衆議院

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第7号 平成28年1月26日(火曜日)

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平成二十八年一月二十六日(火曜日)

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 議事日程 第六号

  平成二十八年一月二十六日

    午後一時開議

 一 国務大臣の演説に対する質疑

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本日の会議に付した案件

 国務大臣の演説に対する質疑


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    午後一時二分開議

議長(大島理森君) これより会議を開きます。

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 国務大臣の演説に対する質疑

議長(大島理森君) 国務大臣の演説に対する質疑に入ります。岡田克也君。

    〔岡田克也君登壇〕

岡田克也君 民主党代表の岡田克也です。

 民主・維新・無所属クラブを代表し、安倍総理の施政方針演説について質問します。(拍手)

 まず冒頭、極めて残念なことを安倍総理に申し上げなくてはなりません。甘利大臣の政治と金をめぐる問題です。

 今日に至るまで、国民に対するまともな説明は一切なされていません。内閣の重要閣僚であり、安倍総理の盟友中の盟友と言われる甘利大臣です。任命責任はもちろん、安倍総理自身にも重大な説明責任があります。逃げずにその責任を果たさなければなりません。安倍総理の答弁を求めます。

 私は、二十五年間、政権交代可能な政治の実現をひたすら目指してきました。失敗も挫折もありました。しかし、日本の政治をよくするためには、自民党と競うことのできるいま一つの政治勢力をつくり上げなければならない、この信念は変わりません。まだ道半ばですが、必ずやり遂げることを国民の皆さんにお約束します。

 政治活動を行う中で、最近強く懸念していることがあります。日本の将来に大きくかかわることです。

 第一に、経済の低迷、不安定な生活が長く続く中で、日本の社会の一部から寛容さが失われつつあるということです。

 第二に、格差が拡大し、公正さが失われていることです。過去二十年の政策は、この格差拡大を放置しただけではなく、助長してきました。

 第三に、困難な、しかし次世代のために必ず解決しなければならない重要課題を先送りする政治が続いていることです。

 私は、野党第一党の代表として、そして日本の将来に大きな責任を負う一人として、これらの問題に正面から立ち向かう覚悟です。

 私が目指すのは、多様な価値観や生き方が尊重される自由な社会、誰一人排除されることなく、ともに助け合いながら生きることのできる共生社会、そして、次世代のために責任を果たす社会です。現在も、将来も、一人一人が尊重され、大切にされる日本の実現を、私は目指します。

 今月六日、私はこの本会議場で、安倍政治の本質は、国民に対して正直に説明することなく、本当の課題解決を先送りする、目先重視のばらまきの政治であると断じました。安倍政治が続けば、日本の将来が危ない。その強い危機感を持って、基本的な政策について、私の考え方を明らかにし、提案し、その上で安倍総理に質問します。日本国総理大臣として、正面から答弁することを求めます。

 ことしは、十八歳選挙権元年です。若者、若者、若者の年です。一人一人が尊重され、大切にされる日本を実現するために、まず大切なことは、若者の声をしっかり聞くことです。ここ数年の目先の政治ではなく、十年、二十年、そして五十年先を見た政治を実現しなければなりません。

 例えば、二十の若者が国会議員や市長を目指す道がなぜ閉ざされているのでしょうか。選挙権だけではなく、被選挙権年齢の引き下げも実現すべきです。超党派で議論しようじゃありませんか。安倍総理の答弁を求めます。

 年収四百万円以下の世帯の若者の大学進学率は三割にすぎません。私は、全ての若者が夢と希望を持って学ぶことのできる日本でなければならないと思います。授業料減免、奨学金の拡充、返済不要の給付型奨学金の創設が必要です。安倍総理の答弁を求めます。

 性的少数者、LGBTに対する差別をなくすことは、特に若い世代にとって大きな意味を持ちます。LGBTの子供たちの七割が学校でいじめに遭い、三割以上が子供のうちに自殺を考えたと答えているのです。私は、多様性を認め合うことで、より豊かな社会がつくられていくと信じています。これら差別を解消する法案を今国会で成立させようではありませんか。安倍総理も賛同してください。答弁を求めます。

 日本を変えるのは、若者と女性です。二年前、安倍総理は、二〇二〇年にはあらゆる分野で指導的地位の三割以上が女性となる社会を目指すと華々しく打ち上げました。しかし、昨年末閣議決定された男女共同参画基本計画では、これを大きく下回る数値目標が並んでいます。朝令暮改とは、まさにこのことです。女性活躍社会、本気でやる気があるのですか。答弁を求めます。

 今や、夫婦共働き世帯が当たり前の時代です。しかし、日本の社会保障制度や税制は、夫が働き、専業主婦が家庭を守るというモデルのままです。例えば、総理自身が示した配偶者控除の見直しなど、働き方、生き方に中立な税制、社会保障制度に根本から変える必要があります。安倍総理の答弁を求めます。

 昨年十二月の最高裁判決は、民法の夫婦同姓に関する規定は合憲としつつ、立法府の裁量の問題と指摘しました。

 民主党提出の選択的夫婦別姓法案は、夫婦別姓を強制するものではなく、別姓という選択肢を用意するものです。国際的に見ても、日本のように法律で夫婦同姓を義務づけている国は、まずありません。安倍総理が賛成できない理由について、答弁を求めます。

 アベノミクス三年の成果として、安倍総理は、雇用がふえ、給料が上がったと誇らしげに語っています。確かに、数字の中には評価できるものもあるでしょう。しかし、大多数の国民の実感は異なります。多くの調査結果で裏づけられているように、生活は厳しくなっているというのが現実です。

 安倍総理、謙虚に国民の声に耳を傾けるべきです。答弁を求めます。

 経済成長は重要です。そのためには、規制改革などの成長戦略によって民間投資を喚起し、生産性を高めなければなりません。いわゆる第三の矢です。具体的内容に違いはありますが、基本的な考え方は私と安倍総理で大きく変わりません。

 ただ、異次元の金融緩和によって円安、株高を実現し、その間に第三の矢によって持続的な経済成長を軌道に乗せるというのが当初のシナリオだったはずです。しかし、安倍政権下で生産性は上がっていません。他方で、最近は株価も不安定な動きを見せています。今こそ第三の矢に全力を挙げるべきではないですか。そうでないと、アベノミクス総崩れになります。安倍総理の答弁を求めます。

 私の経済政策と安倍総理の経済政策の根本的な違いは、経済成長の果実をどう分かち合うべきかの考え方にあります。私は、税制、社会保障政策によって公正な分配を実現することと経済成長を両立させることが重要であると考えています。また、公正な分配によって格差の壁を取り除き、人の持つ能力を最大限発揮できるようにすることは、持続的な経済成長にとって不可欠だと考えます。公正な分配なくして持続的成長なしです。

 これらの認識について、安倍総理はどうお考えでしょうか。あくまでも経済最優先なのでしょうか、それとも経済成長と公正な分配の両立ですか。答弁を求めます。

 安倍総理は、昨年二月、格差が拡大しているとの私の指摘に対し、格差が拡大しているかどうかは一概に申し上げられないと答弁しました。現実を見ない、誤った認識です。他方で、総理は最近、傾向としてはそれが進んでいるという状況はしっかりと把握していると答弁しました。認識が変わったということでしょうか。

 日本において格差が拡大しているのかいないのか、安倍総理の明快な答弁を求めます。

 格差是正、公正な分配のための具体策について提案します。

 家庭で十分な食事をとれない子供がふえています。給食のない夏休みに体重が減ってしまう子供が出始めていることに、私は心を痛めています。貧困の中で、学ぶことのできない子供もふえています。

 こうした子供たちを支援するための子供食堂や学習支援の試みが全国に広がっています。私も現場を見て、地域の人々や若者の行動に頭が下がるとともに、政治の手が届いていないということを実感しました。子供たちが今どんな状況にあるのか、総理にもぜひ現場を見ていただきたいと思います。

 子供の六人に一人が貧困状態にあります。市町村の就学援助を受けている子供の割合は一五%という高率です。子供の貧困の問題解決には、政治がしっかりとその責任を果たさなければなりません。この問題の解決なくして、一億総活躍など夢のまた夢です。

 民主党政権時に児童手当の対象を中学生まで拡大しましたが、一人当たりの支給額はいまだ十分ではありません。財源を確保しつつ、引き上げる必要があると考えますが、安倍総理の答弁を求めます。

 私は、昨年二月の代表質問で、日本の一人親家庭の貧困率が五割を超え、国として恥ずべき状況にあることを示しつつ、児童扶養手当の増額を提案しました。来年度予算案で私の提案を一部受け入れたことは評価しますが、全く不十分です。一日百円が二百円になっても、食事をとることすらままなりません。

 さらなる児童扶養手当の増額や支給対象年齢の引き上げが必要と考えますが、総理の答弁を求めます。

 ひとり暮らしの高齢者、とりわけ女性の貧困は深刻です。年金制度の持続可能性を考えて導入されたマクロ経済スライドは、私は基本的に必要だと考えていますが、大きな問題もあります。基礎年金が、将来、この制度によって、到底生活できないレベルにまで大幅にカットされる可能性が高いのです。年金の最低保障機能とマクロ経済スライドをどう調和させるか、早急な検討が必要です。安倍総理は同意されますか。答弁を求めます。

 過去二十年、政府は、所得税、相続税の累進性を弱め、格差を拡大してきました。特に、所得一億円を境に租税負担率が大きく低下することは問題です。これは、金融取引、すなわち株の売買利益などが分離課税され、総合課税になっていないことが原因です。現行二〇%の金融課税をまず二五%に引き上げることについて、安倍総理の答弁を求めます。

 今まで述べてきた、若者、女性、子供が直面している厳しい状況に、政治が正面から向き合うことが必要です。格差拡大が先進国共通の課題となる中、格差の少ない、世界のモデルとなる日本をつくり上げようじゃありませんか。

 当然、そのためには財源が必要です。まず、今述べたように、金融課税を二五%に引き上げること、中長期的には、所得税、相続税の累進強化、そして、高齢世代であっても、負担能力のある方々には働く世代と同様な負担を求めることで対応すべきです。

 この格差是正のための税制改革を安倍総理はどう考えますか。答弁を求めます。

 今の日本は、非正規の働き方が拡大する一方、正規社員は長時間労働に苦しめられています。一人一人を大切にする日本を実現し、若者や女性が安心して働ける環境をつくるためにも、日本人の働き方を根本から見直す大改革が必要です。

 今や、非正規で働く人々は全体の四割です。この二十年間で倍増しました。多様な働き方はあっていいのですが、正規雇用を希望しながら不安定な働き方を選ばざるを得ない人々が多いことは、日本の将来にとっても極めて問題です。初めて就職した職が非正規雇用だという人が、男性で三割、女性では五割です。そして、非正規雇用者の三人に一人が世帯の中の主たる稼ぎ主です。

 事態は深刻であるとの認識が安倍総理には足りないのではないですか。答弁を求めます。

 昨年、労働者派遣法改正に当たり、安倍総理は、派遣で働く人々が正規社員として働くことにつながると繰り返し強調しました。私は、全く逆に、正規の働き方が減ることを強く懸念しています。ここ数年間の状況を見きわめ、総理の見方が誤っていることが明らかになった場合には、直ちに派遣法の再改正を行うことを約束してください。安倍総理の答弁を求めます。

 安倍総理は施政方針演説で、同一労働同一賃金の実現に踏み込むと明言しました。均等待遇を実現すべきとの我々の主張に耳を傾けたとすれば評価します。しかし、同じ演説の中で、非正規雇用者の均衡待遇の確保に取り組むとしています。これでは同一労働同一賃金とは言えません。どちらが本当なのでしょうか。安倍総理の答弁を求めます。

 働き方改革のいま一つの柱は、長時間労働の解消です。

 安倍総理は、介護や保育のための施設整備を推進しています。私も施設整備は必要だと考えています。しかし、先進国最悪レベルの長時間労働こそが、仕事と家庭の両立を阻み、介護離職、育児離職、少子化の深刻な原因であると考えています。さらには、女性の社会進出を阻むことにもなっています。安倍総理はこの認識を共有しますか。答弁を求めます。

 労働基準法改正案には、裁量労働制の適用拡大や、いわゆる高度プロフェッショナル制度の創設が含まれています。長時間労働が蔓延する日本において、さらに長時間労働を常態化する可能性があります。介護や子育てと働くこととの両立を不可能にするとともに、過労死のリスクを高めるもので、到底容認できません。安倍総理の答弁を求めます。

 多様な働き方の実現は重要です。しかし、まず行うべきは、日本人の働き方を根本から変えるために、最小限の労働時間規制を行うことです。総労働時間の規制、終業から始業までに一定時間を確保する労働時間インターバル規制、毎週必ず休日を取得させる絶対的週休制などを法制化すべきです。これらの必要性について、安倍総理の答弁を求めます。

 私は、原理原則主義者と言われることがあります。必ずしもそうではないと自分では思っていますが、財政規律、この原則だけは曲げるわけにはいきません。それは、子供や若者、未来の世代への責任を果たさなければならないと考えるからです。

 施政方針演説の中に財政健全化について具体的言及がなかったことは、内閣総理大臣として無責任です。日本の持続可能性について、最も重要な課題から逃げることは絶対に許されません。

 まず、経済成長と財政健全化を両立しなければなりません。安倍総理は経済成長なくして財政健全化なしと強調していますが、財政健全化なくして持続的な経済成長は可能とでもお考えなのでしょうか。両立か経済成長優先か、明確な答弁を求めます。

 今までの自民党政治の失政の結果、日本は巨額の借金を抱えています。二〇二〇年度基礎的財政収支黒字化は、財政健全化の第一歩にすぎないのです。政府の試算でも、名目三%以上の楽観的な経済成長を前提とした上で、さらに六・五兆円の調整が今後必要とされています。二〇二〇年度に向けた具体的な財政健全化計画は、いつ明らかにするのですか。責任ある答弁を求めます。

 財政健全化は国力の源です。財政を再建する確固たるプランを持たずして、国民が安心して消費し、企業が積極的に投資することは考えられません。社会保障制度の維持や防衛力の整備など、国民の命と暮らしを守ることすら困難になります。

 我々は、歳出改革、成長戦略、歳入改革の三本柱で、着実に財政健全化を進めるための財政健全化推進法案をこの国会に提出します。政府も同様の法案を準備すべきです。安倍総理の答弁を求めます。

 消費税の引き上げは、これ以上先送りすることはできません。しかし、税制抜本改革法には、行政改革の推進をその前提として明記しています。今後一〇%への引き上げ決定までに、行政改革に総力を挙げることを約束してください。安倍総理の答弁を求めます。

 極めて危険な状況にある沖縄普天間基地の移設は重要課題です。

 しかし、国の強硬な進め方が沖縄の人々の感情を刺激し、沖縄と本土の歴史的なあつれきの再来とも指摘されています。極めて憂慮すべき事態です。

 辺野古における工事を直ちに中断すべきです。その上で、話し合いを再開し、国と沖縄県双方の信頼関係を築くことから始めなければならないと私は考えます。安倍総理の答弁を求めます。(発言する者あり)

議長(大島理森君) 御静粛に願います。

岡田克也君(続) 間もなく東日本大震災から五年を迎えます。

 安倍総理の施政方針演説は、復興の明るい側面を殊さらに強調したものでした。しかし、仮設住宅で寒い冬を過ごす高齢者、故郷に戻るめどが立たない家族、子供たちへの放射線被害を心配する若い母親など、今も被災地は大きな苦しみの中にあります。総理の演説からは、そういった被災者一人一人への思いが伝わってこないのです。

