衆議院

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第27号 平成19年6月8日(金曜日)

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平成十九年六月八日(金曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 河本 三郎君

   理事 木村  勉君 理事 後藤田正純君

   理事 戸井田とおる君 理事 西村 康稔君

   理事 平井たくや君 理事 泉  健太君

   理事 松原  仁君 理事 田端 正広君

      安次富 修君    赤澤 亮正君

      遠藤 武彦君    遠藤 宣彦君

      大塚  拓君    岡下 信子君

      上川 陽子君    木原 誠二君

      谷  公一君    谷本 龍哉君

      寺田  稔君    土井  亨君

      中森ふくよ君    林田  彪君

      牧原 秀樹君    松浪 健太君

      村上誠一郎君    市村浩一郎君

      小川 淳也君    佐々木隆博君

      細野 豪志君    馬淵 澄夫君

      渡辺  周君    石井 啓一君

      吉井 英勝君

    …………………………………

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長) 溝手 顕正君

   内閣府副大臣       平沢 勝栄君

   法務副大臣        水野 賢一君

   内閣府大臣政務官     岡下 信子君

   内閣府大臣政務官     谷本 龍哉君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房審議官) 荒木 二郎君

   政府参考人

   (警察庁交通局長)    矢代 隆義君

   政府参考人

   (法務省大臣官房審議官) 三浦  守君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    梶木  壽君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           御園慎一郎君

   政府参考人

   (厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長)    中村 吉夫君

   政府参考人

   (国土交通省道路局次長) 原田 保夫君

   政府参考人

   (国土交通省自動車交通局次長)          桝野 龍二君

   内閣委員会専門員     堤  貞雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月八日

 辞任         補欠選任

  嘉数 知賢君     谷  公一君

  木原 誠二君     安次富 修君

  中森ふくよ君     大塚  拓君

  松浪 健太君     牧原 秀樹君

同日

 辞任         補欠選任

  安次富 修君     木原 誠二君

  大塚  拓君     中森ふくよ君

  谷  公一君     上川 陽子君

  牧原 秀樹君     松浪 健太君

同日

 辞任         補欠選任

  上川 陽子君     嘉数 知賢君

    ―――――――――――――

六月七日

 憲法九条を守ることに関する請願(塩川鉄也君紹介)(第一四〇八号)

 ともに生きる社会のための公共サービス憲章の制定を求めることに関する請願(近藤洋介君紹介)(第一四〇九号)

 同(前田雄吉君紹介)(第一四一〇号)

 同(奥村展三君紹介)(第一四八〇号)

 同(平岡秀夫君紹介)(第一四八一号)

 同(山井和則君紹介)(第一四八二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 道路交通法の一部を改正する法律案(内閣提出第五七号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――

河本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、道路交通法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本案審査のため、来る十三日水曜日午前九時から、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣府大臣官房審議官荒木二郎君、警察庁交通局長矢代隆義君、法務省大臣官房審議官三浦守君、矯正局長梶木壽君、厚生労働省大臣官房審議官御園慎一郎君、社会・援護局障害保健福祉部長中村吉夫君、国土交通省道路局次長原田保夫君及び自動車交通局次長桝野龍二君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

河本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。牧原秀樹君。

牧原委員 おはようございます。自由民主党の牧原秀樹でございます。

 きょうは、内閣委員会におきます質問の機会を与えていただきましたことを、まず感謝を申し上げたいと思います。

 昨年度に、私たち自由民主党におきましては、飲酒運転根絶プロジェクトチームというところにおきまして飲酒運転根絶に向けましての提言をまとめさせていただきました。今回の道路交通法の一部の改正、そしてまた別委員会にかかっておりました刑法の一部改正というものは、こうした私たちの提言も考慮いただきまして法案提出をしていただいたものでございます。したがいまして、きょうはその一員としてこうした質問の機会をいただきました。本当にまず感謝を申し上げたいと思います。

 本日、委員長のお許しをいただきまして御配付させていただきました資料一―一というものがあります。この資料一―一というのは、交通事故の発生件数、そして死者数、また負傷者数等の推移ということで、平成十八年度までの統計を示したものでございます。

 これを見ますと、以前、平成の初めのころ、一万人近くを超えていた交通事故の死傷者数というものは、いよいよ、二十四時間以内の死者数だけで限って見れば六千三百人まで減ってきている。三十日以内の死者数で見ても七千二百人まで減ってきている。こうしたことは、警察の関係者の方々や、あるいは交通安全協会の方々、その他関係者の方々の大変なる御尽力によるものだと思います。ここまで来たということについては、まず、心より関係者の方に敬意を表したいと思います。

 その一方で、資料一―二というものをお配りしました。これは、今回の法改正に係ります飲酒運転の交通事故件数の表でございます。

 御承知のとおり、平成十三年には危険運転致死傷罪の新設を柱とした改正が、そして、十四年には酒酔い運転また酒気帯び運転の厳罰化というような手当てを次々としまして、この厳しい厳罰化、これによりまして、平成十三年度以降は一たん飲酒事故件数はがくんと減っているわけでございます。これは、飲酒死亡事故件数も飲酒事故件数もがくんと減っておる。

 先ほどの資料一―一を見ていただくと、交通事故発生件数全体として見ると、これは、十三年度以降も横ばいではございますが微増があって、昨年度若干減っておりますけれども、大幅に減っている状況にはないわけでございます。

 この状況と比較しても、飲酒運転の事故というものは確実にこの法改正が効果があったということの私は証左だと思っておりますけれども、しかし、平成十二年から十五年にかけてがくんと減っている割合から比較すると、十五年以降については、その減少度合いがめっきり微減にとどまっております。

 これは、警察あるいは政府としまして、がくんと減ったけれどもその後は微減にとどまってしまっている、この理由についてまずどのように分析をされているか、御質問をさせていただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 ただいま御指摘いただきましたように、飲酒事故につきましては減少状況ががくんと落ちてきたわけでございまして、昨年も、今のお示しの数字ですと少し落ちていますが、これは、昨年九月以降のさまざまなキャンペーンの結果もあって少し減りましたが、実は、それまではほぼ横ばいの状況でございました。

 それの評価でございますが、私ども、平成十三年の道路交通法改正をやっていただきまして、それによりまして、運転者の意識あるいは行動の変化、あるいは飲酒運転防止のための社会環境の整備の効果、これができることにつきましてほぼ一巡して、これによって、いまだ改善に至らない運転者層あるいは社会状況というのが残っているというふうに考えております。

 特に運転者層につきまして言うならば、平成十三年改正による改正後の罰則をもってしてもなお飲酒運転をやめようとしない一部の悪質な者がいる、こういうことであろうと考えております。

牧原委員 つまり、厳罰化をしたことによりまして、それまで軽い気持ちで運転をしていたような普通の人はやめた、しかし、それでも、厳罰化だろうと何だろうと酒を飲んで運転をする人というのがどうしても一定数残るということだと思います。

 今回の法改正、私たちプロジェクトチームでもその点は考えまして、そうした運転手以外の方々、周辺者、同乗者であったり、あるいは酒類を提供したお店の人であったり、さらには車両を提供した人、そうした人に対しての罰則を大幅に強化したということで、ぜひともこの点は大いにアピールをしていただいて、運転する人のみならず、周りにいる人も大変な厳罰を食うんだということを訴えていただきたいというふうに思います。

 この意義というものは、飲酒運転を減らすためにということでよくわかるんですが、実は、今回の一部改正の大きな柱の一つというのは、救護義務の罰則の引き上げでございます。

 いろいろな罰則の引き上げの中で、この救護義務に対する罰則の引き上げというのは、今まで五年だったものを十年、罰金も二倍というふうにするものですから、大変な厳罰化を図るわけでございますけれども、飲酒運転撲滅という目的と救護義務違反を大幅に引き上げるということの相関関係、理由というものについて御説明をいただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 飲酒運転につきましては、今ほどお話しいただきましたように、運転者本人だけではなくて、その周辺者に対する制裁の強化が必要であるという御指摘を受けましての改正内容としておるわけでございますが、一方、この救護義務違反の方は、交通事故が発生した後の運転者の行動、その対応の問題でございます。したがいまして、それ自体で直接交通事故の発生あるいは抑止をねらうということには直ちにはならないわけでございます。

 しかし、救護義務違反につきましては、交通事故に対する責任追及を強化すべきであるという各方面からの強い意見、この中で、交通事故を起こしながら、救護義務を怠って逃走する、このような悪質な者を許してよいのか、こういう国民の厳しい目が注がれ、強い非難が集中するようになっております。現実に、このひき逃げの発生件数自体、平成十三年には一万六千件余でございましたが、平成十八年には一万八千件を超えまして、全般的に増加傾向にあったということでございます。

 そこで、このような悪質な運転あるいは悪質な違反に対しましてこれに見合う制裁が求められ、あるいは発生件数が高水準で推移していることに対しまして、その制裁の強化によりましてそのような行為の抑止を図る、こういう考え方でございます。

 そこで、悪質、危険運転者対策といたしましては、酒類や車両等の提供者に対する罰則の強化、これは本人に加えてでございますが、これにあわせまして、救護義務違反の罰則についても引き上げをお願いしようとしているものでございます。

牧原委員 若干わかりにくい説明だったと思いますので、私から説明をした方がいいような気もしますけれども、私たちのプロジェクトチームでも、この法改正の一番契機になった事件というのは、平成十八年の八月二十五日に福岡で起こった事件でございます。御記憶の方も多いと思いますが、二十二歳の方がべろべろに酔っぱらって、橋の上で家族五人が乗っている車に追突をして、その家族五人が乗っている車が海におっこちて、そして幼い兄妹三人が溺死する。この事件は、お母様が子供を助けようと必死に海に潜って、そして助け上げたけれども、結果亡くなってしまったという、三人の子供が一遍にこの事故によって亡くなるという、極めてもう本当に悲しい事件でございました。この事件の大きな問題は、この犯人が、一たん逃げて、そして水をたらふく飲んで、酒がすっかり抜けてから現場に戻ってということがあったわけでございます。

 その前にも、平成十七年二月五日、これは千葉県の松尾町でございますけれども、同窓会を終えて帰宅している方々に、やはり飲酒運転をして、しかも免停中の人だったんですけれども、八人を突き飛ばして四人が死亡するという事件がありました。この事件も、犯人は一たん現場から逃走して、そして、酒が抜けてから出頭するというようなことがありました。

 この当時、実は、危険運転致死罪、すなわち懲役一年以上で最高で二十年受けるということが、アルコールを飲んで事故って人が死んだとしたら、まず確実にこの危険運転致死罪を受けるということで、厳罰を受けます。他方で、逃げて、そして酒がすっかり抜けて、私、事故りました、でも酒は飲んでませんでした、どうぞ私のアルコール検知をやってくれといって立証できなかったとすれば、これは、その当時であれば単なる業務上過失致死、懲役五年で終わってしまうという、逃げ得ということが指摘をされていたわけでございます。

 いずれにしても、こうした傾向をなくすためには、ひき逃げというものをさらに厳罰化して、逃げ得にならないということを私たちはやらなきゃいけないというのが背景にあるんだと思います。

 きょうお手元にお配りしている資料二をごらんいただきたいんですが、実は、問題はもうちょっと複雑だと思っています。これは、危険運転致死傷罪というものが平成十三年の十二月に施行されてから適用された件数の推移でございますけれども、例えば、アルコールの影響、薬物、猛スピード、運転技能を全く有しない、それから妨害目的、信号の殊さら無視というものが危険運転致死の危険運転だとみなされた典型的な事例で、アルコールがもちろん一番多いんですが、そのうちに、どれだけひき逃げをしたかという件数の割合をこの網がけのところに示させていただいております。

 アルコールの影響だけでいえば、平成十四年、百五十九件中三十三件、大体五分の一、平成十五年、百三十二件中二十一件ですから大体六分の一、十六年は百二十五件中二十七件、六分の一、十七年も大体六分の一、そして、平成十八年には四分の一に引き上がっているという状況が見てとれます。この傾向は、例えば信号の殊さら無視でも相当高い割合でひき逃げがなされていますし、妨害目的あるいは高速度なんというところでも傾向が見られます。

 つまり、危険運転致死罪という罪とひき逃げというものがあって、仮にひき逃げの罪が若干上げられたとしても、危険運転致死罪といういわゆる有期刑のマックスの刑が既にあるという状況だとすると、仮に救護義務違反の罰則を上げても、こういう人たちにとっては特別の抑止にならないというふうに思われるわけでございます。

 この点につきまして、今回の罰則強化で、こうした危険運転致死傷罪におけるひき逃げ事犯、この四割近い事案ですけれども、こういうものを防ぎ切ることができるかどうか、この点について御説明をいただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 ひき逃げに対する罰則強化の背景となりました経緯につきましては御説明いただきましたとおりでございますが、それの前提となります、酒を飲んで逃げたら、これは危険運転致死傷罪にならないか、あるいは飲酒ひき逃げ死亡事故等で検挙できないかということになりますと、これは、捜査はすべて過去に起きた出来事を再現するものでございますので、その過程で、当然のことながら、危険運転致死傷罪に該当する事実が解明できればそれによって立件する、解明したけれどもその事実がそれに至らないということであれば、これは、飲酒と、それからひき逃げと業過ということで立件することになる、こういうことでございます。

 したがいまして、今ほど資料二でごらんいただきましたものの見方でございますけれども、これは、ひき逃げであっても、危険運転致死傷罪に該当するものについてはこれだけ事実を解明して立件しているということでございます。

 ただ、先ほどの御指摘のような背景と、それから、事実を解明した結果、現実に危険運転致死傷罪にはならなかったという場合に、その処断刑というものが業過及びひき逃げだけで軽くなって、これでいいのかという均衡の問題もございます。そういうことで、私ども、先ほど申したひき逃げの悪質性ということに着目いたしまして、それ相応の評価を受けるべきであろう、こういう考えでございます。

 ただ、御指摘いただきましたように、挙げて私ども警察の捜査力でこれを立件できるか、立証できるかということにこれはかかわりますので、この点については引き続きの努力が必要であろうと考えております。

牧原委員 今の御説明も、ちょっとわかったようなわからなかったような説明なんですが、要は、逃げ得というものはないんだということを、先ほどの同乗者、周辺者に対する厳罰化と同じように、今国会、この法案改正で強調していただきたいというふうに思うわけでございます。私はこの懲役十年じゃまだまだ法定刑としては足りないんじゃないかというふうに思っておりますけれども、引き続き、今回の法改正を受けて私たちは注視していかなければならないというふうに思っています。

 さて、危険運転致死傷罪で、典型例、この六項目が掲げられているわけでございますけれども、これも皆さん御記憶だと思いますが、私の地元、直接選挙区ではないんですが、地元の埼玉県の東川口というところで、カセットテープを取り出そうとして、保育園児が公園に向かって散歩をしているところに突っ込んで、保育園児が四人も亡くなるという事件がありました。私もすぐ現場に行って、山のように高く積み上がった花束、そしていろいろなおもちゃ、多分親御さんからだと思いますけれども、そうしたものが置いてありまして、涙を流したものでございます。この事故で、実は法定刑についてまた新たな問題が提起をされているわけでございます。

 一たん危険運転致死傷罪ということになれば懲役二十年まで適用ができるということになっているわけでございますけれども、そうでないと、併合罪の観念を抜かしますけれども、これまでは業務上過失致死の五年、そして、今度新しく刑法改正でできます自動車運転致死罪で懲役七年になるわけです。つまり十三年も差がある。これは、仮に、カセットテープを直しながら子供をひきました、死者が百人でしたといっても懲役七年にしかならないわけですね。この百人の中には、もしかしたら私たちの家族、子供、あるいは友人等々が含まれているかもしれない。

 私は、こうした事故というのは、すべからく他人事として、あるいは、ちょっと法制局にありがちな、何か紙の上の話、議論としてではなくて、自分の家族だったらという観点で、あるいは自分の子供だったらという観点で少しとらえなければならないと思っています。人の死が結果であるということについては、殺人罪もあるいは危険運転致死罪も変わらない。仮に殺人罪として人が四人死ねば、これは死刑である確率が非常に高い。しかし、危険運転致死罪であれば、百人死んだってそれは死刑にならない。

 こうしたことを考えると、私は、著しい均衡を失しているのではないかというふうに思います。この危険運転致死罪というものの適用範囲を拡大するということはできないのでしょうか。

三浦政府参考人 先生御指摘のような危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大ということについての御意見につきましては私どもも直接伺っているところでございまして、そういう御意見があることは十分承知しているところでございます。

 これについての私どもの現在の考え方を御説明いたしますと、危険運転致死傷罪は、故意に危険な自動車の運転行為を行って、その結果、人を死傷させた、そういうものを、暴行により人を死傷させたものに準じて処罰しようというものでございまして、暴行のいわゆる結果的加重犯であります傷害罪、傷害致死罪に類似した犯罪類型ととらえているところでございます。

 したがいまして、危険運転致死傷罪に掲げられております危険運転行為の類型といいますものは、悪質、危険な自動車の運転行為のうちでも重大な死傷事犯となる危険が類型的に極めて高いという運転行為でありまして、暴行の結果的加重犯であります傷害、傷害致死に準じた重い法定刑により処罰すべきものと認められる類型に限定されているというふうに理解しているところでございます。

 こういったような危険運転致死傷罪の罪質、さらには法定刑等からいたしますと、その適用範囲となる行為を広げていくということにつきましては、なお慎重な検討が必要であるというふうに考えているところでございます。

牧原委員 私も弁護士を一応やっておりますので、その法制局的な、司法専門家的な意見というのは非常によくわかる一方ですが、他方で、私は司法修習時代から刑事裁判所でけんかをしておりまして、ある犯罪や事件が起こったときに何を一番重んじるかということを、司法関係者は少しなおざりにしてきたのじゃないかというふうに私は思っております。

 裁判所にいると、やれ、先例の犯罪がこうだったからこうであるとか、ほかの犯罪がこうだからこうであるという、均衡というものを異常に重んじるわけでございます。それはそれとして、余り人によって均衡を失するというのは、公平性を損なうわけですから問題でありますけれども、他方で、それが思考停止につながっているということがあります。

 例えば今回、ひき逃げを懲役五年から十年にしました。これまで、何で五年なんだと言ったときに政府は、いやいや、これはこういうことですから五年にせざるを得ないのですと説明していたはず、それを一気に十年にするわけです。法定刑なんてしょせんそんなものだと私は思っています。もちろん、ある裁判官とかある捜査当局が異常にその犯罪を憎んでいて、突如として重い刑を適用してしまう危険性というのはなくはないと思いますけれども、それは、法律家が自分の職業倫理あるいは誇りを持ってそういうことをきちんとやるべきであって、しかも、裁判官が単独であったとしても高裁があるわけですし、そういうのはいつか修正される。

 他方で、この法定刑という、私たちが何げなしに、はい、五年を十年ね、あるいはこれは何年ねと決めているものによって、犯罪被害が物すごいときにだってそれを防ぎ切ることはできないんです。

 例えば、今申し上げたように、危険運転致死罪ができたときにも、横浜でトラックが突っ込んで幼い子供たちが二人亡くなったという事件で、こんなことで懲役五年でいいのかということで初めて二十年ができた。では、それまで五年にしていたのは一体何だったのかということになるわけです。

 ですから、これは御意見として申し上げるわけでございますけれども、私は、どんな犯罪、例えば人の死というものが絡む犯罪については、死刑というものは選択刑としてあって、それは、裁判所ないし検察官というものが自分たちの職業の正義感に照らしてその事案、その事案で考えればいい。だから、仮に過失であったとしても、再犯が十件あって、そして死者が五百人だったというような事案であれば、当然死刑になったっておかしくないわけですから、ぜひ司法関係者の皆さんにはそういうことをお願いしたいと思います。

 次に、この法律改正に当たりまして、私たちは、実は交通事犯で軽い人たちが入る市原刑務所というものがありました。これは開放処遇の典型的な刑務所でありますけれども、そこではさまざまな再犯防止のための処遇というものが行われているものを確信させていただきました。その処遇というものの効果があるかどうかというものは、その人たちが刑務所を出てから再犯をしたかどうか、すなわち再犯率で確認できると思うんですけれども、交通事故におけるこの再犯率というのはどのようになっているんでしょうか。

梶木政府参考人 我々のところで網羅的な統計を持っておるわけではございませんが、平成十三年に全国の刑事施設を出所した者が平成十五年末までの間に再び刑事施設に入所した、再入所率と呼んでおります、再犯率とは違って、元受刑者が再び刑務所に戻ってきた率ということでございますが、この統計がありますので御報告をいたします。

 まず、主たる罪名が道路交通法違反、これで服役していた者が千六百三十三名おりました。そして、この者が、今申し上げました期間の間に再入所した、百四十一名、割合にして八・六%でございました。

 同じように、業務上過失致死傷につきましては、八百十四名の者がおりまして、このうち、この期間の間に再入所した者が五名、〇・六%であったという統計でございます。

牧原委員 今お話があったのは再入所ということですから、刑務所に入っていた人がまた刑務所に戻ってきたということでございます。この率のうち、今は八・六%、〇・六%というお話がありましたが、どれだけの事件が飲酒運転に絡むものかということについておわかりになるでしょうか。

梶木政府参考人 飲酒運転の事案に特化した統計を持っておりません。ただ、一つ参考になります統計がございます。

 昨年十二月十五日の時点で全国調査をしたわけでございますが、全国の刑事施設の在所者の中で、交通事犯受刑者、すなわち、主たる罪名が危険運転致死傷、それから業務上過失致死傷、重過失致死傷、道路交通法違反、これらの罪名の者が三千九十名おりました。その中で、酒気帯びを含む飲酒運転の事犯で受刑している者、千百三十二名、三分の一強いたということでございます。

 そして、この千百三十二名のうち、それ以前にも受刑していて、その受刑事由が飲酒運転であったという者が百二十九名、すなわち一一・四%いたという統計を持っております。

牧原委員 今御指摘になったとおりでございますけれども、基本的なデータはないということですが、今刑務所に入所している人の割合でいえば、一割以上の人が、飲酒運転を繰り返してまた刑務所に入っているというようなことだと思います。

 今のは再入所ですけれども、例えば、刑務所に入っていた人が、交通違反、これは刑務所に入らない事案ですけれども、酒気帯び、酒酔い運転等で捕まったという割合がどの程度かわかるでしょうか。これは警察だと思いますけれども。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 警察ではすべての運転者に対して台帳管理しております。それで、今の御質問にぴったりとお答えする数字にはなりませんが、飲酒運転によって交通事故を起こした者についてのその事故歴、違反歴を見ておりますと、その者が過去三年以内に飲酒運転をして行政処分の点数を付されている、違反をして点数を付されているという者の割合は、七・五%ということがわかっております。

牧原委員 今、それぞれ法務省、警察庁からお話がありましたように、繰り返し行われている事案が多いということが一つの特徴としてあるんですが、私ちょっとここで指摘させていただきたいのは、実は、処遇と捜査というのが完全に分離されているということなんです。

 実は、刑務所に行ったときに、どのぐらい処遇が効果があるんですかということで、出た人がどのぐらい交通事犯を犯しているかというふうに聞いたら、そのデータはないということなんですね。つまり、それぞれ、再入所ということで法務省管轄から法務省管轄に戻ってきたのはあるし、違反したのが違反したという警察のデータはあるんだけれども、刑務所から違反というような、省庁の枠を超えるとそのデータはないということなんです。そうすると、一体処遇というものがどのぐらい効果があったのかという検証がないわけです。

 ここは私は大きな問題だと思います。それぞれが連携をして、処遇はより効果があるように、そして取り締まりもより効果があるようにしていただきたいと思います。

 きょう、大臣に御臨席いただけると思っていませんでしたが、最後に、この飲酒運転撲滅につきまして大臣の御決意を伺えればと思います。

溝手国務大臣 いろいろな原因が複合的に重なり合って事故が起き、飲酒運転によって犠牲者が発生しているわけでございますので、罰則がすべてではないと思っておりますが、ただ、絶えず警察としては緊張感を持ってさまざまな対策をとり続けていかなくてはいけないだろうし、いろいろな努力を怠ってはならない、このように考えているところでございます。

牧原委員 ありがとうございました。以上で質問を終わります。

河本委員長 次に、田端正広君。

田端委員 公明党の田端でございます。三十分いただきましたので、よろしくお願いします。

 まず、国家公安委員長にお伺いしたいと思います。

 道交法の改正というのは、これは国民生活とも関係が非常に深い法改正だ、こういうふうに思います。そういう意味では、日常いろいろな形で、今回の自転車の問題あるいはシートベルトの問題、今の飲酒運転の問題、すべていろいろな意味で国民生活にかかわってくることだ、国民の関心もそれだけ、今回どういうふうに変わるのかという点では強いんだろう、こう思いますが、そこはやはり、国民の理解、支持がなければならないんだろうと思うんです。

