対策を講じていることも事実であります。

 例えば、ドイツでは、内務省の連邦選挙管理委員会が選挙過程全般に関係する偽情報を特定し、これに対処する責任を負っています。特定した情報については、ファクトチェックサイトを通じて公表しています。また、台湾では、選挙干渉に限らず、全ての省庁にファクトチェックのチームを設置しています。これらのチームは、偽情報や誤報を発見した場合に、その情報に対する正しい解説を二十分以内に二百字以内で二枚の画像をつけてSNSに公開することになっています。これは二・二・二の原則と言われています。

 我が国でも、民間に任せるだけではなく、政府か、あるいは公的機関か、例えば国民投票広報協議会において、こうしたファクトチェックの機能を担う必要があるのではないか。同時に、偽情報を植え付ける外国からのサイバー攻撃に対しても、政府の関係部署との連携も併せて確保すべきだというふうに思います。さらに、国民投票広報協議会の機能として、各政党の主張を大量にインターネットに流すことにより正確な情報を広く頻繁に普及させることも検討すべきだと考えます。

 我が国では国や公的機関の関与を忌み嫌う向きもありますが、民間機関だからといって思想、信条的に公正中立とは限りません。諸外国では、官と民とで偽情報を公表し説明することを通じて、多様性のあるファクトチェックの言論空間がつくられています。この多様性が確保され、正確な情報が幅広く流通して初めて、言論市場の見えざる手が適切に働くのではないでしょうか。

 こうしたことから、我が国でも、外国からの選挙介入を検知する能力向上や有権者への正確な事実を伝達する体制が強く求められます。公正な選挙の実現、とりわけ憲法改正に関する国民投票は民主主義の根幹であります。国民の自律的な意思が阻害されないために、我々も責任を持ってより積極的な姿勢で臨むべきことを申し述べて、私の意見とします。

 以上です。

    ―――――――――――――

森会長 次に、委員各位による発言に入ります。

 発言を希望される委員は、お手元にある名札をお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 なお、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただくようお願いいたします。

 発言が終わりましたら、名札を戻していただくようお願いいたします。

 また、幹事会の協議に基づき、一回当たりの発言時間は五分以内といたします。質疑を行う場合は、一回当たりの発言時間は答弁時間を含めて五分程度といたします。委員各位の御協力をお願い申し上げます。

 発言時間の経過につきましては、おおむね五分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、発言を希望される委員は、名札をお立てください。

山下委員 自民党の山下貴司です。

 国民投票法について、立憲民主党の改正案概要は、政治的表現の自由に対する直接的侵害になりかねず、極めて慎重かつ厳格な議論が必要であって、既に当審査会に提出、付託された公職選挙法並びの三項目の改正案とは次元を異にする議論であることから、同一に論ずることは適当ではなく、切り分けての慎重な取扱いをお願いしたいと考えます。

 憲法上、政治的表現の自由は、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという、民主政治に資するものとして憲法上保障される表現の自由の中核を成すものです。そして、異なる政治的意見の当否は、広く国民に共有される言論の自由市場で判断されるべきというのが憲法の立場です。

 特に、憲法を含め法案に関する意見表明やその勧誘は政治的表現の根幹であり、合衆国憲法草案への賛成論を三人の政治家が新聞に長期連載した「ザ・フェデラリスト」が憲法論の金字塔とされていることを例に挙げるまでもなく、国の根本規範である憲法に関する意見表明は、国民主権の基礎とも言える重要な権利です。

 このような重要性と当時の民主党の意見をも踏まえ、国民投票法では、一定の地位利用による勧誘を禁止する以外は国民投票運動を原則自由とし、その広報については、両院の代表から成る国民投票広報協議会が検討し、広告放送については投票期日前十四日間に限って禁止するなど、制約を極めて限定的なものにしており、この点は、公正な選挙のため憲法四十七条の明文で法律上の制約を認める選挙運動の自由とは異なります。

