衆議院

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第4号 平成16年3月19日(金曜日)

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平成十六年三月十九日(金曜日)

    午前九時三十九分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 森岡 正宏君

   理事 与謝野 馨君 理事 佐々木秀典君

   理事 永田 寿康君 理事 山内おさむ君

   理事 漆原 良夫君

      小西  理君    左藤  章君

      佐藤  勉君    桜井 郁三君

      中野  清君    早川 忠孝君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    泉  房穂君

      加藤 公一君    鎌田さゆり君

      河村たかし君    小林千代美君

      小宮山洋子君    辻   惠君

      手塚 仁雄君    中井  洽君

      計屋 圭宏君    松野 信夫君

      吉田  治君    上田  勇君

      富田 茂之君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   経済産業大臣政務官    江田 康幸君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           園尾 隆司君

   政府参考人

   (司法制度改革推進本部事務局長)         山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          寺田 逸郎君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    房村 精一君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  増田 暢也君

   政府参考人

   (文部科学省科学技術・学術政策局長)       有本 建男君

   政府参考人

   (特許庁総務部長)    迎  陽一君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月十九日

 辞任         補欠選任

  枝野 幸男君     計屋 圭宏君

  鎌田さゆり君     手塚 仁雄君

同日

 辞任         補欠選任

  手塚 仁雄君     鎌田さゆり君

  計屋 圭宏君     吉田  治君

同日

 辞任         補欠選任

  吉田  治君     枝野 幸男君

    ―――――――――――――

三月十六日

 知的財産高等裁判所設置法案(内閣提出第六二号)

 裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六三号)

 労働審判法案(内閣提出第六四号)

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内閣提出第六七号)

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六八号)

同月十八日

 総合法律支援法案(内閣提出第六九号)

 判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律案(内閣提出第七〇号)

同月十六日

 成人重国籍の容認に関する請願(横路孝弘君紹介)(第一〇二五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 知的財産高等裁判所設置法案(内閣提出第六二号)

 裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六三号)

 労働審判法案(内閣提出第六四号)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、知的財産高等裁判所設置法案、裁判所法等の一部を改正する法律案及び労働審判法案の各案を議題といたします。

 順次趣旨の説明を聴取いたします。野沢法務大臣。

    ―――――――――――――

 知的財産高等裁判所設置法案

 裁判所法等の一部を改正する法律案

 労働審判法案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

野沢国務大臣 まず、知的財産高等裁判所設置法案について、その趣旨を御説明いたします。

 我が国の経済社会において、知的財産の活用が進展するに伴い、その保護に関して司法の果たすべき役割がより重要なものとなっております。この法律案は、こうした状況にかんがみ、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、これを専門的に取り扱う知的財産高等裁判所を設置するために必要な事項を定めることを目的とするものであります。

 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、東京高等裁判所の管轄に属する事件のうち、知的財産に関する事件を取り扱わせるため、特別の支部として、東京高等裁判所に知的財産高等裁判所を設けることとしております。

 第二に、最高裁判所は、知的財産高等裁判所に勤務する裁判官を定めることとし、その裁判官のうち一人に知的財産高等裁判所長を命ずることとしております。

 第三に、知的財産高等裁判所がその司法行政事務を行うのは、そこに勤務する裁判官の会議の議によるものとし、知的財産高等裁判所長がこれを総括することとしております。

 第四に、知的財産高等裁判所の庶務をつかさどらせるため、知的財産高等裁判所事務局を置くこととしております。

 次に、裁判所法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。

 我が国の経済社会において、知的財産の活用が進展するに伴い、その保護に関して司法の果たすべき役割がより重要となっており、知的財産に関する事件については、その審理の一層の充実及び迅速化を図ることが求められております。この法律案は、こうした状況にかんがみ、知的財産に関する事件における裁判所調査官の権限の拡大及び明確化、知的財産の侵害に係る訴訟の審理における営業秘密の保護の強化及び侵害行為の立証の容易化、特許権等の侵害に係る訴訟と特許等の無効の審判との関係の整理等の措置を講ずることを目的とするものであります。

 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、裁判所は、必要があると認めるときは、知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官に、口頭弁論期日等において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、または立証を促す等の事務を行わせることができる等の規定を設け、知的財産に関する事件における裁判所調査官の権限の拡大及び明確化を図っております。

 第二に、知的財産の侵害に係る訴訟の審理における営業秘密の保護の強化と侵害行為の立証の容易化を図ることとしております。具体的には、裁判所は、当事者等に対し、準備書面または証拠に含まれる営業秘密を訴訟の追行の目的以外の目的で使用し、または開示してはならない旨を命ずることができることとしております。また、特許権等の侵害訴訟において、侵害の有無についての判断の基礎となる事項であって営業秘密に該当するものに関する当事者尋問等について、一定の要件のもとにその公開を停止することができることとしております。

