衆議院

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第15号 令和5年6月15日(木曜日)

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令和五年六月十五日(木曜日)

    午前九時二十三分開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 伊藤信太郎君 幹事 上川 陽子君

   幹事 柴山 昌彦君 幹事 新藤 義孝君

   幹事 階   猛君 幹事 中川 正春君

   幹事 馬場 伸幸君 幹事 北側 一雄君

      青山 周平君    伊藤 達也君

      石破  茂君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      大塚  拓君    神田 憲次君

      神田 潤一君    熊田 裕通君

      小林 鷹之君    國場幸之助君

      下村 博文君    田野瀬太道君

      辻  清人君    中西 健治君

      船田  元君    古川 禎久君

      古屋 圭司君    細野 豪志君

      務台 俊介君    山本 有二君

      吉田 真次君    渡辺 孝一君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      神谷  裕君    城井  崇君

      近藤 昭一君    篠原  孝君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    岩谷 良平君

      小野 泰輔君    三木 圭恵君

      中野 洋昌君    浜地 雅一君

      吉田 宣弘君    玉木雄一郎君

      赤嶺 政賢君    北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院法制局長      橘  幸信君

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十五日

 辞任         補欠選任

  大塚  拓君     吉田 真次君

  渡辺 孝一君     神田 潤一君

  奥野総一郎君     神谷  裕君

  國重  徹君     中野 洋昌君

同日

 辞任         補欠選任

  神田 潤一君     渡辺 孝一君

  吉田 真次君     大塚  拓君

  神谷  裕君     奥野総一郎君

  中野 洋昌君     國重  徹君

    ―――――――――――――

六月十二日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一八五一号)

 同(笠井亮君紹介)(第一八五二号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一八五三号)

 同(志位和夫君紹介)(第一八五四号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一八五五号)

 同(田村貴昭君紹介)(第一八五六号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一八五七号)

 同(宮本岳志君紹介)(第一八五八号)

 同(宮本徹君紹介)(第一八五九号)

 同(本村伸子君紹介)(第一八六〇号)

 同(志位和夫君紹介)(第一九二五号)

同月十三日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(本村伸子君紹介)(第二二四五号)

 同(志位和夫君紹介)(第二五五七号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第二五五八号)

同月十四日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(本村伸子君紹介)(第二七〇二号)

 同(新垣邦男君紹介)(第二八一八号)

同月十五日

 憲法改悪を許さないことに関する請願(志位和夫君紹介)(第二九二一号)

 同(大石あきこ君紹介)(第三〇九九号)

 憲法九条に自衛隊を明記しないことに関する請願(新垣邦男君紹介)(第三〇二〇号)

 戦争のための憲法改悪に反対することに関する請願(新垣邦男君紹介)(第三〇二一号)

 同(近藤昭一君紹介)(第三一〇〇号)

は本憲法審査会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 本日は、日本国憲法及び憲法改正国民投票法の改正を巡る諸問題について討議を行います。

 本日の議事について申し上げます。

 まず、幹事会の協議に基づき、衆議院法制局当局から説明を聴取し、その後、討議を行うことといたします。

 では、衆議院法制局当局から説明を聴取いたします。衆議院法制局長橘幸信君。

橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。

 会長の御指示に基づきまして、私ども衆議院法制局と神崎一郎事務局長を始め衆議院憲法審査会事務局の皆さんとの共同で、お手元配付の論点資料を取りまとめさせていただきました。この資料は、あくまでも事務方の責任で取りまとめたものですが、幹事懇談会で御報告の上、各会派においても御確認いただいているものでございます。

 さて、資料の内容報告に入る前に、資料取りまとめの基本方針について御確認いただきたいと存じます。

 まず、資料の形式につきましては、昨年十二月一日の論点整理ペーパーに倣って、各論点ごとの先生方の御発言のポイントやその比較が分かりやすくなるように、比較対照表の形式とし、同趣旨の御発言をまとめる形で要約させていただきました。御発言の趣旨にたがわないよう、客観的かつ公正中立に要約したつもりですが、要約作業の性格上、先生方の御発言の微妙なニュアンスまでは表現し切れていない部分もあるかと存じます。あらかじめ御容赦願います。

 次に、資料の内容に関しましては、次のような観点から論点整理をさせていただきました。

 第一は、取り上げる御発言の範囲についてですが、一つ、前回論点整理をさせていただきました昨年十二月一日以降の御発言を中心とし、今国会の三月二日から先週六月八日まで合計十四回の憲法審査会の議事録を参照しつつ、先生方の緊急事態に関する御発言を対象として、分類、整理をいたしました。また、二つ目として、基本的に各会派の一巡目の先生方の御発言を中心としつつも、当該論点について一巡目の先生方の御発言がないような場合には、補充的に二巡目以降の先生方の御発言も対象といたしました。

 第二に、分類、整理の基準となる論点項目の設定についてですが、これも基本的には昨年十二月一日の論点整理ペーパーの分類を踏襲いたしました。ただし、今国会では参議院の緊急集会の位置づけについて深掘りした議論が行われ、これに関連する御発言がかなり多く見られましたので、この部分については論点を細区分してございます。先生方の議論の趣旨と趨勢ができるだけ分かりやすく反映されるようにいたしたつもりでございます。

 以上、よろしく御理解のほどお願い申し上げます。

 それでは、早速内容の御報告に入ってまいりたいと存じます。お手元配付の資料を御参照願います。

 今回、特に深掘りした議論が行われたのが、一の参議院の緊急集会についてでございます。1の総論を御覧ください。

 まず、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の先生方は、1の制度趣旨について、参議院の緊急集会は総選挙の実施を前提とする平時の制度であると述べられた上で、2の五十四条のような例外規定の解釈姿勢については、厳格に解釈すべきとの意見で一致されているものと拝察いたします。

 他方、立憲の先生方は、憲法制定時、緊急政令等に代わって参議院の緊急集会が設けられたという制度趣旨に留意すべきであり、また、ルールの形式的解釈ではなく、権力の恣意的行使を防止する観点から解釈をすべきと述べられています。

 また、共産党の赤嶺先生は、参議院の緊急集会の制度趣旨は、戦前の緊急勅令等の濫用という歴史の反省に立ち、民主政治を徹底するためということにあり、その解釈も、このような規定の趣旨、目的を踏まえて考えるべきと述べられています。

 次に、2の各論に掲げる1から4までの四つの論点に入ります。

 まず、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の先生方は、1の、解散時に限られるか、それとも任期満了時にも類推適用できるかといった場面の限定については、基本的には例外規定の厳格解釈の原則に照らして拡張解釈は望ましくないが、短期の衆議院不在という状況の共通性に鑑みれば、類推適用についても検討の余地ありとか、疑義が生じないように、任期満了時にも開催できることを憲法に明記すべきといった意見が大勢でした。

 また、2の期間限定につきましても、文言どおり最長七十日という意見で基本的に一致されていましたが、自民党の新藤先生からは、選挙が予定されている状況の中では、七十日ぴったりでなくても、多少の延長について検討の余地はある旨の留保的御発言もございました。

 次に、3の権限・案件の限定につきましては、参議院の緊急集会においては、総理の指名や条約締結承認、内閣不信任決議などは行使できないことについて、共通の認識が表明されていたと思います。議論がございましたのは、過去の緊急集会で処理された実例が暫定予算であったことを念頭に置きつつ、本予算はおろか補正予算についても権限外と考えるべきではないかといった御意見が相次ぎました。

 なお、4として、事後に衆議院の同意がないとその効力を失うといった、緊急集会で取られた措置の効力の暫定性につきましては、異論は全くなかったものと承知いたしております。

 他方、立憲の先生方は、1の場面の限定について、大石、長谷部両参考人の御発言を引用されつつ、任期満了時にも類推適用は可能であると述べられていました。2の期間限定については、七十日を超えても開催可能としつつ、同時に選挙困難事態の認定基準等についても議論すべきことが述べられ、また、3の権限・案件の限定に関しましては、七十日を超えて開催が可能であることを前提に、権限の拡大も選択肢としてあり得る旨述べられていました。

 また、共産党の赤嶺先生は、1の場面限定及び2の期間限定に関して、衆議院不在時は、憲法の規定に沿って、国民から選ばれた参議院の緊急集会で対応するべきとの意見を述べられております。

 以上を踏まえて、次に、二の議員任期延長の必要性の部分を御覧ください。

 まず、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の先生方は、以上のように、参議院の緊急集会は、憲法の規定内容及び文言から、一時的、限定的、暫定的制度であることは明白であり、また、国会は二院制が原則であって、その平常時における例外である参議院の緊急集会では、国政選挙が実施困難となるような真の緊急事態への対応は想定されていないし、また対応できないとの御認識から、緊急事態においてこそ二院制国会を機能させることが必要であり、そのためには議員任期延長が必要と結論づけておられました。