 誰一人置き去りにしない復興を目指す、そのことこそ政治の責任だと私は考えます。安倍総理は同意されるか、答弁を求めます。

 昨年七月に決定された長期エネルギー需給見通しでは、二〇三〇年時点で電力に占める原子力発電の割合は二割とされています。これは、四十年廃炉原則を前提とする限り、あり得ない数字です。

 民主党は、原子力発電所の新増設を行わないことを決定しています。原発の新増設を認めるのか否か、エネルギー政策の根幹にかかわることであり、安倍総理は国民に明確にすべきです。正直な答弁を求めます。

 日米同盟の深化を図りつつ、専守防衛に徹し、近くは現実的に、遠くは抑制的に、人道支援は積極的にというのが民主党の安全保障政策の基本的考え方です。この観点から、領域警備法の制定、周辺事態法の改正、PKO法の改正が必要と考えており、今国会にこれらの法案を提出することを決定しています。

 また、存立危機事態に集団的自衛権の行使ができるとの安倍政権の考え方は憲法違反です。憲法違反の法律の存在は認められず、安全保障関連法廃止法案をこの国会に提出します。

 これらの我々の提案に真摯に耳を傾けることを求めます。いまだ政府の説明に納得していない多くの国民にも説明を尽くすべきです。このため、今国会で安全保障をめぐる議論を深める機会を改めて確保しなければなりません。安倍総理は賛同されますか。答弁を求めます。

 国際平和支援法は、我が国が主体的かつ積極的に寄与する必要があるものについて、外国軍隊に対する協力支援活動を行うことができるとしています。

 安倍総理は、ISILに対する有志連合の空爆支持を表明する一方、自衛隊は派遣しないとしています。私も自衛隊を派遣しないという結論には賛成です。しかし、法律を成立させた安倍総理には、なぜ主体的かつ積極的に寄与する必要がないと判断しているのか、そして、いつまでその判断は維持されるのか、国の内外に説明する責任があります。参議院選挙後に突然方針転換する可能性も含め、安倍総理の明快な答弁を求めます。

 二〇一四年五月にストックホルム合意が成立し、政府は北朝鮮に対する独自の制裁措置を解除しました。しかし、拉致問題は何ら進展なく、その間、北朝鮮の核開発は着々と進んでいたのです。他方で、北朝鮮対応において極めて重要な中国、韓国との関係は、首脳会談もままならない状態が続いていました。そういう状況下で、今月六日の北朝鮮の無謀な核実験があったのです。

 安倍総理、あなたは、北朝鮮の核開発に対して全く無策だったのです。その自覚と反省はありますか。答弁を求めます。

 憲法改正について、国民の皆さんに申し上げます。

 安倍総理は、夏の参議院選挙で憲法改正発議に必要な三分の二以上の議席を改憲勢力で確保することを目指す考えを明らかにしました。国民の皆さんには、今、日本が大きな分岐点にあることを強く認識していただきたいのです。

 私は、日本国憲法を時代の変化に適応させ、改正することを否定するものではありません。しかし、憲法は権力者の権力濫用から国民を守るものだという立憲主義の基本を理解しない安倍総理のもとでの憲法改正は極めて危険です。権力者にとって都合のいいように憲法が変えられるおそれがあるからです。まず、安倍総理の立憲主義に対する認識を問いたいと思います。答弁を求めます。

 自民党の憲法改正草案では、緊急事態条項を規定しています。しかし、曖昧な要件のもと、緊急事態宣言が発せられると、内閣総理大臣に権限が集中し、法律と同一の効力を持つ政令によって基本的人権を制約することが可能となります。民主主義の根幹を揺るがしかねない問題であるとの認識が、安倍総理にはあるのでしょうか。また、現行憲法で、具体的に何が足らずにそういったことができないとお考えなのでしょうか。答弁を求めます。

 自民党草案は、九条を改正して、限定のない集団的自衛権の行使を認めるものです。日本自身の海外での武力行使に大きく道を開くことになります。専守防衛や海外派兵禁止という考え方もなくなり、内外の多くの人命を奪ったさきの大戦の反省に基づく憲法の平和主義を実質的に捨て去るものです。何のために限定のない集団的自衛権が必要なのか、明確な答弁を求めます。

 これらの憲法改正、いや、改悪に道を開くことにもなるかもしれない、それがこの夏の参議院選挙です。戦後七十年、日本の民主主義、立憲主義、平和主義の重大な分岐点であるという認識を、国民の皆さん一人一人にはしっかりと持っていただきたいと思います。

 二〇〇九年夏、私たちは政権を担うことになりました。志を持って大きな課題に挑戦しましたが、国民の期待に十分に応えることはできませんでした。いろいろ足らざる点はありましたが、何よりも、日本が直面している困難に正面から立ち向かい、国民を説得し、乗り越えるだけの覚悟が足らなかったことを深く反省しています。

 しかし、私たちの志は不変です。根底にあるのは、一人一人を大切にする政治を実現したいという強い思い、そして、何としても安倍総理の暴走をとめなければいけないという危機感です。今こそ、日本が直面している多くの困難を先送りせず、正面から立ち向かう、国民に正直で真面目な政治が必要です。

 安倍総理、私は、冒頭、安倍政治は本当の課題解決を先送りするばらまき政治であると強調しました。同時に、あなたは、戦後七十年、私たちの先人たちが築いてきた基本的人権の尊重や平和主義を、深い洞察もなく変えようとしています。あなたの挑戦は、方向が全く間違っているのです。

 国民の皆さん、国民に正直で真面目な政治か、それとも安倍政治か。最終的には国民の皆さんの選択です。しかし、私は、ここで道を誤ってはならない、ここで道を誤ってはならないと声を大にして申し上げたい。

 皆さん一人一人に、次の世代に恥じない判断をしていただきたい。若者や女性、そして今まで政治と距離を置いてきた人々が、危機感を持って声を上げています。私も、覚悟を持って安倍政治と戦っていく、そのことをお約束して、私の提案並びに安倍総理に対する質問といたします。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 岡田克也議員から、三十五問質問をいただきました。できるだけ丁寧に、簡潔にお答えをしようと思います。

 閣僚の説明責任、任命責任についてお尋ねがありました。

 組閣に当たって適材を適所の閣僚に任命し、国政を力強く前進させる責任は、もとより総理大臣たる私にあります。そして、政治資金等の問題については、内閣、与党、野党を問わず、一人一人の政治家が政治家としての責任を自覚し、国民に不信を持たれないよう、常に襟を正し、説明責任を果たしていかなければならないと考えております。

 甘利大臣におかれても、まず事実関係をしっかりと調査し、国民に対してきちんと説明責任を果たしていただきたいと考えております。

 被選挙権年齢の引き下げについてお尋ねがありました。

 被選挙権年齢の引き下げの取り扱いは、まさに民主主義の土台である選挙制度の根幹にかかわる事柄であることから、各党各会派においてしっかり御議論いただき、結論を得るべき問題であると考えています。

 大学の授業料減免、奨学金についてのお尋ねがありました。

 子供たちの未来が家庭の経済事情によって左右されるようなことがあってはなりません。来年度予算においては、大学等の無利子奨学金を一・四万人増員、授業料減免を五千人増員するとともに、卒業後の所得に応じて返還額が変わる所得連動返還型奨学金制度の導入に向け、準備を進めています。

 今後とも、これらの施策により、学生の経済的負担を軽減し、希望すれば誰もが大学等に進学できる環境を整えてまいります。

 なお、給付型奨学金については、財源の確保や対象者の選定など、導入するにはさらに検討が必要と考えております。

 LGBTに関する法案についてのお尋ねがありました。

 LGBTと言われる性的少数者に対する偏見や不合理な差別があることはまことに残念なことでありますが、政府としては、今後の国民的な議論の深まり等も踏まえ、慎重に検討する必要があると考えております。

 今後とも、こうした偏見をなくし、一人一人の人権が尊重される豊かで安心できる成熟した社会を実現するため、教育や啓発の充実、個別事案に対する適切な対応に努めてまいります。

 女性の活躍推進についてお尋ねがありました。

 女性活躍は、一億総活躍社会の中核として、引き続き安倍内閣にとって最大のチャレンジです。

 社会のあらゆる分野において、二〇二〇年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも三〇%程度となるよう期待するという目標は、十三年前の二〇〇三年に掲げられました。これを政府の最重要課題として強力に推進したのは、第二次安倍政権が初めてでありました。この約三年で、新たに約百万人の女性が労働市場に参加し、企業における女性の役員が三割増加するなど、女性の活躍は大きく前進しています。

 昨年十二月に閣議決定した第四次男女共同参画基本計画に示すとおり、二〇二〇年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも三〇%程度となるよう期待し、政府として引き続きあらゆる努力を行っていくことは当然であります。

 その上で、女性参画がおくれている分野においては、まずは、採用される女性の割合を高め、指導的立場にふさわしい経験を積ませ、将来、指導的地位に成長していく女性の候補者をふやしていきます。現実に即した着実な取り組みにより、三〇%目標を達成できる道筋を、この五年間でつけてまいります。

 働き方に中立な税制や社会保障制度についてのお尋ねがありました。

 配偶者控除については、配偶者の就労を抑制する効果があるとの指摘や家庭における配偶者の貢献を評価すべきとの指摘を総合的に勘案しつつ、家庭のあり方や働き方について国民的議論を行いながら、十分に検討していくべき問題であると考えており、政府税制調査会や与党税制調査会において、引き続き検討されるものと考えています。

 社会保障制度に関しては、被用者保険の適用拡大を推進することにより、主婦の方を含め、短時間労働者の労働参加を促進するとともに、将来受け取る年金を充実させていきます。

 その際、キャリアアップ助成金を活用して事業主に対する支援を行うことで、適用拡大を円滑に進めてまいります。

 選択的夫婦別氏制度についてのお尋ねがありました。

 夫婦の氏の問題は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題を含め、我が国の家族のあり方に深くかかわる問題であり、国民の間にもさまざまな意見があります。そのため、最高裁判決における指摘や国民的な議論の動向を踏まえながら、慎重に対応する必要があると考えております。

 アベノミクスの評価についてお尋ねがありました。

 アベノミクス三本の矢の政策により、デフレではないという状況をつくり出す中で、就業者数は百十万人以上増加し、賃上げ率は二年連続で大きな伸びとなり、パートで働く方々の時給は二十二年間で最高の水準となるなど、雇用・所得環境は確実に改善しております。

 確かに、例えば厚生労働省が実施した平成二十六年国民生活基礎調査において、生活意識の状況が、苦しいと感じる世帯の割合が上昇傾向となっていることは承知しております。

 他方、昨年八月に公表された内閣府の国民生活に関する世論調査に基づけば、安倍政権発足後の生活意識と民主党政権時代の生活意識を比較して、現在の生活について、満足と回答した割合が七〇・五%へと、民主党政権時代よりも五ポイント上がり、不満と回答した割合が二八・五%へと、民主党政権時代より五ポイント下がっております。

 いずれにせよ、国民の皆さんに景気回復を実感していただけるよう、きめ細かく目配りをしながら、経済の好循環をしっかりと回してまいります。

 成長戦略についてお尋ねがありました。

 成長戦略については、これまで、農業、医療、エネルギーといった分野における岩盤規制を初めとした改革に、大胆かつスピード感を持って取り組んでまいりました。

 農業分野では、国家戦略特区において他業種からの参入が増加しています。本年四月からは、全国で参入規制が緩和されます。

 医療・介護分野では、再生医療製品の実用化までの期間が短縮され、海外の再生医療関連企業の日本市場への参入も相次いでいます。また、患者の申し出を起点として先進的な医療を迅速に受けられるようにする新たな制度、患者申し出療養を導入しました。

 エネルギー分野では、本年四月から電力小売が全面自由化されます。この市場規模は、一般家庭、商店、事業所等を合わせて約八兆円に上ります。消費者の八割が電力会社の切りかえを検討する意向です。

 未来投資に向けた官民対話においては、無人自動走行、ドローン、人工知能など、有望投資分野における規制改革や制度構築の方針を打ち出しています。

 規制改革に終わりはありません。今後とも、経済効果が高いものを中心に取り組んでまいります。

 成長と分配についてお尋ねがありました。

 政府がどれだけ所得再配分を繰り返しても、持続的な経済成長を通じて富を生み出すことができなければ、経済全体のパイも個人の所得も減っていくと考えられます。

 アベノミクス三本の矢の政策により、名目GDPが二十八兆円増加し、税収は、国、地方合わせて二十一兆円ふえました。こうした経済成長の果実を生かして子育て支援や社会保障の充実を行うことにより安心できる社会基盤を築き、その基盤のもとにさらなる経済成長を実現していくことができるようになると考えております。成長によって分配が可能となり、分配によって持続的な成長が可能となる、こうした成長と分配の好循環を生み出していくことが私の目指す一億総活躍という社会像であります。

 格差の現状認識についてお尋ねがありました。

 昨年二月の本会議においては、岡田委員からは相対的貧困率などを挙げて質問をされたので、格差に関する指標はさまざまであり、格差が拡大しているかどうかについては一概に申し上げられませんがとお答えした上で、岡田委員が言及されなかった、格差に関する代表的指標であるジニ係数について、例示として申し上げました。ジニ係数の動向を見ると、我が国の場合、当初の所得に比較して、税や社会保障による再分配後の所得の格差はおおむね横ばいで推移しています。

 他方、相対的貧困率については、二〇一二年までのデータであり、第二次安倍政権以降における状況を示すものではありませんが、厚生労働省国民生活基礎調査及び総務省全国消費実態調査のどちらで見ても、長期的な傾向としてはおおむね緩やかに上昇しています。

 いずれにせよ、安倍内閣では、経済再生に取り組む中で、格差が固定化しないよう、特に雇用環境の改善や社会保障の見直しを引き続き行ってまいります。

 児童手当の拡充についてお尋ねがありました。

 児童手当については、平成二十三年八月の民主党、自由民主党及び公明党の三党合意に基づく法改正により、現行の給付設計となっているものであります。

 若い世代への支援については、平成二十七年度補正予算や来年度予算案において、保育サービス充実、教育費負担軽減、児童扶養手当の拡充を行うなど、国、地方合わせた公費ベースで七千億円の子育て支援の拡充を盛り込みました。限られた財源の中で、現物給付と現金給付のバランスも踏まえつつ、子育て世帯に対する支援を強力に進めてまいります。

 児童扶養手当についてのお尋ねがありました。

 子供たちの未来が家庭の経済事情によって左右されるようなことがあってはなりません。経済的にもさまざまな困難を抱えている一人親家庭や子供の多い世帯にはきめ細かな支援が必要です。このため、昨年十二月に、ひとり親家庭・多子世帯等自立応援プロジェクトを取りまとめました。就業による自立に向けた支援を基本としつつ、総合的な取り組みを充実することとしています。

 具体的には、児童扶養手当については、限られた財源の中で、特に、経済的に厳しい家庭に重点を置いて、子供が二人以上の一人親家庭の加算額を倍額にするよう最大限の努力をしたところであります。

 児童扶養手当の支給対象年齢については、高校進学率が九割を超え、卒業までの間、実質的に稼得能力がないことを考慮したものであり、その年齢の引き上げについては、大学に行かず、高校を卒業して就職する道を選ぶ方とのバランス等を踏まえる必要があるため、十八歳の年度末までとしています。