 しかし、現在の立民側の提案は、憲法改正案に関する意見表明について、何人も、発議から投票までの最大六か月の期間、国民投票運動のための放送広告を一律に禁止する、ネットの動画広告については、放送以上に扇情的な影響力を持つにもかかわらず、一般人や組織、団体の有料ネット広告は放置する一方で、政党等に限って禁止するなどを内容とするもので、公職選挙法の規制よりもはるかに厳しく、具体的な立法事実についても大いに疑問なものです。

 「フェデラリスト」の時代と異なり、現代では放送やネットがむしろ政治的表現の伝達手段としては主流であり、これら放送やネットという言論プラットフォームへの意見表明は、一部のSNSや報道を除き、基本的には無償ではありません。公職選挙法でも、政治的意見の表明について、それが選挙運動や脱法的な売名行為に当たるものでない限り、有償の政治的意見広告は禁止されていません。

 それにもかかわらず、憲法改正への賛否という国民主権の根幹に関わる政治的表現の自由に関して、全ての国民、組織、団体の国民投票運動のためのCM放送と政党等によるネット広告を発議から投票までの最長六か月間禁ずるのは、公職選挙法に定める選挙運動の規制よりもはるかに厳しい、政治的表現の自由の重大な制約と言えます。

 また、政党による憲法改正案への意見表明の重要な手段であるネット広告を禁止するのは、発議のために議論を尽くし、最も憲法改正案の賛否を説得的に論じ得る政党等の見解を幅広く国民に伝える手段を大きく制約し、国民が発議以降に賛否を検討するため政党等の見解に触れる機会を大きく損なうもので、国民にとっても、表現の自由の自己統治的価値を大いに制約するものであります。

 加えて、このような厳しい規制が相当であることを合理化するための具体的立法事実については示されていません。例えば、ブレグジットをめぐる国民投票では、広告規制をしたものの、EU離脱派と見られる組織的なネット上のフェイクニュースが氾濫し、結局効果がなかったとの指摘もあります。

 逆に、立民の規制案では、政党等にだけ有料ネット広告を禁止し、その他の組織、団体の有料ネット広告は禁止されないため、憲法改正案について、政党等以外の人、組織、団体からフェイクニュースが有料ネット広告で垂れ流された場合、憲法改正案の意義について最も知見を有する政党等がネット広告での効果的かつ正当な反論ができず、フェイクの蔓延を放置せざるを得ないという致命的な欠陥があります。

 私は、立法事実に関する検討も不十分のまま、抽象的な危惧を根拠に、いたずらに憲法違反のおそれが極めて高い法規制をするよりは、国民の代表である国会議員で構成される国民投票協議会がガイドライン等を通じて、ファクトチェックの仕組みも含め、その時々の状況に応じて緩やかな規制を示す方が穏当だと考えます。

 したがって、既に案が提出された公職選挙法並びの三項目の国民投票法改正案とは切り分けて、既に提示されたCM規制の論点メモ等も踏まえた慎重な検討をお願いして、私の意見といたします。

本庄委員 立憲民主党の本庄知史です。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題が議題ということで、私からは、我が国の安全保障との関係について申し述べたいというふうに思います。

 まず、憲法改正の国民投票においては、広告放送をめぐる議論と並んで、デジタルデモクラシーの課題が大きな論点となります。特に、フェイクニュースを始めとする悪意を持った偽情報の流布が及ぼす影響、そして、外国政府等の外部勢力による関与、介入の可能性と危険性について十分留意する必要があります。

 例えば、二〇一六年、米国大統領選挙におけるフェイスブック個人情報の不正利用、いわゆるケンブリッジ・アナリティカ事件や、英国のEU離脱、ブレグジットの国民投票ではフェイクニュースが社会問題となりましたが、これらはロシアの関与が指摘をされています。