 他方、立憲の先生方は、議員任期延長は国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがある、本来、選挙で民意の審判を仰ぐべきであり、任期延長された議員には民主的正統性が欠けるとして、参議院の緊急集会で対応すべきとの御意見でした。

 なお、そもそもの前提として、選挙困難事態を早期に解消できるよう、国難時にも対応できる投票環境を整備しておくべきとの意見も併せて述べられていました。

 また、共産党の赤嶺先生は、議員任期延長は選挙権を停止することであり、国民主権の侵害につながり、また、権力の濫用と恣意的延命にもつながることを強調されるとともに、長期間総選挙が実施できない事態を招かない選挙制度の改善をすればよく、憲法改正による議員任期延長は本末転倒と述べられております。

 次に、三の議員任期延長の要件及び効果に関する論点を御覧ください。

 まず、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の先生方は、1の実体的要件として、対象とすべき緊急事態の範囲は、大規模自然災害、テロ・内乱、感染症蔓延、国家有事・安全保障の四事態に、これらに匹敵する事態を加えた五事態とし、このような事態の発生によって選挙実施困難事態がもたらされることを要件としております。

 この選挙実施困難事態の要件化については、更に具体化が必要との御指摘がある一方、その要件具体化の例として、選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において国政選挙の適正な実施が七十日を超えて困難であることが明らかであることといったように、広範性と長期性といった二要件による認定基準の具体化の提案が既になされているところです。

 次に、2の手続的要件として、内閣の認定と国会の事前承認を要することについては、五会派では意見は一致しておりますが、国会の議決要件については、議員任期の延長といった例外的事項を定める点に着目して、出席議員の三分の二以上の特別多数を要することとすべきとの見解と、二院制国会の原則に回帰する制度であることや現行憲法における両院での議決の重み及び位置づけに鑑みて、過半数でよいのではないか、更に議論が必要といった御意見とがあります。

 また、この内閣及び国会といった政治部門による判断に対して、裁判所による関与といった第三者的なチェックが必要ではないかといった論点があります。これについては、憲法裁判所による拘束的な関与とするか、最高裁判所による勧告的な関与とするか、あるいは、基本的には政治部門が責任を持って判断すべきだが、現行憲法下でも法律によって定めることが可能な客観訴訟として裁判所の一定の関与を組み込むことも検討の余地ありとする御意見が唱えられています。

 最後に、3の効果についてですが、任期延長の幅については、一年あるいは六月といった違いはありますが、上限を定めるべきこと、そして、選挙が可能な状態となったときは速やかに延長された任期は終了し、直ちに選挙を実施すべきことについては、認識が共有されているところと拝察いたします。

 また、解散後総選挙前の緊急事態の発生の際には前議員の身分復活を認めるべきことについても、意見は一致しております。

 他方、立憲の先生方からは、選挙困難事態の認定基準、効果が生じる期間と地域、そしてその認定主体について議論をすべきとの意見が述べられております。

 また、共産党の赤嶺先生からは、極端な事例を出して議論すれば間違う可能性が高いとの指摘がなされております。

 ページを繰っていただきまして、最後に、四のその他「緊急事態」に関する論点を御覧ください。

 まず、1の議員任期延長以外の国会機能維持策につきましては、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の先生方は、選挙実施困難事態とは別に、一般的な緊急事態の要件の下での緊急事態宣言を前提に、国会の閉会禁止、即時召集や、衆議院の解散禁止、そして内閣不信任決議案の議決禁止の、いずれの措置も必要と述べられています。

 他方、立憲の先生方は、平時からの措置として、臨時会の召集期限明記や解散権制限の検討が必要との意見が述べられています。

 また、共産党の赤嶺先生からは、臨時会召集を無視しながら、緊急時の国会機能維持を言うのは無責任との発言がなされております。

 なお、昨年の国会において本審査会で議論され、森会長から細田議長に申入れがなされましたオンライン出席、オンライン国会につきましては、その検討状況について本幹事会に報告をしていただきたいとか、議運で速やかに結論を得るべきとの御意見や、憲法改正の際にはオンライン国会についても明文の規定を設けるべきとの御意見がある一方で、そもそも憲法五十六条一項の「出席」の解釈を多数で確定させるべきではないとの意見も述べられています。

 また、国民民主の玉木先生からは、ドイツ基本法を参照しつつ、フルスペックの国会がどうしても機能しない場合のミニ国会、すなわち両院合同委員会の制度に関する御提言もなされているところです。

 最後に、2のその他として掲げております緊急政令及び緊急財政処分につきましては、自民、維新、国民の三会派の先生方からは、任期延長その他の国会機能維持策を講じてもどうしても国会が機能し得ない万々が一の場合も考えられ、そのような場合において、超法規的措置に委ねることなく、立憲主義の観点を堅持しつつ、そのような緊急事態に対応するために、緊急政令や緊急財政処分の制度をも講じておくべきではないかとの御意見が述べられています。

 これに対して、有志の北神先生からは、まずは法律対応の可否の検証をすべきではないかとの御意見が述べられています。

 また、公明党の北側先生は、白紙委任的な政令委任等は不要であり、現行憲法四十一条の下で認められる個別法による具体的な政令委任や予備費で対応すべきと述べられた上で、仮に憲法に規定するとしても、そのことを確認する規定にとどめるべき、さらには、そもそも緊急政令や緊急財政処分は任期延長とは別次元の問題であり、憲法改正原案策定の際のいわゆる個別発議の原則に照らしても、別個の問題として検討されるべき論点ではないかと指摘されています。

 他方、立憲及び共産の先生方からは、緊急政令、緊急財政処分については不要との意見が述べられるとともに、それぞれ、任期延長と内容において関連する項目として一括した国民投票しか許されないとすれば問題とか、緊急政令、緊急財政処分のような緊急事態条項は、政府に権力を集中させ、国会の権能を奪い、国民権利を制限する憲法停止条項である、このような条項がなかったから対応できなかった問題はこれまで起きていないといった意見が述べられているところです。

 私からの御説明は以上です。御清聴ありがとうございました。

森会長 以上で衆議院法制局当局からの説明聴取は終わりました。

    ―――――――――――――

森会長 これより討議に入ります。

 この討議につきましては、幹事会の協議に基づき、各会派一名ずつ大会派順に発言をしていただくことといたします。

 発言の中には、事実確認等のため、衆議院法制局当局に対する質疑を含めても結構です。

 発言時間は十分以内といたします。

 発言時間の経過につきましては、おおむね十分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 発言は自席から着席のままで結構でございます。

 発言の申出がありますので、順次これを許します。新藤義孝君。

新藤委員 自由民主党の新藤義孝です。

 ただいまの衆議院法制局の論点整理を踏まえ、緊急事態条項について、改めて私の考えを述べたいと思います。

 審査会では、昨年の常会、臨時会を経てこの常会に至るまで、一年半にわたって緊急事態条項に関する討議が積み重ねられてまいりました。

 昨年の常会では、緊急事態条項に関して計十回、延べ九十八人が発言、秋の臨時会では、計四回、延べ三十四人、そしてこの常会では、先週まで計十四回、延べ百九人が発言しており、合計で二十八回、延べ二百四十一人が発言をしております。この膨大な議論を整理したものが先ほどの論点整理資料であり、この論点整理資料を参考に、今後更に議論を深め、絞っていく必要があると私は考えています。

 主に議員任期の延長を議論する際に、今国会で最も重要な論点となりましたのは、現行憲法上における参議院の緊急集会の位置づけであります。

 これまでの討議で明らかになりましたのは、参議院の緊急集会は、衆議院解散後の一定期間内に総選挙の実施が予定され、新しい衆議院議員が選出されることを前提とした制度であり、衆議院の一時的な空白を埋める平時の制度であるということであります。つまり、現行憲法の参議院の緊急集会は、有事を含むあらゆる事態に対応することを想定しておらず、このことは、内閣総理大臣の指名や条約締結の承認、内閣不信任決議などの権限は行使できないといった権限の限定があること、また、内閣が示した案件とそれに関連する案件しか処理できないといった案件の限定があることといった二重の限定が付されていることに端的に表れています。

 更に具体的に申し上げれば、衆議院の解散後に緊急事態が発生し、国家機能を最大に発揮し国民の生命や財産を守らなければならない状況に直面したと仮定します。この場合の内閣は、総理を始め、衆議院出身の閣僚は議員身分を失った状態であり、かつ、内閣の性格は、総選挙後の国会で次の新しい総理が指名されるまでのいわゆる職務執行内閣となっているわけであります。このような内閣にどこまでの権限を持たせられるのか、思い切った危機対応ができるのかといった疑問が湧いてきます。

