衆議院

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第15号 平成14年12月6日(金曜日)

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平成十四年十二月六日(金曜日)
    午前十時三十二分開議
 出席委員
   委員長 山本 有二君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 園田 博之君 理事 棚橋 泰文君
   理事 加藤 公一君 理事 山花 郁夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 石原健太郎君
      岩倉 博文君    太田 誠一君
      倉田 雅年君    左藤  章君
      笹川  堯君    下村 博文君
      中川 昭一君    中野  清君
      平沢 勝栄君    保利 耕輔君
      増原 義剛君    松島みどり君
      保岡 興治君    柳本 卓治君
      吉川 貴盛君    吉田 幸弘君
      吉野 正芳君    金田 誠一君
      鎌田さゆり君    仙谷 由人君
      津川 祥吾君    手塚 仁雄君
      日野 市朗君    平岡 秀夫君
      水島 広子君    山内  功君
      山井 和則君    石井 啓一君
      黄川田 徹君    土田 龍司君
      石井 郁子君    木島日出夫君
      中林よし子君    阿部 知子君
      植田 至紀君    徳田 虎雄君
    …………………………………
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        増田 敏男君
   厚生労働副大臣      木村 義雄君
   法務大臣政務官      中野  清君
   衆議院法制局第二部長   柏熊  治君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君
   政府参考人
   (厚生労働省職業安定局高
   齢・障害者雇用対策部長) 太田 俊明君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    上田  茂君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
    ―――――――――――――
委員の異動
十二月四日
 辞任         補欠選任
  中川 昭一君     林 省之介君
  不破 哲三君     藤木 洋子君
  植田 至紀君     原  陽子君
同日
 辞任         補欠選任
  林 省之介君     中川 昭一君
  藤木 洋子君     不破 哲三君
  原  陽子君     植田 至紀君
同月六日
 辞任         補欠選任
  中川 昭一君     吉田 幸弘君
  松島みどり君     岩倉 博文君
  柳本 卓治君     増原 義剛君
  仙谷 由人君     金田 誠一君
  日野 市朗君     山井 和則君
  山内  功君     津川 祥吾君
  藤島 正之君     土田 龍司君
  不破 哲三君     石井 郁子君
  植田 至紀君     阿部 知子君
同日
 辞任         補欠選任
  岩倉 博文君     松島みどり君
  増原 義剛君     柳本 卓治君
  吉田 幸弘君     中川 昭一君
  金田 誠一君     手塚 仁雄君
  津川 祥吾君     山内  功君
  山井 和則君     日野 市朗君
  土田 龍司君     黄川田 徹君
  石井 郁子君     中林よし子君
  阿部 知子君     植田 至紀君
同日
 辞任         補欠選任
  手塚 仁雄君     仙谷 由人君
  黄川田 徹君     藤島 正之君
  中林よし子君     不破 哲三君
    ―――――――――――――
十二月四日
 犯罪捜査のための通信傍受法の廃止に関する請願(阿部知子君紹介)(第六九六号)
 同(石井一君紹介)(第六九七号)
 同(鳩山由紀夫君紹介)(第六九八号)
 同(植田至紀君紹介)(第七五二号)
 同(木島日出夫君紹介)(第七五三号)
 同(不破哲三君紹介)(第七五四号)
 同(吉井英勝君紹介)(第七五五号)
 同(水島広子君紹介)(第七九六号)
 民法改正における選択的夫婦別氏制度導入に関する請願(奥山茂彦君紹介)(第六九九号)
 借地借家法の改悪反対、定期借家制度の廃止に関する請願(大幡基夫君紹介)(第七四八号)
 同(木島日出夫君紹介)(第七四九号)
 同(瀬古由起子君紹介)(第七五〇号)
 同(中林よし子君紹介)(第七五一号)
同月六日
 民法改正における選択的夫婦別氏制度導入に関する請願(野中広務君紹介)(第九二六号)
 犯罪捜査のための通信傍受法の廃止に関する請願(穀田恵二君紹介)(第九二七号)
 同(山花郁夫君紹介)(第九六五号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 政府参考人出頭要求に関する件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出、第百五十四回国会閣法第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、第百五十四回国会衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、第百五十四回国会衆法第二〇号)
 戸籍法の一部を改正する法律案起草の件


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     ――――◇―――――
山本委員長 これより会議を開きます。
 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。
 戸籍法の一部を改正する法律案起草の件について議事を進めます。
 本件につきまして、佐藤剛男君外五名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党、自由党、日本共産党及び社会民主党・市民連合の六派共同提案により、お手元に配付いたしておりますとおりの戸籍法の一部を改正する法律案の草案を成案とし、本委員会提出の法律案として決定すべしとの動議が提出されております。
 提出者から趣旨の説明を求めます。鎌田さゆり君。
鎌田委員 戸籍法の一部を改正する法律案の起草案につきまして、提案者を代表して、その趣旨及び概要を御説明申し上げます。
 この起草案は、虚偽の届け出等によって不実の記載がされ、かつ、その記載につき訂正がされた戸籍等について、戸籍における身分関係の登録及び公証の機能をより十全なものとするとともに、不実の記載等の痕跡のない戸籍の再製を求める国民の要請にこたえるため、申し出による戸籍の再製の制度を創設することを目的とするものであります。
 以下、起草案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。
 第一に、虚偽の届け出等によって記載がされ、かつ、その記載につき訂正がされた戸籍について、当該戸籍に記載されている者から、訂正に係る事項の記載のない戸籍の再製の申し出があったときは、法務大臣は、その再製について必要な処分を指示するものとしております。
 第二に、市町村長が記載をするに当たって文字の訂正、追加または削除をした戸籍について、当該戸籍に記載されている者から、訂正、追加または削除に係る事項の記載のない戸籍の再製の申し出があったときも、法務大臣は、その再製について必要な処分を指示するものとしております。
 以上が、本起草案の趣旨及び概要でございます。
 何とぞ速やかに御賛成くださいますようお願い申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
 戸籍法の一部を改正する法律案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
山本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 お諮りいたします。
 戸籍法の一部を改正する法律案につきましては、お手元に配付の草案を委員会の成案と決定し、これを委員会提出法律案と決するに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
山本委員長 起立総員。よって、そのように決しました。
 なお、本法律案の提出手続等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
     ――――◇―――――
山本委員長 次に、第百五十四回国会、内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、これに対する塩崎恭久君外二名提出の修正案、第百五十四回国会、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに第百五十四回国会、水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案及び修正案を議題といたします。
 この際、お諮りいたします。
 各案及び修正案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長樋渡利秋君、保護局長横田尤孝君、人権擁護局長吉戒修一君、厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部長太田俊明君及び社会・援護局障害保健福祉部長上田茂君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
山本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。金田誠一君。
金田(誠)委員 おはようございます。民主党の金田誠一でございます。
 まず第一点目は、去る七月十二日の連合審査の私の質問に際しての積み残し事項について、引き続き質問をしたいと思います。
 このとき要求した資料を昨日ちょうだいをいたしました。七月からですから、五カ月ほどたったんだなと思っておりまして、大変お手数をおかけしましたこと、恐縮に存じます。この程度のものが五カ月もかかるのか、不思議に思いつつ受け取った次第でございます。
 この資料を拝見しますと、平成八年から十二年の五年間の累計で、対象者総数二千三十七、うち殺人等の重大な他害行為の前科前歴のある者二百四十、一一・七八%となってございます。また、重大な他害行為のほかに、その他の粗暴犯が五十四、その他の罪が二百七十四、これらすべて合計をしますと五百六十八となるわけでございます。二千三十七の対象者に対して五百六十八、二七・八八%となっております。
 ところが、両省の連名で提出された法案関係資料、これでございます、本家本元の議案でございますが、この法案関係資料の末尾についている資料には、五百六十八、二七・九%という数字はあるものの、二百四十、一一・七八%という数字はどこを探しても載ってございません。
 しかし、今回の法案は、重大な他害行為を犯した者を対象とする法案であることからすれば、より重要な数字は二百四十、一一・七八%であるはずでございます。この数字が隠されて、五百六十八、二七・八八%のみが公表されているということは、心神喪失者等の再犯率を意図的に高く見せかけようとしたものにほかなりません。極めて重大な問題であると思います。法務大臣は、当委員会に、国民に謝罪をすべきであると思います。
森山国務大臣 御指摘のような誤解を与えた結果になったとすれば、まことに申しわけなく、遺憾でございます。
 しかし、その真意を申し上げますと、法案関係資料としてお示しいたしたかったのは、統計の基準が異なりますので一概には比較はできませんが、心神喪失等の状態で殺人等の重大な他害行為を行った者の前科等の状況と、重大な他害行為を行って起訴、不起訴となったすべての者の前科等の状況との対比でございます。
 しかしながら、重大な他害行為に当たる罪で起訴、不起訴となったすべての者については、重大な他害行為に限定した前科の統計資料がございませんことから、心神喪失等の状態で殺人等の重大な他害行為を行った者につきましても、重大な他害行為の前科前歴に限定せずに記載したものでございます。
 なお、再犯率に関してのお尋ねでございましたが、御指摘の一一・七八%という数字は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の過去の重大な他害行為の前科前歴の割合でございまして、この数字は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者がその後重大な他害行為を行う割合という意味での再犯率ではございません。
 このような再犯率というものは、その統計的な調査に困難を伴うものではございますが、仮にこれが算定されたといたしましても、その後の措置入院等によりまして精神障害が改善したかどうかなどを考慮しないものとなってしまいますので、この点を御理解いただきたいと存じます。
金田(誠)委員 お認めいただけないようでございまして、大変残念でございます。
 重大な他害行為二百四十件、このほかに、その他の粗暴犯五十四、さらにその他の罪二百七十四まで加えた五百六十八、二七・八八%のみを公表したというのが問題でございます。二百四十、一一・七八%というのは数字として示されてもおりません。これがすなわち再犯率ではないということはよくわかるわけでございますが、再犯率を類推する上で極めて重要な数値でございます。二七・八八のみを公表して一一・七八をふせた、それが問題でございます。その程度のこともおわかりにならないようでは極めて残念でございます。
 次に、二点目の質問に移らせていただきます。第四十二条に係る修正案の意味についてでございます。
 提出者にお伺いをいたします。
 修正案が出ているということは、四十二条による入院、通院、その他の措置を決定する要件が当然この修正によって変更されるんだ、こう思うのが普通でございますが、先般来の答弁によりますと、そうでもないようでございます。言葉上は修正するが措置を決定する要件としては変更されるものではないというような御答弁をされているようでございますが、どちらなんでしょうか。この修正案によって措置を決定する要件が変更されるのかされないのか、明快にお答えをいただきたいと思います。
塩崎委員 これまで何回かお答えを申し上げているわけでありますけれども、今回の政府案の、「再び対象行為を行うおそれ」という要件については、いろいろな御批判があって、今回の修正をさせていただいたわけでございます。本人の精神障害を改善するための医療の必要性、今回の修正案によりまして、これが中心的な要件であることを明確にするとともに、そしてこのような医療の必要性の内容を限定いたしまして、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく社会に復帰できるよう配慮することが必要な者だけが対象となることを明確にするということによりまして、入院等の要件を明確化し、本制度の目的に即した限定的なものにしたということでございますので、今金田議員のおっしゃったように、変わっていないのじゃないかということは必ずしも当たっていないということだと思っております。
金田(誠)委員 今の御説明のその意味するところをお尋ねしているわけでございます。この四十二条によって、入院の決定、通院の決定、その他というふうに振り分けられるわけでございます。原案に基づいて振り分けられる振り分け方と修正案に基づいて振り分けられる振り分け方が同じなのか違うのか。これを端的に、同じなら同じ、違うなら違う、そのように答弁していただきたいと思います。
塩崎委員 端的に申し上げれば、異なるということでございます。
金田(誠)委員 どこがどういうふうに異なるのでしょうか。犯罪の状態あるいは病気の状態、社会復帰の可能性の状態、家族の状態、いろいろな要件があると思いますけれども、修正案によれば、どういう要件がどう異なるのでしょうか。
塩崎委員 政府案の要件は、再び対象行為を行うおそれの有無だけが要件になっておったわけでありまして、医療の必要性の有無については明記されていなかったということで、この点を特に明記しようということで、このような形で修正をさせていただいたわけでございます。
 したがいまして、これまで何度か答弁しておりますけれども、対象者の精神障害に、例えば治療可能性がなくて医療の必要性がない場合、それからこの法律による手厚い専門的な医療までは特に必要がないと認める場合、あるいは対象者の精神障害について単に漠然とした危険性のようなものを感じられるというものにすぎないような場合、そういったものが特に政府案の場合には含まれてしまうのではないのかということがあったので、そういうことではないということを明らかにするためにこのような形で要件を少し変えたということでございます。
金田(誠)委員 文字づらは変わっているわけです。それはもう読めばわかるわけでございます。しかし、その意味するところが変わっているのか変わっていないのかと。
 例えば、入院措置が決定される方がいらっしゃったとします。政府原案によって入院措置が決定される方で、修正案によっては入院にならない方があるということですね、今のおっしゃり方では。しかし、その逆もあるということでしょうか。政府原案では通院であった者が修正案によって入院になるということもあるということでしょうか。二点について。
塩崎委員 前段につきましては、そのとおりだと思います。
 後段については、そういうことではないということでございます。
金田(誠)委員 それでは、政府の原案で網をかぶせるところよりも、入院について言えば狭まっているということだと思いますが、どこがどう狭まったんでしょうか。
塩崎委員 それが、先ほど御答弁申し上げたように、政府案の場合には、例えば、漠然としたおそれがあるという、危険性のようなものが感じられるものの場合にもひょっとするとこれが取り込められてしまうかもわからないということであったり、それから、さっき申し上げたように、治療の可能性がなくて、そして医療の必要性がないというような場合とか、それから、繰り返して恐縮でありますけれども、この法律による手厚い専門的な医療までは特に必要ないといったようなケースにはこの法律が適用はされないということが出てくるという意味において、政府案よりも範囲が少し狭まった、限定的に明示をいたした、こういうつもりございます。
金田(誠)委員 実は、政府案の概念規定も非常に不明確でございます。恣意的に全部該当させることだって可能だと私は思うわけでございますけれども、それに対して狭まったということですから、政府案としてはどういう要件であれば入院になるのか。政府案としてはどういう具体例であれば、具体的に、犯罪の状況、あるいはどういう項目があるかわかりませんよ、今まで示されていないわけですから、あるいは社会復帰の可能性、家族の状況とか、いろいろあるのかもしれませんが、それは示されておりません。そういう政府案によって入院決定というふうにされる状況の方はどういう方なのか、それが修正案によって入院でなくなるというのは、どういう方がそこに具体的な違いが生ずるのかをきちんとお示しいただけませんでしょうか。
 こういう場合もありこういう場合もあるでは、きちんとした概念規定とは言えないと思います。これをきちんと文書に整理して、政府案によればこうなる、修正案によれば具体的にはこうなるんですと。今までの説明ではその違いがわかりませんよ。きちんと説明できる、ペーパーに整理をして出していただけませんか。
漆原委員 今の質問にお答えしたいと思うんですが、まず政府案では、先ほど塩崎議員がおっしゃっていましたが、「再び対象行為を行うおそれ」というのが中心的な要件になっております。それに対して、この修正案の方では、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、」というのが一つの要件になっておりますね。だから、対象者の精神障害に治療可能性がない、医療の必要がない、こういう場合には、政府案によれば、再犯のおそれがあるということで対象になる可能性がある、しかし、修正案によれば、入院の可能性はない。これは明白でございます。
 また、さらに、この法律による手厚い専門的な医療までは特に必要としない場合があると思います。その場合でも、政府案によれば、再犯の可能性があるということであれば入院の対象になり得る、しかし、修正案の方では入院の対象にならない。これは明白な違いがあると思っております。
 もう一つ、先ほど塩崎提案者も言っておられましたが、政府案では、漠然とした危険性、再犯のおそれ、これが拡大解釈をされるおそれがある。したがって、これを拡大解釈されないように、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要性の有無を要件にしたわけであります。
 もう一つは、政府案では、再び対象行為を行うおそれがあるとして入院の決定がされると考えられる場合でも、この修正案では、対象者に十分な看護者がいるなど、その生活環境等にかんがみて社会復帰の妨げとならないと認められる場合には入院の決定は行われない。
 私は、明白な基準があるというふうに思います。
金田(誠)委員 聞いていて、何が明白なのか全くわかりません。というのも、もともとの政府案自体がわからないからなんです。どうにでもなる政府案だからです。それに対していろいろおっしゃっても、片や、どうにでもなるものですから、それに対してどうだと言っても特定しようがない。これが原案であり修正案である、その本質だと思います。
 改めてお伺いしますが、政府案として、具体的に、こういう、こういう、こういう事例であれば入院になる、こういう、こういう、こういうことであれば入院にはならない、通院だ、こういうのを幾つかの例で示していただけませんか。それに対して、提出者の方は、原案ではこうだけれども、修正案ではこうなるんだ、この違いを、御答弁では明白だとおっしゃったわけですから、明白にちょっと書いていただけませんか。書けないような状態なら、それはそれで結構です。書けないと言ってください。政府と提出者と、両方に聞いています。書けなきゃ書けないと言ってください。書けないようなものを出したんですと言ってください。
漆原委員 この法律の要件でございますから……(金田(誠)委員「具体的に」と呼ぶ)いやいや、私は、この要件で十分判断できるというふうに思っております。
金田(誠)委員 政府はどうですか、原案について。――大体、どっちが答えるかもわからない。――大臣、答えてください。何で刑事局長が答えるんですか。刑事局長が医学の知識でもあるんですか。
山本委員長 樋渡刑事局長。
樋渡政府参考人 政府案の要件は、心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれでございまして、その考慮の要素は、精神障害の類型、病状等、三十七条第二項に列挙していることでございます。
 どのような場合に入院決定が行われるかということにつきましては、裁判所がさまざまな事実を考慮して決定するものでございまして、一概にお答えできるものではないと思っております。
金田(誠)委員 それでは確認をしたいと思います。
 具体的にこうした事例の場合は入院措置になりますよ、そこまでいかない、この程度であれば通院になりますよというような具体例を、原案について幾つか、修正案について幾つか示してくれということで申し上げてあるわけですが、それについては出せないということを政府、提出者、それぞれおっしゃっている。書いたものにはできないということを確認してよろしいでしょうか、政府と提出者。出せるか出せないかでいいです。
漆原委員 何度も言っていますように、明白な基準を提示しておりますので、これに該当するかどうかの判断は具体的事案によって異なるというふうに思います。
森山国務大臣 先ほど刑事局長から申し上げたとおりでございまして、個別のケースについてここで申し上げるということはいたしかねるわけでございます。
金田(誠)委員 例えばこういう場合ということさえも示せない、ずさんな法案だということがはっきりしたと思います。
 次に、質問の三点目に移らせていただきたいと思います。
 第四十二条「入院等の決定」という項目でございますが、この四十二条の意味についてお尋ねをしたいと思います。
 この条項では、対象者は入院、通院、その他のいずれかの決定がなされることになるわけでございます。しかし、それがどういう数値になるかは、前回の連合審査で再三質問したにもかかわらず、解明されませんでした。改めて質問をしたいと思います。
 対象者は過去五年間で二千三十七名でございますから、五で割りますと年間約四百名ということになります。このうち、入院と決定される方はどの程度と想定されておりますでしょうか。また、その根拠は何でしょうか。法務省、厚生労働省、それぞれからお答えいただきたいと思います。
樋渡政府参考人 何度も繰り返して恐縮でございますけれども、入院等の決定は、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が、個々の事件に応じ、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とするとともに、同条第三項の意見及び対象者の生活環境をも考慮して判断するものでございますから、検察官による申し立てがなされたもののうち、入院等の決定がなされるものの割合について確定的なことを述べることは困難であると思っております。
上田政府参考人 入院等の決定は、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が、個々の事件に応じ、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とするとともに、同条第三項の意見及び対象者の生活環境をも考慮して判断するものでありますから、入院等の決定がなされるものの割合について確定的なことを申し上げるのは困難であると考えております。
 なお、厚生労働省の調査におきましては、平成十二年度中に精神保健福祉法に基づき検察官から都道府県知事に対し通報がなされた事例で重大な他害行為に該当するケース約三百四件のうち、六四・五%が措置入院となっています。本制度による処遇を受けることになる者の数を想定する場合においては、このような数値も一つの参考となるものと考えております。
金田(誠)委員 何の参考になるんですか。入院措置される方が六四・五になるというんですか。そうではないんでしょう。そうも言えないんだよ。ただの数字を挙げて、ただ参考になると言っているだけで、何の根拠もない数字をおっしゃっているだけですよ。これからの想定、シミュレーションも全くされていない。シミュレーションもせずに、よくもまあこういう人権を拘束する法案が出せるものだ。余りにも無責任ではないですか。
 それでは、別な角度からまた質問していきます。
 前回の連合審査で、私は、例えば、平成十二年の対象者は四百十七人であるから、この方々について本法案を適用されるとすればどのように措置されることになるか、資料の提出をお願いしたところです。今後の問題としては、皆さんおっしゃるように、シミュレーションもしていない。これまたひどい話だと思いますが、今後のシミュレーションもしていないんだったら、過去の平成十二年の四百十七人の記録をたどれば、新法を適用すればどうなるか、おのずと明らかじゃないですか。この資料の提出をお願いしたわけでございますが、検討の結果いかがですか。
樋渡政府参考人 入院等の決定は、処遇事件を取り扱う裁判所の合議体が、個々の事件に応じ、三十七条第一項に規定する鑑定を基礎とするとともに、同条三項の意見及び対象者の生活環境をも考慮して判断するものでございます。
 しかしながら、御指摘のような過去の事件に関する資料といたしましては、刑事事件記録しかございませんで、本制度が予定するような鑑定が実施されていないということ、刑事事件の精神鑑定は主に犯行当時の責任能力に関するものでございまして、本制度上の医療の必要性を判断していないということ、今後の医療の必要性やその内容を判断するために必要な資料が十分でないこと等の問題がございまして、本法案における処遇を推測することは困難であると思っております。
金田(誠)委員 過去に実際に起こった触法の事案について、新法を当てはめればどういう決定がなされるのかさえ示されない状況とよくわかりましたけれども、そんなことでいいんですか、こういう法案を提出する際に。両大臣に後でお聞きをしますから、よく御判断をしておいていただきたいと思います。
 これは、余りといえば余りではないですか。これさえも出ないとすれば、さらに百歩譲って、同じく平成十二年の対象者四百十七人について、現行法上どのように措置されたかは、つかめるんではないですか。新しくつくろうという法律を当てはめたらどうなるかという数字は出せないというんであれば、今現在の法律で、この触法の方々、大変な問題だと皆さんおっしゃって法案をつくっているわけですよ。つくるからには実態ぐらいはつかんでおられると、当然のこととして推測をいたします。現行法でどのように措置されたのか、明らかになっていると私は思います。
 例えば、措置入院、こういう方が何人、それはどういう方が対象になったのか。通院ということになった方は何人で、それはどういう方なのか。こういう数字を出していただきたいと思います。四百十七人、現行法で、精神保健福祉法ですよ、これでどう措置をされたかお示しをいただきたい。
山本委員長 樋渡刑事局長。
金田(誠)委員 精神保健福祉法で聞いているんですよ。何を言っているんですか。委員長、何で刑事局長なんですか。精神保健福祉法でどう措置されたか聞いているんじゃないですか。
山本委員長 質問者は、樋渡刑事局長の答弁を聞いてからもう一度再質問してください。
樋渡政府参考人 調査によりますと、平成十二年におきまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者四百十七名のうち、精神保健福祉法の措置入院となった者は二百七十名、これは、四百十七名全体の約六四・七%に当たります。
 これを重大な他害行為の罪名別に見ますと、殺人罪の者が九十四名、強盗罪の者が十八名、傷害罪の者が七十八名、傷害致死罪の者が十名、強姦・強制わいせつ罪の者が六名、放火罪の者が六十四名でございます。
 そのほか、四百十七名のうち医療保護入院が四十名、これは約九・六%に当たります。通院治療が八名、これは約一・九%に当たりますが、となっております。
金田(誠)委員 この数字から、措置入院をされた方六四・七%ということでございますけれども、これは自傷他害という概念に当てはめてやったわけですね。
 これに対して、今度は、原案、修正案それぞれの対応がなされる。これは、では追っかけることができるんではないですか。措置入院されたカルテも残っているんではないですか。先ほど申し上げた資料をつくれるんではないですか。
 まず、この四百十七名について、それぞれ措置された状況、具体的にどういう状況だったのかも含めて、現行法による措置の中身のわかる資料の御提出を要求したいと思います。
樋渡政府参考人 何度もで恐縮でございますけれども、先ほど申し上げましたように、これは刑事事件の記録しかございませんでして、本制度が予定するような鑑定が実施されておりません。