 第三に、特許権等の侵害に係る訴訟において、特許等が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者等は、相手方に対しその権利を行使することができないこととするとともに、侵害訴訟と無効審判との連携をより円滑化するために所要の規定を置くこととしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 最後に、労働審判法案について、その趣旨を御説明いたします。

 社会経済情勢の変化に伴い、個々の労働者と事業主との間における労働関係に関する民事紛争が増加しており、その迅速かつ適正な解決を図ることが求められております。この法律案は、このような状況にかんがみ、個別の労働関係に関する民事紛争について、地方裁判所における手続として、労働審判手続を設けることにより、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とするものであります。

 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、労働審判手続は、裁判官である労働審判官一名及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員二名で組織する労働審判委員会が、事件を審理し、調停による解決を試みつつ、当事者間の権利関係を踏まえて事案の実情に即した解決をするために必要な審判を行う手続としております。

 第二に、労働審判手続においては、特別の事情がある場合を除き、三回以内の期日において迅速に審理を終結するものとしております。

 第三に、調停が成立しない場合には、労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて労働審判を行うものとするとともに、労働審判委員会は、事案の性質上、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判を行わずに事件を終了させることができるものとしております。

 第四に、当事者は、労働審判に対し、二週間以内に異議の申し立てをすることができるものとし、異議の申し立てがあったときは、労働審判はその効力を失うとともに、労働審判手続の申し立てに係る請求については、労働審判が行われた際に労働審判事件が係属していた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなすものとしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、各法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて各案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 ただいま議題となっております各案中、知的財産高等裁判所設置法案及び裁判所法等の一部を改正する法律案について議事を進めます。

 この際、お諮りをいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務省大臣官房司法法制部長寺田逸郎君、法務省民事局長房村精一君、法務省入国管理局長増田暢也君、文部科学省科学技術・学術政策局長有本建男君、特許庁総務部長迎陽一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りをいたします。

 本日、最高裁判所事務総局園尾行政局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 一九八〇年代中盤より、アメリカがプロパテント政策というのをとって世界戦略を展開しております。日本も、一九九〇年以降、バブルの崩壊という中で、経済をどう活性化させていくのか、再生させていくのか、このことが正面から問われております。まさに、そのような中にあって、日本もまたプロパテント政策をきっちりと打ち出して、戦略的にこの知的財産権というのを据えつけて頑張っていかなければならない、このように考えております。

 民主党は、既に「はばたけ 知的冒険者たち」というような、二十一世紀の知的財産権についての戦略を提唱しております。政府もまた知的財産の戦略本部を設けて、その意味におきましては問題意識を共有しているというふうに思いますので、そのような知的財産戦略を日本の二十一世紀の未来を切り開いていくためにも具体的に展開していく、その中で司法インフラをどのように整備していくのか、このような観点から、本日の知的財産高等裁判所の設置法案、そして裁判所法の一部改正法案について質問をさせていただきたい、このように思います。

 まず、裁判所法の一部改正法案の方から具体的に伺ってまいりたいと思いますけれども、今、提案理由の説明がありました。大きく言って、具体的な法律の内容については三点ある。必要があると認めるときに裁判所の調査官というものを活用する、その地位なり権限ということについて規定した部分が一つであります。そしてまた、知的財産侵害に係る訴訟の中で、営業秘密の開示。しかし一方で、それがむやみに遺漏してはならないということで、秘密保持命令、公開停止等の規定があります。そして三点目に、特許訴訟との関連で、無効審判との判断のそごということが現実に生起していることについてどのように解決していくのか、このことが三点目の内容になっております。

 順次、伺ってまいりたいと思います。

 まず、裁判所の調査官に関する規定を設けるということは、先ほど申し上げたプロパテント政策を展開していく上において、司法インフラを拡充するという観点においてどのような意味があるのか、この点について、まず野沢大臣にお伺いさせていただきたいと思います。

山崎政府参考人 裁判所の調査官の権限の拡大、これを設けているわけでございますけれども、これはやはり、最近の特許関係等の訴訟は技術的にも非常に難しくなっているわけでございまして、こういうものに対応して、裁判も、そういう点についても迅速に結論を下していかなきゃならない、こういうことになるわけでございます。そういう点で、やはり専門家の活用ということがどうしても大事になるわけでございます。

