衆議院

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第6号 令和5年4月6日(木曜日)

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令和五年四月六日(木曜日)

    午前十時一分開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 上川 陽子君

   幹事 柴山 昌彦君 幹事 新藤 義孝君

   幹事 山下 貴司君 幹事 中川 正春君

   幹事 馬場 伸幸君 幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      石破  茂君    石原 正敬君

      越智 隆雄君    勝目  康君

      神田 憲次君    神田 潤一君

      熊田 裕通君    小林 鷹之君

      高村 正大君    下村 博文君

      田野瀬太道君    中西 健治君

      船田  元君    古川 禎久君

      古屋 圭司君    細野 豪志君

      堀内 詔子君    務台 俊介君

      山本 有二君    渡辺 孝一君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      奥野総一郎君    城井  崇君

      近藤 昭一君    篠原  孝君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    岩谷 良平君

      小野 泰輔君    三木 圭恵君

      國重  徹君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    玉木雄一郎君

      赤嶺 政賢君    北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月六日

 辞任         補欠選任

  岩屋  毅君     高村 正大君

  大塚  拓君     勝目  康君

  國場幸之助君     堀内 詔子君

  辻  清人君     神田 潤一君

同日

 辞任         補欠選任

  勝目  康君     大塚  拓君

  神田 潤一君     辻  清人君

  高村 正大君     岩屋  毅君

  堀内 詔子君     石原 正敬君

同日

 辞任         補欠選任

  石原 正敬君     國場幸之助君

    ―――――――――――――

四月五日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第七三七号)

 同(笠井亮君紹介)(第七三八号)

 同(穀田恵二君紹介)(第七三九号)

 同(志位和夫君紹介)(第七四〇号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第七四一号)

 同(田村貴昭君紹介)(第七四二号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第七四三号)

 同(宮本岳志君紹介)(第七四四号)

 同(宮本徹君紹介)(第七四五号)

 同(本村伸子君紹介)(第七四六号)

は本憲法審査会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題について討議を行います。

 この討議につきましては、幹事会の協議に基づき、まず、各会派一名ずつ大会派順に発言していただき、その後、各委員が自由に発言を行うことといたします。

 それでは、まず、各会派一名ずつによる発言に入ります。

 発言時間は七分以内といたします。

 発言時間の経過につきましては、おおむね七分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 発言の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自由民主党の新藤義孝でございます。

 この度は、緊急事態条項について、維新、国民、有志、三会派が共同提案をされ、本日の配付資料としてその概要が示されております。後ほどそれぞれの会派より御説明があると思いますが、この内容は、これまで審査会において討議されてきた内容を反映されたものであり、建設的かつ真摯な議論の結果として歓迎したい、このように思います。

 今後は、私たちが申し上げている観点も含め、審査会において更に議論を深め、作業を詰めていきたい、このように考えておるわけであります。

 これまでの討議で、議員任期延長については、国会承認の際の議決要件と裁判所の関与の是非、その在り方が残る論点として絞られていると思います。この点につきましては、私も意見を申し上げておりますので、各会派からの御意見もいただき、引き続き論議を進めていきたい、深めたいと考えております。

 なお、議員任期延長の前提となっている参議院の緊急集会については、この審議会において、それが一時的、限定的な性格を持つという意見や、最大限これを活用してはというような意見が出されております。今後、参議院憲法審査会での討議の状況も見ながら、議論のレベルを合わせていくことになると思われます。

 この際、私から申し上げておきたいのは、そもそも私たちがこのような緊急事態条項の論議を行う大前提は、国はいかなる状況に陥っても国会機能を維持し、民主的統制の下で国家運営を行っていかなくてはならないということであります。そして、緊急事態が発生し、平時のルールでは国会が機能不全に陥ってしまう状況になれば、その際は例外的な措置を取ってでも国会機能を維持する必要があり、緊急事態条項は、その根拠となる規定を憲法に整備しようとするものであります。

 つまり、やむを得ない場合に備えるための条項であって、積極的にこの条項を活用するような意図を持つものではありません。

 その上で、緊急事態条項により国会機能の維持を図ろうとしても、それでも維持できないような場合、すなわち、議員が参集できない、国会が物理的に開会すらできないような究極の事態も想定しておかなくてよいかという問題が残るわけであります。

 今議論をしております国会機能維持のための議員任期延長では対応し切れない事態が想定される以上、他国の憲法にあるような、究極の事態において内閣が一時的に国会機能を代行する緊急政令、緊急財政処分の制度についても議論が必要ではないか、このように考えます。

 こうした内閣による緊急政令、緊急財政処分の権限発動は、あくまでも一時的、暫定的な国会機能の代行であり、国会機能が回復した時点で速やかな国会の同意を必要とすることはセットで考えたい、このように思います。

 本日は、憲法九条の改正について、私なりの考え方をお手元の配付資料に沿って説明をしたいと思います。

 まず、九条を議論するに当たっての大前提は、日本国憲法三大原理の一つである平和主義は堅持するということであります。九条一項の戦争放棄と二項の戦力不保持、交戦権否認は、いずれも徹底した平和主義の精神、すなわち専守防衛を端的に表したものであり、この原理は今後もしっかり受け継いでいくものと考えております。

 他方、近年、中国の軍事力の増強、北朝鮮による核やミサイル開発の進展、宇宙やサイバー空間といった新たな安全保障領域の誕生など、我が国を取り巻く安保環境は劇的に変化をしています。さらに、昨年二月に始まったロシアによるウクライナ侵略は、一年を超えてもなお激しい戦闘が継続しており、ウクライナ問題は決して対岸の火事とは言えません。

 こうした安保環境の激変に対応するため、我が国は平和安全法制を整備し、昨年暮れには、新たな防衛三文書を閣議決定しました。しかし、これらは全て、法律やそれ以下の閣議決定などで定められているものであります。

 まず、配付資料の一、国防規定・自衛隊を御覧になってください。

 そもそも、国の最大の責務は、いかなる場合においても国民の生命と財産、領土や主権を守り抜くことです。にもかかわらず、この国家の最重要任務に関する規定が基本法である憲法に全く存在しないことは、独立主権国家の憲法としておよそ不自然であり、現行憲法には最も根幹に当たる規定が欠落していると言わざるを得ません。

 我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つという、自衛隊法や事態対処法といった法律に規定されている国防の概念をその大本である憲法に規定することが、特に障害になるとは考えられません。本来、こうした国家の根幹に当たる概念は基本法にある憲法に基づいて導かれるものであり、既に法律で規定されているものを憲法に規定することは、むしろ当然と言えるのではないでしょうか。

 そして、この国防を担う実力組織として自衛隊を憲法に明記することは、基本法である憲法が掲げる、あるべき国の形を整えることにつながると考えております。

 このような考えに基づき、私たちは、現行の九条一項、二項をそのまま維持した上で、九条の二として、前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置を取ることを妨げず、そのための実力組織として自衛隊を保持する旨の規定を設けてはと提案をしているわけであります。

 次に、配付資料の二、必要最小限度・専守防衛というところを御覧ください。

 国防及び自衛隊の規定を設けたとしても、現行の九条一項、二項はそのまま維持しますので、自衛権の行使は必要最小限度という現在の解釈に全く変更はございません。先ほど説明した必要な自衛の措置という表現には最小限度の文言がないという御指摘をいただくことがございますが、この表現は、昭和三十四年の砂川事件最高裁判決にある文言、すなわち「わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。」という判決文を参照したものです。

 そして、ここで言う必要な自衛のための措置の意味は、配付資料の中央、「平和主義(九条一・二項)を基本原則とする憲法が自衛の措置を無制限に認めているとは解されない」とあるように、あくまで、必要な自衛のための措置は、必要最小限度、専守防衛のことであるとの解釈を堅持するものであります。

 さらに、配付資料の三、シビリアンコントロールの在り方について。

 私たちは、九条の二の第一項として、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とするという政府内の統制と、第二項として、自衛隊の行動は国会の承認その他の統制に服するという国会による民主的統制の両面から規定し、シビリアンコントロールについて提案をしています。この考え方も自衛隊法や事態対処法などに規定されているものであり、基本法たる憲法に規定することは当然のことと考えております。

 国防、安全保障に関する議論は、緊急事態条項の議論と併せ、国の根幹を成すものであります。それだけに、各会派には様々な御意見があると思いますが、大切なのは、各会派が一つのテーブルに着き、様々な意見を持ち寄り、議論を深めていくことです。その議論の経緯を国民の皆様に明らかにしていくことこそが、国民投票を行う際の最も重要な要素になると考えております。

 次回以降、審査会における討議の中では、この重要なテーマについても、各会派委員との意見交換を行い、より議論を深めていきたいと考えております。是非、各会派の委員なりの御意見を頂戴いただければと思います。

