衆議院

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第1号 平成17年1月21日(金曜日)

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平成十七年一月二十一日(金曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第一号

  平成十七年一月二十一日

    午前十時開議

 第一 議席の指定

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  一 国務大臣の演説

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日程第一 議席の指定

 災害対策を樹立するため委員四十人よりなる災害対策特別委員会、政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する調査を行うため委員四十人よりなる政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会、沖縄及び北方問題に関する対策樹立のため委員二十五人よりなる沖縄及び北方問題に関する特別委員会、青少年問題の総合的な対策を確立するため委員二十五人よりなる青少年問題に関する特別委員会、国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動等の諸問題を調査するため委員四十五人よりなる国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会及び北朝鮮による拉致等に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため委員二十五人よりなる北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会を設置するの件(議長発議)

 武力攻撃事態等への対処に関する諸問題を調査するため委員五十人よりなる武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会を設置するの件(議長発議)

 議員請暇の件

 スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案(川崎二郎君外十一名提出)

 小泉内閣総理大臣の施政方針に関する演説

 町村外務大臣の外交に関する演説

 谷垣財務大臣の財政に関する演説

 竹中国務大臣の経済に関する演説


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    午後零時二分開議

議長(河野洋平君) 諸君、第百六十二回国会は本日召集されました。

 これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 日程第一 議席の指定

議長(河野洋平君) 日程第一、議席の指定を行います。

 衆議院規則第十四条によりまして、諸君の議席は、議長において、ただいまの仮議席のとおりに指定いたします。

     ――――◇―――――

 特別委員会設置の件

議長(河野洋平君) 特別委員会の設置につきお諮りいたします。

 災害対策を樹立するため委員四十人よりなる災害対策特別委員会

 政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する調査を行うため委員四十人よりなる政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会

 沖縄及び北方問題に関する対策樹立のため委員二十五人よりなる沖縄及び北方問題に関する特別委員会

 青少年問題の総合的な対策を確立するため委員二十五人よりなる青少年問題に関する特別委員会

 国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動等の諸問題を調査するため委員四十五人よりなる国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動並びにイラク人道復興支援活動等に関する特別委員会

及び

 北朝鮮による拉致等に関する諸問題を調査し、その対策樹立に資するため委員二十五人よりなる北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会

を設置いたしたいと存じます。これに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決まりました。

 次に、武力攻撃事態等への対処に関する諸問題を調査するため委員五十人よりなる武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会を設置いたしたいと存じます。これに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、そのとおり決まりました。

 ただいま議決されました七特別委員会の委員は追って指名いたします。

     ――――◇―――――

 議員請暇の件

議長(河野洋平君) 議員請暇の件につきお諮りいたします。

 古川元久君から、一月二十四日から三十一日まで八日間、請暇の申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、許可することに決まりました。

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) この際、暫時休憩いたします。

    午後零時六分休憩

     ――――◇―――――

    午後二時二分開議

議長(河野洋平君) 休憩前に引き続き会議を開きます。

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 御報告することがあります。

 高松宮宣仁親王妃喜久子殿下には、昨年十二月十八日薨去されました。まことに痛惜哀悼の至りにたえません。

 本院の弔詞は、議長において去る十二月二十日奉呈いたしました。これを朗読いたします。

    〔総員起立〕

 宣仁親王妃喜久子殿下には にわかに薨去されました まことに痛惜哀悼の至りにたえません

 衆議院はここに謹んで弔意を表します

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 常会の冒頭に当たり、申し上げます。

 昨年は、まさに地球的規模で多くの自然災害が発生いたしました。

 我が国においては、相次ぐ台風と新潟県中越地震により多くの方々が犠牲となり、各地に甚大な被害がもたらされました。生活再建と地域の復旧復興に向けて、被災地の皆さんが懸命の努力を続けておられます。また、多くの方々の善意の支援、協力と同時に、国、地方を挙げて全力の取り組みが行われております。

 また、過般のインドネシア・スマトラ沖大地震と、それに伴い発生した未曾有の大津波によりましては、インド洋沿岸諸国に想像を絶する被害がもたらされ、二十万人を超えるとうとい命が失われました。まことに痛恨にたえないところであります。

 ここに、国の内外における災害により犠牲となられた方々とその御遺族に対し、衷心より哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方々に心からお見舞いを申し上げます。

 これより、犠牲となられた方々の御冥福を祈り、黙祷をささげたいと思います。

 御起立願います。――黙祷。

    〔総員起立、黙祷〕

議長(河野洋平君) 黙祷を終わります。御着席ください。

     ――――◇―――――

梶山弘志君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 川崎二郎君外十一名提出、スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案は、提出者の要求のとおり、委員会の審査を省略してこれを上程し、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 梶山弘志君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加されました。

    ―――――――――――――

 スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案(川崎二郎君外十一名提出)

議長(河野洋平君) スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案を議題といたします。

 提出者の趣旨弁明を許します。川崎二郎君。

    ―――――――――――――

 スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案

    〔本号(一)末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔川崎二郎君登壇〕

川崎二郎君 私は、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党、日本共産党、社会民主党・市民連合の提出者を代表いたしまして、ただいま議題となりました決議案につきまして、提案の趣旨を御説明申し上げます。

 案文の朗読により趣旨の説明にかえさせていただきます。

    スマトラ沖大地震・大津波災害に際し国際的支援活動において我が国が果たすべき役割に関する決議案

  昨年十二月二十六日に発生したスマトラ沖大地震・大津波は、被災国の人々はもとより、我が国を含む世界中の多くの人々に甚大な被害をもたらした。

  本院は、今回の大津波で尊い命を落とされた人々に対し、心から哀悼の意を表するとともに、ご家族や関係者みなさまの深遠なる悲しみを分かち合うものである。

  今回の大津波で最も大きな被害を受けたのは、アジア諸国である。本院は、アジアの一員である我が国にとって、アジアにおける大災害は我々自身の問題でもあると認識し、緊急支援、並びに被災国の一刻も早い復旧復興のために最大限の支援の手を差し伸べることが、我が国の重大な責務であることをあらためて確認する。

  よって政府は、資金協力、人的貢献、知見活用の各般において、既に実施している緊急支援に加え、国際社会との協調の下、社会基盤への深刻な打撃を受けた被災国の中長期的な復旧復興につながる支援に全力を傾注するとともに、国際社会の支援活動において積極的かつ主体的役割を果たすべきである。

  また、神戸で開催されている国連防災世界会議の成果も踏まえつつ、我が国の津波予知と防災体制整備に全力を挙げるとともに、インド洋津波早期警戒メカニズムの構築へ向けた国際的取組みにも、今後とも積極的に貢献すべきである。

  右決議する。

以上であります。

 何とぞ議員各位の御賛同をお願いいたします。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案を可決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は可決いたしました。

     ――――◇―――――

 国務大臣の演説

議長(河野洋平君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、財務大臣から財政に関する演説、竹中国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣小泉純一郎君。

    〔内閣総理大臣小泉純一郎君登壇〕

内閣総理大臣(小泉純一郎君) 演説に先立ち、ただいまの御決議に対して所信を申し述べます。(拍手)

 政府といたしましては、ただいま採決された御決議の趣旨を十分に体しまして、インド洋沿岸諸国に対する国際的支援活動において積極的な役割を果たしてまいる考えであります。

 第百六十二回国会の開会に臨み、小泉内閣として国政に当たる基本方針を申し述べ、国民の皆様の御理解と御協力を得たいと思います。

 先月、紀宮清子内親王殿下の御婚約の内定という慶事を迎えました。国民とともに心からお祝い申し上げます。(拍手)

 昨年は、豪雨や台風による災害が多発するとともに、新潟県中越地震により甚大な被害を受け、年末にはインドネシア・スマトラ島沖で大地震と津波が発生して、多くの国々が未曾有の災害に襲われました。被害に遭われた方々、そして今なお困難な生活を余儀なくされている方々に対し、心からお見舞いを申し上げます。

 国内の被災地が迅速に復旧事業に取り組めるよう、激甚災害指定を行い、補正予算を編成しました。一日も早く被災者の方々が安心して生活できるよう、復旧と復興に全力を尽くすとともに、阪神・淡路大震災の発生から十年目の本年、災害に強い国づくりを一層進めてまいります。