 そこで、今までも裁判所調査官はおりますけれども、これをもう少し権限を拡大して、より訴訟を実効的にやっていくということを図るわけでございまして、これによって、質のいい裁判が、判決が早く出る、こういう意味があるというふうに考えております。

辻委員 まず立法目的をきっちりと確定させたいというふうに思います。

 特許訴訟の現状を、不十分な点を変えていかなければいけない、そういう観点で、裁判所調査官の権限を強めることが必要なんだという今御答弁があったと思いますが、特許訴訟の現状において、裁判所調査官のかかわりの中において現在不十分だと考えておられる点はどういう点なんでしょうか。

山崎政府参考人 現在、裁判所の調査官ですが、基本的には、命を受けてその調査をするということで、その報告を裁判官の方にするわけでございます。これが現状でございますが、やはりそれだけでは、裁判官が法廷等のやりとりをして、それを踏まえて調査官の方に依頼をするという形になります。ワンクッション置くような形になります。これでは、非常に迅速性も失われますし、正確性もなかなか伝わらないという点もございます。

 そこで、リアルタイムにそのことが理解できるようにということで、調査官に法廷に立ち会ってもらったり、そういうところで実際に聞いて、そこで直ちに必要なものについては当事者に依頼したり、そうすれば、非常に速く的確な進行ができる、こういうことを考えたわけでございます。

辻委員 今のお答えを総括しますと、迅速性の要請が一つあるということと、正確だということをたしかおっしゃったと思いますね。

 だから、今の特許訴訟の不十分な点、多々あると思いますけれども、迅速性を図る必要がある、正確性を図る必要がある、そういう観点で、裁判所調査官の権限を強めることがその関連で意味がある、こういう御説明なんですか。

山崎政府参考人 ただいま申したとおりでございますが、それがひいては特許関係訴訟、これが非常に質の高いものになり、迅速な裁判が行われていく、これによって特許関係の実務もうまくいく、こういうことを目指しているわけでございます。

辻委員 では、特許訴訟の現状について、まず事実関係をやはりはっきりさせておきたいというふうに思います。

 特許訴訟は、現在、概算で結構ですけれども、一年、どれぐらいの件数が係属をして、それが第一審の判決に至るまでどの程度の期間かかるものなのか、迅速性の観点から見てそれはどう評価されるのか、この点についてお答えいただきたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 それでは、特許訴訟を中心といたします知的財産権訴訟につきましての全国の申し立て件数、それから、審理期間についてお答えいたします。

 特許訴訟を中心といたします知的財産権訴訟についての全国の地方裁判所における申し立て件数は、平成十四年には六百七件でございまして、これは、十年前であります平成五年の申し立て件数四百七十件と比べますと、二九%の増加ということになってございます。

 また、知的財産権訴訟についての全国の地方裁判所における平均審理期間は、平成十四年には十六・八カ月となっておりまして、これは、十年前である平成五年の平均審理期間が三十一・九カ月だったのに比べますと、およそ半分になっているという状況でございます。

辻委員 日本の特許の出願で、審査がなかなか進まないということが一つの大きな問題点と指摘されておると思いますし、かつ、特許訴訟についてもなかなか迅速に事が進まないという点が指摘されていたと思いますけれども、今のお話では十六・八カ月、かなり迅速化が図られていると思いますけれども、先ほど山崎さんの方のお答えからしますと、迅速化をさらに進めるために裁判所調査官の権限を強化する必要があるんだというお答えもあったやに思いますけれども、裁判所調査官の権限の強化によって、この裁判の訴訟の審理期間がさらにどれぐらい短縮するということで今回の提案をなされているんでしょうか。

山崎政府参考人 これは、訴訟は全部顔が違いますし、中身も違うわけでございますので、これを一概に、ではどのぐらい縮まるということは、大変申しわけございませんけれども、言える状況ではないということです。

辻委員 では、別の角度から伺いますけれども、現在でも、裁判所調査官を必要に応じて裁判官が命じてかかわらせることができるということなわけですよね。この改正法案を見ても、裁判所が必要と認めるときにやはり裁判所調査官をかかわらせることができるというふうになっており、その点においては変わらないというふうに思うんですけれども、つまり、必要的であるというわけではないという意味において変わらない。

 では、そうすると、とりわけ知財の訴訟、特許訴訟に限ってもいいと思いますが、特許訴訟において裁判所調査官が登用されている割合というのは、全件数の中でどれぐらいなんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 知的財産権訴訟、これは全国に存在するということになるわけですが、裁判所調査官を置いておりますのは東京と大阪の高等裁判所、地方裁判所ということになりますので、その裁判所について調査官がどの程度関与しているかということになります。

