衆議院

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第4号 平成22年1月29日(金曜日)

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平成二十二年一月二十九日(金曜日)

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 議事日程 第三号

  平成二十二年一月二十九日

    午後一時開議

 一 国務大臣の演説

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本日の会議に付した案件

 鳩山内閣総理大臣の施政方針に関する演説

 岡田外務大臣の外交に関する演説

 菅財務大臣の財政に関する演説

 菅国務大臣の経済に関する演説


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    午後一時二分開議

議長(横路孝弘君) これより会議を開きます。

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 国務大臣の演説

議長(横路孝弘君) 内閣総理大臣から施政方針に関する演説、外務大臣から外交に関する演説、財務大臣から財政に関する演説、菅国務大臣から経済に関する演説のため、発言を求められております。順次これを許します。内閣総理大臣鳩山由紀夫君。

    〔内閣総理大臣鳩山由紀夫君登壇〕

内閣総理大臣(鳩山由紀夫君) 命を守りたい。命を守りたいと願うのです。

 生まれ来る命、そして、育ち行く命を守りたい。

 若い夫婦が経済的な負担を不安に思い、子供を持つことをあきらめてしまう、そんな社会を変えていきたい。未来を担う子供たちがみずからの無限の可能性を自由に追求していける、そんな社会を築いていかねばなりません。

 働く命を守りたい。

 雇用の確保は、緊急の課題です。しかし、それに加えて、職を失った方々やさまざまな理由で求職活動を続けている方々が、人との接点を失わず、共同体の一員として活動していける社会をつくっていきたい。経済活動はもとより、文化、スポーツ、ボランティア活動などを通じて、すべての人が社会との接点を持っている、そんな居場所と出番のある、新しい共同体のあり方を考えていきたいと願います。

 いついかなるときでも、人間を孤立させてはなりません。

 ひとり暮らしのお年寄りがだれにもみとられず孤独な死を迎える、そんな事件をなくしていかなければなりません。だれもが地域で孤立することなく暮らしていける社会をつくっていかなければなりません。

 世界の命を守りたい。

 これから生まれ来る子供たちが成人になったとき、核の脅威が歴史の教科書の中で過去の教訓と化している、そんな未来をつくりたいと願います。

 世界じゅうの子供たちが飢餓や感染症、紛争や地雷によって命を奪われることのない社会をつくっていこうではありませんか。だれもが、衛生的な水を飲むことができ、差別や偏見とは無縁に、人権が守られ、基礎的な教育が受けられる、そんな暮らしを、国際社会の責任として、すべての子供たちに保障していかなければなりません。

 今回のハイチ地震のような被害の拡大を国際的な協力で最小限に食いとめ、新たな感染症の大流行を可能な限り抑え込むため、命を守るネットワークを、アジア、そして世界全体に張りめぐらせていきたいと思います。

 地球の命を守りたい。

 この宇宙が生成して百三十七億年、地球が誕生して四十六億年。その長い時間軸から見れば、人類が生まれ、そして文明生活を送れるようになった、いわゆる人間圏ができたこの一万年は、ごく短い時間にすぎません。

 しかし、この短時間の中で、私たちは、地球の時間を驚くべき速度で早送りして、資源を浪費し、地球環境を大きく破壊し、生態系にかつてない激変を加えています。約三千万とも言われる地球上の生物種のうち、現在、年間約四万の種が絶滅していると推測されています。現代の産業活動や生活スタイルは、豊かさをもたらす一方で、確実に、人類が現在のような文明生活を送ることができる残り時間を短くしていることに、私たち自身が気づかなければなりません。

 私たちの英知を総動員して、地球というシステムと調和した人間圏はいかにあるべきか、具体策を講じていくことが必要です。少しでも地球の残り時間の減少を緩やかにするよう、社会を挙げて取り組むこと、それが、今を生きる私たちの未来への責任であります。本年、我が国は生物多様性条約締約国会議の議長国を務めます。かけがえのない地球を子供や孫たちの世代に引き継ぐために、国境を越えて力を合わせなければなりません。

 私は、このような思いから、平成二十二年度予算を「いのちを守る予算」と名づけ、これを日本の新しいあり方への第一歩として、国会議員の皆さん、そして、すべての国民の皆様へ提示し、活発な御議論をいただきたいと願っています。(拍手)

 私は、昨年末、インドを訪問した際、希望して、尊敬するマハトマ・ガンジー師の慰霊碑に献花させていただきました。

 慰霊碑には、ガンジー師が八十数年前に記した七つの社会的大罪が刻まれています。理念なき政治、労働なき富、良心なき快楽、人格なき教育、道徳なき商業、人間性なき科学、そして、犠牲なき宗教です。まさに、今の日本と世界が抱える諸問題を鋭く言い当てているのではないでしょうか。

 二十世紀の物質的な豊かさを支えてきた経済が、本当の意味で、人間を豊かにし、幸せをもたらしてきたのか。資本主義社会を維持しつつ、行き過ぎた道徳なき商業、労働なき富をどのように制御していくべきなのか。人間が人間らしく幸福に生きていくために、どのような経済が、政治が、社会が、教育が望ましいのか。今、その理念が、哲学が問われています。

 さらに、日本は、アジアの中で、世界の中で、国際社会の一員として、どのような国として歩んでいくべきなのか。

 政権交代を果たし、民主党、社会民主党、国民新党による連立内閣として初めての予算を提出するこの国会であるからこそ、あえて私の政治理念を国会議員の皆様と国民の皆様に提起することからこの演説を始めたいと、ガンジー廟を前に私は決意いたしました。

 経済のグローバル化や情報通信の高度化とともに、私たちの生活は日々便利になり、物質的には驚くほど豊かになりました。一方、一昨年の金融危機で直面したように、私たちがみずからつくり出した経済システムを制御できない事態が発生しています。経済のしもべとして人間が存在するのではなく、人間の幸福を実現するための経済をつくり上げるのがこの内閣の使命です。

 かつて、日本の企業風土には、社会への貢献を重視する伝統が色濃くありました。働く人々、得意先や取引先、地域との長期的な信頼関係に支えられ、百年以上の歴史を誇る長寿企業が約二万社を数えるのは、日本の企業が社会の中の共同体として確固たる地位を占めてきたことのあかしであります。

 今こそ、国際競争を生き抜きつつも社会的存在として地域社会にも貢献する、日本型企業モデルを提案していかなければなりません。ガンジー師の言葉をかりれば、商業の道徳をはぐくみ、労働を伴う富を取り戻すための挑戦であります。

 人の幸福や地域の豊かさは、企業による社会的な貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。

 今、市民やNPOが、教育や子育て、まちづくり、介護や福祉など、身近な課題を解決するために活躍しています。昨年の所信表明演説で御紹介したチョーク工場の事例が多くの方々の共感を呼んだように、人を支えること、人の役に立つことは、それ自体が喜びとなり、生きがいともなります。

 こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生するとともに、肥大化した官をスリムにすることにつなげていきたいと考えています。

 一昨日、「新しい公共」円卓会議の初会合を開催しました。この会合を通じて、「新しい公共」の考え方をより多くの方と共有するための対話を深めます。こうした活動を担う組織のあり方や、活動を支援するための寄附税制の拡充を含め、これまで官が独占してきた領域を公に開き、「新しい公共」の担い手を拡大する社会制度のあり方について、五月を目途に具体的な提案をまとめてまいります。

 「新しい公共」によって、いかなる国をつくろうとしているのか。

 私は、日本を世界に誇る文化の国にしていきたいと考えます。ここで言う文化とは、狭く芸術その他の文化活動だけを指すのではなく、国民の生活・行動様式や経済のあり方、さらには価値観を含む概念です。

 厳しい環境・エネルギー・食料制約、人類史上例のない少子高齢化などの問題に直面する中で、さまざまな文化の架け橋として、また唯一の被爆国として、さらには伝統文化と現代文明の融和を最も進めている国の一つとして、日本は、世界に対して、この困難な課題が山積する時代に適合した独自の生活・行動様式や経済制度を提示していくべきだと考えます。

 多くの国の人々が、一度でよいから日本を訪ねたい、できることなら暮らしたいとあこがれる、愛される、輝きのある国となること。異なる文化を理解し、尊重することを大切にしながら、国際社会から信頼され、国民が日本に生まれたことに誇りを感ずるような文化をはぐくんでいきたいのです。

