衆議院

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第2号 平成14年10月30日(水曜日)

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平成十四年十月三十日(水曜日)
    午前九時四十五分開議
 出席委員
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 棚橋 泰文君
   理事 加藤 公一君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      伊藤 公介君    太田 誠一君
      左藤  章君    笹川  堯君
      下村 博文君    中野  清君
      林 省之介君    平沢 勝栄君
      保利 耕輔君    松島みどり君
      保岡 興治君    柳本 卓治君
      吉川 貴盛君    吉野 正芳君
      鎌田さゆり君    仙谷 由人君
      手塚 仁雄君    日野 市朗君
      平岡 秀夫君    水島 広子君
      山内  功君    石井 啓一君
      藤井 裕久君    木島日出夫君
      瀬古由起子君    植田 至紀君
      徳田 虎雄君
    …………………………………
   法務大臣         森山 眞弓君
   法務副大臣        増田 敏男君
   法務大臣政務官      中野  清君
   最高裁判所事務総局総務局
   長            中山 隆夫君
   最高裁判所事務総局経理局
   長            大谷 剛彦君
   政府参考人
   (警察庁長官官房審議官) 芦刈 勝治君
   政府参考人
   (警察庁生活安全局長)  瀬川 勝久君
   政府参考人
   (警察庁刑事局長)    栗本 英雄君
   政府参考人
   (警察庁交通局長)    属  憲夫君
   政府参考人
   (金融庁監督局長)    五味 廣文君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    中井 憲治君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君
   政府参考人
   (法務省入国管理局長)  増田 暢也君
   政府参考人
   (外務省アジア大洋州局長
   )            田中  均君
   政府参考人
   (財務省主計局次長)   勝 栄二郎君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    上田  茂君
   政府参考人
   (資源エネルギー庁原子力
   安全・保安院長)     佐々木宜彦君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
十月三十日
 辞任         補欠選任
  中川 昭一君     林 省之介君
  松島みどり君     伊藤 公介君
  鎌田さゆり君     手塚 仁雄君
  不破 哲三君     瀬古由起子君
同日
 辞任         補欠選任
  伊藤 公介君     松島みどり君
  林 省之介君     中川 昭一君
  手塚 仁雄君     鎌田さゆり君
  瀬古由起子君     不破 哲三君
    ―――――――――――――
十月三十日
 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第八号)
 検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第九号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案(内閣提出第二号)
 司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案(内閣提出第三号)
 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより会議を開きます。
 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。
 この際、お諮りいたします。
 各件調査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官芦刈勝治君、生活安全局長瀬川勝久君、刑事局長栗本英雄君、交通局長属憲夫君、金融庁監督局長五味廣文君、法務省刑事局長樋渡利秋君、矯正局長中井憲治君、保護局長横田尤孝君、人権擁護局長吉戒修一君、入国管理局長増田暢也君、外務省アジア大洋州局長田中均君、財務省主計局次長勝栄二郎君、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長上田茂君及び資源エネルギー庁原子力安全・保安院長佐々木宜彦君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 次に、お諮りいたします。
 本日、最高裁判所事務総局中山総務局長及び大谷経理局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。伊藤公介君。
伊藤(公)委員 おはようございます。若干の時間をいただいて、極めて身近な問題について御質問をさせていただきたいと思います。
 私も実は今でも車を運転するものでありますし、もう女房も運転しますし、子供三人もみんな運転をするという家族でありますが、ハンドルを握るたびに身内の中でも、気をつけろ、こう言って毎日過ごしているわけでありますが、そういいながらも、日々私ども東京に暮らしておりますと身近にさまざまな交通事故が起きる。私たちの地域は今何か東京で一番交通事故の多い町だということで、警察署長自身も、これはどういう形で対応するかなどということをいろいろ協議していただいているようでありますが、まず最近の交通事故の状況、特に、飲酒運転とかスピードというのは本人の意思でやっていることでありますから、もう万やむを得ない故意ではない事故というものもあることは私承知しているわけですけれども、現状についてまずお伺いをさせていただきます。
属政府参考人 平成十三年中の交通事故の発生件数について申し上げますと、九十四万七千百六十九件で、前年比一・六%の増になっております。また、平成十四年上半期につきましては、四十四万六千九百三十七件、前年比では〇・九%増になっております。
 このうち、交通事故の死者数については、平成十三年中は八千七百四十七人、前年比では三百十九人の減少、本年上半期は三千九百三十九人で、前年同期に比べまして六十六人の減少になっております。
 また、飲酒運転による交通死亡事故件数については、平成十三年中が千百九十一件、平成十四年上半期が五百三十五件となっております。特に飲酒運転等に対する厳罰化を内容とする改正道路交通法が施行されました本年六月以降では、昨年同期に比べまして飲酒運転による死亡事故件数が約二〇%減少しておりまして、法律改正の効果があらわれているというふうに感じております。
伊藤(公)委員 実は、非常に悪質な酒気帯び運転による交通事故に対する罰則を私どもは強化いたしました。危険運転致死傷罪が昨年に創設をされたわけでありますが、この危険運転致死傷罪が適用されるようになってから、この法律はどのように運用されているのか、今日まで何件適用されているのか。そして、余り細かくの報告でなくていいんですけれども、既に判決が出ているものはその中で何件あるのか。もし今数字がなければ結構ですけれども、かつて東名で井上さんの御家族が大変な事故に遭われて、これは多くのテレビや新聞で報じられて、多くの皆さんから何とかならないかということでこの法律が、国会でも皆さんの御協力でできたわけでありますが、その運用について御報告をいただきたいと思います。
樋渡政府参考人 お尋ねにつきましての件数でございますが、昨年十二月二十五日に施行されて以来、ことし、平成十四年九月末時点におきまして、危険運転致死傷罪で公判請求されました被告人は百九十四名であると承知しております。
 今、手元に判決が何件あったかの資料はございませんので、また後刻でもお伝え申し上げます。
伊藤(公)委員 その判決の状況については後刻御報告いただければよろしいと思いますが、実は非常に具体的な例がございまして、ことしの一月の二十三日に東京の多摩市で、専門学校に通われていた岩崎元紀君という、名前も元紀君というわけですけれども、当時十九歳の学生が名古屋市に住む会社員の三十六歳のワゴン車にひき逃げをされて、脳挫傷などで死亡した。その後被告人になったわけですが、久野という被告は、もう一人にけがをさせて、その分も含めて、業務上過失致死傷と道交法違反、ひき逃げの罪で起訴されたわけであります。実は、この起訴されたことに両親はおかしいという疑問を持たれたわけであります。
 この三十六歳の被告は、当日、午後六時から十一時ごろまではしご酒をして、路上でふらついたり転んだりして車のキーを車に入れられないというような状況であった。運転をやめた方がいいよと仲間にも言われたんですけれども、それを無視して車に乗り込んで、駐車場を出たところで、停止中の男性のオートバイに追突をしました。首にけがをさせて、これは大変なことになったと思ったんでしょう、今度は時速八十キロで赤信号を無視して暴走して、間もなく実はこの岩崎元紀君のバイクに追突をしたわけであります。九十メートル引きずった上に、ガードレールにぶつけて、そして元紀君を振り切って走り去った。その後、彼は飲酒運転の発覚を防ぐために近くのコンビニで日本酒を買って飲んだ。
 これは非常に悪質な交通事故に遭ったわけでありますけれども、この悪質な事故が危険運転致死傷罪でなぜ起訴されなかったのかとこの元紀君の両親は地元の八王子の地検の担当検事に疑問をぶつけられた。しかし、検事からは、こちらも大変悔しいけれども、事故の直接原因は前方不注意、危険運転致死傷罪で起訴したら無罪になる可能性があるという答えが返ってきた。これは不起訴でもないので、検察審査会に不服申し立てができない。事故後、全国交通事故遺族の会に入会をされて、この岩崎御夫妻は、元紀の死をむだにできないということで、実情を訴えるという活動を始めました。
 実はこのことの一連の記事が新聞に載ったんです。私は、その日はちょうど夜十一時半ごろうちに帰りまして、女房と遅い夕食をしておりまして、女房がたまたま、こんなことがあったのよと言う新聞を見まして、これはおかしい、せっかく国会で新しい法律をつくったのに、この内容を見ると新しい法律が適用されないというのはおかしいじゃないかと私もすかさず思いました。
 議員会館に朝来ましてから新聞社に電話をいたしまして、この御両親の話が聞きたいと言いましたら、新聞社は、では御両親の了解をとりますと言って、御両親の電話を了解のもとで私に教えてくれました。私はその両親にお電話をしましたら、ぜひ実情を聞いてもらいたいと言って、両親は私の議員会館に来られました。私は、やはり我々がつくった法律が適用されるべき内容ではないのかなというふうに思いました。そうこうしている間に、もう裁判で事がどんどん進んでいく、私たちはこの最高責任者は大臣なので森山大臣にも直訴したいと御本人、御両親は言われました。そして、森山大臣はお会いをいただいたと思います。
 その後実は、検察の方もいろいろ検討していただいたんだろうと私は思いますけれども、そのことについていろいろ私はとやかく申し上げようと思いませんが、最終的には、九月の六日、八王子の地裁は、飲酒の影響による単なる事故では済まされない、悪質で殺人罪にも匹敵するということで新しい法律を適用するということになりました。その間に実は、この御両親を初め、この元紀君というのは非常に友達の多い方でして、仲間たちが署名活動もしまして、七万六千人を超える人たちの署名も集まりました。そういういろいろな報道や皆さんの声が新しい法律を適用するということになったのではないかというふうに私は思いますが、ちょうどきのう八王子地裁でその判決がおりました。実刑八年です。その裁判の現場に私も傍聴に参りました。
 亡くなった元紀君も、そして八年の実刑を受けた人も、どちらにしても大変不幸なことでありますが、交通事故というものは、今冒頭に御報告いただきましたが、現実には減っていない、むしろふえている部分があります。数字をきのう私は見せていただきました。我々は、国会に身を置く者として、この車社会に交通事故はもう仕方ないということで見過ごしていいのか。我々は大胆にこの問題についてしっかり取り組まなければいけない。もちろん法律を厳しくするということは一つの方法だと思います。
 私は、こういう一連の具体的な例でありますけれども、まず森山担当大臣から、法務大臣から御感想を伺っておきたいと思います。
森山国務大臣 伊藤先生からそのようなお話があったことは今思い出しておりますが、昨年末にできました新しい危険運転致死傷罪というものが既に施行されているにもかかわらず、非常に危険な運転と思われるものがそれに該当しない、別の罪名で起訴されているというのはおかしいではないかというようなお話であったと思います。
 御遺族の方にもお目にかかりましたが、その実際の状況を承って、大変お気の毒なことだ、何とかならないものかなとは思ったのでございますが、この法律改正をいたしますにつきましても、たくさんの今まで既に被害を受けられた方々がその実情を話しに来られまして、二、三度、私もお目にかかって、その実際を伺ったところでございます。
 幸い、検察の方でもさらに調査をしてくれまして、伊藤先生御指摘の問題点も最終的には解決されまして、危険運転致死傷罪を適用して起訴しようということになりましたことはせめてものことであったというふうに思いますが、車がどうしても必需品と言われる今の世の中でございますので、十分注意して運転することは当然でありますし、また、故意で、あるいは故意と同様の状態でひどい交通事故を起こした人に対しては厳正な処分ということが必要であるということを改めて感じております。
伊藤(公)委員 大臣はいろいろ御配慮いただいているのだろうと思いますが、国では、さまざまな状況が起きて、我々はそういうことを背景にして国会で新しい法律をつくるわけであります。そういう法律が実際に現場であるいは最前線でやはり適切に運用されていくということが私は大変大事だというふうに思います。
 また、時間が来ましたので質問は終わりますけれども、我々は、私自身も含めまして、車社会、特に日本は車の多い国でありますし、そういう社会の中で、交通事故はもう必要悪だということではなくて毎年減少していく、世界の人々に、日本は車社会だけれども最も車の安全に対して配慮している国だということに我々はこれから取り組んでいかなければならないということを、私はこの事件といいますか事故を見聞きして痛切に感じている者でございまして、それぞれの関係の皆さんにも一層の御努力をお願いして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
山本委員長 次に、漆原良夫君。
漆原委員 おはようございます。公明党の漆原でございます。
 十月二十五日、民主党の石井紘基衆議院議員が暴漢に刺殺されるというまことに残忍な事件が発生したわけでございますが、心より哀悼の意を表するものでございます。政治家の言論を暴力でもって封殺するということは、この民主主義社会において絶対に許されるものではないと思います。
 法務大臣は、この事件についてどのような御感想をお持ちなのか、また、再発防止のためにどのような措置を講ずるべきとお考えなのか、御所見をお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 石井紘基議員が被害に遭われたことにつきましては、その第一報を聞きまして、私も大変大きなショックを受けまして、とんでもないことだというふうにまず思ったわけでございますが、心から議員の御冥福をお祈りしたいというふうに思います。
 昨日もちょっと申し上げましたように、この議員を刺殺した犯人は既に逮捕されまして、東京地方検察庁におきまして身柄送致を受けて、現在捜査中であるというふうに承知しております。
 事案の全容の解明は今後の捜査を待たなければならないと思いますけれども、志半ばで凶刃に倒れられた無念さを思いますと、本当に、同じ議員という立場の者といたしまして、まことに忍びがたく、許しがたい犯行であるというふうに感じております。
 全容の解明は、今申し上げましたとおり、今後の捜査を待つべきものだと思っておりますが、検察当局におきましては、所要の捜査をいたしました上で、厳正かつ適切な処分を行うものと考えております。
漆原委員 警察庁にお尋ねしますが、再発防止のためには、徹底した動機の解明、政治的背景の有無の確認等がなされなければならない、こういうふうに思っております。現在捜査中の事件でございますけれども、事件の概要、動機、政治的な意図の有無、この辺の事実関係について、わかる範囲でお答えいただきたい。よろしくお願いします。
栗本政府参考人 お尋ねの件につきましては、十月二十五日の午前十時三十五分ころに議員が世田谷区の自宅玄関から出てきたところを待ち伏せしていた被疑者に包丁で胸を刺されるという、極めて重大かつ凶悪な事件が発生いたしました。
 警視庁におきましては、即日、特別捜査本部を設置して捜査中のところ、十月二十六日に出頭いたしました被疑者を殺人罪で通常逮捕しているところでございます。
 警視庁のこれまでの捜査では、先ほどの動機等に関してでございますが、個人的な問題に起因する恨みによる犯行の情状がうかがわれるとの報告を受けておりますけれども、いずれにいたしましても、現在、警視庁におきまして、被疑者の取り調べ、関係者からの事情聴取等を行い、事件の動機、背景等を含めまして、事件の全容の解明に向けまして徹底した捜査を行っていく所存でございます。
漆原委員 次に、北朝鮮による拉致事件についてお尋ねしたいと思うのですが、法務大臣はあいさつの中で、「北朝鮮による拉致事件は、我が国の国民の生命と安全にかかわる重大な問題であり、真相の解明に努めた上で、厳正に対処する」、こう述べられております。
 そこで、増田副大臣にお伺いしたいと思うのですが、まず、国交のない国における事件でございます。事件の捜査、犯人の引き渡しなど大変な難しい問題がたくさんあろうかと思いますが、今後どのような手順でこの捜査あるいは犯人の引き渡しをしていくのか、お考えをお尋ねしたいと思います。
増田副大臣 漆原先生のお尋ねにお答えを申し上げていきます。
