第7号 平成19年3月23日(金曜日)
平成十九年三月二十三日(金曜日)午前九時開議
出席委員
委員長 河本 三郎君
理事 木村 勉君 理事 後藤田正純君
理事 戸井田とおる君 理事 西村 康稔君
理事 平井たくや君 理事 泉 健太君
理事 松原 仁君 理事 田端 正広君
赤澤 亮正君 遠藤 武彦君
遠藤 宣彦君 越智 隆雄君
大塚 拓君 岡下 信子君
嘉数 知賢君 木原 誠二君
谷本 龍哉君 寺田 稔君
土井 亨君 中森ふくよ君
林田 彪君 保坂 武君
松浪 健太君 村上誠一郎君
市村浩一郎君 小川 淳也君
佐々木隆博君 寺田 学君
横光 克彦君 渡辺 周君
赤松 正雄君 吉井 英勝君
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国務大臣
(国家公安委員会委員長) 溝手 顕正君
内閣府大臣政務官 岡下 信子君
内閣府大臣政務官 谷本 龍哉君
政府参考人
(警察庁生活安全局長) 片桐 裕君
政府参考人
(警察庁刑事局組織犯罪対策部長) 米田 壯君
政府参考人
(金融庁総務企画局審議官) 畑中龍太郎君
政府参考人
(金融庁総務企画局参事官) 山崎 穰一君
政府参考人
(金融庁総務企画局特定金融情報管理官) 知原 信良君
政府参考人
(法務省大臣官房審議官) 三浦 守君
参考人
(中央大学法科大学院教授) 中野目善則君
参考人
(一橋大学大学院法学研究科教授) 村岡 啓一君
参考人
(弁護士)
(自由法曹団幹事長) 田中 隆君
内閣委員会専門員 堤 貞雄君
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委員の異動
三月二十三日
辞任 補欠選任
木原 誠二君 越智 隆雄君
林田 彪君 保坂 武君
小宮山洋子君 寺田 学君
石井 啓一君 赤松 正雄君
同日
辞任 補欠選任
越智 隆雄君 大塚 拓君
保坂 武君 林田 彪君
寺田 学君 小宮山洋子君
赤松 正雄君 石井 啓一君
同日
辞任 補欠選任
大塚 拓君 木原 誠二君
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本日の会議に付した案件
政府参考人出頭要求に関する件
犯罪による収益の移転防止に関する法律案(内閣提出第二九号)
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○河本委員長 これより会議を開きます。
内閣提出、犯罪による収益の移転防止に関する法律案を議題といたします。
本日は、本案審査のため、参考人として、中央大学法科大学院教授中野目善則君、一橋大学大学院法学研究科教授村岡啓一君、弁護士・自由法曹団幹事長田中隆君、以上三名の方々から御意見を承ることにいたしております。
この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。
本日は、御多用中のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。本案について、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。
次に、議事の順序について申し上げます。
中野目参考人、村岡参考人、田中参考人の順に、お一人十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
なお、参考人各位に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対し質疑をすることはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
それでは、まず中野目参考人にお願いをいたします。
○中野目参考人 ただいま御紹介にあずかりました中野目善則でございます。今回の犯罪による収益の移転防止に関する法律案についてコメントを求められましたので、それについてのコメントを申し述べたいというふうに思います。
まず最初に、この法律の目的といいますか、それについての基本的な認識を共有するという点が極めて重要ではないかというふうに思われますので、その点について述べさせていただきたいと思います。
この法律で念頭に置かれております組織犯罪というのは、個人によって散発的に行われる犯罪とは異なりまして、経済的収益を犯罪によって得ることを目的にして、犯罪行為をいわば業として継続的、反復的、組織的に行う活動に関係しております。そして、それによって多額の経済的な収益を得るということをねらっているわけであります。
この組織犯罪活動のターゲットとなった人々の生活は非常に大きく破壊されてしまいますし、人々が安心して生活することができる社会のあり方というのも根底から揺るがされるということになるわけであります。他面におきまして、犯罪によって他者を犠牲にしてみずからの裕福な暮らしを維持するという全く正義に反する行為が行われているということで、非難度が極めて高い行為であるというふうに言うことができるわけであります。
組織犯罪は、その犯罪行為によって得た巨額の利益というものを犯罪の継続、拡大のために使うというだけでなくて、それを経済活動に投資するというようなことを通して、言ってみれば裏の世界から表の経済をコントロールするということも行うおそれが高いのであります。
このような犯罪の継続、拡大というものを阻止して健全な経済活動への悪影響を阻止する、犯罪によって被害をこうむっている人々の経済的な回復を図ることができるようにするというために、犯罪収益の剥奪と収益移転行為の阻止というものが強く求められてきているところであるというふうに言うことができると思います。
そしてまた、近時は、米国の九・一一にも象徴されておりますように、社会の安全を著しく脅かすテロというものが国際的に大きく懸念されてきているところであります。そして、それに対して有効に対処するための枠組みの必要性というものが各国において認識されてきているところでございます。
組織犯罪に関連する収益の移転、それからテロ犯罪への資金供与といった道を断つことが、我々の社会の安全を確保するという上で極めて重要なことではないかというふうに思われるわけであります。
この法律が規制しようとしますマネロン、犯罪収益の移転に関する規制というのは、密行性が非常に高い犯罪組織によって行われる活動が表に姿をあらわしてくるというところを効果的にとらえることができる制度を整備して、規制を加えようというものであります。また、テロなどに資金が供与されて犯罪が実行されるのを未然に防ぐということにも重要な意義を持っているものというふうに認識することができるわけであります。
こういう観点から、犯罪収益の移転に一定の規制を加えようとしている本法律の目的は、国際的にも合意が得られている妥当なものであるというふうに評価することができるのではないかと思います。
次に、本人確認、本人確認記録の保存、それから一定の範囲での報告義務を課している制度の必要性について考えてみたいと思います。
この法律案では、金融機関等を対象にするというだけではなくて、それよりも対象を広げまして、不動産業等の非金融業、それから士業というふうに言われている職業専門家にも規律を加える内容となっております。この点はFATFとの関係で履行を求められるということになろうかと思います。
組織犯罪、テロ犯罪などは、国境を越えてその活動が展開される犯罪行為であるという点に特徴がございます。また、規制の緩い抜け穴というものを非常に目ざとく見つけてこれを利用するという現実に対処しなければならない、こういう必要性が非常に高いものでございます。
一国内で、規制の緩い抜け穴をつくるということになりますと、それを利用されてしまう、それからまた、国際的に見ても、規制の緩い国があれば、その国が利用されて、マネロンやテロへの資金供与を阻止しようとして規制を行っている国の努力を無に帰せしめてしまう、あるいは効果のないものとしてしまうという懸念がございます。FATF勧告を重視した、抜け穴をつくらないように、できるだけ多くの国が共同歩調をとって対処をしていくということが極めてこの分野では重要になってくるということになろうかと思います。我が国だけが緩過ぎる規制をしいているということになりますと、他の国の努力を水泡に帰せしめかねないものでもありますので、国際社会からの非難を受けるということにもなるおそれがございます。
こうした点で、金融機関だけでなくて、不動産業等の非金融業者、それから弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士等の職業専門家の場合にも、違法に得た収益の仮装、隠匿目的で利用されるおそれ、あるいはテロ資金の供与に使われるおそれというものに対処するべく、規制の網の中に含めて、本人確認義務、記録保存の義務等を負わせ、また、士業の場合には除かれておりますけれども、報告義務を定めたという今回の法律は、意義のあるものではないかと思われます。
国際的にも、FATFとの関係で、我が国が負う使命を最低限度果たそうとするものであるというふうに評価することができるのではないかと思います。
もっとも、士業について報告義務を定めていないという点は今後の検討課題として残ることになるのではないかと思います。
それから、組織についてでございますけれども、規制組織を金融庁から警察庁に移したということについての議論が多々行われて、それとの関連で、弁護士会等でも抵抗が生じたということがございます。
金融庁によって規制を行うのか、それとも警察庁によって規制を行うのかということは、中心的に専門技量を持っているところが中心になって規制を行うことが最も効果的な規制に通ずるということではなかろうかというふうに思います。その点で、組織犯罪等について専門的な知見というものを持っている警察庁の方に規制監督官庁が移ったということで、それだけを問題視するということは必ずしも当たらないのではないかというふうに思われるわけです。
国によっては、イギリスのSOCA、重大組織犯罪取り締まり局というものがございますけれども、そこで見られるように、犯罪の実態に合わせた有効な対処をするというために、複数の専門技量を持つ機関が一緒になって、情報の分析から法執行、捜査、訴追までを包括的に行うという法制度を定めている国もあるほどであります。問題の性質が、一つの機関だけで対処をするというのには十分ではないというところに来てしまっているのではないかと思います。
時間の関係ではしょりますけれども、立入検査等の問題につきましては、後でまた議員の先生方からいろいろ御質問があろうかと思いますので、その中でお答えをするというふうにしたいと思います。(拍手)
○河本委員長 ありがとうございました。
次に、村岡参考人にお願いいたします。
○村岡参考人 私は、一橋大学の法科大学院において必修科目であります法曹倫理と刑事実務を担当しております。きょうは、主に法曹倫理を教えている立場から意見を申し上げます。
法律家、とりわけ弁護士の倫理問題の中核には依頼者に対する守秘義務といったものがあり、いかなる場合にその守秘義務の例外が認められるのかといった問題が、近時、法曹倫理の分野で深刻に議論されております。
今回の法案が提出される源になったFATFの勧告の中にもあります、弁護士ほかの法律職に対して疑わしい取引の報告義務を課するという点については、法律職一般に対して依頼者に対する守秘義務の例外を国の法律によって認めるものですから、法曹倫理と深くかかわることになります。それゆえに、各国のロースクールにおいては、法曹倫理を教える教員の中で、重大な関心を持ってこの問題は議論されているわけです。
今回の犯罪収益移転防止法案についての私の評価を申し上げます。
まず、弁護士を含む五つの士業について、疑わしい取引の報告義務を課さなかった点は極めて正しい選択であったと評価をいたします。五つの専門職に共通していることは、国家資格を与えられて業務独占を認められているプロフェッショナルであるということ、その裏づけとして守秘義務といったものが強固に守られており、そのことによって国民の信頼をかち得ているという点にあります。
したがって、今回の法案は、恐らく、私の推測するところ、マネーロンダリングの対策のために専門職を一律に包括することによって失われる国民の信頼の大きさ、それと、一方で、マネロンの犯罪の端緒となるであろう情報提供、そのバランスを比較考量した結果、むしろ国民の信頼を失うことの方が弊害が大きい、そういうふうに判断された結果であろうというふうに想像しております。これは極めて正しい利益考量を行ったというふうに言えると思います。
しかし、私は、この法案の将来にはいささか危惧を抱いております。それは、弁護士を含む五つの士業につき、疑わしい取引の報告義務といった点では課されなかったものの、依然として、法律職全体をゲートキーパー制度の枠組みの中に取り込んでいるからです。いまだに火種は残っているというのが私の偽らぬ評価です。
弁護士自治を持っていない、ほかの主務官庁の監督下に置かれている専門職、公認会計士、司法書士等については、本法案のもとでも、本人確認義務と取引記録の保存義務といったものがほかの金融取扱業者と同様に義務づけられております。行政庁から報告を求められ、かつ立入検査を受け、指導助言を受けるという構造になっております。このことは、弁護士を除く専門職も、本人確認がきちんとなされていないではないかというふうに行政庁が判断した場合には、立入検査の対象とされることを意味しております。それぞれの義務違反が認められた場合には、その所轄する行政庁の是正命令を受けるということになっております。
したがって、弁護士を除く法律職ないし公認会計士等の専門職は、疑わしい取引の報告義務こそ免除されていますけれども、ゲートキーパー制度の枠組みの中に組み込まれていることは明らかであります。その結果、例えば、司法書士の中には簡易裁判所の弁論権、すなわち訴訟代理権を認められている者、実質的な意味での弁護士といった者もいるわけですが、法務省の管轄下にありますから、その規制いかんによっては、実質的に依頼者の秘密保護に支障を来す場合が起こり得ます。私は、そのような規制が、ひいては弁護士にも波及するのではないかということを恐れます。
さらに、法案十七条では、当該所轄庁による是正命令という行政取り締まり手法を超えて、国家公安委員会に、行政庁に対し是正命令を出すように意見を述べることができるという、意見を述べる権限を与えた上で、その前提として、都道府県警察に指示をして、必要な調査としての施設への立ち入り、帳簿等の検査、関係人の質問をなし得るという規定になっております。これは、従来の行政庁による行政取り締まりの権限といったものを、事実上、国家公安委員会を頂点とする警察の管理下に置くのではないかというふうに考えざるを得ません。正直に申し上げまして、私は、余りにも国家公安委員会と都道府県警察に大きな権限を与え過ぎるのではないかということを危惧しております。
また、刑事訴訟法の観点からいいますと、裁判所の令状がないまま、国家公安委員会の判断だけで事実上の強制処分をなし得ることになりますから、憲法上の令状主義に違反するのではないかという疑念も生じます。さらに、是正命令違反に対して刑事罰をもって臨むということで、特に懲役刑が規定されております。私は、あくまでもこの法案の目指すところは行政取締法ですから、その違反について懲役刑をもって臨むというのは行き過ぎではないかというふうに考えております。
したがいまして、私は、法案十七条の少なくとも二項と三項、それから罰則の懲役刑については削除すべきではないかというふうに考えております。
最後に、弁護士の取り扱いについても実は危惧があります。弁護士自治を尊重して弁護士会の会則にゆだねるという配慮をしていただいている点は大変評価いたしますが、弁護士会内部の懲戒規制をそのまま法案の中に取り込んでいるわけですから、将来的には、いわゆる疑わしい取引の報告義務を取り込む余地を残しているというふうに考えざるを得ません。
特に、ことしの秋に予定されているFATFの相互審査の結論は、昨年のアメリカの例がそうであったように、弁護士等につき報告義務の対象としていないという点についてはノンコンプライアンス、つまり不履行だという評価がされることはほぼ明白であります。そうすると、改めて疑わしい取引の報告義務の法制化という問題が再燃するのではないかといったことを危惧しております。