 今回、例えば自転車の車道か歩道かという、これ一つとってみても非常にはっきりしていない。非常にあいまいなところが依然やはり残るんだろうと私は思います。しかし、交通事故、命を大切にするという意味においては、何らかの手を打たなきゃならないという第一歩を踏み出したんだと思います。

 そういう意味で、大臣として、今回の改正が国民生活にどういう影響があり、したがって、国民の皆さんのどういうことに理解と支持を得られるように努力していくのか、その総合的な御決断をまずお伺いしたいと思います。

溝手国務大臣 御指摘の中で、特に自転車の問題というのは大変悩ましい問題であります。私自身もルール上は自転車は車道を通るんだという認識がなかったぐらいですから、多くの皆さん、そういう状態で毎日を過ごしておられるんだろうと思います。しかし、これは法規をよくよく見てみますと、しっかり決まりはついているわけです。それと実態と比べると大変大きな乖離がある、これも事実でございます。

 ではどうするかというのが田端先生の御質問だろうと思いますが、とにかく、できることから着実にやっていかなくてはいけないんだろう。その大前提というのは、おっしゃるとおり、世論というか、やはり社会正義という考え方というのは非常に大きく影響すると私も考えております。

 飲酒運転の問題等につきましては、先ほどもお話がありましたように、あの三人の事故というのがやはり非常に大きな改正の動機づけになったということは事実であります。

 それはそれとして、自転車の問題を考えていく場合も道路行政の展開が不可欠でございまして、前に動こうと思ってもなかなか動けないで悩んでいるという我々の状況というのも御理解をいただきたいと思いますけれども、それでもなおかつ一歩前進すべく、自転車の歩道通行要件というのはやはり改善の努力をしてまいりたい、このように考えております。

田端委員 まず、自転車の問題ですけれども、私、大阪ですが、大阪の堺市というのは、自転車の発祥の地であり、今でも全国の生産ナンバーワンだ、こう思います。

 自転車というのは、生活の周辺四、五キロぐらいの間は自転車で移動するというのは、これはもうだれしもお互いにやっていることであり、したがって、特に地球環境ということから考えても、これからはもう一度自転車を見直す方がいいんじゃないかという世論も大変高いわけでありますから、そういう意味では、今後自転車ということに対しての国民の意識は今までとまた違ったものになっていくのではないかという期待感も私は持っています。

 しかし、自転車の事故がふえているということですから、だからこそ今回の法改正にもつながっているんだと思いますけれども、この十年間でも、何か四・六倍ですか、ふえているということでありますから、そういう新たなルールづくりということで一歩を踏み出された、こう思いますが、警察庁として、今回のこの法改正、歩道通行の要件を見直したといいますか入れたということについて、まず基本的なお考えを伺いたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 自転車の秩序を取り戻すために、ルールをしっかり守ってもらわぬといかぬ、それから環境整備をせぬといかぬということですが、現在の歩道通行に関しますルールは、まず、原則は自転車は車道を通行する、それで、公安委員会が規制した区間では、つまり標識を立てますが、その区間では車道を通っても歩道を通ってもいいというルールでございます。大体それで済むわけですが、実際には、公安委員会の規制はオール・オア・ナッシングなものですから、それゆえ、どうしてもよれない場合がやはりあるわけでございます。

 一つには、自転車の利用者には多様性があるということで、そうすると、児童、幼児などにつきましては、公安委員会の規制ではこれは画一的ですので、そうでない場合であっても歩道通行できるようにする必要がある。それから、交通の場合、生き物でございますので、常に変動いたします。そうすると、一時的に非常に危険で車道を通れない場合があるということで、そのような場合に一時的に歩道を通行してもいい、そういうような実地に即しましたルールにいたしまして、それを踏まえて車道通行、歩道通行というもののルールをはっきりさせていきたい、こういうことでございます。

田端委員 つまり、例外規定といいますか、そういう形で今おっしゃられているんだと思いますが、まず基本的に、この自転車の歩道、こういう形で今回認めるということについて、例えば諸外国で今どういう状況になっているのか。つまり、先進主要国では自転車事故は今減っているんだと思うんですよね。日本は逆だと思うんですね。だから、そこのところは、少し各国の状況等も判断材料に入れる必要があるか、こう思います。

 例えば、諸外国で歩道通行を認定している国というのはどの程度あるのか、余りないんじゃないかというふうに私は感じますけれども、こういう例外規定をつくってそういうふうにする、国際状況、各国とこの違いというものが少しあり過ぎるんではないかなという感じがしているんですが、その点はいかがですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、欧米諸国におきましても自転車は車道通行が原則、これは共通でございます。ただ、限られた道路空間でございますので、各国とも多量の自動車と自転車をどう安全に処理するかということで、やはりいろいろ苦労しているわけでございまして、車道のみでは無理な場合にはあわせて歩道を使っているということでございます、そうでない国もございますが。

 代表的なことを申し上げますと、スイス、ドイツ、あるいはアメリカのカリフォルニア州やジョージア州などですが、これは歩道通行可の規制があれば歩道を通ってもいいということで、我が国と同じ制度でございます。

 これ以外に、対象に着目して、例えば一定年齢の者については歩道通行してよろしい、これはフランス、八歳未満でございます。あるいはドイツ、これは歩道通行可の規制にあわせてになりますけれども、この場合には、むしろ八歳未満の者は歩道通行が義務となっておりまして、十歳以下の場合には歩道通行可というような状況でございます。アメリカのニューヨーク州などでも同様のやり方をやっております。

 それから、道路の状況によって通行可というところもあります。それはノルウェーでございまして、これは歩道に歩行者がほとんどいない場合で支障がなければ歩道を通ってもいいというようなやり方でございまして、もっと緩やかに、一般的に歩道通行を認めておる、無条件に認めておるアメリカのフロリダ州やミシガン州、あるいは特に禁止されていない地域では通行可というオクラホマ州などがございます。

 それから、歩道通行を一切認めていない国、これも一方にございまして、私が承知していますのは、イギリス、オランダ、スペイン、ポルトガル、それからオーストリアなどでございます。

田端委員 だから、それは各国によって状況が違うんだと思いますが、しかし一切認めていない国もたくさんあるわけでありまして、そこが悩ましい問題だということになるんだと思います。

 そこで、今回の改正案には「車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき。」というふうに言っているわけですが、それは具体的にどういう場合を言っているのかということと、そしてまた、六十三条の四の二号で、児童あるいは幼児とあわせて「その他の普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者であるとき。」という例外を置いているわけでありますが、この規定に該当する具体例というのはどういうことなのかというのが、もう一つはっきりわからない。

 では、例えば高齢者の場合は、児童、幼児ということを入れるんだったら、高齢者の場合は、それは考えには入っていないのかということも感じるわけでありまして、ここのところをちょっと御説明いただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 改正案の六十三条の四の第一項第三号の「やむを得ないと認められるとき。」ということでございますが、これは、先ほど申し上げましたように、原則は車道通行、それから公安委員会が自転車歩道通行可の規制をしている場合に歩道通行が認められるということでございますので、したがって、道路交通法で「やむを得ない」というのは、本当にやむを得ない場合を言っております。

 具体的に想定していますのは、例えば、道路工事が行われておるなどの事情で車道に自転車が通行すべき部分が十分ない、あるいは駐車車両が連続的に存在しておって路肩部分を走行できないというような状況、それからまた、交通の状況で申し上げますれば、近くに工事現場があるなどで大型車がひっきりなしに通って、ある時間帯に自転車がそこを安全に通行できない、スペースがないというような場合を想定していまして、このような場合に一時的に歩道を通行することはやむを得ないということを考えています。

 ただ、これはいろいろなケースがございますので、国家公安委員会が交通の方法に関する教則でさまざまなルールを細かく書いておりますので、その中で丁寧に書いてきたと考えています。

 それからもう一つ、第二号の「政令で定める者」でございますが、これは御指摘のように、高齢者の方は一応七十歳以上でどうかということを考えておるんですが、そういうことを念頭に今作業しています。それ以外にあるかということにつきましては、精査しまして、また考えていきたいと思います。

田端委員 そこは非常に、そうはいえども現実は、そんなこと、七十歳以上なんというのは見かけだけではわからないわけですから、なかなか難しいなというふうに思います。

 それで、つまり、自転車専用道路があればこのややこしい話は解決するんだと思いますが、そこが、車道と歩道という区分だけしかないことからこの問題が起こっているんだと思いますけれども、国交省の方に来ていただいていると思いますが、平成十五年当時で、私、前に伺ったときに、千百八十キロか何か専用道路があるというふうなことを聞いておりましたが、その後今どこまでふえたのか。あるいは、今、全国、そういうモデル的なところをつくって推進しているのかどうか。

 例えば、車道であっても、舗装のところを色分けして、ここは自転車が通るところですよとか、何かそういうふうに目印をつけることによって車のドライバーにもわかるようにしていけばその辺はいくんだと思いますが、しかし、道路の幅が狭いからなかなかそうはいかないという点があるかと思います。

 そういういろいろな工夫をひとつしていただいてやっていくことが大事だと思いますが、その辺の実態についてお尋ねしたいと思います。

原田政府参考人 お答え申し上げます。

 我々が道路の新設あるいは改築をする場合におきましては、道路をつくる際の基準でございます道路構造令に基づきまして、交通量に応じまして、自転車道あるいは自転車歩行者道の整備を進めているところでございます。現状でございますが、これらを合わせて約七万九千キロメートル、自動車専用道路を除いた道路延長、全体百十九万キロございますが、この中で約七%という状況でございます。

 とりわけ、先生、先ほど十五年度の数字として千百八十キロということがございましたが、恐らく自転車道の話だと思いますが、これは十八年度末現在で千二百七十三キロということになってございます。

 そういう中で、我々、特に用地の制約の大きい市街地におきましては、既存の道路空間を再配分するという観点も必要かと思いまして、例えば、それぞれ地元で警察と工夫をしながら、路肩を活用して、カラー舗装して自転車の走行空間を確保するということでありますとか、あるいは、自転車歩行者道につきまして、特に自転車と歩行者のふくそうが問題になっているようなところにおきましては、両者を視覚的に分離をして走れるようにする等々の、地域に応じた工夫もしております。

 しかしながら、一方で、先ほどこれも先生御指摘ありましたように、交通事故の状況を見ますと、必ずしも十分ではない、まだまだ取り組むべき課題はあろうかというふうに思っておりまして、先月五月に、警察庁と共同で、新たな自転車利用環境のあり方を考える懇談会というものを設置いたしまして、自転車の走行空間のあり方について現在御議論いただいております。

 例えば、自転車に関する道路構造でありますとか、ネットワークについての技術指針でありますとか、あるいは既存の道路空間を再配分するときのガイドラインの問題でありますとか、これも先ほど先生御指摘がありました、モデル地区等々を選んで戦略的に取り組んでいくやり方等々について御議論いただいております。

 こういった提言も踏まえまして、今後とも警察庁と連携をして、安全で快適な自転車の走行空間の整備に積極的に取り組んでまいりたいというふうに考えております。

田端委員 私も子供のころに、例えば自転車に乗るときに、ハンドルに手をかけないで、足だけでこいで、手を使わないでやることに自分でスリル感を味わいながらやる、それは皆さん方もそんなことをして遊んだようなことはあるんだろうと思います。だから、そういう意味では非常に身近な自転車、そして生活になれ親しんでいるという意味では大変大事な自転車なんです。

 しかし、これが今回、ある一定のルールをつくってやるということになれば、これはそれなりに広報宣伝活動をしっかりしていかないと、あるいはマナーということについてきちっと連携をとってやっていかないと、若い人にはなかなか通じないんじゃないか。

 今でも、例えば中学、高校生の皆さんは自転車通学の方がたくさんいると思いますけれども、そういった方々は、私が今言ったようなことをし、そういう少しいたずら的なことをしながらやっているんだろうと思います。しかも、頻繁に自動車が通っている道路の中をそういうふうにやったりしているんではないかと思うわけであります。

 こういうマナーあるいは交通違反の問題、そういったことについて、今後どういうふうに、例えば文科省とも連携をとらなきゃならないと思いますけれども、国交省、文科省、警察庁、そういう意味ではどういう方向でやっていこうとされているのか、その点についていかがでしょうか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 この自転車の問題を考えますときに、このような問題が生じております第一の原因は、先ほど御指摘がありましたように、自転車走行空間自体が非常に不十分であるということで、この対策を打つのが一つ大事であるということでございます。

 二つ目には、今御指摘いただきましたけれども、ルールは一応あるわけですが、あってなきがごとしという状況で、これはルールを知らないということでございます。したがいまして、これは改正されたルールも含めてということになりますけれども、特に小学校、中学校あるいは高校生も含めまして、ルールをしっかりと教えていく。それから、あわせて、街頭におきましても、目についたものをその都度指導していく、こういうことが重要であると考えております。

 現在、例えば警察でいいますと、学校と協力しまして、自転車交通安全教育というものを実は今でもやっております。平成十八年の実績で申し上げますと、全国で一万六千回ぐらい、大体百七十万人ほどの小学生を相手に、また、中学生でしたら四十万人でございますが、二千四百回ぐらいでございますが、やっております。これをさらに充実しまして、学校と協力しながらルールをしっかりと教えていく。あわせて、一般ドライバーも含めまして、これはさまざまな機会がございますので、新しいルールと現在あるルール、これを、一番大事なところを周知していく、こういう努力をしてまいりたいと考えております。

田端委員 それは理屈の上ではそういうことになるんだと思いますが、しかし現実は、例えば、二人乗りは大っぴらにやっているし、無灯火で走っているし、あるいは、最近は携帯をかけながら自転車で走っている人というのはたくさんいます。車の携帯というのは、これは交通違反になるわけでありまして、自転車の場合だって、やはり、こっちに気をとられて、片手で運転しているわけですから、こんな危険なことはないんだろうと私は思いますし、ママチャリのポケットに何か荷物を入れていても、そんなのはひったくりに遭う危険だっていっぱいあるわけだ、こう思うわけであります。

 そういう意味では、逆に言うと、じゃ、自転車のルール違反といいますか、あんた交通違反だよという、その摘発する条件といいますか、どういうときにどういうふうにしてそういう自転車の交通違反というふうに認定するんですか。

矢代政府参考人 自転車についても確かにルールがありまして、それに対してまた罰則もついております。したがいまして、れっきとした道路交通法違反なわけでございます。

 ただ、これに対しまして、実は、私ども警察は、基本的には警告指導ということでずっとやってきておりました。それで、警告指導だけではやはりルールが貫徹できないということで、特に悪質なものについては交通切符処理しようということで、これは法務省と相談いたしまして、昨年の四月から、一定の幾つかのタイプの悪質なものを例示しておりますけれども、それを中心に交通切符も適用するようにということで、全国警察に指示いたしまして、これが少し進んでおります。

 ただ、全体的にはやはり指導警告から入るわけでございまして、昨年ですと全国で百四十五万件ほどの指導警告をやっていますが、これはイエローカードです。あるいはレッドカードなんですね。それで警告票を渡すだけなんです。その中で特に悪質な、二人乗りの一部で、警察官の指示に従わないですとか、あるいは信号無視でありますとか、こういうものも交通切符を使って検挙いたしておりまして、これは、昨年は五百八十五件の交通切符を処理している、こういうことでございまして、あるいは違反の摘発をやっているところでございます。

 したがいまして、今後とも、やはり原則はルールを周知することでありますので指導警告が中心になりますが、その中でも悪質なものについては、きちんとした交通切符処理もするということを貫徹してまいりたいと考えております。

田端委員 要するに、なかなか難しい、微妙な点がたくさんある。事実、大臣が、原則車道ということは知らなかったということもおっしゃっているわけでありまして、これは、ぜひ全国の警察官の方も、その辺の意識がばらばらではこのルールというものがきちっと国民に理解、支持されないと思いますから、まず、その点の警察関係者の方の意識を統一していただいて、そして、国民に広がるようにしていかなければならないんじゃないかということを私は危惧しておりますので、どうぞよろしくお願いしたいと思います。

 もう一つは、ママチャリの問題です。

 前にもここで取り上げさせていただいて矢代さんとやりとりしたことがありますが、平成十八年の六歳未満幼児の交通事故といいますか致死傷者数も千八百九十九人と、二千人近い方が自転車によって死傷の被害を受けているわけでありますが、その多くは、頭部損傷といいますか、頭を打つ。お母さんがママチャリに小ちゃいお子さんを乗せていて、そのときに接触なりなんなりで倒れてということなんだろうと思います。

 そこで、今回、ヘルメットということになって、私もあのときに、ヘルメットということを考える手もあるんじゃないですかということを提案させていただきましたが、今回、努力義務ということになりました。努力義務ですから、その程度で終わるんだろうと思いますが、しかし、頭部損傷が多いということでありますから、そういった意味では、ヘルメット着用ということは一つの防護手段だと思いますので、ぜひPRをしっかりしていただきたいと思います。

 台東区で昨年十二月から、区内に住む二―六歳の子供にヘルメットを無償配付している、そんなニュースも聞きました。また、京都府では、この着用の義務化を条例で定めたという話も聞いておりますけれども、自治体が今そういう独自の動きをされるようになってきたということは、それだけ意識が高まってきたんだな、こう思います。

 したがって、そういう財政的な支援も含めて、ぜひ、もう少しPRしていただいて、しっかりと対応していただきたい。

 今、着用率は、いつも着用しているというのは一・二%、時々というのは一・四%、合わせて二・六ぐらいですから、これはもう全く少ないといいますか、だから、逆に言うと、義務化はなじまないという意見も三割ぐらいあるようでありますから、ここはしっかりと対応していただかないと、こういうことを決めても理解されなければ何にもならないんじゃないかと思います。

 したがって、子供の自転車事故を防ぐという、特に乳幼児、ぜひ、ここはしっかりとお願いしたいと思いますが、その点、答弁をお願いします。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 確かに、今着用率がまだ低調であるということと知識自体が十分に浸透していないということを踏まえての努力義務をお願いするわけです。

 そこで、私ども、自転車の幼児のけがあるいは死亡というものが頭部を損傷するのが四割ぐらいというその事実、それから、ヘルメットをつければこれは確実に被害が軽減できるということが一つ、それから、子供は自分で自分の身を守れないのでそれは保護者の責任である、この三点につきまして、これは一番重要なことなので、これを広く浸透させていくことによって、この普及率、着用率が高まるようにしていきたいと考えております。

田端委員 いずれにしても、自転車は、私たちの生活にもう本当に密着した交通手段の一つであるかと思います。だから、それだけに、今回の改正を一つの契機にして、さらに国民の理解、支持、そしてまた、交通事故の防止につながるように、一層の御努力をお願いして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

河本委員長 次に、佐々木隆博君。

佐々木(隆)委員 民主党の佐々木でございます。

 道路交通法の改正について、特に、高齢者や障害者のところを中心に質問をさせていただきたいというふうに思います。

 私は、北海道でございまして、交通事故ワーストワンをずっと記録させていただいているんですが、ここ二、三年、何とか返上をさせていただいております。そんなこともあって、地方の議会にあったときに交通安全の対策なども取り組まさせていただいてきたわけでありますけれども、私は、そのときに、交通事故というのには加害者はいない、みんな被害者だというふうに思っていたんですけれども、三悪に限ってはやはりその限りではないというふうに言わなければならないと思います。さらにまた、ひき逃げなどについては、まさに加害者そのもの、犯罪であると言わなければならないというふうに思うんですが、今回、これらの改正で罰則を強化したということについては、私は評価をしております。

 そこで、まずお伺いしたいのは、民主党案、きのう取り下げたわけでありますけれども、刑法との関連で、飲酒運転の制裁や、あるいはまた、アルコールの積載などについて今回盛り込まなかったことなど、多少違いがあるわけでありますが、民主党案との違いといいますか、そこを盛り込まなかったことについてお伺いをいたします。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 民主党案で出されました案につきましては、私ども、これを参考に、大どころのところは皆その中に盛り込まさせていただいた、こう認識しております。

 そこで、どこが違うかという点でございますが、何点か申し上げますと、一つには、民主党の案では、刑法に酒気帯び運転等業務上過失致死傷罪ということで、飲酒して事故を起こしたという新しい類型を新設して、それに対して十年以下の懲役または二百万円以下の罰金ということでお考えでございました。したがって、飲酒運転そのものに対する罰則というわけではなかったわけでございます。

 それで、私ども政府の案では、飲酒運転、酒気帯び運転等でございますが、これと、それから業務上過失致死傷罪とは直接結びつけることはいたしませんで、それぞれ、飲酒運転につきましては、酒酔いは罰則を五年以下の懲役または百万円以下の罰金、あるいは、酒気帯びであれば三年以下の懲役または五十万円以下ということで、まず引き上げました。それから一方で、業務上過失致死傷罪につきましては、刑法の方で、自動車の運転によるものを自動車運転過失致死傷罪として、これは処断刑を七年以下ということで業過よりも引き上げている、こういう整理をしております。

 結局、併合罪ということになりますれば、酒酔い運転で事故を起こせば、これは合わせて十年六カ月以下の懲役ということになりますし、それから、酒気帯びであれば十年以下でございます。そういうことでございます。

 それから、もう一つは、飲酒運転の周辺者の対策でございます。

 これは民主党案でも、運転者本人だけでなくて周辺者に対する対策が必要である、こういうことで酒類の提供についての制裁の強化を盛り込んでおられますが、ただ、民主党の案では、酒類の提供について、いわゆる酒類の提供などを業とする者が提供した場合にこれを罰するというふうにしております。政府の案では、営業者に限らず、広く酒類を提供した者については処罰の対象にするということでございまして、そこが少し違います。

 それから、あわせて、各方面からの御意見を踏まえまして、それ以外に周辺者として車を提供した者、それから一定の同乗行為、頼んで同乗するなど、こういう助長する行為についても処罰の対象にするという点が違います。

 それからあと、御指摘がありました民主党の示されました案では、開封された酒の積載を禁ずるということがございます。これは、結局、飲酒運転の前段の状況というようなことであろうかと思います。これは私ども、直接盛り込んでおりませんでした。これは、結局のところ、私ども、飲酒運転自体を取り締まれば足る、罰則を引き上げておりますのでこれをやれば足るだろう。その予備罪のようなものでございますけれども、これについては、飲酒運転の取り締まりを強化することで足るので、特にそこまで禁止を直接やる必要はないんじゃないか、こういう考え方でこれは特に盛り込まなかったわけでございます。

 そんなことで、大枠のところは大体一致しているわけですが、今申し上げましたような点が少しずれているということでございます。

佐々木(隆)委員 飲酒運転のところについては、刑法と今のをあわせて、今回の提案で飲酒運転の五年、百万とそれから過失致死とあわせれば同じような体系になるということでありますので、そこは了解しました。

 アルコールの積載の方ですけれども、今回、総体的に重罰化をして取り締まりを強化するという内容なんですけれども、後ほど少し論議をさせていただきたいというふうに思いますが、どう未然に防ぐかとか、そういうことも同時に大切なことだというふうに思うんですね。そういったことについては今後もぜひ検討していただきたいということを申し上げておきたいというふうに思います。

 そこで、今も申し上げましたけれども、交通事故をどう防止するか、あるいは減らすかということについて、一つには、規制をするとかモラルを上げるとか、あるいは重罰化をするとか道路環境を整えるとか、いろいろなことが考えられるわけでありますけれども、ヨーロッパでは今こんなことが言われておりまして、道路標識はドライバーに偽りの安心感を与え、かえって事故を誘発する。道路標識をむしろ撤廃する方がみんなが安全運転をやるんだというような都市が現実に出てきているということであります。

 重罰化というのは、ある種、抑止効果としては非常にあるというふうに思うんですけれども、結局今回も、平成十三年に見直してまた見直すということになったわけですので、これも重罰化よりそれをかいくぐる人が出てくる、また重罰化ということだけで本当にこのことを抑止あるいは防いでいくことができるのかということも同時に考えなければならないというふうに思うんですが、そういった総合的な事故防止ということについて、大臣のお考えをお伺いしたいと思います。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 先生のドイツの話は大変興味深く聞かせていただきました。

 事故の防止というのは、一通りのやり方ではなくてさまざまな対策の組み合わせによって効果が上がるものだと考えておりまして、厳罰化ということはあくまで施策の一つであろうというように私は受けとめております。

 政府としての目標というのは、昨年ですか出した、平成二十四年度までに交通事故の死者数を五千人以下にするという目標、これが一つの憲法のようなものでございます。これに向かって必要な施策を進めてまいりたいと考えております。

 今回の道交法の改正におきまして、特に重点を置いてこのポイントをというように考えておりますのは、そういった飲酒運転の問題等とか何点か重点項目を御提案させていただいたところでございます。しかし、この制度の改正だけではなくて、交通安全教育というものもしっかりやっていかなくちゃいかぬ、指導取り締まりもやっていかなくちゃいかぬ、また交通安全施設、信号等についてもしっかり整備していかなくちゃいけないということで、総合的に推進して五千人以下という目標を達成できるよう頑張ってまいりたい、このように考えております。