 新しい未来を切り開くとき、基本となるのは、人を育てる教育であり、人間の可能性を創造する科学です。

 文化の国、人間のための経済にとって必要なのは、単に数字で評価される人格なき教育や、結果的に人類の生存を脅かすような人間性なき科学ではありません。一人一人が地域という共同体、日本という国家、地球という生命体の一員として、より大きなものに貢献する、そんな人格を養う教育を目指すべきなのであります。

 科学もまた、人間の英知を結集し、人類の生存にかかわる深刻な問題の解決や、人間のための経済に大きく貢献する、そんな人間性ある科学でなければなりません。疾病、環境・エネルギー、食料、水といった分野では、かつての産業革命にも匹敵する、しかし全く位相の異なる革新的な技術が必要です。その母となるのが科学です。

 こうした教育や科学の役割をしっかりと見据え、真の教育者、科学者をさらにふやし、また、社会全体として教育と科学に大きな資源を振り向けてまいります。それこそが、私が申し上げ続けてきた「コンクリートから人へ」という言葉の意味するところであります。(拍手)

 私は、来年度予算を「いのちを守る予算」に転換しました。公共事業予算を一八・三%削減すると同時に、社会保障費は九・八%増、文教科学費は五・二%増と大きくめり張りをつけた予算編成ができたことは、国民の皆様が選択された政権交代の成果であります。

 所得制限を設けず、月額一万三千円の子ども手当を創設します。子育てを社会全体で応援するための大きな第一歩です。

 また、すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めてまいります。

 さらに、子ども・子育てビジョンに基づき、新たな目標のもと、待機児童の解消や幼保一体化による保育サービスの充実、放課後児童対策の拡充など、子供の成長を担う御家族の負担を社会全体で分かち合う環境づくりに取り組みます。

 社会保障費の抑制や地域の医療現場の軽視によって、国民医療は崩壊寸前です。

 これを立て直し、健康な暮らしを支える医療へと再生するため、医師養成数をふやし、診療報酬を十年ぶりにプラス改定します。乳幼児からお年寄りまで、だれもが安心して医療を受けられるよう、その配分も大胆に見直し、救急、産科、小児科などの充実を図ります。患者の皆さんの御負担が重い肝炎治療については、助成対象を拡大し、自己負担限度額を引き下げます。健康寿命を延ばすとの観点から、統合医療の積極的な推進について検討を進めます。

 お年寄りが、御自身の歩まれた人生を振り返りながら、安らぎの時間を過ごせる環境を整備することも重要です。年金をより確かなものにするため、来年度から二年間を集中対応期間として、紙台帳とコンピューター記録との突き合わせを開始するなど、年金記録問題に国家プロジェクトとして取り組んでまいります。

 働く人々の命を守り、人間を孤立させないために、まずは雇用を守ることが大事です。

 雇用調整助成金の支給要件を大幅に緩和し、雇用の維持に努力している企業への支援を強化しました。また、非正規雇用の方々のセーフティーネットを強化するため、雇用保険の対象を抜本的に拡充します。

 労働をコストや効率で、あるいは生産過程の歯車としかとらえず、日本の高い技術力の伝承をも損ないかねない派遣労働を抜本的に見直し、いわゆる登録型派遣や製造業への派遣を原則禁止します。

 さらに、働く意欲のある方々が新規産業にも生かせる新たな技術や能力を身につけることを応援するため、生活費支援を含む恒久的な求職者支援制度を平成二十三年度に創設すべく準備を進めてまいります。

 若者、女性、高齢者、チャレンジドの方々など、すべての人が、孤立することなく、能力を生かし、生きがいや誇りを持って社会に参加できる環境を整えるため、就業の実態を丁寧に把握し、妨げとなっている制度や慣行の是正に取り組みます。

 社会のあらゆる面で男女共同参画を推進し、チャレンジドの方々が共同体の一員として生き生きと暮らせるよう、障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准に向けて改革の基本方針を策定します。

 また、命を守る社会の基盤として、自殺対策を強化するとともに、消防と医療の連携などにより、救急救命体制を充実させます。住民の皆様と一緒に犯罪が起こりにくい社会をつくり、犯罪捜査の高度化にも取り組んでいきます。

 ピンチをチャンスととらえるということがよく言われます。では、私たちが今直面している危機の本質は何であり、それをどう変革していけばよいのでしょうか。

 昨年末、私たちは、新たな成長戦略の基本方針を策定いたしました。

 鳩山内閣における成長は、従来型の規摸の成長だけを意味しません。人間は、成人して体の成長がとまっても、さまざまな苦難や逆境を乗り越えながら人格的に成長を遂げていきます。私たちが目指す新たな成長も、日本経済の質的脱皮による、人間のための、命のための成長でなければなりません。この成長を誘発する原動力が、環境・エネルギー分野と医療・介護・健康分野における危機なのであります。

 私は、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、二〇二〇年に温室効果ガスを一九九〇年比で二五%削減するとの目標を掲げました。大胆過ぎる目標だという御指摘もあります。しかし、この変革こそが、必ずや日本の経済の体質を変え、新しい需要を生み出すチャンスとなるのであります。

 日本の誇る世界最高水準の環境技術を最大限に活用したグリーンイノベーションを推進します。地球温暖化対策基本法を策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入を加速するとともに、チャレンジ25によって、低炭素型社会の実現に向けたあらゆる政策を総動員します。

 医療・介護・健康産業の質的充実は、命を守る社会をつくる一方、新たな雇用も創造します。医療・介護技術の研究開発や事業創造をライフイノベーションとして促進し、利用者が求める多様なサービスを提供するなど、健康長寿社会の実現に貢献します。

 今後の世界経済における我が国の活動の場として、さらに切り開いていくべきフロンティアはアジアです。環境問題、都市化、少子高齢化など、日本と共通の深刻な課題を抱えるアジア諸国と、日本の知識や経験を共有し、ともに成長することを目指します。

 アジアを単なる製品の輸出先ととらえるのではありません。環境を守り、安全を担保しつつ、高度な技術やサービスをパッケージにした新たなシステム、例えば、スマートグリッドや大量輸送、高度情報通信システムを共有し、地域全体で繁栄を分かち合います。それが、この地域に新たな需要を創出し、自律的な経済成長に貢献するのであります。

 アジアの方々を中心に、もっと多くの外国人の皆さんに日本を訪問していただくことは、経済成長のみならず、幅広い文化交流や友好関係の土台を築くためにも重要です。日本の魅力を磨き上げ、訪日外国人を二〇二〇年までに二千五百万人、さらに三千万人までふやすことを目標に、総合的な観光政策を推進します。

 アジア、さらには世界との交流の拠点となる空港、港湾、道路など、真に必要なインフラ整備については、厳しい財政事情を踏まえ、民間の知恵と資金も活用し、戦略的に進めてまいります。

 もう一つの成長の新たな地平は、国内それぞれの地域です。

 その潜在力にもかかわらず、長年にわたる地域の切り捨て、さらに、最近の不況の直撃にさらされた地域経済の疲弊は極限に達しています。まずは景気対策に万全を期し、今後の経済の変化にも臨機応変に対応できるよう、十一年ぶりに地方交付税を一・一兆円増と大幅に増加するほか、地域経済の活性化や雇用機会の創出などを目的とした二兆円規模の景気対策枠を新たに設けます。

 その上で、地域における成長のフロンティア拡大に向けた支援を行います。

 我が国の農林水産業を、生産から加工、流通まで一体的にとらえ、新たな価値を創出する六次産業化を進めることにより再生いたします。

 農家の方々、新たに農業に参入する方々には、戸別所得補償制度を一つの飛躍のばねとして、農業の再生に果敢に挑戦していただきたい。世界に冠たる日本の食文化と高度な農林水産技術を組み合わせ、森林や農山漁村の魅力を生かした新たな観光資源、産業資源をつくり出すのです。政府として、それをしっかりと応援しながら、食料自給率のまずは五〇%までの引き上げを目指します。

 地域経済を支える中小企業は、日本経済の活力の源です。その資金繰り対策に万全を期するほか、中小企業憲章を策定し、意欲ある中小企業が日本経済の成長を支える展望を切り開いてまいります。

 さらに、地域間の活発な交流に向け、高速道路の無料化については、来年度から社会実験を実施し、その影響を確認しながら段階的に進めてまいります。

 地域の住民の生活を支える郵便局の基本的なサービスが地域を問わず一体的に利用できるよう、ユニバーサルサービスを法的に担保するとともに、現在の持ち株会社・四分社化体制の経営形態を再編するなど、郵政事業の抜本的な見直しを行ってまいります。