 国民の生命、財産を守り、安心、安全を確保するための最も重要な危機対応を講ずるためには、正当な民主的基盤を持った内閣が必要であり、衆参そろった二院制国会の原則どおりの国会を構成する必要があることは言うまでもありません。ところが、緊急事態により、全国一斉の総選挙ができない状態に陥っております。だからこそ、解散中であれば議員の身分を復活させ、任期満了であれば議員の任期を延長し、正当な民主的基盤を持った内閣によって危機対応に当たらせることがふさわしいのではないかと私は考えているわけであります。

 これに対して、選挙を延期して任期を延長することは、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがあるので、それを避けるために参議院の緊急集会で対応すべきという主張があります。あわせて、できるところから順次選挙を実施し、定足数の三分の一を超えた議員が選出されれば新しい衆議院が構成されるので、その新しい国会で緊急事態に対応すればよいという意見が出されています。

 しかし、これには幾つかの問題があります。仮に、選挙が実施できた地域の衆議院議員のみと参議院議員によって構成される新しい国会で内閣総理大臣を選出するとなると、選挙が実施できていない地域からは、総理はもとより閣僚も一切選出されないということになります。

 さらに、選挙が実施できるところから新たな衆議院議員を選べばよいとの考え方に立てば、新議員が選出されるごとに閣僚を任命し直したり、総理を指名し直すようなことも、理論上想定されてしまいます。

 そもそも、緊急事態に陥っても選挙実施可能なところから新しい衆議院議員を選べばよいとの考え方は、新しい衆議院議員を全国一斉に選ぶという総選挙の意義を見失った議論であり、国民の民意が反映されたものとは言えず、非現実的な理論にすぎないのではと指摘をしておきます。

 東日本大震災の経験や、高い確率で発生が予想されている首都直下型、南海、中南海トラフ巨大地震を考えると、緊急事態が発生する蓋然性は高まっており、今や現実の脅威です。あらゆる事態において二院制国会を維持し、民主的統制の下に国の運営を行っていくために、憲法を改正し、緊急事態条項を整備し、二院制国会を機能させるための措置を講じておくことは、喫緊かつ必須であり、立憲主義の観点からも極めて重要と考えております。

 今回の論点整理資料にありますように、二の議員任期延長の必要性については、自民、公明、維新、国民、有志の五会派において完全に一致をしております。

 これに加え、三の議員任期延長の要件及び効果に関する論点についても、幾つかの点を除いて、ほぼ意見は一致しております。

 残る幾つかの論点とは、裁判所の関与の問題があります。この点については、維新は憲法裁判所の設置を、国民と有志は最高裁による勧告を主張しておられます。

 しかし、憲法裁判所については、憲法裁を設置すること自体、我が国の司法制度を根本から改めようとするものであり、何より憲法改正を必要とする大きな論点です。憲法裁判所の設置を前提に新たに創設する緊急事態の認定の関与を議論することは、理論的にまだ困難があると考えております。

 また、最高裁による勧告についても、勧告権限の付与や対応した組織についての憲法改正が行われていることを前提とした主張であり、これまた理論的に難しいことがあるのではないかと考えます。

 私とすれば、新たな権限を最高裁に付与しなくても、現行の司法制度を前提に裁判所の関与の在り方を検討した方が、より合理的かつ現実的な方策が取れるのではないかと考えているわけです。例えば選挙訴訟のように、別に法律で要件や手続等を定め、制度が適正に運用されることを保障する客観訴訟の創設により、同様の効果を得ることができるとも考えられます。

 いずれにせよ、選挙困難事態の認定は、様々な状況を勘案した上で行う極めて政治的な判断であり、一義的には政治部門である内閣と国会が責任を負い、その判断に対する信任は民主主義の根幹である次の総選挙で示されることになると考えるべきではないでしょうか。

 また、議員任期延長により国会機能維持を図ろうとしてもできないような場合、すなわち、議員が参集できない、国会が物理的に開会すらできないような究極の事態も想定しておかなくてよいかという問題が残ります。このような事態が想定される以上、究極の事態において内閣が一時的に国会機能を代行する緊急政令、緊急財政処分の制度についても議論が必要ではないかと考えています。

 改めて申し上げますが、この制度は積極的に活用しようとするものではありません。あくまで究極の事態に備えた一時的、暫定的な国会機能の代行であり、国会機能が回復した時点で速やかな国会の同意を必要とすることなども併せて措置するべきものと考えます。

 最後に、なぜ日本国憲法に緊急事態条項を創設するべきなのか、その基本的な意義を改めて申し上げます。

 国家の最大責務は、国民の生命と財産を守り、自由で幸せな社会生活を提供することです。国家の基本法である憲法には、真っ先にそのことが定められているべきです。にもかかわらず、日本国憲法には、七十七年前の制定以来、緊急事態という国家の根本概念が規定されておらず、緊急事態においても平時の延長線上での国家運営を行わざるを得ないわけです。仮に緊急事態が発生したとしても、平時を想定した一般法の延長線での対応を強化するか、後追いでいわばパッチワークのような特例法を作り、問題の箇所をその都度塞ぐような対応しかできないのが現状であります。

 緊急事態に際し、国家の責務と権限を明確にし、国民を守り抜くための最大機能を発揮させるためには、平時モードから有事モードに切り替える概念を憲法に定めておくことが必要不可欠であり、これこそが国家の責任だと考えているわけであります。

 緊急事態条項については、今後、これまで積み重ねた議論を最終的にどのように仕上げていくかが焦点になっていくと考えております。かねてより申し上げておりますように、議員任期延長を始めとする緊急事態条項については、例えば幹事会などで一定の取りまとめの方向性を議論する時期に来ているのではないかとも考えております。

 昨年より、憲法審においては、毎週審査会が開催され、濃密な議論が積み重ねられてまいりました。真摯な討議が行われていることに対し、幹事会メンバー及び委員各位に敬意を表したいと思います。

 あるべき国の姿を追求し、国の形を整える憲法改正は、未来に対し、今を生きる私たちが果たすべき大いなる責任であることを踏まえ、今後も憲法審査会が安定的に開催され、活発な議論が交わされるよう念願し、私の発言といたします。

森会長 次に、階猛君。

階委員 立憲民主党の階猛です。

 本題に入る前に、前回の國重委員からの二つの質問にお答えしたいと思います。

 一つ目は、政党について国民投票の放送CMを全面禁止する我が党の案は、選挙の場面で政党CMは禁止されていないことと比較して、規制の厳しさが逆転しているのではないかという質問でした。

 確かに、CMという側面で見れば、本来自由であるべき国民投票運動の方が、選挙運動に比べて規制が厳しいように思われるかもしれません。しかしながら、選挙の場面と異なり、国民投票の場面では、国民投票広報協議会を通じ、政党による国民への情報提供の機会が公正かつ公平に与えられます。

 これに加え、我が党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、各党が参加してのオンライン等による国民向け説明会を開催したり、各党が動画や図表などを用いて意見表明するためのウェブサイトを設けたりすることなども可能となります。

 したがって、政党の表現の自由や国民の知る権利には十分配慮しており、放送CMを発信できないことだけをもって、規制の厳しさが逆転しているとは言えないと考えます。

 二つ目は、政党について国民投票のネットCMを規制し、その他の主体は自由にネットCMを発信できるとすると、言論空間がゆがめられるのではないかという質問でした。

 まず、政党以外についても、ネットCMを自由に認めるわけではありません。我が党の案では、国民投票広報協議会のガイドライン策定や名称等の表示義務、資金規制などにより、間接的にネットCMを規制します。さらに、五月二十五日の当審査会で私が申し上げたとおり、日弁連の最近の意見書や諸外国の規制状況も参考にしつつ、今後、ネットCM規制の在り方について更に検討していきます。

 加えて、先ほど申し上げたとおり、我が党の案では、国民投票広報協議会がプラットフォームとなり、ネット上の政党の発信が量的にも質的にも充実するようにします。

 以上により、言論空間がゆがめられるといった事態は避けられると考えております。

 それでは、次に、本日の本題である緊急事態について、我が党の見解を述べます。

 最初に結論を申し上げれば、衆議院の解散や任期満了に伴う総選挙が実施できない状況が相当期間継続すると見られる事態、すなわち選挙困難事態においても、議員任期の復活や延長は必要なく、参議院の緊急集会が暫定的に国会の機能を果たすべきだというのが我々の考え方です。

 ただし、立憲主義の観点から、時の権力者が恣意的に選挙困難事態を認定し、緊急集会が濫用されないような方策を講じるべきです。すなわち、選挙困難事態を予防ないし早急に解消するための方策として、選挙人名簿のバックアップシステムの構築や、避難先やネットで投票できる仕組みの導入などを行うべきです。