佐々木(隆)委員 その点について、時間があればまた少し論議をさせていただきたいというふうに思います。

 そこで、二つ目の大きな柱であります高齢者運転の対策についてお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

 〇六年で、事故死者数六千三百五十二人中、六十五歳以上が四割、そのうち加害者になっているのが千十二件と、増加傾向にあるというふうに言われておりますし、今後団塊の世代が高齢者の仲間入りをしてくるということになれば、当然高齢ドライバーというのはその分だけふえていくことになるわけでありまして、高齢者の運転対策というのは非常に重要だというふうには私も思っているところであります。

 実は、私の父も七十五歳過ぎまで運転をしておりまして、町から少し遠いところに住んでいるものですから、やめさせるのがかなり大変でありました。認知症だったわけではありませんけれども、それにしても記憶や判断力というのが衰えていくというのを目の当たりにしてきたわけでありまして、そのことを含めて、何点か高齢者対策についてお伺いをしたいというふうに思います。

 厚生労働省においでをいただいているというふうに思いますが、認知症といっても一つの症状でもなければ原因でもないわけでありまして、認知症の原因疾患あるいは症状、さまざまあるというふうに思うんですけれども、そのことについてお伺いをさせていただくのと、もしこれは御存じであればですが、厚生省の研究班が対応マニュアルというものの作成を始めたとかこれから研究するとか、何かそんな新聞報道を見たような記憶があるんですけれども、そのことをもし承知をしていればあわせてお伺いをいたします。

御園政府参考人 まず、御質問の認知症についてお答えしたいと思います。

 認知症というのは状態像のことをいうものでありまして、一般的には脳血管疾患、アルツハイマー病、その他の要因に基づく脳の器質的な変化によって日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態だというふうに言われているわけでございます。

 幾つかの原因疾患があって、それぞれの原因疾患に応じた症状があるわけでございますので、主なものを三つほど御紹介させていただければと思います。

 まずその一つ目は、アルツハイマー病でございます。中核症状としては、記憶障害が必ずあるというものでありまして、周辺症状ということになりますと、妄想だとか徘回あるいは譫妄といったようなものが多いというふうに言われているものでございます。

 それから、二つ目でございますけれども、これは、脳血管障害に引き続いて出現いたします脳血管性の認知症というものがございます。これは、脳血管障害が起きた脳の領域によって異なった障害が発生する、どこの脳の部位で血管障害が起きたかによって発生するものが全部違って、いわゆるまだらの状態が多いというふうに言われているわけでございます。

 それから、三つ目はピック病と言われるような病気でございまして、ピック病に代表されるような前頭側頭型の認知症でございますけれども、これは、初期の段階におきましては、記憶障害というよりも反社会的な行動で人格変化が目立つというようなことを言われているところであります。

 これ以外にもあるわけでございますけれども、今申し上げましたように、認知症と一言で申し上げても、さまざまな形態をとる状態を指しているものでありまして、個々のそれぞれの人を見て判断していかなければならないものだというふうに思っております。

 それから、御指摘の研究でございますけれども、確かに、ことし、十九年度の厚生労働科学研究費という予算項目がございまして、この厚生労働科学研究費の対象として採択した研究があるわけでございますけれども、どちらかというと、これはこれから研究していただく話、それから補助金を出して長寿科学センターというところで研究者が研究していただく話でございますけれども、三年かけて研究するということにしております。交通安全の維持という観点がないわけじゃありませんが、どちらかというと、認知症の高齢者の方が自動車の運転を中止した後も自立した生活をしていくためにどうしたらいいのかというような観点から支援の仕方を模索するという研究、こういうところに着目して、私ども、研究のための財源を交付しているというところでございます。

佐々木(隆)委員 新聞報道によると、さもさも何か交通対策とあわせてやるかのような報道だったものですから、お伺いをさせていただきました。

 今、三つほどの例を挙げて説明をいただいたわけでありますが、今回のこの高齢運転者の対策で、いわゆる認知症について検査をするというのが新たに導入されたわけでありますけれども、今お話をいただいたように、認知症といってもいろいろなわけでありますし、それをこの検査の中でどう判断していくのかというのは非常に難しい課題なのではないかというふうに思うんですが、その点についてお伺いをさせていただきます。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 恐らく、検査で何をやろうとしているのかということを、手続を申し上げるとよく理解いただけるかと思いますので、その点も含めまして御説明申し上げたいと思います。

 まず、今回、七十五歳以上のドライバーの方には免許の更新時に認知機能に関する検査を受けていただこう、こういうことでございますが、これは、認知症かどうかを認定しようとするものではありませんで、一定の認知機能が低下しているかしていないか、どの程度低下しているかということを簡易に測定するものでございます。

 具体的には、例えば、一定のイラストを記憶してもらって、時間を置いて、手がかりを与えてそれで思い出してもらうというような手がかり再生ですとか、あるいは、きょうは何年何月何日何曜日ですかという時間の見当識、時間の認識ですが、そういったものなどでございまして、大体二十分弱のものでございますが、非常に簡易ないわゆるテストでやります。

 それで、多くの方は大体問題はないわけでございます。それで、一定の方は、認知機能が少し低下しているということになると思います。私どものあれだと、多分三割ぐらいかなと思っています。それで、ごく一部の方には、機能が著しく低下しておりまして、認知症の疑いのある人も中には出てくる、こういうことでございます。

 それで、その後の高齢者講習で、認知機能の衰えている方には、それを自覚していただいて、安全、こういうことに気をつけて運転してください、そういう指導をしていくことになるわけですけれども、一部、認知症の疑いのある方が出てまいりますので、この方については、一定の条件のもとに専門のお医者さんの診断を受けていただきまして、それで認知症かどうかを診てもらう、そういうことにしております。

 現在でも、認知症と診断された場合には、これは免許の取り消しないしは停止処分の事由になっていますので、それの手続に乗っけていく、こういうことでございます。

 これが全体の流れでございまして、したがいまして、高齢者の方は、視力とかその他身体機能というのは衰えているわけですけれども、認知機能の低下については従前は十分見ておりませんでしたので、あわせてそれについてよく自覚していただくようにということでございます。

 なぜこれを入れたかと申しますと、高齢者のドライバーの問題をどうするのだということを、各方面からいろいろな御指摘がございました。一部には、運転免許に年齢制限をつけたらどうかというような意見もありましたけれども、しかし、それはできないということで、それではどういう対策を打つかということで、私どもが今回御提案するような仕組みでどうだろうかということでございます。

佐々木(隆)委員 仕組みを説明したらよくわかってもらえるというふうに言われたんですけれども、ある程度は私もわかっているつもりです。

 そういうことではなくて、要するに、認知症というものは、さっき言ったように、三つの事例をさっき厚生省から挙げてもらいましたけれども、さまざまあって、それが今回の検査の方法で、いや、もう一度答弁は要らないです。要らないですけれども、その検査の方法だけでこういういろいろある症状が判断できるんですかということが一つありますよね。判断はもちろんお医者さんがするわけですけれども、その検査のやり方がこれで完璧かどうかということについては、やはり今後の課題だと思うんですよね、いろいろな症状があるわけですから。

 さっき言ったように、アルツハイマーのように記憶とか、あと、まだらになって、そのときだけはいいかもしれないし、そのときが悪かったのかもしれないし、その後の治療で治るかもしれないしとか、いろいろなものがあるわけで、今回導入したことを否定しているわけじゃないんですけれども、初めて導入したので、今後の課題としてやはり研究していってほしいということを申し上げておきたいというふうに思います。

 今申し上げましたように、いろいろな状態があるわけであります。しかし、免許の更新というのは三年に一度なわけですよ。しかし、認知症というのは、三年に一度急にあらわれてくるものではなくて、日々変化をしていくものですし、あるいは回復するということもあるかもしれない。そういったいわゆるグレーゾーンにおられる方々とか、今まさに御答弁いただきましたけれども、日々どう自覚していただくかということが一番大切なんだと思うんですね。

 例えば、老人クラブなどで講習も多分やっておられるのではないかというふうに思いますけれども、日ごろからそうした高齢ドライバーに対してどんな手だてをやっているのか、あるいはやろうとしているのか、その点についてお伺いをしたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 なお、お許しを得まして、先ほどやや答弁漏れに近い状況でございましたので、簡易検査につきましては、アルツハイマー型以外のものにも、汎用性のあるようなものとして開発しておりまして、さらに改良の余地があるかどうかについては、また研究してまいりたいと思います。

 それから、更新時だけではないではないかという御指摘は全くそのとおりでございまして、これは常にその問題があるわけでございます。

 それで、私ども、ただシステマチックにこれをやろうとすると、やはり更新の時期をとらえざるを得ない、こういうことでございます。そうでない場合でも、こういう検査を我々は更新時にやっておりますということは全部公表いたしまして、自分でできますので、自主的にいつでも使えるようにそれはやるようにしたいと思っています。それを踏まえまして、御本人なりあるいは周辺の方、御家族でも、あるいは、もし必要であれば、警察に適性相談に見えれば、そこでできるようにもいたしますので、そういう手だてを講じて、更新時のときだけであるというようなことにはならないようにしたいと思っています。

 ただ、基本的には、今認知症の問題が出ましたので、仮に認知症というようなことになってまいりますと、実際にはやはり次の更新にはもう来なくて、事実的にも交通社会から離れていく、そういうようなこともあるのであろうと思います。そんなふうに考えております。

佐々木(隆)委員 そこは非常に難しいところだと思うんですね。障害者のこともこの次お伺いしたいと思うんですけれども、要するに、認知症というのはみずから相談に来たり、みずから返納したりということは極めて難しいと思うんですよ、現実問題として。私も自分のおやじの経験からして、それはもう大変です。ある意味で人格否定をするようなことにつながっていってしまうわけで、ましてや他人ということになればもっと大変だと思うんですね。

 そこで、もう一つ気になっているのが、今回の高齢ドライバーのことについて、七十五歳ということをやたらと強調しているわけですよね。七十五歳から急に何か記憶もなくなり、急に事故も多くなるかのような表現になっているわけですよ、これはずっと。交通事故を見たって若年者も同じぐらいの数がいるわけでありまして、殊さら何か七十五歳というところ、これは七十五歳の人に非常に失礼ではないかと思うぐらい七十五歳が強調されていて、先ほど言いましたように、認知症のことも含めてそうなんですが、障害者のこともこの次にちょっと触れさせていただきますが、人格にかかわるテーマなわけです。

 対策としてはどうしたって必要だということはそれは否定をしないわけでありますが、何か七十五歳を殊さら特出ししたといいますか、そこにラインを引いた理由についてお伺いをしたいというふうに思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘の点は確かに非常に難しいところで、私どもも非常に苦慮するところでございます。確かに、加齢とともに身体機能あるいは認知機能は徐々に衰えていくということでその比率がふえていくわけでございますので、どこまでにどのようなことをお願いするかということでございます。

 ただ、新しい制度で認知機能検査を受けていただくというのは、ある意味御本人にとって負担をお願いするわけでございますので、したがって、私どもの考え方としては、やはりこれは交通安全のためでございますから、交通事故のリスクがある程度高くなっておるというところでちょっと線を引いてみたらどうかということです。

 それで、いろいろ見てみますと、多分、十万人当たりで死亡事故をどの程度起こすかというのがわかりやすいかと思うわけでございますけれども、それを見ますと、これは例えば平成十七年中ですと、十万人当たりで、ドライバーで高齢者の方、七十五歳から七十九歳で見ますと十六件でございます。八十歳以上になるともっとぐっと高くなるわけです。ただ、この十六件という数字は、実は危ないと言われております初心運転者の一・五倍でございます。それから、特に死亡事故の多いのは若年層でございますが、若年層といいますのは十六歳から二十四歳でございますが、これよりも少し高くなるのでございます。

 したがいまして、その七十五歳というところで線を引いてお願いしたらどうだろうか、受け入れていただけるのではないか、こういう考え方で御提案を申し上げているわけでございます。

佐々木(隆)委員 何らかそこは高齢者の対策をやらなきゃいけない時代に来ているわけですし、やらなきゃいけないということを私は否定するつもりは全くありませんが、今答弁されたように、七十五歳で線を引いてみたらどうだろうかと言われたその七十五歳の人にとってみると、ちょっと試しにやられたのではかなわないぞという思いがあると思うんですよね。だから、殊さら強調するということは、ちょっとやはりこれから留意を、気配りをされた方がいいのではないか。やっていること自体を否定するつもりはありませんが、殊さら七十五歳というのを強調するというのは、やはりその周辺にいる当事者にとっては大変に、もう少し気配りをされた方がいいのかな、これ自体を否定するわけではありませんけれども、そのように思います。

 これに関連して国土交通省にお伺いをしたいというふうに思うんですけれども、私も地方に住んでおりますし、その地域の町へ行くのに車で移動しなければならないような距離にいます。特に高齢者にとって、公共交通機関が充実をしていない地方などに住んでいる人たちにとっては、まさに車は生活そのものなわけであります。

 そういった意味では、ある種、不可欠なものなんでありますけれども、新聞を見ますと幾つかの取り組みがあって、例えば免許を返納すればタクシーを一割引きにするとか、それからバス代に補助を出すとか、何かいろいろな取り組みも各地で行われているようなんでありますけれども、国として、これらについて、いわゆる地域の住民の足を守るという視点、あるいは、とりわけ高齢者にとっては生活そのものだということ、生活に支障が出るというようなことを含めて、国としての考え方をお伺いしたいというふうに思います。

    〔委員長退席、戸井田委員長代理着席〕

桝野政府参考人 御指摘のように、老齢者の方に対して、バスとかタクシーとか、いろいろな交通機関で割引制度を導入しておりまして、だんだんふえる傾向にあると思っています。

 その基礎になる過疎地における路線バスなどの維持について、私どもとしても、これは生活としての最後の交通機関であるという御指摘もございますので、地方と一緒になって維持をしております。幹線的なものについては国と県、それから、そのほかについては市町村も入れた自治体が主体となって維持をするということになっております。

 こういう中で、いろいろな会議を立ち上げまして、そのほかにも、例えば乗り合いタクシーとかコミュニティーバスとかいろいろな手段も含めて、最後の輸送手段としてこのものを保持し普及をするという方向で、総務省とか関係の公共団体とも連携を図りながら維持をしていきたい、こう思っております。

佐々木(隆)委員 国が一人一人のそういったところまで補助金を出せと言うつもりは私はもちろんありませんけれども、今一種、二種と言わないんでしょうか、今言われました路線バスの維持ですが、国が補助を出している方の一種と言われていた市町村をまたぐ部分については、これは比較的まだいいんですよね。いわゆる同じ市内、町内を回る路線バスの方がこれは運営が大変ですし、過疎化も進んでいますし、そういうところなどを含めて、これは直接国がお金を出すというものではなくても、市町村との協議の中でぜひフォローアップできるように、あるいは、もう一つ言わせていただければ、総務省の交付金の方の配慮をしっかりそういうところにはするとか、そういったことについてもぜひ配慮をしていただくべきではないかというふうに思います。

 大臣にお伺いをしたいんですが、今いろいろ答弁の中で、講習や更新のときに認知症などについてはやはり本人負担もあったりするわけでありますし、あるいは、自主返納ということは非常にある意味で難しいという課題でもあります。障害者のところに私がお伺いしたときに、身体障害者の方ですけれども、ボランティアのドライバーを募集しますというのがありました。例えばボランティアドライバーのあり方とかそんなことを含めて、高齢者の対策というのはこれから、今回初めて、一定程度整理をされて打ち出されてきたことは評価するんですが、今後の進め方として、ぜひ大臣のお考えをお伺いしたいと思います。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 基本的な考え方ですが、今回は聴覚障害者の皆さんの参加も考えておりますが、新しい制度をつくっていくということは、運転に不適格な人を排除していこうという考え方ではないと私は思っております。高齢者の人ができるだけ安全に運転がこれからも継続できるように国として支援をするための手だてである、こういう考え方に立つべきだと思っておりますし、聴覚障害者の問題についても、できるだけ完全に参加をしていただけるために手を打っていかなくてはいけないんだろうと。

 そういう意味でいいますと、これからさまざまな問題が提起されると思いますが、基本的な考え方は今申し上げたようなところにないといけないんだろうと思います。

 それと、もう一つの要請は、特にことしこういう動きになったのは、昨年来の飲酒運転を含めて非常に激しい事故が起こったということで、安全運転に対する強い要請があった。それとのバランスをどうとるかということが公安委員会としての仕事ではないか、こう考えて、そういう認識のもとにこれからもやっていかなくちゃいけないだろうと思います。

 地域の問題については、ひとり公安委員会だけではとても対応もできませんので、地元の皆さん、地域の皆さん、さまざまな知恵を絞って対応していかなくてはいけない、そういう課題ではないか、このように考えております。

佐々木(隆)委員 ありがとうございます。

 今大臣からもお答えいただきましたけれども、その障害者の関係について少しお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

 今回、聴覚障害の対策について新たに高齢者運転対策と一緒に打ち出されてきたわけでありますけれども、これは長い間団体の皆さん方からも要望があったわけでありますけれども、ほかの障害者とのことも含めて、今回これが打ち出されてきた経緯について少しお伺いをさせていただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 経緯でございますが、政府では、障害者の方々、さまざまなものにつきまして、免許その他で欠格条項を定めているさまざまなものがございまして、これを全面的に見直し、是正するという作業をしたわけでございます。

 これを受けまして、警察におきましても、道路交通関係につきましては、平成十三年の道路交通法改正におきまして基本的な制度の見直しをやったわけでございます。それによりまして、従前欠格事由となっておりましたさまざまな障害あるいは病気などにつきまして、欠格条項からは外し、あと具体的な適性を見ながら判断していく、こういうふうにいたしました。

 それで、私どもは、道路交通法の免許の関係のさまざまな病気や障害などにつきましては、大方のところはその時点で新たな基準もまとめまして、速やかに手当てができたわけでございまして、統合失調症や睡眠障害などにつきましても、これも基準を、専門家から知見を得まして、新たな基準での制度を運用することにしたわけでございます。

 ただ、聴力の障害につきましては、欠格事由からは外したわけでございますけれども、どこまでが適性があるかというその基準につきましてはそれ以前のままでございまして、これをどうするかというのを私どもはどうしてもなかなかその時点で踏み切れなかったわけでございます。関係の団体の方々からも再三御指摘を受け、要望も受けておりましたし、それから、多くの諸外国では普通の自動車であれば聴覚障害は無条件であるいは一定の条件で運転免許を認めておりましたので、我が国はどうするかということがずっと宿題になっておりました。

 私ども、十三年改正の際の国会での附帯決議もその点を御指摘されておりましたので、四年ほどにわたりまして、さまざまな実験でございますとか、それから文献調査なども含めてですが、やりまして、その結果、これは、現在の聴力にかかわる適性試験の合格基準を満たさなくても、今回はワイドミラーを使っていただくことにしておりますけれども、それを使って慎重に運転していただければ普通自動車を安全に運転できるというふうな確信を得まして、それで今回、そのような条件のもとに聴覚障害者の運転免許等に係る規定の見直しをいたしました。

 その過程で、ワイドミラーのほかに、これは、他の車のドライバーから聴覚障害者の方が運転している車であるということをわかっていただいて、お互いさまの交通の場でそれがわかるようにして安全を確保する必要があるということで、聴覚障害者の方が運転する車に標章もつけていただいて、それでそれ全体として安全を確保しながら運転していただこう、こういうような御提案に至っているわけでございます。

佐々木(隆)委員 今相当詳しく説明をいただきましたけれども、きのう警察庁の皆さん方からいただいた資料ですが、今お話がありました聴覚障害者に条件をつけるかつけないかというところなんですけれども、無条件で付与している国もかなりあります。

 今言われたように、ワイドミラーやサイドミラーを条件としている国と、それから無条件という国がたくさんありまして、無条件としている国では、緊急車両の接近に際しては緊急車両の発する灯火でこれを確認できる、あるいは、周りの運転者が聴力障害者に教えるというようなことができるので条件が必要ないというふうに言っているのと、聴覚障害が原因となって発生した交通事故のデータはないので、これらのことの運転上危険という認識を持たなくていいのではないかというようなところもあるわけであります。

 この点について、障害者の皆さん方含めてですが、社会参加ということもこれからどんどん進めていかなければならない、大臣、もし認識があればお伺いをしたいというふうに思います。

溝手国務大臣 御指摘の意見については、私も十分承知をいたしております。今回の場合も、公安委員会、交通局の内部で相当議論があったところでございます。

 考え方の基本、これからというか、できるだけ参加をしていただくということが基本であることは先ほど申し上げたとおりなんですが、それ以外にもいろいろな要素がありまして、できるだけ早く議論のないところだけは片をつけて実施をしようじゃないかという、これも一つの物の考え方でございます。ですから、できるだけ早い時期に聴覚障害者の皆さんに参加をしていただこう、だから、これでもうすべて決着がついて終わったということではないんだと。今、問題は問題としてしっかり受けとめて、これからも検討をしていく課題として残すということについては我々依存はないわけで、今回の改正では、このあたりで決着をつけたらどうかというところが本音のところでございますので、ぜひ御理解をいただきたいと思っております。

佐々木(隆)委員 大臣からかなり本音の話をしていただきましたので、これ以上ここのところを論議するのは避けたいというふうに思いますが、もう一つ、表示という話が先ほどありましたね。車に表示をする。先ほどの高齢者の場合もそうなんですけれども、表示というのは極めて人格にかかわるテーマだと思うんですよね。

 しかし、聴覚障害の皆さん方からは、何とか欠格条項を外して運転させてくれということが先だったというふうに思うんですけれども、片方で、表示をするということへの多分いろいろ御意見もあったのではないかというふうに思うんです。この辺の団体との協議を含めて、どういう経過を踏まえてきたのかということと、今後、これらについてどう考えていくのかというようなことについて、お伺いをしたいというふうに思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 標章の問題につきましては、高齢者の方の場合も共通でございますけれども、御指摘のような観点からの配慮を当然考えなければならない要素でございます。

 私ども、今回このような結論に至りましたのは、聴覚障害者の方の標章につきましては、関係の団体の方からは、これは必要ない、あるいは、やるとしても、本人の判断に任せるということにすべきだ、そういう御意見はいただいておりました。それらも踏まえまして考えてきたわけでございます。

 ただ、交通社会というのは、ある前提でずっと積み重ねてきているわけでございます。聴覚障害について、従前は欠格事由としてきて、それでさまざまな約束事ができております。その中で、今度新たに交通社会に参画していただくわけでございますけれども、そうしますと、他のドライバーとの関係、これを受け入れていく、安心してその中で行動していく、そういうことを考えると、やはり標識をつけていただいて、その上で交通社会の場で動いてもらうということが必要なんだろうというふうに私ども考えました。

 それで、恐らく、またいろいろな要素からの御意見というのはあるんだろうと思うんですけれども、やはり制度を踏み切るときには、これでやっていただきたいということで御提案を申し上げているわけでございまして、制度ですので、それは常にいろいろな見直しはあるわけでございますので、したがって、またさらなるいろいろな御議論が出てくれば、当然私どもは議論はしたいと思っています。ただ、この制度についてはこれでお願いしたいという御提案でございます。

佐々木(隆)委員 今回の表示は私もやむを得ないと思っているんです。要するに、公共という道路の中で全体が動いている中で、そういう方々にも社会参加をしていただくときに、やはり、一定そのことが周りの運転者がわかれば、その分の配慮ができるわけですから。そんなことをいえば、もともと車のウインカーだって人に知らせるためにあるわけですから、車の装置というのは大体そうなっているわけですから。ただ、言われるように、事人権にかかわる話なものですから、これからも、ぜひ団体の皆さん方と十分協議をしていただいて、推進をしていただきたいというふうに申し上げておきたいと思います。

 先ほどもお話ありましたが、自転車について少しお伺いをさせていただきたいというふうに思います。今回、ヘルメット着用を努力義務、義務ではなくて努力義務にしたことについて、まずお伺いをさせていただきたいというふうに思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 今回御提案申し上げていますのは、児童、これは十二歳以下でございますが、それから幼児、六歳未満でございますが、これを通じて、保護者はヘルメットを着用させるように努めなければならない、努力義務にいたしました。

 これにつきまして、ヘルメットを着用した方がいいということは、これははっきりしております。した方がいいのでございます。したがって、それをどのように今進めていくかということなんですが、私ども、タイミングもずっと見てきておったわけでございますけれども、やはり国民、特にお母さん方ですが、よく理解してもらう必要がある、受け入れてもらう必要がある。それから、ヘルメットの販売が、実はその当時、まだ製造も不十分だったんです、そういう環境も必要である。