将来のその危惧に備えて言うわけではありませんが、私は、弁護士の守秘義務と報告義務の調和といったものを考えるための、何か調和点はないかといったことを考えまして、お手元に配付をいたしました「論考」という司法書士会の機関誌に書いた原稿を用意させていただきました。そこの「私見」といったところが私の見解になるわけですが、結論から言いますと、弁護士はプロフェッションとして依頼者のために代理して行動するのを職務の本質としますから、主人は常に依頼者一人です。しかし、本法のように、報告義務を課するということは、依頼者のほかに国家にも仕えよということを意味します。つまり、二人の主人に仕えることを求めているわけです。これは、弁護士の職責上、原理的に受け入れることができません。
では、どうすればよいか。私は、国家の側からの義務づけではなくて、弁護士の側からの協力という逆のアプローチがよいのではないかというふうに考えているわけです。実際に疑わしい取引に遭遇した弁護士は、守秘義務の例外が認められるのであれば、その捜査の端緒となる情報を国家に提供することにやぶさかではありません。その道を開くこと、そのことによって十分対処できるであろうというふうに考えるわけです。
先日、三月の初旬に日弁連は、依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程といったものを整備して、いわばマネロンと疑われる事態に遭遇した場合にその依頼を拒絶し、後日、犯罪収益移転の事実を知った場合には説得をして、その説得が功を奏さない場合には辞任をすべきだという義務を定めました。これは、弁護士会がマネロン対策に協力をするという一つの意思表示であるわけですけれども、法曹倫理の観点からいうと、拒絶をした、かつ、辞任をした後、では情報をどうすればよいのかといった点が明示されていない点が疑問となります。
しかし、弁護士会の倫理規範のもとで守秘義務の例外を認める方向で対処するというこの方向は間違っていない、ここが唯一の調和点であろうというふうに私は考えております。
以上です。(拍手)
○河本委員長 ありがとうございました。
次に、田中参考人にお願いいたします。
○田中参考人 御紹介いただきました、弁護士の田中と申します。
全国の弁護士千七百名で構成する自由法曹団という法律家団体の幹事長をやっております。人権の問題、平和あるいは治安の問題にかかわってきた団体でありまして、そういう立場から陳述をさせていただきます。
お話がありましたように、この問題をめぐっては、弁護士などの法律専門職等を組み込んで疑わしい取引の届け出義務を課すかどうかで議論が続いてきました。今回の法案では弁護士などを届け出義務の対象から外しておりまして、その点では差し当たり私もよしといたします。ただ、きょう陳述させていただくのは、弁護士にかかわるここの問題ではないところでお話をさせていただきます。
自由法曹団が昨日発表した見解を資料として配付させていただきました。法案が提出されてから種々検討いたしましたが、構造的な問題をはらんでいて、人権と抵触する部分が大きい法案で、弁護士の届け出義務が外されたからといって賛成することができないというのが結論であります。
幾つかかいつまんで問題を指摘させていただきます。
第一の問題は、対象範囲の広範さと届け出義務の要件のあいまいさであります。
金融機関からクレジット業者、宅建業者などに至る広範な業者に、本人確認から届け出までの義務が課されます。弁護士を除く、いわゆる士業には届け出義務はないんですが、本人確認と取引記録の義務は課されます。業者が極めて広範で、どうやら弁護士を除いて四十五万事業所を超えていると聞いております。
対象となる取引も極めて広範で、はっきり言えば、やっている業務の全部あるいはほとんど全部です。銀行で預金をしても、クレジット契約をしても、宅建業者を介して土地建物を売り買いしても、あるいはちょっと高価な宝石を買っても、すべて対象行為になります。
このような国民生活に密着した広範な取引が記録の対象となって、疑わしい取引かどうかがチェックの対象になり、疑わしいとされれば届け出の対象になることのはらんでいる問題を直視すべきだと思います。
届け出が要求される基準はまことにあいまいでありまして、犯罪による収益である疑いあるいは組織犯罪とされる犯罪行為を行っている疑いですから、業者は一たんは顧客を疑ってみるしかありません。そして、疑わしいと思えば届け出なければなりませんから、業者はお客さんへの信頼と行政庁への届け出義務の板挟みにならざるを得ない。これはすべての業種について発生する問題で、業者あるいは顧客に対して及ぼす影響は深刻なものがあります。
この法案がそれだけの、いわば社会的ストレスをはらんでいるんだということ。一つ間違うと、自由な取引関係や顧客との信頼関係を破壊していく危険を持っていることにやはり留意をする必要があるのではないかと思います。
第二の問題は、その取り扱いにおいて公安委員会、警察庁が突出し、警察に情報が集中することです。
先ほどもお話がありましたが、これまで金融庁に置かれていたFIUが国家公安委員会に移管されることになります。実質的には警察庁がコントロールセンターになることになります。その結果、差し当たりは、行政庁に届け出られた疑わしい取引の情報はすべて国家公安委員会に通知され、警察のもとに膨大な情報が集積されていくことになります。
事はマネロンの問題でして、対象になっているのは金融取引を初めとする経済取引、経済生活の行為です。こうした経済行為についての情報管理を犯罪捜査や治安維持を専門とする警察に管制させる理由がありません。それをあえて警察のもとに置けば、届け出などが直ちに犯罪捜査に直結することになりますし、現に法案三条二項や十一条はそのことを前提にしています。そうしますと、五十万事業所近い広範な業者におかしな顧客をいぶり出して事実上刑事告発しろと言っているに等しいことになります。
確かに、FATFの勧告には、国の中央機関としてFIUを設立すべきとはしています。しかし、それを警察に置くべしなどとは言っておりません。現に、半数近くの国で警察以外の機関に置かれています。この国が自由なシステムのもとで自由な経済を発展させようとされるのであれば、少なくともFIUは警察と直結させるべきではないのではないでしょうか。
第三に、公安委員会と警察に広範かつ強権的な権限が認められていることが問題です。
業者の義務違反に対して是正命令を出せるのは、それぞれの業種に対応する行政庁です。その関係で、報告や資料提出を要求する権利あるいは職員を立入検査させる権利も認められています。裁判所の令状なしに実行でき、それに対して拒否や忌避をすると犯罪としますから、これらの権限も濫用されると深刻な権利侵害を引き起こします。しかしそれでも、これならまだ本来の行政の手続の範疇にあります。
ところがこの法案では、本来の今の手続以外に、十七条で公安委員会に行政庁への意見陳述の権利を認め、その意見陳述に必要だからとして、報告や資料提出要求を認め、さらに都道府県警察に調査させることも認めます。そして、警察官は行政庁職員と同じように立入検査、質問をすることができ、この警察官の立ち入り等に対する拒否や忌避、嫌がりも犯罪とされます。
この公安委員会と警察の権限は、本来の行政手続のルートの横合いから実力的に割り込んでいる、こういう構図になっておりまして、こういう異様な構図を持っている法制というのを寡聞にして知りません。この警察官の権限の割り込みの問題は、この法案が提出されて初めて顕在化した部分でありまして、それだけにまだほとんど議論されていない大きな問題だろうと思います。
どんなときに一体意見が述べられるのか。義務に違反していると認めるときですから、警察が義務違反があると考えられれば意見が述べられることになり、その疑いがあれば調査権が行使できることになるはずです。当局側はどうも、ほかの刑事事件で情報が得られたときに意見を述べると説明されたとのことなんですが、法文上にそんな限定はどこにもありません。
現実に警察は、例えば生活安全活動、安全・安心まちづくり活動、あるいは巡ら、警らの活動、さらにはさまざまな分野の行政取り締まり等の広範な活動を展開されていて、地域社会の膨大な情報を入手しています。あそこの店ではどうも本人確認がされていないとか、向かいの司法書士事務所に変なやからが出入りしているようだなどという情報がそういう活動を通じて警察に蓄積されて、そして調査権発動やあるいは意見表明に展開していく可能性は決して否定できないはずです。地域に根を張ったこうした警察力を駆使すれば、確かに五十万近い事業所をチェックすることはできるかもしれません。しかし、そのことは日常的な経済生活が警察の監視下に置かれることを意味しないでしょうか。
この関係でもう一点。もし何らかの端緒で警察が義務違反をつかむことがあったとして、どうして警察がみずから調査権を行使しなきゃならないかという問題があります。
この法案では、届け出情報を公安委員会に通知するなど、機関の間で情報を授受することが前提になっています。だったら逆に、警察はつかんだ情報を本来の行政庁に通知して、後はその行政庁の調査や処分にゆだねることにすればいいんじゃないでしょうか。それだったら、十七条に警察からの通知の一項を設けておけばよかったはずです。経済取引にかかわる調査や処分を最大限本来の行政の道筋にゆだねようとするのであれば、これが本来の姿だったはずです。
にもかかわらず、ほかの法制にまず類例のない、横からの割り込み型の警察権限を強引に持ち込んでいるということは、どうやら経済分野での警察権限の拡大、経済警察の復活を考える警察の意図が透けて見えると考えざるを得ないという問題です。
終わりに、法案審査についての要望を申し上げて、締めくくりにします。
この数年来、テロの脅威や体感治安の低下が言われまして、かつてでは考えられなかった立法等が強行され続けています。問題になっている共謀罪しかり、生活安全条例しかり、町にはんらんしている監視カメラしかり、地域に展開している国民保護計画しかり、警察と学校をつなぐ警察・学校相互連絡制度しかりです。その都度、自由法曹団は批判意見を呈してきました。安心で安全な社会のためのものとされていますが、現実には監視と密告を奨励し、地域社会の分断を生み、決して安心感を与えているとは思えません。
ゲートキーパー法案も、やはり監視と摘発を励行して、人々を疑心暗鬼にさせていくでしょう。監視され、記録され、届け出や提出の危険にさらされるのは、当たり前の国民の日常の経済生活で、その結果、削り取られていくのは、かけがえのない人権である自由やプライバシーです。
本当にこのまま進んでいいのか、このあたりで立ちどまって考え直す必要があるのではないかも含めて、ぜひ御検討いただきたい。重大な問題をはらんだこの法案に慎重かつ適切な審議をいただくことを願って、陳述といたします。
ありがとうございました。(拍手)
○河本委員長 ありがとうございました。
以上で各参考人からの意見の開陳は終わりました。
―――――――――――――
○河本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
質疑の申し出がありますので、順次これを許します。土井亨君。
○土井(亨)委員 おはようございます。自由民主党の土井亨でございます。
きょうは三人の先生方に、十分間という短い時間でありましたけれども貴重な御意見を賜りまして、まず御礼を申し上げさせていただきます。
初めに、この法律は、国際犯罪を未然に防ぐということではまさに国際社会との協調、協力、同一歩調ということで、私は大変大切な法案だというふうに思っております。その中で、先ほど中野目先生の方から、組織という部分でFIU業務が金融庁から国家公安委員会に移管された、これは専門技量、専門的知見を持っているということで大変いいことだというようなお話を賜りました。
改めて中野目先生にお伺いをさせていただきたいと存じますが、FIU業務が公安委員会に移管されたということで、これによるマネロン、テロ対策にどのような効果がもたらされるというふうにお考えか、まずお聞かせいただきたいと存じます。
○中野目参考人 ただいまの御質問でございますけれども、警察庁の方が組織犯罪等については相当に多量の情報の蓄積をしているということもございますので、疑わしい取引が報告されたときの、既存の自分の方で持っている情報との組み合わせで、今までよりも一層効果的な情報の分析ができるのではないか。的確な情報の分析をすることがどのような方策をとるかということについての基礎をなしますので、その意味で極めて重要な方向を示したものではないかというふうに考えております。
また、体制それ自体についても、従来よりも拡充される方向であるというふうに聞いておりますので、その点でも、今度の法案によってさらに組織犯罪等についてのより十分な対処がされていくことになるのではないかというふうに考えている次第です。
○土井(亨)委員 ありがとうございます。
続きまして、また中野目先生と、今度は村岡先生にお伺いをさせていただきたいというふうに思います。
今回の法案では、弁護士、あと司法書士を含めた士業の皆さんに対しては、報告義務を課さないということにいたしております。特に弁護士については、会則でしっかりとやってくれ、そういうような形になっておりますが、八条の三項に、「政府及び日本弁護士連合会は、犯罪による収益の移転防止に関し、相互に協力するもの」というふうに規定をされております。
いろいろな議論の中で、日弁連さんが報告義務というものに大変な反対をされた。弁護士自治というものもございます。私は、やはり適切な緊張関係というものが必要だというふうに思いますし、また、先ほど村岡先生の方から、FATFの審査が入ったときに、弁護士、士業が報告義務を課せられていないということになると、不履行ということにされるのではないかというようなお話もございました。
私もその点は大変懸念をいたすのでありますが、しかし、我が国の弁護士制度を含めて弁護士というものの職責、また先ほどからいろいろお話がありましたとおり、国民の皆さんの信頼というものを考えれば、やはり我が国のこの法律の趣旨というものをしっかりFATFにお話をしなければならない、訴えていかなければならない。そのためにも、この三項というものが大変重要な意味を持つのではないかと私は思っております。
そういう意味で、改めてこの三項の「相互に協力する」という、その「協力」というものをどのようにお考えになられているか、中野目先生、村岡先生にお伺いをさせていただきたいと存じます。
○中野目参考人 それでは、ただいまの御質問についてお答えしたいと思います。
まず、「協力」ということの意味ですけれども、これは既に日弁連の方で会則を改正して、本人確認、それから本人確認についての記録保存ということを定めるということをしております。こういう意味での協力は、ここの八条三項に言う「協力」ということの意味の中に入るのではないかと思います。
さらに、今回の法案では直接触れられていないわけですけれども、弁護士会の方が疑わしい取引について審査をした上で、さらにそれについて当局に報告をする必要があるというふうに判断した場合に、それを当局の方に告げるという制度が前回検討されたわけですけれども、これについては、弁護士会の方では、絶対受け入れないという趣旨でそういうふうに言われたということではないようにも伺っております。将来的には、そういう点も含めて検討するという余地が残されているのではないかと思います。
一番問題なのは、弁護士と依頼者との間の秘密保持が害されるということになると、依頼者の方で、率直に自分の持つ悩み、トラブルというものを弁護士に告げて、弁護士から法的助言を得るということができなくなってしまうということを懸念されているんだと思うんですね。
他面で、それでは依頼者の方が犯罪にかかわる情報を持ってきて、自分がこれからさらに犯罪を行いたいとか、あるいは、現に行っている犯罪について発見されないようにするためにはどういうふうにしたらいいかということについてアドバイスを得たいというような場合ですと、では、これは弁護士と依頼者間のコミュニケーションだからというので秘密保持の保護の範囲の中に入るのかというと、これははっきり入らないということで考えていく必要があるのではないか。英国、米国等においても、こういう犯罪促進目的で行われるコミュニケーションについては、弁護人、依頼者間の特権といいますか、その保護の対象の中には入らないということでずっと議論が展開されてきております。私も、日本の場合にもその前提に立って議論を展開するべきではないかというふうに考えている次第です。
○村岡参考人 八条三項の相互協力ということの意味ですが、弁護士会においても、国際的なマネロン対策に協力をするという政策については一致しているわけです。ただ、その規制のあり方の中に、弁護士会としては、先ほども言いましたように、どうしても譲れない原理といったものがあります。