 また、選挙困難事態の恣意的な認定を避けるための方策として、当該事態の認定基準、認定を行う主体や手続、認定された場合にその効果が生じる期間や地域といった点については、当審査会での議論を進め、必要な法制上の手当てを講じるべきです。

 以上のとおり、選挙困難事態に備え、権力を縛るという立憲主義的な観点からあらかじめ対応方法を決めるという点については、我が党の考え方も大方の会派と一致します。

 東日本大震災に際し、私の地元の岩手県では、統一地方選挙について選挙困難事態を経験しました。私自身は、なおさらその思いを強く持っています。ただし、選挙困難事態への対応としては、議員任期の延長ではなく、参議院の緊急集会で行うべきです。今からその理由を述べます。

 お手元の資料を適宜御参照ください。

 なお、立憲の発言欄については、衆参の憲法審査会でのこれまでの議論の経過を踏まえて、現時点での我が党の到達点だというふうに御理解ください。

 第一に、議員任期の延長は、国会議員を固定化し、内閣の独裁を生むおそれがあるということです。議院内閣制の下では、解散や任期切れによりその地位を失うはずであった国会議員が議席にとどまることになり、議員の信任を受けて成立している内閣もその地位に居座ることになります。

 しかしながら、本来であれば選挙によって民意の審判を仰ぐべき国会議員は民主的正統性を欠くことになっており、それに依拠する内閣もまた、民主的正統性を欠くものと言わざるを得ません。

 この点、参議院の緊急集会で対応しても、国民の代表者から成る衆議院を欠いている以上、民主的正統性を欠くという点では変わりないとの反論もあり得ます。しかしながら、議員任期延長では、形式上二院制が保たれ、国会の権限を確定的に行使できます。それゆえに、その状態が続くことは時の政権として極めて都合のよいことであり、選挙困難事態を口実に、時の政権がいつまでも権力をほしいままにする内閣の独裁化が進むおそれ、すなわち民主的正統性を欠く状態が恒久化するおそれが生じるのです。

 一方、参議院の緊急集会で対応するのであれば、そのおそれはありません。なぜなら、憲法五十四条三項により、緊急集会で取られた措置は臨時のもので、選挙が実施された直後の国会で十日以内に衆議院の同意がなければ、その効力を失うからです。民主的正統性を欠く間は国会の権限を限定的、暫定的にしか行使できないことにして、時の政権の暴走を防ぐ趣旨だと思われます。と同時に、時の政権にとって、国会を正常に機能させるために、選挙困難事態を早急に解消しようというインセンティブも働くわけです。

 北神先生がお得意の逆説的な言い方をすれば、選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応することは、民主的正統性を欠くがゆえに、民主的正統性を早期に取り戻せるやり方だと言えるのではないかと思います。民主的正統性を欠く状態を恒久化するおそれがある議員任期の延長に比べて、はるかに優れていることは明らかです。

 第二に、選挙困難事態において参議院の緊急集会で対応する場合、場面、期間、権限や案件、暫定性など様々な限定ないし制約があり、国政に支障を来すとの指摘がありますが、この批判は当たらないということです。

 まず、場面の限定については、憲法の文言を根拠に、任期満了時に緊急集会は開催できないという説もありますが、当審査会にお招きした両参考人が述べたとおり、任期満了時にも緊急集会は開催できるという解釈が今や多数説であり、あえて憲法を改正する必要はありません。

 また、期間の限定については、解散から四十日以内に総選挙を実施し、総選挙後三十日以内に特別国会を召集すべしという憲法の定め、いわゆる七十日ルールに縛られる必要がないとの長谷部参考人の見解に対し、立憲主義に反するなどとしてこれを批判する意見が、議員任期延長を主張する会派の委員から、参考人質疑が終わっているのに、欠席裁判のように続いています。しかしながら、そうした会派に所属する参議院議員の中にも、七十日ルールに縛られないとする見解を披瀝する方々がいらっしゃるようです。是非、会派の意見を統一していただきたいと思います。

 そして、そもそも立憲主義は、憲法によって権力を縛り、恣意的な権力行使を防ぐことにその本質があり、ルールを形式的に解釈して、恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を運用したり解釈したりすることは、むしろ立憲主義に反すると言わざるを得ません。

 玉木委員は、参議院の緊急集会の開催期間を七十日以内とすべき根拠として、立憲主義の見地から、憲法が定める統治機構のルールは遵守されなくてはならないとかねがね主張されています。しかし、それを貫くのであれば、永田町の常識とされる衆議院の解散は総理の専権事項という考え方こそ、憲法の統治機構のルールに明らかに反しており、問題ではないでしょうか。もし同意いただけるのであれば、この問題の解決策について共に議論していきましょう。

 なお、緊急集会について、権限や案件の限定があること、暫定性があることは、先ほど述べた民主的正統性の早期回復を促すという大きな利点があり、これを緊急集会の欠点とみなすことはできません。ただし、緊急集会の権限につき、参議院と合同で協議を行い、足らざる部分がないかを検証し、必要な法制上の手当てを講じることについては、私どもも異存ありません。

 また、本日の主要テーマからは外れますが、緊急事態条項の中に緊急政令や緊急財政処分を設けることは、既存の法制度を勘案した場合にその必要性が乏しく、民主主義や自由主義の観点からも問題であることから、明確に反対します。

 そして、緊急事態条項の名の下に、例えば議員任期の延長に関する憲法改正案と緊急政令や緊急財政処分を一括して国民投票に付すことは、主権者の国民投票の機会を不当に制限し、判断を誤らせる危険があるため、許されないということも述べておきます。

 最後になりますが、本日のテーマに限らず、国民投票法の改正案は論点を整理できる段階に来ていると思いますので、是非次回はそれを行っていただくよう、会長にお願いいたします。

 あわせて、デジタル化の進展に伴う新たな人権保障の問題、先ほども申し上げた衆議院解散や臨時国会の召集、予備費を含めた財政民主主義、地方自治や選挙制度、婚姻の在り方など、我が党が提案しているテーマについても、次期国会以降、順次、当審査会の議題としていただくことを会長にお願い申し上げ、私の発言を終わります。

森会長 ただいまの件につきましては、理事会等で協議をいたします。

 次に、三木圭恵君。

三木委員 森会長、ありがとうございます。

 日本維新の会の三木圭恵です。

 本日で今国会の衆議院憲法審査会は会期延長がなければ最後となります。本日は、衆議院法制局、衆議院憲法審査会事務局によって、「「緊急事態(特に、参議院の緊急集会・議員任期延長)」に関する論点」を各会派ごとにまとめていただき、ありがとうございます。

 まとめていただいた資料を眺めてみますと、維新、自民、公明、国民、有志の会の論点はおおむね一致しており、差異のある部分はあるものの、議論を深めていけば合意点が見出せるものがほとんどではないかと考えます。一番大きな違いは、やはり議員の任期延長に関わる歯止めの部分です。維新、国民、有志の会は司法の関与が必要であるとの主張ですが、自民、公明は司法の関与はなじまないとのお考えだと察しております。その中でも、我々維新の会は最高裁判所ではなく憲法裁判所の関与を求めており、ここは他党他会派との大きな違いでもあります。

 緊急事態条項の効果のうち、国会機能の維持として国会議員の任期延長が必要であることは五党派は一致しています。しかしながら、やはり自らの任期を自らで延長するわけですから、その延長が不当に延長されることがないように極力配慮しなければなりません。その観点から、議員の任期延長が妥当なものであるのかどうかということは、自分たちだけの判断ではなく、第三者の判断を加えるべきであると改めて強く主張いたします。

 参議院の緊急集会についても、七十日を超えて期間を延長したり権限を拡大させたりすることは、現時点では何も歯止めがない状態ですから、拡大解釈をすること、これはかえって危険であると考えます。

 次に、議員任期延長以外の国会機能維持策、四の1の部分、閉会禁止、即時召集、衆議院解散禁止、内閣不信任案の議決の禁止のところでございますが、我が党の案では全て必要となっておりますが、御存じのとおり、我が党は、国民民主党、有志の会の方々と三党派で憲法改正原案を鋭意作成する話合いを進めております。毎週、実務者協議会を開き、論点について整理し、議論を深掘りし、各党派に持ち帰り、更に議論を深め、次の実務者協議で合意をしていくという作業を繰り返し行うことにより、初めは内閣不信任案の議決の禁止は必要との案でしたが、緊急事態時にどうしてもこの内閣には任せられない、この総理では駄目だとなる場合もあり得るとの考えから、内閣不信任案の議決を禁止することは必要ではないとの結論に三党派で至りましたことを御報告しておきます。

