衆議院

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第2号 令和5年11月9日(木曜日)

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令和五年十一月九日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   会長 森  英介君

   幹事 加藤 勝信君 幹事 小林 鷹之君

   幹事 寺田  稔君 幹事 中谷  元君

   幹事 船田  元君 幹事 階   猛君

   幹事 中川 正春君 幹事 馬場 伸幸君

   幹事 北側 一雄君

      赤澤 亮正君    井出 庸生君

      井野 俊郎君    井上 貴博君

      伊藤 達也君    岩屋  毅君

      衛藤征士郎君    越智 隆雄君

      大串 正樹君    大塚  拓君

      岸 信千世君    齋藤  健君

      下村 博文君    鈴木 英敬君

      高木  啓君    中川 貴元君

      中西 健治君    葉梨 康弘君

      古川 禎久君    松本 剛明君

      山下 貴司君    山田 賢司君

      新垣 邦男君    大島  敦君

      城井  崇君    近藤 昭一君

      本庄 知史君    谷田川 元君

      吉田はるみ君    青柳 仁士君

      岩谷 良平君    小野 泰輔君

      三木 圭恵君    大口 善徳君

      河西 宏一君    國重  徹君

      玉木雄一郎君    赤嶺 政賢君

      北神 圭朗君

    …………………………………

   衆議院憲法審査会事務局長 神崎 一郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月九日

 辞任         補欠選任

  石破  茂君     赤澤 亮正君

  鬼木  誠君     鈴木 英敬君

  細野 豪志君     岸 信千世君

  松本 剛明君     中川 貴元君

  山本 有二君     高木  啓君

同日

 辞任         補欠選任

  赤澤 亮正君     石破  茂君

  岸 信千世君     細野 豪志君

  鈴木 英敬君     鬼木  誠君

  高木  啓君     山本 有二君

  中川 貴元君     松本 剛明君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件(衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団の調査の概要)


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     ――――◇―――――

森会長 これより会議を開きます。

 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制に関する件について調査を進めます。

 この際、令和五年衆議院欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。

 私どもは、去る七月九日から十九日まで、フランス、アイルランド及びフィンランドの憲法及び国民投票制度について調査してまいりました。

 この議員団は、本審査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、団長を務めさせていただきました私から、調査の具体的な内容について御報告させていただき、委員各位の御参考に供したいと存じます。

 議員団は、私を団長に、自由民主党から新藤義孝君、立憲民主党から中川正春君、公明党から浜地雅一君、有志の会から北神圭朗君がそれぞれ参加し、合計五名の議員をもって構成されました。

 なお、この議員団には、衆議院憲法審査会事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員が同行いたしました。

 議員団は、訪問三か国に共通するテーマとして、第一に憲法改正の現状、第二に緊急事態条項、そして、第三として国民投票の在り方、この三つの関心事項を軸として調査を行ってまいりました。

 そこで、この三つのテーマに沿って、調査の概要を御報告いたします。

 まず、関心事項の第一、憲法改正の現状について御報告いたします。

 最初の訪問国であるフランスのパリでは、フランス憲法学の第一人者であるパリ・サクレー大学のブドン教授、同じく憲法学者で国民投票制度の専門家でもあるパリ・ナンテール大学のオックマン教授、フランス国会の下院に当たる国民議会のウリエ法務委員長、上院に当たる元老院のブッフェ法務委員長、ジュヌヴァール会長を始めとする国民議会仏日友好議員連盟のメンバー、大統領府では、大統領のリーダーシップを支える憲法担当大統領補佐官であるティエール氏及びフーク氏、フランスの憲法裁判所に当たる憲法院のマイア事務総長、最高行政裁判所と内閣法制局を合わせたような役割を持つコンセイユ・デタのジラルド事務総長らと意見交換を行いました。

 これら議員団の関心分野を網羅し、関心分野それぞれに沿ったハイレベルな訪問先は、全て、ブドン教授がアレンジしてくださったものです。

 また、ブドン教授は、全ての訪問先に同行、同席し、意見交換に際して我々の問題意識を的確に先方に伝え、議論を整理してくださいました。これにより、フランスにおける調査は、大変濃密で、意義深いものとなりました。

