衆議院

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第11号 令和5年5月18日(木曜日)

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令和五年五月十八日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 上川 陽子君

   幹事 柴山 昌彦君 幹事 新藤 義孝君

   幹事 山下 貴司君 幹事 階   猛君

   幹事 中川 正春君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      石破  茂君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      神田 憲次君    熊田 裕通君

      小林 鷹之君    國場幸之助君

      下村 博文君    田野瀬太道君

      辻  清人君    中西 健治君

      船田  元君    古川 禎久君

      古屋 圭司君    細野 豪志君

      松本  尚君    務台 俊介君

      山本 有二君    渡辺 孝一君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      奥野総一郎君    城井  崇君

      近藤 昭一君    篠原  孝君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    岩谷 良平君

      小野 泰輔君    三木 圭恵君

      金城 泰邦君    國重  徹君

      浜地 雅一君    吉田 宣弘君

      玉木雄一郎君    赤嶺 政賢君

      北神 圭朗君

    …………………………………

   参考人

   (京都大学名誉教授)   大石  眞君

   参考人

   (早稲田大学大学院法務研究科教授)        長谷部恭男君

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十八日

 辞任         補欠選任

  大塚  拓君     松本  尚君

  吉田 宣弘君     金城 泰邦君

同日

 辞任         補欠選任

  松本  尚君     大塚  拓君

  金城 泰邦君     吉田 宣弘君

    ―――――――――――――

五月十六日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一〇九二号)

 同(笠井亮君紹介)(第一〇九三号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一〇九四号)

 同(志位和夫君紹介)(第一〇九五号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一〇九六号)

 同(田村貴昭君紹介)(第一〇九七号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一〇九八号)

 同(宮本岳志君紹介)(第一〇九九号)

 同(宮本徹君紹介)(第一一〇〇号)

 同(本村伸子君紹介)(第一一〇一号)

は本憲法審査会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(参議院の緊急集会について)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件、特に参議院の緊急集会について調査を進めます。

 本日は、本件調査のため、参考人として京都大学名誉教授大石眞君及び早稲田大学大学院法務研究科教授長谷部恭男君に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。参考人それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、大石参考人、長谷部参考人の順に、それぞれ二十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対しお答え願いたいと存じます。

 なお、本日の意見陳述及び質疑は「参議院の緊急集会について」とさせていただいておりますので、御承知おきください。

 発言する際はその都度会長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできないこととなっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 それでは、まず大石参考人、お願いいたします。

大石参考人 大石でございます。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます。

 それでは、お手元のレジュメに従って、私の考えを申し述べます。

 第一のところは原則と例外という話ですから、繰り返しませんが、まずは、憲法上問題になるのは、憲法が衆議院が解散されたときに開催可能としている参議院の緊急集会の規定ですが、これ以外の場合に類推適用ができるかという点であります。

 衆議院が不在となるのは、衆議院が解散されたときに限られません。衆議院議員の任期が満了したものの、何らかの事情によって総選挙が実施不能となった場合も当然あり得るわけです。そこで、この場合に、衆議院が解散されたときに準じて参議院の緊急集会を求めることができないかという論点があります。

 思うに、解散による場合と任期満了後の総選挙実施不能という場合との間には、ある限定された期間における衆議院の不在という意味で類似性を持つわけです。その期間における参議院の役割を同じように維持するということには十分な合理性が見出されると思いますので、総選挙実施の不能による場合について、衆議院が解散されたときの類推解釈として参議院の緊急集会を求めるということは、憲法上可能なのではないかというふうに考えます。

 他方、解散に起因する衆議院の不在期間というのは、憲法上、最長で七十日というふうに限定されておりますが、この期間そのものについて拡大解釈は可能かというと、やはり、この日にちの問題というのは一義的に明白なわけですから、これ自体を延長するというような解釈はちょっと取れないというふうに考えられます。

 これに対して、任期満了後の総選挙不能という事態における衆議院の不在の場合も参議院の緊急集会が開催可能だとした場合に、その期間の問題をどう考えるかという点が当然に問題になります。といいますのも、その期間については、あらかじめ憲法所定の手続を踏むことができないわけでして、緊急状況のいかんによっては一律に判断できるものではない。したがって、解散による衆議院不在の場合と全く同列に論じるということもできないと思われます。

 しかしながら、とはいえ、憲法は、例えば、毎年の常会召集、毎年の決算審査、予算案についても単年度制を前提とした毎年議決を定めているわけです。そうすると、一年を超える緊急集会を認めるというようなことは、最低限、そうした財政民主主義の在り方を崩すものとして許されない。しかも、その前提の下に衆議院に予算案の先議権を与え、その議決に優越的な効力を認める現行憲法の基本的な枠組みがありますから、これとも相入れないということになります。

 そもそも、参議院の緊急集会が両院同時活動の原則に対する例外を成すものであることを考えますと、その存続期間は、憲法上、やはり最大で七十日という制約に服すると考えるのが合理的であろうと思います。もし、これをはるかに超えて参議院の緊急集会の期間を認めるとすれば、憲法五十四条の類推解釈として出発しながら、実はその限定的な規律から大きく逸脱するということを意味するわけでして、もはや憲法五十四条の類推解釈の名の下に正当化できるものではないのではないかと思います。

 さて、次のページに参りますが、内閣が国に緊急の必要があるときに参議院の緊急集会を求めることのできる事由あるいは範囲について、憲法上の制限があるかどうかということも問題になります。

 これについては、緊急集会開催の要求権は内閣の権限であり、国に緊急の必要があるときの認定権も内閣にあるわけですから、基本的には、その事項、範囲も内閣の判断に委ねられると考えられる。その点からは、内閣の判断によっては、緊急集会中の参議院の権能は国会の権能の全てに及ぶ可能性もあります。

 もっとも、そうした権限を参議院が行使できるのは、前記のように、あくまでも衆議院解散後、総選挙を経て、特別会が召集されるまでのいわば最長七十日間に限られるということ、その点に注意する必要があります。また、この期間の限定が示しますように、そこで取られるべき措置はいわば緊急対応措置に限られますから、そうでない性質のものというのは対象から外されると言わざるを得ません。

 実例としては、あるいは先例としては、参議院緊急集会には過去二度ありますが、この先例で注意すべきことは暫定予算だという話でして、衆議院で予算通過したその後に衆議院の解散が行われました。そのために予算不成立となってしまった場合の緊急対応措置であって、したがって、年度の本予算ではなくて、四月から五月だけの二か月間にわたる暫定予算であったということであります。その実例を根拠として、一般的に一年にわたる本予算まで含めると解するのは、もはや緊急対応措置を超えるものとして妥当でないと考えます。といいますのも、暫定予算と本予算との間にはかなり大きな違いがあるということを考えざるを得ないからです。

 実際、本予算の場合、執行の前提となる特例公債発行法の制定とセットになっているわけです。この点を踏まえますと、参議院の緊急集会で本予算を議決するとなれば、その特例公債発行法の切替え年度に当たる場合、その制定も緊急集会で行うということになりますが、これは向こう四年間の財源問題を固定化する意味を持ちます。このような事態まで例外的な緊急対応措置として許されるというのは、ちょっと考えられないと思います。

 他方、現行法上、緊急集会中の参議院議員には案件に関連する議案の発議権というものが認められております。この発議権はどこまで拡大的に認められるということになるのでしょうか。

 この問題は、内閣から示された案件に関連のあるものに限りという国会法の文言の解釈に関係しますが、憲法五十四条の解釈上、内閣による提示案件は議案の発議権を拘束するという考え方を強調しますと、つまり、その拘束は憲法から導かれるのだというふうに考えますと、その範囲は限定されることになります。