 次に、緊急政令、緊急財政処分については、今国会では議論の深まりはありませんでした。国会議員の任期延長について結論を得た後に、緊急政令、緊急財政処分についても憲法審査会で議論を望むものであります。

 さて、岸田総理は御自身の総裁の任期中に憲法改正を成し遂げると意欲を見せておられます。岸田総理の総裁の任期は来年の九月ですから、そこまでに憲法改正原案を作成し、憲法改正の発議をしようとすれば、いつまでに憲法改正原案を作成しなければならないのか。前回の憲法審査会で小野委員から新藤筆頭幹事に具体的なスケジュールを立ててお示ししてほしいとの趣旨の発言がありました。私の方からも、このスケジュールについて発言をさせていただきます。

 来年の九月が岸田総理の総裁の任期ということで、来年の九月までに憲法改正をしようとすれば、逆算すると、国民投票の日を九月と設定すれば、少なくとも二か月の広報期間が必要となっていますので、七月には憲法改正の発議をしなければなりません。七月に憲法改正の発議をしようと思えば、衆議院での審議、採決、参議院での審議、採決は何月までにしなければならないのかと逆算すると、各院での審議にはかなりの日数が必要になり、仮に、衆議院での審議が二か月、参議院での審議が二か月かかり、各院で三分の二で可決できたと計算すると、三月には憲法改正原案ができていないといけないことになります。

 憲法改正原案を作成するのにも、この憲法審査会でけんけんがくがくの議論がなされ、かなりの日数がかかることが予想されますので、通常国会が始まる一月には憲法改正原案の作成に取りかからなければならないことになります。ということは、秋の臨時国会で、まず、憲法改正原案をどの条項で作成するのかを決めなければならないはずです。

 岸田総理が総裁の任期中に憲法改正を成し遂げようとすれば、どう考えても、今私が申し上げたスケジュールを組まなければ不可能であると思いますが、このスケジュールに対する、本来は新藤筆頭幹事にお伺いしたかったのですが、現在離席をされておりますので、どなたか自民党の幹事の方でお答えいただければと思いますが、このスケジュールに対する自民党のお考えはいかがでしょうか。

上川委員 ただいまの御質問でございますが、岸田総裁が任期中に発議をしたいとおっしゃっているのは、憲法改正への強い思いを表明されたものでございます。歴代の安倍、菅総裁におかれましても同趣旨のことを発言をしておりまして、これは自民党の党是にのっとったものでございます。

 しかし、ここで言う任期というのは、具体的に来年の九月を想定したものではなく、具体的な任期は今後の党運営の中で決まっていくものでございます。

 したがいまして、具体的なスケジュールを念頭に置いての作業を行っている状況ではございませんが、今後のこの審査会におきましての議論が深まる中におきまして、おのずから見えてくるものと考えております。

 各会派の御理解と御努力の下に、この審査会での御議論を更に深めてまいりたいと考えております。

三木委員 お答えありがとうございます。

 それでは、もし仮に、岸田総裁が仮に二期目の総裁選挙で選ばれなかった場合は、お約束が果たせなかったということになると思います。

 一般的には、民間の感覚では、目標を立て、目標に向かって計画を立てて、スケジュールを示して達成に向かうということが当然であると考えます。

 また、各会派、各党派の合意がなければというふうにおっしゃいましたけれども、今の与党は、三分の二以上の議席数を確保されておると思います。与党だけではなく、改憲に賛成である日本維新の会や国民、有志の会を合わせれば三分の二以上になると思いますので、今後は、総裁任期中にというお約束をされるのであれば、条件が整っているということで、一期目中にとか、何年までにといった期間をきっちりお示しされることをお勧めいたします。

 岸田総裁が総裁選に勝利されたときに、多くの国民が一期目の総裁任期中に憲法改正をするのだと受け止められたと思います。今のようなお答えでは、憲法改正を待ち望む国民は期待を裏切られたと感じるのではないでしょうか。

 憲法改正の発議に必要な三分の二以上の賛成というのは、この国会内では恐らく成立すると私は考えておりますので、是非御検討の方をお願いをいたします。これに対するお答えは結構でございます。

 次に参らせていただきます。そして、国民投票の件に移らせていただきます。

 国民投票協議会の組織と事務が大変重要な役割を担うと考えます、国民投票では。まだ、具体的にいまだ決定していない事項があるのではないでしょうか。

 例えば、委員の人数は、国会法によると、衆議院十名、参議院十名となっており、同数の予備員も選任することになっていますが、委員の任命はどうするのか、協議会の開催はどうするのか、協議会の規程が必要になってきます。

 また、事務局は広報協議会の運営及び広報に関する事務を処理となっていますが、事務局の規程も必要となってきます。どれぐらいの人数で事務局を構成するのか、どういった体制を組むのか、何か月間その事務局が必要なのか等々、まだ何も決まっておりません。

 事務の内容においても、国民投票公報の原稿の作成、投票所に掲示する憲法改正案の要旨の作成、広報協議会及び政党等の放送及び新聞広告に関する事務、その他憲法改正案の広報に関する事務となっていますが、放送及び新聞広告の規程が必要になってきます。

 広報協議会は、ネットCMについても言及すべきなのか、また、ネットCMについても公正中立のガイドラインを示すべきでは、あるいは、民間のファクトチェックと連携して情報提供すべきでは等々、様々に議論して決定していかなければならないことが山積している状況です。いつまでも同様の議論をして結論を出さないのはいかがなものかと考えます。

 憲法改正の発議は国会議員の三分の二でなされることは憲法に明記されているわけでございますから、この大原則を遵守していただき、この憲法審査会でも結論を得ていただくことをお願い申し上げ、私の発言を終わらせていただきます。

森会長 次に、北側一雄君。

北側委員 公明党の北側一雄です。

 緊急事態における議員任期の延長等の論点について、これまでの各会派の意見に基づき、衆議院法制局、審査会事務局において簡潔かつ的確に論点整理をしていただきました。橘法制局長を始め、事務局の皆様に御礼を申し上げたいと思います。

 衆議院憲法審査会では、昨年一年間で二十回、今年の通常国会で本日も含め十五回、この一年半で計三十五回の実質討議を行ってまいりました。委員の皆様の活発な憲法論議に敬意を申し上げたいと思います。

 この三十五回の討議の中で、緊急事態条項について委員から意見表明された審査会の回数は、三十五回のうち計二十八回に及びます。論点は既に出尽くしていると思われます。

 衆議院法制局の論点整理にあるとおり、自民、公明、維新、国民、有志の五会派の間では、参議院の緊急集会の意義と適用範囲、それを踏まえた上での緊急事態における議員任期延長の必要性については、おおむね一致しています。議員任期延長の要件と効果について、現時点で若干の相違点はあるものの、後で述べますように、五会派間での具体的な合意形成は十分に可能と考えられます。

 以下、緊急事態における議員任期の延長に絞って意見を述べます。

 参議院の緊急集会は、衆議院不在時の参議院の重要な憲法上の権能であることは言うまでもありません。一方で、憲法第四章で定める国会の二院制、両院同時活動の原則の例外であることも明らかです。したがって、参議院の緊急集会では、内閣総理大臣の指名、条約の承認、内閣不信任案の提出、決議等ができないなど、権限が限定されると解されることは学説上もほぼ争いがないところです。衆議院解散後若しくは任期満了後、衆議院総選挙をできる限り早く実施すべきは当然のことです。

 問題は、巨大地震の発生等により広範な地域で甚大な被害が生じ、長期間、国政選挙の適正な実施が明らかに困難と認められる場合、すなわち、衆議院の不在が長期にわたることが明らかな場合に、参議院の緊急集会のみで国会の機能を長期間担うことを憲法が想定しているのかということです。

 繰り返しますが、参議院の緊急集会は参議院の重要な憲法上の権能です。しかし、統治機構の基本原理である国会の二院制、両院同時活動の原則からはその適用範囲に限界があると言わざるを得ません。現行憲法に規定がないのだから参議院の緊急集会を活用するしかないのではないかとの考え方は、立法機能を担う議会人の姿勢としてはやや異なるのではないかと考えます。

 議員任期の延長について、五会派間の幾つかの相違点については、私は次のような方向で合意できないかと考えています。その際、憲法四十五条、四十六条で明記された国会議員の任期の例外を設けるものであること、また、そのときの政権が国政選挙の実施を恣意的に引き延ばすのではないかとの懸念を指摘する意見もあることも考慮し、議員任期の延長の手続要件については厳格に定めることが肝要と考えます。

