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第39号 平成21年6月16日(火曜日)

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平成二十一年六月十六日(火曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第二十六号

  平成二十一年六月十六日

    午後一時開議

 第一 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案(小坂憲次君外十二名提出)

 日程第一 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 去る九日に厚生労働委員長から中間報告があった臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)及び臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)の四案は委員会から直ちにこれを本会議に移し議事日程に追加して一括議題としその審議を進めるべしとの動議(谷公一君提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)


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    午後一時四分開議

議長(河野洋平君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

谷公一君 議事日程追加の緊急動議を提出いたします。

 小坂憲次君外十二名提出、核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案は、提出者の要求のとおり、委員会の審査を省略してこれを上程し、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、日程第一に先立ち追加されました。

    ―――――――――――――

 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案(小坂憲次君外十二名提出)

議長(河野洋平君) 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案を議題といたします。

 提出者の趣旨弁明を許します。小坂憲次君。

    ―――――――――――――

 核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔小坂憲次君登壇〕

小坂憲次君 私は、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党、日本共産党、社会民主党・市民連合、国民新党・大地・無所属の会を代表いたしまして、ただいま議題となりました核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案につきまして、提案の趣旨を御説明申し上げます。(拍手)

 案文の朗読をもちまして趣旨の説明にかえさせていただきます。

 案文を朗読いたします。

    核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議案

  わが国は、唯一の被爆国として、世界の核兵器廃絶に向けて先頭に立って行動する責務がある。他方、冷戦後の現在においても、核兵器のみならず、核爆弾搭載可能なミサイルの開発、核物質や核技術の流出、拡散等の脅威はむしろ高まりつつある。我々はこの現実を重く受け止め、非核保有国等と連携をとり、核保有国の理解を求め、核軍縮・核不拡散の取り組みと実効性ある査察体制の確立を積極的に進めるべきである。

  去る四月五日、オバマ米国大統領は「核兵器のない世界」を追求する決意を表明した。また、国連安全保障理事会も北朝鮮の核実験に対し国連安保理決議第一八七四号等で断固たる拒否の姿勢を示した。政府はこの機会を捉え、核兵器廃絶の動き、とりわけ北朝鮮の核問題を含む地域の核廃絶への対応を世界的な潮流とすべく努力しなければならない。二〇一〇年核拡散防止条約(NPT)再検討会議において、そのために主導的役割を果たすとともに、核保有国をはじめとする国際社会に働きかけ、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効や兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約の推進など、核廃絶・核軍縮・核不拡散に向けた努力を一層強化すべきである。

  右決議する。

以上であります。

 何とぞ議員各位の御賛同をお願い申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案を可決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は可決いたしました。(拍手)

 この際、内閣総理大臣から発言を求められております。これを許します。内閣総理大臣麻生太郎君。

    〔内閣総理大臣麻生太郎君登壇〕

内閣総理大臣(麻生太郎君) ただいまの御決議に対しまして所信を申し述べます。

 政府は、唯一の被爆国として、核の惨禍を二度と起こさないという強い決意から、核兵器廃絶に向けて、これまで、国際的な核軍縮・不拡散体制の強化のために、さまざまな努力を行ってきております。

 その一環として、政府は、世界的核軍縮のための十一の指標を提案し、来年の早い時期に、世界的核軍縮を推進する国際社会の一致した行動を生み出すことを目的として、国際会議を主催いたします。

 先般の北朝鮮による核実験の実施は、弾道ミサイル能力の増強と相まって、我が国の安全に対する重大な脅威であります。北東アジア及び国際社会の平和と安全を著しく害するものとして、断じて容認できません。また、世界的な核軍縮の機運に逆行するものです。

 政府としては、国連安全保障理事会において、決議第一八七四号が全会一致で採択されたことを評価し、他の国々と連携しつつ、この安保理決議を実効あらしめるよう、適切な対応を早急に行う考えであります。

 政府としては、我が国の置かれた現実を重く受けとめ、ただいま採択されました御決議の趣旨を体し、日本の安全を確保すべく、国際的な核軍縮・不拡散体制の強化のため、決意を新たに、取り組んでまいります。(拍手)

