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第42号 平成27年8月7日(金曜日)

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平成二十七年八月七日(金曜日)

    ―――――――――――――

 議事日程 第三十四号

  平成二十七年八月七日

    午後零時十分開議

 第一 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件

 第二 医療法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 第三 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

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本日の会議に付した案件

 永年在職の議員谷畑孝君に対し、院議をもって功労を表彰することとし、表彰文は議長に一任するの件(議長発議)

 日程第一 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件

 日程第二 医療法の一部を改正する法律案(内閣提出)

 日程第三 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出)


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    午後零時十二分開議

議長(大島理森君) これより会議を開きます。

     ――――◇―――――

 永年在職議員の表彰の件

議長(大島理森君) お諮りいたします。

 国会議員として在職二十五年に達せられました谷畑孝君に対し、先例により、院議をもってその功労を表彰いたしたいと存じます。

 表彰文は議長に一任されたいと存じます。これに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(大島理森君) 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決まりました。

 表彰文を朗読いたします。

 議員谷畑孝君は国会議員として在職すること二十五年に及び常に憲政のために尽くし民意の伸張に努められた

 よって衆議院は君が永年の功労を多とし特に院議をもってこれを表彰する

    〔拍手〕

 この贈呈方は議長において取り計らいます。

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議長(大島理森君) この際、谷畑孝君から発言を求められております。これを許します。谷畑孝君。

    〔谷畑孝君登壇〕

谷畑孝君 このたび、永年勤続議員として、院議をもって御丁重な表彰の決議を賜りました。

 このことは議会人として身に余る光栄であり、これはひとえに、諸先輩、同僚各位の御指導と、参議院議員選挙、衆議院議員選挙のそれぞれにおいて、心からの御支援をいただいた皆様の変わらない御協力のたまものであります。

 改めまして、心よりお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。(拍手)

 私が国会に議席をいただきましたのは、平成元年七月でありました。

 当時、私は、大学を卒業し、池田市役所に勤めておりましたが、政治の師と仰いでおりました故上田卓三先生との数奇な出会いと導きによって、政治の世界に入りました。

 「中小企業と弱者に政治の光を」を信条に活動を開始し、二回の補欠選挙を経て、参議院議員選挙で当選をさせていただきました。

 その後、平成八年十月からは本院に新たな舞台を求め、連続七回当選をさせていただきました。今日まで通算二十五年、みずからの信じる道を進んでまいりました。

 平成六年、村山内閣で、橋本通産大臣のもと、通商産業政務次官を任命いただきました。

 平成八年からは、衆議院議員として、党バリアフリーワーキングチームの座長、労働部会長を経て、念願のバリアフリー法案の成立に微力ながらかかわることができましたことは、非常に記憶に残り、うれしく思っております。

 平成十四年には、経済産業委員長に就任。

 その後、平成十五年には、小泉政権下で厚生労働副大臣に任命され、日本の将来を担う若者の雇用問題や児童虐待の防止に政府の一員として全力で取り組んでまいりました。

 また、最近では、決算行政監視委員長、海賊・テロ特別委員長を務めさせていただきました。

 この間、振り返りますと、バブルの崩壊から始まり、デフレ経済の長期化、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や財政再建問題、さらにはさまざまな格差の拡大、子供の貧困対策等、政策課題が山積をしております。

 東日本大震災からの復興は、ことしで四年目を迎え、まだ多くの課題が残っておるところであります。このような状況の中で、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定し、久しぶりに明るい話題が提供されたところでありますが、その経済効果は首都圏に集中をし、地方経済はなかなか豊かになりません。

 自立した、力強い、個性豊かな地方経済の実現こそが、日本国全体の発展につながると考えます。

 私は、このような諸問題に全力で取り組み、我が国が平和で、豊かな経済成長を遂げ、他国に誇れる社会保障を実現できるよう、引き続き努力することを申し上げて、お礼の御挨拶といたしたいと思います。

 本当にありがとうございました。(拍手)

     ――――◇―――――

 日程第一 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件

議長(大島理森君) 日程第一、外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。経済産業委員長江田康幸君。

    ―――――――――――――

 外国為替及び外国貿易法第十条第二項の規定に基づき、北朝鮮を仕向地とする貨物の輸出及び北朝鮮を原産地又は船積地域とする貨物の輸入につき承認義務を課する等の措置を講じたことについて承認を求めるの件及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔江田康幸君登壇〕