 地域のことは、その地域に住む住民が責任を持って決める。この地域主権の実現は、単なる制度の改革ではありません。

 今日の中央集権的な体質は、明治の富国強兵の国是のもとに導入され、戦時体制の中で盤石に強化され、戦後の復興と高度成長期において因習化されたものであります。地域主権の実現は、この中央政府と関連公的法人のピラミッド体系を自律的でフラットな地域主権型の構造に変革する、国の形の一大改革であり、鳩山内閣の改革の一丁目一番地であります。

 今後、地域主権戦略の工程表に従い、政治主導で、集中的かつ迅速に改革を進めてまいります。

 その第一弾として、地方に対する不必要な義務づけや枠づけを地方分権改革推進計画に沿って一切廃止するとともに、道路や河川等の維持管理費に係る直轄事業負担金制度を廃止いたします。

 また、国と地方の関係を、上下関係ではなく対等なものとするため、国と地方との協議の場を新たな法律によって設置いたします。地域主権を支える財源についても、今後、ひもつき補助金の一括交付金化、出先機関の抜本的な改革などを含めた地域主権戦略大綱を策定します。

 あわせて、緑の分権改革を推進するとともに、情報通信技術の徹底的な利活用による、コンクリートの道から光の道への発想転換を図り、新たな時代にふさわしい地域の絆の再生や成長の基盤づくりに取り組んでまいります。

 本年を地域主権革命元年とすべく、内閣の総力を挙げて改革を断行してまいります。(拍手)

 当面の経済財政運営の最大の課題は、日本経済を確かな回復軌道に乗せることであります。

 決して景気の二番底には陥らせないとの決意のもと、このたび成立した、事業規模では約二十四兆円となる第二次補正予算とともに、当初予算としては過去最大規模となる平成二十二年度予算を編成いたしました。この二つの予算により、切れ目ない景気対策を実行するとともに、特にデフレの克服に向け、日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済対策を進めてまいります。

 財政の規律も、政治が果たすべき重要な課題であります。

 今回の予算においては、目標としていた新規国債発行額約四十四兆円以下という水準をおおむね達成することができました。政権政策を実行するために必要な約三兆円の財源も、事業仕分けを反映した既存予算の削減や公益法人の基金返納などにより捻出できました。

 さらに、将来を見据え、本年前半には、複数年度を視野に入れた中期財政フレームを策定するとともに、中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化に向けた、長く大きな道筋をお示しいたします。

 以上のような政策を実行するのが、政治であり、行政です。

 政府が旧態依然たる分配型の政治を行う限り、ガンジー師の言う理念なき政治のままです。新たな国づくりに向け、責任ある政治を実践していかなければなりません。

 事業仕分けや子育て支援のあり方については、御家庭や職場でも大きな話題になり、さまざまな議論がなされたことだと思います。

 私たちは、これまで財務省主計局の一室で官僚たちの手によって行われてきた予算編成過程の議論を、民間の第一線の専門家の参加を得て、事業仕分けという公開の場で行いました。上から目線の発想で、つい身内をかばいがちだった従来型の予算編成を、国民の主体的参加と監視のもとで抜本的に変更できたのも、ひとえに政権交代のたまものであります。

 戦後行政の大掃除は、しかし、まだ始まったばかりです。

 今後も、さまざまな規制や制度のあり方を抜本的に見直し、独立行政法人や公益法人が本当に必要なのか、中抜きの構造で無駄遣いの温床となっていないか、監視が行き届かないまま垂れ流されてきた特別会計の整理統合も含め、事業仕分け第二弾を実施いたします。これらすべてを、聖域なく、国民視線で検証し、一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替えてまいります。行政刷新会議は法定化し、より強固な権限と組織によって改革を断行していきます。

 同時に、行政組織や国家公務員のあり方を見直し、その意識を変えていくことも不可欠です。

 省庁の縦割りを排し、国家的な視点から予算や税制の骨格などを編成する国家戦略局を設置するほか、幹部人事の内閣一元管理を実現するために内閣人事局を設置し、官邸主導で適材適所の人材を登用します。

 こうした改革を断行するため、政府と与党が密接な連携と役割分担のもと、政府部内における国会議員の占める職を充実強化するための関連法案を今国会に提案いたします。

 さらに、今後、国民の視点に立って、いかなる府省編成が望ましいのか、その設置のあり方も含め、本年夏以降、私自身が主導して、抜本的な見直しに着手します。

 税金の無駄遣いの最大の要因である天下りあっせんを根絶することはもちろん、裏下りとやゆされる事実上の天下りあっせん慣行にも監視の目を光らせて、国民の疑念を解消します。同時に、国家公務員の労働基本権のあり方や、定年まで勤務できる環境の整備、給与体系を含めた人件費の見直しなど、新たな国家公務員制度改革にも速やかに着手します。

 こうした改革を行う上で、まず国会議員がみずから範を垂れる必要があります。国会における議員定数や歳費のあり方について、会派を超えて積極的な見直しの議論が行われることを強く期待いたします。

 政治資金の問題については、私自身の問題に関しまして、国民の皆様に多大の御迷惑と御心配をおかけいたしましたことを改めておわび申し上げます。御批判を真摯に受けとめ、今後、政治資金のあり方が、国民の皆様から見て、より透明で信頼できるものとなるよう、企業・団体献金の扱いを含め、開かれた議論を行ってまいります。

 日本は、四方を豊かな実りの海に囲まれた海洋国家です。

 古来より、日本は、大陸や朝鮮半島からこの海を渡った人々を通じて多様な文化や技術を吸収し、独自の文化と融合させて豊かな文化をはぐくんできました。漢字と仮名、公家と武家、神道と仏教、あるいは江戸と上方、東国の金貨制と西国の銀貨制というように、複合的な伝統と慣習、経済社会制度を併存させてきたことは日本の文化の一つの特徴です。近現代の日本も、和魂洋才という言葉のとおり、東洋と西洋の文化を融合させ、欧米先進諸国へのキャッチアップを実現してきました。

 こうした文化の共存と融合こそが新たな価値を生み出す源であり、それを可能にする柔軟性こそが日本の強さであります。自然環境との共生の思想や、木石にも魂が宿るといった伝統的な価値観は大切にしつつも、新たな文化交流、その根幹となる人的交流に積極的に取り組み、架け橋としての日本、新しい価値や文化を生み出し、世界に発信する日本を目指していこうではありませんか。(拍手)

 昨年の所信表明演説で、私は、東アジア共同体構想を提唱いたしました。アジアにおいて、数千年にわたる文化交流の歴史を発展させ、命を守るための協力を深化させる、命と文化の共同体を築き上げたい、そのような思いで提案したものです。

 この構想の実現のためには、さまざまな分野で国と国との信頼関係を積み重ねていくことが必要です。断じて、一部の国だけが集まった排他的な共同体や他の地域と対抗するための経済圏にしてはなりません。

 その意味で、揺るぎない日米同盟は、その重要性に変わりがないどころか、東アジア共同体の形成の前提条件として欠くことができないものであります。北米や欧州との、そして域内の自由な貿易を拡大して急速な発展を遂げてきたのが東アジア地域です。多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益であることを確認しつつ、地域の経済協力を進める必要があります。初代常任議長を選出し、ますます統合を深化させる欧州連合とは、開かれた共同体のあり方をともに追求していきたいと思います。

 東アジア共同体の実現に向けての具体策として特に強調したいのは、命を守るための協力、そして文化面での交流の強化です。

 地震、台風、津波などの自然災害は、アジアの人々が直面している最大の脅威の一つです。過去の教訓を正しく伝え、次の災害に備える防災文化を日本は培ってきました。これをアジア全体に普及させるため、日本の経験や知識を活用した人材育成に力を入れてまいります。

 感染症や疾病から命を守るためには、機敏な対応と協力がかぎとなります。新型インフルエンザを初めとするさまざまな情報を各国が共有し、協力しながら対応できる体制を構築していきます。

 また、人道支援のため米国が中心となって実施しているパシフィック・パートナーシップに、ことしから海上自衛隊の輸送艦を派遣し、太平洋・東南アジア地域における医療支援や人材交流に貢献してまいります。

 昨年の十二月、私はインドネシアとインドを訪問いたしました。

 いずれの国でも、国民間での文化交流事業を活性化させ、特に次世代を担う若者が国境を越えて教育、文化、ボランティアなどの面で交流を深めることに極めて大きな期待がありました。この期待にこたえるために、今後五年間で、アジア各国を中心に十万人を超える青少年を日本に招くなど、アジアにおける人的交流を大幅に拡充するとともに、域内の各国言語・文化の専門家を相互に飛躍的に増加させることにより、東アジア共同体の中核を担える人材を育成してまいります。