 この刑事事件記録によります鑑定は、当時責任能力があったかどうかという点に絞っての鑑定でございますので、これからのどういう治療で回復していただけるのかというような観点がわかる資料がございませんので、それでつくれないということを申し上げておるわけであります。
金田(誠)委員 この平成十二年度の対象者四百十七名については、それぞれ精神保健福祉法でどういう取り扱いがされたかは掌握をしているんだということですね、その結果はわかっていると。
 そうしたら、入院なら入院、通院なら通院すれば、その病院にカルテはあるんではないですか。これは、患者の同意というのは本来当然必要だと思いますけれども、そうした御同意をいただける方もいらっしゃると僕は思います。これほど重要な法案の審議に際してですから。過去の事例、措置入院になってどういう医療が施されて、どういう形で退院をして、現在どういう状況にあるのか、こういうものをきちんとつかんだ上で、その不足分を補うというのが新法であるはずですよ、本来。
 先ほど、これについてどう措置されることになるかということは出せないということでございましたけれども、どう措置されたかはきちんとわかると。これから考えれば、今後のことだってわかるんではないかと思います。そこまでわかっているんであれば、今後のことだってわかるんではないか。
 どうですか。まず、それでは、今後のことがわかるかどうかは別にして、四百十七名の現行法による措置がどうされたのか、これについてはっきりわかる書いたものを出してくださいよ。今口頭で言われましたけれども、メモしながらこの場で判断しろといったって無理ですから、きちんと、五カ月かかったペーパーもこの間ありましたけれども、これは五カ月もかからないでしょう。五分もあればできるんじゃないですか。
上田政府参考人 先ほど刑事局長の方から、措置入院患者数につきましてはお話しされたとおりでありまして、ただ、議員御指摘の、それぞれ実際に一人一人の状況については、具体的な固有名詞、カルテ……(金田(誠)委員「固有名詞なんて言っていませんよ。冗談じゃないよ」と呼ぶ)いえ、ですから、そういった状況が把握できていない中での調査は難しいというふうに考えております。
山本委員長 金田君。御質問、もう一回。
金田(誠)委員 いやいや、今の資料を出してくれと言っただけの話ですよ。答えてくださいよ。
山本委員長 再度、もう一度、御要求いただけませんか。
金田(誠)委員 時間がないから、もったいないですよ。刑事局長の言った数字と、さらにまだそれに付随したものがあるのなら、それを紙に出してくださいと言っているんですよ。
樋渡政府参考人 数字の中身は先ほど申し上げたとおりでございまして、この資料を要求されるのであれば、今お出しできますが。
金田(誠)委員 お願いします。
 そういうことで、どのように措置されたかは押さえておられると。出す資料には固有名詞はなくても、その数字をつくる元データには固有名詞はあるはずですね。それをたどれば、どういう現行法の対応がされて、それが不十分だというんでしょう、それが不十分でそしてこの法律が必要だというんだから、現行法でどこがどう不十分で、どういう医療なりをやればこういう状態になるんです、こういう調査をして、どういう法律が必要かを議論しませんか。そこまでわかっているのであれば、たどれるでしょう。
 両大臣、いかがですか。これはやろうと思えばできることです。そして、本来、こういうとんでもない法律をつくるという以前に、現行法による措置が不十分であってこれが必要なんだという根拠を示すのが当たり前のことではないですか。それも全く出されずに、新しい法律によってどう措置されるのかの説明もできずに、シミュレーションも行わずにやるなんというのは、とんでもないこと。最低でも、四百十七名の行き先はわかるというんですから、それをたどって、わかるところまで調査しましょうよ。
 その上で、不備があるのならどういう不備があるのかを、お互い共通の認識のもとに、あなた方だって認識ないんでしょう、今の話からすると。四百十七名が、どこが不備だったかというのは、認識ないわけでしょう。承知をしていないわけでしょう。四百十七名の処遇が、具体的にどういう不足があるのか、これを承知しておらない、厚生労働大臣、法務大臣、そうでしょう。それをまずお認めいただいて、そうであるならば、たどれるだけたどって、共通の認識のもとに、新法はどうあるべきかという議論をしましょうよ。
 お二人に、それぞれお答えいただきたいと思います。
坂口国務大臣 今御指摘になりました、過去の、例えば平成十二年なら十二年におきますところの措置入院について、それがどういう経過で措置入院になったかということは、これは調査をすればわかることだというふうに私は思います。
 ただし、本法律というのは今回初めて行うわけでありますから、本法案に基づいて判断をしたときにどうかということがそこからわかるかどうかは、なかなか難しいところだというふうに思いますが、措置入院についての過去のデータというのは、これはやはり出るだろうというふうに思います。
山本委員長 森山法務大臣。
金田(誠)委員 まあ、いいですよ。同じ答弁になると思いますので。
 その場合、それをたどれるだけたどりましょうよ。本法案によってどうなるかは、確かに難しいかもしれません。しかし、現実にどういう処遇をされて、何が不備なのかというのはわかるはずですよ。それもわからないままに法律を出すこと自体が間違っていますよ。
 大臣、措置入院になった経過はわかると、その後どうなったかもわかるわけですよ。それをやってくれませんか。
坂口国務大臣 それは、過去をたどればわかる話でございますから、それはでき得るというふうに思います。
金田(誠)委員 そのデータが、半年かかるか、一年かかるか、その間、この法案の審議は待ったっていいんじゃないですか。それをきちっと精査した上で、本当にどんな新法が必要なのか、そういう取り扱いをぜひ御決断していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
山本委員長 どなたに。
金田(誠)委員 両大臣。どっちが判断するんですか、そういうことは。そんなデータもないのに出すのはおかしいですよ。――時計をとめてくださいよ。委員長、私、まだ質問があるんですよ。時間をとめてくださいよ、私の持ち時間ですから。そんな無理なことを言っているわけではないんですから、委員長、時間をとめてください。
山本委員長 もうすぐ答弁ですから、ちょっと待ってください。
金田(誠)委員 頼みますよ。私、まだ質問があるんですから。
坂口国務大臣 先ほど申しましたように、そのデータは出るというふうに私は思います。
 これは、法務省とも御相談を申し上げなければならないことでございますから、厚生労働省単独でできることではございませんので、それは御相談を申し上げさせていただいて、過去のデータをどうたどるかということは可能である。それはやらせていただくことはでき得るというふうに思っておりますし、そこは御相談をさせていただきたいというふうに思います。しかし、その問題があるからすべてそれまで待てというのではない、私はそう思っております。
山本委員長 森山法務大臣。
金田(誠)委員 同じ答弁でしょう。いや、時間がないものですから、ちょっと、済みません。もう、あと一分しかないものですから。恐縮です。
 やはり、もう一度両大臣できちっと相談をしていただきたいと思います。
 そういう、本当の基礎的なデータがないということはおかしいですよ。僕はためにする議論をしているわけではないんです。だから、納得されていないわけですよ、関連する皆様方が。政治というのはやはり納得の努力をするのが当然のことではないですか。ぜひひとつ、両大臣で御相談をしていただきたい。
 それについて、両大臣、まだ、今回の法案の適用になるかもしれない患者団体の方には直接お目にかかっていないそうですね、お二人とも。精神障害者の置かれた状況、病院による処遇とはどういうことなのか、社会の中でどういう目で見られて、経済的、社会的あるいは人間関係の中でどういう立場に置かれているのか、お二人に直接耳で聞いていただきたいと思います。大臣室でもどこでも、そんなに、大集団を前にやれとは言いません、三人でも五人でもいいと思います。ぜひ当事者の話を聞いていただきたい。これは、大臣それぞれに簡潔に御答弁をいただきたいと思います。
森山国務大臣 先生が先ほど来おっしゃっております問題について、調査できるものはもちろんいたしたいと思いますし、またいろいろな方の御意見も十分聞かせていただきたい。既にかなり聞かせていただいたつもりでございますが、今後とも、そういうつもりで対処してまいりたいと思います。
 この法案は、例えば過去一年とかいうような具体的な問題だけではなくて、長い間の大変難しい問題、そしてさらには、日本における精神医療の内容の充実向上というようなことを考えて両省で検討してまいったものでございますので、ぜひ一歩でもその状況を前進させるために、御審議をいただいて、一刻も早く成立させていただくようによろしくお願いしたいと思います。
坂口国務大臣 今、金田議員がおっしゃったのは、一般的な精神病の皆さん方の御意見といいますか、そういうことのようにお聞きをいたしました。それはお聞きをすることを決して拒否するものではございませんし、お会いさせていただくというふうに思います。
 ただ、もちろん私は、過去にも精神病を病む皆さん方とは何度もお会いをしたことがございますから、どういう立場に置かれておみえになるかということにつきましては存じているつもりでございます。しかし、この法律につきましてお話をしたわけではございません。
金田(誠)委員 そういう社会的な状況に置かれている方々が、この法律によってどういうことになるのか、この法律をどう認識し、どう受けとめておられるのか、本来、そうした方々が望む、不幸にも犯罪を犯してしまった場合の処遇はどうあるべきと考えておられるのか、それらについて、法案を提出するに当たって直接当事者から事情聴取もされていないということは、データがないということと同等、シミュレーションがないということと同様に、私は、法案策定作業における重大な瑕疵がある、こう言わざるを得ないわけでございます。
 これは無理がある話でしょうか。これほどの法案を準備する際に、過去の状況、実態、法を適用した場合のシミュレーション、そして当事者の声、この最も大切な部分が欠落した上での法案は、審議、採決をするに値しない欠陥のある法案だということを両大臣、よく認識をしていただいて、お二人とも政治家でございますから、修正案を出された方々も含めて、ぜひ政治の立場での御決断をいただきたい。採決はすべきではない、しかるべく私が前段申し上げました扱いをぜひしていただきたいと強く要請をして、終わります。
山本委員長 次に、山井和則君。
山井委員 今の金田議員に対する答弁を聞いておりましても、余りにもシミュレーションやデータがなさ過ぎる。そういう中でこんなに安易に、強制的に患者さんを隔離する法案を提出して、またそれを通そうとする、その無責任さというものに私は本当にあきれております。
 そもそも、なぜ日本が欧米と大きくかけ離れて三十三万人もの精神障害者の方々が精神病院に入院をされ、長期間隔離をされてしまっているのか。それはまさにライシャワー事件をきっかけとする隔離で何とかなるんじゃないかという安易な発想だった。しかし、一たんその列車は走り出したらとまらなくて、それから数十年たっても、一たん隔離した方々というのはなかなか社会に復帰できない。
 私は、今回の法案が、そのライシャワー事件と池田小学校が重なって思えてならないんです。森山法務大臣も認められましたように、池田小学校の宅間容疑者はこの法案の対象にはなりません。精神障害による犯行ではないということであります。にもかかわらず、そういう直接関係ない事件によって、また新たな隔離の法律を安易につくってしまう、そのことに私は非常に恐れを感じております。
 そこで、これからの四十五分間、それが安易でないというんであれば、きっちりとした明快な答弁、どれぐらいで社会復帰ができるのか、どのような方々が入院するのか、そして、一般医療、地域ケアシステム、人員配置の向上、そういうことをどういうふうにやっていくのか、そういう明白な答弁をお願いしたいと思います。
 まず、資料を配らせていただきました。これは、きのう、刑事局の方と厚生労働省の方に本当に遅くまでかかってつくっていただきました。
 まず、この一枚目、政府案の方を見ていただきたいと思います。要は、この心神喪失者、心神耗弱者が四百十七人おられる、平成十二年の時点ではこれだけおられた。それで、自傷他害のおそれがある。そして、措置入院をされている方がこの真ん中の方で、その中で、かつ、政府案の場合は、再犯のおそれがある方ということだったわけですね。
 それで、この裏に、塩崎議員を初めとする方々の修正案があって、この二ページ目、手持ちの資料を見ていただきますと、それはちょっと小さくなっているわけであります。
 塩崎議員、改めてお伺いしますが、この心神喪失、心神耗弱者で、かつ自傷他害のある者、この方々というのは大体何人ぐらいと年間想定されますでしょうか。もちろん、大体で結構です。
塩崎委員 ここの一枚目のチャートにあるように、心神喪失者、心神耗弱者は四百十七名であったという数字があるわけでありますが、今回の法律による対象者が一体何人になるのかというのは、正確にはよくわからないというところが正直なところであって、ここで概念図でお示しをしたわけでありますから、要件を満たす者がこの中に入るということで、特に数字を今明示せいといっても、なかなかそれは個別のケースだろうということだろうと思いますので、特に数字を挙げることは難しいと思っています。
山井委員 それから、坂口大臣にお伺いします。
 前回も答弁していただいているんですけれども、そのうち、措置入院されている方、心神喪失、心神耗弱、その方々のパーセンテージを考えると、この心神喪失者、心神耗弱者のうち、政府案の対象となる方は大体何人ぐらいだったんでしょうか、もともとの再犯のおそれというものは。
坂口国務大臣 措置入院をされる方の数、それ以内におさまるということだというふうに思います。
山井委員 そうしたら、塩崎議員、改めてお伺いしますが、この四百十七人のうち、措置入院を現在されている方というのは大体どれぐらいですか。
塩崎委員 これは、先ほど金田議員の質疑の中で出てまいりましたけれども、四百十七名のうち、措置入院をされた方々が二百七十名おられたということだと思います。
山井委員 そうしたら、この長い丸、卵形のところが大体二百七十名ぐらいということが今明らかになってきたわけですけれども、その中で、問題は、この二百七十の中の、要は、政府案では非常にあいまいだったということをおっしゃっておられましたよね。それで、この点線になっております。それが修正案で丸になった。要は、問題はここなんですね。今までの心神喪失、心神耗弱の中で措置入院をされていた、その中で、かつ今回の政府案の対象になるのが大体どれぐらいの割合なのか。そのことを、塩崎議員、御答弁願います。
塩崎委員 先ほど来答弁にもありましたけれども、これまでの措置入院の際の鑑定等での見方と、今回の法律に基づく手厚い医療を受けるかどうかの判断をするというのは、少し判断基準が変わってくるわけでありますから、具体的な数字を今どのくらいかと言われると、なかなか私どもも難しいな、腰だめの数字もちょっと申し上げにくいなという感じがいたします。
山井委員 そうしたら、聞き方を変えますが、自傷他害のある者という中で、この修正案の、この今回の法案の対象にならない人というのはどういう方ですか。そういう聞き方をします。
塩崎委員 今回修正案を出してからのさまざまな議論の中で、だんだんに、どういう方々が対象になるのかということを何度か御説明しながら明らかにしているつもりでございますが、先ほど金田議員からは余り御評価をいただけなかったので大変残念でありますけれども、ここに、山井議員の御指示でつくったもので、山井議員とも議論させていただいて、今回の修正で一体この対象は広がるのか狭まるのかということで、山井議員は広くなるんじゃないか、こういう御懸念を持っていたと思うわけであります。
 繰り返し私たちが答弁してきたのは、そうじゃない、むしろ今回、一ページ目のこのポンチ絵と二枚目のポンチ絵の違いは、政府案のところを、実線であったものを点線に変えているわけであります。この意味合いは、何度も言っているように、ただ漠然とした危険性がある人まで同様の行為を行うのではないかというおそれを判断されて取り込まれてしまうかもわからないということであったり、あるいは特に治療の必要性がないのにその対象になってしまったりとか、あるいはレッテル張りになってしまうような形になるということで、この範囲がはっきりしないじゃないかという御批判を明示する意味でこれを点線にさせていただいたわけであります。今回、私たちの修正案というのは、その中だ、つまり、御心配の、広がるんじゃないかというのと違って、いや、むしろ政府案よりは対象が縮まるというつもりで書いたわけであります。
 では、この薄皮の中は何だということになると、先ほど来御答弁申し上げているように、例えば、対象者の精神障害に治療可能性がなくて医療の必要性がない場合とか、あるいはこの法律による手厚い専門的な医療までは特に必要がないという場合、あるいはこの対象者の精神障害について、先ほど来申し上げているように、単に漠然とした危険性のようなものだけを感じる、そんな場合にも、今までは入っていたけれどもそうじゃないということであります。
 また、政府案では再び対象行為を行うおそれがあるとして入院が決定されると考えられる場合でも、対象者に十分な看護者がいるとか、あるいはその生活環境が、精神障害者にとって社会復帰にふさわしいサポートがいるというような、そういうことを考えると、社会復帰の妨げにはならない環境の中で生活できるというような場合には、この法律に定める手厚い医療の対象にはならないということがあり得るという意味で、今までの政府案の対象と少し中が小さくなるということでございます。
山井委員 そこが定量的にはさっぱりわからない。要は、医療の必要と認めるものだけでは、本当にこれは広がってしまう危険性があるわけですね。だから、そこが私は非常に納得できない。
 かつ、その次の質問に移りますが、改めて坂口大臣にお伺いしたいんですが、平均入院はどれぐらいをめどかということに対して、前回、同様の患者の方は、措置入院では半数が半年ぐらいで退院ということをおっしゃっておられます。このことに関して、政策目標ですね、五年後に見直しをするということですけれども、平均何年になるのかわからないという答弁でした。でも、一つの目安、方向性としたら、大体どれぐらいこの専用病棟の入院を考えておられますか。坂口大臣、お願いします。
坂口国務大臣 これは、現在の段階でそれを何年ということを言うのはなかなか難しいというふうに思いますので、前回にも申し上げたとおり、過去で参考になるデータを申し上げたわけでございます。したがいまして、その過去のデータからいきますならば、そんなに長くならないのではないかというふうに私は思っております。
 問題は、急性期と申しますか、早く治療を行えば、私はうんと短くなる。しかし、精神障害というものを長く放置するということになりますと、これは治療が非常に長くなってしまいますから、そこは医療の範囲の中の話であって、私は、よくそこは検討しなければならないというふうに思います。
 ですから、問題は、先生も御指摘になっておりますように、精神医療というものを、今回のこの法律だけの範囲ではなくて、やはり全体に高めていくということは大事なことでありまして、そして、初期の段階でできる限り治療をしていくということがそもそも一番基礎的な問題として大事なんだろうというふうに思いますけれども、犯罪を犯した人たち、この人たちにおきましても、そうした病状というものによってこれは違うわけでありますから、それを今、平均値でどれだけ出せということを言われましても、そこは出しにくい。
 先ほどからの議論にもありましたけれども、この他害行為を行った人が、みずからの行為についての認識を高めるということが大事でありますし、また、みずからを制御することを促すということが大事でありまして、それは普通の精神科におきます治療とは異なっているところだというふうに思います。
 先ほども金田議員の方からもお話がございましたが、ではどういう人を選ぶのかということ。それは、具体的には、その判断基準というものをやはりつくっていかなければならないというふうに思います。措置入院につきましてもそれはつくられているわけでありますから、そうしたものをつくっていかなければならないというふうに思いますが、突き詰めていけば、やはり、みずから行った行為についての認識というものができてきているかどうか、そしてまた、みずからを制御する能力が生まれてきているかどうかといったことが、その治療の、治療と申しますか、入院の一つの判断になるだろうというふうに私は思っております。
山井委員 今おっしゃった答弁ですけれども、要は、そういうふうなモデルの病棟もつくってみたことがないわけですから、それが何年で退院できるかというのも、要はまだ、やってみないとわからないということですよね。そういう形でこの法案を通すこと自体が、私は非常に無責任だと思っております。
 措置入院で同様のケースでは、半年で半分が措置解除されているということですけれども、そういう答弁を前回もいただきましたが、その後、医療保護入院や任意入院になっている方も当然多いわけですね。措置を解除されたということは退院にはならないわけですから、そうしたら、いわゆる社会復帰、措置を解除されるのは半年で半分の方というのはわかりましたけれども、社会復帰されるまでにどれぐらい同様の患者の方はなっていたのか。坂口大臣、いかがですか。
坂口国務大臣 それは、現在の一般の精神病を患っている皆さん方のお話でしょうか。
山井委員 いえいえ、今回の法案の対象になるような同様の方が、前回の答弁で、半年で半分ぐらい措置解除になっているということだったんですけれども、措置を解除されてからも、まだ医療保護入院や任意入院で入院されている方が多いですよね。だから、そこも含めて、病院から退院されて社会復帰されたのはどれぐらいかということです。
坂口国務大臣 一つの指定病院に、できたと仮定しますと、そこに入っておみえになった皆さん方がその病院から違う病院に移られるというのは、いわゆる社会復帰をされたということとは私は違うと思うんですね。ですから、それはもう入れる必要はありません。それから、社会復帰をされてから後の問題というのは、これはもう、一般の患者さんと同じではないか。
 ただ、この法案の中にも書いてありますように、指定病院に入院をされた皆さん方につきましては、退院をされて、そして社会復帰されました後につきましても、いろいろと御相談に乗る、そういうことをしっかりやっていかないといけないというふうに思っております。
 ただ、この問題は、それでは一般の患者さんの場合には要らないのかというと、それはやはり同じように要るわけですよ。要るわけですが、特に他害行為等を行った皆さん方につきましては、その点を十分に御相談に乗っていかないといけないというふうに思っています。
山井委員 今聞きましたのは、措置解除された後も、任意入院や医療保護入院で長期間入院して、退院できていないのではないかということをお聞きしたわけですが、そうしたら、ほかの聞き方で聞きますと、この専用病棟から退院をされた後、通院措置になる方と、また新たな病院に医療保護入院や任意入院で入院される方もおられると思うんですよね。要は、今回の専用病棟を退院しても、ほかの病院に入院していたら、社会復帰にはなりませんよね。ということは、トータル、次の病院も含めた社会復帰というのは、それこそ何年ぐらいと考えておられるんですか、目標というか。
坂口国務大臣 そこはなかなか、ここで何年ということは言えないというふうに思いますが、一般の病院に入院されるということについても、現在、社会的入院ということが問題になっているわけでありますから、できる限りそれは地域で受け取るようにしないといけないというふうに思います。そのために、ひとつ全体のレベルアップを図っていこうというふうに申し上げているわけであります。
 今御指摘になりましたように、指定病院に入院をなすっていて、そこから出られて一度社会復帰をされて、また少し悪くなられたからほかの病院に入られるというケースは、それは私は起こり得るだろうと思うんです。一時的に入って、早目に入って、そしてコントロールをされるというふうなことはあり得るだろうというふうに思っておりますが、病気の内容にもよりますけれども、そういうことは当然起こり得ることだ。そのことも含めて、しかし、早くまた地域に帰られるように、病院にも努力をしてもらうということだろうと思うんです。
 だから、それを含めてどれだけということを今おっしゃったわけですけれども、そこはなかなか、それぞれの状況によって違いますから、申し上げることはできない。
山井委員 だから、通常国会からずっとこの議論をさせてもらっておりますが、今の答弁を聞いても、要は、この法案の対象者が専用病棟に入って、その後またほかの病院に行って、それで社会復帰をする、その社会復帰がまさにこの法案の目的ですよね。ところが、それが何年ぐらい先かはわかりませんという答弁なんですよ。やはり社会復帰を目的とする法案を出す以上は、目標というのが多少あると思うんです、五年後にこれを見直すわけですから。
 そこで、この専用病棟に入られた方が、結局、四、五年たってもやはり病院から出られなくて社会復帰できていなくてもオーケーだと考えるのか、いや、それはこの法案の趣旨じゃないと考えるのか。例えばどうですか、坂口大臣、社会復帰までに五年ぐらいだったら、長いんですか、短いと考えておられるんですか。大臣、いかがですか。
坂口国務大臣 現在の精神病院の状況からいきますと、もっと長い人がたくさんあるわけですから、それは平均値から見てどうかということを、私は平均値をしっかり把握いたしておりませんからなかなか言うことは困難ですけれども、措置入院をされた皆さん方の過去のデータ、先日も申し上げたとおりでございます。それは大きな目安になるというふうに思っております。したがって、そんなに長くここにとどめるべきではない。手厚い、そして高度な精神医療を施すということでありますから、手厚く高度な医療を施すということは、社会復帰が早くなるというふうに私は思います。(山井委員「その次の病院のことを言っているわけです。専用病棟から出た後の次の病院のことを言っているわけです」と呼ぶ)
 そのときに、そこからすぐ社会へといいますか、地域へお帰りになる方も、率直に言って私はあると思うんですね。そこから次の病院へ行かれるという方も中にはあるのかもしれませんけれども、しかし、やはりその指定病院からお出しをする以上は、普通の病院へというのではなくて、その地域へと申しますか、社会へ帰っていただくようにしないといけないというふうに私は思います。
 だから、その指定病院をある程度で卒業させて、そして、それを一般の精神病院の方へ移すんだという考え方ではないんではないか。中にはそういう人もお見えかもしれませんけれども、私は、すぐにこれは家庭にと申しますか、地域にと申しますか、帰る方もお見えになるというふうに理解をいたしております。
山井委員 そこは非常に重要なところなんですが、ということは、坂口大臣の認識としては、専用病棟を出られた方の多数はやはり通院の方になる、ほかの病院に入院するんじゃなくて、今の答弁だったら、多数は通院の方になるというふうに認識されているということでよろしいでしょうか。
坂口国務大臣 私は、そう認識をいたしております。
山井委員 多数が通院になる。ということは、多数の人が通院ではなくて、またほかの病院に入院していたら、これはこの法案の趣旨ではないということですよね。それでかつ、次の病院で長期間入院していて、結局社会復帰できてなかったら、この法案の趣旨ではないということに当然なると思いますが、坂口大臣、それはよろしいでしょうか。
 というのは、社会復帰というのは、専用病棟から出て次の病院も退院して、初めて社会復帰ですから、幾ら専用病棟から早く出られたとしても、次の病院でまた長居をしてしまったら、社会復帰にならないわけですから、それができなかったら、この法案の趣旨には合致していないということでいいですね。
坂口国務大臣 この法案の趣旨というのは、他害行為を行った人たちに手厚い医療を受けていただいて、そして早く通院治療に切りかえていただくということだろうというふうに思っております。したがって、通院治療をお受けになった皆さんがまた時として一般の病院へお入りになるということは、それは考え得ることだということを私は申し上げているわけでありまして、私は、そのことは別次元の話といいますか、それは一般の病状に関する問題だというふうに思っています。ですから、それはひとつ別でお考えをいただかないといけないのではないかというふうに思います。
山井委員 私が申し上げているのは、要は、専用病棟で幾ら手厚い医療を受けても、また一般の病院にいてそこで手薄い医療になって、結局は、症状がまた悪化して出られなくなったら、社会復帰の目的を果たしていないということであります。
 それで、次に移りますが、とにかく今の答弁を聞いていましても、これでは何年ぐらい入院するのかわからないという不安があるわけです。
 それで、三ページ、これは前回も添付した資料ですけれども、スタッフが少ない病院ほど長期入院になっている。それで、一たん長期入院になると、それによって社会適応能力が低下して、また長期入院になってしまうという悪循環になっているということが提起されています。また、この社会復帰施策も非常におくれているということであります。
 次の四ページ、お願いします。読売新聞のこの記事によりますと、措置入院の指定病院のうち三割が、看護体制が望ましい四対一のレベルに達していないということなんですけれども、措置入院というのは強制的に入院させるわけですけれども、強制的に入院させるところが厚生労働省が言う望ましい四対一を満たしていないということは大問題だと思うんですが、坂口大臣、やはりこういう望ましい体制を満たしていないこの三割の病院は措置入院の受け入れの対象から当然外すべきだと考えるんですが、大臣、いかがですか。
坂口国務大臣 現在のところ、精神保健福祉法の指定病院というのがございまして、これにつきましては、いわゆる二次医療圏を単位とした一定の地域に指定基準に適合する病院が複数存在する場合に限りまして、特例として基準に満たない病院の指定を行うことになっているということでございます。各地域に二つ以上の精神病院が、ちゃんときちっとしたのがあるところはいいわけですけれども、ないところについては満ちていないところも指定をしているというのが現状だそうでございます。私も今回初めて知ったわけでございますが。
 これは、今後一番急いでやらなきゃならない問題で、医師の問題、看護婦の問題を初めといたしまして、医療スタッフの人たちをどう整えていくかということが一番大事なことで、住まい等でありましたら、これは予算をつけて物を建てればそれはできるわけでございますが、人を養成するというのは年限のかかる話でございます。特に医師を充当しようということを思いますと、やはり精神科を選んでいただく人たちをふやしていかなければならない。そのための手だてをどうするかということをやらないといけない。現在、これは山井委員からも御指摘いただいて、小児科の方なんかは小児科医師をどうしてふやすかということを今やっているわけでございますが、同じことを精神科医につきましてもやらないと充足をしていかないのではないかというふうに思います。もちろん、看護婦さんにつきましても考えていかなければならない。
 ただ、全体のそうした数をふやすということではなくて、やはりこの精神科医療というものがいかに大事かということ、そして、精神科医療を行うということについてそれなりの喜びを感じていただけるような環境にしないといけないというふうに私は思っております。