 ロシアについては、二〇一四年のクリミア半島の併合、昨年のウクライナ侵攻における、ウクライナがロシア系住民を大量虐殺しているといったフェイクニュースはよく知られています。また、中国については、二〇二〇年の台湾総統選挙において拡散された、蔡英文総統が学歴詐称をしているといったフェイクニュースへの関与も指摘をされています。我が国では、昨年八月、当時の岸防衛大臣がウクライナを非難したかのように見せた虚偽のツイートが拡散いたしました。

 憲法改正の国民投票に際して、こういった外部勢力の関与、介入によって世論が操作され、投票結果に影響が出るということがあってはなりません。立憲民主党は、こういった問題意識から、国民投票広報協議会とファクトチェックを行う民間団体等との連携や、外国人等からの資金援助の禁止などを盛り込んだ国民投票法改正案を提案しています。

 他方、政府の側でも、昨年十二月の国家安全保障戦略において、偽情報の拡散も含め、認知領域における情報戦への対応能力を強化するとしていますが、国家による恣意的な情報統制につながらないよう、十分留意しなくてはなりません。

 以上を踏まえ、日進月歩のインターネットやデジタル分野に係る諸問題について、安全保障の観点からも議論を重ね、必要十分な法改正を行う必要があるというふうに考えます。

 次に、今申し上げました国家安全保障戦略を含む安全保障関連三文書についても、この機会に言及をしたいというふうに思います。

 今国会では、衆参予算委員会を中心にこの三文書について議論がなされていますが、憲法との関係で様々な疑義が生じています。

 特に、ミサイル反撃能力の行使については、一九五六年政府見解で、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるとされていますが、これは、一般に海外における武力行使を禁じた憲法九条の例外中の例外です。したがって、仮にミサイル反撃能力を保有するとしても、その使用に当たっては相当明確な基準と厳格な運用が不可欠です。

 その観点からいうと、第一の憲法上の疑義は、他国の攻撃の着手段階におけるミサイル反撃能力の行使についてです。

 政府は、実際に他国からの武力行使がなくても、その着手があった時点で武力行使があったとみなし、ミサイル反撃能力の行使が可能としています。確かに、法理論としては成り立ち得るとしても、現実には、移動する車両や列車あるいは潜水艦などから発射される他国のミサイルについて、攻撃の着手、すなわち発射前の段階で我が国領域に飛来、着弾するか否かを瞬時かつ確実に判断し、未然にたたくことはほぼ不可能です。もし判断を誤って、武力攻撃の意図のない他国にミサイル反撃能力を行使すれば、憲法違反はおろか、国際法も禁じている先制攻撃となりかねません。よしんば着手段階で攻撃を阻止できたとしても、当該他国のみならず、国際社会からも強い非難を受けることが予想されます。

 第二の憲法上の疑義は、存立危機事態におけるミサイル反撃能力の行使についてです。

 二〇一五年成立のいわゆる安保法制のうち、限定的な集団的自衛権の行使、すなわち存立危機事態に関する部分は憲法違反であるというのが立憲民主党の立場ですが、仮にこれを合憲とする政府の見解に立つとしても、限定的でない集団的自衛権の行使は違憲であるとの憲法解釈は今も変わっていないと承知をしています。そうであれば、限定的な集団的自衛権の前提となる存立危機事態の定義は、合憲か違憲かを分ける極めて重要な判断基準となります。

 しかしながら、存立危機事態は、中東の石油の途絶といった経済的理由や遠く離れた米国本土への攻撃であっても事態認定し得るなど、非常に曖昧な概念です。その曖昧な存立危機事態において、我が国自身が攻撃を受けていないにもかかわらず、我が国と密接な関係にある他国が攻撃を受けたことをもってミサイル反撃能力を行使するとなれば、それはもはや専守防衛とは言えず、憲法違反となる可能性が極めて高いと考えます。