 一人親家庭を含む子供の大学等への進学機会の確保については、奨学金の充実等により教育費負担の軽減を図ることとしています。こうした取り組みの充実を通じて、一人親家庭等の自立の促進に全力で取り組んでまいります。

 マクロ経済スライドについてお尋ねがありました。

 平成二十六年の財政検証では、マクロ経済スライドの調整終了後においても、新たに年金を受給される方の所得代替率は五〇%が確保されることを確認しています。

 このマクロ経済スライドは、平成十六年の改革により、将来世代の負担を過重にしないため、将来の保険料水準を固定し、その範囲内で給付水準を調整する仕組みとして導入されたものであります。このような仕組みは、基礎年金を含め、公的年金制度全体に共通する考え方であります。

 こうしたマクロ経済スライドを含む現行制度のもと、年金額が低い方や年金が受けられない方への対応として、社会保障・税一体改革における三党協議を踏まえ、低所得、低年金の高齢者に対する福祉的な給付、年金の受給資格期間の短縮、医療、介護の保険料負担軽減など、社会保障全体を通じた対応を講じています。

 また、将来の年金世代への対応として、被用者年金の適用拡大や企業年金等の拡充などにより、所得保障にしっかりと取り組んでまいります。

 金融課税についてお尋ねがありました。

 金融所得に係る分離課税の税率に関しては、平成二十六年から、上場株式等の配当及び譲渡益について、一〇%の軽減税率を廃止し、二〇%の本則税率としたところであります。

 今後の税率の水準については、経済社会の情勢の変化や税制全体のあり方の中での位置づけ等も踏まえつつ検討する必要があるものと考えています。

 格差是正のための税制改正についてのお尋ねがありました。

 安倍内閣においては、税制について、再分配機能の回復を図るため、所得税の最高税率引き上げ、給与所得控除の見直し、金融所得課税の見直し、相続税の最高税率の引き上げ等を講じ、逐次実施しているところであり、まずはこうした見直しの影響を見ていく必要があります。

 その上で、経済がグローバル化する中で、高所得者が高額の税負担を避けて資金や人材が流出するといった事態にも十分配慮し、議論を進めていく必要があります。

 いずれにせよ、税制の再分配機能のあり方については、経済社会の構造変化も踏まえながら、引き続きよく考えてまいります。

 非正規雇用に対する認識についてお尋ねがありました。

 正社員を希望する非正規の方の正社員への転換、非正規で働く方の待遇の改善など、働く方々がその能力を発揮できる社会をつくることは重要であります。

 我が国の雇用環境は、安倍政権下では着実に改善しています。

 まず、働き盛りの五十五歳未満では、平成二十五年から十一四半期連続で、非正規から正規に移動する方が正規から非正規になる方を上回っており、正規雇用への移動の動きも見られます。

 これに加え、正規雇用が増加に転じており、正社員の有効求人倍率は昨年十一月で〇・七九倍と、平成十六年の調査開始以来最高となっています。

 さらに、不本意ながら非正規の職についている方の割合は低下傾向にあり、対前年同期比で七四半期連続で低下しています。

 しかしながら、このような方がおられるのも事実であり、今回の補正予算及び来年度予算でも、非正規から正社員への転換などを行う事業主へのキャリアアップ助成金の拡充など、企業における正社員転換や待遇改善の強化を進めることとしています。

 今後とも、経済成長を進め、雇用環境の整備に全力で取り組むことにより、非正規から正規への流れを一層加速化させてまいります。

 労働者派遣法の改正についてお尋ねがありました。

 さきの通常国会で成立をした労働者派遣法改正法は、派遣元に対し、派遣期間が満了した場合の雇用安定措置や計画的な教育訓練を義務づけるなど、正社員を希望する方にその道が開けるようにするとともに、派遣を積極的に選択している方については、賃金等の面で派遣先の責任を強化するなど、待遇の改善を図るものであります。

 改正法の施行状況についてはしっかりと注視し、その目的が達成されるよう努めてまいります。改正法附則にもあるように、必要な場合には、速やかに検討を加えてまいります。

 同一労働同一賃金と均等待遇などについてお尋ねがありました。

 均等待遇、均衡待遇が何かについてはさまざまな解釈がありますが、均等待遇とは、仕事の内容や経験、責任、人材活用の仕組みなどの諸要素が同じであれば同一の待遇を保障すること、均衡待遇とは、仕事の内容や経験、責任、人材活用の仕組みなどの諸要素に鑑み、バランスのとれた待遇を保障することと捉えています。

 これまで我が国において、均等・均衡待遇の確保を直ちに図ることについては課題があるとして、そのあり方について調査研究を行ってきました。その上で、非正規雇用で働く方の均衡待遇の確保に取り組んできたところであり、この点についてさらに取り組みを強化してまいります。

 しかし、女性や若者などの多様な働き方の選択を広げるためには、非正規雇用で働く方の待遇改善をさらに徹底していく必要があり、働き方改革として、ニッポン一億総活躍プランでは、同一労働同一賃金の実現に踏み込むこととしました。

 その策定に当たっては、一億総活躍国民会議の場において、先ほど申し上げた均衡待遇にとどまらず、均等待遇を含めて検討いただきます。我が国の雇用慣行に留意しつつ、待遇の改善に実効性のある方策を打ち出したいと考えております。

 長時間労働の認識についてのお尋ねがありました。

 長時間労働の是正は、非正規労働者の待遇改善、高齢者雇用の促進と並び、今般のニッポン一億総活躍プランにおいて取り上げるべき働き方改革の大きな課題と考えています。

 欧州諸国と比較して、我が国の年平均労働時間は長く、かつ、時間外労働を行っている労働者の割合も高くなっています。長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因となっているものと考えています。

 この春取りまとめるニッポン一億総活躍プランにおいては、働き方改革の一つとして、長時間労働の是正を重要な柱の一つとして位置づけ、法規制の執行強化を含めて、実効的な具体策を盛り込んでまいります。

 労働基準法改正案についてのお尋ねがありました。

 現在提出している法案における、時間ではなく成果で評価する制度の創設や裁量労働制の見直しに当たっては、対象となる方の健康を確保するための厳しい措置を義務づけるとともに、こうした措置の実施を企業に対して徹底してまいります。

 このように、本法案は、長時間労働を是正し、働く人の健康を確保しつつ、その意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とするものであり、過労死のリスクを高めるものとの批判は全く当たりません。

 労働時間規制についてお尋ねがありました。

 長時間労働を抑制し、休暇を確実に取得できるようにすることは、働き過ぎの防止の観点から非常に重要と考えております。

 このため、現在提出している労働基準法改正案では、働き過ぎを防止するため、企業に対し、働く人の意見を聞いて休暇を指定することの義務づけ、中小企業における時間外労働への割り増し賃金率の引き上げを行うとともに、企業の自主的な取り組みを促すことにより、総労働時間の短縮や終業と始業の間のインターバルの確保を推進することとしております。

 さらに、この春取りまとめるニッポン一億総活躍プランにおいては、働き方改革の一つとして、長時間労働の是正を重要な柱の一つとして位置づけ、法規制の執行強化を含めて、実効的な具体策を盛り込んでまいります。

 経済再生と財政健全化についてお尋ねがありました。

 安倍内閣の基本方針は、経済成長なくして財政健全化なしですが、経済成長のみで財政健全化が達成できるとは考えておりません。これまでも、強い経済の実現を目指した取り組みを進めることにより、税収を増加させるとともに、社会保障の改革を含め、徹底的な重点化、効率化など歳出削減にも取り組んできたところであります。

 財政健全化は、社会保障制度の安定による国民の安心感の醸成を通じて消費を活性化するとともに、市場の信認の確保を通じて金利動向を安定させるなど、経済成長にも寄与するものと考えております。その意味で、経済成長と財政健全化をしっかり両立させることが必要であることは言うまでもありません。

 ただ、経済成長がなければ税収も上がらず、財政健全化ができないということは強調しておきたいと思います。

 財政健全化計画についてお尋ねがありました。

 安倍内閣では、経済再生と財政健全化を両立させながら二〇二〇年度の財政健全化目標の実現を目指すこととし、昨年六月に経済・財政再生計画を策定しました。目標達成に向けては、成長戦略を着実に実施することで名目三%以上の経済成長を目指すとともに、歳出改革を着実に推進してまいります。

 また、計画の中間時点である二〇一八年度において改革の進捗状況を評価することとしており、必要な場合は、デフレ脱却・経済再生を堅持する中で、歳出歳入の追加措置等を検討し、二〇二〇年度の財政健全化目標を実現することとしています。

 財政健全化のための法案についてお尋ねがありました。

 財政健全化が重要な課題であることは御指摘のとおりです。その実効性の確保については、法制化という手段そのものよりも、今年度の予算を基礎的財政収支の赤字半減目標を達成する予算としたように、政府として定めた目標を堅持し、責任を持ってこれを実現していくことこそが重要であると考えています。

 今後とも、二〇二〇年度の基礎的財政収支の黒字化目標に向けて、デフレ脱却・経済再生、歳出改革、歳入改革にしっかり取り組んでまいります。

 行政改革についてのお尋ねがありました。

 安倍内閣においては、行政改革を不断に進めてきたところです。これまで、行政事業レビューにより、基金について、総額で五千億円を超える国庫返納予定額を確保し、特別会計の統廃合を実施し、独立行政法人改革について、制度と組織の両面にわたる抜本的な改革を行うなど、着実に実績を上げてまいりました。

 今後とも、行政改革に総力を挙げて取り組んでまいります。

 なお、来年四月の消費税率一〇%への引き上げは、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り、確実に実施します。経済の好循環を力強く回すことにより、そのための経済状況をつくり出してまいります。

 普天間飛行場の移設についてお尋ねがありました。

 住宅や学校で囲まれ、市街地の真ん中にある普天間の固定化は、絶対に避けなければなりません。これは、政府と沖縄県との共通認識であると考えています。

 沖縄県との間では、昨年、一カ月にわたり集中的に協議を行い、安倍内閣としての負担軽減や沖縄振興にかける思いを申し上げました。

 対話の窓を閉ざすべきではないということも政府と沖縄県との共通認識であり、今後とも協議を継続していく考えです。

 同時に、普天間の一日も早い全面返還を実現するため、辺野古への移設を着実に進めていきます。

 今後とも、政府の取り組みについて説明を尽くし、御理解を得るための努力を続けてまいります。

 東日本大震災からの復興についてお尋ねがありました。

 被災地では、住まいの再建やなりわいの再生が着実に進展し、復興は新たなステージを迎えつつあります。

 その一方で、今なお多くの方々が、住みなれた家やふるさとから離れて、厳しい冬を仮設住宅で暮らさなければならないという状況に置かれていることも重々承知しております。

 被災者の方々の中には、避難生活の長期化に伴うストレスを抱えておられる方、住宅、生活の再建に不安を抱えておられる方、原子力事故災害によりふるさとを離れて暮らすことを余儀なくされておられる方など、さまざまな状況に置かれている方々が数多くいらっしゃいます。

 私自身、被災地を訪問し、こうした方々が置かれた厳しい状況を直接受けとめてまいりました。その上で、一日も早い復興の実現に向け、復興の加速化に取り組んできたところであります。

 今後とも、被災者の方々一人一人の心に寄り添い、一日も早く安心して暮らすことができるよう、全力を尽くしてまいります。

 原発の新増設についてお尋ねがありました。

 民主党政権時代に改正された原子炉等規制法のもとでは、原発を運転できる期間は、原子力規制委員会が科学的、技術的に審査し、世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合し、運転に伴う経年劣化を考慮した上で、延長期間中、同基準への適合を維持すると認めた場合には、四十年を、一度に限り二十年まで延長することが認められています。

 昨年策定した長期エネルギー需給見通しにおいては、これも踏まえて、二〇三〇年時点での原発比率を二〇%から二二%としております。

 原発の新増設については、現時点では想定しておりません。

 平和安全法制と安全保障をめぐる議論についてお尋ねがありました。

 いかなる事態においても国民の命と平和な暮らしを守り抜く、これは政治の最も重い責任であり、与党も野党もありません。

 戦後最長となる延長を行い、平和安全法制に関して二百時間を超える審議が行われたさきの通常国会において、民主党が、集団的自衛権や重要影響事態への対応、国際平和協力といった重要課題について、対案を提出されなかったことは残念であります。

 今国会に法案を提出されるのであれば、全体像を一括して示していただきたいと思います。

 平和安全法制は、憲法に合致したものであることは言うまでもありません。政府としては、引き続き、国民の皆様のさらなる御理解をいただけるよう、丁寧な説明に努めてまいります。

 他方、議員立法や国会審議に関することは、国会において御判断いただくべきものと考えています。

 我が国を取り巻く環境が一層厳しさを増す中、安全保障政策は極めて重要です。今後とも、現実を直視し、みずからの政策、立場を明確にした上で、真摯に建設的な議論を行っていきたいと思います。

 ISILへの対応に関する政策判断についてのお尋ねがありました。

 我が国は、難民、国内避難民に対する食糧人道支援など、我が国ならではの支援を拡充し、非軍事分野において、国際社会における我が国の責任を果たしていくことが適切であると考えています。

 政府としては、このような政策判断として、ISILに対する軍事作戦に参加する考えはなく、ISILに対する軍事作戦に対して後方支援を行うことも全く考えていません。

 このような判断は、見通し得る将来にわたり、変わることはありません。

 北朝鮮問題についてお尋ねがありました。

 我が国は、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決すべく、対話と圧力、行動対行動の原則を貫き、関係国とも緊密に連携してきました。

 特に、拉致問題の解決は、安倍政権の最重要課題です。これまでかたく閉ざされていた交渉の窓を何とかこじあけ、困難な交渉を進めてきたところです。

 核問題については、日米、日米韓の連携を堅持するとともに、日中韓の枠組みでも緊密に連携してきました。

 例えば、昨年十一月の日中韓サミットでは、朝鮮半島における核兵器の開発に対して、確固たる反対を再確認し、国連安保理決議や六者会合の共同声明が誠実に実施されるべきであるとの強いメッセージを発出しました。

 このような国際社会からのたび重なる働きかけにもかかわらず、北朝鮮が核実験を強行したことは、断じて容認できません。

 新たな安保理決議に実効的な措置を盛り込むとともに、我が国独自の厳しい措置についても、毅然かつ断固たる対応を行っていきます。

 立憲主義についてお尋ねがありました。

 立憲主義とは、主権者たる国民が、その意思に基づき、憲法において国家権力の行使のあり方について定め、これにより国民の基本的人権を保障するという近代憲法の基本となる考え方であり、日本国憲法も同様の考え方に立って制定されたものと考えています。

 立憲主義にのっとって政治を行うことは当然であり、安倍内閣においても、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を基本原則とする憲法のもとで、引き続き、国民の命と平和な暮らしを守る責任を果たしてまいります。

 自由民主党憲法改正草案における緊急事態条項、第九条についてのお尋ねがありました。

 憲法改正草案は、自由民主党として将来のあるべき憲法の姿を世の中にお示ししたものですが、その個々の内容について政府としてお答えすることは差し控えさせていただきます。

 憲法改正の具体的な内容は、国会や国民的な議論と理解の深まりの中で定まってくるものであると考えています。

 国民主権、基本的人権の尊重、平和主義など、現行憲法の基本原理を維持することは当然の前提として、新しい時代にふさわしい憲法のあり方について、国民的な議論と理解が深まるよう努めてまいります。(拍手)