 そうした意味で、スタッフと申しますか、人材の養成というものを特に早く、そしてどのようにこれを充足させていくかということに全力を挙げることが、とりもなおさず、今後精神医療全体のレベルアップを図るということについて最も大事なことだというふうに思っている次第でございます。
山井委員 この法案では、社会復帰を図る図ると言いながら、片や、こういう措置入院の現状一つすぐに変えると答弁できない。それで、かつ、今の医師や看護師さんの不足の問題も、今に始まった問題じゃなくて、十年、二十年も前から言われている問題なのに、まだそういう問題がずっと放置されている。やはりそこが大きな問題点であります。
 先日、坂口大臣は、十年で社会的入院七万二千人を減らすと答弁をされましたが、年次計画を示してほしいと思います。十年で七万二千人というと余りにも大まかなので、毎年どれぐらいやっていくか、そうしないと、結局は、おくれおくれて、気がついたら達成できなかったということにもなるわけですけれども、毎年何人ずつ減らすか、そこをやはりもう一歩踏み込んで明確に答弁してください。
坂口国務大臣 そこは進めていきたいというふうに思っておりますし、十年というふうに申しましたけれども、できるだけ早くやりたいというふうに思っております。
 先日もこれは申しましたけれども、対策本部を厚生省の中につくりまして、そしてそこで、ひとつ、各局それぞれ担当者を集めていかにしてここを進めていくかということをやらないといけないというふうに思っております。
 もちろん、計画を立てるわけでありますから、これは今後どういうふうに進めていくか、そういう段取りと申しますか、年次計画というものは当然つくらなければいけないというふうに思っております。来年度予算はほとんど決定してしまっておりますから、来年の予算にこれをさせるというのは少し間に合わない状況でございますが、十六年の予算からは、その中に反映ができるような体制をどうつくるかということだろうというふうに思います。
 年次計画といえば、年次計画を立てて、そして十年ということになると大体七年計画、七年間ぐらいでやらないと十年以内におさまらないことになるというふうに私は思いますから、少なくとも七年計画ぐらいは立てまして、計画的に進めていきたいというふうに思っております。
山井委員 ということは、その推進本部の中で年次計画を立てる、それでこの七万二千人も最初の七年ぐらいで解消するつもりでやるということですか。そのことを確認したい。
 もう一つが、これは五ページ、ちょっと見にくい図なんですけれども、私が心配していますのが、社会的入院の方が、退院可能な方が御高齢の方が多いんですね。ここの五ページにありますように、実は、上と下のグラフで見てもらったらわかりますように、六十歳以上が四五%、約半数がもう六十歳以上なんです。要は、これから十年待っていたら亡くなってしまわれる方も多いわけですよね。そういう意味では、退院が可能なのに、退院できずに社会的入院でそのまま人生を、社会復帰できずに亡くなるというのはあんまりではないか。この入院患者の方が亡くなられたからといって、社会的復帰というか、社会的入院が減ったということにならないと思うんですね。
 そこで、改めてお約束願いたいんですが、今度の推進本部でされるのは、精神病院の社会的入院を十年でゼロにすると理解していいわけですね。というのは、今の七万二千人が社会的入院でなくなっても、新しい社会的入院が三万人ふえましたでは意味がないわけですから、これは確認なんですけれども、もう十年後には社会的入院というのはゼロであると。ですから、要望としては、この推進本部で精神病院社会的入院ゼロ作戦十カ年プランをつくるということでいいですね、大臣。
坂口国務大臣 社会的入院を減らしていかなければならないことは御指摘のとおりでありまして、そのような気持ちでやりたいというふうに思っておりますが、一方において、今御指摘になりましたように、新しくふえてくる可能性もあるわけですね。だから、そこも抑えないといけない。そこを抑えていかないと、不良債権ではございませんけれども、一方で減らしたら一方でふえてくるということになるわけでございますから、そこは車の両輪、両方やっていかないといけない。
 社会的入院と一口に言っておりますけれども、その中身はさまざまなんだろうというふうに思います。もちろん、高齢者の人もあって、そして御両親とか御親戚とかというのがなくて帰るに帰れない人もお見えなんだろうと思います。そうした人たちに対しましては、やはり福祉施設と申しますか、医療と福祉、両方を兼ね備えたような施設の中でお引き取りをする以外にないんだろうと思っています。だから、そういうものをつくり上げていくということが今後大事になってくるというふうに思います。そうしたことをこれからその中で計画的に進めていくということにしたいと思っております。
 だから、目指す方向はゼロになるような方向で示したいというふうに思いますけれども、それは標語としてはゼロ作戦で結構でございますけれども、医療のことでございますからそううまくいくかどうかはわかりません。しかし、気持ちとしてはそのつもりでいきたいというふうに思っております。
山井委員 非常にそこが重要なところで、大臣はやはり決意を示さないとだめなわけですから、今から十年後、社会的入院がゼロになるかどうかわからない、そんなことじゃ話にならないじゃないですか。やはりそれは、十年かけてやるんですから、私はもともとこれは五年だと言っているわけですから、改めて、十年後には社会的入院は精神病院からゼロにする、そのための推進本部を立ち上げるんだ、そう大臣が言わないと、やってみたらゼロにならないかもしれないとか、新しいところがふえるかもしれない、そんなことじゃ進まないでしょう。
 大臣、やはりそこは明確に、こういう法案と車の両輪でやるとおっしゃっているわけですから、十年後には社会的入院はゼロにする、そのことをここで宣言してください。それぐらいの決意を示してください。
坂口国務大臣 病気はいろいろ、さまざまなことがあることを知っているものですから私は正直に申し上げているわけで、気持ちとしましては、おっしゃるとおり、それはゼロ作戦ということでやっていかないといけないと思うんです。
 だけれども、ゼロ作戦というふうにしてやってはいくが、やはりそこからこぼれてくる人たちがいるという問題をどうしていくかという問題も生じてくるということを私は申し上げているわけで、今おっしゃるように、気持ちとしてはゼロ作戦ということでそれは当然やっていく。やっていくというその決意を私は表明しているわけで、そこはそうなんですけれども、病気のことですから、新しくまた生まれてくるということも中にあり得ますから、そこをどうしていくかという問題もやっていかないといけないという率直な気持ちを私は言っているわけで、お気持ちは十分に私は理解をして言っているつもりでございます。
山井委員 大臣に改めて確認しますが、精神病院の社会的入院というのはどういうことかというと、本当に十年、二十年、長期社会的入院させられてしまっている人もいるわけです。大臣は、それも前回の答弁で、最初の治療が十分じゃなかったから以前に入院された方はどうしても長期になってしまって、長期になってしまったら逆に退院が難しくなっちゃったということを認めておられるわけですよね。そういう方を二度と生んでは、これはもう人権上大問題なわけです。
 だから、本当に一つだけこの場で約束してください。今回の推進本部では、十年間で精神病院社会的入院ゼロ作戦という形でやると、それぐらい約束してください。
坂口国務大臣 社会的入院という定義をどういうふうに位置づけるかということにこれはかかわってくるわけでございますが、私は、いわゆる現在言われているところの社会的入院についてはゼロにしていくという決意でやっていきたいと思っております。
山井委員 十年後の新聞ではこういうふうに、受け入れ条件が整えば退院可能な人は二一・七%というデータが、もう出ない、ゼロとなるように。欧米ではないわけですからね、社会的入院は。
 次の質問に移りますが、五年後の見直しとなっていますが、毎年国会報告をやるべきではないかと思います。この法案に関して、審判件数、入院件数、通院状況、それに関連して、精神保健福祉法上の通報件数と対応状況、また簡易鑑定の状況、措置入院等の入院者の状況、この法案に関係することを当然毎年国会報告でやらねばならないと思います。
 五年後の見直しといったら、言ったらなんですが、政治家のメンバーもかわっているかもしれない、法務省や厚生労働省の方のメンバーもかわっているかもしれない。気がついたら、この法案で長期入院の人がどんどんふえて社会復帰できなかったと。そのときに今のメンバーがいないでは責任とれないわけですから、そういう意味では、毎年、今言ったようなことをやはり国会報告すべきだと思いますが、坂口大臣、いかがですか。
森山国務大臣 今回の法案は、さまざまな議論をいただきました中で新しい制度を設けるものでございますから、施行状況を踏まえまして、必要があればこの法律の改正を含め所要の措置を講じて改善することができるように、施行後五年で政府に施行状況について国会報告を求めて検討を加えるとともに、必要な場合には法制の整備その他所要の措置を講ずるということを義務づけたものでございます。
 この見直しの時期を施行後五年とされておりますのは、本制度による処遇の各段階すべてについて一定数の事例が集積されるということが必要であるというような観点からであろうかと思いますが、申し立ての件数とか入院等の決定がなされた件数など、今おっしゃいましたいろいろな項目につきまして、この法律の施行状況につきまして御指示があれば御報告いたしたいと考えております。
山井委員 御指示があればということですが、毎年国会に報告してもらうということをお願いしたいと思います。大臣、もう一度答弁をお願いします。
森山国務大臣 御指示があれば御報告させていただきます。
山井委員 先ほど坂口大臣と社会的入院の話をさせてもらいましたが、これだけの審議をして、さまざまな精神医療の問題点を積み残してこういう議論をしているという中で、この三十三万人、精神病院に欧米の数倍という多くの患者の方を入院させてしまった、そのうち少なくとも七万人が社会的入院であった。やはりここで、今までの精神医療というものに対して、長期入院化している、社会的入院も多いということに対して、坂口大臣、一度その患者の方々に謝罪すべきではないかと私は思うんです。ハンセン病と同じことです。
 社会的入院をこんな七万二千もさせているということは、要は受け皿が不十分だからですよね。大臣も先日の答弁で、水島議員の質問に対して、日本の精神医療の反省すべき点は反省するということをおっしゃっています。これだけ多くの社会的入院を生み出してしまった、そのことについて、大臣、一言お願いします。
坂口国務大臣 これは、現在までの長い日本の医療の歴史の中で起こってきたことであります。これは、病院の中の問題だけではなくて社会全体の中の問題点としても起こってきているわけでございますから、このことを直していくという決意こそ大事であって、過去のことに対して断るとか断らないとかということでは私はないというふうに思います。
 先ほど言われましたように、長い人は皆社会的入院という考え方は、それは少し違うのではないかという意味で私は申し上げたわけであります。長く入院しておみえになる皆さんの中には、なるほど、もう病気は治って、社会的な入院というふうに言われている人たちもお見えでありますし、それから、そうではなくて、本当に病気があって、そして長く退院できない人というのも中にはあるわけでありますから、そこは区別をしていかないといけないということを私は申し上げようとしていろいろなことを言ったわけでありますから、そこは理解をしていただかないといけないというふうに思います。
山井委員 現場のメディカルの方やお医者さんたちは、本当に頑張っておられます。そしてその中で、非常に少ない人員配置基準の中でこういう現状になってしまった。そういう意味での政府の責任というのは非常に大きいと思います。やはり、それを根本的に立て直していくことが今回の法案の前提として必要であります。
 そして、今回の法案に対しては、金田議員からも指摘がありましたように、シミュレーションもない、データもない。私が一番恐れておりますのは、気がついたら長期入院化してしまった、社会復帰がなかなかできないということであります。欧米でもその傾向が出ているわけですね。当初の予想より長引いてしまっている。
 先ほども言ったように、専用病棟を出たらそれで終わりじゃないんです。専用病棟を出てから急に、人員配置が少ない、病院に戻ってきてしまう。そうしたら、またそのショックででも退院できないかもしれない。また、地域から遠くかけ離れた専用病棟に行って、そこからまた何の関係もない地域の病院に戻ってきて、医療の連携性もとれない。そういう中で、社会復帰というこの法案の目的と大いに反して、長期の隔離になってしまう危険性が非常にこの法案は強い。ライシャワー事件をきっかけに多くの精神病院をつくり過ぎたように、今回も池田小学校事件という直接精神障害者と関係のない事件でまた同じような安易な隔離、一回この列車は走り出したらとめられないんですね。
 ですから、私たちも、この問題、これからも真剣に考えていきたいと思いますが、絶対にこの問題、ここで採決するのではなくて、やはり継続して、全体でトータルに、どうすれば精神医療の底上げをしていけるかということを議論すべきであると思います。
 以上で私の質問を終わらせていただきます。
山本委員長 午後一時十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。
    午後零時十分休憩
     ――――◇―――――
    午後一時十九分開議
山本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。水島広子君。
水島委員 水島広子でございます。
 本法案の審議の中で、私たちは、鑑定の適正化ということを繰り返し訴えてまいりましたし、それに関する法案も提出してまいりました。それはそれで重要なことでございますけれども、では、適正な鑑定に基づいて本法案の対象外となって刑務所に行った人が、それですべてが解決するかというと、そんなことはないわけでございます。
 来週、法務委員会でも名古屋刑務所の視察に行く予定というふうに聞いておりますけれども、日本の刑務所も、今、過剰収容という大きな問題を抱えております。刑務所における暴行殺人事件は決して免罪される性質のものではございませんけれども、過剰収容の中で刑務官の負担が大きくなっているという現状は深刻な背景だと思っております。
 悪いものは閉じ込めて切り捨てておしまいという発想だと、社会のさまざまなところにひずみが生じてまいります。この審議の間も与党議員からは、犯罪者なんだから罰して当たり前、こんな審議は意味がないというような個人的な声を聞いてまいりました。どうも認識がゆがんでいるのではないかと私は思います。
 そもそも日本の刑務所は懲罰のためのものではなく、その人が再び犯罪を犯したりすることがないよう矯正するという目的を持っていると思いますけれども、この点は法務大臣に確認していただけますでしょうか。
森山国務大臣 おっしゃるとおりでございまして、我が国の行刑施設では、受刑者の確実な収容確保を図る一方、その処遇に当たりましては、個々の受刑者の特性に応じて、懲役刑の内容としての刑務作業を科するほか、職業訓練、教科教育、処遇類型別指導、釈放前の指導などを実施いたしまして、受刑者の社会復帰に向けての改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図るということを旨としております。
水島委員 そうしますと、やはりその人が二度とそのようなことを犯さないようにどのような体制を整えることが重要かという観点に立ってすべての問題をとらえていくべきだと思いますけれども、精神障害の有無にかかわらず、犯罪を犯す人は自分自身が虐げられて育った経験を持つ人が多いわけでございます。私も今まで法務委員会で、心のケアをすることによって再犯率を半減させたアメリカのデータなどを紹介し、一般の再犯も減らせるような処遇の必要性を訴えてまいりました。
 明らかな精神障害を有する人に刑務所での精神医療を適正に提供することの重要性は先日の質問の中でも申し上げましたけれども、そうでない人も、ただ単に規律ある生活を厳しく押しつけるだけではなく、自分も他人も大切にできるような心のケアが必要だと思っております。また、反社会性人格障害の人は当然刑務所に行くわけでございますけれども、この方たちに対しても特有の矯正のあり方というものを考えなければならないと思っております。
 心の問題について主管しているのは厚生労働省ということになっていると思いますけれども、この点については、どういうふうに法務省と連携していくつもりでしょうか。本法案の対象者ではないから、またそういう一般の刑法犯の人たちは法務省の管轄だからと、見て見ぬふりをしてもよいのでしょうか。厚生労働大臣にお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 刑務所等におきます医療につきましては法務省の方で適切に行われているんだろうというふうに思いますが、しかし、そこで何か足りないものがある、そして我々の方にこういうことを協力すべきだという御指示がありますれば、それは私たち喜んで参加をしたいというふうに思いますし、そしてその必要な部分について私たちとして十分に考えていかなければならないというふうに思っております。
 それは、人の配置の問題なのか、そしてそういう専門家を養成することが大事なのか、そうしたことについてお話を伺うということになれば、私たちもそれに対応したいというふうに思っております。
水島委員 今大臣は、刑務所の中での精神医療は適正に提供されていると思うというふうに答弁されましたけれども、その不十分さというのはいろいろなところで指摘をされていますし、森山法務大臣も先日認めてくださったものと思っているわけでございますけれども、これを坂口大臣が御本心から適正に行われているとおっしゃったのだとすると、精神医療の質に関しての御認識が余りにもゆがんでいるのではないかと言わざるを得ません。
 恐らく、そういうことではなくて、他の省庁の管轄することだから直接それに関して文句を言えないというお立場での御答弁だったのだと思いますけれども、そうであれば、逆に今度は、縦割り行政のために、よその省庁が提供している精神医療、本来自分の管轄のところであればもっと質を高められるけれども、それに手を出すこともできないというこの縦割り行政の弊害がまたここに見えてくるわけでございます。
 今、そのことについて御要望があれば協力したいと厚生労働大臣が答弁をされたわけですけれども、それでは、法務大臣の御要望はいかがなんでしょうか。先日も私は質疑の中で触れさせていただきましたけれども、例えば、刑務所に本人の主治医が訪ねていってきちんとした治療をしたり、あるいはアメリカのようにNPOが刑務所の中でグループ療法のプログラムを施したりということは考えられないのでしょうか。
森山国務大臣 被収容者の健康管理や病気になった場合の医療指導、医療措置などを講ずることは行刑施設の重要な仕事の一つでございまして、行刑施設に勤務するお医者さんなどが治療や指導等に当たっているわけでございます。
 もっとも、監獄法施行規則の規定によりまして、個別具体的な状況に応じ、受刑者の治療のため、特に必要が認められるときは、行刑施設に勤務する医師以外の医師に治療の補助をさせることを認めることができることとなっております。
 受刑者の心のケアにつきましても、そのために、当該受刑者と主治医との間における信頼関係がその治療や指導等に重要な意味を持つこともよくわかることでございますので、行刑施設長におきまして、収容目的等を考慮しながら、御指摘のような方法をも含めて、具体的な事例について適切に判断しているものと考えております。
水島委員 先ほどからも質問の文脈の中で申し上げてまいりましたけれども、明らかな精神障害を有していて、それに対して明らかに治療が必要な人に対して、個々の事例に応じて、その治療を刑務所の中で行うのか、あるいは外の医師に頼むのかというような判断が必要だということは現状でも認識されているのだと思いますけれども、私が申し上げたかったのは、もっと全般に、例えば先日、私は大臣に少年犯罪の加害者についての質問をさせていただきましたけれども、自分自身が虐待されて育てば自分のことを大切に思えない、そんな人はほかの人のことも大切に思えないのだから人の命や権利の重要性を認識することができないという当たり前の理屈があると思いますけれども、そういう全般的な矯正という仕組みの中に、どうやって最新の心理学的あるいは精神医学的知見を取り入れて、そして最終目標である、その方が再び犯罪を犯すようなことがないような、社会人としてきちんと責任を果たしていくような、そんな矯正のあり方を、ぜひ厚生労働省とともにきちんとした連携をして考えていっていただきたいと思っております。今までの、個別の事例に対する単なる医療というレベルを超えて、その両省の大きな連携をしていただければと思っておりますので、この点については強く御要望を申し上げたいと思います。
 また、坂口厚生労働大臣も、塀の向こうの話だからと思わずに、自分の管轄外だからといって逃げ腰にならずに、法務省が提供している医療あるいは矯正の中の心のケアの部分については、ちょっと気になるというのであれば、ぜひ、きちんと自由に意見を言い合えるような体制の確立に努めていただきたいと思っております。
 さて、私たちが共有する大きな目標は、地域で安心して暮らせる社会であって、だれも生命や人権を脅かされない社会であるというところの認識はみんな一致しているところだと思います。
 犯罪を犯したのだから罰を受けて当たり前という発想ではなく、どうすれば地域社会が本当に安全なものになるかということを考えると、やはり精神障害者を地域で孤立させない仕組みが重要であって、本法案の成立が精神障害者差別をさらにあおり、精神障害者がますます孤立する結果を招かないかということを私は非常に心配をしているところでございます。そんな気持ちを十分に理解していただいた上で、きょうもまたこの法案についての質問を続けさせていただきたいと思いますので、御答弁をいただければと思います。
 まず、人格障害についてですけれども、私は前回の質問の中で、境界性人格障害の人が、その症状の一つとして一過性の解離状態となり、そのときに重大な犯罪を犯したとしたら責任能力は問えないと思うが、本法案の対象になるのかということを質問しましたところ、部長から極めてしどろもどろの答弁をいただきました。前回の答弁では、私はとても納得できませんので、ここでもう一度お答えいただけますでしょうか。
上田政府参考人 前回、委員から境界性人格障害などの具体的な例を挙げられて御質問いただいたわけでありますが、私の理解が不十分なこともあり、また、人格障害者に対する原則論を強調したために誤解を招いたことにつきましては、大変申しわけなく思っております。
 そこで、もう一度誤解のないように原則論から申し上げますと、人格障害のみを有する大多数の者については、我が国では一般に完全な責任能力を有すると解されており、心神喪失者等とは認められないため、本制度の対象者となることは一般には想定されないということであります。
 しかし、委員御指摘のように、人格障害の一部には、境界性人格障害などのように、一過性の解離性症状が著しいなどの理由により犯行当時の責任能力が問題となる事例が、まれとは思いますが生じるものと承知しております。
 したがいまして、このような事例が本制度の対象となり得るかどうかにつきましては、個々の事例に応じて慎重に判断していくべきものであるというふうに思っております。
水島委員 通常国会から懸案の事項でございましたけれども、事実上の答弁の御修正をいただきまして、ありがとうございます。
 また、さらに確認してまいりたいわけですけれども、再犯のおそれ予測について、私もかねてからずっとこだわってまいりましたが、再犯のおそれ、あるいは再び同様の行為を行うおそれというのは、病勢のみによるものではなく、例えば支えになる近親者の存在の有無であるとか、就労状況であるとか、あるいは住居の状況など、さまざまな因子によって左右され得るものだと思います。その方の御家族がいつ亡くなるか、あるいは、その方の会社がいつ、いずれ倒産するかどうかなどということは、だれにも予測できるものではございませんので、そういう意味では、精神科医あるいは裁判官にしても、再犯のおそれの予測はできないと私は考えておりますけれども、そのような理解でよろしいか、両大臣、そして修正案の提出者に御確認をいただきたいと思います。
森山国務大臣 政府案の「再び対象行為を行うおそれ」という要件につきましては、再犯のおそれの予測の可否として議論が行われてきたところでございます。
 その中で、政府案に対しては、特定の具体的な犯罪行為や、それが行われる時期の予測といった不可能な予測を強いるのではないかという御批判や、通常はおよそ円滑な社会復帰の妨げとならないような漠然とした危険性のようなものが感じられるにすぎないものについてまで本制度の対象となるのではないかという批判がございました。
 私としても、少なくとも特定の具体的な犯罪行為や、それが行われる時期の予測というような意味では、精神科医でいらっしゃっても、また裁判官でありましても、そのような予測はできないと考えております。
坂口国務大臣 再犯のおそれにつきましては、前国会からいろいろの御議論をいただいてきたところでございまして、専門家の間にもいろいろの意見があって分かれていることも承知をいたしております。精神科の先生方の中には、それは十分可能だというふうに御指摘になる方もございますし、いや、それは難しいというふうに御指摘になる方もございます。
 諸外国におきましても、再犯のおそれということを中心にして、今回日本が目指すような指定入院制度を既につくっている国々もあるわけでございまして、その先生方のお話を聞く限りにおきましては、それは十分科学的に可能であるという御説明をされているわけでございます。
 そうしたこともございますが、しかし、それは難しいというふうに御指摘になる方もお見えになることも十分承知をいたしております。
 我々は、この再犯のおそれというものは、やはり難しい判定ではあるというふうには思いますけれども、しかし、そこには一定の条件をつけて、そして、そこで判断をしていただく基準というものを明確にしていくということができれば、それは私は可能ではないかというふうに思っている次第でございます。
塩崎委員 先ほど法務大臣も御答弁になられましたし、今厚生労働大臣も御答弁がありましたけれども、特定の具体的な犯罪行為とか、それが行われる時期の予測という意味では、やはりこれはなかなか予測できるものではないというふうに思います。
水島委員 ちょっと何か坂口大臣だけねらい撃ちにして申しわけございませんが、もう一度御答弁いただきたいんですが、いろいろと条件が何とかというようなことをおっしゃっていて、特定の犯罪がいつ行われるかなんということは超能力者でもなければ予測できないのが当たり前で、私が伺いたいのはそういう答弁ではなかったんです。
 例えば、坂口大臣はお医者さんでいらっしゃいますから、少し理解していただけるかと思いますけれども、目の前にいる患者さん、非常に病状が安定しているし、今のところ御本人は薬をきちんと飲んでいきます、家族も自分にそれを期待しているし、自分もこれ以上家族に迷惑をかけたくないから治療はちゃんと続けます、仕事もそれなりに見つかってきましたというような方を見たときには、この方は大丈夫だなと普通は思うわけです。
 ところが、おそれが全然ないかと言われれば、それは、今家族の期待があるから頑張りますと言っている方、その御家族がいなくなったら糸が切れたたこのようになってしまうかもしれない。あるいは、今とりあえず仕事があって、社会参加しているような気持ちがあるからやりがいを持っているけれども、そこの会社が急に倒産したり首になったりというふうになったら、またやりがいを失って、病院なんて通っていられるかという気持ちになるかもしれない。
 そういうふうに考えていきますと、おそれがないなどということは絶対に言えないわけですけれども、このようなケースはおそれがあるというふうになるんでしょうか、ないというふうになるんでしょうか。
坂口国務大臣 一人の人が今後再犯のおそれがあるかどうかを判断するといいますときに、現在、その人があります状況、症状というものがない、そして、将来その人が治療を続けるならばそういう状況にはならないということであれば、私はおそれはないんだろうというふうに思います。
 しかし、その人が同じような病状になったときに、その人に危険性はあるかどうか。それからもう一つ、単なる普通の医療上の問題だけではなくて、みずからが行ったことに対する責任と申しますか、みずから行ったことに対する意識というものを自分で確認をする、あるいはまた、自分をコントロールするといったようなことがこの人はできるかどうかということが私は大きな目安になるんだろうというふうに思っております。
 私はこのことに対して十分な知識を持っておりませんから、あるいは適切でないかもしれませんけれども、私はそう思っております。
 そうしたことが一つの目安になって、その治療をする必要がないということであれば、私はそこに入院させる必要はないのではないかというふうに思っています。そこへといいますのは、指定病院等に入院させる必要はないのではないかというふうに思っております。
水島委員 今の大臣の御答弁は、私からするとかなり歓迎すべき御答弁だったかなと思います。つまり、現状は落ちついていらっしゃって、そして治療を続ける限りこの人は大丈夫だと。今の御家族の状況だとか今のお仕事の状況なんかを見れば、とりあえず治療は続けていけそうだ、そういう場合にはおそれがないと大臣だったら判断されるという御答弁でよろしいんでしょうか。――今、はいとうなずいてくださいました。
 そうであれば、では、ここで治療の必要性を判断するときには、とりあえず現状の生活環境で考えていく、そういう原則を御答弁くださったのかなと思いますし、この治療の必要性の判断をするときには、今の生活状況、もちろん生活状況なんというのはどういうふうに転ぶかわからないものですし、特にこういう御時世ですので、全くそれはわからないわけですけれども、少なくともその辺、少しでもその方がより制限の軽い治療を受けていけるような可能性を探っていくということが大原則になるというようなことは、ぜひきちんと徹底をしていただきたいと思っております。
 さて、またこちらもかねてから何度も審議の中で話題になってきていることですけれども、ここで改めてはっきりとお答えいただきたいんですが、この審判体における裁判官の役割というのは何なのでしょうか。これは法務大臣にお願いします。
森山国務大臣 この制度によります処遇の要件に該当するか否かにつきましては、医学的知見からの判断が極めて重要でございますが、医療を強制するという人身の自由に対する制約、干渉が許されるか否かという法的判断も重要でございます。また、処遇の要件に該当するか否かを判断するに当たりましては、本人の生活環境に照らし、治療の継続が確保されるか否か、同様の行為を行うことなく社会に復帰することができるような状況にあるかどうかといった、純粋な医療的判断を超える事柄をも考慮することが必要であると考えられます。
 したがいまして、その判断に当たりましては、医師による医療的判断にあわせて、このような裁判官の有する法律に関する学識経験に基づく判断が行われるということが重要でありまして、また、本制度による処遇が人身の自由に対する制約、干渉を伴うものでありますから、裁判官の有する法律に関する学識経験に基づく判断は、人権保障という観点からも重要であるというふうに考えております。
