衆議院

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第14号 平成13年11月28日(水曜日)

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平成十三年十一月二十八日(水曜日)

    午前十時三分開議

 出席委員

   委員長 保利 耕輔君

   理事 奥谷  通君 理事 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 長勢 甚遠君

   理事 佐々木秀典君 理事 平岡 秀夫君

   理事 漆原 良夫君

      荒井 広幸君    小此木八郎君

      太田 誠一君    熊代 昭彦君

      左藤  章君    笹川  堯君

      鈴木 恒夫君    高木  毅君

      棚橋 泰文君    谷川 和穗君

      西川 京子君    西田  司君

      林 省之介君    松島みどり君

      松野 博一君    松宮  勲君

      山本 明彦君    吉野 正芳君

      渡辺 喜美君    枝野 幸男君

      仙谷 由人君    肥田美代子君

      松本 剛明君    水島 広子君

      山内  功君    山花 郁夫君

      青山 二三君    樋高  剛君

      藤井 裕久君    山田 正彦君

      木島日出夫君    瀬古由起子君

      植田 至紀君    徳田 虎雄君

    …………………………………

   議員           太田 誠一君

   議員           長勢 甚遠君

   議員           保岡 興治君

   議員           谷口 隆義君

   法務大臣         森山 眞弓君

   法務副大臣        横内 正明君

   最高裁判所事務総局民事局

   長

   兼最高裁判所事務総局行政

   局長           千葉 勝美君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    山崎  潮君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治

   学研究科教授)      岩原 紳作君

   参考人

   (日本弁護士連合会司法制

   度調査会委員)      本渡  章君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月二十八日

 辞任         補欠選任

  鈴木 恒夫君     小此木八郎君

  中川 昭一君     林 省之介君

  山本 明彦君     高木  毅君

  吉野 正芳君     西川 京子君

  水島 広子君     松本 剛明君

  西村 眞悟君     山田 正彦君

  不破 哲三君     瀬古由起子君

同日

 辞任         補欠選任

  小此木八郎君     鈴木 恒夫君

  高木  毅君     松野 博一君

  西川 京子君     松島みどり君

  林 省之介君     中川 昭一君

  松本 剛明君     水島 広子君

  山田 正彦君     樋高  剛君

  瀬古由起子君     不破 哲三君

同日

 辞任         補欠選任

  松島みどり君     吉野 正芳君

  松野 博一君     山本 明彦君

  樋高  剛君     西村 眞悟君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案(太田誠一君外四名提出、第百五十一回国会衆法第三一号)

 商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案(太田誠一君外四名提出、第百五十一回国会衆法第三二号)




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     ――――◇―――――

保利委員長 これより会議を開きます。

 第百五十一回国会、太田誠一君外四名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案及び商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案並びに長勢甚遠君外三名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する修正案を一括して議題といたします。

 本日は、両案及び修正案審査のため、参考人として東京大学大学院法学政治学研究科教授岩原紳作君、日本弁護士連合会司法制度調査会委員本渡章君の両名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 両参考人におかれましては、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、岩原参考人、本渡参考人の順に、各十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきいただきたいと存じます。

 それでは、まず岩原参考人にお願いいたします。

岩原参考人 本日はこの審議の席にお招きいただきまして、大変光栄に存じております。

 何分急にお話をいただいたことであり、また、さきに、大変勝手ながら、私が加わっております研究会の本法案に対する意見書を先生方に送らせていただきましたので、本日は資料等なしに意見を申し上げさせていただきたいと思います。

 我が国株式会社のコーポレートガバナンスの主たる課題は、経営を活性化させて企業の競争力を高めること、経営者に対する規律を取り戻し、違法、不当な経営に対する株主等によるチェックが有効に機能するようにすること、そして、根本的には、株式の持ち合い体制のもとで株主の利益が十分に配慮されていなかったことを改めて、株主利益を重視し、収益性をより高める経営がなされるようにすること等にあると考えております。

 これらの観点からは、株主代表訴訟の違法、不当な経営に対するチェック機能は損なわれるべきではなく、また、何よりも、経営の妥当性を監督する取締役会の改革こそまずなされなければならないと考えております。

 そのような目でこの法案を拝見いたしますと、残念ながら、基本的な方向では疑問があり、理想からはやや遠いものと考えます。しかし、本法案のもともとの案と比較しますと、与党間の調整により、国会に提出された法案では改善がなされておりますし、また、このたび、与野党間の調整による修正でさらに改善されるというふうに承知しております。そういった点は率直に評価したいと考えております。いわば、疑問の残る法案ではございますが、政治的な一つの妥協としては許容できるものになるように考えております。

 それでは、法案の具体的な内容に即して意見を申し上げます。

 法案の二百六十六条七項柱書きが修正されまして、株主総会の普通決議ではなく特別決議によって取締役の責任の事後的免責がなされるように修正されますことは、大変大きな改善であるというふうに考えております。この点ではほぼ満足すべき内容になったように思われます。また、免責限度額の定めの算定基準となる報酬の定義を広くとらえるようにしたことは、なお関連会社からの収入などが含まれていないといった限界はございますが、かなりの改善であるというふうに考えております。また、報酬の二年分という限度を、代表取締役は六年、それ以外の社内取締役については四年に延長したことも評価できると存じます。取締役の在職期間にある程度比例した限度を定めることとなり、社内取締役についてまで限度を設ける必要があるのかという疑問にもある程度こたえる内容になったからでございます。

 定款に基づいてあらかじめ責任免除を認める事前免責の手続が法案に設けられています。この事前免責の手続は、事後免責とは異なり、株主としては、責任発生の具体的な事情ですとか損害の額の大きさ、その他具体的な免責を認めるべき事情がわからないまま定款の免責規定について同意をしなければならず、しかも、その定款規定は将来の株主をも拘束するという点からは、株主の権利保護の観点から若干問題のある制度だと思っております。

 ただ、この事前免責制度も、与党間の調整の段階で、責任限定の必要の高い社外取締役については定款規定に基づき直接責任の軽減を図ることとし、また、社内取締役については定款規定に基づき取締役会によって免責を行うことといたしまして、株主からの異議の制度を設け、さらに与野党間の調整でその異議を容易にするようにすると承っております。この事前免責についてはなお疑問が残りますが、これらの調整によって一定の改善がなされたことは評価したいと存じます。

 提訴株主の資格を同時保有原則の方向に変えるというもともとの法案は、与野党調整により法案から除かれると承っております。いわゆる同時保有原則につきましては、確かにすぐれた点もあるのでございますが、一方で、実務上うまく機能するか疑問がある等の問題がございますので、この同時保有原則を採用しないことにしたということは賢明だったのではないかと考えております。

 以上のように、与党調整、与野党調整により法案がかなり改善され、認めがたいような大きな問題は除かれたというふうに理解しております。ただ、なお本法案には、その基本的な方向や一部の内容になお懸念される点が残っており、それが今後の商法改正等の立法にかかわってまいりますので、今後の立法のあり方への要望を最後に申し述べさせていただきたいと考えます。

 最初に申し上げましたように、我が国の会社のコーポレートガバナンスの第一の課題は、経営を活性化させ、企業の競争力、収益力を高めることにあると考えております。そのためには、経営の妥当性を監督する取締役会の改革こそが目指されるべきであり、来年の通常国会を目指して検討が進んでおります社外取締役制度の導入などの取締役会改革が実現されることを何よりも強く期待したいと思います。

 それに対しまして、本法案では監査役制度の強化が目指されております。これには一定の効果が期待されますが、それは限られたものであり、取締役会の改革の方向とはむしろ抵触する側面がございます。監査役の権限はあくまで会計監査と違法性監査に限定されておりまして、経営の妥当性、企業の競争力に関する監査は行えないわけであります。

 そして、会計監査、違法性監査の面においても、監査役制度の強化が戦後たびたび図られてきたにもかかわらず、なお顕著な効果は上げていないということは否定できない事実でございます。

 本法案程度の監査役制度の改正では、やはり大きな期待はできないように考えております。むしろ、本法案によりまして社外監査役の要求の強化などが実現いたしますと、監査役の数をふやさざるを得ないことになりまして、取締役の数を減らし、取締役会の機動性、機能の向上を図ろうという取締役会改革とはやや逆行する側面があるというふうに懸念しております。

 例えば、監査役は取締役会に出席しなければなりませんが、取締役よりも監査役が多数出席する取締役会を開かざるを得ないということになり、機動性を高めようという取締役会改革とはやや抵触する面が出てくる懸念がございます。

 その意味では、来年に予定されております取締役会改革の会社法改正を待って、それと整合性のとれた形での監査役や株主代表訴訟の見直しがなされるのが本来は筋であったように思われます。

 ぜひお願いしたいことは、本法案が成立したとしても、それとは別に、社外取締役制度の導入など、取締役会改革をぜひ進めていただきたいということでございます。

 なお、本法案の監査役制度の強化は、実際上の問題も起こし得る可能性があることは一応指摘しておきたいと思います。すなわち、本法案では、社外監査役が監査役中の半分を占めることだけが要求されております。それは、社外監査役がいわば拒否権は持つけれども、みずからの意思を監査役会において実現するということはできないということを意味いたします。

 最悪の場合は、社外監査役と社内監査役が半数ずつで互いに拒否権を持ち合い、結果、会社経営がデッドロックに乗り上げるという危険がないわけではございません。特に、本法案は、監査役の選任議案を株主総会に提出する際には監査役会の同意を必要としておりますので、社外監査役と社内監査役が対立して、互いに相手側の監査役選任議案を拒否いたしますと、監査役選任ができなくなるという事態も予想されるわけでございます。

 次に、代表訴訟に関する改正についての根本的な懸念を申し上げますと、もともとの発想として、代表訴訟が乱用されており、必要以上に経営マインドを萎縮させているという認識が見られたように思われます。しかし、これはやや行き過ぎた見方かと存じます。

 確かに、平成五年改正後、代表訴訟の数はふえましたが、これはバブルの崩壊による不況や不祥事の発覚の影響が大きく、むしろ、それだけ会社経営にあった問題に代表訴訟が光を当てたというふうに理解すべきであると思います。その後は、むしろ代表訴訟の件数などは落ちついてきております。

 そして、責任が認められた判決は数が少なく、ほとんどは贈収賄等の非常に悪質な違法行為がなされた事件等であります。また、賠償額も大体リーズナブルな範囲、一億円以内ぐらいにおさまっております。

 もっとも、最近、大和銀行の代表訴訟一審判決が巨額の賠償を認めて大変問題になりましたが、私は、この判決は極めて異例な判決であって、恐らく今後変更される可能性が多いのではないかと考えております。

 また、一部の弁護士が乱用的な代表訴訟をしているという例も見られないわけではございません。しかし、これは、裁判所による担保提供命令などによって退けられておりまして、今後改善していくべきは、第一には、裁判所の訴訟指揮をよりめり張りのきいたものにして、乱用的な提訴は速やかに担保提供命令等によって退け、また、本案訴訟でも、経営者の裁量内にあるような事件であれば速やかに請求を棄却するような訴訟指揮をすべきであると思われます。

 もう一つは、そういった乱用的な訴訟追行を行った弁護士に対しましては、弁護士会が自律機能を働かせてきちんと処分等を行うということも今後期待したいと思います。

 これらを司法改革の中で実現していっていただきたいと思います。

 最後に、代表訴訟を制限する立法だけでなく、その不十分な点を改めてより機能するようにする法改正も今後は考えていただきたいと思います。

 例えば、大和銀行の代表訴訟一審判決で賠償が命じられましたが、大和銀行が株式移転、株式交換によって持ち株会社化してしまいますと、せっかくの認められた賠償が却下されるということになります。これは興銀の代表訴訟でも既に起きていることでございますが、こういった結果は明らかにおかしいと思われます。

 また、本法案で、会社が被告取締役側に補助参加して、会社が持っている訴訟資料等を被告のために提供することが可能になりますが、一方で、最高裁の判例は、代表訴訟で原告株主が文書提出命令によって会社の持っている文書を利用することを厳しく制限しております。これでは原告株主が平等な訴訟追行を行うことは極めて困難でございます。

 このような立証上不利な扱いを受けた結果、十分に立証できず乱訴だと言われたのでは、株主の方が浮かばれません。公平な裁判を実現するためにも、会社に証拠保全義務や株主への証拠の開示等にも応じる義務を課すなどの立法が検討されてしかるべきではないかと思います。正当な代表訴訟はもっと活用できるようにする立法も必要だと考える次第でございます。

 以上、私の意見でございます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

保利委員長 ありがとうございました。

 次に、本渡参考人にお願いいたします。

本渡参考人 本渡です。

 私は、こういう問題で意見陳述をするということは初めてなものなので、きょういただいた法律案の概要に即してちょっとコメントをさせていただきます。

 まず、監査役の機能の強化ということですが、まず、監査役の取締役会への出席義務及び意見陳述義務ということは、現時点においても、権利は義務を伴うということで、監査役は取締役会へ出席して、違法だとかそういうことがあれば意見を言わないといけないという解釈になっておりますので、現在の運用を明文化するということで何ら問題がないと考えております。

 次に、社外監査役の員数につきましては、これは、商法特例法上の大会社において、現在三人中一人が社外監査役じゃないといけないということになっておりまして、それに対して、私の知っているような会社は、大体社外監査役を二名選任しております。したがって、大体四名監査役がいるという形になります。それはなぜかといいますと、もしかの場合に、社外監査役を選任するために臨時株主総会を開くということが非常に大変なことなので、前もって社外監査役を二名選任しているということになります。

 そうすると、今回の改正で半数以上ということになると、法律上、二名は社外監査役が強制されるわけですから、そうすると、結局は三名社外監査役を選任しておくという会社がふえるんじゃないかなという気がいたしまして、その点は会社にとってかなり負担になるという気がいたします。

 それは、今、中間試案が出されておりまして、大会社については社外取締役を一人選任しないといけないという案が出ておりまして、それに対して経団連の方は反対しております。それは何で反対しているのかなと思いますと、上場会社においては、日経の新聞なんかによっても、大体四〇%の会社がもう社外取締役を入れているわけですね。それなのに何で反対するかというと、やはり法で強制されれば、もしかのことを考えて二人ぐらいは入れておこうとかいうことになるんじゃないかなという気がしておりますので、その点、この半数以上というのも厳しいかなという気が私はしております。ただ、別に反対するわけじゃありません。これはこれでもいいと思います。

 ただし、この中間試案の方で、取締役会を活性化して、社外取締役を入れて、先ほど岩原先生もおっしゃっていたように、違法性監査、会計監査だけしかできない監査役による監査ではなくて、妥当性監査、経営をちゃんとやっているのかどうかの成果も監査できる社外取締役によってコーポレートガバナンスを充実させようという考え方はかなりよいと思われますので、来期の通常国会のときには、この監査役の点とあと社外取締役の点でまた検討しなくてはいけなくなるかもしれません。別に反対するわけではないですけれども。

 あと、監査役の任期については、三年から四年に延長するというのは、監査役の権限を強化する、身分を保障する意味からもよいのではないかと思います。

 また、監査役の辞任に関する意見陳述権、これもよいと思います。

 あと、監査役の選任に関する監査役会の同意権及び提案権、これについては、何か、社内監査役と社外監査役が同数だから意見が対立してデッドロックに陥るんじゃないかというような指摘もございますが、そんなことをやっているような会社はどうしようもないということで、別にこれでもいいんじゃないか、こういう規定があっていいと思います。

 次に、取締役の責任の軽減のことなんですが、取締役というのは、会社と委任契約を結びまして、委任契約に基づいて会社のために仕事をしているわけです。会社のために仕事をして、まあ、悪いことをやろうと思ってやったんだったらそれは全責任を負わせていいと思いますが、会社のためを思ってやったにもかかわらず、その判断が不適切であって責任を問われるという事態になった場合にも、大体、一生懸命仕事をやって利益が出た場合、それが何千億と仮に利益が出ても、それは会社の利益になって、それで社長とか取締役の報酬というのは何千万というような形ですから、利益だけ会社に行っちゃって、損害が出たときは全部賠償しろよというのではちょっと公平じゃないと考えております。こういうのを報償責任の理論といいますけれども、そういうような考えがありますので、取締役の責任を軽減するという基本的な考え方は、私は賛成しております。

 そして、今回の免除のやり方で、代表取締役は報酬等の六年分、代表取締役以外の社内取締役は報酬等の四年分、あと社外取締役は報酬等の二年分というのは、大体、仮に社長の報酬が六千万だとすれば六年分で三億六千万ということですから、今それ以上の賠償が認められたというケースはほとんど、大和銀行の第一審は別として、ないんじゃないかと思いますので、これ以上はもう賠償させないよというようなことが決議できるというのはいいことだと思います。

 ただし、これは司法の立場からいいますと、まずは経営判断の原則というものがありまして、ビジネス・ジャッジメント・ルール、大体会社の経営というのは危険を伴うのは当然のことなんですね。したがって、こうやって判断して実行したらそれで損失が出てしまったといっても、それは会社のためにやったことですから、普通の人がこういうこともあり得るなというような判断であれば、これはもう経営判断ですから過失がないわけです。それはもう判例でもちゃんと認められております。

 したがって、だれが見てもこれはちょっとおかしいよというようなときに初めて過失が認められるわけで、そうなったときにも、やはり会社のためにやったのであって、法令に違反していることをわかっていてやっただとかそういうことじゃなければ、この程度の責任にとどめるのがいいと思います。

 あと、事前の免責ですが、社外取締役に関して、社外監査役も同じですが、二年分の賠償以上は請求しないよという契約ができるという改正は、私にとっては非常にいい改正だと考えております。要するに、仮に社外監査役だとか社外取締役になった場合に、会社の内容をすべて把握するなんということはほとんど不可能でして、取締役会に月に一回ぐらい出ていって、その場で聞いたときに何か問題があれば指摘はできますが、その場に出ていかなければ全くわからないわけですから。それなのにもかかわらず、仮に何か問題があって責任追及されて、もう全然支払い能力がないぐらいの責任を追及されて破産しちゃうなんというのだと、ちょっとやれないということになりますので、社外取締役が報酬の二年分と契約で決めて、それ以上は請求できないよというのはいい制度だと考えております。

 あと、株主代表訴訟制度の合理化について、もう時間がないので簡単に述べますと、提訴権者については、与野党間というか、合意によって前と同じになりましたが、やはり提訴についてはそれほど制限する必要はなくて、提訴した後で、こんなのは主張自体失当じゃないかということであれば、被告が担保提供命令の申し立てをして、裁判所の方ですぐに担保提供命令を出せば、それでまず担保を提供する人はほとんどいません。それで、それにかかった費用は役員賠償責任保険でてん補されるでしょうし、また、それが保険に入っていなければ、これは取締役としての職務に関して生じた費用ですから、会社にその費用は請求できるということになりますので、それほど問題はないのじゃないかと思います。

 あと、監査役の考慮期間の延長については、一応、訴えを提起しろということで監査役に請求が来れば、監査役は一生懸命事実関係を調べますので、二カ月ですか、六十日間に延長するというのもそれほど悪くはないかなと。ただ、ちょっと、原告になる株主にとっては待たされるから嫌かなとは思いますが、まあこれぐらいでいいのかなという気はしております。そのときには監査役の方もちゃんと調査して、これはこういう理由で取締役に責任はないよというような回答を出すようにすればいいなと思っております。

 次に、訴訟上の和解なんですが、これはもう現実に和解は多くやられていまして、裁判上で和解するというのをよくやっています。私も和解した経験もあります。ですから、この裁判上、訴訟上で和解できるよという規定は非常にいい規定で、今まで、何で会社の権利なのに株主が勝手に和解できるのかとかいうような議論がありましたので、この裁判上の和解の規定が設けられることによってそういう疑問がなくなりますので、いいと思います。ただ、実際には、裁判上の和解をするときには利害関係人として会社も入れているというのが普通だと思っております。

 次に、取締役を補助するために会社が行う参加の申し出ということですが、これは補助参加なんで、これはもう最高裁の判例で、取締役会でちゃんと決議をして行った行為がだめだといって責任を追及されているとかいうような場合には、被告、取締役方に会社が補助参加できるんだというのが判例であります。したがって、補助参加をするんですから、それは会社の利益になるから補助参加するんで、会社の利益になるということで補助参加ができるんであれば、それはそれでいいわけで、もう判例でも認められている。そうすると、この規定は、監査役全員の同意が必要だということになりますので、もしかすると補助参加を制限する規定なのかなというような気もいたしております。

 以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

保利委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

保利委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。田村憲久君。

田村委員 自民党の田村でございます。

 両参考人には、大変急遽な話でございまして、大変御迷惑をおかけいたしました。心より厚く御礼を申し上げる次第であります。

 それでは、質問の方に移らせていただきたいと思うわけであります。

 岩原参考人、本渡参考人、両参考人ともいろいろと御意見があられると思うのですけれども、基本的にはといいますか、おおむね、今回の法改正には御理解をいただいておるのかな、そんな感じを受けさせていただきました。

 ただ、どちらかというと岩原参考人の方が少し異議があられるというお話のように承ったわけであります。お話の中でも幾つか問題点を指摘されたわけでありますが、疑問が残ると初めにかなり強い口調でおっしゃられたほかに、疑問点がございますれば、まずもってお聞かせをいただきたいと思います。

岩原参考人 どうもありがとうございます。

 疑問点は幾つかございますが、例えば一つは、この規定はほぼ大企業を主に念頭に置いておりますので、中小企業にそのまま適用した場合妥当かというような問題がございます。特別決議で免責を決めるということ、これは大企業ではなかなか高いハードルで、かなり株主を説得しないとできないと思いますが、いわば一族で株を持っていて、例えば長男が株の七割八割を持っているというような中小企業になりますと、これは必ずしも高いハードルではなくて、常に免責が成立してしまうというようなこともあり得るわけでございます。

 そのほか、さっきも少し申しましたが、報酬の範囲について、実際には関連会社から受ける報酬等に分散するといったようなことが行われる可能性があるわけですが、そういったことへの抑えがこの法案では考えられていないとか、その他細かいところは多々ございます。

 ただ、一番大きい疑問点として感じましたのは、一つは、果たしてこの時点で監査役の強化ということを図るのが本当に妥当なのかもう少し考えてみる必要があるんじゃないかということ。それと、代表訴訟については、確かに不備な点があり、今回の改正で評価すべき点もいろいろございますけれども、一方で、ややちょっと否定的な評価が前提になった改正だというイメージが少し残ったのかな、その点が残念であるということでございます。

田村委員 監査役の強化という部分に疑問点、これは両先生おっしゃられたかなというふうに私は承らせていただいたわけでありますけれども、一方で、確かに、社外取締役の強化は多分来年度の商法改正の中で盛り込まれてくるのであろうと思います。私も、法曹関係の人間ではございませんので、新聞等々、またいろいろな情報等々をお聞かせいただく中での、みずからの乏しい知識の中でしかわからないわけでありますけれども、場合によっては、社外取締役の経営機能の強化といいますか、そのチェックの強化というものを中心に据えていけば、監査役の必要性というものを考えてもいいというような議論も出ておるようでございまして、そのような意味からいたしますと、確かに、今回ここで監査役の強化というものを盛り込んだ部分に関しては、その整合性というものはどのような形でとれていくのかなというふうにも感じるわけであります。

 方向としては確かに社外取締役の強化というものがこれから進んでいくと思うんですが、すると、監査役の機能というもの、今も、例えば違法性でありますとか会計等々、そういう部分に関しての監査であるという話があったわけでありますが、監査役の機能の強化というものはどうあるべきであるのか、これは両先生にお聞かせをいただきたいんですけれども、お願い申し上げます。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 確かに、監査役と取締役、特に社外取締役を導入した場合は、その間の役割分担をどうするかというのは非常に大きい問題で、法制審議会での議論でも非常にその点で意見が分かれております。

 ただ、確かに監査役もそれなりの機能を果たしていることは私も認めるところでありまして、現在与えられております違法性やあるいは会計監査の面での役割に関して言えば、これは確かにそれなりの機能を果たすことができると思っております。

 したがいまして、仮に一つの行き方としては、社外取締役を導入することによって、経営の妥当性についての取締役会改革を進める。一方で、監査役については従来どおり違法性あるいは会計監査の面についての権限を発揮してもらうということも一つ考えられると思います。

 監査役の権限は、取締役と異なりまして、いわゆる独任制、一人で権限を行使できるようになっておりますから、監査役の方は、必ずしも多数でなくても、一人でも権限を行使できますので、現在の制度でもそれなりの役割は果たせる。したがって、監査役は現在の状態にしておいて、取締役会の方の強化を図っていくということも一つの方向としてあり得るかと考えております。

 以上です。

本渡参考人 私も、監査役は、違法性監査、会計監査において十分機能しているし、また、実際の監査役の方々と会っても、ちゃんとやっていると考えております。

 ただし、違法性、要するに法律に触れるかどうかのみの監査ということになりますと、仮に取締役会に出席していても、そんなことは関係ないじゃないかということで妥当性についての発言がしづらいということがあります。実際、経営の問題というのは、法律に触れるかどうかは別問題として、これはちょっとおかしいんじゃないかということもありまして、やはり妥当性についても権限がある社外取締役ですか、そういう方がいた方がかなりいいんじゃないかなと。だから、監査役の権限が、違法性監査と会計監査に限られていますので、ちょっと低いのかなと。

 したがって、今の中間試案なんかで、選択制ですが委員会制度というのを設けまして、社外取締役が過半数以上の監査委員会、また指名委員会、報酬委員会というのと、あと執行役制度をつくって、監査役はもう採用しないでいいよというような案も出されております。

 したがって、どちらがいいのか簡単には言えませんが、もしかすると、監査役会の機能が社外取締役を中心とした監査委員会の方に吸収される、もう名のあるような大会社はほとんどそうなってくるんじゃないかなというような気もしております。

 以上です。

田村委員 ありがとうございます。

 若干、両先生で御意見の共通する部分と異なる部分があったような気がいたすわけで、大変参考になりました。

 今回の法改正におきまして、取締役等の責任の範囲、限度というものが示されてきた。当初の与党案から修正案で若干の修正が入ってまいりました。今岩原先生にお話をいただいた中においては、それ相応の妥当性が感じられる。本渡先生は、修正があったこと自体、内容的には余りおっしゃられなかったような気がするのですけれども、実際問題、お話の中で、確かに、経営者自身が会社のために行った職務に関して、ある程度の過失、重過失じゃない軽過失があったであろうけれども、それに対して無制限といいますか重い賠償請求がなされるというのは、経営者の経営というものを非常に萎縮させるであろう、こう言われております。特にこれだけ時代の流れのスピードが速い中においては、瞬時に経営者はみずからの方針を決定しなきゃなりませんから、どこまで過失というかというのは裁判の中で問われる話でありますけれども、たまには間違いを起こすこともあり得る。ですから、今回のような限度額というものがある程度示された方がいいんじゃないかという話なんです。

 これは、与党案と修正案、かなりといいますか数倍の違いが代表取締役等々においては生まれてきております。これは、具体的に両先生は、どちらの案の方が妥当であるのか、それぞれにお考えがあられると思うのです。その部分で、もしかしたら、もっとというようなお考えをお持ちかもわかりません、もう少し責任の範囲を広げた方がいいんじゃないかというお話もあるのかもわかりませんけれども、その点を、両先生が思われる限度額というものも含めて、お話をいただければありがたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 まず、根本的な問題としては、私どもはいろいろな理由で責任を負う場合があります、交通事故であれ。例えば、普通の労働者だって、会社の中で失策をしたら会社から責任を問われるわけで、そもそも労働者の方については責任限度の規定が置かれていないのに、取締役については何で置かれるの、あるいは交通事故とどこが違うのといった疑問があるところです。したがいまして、根本的には、何で取締役だけがそういった責任の限界を画すような立法が必要なのかという疑問があることは事実です。私もそういう疑問を持っています。

 ただ、一方で、確かに日本におきましては、大会社の経営者なんかですと、過失による損害賠償が巨額に上り得ることも事実ですし、また、そうなりますと、大和銀行のときの新聞報道等に見られますように、国民感情として、余りにも巨額な賠償に対する抵抗感があることは事実です。

 そしてまた、確かに、余り巨額の賠償を認めても、これは実際には取れません。むしろ、責任を限定することによってスムーズに賠償してもらった方が会社としてもいい、そういったことがありますので、私も、まず責任の限定をするということ自体は一つの合理的な選択かなというふうには思います。ただ、余りにも責任を限定し過ぎますと、これはまた一方で、取締役がきちんと緊張感を持って仕事をするということに対するディスインセンティブになってしまいますので、それは避けたいと思います。

 本当は、先ほどから出ております経営判断の原則を適用しますと、普通の過失で責任を問われることはほとんどないというふうに私は思っております。大和銀行のケースなどはまさに微妙で、私は、あれはやや行き過ぎの判断があった判決かと思っております。ただ、それでもなお経営者に不安感が残るということであれば、過失について一定の責任の限定を認める。

 その限界でありますけれども、私は、取締役等が実際に会社から取締役として受け取った報酬があれば、それぐらいは、手元に残っているんだから、賠償してもいいんじゃないかという気がします。普通、取締役は四年ぐらいは少なくとも在職しますし、代表取締役であればそれより長いのが普通でありますから、もともとの与党案と修正案を比較すれば、社内取締役に関して、二年ではなくて四年なり六年にしたという修正案の方が妥当ではないか。実際に受け取った分については、それぐらいは賠償しなさいということは言ってもいいのではないか。これも目の子算の話でありますけれども、一つの目安としては、修正案でよろしいのではないかと考えております。

 以上です。

本渡参考人 まず、責任の限定のことですが、従業員であっても、私の知っている限りでは、昭和五十一年の最高裁の判決で、タンクローリーを運転していた運転手が事故を起こしまして、会社に損害を与えたのですね。それで、会社は、民法で求償ができるという規定になっていますので、不法行為をやったのはタンクローリーの運転をしていた人ということで求償したわけです。それに対して、先ほど申しましたように、こういう危険な仕事をさせておいて、それで利益は会社に行く、それにもかかわらず、保険とかそんなのにもきちっと入っていなくて、それで全額を請求するというのは、損害の公平な分担という考えからおかしいということで、損害を四分の一に減らして認めた、四分の三は認めなかったという判決があります。

 それと同じように、取締役の責任についても、経営判断の原則で過失が認められなければそれはそれでいいわけですが、仮に、これは会社のためにやったといっても判断がちょっとひど過ぎるよというようなことで責任があるとされたとしても、損害の公平な分担という考え方から、判決または和解において適度な金額にすべきじゃないかなと。したがって、これは裁判所で、司法で解決すべき問題じゃないかなという気もしておりますが、ただ、それでも変な判決も出てしまうこともありますので、そういうときには、やはり常識から考えて責任を減免するというのは必要かなと思っております。

 それで、修正案と最初の二年分のというのとどっちがいいかとおっしゃられたのですが、私はやはり、修正案で、代表取締役は六年分ぐらい、普通の取締役は四年分ぐらい、社外取締役は二年分というぐらいが適当じゃないかなという気がしております。

 以上です。

田村委員 時間が参りました。両参考人、大変ありがとうございました。

保利委員長 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 本渡参考人そして岩原参考人、急なお願いで大変恐縮でありますけれども、非常に重要な法律案であるというふうに我々も認識しておりまして、ぜひ専門的な、あるいは実務を踏まえた御意見を賜れればというふうに思っております。