 今朝の幹事会において、来週の定例日にも審査会を開催し、議論を継続することを提案いたしました。今後も憲法審査会が安定的に開催され、充実かつ深い議論が行われるよう、委員各位の御理解と御協力をお願いして、私の発言といたします。

森会長 次に、中川正春君。

中川(正)委員 立憲民主党の中川正春です。

 今日は、立憲民主党が進める論憲の中身について総括をしていきたいと思います。

 時代の変遷とともに憲法も見直すことが必要だと言われています。しからば、その具体的な立法事実は何か、これが論憲の出発点であります。続く論憲の過程で、第一には、現状において、憲法に違反するような権力の濫用や、政権に都合のよい憲法解釈の変更がなされていないかという検証。第二には、新たなルール規定が必要な事象が表れたとして、法律の改正で整理することが可能か否かという検証。そして第三には、憲法制定時には想定されなかった新しい課題に対して、憲法の改正をもって整理することが望ましいということではないかという検証。こうした手順を大事にしていくことが論憲だというふうに思っております。

 立憲民主党では、まず、次に述べる四つの分野に焦点を当て、各々の憲法上の課題について具体的な議論を進めています。

 一つは情報化社会と人権保障、そして地方自治、国会の在り方、そして安全保障であります。現在、各分野において中間報告をまとめつつあります。

 まず第一に、情報化社会と人権保障の分野では、議論を三つの領域に分けて、その解決の方向性を探りました。一つは、国家や組織等からデータを通じて制御されない自由を保障する自己情報コントロール権。二つ目は、国家に必要な情報を開示させる請求権である情報アクセス権。三つ目は、多種多様で健全な情報に接する環境を保つように国家等に求める権利である情報環境権であります。国民投票法改正の議論においても、上記の権利について更に広く深く考えていくということが必要だと思っております。

 第二に、地方自治の分野では、憲法における地方自治規定は、その規定密度の低い点において議論の余地があると思っています。その上で、理念としての地方自治の本旨に、団体自治や住民自治に加えて、補完性の原理や近接性の原理を読み込むべきではないだろうかということ。さらに、地方分権を進める観点から、法律と条例の関係を問い直すことや、政省令委任から条例委任への法体系の見直し、同時に自治財政権の確立ということも必要だということ。この方向性を持って議論を深めていくということだと思っています。

 また、中間報告では、統治機構の在り方としては、現状の一律の二元代表制という制度以外に他の選択肢を設けることや、住民投票や外国人の政治参加についても更なる議論が必要だとしております。特に、憲法上の結論を出していかなければならないとすれば、繰り返される一票の格差訴訟や合区問題への対応であります。平等という概念を人口比例原則だけで捉えた今の選挙の区割りだけでなく、行政区単位で代表を出すことで、人口減少地域からの代表選出を保障すべきだという意見も根強く出ております。

 参議院の役割の見直しなども念頭に、憲法を見据えた更なる議論が特に今の時点で必要であるというふうに考えています。

 第三は、国会の在り方であります。

 憲法は徹底した国会中心主義を採用しており、平時、有事を問わず、いかなる場合でも国会機能の維持は大前提です。

 まず、内閣総理大臣による解散権の恣意的な行使に対しては、解散権行使を法律で制限するか、又は改憲が必要だというふうに考えています。また、憲法五十三条に基づく臨時会召集の要求を内閣が放置する憲法違反が常態化をしています。私たちは、召集期限を法定する内容の国会法改正案を衆議院に提出をしております。さらに、緊急時における内閣への権限集中については、各分野の個別法で対応している今の形、現状の形を、危機事態の想定を厳しくしながら、法律でもって改正していくことが適切だと考えています。

 その上で、任期満了時に大規模災害等で選挙が執行できない状況を想定した中での参議院の緊急集会などの議論は、選挙困難事態という形で捉えていくこと。さらに、選挙困難事態の具体的な定義や判断主体などの議論がまず先行されなければならないと思っております。

 その上で、その間の国会機能をいかに持続させるかという観点で、平時の国会機能に関する諸課題と併せた全体的な話の中で整理していくことが必要だと考えます。すなわち、解散権、臨時会の召集義務、オンライン審議などと並行して、参議院の緊急集会、議員任期の延長の仕組みを総合的に議論すべきであります。中でも、特に参議院の緊急集会については、参議院の憲法審査会自身の議論が先行されるべきだというふうに考えています。

 また、最高裁が違憲審査権を適切に行使しないために、違憲審査機能を事実上政府の一部局である内閣法制局に委ねている現状は問題であるというふうに考えます。裁判を政治や政局に巻き込まないことを前提にして現状の裁判所を改革するのか、又は憲法裁判所を創設するかなどの議論を深める必要があるというふうに考えます。

 第四の分野は、安全保障です。

 この間の議論ではっきりしていることは、まず、憲法九条から導かれる専守防衛、集団的自衛権の排除、必要最小限度の自衛力という実質規範は、日本の安全保障理念の基本として、現在も、また将来にわたっても大切にしていくべきことだというふうに考えます。

 今、国会で議論されている敵基地攻撃能力や日米安保協力の見直しなどについては、憲法規範を超えるものではないかという疑念が持たれています。このようなことが議論されている今だからこそ、憲法に照らしてどうなのかという議論は、この審査会において、最優先で集中テーマとして取り上げるべきだというふうに考えています。

 以上の四分野以外でも重要な課題はあります。欧米先進国と比較して議論の遅れが指摘されている同性婚やLGBTQの諸課題です。審査会で緊急に議論の俎上にのせるべきであります。解釈と法改正により対応するのか、憲法改正がふさわしいのか、国民的合意に向けた結論を導き出すことこそ、この憲法審査会が果たすべき使命だと私は考えています。

 最後の締めくくりとして、これまで述べた取組を踏まえて、最優先で集中審議すべき項目を改めて示します。まず、一票の格差の問題、そして同性婚、さらに安全保障であります。各会派には、特にこの三つを取り上げていただいて、集中討議の場を皆でつくることを踏み出していただくことを求めて、今日の発言を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

森会長 次に、馬場伸幸君。

馬場(伸)委員 先週の憲法審査会で各政党会派から、私の師匠でありました中山太郎先生の御逝去に関しまして哀悼のお言葉を賜りましたこと、心から厚く御礼を申し上げたいと思います。

 中山太郎先生が御逝去されたことは、中山先生を師匠と仰ぎ、敬愛していた私としては大きな心の痛手であります。中山先生の御冥福を心からお祈り申し上げるとともに、中山先生の悲願であった憲法改正、国民投票の実現に邁進していくことをここに改めてお誓いを申し上げたいと思います。

 さて、先週、三月三十日に、立憲民主党の枝野委員より中山方式について御発言がございましたが、根本的に中山方式に対する御理解がなされていないことにとても驚きました。

 中山方式とは、憲法を議論するに当たって、改憲に賛成する会派も反対する会派も、政局を論議に持ち込むことなく、同じテーブルに着いて議論し、共通の認識を見出していくということ、つまり、全会一致が原則であるとは言っていません。現に、平成十七年四月の憲法調査会の最終報告書の議決について、共産党が反対をしています。中山方式とは、立法府として、イデオロギーで国民を分断させないためにオープンの形で徹底的に議論し、最後は民主主義の原則に沿って、つまり多数決によって結論を出すことであります。それが中山先生の思いでした。

 枝野委員は、政局を持ち込まずに議論するという中山方式が破られていると述べておられましたが、破っているのは、憲法審査会を慣例により予算委員会開催中は開かないと言い張ったり、多くの党派が緊急事態の議員の任期延長について議論しようと建設的な意見を述べているのに、国民投票法のネット規制のみに議論を集中させようとし、これが完璧に解決するまで憲法改正の発議をすることはまかりならないと主張する立憲民主党自身ではないですか。

 中山先生の爪のあかでも煎じて飲んでいただきたい旨、枝野議員から御発言がありましたが、それはそのままそっくり立憲民主党の枝野委員にお返しいたします。

 今の憲法審査会の状況を御覧になって、中山先生はいかが思っていらっしゃるでしょうか。御自身が築き上げた憲法を議論する土台である憲法審査会で、御自身の思いが勝手に後世の人間によってゆがめられ、憲法改正の道が遠のくことにじくじたる思いでいらっしゃるのではないでしょうか。

 枝野委員は、私は一日も早く国民投票法採決の傷を癒やし、中山方式と呼ばれた建設的な議論が回復することを望んでいましたとも発言されました。この発言こそ、公正で民主的な方法で採られた採決を強行採決と言い張り、中山先生の御偉業にけちをつける、けしからぬ発言です。