 改めて、ブドン教授に心から感謝を申し上げます。

 さて、フランスにおける憲法改正の現状について得られた知見を紹介しますと、まず、フランス憲法の改正手続のメインルートである八十九条においては、上下両院で可決された後に国民投票で承認されることが原則ですが、政府提出の場合、国民投票の代わりに、ベルサイユ宮殿で行われる両院合同会議において五分の三以上の賛成により憲法改正が成立するという例外的な手続も用意されています。

 しかし、八十九条にのっとって行われた二十二回の憲法改正のうち、二十一回は国民投票ではなく、両院合同会議により行われ、原則と例外が逆転しているとのことでした。これは、国民投票がどのような結果になるか予測不能で、蓋を開けてみないと分からないのに対して、両院合同会議は投票の結果を予測、すなわち票読みすることができるからだとのことでした。

 また、国民投票が政権への信任投票になってしまう傾向があることも挙げられていました。例えば、一九六九年に憲法改正国民投票が否決されたときも、ドゴール大統領に対する信任投票になってしまい、この否決がドゴール退陣につながったことを始めとして、幾つかの国民投票における否決がフランス政界にとってトラウマになっているとのことです。

 なお、フランスの現行憲法は二十四回の改正を重ねていますが、最後の改正は二〇〇八年であり、それ以降の改正の試みは全て失敗に終わっているとのことでした。その要因として、現代のフランス社会の価値観が細分化、多様化し、合意形成が難しくなっていることが指摘されていました。

 次に、アイルランドの憲法改正の現状について御報告いたします。

 アイルランドにおいては、まず下院を訪問し、愛日友好議員連盟会長でもあるオファイール下院議長らと意見交換、次いで外務省のアイビー・ハウスでハイランド副次官らと意見交換を行いました。また、現職の最高裁判事でもあるベイカー選挙委員会委員長、オレアリー事務局長らと国民投票の在り方に関し意見交換を行うとともに、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対応の司令塔であったホロハン元首席医務官らとも緊急事態対応に関し意見交換を行ったところです。最後に、アイルランドの最高学府であるトリニティー・カレッジの憲法学准教授であるケニー博士と総括的な議論を行いました。

 まず、アイルランドの憲法改正のプロセスにおいては市民議会という取組がなされていることが異口同音に強調されていました。

 市民議会とは、無作為に抽出された九十九人の市民と議長一人から構成される会議体で、特定のテーマについて必要に応じて設置されるものです。その百人の構成員が半年以上にわたって、適宜、週末に集まり、賛否両論の立場からの説明を受けた上で議論し、最後に採決して政府又は議会に勧告を行うというものです。

 単なる世論調査とは異なり、一つのテーマについてしっかりとした議論を通じてそれぞれの構成員が意見を形成することになり、また、その様子が動画で配信されて大きく報道されますので、一般国民もそのテーマについて理解を深めることになるとのことでした。

 このことを表す一つの例として、国民の多くがカトリック信者であるアイルランド社会にとって、憲法に規定されたカトリック的価値観の表れである妊娠中絶に関する規定を改正することは大きな問題でしたが、市民議会で議論した結果、その勧告は賛成六十七票、反対三十三票、その後の憲法改正国民投票では賛成六六%、反対三四%で可決されると、市民議会における結論をほぼ忠実になぞる結果になったとの説明を受けました。

 最後の訪問国であるフィンランドでは、我々の憲法審査会に該当するフィンランド議会基本法委員会の委員であるロフストロム議員、国防省のクーセラ防衛政策局長、外務省のルンドベリ政治局次長らと意見交換を行いました。

 フィンランドの憲法改正について印象深かった点として、憲法に該当する基本法の改正手続が挙げられます。

 基本法改正には、原則として、総選挙を挟んで二回の議決、特に二回目の議決は三分の二以上の多数が要求されていますが、例外として、議会の六分の五のスーパーマジョリティーによる賛成があれば、その会期における三分の二以上の議決で改正が成立するという、いわゆる緊急改正の方法があるとのことでした。

 例えば、基本法上、警察目的に限って認められていた通信傍受について、ロシアの脅威などを踏まえ、二〇一八年、緊急改正の手続を使って、安全保障目的でも傍受が可能なように改正したとのことです。

 また、基本法の条文そのものを改正する方法のほかに、例外法を制定することにより、基本法の文言を変更することなく、実質的に内容を変更する方法があることも、フィンランドの法体系の特徴です。これには、次のような歴史的な経緯があるとのことでした。