 インド洋沿岸各国の被害に対しては、被災者の捜索や救援のため、医療や消防関係者、自衛隊などを国際緊急援助隊として派遣するとともに、当面、テント、食料、医薬品などの援助物資や資金を五億ドル無償で供与します。各国の被害状況を確認しながら、アジアの一員としてできる限りの復興支援をしてまいります。現在、神戸で開催中の国連防災世界会議の提言を踏まえ、インド洋地域における津波の早期警戒体制の構築に向け、日本の経験や技術を活用し、関係国や国連との協力を積極的に進めます。

 私は就任以来、民間にできることは民間に、地方にできることは地方にとの改革を進める一方、国民の安全と安心を確保することこそ国家の重要な役割と考え、その実現に向け努力してまいりました。

 ふえ続けてきた犯罪件数は二年連続して減少しましたが、なお凶悪犯罪は多発しており、市民が安心して暮らすことのできる社会を早急に取り戻さなくてはなりません。来年度、三千五百人の警察官を増員し、空き交番の解消に全力を挙げ、世界一安全な国の復活を目指します。

 安全は与えられるものではなく、つくるものであります。新宿歌舞伎町を初めとする全国の繁華街から、暴力団や外国人犯罪組織を排除し健全な町に再生するため、地域挙げての住民の自主的な取り組みを支援してまいります。

 重大な人権侵害である人身取引の防止は国際的な課題となっており、悪質なブローカーの取り締まりを強化し、罰則を整備するとともに、被害者の保護を徹底します。引き続き、人権救済に関する制度について検討を進めます。

 さきの臨時国会で犯罪被害者等基本法が成立しました。犯罪の被害者や遺族が一日も早く立ち直り安心して生活できるよう、相談や情報提供などの支援を充実させてまいります。

 テロの脅威が世界的に高まっている中、警察官が航空機に同乗するスカイマーシャルを導入するとともに、国際便の乗客名簿をもとに入国前に不審者を電子的に照合するシステムの運用を開始しました。本年四月からホテル業者による外国人宿泊客の本人確認を徹底するなど、テロの防止対策を強化します。

 昨年、長年の懸案であった総合的な有事法制を整備しました。その円滑な実施に向け、有事の際の警報発令から住民の避難、救援など、国や地方自治体のとるべき措置の手順を定め、制度の運用に万全を期します。

 東西の冷戦終結後、我が国を取り巻く環境が大きく変わる中、新たな防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画を策定しました。いわゆる冷戦型の侵略に備えた装備や要員など既存の防衛体制を抜本的に見直し、テロや弾道ミサイルなど新たな脅威に対応するとともに、国際平和協力活動に主体的に取り組んでまいります。

 我が国では、二〇〇七年から人口減少社会が到来すると言われております。約七百万人の団塊の世代が高齢期を迎えるなど、世界でも経験したことのない速さで少子高齢化が進みます。経済活力を維持しつつ、社会保障制度を将来にわたって持続可能なものとしていくためには、与野党が立場を超えて、公的年金制度の一元化を含め、社会保障の一体的見直しに早急に取り組まなければなりません。

 介護保険制度の安定に向け、できるだけ介護が必要な状態にならないよう、予防を重視したシステムへ転換するとともに、在宅と施設介護の利用者負担の公平化と年金給付との調整を図るため、施設入所者に居住費用と食費を負担していただくなど、制度全般を見直します。

 さまざまな障害を持つ方が地域で自立できるよう、市町村が一元的にサービスを提供する体制を整備するとともに、雇用対策を強化します。公共施設のみならず、制度や意識の面でも社会のバリアフリー化を引き続き推進いたします。

 少ない患者負担でより多くの先進的な医療技術や医薬品を利用できるよう、安全面に十分配慮しながら、混合診療を解禁することにしました。約二千の医療機関で、百種類の最先端の治療が受けられるようになります。年間三十兆円を超える医療費を審議する中央社会保険医療協議会のあり方については、公正、中立、透明性を確保する観点から見直します。

 長生きを喜べる社会を目指し、本年から実施する十カ年の健康フロンティア戦略に基づいて、がんや脳卒中などの生活習慣病対策を進めます。

 明るく健やかな生活に欠かすことのできないスポーツの振興を図るため、トップレベルのスポーツ選手を育成するとともに、生涯を通じてスポーツに親しめる環境を整備します。

 社会保険庁の信頼を回復しなければなりません。親切なサービスの提供、むだな予算執行の排除など緊急に実施すべき取り組みを開始しました。組織のあり方については、抜本的に見直してまいります。

 少子化の流れを変えるため、新たに策定した子ども・子育て応援プランに基づき、待機児童ゼロ作戦を引き続き推進するとともに、現在六〇%の育児休業制度の普及率を五年後には一〇〇%にすることを目指します。安心して子供を生み育て、子育てに喜びを感じることのできる環境を整備してまいります。また、女性がその能力を発揮し、新しい事業の展開や地域づくりなど、あらゆる分野でチャレンジできるよう支援します。

 国民に身近で頼りがいのある司法を実現するため、裁判の迅速化や刑事裁判に国民が参加する裁判員制度の導入など、我が国の司法制度のあり方を半世紀ぶりに改めました。今後は、制度の着実な実施を図ってまいります。

 消費者保護を最優先に、科学的知見に基づき、正確でわかりやすい情報を国民に提供することで、食品の安全確保に取り組んでまいります。米国産牛肉の輸入再開については、日本と同等の措置を米国に求めることを基本に協議します。

 私は、官から民へ、国から地方への改革は経済の再生や簡素で効率的な政府の実現につながると確信し、改革の具体化に全力を傾けてまいりました。

 この方針を最も大胆かつ効果的に進めていくには、郵便局を通じて国民から集めた三百五十兆円もの膨大な資金を公的部門から民間部門に流し、効率的に使われるような仕組みをつくることが必要です。資金の入り口の郵便貯金と簡易保険、出口の特殊法人、この間をつないで資金を配分している財政投融資制度、これらを全体として改革し、資金の流れを官から民へ変えなければなりません。

 私はこれまでこの構造にメスを入れてきましたが、残された大きな改革、すなわち改革の本丸が郵政民営化であります。昨年九月に決定した基本方針に基づいて、平成十九年四月に郵政公社を民営化する法案を今国会に提出し、成立を期します。

 郵便、郵貯、簡保、いずれの分野でも、民間企業が同様のサービスを提供しています。公務員でなくてはできない事業ではありません。郵政民営化が実現すれば、郵政公社の職員が民間人となります。従来免除されていた税金が支払われ、政府の保有する株式が売却されれば、財政再建にも貢献します。郵政民営化は、まさに小さな政府を実現するために欠かせない行財政改革の断行そのものであります。

 民間にできることは民間に、行財政改革を断行しろ、公務員を減らせと言いながら郵政民営化に反対というのは、手足を縛って泳げというようなものだと思います。

 質の高い多様なサービスを提供するため、民営化においては、国の関与をできるだけ控え、民間企業と同一の条件で自由な経営を可能とします。国鉄や電電公社は民営化されて、むしろ従来よりサービスの質が向上しました。職員が意欲的に働くことができ、過疎地を含め身近にある郵便局が市町村の行政事務を代行したり、民間の商品を取り次いだり、ますます便利な存在になるようにします。障害者向けの郵便料金の軽減など、社会や地域への貢献にも配慮いたします。

 民営化する以上、窓口サービス、郵便、郵貯、簡保といった郵政公社の各機能を自立させ、事業ごとの損益を明確化して経営する必要があります。

 このため、持ち株会社のもとに機能ごとに四つの事業会社を設立するとともに、郵便貯金会社と郵便保険会社については、他の事業会社の経営状況に左右されないよう株式を売却して民有民営を実現します。それまでの移行期においては、民業圧迫とならないよう有識者による監視組織を活用しながら、段階的に業務を拡大します。既に契約した郵貯、簡保については、新しい契約と勘定を分離して引き続き政府保証をつけます。国債市場への影響を考慮した適切な資産運用を行います。

 私は、こうした郵政民営化が新しい日本の扉を開くものと確信し、その実現に全力を傾注してまいります。(拍手)