 そこで、まず最初に、今回、監査役の機能の強化ということで、社外監査役についてのいろいろな規定もまたつけ加わったわけでありますけれども、私、そもそもこの社外性を監査役に要求することの意味と、そして、今回の商法の方に社外取締役ということで、これは、今回の損害賠償の制限のためにこういう概念を持ってこなければいけなかったということで、今回の社外取締役の法律上の位置づけというのは社外監査役の位置づけとは違っているのじゃないかなとは思うんです。

 そもそも、今度、取締役の機能の強化といいますか取締役会の機能の強化というようなことがこれからの俎上にも上っておりますので、この監査役と取締役それぞれについて、社外性というものがどうして必要だというふうに考えておられるのか。もし御意見があれば、社外取締役あるいは社外監査役というものが会社の中にある目的というものは、一体どのようにお考えになっているかということ。

 今回、社外取締役について商法の中に一応定義がされております。これは、社外監査役の商法特例法にある定義をそのまま持ってきたような形になっているのではないかと思うんですけれども、この定義でいいのかどうか。もっと具体的に言うと、いろいろな指摘の中には、その会社あるいはその子会社の役員とか使用人ということだけじゃなくて、親会社あるいは兄弟会社というところの取締役とか使用人とかであってはいけないというようなことも言っておられる方々もおられるわけであります。

 この社外取締役あるいは社外監査役についてのそもそもの考え方と、そして、現在の規定ぶりについての御意見をまず両参考人からお伺いしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 まず最初に、取締役と監査役における社外性の意義でございますが、大部分は共通すると思います。いずれも、社内で経営している社内取締役、経営者と直接の関係がなくて、いわば独立した立場で判断をしてもらうということを期待しているという意味では共通だと思います。その意味では、本来は、単に社外というだけではなくて、本当は独立したということを要求する、外国ではそういった法制もありますので、そういうことが本来ではないかと思っております。

 社外監査役の場合には、違法性監査、会計監査に職務が限られますので、いわばそういった利害関係のない立場で、違法なことが行われないように、あるいは会計監査がきちんとなされているかということをチェックすることが主な役割だと思います。

 取締役の方の社外ですが、これは少し違った意味も持ち得るかと思っております。

 それは、取締役会のあり方に関する基本的な考え方がアメリカなどで変わってきておりまして、いわば経営の実態を見ると、むしろ取締役会ではなくていわゆるCEOなどの経営者と呼ばれる人たちが実際には経営していて、取締役会がみずから経営するという考え方はもう実態に合わない。むしろ取締役会は、経営者のパフォーマンスを主に財務の成績とかそういった点から評価して、その経営者が適切かどうかということを判断することを主な役割とすべきではないかという考えが世界の大勢になっております。

 そこにおける社外取締役というのは、まさに、利害関係がないというだけではなくて、そういった立場から、社内から離れた目で経営の実態を評価して、パフォーマンスがいいのかどうか、本当にこの経営者でいいのかどうかということを評価してもらう。そのためには社外取締役の方が適切だ。経営の専門家であれば、むしろ社内の人の方がよく知っているはずなんですね。しかし、それではまずいのであって、いわば違った目で、財務その他の目で経営者のパフォーマンスを評価してもらって、そして、よければやってもらうけれども、悪ければ経営者にかわってもらうという、経営革新をやりやすくしようということに社外取締役の意義がありますので、そういう意味で、社外監査役とは若干違った意味を持ってくる。

 細かい話はちょっと避けますけれども、したがって、社外監査役と社外取締役の権限が違ってくるところも、実は、そういったそもそも基本的なあり方の違いによるところがあると考えております。

 次に、社外性でございますが、さっき言いましたように、本来は独立性が欲しいんだ、本当に経営者と独立した判断をしてほしいということからいえば、私は、やはり親会社関係者を外した社外性にするのが本来ではないか、特に取締役の場合そうだというふうに考えております。現在、先ほどから出ております選択制の導入、選択制によってアメリカ型の取締役会を導入するという話が進んでおりますけれども、そうなったときに、社外取締役として親会社からすべて派遣してしまおうという考えがあるようでして、そうすれば監査役が要らなくなって人数を減らせるといったような利用の仕方が一部経済界で言われているようでありますが、それでは本来の望ましい姿にはならない。やはり当該会社についてきちんと経営の評価ができるようにならなければいけないという意味では、親会社関係者も外すのが本来ではないかというふうに私は思っております。

 以上です。

本渡参考人 お答えいたします。

 まず、社外監査役と社外取締役の意義については、岩原先生と同意見ですので、割愛させていただきます。

 それで、社外性についてですが、親会社の取締役とかを子会社の方に社外取締役として入れられるかという問題ですが、私は、やはり親会社というのは株主ですから、株主の立場で見られるし、また独立もしておりますので、非常によろしいんじゃないかと。それで、親会社から来た取締役に対してはそれなりの敬意も払うと思いますので、社外取締役として親会社の社長とか専務あたりが入ってくるというのは、別に問題がないんじゃないかなと私は考えております。

 以上です。

平岡委員 次に、株主代表訴訟の関係でちょっとお伺いしたいと思うんですけれども、今回、株主代表訴訟が行われた場合の訴訟上の和解ということで、今回の新しい規定では、二百六十六条第五項の規定、つまり、総株主の同意を必要とするという規定を適用しないというようなことが行われてしまったわけでありますけれども、そういう状況になると、会社とそれから訴えた株主との間のなれ合い訴訟的なもの、そしてその中で和解が行われてしまうというような危険性もあり得るのではないかというふうにも思うわけです。

 そうした状況を見てみると、今回の規定の中には、裁判所から和解案が提出されたときに、裁判所から会社に対する通知ということは義務づけられているわけでありますけれども、株主への通知あるいは公告といったようなことが今回の規定の中には含まれていないということで、果たしてこれで一般の株主の人たちの利益というものが守られるんだろうかというような疑問もあるんですけれども、この点についてはどのようにお考えになりますでしょうか。それぞれお二人からお伺いいたしたいと思います。

岩原参考人 お答えします。

 確かに、訴訟上の和解、これは私も認める必要が大きいと思うんですけれども、ただ、規定として今回のが万全かと言われますと、私も若干の懸念は持っております。モデルになりましたのはアメリカにおける扱いでありますけれども、アメリカの場合は、こういった代表訴訟の和解をするときには裁判所の認可を受ける。しかも、その和解をする和解条件について公告して、株主がもし文句があれば、それに対して異議を申し立てることができるような制度になっております。

 私は、本来はそういったことが日本においても実現することが望ましいというふうに考えております。では、なぜ今回の法案にそういった規定が入らなかったのか。私は詳しいことはわかりませんけれども、恐らく、従来日本でそういうのに裁判所が認可を与えるというようなことの規定が置かれたことがなかったということ、それから事実上の問題として、実際には裁判所の目の前で行われる和解ですので、裁判所の事実上の指導が行われるであろうということを期待したものではないかとは思っております。

 あと、公告について、訴訟を起こす時点で公告があるからそれで十分だというのが恐らくこの法案の考えだと思いますけれども、私は、やはり和解案の内容についても公告した方が本当はいいんじゃないかというふうに考えております。

 以上です。

本渡参考人 なれ合い訴訟については、確かにあり得ることだと思ってちょっと心配はありますが、しかし、それを余り強く言うとこういう和解というのはできなくなりますので、裁判上で和解ができるということは非常にいい規定で、明文で認められたので私もよかったと評価している規定ですので、それはそれで、これはいいんじゃないかなと思っております。

 あと、裁判上の和解ですから、裁判官の面前で和解するわけですね。それは確かになれ合いもあるかもしれませんが、そう簡単にそういうことはないんじゃないかと思います。裁判官が前にいればそんな変なことはしないということで、裁判所を信頼するという意味からも、裁判所の認可とか、余り規定を細かくする必要はないのかなという気がいたしております。

 あと、株主に対する通知も、一応裁判が起こったときに公告いたしますので、それだけでいいんじゃないかなと。また、株主に和解の内容を公告しないといけないというのは、ちょっと会社にとっても、会社は大概利害関係人で参加するか、補助参加するかしていると思いますので、それほど厳格にする必要はないんじゃないかなと。私は、この法案でまずはいいんじゃないかなと。余りなれ合い訴訟がふえちゃった場合は、そのときはまた手当てしないといけないかもしれませんが、今のところはこの程度でいいのかなと考えております。

平岡委員 株主代表訴訟についてもう一つお伺いしたいと思うんですけれども、先ほど、株主代表訴訟について会社が補助参加するようなケースの場合に関連してちょっとあったんですけれども、会社に証拠保全あるいは開示義務を法律上課せるということが必要ではないか、これは岩原参考人の発言の中にはあったわけでありますけれども、私もそういう質問を昨日いたしました。

 岩原参考人の御意見はわかったんですけれども、本渡参考人は、先ほど株主代表訴訟の経験も随分おありだということをおっしゃられておりましたけれども、この点についてはどのように考えておられるかを本渡参考人にお伺いいたしたいと思います。

本渡参考人 お答えいたします。

 資料はできるだけ出した方がいい。要するに、ディスクロージャーで出した方がいいという基本的な考え方でおります。ただし、訴えを提起して、原告株主が、これも出せ、これも出せと言えば、どんどん出さなくちゃいけないということになりますと、余り権利のない人にも全員出さないといけないというのはちょっと問題ですし、取締役会議事録とかそういうのは裁判所の許可がないと見せないでいいとか、そういう規定もありますので、そこら辺との整合性も考えてやるべきでありますが、ただ、今文書提出命令がちょっと厳し過ぎるんじゃないかというような気はちょっとはしております。だから、もうちょっと稟議書とかそういうのも、文書提出命令とかそういうので出させなくちゃいけない事案もあるのかなという気はしていますが、そこら辺は裁判所の判断でやっていくのがいいのかなと思っております。

平岡委員 どうもありがとうございました。これで終わります。

保利委員長 次に、漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。

 本当に急なお願いで、お忙しいところ、きょうおいでいただきまして本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。

 基本的にお二方の参考人ともに、今回の原案、そしてまた修正案に賛成していただいているということで、大変うれしく思っている次第でございます。

 そこで、まずお二人にお聞きしたいんですが、取締役の責任軽減というのが非常に大きな今回の改正だろうと思っております。いろいろな御意見がありまして、コーポレートガバナンスの観点からいって、取締役の責任を軽減するというのは必ずしもコーポレートガバナンスと関係ないよというふうな見解もございますし、あるいはモラルハザードを起こすんじゃないかと。

 本渡参考人は弁護士さんでいらっしゃいますから、報酬規定の分野でしか責任を負わないよということも実際申し上げられませんよね。何千億という裁判をしても、仮に失敗しても、おれはこれだけしか報酬をもらっていないんだから、これだけの損害賠償しかおれは払わないよというふうなことはまず言えないと思うんですね。

 それと同じように、会社と委任関係にある取締役ですから、軽過失であっても全部責任を負うのは当たり前じゃないか、これを軽減するのはモラルハザードそのものだというような根強い反対論もあるわけなんですが、先生方のお考えのコーポレートガバナンスの考え方と、そして今回の責任軽減、これについてどうお考えなのか。そして、モラルハザードについて指摘されているこの点をどうお考えなのか。お二方の先生にまずお尋ねしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 取締役あるいは監査役の責任の制度というのは、これはコーポレートガバナンスの中でも非常に重要な役割を占める制度だと考えております。コーポレートガバナンスというのは、会社をいかにきちんと経営してもらうか。何よりも会社というのはまず株主のものですから、株主に対してちゃんと責任を負えるような経営をしてもらえるかということはコーポレートガバナンスの核心ですので、恐らくそのための一番大きい手段が、こういった取締役が違法、不当な経営をしたときには責任をとってもらう。それによって、賠償責任があるからということで緊張感を持って一生懸命仕事をしてもらおうということでございますので、コーポレートガバナンスの中では核心的な問題だと理解しております。

 ただ、コーポレートガバナンスをよくするのが、取締役の責任だけでよくできるかというと、これはそうではございませんで、特に妥当性といいますか、競争力を強化していくというような側面、こちらの方については、責任の制度というのはすべてをカバーすることはできない。いわば特に変なことをやったときに、きちんとペナルティーを科すことによってそういうことがないようにしようというだけであって、よりよいことをやってもらうというのはまた別のことが必要であって、その辺については社外取締役とかそういうことを考えているということでございます。

 それから、責任軽減でございますが、これは、先ほど、前の御質問に対するお答えで申し上げたことの繰り返しになりますけれども、法理論的にいえば、なぜ取締役だけ責任制限するのという疑問はやはりどうしてもついてきますし、特に、余りにも軽い責任限定をしてしまいますと、これは、取締役が緊張感を持って経営してもらうという、先ほどのガバナンスの根底を揺るがすことになりますから、妥当でないと思います。

 ただ、一方で、余りにも賠償額が巨大になるようなことは、法律の建前を離れて現実を考えますと、そんな責任を課してみてもそれは賠償できるものではございませんし、かえって責任を限定するかわりにきちんと賠償してもらった方が賠償の制度もスムーズにいきますし、また、取締役も、それこそ余りにその責任が重いということになりますと、確かに萎縮という問題が起こる可能性がないとは言えませんので、そういうことを考え合わせれば、一定の責任限定をすることは合理的だと私は思っています。

 その責任限定の方法としては、さっき本渡先生がおっしゃいましたように、私は、裁判所の裁量による方がむしろ柔軟な解決ができるんじゃないかという気はしておりますけれども、ただ、それにかわる方法として、今回の修正案ぐらいの内容であればかなりリーズナブルなものになっているのではないかと考えております。

 以上です。

本渡参考人 お答えします。

 コーポレートガバナンスと取締役の責任の関係及び責任の限定の関係は、岩原先生と一緒ですので、割愛させていただきます。

 それで、弁護士も、訴訟で仮に何千万とか負けたにしても、それは、先ほどから申しております経営判断の原則と同じことでして、一生懸命やっても負けちゃうということはあるわけですね。そういうのは、過失があったから損害賠償の対象になるというものじゃなくて、過失はなかったから責任はない、経営者でいえば経営判断の原則で責任がないということになって、余りにもひどいというようなときにだけ責任を問われる。だから、弁護士の場合でも、控訴すべきなのに控訴の期間を徒過したとか、そういう場合にはやはり責任を負わざるを得ないかなというように考えております。

 以上です。

漆原委員 ありがとうございました。

 岩原参考人にお尋ねしたいんですが、アメリカでは、今ちょっとおっしゃったように、裁判所の裁量でやるという方法と、それから、現在我々がやっているように法律で決めるという方法があるように伺っているんですが、その辺ちょっと詳しく説明していただけますでしょうか。

岩原参考人 お答えします。

 世界で見ますと、大きく二つに分かれます。どちらかというと、特にヨーロッパ諸国を中心に、裁判所の裁量で責任を限定するという国の方がほとんどだと思います。例えば総会決議で減らすというようなことを法律で認めておりますのは、ヨーロッパですとドイツ、あとはアメリカの多くの州ということになっております。いわば、大きく分けますと、アメリカと一部のヨーロッパの国が株主総会、あるいはアメリカでは定款で限定するといったことも認められています。それに対しまして、北欧を中心にヨーロッパ諸国の多くは、裁判所が裁量でその責任を限定するということを認めている国が圧倒的に多いというふうに理解しております。

漆原委員 本渡参考人、今おっしゃったこの点について、日本の裁判所に裁判所の裁量で責任の減免を認める、仮にこういうふうな制度にした場合、果たして日本の裁判所でその辺の判断がうまくいくのかなという疑問を私は持っているんです。そういう意味では、法律できちっと決めてしまった方がかえっていいんじゃないかなと私は思っているんですね。その点、実務の経験から、裁判所の裁量で決める方法、それから現在我々が提案をしている法律できちっと決めておく方法、どちらの方がよりベターとお考えでしょうか。

本渡参考人 お答えいたします。

 私は、この法律で責任を限定できるということは賛成しております。ただし、その前に、やはり損害の公平な分担というか、大体妥当、要するに、具体的な事実関係というのがあるわけですね。その具体的な事実に基づいて、この場合は代表取締役のこの人には幾らぐらいの賠償をさせるのが妥当であるかとか、そういう具体的な判断を裁判所がして、その具体的な事件についての具体的な判断に基づいて判決ができるのが一番いい、妥当な解決になるんじゃなかろうかと。

 だから、公平な分担だとか信義則だとか、いろいろの法理論を使ってそういうことがちゃんとできればいいし、また、裁判所が、司法でちゃんとそういうことをやるべきだと思っておりますが、しかし、一般の取締役の方々などが、ちょっと不安があって、大和銀行みたいに破産するような賠償請求をされちゃ困るなというようなこともあろうかと思いますので、仮に裁判所で予想外に高い金額が出ちゃったような場合には法律の規定に基づいて免除できるということで、両立していいんじゃないかなと考えております。

漆原委員 岩原参考人にお尋ねします。

 今後の一つの課題として、取締役会の改革ということをおっしゃいました。もう一点は、現在の代表訴訟をより機能的にする必要があるんだ、具体的な例として、証拠保全の義務あるいは証拠開示義務を課すべきではないかという話がありましたが、取締役会の改革、そして証拠保全等、この二つの問題についてもう少し詳しくお話しをいただければありがたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 取締役会の改革、これは、コーポレートガバナンスの中の、まさにさっき申し上げた別の側面ですね。まさに、日本の企業をもっと競争力の強いものにして経済を活性化させるというための取締役会の改革というのは、今、緊急に求められているというふうに私は考えておりまして、そのためには、従来の株式持ち合いのもとで、いわば内部の人たちだけで、はっきり言えばやや官僚化してしまったような取締役会に外から風を吹き込んで、ある面でいえば、マーケット、市場の圧力を受けさせるという必要が出てくると思います。

 そのためには、まず、社外取締役のような外からの目を入れて、特に財務的なパフォーマンスからきちんと経営者の実績を評価して、そして改革をしていくということができるようにする必要があるわけでありまして、まさに経営の改革、取締役会のあり方あるいは日本の企業の経営のあり方の改革のために、ぜひ取締役会の改革を実現してもらいたいというふうに思っております。

 それから、代表訴訟につきましては、私さっき申しましたように、日本では、ごく一部、やや変わった弁護士さんなんかが乱用的なものもありますが、全体として見れば、経営の違法性などのチェックとして有効に機能していると思っております。

 ただ、さっき言いましたように、裁判所が証拠の提出等について原告株主側にやや厳し過ぎる感じがございまして、そういった点では、これは公平な裁判ができませんので、やはり証拠の開示なんかについては、さっき本渡先生がおっしゃいました文書提出命令の判例などは余りにも狭過ぎますので、そういった点を改めるような立法等を行うということはぜひやっていただきたいし、さっき申しました多重代表訴訟と呼ばれる、持ち株会社化することによって訴訟が行えなくなってしまうとか、そういった不合理な点は改めていっていただきたいというふうに考えております。

漆原委員 本渡参考人に同じ問題を質問したいんですが、要するに、今、文書提出命令で、ある意味では義務がない、なかなか出てこない。今度、文書提出義務を課するという。そうなると、これとの裏腹で、もしも持っている文書を出さない場合には立証されたものとみなすというふうな規定が必ずくっついてくるのでしょうね。そうすると、どの文書を出すと義務づけるかということで、非常にこれまた判断が難しくなると思うのですが、本渡参考人は、実務の経験から、会社の持っているどんな文書なら最低限度開示すべきだ、これは開示すべきだというのがあったら、お教えいただきたいと思います。

本渡参考人 文書提出命令については、まだ一年か二年ぐらい前に、民事訴訟法の改正によって、かなり大幅に提出命令が出せるようになったわけです。それで、そのときの議論なんかによりますと、会社でいえば、稟議書なんかも、これは私的な文書じゃなくて、取締役だとか監査役が全部判こをついてきちっとやる公的なものだから、それも提出命令の対象になるのじゃないかというようなことを我々なんかは考えていたわけですね。しかし、最高裁判所の今の判例では、大体提出命令が出ないという状況になっております。したがって、法律でどの文書は出しなさいということをきちっと決めるのはかなり難しい、少なくとも文書提出命令で決めるのは難しい。

 それで、あとは公的な文書、取締役会議事録だとか、そういうものは裁判所の許可をとれば提出しないといけませんし、そこら辺はもう個々具体的に考えていかざるを得ないかなと。ただ、裁判所も、やはり原告の方の主張がかなり理由があるのじゃなかろうかと考えれば、どんどん提出命令を出したりだとか、出したらどうですかと勧告したりとか、そういうことはやってくれるのじゃないかと期待しております。

漆原委員 お二人の先生、どうもありがとうございました。

 以上で終わります。

保利委員長 次に、山田正彦君。

山田(正)委員 自由党の山田正彦です。

 今回の改正でもって取締役の法的責任の軽減措置というわけですが、実は、ローカルの銀行なんですが、取締役が刑事責任を問われて、実際にその取締役そのもの、彼は二十億ぐらいの資産を持っておった、当然、その銀行としては訴訟して、損害賠償を請求するわけです。今回、この規定によると、六年分の代表取締役の報酬しか請求できないということになれば、本来二十億ぐらい請求できるものが、仮に二、三億ぐらいで終わってしまう。そうすると、取締役、会社にとって悪意でもってというか、重過失といいますか、損害を与えた者に対して不当に恩恵を与えるようなことになりはしないか、当初からそんな気がしておったのですが、本渡先生、どうお考えでしょうか。

本渡参考人 お答えいたします。

 この法律は、故意に会社に損害を与えたとか、故意に法律違反をして損害を与えたとか、または、重過失というのも故意に近いような過失ということですから、そういう場合には責任を免除できないということになっております。

 したがって、刑事責任を追及されたということですので、犯罪になるような行為によって損害が発生したのであれば、この法律においても、二十億だったら二十億、全部請求できると思います。これは、損害の公平な分担ということを私は先ほどから申していますが、そうやって刑事事件になるような、悪意でやったようなときには、それは全額賠償してもらうのが筋だと考えております。

山田(正)委員 本渡先生にもう一度お聞きしたいのですが、例えば、取締役の責任を問われる場合というのは、普通の経営の場合に、こういう判断をするとこういうおそれがある、経営判断というのは必ず危険、リスクを伴いますね。そういった場合に、考えられる危険の可能性というか、そういうのがありながら、そういう判断をして問われる、いわば過失によって損害を与えた場合。あるいは、それが重大な過失と言えるかどうかという判断、単なる過失なのか。それで、先ほどの先生の話だと、単なる過失程度だったらこの責任を問われることはない。いわゆる重大な過失の場合に、故意責任と思われるような場合は全額請求できる。

 そうすると、その中間ですね、いわば取締役の責任が軽減できるような範囲というのは大変狭まって、本当にあるのかどうか。いわゆる故意と重過失と過失、経営判断というもの、これは大変難しいと思うのだけれども、それを先生、どのように考えられますか。

本渡参考人 まず、経営判断の原則で過失はないということになれば、責任がないわけですから、それはないということですね。

 それで、あと、経営判断の原則を仮に一生懸命主張しても、これはちょっと飛び越えているよ、要するに過失があるよということで損害賠償の対象になったという場合に、そういうことがそれほど多いのかなという気もしていますが、ただ、あることはあると思います。

 それで、故意、重過失というのは、実際問題としては、知っていたのじゃなかろうか、ただし立証ができないという程度のが重過失ですから、故意と重過失は同じようなものだ。そういうときには全額請求できるわけですね。

山田(正)委員 先ほど、本渡先生は、これはよっぽどおかしいなと思うようなときじゃないと過失責任は問わないというような言い方をされた、そう思ったのですが、一般の人がよっぽどおかしいなと思われるような、そういう判断をした場合は重過失になってしまうのじゃないですか。そうすると、ほとんどこの軽減措置がとられるということはあり得ないのじゃないかなと考えたのですが、どうでしょうか。

本渡参考人 お答えします。

 そこら辺はかなり微妙な問題だと思いますが、大体、経営する場合は、こういうことをやれば下手するとこれだけのリスクがあるよということも考えながらやっていくと思うのですね。だけれども利益もあるだろうということでやるわけです。それで失敗した場合に、こんな判断はちょっと普通じゃないなという場合でも、私は、これはちょっと裁判をやってみないとわかりませんが、ほとんどは過失、要するに、経営判断の原則で過失はないよということにはならなくても、単なる過失なんだと思います。

 それに対して、利益供与をしただとか、そういうように、もう明らかに法令に触れることがわかっていてやった場合は故意なんですね。それで、法令に触れることがもう当然わかっていたはずだという場合に重過失ということになると思います。

山田(正)委員 岩原先生、今の取締役の責任の問題、それをどうお考えでしょうか。

岩原参考人 本渡参考人への御質問と同じ御質問と理解してよろしゅうございますか。

 私も、過失となる場合はかなり狭いんじゃないかというふうに考えております。経営判断原則がございますので、普通の経営判断をまじめにやっていれば、まず過失があるということはないと思っておりまして、過失の範囲は非常に狭い。したがいまして、私もともと、こういった法改正は必ずしも必要じゃないんじゃないかと思っていたのは、経営判断原則をきちっと裁判所が適用してくれれば、まず免責なんか考える必要のある場合はほとんどないんじゃないかと思っておりました。ただ、大和銀行の判決が出ましたので、あれで少し、裁判所の中には、私はあれはやや過失を広くとり過ぎたんじゃないかと思っておりますけれども、そういう判断をするところも例外的に出てこないわけではございませんので、そういうときのための、いわば最後の担保としてこういった免責の制度を設けるということは、それなりの意味があるのかなというふうに考えている次第です。

山田(正)委員 次に、岩原先生にお聞きしたいのですが、これからの経営というのは大変厳しくなってきて、取締役会の強化が必要だ、そうなってきた場合に、例えば社外からの新しい風が必要だというお話もあるのですが、あるいはもう一つ、アメリカあたりにおいては、執行役員というか、経営者そのものの判断を取締役会で妥当かどうかという判断をする会になっている。何かしら、どういうふうにしたら弾力的に今の時代に合ったような取締役会運用ができるのか、活用ができるのか、もう少し具体的に先生のお考えみたいなのはありませんでしょうか。

岩原参考人 私も経営学者でございませんので、余り自信はございませんが、ただ、アメリカだけでなくて、ヨーロッパ諸国を見ましても、取締役会の役割というのを見直して、むしろ、経営者が実際には経営判断をしているということを率直に認めた上で、取締役会ができることを取締役会には期待しよう。その意味では、取締役会には、みずからが経営判断するというよりは、経営判断をする経営者、執行役に本当に人を得るようにする、それが一番の役割だというふうになっていくことが必要ではないかと思っています。

 現在、法制審で議論しております選択制は、ただ、今すぐそこへ日本が全部行くということは困難でありますし、そもそも本当にそれがいいのかどうかという問題もございます。日本の経営には日本の経営風土に合ったものが必要だという声があることは承知しておりますし、私もそういうものもあると思います。

 ただ、できればアメリカやヨーロッパなどで広まってきているような新しいタイプの取締役も選択肢として選んで、日本の企業がそれを選択するときはそれを選択できるようにして、新しいタイプの取締役会、新しいタイプの経営をする企業と、従来型の経営をする企業とにいわば切磋琢磨してもらって、本当に競争力のあるところがその中で生き残っていくということにすることが重要だと思っています。

 それと同時に、従来の日本の企業についても、従来のタイプの取締役会の企業についても、いわばボトムアップしていく必要がある。はっきり言って、日本の大企業の経営の中にはやや官僚化してしまっているところがあることは否定できません。

 私もいろいろ聞いております。取締役会である取締役が質問をしたら、その取締役会では質問した取締役が出たということは初めてであった、それでみんなが仰天したという大企業があったということも聞いておりますので、そういうようなことがあるような企業があるのはやはり困ると思っていますので、そこで、従来型の取締役会をとっている会社であっても、少しずつ外の風を入れることによって見直してもらうという機会を与える、いわば両面から日本の取締役会の改革を進めていくべきではないかというふうに考えております。

山田(正)委員 最後に、本渡先生に。

 一般的な話なんですが、株主代表訴訟制度、これは先生が見られて有効に活用されているのか、あるいは乱訴が多くて非常に弊害になっているのか、先生御自身どうお考えでしょうか。

本渡参考人 お答えいたします。

 私は、株主代表訴訟というのは非常に意義のある制度だと思っております。それはなぜかといいますと、大体会社の社長さんだとか取締役の方たちは、この株主代表訴訟については非常に気にしております。要するに、何か変なことをやって、それが法に触れるだとかいうことになると個人で訴えられてしまうということで、やはり、コンプライアンスというか、遵法精神というのですか、そういうものにとっては非常に役に立っている制度だというように私は評価しております。

 以上です。

山田(正)委員 終わります。

保利委員長 次に、木島日出夫君。

木島委員 日本共産党の木島日出夫です。

 両参考人、ありがとうございました。

 岩原参考人にまずお聞きいたします。私どもに株主代表訴訟制度研究会の意見書が配られました。「商事法務」の本年九月十五日号と九月二十五日号に全文載っております。これは、改めて確認しますが、本年五月三十日に与党三党から出された商法等改正法案に対する意見として述べられたものだと思います。それで、その意見書は、大変厳しい根本的な指摘がされているのですね。

 取締役の責任を含めコーポレート・ガバナンスの基本構造につき根本的な見直しを進めている中間試案の法制化作業が着々と進んでいる今、それと基本的方向において抵触する恐れのある、監査役制度や株主代表訴訟のみに関する小手先の法改正を行おうとしている法案には、根本的な疑問を抱かざるを得ない。

大変厳しい指摘だと拝見をいたしました。

 そこで、問題は、この五月に与党三党から出された法案に基本的に四項目の修正が加わって、今この委員会に修正案とともに審議に付されているわけであります。

 そこでお聞きしますが、この根本的な見方が修正案の四項目の修正によって変わるのか、全くそれは根本的には変わらないのか。先ほどの後半部分の意見陳述を聞きますと、根本的な見方は変わらないと私は理解をいたしましたが、そんな理解でよろしいのでしょうか。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 私は、筋論としては、先生御指摘のとおり、本当は来年の通常国会を待って、通常国会における取締役会改革と整合的な形での改革をするのが本筋だと今でも思っております。ただ、修正された結果、はっきり言えば、何とか我慢のできる内容にはなったというぐらいであります。

木島委員 それでは、今参考人がおっしゃられた、何とか我慢できる問題の一つ、最大の問題である定款の規定による事前免責の問題について質問をいたします。

 この意見書には、この事前免責に対して、厳しい、本当に厳しい指摘がなされているわけであります。そういう中で、原案の法案では、総株主の議決権の二十分の一以上の異議を集めることによって免責を撤回させる、そういう規定が入っているわけでしたが、それに対しても、この皆さん方の意見書は手厳しく論評していますよね。

 法案では、取締役会決議を遅滞なく公告し、一カ月以内に総株主の議決権の二〇分の一以上の異議があれば、取締役会決議に基づく免責は認められなくなるとされ、社外取締役についてのみ、定款規定に基づき直接責任の軽減がなされることになった。

  このような妥協の結果だけに、法案が中途半端な解決になっていることは否定できない。総株主の議決権の二〇分の一以上の異議を集めることは、いわゆる株主のコレクティブ・アクションの問題や、合理的アパシーの存在等を考えれば、実際には困難なことが多く、形式を整えただけに終わる可能性が大きい。取締役一般に関する取締役会決議に基づく免責は認めるべきではなかったのではなかろうか。

