衆議院

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第35号 平成16年5月25日(火曜日)

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平成十六年五月二十五日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第二十五号

  平成十六年五月二十五日

    午後一時開議

 第一 破産法案(内閣提出、参議院送付)

 第二 破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第三 建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第四 不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第五 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 第六 公益通報者保護法案(内閣提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 破産法案(内閣提出、参議院送付)

 日程第二 破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第三 建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第四 不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第五 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第六 公益通報者保護法案(内閣提出)

 小泉内閣総理大臣の北朝鮮訪問に関する報告及び質疑


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    午後一時三分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 破産法案(内閣提出、参議院送付)

 日程第二 破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(河野洋平君) 日程第一、破産法案、日程第二、破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案、右両案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長柳本卓治君。

    ―――――――――――――

 破産法案及び同報告書

 破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔柳本卓治君登壇〕

柳本卓治君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 両案は、破産手続の迅速化及び合理化を図るとともに、その実効性及び公正さを確保するため、債権の調査及びその確定の手続、配当手続等の簡素合理化、管轄裁判所の拡大、自由財産の範囲の拡張、各種債権の優先順位の見直しなど所要の法整備を行うとともに、あわせて、関連する諸法律の規定の整備を行おうとするものであります。

 両案は、参議院先議に係るもので、五月十三日本委員会に付託され、十四日野沢法務大臣から提案理由の説明を聴取し、質疑に入り、十八日参考人の意見を聴取し、十九日質疑を終局し、二十一日採決を行った結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、破産法案に対し附帯決議が付されましたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 両案を一括して採決いたします。

 両案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、両案とも委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第三 建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

 日程第四 不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(河野洋平君) 日程第三、建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案、日程第四、不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案、右両案を一括して議題といたします。

 委員長の報告を求めます。国土交通委員長赤羽一嘉君。

    ―――――――――――――

 建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案及び同報告書

 不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔赤羽一嘉君登壇〕

赤羽一嘉君 ただいま議題となりました両法律案につきまして、国土交通委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 まず、建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案について申し上げます。

 我が国の建築物の安全性及び市街地の防災機能は、未曾有の大被害となった平成七年の阪神・淡路大震災や昨年の宮城県北部地震から明らかなように、地震や火災に対する安全性が十分確保されているとは言えない状況にあることにかんがみ、本案は、今後の大規模地震に備えた安全で安心できるまちづくりの実現のための所要の措置を講じようとするものであります。

 その主な内容は、

 第一に、老朽化等の進行を放置すれば地震により崩壊する危険性が高いなどの既存不適格建築物に対して、建築行政を所管する特定行政庁が勧告、是正命令を行うことができること、

 第二に、災害が起きた場合等に多数の生命にかかわる建築基準に違反している建築物について、是正命令に従わない場合の罰金の大幅な引き上げを行うこと

などであります。

 次に、不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案について申し上げます。

 本案は、今日の不動産市場が実需中心の市場へと構造的に変化する中、不動産の取引や投資に当たっては、価格変動のリスクを考慮し、利便性、収益性といった利用価値に見合った価格を見きわめる必要が高まっている状況を踏まえ、不動産取引の円滑化と適正な地価の形成を図るための措置を講じようとするものであります。

 その主な内容は、

 第一に、地価公示の対象区域を拡大すること、

 第二に、不動産鑑定士等が不動産の取引や投資に関する相談に応じる業務等について適正な遂行を確保するための規定を整備すること、

 第三に、不動産鑑定士の資格取得制度を簡素合理化すること

などであります。

 両法律案は、参議院先議に係るもので、去る五月十四日本委員会に付託され、十九日石原国土交通大臣からそれぞれ提案理由の説明を聴取いたしました。

 二十一日、まず、建築物の安全性及び市街地の防災機能の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案について質疑に入り、質疑終了後、討論を行い、採決いたしました結果、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、本案に対し、増改築等による建築物の安全性の向上を図るため、事業者等に対し既存不適格建築物に係る本法の措置について周知徹底を図ることなど、六項目の附帯決議が付されました。

 次いで、不動産取引の円滑化のための地価公示法及び不動産の鑑定評価に関する法律の一部を改正する法律案について質疑に入り、質疑終了後、採決いたしました結果、本案は全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 なお、本案に対しましても、不動産鑑定士等が行う鑑定評価等業務が適正に行われるよう指導監督することなど、五項目の附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) これより採決に入ります。

 まず、日程第三につき採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

 次に、日程第四につき採決いたします。

 本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第五 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、参議院送付)

議長(河野洋平君) 日程第五、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。文部科学委員長池坊保子君。

    ―――――――――――――

 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔池坊保子君登壇〕

池坊保子君 ただいま議題となりました法律案につきまして、文部科学委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、放射性同位元素及び放射線発生装置の使用等を取り巻く社会経済情勢の変化に対応し、放射性同位元素の販売及び賃貸の業の規制を合理化するとともに、定期確認制度、廃棄物の埋設確認制度を創設する等所要の改正を行おうとするもので、その主な内容は、

 第一に、販売及び賃貸の業の許可制を届け出制にすること、

 第二に、放射線測定記録等の定期確認制度を創設すること、

 第三に、廃棄物埋設をしようとする許可廃棄業者は、文部科学大臣または登録埋設確認機関の確認を受けなければならないこととすること

などでございます。

 本案は、参議院先議に係るもので、五月十八日本委員会に付託され、翌十九日河村文部科学大臣から提案理由の説明を聴取し、去る二十一日質疑を行い、採決の結果、全会一致をもって原案のとおり可決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第六 公益通報者保護法案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 日程第六、公益通報者保護法案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。内閣委員長山本公一君。

    ―――――――――――――

 公益通報者保護法案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔山本公一君登壇〕

山本公一君 ただいま議題となりました公益通報者保護法案につきまして、内閣委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等並びに公益通報に関し事業者及び行政機関がとるべき措置を定めることにより、公益通報者の保護を図るとともに、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図ろうとするものであります。

 本案は、去る四月二十七日本会議において趣旨説明及び質疑が行われ、同日本委員会に付託されました。

 本委員会におきましては、五月十二日竹中国務大臣から提案理由の説明を聴取した後、質疑に入り、十九日には参考人から意見を聴取いたしました。二十一日質疑終了後、本案に対し、民主党・無所属クラブ提案に係る修正案及び日本共産党提案に係る修正案が提出され、両修正案についてそれぞれ提出者から趣旨の説明を聴取いたしました。次いで、討論を行い、採決いたしましたところ、両修正案はいずれも賛成少数をもって否決され、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと決した次第であります。

 なお、本案に対し附帯決議が付されました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 討論の通告があります。これを許します。島田久君。

    〔島田久君登壇〕

島田久君 民主党・無所属クラブの島田久であります。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、公益通報者保護法案に対して、反対の立場から討論を行います。(拍手)

 この法案は、公益通報者を保護し、公正で正義感に満ち満ちた社会を構築する、そして、速やかに反社会的な行為が是正されることが重要な要件であります。その背景と必要性については、どの政党より早くから訴えてまいりました。

 しかし、政府が今国会に提出しました本法案は、通報者、通報対象事実を狭く設定した上、通報者保護から見ても極めて不十分であり、実質的には、公益通報者保護法案ではなく、公益通報抑制法案というべき内容になっております。(拍手)

 以下、反対する理由を具体的に申し上げます。

 第一に、本法案は、公益通報者の範囲として、労働者(派遣労働者が派遣先に通報する場合と取引事業者の事業に従事する労働者が取引先に通報する場合を含む)のみを対象としています。それでは、雪印食品のケースのような、弱い立場にある下請事業者は保護されません。