 道路関係四公団は、本年十月に、日本道路公団を地域分割した上で民営化します。各社がお互い競争しながら、利用者の要望に沿ったサービスを提供するとともに、債務は四十五年以内にすべて返済します。高速自動車国道の通行料金は、ETCを活用した割引制度により、昨年十一月から順次引き下げており、本年四月には予定どおり、平均一割以上の引き下げを実現します。

 地方が知恵と工夫に富んだ施策を展開し、住民本位の地域づくりを行えるよう、地方自治体に権限と財源を移譲しなければなりません。

 このため、私は、国の補助金の削減、国から地方への税源移譲、地方の歳出の合理化とあわせた地方交付税の見直しの三つを同時に進めることにし、三位一体の改革方針を指示しました。補助金改革の具体案は地方分権の主体となる地方が作成し、これを国と地方で協議する場を設け、地方の提案を真摯に受けとめて、改革案を取りまとめました。

 今年度の一兆円に加え、来年度から二年間で三兆円程度の補助金を改革し、十六年度に措置した額を含めておおむね三兆円規模の税源移譲を目指します。十七年度は、一兆七千億円余の補助金の廃止・縮減等を行い、一兆一千億円余の税源を移譲すると同時に、地方自治体の安定的な財政運営に必要な交付税を確保しました。義務教育のあり方と、費用負担に関する地方案を生かす方策については、国の責任を引き続き堅持する方針のもと、今年中に結論を出します。

 引き続き市町村合併を推進するとともに、北海道が道州制に向けた先行的取り組みとなるよう支援いたします。

 昨年末に決定した「今後の行政改革の方針」に従って、独立行政法人については、三十二法人を二十二法人に再編し、八千三百人余りの役職員を非公務員化することにいたしました。国の行政機関の定員は、来年度からの五年間で一割以上の削減を目指すとともに、治安などの分野に重点的に配置します。能力・実績主義の人事評価を試験的に実施するとともに、再就職管理を適正化するなど、公務員制度改革を進めます。

 民間と競合する住宅金融公庫の直接融資の廃止や都市再生機構のニュータウン事業からの撤退など抜本的な見直しを実施し、最大時四十兆円あった財政投融資の規模は、来年度の計画では半分以下の十七兆円に抑えました。

 市場化テストは、政府と民間とが対等な立場で競争することを通じて、行政の効率化と公共サービスの質の向上、受け皿となる民間企業の活性化を図るものです。十七年度は、ハローワークの中高年向け再就職支援、社会保険庁の保険料未納者に対する督促や年金の電話相談などを対象として開始するとともに、本格的導入に向けた検討を進めます。

 私は、改革なくして成長なしの方針のもと、デフレの克服と経済の活性化を目指し、金融、税制、規制、歳出の改革を実行してきました。主要銀行の不良債権残高はこの二年半で十五兆円減少し、不良債権比率を目標実現に向け四%台に減らすことができました。バブル崩壊後の負の遺産の整理のめどがついた今、構造改革の取り組みをさらに加速しなければなりません。

 ペイオフ解禁は予定どおり四月から実施いたします。健全な競争の促進と利用者保護を図り、多様な金融商品やサービスを国民が身近に利用できる金融サービス立国を目指します。

 日本経済は、公共投資など政府の財政出動に頼ることなく、企業収益の改善、設備投資や個人消費の増加など民間主導で回復してきました。一方で、経済をめぐる情勢は依然として地域ごとにばらつきが見られます。あらわれてきた改革の芽を地域や中小企業にも広く浸透させ、大きな木に育てるとともに、日銀と一体となってデフレを克服してまいります。

 二〇一〇年代初頭には、政策的な支出を新たな借金に頼らずにその年度の税収等で賄えるよう、歳出歳入の両面から財政構造改革を進めます。来年度予算は、一般歳出を三年ぶりに前年度以下に抑制し、新規国債発行額を四年ぶりに減額しました。増額したのは社会保障と科学技術振興の分野のみで、防衛費は三年連続、公共事業は四年連続でマイナスにするなど、重点的に予算を配分しました。

 平成十一年に景気対策の一環として導入した定率減税は、経済情勢を踏まえ、来年の一月から所得税、六月から個人住民税について、それぞれ半減いたします。三位一体の改革や社会保障制度の見直しとあわせ、税制の抜本的改革の具体化に向けた取り組みを進めてまいります。

 継続審査となっている独占禁止法改正法案の成立を期します。

 東京や大阪など大都市が生まれ変わろうとしています。規制の緩和や金融支援により、民間が一体的な地区開発を進め、仕事と生活・文化機能の融合した町づくりの事業が立ち上がってきました。

 地域再生計画は全国で二百五十件に上りました。下水道や浄化槽の整備のように、複数の省庁にまたがる同種の公共事業を地域再生のため実施する場合には、窓口を一本化して交付金を地方に配分する仕組みをつくります。構造改革特区は、この二年で四百七十五件誕生しました。そのうち二十六の規制緩和の特例については、特区だけではなく全国で行えるようにします。

 外国人旅行者はこの一年間で九十万人ふえ、初めて六百万人を超えました。観光は地域や町の振興につながります。ビジット・ジャパン・キャンペーンの強化や姉妹都市交流の拡大により、二〇一〇年までに外国人訪問者を一千万人にする目標の達成を図ります。既に、中国、韓国からの修学旅行生の査証を免除するとともに、地下鉄の路線や駅名に番号をつけるなど、外国人の受け入れ環境の整備を進めています。美しい自然や景観、地場産業など、各地の個性を生かした観光地づくりを支援します。

 外国からの投資は、日本にとって脅威ではなく、技術や経営に新しい刺激を与え、雇用の拡大につながるものです。一昨年五月に総合案内窓口を設置した結果、これまで約百四十社の誘致に成功しており、来年末までの五年間で対日直接投資残高を倍増させることを目指します。

 海外では、ナシやリンゴなど日本の農産物が高級品として売れています。やる気と能力のある農業経営を重点的に支援するとともに、企業による農業経営への参入を進め、農産物の輸出増加を目指すなど、攻めの農政に転換いたします。

 異なる業種の企業と連携しながら、新技術開発や販路開拓などに挑戦する中小企業を支援してまいります。

 子供は社会の宝、国の宝です。学校や家庭、地域など社会全体で、新しい時代を切り開く心豊かでたくましい人材を守り育てていかなければなりません。

 教育基本法の改正については、国民的な議論を踏まえ、積極的に取り組んでまいります。

 我が国の学力が低下傾向にあることを深刻に受けとめ、学習指導要領全体を見直すなど学力の向上を図ります。

 豊かな心と健やかな体の育成に、健全な食生活は欠かせません。大人も子供も食生活の大切さを認識するよう、食育を国民運動として展開してまいります。

 若者の働く意欲と能力を高めるために、産業界や地域社会が一体となって、学校における職業教育の充実を図るとともに、生活訓練や労働体験を積ませる合宿を実施するなど、就労対策を進めます。

 大学は、知の創造と継承の拠点であります。世界に誇れる研究を重点的に支援するとともに、大学運営に関する第三者評価制度により、質の向上を図ってまいります。世界一流の研究者を集めて、最高水準の教育研究を行う科学技術大学院大学を沖縄県につくるための法人を設立します。

 本年は、世界最先端のIT国家実現の目標年であります。今や、我が国のインターネット利用者は八千万人に達し、政府に対する一万三千件の申請や届け出のほぼすべてが家庭や会社のパソコンから行えるようになりました。IT化の加速に応じ、情報セキュリティー対策を強化してまいります。

 日本のアニメは世界各地の子供たちに夢を与えています。映画、アニメなどのコンテンツを活用した事業を振興し、ファッションや食の分野で魅力ある日本ブランドの発信を強化するなど、文化芸術を生かした豊かな国づくりを進めてまいります。

 知的財産立国の実現を目指し、深刻化している海外での模倣品・海賊版問題について対策を強化します。

 美しい地球を次世代に引き継ぐことは我々の責務です。環境保護と経済発展の両立は可能であり、これを実現するのは科学技術であります。

 新しい産業や雇用の創出、国民の健康や生活の質の向上、国の安全や災害の防止に寄与する研究開発を戦略的に推進し、科学技術創造立国を目指します。人の遺伝子情報の医療への応用など基幹技術の研究開発を重点的に支援します。大学発のベンチャー企業は、世界初のマグロの完全養殖に成功した事例など、既に九百社を超えました。産業界、学界との連携をさらに強化します。