 我が党は、先週、国民民主党、有志の会と緊急事態時の国会議員の任期延長について合意し、成案をまとめました。真摯に議論するというのであれば、この三党派でまとめた案を議論してください。論憲だというなら、どこの党が出した条文案であろうと議論すればよいのであり、少なくとも私たちは、別の党がもしこの法案に対して対案を出されるのであれば、かんかんがくがくの議論をする準備は整っています。論憲を自負される立憲民主党も、この国会議員の任期延長について条文をまとめられてはいかがでしょうか。

 枝野委員は、中山方式とは、現状のように、ただ形式的に、あるいは国会対策的に野党を巻き込もうとしたものではありませんとも述べられました。いつまで巻き込まれるという受動的なお立場を論憲を掲げる立憲民主党が持ち続けられるのですか。

 喫緊の課題である緊急事態時の国会議員の任期延長については、維新、国民民主、有志の会でまとめた条文案が憲法審での意見集約のたたき台になり得ると考えています。自民、公明はもちろん、立憲民主党も可及的速やかに成案を出し、一致を得るよう真剣に取り組んでいただきたいと思います。この問題にイデオロギーが差配する余地はないはずであります。

 また、三党派の合意では、憲法裁判所については、今国会中に成案を得ることを目指す、国会機能が維持できない場合に備えた緊急政令及び緊急財政処分に係る規定についても、論点を整理し、条文案の作成に向けて、引き続き検討を進めるとしており、我々は不断の努力をもってこの緊急事態条項に取り組むことは言うまでもなく、他の改正項目についても志を同じくして取り組んでいこうと決意を新たにしています。

 国民のため、国のための建設的な憲法改正議論を一日も早く行うことが国会議員の責務として課せられています。ここに出席されている全委員に憲法改正に共に真摯に取り組んでいただきますことをお願い申し上げまして、私からの発言を終わります。

森会長 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 いかなる緊急事態が発生しても、国会は、唯一の立法機関、全国民を代表する国権の最高機関として、その役割を果たしていかねばなりません。そのため、緊急事態において国会機能の維持をどう確保するのかという観点から、当審査会では昨年来論議を積み重ねてまいりました。

 まず、緊急事態が発生し、議場に国会議員が参集するのが困難となった場合にどうするのかが議論され、憲法五十六条一項の「出席」の概念は、例外的にオンラインによる出席も含まれるとの意見が大勢となり、その結果を昨年三月、衆議院議長に報告したことは御承知のとおりでございます。

 次に、大きな論議となっているのは、議員任期満了前若しくは衆議院解散後に緊急事態が発生し、国政選挙の適正な実施が長期間困難と認められるときに、国会の機能を維持するため、憲法を改正して国会議員の任期の延長ができるようにする必要があるのではないかということです。

 緊急事態における議員任期延長の必要不可欠な要件は、国政選挙の適正な実施が長期間困難という選挙困難事態であることです。三月二十三日の審査会で述べましたように、選挙困難事態とは、大規模な自然災害など緊急事態の発生により、選挙の一体性が害されるほど広範な地域において、国政選挙の適正な実施が七十日間を超えて困難であることが明らかであると認められる事態と定義されます。

 また、選挙困難事態の認定について国会の承認があると、内閣は、速やかに、事態認定の日から最大六か月以内の日に選挙期日を延期し、延期された選挙期日の前日まで議員の任期を延長するとします。

 逆に申し上げますと、当然のことでありますが、どのような緊急事態が発生しようと、選挙困難事態と認定されないのであれば、予定どおり国政選挙を実施するだけで、議員任期の延長という問題は生じません。

 緊急事態においては、内閣に法律に代わる緊急政令を発布する権限を持たせるべきか等のその他の論点がありますが、その当否は別といたしまして、これは議員任期延長の有無に関わらないテーマであることを確認したいと思います。

 また、選挙困難事態の認定に係る国会承認の議決要件について、過半数でもよいのではないかとの意見があります。

 憲法上定められた国会議員の任期は、議会制民主主義の土俵に関わる事柄です。衆議院議員は原則四年、参議院議員は六年と憲法上明記されているのは、正当な選挙によって主権者である国民から国政を信託された期間、期限を意味するものです。日本国憲法の前文冒頭にあるとおりです。緊急事態において議員任期の延長を認めるとすると、これはその重大な例外となるもので、やはり国会の承認には各議院の三分の二の特別多数が必要と厳格に考えるのが適切と考えます。

 さらに、国会議員の任期延長の効果をもたらす選挙困難事態の認定には司法の関与が必要との意見があります。まず憲法裁判所を創設し、これを関与させようという考え方があります。

 しかしながら、憲法裁判所の創設には、その是非自体に多くの論点があります。また、現行憲法の司法権を始め、統治機構に大きな変更をもたらすもので、憲法の改正が当然必要であることは言うまでもありません。

 さらに、仮に憲法改正をして憲法裁判所を創設することが認められたとしても、その権限の内容、訴訟手続、裁判所の組織、裁判官の資格等、法律等で詳細な制度設計が必要となります。議論することは全くやぶさかではございませんが、直ちにその創設ができるものではなく、少なくとも、緊急事態における議員任期延長の課題とは切り離して論議をされるべきと思います。

 次に、現行憲法の違憲審査制度の下で司法の一定の関与ができないかですが、裁判所法三条では、裁判所は、一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において定める権限を有するとあります。選挙訴訟や国民投票無効訴訟のように、別に法律で要件、手続等を定めて法適用の客観的適正を保障しようとするもので、いわゆる客観訴訟と呼ばれています。

 議員任期延長の効果をもたらす選挙困難事態の認定等について、その憲法適合性を直接に争う訴訟類型を法律で創設することは検討できると思います。ただし、選挙困難事態の認定は、内閣が被災状況、復旧状況等の事情を総合的に考慮して国政選挙を適正に実施できるのかという判断であること、また緊急を要する判断であることを鑑みますと、内閣の判断が合理的な裁量の範囲を大きく逸脱し、極めて明白に違憲であると認められる場合に無効となると考えられます。

 また、三月二十三日の審査会で、選挙期日の延期は、同一の事態で、最初の選挙困難事態の認定から通算して一年を超えることはできないとしてはどうかとの私の発言に対しまして、先週、御質問がございました。

 緊急事態の発生により、選挙の適正な実施が長期間困難として、選挙期日の延期、そして議員任期の延長を認めるにしても、一方で、議会の民主的正統性の維持、確保を図っていかねばなりません。国難ともいうべき緊急事態だからこそ、国民の信任が不可欠です。その意味で、同一の緊急事態が継続していても、事態発生から一年の間に選挙ができるようにすべきではないかという趣旨です。

 東日本大震災の際、選挙期日を延期した理由は、有権者である住民が極めて甚大な被害、被災を受け、到底選挙ができる状況ではないということですが、一方で、選挙事務の執行も事実上不可能であったという事情があります。選挙管理委員会や地方公共団体の職員自身が被災者であり、また、被災自治体は、全国の自治体等からの応援も得て、被災者の救助、救援、復旧に懸命に取り組みました。たとえ緊急事態の状況が継続していても、事態発生の初期と一年経過後とでは事情が相当異なっているのではないでしょうか。

 緊急事態の新たな発生があると認められない限り、一年という時間経過がある中で、ネット投票の活用等も含めて選挙を実施しなければならないとすることによって、民主的正統性の維持という要請に応えるべきと考えたところでございます。

 以上、本日の私の意見表明といたします。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 先ほど維新の馬場幹事からも紹介があったとおり、先週、日本維新の会、国民民主党、有志の会の三会派で、緊急事態条項のうち議員任期の延長に関する条文案について合意を得ました。この条文案の中身は本審査会での議論を踏まえたものでありますので、憲法改正に向けた現実的かつ合意を得やすい内容になっていると思います。今後、当審査会における成案作りのたたき台として御議論いただき、他の会派の皆さんとも丁寧に合意を得ていきたいと考えています。

 内容については、先ほど馬場幹事から資料を基に説明があったとおりですが、このうち選挙実施困難と前衆議院議員の身分の復活について追加で私から説明し、奥野委員と篠原委員に前回十分にお答えいただけなかったので、質問させていただきたいと思います。

 まず、私たちが、この資料のうち、上の実体的要件のところに書いてある、選挙の一体性が害されるほど広範な地域において国政選挙の適正な実施が七十日を超えて困難であることが明らかな場合に延長を認めることにしていますけれども、逆に言うと、七十日までは可能な限り参議院の緊急集会を活用しようという趣旨であります。決して緊急集会をないがしろにしたり、参議院をないがしろにしたり、権限の縮小を意図したものではありません。