世界を見渡しても、この規制のあり方で二つの方向があります。
一つは、最初にすべての士業、法律職を含めて原則報告をさせるという一律の義務化をした上で、例外的に解除をしていく、先ほどの秘匿特権づきの情報については例外に扱うといったような方向。もう一つは、アメリカがやっているように、総合的な施策でさまざまな分野でそれぞれの分野が対処をする、したがって、弁護士の場合にも守秘義務の解除という方向から、守秘義務違反に問われない、そしてなおかつ犯罪撲滅のためにそういう情報を開示していこうという、逆のアプローチがあるわけです。
私は、日弁連がどちらの方向をとるのかという点について意見を申し上げる立場にありませんけれども、少なくともそういう二つのアプローチの違いがある中で、むしろ後者のアプローチの方が弁護士の原理といったものを守る意味ではすぐれているだろうというふうに考えているわけです。
ですから、「相互に協力する」ということの意味は、同じ目的を持っているけれども、その規制の仕方というのは、今回の法律案のような一律報告化の義務を目指すということではないというふうに理解をしております。
○土井(亨)委員 ありがとうございます。
私も、今回のこの八条については大変評価をいたしております。弁護士自治、また弁護士の先生方の職種といいますか、重大な国民との信頼関係を含めれば、報告義務を課さないというのは私は評価をいたしているところでございます。ただ、先ほど申しましたとおり、FATFの審査というところでその辺が重要になってくるのではないかなということでございます。そのためにも、やはり日弁連の会則で、日弁連としてもマネロン、テロ対策にしっかり取り組むんだということを定めていただかなければならないなというふうにも私は思っております。
続きまして、十七条についてちょっとお伺いをさせていただきます。これも中野目先生と村岡先生にお聞きしたいと思います。
今回の法案以前にも、金融庁にございましたFIU、それについてのFATFの審査というのもございました。IMF及び世界銀行の審査というものもありまして、その際、マネロン対策においては検査機能が不十分だ、また、監督行政庁間の連絡協力関係が不備だというふうな指摘もされております。検査機能の不備というものがどこを指すのか、私もまだちょっと理解に苦しむところでありますが、その点を考えれば、今回の法律、十七条においては、前段に十三条、十四条、十五条、十六条ということで、十七条に行く前にいろいろな手だてが講じられているというふうに思っております。
私も法律は素人でありますから、法律をどう内容を読むかということに関してはなかなか理解度がないのでありますが、しかし十七条というものを考えた場合、その十三条から十六条、ここまで行政庁がしっかりと取り組んでもなおかつ履行してもらえないということで十七条に入っていくのではないかという理解を私は持っているのでありますけれども、その点について、中野目先生、村岡先生のお話をお聞きできればというふうに思います。
○中野目参考人 今、土井先生が言われたような理解ではないかというふうに私も考えているところでございます。
○村岡参考人 法文の規定からいきますと、確かに十六条まで、是正命令に至るまでは行政庁の管轄、その先に、国家公安委員会が是正命令を相当とする場合には意見を述べるという形なんですね。しかし、今のお話ですと、行政庁の行政取り締まり権限が十分に行使されたけれども失敗したということを想定されているわけですね。それは、果たしてそういう立法が正しいのだろうかという思いがあります。
とりわけ、第十七条では、警察官が登場してくるわけです。先ほど来、効率化といった意味で、検査機能、それからさまざまな情報の集約といった意味で一番効率性があってすばらしいというお話がありましたが、もう一つ考慮しなければならないのは、やはり国民の側から見た外観だろうと思うんですね。そうすると、行政庁の職員が来る場合の身分証明の提示と、明らかに警察官が立ち入りをするといったところでは質的な差があります。
そして、第十七条の五項では、いわば双方の調査といったものが併存することを予定されているわけです。そうしますと、決して行政庁が優位になっているわけではなくて、いわば対等の形で国家公安委員会、しかも警察が主導して動く行為、そういったものが登場してくるわけですから、私は、この法制についてはやはり見直すべきであろうというふうに思います。
○土井(亨)委員 ですから、私は、先ほどお話ししたとおり、行政庁の検査能力、検査体制というものが今回大切になってくるんだろうというふうに思っております。ただ報告をFIUに取り次ぐだけのような行政庁であれば、まともな検査あるいは指導、是正命令というものはできないだろうというふうに思っております。
ですから、今回の法律の前提にある場合は、所管行政庁の取り組み、検査機能、また協力関係、こういうものが十分にしっかりと充実をしていないといけないんだろうというふうに私は認識をいたしておりますので、それを前提ということで私はこの法律については考えております。
もう一点、今のお話をもとにしまして、十七条というものは、十三、十四、十五、十六というものが前提にあるというふうに私は思います。その際にも、十七条の中には、所管の行政庁との協議や国家公安委員会の事前承認などという安全装置といいますか、極力、所管行政庁でしっかり履行させるように努力せよ、そういうしっかりとしたものが入っているというふうに思っております。
ですから、この点、私は余り不安視するということにはならないんだろうというふうに思いますが、中野目先生の御見解をお聞かせいただきたいと存じます。
○中野目参考人 今の点ですけれども、国家公安委員会による調査が行われるという場合に、それ相応の根拠があって、その上で行われる。それから、制度全体も、マネロンということで、それに対して十分な対策を行う必要があるという一般的な必要性があることはもちろんですけれども、そのほかに、具体的にこの事例については特に調査をする必要があるという根拠があって行われる場合であるということでございます。
それからまた、その調査自体についても、これは今、土井先生の言われたことの黙示的な内容としては令状主義等の問題も絡んでくるのかと思いますけれども、それは、捜索、押収の場合とはやはり基本的に違うという理解をすべきではないか。捜索、押収の場合ですと、警察が令状を持って中に立ち入って、たんすの中まで、金庫の中まで全部あけて調べるということですけれども、この場合の行政調査というのは、そういう徹底的な、全部をひっくり返して見るような捜査を予定しているのではなくて、限定された目的物について閲覧をしたり調査をしたりするということが予定されているだけでございまして、かなり限定された範囲での干渉にとどまっているということです。
そしてまた、調査をするというときにも、身分証ですか、それを携帯して正当な権限を授権されているということを相手方に対して示さなければならない。
それからまた、ここで定められている行政目的を実現するのに必要とされる範囲での調査を行うということですので、その権限が濫用されてしまって、気まぐれ的な判断で、その法執行に当たる人々が何かプライバシーへの過度の干渉を行うのではないかという懸念は当たらないのではないかと思います。
その意味で、憲法三十五条の定めるような令状によって規律をするということをしなくてもいい場合だというふうに考えております。
○土井(亨)委員 その担保として十四条の三があるんだろうというふうに私は思っておりますが、金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律、これにも同じような規定がございます。
済みません、時間が参りました。この中で、今度は新たに「指導」という第十五条が入っております。必要な指導、助言、勧告ということで、いろいろな意味で十七条に行くまでに安全装置が働くというふうに私は理解をいたしておりますので、その点だけ申し上げさせていただきまして、時間がありませんので、質問を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。
○河本委員長 次に、泉健太君。
○泉委員 民主党の泉健太でございます。
本日は、三専門家の先生方、本当にありがとうございます。大変わかりやすい御指摘をいただいたというふうに思います。私の方からも、幾つか御意見をちょうだいできればというふうに思います。
まず、この法律そのものの制定に当たって前提の考え方として、もちろんテロ対策、マネーロンダリング対策ということは間違いのないことではあるわけですが、改めて、国民的に大きな関心も、特にその業界にかかわる方々には徐々に広がりつつあるという中でいいますと、特に士業の信頼というものが国民から失われてはならないというふうに思っております。
その意味では、今回のこの法律が制定をされるに当たって、立法事実というものが改めてあるという御認識なのか、それとも、ないという御認識なのかというところを少しお伺いしたいと思います。
特に、士業にかかわるところの方々の、これまでマネーロンダリングにかかわったということの御認識の中で、そういったものによってこの法律が制定をされるということがあるのかということについて、三者の御見解をまずお伺いをしたいと思います。
○中野目参考人 ただいまの、士業にかかわる人がマネロンにかかわるような具体的な事例があったのかということですけれども、これは私が答えるよりも警察庁の方に答えていただく方がいい御質問ではないかと思いますけれども、私の記憶では、恐らくあったのではないかというふうに思います。
やはり士業に対する信頼ということですと、自分の秘密を守ってくれるということも、それは確かに士業の人々に対する国民からの重大な信頼を確保するための重要な手段ですけれども、他方において、士業にかかわる人々が何か犯罪に協力をしてしまっているのではないかという疑念が国民から大きく持たれるということになると、これまた士業にかかわる人々に対する信頼が大きく害されてしまうということになるのではないか、その点を私は大きく懸念いたします。
○村岡参考人 立法事実といった場合に、規制を正当化するだけの立法事実があるかというふうに私は理解をします。
個別の一件の事例があったではないか、例えば、今回の配付されている内閣調査室作成の資料の八十二ページに弁護士がかかわっているマネロン犯罪といった事例などが紹介されておりますけれども、私は、こういったものが実際にあったのかどうかというのは、この事実をもっと正確に見きわめなければならないだろう。仮に、この一件だけで立法事実があったと言えるのかというと、それは違うであろう。私も、現在の職につく前、二十五年間弁護士をやっておりましたけれども、その中で、立法事実と言える、弁護士がいわゆるマネロンにかかわっていたといった事実には、私個人としては遭遇したことはありません。
○田中参考人 田中でございます。
現職の弁護士でございまして、私が現在マネロンにかかわっているかといったら、かかわっていませんと言うしかしようがないんですね。ただ、一点だけ。絶対に弁護士がマネロンにかかわらないかといったら、やはり危険な仕事でありまして、あり得ないわけではないということを想定して考えねばならないとは思います。ただ、積極的に加担すれば犯罪でありまして、これはもうこの法律の対象ではありません。
また、全く知らずに利用されたということであれば、実は届け出義務を課しても、これはだめなんです。結局、これを解決するためには、弁護士という世界の中でどれだけ、いわば利用されやすいリスクについて研修をし、是正していくかという自律的な努力がまず基本にあるべきだ。そこを抜きにして規制をかけるべきではないし、規制をかけるほどの立法事実に至っているとは考えておりません。
○泉委員 さらに、今回、日弁連がいろいろとこの法案に当たって警察庁とも協議をいたしまして、依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程というものをつくられました。これは、先ほどもお話がありましたけれども、疑わしい取引の依頼拒否、あるいは中止の説得、応じない場合の依頼辞退、これを義務づけて、会規に違反した場合は懲戒処分の対象となるということにしております。
そしてまた、本人確認ということでいいますと、依頼者の現金、預金口座、有価証券を預かる、管理したりする場合、個人は、氏名、住所、生年月日、法人は名称や本店所在地を公文書などで確認し、本人や当事者かどうかを確かめる。そしてまた、その取引記録、身元確認書類は五年間保存をするということになっております。一般の特定事業者の方は七年間保存をするということにもなっておるわけです。
今回のこの日弁連が定めた自主的なルールということについて、三参考人の皆様の御見解を、これで十分ということか、あるいはまだ足りないんじゃないかという御見解かというところをお伺いしたいと思います。
○中野目参考人 ただいまの点でございますけれども、一応、これは永久に決まりということではなくて、とりあえずこれでやってみて、様子を見て、不十分だということであれば、それに見合った改定をしていく、そういう性質のものではないかというふうに理解しているところでございます。
その意味で、最初の段階ではございますけれども、一応、試みとしては、十分、不十分という証拠に基づく評価というのはまだできる段階ではございませんので、とりあえずそれでやってみようということではないかというふうに理解しております。
○村岡参考人 私も、この規程については評価をしております。ただ、先ほど意見の中でも述べましたように、辞任した後の情報の開示といった点については明確ではない。この趣旨は、既にできている日弁連の弁護士職務基本規程の中の守秘義務のところの「正当な理由」といったところの解釈で恐らく対応するのだろうというふうには予想をしております。
しかし、そうであれば、より明確に、マネロンというふうに弁護士が認識した場合に、その情報を国家の側に開示したとしてもなお守秘義務に問われることはないというふうに明示すべきではなかったかなというふうには思っております。
○田中参考人 自律的団体としての日弁連がこの問題に対応して種々議論をし、三月の会則改正で定めたものでありまして、さまざまな議論が弁護士の中にありますが、現時点で適切な対応をしたものと私は評価をしております。これを進めていって信頼を強めていくべきと、日弁連を代表して話をする立場にありませんが、そんなふうに考えております。
○泉委員 ありがとうございます。
続きまして、中野目参考人にお伺いをしたいんですが、金融庁からのFIUの警察への移管ということについて、専門的知見を持っている、あるいは体制も今後拡充をされるということで、これは適切ではないかというお話がございました。
一方で、きのうも国会審議が、この委員会の中で法案審議が行われたわけですが、その中で指摘がありましたのは、一つは、ウィニーの事案に見られる警察による情報流出という問題が指摘をされました。そういったことが特に、実は昨年、内閣官房の情報セキュリティセンターというところで各省庁の情報管理の度合いというものの政策評価を、これは政府が行ったものですが、そこで残念ながら警察庁が、ランクの中では一番下のDランクという位置づけになってしまったということもございまして、情報管理、これが特に警察庁が望ましいのかということが指摘もされているところでございます。例えばその辺についての御認識、あるいは改善をしていけばいいのではないかというところなのか、その辺のお伺いをしたいと思います。
○中野目参考人 先ごろDランクがつけられたというお話がございましたけれども、これはやはり警察庁の方で改善をしていただかなければいけないということであろうと思います。
それともう一つは、Dランクということが今回のマネロンにかかわるものについても妥当するということなのか。全部一律でDランクということではなくて、ある部分については相当神経を使って高度なセキュリティーを確保しているというところもあると思いますので、この辺は事実問題になってくると思いますけれども、もし不十分であるというところがあれば、それは早急に改善をしていただきたいというふうに私も思うところでございます。
○泉委員 もう一つ中野目参考人になのですが、これも昨日の質疑の中で、今ちょうど田中参考人からもお話がございましたけれども、警察の警ら情報あるいは他の犯罪に関する捜査情報。今、警察の方では、例えば指紋あるいは聞き込み、いろいろな情報を統合して、その関連性を強めることによって、照会の迅速化ですとか、そういったものにも一方で取り組んでいこうという流れがございます。しかし一方では、今回の国会答弁においては、このFIUに関する情報というものは捜査情報には一切利用しないんだ、そこは明確に情報を分けるんだということも答弁が出てきております。