 公益通報者保護制度の立法趣旨からしても、内部情報に接し得る者は、その立場を問わず、基本的には何人も保護されなければならないと思います。

 第二に、本法案は、通報対象事実について、極めて狭い範囲に限定されています。本法案のように通報対象事実を非常に狭い範囲に限定しては、保護される通報はほとんどなくなってしまい、極めて不当と言わざるを得ません。

 公益通報者保護制度を十分に機能させるためには、犯罪行為に該当する場合に限定すべきでなく、法令違反でなくても、生命や健康に重大な影響を与える事実や当該侵害事実が違法に消費者利益等を害するものと評価できる場合などを広く含むべきであります。

 第三に、本法案は、外部通報先の範囲についても、外部通報要件についても、過重に限定されており、これも公益通報を抑制する要因になりかねません。また、通報先を問わず、「他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない」とする条項第八条は、公益通報しようとする者を不当に萎縮させ、公益通報を抑制する結果をもたらすものであり、削除すべきであります。

 第四に、公益通報者である労働者が、通報を理由として刑事責任や民事上の責任等を追及されるおそれがあるので、通報した内容が社会的に見て批判されるものであり真実であるなら、刑事責任、民事責任を問われないように配慮される必要があります。

 第五に、本法案は、政府の提案によれば、公布から二年以内に施行、見直しは施行後五年後にということになっており、見直しまでの時間が余りにも長過ぎます。政府の言うように、小さく産んで大きく育てるのであれば、私どもが提案するように、公布から一年以内に施行、施行後三年以内に見直すべきであります。

 本法案は、その立法の趣旨にかんがみて、そのほかにも多くの問題点を抱えています。公益通報者保護制度を実効あらしめるためには、法案で示している公益通報の内容、保護されるべき通報者の範囲を広げ、保護による効果を拡大し、さらに、公益のために事業所外部へ通報を行った者が必要な保護を受けられるように十分配慮されるべきであります。

 私どもは、この種の制度の必要性、緊急性や社会的な要請については痛感しており、何とか公益通報者の保護制度を確立しようと本法案の抜本的な修正を訴えてまいりましたが、残念ながら理解を得ることができませんでした。ざんきにたえません。

 さらに、本法案が成立しても、立法の趣旨に沿った内容に高めるために、機をとらえて絶えず改正を訴え続けていく決意を申し上げ、私の民主党・無所属クラブを代表しての討論を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(河野洋平君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(北朝鮮訪問に関する報告)

議長(河野洋平君) 内閣総理大臣から、北朝鮮訪問に関する報告について発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣小泉純一郎君。

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 私は、五月二十二日、北朝鮮の平壌を訪問し、日朝首脳会談を行いました。

 私は、金正日国防委員長との会談で、拉致問題及び核問題やミサイル問題といった安全保障上の問題等について、大局的かつ率直な意見交換を行いました。この首脳会談の結果、今後の日朝関係を進めていく上で、日朝平壌宣言がその基礎であり、同宣言を双方が誠実に履行していくことが再確認され、国交正常化に向けて互いに努力していくことを申し合わせました。

 拉致問題については、拉致被害者である蓮池薫さん、祐木子さんの御家族、地村保志さん、富貴恵さんの御家族、計五名の御家族の日本への帰国が実現いたしました。(拍手)

 曽我ひとみさんの御家族三名については、私から直接、御主人のジェンキンスさん及び二人の娘さんに来日を強く働きかけました。しかしながら、御本人たちの意思はかたく、今般の帰国は見合わされましたが、今後、早期に第三国で御家族が再会されることで調整することになりました。(拍手)

 安否不明の拉致被害者の方々に関する徹底した真相究明を私から強く働きかけました。この結果、金正日国防委員長より、改めて白紙の状態から、直ちに本格的な調査を行う旨の明言がありました。(拍手)また、私からは、今後新たに拉致と認定される事案がある場合には、真相究明の対象として取り上げる考えを北朝鮮側に伝えました。

 核問題については、私から、北朝鮮による核開発は日本の安全保障にとり脅威であり、絶対に容認できないことを強調し、国際的な検証のもとにおける完全な核廃棄を強く求めました。これに対し、金正日国防委員長からは、朝鮮半島の非核化が最終目標である、六者会合を活用して平和的解決に努力したい、核の凍結は非核化の第一歩であり、検証が伴うものである旨の発言がありました。今後、六者会合の場を通じて、この問題の平和的解決に向けて一層の努力を傾けることで意見の一致を見ました。

 私より、我が国の安全保障との関連で、ミサイル問題の解決が重要であることを強調し、金正日委員長との間で、ミサイル発射のモラトリアム継続の再確認も行いました。

 私は、今回の首脳会談の結果を踏まえつつ、とりわけ、拉致問題につき、安否不明の方々に関する真相究明、曽我さん御一家の再会、核問題やミサイル問題の解決に向けて、早期に具体的な前進が図られることが重要と考えております。

 政府としては、今後とも、米国及び韓国等関係国と緊密に連携しながら、諸懸案の包括的解決を図り、日朝関係を改善させていくことにより、日本の安全保障及び日本国民の生命と安全を確保するとともに、北東アジアの平和と安定のために一層積極的な役割を果たしていく考えであります。(拍手)

     ――――◇―――――

 内閣総理大臣の発言(北朝鮮訪問に関する報告)に対する質疑

議長(河野洋平君) ただいまの発言に対して質疑の通告があります。順次これを許します。渡辺博道君。

    〔渡辺博道君登壇〕

渡辺博道君 自由民主党の渡辺博道でございます。

 私は、自由民主党を代表いたしまして、ただいま報告のありました小泉総理の北朝鮮訪問について質問をいたします。(拍手)

 私は、議員三期目で初めての登壇であります。その登壇を楽しみにしていた私の父が、小泉総理訪朝の前日、九十三歳の人生の幕を閉じました。私にとりまして生涯忘れ得ぬ登壇の機会を与えていただき、心から感謝を申し上げる次第であります。(拍手)

 時は人を待たず。とりわけ、拉致問題に関しては、その発生から四半世紀以上が過ぎたことを踏まえれば、一日も早い解決が必要であります。そして、そのためには、具体的な行動が不可欠であることを、今、改めて実感しております。

 小泉総理の歴史的な北朝鮮初訪問から一年八カ月の時を経て、今回、総理は、外交上異例とも言える、二度目の続けての訪問を決行しました。これは、停滞した日朝関係を打破できるのは自分だけしかいない、何としても拉致問題を早期に解決したいという小泉総理の強い信念と使命感に裏打ちされたものであると私は信じ、高く評価をいたします。(拍手)

 また、核問題やミサイル問題といった我が国の平和と安定に直結する問題についても、金正日国防委員長との間で突っ込んだ意見交換が行われたものと承知しております。

 他方、依然として積み残されたままの重要な案件があります。拉致問題については、曽我ひとみさんの御家族の今回の訪日は実現できませんでした。安否不明の十名の方々に関する真相究明、また、いわゆる特定失踪者の方々に関する安否確認等は、依然として大きな課題として残っております。核問題等の安全保障上の問題についても、その完全な解決のためには、依然としてなすべき課題が山積しております。