水島委員 人権保障を裁判官がしてくださるという点については私も全く異論を唱えるものではございませんが、生活環境を調べる、そういう純粋な医学的判断以外のことをするというふうに今御答弁くださいましたが、これは私、先日の審議で私が答弁者として答弁をさせていただいたわけでございますけれども、今の医療の現場でも、医療の現場というのは私は純粋に医療なんだと思いますけれども、ソーシャルワーカーの方なんかが一生懸命そういうことを調べたり、また私も人手の少ない病院におりましたので、医者ではありますけれども、ちゃんとこの方、御家族、どこに親戚がいらっしゃるだろうかというようなことを自分で電話をかけて調べたりとか、そういうことを医療者が行っているのが現場でございまして、これは裁判官でなければできない、純粋に医療の世界ではないと言われてしまうと、非常に現状を否定するようなことになってしまうのではないかと思います。ですから、そのあたりの御答弁を伺っていると、何となく無理があるような感じがして、どうも釈然としないところがあるんです。
 例えば、先日も参考人の方が、入退院の判断というのは医者だけでやるのは重いのだというようなことをおっしゃっていたわけでございますし、また、通常国会において、厚生労働省の答弁でも、医師の負担が云々というようなものがあったと思いますけれども、この判断における医師の負担を軽減するということも目的の一つとして考えられていらっしゃるんでしょうか。これも法務大臣にお願いします。
森山国務大臣 当然、考えております。
水島委員 そうだとすると、多少疑問があるんです。
 まず、本法案の対象になるような方の入院については私は三つのポイントがあると思っておりまして、一つ目は入り口の問題でございます。つまり、鑑定によって対象者が適正に選ばれるかどうかという最初の振り分けの問題が一つ目のポイントだと思います。二つ目は中身の問題。つまり、対象者に対する医療の質がどうかというような問題です。そして三つ目が出口の問題であって、つまりどういう人を退院させるかという最後の時点での振り分けの問題になるわけです。
 今までは一つ目の点である鑑定の適正さも保障されていなかったわけですし、また二つ目のポイントである精神科医療の質も低かった、人手も非常に足りなかったというぐあいでしたので、だからこそ三つ目のポイントである退院の判断も難しかったのだと私は現場にいた者として思っております。
 つまり、いるべき人かそうでないかわからないような人がそこにいる、そしてそこで行った治療の内容についても十分に自信が持てない、あるいは退院された後の医療の確保についても自信が持てない、そんな中で医者一人が判断するのが難しいというのは、それは確かにそうなんだと思いますけれども、今回の法案の中では、対象者の鑑定に問題はないと大臣はずっとおっしゃっていますけれども、この新法を見ますと、少なくとも対象者の鑑定は慎重に行われる仕組みがつくられておりますし、また、そこで行われる医療の質も上がって、退院後の治療も確保される仕組みが整うということをずっとおっしゃっているわけですけれども、そうやって最初の二つのポイントがきちんと満たされるのであれば、退院の判断自体は難しくなくなるのではないかと思います。
 少なくとも、私がそこにいる医師であれば、余り負担を感じずに判断できるのではないかなと思いますけれども、この三つのポイントを同時に手直しする必要は本当にあったんでしょうか。少なくとも、判断における裁判官の関与というのは、まず最初の二つの当たり前の点、鑑定の適正化とそこで行われる医療の質を上げるという当たり前の改善をした上で、例えば法の見直しのときに考えればよかった問題なのではないかと思いますけれども、厚生労働大臣、いかがでしょうか。
坂口国務大臣 ここは法務省との関係のところで非常に難しいところでございますが、いわゆる責任能力の鑑定というものがまずあるわけでございます。
 御指摘のように、ここのところがどうかということによって後のことも違ってくるということは、私もそのとおりというふうに思っておりますが、医師だけでなかなか結論を出すのが重いというのは、医師は医学的な必要性があるかどうかということの判断はできるわけでありますけれども、それ以外の、犯罪に対してどうかという判断というようなことはなかなか難しいわけでございますから、そうしたことを加えて総合的に判断をするということを求められるんだろうというふうに思います。したがいまして、医師と裁判官とでそこは判断をするということになっているというふうに理解をいたしております。
水島委員 済みません、何か審議が通常国会に戻ってきたような感じがするんですけれども、医師は医学的な判断はできるけれども、犯罪に関する判断はできないという今の御答弁と、先ほど坂口大臣にいただいた、病状が落ちついていて治療が継続されるんだったら大丈夫そうだというときにはおそれはないというふうに考えるのだという御答弁との整合性をちょっと伺いたいんです。
 先ほどの、病状が落ちついていて治療を続ければ大丈夫だというところと、今の、犯罪に関する判断で医師ができないものというのは、その中でどういう位置づけになるんでしょうか。
坂口国務大臣 先ほど申しましたように、現在の状況を見まして、この人ならばこの治療を続けられれば大丈夫というのは、それは医学の世界における判断でありまして、そして、それだけで済むかといえば、それだけで済まないことも中にあるということなんだろう。一般の精神疾患のことを言っているわけではありません。他害行為を行って、そして再犯のおそれがあるかどうかということの判断をいたしますときの話でございまして、その一人の人が現状においてこれは大丈夫というのは、これは医学の範囲の中のことだというふうに思います。そこの医学の中の判断と、しかし、それだけでは十分になし得ない部分があるというので、今回この政府の提案になったわけでございまして、そのことを申し上げているわけでございます。
水島委員 なるほど、少しわかってきたんですけれども、つまり、例えば病状は安定しているけれども、生活環境というのは、私はどちらかというと治療を断念させるような生活環境の変化を考えてきたんですが、もしかするとその方が例えば非常に社会的に問題になるような環境で生活をされていて、非常に犯罪に近いところにいらっしゃるような方の場合に、またそちらに巻き込まれていくんじゃないかとか、そういう医学と、病状と余り関係のない部分を裁判官が判断するというような趣旨でおっしゃっているんでしょうか。
坂口国務大臣 私が申し上げたのは、先生が今おっしゃったのとかなり近いというふうに思っております。
水島委員 その場合、これから私、指定入院医療機関における医療についてちょうど伺っていこうと思っているところなんですけれども、そういうことに対して、この指定入院医療機関ではどうやってそのリスクをなくしていくんでしょうか。
坂口国務大臣 指定医療機関におきましては、一つは純粋なる医学的な問題、これを治療していかなければならないというふうに思いますし、そしてもう一つは、先ほどから申し上げておりますように、他害行為を行った人でありますから、みずからの行為についての認識というものを高める、あるいはまたみずからを制御することを促すための対策というものを行う、そうしたことがあわせて必要になってくるというふうに思います。そのことと環境とはかかわるわけでございますから、いかなる環境にありましても、その自分が行ったこと、あるいはそれと同じことを行うことを制御する、そうしたことに対する治療というものがそこで行われるということが大事というふうに思っております。
水島委員 そうしますと、今大臣は、純粋な医学的問題とか、いろいろ感情のコントロールなどとおっしゃったんですけれども、薬物療法にしろ、感情をコントロールするような方法にしろ、これは一般の医療現場でも行われているものでございます。ただ、ちょっと私はまだ先ほどの大臣の答弁がひっかかっているんですが、つまり、そういう医学的な問題ではなくて、その方が非常に犯罪に近いところで生活をしているとか、そもそもそういうことを生活の糧にしていたとか、そういうような場合はそこの部分を裁判官が判断するのだということであると、この医療機関の中で、病気の治療ということとは違った、生活環境の調整ですとか、対人関係のあり方というか、対人関係の相手を変えていくこととか、そういった調整までここの中で行っていくということになるんでしょうか。
坂口国務大臣 それはできないというふうに思います。そこまでなかなか行えませんし、またそういうことを行うべきではないというふうに思っておりますが、人間、いかなる環境に身を置かれるかわからないわけでありますから、その人が将来社会復帰をしましたときにまたどういう環境になるかということがあるかもしれないというふうにそこは考えなければならないというふうに思います。いかなる環境に置かれたとしても、その人が以前に置かれていたと同じような環境に置かれたとしても、その人がやはりみずからをコントロールする、前に行った行為がやはりこれは責任のあることだということを意識させしめる、そういう治療が行われればそこに耐え得る人になるのではないかと私は思っております。
水島委員 つまり、裁判官が判断しなければならないような問題を生活上抱えているような方の場合に、今病院の中で治療としてはそういうことの調整は直接はしないという御答弁で、むしろ、みずからのあり方、心を強く持ってどんな環境の中でも再発しないようにやっていくんだというような御答弁であったわけですけれども、そうしますと、ただ、裁判官から見ますと、その人が退院したらここに戻るであろうという場所が極めて犯罪に近いところであったら、裁判官の判断としてはちょっと戻すと危ないなというふうに感じるんじゃないか。定期的な通院なんか余り確保できないようなところに行くんじゃないか、あるいは服薬がちゃんとできないんじゃないかというふうに裁判官として考えたとしたら、ちょっとこの人はまだ退院させられないという判断になるのか。あるいは、今回の要件で、治療の必要性ということ、この法律に定める医療の必要性ということですから、そこの医療の中にその環境調整は含まないと今御答弁されたわけですので、そうであれば、この医療の必要性はとりあえずないから、あとは退院した後に保護観察所の中でそういう危ないところに近寄らないように注意をしていくというようなことをしていくのか。どっちなんでしょうか。退院はその人はできるんでしょうか、できないんでしょうか。
坂口国務大臣 したがいまして、社会復帰をした後のことが大事だと思うわけです。そうした人たちが、ある程度そうした治療が行われて、これで大丈夫だろうということになってその人は社会復帰をするわけでございますが、地域において、生活の場においてその人たちを見守っていくという体制がやはり大事でございまして、そうした多くの体制の中でその人をさらに守っていく、そしてその人の将来に手を差し伸べていくということが、これはセットでなければできないことであるというふうに思っております。
 したがいまして、第一義的には院内における問題でございますけれども、病院内だけの問題だけではなくて、その人が地域に戻った後の問題というのが、その院内の問題よりも、あるいはそれ以上に大事な問題ではないかというふうに私は思っている次第でございます。
水島委員 そうしますと、この人を自分の住んでいたところに戻したらもしかしたら危ないかもしれないけれども、とりあえずここの病院の中でやるべき治療は終わった、これ以上ここにいてもこの人に余り進歩はないだろうと思った時点で退院を当然考えて、あとは保護観察所のPSWの方が頑張っていくというようなことになるとイメージしてよろしいんでしょうか。
坂口国務大臣 それは、通院をされて、そしてもちろん医師の皆さんも協力をしていただけるでしょうし、あるいは地域の保健婦さん等も協力をしていただけるでしょうし、PSWの人はもちろん中心になっていろいろのお仕事をしていただくでしょう。そうしたいわゆるチームによってその人に対する手を差し伸べていくということに私はなるというふうに思います。
水島委員 何か余りはっきりしたお答えはいただけなかったわけですけれども、そうしますと、とにかく、リスクということでいけばあるかもしれないけれども、何とかできそうだと思ったら、少なくとも入院していてもそれ以上そこに直接干渉していくわけではないのだとしたら、その時点で退院を考えて、あとは社会復帰を全力的に進めていくということなのかなと今の御答弁を前向きに理解させていただきます。
 裁判官の役割というものについて、例えばイタリアのバザーリア法では、精神科医が入院の必要性を診断した後に裁判官が事後チェックをするというような仕組みになっておりまして、事後チェックという形であれば裁判官の役割はむしろわかりやすいと思いますけれども、この法案ではそういう形はとれなかったんでしょうか。これは修正案の提出者の方にお伺いいたします。
塩崎委員 先ほどもちょっと水島議員がお触れになりましたけれども、これまでの措置入院のときの決定のあり方というものについて、医療サイドの方々が、医療だけに負荷がかかってきたという話があったことが御紹介されました。
 今回、ここに至るまでの議論の中でも、司法と医療とのバランスというものがとれた場で決めるべきではないのかという議論があって、そして今回のこの法律の法律立ても、やはり双方のそれぞれの知見に基づく判断というもので、両者のいずれにも偏ることがないように、両者の言ってみればそれぞれの持ち味を生かした、協働的な、適切な処遇を決定して、そして合議体ということでありますから、社会的に見ればやはり双方が責任を負いながら、さまざまなことを考慮に入れて決定していくということだろうと思います。
 しかし、そうはいっても、主に医療からの判断というものがかなりの部分を占めるなとは思いますけれども、先ほど来大臣の答弁にもあるとおり、私たちも言ってきたとおり、やはり、それ以外のことも考慮に入れて総合的な判断というものが必要なんじゃないかということで、先ほどの御質問へのお答えとしたいというふうに思います。
水島委員 この審議の中でもたびたび指摘されてまいりましたけれども、現在、措置入院の患者さん、あるいは医療保護入院でもそうですけれども、かなり深刻な人権侵害の事例というのがまだあるわけでございまして、報道されて初めて気がつくようなケースもあるわけです。確かに、今精神医療の現場は人手が足りないために理想的なことがなかなかしにくいというような現実はございますけれども、人手が足りないから仕方なくやるということと人権感覚にそもそも問題があるということは明らかに違うことだと思っておりますが、この措置入院などの適正化に関しては、厚生労働大臣はこれからどういうふうに取り組んでいかれるおつもりでしょうか。
坂口国務大臣 精神病院全般にかかわることかもしれませんし、その中に措置入院が入るというふうに考えた方がいいのではないかというふうに思いますけれども、全体としてやはり人手不足でございますし、専門家が非常に少ないという現実がある。一方で、そうした専門家が少ないという側面と、もう一つは、精神障害者に対する人権をどう考えるかという問題だろうというふうに思います。その二つの点をこれからどう是正をしていくかということが一番大事なことになってくるというふうに思っております。
 人手の部分につきましては、人材をどういうふうに育成をしていくかということになってくるわけでございまして、ここはなかなか一朝一夕でできる話ではありませんで、少し時間のかかることだというふうに思いますが、早急にここは人手をふやす方向で検討する。このことはもう一つは診療報酬体系の中でも私は問題があるんだろうというふうに思っております。ここもやはり見直しを行わなければならないというふうに思っております。
 今回、診療報酬体系の基本の見直しを進めておりますが、その中で、いわゆる時間というものの基準が今まではなかった、しかし、時間というものの基準をその中に含めていかなければならないというふうに今主張しているところでございまして、これは特に精神科医療におきます問題を念頭に置いて私は考えているところでございますが、そうした精神科医療の現場の皆さん方にやはり適合したような体系というものをつくり上げていかなければならない、そうしたものも含めて総合的にこれはやっていかなければならない問題だと考えております。
水島委員 ぜひ、この法案と直接関係がないからということではなく、むしろ本当に深刻な人権侵害の事例があるということもこの審議の中でますます明らかになってきたわけでございますので、厚生労働省の方に申し上げると、どこか悪いところがあるんだったら教えてくださいよ、見に行きますからとそんな無責任なことを言われることもあるんですけれども、それをチェックするのが行政の役割ではないかということを私は強く申し上げたいと思っております。
 まだまだ伺いたいこと、たくさんあるんですけれども、ちょっとさっきのところにひっかかっていて、全部聞けない状態になってきてしまいましたが、法案の修正案の提出者にお伺いをしたいのですけれども、民主党案をどういうふうに評価されますでしょうか。本来は民主党案の方が望ましいけれども予算上できないということなのか、そもそも民主党案にはこういうところに問題があるから賛成できないですとか、そのようなことをお答えいただきたいと思うんです。
 また、もう一つ、あわせて修正案提出者にお伺いしたいのは、ある程度修正してこられたわけですけれども、どうしても変えてほしいのは法案の入り口の部分だと私は思っておりまして、犯した犯罪の重さによって対象者を選別することはどうしてもおかしいということが審議の中でも繰り返し指摘されてきたわけでございますけれども、修正案としてこの枠組みはどうしても変えられないのか。
 以上について、修正案提出者にお答えいただきたいと思います。
塩崎委員 何のお話ですか。
水島委員 最初は民主党案に対する評価、次は犯罪の重さによって対象者を選別するという最初の入り口を変えられないのか。
塩崎委員 民主党案の評価でございますが、御質問通告なかったものですから、ちょっと私は今……(水島委員「しました」と呼ぶ)ああ、そうですか。私はちょっと聞いていなかったので、済みません。
 今回、この修正案をつくるときに、政府案のメリットというかプラスの面と民主党のプラスの面を合わせられると非常にいいなというふうに正直言って思いました。
 それで、民主党案の評価すべき点というのは、医療に特に力を入れて、まず医療が大事なんだということをおっしゃっていることではないかと思います。それは、我々も心は同じだったわけでありますが、今回の政府案の段階では、今の医療をどうするのかということについて明示をしなかったという点においては反省をし、ですからこそ附則にこの医療の底上げについても入れたということであるわけでございます。
 それから、判定委員会あるいは精神保健福祉調査員というのがありますが、要は、今までの責任能力を問う形での鑑定というものの不十分さというか、簡易鑑定とよく言われますけれども、これについても切り込んでおられるということについても評価をしたいというふうに思っております。それは、今回、政府側の答弁の中でその反省は法務大臣からも出てき、またこれからの改善提案も出ているという意味で、民主党の法案提出が非常に意味があったというふうに私も思っております。
 ただ、もう一つ言わせていただければ、今の措置入院と同じように、この政府案には、社会復帰調整官、今度名前が新しくなりましたけれども、退院をされた後の受け皿の、言ってみれば手助けをする仕組みというものが今の措置入院制度にも民主党案にも少し欠けているかなということを思って、今回はこの政府案あるいは我々の、名前を変えただけと言えばだけでありますが、受け入れをお手伝いして社会に早く戻ってもらうということは、我々の案は評価していただいてもいいのじゃないかなというふうに思っております。
 それから、先ほどの、犯罪の重さによっていい医療を受けられるかどうかという問題でございますね。これも、いろいろな御批判、あるいはこの審議の中で、言ってみればなぜ医療の二重構造をつくるんだという御指摘があったかと思うわけであります。
 確かに、どういう状況であろうと、本来は精神障害の病状に応じて、必要ならば手厚い医療がなければいけないわけですし、それぞれの病気に見合った適切なレベルの医療というものが用意されていなければいけない。ところが、それが十分ではないし、特に重大なる他害行為を行った場合の障害者については、先ほどイタリアの話もありましたが、司法医療というものも諸外国に比べてかなりおくれてきているということで、ともあれ一歩前進させていただこうということでこれをつくったわけで、木村副大臣の答弁にもあったように、将来的にはやはりこの措置入院制度と今回の新しい仕組みとが一体的な有機的なものとして社会の中で機能していって社会復帰が行われるということが理想であって、この五年の見直しについてもそういう観点から我々は厳しく見ていかなきゃいけないというふうに思います。
水島委員 ぜひその有機的一元化に向けて取り組んでいただきたいと思っております。
 もう時間になってしまいましたけれども、本法案の対象者となる人は、先ほどからの審議でも、例えば一年間に四百十七名というような数字が上がっております。一見関係のないことのように見えますが、児童虐待の年間発生数は三万五千件と推測されておりまして、本法案の対象者とはけた違いの数でございます。精神障害者に殺される子供の命も、親に殺される子供の命も、また親によって深刻な虐待を受けて致命的なダメージを負う子供の人生も、ひとしく貴重なものでございます。親を虐待に追い込む構造が変わらなければ、再び同様の行為を行うおそれは本法案の対象者などよりはずっと高いはずです。
 本法案に伴って、司法精神医学を学ぶために外国に精神科医が派遣されるわけですけれども、児童精神科医が少ないということについては、海外に医師の派遣もされておらず、厚生労働省は指をくわえて見ているだけです。こんな法案を提出する前に、まずは子供を虐待してしまう親のケアを考えるべきではないのかというのがどちらの問題にも取り組んでいる私としては率直な実感でございます。この点については大臣にもきちんと受けとめていただきたいと思っております。
 きょうも質問を十分にし切れる時間がなく、それほどまた新たな問題が審議の中で出てきたわけでございますけれども、ぜひ、この中で指摘された点に基づいて、さらにこの点について協議を進めていただけますように、採決を急ぐようなことがないようにお願いをしたいと思います。
 また、修正案の提出者に一言申し上げたいと思います。
 修正案についての評価はいろいろとございますけれども、私は、塩崎議員は良心的な気持ちで私たちの疑問にこたえようと努力して修正案をつくってくださったのだと信じております。でも、時間の都合もあって、抜本的な修正にはつながらなかったのだろうとも思います。
 先ほど質問しましたとおり、私たちは、犯した犯罪の重さで受ける治療が変わるという本法案の枠組みにはどうしても賛成できないし、民主党案こそ成立すべきだと思っておりますので、本法案には賛成できないと思いますけれども、最後に一言お願いを申し上げておきたいと思います。
 塩崎議員が善意で修正案をつくられたということは理解するとしても、どれほど善意で立法をしても、精神障害者への差別が日常化している今の日本では、運用面で大きな不安があるということは事実です。ぜひ塩崎議員には、引き続き責任を持って運用状況を見守っていただけますようにお願いします。
 また、塩崎議員には、今後の我が国における精神医療の底上げ、司法と精神医療の連携についてしっかりと見ていただきまして、私たちとともに引き続き取り組んでいただいて、民主党案が近い将来に成立するように御協力をいただけますようにお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。
山本委員長 次に、平岡秀夫君。
平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。
 先ほどのお昼の理事会で、採決することが委員長の職権で決められたというふうに聞きましたけれども、きょうの午前中の金田委員の質問でも、全くこの法案がいいかげんな法案であるということはもうわかっているにもかかわらず、強引に採決をしようとするその姿勢に強く抗議したいというふうに思います。
 先日の私の質問の中でも、この法案が赤ずきんちゃんのオオカミ法案であって、随所に、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々にどうしても刑罰にかわるべき処罰を与えたい、どうしても拘束をしたい、そういう気持ちが脈々と流れていることを私はこの場で皆さんとともに多分証明したんではないかと思っています。
 そして、きょうの午前中の金田議員の質問の中でも、この法律のもう一つの問題は、非常に中身があいまいである、この法律が施行されたら一体どんなふうに運用されていくのかということがほとんどわからない、本当にこの法律を悪用しようと思ったら、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々はすべてこの法律で拘束されてしまう、そういうこともできる内容の法案になっていると言わざるを得ないと思います。
 私のせんだっての質問で、一つ宿題としてお出ししておりました。
 金田委員は、この法律が施行された場合には、強制入院であるとかあるいは強制通院であるとか、そういうような処遇に、平成十二年でいきますと四百十七人の対象者になるわけでありますけれども、そういう人たちがどのように振り分けられていくのか、これを示してほしいという議論がありましたけれども、きょうの午前中では全くそれが示されないままに終わっています。
 私のせんだっての質問は、精神障害が仮にあっても一般の精神医療で治療可能な場合にはこの法律による医療によらず一般の精神医療で対処することでいいですねという質問に対して、塩崎委員が、基本的にそういう一般の精神医療による処遇が行われるということで結構だと思いますという答弁がありまして、その後若干の補足答弁がありました。それに対して、私の方から、それでは、平成十二年の対象者四百十七人、この人たちが、この新法が施行されたらどれだけの人が措置入院になり、どれだけの人たちがこの法律に基づく強制入院になるのか、その振り分けをしてほしいという宿題を出しております。これについて、どういう検討結果が出たかをまず教えてください。
塩崎委員 今お話がございましたように、先日の私の答弁の中で、今回の手厚い医療と一般医療との関係についてお話し申し上げましたが、今御指摘のとおり、私が申し上げた答弁の中では、対象者についてこの法律による医療までは特に必要がないと認められる場合でも一般の精神医療が必要な場合には、入院決定あるいは通院の決定は行われない、そして一般の精神医療が行われることになるということを述べたものでございまして、一般の精神医療で治療することができる者であれば、そのすべてが本制度の対象とならないという意味ではもちろんございません。
 この法律による医療は、国の責任において行われる、患者の精神障害の特性に応じてその円滑な社会復帰を促進するために必要な医療でございますので、したがって、このような手厚い専門的な精神医療を行うことは、一般に精神障害を有する者にとってその社会復帰の促進に資するものであると考えられることから、多くの精神障害者にこの法律による医療が必要であると認められると考えられますけれども、中には、この法律による医療までは特に必要ではないと認められる場合が全くないわけではないと考えられるわけであります。
 そこで、今回の修正案によって、入院等の要件の中に「この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合」と明記をして、本制度による手厚い専門的な医療を行うことが入院等の決定の目的であり、そのような医療が必要な者が本制度の対象になるということを明確にしたわけでありますが、今、年間四百十七人の中で措置入院あるいは新法による入院がどういうふうに分けられるのかということになりますと、やはりそれはそれぞれ目の前にその障害者の方を見ながら合議体で決定していくことでございますので、今それを数字で何対何というような形で分けるということはなかなか難しいかなというふうに考えております。
平岡委員 そういうふうに振り分けができないということは、基本的には、この法律でどのような人たちを強制入院させるかという基準がはっきりしていないということに尽きるわけですよね。
 一つ質問なんですけれども、せんだっての質問に対する答弁で、これは上田部長さんだったんですけれども、この法律による対象となる入院患者というのは措置入院患者よりは少し少なくなるでしょうという答弁もありました。きょうの坂口厚生大臣の答弁の中でも、この法律による強制入院をされる人は措置入院をされる人の範囲内であるという答弁がありました。これはそういうことでいいでしょうか、確認させてください。
上田政府参考人 そのとおりでございます。
坂口国務大臣 けさ答弁をさせていただいたとおりでございまして、そのとおりでございます。
平岡委員 そうだとすると、法律上は、措置入院の要件というのは、「医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたとき」が措置入院ということですね。
 そうなりますと、今回のこの修正案ででき上がっている新しい規定というのは、本当はその前に、略して言いますけれども、自傷他害のおそれのある者のうちで、こうこう言って、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認めた者というふうに理解してよろしいですね。
塩崎委員 今回の修正案の要件には、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合との要件が含まれているわけでありまして、この要件は、精神障害を改善するために医療を行う必要がある者のうちで、本制度の処遇の対象となるのは、同様の行為を行うことなく社会に復帰することを促進するための配慮が必要な者に限られるということを明らかにしたものでございます。したがって、自傷他害のおそれも認められないような者についてはそのような社会復帰の観点からの配慮を要するとは認められませんので、この要件には該当しない、したがって、入院ないしは通院の決定は行われることはないこととなるわけでございます。
平岡委員 一つだけ今要件がはっきりしました。つまり、自傷他害のおそれのない者は除かれる。つまり、自傷他害のおそれのある人ということが、まず一つの要件というんですか、基準になっている。その中で、さらに今回の修正案で限定をされたと皆さんが言っている要件が加わる。実際は、目的が書いてあるだけで、これは塩崎さんの答弁を見ても、入院の必要性がある者が入院の必要性が認められるんだというような答弁がちょっとありまして、私としては非常に納得のいかない答弁であったわけでありますけれども、そうはいっても、皆さん、要件だ、要件だと言っています。目的が加わった要件、これがさらに加わっているということになるわけですけれども、それじゃ、自傷他害のおそれのある者の中で、皆さん方が言っておられる要件、もっと具体的にお教えいただけないでしょうか。
 せんだっての質問では、精神障害がない人は入らない、精神障害のある人であるということは言いました。私は、では、どんな症状がある人がなるんですかというふうなことも含めて聞きました。それだけじゃなくて、精神障害の状況だけじゃなくて、もっといろいろな要件があるんだろうと思いますけれども、一体どのような具体的な基準というものがあるのか、これを明確に、宿題として出しておりましたので、お答えください。