    ―――――――――――――

議長(大島理森君) 谷垣禎一君。

    〔谷垣禎一君登壇〕

谷垣禎一君 私は、自由民主党を代表して、安倍内閣総理大臣の施政方針演説に対し質問いたします。(拍手)

 まず冒頭、一月十五日の未明に発生した長野県下のバス転落事故により、大学生など十五名もの方々が命をなくされたことに、心より哀悼の意を表します。御家族、また御友人などの気持ちに思いをいたすとき、何とも残念であり、痛ましくてなりません。将来ある若い有為な方々が犠牲になった今回のような事故を二度と起こしてはなりません。

 大型バスをめぐっては、この事故を追うように各地で事故が相次いでおります。

 現象には必ず原因があります。訪日観光客の激増による大型バス需要の増加、経年バスの使用、ドライバーの人員不足と経験不足、労務管理の緩み、さらには当局の監督や指導のあり方など、政府も抜本的な対策に本腰を入れて取り組まなければなりません。

 再発防止に向けた取り組みについて、総理に伺います。

 安倍内閣が発足して三年がたちました。民主党政権のもとで混乱をきわめ、国家的な危機に直面していた中、安倍内閣は、日本を取り戻すとの強い決意のもと、日本を取り巻く山積する課題に対して、安定的かつ着実に政策を実行し、多くの成果を上げてまいりました。

 三本の矢から成るアベノミクスによって、雇用は百十万人以上ふえ、十七年ぶりの高い賃上げも実現するなど、景気回復が雇用の増加や賃金の上昇につながり、それが消費の増加に結びつくという経済の好循環が着実に回り始めております。地方経済も、安倍内閣発足以降、有効求人倍率が全ての地域で上昇し、賃上げを実施する企業も地方でも増加しており、雇用や所得における改善は着実に地方へも広がっており、デフレ脱却まであと一息のところまで参りました。

 最近は、新興国経済の勢いに陰りが見え始め、原油安や中国経済の減速、中東地域や北朝鮮問題の地政学リスクの高まりなどにより、世界経済は不透明感を増しております。金融市場の混乱が、各国の投資家を不安にもさせております。日本経済は堅調であるものの、海外経済の影響を材料視した思惑によって、株式や為替市場に投機的な動きが広がっており、状況をよく注視していかなくてはなりません。

 引き続き、政府・与党がデフレ脱却に向けた政策を推進していくとともに、原油安などのメリットを内需に結びつけていくような機動的な対応をとることが必要であると思いますが、総理の御所見を伺います。

 総理は、次の三年間を、未来を見据えた新たな国づくりを力強く進めていきたいとの決意のもと、アベノミクスの第二ステージとして、一億総活躍社会を掲げ、戦後最大のGDP六百兆円、希望出生率一・八の実現、介護離職ゼロという的を掲げ、新しい三本の矢を放ちました。アベノミクスによる成長の果実が得られつつある今、ここで少子高齢化という構造問題に歯どめをかけ、国民一人一人の将来不安を解消し、消費や投資が進まない根本的な隘路を取り除くことこそが、我が国の喫緊の課題であります。

 総理は、GDP六百兆円の達成で、戦後最大の経済と国民生活の豊かさを目標として掲げました。

 強い経済、成長の果実を分配する好循環を実現する重要な柱となるのは、まさにイノベーションであります。国が、既存の組織だけでなく、ベンチャー企業や中小企業、NPO、社会起業家などの自由な発想と意欲的、挑戦的な取り組みをしっかりと支援していく環境を整備することが、我が国を世界で最もイノベーションに適した国にしていくものと考えます。

 さらに、賃上げによる労働分配率の向上や設備投資の拡大などを進めていくには、企業収益を拡大しなければなりません。そのためには、エネルギーの安定供給によって経済活動を支えることも必要であります。地球温暖化対策や、最近の中東地域の緊張感や原油安の状況から見ますと、エネルギーの安定確保、供給には、再生可能エネルギーの最大限の導入のみではなく、資源や為替の変動リスクを緩和し、安定した経済環境の基盤となる、安全性が確認された原子力発電所の再稼働を進めていくことも重要と考えます。

 GDP六百兆円の達成に向けた総理の御所見を伺います。

 次に、希望出生率一・八を実現するため、若者の雇用安定や待遇改善、仕事と子育てを両立できる環境整備、保育サービスなど、結婚から妊娠、出産、子育てまで切れ目のない支援などを掲げておられますが、具体的にどのように取り組んでいくのか、総理に伺います。

 介護離職ゼロは、ニーズに見合った介護施設や在宅サービスなどの整備、介護人材の育成・確保、待遇改善、また、家族が介護と仕事を両立できる環境整備、家族への相談や支援体制などでその実現を目指していますが、どのように進めていくのか、総理のお考えをお聞きします。

 地方創生も、本年は戦略策定から具体的な事業を推進していく段階に入ることになります。平成二十八年度予算にも、地方の自主的、先駆的な取り組みを支援する地方創生推進交付金の創設や、訪日外国人数二千万人の目標達成が視野に入る中、さらなる増加を図り、観光立国を推進していくための施策などが盛り込まれております。また、官公庁と政府関係諸機関の地方移転に対する期待も地方から寄せられております。

 地方創生の実現こそが、一億総活躍社会の実現につながるものでもあります。GDP六百兆円の実現には、ローカル・アベノミクスのさらなる推進によって地域の稼ぐ力を高めていくことが重要であり、希望出生率一・八の実現には、地域の実情に即した働き方の改革を推進していくことが必要であるなど、相互に連動しながら進めていくことが求められております。

 また、TPPを契機として、地方に海外からの投資や人材を呼び込み、新たな市場開拓などを進め、生産性を高めるイノベーションを促進し、新しい産業を創出していくことで、地方創生の好循環を加速させていくことも重要です。

 地方創生の実現で地方を元気にさせていく、総理の御所見を改めて伺います。

 アベノミクスによって、平成二十四年度からの二年間で日本企業の経常利益は約十六兆円ふえ、内部留保も約五十兆円増加しました。しかしながら、設備投資の伸びは約五兆円にとどまっており、日本経済のさらなる好循環を確実なものとするために、企業収益をさらに高め、積極的な国内投資や賃金引き上げに一層取り組んでいく必要がございます。

 こうした観点から、平成二十八年税制改正において、法人実効税率の二〇%台への引き下げや、資本金一億円以下の中小企業に対して新規設備投資への固定資産税を三年間半減するなど、企業の設備投資や賃上げを促進させ、生産活動や消費を活発にし、経済の好循環を図ることといたしました。

 また、消費税率一〇%への引き上げ時に、低所得者の方々の負担感を緩和する配慮から、酒類、外食を除く飲食料品と、定期購読契約が締結された週二回以上発行される新聞を対象として、軽減税率を導入することといたしました。

 さらに、導入に際しては、スーパーなどで混乱が生じないように、政府・与党が一体となって万全の準備を進めていくこととしました。

 また、財政健全化目標を堅持するとともに、社会保障と税の一体改革の原点に立って安定的な恒久財源を確保するために、自民党、公明党両党で責任を持って対応していくこととしました。

 一方、平成二十八年度予算は、社会保障費の伸びを経済財政計画の目安に沿って四千四百億円程度に抑制し、国債発行額も、平成二十七年度より二・四三兆円少ない三十四・四三兆円と、二年連続で四十兆円を下回り、公債依存度が三五・六%と、リーマン・ショック以前の水準まで回復するなど、経済再生と財政健全化を両立させた予算となっております。

 改めて、総理に、財政健全化に向けた見解を伺います。

 三月十一日には、東日本大震災の発生から五年の節目を迎えます。総理は、就任以来二十五回にわたり被災地を訪問されるなど、被災者と寄り添いながら、最重要課題として、政府一丸となって復興に向けた取り組みを行ってこられました。

 三月には五年間の集中復興期間が終了し、四月からは新たに五年間の復興・創生期間がスタートいたします。インフラ復旧などのハード面での復興は着実に進んできており、今後は、産業や生業の再生と、避難の長期化による被災者の体と心のケアなどのソフト面においてもきめ細やかに対応していくことが必要であります。

 また、福島における原子力事故災害によって、地域の再生と回復がおくれている分野への重点的な支援も必要であります。

 さらに、震災記憶の風化、風評への取り組みを強化し、震災の経験と教訓を引き続き国民全体で共有するとともに、復興の現状における正しい情報を国内外に発信していく取り組みも、関係各所が連携して展開していかなければなりません。

 また、昨年も、関東・東北豪雨災害など、多くの自然災害も起こりました。事前防災・減災対策を充実するとともに、インフラの老朽化対策など、国土強靱化をさらに推進していかなくてはなりません。

 復興と国土強靱化に向けた総理の所見をお伺いいたします。

 昨年、TPP交渉が大筋合意に至りました。我が党は、国益がしっかり守られ、結果として我が国の繁栄につながる交渉を政府に対して求めてまいりましたが、それを踏まえて政府が粘り強く交渉を行った結果が今回の合意に至ったものであり、総理、甘利大臣を初めとする関係者の御尽力に敬意を表するものであります。

 TPPは、二十一世紀のアジア太平洋に自由で公平な経済圏を構築する挑戦的な試みであります。世界のGDPの約四割、人口の一割強を占める巨大な経済圏において、物の関税の削減、撤廃だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、労働、環境の規律など、幅広い分野で新しいルールを構築するものであります。

 まず、TPPは、我が国にとって、企業の事業拡大と雇用拡大、特に地方の中堅・中小企業にとっては大きなチャンスになり得るものです。

 今回、TPP参加十一カ国の鉱工業品の関税が一〇〇%近く撤廃され、陶磁器など地場産業の輸出の後押しになります。

 また、煩雑な税関手続や、投資先の急なルール変更による損害や、技術、デザインが盗まれるなどのリスクから、海外展開に踏み切れなかった企業が、通関手続の迅速化などTPPによる各種手続の簡素化、標準化、投資ルールの明確化、知的財産の保護などにより、安心して海外展開を行うことが可能となります。

 また、工業品だけでなく、農産品や食品、コンテンツやサービスなども海外に打って出ることができるようになります。

 TPPを契機に、我が国は新輸出大国を目指すべきであり、新たな担い手となる企業などを後押しする施策を総合的かつ早急に実施すべきであると考えますが、総理の御所見を伺います。

 さらに、TPPは、我が国の経済再生、地方創生の切り札になるものであります。

 今後、我が国、特に地方における人口減少、高齢化が一層進む中で、新輸出大国を目指す取り組みにより、中堅、中小を含めた我が国企業が提供する物品やサービスなどの得意分野に、海外からの需要がふえ、海外の企業と連携した研究開発や海外投資が促進され、イノベーションや技術革新が生まれます。それにより、我が国企業の高付加価値化、生産性の向上が進み、生産活動がさらに活発となり、結果として、さらなる貿易拡大という好循環により経済成長につながっていきます。

 つまり、我が国から海外へ、海外から我が国へという双方向の投資、貿易が活発となることで、我が国はグローバルハブとして持続的な成長を遂げることを目指すべきであると考えます。

 各地域がグローバルハブを目指すことで、真の地方創生が実現し、経済再生にも資するものと思いますが、総理の御認識を伺います。

 農林水産品に関しては、関税撤廃を求める厳しい交渉の中で撤廃の例外を数多く確保しましたが、不安視する国民の声もございます。

 今回の交渉で獲得した措置とあわせて、将来にわたって、意欲ある農林漁業者が安心して経営に取り組め、確実に再生産が可能となるような、また、成長産業として取り組む生産者が最大限力を発揮できるような、競争力強化や体質強化対策の充実、革新的技術の研究開発を進めていくことも必要です。

 さらには、生産者の努力では対応できない、人材力の強化や飼料などの生産資材価格の仕組みの見直し、真に必要な基盤整備なども検討していかなくてはなりません。

 今回のTPP大筋合意を受け、日本の農政は、農政新時代と言える新たなステージに挑戦するスタートラインに立ちました。生産者の持つ可能性と潜在力を遺憾なく発揮できる環境を整えていくことで、次の世代に対しても、日本の豊かな食や美しく活力ある地域を引き渡していけるものと確信しております。

 そのためには、今こそ政治の側が変わらなければなりません。新しい時代に立ち向かおうとしている現場の生産者の努力や挑戦を、国民とともに全力で支えていかなくてはなりません。農政新時代を日本の農林水産業の輝ける時代にしていこうとする総理のお考えをお伺いいたします。

 総理は就任以来、六十三の国と地域を訪問され、四百回を超える首脳会談を実施するなど、積極的平和主義を掲げた地球儀を俯瞰する外交を精力的に展開し、多くの成果をおさめ、国民や国際社会からも高い評価を受けております。

 本年は、我が国が国連加盟してから六十年の節目の年を迎えます。その年に、国連加盟国では最多となる十一回目の国連安全保障理事会の非常任理事国を務めることとなり、我が国が世界の平和と繁栄に一層貢献していくことが期待されております。

 また、日本政府が主導して発足したアフリカ開発会議、TICADは、ことし初めてアフリカで開催されます。そして、五月には、G7の議長国として伊勢志摩サミットが開催されるなど、まさに総理が言われるように、本年は日本外交が世界を引っ張る重要な一年であります。

 特に、伊勢志摩サミットでは、不透明さを増す世界経済、国際テロ対策、貧困や開発の問題、アジア太平洋地域の情勢など、世界が直面するさまざまな課題について議論されると思います。我が国が、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と連携し、国際秩序の再構築のためにどのような役割を果たしていくのか、積極的平和主義をどのように展開していくのか、議長国としての総理の決意を伺います。

 先般、北朝鮮が四回目となる核実験を強行した行為は、我が国の安全に対する重大な脅威であり、北東アジア及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものであり、断じて容認できるものではありません。政府においては、国際社会と連携して断固たる対応をとることを強く求めます。現在、国連安保理において新たな安保理決議の検討に入っていると思いますが、その場合には、決議の理由に、拉致を含む人権侵害を明記させることを求めます。

 拉致問題も、北朝鮮が平成二十六年五月の日朝合意をいまだに履行していないなど、具体的行動による進展がありません。政府は、昨年六月、我が党拉致問題対策本部が提言した十三項目の制裁強化策を速やかに実施し、我が国独自の対北朝鮮措置の徹底を図るべきと考えますが、総理の御見解を伺います。

 総理の地球儀を俯瞰する外交が多くの成果をおさめている要因の一つは、総理が日米外交の基軸である日米同盟を立て直し、盤石なものとしたことにあると考えます。この盤石な日米同盟が、アジア太平洋地域、ひいては国際社会の平和と安定、繁栄のために大きく寄与し、我が国と各国との友好関係構築に相乗効果を及ぼしております。

 特に、昨年、戦後七十年の節目に、日本国総理大臣として史上初の米国上下両院合同会議での演説は、戦後、いかに日米同盟がアジア太平洋地域、そして世界の平和と安定に貢献し、今後も、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値観の上に立って、両国が手を携え世界への貢献を続けていくという強い意思を発信したものでありました。

 また、平和安全法制の成立によって、子や孫の世代に平和な日本を引き渡していく基盤を築くことができたとともに、あらゆる事態に万全の備えを行い、自衛隊と米軍が緊密に連携していくことで、戦争を未然に防止し、地域の平和と安定を確固たるものにしていく環境も整いました。今後さらに、日米同盟の実効性が大幅に高まるものと考えます。