 また、長谷部恭男先生などが認めている、緊急集会が解散時のみならず任期満了時にも開催できることを条文上明記し、解釈論争に結論を出していることも前回説明したとおりであります。このことで、一時的、暫定的、限定的な対応は緊急集会、七十日を超えるような長期にわたる場合については任期の特例延長という形で、両者のすみ分けを条文上明確にしているというのが一つの特徴です。

 佐藤功先生の学説でも、緊急集会制度は両院制の国会に対する極めて特殊な場合の異例的、変則的措置とされており、また、緊急集会制度には濫用の危険もあるともされています。

 さらに、高辻正巳元法制局長官は、例えば、取り扱える案件として、条約締結の承認については、衆議院の同意を欠けば承認の効力が失われる以上、当該条約の法的地位を安定化することにはならず、かえって相手国との信頼関係を損なうおそれがあり、緊急集会の措置としてはなじまないとされています。

 この論点に関して、奥野委員は、前回の審査会で、任期の延長に関して、公選法が規定する繰延べ投票での国会議員の任期延長はできないと思っていると明言をされました。また、解釈や国会法等の改正で対応できないことが明確になれば、我々も議員任期の延長を議論すべきであり、議員任期の延長をするということになれば、憲法改正は自明であるとも発言をされました。これは極めて前向きな発言であり、是非、一致点を見出す議論を積み重ねてまいりたいと思います。

 今後、緊急集会でできる範囲とできない範囲、法改正でできる範囲とできない範囲を明確にするための議論に、立憲民主党におかれても積極的に関わっていただきたいと思います。

 なお、こうした奥野委員の発言は、立憲民主党全体の考えと捉えていいのか。というのは、昨日、参議院の筆頭幹事である杉尾議員からは、私たちの会派は憲法改正による議員任期の延長は明確に反対と断言されているので、先週聞いた話と昨日杉尾議員が参議院で発言された内容が同じ党で異なっているので、これはどうなのかということを、中間報告を読むと認める余地があるように書いてあるんですが、この点、お答えをいただければと思います。

 もう一点、三会派の条文案では、解散後、任期満了後の前議員の身分については、延長の国会決議をするために必要な限度において、任期は終了していないものとみなす規定を創設し、議員身分が復活した上で任期を延長するという規定にしています。

 この点について、篠原議員に是非質問したいと思います。前々回ですね、前回はいらっしゃらなかったので、篠原委員は、選挙で選ばれた衆議院議員としてではなく、経験を積んだ前議員として特別な資格を与え、国政の重要事項に関与できるようにすればいい、緊急事態なのでもう一踏ん張りしていただく、立法措置でやってみて、数年ぐらいたってからまとめて明文化したらどうかと述べておられます。

 まさに、緊急事態において前議員に議員並みの国政の重要事項に関与できる権限を与えるアイデアは傾聴に値すると思います。なので、まさにそれは憲法に書くべき話なので、我々三会派の条文としては、前議員の身分復活規定について憲法上明記しています。

 逆に言うと、議員でない者に議員同様の国政の重要事項に関与できる権限を与えるような立法は、議員任期を定めた憲法四十五条、四十六条、国会が唯一の立法機関と定めた憲法四十一条、参議院の緊急集会による対応を定めた五十四条二項などに違反する立法になると考えます。

 篠原委員の提案する立法は大変ユニークなんですが、違憲立法ではないかな、かかる立法はなかなか実現不可能だと思うんですが、改めて、ここは篠原委員の考え方を伺いたいと思います。

 あわせて、取り扱える内容についても、いわゆるフルスペックでできるのかという議論があるんですが、先ほど提示をした条約承認、これは、本予算ができないのではないかということはこの前答えをいただきましたけれども、条約承認についても緊急集会で対応可能と考えるかどうか、あるいは、篠原委員の提案する、特別な身分復活による国政の重要事項として取り扱えるのか、この点についての考えを伺いたいと思います。

 最後に、立憲民主党の小西洋之参議院議員は、任期満了前に必ず解散するという立法措置を講ずれば、憲法改正せずとも議員任期の延長ができると主張していると承知をしております。ただ、七十日を超えて、長期的、確定的、フルスペックで国政の重要事項について緊急集会で処理するのは、やはり二院制を前提とする現行憲法に反する立法になると考えます。

 なお、解散のない参議院にはそもそも適用できないのではないでしょうか。今後、緊急集会についての有識者の意見を伺う際には、自称憲法学者の小西洋之参議院議員にもお越しをいただいて、是非併せて御意見を賜りたいと思います。

 とにかく、我々国民民主党は、緊急事態にこそ国権の最高機関である国会の機能を維持し、行政監視機能や立法機能を保持することで行政権の肥大化や濫用を防止し、もって憲法が保障する基本的人権を守ろうと考えています。立憲主義を貫くためにも、憲法で定める議員任期の延長は憲法改正によって規定すべきであることを改めて申し上げて、発言を終わります。

森会長 ただいま御質問があった篠原君、奥野君、簡潔にお答えいただけるなら、ひとつお願いいたします。場合によっては、次回にしていただいても結構ですが。どうぞ。

奥野(総)委員 ちょっとまた総務委員会に戻らなきゃいけないので、筆頭理事、済みません。

 一応、前回の発言は、党の調査会長である中川さんと了解の上での発言であります。だから、きちんと議論して結論を出すというのは当然のことでありまして、最初から、絶対改憲しないとか、結論ありきではないというのが我が党のスタンスだと思います。まあ、杉尾さんは杉尾さんの思いがあるし、ハウスが違うので。きちんとした議論をこれから積み上げていく。

 いろいろな御提案がありますが、いろいろな諸説あるのは事実ですけれども、なかなかこの緊急集会についてきちんと取り上げた学術論文とかもないようですから、この前から私が提案しているように、有識者の御意見を聞いて、射程をまずきちんと決めていく。それから、当然、ハウスが違う話ですから、参議院の意見も聞かなきゃいけないだろうというふうに思っていますので、きちんとした段取りとして議論を詰めていくということだと思っています。

玉木委員 奥野委員の意見が正統派の意見だと理解しました。

森会長 篠原君、御発言ございますか。

篠原(孝)委員 私の意見も慎重に検討していただいて、ありがたいことですけれども。答えられるのと答えられないのがありますけれども、予算案もそうですけれども、条約を、緊急事態のところにほかのところでこの条約案件を急ぐというようなのは、想定が非常にできないです。それは、こういう任期延長のときというのは、そういうときには権限を与えるべきではないと思います。

 だけれども、今やらなくちゃいけないことについては、国会と同じような権能を与えてもいいんじゃないか、緊急事態なのでね。だからといって、全てのことについて憲法にきちんと規定しなくちゃいけないというのは、僕はそれは理想だと思います。しかし、安全保障の大事な部分だって、違憲じゃないと言いつつ、違憲だと思われるようなこともしているわけですからね。そういう技術的なことなどは、それなりに任せてもいいと僕は思います。そういうことを申し上げたんです。

森会長 この続きは次回以降にお願いいたします。

玉木委員 分かりました。では、続きはまた。

森会長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 この間、私は、岸田政権が進める大軍拡の問題点を指摘してきました。

 一昨日は、本会議で安保三文書の報告と質疑が行われました。今日の午後には、今後五年間の軍事費四十三兆円を確保する財源確保法が審議入りをいたします。岸田軍拡と憲法との矛盾はいよいよ深刻になっていると思います。

 今日は、この間の三文書をめぐる議論で欠かすことのできない点として、在日米軍の存在について述べたいと思います。

 在日米軍は、一九五一年にサンフランシスコ講和条約と引換えにアメリカから押しつけられた安保条約により、占領軍から条約に基づく駐留軍となり、今なお、全国百三十か所以上の基地を持ち、世界最大の約五万四千人の米軍兵力が駐留しております。世界で唯一、空母打撃群と海兵遠征軍が前方展開し、横須賀の原子力空母や長距離巡航ミサイル・トマホークを搭載した十一隻のイージス艦、数百機に及ぶ岩国、三沢、嘉手納の空母艦載機や戦闘攻撃機、沖縄の海兵隊や佐世保の強襲揚陸艦など、いつでも出撃できる体制を取っています。さらに、近年、オスプレイや無人偵察機の配備、海兵沿岸連隊への改編など、新たな部隊の増強が相次ぎ、地上発射型の中距離ミサイルの配備まで取り沙汰されております。

 戦後、アメリカは、先制攻撃戦略を公然と掲げ、国際法違反の侵略戦争を繰り返してきました。こうしたアメリカの強大な攻撃戦力が日本に存在し、周辺諸国に脅威を与えてきたことが、地域の緊張を生み、軍拡を誘発する要因になってきました。アメリカの圧倒的な軍事力に加えて、日本の自衛隊が敵基地攻撃能力として相手国領土を攻撃する長射程ミサイルを保有すれば、周辺国にとって脅威が拡大することは明らかです。