その相互の情報の取り扱い、これはやはり、リンクしていくべきではないというような意見と、いや、情報というものは全体的に重ね合わせることによって有効性があるのだからリンクしていくべきだという両方の論があるわけですが、その点についてはいかがお考えでしょうか。
○中野目参考人 今の問題は極めて重要な問題だというふうに考えているところでございます。
今回の法案では、御指摘のありましたように、一応、捜査情報とは別のものとして取り扱う、ただし、分析してみた結果、それが犯罪にかかわるものであるということがわかったような場合には、それを捜査当局の方に引き継ぐということになっているわけでございます。
これは、国によっても違いがございますけれども、例えばイギリスのような場合ですと、情報の収集、分析ということだけではなくて、さらにそれを捜査、訴追にまで使う、SOCAという新しくつくった組織のもとで一体としてこれを行っているというところがあります。
最も効果的な対処を行うべきであるというふうにするのであれば、御批判はあろうと思いますけれども、情報の全体的なリンクを発展させていくべきである。ただ、その際に、守秘義務に対する不当な干渉でありますとかそういったものが生じないようにするためのさまざまな工夫、歯どめ等を設けながら、他方で情報の共有を図って、有効にマネロンあるいはテロに対する資金供与等に対処していくべきであるというふうに私個人的には考えている次第であります。
○泉委員 この点、私も大変重要だと思っておりまして、警察が得た情報、捜査情報と金融に関する取引情報というものをどういうふうに扱っていくべきかということについて、村岡参考人、田中参考人からもお話をいただきたいと思います。
○村岡参考人 情報の性格上、統合されていくということはある意味必然ではないかという気がするんですね。そこを捜査情報と截然と分けるというのは、理念的には可能であっても、これは相当困難なことではなかろうかというふうに思います。
この法案の中でも、そこは峻別するんだという一つの方向性が示されておりますけれども、その母体となるのがやはり警察といったところに私は大変危惧感を感ずるわけでして、もし、情報の統合といったことが避けられないのであれば、そしてそれが本当に純粋に分析といったことで行われるのであれば、国家公安委員会、警察ということを想定しなくていいのではないかというふうに考えております。
○田中参考人 村岡参考人とほとんど同じ意見でありまして、あえて公安委員会にFIUを置いて、そこにすべての情報を集中してしまう。同時に、公安委員会、警察庁のもとには警察機構がありまして、膨大な情報がストックされておりまして、それが集約されている。この二つが全くリンクされないで分離されていくとは考えにくいですし、実際にはリンクして一体化していくのではないか。
仮に、そこを整理して分離しようというのであれば、先ほどもお話がありましたが、公安委員会という単独官庁ではなく、独立行政機関をつくるなり、あるいは幾つかの官庁から専門家を集めてつくるなりの方法を講じるべき、その方が情報管理としては厳正を期せるのではないか、こう考えています。
○泉委員 さらにお伺いをしたいと思いますけれども、先ほど村岡参考人の方からは、私見ということでありますけれども、大変有意義な御提案をいただいたというふうに私は思っております。
もとに戻るようなお話ですけれども、法律専門職に国家の側から一律に報告義務を課すのではなく、今後のこの法案の将来像としてですけれども、それぞれの法律専門職の方から任意に疑わしい取引を金融情報機関に届け出るという、逆のアプローチを今後しっかりと確定させていくべきではないかという御意見をいただきました。
それについての中野目参考人、田中参考人の御見解があれば、お伺いしたいと思います。
○中野目参考人 これは国によって、直接弁護士に対して報告義務を課すというアプローチをとる国もあれば、我が国でこれまで提案がなされてきましたように、弁護士会の自治を尊重するという形で弁護士会の方から疑わしい取引についての届け出をさせる、そういう方式もあろうかと思います。
いずれを選択するかというのは、国民の側あるいは弁護士の側、さらには依頼者の側、そういう方々が、弁護士会を信頼して、弁護士会のスクリーニングのもとにマネロンに対する規制をゆだねるという方がバランスのとり方として、弁護士、依頼者間の秘密の保持という問題と、あるいは弁護士に対する信頼という問題と、それからマネロンによって我々の社会が壊されてしまうという懸念に対して有効に対処するということの間のバランスをうまくとったものだ、そちらの方がいいという選択に立つのであれば、それをやってみて、さらに、その体制のもとでうまく思ったとおりに処理されていくことになるのかどうかということを追跡、追視して、レビューして、うまくいくということであれば、それをさらに拡充するという方向でいいと思いますけれども、もしそれでうまくいかないということであれば、さらに再検討を重ねる必要があるのではないか、こういうふうに考えている次第です。
○田中参考人 とりわけ士業がそうですし、それ以外でも、一番基本にあるのはその業界の自律であり自浄だと思います。その点からいえば、その業界の中で検討し、新しい方法を考えていくことは大いにあってよろしいかと思います。
特に弁護士との関係でいいますと、守秘義務をどう考えるかという難しい問題はありますが、一つの検討方向として、守秘義務を除外した上で、あくまで弁護士側の任意の協力として、できることを検討する余地は残るのではないか、こう考えております。
○泉委員 もう一つ、新たな指摘になるわけですが、今回の法律の中でも、十七条においては、国家公安委員会の意見の陳述ということで、それぞれ国家公安委員会ができることが書いてあるわけですが、一方で、これは事実上は、例えば情報の分析にしろ何にしろ、警察庁が実際には行うという姿であります。
我々は、実はその点においては、国家公安委員会というものの機能が、位置づけはしっかりされているけれども、事実上、事務局機能も含めて大変弱いのではないか、そして、その実務はすべて警察庁が行っている、ある意味名前だけの国家公安委員会というものに形骸化していないだろうかという指摘もさせていただいているところがございます。
そういった意味での、本法案におけるというか、それだけではないかもしれませんが、国家公安委員会はと法案には書いてあるけれども、実際にはその実務はほとんどが警察が行っているという現実にかんがみたときの国家公安委員会のあり方あるいは組織のあり方というものについて、もしよろしければ御見解をお伺いしたいというふうに思います。これは三参考人にお願いします。
○中野目参考人 ただいまの点でございますけれども、国家公安委員会がかかわらざるを得ないというような背景の一つとしては、我が国の行政庁が縦割りの行政になっている、幾つものところに横断して例えば調査をするときに、重複した調査をせざるを得ないという場合も出てきたりしますので、そういう意味では、調査対象となる人に対する負担をできる限り少なくするという点からも、例えば、国家公安委員会が一本化して、それで必要な事実の調査に当たるということも十分に考えられていいので、それなりに存在意義は現在でもあるのではないか。
実際上、実動部隊を持っていないということですので、実動部隊が何もないところでは何もできないということになりますから、その意味で、実際の業務を担当していただくところをどうしてもつけざるを得ないということなのかなというふうに理解しております。
○村岡参考人 主体は国家公安委員会というふうに規定されていますけれども、実態がどうしても警察になるのではないかというのは、私も同じ危惧を抱いております。
恐らく、国家公安委員会といったものを本当に機能させるとすれば、やはりここをもっと実際の手足を持った実動機関といいますか、そういったことに改組していくしかないのではないか。少なくとも、今のこの条文の中で登場する国家公安委員会については、警察のいわば表看板というふうに言わざるを得ないと思います。
○田中参考人 公安委員会の機能につきましては、かつて警察改革の問題でも大きな議論になりまして、実質化、拡充が議論されました。それから数年に及んでいますが、残念ながら、国家公安委員会、都道府県公安委員会とも、管理機関の実態はまだ得ていないと考えられます。その公安委員会に所轄をさせても、事実上警察のものになるのは同じ意見です。
では、その国家公安委員会を警察を実質上管理できるところまで充実させるという道を選ぶのか、それとも、こういう経済問題についてはそれを管理する別の道筋を考えるのかが、むしろ検討されるべきではないかと考えます。
○泉委員 では、質問を終わります。
○河本委員長 次に、吉井英勝君。
○吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。きょうは、参考人の皆さんには、どうもありがとうございます。
最初に、参考人の三人の方からそれぞれに一言まず伺っておきたいと思いますのは、今度の法律で、弁護士も他の士業も特定事業者としては規定するわけですね。それは、第一段階で、弁護士などにしても特定事業者の枠組みに乗せるといいますか、入れるという形がまずできているというのが一つと、疑わしい取引への届け出は、士業については見送りとはなっておりますが、しかし、士業以外については、これはまず疑わしい取引の届け出と、届け出たことを漏らしてはならないわけですから、形としては密告制度というものがここには持ち込まれている。
第二段階でそれがどうなっていくかというのは、これは継続して検討するという答弁等もありましたから、まだわかりませんけれども、まず、今度の法律の中でこの二つの枠組みが持ち込まれているということは私は大事な問題じゃないかと思っているんですが、それぞれに御意見を伺いたいと思います。
〔委員長退席、平井委員長代理着席〕
○中野目参考人 弁護士とその他の士業について一律の取り扱いということでよろしいのか、そういう御質問の趣旨かと思います。そうであるとすると、これは、弁護士の場合とその他の士業の場合とを一律に扱って対処するというのが今回の法案ですけれども、基本的に、依頼者、弁護士間の場合ですと、依頼者からの秘密を打ち明けられて、それをもとに法的なアドバイスを与えるということがあるために弁護人、依頼者間の特権が認められているということでございます。基本的にそういう性格が欠けるという場合について、これを同じく扱うべきなのかどうかについては、個人的にはちょっと疑問に思うところもございます。
それと、報告を求めるということそれ自体が、本人の知らないところで当局に通報するということになるので、その意味では密告ということになるのかもしれませんけれども、これは疑わしい取引について届け出をするということなので、何か密告というと非常にセンセーショナルといいますか、そういう感じがいたしますけれども、密告というよりは、疑わしい取引についての報告ということではないかというふうに理解しております。
○村岡参考人 内閣調査室の配付資料の三ページに図がかいてあるわけですが、これを見ますと、特定事業者の中に弁護士も非常に不思議な形で取り込まれております。結局、これはFATFの勧告を想定して無理やりここに押し込んでいるというふうに私は理解をしておりまして、実態としては弁護士法の懲戒規制を丸取り、そのまま法案の中に取り込んでいるわけですから、そこまで決断されるのであれば、あえて特定事業者の中に入れなくてもよかったのではないかというふうに考えております。
それから、密告という問題については、これは国民の側からどう見るのかというふうに考えるとよくわかるわけでして、自分の告げた秘密の情報といったものが自分に知らされないまま警察の方に通報されるということは、これは一般人から見るとまさに密告にほかならないわけで、その言い方は、この法案の真意といったものをアピールする意味では非常に有益な表現だろうというふうに考えております。
○田中参考人 弁護士の立場から考えても、弁護士と依頼者の委任関係というのは、守秘義務というのを媒介して、その守秘義務に基づく信頼関係で成り立っています。それが基本にあって、刑事裁判であろうと民事裁判であろうとさまざまな権利擁護であろうと、その仕事ができる。依頼者が弁護士に話す中には、当然、他に知られたくないことがあって、それが知らされないという法制になっていますから、したがって信頼関係が維持できる。この法制が維持される限り、その守秘義務に含まれている依頼者の不利益情報を告げることは弁護士にはできませんし、それをやれというのは、これはもう全く密告なんです。ですから、弁護士のありようを今後どうするかを含めて考えなければなりませんし、現行法制のもとで密告を要求されるのなら、弁護士としては断固反対せざるを得ない、こうなります。
では、そのような意味での秘密にかかわる仕事は弁護士だけかといえば、さっき司法書士の例がございましたけれども、多くの士業は同じような性格を持っています。やはり、知られたくないものを話して依頼をしているわけです。その意味では、何か弁護士だけについて除外すればよろしいというふうに考えるべきものではないという点だけは申し上げておきます。
○吉井委員 今、守秘義務の問題が出ましたけれども、私は、守秘義務があることによって依頼者との信頼関係が生まれるということになっていると思うんです。
そこで、きょういただきました村岡参考人の「論考」の中でも、法律専門家全体の観点からいえば守秘義務との関係こそ重要だということをおっしゃっておられますが、守秘義務が密告制度と国民の側から見られるような形で侵されていくということは、要するに、一般に司法と国民との関係でも、国民は直接司法につながっていくわけにはいかなくて、みんな素人ですから、法律の専門家に依頼して、そしてかかわってくるわけですが、そこに守秘義務が、つまり依頼者との信頼関係が揺らいでくるということになりますと、それは単に弁護士を信頼しないということだけじゃなしに、私は、日本の司法制度とか司法というものに対する国民の信頼が損なわれてくる、そういう信頼関係を脅かすものになってしまうのではないかということを懸念するんですが、そのことについての村岡参考人の御意見を伺いたいと思います。
○村岡参考人 全くそのとおりでありまして、我々、プロフェッションという言い方をよくいたします。今回規定されている五士業というのも、いずれも国家の資格、国家試験によって資格を与えられて業務独占を認められている。これはプロフェッションなわけですね。プロフェッションの根底には、自律といったものと責任が伴う。それがゆえに、また秘密が守られるがゆえに国民は信頼をする。国家の側はそういう政策をとっているわけです。つまり、業務独占を認めることによって、ひいては国民全体の利益になるんだということを保証しているわけです。
にもかかわらず、その政策を国家がとっていながら、一方でそこに穴をあけてしまう、つまり情報は漏れるんですよということを認めることは、まことに背理である、矛盾であるというふうに思います。
○吉井委員 次に、従来、いろいろな問題があっても行政庁が行うことというのは、届け出を求め、それを認めるか認めないかに始まって、報告とか、この法律だけじゃなくて、マネーロンダリング対策だけじゃなくて、例えば大型店規制にしても、大型店の進出について届け出から始まって、そしてそれが法律どおりちゃんといっているかということを審査して、時には報告を求め、資料提出を求め、それがきちっといっていないという場合は立入検査をやるとか、これはマネロン対策であれ何であれ、行政庁の行うことというのはこういうことで来たと思うんですね。それで指導を行い、そしてなお言うことを聞かないときに勧告を出し、是正命令を出し、それでもだめなときには行政罰、そういう形で来たと思うんです。
そういうやり方ではなくて、今度、国家公安委員会が、先ほども伺っておりますと、情報を行政庁に伝えればいいだけじゃないかという御趣旨だったと思うんですが、マネロンの疑わしいという情報を伝えるだけでいいのに、しかし、国家公安委員会が何かここに介入してくるというのが十七条一項以下に読み取れるんですが、もう一度改めて、村岡参考人と田中参考人から、この十七条一項以降の、二十四条の方で罰則も付せられておりますが、この法律の組み立て方というものをどういうふうに理解すればいいのか、それぞれのお考えというものを伺いたいと思います。