 しかし、内閣が提示する案件に関連のあるという限定は、それ自体、具体的には国会法という法律によるものにすぎません。この点を強調しますと、その規定の改正は参議院の緊急集会でも取り得る措置というふうに考えられますので、緊急集会中の参議院議員の発議権に対する制約は、法律上、原理的には存しないということになるでありましょう。

 こういうふうに考えますと、類推解釈として出発しながら、参議院の緊急集会の権限がどんどん拡大するということになりますと、元々、内閣の緊急集会の開催要求権、案件提示権と参議院の審議、議決権というのは、単独の国家機関による権限簒奪の危険を回避するために権限の分有を図ったものだというふうに解されておりますが、一方的な緊急集会の権限の拡大は、内閣と参議院の関係を大きく変えるというだけではなくて、その期限に関する拡大解釈あるいは無限定解釈などと結びつきますと、そのような危険をもたらしかねないというふうに考えられます。

 ちょっと時間が早めになりましたが、以上で私の意見の発表とさせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

森会長 次に、長谷部参考人、お願いいたします。

長谷部参考人 本日は、このような場、話をする機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。

 レジュメをお配りをしておりますが、時間の制限もございますので、この中全てお話をすることはできません。幾つかかいつまんでお話をすることにいたします。

 まず第一、レジュメで申しますと2の1)になります。

 参議院の緊急集会の実体的な要件といたしまして、憲法の条文には、衆議院が解散されたときという定めがあるわけです。このことから、衆議院議員の任期満了による総選挙、これが実施される場合に緊急集会を求めることができるか、これが論点となります。

 そもそも、解散がされずに衆議院議員が任期満了となること、極めてまれなことではございますが、さらに、公選法は議員の任期が終わる日の前三十日以内に総選挙を行うことを規定をしております。したがいまして、任期満了によって衆議院議員が存在しなくなってしまうということは一般的には想定しにくいことではございますが、もっとも、極めて例外的には、任期満了直前まで国会の会期が続くということも理論的にはあり得ます。したがいまして、任期満了によって衆議院議員が存在しなくなるということもあり得るということにはなります。

 こうした場合に内閣が緊急集会を求めることができないという説もございますが、ただ、こうした説は、衆議院議員の任期満了の期日は、これは解散の場合と異なりまして、事前に明らかであります。したがいまして、内閣として、当該期日までに必要と考えられる措置をあらかじめ講じ得るはずである、そのことを根拠としているものと考えられます。

 ただ、もっとも、天災等事前に予測し難い危機が生じまして、そのために総選挙の実施に支障が生じるという場合には、例えば臨時会の召集までに日数を要する、これも理論的にはあり得ることだということになります。そうした場合に、内閣の独断専行を避け、可能な限り憲法の定める制度を活用して権力の抑制均衡を確保する、そのためには、衆議院議員の任期満了による総選挙の場合にも、憲法五十四条の規定を類推をいたしまして、内閣は緊急集会を求めることができると考えることが適切だと思われます。こうした考え方は、私の見るところ、現在では、学界では多数説と言うことができるのではないかと考えております。

 そして、続きまして、レジュメですと4の項目に移らせていただきます。

 最近のことですが、外国による武力の行使ですとか大規模自然災害等のために衆議院議員の総選挙を行うことが長期にわたって困難と考えられる事態におきましては、この場合、参議院の緊急集会ではなく、既に失職をした、あるいはこれから失職するはずの衆議院議員の方々の任期を延長することでこれに対処するべきである、これは憲法を改正してということになると思われますが、そういう議論があるということを伺っております。

 こうした提案についてでございますが、第一に、そうした場合が果たしてどれほどの蓋然性で発生し得るのか、また、仮に発生し得るとして、長期にわたって総選挙を実施し得ないことを果たして事前に予測し得るという状況が、これもどれほどの蓋然性で発生し得るのかという論点があるように思われます。

 重大な緊急事態が発生したために広範にわたる地域で総選挙の実施が困難となる、これは恐らくあり得ることだろうと思われます。ただ、そうした、これは条文の引用になりますが、「天災その他避けることのできない事故により、投票所において、投票を行うことができないとき、」については、衆議院議員の選挙を含めまして、公職選挙法が既に繰延べ投票の制度を設けております。

 また、投票だけでなく選挙の実施そのものの延期が必要となる、これもあり得るかもしれません。ただ、その場合は、参議院の緊急集会が選挙期日を延期をする臨時特例等を定める法律で対処をすることとなるでありましょう。

 解散の日から四十日という憲法五十四条の定める期限を超える延長となる、結果としてそうなるということも考えられますが、これは、土井真一教授が御指摘のとおり、法は不可能事を要求するものとは考えられませんし、また後で述べます、四十日という期限がなぜそもそも設けられているのか、この期限の趣旨からいたしましても、憲法はこれを容認をしているのではないかと私は考えております。

 多くの選挙区で繰延べ投票や選挙の延期が行われる、これは好ましい事態でないことは確かでございますが、これまた理論的に申しますと、衆議院の定足数に当たる総議員の三分の一の議員の選出がなされれば、国会を召集して審議、議決を行うことは可能のはずであります。しかも、いずれの地域から選出された国会議員も全国民を代表しています。これは憲法四十三条が定めているとおりでございます。したがいまして、全ての衆議院議員の選出が終わらないまま、既に選出された議員のみで国会としての審議、議決を行うことに正当性がないとまでは言いにくいように私は考えております。

 また、郵便投票制度の拡充等、自然災害などの場合に避難先からの投票を可能とするような公選法の改正、こういった制度改正を行うことによりまして、投票の繰延べですとか選挙自体の延期の必要な場面を減らすことも恐らくは可能でございましょう。

 最高裁の判例は、選挙権の制限は、これは引用になりますが、「そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難である」、そういった場合にのみ許されるとしております。

 憲法自体を変えてしまう以上は、現行憲法の規定を前提とする判例法理は妥当しないという主張はあり得ないではございませんが、緊急の事態におきましても、基本権、これは可能な限り十全に保障されるべきでございまして、正当な目的の下、必要最小限度においてのみその制約が許されるとの比例原則は、これはなお妥当するはずでございます。

 選挙の実施が部分的とはいえ可能である以上は、緊急の事態においても、困難が解消され次第、可及的速やかに順次選挙を粛々と実施をするということが、基本権の観点からしても要請をされているはずでございます。

 以上のような考察からいたしますと、総選挙の実施を長期にわたって先送りしなければならない状況、恐らく簡単には発生しないでありましょう。そして、そうした状況が実際に発生し得るかというと、かなり疑いを持ってもよろしいのではないかと私自身は考えております。

 さらに、仮にそうした状況が万一発生し得るといたしましても、総選挙の実施を長期にわたって先送りせざるを得ないことを前もって予測をするということが果たしてどこまで可能なのかという問題もございます。理論的にはそうした状況が発生するということもあり得るではありましょうが、ただ、先のことは人間には基本的には分からないはずでございます。繰延べ投票等の実施も可能なのに、あたかも将来のことが確実に分かっているかのように総選挙の実施を長期にわたって先送りすることは、果たして国民の皆様の目にどのように映るか、そういう問題もあり得るように思われます。

 レジュメで申しますと4の2)になりますが、こうした対処策、つまり緊急集会に代わるような対処策を取るべきでない理由は、実はもう一つございます。

 これは、ドイツの憲法学者で憲法裁判所判事も務めたエルンスト・ヴォルフガング・ベッケンフェルデ教授が強調しておられる点なんですが、緊急事態に対処するための制度的対応に当たっては、あくまで臨時の暫定的措置にとどめるべきだということを教授が主張しておられます。

 現行の憲法五十四条の定める参議院の緊急集会による対応は、これは条文自身にもありますとおり、限られた期間しか通用しない、臨時の、しかも措置であります。前にも述べましたとおり、緊急集会の権限にそもそもの限界はあります。そして、緊急集会を行い得るのは暫定的な臨時の措置である、このことは、権限にそもそも限界があると考えられてきたことと対応していると思われます。