ここまで書き込んでおります。

 そこで、二つの点をお聞きします。

 コレクティブアクションの問題や合理的アパシーの存在等を考えれば実際には二十分の一以上の異議を集めることは困難だと、専門的な言葉で書かれておりますので、わかりやすくこれを手短に解説していただきたい。

 修正によって、これが百分の三に変わりました。二十分の一は百分の五です。百分の五から百分の三に変わっただけで、この問題は本当にクリアできたと参考人はお考えなんでしょうか。私は、百分の三というのはすさまじい数であります、とても百分の三で異議者を集めることなど不可能、それができるのは、その会社を支配している持ち株会社か持ち株銀行ぐらいしかないのではないかと思えてなりませんが、その二点について、参考人の御意見をお聞かせください。

岩原参考人 コレクティブアクションあるいはアパシーなど、ちょっと耳なれない言葉を使って、御理解しにくかったかもしれませんが、これは政治学や経済学で使われる観念でありまして、例えば、個々の株主にとっては免責に反対する方が合理的であり、そうしたいと思うけれども、でも個々の株主が持っている株式の数が少ない、とても百分の五あるいは百分の三に達しないということになると、それをいわばあきらめてしまう。その結果、株主全体にとってみては、反対する方が株主の利益になり、合理的なのに、みんながみんなそういうふうに思ってしまった結果、だれも反対に出るという行動をしない。反対するということ自体、時間をかけたり、ある程度費用がかかったりするわけですから。そういうことがあるために反対の行動に出ないことになって、いわばみんなの利益にならないことが結果的に実現してしまう。これが、コレクティブアクションあるいはアパシーと言われる問題でございます。

 私どもの意見では、そういったことが百分の五なりの異議の申し立て要件を設定した場合は起きてしまう可能性があるのではないかということで反対をしたわけであります。私も、今でも、本当は定款による事前免責は社外取締役だけについて認める方がいいのではないかとは思っております。

 ただ、百分の五から百分の三に変えたことが全く意味がないかというとそうではないとは思っております。現在日本でも、株式の保有構造が大きく変わりつつありまして、機関投資家、特に外国の機関投資家の保有割合が多くなってきておりまして、彼らが日本の経営者の提案に対して異議を申し立てるということが出てくるようになってきておりまして、百分の三ということになりますと、これからそういう声が影響を与える場面が出てくることが予想はされます。そういう意味では改善だとは思っております。

 以上です。

木島委員 ではもう一点、法律的なところをお聞きいたします。

 今度の原案、修正案が通っていきますと、株主代表訴訟と取締役の責任の判定の仕方に根本的な変化が生ずるわけですね。それは、取締役の悪意か重大な過失による行為によって会社に損害を与えた場合と、そうではなくて、普通の過失あるいは軽過失によって会社に損害を与えた場合が、決定的に仕組みが異なってしまう。重過失と普通の故意の場合には、裁判所で裁判官が具体的事案を慎重に判断して判決で決定する。しかし、普通の過失、軽過失の場合には、事前に定款や株主総会の決議や取締役会決議で天井を決めてしまうことができる。もう決定的な違いですね。

 そうすると、大変大きな問題として、法律の構造上、取締役の行為が重大な過失なのか、普通の過失なのか、軽過失なのか、そのえり分けが根本的な重大な問題になってこざるを得ない。そうすると、そんなことが果たして株主総会でやれることなのだろうか、やるべきことなのだろうか。取締役会決議で、重過失か、軽過失か、普通過失かをえり分けることなどやれるのだろうか、やるべきなのだろうか、可能なのだろうか。根本的な疑問を私は持っているわけであります。

 そこで、岩原参考人に一つお聞きしたいのですが、大和銀行事件の大阪地裁判決が大変な衝撃を与えました。二つの要素で組み立てられている事件であります。率直な印象をお聞きしますが、あの事件の取締役の責任は、今度この振り分けが必要になった場合の、重過失、通常過失、軽過失のどれに当たるとお考えでしょうか、あるいは故意による行為だとお考えでしょうか。突然の質問で、大変立ち入った質問で恐縮でありますが、非常に重大な問題だと私は思いますので、率直な、商法学者としての御意見を賜りたい。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 個々の事件に対するコメントなので非常に申し上げにくいのですが、あの事件は大きく分けて二つの行為に対する責任が問われたものであります。一つは、事前にもっときちんと部下の行動をチェックしていなかったことによる責任、もう一つは、事件が発覚した後それを隠したこと、隠ぺいしたことによって、アメリカ政府の方から罰金を科せられたことに対する責任、この二つでございます。

 後者の方、罰金を科された方、これはまさに隠ぺいをしたわけでありますから、悪意のある行為であって、これは免責できないと思います。前者、特に支店においてきちんとチェックをしていなかったためにそういう不正な操作が行われたという方については、過失責任の問題ではないか。(木島委員「大きさ、重さ」と呼ぶ)重さとしてもですね。特に、支店長が日ごろから取引先の方まで裏をとってチェックしていなかったとか、そういった点は私は重過失ではないのではないかというふうに思っています。というのは、普通の軽過失の問題かというふうに思っております。

木島委員 非常に具体的に過失の重さの判定というのは難しいのだと思うのですね。商法学者の先生、私も弁護士でありますが、本当に難しいえり分け。こんなことを株主総会や取締役会にゆだねること、そういう根本的な法構造が問題ではないかと私は思っております。

 本渡参考人に御意見をお伺いします。

 日本弁護士連合会は、ことしの三月十六日に、自民党の企業統治に関する商法等の改正案要綱に対する意見書を出しました。これは、時期的にも今回審議の対象になっている原案が提出される前の段階の自民党の意見でありますが、基本的な方向性は出され、それに対する日弁連の基本的な意見書がここに詳しく述べられているわけであります。

 先ほど参考人の御意見を伺っておりますと、この日弁連の意見書と全く違う御意見が幾つかあったのですね。監査役の考慮期間について、参考人は六十日で結構ではないかと述べられましたが、この意見書は、反対だ、考慮期間の伸張は不必要だ、三十日でいいということが書かれております。

 それから、株主代表訴訟への補助参加ですね。会社の被告取締役側への補助参加の問題では、既に御案内のように、本年一月三十日に最高裁判所の第一小法廷の決定がありまして、それを踏まえて日弁連も意見を言っているわけでありますが、その文章を読みますと、

  同判決には、反対意見もあり、補助参加を広く認めすぎるのではないかとの疑問もあるが、少なくとも「特段の事情」の有無の司法判断の余地があり、また取締役会の意思決定以外の場合については、別途の司法判断がされる可能性がある。

  会社が補助参加をした方が妥当な場合が仮にあるとした場合にも、この最高裁決定のように補助参加を認めるとすれば、敢えて一律に補助参加を認める商法改正は不要であり、要綱案には賛成できない。

こういう意見書になっているわけで、その点でも先ほどの参考人の意見はこれとちょっと違うのではないかなと感じたわけでありますが、参考人は、この日弁連の三月十六日の意見書の作成には参画をしておられるのですか。

 それと、この意見書の、細かい点を二つだけ今挙げましたが、ちょっと違っている点についてはどう考えているのか、まず御意見をお聞かせいただきたい。

本渡参考人 お答えいたします。

 この意見書については、私は参画しておりません。

 それで、まず監査役の考慮期間ですが、これは現在三十日で、監査役は別に三十日以内に提訴するかどうかを決めなくちゃいけないということでもないので、私は三十日でもいいと思いますが、しかし、六十日じゃいけないということでもないと思うのです。これは六十日になったからといって、要するに株主の方が監査役会に対して文書を出しますね、それから二カ月ぐらいだったら待っておれない期間じゃない、監査役も二カ月ぐらいあった方がより調査もできるんじゃないかな。したがって、この意見書では「考慮期間の伸張は不必要であると考える。」となっていますが、これはそれほど一生懸命になって反対しているわけじゃなくて、まあどちらかといえば三十日の方がいいかなという程度じゃなかろうかと私は考えております。

 あと、もう一つの被告取締役への補助参加につきましては、補助参加というのは、会社のために、要するに補助参加する人のために利益になるから補助参加するわけですから、仮に今回の法律が成立したとしても、全く会社の利益にならないようなときに補助参加は認めないのじゃないかなという気がいたします。この意見書も、全部が全部補助参加を認めるよという法律はよろしくないということなので、この法律案は、補助参加ももちろんできるかもしれないのですけれども、この法律ができたからといっても、補助参加の利益もないのに補助参加ができるということではないのじゃなかろうかと考えております。

木島委員 ありがとうございました。時間ですから終わります。

保利委員長 次に、植田至紀君。

植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。

 きょうは、岩原、本渡両参考人、急な日程にもかかわらず、ありがとうございました。日ごろ不勉強なものですから、質問前にこういう参考人のお話を伺うと非常に勉強になりますので、感謝いたしております。

 それで、幾つかお伺いしたいのです。

 まず両参考人に御教示いただきたいのですが、これは何遍かこの間、今のやりとりでもあったかと思うので、しつこいようなんですけれども、いずれにいたしましても、来年の通常国会で商法の大改正が行われる、今ちょうど中間試案の法制化の作業がやられているわけでございます。もちろん、政府の作業を待てばいいじゃないかと言うつもりはございません。積極的に議員立法でいろいろな問題提起をしていくというのも我々の仕事でございますから、何も出したらあかんというわけではございませんけれども、言ってみれば、改正の法案の方は社外監査役の強化などの改革が中心になっている一方で、中間試案は取締役制度の改革中心で、これは岩原参考人も御指摘されたとおり、改正案の方向性が中間試案と基本的に違っているのじゃないかという問題が一つ。

 それともう一つ、やはり取締役の責任制限にかかわっては改革全体の中で整合性を図りながら進めていくべき問題ではないか。にもかかわらず、今出されている法案については、コーポレートガバナンスの基本構造の見直しにかかわる部分まで踏み込んでいるわけでございます。

 その点、短い日程の中で、今の臨時国会で緊急にこれを上げなければならない必然性というものが果たしてあるのか。例えば、責任制限のあり方についても慎重に検討していく課題はたくさんあるかと思うわけですけれども、今ここでこれを上げなければならない緊急性があるのかどうなのかという点について、それぞれの参考人の御意見をまず承りたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 私は学者ですので、学問的な観点から申し上げれば、先生御指摘のとおり、本来は取締役改革とあわせて通常国会で改正されるのが一番いいと思っております。ただ、いろいろな事務作業その他の考慮があり得るのかもしれませんので、そこは私にはわかりませんが、理屈の上ではそう思っております。

本渡参考人 私も、岩原先生と一緒で、やはり整合性をきちっと考慮した上でやった方がいいのかなという気はしておりますが、だからといって今現在の法案に一生懸命になって反対しないといけないというほどのことはないかなと考えております。

植田委員 私ども一生懸命反対する立場でございますので、そう言われるとちょっと腰が抜けてしまうような話で困っちゃうのですが、できれば、本来ならば通常国会でゆっくり議論したらいいんだけれども、政治判断は政治判断として尊重したいというお話だったと思うのですが、その政治判断の可否についてお伺いしたかったわけなのですが、そこまで細かく言うほどのことではないと思っておられるというふうに両先生のお考えは承りました。

 そこで、本渡参考人にお伺いしたいわけですが、今回の改正案の方向性と中間試案の方向性は異なるのじゃないか、これは共通認識として持っていると思うわけです。今回の改正案では、監査役制度の改革ということで、特にアメリカなんかの社外取締役の位置に日本における監査役を置いて、アメリカにおける独立委員会機能のうち、いわゆる監査、訴訟の機能を監査役会にゆだねていこうとするものなのかなというふうに大ざっぱに理解をしているわけです。

 とする場合、経営者の監督を考える場合、やはり監査役制度だけを先に走らせるよりは、私はもちろん監査役制度の機能強化そのものに反対するわけではないのですが、例えば株主総会であるとか取締役会であるとか、そうした全体のコーポレートガバナンスの中で位置づけながら考えていくべきなんじゃないかと思うわけですが、その点、本渡先生はいかがでございますか。

本渡参考人 おっしゃるとおりで、全体を見ながら変えていくのがベターだと思います。

 しかし、やはり監査役制度を強化して、それで、これは取締役の責任の軽減の問題だとか代表訴訟のことと絡めているのだと思いますが、現時点でこういう改正をして、また通常国会のときに、今度は中間試案に出ているように、社外取締役とか委員会制度とかそういうことが出てきたときに、またこれはいろいろ議論がこの点についても及んでくるかもしれませんが、それはそのときにまたやればいいかなと考えております。

植田委員 次に、岩原参考人にお伺いいたします。

 株主代表訴訟の件にかかわって、今のずっとこの間のやりとり、また参考人のお話をお伺いしていますと、やはりこれについて若干の危惧は持たれているようなお話だったと思うわけですが、私は、少なくとも今回の原案の提案理由説明の中で明確に、株主代表訴訟が乱用されないようにということで、最終的に修正案が込み込みで通るかもしれませんから、若干そこは変わるわけですけれども、少なくとも原案の意図というものは、現状認識として株主代表訴訟が乱用されている、だから乱訴防止策が必要だ。要するに、乱用されているという事実認識があって、その事実がゆゆしき事実であるから乱訴防止のためにこの株主代表訴訟をいわば制限しなければならない、そういう理屈立てになっている限り、少なくとも事実として、株主代表訴訟が乱用されているという事実が明らかにされていなければならないというふうに思います。

 私はそういう事実はないだろうと思います。これは午後からの質疑で提案者に伺うべきことでしょうが、少なくともそういう事実はないというふうに私は断言できると思いますが、その点と、また一方で、代表訴訟の脅威が経営者の大胆な意思決定を萎縮させている、妨げているというのは、これは九三年の商法改正からまだ間なしのころから言われておったわけです。実際、株主代表訴訟がどんな中身で、いろいろな訴訟が実際どんな現状にあるのかということがまだ十分に掌握するには足りない時間幅の段階で、既に乱訴防止、乱訴防止ということが言われていたということで、非常に動機の点に不純これありと私は思っておるわけですが、一つは、こうした代表訴訟の存在が経営者に緊張感を持たせて、むしろちゃんとした企業経営にとってのプラスの要素になっているんじゃないか、むしろそっちの方を私は大切にすべきじゃないかというふうに思うわけなんですが、その二点について、岩原参考人の御見解をお伺いしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 私も、基本認識においては先生と同じ認識を持っておりまして、少なくとも、全体として見れば、株主代表訴訟というのは、むしろ経営者に対する緊張感を与えて、そしてよりよい効果を持っている。そしてまた、代表訴訟の結果、経営者が萎縮しているというようなことはまずないのではないかと思っております。

 仮に、現在の代表訴訟の実情を前提に、経営者がそう思って萎縮しているとすれば、一つは、余りにも代表訴訟を大きく描き過ぎているのではないか、そんなことで萎縮するようでは本来経営者としては適切ではないのではないかと思います。

 ただ一方で、一部の訴訟で、弁護士さんの中に、必ずしも十分な訴訟の準備をしないで訴訟しているような事件が見受けられないわけではありません。ただ、これについては、さっき申し上げましたように、担保提供命令などで裁判所が適切に対応されていると思いますけれども、そういった点については今後なお改善の余地があるかなというふうに思っておりまして、この法案は、むしろそういった点について余り効果がなくて、むしろ別の方をにらんだ結果になってしまっているのかなという感じはしております。

植田委員 にわか勉強で岩原先生の「商事法務」の昨年の十一月付の論文を大慌てで読ませていただきました。ここで、大和銀行の件については、極めて異例な、唯一の突出した判例と言えようということでまず認識された上で、しかしながら責任制限の必要性はあるだろうということで、当然これは、現状においては、ほとんどの場合、今の総株主の同意がない限りできないということであれば、もうほぼすべての大会社が免責要件を満たすことはほとんど不可能に近い、そういうことでございますから、その必要性については言及されているわけです。

 そこで、今回の法案でも出ておるわけですが、先生がお考えになる範囲の中で、先生の問題意識と今回の法案というものが基本的に合致しているのか、先生として首肯できるものなのかどうなのかという点、ずばりお聞かせいただけますでしょうか。

岩原参考人 御指摘いただきました論文に書きましたように、私も一定の場合については免責の制度があった方がいいのではないかと思っております。

 ただ、最初出てきました案はやや甘過ぎて、そういった合理的な範囲の免責の制度を超えたような内容だったものですから、賛成しがたいと思っておりましたけれども、修正の結果、その点についてはかなり合理的なものになってきたのかなというふうに考えております。

植田委員 私はそうでもないんですけれども、それは午後からお伺いすることですので、先生の御見解はお伺いいたしました。

 それで、最後になりますが、本渡参考人に。

 先ほども若干議論ございましたけれども、私も、本渡参考人が来られるということで、インターネットで日弁連の三月十六日付の意見というものをとりあえず取り寄せて大急ぎでざっと見たわけですが、一点、先ほど木島先生がおっしゃられなかった点ですが、社外監査役の数にかかわって、過半数と半数以上ということになってくると、やはり違うわけでございまして、半数ということだけだと、この日弁連の意見によれば、「拒否権は得られるが、積極的に意思を通すことができず、監査役会がデッドロックに乗り上げることになりかねない」と。この点、本渡参考人も御意見を述べられている中で、それはそうだけれども、監査役会でデッドロックに乗り上げるようなそういう企業はそもそも問題なんだ、そういう趣旨のお話があったかと思うんです。

 それはそのとおりなんですが、監査役の機能の強化という観点からすれば、積極的に意思を通すことができる、そういう機能を監査役にきちっと持たせるということと、実際企業の中身がどうなっているかということはまた違うのかな、少なくとも制度としてきちっと、拒否権はもちろんのこと、社外監査役がきちっと意思を通すことができるというその仕組みを保障するということは私は大切なことなんじゃないのかなとちょっと思って聞いておったんですが、その辺、もう一度御教示いただけますか。

本渡参考人 お答えいたします。

 社外監査役にどの程度の権限を与えた方がいいのかということについては、私はそれほど一生懸命になって拒否権まで与える必要があるのか疑問に思っております。

 それで、現在の監査役は個人でも単独で取締役の責任を追及するということもできますし、また、営業報告書とかそういうところにも問題点を指摘することもできますので、やろうと思えばいろいろなことができまして、監査役の権限は社会一般で思っているほど軽くなくて、本当にやる気になったらいろいろなことができると思います。

 したがって、社外監査役が過半数じゃなくちゃ仕事にならないというようなことはないんじゃなかろうかと私は思っております。

植田委員 時間が参りましたので、両参考人、ありがとうございました。

 以上で終わります。

保利委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人の皆様に一言申し上げます。

 本日は、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時九分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時七分開議

保利委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 第百五十一回国会、太田誠一君外四名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案及び商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案並びに長勢甚遠君外三名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する修正案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案及び修正案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長山崎潮君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所千葉民事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

保利委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。植田至紀君。

植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀でございます。

 きょうは、提案者の皆様方、大変お疲れさまでございます。私も商法のことは非常に不勉強でございまして、いろいろと法案も見ながら勉強させていただいたわけでございますが、そういう意味では、そうした幾つかの疑問点について御教示いただければというふうに思っておるわけでございます。

 ということをまず申し上げまして、ただ、いずれにいたしましても、議員立法という形で法案を提出されて、議員同士でこういう場で議論をする場がふえることは非常にいいことだろうというふうに基本的には思っております。やはりそういう意味では、各先生方それぞれのお立場はあるかとは思いますけれども、そういう形で、立法という形で問題提起をされたということにつきましては、修正案また法案の提案者の方々にそれぞれ敬意を表したいというふうに思うわけでございますが、では、今回の法案が今この場で何としても上げなければならない緊急性があるのかどうなのかということについて、まず入り口のところで疑問があるわけでございます。

 確かにこの間、政府で商法の要綱中間試案がまとめられていて、そして通常国会でかなりその辺の大改正が予定されて、その作業が進んでいるというふうに伺っておるわけです。午前中の参考人質疑のときにもお伺いしたわけですけれども、別に、政府が出すからそれを待って議員立法の方は遠慮したらいいじゃないかと言うつもりはありません。ただ、そういう情勢の中で、今回の法案全体を見た場合、どうして緊急性があるのか、今どうしても大急ぎで、このタイトな日程の中で上げなければならないのかというところは、非常に私個人としては疑問に思っているところでございますので、まず入り口のところで、要するに、今この法案が必然性を持っている、今回上げなければだめなんだというその緊急性がどこにあるのかということについて、お教えいただけますでしょうか。

太田(誠)議員 この企業統治に関する商法の改正というのは、実は平成九年の夏に自由民主党の小委員会で案をまとめて、基本的には、今提案させていただいているものは、それを骨格にして、さらに与党あるいはこの法務委員会のメンバー、与党だけではなくて野党のメンバーも、たびたび研究会を開いて検討してきたものでございます。

 特に、法務省が今検討をしていると伝えられる中間試案は、主として今のアメリカのコーポレートガバナンスの仕組みというものを、全面的ということは言えないけれども、相当大幅に取り入れたものになっております。

 平成九年の段階で、商法学者やあるいは法務省においても、アメリカのこのコーポレートガバナンスのことを念頭に置いて新たな商法の改正をやろうというふうな動きは正直なかったわけであります。こちらの方が先行して案をまとめてきて、今日に至っております。しかも、この法案は、与党の合意ができたのがことしの前半でありまして、ことしの通常国会、六月で終わりました通常国会に既に提案をいたしたものでございます。ばたばたと大慌てでやったものではなくて、その間に四年、我々の段階でいえば五年間の長い検討期間の末、やっとここで日の目を見たものでございますので、時間的な順番は、政府の中間試案よりもはるかに以前からやっておるということを御理解いただきたいと思います。

植田委員 たしか、商法の改正にかかわる話が始まった当初は、私ども社民党も与党にいた時代で、その入り口のところは随分かかわっております。当時も私、事務局でおりましたので、途中までは私もその経過を承知はいたしておるところでございます。

 確かに、要綱中間試案の中でも、アメリカの企業社会に範を求めていく。そういうグローバルな観点からコーポレートガバナンスの確立を早急に図るという点におきましては、私ども問題意識は共有しているわけでございますし、企業の最大の問題が競争力の向上にあるというために、では具体的に何をどう改革していくのかという、その辺の問題意識は、私なりにも、また社民党としても持っておるつもりですけれども、その意味では、やはり経営のかなめにいる取締役の改革こそが最大のポイントではなかろうかというふうに思うわけです。

 その意味で、時間的には恐らく自民党の先生方の方が先に取りかかられたという今先生のお話でございましたけれども、社外取締役の導入を中心にした中間試案というものは、そうした方向性を示したものであるというふうに理解するわけです。

 といいますのは、実際に、株主軽視の土壌がこの間の商法改正の中でも大きく改善しなかったということ、そしてまた、商法の理念を尊重しながら株主重視の姿勢を一層鮮明にするという問題意識も、これはおおむね共通認識として持っているわけです。そんな中で、社外取締役の導入を中心にした中間試案というものの意義は意義として私はあるかなと思うわけです。

 ただ、そうした方向に対して、今回の改正法案というものは監査役制度の改正が中心になっているわけでございます。一方、これは先ほどの参考人の質疑のときにもお伺いしたんですけれども、それにも加え、後で詳しくはお伺いしますが、いわゆる取締役の責任軽減を含めて、コーポレートガバナンスの基本構造にまで立ち入った見直しがなされているという中で、中間試案と改正案の方向性というものはやはり異なっているんじゃないかなと。参考人の方にお伺いしましたら、それは異なっているけれども、これはこれでいいんだということで、改正案については私が思うようなお話は伺えなかったわけですが、基本的に方向性は異なっているというふうに理解してよろしいでしょうか。

太田(誠)議員 中間試案で検討されていることのすべてではありませんけれども、両方ともモデルはアメリカの今の制度でございますので、アメリカの制度は構造的にどうなっているかといえば、取締役会の中に最小限四つの小委員会を設ける。一つは監査委員会、一つは訴訟委員会、一つは人事委員会、一つは報酬委員会、四つの機能がある。その中で、中間試案で検討されているのは、恐らくこの最初の二つ、訴訟委員会と監査委員会であろうと思います。

 ところが、この訴訟委員会、監査委員会というのは、アメリカの制度でも大変強い権限でございます。例えば、株主代表訴訟に対する訴訟却下、事実上訴訟を却下する権限を、取締役会の中に設けられる訴訟委員会が持つことになるわけでございます。その強い権限を持って訴訟を却下できるということは、同僚の取締役に対する訴訟に対してはバックアップする力が強いというようなものがあるわけでありますが、その分やはり非常に強い独立性を持たなくちゃいけない。その強い独立性の所産として、人事委員会、すなわち代表取締役の人事権を事実上その小委員会が持つというようなところまであるから、バランスがとれるわけであります。

 では、今度の中間試案のように、別に批判しているわけじゃありません、批判しているわけじゃないけれども、ここで議論になるのは、小委員会に人事権まで持たせるのか、人事権まで持たせないのであれば、なぜ訴訟却下権に近いものまで与えることになるのかということで、私は、大いにこの中間試案についても今後の論争を呼ぶ点だろうと思っております。論争を呼ぶことになっていることはこれから議論をすることでありますので、既定の事実のようには言えないと私は思っているのであります。これはもし人事権まで与えるというなら別でありますけれども、人事権がなしでやるということであれば、大いに論争を呼ぶことだと思っておる。

 そういたしますと、そういう総合的な経営判断の中で監査機能、訴訟機能も入れるという世界と、それから、今のように限定して、総合的な経営判断にはタッチしない監査役が訴訟あるいは監査について権限を持つというのは、これは同じ方向であるというふうに思っております。

植田委員 そこで、今監査役の話までお聞かせいただきましたので、次に、監査役の機能強化にかかわる改正部分等についてお伺いをしたいと思うわけです。

 ただ、私自身は、監査役の独立性が十分保障されたとは言いがたいのではないだろうかというふうに思っているわけでございます。そして、実際に、その監査役の同意を条件にして、むしろ株主の権利を後退させるようなものが散見せられないだろうかという疑問を抱いておるわけでございます。

 実際、午前中の参考人の質疑の中でも、現在の監査役でもいろいろなことができるんですよという話はお伺いはいたしました。ただ、監査役といいましても、今回の改正部分ではいわゆる大会社の監査役について幾つかありましたけれども、実際、それ以外の会社の監査役の、独立性を含めて実態がどうなっているのかという場合、やはり、例えばちょっとした田舎の企業でしたら、親戚に監査役をやっておいてもらっているとか、そもそも監査役としての機能が果たし得ないような監査役というものは結構存在するだろうと思うわけです。

 むしろ、監査役の機能強化といった場合、そうしたすべての会社の監査役のあり方についてきちんと網をかけて、実際今でもいろいろなことができるのであれば、それができ得るに足る監査役をしっかりとつけることができる、そういう意味での機能強化というものがないことにはだめなんじゃないだろうかなということも考えているわけです。

 そういう疑問も持っておりますので、一番冒頭申し上げましたような、独立性が十分保障されない監査役がいろいろなところで同意をしちゃって、実際問題は株主の権利を後退させてしまうという局面が出てくる疑問が生じたということでございます。その点についてはいかがでしょうか。

太田(誠)議員 監査役の独立性を確保するということが今回の商法改正の一番の柱でございます。この改正によって、相当というよりも十分に独立性が確保されることになると考えております。

 なぜならば、まず、監査役について従来から指摘されておりましたことは、取締役会に出席することは出席できるけれども、物を言わぬのが当たり前だというふうに言われていたわけであります。終始発言をしないというのが監査役だと言われてきたわけでございます、人によって違いはあると思いますけれども。そうしたら、一般的に、そこで必要なことは監査役の意見として言うことを半ば義務づけるということがその監査役の取締役会での重みを増すことになるわけでありますので、発言はせざるを得ない、あるいは、それを受けざるを得ないということが、代表取締役にもそのことを強く認識させることができるという点であります。

 それから次に、監査役といっても、従来は、社内の監査役が三人のうちの二人であって、社内監査役中心の仕組みであったのを、社外を半数以上とすることによって社外の意見が大幅に取り入れられるようになる、第三者的な見解が出せるようになるということが次でございます。

 もう一つは、しばしばあったのは、社内の監査役について特に言えることでありますけれども、一応任期は三年としてあったけれども、実は就任する前に話ができておって、みんな役員が交代するときにあなたも一緒に交代しなさいというふうなことに暗黙の了解ができているケースが多々あったというふうに聞いております。そういたしますと、役員と一緒に人事のローテーションが行われるわけでございますから、何かこれは代表取締役の人事権の一つであるようになってしまうわけであります。それを避けるために、三年を四年ということにいたした。

 それからまた、監査役会として、個々の監査役の人事権、提案するときの同意権、あるいは提案権を保障したことによって、みずからの人事については非常に強い権限を監査役会が持つことになりましたので、そこでもって独立性が確保されたというふうに考えております。

植田委員 大体お話はわかりました。

 そこで、ちょっと改めておさらいだけさせておいてほしいわけですが、提案者がお考えになっている監査役の位置づけというのは、従来からありますように、会計監査でありますとか、取締役の業務執行の違法審査ということであり、そしてまた一方、社外取締役であるとか取締役は経営の妥当性の監督、そういう切り分けで当然お考えということでよろしいですか。

太田(誠)議員 おおむねそういうことだと思います。

植田委員 それで、そうだとした場合、この間ずっと、一九五〇年以降のコーポレートガバナンスに係る商法改正というのが監査役の制度の改革に尽きるといいますか、そういう歴史があったかと思います。

 ただ、その中で、会計監査でありますとか違法性監査の枠内でもたびたび強化が図られてきたはずであるにもかかわらず、少なくとも顕著な効果はもたらしていなかったというのは一体どの辺に理由があるのか。もちろん、それの総括の上に提案者としての問題意識を持って今回のこういう法案を出されたのだろうと拝察いたしますけれども、その辺の総括というのはどういうふうになさっておられますでしょうか。

太田(誠)議員 それは、先ほどお答えしたことにも通じるわけでありますが、従来は、社内監査役中心の体制でありましたので、役員人事などの一環として取り扱われることが多かったということ、つまり、社外性、第三者性、独立性というのが、人事の制約がなかったために社内の人事として扱われてきたということ。それからまた、我が国の企業風土といいますか、我が国自体の土壌の中に、インディペンデントなものとして取締役会で発言をするというその土壌が欠けていたということではないかと思います。

植田委員 わかりました。私自身、そういうことだろうと、そこは共有できると思うのです。

 いずれにいたしましても、今回この改正で監査役の独立性が十分担保され得るという基本認識でしょうから、私自身、この法案の中で、最終的に全部そぎ取れば、不十分ながら監査役の機能強化だけ出されたのであれば今回の質問の中身もやや変わってきたのかなと思いながら、ただ、提案者がおっしゃるように十分な役割を監査役が発揮できるのかという点については、これも午前中お伺いしたのですが、例えば、たしか社外監査役の数が過半数から半数以上というふうに、当初からはこれはやはり後退なのかなと思うわけです。