 本日は、こうした問題意識を踏まえ、小泉総理に対し、今回の訪朝に関する所感を伺うとともに、日朝関係の今後の取り進めについて伺いたいと考えております。

 そこで、まず初めに、今回の北朝鮮訪問の成果について、総理にお伺いをいたします。

 拉致問題については、前回の訪朝の際、金正日委員長みずから、この問題について明確な形でおわびの言葉を表明いたしました。また、その一カ月後には、拉致被害者である蓮池薫さん、祐木子さん、地村保志さん、富貴恵さん、曽我ひとみさんの五名の帰国が実現いたしました。これは、まさに前回の総理の訪朝の大きな成果であったと考えます。他方、五人の拉致被害者の帰国の後、さまざまな理由から日朝関係は再び停滞し、拉致問題についても一年七カ月にわたりほとんど進展が得られなかったのも御承知のとおりであります。

 時は得がたくして失われやすし。このまま放置しておいては、拉致問題の解決はますます遠のいていたのかもしれません。そうした意味で、拉致問題の解決に向け具体的な進展を得るべく、総理が北朝鮮訪問を決行されたことを改めて評価したいと思います。(拍手)

 世間では、日本の首相が二度にわたり同一の国に訪問するというのは外交上異例のことであり、このことに批判の声もあります。しかし、私は、そうした外交上の慣例というものは、あくまでも正常な国交関係を持つ国の間のものであり、北朝鮮のような独裁国家であり、正常な関係でない国との間ではやむを得なかったものでないかと考えております。(拍手)

 今回は、蓮池さん御一家、地村さん御一家の五名のお子さんたちが帰国を果たされました。他方、曽我ひとみさんの御家族については、総理の必死の説得にもかかわらず、今回の訪日はかなうことができませんでした。この問題は、人道的にも一日も早い解決の求められる問題であり、また、我が国とアメリカとの関係でも重要な課題であると考えます。

 そこで、曽我さんの御家族であるジェンキンスさん及び二人の娘さんの訪日に関し、金正日国防委員長との間でいかなるやりとりがあったのか、お尋ねをしたいと思います。

 また、金正日委員長との会談の後、ジェンキンスさん及び二人の娘さんとの間で話し合いを行い、総理みずから訪日の説得に努められたと伺いました。ついては、ジェンキンスさんとの間でいかなるやりとりがあったのか、具体的に御説明をいただきたいと存じます。

 また、曽我ひとみさんとジェンキンスさんら御家族との再会については、第三国で行う方向で今後調整を行っていくとの報告を先ほど受けました。政府は、曽我さん御一家が静かな雰囲気の中で自由に話し合う環境を整えるべく、早急に北朝鮮側と調整を行うべきであると考えます。ついては、改めて、曽我さん御家族の早期再会に向けた総理の御決意及び今後の段取りを伺いたいと思います。

 さらに、拉致問題については、安否不明の拉致被害者十名の方々に関する真相究明がございます。

 先ほど総理は、金正日国防委員長より、改めて白紙の状態から、直ちに本格的な調査を行う旨の明言があったとの説明がありました。私としては、こうした調査が、日本の参加のもと、早急に進められ、一日も早い真相究明を実現することが重要であると考えております。ついては、この再調査につき、今後の段取りや日本としてどのように参加していくのか、政府としての見解を伺いたいと思います。

 また、拉致問題に関する政府内の枠組みである専門幹事会を早期に開催すべきであると考えますが、この点についても総理のお考え方をお伺いします。

 核問題及びミサイル問題も、我が国の安全保障にとり重要な案件であるとともに、北東アジア地域、ひいては国際社会全体の問題として、包括的な解決が必要であります。

 核問題については、総理が前回訪朝された直後である一昨年十月に、アメリカのケリー特使が訪朝し、ウラン濃縮計画を進めていることが明らかになって以来、再び国際社会から強い懸念が寄せられております。

 核問題の平和的解決に向け、昨年八月には、我が国も含めた六者会合の枠組みが立ち上がり、昨年八月、本年二月に本会合が北京において行われ、この六者会合に関連した作業部会も先日行われたところであります。

 しかし、こうした国際社会での取り組みにもかかわらず、完全、検証可能かつ後戻りできない核計画の廃棄等を求める日米韓とそれを拒否する北朝鮮側との間で、立場の相違は依然として縮まっておりません。

 総理は、今回、このような状況の中、訪朝されたのでありますが、六者会合のメンバーである日本の総理として、核問題及びミサイル問題についてどのような姿勢で臨まれたのでしょうか、また、金正日国防委員長からはどのような反応があったのか、さらに、今後こうした問題についていかに取り組んでいくか、お聞かせ願いたいと存じます。

 さらに、来月行われますG8サミットにおいて、今回の首脳会談における成果を各国首脳に対しどのように説明される予定でおられるか、お伺いしたいと思います。

 首脳会談において、総理は、日朝平壌宣言が遵守されるならば制裁を発動しないと発言されたと伝えられております。このことは、すなわち、平壌宣言が遵守されないならば必要な制裁措置を発動することにちゅうちょしないという意味であると私は受けとめております。この点について、総理の真意をお伺いいたします。

 外交は、一歩一歩の積み重ねが大事であります。特に、第二次大戦以来、不正常な関係の続いてきた北朝鮮との間で問題解決に向け交渉することは、決して容易なことではありません。

 今回の総理の訪朝は、北東アジアの平和と安定につながる日朝関係の打開を目指し、大局的な見地から決断がなされたものと思います。今回の首脳会談を通じ、一定の成果を得、拉致問題、核問題、ミサイル問題等の諸問題の包括的な解決のため、新たなる一歩を踏み出されたものと考えます。

 しかし、依然として、解決を要する問題も数多く残されているのも事実であります。北朝鮮をめぐる問題の解決には、我が国のみならず、米国、韓国等、国際社会全体の協力と理解を得ながら、粘り強く努力を継続することが重要であると考えます。

 最後に、総理に、日朝関係の前進、とりわけ時間との闘いとも言える拉致問題解決に向けた覚悟と決意のほどをお伺いし、質問を終わらせていただきます。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 渡辺議員にお答えいたします。

 今回の訪朝の成果でございますが、先ほど御報告したとおり、金正日国防委員長との首脳会談において、日朝双方が日朝平壌宣言を履行していく考えであることを改めて確認いたしました。

 具体的には、拉致被害者家族五名の帰国を実現し、曽我ひとみさんの御家族についても、第三国での再会につき調整することとし、安否不明の方々の真相究明に向けた、白紙状態からの徹底した調査を直ちに再開することになりました。

 また、核問題については、金正日委員長自身から、凍結は非核化への第一歩であり、当然検証を伴うものとの発言があり、六者会合を通じ、核問題の平和的解決に向けて一層の努力を傾けることで合意しました。

 さらに、ミサイル発射のモラトリアムの継続を再確認するなど、我が国のみならず、地域の安全保障にとって重要な諸問題についても成果があったと考えております。

 ジェンキンス氏らに関する問題でございますが、首脳会談において金正日委員長からは、訪日するか否かはジェンキンス氏の意向に任せる、自分は家族が離散することは望まない、貴総理が本人と直接話し合ってもよいといった発言がありました。

 私は、これを受け、金委員長との会談後、ジェンキンス氏及び二人のお子さんと話し合い、強く来日を働きかけました。しかし、ジェンキンス氏は、来日した場合、米国から訴追されるおそれがあり、訪日できないとの強い意向を示したので、私から、まずは第三国で曽我ひとみさんと再会してはいかがかと提案し、それに対し、ジェンキンス氏及び曽我さん双方がこれに同意いたしました。