     ――――◇―――――

 日程第一 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(河野洋平君) 日程第一、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。厚生労働委員長田村憲久君。

    ―――――――――――――

 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔田村憲久君登壇〕

田村憲久君 ただいま議題となりました育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案について、厚生労働委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、急速な少子化の進行等を踏まえ、男女ともに育児または介護をしながら働き続けることができる環境の整備を図るため、所要の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、事業主は、三歳までの子を養育する労働者に対して、短時間勤務及び所定外労働免除措置を講じなければならないものとすること、

 第二に、父母がともに育児休業を取得する場合、子が一歳二カ月に達するまでの間にそれぞれ一年間育児休業を取得できる等の特例を設けること、

 第三に、法の実効性の確保のため、紛争解決の援助や調停の仕組み、企業名の公表制度及び過料を創設すること

等であります。

 本案は、去る四月二十一日本委員会に付託され、翌二十二日舛添厚生労働大臣から提案理由の説明を聴取いたしました。

 六月十日には民主党・無所属クラブ、社会民主党・市民連合及び国民新党・大地・無所属の会の三会派より修正案が提出され、趣旨説明を聴取した後、本案及び修正案を一括議題とし、質疑に入りました。

 去る十二日、三会派共同提出の修正案について撤回を許可し、質疑を終局した後、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党及び社会民主党・市民連合の四会派より、紛争解決の援助等に係る規定を早期に施行するための修正案が、日本共産党より、育児休業給付等の支給率を六割に引き上げること等の修正案がそれぞれ提出され、趣旨説明を聴取し、日本共産党提出の修正案について、内閣の意見を聴取いたしました。

 次いで、原案及び両修正案について採決を行い、日本共産党提出の修正案は賛成少数をもって否決され、四会派共同提出の修正案及び修正部分を除く原案はいずれも全会一致をもって可決され、本案は修正議決すべきものと決した次第であります。

 なお、本案に対して附帯決議を付することに決しました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案は委員長報告のとおり決するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

谷公一君 去る九日に厚生労働委員長から中間報告がありました第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるA案)、第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるB案)、第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるC案)及び根本匠君外六名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(いわゆるD案)の四案は、委員会から直ちにこれを本会議に移し議事日程に追加して一括議題とし、その審議を進められることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(河野洋平君) 起立多数。よって、動議のとおり決まりました。

    ―――――――――――――

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)

議長(河野洋平君) 第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、根本匠君外六名提出、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、右四案を一括して議題といたします。

    ―――――――――――――

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、中山太郎君外五名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十四回国会、石井啓一君外一名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(第百六十八回国会、金田誠一君外二名提出)

 臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案(根本匠君外六名提出)

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

議長(河野洋平君) 厚生労働委員会における四案の審査の経過は、去る九日の中間報告のとおりであります。

 四案につき討論の通告があります。順次これを許します。三原朝彦君。

    〔三原朝彦君登壇〕

三原朝彦君 A案の賛成者、自由民主党の三原朝彦でございます。

 もちろん、このたびの臓器移植法討論に当たっては、党派を超えてこの壇上に立ちまして、同法A案に議員諸兄姉の賛同をいただきたく、議論を進めてまいりたいと思っております。(拍手)

 皆さん、あなたは座右の銘としてどのようなものをお持ちなんでしょう。私のそれは、忠恕、すなわち、誠心誠意の思いやりの意と解されているものであります。

 孔子の論語に、衛の霊公第十五の中の一節、子貢問いていわく、一言にしてもって身を終わるまでこれを行うべき者ありや、子のたまわく、おのれの欲せざるところ人に施すことなかれ、こう問答がつづられてあります。

 私は、みずから恕が欠けるゆえにこそ、しばしばこの子貢と孔子の問答を思い出すのであります。また、この孔子の答えは、否定を二つ使って自分の意を、思いを吐露する形をつくっておりますけれども、まことに心を抑えつつ、信念を重く伝えようという試みかと私は感じるのであります。孔子の言わんとするところは、肯定的に訳せば、つまり、おのれの欲するところを人に施そう、こういうことなのであります。現代を生きる私自身としては、むしろ、この表現の肯定的なところの方が、すとんと胸に落ちるような気もいたすわけであります。

