衆議院

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第37号 平成21年6月9日(火曜日)

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平成二十一年六月九日(火曜日)

    ―――――――――――――

  平成二十一年六月九日

    午後一時 本会議

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 厚生労働委員会において審査中の臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)及び臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)の四案につき委員長の中間報告を求めるの動議(谷公一君提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)及び臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)についての厚生労働委員長の中間報告

 厚生労働委員長の中間報告に関連する中山太郎君、石井啓一君、阿部知子君及び根本匠君の発言


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    午後一時二分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

谷公一君 中間報告を求める動議を提出いたします。

 この際、厚生労働委員会において審査中の第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるA案)、第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるB案)、第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるC案)及び根本匠君外六名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるD案)の四案について委員長の中間報告を求められることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、動議のとおり決まりました。

    ―――――――――――――

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)及び臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)についての厚生労働委員長の中間報告

議長(河野洋平君) 第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、根本匠君外六名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、右四案について厚生労働委員長の中間報告を求めます。厚生労働委員長田村憲久君。

    〔田村憲久君登壇〕

田村憲久君 ただいま、院議によりまして、中山太郎君外五名提出の臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、石井啓一君外一名提出の臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、金田誠一君外二名提出の臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案及び根本匠君外六名提出の臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案の各案について、厚生労働委員会における審査の中間報告を求められましたので、御報告申し上げます。

 最初に、各案の主な内容について御説明申し上げます。

 まず、中山君提出案についてであります。

 中山君提出案は、移植のための臓器摘出及び脳死判定に係る要件について、本人の生前の臓器の提供等の意思が不明の場合に、遺族等が書面により承諾した場合を加える等の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、移植のための臓器摘出の要件について、本人が生前に書面によって臓器の提供意思を表示している場合に加え、本人が書面によって臓器の提供を拒否する意思を表示している以外の場合であって、遺族が書面により承諾している場合とすること、

 第二に、本人が臓器提供の意思を表示する場合において、親族に対して優先的に臓器を提供する意思を表示することができること

等であります。

 次に、石井君提出案についてであります。

 石井君提出案は、移植のための臓器の提供及び脳死判定に従う意思について、十二歳以上の者が意思表示を行うことができる等の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、死亡した者が生存中、移植のために臓器を提供する意思を十二歳に達した後に書面により表示した場合であって、その旨の告知を受けた遺族が拒まないときまたは遺族がないときは、医師は、臓器を死体から摘出することができることとすること、

 第二に、本人が臓器提供の意思を表示する場合において、親族に対して優先的に臓器を提供する意思を表示することができること

等であります。

 次に、金田君提出案についてであります。

 金田君提出案は、臓器等の移植が、人権の保障等に重大な影響を与える可能性があることにかんがみ、脳死の定義を改正し、脳死判定を開始することができる要件を明記するとともに、組織移植及び生体からの臓器移植の規制を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、脳死の定義を「脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に喪失すること」に改めること、

 第二に、組織の移植については、脳死を除き、死亡した者が生存中に、組織を提供する意思を書面により表示している場合であって、遺族がこれを拒まないとき等にできるものとすること、

 第三に、生体の臓器移植については、移植対象者の配偶者または二親等以内の血族が臓器を提供する意思を書面により表示している場合であって、所要の基準を満たした病院等が承認するときにできるものとすること、

 第四に、子供についての臓器等の移植については、専門家その他広く国民の意見を求めつつ検討が加えられ、必要な措置が講ぜられるものとすること

等であります。

 最後に、根本君提出案についてであります。

 根本君提出案は、小児の臓器移植を可能とするため、十五歳未満の者について、その死体からの臓器の摘出及び脳死判定に係る要件を新たに設ける等の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、十五歳未満の者について、本人が臓器の提供を拒否していない場合であって、遺族がこれを書面により承諾し、かつ、臓器の摘出等が行われる病院等において、遺族による虐待が行われた疑いがあること等の移植医療の適正を害するおそれのある事実がない旨の確認がされている場合、医師は、臓器を摘出することができるものとすること、