○村岡参考人 私も、この法案は非常に奇妙な構造になっているのではないかと思います。
すなわち、行政取り締まり法規としての体裁で進んできたものが、突如十七条の是正命令の違反といったところから、にわかに刑事罰の対象になっていくわけですね。しかも、そこの危険を察知しているかのように、条文の中には、立入調査等は犯罪捜査のためと解釈されてはならないといったような規定があります。これは犯罪捜査のために解釈され得る外観があるということを想定しているわけですね。しかも、是正命令違反については、先ほども述べましたが、懲役刑という自由を奪う刑罰をもって臨むという対応になっております。
従来の行政取り締まり法規の違反については、体罰をもって臨む、自由刑をもって臨むという発想というのは少なくともなかった。もちろん、そういう立法政策をとって、どのように罰則を設けるのかというのは立法府の仕事でありますけれども、明らかにこれは、法益侵害があって初めて犯罪となる、それに対する刑罰だという考え方とは異質なもの。すなわち、一定の行政目的を達成するための手段に不履行があった、だから処罰をする。しかし、その場合に、行政罰ではなく、行政処分ではなく刑事罰をもって臨むというのは、いささか行き過ぎではないかというのが私の考えです。
○田中参考人 法案を拝見して一番驚きましたのが十七条以降でありました。十六条までですと、運用の問題はありますが一応体系的に理解できるんです。そして、お役所が自分の所轄のところをちゃんと管理しているかどうか、これは国会でチェックすればいい。金融庁が銀行、これはチェックできるはず。
ところが、どうもこの法案の構造、十七条が入ることによって、これは警察庁がおつくりになったからかどうかわかりませんけれども、経済官庁に対する基本的な不信が前提にあるんではないか、そう理解しないと読み切れない気がしてしようがないんです。確かに、警察の方が手足があります。五十万近い事業所を本当にチェックしようと思えば警察しかできない、大体警察の方々はそうおっしゃいます。同じことをこの問題でどうもお考えになったんじゃないかという気がする。
それが十七条の、どうも順番は、警察が情報を得る、警察が調査をする、国家公安委員会に上げていく、国家公安委員会がいわば意見の形で、余り頼りにならない経済官庁のしりをたたくのであるというような思考が働いていないかということを危惧いたします。
この形で実は問題を立てていくことが本当にこの国の経済政策等にとって妥当かどうか、ぜひ先生方に御理解をいただきたい。何も、弁護士ですら、警察が全面に出るのが一般にいかぬと言っているわけじゃないんです。本来警察がやるべきところを超えて、いわば他の省庁がやるべき行政分野に割り込んでしまうことが行政を混乱させる、そういう要素をはらんでいないかと思われます。
これ、野方図にやられますと、五十万近い事業所が日常的に警察のいわばチェックのもとに入ることになりかねません。何かもっと限定的に補充的にという答弁があったかに聞くんですが、そうであるならば、あの法文上、十七条が発動される場合を例外的な場合、例えばこれこれ緊急の事態がある場合等々とか、あるいは、是正命令が実行されない場合に限定するなら理解できるんですが、限定しないで警察にゆだねるということは、原則と例外を逆転することになっていくんではないか、こう考えています。
○吉井委員 引き続いて田中参考人に伺いたいんですが、弁護士活動をやっておられて、例えば疑わしい取引とかこういう言葉が簡単にこの法律で出てきますけれども、その場合に、この疑わしい取引というものをどう規定するのかというのは非常に難しい話ではないか。ある人から見れば疑わしく見えるが、しかし、事業者が一般にそう思わないで取引していて、疑わしい取引を届け出ていなかったからけしからぬとやられたんでは、これは事業者の方はたまったものじゃない。そういう点では、疑わしい取引というもの自体これはなかなか難しいし、それが届け出ていなかったということで簡単に言われちゃ、これはなかなか大変な問題になってくるんじゃないかと思うんです。
その点では、今の十七条一項で、「国家公安委員会は、特定事業者がその業務に関して前条に規定する規定に違反していると認めるときは、」と、こうなっているんですが、この「違反していると認める」というのは、一〇〇%違反ということになってくるのか、あるいは、疑わしいということでも違反していると認めることになるのか。
これは読み方によってなかなか難しいかもしれませんが、しかし、疑わしいからこそ二項の方で、意見を述べるために必要な限度において、特定事業者に対し、その業務に関し報告または資料の提出を求め、そして警察の調査というふうになっていきますと、二項、三項ときますから、どうもこれは、違反しているという確定されたものじゃなくて、疑わしいという段階で二項から動いて、それで確認したから一項へ入っていく。
そういう形で、本当に、何か疑わしかったら令状なしにすぐに警察調査、実質的な直罰を背景とした、実質的な令状なしの捜査が始まっていく、こういう形にこの法律はなっていくんじゃないかと思うんですが、この点についてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。
○田中参考人 その点を最大懸念をしております。法律の要件が極めて幅が広いんです。
十七条一項で、意見を述べられるのは本人確認義務等の義務違反があると認めるときですから、意見を述べる段階ではそれなりの確証が要るんでしょうね。あえて我々の世界の刑事訴訟法で言うなら、起訴するぐらいの確証がなければさすがに意見は出せない、それはそう思うんです。しかし、そのために二項以下で調査をする、その調査は、意見を述べるための、必要のために調査するわけです。要は捜査に当たるわけです。
そうすると、その調査のときには、意見を述べるような義務違反があるのではないかという、いわば嫌疑があればいいことになりまして、例えば逮捕をするとか令状で捜索をするぐらいのところでやれると。例えば、あそこの店ではどうも本人確認をしていないという情報が入ったので、それを調べにゃいかぬというので報告を求めた、やはりしてなかったというのなら意見を述べられる。
では、立入調査までやったんだけれども、ちゃんと記帳をしていたとしたらどうなるか。その場合には恐らく意見は出さないんでしょうね。いわば嫌疑が晴れたという格好になる。では、嫌疑が晴れたからといって、やった調査はいかぬかといったら、疑いがあったからやった調査ですから、別に違法にはならない、こうなってきます。
ですから、無実だったらば意見は出さない、証明されたら意見を出して処分させる。中間も起こるかもしれません。多少はどうもルーズにやっているんだけれども、余りひどくないから今度はお目こぼしをしてやるよと。行政警察権というのはどうしてもこういうさじかげんというのが登場します。こういうさじかげんを警察に認めてしまうことになりかねないのが、この十七条の見ようによってはからくりのような部分でありまして、ここの運用については厳重なチェックが必要です。
○吉井委員 次に、村岡参考人に伺いたいんですが、この「論考」で言っておられるように、「もともとゲートキーパー制度に法律専門職を巻き込もうとした理由はマネロン対策に抜け穴がないことを組織犯罪集団に知らしめるという点にあった」と。だから、「有能な法律専門職が専門家としての判断の下、「疑わしい取引」を金融情報機関に通報する場合がありうるという法的仕組みを作るだけで十分」だというお話です。
ということは、つまりFIUというのは、これは従来どおり金融庁でもいいし、あるいは法務省に何かそういう組織を考えてもいいし、あるいは第三者機関的なものをつくってもいい。要するに、そこへそれぞれの省庁などから専門家を集めれば十分機能するものができる、これを読んでおりまして、こういうふうに理解していいのかなと思ったんですが、その点についてのお考えを伺いたいと思います。
○村岡参考人 ここで私が書いたことは、こういうゲートキーパー制度をつくるときの弁護士、だれを対象にしているかというと、それは腐ったリンゴではないわけですね。腐ったリンゴ、つまり、犯罪にかかわる層がいるとすれば、それは、どのような規制をやっても、それは犯罪として処罰すべきことになります。むしろ、善良な一般の弁護士をどうゲートキーパーの、撲滅のために向かわせるかという発想のときに、むしろ任意のアプローチといったものが有効ではないか。
それは皆、心のうちでは、マネロン犯罪に加担をしないという点では一致をしているわけです。そうすると、そういったものを受け皿として吸収するだけの仕組みを整えていただければ、それは弁護士は守秘義務の制約から逃れる限りは、そういう犯罪情報を告げることについてのためらいというのはなくなるわけです。それをどう工夫するかという問題だろうと思います。そこに受け皿として今回のような警察が登場してくると、これは一種のハレーションを起こしてしまって、弁護士としては、どうしてもそこは原理的に受け入れることはできないという反応になるということです。
ですから、おっしゃるとおり、工夫の余地はあろうかと思います。
○吉井委員 どうもありがとうございました。
終わります。
○平井委員長代理 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
この際、一言ごあいさつを申し上げます。
参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げたいと思います。
参考人の方々は御退席いただいて結構です。ありがとうございました。(拍手)
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○平井委員長代理 この際、お諮りいたします。
本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁生活安全局長片桐裕君、刑事局組織犯罪対策部長米田壯君、金融庁総務企画局審議官畑中龍太郎君、総務企画局参事官山崎穰一君、総務企画局特定金融情報管理官知原信良君及び法務省大臣官房審議官三浦守君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○平井委員長代理 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
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○平井委員長代理 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小川淳也君。
○小川(淳)委員 民主党の小川淳也でございます。
大臣には、きのう、きょうと審議、大変お疲れさまでございます。きょう、ついたった今まで、三名の参考人、専門家の方から、この法案についてさまざまな御意見をいただいてまいりました。この三名の方の御意見、大臣にはお聞き届けをいただけたのかどうか。あるいはその中で傾聴に値するなと思われた点があれば、お答えをいただきたいと思います。
○溝手国務大臣 お答え申し上げます。
まことに申しわけございませんが、きょう、今、参議院で本会議を開いておりまして、直前までそちらにおりましたので、いただいたペーパーを読ませていただいた状況で、御容赦いただきたいと思います。
○小川(淳)委員 大変お忙しいことと思いますが、非常に貴重な御意見、多々ございました。法案の御提出をされた担当大臣として、ぜひごらんをいただきたいと思いますし、中でも、村岡先生の、特にこの法案の主要な論点の一つでございます弁護士会、弁護士制度との関連において、法益を比較考量するような考え方、そこの苦悩といいますか苦渋といいますか、そこは大変傾聴に値する御意見だな、私自身、そんな感想を持ちました。ぜひ後ほどごらんをいただきたいと思います。
大臣、この法案ですが、最近、町のあちこち、あるいは道路の上もそうですね、監視カメラ、非常に目立つようになりました。それから、住民基本台帳には番号が振られた。そして通信傍受ですか、捜査のためには電話盗聴等を刑事当局が行うことができます。そして現金で十万円以上の振り込みができなくなった、これもきのう来議論が出ています。それから、飛行機の中に液体を持ち込むことが難しくなりましたですね、そういったこともあります。個人情報保護が議論される。さらには、現在、関連があろうかと思いますが、共謀罪については引き続き審議が続いている。
こういう世相を背景にした中でのこの法案、私自身は、やむを得ないこと、必要なこととはいえ、気持ちが暗くなるような面があるんですが、ここ最近の世相について、大臣、どういった御認識をお持ちですか。
○溝手国務大臣 お答え申し上げます。
私の世代は、大変、言えばなんですが、小川先生は私のせがれより少し若いわけでございまして、我々はまさに安保の世代に育ったといいますか、青春時代は安保の時代でございました。そのときに、大変左翼的な活動をする人もいましたし、そうではなくてアンチの活動をする人もたくさんいたわけですが、ただ、言えることは、対立軸があったんですけれども、その軸が今よりはるかにはっきりしていたといいますか、米ソの、自由主義と共産主義、社会主義との対立ということですね、価値観を非常にはっきりした軸の中で、右と左というような分類をして世の中が成り立っていたような気がいたします。
そういう意味で、きのうからずっとこの法案に関する議論を聞いておりますと、質問される皆さんの言葉がわからないでもない。わからないでもないというのは、右であろうと左であろうと、これは、相手のおっしゃっていること、あるいは友人の言っていることというのは理解できたわけでございます。以来何十年たちまして、最近、対立軸というのがはっきりしない世の中になってきたというときに、私は、早くやめますから安心しておいてください、非常に懸念を持っているわけですね。
ですから、便宜的に法案とか法律というのはつくられては困るという懸念は一つ持っておりまして、もう一つは、逆に言うと、ムードに流されるとどんな法律でも法案でもできてしまうという危険な兆候が社会にあるというのも否定できないんだろうと思います。私の立場、国家公安委員長という立場でいいますと、この中で最もしっかりしなくちゃいけないのが私の立場だろうと思いまして、民主警察をしっかり守っていくためには努力をしてまいりたいと思っておりますし、この本法案をひとつよろしくお願いしたいと思っております。
○小川(淳)委員 大臣、率直な御感想だと思いますが、私は、別に、右とか左とか、安保がどうだとかということを、ひょっとしたら、まあこれはずっとさかのぼると関連しているのかもわかりませんね。やはり八〇年代後半から九〇年代以降、非常に世相が変わってきた面があるんだろうなという気は確かにします。日本でも、九五年のオウム真理教のあのテロ事件というのは、私、社会人一年目でしたけれども、本当に鮮烈な記憶、今でも忘れられません。それから、何といっても二〇〇一年のテロ事件ですね。こういったことが、冒頭申し上げたようなさまざまな、捜査当局あるいは刑事当局としての事前の予防も含めた手だてを打っていくという流れ、これをやむを得ないものにしているんだろうという気はいたします。
ただ、今回の法案でこれはまた一つ階段を上がるということでございまして、技術的なことをお尋ねしますが、金融庁にお尋ねします。
今までの本人確認法あるいは組織犯罪処罰法において報告義務があった金融機関、何件ありますか。
○山崎政府参考人 お答え申し上げます。
いろいろな段階があると思いますが、私ども、本人確認法とか組織的犯罪処罰法に基づく疑わしい取引の届け出義務等を確実に遂行するよう求めているわけでございますが、これが最終的に重大な問題があると認められる場合に、必要に応じて業法等に基づく業務改善命令等の行政処分を実施しております。
最終的に本人確認法及び組織的犯罪処罰法違反を処分理由に含む行政処分の件数でお答えいたします。これで申しますと、銀行が六件、証券会社が七件でございます。
○小川(淳)委員 従来の法規がかかっていた金融機関の数なんですが、一千件ぐらいじゃないですかね、多分。銀行や信用組合、信用金庫等々、恐らくそうだと思います。そして、この法案によって今度は、本人確認をして、記録を保存して、疑わしい取引を報告する対象事業者、先ほど来議論されていますが四十万社とか五十万社、五十万事業所ですか、もし間違いがあれば指摘してください。つまり、恐らく一千件程度だった金融機関が、四十万社、五十万社、五十万事業所というふうに圧倒的に報告義務者がふえるのが今回の法律案でございます。