江田康幸君 ただいま議題となりました承認を求めるの件につきまして、経済産業委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 我が国は、平成十八年十月九日の北朝鮮による核実験の実施を契機として、同年十月十四日以降、北朝鮮からの全ての貨物の輸入を禁止する等の措置を継続して実施し、加えて、平成二十一年五月二十五日の北朝鮮による二回目の核実験の実施を受け、同年六月十八日以降、北朝鮮への全ての貨物の輸出を禁止する等の措置を継続して実施しております。

 しかしながら、北朝鮮は、国際連合安全保障理事会決議に反し、数次にわたる弾道ミサイルの発射等を行ったほか、我が国が強く求めている拉致被害者等に関する調査結果の通報がいまだなされておりません。

 政府は、こうした諸般の事情を総合的に勘案し、本年三月三十一日の閣議において、四月十四日以降もこれらの措置を継続することを決定したところであります。

 本件は、本年四月十四日から平成二十九年四月十三日までの二年間、北朝鮮に係る輸出入等の禁止等の措置を講じたことについて、外国為替及び外国貿易法第十条第二項に基づき、国会の承認を求めるものであります。

 本委員会においては、去る七月二十八日に付託され、二十九日宮沢経済産業大臣から提案理由の説明を聴取し、三十一日、質疑を行い、質疑終局後、採決を行った結果、全会一致をもって承認すべきものと議決いたしました。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本件は委員長報告のとおり承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

議長(大島理森君) 御異議なしと認めます。よって、本件は委員長報告のとおり承認することに決まりました。

     ――――◇―――――

 日程第二 医療法の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(大島理森君) 日程第二、医療法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。厚生労働委員長渡辺博道君。

    ―――――――――――――

 医療法の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔渡辺博道君登壇〕

渡辺博道君 ただいま議題となりました医療法の一部を改正する法律案について、厚生労働委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、地域の医療機関相互間の機能の分担及び業務の連携を推進し、質の高い医療を効率的に提供するため、新たな法人制度を創設するとともに、医療法人について、経営の透明性を確保する等のため、監査、公告に係る規定の整備等の措置を講じようとするもので、その主な内容は、

 第一に、医療機関の業務の連携を推進するため定めた方針に沿って、参加する法人の医療機関の業務の連携を推進することを目的とする一般社団法人を、都道府県知事が地域医療連携推進法人として認定する仕組みを創設すること、

 第二に、一定の基準に該当する医療法人に対して、会計基準に従った計算書類の作成、公認会計士等による監査の実施及び公告等を義務づけること、

 第三に、医療法人の分割に関する規定を整備すること

等であります。

 本案は、去る七月二十八日本委員会に付託され、翌二十九日塩崎厚生労働大臣から提案理由の説明を聴取し、八月五日に質疑を行いました。質疑終局後、討論を行い、採決の結果、本案は賛成多数をもって原案のとおり可決すべきものと議決した次第であります。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は可決であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり可決いたしました。

     ――――◇―――――

 日程第三 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出)

議長(大島理森君) 日程第三、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 委員長の報告を求めます。法務委員長奥野信亮君。

    ―――――――――――――

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び同報告書

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

    〔奥野信亮君登壇〕

奥野信亮君 ただいま議題となりました法律案につきまして、法務委員会における審査の経過及び結果を御報告申し上げます。

 本案は、刑事手続における証拠の収集方法の適正化及び多様化並びに公判審理の充実化を図るためのものであり、その主な内容は、

 第一に、いわゆる取り調べの可視化に関して、法律上の制度として、取り調べの録音、録画制度を創設すること、

 第二に、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度、すなわち司法取引の制度を創設すること、

 第三に、通信傍受対象事件の範囲を拡大し、新たな傍受方式を導入すること、

 第四に、証拠開示制度を拡充し、裁量保釈の判断に当たり考慮すべき事情を明確化すること

などであります。

 本案は、去る五月十九日、本会議において趣旨説明及び質疑が行われた後、本委員会に付託され、二十六日上川法務大臣から提案理由の説明を聴取し、翌二十七日から質疑に入りました。その後、複数回の参考人質疑を通じて延べ二十人の参考人から意見を聴取し、取り調べの録音、録画及び通信傍受の実施状況について二回の現地視察を行うなど、二カ月を超える慎重な審査を進めてまいりました。