 APECの枠組みも、ことしの議長として、充実強化に努めてまいります。経済発展を基盤として、文化、社会の面でもお互いを尊重できる関係を築いていくため、新たな成長戦略の策定に向けて積極的な議論を導きます。

 ことし、日米安保条約の改定から五十年の節目を迎えました。この間、世界は、冷戦による東西の対立とその終えん、テロや地域紛争といった新たな脅威の顕在化など、大きく変化しました。激動の半世紀にあって、日米安全保障体制は、質的には変化を遂げつつも、我が国の国防のみならず、アジア、そして世界の平和と繁栄にとって欠くことのできない存在でありました。今後もその重要性が変わることはありません。

 私とオバマ大統領は、日米安保条約改定五十周年を機に、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させることを表明いたしました。今後、これまでの日米同盟の成果や課題を率直に語り合うとともに、幅広い協力を進め、重層的な同盟関係へと深化、発展させていきたいと思います。

 我が国が提出し、昨年十二月の国連総会において採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」には、米国が初めて共同提案国として名を連ねました。本年は、核セキュリティー・サミットや核拡散防止条約運用検討会議が相次いで開催されます。核のない世界の実現に向け、日米が協調して取り組む意義は極めて大きいと考えます。

 普天間基地移設問題については、米国との同盟関係を基軸として、我が国、そしてアジアの平和を確保しながら、沖縄に暮らす方々の長年にわたる大変な御負担を少しでも軽くしていくためにどのような解決策が最善か、沖縄基地問題検討委員会で精力的に議論し、政府として本年五月末までに具体的な移設先を決定することといたします。

 気候変動の問題については、地球環境問題とエネルギー安全保障とを一体的に解決するための技術協力や共同実証実験、研究者交流を日米で行うことを合意しています。活動の成果は、当然、世界に及びます。この分野の同盟を、そして日米同盟全体を、両国のみならず、アジア太平洋地域、さらには世界の平和と繁栄に資するものとして、さらに発展させてまいります。

 アジア太平洋地域における信頼関係の輪を広げるため、日中間の戦略的互恵関係をより充実させてまいります。

 日韓関係の世紀をまたいだ大きな節目のことし、過去の負の歴史に目を背けることなく、これからの百年を見据え、真に未来志向の友好関係を強化してまいります。

 ロシアとは、北方領土問題を解決すべく取り組むとともに、アジア太平洋地域におけるパートナーとして協力を強化します。

 北朝鮮の拉致、核、ミサイルといった諸問題を包括的に解決した上で、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を実現する、これは、アジア太平洋地域の平和と安定のためにも重要な課題です。具体的な行動を北朝鮮から引き出すべく、六者会合を初め関係国と一層緊密に連携してまいります。拉致問題については、新たに設置した拉致問題対策本部のもと、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、政府の総力を挙げて最大限の努力を尽くしてまいります。(拍手)

 アフリカを初めとする発展途上国で飢餓や貧困にあえぐ人々、イラクやアフガニスタンで故郷に戻れない生活を余儀なくされる難民の人々、国際的テロで犠牲になった人々、自然災害で住む家を失った人々、こうした人々の命を救うために、日本に何ができるのか、そして何が求められているのか。

 今回のハイチ地震の惨禍に対し、我が国は、国連ハイチ安定化ミッションへの自衛隊の派遣と約七千万ドルに上る緊急・復興支援を表明しました。国際社会の声なき声にも耳を澄まし、国連を初めとする国際機関や主要国と密接に連携し、困難の克服と復興を支援してまいります。

 命を守りたい。私の友愛政治の中核をなす理念として、政権を担ってから片時も忘れることなき思い、ますます強くしている決意です。

 今月十七日、私は、阪神・淡路大震災の追悼式典に参列いたしました。十五年前の同じ日にこの地域を襲った地震は、とうとい命、平穏な暮らし、美しい町並みを一瞬のうちに奪いました。

 式典で、十六歳の息子さんを亡くされたお父様のお話を伺いました。

  地震で家が倒壊し、二階に寝ていた息子が瓦れきの下敷きになった。積み重なった瓦れきの下から、息子の足だけが見えていて、助けてくれというように、ベッドの横板をトントントンとたたく音がする。何度も何度も助け出そうと両足を引っ張るが、瓦れきの重さに動かせない。やがて、三十分ほどすると、音が聞こえなくなり、次第に足も冷たくなっていく我が子をどうすることもできなかった。「ごめんな。助けてやれなかったな。痛かったやろ、苦しかったやろな。ほんまにごめんな。」これが現実なのか、夢なのか、時間がとまりました。体じゅうの涙を全部流すかのように、毎日涙し、どこにも持っていきようのない怒りに、まるで胃液が体を溶かしていくかのような、苦しい毎日が続きました。

 息子さんが目の前で息絶えていくのを、ただ見ていることしかできない無念や悲しみ。人の親なら、いや、人間なら、だれでもわかります。災害列島と言われる日本の安全を確保する責任を負う者として、防災、そして少しでも被害を減らしていく減災に万全を期さなければならないと改めて痛感いたしました。

 今、神戸の町には、あの悲しみ、苦しみを懸命に乗り越えて取り戻した活気があふれています。

 大惨事を克服するための活動は、地震の直後から始められました。警察、消防、自衛隊による救助救援活動に加え、家族や隣人と励まし合い、困難な避難生活を送りながら復興に取り組む住民の姿がありました。全国から多くのボランティアがリュックサックを背負って駆けつけました。復旧に向けた機材や義援金が寄せられました。慈善のための文化活動が人々を勇気づけました。混乱した状況にあっても、略奪行為といったものはほとんどなかったと伺います。みんなで力を合わせ、人のため、社会のために努力したのです。

 あの十五年前の不幸な震災が、しかし、日本の「新しい公共」の出発点だったのかもしれません。

 今、災害の中心地であった長田の町の一画では、地域のNPO法人の尽力で建てられた鉄人28号のモニュメントがその雄姿を見せ、観光名所、集客の拠点にさえなっています。

 命を守るための「新しい公共」は、この国だからこそ世界に向けて誇りを持って発信できる、私はそう確信しています。

 人の命を守る政治、この理念を実行に移すときです。子供たちに幸福な社会を、未来にかけがえのない地球を引き継いでいかなければなりません。

 国民の皆様、議員の皆様、輝く日本を取り戻すため、ともに努力していきましょう。

 この平成二十二年を、日本の再出発の年にしていこうではありませんか。(拍手)

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議長(横路孝弘君) 外務大臣岡田克也君。

    〔国務大臣岡田克也君登壇〕

国務大臣(岡田克也君) 第百七十四回国会の開会に当たり、外交の基本方針について所信を申し述べます。

 まず冒頭、さきにハイチで発生した地震において犠牲となった方々に心から哀悼の意を表するとともに、被災者の方々にお見舞いを申し上げます。

 我が国としては、これまで国際緊急援助隊による医療活動などの緊急支援を行っているほか、総額約七千万ドルに及ぶ緊急・復興支援や、国連平和維持活動(PKO)への参加意思も表明したところです。今後とも、震災国としての経験と技術を生かし、ハイチの復旧復興に積極的に貢献してまいります。

 国際社会は、米国のオバマ大統領の登場を一つのきっかけに、新たな協調の時代を迎えています。日本の平和と豊かさは、世界の平和と繁栄、そして、それを実現するための国際協調の中でこそ実現が可能です。

 現実の国際社会の中で、私たちはさまざまな課題に直面しています。その解決に向けて、私たちは、内向きになることなく、常に視野を世界に広げ、なすべきことをなし、みずから率先して国を開いていくことが必要です。日本が積極的に行動し、構想を示すこと、それによって世界の期待にこたえることが求められています。

 昨年九月、私は、外務大臣に就任するに当たり、政権交代という変化を大きな機会ととらえ、国民の理解と信頼に基づく外交を実現していきたいと強調しました。このため、私は、一つ一つの外交案件への対応に当たり、第一に現場を知ること、第二に常に原点に立ち返り検討すること、第三にわかりやすい言葉で国民の皆さんに伝えることという三つの原則を特に重んじてきました。

 私は、さきの総選挙を戦い、日本全国を回る中で、新しい政治に対する国民の皆さんの強い期待を実感しました。今後とも、全力で新しい外交に取り組む決意です。(拍手)

 以上申し上げた上で、本年、日本外交が取り組むべき課題として、第一に各国・地域との関係の強化、そして、第二に地球規模の課題への取り組み、それぞれに対する基本的な考え方について、国民の皆さんに御説明します。