 第二に、岸田軍拡とアメリカの軍事戦略の関係です。

 今、アメリカは、同盟国を巻き込みながら、敵基地攻撃とミサイル防衛を一体化させた統合防空ミサイル防衛、IAMDを構築しようとしています。日本の敵基地攻撃能力は、この計画の一翼を担うものです。岸田首相は、アメリカのIAMDに参加することはない、全く別物だと繰り返していますが、実態を見れば、そんな詭弁が通用するはずがありません。

 政府は、アメリカからトマホークを四百発購入してイージス艦に搭載する計画ですが、今でも、日米のイージス艦は、データリンクを経由し、一体的に運用しています。トマホークも米軍と一体のものとして運用されるのは、誰が考えてもはっきりしています。

 そもそも、トマホークの運用に必要な地形情報も、攻撃目標の位置情報も、米国から入手するほかはありません。さらに、日米で攻撃目標の重複を避け、攻撃に最適なイージス艦を瞬時に選択するには、高度に自動化されたシステムと指揮統制の一元化が行われることになります。そのために、日米間で調整要領の検討までしています。

 南西諸島から南シナ海に至る地域の島々に長射程ミサイルを配備するという計画も、元々、アメリカの軍事戦略から始まったものです。日本の敵基地攻撃能力がIAMDに組み込まれ、米軍の指揮統制の下で運用されることは明らかです。

 ところが、こうした具体的な指摘に対して、岸田首相は、ただ自衛隊と米軍は各々独立した指揮系統に従って行動すると述べるだけで、何一つまともな説明をしておりません。メディアからも無責任だという批判が出ています。岸田政権が国民や国会に何も明らかにしないまま大軍拡を推し進めようとしていることは、それ自体が民主主義をじゅうりんする極めて重大な問題です。

 アメリカは、二十年前に始めたイラク侵略戦争で多数の米兵の犠牲者を出しました。それ以降、同盟国や同志国を戦争の最前線に立たせるやり方に変えてきています。

 台湾有事は日本有事などと言いますが、それは、米中の覇権争いが軍事衝突に発展したとき、日本が米軍と一体に参戦するというにほかなりません。そのとき戦場になるのは、沖縄を始めとする日本列島であり、東アジアの国々です。

 政治がやるべきは、この地域で絶対に戦争をさせないことです。そのために必要なのは、危機をあおって軍拡を進めることではありません。この地域の全ての国を包摂する平和の枠組みを発展させるために、全力を尽くすことです。

 憲法九条を生かした対話による粘り強い外交努力こそ求められていることを繰り返し強調して、私の発言を終わります。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 有志の会の北神圭朗です。

 既にありましたように、日本維新の会、国民民主党との間で、まずは議員任期延長に関する共同案を取りまとめました。検討課題も残っていますが、これを機に、本審査会でも条文化への審議が加速することを期待します。

 もう詳細な説明がありましたので、私からは、残された論点、二点について触れたいと思います。

 まず一つ目は、実体的要件において、四つの類型に加えまして、資料にもありますが、その他これらに匹敵する事態が加えられています。

 これについて、拡大解釈の余地が生じるのではないかという疑念があるかもしれません。こうした解釈の余地を設けたのは、我々の現時点の知恵では網羅できない事態もあるだろうという考えからです。例えば、お隣の韓国でも、緊急事態条項の中で、戦時、事変又はこれに準ずる国家非常事態と、言葉は匹敵と準ずるで違いますけれども、ほぼ同じ趣旨の規定がなされています。

 また、その他これらに匹敵する事態という文言にあるその他云々といった、いわゆる並列的例示と言われるそうですが、この並列的例示については、法令の世界では、その他という文言の前に示されている例示が具体的であればあるほど解釈が限定されるというふうに一般的に言われています。その点、我々が示している四つの類型は、武力攻撃、内乱・テロ、自然災害、感染症の蔓延と、十分具体的だと思います。

 さらに、ここで国会が議決するのは緊急事態の認定だけではなく、中核的な部分はいわゆる選挙困難事態です。つまり、選挙の一体性を損なう広範性と七十日以上の長期性、これらの要件が満たされているかどうかも併せて審議されます。ここでも歯止めがかかるようになっていて、条文全体として、恣意的、濫用的適用の危険性は防げると確信をしております。

 それでも、万一、拡大解釈が行われてしまった場合に備えて、例えば憲法裁判所がこれを指摘して国会に対して勧告などの措置を行うことができるといった、司法の立場から事後的に牽制できる制度をこれから検討してまいりたいと思います。

 もう一つの論点は、緊急事態と選挙困難事態が国会で認定されるためには、三分の二以上の議決が求められると我々の案でもされていますが、これが妥当かということです。

 我々としては、これは、緊急事態という極めて特殊な状況に鑑みて、憲法が規定する任期を例外的に延長する行為なので、通常より慎重な議決が求められてしかるべきだという発想に基づいています。

 これについて、新藤筆頭幹事から、国会の議決は、二院制の下、衆参それぞれが過半数で議決することが大原則となっている、過半数議決こそは民主主義の根本ルールであり、意思決定方法の原点と言えるとの指摘がありました。確かにそのとおりだと思います。

 特別多数については、憲法改正の発議以外は全て一院による議決行為となっています。この原則を形式的に議員任期の延長に当てはめたら、両院で議決をされるのだから、過半数の議決でも問題がないように思います。

 しかしながら、中身を見ると、少なくとも、我々の案では、国会が議決の対象とするのは、先ほど申し上げたとおり、一つには緊急事態の認定であり、二つには選挙困難事態の二点であります。

 そして、一つ目の緊急事態が認定されることにより発生する法的効果は、議員任期の延長だけでなく、今後の検討の行く末によっては、例えば、国会閉会中の召集義務とか、自民党案などにありますように、緊急政令とか緊急財政処分をも可能とすることも、これから議論しないといけないですけれども、含まれる可能性があります。これらの法的効果は、通常の立憲的な憲法秩序を一時的に変更することにほかなりません。

 国会議員の任期延長もそうだと思います。そもそも、憲法第四十五条、四十六条に、衆議院議員、参議院議員に任期を定めているのは、安定的な議員活動を確保するのと同時に、北側委員からも話がありましたが、一定の期間を経たら必ず選挙を通じて国民の意思が及ぶことに意義を持たせているからです。平たく言えば、議員としての地位に安んじて権力が濫用されないための、憲法上の国会議員に対する縛りだと解釈することができます。

 そういう意味では、議員任期の例外を認めることも、やはり、憲法が本来予定している秩序を一時的にせよ変更することだと言えるでしょう。

 新藤幹事は、憲法改正は、国家の根本規範である憲法の規定を変更するものとして、過半数議決の例外として当然だとされていますが、緊急事態条項は、国家の根本規範である憲法秩序を一時的にせよ変更するものです。しかも、憲法改正の場合は、国民投票という国民の意思が直接反映される手続が併せて求められますが、緊急事態条項の場合には、そうした仕掛けを設ける余地が恐らく論理的にありません。

 したがって、私は、緊急事態条項についても、憲法改正の発議要件と同じ程度の厳格さが求められてもおかしくないように思います。

 少なくとも、現行憲法上、半数議決となる事項、すなわち、法律、予算、条約の承認、内閣総理大臣の指名といった国会の平時の権限とはおのずと次元が異なるのではないでしょうか。

 いずれにせよ、こうした議論を重ねながら、我々三会派の条文案も御参考にしていただいて、全体の具体案が早く得られることを改めて御期待申し上げまして、私の意見表明とします。

    ―――――――――――――

森会長 次に、委員各位による発言に入ります。

 発言を希望される委員は、お手元にある名札をお立ていただき、会長の指名を受けた後、御発言ください。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 なお、発言の際には、所属会派及び氏名をお述べいただくようお願いいたします。

 発言が終わりましたら、名札を戻していただくようお願いいたします。

 また、幹事会の協議に基づき、一回当たりの発言時間は五分以内といたします。質疑を行う場合は、一回当たりの発言時間は答弁時間を含めて五分程度といたします。委員各位の御協力をお願い申し上げます。

 発言時間の経過につきましては、おおむね五分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、発言を希望される委員は、名札をお立てください。

山下委員 自民党の山下貴司です。

 私も、中山太郎先生の御逝去について、心から哀悼の意を表します。

 先日、立憲民主党の枝野幸男議員は、中山会長がリードした憲法調査会報告書を高く評価しており、私も同感です。

 さて、この調査会報告書について、枝野議員は、先日私が紹介した文芸春秋二〇一三年十月号、「憲法九条私ならこう変える」論文で、報告書の中の論点のうち、多く述べられたとの取りまとめがなされている論点について、次のように述べています。