 八月五日、本案に対し、自由民主党、民主党・無所属クラブ、維新の党及び公明党の四会派共同で修正案が提出されました。

 その主な内容は、

 第一に、司法取引については、合意に当たり、事件の関連性について、その程度を考慮すべきことを明記するとともに、合意のための協議には弁護人が常時関与すること、

 第二に、通信傍受については、通信当事者への通知事項を追加すること、

 第三に、附則の検討条項を改めること

であります。

 同日、修正案の趣旨の説明を聴取した後、原案及び修正案を一括して質疑を行い、質疑を終局いたしました。次いで、討論、採決の結果、修正案及び修正部分を除く原案は賛成多数をもって可決され、本案は修正議決すべきものと決しました。

 なお、本案に対し附帯決議が付されたことを申し添えます。

 以上、御報告申し上げます。(拍手)

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議長(大島理森君) 討論の通告があります。順次これを許します。畑野君枝君。

    〔畑野君枝君登壇〕

畑野君枝君 私は、日本共産党を代表して、盗聴法の大改悪など、刑事訴訟法等の改正案に反対の討論を行います。(拍手)

 刑事司法に問われてきたのは、冤罪の根絶です。ところが、政府は、それを過度な取り調べ依存からの脱却と矮小化し、世界一安全な国づくりとすりかえて、盗聴法の大改悪と司法取引導入を柱とする一括法案としたのであり、法案の中心は、国民を監視し抑え込む治安立法と言うべきです。冤罪被害者と国民を裏切るものであり、到底認めることはできません。

 反対の理由の第一は、盗聴法の大改悪です。

 憲法二十一条二項の通信の秘密、十三条のプライバシーの権利は、一たび損なわれれば、取り返しがつきません。盗聴の本質は、犯罪に無関係の通信をも根こそぎつかむ盗み聞きであり、憲法三十五条の令状主義、三十一条の適正手続の保障を侵害する、明白な憲法違反です。

 現行法は、一九九九年、厳しい国民的批判に国会が包囲される中、対象を組織犯罪に限定し、通信事業者の常時立ち会いという与党修正によって強行されたものです。それを、捜査機関にとって使い勝手が悪いからと取り払い、対象犯罪を一般的犯罪にまで拡大し、常時立ち会いをなくせば、重大な人権侵害をさらに広げ、盗聴を日常的な捜査手段とする盗聴の自由化につながりかねません。

 傍受内容の暗号化は、警察署でいつでもじっくり盗聴しようとするもので、言語道断です。

 日本共産党国際部長宅盗聴事件の被害者、緒方靖夫氏の参考人陳述は、盗聴の本質、重大な権力犯罪をあえて行う警察権力の卑劣さを委員会全体に共有させるものとなりました。その事実を認めず謝罪もしない警察に盗聴の自由を認めるなど、断じて許すわけにはいきません。

 第二に、司法取引制度は、みずからの罪を免れようと他人を引っ張り込む危険を本質的に持っており、それは米国における深刻な実態が報告された参考人質疑で明らかです。政府は、虚偽供述罪で防止すると言いますが、それは逆に、虚偽の供述の危険を高めるものです。

 第三に、取り調べの可視化は、憲法三十八条の黙秘権の実効性を保障するものとして、捜査機関に対し全事件、全過程の録音、録画を義務づけるものとすべきです。

 法案は、可視化の対象事件を全事件のわずか三%にとどめ、しかも取り調べ官の裁量による広範な例外を認めるものであり、新たな冤罪を生み出す危険さえあります。

 なお、こうした法案の重大問題は、自民、公明、民主、維新四党の修正によって、いささかも変わるものではありません。

 四党が密室で合意したとして、八月五日の朝、修正案を提出し、その日に採決を強行したことは、前代未聞の暴挙と言わなければなりません。

 本法案は廃案にすべきです。

 以上、反対討論を終わります。(拍手)

議長(大島理森君) 盛山正仁君。

    〔盛山正仁君登壇〕

盛山正仁君 自由民主党の盛山正仁です。

 私は、自由民主党及び公明党を代表し、ただいま議題となりました刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について、賛成の立場から討論を行います。(拍手)