 三月二十五日から九月二十五日まで、二十一世紀最初の国際博覧会「愛・地球博」が愛知県で開催され、人間と自然とが共生していく未来への道を提示します。政府のパビリオンでは、竹のすだれや打ち水を利用した省エネ型の空調を実現するとともに、生ごみを使った燃料電池発電などのクリーンエネルギーで電力のすべてを賄います。植物からつくられ分解されて土に返る食器を使用するレストランが店を出します。

 来月には、地球温暖化防止のための京都議定書が発効します。我が国にとって、温室効果ガスの削減目標を実現することは決して容易ではありません。新しい目標達成計画を早急に策定し、官民挙げてこれを確実に実施しなければなりません。二酸化炭素を吸収する森林の育成や保全に努めてまいります。安全確保を大前提に、原子力発電を推進します。

 エネルギー消費量の伸びの著しい運輸分野では、新たに事業者に省エネルギー対策を義務づけるとともに、トラックの共同運送や海上輸送への転換を図るため、幹線道路や港湾での物流拠点の整備を支援します。

 就任時に約束したとおり、この三月に政府の公用車をすべて低公害車に切りかえます。同様の取り組みが民間にも広がっており、ある企業グループでは、所有する約一万四千台すべての車を二〇一〇年度までに低公害車にする計画が進んでいます。

 ごみゼロ社会の実現に向け、国と地方が一体となって、五年以内に大規模不法投棄を撲滅いたします。昨年の先進国首脳会議で、私は、ごみを減らし、使えるものは繰り返し使い、ごみになったら資源として再利用する社会づくりを提唱しました。

 我が国には、工場排水をすべて循環利用するとともに、社内での分別回収の徹底とリサイクルの促進により廃棄物を限りなくゼロに近づけている先端技術メーカーがあります。エアコンなどの家電製品は年間一千万台が引き取られ、ペットボトルの回収率は六割を超え、欧米に比べて極めて高い水準となっています。今月からは自動車のリサイクルが新たに始まりました。地球規模で循環型社会の構築に向けて具体的な行動を起こすため、四月に日本で閣僚級の国際会議を開催します。

 我が国は、戦後、世界第二位の経済大国となりましたが、決して軍事大国とはならず、平和主義を貫きながら、ODAや国連分担金などの資金面でも、国連平和維持活動などの人的貢献の面でも、世界の平和と繁栄に積極的な役割を果たしてきました。

 創設六十年を迎える国連は、二十一世紀の国際的な諸問題に効果的に対処することが期待されていますが、安全保障理事会は第二次世界大戦直後の枠組みのままであります。これまでの我が国の国際貢献の実績は常任理事国にふさわしいものであり、国連改革の機運が高まっているこの機をとらえ、その一員となるよう外交に一層の力を注いでまいります。(拍手)

 イラクの人たちがみずからの手で平和な民主国家をつくり上げることは、日本のみならず、世界の平和と安定に寄与するものであります。我が国は、人的貢献と資金援助を車の両輪として人道復興支援を行ってきました。この一年、サマワでは約六百人の自衛隊員が交代で、住民との交流に心を砕きながら、病院での医療技術支援、給水活動、学校や道路の補修を実施しました。自衛隊員の献身的な活動は、多くの住民から感謝と高い評価を受けています。(拍手)資金面の支援は、発電所や病院の復旧、港湾整備、学用品の支給など十四億ドルに上っており、水や衛生面で延べ二百万人に、教育面で六百万人の生徒に日本の支援の手が差し伸べられました。

 これからイラク国土の復興と民主国家の建設が本格化していく中、今月三十日には国民議会選挙が行われる予定です。我が国は、先月、自衛隊の派遣期間を一年延長しました。現地の状況の変化に対して適切な措置を講じながら、隊員の安全確保に万全を期してまいります。イラクが一番苦しいときに日本はイラクの国づくりに協力してくれたと、将来にわたって評価を得られるような活動を継続していきたいと思います。(拍手)

 アフガニスタンでは、初の民主選挙によりカルザイ政権が発足しました。アラファト議長逝去後のパレスチナでは、自治政府議長選挙が実施されるなど、平和と繁栄に向けた取り組みが進んでおります。引き続き、中東地域の安定と発展を支援してまいります。

 米国との関係は日本外交のかなめであり、日米同盟は、我が国の安全と、世界の平和と安定の礎であります。政治、経済など多岐にわたる分野において、緊密な連携と対話を続け、日米関係をより強固なものとします。

 米軍再編については、米軍駐留による抑止力を維持し、かつ、沖縄等の地元の過重な負担を軽減する観点から、米国との協議を進めてまいります。今後とも、普天間飛行場の移設、返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の早期実施に努めてまいります。

 北朝鮮による拉致問題は、国民の生命と安全にかかわる重大な事項であります。拉致被害者五名とその家族八名の帰国が実現しましたが、なお安否のわからない方々について、先般提出された再調査結果はまことに遺憾であり、北朝鮮に対し厳重に抗議し、一日も早い真相究明と生存者の帰国を強く求めています。対話と圧力の考え方に立って、米国、韓国、中国、ロシアと連携しつつ粘り強く交渉し、拉致、核、ミサイルの問題を包括的に解決し、両国関係の正常化を目指します。

 日露修好百五十周年に当たる本年は、プーチン大統領の訪日が予定されています。両国で各分野の交流を拡大し、信頼関係を深めてまいります。北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するという基本姿勢に変わりありません。

 中国は日本にとって、今や米国と並ぶ貿易相手国となるなど、両国関係はますます深まっています。さきの日中首脳会談では、二国間のみならず、国際社会全体にとっても両国関係は極めて重要であるとの認識を共有し、未来志向の日中関係を構築していくことで一致しました。個々の分野で意見の相違があっても、大局的な観点から幅広い分野における協力を強化してまいります。

 韓国の盧武鉉大統領とは、昨年、相互に訪問し合い、友好関係を深めました。国交正常化後四十年を迎える今年は日韓友情年として、各分野の交流を一層拡大してまいります。

 フィリピンとの経済連携協定の大筋合意を皮切りに、韓国、タイ、マレーシアなどアジア諸国との締結交渉に弾みをつけてまいります。多様性を包み込みながら経済的繁栄を共有する、開かれた東アジア共同体の構築に積極的な役割を果たしていきます。

 世界貿易の自由化を進め、途上国を含めたすべての国が利益を得られる貿易体制を構築しなければなりません。WTO新ラウンド交渉の最終合意に向けて、精力的に取り組みます。

 日EU市民交流年である今年、拡大したEU二十五カ国の人々と音楽、文化を通じて交流を深める行事を実施するなど、市民レベルの相互理解の強化に努めてまいります。

 アフリカを初めとする途上国の開発や貧困の克服など国際的な課題に対処するため、ODAを戦略的に活用します。

 海洋国家として、大陸棚を画定するための調査や周辺の海底資源を探査する船舶の建造など、海洋権益の保全に努めてまいります。

 今後も日米同盟と国際協調の重要性をよく認識して、政治、経済の分野のみならず、我が国のすぐれた文化を生かしながら、激動する外交の諸課題に全力で取り組んでまいります。

 政治は国民に支えられてこそ成り立つものであり、国民の政治への信頼なくして改革の達成は望めません。政治家一人一人が襟を正すとともに、政治活動の公正性と政治資金の透明性を確保するための法整備を行わなければなりません。

 戦後六十年を迎える中、憲法の見直しに関する論議が与野党で行われております。新しい時代の憲法のあり方について、大いに議論を深める時期であると考えます。

 このたび、皇室典範に関する有識者会議を設置しました。皇位継承を安定的に維持する制度のあり方について検討してまいります。

 小泉内閣が誕生して三年九カ月。構造改革を進めてきた結果、ようやく日本社会には、新しい時代に挑戦する意欲と、やればできるという自信が芽生えてきたように思います。私は、内閣総理大臣に就任して以来、日夜、緊張と重圧の中で、いかに総理大臣の職責を全うすべきか、全精力を傾けてまいりました。困難な課題に直面するたびに「天の将に大任をこの人に降さんとするや、必ずまずその心志を苦しめ、その筋骨を労せしむ」という孟子の言葉を胸に、改革の実現に邁進してまいりました。(拍手)