 お尋ねの北朝鮮による拉致事件は、我が国の国民の生命や安全にかかわる重大な問題であります。国交のない国にかかわる事件ですので種々の問題もあろうかと思いますが、検察においても、警察等の関係機関と密接に連携し、刑事事件にかかわるものについては法と証拠に基づき適切に対処するものと考えております。
漆原委員 それは当たり前のことですね。法と証拠に基づいて厳正にする、当たり前のことなんですが、私が聞きたいのは、日本国内の犯罪であれば、それは日本国内で自由に捜査できますが、相手が外国なわけですから、なかなか捜査は難しいだろうな。そういう国交のない国における犯人の捜査あるいは犯人の引き渡しというのはどういうふうにやるのかな、こういうことを中心にお伺いしているのですが、いかがでございましょうか。
増田副大臣 国交がありませんので、原則を先ほど申し上げたとおりであります。
 そこで、重ねてのお答えに入りますが、我が国に管轄権がある刑事事件に関し犯罪人引き渡し請求や捜査共助要請を行うか否かは我が国において決定すべきものであり、北朝鮮に対しても、我が国において適当と判断する場合には、適当なルートを通じて引き渡し請求や捜査共助要請を行うことは可能であります。
漆原委員 難しいことだと思いますが、ぜひとも強力にお願いしたいと思います。
 それでは、今回の拉致事件は、日本の刑法では一体どんな罪に当たるのか、何条にどんな刑罰があって、どんな態様がこれに当たるか。いろいろな、未成年者の場合もあるし、また日本国内から拉致されたという事件もありますし、そういう態様に応じて今回の拉致事件は日本の刑法でいうとどんな罪に当たるのか、それを教えていただきたいと思います。
増田副大臣 お答えを申し上げます。
 いわゆる拉致事件についてどのような罪に該当するのかは、具体的な事実関係に即して判断すべき事柄でありますけれども、あくまでも一般論として申し上げますれば、未成年者を略取し、または誘拐した場合には、未成年者略取及び誘拐の罪の成立が考えられます。また、一定の目的で人を略取誘拐した場合には、その目的に応じて、営利目的等略取及び誘拐の罪、国外移送目的略取等の罪などの成立が考えられます。行動の自由を奪った場合には逮捕監禁の罪の成立が考えられるところであります。
漆原委員 今回の、これは通告外なんですが、刑事局長にお尋ねしたいと思うんですが、特にヨーロッパからだまされて連れていかれて、返してもらえないというケースがありますね。この場合はどうなのかな、拉致になるのかな、あるいはどの段階でどんな犯罪になるのかなというのがちょっと悩んでおるんですが、刑事局長、法律の観点からいかがでございましょうか。
樋渡政府参考人 国外における犯罪でございますので、国民の国外犯の処罰にかかわるものであろうかと思います。したがいまして、国外におきまして国民がそういう拉致をする、例えば身の代金目的等の略取等を行えば、その時点で犯罪が成立するものと思います。
漆原委員 警察庁にお尋ねしたいんですが、金総書記は、この拉致事件について、七〇年代から八〇年代の初めまで特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走ってこうなったというふうに拉致の事実を認めた上で、責任ある人は処罰されたと説明しておりますが、責任ある人とはだれなのか、どのように処罰をされたのか、これは北朝鮮の方に確認されているのかどうか、まず聞きたいと思います。
芦刈政府参考人 お答え申し上げます。
 ただいま議員御指摘のとおりのような説明が北朝鮮からあったということは私ども承知をいたしております。
 ただ、その説明の中で、先般の拉致問題に関する事実調査チームに対する北朝鮮側の説明も含めまして、北朝鮮により提示された事実には、不十分な点でありますとか、あるいは疑わしい点がございまして、今後、個々具体的な事実関係を慎重に見きわめていく必要があるというふうに考えております。
 私どもといたしましては、今後とも、内閣官房や外務省などと十分に連携いたしまして、北朝鮮に対しまして、ただいま議員御指摘の拉致の責任者、実行犯、実行行為の内容、処罰の内容等の点も含めまして、さらに詳細な説明を求めるなど、事案の全容解明のため最大限努力をしてまいる所存でございます。
漆原委員 まだ全容が解明されていない事件がいっぱいあるんですが、この事件を今後どんなふうに捜査をしていくのか、その手順をお尋ねしたいと思います。
芦刈政府参考人 警察といたしましては、北朝鮮による日本人拉致容疑事案の重大性にかんがみまして、今後とも、その全容解明のため必要な捜査を最大限の努力をもって進めてまいりたいと考えております。
 具体的に申し上げますれば、ただいま申し上げましたとおり、まず関係の部署と十分に連携いたしまして、北朝鮮に対しさらに詳細な説明を求めることといたしております。また、これまで警察におきましては、御家族その他の関係者からの事情の聴取、また、付近の聞き込み等の裏づけ捜査、さらには、国内外の関係各機関との情報交換などをやってまいりまして、鋭意関連情報の収集と証拠の積み上げに努めてまいりました。今後ともこのような捜査を進めてまいりたいというふうに考えております。
 特に、原敕晁さん拉致の実行犯であります辛光洙、また、有本恵子さん拉致の実行犯でありますよど号の犯人の魚本公博、旧姓安部でありますけれども、これにつきましては、既に逮捕状の発付を得て国際手配の手続を行っておりますし、その他のよど号犯人とともに外務省を通じて北朝鮮に対し身柄の引き渡しを要求しているところであります。
 私どもとしては、今後とも、その他の拉致の実行犯の特定に努めますとともに、外務省等関係機関と十分に連携しながら、北朝鮮に対して犯人の身柄の引き渡し要求を行うなど、事案の全容解明のため最大限努力をしてまいる所存でございます。
漆原委員 最後に、法務大臣の所見として、在日朝鮮人の帰還事業についてお尋ねしたいと思います。
 昭和三十四年十二月から在日朝鮮人等の帰還事業が開始されまして、帰還した在日朝鮮人等は九万三千三百四十名、朝鮮半島出身者である夫や父等に随伴して渡航した妻や子供らは六千人、うち日本人妻と推定される者は千八百名とされております。
 総理は、今回の代表質問でこう答弁されております。これらの方々の消息調査については、日朝赤十字間での取り組みとして行われるところですが、再開される国交正常化交渉においても、このような赤十字等の取り組みの促進を図っていきたい、こう答弁されておりますが、この帰還事業は、北朝鮮が地上の楽園だというふうに喧伝された事業でありますが、現代コリア研究所所長である佐藤勝巳さんはこう言っておられます。徐々にわかってきたことは、楽園とは逆な地獄があったということである、その結果、地獄を天国と他人にまで説明し、他人の人生をめちゃくちゃにした、自分にとっての北朝鮮帰還運動はそういうものであったというふうに総括せざるを得なかったというふうに述べておられます。
 法務大臣にお聞きしたいんですが、法務大臣は、この日本人妻等が北朝鮮で受けている人権侵害、たくさんの報道がなされておりますが、それはどのような認識を持っておられるのか、また、法務省としてはこの問題についてどういうふうに今後取り組んでいかれようとしているのか、御所見をお伺いしたいと思います。
森山国務大臣 日本人妻などが受けているとされる人権侵害につきましては、いろいろ報道されているところでございますが、いかなる場所にありましても人権が十分に尊重されなければいけないということは当然でございまして、このような問題について、特に国民の人権保障について責任を負う法務省といたしましては、対応すべき状況があればその責務を果たしてまいりたいというふうに考えております。
漆原委員 以上で終わります。ありがとうございました。
山本委員長 次に、平岡秀夫君。
平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。
 先ほど漆原委員の方からもお話ありましたけれども、十月二十五日に我が民主党の同僚議員であります石井紘基議員が暴漢に襲われて亡くなるという悲劇がございました。改めて質問することはいたしませんけれども、こうした事件の発生というのは、我々にとってみれば本当に許しがたいことであるというふうに思っております。法務省はこうした問題についても責任の一端を担っている省庁だと思いますので、しっかりとその職責を果たしていただくようにお願いを申し上げたいと思います。
 石井紘基議員に対しまして、心から哀悼の意をささげたいというふうに思っております。
 それでは、早速質問に入りたいと思いますけれども、先ほど、漆原議員の方から北朝鮮の拉致問題に関しての質問がございました。私もちょっと用意しておったのですけれども、質問が重なる部分は省略いたしまして、私が追加的にちょっと質問してみたい部分がございますので、お答えいただければというふうに思います。
 大臣も、昨日のあいさつの中で、北朝鮮の拉致問題に関して言えば、「検察においては、刑事事件として取り上げるべきものについては、警察等の関係諸機関と緊密に連携し、適切に対処するものと考えております。」というようなことを述べておられます。
 この問題について言うと、我が国としては二つの側面があるのかもしれないなというふうにも思っているのですけれども、一つは、この前の小泉首相と金正日総書記との間で首脳会談があった際に金総書記の方から、拉致事件の責任者については処罰をしたという話がありました。
 それから、先ほどちょっと警察庁の方が答えられたときには具体的には言われませんでしたけれども、先日、日本からの調査団が行った際には、北朝鮮からの説明として、チャン・ボンリムとキム・ソンチョルというのがこの事件の責任者として裁判にかけられ、チャンは死刑、キムは十五年の長期教化刑に処せられたというような説明があったというふうに私としては承知しております。
 ただ、この北朝鮮の中における責任者の処罰の問題について言うと、これだけで終わりなのかどうかということは、我々としてもはっきりとしないといいますか、よくわからないという状況だと思うんですけれども、これは外務省に聞かなければいけないのかもしれません。この二人以外にもいるかもしれない拉致事件の責任者の処罰については、国交正常化交渉の中でどのように求めていくつもりなのか、どのような主張をしていくつもりなのかをまずお聞きいたしたいというふうに思います。
田中政府参考人 お答えを申し上げます。
 今、委員が御指摘になりましたように、先般調査団が参りました際に、チャン・ボンリムという人とキム・ソンチョル、この二人について九八年に職権乱用を含む六件の罪ということで裁判にかけられて、一人は死刑、一人は十五年の長期教化刑、こういうことでございます。
 ただ、委員が御指摘になりましたように、私どもといたしましても、事実関係はまだ解明を十分されていないということでございます。いろいろな疑問点、一体実行犯はだれなのかということも含めて事実関係というのが解明されていない、この処刑がされたあるいは教化刑にされた人々の身分関係等も含めて十分解明されていない。
 こういう認識に基づきまして、現在行われている国交正常化交渉で、私たちの具体的な疑問点も含めて質問を先方にぶつけている。さらに、事実関係の徹底的な解明ということをまず進めさせていただきたい。かように考えているわけでございます。
平岡委員 今のお答えでいきますと、とにかく事実関係の解明が先である、それに応じてそれからの主張を考えたいということなんでしょうけれども、そうだとすると、国交正常化交渉の中では一体どこまでのことを北朝鮮との間で約束できるのかという点について非常に疑問があるんですね。
 事実解明をやりましょう、ああ、それはいいですね、こうなった。その後、事実解明した結果として、じゃ、どうするのかというところについて、日本側は何か主張ができるのか。国交正常化交渉が終わってしまった後に問題になってしまう可能性があるわけですね。
 その点は、ここは法務委員会ですから余り詰めて考えるつもりはないのですけれども、そういう問題点があることをまず指摘しておきたいと思います。
 それから、二つの側面があると先ほど申し上げましたけれども、もう一つの側面は、先ほど漆原議員の方からもたくさん質問があったと思います。この拉致事件は我が国の刑法に照らしてみても我が国の刑法における犯罪を構成するものであるということで、我々として、日本国政府として、北朝鮮に対して、犯人と目される人に対してはそれなりの対応をしていかなければいけないということだろうと思います。
 先ほどの警察庁さんの答弁の中でも、辛光洙容疑者に対しては犯人引き渡し要求を外務省を通じて行っているというお話がありました。昨日の国交正常化交渉の中でも、日本側代表が、その引き渡しを求めるということの発言をしておったようであります。
 ということは、これは、国交正常化されたら身柄引き渡しをしてくださいというのじゃなくて、まだ正常化していなくても身柄の引き渡しをしてくださいという理解でいいのでしょうか。ちょっとそれは確認だけなんですけれども。
田中政府参考人 北朝鮮との間では国交がございません。正常化されていないということでございますけれども、私どもの要求としてしかるべき要求、すなわち辛光洙の引き渡しということは当然できるものだと思っておりますし、それを粘り強く求めていくということだと思います。
平岡委員 今のは、国交正常化できていなくても要求はできるという理解でいいわけですね。
 ということでありましたけれども、それでは、これに応じるかどうかという問題があろうと思うのです。国交正常化交渉の中で我が国が犯人の引き渡しを求めた場合にはそれに応じるという北朝鮮側の対応というものを確保する必要があると思うのですけれども、大臣はその点についてどのようにお考えになっておりますか。
森山国務大臣 あくまでも今交渉している最中でございますので、いろいろの仮定の問題を置いた上でどうなるかという御質問にはなかなかお答えしにくいのでございますけれども、話し合いの上で、犯罪事実が非常に濃厚に疑われるというような場合には、日本の国民の安全、生命の問題でもあり、ぜひ強く要請しまして、日本の法律あるいは証拠等に基づいてきちんと対応していかなければいけないというふうに思います。
平岡委員 質問の趣旨がわかりにくかったのかもしれませんので、もう一度ちょっと視点を変えて。
 今、日本国政府は辛光洙容疑者の引き渡し要求を北朝鮮に対してしている、これはある意味では国交正常化がされていなくても要求できる話である、そういう位置づけでしたね。そうだとすると、今回この辛光洙容疑者の引き渡しに応じない限りは国交正常化は日本としては受け入れられないというだけの主張を法務大臣としてされますかどうですかという質問として、お答えいただきたいと思います。
森山国務大臣 この外交交渉には随分いろいろな内容が含まれておりますし、その重要な一つであることは確かだと思いますが、そのほかのさまざまな難しい問題をも含めて全体として考えていくべきことではないかというふうに思います。
平岡委員 そういう答弁をされると、逆に言うと、我が国政府からの引き渡し要求に応じなくても大所高所によって国交正常化を実現するんだ、そんな話に聞こえてしまって、今政府が国交正常化交渉を始めたけれども、始める前提としての拉致事件の問題、それから、国交正常化交渉の中で拉致問題について我が国政府としてはどれだけの優先度を持っているのかというその位置づけを大変に失わせてしまうような今の御答弁だと私は思うのですね。
 やはりきっぱりとした法務大臣としての姿勢をここで示しておかなければ、それはとにかくほかのことでうまくやればいいのだなと相手に思われるような気がしてしようがないので、ちょっとそこは私も納得をしているわけではないということであります。
 それで、この辛光洙についてはとりあえず今やっているという問題としていいんですけれども、これからこの拉致事件の問題については、他の実行犯の問題とかいろいろな関係で、これは容疑者として日本側に身柄を引き渡してもらわなきゃいけないというような人が出てくる可能性も大いにあると思うんですね。そのときに、日本側から身柄の引き渡しの要求をしたときにはそれに応じるという、北朝鮮側の確認といいますか確約というものがこの日朝国交正常化交渉の中で必要だと私は思うんですけれども、大臣は、この点についてどう思われますか。
森山国務大臣 特にこの日本人の拉致事件というのが一番大きな課題でございますし、この交渉の中でも最重要テーマの一つでありますので、おっしゃるように、できるだけ力を入れて、これについては強く要請をしていかなければいけないというふうに思います。
平岡委員 答弁がそこまでにとどまっているので次の質問に移るのに非常に気が引けるんですけれども、一応通告しておりますので、鋭意質問をしたいと思います。
 金正日総書記というのは北朝鮮の中においてはどういう立場の人なんでしょうか。元首に当たるんでしょうか、どうでしょうか。
田中政府参考人 北朝鮮のいわゆる憲法でございますが、九八年の九月に改正がされているというふうに承知しております。
 改正以前の憲法では、いわゆる国家主席というのが、国家の首班であり、朝鮮民主主義人民共和国を代表するということで国家元首の役割を担っていたということでございますが、金日成氏が生きている間は、国家首班、国家主席であったということでございます。改正憲法において国家主席が廃止されたということで、現行憲法では、国家元首の役割の一部を最高人民会議常任委員会の委員長が、金永南という人ですけれども、担っている。したがって、例えば平壌に駐在している各国の大使は金永南最高人民会議常任委員会委員長に信任状を奉呈しているということのようでございます。
 金正日労働党総書記については、国防委員会の委員長ということで、北朝鮮の実質的な最高指導者というふうに見られているのは、諸外国の一致するところでございます。
平岡委員 それで、この拉致問題についていうと、金正日総書記の説明では、北朝鮮の特殊機関が勝手にやったという話で、自分は一切知らなかったという話ですけれども、他の元工作員の人たちの話なんかによれば、それは金正日総書記の、当時は総書記じゃなかったかもしれませんけれども、指示によってやったことだ、こういうような証言もあるわけですね。
 これから辛光洙容疑者がこっち側に身柄引き渡しをされて捜査をしていくとかいろいろな過程の中で、これはどうも金正日総書記の、当時は違ったとしても、金正日氏の指示によって拉致事件が起こされていたという事実がほぼ確実だというような状態になったときには、これは金正日さんの刑事責任を問える可能性というのはあるんでしょうか。刑事局長。
樋渡政府参考人 お答えいたします。
 お尋ねのことに関しましては、一定の状況を想定して刑事責任の有無を問われるものでありますが、犯罪の成否は捜査機関におきまして収集した具体的な証拠によって認定された事実関係に基づいて判断されるべきものでございまして、法務当局としては答弁を差し控えさせていただきたいと思います。