 刑事司法制度は国民生活の基盤です。適正手続の保障を全うしつつ、事案の真相を解明し、犯人を適切に処罰することができるものでなければなりません。

 従来、我が国の刑事司法においては、取り調べや供述調書が最も重要な証拠収集及び立証の手段とされてきており、そのような捜査、公判は、良好な治安の実現に一定の寄与をしてまいりました。

 しかし、近時、取り調べの適正さに疑念を抱かせる事例の発生等を契機に、刑事司法制度の問題点として、捜査、公判が取り調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあるとの指摘がなされております。

 また、組織的な犯罪の全容を解明し、首謀者を含めて犯人を適切に処罰していくためには、取り調べを中心とする従来の方法では限界があると言わざるを得ません。

 本法律案は、取り調べの録音、録画制度の創設、合意制度の創設、通信傍受の対象事件の拡大などにより、証拠収集手段を適正化、多様化するとともに、被疑者国選弁護の対象事件の拡大、証拠開示制度の拡充、証人等の氏名等の情報を保護するための制度の創設などにより、被疑者、被告人や犯罪被害者を含む刑事手続に関与する国民の方々の権利利益の保護を充実させようとするものです。

 例えば、取り調べの録音、録画制度によって、取り調べにおける被疑者の供述が任意になされたものであることが公判で争われたとしても、録音、録画記録によって的確に立証することができるようになり、取り調べの適正確保にも資することになります。このことは、刑事司法に対する国民の信頼の一層の向上にもつながるものです。

 また、近時、暴力団による一般国民を標的とした殺人、放火等の凶悪事件や、振り込め詐欺を初めとする特殊詐欺などの組織的犯罪が、国民生活に対する重大な脅威となっています。

 このような犯罪については、従来、犯罪の実行を担当した末端の関与者を検挙、処罰することはできても、取り調べによってはそれらの者から上位者の関与についての供述が得られず、背後に隠れた首謀者にまで検挙、処罰が及ばないことが多かったところです。

 合意制度の導入により、検察官が、比較的責任の軽い末端の関与者について、一部を不起訴としたり、軽い求刑をするなどの有利な取り扱いをするかわりに、末端関与者が捜査に協力する旨の合意をして、組織の上位者の指示、命令等についての真実の供述を得ることが可能となります。さらに、通信傍受が活用されることにより、組織内部の犯罪の指示、命令や口裏合わせ等の通信を言い逃れができない形で捕捉することが可能となります。

 これらによって、必ずしも取り調べに頼らない形で、事案の全容を解明し、真に処罰されるべき者を適切に処罰することができるようになるだけでなく、ひいては組織の壊滅を図ることも期待されるところです。

 このように、本法律案に盛り込まれている法整備を一体的に行うことで、取り調べ及び供述調書に過度に依存している現状が改められ、また、近時の犯罪情勢の変化にも的確に対応し、国民の期待と信頼に一層応えることのできる、国民の安全、安心な暮らしを実現する刑事司法制度が構築されることになります。

 本法律案は、委員会において、六十九時間を超える非常に充実した審議が行われ、それを踏まえて四党共同で修正をしたことで、より充実し、幅広く支持され得る内容となりました。

 皆様の本法律案への御賛同を心よりお願い申し上げ、私の賛成討論といたします。(拍手)

議長(大島理森君) 山尾志桜里君。

    〔山尾志桜里君登壇〕

山尾志桜里君 民主党の山尾志桜里です。

 私は、民主党・無所属クラブを代表して、本修正案に賛成の討論をいたします。(拍手)

 皆さんは、法の女神テミスの像を見たことがあるでしょうか。この女神は、それぞれの手にてんびんと剣を持っています。てんびんは公正、正義を、剣は力をあらわします。力なき正義は無力だが、正義なき力は暴力である、力に正義で歯どめをかけるのが法である、この理念を体現する女神です。

 今回の刑訴法改正議論は、郵便不正事件など一連の冤罪事件を根絶するという決意からスタートしています。冤罪被害者にとって、捜査権力はまさに正義なき力であり、それは暴力であるからです。

 しかし、提出された政府原案には、取り調べの録音、録画により冤罪をなくす正義の法制化と同時に、捜査機関に新たな力を付与する傍受の拡大や司法取引の導入をもが盛り込まれていました。