 ここに立って、私は、何も中国の古典を論議しようというわけではないのであります。臓器移植法が国会の場にあらわれてより、はや十年余がたちました。この間、私の胸に去来する、同法を考える基本が、つまり、恕の精神、それも、肯定的に解釈をした、おのれの欲するところ人に施そう、こういうことなのであります。

 今、私たちが議論しております臓器移植法改正のこの瞬間においても、だれが一番この改正を要求しているのでありましょう。それは、明らかに、病の床にあり、臓器提供を受けなければ間もなく永遠の旅立ちを余儀なくされるであろう患者の皆さんであります。私たち一人一人がこの患者の立場に立って臓器移植法改正の是非を論ずることこそ、恕の精神にのっとるものであると私は信じております。

 率直に申しましょう。もし私が患者であったなら、いましばらく生を享受したいと切望します。一方、何らかの原因で私が臨床的脳死状態になり、現代医学では明らかに不可逆性の状態にあるとすれば、私は粛々と法的脳死判定を所定どおりに行っていただくことを願いますし、その事実を既に私の家族にも伝えております。

 臨床的脳死状態になり、手厚い看護を受けながらも、ただただ生命の終了を待つ身に私がなったならば、むしろ私は、みずからの生の終えんを迎えても、私の臓器がもし人の生命の再生に役立つなら、それを喜んで受け入れたいと思います。このみずからの選択は、私の死生観と全く背馳しないどころか、恕の精神を生きたいと思う私の生きざまに合致しております。

 先日、中山太郎議員の説明のA案は、脳死状態の患者の正常時の意思は尊重されるし、また、家族の同意なしには臨床的脳死から法的脳死に移る判定作業そのものもなされないのは明々白々なことでありますから、人の生命に対する敬意は十分に払われております。

 この先にあるものが、家族が判定作業に同意したときに生ずる他者のために脳死者の生命をささげる家族の覚悟の重さ、とうとさ、脳死者の臓器を移植されて再び生命の息吹をもたらされるこの受領者の感謝と感激、そして最も尊敬されるべき物言わざる臓器提供者の文字どおりの献身、この三者の崇高な共同作業により臓器移植は行われるのであり、そこにある、尊厳死にまさるとも劣らない人の愛と英知に、私は感動を覚えるものであります。

 子を思う親の心は、山よりも高く、海よりも深いものがあります。それでもA案で十五歳の垣根を除去するのは、脳死状態の子を持つ親も、臓器提供がなければ短い生命を終えんさせなければならない子を持つ親も、どちらの立場も十分そんたくした上で出てきた結論でもあります。そうしなければ、臓器提供なしには生命を全うできない子供たちの結末は、希望のない一本道です。そこに風穴をあけようとするのは、ただただ、脳死状態の子を持つ親御さんに自発的な理解、協力をいただく以外に方法はないからであります。

 年齢制限のない臓器移植が公正に実施されるためには、今以上に医師の倫理と技術の重要性が求められます。万々が一、脳死判定から臓器移植の過程で医師の行為に少しでも疑念が持たれるようなことがあっては、我が国の臓器移植医療が他の先進諸国にさらにおくれをとる結果を招来させることになると私は危惧するのであります。この点も強く私は主張しておきたいと思います。

 願わくば、国民一人一人が臓器移植の重要性を理解し、常に批判的精神を保持しながら、このイバラの道を一歩また一歩前進させることを私はこいねがっております。臓器提供者には心からの感謝を、家族には英断に対する深い敬意を、そして臓器受領者には新たな人生への祝福を表現できる日がここそこで見られるよう私は希望して、臓器移植法改正A案賛成の討論を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(河野洋平君) 佐藤茂樹君。

    〔佐藤茂樹君登壇〕

佐藤茂樹君 佐藤茂樹でございます。

 私は、臓器移植法改正案のいわゆるB案について、賛成の立場から討論をいたします。(拍手)