 沖縄の基地負担軽減や普天間飛行場の移設についても、在日米軍の抑止力を維持しつつ、住民の負担を軽減していくために、地元の理解を得ながら、日米が一層連携して努力していくことが求められております。

 そのほかにも、TPPやエネルギー、インフラ分野など、経済面での協力も進展しておりますが、こうした日米関係を今後さらにどのように強化し、日米間の諸課題をどのように解決していくのか、総理の御所見を伺います。

 昨年、三年半ぶりに日中韓三カ国首脳サミットが開催されました。隣国同士が胸襟を開いて、北東アジア地域の平和と繁栄のために率直な意見交換ができたことは、三カ国のみならず、地域にとっても大変意義のあるものであったと考えます。

 日中韓FTAの包括的かつハイレベル協定の早期妥結や、環境、防災、青少年交流などの分野の協力を進めていく方向で認識を共有できたこと、また、北朝鮮には連携して対応していくことが確認できたことは大きな成果であります。

 本年は、日本が議長国として日中韓サミットが開催されますが、三カ国首脳レベルの会談がさらに精力的に行われることを強く期待するものであります。

 日中関係は、首脳会談を通じて、日中関係が着実に改善の方向に進んでおります。この流れを定着させていくために、戦略的互恵関係の大局に立ち、対話を重ねることで、日中両国が地域と国際社会の平和と繁栄に大きな責任をともに有していくということが必要であります。

 中国経済が減速傾向の中、昨年十一月に行われた日中首脳会談では、閣僚級の日中ハイレベル経済対話の今年早期の開催で一致したと聞いております。世界経済の安定に向けた連携や、気候変動や環境問題での協力などの分野において政治対話を強化していくことは、まさに重要であります。

 日韓関係は、昨年、日韓国交正常化五十年の節目を迎え、三年半ぶりに首脳会談が実現しました。

 その後、慰安婦問題については、協議が加速し、年末の外相会談によって、最終的かつ不可逆的に解決されることに合意しました。ここに至るまでには多くの関係者の努力があったかと思いますが、日韓間の長年の懸案であったこの問題に終止符を打ち、日韓新時代のスタートを切ることができたのは、まさに総理の決断によってであり、高く評価するものであります。

 我が国にとって最も重要な隣国である韓国と、今後は、北朝鮮問題を初めとする日韓間の諸課題について首脳レベルで緊密に連携して、未来志向の強固な関係を築いていけることを強く期待するものであります。

 日中、日韓の関係強化に向けた総理の御所見を伺います。

 総理は、これまでプーチン大統領と数次にわたる首脳会談を重ねることで、信頼関係を築き上げ、北方領土問題の解決を目指しておられます。

 プーチン大統領の早期訪日が模索されているほか、総理が伊勢志摩サミット前の訪ロを検討しているとの話もあります。G7との協調を大切にしながら、領土交渉進展に向けた首脳同士の対話を重ねていくことが重要と思いますが、総理の御認識を伺います。

 総理は、年頭の記者会見で、憲法改正について国民的な議論を深めていきたいと言われました。

 憲法改正は自民党の党是であり、野党時代の平成二十四年には日本国憲法改正草案を発表しておりますが、もちろん我が党も、我々の草案がそのまま改正案になることは想定しておりませんし、最初から全面的に改正することも現実的ではないと理解しております。

 まずは、与党はもとより多くの野党にも、現行憲法において足りない部分があるのではないか、また、憲法の文面では素直に読みにくいにもかかわらず、国民生活に定着しているという事柄も数多くあるのではないかといった問題意識を共有して、国会での議論を通じて合意形成を図り、確実に憲法改正を実現していくプロセスを与野党がともにつくり上げていくべきと考えますが、総理の御所見を伺います。

 先般、大島議長の諮問機関である衆議院選挙制度に関する調査会より議長に答申がなされ、各党に通知されました。答申をおまとめいただいた委員の方々に心より敬意を表します。

 選挙制度は民主主義の根幹であり、我が党としても、今後、違憲判決などが下されることがないよう、人口の変化に対応した、法のもとの平等の要請に応える衆議院選挙制度の改革に全力で取り組んでいく決意であります。

 さきにも述べたように、ことし、我が国は、伊勢志摩サミットや日中韓サミットで議長国を務め、国連安保理非常任理事国入りなど、総理が世界各国リーダーをまとめ、日本外交が世界を引っ張っていく、とても重要な一年であります。多くの課題を抱え、不透明さを増す国際情勢の中で、我が国が極めて重要な役割を担っていること、また世界から厚い信頼と期待が寄せられていることは明らかであり、我々は、こうした国際社会からの信頼と期待に応え、その責任を果たしていかなければなりません。

 そのことは、外交のみでなく、内政においても同様であります。

 昨年の平和安全法制の審議では、残念ながら、過去の安全保障の議論と同じように、国民の間に左右のイデオロギー対立が激化し、国民の中に亀裂を生じさせた、このことは少なからずございました。政府・与党は、国民に対し丁寧に説明し、理解を得る努力を尽くしていくという姿勢を決して失ってはなりません。

 同時に、こうした国民の間に生じた亀裂を乗り越え、国民が同じ目標に向かって、一つにまとまっていくための環境をつくり上げていく責務があります。今回の一億総活躍社会の実現こそが新しい国民統合をつくっていく目標であり、総理がリーダーとして先頭に立ち、国民とともに歩みを進めていかなければなりません。

 一もってこれを貫く。

 これからも、経済でしっかり結果を出し、国民の命と幸せな暮らしを守り、国民一人一人が活躍できる社会をつくっていくことをお誓い申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 谷垣禎一議員にお答えいたします。

 バス事故の再発防止の取り組みについてお尋ねがありました。

 十五日に発生したバス事故で、多くの若者たちの未来が失われたことは、まことに痛恨のきわみです。心から御冥福をお祈りし、けがをされた方々にお見舞いを申し上げます。

 現在、原因の究明に全力で取り組んでおりますが、バス事業者に対する特別監査では、安全管理上極めて不適切な状況が確認されたと承知しています。

 このような悲惨な事故を二度と起こさせないよう、事業参入時のチェックの強化、監査の実効性の確保、旅行業者を含む安全確保対策の強化などについて、専門家による検査も踏まえながら、政府として再発防止に万全を期してまいります。

 安倍政権の経済財政運営についてお尋ねがありました。

 この三年間、政府・与党一体となって、二十年間近く日本経済を停滞させる原因となってきたデフレと戦い、経済の再生に全力を挙げてまいりました。

 その結果、もはやデフレではないという状況をつくり出すことができ、日本人は、再び成長できるという自信を取り戻しつつあります。

 この流れをさらに加速し、日本経済を上昇気流に乗せるため、賃上げを通じた消費の拡大や民間投資の拡大、生産性革命により、経済の好循環を力強く回し続けていくことで内需を押し上げてまいります。

 他方、世界経済は、全体としては緩やかに回復しているものの、アジア新興国等において弱さが見られます。

 こうした中、年明け以降、原油価格の下落や世界的な金融資本市場の変動が見られていますが、日本経済のファンダメンタルズは確かなものと認識しています。

 なお、原油価格の低下は、企業コストの低減や家計の実質所得の増加等により、日本経済にとっては基本的にプラスの影響があるものと考えられます。

 いずれにいたしましても、世界経済や金融市場の動向をしっかりと注視しつつ、政府、日銀が一体となって、デフレ脱却を目指し、しっかりと経済を成長させる政策を進めてまいります。

 GDP六百兆円の達成についてお尋ねがありました。

 戦後最大のGDP六百兆円を目指し、成長戦略をさらに進化させます。御指摘のとおり、その柱はイノベーションの促進です。

 人工知能、ロボット、IoTといった挑戦的な研究を支援し、規制改革を進め、投資の拡大を促します。

 コーポレートガバナンスを実効あるものとし、市場の力でイノベーションを促します。

 起業を志す若者を支援します。

 資源に乏しい我が国は、安全性の確保を大前提に、経済性、気候変動の問題に配慮しつつ、エネルギー供給の安定性を確保しなければなりません。

 その際、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの最大限の導入、火力発電の高効率化、資源の確保等に全力で取り組み、原発依存度を可能な限り低減していきます。

 原子力発電所の再稼働については、安全神話の信奉が招いた東京電力福島原発事故を片時も忘れず、真摯に反省し、その教訓を踏まえていくべきことは当然のことであります。

 高い独立性を有する原子力規制委員会が、科学的、技術的に審査し、世界で最も厳しいレベルの新規制基準に適合すると認めた原発でない限り、再稼働はされません。

 こうした環境整備を通じ、企業の収益をさらに高め、賃上げを通じた消費の拡大や民間投資の拡大につなげてまいります。

 最低賃金についても、年率三%程度を目途に引き上げ、全国加重平均で千円を目指します。

 あらゆる政策を総動員していくことで潜在成長率を押し上げ、GDP六百兆円を実現してまいります。

 希望出生率一・八の実現に向けての具体的取り組みについてお尋ねがありました。

 若者の雇用・経済的基盤の改善については、優良な事業所に就職するためのきめ細かな就職支援、キャリアアップ助成金の拡充等による正社員への転換や待遇改善の推進、被用者保険のさらなる適用拡大の推進、最低賃金の年率三%程度を目途とする引き上げに取り組みます。

 本年取りまとめるニッポン一億総活躍プランでは、同一労働同一賃金の実現に踏み込みます。

 仕事と家庭の両立については、非正規雇用労働者の育児休業取得促進のための育児・介護休業法の改正、待機児童解消を確実に実施するため、保育サービスの整備量を四十万人から五十万人へと上積みすること、これに必要となる約九万人の保育人材の確保に向け、処遇の向上、就職の促進、離職の防止などの取り組みを推進してまいります。

 このほか、結婚に向けた、地域におけるさまざまな出会いの機会の提供や、子育て世代包括支援センターによる相談対応を通じた切れ目のない支援に取り組んでまいります。

 補正予算及び来年度予算に必要な措置を盛り込み、少子高齢化という構造的な課題に真っ正面から立ち向かいます。府省庁の枠組みを超えて、これまでの発想にとらわれず、大胆に政策を実施してまいります。

 介護離職ゼロに向けた取り組みについてお尋ねがありました。

 介護離職ゼロは、二〇二〇年代初頭までに、介護を原因とした離職を防ぎ、特養への入所を希望しながら自宅待機せざるを得ない方をなくす、一億総活躍社会の実現のための重要な政策の柱です。

 介護離職ゼロの実現に当たり、具体的には、特別養護老人ホームやサービスつき高齢者向け住宅など多様な介護の受け皿を上積みし、二〇二〇年代初頭までに約五十万人分を整備し、介護人材の育成・確保と待遇改善のため、介護福祉士を志す学生に返還を免除する奨学金制度を充実させるなどの施策とともに、平成二十七年度介護報酬改定による処遇改善の着実な実施などにより、今後、約二十五万人分の介護人材を確保してまいります。

 さらに、介護休業を利用しやすくするための制度の見直しを行うなど、家族が仕事と介護を両立できる環境整備を進めます。

 補正予算及び来年度予算に必要な措置を盛り込み、介護離職ゼロの実現に向けしっかりと対応していきます。

 希望出生率一・八と同様、府省庁の枠組みを超えて、これまでの発想にとらわれず、大胆に政策を実施してまいります。

 地方創生の実現についてお尋ねがありました。

 日本の地方には、豊かな自然や固有の歴史、文化などの魅力があふれています。外国からの観光客は、全国津々浦々に足を延ばしています。農家の方々が丹精込めてつくった農作物の輸出は、毎年過去最高を更新しています。

 地方創生は、このような魅力を生かして、若者を引きつける個性豊かな地方をつくり上げる挑戦です。

 政府は、地方の創意工夫による意欲的なチャレンジを、新型交付金や企業版ふるさと納税制度などによって支援します。

 政府関係機関の移転については、仕事と人の好循環を促進するため、国の機関としての機能を確保あるいは向上できることを前提条件とし、今後、本格的に検討を進めてまいります。

 御指摘の一億総活躍社会の実現やTPP等を含め、あらゆる施策を連携し、民間の力も大いに生かしながら、地方創生の動きを加速してまいります。

 財政健全化についてお尋ねがありました。

 平成二十八年度予算においては、一億総活躍社会の実現などの重要課題に取り組みつつ、社会保障を初めとする歳出の伸びを抑制しました。

 この結果、政権交代前と比較して、国の税収は十五兆円増加し、新規国債発行額を十兆円減額し、基礎的財政収支の赤字は半分以下の十兆円余りにまで減少するなど、経済再生と財政健全化をしっかり両立させることができました。

 経済再生なくして財政健全化なしとの基本方針のもと、引き続き、二〇二〇年度までの基礎的財政収支の黒字化目標を堅持し、経済・財政一体改革を不退転の決意で断行してまいります。

 東日本大震災からの復興と国土強靱化についてのお尋ねがありました。

 東日本大震災からの復興は、安倍内閣の最重要課題であります。

 地震、津波被災地域では、住まいの再建やなりわいの再生が着実に進展し、復興は新たなステージを迎えつつあります。

 こうした中、政府として、いまだ根強く残る風評被害の対策の強化や、震災遺構の保存の支援などに取り組んでまいりました。

 引き続き、本年開催する伊勢志摩サミットを含め、首脳レベルで直接訴えるほか、さまざまなレベルでの国際会議などにおいて正しく情報発信するなど、取り組みをさらに強化してまいります。

 福島の原子力災害被災地域では、来年春までに帰還困難区域を除く避難指示を解除し、一人でも多くの方にふるさとに戻っていただくことを目指します。このため、廃炉・汚染水対策、除染、中間貯蔵施設の建設、生活インフラの復旧、なりわいの復興、イノベーション・コースト構想の推進に全力で取り組んでまいります。

 また、国土強靱化は、我が国にとって焦眉の急であります。今後とも、ハードとソフトを組み合わせながら、優先順位をつけて、災害に強い国づくりを計画的に進めてまいります。

 四月からは、いよいよ、後期五カ年の復興・創生期間が始まります。被災者の方の体の健康や不安な気持ちの解消にこれまで以上に心を砕きながら、被災地の皆さんのふるさとへの思い、復興への熱意をこれからも全力で応援してまいります。

 TPPを契機とする新輸出大国及びグローバルハブについてお尋ねがありました。

 TPPにより、二十一世紀型のルールによる世界の四割経済圏が生まれます。そこでは、商品の独創性が守られ、価値が正当に評価されます。

 地方の中堅・中小企業や農林漁業者などが新たな輸出に取り組む際、世界にネットワークを持つジェトロを中心に、企画段階から実際の出荷まで寄り添い、さまざまな支援策を十二分に活用していただく枠組みとして、新輸出大国コンソーシアムを立ち上げます。

 日本の地方の中堅・中小企業などの技術力や商品の質の高さが海外で認識されれば、これらの企業との連携を目的とした海外からの投資がふえることが期待されます。国内の投資環境を整備することで、日本全体が貿易・投資のグローバルハブとして発展する展望が広がります。

 果敢に挑戦する事業者や農林漁業者などに対し政策を総動員して支援を行い、TPPが開く新しいチャンスを我が国の経済再生や地方創生の実現に直結させてまいります。

 農政新時代についてお尋ねがありました。

 農は国の基であり、美しい田園風景を守ることは政治の責任であります。

 このため、総合的なTPP関連政策大綱に基づき、次世代を担う経営感覚にすぐれた担い手の育成やブランド化など、攻めの農林水産業に転換するための体質強化対策や、重要五品目関連の経営安定対策など、万全の対策を講じてまいります。