平岡委員 私は仮定の話を言っているので、一般論として答えていただいて結構なんです。先ほど言ったようなケースの場合に刑事責任を問い得る可能性はあるんですかという問いです。よろしくお願いします。
樋渡政府参考人 一般論といたしましても、要は、犯罪を問えるかどうかは、その前に事実関係を認定する必要がありまして、それに基づいて可能性云々を考えるべきものでありますから、やはり答弁は差し控えさせていただきたいと思います。
平岡委員 では、今の答弁は、事実関係がわかれば刑事責任を問う可能性もあるというふうな答弁だというふうに私としては受けとめさせていただきたい。可能性がないと言われるなら、私はそれで質問は終わろうと思いますけれども、今のだと、事実関係によってはあるということであったので、さらに大臣に問いたいと思います。
 そういう場合、法務大臣としては、やはり刑事責任を問うていくべきであるという立場に立って主張をされていかれますでしょうか。どうでしょうか。
森山国務大臣 今、刑事局長からお答え申し上げましたとおりでございまして、今の段階でそのようなことについて法務当局が発言することは差し控えるべきだと思います。
平岡委員 この議論をしても、今のような状況下の中で、こうしますああしますということは確かに言えないんだろうと思いますけれども、問題の所在としては、こういう問題が理屈の上ではというか制度の上では存在をしているということを私としては申し上げたかった。
 こういう問題が存在している中での国交正常化交渉ということなので、これは、私、非常に厳しい最終的な政治的判断なり高度な判断なりが必要になってくるのかなということを指摘しておきたいというふうに思っています。場合によっては、政府の交渉の進め方について、また改めて進展の度合いに応じていろいろと注文しなければいけないかもしれない、こういうふうに思っています。
 それで、もう一つ国交正常化交渉の関係で確認したいことがあるのでありますけれども、実は、昨年の五月に、金正日の息子さんだと言われる金正男氏が不法入国事件を起こしたというようなことがございました。これが金正男であったかどうかということは当時定かにされないまま、この委員会でも私は森山大臣と相当長い間、そんな知らない状態で帰してしまうのはおかしいじゃないのという議論をさせていただきましたけれども、その後、あのときのあの人物が金正男であったかどうかということについての確認は行われているんでしょうか。
増田政府参考人 昨年五月一日にドミニカ共和国名義の偽造旅券を使って成田空港で拘束され、退去強制手続により中国へ送還された者のことについてお尋ねがございました。
 入管法上の退去強制は、当該不法入国した外国人を速やかに国外に退去させるという行政目的の範囲内で行われるものでございまして、本件につきましては、既に送還先に送還して違反事件としては終了しておりますので、当時行われました調査以外には改まった調査は行っておりません。
平岡委員 そういう答弁だろうとは思いましたけれども、ちょっと外務省に聞きますから、聞いておいてください。
 今回の日朝平壌宣言の中にこういうくだりがありますね。「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。」この中にある「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」、具体的にはどんな問題を頭に置いてこの表現がとられているんでしょうか。
 我々としては、対日工作員問題、不審船の問題、あるいは覚せい剤不法取引問題、こんな問題も含まれているとともに、金正男に代表された不法入国問題というものもこの中に入っているという理解に立つべきだというふうに思っているんですけれども、そういう理解でよろしいでしょうか。
田中政府参考人 日本国民の生命と安全の問題、これは私どもの念頭にありましたし、先方とも確認をしているのは拉致の問題と工作船の問題であるということでございますが、同時に、私どもとしては、国交正常化交渉の中で、国交正常化という結果をつくるためには、この平壌宣言に盛られた、いろいろなことが盛られていますけれども、そういう形、この平壌宣言の基本的な原則と精神に従った正常化ということでございますから、当然のことながら、日本国民の生命とか安全に脅威を与えるようなことというのは当然取り上げていくべきことだというふうに考えておりますし、御指摘がありました、例えば覚せい剤の問題もそうでしょうし、それから不法入国といったような形の問題というのも、場としては多分安全保障協議というものが立ち上げられればその中で子細に協議をしていくことになると思いますけれども、まさに正常化というのはお互いが安心をして生活できる環境をつくるということでございますから、当然、その諸懸案について具体的な協議がされていかなければいけない、かように考えています。
平岡委員 今の御答弁は、まさに私もそのとおりだと思うんですけれども、そういう問題に取り組むに当たっては、過去の事実関係というのをやはり解明をしていく、はっきりさせていくということが必要である。これは拉致事件についても同じことが言われているわけですね。
 そうであるとするならば、あれほどまでに、この法務委員会でも、国会の他の委員会でも、金正男の不法入国問題について、これはどういう事実関係なのかということを問いただしたにもかかわらず、十分な答弁がしてもらえなかったというか、されなかった。我々としては、日朝国交正常化交渉の中で、過去の不法入国問題について、特にあれだけ世間を騒がせた金正男の不法入国問題についてちゃんと事実を明らかにさせるということを日本当局としてもすべきだというふうに思っていますけれども、大臣の所感はいかがでしょう。
森山国務大臣 おっしゃいましたような事件がございまして、それについては、先ほど局長から申し上げましたように、あの件としては終了したものでございます。
 しかし、これから日朝の間で正常化のための交渉がいろいろ行われます。その中でさまざまな懸案事項が話し合われると思いますが、そういうときにその話にも触れられることはあるかもしれないというふうに考えております。
平岡委員 大臣、人ごとみたいに言わないでくださいよ。これはあなたの所管事項なんですよ。あなたが、ちゃんと解明しなさいと言わない限りは日本政府側は交渉なんかしませんよ。だれかがやってくれるでしょうというような答弁は、ちょっと私は、大臣、私も民主党のネクストキャビネット法務大臣になっていますけれども、そんな対応はやはり政府の法務大臣にしてほしくないですね。もう一遍答弁をお願いします。
森山国務大臣 大変難しい御質問で非常にお答えがしにくいんでございますが、再度問うとおっしゃいますのであれば、先ほどと同じことを申し上げなくてはならないということでございまして、先生のお気持ちには沿わないかもしれませんが、現在の法務省あるいは法務大臣としては、お答えできることは限られておりますので、お許しいただきたいと思います。
平岡委員 要するに、過去の問題をきちっと処理するためには今の政権ではだめだということですかね。大臣である立場にある人がそういう主張もできないという、そんな政権じゃやはりだめなんですね。政権交代が必要でしょう。
 まあ、それ以上お答えにならないということであるならば、あえてこれ以上言いませんけれども、大臣がそういう姿勢であったら、交渉の最前線に立っているあの鈴木さんは、かつて私の上司であった人でありますけれども、非常に苦しい立場に立たされる。後ろは、もうええかげんでいいですよと。前線に立っている人は、一生懸命、明らかにしなさい、明らかにしなさい、これをちゃんとやれと言っても、後ろがそういう姿を見せていたんじゃ、ちゃんとした交渉はできないじゃないですか。そういうことを指摘させていただいて、時間がありませんから、次の質問にとりあえず移ります。
 北朝鮮との国交正常化関連でもあるんですけれども、北朝鮮から、一説によると、事によっては数百万人オーダーの難民、これはある意味では経済難民と言うべきなのかもしれませんけれども、それが日本の方に来てしまうかもしれないというような話もあるわけですけれども、入国管理を担当している法務省として、大量難民が生じた場合の準備態勢というのはどのように考えておられるのでしょうか。大丈夫なんでしょうか。
森山国務大臣 北朝鮮から大量の難民が我が国に流入してくるかもしれないという話があることは私も聞き及んでおりますが、そのような場合には、関係省庁が連携をとりまして、政府全体としてこれに適切に対処する必要があると思います。法務省だけではなくて、政府全体として取り組まなければならない重大な問題ではないかと思います。
 出入国管理行政を所掌しております法務省といたしましては、例えばインドシナ難民の場合も似たような状況があったわけでございますが、その先例を参考にしながら、大量難民対策が円滑に行われますように、的確かつ迅速に対応していきたいと考えております。
平岡委員 どういう準備態勢をとるかということについていえば、確かに、昭和五十年代の半ばからつい最近まで行われてきたインドシナ難民の受け入れというのも一つの参考になると思うのですけれども、インドシナ難民の場合は、やはりちょっと距離がありますから一どきにどどっというイメージじゃない形で、ある程度じっくりとした準備期間というのがあっても対応できたのかもしれませんけれども、このケースの場合は必ずしもそうとは限らない。
 準備をしようとしているその間に何か事実が発生してしまうということもあるんだろうと思うので、今、今度大量難民が発生することを前提として何かこういうことをしていますとかというようなことを言うとまた日朝国交正常化交渉にいろいろ差しさわりが出てくるのかもしれませんから、そういう答弁はできないのかもしれませんけれども、常にそういう事態を念頭に置いた円滑な対応ができるような準備はしておく必要があるんじゃないかということを指摘させていただきたいというふうに思っております。
 それで、難民の関係でございますので、続けて、個別の事例を一つの参考にしてちょっと議論をしてみたいというふうに思うのです。
 アフガニスタン難民のアブドゥル・アジスさんという方がおられまして、ことしの九月二十日に広島高等裁判所で、このアジス氏を難民と認める内容を含んだ、刑事事件でありますけれども、判決が出ておりまして、これが確定しております。このアジス氏については、現在、退去強制命令も出されておりますし、それから、難民認定については不認定ということになっておりまして、これについても行政事件訴訟の方が起こされているという状況にあります。
 先ほど言いました九月二十日の広島高裁の判決を踏まえて、あるいはこの判決に関して、どのように今法務当局として考えておられるかということをお尋ねしたいと思います。
増田政府参考人 個別の刑事裁判の判決に対しましてはコメントすることは差し控えさせていただきますが、一般論として申し上げますと、刑事判決において難民の該当性があると判断されましても、その効果は当該刑事事件における刑の免除の関係に限定され、その判決が、出入国管理及び難民認定法第六十一条の二に定める法務大臣の認定にかわるものではございませんし、また、行政庁等他の国の機関を拘束するものではないと理解しております。
平岡委員 まさにこれは刑事事件の判決ですから、おっしゃるとおりだと私も思います。
 ただ、この判決の中身を見てみますと、裁判所ではかなり積極的に難民に該当するというような結論をいろいろな理由を挙げて判決の中で述べているわけでありますけれども、そういう状況があるということを踏まえて、それに拘束されるということではないけれども、法務当局として、彼に対するこれまでの難民不認定あるいは退去強制命令について見直すというようなおつもりはないんでしょうか。その方向性、方針について法務大臣にお伺いいたしたいと思います。
森山国務大臣 御指摘の件につきましては、現在、難民不認定処分の取り消しを求める行政訴訟等が提起されておりますので、その推移を見守りたいというふうに思っております。
平岡委員 推移を見守るというのも一つの方針だと思いますけれども、別に推移を見守らなくても、法務当局として、刑事訴訟でありましたけれども、裁判の中で認定された事実関係というものを自分たちももう一度よく見てみて、やはりこれは間違ったなということがあれば積極的に動くということもあるんじゃないかと思いますけれども、そういうふうなお考えはありませんでしょうか。
増田政府参考人 この件につきましては、法務省といたしましても、証拠に基づいて適正に難民不認定処分を下したという判断をしておりますので、その是非については、現在、行政処分で当否が判断される段階にあるわけでございますから、その推移を見守りたいということでございます。
平岡委員 この質疑応答で方針を変えていただけないということで、大変残念でありますけれども、時間がありませんので次の質問に移ります。
 難民認定についての当局の対応というのは、それはそれとして、もう一つこのアジス氏に関して問題提起がされたのが、彼は非常に長い間収容をされて、投薬治療の欠かせない不安定な精神状態に置かれてしまったというようなこともいろいろな方々から聞いているんですね。そうなると、最終的には退去強制をしなければいけない人なのかもしれませんけれども、それまでの間の手続において、あるいは退去強制手続において、やはり人権に配慮した処遇ということを考えていかなきゃいけないんじゃないかというふうに思うんですね。
 これは、法務大臣の私的諮問機関でありますところの、大臣のあいさつの中にもありましたけれども、出入国管理政策懇談会の中に難民問題に関する専門部会というのがつくられて、この前新聞で、これがこんなことを出しますよというようなことを言っていました。どういう中身ですかと聞いたら、いや、まだ内部の話だから言えませんというふうに言われちゃったので私は詳しいことは知りませんけれども、こういう問題について、先ほど言いました人権に配慮した処遇という問題について、大臣としてどのようにお考えになっておられますでしょうか。
森山国務大臣 個別の案件につきましてはお答えできないのでございますが、一般論として申し上げますと、被収容者につきましては、保安上支障がない範囲でできる限りの自由を与えることとしておりますほか、精神状態が不安定な者に対しましては、必要な医療措置を講ずるとともに、適宜、臨床心理士によるカウンセリングを実施するなど適正に対処しておりまして、今後とも、被収容者の人権に配慮した処遇を行ってまいりたいというふうに考えております。
平岡委員 ぜひ、いろいろ配慮した処遇を考えていただきたいというふうに思います。
 もう一つは、この際、この事件に関連して指摘されたのが、仮放免をしてほしいという要請がいろいろあって、理由が述べられないままに不許可とされてきたことが続いてきたという事実関係がありまして、不許可になる場合でも、どういう理由で不許可なのかということをぜひ教えてほしい、その理由を開示してほしいという要請がたくさんありました。その理由がちゃんとわかれば、ではその部分を改善すれば今度は仮放免してもらえるな、そういうような話にもつながっていくんじゃないかというふうにも思いますし、刑事訴訟法の中における保釈も、どういう場合に認めるかということについても、保釈が認められない理由というのがあって、どれに該当するかというようなことは言っているわけですね。そういうものを考えると、このケースの場合も、仮放免が認められないのはなぜなのかというようなことについてもやはり当事者にははっきりと示してあげるべきじゃないかと思うんですけれども、その点については、大臣、どのようにお考えでしょうか。
森山国務大臣 収容されている者などから仮放免の請求があった場合には、入国者収容所長または主任審査官が、被収容者の情状とか請求の理由となる証拠並びにその者の性格とか資産などの個別的な事情を総合的に判断いたしましてその許否を決定することになるわけでございます。
 このように、仮放免はさまざまな要因をもとに決定されるものでございますので、個別具体的に不許可理由を通知いたしますと、かえって当該被収容者の今後の処遇面で支障を生ずるおそれもあるということから、不許可の理由の開示は必ずしも適当ではないと考えております。
平岡委員 そういう答弁をされて、さまざまな要因と言われるともう本当にどうしていいか全くわからない、そんな状態になってしまうわけですね。さまざまな要因があるのなら、そのさまざまな要因を全部述べてもらっても結構だと思うんですね。ですから、今後の世の中の動き方というのは、やはり一人一人がその人権を守られて、そして主張すべきことは主張する、そういうような世の中になっていくんだろうと思いますから、今のようなあり方ではやはり国際的にも理解が求められなくなるし、時代的にもそぐわなくなってしまうのじゃないかと私は思っていますものですから、ぜひそういう視点ででも、大臣、これから見ていっていただきたいとお願いをしておきたいと思います。
 時間がないので、次の質問に移らせていただきます。
 これは法務省と金融庁の共管となっている法律でございますけれども、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律、これが平成十二年に改正をされまして、違法な金利というものの上限が引き下げられたということがございました。ただ、そのときに見直し規定というのがついておりまして、その改正法の「施行後三年を経過した場合において、資金需給の状況その他の経済・金融情勢、貸金業者の業務の実態等を勘案して検討を加え、必要な見直しを行うものとする。」というような見直し規定がついているわけであります。
 最近、私もいろいろなところを回ってみますと、携帯電話だけを出した貸金業、業者というべきなのかちょっとわかりませんけれども、どんな人にも応じますよというのがぺたぺた張ってあったりする。それから、ある貸金業関係の団体が、神田駅周辺の電話ボックスの中に張ってあるチラシ、大体これは違法な、悪質な業者ということなんですけれども、それがどのような状況になっているかというのを見ると、今から三年前は百六十五件であったのが、昨年には三百九十四件にもなっていたというようなことで、違法な業者というのが非常にたくさん今世の中にはびこってきている、そういう状況にあるんだろうと思うのですけれども、その実態についてどのように把握しているかというのを、金融庁と警察庁それぞれに、順番に答えていただきたいと思います。
五味政府参考人 お答えいたします。
 私どもで、無登録でございますと管轄の外に行ってしまうのでございまして、登録の有無によるその状況というのを正確に把握しておりませんが、財務局それから都道府県が監督をしておりますような、こういった監督部局に対しまして、出資法違反の高金利貸し出しに関する苦情等の件数が非常に増加を最近しておるという実態を把握しております。ちょっと数字で申し上げますと、金利に関する苦情について申し上げますと、平成十一年度が九百四十二件、十二年度が二千八百六十九件、十三年度は六千六百件ということで急増をしております。