 「多く述べられた」は大変重要なポイントです。「多く」の基準は、おおむね三分の二以上という数字です。つまり、国会での改正発議に関する九十六条を念頭に置いたものです。そこで「多く述べられた」で取りまとめられたのですから、その手の議論はもうやめましょうと区切りがついたと考えられますとしています。

 ちなみに、この憲法審査会の設置も、その報告書で、憲法問題を取り扱う常設の機関を設置すべきであるという意見が多く述べられたことが理由になっています。そして、その中山調査会報告書でも、非常事態に関する事項を憲法に規定すべきであるという意見が多く述べられたともされております。

 ところで、枝野議員は、その文芸春秋論文で、自衛隊の在り方についても、激しい議論が展開されたが、「自衛権及び自衛隊について何らかの憲法上の措置をとることを否定しない意見が多く述べられた。」との記述があることから、何らかの形で憲法に自衛隊の位置づけを図るべきだという見解におおむね三分の二以上が賛同したことを意味しますとし、憲法をめぐって極論のぶつかり合いばかりが続いている状況について、今こそそうした議論に終止符を打たなければなりません、そこで私は、この憲法九条、第三の道を提案しますとして、現行憲法には手を加えず、これに続けて新たな規定を追加するのが形式としては最も適切として、憲法九条の二と憲法九条の三の具体的案文を公表しています。

 私がこの文芸春秋で公表された枝野議員の憲法九条改正案について重ねて紹介するのは、枝野論文が、安全保障有識者懇談会が二〇〇八年に集団的自衛権などを認めるべきとした、公海上の米軍防護のための自衛権行使やPKO時の駆けつけ警護など四類型に相当する事例について、現行憲法の解釈や憲法改正で一定程度認めようとした上、敵ミサイルが発射準備を整えた段階で自衛権行使が可能として反撃能力を容認するなど、限度はともかく、方向性において我が党と一致する部分も相当あることに加え、枝野議員が同案について、建設的な議論を行うためのたたき台ですとし、あくまで私見とするものの、本稿は従来の民主党の方針とはそごはありませんとし、党内論議を始め、これから真に国益につながる憲法論議を深めていきたいと結んでいることに期待するからであります。

 従来の民主党の方針とそごがない以上、多くの立憲民主党の議員の皆さんとも議論の方向性は一致できるテーマと考えます。

 ところで、報道によれば、枝野議員は、立憲民主党の憲法調査会で、憲法改正の条文案提示を目指す他党の動きを念頭に、強行に発議すれば国民投票で否決されると述べたとされています。しかし、我々は強行に発議しようとしているわけではありません。

 枝野議員が憲法九条への追加修正の具体的条文案を建設的議論のたたき台として提示したように、我々自民党も、憲法九条について、特定政党の案として提示しているのではなく、たたき台素案として、各党と議論の方向性を一致できそうなテーマを議論する上で、最高裁判例に沿った自衛権及び自衛隊の明記、文民統制と国会承認等の民主的統制の明記等の条文イメージを提案しているものであり、維新や国民民主の皆様とも方向性は同様だと思います。

 立民のホームページによれば、枝野議員は、先日の憲法審査会で、議論の方向性を一致できそうなテーマは何なのかという点から、全ての会派間で真摯に議論し、その合意に基づいて、会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化していくべきと提案したとのことですが、枝野文芸春秋論文を読む限り、まさに憲法九条改正はこれに当たると思われます。立民の皆さんも、御党で長く代表を務められた枝野議員のこの論文の立場とそごはないと拝察します。

 また、先ほど申し上げた中山調査会で意見が多く述べられたと指摘され、本日も三会派が考え方を示された緊急事態条項も含め、憲法審査会で与野党で議論すべきであります。

 中山先生の御尽力がなければ、今我々が党派を超えて憲法審査会で議論することはなかなか困難であったでしょう。中山先生の御遺志に沿うためにも、小西洋之議員の、衆議院憲法審査会、猿発言を当審査会が否定する姿勢を示すためにも、当審査会での定例日の議論を続けなければならないことを述べて、私の意見といたします。

城井委員 立憲民主党の城井崇です。

 今回は、審査会の進め方について申し上げます。

 国権の最高機関たる国会において、最高法規である日本国憲法及び憲法に密接に関係する基本法制について、広範かつ総合的な調査を行うことや改憲原案を審査することが当審査会の目的であります。

 主権者国民の自由と権利を守り、人権を侵害することがないよう、国会議員を始めとする権力に制約を課す憲法の在り方について審議するという極めて重要な役割が各委員に与えられています。

 ところが、現在の審査会は、前身の憲法調査会において中山太郎元会長が確立した中山方式、今日もこの中山方式の在り方について様々な意見が出ておりますが、私としては、与野党の立場を超えての建設的な議論を行う場には残念ながらなっていないというふうに考えています。

 その原因はどこにあるか。

 前回の審査会で、かつて憲法調査会の役員も務めた我が党の枝野幸男議員が、一つの政治勢力が自分たちの主張を強く示せば、他の政治勢力との妥協が困難になると指摘をしました。

 この間の審査会でも、自民党が提起をした改憲四項目を中心に議論がなされていますが、現在の審査会の運営では、中山方式で目指した全会派での一致点が見出し難い状況です。

 社会には、国民の自由や権利を脅かす憲法上の課題が様々あります。当審査会は、それらの課題に関する立法事実を掘り下げ、法改正か憲法解釈か憲法改正かの法的手段を検討し、問題を一つ一つ解決していくべきです。そのために、立憲民主党は、大いに憲法議論を進める論憲を基本姿勢としています。

 本日、中川正春筆頭幹事からも発言を申し上げましたように、これまで我々から、国民の自由や権利を脅かす憲法上の課題についても提起申し上げていますが、現在の審査会の運営では、それらの建設的な議論の場が確保されているとは言い難い状況です。平成十七年の憲法調査会報告書など、先達の議論の成果と蓄積を生かし、議論の前提となる相互信頼を築くため、全委員の歩み寄りと努力が必要です。

 そこで、当審査会の運営方針を検討し直すことを提案します。

 与野党からの信頼が厚かった中山元会長の運営方法に倣い、改めて、議論の方向性を一致できそうなテーマは何かという点から全ての会派間で真摯に議論し、その合意に基づいて会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化してはどうか。そして、客観性を担保しながら、合意した内容を基に審査会全体で条文化を目指していくのです。

 これまでの審議を通じて、全会派は、例えば憲法が徹底した国会中心主義を採用している点では一致していると考えます。その観点から、まずテーマとすべきは、憲法五十三条後段の臨時会召集要求に対する政府の召集義務や解散権の行使の在り方ではないか。

 さらには、これまで、緊急時の国会の在り方をめぐって、現行憲法が緊急時の仕組みとして用意している参議院の緊急集会の位置づけや、新たな制度としての議員任期の延長が議論されてきました。

 参議院の緊急集会は、民主政治を徹底する見地等の見解に立ち、半数改正による参議院は万年国会であるとして措置された優れた仕組みです。

 立憲民主党に限らず、自民、公明、維新、国民、有志の五会派も、参議院の緊急集会制度の射程、機能、権限に関して議論が不可欠との認識でも一致しています。有識者の意見を含めて明確に整理するため、優先的に議論することを提案します。

 これらを検討した結果、選挙困難事態への対処が必要となれば、国会議員の任期延長の議論に合わせて、五会派においても考え方が一致している国会の閉会禁止、解散禁止、即時召集といった憲法改正事項について検討することを提案します。

 以上、森会長にこれらの進め方の提案を幹事会で取り扱うことをお願いいたしまして、発言を終わります。

森会長 城井君の御提案については、幹事会等で協議をいたします。

三木委員 日本維新の会の三木圭恵です。

 発言の機会をいただき、ありがとうございます。

 我が党の馬場幹事、国民民主党の玉木委員、有志の会の北神委員より御発言がございましたが、私からも補足させていただきます。

 その前に、先週の立憲民主党の枝野委員から、どこかの党派の案をベースに議論するのではなく、議論の方向性を一致できそうなテーマは何なのかという点から全ての会派間で段階的に方向性を確認しながら順次具体化していく、条文案などというものは、このプロセスで内容的な合意形成がなされた上で初めて審査会全体で作業すべきものという御発言がございました。

 その前後の文脈からも、まるで私たち三党派が条文案を作成したことが悪いというようなおっしゃりようでございますが、緊急時の国会議員の任期延長は、イデオロギー的要素もなく、まさに議論の方向性が一致できるテーマであるにもかかわらず、立憲民主党の皆様は、条文案作成に後ろ向きで、議論さえ避けているように見えます。