 政府としては、曽我さんの意向も踏まえつつ、一日も早く、適切な第三国における御家族との再会を実現させたいと考えております。

 安否不明の方々に関する調査でございますが、安否不明の方々についての真相究明は一刻も早く行う必要がありますが、我が国のみでできることには限界があり、北朝鮮側の協力が必要であります。今回、北朝鮮側が、本件は解決済みであるとの従来の姿勢を改め、白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底的な調査を行うとしたことは、極めて重要であると考えます。

 我が国としては、早急に先方の再調査の結果を求める一方、我が国独自の調査結果とも突き合わせて真相の解明を図っていく考えであります。

 拉致問題に関する専門幹事会についてでございますが、あす、専門幹事会を開催し、今回の首脳会談の結果を踏まえて、拉致問題に関する今後の政府の取り組みについて協議することとしております。

 核、ミサイル問題についてでございますが、私は、完全な核廃棄がこの地域の平和と安全に不可欠であることを強調し、国際的な検証のもとでの核廃棄を強く求めました。また、そうすることによってこそ北朝鮮の安全が保障され、北朝鮮の利益にもなると説明いたしました。

 これに対して、金正日国防委員長からは、朝鮮半島の非核化が最終目標である、六者会合を活用して平和的解決に努力したい、核の凍結は非核化の第一歩であり、検証が伴うものである旨の発言がありました。また、金正日委員長との間で、ミサイル発射のモラトリアム継続についても再確認を行いました。

 政府としては、今後とも、日朝平壌宣言に沿って、拉致、核、ミサイルといった日朝間の諸懸案を包括的に解決した上で、北東アジア地域の平和と安定に資する形で日朝国交正常化を実現すべく、努力を傾注していく考えであります。

 G8サミットでございますが、今回、拉致問題について一定の前進が見られました。また、核問題については、完全な核廃棄の必要性を金正日国防委員長に対して求め、朝鮮半島の非核化が最終目標であり、六者会合を活用して平和的解決に努力したい旨等の発言があったことが成果であると考えております。

 G8サミットでは、今後の六者会合の進展にもつながり得るこのような結果を説明し、我が国の対北朝鮮政策に対する理解と支持を求めたいと考えております。

 日朝平壌宣言と北朝鮮に対する制裁についてでございますが、日朝平壌宣言は、日朝双方が日朝間に存在する諸問題に誠意を持って取り組むとしております。政府として、北朝鮮に対し、日朝間の諸懸案の解決に向けた前向きかつ誠意ある対応を促していくため、その時々に最善の方策をとっていく考えであります。

 いずれにせよ、日朝平壌宣言の精神に従った取り組みがなされようとしている現時点において、北朝鮮に対し、いわゆる経済制裁を発動する考えはありません。

 今後の日朝関係に関してでございますが、政府としては、今回の日朝会談の成果を踏まえ、今後とも、日朝平壌宣言に沿って、拉致、核、ミサイルといった日朝間の諸懸案を包括的に解決した上で、北東アジア地域の平和と安定に資する形で日朝国交正常化を実現すべく、引き続き努力を傾注していく考えであります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 鳩山由紀夫君。

    〔鳩山由紀夫君登壇〕

鳩山由紀夫君 政治は愛と信じています、民主党の鳩山由紀夫でございます。(拍手)

 再訪朝を発表してからわずか八日後、国民がかたずをのむ中で、小泉総理は北朝鮮訪問を決行されました。民主党の拉致問題対策本部長の任に当たってきた者として、このタイミングと状況下での訪朝に対して大きな不安を抱く一方、並々ならぬ期待感を持ってニュースを受けとめておりました。

 当日、小泉総理が、御家族の方がされているものと同じ、この青いバッジを胸元におつけになっておられるのを見て、かなり勇気づけられたのでありますが、結果は極めて残念、いや、無念と言わざるを得ません。(拍手)

 もちろん、蓮池さん、地村さんの御家族五名の方々が帰国されたことは、まことに喜ばしいことでございます。今後、五名の方々が日本の新しい環境に一日も早く溶け込めますように、政府の特段の配慮を求めます。

 しかし、前回の訪問から一年八カ月、そして拉致事件からは十年あるいは二十年以上もの歳月を耐えてこられた拉致被害者及びその御家族の思いはどうなったのでしょうか。御家族や国民の皆さんの多くは、最低でも八人の方の帰国と安否不明の方々の消息は得られるものと期待しておりましただけに、落胆は極めて大きいのでございます。

 以下、拉致被害者とその御家族、そして我が国の国益の視点に立って、今回の総理の訪朝について、民主党・無所属クラブを代表して質問をいたします。

 今回、通常の外交慣習を曲げて、一国を代表する総理みずからが北朝鮮を再度訪問されたわけです。本来ならば、北朝鮮側がすべての拉致被害者とともに来日するのが筋であるにもかかわらずであります。また、わずか九十分で会談が終了した事実も、失望に追い打ちをかけています。小泉総理は、しっかり対決してほしかったという横田早紀江さんの言葉をどう受けとめておられるのですか。

 総理は、交渉の中で、「日本にいる方々は、一人一人が生きていると信じている」と発言されたようでありますが、そのことに関して早紀江さんは、「総理御自身がはっきりと「みんなが生きているんだ」と自覚してほしいのです」と話されたのであります。そんなに短い時間で総理が怒りの声を上げてくれたとは到底思えないとの早紀江さんの言葉に、総理はこたえることができますか。日本国を背負っておられる、日本国民の命がかかっているとの認識を十分お持ちなのでしょうか。

 今回、最大の問題は、曽我さんの夫のジェンキンス氏の処遇についてでございます。米国との協議が調っていないとされる中で、総理はジェンキンス氏に保証(アイ・ギャランティー)したと言われておりますが、一体、何を保証されたのでありますか。それとも、米国との協議はもう既に調っておるのでありますか。米国との間で何らかの保証を得てから訪朝すべきではなかったのですか。(拍手)

 また、死亡あるいは不明とされている十名の方々の安否について、全く新たな事実が示されておりませんが、二〇〇二年の十月、日朝国交正常化交渉で、百五十項目にわたる質問事項を北朝鮮に投げかけていたはずです。政府は、訪朝前、その回答を前提に調査を依頼されているのが当然、自然の話ですが、まさか総理は、全く白紙の状態からの十名の安否の再調査に同意したのですか。これではさきの訪朝時と全く同じ出発点であり、期限も設けない再調査の同意で事足れりとしたことを御家族に批判されるのも当然でありましょう。(拍手)横田滋さんの、予想した中で最悪の結果という悲痛な叫びや、市川健一さんの、問題を棚上げしたも同然、私たちが苦しんでいるのになぜなのかと、込み上げてくる疑問の声が総理には聞こえないのでしょうか。

 百五十項目の質問の取り扱いを含め、再調査の具体的方針やその期限について御所見を伺いたい。

 さらに、拉致事件の重要な問題は、百名を超え、四百名とも言われている、拉致の疑いが実に濃い失踪者に関する事実の確認であります。

 小泉総理は、金正日総書記に対して通り一遍の言及しかされていないような印象でありますが、どのように調査の要求をされたのですか。二〇〇二年の九月まで政府は曽我ひとみさんを拉致被害者として認定もしていなかったことを考えますと、政府の特定失踪者問題への取り組みは大変に不誠実であります。

 今後、徹底的に調査をする体制を整えるためにも、改めて内閣に失踪者・行方不明者及び拉致問題対策本部を設置して、抜本的に政府の取り組みを強化すべきであります。総理の御見解をぜひ伺いたい。(拍手)