 これに対しまして、衆議院議員の任期を延長いたしますと、そこには、総選挙を経た正規のものとは異なる、言ってみれば異形のものではございますが、国会に付与された全ての権能を行使し得るある種の国会が存在をする。そこでは通常の一般的な法律が成立をすることになります。そうなりますと、言い方が問題かもしれませんが、緊急時の名をかりて、通常時の法制度そのものを大きく変革する法律が次々に制定されるリスクも含まれているということになりかねません。悪くいたしますと、任期の延長された衆議院と、それに支えられた従前の政権とが長期にわたって居座り続ける、緊急事態の恒久化を招くということにもなりかねません。

 こういった緊急事態の恒久化を防ぐためには、平常時と非常時とは明確に区分されるべきでございます。

 他方、参議院の緊急集会による緊急事態への対処、これは、平時の状況が回復したときは可及的速やかに通常の制度へと復帰することが予定されている、そういった制度であります。繰り返しになりますが、将来の状況を確実に予測することは極めて困難でございますので、平常の事態に長期にわたって戻ることはないと予断をしてしまうべきではないのではないかと考えられます。

 これに対しましては、現行憲法の規定は、緊急集会が長期にわたって継続することは想定していないのではないか、そういった疑問もあり得るところです。確かに、憲法五十四条の規定を素直に読みますと、緊急集会は、解散後四十日以内に行われる総選挙までの期間、あるいは、長く考えたとしても、新たな国会召集までの最大七十日間にしか求めることができないかのようでございます。

 しかしながら、今議論の対象となっておりますのは、国家の存立に関わるような非常の事態でございまして、通常時の論理がそのままの形で通用すると考えるべきではないとも思われます。そうした非常の事態の対処に当たりましては、あらゆる考慮要素がくまなく総合的に勘案されるべきでありまして、特定の論点、特に日数を限った規定の文言にこだわって、それを動かし得ない切り札であるかのように捉えて議論を進めるべきではないのではないかという、そういうわけです。

 そもそも、憲法五十四条が四十日そして三十日と日数を限っているのはなぜかと申しますと、解散後も何かと理由を構えていつまでも総選挙を実施しない、あるいは総選挙の後いつまでも国会を召集しないなど、現在の民意を反映していない従前の政府がそのまま政権の座に居座り続けることのないようにとの考慮からであります。同様の規定は各国の憲法にも見られます。

 緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えるのは、その間接的、派生的な効果にすぎません。にもかかわらず、結果として緊急集会の継続期間が限定されているかのように見えることを根拠といたしまして、従前の衆議院議員の任期を延長する、そしてさらに、従前の政権の居座りを認めるというのは、まさに本末転倒の議論ではないかとの疑いもあり得ます。条文のそもそもの趣旨、目的は何なのか、何が本来の目的で、何がその手段にすぎないのか、その論点を踏まえた解釈が求められているように思われます。

 緊急の事態に参議院の緊急集会で対応するということには、今も申しましたとおり、平常時と非常時とを明確に区別をする、それとともに、緊急集会ではあくまで暫定的な臨時の措置のみが取られる、そして、選挙を経て正規の国会が召集され次第、その当否が改めて審議、決定されるものである、このことを国民に広く示す、そういった意味がございます。

 このように考えていきますと、現行憲法の定める参議院の緊急集会制度は十分な理由によって支えられた制度である、そういうふうに考えることができるわけでございまして、これに新たな制度を追加する必要性、これはにわかには見出しにくいのではないかというふうに私は考えているところでございます。

 以上で私のお話は終わりです。どうもありがとうございました。(拍手)

森会長 以上で各参考人からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑者各位におかれましては、本日の議題である参議院の緊急集会に沿った質問をしていただくようお願い申し上げます。

 質疑の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自由民主党の新藤義孝でございます。

 両参考人には、御多忙の中、御出席をいただきまして、誠にありがとうございました。

 ただいまの専門的見地からの御意見、極めて興味深く拝聴をいたしました。これらを踏まえまして、両参考人に質問をさせていただきたいと思います。

 参議院の緊急集会は二院制国会の例外と理解されていますが、これは、所定の期間内に総選挙が行われ、国会が召集される見込みがあることを前提にした一時的、暫定的な制度、いわば平時の制度であることを、両参考人の御意見をお聞きして改めて認識をした次第でございます。

 一方で、選挙を実施するめどが立たず、長期にわたって新しい衆議院議員の選出が見通せないような、いわゆる有事が発生した場合にはどう対処するのかという懸念を感じました。東日本大震災の例のみならず、高い確率で発生が心配されております首都直下型や南海、中南海トラフなどの大規模自然災害、さらには強力な感染症の蔓延事態など、長期かつ広範囲にわたる甚大な影響が予測される有事の発生というのは、今や現実の脅威となっていると思います。

 こうした、所定の期間内に選挙が実施される見通しが立たず、国会召集の見込みが定まらないような状況が発生した場合に備え、日本国憲法は、緊急集会以外の、いわば有事に備えた何らかの制度を準備する必要はないのでしょうか。

 そもそも、緊急集会の開催可能な期間を何日とするかであるとか、その適用対象にどの程度の拡張性を持たせておくかに加えまして、本質的な議論として、選挙実施の見通しがつかない事態においても、二院制の例外である緊急集会のみを活用した議会機能の維持を憲法は想定していると言えるのかということでございます。

 今、長谷部先生のお話にも平常時と非常時というお話がございましたが、日本国憲法において、そうした非常時の規定というのは、今規定されていると言えるのでしょうか。そこのところ、もう既に触れていただいておりますけれども、もう一度、この点につきまして両先生から御意見を頂戴したいというふうに思います。

大石参考人 お答えいたします。

 先ほどから申し訳ありません。少し喉の具合が悪いので大変お聞き苦しいと思いますが、御容赦願います。

 確かに、今おっしゃったように、いわゆる有事といいますか、広い意味でいろいろな事態が起きるということを全て想定した規定にはなっていないことは確かです。

 ただ、その問題はずっと昔から指摘されておりまして、特に、昔の内閣の憲法調査会でも、この参議院の緊急集会に関連して、あるいは別個の条項の問題として、もう少し、根本的な問題が起こったときにどうするのかという点についての議論が足りないのではないかと。当然に、それは憲法改正すべきかどうかという問題に直結するわけではなくて、その事態を考えた場合に我々はどう考えるべきなのかという点についての議論が深まっていないということは、かなり前から指摘されているわけです。

 もちろん、その場合に問題となっていたのは、いわば伝統的な有事といいますか、大規模な内乱、戦争、あるいは、今先生も御指摘いただいたような強力な感染症の蔓延事態というのはそこでも議論されていましたが、最近では、ウクライナの情勢もあって、あるいは地震の問題もあって、新たにその問題が加わってきたことは、新たな論点になろうとは思います。

 ただしかし、共通するのは、通常の事態とは異なる事態が起こった場合、先ほど長谷部参考人は国家の存立云々というお話もされましたが、そこまでの問題を掘り下げたときに、現行憲法がどこまでの対処をしているというふうに考えるのかははっきりしないですね。

 やはりそれは、はっきりしないというのは、それまでの事態がそこまでには生じなかったということもありましょうし、それがしょっちゅう繰り返し起こってくるものではないという前提がありましたから、それこそ全てを見通すということは不可能なので、取りあえずは必要な部分だけをちゃんと手当てをしていくという思考でずっと我々来たものですから、根源的にどうするかという問題になかなか立ち至らない。もちろん、その問題をやると、かなり強力な力を発揮する場面を考えざるを得ません。それに対するアレルギーというのも理解できないわけではない。