塩崎委員 入院等の要件につきましては申し上げたとおりでございまして、精神障害を改善するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合で、かつ、精神障害の改善に伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認められる場合ということでございます。
 具体的には、最初の要件については、治療可能な精神障害を有する者について、これを改善するためにこの法律による手厚い専門的な医療を行うことが必要か否かを判断することでございます。また、二番目の要件につきましては、このような手厚い専門的な医療が、同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するという意味からも必要か否かということを判断することでございます。
 裁判所は、このような判断を行うに当たりまして、精神科医による対象者の鑑定の結果を基礎とした上で、対象者の精神障害の類型あるいは病状、過去の病歴、治療状況、生活環境等のさまざまな要素を考慮するということになってございます。実際に、本制度の個々の対象者が有する精神障害にはもちろんいろいろなパターンがあるわけでございますので、さまざまな要素を考慮するということになります。
 そういうことになりまして、どのような精神障害が認められる場合に入院等の決定がされるかを一概に類型的に申し上げるというのはなかなか難しいわけでありますけれども、例えば、対象者が有する精神障害が治療可能性のないものであれば、先ほどの一の要件を満たさないで、入院も通院も決定は行われないということでございます。
 それから、対象行為の原因となった精神障害について、同様の症状が再発する可能性がないような場合には、その精神障害が社会復帰の妨げになるものとはなかなか認められないわけでありまして、そのため二の要件を満たさない、したがって、入院、通院の決定も行われない、こういうようなことではないかというふうに考えております。
平岡委員 全く具体的基準が示されているという状況じゃないと思います。
 せんだって、三十七条の関係の鑑定のところでいろいろな議論がありましたけれども、三十七条は二項が全く改正されていないんですよね。三十七条の二項は、鑑定を行うに当たって考慮すべき事項というのが並べてあるわけですけれども、全く変わっていない。そういう状況の中で、皆さん方が改正案で入院の要件が変わってしまったんだと言うのは、非常に詭弁だと思いますね。やはり最終的には、皆さん方の修正案の中でも、再犯のおそれをどこかで暗黙のうちに推測をして、そしてその中で判断を行っている、そういう仕組みになっているとしか言いようがない、そういう法案になっていると私は思います。
 三十七条の二項に全く手をつけなかった、その理由を聞こうとは思いませんけれども、そこに、修正案が意図しているところが皆さん方が提案した修正案の中には必ずしも示されていないというふうに私は思っています。
 ついでに入院決定の要件について触れてみたいと思いますけれども、先ほど来から、三十七条の鑑定のところで、本当はもっともっと具体的な基準を皆さん方に示していただきたいんですけれども、今出ませんでしたから、そんなことでは本当にこの法律の運用が適切にできるのかどうか、全く私としては疑問に思っていますけれども、四十二条で、入院等の決定をするところで、対象者の生活環境を考慮しなさい、こう書いてあります。
 先ほど来、水島委員の方から、どっちかというと犯罪傾向につながるような、そんな生活環境にある場合の話が出ましたけれども、私は逆に、全く犯罪傾向につながらないような生活環境で暮らしている人、非常に裕福で、自分のうちで介護してくれる人がたくさんいて、そして自分のうちで生活していたって全くそんなおそれがない、社会復帰を促進するような必要がないと思われるような人が仮にいたとします。そうしたら、この人たちは、入院させられてレッテルを張られるようなことよりは、やはり自分たちのうちでちゃんと生活をしていく方がいいわけであります。
 そうすると、そういう裕福でちゃんと介護してくれる人がたくさんいるような、そういう人は、この四十二条の決定においては入院の決定が出されない、そういうことでいいんでしょうか。
塩崎委員 言ってみれば先ほどの延長線になるわけでありますけれども、今のような御指摘の場合でありますけれども、仮にそのような、常に身近に十分な、先ほどお話がございました、看護の能力のある人がいる、そういう家族がおられるというような場合の話かと思うわけでありますけれども、そういった対象者の生活環境にかんがみますと、それは社会復帰の大きな妨げにならないという先ほどのお話でございますけれども、そういう場合には、少なくとも入院の決定は行われないというふうに考えるべきだと思います。
平岡委員 それは逆に、今度は差別ですよね。生活環境が非常にいい人はこの法律の中では入院決定処分がなくて、生活環境が非常に厳しいあるいは貧しい、そういう生活環境にある人はこの法律によって入院決定がされてしまう。これは全く差別の法律じゃないですか。こんな法律、おかしいですよ。
 本当に治療の必要性がある者について入院を決定していくという措置入院の制度というのは私はある程度は納得できると思いますけれども、裕福だから入院しなくていい、貧しいから入院しなきゃいけないというような結果が出てくるようなこんな法律では、本当に差別の法律だと思いますよ。どうですか。
塩崎委員 あくまでもこの法律の体系は、この法律で定めている手厚い医療が必要かどうかということが最大の大事な点でございまして、それをオーバーライドする形で、家庭環境で、看護能力がある人がいるとかいうことで通院にするというようなことは、多分この合議体ではあり得ない決定なんだろうというふうに思います。
 ですから、それは通院で、なおかつ、こういった条件が整っている場合には通院という判断をするかもわからないということを申し上げているわけであって、基本的には、この法律に定める手厚い医療が必要かどうかというところが判断の決めどころだというふうに思います。
平岡委員 判断の決めどころといっても、四十二条には、ちゃんと「対象者の生活環境を考慮し、」と書いてあって、生活環境を入院決定するか否かという重要な判断要件の一つにしているわけですよね。それを今のような詭弁で、手厚い医療が必要かどうかだけで判断していますというような、そういう、法律とは違ったことを答弁されたんじゃ困りますよ。
 もう一つ。先ほど塩崎委員の答弁の中で、治療可能性がない人についてはこの法律に基づく強制入院の対象にはならないんだという答弁がありました。これはまたおかしいんですよね、本当は。
 例えば五十四条で、退院の申し立て、医療の終了の申し立てをするところにやはり同じようなくだりがあるんですよね。保護観察所の長は、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があると認めることができなくなった場合」には、「この法律による医療の終了の申立てをしなければならない。」こう書いてあるんですよね。
 例えば、指定入院医療機関に長期にわたって入院している人がいて、この人はなかなか治らない、もう改善の見込みがないというふうに至ったときは、この人は退院の申し立てによって退院ができるんですね。
 皆さん方から入院決定要件の具体的基準というのを挙げていただけなくて、法律に書いてある目的規定みたいなところの要件ばかり言われるので、今それを逆手にとって言っているんですけれども、塩崎委員は、この修正案における入院決定要件に照らしてみれば、治療可能性がない人についてはこの法律による入院決定というのは行われないんだ、こういうふうに言われました。
 それでは、この入院決定要件と同様の要件を備えている退院決定要件のところも、先ほど読み上げたように、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があると認めることができなくなった場合は、」「医療の終了の申立てをしなければならない。」と書いてある。つまり、何年も入院していて、この人はもう治る見込みはないね、改善の見込みがないねとなったときには、この人に対しては、退院の、この法律による医療の終了の申し立てをするということになるんですね。非常におかしいですね。どうですか。
塩崎委員 先ほどの、保護観察所からこの医療をとめるというのは、不必要に医療の現場に閉じ込めるような形にするのはいけないがためにそういうことにしている仕組みでありますので、今の形での想定というのは余り考えられない。もともと、入るときに、今申し上げた精神障害が治療可能性のない者の場合にはこういうことにはならないということを言っているわけで、一たん入ってそういう形で出てくるということではないと思います。
平岡委員 私は、ちょっと意地悪質問をしているので、それでいいと言っているわけじゃないんですけれども、それほどこの法律というのはあいまいな法律だ、いいかげんな法律だ、いいかげんな修正案になっているんだということを言いたいんですよ。十分に検討されていない。
 委員長、定足数不足。(発言する者あり)だめ。こんなんじゃ質問できない。中断。時間をとめて。時間をとめてください。
山本委員長 速記をとめてください。
    〔速記中止〕
山本委員長 速記を起こしてください。
 平岡秀夫君。――速記をとめてください。
    〔速記中止〕
山本委員長 速記を起こしてください。
 平岡秀夫君。
平岡委員 この法律というのは、精神障害にかかった人たちにとってみれば、本当に死活にかかわる、人権にかかわる非常に重要な法案なんですよね。与党のこんな出席状況の中でこんな重要な法案をやらなきゃいけないというこの国会の寂しさというのを、ぜひ皆さん、感じ取ってほしいと思いますよ。真剣に議論したいと我々は思って一生懸命やっているんですから、ちゃんと皆さん出席するように。まだまだ本当に少ないですよ、辛うじて定足数に達しているかもしれませんけれども。(発言する者あり)
山本委員長 御静粛にお願いします。御静粛にお願いします。
平岡委員 今までの質問の中でも、本当にこの法律が施行されたらどんなふうにして運用されるか全くわからない。こんな法案になっているということを、ぜひ皆さん、よくわかってほしいと思うんですよね。
 ちょっと時間がありませんから、次の質問に移ってみたいと思います。
 三十四条の鑑定入院命令の関係なんですけれども。この三十四条の第一項には、処遇の申し立てを受けた裁判所の裁判官は、対象者について、鑑定その他医療的観察のため、その対象者を入院させ、決定があるまでの間在院させることを命じなければならないというふうに要約すれば書いてあるわけでありますけれども、三十三条の処遇の申し立てがあれば、明らかに要件に適合していない人を除けば、必ず鑑定入院させられるという仕組みになっているわけですね。
 この人たちというのは、ある人は裁判で無罪をかち取った人であったり、あるいはこれまで長い間捜査のたびに警察、検察で取り調べを受けたり、そういうようなことをしてきた人たちでありますけれども、その人たちに対して、この三十三条の申し立てがあったら必ず鑑定入院が命じられる、こんな仕組みは、これは人権侵害じゃないですか。なぜこんなことが許されるんですか。
森山国務大臣 この制度による処遇は、本人の社会復帰のために必要な手厚い専門的な医療を行うものでございますから、本人にとって最も適切な処遇が選択される必要がございます。この制度による処遇の要否やその内容を決定するに当たりましては、特に慎重さが求められると思います。
 そこで、この制度による処遇の要否や内容の判断に当たりましては、本制度による処遇の必要がないと明らかに認められる場合を除きまして、対象者を病院に入院させた上、医師が対象者を直接診察し、あるいは必要な検査を行うなどの方法によりまして、医師としての専門的見地から本制度による処遇の必要性の有無に関する鑑定を行いまして、また、入院中の対象者の言動や病状等を医療的見地から観察するということにしたものでございます。
平岡委員 ちょっと質問の観点を変えてみますと、仮に四十二条第一項三号の決定、つまり、入院しなくてもいい、通院もしなくていいという決定がなされたというときには、この対象者に対しては、鑑定入院等で拘束されたことについての補償は受けられる仕組みになっているんでしょうか。
森山国務大臣 御指摘の補償は、刑事訴訟法上の手続における無罪の確定裁判を受けた者が拘禁等を受けた場合に国に対して請求する刑事補償など、不利益な処分を行うために行った公権力による国民の自由の拘束が根拠がないと明らかになった場合に行われる補償のことを指すと思われます。しかしながら、この制度の鑑定入院につきましては、まさに対象者についての適切な医療等を行うという観点からの鑑定等のために必要なものとして、そのために必要な期間行うものでございます。
 この制度は、この鑑定を基礎とするとともに、他の諸事情をも考慮いたしまして処遇の決定を行うことにより、適切な医療等を行い、もって本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでございまして、刑罰にかわる制裁を科すことを目的とするものではございません。本人の利益となる面をも有するものでございますので、御指摘のような自由の拘束とは性質が異なるものだと考えます。
 したがいまして、この法律による医療を行わない旨の決定がなされた対象者が鑑定入院によって身柄を拘束されていたとしても、補償の対象になるとは考えておりません。
平岡委員 今のも本当に、ある意味では、こういう人たちに対する差別ですよね。刑事被告人であっても無罪になったらちゃんと補償は受けられるんですよね。この人たちは、別に自分たちは鑑定入院させてもらいたいと思っているわけじゃない、自分たちは強制入院させていただきたいと思っているわけでもない。それなのに、強制入院をさせるための判断を仰ぐために無理やり鑑定入院をさせられているんですよね。
 その結果として、この人たちに対して強制入院をさせることができないとなったら、今までの手続は、結局、国が行っていた手続が間違っていたということじゃないですか。それにもかかわらず、何らの補償もされない。こんな仕組みというのはありませんよ。体を勝手に拘束しておいて、その間に生じた何らかの損失なり損害なりに対して何らの補てんもしない、こんな仕組みがありますか。
 もう一方、刑事訴訟法の中には、費用の補償というのもあります。今回、法律の第七十八条を見ましたら、裁判所は、対象者または保護者からさまざまな費用を徴収することができると書いてある。この対象者について、何も処分をすることができない、処分をする必要がないという判断をされる場合に、やはり費用を徴収するんですか。刑事訴訟法ですら、無罪だという人たちについては費用を補償するという仕組みがある。この対象者の人たちにはあるんですか。
樋渡政府参考人 本法案では、刑事訴訟法第百八十八条の二の費用補償の規定に相当する規定を設けておらず、第四十二条一項三号の決定、これはこの法律による医療を行わない旨の決定でございますが、それがなされた場合、対象者は、審判等に要した費用の補償を受けることはできないことになります。
 刑事訴訟法第百八十八条の二の趣旨は、刑事事件により訴追され無罪の判決を受けた被告人が、種々の不利益を受けることから、無罪の判決が確定した場合の裁判に要した費用を補償することにございます。しかしながら、本制度は、適切な医療等を行い、もって本人の社会復帰を促進することを最終的な目的とするものでありまして、刑罰にかわる制裁を科すことを目的とするものではございませんので、本人の利益となる面をも有することでありますから、このような規定を設けていないものでございます。
平岡委員 本人の利益になるというのなら、本人が申し立てて、ぜひ私をこんないい病院に入院させてください、こんないい病院に通院させてくださいということで申し立ててやって、あなたは残念ながらその要件に当たりませんから勘弁してくださいというんだったらいいですよ。これは、検察官が申し立てて、この人たちは強制入院させる必要があるという可能性のある申し立てをして、鑑定入院で拘束して、そして審判手続の中でいろいろと費用をかけさせて、それに対して、入院する必要がないという決定が出ても何の補償もされない。こんないいかげんな法案はないじゃないですか。修正案の提案者、どうしてここを修正しないんですか。
漆原委員 ただいま刑事局長から話がありましたように、今回は刑事手続ではないわけですから、その差によって私どもは修正をしなかったわけでございます。
平岡委員 刑事手続でなかったら何もしなくてもいいというのは、やはりおかしいと思いますよ。例えば、七十七条に、この審判の中で、証人、鑑定人とか、翻訳人とか、こういう人たちに対しては、旅費も日当も宿泊料も皆支給されるんですよね。この人たちも、裁判所が来てくれと言って、裁判所から呼び立てて、強制的にと言ったらあれかもしれませんけれども、来てもらうわけですよね。この人たちにはちゃんとそういう日当を払っておきながら、これは裁判手続がないから補償する必要はない、そんな論理というのはないですよ。これは憲法違反ですよ、こんな法律。法務大臣、どうですか。
森山国務大臣 先ほど私が申し上げましたとおり、また修正提案者からもお話がございましたように、これは刑事のあるいは制裁のためではございませんで、本人が社会復帰をするために必要な条件はどうかということを、綿密に、丁寧に調べるためのものでございますので、制裁ではございませんので、全く違う話だと思います。
平岡委員 これは繰り返しになるんですけれども、修正案提案者も、この法律は社会復帰を促進するための法律であるというふうに、いろいろお化粧はされました。お化粧はされたけれども、本質は、これは赤ずきんちゃんのオオカミ法案であって、重大な他害行為をしてしまった精神障害者の方々が刑罰のかわりに何か処罰されるように、その人たちが拘束されるように、こういうふうにつくってあるということはこの前の審議の際にも十分言いましたですね。刑務所に行くとき、少年院に行くときにはこの法律の適用はなくなってしまう、そんな法律になっているわけですよ。まさにほとんど刑事的な手続みたいなものなんですよ。
 それにもかかわらず、強制的に鑑定のために入院させておいたり、あるいは強制的な審判手続の中でさまざまな費用がかかったときに何の処遇もできない、審判が下るときにそれに対する補償は全くされない、これはまさに、財産権の侵害に当たる憲法違反な法律と思いますよ。
 ちょっと、余り賛同が得られないんで、賛同していただけたらここでもうこの法律はやめましょうと言うんですけれども、賛同いただけませんでしょうか。
山本委員長 どなたに質問ですか。
平岡委員 厚生労働大臣と法務大臣。
森山国務大臣 先ほどからお話し申し上げているとおり、先生のお話には賛同いたしかねます。
平岡委員 時間が余りなくなったので、この法案の附則で改正されている精神保健福祉法の第二十五条についてちょっとお聞きしたいと思います。
 これは、新たに第二項が加わったといいますか、一項と二項に区分されましたけれども、二項で検察官が精神障害者の方々について「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」こう書いてあるんですけれども、これは何のために何を通報するんですか。
上田政府参考人 本法案による改正後の精神保健福祉法第二十五条第二項による精神障害者等について検察官がどのような場合に都道府県知事に通報することとなるかにつきましては、個々のケースに応じてさまざまであると考えられますが、例えば、本制度による入院、通院決定のいずれも受けなかった者について検察官が速やかに適切な医療を確保する必要を認めるに至った場合などが考えられます。
平岡委員 私の質問は、その前の質問なんですね。何のために何を通報するのかと。
上田政府参考人 失礼いたしました。
 精神保健福祉法第二十五条に規定されている検察官の都道府県知事への通報義務は、精神の障害により医療の必要がある者に対して広くこれを受け入れる機会を与えるために課せられたものであります。したがいまして、検察官は、通報の対象となる者が精神障害者またはその疑いのある者である旨を都道府県知事に通報するものであります。
平岡委員 これは、何を通報するのかが全くよくわからない、非常にずさんな法律であるとは思いますけれども、この中で、検察官は精神障害者について「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」こう書いてあるんですよ。これは、精神障害者の人たちについて言えば、検察官が目を見張っていて、いたらすぐに通報する、そういう役割を今回の二十五条二項は義務として負わせたんですか。
上田政府参考人 私、先ほど、精神障害者について通報が義務づけられる、特に必要があると認めたとき、そういう状況について御説明をさせていただきました。
 そこで、説明の中で、例えば、本制度による入院、通院の決定のいずれも受けなかった者について検察官が速やかに適切な医療を確保する必要性、例えば自殺のおそれがあるとかそういう状況で、やはり適切な医療を確保する必要性がある、そういう状況の際にこのような通報の制度を設けたものでございます。
平岡委員 法律はそのような場合に限定して書いていないでしょう。これは、一般的に精神障害者について特に必要があると認めたときは検察官は速やかに都道府県知事に通報しなければならない。検察官は、世の中、ずっと精神障害者の人たちに目をはわせて、見張って、これはどこか必要があるなと思ったら通報するような仕組みにこの法律でしたんですか。どういうことですか、これは。
坂口国務大臣 もう少し一般的な言葉で言わせていただきますと、検察官が裁判所に申し立てをすることになっていますね。そのときに、申し立てをしている間に、すなわち鑑定入院をするまでの間にその人の病状が悪化をした、そのときに都道府県知事に対しまして、こういう状況だから何らかの措置をしてほしいということを検察官が知事の方に申し立てをする、こういうことだというふうに私は理解をいたしております。
 したがって、それをどうするか、措置入院にするのかどうするのかということについては、都道府県知事が判断をする、こういうことだと思います。
平岡委員 大臣はちょっと私の質問の趣旨を理解されておられないので、刑事局長、答弁してください、ちゃんと正確に。
 この法律は、新たに検察官に、精神障害者一般の方々に対して監視する役割を担わせ、そして必要があると認めたときには都道府県知事に通報するという義務を課した法律ですか。
上田政府参考人 検察官は職務上精神障害者を扱うことが多いことに対しまして通報義務を課したのでございます。ですから、先生が先ほどおっしゃられました常に監視という立場ではなく、今申し上げましたように、職務上精神障害者を扱うことが多い、こういうことでこのような通報義務を課したものでございます。
平岡委員 職務上精神障害者の人に出くわしたときにだけ検察官にこういう義務がかかっているというのは、どうやって読むんですか。法律にそうやって書いてあるんですか。そんなこと、どこにも書いていないじゃないですか。
樋渡政府参考人 この改正案にございます第二項は別に特別なことを新たに規定したものではございませんでして、改正前の二十五条が一つの本文でまとまっております。
 二十五条を一項と二項に分けましたのは、一項におきまして、要は、本法律案ができましたときに、心神喪失者等の対象者に対しましては本法案で社会復帰のための医療をしていただこうというわけでありますから除外しなければなりませんが、除外をいたしましても、先ほど部長がお答えいたしましたように、対象者に対してなおかつその通報をする必要があるという場合があるだろう、そういうことを想定いたしまして、二項でまとめて書いたものです。
 言いかえますと、改正前、現行の二十五条では「その他特に必要があると認めたとき」ということになっておりますところを二項でまとめたものでございまして、これは、先生がおっしゃっていますように、検察官、警察官等が終始見張っていろというのではありませんでして、先ほど部長から、この法律のつくられましたときの趣旨説明でありますように、警察官、検察官等は仕事柄こういう方に接する機会が多いだろうというところから特に義務を課したというものでございます。
平岡委員 そうはおっしゃいますけれども、今回二項に分けたことによって、その矛盾点というか、おかしいところが際立って出てきたんですよね。この法律を見たら、精神障害者について、「特に必要があると認めたときは、速やかに、都道府県知事に通報しなければならない。」検察官に対してそういう大きな義務がかかっちゃっている。本当は、これの意味するところは、被疑者とか被告人が精神障害者であったりその疑いがあったりしたような場合の法律だと私は思うんですよ。この法律はそうはなっていないんですよね。こんないいかげんな法律、通すわけにいかないですよ。検察官は、精神障害者一般に対して監視をして、必要があると認めたときは通報しなきゃいけないような、そういうことが書いてあるこんな法律なんか認められないですよね。(発言する者あり)書いてある。読んでみなさい。国語の問題だ。
上田政府参考人 精神保健福祉法におきましては、法二十三条におきまして、「精神障害者又はその疑いのある者を知つた者は、だれでも、その者について申請することができる。」それから、二十四条は警察官の通報、二十五条は検察官の通報、二十五条の二で保護観察所の長の通報、このような制度になっているところでございまして、その一つとして検察官の通報があるわけでございます。
平岡委員 全く納得がいかない。今の説明は、ただ単に条文をなぞられただけで、私の質問に対して全く答えていない。検察官は、精神障害者の人たちに対して一般的にこういう通報義務がかかるようなことになっているわけですから、ずっと監視しなきゃいけないということなんですね、この法律は。刑事局長。
樋渡政府参考人 それでは、昭和二十五年四月五日、この福祉法の審議におきます立案担当者の答弁を引用させていただきますと、
 医療保護の必要が緊迫しておる精神障害者を保護するための、国民全体の協力態勢を作つたことでございますが、法案の二十三条から二十六条に亘りまして規定がありまするように、先ず国民は誰でも医療及び保護の必要が緊迫しておる精神障害者を発見したときは、知事に対して医療保護の申請を求めることができるということを大きな網にいたしまして、その中で警察官、検察官刑務所等の矯正保護施設の長のように職務上精神障害者を扱うことが多いものに対しましては、通報義務を課したのでございます。このことによつて、医療保護の必要があるにも拘わらず、受け得ない精神障害者のないように措置することを考えたのでございます。
ということでございまして、我々がふだん職業上接することの多いことから、我々には通報する義務を課して、治療を受け得ない機会をなくすようにされているものというふうに思っております。
平岡委員 いずれにしても、きょうの審議の中で、この法律が本当に不十分な点がたくさんあるということを私としては指摘申し上げたわけです。
 こんな法律を採決に付すというようなことは到底考えられない。こんなずさんな法律はありませんよ。はっきり言って、こんな法律に賛成される方がおられたら、もうこれは国会議員としての職務を果たしていないと私は言わざるを得ない。
 以上、質問を終わります。
山本委員長 次に、木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 最初に、法案から一問だけ離れますけれども、昨日、大阪高裁で、被爆者援護法に基づき健康管理手帳、手当を受給していた韓国人被爆者、郭貴勲さんが、帰国を理由に手当を打ち切られたのは違法だということで国と大阪府を相手取って手当の支給と損害賠償などを求めていた裁判、御案内のように、一審、大阪地裁は原告勝訴だったわけであります、この控訴審判決が出ました。国側の控訴が棄却をされ、原告全面勝訴の判決でありました。もう厚生労働大臣御案内のとおりであります。長崎地裁、そして先ほど言ったこの原審の大阪地裁に続く三度目の判決であります。
 昨日、大阪高裁の根本裁判長は、被爆者はどこにいても被爆者であるとの事実は直視せざるを得ない、大変な名言を吐きました。これを重く受けとめて、決して上告することなく確定することが今求められていると思います。
 きょう、当委員会で、先ほど同僚委員からもありました、この心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療観察法案に関して法務委員長は、野党四党が一致して、まだ審議が尽くされていないと主張したにもかかわらず、職権でもって、きょうの審議が終わったら質疑を打ち切って採決をする、強権発動する旨の宣言をいたします。
 そうなりますと、この臨時国会の会期末が十三日でありまして、もう二度と法務委員会が立ち上がる可能性がなくなる。裁判の上告の期限は二週間でありますから、この場をおいてないわけでありますので、一言、断じてこれは控訴しないで確定してもらいたい。きょうも、原告を初め支援者の皆さんがこの集会をやっております。坂口厚労大臣の所見と、この要望を受けるという毅然たる答弁をまず求めたいと思います。
坂口国務大臣 御指摘のとおり、大阪地裁に続きまして、高等裁判所におきます判決が昨日出たところでございます。この結論につきましては、非常に重大に受けとめているところでございます。
 その判決の内容につきまして、きのう私はまだ拝見する暇がちょっとなかったものでございますから、きょう、あすのうちに拝見をいたしまして、そして関係者の皆さん方と相談をし、早急に結論を出したいと考えているところでございます。
木島委員 真っ正面からの答弁になっていないわけでありますが、私は、ハンセン病の熊本地裁判決が出たときにも、法務大臣にも厚労大臣にも、決してこれは控訴すべきではないと再三にわたって法務委員会で質問をいたしました。もう時間が大変限られておりますし、この提案されている心神喪失等医療観察法案についての審議も大変大事でありますからこれ以上質問いたしませんが、ぜひ、もう上告しない、そういう決断をされることを重ねて要望しておきます。
 こういう事件は法務大臣が国の代理人という立場になるわけでありまして、ハンセン病のときもそうでしたが、あのときは、厚労大臣は控訴しないという気持ちにずっと傾いておりましたが、最後までなかなかそういう立場に立ち切れなかったのは、残念ながら、法務省の森山法務大臣だったと私はお見受けしていますので、決してそういう立場をとられないように、これは要望だけしておきたいと思います。
 そこで、法案に関して質問をいたします。
 私からも、本法案はまだ審議が尽くされていないと。特に、本政府提出法案、修正案が出ておりますけれども、我が国の大変貧困な精神医療、福祉、保健、この根本にかかわる法案であります。
 そして、不幸にして他害行為を行ってしまった心神喪失者等に対する処遇をどうするか。現行法では精神保健福祉法の措置入院制度しかありません。全くない仕組みを導入するという法案であります。再三、答弁の中で刑事手続ではないとおっしゃっています。確かに刑事事件ではありません。審判という、これが裁判なのか行政処分なのか、非常にあいまいな分野でありますが、裁判官とお医者さんとがかかわって対象者を治療処分に付する。治療処分に付しますと身体が拘束されるわけであります。通院治療処分の場合は、通院が義務づけられ、日常監視される。まさに人権の根幹にかかわる法案であります。それだけに、私は、疑問が一点でも残るような状態のまま審議を終結させてはならぬと思うんです。
 修正案が、特にこの審判の基本的な要件、再犯のおそれという問題が厳しく指摘をされ、その言葉を削除しました。修正者は逃げたわけです。逃げて、その行政処分、審判の要件、一番根幹、キーワードの部分を、この法律による医療が必要な場合、そういう要件に切りかえていったわけですね。全く一般的な、抽象的な概念です。