そこで、大臣に率直な御感想をお聞きしたいんですが、わずか一千社程度の金融機関から上がってきた疑わしいですよという取引の報告件数、十一万三千件ですか、十一万件。大臣、この十一万件という数をお聞きになって、どんな感想をお持ちになられましたか。
○溝手国務大臣 大変多いなと思いました。
○小川(淳)委員 私もそうなんですよね。これはびっくりしました。年間十一万件余りのこれは疑わしいという取引が当局に報告されているということ自体、驚くべき数字だなと思いました。これが機械的に上がっているものなのか、あるいは一つ一つ本当につぶさに見きわめた上での報告なのか、詳細を知る手だてはありませんが、非常にこれは多いなという印象であります。
そこで、一千件程度の金融機関から十一万件、これが四十万社、五十万社から一体どの程度上がってくるのか。これは本当に想像することすら難しいわけでありますが、十一万件、単純に計算しますと、大体一日四百件から五百件ですよね。これが、現在金融庁に十八名の体制で取り組んでおられるということですから、一人当たりで計算して二十件とか三十件とか毎日見ていく、営業日で計算してですね、ということがこれからどういうふうに進んでいくのか。この法案は、そういう意味では、社会的な影響力といいますか波及力というのは本当に大きいことになるんだろうな、そのことをまずは数字との対比においてよくよく御認識といいますか御自覚をいただいて、論点に入っていきたいと思います。
やはり、最大の論点の一つは弁護士制度、弁護士さんとの関係だと思います。
弁護士会が強硬に反対されたことをもって、強制的な届け出ですとかあるいは監督のあり方等については非常に緩やかな制度になったということでございますが、私は、冒頭に御紹介申し上げた村岡先生との関係で申し上げても、弁護士さんにこれを要求するというのは非常に無理がある、矛盾して無理があるという気がしてならないんです。この弁護士さんの主張、今回の法案あるいは今後の見直し、いろいろな議論があり得るんだと思いますが、本質的に、弁護士さんに違法な事態を、そのおそれを報告せよということ、これは無理があると思いますが、大臣、この点、いかがでしょうか。
○溝手国務大臣 今、FATF加盟国の各国での反応が現時点で統一されていないというのは事実でございまして、ということは、それぞれの土地の事情、国の事情というのがいろいろあるんだなという感想は持っております。
○小川(淳)委員 そのとおりだと思うんですが、今後のこともありますので、少し論理的にぜひお考えをいただきたいわけです。
弁護士さんという職業は、刑事被告人を弁護し、擁護することを職務としているわけですから、たとえ違法な行為をしている、あるいはその状態を把握しているとはいえ、そのことを積極的に開示したり、あるいは報告したりはおろか、それを後ろへ隠してでも被告人の利益を守るのが職業であります。したがって、その方に、違法な事態をうかがい知った場合、あるいはその疑いを持ったときは報告せよということそのものが、非常に大きな矛盾を来しているということ。だからこそ、弁護士会は反対をしているわけだと思います。
また、依頼人の側に立ちますと、例えば、仮に資金洗浄の容疑がかかった。この資金洗浄の容疑がかかったそもそもの発端は、弁護士さんからの通報だった。それは同一の弁護士さんかどうかは別にしてです。そういう方に相談に行けるかというところに、今度は依頼人の側に立つと戻ってくる話だと思います。
そういう意味では、大臣もおっしゃいましたとおり、諸外国で訴訟とか、あるいは制度化そのものを見送っているということにも見られるように、今回、こうした形で自主規制という方向へ持っていかれましたが、今後を考えても、これは本質的に大きな矛盾がある、無理があるという点、ぜひ御認識をいただきたいと思います。
少し技術的な点をお伺いいたします。
立入検査、十四条にございますが、これは日銀については適用しないというただし書きがございますが、この理由をお教えいただけますか。
○米田政府参考人 そこのところ、大体、日銀というのは特別扱いをされておりまして、現行法もそうでございます。その理由につきましては、金融庁からお答えをいただきたいと思います。
○畑中政府参考人 これは委員御案内のように、日本銀行は政府から独立した機関だということで、この独立性に配慮してこういった規定ぶりになっていると理解をしています。
○小川(淳)委員 こうした法案ですから、いろいろな方にいろいろな義務を課したり、あるいは、疑わしき取引を報告せよ、不十分でしたら調査に入りますよということですから、私は、政府機関といえども、身内に対して甘いような法制立てというのは慎むべきじゃないかなという気がむしろいたします。
もう一つ技術的なことを、おわかりになりましたらお答えください。
きのうも高山委員との間で議論がありました、政治資金規正法の違反によってもたらされた財産、あるいは公職選挙法に違反して収受された金品等は、この法案の対象になる犯罪収益なのかどうか、おわかりになればお教えください。
〔平井委員長代理退席、委員長着席〕
○米田政府参考人 この法案は、組織的犯罪処罰法によって、いかなる犯罪による犯罪収益であるか、それが処罰されるべきであるかということがまずありまして、その処罰されるべき対象である犯罪収益の前提犯罪、これに係る犯罪収益の隠匿、収受といったものの防止、あるいはその追跡、剥奪といったものに役立つ制度ということでございまして、組織的犯罪処罰法において、その前提犯罪として政治資金規正法とか公職選挙法等がどのように定められているかということによるわけでございます。
○小川(淳)委員 それをお聞きしています。組織犯罪処罰法の中に、政治資金規正法違反、公職選挙法違反によって収受された金品が入るのかどうか、当たるのかどうかをお聞きしています。
○米田政府参考人 現在の組織的犯罪処罰法では入っておりません。
○小川(淳)委員 大臣、今お聞きのとおりでございまして、政治家自身あるいは政府機関等々に対してはこうした法規制の網がかかっていないということ自体、こういう規制をしようとしているわけですから、国民の側から見ればさまざまな思いとか感情が起きかねないことをぜひ御承知おきいただきたいと思います。
あわせてお聞きをいたしますが、各事業者に課しました取引に関する記録の保存期間、これは七年とされていますが、その理由をお聞かせいただけますか。
○米田政府参考人 この法案は現行法を引き継いでおるわけでございまして、現在の本人確認法の取引記録の保存の期間が七年でございます。
なぜ七年になっているかということは、これは、対象となる犯罪の時効等を勘案いたしまして、かつ、実態としても七年に近いところで摘発する例もあるということで七年になっているということでございます。
○小川(淳)委員 テロ資金供与に対しては公訴時効が七年ということがもとになっているんだと思います。
しかし、きのうも議論になっていますが、具体的に、例えば警察庁さんが取りまとめられた「平成十八年の組織犯罪の情勢」、これを拝見しますと、もちろん犯罪なんですけれども、冒頭申し上げたような、例えばオウム真理教だとかあるいは二〇〇一年のテロ事件なんかに比べますと、ややほっとするというか、わいせつビデオの販売、高利貸し、賭博に性風俗犯罪といったものが網にかかってきているわけですね。
私は、今議論が継続しています共謀罪の議論についてもそうだと思いますし、この法案についてもそうだと思うんですが、本来、確実に把握をして捕らえなければならない大きな獲物、魚でいえば例えば鯨みたいなものですね、これは絶対逃してはいけない。それに対して網をかけようとしているわけでありますが、実は、かかってくるのは小魚がかかってくる。鯨は絶対逃がさないように、鯨だけがかかるような網かけができればいいわけですが、実際問題、それが難しい。
そうすると、やはり犠牲になってくるのは、冒頭も申し上げましたが、社会の自由な空気といいますか安心感といいますか、密告だ何だと言われていますが、そういうことに対する疑念のない社会、こういう社会を犠牲にしながら網をかけて本当は鯨をねらいたい、しかし実際には小魚がかかってくる、よし、ついでに小魚も含めて全部やってやろうじゃないかと。小さく産んで大きく育てようなんという議論がきのうもあるわけですが、私は、そこにやはりこの法制の限界があるんだと思います。
そこで、大臣がいみじくも、それぞれの国是、国情に応じてということを冒頭おっしゃったわけでありまして、同じような規制を例えば飛行機で貿易センターを爆撃されたアメリカでやると言われたら、そんなにどうこうという議論が出ないのかもしれません。あるいは、地下鉄が爆破され、バスが爆破されたイギリスでこんなことをやろう、それもそうかもしれません。列車が爆破されたスペインでもそうかもしれません。しかし日本では、ここまでの網かけをやろうとすると、それは逆の心配が出ますよという声に対して、私は、当局として非常に繊細な感覚をお持ちいただく必要があると思いますが、大臣、この私の認識についていかがでしょうか。
○溝手国務大臣 非常にありがたいというか貴重な御指摘と受けとめておりますが、今回のFATFの流れというのも一つの流れの中にありますし、今おっしゃったアメリカの方は、あれだけテロが起きながら弁護士の届け出義務がないわけでございます。イギリスには届け出義務がある。同じテロの被害を受けたところでも反応が違っているということで、このことだけではございませんが、非常にセンシティブな問題であるから慎重に取り扱えというあなたの御忠告については、私も全くそうだと思います。
ただ、テロのために何とかしなくちゃいかぬ、国も何とか頑張ってくれよという強い声もあるということも事実だろうと思いますので、そのための立法として、そういうことに資するための動きであるというように御理解いただければ大変ありがたいと思っております。
○小川(淳)委員 共謀罪のときも議論になったんですが、国際条約の国内法化、あるいは今も大臣がおっしゃいましたFATFの方針があるんだということなんですけれども、もう一段突っ込んで申し上げれば、合意をもたらすに当たって、いや、それぞれの国是、国情に従った対応の余地は残すべきだという主張、これは警察庁あるいは国家公安委員会単体でできるかどうかは別にして、国際合意に当たってそういう主張を盛り込んでいくこと、あるいはそれを盛り込もう、場合によっては盛り込むんだという意思、これが日本政府としては、今後いろいろな国際合意がなされるんだと思いますが、そこに権能を高めていくことというのはこれから大きな日本政府の課題だという気がいたします。その点、御指摘を申し上げたいと思います。
そして、申し上げたように、非常に大きくまた階段を上がろうとするこの法律案ですが、審議が始まったのが先週木曜日ですか、金曜日ですか、わずか一週間、そして実質審議が先週の一時間ときのう、きょうですか、こういう非常にスピード審議になった理由の一つが、いわゆる日切れ法案、年度内成立を目指していると。なぜこんな大切な法案を、もっと中身を時間をかけてしっかり審議するということにされなかったのか。その点、理由をお聞きいたしたいと思います。
○溝手国務大臣 本法案は、昨年十二月に施行された財産犯等の犯罪収益の剥奪、被害回復関係の法整備と相まって、暴力団等の組織的な犯罪を助長している犯罪による収益の効果的な剥奪、やみ金融や振り込め詐欺等の犯罪による被害の回復など、国民生活の安全と平穏に大きく資するものであり、早急に整備する必要があると考えております。
また、犯罪による収益の移転につきましては、規制のより緩やかな国あるいはそういった地域にねらいを定めて行われる傾向があるということから、我が国としても、国際社会と連携してテロ資金対策、資金洗浄対策を推進することが重要かつ喫緊の課題と考えたところでございます。
さらに、我が国における銀行のマネーロンダリング及びテロ資金対策は勧告改定前の状況であることから、これらの主要国と比してマネロン対策に相当おくれをとっているということになり、現状維持ということになりますと、FATF参加国としての責任を果たし、アジア太平洋地区におけるマネロン対策のリーダーシップをとっていくことも相当困難になる、そんな政治的な判断も含めましてお願いをいたしたところでございます。どうぞよろしく御理解を賜りたいと思います。
○小川(淳)委員 きのうの審議の中ですと、大体八億ぐらいの予算措置ですか、それから人員を移していくということからすれば、年度当初というのは非常にきれいな形だとは思います。
しかし、法案の中身からいいますと、これはやはり十分な、むしろ予算審議等々終わって、しっかりした議論を五月から六月にかけてやって、公布日から周知期間、これは全国五十万社ですか、五十万事業所に対する周知の期間も必要でしょう。こういう公布日から施行まで十分な期間をとって、そして新々年度から施行していくというぐらいの準備立てをむしろすべきだったような気がいたします。その点、あわせて御指摘を申し上げます。
そしてさらに、これも私のやや持論とも相まってくるんですが、申し上げたように、刑事当局、警察当局はいろいろな捜査手段、捜査網を獲得してきたのがこの間の世相を背景にしたここ近年の動きであります。
そこで、きょう、国家公安委員長と、そして担当の米田部長さん、あわせてここへお越しですが、お二人の間には、もちろん共通の利害もあるでしょう。しかし、大臣、時に牽制関係にあることも十分御自覚の上でここにお越しをいただきたいわけです。
私は、こういう刑事当局、捜査当局がいろいろな手だてを持てば持つほど、一方で、例えばイギリスには、もう二十年以上の歴史を持った、警察に対する外部監査の独立委員会という制度がございます。これは、国家公安委員会を日本が持っていることと恐らく趣旨なんかはよく似ているのかもわかりませんが、年間一万件前後の警察に対する苦情処理をしているんだそうですね。
捜査当局がさまざまな手法を、もちろん合法的にですよ、身につけていけばいくほど、さっき申し上げた、世の中の自由な空気をある程度犠牲にしながらこれを進めているわけでありまして、これと引きかえと言ってはなんですが、やはりこうした警察制度の適正、あるいは警察制度そのものの公正公平な運用、これはもう当然のことでありますが、そのことを監視していく外部機関のようなもの、これを議論として取り上げていく必要があると私は思います。これが一点。
それからもう一点。このさまざまな取引を報告させようという仕組み、これ自体は、目的との兼ね合いにおいて必要なことかもしれません。しかし、私は、実はかつて金融庁に籍を置かせていただいた際に、ペイオフの解禁にかかわる法制を担当したことがありました。そのときに一番苦労したこと、悩んだことは、金融機関に対して名寄せを求めたことなんですね。
つまり、さまざまな支店に口座をたくさん持つ人たちを一気に合算して一千万というラインを判別しないといけないわけですが、名前が一字違ってもどうなのか、住所の横棒の打ち方が一つ違ったらどうなのか、これは金融機関に大変な負担を強いました。恐らく、似たようなことが、この報告制度あるいは記録をつくっていくということに当たって出てくる。
そこで、そのときに思ったのは、日本に納税者番号制度があればな、そのことをすごく強く思ったんですよね。やはりこういう管理制度というのは、やみ社会を減らしていくという陰性の目的でつくるんじゃなくて、むしろ、社会保障をちゃんとやりますとか年金をしっかりしますとかいう陽性の目的でつくって、そのことが反射的にやみ取引を抑制していくという方向感で整備を図っていくことがベストだと思います。その意味では、担当ではないかもわかりませんが、閣僚のお一人として、そうした認識もぜひ持っていただいて、この法規の運用に当たっていただきたいと思います。
この法案については、趣旨はよく理解をいたしますが、さまざまな懸念される点もございます。国会として附帯の意見表明等も必要だと思います。そのことをあわせて申し上げて、質疑を終わらせていただきます。ありがとうございました。
○河本委員長 次に、吉井英勝君。
○吉井委員 日本共産党の吉井英勝です。
昨日に続いて、第十七条一項の、国家公安委員会は、行政庁に対し、当該特定事業者に対し当該処分を行うべき旨の意見を述べることができるという意見陳述の問題について、最初に政府参考人に聞きたいと思います。
国家公安委員会が行政庁に意見陳述するときの状況について、事件を捜査した際に本人確認や疑わしい取引の届け出に反している事実を把握したときに補完的に調査をして意見陳述するという答弁でした。
都道府県警が調査した後に、状況によっては国家公安委員会が行政庁に意見陳述しないということもあり得ることですね。確認します。