 日米同盟は、日本外交の基軸であり、日本自身の安全の基礎であり、アジア太平洋地域の公共財として、その平和と繁栄に大きく寄与しています。本年は、現行日米安保条約締結五十周年に当たります。私は、今月十二日にハワイで行ったクリントン国務長官との会談で、同盟関係をさらに深化させていくための協議プロセスを開始することで合意しました。今後三十年から五十年先を見据えて、日米同盟が日本の安全、そして、アジア太平洋と地球規模の平和と繁栄のために果たす役割を日米両国で再確認する一年にしたいと思います。その際、在日米軍が日本の安全を確保する抑止力として重要な役割を果たしているということについて、国民の皆さんに率直に語り、その理解を深めてまいりたいと思います。

 普天間飛行場の移設については、日米合意の重みを十分認識した上で、米軍基地が果たしている役割、沖縄の負担軽減などの諸点を十分に勘案し、五月末までに政府として具体的な移転先を決定します。その上で、日米地位協定や在日米軍駐留経費負担の問題についても取り組んでいきます。

 さきのクリントン国務長官との会談では、北朝鮮、ミャンマーといったアジア太平洋地域情勢のほか、アフガニスタン、イラン、核軍縮・不拡散といったグローバルな課題についても両国の協力を話し合いました。今後とも、このような幅広い問題について連携し、日米同盟を深化してまいります。

 アジア太平洋地域における外交を積極的に推進し、この地域と一体で、ともに成長し繁栄していくことを目指します。日本が有する資金、技術、知恵を活用し、世界の成長センターであるアジアの発展を促し、その活力と需要を日本の成長につなげてまいります。

 基本的価値を共有する隣国である韓国とは、歴史を直視した上で、成熟したパートナーとしての未来志向の関係を強化してまいります。また、日韓経済連携協定(EPA)交渉の早期再開を目指します。

 中国とは、戦略的互恵関係の内容を充実、具体化させるとともに、東シナ海における資源開発や食の安全など両国間の懸案に取り組みます。国際的な地位を高める中国が、地域と国際社会において、より一層の透明性を持って責任ある役割を果たすことを期待します。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との間では、統合に向けた域内の連携強化や格差是正を積極的に支援すると同時に、ASEAN議長国であるベトナムや、民主主義の普及など国際的な課題に積極的に取り組んでいるインドネシアなどとの二国間関係を強化してまいります。特にメコン地域とは、昨年十一月の首脳会議の成果を着実にフォローアップし、協力関係を深化させてまいります。ミャンマーにおいて開かれた公正な選挙が実現され、民主化プロセスが進むように、同国との対話を強化してまいります。

 オーストラリアは、アジア太平洋地域の戦略的パートナーであり、安全保障や経済関係を初めとするさまざまな分野における関係を深化させてまいります。

 インドとは、昨年末の鳩山総理の訪問の成果も踏まえ、安全保障や経済を初め幅広い分野で連携し、両国間の戦略的グローバルパートナーシップを発展させてまいります。

 私たちの政権は、東アジア共同体構想という長期的なビジョンを掲げています。具体的には、貿易・投資、金融、環境、エネルギー、開発、災害救助、教育、人の交流、感染症などの分野で、開放的で透明性の高い地域協力を推進してまいります。

 本年、日本はアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長を務めます。来年の議長である米国とも緊密に連携し、アジア太平洋地域のさらなる繁栄に向け、新しい時代にふさわしいAPECを構想してまいります。

 ロシアとの関係では、昨年末の私のロシア訪問も踏まえ、政治と経済を車の両輪のように前進させつつ、北方領土問題を最終的に解決して平和条約を締結するため、精力的に取り組みます。アジア太平洋地域におけるパートナーとして、新しい日ロ関係を構築してまいりたいと考えます。

 北朝鮮については、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、日朝平壌宣言に基づき、不幸な過去を清算して、国交正常化を図る方針です。六者会合の早期再開と北朝鮮の核放棄に向けて関係国と緊密に連携しつつ、同時に国連安全保障理事会決議に基づく措置や日本独自の措置を着実に実施してまいります。日本が主導して採択された国連安保理決議第一八七四号において求められている貨物検査を的確に実施できるよう、政府として関連法案の早期成立を期します。

 基本的価値を共有する欧州は、グローバルな課題への対応や、政治、経済いずれにおいても、日本にとって重要なパートナーです。統合を深める欧州連合(EU)や欧州各国との連携を深めるべく、外相間でも緊密に連携してまいります。

 経済成長を背景に中南米で発言力を増すブラジルやメキシコ、中東や中央アジアと歴史的、地理的関係の深いトルコなど、新興経済国との連携を強化します。

 アフガニスタンとパキスタンの安定は、国際社会全体にとって最重要課題の一つであり、私もみずから現地を訪問するなど、力を入れて取り組んでまいりました。アフガニスタンについては、今後とも国際社会と連携しつつ、アフガニスタン自身の治安能力の向上、元タリバン兵士の再統合、同国の持続的、自立的発展のための支援を柱として、おおむね五年間で最大約五十億ドル程度までの規模の支援を行います。同時に、カルザイ大統領の新政権に対し、ガバナンスの向上及び汚職対策を強く求めてまいります。パキスタンについては、昨年の支援国会合で約束した最大十億ドルの支援を迅速に実施してまいります。

 イランについては、主要関係国と緊密に連携し、同国の原子力開発が平和目的に限定されるよう、核問題の外交的解決に努力してまいります。中東和平については、包括的和平が早期に実現するよう、和平交渉のための国際的努力を支持し、パレスチナ支援を含めて取り組んでまいります。

 世界経済危機や気候変動は、アフリカの人々に大きな影響をもたらしています。貧困やエイズ、結核、マラリアなどに苦しむアフリカの人々への支援は重要です。第四回アフリカ開発会議(TICAD4)の公約であるアフリカ向けODA倍増の実現に向け、必要な事業を着実に進め、アフリカの開発と成長を後押しすると同時に、貿易・投資の分野での協力を広げてまいります。

 続いて、地球規模の課題に対する積極的なリーダーシップの発揮について御説明します。

 オバマ米国大統領のプラハ演説は、核軍縮に向けた世界の流れを大きく変えました。日本は、この流れをより確実なものにするため、意味ある役割を果たさなければなりません。

 本年は、核セキュリティーサミットや核不拡散条約(NPT)運用検討会議が予定され、核兵器のない世界に向けて重要な一年になります。米ロ両国による新たな核軍縮条約の早期締結を強く期待します。NPT運用検討会議では、核軍縮、核不拡散、原子力の平和的利用、それぞれの分野において前向きな合意を達成できるよう、リーダーシップを発揮してまいります。

 私は、核兵器のない世界を実現するための第一歩となる具体的な手段として、核兵器を持たない国に対する核兵器の使用を禁止すること、そして、核兵器保有の目的を核兵器使用の抑止のみに限定することといった考え方に注目しています。これらの点も含め、オーストラリア、米国など関係国とも議論を深めてまいります。

 気候変動問題は人類にとっての危機であり、その解決は次の世代への責任です。昨年末の国連気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)の結果は、主要排出国の国際的関与を得るなど、一定の前進はありました。今後、これを踏まえ、COP16において、公平かつ実効的な国際的枠組みを構築する新たな法的文書を採択するべく、米国、EU、国連などとも連携しながら、国際交渉を主導してまいります。鳩山イニシアチブに基づき、排出削減などの気候変動対策に取り組む途上国や、気候変動の悪影響に対し脆弱な途上国に対する支援を行ってまいります。気候変動問題の解決に向けて、まさに日本の外交力が問われています。

 世界経済はいまだ回復の途上にあります。保護主義の台頭を防ぎつつ、世界経済の回復と持続的成長を確かなものとするため、他の主要経済国と連携して取り組んでまいります。世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉や、インド、EUなどとのEPA交渉を政治主導で加速化します。

 グローバル化が進む国際社会においては、飢餓や病気に苦しみ、人間としての尊厳を保てないような苦しい生活を営んでいる人々が数多く存在しているという厳しい現実があります。同じ人間としての共感を持って、人間の安全保障の実現に向け、途上国の人づくり、国づくりを支援してまいります。極度の貧困と飢餓の撲滅、初等教育の完全普及、ジェンダーの平等の推進、乳幼児の死亡率削減、妊産婦の健康の改善、HIV、エイズやマラリアなどの蔓延防止などのミレニアム開発目標の達成に向けて、国際機関や非政府組織(NGO)とも連携しながら取り組んでまいります。