 そして、その抽象的な概念の上に、私はきょうはもう繰り返すことをやめますが、修飾語をつけたわけでしょう。医療が必要だ、再び同じような重大な他害行為が起きないように、そして、対象者を早期に社会復帰させる、そういうためという目的をつくって、そういう非常に長い三つの目的のため、あなた方は二つと言っておりますが、この法律による治療が必要となった場合、それが要件なんですね、この重大な入院措置、入院処分、通院処分ができるというふうにつくりかえていったわけであります。
 私、もう先日やりましたから繰り返しませんが、本当に、読み方によって、限定されるのか、逆に拡大されてしまうのか、法の縛りがかかっているのか、外されたのか、全く説得ある答弁がなされないまま、きょうも同僚委員からの質疑が続いておりましたが、審議打ち切りというのは暴挙だということを厳しく指摘しておきたいと思っております。
 それだけではなくて、この法案を審議する土台が非常に大事だ。我が国の精神医療全体がどうなのか、我が国の措置入院制度がどうなのか、そういうところがほとんど審議が尽くされておりませんので、きょうは私は、質疑時間の許す限り、そういう大きな視野で我が国の全体の精神医療、福祉、保健について質問をしてみたいと思っております。
 重大な他害行為を行った精神障害者に対してどのように処遇するかについて意見が分裂しております。立場や見方によって違いがあることが、さきの通常国会以来、今臨時国会でも審議を通じて明らかになりました。しかし、我が国の共通した認識に到達してきていると私は思います。それは何かといいますと、我が国の精神医療は欧米に比べて非常に大きな立ちおくれがあること、そして、加害者となった精神障害者に対して万全の医療と社会復帰のための対策を講じて、同人による事件の再発を防ぐための対策が必要である。どういう対策が必要であるかについては立場によってさまざまな違いがあって、それが激しく激突していると思うんですが、いずれにしろそういう対策が必要だという大きなベースでは、私は認識が共通してきていると思うんです。
 そこで、私は、どういう処遇をすべきかについて意見が分裂するのはなぜかと突き詰めていきますと、その意見の違いの背景、要因の最大のものは、何といっても、繰り返しになってしまうんですが、現在の日本の精神医療の貧困にある。そこが貧困だから、そこになかなか手をつけようとしない、手をつけたように見られない、だからこそ、具体的な処遇についてのあり方について意見が分裂してくるんだろうと思うわけであります。
 ですから、まずこの点について、最初に坂口厚労大臣にお聞きしたいと思うんです。
 欧米と比較いたしまして、我が国の精神医療の最大の特徴は何かといったら、私は、入院中心医療になっているということではないかと思います。
 数字を挙げてみたいと思います。一九六〇年、七〇年、八〇年、九〇年、節目の年の人口一万人当たりの年次精神病床数の推移を見ても、これは明らかに浮き彫りになるんですね。もう御案内のとおりです。
 我が国はどうなっているか。六〇年を出発点にして七〇、八〇、九〇と言いますと、十・一、それが二十三・八になり、二十六・三になり、そして九〇年には二十九。増大の一途を続けております。
 これに対して、欧米先進国はどうか。
 アメリカは、六〇年が四十、七〇年が二十五・九、八〇年が九・四、九〇年が何と六・四。急速に、入院で閉じ込めるという医療から地域に戻して開放するという医療に見事に変わっています。
 イギリスはどうか。六〇年の資料がないんですが、七〇年が二十五・六、八〇年が十八・六、九〇年は十三・二。ずっと減ってきています。
 旧西ドイツはどうか。六〇年、九・六、これはちょっと変化があるんですが、七〇年には二十・四になりましたが、八〇年に十九・七、九〇年には十六・五。やはり地域開放医療の方向に向かって進んできているわけであります。
 こういう余りにも対照的な数字が出てきているというのはなぜか。私は、明らかに、国が入院中心の政策、そして地域精神医療、福祉、保健対策の後回し、地域ケアの後回し、そういう政策をとり続けてきた結果だと言わざるを得ないと思うんですが、このことを厚生労働大臣はお認めになりますか。
 そして、今まさにこの転換こそが求められていると思うんです。なぜ、日本では精神医療の中心が入院から地域医療へ、そういう根本的転換ができないのか、那辺にその根本的要因があるのか、これは篤と厚生労働大臣の御所見を賜りたいと思うんです。
坂口国務大臣 今挙げていただきました数字は、これはもう御指摘のとおりでございます。
 日本の精神医療というものが入院医療というものに非常に重きを置いてきたということは事実でございます。この要因には幾つかあるだろうというふうに思いますけれども、やはり、今御指摘になりましたような、一つは、地域の受け皿がなかなかない、こういうことも一つの要因になっていたことは、私も率直に認めなければならないというふうに思っております。
 さて、そうしたことを認めた上で、今後、これをどうしていくかということになるわけでございますが、やはり徹底的に不足をしてまいりましたのは、これは人の問題だというふうに思います。人材の養成、そしてそのチームワークの不足、そうしたところに私はあるというふうに思っております。
 人材につきましては、特に精神科医師の不足ということも私はあると思います。全体の中で、人口割の医師の数はだんだんとふえてきておりますけれども、精神科の医師でありますとか小児科の医師というものは、人口割で見ますと決してふえているわけではありません。むしろ中には減ったというところもあるわけでございまして、やはりそうした精神科医療を行う医師をいかにして養成するかという問題がございますし、そしていわゆるコワーカー、コワーカーと言うと大変失礼でございますが、看護師さんを初めといたしまして、PSWの皆さん方もお見えでございましょう、そうした関連する医療従事者の養成というものが急がれているわけでございまして、今までそうした問題を主張いたしますと、それはすぐ病院内における治療の充実ということに主眼がなってしまいまして、地域におけるケアということに対しましてなかなか目が向いてこなかったということは事実でございます。
 これは何かのきっかけがなければなかなか進まないことでございますが、先日もお話を申し上げましたとおり、ハンセン病の問題が決着をしましたときにすぐ頭に浮かびましたのは、この精神科医療を早く決着をつけなければならないということでございました。そうしたことも含めて、障害者基本計画のプランを今作成しているところでございますが、そうしたことにも盛り込みながら、そして、前回から申し上げておりますように、この厚生労働省の中に私が中心になりました推進本部を設けまして、その中で各局一致協力をした今後の推進体制を組んでいきたい。そして、それにはある程度のプランニングをして、そして何年までにどうするかということを決めなければならないわけでございますから、そこは明確に我々も計画を明らかにしていきたいというふうに考えております。
 そうした中で、病院の中の改革も必要でございますが、あわせて地域におきます問題。社会的入院の問題が、きょうも午前中からいろいろ御議論がございましたけれども、社会的入院の方には年齢の方もございますし御家庭に帰れない皆さんもあるわけでございますから、その皆さんのことも含めて地域でどうこれを受け入れていくかといったこともつくり上げていかなければならないというふうに思っている次第でございます。
 あわせて、ハンセン病の場合も同じでございますけれども、国民全体における精神医療に対する考え方と申しますか、受け入れ方と申しますか、そうした問題もあることも事実でございまして、そうした全体をやはり考えていかなければならないと思っているところでございます。
木島委員 精神科の医師が不足しておる、一つの大きな理由に挙げました。問題は、なぜ今日本のこの医療の世界で、いろいろな分野がある中でお医者さんになろうとする若い皆さんが精神科医師の道を歩もうとしないのか、その根源にメスを入れなければこれは打開できないと思うんですね。
 私は、多くの精神科医師の皆さんのいろいろな文章を読んでいます。本当に一生懸命頑張りたい、一人一人の障害者の皆さんと命がけの格闘をして、医師対患者という形で格闘して、何としてもその患者を精神の病から解放して、そして地域社会に戻って普通の生活をさせてあげたい。物すごいエネルギーが必要だ。自分だけじゃできない。医療チームのスタッフが必要だ。本当にやりたいし、やらなきゃならぬ。しかし、残念ながら今の日本の社会保険制度の体制、医療法の体制はそれができない仕組みがつくり上げられている。一つは、診療報酬の問題であります。
 精神科医療の診療報酬は、大臣御案内のとおりです。一般医療に比べて物すごい格差がつけられている。病院におきましても、人的配置基準は差がつけられている。そういう中にあって、精神病院の皆さんも精神科のお医者さんの皆さんも自分の経営は守らなきゃなりません。そういう格差をつけられた診療報酬や人的配置基準のもとで経営をやろうと思ったら、大勢の患者さんを一度に収容して閉じ込めておく、そういう医療をやらざるを得ない、やらざるを得なくさせられているんだ。
 私は野田正彰先生の大変有名な本を読んでいるわけです。恐らく厚労大臣も読んだんでしょう。私も二十年間命がけで精神医療をやってきた、しかし、この体制のもとではだめだと失望して精神科の医療を断念してやめたわけでしょう。評論家の道へ入っていったわけですね。やはり根幹は体制にある、人をつくるにも今の診療報酬制度や配置基準、そういうものを徹底的に変えなければ人は生まれやせぬと思うんですが、そういう認識はございませんか、厚労大臣。
坂口国務大臣 人の問題は、どちらが先かということになりますけれども、現実問題として医師の数が少ないということは事実でございまして、したがいまして、どうしても無理な体制をつくらなければならないということにも結びついてきている。ここはやはりそこの一番の基本のところをどう改革していくかということをやらないと、私は改善が難しいというふうに思っております。
 したがいまして、これからの、基本計画をつくりそして推進本部をつくってその中でやっていきますところの一番最初の問題は、この人づくりをどう進めるかということを早く手がけないと、これは三月や半年でできる話ではないわけでございますから、早くここを手がけていくということが大事だというふうに思っている次第でございます。
木島委員 先日、この委員会に参考人として出頭されて陳述をしましたPSWの方はどう言っているか。本気になって、地域に戻ってきた患者さんと立ち向かって頑張りたい、しかし、そこに行けないと言うんですね。多くのPSWの皆さんも行っていない。なぜか。そこへ行って相対でサポートしようとしても、診療報酬がそういうものになっていないとここで述べられましたよ。
 だから、その問題を避けたのなら地域医療なんかできない、厚労大臣、その認識に立たなければだめだ。どうなんですかね。この政府案にも修正案にも、全然そこはさわっていないですね。肝心なところだと思うんですが、どうでしょうか。
坂口国務大臣 診療報酬の問題は、きょうの水島議員のところでございましたか、議論の中でも触れさせていただいたところでございまして、現在診療報酬の基本の見直しを行っております。
 この基本の見直しと申しますのは、いわゆる基準をどうつくっていくかということの見直しを行っているわけでございますが、診療報酬の基本にかかわります基準をつくりますときに、そこの基準の中に幾つかのことを私は入れなければならないというふうに思っております。それはコストの問題や重症度の問題もございましょう。しかし、もう一つ大事なことは、そこに時間軸というものが必要であるというふうに思っております。
 精神医療の場合には、一人の患者さんに対しまして時間をかけてじっくりと対話をし、そして、いろいろな話を聞いて診断をしていくということが避けて通れない、どうしてもそうしていただかざるを得ないところでございます。そうしたことに対する評価というものが少なかったというふうに私は思っております。
 したがって、診療報酬体系の中に時間軸を入れるということで、そうした皆さん方の御努力というものに対してもやはり報いていくんだということで今やっているところでございます。
木島委員 修正案の提案者に聞きますが、修正案文の附則第三条第二項、これは一歩前進だとは思うんです。「精神医療等の水準の向上」「政府は、この法律による医療の対象とならない精神障害者に関しても、この法律による専門的な医療の水準を勘案し、個々の精神障害者の特性に応じ必要かつ適切な医療が行われるよう、精神病床の人員配置基準を見直し病床の機能分化等を図るとともに、急性期や重度の障害に対応した病床を整備することにより、精神医療全般の水準の向上を図るものとする。」
 政府案に比べますと、文言としては一歩前進だと思います。しかし、私この前質問しましたように、何らの実効性のある担保措置がない。
 きょうはその論議に入りません。しかし、この条文をよく読んでみますと、やはりお金の問題を避けているんですね。診療報酬のことを書いていないんですよ。精神病床の人員配置基準を見直す、中身を何にも具体化していないから、いいでしょう、こういうことを書けるでしょう。それなら、今坂口厚労大臣が言ったように、細かいことなんか書かなくていいですよ。書けるはずないし、書けとは言いませんよ。しかし、診療報酬制度の見直しという一項目を入れようと思ったら入れられるでしょう。それが入っていない。この肝心なところをやはり修正案も避けたんじゃないかと思わざるを得ないんですが、どうですか。
塩崎委員 御指摘のように、明示的に診療報酬の対象にはなっていないわけでありますけれども、若干の、例えば精神科救急入院料とか、あるいは、児童・思春期精神科入院医療管理加算とか、そういうところでは要件としてPSWを置くということが条件にはなっているわけでありますが、この間の大塚参考人のお話を聞いてみると、雇用ということを考えてみると、やはりなかなか今の体系では難しいなということを改めて私も感じたわけであります。
 今、木島先生御指摘のように、附則でこのような必要性を私たちは入れましたが、これは今、厚生労働省でも進んでいる、そしてまた、私ども自由民主党の中でも持永委員会で、今後の精神保健、医療、福祉の新しいスキームをどうするんだという議論の中で、これを確実に実現していかなきゃいけないし、先ほど水島議員からも厳しく、塩崎、おまえ責任とれ、こういう話でありましたから、私もこれから先生と同じ思いで進めてまいりたい。
 それが、社会復帰、社会復帰といっても、受け皿がなければ、お手伝いする人がいなければ、コーディネートする人がいなければうまくいかないわけであって、今回の社会復帰調整官はその一つの前進だということで御評価をいただきたいと言っているわけでありますが、それはあくまでもこの法律の中の話であって、もっと広く一般の社会の中でこのPSWの役割、あるいは差別をなくす教育を含めてやっていかなきゃいけないという思いは、全くそのとおりだと思います。
木島委員 全くおくれております我が国の地域精神医療の問題の中でも、私、今日本で一番急がれているのは、救急システムの確立ではないかと思うんです。地域におった患者さんが興奮して暴れていても、だれも助けに来てくれない、家族が何とか対処しても、引き受けてくれる病院がないというのが多くの現状であります。
 私は門外漢でありますが、東京ではひまわりネットワークが都庁につくられ、午後五時以降の緊急診療のための車が配置されるようになったようでありますが、収容できるのは、一千万東京で一晩わずかに四床、ベッドは四つしかない。あとはどうなるか。一時的に警察に留置してもらっているようであります。
 厚労省に聞きますが、こういう現状を把握しているでしょうか。全国で救急システムを急いでつくるというのが、本当に地域で受け皿をつくる、今一番待ったなしの課題だと思うんですが、対策はどうなっているんでしょうか。
上田政府参考人 委員御指摘のように、精神障害者の方が地域の中で安心して生活できるためには、やはり、急に病状が悪化した、あるいはそういった医療を、夜間ですとか休日ですとか、そういった場合でも受けられる体制というのは非常に大事だというふうに思っております。
 それで、私どもといたしましては、精神科救急医療システムのいわば二十四時間体制を整備いたしております。また、あわせて、情報センターにおきまして、いわば休日、夜間の医療相談というような体制を整備しているところでございます。
 いずれにいたしましても、私ども、こういった精神科救急医療システム、あるいは、二十四時間、また休日、夜間のこういった救急医療体制というものをもっともっと整備していく必要があるというふうに考えておりますので、今後とも積極的に取り組んでいきたいというふうに考えております。
木島委員 先ほどの話は、私は、精神科の現場のお医者さんから聞いた話であります。まさに貧困なんですね。本来、治療を受けるべき患者さんが、その体制がないから警察の留置場でお世話いただかざるを得ない。最悪の人権状況だと思うんですね。その問題だけ触れて、次に移ります。
 先ほど来、また、この委員会での審議を通じてさんざん言われた話でありますが、三十三万の精神病床、七万を超える社会的入院という状況があります。やはり根源は、地域精神医療、保健、福祉の貧困だと思うんですね。
 先日、参考人として出頭いただいた都立松沢病院の院長さんの言葉が大変印象深いです。対象者の精神医療が治療によって軽快し、軽くなって、退院させようとする際、解除措置の後のことを考えるとちゅうちょすると言うんですよ。重厚ないい入院医療をやって快方に向かった、地域に戻せる、しかし、この患者さんを地域に戻したときに、今の日本の社会、日本の医療の状況、地域ケアの体制を考えるとちゅうちょすると言うんですね。すさまじい言葉じゃないでしょうか。結局これは、どんなに重厚な入院加療をしても、地域ケアがなければ、精神障害者の皆さんの社会復帰は絵にかいたもちになるということをあらわしている言葉ではないでしょうか。
 全体の地域精神医療、保健、福祉の向上が、残念ながら、現下の日本の財政状況のもと、人的、物的、予算的制約のもと、また社会的制約のもと、すぐにできない。全体の精神医療の地域ケアができないというのであれば、私は、まずは重大な他害行為を行った精神障害者の皆さんに対する処遇として、再犯、再発のおそれ等を防止して、社会復帰を本当に促進するために、重厚な地域精神医療、保健、福祉の体制、ネットワークをつくるということは不可欠だと思うんです。全体を一遍に底上げできないのであれば、まずはそういうことも必要であろう。
 政府案には、そういう観点からと善意に解釈すれば、そういう立場から重厚な入院医療は書き込みました。しかし、地域での重厚な医療、福祉、保健は、何にもないんですね、法案を読んでも。修正案にもその方向が出てきていないんです。私は、最大の致命傷だと思います。
 なぜ、そういう方向を地域医療には出そうとしないんでしょうか、この法案の中に。不思議なんです。なぜですか。
上田政府参考人 今回の修正案の附則第三条におきまして、「精神病床の人員配置基準を見直し病床の機能分化等を図るとともに、急性期や重度の障害に対応した病床を整備することにより、精神医療全般の水準の向上を図るものとする。」このようにうたわれているわけでございまして、私どもも、この条文をしっかり真摯に受けとめまして、やはりこの対策にしっかり取り組まなくちゃいけないというふうに考えております。
 先ほど大臣の方から、各局の参加のもとに、大臣を本部長とします対策本部をこれから設置し、省を挙げて取り組むわけでございまして、ただいま先生の御指摘の点などにつきましても、私ども、地域全体の精神保健福祉対策の推進についてこれからしっかり取り組んでいきたいというふうに考えております。
木島委員 修正案提案者が答弁に立たないんならいいんですが、今、部長が述べたのは入院体制の強化なんですよね。修正案提案者が出した三条二項というのは、地域医療の強化なんて入らないんですよ。そこを私は質問したんです。まあ、次に移りましょう。
 精神保健福祉法、措置入院の現状と問題点についてであります。
 今言った地域ケアがまことにお粗末、貧困という問題は、私は、精神保健福祉法のあり方にも端的にあらわれているんじゃないかと思います。精神保健福祉法には、措置入院、医療保護入院という制度はしっかりつくってありますが、通院治療については、医療費の補助制度があるだけで、かぎ括弧つきでありますが、措置通院制度的なものは全く存在しておりません。なぜ精神保健福祉法にはこのような制度がつくられていなかったのか。厚生労働省、わかったら答弁してください。
上田政府参考人 措置入院からの退院後のいわば法的手当てと申しましょうか、公的医療費の御指摘だと思いますが、退院後の継続した治療の確保を図るための方策については、やはりさまざまな意見があろうかと思います。
 したがいまして、やはりこの点については慎重な検討が必要であるというふうに認識しているところでございます。
木島委員 質問に答えていないんですね。日本の精神保健福祉法の基本原則には、措置入院や医療保護入院、入院する方は一生懸命条文があるけれども、帰ってきたときの手当てが法制化されていないのはなぜか。私は、ここに日本の精神障害者の皆さんへの対応が非常におくれている根本を見出さざるを得ないんです。
 きょうは時間がありません、歴史を語りませんが、昔は座敷牢が法制化されていたんですね。閉じ込める、そういう思想がずっと貫徹して、批判をされまして、精神保健福祉法も、条文の言葉ではいろいろ変わってきましたが、やはりそういう閉じ込めるという思想が貫かれているんじゃないか。
 もう一つは、私はお金の問題だと思うんです。治療の必要な精神障害者に対する措置としては、地域精神医療、保健、福祉を構築する方が入院させるよりもはるかに人的、施設的、予算的負担が大きいんじゃないかと思うんですね。これは私は論証はありません。しかし、そう思います。入院して閉じ込めた方が金もかからない、人もかからない、そこの一番の問題を避けて通ってきたというのが根源にあるんじゃなかろうかと思えてならないんですが、坂口厚生労働大臣、どうお考えになっているでしょうか。
坂口国務大臣 これは、地域におけるそうした受け皿をつくって、そして、そこで皆さん方の病状と申しますか、健康状態というものをよく把握をし御相談に乗っていくという体制は、そこだけを見ると、私は非常にお金がかかるというふうに思います。しかし、そうすることによって入院をする人が減るという全体の枠で見ると、私は必ずしもそこにより多くのお金がかかるとは思っておりません。
 これは、精神病だけの問題ではございませんで、ほかの問題もそうでございます。その地方におきます、それぞれの地域におきます、そういう保健の体制というものをつくり上げていくということが今後大事になってまいりますし、今までの精神医療というのは、ほかの病気と同様に考えて、治療して治ったら、もうそれぞれの地域に帰って、それで健全にそのままでいける、健康か病気かという、そのどちらかという二つの対立した概念で片づけてきているところに非常に無理があるというふうに思っております。
 最近、いわゆる高齢者の方もふえまして、その中間的な方々もふえてまいりましたから、最近は若干変わってはまいりましたけれども、まだその考え方が残っているというふうに思います。精神科の患者さんに対しましても、そうした考え方で今までやってきた、そこに私は精神科の問題には無理がある。やはりその中間的な存在の人たちがいるということを理解していかなければならないというふうに思っております。
木島委員 全体を考えたら必ずしも入院の方が安上がりになるとは考えないというのなら、なぜ本格的にそういう道に歩んでこなかったんでしょうか。私は、そうじゃないと思うんですね。物すごいエネルギーが地域精神医療、福祉、保健を充実するためには必要だ。これは、まさに国と地方自治体が総力を挙げて、まさに政府が総力を挙げてその道に突き進まなかったらできるものじゃないと思うんです。それを回避しようとしたのが安易な入院中心主義じゃないかなと思えてなりません。
 次の質問に移ります。犯罪を犯した精神障害者の処遇の現状の問題です。
 心神喪失により犯罪を犯した者の措置がどうなっているか。これは、衆議院の法務調査室の皆さんの調べた資料によりますと、犯罪白書を分析したようですが、平成八年から平成十二年の五年間の統計で、総数三千五百四十のうち、心神喪失、心神耗弱で不起訴処分となった者の数は、心神喪失千九百十九件、心神耗弱千二百三十八件、合計三千百五十七件。全体数三千五百四十件の、何と八九・一八%、圧倒的多数が不起訴処分であります。これに対し、公訴提起はわずかに三百八十三件、一〇・八一%にすぎません。裁判にかけられた者のうち、心神喪失で無罪になったのはわずかに八件のみであります。
 なぜ検察はこんなに不起訴処分にしているのか。精神障害者の団体の皆さんからも、検察はもっときちんとした捜査ときちんとした精神鑑定、起訴前鑑定をやって、人権保障という観点のためにも、裁判を受ける権利を保障してくれと。普通、逆なんですがね。起訴してくれということになるんですが、裁判を受ける権利をきちんと保障してくれという意見まで出るぐらいの状況なんですが、なぜこんな状況なんでしょうか、法務省。
樋渡政府参考人 お尋ねの点につきましては、検察官としましては、被疑者が精神障害者である場合でも、その刑事責任能力を見きわめ、事案の内容や被害者、遺族の心情等を十分に考慮して起訴か不起訴かを適切に選択すべきものと考えますが、特に簡易鑑定のあり方につきましては、さまざまな御意見や御批判があることは十分に承知しております。
 検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の捜査処理に当たりまして精神鑑定を行う必要があると認められる場合には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、簡易鑑定によるか鑑定留置の上で本鑑定を行うかなど、精神鑑定の手段、方法を選択していると承知しております。
 当局で把握しているところでは、平成十二年には、全国の検察庁で合計二千百九十一人の被疑者につきまして精神鑑定が行われ、その内訳は、簡易鑑定が二千四十二人、本鑑定が百四十九人であったと承知しています。
 精神鑑定につきましては、特に簡易鑑定に対し、先ほど申しましたように、いろいろな批判があることは十分に承知しておりまして、法務当局といたしましても、一層その適正な運用を図り、不十分な鑑定に基づいて安易な処理が行われているとの批判を決して招くことがないようにする必要があると考えている次第でございます。
木島委員 措置入院の人権状況も大変深刻な問題がありますが、今私が質問しているのはその以前の問題なんですね、起訴前の問題。今法務省刑事局長が答弁になったとおりであります。皆さんが出した資料のとおりであります。平成十二年の精神鑑定総数二千百九十一件のうち、何と簡易鑑定が九三・一九%、二千四十二件、本鑑定はわずかに六・八%、百四十九件にすぎません。
 なぜこんなに本鑑定が少ないんでしょうか。簡易鑑定の現状というのはどういうものでしょうか。極めて短時間、しかも精神科医が行うとは限らぬというんですね、お医者さんに聞くと。嘱託医によって行われている。こんなことで正しい鑑定ができるでしょうか。まことにずさんな、いいかげんな鑑定をして、それで本当に心身の状況もつかまないで不起訴にして、そして措置入院の通報という方向にいっているんじゃないでしょうか。
 簡易鑑定をするか本鑑定をするか、区分けのしっかりした基準というものを検察は持っているんですか。
樋渡政府参考人 鑑定は個々の精神科医がその専門的知見に基づき行うものでございまして、その性質上、これを嘱託する立場にある検察当局において簡易鑑定の実施方法を一律に決め得るものではないというふうに考えておりますが、検察官におきましても、鑑定医に対する資料提供等を行う上で鑑定が適正になされるように配慮すべきことは当然でありまして、お尋ねの点につきましては、今後とも、精神科医を加えた研究会等での御議論を踏まえ、簡易鑑定のさらに適正な実施を図る上でどのような方策が有益かについて引き続き検討してまいりたいと思っております。
木島委員 基準がないということですかね。これは大問題だと思うんです。
 鑑定がいかにずさんかというのを示す裏側からの話をします。
 検察で不起訴になった者は、現行法によりますと、精神保健福祉法によって、検察官通報により、措置入院の道へ入っていくわけですね。
 調査室の作成資料によりますと、平成十二年で、検察官通報による届け出件数は一千七十五件。その内訳を見ますと、そのうち、調査により診察の必要がないと認められた者が何と二百八十二件もある。診察を受けたが、法第二十九条、いわゆる措置入院条項ですが、法第二十九条措置入院該当症状のない者が何と二百三件もある。合わせ四百八十五件、何と四五%がこういう形になっている。半分近くは措置入院対象外。検察が簡易鑑定をやって、精神保健福祉法によって通報する、その半分近くがそんな症状ではない。数字が物語っているんじゃないでしょうか。起訴前鑑定のずさんさ、不起訴処分の安易さをあらわしているんではないでしょうか。今度の政府案は、そこには全く何も触れられていないんですね。
 精神障害者の皆さん、不幸にして重大な他害行為を行ってしまった心神喪失者等の皆さんの、この前段階での基本的な人権が守られなければ私はいかぬと思うんですが、今の刑事局長の答弁では、口約束だけであって実効性の担保がないんですね。もっときちっと本鑑定を重視する、簡易鑑定はもう基本的になくすという答弁は出ないんですか。何でこんなに簡易鑑定ばかり多いんですか。財政、予算の問題ですか。はっきり答えてください。
樋渡政府参考人 先ほども申し上げましたように、鑑定はいろいろな事情を考慮して検察官が決めていくものでございますが、本鑑定によりますことは、やはり鑑定留置を伴うことが多いわけでございまして、それが必ずしも被疑者の利益になるというふうには考えないところでございますので、これは検察官が個々の事件に応じて適切に、簡易鑑定を選ぶか、本鑑定まで進んで選んでいくかということを考えていくべき問題だろうと思っております。
木島委員 時間ですから終わりますが、もう本当にいろいろな分野でこの法案は審査されなきゃならぬ。ほとんどされていないですね。私も残念ですが、あと数十時間欲しいぐらいですよ。
 断じて採決は認められないということを重ねて訴えて、時間ですから、残念ですが、質疑を終わります。
山本委員長 次に、阿部知子君。
阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
 本日の私の質問は、この場で質疑をさせていただくのは、連合審査も合わせて、きょうは法務委員会ですが、三度目になりますが、実は、どの委員会に出席いたしました折にも定員割れというのが生じて、質疑がとまるという事態が生じております。幾ら国会の形骸化が激しいとはいえ、一つの法案を審議するのに毎回の委員会が定員割れになるような事態は、大変申し上げにくいですが、委員長の御采配の問題もやはりあろうかと私は思います。
 本当に、ずっとそこにお座りで大変なのはよくよく存じておりますし、それからまた、来ないのはこっち側なのですから、それもまたそこに座って動けない委員長を責めるのは申しわけありませんが、しかしながら、私は、あちらの傍聴席にもたくさんの方々が見えていて、かたずをのんで見守っている中、こっちが空席や居眠りというのでは、余りにも国民の税金をいただいてやっている私どもの仕事が情けないと思います。かてて加えて、毎回の欠格委員会の末にきょう採決をなさるということは、本当に民主主義はそこまで堕落したかと思いますので、どうか私の質疑をまたお聞きいただく間にも委員長もお心を変えてくださいますようにお願い申し上げて、質問に入らせていただきます。
 冒頭、まず坂口厚生大臣にお願いがございます。お願いを先にしてしまわないと、後でいろいろ論議になりましたときに私も言いづらくなりますので、済みませんが、お願いの件があります。