 元々フィンランドはスウェーデン領でしたが、一八〇〇年代初頭のフィンランド戦争の結果、敗れたスウェーデンは勝利したロシアにフィンランドを割譲、ここにロシア皇帝を君主とするフィンランド大公国が成立しました。その際、ロシア皇帝は、一旦は当時のフィンランド憲法を遵守することを誓った経緯があります。

 しかし、これ以降、憲法を改正しようとすればロシア皇帝が君主として介入してくるおそれがあり、これを避けるために、憲法本体には手をつけず、憲法改正と同じ手続を踏んだ例外法を制定することにより、実質的に憲法の内容を変更する方法が編み出されていったとされています。

 改めて、各国の憲法はその国の成り立ちや歴史を背負っているということに思いを致した次第です。

 次に、第二の関心事項である緊急事態条項について、その概要を御報告いたします。

 まず、フランス憲法には、大統領の非常事態措置権と戒厳という二つの緊急事態条項が規定されています。

 このうち大統領の非常事態措置権は、一九六一年、ドゴール大統領がフランス領アルジェリアで発生したクーデターに対処するために行使したのが唯一の発動例であり、もう一つの戒厳の発動例はありません。

 これら憲法上の緊急事態条項はほとんど発動されないため、実際の緊急事態対応は、緊急状態法など法律上の緊急事態条項によって行われているとのことです。

 ブドン教授によると、二つの憲法上の緊急事態条項は、ほとんど使われていないとしても有用な規定であり、何が起きるか分からない緊急事態に対処するためには必要不可欠とのことでした。

 お会いした方々は口々に、緊急事態の手続面や措置の内容に対する議会や憲法院によるチェックの重要性を強調しておられました。

 次に、アイルランド憲法の緊急事態条項は、発動されると、事態対応のために議会が制定した法律や、その法律に基づいて行われた措置について、裁判所は違憲判断を行うことができなくなるという強力な効果が発生します。このように司法チェックが全く働かなくなるため、憲法上の緊急事態条項の発動は極力避けるという運用がなされてきたとケニー博士から説明がありました。

 ただ、憲法上の緊急事態条項は、戦争又は武力反乱という二つの事態に限定されているため、そもそも余り発動の余地はなく、実際には、事態に応じた法律を制定することによって緊急事態対応が行われているとのことです。

 新型コロナへの対応については、政府の司令塔だったホロハン元首席医務官らと議論を行い、臨場感あふれるお話を伺うことができました。

 一部の措置に関しては、法的な根拠が整備される前に、国民に対して要請されたものもあったそうです。これは、アイルランド流に言うとスピリット・オブ・メル、つまり共同体の精神によって多くの国民が自発的に要請を受け入れてくれたとのことでした。このような国民性によって、アイルランドの新型コロナ対策は比較的うまくいったとのことでした。

 フィンランドの緊急事態条項については、基本法上の緊急事態条項は、武力攻撃と、国民を深刻に脅かすその他の非常事態のみを対象としているところですが、先ほど紹介した例外法として非常事態権限法が制定されて、実質的に、基本法の緊急事態条項の対象事態が拡張されているとのことでした。

 なお、フィンランド基本法では、議員任期が四年と明記されています。

 この点、今回訪問の他国、例えば、フランスの議員任期は法律に委ねられていますし、アイルランドにおいても、憲法で議員任期七年とされつつも、法律で短い任期を定めることができるとなっていて、実際には法律で任期五年と定められています。

 したがって、訪問した三か国のうち、我が国と同様に、憲法上、議員任期が明確に固定されているのはフィンランドのみということになります。

 そこで、この点に関連して、ロフストロム議員に、もし選挙ができなかったら任期が切れて議員不在となり、議会機能がストップするのではないかと質問したところ、そのときには、次の選挙が実施されるまで現在の議員が在職する旨の規定が基本法にあるため、この規定を使うことになるのではないだろうかとのお答えでした。

 なお、有事が発生し、議場や委員室が使えなくなった場合には、議事堂の地下にそのための施設が用意されているとのことです。

 続いて、第三の関心事項である国民投票の在り方について御報告申し上げます。

 フランスの国民投票における法規制については、この分野の第一人者であるオックマン教授と議論を行いました。

 フランスでは二〇一八年に、情報操作との闘いに関する法律を制定し、偽情報対策に踏み出しました。この法律には、投票日前、およそ三か月間、利害関係者が偽情報が流布されていると裁判所に申し立てた場合、裁判官が四十八時間以内に判断し、配信停止を命じることができるという手続が設けられています。