 財務局の登録業者につきましては私どもの責任でございますので、出資法等の違反の疑いがありますれば、苦情も一つの情報源といたしまして、説明、報告などを求め、必要と判定いたしますと行政処分を行うということで対応しております。
瀬川政府参考人 御質問にありました携帯電話を連絡手段とする、これは〇九〇金融と言われておりますけれども、こういったものを含め、いわゆるやみ金融と呼ばれる違法な高金利あるいは無登録の貸し付け、こういったものにつきましては、最近の社会経済情勢を反映していると思いますが、事業者の方のみならず、一般の市民の方にも被害が拡大をしているという状況だと認識をしております。
 また、御質問にありましたように、こうしたやみ金融は、立て看板ですとかビラですとかあるいはスポーツ新聞等への広告、またダイレクトメールなどさまざまな広告手段を用いて借り手を勧誘しているという状況にあります。
 その貸し付けの実態を見てみますと、一般市民の方に例えば三万円から五万円という少額の貸し付けを反復して、繰り返して行うものが多いという一方で、事業者相手に一千万以上貸し付けるというような例も見られます。その金利は数百%から数千%と出資法の法定上限金利を大きく超えているという状況にあります。
 取り締まりの状況でありますけれども、警察では、こういったやみ金融につきまして、平成十三年中は二百十事件、五百十七人を検挙しております。この検挙事件数、人員は過去十年間で最多となっております。
 また、その被害の状況でありますが、こういった警察で検挙した事件に係るものだけを見ましても、貸付人員が約八万人、それから貸付総額等が約百八十七億円に上っているという状況でありまして、警察といたしましては、今後とも引き続き強力な取り締まり、それから関係機関と連携した被害防止のための活動を推進してまいりたい、このように考えております。
平岡委員 今、相当状況がおかしくなっている、そういうような実態報告があったと思いますけれども、こういう実態がなぜ生じているかという点について言うと、一つは、違法金利、出資法の制限金利のところが下げられたことによって、例えば、今まである程度高金利でやっていた中小業者が経営が成り立たなくなってしまってやめてしまったとか、あるいはある程度の人でないと貸せないからということで、ちょっと審査を厳しくしなければ収支が合わないというようなことで厳しくなってしまったために、やみの方に回ってしまうというようなケースもあるというようにも聞いているんですね。
 そうしますと、来年の六月になればその見直し規定が働いてくるわけですけれども、その見直しに当たってどのような検討を今行っていかれようとしているのかというところについて、これは法務大臣と金融庁にお聞きしたいと思います。
森山国務大臣 おっしゃいますとおり、平成十五年六月一日を経過した場合におきまして、資金需給の状況その他の経済金融情勢、貸金業者の業務の実態等を勘案して検討を加えて必要な見直しを行うということになっておりますが、法務省は資金需給の状況その他の経済金融情勢や貸金業者の業務の実態等を直接に把握する立場にはございません。が、今後とも、国会等における種々の御議論を含めてこれらの点に関する状況の推移を見守るとともに、この法律第五条の罰則の適用状況に関する調査を継続してまいりたいというふうに思います。また、同法を共管しております金融庁等の関係省庁とも必要に応じて情報の交換等を行ってまいりたいというふうに考えているところでございます。
五味政府参考人 金融庁といたしましては、平成十五年六月以降の上限金利の見直しの議論に向けまして、この議論の前提となります経済金融情勢あるいは貸金業者の業務の実態、こういったような実情の把握に努めまして、関係当局と連携をしていきたいと考えております。
平岡委員 このような社会状況にあるということは、法務省も、何か自分の法律じゃないようなことを言わないで、やはり社会的問題になっているというその事実関係もよく踏まえていただいて、そして、今両者の御答弁ありましたけれども、貸金業者の実態とか社会の状況というものを踏まえた適切な対応ができるように、見直し規定に基づいた対応をしていただきたいということを最後にお願いいたしまして、私の質問を終わらせてもらいます。ありがとうございました。
山本委員長 次に、山花郁夫君。
山花委員 山花郁夫でございます。
 法務大臣は、今回内閣改造がございましたけれども、また御留任ということで、引き続きよろしくお願いを申し上げたいと思います。
 きょうは、昨日ございましたごあいさつに関連をいたしまして、法務行政であるとか国内治安の問題を中心に質疑をさせていただきたいと思いますが、それとは別に、冒頭お話を聞きたいことがございます。
 今回の内閣改造で一部大変、森山大臣が留任されるのかどうか心配をされていた方たちがいらっしゃいます。と申しますのも、これまで法務大臣は、選択的夫婦別姓を内容とする民法改正についてはぜひ頑張りたいという旨、意見の表明を今まで何度かされてまいりました。官房長官も、この問題については内閣委員会などでそういう方向でという賛意を示されております。今回の内閣改造でもお二方とも留任ということでございますので、私個人といたしましても大変期待しているんですけれども、改めて、その実現に向けて決意のにじみ出るような形で所見をいただければと思います。
森山国務大臣 この問題は、平成八年の法制審議会の答申が出まして以来、非常に多くの方が御関心を持っていただいて、積極的な活動もしていただいているところでございます。私自身も、少しでも多くの方の御理解を得られますようにということで努力をしてまいったわけでございますが、残念ながら、なお政府として法案を提案するということで御理解をいただくという状況ではないというのはまことに申しわけないと思っております。
 しかし、要望される方が非常にたくさんいらっしゃって、具体的にもいろいろな御要請があるということは私自身もよく見聞きしております。ぜひ、女性の多様な生活様式あるいは国民のさまざまな価値観というものがなお一層際立ってまいった今日でございますので、できるだけ従来の考え方に従いまして、そのラインで結論が得られるようにと願ってはおりますが、一方、この問題は結婚生活あるいは家族生活等に深くかかわっております重要な問題でもございますので、各党各会派において議論を進めていただいて、なるべく早く結論を得ていただきたいということを願っているところでございます。
山花委員 従前の方針どおりということでございますので、法務大臣、かつてはこの場で、できるだけ早い時期にとおっしゃっていましたので、そこは改めてお願いを申し上げたいと思います。
 ところで、昨日のごあいさつの中でこういったくだりがございます。「犯罪情勢の悪化を背景として、刑事司法の最後のとりでとも言える矯正施設においても、収容人員が急激に増加し、特に、刑務所、拘置所等においては、昨年来、過剰収容の状態が続き、施設運営に多大な影響を及ぼすなど極めて厳しい状況にあります。法務省といたしましては、関係各方面の御理解と御支援をいただきながら、既存施設の増築や刑務所の新設に必要な経費、収容増に伴い必要となる各種経費及び要員の確保に最大限努力してまいります。」というくだりがございます。
 さきの通常国会の折にも私は、警察の所管かと思いますが、渋谷区の留置場の問題を取り上げさせていただきまして、その中で、留置場だけではなくて、ここのところ犯罪も大変ふえてまいりまして、留置場なりあるいは拘置所、さらには行き着くところは刑務所ということになるわけでありますけれども、そういったところが非常に過剰収容の状態となっているのではないかということで議論させていただきました。
 当時、まだ予算の概算要求等の前でしたので、いろいろ、まあ道路の話をすると御議論はあるのかもしれませんけれども、公共投資でも、どうもちょっとむだではないかと思われるところがありますけれども、こういうところはぜひやっていただきたいということを申し上げたところ、法務大臣もそれは頑張りたいという旨の御答弁がございました。報道によりますと、新たに刑務所をつくる方向で進んでいるやに伺っているのでありますが、この点について御説明をいただきたいと思います。
森山国務大臣 たびたび申し上げておりますように、刑務所等の行刑施設は、昨年来、過剰収容の状況が続いておりまして、緊急かつ大幅に収容能力を増強する必要があるわけでございます。
 そこで、来年度予算の概算要求におきましては、現福島刑務所の敷地内、この敷地にかなりゆとりがございますので、そこに新たに収容人員五百人規模の女子刑務所の支所及び一千人規模の男子収容施設を建設する経費を計上しておりまして、さらに、民間資金等を活用しました刑務所新設のための調査費もあわせて計上しているところでございます。
 しかしながら、昨今の被収容者の増加傾向から見まして、引き続き収容能力の増強がさらに必要であるというふうに思われますので、今後とも、関係各方面の御理解を得ながら、刑務所の新設を含めた過剰収容対策を早急に講じてまいりたいというふうに思っております。
山花委員 こちらからもそういう方針でやっていただきたい旨申し上げましたので、その点については率直に評価をさせていただきたいと思います。
 その際にも少々議論させていただきましたけれども、余りにも収容がいっぱいいっぱいになって、挙げてもどうせ入らないとかそういうことで、結局現場の士気が低下してしまうようなことがあると余計治安の観点からも好ましくないという問題意識を持っておりますし、また、大変凶悪な犯罪が起こることは好ましいことではありませんけれども、一方では、罰則を少し重くするという重罰化の傾向というのも理解できないではないんですけれども、より根本的には、やはりそういう何か犯罪をやったら必ず捕まって、そして入るんだというようなことになっているということが重要なんだと思います。
 いろいろな実証的な研究によりますと、犯罪を犯す人たちというのは、罪が重いか軽いかということよりも、捕まるか捕まらないか、恐らく捕まらないという認識でやるケースが非常に多いというようなことも言われておりますので、その点については今後とも御尽力をいただきたいと思います。
 ところで、そういった新たにつくるという方針のようでありますけれども、少しそのバックグラウンドについて確認をしておきたいと思います。これは矯正局になるんでしょうか。
 現在五十九カ所、刑務所があるようであります。今度もし新設されると実に五十年ぶりのようでありますけれども、過剰収容、過剰収容と言われておりますが、刑務所、この五十九カ所の定員に対する収容率は今現在どうなっているでしょうか。
中井政府参考人 お答えいたします。
 先ほど大臣からもお話がありましたように、行刑施設の収容人員というのは急激な増加がこの数年続いております。
 収容人員が収容定員を超過する、これはいわゆる過剰収容と申しておりますけれども、本年九月末の行刑施設全体の収容人員は六万八千人で、収容率は一〇五%となっております。
 特に、受刑者等の既決の被収容者だけで見ますと、人数は五万六千人でございますけれども、その収容率は一一四%に達しております。
 行刑施設のいわゆる本所、本庁施設でございますけれども、本所は全体で七十四庁ございますけれども、この七十四庁中、収容率が一〇〇%を超える庁は六十二庁ございます。このうちの十四庁では収容率が一二〇%を超えているというのが現状でございます。
山花委員 大変なことだと思いますよね。
 それで、一二〇とか一一四とか申しましても、実感としては恐らくもっと多いんじゃないかと思います。つまりは、例えば、二人部屋なんだけれども女子しか入れられないので女子が一名いるというケースだとすると、それでいっぱいいっぱいになってしまいますから。六人部屋で三人女子でというようなケースだとか、あるいは個々のケース、ありますね。粗暴な態度をとるのでどうしてもやはり個室にしなきゃいけないんだけれども、それも足りないというようなケースも伺っておりますから、一〇〇を超えているというのは相当なことではないかと思います。
 私は、そうしたことが背景にあるのかなと思うのですけれども、ここのところ、刑務所を初めとして、行刑施設内での暴行とか傷害事件が大変ふえているというような話を伺っております。私も以前、府中の刑務所を視察をさせていただきましたが、そのときにも、もともとは六人部屋なんですけれども、何とか間に二人入ってもらって八人にしたりとか、お茶の教室をやっていたところをつぶして入ってもらったりとか、そういうような形になっています。
 犯罪者だからひどい目に遭ってもしようがない、これは言い切れないわけでありまして、矯正の現場としては、そういうところを出ていって、もう二度と帰ってこないで真っ当な一般生活をしてもらうということがやはり矯正の理念としてあると思いますので、そういうところでまた精神状態がよくなくなって、中でまた暴行事件とか傷害事件を起こしてしまうというのは大変悲劇的な話だと思うのですけれども、この増加傾向にあるということについて、数字を少し、何年分か出していただけないでしょうか。
中井政府参考人 お答えいたします。
 一点、冒頭の御説明に、先ほどの御質問に照らしまして補足させていただきますと、矯正施設は、収容率一〇〇%というのは実は適正でございませんで、大体八割ないし九割ぐらいでないと、委員御指摘のとおり、いろいろな人の動き、あるいは独房に収容する者等で非常に困るという情勢にございますので、その点を先ほどの答弁に補足させていただきたいと思います。
 続きまして、最近の暴行事案等の案件についてお答えさせていただきたいと思います。
 委員御指摘のとおり、舎房も工場も非常に生活空間が狭くなってきておりまして、被収容者のストレスというものが非常にふえております。したがいまして、これに照らしていわゆる規律違反の件数も非常にふえておりまして、平成十三年におきますところの懲罰の件数を見ますと、五年前の平成八年に比べまして約一・四倍、三万七千四百件になっております。この数字のうちで、職員やあるいは被収容者に対する暴行傷害事案ということに限って見ますと、やはり五年前に比べまして一・七倍の六千四百件といった数字になっております。
 以上でございます。
山花委員 全体の数からいっても、六千四百、大変多いなという印象を持ちますが、そういったやはり背景があって今度の新設という話になってきたんでありましょう。
 今、八割から九割ぐらいが本来適正だというお話がございましたけれども、結局、これから恐らくロースクールの法案の審議も始まるんでしょうし、司法改革の話がいろいろ出てきていますけれども、検察官をふやしたり、法曹をふやしたり、あるいは、もっと治安のために頑張れといっても、最後行き着くところは刑務所ですから、ここがあふれちゃうとどうもなりませんし、あと、人員のことで言うと、本当に刑務官とかそういう方が必要になるんだと思いますので、その点については今後ともよく検討していただきたい。これは要望でございます。
 こうしたことと関連をいたしまして、ごあいさつの中で、刑務所、拘置所等についてはということで、拘置所についても一言言及をされているのでありますが、これもかねてより指摘をさせていただいておりますけれども、拘置所についても、本来であれば、今東京の拘置所が建てかえ中で少しふえるという話は承知をいたしておりますが、ただ、それにいたしましても、私は、本来的には拘置所というのはまだ足りていないのではないかと思っております。
 この点もかねてより議論をさせていただいておりますけれども、原宿の留置場のときにもお話をしましたが、現行の監獄法の規定についてもよく承知していますし、代用監獄が適法かどうかという議論をしようとは思いません。ただ、本来あるべき姿としては、代用監獄ではなくて拘置所の方に入れてやるべきだというのは、これはもうアムネスティ・インターナショナルを初め、国連からも指摘をされていることですし、本来的には、あるべき姿としては、拘置所というものも今後新設について検討すべきであると考えますけれども、この点についての御所見をいただきたいと思います。
森山国務大臣 おっしゃるとおり、拘置所も大変過剰収容になっておりますし、また、例えば大阪の拘置所などは非常に老朽化しておりまして、何とかしなければいけないという段階になっております。ですから、最近の犯罪情勢の悪化を背景といたしまして被収容者が多くなっておりますので、刑務所同様に早急に収容能力の増強をする必要があるというふうに思っております。
 過去十数年間に千二百名を超える収容能力の増強を図ってきたところでございますが、現在の過剰収容の状況にかんがみまして、東京拘置所はお話がございましたように今建築しているところでございますけれども、これによって収容定員が約八百四十名増加するわけでございますが、岡山刑務所等四庁の拘置監及び久留米拘置支所において収容規模を拡大する増改築工事を実施しているところでもございます。
 今後とも引き続き、収容定員をふやすことに努力していきたいというふうに思っております。
山花委員 定員だけではなくて、新設についてもぜひ御検討いただければと思います。
 ところで、少し論点を移してまいりたいと思いますが、私も今治安の話をさせていただきましたが、法務大臣のごあいさつの中で、「最近における国内の犯罪情勢を見ますと、」ということで、刑法犯の認知件数がふえていることであるとか、そういったことを挙げられまして、治安の維持ということについても御努力をいただくというようなごあいさつがありました。
 今、この時間、十三委員室の方で内閣委員会が開かれておりまして、谷垣国家公安委員長からも「良好な治安を回復し、国民が求める安全と安心を確保するため、犯罪の抑止と検挙の両面にわたる取り組みの強化に最大限の努力を払ってまいります。」というごあいさつがありましたが、これはもちろん重要なことだと思いますけれども、一方で、犯罪の被害者の方にも目を向けなければいけないのではないかと思っております。
 午前中、トップバッターで伊藤公介委員から危険運転致死傷罪の運用についてのお話がございました。危険運転致死傷罪は閣法として成立をしたわけですが、以前私も衆法で提案をさせていただいたことがございまして、その折に、被害者の方々から本当に痛切な意見、おおむね刑が軽過ぎるというような話なんですけれども、ただ、そういったことで勉強してまいりますと、それだけではなくて、まだまだ日本においては犯罪の被害者に対するケアが十分じゃないんじゃないのかなという思いを持っております。