 といいますのは、参考人は、別に過半数でも半数でもいいんだ、そもそも監査役の権限というのは今でも大きいんだ、そういうお話はお伺いしたわけですけれども、独立性確保という観点からするならば、拒否権は当然あったとしても、そうした積極的な意思をきっちりと表明する、これは日弁連の意見書でもそういうことが言われていますけれども、制度的には、そうした積極的に意思をしっかりと言えることができる条件というものはきちんと、せっかく機能強化をされるのであれば過半数ということでもよかったのではないかと私は思っているわけです。もし、とりあえずこうしておこうというのであれば、もうちょっとじっくりと議論して、全体像の中で監査役の強化も考えればよかったわけですから、どうもこれは拙速に事を運んだのかな、そういう推察もしてしまうわけです。

 例えば、今例に挙げましたように、独立性を十分保障するという観点からすると、今申し上げたようなところもやや不十分ではないかと思うわけですが、その点はいかがですか。

太田(誠)議員 これはどう見るか。まさにそれは質的な話ではないわけでありまして、後退という見方はできるかもしれませんが、要は、監査役は、つい最近までは社内の人が当たり前ということになっていたその土壌の中に、たしか平成五年の改正だったと思いますけれども、そこで初めて社外を一人入れるということになったばかりでありますので、そこから過半数ということまで行くには、今の土壌からすると、この数年間の間に余りにも変わり過ぎる。だから、半数以上であれば十分に社外性というものは確保できているというふうに判断したのでございます。

植田委員 そこで、ややひねくれた質問をさせていただければ、この改正案が通れば、監査役の数をふやさないかぬケースも当然出てくるだろうと思うわけです。一方、監査役の数をふやすという場合、実際、スリムな経営を目指そう、効率的な経営を目指そうということで、取締役の数を減らそう、そういう最近の取締役改革、その実態と逆になってしまって、バランスを失することにもなりかねないと思うわけですが、その点はいかがでしょうか。

太田(誠)議員 先ほど申し上げましたように、中間試案との関係は、これはどうなるかわからないので、今言及はできないわけでございます。

 そこで、数が多くなり過ぎるじゃないかということでございますが、要は、現行の法律の、大会社においては三人以上ということで我々は考えておりまして、三人以上だから三人しか置かないだろうというふうに想像をしている中で社外を二人としたわけでありますので、普通でいえば、無理ないところでは、三人のうちの二人が社外で一人が社内ということになるわけでございます。あえてそこで、過半数ではなくて半数以上とするためにもう一人任命をされるということになるかもしれない。それはその会社の判断で、そこにいる取締役の皆さんが決めることで、取締役があえて決めて、社内をどうしてももう一人したいということでされることでありましょうから、そこは企業の、会社の判断権に属する問題だと思います。

植田委員 次の質問に移りたいわけですが、この法案の中で、先ほども申し上げましたように、私は別に監査役の数をふやすことになったらけしからぬということじゃなしに、実際、どうも経済界では社外取締役を義務づけようとするのには嫌がる声が大きいのにこっちの方はいいのか、負担という面ではどっちでも同じことやないかという疑問を、負担というレベルにおいては社外取締役だろうが社外監査役でも同じ問題だろうということがありましたのでお伺いしたわけでございまして、実際、三人いて一人社外というときもう一人ということになるということが企業の負担になるからお気の毒やなということでは私は別にないんです。

 いずれにしても、この法案の中で私は、監査役の機能強化にかかわる部分にかかわっては基本的にそんなに大きな疑義はない、ないと言ったら言い過ぎかもしれませんが、不十分であるということはありますが、半歩でも一歩でも工夫を加えていただけるのは、それはいいのかもしれないと思っているわけです。

 先ほど太田先生もおっしゃいましたように、中間試案の中でいろいろなことが検討対象になっているわけで、例えばそれは御紹介されました訴訟委員会制度ということですよね。そうなると、ちょっと私もイメージすると、実際は訴訟委員会制度ないしは監査役制度との選択みたいな感じになるんでしょうかね。監査役制度という形を選ぶのか、そういう訴訟委員会制度というものを採用するのかというようなことにもなってくるのかなと思うわけです。

 そうすると、これは余計な心配かもしれませんけれども、ここで改正案が通っても、また通常国会で商法の大改正がどばっと来るわけですので、あっという間にいろいろな、今回通った法案の中身についても再検討を迫られる中身も多く含まれているんじゃないのかなと。それだったら、最初に戻るようですけれども、必ずしも監査役の独立性が今回の改正でも十分に確保できないという意見も当然あるわけでございますから、やはり拙速にその改正を今回急ぐ必要はないのかなというところに戻ってしまうわけですが、その点、改めていかがですか。

太田(誠)議員 中間試案の予定されている案でございますが、アメリカのコーポレートガバナンスの制度がどうしてこういうふうになってきて実際にワークしているようになるのかという背景には、いわゆる年金ファンドのような非常に大規模な個人株主の固まりというのがあって、その年金ファンドのようなところからの大株主としての発言というものをどうやってリーズナブルな株式会社の中の秩序にするかというところから、この今日のコーポレートガバナンスの仕組みができ上がってきたものと思います。

 そうすると、我が国においてはアメリカの年金ファンドのような大規模な株主らしい株主というのがまだ登場していないわけでありますから、そういう意味では、アメリカそっくりのものを我が国に導入するということについては一つ問題があるという点が第一点であります。

 それからもう一つの点は、そのように大きな権限を持った社外取締役中心の取締役制度というものを導入するならば、それはきっとその眼目は、代表取締役、社長や会長の人事権も持っているというところに大きな意味があるんだろうと思います。そういう意味では、私はまだ、中間試案が全容を示されたときに異論は私自身もあるということであります。

植田委員 そのお話はわかりました。余りそこを突っ込んで言うても、それやったら何か議員立法やったらあかんみたいに私が主張しているようになってもまずいので、御意見は拝聴させていただいて、次に進みます。

 次からちょっと問題になる話でございますが、この取締役の責任の軽減にかかわって、これも当然全体の改革の中でゆっくり見直してしかるべきだろうというふうに、私は責任制限ということ自体検討課題であろうとは思っておりますけれども、現段階において、じゃ今ここで提案されているような中身を拙速に進めていいのかという疑問があるわけです。

 といいますのは、実際、諸外国の事例でいけば、大体大ざっぱに分けると三つぐらいあるようですね。一つは、スイスやオランダ、北欧なんか、まあヨーロッパでは、この責任制限の方法については裁判所の裁量によって事後的に責任額の減額を認めるという方法。あと、ドイツなんかでは株主総会の決議で事後的に免責を認める。そしてもう一つは、定款に基づいてあらかじめ一定額までの責任の減額を認める。アメリカの州の会社法ではそういうふうになっているところもあるようでございます。

 十分理解していない面もあるかもしれませんが、大体そうした三つのパターンがあるようですけれども、これは、今回の改正案でもそうですし、要綱でもそうですけれども、どうも今言った二番目ないしは三番目の方向で考えておられる。いずれにしても、監査役の同意を条件としながら定款ないしは決議ということであるようです。

 ただ、これはやはりコーポレートガバナンスのあり方全般と裁判のあり方にもかかわっているわけですし、また取締役会、監査役のあり方にもかかわるわけですから、少なくともこれは、司法制度改革が予定されておりまして、裁判のあり方等についても大きく変化することも当然予想されるわけですから、今先んじて、しかも、いろいろな網をかけていたとしても、その同意をする監査役制度だってまだ十分な独立性を確保されていないじゃないかという指摘は指摘として、そうじゃないとおっしゃるとは思います、そういう指摘もある中で、今ここだけ責任制限法制の立法を行う、これから先に行うというのはどうも順序が逆なんじゃないのかなというふうに思うわけなんですが、いかがでしょうか。

保岡議員 何かいろいろな大きな問題とふろしきに入れたような質問なものですから、どういうふうに答えたらいいかなという気もしないわけじゃありませんが、まず一つは、司法制度改革は、もちろんこれは、裁判の迅速化あるいは訴訟のコストをできるだけ利用者にかけないようないろいろな工夫とか、いろいろな国民のニーズにこたえた司法改革ということで、これは裁判一般の効率化、合理化等を図っていくもので、それとこれとを直接結びつけるということは適切じゃないと思うんですね。それはそれでやればいい。

 それで、また三つほど委員は責任軽減のあり方について法制の類型化をちょっと挙げられて、そういう点、日本の場合はどういうところに向かうのかをもう少しはっきりして、政府の方の商法の抜本改正等も総合的に考えていく姿勢が必要なんじゃないかなという、そういう趣旨かなと受けとめたんですけれども、例えば裁判所で責任の範囲を事後的に決めていくという仕組み、これは、日本の場合は和解によって同意を、当事者の主張を聞きながら、裁判所が関与して訴訟上の和解を成立させるというようなことで、同じようなことが我が国の代表訴訟においても、今度和解の制度が法文上明確になって位置づけられましたから、そういうことによっても裁判所の判断というのは生かされている、私はそう思いますし、それから、株主総会あるいは定款による責任軽減というのも今度要件を緩和する形であるいは新設する形で制度として改正案の中に盛られまして、今先生が言われたようないろいろな株主代表訴訟の責任軽減の考え方というのは今度の改正にしっかり入れられていると思います。

 また、中間試案というものが、先ほどから先生が言われるように、取締役の業務執行の妥当性を確保する方向で、それを強化するというようなものである方向性をとっていますけれども、これは一般的にそういうことを制度よりか先行して既に行っている会社が現にあるわけですね。しかし、その場合は、監査役制度が法定化されていますから、その制度も維持しなきゃならぬ、二重になる。したがって、どちらかを選択できるような、国際化する激しい競争の中で企業が生き残っていくためにより効率のよい、実効性のある、迅速的確に経営ができる、そういった経営形態を選択できるように選択肢を多くするとか、そういったこともまた中間試案は目指している。

 したがって、一方でまた業務の違法性あるいは会計監査の適正をチェックするという監査役制度も今ほとんど多くの会社で機能しているわけですから、そういったものをまた前提とする監査役制度の機能強化という今度の法改正も必要なことであって、決して中間試案に見られる努力と我々の議員立法の努力とが相矛盾してぶつかるということはないと思います。

植田委員 ちなみに原案では、この取締役の軽過失の事後免責の要件、例外について、取締役の責任を普通決議により一定限度で免除できるということになっていたのが、特別決議とすることで修正が出されているということでございまして、参考人の方も特別決議としたことで安心いたしましたという趣旨の話があったかと思うんですが、この場合、実際、特別決議でしたら総株主のどれだけのオーケーがあれば決議されるんでしょうか。これは初歩的なことですが、一応教えていただけますか。

太田(誠)議員 特別決議の場合は三分の二。普通決議は過半数、二分の一。

植田委員 二分の一から、三分の二になればオーケーだということなんですが、実際、そもそも決議というところでこの種の軽過失について確認し合うということが現段階において適切なのかどうなのか、要は司直の手にその辺の判断を全部ゆだねるということに何かそんなに大きな問題があるのかなと私なんか素人目に思うんです。

 というのは、例えば、責任制限の必要性をおっしゃる人の中には、裁判に時間がかかるとか賠償額の支払い命令が出たら大変だとか、そういうことがいろいろとあるわけですけれども、実際これは、先ほど三つの類型とおっしゃいましたけれども、一番目の類型で当座何か大きな問題があるのかなと私は素朴にそこは疑問に思っておるんですが、やはり私のような認識だったら間違っているんでしょうか。

谷口議員 植田委員、先ほど議員立法に対しまして評価をいただきましてありがとうございます。

 今まさに経営が大きく変わろうといたしておるわけでございまして、それも大胆に経営のあり方が変わろうといたしておる。そういう状況の中で、企業の社会を見ますと、放漫経営だとかいろいろな問題が起こっておるわけでございます。そんなこともありまして、今回、制度改正を待たずに、やはり機動的な法改正が必要だろうというようなことで、本改正案を提出させていただいたわけでございます。

 そこで、今お尋ねでございますが、法律で責任制限を規定することに特別の意義がないのではないかというようなお話でございました。

 御存じのとおり、現行法におきましては、責任軽減を実態的には認められておらないというような状況にあるわけでございます、総株主の同意が必要だというようなことになっておりますから。これは実務的に、実態的には不可能というような状況にあるわけでございますので、そのような状況の中で、一方で、この軽過失で行った場合に、軽過失があって会社に多大な迷惑をかけた、高額な賠償が請求されるといったようなことになりますと、取締役は大変な、経営の萎縮というのが考えられるわけでございますので、大胆な経営を経営者が行い得るような、経営陣が行い得るような法改正が必要だというようなことで、今回、この責任の軽減を行い得るというようなことにしたわけでございます。

 これは、先ほどおっしゃったように、株主総会の決議、また定款の改正による、特別決議で定款の改正を行うわけでございますが、取締役会決議に基づくこの責任の軽減、このようなことをいたすわけでございまして、この責任の下限額を今回、我々原案では二年ということにしたわけでございますけれども、修正案では六年、四年、二年というような形にしたわけでございまして、今般の企業社会における経営のあり方、経営の責任という観点で今回のこの法案は必要なものだ、現状の企業社会の中でこれはやはり必要だというような観点で提出をさせていただいたわけでございます。

植田委員 今定款の話が出ましたので、そちらの方もお伺いしたいと思いますけれども、定款の規定によって事前的、包括的に取締役の責任制限を定めるということは、これは事後的な責任制限に比べて、実際具体的にどんな責任が発生するのか、事情等がどれだけ考慮されるのか、これは非常に不透明なところがありますよね、そのことで決議がなされるわけですから。そうなると、将来持ち得る意味というものを十分に理解されて決議されたとは言いがたい、そういうことも言えるだろうと私は思うわけですが、いずれにいたしましても、少なくともその場合、株主の予想を超えて免責をされるということが、そういう結果がやはり想定されることは事実ですよね。そういう場合も想定されますよね。

谷口議員 定款変更の場合は、委員も御存じのとおり、株主総会の特別決議を経まして定款の変更を行うわけでございます。ですから、そういう意味で申しますと、厳重な株主のチェックがその段階で行われる。今委員、事前承認というような言い方をおっしゃったわけでございますけれども、一応定款で責任を軽減することを株主総会でまずチェックするというようなことが一つのポイントだろうと思うわけでございます。

 あとは、総会で仮に責任軽減をやらなきゃいかぬということになってまいりますと、そういう事由が発生したときに臨時株主総会を開かなきゃいかぬというようなことになるわけでございますから、そうしますと、臨時株主総会もそういう理由で開会するということは、非常に手数がかかると申しますか、すぐにできないわけでございますから、また一方で、この対象となった取締役が長期間どういうような状況になるかわからないというような、非常に不安定な状況に置かれるわけでございます。

 そういうような観点で、まず、株主総会特別決議で定款の変更をいたしまして、取締役会決議で責任の軽減を行い得るといったようなことを決議をとって、機動的に取締役会で責任の軽減を行うといったことが実態的なやり方であろうというように考えて、本改正案を提出いたしたわけでございます。

植田委員 要するに、私は、株主がその段階で予想していないような免責が想定されるでしょうということをお伺いしたら、仮に想定されようがされまいが、その段階で株主がきっちりとチェックするんだから、そのときに思いもしていなかったようなことが実際起こったとしても、それは株主の側がぼんやりしていたんやという話になるわけですわね。いずれにしても、ちゃんとチェックしているはずだと。

 ただ、実際、そのときの定款規定による決議に参画した株主はともかくとしても、将来の株主もそのことによって拘束することにはならないのでしょうか。

保岡議員 それは、拘束するというのか、定款の効力はその後に株主になった者にも当然及ぶのであって、それは当たり前の話で、別にそれが問題だとは思えないのですが。どういう点に疑問を呈されているのか、よくはっきりしませんが。

 ただ、先ほどからの御質問を聞いていると、具体的な事案が出た上で判断すべきこともあるだろうに、一定の条件のもとに取締役会の決議に責任軽減を授権するのは問題を残さないか、こういうような趣旨じゃないかと思いますが、それは、先ほど谷口提案者からもお話があったとおり、問題が起こって責任軽減を必要とするような事案が生じた場合、たくさんの株主がいるような大きな会社は、そのためだけの臨時総会を開くというのはなかなか大変なんですね。

 そこで、次の定時総会まで期間が長い場合は非常に不安定な状況が生じて、さっき谷口さんもるる言われましたとおり、会社や取締役の経営を萎縮させるというような問題の方が大きい、したがって、そういう株主の特別決議による定款による授権と、株主側の、そういうことに的確にかかわっていく、チェックするということを調和させているのであって、その調和はこの提案において適切に行われたというふうに考えています。

谷口議員 済みません。ちょっと今の保岡先生の補足で申し上げたいと思いますが、取締役会決議で責任軽減の決議を行う、将来の株主の方のことをおっしゃったわけでございますけれども、その場合に、異議申し立ての制度を設けておりまして、異議申し立て期間内に一定の株式数を持っておられる株主が異議を申し立てるといったような場合にはこの決議が認められないというようなチェックが入っているということを申し上げたいわけでございます。

 原案では、これが二十分の一以上、五%以上ということになっておりましたが、今回、修正案で、三%以上の株主の方の異議がございますとこの決議については成立をしないというようなことになったわけでございます。

植田委員 そのことは後で聞こうと思っていたので、引き続いて伺います。

 その前に、もう一点だけ。

 ちなみに、その定款に一体具体的に何を書き込むわけですか、それをちょっと教えてほしいのです。善意にしてかつ重大な過失がなかった場合というものがいかなる場合かというのは、定款の中で書き込まれるのか、書き込まれないのか。それは、取締役会で決議すれば軽減できるということだけ書くのですか。それとも、こういう場合はという、軽過失の場合はこういうケースだよということが書き込まれるのですか。その辺はどうなんでしょうか。それをまずちょっと教えていただけますか。

 ちょっと私、定款のことがよくわからないのですが、少なくとも、善意にしてかつ重大な過失がなかった場合は取締役会の決議で軽減できますよということだけを定款に書くのか。私の素朴な疑問としては、その軽過失の定義をきちんとその定款に書き込んでおかぬことには、その都度その都度の取締役会で恣意的な判断がなされるだろうと、ついそういうふうに思うわけですから、そこは何が書き込まれるというふうに理解すればいいのでしょうか。

保岡議員 この取締役の責任軽減というのは、今度改正しているその内容からいえば、その要件として軽過失の場合だけできるわけですね。これは法律上そういう要件になっているので、そのことをあえて別に定款に定める必要はないと思うのです。

 ただ、先生が言われるように、どういうケースが、どんな基準が軽過失になるのかということを詳細に、そこで提案して議決するのが株主の将来のチェックに資するんじゃないかというようなお考えのようですが、その軽過失の基準や具体的な例を挙げるということは、およそ千差万別の経営行為を判断していく基準としては、そんなところに示せるものではありません。

 したがって、どういうような程度の基準で授権を受けるかは、これは会社の判断だということになると思います。

植田委員 だから、そこは私も素人でようわからぬところなんですが、要するに、千差万別だと言われれば、取締役会が裁量でその辺のところは判断できるということになるわけですよね。

 そこで、それがあっても、今、谷口先生がおっしゃったように、異議申し立てをすれば、例えば百分の三の株主が異議を出せばそれはだめですよというのがあるから御安心くださいということなんです。ただ、これは筋の違う話かと言われればそうなのかもしれませんが、この株主代表訴訟の監査役の考慮期間を三十日から六十日に延長していますよね。この責任免除決議の異議手続は最終的に百分の三ということです。これだって要件としてはかなり厳しかろうと思うわけですが、たしかこれは一カ月……。ちょっとそこを。

保岡議員 それは、取締役会で責任軽減の決議をしたら、それを株主に、一定の期間、これは一カ月以上の期間を置くべきことになっておりますが、その間に異議の申し立てをする方はしてもらいたい、することができますよという通知を出すということでございます。

植田委員 だから、これは一月を下ることができないものとするということですから、公告ないしその通知をするわけですけれども、それは決議をしたときからずっと、一カ月を下らない限り、その締め切りはないわけですか。ちょっとそこは技術的なことを教えてもらえますか。

保岡議員 一カ月以上の期間を定めてということで、その期間を過ぎてしまったら異議の申し立てはもうできないということになると思います。

植田委員 わかりました。そこはちょっと初歩的な話で申しわけございませんでした。

 次に、株主代表訴訟の合理化にかかわってなんですけれども、いずれにいたしましても、これは提案理由説明で、乱用されないようにということが書いてある限りにおいて、乱用されているという事実認識があって、それを防ぐために、乱訴防止として今回制度を合理化されるというふうに私は理解するわけですが、そういう理解でいいでしょうか。

谷口議員 まさに今、植田委員がおっしゃったように、乱訴の傾向があるというように申し上げたわけでございます。

植田委員 それでお伺いしたいんですが、実際、九三年の商法改正以降できるようになって、私の知る範囲では、制度ができて以降、一定ふえましたけれども、それ以降はずっと、大体年間二百件前後で平行移動しているように思うわけです。これはデータ的なことなので法務省さんにお伺いいたしますけれども、実際ふえているというふうに言えるだけのデータがあるのか。確かに、私自身知っている範囲では、改正直後は急増しているようですけれども、そんなにふえているとは思えない。

 そしてもう一つ、乱訴の傾向があると提案者がお答えになられましたので、それも事実としてあるからそういうふうにお答えになったんだろうと思うんですけれども、いわゆる乱訴という以上、要するに、らちもない提訴をどんどんやっているというケースがあるということなんだろうと思いますが、その場合、実際に提訴されて、担保提供命令がありますから、それによって終了している事例もあるかと思います。結局、それが歯どめになっておると思いますし、私は、少なくとも株主代表訴訟にかかわっては裁判所は適切に対応しているだろうなというふうに思うわけですが、今提案者が乱訴の傾向があるというふうにお答えになったことと、その事実認識とかかわりますので、ちょっと法務省さんの方に、その辺のデータ的なところを教えてもらえますか。

山崎政府参考人 これは最高裁判所の統計資料で御説明をさせていただきたいと思いますが、平成五年以降毎年の株主代表訴訟の係属している件数を申し上げます。

 平成五年が八十六件、以下順次、毎年で申し上げますけれども、百三十九、百六十二、百六十三、百八十七、平成十年から二百、それから十一年が二百二十、十二年が二百六件ということでございまして、平成五年以降統計はございますけれども、当初が百件以下、中間が百件台、現在が二百件台、こういう傾向を示しております。

 それから、御指摘の担保提供命令の関係でございますが、これは、実際、統計はございません。どのぐらいのものがあったかという統計はございませんけれども、御指摘の平成五年以降で担保提供命令が下された実例は、東京地方裁判所のものが多いわけでございますが、四件ほど承知をしております。公刊物に載っているものということでございます。そのうちに、大きなタイプは、訴えの提起が不当な目的であるものというのと、もう一つは勝訴の見込みがないもの、こういうふうに分かれております。

谷口議員 今申し立て件数の報告があったわけでございますが、その前にちょっと、今、植田委員おっしゃったような乱訴というのはそもそも何なのかということをお話をさせていただきたいというように思いますが、本来、株主は会社の利益のために行動するわけでございますけれども、取締役個人を害するといったような目的で訴訟を上げることを一般的に乱訴、このように言っておるわけでございます。

 現行制度におきましても、先ほど植田委員もおっしゃったような担保提供命令制度がありまして、取締役を害することをわかって提起をしたといった場合には、裁判所は原告株主に対して担保提供を命じ、その提供に応じなければ訴訟自体を却下することができるという制度があるわけでございます。

 それで、今の件数の報告がございましたが、東京地裁におきまして、平成十一年十一月一日から平成十二年十月三十一日までの一年間に、二十件の株主代表訴訟が受理されておる。このうち五件の訴訟について担保提供命令が出されておる。この五件のうち三件は、訴訟の提起が不当な目的によるものであると認められた事例である、このようなことに実態的になっておるということでございます。

植田委員 えらい詳しい説明、ありがとうございます。

 だから、要は、今提案者がおっしゃったような御説明でいくと、まさに担保提供命令制度が十分に機能しておる、そういうささやかな例でございますよね。ですから、乱訴とおっしゃられましたけれども、要するに、それが水際でちゃんと食いとめられておる、裁判所は果断に対応しておるよということなのではないか。だから、今提案者がおっしゃったことは、要するに、株主代表訴訟を合理化しなくてもいい根拠をいみじくも御説明されたんじゃないのかなと思うわけです。

 そして、では不必要に株主代表訴訟が増加しているのかというと、実際、おおむね過半数を占めているのが、同族会社の、言ってみれば骨肉の争い、内部紛争に関する事案が多いというふうに聞いていますし、公開会社に関する訴訟はほぼ三割弱ということなようです。しかも、そういう形で命令も出されるということで、実際、特定の、今おっしゃったような乱訴という実態が事実として存在し得ないような仕組みがそもそも存在しているんじゃないか。にもかかわらず、特に原案で、何で入り口で制限を課すような今回のこういう改悪をするのかというふうに、私、疑問に思うわけです。

 その中で、特に経営者が大胆な意思決定を萎縮させるとかいうふうな話も、実はこれは商法改正されて間なしのころからやいやい言われておった話なんですよね。にもかかわらず、必ずしも萎縮されているということだけじゃなしに、こうした九三年の改正以降、むしろ緊張感を持って企業経営がなされているというふうにとらえることの方が素直だと私は思うわけですが、その点、いかがですか。

保岡議員 先ほど法務省や谷口提案者から、乱訴防止のために機能していると言われる担保提供命令の数等の御説明がありましたけれども、実際には、この担保提供命令の審理に平均十七カ月もかかっているわけですよ。この担保提供命令が出るまでの、会社やその取締役を害する目的でなされた株主代表訴訟というものに対する経営者や会社の負担は大変なものがあるわけです。それに、委員も御指摘のように、数は少なくても、例えば大和銀行事件みたいな巨額な株主代表訴訟の損害賠償の例なども出てまいりますと、非常に経営者がシュリンクするのも事実なんですね。経営に当たって、どちらにしようかと思うとき、挑戦の姿勢をとるよりも消極的な姿勢をとる。

 これは、日本が今直面している、日本の企業の体質改善ということ、あるいはバブル崩壊後の、企業が非常にリストラを迫られて、非常に厳しい環境下で戦っている状況の中で、やはりアメリカとかその他の国々とイコールフッティングにしていくということも非常に重要なことでありますし、とにかく日本は、企業も個人も新しいものに挑戦していく、そして、今は大変な日本だけれども、いずれは世界の中で、世界を引っ張るようなすばらしい、活発な経済活動を確保する、そういう展望を持ったときに、こういう経営者の挑戦する姿勢というものを制度できちっと担保していくということは、我々国会議員の、我々政治家の非常に重要なテーマなんですよ。

 そういう意味で、我々はこの制度について、最大限のいろいろな利害関係者の調整をしながら、経営者の経営判断の萎縮にならないような工夫をしているわけで、実際は、提訴されなくても、陰でこの代表訴訟を種にいろいろおどしをかけるとかいろいろなことが起こっているのも事実であって、やはり合理的な経営判断というものを、積極的な経営姿勢というのを守る制度をきちっと我々が、それが何であるかを判断して決めていくというのが非常に大事なことであって、それが今度の改正での我々の努力の一番最大のものでございます。

植田委員 時間がありませんけれどももう一回お伺いしますが、御決意はお伺いいたしましたけれども、おどしをかけられる云々とかそういう話は、私は枝葉末節の話だと思うんです。

 要するに、株主代表訴訟の現行の制度が毅然たる企業の対応なり進取の気風を押さえ込んでいるということの因果関係はそれで説明したことにはならないと思うことが一つ。それと、乱訴がありますとおっしゃったけれども、残念ながら、今のところ、乱訴はありますと言っただけで、いかなる乱訴の実態があるのかということは事実としては明らかにしていただいていないということ。

 また、よく大和の話が出ますけれども、やはり実際、現実に取締役の責任が認められた事件というのは、贈収賄とかそういうものに限られてごくわずかですし、損害賠償額もほとんど、実際調べてきたら、大体一億円以下ですわね。一億を超えているような三井鉱山事件とか東京都観光汽船事件とか間組――間組は一億は超えていませんな。実際にほとんど一億円以下ということになっていまして、大和のやつがばあんと出たもんやさかいに、すわ株主代表訴訟は問題だというのは、これだってまたこれから上級審であの判決がどうなるかわからないわけですので。

 ですから、少なくともその辺のところは、今のお話では、株主代表訴訟に入り口で手をつけるという説明にはなっていないように私は思うんですが、最後、それだけお伺いできますか。決意はお伺いいたしましたので、それだけ。

保岡議員 損害賠償の額も一億円ぐらいのところにおさまっているというお話でございますが、私の持っている資料では、ことしの二月の「商事法務」の掲載なんですが、主要な株主代表訴訟事件の一覧表という中で百件、主要な、話題になった株主代表訴訟の例を挙げまして、係争中も含めてですけれども、訴額は五億円以上百億円未満が三十六件で三六%もあるんですよ。それから、百億以上が二七%、二十七件、一億円以上五億円未満二十五件、二五%。こういうふうに巨額の訴額で、事実、代表訴訟がたくさん出ているわけですね。そのことは、実際に裁判所でおさまる損害賠償額と乖離があるかもしれないけれども、それだけ乱訴になっているのも事実じゃないでしょうか。

植田委員 こう吹っかけられたら終えられないんですが、一言だけ言うて終えますけれども、金額で乱訴か乱訴でないかとおっしゃったらあきません。私は今、確定した判決を申し上げたわけで、それは、裁判するときは吹っかけますがな。それで乱訴やと言われても立つ瀬ありませんわね。ただ、いずれにしても、入り口で縛ることはないようにということを私は言っているわけですから、入り口で何でそれを縛るのか。

 要するに、いずれにいたしましても、企業が前向きに頑張ればいいわけですが、それを阻害している要因が株主代表訴訟にありますということは、やはり今のお話、提案者からお伺いしても、私の頭が悪いのかもしれませんが、ちょっと私は聞き取れませんでした。

 以上、終わります。

保利委員長 次に、松本剛明君。

松本(剛)委員 民主党の松本剛明でございます。

 大臣にもお忙しいところ御出席をいただき、また提案者の先生方も、長時間の御審議、本当に御苦労さまでございます。

 早速質疑に入らせていただきたい、このように思うわけでありますけれども、けさの参考人の質疑を私も伺っておりまして、東大の岩原先生からの、何とか修正が加えられて我慢できるものになったという評価を我々も真摯に受けとめなきゃいけないのかな、そのように思いながら聞かせていただきました。

 その中で、政治的妥協の産物かなという表現もたしかあったように記憶をしておるんですが、政治的妥協という言葉を使うと、どうもかなり好ましくないという感じがいたしますが、さまざまな要望をどこで折り合わせるかということは、政治においては大変重要なことであろうというふうに思うわけであります。

 質疑についても、取締役の責任軽減の理由からお聞きをしようと思っておったんですが、ちょっと枠を広げて、今回の立法に当たっては、監査役制度の強化と取締役の責任の軽減、それから代表訴訟の合理化というのが原案では三本の柱というふうに理解をしておるんですけれども、当然、さまざまな要望であるとか問題、社会情勢の認識というのを踏まえて改正に着手をされたんだろうというふうに思います。

 私の手元にあるものでも、四年ほど前ぐらいからかなり本格的な議論が展開をされておられたように理解をしておりますし、幾つかの変遷も遂げてきておるように思うのですが、三つある柱のうち、そもそも何が最も問題でこのコーポレートガバナンスの問題に取り組み始めたのかという点、お聞かせをいただきたいと思います。