 それで、見ていますと大分販売もされております。それから、着用率も少しずつ上がってきておるのでございます。それから、非常に焦点も当たっております。そういう段階で、これを義務とするか努力義務とするかということが最後残ったんですけれども、率直なところ、実は、どちらでもそう大きな差はないだろうとは思っておるのでございます。義務に対して何か罰則をつけたり制裁を科すれば別でございますけれども、やってくださいということであれば、大きな差はないと思うんです。

 ただ、やはり現場で指導いたしますと、義務ということであれば、やはりヘルメットを買ってくださいということになるわけですね。そうすると、やはりそこそこの値段のするものでございますし、したがいまして、努力義務で、そのように努めてくださいという、そういう程度でとどめて、それで、いずれこれを普及させるのが重要でございますから、それを普及させる。もし、さらに次の段階で、例えば義務化し、あるいは制裁も科すというような必要が出てくれば、それがいいということになれば、また考えればいいと思うのでございますけれども、今回、今の時点での状況を考えますと、努力義務が一番ふさわしいのではないか、こういうことで御提案申し上げた次第でございます。

佐々木(隆)委員 理解しないわけではありませんが、我々こうやって法律を論議させていただいて、それが社会全体あるいは国家としてどうなんだということを論議させていただいているのと同時に、法律ができれば、必ずその法律によって適用される方々がいるわけであります。それは、高齢者もそうですし、それから、今回でいえば聴覚障害の方もそうであります。それから、子供たちの命をどう守るのか。だから、適用される側の立場というものもやはり考えながら、これからの運用をしていく上にも、つくる上にも、そのことの配慮もぜひお願いを申し上げておきたいというふうに思うわけであります。

 そこで、先ほども少し論議がございましたけれども、私も、とりわけ都心といいますか市街地の中心などを含めていえば、環境問題も含めて、交通対策上も自転車をこれから普及されるべきだというふうに思っているんですけれども、そういった意味で、一つには、自転車事故の減少対策などを含めて、どう進めようとされておられるのか、大臣にお考えを伺います。

溝手国務大臣 先ほど来の議論の中で、自転車の交通秩序をいかにしてつくっていくかということでいろいろ議論をされたところでございますが、警察としては、これをいかに実施していくか、どんな手を打っていかなくちゃいけないかという立場でいろいろ検討しているところでございます。

 確かに、交通秩序をつくっても実施ができないようでは何にもなりませんので、警察としては、まず一つは、先ほどの道路局のように、あるいは市町村のように、道路管理者と連携して車道、歩道のしっかりしたルールづくりをしていかなくちゃいかぬ。必要なところは歩道を通れるようにするとか、そういうルールづくりもこれから始めなくちゃいかぬ。

 もう一つは、学校の力をおかりしなくてはいけないだろう。学校での自転車の安全教育や、その他いろいろな広報媒体を利用して、自転車の通行ルールというのをやはり徹底していかなくちゃいけない。学校、地域、そうだと思っております。

 また、これはボランティアの皆さんにもぜひお力をかりたいというのが本音でございまして、自転車利用者に対して、街頭でしっかり指導すること。最近、防災、交通安全、子供の補導等について積極的なボランティアの皆さんの活動もかなり目立ってきておりまして、大変好ましいことだろうと思います。こういう皆さん方に対しても、しっかり我々から情報を提供する、そんなところでしっかり子供たちを含めてルールの周知徹底に努める必要があろうかと思います。

 また、これらの問題、ひとり警察庁の問題ではございませんので、関係省庁すべて、関係機関連携いたしまして、総合的に推進をしていくべきものと考えております。自転車の安全利用ということは、我が国の将来にとって大変重要な課題だと考えておりますので、警察庁としてもできるだけ努力をしてまいりたい、このように考えております。

佐々木(隆)委員 ありがとうございます。

 最後になろうかと思いますが、今お話も出ましたけれども、いわゆる自転車道といいますか、自転車レーンというのが正しいんでしょうか、自転車の道路、スペースですね、これが、今の現状で必ずしも確保されているとは言いがたい。しかも、今回こうしてルールを新しく決めた。では、自転車がそこを通るような状態に今なっているかというと、必ずしもそれだけ整備されているとは言いがたい、先ほども少し論議があったようですけれども。

 車道の端の方には雨水の網なんかもあったりして、そことある意味では自転車レーンが同じようなところで、非常に通りづらいところに自転車のレーンがあったりするというようなこともあるわけでありますし、世田谷かどこかで昨年社会実験も行われたというふうなことも聞いているんですけれども、そのことは御存じなければ結構ですが、そんなことも含めて、これからの、自転車レーンといいますか自転車道といいますか、そこの整備について国土交通省にお伺いをいたします。

原田政府参考人 お答え申し上げます。

 道路の立場で申し上げますと、道路構造上で申し上げますと、自転車道、それから自転車歩行者道と位置づけをして整備を進めております。

 ただ、これも、先ほど申し上げましたように、これらの延長距離は約七万九千キロということでございまして、全体の自動車専用道路を除いた道路延長の中で約七%ということでございます。一方で、自転車関係の事故がふえているという状況の中で、必ずしも自転車の走行空間という意味では十分な状況ではない、課題は多いというふうに思っております。

 そういった中で、地域でさまざまな知恵も出されておりまして、例えば、先生が先ほど御指摘されましたように、これは公安委員会のおやりになっていることだと思いますが、路肩を活用して自転車の走行レーンをつくられる。あるいは、道路管理者として申し上げますと、自転車歩行者道の中で、自転車も多い、歩行者も多い、そのふくそうが問題になっているところにおきましては、視覚的に両者が走れる部分を分離する。そういうさまざまな、いろいろな地域に応じて取り組みもされているかと思います。

 これも、先ほど申し上げましたけれども、今回の道路交通法の改正も踏まえまして、警察庁と共同で、今後の自転車の走行空間のあり方ということで懇談会を設置いたしまして、いろいろ御検討をいただいておりまして、例えば、既存の道路空間の再配分をする場合のガイドラインを、これも警察庁と共同してお示しをするとか等々の対応をこれから考えていきたいというふうに思っておりまして、いずれにしても、安全で快適な自転車の走行空間の整備ということに道路管理者としても積極的に取り組んでいきたいというふうに思っております。

    〔戸井田委員長代理退席、委員長着席〕

佐々木(隆)委員 終わらせていただきますが、先ほども申し上げましたように、利用する人たちあるいは適用される人たちというものが一つ一つでやはり考えられなければいけないというふうに思いますので、そういう視点でぜひ取り組んでいただきたい。

 きょうは飲酒運転については余り論議をできなかったんですが、ハンドルキーパーとか、それからきょうのボブ君とかいう運動があるようでありまして、いわゆる厳罰、重罰ということだけではなくて、いろいろ、多面的にぜひこのことも取り組んでいかなければならない課題ではないかということも申し上げながら、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

河本委員長 次に、泉健太君。

泉委員 民主党の泉健太です。

 きょうは、道交法の改正の論議ということでありますが、特に一番大事な悪質、危険運転者対策、このことについても質問させていただきたいと思ってはいるんですが、私は、きょうは三十分の時間ということで、特に、高齢者運転対策等、そして自転車利用対策、この二つについて質問をさせていただく役割を担いたいというふうに思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 私も、まだ学生のときなんですが、一度、弁論大会で交通死亡事故をいかに減らすかということの弁論をさせていただいたことがありまして、稚拙な中身ではあったんですが、そのときには、思い切って制限速度を大幅に見直すべきだということを主張した覚えがあります。もっと言えば、六十キロ以上出ない車をつくれというようなことまでも言った記憶があります。

 もちろん学生だから言えた話かもしれませんが、例えば北海道なんかの交通死亡事故、これまで北海道というのは交通死亡事故が随分と多い都道府県だというふうに言われてきたわけですが、ほとんどの死亡事故がいわゆる夏季に集中をしているということであります。

 大体四月から十月、雪の降る前後まで、都道府県の中ではランキングでいうと一番から三番の間に入っている。一方で、十月から三月ぐらいまでというのは、逆に、雪もあってスピードも出せない、だから重大な事故が起きないというような状況でして、四十七都道府県でいうとベストテンにも実は入ってこない。それぐらい落差が激しいということからも、車の持つそもそもの凶器性というと言い過ぎかもしれませんが、危険性、こういったことにはやはり私たちは十分認識を新たにする必要があるんだというふうに思います。

 その意味で、まだまだ悪質、危険運転者対策についても罰則が、他の量刑と比べて均衡をとらなければならないというところの難しさはあるんでしょうが、やはり、被害者の感情であり、あるいは悪質な加害者の状況というものを考えたときには、可能な限りのさまざまな、併合罪というものの手段もあわせて、量刑についてはしっかりとその選択の幅を広げられるようにぜひしていただきたいということも要求をさせていただきたいというふうに思います。

 先ほど申しました高齢者運転者対策、そして自転車利用対策について質問をさせていただきます。

 まず、高齢者運転対策についてであります。

 今回、政府は、七十五歳以上の高齢運転者の免許更新時における認知機能検査の導入、そしてまた検査結果に基づいた高齢者講習の実施ということをうたわれております。また、七十五歳以上の自動車運転時に標識表示を義務づける、そういったことがあるわけですが、やはり、今回初めてこうした形で取り上げられた認知症ということについては、しっかりと今後も対策を講じていかなければならないというふうに思っております。

 きょうは厚生労働省の方にもお越しをいただいておりますが、警察庁にまず、公安委員長でも結構なんですが、お伺いをしたいわけですけれども、現在、運転免許保有者の中の認知症の方の数、こういったものについての数字の資料というのは、警察庁、ございますか。

矢代政府参考人 大変遺憾でございますが、数字は私ども持ち合わせておりません。

 そこで、結局のところ、ドライバーに限らず、一般に一定の年齢の方々でどの程度の比率で痴呆症の方がおられるかということと、それからその年齢のドライバーの数を掛け合わせて推計してみるという程度のことでございます。

泉委員 厚生労働省にもお伺いしたいんですが、認知症の方の数というのはおわかりになりますか。

御園政府参考人 認知症というのは状態のことを申すわけでございますが、今私ども手元で使っておりますのは、推計値にしかならないわけでございますけれども、二〇〇五年段階におきまして、百六十九万人程度の方が、今、我が国に認知症の状態の高齢者としておられるというふうに推計しているところでございます。

泉委員 もう少し詳しく、その推計はどのようにされているのか、教えていただけますか。

御園政府参考人 介護保険制度ができまして、要介護認定ということをなさなければならないようになりました。要介護認定の中には、身体的な能力がどうなっているかということの判定をまずするわけですが、それとあわせて認知度がどうなっているかということも行いますので、そういうものの中、もちろん、要介護認定を受けている方というのは、今、高齢者が二千五百万人ぐらいおられる中で四百五十万人でございますので、今ベースになるのは、そういうものをベースにして推計をして出した数字が、先ほど申し上げました百六十九万人という数字になっておるというところでございます。

泉委員 もちろん要介護認定を受けられていない方々もたくさんおられますので、明確な数字というものはなかなか出しにくいところはあるんでしょうが、割合として、以前警察の方からお話を聞くと、例えばさまざまな患者の割合ですとかをもとに推計すると約三十万人前後ではないか、免許保有者の中で認知症の方々というのはそれぐらいいるんじゃないかということの数字が一つ出ているようです。

 そういったことを考えても、かなりこれは社会的な危険をはらんでいる。もちろんすべてが、その方そのものが危険だということではなくて、その方が運転をすることによって他者に被害を与える可能性がこれまでの調査や研究においてはやはり高いということがある程度示されているのではないのかなというところで、今回、こういったことについての規制を進めるわけです。

 一方で、この認知症をもとに、道交法の改正で、二〇〇二年ですか、六月以降には、認知症患者の免許というのを取り消すことがたしかできるようになったというふうに記憶をしておりますけれども、その免許取り消しのこれまでの累計がわかれば教えてください。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 平成十四年から十八年までの五年間でございますが、これは取り消しないしは停止ということになりますが、合計二百六十一件でございます。

泉委員 これは率直に、多いと見られているのか、少ないと見られているのか、どちらでしょうか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 これは少ないと認識しております。

泉委員 その理由を教えていただけますか、なぜ少ない結果になっているのか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 認知症の方について免許の取り消しまたは停止の処分をいたす場合には、それを把握するきっかけが必要でございます。

 そこで、現在は、結局のところ各種の警察活動で、例えば事故を起こした場合ですとか、あるいはある違反があった場合でありますとか、その他のことで御本人に対して認知症ではないかという疑いを持った場合、あるいは、御家族などからお話があって、御相談があってそれを認知する、そういうようなことできっかけを持っておりますので、したがいまして、認知症の方を認定する前提となるきっかけ自体がどうしても限られるということでございます。

 したがって、このために、恐らく、現在、認知症で免許を持っておられる方が実際に運転しておられるかどうかわかりませんし、またこの方が次の更新のときにお見えになるかどうかは、これはわからないわけでございますけれども、そういう状況の方についてこれを把握する直接の手だてがない、そういうことでございます。

泉委員 委員長、これは警察として積極的に把握をされていこうという考え方なのか、それとも、今回の法改正のように更新時が来たら検査をしようという考え方なのか、これはどちらでとらえたらよろしいんでしょうか。

溝手国務大臣 危険性については大変だと思ってはおりますが、なかなかみずから申し出る人というのは非常に少ないということで、困ってはいるわけです。

 それで、警察署の窓口というんですか、いわゆる相談窓口を設置して、家族とか気がついた人からの苦情というのはいつでも受けられる、そういう体制をつくっているんですが、現時点はそれぐらいのところにとどまっている。なかなか難しい。いい知恵があったら教えていただければと思っているぐらいでございます。

泉委員 例えば、厚生労働省さん、とっぴかもしれませんが、要介護認定を受けられるとき、もちろんそれは、要介護認定は介護を受けるための認定作業ですので、その他の措置なりを行うために利用されるべきでは本来これは当然ないという前提はあるんでしょうが、これまで警察とこの要介護認定について、例えばその人が明確な認知症だからということで連携をされてきたことがあるのか。あるいは、個別具体的な話、まだ到底わからないとは思いますが、この要介護認定の結果、明確な認知症だという場合に、免許の返納を御家族に求めていくというようなことがガイドラインなりなんなりで厚生労働省の中で示されているのかどうか。この二点、お聞きをしたいと思います。

御園政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、警察庁との連携ということでございますが、今まではそういうことはやってきておりません。少なくとも、今回の改正につきましても、運転免許をどういう方に与えるかという観点で、警察行政の一環として、道路行政の一環として所管省庁である警察庁がおやりになっていることでございまして、私どもではなくて、警察庁において、どういう認知症の方、高齢者に運転免許を与えるのがいいかという視点から検討会が設けられて、制度改正の枠をつくられたというふうに認識しております。

 ただ、今後どのように運用されていくかということにつきましては、やはり政府一体としてやっていかなきゃいけないことだと思いますので、警察庁と私ども厚生労働省と、十分にまた連携をとりながらやっていかなきゃいけないことだというふうには認識しております。

 それから、要介護認定の際のお話でございますが、要介護認定というのは、あくまでも介護の必要度がどの程度あるかということ、それから、それに応じてどのような介護サービスを提供していくかということの判断基準として行うものでございますので、先ほど申し上げましたように、認知症の度合いというのも、それは判断の一つの、一部分として我々は組み込んでいるところでございますので、今の段階におきまして、道路行政、交通行政、免許行政と私どもの要介護認定の作業とリンクづけることは考えていないところでございます。

泉委員 確かに、ケアマネジャーというのは介護プランを考える方であって、免許の返納を求める立場ではないというのはもう重々承知の上で、しかし、今、審議官からは前向きな御答弁も一部あったと思います。ぜひ、二つの省庁で連携をしてやはりこの問題に取り組んでいただきたい。

 警察の方も今回、記憶力、判断力等の認知機能に関する検査ということをされたりですとか、実際に、今回、臨時適性検査なり認知機能検査ということを導入されていくわけですね。そのときには、認知症の専門家である方から、こういった検査の設問をつくってもらったりしているということからも、恐らく関連性は非常に高いんだろうなと思います。

 ですから、その関連性の高さをやはり生かして、ぜひお互いに協力できることは何かないんだろうかという観点で、例えば明確な認知症だということが要介護認定でわかった場合には、その認定をしたところですとかケアマネジャーが直接警察に話をするなんということ以外にも、御家族の方にそういう指導を行う、そういったことを、警察に運転免許の返納もありますよということも言っていただけるように例えば厚生労働省の方では取り組んでいただく、そういうことは十分可能なのではないのかなというふうに思います。

 続いてなんですが、少し専門的な話で恐縮ですけれども、認知症ということでいえば、アルツハイマーとピック病というのが代表的なあり方であります。今回警察がされる記憶力、判断力、認知機能検査についてですけれども、アルツハイマーについては対応できるというふうなことは聞いているんですが、こういった、例えばピック病ですとか他種の認知症に対応できるような内容になっているんでしょうか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 今回の簡易な検査手法は専門家の先生方にお願いして開発したわけでございますが、それで、さまざまな検査の要素の中から幾つかを取り出して非常に簡易なものにしているわけでございます。

 ベースになりましたのは、アルツハイマー型認知症を診断するときの検査項目の幾つかを私たちは使っておるわけでございますが、ただ、これを使っていく場合には、実は、アルツハイマー型の認知症のみならず、血管性の認知症でございますとか、それから今御指摘になりましたピック症、前頭側頭型認知症と言うようでございますが、あるいは軽度の認知障害など、他のタイプの症例にも実施した場合についても、これは有用性があるということで、汎用性があるということでこれを使おうとしているわけでございます。

泉委員 済みません、先ほどの厚生労働省との話に戻ってしまうんですが、たしか、厚生科学研究では認知症と高齢者の運転についての研究が既になされているんですよね。警察さんがそれを御存じかどうかはちょっと知りませんが、厚生労働省、もしその資料があれば、私は持っているんですけれども、ぜひ警察の方にも一冊お渡しをいただきたいというふうに思います。済みませんでした。

 そして、私が、今回この高齢運転者対策を見させていただいたときに、免許更新時に検査をするということだけではやはり少し間があき過ぎるんじゃないのかな。しかも、もちろん運転をなされていない方もおられます。高齢者でも、免許を持っているけれども身分証明書がわりに持っているだけであってという方もおられますけれども、しかし、例えば、運転免許の更新というのはかなり期間がありますので、その間にやはりどうしても認知症の症状が進んでしまうというケースがあります。

 例えば、高齢者については、やはり免許の更新間隔を短くしていただくということも現実的には考えていいのではないか、あるいは、更新そのものは、本更新という形では従来どおりでいいかもしれませんが、その間に、例えば中間地点で検査だけはもう一度受けるとか、何かしらそういう手だてというものを考えたいなというふうに思いますが、公安委員長、そういったことについてはいかがお考えでしょうか。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 高齢者の免許証の有効期間については、優良運転者であっても三年ということで短くしておりますが、これは、加齢に伴うさまざまな機能低下が生ずることを考慮したものでございます。免許証の更新と次の更新との間に何らかの理由で運転に必要な適性を欠くようになった場合は、次の更新の機会を待たず、免許の取り消しまたは効力の停止をすることは可能ではございます。また、運転に必要な適性を欠くに至ったことを自覚するなどして更新を行わない人もいることは事実でございます。

 そんな状況を考えますと、またさらに、免許行政の円滑な執行、大量の人間を対象にしているということ、あるいは個人差がいろいろあるということを考えた場合、現在のところでは、免許証の有効期間を一律にあるいは個別に短縮するということは必ずしも適当でないという考え方を警察庁としては持っているところでございます。

泉委員 もう一つの問題を扱わなければならないので、これで最後にしますけれども、警察の方に確認をしたいのは、先ほど、免許の取り消しが二百五十七件、停止も含めると二百六十一件ということであります。これについては、今、やはり警察の現場レベルにどのような指針、通達が流れているのかなというところを少し心配しております。

 相談窓口ということが公安委員長からもお話がありましたけれども、その体制の整備や告知、周知、そういったことがどこまでできているのか、そして、家族なりの相談があった場合に、やはりそういった事例には積極的に相談に関与していく必要があるのではないのかなというふうに思います。

 先ほどの二百六十一件の内訳でいうと、事故処理の過程で当事者が認知症とわかった例が四十二件あるということでありまして、事故になって初めてわかったというのでは、これは交通安全にとっては本当に危機の状態であるというふうに思いますので、ぜひ、この免許取り消しのことについては、警察の現場にしっかりとその運用というかやり方が伝わるようにしていただきたいと思いますが、改めて矢代局長から御答弁をいただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 これは、認知症に限らず、例えば、睡眠時無呼吸症候群でございますとか、他の病気あるいはその状態などについても共通なことでございます。

 それで、私ども、その際どういうような手順で判断してもらうのか、あるいは最終的な判断が得られたときにどのような処分をするのか、こういうものについては、この制度の運用の中で各都道府県警察に示しておりまして、その運用状況についても累年報告を受けながら見ているところでございます。

 したがいまして、今回この制度改正がなされますれば、また改めてこの趣旨をよく徹底して、その運用が十全にいくように努めてまいりたいと考えております。

泉委員 次に、民主党がかねてより議員立法として提案をしておりました、いわゆるママチャリヘルメットの対策についてであります。

 我々はこの法案を数年前からずっと議員立法で提出をしておりまして、ようやく今回、政府の中で検討や議論が進み、子供の、自転車に乗るときのヘルメット着用が、努力義務であっても、一歩前進をしたということは大変感謝をしたいというふうに思います。

 そういう中で、実は、私の地元京都府では今条例づくりが早速進んでおります。恐らくどの都道府県よりも早く、間違っていたら申しわけありませんが、このママチャリヘルメット、子供のヘルメットの着用ということについては条例で義務化されていくということになるのではないかというふうに思っております。

 こういったものは、親と子の、あるいは、子供の安全ですから罰則ということではなくて、しかしながらやはり義務化をすることによって、先ほど大臣も少しお話しされましたけれども、努力義務も義務も余り変わらないかもしれないけれども、義務化することによって、例えば公共の、学校ですとか幼稚園、保育園、そういったことでの普及がより進んでいくんですね。そういった効果というのはやはりあると私は思います。

 そういった意味では、大臣も、参議院での答弁では、当面、まずはこういった形で普及をされて、そして、買いかえの負担もあるから当面は努力義務でいきたいという御答弁をいただいております。その当面はという言葉に私は非常に期待をしておりまして、いずれは段階が来ればそういった義務化もあり得るということの確認をさせていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 現状で、今一〇%程度の着用率と伺っておりますので、何とか保護者の努力義務としてやろうということで今回の提案をいたしております。

 政治の話、ルールの話は予断を持って決めるわけにはいかぬと思います。次のステップがあり得るということも、申し上げてもよろしいんじゃないかと思います。それはもう、今私がここで申し上げても余り意味がないことだと思っております。

泉委員 しかし、いずれは、私は、そういった普及を促進するという意味でも、各自治体でも条例の作成が進んでいくと思います。例えば、台東区ですとか杉並区なんかでも、ヘルメットを購入するときに助成をされたり、あるいは、台東区なんかは二歳から六歳までの全員に無償配付というような取り組みも行われていたり、大変関心も高くなっております。

 大臣、ちなみに、このヘルメットを見たことはございますか、あるいはかぶられたことはございますか、自転車用のヘルメット。

溝手国務大臣 小さい子供のは、見たことはありません。孫はいますけれども、持っていません。中学生、小学生は、市長時代の経験がありますから、その問題についてはいろいろ対応してきたことはございます。

 今の台東区とか、東京は極めて財政力の強い、いいところですから、それは大したことはないと思うんですが、石原都政にとっては。問題は、田舎の方にそれをどうやっていくかということがこれからの問題でございますので、なかなか悩ましいところだと思っております。

泉委員 いわゆる子供が通学時に、田舎のいい風景で、自転車に乗ってあのヘルメットをかぶる。でも、あれは限りなく工業用のヘルメットに近い、かつての姿でありまして、今や、大変スポーティーな、また軽量化の図られた、多種多様な、カラフルなヘルメットが出てきておりまして、私も調べてみましたら、もう大体二百グラム前後なんですね。本当に軽いんですね。しかも強度がしっかりとあるということで、そういった意味では、このヘルメットは市場価格も大分下がってきております。

 そういったことも含めて、今後やはり、大臣も子供のヘルメットだから買いかえが必要だということをおっしゃいましたが、普通にこのヘルメットを購入する方であれば、今しっかりと後ろにアジャスターという調整の目盛りがついていまして、かなり幅広い年代で使えるようになっていまして、恐らく一回買いかえれば何とかしのげるぐらいのサイズの設定がいろいろなされています。そういった意味からも負担が大分減ってきている状況もありますので、そういった意味で、我々はこの義務化ということをこれまで訴えさせていただいておりました。