 これは、正確な統計を今持っておるということではございませんけれども、相当数の事件について調査官の技術的な補助を受けて審理を進めておるという実情にございます。

辻委員 現状が相当数というのは、割合がはっきりしないということですか。調査をされていないということなんでしょうか。

 今回の法案がもし可決して実施されるということになった場合に、その割合はどのように変わるというふうに考えておられるんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 東京それから大阪の高等裁判所、地方裁判所に関して言いますと、専門技術的なことが問題になります特許訴訟に関して言いますと、これは現状としては、ほとんどの事件について調査官の技術的な補助を受けておるというように言えようかと思います。正確な数値というのは、きょう手元にとってございませんが、そのように言うことができると思います。

 これに対しまして、専門技術的なことが問題になるということが少ない知的財産権訴訟というものも類型もございますが、これについては裁判官が審理をするということで補助を得ていないということでございますが、今のような状況になります。

 これが法律が改正になるとどのように変わっていくのか、その見通しかというお尋ねでございますが、今回、私どもといたしましては、この現在の手続について、適正化、透明化という点から法制化がされていくというように考えておりまして、今、特許訴訟に関して言いますと、大いに使っておりますこの調査官の件数についてさらにどうかといいますと、今も十分に使っておるということが言えようかと思います。

辻委員 私の体験では、昨年、二〇〇三年、東京地裁の民事二十九部で、飯村敏明裁判長のもとで特許訴訟を、被告側の代理人として私はやりましたけれども、そのときには裁判所調査官はついていないという事実があったというのを一応コメントさせていただいておきたいと思います。

 それで、迅速性を図るために裁判所調査官の権限を強めることが必要だという当初の御説明だったんですけれども、今の園尾さんのお話では、むしろ適正化、透明化を図っていく観点を強調されていたと思いますが、私が聞き及ぶ、調査をしたところによれば、特許訴訟の迅速化については、それはこれ以上さらに迅速化されるのは望ましいかもしれないけれども、特段の緊急の政策的要請が強くあるというわけではないというふうに私は調べた限りでは認識しておりますので、そうなると、今この改正法案を出すことの意味が、迅速化の観点で問題になっているのではなくて、違う立法目的があるのではないかというふうに思われるので、その点についてはいかがですか。

山崎政府参考人 今回の点につきましては、経済界等からも要望がございまして、経済界が一番今望んでいるのは、やはり審理の迅速化なんですね。それから、判断の統一という問題でございます。したがいまして、そこを中心に考えております。

 また、権限も、今、園尾局長の方から答弁がございましたけれども、明確ではないという点ももちろんあったわけでございます。その点も明確にいたしましたけれども、主たる目的はやはり裁判の迅速化ということでございます。

辻委員 だから、そういうふうにお答えになるんだったら、もう少し具体的に突っ込ませていただきたいと思いますけれども、では、この法案によって裁判所調査官の権限が強化されて、今の十六・八カ月という審理期間がどれだけに短縮になるんですか。目標値があるんですか。そのためにこの改正が必要なんだ、こういうお考えであれば、その点について具体的に回答してください。

山崎政府参考人 これは先ほどもお答え申し上げましたけれども、すべて事案が、これからどういう事案が出てくるかわからないわけでございますので、これを導入して、では、現実に具体的数値としてどの程度短縮になるかということ、これははじき出せない状況でございます。

辻委員 そうすると、この法律を改正することの具体的な効果は全く読めない、当てずっぽうに言っているということになりますよ。

 では、立法目的が全くこんなずさんな、はっきりしないような内容で、国会で通してくれと提案すること自体、これはそもそも前提を欠くような議論になっているんじゃないですか。その点についての責任感があるんですか。

山崎政府参考人 しかし、この制度の仕組みといたしまして、今まで期日においていろいろ釈明とか発問ができない、あるいは証人等に尋問できない、こういうところをはっきりさせるわけでございまして、そういうことによって、より高度な内容が裁判の中に反映される。

 それから、間接的にやっていたところが直接的にいくということで、それは、迅速化と内容の充実、両方が図られることになると思いますが、では具体的に、定量的にどの程度縮まるのかというのは、これはちょっと、これから出てくる事件等によっても違うわけでございますので、一律には申し上げられないということでございます。

辻委員 大体の目標値すら設定できないというのは、非常に、この法案を、迅速化を図るためにというふうにおっしゃっているにもかかわらず、全く当てずっぽうで無責任な提案理由だというふうに思わざるを得ません。