 この制度は、偽情報という表現内容に着目して規制を行うものであり、デジタル社会の弊害対策として一歩踏み込んだものとして、大変関心を有していたところですが、二〇一九年の欧州議会選挙の際に一回申立てがあったのみで、その後は制度の存在自体が忘れ去られたかのように使われていないとのことでした。

 なお、現在、フランスでは、デジタル化に伴って生じた新たな問題について、EUによる規制を前提にしつつ、国内独自の取組も模索しているとのことでした。

 一方、アイルランドにおいても、偽情報等の対策については、二〇二二年、選挙委員会が偽情報に対する監視や調査を行い、プラットフォーム事業者などに対し、削除通知やアクセス遮断を命じる制度が導入されました。

 この制度についても関心を持って意見交換に臨みましたが、オレアリー事務局長によると、選挙委員会自体、二月に発足したばかりであり、このような権限を発動した例はまだないとのことでした。

 また、アイルランドにおいては、これまで投票運動に巨額の資金を投入する立法事実がなかったこともあって、国民投票運動における支出上限規制は存在しないとのことでした。

 最後に、以上を踏まえて、団長として若干の所見を申し上げます。

 まず、フランスでは、憲法改正において、なるべく国民投票を避けようとするベクトルが働くということでしたが、国民投票が政権への信任投票になりがちなことは、過去の海外調査においても、イギリス、イタリア両国において国民投票が否決された直後にお会いしたイギリスのキャメロン元首相やイタリアの複数の下院議員からも指摘されていたことであり、国民投票の難しさを改めて認識したところです。

 また、近年、憲法改正の試みが失敗続きの理由として、フランス社会の価値観が細分化、多様化し、合意形成が難しくなっていることが挙げられていましたが、価値観の多様化は我が国も同様と思われ、いかに国民を分断することなく合意形成を図っていくかが憲法改正のポイントであることを改めて認識いたしました。

 この点、アイルランドでは、市民議会の取組が強調されていたところです。あらゆるテーマが市民議会での議論に適しているわけではありませんし、アイルランドが人口五百万人という規模だからこそ可能な試みかもしれませんが、国民の分断を防ぎ、合意形成を図る上で興味深い工夫と感じました。

 フィンランドでは、二〇一八年に緊急改正の手続を使って通信傍受に関する基本法改正が行われていますが、ロシアと長大な国境を接しているフィンランドが、常に緊張感を持ち、迅速に、必要な基本法改正に取り組んでいることを知り、国民を守るために、必要に応じて的確に改正を行っていくことの大切さを認識しました。

 緊急事態条項に関しては、各国共通して強調されていたのが、緊急事態対応における議会チェックの重要性です。そのためにも、緊急時における国会機能維持は重要であり、議員任期延長を始めとした国会機能維持策について、速やかに議論を詰めていかなければならないと感じたところです。

 緊急事態対応については、会議室における議論だけでなく、実地に、フィンランドのヘルシンキ市内に設置されているシェルターを見学しました。

 ヘルシンキ市の人口が六十六万人であるところ、約九十万人を収容できるシェルターが設置されているとのことであり、実際にシェルターの中に入ることで、常に有事と隣り合わせのフィンランドの緊張感と周到な準備を感じました。

 いかなる事態が起きても国民を守り抜くという、国家としての強い意思を感じたところです。

 また、国民投票における運動規制、特にデジタル社会の進展に伴う偽情報対策などについては、各国とも問題意識を持って取り組んでいるものの、いまだ有効な対策を見出すことができず、走りながら考えている状態だということがよく分かりました。

 なお、アイルランドでは、イギリスからの独立を求めて立ち上がった一九一六年のイースター蜂起の指導者たちが処刑されたキルメイナム刑務所も見学いたしました。処刑によって指導者たちは殉教者とみなされ、独立へのきっかけの一つとなった点で、同刑務所は独立の聖地とされています。

 その後、一九二二年にはアイルランド自由国憲法が制定されてアイルランド自由国が成立、この憲法の数度にわたる改正を経て、一九三七年の現行アイルランド憲法制定につながっていきます。一九四九年には英連邦から脱退し、正式に共和国となりました。