○米田政府参考人 もとより、国家公安委員会による調査に入りますのは、意見陳述をしようと考えるような具体的な問題があるという状況のもとでありますけれども、そこから現に意見陳述をしようという場合には、事実関係を確定しなければなりません。したがいまして、調査の結果、そういう事実関係がないといいますか、意見陳述をするほどの必要性がないということになれば、当然、意見陳述はしないということになります。
○吉井委員 そうすると、十七条二項で、意見を述べるために必要な限度といって警察に必要な調査を行わせるわけですが、そもそも、その調査内容が公安委員会と警察以外にはわからないわけですね。だから、別件で調査されてもわからないものでありますし、公安委員会が警察調査の後、行政庁に意見陳述しないこともあるわけですから、その場合には、行政庁もそういう調査が行われていたこと自体を知らない。
こういうことになってくると、調査という名目で警察権が濫用されるおそれが強いと思うんですが、これは何の歯どめもないんじゃないですか。
○米田政府参考人 行政調査の権限というのは、世の中に多々ございまして、もちろん警察も今もいろいろな制度で持っております。
なぜ行政調査をするかといえば、それは、それぞれの制度における行政目的の達成のためでございまして、それ以外に使われるということは予定しておりません。したがいまして、この場合も、結局、調査の結果、意見陳述をしなかったという場合でも、その情報については厳重に管理をするということになります。
○吉井委員 ですから、調査という名目で警察権が濫用されるおそれがあって、どういう調査をやられておってもわからないままに終わることもあるということが今の話でわかりました。
行政庁への意見陳述の際に、警察が調べた資料も添付して行政庁に渡すことになりますか。それとも、添付しないということになってきますか。
○米田政府参考人 これは具体的なケースに応じてでございますので、そのケースごとに判断されるべきものであろうかと思います。
○吉井委員 具体的ケースで判断なのか、それは何か省令等でそこは決めていくということを考えているんですか。
○米田政府参考人 一般的なルールとしてそれぞれの所管行政庁に対してどのような手順で意見を申し上げていくかということは、施行までには定めていく必要があるだろうと考えております。
○吉井委員 是正命令というのは監督官庁が行うわけですね。是正命令を行う監督官庁が警察庁の調査をもとに是正命令をするということは、それだけで、言われたからやるというのでは無責任な話になってきますから、是正命令を行う行政庁は、仮に国家公安委員長が意見を述べても、監督官庁みずからの調査結果に基づいて処分をする、これが本来の内閣制度のあり方だと思うんです。そのためには監督官庁みずからが調査し判断する必要があるわけで、それをしなければ監督官庁は無責任になってくるということになると思うんですね。
これは、監督官庁に意見を言う、陳述ということとの関係で、本来、意見は言うだけで後は監督官庁がやるということ、それだけでいいというものじゃないんですか。
○米田政府参考人 是正命令の権限者はそれぞれの所管行政庁でございます。当然、その所管行政庁の責任において命令はなされます。
したがいまして、私どもの意見というものもその所管行政庁の命令の判断材料にはなると思いますが、最終的には、所管行政庁の責任において判断されるべきことであろうと考えております。
○吉井委員 ただ、行政庁の調査と警察の調査は、これは調整をするということで臨むことにしていて、実際上は、行政庁に任せておくんじゃなくて、警察がかかわっていくという形になっているんじゃないですか。
○米田政府参考人 法案の第十七条第五項におきまして、調査の調整規定を置いてございます。これで、行政庁の方で自分の所管業については自分で調査をして、それで十分であるということであれば、国家公安委員会が特にそれ以上承認をするということもないわけでございます。
そのような調整規定によりまして、事業者に過重な負担を課すということがないようにしているということでございます。
○吉井委員 例えば、何かマネーロンダリングに関する情報を警察の方がいろいろ調べておられて得た、意見陳述をされるにしても、これを金融庁に通報をする、それで金融庁が銀行に対して口座凍結を求めるとか、これが通常、従来からの話なんですね。もしそれが犯罪であれば、それは警察そのものの捜査、犯罪捜査ということになってくるわけですね。
ところが、その十七条五項で調整するという今のお話なんですが、そこはおかしいと思うんです。国家公安委員会は事件捜査で違反の事実を把握したら監督官庁にその旨を通知すればいいという、それだけのことなんですね。監督官庁は、調査の必要があればみずから調査をするわけですよ。それなら、そういう十七条五項による警察との調整というふうな調整というのは別段要らないわけですね。意見を述べる、通知をする、後は監督官庁の判断に任せる、こういうことでいいんじゃないんですか。
○米田政府参考人 まさに委員御指摘の、今おっしゃった手順といいますか業務の流れ、これが普通の場合であろうと思います。
ただ、マネーロンダリングは、先日もいろいろ答弁申し上げましたけれども、いろいろな業種にまたがって行われる。そうしますと、どうしてもその業種だけを見ている所管行政庁ではなかなか行政処分の判断もつかないという場合が出てまいります。そこで、意見陳述という制度を設けまして、意見陳述をする場合には確たる事実に基づかなければなりませんので、そこで報告とか調査の規定を設けたということでございます。
○吉井委員 そこで、大臣にここで伺っておきたいんですが、きのうから私は、十七条一項、二項、三項の話、二十四条の話をいたしました。これはかなり繰り返しやりましたが、きょうの参考人質疑の中でも参考人の方からもお話がありましたけれども、要するに、調査も監督官庁の方が業務に精通しているわけですよ、もともとその分野に関して言えば、業としているわけですから。その所管の特定事業者のやっていることについても、もともと精通しているわけです。警察の事件捜査から違反の情報の通知を受けて監督官庁がみずから調査をするということ、そしてそのことが、もともと詳しいところなんですから、内容を正確に把握することができますし、みずからの調査と判断で処分を行っていくということもできる。これが本来の筋なんですね。
そうしたやり方が合理的な行政運営なんですが、そこに十七条以下の警察が介入してくるということは、これは全く合理性を欠いているじゃないかと思うんですが、そのことについての大臣の考えというものを伺いたいと思います。
○溝手国務大臣 先ほど部長からお答え申し上げたとおりでございまして、今回意見陳述の手続を設けましたのは、通常、所管外の事項について各省庁が精通していないということが多い、この点を補完するために国家公安委員会の意見陳述手続を設けたところでございます。その際、事実関係を誤りますと事業者の権利侵害が生じかねないために、根拠資料を確実に収集することが必要であると思っております。
例えば、複数行政庁の所管にわたる事案では、所管や体制上の理由から斉一性のとれた実効的な行政調査を必ずしも行うことができないケースも生じ得るということでございます。また、当該行政庁の所管でない事業者の届け出から違反を察知したケース、あるいは外国FIUや捜査機関から情報を得た場合とか、犯罪捜査の過程で情報を匿名で得た場合等には情報源を秘匿する必要もあるため、確実な疎明資料を入手するまで行政庁に依頼をするのはなかなか困難なこともある。
そのようなことを考えまして、国家公安委員会が意見陳述を行う必要があると判断された場合には、行政庁による調査があくまで主幹でございますが、それを補完するという意味で報告徴収や立入検査が行えるように取り計らったものでございます。
立入検査に当たりましては、地方あるいは警視庁が行うわけでございますが、国家公安委員会の事前承認を要件としておりますし、かつ、承認を行おうとするときには、あらかじめ行政庁に通知し、求めがあった場合には事前に協議をするというようなステップを踏んで、立入検査の対応について客観的に必要な立入検査であるということが言えるように担保する必要がある、そういうふうに考えております。
○吉井委員 要するに、事件捜査などの中から違反の事実が見つかって、それを通知する、後は、専門のそれぞれの行政庁がみずからの調査によってこれは是正命令を出したりとか、みずからの調査で対処できるわけですよ。しかし、そこに十七条以下で入ってくるのは、意見を述べるために特定事業者に対し、その業務に関し報告資料の提出を求め、そして警察の調査というところから警察が入っていくという形になっているわけで、私は、こういうやり方というのは全く合理性を欠くものだということを改めて言っておかなきゃならぬと思います。
次に、弁護士、司法書士など五士業に関係して伺いますが、五士業については法律で守秘義務が課せられているわけですが、守秘義務を法律で課している理由というのはちゃんとあるわけですね。それは何ですか。
○米田政府参考人 これは、本来それぞれの士業に関する法律を所管している省庁からお答えをいただくのが適当かと思いますけれども、私どもが理解している限りは、これらのいわゆる士業の業務につきましては、依頼者の法律的あるいは財政的な背景全般を把握した上で適切な法的助言がなされなければならない、そのためにそういう依頼者との信頼関係というものが重視されましてこのような守秘義務が定められているもの、このように理解をしております。
○吉井委員 今おっしゃったように、信頼関係ということですよね。つまり、個人の秘密を取り扱う職業ですから、だから守秘義務を法律で課しているわけですね。要するに、個人の秘密を取り扱う仕事だから守秘義務を課しているというのは、これは五士業の問題ですよね。
しかし、この法案では、五士業に関しては疑わしい取引の届け出義務を課さなかったわけですね。犯罪者はその守秘義務を利用してやってくるんだということを皆さんよくおっしゃるわけだけれども、しかし、この取引の届け出義務を課さなかったというのは、ここは警察は、パブコメの最初の試案では弁護士等に疑わしい取引の届け出義務を課したわけですが、それに対して日弁連は強く反対した。そのために、警察庁は当初案を変更して、弁護士等、五士業に対し疑わしい取引の届け出義務を課すことを見送ったというのが今回の法律を出してきた経過です。
日弁連が反対した主な理由というのは、弁護士の職業の根幹をなす秘密保護の原則に反するということと、弁護士及び弁護士会の国家からの独立という原則に反するというものだったんですが、警察庁の方はこの見解を十分考慮して出してきたというふうに考えていいんですか。
○米田政府参考人 もともと、現在提出しております法案の前に、弁護士に対する疑わしい取引の届け出も含めました法案を私ども準備しておりました。
そのときの考え方も今委員がおっしゃった考え方に沿っておりまして、弁護士と依頼者との関係というのは大変重要である、したがいまして、守秘義務の範囲内にある事項は届け出事項から除外をする、あるいはその業務も対象業務を絞りまして、届け出のタイミングというのも、犯罪収益を収受したときということで、実際に資金取引があった後にしまして、法的助言とか法律相談というものに影響を及ぼさないようにする。それから、弁護士の自治的性格を重んじまして、具体的な規範は会則で定めて、なお、届け出は日本弁護士連合会に対して行っていただく、監督も日本弁護士連合会が行う、こういう案をこしらえておったわけでございます。
しかしながら、それでもなお、日本弁護士連合会からは、依頼者との信頼関係に及ぼす影響についてなお懸念があるということでございましたので、この点については今後の検討課題にするということで、今回の法案では見送ったものでございます。
したがいまして、私どもは立案の段階からそのような意識で立案をしてまいったということでございます。
○吉井委員 弁護士という職業上の問題もあっていろいろな検討をされたということですが、信頼関係が揺らぐと、国民が弁護士の援助を受けるアクセスを著しく阻害してしまう事態を招く。依頼者は危なくて胸襟を開いて弁護士に相談できないとなったらこれは大変なことですし、それは弁護士との関係だけじゃなくて、弁護士を通じて司法というものに国民はかかわっていくわけですから、司法そのものに対して国民が不信を持つということにもなってくるので、私は、秘密保護の原則をきちっと守っていくということは、これはこれからも大事なことだと思っているんです。
顧客との信頼関係は、弁護士だけじゃなくて、司法書士など他の士業についてもこれは同じことだと思うんですが、それはそのとおりでいいですね。
○米田政府参考人 当初考えておった案でも、その届け出の対象から守秘義務の範囲内の事項を除くでありますとか、あるいは対象業務を絞るといった点は、他の士業についても同じようにしてございます。
ただ、弁護士と他の士業の取り扱いの差は、弁護士の自治的性格を重んじて、その監督等の手続において差があるということでございます。
○吉井委員 弁護士等、五士業に対する疑わしい取引の届け出義務というのは当面見送ったわけですが、五士業を特定事業者と規定したということは、これは特定事業者という形で大きくは制度の大枠に乗せているということが言えると思うんです。
FATFは、ことしの秋、日本で勧告の履行状況を審査するということを予定しておりますが、通常、相互審査をした後、FATFはその結果を公表しますけれども、大体この結果公表の時期はいつごろというふうに見込んでいるんですか。
○米田政府参考人 今おっしゃいました相互審査というのは、相互審査の審査団が日本にやってくるという手続であろうかと思います。これがことしじゅうには来るのではなかろうかと今言われているわけでございますが、その審査団による現地調査といいますか、我が国にやってきて行う審査、これを経た後、さまざまな疑問点についてのいろいろな協議というのがその後行われて、数カ月後ぐらいにFATFの全体会合で報告をされるというように聞いております。
○吉井委員 数カ月後ぐらいということで、そうすると来年に入ったぐらいになるのかどうかというふうに思いますけれども、先ほどおっしゃった、特定事業者という大枠には乗せたんだけれども、疑わしい取引の届け出義務は当面見送った、しかし、引き続き日弁連等と協議をしていくという話で、要するに、引き続き協議をし変えていく、つまり、特定事業者という大枠には乗せたという第一段階は済んだけれども、疑わしき取引の届け出等、密告という制度のそこへどう導入していくかということについては協議ということで、第二段階の問題というお考えのようですが、私はここがやはり問題になってくると思うんです。
報道によると、秋にはFATFが勧告実施状況を審査する、警察庁幹部は、審査で今回の法案では不十分と指摘されるだろう、五士業も対象にすることは宿題として残されているとして、五士業が再び法律の対象に復活する可能性を示唆しているということが報道等で伝えられております。自民党内にも、小さく産んで大きく育てればいいと対象拡大容認論が根強い、これは二月十五日付の新聞に伝えられておりました。
警察庁は、つまり第一段階は、五士業をみんな特定事業者として大枠には乗せた。密告制度のところ、こういうところは、とりあえずまだそこまでは持っていっていないけれども、協議を重ねて、そしてFATF勧告のさらに結果公表の状況を見て協議もやりながらということで、次に報道にあるような方向へ持っていくということを考えている、そういう認識を持っているのかどうか、その点について、これは大臣に伺っておきたいと思います。
○溝手国務大臣 本件に関しましては、昨日来の答弁でもずっと申し上げているように、今後検討していこうということは、弁護士会とは、検討していこうではないかということで話が切れております。
だからすぐやるのかというのは、それはまた別の話でございまして、周囲の状況や、森羅万象十分検討した上で次のステップを踏まないといけないんだろうと思います。それが必ずしも改定するということになるのか、いや、しばらくおいておこうということになるのか、いや、取り上げないということになるのか、そういうことは全く白紙の状態にあるということを申し上げておきたいと思います。
誤解がないように、小さく産んで大きく育てようというような考え方は毛頭持っていないということを御理解賜りたいと思います。
○吉井委員 協議を続ける、そしてFATFの報告、実施状況を審査した結果報告を見て、そのFATFの結果がどうなるかということはもちろんあるわけですけれども、しかし、今回の法律で終わりということじゃなくて、このパブコメの中で日弁連の意見も受けて変更をしたんだから、とりあえず今回はこれなんだけれども、これは変えるということは頭の中にある。森羅万象、状況を見てということですから、時期はいつになるかはともかくとして、第二段階でこれを変えていこうという認識は持っていらっしゃるんですね、大臣、どうですか。