 また、去る一月二十二日には、農林水産業・地域の活力創造本部のもとに、輸出力の強化、生産資材の価格形成の見直しなど、さらなる体質強化策を検討するための体制も整備しました。

 今後とも、与党と緊密に連携しながら、農政新時代を切り開くための政策を講じ、農林漁業者の皆さんが安心して再生産に取り組めるようにしっかり支えてまいります。

 農林水産業の成長産業化を実現し、若者が将来に夢や希望を持てる、そういう分野にしていく決意であります。

 伊勢志摩サミットについてお尋ねがありました。

 サミットでは、御指摘のように、不透明さを増す世界経済、国際テロ対策、貧困や開発の問題、北朝鮮を初めとするアジア太平洋地域の情勢など、世界が直面するさまざまな課題について率直に議論します。

 日本がリードしてきた、女性が輝く社会、質の高いインフラ、保健などにも光を当て、国際社会の取り組みを主導していきます。

 サミットを通じ、世界の平和と繁栄をいかに確保していくべきか、そのために我が国はどのような貢献を行うことができるのかについて、積極的平和主義の考え方に立って我が国のビジョンを訴えてまいります。

 G7は、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値のチャンピオンです。私は、G7の議長として、グローバルな視点に立って将来を見据え、我々が進むべき最も適切な道筋を示すことにより、世界をリードしてまいります。

 北朝鮮による核実験と拉致問題についてお尋ねがありました。

 北朝鮮による核実験は、我が国の安全に対する重大な脅威であり、断じて容認できません。国際社会と連携し、断固とした対応をとってまいります。

 同時に、拉致問題の解決は、安倍政権の最重要課題です。この問題を解決しない限り、北朝鮮は明るい未来を描くことはできないことをしっかり認識させる必要があります。

 我が国は、安保理非常任理事国として、北朝鮮に対する強い安保理決議の採択に向けて、安保理での作業に積極的に対応しています。拉致問題を含む北朝鮮の人権問題への対応を含め、引き続き、日米韓で緊密に協力し、中国、ロシアなどの関係国とも緊密に連携してまいります。

 我が国独自の措置についても、既に検討を指示しており、自民党の拉致問題対策本部でまとめていただいた案も参考に、北朝鮮に対して、毅然かつ断固たる対応を行ってまいります。

 日米同盟についてのお尋ねがありました。

 日本外交の基軸である日米同盟は、かつてないほど盤石です。

 平和安全法制は、新ガイドラインと相まって日米同盟の抑止力を一層高めるものであり、そのもとで、同盟の実効性を向上させる取り組みを推進します。

 米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄の負担の軽減に全力で取り組みます。普天間飛行場の危険性を除去すべく、一日も早い辺野古への移転に向けて着実に取り組んでまいります。

 日米両国が主導して合意したTPPは、日本のGDPを十四兆円押し上げ、八十万人もの新しい雇用を生み出します。日米で協力し、よいものがよいと評価される、二十一世紀にふさわしい新たな経済ルールを世界へと広げていきます。

 昨年四月の米国上下両院合同会議での演説で述べたとおり、日米同盟は、自由、民主主義、人権、法の支配という普遍的価値のきずなでかたく結ばれ、国際社会の平和と繁栄のため、ともに行動する希望の同盟です。

 貧困、感染症、気候変動など、国際社会が直面する諸課題について、米国と手を携え、よりよい世界の実現に向けて、ともに歩んでまいります。

 日中、日韓関係についてお尋ねがありました。

 本年は、我が国が日中韓サミットを主催します。昨年のサミットで、日中韓の協力プロセスが完全に正常化したことを踏まえ、経済、環境、青少年交流など、幅広い分野で成果の上がるサミットにしたいと考えます。

 また、その際、中国、韓国とそれぞれ首脳会談を行い、関係をさらに発展させていく所存であります。

 中国とは、戦略的互恵関係の考え方のもと、関係改善の流れを一層強化しています。御指摘のように、世界経済、気候変動、環境問題などに関し、政治レベルの対話を強化すべく、日中ハイレベル経済対話を含め、幅広い分野、レベルの対話と協力を引き続き進めていきたいと考えます。

 日中両国は、地域の平和と繁栄に大きな責任を共有しています。大局的な観点から、安定的な友好関係を発展させ、国際社会の期待に応えてまいります。

 韓国とは、昨年末、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました。この合意があったからこそ、北朝鮮による核実験の直後に、朴槿恵大統領に電話をかけ、日韓で緊密に協力して対応していくことを確認できました。

 韓国は、戦略的利益を共有する最も重要な隣国です。本年を日韓新時代のスタートの年とし、日韓でともに協力し、未来志向の関係を築いてまいります。

 日ロ関係についてお尋ねがありました。

 戦後七十年以上たっても日ロの間に平和条約が締結されていないことは異常であり、プーチン大統領とはかかる認識を共有しています。

 私は、ロシアとの間で、世界が直面するさまざまな課題にともに立ち向かう関係を築きたいと考えています。領土問題の解決、平和条約の締結に向けて、今後とも、幅広い分野で関係強化を一歩一歩進めてまいります。

 こうした考えから、二十二日にプーチン大統領と電話首脳会談を行い、北朝鮮情勢、シリアを含む中東情勢やウクライナ情勢について、幅広く意見交換を行いました。

 そして、プーチン大統領の訪日前のしかるべき時期に、私が非公式にロシアを訪問する方向で、調整を進めることについて一致しました。

 北方領土問題は、首脳間のやりとりなくして解決できない問題です。引き続き、さまざまな機会を捉えてプーチン大統領と対話を続けながら、粘り強く交渉に取り組んでまいります。

 憲法改正についてお尋ねがありました。

 自由民主党は、党是として、立党以来ずっと憲法改正を主張してきており、四年前、まさに当時の谷垣総裁のもと、憲法改正草案を発表しています。

 言うまでもなく、憲法改正は、衆参各議院で三分の二以上の賛成を得て国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある大きな問題であり、御指摘のとおり、与党のみならず、多くの党、会派の支持をいただき、そして国民の理解を得ることが必要不可欠であります。

 引き続き、新しい時代にふさわしい憲法のあり方について、国会や国民的な議論と理解が深まるよう努めてまいります。(拍手)

    〔議長退席、副議長着席〕

    ―――――――――――――

副議長(川端達夫君) 松野頼久君。

    〔松野頼久君登壇〕

松野頼久君 維新の党の松野頼久です。

 統一会派民主・維新・無所属クラブを代表して、安倍総理の施政方針演説に対して質問いたします。(拍手)

 本論に入る前に、甘利大臣の金銭疑惑について一言申し上げます。UR都市機構への働きかけに伴う金銭の授受の疑惑が報道されています。

 大臣は以前、全てを秘書の責任にして、何ら関与していないという政治家の説明が、国民に理解されるはずがありませんという趣旨の発言をしていました。

 甘利大臣は、職務権限を持つ内閣の一員として、今回の疑惑に答える責務があります。迅速かつ説得力を持った説明をしていただきたい、このことを強く求めた上で、本論に入ります。

 まず、選挙制度改革について伺います。

 衆議院選挙制度調査会は、十六回もの会合を重ね、その検討結果を、一月の十四日、大島衆議院議長に答申しました。審査会の委員の方々、そして当時設置をされた伊吹前議長と大島議長の御尽力に心より敬意を表します。

 答申の十削減案については、国会議員定数の三割削減を掲げる我が党の考え方からすれば、全く不十分であります。消費税増税を国民に押しつけながら、我々国会議員だけが、衆議院議員定数の四百七十五のうち、わずか二%の十の削減でのうのうとしていることは、とても国民から理解を得られません。なぜ大幅な削減ができないんですか。

 先日の代表質問の際にも申し上げました。自民党は、二〇一〇年の参議院選挙におけるマニフェストで、三年後に衆参国会議員の一割、これは七十二名なんですよ、六年後に三割、二百二十二名の削減を主張しました。約束した期限はとうに過ぎているんです。衆議院で自民党は単独過半数の二百九十一議席、参議院でも自公合わせて百三十四の過半数の議席を持っているわけですから、やろうと思えばいつでもできるはずじゃないですか。

 にもかかわらず、自民党内では、自分たちの議席を守るために、今回の答申の十削減案に対してすら反対する動きがあると報道されています。せめてこれぐらい文句を言わずにやろうじゃないですか。

 全く不十分な数ですが、削減しないよりよいという立場で、我々は賛成します。

 また、今回の答申では、一票の格差を是正するために、アダムズ方式の採用も盛り込まれています。今のままの区割りでは、国勢調査が発表されるたびに、違憲状態の選挙区が生じてしまいます。我々は、それを解消するためのアダムズ方式に賛成します。

 総理には、自民党総裁として、アダムズ方式の採用も含め、この選挙制度調査会の答申どおりに実行するかどうかをお答えいただきたいと思います。

 ことしはダブル選挙もあり得ると報道されています。よもや、違憲状態の区割りのままで衆議院を解散することはないでしょうね。安倍総理は、参議院議員選挙の後、憲法改正を唱えていますが、もし、衆議院が違憲状態のままでダブル選挙を強行し、三分の二の多数で憲法改正を発議するということになれば、違憲な選挙で得た無効な議席による無効な発議という異常事態になりかねません。お考えを聞かせていただきたいと思います。

 総理は昨年まで、株価が上昇したことをアベノミクスの成果として盛んに発言されてきました。しかし、ことしに入り、日経平均株価は大幅に下落をし、下げ幅は一時三千円にも達しました。もちろん、世界経済の動向の影響があります。しかし、マーケットが、アベノミクスの第三の矢、すなわち成長戦略を疑問視しているという側面もあるのではないでしょうか。

 設備投資の増加ペースは鈍く、賃金の増加、消費の増加という好環境にもつながっていません。アベノミクスで結局目立ったのは日銀が行った金融緩和だけで、財政政策と成長戦略は目に見える効果が上がっていないのではないですか。

 この状況を打破するためには、岩盤規制と言われている農業、医療・介護などの分野で大胆な改革を進める必要があります。

 安倍総理はおととしのダボス会議で、今後二年間で残された岩盤規制を全て打ち砕く、このように宣言して、今、その二年が経過しました。

 しかし、農業の参入規制緩和は小粒で不十分なまま。医療・介護分野の参入規制緩和は進んでいません。岩盤を打ち砕くための安倍総理のドリルは、残念ながら、小さくて弱過ぎるんです。規制で守られた既得権益から多くの組織票や献金をもらっている安倍自民党には、岩盤を打ち砕く改革は期待できず、第三の矢は依然として進んでいないと言わざるを得ません。

 総理、アベノミクスによる規制緩和は十分だとお思いですか。また、成長戦略は成功したとお考えですか。お答えいただきたいと思います。

 新三本の矢について伺います。

 安倍総理は、昨年の九月、安保法制の強行採決からわずか一週間後に、新三本の矢として、GDP六百兆円、希望出生率一・八、介護離職ゼロを打ち出しました。

 GDP六百兆については、毎年実質二%、名目三%以上の成長を掲げています。しかし、足元の実質の成長率を見ても、昨年の四―六月期はマイナスの〇・一、七―九月期は〇・三と、低い伸び率にとどまっています。多分、十―十二月期も同じでしょう。

 今後、一〇%への消費増税も控えています。経済界からは、六百兆円の実現を疑問視する声が上がっています。当然です。今後、どのように三%成長を実現し、それを続けていくのか、説得力のある道筋を具体的かつ定量的に御説明いただきたい。

 次に、希望出生率一・八についてです。

 五十年後に人口一億人の維持という目標を掲げていますが、仮に出生率一・八が実現をしても、五十年後に一億人は維持できません。

 二〇三〇年に一・八を実現し、二〇四〇年に二・〇七まで上がり、その後も二・〇七を続ければ、二〇六〇年における一億人の維持が可能です。

 空前のベビーブームを二十年間にわたって起こさなければならないんです。しかし、これまでと同じような対策で、空前のベビーブームなど起こるはずがありません。

 そこで、安倍内閣が引っ張り出してきた言葉が、希望出生率という概念です。要するに、子供が一・八人ぐらいは欲しいという話で、単なる希望にすぎないんです。どの政策によって、何年で、出生率をどこまで上げるのか、具体的かつ定量的に御説明をいただきたいと思います。

 次に、介護離職ゼロについてです。

 政府は、特別養護老人ホームの大幅な整備によって、五十二万人の入所待機者を解消するとしています。今、最も不足しているのは、介護職員のなり手なんです。箱物偏重では意味がないんです。

 最大の鍵は、介護職員の待遇改善なんです。ふえ続ける社会保障費の増大をできるだけ抑えながら、ほかの産業の賃金を大きく下回っている介護職の賃金を今後どのように引き上げていくのか、総理に伺いたいと思います。

 また、働きながら介護できる環境づくりも重要です。介護開始前と同じ職場で、働き方を変えずに仕事を続けられる介護時間の限度は、仕事がある日は二時間、仕事がない日は五時間だといいます。時短とワークシェアリングが有効な介護離職対策です。

 しかし、ワークシェアリングに至っては、平成十八年度を最後に政府の取り組みが見られません。これについて、総理のお考えを伺いたいと思います。

 総理は、現在、家族で介護をなさっている方々の数を御存じでしょうか。三百八十三万世帯です。そして、五百三十三万人、これは要介護に認定された方の人数です。三百六十万世帯、国民健康保険料を滞納している世帯。七百六十六万人、これは国民年金保険料を払っていない人数です。二万五千人、年間の自殺者です。毎日七十人が自殺をしているんです。三百五万人、貧困に瀕している子供の数です。九十万人、六十五歳以上の無年金の方々の人数です。驚くべき数字、これが今の日本の実態です。

 政府が喫緊に取り組む課題は、年金、医療、介護の仕組みを根本から立て直すこと。それが実現されるまで、我々は手を緩めません。

 社会保障制度のグランドデザインは、今後、有識者会議で検討すると仄聞しますが、その前に、総理御自身の大きな考え方を聞かせていただきたいと思います。

 次に、消費税について伺います。

 そもそも、我々維新の党は、徹底した身を切る改革と大胆な行財政改革をなし遂げなければ、消費税の増税に反対であるということを、まず明言しておきます。

 その上で、今回、政府・与党が導入を決めた軽減税率に関しては、財源の問題に懸念をしています。

 消費増税を決めた際、消費税収は全額、社会保障に充てることが国民との約束だったはずです。しかし、与党は、痛税感を和らげるために、軽減税率を導入しようとしています。しかも、財源の見通しがないまま、軽減税率を一兆円規模に拡大しています。もし、社会保障費を削減し、それを軽減税率の財源に充てるのであれば、税と社会保障一体改革の考え方、本末転倒であります。

 政府・与党は、昨年末にまとめた税制改正大綱に、軽減税率は安定的で恒久的な財源を確保する、このように明記しているんです。にもかかわらず、安倍総理は、税収の上振れ分の活用もあり得るような答弁をしている。他方で、麻生財務大臣は、税収は上振れも下振れもあるから、安定的で恒久的な財源とは言えない、このようにおっしゃっている。閣内不一致じゃないですか。税収がふえたのであれば、我々がこれまでにも訴えてきたとおり、国の借金の返済に回すべきじゃないですか。