 今回、小泉総理は、金正日総書記に対し、日朝平壌宣言を守る限り経済制裁を発動しないと明言されました。ところが、平壌宣言には拉致問題のラの字もありません。つまり、北朝鮮側は、拉致事件を進展させなくとも経済制裁はしないとの確約を得たも同然じゃありませんか。そもそも、拉致事件は我が国の主権を侵害し、日本国民の人権と安全を踏みにじった重大事件であり、解決にはほど遠い状況の中で、この問題の全容解明、全面解決への外交カードをみずから捨ててしまうことは、外交的な大失敗であります。(拍手)

 今後、北朝鮮が拉致事件を進展させなくとも経済制裁を発動させないのか、また、特定船舶等入港禁止法案が国会に提出されている中で、どういうつもりでこのような約束をされたのか、明確な答弁を願います。もし拉致事件の解決等に向け具体的な進展がない場合には、国会として、政府に対し、より強い対応を求める決意があることを、ここで表明しておきます。(拍手)

 我が国のみならず世界の安全保障に重大な影響をもたらす北朝鮮の核問題について、小泉総理は、基本的には平壌宣言の内容を再確認しただけでありました。しかし、平壌宣言以来、北朝鮮によるNPT脱退や核保有の示唆など、その前提がもう既に変わっているのであります。小泉総理は、北朝鮮が平壌宣言の精神を守っているという認識で訪朝されたのですか。北朝鮮が平壌宣言を遵守してきたのかどうか、総理の宣言の解釈をぜひお示しいただきたい。(拍手)

 また、来月、六者協議の場で北朝鮮に、完全で検証可能かつ後戻りできない核放棄、いわゆるCVIDをアメリカ、中国、韓国、ロシアとともに働きかけていくときに、NPT脱退や核保有について不問に付すような小泉総理の姿勢が解決への前進になるとは到底思えません。来月予定されている六者協議は実質的な成果を上げられるのかどうか、金正日総書記との会談を踏まえ、総理の見解を伺います。

 今回、御家族の帰国と引きかえと見られるような形で、小泉総理は、人道支援と称して、米二十五万トンと一千万ドルの医療支援を約束してこられました。これは、今後の拉致問題の交渉にあしき前例をつくったのみならず、家族の帰国を人道支援と引きかえにしないという従来の総理の発言にも反するのじゃありませんか。(拍手)

 ちなみに、総理、米二十五万トンは幾らになるかおわかりでしょうか。政府買い入れ価格でいえば、五百七十五億円とも言われております。巨額であります。米でないとすれば、一体、支援をすると決めて、その後、内容をこれから決めようというのでありましょうか。

 政府は、拉致事件を国家によるテロ行為であると言っていますが、今回、身の代金を払ったと言われても仕方がないような形で人道支援と称する食糧、医療援助を行うことは、まさにテロに屈することじゃありませんか。(拍手)いま一度、拉致事件はテロ行為と認識しておられるのか、改めて総理にただします。さらに、今後、残る十名の方やあるいは特定失踪者の方々について進展があるたびに人道支援などを要求されたらどうするんですか、総理の認識を伺います。

 小泉総理の再訪問に関する北朝鮮の報道を見ていますと、拉致問題には一言も触れられておりません。報道では、「小泉首相は、過去に共和国との関係において好ましくないことがあったことに遺憾の意を表し、平壌宣言を誠実に履行することで敵対関係を協調関係に変え、関係を正常化していく意志を表明した」、さらには、「今後、日本は反共和国制裁法発動を中止し、在日朝鮮人を差別せず友好的に接することと、信頼関係回復のため、共和国への人道支援を即時再開し、米二十五万トン、一千万ドル相当の医薬品を提供すると明言した」と報道されているのであります。

 このような報道をどう思われるのでありますか。これでは、まさに日本が再度過去の問題で謝罪をし、平壌宣言以降、信頼関係を損なったことへのおわびの印としての人道支援をするという理解になってしまいます。小泉総理は、それでよしとされるのでしょうか。北朝鮮がこのような認識で、国交正常化交渉を急いでもいいのですか。明快な答弁を求めます。(拍手)

 また、国交正常化交渉の開始の時期は、十名の安否の確認の後としたいとする細田官房長官や自民党の安倍幹事長と、それにこだわらないとする外務省との間で意見が分かれているようでありますが、どちらをとるのでしょうか。また甘い判断でしょうか。とてもたまりません。

 今回の会談は、一方で、年金で落ちた小泉政権の支持を高めようとする政治の道具として拉致問題が扱われてしまいました。他方で、日本からの経済支援によって金正日体制の基盤強化につなげようとする北朝鮮の思惑で首脳会談が設定されました。この両者の政治的な思惑が一致したのであります。違いますか。お答えください。少なくとも、結果として、小泉首相の訪朝は金正日体制の基盤強化に手をかしたことになりますが、それでもよろしいんでしょうか。

 拉致事件、そして東アジアの平和と安定に関する課題を多く残したままに終わった今回の訪朝は、準備不足などがたたった余りにも稚拙なものでありました。総理は、かつて私の委員会質問に対し、拉致問題が解決するなら訪朝すると答えられたのですが、結果は、拉致問題にしても核問題にしても、解決にはほど遠いもので終わりました。

 そもそも、拉致事件は北朝鮮の犯罪行為であり、条件を出して論じ合うような交渉の場ではありません。日本が北朝鮮に解決を要求する問題であります。それを甘い条件で解決を図ろうとしたことが失敗だったんじゃありませんか。(拍手)

 日本国を代表する総理みずからが乗り出した外交として、将来に禍根を残すことになった小泉総理の政治ショーを強く糾弾し、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 鳩山議員にお答えいたします。

 今回の首脳会談のあり方についてでございますが、今回の首脳会談は、日朝関係の現状を踏まえ、外交上の慣習、儀礼にとらわれず、日朝双方が日朝平壌宣言を履行していくことを改めて確認することが我が国自身の国益に資するとの大局的な政治的判断によって決断したものであります。(拍手)

 今回の首脳会談においては、拉致、核、ミサイルといった日朝間の諸懸案について、北朝鮮側の前向きな対応を強く求め、重要な成果を得たと考えております。私が今まで行った首脳会談の中でも最も時間をかけた方でありますが、会談時間の長短が成果を判断する基準であるとは考えておりません。(拍手)

 ジェンキンス氏の問題についてでございますが、米国政府との間では、ジェンキンス氏に関して、人道的観点から一定のやりとりを行ってきていましたが、日朝首脳会談に先立って、米国との間で、その身柄の扱いについて何らかの合意があったということはありません。また、私は、ジェンキンス氏に対して、来日を説得した際、同氏の御家族が日本において一緒に暮らせるよう日本政府として最善の努力を払うということをお伝えしたものであります。

 安否不明の方々に関するお尋ねでありますが、本件に関し、今回、北朝鮮から新たな情報提供はありませんでしたが、金正日国防委員長は、改めて白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底した調査を行う旨明言いたしました。

 安否不明の方々についての真相究明は一刻も早く行う必要がありますが、我が国のみでできることには限界があり、北朝鮮側の協力がぜひとも必要です。今回、北朝鮮側が、本件は解決済みであるとの従来の姿勢を改め、白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底した調査を行うとしたことは、極めて重要であると考えております。(拍手)

 我が国としては、早急に先方の再調査の結果を求める一方、我が国独自の調査結果とも突き合わせて真相の解明を図っていく考えであります。

 いわゆる特定失踪者についてのお尋ねですが、政府としては従来より、被害者と認定された十五名の方々に限定することなく、広く北朝鮮による日本人拉致という観点から、諸外国との間で情報収集・交換を行っております。今回の首脳会談においても、今後新たに拉致と認定される事案がある場合には、真相究明の対象として取り上げていく旨、北朝鮮側に伝えました。