 まず第一に、国会の議決要件です。

 特別多数の三分の二以上とすべきです。国会議員の任期は議会制民主主義の土俵に関わる事柄で、衆議院議員は原則四年、参議院議員は六年と憲法上明記されています。緊急事態において議員任期の延長を認めるとすると、これはその重大な例外となるもので、やはり国会の承認には各議院の三分の二の特別多数が必要と厳格に考えるのが適切と考えます。このことにつきましては、自民党の新藤幹事も否定されていないことと推察をしております。

 第二に、司法の関与です。

 内閣による選挙困難事態の認定と議員任期の延長に司法の一定の関与を認めるべきとの主張は検討に値します。ただ、以前にも述べましたように、憲法裁判所の創設には、その是非自体に多くの論点があります。また、現行憲法の統治機構の在り方に大きな変更をもたらすもので、憲法の改正が必要であることは言うまでもありません。直ちにその創設ができるものではなく、緊急事態における議員任期延長の課題とは切り離して論議をされるべきと思います。

 現行憲法の違憲審査制度の下で、選挙訴訟や国民投票無効訴訟のように、別に法律で要件、手続等を定めて法適用の客観的適正を保障する、いわゆる客観訴訟と言われる訴訟類型を創設するのが適切と考えます。

 第三に、任期延長の上限です。

 議員任期の延長期間は六月以内とすべきと考えます。また、再延長は同じ手続で可能とします。一年とする意見もありますが、憲法で定めた任期の例外規定としては厳格な要件とすべきです。また、延長された任期の期間内であっても、選挙困難事態の解消、すなわち国会が選挙の適正な実施が可能と議決すれば任期は終了することは当然ですし、その議決は過半数で足りるとすることも異論はありません。

 以前の審査会で、私は、選挙期日の延期は、同一の事態で、最初の選挙困難事態の認定から通算して一年を超えることはできないとしてはどうかとの意見を述べましたが、御検討いただければと思っております。国難ともいうべき緊急事態だからこそ、国民の信任が不可欠で、議会の民主的正統性の確保を図っていかねばなりません。

 東日本大震災の際、選挙期日を延期した理由は、有権者である住民が極めて甚大な被害、被災を受け、到底選挙ができる状況でないということですが、一方で、選挙事務の執行も事実上不可能であったという事情も重視されなければなりません。たとえ緊急事態の状況が継続していても、事態発生の初期と一年経過後とでは、事情が相当異なっているはずです。

 新たな緊急事態の発生があると認められない限り、一年という時間経過がある中で選挙を実施しなければならないとすることによって、民主的正統性の確保という要請に応えるべきと考えます。

 第四に、衆議院議員の身分復活規定です。

 内閣による衆議院の解散は、衆議院議員の身分を失わせることと、解散から四十日以内に総選挙を実施することの密接不可分な二つの効果をもたらします。したがって、内閣が選挙困難事態と認定し、総選挙の実施を延期した場合、衆議院解散の意義が失われ、衆議院議員の身分を復活させるのが適切と考えます。ただし、このことは、当然のことながら、憲法上明記しなければならない事項となります。

 自民、公明、維新、国民、有志の五会派間では、できるだけ速やかに一致点を見出せられるよう検討を積み重ねたいと考えます。また、立憲民主党の皆さんも、選挙困難事態における議員任期の延長を完全に否定されているわけではないと受け止めております。審査会でできる限り幅広い合意が形成できるよう、更に論議を深めたいと考えます。

 以上です。

森会長 次に、玉木雄一郎君。

玉木委員 国民民主党の玉木雄一郎です。

 私からも、冒頭、この立派な資料をまとめていただきました法制局、事務局に感謝を申し上げたいと思います。

 改めて、今日、これを見ると、五つの会派ではほぼ意見が一致しております。是非、この議論の積み重ねの上に幹事会の場やあるいは作業部会を設置するなどして、議員任期の延長については具体的な条文化作業に入ることを求めたいと思います。既に、国民民主党は、日本維新の会、有志の会の皆さんと具体的な条文案も作成しておりますので、そういった条文案作りにも積極的に貢献していきたいと思います。

 いろいろ憲法改正については立場があるんですが、やはり危機感の共有が大事だと私は思っています。首都直下型地震などの緊急事態は、いつ発生するか分からないような状況にあります。次の衆議院選挙が行われる前に憲法改正を実現することが理想だと思います。

 加えて、先ほど来議論になっています、岸田総理自身も、自らの任期中、この任期中の定義はいろいろあるんでしょうが、そのうちに憲法改正をするという意欲を示されているのですから、遅くとも来年の通常国会で発議ができるスケジュールで作業を進めていただきますよう、特に自民党にはこの作業をリードしていただきたいとお願いをしたいと思います。

 そして、私は、この議員任期の延長については、依然、立憲民主党の皆さんとも合意が得られるものと期待をしております。

 奥野議員も前回、立憲主義の立場からは、想定し得ることは、権力抑制の観点、分立の観点から、憲法にあらかじめきちんと規定しておくべきだと考えている、そして、それは、任期の延長でいくのか、あるいは緊急集会でいくのか、どっちが民主的正統性があるのかということから検討すべきであると述べられておられます。今日、階委員からは、立憲民主党の意見としては緊急集会だということがありましたけれども、ただ、私は、議論次第では、まだ十分に合意の余地があるのではないかと期待をいたしております。

 私たちは、七十日を超えて長期に選挙ができないような場合に、最も民主的正統性がある制度として、両院同時活動原則に合致した議員任期の延長を憲法改正で実現することが適切だということで提案をいたしております。同時に、時の権力者が安易に長期に任期を延長して政権を延命させるとの、階委員からも示された危険性には当然留意する必要があることから、司法による権力抑制の仕組みも同時に改正条文として提案をいたしております。

 階委員が前回、議員任期の延長での対応について、恣意的な権力行使の余地が広がるように憲法を解釈し、国家権力にとって都合のよい憲法改正を主張することは、立憲主義に名をかりた立憲主義の破壊だというふうにおっしゃられました。ただ、私は、緊急集会が七十日を超える長期間にわたって対応できるという解釈こそ、階委員が懸念する恣意的な権力行使の余地が広がる可能性があるのではないかと考えています。

 なぜなら、参議院といえど権力だからです。しかも、憲法五十四条二項の条文を見ると、参議院の緊急集会は内閣の求めによって開かれるものであるので、実質的には時の内閣が主導権を発揮することになります。

 改めてお伺いしたいのは、緊急集会で長期に対応する方が、議員任期の延長に比べて時の内閣の恣意的な権力行使を抑制できると考えるのか。曖昧な解釈に基づいて行われる七十日を超える緊急集会での対応の方が、時の内閣の恣意的な権力行使の余地を広げることになるのではないかと懸念します。これは、まさに大石先生がおっしゃる参議院による権力の簒奪を招くのではないでしょうか。

 特に、この資料にもあるとおり、立憲民主党は、任期延長された議員には民主的正統性が欠けていると批判されますけれども、任期の切れた多くの衆議院議員で構成される内閣の方がよっぽど民主的正統性を欠いているのではないかと考えます。このことについても併せてお考えを伺いたいと思います。

 あした解散して、私も階さんと一緒で、やるべきじゃないと思いますよ、ただ、あした解散して、緊急事態が発生した場合には、今憲法改正ができていないので、私も、ある程度この緊急集会で対応せざるを得ないと思います。これは、そうなんだと思います。

 ただ、私たちは立法府の人間なので、これもまさに奥野委員が言ったように、立憲主義の立場からは、想定し得ることは憲法にあらかじめきちんと規定しておくべきだと思います。であれば、より民主的正統性を担保できる制度を憲法改正によって創設し、想定される緊急事態に備えることが、責任ある国会議員の立場だと私は考えます。少なくとも私は、選挙困難事態は起こり得ないと考えるお花畑の立場ではないことは改めて申し上げておきたいと思います。

 それと、そもそも、緊急事態における議員任期の延長の憲法改正が国家権力にとって都合のよい憲法改正であるとの主張は、正直、違和感を覚えるんです。

 東日本大震災の際に議員任期の延長あるいは首長の任期を延長したのは、ただただ、あのとき、大混乱の中で、有権者も役場の職員も選挙することが不可能だったので、それに対する最低限の手当てをしたんだと思います。仮に、時の権力、とりわけ内閣の暴走を恐れるのであれば、今私が冒頭申し上げたように、司法のチェックに加えて、緊急事態下であっても、おかしな内閣に対しては不信任案を突きつけて議決することは認めるような制度にしておけばいいと思います。

 これは先ほど三木さんからもあったんですけれども、我々三会派のオリジナルの案では、緊急事態においては内閣不信任案の提出はできないように最初は条文を作っていたんですけれども、ちょっとここは考えた上で、それでもやはり暴走する内閣が出てきたときには時の立法府からのチェック権限は残しておくべきだということで、内閣不信任案の議決の禁止規定は取りました。ですから、ここはちょっと資料とは違うんですが、そこは、そういう権力チェックの役割を果たした方がいいんじゃないかということで、最新の案ではそうなっているということは申し添えたいと思います。