 ですから、今回は参議院の緊急集会の問題に絞られていますが、これ自体はもちろん大切なことなんですが、それを離れて一般的に、より深い問題として、いわば国家緊急事態というものを、条文化するかは別として、議論がなさ過ぎることは確かなんです。その点についての検討が進められていけばいいなというふうに個人的には思っております。

 以上でございます。

長谷部参考人 どうもありがとうございました。

 本日、土井真一教授御執筆の「注釈日本国憲法」の条文の解説、資料として配付をされているかと存じます。

 そのうちの六百九十二ページのところを御覧いただきますと、ここでは、参議院の緊急集会、どういった実体的要件が整った場合に集会を求めることができるのか、この問題が論じられているわけですが、上から第三段落目、「次に、「緊急の必要」については、」という、その段落ですが、憲法制定過程の議論に鑑みますと、他国からの武力の行使、内乱又は大規模自然災害等による国家緊急事態がこれに当たることは明らかとなっている。これは多くの学説がそのように考えているわけでございます。

 それから、次の次の段落になりますが、「他方、緊急集会が」という、その段落ですが、このような国家緊急事態の場合に限定されるのかといえば、憲法制定過程において、総司令部の側はそのように考えていたということが記されています。

 ただ、実際の過去の事例は、これは大石参考人が御指摘のとおり、国家緊急事態と言えるような場合ではなかったというのは、それはそのとおりですが、ただ、この国の存立に関わるような事態に関しましても、緊急集会を求めるということが想定をされていた、そのこと自体は言い得ることかと思います。

 ただ、それ以外の場合に、これは先ほど、冒頭の所見でも申し上げましたけれども、代わるような制度を設けることが適切かどうかということに関しましては、私といたしましては、果たして、そういった、総選挙を長期にわたって実施することが困難だということが事前に予測ができるという状況は、そうは起こらないであろう。それから、実際には、可能になった場合、つまり、困難が解消され次第、全ての選挙区での選挙の実施を、可及的速やかに実施をしていくということがむしろ憲法の求めている事態ではないか、そういうふうに考えているところでございます。

新藤委員 ありがとうございました。

森会長 次に、階猛君。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 両参考人、今日はありがとうございました。

 私の持ち時間、たった七分ですので、なるべく端的にお答えを、恐縮ですが、お願いします。

 最初の質問ですが、憲法改正によって国会議員の任期延長を、定めを置くべきだと主張される皆さんは、有事や大災害などの国難の場合にも国会機能を維持する必要があるということを論拠にするわけです。しかし、安倍政権では、国難突破解散と称して、国難なのに国会機能を停止させたこともあれば、憲法五十三条に定める臨時国会の召集要求を長期にわたって無視して、国会を機能させないこともあったという事実がありました。

 将来起こり得る国会機能の不全に備えて議員任期の延長規定を議論するのであれば、現に起きている解散権の濫用や臨時国会の召集先送りという国会機能の不全についてはなおのこと議論すべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。

大石参考人 ありがとうございます。

 確かに御指摘のとおりでございまして、具体的な、臨時国会の召集の是非がどうだったのかという、その評価はここで申し上げることはいたしませんが、おっしゃったように、現に起きている解散権の濫用あるいは臨時国会の召集先送りといった事態については、私自身もその危惧を共有しております。

 ですから、大いにそこは議論なさった方がいいと思いますが、ただ、問題は、解散権の濫用の歯止めを設けよう、あるいは臨時国会召集の先送りを避けようということでありますと、少なくとも解散権の問題については、多分憲法改正事項になるわけですね。ですから、そういうことも含めてトータルに議論なさると、私は両方とも大事だと思いますので、その点を議論すべきではないかという御意見には全く賛成でございます。

長谷部参考人 五十三条の問題につきましては、私、現在進んでおります訴訟で一方の当事者のために意見書を提出している人間ですので、余り具体的な問題に立ち入った発言をするのは差し控えたいと存じますが、一般論として申しますと、五十三条の規定している要件に基づいて臨時国会召集の要求があった場合には、合理的な期間を超えて引き延ばしをするということは認められないというのは、これは学界の一致した意見であるということだけは申し上げられるのではないかと考えております。

 以上でございます。

階委員 今、長谷部先生、五十三条の話をされましたが、もう一つの解散権の問題についてはいかがでしょうか。

長谷部参考人 解散権の問題に関しましても、これは、大石参考人御指摘のとおり、種々考えなければならない点はあると思います。果たしてその場合に憲法自体の改正も必要なのかということも含めて考えていかなくてはいけないと考えております。

階委員 次の質問に行きます。

 国会の機能を果たす上で、任期延長必要説は、国難においても両院のメンバーがそろった状況で審議することを重視していますが、本来、選挙で民意の審判を仰がなくてはならない状況にあるメンバーには民主的正統性が欠けているという問題点もあると思います。その意味で、国難における任期延長不要説、すなわち緊急集会を活用する説とは一長一短ではないかという問題意識があります。

 むしろ、国難の備えを急ぐのであれば、憲法改正によるよりも、先ほど長谷部先生もおっしゃった、国難のときに避難所から投票ができるような投票環境の整備を行う法改正であったり、緊急集会の開催要件や権限の範囲などを必要十分な範囲で拡大する国会法などの法改正の議論を進める方が有益ではないかと考えますが、両参考人、いかがでしょうか。

大石参考人 お答えします。

 今先生がおっしゃったように、単なる任期延長とか、あるいはそういう話ではなくて、トータルに、いろいろな問題が起きたときにどうするかという点がポイントなわけですから、重大事態が起こったときにどうするか。

 そのときに、ただ一点、議員任期の延長とか、ただ一点、何か投票所をどうするとかという、多分その問題にとどまらない事態になり得るんだと思うんですね。そのような、いわばある意味で総合的な緊急事態が起こったときにどうするかというのは、細部までは見渡すことはできないにしても、現在の法秩序体系を乱さないようにしてできるだけの手当てをしたいということであれば、一つの方策として、いろいろなやり方を考えるというのは、それはそれで合理的なのではないかと思います。

 一つのことを取れば全部権限の濫用につながるとかというのではなくて、総合的に、どう進めればうまく国政の円滑な運用をできるだけ図れるかという視点がやはり基本だと思いますので、そこに立った総合的な検討というものがどうしても必要なのではないかというふうに思っております。

 ちょっと抽象的な話になりましたが、これで私の話を終わります。

長谷部参考人 私といたしましては、非常時と平常時とを明確に分ける、そして、非常時の対応はあくまで臨時の、それも措置にとどめる、そういう考え方からいたしますと、現行の憲法が定めている参議院の緊急集会に基づいて非常時に対応するということには十分な理由があるというふうに考えているところでございます。

階委員 あと一問だけ、長谷部参考人に確認までにお聞きしますけれども、任期延長必要説は、お触れになったとおり、緊急集会の活動可能期間が七十日程度の短期間に限られるんだと解されることを論拠の一つに挙げているわけですけれども、明文上は緊急集会の活動可能期間に定めはないわけです。

 そして、国難により解散から総選挙までの期間が長期にわたり、解散による衆議院議員不在期間が継続するときは、緊急集会の活動期間もそれに応じて当然延長されると解していいのではないかと私は考えており、長谷部参考人も同じような立場に立っていると理解したのですが、それでよろしいかどうか、最後にお尋ねします。

長谷部参考人 冒頭の陳述でも申し上げましたが、四十日、三十日という日数の限定というのは、民意を反映しない従前からの政権がそのまま居座り続けることを阻止する、これが目的で定められている規定でございますから、七十日に限定されているかのように見えることを理由といたしまして、言ってみれば、従前の政権の居座りを認めることにしようということになりますと、これは、本来手段にすぎないものをもって目的を没却するということになりはしないか、そういうふうに私は考えております。