 賛成する第一の理由は、B案は、脳死を人の死としないことであります。

 現行臓器移植法では、脳死に関してさまざまな意見があることに配慮し、脳死を一律に人の死とすることは避け、本人意思に基づいて臓器提供を行う場合に限り脳死を死とすることとしました。現行法が成立して十二年たちましたが、脳死を人の死と認める方が国民の大多数を占める状況ではなく、脳死を人の死とすることは、いまだ国民的な合意を得られておりません。

 B案では、現行法の、臓器移植の場面に限り脳死は人の死であるという考え方を前提としており、評価するものであります。

 なお、脳死を人の死としたとしても、この場合の脳死とは、法的脳死判定を受けた脳死であり、臓器移植の場面に限られるという説明があります。しかし、脳死を人の死と法的に位置づけることにより、これが臓器移植の場面を超えて、広く医療現場全般や社会的なさまざまな場面に影響を及ぼすことを懸念いたします。

 賛成する第二の理由は、B案は、脳死からの臓器移植は本人の意思が表示されている場合に限るという、自己決定原則、本人同意原則を厳守していることであります。

 現行法は、脳死状態になった際には臓器提供をしてもよいという本人のとうとい自己犠牲の精神を尊重して、その場合に限り、脳死を死とみなし、臓器移植を認めたものであります。

 生命は、その人固有のものであり、家族のものでもだれのものでもありません。自己の生命、自己の臓器の扱いを自分で決定することは至極当然の権利です。この自己決定権は、基本的人権の一つであり、脳死状態になったとしても、最大限に尊重されなければなりません。

 本人意思が不明の場合に、家族の了解で臓器移植を可能とするのは、この自己決定の原則から大きく外れます。さまざまな病気のために意思決定や意思表示ができない人などは、臓器提供拒絶の意思表示はできません。この人たちの自己決定権はどうなるのでしょうか。また、臓器提供拒否の意思は持っているが、拒否の意思表示をしたくない人の権利はどう守られるのでしょうか。さらに、家族の同意で臓器提供した後に本人の拒否の意思が判明した場合にはどうなるのでしょうか。

 また、遺体を解剖等の実習用教材に提供する献体では、生前に本人が同意し、遺族が故人の意思に沿って遺体を献体として提供します。死が確定した後の献体においても、本人の生前の同意なしに家族の同意だけで献体することはできません。脳死からの臓器提供も同じであります。本人の同意なしに家族の了解だけで臓器移植すべきではないと申し上げます。

 賛成する第三の理由は、B案は、小児からの臓器提供について、段階的な着実な取り組みを目指していることであります。

 B案では、臓器提供の意思が決定できる年齢を、現行法でガイドラインで決められている民法の遺言作成可能年齢の十五歳から、実態上、初等教育が終わる段階になれば意思決定できる方もいると判断して、十二歳以上にしています。

 あわせて、B案では、国及び地方公共団体により、移植医療に関する教育の充実、普及啓発等の施策を講ずることとしております。これが進めば、次の段階として、十二歳よりさらに意思決定可能年齢を引き下げることが可能と考えています。

 最大限に意思決定可能年齢を引き下げるとともに、それより下の年齢の子供からの臓器摘出については、まず諸条件を整えるべきとしています。すなわち、一、虐待を受けた子供からの臓器摘出を防止する措置、二、難しい子供の脳死判定について脳死判定基準の検証、再検討などの諸条件を整えた上で検討すべきとしています。

 本年四月二十七日に発表された日本小児科学会倫理委員会の緊急見解では、「もし、いきなり年齢制限も設けず小児脳死臓器移植が行われる場合は、ほとんどの病院で基盤整備が行われていない現状においては、現場で混乱が起こることが懸念されます。したがって、数年間の期限付きでB案を施行する中で、その間に厚生労働省の主導で基盤整備をすることが望ましいと考えます。」と評価されています。

 B案では、一気に臓器提供可能年齢を引き下げませんが、段階的に着実に進めることにより、小児医療の現場の混乱を避け、移植医療に対する信頼を確保し、長い目で見たときには、かえって臓器提供の機会をふやすことになると考えます。

 以上、B案に賛成する主な理由を三点申し述べました。

 多くの同僚議員の御賛同をお願いして、私の討論といたします。(拍手)