 同時に、現在の開発援助について国民の共感が十分には得られていないとの認識のもと、政府開発援助(ODA)のあり方について本年夏までをめどに基本的見直しを行います。それによって、我が国国民の理解と支持のもと、ODAをより戦略的かつ効果的に実施してまいります。

 海洋国家、貿易国家である日本にとって、海上航行の安全確保は極めて重要な課題です。自衛隊による海賊対処行動やソマリア及びその周辺国への支援は、日本国民の生命及び財産の保護、海上輸送の安全確保の観点から重要な役割を果たしており、この活動を継続してまいります。

 テロリズムは我が国国民やその経済活動にとって脅威であり、その原因の一つとなっている貧困の問題や国家再建支援に力を入れてまいります。イエメン、ソマリア、スーダンなどの平和と安定に貢献します。

 国連平和維持活動については、カンボジアや東ティモールなどですばらしい実績があるものの、最近の日本の貢献は十分な水準であるとは言えません。平和の維持及び構築に向けてより積極的な役割を果たすべく、冒頭述べましたハイチのミッションに加えて、さらなる貢献について検討してまいります。

 世界は多極化しており、その中で、国際的な合意形成のメカニズムの再構築が必要です。日本として、これに積極的に関与します。

 新興経済国を含む主要経済国から成るG20の存在感が高まっている一方で、G8も、自由と民主主義という基本的価値を共有する主要先進国の集まりとして、引き続き重要な役割を果たしています。これらの枠組みでの議論を通じ、世界経済やグローバルな問題についての国際協調をリードします。

 日本は、国連を重視し、積極的に活用し、その実効性と効率性を高めることに貢献してまいります。そのためにも、日本の常任理事国入りを含む安全保障理事会改革の早期実現に取り組みます。国際機関における邦人職員を増強し、人的貢献を高めます。

 私は、就任以来、国民の理解と信頼に支えられた外交の必要性を強調してまいりました。国民の理解と信頼があって初めて外交は力強さを備えることができるのです。

 私が、外務大臣就任直後に密約をめぐる問題について調査を命じたのもこのためです。外務省内の調査は既に終了し、現在、外部有識者による検証を行っています。なるべく早く、その事実関係を明確にした上で、外交文書の公開ルールの改革も含め、国民の皆さんに御説明したいと考えています。

 納税者の視点も重要です。このため、外務省所管の独立行政法人や公益法人の改革に取り組むとともに、独立行政法人評価委員会や外務人事審議会などの第三者機関が本来の役割を果たすことができるよう、そのあり方も検討します。

 このような自己改革の努力を行うことによって、国民の理解と信頼を得た上で、今まで述べてきたようなさまざまな課題に正面から取り組み、積極的な外交を展開してまいります。

 私は、日本の総合的な外交力を高めたいと考えています。そのためには、外交官が使命感を持って行動できるよう、外交実施体制を強化します。また、外交は政府だけで行うものではありません。COP15では、政府代表にNGOのメンバーが加わりました。私は、広い意味での外交を実現するに当たり、NGO、地方自治体、民間企業・団体、文化交流に携わる人々の役割に大きく期待をしています。

 世界の人々の平和で豊かな生活の実現のために、そして日本国民が平和で豊かな生活を実感できるために、国民の理解と信頼に支えられた力強い外交が必要です。私は、国際協調の時代にあって、人々が希望を感じることのできる日本外交を、日本国外務省の総力を挙げて展開していく決意です。

 議員各位、そして国民の皆さんの御支援と御協力をお願い申し上げます。(拍手)

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議長(横路孝弘君) 財務大臣菅直人君。

    〔国務大臣菅直人君登壇〕

国務大臣(菅直人君) 平成二十二年度予算の御審議に当たり、財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明申し上げます。

 去る総選挙において国民の皆様から大いなる御支持を賜り、鳩山内閣が成立してから四カ月余りがたちました。今ここに、新政権として最初の本予算を提出するに至りましたことに対し、御協力を賜りました皆様方に感謝の意を表するものであります。

 我が国が直面している状況は、経験したことのない困難なものであります。しかしながら、国民の英知を結集し、政治がリーダーシップをとることで、必ずや道は開けるものと確信いたしております。

 こうした認識のもと、今後の財政政策の運営に当たっては、以下に申し述べる基本的考え方に立ち、国民生活に安心と活力をもたらすべく取り組んでまいります。

 我が国経済社会は、欧米発の金融危機を端緒として世界的に経済構造が変化しつつある中で、人口減少と超高齢化の同時進行や地球温暖化といった長期的な取り組みを要する課題にも対応を迫られております。

 この難局を打開するためには、旧来型の資源配分を転換し、経済社会の構造を変えることにより、新たな経済成長の機会を見出すことが不可欠です。

 私は、これからの経済成長は、公共事業に頼るのでも、行き過ぎた市場原理主義に訴えるのでもなく、知恵を使って新たな雇用、需要を生み出すという第三の道を歩むべきものであると考えます。

 こうした考え方に立ち、政府は、平成二十二年度予算について、資源配分を大胆に見直し、予算の全面的な組み替えを行いました。あわせて、昨年末、新成長戦略(基本方針)を決定したところであり、政治のリーダーシップのもと、資源配分の選択と集中を進めてまいります。

 健全な財政は、安定した経済成長を支えるために欠くことはできません。

 我が国財政は、リーマン・ブラザーズの経営破綻後の世界的な景気後退を受けて税収が大きく減少する中、国、地方を合わせた長期債務の残高が平成二十二年度末には八百六十二兆円に達すると見込まれるなど、極めて厳しい状況にあります。

 そうした中にあって、財政規律を維持し、財政に対する信認を確保することは、社会保障を初めとするセーフティーネットの維持強化の裏打ちとなることを通じて、将来に対する国民の安心につながるものであり、活力ある経済社会の基盤となるものであります。

 私は、経済成長との両立を図りつつ、財政健全化に取り組んでまいります。

 そのため、まず、財政の中身を転換いたします。選択と集中の考え方により、歳出全体を必要性の高い分野に重点的に配分いたします。

 同時に、国民の皆様が歳出の意義をみずから御判断いただけるよう、予算の執行を可能な限り公開するとともに、予算執行に係るチェック機能をさらに強化いたします。

 特別会計や独立行政法人の事務事業等について、必要性、有効性、効率性等の観点から、財政に対する国民の信頼向上のために、基本に立ち返った検討を行うなど、さらなる見直しにも取り組みます。

 あわせて、国家戦略担当大臣を中心に、本年前半には、複数年度を視野に入れた中期財政フレームを作成するとともに、中長期の財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化への道筋を示すこととしております。

 現下の厳しい経済情勢のもと、景気回復を確実なものとするため、政府は、平成二十一年度第二次補正予算と、これから御説明申し上げる平成二十二年度予算とを、一体として切れ目なく執行してまいります。あわせて、デフレの克服に向けて、日本銀行と一体となり、強力かつ総合的な取り組みを行ってまいります。

 以上の基本的な考え方を踏まえ編成した平成二十二年度予算は、「国民生活が第一」、「コンクリートから人へ」の理念のもと、国民生活に安心と活力をもたらす施策を充実させた、命を守るための予算であります。(拍手)

 家計を直接応援し、国民の生活を守るため、マニフェストの工程表に掲げられた主要事項である子ども手当、農業の戸別所得補償、高校の実質無償化等の施策を実施することとしております。

 一方、こうした新規施策を実現するに当たって、行政刷新会議における事業仕分け等を通じた予算の全面的な組み替えや公益法人等の基金の返納による歳入確保を図っております。国債増発に依存することなく、必要な財源を確保しております。

 一般歳出は、五十三兆四千五百四十二億円であります。前年度当初予算に比べて、一兆七千二百三十三億円の増となっております。

 地方財政については、国税及び地方税の税収の落ち込みに対し、適切な補てん措置を講じております。その際、地方における歳出改革を継続しつつ、地方公共団体が雇用情勢等を踏まえた当面の地域活性化に向けた施策等を円滑に実施できるよう、地方交付税を一兆四千八百五十億円加算しております。この結果、地方交付税交付金等について、前年度当初予算と比べ九千四十四億円増加し、過去最高水準の十七兆四千七百七十七億円となっており、地方に最大限の配慮をしております。