 第二に、この法律の施行後三年を目途として、施行状況を勘案し、臓器移植全般について検討が加えられ、必要な措置が講ぜられるべきものとすること

等であります。

 次に、審査経過の概要について申し上げます。

 中山君提出案及び石井君提出案は、第百六十四回国会に提出され、第百六十六回国会の平成十九年六月二十日に提出者中山太郎君及び斉藤鉄夫君からそれぞれ提案理由の説明を聴取しました。また、金田君提出案は、第百六十八回国会に提出され、第百六十九回国会の平成二十年五月九日に提出者阿部知子君から提案理由の説明を聴取しました。

 これら三案については、第百六十六回国会から今国会まで、本委員会のもとに設置されました臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案審査小委員会において、参考人からの意見聴取及び質疑等が行われてきました。

 小委員会におきましては、医療界、法曹界、宗教界の方々のほか、移植を受けられた方、御家族の臓器を提供された方、お子様が長期の脳死状態となった方、さらには、世界保健機関の移植医療の担当者といった幅広い分野の方々を参考人としてお招きし、我が国における移植医療の現状、移植医療の評価、小児患者への移植に関する諸課題、臓器提供の意思表示年齢引き下げの是非、被虐待児からの臓器の摘出の防止策、脳死を人の死とする社会的合意の有無、親族に対する優先提供の是非、移植ツーリズムの削減に向けた国際的動向等に関して、さまざまな御意見を伺いました。

 本委員会におきましては、今国会の平成二十一年五月二十二日に三ッ林小委員長から小委員会における審査の経過及び論点等の中間報告を聴取いたしましたが、その内容につきましては、お手元の配付資料を御参照ください。また、同日、今国会に提出された根本君提出案について、提出者根本匠君から提案理由の説明を聴取しました。その後、五月二十七日及び六月五日に、各案について、提出者及び政府に対する質疑を行うとともに、五日については委員からの発言が行われました。

 次に、各案についての質疑の概要について申し上げます。

 中山君提出案についてでありますが、脳死を人の死とすることに社会的合意ができているのかとの質疑に対しては、平成四年の脳死臨調の最終答申において、脳死を人の死とすることについてはおおむね合意が得られており、新聞社の世論調査の結果においても、脳死を人の死と判定してよいとの回答が約六割に達しているとの答弁がありました。

 また、中山君提出案では、「脳死した者の身体」を定義した条文を改正して脳死を人の死と法律で規定しているのではないかとの指摘に対しては、法的脳死判定は臓器移植を行う場合に限定されており、法的脳死判定については本人または家族が拒否できる仕組みとなっているとの答弁がありました。

 さらに、本人の生前の意思が不明であっても家族の承諾で臓器移植を可能とすることとした理由は何かとの質疑に対しては、身近な家族が本人の意思をそんたくすることが本人の意思の尊重につながるものであり、諸外国の立法例でも多くの国が家族の承諾で臓器移植を可能としていることから、そのような仕組みにしたとの答弁がありました。

 虐待を受けて脳死となった児童からの臓器摘出を防ぐ手だてをどうするのかとの質疑に対しては、主治医による診察等である程度の防止が図られるが、外部機関への委託等を含めた検査の仕組みも考えられるとの答弁がありました。

 法改正による脳死下での臓器移植数の増加見込みについては、ある専門家の個人的な意見として、年間七十から百五十例程度の移植数になるとの見解を示しつつ、待機患者にとって希望が持てる効果があるものになると考えているとの答弁がありました。

 臓器提供の意思表示に係る親族への優先提供について、公平性の確保という臓器移植法の基本理念に反するのではないかとの意見に対しては、臓器移植を待っている身内の方がいる場合、その身内に臓器を提供したいという気持ちにも配慮すべきとの観点から、その範囲を親子と配偶者に限定しつつ、親族への優先提供を認めることとしたとの答弁がありました。

 次に、石井君提出案についてでありますが、世界保健機関における移植ツーリズムの削減要請についてどう対応するのかとの質疑に対しては、内閣府の世論調査では、脳死下で臓器提供をしてもよいと考える者は約四割に達しており、これらの者の意思をできる限り生かす取り組みが必要であり、臓器移植に関する教育や普及啓発を図って移植を進める条件整備が必要と考えているとの答弁がありました。また、条件が整えばさらなる年齢の引き下げ等が考えられるとの答弁がありました。