議長(河野洋平君) 郡和子君。

    〔郡和子君登壇〕

郡和子君 民主党の郡和子です。

 私は、衆法第一八号、臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案、いわゆる臓器移植法改正案のC案に賛成する立場から討論を行います。(拍手)

 臓器移植法改正案については、命や倫理にかかわる重要法案で数々問題点が指摘されながら、厚生労働委員会におけるわずか八時間の審議をもって本会議で採決されようとしていることに、少なからず不安を禁じ得ません。脳死は一般に人の死であるという考え方を前提としているA案の提案者の間でも、脳死の位置づけが揺れ、六条二項を修正するとの答弁まで飛び出す始末でした。このままA案が立法化されれば、さまざまな法解釈が生まれ、医療現場が混乱することは必至ではないでしょうか。

 さらに、私は、今回の移植法改正の最も重要な争点は、実は、脳死が人の死かどうか以上に、本人の同意がなくても臓器を摘出してよいのかという点にあると考えています。

 脳死を一律に人の死とすることについて、そもそも国民には、脳死、移植についての十分な情報もありません。そして、たとえだれもが脳死を一律に人の死として受容したとしても、脳死後の臓器摘出に本人の同意はなくてよいのかという問題です。

 現行の臓器移植法では、臓器の摘出に本人同意を必須の要件としています。それは、人の身体が不可侵であり、正当な目的と当人の意思表明がなければ何人も侵襲を加えることはできないという基本的人権を保障するための条項であります。

 この基本的人権は、死後も尊重されなければなりません。

 医学教育の解剖実習に遺体を提供することを定めた献体法は、一九八三年の制定以降、生命や身体に関する自己決定権を重視し、人間の尊厳を最大限に尊重する考えのもとで着実に普及してまいりました。だれもが一律に人の死と認める三徴候死を経た後でさえ、本人の同意なしに家族が献体を決めてよいという人はどれほどいらっしゃるでしょうか。

 移植を受ける権利、受けない権利、提供する権利、提供しない権利という考え方に立つとしても、その四つの権利の主体は、あくまで本人であるはずです。臓器提供における本人の意思も、同じように尊重されなければなりません。

 次に、日本は、世界一生体移植に偏った国で、腎臓移植の八割以上、肝臓移植の九九%が生きている人からの提供です。その生体からの移植に何ら法的整備がなされていません。移植ツーリズムには、貧困国などで臓器を買う生体移植や組織移植も含まれていて、国際的に厳しく批判されています。

 WHOは、自国内で脳死移植をふやす努力、臓器、人体組織の売買禁止、医療機関やドナー、レシピエントの登録を行い移植の透明性と技術を高めることを求めており、これに対応する法整備でなければならず、まさにC案は、このような移植法をつくろうというものです。

 移植医療は、提供する人がいなければ成り立ちません。臓器の提供数をふやすには、国民合意と信頼性を高める努力が必要であり、これまでの臓器移植の手続に曇りがあってはなりません。しかし、残念ながら、厚生労働大臣のもとに設置されている検証委員会は、その透明性や公開性など、十分にこたえてはいません。また、臓器提供を云々する前に、患者、家族が納得できる救命医療体制が不可欠ですが、救急医療の現場は、がけっ縁です。

 C案は、脳死移植をふやす努力の妨げとなるものではありません。日本の臓器移植を、人間の尊厳と人権の保障の上に成り立たせ、前に進ませようとする案であり、もう一つの焦点である小児の移植については、小児脳死臨調を開き、幅広く合意を得ることが、回り道のようですが、近道であると考えます。

 C案への御賛同をお願いし、討論を終わらせていただきます。(拍手)

議長(河野洋平君) 野田佳彦君。

    〔野田佳彦君登壇〕

野田佳彦君 いろいろ悩んだあげく、登壇することとなりました野田佳彦です。

 私は、いわゆるA案、B案、C案、その問題点を指摘しつつ、D案に賛成の立場で討論いたします。(拍手)