 しかしながら、今回、努力義務ということで盛り込まれたということで、最後に、その普及促進をどのようにされていくのか。今ほどは、余り現在は普及は進んでいませんけれどもというお話をされました。努力義務にされることによって、どのような普及の手だてを現在考えておられるのか、そのことを御説明いただいて、質問を終わりたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 実は、この実態調査につきましても、保育園、幼稚園などのお母さん方の協力を得ながら着用率の実態調査などをやっております。したがいまして、保護者に向けてヘルメットの有用性というものをよく認識してもらうのが一番大事だと思っておりまして、そのために、その関係の機関と警察とで協力しながらしっかりと広報を周知徹底していきたいと考えております。

泉委員 大臣も、ぜひお孫さんにヘルメットを買ってあげてください。

 以上です。

河本委員長 この際、暫時休憩いたします。

    午後零時七分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時四十九分開議

河本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長寺田逸郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

河本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

河本委員長 質疑を続行いたします。小川淳也君。

小川(淳)委員 民主党の小川淳也でございます。

 申しわけございません。ちょっと到着がおくれました。おわびを申し上げます。

 それでは、いただいたお時間の範囲内で今回の道交法の改正案について御質問をさせていただきます。

 既に参議院の審議を終えておりまして、全会一致というふうにお聞きをしておりますので、大きな意味では、そう論点といいますか大きな対立点を残した法律案ではないものと理解をしております。加えて、私ども民主党の立場からすれば、同趣旨の関連法案を既に国会に提出をして、この政府案を見て取り下げたということでもございますので、その意味でも、大きくは賛成の立場から、しかし、やはり刑罰法規の拡充であり、新たな犯罪類型の創設でもございますので、その意味では、やはり確認なり議論をさせていただきたい、そんな趣旨で進めさせていただければと思います。

 まず大臣、非常にぶしつけではございますが、大上段のお尋ねを申し上げます。

 この道路交通法というのは、一体何を目的とし、どういうことを旨とした法律案なのか、大臣の御理解をお聞きしたいと思います。

溝手国務大臣 道路交通法は、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする。」ということが書かれております。

 したがいまして、交通の用に使われる道路を安全に保つということがその設置の目的と考えております。

小川(淳)委員 ありがとうございました。

 これは当然のことだと思いますが、今大臣が読み上げていただいたのは恐らく法律の一条だと思います。目的規定に、道路の危険防止、交通安全、その円滑という趣旨が記されているわけであります。

 この道交法の改正に至るまでの間、確かに、痛ましい飲酒運転の事故等々が散見をされたわけでありまして、被害者、御遺族の方のお気持ちを察しますとこれは余りあることですが、非常に取り返しのつかない、怒りともつかぬ、無念ともつかぬいろいろな感情が渦巻いておられることと思います。

 こうした交通事故、あるいは飲酒運転を含めた、犯罪にも当たるようなこうした事故の背景には、私は思うんです、やはりこの道路交通法というのは、基本的には道路交通の円滑化が目的であって、例えば、その結果、反射的にあらわれた犠牲者の方の救済とかあるいは遺族感情とか、そういったことに主眼を置いた法律案では恐らくなかったんだろうという気がいたします。

 既に参議院の参考人質疑の中で、犠牲者、被害者の会を代表して高石洋子様がお見えになっておられました。大臣も御同席あるいは話の要点をお聞きになられたことと思いますが、その中でも、やはり息子さんの事故をきっかけにして――この道交法の基礎となるものが明治のころにつくられた。まだ馬車しか走っていなかったころのものがまだ使われている。もともとは商人の交通を守るものだった。恐らく、交通の円滑化ということに主眼が置かれてきた。

 現に、この道交法は昭和三十五年の法律でありまして、当時、昭和三十年初頭の運転免許保有者数、自動車の保有台数等を見ますと、わずかに、わずかにという言い方、現在の八千万人とか八千万台と比べますと、三百万人の百四十万台ということで、今と比べれば非常に車自体が珍しい存在。しかし、昭和三十五年、この道交法ができてから、それを境にそこから十年で、免許の保有者数は三百万人から二千六百万人、自動車の保有台数は百四十万台から一千八百万台というふうに急激にふえたということだと思います。

 そこで私は、今回のこの改正案、大きく論点といいますか争点というべきものは少ないように感じますが、ひとつ、ここの道路交通法の思想といいますか哲学にかかわるような面についても、少し当局のお考えなり確認をさせていただきたいと思います。

 これが、今回の改正案の主な内容であります飲酒運転に対する厳罰化、あるいは新たな犯罪類型の創設というところにあらわれてきているんだと思いますが、順を追ってお尋ねを申し上げます。

 まず、平成十三年以降の飲酒運転に対する厳罰化の流れ、罰則の強化について大まかな要点、お尋ねをさせていただきたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 平成十三年、刑法におきまして危険運転致死傷罪が創設され、また、道路交通法におきましては、飲酒運転の罰則の強化、それから、あわせて、制裁の対象となります酒気帯びの政令基準値の引き下げ、このようなものをやってきたわけでございます。

小川(淳)委員 十三年以降の罰則強化、「一杯三十万円」ですか、非常に鮮烈な広告を記憶しております。現に、今も多分たくさんの先生方がそうだと思いますが、私なんか地元を回っておりますと、居酒屋さんとか困っておられますよね。本当に客足が遠のいたというような声も聞かれるぐらい、やはり浸透してきたということだと思います。

 そこで具体的にお尋ねしますが、既に資料等も午前中の質疑の中でも出されておりました。この十三年以降の罰則強化によって飲酒の事故件数または死亡事故件数、どの程度減少が成果として認められるのか、具体的にお尋ね申し上げます。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 飲酒運転によります事故、これは交通事故全体でございますが、改正前、平成十二年には全部で二万六千二百八十件、また、平成十三年に至りましても二万五千四百件の発生を見たところでございますが、これが平成十五年には一万六千三百七十四件と減少し、さらに昨年には一万一千六百二十五件と、半数以下を大きく割り込んで減少しているところでございます。

 また、このうちの飲酒死亡事故でございますが、これは、ピーク時には年間千五百件近くあったわけでございますが、平成十二年には一千二百七十六件、平成十三年の段階でも一千百九十一件でございましたが、制度改正によりまして、平成十五年には七百八十件、平成十七年には七百七件、それから昨年は六百十一件と、これも半減以下となっているところでございます。

小川(淳)委員 やや突っ込んでお尋ねしますが、平成十二年に二万六千件の飲酒による交通事故、これが、平成十五年にかけて二年間で一万六千件、一万件の減ということがございます。これは罰則強化の成果だとお考えですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 やはり、その根底には飲酒運転に対する社会の厳しい目というものがございます。これを受けました制度改正によりまして、飲酒運転をやってはいけないという規範につきましての周知、これが社会の各層に及んだということ、そして、その核となります違反につきましても大きな制裁がなされた、これが、全体として飲酒運転を大きく減少させた構図であろうと考えております。

小川(淳)委員 十三年から十八年にかけて確かに減っているわけですね。しかし、その前半二年間の減りぐあい、二年ないし三年で一万件減っている、二万六千から一万六千。平成十五年から十八年にかけて後半の三年間は約五千件のマイナス。二万六千から一万六千まで三年で一万件の減、今度は、一万六千から一万一千まで同じ三年で五千件の減、この減少の鈍りぐあいについてはどう評価をされますか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のような推移を見ておるわけでございますが、これについては次のように考えております。

 やはり、飲酒運転撲滅についてのキャンペーンでございますとか社会の取り組みあるいは制裁の強化ということでドライバーの意識あるいは行動というものが変わってきた、それから、飲酒運転をさせないさまざまな社会の状況というものが改善されてきた、この二つで大きくまず事故は減ったと思うわけでございますが、それによりまして効果が出ましたところにつきましてはおおむね一巡をしてきまして、それらのキャンペーンやあるいは制裁の強化によりましては是正されないところのものがまだ残っておる、このように考えております。

 特に、ドライバーについて言いますならば、平成十三年の制裁強化によりましてもまだ飲酒運転をする者が一部残っておる、こういうことではないかと考えております。

小川(淳)委員 率直にお答えいただいたわけでありますが、確かに減少傾向が鈍っているわけですね。

 申し上げたように、私がすごく鮮烈に記憶しているぐらい、あの「一杯三十万円」という広告というのは効いたと思います。二万六千件あった事故が五年、六年かけて一万一千件まで減った、これは大きな成果です。

 ここから先、弁護士会等からは立法事実というような指摘もあるようですが、今回の引き上げになれば、一杯三十万円が一杯五十万円、あるいは、一年の懲役が三年、三年の懲役が五年になればこの一万一千件はさらに減りますか。いかがですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 飲酒運転をさらに減少させるためには、制裁の強化だけではなかなか難しかろうと思います。しかし、制裁を強化することによりまして、先ほど申し上げましたまだ改善されていない部分、そのようなものにつきましては、全体の対策を進めていく中で両々相まちまして効果は上がるものであろう、このように期待しております。

小川(淳)委員 なかなかこれは本当に、ここから先、またよく観察をしないといけない数字だと思いますが、私の素朴な感情としては、この一万一千件、これもいまだに鈍ったとはいえ減少傾向にありますから、いろいろな社会規範の高まりで恐らく減っていく傾向にあるんだと思います。

 しかし、これが、三十万円の罰金が五十万円になったから減るのか、あるいは三年の懲役が五年になったから減るのかというと、そこは必ずしも、まさに御答弁の中にもありましたが、いろいろな複合的な要素がありますから、単純にこれはその連関を認めていくというのは非常に難しいのではないかというふうに予測をするわけであります。

 そこでさらにお尋ねなんですが、刑罰に関しましては、例えば、犯罪を犯した本人に対する懲戒、やはりこれは非常に大きな意味を持つことだと思います。それから、懲戒を与えることによって、再犯を含めた犯罪の抑止、今回、この厳罰化というのはここに大きな意味を持たせているんだと思います。

 それから、参議院の参考人の質疑等にもございましたし、また、この間のさまざまな事件の経過を見ますと、やはりこの厳罰化においては、被害者感情の充足といいますか、被害者感情からくるやりきれない思いを被害者に成りかわって満たしていくという要素、これをぬぐい去ることはできないと思いますが、この点いかがでしょうか。

 今、三つ申し上げました。本人に対する懲戒、そして、再犯を含めた犯罪抑止、飲酒運転の抑止そのもの、さらには、被害感情の救済、被害者感情の満足、この三つの要素からしたときに、今回の厳罰化はどの辺に力点を置いておられるか。お答えになれる範囲で結構です。

矢代政府参考人 今のお答えを申し上げるに際しまして、昨年の飲酒運転事故の状況はどうであったかということを御説明申し上げますとさらに御理解いただけるかと思いまして申し上げる次第ですが、今ほど御指摘のありました、昨年、飲酒死亡事故件数は六百十一件と減っております。また、飲酒事故自体も一万一千件と減っておるわけでございますけれども、昨年の八月段階までは、実はほぼ横ばいになっておったわけでございます。

 それで、きょう午前中から何回か指摘されております痛ましい事故がございまして社会が大きく動いたということで、警察も動きました。各方面が動きました。この結果、実は、昨年の九月、十月、十一月、十二月と、対前年で事故はおおむね半減ないしは四割減で推移しておるのでございます。その結果、昨年は総トータルとしてこのような数字になっております。

 ことしになりましてからも、実は対前年でおおむね約四割減ほどで推移しておるわけでございます。これは、今回御提案申し上げている最中でございまして、制裁の強化がまだなされていない段階でございます。

 これは、先ほど来委員御指摘のように、制裁以外のさまざまな取り組み、それから、現在ある刑罰を踏まえての取り締まりの強化、こういうものでこれは実現しているものと思うわけでございます。

 したがいまして、この中には、各企業で飲酒運転をさせないということでのさまざまな従業員の管理でございますとか、あるいは、起きた後の懲戒でございますとか、それから、各飲食店のお店におきます自主的なさまざまな防止の取り組みもなされております。もちろん、キャンペーンもなされております。

 こういうものの中で、刑罰というものは飲酒運転の悪質性を象徴するものであろうと思うわけでございまして、したがいまして、今の刑罰の位置づけということで申し上げますれば、制裁、さらにさまざまな抑止の取り組みの中の一環でございまして、その中で、前回でしたら一杯三十万円でございましたが、今回は刑罰は二倍ということでありますが、そういう危険性、悪質性を象徴するものとして、この刑罰、これが全体に影響を与えるものであろうと考えております。

 それから、そういたしますと、やや重複することになりますが、その他のさまざまな抑止の取り組みというのは当然必要でございまして、内閣府でさまざまな枠組みも設定しております。これは引き続いて取り組んでいかなきゃならないものであろうと思っております。その中には幾つかのメニューがあろうかと思います。

 それから、被害者の方々ということでございますが、確かにこれは、これでいいのかという、世の中を動かした一つの大きな原動力でございます。私どもは、この対策を進めていく上でよくよくそのことを念頭に置きながら、対策が展開するように、常にこれは制度を考える上で、また運用する上で考えることであろうと思います。また、それがあればこそ、国民の間にこの思いというものが浸透していくんであろうと考えておるわけでございます。

小川(淳)委員 今、局長の御答弁、少し揺れ動いたような気がしますが、制裁が高められてから確かに急激に減った、しかし、このカーブだけを見るとやや極限に達しつつある、そして、十八年五月の大変痛ましい事件をきっかけにさらにぐんと下がっている。つまりこれは、その事実関係だけ追いますと、制裁罰では極限に達したものが、さらに痛ましいショッキングな事件によって、世の中の規範といいますか、それがやや高まったということによってさらに減っているということを今御答弁されたわけでありまして、そうしますと、刑事罰の厳罰化と事故の抑止との関連性よりも、むしろ、ある事件をきっかけにした世の中の規範意識の高まりの方に期待感を表明された御答弁だというふうに受けとめました。

 その意味でいきますと、今回、一連のといいますか、道交法に関する処罰の厳罰化については、やはり多分に、被害者感情、被害感情の救済という面が非常に色濃いんだろうという気が私はいたします。そのこと自体は非常に重要な刑事政策、刑事法制でありまして、これが、冒頭申し上げたように、道交法が道路交通の円滑化ということに非常に力点を置いて昭和三十五年に整備をされて、それ以降もしかしたら抜け落ちていた観点だったと仮にすれば、これは大いに取り戻していかなければならないことだと思います。

 しかし一方で、被害者感情の充足というのは、人間の心情として非常にそこは理解を求めなくて済みますし、情緒的に共感が早いわけでありますが、やはり一方で、刑事当局としていろいろな処罰の法制あるいは犯罪類型の確定等々を規定していくというのは、これは極めて冷徹な作業であります。

 そういう意味では、非常に客観性を持たせた議論というのが大事になってくるんだろう。そのことだけは、やはりこの議論の中で、もちろん被害者、御遺族の方のお気持ち、これはもう本当に経験したことのない人間には推しはかるに余りあるものだと思いますが、それはそれとしつつも、刑事政策、刑事法制の冷徹なまでの客観性といいますか、そこについては余りそのことに引きずられ過ぎてはならないこと、ここから先の話もありますので、指摘だけさせていただきたいと思います。

 その関連でお尋ねします。

 これまで、例えば飲酒運転をした運転手が悪い、当然のことであります。スピード違反をした運転手が悪い、これも当然のこと。シートベルトをつけなかった運転手が悪い、これも当然のことであります。しかし今回は、お酒を飲むかもしれない人、あるいは飲むであろうというおそれのある人に車を貸すことが、最長で懲役五年ですか、あるいは、車に乗るかもしれない人、乗るであろう人、そのおそれのある人にお酒を提供することも懲役刑、この点に関しては、場合によっては行き過ぎではないか。非常に萎縮効果といいますか、あるいは予見の不確実さといいますか、その点に関して大いに議論があろうかと思いますが、大臣、この点いかがでしょうか。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 今私の考えるところによりますと、日本のお酒文化、酒を飲むことに対して寛容な文化というのがあったこと、ずっと底流にそれが流れていたのではないかと私は思っております。それはもちろん、飲酒運転の最大の原因は運転者本人の遵法精神の欠如にあるということはもう紛れもない事実だろうと思いますが、それにとどまらず、先生なんかまだ若い世代と我々は違いまして、我々は酒を飲むのが人生みたいな青春時代を過ごしてきた。やはり、かなり酒に対して甘い社会があったということは否定できないだろうと思います。

 ですから、この問題は、今言った刑罰の問題、刑法の問題ということもさることながら、お酒を飲まない人がふえた、お酒は楽しみのワン・オブ・ゼムであるという世の中になってきた、その世の中の変化というのがやはり罰を強化したというように影響している、私はそういう思いを非常に強く持っているんです。ですから、飲酒運転を根絶するときに、おれの酒が飲めないのかとか、おれとつき合えとかというような極めて日本的な古い伝統といいますか、そういうことが酔っぱらい運転の原因になることであったら、これはしっかりとめなくてはいけないというような議論があったのは事実でございます。

 これは世代間によって受けとめ方はかなり差があると思いますが、ぐるみで、一種の日本の社会改革かもしれませんが、私は、そんな思いも一部では持ってこの問題をとらえておるところがあります。

小川(淳)委員 大臣、大臣の御所感としてはよくわかったわけでありますが、つまりこういうことですか。例えば親戚が集まっても、あるいは職場で集まっても、目上の人から、例えばです、お酒を飲め、いやいや車ですからと言ってもそれは通らない社会だった。しかし、そういう酒を通じたコミュニケーションそのものが薄れてきていることもあり、そういうことに例えば国家が手を突っ込もうとしたらできる時代になった、だからやるんだという理解でよろしいですか、今の御答弁。

溝手国務大臣 いや、国家が手を突っ込もうというんじゃなくて、そういうように、今の酔っぱらい運転に対して厳格に対応して厳罰化すべきだという世論は既にできていた。したがって、どうしてそういう状況になったのかということを自分の人生の体験から見ると、私が申し上げたような面があるのではないか、こういう意味にとっていただければと思います。

小川(淳)委員 大臣、本当に何といいますか、非常に世の中のムードをここで語られたということにはそれなりの意味があると思いますが、局長、何か交通政策、刑事政策として補足がございますか。

矢代政府参考人 ありがとうございます。

 法技術的な面がございますので御説明申し上げたいと思いますが、今回、飲酒運転の本人だけでなくて、その周辺者に対する制裁を科そう、こういうことでございます。これはやはり、飲酒運転をしない、させないということのためには、本人もさることながら、その周辺者の対策が必要である、こういう問題認識からでございまして、これは今ほどのお話のとおりでございます。

 それで、この周辺者、車を提供した者、あるいは酒を提供した者、あるいは一定の同乗者というものは、これは従前でいきますと幇助犯でございまして、したがいまして、処罰の対象にはなれます。また、現実に一部してきているわけでございます。

 ただ、今回、この周辺者対策が必要であるということから、幇助ということでは非常に類型が拡散しておりまして、あいまいでございます。車の提供あるいは酒の提供、飲酒運転の非常に大きな要素でございますが、要求してあるいは依頼しての同乗という助長行為ですけれども、こういったものを幇助行為の中から類型化したものを取り出しまして、それで正面からこれに対する規範というものを定立し、かつ、制裁も幇助犯よりは重くする、こういうことでございます。

 それから、お許しをいただきますならば、先ほど、刑罰か、あるいはするのは対策かということでございますと、これは、制裁の強化も、やはり、今ありますさまざまな取り組みの効果というものを長期的に定着させ、ずっと維持していくという上ではその象徴的なものが必要でございますので、あれかこれかということにはならないと思っておりますし、また、被害者感情の尊重、これは当然のことなんですが、制度に移す際には、やはり、その行為の反社会性というものを法的にどう評価できるかということ、ここまで考えながら御提案申し上げているものでございます。

小川(淳)委員 局長、御答弁、あれかこれかというよりも、こういうのは恐らくあれもこれもということなんでしょうね。その中で複合的に効果が出ていくということなんだと思います。今、まさに周辺者対策とおっしゃった。飲酒運転を助長しかねない、周辺に関与し得る方々、周辺者対策とおっしゃった。

 私はここで二つお尋ねを申し上げたいんですが、一つには、そもそも道路交通法とは一体何かということを冒頭お尋ねしたわけでありますが、もともと、道路交通法の体系をよくよくこれを拝見しますと、歩行者とか車両とかあるいは運転者とか、道路交通のまさにプレーヤーに対してさまざまな規制を及ぼしたり、あるいはルールをつくったり、違反をすれば処罰をしたり、道路交通者に対して及んでいる規範の体系、これが道路交通法であります。

 しかし、今回持ち込まれたこの処罰の体系は、道路交通とは直接の関係がありません。場合によっては酒屋さん、場合によってはお友達、あるいは酒席で御一緒された方等々、歩行者でもない、運転者でもない、使用者でもない、およそ道路交通規範の外側にあられる方に対して道路交通法を用いて規制を及ぼすというのは、果たしてこの法体系からして適切な当てはめなのかどうか、この点をまずお伺いしたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 道路交通法は、これは戦前からの道路交通、さまざまな変遷を経てきておりますが、それに対しまして、さまざまな車馬の取り締まり、あるいは自動車の取り締まり、自転車の取り締まり、あるいは道路の取り締まりというようなことで、その安全を確保するためにさまざまな規制をなしてきた。それらを踏まえて道路交通法というものが昭和三十五年にできているわけでございます。その淵源を引いております。それで、直接的には、道路という公共空間の秩序を維持しまして安全を確保する、円滑も確保する、こういうものでございます。したがいまして、私どもが見ておりますところは、道路上のことでございます。

 ただ、それを実現するためにはさまざまなプレーヤーがおりますし、また、それに影響を及ぼす者があるわけでございます。したがいまして、道路交通法におきますれば、例えば運転者の雇用主でございますが、あるいは車の使用者ということにしておりますけれども、そのような者がみずからは行為をしなくても、それに下命をしたりあるいは容認している状況に対しまして直接にこれに制裁を科す場合もありますし、行政命令として改善の処分を付することもあるわけでございます。

 それから、単発の行為でありますれば、道路に対しまして何か物を投げ入れるとかそういうようなことは外からするものでありまして、もうそれは当然禁止しているわけでございます。

 したがいまして、今の道路交通法でどこまで可能かということになりますと、中心はあくまで道路上の安全、円滑、それから道路から生ずる公害等の防止、こういうことでございますが、それを実現するための幾つかの手だてというのは必ずしも道路上のプレーヤーだけには限らないわけでございまして、道路交通法以外の法体系でそれを実現することはございますけれども、道路交通法の体系の中でそれを規定することは、これは可能でございます、従前からやっているわけでございます。

小川(淳)委員 ここは決め打ちするような話ではありませんので、ひとまず指摘にとどめたいと思いますが、もしこれが、例えば飲酒運転の厳罰化あるいは抑制に関する法律とかいう特別立法としてあらわれてくると、非常に自然な形ですっと入ってくるんですよね。ところが、道交法の体系自体は、申し上げたように、車両とか運転者とか歩行者とかある。中に、例外にこういうのがありますね、安全運転管理者。業として複数の自動車を用いた運送業者等に関する安全運転管理者。まさにこの運転業務というのは、事故に遭遇した場合、事故を起こした場合には、まさに業務上過失致傷という業務という観点でとらまえられる。そうすると、歩行者や自転車の例はありますが、業として、あるいは免許を持ったプロとして道路交通に参画をする一義的なプレーヤーに関するルールという法体系であれば非常にすっきりしているわけであります。

 ところが今回は、その外側におられる、ドライバーと接触する機会があるという意味においてもちろん連関はあるんでしょう、あるいは、潜在的な可能性を持ったドライバーと接触するという連関はあるんだと思いますが、まさに一般市民、普通の、もしかしたら車を運転した経験すらないような方、道路交通のまさに素人かもしれないような方でもがこの道交法の規範に巻き込まれ得るという意味では、法体系からすると、非常にある種の違和感を感じます。

 その意味では、民主党が提案した法案の中には、お酒の提供ということに関しては、業としてお酒を提供している、例えば居酒屋、飲食店等あろうかと思いますが、そういった方には、お客さんが一体車なのかそうじゃないのか、そういうことに関して高度の注意義務を課していくという考え方をとっていたように見受けておりますが、その点いかがですか。

 今回の政府案ですと、一般の市民の方、普通の方に対して非常に大きな、高度な注意義務を課すおそれがあると思いますが、業に限定して、業として酒類の提供を行っている方、業として車の貸し出しを行っている方、こういうある種プロの世界の話として注意義務を課していくという考え方についてはどう評価されますか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 法律の立て方、整理は、これはこうでなきゃならぬということはございませんので、したがいまして、御指摘のように、一つの独立の体系を打ち立てて、それによって飲酒運転に関する交通の安全というものを実現していくということは、これは十分に考えられるところでございます。