 このような歴史を前提にして、アイルランド憲法は、イギリスからの自立を強く意識し、自らのアイデンティティーを確認するという役目を背負うことになり、結果としてカトリックの価値観が色濃く反映されるものとなったとの説明を受けました。

 アイルランド憲法が普遍的な価値を規定する憲法に脱皮していくためには、カトリックの優越、離婚の禁止、妊娠中絶の禁止、神の冒涜の禁止といったカトリック的価値観を一つ一つ引き剥がしていく必要があり、そのための作業こそがアイルランドにおける憲法改正の意義なのだということを聞いて、憲法とは国や民族が背負う歴史そのものなのだということを改めて思い知らされました。

 ただいま御報告申し上げた調査の詳細については海外派遣報告書に取りまとめ、委員各位の机上に配付しております。こちらも併せて御参照くださいますようお願いいたします。

 最後になりましたが、今回の派遣に御協力をいただきました全ての関係者の皆様に心から感謝を申し上げ、私の報告といたします。

 以上、この度の海外調査の概要を御報告させていただきました。

 引き続きまして、調査に参加された委員から海外派遣報告に関連しての発言をそれぞれ七分以内でお願いいたします。

 発言時間の経過につきましては、おおむね七分経過時にブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、まず、中川正春君。

中川(正)委員 私からも、まず、こうした調査に派遣をしていただいたこと、感謝を申し上げたいと思います。

 フランス、アイルランド、そしてフィンランド、各国で、私なりに、特に印象に残った事柄を、短い時間ではありますが、七分間で報告をしたいと思います。

 まず、フランスです。

 フランスでは、憲法改正や法案作成に関連する三つの機関について、その役割が特に有効に働いているということを感じました。具体的には、コンセイユ・デタ、内閣事務総局、そして憲法院であります。

 コンセイユ・デタは、行政裁判の最高裁判所としての役割と、政府が法案を作るときの諮問機関、法律顧問としての役割を併せ持つといいます。しかし、政府からは独立した機関でありますので、最高行政裁判所の役割を持つところから、日本の内閣法制局とは少し性質が異なるということになります。

 一方で、政府の機関である内閣事務総局が首相に対する法律顧問の役割を担っており、これが日本の内閣法制局に近いかもしれないと説明がありました。

 さらに、憲法院があります。憲法院は、成立後、公布前の法律の合憲性審査を行うと同時に、事後審査制であるQPCでは、法律が国民の諸権利を侵害しているとみなされる場合に当該の法律を違憲無効とする二つの権限を併せ持つ機関であります。

 憲法と法律、また人権擁護に関連してこれだけのチェック機能を駆使しながら憲法を運用する体制に深く感銘を受けました。

 翻って、日本の実情に強い懸念を持ちます。憲法判断を避ける裁判所や政府の方針に沿った理論武装を担うということ、こんなことをともすると使命とするような内閣法制局だけで本当に適切な憲法や法律の運用ができているのか、自問しなければならないところだと思います。

 次に、緊急事態条項であります。

 フランスでは、憲法の緊急事態条項は実際上はさほど重要視されていないというブドン・パリ・サクレー大学教授の言葉がありました。憲法上の緊急事態条項よりも、緊急状態法などの一連の法律が議会や司法のコントロールの下で運用されているということが言及されました。緊急時に発動される例外的な政府の権力であっても、それを縛ることが必要だとすれば、憲法よりも法律で規定する方が実情に合った柔軟な対応が可能になるということであります。

 一方で、憲法改正の提起や起案はどこからなされるのかという問題であります。

 フランスでは大統領のイニシアチブで行われる場合が多いことなどが報告されましたが、私は、議会や国民がこれによって分断されるという可能性が高いということではないかという疑念を持ちました。

 次に、アイルランドであります。

 アイルランドでは、市民議会が話題となりました。先ほど会長からも御報告のあったとおりであります。この市民議会は、ランダムに選出された九十九人の市民と一人の議長から成り、国民投票が想定されるような課題について、専門家や市民運動家、また課題の当事者などから幅広く意見聴取しながら議論を重ねる中で、マスコミ報道などを通じて国民の理解を得ながら提言をまとめることが想定をされています。

 ともすると、政策がポピュリズムに流されて政争の具に使われるということなども懸念される現代社会あるいは現代政治において、政治闘争とは一線を画した市民議会がアイルランドではうまく機能しているように思われます。私たち日本の民主主義にとっても、工夫の余地があるように思われました。