 かねて違憲の指摘のある安保法制の存立危機事態と憲法九条との関係のみならず、かかる存立危機事態におけるミサイル反撃能力の行使についても当審査会において議論すべき重要な憲法課題であるということを申し上げて、私の発言とさせていただきます。

 以上です。

岩谷委員 日本維新の会の岩谷良平です。

 緊急事態条項についての日本維新の会の案の特徴の一つは、憲法裁判所による司法的統制を図っている点です。

 そこで、本日は、そもそもなぜ憲法を改正し憲法裁判所を設置する必要があるか、また、憲法裁判所の設置に対して挙げられている懸念点について見解を述べます。

 まず、現行の最高裁判所には以下のような問題があります。

 先週も本審査会で述べましたが、運用上の問題としては、日本の違憲審査制については司法消極主義とも言われる運用の実態があり、ドイツやアメリカ、フランスなどがこの数十年で下した違憲判決の数がいずれも四百件以上ある一方、日本ではこの七十五年間で僅か十一件しかありません。これで、いわゆる憲法の番人として最高裁が日本の立憲主義を守っていると言えるでしょうか。

 この点、現行の最高裁判所には裁判官の任命に対する議会の関与がないため民主的正統性が薄く、それが違憲審査の場面における司法消極主義につながっていると見ることもできますが、日本維新の会の案では、憲法裁判所の裁判官の任命に議会が関与することとしています。これに対しては、裁判官の任命が政争の具になるとの批判もありますが、むしろ、裁判官の任命が内閣の自由裁量に任されている現行の最高裁判所の方がよほど問題ではないでしょうか。

 例えば、アメリカの最高裁判所では、裁判官の任命に上院が関与し、上院の反対で任命されないこともあります。諸外国の憲法裁判所でも、裁判官の任命に議会が関与することは普通のことです。政争の具となることを避けたいのであれば、ドイツのように議会の特別多数を承認要件とすることや、与野党に推薦枠を割り当てる方法もあります。

 次に、制度上の問題として、付随的違憲審査制を採用していることによって、最高裁で終局的な憲法判断が下されるまでに時間がかかり過ぎることや、平和安全法制の合憲性など統治機構分野の法律が違憲審査の対象となりにくいこと、臨時国会不召集や衆議院の解散権の行使の合憲性など、国家機関間の憲法問題を判断できない等があります。

 これらの問題や一票の格差の問題は、日本維新の会が主張する形で憲法を改正し、憲法裁判所を設置して抽象的違憲審査制を導入すれば、合憲か違憲かが決着し、解決することになります。

 次に、緊急事態における司法の役割について述べます。

 これも先週述べましたけれども、議院内閣制を取る我が国では、与党が圧倒的多数を取った場合、国会が内閣に対する歯止めとなり得ない、あるいは内閣と一体になって暴走する可能性は十分にあり得ます。このような場合、民主主義の多数決の論理ではなく、法の論理によって司法が政治権力の暴走を止める仕組みが必要となります。

 この点、司法は国会や内閣に比べ民主的正統性が薄いため、政治部門による高度な政治的な判断を覆させてよいのかとの批判もあり得ます。しかし、憲法裁判所は、憲法という国民の意思に基づいて判断を下すのであり、むしろ国民のために権限行使をしていると考えられています。また、民主主義は間違えることがあり得る以上、民主制を統制する手段も用意されてしかるべきと考えます。

 また、頻繁な憲法裁判が起きるのではないかとの指摘もありますが、これはむしろ望ましいことだと考えます。日本では、事前審査も抽象的審査もないために適時に裁判所の判断が下されず、このため、先ほど述べた平和安全法制など、本来法的に解決されるべき問題が放置され、政治問題へと転化してしまうという問題があり、その方が立憲主義の観点から問題であると考えます。