 いかにこの力に正義で歯どめをかけるか、この観点から、修正された内容につき、賛成の理由を述べます。

 第一に、取り調べの録音、録画です。

 今回、取り調べ全過程の録音、録画が初めて法制化されます。対象範囲は限定的であり、あくまで最初の一歩です。

 ところが、原案では、これが最後の一歩になるのではないか、はたまた後退するのではないか、今後の方向性は極めて曖昧でした。

 そこで、修正により、三年後には録音、録画の積極的な意義を前提に見直されることとし、決して後退することのないようにしていくという委員会最終日の上川大臣の答弁とあわせて、範囲拡大に方向づけられた修正の意義は大きいと評価します。

 第二に、通信傍受です。

 逮捕や捜索という他の強制捜査と大きく違う点は、傍受されている本人はそれを知らないということです。人間が痛みを感じるからこそ大けがを防ぐことができるように、人権も、制約に気づいて初めて違法な侵害を防ぐことができます。

 そこで、修正案では、傍受された本人に、その記録を閲覧、聴取できることや、不服申し立てできることが通知されることとしました。また、警察署内で傍受が行われる際には、当該捜査に無関係な職員が、全件、現場でその適正を指導することとなりました。

 これらの修正により、傍受の濫用を防ぐための一定の歯どめがかかったと考えます。

 第三に、司法取引です。

 原案では、自分の罪を軽くするため、うそをついて他人を犯罪に巻き込むリスクが非常に高いと懸念されました。

 そこで、修正案では、偶然留置場で知った他人の事件など、無関係な事件は事実上対象外とし、取引、協議の過程に例外なく弁護人が加わり、その協議の概要などは、証拠開示に備えて記録、保管されることとしました。

 この修正によって、他人を巻き込む冤罪のリスクは一定程度低減したと考えます。

 第四に、証拠開示を含む検討条項です。

 修正案では、冤罪を根絶するため、再審請求における証拠開示などを今後検討することとし、また、傍受や司法取引についても三年後に見直すこととしました。

 以上が、修正の柱です。

 捜査機関の力の拡大に偏り過ぎていた原案に対し、冤罪をなくすという正義の要請に引き戻す修正ができたと評価して、民主党は賛成いたします。

 だからこそ、私たちは、責任を持って、これから録音、録画が本当に拡大されていくのか、傍受が人権を侵害していないか、司法取引が冤罪を引き起こしていないか、しっかりと確認をしていきます。

 加えて、審議のあり方について申し上げます。

 安保法案と同様、本法案も乱暴な一括の束ね法案であったことは、国民の意思を的確に反映させる立法府の責任を果たす上で、重大な支障があったことを強く非難します。

 その上で申し上げれば、このたびの審議は、四テーマに分けられ、一テーマごとに参考人質疑を中心に三日ずつかけるなど、丁寧に積み重ねていただきました。少なくとも、法務大臣はやじを飛ばすことはなく、法務委員長は強行で採決することもありませんでした。

 与党が数の力におごらず、野党が数の違いを諦めず、そうすれば、結論ありきの審議ではなく、結論を全員でつくり上げていく審議はできるのです。このことを実践していただいた各党、与野党問わず、議員の皆様、職員、関係者の皆さんに感謝いたします。

 そして、民主党は、これからも建設的な議論をリードし、力に正義で歯どめをかける役割を果たしていきます。

 最後に、警察、検察の現場で懸命に働いている皆さん、冤罪事件を根絶するために改正された歴史的なこの刑事訴訟法に基づいて、どうか、正義の力として国民に信頼されながらその重要な職務を全うしていただけるよう、心からお願いを申し上げます。

 私の賛成討論は以上です。(拍手)

議長(大島理森君) 井出庸生君。

    〔井出庸生君登壇〕

井出庸生君 維新の党、信州長野の井出庸生です。

 刑訴法等の一部を改正する法律案の修正案に対し、賛成討論をいたします。(拍手)

 五月十九日、私は、この場所で、政府原案を、取り調べ可視化は全事件のわずか三%、にもかかわらず司法取引導入、そして通信傍受捜査の大幅拡大であると厳しく批判をしました。