階委員 ありがとうございました。

森会長 次に、小野泰輔君。

小野委員 日本維新の会の小野泰輔でございます。

 お二方の参考人の先生、今日は誠に貴重なお話をありがとうございました。

 長谷部先生のお考え、すごく私も新鮮で、すごく興味深くお聞きしたところなんですけれども、先ほど階幹事の御質問に答えられていたことも、非常に私、すごく自分の刺激を受けたことなんですね。四十日プラス三十日というものが、なぜ期間が限られているのかといえば、民主的な元々の根拠を失っているような政権がそのまま居座っていていいのか、それをなるべく日限を、期限を区切るというようなことのために定めているんだと、そして、そのことが根拠となって参議院の緊急集会の期間が七十日以内と限定されるというのはおかしいだろうというようなことなんですけれども。

 ただ、思うのは、その七十日を、そうやって限定しているからといって、では参議院の緊急集会もそれをずっと続けていいのかというと、それは同じことが言えるというふうに思うんですね。

 先ほど階幹事がおっしゃったように、緊急集会も、そして議員任期の延長も、民主的正統性という意味でいえば、どちらも同じように問題がある。ただ、私たちは、本当に国家の緊急事態においてどちらの制度がベターなのかということを考える必要があって、緊急集会の方を七十日以上続けることに妥当性があるというふうには私は思えないというふうに思っています。

 例えば、衆議院の任期が満了した後も、その後緊急事態が続いたことによって緊急に対応しなければいけないことがある、そういう中で、二院制の原則を貫いた方が、より国民の権利を守ったり、あるいは我々の政権を維持することに資するのではないかという判断だってあり得るというふうに思うんですね。

 そこで、両先生に御質問をしたいんですけれども、参議院の緊急集会が、仮に、先ほど階幹事がおっしゃったように、七十日以上続くというような場合が許容されたとして、その場合に、歯止めというのはなくていいものなんでしょうか。

 例えば、参議院の緊急集会というのは、解除条件として国会法の百二条の二に定められておりますけれども、緊急の案件が全て議決されたときは参議院の緊急集会は終わることとされているんですけれども、これも同じように濫用の可能性があるわけですね。まだ案件は終わっていませんよというふうに時の政権が言えば、それはそのまま続けられることにもなります。

 そして、例えば、松浦一夫先生もおっしゃっておりますけれども、内閣と衆議院が対立することがあった場合に、内閣が国会の鈍重な審議を嫌い、国会対応を簡略化するために任期中の衆議院をあえて解散し、参議院の緊急集会をもって国会の議決とする方法を取る危険というものがあるというふうにも御指摘をされています。

 いずれにしても、緊急事態においてどのように民主的正統性を保つのか、そして濫用の危険を防止するのかというのは、これは完璧な制度はないのでありまして、それをどのように歯止めをするかということをちゃんと議論をしていく、そして、どちらの制度が、それぞれ完璧な制度ではありませんけれども、妥当なのかということを、憲法を守る、守らないという議論とは別に我々は考えなければいけないんじゃないのかというふうに思っておりますけれども、この点についてお二方の先生の御見解をいただければと思います。

大石参考人 お答えいたします。

 七十日という期限の問題なんですが、これをもし外してしまうと、緊急の集会というのは一体どこまで妥当なのかというのが、期限的な限度が全く見えてこないんですね。

 あらかじめ最大で七十日という設定がされてあるから、我々はそれを前提にしながら議論できるんですけれども、数字の問題ですから、そこを外したら、では、九十日、百日、一体どれが妥当なのか、全く判断の根拠がない。もちろん、具体的には、その都度、多分、正当化事由をおっしゃるんだと思いますけれども、それにしても数字そのものですから、どこの数字をもって合理性があるという形の議論ができない。

 ですから、私は、そこに日限の区切りというのはやはり大事なことだと思っていまして、あくまでそれを基準にして持っていかなきゃいけないというのがやはり解釈の原点であるべきだというふうに考えております。

長谷部参考人 四十日、三十日という数字ですが、これは憲法に限らず、法律の条項でもこういう数字が定められているということはよくございます。

 ただ、これはどうしても四十日でなければいけないとか、どうしても三十日でなければいけないという根拠は実はないものでして、これは、学者の使う言い方で恐縮ですけれども、調整問題と言われるものです。どれでもいいんだけれども、とにかく何かに決まっていることがとても重要で、それに基づいてみんなが行動するようになるのが大事なんだ。

 例えば、道路の、道路交通法で日本の場合は車が左と決まっていますが、外国では、右を通る、そういう国もございます。これは、左がいいのか右がいいのかというのを議論していても仕方がない、とにかく日本では左だと決まっていることが重要だ、そういう問題です。

 四十日、三十日という日限も、実はこの調整問題を解決するために取りあえず四十日、三十日に決まっている、そういう問題です。ですから、平時であれば、つまり国家の存立に関わらないような事態でございましたら、これは、四十日、三十日、必ず守らなくてはいけないと私は考えます。しかし、国家の存立がかかっているような事態で果たしてこの数字にそれほどこだわるべきなのか、そこはやはり考え直さなくてはいけないところがあるのではないかと私は考えております。

小野委員 長谷部先生、本当にそんなことをおっしゃっていいのかどうかというのは、私は分からないです。例えば、衆議院の任期が四年とか参議院の任期が六年というのは、これはもう絶対に超えてはいけないというふうに思いますね。ですからこそ、例外をどうやって議論しようかということがあるわけです。

 そして、先ほど、選挙が全国的に一体的に行うのが難しくても、例えば三分の一の定足数を確保できるだけの選挙が一部でできるのであれば、それでいいじゃないかというようなことも、お言葉がありましたが、ただ、ここにいる国会議員の全員は、それは納得できないと思うんですね。

 つまり、特定の災害を受けたところの地域の民意が反映されない状態で、それが民主的正統性があるのかというふうに問われれば、それは従前から、全国会議員がちゃんと選挙をされて選ばれて、その任期を延長された方が正統性は高いんじゃないのかというような方が私は妥当だというふうに思うんですね。

 この点は今日の主な議論ではありませんけれども、ただ、私は、選挙困難事態の範囲の問題ということについても、もっともっとこれは厳密に議論しなければいけない、そこが民主制の本当に大事な部分だというふうに思います。

 もうちょっと聞きたいこともあるんですが、もう時間がなくなっちゃいましたので、これで終わりたいと思います。

 両先生、ありがとうございました。

森会長 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 両先生におかれましては、大変お忙しい中、御参加いただきましてありがとうございました。

 私は、時間も限られておりますので、今日のお話の中で、長期間、国政選挙、特に衆議院選挙を実施することが困難ということはなかなか想定し難いというお話があったかと思います。また、繰延べ投票制度があるじゃないか、それを使えばいいじゃないかという御趣旨もあったかと思いますので、私なりの意見といいますか、考えを述べさせていただきたいと思うんです。

 まず、繰延べ投票制度というのは、過去に何度も実施されているんですが、既に選挙の告示がなされて、既に選挙戦が始まっている、そういう中で、災害等の不測の事態が生じて、決められた投票所で投票できないといったときに、その地域の投票所に限って所定の投票日を延ばすという制度が繰延べ投票制度でございます。過去の事例を見ましても、地域が極めて限定されていて、繰延べされた投票期日も、一週間後のような短期間の延期というのがほとんどでございます。

 二〇一一年三月の東日本大震災のとき、その年はちょうど四月に統一地方選挙が予定されていました。繰延べ投票制度が想定します適用範囲をはるかに超えているという認識の下で、国会では新たに震災特例法というのを制定しました。その結果、五十七の被災自治体で選挙期日の延期と、また、議員や首長の任期が延長をされたわけでございます。選挙期日が最も遅かった自治体は二〇一一年十一月二十日でございまして、予定された選挙期日から約七か月先に選挙が延期され、さらに、議員や長の任期も選挙期日まで延長されたわけでございます。