 この緊急事態時の議員任期延長について、何度この審査会で議論を重ねたでしょうか。枝野委員がおっしゃったことは、言葉面はよくても、中身が伴わない空論だと思います。なぜなら、御自身が所属している立憲民主党が、これまで、個別の法律で対応すると一言で終わらせて、議論に後ろ向きだからです。

 何度も議論を重ねて一致点を見出せたので、三党派で合意できる条文案を作成しました。このことに関して責められるのであれば、この審査会全体で条文案が作成できるように立憲民主党さんがリードしてくださればよろしかったのではないかと思います。

 しかしながら、今日、中川筆頭幹事から三つのテーマが提案されました。三つのテーマも重要ですけれども、先に緊急事態時の国会議員の任期延長について議論していただけませんか。一言つけ加えますと、私たちは、東日本大震災を経験した後、コロナを経験しました。意見が一致することも大切ですが、喫緊の差し迫った不測の事態について議論することはとても大切なことだと思っております。どうぞよろしくお願いをいたします。

 憲法裁判所については、中川筆頭幹事から前向きな御意見を賜り、感謝しております。今後の議論に期待をするものです。

 私たち三党派は、緊急事態条項について、国会議員の任期延長だけでなく、国会機能の維持、緊急政令、緊急財政処分、緊急事態時の人権の保障と制限について積極的に議論し、合意できるところから条文案を作成していくことを合意しております。また、憲法裁判所についてもしっかりと議論を前に進め、今国会中に条文案を得ることを目標としています。

 緊急事態時の実体的要件は五要件で、一、武力攻撃、二、内乱・テロ、三、自然災害、四、感染症の蔓延、五、その他これらに匹敵する事態とし、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において国政選挙の適正な実施が七十日を超えて困難であることが明らかであることを要件とし、手続は内閣の発議と国会の三分の二以上の議決であり、それにより、国政選挙が適正に実施されるまでの間、衆議院議員又は参議院議員の任期延長を、上限六か月、再延長可としました。あとは、選挙可能時には終了議決、これは過半数で、解散後、任期満了時は前議員の身分を復活させた後に任期を延長するとしました。それから、解散後四十日以内の総選挙実施規定を適用除外としています。

 つけ加えると、現状の憲法では、参議院の緊急集会は、衆議院の解散時のみに適用されるのか、任期満了時にも適用されるのかということが議論されてきましたので、三党派でその点も改正案を作り、解散時に適用されるものは任期満了時にも適用されることを明記しました。

 恐らく、三党派の条文案は、自民党、公明党の御意見とも一致するところが多くございます。一番大きな違いは、議員の任期延長に関する歯止めの部分をどこに担わせるのかということであると考えます。私たちは司法の関与が必要だと考えますが、この部分をもっと議論して詰めていくべきと考えます。今後、建設的な議論を是非お願いしたいと思います。

 以上です。

國重委員 公明党の國重徹です。

 先週の審査会で、三木委員から、憲法裁判所に関する私の二十三日の発言に関しまして御質問をいただきました。そのポイントは、抽象的違憲審査や機関訴訟が可能なのであれば、多くの訴えが行われ、違憲判決が増えるのではないかという点にあると思われます。本日は、これに関して意見を述べたいと思います。

 まず、改めて申し上げますが、違憲判決の数の多寡、多い少ないは、我が国の違憲審査の在り方を考える上で、問題の本質ではありません。このことは、三木委員も、裁判の数だけでよい悪いを論じているのではないと言われておりますので、共通した認識であると受け止めております。

 裁判所が憲法の番人たり得ているか、これを考えるに当たっては、違憲判決の数だけではなく、国の立法システム、司法システム全体を見る必要があります。

 その上で、三木委員の、抽象的違憲審査や機関訴訟が可能なのであれば、多くの訴えが行われ、違憲判決が増えるとは思わないか、この問いかけについては、裁判所が憲法判断する機会が増えれば、それに伴って違憲判決がこれまでより増えるということはあり得ることと思います。しかし、それが政治部門との役割分担などの中で直ちに国民の信頼を得られるものになるかどうかは、別途検討が必要な問題です。

 ある制度が適切に機能して国民の信頼を得られるものになるかどうかは、その制度が土壌とする様々な要素、法文化や社会的、歴史的な背景も併せて考えなくてはなりません。つまり、ある制度が適切に機能しているからといって、その制度をそれが定着している土壌から切り離して別の土壌に持っていったとしても、同じようにうまく機能するとは限りません。にもかかわらず、その土壌の諸要素を深く考慮することなく、制度がよければほかの土壌でもその制度がうまく機能するという考え方は警戒を要する。このことは、著名な憲法学者を始め、よく指摘されてきたところであります。

 この点、例えば、ドイツの憲法裁判所やフランスの憲法院という制度が、それぞれの土壌の中に溶け込み、国民の信頼をかち得るまでには相当長い期間を要しました。連邦法や州法に対する違憲審査のほか、憲法訴願などの強力な権限を有するドイツの憲法裁判所は、今でこそ、その活動を通じて人権保障機関としての地位を確立していると評価されております。しかし、とりわけ、一九九〇年代頃に憲法裁判所が次々と出した違憲判決について、立法府への介入が過度にわたるなどといった批判を受け、政治部門との役割分担のバランスが崩れたり、国民の支持を失うなど、憲法裁判所制度自体に対する信頼が揺らいだこともあったようであります。

 このように、ドイツの憲法裁判所、またフランスの憲法院も同様に、紆余曲折を経て、何十年という時間をかけてようやく現在の地位を確立し、国民の信頼を得る機関になったわけであります。

 その意味では、我が国の最高裁判所による付随的違憲審査制は、既に我が国の土壌に組み込まれ、定着し、国民の一定の信頼を得ていると評価できる一方で、憲法裁判所を新たに創設した場合、それが我が国に定着し、国民の信頼を得るためには、相当な努力や時間を要すると思われます。

 その上で、先日の三木委員の発言の背景にあったのは、我が国の司法チェックには不十分な部分があり、その欠けている部分を補う改革が必要だという思い、これが本質的なことであって、その手段として、抽象的違憲審査や機関訴訟を提案されていたと推察をいたします。

 最高裁の違憲審査に対する姿勢は極端な司法消極主義であるとも評されており、それによって人権保障や憲法保障の観点から問題が生じているのであれば、その改善策についての真摯な議論、検討は必要です。例えば、前回の審査会で柴山委員がおっしゃっていたように、現在の最高裁を前提にその在り方を改めて検討していくことも一案だと思われます。

 憲法裁判所の創設に関する議論は大いに行えばよいと思いますが、これについては多くの論点があることを改めて申し上げます。二十三日にも指摘したとおり、大所高所から国家の在り方を見据えて判断できる裁判官の確保や、その政治的な中立性をいかに確保するのかといった問題、また、裁判の政治化や政治の裁判化という三権分立にも関わる本質的な問題もあります。

 憲法裁判所の創設については、我が国の法文化や社会的、歴史的背景に立ち返った様々な観点からの慎重な検討が必要であると改めて申し上げ、私の発言といたします。

田野瀬委員 自民党の田野瀬でございます。

 発言の機会をありがとうございます。

 諸外国の憲法では、自国の歴史や隣国との関係に応じて緊急事態条項を備えております。他方、我が国では、これまで幾度も巨大地震や津波を経験しておりますけれども、緊急事態に対応する憲法上の規定がございません。

 現在、南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生が高い確率で想定され、特に、首都直下型地震が発生した場合には、国家の中枢が機能不全に陥るなど甚大な被害も考えられます。国民の生命と財産を守るため、大規模自然災害等の緊急事態に対応するための体制を構築していくことは喫緊の課題であり、必要な規定を憲法上整備する必要があると考えます。

 この間、憲法審査会においては、緊急事態における国会議員の任期延長を中心に、国会機能の維持に関する議論がなされています。しかしながら、議員任期延長等により国会機能の維持を図ったとしても、どうしても国会機能が確保できないといった状況もあり得るのではないかと考えるものであります。そのような不測の事態にも迅速に対処するため、一時的に内閣が立法権限を代替する仕組みであります緊急政令の制度も憲法上規定を設けておく必要があると考えます。