 また、十二歳になれば臓器提供や脳死という状態が判断できるとする根拠は何かとの質疑に対しては、中学校に上がる程度の年齢になれば、臓器提供について自己決定できる子供もいると考えており、あくまで臓器提供の意思表示をできる年齢を十二歳以上にして、臓器移植の道を開くこととしたとの答弁がありました。

 臓器移植数の増加の見込みについては、十五歳以上の者は、携行性の高い運転免許証等に意思表示欄を設ける等の普及啓発を通じて増加するのではないか、また、十五歳未満の者については、本案により十二歳に引き下げてもそれほど増加はしないであろうが、教育や普及啓発により徐々にふえていくことを期待するとの答弁がありました。

 次に、金田君提出案についてでありますが、現行の脳死判定基準に脳血流の停止を加えることとしているが、脳血流の停止を確認した後でも小児における長期脳死例があるのではないかとの質疑に対しては、脳血流停止の確認後においても長期生存例は存在するが、脳死判定基準の適正化に向けた取り組みは必要であるとの答弁がありました。

 また、無呼吸テストを含めた現行の法的脳死判定基準に沿った判定を経た長期脳死例の文献があるのかとの質疑に対しては、無呼吸テストを含めた三回の法的脳死判定基準に沿った判定が行われた事例での長期生存例が紹介されました。

 臓器移植法の運用に関するガイドラインで規定されている組織の摘出や生体からの臓器摘出についてのルールを法律事項とした理由は何かとの質疑に対しては、罰則のないガイドラインでは、これらが遵守されない場合があること、生体からの臓器摘出の透明性、公平性の確保が世界保健機関の策定予定の指針に沿ったものであることから法律事項としたとの答弁がありました。

 脳死判定基準を厳密化することで移植数が現行より減少するのではないかとの質疑に対しては、基準の厳密化で、むしろ脳死判定の透明性、公平性が確保され、国民の臓器移植に対する理解が進み、移植数が増加するとの答弁がありました。

 次に、根本君提出案についてでありますが、脳死を人の死としないまま十五歳未満の子供の脳死判定や臓器提供について親に承諾を求めることは矛盾しているのではないか、また、親に重い決断を迫ることになるのではないかとの質疑に対しては、脳死を人の死とする社会的合意がない中で、本人の崇高な意思表示により脳死下での臓器提供を認める現行制度の枠組みを崩さず、子供の人格形成にかかわってきた親が意思を代弁する仕組みを設けるものであるとの答弁があり、また、親が子供の脳死判定の承諾に当たり悩むことになるが、中山君提出案でも同様の事態が生じるとの答弁がありました。

 さらに、臓器移植に係る要件を十五歳で区分することの根拠、国民がその説明を理解できるかとの質疑に対しては、民法上の遺言可能年齢を参考にしている現行制度の枠組みを踏襲しているとの答弁がありました。

 虐待を受けた児童からの臓器摘出を防ぐ手だてについては、児童虐待防止法に基づく虐待防止の手引のチェックリストによる確認等を想定しているとの答弁がありました。

 また、病院等に設けられる第三者委員会の構成はどうなるのかとの質疑に対しては、主治医、判定医以外の医療従事者や弁護士等が想定されるとの答弁がありました。

 臓器提供に際しての親族への優先提供を設けない理由は何かとの質疑に対しては、現行法の基本理念である移植機会の公平性の確保に反するためとの答弁がありました。

 臓器移植数の増加見込みについては、数値で答えることは困難であるが、新たに道が開かれる十五歳未満の者について、急激な移植数の増加は見込まれないと考えており、十五歳以上の者を含め、携行性の高い運転免許証等に意思表示欄を設ける等の普及啓発を通じてふえていくことを期待するとの答弁がありました。

 また、政府に対しては、小児の救急医療体制、特に重症患者のための小児集中治療室を整備する必要性、また、ドナーカード等による臓器の提供意思の表示機会の拡充や臓器移植に関する国民の理解を深める必要性、さらには、小児の臓器移植について道が開かれた場合の小児科医を初めとする医療現場に対する支援の方策等について質疑が行われました。