 被災地域で選挙の適正な実施が長期間困難と認められ、その間、被災自治体の長や議会の議員が不在というわけにはいかないということで、このような特例法を制定したわけでございます。一九九五年一月の阪神・淡路大震災のときも同様の特例法を制定しております。

 是非思い起こしたいと思うんですが、東日本大震災の際は、当然のことながら、有権者である住民が極めて甚大な被害、被災を受けて、到底選挙ができる状況にはないということですが、一方で、選挙事務の執行も事実上不可能であったという事情もあります。多くの投票所となるべき場所が損壊し、また、選管や地方公共団体の職員自身が被災者でありながら、被災者の救助、救援、復旧に当然のことながら最優先に取り組みました。

 一方、国会議員の場合は、任期が憲法で明記されていますから、このような法律の制定で任期の延長はすることができないわけでございます。

 そもそも、広範な地域での繰延べ投票の実施は、公平公正な選挙の確保、選挙の一体性の確保という観点からも疑問があります。国政選挙については、全国一斉に実施するというのが原則と考えられます。そのときの国民の意思を公正に議会構成に反映させることが必要だからです。公職選挙法の繰延べ投票制度があるから国会議員の任期の延長は必要はないとは言えないというふうに考えます。

 具体的に申し上げたいと思うんですが、国政選挙の場合は、衆参とも比例区選挙もあります。東日本大震災のように広域な地域で国政選挙の繰延べ投票を実施するとした場合には、被災地の繰延べされた投票の結果が判明するまで比例区の当選者が長期間確定しない、また同様に、本当に多くの被災地の選挙区選挙での投票が繰延べされて、被災地選出の国会議員が長期間存在しない、こういうことが現実に、東日本大震災のことを考えると想定されます。

 例えば、衆議院の場合ですと、東日本大震災の被災三県プラス茨城県で十六選挙区あります。比例代表も二ブロックありまして、三十四名。合計五十名の衆議院議員が長期間この地域においては不在。さらに、参議院議員のことを考えますと、仮に参議院議員の場合については、この被災地では四選挙区で五名の参議院議員。そして、比例代表は、これは全国比例代表ですので、全国の比例ブロックが確定をしないと当選者が確定をしない。そうすると、四十八名。だから、五十三名も長期間不在ということになるわけでございます。

 やはり、我々、現実に経験した東日本大震災のことを考えますと、長期間、総選挙また参議院の通常選挙が、適正な実施をすることが困難ということは十分あり得る。現実に首都圏直下型地震だとか南海トラフ地震というのが想定をされているわけです。起こらない方がいいに決まっているんですが、想定されています。もしそうした事態になりますと、より広範な地域で選挙が適正に実施できないということになるわけでございまして、おっしゃっている、繰延べ投票でやればいいんじゃないかだとか、長期間困難というのは想定しにくい、だから定足数が不足するということはあり得ないんじゃないか、こういう御議論は私にはちょっと理解ができないというふうに考えております。

 私の意見に対して、両先生、どういうふうな御所見をお持ちか、是非聞かせていただきたいと思います。

長谷部参考人 どうもありがとうございました。

 土井真一教授の執筆の「注釈日本国憲法」、資料が配付されているはずですが、土井教授、この六百七十六ページのところで、御指摘の、統一地方選挙等、選挙の延期をするという臨時特例に関する法律のことを書いておられまして、先ほども申し上げました、繰延べ投票ですとか、あるいは選挙自体を臨時特例として延期をするということもあり得る、そういう土井教授の指摘は、十分このことは分かった上でそういう指摘をしているということになるだろうと思います。

 これは先ほども申し上げましたことですけれども、国会議員の方々、いずれの国会議員の方も全国民を代表している、これが理念でございます。憲法四十三条一項にもその旨が書かれておりますし。このことは、いわゆる一人別枠方式、これは合理性がもう失われてしまったのだとした最高裁の判例がございます。平成二十三年の三月二十三日の判決でございますが、これが強調している点でございまして、人口の少ない県の意見が国政に反映をされないことが困るから、だから一人別枠方式にするのだ、そういう主張は理由がないのだということを最高裁は指摘をしております。

 それから、現在議論になっておりますのは、主に衆議院議員の選挙について、そういう話だと思いますが、衆議院議員の選挙がかなりの選挙区におきまして実施が困難であるという場合におきましても、同じ地域から選出をされている参議院議員の方はいらっしゃるはずでございますので、そういたしますと、参議院の緊急集会で事に対応している限りは問題はないだろうということになりますし、衆参両院で対応しているという場合におきましても、参議院議員はおいでのはずでございます。そういった点で、まさに両院制の妙味が生かされるということになるのではないかというのが私の考え方でございます。

大石参考人 お答えいたします。

 先ほどの北側先生のお話、かなり深刻な事態だというふうに受け止めておりますが、ただ、ずっとお話を伺いますと、中に出てまいりましたように、問題は、参議院は正常に機能しているけれども衆議院議員の総選挙は実施不可能とかというケースとはやや異なりまして、どうも、衆参両院を通じての選挙についての重大な阻害行為があったということですので、一つのケースには当てはまるかもしれませんが、それはそれとして、別に論点として多分立てなければならない重大な論点だろうというふうに思っております。

 繰り返しますけれども、選挙の事務執行に当たる者は随分大変なことがある、随分、半年以上も延びるということもよく目にしましたし、分かるんですけれども、でも、そのことは衆参両院を通じて起こり得ることで、別段、衆議院が不在のときに参議院はずっと機能しているという事態とは全然意味が異なるのではないかというふうに私は分析しております。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 両先生、今日はありがとうございます。

 私も、まず聞きたいのは、長谷部先生の「注釈日本国憲法」の六百九十三ページに、これは佐藤先生も指摘しているんですが、緊急集会の濫用の危険性です。余りにも解釈を広げ過ぎると濫用の危険性が出てくるというのは先生の本にも書かれてあります。

 あと、例えば、これもここに書いてありますが、内閣が、対立する衆議院を解散して、本来は国会会期中に審議すべき案件を、参議院と連携して、要は結託して緊急集会で成立させるという、緊急集会を国会対策の技法として用いる危険性も「注釈日本国憲法」では指摘をされています。

 まず、お二人に、先生にお伺いしたいのは、ずるずると解釈で緊急集会の権限を広げてしまうと、指摘される緊急集会の濫用が起こる可能性があると思うんですが、この点について、改めて両先生の御意見を伺いたいと思います。

大石参考人 お答えいたします。

 確かに、今先生がおっしゃっておられるようなおそれがないわけではないと思います。しかし、問題は緊急集会の持ち方でして、関連のある事項も全部拾い上げていくという形でどんどん拡大していきますと、限りなく広がるおそれが十分にあると思います。

 ただ、そこは、やはり、参議院なら参議院の議長の議事整理権と申しますか、そこできっちり歯止めを設けることはできるわけですよね。ですから、いろいろな仕組みがある、その前提で成り立っている議事運営において、ある一点だけ突破されたからといって全てが台なしになるという話には直接はならないと思います。

 だから、大事な論点は、やはり非常に押さえておく必要がありますけれども、しかも、ついでに申しますと、先ほど、私、本予算までは無理だろうということを申し上げました。それは、現在の例でいえば、向こう四年間の特例公債発行法の成立とワンセットになっているわけです。そうすると、向こう四年間を拘束するような話が一体できるのかということで、やはりそこには限度があるだろうということを考えざるを得ません。

 取りあえず、数字は一つの調整問題だと長谷部参考人はおっしゃいましたが、その数字が書いてあることの意味というのはやはり捨て難いわけでして、それを突破されたらどこまでが限度か分からないという状況なので、その点は、やはり最大限の区切りというのは一応念頭に置いておくべきだろうというのが私の意見です。