太田(誠)議員 一番大きなきっかけは、株式会社、特に上場企業などでたびたび起こる不祥事というものがきっかけでございますし、また、平成五年の改正のときも私も深くかかわっておりましたけれども、そのときに監査役の機能を相当強化した、社外監査役の制度はそこからスタートいたしております。しかし、とてもその程度のものでは追いつかないという印象が、その後のさまざまな出来事でありました。

 また、我が国の株式会社のあり方から見ても、法人株主の割合が七割を占めて、しかもそれは大半が株式持ち合い状態であるということを見ますと、どうやって一般の個人の投資家がいろいろな会社の株主になってくれるかということを考えるわけでありまして、それには企業統治、コーポレートガバナンス、特に長期的な株主の利益を最大にするという行動を取締役会がとってもらわなくちゃいけないということで、では、どうやったらそれが担保できるかということでございます。

 その前の改正で株主代表訴訟制度を八千二百円でできるようになったと言われていますが、これは誤解で、もともと八千二百円でできるという判例もあったわけでございます。誤解でありますけれども、それでやれるようになったと広く信じられたものですから、株主代表訴訟が盛んに行われるようになりました。その制度そのものは望ましい制度でございますけれども、やや乱訴状態になった。そうすると、これもまた一種の、最もプリミティブなコーポレートガバナンスの形になるわけでございます。

 かつてアメリカでも、ちょうど戦後までは、このような株主代表訴訟制度を通じてのコーポレートガバナンスというのは一般的な姿であったと思うんですけれども、余りにも訴額が、判決も日本円で数十億円になるというふうなケースが生じて、アメリカの方も反省をして、むしろ、株式会社というコミュニティー、共同体の中での自律的な統治ということでこれにかえるという、やや洗練された改革の方向がとられたわけでございます。

 そういう流れが一方でありますので、我が国においても、このような株式会社の中でみずからを統治する仕組みの導入が急がれるというふうに判断されたこと、それとあわせて、アメリカと同様に、株主代表訴訟の損害賠償額については、アメリカは一年でございますので、それに準ずる改正が必要であるというふうに判断したということであります。

    〔委員長退席、奥谷委員長代理着席〕

松本(剛)委員 経緯をずっと拝見させていただきますと、自民党の方で御検討いただいた案が出てくる、経団連さんとか経営者団体の方からそれに呼応したような意見が出てくる、学者さんの方からはやや否定的な意見が出てくる、こういう三つの繰り返しが何回か繰り返されてきて今日に至っているように思うわけであります。

 最初にも申しましたように、要望を聞くということは決して悪いことではないというふうに思うわけでありますが、やはり経営者サイドからは、このままではどうにもならないというようなかなり強い要望があったという理解でよろしいのでしょうか。

太田(誠)議員 そもそも商法は取締役会のあり方について相当大きな部分を費やしております。ですから、世の中の取締役、とりわけ上場企業などの取締役にとっては、まさにその人たちが当事者であるわけであります。そういたしますと、その当事者がどのような実情にあって、どのような考えを持っているのかということは、これは参考意見として十分にしんしゃくしなければいけないわけでございます。また同時に、商法学者の方々の意見も十分に聞かなければいけないし、また現にこの法律を所管しております法務省の意見も十分に聞かなければいけない。各方面の意見を十分に聞いたのでありまして、別に経済界の意見だけを聞いたわけではございません。経団連という団体はまさに取締役によってつくられているわけではありませんけれども、事実上そういうことになっておりますので、御意見をお聞きしたことが多いということでございます。

 そこで、どう思っているだろうかということでございますが、最近率直な意見は聞いておりませんけれども、相当御不満であると思っております。当初、平成九年の九月に自民党の案を示したときには、何でこんな目に遭うのかと。すなわち、最初の、社外監査役についての制約が余りにもきついではないか、それはそのときは過半数ということでいったわけでございますけれども、わざわざそのために監査役の数をふやさなければならない、その人材はいないというふうなお話で、大変な反発がございました。監査役の機能強化については、むしろ反発の方が今でも強いと思います。

 代表訴訟の方については、今、原案の段階で思っていることと恐らく修正があった後の数字を見て、本当にどう思っているかというのは、ちょっと想像がつかないことでございます。

松本(剛)委員 背景を確認させていただいた上で、中身の話に入らせていただきたい、このように思っております。

 今回、取締役の萎縮を防ぐということで責任を一定の限度まで免ずる、こういう法の趣旨というふうに理解をしているわけでありますが、今もお話がありましたように、さまざまな方面の御意見を聞かれ、バランスをとった上での立法というふうな御趣旨の御説明があったというふうに理解をいたしますが、当然、取締役の萎縮を防ぐということが逆に取締役の意識を薄らせるということも考えられるわけであります。また、現実に取締役がどのくらい負担できるかという問題がありますが、一応今の制度であれば損害の全額賠償を命ずることもできる仕組みになっておるわけでありまして、株主にとっては、全額賠償される可能性があるものをいわば限定するという効果も出てくるということになるわけであろうというふうに思いますが、その辺のバランスをどのように御検討いただいたか、若干御披瀝いただけたらありがたいと思います。

谷口議員 今、松本委員の御質問でございますが、経営の萎縮ということと、一方で会社の利益と申しますか、責任の軽減を行うわけでございますから、短期的には会社に対して不利益をこうむらせるというようなことになる、このようなバランスをどう考えるかというようなことなのだろうというふうに思うわけでございます。

 経営の萎縮が生じるというのは、これは実態的に、経営者、経営陣の皆さんにお聞きしても、一個人で賠償し切れないような多額な賠償責任に対して、やはりかなり心理的な圧迫というようなことがあるということは聞いておるわけでございます。そういうような、まさに先ほど保岡議員もおっしゃったような、我が国の産業構造を大きく変えなければいかぬ、このような時期に大胆な手が打てないということになってまいりますと、その企業のみならず産業界全体に大きな影響が出てくるということになるわけでございまして、このような観点で、経営の萎縮ということをやはり避けていかなければいかぬだろう。短期的に見ますと、責任の軽減を行うわけでございますから会社に不利益をこうむらせる。しかし一方で、長期的な視点に立ちますと、これは必ず会社に利益をもたらすものなのだろうというようなことで、バランスのとれておる方向なのだというように思っておるわけでございます。

 また一方で、株主の利益を害するのではないかということもあるのだろうというように思いますが、これは先ほどから申し上げておりますように、株主総会におけるチェックまたは取締役会におけるチェック等々を通じてチェックが行われている、こういうように考えて、結果としてバランスのとれたものというように考えておるところでございます。

松本(剛)委員 技術的な株主のチェックの制度についてはもう、一番最初の田村先生と谷口先生の御議論のところから詳しく御説明があったというふうに思っております。制度的にはそのように担保をされているということでありますし、そういう御発想でスタートしたということを、確認を改めてさせていただきたいと思います。

 こちらからお知らせをしたのでは、責任軽減決議の特別決議を確認しようと思ったのですが、昨日も、これは田村先生と佐々木先生の御議論で行われておるようでございますので、きのう改めてそれは確認をさせていただきましたので割愛をいたしまして、先へ進ませていただきたい、このように思います。

 軽減の限度を二年ということで原案はお示しをいただいた。これも米国を参考にしてというふうにきのうも御議論があったように思うわけであります。昨日も、これも田村先生と太田先生の御質疑の中だったと思いますが、米国は一年だけれども、我が国の全く上限のないところからおろしてくるので、とりあえず二年が妥当ではないか、こういうお話であったと思うわけでありますが、将来はやはり一年とするのが適当だとお考えでございますか。

太田(誠)議員 これは人によっていろいろな見方がありますが、もともと報酬が少ないということは責任も軽いのだというような見方もできるわけでございます。したがって、そういうものとして取り扱えば一年でもよかったのかもしれません。しかしながら、我が国の取締役の報酬の低さからいって、それはにわかにまた一年にするというようなことはちょっと考えられないというところでございます。

松本(剛)委員 今太田先生もおっしゃいましたけれども、米国と我が国では報酬のとり方というのがかなり根本的に違っているのではなかろうかというふうに思うわけであります。逆に申し上げれば、相当な利益を上げた場合はかなりの報酬を取締役が持って帰るわけでありますから、一年でも会社に対して相当な責任を負っているということになる部分もあるのではなかろうかな。単純な比較はできないと思いますが、米国の取締役の報酬というのは、およそ伝え聞くところによっても二倍では済まないくらいたくさんを取っているのではなかろうかということを思ったときには、量的に米国が一年ということをベースに二年というのは少し軽いのではないのかなということは我々も考えておるところであります。

 また、これは少し昨日の質問の延長線になりますが、監査役については、萎縮という問題がないのであれば軽減をする必要はないのではないかという議論が若干あったかに記憶をしておりますけれども、その点について、取締役とのバランスでというお答えをたしかいただいていたように思いますけれども、改めて確認をさせていただきたいと思います。

保岡議員 監査役も取締役と一緒に訴えられるというようなケースが多いと思いますし、そういう、ともに訴えられる両者のバランスということもありますが、一方で、監査役だけ責任軽減ができないとしますと、それはまた、非常に多額な損害賠償を頭に置いたりした場合、必要以上に非常に厳しく厳しく解釈をしたりチェックしたりすることによって、過ぎたるは及ばざるがごとしというような状況も考えられるので、そういうことも頭に置いて適切な責任軽減の下限を決めたもの、そういうふうに理解していただければと存じます。

松本(剛)委員 太田先生も最初に、まだ不祥事が大変多いとおっしゃったように、まだ日本の監査制度は過ぎたるまではちょっと届いていないんではないかという感じはするわけでありますけれども、全体とのバランスでというお答えのように御理解をいたしました。

 二年ということをベースに組み立てられたんだろうというふうに思いますが、修正案の方で、軽減の数字をそれぞれ、社外、社内、代表と二年、四年、六年ということにされておられます。きょうの岩原先生のお話でも、ちょうど在職年数なりから考えてもそのぐらいが妥当かなというような御意見があったように記憶をしておりますが、二年、四年、六年と設けられた理由をもう一度確認させていただけたらと思っております。

 それから、これは追加で申しわけないんですが、これもきのうの田村先生と佐々木先生の議論で、監査役については全部二年ですかということについて、今後検討の余地があるのではないかというようなことをちょっとおっしゃったかのように記憶をしておるんですが、これは二年を一年にするのか、それとも二年を四年にするのか、方向、お考えになっていたことを少しお知らせいただけたらと思います。

佐々木(秀)委員 きのうも申し上げたんですけれども、原案の二年というのは、今も太田議員からお話がありました、アメリカのことを参考にしているそうですけれども、率直に言って、松本委員も御指摘のように、我が国の企業において取締役の報酬が必ずしも明確じゃないですよね。特によく言われるのは、金融関係などについては一般の従業員の給与についても公表されておらないじゃないか、まして、取締役なんかもそうなんですね。その点、私ども聞き及んだところによると、アメリカにおいては、大きな企業などでは取締役の報酬、これも公開されている、情報公開が非常に進んでいるというふうに聞いているものですから、そこから割り出す、比較などということもしやすいんだろうと思う。それに比べたら、日本の場合は非常にしにくいわけですね。

 ですから、例えば賠償額の限度を設ける場合にもいろいろな考え方はあるんだろうとは思いますけれども、しかし、今まで、今回のこの改正のきっかけになっているというのは、会社の不祥事が多い、取締役の不祥事などがあったということを考慮に入れれば、取締役たる者、企業の執行責任を持つ者としては相当やはり、株主に対しても、あるいは社会的にも責任をしょってもらわなければならない。もちろん、大胆なベンチャー精神も必要だけれども、それを恐れていたのではまたいけないとは思いますけれども、しかし同時に、やはりその責任ということを考えると、それは甘くしてはならないんだろうと私は思うんですね。

 そういうことから、一律に二年というのはいかがなものかということで、同じ取締役でもそれぞれ違うじゃないか、代表者、それから社内取締役、社外取締役ということでめり張りをつけるということになったわけですね。

 ところが、今度は、どれだけのということになると、けさの参考人の御意見にもありましたように、これはなかなか難しいんですけれども、率直に言って、この修正協議の中で私どもは七、五、三という提案をしたんですけれども、七あたりになるとちょっと重いんじゃないかと。実際にはどれだけの報酬をもらっているかということがはっきりしないところもあるからわかりにくいんですけれども、やはり相当の責任を感じてもらうという意味ではそう軽くするわけにもいかないし、しかし限度を設けるということを考えればほどほどのところということから、六対四対二ということにしたわけです。

 監査役の方については、率直に言って、私ども、まだ具体的な提案を持っておりません。この法案の議論の中でも出ておりますように、監査役、例えば社外監査役もありますけれども、この監査役の人数も、これでいいのかという問題もあるわけですね。御指摘があったように、現行法でも、監査役というのは独立で相当な権限を本当は持っているわけですし、それに応じた責任ということも伴っているはずなわけですから。しかし、そうかといって、業務執行に直接当たる取締役とはやはり違った考え方もあるんじゃないかなと思いますので、これは今後の検討課題だろうと思っています。率直に言って、具体的な数字はまだ持っておりません。今後御検討いただきたいと思っております。

松本(剛)委員 確認をさせていただきながら、少し技術的な部分についても、二年、四年、六年という所得の基準でありますが、退職慰労金またストックオプションといったものも対象になってきているようでありますが、あわせてお聞きをさせていただきたいと思います。

 退職慰労金は年数割にして二年分という計算をされていたかと思いますが、ストックオプションについては特にそういう計算をされていなかったかというふうに思います。退職慰労金も、これから受け取るものであれば、逆に、責任があるのであれば会社に全額をお返しいただくということも考えられるだろうと思いますし、逆に、全部年数割ということであれば、ストックオプションも何らかの形で在任期間と合わせることができるものであれば、そういう規定も置くことが可能だったのではなかろうかというふうに思いますが、区別をした理由、また置かれた理由があるとすればちょっとお聞かせをいただきたいと思います。

谷口議員 退職慰労金とストックオプションの扱いの違いについて今御質問があったわけでございます。

 退職慰労金でございますが、これは法的に見解、いろいろあるわけでございますが、一般的に、報酬の後払いといったような性格があるわけでございます。ですから、今回、報酬の二年分を下限として責任を軽減できるというような考え方からまいりますと、退職慰労金につきましても二年分、こういうふうにさせていただいたわけでございます。

 ところが、ストックオプションのことでございますが、これは在職年数には全く関係がなくて、ストックオプションが行われる時点に在職された方に対して提供されるものでございますから、こういう意味において、ストックオプションの場合は二年としなかったわけでございます。

松本(剛)委員 免責の決議を行った後の退職慰労金等の支給は株主総会の承認が必要という形になっているかと思いますが、縛りをかけるのであれば報酬の方もかけないと抜け道ということにはならないかという点についてはどのようにお考えでしょうか。

谷口議員 退職慰労金の支給というのは、一回に多額の利益を会社から得るということでございます。支給時期をずらすことによって脱法的な行為が容易に行い得るということを想定できるわけでございまして、そのために、免責決議後は株主総会の承認が必要ということにいたしたわけでございます。

 一方、報酬につきましては、通常、毎月継続的に一定額が支給される。支給時期をずらして脱法的な行動が行われるということは想定しづらいわけでございまして、そういうことで、免責決議後は株主総会の承認を必要としておらないというような形にしたわけでございます。

松本(剛)委員 伺っておりますと、種々うなずけないところはないわけですけれども、先ほど佐々木先生からもお話がありましたように、報酬の内容の開示であるとか、そういったこと全体のバランスがきちっととれていないと実は実効性が持てないんではないかということを、これからの運用ないしまたこれからの法整備という点できちっと我々も詰めていかなきゃいけない部分があるんではないかな、このように認識をしておりますので、太田先生、谷口先生、また保岡先生、この問題には恐らくずっとこれからもかかわっていかれるんだろうと思いますし、社会や経済の仕組みが変わっていく中で、ゴールというのは恐らくないだろうというふうに思いますので、ぜひその点を心にとめておいていただけたら、このように思うわけであります。

 さて、アメリカでは、米国では、これはもうほぼ当たり前のようになっているようでありますが、会社役員の賠償責任保険というのが販売をされておるというふうに、DアンドO保険というんですか、理解をしております。まさに代表訴訟の件数の増加とともに売れ行き好調と言うべきなのかどうかわかりませんが、損害保険の各社さんもこの数年間世界的に大きな災害が続いて大変御苦労されている中で、これが大変もうかるものになるのかどうかわかりませんけれども、現実の問題として、萎縮をするという効果と、逆に意識が薄れるということを冒頭にも申しましたけれども、そのバランスをお考えいただいた上での年数の計算ということになってこようかというふうに思うわけでありますが、これは株主代表訴訟特約というのをつけると代表訴訟の部分についても保険金がおりるというふうに私も聞いておるんですけれども、何でもかんでもある程度保険で大丈夫だということになると、取締役が責任を意識する部分というのがかなり薄れてくるおそれがあるんではなかろうかということを懸念いたしております。

 そういった状況とか実態をある程度御精査いただいた中で今次立法を御検討いただいたのかどうか、その点についてお伺いをさせていただきたいと思います。

太田(誠)議員 世の中はやはりあらゆることがビジネスチャンスになるわけでございますので、危険、リスクを感じた人がいる一方で、そのリスクをヘッジするための仕組みを考えられるというのは、しかもそれが相当な売れ行きであるということは、それだけプレッシャーがあるということなので、我々の立法の意義は非常に大きかったというふうに考えております。

松本(剛)委員 損害保険業界から営業妨害だという話はなかったんでありましょうか。

 しかし、この辺は、やはりこういう経済にかかわってくる法制を御検討いただくときには、かなり実態をいろいろぜひお調べをいただいて御検討いただく必要があるのではなかろうかなと。

 私が聞いた限りでも、数億という単位であるとほぼ保険でカバーをされるというふうにもお聞きをいたしました。もとに戻りまして、日本の取締役の報酬の水準というのがまた問題になるのかもしれませんが、日本の通常の取締役の報酬の水準であるとほぼカバーをされるということになるのではなかろうか、このように思うわけであります。

 当然、悪意、重過失が外れるわけでありますから、けさの参考人の質疑の中でもありました、軽過失と経営判断の原則とのボーダーラインをどう設定するかという問題にもかかわってくるのかというふうに思いますけれども、やはり責任については、これはいろいろなところでこれから、むしろ自己責任というのが社会の制度の中で言われている中で、ある程度取締役自身がリスクを負うような形は残しておいた方がいいのではないか、このように思うわけですが、その辺、付保の状態であるとか金額とか、ある程度お調べになりましたか。

保岡議員 先生が想定されているようなそういう調査や、それとの兼ね合いでいろいろ制度を設計したというほどそれを意識したわけではありません。

 しかし、私先ほど申し上げましたように、今日本の戦略というものを考えた場合、やはり企業家精神の挑戦的姿勢とかチャレンジ精神、それを保証する制度というものをいろいろ工夫して、国全体としてそういう体制をとって体質を改善していくという大きな目標があると思うんです。その枠の中でやはり責任保険制度があって、そういった挑戦の姿勢をむしろ保険でカバーして、そうして、制度でとらえ切れないものを保険でカバーすることによって挑戦の姿勢を企業家に持ってもらうということもまたあっていいんじゃないか。

 保険制度は、取締役の会社に対する責任の軽減制度を前提として、むしろ民間の保険がそれを前提に設計していくものであって、確かに先生御指摘の点も考えなければいけないとは思いますけれども、それをどう考えていったらいいかは、またよく今後、先生が御指摘のように、勉強していきたいと存じます。

松本(剛)委員 少し細かい話になって恐縮ですが、会社賠償責任保険の費用は基本的に会社がお払いになっておられる。これは、取締役がお払いになるんであればある意味で自己責任ということになってくるんだと思うんですが、会社が基本的にお払いになっている。

 最初、株主代表訴訟特約ということを申し上げましたけれども、特約という形でそこへくっつける形でリスクを分散して、特約の部分については取締役がお払いになるという形をお考えになっているようですけれども、取締役の負担は軽いという商品設計をつくることによってかなり普及をしているというふうに私は理解をしておるものですから、そういった部分をきちっとやはり押さえた上でつくっていかないといけないんではないか。もしくは、この株主代表訴訟というものと取締役の関係、保険でどこまでカバーをされる、もしくはどういう形の付保が可能だということをきちっとしておかないと、おっしゃるとおり、ビジネスチャンスでありますし、自由にやらなきゃいけないところはあるんですけれども、根幹の部分にもかかわってくることだと思いますので、ぜひよろしくお願いをいたしたいというふうに思います。

 後ほどまとめて議論をしようと思っておるんですが、今全体の商法の改正も御検討いただいている中でありますので、御提案をいただいた方にはお許しをいただいて申し上げれば、今回のこの制度改正もやはり一種過渡期的な部分が含まれているんではないかな、このように理解をしております。ですから、先ほども申しましたように、今後の検討の際に十分にお願いをさせていただきたいと思います。

 これもさんざん議論が出てきている部分でありますが、定款によってあらかじめ責任を軽減する定めを置いて、取締役会の決議で個々に軽減をしていく、こういうことが可能だというふうになっております。これも昨日の審議の中であったかというふうに思いますが、これは法務省の方へお聞きをさせていただいたらいいんでしょうか、米国では定款型、また法律から直接軽減をする型というのがあるというふうに昨日の委員会の審議でお話がありましたけれども、米国のこの定款で定めるというのは、具体的にどういう形の定めになっているのが多いんでしょうか。取締役会にゆだねるというような、日本と同じような型だという理解でよろしいんでしょうか。

山崎政府参考人 まず、アメリカの制度についてでございますが、五十州のうち四十八州とコロンビア特別区、ここで取締役の責任を事前に軽減する規定を置いております。ほとんどが置いているということです。

 二つのタイプがございまして、三十九州で定款で定めるということでございます。これは定款で、こうこうこういう要件に当たればこれだけに減免する、あるいは完全にゼロという場合も、そういうものを定めるということで、具体的にどういう記載をしているかというのはちょっと存じていないんですけれども、一応の枠をきちっと決める、こういうことで、取締役会で決めるとかそういうことじゃなくて、そこで決まる、こういうことでございます。

松本(剛)委員 つまり、定款である程度要件が定まっていて、そこで軽減の対象になるかどうかが判断をされる。そうなると、これは株主の側からすれば、定款を見れば予測が可能であるということになってくるというふうに思います。我が国の場合は、包括的に取締役会に判断をゆだねるという形を置いたということでございます。昨日の審議でも、おおむね米国の例に倣ってということが何回かお話があったかというふうに思うわけでありますが、若干米国と違う形をおとりになっておられるんではなかろうかというふうに思います。

 昨日の、これも田村先生と谷口先生の御審議や、漆原先生との御審議でも、立法判断である、また臨時総会を開かなくてはいけないということが事実上難しいとすれば、これは先ほども植田先生との議論の中でもあったと思いますが、長く不安定であるということが問題である、こういう話がありましたが、この長く不安定というだけでは、かなり包括的に株主にとって予測しがたい部分があるというものとのバランスというのは若干失しているんではなかろうかというふうに思いますが、まず、米国も直接そういう形をとっていないような形というのはどこから出てきたものなのか、どんな形で採用されたのか、またその辺の背景というのをちょっと御説明いただけたらと思います。

    〔奥谷委員長代理退席、委員長着席〕

保岡議員 先ほどもお答えしたんですが、基本的には、定款でどういう定めをするかは会社の判断に帰着するわけですけれども、アメリカなどでは、忠実義務違反とか不誠実、故意、法律違反認識、違法配当、違法自社株購入・消却、不当な個人利得、これはデラウエア会社法の百二条に、こういうふうに、各州で多少は違うかもしれませんけれども、過失の度合いや、取締役就任の経済的利益と責任の不均衡とか、過度のリスク回避の防止とか、保険コストの低減とか、乱訴防止とか、いろいろな要素を考えて、会社の判断で定款に、株主の理解を得て授権がされるように対応される制度として我々は期待しているわけでございます。

松本(剛)委員 この部分についてはもう繰り返し議論をされてきておる部分ですからあれですが、先ほど申しましたように、私も四年ほど前の御議論からずっと拝見をさせていただいてきた中で、かなり意見が分かれている部分であろうかというふうに思います。各党によってもいろいろな御議論が積み重ねられてきた中で、最終的にこういう形になったというふうに考えるわけでありますが、きょうの参考人の質疑の中でも、やはりこの部分についてはかなり厳しい御意見もあったように私も伺わせていただいたわけであります。ただ、日本の株主制度の実態とかそういったものからすると、もしこの法律が成立をするとすれば、こちらの形が採用されることの方がはるかに多くなるのではないかというふうに思うんですが、その辺のお見通し。

 それから、これは当然取締役、経営側にとっての利便性は高まるわけですけれども、株主のリスクということからいくと、異議申し立てその他のバランスはとってはいるものの、かなり大きいのではないかと思うんですが、もう一度、この案そのものがどこから出てきたものなのかというのはお知らせをいただけないでしょうか。

谷口議員 先ほどの植田委員のときにも申し上げたわけでございますけれども、今回のこの定款により取締役会決議にゆだねるといったやり方については、事前、事後にチェックがあるわけでございます。特別決議が必要だと。また、事後的には、今松本委員がおっしゃったように、異議申し立ての手続があって、異議を申し述べたいという株主が修正案では三%以上集まりますとこの決議が認められない。

 今、インターネットで議決権行使ができるというようなことになっておるわけでございます。ですから、会社制度そのものも大きく変化いたしておりますが、この株主総会のあり方をめぐっても、我が国といたしましても大きな変換期に来ておって、今申し上げたようなことで、仮にインターネットによる議決権行使といったような場合は、従来と異なったような対応のしぶりにもなるんだろうというようなことでございます。

 ですから、そういう意味で、このチェックがかかっておるということを申し上げたいわけでございます。

 実態的にどうなるのかということになるわけでございますが、それはやはりこの株主総会と、企業サイドにいたしますと、まず包括的な定款による取締役会決議をとって、さっき言ったような機動的な判断を行いたいというようなことは当然あるんだろうというように思うわけで、実は与党内でもいろいろ意見がございまして、我々のところは当初、そういう意味で今おっしゃったようなことを申し上げておったんですが、異議申し立て手続があるわけでございますので、そういう観点から、実態的に経営の萎縮ということを起こさないようなやりぶりが企業内でできるようにという判断の結果、与党内の合意ができたということでございます。

松本(剛)委員 私ども民主党も、修正の作業に加わらせていただいた中で、この部分を残す形で修正案を策定しておるわけでありますが、今申し上げたように、相当この部分については今後も留意する必要があるという点をやはりぜひ申し上げなきゃいけない、こんな思いで質疑をさせていただきました。

 もう一点つけ加えさせていただくと、これも参考人の岩原先生がおっしゃっていましたが、この部分は社外取締役だけにすればよかったのではないかというようなことをちょっとおっしゃっておられました。

 これは相当いろいろなケースがあるようでありますが、アメリカの大きな会社になった場合は、SECなどが、これは一九七八年ですか、取締役会は、いわゆるCEOだけで、あとはもう全部社外の者を置きなさいというような指導をその年代ぐらいからスタートをさせたということもあって、大半の取締役はむしろ社外であって、執行部分は分かれている。ですから、この取締役の責任という部分に関しても、今の日本の制度で本当にそのまま持ってきていいのかということをもう一遍よく精査をする必要があるのではなかろうか、こんなふうに思うわけであります。

 現実に、アメリカの法律についても幾つかの研究論文を拝見させていただきましたけれども、これは責任軽減の対象は社外を想定しているという前提で見てもいいのではないかというような評価もあったように拝見をいたしました。そうなってきますと、一年だけでも、日本はこの前の二年ということが根本的に変わってくるということにもなってくるわけでありまして、今回、社外が二、社内は四、代表は六ということになりましたので、そういうことも踏まえて、岩原先生の、辛うじて我慢ができる、こういう評価になるのかな、こんなふうにお聞きをしておりました。

 監査役制度の改正についても、我が党のきのうの平岡議員を初めさまざまな議論が繰り返されてきておりますが、先生方も思いを込めて監査役制度の強化をおつくりいただいたんだろうというふうに思います。九三年の改正にもかかわってきたというお話がございました。

 私もいろいろ議論をずっと拝見をさせていただいていますが、そもそも四十九年のこの委員会の附帯決議で、会社制度、抜本的な改正が必要であるというようなことがうたわれているようでありまして、四十九年というとかなり昔になってくるわけでありまして、その間に根本的に大きく変わったという形ではなくて、少しずつ直してきたということではなかろうかというふうに思います。

 たまたま、平成五年の法務委員会の審議でも、監査役制度の強化に関して社外を入れたり任期を二年から三年にということで変更された時期だろうというふうに思うんですが、ある委員の方が、こういう少しずつということで不祥事が、このときもそうなんですね、不祥事が繰り返されているということであれですが、結局、このような少しずつの改正だったら後日見たらやはりこのとおりではまだだめだったということにならないようにお願いをしたいものですね、こういう議論が実は出ております。

 今回も、率直に申し上げて、経営者サイドは御不満もあるかもしれない、社外は厳しいというさっきお話もありましたけれども、任期も三年から四年、根本的な変更とはちょっと言いがたいというふうに思うんですが、どのぐらいの効果を御期待されておられるのかということを、もしあれがありましたら御所見を伺いたいと思います。

太田(誠)議員 前にも申しましたように、途中で役員の人事と一緒になって監査役の人事が動くということがまずい。そこで、全体の、こっちをはめて、こっちを外すみたいな話になるわけでありますから、当然、代表取締役の意向が役員人事の一環としての監査役人事にならないようにということでございますので、これは二年から三年にしたというところで、その思いがあったわけであります。

 ところが、そうしておいても、一対一で個人として話をすれば、ああやむを得ません、途中で辞表を出しましょうということになってしまう。そうしたら、そこにさらにどうやってふさぐのかということで、それじゃ任期が二年単位であるならばもう四年にしてしまっていいと。しかしながら、任命権者よりも長い期間を確保することが内閣総理大臣と最高裁の判事のような関係になるからということでそうしたわけでございますし、また、途中でやめるということに対して株主総会でチェックをされるということを入れたので、そこは相当違ってきたと思います。また、取締役会での発言を義務づける、出席を義務づけるというところで全く違ったものになってくると思うのであります。

松本(剛)委員 今おっしゃった点、本当に効果を上げてくれればなと思うんですが、これから商法の改正も、中間試案も出ていることですし、さらなる改善が加えられると期待をしながらお話をさせていただきたいと思います。

 これもたびたび繰り返されていることですので一言で結構でありますが、やはり乱訴の状態にあるという御認識だという理解でよろしいんでしょうか、原案御提案者の皆さん。

太田(誠)議員 先ほどから、同じ提案者から説明がありましたように、私も乱訴の状態にあると思っております。

松本(剛)委員 件数、金額がふえていることは確かだろうというふうに思いますが、くしくも岩原先生も言われたように、乱訴というよりは会社に問題が多いからではないか、こういうお話があったと思います。

 残された時間を少しいただきまして、今これを乱訴と見るのか会社に問題が多いと見るのかによっても、これから先のいろいろな組み立て方が少し変わってくるのではなかろうかというふうに思うんですが、企業統治全般について、昨日も、我が党の平岡議員と太田先生も、政治家同士の議論をしようというお話があったように記憶をしておりますので、せっかくの機会でありますので、この企業統治のことについて少しお話をお伺いしてまいりたいというふうに思います。