 さらに危惧するのが、低所得者への所得再配分がゆがめられているということです。

 第一に、軽減税率は、中高所得者が多く恩恵を受けるために、低所得者対策とは言えません。我々は、その問題を解決するために、給付つき税額控除という対案を準備しています。政府として、給付つき税額控除の考え方、これを採用する気持ちがあるのかないのか、総理にお伺いをしたいと思います。

 第二に、軽減税率の導入の財源を捻出するために、総合合算制度の先送りを決めてしまおうとのことです。総合合算制度とは、医療、介護、障害、保育の自己負担の合計額に上限を設ける仕組みです。医療などの自己負担や社会保障料は、消費税以上に逆進性が大きいのです。総合合算制度をなぜ先送りしてしまうのか、総理の答弁を求めたいと思います。

 今の日本が抱えている最大の問題は、人口減です。現在は、子供を望んでいるのに経済的な理由で諦められているという声をよく耳にします。特に、第三子、第四子。子育て世帯の貧困率が高いことも大きな社会問題になっているんです。

 本来であれば、子供を産み育てやすい環境をつくるという側面を経済的に支援する子育て世帯臨時特例給付金を増額しなければいけないにもかかわらず、子育て世帯臨時特例給付金を打ち切ってしまいました。なぜこれを打ち切ったのか、総理に伺いたいと思います。

 株価の下落によって心配されているのが、公的年金資金の運用です。

 安倍内閣は、一昨年の十月に公的年金資金の運用を大きく変えました。年金積立金管理運用独立行政法人、いわゆるGPIFの国内株式と外国株式への投資割合を、それぞれ一二%から二五%へと倍増させました。株式市場の活況を自作自演したんです。ある意味で、官製相場をつくり出しているんです。

 しかし、GPIFは、昨年の七―九月期にも七・九兆円もの運用損を出しました。過去最大の損失です。加えて、この年初からの株価の下落でかなり損失が出ていることは間違いありません。総理は、短期的な株の動向には一喜一憂しないとおっしゃっていますが、長期的に大きな損失を抱える可能性は十分にあるんです。

 年金積立金は、国民から保険料として集められた貴重な財産です。株価の下落によって我々の老後資金が大きく目減りする、そのようなことがあってはなりません。年金積立金を目先の株価対策に都合よく使うようなことがあってはならないんです。長期的な資金の安全性が第一という観点に立ち返り、運用と組織のあり方を改めて考え直す必要があるんです。

 ところが、昨年の十一月、経済財政諮問会議のメンバーの一人がこのような発言をしています。GPIFが機関投資家に運用委託しているので、機関投資家に対して働きかけ、投資先の企業が必要以上にキャッシュを持っているのであれば、例えば三年以内に設備投資をするか賃上げをするか、どうするか決めさせる、決めないのであれば、配当で戻させ、そして別に成長するところにお金を回す、そうしたぐあいにGPIFを活用するということも大いに効果があるのではないかと。

 とんでもない発言であります。要は、安倍政権の言うことを聞く企業には投資するが、言うことを聞かない企業には投資するべきではないと言っているんです。

 総理、GPIFはあなたの財布ではありません。国民の大切な老後を支える年金資金を恣意的に運用することは、決してなされないですよね。安倍総理に伺いたいと思います。

 また、GPIFによる恣意的な意思決定を防止するために、情報公開の仕組みをしっかりと盛り込み、国民の監視によって透明性を確保することをぜひお約束いただきたい。答弁を求めたいと思います。

 総理は、この三年間、六十三もの国と地域を訪問し、首脳会談は四百回を超えました。諸外国との外交関係を強固にするという努力に対しては、評価させていただきたいと思います。

 しかし、首脳会談の際、たびたび資金援助の表明をなさったと思います。合計したところ、支援件数は三十八件、借款を含めて実に三十二兆円に上るんです。

 財政状況が厳しい中、そこまでの大盤振る舞いをする余裕があるんでしょうか。外遊の手土産ではないんです。資金支援を決める前に、その支援で我が国が受けるメリットをきちんと分析しているんでしょうか。

 幾つかの例を挙げましょう。

 昨年の七月、日・メコン首脳会議では、今後三年間で七千五百億円の支援を実施する旨の表明をいたしました。これはどのような中身なんですか。その資金援助が我が国にとってどのような国益に資するのですか。それが国民にとってどのように還元されるのか。こういう観点でお答えいただきたいと思います。

 また、おととしの七月、パプアニューギニアを訪問した際、今後三年間で二百億円規模の支援を行う旨の表明をしました。これもどのような中身なんでしょうか。どのような国益に資するんですか。それが国民にどのように還元されるんですか。お答えいただきたいと思います。

 TPPへの対応について伺います。

 まず冒頭、我々維新の党は、自由貿易を拡大するという基本的な考え方には賛成であるということを明言しておきます。その上で、幾つか、これまでの対応について伺いたいと思います。

 自民党と公明党は野党時代、TPPに関する特別委員会の設置をし、交渉によって得た情報を少しでも出すように、このように強く要求していたはずです。私が議院運営委員会の与党の筆頭理事だった当時のことです。しかし、自民党と公明党は、与党に返り咲いたならば、特別委員会の設置を拒み、いまだ設置に至っておりません。言行不一致甚だしい。総理は、自民党総裁としてどのようにお答えになるんでしょうか。

 さらに、農林水産委員会の決議では、TPP交渉によって入手した情報は速やかに国会に報告すると決議しているじゃないですか。にもかかわらず、政府は、国会に情報を秘匿したまま大筋合意に至ってしまいました。TPPに参加を決定するということはさまざまな分野でさまざまな影響があるのですから、国民に詳しく説明することが必要なんです。

 なぜ国会にきちんとした情報を出さないんですか。出せる情報は直ちに出し、国会での議論が必要だと思いますが、いかがでしょうか。総理に伺いたいと思います。

 安倍内閣が目指すこの国の形とはどのようなものなんでしょうか。政府機関の地方移転の問題を通して伺いたいと思います。

 安倍内閣は、地方創生の名のもと、政府機関の地方移転を進めようとしています。これも、中央省庁、中央の役所が地理的に分散するだけで、権限と財源が中央省庁に集中しているという中央集権の構図は変わらないんです。

 安倍総理は、予算委員会での我が党の水戸将史議員に対する答弁で、地方分権を目指すと発言されました。

 しかし、今回の政府機関の地方移転は、消費者庁や文化庁などごく小さな一部が検討されている程度にすぎず、大変小粒だと言わざるを得ません。この後、国と地方をどのような形にしていくのか、目指している国家像が全く見えてこない。

 我が党が目指しているのは、権限と財源と人を大胆に地方に移して、道州制を軸に自立と分権の国家像をつくることです。文化庁や観光庁や中小企業庁を地方に移すということではないんです。中央省庁の持っている権限と財源をしっかり地方に移すべきではないですか。総理のお考えを聞かせてください。

 安倍総理も、第一次安倍内閣では、道州制担当大臣を置くなど、道州制に向け強い意欲をお持ちでした。その信念は変わってしまったんでしょうか。そうでなければ、どうして、小粒な政府機関を地方移転という似て非なる改革に走ってしまったんでしょうか。

 もし、まだ道州制や地方分権を進めるつもりがあるならば、どのようなスケジュールで進めていくのか、そして、そもそも国と地方をどのような形にしていくべきなのか、お考えを伺いたいと思います。

 今の国と地方の関係はゆがんでいます。国と民間の関係もゆがんでいます。

 国からの補助金は、毎年約三十兆円も地方と民間に配られています。民主党政権が苦労して導入した一括交付金は、自民党が政権をとった途端、すぐに廃止をされました。地方がみずから工夫して使い方を決めるための財源が消されてしまったんです。

 自由度の高い大型の交付金を復活させるお考えはありませんか。総理にお伺いしたいと思います。

 来年度の予算では、新規国債が三十四兆円発行されています。今年度と比べて二兆円余り抑制され、総理は胸を張っておられます。しかし、それでいいんでしょうか。総理以下政府・与党の方々は、財政の状況を甘く見過ぎておられるのではありませんか。

 利払い費と償還費を合わせた一般会計の国債費は、今年度よりもふえるんです。さらに、借換債も含めた国債費は九十兆円。社会保障関係を抜いて、既に最大の歳出項目なんです。

 来年度末の国債残高に目を転ずれば、十年前よりも三百兆円の増加。二十年前と比べれば六百兆円もふえることになります。まさに異常な姿であります。

 今から五十年前の昭和四十年、佐藤栄作内閣のもとで戦後初めて国債を発行したときの真摯な国会質疑をもう一度振り返らなければいけないと思います。

 当時、野党の社会党の木村禧八郎議員は、政治の体質が放漫財政をもたらすような体質なんですよ、ここで深刻に反省しなければ、今後日本の財政は大変なことになりますよと述べ、当時の福田赳夫大蔵大臣と激しく論戦しました。

 また、当時、野党公明党の中尾辰義議員もまた、一度公債を発行した後に急にこれをとめようとしても、ストップすることが果たしてできるのか、これは極めて至難のわざだと述べ、今の状況に五十年前の方々は警笛を鳴らしていたんです。

 それに対して、福田赳夫大蔵大臣はこのように発言をしました。財政法は憲法に準ずる大切な法律です、特に第四条は尊重しなければなりません、いたずらな解釈によって運用してはなりません、したがって、本年限りの特例として法案の審議をお願いしているんですと。

 赤字国債の発行を禁じた財政法四条の重みをしっかりと感じられていたんです。

 それに対して、安倍政権を初め歴代の政権は、巨額の国債を発行することになれ切っているとしか思えません。五十年前の野党の心配がそのとおりになっているんです。もう一度あのときの議論を我々は思い出すべきではないでしょうか。もはや、現在の予算編成そのものが持続可能性を失っていると言わざるを得ないんです。総理の考えを聞かせてください。

 財政再建に向けた一つの肝は、補助金改革です。我々は、今後、個々の不要な補助金や公共事業の箇所づけなど、これを徹底して議論し、あぶり出していく必要があると思います。

 オリンピック・パラリンピックの関連予算について伺います。先日の予算委員会で民主党の玉木雄一郎議員が質問しましたが、政府が答えられなかった件です。

 来年度予算に東京オリンピック・パラリンピックの関連予算は幾ら計上されているんですか。政府は、先週の金曜日、予算案を国会に提出したわけですから、わかるはずであります。お答えいただきたいと思います。

 そして、新国立競技場の建設費千五百億について伺います。

 誰がどのように負担するのか、国や東京都などの分担の大枠は決まったと報道されています。しかし、日本スポーツ振興センターがみずから全額を負担するという考え方はないんでしょうか。

 財務諸表を見ると、センターは、現預金と有価証券で千三百億円も保有し、毎年、サッカーくじtotoの収益金が五百億も入ってくるんです。新国立競技場を自主建設できるだけの体力が十分にあると思います。なぜそこに多額の税金を投入する必要があるのか、お答えをいただきたいと思います。

 と同時に、国民から寄附を募って建設をするという案も政府から聞こえてきます。もし寄附を募るのでしたら、箱物ではなくて、むしろ、なじみの薄い競技やパラリンピックの選手を直接支援するような寄附にしたらいかがですか。お答えいただきたいと思います。

 二十一年前の一月十七日、阪神・淡路大震災が起こりました。

 総理は、「しあわせ運べるように」という歌を御存じでしょうか。当時、神戸市立吾妻小学校に勤務をされていた臼井真先生がつくった曲です。

 臼井先生は、震災当時、音楽教師は何の役にも立たないと精神的に追い詰められていました。そんなとき、たまたま夜のニュースで、ふるさと神戸の中心である三宮が崩壊した映像を目にしました。その瞬間、思いが込み上げ、歌詞が心の奥から湧いてきて、思わず近くにあった鉛筆と紙を握り、歌詞にメロディーをつけ、わずか十分でこの曲を書き上げたと聞きます。そして、清らかで優しい子供たちの歌声に皆が涙し、と同時に、生きる力が大人たちの間に湧いてきたのです。復興を後押ししてくれたんです。

 これまで十カ国語に翻訳され、世界の被災地でどんどん歌われています。新潟中越地震や東日本大震災の被災地でも歌われていたと思います。今度は私たち大人が子供たちに幸せを運ぶ番ではないでしょうか。

 野田前総理は、将来世代のことを考えて、社会保障と税の一体改革に突き進みました。しかし、あのときの増税、その思いを軽んじ、増税分を、お金に色がついていないとばかりに、国土強靱化の名のもとに、十年間で二百兆円もの公共事業を行うという大盤振る舞いを考え、そして、ついに、軽減税率の財源として、社会保障の子育て世帯臨時特例給付金や総合合算制度にまで切り込もうとしているんです。今、我々の世代が苦しくても、将来の子供たちによい時代をつなごうという発想が感じられないんです。

 折しも、ことしは選挙権年齢が引き下げられます。まさに今、最も必要なのは、将来世代のことを考えて政を行うことではないでしょうか。

 当面、少子高齢化の進行は避けられません。つまり、働く世代がどんどん減っていくんです。そして、過去の政府の借金が一千二百兆円、毎年の税収は五十兆円余り。このままの政治が続けば、誰が考えても、子供たちの世代が重税にあえぎ、社会保障の制度が破綻をする、このことは明らかなんです。

 今、我々の世代が我慢をしても、税金の無駄遣いを徹底的に切り、財政再建をして、将来の子供たちに負担を少しでも軽くする努力をしなければならないんじゃないでしょうか。

 そのためには、まず、国会議員みずからが身を切り、範を示さなければなりません。その第一歩が、国会議員定数大幅削減を初めとする身を切る改革こそが第一歩であるということをここに宣言し、私からの代表質問を終わらせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

    〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇〕

内閣総理大臣(安倍晋三君) 松野頼久議員にお答えをいたします。

 選挙制度改革等についてお尋ねがありました。

 先日、衆議院議長のもとに設置された衆議院選挙制度に関する調査会から答申が出されました。調査会が真摯な議論を重ねて答申をまとめられたことに敬意を表します。

 答申を受け、大島議長から、各党の御理解を得てこの国会において結論を得るべく議長としても最大限努力する旨述べられたものと承知しております。

 今後は、我が党はもとより、各党各会派がこの答申を尊重し、選挙制度改革の実現に向けて真摯に議論を行い、早期に結論を得ることによって国民の負託にしっかり応えていくべきと考えています。

 なお、衆議院の解散については全く考えておりません。

 金融市場と成長戦略についてお尋ねがありました。

 新興国経済の弱さ、原油価格の下落が懸念されている中、マーケットの変動が続いていますが、日本経済はしっかりしています。

 この三年間で名目GDPは二十八兆円ふえ、企業は最高の収益を上げています。就業者数は百十万人以上増加し、昨年の賃上げ率は十七年ぶりの高水準となるなど、経済の好循環が確実に生まれています。

 岩盤規制改革、法人税改革、経済連携と抜本的な制度改革に道筋をつけてきました。いわゆる六重苦も劇的に解消しています。

 経済の好循環を回し続けていくため、史上最高の企業収益を賃上げにつなげ、最低賃金も千円を目指します。

 人工知能、ロボット、IoTによるイノベーションで生産性を上げ、投資を拡大させる、TPPにより、地方の中堅・中小企業や農家が攻めの経営に移行し、輸出を拡大し、海外からの投資を呼び込む、世界じゅうから観光客を集めて地方創生を進めるなど、あらゆるツールを駆使し、日本経済を力強い成長軌道に乗せてまいります。