 もちろん、これは法務省だけではなくて、警察であるとか、あるいは厚生労働省であるとか、いろいろな各省庁の連携というものが必要なのではないかと思っておりますが、例えば国連被害者人権宣言というものがございまして、犯罪及びパワー濫用の被害者のための司法の基本原則宣言と言われているものです。一九八五年の第七回の国連犯罪防止会議において採択をされまして、九十六回の国連総会において採択をされております。
 この採択に当たっては、当時の法務大臣は臼井法務大臣でありますけれども、日本政府は各国の意見の一致に向けて努力を払ったというふうに委員会で答弁をされております。
 この宣言の中身としてですけれども、内容は大きく分けると三つありまして、一つは被害者の権利として司法制度に参加する権利、被害から回復する権利、そして知る権利という三つのことを規定しております。
 法務省所管ではありませんけれども、犯罪被害者給付金支給法でしたか、犯給法というものがありますけれども、あれは故意犯については支給されるのですけれども、過失犯についてはお金はおりないのですよね。ですから、午前中にもありましたような交通事故なんかのケースではお見舞い金すら国からは出ないというような状態であったりとか、あるいは、今後、法務省関係で申しますと、例えば不起訴の場合に、どういった理由で不起訴なのかという理由の説明であるとか、あるいは不起訴記録の当事者の閲覧の拡充であるとか、そういったことも検討されるべきであると思いますけれども、こういった犯罪被害者対策に向けた法務省としての取り組みということについて、どういった取り組みをされていくのかということについて伺いたいと思います。
森山国務大臣 犯罪の被害者やその親族などの心情を真摯に受けとめなければならないということは、刑事司法の責務であると考えております。
 このような観点から、検察におきましては、現行法によって与えられた権限を適切に行使いたしまして、事案の真相を解明する中で、被害者やその親族等の苦痛、悲嘆や怒りに十分耳を傾けて適正な事件処理を行うとともに、公判においても、被害感情を含む事案の全貌について効果的な立証活動を行うことに努めてまいりました。
 また、被害者やその親族の心情等への配慮という観点から、これまで、刑事手続に関連して、犯罪被害者保護のための二法案など具体的な法整備を行ってまいりました。
 犯罪被害者の保護、配慮のあり方は多岐にわたるものでございますし、さらに、日本においては比較的新しい考え方でもありますので、十分でないということは、御指摘の面、確かにそうだと思いますが、法務省といたしましても、さらにさまざまな角度から検討を行いまして、今後とも制度及び運用の充実を図っていきたいというふうに考えております。
山花委員 今までも御尽力されていることも承知をいたしております。
 ただ、今お認めになられたとおりかと思いますが、外国、例えばアメリカの多くの州では既に憲法上、被害者の権利ということが明記されていたりとか、イギリスなどでは、被害者憲章、イギリスは成文の憲法典がございませんので、憲法に準ずるようなものができていたりであるとか、あるいは台湾だとか韓国、アジアの国でももう犯罪被害者基本法のようなものができたりしておりますので、衆法でも提出をさせていただいて、これは内閣委員会に今継続審議となっておりますけれども、ちょっと時間の関係で、御所見をいただこうかと思いましたが、ぜひ政府としてもこういった問題について御検討いただければと思います。
 ところで、森山法務大臣には再三申し上げている問題でありますが、ことしの九月十八日に名古屋拘置所と福岡拘置所で二名の死刑が執行をされました。私は、個人的には廃止論者でありますので、この点については抗議の意思を持っているものでありますが、ただ、現行の死刑制度を前提とするといたしましても、処遇については随分と問題があるということは指摘をさせていただいてまいりました。
 例えば、今の死刑囚は、執行されるときには、本当にその当日に告知をされて、数時間後には両手両足を縛られて、つるされて、約二十分かけて絶命をするわけでありますが、せめて告知はもう少し前にならないのかというようなことも申し上げてまいりましたが、きょうは、最後、時間が押してまいりましたので、一点、恩赦との関係について質問させていただきたいと思います。
 いわゆる国連の自由権規約でありますが、市民的及び政治的権利に関する国際規約第六条四項によりますと、「死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。死刑に対する大赦、特赦又は減刑は、すべての場合に与えることができる。」となっております。
 現行の恩赦法が必ずしも恩赦について権利という仕組みとなっていないのは承知をいたしておりますが、ただ、自由権規約、これは日本の国内法にもなっておりますし、少なくとも死刑に関する限りは、少し法の不備があるのではないかと思います。
 つまり、これは実際にあったケースのようですが、恩赦の願いをしていたんだけれどもどうなったかわからなくて、当日の朝執行をされるという段になって、恩赦のお願いを出していたはずだがと言ったら、いや、それはだめだったんだといってそのまま処刑をされたというケースもあるようであります。いかにもこれは手続的な正義の面から見ても疑問があると私は思うんですけれども、この点について、恩赦法の運用について、副大臣に通告をしていたと思いますけれども、不備があると思われるんですけれども、いかがでしょうか。
増田副大臣 御質問の趣旨を取り違えてやってはいけませんので、私の方からお答えし、もし不足があれば局長から補足をいたさせます。
 我が国の恩赦制度につきましては、死刑確定者にも特赦、減刑等の恩赦の出願を認めておりまして、恩赦法施行規則第一条の二第二項の規定によりまして、その出願があったときは、監獄の長は中央更生保護審査会に恩赦の上申をしなければならないことになっています。また、中央更生保護審査会においてその恩赦が不相当となった場合でも、その後再度恩赦の出願をすることを妨げているわけではありません。
 これらのことから、我が国の恩赦制度は、市民的及び政治的権利に関する国際規約の条項に照らしまして不備がないと考えております。したがって、現在のところ、恩赦制度については新たに不服申し立て制度の整備を検討することは予定をいたしておりません。
山花委員 時間が参りましたので終了したいと思いますが、この点についてはまた改めて議論させていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
山本委員長 次に、石原健太郎君。
石原(健)委員 先般、石井議員が刺殺されるというような痛ましい事故が起こりまして、大臣の御心情を心からお察しするところであります。私もまた、哀悼の意を表したいと思います。
 近年、社会構成、家族構成の変化等により、犯罪が累増していると思います。それでも、世界を見渡すと、治安のよい国と言えるかと思います。法務省の予算は、国全体予算の〇・七五一%にすぎません。来年は〇・七三二%に減るようですが、これは諸外国と比べても低い方ではないかと思います。こうした厳しい予算の中で、法務当局の皆様が日夜国家国民のため大変御苦労なさっていることに、まず敬意をあらわさせていただきます。
 質問ですけれども、人権の重要さは今さら申し上げるまでもないと思います。最近の新聞報道等によりますと、地域住民や家族などから寄せられた平成十三年度の児童虐待の相談件数は前年度の約一・三倍の二万四千七百九十二件と過去最多を記録しており、年々激増していると聞いております。
 子供が被害者となる人権問題は、周囲の目につきにくいところで起こっていることが多いことに加え、子供自身が被害を申告することが困難な場合が少なくないことを考えますと、専門家が指摘するように、先ほど申し上げた児童虐待の相談件数も氷山の一角にすぎないものと思われ、被害に遭った子供が容易に相談できる体制、あるいは初期のうちに気がつく体制の整備が望まれるところであります。また、子供たちを取り巻く環境が厳しさを増す中で、児童虐待等の問題を未然に防止するためには、大人たちが、一人一人の子供の人格を尊重し健全に育てていくことの重要さを認識し、その責任を果たすべきことはもとより、子供のころから他人に対する思いやり、優しさが大切であることを理解させることが重要であると考えます。
 そこでまず、法務省の人権擁護機関が児童虐待等子供の人権問題にどのように取り組んでいるのか、その取り組み状況についてお尋ねしたいと思います。
吉戒政府参考人 お答え申し上げます。
 今御指摘ございましたように、この近年、児童虐待を初め、子供を被害者とする人権問題が一層深刻化しております。このことは十分に認識いたしております。
 そこで、法務省の人権擁護機関でございますが、平成六年度以降、子供の人権を守ろうということを重点目標といたしまして、各種の啓発活動を実施しております。とりわけ、人権擁護委員の中から子どもの人権専門委員というものを指名いたしまして、この委員を中心といたしまして、地域に密着した活動を展開しております。
 具体的には、子どもの人権相談所あるいは子どもの人権一一〇番というものを開設いたしまして、子供たちが容易に相談できる体制の整備に努めておりますほか、子供会、婦人会などとの連携を深め、さらに、子供の人権に関する情報を収集し、子供の人権が侵害されているおそれがあります場合には、法務局と連携して調査を行い、事案に応じた救済措置をとるなどの活動を実施しております。
 また、主にこれは小学生を対象としておりますけれども、花の栽培を通じまして児童の情操を豊かにし、優しい思いやりの心を体得してもらうことを目的といたしました人権の花運動という運動でありますとか、あるいは、中学生を対象といたしまして、作文を書くことを通じて豊かな人権感覚を身につけてもらうことを目的といたしました全国中学生人権作文コンテストを毎年実施するなど、子供の人権意識の育成を目的とした啓発活動の充実に努めておるところでございます。
石原(健)委員 実は、私の知人で、その子どもの人権専門委員ですか、それをやっている方がおられまして、人権擁護活動に熱心に取り組んでおられます。
 その方の話なんですけれども、今おっしゃった人権の花運動で小学校に種まきなどをお願いしても、暑い日に子供たちに一生懸命種まきをやってもらっても、ジュース一本出せない、何の報いもできない。また、小学校の先生方にお願いして研修会を催してもらっても、その足代も出せないというんです。
 こういう人権擁護委員というのはボランティアが当たり前かとは思うんですけれども、それにしても、頼む方としてはやはり肩身が狭いと思うんですね。人権擁護行政をさらに充実強化していくために、人権擁護委員の活動環境の整備が重要だと思うんです。今後も実費弁償等人権擁護関連予算の充実に努めていただきたいと考えるところであります。
 また、先ほど、前の質問者から矯正施設の不足等も言われたところでありますけれども、人権関係の予算というのは国全体の予算の〇・〇〇九%ですね。これではやはりちょっと情けない感じがするので、もっと充実してほしいと思うんですけれども、特に、最近は小泉総理もいろいろ構造改革ということを言われておりますが、私は財政にも構造改革が必要じゃないかと考えるわけです。
 財務省の方においでいただいているかと思うんでありますけれども、その辺についてのお考えを聞かせていただけたらと思います。
勝政府参考人 お答えいたします。
 人権擁護関係の予算につきましては、人権擁護施策推進法に基づきまして設置されました人権擁護推進審議会の答申や人権教育・啓発推進法の趣旨を踏まえまして、今までも順次増額してまいりました。
 今後とも、人権擁護行政の推進に必要な予算を措置してまいりたいと考えております。
石原(健)委員 ぜひよろしくお願いします。
 冒頭に述べた子供の人権を初め、社会の進展に伴ってさまざまな人権課題が生起してくる今日、人権擁護委員が民間人の視点に立って人権擁護活動に参加することによって、より柔軟で身近な人権擁護活動の展開を期待できると考えます。そのためには、人権擁護委員として人権擁護活動に積極的に従事する意欲のある適任者を確保することが重要でありますけれども、現在の委員の構成については、高齢化しているとか専門性に欠けるとかいう批判があるとも聞いております。
 今後、人権擁護委員制度をさらに充実させるため、委員に幅広い人材を確保する必要があると考えますが、この点について法務大臣の御所見をお伺いします。
森山国務大臣 委員御指摘のとおり、我が国の人権擁護行政を充実発展させるためには、人権擁護委員に適任者を確保するということが大変重要であると私も考えます。
 昨年十二月、人権擁護推進審議会から、人権擁護委員の適任者確保の方策など、人権擁護委員制度の今後のあり方について御答申をいただきました。この御答申を踏まえまして国会に提出させていただいております人権擁護法案においては、幅広い人材の中から人権擁護委員としての適任者を確保するために、一定の場合には市町村の推薦を経ることなく人権委員会が委員を委嘱することができる特例を設けるなど、人権擁護委員制度に関する改正もお願いしているところでございます。
 法務省といたしましては、このような制度改革を通じまして、より実効性の高い人権擁護制度の確立に努めてまいりたいと考えております。
石原(健)委員 今度は地元のことについてまたお聞きしたいんですけれども、八月二十九日に保安院から東電の記録改ざんや隠ぺいの件が発表されました。私、県庁に行きまして、新聞の記録を、毎日、朝日、読売ともらってきましたが、それから今日に至るまでほとんど連日、隠ぺいや改ざんの記事なんですよね。
 つい最近には、これが原子炉全体なんですけれども、原子炉で何か事故があったとき放射能が漏れないように、原子炉格納容器というのがあるようです。この格納容器の気密性が保たれてないと放射能なんかが漏れるというので、気密性が非常に大事なようですけれども、この検査までごまかされていたんですね。もう地元の方ではみんな不安と心配に落ち込んでいるところであります。
 最初、隠ぺいや改ざんが始まったのが一九八七年。それから十六年間、こういうことが続いてきておったわけでありますけれども、こうした事態について大臣はどんな御感想をお持ちでしょうか。
森山国務大臣 この問題は必ずしも法務省の所管ではないかと思いますけれども、御指摘の点は社会的にも大変大きな関心を集めていることでございます。当然所管省庁におきまして所要の対応を行っていると考えております。
 なお、一般論として申し上げれば、我が国における安全な社会の実現維持のためには、国民の生命と安全にかかわる問題について厳正に対処する必要があるということは言うまでもないところでございまして、その中で、もし刑事事件として取り上げるべきものがある場合には、検察当局におきまして、法と証拠に基づいて厳正に対処することと承知しております。
石原(健)委員 その所管の省庁が余り信頼できない感じがするんですけれども、保安院が十六年間も不正を見逃していたという責任は重大だと思います。また、検査がずさんだったとも考えられるところです。今月二十六日の地元紙は見出しで「東電、国の安全管理 根本から破たん」ということで、今や地元の不信、不安は頂点に達しております。
 信頼を取り戻すためには政府が一体となって、その所管の省庁だけに任せるんじゃなくて、やはり一体となって取り組む時点にもう差しかかっているんじゃないかと思うところであります。
 それで、九月七日付の朝日新聞の記事では、元東電幹部の話として、配管にひび割れの兆候があるという報告書を出そうとしたところ、これでは受けられないと突っ返された、そこで、異常なしと書きかえたそうであります。検査官は、運転はいいが、インディケーション、兆候はだめだ、この話がもし表に出たら、こっちは知らないと言ったそうであります。
 また、九月十三日の読売の記事ですと、「福島第一 原発ひび報告国が放置」という見出しで、「炉内部品の損傷と修理方法を、通産省の検査担当者から「新しい修理方法なので認可まで数年はかかる」と指導された東電側が、これを修理の黙認ととらえ、ヤミ修理を実施していた可能性が高くなった。同省はその後、東電にひび割れの処置結果を尋ねていない。」保安院と東電が一体となったもたれ合い体質と言えるかと思います。
 それで今私が政府一体で取り組んでいただきたいというようなお話をしたんでありますけれども、どのようにお考えになるでしょうか。
森山国務大臣 御指摘のように、大変世間の関心を集めております重大な問題でございますので、私も閣僚の一人といたしまして、関係担当者とも十分意見の調整をしながら改善するように努力をしていきたいというふうに思います。
 おっしゃる問題は直接的には経済産業省の御所管ではないかなと思いますので、その動きを十分注目しながら、法務省としてももしなすべきことがあれば厳正に対処していきたいというふうに思っております。
石原(健)委員 虚偽の記載や隠ぺいが十六年間もまかり通っていたのでは、しかも下請業者の職員からの通報で初めて判明したというのであれば、保安院の存在価値はありません。また、報告があってもなくても同じということにもなります。
 今後の再発防止を図るため、経済産業省でも法の改正を考えているようでありますけれども、ポイントをお示しいただければと思います。
 また、法改正の協議の際、法務省としてはどういう姿勢で臨まれるのか、刑事局長さんからお聞かせいただけたらと思います。
佐々木政府参考人 今回の原子力発電所の自主点検記録等の不正に係る事案でございますが、国民の皆様の信頼を大きく損なったということを踏まえまして、再発防止のために、緊急に必要となる事項について現在法律改正を考えさせていただいております。
 まず、組織的な不正を抑止するため、電気事業者及び原子力事業者による原子力設備の保安に関する義務違反について罰則を強化し、法人重課を導入するほか、従来位置づけが不明確でございました事業者による自主的な点検を法定義務化したいと考えております。
 また、自主検査時に発見されましたひび割れなどのふぐあいがありました場合には、工学的な手法によりましてふぐあいの進展を予測して安全性の評価を行う、いわゆる設備の健全性評価の義務づけを行いたいと考えております。
 第三には、事業者によります自主検査の実施に係ります体制の問題でございますが、新たに独立行政法人を設立し、この法人による審査及びその結果についての国による評定の規定を設けたいと考えております。
 さらに、現行法上認められております検査等に関連した国の情報能力の強化、あるいは、原子力発電所の保守点検を行う事業者、電気事業者等以外に、直接行う事業者に対する報告命令の規定の新設も行いたいと考えております。
 こういう内容によります電気事業法、原子炉等規制法の一部を改正する法律及び独立行政法人原子力安全基盤機構の法案をこの臨時国会に提出するよう現在準備を進め、全力で取り組んでいるところでございます。