 一つは、先ほどの木島委員の御質疑の冒頭にありましたが、在外被爆者問題で郭貴勲さん、原告でいらっしゃいます。現在日本に来ておられますし、ぜひとも一度坂口大臣にお会いしたいと。もちろん大臣も、会えば、やはり大臣の御性格ですから情が動いてしまうということもおありかと思いますが、被害の実態、当事者にきちんと向き合うというのが医療でも政治でも原則でございますから、まずこれに御面会いただきたい。
 そして、あわせてもう一点。きょうあそこで傍聴なさっている方の中にも、この法案にかかわる精神障害をお持ちで、この法案がもしかして自分たちの仲間や自分の未来を本当に変えてしまう、あるいは社会の未来を危ういものにすると思って、きょう大臣にもお目にかかりたい、ぜひとも直にお目にかかりたいという要望を持ってお申し出に伺っていると思います。
 大臣は、きょうこの委員会でとても会えるような状況ではなかったですし、それはよくよく承服しておりますが、ただし、この法案の審議が終わるまでにでございます。衆議院がもしかしてきょう採決なさるとやらおっしゃっていますが、それはなるべくなしにしていただきました上で、この法案の審議にかかわる当事者、当事者というのはもちろん、犯罪を犯した人のことかとお聞きになられるかもしれません、その方たちでも結構であります。また、同じ仲間の問題として非常に深刻に、身近に、我が事と感じておられる方たちにぜひともお目にかかっていただきたい。
 これはもう最低限、なぜこれだけ思いが入れ違うのかというところの最低限のところですので、冒頭、恐縮ですが、坂口大臣にお約束をお願いいたします。
坂口国務大臣 先ほどの被爆者の問題につきましては、木島委員にも御答弁を申し上げたところでございますが、高裁の判決を重大と受けとめているわけでございます。内容をよく吟味させていただきまして、そして関係者とも早く協議をし、結論を早く出したいというふうに思っております。
 郭さんにつきましては、以前にも一度お会いをさせていただいたことがございますし、よく存じ上げております。
 それから、患者の皆さん方との話でございますが、これはもう、今こういう状態でございまして、なかなか日程的にとれない状況でございますが、いつかは必ずお会いをさせていただきたいと思っております。
阿部委員 その大臣の思いを無にしないためにも、委員長には、絶対にきょうは採択をしないでいただきたいとお願い申し上げます。そして質問に入らせていただきます。
 まず、修正案提案者の塩崎議員に伺います。
 この間、毎回の質疑の都度同じものを聞いて大変に恐縮ではありますが、きょう、また改めまして、いわゆるこの法案と直接のものではございませんが、この法案と深くかかわることになるであろう現行の措置入院のさまざまな問題点の指摘がこれあり、その措置入院の現状については厚生省も法務省もみずからの実態調査を、残念ながら現時点で、例えばその方の社会復帰までも含めて、あるいは治療時のいろいろな問題までも含めて、現段階ではお持ちでないという御答弁を、きょう、金田委員の御質疑にいただきました。
 そうした現状にあって、実証的データのない中で塩崎議員はあえて提案者になっておられますが、そうした形の立法というのは、立法を構成する要件において、私は極めて手法的に問題がありと思います。
 これは何も塩崎議員の怠慢ではございません。厚生省と法務省おのおのに問題があると、私はこれまでも指摘してきました。そのことがきょう、なおさらに明らかになりました。措置入院をめぐってのデータすらない、その中でこの法案をお出しになろうとする議員としての見識を一つまず大前提で伺います。
塩崎委員 現行の措置入院制度並びに措置が終わった後の社会復帰の体制の不備というものについては、恐らく、阿部議員と私どもとはほとんど変わらない認識を持っているんだろうと思うんであります。
 確かに、私も厚生労働省に、患者の皆さんは措置の後にどういう道を歩んでいるんだというのをもらったわけでありますけれども、六カ月から十八カ月の間で、百七十四人の方々のうちで退院等と書いてあるのが本当に十七人しかいないということでありますから、いかに社会復帰が大変難しいか。大半が、三分の一ぐらい、六十人が措置入院の継続でそれからあと別に、解除後にそのまま入院を継続する方が八十九人ということでありますから、なかなかこれは社会に戻っていただいていないなということがわかりました。
 しかし、こういうデータもそろっていないということを今御指摘になったんだろうと思うので、これもやっとこさ出てきた唯一の資料ぐらいのことでありますので、大変心配であることは間違いないわけであります。
 しかし、今回、何度も繰り返して申し上げますけれども、今の措置制度に欠けているのは、私も地元の精神科の先生方とお話をしてみて、最後に出るときに、解除するときに、一人のお医者さんが解除する、もう大丈夫だろう、だけれどもまた来てくださいねと言いながら、ついに来なくなってしまう、そして、いつの日かまた問題を起こされて帰ってくる、これを繰り返すのではもうたまらないというお話も随分聞きました。
 今回新しく、PSWあるいは看護師の方でもそういう知見を有する方であればいいわけでありますが、通院をしながら地域復帰へのコーディネーションをやるということを新たに加えていることが、この新しい法律の今までの措置とは全く違うところであって、本当は措置入院にもそのような形のものを用意するということが私はもっと大事だし、地域の、例えば各保健所にPSWの方がおられるかというと、恐らくそうなっていないんだろうと思うんです。私の地元の松山市は、保健婦さんでPSWという方がたまたまおられますけれども、地方に行けば行くほどそうなっていない。
 ですから、そういうことは十分わかっていますが、では、今そこで、そちらの方の進展だけを追いかけることで果たして今の問題を解決できるのかということを悩んだ末に、この一歩前進というものを図らせていただいて、しかし、附則をつけたということは、決して今の地域での保健や福祉や医療がこのままでいいということじゃないということを、法律で政府にノルマをかけるということをしている、こういうことでございます。
阿部委員 現状の分析に当たって、きちんとしたデータがなければ、現状をどのような方向に変えるかの方策も出ないわけです。
 塩崎先生のように第三の道をつくるのがいいのか。私は思います。国の予算も限られております、そして大きく地域医療に転換していこうとするときに、この第三の道のような保安、強制的施設を施設としてつくることが正しいのか、それとも、本当の意味で犯罪の防止、そして精神を病む方たちの人権の確立に向けて、逆に、こうしたものをつくらないでやっていく道があるのかどうかを、つくらない方がいいのかもしれない、私はいいと思っておりますが、そういう意見も一方であるわけです。患者さんたちの皆さんもそう思っているわけです。であれば、そのことを分析するに足るデータをまず出してくれと。きょう出たのはたった一つです。
 それから、あえて申し上げますが、厚生労働省でやっている研究班がございます。「措置入院制度のあり方に関する研究」という一冊のよくまとまった本でもございます。しかしながら、この報告書の結果は、モニタリング体制、現状を知るためのモニタリング体制が必要であるということが報告の骨子でございます。逆に、それすら行われていない中でどっちがいいかこっちがいいか、そうだ、こういう形にやっていく審議自体がこの法案の極めてむなしい点であります。だから空席ができるんだと思います。
 私は、本当によかれかしと思って、みんなが事実を認め合う、その事実をきちんとデータとして出すのが法務省の責任であり、厚生省の責任であると思います。そして、質疑をぽろぽろすれば、部分的にはぽろりぽろりと出ます。例えば、なぜ日本の、精神障害を持って犯罪を犯された方たちは皆、措置入院に安易に流れ、裁判を受けることすらできない。さっき木島委員の指摘もありました。あるいは、地域医療といったって本当にお寒い現状で、かえって今は保健所の統廃合の中で、地域に一人も、その地域を回れるような看護婦さんも保健婦さんもソーシャルワーカーもいない地域がかえってふえております。これは、参考人として出席されたPSWの方がみずからおっしゃった言葉です。
 そうしたら、まずそこから、そういう事実を寄せ集めて優先順位をつけるべきです。どこから手を打つか。お金は限られています。そしてもう一方で、物事の哲学というものがあってしかるべきです。その双方を突き合わせて論議されるべき委員会が、事この三回の審議に至っても、いつも一に戻り、データのところで、ない、ない、ないを繰り返しながらここまでやってきております。
 そして、私は、きょうはもう一点塩崎議員にお尋ねいたしたいのですが、塩崎議員は、これは司法の名による強制的な施策であるということをこれまで繰り返しほかの方の御答弁で述べてこられました。強制的な治療であるからこそ人権の保護的な役割が必要であるとおっしゃいました。具体的には何が人権の保護でしょうか。具体的に塩崎議員がお考えの、人権の保護のためのこの法案にかかわる仕組みをお答えください。
塩崎委員 今回のこの法律の中で人権に配慮をするということは、特にこの修正案を出させていただいてから立法の意図としても申し上げてきたところでございますけれども、今お話がございましたように、何らかの形で自由に対する制約あるいは干渉をするというのが避けられないわけでありまして、当然、人権の保障にも十分配慮しなければいけないということだと思います。
 一番大事なことは、今みんなが心配されているのは、やはり入院が不当に長くなってしまうんじゃないかということであって、そういう中で、まず第一に、六カ月ごとの入院の継続が必要かどうかということを確認するという仕組みもあり、それから、退院の許可の申し立てについては、今回、修正で、制限なしで、入院をした翌日から、正当であればそのまま申し立てが認められるということでございます。
 それから、医療機関の中での行動制限についても、九十二条に書いてございますように、例えば、弁護士あるいは行政の方との面会を制限してはならないとか、あるいは信書を発信してはならないとかいうような形の行動制限は、社会保障審議会で厚生労働大臣が定めるということになって、それによってやらなければならないということになっております。
 さらに、必要に応じて厚生労働大臣は処遇の改善というものを命令するという形になり、また、必要なときには調査もするということで、かなりいろいろな、何重にもそういう形で人権が守られるという仕組みを仕組んでいるわけでございます。
阿部委員 もし提出者の認識がその程度のものであれば、恐縮ですが、日弁連、日本弁護士連合会の皆さんがこの法案に反対をしておられるさまざまな意見書が出ておりますので、ぜひともお読みいただきたい。
 どういうことか。例えば、弁護士が被拘束下にある方たちをいつでも訪問できるような仕組みが、日本では仕組み、システムとして整っておりません。辛うじて一部の弁護士会が有志的に行う仕組みのみでございます。あるいは、ヨーロッパにおける人権の監視機構である拷問の防止等の監視機構であるような仕組みも、ヨーロッパ評議会の中に保障されているような仕組みも我が国は持ちません。
 ぜひとも塩崎議員には、法体系におさめるんだから人権の擁護が大切なんだと思っていただけるんであれば、その具体的な仕組みづくりをもう一度きちんと勉強して、そして、技量がおありなんですから提案していただきたいと思います。
 このことを私は申し添えさせていただいて、ずうっと厚生労働省にはお待たせをいたしましたので、三回の質問でいつも塩崎議員とのやりとりで終わらせていて恐縮でしたので、厚生労働省関係の質疑に移らせていただきます。
 まず冒頭、坂口厚生大臣に伺いますが、私は先ほど、これをとり行うにあっては哲学が必要であると申しました。あえて言えば、この新たな仕組みをつくることが、本当に精神医療のための、本当の意味の人権の保護や前進に結びつくかというところで、ぜひとも大臣には幾つかの広い見識で物事を考えていただきたいと思っております。そして、大臣は極めて頑固一徹でいらっしゃいますから、きょう私が数分言っただけでお考えが変わるとも私は思えませんが、残念ながら、この間でずっと討議してきましたから。でも、やはり時代をよく見て、本当の人権、何が必要か。
 例えば、せんだっても来日されておりましたが、これはヨーロッパ評議会にかかわるティモシー・ハーディングという方で、司法精神医学と精神医学の双方を修めた方でございます。この方が、新たな保安的な施設、新たな強制的な施設をそこにつくるよりも、これをつくらずして現在の医療の中に普通に取り込んでやっていく方が、やはり隔離期間も短く、退院時間も早く来るのであると。これは、諸外国でこれまで保安処分施設、あるいは強制的施設、司法精神医学施設を設置したところのさまざまな問題を分析した結果の御意見でございます。
 坂口大臣にあっては、その部分はどのように検討され、また今回のこの審議に臨んでおられるか、お願いいたします。
坂口国務大臣 この法案にかかわります問題につきましては、いろいろのさまざまな御意見があることはよく存じております。専門家の間でもさまざまな御意見がございます。外国に行きまして、外国で現在行っている皆さん方のお話を聞いた場合にも、今、外国の方のお話がございましたけれども、さまざまな御意見がございます。私もドイツに出かけまして、ベルリンにございます病院にお邪魔をし、そして現在専門におやりをいただいている医師の方、法律担当をしておみえになる方、そうした方の御意見も伺ってまいりまして、それなりの意見を聞いてきたわけでございます。
 ですから、意見はいろいろあるだろうというふうに思いますが、私は、精神病そのものに対する治療、それは当然のことでございますが、それにもう一つ、他害行為という非常に重い荷物をしょい込まれた皆さん方に対しましては、そのことに対する治療と申しますか、そのことに対する対策もあわせて行う必要があると考えているわけでございます。
 したがいまして、そうした他害行為を行われた皆さん方に対しましては、そのことをみずからよく認識をしていただく、そして認識をするだけではなくて、みずからの今後の自分の行動をコントロールしていただけるようにどうしたらいいかということを御理解いただく、そうしたことがやはり大事でありまして、そうした意味で私はこの法案に賛成をしたところでございます。
阿部委員 大臣のこれまでのお話ですと、やはり私はもう一歩議論がかみ合っていないんだなと思います。
 だれとて、精神障害があり、なおかつ犯罪を犯したときに、その方にどうやって本当の意味で社会復帰していただくか、さまざまなケアや治療やあるいはサポートが必要であるということは考えます。その場合に、他の特別な施設に分離して行うことがよいのか、現状の精神病院の改革を行う中でそのことを取り入れて、特に地域精神医療、もう繰り返しませんが、日本にはシェルターもございません、二十四時間駆け込めるシェルターもほとんどなし、また、地域を管轄するイギリスのような訪問看護の仕組みもほとんどない。もう全部全部、入院病床数、病床、ベッドへと引っ張っていかれるような精神医療の現状の中で、ここの、また新たな特別な病院をつくることがその傾向を固定化し、助長するというところが論議でございます。
 ちなみに、イギリスのブロードモアという精神病院もそのような施設として成り立ちましたが、さまざまな問題が生じて、多様な角度から見直されて、そのように隔離しない方策の方がよかろうという報告も、また本も出ておりますので、これもまたお読みいただきたいと思います。
 そして、わけても、ではイギリスだ、ドイツだ、私はもう一個スイスと言いたいですけれども、そういうのじゃなくて、我が国はどうだろうと立ち返ったときに、ぜひ、大臣のおひざ元の厚生労働省で私は大きな問題があると思う点を指摘させていただきたいと思います。
 皆さんのお手元に資料が配付されましたでしょうか。四枚とじの資料で、日本精神病院協会の学会誌から私は引用してまいりました。実は、一昨日の御質疑で、自由党の石原委員の御質疑の中にもございましたが、いわゆる看護婦対患者の配置、どのようになっておるかということにおきまして、病院を二群に分けてございます。国立病院や総合病院やそれなりの規模の病院、そして一方は民間病院と言われるような個別の病院。そのことに関しまして、実は、四枚の資料となっておりますが、もしお手元にございましたら「措置入院患者受入状況」というのを見ていただきたい。私は、必ずしも措置入院が今回のとイコールであると思っておりませんが、今利用できるデータがこれですので。
 見ていただければわかるように、ほとんどの措置入院患者さんは、現在のところ、指定病院と言われる、多くは民間の病院に措置されております。二千八百二十名です。これは平成十二年六月のデータでございますが。そして、この指定病院というものは、その下に書いてございますが、国立病院や都道府県立病院に比べて圧倒的に看護婦配置が五対一、六対一のまま残されております。比率がその次に書いてございます。
 そして、このことをめぐって、実は私が当選した早々の平成十二年の十二月に医療法の改正がございました。その医療法の改正をめぐって、日本病院協会と、そして厚生労働省の上田部長の今おられるところですが、障害保健福祉部の部長であった今田さんの間で交わされている一連の論議がございます。細かな字の方のプリントですが、見ていただければと思います。
 ここでは、日本病院協会は、当面の間、六対一基準からなかなかはい上がれないから、五対一を暫定的に五年間、ないしは当分の間、五対一に押しとどめてくれと主張をいたしました。そして、その主張が通る形で、医療法改正においては、普通の国立病院や総合病院の精神科病床の方は特例の外す方向がきちんとなされましたが、こうした民間病院で多くの措置入院を受け入れている病院については、当分の間、五人に対して一人とすることになりました。このことを日本病院協会の方は、右側の中の段でございますが、十二月十四日の「勝利宣言に始まり、」という形で、勝利とは何か、基本的には看護婦増が無理なので現状のまま当面の間やってくれという要求にそのとおりになったという勝利の会を開き、そこに当時の今田障害保健福祉部長が御出席であります。
 私がこの場で伺いたいのは、現在の上田障害保健福祉部長は当時の今田福祉部長からどのように申し送られて、当分の間、病床の看護婦はふやせないからこれでやってくれという会合で、そうだ、よかった、それになった、しばらくこれでやれるという会合に出られた今田前福祉部長から、現在の上田障害保健福祉部長はどのように申し送りを受け、相手はなかなかふやせないと言っているんですね。今、きょう大臣は何度もおっしゃいました、スタッフだ、人員だ、局を挙げてと、こっちでむち打たれているわけですね。このことのはざまで、現在の担当部署の責任者は、どのように申し送りを受けられ、どのように今取り組んでおられますか。お願いいたします。
上田政府参考人 私、直接今田前々部長から引き継いでいないものですから、その状況については伺っていないところでございます。
 しかしながら、いずれにしましても、この委員会あるいは連合審査で、病床の機能分化ですとか人員基準のあり方、いろいろと課題になったわけでございまして、私ども、たびたび申し上げておりますけれども、大臣を本部長としますまさにこの対策本部でこういった点についてもこれから検討し、まさに医療の充実、急性期医療などを含めまして、あるいは社会復帰対策なども含めまして、こういった問題についてこれからしっかり取り組んでいきたいというふうに考えております。
阿部委員 そんなの空語なんですよ。片っ方に抵抗勢力がいるんですよ。そして、あなた自身、申し送りを受けていなければ仕事ができないでしょう。そんなお役所仕事ありますか。あなた、今申し送りを受けていないとおっしゃいましたよ、それでよく仕事ができますね。私はそんな答弁は聞き入れられませんよ。そして、そのことによってこの状態が温存されたまま言葉だけ幾ら審議を重ねても、いいですか、こんなの絵にかいたもちになりますよ。
 なぜ日本に病床がこれだけ多いのか、なぜ看護婦配置はふやされないのか。相手が勝利宣言をしているときにその場にいた今田さんが、あなたたちの系列の中でどんなふうに申し送られたんですか。相手はなかなか大変だ、ここを切り抜けよう、あるいは、今回だったらこういうふうに前進させていこう。私は、きちんとした答弁をいただけなければ、この質問はやめません。よろしくお願いします。
上田政府参考人 今回の法案をめぐりまして、この対策とあわせて、我が国の精神医療の問題点、課題、あるいは今後の取り組みについて、先生方からいろいろ御指摘をいただいたところでございます。そして特に、七万二千のいわば社会的入院の解消、社会復帰等々の課題が大きく議論されたわけであります。
 そして、そういう中で、私どもはこれからの精神科医療について、先ほど申し上げましたように、病床機能分化ですとか人員基準のあり方、こういった点についてやはり省を挙げて真剣に取り組む決意を先ほど申し上げたところでございまして、我々としましては、こういった問題について早急に検討を進めていきたいというふうに考えております。
阿部委員 申しわけありませんが、早急な検討といっても、もうこれは一昨年の十二月十二日のことで、既に二年たっているわけです。そして、決意、決意、決意といって何十年間ほったらかされたあげくが現在の精神医療です。
 私は、今の御答弁では納得いたしませんし、五対一看護に向けて、四対一看護に向けて具体的などんな取り組みを担当局がしてきたか、前任者からの申し送りも含めてきちんと出していただいた上で論議いたしますから、これを資料として要求いたします。委員長にはよろしくお取り計らいください。
 ありがとうございます。
山本委員長 次に、植田至紀君。
植田委員 社会民主党・市民連合の植田至紀です。
 私は、この政府案及び修正案、速やかに廃案をと言ってきましたけれども、きょうのお昼の理事会で、言うに事欠いて、私の質問が終わった後、質疑終局、採決だと。本当にとんでもない話でございますね。激しい憤りを禁じ得ない。私ははらわたが煮えくり返っております。
 この間の質疑をずっと聞いていましたけれども、私は法律家ではありません、そんなに法律学を修めてきた弁護士でもない、裁判官出身でもない、ただ一つ、法律というのは人を守るためにあるんだと確信してきましたけれども、この法律の議論を聞きながら、私自身、大きな間違いを犯していたのか、法律が人を守るために存在しないのか、そのことを勉強させていただいた。その意味では、この法案を提出された方々に感謝を申し上げたい。
 さて、今回の法案は当然、法務省、厚生労働省の共管であります。ですから、きょうは連合審査ではありませんけれども、きょう坂口厚生労働大臣がお越しだというのは、何もお越しいただいているということではなくて、坂口厚生労働大臣がこの法案の審議にかかわって責任を負っておられるということですから、きょうお座りなんだろうと思います。当然、私の質疑が終わるまでそこにお座りいただけるんだろうと思うわけですが、ちょっと幾つかお伺いする前に申し上げたいんです。
 何か先刻、坂口大臣の議員会館の事務所に、先日の参考人質疑でただ一人の精神障害を抱える患者でもあり、著述家でもある長野さん等がお越しになって、本日の採決を延期してほしいということを申し入れられに行ったそうでございます。
 当然、坂口大臣はそちらにはいらっしゃいませんでしたので、秘書官の小柴さんという方が必ず大臣にメモを入れますということでございましたので、当然そのメモは届いているだろうなと思うわけですが、それを確認しながら、きょうは私も厚生労働大臣にかなり幾つか聞きたいことがありますので、今すぐというわけではございませんが、私の質問の途中でも結構でございます。午前中は金田先生、そして先ほどの我が党の阿部委員も、当事者と会ってくれ、患者と会ってくれとおっしゃった。そこにいるじゃないですか。議員会館の前で座り込んでいる人がいるじゃない。歩いて三分、五分の距離にみんないるんですよ。私の質問の途中、中座していただいて結構です。私が厚生労働大臣にする質問について、これ以上はあとは結構ですと言ったら、立ってそこででも会えばいいじゃないですか。すぐ会えるんですよ。
 それと、森山法務大臣。きょうは私は法務大臣にお伺いする質問は予定しておりませんでした。採決の前の質問のときにそういうのは予定しておこうと思ったんですが、ちょっと予定が狂ったようでございますが、今からでも結構です。お会いになったらどうですか。
 日程の都合や何やかんやと言っているけれども、本来なら座っておかないかぬお二人の大臣ですが、質問者自身が、その間中座しても結構だから、目の前にいる当事者や座り込んでいる人たちに、その人たちの思いをせめて聞くぐらいのこと、すぐできるじゃないですか。ここからそこまで歩いて何分ですか。どうですか、坂口厚生労働大臣、森山法務大臣、一言ずつ。やりますか。私は、もしそうなさるのなら中座していただいてもいいよと申し上げているんですよ。どうですか、お二人。
森山国務大臣 委員長の御指示に従いたいと思います。
植田委員 坂口厚生労働大臣、どうですか。
坂口国務大臣 この委員会は委員長の御指示に従って運営されているわけでございますから、そうした皆さん方の御意見であれば、それに私も従いたいと思います。
植田委員 では、委員長、指示してあげてください。
 私はいいと言っておるんですよ。すぐそこじゃないですか。そんな、これから電車に乗って二時間、三時間行く話じゃないでしょう。目の前にいるんですよ。
山本委員長 植田君に申し上げます。
 植田君がその御意見を体して御質問願いたいと思います。
植田委員 では、会わないのね。
 目の前に当事者がいる。なぜか。この法案の審議で一番話を聞かないかぬのは当事者の声でしょう。それが、例えば参考人質疑において、我が党が当事者の声を聞く場を持ってくれと言ったら、与党は最後まで抵抗した。それはもちろん、お医者さんや弁護士さん、専門家の方々、識者の方々に聞くのは結構ですよ。でも、実際に今暮らしておられる精神障害者の方々の思いということをこの委員会がどれだけ真剣に聞いてきたのかということを私は言っているんですよ。それをやらないまま採決をしようとするというのは、とんでもない話じゃないですか。そうでしょう。
 なぜかというと、政府案も修正案も社会復帰を促進するという建前でやっている。しかし、この間の法案審議で明らかになっているのは、そうした方々にとって復帰するような社会が日本のどこにもないということじゃないですか。その問題について、この間きちっと議論されてきたかどうか。
 では、お伺いいたしますけれども、私も通常国会のときに幾つか坂口厚生労働大臣にお伺いしたんですが、私が、当然、不幸にして精神障害者の方々が犯罪を犯すケースはある、そしてそれを未然に防ぐ前提として精神医療とその体制の整備というのがあるんじゃないかということを問うたことがあります。六月の二十八日の法務委員会でしたけれども、そのときに坂口厚生労働大臣は、その指摘はそのとおりだとおっしゃった上で、なおかつ非常に前向きなことをおっしゃっていた。「それが地域の保健婦さんなのか、それとももっと違った形の人であるのか、それはいろいろあるだろうというふうに思いますが、そうした体制もつくり上げていかないといけない。病院内の、いわゆる病院の問題とそして地域社会における手の差し伸べ方、そうしたこともあわせて充実をさせていかなければならないと思っているところでございます。」とおっしゃった。
 これは私はいい話だと思うんですが、そこでちょっと確認しておきたいんですが、ここで坂口厚生労働大臣がおっしゃった「地域社会における手の差し伸べ方」というのは、具体的にどういう施策なり、ものを指しているんでしょうか。
坂口国務大臣 きょうもいろいろ御議論がございましたけれども、患者の皆さん方にとりましては、病院という入院の場と、そしてそこを退院されました後の問題と両方あるというふうに思っております。先ほどからいろいろ御議論がありますように、病院の体制というものにつきましてもこれからさらに前進をさせていかなければなりませんが、同時に同じぐらい重要なことは、地域において、患者さんが退院をされました後、どういうふうにその人たちを受け入れていくかということが重要でございます。
 一つは、やはり生活の場だというふうに思います。御家庭に帰られる方はそれはそれで結構でございますが、中にはもう御両親も亡くなった方もお見えでございますから、そういう皆さん方に対しましては、福祉の場と申しますか、生活とそして医療とを両方受けられる場をつくっていかないといけない。あるいは、病院と連携をした場をつくっていかなければならない。中には就職をしたいという意欲をお持ちの方もございましょう。そのときに、雇用という問題も考えていかなければならない。そうした、どちらかといえば生活の場の中の問題が一つあるというふうに思います。それが一つ。
 それから、今度は、その人たちを取り巻く人たちの問題、患者さんと言うと語弊がございますが、入院をなすっていた皆さん方に対しまして手を差し伸べる側の体制の問題がございます。それはPSWの話もございましたし、保健婦さんのお話もございました。あるいはまた地域の先生方の問題もございましたが、そうした皆さん方で手を差し伸べ合って、そしてどうこの皆さん方を見守っていくかということが大事だ。その体制が現在不十分でありますから、そこをどうつくり上げていくかということがこれから最重要課題になってくるということをきょうも議論したところでございます。
 その皆さん方をどうするかという問題は、とりもなおさずその人材をどうつくり上げていくかということにこれは尽きてくるわけでございますので、その人材の養成というものが一番緊急の、喫緊の課題であるというふうに認識をいたしているところでございます。
植田委員 かなり具体的に、総括的にお話しいただいたわけですが、この間、地域医療の話はかなりいろいろ質疑であったので私は取り上げません。
 私がここで取り上げたいのは、私も別に精神医療に従事する人間ではありません。圧倒的多数の一般市民はそうです。要するに、地域社会における精神障害者に対する著しい差別と偏見という、そういう社会的土壌があるわけですね。雇用の問題にせよ、生活支援にせよ、例えば医療のケアにせよ、その地域社会で生活していく上で常に差別と偏見にさらされている。それを解消するという社会復帰の前提条件がいまだ構築されていないというところは共通認識だろうと思います。
 その意味で、地域における医療はもちろんですけれども、地域社会全体が精神障害者を受け入れる条件を形成していく、そのための社会教育等における人権教育の推進というものは、当然坂口厚生労働大臣も重要な柱であると認識されておられますね。
 それを前提に申し上げますが、何もこんな法律をつくるからやらないかぬという話じゃないんです。人権教育のための国連十年推進本部というのが、九七年、もう五年前ですけれども、国内行動計画をまとめました。そこにはこう書いています。四行。「精神障害者に対する差別、偏見の是正のため、地域精神保健福祉対策促進事業等に基づきノーマライゼーションの理念の普及・啓発活動を推進し、精神障害者の人権擁護のため、精神保健指定医、精神保健福祉相談員等に対する研修を実施する。」という、この四行がこの行動計画における精神障害者の人権にかかわる部分です。その分量が多い、少ないということを私は問うつもりはありませんが、あらかじめ簡単な資料を取り寄せました。
 今は、この地域精神保健福祉対策促進事業というのは、平成十年度から障害者の明るいくらし促進事業というのに統合されてやっておるようですけれども、平成七年の九月十二日、当時の厚生省保健医療局長の通知で、「地域精神保健福祉対策促進事業の実施について」という要綱があります。いろいろと書いてあるんです。
 幾つかお伺いしますけれども、例えば、ここに九項目の実施要綱の具体的な施策の中身を書いていますが、「精神障害及び精神障害者の保健福祉に関する正しい知識の普及啓発事業」というのは、平成七年の通知ですから八年度以降やられたんですけれども、具体的に、毎年どんなことをやってきたんですか。