 なお、六月五日には、各案について、各委員の発言の場がありましたが、各案に対する賛否の表明のほか、人の生死にかかわる臓器移植の問題についてはすべての議員が議論して判断すべきとの意見、現行法の成立から十二年が経過していることから今国会において結論を出すのが国会の責務であるとの意見、臓器移植に関するさまざまな課題を整理するために慎重審議を求める意見など、さまざまな意見が表明されました。

 最後に一言申し上げますが、現行の臓器移植法では、法施行後、三年を目途に検討することとされながら、既に十一年余りが経過しております。この間、四つの改正案が提出され、厚生労働委員会におきましては、真剣な議論が行われてまいりましたが、結論を集約するに至っておりません。しかしながら、これ以上の放置は立法府として許されません。今国会で何らかの結論を出すことが、我々本院議員に与えられた責務であると考えているところであります。

 また、臓器移植をめぐる問題は、個々人の倫理観等が問われるものであり、議員各位の慎重な判断が求められていることを付言させていただきます。

 以上をもちまして、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案の各案についての中間報告といたします。(拍手)

     ――――◇―――――

 厚生労働委員長の中間報告に関連する中山太郎君、石井啓一君、阿部知子君及び根本匠君の発言

議長(河野洋平君) ただいまの厚生労働委員長の中間報告に関連して、四案について、それぞれ発言を求められております。順次これを許します。中山太郎君。

    〔中山太郎君登壇〕

中山太郎君 A案提出者の中山太郎でございます。

 臓器移植に関しまして、現行の臓器移植法が成立しましてから、はや十一年余りが経過して、現在に至っております。そのため、臓器移植を受けなければ助からない多くの患者たち、とりわけ、国内で移植が認められていない小児の患者が海外に渡って移植を受ける状態が続き、今日まで、総数百二名に上っております。今後は、昨年五月にイスタンブールで行われました国際移植学会において、移植ツーリズム、また、海外における移植というもののために渡航するということは国際的に認められないということが決定されました。これがWHOに報告されている状況でございます。

 私たちが提案いたしました改正案は、国際的にほとんどの国で認められており、本人意思が不明な場合であっても家族の承諾により臓器移植を可能にするものであり、これによって小児の臓器移植の道も開かれることになります。

 一方で、脳死を受け入れられない家族が拒否する道もきちんと開かれております。

 家族が臓器移植を承諾し、第一回目の法的脳死判定により脳死であると判定された後、その後の第二回目の法的脳死判定の際に家族が臓器提供を拒否した場合には、たとえ脳死と判定されておりましても臓器移植を行うことはできません。その場合、その患者は医療保険によって治療を引き続き受けることになります。

 現在、A、B、C、Dの各案が議論されており、私どものA案に対してさまざまな意見がございます。

 私は、今日の日本の脳・循環器系の、権威のある、最高機関である国立循環器病センターの橋本信夫総長から書簡を預かってまいりましたが、それをこの機会に本会議の議場を通じて国民の皆様方にお知らせをしたいと思います。

 なお、橋本先生は、センター総長に就任される前は京都大学医学部の脳神経外科教授で、最も多く脳死を診断される立場にあった方であります。

 「脳死議論に関する問題点」、これが表題でございますが、平成二十一年六月二日、国立循環器病センター総長橋本信夫で書かれております。

 臓器移植法に関連して、脳死をめぐる議論が混乱をしている。脳死という言葉の意味するところが、時と場合と発言者によって異なっていることに原因があると考える。すなわち、脳死状態と、臨床的脳死と、法的脳死判定で診断された脳死の三者が、混同してあるいはすりかえられて脳死として議論されているのが現状である。

 臓器を提供するときだけ脳死が人の死であるという現在の臓器移植法のもとでのダブルスタンダードの死の定義にも混乱の原因があるが、この場合の脳死は、あくまでも法的脳死判定をされた後の脳死である。

 現在の臓器移植法あるいはAからD案のどれにおきましても、臨床的脳死は法的に死ではありません。したがって、治療が中断されたり死亡を宣告されたりするものでもない。臓器提供の対象でもない。脳死を人の死として認めない人たちの意思が無視されるわけではない。