 以上、本日述べたような理由から、憲法裁判所の設置が必要であり、また、緊急事態認定や議員任期延長についても憲法裁判所による司法的統制が必要と考えます。

 以上で発言を終わります。

國重委員 公明党の國重徹です。

 先ほど岩谷委員から、憲法裁判所に関するお話がございました。また、今日もそうですけれども、前回の審査会においても、我が党の吉田委員の意見陳述に関しても様々御指摘をいただきました。

 その中で、今日もありましたけれども、ドイツやアメリカ、フランスなどでは、この数十年間に違憲判決が各々四百件以上あったけれども、日本の最高裁が下した違憲判決は十一件しかない、日本の最高裁はこれで憲法の番人と言えるのかといった旨の御指摘がございました。

 確かに違憲判決の数は大きく違いますけれども、憲法の番人たり得るかということにつきましては、違憲判決の数だけで判断するのではなくて、国の立法システム、司法システム全体を見て判断すべきと考えます。

 我が国において違憲判決が少ないことにつきましては、立法段階で、閣法においては内閣法制局が、議員立法においては議院法制局が厳格な審査を行っていること、また、精緻な法体系が組み立てられている法文化があること、こういったことなども指摘をされておりまして、違憲判決の数だけで比較をするのはいささか乱暴ではないかというふうに思われます。

 その上で、国民のために司法的な救済の在り方として何がベストなのかという観点から検討すべき問題と考えます。これに関連して、先ほどもございました憲法裁判所の創設について、私からも若干意見を申し上げたいと思います。

 憲法裁判所については、我が国の司法消極主義への批判の観点から賛成する立場がある一方で、先ほど北側幹事からもありましたとおり、多くの論点があり、直ちにその創設ができるものとも思われません。言うまでもなく、憲法裁判所の設置は、日本国憲法が採用する付随的違憲審査制に抜本的な変更を加えるものでありまして、我が国の法文化や歴史に立ち返った検討が必要であります。

 例えば、憲法裁判所の権限は強力なものとなることが想定されますので、その裁判官には、大所高所から国家の在り方や行く末を見据えて判断できる素養が求められることになりますが、このような人材をどのように確保していくのか。また、憲法裁判所の裁判官の選出に当たって、どのように政治的な中立性を確保していくのか。

 より根源的な問題といたしまして、国会における政治的な争いが憲法裁判所にそのまま持ち込まれるのではないかといった裁判の政治化、また、国会における議論が憲法裁判所を過度に意識したものとなって、ひいては議会制民主主義の弱体化につながるのではないかといった政治の裁判化、このような本質的な問題についても指摘をされております。

 これらは、裁判と政治の双方がそれぞれの本来の役割が果たせなくなってしまうのではないかといった懸念であると思われます。

 憲法裁判所の創設は、我が国の統治機構を根本から変えるような改革になりますし、様々な論点があります。ですので、憲法裁判所の創設には慎重な検討が必要であるということを申し述べまして、私の意見表明とさせていただきます。

務台委員 自由民主党の務台俊介です。

 先週のこの審査会において、予算委員会開会中の憲法審査会について、立憲民主党の階幹事から、予算委員会開会中は他の委員会の審議を行うべきでないというのが衆議院の慣例であり、その慣例の下、憲法審査会も開会できない旨の発言がありました。

 この発言は、予算委員会開会中に憲法審査会を開会してどんな不都合があるのかという私の指摘に対する御回答でしたが、私への再度の質問もありましたので、この点に関して私の意見を申し述べます。

 一般の常任、特別委員会は、閣法に対する対政府質疑を中心としております。したがって、全閣僚が呼ばれる予算委員会が開会中は、各常任、特別委員会の審議を控えることは合理的な判断と言えます。加えて、衆議院で予算議決後に、その予算を前提とした具体的法案、施策について議論するため各委員会が一斉に店開きすることも筋が通っています。

 このような委員会運営は、合理的理由により与野党の合意に基づく背景があったもので、さしたる意味もなくそれが使われるしきたり、あるいは慣例に基づくものではないと理解しております。