 法技術的にどちらの法でやったらいいかということで、従前から、例えば今御指摘の安全運転管理者という制度を道交法に今置いております。つまり、一定の車を持つ者は、それは安全な管理をしなきゃならないということで義務を課しているわけですが、それはやはり、さっき申し上げましたように、道路上の交通の安全と円滑を図る上に幾つかの手だてを考えていくと、やはりそこまでは必要であるということで、まずその制度は必要であると判断しました。あと、それを道路交通法で書くかあるいはほかの法律で書くか、技術的な問題でございます。

 あるいは過積載がございます。過積載は、過積載をした本人をこれは処罰しているわけでございますけれども、繰り返しその取り締まりをしてくる中で、やはり、そのもとになる山元の方でこれを供している、あるいは容認している、あるいは下命までしておりますけれども、そこまで射程を置いて対策を立てないとこの過積載というものの根源的な解決にならないということで、その山元対策、つまり、下命、容認なり、あるいはそれに対する是正の指示などを考えていきますと、そうすると、これは必要である。

 それはもちろん、単体で法制度をつくることも可能でございますが、ただ、道路交通法ではそのように幾つかのものをずっと従前からやっておりますので、それによって可能であろう、こういうことでございます。

小川(淳)委員 業の方はいかがですか。

矢代政府参考人 落としまして失礼しました。

 それから、この範囲をつまり業とするか一般まで広げるかというのは、これも実は率直なところ、両方あり得ると思っておりました。

 それで、私どもも、業者だけを対象とする案を出されているのを承知しておりましたので、それについても一つの選択としては考えたわけでございます。しかし、飲酒運転を抑止する、飲酒運転をしない、させないということを実現していく上で、周辺者において酒類を提供することが飲酒運転を助長することになっておりますから、その点では、業者であろうと一般の方であろうと、道交法のそういう考え方からするとそれは基本的には差異はないということでございます。

 したがいまして、どちらの法もあり得るかとは思います。とりあえず、より頻度の高い営業者だけを対象にするというのもそれはあり得るかと思います。ただ、国民的に全体から飲酒運転をなくそうということからすると、広くそのような目安にした方がよかろうと考えるわけでございます。

 注意義務ということの御指摘でしたが、これは注意義務というわけではありませんで、過失ではありませんで、あくまで、そういう状況を認識しながらあえて酒を提供する、こういうことでございますので、改めて今の一般の方々に追加的に注意義務を課すというわけではございません。

小川(淳)委員 局長、お言葉ですが、法形式に関して技術的というお答えがございましたが、やはり、法形式というのはある種の規範の表現の仕方ですから、そこにその意識があらわれる。そういう意味では、私の指摘の趣旨はぜひ御理解をいただきたいと思います。

 それから、何も一般の方に法的な注意義務を課すという意味では必ずしもなくて、そこまでの注意を喚起するということは、これは、もしこういう法体系をとるのなら、一杯三十万円のあのPRじゃありませんけれども、相当なPR、あるいは浸透するための努力を払わなければ、居酒屋で営業をしておられる方と一般の方々というのはやはり違いますから、そこは非常に、これはどっちをとるかによって、警察当局としても浸透のさせ方に対する努力、それはいろいろありますよ。

 宴席なんかで、私らの仕事なんかもそうですよね、よくお酒をついで回るわけですが、いやいや車ですからと言われたときに、どこまでそれを重く受けとめて本当に酌をとどめるか、あるいは、大臣のさっきのお話ではありませんけれども、日本の独特の文化に従ってついでしまうか。その方が酒気帯び運転するのか酒酔い運転するのか、しないのか。ごく普通の一般市民社会にそこまでの注意喚起をするというのは、これは容易なことではないと思います。そういう法体系をとられる以上、予見可能性といいますか、そこについては特段の配慮がこれは警察当局として必要ではないかということを改めて指摘をしておきたいと思います。

 あわせて、もう既に局長の御答弁の中にもございましたが、これまで、お酒を提供するあるいは車両を提供する、車両を提供するということは今まで一体どういう事犯があり得るのかどうか定かではありませんが、これまでも、飲酒運転本人の主犯者に対する教唆または幇助犯は成立し得たわけですね。ところが今回は、お酒を与えるあるいは自動車を与えることを、独立犯として、正犯として犯罪の構成要件を打ち立てられたということであります。

 それなのに、ややうなずきかねる記載があるわけですが、今これ手元にしておりますのは、この道交法の改正案を広く公から意見を募られたパブリックコメントに対する意見の要旨並びに警察当局の反論の要旨であります。その中にこういう記述がございます。「厳罰化の対象とする行為については、現行法でも飲酒運転の教唆・幇助犯に該当するものであり、懲役刑に処すことが厳しすぎるとか、処罰範囲が拡大するなどの指摘は当たらない」と記載されているんですね。

 もしそうなら、現行の教唆犯、幇助犯で処罰できるものであれば、それで済むんじゃありませんか。それよりもさらに広い範囲を処罰するとの指摘は当たらないんであれば、何ゆえにわざわざ、さっきも申し上げました、道交法の体系、運転手とか歩行者とか道路交通のプレーヤーを主として規制するこの法律で、その趣旨からすると一段二段遠い方を何ゆえ独立犯として、正犯として犯罪の構成要件にする実質的な意味があるのか、そこをお尋ねします。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 現在、道路交通法第六十五条第二項に、「何人も、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。」という規定がございます。これが規範になっておるわけでございます。

 それで、このうちその処罰の対象となる者はといいますと、酒類の提供について言えば、これによって幇助したということが認定される場合でございます。幇助犯については、それでは、酒ではなくて車を提供した者はどうかというと、ここには書いておりませんけれども、それもやはり幇助犯になるわけでございます。

 そういうことで、幇助犯として処罰ができるにもかかわらず、この中からなぜ独立させるかということについては二つのねらいがございまして、一つには、非常に即物的なことになりますけれども、従犯では正犯の二分の一の科刑でございます。しかし、飲酒運転に決定的なものを提供するような教唆であれば正犯と一緒でございますけれども、教唆が立つ場合もあるわけですが、教唆が立たない場合、車の提供だけだというような場合、そういう場合に制裁をさらに重くするということになりますと、やはり正面からこの規範というものを定立して、それに対する制裁を明らかにする必要がある、これが一点でございます。

 それからもう一つは、やはり、現在の道交法六十五条の二項に、「何人も、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。」こうありますので、これに基づいてさまざまなキャンペーンなり取り組みがなされているわけでありますが、そうしますと、車両を提供してはならない、あるいは同乗を求めてはならないという規範をここに明らかにすることによりまして、飲酒運転をしない、あるいはさせないということが、社会に広く規範を浸透していく上で非常に明確になっていくということでございます。

 その二つのことを考えながら、今回はこれを独立させて新たにその処罰の対象を広げるものではないけれども、重くはなります。かつ、従前ですと幇助犯ということで、一体何なんだというのがよくわかりません。それは、実際の行動として追加的に起こすのであれば、車両を提供してはならない、あるいは飲酒運転している車に同乗を求めてはならない、そういう規範を定立した、こういうことでございます。

小川(淳)委員 そうしますと、実質的な意味は、幇助犯で二分の一の減刑では不当なケースがある。実質的な意味はそこだけだということでよろしいですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 科刑においてどのような効果が出てくるかということについていえば、御指摘のとおりと思います。

小川(淳)委員 もう一つ、局長も触れておられますが、宣言効果といいますか、その効果というのは確かになくはないんでしょうね、宣言効果。しかし、そのことと、新たな犯罪構成要件をつくるということの重みといいますか、それだけだと果たしてバランスがとれているんだろうかなという気がやはりしないでもありません。その点もあわせて指摘をさせていただきたいと思います。

 この厳罰化の流れ等々に関してやはり申し上げたいのは、道路交通法の体系からすると、飲酒運転の厳罰化というのは、むしろ特別立法だったら非常にわかりやすいな、それが一点。そして、そうであれば、今申し上げたようなこういった実質的な構成要件、あるいは量刑も含めてでありますが、実質的なメリットは一体何なんだろうな、こういう問題意識も余り起きなくて済むんだろうな、今回の法案全体を通してそんな気がいたします。そういう意味では、この法案ができてきた経過から見ましても、ここが非常に大きなかなめのところなんだろうと思います。

 あわせて、そういう意味では、ほかにもたくさんの対策といいますか、これまで抱えていたものを全部吐き出されたかのようないろいろなものが盛り込まれているわけでありますが、時間も残り少なくなりましたので、それぞれポイントだけお尋ねさせていただきます。

 まず高齢者対策ですが、認知能力の検査をされるということですね。確かに、高齢者にその傾向が圧倒的ということはそのとおりだと思いますが、人権だ何だというお話もございました。認知能力というのは、これは幾つの運転者だろうと求められるわけでありまして、また最近、若年認知症なんて言われます。我々、免許の更新のときなんかは本当に大変な時間を割いてそういう検査とか受けているわけでありまして、この認知能力に関しては、いっそのこと全運転者に求めたらいかがかという気もいたしますが、この点いかがですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 実は、この制度を検討するに当たりまして、そのような御意見もございました。何人かの有識者の方々に集まっていただきまして検討をやったわけでございますが、その際に、やはり若年であってもそのようなものがあるのであるから、したがって、全員とは言いませんでしたけれども、例えば五十代、六十代からでもいいのではないかという御指摘もありました。

 一方では、そうはいいましても、制度的にある程度負担を課すことになるわけだから、したがって、現在、高齢者講習の対象となっております七十歳以上ということで、制度的には整合性もあるしいいのではないか、こういう御意見もございました。

 もう一つの意見が今回御提案申し上げているところなんでございますけれども、私ども、それらの意見も踏まえながら、また、現在の提案の意見についても検討してみますと、やはり最後は、交通安全は実現するということでございます。そうすると、現実に交通事故のリスクというのがドライバー当たりどの程度出ておるのかということで見ていって、それで、一定程度高いというところで皆さんの御理解を得られるんじゃないか、それが合理的ではないかということで、そのような意見がある中で、一番絞った形の七十五歳というのが一番いいのではないかということで御提案申し上げたところでございます。

 したがいまして、幾つかの視点があるとは思うわけでございますけれども、認知機能の低下という一点をとらまえて判断していくならば、確かに、もう少し幅広く対象をとる選択肢というのはあるわけでございます。

小川(淳)委員 これも実施後の経過をよく分析していただいて、これは全年齢に義務づけても、国民感情としてはそう害されるものではないような気がしますね。むしろ七十五歳からということの方が、非常にお元気な方、しっかりされている方がおられますから、むしろそっちの方が議論が起きるのかなという気がいたします。

 次に、聴覚障害者対策について一点だけお尋ねします。

 これは、長年念願しておられた方にとっては本当に待望の法改正だと思いますが、それはそれとして厳しい立場からお尋ね申し上げますが、聴覚による情報はワイドミラーによる視覚情報によって代替できるものですか。この点、お尋ねします。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 代替することはできません。

小川(淳)委員 非常に簡潔な御答弁、補完していくということなんだと思いますが、これもやはり、よく当事者の方々のお声をいただきながら、実施後の状況についてはよく検証をお願いしたいと思います。

 もう一つ、非常に抽象的なお尋ねです。自転車対策について、最近、自転車と歩行者との事故などもよくクローズアップされているようでありますが、私自身も高校時代なんかはよく十キロぐらい自転車で行ったり来たりしておりました。歩行者から自転車を守ることも大事ですが、自動車から自転車を守ることの方が、日本の道路事情などからしますと、その何倍もより大きな課題だと思いますが、その点の御認識、いかがですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 歩行者と自転車とそれから自動車、三つを比べてみますと、それぞれスピード、運動エネルギー、これは違うわけでございます。自転車と人、自転車と自動車ということになりますと、自転車の事故の圧倒的部分、九割、これは自動車との衝突でございまして、そこに被害が生じております。したがいまして、その観点からしますと、自転車の安全を考えていきますと、可能な限り自動車と分離できればそれはベターであるというふうに考えられます。

 と同時に、歩行者と自転車との関係もそれに似た関係になるわけでありまして、できれば歩行者と自転車を分離できれば望ましいという考えでございます。

 ただ、今回御提案申し上げていることとの関係で申し上げますと、自転車道があれば三つに分離できるわけですが、歩道と車道と両方しかないときにどうするか、これが現在の一番の悩ましいテーマでございまして、現在の制度は、御案内のように、車道を原則とする、それで、公安委員会が指定したところについては、これは幅の広い歩道ということになりますけれども、車道を通ってもいいし歩道を通ってもいいということでございます。

 今回、それをどうするかということでかなりの議論を重ねましたけれども、自転車の利用者が、子供からお年寄り、あるいはスポーツサイクルもあるという非常に多様性のある使い方を見ると、どっちか一方というわけにはなかなか割り切れない。現在のように、車道を原則としながらも歩道もあわせて使っていく、そういうことで対処せざるを得ない、こんなことで御提案申し上げた次第でございます。

小川(淳)委員 ありがとうございました。

 時間が参りましたので、最後、問題提起にとどめます。

 シートベルトについてでありますが、現在、シートベルトを後部座席にも努力義務なり義務づけをしていくということでありますが、これは、運転者ではなくて同乗者そのものに罰則を科すことをぜひ考えていかれたらいかがかと思います。飲酒運転の本人よりも酒を提供した人を罰するという、全体で交通安全の相乗効果を上げていこうというその思想に必ずしも反対ではありません。今までの法体系との兼ね合いをお尋ねしたわけでありますが、それからいいますと、シートベルトの件も、運転者一人に責任を負わすのではなく、同乗者をむしろ罰していくことも含めて考えていかれたらいかがかな。指摘にとどめさせていただきます。

 ありがとうございました。

河本委員長 次に、市村浩一郎君。

    〔委員長退席、戸井田委員長代理着席〕

市村委員 民主党の市村でございます。

 一時間賜りまして、またこの質疑をさせていただきますが、私にとりましても、きょうのこの道路交通法改正の質疑というのは、再三この委員会でも早くやるべきだということを言ってまいりましただけに、こうしてこの席に立たせていただくということは大変強い思いを持っておるわけでありますけれども、なぜ今日までかかったのかという思いも一方で強く持っておるところであります。

 この道交法の改正案につながる、きょうは特にひき逃げの厳罰化ということが中心的な課題として挙げられるということだと私は思っておりますが、そもそも、これにつながっていく流れというのは、大臣、また皆さんも御存じだと思います。

 まだ今世紀になる前の話でありますけれども、高速道路上で本当に痛ましい事件が起きた。後ろからトラックに追突されて、そして車が炎上してお二人のお子さんが亡くなられるという事件が起きた。そして、そのことを受けて、二〇〇一年だったと思います、私がまだ当選させていただく前でございますけれども、私の諸先輩方が、当時の国会議員の皆さんが、立法府を構成される皆さんが危険運転致死傷罪を成立させていただいた。

 これは恐らく、当時大きな議論があったと推測されます。すなわち、こんなに重くしていいのかどうか、最高刑が十五年、二十年に達するものでいいのかどうか、まあ途中から二十年に上がるわけですけれども、そうした、ほかの刑罰と比較をした場合、重過ぎないかとか、いろいろな議論があった上で、皆さん、諸先輩方は立法府の意思を示していただいたと私は思います。きょうもこの中にはそのときの方々もたくさんいらっしゃることだと思いますし、私は、当時の皆さんも大変大きな決断をしていただいたと本当に思っています。

 そもそも、法律というもの、もちろん、法哲学というものを持って、ほかとの絡みとか、いや、本当にそういうことでいいのかとか、いろいろ考えなくちゃいけないことがあるんでしょう。ただ、法律というものは、英語でよくローヤーと言われるものは、あれは実は私たち国会議員とは違うわけでありまして、あれはまさに弁護士でありまして、私たち国会議員はレジスレーターというのが英語の適切な言葉であります。

 レジスレートは、変えてもいい、そういうことがあるんです。ローというのはなかなか変えちゃいけないんです、そう簡単には。しかし、レジスレートというのは、変えてもいいんだということでありまして、私たち国会議員というのは、まさに国民の意思を代弁して、代表して、そしてこの国会で議論をし、そして法律をつくっていくということだと思っております。そういった意味では、二〇〇一年の諸先輩方の御英断に大変私は敬意を表するということであります。

 しかし、その後、御遺族の方々初め多くの方々が、まだ足りないと。特に飲酒ひき逃げについて、この委員会でも、きょうの午前中にもその言葉が出てきましたが、逃げ得、こういうものがあって、とにかく飲酒で何か事故を起こしたらまず逃げる、そして、逃げて酔いをさましてから、いや、怖くなったんです、だから逃げたんですと出ていくことによって刑罰の上限が全然違ってくる、こうした状況についてしっかりと考えていかなくちゃいけない。

 御遺族の皆さんも、二〇〇三年十一月にも、そうした問題点を指摘されて、厳罰化をしてほしいと要望も出されています。しかし、そのときには、二〇〇二年に道交法の改正案をやったからもうしばらくはできないんだというような回答があったというふうにも認識をしています。

 それが、ことし、特に去年の八月の福岡の事故、三人のお子さんの命が失われる事故があったということを受けて、また世間の関心も高まった。そして、さっきも国家公安委員長もおっしゃっていましたけれども、十月、十一月、十二月、対策を強化して四割削減したということにつながっていった。そして、今回の道交法改正案につながっていったという流れだと思います。

 しかし、やはり、何かそうした大きな事件が起きないと、だれかが犠牲にならないと、いやいや、もう引き上げたばかりだからもうしばらくは動けませんよ、こういう姿勢を続けていたのではないかというふうに思わざるを得ないということでございます。

 大臣、だれかが犠牲にならないと、大きな関心を持たれるような事件が起きないと動かないというところ、まずここから必ず考え方を改めなければならないというふうに私は思っております。そうではなくて、もっと思いをいたして、想像力を働かせて、午前中の牧原委員の議論にもありましたけれども、やはり我が事と考えてやれば、いや、もう決めたから、去年変えたんだからもうしばらくいいんだよという話にならない、私はこのように思います。

 まず、この根本的な考え方から私は改めなければならないと思いますが、国家公安委員長の御見解をお聞きしたいと思います。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 いわゆるひき逃げの問題についての罰則は、平成十三年の道路交通法改正で引き上げたところでございます。その後、ひき逃げ事案の発生状況から、その効果については、先ほど議論がありましたように、いろいろ検証いたしていたところでございますが、ひき逃げ事件の発生件数は全般的に増加傾向にあったということで、悲惨な結果を生じさせている事案も少なくなかったというように受けとめておりますし、また、被害者の遺族等からもさらなる罰則の強化を求められていたというのも事実でございます。

 それで、警察関係者等の動きでございますが、昨年の三月、これは私が就任する半年以前の問題で、あの事故よりは大分前のお話なんですが、第八次交通安全基本計画ということを策定して、新たな目標を設定したわけでございます。その中において、警察庁においては、ひき逃げ罰則の引き上げ等について、どういう対応が必要か、どんなことができるのかということを関係省庁との間で協議しながら検討を開始したというのが内部の状況でございまして、先生御指摘の話もわからないわけではございませんが、警察の中は、だからやったというような受けとめ方はいたしておりません。いつも前向きに検討してまいったという気持ちでございます。

市村委員 実は、この話は大変重要だと思っています。というのも、きょうのこの法律については、恐らく参議院は全会一致、衆議院でも、我が党、民主党ももちろん賛成の立場でやっているわけであります。

 ただ、ではこれで終わりかというと、終わりじゃないんですね。すなわち、またここで今後さらなる議論をしていこうとするときに、いや、もう二〇〇七年にやったじゃないか、もう十分に引き上げたじゃないか、もうしばらくはこれは変えられないんだ、こういう姿勢がまた続くのであれば大変問題である。そうではなくて、確かに二〇〇七年度、今回こう変えたけれども、しかしまだ課題は残っている、問題点はある、だから引き続きまた議論をし、かつ早急に改めるべきは改めなくちゃいけない、こういう発想に立たなければならないということだと私は思っておるわけであります。

 そこで、きょうは水野副大臣にお越しいただいています。実は、この問題、法務省の方にもかかわってくることだと思います。つい先日、法務委員会の方でいわゆる自動車運転過失致死傷罪の成立を見たわけであります。これは、もちろん民主党も賛成させていただいたということで通っております。これは、これまでの過失致死傷罪が最高刑五年だったものが、自動車運転に関して七年まで引き上げる、こういう話でありました。

 これも、それだけが理由じゃないとおっしゃるかもしれませんが、埼玉で起きた、幼児の列に車が突っ込んだ、四人のとうとい幼い命が失われた、しかしながら、最高刑は五年だったので、ほかに別にスピード違反を犯したわけでもない、飲酒運転していたわけでもないということで、結局、過失致死傷罪しか適用できないということで五年になった、これでいいのかという声に対して、だから、七年になった、新しい法律をつくって七年にした、自動車運転だけを特に切り分けてやったということだと思います。

 ただ、では、これも今国家公安委員長と議論させていただいたように、もうこれはやった、しばらくは変えられない、もしこういう態度になってしまうとすると、また次の改正は、ではまた五年後、まあ三年から五年はあけないといけないよね、そういう立場に立たれてしまうと、また三年後、五年後ということになるわけであります。

 ここで水野副大臣にお聞きしたいんですけれども、やはり法務省としても、これは、一遍通したものをそうそう変えられないから、また次は三年、五年かかるかなというお考えなのか、それとも、必要なものは議論を引き続きやって、そして必要な改正は、たとえ去年行った、または半年前行ったとしても、それは変えるべきは変えるべきという態度で今後も検討されるのかどうか、その姿勢についてお聞きしたいと思います。

水野副大臣 先生御指摘のとおり、法務省が所管します刑法を改正いたしまして、自動車運転過失致死傷罪を今国会で成立させていただきまして、施行が今月の十二日の予定でございますから、来週の火曜日からこの新しい部分が施行されるようになるわけです。

 では、これを今後一切見直さないのかとか、もしくは必要があれば見直すのかということでは、極めて一般論的な言い方をすれば、もちろん法律をつくる国会とか、もしくは提出をさせていただいている政府などが、法律の施行状況などを見ながら適宜適切に、法というのは時代とともにいろいろな見直しがあるというのは、極めて一般論的にいえば御指摘のとおりだというふうに思いますけれども、では、今現在、我々として、これをさらに厳罰化とか、七年を、今回の新法では、懲役、禁錮の上限が七年になりましたけれども、これをさらに上げるべきかとかというのは、これは確かに、いろいろな法制審議会その他の議論のときにも、より厳罰化、例えば十年が必要じゃないかとかという議論があったことは重々承知をしております。

 ただ、被害者の方々、御遺族の方々のお気持ちは重々理解はするわけなんですけれども、一方で、刑法は、先生御承知のとおり、故意犯と過失犯をかなり厳密に区別している、もしくは、原則的には故意なき者は罰しないというような規定がある。もちろん、とはいえ、こういう重大な過失についてはこういう規定があるんですけれども、やはり故意犯、過失犯を峻別しているというようなこともございますし、また、自動車を運転するということは極めて多くの国民が携わることでございますから、日常生活の過程の中でだれでも犯し得る可能性が高い犯罪であることを考慮すると、その刑を余りに重くするということには、やはり一方では慎重な検討も必要じゃないかな、そんなふうに考えておりますし、我々としては、現時点で七年は不十分だという立場には立っておりません。

市村委員 牧原委員は弁護士でいらっしゃるそうですけれども、午前中、それこそ牧原委員からは、死刑の適用もあるべきじゃないかというような議論もあったと思いますが、死刑という言葉が私の頭の中になかったので、大変、そうかというふうに、弁護士の方もそういう議論をされるんだなというふうに思いながら聞かせていただいておったんです。

 水野副大臣は恐らく、窃盗犯が一体最高何年かということを御存じでいらっしゃると思いますが。

水野副大臣 最高刑十年でございます。

市村委員 もちろん、故意犯と過失というのは違うというのは先ほど水野副大臣もおっしゃったことだと思いますが、ある意味でいえば、一人の国民感情からして窃盗もこれはもちろん大きな罪でありますが、一カ月から十年の範囲で量刑、刑の範囲が定められているわけでありまして、十年ということであります。

 もちろん、過失、さっきおっしゃったように、私だって、いつ、それこそ突然飛び出してこられたら、その方をはねてしまうかもしれないということであって、それを、では、おまえ、二十年行ってこいと言われたら、それは、もちろん大分反省して、もちろん御遺族に謝って、申しわけないということを一生悔いながらやっていくんだと思いますが、しかしながら、これで二十年と言われたら、確かに私も、むっと思うところもあります。しかしながら、恐らく裁判の過程において、やはり本人の反省の度合い、また御遺族の方の心情等々を酌んで裁判官は判断されるわけでありまして、それを、では最高刑二十年にしておくから、突然飛び出してこられた方をはねて不幸にも命を失うような事態になったとしても、それを、ではあなた、二十年だということは、これは余り考えられないことだと現実的には思います。