 こうした取り組みによりまして、原子力安全規制に対する国民の皆様方の信頼の回復と再発防止を図ってまいりたいと考えております。
樋渡政府参考人 ただいまの御説明のとおり、電気事業法及び原子炉等規制法についての改正作業が進められているというふうに承知しております。
 法務省におきましては、他省庁がその所管する法令を改正しようとする場合におきまして、その改正部分が罰則等の法務省の所管事項に関連する場合には、協議に応じ、他の法令との整合性等も考慮に入れまして適宜必要な意見を述べるなど、所要の協力を行っているところでございます。
 そのような観点から、問題がないのであれば、反対する意見を述べることにはならないというふうに考えております。
石原(健)委員 九五年十二月に起こった動力炉・核燃料開発事業団「もんじゅ」のナトリウム漏れの際は、地元住民らが動燃と理事長、職員計四人を原子炉等規制法違反で福井地検に告発、動燃と職員二人に罰金の略式命令が下っているようです。
 経済産業省の方では、当初、九月十四日あたりの新聞報道では、今回のことで告発は見送ると言っておりまして、そのとき新聞等には、地元に戸惑いとか地元反発なんというような記事が出ているわけであります。それで、経済産業省の方では、十八日の報道では、見送り方針を撤回、やはり告訴しなくちゃいけないのかな、こう思い直したようなんですが、十月一日の報道ではまた見送りと、揺れ動いているようなんですけれども、その過程で、法務省の方には何か相談というかそういうことはあったのでしょうか。
樋渡政府参考人 お答えいたします。
 そのような相談があったというような事実は承知しておりません。
石原(健)委員 さっきのナトリウム漏れのときでも略式の罰金刑なんですね。何年か前、東海村で大騒ぎが起こったときにも略式の罰金刑ということで、スピード違反なんかも略式の罰金刑だと思うのですけれども、はたに迷惑をかける度合いというのははるかに違うと思うのですよ。
 そういった点、ちょっと釈然としないものがあるのですけれども、原発所在地域では、本当に今不安と不信が募っております。法務省も、政府の一員として力を発揮していただいて、少しでも地元の人たちが安心できるように御協力いただくことをお願いして、質問を終わります。
 どうもありがとうございました。
山本委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午前十一時五十六分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時開議
園田委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。瀬古由起子君。
瀬古委員 日本共産党の瀬古由起子でございます。
 きょう最初に、公費負担による手話通訳制度について御質問いたします。
 「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」憲法第三十二条がございます。障害を持つ方々にもこの権利があるのは当然ですし、障害を持つ方々が司法サービスを受ける際に、障害がない人と比較して何らかの負担、金銭的負担などで差別をされてはならないと思うんですね。同時に、裁判、司法にかかわる手続など、固有のあり方による特別な対応が必要になってくると思うんです。
 大臣、その何らかの負担、障害となるものを取り除く責任、そして障害者の実態に合った施策が国や裁判所に必要だと考えますが、その点いかがでしょうか。
森山国務大臣 おっしゃるとおりでございまして、憲法第三十二条の保障する権利というのは、健常者でもまた障害者でも皆同様に持っているものというふうに思います。
 民事訴訟の口頭弁論とか、裁判所における刑事事件におきましては、耳が聞こえない方あるいは口がきけない方が陳述する場合に、通訳人に通訳させることができるということになっておりまして、いずれも、通訳の必要が生じたときには裁判所において通訳人を選任し対応しておられると承知しております。
瀬古委員 現在、裁判所のバリアフリー化も進められていると聞きますけれども、その進捗状況をお聞きしたいと思います。
 例えば、障害者のための案内、総合窓口サービス、エレベーター、車いす用のトイレ、傍聴席の改善、盲導犬や介助犬の帯行、それから裁判所の書面の音声化や点字でのサービス、この点はどのようになっているでしょうか。
大谷最高裁判所長官代理者 お答えいたします。経理局長から施設の関係でお答えしたいと思います。
 裁判所の施設、合計四百六十ございますけれども、エレベーターが設置されている庁、これは現在百四十施設に設置されております。
 若干つけ加えますと、身体障害者の方の裁判所利用の便のために施設面でいろいろな配慮をしてきているところでございます。エレベーターについても、新築、増改築の際、それからエレベーター自体の設置工事として順次整備を図っております。基本的に、一階に法廷とかあるいは調停ないし準備手続室、和解室がない庁からエレベーターの整備を図っており、階数の高いところから順次整備をしてきております。現在、三階建て以上の施設が百七十ございますけれども、このうち八二%に当たる百三十九の施設にエレベーターが整備されております。三階建てで一階に法廷のない、未整備の施設が二十四ございますが、このうち五施設については現在庁舎新営により整備中でございます。三階建て以上で未整備の十九施設について今後順次整備を行い、そして、二階建ての庁舎のうち一階に法廷のない庁について一階に法廷を整備するかエレベーターを整備するかの整備を行うことになります。
 エレベーターの設置は以上のとおりでございます。
 身障者用のトイレにつきましては、四百六十施設のうち、四百五十三施設について既に整備をしてございます。これも、今後の庁舎の新営あるいは増改築の際に、残りのものについても整備を図ってまいりたいと思っております。
 それから、車いすでの法廷傍聴の関係でございますけれども、車いす等で法廷の傍聴ができるスペース、それから着脱式の傍聴席を設置している等の庁は合計四百四十一施設でございます。まだ十九の施設についてこのような対応ができておりませんでした。この点については早急に整備を予定してございます。
 施設の関係で以上のとおりお答えさせていただきます。
中山最高裁判所長官代理者 私の方からは、総合案内サービスそれから裁判文書の関係をお答え申し上げます。
 庁舎管理とか警備関係の業務を行わずに庁舎案内に特化した仕事を行う総合案内窓口というものは、全国で五庁ございます。そこでは、障害者の方が来庁された場合には、担当職員が、例えば車いすが必要な方に車いすをお貸ししたり、案内が必要な方には目的の部署へ案内したり、障害者の方の状況に応じて適切に対応できる体制をとっております。
 その他の庁につきましては、守衛がこういった総合窓口、総合案内というものを担当することになっておりますけれども、そこに障害者の方がいらっしゃったということになりますと、適宜、総務課等と連絡をとりまして、今申し上げました総合案内窓口と同様な対応ができるようにしているところでございます。
 次に、裁判文書の関係でございますが、視覚障害者の方が当事者等の場合に、例えば審判の告知内容の録音を裁判官が許可するなど、従前から個別の事案事案に応じた柔軟な対応をしてきていると承知しております。また、必要に応じて、裁判所が作成する判決書あるいは期日への呼び出し状に点字文書を添付する、そういった運用も行っているところでございます。
 以上です。
瀬古委員 ぜひ、ハード面のバリアフリー化の問題については計画的に進めていただきたいと思います。
 そこで、きょうお聞きしたいのは、ソフト面でのバリアフリー化の問題、人の配置などの問題についてお聞きしたいと思います。
 大臣あてに三重県の青年からこんな訴えが届きました。彼は高校二年生なんですけれども、両親が聴覚障害者で、彼が中学二年のときに学校行事で弟が亡くなりました。そこで、学校それから弁護士、裁判所の折衝などに中学生の彼が、今現在高校生ですけれども、ずっとかかわってきたんですね。それで、親が両親とも障害者ということで本当に苦労をして、相手が子供だからということでとても惨めな思いを何度もしてきたんだそうです。
 そこで、彼はこういうふうに書いているんですね。「現在、自分の家族は民事裁判を起こしています。三年前三重県の答志島で学校行事の「体験学習」というものに弟が一泊二日参加していました。しかし初日に持病である喘息の発作を起こし病院に運ばれましたが亡くなりました。その事で学校側に過失があるのではないかという事で裁判をしています。しかし自分の両親は耳が不自由な為、裁判所の法廷では話している内容を手話を通してでしか知ることはできません。裁判を起こす前に一度裁判所を訪れて「手話通訳をつけて下さい」とお願いしました。しかし裁判所は「手話通訳をつけて裁判を行うというのは前例がありませんので、弁護士さんをつけてらっしゃるんですから一度弁護士と相談して下さい」とそれ以上とりあってもらえませんでした。弁護士に相談しても「そういう法律は今ないので」と言われショックでした。仕方がないので現在は毎回二万円の費用を原告である家族が負担しています。憲法で裁判を受ける権利が保障されているにもかかわらずなぜ障害者というだけで多くの費用を負担しなければいけないのでしょうか。この負担は裁判を受ける権利のハードルを高くしていると思います。家族が裁判をやっていく中で真実、事実がこのようにして解明していくという事をみていて、まのあたりにして、こんなすばらしい裁判というシステムがあるのかと思うと、障害者が「裁判をうけにくい」という現実が本当に残念です。裁判をしていると最初「金のため」という偏見があります。まわりの人からも言われました。しかし家族は「真実を知るため」と言って、現在では理解していただいた方がだんだんと増え、支援会を作る予定です。弟を失いましたが、このような人とのつながり、知らない人と知り合えるというのは本当にすばらしいと思います。これは裁判のおかげだと思っています。なのでぜひ障害者が裁判をうける時通訳費用は国が負担する法律を作って下さい。よろしくお願いします。」こういう手紙なんですね。
 彼は、自分の愛する家族を失って、一度地獄を見て、夢も希望もずたずたになってしまったと言っています。一時は学校も、そして大人も社会も弁護士さんも信頼できなくなった。その後、すばらしい弁護士さんと出会って、裁判を起こすことになりました。そしてその中で、裁判所というところは真実を明らかにするというところで、こんなすばらしいところなのかということを彼は知りました。そして、弁護士という職業がどんなに弱い者にとって心強いものかということに感動して、今、彼は障害者や立場の弱い人たちの立場に立ちたいということで、将来そういう弁護士を目指す勉強をしているんだそうです。
 そういう意味では、訴訟当事者が聴覚障害者であるがゆえに手話通訳を自費で雇わなきゃならない、その費用が捻出できなければ聴覚障害者は訴訟を起こすのも本当に苦労する、また聴覚障害者が裁判を傍聴しようとしても法廷での会話が伝わらない、しかし手話通訳をつければ裁判のすばらしさを障害者も実感できる、公費負担による通訳を配置してほしいと彼は提案しているんですが、大臣は、この青年の意見について、どのようにお考えでしょうか。
森山国務大臣 大変家族思いの青年が、まだ中学生、もう今は高校生でしょうか、まだ未成年である立場なのにもかかわらず、一生懸命に裁判ということに持っていって、そして大変苦労をなさっているというお話で、大変感動いたします。
 ただ、お話の中でございましたように、また先ほど私もちょっと触れさせていただきましたが、手話通訳でも必要に応じて設けることができるということになっておりまして、民事訴訟法の百五十四条、刑事訴訟法でも百七十六条におきまして、通訳をつけることができるということになっております。手話通訳を頼んでその助けを得るということは法律上は認められておりますので、先ほどのお手紙の中に、今そういう法律がないとかという発言をされた方があったようですけれども、それは何かの思い違いではないのかというふうに思いますので、法律もそのように整備されているということを承知していただきたいというふうに思う次第でございます。
 健常者に比べていろいろなハンディを負っていらっしゃる障害者の方々が、健常者に比べて不公平のない、不平等のない公正な裁判が行われるということはとても重要なことだということを、今さらのように感じた次第でございます。
瀬古委員 民事訴訟法には、百五十四条で、口頭弁論に関与する聴覚障害者等が通訳人を立ち会わせるということにはなっているんですが、その通訳人の費用は自費で賄うような規定にされています。ただし、費用負担が困難な者に対しては、救済策として、裁判所に申請すれば弁護士費用と同じく訴訟費用として認められて、国が立てかえ払いをして、勝訴した場合に敗訴者からその費用を含めて返還される、こういう制度になっているわけですね。
 そういう意味では、それから法律扶助制度による貸し付けというのもあるんですが、しかし、法律扶助制度は後で言うんですが、そういう手話通訳までつけて費用を出すということはなかなか難しくなっています。弁護士費用と同じように国が立てかえ払いをするということもあるんですが、これも実際には厳しい条件もあって、そして負けた場合は、民事裁判の場合は負けた側が支払わなきゃならないという問題もあります。
 彼が訴えているのは、普通だったら別にそういうことはつけなくていいわけで、そういう意味では、障害者ということで立てかえたり後で払わなきゃならないということになるので、制度としてやはりそういう法廷で通訳者をつけるということをきちっと位置づけてほしいといいますか、そういう制度にしてもらいたいというのが彼の御要望なんです。
 弁護士さんとの対話をする場合には、ここは市がかなり通訳も援助してつけたりするんですが、裁判所の法廷となるとそこまではやれないということになるので、そういう費用負担なども、今現在彼は、実際には彼の家族が毎回二万円、多いときは、もうかなり長時間の法廷に立つと三人の手話通訳者が入れかわり必要ですね、そうするとまた金額が、一たん立てかえなきゃならないということで、そういう意味では、ぜひ一つの制度として、障害者だからということで負担をまずするということではなくて、きちっとそういう制度として手話通訳者を立てるという仕組みにしていただけないかという趣旨だと思うんですね。その点、いかがでしょうか。
    〔園田委員長代理退席、委員長着席〕
森山国務大臣 現在、民事裁判におきましては、手話通訳に要する費用は当事者等がこれを納めるということになっているのは先生がおっしゃったとおりでございますが、訴訟に必要な費用を支払う資力のない方につきましては、その支払いを猶予する旨の訴訟上の救助の決定をすることができるということになっております。
 この費用は訴訟費用として敗訴した当事者が負担することとなりますけれども、訴訟上の救助の決定を受けた者は、たとえ敗訴してもこの決定が取り消されない限り猶予された訴訟費用の支払いを命じられることはないということになっております。
 なお、刑事裁判におきましても手話通訳に要する費用は訴訟費用とされておりまして、訴訟費用については有罪の言い渡しを受けた被告人がその全部または一部を負担することになるのが原則ではございますが、通訳費用については、国際人権B規約第十四条第三項Fの趣旨などにかんがみまして、これを訴訟費用として負担させない運用が一般的になっております。
 法務省といたしましては、これらの制度の適切な適用が障害者の裁判を受ける権利の保障につながるものと考えております。
瀬古委員 例えば障害者の経済的な問題ももちろんあるんですが、障害者が裁判を受ける一つの権利として、その人に資力があるなしにかかわらず、きちっとバリアフリーという形でぜひ制度化してほしいということで、今大臣が言われたように、そういう趣旨に基づいた運用がなされるようにぜひお願いしたいと思います。
 聴力障害者である野沢克哉さんという方が、この問題で、二〇〇〇年七月の司法制度改革審議会の地方公聴会で公述人として意見を発表されています。手話通訳や筆記通訳を民事事件のときにも公費負担してもらえれば、我々聴覚障害者も裁判に親しみが持てると述べておられます。
 また、野沢さんは、裁判では専門用語が多いために通訳者の確保はとりわけ地方では困難だと言っていらっしゃいます。専門の通訳者の養成や確保を含めて検討すべきだと思います。
 また、野沢さんは、体験から、今回の例からも言えるように、弁護士に全部任せればいいから通訳者をわざわざ連れてくる必要がないという感覚の裁判官も多いと彼は語っています。障害者問題の裁判官や職員などの研修とか教育とか、障害者施設での実習など、やはり人権感覚を学んでほしいというふうに提案されているんですが、その点いかがでしょうか。
中山最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。
 まず裁判官についてでございますけれども、新任判事補、新しく裁判官になる者につきましては、まず、裁判所の受付窓口等の部署において、窓口に訪れた国民の方々に直接応対することによって行う、いわゆる窓口等研さんというものを行うことにしておりまして、任官直後に、司法研修所において新任判事補は全員が行う研修の中でそのガイダンスが行われております。その中で、来庁者がどこに行けばよいか案内する際、老齢者やあるいは身体障害者の方などに対して、エレベーターあるいは目的の部屋まで御案内するというようなことにも配慮が必要である、こういったところも指導しておるところでございます。
 また、直近でありますと、平成十四年度の専門研究会、これは現代社会と人権というテーマで行いましたけれども、そこではより広く、差別を受ける側の人権に対する配慮について検討、研究をいたしました。
 また、裁判官を含めた法曹になる前の司法修習の課程の中では、身体障害者の施設やあるいは知的障害者の施設等の公共の施設においてその活動を体験させるなどの方法により、法が対象としている社会の実相に触れさせるとともに、奉仕精神を涵養するカリキュラムを組んでおり、障害者の方が日常生活の中で感じている不便というものを具体的に体感するとともに、障害者の方に対して具体的にどのような配慮が必要かということを学ぶ機会を設けております。
 一般の職員に対しては、社会に対する幅広い視野を持たせ、公共精神、奉仕精神を涵養するという観点から、障害者支援施設等で高齢者疑似体験あるいは視覚障害者の疑似体験、車いす体験、介助体験等の研修を実施したり、老人クラブ連合会事務局長等による障害者等への接遇に関する講義や実習を実施したりもしております。
 なお、いわゆるボランティア休暇を活用して在宅障害者の介護支援活動に当たるなど、実際の活動を行っている職員もおりますけれども、そのような経験は日常の執務にも反映されているものと考えております。