 昭和の初期、厳しい経済財政政策を断行するとともにロンドン軍縮条約を結んだ浜口雄幸首相は、軍部や官僚、経済界の強い抵抗や介入の中、不退転の覚悟でみずからの責務を果たすことができれば、たとえ国家のために倒れても本懐であるとの決意で難局に臨みました。

 イラク人道復興支援や北朝鮮問題、郵政民営化など内外の困難な課題が山積する今、ためらうことなく改革を実行しなければ、先人たちが築き上げてきた繁栄の基盤を揺るがし、将来の発展の可能性を閉ざしてしまいます。恐れず、ひるまず、とらわれずの姿勢を貫いて改革を断行することは、まさに私の本懐とするところであります。(拍手)

 改革の原動力は国民一人一人であり、改革が成功するか否かは、国民の断固たる意思と行動力にかかっています。日本の将来を信じ、勇気と希望を持って困難に立ち向かおうではありませんか。

 国民並びに議員各位の御協力を心からお願い申し上げます。(拍手)

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議長(河野洋平君) 外務大臣町村信孝君。

    〔国務大臣町村信孝君登壇〕

国務大臣(町村信孝君) 第百六十二回国会の開会に当たり、我が国外交の基本方針について所信を申し述べます。(拍手)

 まず、今般のインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波により犠牲となった方々、御家族を亡くされた方々に深く哀悼の意を表します。また、いまだ御家族の行方が判明していない方々のお気持ちは察するに余りあります。政府としては、引き続き、安否不明となっている邦人の確認に全力を挙げるとともに、ただいま全会一致で可決されました国会の決議を踏まえ、インド洋沿岸諸国に対し、資金、人的貢献、知見の三点で同じアジアの一員として最大限の支援を実施してまいります。

 また、現在神戸で行われている国連防災世界会議において、今般の津波も教訓にしつつ、全世界の自然災害による被害の軽減を目指す二十一世紀の新しい防災指針の策定と、インド洋地域における津波早期警戒メカニズムの速やかな構築に努めてまいります。

 本年は終戦六十年という節目の年であります。振り返れば、我が国は、戦後の荒廃の中から奇跡的な経済発展を遂げ、国力にふさわしい国際貢献を通じ、平和を希求する国家として国際的地位を占めるに至りました。この背景には、我が国国民自身の努力はもちろん、我が国が友好国及び近隣国と築き上げてきた良好な関係があります。特に湾岸戦争を契機に、我が国の国際平和協力のための活動も質量ともに拡大し、国際的な評価も高まりつつあります。

 一方、我が国をめぐる国際安全保障環境においては、東アジアで朝鮮半島や台湾海峡をめぐる問題等の不安定な要素が存在していることに加えて、テロや大量破壊兵器等の拡散を初めとする新たな脅威が顕在化しています。現在、国際社会は新たな国際秩序を模索しております。我が国は、こうした国際環境を踏まえた安全保障政策の推進のため、新たな防衛計画の大綱を策定するなど、時代に即した対応をとりつつ、平和で安定した国際秩序が形成されるよう積極的な外交を展開していきます。我が国が平和国家として還暦を迎えた今、まさにその外交の真価が問われているところであります。

 戦後、我が国は、国連への加盟をもって国際社会に復帰しました。我が国は、平和主義と国際協調という方針に基づいて、一貫して国連を重視し、国連を通じて国際貢献を行ってきました。国連も還暦を迎える本年は、二十一世紀の世界を反映し、山積する課題に効果的に対処できる機関へと進化するための歴史的な転換期にあります。安保理改革の必要性が叫ばれる中、我が国としては、さまざまな課題への着実な取り組みを通じて、常任理事国入りの実現に向けて最大限努力をしてまいります。

 我が国が常任理事国となることは、主要な国際問題に関して国連の政策決定過程に深くかつ恒常的にかかわることが可能となり、我が国の国益をより一層効果的に確保することにつながります。また、安保理におけるアジアの代表性が高まることでその信頼性を高め、我が国の国際貢献を一層強化させることを通じ安保理の実効性を高めることになります。

 我が国は、本年より非常任理事国として活動しておりますが、今後二年間の任期では、PKO作業部会の議長国として、特に平和の構築の分野で種々尽力していく考えであります。

 日米関係は我が国外交のかなめであり、政治、経済等幅広い分野での同盟関係の一層の強化は、アジア太平洋の平和と安定に資するのみならず、我が国が世界の平和と繁栄のために外交を展開していく上でも不可欠であります。我が国としては、日米安保体制の信頼性の向上を目指すとともに、国際協調のもとで、世界の中の日米同盟により、諸課題に日米が協力して取り組んでまいります。

 現在、米国は、新たな脅威に対応すべく、グローバルな軍事態勢の再編に取り組んでいます。我が国としては、在日米軍の兵力構成の見直しに関し、二十一世紀の国際情勢に適応した我が国の安全保障の確保の観点から米国との協力を進め、米軍駐留による抑止力を維持するとともに、沖縄等の地元の過重な負担の軽減を促進すべく、引き続き米国と協議してまいります。同時に、普天間飛行場の移設、返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告については、引き続きその着実な実施に努めていく考えであります。

 我が国の安全と繁栄のためには、中国や韓国との関係、ともに歩み、ともに進むパートナーであるASEAN諸国、さらにはインド、豪州といった近隣諸国並びに欧州や中南米等との関係を強化していくことが不可欠です。

 本年は、初の東アジア・サミットが開催される予定ですが、現在、アジア諸国の地域協力が東アジア共同体を視野に深化しつつあります。アジア近隣諸国との経済連携協定の締結や、国境を越える諸問題についての機能的な協力をさまざまな分野で重層的に推進することは、域内で同じ価値観を共有する土台を築き、平和と繁栄を確保していく観点からも望ましく、我が国としても積極的に貢献をしていきたいと考えています。また、本年は、日EU市民交流年でもあり、五月にはASEM第七回外相会合を京都で開催する等、欧州と我が国を含むアジアとの間の対話と協力の強化を図ります。

 アジア地域内の経済活動や地域協力が進展する一方で、我が国の経済安全保障の観点から、我が国の海洋権益の確保に努めることも重要であり、我が国周辺の海洋資源や大陸棚の調査を進めつつ、これに万全を期してまいります。

 我が国は、中国との関係を最も重要な二国間関係の一つとして重視をしております。中国は我が国にとり将来に向けての大きくかつ貴重な機会です。中国との間で経済関係や人的交流が急速に進展していることは、アジア太平洋の安定と繁栄の観点からも歓迎すべきことであり、今後とも貿易、投資、文化交流の拡大等を推進していく考えであります。同時に、東シナ海における資源開発をめぐる問題、海洋調査船の問題等、日中間に存在する種々の懸案にも適切に対応してまいります。

 個々の分野で意見の相違があっても、真剣な対話を深めることを通じてそれら諸課題を解決し、未来志向の関係を確立していく考えであります。

 近年、関係が顕著に緊密化しつつある韓国とは、シャトル首脳会談の継続開催等、さきの盧武鉉大統領訪日の成果を生かして、未来志向の関係をさらに深化させてまいります。国民レベルでの相互理解と交流促進の観点から、日韓友情年二〇〇五を成功させるとともに、羽田―金浦間の国際チャーター便の増便等についても具体化を進めたいと考えております。

 北朝鮮に関しては、引き続き対話と圧力の基本方針のもと、日朝平壌宣言にのっとって諸懸案の包括的な解決を図るべく、粘り強く取り組んでいく考えであります。拉致問題は、国民の生命と安全にかかわる重大な問題です。昨年末、これまでの一連の北朝鮮の不誠実な対応について、政府は北朝鮮側に対し、まことに遺憾である旨厳重抗議した上で、迅速かつ誠実な回答がない場合には厳しい対応をとる方針であることを通告し、生存者の帰国と真相の究明に向けた速やかな対応を求めているところであります。

 また、我が国の安全保障にも直結し得る北朝鮮の核やミサイルをめぐる問題については、具体的進展の見られない現在の膠着状態を解消すべく、六者会合の早期開催を目指し、本件問題の解決に向けて全力を注いでいく考えであります。