 だから、やはり量刑の範囲というのは、別に、そう定めたから、では最高刑十五年にしたから、全部、全員が全員十五年になるというわけではない。だから、窃盗も一月から十年という範囲があって、ある意味では、この比較でいくと、四人の命がなくなった事件と窃盗を比べたら、窃盗で十年なのに、何で命を失うようなこと、たとえ、確かに重大な過失かもしれないけれども、それで七年なのかというのは、やはり一般国民の感情からしても、私はなかなか理解が得がたい。もちろん、感情だけでやっちゃいけないというのは、さっき小川委員の議論にもあった。単に感情だけで量刑を決めて、ではやってやれということじゃないというのも、そのとおりかもしれません。

 しかし、繰り返しますが、だから、では十五年にした、二十年にしたからといって、全部が全部十五年、二十年になるわけじゃなくて、後は裁判所が、裁判官に、本人の反省のぐあいとか御遺族の方の心情、また、その事故に至るまでの経緯、いつも安全運転していて、本当にちゃんと運転していた人が、たまたま飛び出してきてひいてしまったというものか、それとも、日ごろから、片手には携帯、音楽聞きながら、かあっと運転したり、よそ見運転していた、しかも前にも何回か軽い事故を起こしたとか、そういうことがあったとか、やはりこれは全然違うはずなんですね。

 しかし、それと違ったときに、裁判官は、では、最高五年、最高七年、こう言われてしまったら、幾ら遺族感情を反映して、この人は本当はもっと高い刑だと思いながらも、五年、七年しか与えられないんなら、やはり五年とか、七年なら七年でとまっちゃうわけですね。

 これはやはり、窃盗で十年とお聞きしたときに、これはいかがなものかなというふうに思うわけでありまして、死刑というものまで私も頭にありませんが、しかし、弁護士の方が死刑とまで出すような話であれば、私は、やはりしっかりとこの辺は、さっき申し上げたように、私たちはローヤーじゃない、レジスレーターですから、もっと国民感情、国民の意見、国民の思いというのを反映して法律というものを組み立てていくものだと思いますし、それは、先ほどから申し上げているように、もう決めた、きょうやった、今回やったんだからあと五年はかかるなという立場じゃなくて、やったけれども、またいろいろな御意見をお聞きしながら、やはり改めるべきは改めるということの方向でぜひともいってほしい、私はこう思うわけでありますが、この辺について、国家公安委員長及び水野副大臣からもう一言ずついただきたい、こう思います。一遍変えたらそれはもう五年ぐらい変えられないよというのか、それとも、やはり状況を見て、またそれは、変えるべきは変えるのか。

 ただしかし、私がぜひともお願いしたいのは、また何か大きな事件が起きて、犠牲者が出て、そして世間が関心を強く持って、だからまた動かざるを得なくなったというような、そういう消極的な変え方はぜひともしないでいただきたい。結局犠牲が出ないと動かないということだけはもう二度としてほしくないというのが思いでありますが、国家公安委員長そして水野副大臣からの御意見を賜りたいと思います。

溝手国務大臣 お答え申し上げます。

 きょう、午前中からの議論でも申し上げてきたんですが、継続して検討しようという課題はまだたくさん残っておりますし、それはもうお答え申し上げたとおりでございます。

 そういう意味で、これからも、道路交通法の絶えざる改定には意を配ってまいらなければいけない、このように思っております。

水野副大臣 交通事故で人を死に至らしめていながら窃盗よりも軽い罪とはおかしいじゃないかという議論というのは、危険運転致死傷をつくるときもこの議論というのはございましたし、心情的にはよく理解するところでもございますし、先生おっしゃるように、何も、法定刑を例えば十年に引き上げたら、必ず判決のときの量刑が十年になるわけじゃないというのは全くもっておっしゃるとおりであると思います。

 ただ一方で、先ほどの繰り返しになって恐縮ですけれども、刑法の原則というものが故意犯と過失犯をかなり峻別しているということもございますので、我々として、今回の七年ということが不十分だというふうに今考えているわけではございませんけれども、ただ、極めて一般的にいえば、法律というものが国会の議論などを通じて、時代とともに、絶えざる、いろいろな国民の声、国会の声というものを受けて見直しの議論があるというのは、これまた当然のことだというふうに思っております。

市村委員 これはもう、大臣また副大臣は、個人としては私の思いに恐らく賛同していただいていると思いますので、これ以上は申し上げませんが、ぜひとも、やはり国民感情といいますか、一人の国民の立場といいますか、また、もっと言えば、親の立場、親族の立場というものに立ってこのことについてはお考えを賜りたい。特に、それは大臣や副大臣だけじゃなくて、やはり法律に携わっていらっしゃる官僚の皆さんもその立場に立っていただければおのずと答えは出てくると私は思いますので、よろしくお願いしたいと思います。

 関連しますが、ちょっと話が変わるんですが、自動車運転で危険運転致死傷罪というのができておりますが、例えば殺人罪が適用されたことというのはあるんでしょうか。すなわち、自動車を凶器として使ったとしか考えられないということで、これはもう殺人罪を適用するしかないというようなケースというのはこれまであったんでしょうか。

矢代政府参考人 ございます。

 形態から見まして、被害者を車体に巻き込みながらさらに走る、未必の故意で死んでも構わないというふうに認定されるのではないか、そのようなことで殺人罪を適用しております。

市村委員 かくのごとく自動車というのは、実は、もちろん安全に運転していれば私たちの日常生活にとって大変便利なものであると同時に、まさに凶器になり得るというものでありまして、やはりその操作を間違えると、つまり、包丁も、料理をつくっている場合にはおいしいものをつくる大変便利なものであると同時に、人を刺し殺す道具にもなり得るということであります。

 だから、今後、私は、大切なのは、やはりどういう状態で運転がされていたのかということが極めて重要だろうと思います。故意か過失かというときに、実は、ある人を死に至らしめることもできるかもしれないわけですね、過失に見せかけて。

 だから、自動車というものは凶器にもなり得るという考え方で、私たちは、私も自分が自動車に乗るときは、本当に自分が人を殺すかもしれない、そういう思いで実はいつも乗っているんですね。本当に、これは凶器だから、だから安全運転をしなくちゃならないという思いなんですね。もちろん、自分の家族が乗った場合は、自分の命もありますし、家族の命もありますが、そういうことも考えて乗らなきゃいかぬ。

 さっき、午前中の佐々木委員の御発言の中で私がなるほどなと思ったのは、すなわち、標識がない方が実は安全運転をするんじゃないかと。かえって標識があった方が、何とおっしゃいましたでしょうか、偽りの安全を認識します。偽りに、自分は安全運転をしているぞ、標識を守っているんだからと、こういうことになってしまって、標識を守ることが目的になる。

 そうじゃなくて、もっと根本的なところは、自動車は凶器になり得る、自分の命も危ないかもしれない、同乗者の家族や親族の命、また友人の命が危ないかもしれない、もしくは、だれかをひいた場合、その人の命を失わせるかもしれない、まず、こういうところの認識が大切であるというふうに思います。そういうところの認識をしっかりと高めていくことがまずあるべきことでありまして、そこの部分がきちっとなされねばいかぬと私は思います。

 そうしていくと、実は埼玉の件も、いろいろ過去のこと、経緯をさかのぼると、やはり本当は裁判長はもっと大きな判決を出したかった、高い刑を科したかったんだというふうに思いますが、残念ながら、科せないという状況なんですね。

 だから、先ほども申し上げましたけれども、あの人は日ごろ安全運転をしていてたまたま飛び出してきてひいてしまったというのと、日ごろから何かちょっと車を危険ならしめるあり方で運転をしていたという方との違いがあってしかるべきでありますし、その部分でも、やはり、この自動車運転過失致死傷罪については、せっかく切り分けたわけですから、今後も、この切り分けたということを強く思っていただきまして、私は、この部分の改正というのもまた法務省の方でも御検討いただきたいというふうに心から願うわけであります。

 それから、一方で、今回の、ひき逃げが十年、これは五年から十年ということで、このひき逃げについては、今までの私と警察庁の皆さんとの議論を通じて見ても、大変思い切った改正をしていただいたと私は思うわけであります。

 しかし、飲酒の方、五年以下の懲役または百万円以下の罰金、こういうことに関しましては、飲酒運転の罰則が本当にこれでいいのかということも、今の自動車運転過失致死傷罪と同様に、この五年、百万というのが本当に適切なものなのかということは、これもまた議論の余地があると私は思っております。これ以上の厳罰化というのは、具体的にはもう考えないのか、それとも考えるのかということについて、今度は具体的にこの考え方について、この五年、百万という考え方について国家公安委員長のお考えをお聞かせいただけたらと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 酒酔いの罰則、五年で御提案申し上げておるわけでございますが、やはり道路交通法の中ではかなり高い、従来ですと最も高いところに持ってきているわけでございます、ひき逃げについて十年でお願いしていますので、相対的には低いわけでありますが。道交法全体の中でさらにということになりますと、やはり最後は、何といいましても、全体の、個々の行為に対する非難、バランスということがございます。したがいまして、あくまでこれは事故を抑止するというのが眼目でございますので、これで私どもは相当抑止に寄与すると考えております。まあ、これだけではいかぬのですが、これをもとにしまして、からめ手からの対策も含めるわけでございますが、それで所要の目的を達すればいいのではないか、そういう考え方で運用してまいりたいと考えております。

 先ほど来大臣から申し上げていますように、それは制度ですから常に検討はするわけでございますけれども、私どもの認識では、これで相当いけるのではないか、また、これでバランスについても皆さんの納得を得られるのではないか、こういう認識でございます。

市村委員 わかりました。局長の方でも、もう決めた、変えたんだから、しばらく無理ですということじゃなくて、またぜひとも御検討いただきたいと思います。

 それで、私は、大変実は今回の道路交通法改正は評価をすべきだというふうに思っているんです。だからこそ賛成の立場で話もしているんですが、まだ足りない部分があるということで、後ほどそれについては議論します。

 これまで、ひき逃げをしても、酔ってひき逃げをしても酔わなくてひき逃げをしても、実は余り変わらなかった。つまり、ひき逃げをしたから刑罰の範囲が高くなるということではなかったということだと思いますが、この認識でよろしゅうございますね、これまでは。今後はそれが、ひき逃げをしたら、いわゆる上限が高くなるので、つまり、その意味では逃げ得が解消されているという認識に立ってよろしいでしょうか、今度の考え方は。

矢代政府参考人 御指摘のとおりでございます。

市村委員 この委員会のことがどこまで国民に伝わるかというのはありますけれども、今回の道路交通法改正、やはりひき逃げの重罰化、厳罰化だ、こう思います。

 すなわち、これまでは、逃げても逃げなくても変わらなかったわけですね。だから、逃げること、とにかく逃げておけということ、これは今までの警察庁の皆さんとの議論の中で、もちろんだれ一人お認めになりませんけれども、私が勝手に認めて、逃げ得はあるということでずっと言ってまいりまして、とにかく逃げても逃げなくても同じ。

 しかも、特に飲酒の場合は、危険運転致死傷罪が適用されたら最高刑は二十年とか二十五年いくわけですね。それが、一般の過失致死傷罪でかつ飲酒だったといった場合は七年六カ月、逃げても逃げなくても最高刑七年六カ月、こうだったわけです。七年六カ月と二十年、二十五年の差があると、やはりこれは、逃げたって同じなんだから、まず一遍逃げてみようか、見つかったらしゃあない、しかし、逃げ切って酔いがさめて出ていったら、少なくとも危険運転致死傷罪にいかないから、最高七年六カ月か、その範囲でいけるということでこれまできたということでございます。

 それが今回、ひき逃げが五年から十年になって、逃げることによって、十年の一・五倍ですから最高十五年になるということでありますから、今回からは逃げるとひどいぞということになるということだと思います。

 そもそも、私は、再三申し上げておりますように、逃げるというのが一番ひきょうな話だ、こう思うわけであります。自分がひいた、また当てた方をそのまま現場に放置して、何の声かけもなく、手当てもなく、そして放置したままその場を立ち去るというのはあってはならないことでありまして、このあってはならないこと、つまり、救護義務違反を犯しても犯さなくても同じだったということである、これは大変問題があるということをずっと指摘させていただいておりましたけれども、今回、それが変わって、逃げるとひどいということになります。

 だから、ぜひとも国家公安委員長、この話、先ほどから申し上げているように、まだ議論の余地はあるんですが、少なくとも、いわゆるこの道路交通法における逃げ得というのはここでなくなったというふうに考えられるわけでありますし、逃げたらひどいぞということになったわけでありますので、やはりここは国家公安委員長に、高らかに、これは皆さん、逃げたらだめだということを、もちろんそもそも逃げちゃいけないんですけれども、これからは逃げたら損ですよ、あなたにとって大きな損にもなりますし、そもそも逃げちゃいけないんですけれども、損得でいえば損になりますよ、逃げ損ですよということをぜひとも私は国家公安委員長に強くおっしゃっていただきたいと思います。

溝手国務大臣 おっしゃるように、しっかりPRしてまいりたいし、逃げ得というのはあってはならないと考えております。

市村委員 この間、どうも逃げ得があるんじゃないかということが、ある種、テレビ等を通じて広がっておりました。いろいろまた現場のことに詳しい皆さんから聞いても、まず逃げろということが現場では横行していたということ。警察庁の方にこの統計があるかといったら、もちろん、ないとおっしゃるわけでありまして、そもそも逃げ得があるということについては、警察庁の方では、そういうものがあるのかなということでお認めになられていないわけでありますから、そもそもお認めでないものの統計があるはずはないので、ないということでありますけれども、しかし、現場において実態を見ている方は、逃げ得と。恐らく現場の警察官の方もおかしいぞということがあっておっしゃっていると思いますが、逃げ得という言い方になるとなかなか難しいということで、なかなかそれは言えないということだと思いますが、ある意味でいえば、今回は、逃げ損ということに、ぜひともこれは、逃げ損だということは強く言っていただきたいな、こう思うわけであります。

 ただ、そのことにおいては逃げたら損だということになったわけですが、まだ危険運転致死傷罪との関係が、この問題が残っているわけであります。危険運転致死傷罪は、今、死亡の場合と傷害の場合、これの最高刑は何年か、大臣の方から教えていただけませんでしょうか。

水野副大臣 危険運転致死の場合、死亡させた場合の最高刑は二十年でございまして、傷というかけがの場合は十五年でございます。

市村委員 副大臣、この危険運転致死傷罪で、さらにひき逃げが加わると最高刑はどうなりますでしょうか。

水野副大臣 危険運転致死の場合は、今までの場合でいえば、二十年に、救護義務違反は五年でありますので、併合罪で、一・五倍よりも足した方が短い方ですから、二十五年でございます。

市村委員 それで、今回十年になったという場合は、それでも同じということでよろしいですか、認識は。

水野副大臣 救護義務違反が十年になりましたので、一・五倍にすると三十年ですから、三十年でございます。

市村委員 今副大臣がおっしゃっていただいたように、危険運転致死傷罪でかつ逃げた場合というのは三十年、相手を死亡に至らしめた場合三十年ということになりまして、この道路交通法の場合でいうと最高十五年ということになりまして、やはりこの差というのはまだまだ大きなものがあります。

 確かに危険運転致死傷罪の適用というのがそうないということで、きょう午前中にも資料は出していただいておりましたけれども、では、危険運転致死傷罪にまでなるケースはないんだから、一応、基本的にはこの道路交通法でいけるんだろうから、逃げ得もかなりこれで解消されるしということになりますが、そこまで考えながら運転している人はいないと思いますけれども、しかしやはり、これはと。もし危険運転致死傷罪になると、逃げなかったら今のところ二十年なんですね。だけれども、五年あるんですね、これに五年。逃げたらもちろん三十年になるから、これまた逃げ損というのがこの部分で発生するわけでありますけれども。

 しかし、逃げなくて二十年、逃げて、飲酒がばれないで、何とか危険運転にいかなかったら十五年、この五年の差というのをどう見るかにあるんですね。そこまで考えながら運転している人はいないかもしれませんが、しかし、この五年の差があるというところ。

 では、この五年というものに対してどういう思いを持って、逃げたら、見つかったら三十年だから、やはり逃げない方がいいかな、五年の差だったら、裁判の過程で、本当に心から反省したらひょっとしたら刑も軽くなるかもしれないということを思って逃げずに、飲酒していたけれども逃げずに、ちょっと気持ちよくなってこんな危険運転をしたら人をはねちゃった、どうしようか、酔っぱらっているから余り正常な判断ができないかもしれないけれどもということなのかなとは思いますが、しかしこの五年の差があるということについて、大臣、これはどういう御判断、御見解を持たれますか。

溝手国務大臣 警察としましては、とにかく、ひき逃げが発生した場合には徹底的に捜査をする。迅速に初動調査を実施して、事故の原因が飲酒運転だということが疑われる場合は、絶対に逃げ得はさせない。不退転の決意でこれは追っかけないといかぬと思いますし、当然、危険運転致死傷罪ということを視野に入れて頑張ってまいる、そういう気持ちでございます。

市村委員 私は、ぜひとも大臣の御決意を警察の現場の皆さんも受けとめてやっていただきたいと思います。

 確かに、実は死亡事故については検挙率が九七・四%と高いんです。これはやはり、死亡した、これはちゃんとやらないかぬということで、大変高い検挙率を持っていただいておるということもありまして、かなり綿密な調査をされているとは思います。

 ただ、飲酒していたかしていなかったかというのは、やはりある程度大きなところになってきまして、逃げて、酔いをさまして出てきたときに、では、飲酒を証明するというこの調査、足取り調査ということなんですが、警察の皆さんは、いや、ちゃんとやるんだし、やっているんだとおっしゃるんですけれども、どうもちゃんとやっていないというような声もあるんですね、別の立場から見ると。やっていただいていないという声もあるんです。それについては、局長で構いませんが、別に、死んだから、亡くなった方がいるからちゃんとやるというんじゃなくて、ぜひともあらゆるケースについてもちゃんとやらないかぬ。特に死亡に関しては九七・四%の検挙率ですけれども、ただ、軽傷に関していうと、これが大体三分の一ぐらいに落ちるんですね。軽いのはいいんじゃないですかと言いたい気持ちもわからぬでもないですけれども、しかしやはり、事故に遭った方、また、その亡くなられた方の御遺族の方々の気持ちから考えると、ちゃんと調査してほしいよ、こういうことだと思います。

 だから、これについて、警察の皆さんはちゃんとやっているということだと思いますけれども、しかし、いま一つ足取り調査について徹底していただきたい、こういう思いでございますが、局長の決意をお聞かせいただきたいと思います。

矢代政府参考人 二点申し上げたいと思います。

 飲酒ひき逃げ、これを検挙した場合でございますけれども、やはり、この者が確かにひき逃げをしたということ自体を証明する上でも、その車がどこを何時何分にどう走ってきたか、確かにこちらに向かったかということは特定していく必要があるのでございます。そうしませんと公判廷でこれはひっくり返ることもあるわけでございまして、したがいまして、非常に綿密な調査をいたします。その過程で、車がどういう走り方をしておったか、あるいは飲酒があったかないか、このあたりをあぶり出していくわけでございます。これはもう徹底してまいりたいと思います。

 それからもう一つの、そもそも捕まえるという方でございますけれども、これは遺憾ながら、軽傷ひき逃げになりますと相当検挙率が落ちてまいります。これは努力したいと思います。捜査のやり方と申しますのは、ひき逃げがありますと、幾つかの手がかりが残ります。例えば、末尾ナンバーが五であるとか、あるいは白い塗膜片であるとか、あるいは車種までわかる場合もあります。

 しかし、それらの手がかりをもとに対象車種を絞り込みましても、相当の台数が出てくるわけでございます。それを一台一台車当たりしていきまして、持ち主のところに行きまして、見分いたしまして、傷があるかどうかというのを見てまいります。その台数が二十台、三十台ならすぐできるんですけれども、二百台、三百台、三千台ということで初めてそこにぶち当たるわけでございまして、膨大なエネルギーが必要でございます。人手をどれだけ使えるかということになりますと、やはり重大事故から順番にやっていくわけでございます。

 ただ、今回、ひき逃げにつきまして重罰化をしていただくということになりますので、そうしますと、ひき逃げ全体につきましてその捜査というものをさらに徹底していく必要がある、こう覚悟しております。

市村委員 もちろん、警察の皆さんの手間がかかるということもあって、なかなかすべてに対してきちっと対応できないというのも僕は本音だと思います。ただ、そこは、警察が実はどこまで努力しているかというのは、被害者とか御遺族の方というのは見ているんですね。だから、そのときに、やはり気持ちの問題というのもありますので、そういった一生懸命やるんだという気持ちでやるということ、まずその気持ちがあることが、いわゆる被害者であり御遺族の方の心の支えになっていくと私は思いますので、心のケアということからも、いや、難しいということじゃなくて、よし、やりましょうというところから始まってくることが大切かなと思います。

 それから、根本的な解決ということになりますと、まず大体、酒を飲まない、飲んだら運転しないという当たり前のことが徹底されなきゃならないわけですが、世の中には、その飲まないときに飲まざるを得ない、つまり、もう依存症になって、酒を飲まないとやっていられない、こういう方たちがいらっしゃるわけであります。

 つまり、アルコール依存症の問題であります。これにつきまして、これまでの取り組みにつきまして、きょう厚生労働省さんからもいらっしゃっていると思いますが、厚生労働省が何をやってきたか、これまでの取り組みをごく簡単に教えてください。

中村政府参考人 お答えいたします。

 アルコール依存症に関しまして適切な医療が提供されるということは重要でございますけれども、厚生労働省といたしましては、一つとしては、精神保健福祉センターや保健所におけるアルコール関連問題に関する相談対応や訪問指導、さらには知識の普及啓発に対する支援を行っております。

 二つ目といたしまして、厚生労働科学研究におまして、アルコール依存症の方に対する効果的な支援方法を開発するための研究を行っております。

 また、国立病院機構の病院でございます久里浜アルコール症センターにおきましては、医師、保健師等を対象とした専門的な研修を行っておるところでございます。

市村委員 これまで厚生労働省を中心として、アルコール依存症については、るるいろいろな対策をとられてきたと思います。しかしながら、今回、それを恐らく強化するという意味で、内閣府に常習飲酒運転者対策推進会議というのができたということをお聞きしております。

 きょうは平沢勝栄副大臣にもお越しいただいていますが、この会議の目的ということと、何をされようとしているのかということをぜひとも強くおっしゃっていただきたいと思います。

平沢副大臣 御指摘のとおり、飲酒運転の撲滅は極めて重要なわけですけれども、とりわけアルコール依存症の者の対策が重要であるわけでございまして、こうしたアルコール依存症の者の常習飲酒運転対策、こういったことを推進することが飲酒運転を根絶するために極めて重要である。

 こういった観点から、本年の四月に、関係省庁の課長級で構成される常習飲酒運転者対策推進会議、こういった会議を設置したところでございまして、この会議では、医療関係者、NPO等の有識者の意見も聞きながら、アルコールインターロック装置等の活用、あるいは警察や矯正施設と医療機関との連携、あるいは飲酒運転違反者に対する講習のあり方等について検討を進めているところでございます。

 今後とも、今御指摘ございました、このアルコール依存症の者等の常習飲酒運転対策を積極的に進めてまいりたいと考えております。

市村委員 ありがとうございます。

 先ほど国家公安委員長もおっしゃっていました、昔の日本の社会というのは、酒を飲むことが、ある種、社会の常識と言っちゃ変ですけれども、ビジネスの常識といいますか、何か、酒を飲めないやつは一人前じゃないみたいな雰囲気もあったかもしれません。

 私は個人的にお酒が好きなので、酒は飲んでも飲まれるなということをやはり常に心にとめて飲んでいるつもりでありますけれども、中には、依存症になって、理性が働かないまま飲んでしまう、我を忘れてしまう、そして運転をしてしまう、事故を起こしてしまう、こういうことにつながることもあるということで、今、平沢副大臣がおっしゃったように、恐らく内閣府でやるというのは、かなり強い政府の取り組み、この問題に対して強い認識を持って取り組んでいこうという心のあらわれだ、こう思いますので、ぜひともこれを強化していただいて、アルコール依存症の問題に取り組んでいただきたい。

 特に、私も阪神・淡路大震災の後の復興事業に三年ほど携わっておりましたので、アルコール依存症で孤独死されるケースというのはたくさん見てきました。そのときも、アルコール依存症の問題については、これが大変問題であるということを、当時、NPOの皆さんとも議論したこともあります。

 だから、これは、実は今日的な問題だけじゃなくて、もう長くある問題でもありまして、特に今回、自動車社会と結びつくとこれが凶器となり得る、しかし本人たちは自覚がないということになってくると、これはやはり、さっき副大臣おっしゃっていただいたように、撲滅につながっていかないということになりますので、ぜひとも強い取り組みをお願いしたいわけであります。