 法的脳死は、臨床的脳死診断がなされた後で、二回の法的脳死判定検査を行ってなされる厳密なものである。臓器移植を前提にした場合にのみ家族の同意を得て行われてきたものであり、したがって、臓器移植の対象とならない十五歳未満の患者に対しては、法的脳死判定が行われたことはないはずである。

 すなわち、十五歳未満の脳死患者に関するこれまでの議論は、脳死状態あるいは臨床的に脳死と判断された患者についてであり、法的判定によって脳死とされたものではない。

 小児の脳死判定に慎重さが必要なことに異論はないが、法的脳死判定が行われたことはないという事実は、議論を進める上で極めて重要である。

 理解が混乱する原因は、臨床的脳死という言葉が、あくまでも臓器移植ガイドラインの中で法的脳死判定を行うために出てきた言葉であるということにもある。臨床的脳死診断には無呼吸テストが不要であるが、法的脳死判定には無呼吸テストが必要であり、かつ、二回判定テストをする必要がある。臨床的脳死は、臨床現場において医師が神経学的所見などから脳死と判断する基準と変わらない。

 しかし、現行法及びAからD案においても、この状態は人の死ではない。臓器移植に関する慎重論を考慮して、さらに法的脳死判定という手順を踏まなければ死とはされないということに、広く理解を求める必要がある。

 脳死状態は、臨床現場で、患者の状態と今後の回復の可能性について説明のためのあいまいな表現として使われている。脳死に近いと思われる状態から、事実上臨床的脳死の条件を満たした状態まで、定義がなく、使う医師次第である。この脳死状態を脳死として議論を行うことにも混乱の原因がある。

 この中には、当然ながら、脳死でない状態のものも含まれ、医師に脳死と言われたが意識を取り戻したなどというエピソードが出てくる原因と思われる。このようなエピソードを解釈する場合に、その場合の脳死はどのレベルで判断された脳死なのかを確認する必要がある。

 以上、脳死という言葉の中に、一、明確な診断基準がなく、現状を主観的に説明する言葉として脳死状態を意味する場合と、二、脳死であるとするに十分な神経学的所見を有する臨床的脳死と、三、厳格な作業手順を経て判定される法的脳死が混在していることを述べ、どのレベルの脳死を意味するのかをその都度確認しないと議論はかみ合わないことを示した。

 A案のように法的脳死をすべて人の死とする場合であっても、家族の同意がなければ判定作業そのものがなされないので法的に脳死の診断が下されることはないことは強調されるべきである。逆に、尊厳死を求める人たちにとって、脳死判定はその意思の具現化の手段でもある。したがって、脳死は人の死であるとすることによって、脳死を人の死と認める人たちにとっても、認めない人たちにとっても、リビングウイルを尊重できるシステムをつくることができると考える。

 以上であります。

 以上、A案提出者を代表いたしまして、御説明にかえさせていただきました。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

議長(河野洋平君) 石井啓一君。

    〔石井啓一君登壇〕

石井啓一君 私は、臓器移植法改正案のいわゆるB案について、法案提出者として説明をいたします。本案には共同提出者として自由民主党の阿部俊子議員がいらっしゃいますけれども、私から代表して説明をいたします。

 現行臓器移植法が制定された当時、脳死は人の死であるか否かについて議論が重ねられました。その結果、脳死は人の死であるとすることは避け、本人の意思による場合に限り、そのとうとい意思を尊重して臓器の提供を認めることとし、臓器移植の場面に限り脳死は人の死であるという考え方を前提に、現行の臓器移植法が制定をされました。そして、ガイドラインにより、意思決定可能年齢を、民法の遺言作成可能年齢である十五歳以上といたしました。

 B案につきましては、現行法の本人の意思をあくまで尊重するという自己決定の枠組みを残し、その上で、その意思が決定できる年齢を、初等教育が終わる段階の十二歳以上にするという内容であります。