 今後とも、障害者の方の心情に配慮して裁判が行われるよう、裁判官を初め職員の意識の啓発、向上に努めてまいりたいと考えております。
瀬古委員 今、青年が体験したように、実際には裁判官の一言にすごく傷つけられるという問題もございます。
 そういう意味では、本当は裁判に来るまでにさんざんいろいろな苦労をして、そこへたどり着いたという形なんですね。そういう点でいえば、そういうソフト面でも、ハード面の整備はもちろんですけれども、そういう障害者に対する対応という点でも、ぜひ今後、問題のあるところはやはり改善していただきたいと思います。
 時間がございませんので、次に参ります。
 法律扶助制度について大臣にお聞きします。法律扶助制度というのは、二〇〇〇年に、弁護費用などを用意できないため裁判を起こせない人に対して国がその費用の立てかえ等の援助を行う制度として成立したものです。提案時に当時の臼井法務大臣も述べておられますが、この制度は、憲法三十二条に基づく、国民が等しく裁判を受ける権利、法的権利を実質的に保障する制度として位置づけられていると考えていいでしょうか。大臣にお願いします。
森山国務大臣 おっしゃるとおりだと思います。
瀬古委員 お配りした資料を見ていただきたいと思うんですが、この五年間で扶助決定件数は四倍近くふえております。二〇〇二年度は四万件にもなりそうだと言われています。その中でも、自己破産事件の件数は六倍、扶助決定事件に占める割合は、昨年度、二〇〇一年度で六七%にも上っております。二〇〇一年に個人の自己破産申し立て件数は十六万件、ことし、二〇〇二年には二十四万件を超えると見られています。なぜこういう事態を生んでいるのか。
 長引く不況のもとで、小泉内閣が進める不良債権最終処理や大企業のリストラ支援などで失業や倒産が急増しているということが私は原因の一つだというふうに思っています。今後、もっと不良債権処理をして構造改革をやれば失業や倒産がふえていくということは小泉総理大臣も認めていらっしゃいますけれども、大臣はどのように認識されているでしょうか。
森山国務大臣 最近の自己破産事件の中には、リストラの増加など、最近の経済情勢を反映したものも含まれているということは、おっしゃるとおりかと思いますが、さらに、その経済情勢をもたらした原因は何であるかということになりますと、さまざまな要因が複雑に関係しているはずでございますので、これを特定することは大変難しいと言わざるを得ません。
瀬古委員 財団法人法律扶助協会によれば、近年の多重債務の原因は、むしろ生活苦による借り入れが原因となっていると。援助した自己破産事件の四〇%は、借り入れの原因が倒産、失業、個人商店の事業資金等の不足などで、高い金利の消費者金融だとかを借りるという点で、住宅ローンも払えなくなるとか、こういう問題が大変反映しているということをきちんと協会の中でも報告されています。
 ところが、今法律扶助事業への国からの補助金が横ばいで、この事業に対して日弁連などが財政的な支援を続けてきたけれども、限界になっていると。ついに法律扶助協会が全国の五十支部について援助件数の上限枠を設定した。各支部では、利用を生活保護受給者に制限するとか、受け付けても決定を先送りにする、それから、私の選挙地域なんですが、窓口閉鎖、こういう危機的な状況になっているとも言われています。現状をどのように把握していらっしゃるでしょうか。
吉戒政府参考人 今御指摘のとおり、扶助協会におきましては、本年度から四半期ごとの扶助決定件数の上限を定めておりまして、法律扶助事業を計画的、効率的に実施するよう努めているものと承知しております。
 支部が五十ございまして、各支部の取り扱いの現状につきましては、詳しいことはまだ把握いたしておりませんけれども、それぞれの地域の実情に応じて適切に対応されているものと考えております。
瀬古委員 これだけ自己破産がどんどんふえて、七割近くもこの事業の中に占めるということになれば、適切な運営といったって、もう貸せない、金出せないということになるというのははっきりしているわけですよね。そして、これがどんどん今これからふえていく状況になっているという事態ですから、もう今までの枠内で私はやっていけないだろうと思うのです。それは、どなたが見ていただいても、この資料を見ていただいても、どんどんウナギ登りにふえているわけですよね。それで、補助額はそのまま、一定ふえてきたんだけれども、この間横ばい状態だと。
 それで、実はこの法案が成立したときに、参議院の法務委員会で、年度途中で予算がなくなった場合はどうするんだと我が党の橋本敦参議院議員が質問しているんですね。そのときに、臼井法務大臣は、万が一そういう状況になったときには、財政当局と相談して適切に対処しなきゃならないと明確に答えられているんですね。森山法務大臣もその立場は変わりないでしょうか。
 それは、足りないという、もうそのとき想定したよりも異常な事態に、自己破産がふえてきているという問題では、何らかの対処が必要だと思うのですが、その点いかがでしょう。
森山国務大臣 おっしゃるような事態を受けまして、法務省といたしましても、予算については要求を年々ふやしておりまして、平成十一年の予算は九億四千万でございましたが、三年たちました十四年の予算額は三十億円と三倍以上になっておりますし、来年度の要求もさらに一八%ふやして三十五億円を要求しているところでございます。
 しかし、なおいろいろな不測の事態がありまして、おっしゃるような事態になりましたときは、財政当局とも協議をして適切に対処していくということになろうかと思います。
瀬古委員 そういう深刻な事態に今後なるんじゃなくて、今もう大変な状態で、実際には貸し出しをストップするという状態になっているんですね。
 そういう点でいえば、この事態になっているということはもう事実なので、ぜひ財政当局とも相談していただいて、何らかの措置を年内にもぜひ組んでもらいたい。わらをもつかむ思いで相談に出かけたら窓口はもうストップで、あと三カ月待ってくださいとか、そういう事態ではならないと思うんですね。
 その辺では、今後そういう事態になりましたらじゃなくて、今なっているので、ぜひ直ちにお願いしたいと思うんですが、大臣、いかがでしょうか。
森山国務大臣 財政当局とよく協議いたしまして、考えさせていただきます。
瀬古委員 ありがとうございました。以上で終わります。
山本委員長 次に、植田至紀君。
植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。
 きょう、三十分の持ち時間でお伺いしたいのは、テーマとしては国内人権機関の創設についてということでございますが、参議院の方が先議になっています人権擁護法案にかかわって、一般質疑のこの場所をおかりして幾ばくかお伺いをしたいと思っております。ただ、別に、これは何も私が早いことこの法務委員会で人権擁護法案の審議をしたいとうずうずと待っているというわけではなくて、できることであればもっと装いを新たな形で議論をさせていただく場ができる方がいいなと思いつつやらせていただくわけです。
 まず、もう簡単なことです。法務大臣に、今般出されたこの政府案、これで日本の人権擁護行政を含めて人権侵害の被害の救済はばっちりだと自信をお持ちでございますか。
森山国務大臣 この法案は、人権の世紀と言われます二十一世紀におきまして、人権尊重社会を実現するためにぜひとも必要だというふうに考えておる法案でございまして、現在のさまざまな条件のもとで最善のものを提案させていただいたというふうに考えております。
 しかし、この法案に対して各分野のいろいろな御意見があるということも承知しておりまして、それらを踏まえて、国会で十分御審議をいただきたいと考えております。
植田委員 もちろん、大臣みずから不十分ですと言うわけはないんで、最善のものを出されたということなんでしょうが、最善なんであれば、私が法務大臣の立場であれば、一言一句修正することなく、野党もけ散らしながら強引に押し通すだろうと思いますが、どうもそういう感じでもない雲行きであるようでございます。
 細かなことでもないんですが、局長も来ていますので、それはどちらでも構わないわけですが、十月四日の朝日で「メディア規制凍結 人権擁護法案 政府与党合意」ということで、要するに中身をいじりますということが出ています。
 大きく二点、ここの文面でいけば、政府・与党が合意したのは、いわゆるメディア規制の部分を凍結する、要は、特別救済の対象になっているあそこの部分を凍結するということなんでしょう。それともう一つ、一定期間後の法全体の見直し条項の追加の二点ということになっています。
 これ自体、記事ですから、当然論評についてはさまざま主観も入っているでしょうけれども、この二点について、こういう形でさせていただきたいというふうな合意がなされている、もしくはそういう方向で相談がされているということが事実なのかどうなのか、まず確認させてください。
吉戒政府参考人 御指摘のとおり、朝日新聞でそういうふうな記事が出ております。その記事には、政府と与党三党が人権擁護法案につきまして報道されているような合意をしたというようなことでございますけれども、そういうふうな合意をしたという事実は承知いたしておりません。
 ただ、法務省といたしましては、この法案の早期成立を各方面にお願いしてきているところでございますので、法案に対してさまざまな御意見がある中で、与党議員の方々も早期成立に向けていろいろな御努力をされているものと思います。今国会では、そういうふうな御意見も踏まえて、十分に御審議いただきまして、一日も早くこの法案を成立させていただきたいと思っております。
 私どもといたしましても、この法案の成立につきましては最大限の努力をいたしたいというふうに考えております。
植田委員 合意はしておりませんということですが、じゃ、今言った、メディア規制部分の凍結、それと一定期間後の見直し条項を追加する、この二点が少なくとも、政府の立場からすれば、法案の早期成立に向けてのさまざまな調整なり議論の中でこうした二つの課題が論じられているということは事実なんですね。
吉戒政府参考人 今申し上げましたように、与党の関係議員の方の中でいろいろなお知恵をお出しになっている、そういう中で、今委員御指摘のようなアイデアも出されているということではないかなと思います。
植田委員 要するに、法務省さんとしては一向あずかり知らぬけれども、いろいろな御意見の中の有力な意見として、議員の中からこの二点が出ておることは把握しておりますということなんですね。
吉戒政府参考人 法案を早く成立させていただきたいという思いの中で、与党の関係議員の先生方がいろいろなお知恵をお出しになっているということでございます。
植田委員 法務省さん、人権擁護局長さんからして、この二点についてそれぞれ、なぜこういう形で凍結し、また見直し条項の追加をするかという点について、それぞれの趣旨というものはどういうふうに理解されますでしょうか。何ゆえこういうことで、これならいけるぞということになるんでしょう。
吉戒政府参考人 私どもは、もともとが、この法案が、原案そのものが最善のものと考えております。そういう中で二点のアイデアを出されておるということでございまして、私どもが立案しているようなものではございませんので、論評は差し控えさせていただきたいと思います。
植田委員 論評を聞いているわけではありません。それは、論評は差し控えざるを得ないでしょう。論評を聞いているんじゃなくて、それぞれが、こうした修正項目がどういう趣旨で出されていると理解されていますかということであって、それについての論評を加えろということを私は聞いてないんです。お願いできますか。
吉戒政府参考人 さきの国会の中で、この法案につきましていろいろな関係方面からいろいろな御意見をいただいたわけでございまして、そういう御意見を踏まえて、早期成立のためのアイデアの一つとしてこういうものも出されているのかなというふうに考えております。
植田委員 とりあえず、いいです。どうせ、メディア規制の話と独立性の話等々は後で伺いますので、そのときにまた話題に上るかと思います。
 さて、とりあえず人権擁護法案において、日本における国内人権機関を創設するという主体的な意思は法務省は示された。そうして、今までそんなこともやりたがらへんようなところが、とりあえず政府提案で法律をつくろうというところまで到達したということは、これは一歩も二歩も前進かもしれません。ただ、ふたをあけたらびっくりしちゃったわけですけれども。
 それはいいですが、本当に、例えばパリ原則を含めた国際的な水準を見据えたときに、少なくとも国内人権機関が存立すべき生命線といいますか、必要条件といいますか、その辺はポイントが何点かあるかと思いますけれども、おさらいになるかと思いますが、これは法務大臣、改めて御説明いただけますか。
森山国務大臣 国内人権機構についてのお尋ねでございますが、国内人権機構に関する明確な定義というのはございませんで、パリ原則を附属文書として採択した国連総会決議におきましても、各国における国内人権機構の設置、強化に当たっては、同原則の趣旨を尊重しつつも、各国の国内事情に応じて最適な国内人権機構を選択する権利があるということを確認しております。
 そこで、今回提案させていただきました人権委員会について申しますと、人権委員会は、人権救済及び人権啓発を主要な任務とするとともに、政府等に対する提言機能も備えた総合的な人権擁護機関として設置されるものでございますので、これらの任務、機能を十分発揮することができる制度や体制の整備が重要でございますし、その職務の遂行に当たりましては、独立性と中立公正さの確保が重要であると考えております。
植田委員 百点満点だと思いますが、ただ、出てきた法案が百点満点かというと、ちょっとやはり赤点をつけたくなるので、それだけのことをおっしゃるのであれば、何でこんな法案が出てきたんだという話に続くわけですが、独立性、これは国内人権機関の一つの大きな生命線だろうと思います。これもおさらいになるかもしれませんけれども、私は、少なくとも今出されている法案で見た限りにおいて独立性が担保されているとは言いがたいというふうに考えるわけですけれども、大体どういう説明をされるかはわかりますけれども、一応、議事録にも残りますから、何ゆえ高度な独立性を今回の人権擁護法案で提起している人権委員会は持っておるのかということを、では御説明いただけますか。
吉戒政府参考人 この国内人権機関でございますが、これは民間に何かそういうものをつくるものではございませんで、あくまで行政機関としての国内人権機関という前提でお答えしたいと思います。
 そういう行政機関としての独立性を持つ人権機関ということでございますが、現行法上、国家行政組織法というのがございますけれども、今般の人権委員会はその国家行政組織法の三条二項に基づく独立の行政委員会、いわゆる三条委員会として設置される。委員長及び委員の任命方法、これも国会の同意を得て内閣総理大臣が任命する。身分保障の規定もございます。さらに、職権行使の独立性の保障の規定もございます。したがいまして、この人権委員会は法務省の外局として置かれますけれども、法務大臣からの指揮命令は一切受けないという制度でございます。
 こういうふうに、制度的な独立性の担保は十分になされておりますので、この人権委員会は高度な独立性を確保いたしておりますし、おっしゃるような意味での独立性、これは十分に保障されているというふうに考えております。
植田委員 ありていに言えば、一つは三条委員会だということ。法務省の外局であろうが三条委員会であって、しかも法務大臣の指揮命令権はない、だから委員の皆さん方は高い独立性を持ってその任に当たることができる、制度上はそうですとおっしゃるわけですが、大体この委員会の独立性というのは常に合わせ鏡というかコインの表裏で、その実効性がどれだけ担保されているかということと常にリンクし合うわけでございます。
 例えば、今、委員の高い独立性が保障される、法務大臣から四の五の言われることはないといいますが、委員が何人おるんですか。たしか五人ですわね、この法案では。それで全国のさまざまな個別の人権侵犯に係る事例を、その高い独立性が保障されていると御説明されますけれども、では適切に公平中立に対処できるだけの体制があるのかといったときに、どうなりますか。
 また、個々の事案ごとに調停委員というのもこしらえるみたいですが、とりあえず委員が五名しかいない。実質的に事務処理を行うのは事務局の人たちですね。それが丸々人権擁護局を移行させるというわけですから、言ってみれば官僚がそのまま平行移動してそこの実務に当たる、そしてその上に五人の独立性が高いとされる人権委員が乗っかっているだけであって、実際の実行力というものが果たして保障されるんですかということがやはり一つあるかと思います。まずそれが一点目。
 それと、よく言われるように、私なんかも、三条委員会として、法務省の外局として設置するよりは、内閣府の設置法を変えて、そこのもとに置く方が妥当であろうというのは、何も法務省が嫌いやから内閣府に持っていけという話ではなくて、やはり総合調整機能という点ではそちらの方が妥当ではないかと我々なりに判断しているわけですけれども、なぜ内閣府ならだめなのかということを含めて二点、では局長、お願いできますでしょうか。
吉戒政府参考人 まず第一点の、人権委員会の委員が五名だから適切な事務処理ができないのではないかなというふうなお尋ねだと思いますけれども、これは法案によりますと、人権委員会は委員長一名、委員四名、計五名で構成するということになっております。ただ、人権委員会には、その事務を処理させるために事務局を置くことにしております。さらに、これに加えて地方事務所も置く。したがいまして、日々これはもう全国各地でたくさんの人権侵害事件が起きておるわけでございますけれども、こういうふうな人権侵害事件に適切に対応するため、事務局の地方機関として、所要の地に今申し上げました地方事務所を置くということで、事務局の地方組織も整備する。
 したがいまして、この人権委員会、これは高度の意思決定機関でございまして、この人権委員会はこういうふうな事務局あるいは地方事務所の職員を適切に指揮監督して事件の調査をする、それによって多数の人権侵害事件を適正迅速に処理するというふうに考えております。これが第一点でございます。
 それから、二点目の人権委員会を内閣府に置いてはなぜだめなのかということですけれども、むしろなぜ内閣府に置いた方がいいのかという問題があろうかと思いますけれども、これは別に好き嫌いで法務省に置くという話じゃございません。実は、こういう理由から法務省の外局として人権委員会を設置することが相当であるというふうに考えておるわけでございます。