 村木厚子さんが巻き込まれた郵便不正事件、十二人の無罪判決を出した鹿児島志布志事件などに端を発し、刑事捜査の出直しが求められた本法改正議論は、冤罪防止のための成果が求められたはずでしたが、捜査権限の焼け太りと批判された政府原案へ姿を変えたのでした。

 私たちが合意した修正案も、残念ながら、政府原案を大きく変えることはできませんでした。

 取り調べの可視化のさらなる拡大は附帯決議にとどまり、多くの方が望んだ全事件、全過程の可視化は引き続きの課題となりました。また、冤罪被害者から強く改善が求められた保釈の考慮事情の改正、いわゆる人質司法をなくすことについても附帯決議。今後、主に重大事件を対象に拡充される証拠開示制度について、今、重大事件で再審を求めている人たちに十分な証拠が開示されていないという喫緊の課題についても、附帯決議で改善を求めるにとどまりました。

 捜査権限の焼け太りの象徴である通信傍受捜査の大幅拡大は、対象犯罪の拡大のみならず、本法案の成立によって、通信データを通信事業者から各都道府県警察に伝送し、警察施設で立会人もなく通信傍受が実施できることになります。

 私たちは、警察施設での通信傍受の見送り、少なくとも第三者による立ち会いの維持を最後まで求めてまいりました。

 結局、修正案でも、警察施設での通信傍受は解禁され、警察内部で捜査の実施状況を指導することとなりました。指導する警察官がこれまでの立会人のように通信傍受の一部始終に立ち会うものと考えておりますが、期待する答弁が得られておらず、指導する警察官が通信傍受の全ての時間に立ち会うことを強く強く求めます。

 新たに導入される司法取引については、国際サッカー連盟の幹部ら十四人がワールドカップ開催や放送権などをめぐって賄賂を受け取るなどした事件など、個別の事件で成果が見られる一方で、アメリカでは冤罪の原因の一五%が司法取引にあるという指摘もされ、慎重な制度設計が求められてきました。

 修正案では、司法取引で他人の犯罪を告発する被疑者、被告人と、告発される側の被疑者、被告人の犯罪の関連性を考慮するなど、当然のことが法文に追加されたにすぎません。

 さらに、司法取引こそ録音、録画すべきとの多くの意見が与野党から上がりましたが、附帯決議で記録、保存を求めるにとどまりました。

 本法案に課された冤罪防止策を政府原案以上に進めることがかなわず、捜査権限の焼け太りに対する歯どめもわずかと言わざるを得ません。

 それでも我々が修正案に賛成をするのは、たとえ歯どめにならない歯どめであったとしても、法律を修正し、厳正かつ慎重な刑事捜査の実施を求めるからであります。取り調べの可視化などを一層進め、適正な捜査、裁判での的確な立証を求めることは、もはや言うまでもありません。

 さて、本法案附則九条、三年後の検討条項は、この法案の主要部分の見直し、また、再審を求めている人への証拠開示など、残された課題についても検討することと修正されました。後の検証に資する詳細な分析を行っていくことを政府に求めます。

 捜査権は、治安維持のために必要である一方、その焼け太りは国民にとって大きな不安、脅威であります。重大事件の検挙率が高いこと、犯罪発生率が低いことなど、世界でも治安のよい日本の捜査機関が、これまで限定的な捜査手法と厳正な手続で安心、安全な国家の形成に努めてきたことは、勤勉な国民性の象徴であり、高く評価されるべきことです。国民のプライバシー、人権保護が最大限尊重され、かつ、犯罪を予防、解決してきた日本の刑事捜査のよい部分をこれからも守り続けていくことを強く望みます。

 最後に、合同勉強会で問題意識を共有し、議論を掘り下げてくれた民主党、日本共産党、そして慎重審議に応じた政府・与党に敬意を表し、今後も刑事司法制度の不断の改革に向けて微力を尽くしてまいります。

 ありがとうございました。(拍手)

議長(大島理森君) これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 採決いたします。

 本案の委員長の報告は修正であります。本案を委員長報告のとおり決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

議長(大島理森君) 起立多数。よって、本案は委員長報告のとおり修正議決いたしました。

     ――――◇―――――

議長(大島理森君) 本日は、これにて散会いたします。

    午後零時五十一分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       法務大臣    上川 陽子君

       厚生労働大臣  塩崎 恭久君

       経済産業大臣  宮沢 洋一君


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