 これらに国債費二十兆六千四百九十一億円等を合わせた一般会計総額は、前年度当初予算と比べ、三兆七千五百十二億円増加の九十二兆二千九百九十二億円としております。

 一方、歳入については、租税等の収入は、現下の経済状況を踏まえ、前年度当初予算と比べ、八兆七千七十億円減少の三十七兆三千九百六十億円を見込んでおります。その他収入は、特例的な財政投融資特別会計財政融資資金勘定からの受け入れ四兆七千五百四十一億円及び外国為替資金特別会計からの受け入れ二兆八千五百七億円を含め、十兆六千二億円を見込んでおります。

 以上のように、税収が大幅に減少する中、歳出歳入両面において最大限の努力を行った結果、新規国債発行額については、四十四兆三千三十億円となっております。

 主要な経費について申し述べます。

 社会保障関係費については、子ども手当の支給や、医療、介護の再生等の実現を図ります。診療報酬本体について十年ぶりの大幅プラス改定を実現するとともに、地域の中核的な病院に重点化し、救急、産科、小児科、外科等の充実を図るため、従来以上に診療報酬の配分を大幅に見直します。また、肝炎対策の充実、障害者の利用者負担の軽減、生活保護の母子加算の継続、児童扶養手当の父子家庭への支給拡大等を行うことにしております。この結果、社会保障関係費は、前年度当初予算と比べて約一割増となり、一般歳出に占める割合は五割を超えることとなっております。

 文教及び科学振興費については、高校の実質無償化を実現するなど、教育の振興を図るとともに、科学技術分野については、基礎研究や最先端研究の支援等への重点化を行っております。

 防衛関係費については、弾道ミサイル攻撃への対応など各種事態への対応能力の確保等を図る一方、コスト縮減への取り組みなど経費の合理化、効率化を行っております。

 公共事業関係費については、「コンクリートから人へ」の理念を踏まえ、大規模な公共事業について、国民にとって本当に必要なものか根本から見直すとともに、羽田空港等の国際競争力の強化のため真に必要なインフラ整備や、国民生活の安全、安心の確保に必要な分野に重点化するなど、事業の効率性、必要性を踏まえた厳しい優先順位づけを行っております。あわせて、地方公共団体が地域のニーズに合った社会資本整備を行うための新たな交付金を創設いたします。

 経済協力費については、事業の見直しを行い、めり張りを強化しつつ、国際的な評価の対象となるODA全体の事業量の確保を図っております。

 中小企業対策費については、中小企業の活性化を図るため、中小企業の資金調達の円滑化、仕事をつくるための研究開発、下請取引の適正化に関する施策等に重点化を行っております。

 エネルギー対策費については、特別会計の歳出総額を抑制するとともに、低炭素社会実現のための施策に重点化を行っております。

 農林水産関係予算については、戸別所得補償制度のモデル対策に重点配分を実施し、意欲ある農家が水田農業を継続することができる環境を整え、我が国の安定的な食料供給体制の構築と水田の有効活用等を図ることとしております。

 治安関係予算については、治安関連職員の増員を初め、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を行っております。

 公務員の人件費については、国、地方を通じて、定員純減や給与改定による給与の減額等を的確に予算に反映することとしており、国家公務員の人件費について、前年度当初予算と比べ千四百億円の減少となる五兆一千七百九十五億円といたしております。

 また、景気対策に万全を期するため、一兆円の経済危機対応・地域活性化予備費及び限度額一兆円の非特定議決国庫債務負担行為を合わせ、二兆円規模の財政上の措置を講ずることとしております。

 平成二十二年度財政投融資計画については、現下の経済情勢等を踏まえ、企業金融支援や地方公共団体を中心に必要な資金需要に的確に対応するため、前年度当初計画と比べ一五・七%増となる十八兆三千五百六十九億円としております。

 借換債及び財投債を含む国債発行総額については、百六十二兆四千百三十九億円と、昨年度に引き続いて対前年度比増額となりました。国債残高が多額に上る中、財政規律を維持して、市場の信認を確保するとともに、市場との緊密な対話に基づき、そのニーズ、動向等を踏まえた発行を行うなど、国債管理政策を適切に運営してまいります。

 税制改正について申し述べます。

 新政権のもと、税制については、政府と与党に二元化していた従来の税制調査会を一元化して、政治家をメンバーとする新たな税制調査会を設置し、まず、税制改正プロセスを透明で国民にわかりやすいものとしました。

 今後、税制調査会において、税制抜本改革実現に向けての具体的ビジョンについて幅広く検討を進め、歳出歳入一体の改革が実現できるよう取り組んでまいります。その際には、番号制といった府省横断的な課題についても、国家戦略室と連携しつつ検討を進めていく方針です。

 平成二十二年度税制改正において、公平、透明、納得の原則のもと、税制全般にわたる改革の第一歩を踏み出しました。具体的には、控除から手当へ等の観点からの扶養控除の見直し、国民の健康の観点を明確にしたたばこ税の税率の引き上げ、「新しい公共」を支える市民公益税制の拡充、暫定税率などの燃料及び車体課税の見直し、いわゆる一人オーナー会社課税制度の廃止、納税者の観点に立った租税特別措置等の見直しその他の各般の税目にわたる所要の措置を一体として講ずることとしております。

 最後に、世界経済の回復と発展に向けた取り組み等について申し上げます。

 昨年十一月に開催された二十カ国財務大臣・中央銀行総裁会議においては、世界経済と金融システムの健全性を回復するための政策を継続することに合意する一方、経済協力への新しいアプローチを強調するため、強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組みを立ち上げ、各国の政策を相互に評価するための新しい協議プロセスを開始したところであります。

 我が国は、みずからの金融危機の経験も踏まえ、新しい世界経済、金融に対応した枠組みづくりの議論に積極的に参画するとともに、景気回復を確かなものとし、世界経済に貢献してまいります。

 また、世界経済が危機を乗り越え持続的な発展を遂げるためには、各国が保護主義に陥らず、自由貿易を推進していくことが重要です。WTOのドーハ・ラウンド交渉の進展に向け、引き続き全力を尽くしてまいります。

 加えて、成長著しいアジア経済の活力を適切に取り込むことは、新成長戦略の柱の一つでもあります。引き続き、アジア諸国との間の地域金融協力の促進やEPAの推進等に積極的に取り組んでまいります。

 以上、財政政策等の基本的な考え方と、平成二十二年度予算の大要について御説明申し上げました。

 国民生活に安心と活力をもたらすための施策が来年度当初から直ちに実施されるためには、平成二十二年度予算を今年度内に成立させることが必要不可欠であります。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。(拍手)

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議長(横路孝弘君) 国務大臣菅直人君。

    〔国務大臣菅直人君登壇〕

国務大臣(菅直人君) 経済財政政策を担当する内閣府特命大臣として、所信を申し述べます。

 我々は、ことしを日本経済の大きな節目の年にしなければなりません。

 翻ってみると、我が国の経済規模が自由世界で第二位と認識されたのは、昭和四十三年、鳩山総理や私どもの世代がまだ学生だったころであり、当時だれもが誇らしげな気持ちを持って、伸び行く日本に大きな可能性を見出したことを覚えております。

 そして、約四十年たったことし、我が国はGDP第二位の地位を中国に譲る可能性もあります。かつての高度成長の時期を経て、少子高齢化やグローバル化の進展など経済社会構造は大きく変化しました。九〇年代初頭のバブル崩壊以降、日本経済は、総じて見れば力強さに欠け、長期の低迷を余儀なくされたこともあり、将来の成長に対する悲観的な見方も見受けられます。

 しかし、我々はそうした悲観論には立ちません。日本は、多くの勤勉な国民を有しており、環境を初めさまざまな分野で世界に誇り得る強みを持っています。そうした潜在力の発揮を図る成長戦略を推進することにより、日本経済は新たな成長を実現することができると考えます。(拍手)

 一方、我々は単純な楽観論にもくみしません。これまでの間、多くの成長戦略が策定されてきましたが、我が国経済を持続的な成長経路に復帰させることはできず、国の債務が積み上がることになりました。鳩山内閣においては、政権発足以来、経済財政政策の大改革に取り組んできたところであり、政治の強力なリーダーシップのもとで、既成概念にとらわれることなく、課題の克服に取り組むことによって、初めて成果を上げることができるものと確信しています。

 経済の現状については、景気は最悪期を脱し、持ち直してきているものの、自律性に乏しく、失業率は高水準にあるなど、依然として厳しい状況にあります。また、景気実感に近い名目成長率のマイナスが続いております。今後は、海外経済の改善などを背景に、景気の持ち直し傾向が続くことが期待されますが、その一方で、雇用情勢の一層の悪化や海外景気の下振れ懸念、デフレの影響など、景気を下押しするリスクが存在しております。