 それから、ちょっと話が変わるようなんですが、きょう、水野法務副大臣にお越しいただいていまして、戸籍制度、これは関係ないようで実は関係ありまして、戸籍制度が今度電子化ということになっています。今、その過渡期だと思います、電子化の過渡期。

 実は、戸籍が電子化されたときに、移す項目というのが、それはその自治体で決めていいそうなんですが、今回、電子化の過程で、電子化以前に、例えばお子さんが亡くなられたという方がいらっしゃるとします、それこそ交通事故等でお子様を幼くして亡くしてしまったと。電子化したら、電子化した後のデータには亡くなられたお子さんの名前はもう載っていない。戸籍をとりに行った、抄本をとりに行った、謄本をとりに行った、そうしたら子供の名前が消えてしまったということで、大変心を痛めていらっしゃる御家族が、御両親なり親御さんがいらっしゃるという問題が実はあります。

 この問題について、今の技術は発展していますから、実はそんなに入力は難しい問題ではなくて、戸籍に、希望があればですよ、全部の方の名前を入れるんじゃなくて、やはり亡き子供の姿を、戸籍の中にあったということ、これで自分は、ああ、この子がいたんだということをそこに見たいと言われる方のお気持ちに沿って、何とか戸籍に、亡きお子さんたちの、子供の名前を残せないかということを私は思っているわけであります。

 どうでしょうか、このことについては、副大臣、法務省としてはどういう御見解を持っていらっしゃいますでしょうか。

    〔戸井田委員長代理退席、委員長着席〕

水野副大臣 今、戸籍の電子化、コンピューター化が進められておりまして、多分、人口ベースでは七割ぐらいの戸籍がコンピューター化されてきているわけなんですけれども、戸籍というのは、国民の親族的身分関係を登録して、それを公的に証明する公文書でありますから、その記載の統一性を確保するために、一定の形式や方式に従いこれを記載すべきものというふうにされております。

 今、委員御指摘の、戸籍に亡くなられたお子様のお名前が記録されないことに関する御心情については十分お察しをいたすところなんですけれども、現在の取り扱いというのは、戸籍の統一性などの観点から相当のものというふうに考えておりまして、亡くなられたお子様のお名前が記載された戸籍の証明が欲しいという御要望に対しては、コンピューター化以前の紙戸籍も、これは百年間保存でございますから、こちらの方を活用していただければというふうに我々考えておるところでございます。

市村委員 副大臣、今の、紙、つまり原本をもとに謄本なり抄本なり欲しいといった場合は、では、お子さんの名前も載った謄本なり抄本が出てくるというふうに受けとめていいんですか。これはどうなんですか。

水野副大臣 そういうことでございます。

市村委員 わかりました。では、謄本、抄本に名前は載ってくるということですね。なるほど、それならいいんですが。

 ただ、大臣、この戸籍法施行規則の中には、できる規定、省略することができる規定でありますから、別に省略しなくてもよかった部分はあるんですね。

 だから、亡くなられたお子さんの名前を、原本に載っている、謄本、抄本には出てくるということですけれども、やはり新しい磁気データにも残したい、こういう場合、省略することができるということは、省略しなくてもいいということでありまして、これについては、どうなんでしょうか、市町村の判断で、それは別に残したいなら残してもいいということで考えてよろしいんでしょうか。

水野副大臣 御指摘のできる規定のお話は、恐らく先生御指摘されているのは、戸籍法施行規則の附則第二条の一番最後のあたりの、「戸籍法施行規則第三十七条ただし書に掲げる事項を省略することができる。」という、そのあたりを指していらっしゃると思うんですけれども、おっしゃるとおりに、この文言はできる規定でございますので、できるということであって、やらなかったら、では直ちに違法行為なのかというと、そういうことではないというふうに考えております。

 ただ、一方で、先ほど申し上げたように、全国統一性だとか、そういうものも戸籍では重要なことだというふうに思っておりますので、我々としては、そういう意味でいうと、亡くなられたお子様については、心情的にはまことに申しわけございませんけれども、それが載っていないという形での、全国統一的になっている方を進めてはおりますけれども、できる規定ですから、では違法かどうかとかというふうに問われれば、その市町村の判断で、必ずしもそうしなくても違法ではないというふうに考えております。

市村委員 それで、実は今さっき副大臣がおっしゃったように、まだ七割なんですね。あと三割、まだ磁気化されていないんですね。

 過渡期という言葉をどうとらえるかなんですが、私は、まだ一〇〇%電子化されていないならば、全体的な意味では過渡期だと思っているんですけれども、この間法務省の皆さんと議論したら、いや、もう終わったところはもう終わった、市町村によって、宣言したところはもう終わっているから、そこは変えられない、ただ、これから、まだ電子化していないところにおいては、できる規定だから、これは残そうと思えば残せます、こういう話なんですね。

 ただ、全体的な意味で、今電子化の過渡期であれば、もし市町村が、今おっしゃっていただいたような判断で、できる規定ですから、では、亡くなったお子さんの名前もいわゆる磁気化、電子化にしよう、こういう判断をしたとした場合、全体的に過渡期だという意味で私はまだできるんじゃないかというふうに思っているんですが、その見解を最後にお聞きして私の質問を終わりたいと思いますが、よろしくお願いします。では、局長、よろしく。

寺田政府参考人 これは、今も副大臣から御説明申し上げましたとおり、確かに、法律的にはできる規定でございますので、それぞれ市町村の判断でおやりになれる部分があるわけでございます。現に、そのほかのことでございますと、いろいろ市町村から、こういうふうにしたい、ああいうふうにしたいというようなお考えも出されることがございますので、私どもも、そういうことを一概にシャットアウトするというつもりはもちろんございません。

 ただ、一方で、既にある時点までのコンピューター化にはこれは載るけれども、ある時点からは載らないというようなことをそれぞれの市町村でばらばらにされるということは確かにつらいことでございますので、私どもも、おおよそお子さんが載っている戸籍が全くないということになりましたら、御心情を考えましてまたいろいろ考えるのでございますけれども、先ほど申し上げましたように、むしろオリジナルな紙の戸籍につきましてはそういうものを残しておりまして、そういうものこそ、また証明書として、現におとりになるというおつもりがあれば、それはとれるわけでございますので、総合的に考えれば、今はやはり全国統一ということを維持していくのが相当ではないかと考えているところでございます。

市村委員 また改めてお時間ください。また、道路交通法改正についてはまた来週もお時間いただいておりますので、委員長、またよろしくお願いします。

 どうもありがとうございました。終わります。

河本委員長 次に、吉井英勝君。

吉井委員 日本共産党の吉井英勝です。

 私は、まず、飲酒して悪質な危険運転を行う者のために危険にさらされ、命を奪われるなどということはもう絶対許されない。そして、こういうことが、何度も何度もそういう事故が発生しているのに、それでも飲酒による危険運転によって犠牲者が生まれ、被害者が生み出されているというこのことに対しては、本当に腹の底からの憤りというものを感じております。

 それだけに、今回の法改正については、こうした悪質な危険運転を未然に抑止していく効果が生まれてくると思いますし、また、犠牲者をこれ以上つくらないという立場からも、日本共産党はこの法案に賛成をする、こういう立場で臨んでおります。

 その上に立って、幾つかのことを質問したいと思います。

 最初に、政府参考人の方に伺っておきますが、交通事故による死亡件数ですね。これは、調査室の方から出している資料の中でもグラフ、データが示されておりますし、警察庁の方からもいただいておりますが、交通事故による死亡件数というのは、二〇〇一年の八千四百十四件から二〇〇六年の六千百四十七件へと、二七%減少しておりますが、飲酒運転による死亡件数というのは、同じ期間で千百九十一件から六百十一件へと大幅に減少しているというのを見ることができます。

 しかし、二〇〇四年以降は、二〇〇一年からぐっと落ちてはいるんだけれども、少し落ち方がとまってきているんですね。二〇〇六年度についても、警察庁の方でつくっておられるデータを見ておりましても、一月から六月期の上半期で、この三年間を見てみたときに、上半期の飲酒運転死亡事故が前年同期に比べてふえている、そういう現象も見ることができます。

 ですから、警察庁の方として、飲酒運転の減少が、最初は二〇〇一年からぐっと減ったんだけれども、最近サチュレートしてきているといいますか、前年同期で比べれば前半期は逆に少し上向いてきているという、こうした問題についてどのような分析をしておられるか、伺いたいと思います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘いただきましたように、昨年上半期につきましては、飲酒死亡事故はむしろ増加するということで、これがまた今回の道路交通法改正をお願いする一つの背景にもあるわけでございますが、これの、飲酒死亡事故あるいは飲酒事故全体が減少幅が鈍化してきておりますことにつきまして、私どもは次のように考えます。平成十三年の道路交通法改正によりまして大幅な制裁強化が図られまして、また、飲酒運転、制裁の対象となるアルコールの基準値についても引き下げる、そういうことで、運転者の意識あるいは行動の変化、また飲酒運転防止のための社会環境の整備、これらが大幅に進んだ、これが制度改正当初大きく減少した原因だろうと思います。

 ただ、それらの効果が及ぶところにつきまして、ある意味ほぼ一巡してといいましょうか、効果がなされて、これらによってはいまだ変えるに至らない部分、運転者層あるいは社会の状況というのが残っているんだろう、こういうふうに見ておりまして、昨年の九月以降はさらに減少はしておるわけですけれども、その前に減少が鈍化しておりました事情というのはそのようなものだろうというふうに考えております。

吉井委員 二〇〇一年法改正をやった。法改正をして、飲酒運転に対する罰則の強化など厳罰化すると、当初は確かに効果が出てくる。一定の年数がたつと効果が薄れてくるといいますか、抑制効果が弱くなってしまうといいますか、そういうことですと、何かまたそこで厳罰、しばらくするとまた薄くなって厳罰化というふうなことを繰り返しているだけでは、なかなか本当の解決の道には近づいていかないのではないか。

 だから、そういう点では、この二〇〇一年の道交法改正でせっかく当初効果があらわれてきたのに、抑止効果が時間がたつと薄れてしまうというふうなことではやはりうまくないわけで、今、罰則強化の抑止効果が現実には失われてきている感じがしますから、ここのところをもう少し突っ込んでどういうふうに見ていらっしゃるのか、これを伺いたいと思うんです。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 厳密に申し上げますと、効果がもしなくなれば、事故はまた反転して上がるわけでございます。ただ、これは幸いずっとまだ抑えられておりますので、そういう意味では効果はやはり持続しているんだろうと思うんですね。ただ、それをさらに減少させるためにはまだ力不足だ、こういうことであろうと思います。

 そこで、御指摘のように、今、制裁とそれから対策は、結局のところは、ドライバーあるいは国民の意識を変え、意識を変えることによって行動が変わるわけでございますので、そのためにさまざまな対策を組み合わせるわけでございます。

 したがいまして、今後進めていくに当たりましても、当然、現在の制裁を前提としながらも、さらにほかのものを組み合わせて、まだ減少させるということは多分可能なんだろうと思うんですね。実際に、昨年暮れまでにかけて相当やりまして、減りました。

 しかし、さらにこれを長期的に安定的に減らしていこうということになりますと、そういう対策全体の中でも、象徴的な制裁の強化というのはやはり今回お願いいたしまして、それによりましてさらなる一段の安全水準の実現というのが図れるんだろう、そういう関係ではなかろうかと思います。

吉井委員 政府が進めている交通安全対策という点で、交通社会を構成する一つは人間、人の要素、二つ目には車両等の交通機関の問題、それから、三つ目には交通環境という三つの要素、その対策を総合的に進めていくというのがこれまで皆さんが言ってこられたことで、これを基本に置いているわけですね。

 その中で、飲酒運転を根本的に抑止するためには、一つは、飲酒運転を認めるような社会の風潮を是正して、社会挙げて飲酒運転を撲滅する世論をつくるという世論の面からのものがありますし、それから、やはり飲酒運転を行わない自覚を深めさせる、それは教育的なものもあれば啓発的なものもあれば、同時に、その人自身がいわばアルコール依存症に陥っている人であれば、医療的な取り組みも含めて、それをやっていくということが大事だろうと思うんです。

 あわせて、技術的な取り組みとか機械の面からの取り組みという点では、飲酒感知のインターロック自動車開発などの義務づけというものをやはり早期に図っていくということが必要だと思うんです。

 私も交通事故を考える国会議員の会の一員ですが、ことし三月の総会でもこれが議題になって、自動車工業会から来てもらって説明を受けたわけですが、技術的には既に開発されている、しかし、コストの問題などがネックになっているというお話でした。このインターロックシステムなどについて、開発と普及に行政としてどう取り組みを行っているのか、またどう推進していくのかということでは、これは大臣、やはり政府として、本腰を入れてこの取り組みを強めていくということが大事だと思うんですが、ここは大臣に伺っておきたいと思うんです。

溝手国務大臣 先ほど内閣府の副大臣が申し上げましたあの会議を発足して、そこでもインターロックの問題の勉強会を既にスタートしているところでございますが、警察庁においては、アルコールを検知するとエンジンがかからない、いわゆるインターロック装置については、本年一月に、アルコール・インターロック装置の技術課題検討会というのを立ち上げまして、アルコール・インターロック装置の国内外の動向等の調査、技術指針案の検討を行っているところでございます。警察は、もちろんこれからも参加して、積極的に取り組んでまいりたいと思っております。

 現段階では、道路交通法を改正して、飲酒運転の違反歴のある運転者の車に備えつけるよう義務づけをするということが、海外もそのようでございますが、そういう方向が示されているのではないかというように承知をしているところでございます。

吉井委員 次に、法律の酒類提供の問題にかかわって幾つか伺っておきたいと思うんですが、飲酒運転のおそれのある者への酒類提供、車両提供、飲酒運転の車への同乗者について、これまでは、これらの行為について幇助犯、教唆犯として立件してきたわけですが、今回、これは独立した犯罪として罰則を設けているわけですね。これを類型化し、独立させた理由は何なのかということを伺います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のように、幇助犯の中から、車両の提供、酒類の提供、それから同乗を求める行為、これを抜き出しました。

 それで、直接的な効果といたしましては、幇助犯につきましては正犯の二分の一までの処断刑でございますけれども、やはり周辺者が飲酒運転を助長しておる側面があることに着目して、制裁を強化する必要があるということになりますと、これを抜き出してくる必要があります。今回抜き出して制裁を、車両の運転につきましては、本犯あるいは教唆犯並みにお願いするということでございます。

 酒類の提供と同乗は、ちょっとワンランク下でございますけれども、重くするということでございます。

 それからもう一つは、やはりこれを道路交通法の本文の中に書き込みますので、そうしますと、現在は酒類の提供だけが書いてありますけれども、車の提供、同乗というものを書きますと、これが規範として社会に定着する非常に大きな力になると思っています。

 その二つのことを念頭に置きながら、今回の制度改正を御提案しているわけでございます。

吉井委員 それで、酒類の提供者について、試案段階、当初検討しておられた段階からすると、罰則を少し軽くしているように思うんですが、その理由は何ですか。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 車の提供というものと酒の提供というものは、これは二つとも飲酒運転が成立する上で欠くことのできない二つの要素でございました。そういうわけで、車両の提供というものと酒類の提供というものを相当に制裁を強化する必要がある、こう考えて検討を始めたわけでございますが、検討してまいりますと、やはりこの二つの間に、車の場合には、飲酒をしている人に車を提供するわけですから、すぐに飲酒運転が成立してしまう。そういう非常に直截的な、直接的な関係になります。ところが、酒類の場合には、提供して、飲んだ人が運転するその段階で、車両の提供とは距離が若干あるわけでございます。

 そこのところの指摘も受けまして、そうしますと、やはりここのところについてはそれに応じた差をつけるべきかということで、酒類の提供についてワンランク下げて、しかし幇助犯よりは相当重くした、こういうことでございます。

吉井委員 これは罰則がかかるものですから、それだけに、「車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。」、この「運転することとなるおそれがある者」ということについて、かなり具体的にきっちりしておかないと、法律のことですから、法律が生まれてしまったときに、それがいかようにでも広がったり縮まったりすると、これはやはり困った話ですから、この「運転することとなるおそれがある者」というのはどういう場合を言うのか、伺います。

矢代政府参考人 お答え申し上げます。

 飲酒運転をすることとなるおそれがあるとは、酒類の提供を受ける者が飲酒運転する意思のあることが明らかで、酒類を提供すればその者が酒類を帯びて車両等を運転することとなる蓋然性があるということでこれを認定することになります。

吉井委員 今、蓋然性という言葉なんですけれども、ただ、非常にここは難しいところだと思うんですね。

 例えば、悪意のある店の経営者なり店の人が提供する場合、これははっきりしているわけですよね。例えば、車で来て、車で運転して帰っていくことを知りながら酒類を提供する、とにかく、何があろうと自分は金もうけさえすればいいという発想ですね、こういうのははっきりしているわけですよ。

 しかし、多くの方の場合は、善意の経営者であり善意の店で働いている人の場合ですから、仮に駐車場がある店舗で、車で運転してきた人に、運転して帰ることを知りながら提供すればこれは論外ですけれども、そういうことがわからないという場合も当然あるわけです。

 それから、パーキングに置いてきて自分のところの店にやってきた、その人がまさか飲酒後運転して帰るなどということはわからないという場合ですね。そういうことがわからないで注文を受けてお酒を提供したという場合とか、あるいは、本人が代行運転、車の代行を頼んで乗らずに帰るんだというお話なので、それを信じて酒類を提供する場合とか、個々具体の話になってくると、なかなか、この一つ一つをきっちりしておかないと、「おそれがある」という表現というのは、法律として生きてしまったときには、中身があいまいなままでは大変なことだと思うんです。

 さらに、例えば飲酒運転をやった事故者が三つの店を回ったという場合ですね。最初のAという店、Bという店で、これは友人と一緒に飲んだんだけれども、友達にも、もうきょうは車なんか乗らずに帰ると、信じて別れた。ところが、Cの店へ行って、そこでまた飲んで酩酊状態になったという場合ですね。それで、酩酊状態だけれども、ついでにもう会社が近いことだからということで会社へ戻って、営業車でもって運転して家へ帰ってしまったというふうな場合ですね。

 では、このAの店の酒類を提供した人は責任を問われるのか、Bの店の人はどうなのか、Cの店の人はどうなのかとか、AやBで一緒にお酒を飲んだ友人たちはどうなってくるのかとか、そういうことをきっちり一つ一つ、はっきりある程度厳密にしておかないと、結果的にはその人は乗ったわけですけれども、しかし、おそれがある者に友人が勧めたというふうになるのかどうかとか、AやBの店ではまさかと思っているのに、それは同僚の飲み会とか同窓会というぐらいのものでわからずに出した、それも問われてくるのかとか、この蓋然性という問題は、確かに蓋然性は蓋然性という言葉であっても、蓋然性の一言ではなかなか簡単においておくことのできないものであると思うんですね。

 こうした具体の事例を考えていくときにどうなってくるのか、伺いたいと思うんです。

矢代政府参考人 確かに御指摘のとおりでございまして、この蓋然性を当てはめていくときに、まさに個々具体のもので考えていくことになります。

 それで、また一つには、可能性があるからということで、これは常に可能性があるわけでございまして、したがいまして、その状況から、これは結局のところ飲酒運転をして帰ることになるという道筋ですか、これが見えている、そうなるだろう、そういう状況が前提としてありまして、かつそれを認識している必要がございます。認識をしていなければ、それはやはりわからぬわけでございます。したがって、まず、そういうことがあって、それでそれを認識しているという場合になります。

 そこで、いろいろ例を挙げていただきましたので、それについても、結局のところは個々具体的に判断していく必要があるわけでございますけれども、頭の体操的に考えてみますと、例えば、代行を呼ぶと言っているような場合ですと、代行を多分呼ぶんだと思うんですね。ひょっとしたら呼ばないかもしらぬですけれども、しかし、呼ぶんでしょうということで、それが実は、そう言ったけれども、そもそもその地域は代行なんかなくて、そんな代行で帰ることなんかあり得ないことがわかっていながら、承知で、言葉の上ではそう言っているというような事情が特段ない限りは、やはりそれはその認識はないでしょう。

 それから、現実の問題として、代行を呼ぶかどうかというのは最後の段階で多分その本人が、運転者が決めるわけでしょうから、そういうものというのは個々具体的に考える必要がありますけれども、通常は、飲酒運転することとなるおそれがある者として酒類を提供したことにはならないというふうに考えられます。

 これは、パーキングで来ている場合でもそうですし、車で来ていることを承知しておりましても、それは車で帰るかどうかというのは、その状況によりまして、蓋然性がある場合もありますけれども、代行を呼んで帰る、そういう地域であれば、当然、飲酒運転することとなるとは言えないわけでございます。

 したがいまして、繰り返しになりますけれども、そういう単なる可能性でなくて蓋然性があるかという事実と、それからそれを認識しているかどうか、この二つで考えてまいります。

 そういたしますと、このA、B、Cということで競合するような場合でありましても、それは、それぞれAなりBなりCという立場に立っている者が、そのシチュエーションにおきまして、最後の飲酒運転という行動に至るであろうところについての蓋然性があるような状況であるのかどうか、あるいはそれを認識していたのかどうか。もし、その中でどなたかが実は蓋然性があって、それを知っておったというのであれば、その人はなるのであろうと思います。それで、まさかと思っておる、しかもそういう状況であるということであれば、それはならない。

 これは結局、言葉の上で整理していきますとそうなりますが、その運転者はいつも来ている運転者なのかどうか、それからその店の主人と顔見知りかそうでないのか、そういうお互いの関係でありますとか、それからその土地が本当に常に代行が来るような場所なのかどうであろうかとか、そういう一つ一つの事実関係によりまして認定する、こういうことになると思います。

吉井委員 きょうはポッシビリティーとプロバビリティーの議論をするつもりはないんですけれども、過疎のところと違って、都市部、都心部であれば、代行業者だって常にあり得る話なんですね。

 問題は、私は、「車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。」ということで、罰則がかかるということで、全く善意の人たちがある日突然に、あの事故をやった者とおまえ一緒に同窓会で一杯飲んでおった、飲ませたということになれば、これは青天のへきれきということになってきますし、それから、お店の人にしても、本来、代行業者もおるところで、代行業者を呼ぶからというお話で信じておったとか、そういうときに、突然、おまえさんはおそれがある者に対して酒類提供をしたとなってくると、これまた青天のへきれきということになってきますから、やはりある程度、それは具体的な内容に即した類型化したものをきちんと示しておくとかしなかったら、法律は法律の言葉としてとったんだけれども、後でその解釈や運用をめぐって、全く善意の人たちからびっくり仰天というふうなことになってしまっては、せっかく私たちが立法をするときに、私たちの意図するものや願いと異なることになってはやはりいけないと思うんですね。

 この点は、どういうふうにきちっと即応していくのかということと、これは国家公安委員長の方にも、公安委員会としても、やはりそういう混乱が生じないように、そこはきちっとしていくということをやってもらう必要があると思うんですが、最初に政府参考人、後ほど大臣の方から伺います。

矢代政府参考人 ただいまの御指摘の点は、これは罪刑法定主義の最も根幹のところでございまして、大事なところでございます。

 したがいまして、ちょっと今のお話の中身になりますが、酒を勧めるというのはその条文からは外れております、提供した者であります。しかも、おそれがあるわけで、こととなる者に対するおそれということで刑罰を科すわけでございますので、そのところの事実認定、概念というものは、これは刑罰を科すにふさわしいしっかりとしたものであるべきでありまして、またそういうものを考えております。

 ただ、御指摘のように、新しい条文でもありますし、なかなか皆さんにおわかりにくい点もあろうかと思いますので、この点は、具体例なども示しながら、こういうことなんだということがよくわかるように、この運用に当たっては十分に配慮してまいりたいと考えております。

溝手国務大臣 今局長から答弁を申し上げたとおりでございますが、とにかく、何をしてはならないかということははっきりしているわけですから、それをどうやって具体化して周知徹底するかということで、交通安全運動や免許の取得時とか更新時の講習とか、いろいろな機会をとらえて、やはりお互い、国民と法律との間にコンセンサスができるように努力していかなくてはいけない、このように思っております。

吉井委員 いずれにしても、これは、善意の人たちがある日突然罪に問われるというふうなことで、青天のへきれきというふうになることはもともと立法の時点では想定していないわけで、飲酒し、危険運転で人命を奪うような、そういう悪質な者に対してどう効果あらしめるかということが一番のポイントですから、そういう角度から混乱が生じないように、それは、きちっと進めていってもらいたい、このことを申し述べまして、時間が参りましたので、本日はこれで終わります。

河本委員長 次回は、来る十三日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時二十三分散会


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