 大臣にもおいでをいただいておりますが、昨今の経営破綻のケース、いろいろな形があるわけであります。昨日も、平岡先生、太田先生の御議論でも、不祥事が多いということに関しては共通の認識であっただろうというふうに思うんですが、この辺は、現行の企業統治制度というのが必ずしも有効に機能していないがゆえに不祥事の被害が拡大をしているケースというのはやはりあるのではないか、このように思います。

 先ほど佐々木先生が言われた、給料の中身もわからない銀行員を私もやっておったんですけれども、最近どうなっているかわかりませんが、私のころは確かにいい給料をいただいていたことは認めてもいいとは思っておるんですが、金融機関においても企業統治の仕組みがもう少ししっかりしておれば、今、最大の課題の不良債権問題も少し違う展開を見せていたのではなかろうかと思いますし、そごうさんにしても、また破綻をしました長銀、日債銀の問題にしても、山一さんにしても、すべてが企業統治の問題とは言いませんけれども、企業統治の体制がしっかりしておれば違う展開を見せたことは間違いない、こういうふうに思うわけであります。

 この辺、やはり、企業統治の仕組み、抜本改革の必要があるという御認識で法制審議会にも御諮問をいただいて御検討を進めておられるというふうに思うんですが、今後の方向についてお示しをいただけたらと思いますが、大臣にお願いします。

森山国務大臣 おっしゃいますとおり、九〇年代に相次ぎましたいわゆる金融不祥事や大手金融機関の経営破綻等に対する反省を踏まえまして、法務省では、会社法制の全面見直しの一環といたしまして、法制審議会において企業統治の実効性の確保を一つの大きな柱とした会社法制の見直しのための審議を行っていただいておりまして、ことしの四月十八日に、商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案というのを決定していただきまして、公表し、皆さんから御意見をいただいているところでございます。

 この中間試案におきましては、従来の我が国の会社法制のもとにおけるコーポレートガバナンスが必ずしも十分に機能していなかったのではないかという指摘を踏まえまして、社外取締役選任の義務づけ、執行役及び各種委員会制度の導入など、企業統治の実効性をより高める観点から、取締役会の機能強化を図るための改正検討事項を取り上げております。

 この取締役会制度の改善は、代表取締役の業務執行につきまして、主に妥当性の観点に基づいて行われる取締役会の監督機能の強化を図るものでございまして、今回のこの改正法案、今御審議いただいております改正法案における、主として適法性の観点に基づいて行われる監査役の監査機能の強化と一体となりまして、我が国の株式会社のコーポレートガバナンスの実効性の確保に資するものであると考えております。

松本(剛)委員 お配りをさせていただいた資料をちょっとごらんいただけたらというふうに思うんですが、実はこれは、ダボス会議なんかを行っているシンクタンクと非常に近い、同じグループのようなシンクタンクがつくっている競争力の表なんでありますけれども、残念ながら、日本は右の方の二十六位におります。ちょっと見にくい表で恐縮なんですけれども、日本の二十六位より上にあるものは、これはエコノミックパフォーマンスとインフラということでありまして、下にあるものがビジネスエフィシェンシーとガバメントエフィシェンシー。つまり、足を引っ張っているのは政治といわば経営力である。もともと持っている経済力であるとかインフラはそこそこあるわけですけれども、経営力と政治が足を引っ張っているという評価を与えられているわけでありまして、政治は、私も昨年からとはいえ一員に加えていただいていますので、ともに反省をしながら努力をせなあかんというふうに思うわけでありますが、同時に、経営力についてもやはり日本に対してはかなり厳しい評価がなされている。

 この点を、萎縮をするという形で少しそこの負担を軽くする必要があるのではないかというのが今回の法改正の趣旨であろうというふうに思いますが、必ずしも、本当にその方向でいいんだろうかということもこの機会にちょっと御議論をいただく必要があるのではなかろうかなというふうに思います。

 先ほども、短期的な視点では株主を害するかもしれないけれども、萎縮を除くことによって、長期的な視点ではプラスになるのではないかというふうに、谷口先生からたしかおっしゃっていただいたように思うんですけれども、これは長い目で見たときに、厳しくするのがいいのか甘くするのがいいのかというのも、これはなかなか、両論ある部分があろうかというふうに思いますし、これだけ不祥事が繰り返されてきているということも考え合わせると、かなり抜本的な改正が必要なのではなかろうかな、こんなふうに思います。

 先ほども、今の代表訴訟の程度は乱訴の状態にあると見てもいいのではないかというお声をいただきました。さまざまな声を聞いて今回の立法を準備されたというお話でありますが、私も、小手先のとまでは申しませんけれども、一部分の、これはやはりあくまで対症療法的な部分がかなり強い部分ではなかろうかというふうに思うわけであります。

 きょうも、取締役会の強化というのがかなり議論が出ておりました。今回、監査役制度を強化されるわけでありますが、取締役会の強化と必ずしも矛盾をしないという答弁をこれまでもいただいていますけれども、しかし、試案の中で、取締役会を強化した場合は監査役制度はなくてもいいという考え方もあるということであります。

 今回の監査役制度の強化を含む仕組みというのは、現行の状況を見るにつけ早急に手当てをする必要があるものの、これからの抜本改革は当然取締役会の強化等を含めて、今回のは暫定的な形だというような理解だということでよろしいんでしょうか。提案者から、監査役制度の強化も含めて、御意見を承りたいと思います。

谷口議員 今、まさに本質的なことを松本委員おっしゃったんだろうというふうに思うわけでございます。今のいただいたグラフにもございましたが、そもそも政治と経営が足を引っ張っているというようなお話のようでございました。経営全般を見ますと、我が国の戦後の産業界の動向等を勘案しますと、やはり金融業界に見られるような護送船団行政みたいなもの、また広く言いますと産業界全体にそういうような傾向があったのではないか。伸び伸びと大胆な国際的な企業、こういうような企業が我が国の国内でどんどんやはり出てきてもらわなきゃいかぬ。その際に、経営に関して、やはりリスクが伴うものでございますから、リスクの感覚を持っていただかなければなりませんが、一方で、それを乗り越えるだけの大胆な経営戦略、こういうことも必要なんだろうというように思うわけでございます。

 先ほど法務大臣もおっしゃったように、今回の監査役の権限の強化、また制度改正で予定されております取締役、社外取締役の問題、適法性のチェックと妥当性のチェック、こういうような方向で、方向は分かれておりますけれども、しかし一方で、余りに厳しく強制力をかけるということについては、私は余り好ましくない。

 しかし一方で、戦後五十数年過ぎて、大変我が国の企業社会にビルトインされておる監査役の制度、これはまた制度として非常に使い勝手がいいといったような企業もあるわけでございますし、一方で国際的な企業は、今まさに松本委員がおっしゃったようなアメリカ型の経営のやり方がいい、ですから、監査役をむしろ必要としない、社外取締役を中心とした訴訟委員会をつくって、そこでチェックをしたらいいんだというような企業もあるんだろうと思うわけです。そういう意味では、この選択制の方向というのは、私は個人的に私案を取りまとめたこともあるわけでございますけれども、これは正しい方向にいっているんだろうというように思うわけでございます。

 ですから、最低限のチェックは行わなければなりませんが、一方で、それ以上のチェックが入って経営を萎縮させるといったようなことは避けていかなければならないのではないか、このように思っておる次第でございます。

保岡議員 私は本当に、制度を美しくつくるということも大事だと思うのですが、やはり経営者の体質とか意識とか姿勢ですね、ルールと自己責任の新しい世界に飛び込んでいく。今までは官僚の管理のもとで、銀行に先生もおられたということですが、MOF担に象徴される完全管理で、融資審査能力からいろいろなコーポレートガバナンスの能力を金融が最も欠いているんじゃないかと思われるところが今の日本の経済の本当に残念なところで、そういう長い間の体質やあり方を改善していく非常に大事な途上に今日本はあるんだろうと思います。

 そういった意味で、ルールと自己責任。そのルールを守らなかった場合に厳しく処罰したり、きちっとそれを実行させる仕組みをつくることも大事ですが、一方、過度の、例えば軽過失の場合に青天井の巨大な会社に発生する損害を取締役個人に負わせるがごとき制度は、国際的に比較して、やはりイコールフッティングの制度を求めていくべきだろうと思います。

 先生がおっしゃったように、アメリカの社外取締役を前提につくっていると思われる制度を日本にそのまま、社外取締役の制度がまだ法定化もされていない日本に照らし合わせて導入するのはちょっと、相違点の検討も十分すべきじゃないか、勉強もすべきじゃないかという御指摘もありましたが、そういう勉強も大切で、これからも不断に続けていかなければならないと思いますが、私は、そういう別な面の規制というのが日本の場合は分けて必要だ。

 それに、何よりも私は痛切に感じているのは、今は憲法以下いろいろな法制を一気に改めていかなきゃならない大変な大変革期なんですね。しかも、スピードも速い、国際化も進んでいる。したがって、法制整備の必要性、ニーズというのは非常にふえてきているわけです。議員立法の数、政府提案の法案の数、非常にふえてきています、この数年。こういったものに対する政府の立法能力をきちっと確保する。そして、一気に法の整備を進めていく。また議員立法もそれを補完するということで、この急激な変化の世の中にあって、企業法制などは特に社会経済の実態をきちっと反映していかなきゃならぬ側面を持っていますので、これからも、先生がいろいろ御指摘された点などを含めてよく勉強して、不断の立法の努力が必要だ、そういうふうに思います。

松本(剛)委員 時間が来ておるようですのであれですが、最後に一つだけ。

 今のお話の延長線で、これもきょうの参考人の質疑の中でも、今求められるのは経営革新ではないかと。政治においては構造改革ということですが。これははっきり申し上げれば、政治だと我々は政権交代という言葉を使うのですが、経営であればやはり経営者の、場合によっては交代ということではなかろうかというふうに思います。これをスムーズに行うことが必要であるということで、恐らく近代的な取締役会というのは助言、監査をし、執行は、マネージメントは執行役員会の方におろすという形がとられているのではなかろうかというふうに思います。

 ちなみに、社外取締役というのが日本においてどうかというようなお話がございましたが、お配りをした資料の二枚目をゆっくり見ていただく時間はないのですけれども、太田先生もちょっとおっしゃったように、今日本では社長が全部いわば人事をしている、監査役の人事も全部の人事で動くから三年でも二年でやめなきゃいけないという、実態を踏まえたお話だっただろうというふうに思うのですが、そこの部分から変えていかなきゃいけないということだろうと思います。

 社外取締役については、実は、日本で近代的な会社法ができた明治の二十年代に、初めて近代的な法にのっとってつくられたのが日本郵船だというふうに聞いておりますが、これは取締役十一人のうち六人が社内、五人が社外で構成をされていたというふうに聞いております。明治の時期の役員会は、社外取締役にふさわしいそういう元老なり大物がたくさんいたという時代であったのかもしれませんが、その後もかなり社外取締役を置いた構成をして会社の変革を乗り切ってきたという事例も挙げられているようでありますので、日本人にも十分そういう力があるのではなかろうかというふうに思います。

 法務省の方におかれましても、中間試案を含めて新しい形を御検討いただいておるようであります。昨日の審議の中でも、監査役、この部分については議員立法、残る部分について法制審議会で展開をするというお話でありましたが、まさに保岡先生が法務大臣のときにスタートされたのだろうと思いますので、そういう仕分けなく、まさに時代とともに合わせていかなきゃいけないということでありますので、この部分も含めてぜひ法制審議会の方でも前向きな御議論をいただきたい、このように思うのです。

 もしコメントがございましたらあれですが、なければ御意見としてお願いをするということにさせていただきたいと思います。よろしいですか。

森山国務大臣 提案者の保岡先生初めの御意見を承り、また松本先生の御見識も承りまして、今この時期、非常に重要な時期に差しかかっているということを改めて痛感いたしました。

 商法全体の基本的な見直しということが間もなく、来年の通常国会にはお願いしたいというふうに思っておりますので、そのようなことも頭に置きながら、今回のこの御審議いただいている改正につきまして速やかに成立させていただいて、全体としての改革につなげていきたいというふうに思います。

 ありがとうございました。

松本(剛)委員 時間が来ましたので、終わります。

 双方、皆で知恵を絞って、何とか我慢ができると学者さんにも評価をいただけるものができたということで、前へ進めると同時に、今大臣にもお言葉をいただきましたので、やはり本当に日本の経済のためにも抜本的なあるべき仕組みを、さらに不断の努力をお願いすると同時に、私もその一員として努力をしたいということを申し上げて、質問を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

保利委員長 次に、樋高剛君。

樋高委員 自由党の樋高剛でございます。

 きょうもお時間を賜りまして、厚く御礼を申し上げます。

 また、法務大臣におかれましては、お忙しいところ本当にありがとうございます。また、提案者の先生方におかれましても、御尽力に対しまして心から敬意を申し上げる次第であります。

 今回の商法等の改正ということでありまして、自由党からは弁護士であります西村理事が本来は申し上げるところでありますけれども、私がふだんから強い関心を抱いておりますコーポレートガバナンスにつきましての話でもありましたものですから、きょうは、御配慮もいただきまして、総論から入りまして、国民的立場から議論をさせていただきたい、このように思っております。

 まず、基本的な考え方を申し上げたいと思いますけれども、今日本経済は、自由主義経済とはいうものの、いわゆる業法、各種業法によりまして民間の自由な事業活動が大幅に制限をされている。いわゆる護送船団方式という言葉でも言いあらわされていると思いますけれども、いわゆる潜在的な民間活力が十分に発揮されていない状況にある部分もあると思うわけであります。この状況を改善しまして経済の活性化を図るためには、民間の経済活動を自由、公正な競争のもと、だれにでも開放することが必要である、つまり、フリー、フェア、オープンという方向性が私は必要ではないかと思うわけであります。

 この観点から、私ども自由党では、民間の事業活動等にかかわる規制の廃止と、それに伴い政府が講ずべき基本原則等を定めることを柱といたしまして、民間の事業活動等の規制等を廃止する法律案を提出する予定でありますけれども、ただ、その反面では、今回の改正案にもありますように、急務であります、企業の経営責任を明確にし、株式公開企業の情報開示、監査制度の強化、また企業役員の責任の明確化などのコーポレートガバナンス、いわゆる企業統治、経営責任の明確化もあわせて必要であると思うわけでありまして、本改正案は百点満点ではないにしても一歩前進ということで、私は評価をいたしたい、このように考えている次第であります。

 そこで、冒頭、まず提案者の方にお尋ねをさせていただきますけれども、企業が大規模、大きくなればなるほど、いわゆる企業活動を自主的かつ自由に行えるようにするためには、業務の執行、監査、監督、時には制裁という機能を連携させる、お互いにリンクさせることによって透明性を確保していかなくてはいけない、目に見える形にしなくてはいけないと思うわけであります。今までの企業統治、コーポレートガバナンスにはどのような問題があって、また、今回どのように改善していくものと考えられますでしょうか。

太田(誠)議員 従来の企業統治についての考え方は、株式会社の中そのものというよりも、外の、適法性に対する不祥事、それによって株主の利益が損なわれていくことに対してどういう歯どめがかかったのかといえば、それは主として株主代表訴訟のようなことで歯どめがかかっておったと思うのでございます。あるいは、単なる犯罪の捜査ということで歯どめがかかっていたのだと思います。

 しかしながら、同様の経験をしてまいりましたアメリカの社会で大変巨額の損害賠償額が確定したりいたしまして、それに対して、では、そのような株式会社というコミュニティーの中の紛争を解決する手段を株式会社の中自体に持った方がいいという考え方に変わってきて、そして、コーポレートガバナンスという言葉も生まれてきたし、また、取締役会にそのようなモニタリングの権能、機能を持たせるということになったわけでございます。

 それに対して、我が国の場合は、監査役制度というのはあったけれども、さらにそれを強化してモニタリングの機能としようということであります。

樋高委員 法務大臣にお伺いをさせていただきたいと思います。

 企業統治の見直しにつきましては、取締役会の機能の改革にとどまらず、持ち合い株の体制が今崩れつつあるグローバリズムの時代におきましては、株主総会などの活性化、活発化など、株主の意向の反映も欠かせない点もあると私は思います。

 その点において、株主のいわゆるグローバル化、国際化、情報化におきまして、企業のさらなる情報開示と株主との関係、お互いの関係の改革が求められると私は考えるのでありますけれども、大臣、いかがお考えでしょうか。

森山国務大臣 お説のとおりでございまして、現在、法務省では会社法制の大幅な見直し作業を進めておりますが、御指摘の株主構成におけるグローバル化や高度情報化社会への対応といった事柄は、新しい世紀に見合った会社法制とするための見直し作業におきましては大変重要な視点でございます。

 この国会におきましては、会社法制の大幅な見直し作業の一環といたしまして、会社関係書類の電子化、電子投票制度の導入などを内容といたします会社法制のIT化を図るための商法改正法案を提出いたしまして、先ごろ成立させていただいたところでございます。

 この改正法におきましては、株主総会の招集通知や議決権行使を電磁的方法により行うことができることといたしまして、株主の権利行使の機会を拡大するとともに、株主総会で承認を受けた計算書類をインターネットにより公開することを認めるなど、現代社会に見合った情報開示の手段も盛り込んでおります。

 今後とも、御指摘のような視点から、よりよい会社法制の構築に努めてまいりたいと考えております。

樋高委員 株式の持ち合い解消という言葉が今出てまいりましたけれども、大臣に引き続き伺いたいのでありますが、いわゆる企業間、会社同士の持ち合い解消というのは、これは過去十年近くに及ぶ長い期間、経済界のだれもが十分に認識している重要課題であったかと思うわけであります。

 また、最近では、いわゆる持ち合い株に対する時価評価が定められた関係がありまして、それが持ち合い解消の実質的なデッドラインであるということも財界の皆様方はしっかりと認識しているというふうに私は考えるわけであります。だからこそ、例えばカルロス・ゴーン氏の日産に象徴されるように多くの企業が大胆な持ち合い解消を進めてきたわけであります。

 ところが、日本の、また日本人の体質と申しましょうか性格と申しましょうか、お互いにみんなで仲よく、なあなあになってしまっている部分も、いい部分でもあるとはもちろん思いますけれども、ある意味で、こういう国際化の流れの中で、グローバリズムの中で、企業同士の長年にわたるしがらみが、いわゆる持ち合い株を売るに売れなかった背景にあるのではないかと考えるわけであります。

 法務省の立場からお答えをいただきたいのでありますけれども、株式の持ち合い解消は、構造改革、特に今回のコーポレートガバナンスにどのような影響を与えるというふうにお考えになるか。また、持ち合いの結果、物言わぬ、いわゆる株を持ったままの安定株主が日本的経営の不明朗さを助長しているのではないかという指摘もありますけれども、いかがお考えでしょうか。

森山国務大臣 大変大きな課題でございまして、必ずしも法務省の考えということを申し上げるのに適当であるかどうかわかりませんが、商法は、私人間の権利義務関係を規律する民事基本法でございます。その主要な内容である会社法制も、会社、株主、会社債権者等の利害関係を調整する視点から、会社をめぐる基本的な事項につきまして一般的な枠組みを定めております。

 したがいまして、株主の具体的な構成がどのようなものであるのかに応じて企業統治のあり方を個別に考えるということは、基本的には商法の規律のあり方としては必ずしも適当でないのではないかというふうに思うわけでございますが、もっとも、会社をめぐる社会情勢として、御指摘のような株式の持ち合いの解消といった状況が現在進んでいることはよく承知しております。

 法務省といたしましては、民事基本法制を所管する立場にありますので、事前規制型社会から事後監視型社会への移行、透明な自己責任ルールの一層の確立といった観点から、その重要な一翼を担う商法につきましても、時代に即応した会社法制の姿を構築していきたいというふうに考えております。

樋高委員 続いてお伺いいたしますけれども、株式買い取り機構についていかがお考えか。いわゆる株式買い取り機構は、新たな安定株主となっていわゆるコーポレートガバナンスの確立を妨げ、構造改革をおくらせる原因ともなっているという指摘もありますけれども、いかがお考えでしょうか。

森山国務大臣 先ほども申し上げましたとおり、株主が具体的にどのようなものであるのかに応じて企業統治のあり方について個別に考えるということは、基本的には商法の規律の枠外にあるものではないかと考えるわけでございます。

 ただ、現下の社会経済情勢が株式の持ち合いの解消と関連しまして、例えば、御指摘の株式買い取り機構を導入することによりまして、一般的な状況として株主の構成に変化をもたらすような事態も考えられないではありません。法務省としても、そのような情勢を迅速かつ的確に把握いたしまして、その時代その時代に応じました適切な会社法制となるように努力をしていく必要があると考えております。

樋高委員 ありがとうございました。

 提案者の方にお伺いをさせていただきたいと思います。

 今回の改正につきましては、いわゆる株主の利益、権利の擁護あるいは取締役などの自由な経営判断の確立のいずれ、どちらの方を主眼に置いたものなのか。本改正案では、本来、総株主の同意が必要だった取締役などの責任免除につきまして、定款に定めがあれば取締役会の判断でできるとするなど、いわゆる株主の権限を制限する方向での改正も一部含まれているわけでありますけれども、今回の改正案につきましては、これはいわゆる株主利益、権利の擁護を軽視するものではないかという指摘もありますけれども、いかがお考えになりますでしょうか。

谷口議員 コーポレートガバナンスと申しますのは、企業の経営の効率化、競争力の強化を図って、企業倫理を確立し、企業の健全性を確保し、ひいては株主利益を最大化させるといったことがこのコーポレートガバナンスだろうというように思うわけでございます。そういう意味においては、業務に知悉をしております取締役の自由な経営判断を確立するということは、長期的には株主の利益、権利の擁護に資するものだというように考えるわけでございます。

 ですから、今おっしゃるような株主利益、権利の擁護と取締役等の自由な経営判断の確立、この二つは相矛盾するものではないというように考えておりまして、この両方とも達成しようということを目的としたものでございます。

樋高委員 いわゆる両立を図るというふうに理解をさせていただきました。

 今回のこの改正案は、国会に提出するまでの間に大変な苦労をなさったというふうにも伺っておりますけれども、そもそも、どのような検討を行った経過がありますでしょうか。

保岡議員 我々自民党においては、四年前の平成九年五月から有識者、これは学者や経済関係者やマスコミやいろいろな方々からヒアリングをいたしまして、鋭意議論を重ねたわけでございます。

 その結果として、平成九年九月にコーポレート・ガバナンスに関する商法等改正試案骨子というものをまとめました。四カ月でまとめたんです。かなり迅速にやろうというつもりで取り組んだのでございますけれども、その後、金融危機その他いろいろなことがあって、もっとそれ以上に優先すべき議員立法の課題やいろいろ出てまいりまして、結局、平成十一年四月に企業統治に関する商法等の改正案要綱として発表することができまして、その後さらに与党において、さきの要綱に対して各界から寄せられた意見などもまた踏まえまして、精力的な検討を行って、ことしの春に本改正案を国会に出すことにやっと到達して、こうやってきのうから実質審議に入っていただいて、大変うれしく思っております。

樋高委員 今回の法律案はなぜ閣法ではなくて議員立法であるかという点、お尋ねさせていただきたいと思います。

谷口議員 今般、バブルの崩壊とともに、企業の放漫経営であるとか経営陣の不祥事が多発いたしておるわけでございます。その結果、企業への社会的、経済的な信頼を大きく失墜させておる、その結果、株主の利益を大きく損なっておるというような状況があるわけでございます。

 こういう状況の中で、我が国においては、株主の利益保護のために、株主の利益を害する面が見られる現行制度の見直しを進める。それで、公正、透明で国際的信用の得られるような企業体質の確立を図ることが求められている。こういうことで、経営の効率化、競争力強化、企業倫理の確立、また経営の健全性確保でございますね、その結果、株主利益の最大化を目指すコーポレートガバナンスを確立する必要がある、このように考えておるわけでございます。

 そういう状況の中で、本改正案は、現在のこの激変、激動いたしております経済社会情勢の中で、コーポレートガバナンスを立法府のリーダーシップで速やかに成立させる必要があるということで、今回議員立法にいたしたわけでございます。

樋高委員 各論に入りたいと思います。

 今回の一番の目玉と言ってもいいわけでありますけれども、いわゆる取締役の責任軽減についてであります。

 本改正によりまして、いわゆる取締役の責任がある意味で容易に免除されて、代表訴訟の提訴、提起権者が限定される。いわゆる会社経営による会社の私物化、また一方では無責任経営、放漫経営が行われるおそれもあるのではないかという指摘もあります。もちろん、今回は軽過失ということでありますけれども、きょうの午前中の自由党の山田正彦議員の指摘もありましたけれども、大変微妙な部分も含んでいる。実際裁判をやってみなくちゃわからないかもしれないという部分もありますけれども、一方で、今申し上げましたとおり、私物化、無責任経営、放漫経営が行われるおそれもあるのではないかという御指摘に対しましては、いかがお考えになりますでしょうか。

谷口議員 今回の責任軽減制度でございますが、一つは、株主総会の決議を得なければならないという方法がございます。もう一つは定款変更、これは株主総会の特別決議を経て定款変更を行い、取締役会決議に任せる、ゆだねるというような方法がございます。また、定款の規定に基づく社外取締役との間の事前の責任限定契約により取締役の責任の軽減を認めるというようなことがございますが、いずれにいたしましても、株主の厳重なチェックを経なければならないわけでございます。

 このように、株主の厳重なチェックを受けた上で、本改正案では、一定規模以上の会社については、株主等の利害関係者が多数となることが想定されるということで、取締役の職務執行を監査する立場にある監査役の同意を責任免除に関する議案等の提出に当たって必要なものといたしておるわけで、より一層厳格なチェックが入っておるわけでございます。

 このように、取締役の責任を容易に免除するものではなくて、会社経営者による会社の私物化、また無責任経営、放漫経営に結びつくものではないというように考えております。

樋高委員 また一方で、疑問点なんでありますけれども、なぜ総株主の同意がなくても取締役の責任を軽減できるとする規定を設ける必要があるのか、その意義につきまして改めてお伺いをさせていただきたいと思います。

谷口議員 現行は、今おっしゃったように、総株主の同意がなければ責任の軽減ができないということになっておるわけでございますけれども、実際上は、先ほどから申し上げておりますように、総株主の同意を得るということは不可能に近いわけでございます。

 今回、そういうこともございまして、一方で、取締役が軽過失を行った場合にも高額の賠償責任があるといったような場合には、それを恐れて経営が萎縮するといったことが考えられるわけでございますので、軽過失の場合には、原案では報酬の二年分、修正後は代表取締役六年分、一般の社内取締役四年分、社外取締役二年分、こういうことになっておるわけでございますが、これを控除した額を下限として、株主総会決議または取締役会決議で免除することができるということになっておるわけでございます。

 また、社外取締役につきましては、従来、優秀な人材に来てもらいたいというようなことを企業は望んでおるわけでございますが、この社外取締役におきましても社内の取締役と同様の責任を課するといったことになりますと、なかなか優秀な人材が会社に集まらないというようなこともございますので、あらかじめこの責任の範囲を限定して締結することができるという旨の定款を定めることによって、責任を限定し、優秀な人材を集めるということにしたわけでございます。

樋高委員 今回の商法改正におきましては、いわゆる半世紀ぶり、五十年ぶりの抜本改革ということも言われているわけでありますけれども、今回の改正によりまして新設される取締役の責任軽減の制度、その概要をやはりはっきりと国民に対して、また、これはもちろん国内向け、国内に拠点を置く企業に対する法規制でありますけれども、実はある意味で外国に対しても発信をしなくてはいけない、説明をしなくてはいけない面も含まれるんではないかと私は思うわけでありまして、ここで改めましていわゆる取締役の責任軽減の制度概要をお尋ねさせていただきたいと思います。

谷口議員 現行法におきましては、先ほど申し上げましたように、責任の軽減におきまして総株主の同意が必要だということになっておりますが、今回の改正におきましては、取締役の責任のうち、軽過失による法令、定款違反行為に関するものにつきましては、一つは株主総会決議、またもう一つは定款規定に基づく取締役会決議、またもう一つは定款の規定に基づく社外取締役との間の事前の責任限定契約に基づいて、この三つのうちいずれかの手続によって、原案におきましては報酬の二年分を下限として、修正後の考え方におきましては、代表取締役六年、一般社内取締役四年、社外取締役二年、これを超える分については免除ができるということにいたしたわけでございます。

 この報酬の内容でございますけれども、一つは、使用人兼務取締役の使用人としての報酬もこの中に入るわけでございます。また、取締役の退職慰労金及び使用人兼務取締役の使用人としての退職手当のそれぞれの在職期間中の、原案では二年分、修正後では六年、四年、二年となっておりますが、これに相当する額が含まれるわけでございます。また、その期間内にストックオプションによる権利行使によって利益がございますと、その利益もこの中に入るということになっております。

 定款の規定に基づく取締役会決議による免除は、定款の定めがあるときには、特に必要があると認める場合に限り、取締役会決議で取締役の責任を免除することができるとするものでございますが、決議後に総株主の議決権の、原案では二十分の一、修正後は百分の三でございますが、これ以上の議決権を有する株主が異議申し立て期間内に異議を述べたときには免除できないというような規定になっておるわけでございます。

 また、定款の規定に基づく社外取締役との間の事前の責任限定契約でございますが、定款に定めがあるときは、社外取締役との間で、その取締役が契約後に会社に損害を与えても、契約で定めた額と報酬の、原案でまいりますと二年分でございますが、その額とのどちらか高い額を超えて賠償する必要がない旨の契約をすることができるということになっております。

 なお、新たな手続による責任の免除またはそのための定款の変更の議案の提出には、監査役全員の同意を得なければならないといたしておるところでございます。

樋高委員 今お話の中にもありましたけれども、まずは株主総会決議による責任の軽減、そして定款に定めがあれば取締役会決議で責任の一部免除ができるということでありますし、また一方で、責任発生後の免除に加えまして、社外取締役に対しての事前免除契約の締結を認められているわけでありますけれども、今二点申し上げましたその部分については、なぜその部分を設けたのか、改めて伺いたいと思います。

谷口議員 今おっしゃったように、二つの責任軽減の方法があるわけでございます。

 多数の株主から成り立っております会社におきましては、取締役の責任軽減のため、株主総会決議をするために臨時株主総会を招集しなければならないということになりますと、これは極めて難しいということになります。また一方で、取締役の賠償責任が軽減されるかどうかということに対して、当該取締役が非常に長期にわたって不明な、不安定な状態が続くということになるわけでございますので、これを取締役会決議にゆだねまして、機動的に弾力的にこの責任軽減の決議を行い得るといったような制度をつくったわけでございます。

 もちろんながら、先ほどから申し上げておりますように、この制度を行う場合には定款変更の手続が要るわけでございますから、株主総会の特別決議が必要だということになるわけでございます。

 また、あらかじめ株主が定款により責任軽減の是非を一次的に取締役会に任せておる場合において、株主総会における株主の判断を待たずに、非常に業務に精通いたしております取締役の集まりである取締役会が、当該賠償責任にかかわる経営判断の妥当性の見地から責任軽減の是非を判断するということについては十分な合理性があるというように考えておるわけでございます。