 この点、現行憲法下でも、災害対策基本法、武力攻撃事態対処法、新型インフル等対策特措法などによりまして、それぞれの緊急事態に対応するための緊急事態法制が整備されており、現行法においても厳格な要件下で緊急政令を制定することは可能であるとして、憲法上に緊急政令制度を設ける必要はないとの指摘もあるところでございますが、しかしながら、想定を超えた緊急事態に対応するため不可欠な立法措置については、国会による法律の制定を待てず即座に行う必要に迫られた場合において、内閣が超法規的措置により対応するよりも、憲法の規定に基づいて緊急政令を制定する方が法秩序の安定性や立憲主義の観点からも望ましいと考えるものです。

 このような問題意識から、自由民主党が平成三十年に発表した憲法改正に関する条文イメージ、たたき台素案には、議員任期延長規定と併せて緊急政令に関する規定も設けているところでございます。

 この条文イメージ、たたき台素案では、緊急政令は、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときのみ、すなわち、国会が機能しておらず、国会による立法を待っていては間に合わないという場合にのみ制定することができるとしているところです。国会が機能している場合には、当然のことながら、国会が法律の制定を行い、緊急事態への対応に当たることになります。また、内閣が緊急政令を制定したときは速やかに国会の承認を求めなければならないとしており、事後の国会承認が得られなかったときは政令は失効することとしております。

 このように、緊急政令の制度は、国会の機能の維持すらも困難となった場合の究極の事態においても、国民の生命と財産を守るための最後の防波堤ともいうべき制度であります。事後的な国会承認によって民主的統制も図られるものと考えます。

 なお、緊急事態において国会の予算議決が行えない場合に、その事態に対応するための必要な財政上の支出を行うことができるように、いわゆる緊急財政処分についても併せて検討する必要があるということも申し添えさせていただきます。

 最後に、参考としてですけれども、ここまで申し上げた緊急政令に類する制度は、イタリア、スペイン、フランスなど、憲法に規定されております。諸外国憲法においては珍しいものではございません。さらに、隣国の韓国の憲法には、緊急政令と併せて緊急財政処分の規定も設けられているところでございます。

 以上、緊急政令と緊急財政処分の必要性について述べさせていただきました。緊急事態における国会議員の任期延長のこれまでの議論を貴びつつ、国会が機能できない場合に備えた制度についても本審議会で議論を深められることをお願い申し上げまして、私の意見とさせていただきます。

 以上です。

本庄委員 立憲民主党・無所属の本庄知史です。

 まず、国会議員の任期延長について、この間の議論を拝聴してきた所感を一言申し述べます。

 大規模な武力攻撃や災害が発生した場合において、特定の地域だけでなく全国的規模で国政選挙が実施できないという状況にどれほどの現実味があるのか私はいまだに疑問ですが、仮定に仮定を重ねた議論や抽象論ではなく、立法事実の精査がまず必要であるというふうに考えます。

 そして、仮に選挙困難事態があり得るとしても、そういった究極の事態を念頭に、どうすれば国政選挙を実施する機能を維持できるのか、平時からどのようなバックアップ体制を取るべきかといった、より現実的な政策論がなされないまま、国会議員の任期延長という憲法論だけが先行して議論されていることは、この場が憲法審査会であるということを差し引いても、国会機能の維持という観点からは、私はバランスを失していると感じています。

 その上で、本日は、憲法の空文化の問題について二点申し述べたいと思います。

 第一に、専守防衛の空文化です。

 予算委員会に続き、一昨日の本会議でも、国家安全保障戦略など安保三文書について質疑が行われましたが、相変わらず議論はかみ合わず、深まらないままです。その最大の要因は、従来より国会で積み上げてきた憲法解釈が変容している可能性があるにもかかわらず、岸田総理始め、政府が憲法論に正面から答えていないからです。

 例えば、今回我が国が保有するとするミサイル反撃能力について、岸田総理は必要最小限度の実力行使と繰り返していますが、必要最小限度の反撃能力の行使とはいかなるものなのか、必要最小限度を超える、すなわち憲法違反となる反撃能力の行使があるのか、あるとすれば、その二つを分ける基準は何なのか。また、反撃能力の行使についても、他に適当な手段がないという要件は変わらないと答弁していますが、日米同盟が機能しない場合に我が国自身が備える必要があるとしても、日米同盟が存在する中で他に選択肢がないという要件を満たすのは一体どういう状況なのか。あるいは、政府は、反撃能力行使が憲法上許されるという考えは存立危機事態における反撃能力の行使にもそのまま当てはまるとの見解ですが、なぜそのまま当てはまると言えるのか。我が国自身が攻撃された武力攻撃事態と我が国自身が直接攻撃されていない存立危機事態を同列に論じることが、憲法上例外的に許容される反撃能力の行使についても可能なのか。

 このように、政府が掲げる反撃能力については憲法上の論点が山積しています。しかしながら、政府は、専守防衛は変わらない、新三要件に照らし個別具体的に判断すると念仏のように答弁するばかりで、これでは、国会としての役割を、責任を果たせません。前回も申し述べましたが、反撃能力については当審査会でも議論を深めるべき憲法課題であると改めて問題提起をさせていただきます。

 第二に、財政民主主義の空文化です。

 政府は、先月、三月二十八日、昨年度の令和四年度予算で計上した、コロナ、物価高騰対策予備費から二・二兆円の使用を閣議決定しました。年度末まで残り四日、しかも、新年度、令和五年度予算が成立した同じ日に、駆け込みで二・二兆円もの税金を政府の一存で使用を決定したわけです。

 昨年度、令和四年度だけを見ても、当初予算で五・五兆円、補正予算で六・三兆円、計十二兆円弱という、まさに異次元の予備費が計上されました。その規模も使途も、憲法第八十七条に規定する予見し難い予算の不足に充てるための予備費とは到底言えないものです。

 こういった巨額の予備費は、近年常態化しています。今年度、令和五年度予算でも五・五兆円の予備費が計上されました。リーマン・ショック渦中の経済予備費が一兆円だったことを考えても、余りに過大で、憲法の趣旨を完全に逸脱しています。

 巨額の基金も問題です。その最たる例が、昨年十二月に成立した令和四年度第二次補正予算です。年度末まで残り四か月というタイミングで、五十の基金に計八・九兆円もの予算が措置されました。中長期的な政策の複数年度の財源となる基金は、予算単年度主義を定めた憲法第八十六条と財政法十一条のいわば例外であり、巨額の基金はこれらの規定の趣旨に反するものであると考えます。

 このような巨額の予備費や基金は、財政民主主義、すなわち、国民の税金の使い道は国民を代表する国会が決めるという大原則を有名無実化します。政府・与党による恣意的な財政支出を許し、健全財政を阻害しかねません。財政民主主義の在り方もまた、当審査会で討議すべき憲法課題であると提起させていただきます。

 以上申し述べました安全保障と財政という国家の基本に関する憲法規定の空文化は、与野党の問題ではなく、国会と内閣の問題、すなわち国会の存在意義の問題です。この認識を当審査会の議員各位に共有していただけることを切に願い、私の発言を終わります。

 以上です。

森会長 それでは、予定した時間がほぼ終了しておりますが、最後に、船田元君。

船田委員 会長、ありがとうございます。時間も迫っておりますから、端的に申し上げます。

 私は、先日亡くなられました中山太郎元会長の下で仕事をさせていただきました。一九九七年からの超党派の憲法調査会設置推進議員連盟、一九九九年からの憲法調査推進議員連盟、そして、いよいよ衆議院に憲法調査会が置かれた二〇〇〇年一月から、さらに、特別委員会が置かれました二〇〇五年から、その指導を受けてまいったわけであります。

 中山会長の理念は、三分の二の発議要件はもちろんでありますけれども、それ以上に、より多くの政党や議員が賛同して初めて国民投票で成立させることができるのではないか、こういったことまで中山会長は考えていたと思います。したがいまして、与党のみならず、野党のできるだけ多くの皆さんを議論に巻き込んでいくということが必要である、そして、少数政党にも配慮することが極めて重要である、こういう理念に基づいていると思います。

 形式上は、大政党であれ少数政党であれ、発言時間は平等に取るということ、あるいは、野党の第一党から会長代理を選出することができるということ、これは形式としてございますけれども、これを実際に生かすためには、その心構えとして、与党は度量、すなわち野党の意見をよく聞くということ、野党は良識、すなわち党利党略に走らないということ、これが大事であるというふうに中山会長は常々おっしゃっておりました。

 最近、中山方式は死んだと言われますけれども、私は違うと思っております。これをむしろ生かしていかなければいけない、そして、生かすためには、与党は度量をもっと持ち、そして野党はもっと良識を持つということが大事である、このことを主張したいと思います。

 ありがとうございました。

森会長 委員各位の御発言はこれまでといたします。

 この討議の取扱いについては、ただいま与野党の筆頭間で協議をいたしておりますので、今後については、これを踏まえ、幹事会等において対応をいたしたいと思います。

 これにて討議は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十一分散会


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