 憲法の緊急事態条項については、更にはっきりした見解が述べられました。

 ケニー・トリニティー・カレッジ准教授の言葉をかりれば、憲法の国家緊急事態に関する条項を適用するより、期間を限定した上で、その緊急事態に応じた法律を制定することによって措置を行うというプロセスが取られているとのことであります。また、仮に憲法に規定がなくとも、国家緊急権は行政府に内在しているとアイルランドの裁判所は断定すると思うとの見解が出てきました。

 安全保障分野では、アイルランドは中立国としての立場を取っており、NATOへの参加はしないという姿勢であります。

 EU関連条約批准のための憲法改正が、アイルランドがEUの共同防衛に参加する義務を負うと国民に誤解されたために、国民投票で否決された経緯があります。そのため、EU関連条約を批准しても、憲法二十九条でEU共同防衛への不参加を規定することとして、EUに加盟しても共同防衛への義務を負うものではないということを改めて国民に説明をして、二回目の投票では可決をされたといいます。

 市民議会もなかった時代。憲法改正や国民投票では、その内容について国民的な議論が広く行われ、内容が十分に理解されなければならないという示唆ではないかと思います。

 フィンランドであります。

 フィンランドは、一九九五年にEUに加盟し、一九九九年には憲法に当たる基本法を制定しました。EU加盟では、国民の間で意見が割れたために国民投票によって結論を得ましたが、NATO加盟では、国民の七〇%以上が加盟への支持を表明していたから国民投票は行われなかったと説明がありました。

 また、フィンランドのNATO加盟で専守防衛という基本理念がどうなったかという問いに、クーセラ国防省防衛政策局長からは、防衛軍は国や国民を守るための組織であり、他国に対して兵力を駆使して侵略や攻撃などを計画したり実行したりはしない、それを専守防衛と言っている、しかし、NATOも同じ政策を取っているので、それと協調したものになっているというような解釈あるいは説明があり、防衛費が増大していくことに国民の理解を得ていきたいという発言もありました。

 ロシアのウクライナ侵攻を自分事に捉えるフィンランドがNATOに加盟した背景は、せっぱ詰まったものであります。アイルランドのNATO非加盟、中立政策維持や専守防衛政策に対するこだわりと、このフィンランドは対照的な対応になっています。

 フィンランドでは、ヘルシンキの町の中心部に設置されたシェルターも視察をいたしました。集合住宅にはシェルターの設置が義務づけられて、公共のものと合わせると、ヘルシンキでは、住民の六十万人を超えて、通勤者や旅行者の数も入れた九十万人を収容できるとしています。

 ふだんは子供向けのスペースや球技場として使われているシェルターも、有事の際の空調、二重扉、水、発電設備、簡易トイレやベッドが整備をされて、二週間は耐える前提となっています。有事の際には、まず国民の命を守る。ここから出発するフィンランドの安全保障の本気度、これを見た気がいたします。

 今回の視察を通じて、それぞれの国の憲法は、各国の歴史と環境が深く関わって明文化され、時代の変遷の中で試行錯誤を重ねながら、その時々の運用がなされてきていること、これを実感をいたしました。

 私たちも、日本の歩んできた歴史を振り返って、未来に対してより発展した世界観を示すことのできる憲法議論を目指していくことを改めて確認をし、報告にしたいと思います。

 以上です。ありがとうございました。

森会長 次に、北神圭朗君。

北神委員 私からも、今回の調査団に参加させていただいたこと、皆さんに心より感謝を申し上げたいと思います。

 私からは、フランスとアイルランドにおけるコロナ対策に関する緊急事態対応の在り方に絞って、御報告申し上げます。

 両国のコロナ対策に共通しているのは、法律のみによって国民の権利制限をしていることです。それぞれの憲法には、資料もお配りしておりますけれども、立派な緊急事態条項がありますが、コロナという事態が条文上の要件を満たさないため、これを適用できず、もっと言えば、この条項に根拠を求めずに、あくまで法律で私権を制限しています。

 私の問題意識は二つありました。

 一つは、コロナという事態が憲法上の緊急事態条項に当てはまらなくても、緊急事態においては権利制限ができるという制度が既に憲法にあったからこそ、法律で権利制限をしやすかったのではないか。二つ目は、立憲主義の観点から、本来は憲法に感染症対応の緊急事態規定を新たに設ける方が望ましいのではないかというものでした。