 それで、今回のこの責任軽減制度におきましては、先ほど申し上げましたように、原案と修正案に差がございますが、原案では二十分の一以上、修正後におきましては百分の三以上の議決権を有する株主が異議申し立て期間内に異議を述べたときには、取締役会決議が行われてもその後にこれが認められないといったようなことになって、株主のチェックを受けるということになっておるわけでございます。

樋高委員 一つ一つ細かく申し上げて本当に済みませんが、今回の法改正につきましては、とても重要な部分を含んでいる、また今後の経済活動に大きく影響するということで、今細かいところでありますけれども取り上げさせていただいているところでありますけれども……

谷口議員 済みません、答弁漏れがございましたので申し上げますと、例えば、取引先の経営状況から見て取引を継続すれば会社に損害が生じ得るような場合において取締役が取引を継続した場合のように、会社を経営するに当たって不注意に会社に損害を与えた場合には、取締役は、善管注意義務に違反したことに基づき、二百六十六条一項五号による会社に対する責任を負うことになります。

 しかし、このような場合には、取締役が経営者としての専門的知識を駆使して、会社のためによかれと思ってそのような判断を下していることも多くて、たまたまその判断が経済情勢の変化から裏目に出たために会社に損害を与えたといった場合もあるわけでございます。

 このようなケースでいえば、取締役の集まりである取締役会が、当該賠償責任にかかわる経営判断の妥当性の見地から責任軽減の是非を第一次的に判断することに十分の合理性があるというように考えるところでございます。

樋高委員 次に、監査役機能の強化につきまして質問させていただきたいと思います。

 いわゆる今回の監査役制度、機能の強化ということでありまして、この部分も大分以前から言われてきたわけでありますけれども、この国際化の流れの中で、やはりこの監査役機能の強化というのも大変重要な部分があるのではないかと私は思うわけであります。

 今回の監査役制度に関する改正の趣旨につきまして、まずお伺いをさせていただきたいと思います。

保岡議員 先ほどからるる答弁もしてまいりましたが、バブルの崩壊後、企業がいろいろ放漫経営の実態をさらしたり、経営陣の不祥事が次々に起こるなど、企業への社会的、経済的信頼が非常に失墜して、株主の利益を損なう事案も非常に激増してまいりました。

 また現在、不良債権処理とか、企業の経営改善、体質強化、リストラ、企業の国際化のためのいろいろな努力がされているところでございますが、このためには、一般株主の信頼が非常に大事で、その信頼を得られるように、公正、透明で国際的にも信用ある企業体質を確立することが必要でございます。

 これは、日本の企業の財務状況や健全性についての、先ほど松本議員からもいろいろ、経営のあり方についての国際評価が非常に低くなっているというお話、国際競争力も低い、こういうようなお話もありましたが、そういう外からの信頼、それから、間接金融から直接金融に転換していかなきゃならぬ、千四百兆の国民金融資産を株式等に振り向けて、証券市場を活性化したりして、国民の個人株主への志向というものをさらに強めていかなきゃならぬというようなときでございますから、内外に、株主の信頼や国際的な信頼が求められている。

 このような状況にかんがみて、今回の改正では、株主の利益を重視すべく、コーポレートガバナンスの一層の確立を目的として、経営陣へのチェック機能の強化を図るために監査役制度のなお一層の充実を図った次第でございます。

 具体的に以下申し上げますけれども、監査役の取締役会への出席及び意見陳述が法律上の義務であることを明示する。それに、商法特例法上の大会社においては、現行は一人以上とされている社外監査役を半数以上とし、社外監査役の要件も厳格化する。それに、監査役の任期を現行の三年から四年に延長する。監査役の辞任について、監査役を辞任した者及び他の監査役に、株主総会における意見陳述権を認める。商法特例法上の大会社の監査役を選任する場合について、監査役会に同意権、提案権も認める。これが監査役強化の制度改正の内容でございます。

樋高委員 監査役の取締役会への出席及び意見陳述が法律上の義務であるということを明示した理由につきましてお伺いさせていただきたいと思います。

保岡議員 現行法においては、条文上、監査役の取締役会への出席、意見陳述については任意とされているところでございます。

 しかし、現行法の規定のもとでも、監査役の取締役会への出席については、監査役は業務監査をする義務を負っておるということ、それから監査役は善良な管理者の注意をもってこういった業務監査という職務を遂行しなければならないわけですが、監査役は、取締役会に出席することによって、これまで行われた業務執行や、また将来行われるであろう業務執行について知ることができるわけで、会社の業務の状況を十分につかむことができるということから、監査役は取締役会への出席義務を負っている、解釈上そういうように運用されているわけでございます。

 また、監査役の取締役会への出席と取締役会での意見陳述、これは手段と目的の関係にあることや、監査役が有している善管注意義務から、監査役は、必要があると認めるときは取締役会において意見陳述をする義務を負っているとも解されています。

 したがって、今回の改正では、監査役の取締役会への出席義務、意見陳述義務を法律上、明文上明らかにして、監査役の権限、責任を明確にしていこうということで、会社の業務執行の適正化を図ろうとするものでございます。

樋高委員 引き続きまして、いわゆる監査役の任期を三年から四年に一年延長なさったわけでありますけれども、その意味につきましてお伺いさせていただきたいと思います。

保岡議員 監査役の任期を四年に延長した理由でございますが、まず第一に、今回の改正では、コーポレートガバナンスの一層の充実を図るため、監査役の機能を強化することを目的としているわけでございますが、監査役の任期を現行の三年から四年に一年延長することによって、監査役の地位の強化及び一層の身分保障を図ることにつながるということでございます。

 監査役の任期が三年であると、監査役の任期中に取締役の改選が一回されることになる。取締役は通常二年の任期だからそういうことになるわけですが、改選前または改選後いずれかの取締役については一年分の職務に関してしか監査できない場合が生ずるということで、監査役の通常の任期との関係で監査の効果を低下させているという面がございます。

 しかし、監査役の任期を四年にして、取締役と同時に改選できるようにすれば、監査役の任期中に取締役の改選がされても、改選前、改選後、双方の取締役につき任期満了までの職務を監査できることになって、監査の効果を高めることができる。

 次に、平成五年の商法改正の際に監査役の任期を三年とした理由でございますが、これは、監査役の任期を三年として取締役の任期と互い違いにすることで取締役から監査役への横滑りを防止できるという配慮があったかに聞いていますが、取締役の任期については監査役のように法定の任期でないため、監査役に就任するために任期途中で辞任したり、あるいは定款で取締役の任期を一年と定めている例などもあって、横滑りが可能であるという点においては、実際にもそのような例があると聞いていますが、少なくとも社外監査役については、その資格要件によって取締役からの横滑りということは考えられないわけで、このように考えてみますと、むしろ監査役の任期を四年に延長して、監査役の機能を強化する、身分保障をさらに進めるというメリットの方が多いというふうに判断して、さきの改正と照らし合わせて四年ということにしたわけでございます。

樋高委員 いわゆる監査機能の強化、地位の強化ということで結構なことなのでありますけれども、今回、三年から四年に一年延長した。たった一年でありますけれども、今先生おっしゃったような趣旨、よくわかるわけでありますけれども、この法律が実際に効果を発した後も、その後、今御指摘なさいましたように、いわゆる横滑りの問題、それもきちっと今後も検証していくことも重要なのではないかということも申し上げさせていただきたいと思います。

 次に、商法特例法上のいわゆる大会社、大きな会社につきましての監査役の機能強化の趣旨につきまして、商法特例法第十八条の改正につきましての趣旨を問いたいと思います。

保岡議員 改正後の商法特例法十八条では、商法特例法上の大会社、資本金が五億円以上、負債二百億円以上、いずれかの要件を満たしている会社でございますが、まず、監査役は三人以上で、そのうち半数以上はその就任前に会社またはその子会社の取締役または支配人その他の使用人となったことがない者、いわゆる社外監査役でなければならないということにいたしました。

 第二に、取締役は、監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役会の同意を得なければならないといたしております。監査役会はまた、その決議をもって、取締役に対して監査役の選任を株主総会の会議の目的とすること、それから株主総会に監査役の選任に関する議案を提出することを請求することができるということといたしております。

 一の、先ほど申し上げた、監査役は三人以上で、うち半数以上は社外監査役であるという点の改正の趣旨でございますが、現行法では、就任前の五年間、会社またはその子会社の取締役または支配人その他の使用人でなかった者を社外監査役としておりまして、また、社外監査役の人数は一名以上で足りるということになっております。コーポレートガバナンスの一層の充実を図るために、監査役あるいは監査役会の取締役会からの独立性を高めるために、社外監査役の要件を厳格にするとともに、その人数をふやすということにしたものでございます。

 なお、社外監査役の要件を厳格にしたことに伴って、社外監査役の人材の不足が予想されるために、改正法施行の日から三年を経過した日からこの人数のふえる点についての法を施行することにいたしているわけでございます。

 さらに、先ほど申し上げました、監査役会がその決議をもって取締役に対して監査役の選任を株主総会の会議の目的とすることを請求できることとしたり、監査役の選任に関する議案を提出することを請求することができることにしたりいたしました点、それから、取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出する際には監査役会の同意に係らしめた点の趣旨は、現行法においては、監査役は監査役の選任について株主総会において意見を述べることができるとされていますけれども、監査役の意見には拘束力が認められていないことから、監査役の人事について監査役会の同意を要することにしまして、取締役が監査役人事を恣意的に行うことを防いで、監査役に適する人材の確保を可能にするとともに、監査役の独立性を強化することとしたものでございます。

樋高委員 監査役のいわゆる独立性の強化ということもいいことではないかと思うのでありますけれども、いわゆる社外監査役の要件を厳格化した理由は、意義はどういうところにあったのでしょうか。

保岡議員 平成五年の商法改正において社外監査役制度を導入したときの趣旨でございますが、客観的、第三者的立場から業務監査を行える者を監査役とすることによって、監査役の独立性を高めることにあると解されているわけでございます。

 その観点からは、社外監査役の人材としては弁護士など外部からの人材が就任することが期待されたわけでございます。しかし、実際には、改正後、取締役退任後に監査役に就任し五年以上経過した後、社外監査役に横滑りで就任する者が多く見られて、社外監査役制度の意図した目的が十分に達せられていないと批判もあり、また評価もされていたわけでございます。このような状況のもとで、バブル崩壊後、大型企業の放漫経営の実態が明らかになり、倒産も相次ぐことになりますが、その一因として、監査役制度が十分機能していないのではないかという指摘がされてきたわけでございます。

 このような状況にかんがみて、今回の改正では、監査役の取締役会からの独立性を一層強化し、コーポレートガバナンスの一層の充実を図るために、社外監査役の要件を厳格にしたものでございます。

樋高委員 次に、実態面をちょっと考えてみたいのですけれども、商法特例法上の大会社、大きな会社におかれましては、現行は一人以上とされている社外監査役を半数以上とし、監査制度の充実を図るということであります。

 しかしながら、実際問題、実態としまして、会社は、社外監査役を含めた監査役の人数全体をふやしまして、社外監査役を最低数の半数に抑えることも予想されるわけであります。こうなりますと、実質上、監査役及び監査役会全体として中立性が乏しくなる可能性もあるのではないかと思うのでありますが、いかがでしょうか。

保岡議員 商法特例法上の大会社にあっては監査役会が組織されるということになっておって、この監査役会の決議で監査役の職務の執行に関する事項を決定することになっております。しかしながら、この場合においても、監査役会は監査役の権限の行使を妨げることができないものとされておりまして、監査役の独立性の長所が損なわれないように配慮がなされております。

 また、監査報告書には、各監査役は意見を付記することができることになっておりまして、今回の改正により認められる、取締役等の責任の軽減について必要とされる監査役の同意に係る決議についても監査役の全員の一致という要件を課したわけでございます。

 そして、今回の改正案においてはさらに、現行法では一人以上とされている社外監査役を先ほど申し上げたように半数以上とするほか、社外監査役の要件も今も御説明したとおり厳格にしておりまして、監査役会あるいは監査役の取締役からのなお一層の独立性の確保が図られたものでございまして、今回の改正により、御懸念のように、監査役、監査役会全体として中立性が乏しくなるという可能性が出てくることは考えられないのではないかと思います。

樋高委員 いわゆる運用面、実態としてその独立を確保するということはもちろんそのとおりなのでありますけれども、その後、その趣旨にのっとってきちっと実態としていわゆる独立性が保たれているのかどうかということは、今回、法律ができ上がった後、提案者である先生方そしてここ国会の役割、きちっと今後も追跡をしていくということも重要な側面ではないかと思うわけでありまして、要望させていただきたいと思います。私自身も今回携わりましたので、私自身もしっかりと今後追跡をし、その後実態がどうなっているかという部分も注視してまいりたいと思うわけであります。

 総括に入りたいのでありますけれども、今回の修正によりまして、監査役の機能の強化、また取締役の会社に対する責任の軽減、もちろん今回は軽過失の部分でありますけれども、百点満点ではありませんけれども、私は、今後の抜本改革に向けての大きな一歩であるという認識であるわけであります。

 今回の改正が、いかに時代の要請があって今回こういう改正に至ったのか、その意義につきまして、総括としてお尋ねさせていただきたいと思います。

保岡議員 先ほども先生からの御質問に答えたわけですけれども、我々自民党としては、今日本が置かれている企業活動の一番重要な点は、新しい時代に挑戦して、新しい国民のニーズや時代のニーズにしっかりこたえていく企業をつくり出していく。そういった意味では、経営者にチャレンジ精神を持ってもらわなきゃいけない、非常にフレキシブルに経営に臨んでもらわなきゃいけない。

 そういった意味では、軽過失について、経営判断について余り青天井の高額な、会社に対する取締役の責任というものを認めて、そのままに放置しておれば、一方でわずか八千二百円で株主代表訴訟が起こせるという状況と照らし合わせて考えると、やはり経営者が経営判断において萎縮をする危険性があることはつとに指摘され、実際にそういうことをあちらこちらで聞かされているところで、やはりそれは、国際的な標準というものと我が国も平仄を合わせていく必要がある。

 しかし一方では、先生も先ほど言われたように、会社の業務監査あるいは会計監査において、もっとルールをしっかり守る、コンプライアンスというものの機能を強化していくということは、これからルールと自己責任の世界というのが我が国の企業の活動の舞台であり、世界と調和もしていかなければならないわけですから、そういう点でもまた、きちっとした規律のもとに我が国の企業が、透明なルール、そしてまた会社の状況もできるだけ開示をして透明にして、株主の、あるいは市場の力によって、企業がすばらしい企業活動をやっていくインセンティブを受けるということも必要なことだ。

 そういった意味では、こういう議員立法で、四年前から努力してきたこと、さらに、会社法の抜本改正が政府の方でも一方遅まきながら進んできていること。これからも恐らくは、企業法制は、そしていろいろな経済活動に関する刑事、民事の法制というものは、さらに改正をしたりあるいは新しい制度を用意したりする。非常に立法ニーズの大切な時代だと思いますので、また国会として、議員としてもそういう努力を続けていかなければならないのではないかと考えているところでございます。

樋高委員 さまざまな事件が表面化するにつれまして、今回の法改正、法律案の内容をいろいろ検証してみますと、確かに企業のモラルハザードを助長するという批判も一方でありましたけれども、一方でいわゆる株主代表訴訟で巨額の賠償を求められるケースが相次ぐと、いわゆる取締役の方々が過度に萎縮をしてしまう、そして、萎縮していわゆる経営判断を、石橋をたたいて渡るような経営状態になってしまって、経済活動の低迷を招くおそれがあるという趣旨もよくわかるわけでありまして、今回、抜本改革に向けて、百段の階段、そのうちのまだ一段目でありますけれども、方向性は間違ってはいないのではないかと思います。

 ただ、コーポレートガバナンスにつきましては、今こういったグローバリズムの中で日本が世界の一員としてやっていくためには、やはり情報開示も含め、そうした透明性、また一方で、その会社の生産性を上げる、経営の強化を図るということが物すごく重要であるという認識でありますので、どうかこれからも、提案者の先生方におかれましては、また法務省さんにおかれましても、このコーポレートガバナンスにつきまして注目をしていただきたいと思うわけであります。

 一方で、今おっしゃられましたとおり、やはり企業には自律というものが求められている。個人の自律、家庭の自律、地域の自律、そして企業の自律。やはり世界を相手に、日本がむしろ率先して時代を先取りした形で、外国から見て日本の会社はうらやましいなと思われるような経済社会のシステムをぜひつくり上げていきたいと思うわけであります。

 大臣には、長い時間お待たせして申しわけありませんでした。最後の一問でございます。

 今回の改正によりまして、一般の方々から私言われたのでありますけれども、いわゆる取締役会と株主総会との関係はどのように変化すると考えられますでしょうか。今回の改正によりましてどのようないわゆるメリット、デメリットがあると考えられるのか、お伺いをいたしたいと思います。

森山国務大臣 今回の改正の法案の内容は、株主代表訴訟制度の合理化及び監査役制度の機能の強化などを目的とするものでございます。ですから、これによって直ちに取締役会と株主総会との関係に大きな変化がもたらされるとは考えられません。

 なお、株主代表訴訟制度は会社の機関の責任のあり方にかかわる重大な制度でございますし、また監査役制度も企業統治のあり方にかかわる重要なものでございますので、今後とも、この改正法が施行された後の運用状況等につきまして注目してまいり、法務省といたしましても、そのあるべき姿に十分配慮しながら検討を続けていきたいというふうに思います。

樋高委員 結局のところ、私考えまするに、もちろん、こうした法制度、法改正、時代にそぐう形で法律を変えていくということは当然でありますけれども、会社経営に関しましては、経営もしくは監査に携わる方々の、いわゆる人の問題にも私は注目をすべきではないかというふうに考えるわけであります。

 つまり、経営、監査をなさる人のいわゆる倫理観、また人間の心。経済をつくり上げておりますのは結局人間であります。その人という部分も重要なことではないか。日本の企業社会で真の企業統治を実現するためには、やはり法改正だけではなくて、経営者の教育と言ったらそれは恐れ多い言葉でありますけれども、人のスキルアップという部分も私は重要ではないかという思いであります。それでこそ本来の実効性が向上していくのではないかということを申し上げまして、議論を終えたいと思います。

 長い時間ありがとうございました。

保利委員長 次に、木島日出夫君。

木島委員 日本共産党の木島日出夫です。

 取締役の会社に対する責任の軽減、そして株主代表訴訟制度の見直し、さらには監査役制度の見直し等、原案と修正案が既に提出をされておりますので、まず両提出者からお聞きをしたいと思います。確認の質問であります。

 既に出された原案は与党三会派提出であります。そして、修正案は与党三会派に民主党を加えた四会派による修正案であります。そこで、まず原案提案者に聞きますが、原案提案者としては、四会派からの実質四項目の修正を承認し、修正部分は事実上もう撤回されているというものとしてこの法案審議に臨んでいるんだ、そう理解してよろしいですか。

保岡議員 そのとおりでございます。

木島委員 それでは、修正案の提案者、特に民主党の提案者にお聞きをいたします。

 修正案の提案者としては、基本的には四項目修正でありますが、その修正部分とその部分を除く原案を、すべて事実上一体のものとしてこの法案審議に臨んでいる、こう理解してよろしいでしょうか。

佐々木(秀)委員 一体のものとしてというのがどういう趣旨なのか、ちょっとはっきりしませんが、私どもとしては、このままであれば、この原案の審議をして、その上で態度を決定しなければならなかったわけですが、原案のままでは私どもとしても賛成しかねる、こういうことでございました。

 私どもとしては、午前中の参考人に対する質疑もございました、その御意見もございましたけれども、本来ならば、取締役責任など、あるいは業務の内容などを考慮した商法の改正も法務省で考えられているということでございますから、できることならば、本当はこれとあわせて今度の改正というのも行われるべきであろうとは考えましたけれども、しかし、提案者などから、どうしてもこの機会にこの法案を成立させたいという強い御意向がある。とするならば、原案のままでは私どもとしてはいかないけれども、できるだけよいものにしたい、さまざまな、特に不安のある点は解消しなければならないという思いで修正案を提案させていただき、協議をさせていただいたところ、与党の提案者も御検討いただいて、私どもの提案のうちの何点かについてはお認めいただく、あるいはそこで接点を見出すことができたということなものですから、そういう意味では一体として考えてこの修正案を提案し、今審議に臨んでいる、こういうことでございます。

木島委員 余り難しいことを聞いたわけではなくて、要するに、一体としてというのは、もう四会派で修正案が出ているので、それが賛成が得られれば、修正部分を除くすべてについても賛成するのだ、そういう立場でこの審議に臨んでいる、そこだけ聞いたのです。

佐々木(秀)委員 そのとおりでございます。

木島委員 それでは、本案の眼目であります取締役の会社に対する責任軽減をする必要性について提案者にお聞きをします。特別の指摘がなければ、事実上原案提案者に答弁していただくということになると思います。

 法案の中心的柱は、商法二百六十六条一項五号の、取締役の会社に対する法令、定款違反による損害賠償義務について、その取締役が職務を行うにつき、善意にしてかつ重大な過失がなかったときは、その賠償責任の限度額を、代表取締役は報酬の六年分、取締役は四年分、社外取締役は二年分を限度とする責任軽減措置を定める、そして、その手続規定を法定するということにあると思います。

 そこで、私が最後の質問者になっているようでありますので、再三質疑応答があったテーマでありますが、改めて提案者にお聞きしますが、今、我が国の会社経営において、このような法改正をして取締役の責任を軽減しなければならない理由は何でしょうか。整理をしてお答えいただきたいと思います。

    〔委員長退席、奥谷委員長代理着席〕

保岡議員 一つは、やはり大きく言えば、今、日本は、経営者の経営の力とか、あるいは企業の経営形態、運用の実態というものが、非常に問題が多く、経済全体が危機的な状況にある。したがって、これから日本の持っている経済資源、これはもうたくさんあるわけで、すばらしい経済資源をたくさん持っておりますから、こういう条件を生かして、世界で、先ほど樋高委員も言われたように、日本の企業はすばらしいな、日本はすばらしい経済を復活させたということにどうして持っていくか、これはやはり国をかけて努力をしなければならぬ。

 そういう中にあって、企業者の経営のチャレンジ精神、こういったものが非常に重要であって、リスクをあえてとっていく、そういう姿勢が望まれていること、これは非常に基本的なことだろうと思います。これはある意味では、官僚によって非常に上手に効率のいい、事前管理の中にあって成功した日本が、逆に規制を解いてルールと自己責任の世界で本当に知恵と工夫、企業活動に挑戦して、リスクをとって、新しい境地、時代のニーズに合った、あるいは国民の、世界のニーズに沿った企業活動を実現していくためには、企業家マインドというのは非常に重要だ。それを萎縮させるようなことがあってはいけない。

 今株主代表訴訟制度が導入されて、あれは平成五年の改正で、判例で一部見られていた、八千二百円で株主代表訴訟が提起できるということになって以来、株主代表訴訟がかなりふえて、そうして、中には巨額な賠償責任を認める例も出てまいりまして、要するに、経営判断の問題についてリスクを積極的にとっていかなければならない企業家が、軽過失において青天井の、あるいはそういう言い方は適切ではないかもしれませんが、企業が何か経営失敗して損害をこうむるときは巨額になるわけでございますから、そういう例も幾らでも出てくるわけで、そういったものについて青天井で取締役の責任を事実上認めざるを得ない制度をそのままにしておいたのでは、国際比較からいっても、我が国の経営者の経営マインドというものは活性化することができないという改正の大きな眼目がございます。

 あわせて、株主の利益最大化を目指す監査役機能の強化とバランスをとって、また株主の利益あるいは権利というものも、所有者として、非常に重要なベーシックな立場でございますから、その意向というものを最大限配慮する。その調和をとって今度の改正案を提出しているわけでございます。

木島委員 お聞きしましたが、二つの点が違っている。

 一つは、軽過失で青天井の損害賠償が経営陣に請求され、萎縮しておるということでありますが、皆さん方の提出している法案は、軽過失だけ免責するのではないのでしょう。故意と重過失の場合は現行法どおり、重過失以外の過失は軽減してやる。だから、軽過失ではないわけです。通常の過失と軽過失。重過失だけは現行どおりという法案ですから、そこは正しく使っていただきたい。

 それと、青天井、青天井と言いますが、現行法は青天井ではありませんよ。会社が受けた損害、それ以上の責任は追及されないのですよ。当たり前のことですけれども。だから、青天井という言葉も、私はこれから法律を聞きますから、そういう非法律的な言葉は注意して使っていただきたい。二つの点だけ申し上げておきます。

 それでは、引き続いて提出者に聞きます。

 現在日本の具体的にどのような状況を指して、経営が萎縮しておる、株主代表訴訟が多過ぎる、あるいは請求金額が多過ぎる、いわゆる乱訴の状況と言うのか。どんな状況を指してあなた方はこの法案をここへ持ち出してきたのでしょうか。具体的な状況を描写してください。

保岡議員 どういう萎縮した現象が経済界に起こっているかということでございますが、一つは、先ほども申し上げましたが、巨額な会社に対する取締役の損害賠償責任が判例上出てきたりしているということもございますし、またもう一つは、このところ、株主代表訴訟が八千二百円で起こせるという状況になって、急速に株主代表訴訟の件数がふえているということ。

 あるいは、先ほどもお答えしましたが、ことしの「商事法務」の二月号の主なる株主代表訴訟のいろいろな例を挙げてあった資料の中に、百億円以上の訴額のものも四分の一ある、五億円以上が三分の二あるというような、巨額な訴額の代表訴訟もかなりの数提起されていること。

 あるいはまた、株主代表訴訟において、取締役を害する目的で、いわゆる乱訴のおそれのあると思われるものに対しては担保提供命令を裁判所が申し立てによってするわけですが、そういった例もかなり数があるということ。

 あるいは、そういった訴訟にならないで、裏の経済の中で、株主代表訴訟に訴えるぞというようなことで、訴えられた場合の負担等を考えるとそこで不本意に折り合わなきゃならない状況もあるやにも聞いております。

 加えまして、担保提供命令というものは乱訴を防ぐ機能があると言われますが、それも審理に十七カ月もかかっている現実、こういったものも乱訴による会社や取締役の訴訟コスト、負担を大きくしているということなど、私は、経営者が、いわゆる経営判断というものにおいて、悪意とか犯罪とかいうことでない面において、非常にリスクをとるエネルギーを欠く方向で制度がつくられているように思っております。

    〔奥谷委員長代理退席、委員長着席〕

木島委員 今の答弁をまとめますと、一つは、株主代表訴訟がふえている、そういう中には請求金額も大きくなっているというのが一つありました。もう一つの重大な指摘は、判決で巨額な判決が出てきたということ。主にくくるとその辺になるんじゃないか。

 では聞きますが、巨額な判決が出始めた、どんな事件を想定しているか、事件名を挙げられたら挙げてくれませんか。

谷口議員 巨額な事件ということでございますので二件ばかり御紹介させていただきますが、一件は、先生も当然御存じだと思いますが、大和銀行ニューヨーク支店不正取引事件でございます。賠償額七億七千五百万ドル、日本円で約九百億円、こういう事件がございます。同支店の元嘱託行員が、米国債などの無断売買を繰り返し、十一億ドルの損失を出した事件でございます。現在、これは裁判、係争中でございます。

 もう一件は、住友商事銅不正取引事件でございまして、住友商事の部長が、銅地金の簿外取引で発生した米国銀行への債務を返済するために、一九八五年から無許可で会社名義で不正取引を続け、住友商事に約二千八百五十億円の損害を与えた事件、これは最終的に和解をいたしまして、四億三千万円の和解額、このようになっております。

木島委員 ありがとうございます。

 その問題については後から触れていきたいと思いますが、もう一つのテーマであります株主代表訴訟がふえているという点について、最高裁をお呼びしておりますので、具体的な数字を答弁いただきます。株主代表訴訟の第一審裁判所は地方裁判所でありますから、全国の地方裁判所に提訴された年別新受件数といいますか、これを答弁してください。

千葉最高裁判所長官代理者 最高裁が把握しております株主代表訴訟の地裁の新受件数でございますが、平成八年は六十八件、平成九年は八十八件、平成十年は七十三件、平成十一年は九十三件、平成十二年は八十一件でございます。

木島委員 それ以前の年度の数字はつかんでいますか。

千葉最高裁判所長官代理者 それ以前の数字は把握してございません。

木島委員 昨日法務省は、現在裁判所に係属している事件数を述べました、平成八年、百六十三件、平成九年、百八十七件、平成十年、二百件、平成十一年、二百二十件、平成十二年、二百六件と。今裁判所から答弁されたのは実際に事件が出た数でありまして、約二分の一からそれ以下であります。

 きのうの民事局長の答弁は実際に裁判が係属している数でありますから、たまった事件がみんな加算されているわけですから、まことに水増し答弁だった、そういう性格の答弁だと確認していいですね。新しく事件が起こされた数字をきのう述べたのじゃなくて、現に解決ができなくて二年、三年と事件としてたまっているのは全部加算されている、そういう数字だということで確認していいですね。

山崎政府参考人 御指摘のとおり、係属事件を申し上げたわけでございます。それだけ審理が長くかかっているということを如実にあらわしているということでございます。

木島委員 そんな程度なんですよ。今、百件も出ていないのですよ。

 そこで、次に最高裁に。

 これらの株主代表訴訟事件のうち、被告取締役の賠償責任が認められた事件、一審段階で終結した事件でいいです。控訴されたかどうかは別でいいです。認容された事件。また、和解によって取締役の賠償責任が認められた事件はどんな数字になるのでしょうか。それから、損害賠償責任が認められずに終局を迎えた事件。いろいろあります。請求棄却、取り下げ、訴えの却下、その他あるのでしょう。その数字を答弁いただきたい。

千葉最高裁判所長官代理者 株主代表訴訟の既済事件の結果の内訳の点でございますが、最高裁としましては、各年度ごとの既済の内容に関する統計というのはとっておりませんけれども、取り急ぎ手元の資料を調べてみましたところ、平成十二年の関係でございますが、総既済件数、終わった事件は全部で九十六件でございますが、その内訳につきましては、請求を認容した事件が十五件、和解で終わった事件が十六件、請求を棄却した事件が二十六件、それから取り下げが二十件、訴え却下が十七件、不明なものが二件、以上でございます。

木島委員 お聞きのとおりなんですね。平成十二年、一番最新の数字で、株主代表訴訟が終わった事件が九十六件あるうち、取締役の責任が認められたのが和解、認容合わせて三十一件、三分の一ですよ。請求が認められなかった請求棄却、取り下げ、却下、その他六十五件、三分の二は取締役勝訴で事件は終わっているわけですね。

 では、もうちょっと突っ込んで聞きたいと思うんです。担保提供を命令されたが担保提供できない、却下になります。取り下げということもあり得ます。それはどんな数になっているか、裁判所、答弁願います。

千葉最高裁判所長官代理者 最高裁としましては訴え却下や取り下げの原因につきましての統計というのはとっておりませんが、全国でこの種の事件の最も多い東京地裁の担当の裁判官に取り急ぎ問い合わせをいたしましたところ、平成十二年の数字でございますが、担保提供の申し立てがされた事件は九件ございまして、そのうち、担保提供命令が出されて担保が結局提供されなかったために訴えが却下された事件、これが四件あるということでございます。その余は、命令が出されないまま基本の事件が判決で終了したものが二件、基本事件が取り下げで終わったものが二件、係属中のものが現在一件。以上でございます。