 まず第一点は、昨年の一月に実施されました中央省庁の再編に当たりまして、人権の擁護、これは国民の権利擁護をその基本的任務とする法務省において引き続き所掌すべき事務であるというふうにされて、今後特に充実強化すべきものとして整理されていることがまず挙げられます。
 それから二点目は、法務省は、人権侵害に関する調査及び救済措置としての調停、仲裁、訴訟の援助、差しとめ請求訴訟の提起等、こういうふうな新しい仕事を人権委員会でやるわけでございますけれども、こういう仕事を遂行するための法律的な専門性を有する職員を現に有しておりますし、また過去五十年にわたりまして人権救済に関する専門的な知識、経験、ノウハウ、そういうものの蓄積を有しておるということが、法務省の外局として置くことが適当であるというふうに考えた理由でございます。
植田委員 まず一点目の方ですけれども、地方事務所を置きますって、では四十七都道府県にちゃんと置くんですかといったら、そうじゃないでしょう。実際、地方事務所は八カ所ですか、置いて、今度沖縄に仮に置いて九カ所ですやん。それで、各地で起こるそうした差別事象なり人権侵害なりというのはさまざまな個別事例、これは類型化できませんよ。それを一つ一つ、全国で八つか九つかになるような、そんなところで地方事務所を置いて、法務局のところで受け付けて、はいそうですという話にはなかなかならぬと思うでしょう。だから、四十七都道府県に置いてきちっとやっているという体制を組んでいますと自信を持って言うならいいけれども、そういう体制になっていないでしょうということが一つあるでしょう。だって、個別日常的に起こることにその都度その都度現場が対処できるような体制になっていないでしょう。体制にあるとおっしゃったけれども、なっていない。別にそれは答弁要りませんよ。
 それともう一点、二点目、最後のところで、省庁の再編の話はいいです、一応所掌事務に人権の擁護というのがあるわけですから。
 では、高度な専門性を持っていて、この間、人権を守って五十年、一生懸命やってきました、蓄積がありますとおっしゃいましたけれども、そんな蓄積があるんやったら、わざわざ人権委員会なんてこしらえる必要はないんですよ。今まで法務省がきちっとやってきて、人権擁護委員制度があり、人権委員会、人権侵害の被害の救済の機関をわざわざ今こしらえるような必然性はないはずですよ、蓄積があって適切に対処してきたんであれば。できてこなかったさかいにこういう話になっているんでしょう。だから、それはいちびったことを言うてもらったら困るんですけれどもね。
 それは、勉強されていて知識はあるのかもしれません。しかし、実際問題、人権侵害の被害の救済にかかわって、ではどれぐらいの役割を果たしてきたのかというのは、人権擁護推進審議会の答申の中でも、やはり今の枠組みでは大変だと指摘をされてきているわけですよ。その点どうなんですか。
 蓄積があるからできるんですと。いや、できるんだったら、そんな人権委員会こしらえんかて、我々の人権をちゃんと法務省さん守ってくれてきたはずでしょう。守れてへんから必要なんでしょう。今までやれてこなかった役所が、人権委員会というのをこしらえたら突然人権侵害の被害の救済にとって役に立つような仕事ができるようになるのは、一体どんな魔法か手品があるんですか、教えてください。
吉戒政府参考人 法案の審議じゃございませんので、余り詳しく申し上げるのもどうかと思いますけれども、これは、この法案の出されるに至った経緯をまず御説明しないことにはよく御理解いただけないことと思います。
 つまり、平成八年五月に地対協の意見具申が出されまして、従来の同和行政を総括した上で、新しい人権救済制度を創設すべきであるという意見具申がされたわけです。それに基づきまして人権擁護施策推進法が同年末につくられて、それに基づいて人権擁護推進審議会が平成九年に立ち上げられた。その審議会におきまして、二点の諮問事項、一つは人権教育・啓発のあり方、もう一つは人権救済制度のあり方でございますけれども、最初の答申が十一年に出され、二番目の救済制度に関する答申が昨年出された。
 そういう中で、この人権擁護推進審議会が過去の人権擁護行政を総括いたしまして、問題点といたしまして幾つかの点を挙げております。調査や措置が専ら任意のものである。現在、人権侵犯事件は任意の権限に基づく任意の調査、任意の措置というふうになっておりますけれども、そういうものであるために実効性に欠ける場合がある。それから、政府の内部部局である法務省人権擁護局を中心とした制度でございまして、公権力による人権侵害事案について適正な調査処理が確保される制度的な保障に欠けている。人的資源が質量ともに限られている。これらの結果として、国民一般から高い信頼を得ているとは言いがたいというような指摘があったわけです。
 そういう指摘を踏まえて、人権擁護推進審議会では、新しい人権救済制度についての具体的な提言を答申の中でされた。その答申を受けて今回の法案を立案したということでございます。
 もちろん、五十年間のノウハウがあるからすべてできるなんということは考えておりません。こういうふうな答申の中で指摘された問題点を解消するために今回の法案をお出ししたということでございます。
植田委員 長々と九六年当時からの経過をさかのぼって御説明いただいて、非常にありがとうございました。私もその辺の事情はよく承知しております。
 九六年当時、自社さの三党合意で、今言った地対協意見具申、ことしの三月で法が切れましたけれども、再度五年間、着手済み等の事業については延長するということが一つの合意、それと、教育啓発にかかわる法的措置、人権侵害の被害救済にかかわる法的措置、この三つが九六年の六月に、自社さ、当時の与党の人権と差別問題に関するプロジェクトチームで合意したことがそもそもの出発点です。
 当時の法務省さんというのは、特にこの二点目、三点目については、新たな立法措置が要るのか要らないのかといったときに、かなり嫌がっていましたけれどもね。嫌がっていたんだけれども、当時の力関係で人権擁護施策推進法ができて、事実上審議会設置法ができて、教育啓発と人権侵害の被害救済、それぞれ審議するとなったもんださかいにその流れの中で、こういうことで来た。
 だから、今の話をかいつまんで言えば、もともとやりたくなかったけれども、九六年に推進法ができて、答申が出てきたので、その流れの中でこういう法律もつくりましたと。ただ、そこはさるもの、メディア規制含めて、それなりに法務省さんとしての工夫をされたと皮肉を込めて申し上げたいわけです。
 ただ、じゃ、聞きますよ。人権擁護行政、それは法務省だけに限りません。あまねくどこの省庁の行政だって、やはり人権に配慮して行われなければならないことは言うまでもないことです。じゃ、例えば、法務省の人権擁護行政が果たして、人権の確立に資するような、人権擁護に資するような役割を果たしているのかどうか。また、法務省において、例えば入管なり矯正施設内なり、常に人権侵害というものが指摘されておるわけです。そうした問題についてチェックするのは、法務省の職員がどばっと事務局で入っておる人権委員会がチェックするんですか。
 それだったら、受験生が自分の大学入試の試験を自分で採点して、自分で合格通知を出すということになりませんか。局長、どうですか。
吉戒政府参考人 人権委員会の職員の登用につきましては、幅広い人材を登用できるようなことを考えております。
 ただ、立ち上げの際に、最初から人権侵害事件の救済でありますとか人権の啓発という仕事をすぐできるわけではございませんから、そこはやはり、現にやっております法務局の職員、こういう者を中心に職員を構成していくということになろうかと思います。
植田委員 要は、それだったら、立ち上げの段階においては丸々法務省が、人権擁護局が民族大移動します。だって、人権擁護局がなくなるわけでしょう、人権委員会ができたら。そこで人権擁護行政もするわけでしょう。そういう発想なんでしょう。どういうことなの。だってそんな、立ち上げの話がどうとかじゃないですよ。
吉戒政府参考人 先ほど申し上げましたように、人権委員会の事務局、中央事務局と申しますけれども、これは、法務省人権擁護局を改組いたしまして、そちらの方に充てるというふうに考えております。地方組織は、現にやっております法務局の人権擁護部、これをまた改組いたしまして、人権の地方事務所という形に充てたいというふうに考えております。
植田委員 要するに、今の人権擁護局がなくなって人権委員会の事務局になります、そして立ち上げの段階で当然、法務省のノウハウを持った職員さんも行かなきゃならないが、幅広い人材もちょびっとぐらいは登用してあげてもいいですよ、そういう話じゃないですか。主体はだれなんですか。
 例えばパリ原則で、人権委員会、国内人権機関はどういう人たちで構成されなければならないのかというようなことは、釈迦に説法ですから、もう頭に入ってはるから一々挙げませんよ。非常に多元性、多様性がないとだめなわけですね。そんなことが保障されるということは、全然担保されているとは言えないわけですね。
 法案審議じゃないですからそれ以上込み入った話はしませんが、だって、幅広く人材登用しますと今局長おっしゃったから、はい、そうですか、じゃ、よろしくねで引き下がれるような話ではここはありません。どうせいずれやらにゃいかぬ話ですから、そこはもっと込み入って話をしたいと思いますが、時間がないので、最後の方に話を持っていきたいわけです。
 実際問題、実効性にも乏しいということは、今端的に幾つか聞いただけでも、結局は法務省の中だけで異動が行われるというだけの話でありまして、現場の職員と法務省の人権擁護局が異動するということ以上、以下ではないわけですね。
 そのことはもうはっきりしているわけで、そこで聞くんですが、実際、私がこの問題にこだわるのは、先ほど、独立性とおっしゃいました。高度な独立性を持っているのは三条委員会だ、その三条委員会のような高度な独立性を持った人権委員会をこしらえる法律をつくると、やはり相当な決意で法務省さんつくられた。そして今度、それを何とか通すために修正しましょうという話がいろいろとある。法務省さんが直接関知しているかしていないかは別にしても、例えば、全般について見直しをするという条項を追加したら何とかなるんではないかというお知恵を出しておられる先生方もいるとおっしゃっていましたが、普通、そんな高度な独立性を持った、独立性の高い委員会、そういう組織が、一回こしらえて、三年後か五年後か知りませんけれども、見直すんですよというような、そういう条項を最初から、立ち上げの段階でつけてないかぬような独立性の高い組織というのは、もしそんなものが追加されたら、法務省さんとしては非常に恥ずかしいことやと思いますけれども、いかがですか。恥ずかしいでしょう、それは。
吉戒政府参考人 先ほど来から申し上げておりますとおり、これは、法務省としては今の法案が最善のものと考えておりますけれども、与党の先生方の中には、いろいろな状況をお考えになって、早期成立のためのお知恵をお出しになっている方がいらっしゃるわけでございます。
 したがいまして、それは国会議員としてのお立場でのお話でございますから、これは、もちろん法案についていろいろな御議論をし、採決をされるのは委員会あるいは本会議でございますので、そこでの議論を踏まえれば、私どもはそれに従うのは当然のことではないかと思います。
植田委員 時間が来ましたから終わりますけれども、少なくとも、それは今のも優等生の答弁ですけれども、そもそもそんな議論が出てくるような素地を持った法案であること自体が、幾ら自信を持っていると皆さんがおっしゃられても、やはり欠陥法案だということが一つ。
 それと最後、メディア規制ですけれども、私は、メディアを規制するということと、人権侵害の被害の救済の対象にメディアの問題を対象とするということは、ここは混在して議論をしたらいかぬと思っております。
 なぜメディア規制法かと言うかというと、言ってみれば、官丸抱えの人権委員会によって特別救済の対象となるからそれはメディア規制なんであって、でも、メディアによるさまざまな人権侵害、個々いろいろな形で起こってきます。それをやはり救済していく責務は人権委員会が持たなければならない。だからこそ、政府から独立をした、公正中立な機関、実行力のある機関でなければならないわけなんですよ。
 だから、その意味で、メディア規制を凍結するかしないかというのは、これは実は本質的な問題ではない。むしろ、実効性と独立性というのがどこまで高度に体現されるかということに尽きるだろうと思いますが、時間が来ましたので、その後はまたいつかやる機会が、ない方がいいんですけれども、あったときに残しておきます。終わります。
     ――――◇―――――
山本委員長 次に、内閣提出、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案及び司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。
 順次趣旨の説明を聴取いたします。森山法務大臣。
    ―――――――――――――
 法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案
 司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
森山国務大臣 まず、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 我が国においては、国の規制の撤廃または緩和の一層の進展等の内外の社会経済情勢の変化に伴い、法及び司法の果たすべき役割がより重要なものとなり、多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる多数のすぐれた法曹が求められております。この法律案は、このような状況にかんがみ、法曹養成の基本理念並びに法曹養成のための中核的な教育機関としての法科大学院における教育の充実、法科大学院における教育と司法試験及び司法修習生の修習との有機的連携の確保に関する事項その他の基本となる事項を定めることにより、高度の専門的な能力及びすぐれた資質を有する多数の法曹の養成を図ることを目的とするものであります。
 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。
 第一に、法曹の養成は、国の機関、大学その他の法曹の養成に関係する機関の密接な連携のもとに、法科大学院において、入学者の適性の適確な評価及び多様性の確保に配慮した公平な入学者選抜を行い、少人数による密度の高い授業により、将来の法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を涵養するための理論的かつ実践的な教育を体系的に実施し、その上で厳格な成績評価及び修了認定を行うこととするとともに、法科大学院における教育との有機的連携のもとに、司法試験において、裁判官、検察官または弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかの判定を行うこととし、司法修習生の修習において、裁判官、検察官または弁護士としての実務に必要な能力を修得させることを基本として行われるものとしております。
 第二に、法曹の養成に関する国の責務について所要の規定を置くとともに、国または政府が必要な施策等を講じなければならないものとしております。
 第三に、法科大学院の教育の充実に関する大学の責務及び法科大学院の教育研究活動の状況についての適格認定について所要の規定を置いております。
 第四に、法務大臣及び文部科学大臣は、法科大学院における教育の充実及び法科大学院における教育と司法試験との有機的連携の確保を図るため、相互に協力しなければならないものとし、両大臣の関係について所要の規定を置いております。
 以上が、この法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
 次に、司法試験法及び裁判所法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。
 我が国においては、内外の社会経済情勢の変化に伴い、司法の果たすべき役割がより重要なものとなり、多様かつ広範な国民の要請にこたえることができる多数のすぐれた法曹が求められています。この法律案は、このような状況にかんがみ、法科大学院における教育と司法試験及び司法修習生の修習との有機的連携を図るため、司法試験について、法科大学院の課程を修了した者等にその受験資格を認めることとし、試験の方法、試験科目等を改めるほか、試験の実施等を所掌する機関として法曹及び学識経験者により構成される司法試験委員会を設置する等の措置を講ずるとともに、司法修習生の修習について、その期間を少なくとも一年とすることを目的とするものであります。
 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。
 第一に、司法試験は、法科大学院課程における教育及び司法修習生の修習との有機的連携のもとに、短答式及び論文式による筆記試験により行うものとし、試験科目等について所要の規定を置いております。
 第二に、司法試験の受験資格について、法科大学院課程を修了した者及び司法試験予備試験合格者が司法試験を受けることができるものとした上で、受験期間、受験回数等について所要の規定を置いております。
 第三に、司法試験予備試験について、法科大学院課程の修了者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的として行うものとし、試験科目等について所要の規定を置いております。
 第四に、法務省に、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験を有する者をもって組織される司法試験委員会を置き、司法試験及び司法試験予備試験を実施するほか、法務大臣の諮問に応じ、司法試験及び予備試験の実施に関する重要事項の調査審議などを行うものとするとともに、司法試験委員会に、司法試験及び司法試験予備試験における問題の作成及び採点並びに合格者の判定を行わせるため、司法試験考査委員及び司法試験予備試験考査委員を置くものとし、所掌事務等について所要の規定を置いております。
 第五に、司法修習生の修習期間を少なくとも一年に短縮するものとしております。
 以上が、この法律案の趣旨であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。
山本委員長 これにて両案の趣旨の説明は終わりました。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後二時九分散会


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