 ロシアとの関係では、本年は日露修好百五十周年に当たりますが、戦後六十年を経た今日に至っても領土問題をめぐって双方の主張がいまだ平行線をたどっている現状を打破することが必要であります。先般の私とラブロフ外相との会談では、両国の立場の隔たりを埋めるため真剣な話し合いを続けていくことで意見が一致しました。引き続き、四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針のもと、精力的に交渉を進めるとともに、幅広い分野で両国間の協力を進め、プーチン大統領の訪日及びその後の交渉につなげていきたいと考えております。

 中東地域は、我が国の国益にとって戦略的に重要であり、その平和と安定に向けた協力を一層進めていくことは、我が国外交の重要な課題です。今月末イラクにおいて国民議会の選挙が行われる予定ですが、イラクがイラク人自身の手で新しい民主主義国家として復興を果たせるよう、国際社会と協力しつつ、昨年末に派遣延長を決定した自衛隊による人的貢献とODAによる支援を車の両輪として、引き続き復興支援を進めていく考えであります。

 中東和平問題については、先般の選挙で選出されたアッバス・パレスチナ自治政府長官及び新たに成立したイスラエル連立政権のもとで和平プロセスを前進させる歴史的な機会が存在しています。私は、先般、イスラエル及びパレスチナ自治区訪問で、双方の関係者にロードマップに沿った和平努力を働きかけるとともに、我が国が積極的役割を果たす用意がある旨を伝えてまいりました。

 さらに、着実に成果が出ているアフガニスタンの復興についても、引き続き平和構築の努力をNGOや国際機関等とも協力しながら継続していく考えであります。

 本年は、G8サミットや国連ミレニアム宣言のレビューに関する国連サミットで開発問題に大きな焦点が当てられます。我が国としても、貧困削減を初めとする途上国の開発問題に積極的に取り組む考えであり、その際、効率的かつ戦略的にODAを実施し、諸課題の解決に尽力いたします。

 中でもアフリカ支援については、これまでも、アフリカ問題の解決なくして世界の安定と繁栄なしとの考えのもと、我が国独自のTICADプロセスを通じて取り組んでまいりました。アフリカの年と言われる本年、政府としては、アフリカ連合等による自助努力を重視しつつ、国連とも協力しながら、その発展に向け、さらに本腰を入れていく考えであります。

 エイズ等の感染症や環境問題といった地球的規模の問題は、特に途上国の発展にとって大きな阻害要因となっております。これらの問題には人間の安全保障の視点から取り組んでまいります。

 また、本年は、京都議定書が発効し、さらにG8サミットでも気候変動が主要な議題となりますが、政府としては、同議定書に定められた温室効果ガス排出量のマイナス六%の削減を達成するとともに、すべての国が参加する共通ルールの構築に向けて努力してまいります。

 人身取引は、津波の被災国における子供たちの被害にもあらわれているとおり、極めて深刻な問題です。政府は、昨年十二月に政府が決定した人身取引対策行動計画を踏まえつつ、その防止、撲滅と被害者保護に全力で取り組んでおり、その一環として、現在、国際組織犯罪防止条約の人身取引議定書の締結につき今国会で御承認をいただくべく、作業を行っております。

 国際社会が安定的かつ持続的に発展することは、我が国の繁栄のための前提です。我が国は、国際社会における多角的自由貿易体制の維持強化のため、十二月に行われる香港閣僚会議の成功、ひいてはWTOドーハ・ラウンド交渉の最終合意に向けて尽力いたします。

 経済連携の促進についても、現在交渉中のフィリピン、タイ、マレーシア、韓国に加え、ASEANやその他の東アジア諸国との将来の締結をも視野に入れつつ、積極的に取り組んでまいります。自由主義経済の理念のもと、我が国及び相手国の構造改革の推進に資するような形で、双方の市場や社会がさらに開かれたものとなるよう一層努力していく考えであります。

 現下の不安定な安全保障環境において、軍縮・不拡散体制の強化に努めることは、我が国の安全保障上重要です。特に、大量破壊兵器の拡散の問題に対処することは喫緊の課題であり、五月のNPT運用検討会議やG8サミットも活用しつつ、積極的に取り組んでまいります。

 グローバル化の進展に伴い、今や世界じゅうで日本人がさまざまな分野で活躍していることは、極めて望ましいことであります。政府としても、我が国の政策や文化、価値観、魅力等を積極的かつ効果的に対外発信し、これらを大いに活用して、幅と奥行きのある外交を展開していきたいと考えます。また、ビジット・ジャパン・キャンペーンを進めるとともに、本年開催される「愛・地球博」等も生かしつつ、市民レベルでの相互理解の増進に努めてまいります。

 我が国が、国際社会におけるさまざまな課題に迅速に対応しつつ、戦略的な外交を展開していくためには、すぐれた対外情報収集・分析能力が必要不可欠です。対外情報収集の機能と体制のあり方についても、大局的見地からその着実な強化を進めてまいります。

 内閣制度が発足した百二十年前、初めてグローバリズムのあらしにさらされた明治政府は、国際社会の中で生き抜くために、経験もノウハウも情報も不十分な中で、あらゆる努力と工夫を重ねていました。六十年前、我が国は、未曾有の混乱の中から、厳しく険しい国際社会への復帰の道を歩み始めました。

 今日、我が国が持てる力を発揮し、アジアに、世界に貢献するための新たなる六十年の外交へ向けての環境は、先人たちの苦難、苦悩の時代に比べればはるかに恵まれております。「セルフ・ヘルプ(自助論)」で有名なスマイルズは「空高く飛ぼうとしない精神は、やがて地に墜ちる」と言っております。私は、国民の御理解をいただきつつ、創造的で志の高い外交を展開する決意であります。国民の皆様と議員各位の御支援と御協力を心よりお願いを申し上げる次第であります。

 どうもありがとうございました。(拍手)

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議長(河野洋平君) 財務大臣谷垣禎一君。

    〔国務大臣谷垣禎一君登壇〕

国務大臣(谷垣禎一君) 平成十七年度予算及び平成十六年度補正予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。(拍手)

 昨年来、たび重なる大型台風や新潟県中越地震、スマトラ沖大地震及びインド洋津波などの自然災害が甚大な被害をもたらしております。ここに、亡くなられた方々とその御遺族に対し深く哀悼の意を表しますとともに、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。政府としては、今後とも被災地域の復旧等に向けて全力を挙げて取り組んでまいります。

 我が国経済は、政府、民間双方の構造改革の取り組みにより長きにわたった低迷を脱し、財政出動に頼ることなく、国内民間需要を中心に回復を続けております。こうした回復の動きを地域や中小企業にも広く浸透させ、持続可能なものとするため、構造改革をさらに一層推進してまいります。また、デフレは緩やかながらも依然継続しており、その脱却を確実なものとするため、日本銀行と一体となって政策努力を強化してまいります。

 一方で、財政の現状は、平成十七年度末の公債残高が五百三十八兆円程度に達する見込みであるなど、非常に厳しい状況にあります。こうした状況が続きますと、経済の成長を阻害することになりかねません。

 このため、持続可能な財政を構築することが重要な課題であります。今後とも、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を目指し、歳出歳入両面からバランスのとれた財政構造改革を進めていく必要がありますが、これに取り組むに当たっては、次の三つの点を踏まえる必要があると考えます。

 第一に、歳出面において、特に、社会保障制度の見直しが不可欠です。社会保障の給付と負担は、このままでは経済の伸びを大きく上回って増大していくと見込まれます。将来にわたり持続可能な制度を構築するには、年金、医療、介護等を総合的にとらえ、給付と負担の規模を国民経済の身の丈に合ったものとすることを目指す必要があります。あわせて、自助と公助の役割分担の見直しのほか、次世代の国民を育てていくことの大切さの再認識や、高齢者を一律に弱者ととらえる考え方の見直しといった意識改革が重要であると考えております。

 第二に、歳入面において、少子高齢化やグローバル化等の大きな構造変化に対応し、あるべき税制を構築していかなければなりません。このため、これまでの政府・与党の方針を踏まえ、景気低迷時に講じた措置の見直しを含め、社会共通の費用を広く公平に分かち合うとともに、持続的な経済社会の活性化を実現するため、税制改革の具体化に取り組んでまいります。