長谷部参考人 御指摘の土井真一教授の執筆部分ですが、六百九十三ページで土井教授が言いたいことは何なのかというと、確かに、おっしゃるように濫用の危険がある、濫用の危険があるので、実体的な要件とされている緊急の必要というのは、何でもかんでも緊急の必要だと内閣が言えばそうなるわけではないのだと。例えば、臨時国会を召集する必要に対応する程度の必要であれば、これは緊急集会を求めることはできないのだというのがここで土井教授がおっしゃっていることです。ですから、濫用の危険があるからこそ、そこは厳密に考えていく必要がある、そういう結論にはなっております。

 それから、四十日、三十日の日数の重みということを、いろいろ議論があるということになっておりますが、いろいろな人を引き合いに出して恐縮ですけれども、第三共和制の、フランスの二十世紀の前半で活躍をしたモーリス・オーリウという極めて著名な公法学者がいまして、彼は、緊急事態の法理、そういうものを判例を素材として構築をした人として知られておりますが、彼の考え方ですと、規則が定められている、日数も含めて、そういったときは、平常時はこれを一〇〇%守らないといけない、きっちり。しかし、非常時になれば、まずは生き延びることが大事なのである、生き延びるために必要な場合には可能な限りで守る、そういうことしかあり得ないことは生じ得るのだということを言っておりまして、私は、この点に関しましては、モーリス・オーリウの言うとおりではないかというふうに考えております。

玉木委員 前回の憲法審査会で私申し上げたんですが、これは長谷部先生もおっしゃっていますが、憲法の規定は、やはり原則と準則、プリンシプルとルールがあって、例えば、長谷部先生も二〇〇四年一月のジュリストの記事で、一般的に法規範と言われるものの中には、ある問題に対する答えを一義的に定める準則と、答えを特定の方向へと導く力として働くにとどまる原理とがある、憲法の規定でいえば、参議院の任期を六年とする憲法四十六条は準則に当たると考えるべきであろうとされています。

 私も、やはり数字が入っているようなところ、特に統治機構の部分については、そのまま解釈するのが憲法の求めるところだと思います。

 ただ、今先生がおっしゃったとおり、これは平時のルールなので、有事になったときには、他の法益とのバランスの中で、いわゆる準則とされるものも多少の、例えばさっきの四十日、三十日も幅が出てくるというお話だったと思うんですが、私はこれは逆に駄目だと思っていて、つまり、過去の歴史を考えると、緊急時になったときほどやはり正気を失いがちになる、あらゆる明文上規定されていることも自由に解釈して、まさに時の権力にそれが左右されてしまうということがあるので、事前に明確に緊急事務を前提としたものを明文で規定しておくことが立憲主義には適切ではないか。例えば、有事だからといって、六年が七年に延びたり、衆議院の四年が五年に延びたりすることは、さすがに私は憲法の予定している範囲を超えているのではないかなというふうに思います。

 その上で、七十日を超えて長期に、あるいは本予算や条約の締結まではできないということなんですが、この「注釈日本国憲法」の六百九十四ページには、補正予算も駄目だというふうに書かれています、土井先生は。つまり、内閣の経済政策をよりよくするようなものは緊急性がないということで、暫定予算はいいけれども、補正予算、本予算は駄目だという多分整理だと思います。私はそのとおりだと思うんですね。その上で言うと、やはりこの七十日ということは厳格に守るべきであって、緊急集会もやはり最大七十日ではないかと思います。

 長谷部先生にお伺いしたいのは、準則のうち、厳格な解釈が求められる条文と、準則の中でも一定の解釈が許されるものがあるのかないのか、あるとしたら、その差を決める境目は何なのか、そして誰がそれを確定させるのか、そのことについての御意見を伺いたいと思います。

長谷部参考人 準則のうち、解釈の余地のあるものとないものとを条文自体を見て見分けるということ、これは私は不可能だと思います。準則につきまして、そういう解釈の余地が出てくるのは、やはり通常時ではなくて非常時だから、あるいは緊急時だからという、そういう理屈立てになっております。

 一九七〇年代のイングランドのとても有名な判決でバッコーク判決というものがございますけれども、これは、当時のイギリスでは、制定法上は緊急車両は赤信号を通過しても構わないというのが定められていなかったんですが、それに対応して、ロンドン市の消防局が、消防車が火事の現場に急行しているときには赤信号を通過しても構わないのだという通達を出したところ、これの適法性が争われた、そういう事件ですが、イングランドの控訴審の判決では、要するに、今、赤信号である、ところが、目に見えるそこ、先に火事があって、上の階で助けを求めている人がいる、そういった場合に赤信号だからといってここで止まるのか、そういうことを言っておりまして、そういった場合に赤信号を通過する緊急車両というのは、罰せられるべきではなくて、むしろ褒めたたえられるべきではないか、そういうことを言っている、そういう判決でございます。

 ですから、準則につきまして、一体どういう対応をするべきなのか。やはりそれは具体的な場面になってみないと確定的な結論は出ない、そういうことではないかというふうに考えております。

玉木委員 私は、緊急時を理由に準則を解釈に開いてしまうことが立憲主義の観点から危険だと思うので、平時の、落ち着いて物事を考えられるときに憲法上の議論もしておくべきだということで具体的な条文案を提案しております。先生方の今日の意見をしっかり踏まえて、今後、議論を深めていきたいと思います。

 以上です。

森会長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 今日は、長谷部先生、大石先生、大変参考になるお話、ありがとうございました。

 長谷部先生にお伺いをいたしますが、議員任期の延長の理由として、国会機能や二院制の維持が強調されております。しかし、その大前提は、国会が国民に正当に選挙された議員で構成されているということでなければなりません。国民が選挙権を行使する機会を奪って、国民の意見が反映されていない形で任期を延長された議員が国政を担い続けるというのは、議会制民主主義の根幹を揺るがすものだと思います。ましてや、周辺有事への参戦という重大な意思決定に際して、国民が意思を表明する機会を奪うことは、断じて許されないと思います。

 国民の参政権を奪うのではなく、いかに保障するかという立場からの議論こそ必要だと思いますが、この点について、長谷部先生の御意見をお伺いしたいと思います。

長谷部参考人 冒頭の陳述でも申し上げましたが、まさにその点は大変重要な論点でございまして、最高裁の判例も、選挙権に対する制限というのは、本当にやむを得ない場合でなければ制限をしてはいけないのだということを言っております。

 したがいまして、たとえ選挙の実施に困難が生ずるということがありましても、困難が解消され次第、順次やはり選挙は実施していくべきものであるというふうに考えている次第でございます。

赤嶺委員 もう一点、長谷部先生にお伺いしたいんですが、災害や感染症を理由に緊急事態条項を創設すべきだという主張について、この審査会に参考人として出席した東京大学の高橋和之教授は、極端な事例を出して議論をすれば間違う危険性が高いということを強調されました。この点についての長谷部先生の御意見を伺いたいと思います。

長谷部参考人 確かにそれは、高橋参考人がおっしゃるとおりのところはあるだろうと思います。

 理論的にはいろいろなことが考えつくわけではございますけれども、実際、本当にそういった事態は、どれほどの緊要性があり、あるいはどれほどの蓋然性で起こり得るものなのか。それはやはり重々慎重にお考えの上で対応策は考えなくてはいけないものだと思いますし、そして、先ほども申しましたとおり、現行憲法が規定をしております緊急集会制度というのは、平常時と非常時とを明確に分ける、そういう意味では極めて優れた制度であると私は考えているところでございますので、やはり、なおさら慎重な考慮が必要ではないかと考えております。