○溝手国務大臣 森羅万象という言葉が適当でないようでございますので、白紙の状態であります。
○吉井委員 もともと森羅万象という表現が、こういうところでおかしい表現を使うなと思ったんですが。
いずれにしても、弁護士が依頼者から得た秘密情報を捜査機関に密告するという制度は、これは弁護士の秘密保護の原則に反するということになってきますし、民主的な司法制度の根幹を揺るがすものとなってきます。また、弁護士同様に他の四士業にも守秘義務が課されており、こうした五士業を特定事業者にすること自体、やはりこういう大枠に乗せていくという仕組みそのものがまず問題であるというふうに思います。
そして、他のところについては、まず、疑わしきものの届け出義務、それは、届けたことを通報してはならない、通知してはならないという、要するに密告制度というものがあり、そして十七条以下で新たに捜査令状なしの警察の捜査の拡大、そういう警察権限の拡大という問題がありますから、こういう深刻な方向に進むべき法律について、これは私は現時点では、やはり大臣としては、改めて政府自身がもう一度引っ込めてよく研究し直す、検討し直すということをされるべきだということを申し上げまして、時間が参りましたので、質問を終わります。
○河本委員長 次に、後藤田正純君。
○後藤田委員 締めくくりをさせていただきたいと思いますが、本日また先般も、本法案の与野党の議論、そしてまたきょうは参考人の方々の御意見を聞いて、いずれも傾聴に値するお話でございまして、ただ、最終的な私自身の結論としましても、この本法案の必要性を改めて感じたところでございます。ただ、この法案ができるだけ運用されないように、これがまた活用されないようにするということが、日本の社会、治安にとっては重要なことだということも改めて感じました。
それと同時に、やはりまだまだこれから経済犯罪ということがさらに国際的にも国内的にもふえていく中で、法律の不備または運用面での不足の部分もたくさんあろうかと思いますので、そのことも改めて最後に御提起を申し上げたいと思っております。
要は、マネーロンダリングを防止するために厳しくいろいろな形で取り締まっていくということでございますが、そもそもロンダリングを認めるつもりは毛頭ございません。つまり、その前には汚い金があるわけでございます。汚い金を認めてこの法案をつくったわけではなくて、もともとの汚い金を根絶しなくちゃいけない。日本は汚い金をつくりやすいんだ、そういう国にしてはいけないということを改めて国家公安委員長を初め警察当局にはお願いを申し上げたい。
その中で、先般来私も取り組んでおりましたが、やみ金の問題。以前はやみ金で何十億ももうけた方、方というか人、いや犯罪者が、何も問われずに、その犯罪収益も没収されなかったこの日本国家であったわけでございますが、組織犯罪法の改正によりまして、それを没収できる。ようやく去年ですよ、去年初めてそうなった。大変これは遅きに失する、私はそう思っております。
加えて、その犯罪収益をこれまた被害者に返還するまで、これが最後、この仕事の完結というのはそこまで至らないとだめなわけでございまして、金融庁に関しましても、おれおれ詐欺だとかいろいろな詐欺事件で、結局犯罪者の手元に渡らなかったお金が何十億も今銀行にある、これも明らかになりましたね。これは早く被害者に返さなきゃいかぬですよ。これはやはり警察庁だけじゃなくて、金融庁、そしてまた法務省、もう本当にあらゆる英知をもってすればこんなものはすぐ解決するのに、何をちんたらしているのかな、私自身そう思っております。
また、これからファンドだとかインサイダー、未公開株の問題、これはたくさん、いろいろな外国も含めた、日本の、そこら辺、知恵の働く人たちがいろいろなことをやってきます。この問題に対しても、皆様方、ぜひしっかりと取り組んでいただきたい、そういう思いがございます。
その中で、私も先般来疑問に思っていたんですけれども、先ほど申し上げました組犯法の改正によって剥奪できる犯罪収益、これは、犯罪収益じゃなければだめだ、刑事事件として立件されなきゃ没収できない。では、おれおれ詐欺だとか、おばあさんがだまされて着物を買わされた、違法収益の場合、これは没収できないんですよ、今は。この点について、今の現状、犯罪収益と違法収益の違いについて、そして、今現在の法律ではそういった収益がどこまで没収できて、ここからここまではできないのかという点について、警察庁として今認識しているところを確認したいと思います。
○米田政府参考人 確かに、実はいわゆるやみ社会に出回っているお金というのは、犯罪収益もあれば、一応正当な業務のような形をとった収益もある。暴力団というのはその両方の収益を持っているということでございまして、これを剥奪する、もちろん被害者があればそれを返すということは、大変重要な問題であると認識をしております。
組織的犯罪処罰法等の体系では、どうしても犯罪収益ということを対象にせざるを得ないわけでございますが、その他のことにつきましては、例えば国税と協力するとか、いろいろな方策を検討してまいりたいというふうに考えてございます。
○後藤田委員 ということは、犯罪収益ではないけれども、違法収益は没収できない部分もまだ残っているということでよろしいんですか。
○米田政府参考人 これは今後の実務の定着もあろうかと思いますけれども、最近、前提犯罪を必ずしも検挙しなくても、前提犯罪の全部を検挙しなくても、その収益全体についてマネーロンダリングが適用されるというような実務例が少し出てきてまいっております。そういったことを積み重ねていけば、あるいは委員の御趣旨のようなこともできていくかもしれませんし、私どもも努力したいと思います。
○後藤田委員 今現在は、その点がまさしく課題なんですね。
小泉内閣のときに安倍官房長官が犯罪被害者の協議会を官邸につくったんだけれども、当時、私は金融庁にいましたけれども、金融庁と経済産業省が入ってなかったんだよね。何をやっているんですか、早く入りなさいといって、ようやく入った。いわゆる犯罪被害者というのは、もちろん、自然犯の被害者や家族や遺族に対する対応ということでこれは大変大切なことだけれども、さっき参考人の方が、警察がまた経済警察に戻るというけれども、当然ですよ、経済警察に戻ってくださいといって、もう一回改めて経済犯罪をしっかりと取り締まる組織になっていただきたい。私はそう思っておりますし、例の犯罪被害者の協議会がまだ生きていますね、その中で、向こう二年以内に違法収益の没収やまた被害者への返還、これもしっかりやるというふうに書かれておりますので、その点をぜひ改めてお願いしたい。
それと、きのうもちょっとあるシンポジウムに行ってきまして、やみ金対策、あの問題で今、多重債務対策協議会が官邸で開かれておりますけれども、いわゆる地方の市や県の相談員の方々が本当に一生懸命やられていますよ、いろいろな相談を。そして、それを法テラスだとか司法書士さんとか弁護士さんとかに、いろいろ専門家の方を紹介したりしている。ただ、その方がおっしゃっていたんですけれども、警察はいまだに、もちろんしっかりやってくれている警察もいるんですけれども、やみ金被害は被害になったやつが悪いんだと。そしてまた、金融庁の野村さんといって、今コンプライアンスの室長をやっている、これも中央大学の弁護士さんですけれども、大学生でも最近いろいろな詐欺に遭ったりだまされたりしているんですね。それも、だまされたおまえが悪いだろうと。
これが今までの警察としての、ある意味、ちょっと考え方が定着していたところがあるので、これは大臣、もう一度、全県警本部長あてに、そういった考えから脱却をして、だまされる人間が悪いといって相談を聞かないのではなくて、やはりだましたやみ金が悪いんだよという考えをぜひ徹底していただきたい。そういったちっちゃなところから結局積み上がって、五菱会の何十億というマネロン、あれが起こったんですよ。
ですから、さっき冒頭申し上げましたように、こういった法律をつくらなくてはならなくなった日本というのは本当に情けない、また国際的にもそういう世界経済になったことが本当に情けないところでございますので、今回の法律は了といたしますが、しかし、今後のこの法律の運用ができるだけないように、ロンダリングする汚い金をつくらない、そういった公安行政を改めて大臣にお願いして、大臣の意気込みを聞かせていただいて、私の質問を閉じたいと思います。大臣、よろしくお願いします。
○溝手国務大臣 まず、経済犯の問題でございますが、確かに、伝統的にそういうことで御批判があるということは承知をいたしております。ただ、我々の立場として、悪いものは悪い、だめなものはだめだ、取り締まるべきものは取り締まるという基本的な態度は変わっておりませんし、経済犯だからやらない、そういうことはあり得ない。法と証拠に基づいてしっかりやってまいりたい、このように考えております。
さらに加えまして、本法案の対象でもございます、暴力団による犯罪とか、組織的な薬物及び銃器の密輸、密売、在日外国人の犯罪による組織、こういう組織を背景とする犯罪は巧妙かつ大胆に繰り返し敢行されておりまして、国民に大変大きな脅威を与え、不安を与えております。犯罪組織の弱体化及びその壊滅に向かってマネーロンダリング対策を推進し、強化をしていくということは、我が国の重要かつ喫緊の課題であると考えております。
本法律の成立、施行により、国家公安委員会、警察庁がFIUの移管を受けることとなりますが、高度な情報分析やマネーロンダリング犯罪の検挙の実績を通じてその成果を上げ、責任を果たしていくとともに、引き続き、内閣の中で組織犯罪、テロ等に関する資金源対策を、その中心となって推進してまいりたいと考えております。どうぞ皆さんの御協力をよろしくお願い申し上げます。
○後藤田委員 旧内務省の誇りと正義感を改めてこれから期待申し上げながら、終わりたいと思います。ありがとうございました。
○河本委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。
―――――――――――――
○河本委員長 これより討論に入ります。
討論の申し出がありますので、これを許します。吉井英勝君。
○吉井委員 日本共産党の吉井英勝です。
私は、日本共産党を代表して、犯罪収益移転防止法案に対し、反対の討論を行います。
マネーロンダリングやテロ資金の移動を防止する対策を各国が連携して行うことは必要ですが、同時に、その対策は、国際人権基準や日本国憲法の趣旨に沿い、国民の人権を過度に制約しないことが前提にならなければなりません。こうした原則から見て、本案は、以下に述べるように重大な問題があり、賛成することはできません。
反対の第一は、金融機関、クレジット業者、宅建業者など約二十二万の企業及び事業者に対して、国民生活に密着した取引記録を対象に、あいまいな「疑わしい取引」の記録を監督官庁に届け出ることを罰則つきで強制し、その情報を警察に集中させています。まさに警察への密告制度ともいうべきものであります。これらは、プライバシーの侵害を初め業者と顧客の信頼関係を損ねさせ、自由な取引関係を破壊するおそれさえあります。
第二は、国家公安委員会、警察庁に、金融取引や経済取引情報を集中させるとともに、広範かつ強権的な権限を認めていることです。
FATFの勧告にも指摘されていない金融情報機関を、金融庁から国家公安委員会、警察庁に移管し、一切の情報を警察の監視下に置いた上に、さらに、義務に反した業者に対し、監督官庁が行う是正命令に意見を述べる権限及びその前提となる立入調査を都道府県警が行える権限を国家公安委員会に与えました。
この警察の調査は、施設への立ち入り、検査、質問権などが令状なしで実行できるもので、拒否や忌避を犯罪とするなど、他に例を見ない警察権限の拡大で、深刻な権利侵害を引き起こすおそれがあります。
第三は、弁護士や司法書士等の五士業への疑わしい取引の届け出義務を当面見送ったものの、特定事業者に盛り込み、五士業を疑わしい取引の届け出義務を課すレールに乗せたことです。小さく産んで大きく育てればいいとの政府・与党からの声が、その意図を物語っています。
憲法は、警察権による国民の権利と自由の制限を必要最小限にとどめるとともに、立法上での最大限の尊重を求めています。マネロン対策に名をかりて、国民の権利と自由を過度に制限する本案の撤回を強く求めて、討論を終わります。
以上です。
○河本委員長 これにて討論は終局いたしました。
―――――――――――――
○河本委員長 これより採決に入ります。
内閣提出、犯罪による収益の移転防止に関する法律案について採決いたします。
本案に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○河本委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。
―――――――――――――
○河本委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、後藤田正純君外二名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
提出者から趣旨の説明を聴取いたします。泉健太君。
○泉委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表いたしまして、その趣旨を御説明いたします。
その趣旨は案文に尽きておりますので、案文を朗読いたします。
犯罪による収益の移転防止に関する法律案に対する附帯決議(案)
政府は、本法施行に当たり、次の事項について十分配慮すべきである。
一 警察の特定事業者に対する報告聴取・立入り検査については、本来の目的を超え、濫用されることがないようにすること。また、一般国民への不当な権利侵害がないよう、留意すること。
さらに、警察の行政庁に対する意見陳述については、本来の目的を超え、濫用されることがないようにすること。
二 犯罪による収益の移転防止のための制度に係る今後の検討については、本法において士業等特定事業者が「疑わしい取引」の届出義務の対象外とされている趣旨に鑑み、これらの事業者が有する自治の原則または守秘義務の遵守等に十分に配慮すること。また検討状況の公開が逐次行われること。
三 「疑わしい取引」については、政令で定める事項を行政庁に届け出ることとなっているが、これらの判断の要件が明確でない場合、士業を除く特定事業者はその判断に窮し、正当な取引を含めて膨大な記録の保存・報告を余儀なくされるおそれがある。「疑わしい取引」の判断要件をできるかぎり明定するとともに、広く周知させること。また政省令等の規定に当たっては、特定事業者の意見を十分に取り入れること。
四 本人確認・取引記録の保存が特定事業者の業務等に負担とならないよう配慮すること。
五 法施行に当たっては、職務上の守秘義務を有するいわゆる士業等特定事業者に十分配慮した運用がなされること。
六 届出情報の整理・分析を国家公安委員会が行うにあたっては、外部に対する情報の漏洩等が発生しないよう特に留意すること。また内閣官房情報セキュリティセンターが平成十八年に実施した「府省庁の情報セキュリティ対策の実施状況に関する重点検査及び評価結果」における警察庁に対する評価結果に鑑み、情報セキュリティ対策の早急な改善と情報管理の徹底を図ること。
以上でございます。
何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。
○河本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
採決いたします。
本動議に賛成の諸君の起立を求めます。
〔賛成者起立〕
○河本委員長 起立総員。よって、本案に対し附帯決議を付することに決しました。
この際、本附帯決議に対し、政府から発言を求められておりますので、これを許します。溝手国家公安委員会委員長。
○溝手国務大臣 ただいまの附帯決議につきましては、その御趣旨を十分尊重してまいりたいと存じます。
―――――――――――――
○河本委員長 お諮りいたします。
ただいま議決いたしました本案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
―――――――――――――
〔報告書は附録に掲載〕
―――――――――――――
○河本委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
午前十一時五十二分散会