 フランスでは、ブドン教授は、憲法上の緊急事態条項は、ほとんど使われなくても有用な条文であり、例外的事態に対処するためにはもちろん必要不可欠なものであると、憲法上の緊急事態条項の必要性は認めています。

 他方、緊急事態の場合に限らず、法律によって自由を制限する根拠は究極的には憲法三十四条に求められる、同条一項には、市民の公的な自由に関する権利について法律を定めることができるとあり、市民に自由を与えられるのであれば、それを制限することも可能との解釈ができる、憲法院の判決でも、立法府が緊急事態に関する法律を作ることを憲法は排除していないとされている旨、発言がありました。

 加えて、私から、感染症対応などを対象とする緊急事態条項を新たに憲法に規定すべきではないかと問いました。これに対しては、憲法の主たる要素の一つは個人の権利等の保障で、もう一つは統治機構、これで十分ではないかと思っている、緊急事態に関する規定も必要だと思うが、憲法では大きな原則のみを定め、細かい技術的な部分に関しては立法府に委ねる方がよいと思う旨、考えを示されました。

 元老院のブッフェ法務委員長にも同じ問題意識を投げかけました。同委員長は、緊急事態で憲法、法律のどの規定を用いるか、あるいは用いないのかは、多くの権限が政府に移譲されているという観点を踏まえて、そのときの深刻さの度合いによって決定される、長期の場合には政府だけで決めることはできず議会の関与が必要だ、また、議会の決定は常に憲法院の監視下にあるため、複数の階層、段階において審査が行われるという歯止めがある旨、回答がありました。

 次に、アイルランドです。

 こちらの憲法にも、戦争、内乱に限ってはいますが、権利制約ができる二十八条三節三項があります。コロナの事態はこの対象にならず、現実には保健法の改正で対応しています。

 まず、保健省に対し私から、法律のみで権利制限ができたのは、憲法に、戦争、内乱に限ってはいるものの、緊急事態において平時より厳しい人権制限を可能とする根拠規定があるからなのかと問いました。同省のオフロイン法律顧問より、アイルランドでは憲法上の権利は非常に重視されているため、戦争のような極端な場合を除いては権利制限をちゅうちょする、さらに、そもそも、公衆衛生の文脈で憲法改正といっても、どのような条文にすればよいのかなど多くの困難がある、これまで感染症以外でも様々な権利制限が行われているが、裁判所はこれらを憲法違反だと判断しておらず、今回の権利制限は目新しいものではない旨、回答がありました。

 トリニティー・カレッジのケニー准教授にも同じ質問をしましたら、憲法には絶対的な人権というものがない、一つには共通善、もう一つには公的な秩序又は道徳のために人権が制限され得ることが規定されている、裁判所はそれらの人権制限と達成される共通善との比例性審査を行うが、緊急事態時には共通善が大きいので、より厳しい人権制限が正当化される、このように立法で人権を制限することができる旨、説明がありました。

 あえて私から両国でのやり取りを総括するならば、一つは、まず、両国とも憲法上の緊急事態条項を法体系に持っておくことは重要、あるいは当然だと認識されていると改めて確認ができました。

 二つ目は、といっても、それぞれの憲法上の緊急事態条項の要件は限定的であり、フランスでは、条文にございますけれども、公権力の適正な運営が中断されているかどうか、アイルランドでは戦争、内乱に該当しているなど、適用の判断基準となっています。

 三つ目、他方、感染症など緊急事態の対象を広げるためにあえて憲法改正すべきではないかという点については、その必要性を認識している発言はありませんでした。

 四つ目は、法律で権利を制限する憲法上の根拠としては、フランス、アイルランドも我が国憲法第十三条の公共の福祉に似た条文に求めています。

 最後に、五つ目、法律で権利制限をする際の権限濫用のおそれについては、議会が関与していることや、憲法院や裁判所の憲法判断が十分に機能していること、つまり、両国とも三権分立などの制度に対する信頼が厚いと感じました。

 以上、私の報告を終わります。ありがとうございます。

森会長 これにて調査に参加された委員からの発言は終了いたしました。

 次回は、来る十六日木曜日午前九時五十分幹事会、午前十時審査会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時四十一分散会


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