 拉致問題への対応のための本格的な対策本部の設置についてでございますが、政府は、拉致問題を日朝間の諸懸案の最優先課題と位置づけ、日朝国交正常化に関する関係閣僚会議のもとに設置された拉致問題に関する専門幹事会を中心に、拉致被害者・家族支援室や関係省庁、関係機関が緊密に連携して、その解決に向けて全力で取り組んでおります。今後の取り組み体制については、今回の首脳会談の結果を踏まえ、問題解決の状況を見きわめながら適切に判断してまいります。

 北朝鮮に対する経済制裁と拉致問題の取り扱いについてでございますが、日朝平壌宣言は、日朝双方が日朝間に存在する諸問題に誠意を持って取り組むとしております。

 政府として、北朝鮮に対し、拉致問題の解決に向けた前向きかつ誠意ある対応を促していくため、その時々に最善の方策をとっていく考えですが、いずれにせよ、日朝平壌宣言の精神に従った取り組みがなされようとしている現時点において、拉致問題を理由として北朝鮮に対しいわゆる経済制裁を発動する考えはありません。

 なお、今回の首脳会談における私の発言は、特定船舶等入国禁止法案の立法府における扱いを念頭に置いて行ったものではありません。

 核問題、六者会合についてでございますが、我が国は、従来より北朝鮮に対し、日朝平壌宣言を遵守して核問題を含む諸懸案を包括的に解決することが北朝鮮自身の利益であることを働きかけてまいりました。今回の首脳会談でも、私より、このような考えに基づいて、金正日国防委員長に対し、核問題についての国際社会の見方及び我が国の立場をしっかり主張し、金正日国防委員長自身から、六者会合に対する前向きな発言がありました。

 我が国としては、このような成果を踏まえ、引き続き米韓両国を初めとした関係国と緊密に連携しつつ、六者会合を通じた平和的解決に取り組み、その中で、北朝鮮に対し、日朝平壌宣言の遵守を引き続き働きかけていく考えであります。

 拉致とテロ行為の関係及び北朝鮮に対する人道支援でございますが、北朝鮮による拉致は、国民の生命と安全にかかわる重大な問題であることは疑いのない事実であり、普通にはテロと言えると考えます。

 今般の首脳会談を踏まえ、我が国としては、国連機関を通じ食糧及び医薬品等の人道支援を行う考えであることを表明しました。これは、国連機関の人道支援についてのアピールにこたえ、国際社会の一員として支援するという観点から判断したものであり、北朝鮮側に拉致問題に対する見返りを与えたものではありません。

 今回の訪朝について、北朝鮮における報道についてでございますが、北朝鮮側が今回の日朝首脳会談を報ずるに当たって、北朝鮮なりの表現を用いていることはあろうかと思います。

 他方、重要なことは、そのような報道の一つ一つにこだわることではなく、今回の首脳会談の成果を基礎として、拉致問題、核問題を初めとした諸問題の解決に向けた前進を図っていくことであると考えております。(拍手)

 今回の訪朝に関する北朝鮮側の思惑についてでございますが、今回の訪朝は、日朝関係の現状を踏まえ、日朝双方が日朝平壌宣言を履行していくことを改めて確認することが我が国の国益に資するとの大局的な政治判断によって決断したものであります。

 今回の訪朝によって、日朝平壌宣言を土台とする日朝関係の進展に重要な契機が得られたと考えます。また、拉致問題について一定の前進を見るとともに、核問題についても金正日国防委員長の一連の意味のある発言がありました。これらのことにかんがみ、今回の私の訪朝は日朝双方にとっての利益であったと考えます。

 日朝国交正常化交渉と安否不明の被害者の問題でございますが、国交正常化交渉の再開については、政府として、従来より、まずは拉致被害者御家族の帰国を実現し、その上で再開された国交正常化交渉の中で安否不明者に関する真相究明も行っていくとの方針であります。(拍手)

    ―――――――――――――

    〔議長退席、副議長着席〕

副議長(中野寛成君) 漆原良夫君。

    〔漆原良夫君登壇〕

漆原良夫君 公明党の漆原良夫でございます。

 私は、公明党を代表して、このたびの総理の訪朝について質問をさせていただきます。(拍手)

 五月二十二日、平壌で開催された小泉総理と金正日総書記との日朝首脳会談によって、蓮池、地村両家の御家族五名の帰国が実現し、曽我さん御一家も早期再会のめどがつきました。私は、長い間この日の来ることを待ち続けてこられた御家族の皆様に対して、まず、心よりお喜びを申し上げるものでございます。(拍手)

 また、今回の会談では、さきの日朝平壌宣言の誠実な履行が再確認されるとともに、核、ミサイル問題では、金総書記から、朝鮮半島の非核化が目標であり、その解決の場としての六者協議に前向きな姿勢が示されたこと、さらにミサイル発射実験のモラトリアムが再確認されたことは、東アジアの平和と安定にとって確かなる前進であったと評価するものであります。

 今回の総理の再訪朝は、一年七カ月に及ぶ日朝間の膠着状態を打開するため、総理みずから大きなリスクも覚悟の上で決断をされたものであります。私は、小泉総理の英断と関係者の御努力に心より敬意を表するものであります。(拍手)

 私は、拉致事件解決のさらなる進展のために、総理に質問をさせていただきます。

 私がこの拉致事件を考えるときに、どうしても脳裏に焼きついて離れない言葉があります。それは、十三歳で拉致された横田めぐみさんの母、横田早紀江さんの書いた次の文章でございます。

 「娘のめぐみは、暗い船倉に閉じ込められ、北朝鮮に連れ去られました。船倉にいる間じゅう、「お母さん、お母さん」と言って泣き叫び、爪が剥がれるまで壁をかきむしったそうです。その暗い船倉の中で、娘はどれほど恐ろしい思いをしたでしょう……私と主人はあのとき以来、めぐみから「お父さん、お母さん、どうして早く迎えに来てくれないの」と言われ続けている気がして、辛くて苦しく悲しい日々を過ごしてきました」、こういう文章でございますが、特定失踪者の方々を含む拉致被害者の皆様の、親を思い、子を思い、兄弟姉妹を思う心情は、この早紀江さんの言葉と全く同一であろうと思っております。

 国交のない北朝鮮という国家が相手であります。めぐみさんが救助を求めているお父さん、お母さんとは、実は小泉総理のことであり、私たち国会議員一人一人のことなんだと深く自覚をしなければならないと考えております。総理の御感想を求めます。(拍手)

 拉致事件の被害者の中には、十名の安否不明の人々、また百名を超すと言われる特定失踪者の方々が含まれております。被害者の方々の中には、今回の五名の帰国で拉致事件が幕引きになってしまうのではないか、日朝国交正常化交渉の中で埋没をしてしまうのではないかと心配されている人がいらっしゃいます。

 私は、今後とも政府は、拉致事件の解決なくして日朝の国交正常化なしとの大原則のもとに、拉致事件の解決に全力を尽くすべきだというふうに考えております。

 そこで、総理に対して、拉致事件全面解決に向けての御決意と、日朝国交正常化の前提となる拉致事件の解決とは一体どのような状態を考えておられるのか、ここで改めて確認をさせていただきます。