 第三に、持続的な財政の構築には、国、地方を通じて取り組んでいく必要があります。こうした観点から、国と地方のいわゆる三位一体の改革については、地方の権限と責任を拡大し、必要な行政サービスを地方みずからの責任で選択できる幅を拡大するとともに、国、地方を通じた行政のスリム化を図ることが重要と考えております。

 こうした財政構造改革の取り組みに対して国民の御理解を得るに当たっては、財政の現状をわかりやすく説明するとともに、事務事業の民営化など行政改革を推進しつつ、徹底した歳出の見直しや予算の質の改善に取り組まなければならないと考えております。

 平成十七年度予算及び税制改正におきましては、以上の認識のもと、歳出歳入両面の改革に取り組むこととしております。

 歳出面については、歳出改革路線を堅持、強化する方針のもと、聖域なき改革を行っております。

 これにより、一般会計全体の予算規模は八十二兆千八百二十九億円、一般歳出の規模は四十七兆二千八百二十九億円となり、一般歳出は三年ぶりに前年度の水準以下に抑制いたしました。

 また、国家公務員の定員については、治安など真に必要な部門に適切に配置しつつ、行政機関職員全体として七百二十八人の縮減を図っております。

 次に、主要な経費について申し述べます。

 社会保障関係費については、介護保険につき、制度間の重複の是正や在宅と施設の利用者負担の公平性の観点から、施設における給付を見直す等の取り組みを行っております。

 公共事業関係費については、全体として抑制しつつ、我が国の競争力の向上に直結する投資等への重点化を行っております。

 文教及び科学振興費については、教育研究の質的向上を目指した改革を進めるとともに、競争的研究資金の拡充等により、予算の質の向上を図っております。

 防衛関係費については、思い切った削減を行う中で、新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を踏まえ、テロや弾道ミサイル等の新たな脅威への対応等に重点化を図りつつ、効率的で節度ある防衛力整備を行っております。

 農林水産関係予算については、全体として抑制しつつ、構造改革の加速や食の安全、安心の確保に向けた重点化を行っております。

 経済協力費については、戦略的かつ効率的な援助の実施に必要な経費を確保しつつ、人間の安全保障の推進等への重点化を行っております。

 エネルギー対策費については、安定供給確保のための施策や省エネルギー対策等の地球温暖化問題への対応等を着実に進めております。

 中小企業対策費については、新事業への挑戦や経営革新の推進を図るとともに、円滑な資金供給を確保するための基盤強化等を行っております。

 治安関係予算については、地方警察官の増員を初め、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を図っております。

 また、三位一体の改革については、国庫補助負担金について、税源移譲に結びつく改革のほか、スリム化を図ること等により一兆八千億円程度の改革を行っております。この結果を受け、所得譲与税による税源移譲を行うこと等により、地方に対する財源措置を講じております。

 さらに、地方交付税について、地方歳出の見直しを行い、一般会計における総額を抑制すると同時に、地方に配分される総額について、地方の財政運営に配慮し、前年度と同規模を確保しております。今般の見直しの結果、地方の公債依存度、基礎的財政収支等の財政指標は大幅に改善することとなります。

 このほか、特別会計については、事務事業の見直し等の視点から着実な改革を進めております。また、政策評価や決算の反映など予算の質の向上に取り組んでおります。

 歳入面については、三位一体の改革との関係で、平成十八年度に国、地方を通ずる個人所得課税の抜本的見直しが必要となることを展望しつつ、平成十一年以降、景気対策のための臨時異例の措置として継続されてきた定率減税について、導入時と比較した経済状況の改善を踏まえ、その規模を二分の一に縮減することとしております。あわせて、住宅税制、金融・証券税制、国際課税、中小企業関係税制等について、経済の活性化や公平な課税の確保等の観点から適切な措置を講ずることとしております。

 これにより、租税等の収入は四十四兆七十億円を見込んでおります。また、その他収入は三兆七千八百五十九億円を見込んでおります。

 以上、歳出歳入両面における取り組みの結果、新規国債については、発行予定額を四年ぶりに前年度よりも減額し、三十四兆三千九百億円となり、一般会計の基礎的財政収支も昨年度に続き改善するなど、財政規律堅持の姿勢を明確にすることができました。

 また、国債残高が多額に上り、今後も大量発行が見込まれる中、国債管理政策を財政運営と一体として適切に運営していく重要性がますます高まってきております。これまでも、国債市場特別参加者制度や新商品の導入等、各種施策の実施に鋭意取り組んでまいりましたが、今後とも、国債の確実かつ円滑な消化、中長期的な調達コストの抑制を図るため、市場のニーズや動向等を踏まえた国債の発行、商品性・保有者層の多様化等、国債管理政策の一層の充実に努めてまいります。

 さらに、財政投融資については、すべての財投事業について、財務の健全性等の総点検を行い、財政投融資残高において大きなウエートを占める住宅金融公庫について、民間で取り組んでいる直接融資を廃止し、都市再生機構について、ニュータウン事業から撤退するなどの見直しを実施しております。これにより、将来の財務上の懸念を解消し、財投事業の健全性を一層確かなものとしております。

 平成十七年度財政投融資計画については、特殊法人等整理合理化計画等を反映しつつ、事業の重点化、効率化に努め、総額を十七兆千五百十八億円に抑制しております。

 次に、平成十六年度補正予算について申し述べます。

 平成十六年度補正予算については、大型台風や新潟県中越地震の被災地における復旧のための経費等として、災害対策費を一兆三千六百十八億円計上しております。このほか、歳出面においては、義務的経費の追加を行うとともに、国債整理基金への繰り入れ及び地方交付税交付金等を計上する一方、既定経費の節減等を行っております。

 歳入面においては、国債を増発することなく税収及び税外収入の増加を見込むとともに、前年度の決算剰余金を計上しております。

 以上の結果、平成十六年度補正後予算の総額は、当初予算に対し歳出歳入とも四兆七千六百七十八億円増加し、八十六兆八千七百八十七億円となっております。

 また、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行っております。

 財政投融資計画については、災害復旧経費等で総額五十四億円を追加することとしております。

 これらとともに、国際機関やG7、アジア諸国等と協力し、世界経済の安定と発展に貢献してまいります。特に、我が国と密接な関係を有するアジアにおいて、通貨危機の予防、対処のための域内の枠組みであるチェンマイ・イニシアチブの見直しや、アジアの貯蓄を域内の投資に活用するためのアジア債券市場育成イニシアチブの推進等に取り組んでまいります。また、アジア域内の投資交流を活発化させる観点から、租税条約の改定に取り組んでまいります。

 為替相場については、経済の基礎的条件を反映し安定的に推移することが重要であり、今後とも、その動向を注視し、必要に応じて適切に対処してまいります。

 さらに、WTO新ラウンド交渉やASEAN、韓国等との経済連携交渉に努力してまいります。こうした交渉においては、税関手続の簡素化や国際的調和を含む貿易円滑化にも取り組んでまいります。平成十七年度関税改正においては、税関における水際取り締まりの強化と通関手続の一層の迅速化等を図ることとしております。

 以上、平成十七年度予算及び平成十六年度補正予算の大要等について御説明いたしました。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

 グローバル化時代において、我が国が持続的に発展していくためには、日本の魅力を高め、世界から評価されることが重要であると考えますが、財政の持続可能性が危ぶまれるようでは、その実現は困難であります。

 来年度予算は、持続可能な財政の構築に向けた一里塚になったものと考えておりますが、公債依存度はなお四一・八%に及ぶなど、財政は依然大変厳しい状況にあります。財政の現実を国民に粘り強くお伝えし、「公(こう)」に対し何をどこまで求め、そして、どう負担し支え合うか、議論を喚起しながら、国民各層にある問題意識や不安を受けとめ、さまざまな工夫を重ねていかなければならないと考えております。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。(拍手)

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議長(河野洋平君) 国務大臣竹中平蔵君。

    〔国務大臣竹中平蔵君登壇〕

国務大臣(竹中平蔵君) 経済財政政策担当大臣として、その所信を申し述べます。(拍手)