赤嶺委員 引き続き長谷部先生に伺いますが、憲法五十四条の参議院の緊急集会に関する規定は、私たちは、国民の自由と権利を奪い、侵略戦争に突き進んだ歴史への反省と一体のものだ、このように考えています。

 ところが、今、戦争やテロなどの緊急事態に対応するためとして、議員任期の延長や、内閣による緊急政令、緊急財政処分の議論まで行われるようになっています。また、今国会は安保三文書の議論が行われていますが、政府は、安保法制に基づいて、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃が可能だという主張まで行っております。

 参考人は、二〇一五年、この憲法審査会で、集団的自衛権の行使は憲法違反だという意見を述べられました。あれから八年になろうとしていますが、緊急事態条項の創設や敵基地攻撃能力の保有が議論される今の憲法状況についてどのようにお感じになっておられるか、御意見がありましたらよろしくお願いします。

長谷部参考人 ちょっと、憲法状況全般について所見を述べる、そういう用意が少なくとも今はございませんで、ただ、冒頭におっしゃいました、憲法五十四条の定めている四十日それから三十日、この規定、そもそもの目的は何かといえば、これは、現在の民意を反映していない従前からの政府、政権の居座りを防ぐ、それがそもそもの目的でありまして、これは各国の比較からも明らかな話でございますから、この目的をやはり第一に据えて物事をお考えいただく、これも必要なことではないかというふうに考えている次第でございます。

赤嶺委員 ありがとうございました。

 大石先生にも伺いたいのですが、大石先生は、マスコミのインタビューで、緊急事態条項には二つのレベルがあるとして、災害やテロ、感染症などの対応については、国会や政府が現行法の中でどれだけ適切な措置を取るかという話に尽きる、このように述べておられます。

 これは具体的にどのような考えでおっしゃっているのか、先生の御意見をお伺いできればと思います。

大石参考人 お答えいたします。

 緊急事態という言葉をどう使うかというところで、既にいろいろな議論があり得るんですけれども、先ほどから長谷部参考人もおっしゃっているとおり、一つには、国家の存立そのものが問題になるという局面がよく考えられていて、それが国家緊急権という形で議論されたりするんですが、少なくとも五十四条が考えているような事態は全くそれではありません。やはり、国会や内閣を始めとして国家機関の正常な活動が期待できないという場合に備えてどうするかというのは、これは憲法上の手当てが必要なのかなというふうに思います。

 その上で、いろいろな災害上の緊急事態とかがありますけれども、取りあえず国会なり内閣が正常に機能していれば立法的な対応で何とかできるという部分もあるわけでして、そういういろいろな段階のことを一応分けて議論をしなきゃいけないんだというふうに思います。

 先ほど、高橋和之先生の話が出ましたが、だから、それを全部踏み越えて全部話をしなさいということに対する警鐘だろうというふうに私は受け取っております。

 以上です。

赤嶺委員 ありがとうございました。これで終わります。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 有志の会の北神圭朗です。

 両先生に厚く御礼を申し上げたいというふうに思います。

 まず、大石先生のレジュメには、原則に対する例外については法解釈上限定的にすべきだという話がありました。その点について、大石先生の、任期満了時に類推適用するということについて、これは限定的かどうか、そこについて伺いたいと思います。

 それで、長谷部先生には、任期満了時もそうですけれども、さらに、五十四条について、七十日間を超えて緊急時に対応できるような、そういう平時じゃない緊急時における対応における解釈ということをおっしゃっていますが、我々も法律を勉強したときに学んだのは、大石先生がおっしゃった、例外については限定的に解釈すべきだということについて、どうお考えかということです。

 あともう一つは、長谷部先生の解釈では、この七十日間というのは、従前の政権が居座らないように、そういう配慮からだというふうにおっしゃいますが、素直に条文を読むと、特別国会が開催されて十日以内に承認を衆議院がするというところから導かれる七十日間だと私は理解していたんですが、これは単なる形式的な話じゃなくて、これはやはり二院制の、両院制の原則に基づいていることで、極めて変則的、例外的な緊急集会でありますので、つまり、参議院が議決をするという意味では。だから、できるだけ早く衆議院もそれを承認するという考えから来ている七十日間の計算だというふうに思いますが、その点について、どうお考えか。

 その上で、最後に、これは緊急時だったら七十日間を超えるという解釈が許されるということなんですが、その点、そんなに、そこまで緊急集会にこだわらなくても。というのは、二院制の問題がありますから。

 例えば、二回事例がありました吉田内閣の下で、かなり濫用に近いような運用がなされていますが、例えば中央選挙管理会委員の任命をした、これは参議院が緊急集会でやりましたが、それを衆議院が例えば不同意、同意しないという選択肢はほとんど現実的にあり得ない。なぜなら、そこで不同意にしてしまったら、内閣総理大臣のその委員の任命というものも無効になりますし、最高裁判所裁判官の国民審査というものも効力を失うということなので。

 何を言いたいかというと、事実上、これは、二院制の根本原理である、参議院に拘束されず自由に衆議院が議論をして議決をするということに非常に支障を来すおそれがありますので、余りここを拡大解釈をせずに、素直に新しい制度を設けた方がよろしいんじゃないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。

大石参考人 お答えします。

 原則に対する例外は厳格にという、これは解釈の基本ですけれども、なのに、なぜ類推解釈で任期満了後の総選挙不能の場合にも当てはまるのかというお話だと思うんですが、典型的な要件に当てはまらない、しかし、そうだけれども、それなりの類似性が認められて、合理的な理由があれば、やはりそれは、直接は書いていないけれども、そこは解釈でカバーできるというのが類推になるわけですね。ですから、それ自体は、解釈の問題で考える限りは、私は可能性は十分にあるんだと思います。

 もちろん、おっしゃるように、そこを明文化するというんだったらそれは非常にはっきりしますけれども、現状で現行憲法の解釈としてどうかと問われると、その類推解釈の可能性は成り立ち得るんだというのが私の立場です。

 ただ、繰り返しになりますが、それが無限に続くということになるとやはり全然趣旨が違うので、類推解釈として出発しながら、しかし類推解釈の基になるところ、期限をはるかに超えてずっと存続するというのは、多分それは憲法の予想しないところなので、それについては私は否定的です。

 以上です。

長谷部参考人 どうもありがとうございます。

 私も、原則に対する例外という場合には、これは限定的に理解をしていくべきだ、それはおっしゃるとおりであろうかと思います。

 ただ、七十日につきましては、基準については、これは繰り返しになって恐縮でございますけれども、元々これは、現在の民意を反映しない政権の居座りを避ける、それを阻止する、そこから、各国の憲法にも似たような規定、いろいろございます、そして日本の憲法にもその規定があるというわけでございまして、他方で、参議院の緊急集会というのはほとんど日本特有の規定でございますから、緊急集会のことを念頭に置いた上で七十日の規定が設けられているというわけでは私は恐らくないのであろうかというふうに考えているところです。ただ、もちろん、御指摘のとおり、緊急集会はできるだけ短期でなければいけない、それは全くそのとおりでございまして、そのことについてはおっしゃるとおりであろうというふうに考えているところでございますが。

 ただ、これまた繰り返しになりますけれども、緊急集会制度というのは、非常時に対する対応というものと、それから平常時に対する対応、こういうのをはっきり明確に分けるというところにこの緊急集会の妙味がございます。衆参両院があるということにしてしまいますと、これは緊急時ではなくなってしまいますので、むしろ、緊急事態が恒常化する、恒久化する、そういうリスクを招くことにもなりかねません。それよりは、やはり緊急集会、これを大事にしていくことには十分な意味があるというふうに考えております。

北神委員 終わりです。ありがとうございます。

森会長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言御挨拶を申し上げます。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、誠にありがとうございました。憲法審査会を代表いたしまして、心から御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十四分散会


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