 第百六十八国会以降、A案、B案、C案の各案が提出されました。それぞれ一長一短あり、どれを選択するか、大変悩ましい限りでした。

 それぞれ傾聴に値する御提案ですが、B案は、十二歳未満の脳死下での臓器提供を認めないことにより、実質的に、小児で臓器提供を求める多くの患者の救いにはなりません。

 また、C案は、よって立つ哲学は明確ですが、臓器提供の機会の促進には結びつきません。

 A案の主張は、ある意味で明快。WHO指針に準じる国際基準にすることで、臓器提供数の大幅な増加を目指し、現行十五歳以上の年齢制限も撤廃する内容です。私は、三案の中では、情緒的にはA案を支持する立場でした。しかしながら、A案が前提とする、脳死は人の死は、本当に社会的に受容されているのかどうか、私には戸惑いがあります。

 A案は、九二年に脳死臨調がおおむね合意が得られているとした答申と、各種世論調査で六割程度が容認していることをよりどころにしています。ただ、法制定後十二年がたち、脳死移植が八十一例の実施というのは余りにも少な過ぎます。法律の問題だけではなく、この事実は、社会的に受容されていないことの証拠ではないでしょうか。

 すなわち、脳死は人の死という考え方は、まだ、おおむねと言えるほど浸透していません。人の死という厳粛な事象を法律で定義すること自体も問題があるとの指摘もあり、今後の医学の進歩を踏まえた国民的議論の推移を見定める必要があると考えます。そして、脳死は人の死という欧米の考え方を安易にグローバルスタンダードとみなすのではなく、日本固有の文化的特質を踏まえた日本なりのアプローチを模索すべきではないでしょうか。

 A案は、この重要な概念をめぐり、委員会答弁で揺れました。

 A案は、その六条二項においては、現行法を改正し、脳死は一律に人の死としています。しかしながら、提出者は答弁で、法的脳死判定を拒否できると答弁し、最終的には、六条二項の削除について、修正するのはやぶさかではないとまで答弁されています。これでは医療現場が混乱します。

 A案に対する懸念の二点目は、本人意思が確認できない中で臓器提供が許されるのかという点です。

 本人の意思がなくても臓器提供が可能となれば、ドナーカードが不要となる可能性すらあります。ドナーカードを普及させ、国民的議論を深めながら啓発するという、本来あるべき臓器提供の原則から離れていく可能性もあります。

 そんな中で、これまでの議論を踏まえD案は提出されました。

 D案は、A案が提唱する十五歳未満にも臓器移植の道を開くこと、B案やC案が掲げる、脳死は臓器移植をする際に人の死とするという概念、本人意思に基づく臓器提供の原則を堅持し、第二次脳死臨調を含むさらなる国民的な議論を喚起していこうというものであります。多くの国民のコンセンサスと納得があってこそ脳死下での臓器提供という究極の医療行為は成り立つとD案は提唱しています。

 D案は、脳死を一律に人の死とするという国民的合意がいまだ十分に得られない中で、広く国民への啓発を行い、みずからの意思で脳死下での臓器提供をしてもよいと考える方と、その臓器をもって健康を取り戻せる方へとの、命のかけ橋を着実に進める法案であります。

 日本人の国民性、宗教観、死生観を考えるとき、一足飛びの臓器移植の推進は、かえって臓器移植への不透明感、不信感を高めることになるのではないかと懸念し、D案で定める三年後の見直し時期までのさらなる議論の推進を期待するものであります。

 論点、疑義の少ない部分から第一歩を踏み出し、改正すべきではないでしょうか。ただし、この改正で終わりではなく、早急に再び脳死臨調を設置し、広く国民世論を喚起しながら、何ができ、何ができないかを議論すべきであります。

 以上、私は、熟慮の末、万感の思いで、D案こそが妥当であると政治判断いたしました。議員各位の賢明なる御判断のもと、D案が成案となりますようお訴えし、D案に賛成する私の討論とさせていただきます。(拍手)

     ――――◇―――――

谷公一君 四案の議事はこの程度にとどめ、次回の本会議においてこれを継続されることを望みます。

議長(河野洋平君) 谷公一君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(河野洋平君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決まりました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後一時四十四分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣  麻生 太郎君

       厚生労働大臣  舛添 要一君


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