 安否不明の拉致被害者については、金総書記は白紙の状態で本格的な再調査を約束したというふうに報告されました。

 しかし、私に言わせれば、何を今さらという思いでいっぱいであります。日本政府は、北朝鮮の提供した八名の死亡状況の報告に対して、その矛盾点、疑問点を百五十項目の質問にして回答を求めました。しかし、一年七カ月以上経過した今日まで全く回答がないのであります。一日千秋の思いで肉親の帰りを待っている家族の皆さんにとっては、北朝鮮のこの不誠実な態度は到底容認できるものではありません。(拍手)

 総理は、北朝鮮の不誠実な態度についてどのように指摘をされたのでしょうか。お伺いいたします。

 北朝鮮のこれまでの態度から、金総書記の言う白紙の状態での本格的な再調査が本当に可能なのか、懸念されるところであります。

 再調査はいつから開始されるのですか。どのような体制で行われますか。実効性の担保についてはどのように考えておられますか。再調査の名目で真相究明が先送りされたり、時間稼ぎをされたら困ります。調査は期限を切って行うべきと考えますが、いかがでしょうか。(拍手)

 調査期間内に客観的、合理的な安否確認が得られなければ日朝正常化交渉に入ってはならないと思いますが、以上の諸点について、総理の御所見をお伺いしたいと思います。(拍手)

 総理は、金総書記に対して、日朝平壌宣言が遵守されている限り経済制裁を発動しないと約束されたとのことであります。

 したたかな北朝鮮外交を有利に展開するためには、我が国も圧力という外交カードを持たなければならない、そんな思いで私たちは、議員立法として外為法の改正を通常国会冒頭で成立させて、今また特定船舶入港禁止法案を国会に提出しているところであります。

 そこで、総理にお伺いします。

 私は、安易に外交カードを放棄すべきではないと考えますが、どのような経緯でこのような発言をされるに至ったのか、御説明をいただきたいと思います。(拍手)

 北朝鮮が再調査で誠意ある態度を示さなかった場合には経済制裁を行うのか否か、答弁を求めたいと思います。

 二十五万トンの食糧及び一千万ドル相当の医薬品支援の合意につきましては、拉致家族の帰国問題を外交カードに利用されて、北朝鮮に見返りを与えたに等しいのではないかという厳しい指摘があります。

 しかし、私は、北朝鮮の深刻的な食糧、医薬品不足に対応した国際機関の緊急的な人道支援であり、拉致問題の交渉とは別個の措置と理解しております。この点についての総理の御所見をお伺いいたしまして、私の質問を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 漆原議員にお答えいたします。

 被害者の気持ちを踏まえた拉致事件への取り組みについてでございますが、被害者や家族の方々が長い間つらい思いをしていることは、私も十分理解しております。今後とも、そうした思いをしっかりと胸に、一日も早い拉致問題の解決に向けて全力で取り組んでまいります。

 拉致問題と日朝国交正常化についてでございますが、今般、拉致被害者御家族五名の方々の帰国が実現いたしましたが、曽我ひとみさんの御家族の問題や安否不明の拉致被害者の方々に関する真相究明について、引き続き、今回の首脳会談で得られた進展を踏まえ、政府として最大限の努力を払う考えであります。

 これらの点を含め、拉致問題が我が方の納得し得る形で解決を見、また、核問題、ミサイル問題を含む諸問題の包括的な解決が得られることなくして、国交正常化はありません。

 安否不明の拉致被害者の問題についてでございますが、安否不明の方々の調査については、その早期究明が極めて重要である旨、私から金正日国防委員長に強く働きかけました。これに対し、同委員長は、改めて白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底した調査を行う旨明言しました。

 我が国としては、早急に先方の再調査を求める一方、我が国独自の調査結果とも突き合わせて真相の究明を図っていく考えですが、徹底的な調査を求めるとの観点から、現在のところ、調査に期限を求めることは考えておりません。

 なお、国交正常化交渉の再開については、政府として、かねてより、まずは拉致被害者御家族の帰国を実現し、その上で再開された国交正常化交渉の中で安否不明者に関する真相究明も行っていくという方針であり、今次訪朝の結果を踏まえ、しかるべき時期に、日朝国交正常化交渉の再開に向けて調整を行っていく考えであります。

 北朝鮮に対する経済制裁と拉致問題の取り扱いでございますが、日朝平壌宣言は、日朝双方が日朝間に存在する諸問題に誠意を持って取り組むとしております。

 政府として、北朝鮮に対し、拉致問題の解決に向けた前向きかつ誠意ある対応を促していくため、その時々に最善の方策をとっていく考えですが、いずれにせよ、日朝平壌宣言の精神に従った取り組みがなされようとしている現時点において、拉致問題を理由として北朝鮮に対しいわゆる経済制裁を発動する考えはありません。

 北朝鮮への人道支援についてですが、今般の首脳会談を踏まえ、我が国としては、国連機関を通じ食糧及び医薬品等の人道支援を行う考えであることを表明しました。これは、国連機関の人道支援についてのアピールにこたえ、国際社会の一員として支援するという観点から判断したものであります。(拍手)

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副議長(中野寛成君) 穀田恵二君。

    〔穀田恵二君登壇〕

穀田恵二君 私は、日本共産党を代表して、総理訪朝報告に対して質問をします。(拍手)

 日本共産党は、北朝鮮問題の解決に当たって三つの角度を提起してきました。

 一つは、朝鮮半島の軍事的な衝突の危機は絶対に避けなければならないこと。あくまで平和的、外交的手段によって解決するということです。

 二つに、拉致問題は、日本国民の人権と安全を脅かした国際的な犯罪行為として許すことのできないものであり、この問題の全面的究明と被害者家族の帰国の実現を強く求めてきました。

 三つに、日本と北朝鮮の国交の確立。戦前の植民地支配の歴史を清算することは、戦後の日本が負った重大な歴史的責任に属する問題であること。

 こうした角度から、交渉を包括的に進めることが大事であり、二〇〇二年九月に締結された日朝平壌宣言を重要な前進として評価してきました。

 今回の日朝首脳会談で、小泉総理と金正日国防委員長が、日朝平壌宣言を日朝関係の基礎として再確認し、拉致問題や核、ミサイル問題、人道援助問題などで一定の合意をしたこと、そして国交正常化交渉への前進の方向を確認したことを評価するものです。(拍手)

 拉致問題について、今回、地村さん夫妻、蓮池さん夫妻の御家族の帰国が実現したことを率直に喜びたいと思います。(拍手)

 また、曽我さんの御家族の問題では、総理は、ジェンキンス氏の身柄引き渡しの懸念に対して、私が保証すると述べました。米国防総省が特別扱いはしないと声明しているもとで、どのような見通しを持っているのか、はっきりとお答えください。

 安否不明の方々にかかわり、北朝鮮が約束した白紙からの調査について、総理は、日本側も参加して徹底的な調査を進める、北朝鮮側も協力し、早期に結果が出るよう互いに努力すると述べましたが、どういう段取りで再調査を進めるのか、答弁を求めます。

 この問題は、拉致被害者の家族の方々の切実な願いであり、多くの国民が心を痛めています。日本側も納得できる答えに達することを目指して、政府自身の努力を強く求めるものであります。

 朝鮮半島における核問題の解決は、日本にとっても切実な問題であり、北東アジアの平和にとっても重要な問題です。この点で、本年二月の六者会合でも、朝鮮半島の非核化、平和的解決という議長声明に各国が同意したことは、重要な意義を持つものです。

 総理は、今回の会談で金正日委員長に、核を完全に廃棄することによって得られるものと、核を持つことによって得られるものは天と地ほども違うことをよく考えるべきだと強く迫った。かなりの部分で理解を得られたと記者会見で述べましたが、ここは大事なポイントです。総理の説明を金委員長はどう受け取ったのか、述べていただきたい。