 小泉内閣が発足した四年前、日本経済は厳しいマイナス成長の中にありました。膨大な不良債権の存在から金融システムへの不安は募り、一方で、財政拡大に過度に依存した従前の経済運営の行き詰まりから、国民の先行き不安が大きく高まっていたのです。

 こうした中で小泉内閣は、改革なくして成長なしとの信念のもと、各般の構造改革に取り組んでまいりました。とりわけ、当初の数年間を集中調整期間として位置づけ、不良債権処理や財政赤字拡大の阻止に象徴されるような、過去の負の遺産の解消に全力を挙げることを目指したのです。

 この間、多くの反対意見が寄せられたにもかかわらず、現実に構造改革は着実な成果を上げつつあります。昨年は、日本経済が長い低迷から脱し、その先にある成長の姿が見え始めた年となりました。景気拡大期間は既に三年に及び、戦後の平均を上回っています。平成十六年度は二・一%程度、十七年度は一・六%程度の実質成長が見込まれるなど、財政を着実に健全化しながら民間需要中心の景気回復が実現されます。デフレ克服に向けた動きも着実に進みつつあります。

 私は、今日の状況はちょうど五十年前の日本経済に似ていると考えます。終戦のショックから間もない昭和三十年、日本経済はおおむね戦前の経済水準を回復し、戦争の負の遺産と決別しました。その翌年の経済白書は「もはや戦後ではない」と宣言しましたが、私は、不良債権問題の終結が見えた今、もはやバブル後ではないと明確に申し上げたいと思います。平成十六年度末までに主要行の不良債権比率を半減するという目標は、その達成が確実に見込まれます。企業部門でも、リストラの完了によって過剰債務や過剰雇用が解消し、収益力の改善が進んでいます。

 同時に、バブル後の長期低迷を脱した今、改めて実感されることがあります。それは、二十一世紀の日本の新しい成長基盤をつくる道のりは依然極めて厳しいものであるということです。負の遺産を清算するための守りの改革から、新しい成長の姿をつくるための攻めの改革へと、まさにこれからが日本経済の正念場と言えましょう。

 私は、二年後の平成十九年という年が、日本経済にとって重要な節目の年になると考えています。それゆえ、そこに至るこの二年間は、かけがえのない二年間と言わねばなりません。

 平成十九年には、日本全体の人口が減少に転じ、いよいよ人口減少社会が現実のものとなります。財政面では、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化に向けて、平成十九年度から次の段階の新たな財政収支改善努力を開始しなければなりません。すなわち、さらなる国民負担が必要かどうか、明確な選択をしなければならないのです。また、平成十九年度は、明治以来の大改革である郵政民営化がいよいよスタートする予定の年でもあります。

 基本方針二〇〇四では、平成十九年度までのかけがえのない二年間を重点強化期間と位置づけました。足腰の強い、そして変化に柔軟に対応できる経済構造をつくるべく、将来の成長戦略を明確にした上で、攻めの改革に取り組まなければなりません。

 かけがえのない二年間の初年に当たる平成十七年、私は、以下の三つの方針で経済を運営し、また経済財政諮問会議での検討を進めてまいります。そうすることによって、日本経済は現状を超えて、さらに持続的な経済発展を実現できるものと考えます。

 その第一は、攻めの改革を具体的な形にすることを通じ、一層の経済活性化を実現することです。攻めの改革の要諦は、民間企業の力、地域の力、そして個々人の力を最大限に引き出す環境を整えることにあります。

 そのためにも、民間でできることは民間で行うことは極めて重要であります。そして、その象徴となるのが郵政民営化です。郵政民営化は、日本の政府と民間がともに二十一世紀型の市場経済システムに移行することを示す象徴であり、私はその責務を誠心誠意果たしてまいりたいと思います。

 郵政民営化については、昨年九月十日に基本方針を閣議決定し、現在それに基づいて、より詳細な制度設計と法案作成を行っています。真に国民のためになる民営化を目指し、与党とも十分に調整を行いながら、関係法案を今国会に提出し、その確実な成立を期してまいります。同時に、これに関連する政策金融の改革、国債管理の新しいあり方等についても、経済財政諮問会議の重要な検討課題と考えます。

 また、攻めの改革としては、市場化テストを含む規制改革の一層の推進、農業、人の移動、サービス部門の構造改革によるアジア等との経済連携の加速、三位一体の改革と地域再生の推進、教育・雇用と人間力強化についても、国民に結果が見えるよう内閣一丸となって取り組んでまいります。

 第二は、社会の諸制度の持続可能性について、国民の信頼感をより高めるための改革を進めることです。

 その中心的課題として、二〇一〇年代初頭に基礎的財政収支を黒字化するための道筋を明確化することは極めて重要です。幸いにして、二年連続の着実な基礎的財政収支改善と民需主導の景気回復が両立する見込みですが、さきに述べたように、平成十九年度にはさらなる国民負担が必要かどうかも含め、財政のあり方について国民的選択が求められます。本年は、こうしたことを念頭に、経済財政諮問会議でも歳入歳出一体となった財政改革の検討を開始いたします。

 さらに社会保障について、将来にわたり持続可能で、若い世代からも高い信頼を得られるような制度の確立に向けて改革を進めることが必要です。このため、年金、医療、介護、生活保護等、社会保障制度全般の一体的見直しを進めます。サービスの質を確保し、かつ経済力に見合った社会保障給付とするための具体的仕組みを早急に検討いたします。また、社会保険庁改革についても、その推移を経済財政諮問会議で注視してまいります。

 第三は、政策プロセスの一層の透明化と説明責任の強化を行うことです。

 過去四年間、毎年六月には政策全般についての骨太の方針を明らかにするとともに、十一月ごろにはそれに基づく予算編成の基本方針を示すことによって、オープンな予算編成プロセスを定着させてきました。さらには、「予算の全体像」や「改革と展望」を公表することによって、マクロ経済と財政の整合的な運営を実現いたしました。

 こうした中で、今、改革の先にどのような経済社会の姿が描けるのか、人口が減少する社会にあって我が国の成長力はどうなるのか、長期的なビジョンを提示することが極めて重要であると考えます。

 このため、本年春ごろを目途に、日本二十一世紀ビジョンを取りまとめることとしています。このビジョンが国民に共有されることによって、不透明感が払拭され、民間の経済活動がより活性化することを期待するものです。

 以上に加え、国民の安全、安心の基盤を整備するために、消費者政策の強化とNPOの活動基盤の整備に引き続き努めます。また、個人情報保護法の本年四月からの全面施行に向けて取り組んでまいります。

 四年前、我々が財政の健全化と景気回復を両立させることを打ち出したとき、多方面から厳しい反対意見が示されました。しかし、我々は約束どおりそれをなし遂げました。同様に、不良債権を二年半で半減させると述べたとき、多方面から今はやるべきではない、達成は不可能だなど、さまざまな反対意見が示されました。しかし、我々は約束どおりそれをなし遂げました。

 断固たる決意と周到な準備をもって小泉改革をさらに進めることこそが、日本経済のさらなる発展を可能にする唯一の道です。私は、将来を決して悲観することなく、安易に楽観することもなく、見え始めた新しい成長の姿をより確かな強いものとし、さらに地域、中小企業にすそ野を広げていくことを粘り強く目指してまいります。

 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をお願いし、所信の表明といたします。(拍手)

     ――――◇―――――

梶山弘志君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る二十四日午後一時から本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会されることを望みます。

議長(河野洋平君) 梶山弘志君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決まりました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後三時三十七分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣 小泉純一郎君

       総務大臣   麻生 太郎君

       法務大臣   南野知惠子君

       外務大臣   町村 信孝君

       財務大臣   谷垣 禎一君

       文部科学大臣 中山 成彬君

       厚生労働大臣 尾辻 秀久君

       農林水産大臣 島村 宜伸君

       経済産業大臣 中川 昭一君

       国土交通大臣 北側 一雄君

       環境大臣   小池百合子君

       国務大臣   伊藤 達也君

       国務大臣   大野 功統君

       国務大臣   竹中 平蔵君

       国務大臣   棚橋 泰文君

       国務大臣   細田 博之君

       国務大臣   村上誠一郎君

       国務大臣   村田 吉隆君

 出席内閣官房副長官

       内閣官房副長官  杉浦 正健君


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