 安倍政権の経済財政運営についてのお尋ねがありました。

 安倍政権では、デフレ脱却と経済再生を目指し、三本の矢の取り組みにより経済最優先で政権運営に当たってきました。

 第一の矢である日本銀行による大胆な金融緩和は、固定化したデフレマインドの払拭につながったものと考えています。

 一本目の矢のスピードを補い、デフレ脱却の道筋を確かなものとするために、機動的な財政政策を行ってきました。

 さらに、成長戦略については、これまで、できるはずがないと言われてきた六十年ぶりの農協の抜本改革や、電力やガスの小売市場の全面自由化などを実現させてまいりました。

 三本の矢の政策を一体として進めてきたことにより、もはやデフレではないという状況をつくり出す中で、名目GNIはリーマン・ショック後のボトムから四十兆円ふえたわけでございます。

 成長戦略についてお尋ねがありました。

 成長戦略については、これまで、農業、医療、エネルギーといった分野における岩盤規制を初めとした改革に、大胆かつスピード感を持って取り組んでまいりました。

 農業分野では、国家戦略特区において他業種からの参入が増加しています。本年四月からは、全国で参入規制が緩和されます。

 医療・介護分野では、再生医療製品の実用化までの期間が短縮され、海外の再生医療関連企業の日本市場への参入も相次いでいます。また、患者の申し出を起点とし、先進的な医療を迅速に受けられるようにする新たな制度、患者申し出療養を導入しました。

 エネルギー分野では、本年四月から電力小売が全面自由化されます。この市場規模は、一般家庭、商店、事業所等を合わせて約八兆円に上ります。消費者の八割が電力会社の切りかえを検討する意向です。

 未来投資に向けた官民対話においては、無人自動走行、ドローン、人工知能など、有望投資分野における規制改革や制度構築の方針を打ち出しています。

 規制改革に終わりはありません。今後とも、経済効果が高いものを中心に取り組んでまいります。

 GDP六百兆円の実現に向けてのお尋ねがございました。

 アベノミクス三本の矢の政策によって、デフレではないという状況をつくり出す中で、名目GDPは二十八兆円ふえ、雇用・所得環境も確実に改善しております。

 日本経済を上昇気流に乗せるため、賃上げを通じた消費の拡大や民間投資の拡大による経済の好循環によって、内需を押し上げてまいります。

 また、成長戦略をさらに進化させ、イノベーションを通じた生産性向上を促します。

 さらに、希望出生率一・八や介護離職ゼロという新たな第二、第三の的に向けた施策を強力に推し進め、安心できる社会基盤を築くことにより、成長と分配の好循環をつくり出してまいります。

 こうしたあらゆる政策を総動員していくことで、潜在成長率を押し上げ、実質二%程度、名目三%程度を上回る経済成長を実現し、GDP六百兆円を実現してまいります。

 ことしの春ごろに取りまとめるニッポン一億総活躍プランにおいては、GDP六百兆円を含む目標達成に向けた道筋について、可能な限り定量的に分析し、お示ししたいと考えております。

 希望出生率一・八の実現に向けた政策に関するお尋ねがありました。

 少子高齢化という構造的な課題に真正面から立ち向かい、半世紀後の未来でも人口一億人を維持する一億総活躍社会をつくり上げることは、今を生きる私たちの次世代に対する責任であります。このため、希望出生率一・八という明確な的を掲げ、夢を紡ぐ子育て支援という第二の矢を放ちます。

 現在、出生率は一・四二ですが、それは、子供を産みたいのに、何らかの事情で産めない事情がある方々がいるためです。産めない方々の事情を一つ一つ取り除いてまいります。

 具体的には、若者の雇用・経済的基盤の改善、非正規雇用労働者の育児休業取得促進、保育所の待機児童解消、結婚、妊娠から出産、子育てまでの切れ目のない支援などに取り組んでまいります。

 これらの施策が全体として希望出生率一・八の実現へとつながると考えます。

 介護人材の待遇改善と働きながら介護できる環境づくりについてのお尋ねがありました。

 介護離職ゼロは、一億総活躍社会の実現のため重要な政策の柱であり、介護施設等の整備とあわせ、必要な人材の確保についても、就業促進や離職の防止などに総合的に取り組むこととしています。

 このため、今回の補正予算及び来年度予算では、介護の人材確保策として、介護福祉士を目指す学生に返済を免除する奨学金制度の拡充などに取り組むとともに、介護人材の処遇については、平成二十七年度介護報酬改定において、一人当たり月額一万二千円相当の処遇改善加算の拡充を図ったところであり、処遇改善の進捗状況等を踏まえつつ、その取り組みについて引き続き検討してまいります。

 お尋ねの時短やワークシェアリングについては、これまでも、仕事と家庭の両立の観点から、企業による自主的な所定外労働の削減や短時間正社員の普及に取り組んでまいりました。

 さらに、介護休業を利用しやすくするための制度の見直しを行うなど、家族が仕事と介護を両立できる環境整備を進めるとともに、長時間労働の是正やフレックスタイム制などによる多様で柔軟な働き方の推進といった働き方改革の推進に取り組んでいます。

 本年春に取りまとめるニッポン一億総活躍プランでは、この働き方改革などの個々のテーマを新三本の矢として一体的に統合し、強力に推進していきます。

 社会保障制度改革についてお尋ねがありました。

 社会保障制度については、自助自立を第一に、共助と公助を組み合わせ、弱い立場の人にはしっかりと援助の手を差し伸べることが重要であると考えます。

 このような基本的な考え方に立ちつつ、世界に冠たる国民皆保険、皆年金を初めとする社会保障制度をしっかりと次世代に引き渡していくことが必要です。

 受益と負担の均衡がとれた持続可能な社会保障制度の確立を図るため、いわゆる団塊の世代が七十五歳以上になる二〇二五年を展望しつつ、有識者から成る社会保障制度改革推進会議において、中長期的な改革の議論を進めながら、不断の改革に取り組んでまいります。

 議員がお示しになったデータについては必ずしも全て確認できているわけではありませんが、年間の自殺者については、第二次安倍政権が誕生して以来三年連続で減少しており、十八年ぶりの低水準になっております。

 なお、最終的なセーフティーネットの観点から、生活保護について申し上げれば、生活保護世帯は高齢者世帯の増加などにより増加しているものの、高齢者を除く世帯で見ると、平成二十五年二月をピークに減少傾向にあることを付言させていただきます。

 軽減税率制度の財源確保等についてのお尋ねがありました。

 消費税の軽減税率制度の財源確保に関しては、先般、政府統一見解としてお示ししたとおり、税収の上振れについては、経済状況によっては下振れすることもあり、基本的には安定的な恒久財源とは言えないと考えております。

 同時に、アベノミクスによる経済の底上げによる税収増をどう考えていくかについては、経済財政諮問会議において議論をしていくこととしております。

 したがって、閣内不一致との御指摘は全く当たりません。

 消費税率引き上げに伴う低所得者への配慮の観点からの検討課題の一つであった軽減税率制度は、給付つき税額控除や総合合算制度とは異なり、日々の生活において幅広い消費者が消費、利活用している商品の消費税の負担を直接軽減することにより、買い物の都度、痛税感の緩和を実感できるとの利点があり、この点が特に重要であるとの判断により、導入を決定しました。

 これに伴い、給付つき税額控除や総合合算制度については、消費税率引き上げに伴う低所得者対策としては実施することはないものと考えています。

 なお、軽減税率制度の導入に当たり、総合合算制度相当額〇・四兆円程度をその財源に充てた上、残りの〇・六兆円程度について、安定的な恒久財源を確保することにより、社会保障と税の一体改革における二・八兆円程度の社会保障の充実に必要な財源は確保する考えであります。

 子育て世帯臨時特例給付金についてお尋ねがありました。

 安倍政権は、若い世代への支援を重視しています。今般の補正予算や来年度予算において、保育サービス充実、教育費負担軽減、児童扶養手当の拡充を行うなど、国、地方合わせた公費ベースで三千億円の子育て支援の拡充を盛り込んでいます。これにより、子育て世帯に対する支援を強力に進めてまいります。

 なお、子育て世帯臨時特例給付金は、もともと消費税率引き上げの影響を緩和するための一回限りの臨時的な措置として実施されたものであり、これを軽減税率の財源に充てようとしているとの指摘は全く当たりません。

 公的年金資金の運用についてのお尋ねがありました。

 年金積立金の運用は、法律に基づき、専ら被保険者の利益のために、安全かつ効率的に行うものとされており、被保険者の利益以外の目的で恣意的に運用されることはありません。

 GPIFによる情報公開については、年度ごとの詳細な運用状況の公表に加え、四半期ごとの運用状況も公表しており、今後とも、適切な情報公開に努め、運用の透明性を確保してまいります。

 ODAについてお尋ねがありました。

 我が国のODAは、開発途上国で高く評価されており、地球儀を俯瞰する外交を積極的に展開していく上で外交上の大きな柱になっています。

 メコン地域は、陸上、海上輸送の要衝に当たり、この地域の平和と安定は日本にとって極めて重要であります。また、力強い経済成長を遂げつつあるメコン地域は、将来性豊かな日本のパートナーでもあります。こうした観点から、産業基盤インフラの整備、産業人材育成、持続可能な発展に向けたグリーン・メコンの実現のための支援を実施しています。

 パプアニューギニアについては、大洋州最大の国土と人口を有し、豊富な資源にも恵まれた域内の中心国の一つであり、我が国とは漁業分野での関係も深い重要なパートナーであります。パプアニューギニアの自立的な発展の後押しと二国間関係の強化のため、産業振興のための人材育成や災害に強いインフラ整備などの支援を行っています。

 なお、パプアニューギニアはさきの大戦の激戦地の一つであり、十万人以上の日本兵が死傷をいたしました。そして、現在でも、遺骨帰還事業に全面的な協力をいただいているということを付言させていただきたいと思います。

 このように、我が国の支援の表明に当たっては、対象となる国や地域の重要性や、その時々の国際情勢等を踏まえて、外交上の効果を十分に検討しています。また、支援の規模についても、我が国の厳しい財政状況をしっかり勘案しつつ、限られたODA予算の範囲内で無理なく実施でき、同時に最大限外交的効果が得られるよう工夫しているところであります。

 支援の大部分を占める円借款は、その期限が来れば返済されることになります。したがって、大盤振る舞いとの指摘は全く当たりません。

 TPPについてお尋ねがありました。

 TPP協定の内容については、交渉中も、秘密保持の制約の中で、国会等における丁寧な説明を心がけてまいりました。大筋合意後は、その直後から、関税交渉結果や、協定本体及び附属書の概要資料等を公表してきたところです。これからも国会や国民への丁寧な説明に努めていきます。

 TPPの国会審議のあり方については、国会においてよく御議論いただきたいと思います。

 国と地方のあり方、地方分権についてのお尋ねがありました。

 国と地方のあり方については、国は国家の本来的任務を重点的に担い、地方は住民に身近な行政をできる限り担う、そうした適切な役割分担によることが重要と考えています。

 地方分権改革については、今般、長年全国知事会から要望が強かったハローワークの地方移管を初め、地域に密着した課題の七割以上を解消します。今国会において必要な法案を提出し、御審議いただくこととしていますが、今後とも、地方の発意を重視しながら、国から地方への権限、財源等の移譲推進など、地方のための分権改革を力強く着実に進めてまいります。

 また、道州制の導入については、現在、与党において、道州制の議論を前に進めるべく検討が重ねられているところであり、政府としても、連携を深め取り組んでまいります。

 なお、政府関係機関の地方移転については、地方の自主的な創意工夫を前提に、仕事と人の好循環を促進することを目的として行うもので、地方創生に資するものであると考えております。

 自由度の高い交付金についてお尋ねがありました。

 民主党政権時代の一括交付金については、手続の煩雑さなどさまざまな問題点が指摘されていたことから、平成二十五年度に廃止し、地方からの意見を踏まえ、より大きな政策目的にまとめて自由度を高めるなど、運用改善を図った上で、各省庁の交付金等に移行しました。

 二十八年度当初予算においては、新たに自由度の高い地方創生推進交付金を盛り込みました。これにより、地方版総合戦略に基づく地方公共団体の主体的で先駆的な取り組みを支援してまいります。

 日本の財政状況への認識についてお尋ねがありました。

 日本の財政は厳しい状況にあることは十分認識しており、政府としては、社会保障制度を次世代に引き渡すとともに、国に対する信認を確保するため、財政健全化を着実に進めているところです。

 平成二十八年度予算においては、経済成長による税収増や社会保障の改革などによる歳出削減により、政権交代前と比較して、新規国債発行額を十兆円減額しており、着実な成果を上げております。

 もちろん、財政健全化に向けてはいまだ道半ばであり、今後とも、基礎的財政収支黒字化目標を堅持し、これまでの成果の上に、不退転の決意で取り組んでまいります。

 東京オリンピック・パラリンピックの関連予算等についてお尋ねがありました。

 遠藤オリンピック・パラリンピック担当大臣が関係各省と調整の上、取りまとめ、公表したところでは、平成二十八年度予算において、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のため、政府として実施する各種の施策のために新たにまたは追加的に措置した予算は百六十七億円となっております。

 新国立競技場の整備に係る財政負担については、多様な財源の確保に努めるとした平成二十三年十二月の閣議了解を踏まえ、国の施設であり、国が責任を持って整備を進める、スポーツ振興くじは、地域におけるスポーツ振興や競技力の向上の財源になっており、その目的を損なわない範囲で整備負担を引き上げる、東京都も、二〇二〇年東京大会の開催都市として整備に全面的に協力する、その際、都民への便益を踏まえ、整備費用の一部を分担するとの考え方に基づき、国、スポーツ振興くじ、東京都が二、一、一の割合で財源を負担することを昨年十二月の関係閣僚会議において決定したところです。

 なお、国民からの寄附についてはさまざまな議論があると承知しており、今後の推移を見守っていくとともに、競技人口が少ない種目の選手やパラリンピック選手等への支援についても、国による支援の強化、民間団体による支援のさらなる周知等に努めてまいります。(拍手)

     ――――◇―――――

伊藤忠彦君 国務大臣の演説に対する残余の質疑は延期し、明二十七日午後二時から本会議を開きこれを継続することとし、本日はこれにて散会されることを望みます。

副議長(川端達夫君) 伊藤忠彦君の動議に御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

副議長(川端達夫君) 御異議なしと認めます。よって、動議のとおり決まりました。

 本日は、これにて散会いたします。

    午後四時五分散会

     ――――◇―――――

 出席国務大臣

       内閣総理大臣   安倍 晋三君

       財務大臣     麻生 太郎君

       総務大臣     高市 早苗君

       法務大臣     岩城 光英君

       外務大臣     岸田 文雄君

       文部科学大臣   馳   浩君

       厚生労働大臣   塩崎 恭久君

       農林水産大臣   森山  裕君

       経済産業大臣   林  幹雄君

       国土交通大臣   石井 啓一君

       環境大臣     丸川 珠代君

       防衛大臣     中谷  元君

       国務大臣     甘利  明君

       国務大臣     石破  茂君

       国務大臣     遠藤 利明君

       国務大臣     加藤 勝信君

       国務大臣     河野 太郎君

       国務大臣     島尻安伊子君

       国務大臣     菅  義偉君

       国務大臣     高木  毅君

 出席内閣官房副長官

       内閣官房副長官  萩生田光一君

 出席政府特別補佐人

       内閣法制局長官  横畠 裕介君


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