 総理は、今後、六者会合の場を通じて、核問題の平和的解決に向けて一層の努力を傾けることで意見の一致を見たと報告しましたが、日朝両国の指導者間での一致として重要であり、六者会合を成功させる一層の責任を負うことになりますが、総理は一方の当事者としてどのような役割を果たすのか、答弁を求めます。

 北朝鮮問題の中心は、力ずくではなく、諸懸案を一つ一つ解決しながら、また、六カ国の協議を通じての核問題の解決を達成しながら、日朝平壌宣言を基礎に、両国間の国交正常化を実現することです。

 これは、日本の今後の平和と安全の上でも、日本の最も身近な生活環境である北東アジアの平和と安定を実現する上でも、重要な一歩となると考えます。こうした方向は、東南アジア友好協力条約などが目指しているものですが、北東アジアでも一致ができれば、それはアジア全体の平和の大きな流れとなるものです。

 日本共産党は、日朝間の諸問題を、平和的な交渉によって、道理ある形で解決することを一貫して目指し、そのために努力してきた政党として、今後とも力を尽くすことを表明し、質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 穀田議員にお答えいたします。

 政党の立場を超えて御激励をいただきまして、ありがとうございます。(拍手)

 ジェンキンス氏の問題に関する今後の見通しについてでございますが、政府としては、今回の日朝首脳会談及びその後の私とジェンキンス氏とのやりとりを踏まえ、曽我さん御一家が一日も早く再び生活をともにできるよう最大限努力してまいりたく、米国とも鋭意話し合っていく考えであります。

 安否不明の拉致被害者の方々に関する調査についてでございますが、安否不明の方々についての真相究明は一刻も早く行う必要がありますが、我が国のみでできることには限界があり、北朝鮮側の協力がぜひとも必要です。今回、北朝鮮側が、本件は解決済みであるとの従来の姿勢を改め、白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底的な調査を行うとしたことは、極めて重要であると考えます。

 我が国としては、早急に先方の再調査の結果を求める一方、我が国独自の調査結果とも突き合わせて真相の解明を図っていく考えであります。

 核問題に関するやりとりでございますが、私は、金正日国防委員長に対し、国際的な検証のもとにおける完全な核廃棄やNPTへの復帰を強く求めました。また、そうすることが北朝鮮の利益にもなると強調しました。これに対し、金委員長から、朝鮮半島の非核化が最終目標である、六者会合を活用して平和的解決に努力したい等の発言がありました。

 六者会合における我が国の役割についてでございますが、北朝鮮の核開発は我が国の安全保障にとって重大な脅威であり、六者会合を通じて平和的に解決するというのが我が国の基本的考えであります。我が国としては、米国、韓国を初めとする関係国と緊密に連携しつつ、完全、検証可能かつ後戻りできない核廃棄という目標に向け、今後も努力を続けていく考えであります。(拍手)

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副議長(中野寛成君) 横光克彦君。

    〔横光克彦君登壇〕

横光克彦君 横光克彦でございます。

 私は、社会民主党・市民連合を代表いたしまして、小泉総理大臣の訪朝報告に関して質問をいたします。(拍手)

 まず、今回の日朝首脳会談の結果、拉致被害者の御家族八人のうち五人が帰国し、日朝平壌宣言の履行が両国首脳間で再確認されたことを、基本的には評価したいと思います。(拍手)

 しかし、多くの重要な課題が残されたままであります。

 拉致被害者の御家族八人が全員そろっての帰国とならなかったことは極めて残念であり、残された曽我ひとみさんの御家族が一刻も早く一緒に生活できる環境を政府が早急に整えなければなりません。その具体的な取り組みにつきまして、総理にお尋ねをいたします。

 また、安否が不明の十人の消息も、そして、拉致の可能性があると公表されている約二百人の手がかりも全くありませんでした。家族会の方々からは、最悪の結果だという厳しい批判の声さえ上がっております。十人の安否の再調査が合意されましたが、北朝鮮の主導で幕引き、先送りされるようなことは決してあってはなりません。我が国としてどのように再調査に取り組まれるのか、お答えください。

 今回、ミサイル発射実験のモラトリアム、発射凍結を再確認したことは前進ですが、核問題に関しては具体的な成果が得られませんでした。しかし、六者会合を通じて核問題の平和的解決に努力する、朝鮮半島の非核化が最終目標であるという金正日国防委員長の発言を前向きにとらえるのであれば、今後、六者会合の場でそれをどのように生かしていくおつもりなのか、お聞かせください。

 国交正常化交渉再開の合意は前進ですが、最終的な国交正常化は、あくまでも拉致、核、ミサイル問題などの包括的解決が大前提でなければなりません。この点について総理に確認をいたします。

 今回の小泉総理の再訪朝は、ジェンキンスさんについてのアメリカとの訴追免除の協議も詰め切れないままの突然の動きであり、また、年金未納問題から国民の目をそらす、あるいは参議院選挙を控えて外交で得点を稼ごうという意図も感じられ、それが今回、多くの課題を残す結果につながったということを申し上げまして、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 横光議員にお答えいたします。

 曽我ひとみさんについてでございますが、首脳会談において、金正日委員長からは、訪日するか否かはジェンキンス氏の意向に任せる、自分は家族が離散することは望まない、貴総理が本人と直接話し合ってもよいという発言がありました。

 私は、これを受け、金委員長との会談後、ジェンキンス氏及び二人のお子さんと話し合い、強く来日を働きかけました。しかし、ジェンキンス氏は、来日した場合、米国から訴追されるおそれがあり、訪日できないとの強い意向を示したので、私より、まずは第三国で曽我ひとみさんと再会して話し合ってはいかがかと提案し、それに対し、ジェンキンス氏及び曽我さん双方が同意いたしました。

 政府としては、曽我さんの意向を踏まえつつ、一日も早く、適切な第三国における御家族との再会を実現させたいと考えております。

 安否不明の拉致被害者の方々に関してでございますが、安否不明の方々の調査については、その早期究明が極めて重要である旨、私から金正日国防委員長に強く働きかけました。これに対して同委員長は、改めて白紙に戻り、早期に本格的かつ徹底した調査を行う旨明言しました。

 我が国としては、一日も早い真相究明に向け最大限努力していく考えであり、この問題が幕引き、先送りとされることがあってはならないと考えております。

 北朝鮮の核問題に関する六者会合での対応でございますが、今回の首脳会談では、金正日国防委員長に対して、核問題についての国際社会の見方及び我が国の立場をしっかり主張し、同委員長自身から、六者会合に対する前向きな発言がありました。

 我が国としては、このような成果を踏まえ、引き続き、米韓両国を初めとした関係国と緊密に連携しつつ、六者会合を通じた平和的解決に取り組んでいく考えであります。

 国交正常化の前提についてでございますが、日朝平壌宣言に基づいて、核問題、ミサイル問題、拉致問題といった諸懸案を包括的に解決し、その上で地域の平和と安定に資する形で国交正常化を実現していくというのが、我が国の対北朝鮮政策の一貫した基本方針であります。(拍手)

副議長(中野寛成君) これにて質疑は終了いたしました。

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副議長(中野寛成君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時三十七分散会

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 出席国務大臣

       内閣総理大臣  小泉純一郎君

       法務大臣    野沢 太三君

       文部科学大臣  河村 建夫君

       国土交通大臣  石原 伸晃君

       国務大臣    竹中 平蔵君

 出席内閣官房副長官

       内閣官房副長官 杉浦 正健君


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