 他方、憲法審査会は、議員間の討論の場でもあり、内閣提出法案がないのであれば大臣の出席もありません。各常任、特別委員会の事情は憲法審査会には当てはまらないと考えております。

 予算や法案審査を行う各委員会と憲法審査会を同列に論じ、憲法審査会を含めて一律に予算審議中は開会しないのが衆議院の慣例との認識をされている階幹事の御発言は、独自の見解に基づくものではないかというふうに考えております。

 実際、昨年は通常国会だけでなく臨時会においても予算審議中に憲法審査会が開催されていますが、これは慣例を破ったわけではなく、与野党の合意に基づいて審査会が開会され、議員間の討議が行われたということにすぎません。

 しかし、憲法審査会が安定的に開かれるようになったのは昨年からであり、それまでは、立憲民主党は参議院で予算審議中であることを理由に、三月末までの憲法審査会の開会に応じてもらえず、四月に入ってようやく幹事懇、五月の連休明けにようやく審査会が開会するという事態が継続しました。憲法審査会が開かれたことが珍しいこととしてニュースになるような異常な事態が長く続いてきました。このことは、様々なメディアで異常事態として非難されました。

 以上、総括すると、これまでも、階幹事がおっしゃるような慣例に基づき憲法審査会が運営されてきたわけではないというふうに考えております。仮に、階幹事が言う慣例があったとすれば、予算が衆議院を通過し、各委員会が一斉に店開きしているにもかかわらず憲法審査会だけが開催されなかった経緯について、筋の通った説明がつきません。

 私の理解では、本年も、立憲民主党の当初の主張は、衆議院の憲法審査会の開催は衆参の予算審議が終わってから、つまり四月以降でないと応じられないというものだったと伺っています。

 一方、自民、公明、維新、国民、有志の会は、いずれも二月当初からの憲法審査会開催を要請していました。

 ちなみに、共産党は、常に、憲法審査会そのものに反対されてきましたが、開催されれば出席して意見を言うという意味においては一貫しているというふうに見られます。

 つまり、客観的事実として、立憲民主党ただ一党が、慣例というマジックワードを盾に開催拒否のお立場にあったものと考えられます。自民党など五会派が主張した二月に憲法審査会を開催できなかったのは、国会の慣例によるものではなく、立憲民主党の拒否にその原因があったと言えます。

 これまでも自民党は常に早期の審査会運営を主張してまいりましたが、衆議院の予算審議が終わった三月頭に憲法審査会が開かれたのは今回が初めてだということです。この事例は、決して慣例によるのではなく、与野党の協議に基づく結果なのです。

 また、私が、予算審議中は憲法審査会を開会ししないことは内向きで国民の理解を得られないと申し上げましたが、階幹事は、衆議院の慣例が内向きで国民の理解を得られないのであれば慣例を廃すればいいとして、他の委員会でも大臣出席が不要な議員立法の審査を行えばよいとおっしゃっておられました。

 この御指摘は、他の一般の委員会と憲法審査会を同列に扱っている点で、認識が間違っていると言えると思います。また、それ以上に、各委員会の運営は、それぞれの理事会等で協議され決定されるという議会運営の原則に反する主張でもあります。

 憲法審査会の運営は、政局に絡めずに、国民のための憲法論議を静かな環境で粛々と行うということを基本としております。多くの国民の皆様も、憲法審査会の場で精力的な議論が積み重ねられ、国民が日本国憲法の課題やその打開策について多方面からの議論を理解し、その上で国民投票に臨むことに期待を持っています。

 今後も、憲法審査会が安定的に開催され、活発な議論が深まることを大いに願って、私の意見とします。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 最初に、今の務台先生の意見ですけれども、慣例は守りたいけれども憲法審査会は例外にしたいというのは、まさに御都合主義ではないでしょうか。我々は、議員立法の審査もちゃんとするのであれば慣例というものをなくしてもいいのではないかということを申し上げております。議員立法の審査はしたくない、でも憲法審査会は開きたいというのは御都合主義だと思います。