 B案の基本的な考え方は、脳死を人の死とすることについては、いまだ国民的なコンセンサスを得られていないということであります。

 十七年前の平成四年の脳死臨調の答申では、脳死を人の死とすることについては、おおむね社会的に受容され、合意されているとされました。しかし、この答申をもととした現行法の制定過程においては、最終的に、脳死に関してさまざまな意見があることに配慮し、脳死を一律に人の死とすることは避け、本人意思に基づいて臓器提供を行う場合に限り脳死を死とすることにしたものであります。

 現行法が平成九年に成立して十二年たち、この間に脳死を人の死と認める方の割合はふえたものの、いまだ国民的なコンセンサスを得るという段階には至っていないと判断します。

 そこで、B案におきましては、現行法の考え方、本人の意思尊重を根底に置き、初等教育段階が終われば意思決定ができる方もいると判断して、意思決定可能年齢を十二歳に引き下げたものであります。ただし、十二歳の方すべてに意思決定を求めるわけではありません。十二歳の方にも意思決定の道を開いたということであります。

 B案に対しましては、臓器摘出要件として本人の意思表示を必要とするので、臓器移植件数はふえないとの批判があります。

 しかし、平成二十年の内閣府の世論調査では、ドナーカードを持っていると答えた方は八・四%にとどまっております。B案では、臓器提供の意思の有無を運転免許証や医療保険の被保険者証などに記載することができるようにしております。平成二十年の内閣府の世論調査では、ドナーカードを持っていない方であっても、四〇・六%の方が臓器を提供してもよいと答えていらっしゃいます。免許証や被保険者証といった身近で携帯できる意思表示手段が確保されれば、これまで臓器提供の意思を持ちながらもこれを表示することのなかった方からの臓器提供の機会がふえることが期待されます。

 また、B案に対しては、十二歳未満からの臓器提供が認められないとの批判があります。

 B案は、当面、意思決定可能年齢を十二歳に引き下げるとともに、国及び地方公共団体により、移植医療に関する教育の充実、普及啓発等の施策を講ずることとしております。これが進めば、十二歳よりさらに意思決定可能年齢を引き下げることが可能と考えます。

 最大限に意思決定可能年齢を引き下げるとともに、それより下の年齢の子供からの臓器摘出については、まず諸条件を整えるべきと考えます。すなわち、虐待を受けた子供からの臓器摘出を防止する措置、難しい子供の脳死判定について脳死判定基準の検証、再検討などの諸条件を整えた上で、家族が本人にかわって承諾することも含め、検討すべきと考えます。

 社会的な合意がない中で、脳死を人の死と法的に位置づけることは、余りに拙速であります。

 B案は、本人の自己決定を最大に尊重し、臓器提供の意思決定可能年齢を引き下げつつ、子供の臓器提供に関する条件を整え、子供からの脳死臓器提供の道を模索するという、段階的で着実なアプローチを志向しております。

 B案は、一気に臓器提供可能年齢を引き下げないために、迂遠な案という見方がありますが、段階的に着実に進めることにより、移植医療に対する信頼を確保し、長いスパンで見たときには、かえって臓器提供の機会をふやすことになると確信します。

 同僚議員におかれては、どうか、御理解の上、御賛同いただきますようお願い申し上げて、B案の説明とさせていただきます。(拍手)

議長(河野洋平君) 阿部知子君。

    〔阿部知子君登壇〕

阿部知子君 筆頭提案者の金田誠一さんにかわり、私、阿部知子から、C案の提案理由の御説明をいたします。

 一九六七年、南アフリカで心臓外科医バーナードによって行われた世界で第一例目の心臓移植は、アパルトヘイトに囲われた黒人女性をドナーとして、支配階級に属する白人男性へと移植されたものです。当時、この女性の存在は、ライク・ア・ヒューマンフッド、人間のようなものと称されていたことを、今日までほとんど私どもは知らされることなく、やってまいりました。

 また、その二年後の一九六九年、我が国で初めての心臓移植が札幌医大の和田教授によって行われたとき、当初はその成功が華々しく報じられたものの、八十三時間後には十八歳のレシピエントの青年が死亡、ドナーの脳死判定にも疑義が持たれて、医療の名のもとにドナー、レシピエント双方の生存権、人権が侵害されたことに対して、国民の中には根深い不信感が残りました。