上田政府参考人 お尋ねの地域精神保健福祉対策促進事業につきましては、精神障害者の社会復帰や社会参加の促進を図ることを目的としまして平成七年度に創設されたところでございます。
 平成九年度までの三年間で、延べ五百十の都道府県及び市町村において、精神障害者と地域住民の交流ですとか、あるいは普及啓発に関する広報誌の発行などの事業が実施されたところであります。
植田委員 こういうようなのもあるんです。「精神障害者の社会復帰の促進についての地域住民の理解を深めるための講演会・学習会等の事業」。具体的にどんな講演会、学習会をやって、これまで何人受けはったんですか。この講演会、聞かはった人、全国で何人ぐらいおりますか。もちろん、都道府県、市町村でそれぞれやっているでしょうが、具体的にどういうことをやったかというのは、これは補助事業ですから、当然把握されているはずですが、実際、その内容と人数ですね、延べ何人ぐらい講習を受けていますか。
上田政府参考人 私先ほど申し上げました、平成七年から九年度まで、延べ五百十の都道府県及び市町村でこういう事業が行われたという点につきましては把握しているところでございますが、ただいま議員お尋ねの個々の事業については、今私ども、その点までは把握していないところでございます。
植田委員 「実施要綱に基づき実施する経費の一部については、予算の範囲内で国庫補助を行う」と書いてあるわけでしょう。国が金を出しておるんでしょう。把握していませんて。
 例えばですよ、今、坂口厚生労働大臣、これから精神障害者が地域社会でどう暮らしていくかというその基盤整備について一通りの話はありました。その中で、当然、坂口厚生労働大臣も、私が今言っている地域社会における差別と偏見を解消していくための人権教育の推進というものは重要な柱だということはうなずいてはりました。
 今この段階になって、しかもこんな希代の悪法ができる。皆さん方はええ法律やと思ってはるから、それはまあ見解の違うところですけれども、では、これまで厚生労働省として、かかる事業について、どんな取り組みをやって、どんな成果が上がっているのか上がってへんのか、そんなこと精査するの当たり前じゃないですか。
 というのは、社会復帰を促進するための法律を出してはるんでしょう。既存の、今、社会復帰の促進のためにやっているさまざまな事業が不十分か十分か、どんなことをやっているのか、把握しているのは当然の話と違うんですか。五百十のところでやっている、具体的なことは知りませんて、どういうことなの。
 要するに、では、それだったら、地域社会における手の差し伸べ方といっても、しかも、人権教育のための国連十年推進本部を総理を本部長としてこしらえ、九七年にこういう基本計画をつくったけれども、そこから先、別に特段進捗していないというふうに御判断させていただいていいんですか、どうですか。
上田政府参考人 私ども、今後、精神保健福祉対策を充実あるいは推進するために大きな課題として、やはり精神障害者に対する理解、あるいは偏見をなくすこと、こういった啓発は非常に大事だと思っております。これまでも、先ほど申し上げましたように、地域精神保健福祉対策促進事業、こういう事業を通じながら、私ども、確かに、要綱に基づき、都道府県、市町村にそういった事業の推進方を指導しているところでございます。
 したがいまして、こういう事業のより効果的な推進、あるいは先ほど申し上げました精神障害者に対する理解、偏見をなくす、こういった啓発運動を今後もっともっと積極的に取り組み、そして、そういう中で、精神障害者の社会復帰の問題ですとか、あるいは地域でのそういったケア、こういった対策についてしっかり取り組んでいきたいというふうに考えております。
植田委員 そんな大臣答弁みたいな答弁要らぬのですよ。わざわざ何で事務方に私答弁さしたか。具体的なことを聞いているんですよ。大臣答弁だったら、やや抽象的でも私は堪忍しますよ。事務方がそんな答弁してどないするんですか。
 そういう決意を今示されたけれども、では今度、平成十四年、ことしの三月に、議員立法で与党が提出されて、我々も賛成しまして人権教育・啓発推進法というのができたことは御承知だと思いますが、それに伴って人権教育・啓発に関する基本計画というのがまとめられました。
 精神障害者の部分。「精神障害者に対する差別、偏見の是正のため、ノーマライゼーションの理念の普及・啓発活動を推進し、精神障害者の人権擁護のため、精神保健指定医、精神保健福祉相談員等に対する研修を実施する。」これは九七年に出している国連十年推進本部と全く同じなんですよ。一つだけ違うのは、事業名が、「地域精神保健福祉対策促進事業等に基づき」という文言が落ちておるだけで、それはどういうことかというたら、障害者の明るいくらし促進事業に統合されたのでそこが削ってあるだけで、九七年の人権教育のための国連十年に関する国内行動計画で厚生労働省が精神障害者の人権確立に対する取り組みについて書かれた文書と、その五年後、ことしの三月に出たこの基本計画、まるっきり同じ文言しか書いていないわけですよ。要するに、その五年間何もやってけえへんだということを証明しておるというふうに認識していいんですね。どうですか。
 ちゃんとこれはレクのときに両方示して言うていますがな。長い答弁要りませんから、時間ないし。
上田政府参考人 人権教育のための国連十年に関する国内行動計画の推進状況について報告されておりますが、私ども、各種の研修を行っておりまして、精神保健指定医に対する研修会、平成九年度では七回ですとか、十二年度においては九回とか、それぞれ実施、あるいは、精神保健福祉相談員の資格取得講習会では、平成九年度は五カ所、十二年度も五カ所実施している、こういうようなことを報告しているところでございます。
植田委員 そんなこと聞いていませんがな。要するに、何もやっとらぬと言ったら、白状すればいいんですよ。それはやっている。研修会、講習会、やっているじゃない。でも、例えば、先ほども質問のときに、通達に基づいて国が金出す事業、各都道府県で五百十のところでやっている、それしか掌握していませんと平気な顔しておっしゃる。何でそのことで私が怒るかわかるでしょう。
 要するに、精神障害者が地域社会で、それは坂口さん、ええことおっしゃったんです、手の差し伸べ方を考えていかぬといかぬと。それを考えるときに、これまでの施策の中身を精査して、何がよくて何がよくなかったのか。もっと言うならば、今、精神障害者が社会復帰をする、何もこれは触法に限りませんよ、そこで、地域で生活をしていくその社会的基盤が現状でどうなのかということをはかるための一つの素材でしょう、今言っている。そういうバックデータなんです。そのバックデータを持ってへん。持ってへんと言いながら、いけしゃあしゃあと社会復帰を促進すると言うたって、これは絵そらごとだと私は言っているわけですよ。
 例えば、これだけ聞きます。精神障害者、全体で大体何人おるかわかっていますね。この一般の教育啓発の講習会、学習会、まあ五百十のところでいろいろなことをやっているかもしれぬけれども、じゃ、何人の方がこの講習会に参加したかという数字出ますか、わかりますか。
上田政府参考人 私ども具体的な数字を把握しておりませんけれども、何度も申し上げますが、私ども、これからの精神保健福祉対策を推進する大きな柱として、こういった精神障害者に対する理解の啓発運動、やはりこれはもっともっと展開する必要があろうかと思います。
 そして、私も先ほど幾つかの件数、実施状況を申し上げました。確かに現在のこれまでの取り組みがいろいろ課題があったわけでございまして、私ども、こういった点も十分踏まえながら、精神保健福祉対策を推進する大きな一つとして、こういった精神障害者の理解への啓発、取り組みをこれから進めてまいりたいというふうに思っております。
植田委員 今までサボっておりましたのでこれからまじめにやらせていただきますという、そういう決意表明として伺っておきます。
 それで、厚生労働大臣、今のやりとり、これは私も何も抜き打ちで聞いているわけやのうて、あしたそういうことをちゃんと聞くから調べといてねと言っているのにこの調子なんです。だから怒っとるんですよ。何も抜き打ちで聞いているわけじゃないんですよ、こんなの。全部、きのうレクでやっている話なんですよ。これとこれとこれとと、九つの細目についてどんなふうに把握しているかと。当然把握されているだろうなと思いきや、そんな調子やから、もうあっけにとられました。
 今のやりとりを聞いておられて、坂口厚生大臣、社会復帰を促進するといっても、現状において、そうした社会復帰が著しく促進されるような社会的な基盤、条件というものはいまだ整っていない現状にある。とりわけ差別、偏見の厳しさというものは、いまだ精神障害者が社会でごく普通に暮らしていくには厳しい条件にあるという現状だけは認識されますね。
坂口国務大臣 社会基盤につきましては先ほど申し上げたところでございまして、これからそうしたことを充実していかなければならないということを申し上げたわけでございます。
 また、精神疾患をお持ちの皆さん方に対する社会全体の思いということにつきましても、これもやはり今後取り組んでいかなければならない。これはいろいろの啓蒙活動ということもあるというふうに思いますが、そうしたことだけではなくて、もう少し多面的な取り組みが必要だというふうに私は思っております。そうしたことを今後やっていくということが大事だというふうに思っております。
植田委員 後で全部、どうした実績があるのか、これは資料として要求しますので、五カ月かかるか、一月か、一週間かわかりませんが、速やかに調べてください。だって、全部金出しているわけですからね。勝手にやっているわけやのうて、その事業に対して金出しているわけですから、すぐわかるはずでしょう。そうだし、やっている中身について精査してお金出しているんでしょう。そんなええかげんなことだったら困りますよ。
 そこで、若干、修正案についても言及したいと思うんで、塩崎先生、漆原先生、どちらでも結構なんですが、実際、今のやりとりを聞いていただいて、提案者が、今の現状を考えたときに、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰できる社会条件にあると御認識でしょうか。提案者に伺います。
塩崎委員 植田議員の御指摘のように、今の精神医療も、そしてまた地域における精神障害者の受け入れ体制につきましても、極めておくれているという認識は全く同じだと思っております。
 いろいろとこれまで障害者プランの中で七カ年戦略ということでやってまいりましたが、その進捗率、これは木島議員の質問のときに私も少し言及をいたしましたけれども、進捗率も極めて悪い項目もございます。例えば福祉ホームであるとか入所授産施設であるとか、そういうものを考えてみると、やはり本当にアパートの一部屋も借りられないというお話があったように、そうなると、どうやってこういうものを準備をもっとしていくのかということは相当な努力をしなきゃいかぬというふうに思っているわけでございます。
 ただ、申し上げているように、今回は、入院から通院になったときに社会復帰調整官がフォローしていく、そしてまた地域での受け入れ体制のコーディネートをしていくという新たな試みをやっているということが、他の制度、つまり今の措置入院制度並びに地域における精神医療、保健、福祉にいい影響を与えていくように我々はしていかなきゃいけないという意味で、五年の見直しというのは、そういったさまざまな思いを込めて、今回の修正の中で五年の見直しというのを入れたということでございます。
植田委員 修正案の提案者に伺いますが、今私が伺った、まあ現状認識は大体共通するだろうと思いますが、当然修正をしようということで作業なさったわけですから、じゃ、この修正の中で、実際、社会復帰を促進するためのその社会条件を向上させていく、そのことについては意識的にされたのか、されていないのか、もしされていたとするのであればどの修正部分がそれに該当するのか、御教示いただけますでしょうか。
塩崎委員 今回の法律は、もともと昭和四十九年の保安処分という忌まわしい言葉にやはりみんな心配をしたわけであって、入ったまま出てこないんじゃないか、こういうことだろうと思うんです。そこで、今回、政府案に対していろいろな御批判をいただいて、ここの場でも議論が行われて、そして幾つかこの修正を加えさせていただいたわけであります。
 例えば、一番のことは、まず第一に、精神的にもそうなんですが、三十一条に、審判手続において対象者の精神障害の状態に配慮をすべきというような点であるとか、それから、何といっても、入院をした際に退院の申請、申し立てが三カ月できなかったのを、正当な理由があれば必ず、その申請をして、申し立てをして、そして審判をもって出てくるということを可能にするとか、それから、五十条についても、入院患者側からの退院許可の申し立ての期間制限に係る規定を削除したのは今申し上げたとおりでありますけれども、それから対象者の精神障害の状況等を考慮し、裁判所が職権で弁護士である付添人を付することができるというようなことで、このプロセスの中で、まず第一に精神障害者の方の人権が守られ、なおかつそれが社会に出ていくための邪魔にならないようにやっていくという思いも込めて修正をしている。
 そしてもう一つは、一番は、何といってもこの附則の中で地域の精神医療、保健、福祉をちゃんとやらなきゃいかぬということを政府に対して法律で明定をしているというのは、先ほど、差別の問題をおっしゃいましたが、私も私の最初の質問で取り上げたように、文科省を呼んで、なぜ小学生、義務教育のうちから精神障害者に対する差別意識をなくすような教育をやらぬのかと。結局、聞いてみれば聞いてみるほどさっぱりやっていないということもよくわかりました。そういうことで、これは法律には入っておりませんが、そんな思いで今回の修正をやらせていただいたということでございます。
植田委員 私が聞きたかったのは附則の部分なんです。それ以外のところは、この間のやりとりで何遍もその辺の似た答弁をなさっているからつい出たんだろうとは思います。
 というのは、恐らく今塩崎先生がお示しになったのは、この「精神医療等の水準の向上」ということを附則の三条で三項目にわたって書き込んでいることが、今おっしゃった最後の部分、私なりの思いをここに書き込んでいるんだというところだろうと思うんですが、ただ、この附則第三条でカバーされているのは、あくまでも医療等の、医療の向上なんですよ。地域社会全体として、精神障害者が社会復帰を果たして地域で普通に暮らしていく基盤、また言ってみれば差別意識を解消していく、そういうことについて触れたものではないんですよね、これはどう読んでも。
 だから、これは、今言ったいわゆる著しい差別や偏見の解消、社会意識としての精神障害者に対する差別意識というものを解消していくという視点が完全に欠落しているというふうに私は言わざるを得ないんです。どこで読むんですか、今の私の問題意識は。
塩崎委員 確かに例えば差別意識の解消とかそういう言葉が入っていないのでなかなか読みづらいかなという気はいたしますが、私の思いは先ほど申し上げたとおりであって、あえて条文にのっとって申し上げれば、この附則の三項のところに「政府は、この法律による医療の必要性の有無にかかわらず、精神障害者の地域生活の支援のため、精神障害者社会復帰施設の充実等精神保健福祉全般の水準の向上を図るものとする。」ということであって、福祉ということは、やはり地域に戻っていくということを実現するにはこの福祉がうまくいかなければだめなわけでありまして、その中にこの「充実等」という「等」、法律だとやはりちいちゃい言葉ではありますが、ここに思いを込めて、これでまじめにやらなかったら許すものじゃないぞというのが我々の気持ちであって、そこのところは、「保健福祉全般の水準」というときに、先ほどちょっと話が出ましたけれども、教育という場はやはり福祉をちゃんとやる、ノーマライゼーション教育というのはやはり学校でやらなきゃいけないことだし、もちろん家庭もそうですし、前も申し上げたかもわかりませんが、幼稚園のときからほかの国なんかやっていることですから、そういうようなことで、ここに思いを込めて読み込めるんだということのつもりでございますので、よろしくお願いします。
植田委員 私も、そういう答弁やろうな、この「精神障害者社会復帰施設の充実等」の「等」で全部読んでくれと恐らく塩崎先生おっしゃるんやろうなと思いつつ聞いたんですがね。
 でも、私が言っているのは、ここに出てくるのは、何ですか。地域生活支援のために精神障害者社会復帰施設の充実という話と、それこそ精神障害者を取り巻く不当な差別や偏見というものが、この末尾に「等」でくくられるような中身なんですかということなんですよ。
 というのは、これこそある与党の理事の方は、ロンドンまで視察に行ったんだからこの法案を通してくれなどとおっしゃる方もいらっしゃいますが、私もロンドンに行った。ホステルという施設があるんですよ。私が法務委員会で行ったのは、総合病院の一画にそういう施設があるわけですが、退院なさった精神障害者の方々が、みずからの意思で集まって、その施設の中でいろいろな作業をしたり活動をしている、そういう施設なんです。それがイギリスでは地域にあるらしいんですよ。
 私、そのとき、向こうのお医者さんに質問したんです。その地域にあるそのホステルが、あちこちから障害者の方々が集まってくる、では、そういう施設が地域社会とどういう交流を持っていますかということを伺いましたら、にっこり笑ってお医者さん、地域住民にとってはそういう施設があるというのはハッピーじゃない、だから、そういうようなのをつくると言ったらやはり反対する人が多い、ただ、できてしまうとなれてしまうんだと。あるのはなれる。だから、そこの地域社会の中にホステルがあったとしても、施設があったとしても、地域の住民たちとの交流があるわけじゃなくて、いろいろなところからそこに通ってくるだけなんですよね。
 よく先進地域と言われているイギリスでも、そういうホステルという施設があっても、それが実際地域住民と精神障害者の方、別に障害者に限らない、地域の人たちが共生していくそれこそノーマライゼーションになっていないんですよ。
 日本でどうなんですかというときに、施設を充実しますということから入るのか、社会意識として普遍的に存在しておる差別や偏見をどう解消するのかということがやはりまずもって大前提であるべきじゃないんですか。それをなぜ、「等」で読み込んでください、気持ちは同じだけれども「等」で読み込んでくれと。やはりそれは主客転倒しているんじゃないでしょうか。
 だから、そういう意味で、確かに塩崎先生は別に悪意があって修正案をまとめられたとは決して思いませんが、しかし、今申し上げたような疑問に対してはやはり塩崎先生はお答えできないでしょう。何かお答えできますか。そこはできないんじゃないですか、この条文からであれば。
塩崎委員 確かに不十分であることは認めますが、施設一つといえども、その施設をつくるためにどれだけ苦労するかというのは先ほどのイギリスの地域でもそうなんですね。私の地元でも、今、通所の作業所の移転で、前も申し上げましたけれども、地域の住民から大反対があって困っているわけであって、復帰施設そのものが建てられない、あるいは移転できない、こういうことにやはり問題が凝縮されていることでもあるわけなんで、先生のおっしゃることもよくわかりますが、私は私なりの気持ちを込めたつもりでございます。
植田委員 そこは平行線なんでしょうが、なぜそこにこだわるかというと、今回のこの私に言わせれば希代の悪法が、建前は社会復帰を促進するという冠をかぶせて、しかも修正案ではそれを強調なさっている以上、じゃ、復帰を促進するんだったらその基盤整備が先じゃないかという話で、私は偏見、差別の解消ということを言ってきたわけですよ。しかし、実際、社会復帰を受け入れるところの地域社会の実態の貧困さはお互い共通認識として持ち得る。そこは御同意いただけるでしょうけれども、修正案では実際具体的に書き込まれてへんわけですよね。
 だから、この修正案が、社会復帰の促進といいながらも実際にそうした具体的なさまざまなケースを想定して書き込まれるのがどうなのかというのが非常に疑問ですし、実際、社会復帰できる社会的基盤の整備について、もっと言うなら整備なりまた意識ですね、差別意識の解消、そういうことに言及しないまま一方で社会復帰を促進するなんというのは、これ自体自己矛盾じゃないでしょうか、塩崎先生。思いはそうかもしれぬ。では、私とさほど変わらぬ思いだったら、私の思いで書いたってよかったじゃないですか。
塩崎委員 植田議員の意見をもうちょっと早く聞いておけばよかったと思っております。
植田委員 質疑、持ち時間が終了いたしましたということですけれども、今いみじくも塩崎先生、早く聞いておけばよかったと。やはりそれはまだまだ不十分だし、私はそもそもこの法案自体立法事実がないという立場で反対していますけれども、しかし、法案の審議を通してさまざまな今の実態改善に向けた議論というものをやはりもっともっとしたいと思うんですよ。これで終わるんですか。私、もう持ち時間終了いたしましたといってこの紙が来ましたけれども、これで終わりなんですか。やはりこれは、山本委員長、先ほどの理事会で委員長の職権で採決をするとおっしゃったけれども、私、山本先生に何の恨みもないですし、すてきな方やと思うけれども、ちょっともう一回考え直さはったらどうですか。
 しかも、この当事者の方々に、目の前にいる当事者と語り合うことすらできへんとおっしゃる法務大臣、厚生労働大臣。法務大臣、法務省というのは人権擁護行政をつかさどっているんですよ。その資格、ありますか。
 審議の続行を強く求めます。そういう意味では、一応私の質疑はこれで終わりますけれども、引き続きの審議の続行は強く求めて、終わりたいと思います。
 以上です。
山本委員長 これにて各案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。
    ―――――――――――――
山本委員長 この際、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案について、国会法第五十七条の三の規定により、内閣において御意見があれば発言を許します。森山法務大臣。
森山国務大臣 本法律案につきましては、政府としては反対であります。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより各案及び修正案を一括して討論に入ります。
 討論の申し出がありますので、順次これを許します。木島日出夫君。
木島委員 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案及び与党提出、同法案修正案並びに民主党提出、精神保健福祉法改正案ほか二案に対し、反対の討論を行います。
 反対の理由を申し上げるに先立って、委員会運営に関し、一言申し上げます。
 本日昼の理事会において、法務委員長は、四野党一致して、まだ法案に対する審議が尽くされていない、質疑終結、採決は時期尚早との意見にもかかわらず、職権で質疑終結、採決を宣告いたしました。そして、まさにそれを実践しようとしております。委員長の横暴な委員会運営に厳しく抗議いたします。
 一昨年の長崎バスジャック事件、昨年の池田小学校事件などを契機として、触法心神喪失者に対する処遇問題が国民の関心を呼び、本法案の提出の契機となりました。我が党は、政府の法案提出を踏まえて、去る五月三十日、これらの問題解決のための見解と提案を発表いたしました。
 そこでは、日本の精神医療が、先進諸外国と比較して極端におくれていることに根本的な問題があることを指摘するとともに、精神障害者の治療を進め、犯罪の発生を減らしていくためには、欧米諸国で取り組まれている地域ケアを本格的に推進し、触法心神喪失者の医療と社会復帰を推進する司法精神医療を前進させていかなければならないとの観点を明らかにいたしました。
 そういう観点から、一、逮捕・捜査段階での精神鑑定と治療を充実させる、二、入院治療を含む処遇の決定は、裁判官、医師、福祉関係者などが関与する審判によって行う、三、医療処分内容とその要件を適切に判定できるようにする、四、医療・生活支援、社会復帰促進のための地域ケア体制を確立する、五、おくれている我が国の精神保健、医療、福祉を抜本的に拡充するという政策を発表いたしました。
 政府原案は、我が党の見解と提案に比べて、二、三の審判手続の導入以外については、全く触れていないか、極めて不十分であり、現状を改善するものとなっていません。
 反対の理由の第一は、まさにこの点であります。すなわち、新しい審判制度に基づく国の責任による医療が、真に触法心神喪失者の治療と社会復帰に役立つのか、それとも、基本的人権を侵害する保安処分の強化になってしまうのかの決定的な分岐点は、精神医療、とりわけ地域医療に対する人的、物的体制、予算がどのくらい手厚く確保されるかにかかっています。にもかかわらず、本法案ではこれが全く明らかにされておらず、修正案の附則でわずかに入院治療については前進が見られるものの、地域ケア体制の整備については、再三にわたる質問に対しても具体的答弁はありませんでした。
 反対の第二の理由は、退院後の通院治療を含めた社会復帰のための医療・観察を保護観察所が中心となって行うこととしている点であります。
 通院治療を含めた社会復帰のための施策は、まさに医療、保健、福祉、雇用の問題であって、厚生労働省が責任を持って行うべき分野であります。刑事政策として、犯罪者の更生を目的とする保護観察所が対象者を観察するという法案の基本的仕組みは、まさに保安処分的発想に基づくものであり、また、現在の保護観察所は、心神喪失者対策の専門性があるわけでもなく、更生保護本来の人員すら極度に不足しており、ここに責任を押しつけることはふさわしくないと言わなければなりません。修正案も、官職名を変えただけで、中身を変えるものではありません。
 反対の第三の理由は、法案に対する国民の理解が現時点で極めて不十分であるという点であります。
 国民の基本的人権に重大な影響をもたらす制度を新設するに当たっては、その制度に対する国民の理解と合意を得て進めるべきであり、日弁連を初めとする関係団体と国民の理解と合意が十分得られていない現時点での導入は、適当ではありません。
 与党提出に係る修正案については、附則第三条の精神医療等の水準の向上や第四条の検討条項については一定の評価をすることはやぶさかではありませんが、治療処分の要件に関し、再犯のおそれ隠しの小手先の文言修正によって、審判の基準を不明確にしたことを初め、法案全体に逆に大きな混乱をもたらすものであり、到底賛成できるものではありません。
 民主党提出の精神保健福祉法等改正案は、重大な他害行為を行った心神喪失者に対する医療、保健、福祉をどうするかという基本点で我が党と立場を異にいたしますので、賛成できません。
 以上で反対討論を終わります。(拍手)
山本委員長 次に、植田至紀君。
植田委員 私は、社会民主党を代表いたしまして、今議題となっておりますすべての法案に反対の立場から討論を行います。
 まず、そもそも、精神障害者のみを対象にした予防拘禁制度を新たにつくり出さなければならない立法事実など、どこにも存在しません。そのことは、あえて申し上げておきたいと思います。
 いわゆる触法精神障害者問題への対応の前提は、全般的な精神医療の向上、地域ケア体制の整備、充実によって、加害者を生み出さない社会をつくることにあります。そもそも、再犯率が非常に低く、一般の犯罪に比べ起訴率も決して低いとは言えない触法精神障害者のみを対象にしているという点においては、立法事実そのものに重大な疑義があるのは明らかであります。
 にもかかわらず、あえて政府・与党が本法案を提出するに至った背景には、精神障害者に対する根強い差別、偏見が存在していると断ぜざるを得ない。法案そのものがまさに偏見と差別を見事なまでに表現していると私は断ぜざるを得ないわけであります。
 政府案では、再犯のおそれを根拠に、裁判官と医師の判断により処遇を決定するものでありましたが、社民党は、再犯のおそれの判断可能性や、おそれにより長期拘禁することの違憲性などを厳しく追及してまいりました。
 今国会で提示された与党修正案は、処遇決定に際して医療判断を重視することになったにもかかわらず、裁判官が法律に関する学識経験に基づき意見することになっている。制度の柱とも言うべき合議体の役割自体に矛盾と混乱が生じているのであります。
 当事者の人権を著しく侵害する制度を導入するにもかかわらず、かかるあいまいさを残したまま、十分な審議も尽くさず、本日、採決に至るなど、立法府の良心は死んだと言うほかありません。
 なお、民主党さんが出された案につきましては、民主党の中で、この精神医療の拡充に向けたさまざまな真摯な議論に対して心より敬意を表するものでありますけれども、その出された法案の内容については、我々社民党とは基本的に立場が異なりますので、反対とさせていただきます。
 最後に、やはりこのことを言わずにはおれません。山本委員長、やはり私は山本委員長を厳しく糾弾せざるを得ない。
 この間、不当に野党が審議をストップさせたりしてきたことは一度もないんです。審議がストップするときは、おおむね与党席ががらがらやったときに定足数に満たずにストップしただけであって、四野党は、常に審議には応じてきたし、真摯な審議を続けてきた。それゆえにこそ、さまざまな論点が提示され、そして、その中でさまざまな疑問点が出てきた。だから、引き続き審議を続けようと先ほども四野党一致して申し入れているにもかかわらず、いわばかかる審議を途中で委員長は打ち切られた。
 これは、私は、山本委員長御自身の出処進退にかかわる決断をされたと認識させていただいていますが、この点について改めて厳しく糾弾をするものであります。
 以上で終わります。(拍手)
山本委員長 これにて討論は終局いたしました。
    ―――――――――――――
山本委員長 これより採決に入ります。
 まず、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の三案を一括して採決いたします。
 三案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
山本委員長 起立少数。よって、三案は否決すべきものと決しました。
 次に、内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案及びこれに対する修正案について採決いたします。
 まず、塩崎恭久君外二名提出の修正案について採決いたします。
 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
山本委員長 起立多数。よって、本修正案は可決されました。
 次に、ただいま可決されました修正部分を除いて原案について採決いたします。
 これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
山本委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。
 お諮りいたします。
 ただいま議決いたしました各法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
山本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
    ―――――――――――――
    〔報告書は附録に掲載〕
    ―――――――――――――
山本委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後五時二十三分散会


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