 要は、制度のつくり方次第だと思うんですよ。それを憲法に明記した方が、解釈によっていろいろ権力を広げるよりはよっぽど危険性の抑制はできると思います。

 もう一つ確認したいのは、階委員が、七十日ルールを守れなくなるような選挙実施困難事態の対応につき議論することはやぶさかではないと述べておられます。この七十日を超えるような選挙実施困難事態に対して緊急集会で対応する場合に、では、その緊急集会は最大どこまでの期間対応できるようにするのか。そして、仮に選挙ができるようになったと判断して、緊急集会での対応を終わらせて、さあ選挙をしましょうと決める権限は一体誰が持っているのか。そして、その要件についてはどういうものなのか。これは具体的にお示しをいただきたいと思うんですね。

 というのは、選挙実施困難、可能性の判断は、結局内閣だということに多分なると思うんですよ。そうすると、結局、緊急集会だろうが何だろうが、権力維持をもくろむ内閣は、いつまでも緊急集会での対応をすることを続けて、まともな状態に戻らないようなことを時の内閣は判断することができると思うんです。

 特に、これは一回指摘しましたけれども、例えば岸田官邸と世耕会長が結託したとき、つまり、具体的に言いました、内閣と時の参議院が結託して権力を行使する、その恣意性をどのように防止するのかということも、権力抑制の観点から考えておかなきゃいけないと思うんです。

 階委員は、七十日という上限を設けず緊急集会の活動を認めるとともに、その権限の範囲は必要最小限かつ暫定的なものにとどめると述べられました。つまり、期間は無限だけれども権限はやはり暫定的だということなんですが、ただ、権限には限定があるけれども期間には限定がないとする解釈そのものが極めて恣意的であって、権力濫用の危険性を払拭できないと思うんですね。

 この資料の立憲の案のところの真ん中どころにあるんですが、「七十日超の開催を前提に、権限の拡大も選択肢としてあり得る」と書いてあるんですよ。つまり、期間が延びるということは、それに合わせて権限を膨らますということを既に御発言されているので、結構これは危険だというふうに私は思います。

 だから、立憲主義の基本というのは、まず、憲法に書いてあることを重視するというのが大原則だと思います。そして、立憲主義を徹底するためにも、事前に緊急事態における例外的対応を憲法にやはり明記しておくべきだと思います。その意味でいうと、緊急集会を七十日を超えて使いたいのであれば、そのことを、憲法を改正して書くべきだと思うんです。我々は、その間の案として両院合同委員会ということも実は提案しているんですが、もし緊急集会を今の権限を越えて使うのであれば、その要件と効果を、憲法を改正して書くべきだと思います。それが立憲主義だと思います。

 いずれにせよ、最後に、私たち国会議員は立法者なので、蓋然性が低くても可能性のある限り、国民の生命や権利を守るために、あるべき法制度を構築する責任を負っています。危機に備えてどのように我が国の統治機構を決めるかは、学者の仕事ではなく我々の仕事です。私たちが答えを出していかない限り、何も決まらないと思います。

 緊急事態における対応についても、いや、緊急事態における対応こそ、権力の濫用につながりやすい解釈を安易に認めるのではなくて、やはり憲法改正によって緊急集会における権力抑制のルールを明文化し、立憲主義を守るべきであるということを主張して、発言を終わります。(階委員「会長、十秒だけ」と呼ぶ)

森会長 はい。それでは、階猛君。

階委員 今、玉木委員から御指摘があったことについては、さっき私も時間制限があるので早口でばあっとしゃべったので十分御理解いただけないかと思うんですが、私の今日の発言を議事録で精査していただいて、また御議論させていただければと思います。問題意識には答えているつもりです。

森会長 それでは、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 初めに、今日の運営についてであります。

 冒頭、法制局が、自民、公明、維新、国民、有志五会派の要請に基づき、緊急事態、特に参議院の緊急集会、議員任期延長について論点整理資料に基づく報告を行いました。

 これは、六月十三日の幹事懇談会で、論点整理資料を作成する基準として、一定の討議の積み重ねがあること、複数の会派から会長に論点整理の要請があることの二つを要件とすることを合意したことに基づくものであります。論点整理資料の作成を複数会派による要請があった場合にのみ認めるというのは、およそ公正公平な運営とは言えません。少数意見を切り捨て、憲法審査会の運営に数の論理を持ち込むものであり、断じて容認できません。

 今国会の審査会で議論されたのは、緊急事態条項だけではありません。安保三文書に基づく敵基地攻撃能力保有の違憲性、軍事費増額と財政民主主義の関係、沖縄の米軍基地と日米地位協定、放送による表現の自由の侵害、臨時会の召集要求に対する召集期限の法定など、多岐にわたるテーマが議論されてきました。にもかかわらず、多数の会派だけで、自分たちに都合のいい論点を抜き出し、改憲案のすり合わせにつなげようとすることは、断じて認められるものではありません。

 いわゆる緊急事態を口実にした議員任期の延長については、今国会の議論を通じて、権力の濫用と恣意的な延命につながる危険が鮮明になりました。

 長谷部参考人は、議員任期を延長すれば、総選挙を経た正規のものとは異なる、ある種の国会が存在することになり、国会に付与された全ての権能を行使できることから、緊急時の名をかりて、通常時の法制度そのものを大きく変革する法律が次々と制定されるリスクがあると指摘しました。その上で、任期の延長された衆議院と、それに支えられた従前の政権とが長期にわたって居座り続ける、緊急事態の恒久化を招くことになりかねないと警告しました。この指摘は、我が国の歴史の教訓そのものであります。

 日中戦争下の一九四一年、当時の政府は、衆議院議員の任期を立法措置によって一年間延長しました。緊迫した内外情勢下に短期間でも国民を選挙に没頭させることは、挙国一致体制の整備を邁進しようとする決意に疑いを起こさせないとも限らないというのがその理由でありました。当時の政府は、日中戦争の重圧に苦しむ国民の不満が爆発するのを恐れ、選挙を延ばし、その間に東南アジアへの戦線拡大と真珠湾攻撃に踏み切り、無謀な戦争の道を突き進んだのであります。

 戦後の日本は、この反省から、権力者の都合で議員任期を延長できないように、法律ではなく憲法に任期を規定しました。その憲法の規定自体を変えてしまおうというのは、歴史の教訓を真っ向から踏みにじるものにほかなりません。

 憲法制定議会において、金森担当大臣は、国会議員の任期を自ら延ばすことは甚だ不適当であり、そのために憲法に四年の任期を明記したこと、そのときには必ず選挙に訴えて、国会が国民と表裏一体化しているかどうか現実に表さなければならないことを強調しています。この指摘を重く受け止めるべきです。

 議員任期延長の口実として、国会機能や二院制の維持が強調されていますが、国会機能の維持の大前提は、国会が国民に正当に選挙された議員で構成されていることです。人為的に任期を延長し、国民から信任を受けていない議員が長期にわたって居座り続けることは許されません。

 日本国憲法は、前文で、主権が国民に存することを宣言し、国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると述べています。国民主権は日本国憲法の基本原理であり、国民の選挙権は最大限に保障されなければならないものです。

 二〇〇五年の最高裁判決は、国民の選挙権について、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものと述べ、これを制限することは原則として許されないと強調しています。

 議員任期の延長は、国民の選挙権行使の機会を奪い、議会制民主主義を根底から揺るがすものです。国民主権を軽んじるものと厳しく指摘しなければなりません。

 そもそも、自民党の改憲案は、緊急事態条項として、議員任期の延長と、内閣による緊急政令、緊急財政処分の制定をセットで盛り込んでおります。いついかなるときにも国会の機能を維持するために議員任期の延長が必要と言いながら、国会の機能を奪い、政府に権力を集中させる緊急政令、緊急財政処分を主張するのは全くの自己矛盾と言わなければなりません。国会機能の維持のための任期延長という主張がいかに形だけのものであるかを示すものです。

 参議院の緊急集会の制度は、緊急の事態に際しても内閣の独断を許さず、参議院が暫定的に立法や行政監視の機能を果たせるようにしたものです。明治憲法下で当時の政府が緊急勅令、緊急財政処分の制度を濫用し、国民弾圧の手段に使ったことへの反省を踏まえたものです。

 衆議院が不存在の場合は、臨時の暫定的措置として参議院の緊急集会で対応し、その後に、国民から選ばれた衆議院がその当否を判断する現在の仕組みを維持すべきであります。長期にわたって総選挙を実施できないおそれがあるというのであれば、そのような事態を招かないための選挙制度の改善を議論すればよいのであって、憲法を変えて延長を可能にするなどというのは、まさに本末転倒の議論と言わなければなりません。