 その上で、前回の当審査会で、立憲民主党の国民投票法改正案について、小林委員から三点質問をいただきました。また、本日、新藤幹事や山下委員からもこれに関連する発言がありましたので、私の見解を述べたいと思います。

 第一に、国民投票の勧誘のための放送CMについて、主体を問わず国民投票運動の全期間にわたって禁止することは、表現の自由や国民投票運動の自由の過度な制約となるおそれがないかという点です。

 確かに、投票勧誘CMを規制することによって表現の自由等を一定程度制約することになりますが、昨今では、アテンションエコノミーによる過剰、過激、扇情的なCMによって視聴者の冷静な判断力が損なわれる危険が高まっています。そこで、表現内容に着目するのではなくて表現の手段に着目して投票勧誘CMを禁止するということは、合理性のある規制であり、表現の自由等への過度な制約には当たらないと考えております。

 第二に、意見表明CMについて、政党のみ禁止することは国民に対する情報提供の観点から問題ないかという点です。

 そもそも政党については、国民投票広報協議会を通じて国民に対する情報提供の機会が公正かつ公平に与えられているため、そうした問題はないと考えます。

 さらに、我々は、昨年末の山本参考人の御意見を踏まえて、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、各党を参加させての国民向けの説明会を開催したり、各党が動画や図表などを用いて意見表明するためのウェブサイトを設けたりすることなどを可能とする国民投票法改正案も用意しています。これを成立させれば、政党から国民に対する情報提供は一層充実するということを申し添えます。

 第三に、国民投票運動の自由と国民投票の公平公正とのバランスについてどう考えるかという点です。

 この点、国民投票運動は原則として自由という理念は現在も尊重されるべきものです。しかしながら、その背景にある、言論の自由市場によって虚偽情報や有害情報は淘汰され、国民は様々な情報をバランスよく受け取って投票の意思決定を行い得るという考え方は、経済格差の拡大とインターネットの普及により再考すべきときが来ているように思います。

 国家による言論統制は論外ですが、我々が提案する自己情報コントロール権、情報アクセス権、情報環境権を国民に保障することで、言論の自由市場の欠陥を克服し、国民投票の公平公正を実現する必要があると考えております。

 私の発言はここまでとしまして、残り時間の範囲で篠原委員から発言させていただきたいと思います。森会長、よろしいでしょうか。

森会長 ただいまの階君の申出について、筆頭間で協議をお願いいたします。

 筆頭間協議の結果、今回は特例として階君の残り時間の範囲内で発言を許可いたします。篠原孝君。

篠原(孝)委員 立憲民主党、略称民主党の篠原孝でございます。

 森会長より御発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

 前回、玉木委員から三点について質問をいただきましたので、端的にお答えいたしたいと思います。

 まず、緊急集会についてですけれども、私の真意は、せっかく憲法制定者が衆議院が欠けることを想定して参議院の緊急集会という手だてを用意してくれたのだから、まず、緊急事態には、衆議院の解散のときだけに限らず、緊急集会を活用することを考えるべきだということです。

 確かに、憲法五十四条第二項は漠然とした規定しかありません。そこで、どのような案件、どのような期間、どのような権限を与えるかについては、まさにこの憲法審査会で議論して決めればよいことではないでしょうか。

 玉木委員は、一九五三年の緊急集会で本予算ではなく二か月間の暫定予算しか処理されなかった事例や、土井マサカズ教授、シンイチ教授ではありません、土井真一教授の学説をもって、本予算は緊急集会になじまない、余り緊急集会は利用できないということを断定しておられますが、七十年前の一事例や一学説をもって緊急集会の機能を決すべきではないと思います。憲法の精神に大きく反しない限り、まずは緊急集会に委ねてもよいと思います。