木島委員 いろいろな雑誌で繰ってみましたら、平成十二年は、先ほど最高裁の答弁ですと事件が出た数が八十一件ですが、東京地裁はたしか十三件と承知しております。そのうち、担保提供の申し立てが東京地裁で十三件中九件、担保が提供できずに却下されたのは四件、そんな程度の数字であります。

 では次に、こんな統計はとっていないのかもしれませんが念のため最高裁に答弁を求めますが、請求原因を商法二百六十六条一項五号とする株主代表訴訟について、当該会社が株式公開会社か非公開会社であるか、その件数がもしわかったら答弁願います。

千葉最高裁判所長官代理者 最高裁といたしましては、株式公開会社、非公開会社の区別に関する統計はとっておりませんけれども、全国でこの種の事件の最も多い東京地裁の担当の裁判官に取り急ぎこれも問い合わせをいたしましたところ、これはあくまでも感覚的な意見ということでございます、そういう前提でお聞きいただきたいと思いますが、非公開会社のものが大体八割以上であるということでございます。

木島委員 ありがとうございます。

 分析した物の本などによれば、非公開会社の株主代表訴訟の争いというのは、いわゆる取締役陣の法律、定款違反による会社に対する損害を与えた、それに対する代表訴訟というよりも、いわゆる同族争い、それがこういう形をとってあらわれてきていると言われていると思うんです。

 そうしますと、それが八割ということは、今提案者がこういう法律をわざわざつくらなければならない理由にいろいろ述べましたが、結局大会社だと思うんですが、大会社の企業家マインドを萎縮しちゃいかぬと。しかし現実には、今の答弁にありますように、それは事件数のたかだか二割だ。年間百件も提出されていない事件の二割にすぎないということを示しているんじゃないかと思います。

 これは、答弁ではなくて、私が最高裁からいただいた、認容判決あるいは和解で終局した事件一覧表ですが、全部で地裁段階で百五件ありました、平成四年から平成十二年まで。これは裁判を提起された年限が平成四年から平成十二年でしたが、認容がそのうち三十五件、和解が七十件でした。

 例えば平成九年に提訴された株主代表訴訟で、終結の仕方で、認容が四件、和解が十八件であります。合わせますと二十二件という数字が、取締役が責任をしょわされた終わり方をした事件であります。平成九年に提起された事件でそういう形で二十二件が終わった。先ほど最高裁の答弁で、平成九年に株主代表訴訟を提起されたのは八十八件という答弁がさっきありましたから、ちょっと数字のそごはあるでしょうけれども、大体四分の一ぐらいしか裁判所は取締役の責任を認めていない、四分の一ぐらいが認容、和解で責任が認められて終結している、そんな数字だと思うんですね。一体こんな程度の数字で、日本に何百万とある企業、あるいは大企業だけでたくさんある企業の企業家の企業マインドがなえてしまうような数字なんでしょうか。とてもそんなものじゃない。こんなものでなえるようなものじゃない。

 しかも、私は質問しませんでしたが、この請求をされている取締役の違法行為、不法行為が、故意もあるでしょう、悪意もあるでしょう、重過失もあるでしょう、そうでない普通の一般過失もあるでしょう。そこまで私は分析せずに、追求しないで数字だけ挙げても大した数字じゃない。こんな数字で日本の企業家の企業マインドが萎縮してしまったとすれば、そんな企業家は企業をやめたらいいと私は思うんですが、どうですか。

保岡議員 チャレンジ精神やいろいろなリスクを積極的にとって国家国民のために経済を担っていこう、そういう気持ちのない経営者は退場した方がいい、私もそう思います。

 しかし、今、長い間に我が国は非常に、官僚を中心とするあらゆる分野、金融などがその最たるものでございますが、きちっと管理されて効率よく動かされてきて、それが非常にまた成功システムで戦後の奇跡と言われた経済繁栄を担ったわけですね。ところが、そういうものを解いて規制緩和をしたり地方に分権をしたり、そういうことで現場で知恵と工夫を自由に競い合う、ただルールと自己責任というキーワードはこれからもしっかりして、これからこそしっかりしていかなきゃいけないという世界に突入しようとするときに、いろいろ経済不況、バブルの崩壊に端を発した大変な経済危機に見舞われている。そういう中で、むしろ逆に言うと私は、代表訴訟の数が少しこのところ騰勢から横ばいないし若干減ったというのは、企業家精神が本当に、チャレンジしてリスクをとってどんどんいろいろなことをやっているかどうかということのまた反映という見方もあり得ると思うんですよ。

 それと、やはり大企業と中小企業の数は圧倒的に中小企業が多いんで、同族会社みたいなのもかなり多いでしょうから、日本の経済の企業の実態からすると、代表訴訟がひとり大企業だけが中心になるような訴訟形態をとるとは、これも当然思えないし、何%であれ、それがいわゆる経営判断、いわゆる重過失あるいは故意あるいは犯罪行為というような法令違反の行為、こういった重大な経営のミスあるいは誤り、こういうものでないケースで、先ほど申し上げたように大きな国際的な活動をする、あるいは国内でも広範に活動する会社が何か経営判断を挑戦してよかれと思ってやってミスって、そうして損害を受けるとなると巨額な額になるわけです。それを取締役個人に帰する、そしてそれを全株主が同意しなければできないという制度、こういうものこそ、けさの参考人も言われた報償の原則、そう聞きましたが違うかもしれませんが、会社に何兆円、何千億という巨額な利益をもたらしても給与はそれに見合ったものがない、しかし何百億というような巨額な損害を負わしめたときは軽過失でも責任を事実上免除されない、免除される制度がないということの制度それ自体が問題なんであって、そういう制度を、こういう我が国がこれから向かっていかなきゃならない、企業家のチャレンジ精神を大いに発揮してもらわなきゃならない我が国の制度として温存することは適当でないと思います。

木島委員 まじめに、一生懸命経営に取り組んだ、しかし世界の経済の環境の激変によってついていけなかった、経営の失敗によって損害を与えた、そんな場合は、定款違反とか法律違反で損害賠償責任は認められていないんですよ、現行法だって、基本は。そういう原則がもう日本の裁判所は確立しているんですよ。

 それで、皆さん方が盛んに強調するその例外とおっしゃるんでしょうか、大和銀行事件。しかし、あれも二つの事件で成り立っていますね。もうそこで時間を使いたくありませんが、では、あの二つの事件で成り立っている大和銀行事件の二つの事件は、皆さん方は、重過失か、普通の過失か、軽過失か、あるいは故意に基づくものか、どんなふうにあの事件を見ているんですか。参考までにお聞かせください。

保岡議員 具体的な事件において、それがどういう事実関係でどういう判断をされたかということは記録を見ないと正しいお答えはできないかと思うので、控えたいと思います。

木島委員 本当にそうだと思うんです、非常に難しいです。これが法律的に、軽過失なのか、普通の過失なのか、重過失なのか、物すごく難しいですよ。それから故意なのか。故意であることを立証するためには、大体、取締役みずから自白を得ないといかぬでしょう、刑事事件じゃありませんけれどもね。取締役は、自分の責任を認められちゃたまったものじゃないから、そんなの知らなかったと言うに決まっているでしょう。そんな大きな落ち度はなかったと弁解するに決まっているでしょう。そういう中で発生する取締役の法律違反、定款違反、そして会社に莫大な損害を与えた、取締役がどれだけ責任をしょうか、物すごく難しい事件ですよ。法律家が考えたって難しい。そういうことを考えますと、どういうことになるか。

 では、次の質問に移りましょう。

 今度皆さん方が提案されている仕組みはこうなるんです。取締役の行為、千差万別です。違法性の度合いも千差万別でしょう。責任の度合いも千差万別でしょう。会社の損害も千差万別でしょう、何百億という損害もあれば、数千万の損害もあるでしょう。事件は個別的であります。そういう事件のうち、皆さんの提案が、これが法律になりますと、故意による場合と重過失による場合だけは別格になって、現行法律どおり裁判が起こされ、裁判所が事実認定の上に決定するということになるんですね。故意によるものと重過失によるもの以外の普通の過失、軽過失の事件だけはえり分けられて、これは株主総会特別決議をやって免責決議をやれば、最高六年分、最高四年分で削られる、あるいは取締役会の決議だけでそういう責任限度が抑えられる、そういう仕組みをあなた方はつくろうとしているわけですね。

 そうすると、根本問題として、そういう事件が、損害賠償の株主代表訴訟をやるような事件が、本当に取締役による重過失なのか、故意なのか、普通の過失なのか、軽過失なのか、えり分ける作業、これが前提になっているんですよ、この法律の。そうすると、現行法は全部それらの難しい仕分けは裁判官がやります。徹底した証拠に基づいて、原被告、証拠を積み重ねて裁判官が判断しますから、まあ大体、公正、妥当な判決になるんでしょう。しかし、果たして軽過失か、普通の過失か、重過失か、あるいは故意かどうか、そんなことを裁判じゃなくて取締役会決議にゆだねることが可能なんでしょうか。株主総会決議でそんな微妙な振り分けができるとお考えですか。

保岡議員 先生も御指摘のように事案は千差万別であって、先ほど先生は、裁判上、経営判断の原則というか、軽過失についての判断は……(木島委員「あれは軽過失じゃない」と呼ぶ)軽過失より少し裁量の幅を広めたような判断ですよね。それが確立していると言われましたが、必ずしも私はそうだと思っていません。裁判所においても、そういうふうに、まだいろいろなケースで判例を積み上げていかなければ、基準というものが明確になってきていない段階ですから。

 確かに、先生が言われるように、そういった、軽過失であるか重過失であるかというような境目を、まるで顕微鏡で、何か客観的にそこに線があるようにその線を探すというようなことは、株主総会や取締役会のよくするところではないのは当然であって、また、そういうことをするのがそこの判断責任ではなく、会社に対する取締役の損害責任を軽減すること、あるいは、それを定款によって決めて取締役会で行うことについて、正しいコーポレートガバナンスを行っている会社かどうか、そういったことは公開されて、株主や他の会社関係者に明確になるところですから、会社のすばらしいコーポレートガバナンスの姿勢を示すかどうかも含めて、これからはそういう評価が企業の株価を支えたり、あるいは経営を支えたりする方向になっていく。そういった意味で、むしろ、そういう経営判断も加味した複雑な判断を株主総会や取締役会はするというものだと思いますので、私は、先ほど申し上げたような理由で、株主総会という株主の、最高の所有者の意思を尊重する形で軽減責任を構築したことは間違っていないと思っております。

木島委員 大変な答弁ですよ、今の答弁は。今の答弁が前提になりますと、あなた方の法律の根本が崩れますよ。今の答弁の中心は、重過失か普通の過失かの区分けは株主総会や取締役会ではよくするところではないと言いましたね。そんな微妙な区分けは、顕微鏡のような区分けはできないと言いましたね。そんな答弁だったら、あなた方の法律の根本、崩れますよ。

 あなた方の法律の根本は、そういう区分けが取締役会でできるんだ、株主総会でできるんだということを前提にして組み立てられているんですよ、あなた方の法案は。だからこそ、取締役は株主総会に対して、また取締役会決議で、これ、事前免責というんでしょうか、言葉は悪いけれども、決めてしまって、株主にこれがいいかどうか通知して、百分の三の異議があるかどうか示すときに、資料を渡さなきゃいかぬわけですね。

 だから、あくまでもあなた方の法案は、そういう微妙な区分けが取締役会決議や株主総会でできるんだという大前提にしてつくられているんですよ。だから私は今質問しているんですよ。こんなのだったら、こんな法律、全然間違っていますよ。間違えますよ。

保岡議員 先生に先ほど申し上げたように、裁判所においても経営判断の原則の基準というものが明確にまだ確立されていない。それほど、過失であるかあるいは重過失であるかの境目は、理論的にも基準としても難しい問題があるわけですね。裁判所においてすらそうなんです。したがって、株主総会とか、その授権を受けた取締役会において、そういった、顕微鏡で見るような、裁判所で行われるような重過失と軽過失の判断をする場所ではないということを申し上げたわけです。それは、できるだけはそういう判断もしなければなりませんが、非常に基準それ自体が難しいもので、事案も千差万別であるから、できるだけ努力はするが、それだけじゃない、株主総会や授権された取締役会というのは経営判断というものを加味して責任軽減の判断をしていくんだということを申し上げたわけです。

木島委員 それは全然違いますよ。いいですか、皆さんの法案の二百六十六条第七項、「第一項第五号ノ行為ニ関スル取締役ノ責任ハ其ノ取締役ガ職務ヲ行フニ付善意ニシテ且重大ナル過失ナキトキハ第五項ノ規定ニ拘ラズ賠償ノ責ニ任ズベキ額ヨリ左ノ金額ヲ控除シタル額ヲ限度トシテ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ免除スルコトヲ得」。だから、重大なる過失がないと取締役が判断した、その判断を株主総会にかけるんですよ。そして、三分の二の特別決議で多数を得たときに初めてこの免責というのが動き出すんですよ。だから、今、保岡提出者が、そんな微妙な判断は難しくてできないんだなんということでは、これはもう全然成り立たぬでしょう。

 民主党の提案者、私の理解は間違っていないでしょう。そういう組み立てでしょう。答弁をください、民主党の提案者。私の理解は間違っていないでしょう。答弁してください。答弁してください。いやいや、委員長、これは大事な点ですから、共同提案者ですから……

保利委員長 後からお話しになると思いますが。

木島委員 いやいや、後からじゃない。今のは大事ですから。当たり前の話なんですよ。答弁してくださいよ。

保利委員長 保岡興治君。まず答弁してください。

保岡議員 私たちは、こういう議員提案をするときは、法制局と相談をしたり、法務省と事前によく協議して立案していきます。今法制局に、後ろに聞きましたら、私の答弁は間違っていないということです。

木島委員 だから、さっき私が一体としてこの審議にかけているのかと聞いたのは、そこなんですよ。民主党の提案者、私の理解は間違っていないでしょう。それがこの法律の前提でしょう。

佐々木(秀)委員 それは、決定をする以上は、決定をする機関なり、株主総会なり、取締役会なりが、どういう資料に基づいてということになるか、どういう説明があるかはともかくとして、一定の判断を下さなきゃいかぬでしょうね。その責任の有無ということは、それがなければ決定ができないわけだから。そう思います。

木島委員 佐々木提出者が正解ですよ。この法律を読むときには当たり前ですよ。だから、私は言っているんですよ。こんなベテラン裁判官ですら重過失か普通の過失かの区分けが難しいような事件を、取締役会でできるんですか、株主総会でできるんですか。ましてや、そこに参集する一般株主にそんな区分けを求めることは、どだいナンセンスな法律じゃないか。

保岡議員 アメリカにおいて、かなりの州で定款による責任の軽減を認めているのです。したがって、日本の株主総会や授権された取締役会においてそれができずに外国においてそれができるということはないと私は思います。

木島委員 さっきの答弁を変えてしまったのかどうかわかりませんが、次に具体的な問題に移ります。

 商法学者から一番厳しく指摘されて、これはまずいと言われているのが、いわゆる定款の定めに基づく取締役会決議による取締役の責任の免除であります。講学上、事前免責という言葉がよく使われております。

 そこで、公明党の提出者に聞きます。

 公明党は、ことし三月一日、「企業統治に関する商法等の改正案(中間とりまとめ)」を公表いたしました。そこでは、この定款の定めに基づく取締役会の決議による責任の免除に関しては、五つの具体的な理由をしっかり挙げまして、今回の立法の対象から外すべきであると主張しておりました。そこで指摘した五つの理由というのはどのようなものだったでしょうか、答弁を願います。

保利委員長 どなたに御質問ですか。

木島委員 公明党です。――では、私が示しましょう。

 平成十三年三月一日、ことしの公明党の文書、「企業統治に関する商法等の改正案(中間とりまとめ)」であります。定款の定めに基づく取締役会決議による責任の免除については、これは今回の立法の対象から外すべきであると五つの理由を挙げております。なかなかすばらしい理由ですから、読み上げます。

 「1取締役会の決議によるということは、取締役同士の馴合いの危険性があり、このような制度の法制化は、我が国の法制が不公正であるとの印象を与えかねない」、そのとおりだと思います。

 「2株主総会の決議による免除に加えて、取締役会の決議による免除を認める必要性がない」、これもそのとおりだと思います。

 「3取締役の責任の免除について株主総会と取締役会とに並列的に権限を認めることは、他の主要国においても例がなく、法制度として極めて特異なものになる」、これもそのとおりです。世界の法制にこんなものはありません。

 「4決議を行った取締役会の構成員を対象とした二次的な株主代表訴訟を誘発する」、これもそのおそれがあるでしょう。

 「5株主にとって取締役のいかなる行為が問題となるのか全く予見できないにもかかわらず、定款をもって取締役会に対し、事前的、包括的な責任軽減の授権をするのは、株主代表訴訟制度を骨抜きにするおそれがある」、この点を商法学者が厳しく指摘していたわけであります。

 真っ当な意見だったと私は思うのです。これは今でも維持すべきじゃないんでしょうか。

谷口議員 今、木島委員がおっしゃった我が党の中間とりまとめは、本日、要求がなかったものですから、持ってこないで申しわけありませんでした。おっしゃるとおりでございます。

 党内でもいろいろな議論がございまして、一つは、今回の法制の改正案の中に盛り込まれておりますけれども、一方で、経営者が、現下のような構造改革をやっていかなきゃいかぬ、戦後五十数年過ぎて、特に金融機関を中心にしていろいろな企業内に問題がある。こういう状況の中で大胆に経営の改革をやっていくためには、やはりそういう心理的なプレッシャーと申しますか、経営に対する萎縮ということを避けなければいけないだろう。

 経営者の皆さんにもいろいろヒアリングをさせていただきまして、先ほど木島委員のお話では、現にそのような案件が非常に少ないではないか、こういう御指摘があったわけでございますけれども、一方で、経営をやっていらっしゃる経営陣の皆さん、また経営者の皆さんは大変な精神負担を抱えながらやっていらっしゃる、こういうことも考えなきゃいかぬだろう。

 また、もう一つは、異議申し立て期間を設けた、異議申し立て制度でございますね。定款変更のときに特別決議をやらなきゃいかぬ。また、それによって取締役会決議にゆだねるといった後にそういう責任軽減の決議があった場合に、異議申し立て期間内に異議を申し述べる株主が、原案では五%あればこの決議を無効にできる。

 さきの国会でも成立をいたしましたが、従来の株主総会のやりぶりと、今電磁化で、インターネットを通じて議決権行使ができるといったようなことになったわけでございますので、従来考えておる様子と大きく変わったんじゃないか。仮に三%、今回三%になったわけでございますけれども、そのあたりのことも従来に比べて集まりやすい状況で、そのチェックがかなりきいてくるのではないか、こういうこと等々を勘案いたして、今回、与党協議の中で我々も提案者にさせていただいたわけでございます。

木島委員 確かに、公明党の先ほどの中間とりまとめはことしの三月一日ですから、その後、五月に与党三党で提出された本法案によって初めて異議申し立て制度が出てきたということは事実ですね。

 しかし、この公明党の三月一日の時期というのは、既に御案内のような、大和銀行のあの大阪地裁の判決は当然あったし、先ほど指摘された住友商事の判決もあったし、もう時間がありませんから、本当は触れたかったんですが触れられない、株主代表訴訟に対する補助参加に関する最高裁の判決もあったし、もろもろのことがあった段階で、こういう五項目の今でも通用する理由を挙げて事前免責制度はやめるべきだと主張していたわけでしょう。

 異議申し立て制度があったからこの五つの問題が解決したか、そこが問題ですよ。二十分の一の異議から百分の三の異議になりましたが、百分の三の株主を集めて異議を申し立てするなんというのは、本当に普通の株主にはできるはずがありません。御案内のように、株主持ち合い制度のもとで、その企業を実質上支配しているような大銀行が持っている株が大体百分の三とか百分の五という程度ですから、そんな、事実上支配しているような企業しか異議申し立てできない数字ですよ。そういう企業はもう自分の職員を取締役に送り込んでいますから、そういう程度の異議申し立て権を創設したからといって、この三月一日に公明党が指摘した五項目の問題点がとてもじゃないけれどもクリアできるなんというのは常識的に考えられない。どうでしょう。

谷口議員 先ほど申し上げましたように、議決権行使の方法も幅広に行い得るようになったわけでございますし、今回の修正案でまいりますと百分の三ということになったわけでございますけれども、これは先生よく御存じのとおり、少数株主による株主総会の招集の請求、また会社の業務及び財産状況の調査のための検査役の裁判所による選任の請求等はこの百分の三で行われておるわけでございまして、このあたりの状況を勘案し、了とさせていただいたわけでございます。

木島委員 もう質問等やめますが、本当にこんな要件は重過ぎてとても、今どの株主も株主代表訴訟を起こせるんでしょう、一株でもいいんでしょう、それとの比較でも、やはり問題解決にはなっていないということだけ指摘しておきたいと思います。

 大和銀行の事件の判決や住友商事の事件の判決、一つ一つただしたい問題はあるんですが、もうあと五、六分しかありません。一点だけ、非常に重大な問題が昨日も論議されましたし、きょう午前中の参考人の学者からも指摘されましたので、法務省にこれはお尋ねしておきたいと思います。

 これはこういうことなんです。ある取締役が株主代表訴訟を起こされて係争していた。しかし、当該会社が純粋持ち株会社をつくってしまった。そうしますと、株式交換が行われまして、その当該株主代表訴訟の事実上対象たる会社の株主は、全部が純粋持ち株会社の株主になってしまうんですね。まさに、取締役が違法、不法な行為をしてその会社に損害を与えて株主から代表訴訟を起こされているのに、その株主は株主でなくなってしまうんです。ということで、既に興業銀行がこれをやったがために、東京地裁ですか、原告はあなたはもう株主ではないということで却下された。今その事件は高等裁判所に係属中であるようでありますが、そういう大問題なんです。

 この問題がなぜ大問題かというと、今さっき名前が出てきた大和銀行においてもこれがなされるんじゃないか。あの事件はいろいろとかくの論評ありますよ。それはもう置いて、そんなことが合法的にやられたら、大変な潜脱になる。株主代表訴訟制度の潜脱になると思うんです。純粋持ち株会社にして株式移転をするには、恐らく特別決議だったでしょう、三分の二の多数の要件でやれてしまう。そんなことで株主でなくなってしまって、せっかく追い詰めて勝訴判決とっても、こんな法の仕組みによって抹殺されたんじゃたまらない。

 そこで法務省、こういう純粋持ち株会社をつくったり株式交換の制度をつくったのは法務省でしょう。法の欠陥だったんじゃないでしょうか。是正すべきじゃないでしょうか。株主代表訴訟制度は充実すべきだというのがきょうの午前中の参考人の意見でもありました。どうでしょうか。明確な答弁を求めます。

山崎政府参考人 昨日も御答弁申し上げましたけれども、この問題につきましては明文の規定はございません。解釈にゆだねられているということでございます。

 先ほど御指摘のとおり、裁判でございます。現在係属中で、高等裁判所で審理中でございます。もう一方、この点につきましては、その当該株主は原告適格を失わないという有力な見解もあるところでございまして、見解が対立しております。

 私どもといたしまして、係属中の事件に影響を与えるということで、私どもがどちらかということを現在申し上げるのは控えたいというふうに思っておりますが、この点で、いずれ判決はどちらかに確定いたします。それで、可能だということならばそれでいいわけでございますし、もしそれではできないということで、これがいろいろ不都合を生ずるということであれば、我々も検討せざるを得ないというふうに思っております。

木島委員 それはもう判決待ちじゃなくて、既に出された判決は、そういう純粋持ち株会社が設立をされ株式交換が行われたときには、現に株主代表訴訟をやっている原告株主が、あなたは株主でないというんで却下、この判決がもう現に出ているんですよ。上でひっくり返るかどうかわかりませんね。だけれども、現にそんな判決が一つでも出たということは、純粋持ち株会社設立と株式交換の法制度がやはり間違っていた、あるいは立法の不備があったということをいさぎよく認めて、これはどんな判決が出ようとも、争いが残ってはいけませんから、直ちに速やかに、それこそ速やかにこの立法の不備を補うような、そういう場合には原告適格は残るんだ、株主は純粋持ち株会社の株主になろうとも現に行っている株主代表訴訟の原告適格は残るんだという、もうあしたにでもできる法律ですから、すぐ出すべきじゃないでしょうか。

 これは法務大臣、その決断を求めます。

森山国務大臣 ただいま民事局長から御説明申し上げましたようなことで、具体的なケースについては何か申し上げるという立場ではございませんけれども、万一、今後の株主代表訴訟の実情などから株主の利益が不当に害されるような事態が生じるようなことになりましたら、所要の立法措置を講じなければならないかと、検討したいと思っております。

木島委員 もう時間がありませんので質問を終わりますが、わずかな時間で、たくさんの論点があるのをほとんど質問できませんでした。拙速な審議終結は私はいかがかと思います。

 しかし、わずかな審議の期間でも、私は今、バブル時代あるいはバブル崩壊後のこの十年間の日本の企業社会、特に取締役の企業統治のあり方を見ますと、株主代表訴訟の果たしている役割はまことに大きなものがある、さらにこれを充実させて、緊張感を持った取締役の会社経営が必要だ。その緊張感がなければ、私は日本経済の先行きが大変心配だ。

 本法案は残念ながら逆方向を向いておりまして、取締役の緊張感を完全に失わせる。四年、六年分の報酬が限界だなんということになれば、そんなものは、任意保険に入れば取締役の腹は全く痛まずにどんな経営でもやれるということを合法化する法律ですから、取締役の責任をこんな形で免罪していったら、それでなくても日本の企業社会はルールなき経営をしているということを言われているわけですから、こんなことでは日本経済の先行きがまことに私は心配だ。

 日本共産党は、こういう全く理屈もなしに取締役の責任を軽減し免除するような法案は、断固として反対をするということを申し上げまして、質問を終わります。

保利委員長 これにて両案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

保利委員長 この際、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案に対し、長勢甚遠君外三名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を求めます。長勢甚遠君。

    ―――――――――――――

 商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

長勢委員 ただいま議題となりました修正案について、提出者を代表して、その趣旨及び概要を御説明いたします。

 本修正案は、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する修正に伴い、関係法律の規定を整備するものであります。

 委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

保利委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

保利委員長 これより両案及び両修正案を一括して討論に入ります。

 討論の申し出がありますので、順次これを許します。瀬古由起子君。

瀬古委員 私は、日本共産党を代表して、商法等改正法案外一案及びこれに対する修正案について反対の討論を行います。

 反対の第一の理由は、本法案が、株式会社取締役等の法律、定款違反による会社に対する損害賠償責任額について、実際に発生した会社の損害額の大きさに関係なく一律に、代表取締役についてはその報酬の六年分、取締役については四年分、社外取締役については二年分を限度として、それ以下に抑えてしまうことです。

 我が国の企業社会においては、バブル期以後、会社経営陣による乱脈・違法行為が相次ぎ、それが会社に莫大な損害を発生させ、会社経営を危機に陥れ、株主、従業員、会社債権者を初め関係者に大きな被害をもたらしてきました。ところが、我が国では、会社がこうした取締役の違法行為責任を追及することが極めて不十分でありました。ようやく九〇年代後半以降に、株主代表訴訟が取締役に対するチェック機能を果たすようになり始めたのです。

 経済界の、株主代表訴訟の乱訴の弊害や、また高額の賠償責任で経営が萎縮するなどという言い分は、みずからの不始末を棚に上げた居直りにほかなりません。法案は、株主保護という商法の原則に反するだけでなく、我が国をモラルなき企業社会へと逆戻りさせるものであります。

 反対の第二の理由は、現在法務省が取締役に対するチェック機能を強める方向で商法の見直しを進めようとしていますが、本法案は、それとの整合性も全くなしに、ただ経済界の無責任な要求に押されて、取締役の責任軽減の立法化を急ごうとしていることです。

 反対の第三の理由は、本法案が、取締役の違法行為に対するチェック機能を発揮し始めた株主代表訴訟について、会社が被告取締役側に立って補助参加することを一般的に認め、株主の取締役に対する責任追及をますます困難にしていることであります。

 本来、違法行為をした取締役とそれによって損害をこうむった会社とは利益相反関係に立つのであって、会社が取締役側に立って訴訟行為をすることなど許されないはずのものであります。

 以上三点を申し上げ、反対の討論といたします。

保利委員長 次に、植田至紀君。

植田委員 私は、社会民主党・市民連合を代表して、本委員会に付託された商法及び株式会社の監査等に関する特例に関する法律の一部を改正する法律案及び同法律案に対する修正案に反対する立場から討論を行います。

 コーポレートガバナンスのあり方、株主重視の姿勢を鮮明にすることなどについては、その内容について検討すべき時期に来ていることは確かであり、監査役の独立性の確保と権限の強化は重要な課題と認識しております。

 しかし、現在法務省においては、商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案の法制化作業が進んでおり、それと基本的方向において異なり、場合によっては再改正を求められる蓋然性の高い監査役制度や株主代表訴訟に関する法改正、さらには慎重な検討を要する取締役等の責任軽減を拙速に行うことには、根本的な疑問があります。

 これが問題の第一であります。

 第二には、取締役等の会社に対する責任の軽減の問題についてであります。

 責任制限の必要性については、重過失、軽過失の区別について取締役会が判別することは困難であり、現行のように裁判所の判断にゆだねるという手法に何ら問題もなく、責任制限を法に盛り込むことに特別の意義を見出すことはできません。

 また、法案のように、株主総会の普通決議により定足数の要件もなしに単純多数決で免責できるというのは、余りにも決議要件が軽過ぎます。この点については、修正案のように特別決議としたところで基本的には問題を解決したことにはなりません。

 さらに、定款の規定に基づく取締役会決議による免除も、株主の予想を超えて免責がなされることが想定され、将来の株主をも拘束することになり、問題であります。

 第三に、株主代表訴訟制度の合理化です。

 提案理由で乱訴防止策を挙げておりますが、既に担保提供命令制度があり、制度の存在が不当に企業経営を困難にしたという事例は見られません。

 また、株主代表訴訟は、経営のチェック体制強化の最も有効な手段であり、同制度が経営者の緊張感を増したことは多くが認めるところであります。にもかかわらず、正常に機能し、社会的役割を担っている制度を段階的に骨抜きにするような改正は断じて認められません。

 本法案及び改正案は、全体を通して、株主重視に名をかりた企業の恣意的な運営を保証するものであり、株主利益の確立にはほとんど資するところがないどころか、むしろ株主利益を不当に狭めるものであります。

 以上の理由により、法案には反対するものであります。

保利委員長 これにて討論は終局いたしました。

    ―――――――――――――

保利委員長 これより採決に入ります。

 まず、第百五十一回国会、太田誠一君外四名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。

 まず、長勢甚遠君外三名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

保利委員長 起立多数。よって、本修正案は可決されました。

 次に、ただいま可決されました修正部分を除いて原案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

保利委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。

 次に、第百五十一回国会、太田誠一君外四名提出、商法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。

 まず、長勢甚遠君外三名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

保利委員長 起立多数。よって、本修正案は可決されました。

 次に、ただいま可決されました修正部分を除いて原案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

保利委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました両法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

保利委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

保利委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時二十九分散会




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