 日本国憲法は、かつての侵略戦争によって、アジア二千万人、日本国民三百十万人という多大な犠牲を出したことへの痛苦の反省に立ち、政府の行為によって再び戦争の惨禍を繰り返さないという決意の下に作られたものです。悲惨な地上戦を体験した沖縄県民の命どぅ宝、命こそ宝の思いと重なるものです。

 今政治がやるべきことは、いかに戦争に備えるかの議論ではありません。二度とあのような惨禍を繰り返さないために、いかにして東アジアの緊張を緩和し、平和的な環境をつくっていくかの議論です。

 戦争の準備ではなく、平和の準備のための国民の声に応える政治を実現するために全力を尽くすことを表明して、発言を終わります。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 有志の会の北神圭朗です。

 先ほどの法制局長の説明のとおり、議員任期の延長制度については、賛成の会派の間では細かい違いが残っているだけで、いつでも条文化の作業に入れるというふうに思います。他方、反対の会派においては、まだまだ不信感が示されています。この不信感とは一体何か。

 まず一つは、実際に選挙困難事態の長期化の確率は低く、過去にもそのような事例はなく、今後も事前に想定し難い、これは中川幹事の発言なんですが、こういう考えです。

 これについては、非常時を想定外の事態として備えを行わないことこそ問題だというふうに思います。発言が何度もありましたけれども、東日本大震災のときには選挙を最大八か月実施することが難しかったということもあり、立法事実は十分あるというふうに考えます。また、今後についても、地震学者が直下型地震のこととか南海トラフのこととか、それなりの科学的見地からも言われているわけですので、そんなことはないということはちょっと違うんじゃないかというふうに思います。

 なお、終戦後四か月で衆議院を解散して、その後一か月で総選挙を実施しようとしたということを例に取って、敗戦の混乱状態でも選挙ができたじゃないかという指摘もあります。確かに、当時は直接的な戦争の被害に加えて、住宅難、大量失業など、特に食料難がひどく、一九四五年十一月には、餓死対策国民大会というものも開かれるような状況でした。

 しかし、このとき選挙を急いだのは、翼賛体制を早く解体して、当時の幣原政権がGHQによる公職追放や戦争責任等を逃れたかったということと、また、釈放された政治犯の選挙権、公民権が復活しないうちに選挙を実施したいという思惑がありました。

 実際には、GHQの指示により、解散の四か月後の一九四六年四月に実施されましたが、その前に公職追放により代議士の八三%が淘汰されています。こうした混乱の中で有権者名簿を急ぎ作成したため、全国で二十五万六千九百八十八名もの名簿漏れが発生したと言われています。

 つまり、占領下というかなり特異な状況の下で、政治的な思惑があり強引に行われた選挙であり、これを参考にすることは少々無理があると思います。

 もう一つの不信感は、不文の法理である国家緊急権を実定化し、憲法上の緊急事態条項を設けるということは、かえって権力による濫用の可能性を高めるというものです。

 しかし、この緊急事態条項に反対する皆さん自身、災害対策基本法など一連の緊急事態法制はよしとされていると思います。憲法は駄目だけれども法律では国家緊急権の実定化を自ら認めていると理解すべきでしょう。

 法律では緊急権を実定化してもいいけれども、憲法という、国会の総議員の三分の二以上の発議があり、加えて、国民投票によって選択される憲法での実定化は駄目だということに関する議論は学者さんにお任せします。

 ここでは、皆さんは、緊急事態法制が用意している緊急集会について、平時の七十日を超える事情が生じた場合、内閣が緊急権を発動して延長できるんだという主張になろうかと理解できます。私は、これはこれで、実は、危機管理の一つの考え方としてありだとは思っています。ただ、その場合、次の論点をはっきりさせなければいけません。

 一つは、七十日を超えるといっても、具体的にどこまで引き延ばせるのか。緊急時が終わるまでということであれば、平時に戻す判断は内閣にお任せするのかということです。

 二つ目は、緊急集会で認められないとされている権能、例えば本予算の議決や総理大臣の指名について、緊急時が長引く中で必要となった場合、どうするのか。これも緊急権によって権能の範囲拡大を認めるのか。認めるとするならば、どこまで認めるのか。

 三つ目には、通常、憲法学の考え、あるいは各国の憲法からすれば、超法規的に緊急権が発動された場合には、国会の事後承認が望ましいとされていますが、お考えはどうなのか。望ましいのであれば、国会の承認を憲法に規定する必要はないのか。

 四つ目には、七十日間ルールも緊急権で延長できるのであれば、国会議員の任期も緊急権で延長できるのか。できないということだったら、一方が許され、他方が許されない理屈は何なのか。できるのであれば、緊急集会との関係はどうするのか。これも内閣の判断にお任せするのか。

 少なくとも、以上の四つぐらいの論点がはっきりしなければ、緊急集会で対応する案の全体像が見えてこない。その上で、両案を比較考量して、超法規的措置をあらかじめ想定すること、しかも、その判断を全て内閣に一任することが本当に望ましいのかという検討をすればよいというふうに思います。

 三つ目の不信感は、議員任期の延長は、国民の選挙権を制限し、正統性の根拠が乏しくなる。内閣に選挙困難の認定を委ねると、結局、国会議員を固定化して、内閣の独裁を生むおそれがある。また、その事例として、一九四一年に衆議院議員の任期が一年間延長されたというものです。

 確かに、議員任期の延長は例外措置であり、国民の選挙権が一時的に制限されることは事実です。しかし、その発動は、内閣単独で決めるのではなく、我々の案によればですね、国会の三分の二以上の事前承認が求められ、また、事後的に司法の関与もあります。しかも、これは、国会議員の発議と国民投票がなされた上で憲法にその手続が明記されることになります。こうしたことにより、異常時における民主的正統性は担保されると私は考えています。

 実際、諸外国の憲法でも、フランス、エストニア、スロベニア、スロバキア、ハンガリー、ポルトガル、ナチズムを経験したドイツ、ファシズムを経験したイタリア、独裁制を経験したスペインにおいても、議員の任期延長又は国会の解散禁止、あるいはその両方を憲法に規定しています。これらの国は民主的正統性を軽視していることになるのでしょうか。

 他方で、緊急集会で対応する案は、国会の議決も国民投票も経ず、憲法に規定もなく、それこそ内閣単独の判断で緊急時が事実上宣言され、不文の法理である緊急権によって憲法の規定も棚上げすることにより、緊急集会が七十日を超えることで二院制も軽視し、国会の承認は事前にも事後にもなく、平時に戻る判断も恐らく内閣に委ねられます。どっちの考えが民主的正統性を欠くのか。答えは火を見るよりも明らかだと思います。

 なお、一九四一年の任期延長は、全議席の八割以上を占めるという翼賛体制が既にでき上がっていた中で、法律で任期延長を決めたものであり、我々の案とは大分前提条件が異なるので、簡単に比較ができないというふうに思います。

 最後に、この問題を考える上で、改めて、やはり危機管理ということはどういうことなのかということを、私の考えを申し上げたいと思います。

 東日本大震災が発生した当時、想定外という言葉が至る所で広まったことが記憶にあります。この想定外という用語の意味としては、一つは、そのようなリスクを予想できなかったという意味と、二つ目には、予想はしていたけれども備えるべき問題とは認識しなかったという二種類の意味があるかと思います。

 前者の場合、そもそも対策を講じることはできないでしょうが、後者の、リスクが予想されたにもかかわらず対策を実施すべき問題とは認識しなかったという場合は、結局のところ、対策を実施しないと決定したことであり、その決定の責任は重たいというふうに考えます。

 危機管理というのは想定外の事態を一つ一つ潰していく作業であり、備えに伴うコスト、これは当然あります。備えた結果、得ることができるメリットとの比較考量が求められるというふうに思います。

 東日本大震災のときには、最大八か月選挙を実施することが難しかったという立法事実がある中、選挙困難事態が発生した際に想定外と言い逃れできないためにも、本件に結論を出して、早急に条文案の作成に入るべきであるというふうに考えます。

 なお、先ほども玉木委員それから三木委員からも話がありましたが、議員任期延長以外の国会機能維持対策における内閣不信任決議案の議決禁止に関しては、配付されている論点一覧表にあるとおり、これまでは解散の禁止とのバランス上必要であると私も述べてきましたが、その後、更に検討を深めて、緊急時に適切に機能しない内閣が出現した場合にはこれを替える必要があるということで、内閣不信任決議の禁止は不必要であるという結論に至ったことを申し上げまして、私の発言を終わります。

森会長 これにて討議は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時五十三分散会


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