 さらに、具体的に、複数年にわたって対応できるのかという質問ですが、確かに、憲法は、緊急集会の機能を一時的、暫定的としか考えていないと思います。ですから、玉木委員の言われるとおり、本予算まで審議するようなことは私は想定しておりません。ただ、封じ込めて役立てないというのはもったいないのではないかということを申し上げたかっただけです。ですから、余り長くならないように、期限を限定しつつ、任せてもいい事項を限定して利用すればよいのではないかというのが私の真意です。

 次に、任期延長についてですが、私も、四年、六年と決まっているものも立法で延長したらよいということを主張しているのではありません。総選挙もできない事態には、前議員に特別の資格を与えるということも議論されております。それをもう少し柔軟に考えて、例えば、選挙で選ばれた衆議院議員としてではなく、経験を積んだ前議員として特別な資格を与え、国会と言わずに、例えば、名前はどうでもいいんですが、緊急諮問会議とかいうようにつけて、ある程度の権限を与え、国政の重要な事項に関与できるようにすればよいのではないかということです。

 前回、細野議員が、任期延長するにしても、国会議員の保身と誤解されないようにすることが大切だと話されていました。私は、そのとおりだと思います。緊急事態なので、もう一踏ん張りしていただく。例えば、定年後の再雇用と同じく、半分ぐらいに給料は下がる、民間に準拠して半分の手当でというような柔軟な工夫をすれば、有権者の納得を得られるのではないでしょうか。

 これまた細野委員の指摘のとおり、いざという緊急事態にこそ、政府が何をするか分からないので、国民は、意思表示をしたい、選挙を望んでいると思います。ですから、その期間をなるべく短くして、選挙を早くできるようにすべきだと思います。

 それから、三番目ですが、まとめて憲法改正ということについてですけれども、私は、憲法違反のことを、特別立法を次から次にやってというようなことを考えておりません。今日申し上げました緊急諮問会議も一例ですし、我が党と維新と共同提出している五十三条の臨時国会召集の二十日以内の開催というのもそうですが、憲法が想定せず規定していないことについて、憲法の精神に反せず、その枠内で工夫、立法措置でやってみて、数年ぐらいたってからまとめて明文化したらどうかという提案です。

 これまた細野委員の意見に共鳴するわけですが、国民投票に諮る憲法改正の第一弾が国会議員の任期延長というのは、国民の琴線に触れず、何をしているのかと疑問を投げかけられるのではないかと思います。憲法九条第二項、今、反撃能力の関係とか、LGBTというような人権問題に関わること、国民が関心を持っている事項をさておいて、これだけを先行するのは余り好ましくないのではないかと思います。

 例えば、ですから、国会の機能強化ということでまとめて、緊急事態の国会の在り方のほか、今の例もありますし、オンラインの審議とか、三、四項目ぐらいそろえて、実行してみて、その後に憲法改正をするべきではないかということを言いたかったのです。私の思いは、いきなりどぎつい憲法改正をするとなかなかまとまらないので、今の憲法の不備を立法で補いつつ、一工夫してコンセンサスを得ていった方がスムーズにいけるのではないかと思います。

 最後に、私の粗っぽい表現で玉木委員が寝つけなかったとのことですが、これでぐっすり眠れるようになることを願っております。私の発言は、場が和むようなことがあっても、そういうことはなかったと思いますが、今後は、迷惑をかけてはいけませんので、格式のある憲法審査会では格調高い意見だけを申し述べるように努めてまいりたいと思います。

 以上で終わります。

森会長 まだ御発言の御希望もあるようでございますが、予定した時間が経過いたしました。

 この討議の取扱いについては、ただいま与野党の筆頭間で協議をいたしておりますので、今後については、これを踏まえ、幹事会等において対応をいたしたいと存じます。

 これにて討議は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十分散会


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