 こうした状況のもと、当面の課題と中長期の課題への取り組みについて、以下、順次申し述べてまいります。

 まず、我が国経済の当面の課題は、雇用を確保しつつ、確実な景気回復とデフレの克服を図ることです。

 このため、昨年十二月に、雇用、環境、景気を主な柱とする、事業費二十四兆円程度、国費七兆円程度の、明日の安心と成長のための緊急経済対策を取りまとめました。本経済対策は、活用できる財源を最大限に活用し、有効性を十分に吟味し、策定したものです。

 現下の厳しい経済雇用情勢への緊急対応と、将来につながる成長への布石を打つとの視点に基づき、雇用調整助成金の要件緩和や住宅版エコポイント制度の創設など、緊急性が高く、経済、雇用への効果や二酸化炭素削減効果において即効性の高い施策を最優先いたしました。また、制度、規制等のルールの変更や国民一人一人の積極的な参加により、できる限り財政に依存せず、知恵を生かし、国民潜在力が発揮されることを重視し、幼保一体化を含めた保育分野や環境・エネルギー分野の改革などを進めることとしております。

 経済対策は、着実に実行されて初めて効果を発揮することは言うまでもありません。このため、本経済対策の効果的、効率的な執行を図る観点から、PDCA、すなわちプラン・ドゥー・チェック・アクションのサイクルに立脚した施策の進捗管理を徹底する体制をつくりました。本体制のもとで、必要な取り組みを迅速かつ着実に実行することで、暮らしの再建、低炭素社会への転換、医療等の生活の安心確保、地方の活力の回復などを実現してまいります。

 また、本経済対策に伴う平成二十一年度第二次補正予算並びに平成二十二年度予算を一体として執行することなどにより、切れ目のない経済財政運営を行ってまいります。

 さらに、今後の経済財政運営に当たっては、国民の暮らしに直結する名目の経済指標を重視するとともに、デフレの克服に向けて、日本銀行と一体となって強力かつ総合的な取り組みを行ってまいります。

 日本銀行に対しては、こうした政府の取り組みと整合的なものとなるよう、政府と緊密な情報交換、連携を保ちつつ、適切かつ機動的な金融政策の運営によって経済を下支えするよう期待します。

 これらを踏まえ、先般閣議決定した政府経済見通しでは、平成二十二年度の我が国経済は、実質経済成長率が一・四%程度と三年ぶりのプラス成長となり、名目経済成長率も〇・四%程度のプラスに転じるものと見込んでおります。

 厳しい経済情勢の中、特に雇用の確保は喫緊の課題であり、国民生活の安心の基盤であります。緊急経済対策においても、雇用対策は重要な柱であり、新卒者支援の強化、貧困・困窮者支援の強化、雇用創造の拡充等の施策を着実に実施してまいります。

 このうち、この春以降、厳しい求人情勢が見込まれる新卒予定の学生生徒への支援については、求人、求職、内定関連情報の公表前倒しや、経済団体等に対する新規学校卒業者の採用に関する要請等を行ってまいりました。今後とも、学生生徒の就職支援を強化し、第二のロストジェネレーションをつくらないよう取り組んでまいります。

 また、求職中の方や居住、生活にお困りの方を支援するため、自治体の協力のもと、全国でのワンストップ・サービス・デイの実施や年末年始の生活総合相談等の取り組みを進めてまいりました。私も、これらの現場を視察し、厳しい雇用情勢を実感するとともに、支援策が十分な効果を上げるよう努めてまいりました。

 これらの取り組みを踏まえ、非正規労働者等への職業訓練や、その間の生活保障を行うトランポリン型の第二のセーフティーネットの構築を進めてまいります。

 こうした当面の課題への取り組みと同時に、中長期の課題に対しても取り組みを進めていく必要があります。すなわち、持続的な経済成長を実現する成長戦略を推進するとともに、財政健全化を図るための具体策と道筋を明確にすることです。

 我が国経済を持続的な成長経路へと移行させるため、昨年末、中長期的な経済成長の姿を示した「新成長戦略(基本方針) 輝きのある日本へ」を取りまとめました。

 本基本方針は、環境や健康分野における我が国の強みの発揮、観光やアジアとの連携強化などフロンティアの開拓、成長を支えるプラットホームとしての科学・技術や雇用・人材の強化を通じて、輝きある日本の実現を目指すものです。

 この策定に当たっては、過去の成長戦略が必ずしも効果を上げなかった理由を踏まえ、政治の強力なリーダーシップ、経済政策の明確なビジョン、そして経済政策の方向性の転換を重視しました。新成長戦略は、従来の公共事業や財政支出頼みのいわば第一の道でも、行き過ぎた市場原理主義に基づく第二の道でもない、新たに需要と雇用をつくり出すという第三の道の考え方に立っています。

 本基本方針では、グリーンイノベーション、ライフイノベーション、アジア、観光・地域、科学・技術、雇用・人材の六つの戦略分野を柱に掲げ、二〇二〇年までに達成すべき目標と主な施策の方向性を明確にしています。また、地球温暖化対策、少子高齢化対策という国民生活の課題に正面から向き合い、世界に先駆けて課題を解決する課題解決型国家を目指します。アジアの一員として、アジア全体の活力ある発展を促し、アジアとともに生きる国を実現します。

 新成長戦略の実現に向けて求められることは、財政に過度に依存することなく、市場創造型のルールの改善と支援のベストミックスを追求していくことです。

 また、本基本方針には、二〇二〇年度までの平均で、名目三%、実質二%を上回る成長、二〇二〇年度における名目国内総生産を六百五十兆円程度にすることを目指すこと、失業率については中期的に三%台への低下を目指すことを明記しました。これは、このような目標に向けて政策を確実に実行していくとの決意を表明したものであります。

 今後、本基本方針に沿って、施策の追加、具体化を行い、政府として、本年六月を目途に新成長戦略を策定いたします。その際には、本年中に実行に移すべき事項、今後四年間程度で実施すべき事項、二〇二〇年までに実施すべき成果目標を明示した工程表をあわせて策定することとしております。加えて、各政策の達成状況を評価、検証してまいります。

 鳩山内閣は、過去のしがらみにとらわれることなく、利害団体の既得権や省庁の縦割りの弊害にメスを入れ、真に必要なものへの選択と集中を実現し、これまで実現されなかった国民のニーズにこたえてまいります。

 また、未来に向けて、国民が安心して生活できる社会保障の整備と新たな経済成長への投資を行うために、財政の健全化は不可欠の前提です。

 そのため、平成二十二年度予算においては、歳出を質的に大きく変え、また国債発行を市場の理解が得られるよう約四十四兆円に抑えました。今後は、国家戦略担当大臣を中心に、慎重な経済見通しに基づく中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定するとともに、中期財政フレームを本年前半に策定し、実質的な複数年度予算編成を実現してまいります。国と地方の財政関係についても整合性を確保し、全体として財政の持続可能性の確立を図ってまいります。

 戦後これまで幾多の困難を克服してきた我が国が、現在の困難を克服する力を有していることは間違いありません。これまで欠けていたもの、そして今必要とされているのは、政治的リーダーシップであります。経済危機の中での鳩山政権の誕生は、過去の呪縛を断ち切り、真に国民のための経済の実現に向けてかじを切る、大きなチャンスでもあります。試練に直面している今こそ、経世済民の原点に立ち戻り、経済財政政策を大転換し、生活の安心と真の豊かさを取り戻すべく、以上申し上げた政策を全力で進めてまいります。

 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をお願いし、所信の表明といたします。(拍手)

     ――――◇―――――

高山智司君 国務大臣の演説に対する質疑は延期し、来る二月一日午後一時から本会議を開きこれを行うこととし、本日はこれにて散会されることを望みます。

議長(横路孝弘君) 高山智司君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(横路孝弘君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決まりました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五十分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣  鳩山由紀夫君

       財務大臣

       国務大臣  菅  直人君

       総務大臣  原口 一博君

       法務大臣  千葉 景子君

       外務大臣  岡田 克也君

       文部科学大臣  川端 達夫君

       厚生労働大臣  長妻  昭君

       農林水産大臣  赤松 広隆君

       経済産業大臣  直嶋 正行君

       国土交通大臣  前原 誠司君

       環境大臣  小沢 鋭仁君

       防衛大臣  北澤 俊美君

       国務大臣  亀井 静香君

       国務大臣  仙谷 由人君

       国務大臣  中井  洽君

       国務大臣  平野 博文君

       国務大臣  福島みずほ君


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