 以来、我が国での臓器移植は、約三十年近くの長い論議を経て、一九九七年に現行法が成立し、これまで十二年の歳月が流れました。二人の生命にかかわる極めて特殊な医療である臓器移植が、その全般にわたって見直されるとすれば、今何が必要なのかを明確にしたのが、私どもの提案するC案です。

 今日のグローバル化した経済のもとで、予定されるWHOの指針改定では、臓器や組織の商業的取引や生きている人からの搾取が横行していることに対して、適切な規制と移植関連機関の技術的監視や透明性を確保することが求められております。

 そこで、C案では、まず第一に、法の目的の中に、明確に「人間の尊厳の保持及び人権の保障」を掲げ、脳死からの移植にあっては、脳死に至るまでの治療の十分な担保、そして生体移植や骨、皮膚、弁などの人体組織摘出に関しては、そのルールを法制化いたしました。

 とりわけ生体移植に依存する度合いが高い我が国では、ドナーとなり得る条件を二親等以内とし、加えて、ドナーとレシピエント双方の安全や長期的健康管理のために、倫理委員会の設置を初め、移植を実施できる機関の条件を定め、さらに、ドナーとレシピエントの登録制度の創設など、国による検証体制の確立を図ることといたしております。

 また、脳死移植に関しましては、現行の脳死判定の竹内基準は二十五年前に定められたもので、当時は、判定後、数日で心停止に至るとされておりました。ところが、二〇〇〇年の厚生省研究班調査での、現行法の法的脳死判定と同等の、無呼吸テストを含む判定を受けた後も成長を続ける長期脳死生存例や、全身麻酔を用いた臓器の摘出などの実態は、国民にはほとんど知らされておりません。それゆえ、C案では、改めて脳死についても、その定義を脳全体の機能の喪失と定めた上で、その判定基準の厳格化を求めています。

 加えて、これまで現行法のもとで行われた八十一例についての検証は、わずか三十四例が公開されているにすぎないこと、脳死後の検視体制の不備などについても、検討を加える必要があると考えています。

 今回の法改正に当たって、とりわけ要望の強い十五歳未満の小児からの臓器提供問題については、第二次脳死臨調の設置を提案いたします。

 ドナーの救命の場となる救急医療体制が格段に立ちおくれていることを初め、虐待を受けた子供からの臓器の摘出を防止するための有効な仕組みもいまだ確立されておりません。そうした実態を含めて、小児にあっては、子供の権利という観点に基づいて、子供の自己決定権、小児脳死判定基準、親権の及ぶ範囲などが検討されるべきと考えています。

 安易で拙速な採決は、医療現場はもちろんのこと、日本の社会や未来である子供たちにも禍根を残します。

 とりわけ、本人意思の不明な場合、家族の意思にゆだねるというA案にあっては、医療における自己決定の流れを大きく逆行させかねません。また、現行法六条二項の条文から、移植術に使用されるための臓器を摘出される者という一文を削ることによって、臓器提供場面以外にも脳死を人の死とすることが広がるなど、人権上も大きな問題があります。

 そもそも、人の死を法律で定めることは、国会議員として国民から受けた信託の域を超えております。まずは、生命の主権者である国民に脳死、臓器移植の現状とその問題点を伝え、国民的論議とする必要があると考えます。

 そのためにも、広く議員各位の真剣で慎重な御検討を期待して、C案の提案といたします。

 以上です。(拍手)

議長(河野洋平君) 根本匠君。

    〔根本匠君登壇〕

根本匠君 D案提出者の根本匠です。

 臓器移植法改正のD案について、提案の趣旨及び内容を申し述べます。

 国内には、現在、臓器移植を希望する多くの待機患者がいらっしゃいます。特に、十五歳未満の方が国内で臓器移植を受ける道は著しく制限されております。このような方々の願いにこたえ、国際的動向にも配慮し、臓器移植を推進しなければならないと考えます。

 ただ、我々が今回の議論で重要と考えていることは、脳死を人の死として法律で決めてよいのかということであります。

 現行の臓器移植法の制定から十年余り、いまだなお、脳死を人の死とする社会的合意は得られていないと思います。確かに、脳死は、医学的に見れば厳然たる死であります。しかし、心臓は動いている、体は温かい、まだ死んではいない、割り切れない思いを持つことも自然な感情であります。脳死に対する考え方は、人生観、死生観、宗教観によって異なります。

 我が国の臓器移植法は、脳死を人の死と認め、臓器の提供をしたいという方と受けたいと願う方の自己決定と相互の意思を尊重し、その範囲ならば脳死を人の死と認めない方々であっても受け入れることが可能であるという考え方に立つことで成立を見ました。

 なぜ今D案を提案するのか。臓器移植を待ち望む多くの待機患者の方々の切なる思いにこたえつつ、臓器移植に慎重な方々の心情にも十分配慮することが必要であると考えたからであります。

 次に、D案の理念及び考え方を申し上げます。

 第一に、脳死が人の死かということについては、現行法の枠組みを維持し、十五歳以上の者についての臓器移植は現行法どおりといたします。自己決定と相互意思の尊重という基本原則を維持する考え方であります。

 臓器移植の推進は、自動車運転免許証や健康保険の保険証に臓器提供の意思表明の欄を設けるなどの施策を充実することによって、意思表示を行いやすくします。

 第二に、十五歳未満の者については、意思を表示する力ということに問題があり、親と子のきずなや、親は子の人格形成に責任と義務を持っていることを考慮し、脳死は人の死であることを受容できる親が、子供の気持ちをそんたくし、承諾する場合に、臓器提供を可能にいたします。

 さらに、十五歳未満の者についての臓器提供については、より慎重を期すため、児童虐待のおそれがないことや、親に適切な説明がなされることという条件を加え、これを医療機関の倫理委員会が確認することとしております。

 四つの案にはそれぞれ違いがありますが、D案とA案との論点を明確にすることが重要と考えます。

 A案とD案とでは、背景となる理念、哲学が異なります。最大の違いは、脳死を人の死と考えるかと、本人の意思が不明の場合の臓器提供の考え方であります。

 第一に、A案は、脳死を人の死とすることについて社会的合意があるという前提に立って、脳死を人の死とする規定を置いております。一方、D案は、脳死を人の死とする社会的合意は今なお得られておらず、法律で価値観を押しつけないこととしております。仮に法律上の定義を置くこととなれば、医療現場だけではなく、社会的にもさまざまな影響が懸念されます。

 第二に、十五歳以上の者の臓器移植については、本人の意思が明らかである場合には、A案でもD案でも同じです。

 異なるのは、本人の意思が不明な場合であります。現行法でもD案でも、本人がどう考えていたのかわからない場合は、臓器提供はできません。A案では、本人の意思が不明な場合でも、家族が承諾さえすれば臓器提供できるとしております。これは、本人の意思を尊重する現行臓器移植法の立法の精神を百八十度転換するものであります。

 A案の課題は、臓器を提供する患者のリビングウイルを妨げるおそれがあること、家庭内暴力の場合や、臓器提供後、本人の拒否の意思表示カードが出てきた場合どうするのかなどが考えられます。

 また、子供の脳死判定について、考え方を申し上げます。

 D案においては、脳死を人の死と法律上位置づけておりません。医学的に脳死と考えられる子供について、脳死を人の死として受け入れられる親の崇高な気持ちを尊重し、法的脳死判定に入ることとしております。その際には、子供の心情をおもんぱかることにより、その後の親のさまざまな心理的負担を和らげるよう配慮しております。

 最後になりますが、国会での議論を通じ、意見が分かれるのは、欧米の考え方をグローバルスタンダードとみなすのか、日本には固有の文化的特質があると考えるのか、その点についての考え方の違いが背景にあると思われます。このような違いに深く思いをいたし、臓器移植をいかに推進するかについて、静かに、冷静に判断することが必要であると考えます。

 臓器移植は、個人の人生観、死生観、宗教観に深くかかわるものであり、大多数の国民が納得する形で、社会的合意を得ながら、一歩一歩着実に進めるべきであると考えております。(拍手)

     ――――◇―――――

議長(河野洋平君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時五十二分散会


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