 もう少し具体的に突っ込んで質問していきたいというふうに思いますけれども、産業界の要請等を聞く範囲においては、迅速化という問題も必要だということでありますが、先ほど判断の統一性という話が出たと思うんですね。ですから、技術的な観点でもっと専門的に正確に判断を統一して、日本の特許訴訟の質を高めたいという要請がやはり本音のところではしっかりした要請としてあるんじゃないかと思うんですけれども、その点はどうなんですか。

山崎政府参考人 先ほど私は二つ申し上げたと思いますけれども、裁判の迅速と判断の統一性、質の高さ、これを求めている、両方であるということは間違いございません。

辻委員 実質的には、私は、後者の点がより焦点になって議論されるべき問題だというふうに思いますので、それに関連して伺っていきたいと思います。

 そうすると、特許訴訟の質を高め、専門的ないろいろ知見も導入して迅速にやっていくというために、今の裁判の運営、先ほど園尾局長の方のお話では、かなり大きな、ほとんどの事例で裁判所調査官の関与があるというふうに言われていましたけれども、そうすると、裁判官と裁判所調査官との役割、権限、その辺の関係性、それは現状どうなっているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判官と裁判所調査官の関係でございますが、これは、裁判官が命じた事項について裁判所調査官が補佐をするという関係になってございまして、そういう意味では、裁判所調査官というのは、裁判官の命令の範囲内でのサポート役だというように考えております。

辻委員 これは私の知り合いの弁理士さんと話をして出てきた話でもあるんですけれども、特許訴訟で裁判所の調査官が関与されてきて、調査官は特許庁の審査官とか審判官の方が多いようなんですが、要するに、論点を整理したり証拠を整理したり、それから専門的な問題についていろいろ議論をしたり、作用効果がどうなのか、特許の侵害がどうなのかとかいろいろな話をするときに、調査官が何か主役になって、それは弁論準備なのか審尋期日なのか、いろいろな場面があると思いますけれども、仕切ってしまって、司法官としての裁判官の顔が見えてこない。

 裁判官は何をしているんだ、特許訴訟において、行政官である裁判所調査官の主導下に司法が行われているのではないかというような懸念を抱かれる方もいらっしゃる、そういう現状があるように思いますけれども、この点についてはどのように事実を認識し、評価しておられるのか。その点はいかがですか。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の、裁判所調査官をどのように使うかということは、大変重要な問題として、現在も継続的に研究、協議をしておるというのが裁判所の実情でございます。

 先ほど御案内がございましたとおり、東京地裁の事件でも、調査官の関与を経ないで、法律的な問題が中心であるという点については、裁判官が合議に合議を重ねて結論を出す。それから、調査官を使うにしても、どの点についての補佐を求めるかということについて、きちっと裁判官の側で検討して、補佐を求めるというような方向性を強めていく、そういう検討をしておるところでございます。

 裁判官と調査官の関係については、定量的な、量的な問題としてどの程度というようなところがあるわけですが、今のような基本的な方針を考えながら、裁判官が指示をした範囲内での技術的な補助を得る、そういうような方向での検討を進めておるというところでございます。

辻委員 最終的な判決を下すような場合に、最終場面において裁判所調査官が、技術的なことが問題になる、侵害かどうか、それがメルクマールであるというような場合には、意見書みたいなものをつくるわけでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判官の命令の仕方によるということになりますが、調査官に対して報告書の作成を求めるということがございます。

辻委員 その報告書について、ケース・バイ・ケースだというお答えがどうも出てくるように予想されますけれども、裁判所の方はどういう取り扱いをしているのが現状だというふうに掌握されていますか。

園尾最高裁判所長官代理者 これは裁判官によって、それから事件の内容によってその報告書の内容も異なってくるということでございますが、方向性として、今、裁判所の中では、裁判官がどのような内容についての調査補助を求めるのかという点を明白な形にして補助を求めようという方向性を持っておるということは言えようかと思います。

辻委員 これは具体的な事案を取り上げて具体的に詰めていかないと、なかなかかみ合った議論にならないから、きょうの場ではちょっと難しいというふうに思いますけれども、裁判所調査官が作成した報告書が現に下されてくる判決と余り変わらないケースが多いのではなかろうか、そういう意見も世の中にはあるわけなんですね。

 だとすると、本来は司法裁判所なわけでありますから、裁判官が最終的に心証を形成して判断をしなければいけない。だけれども、それの露払いというか前段階で、裁判所調査官がいろいろ、技術的なことを含めて、法律的な面も含めて検討して、報告書を作成するわけであります。だから、その報告書が判決にほとんど影響する、そのまま、その概要のほとんどが判決に落とし込まれている、このような例を聞くんですね。

 ですから、私は、これはこの後質問させていただきますけれども、その点についての危惧感を持っている。この点についてはどのような認識を持っておられますか。

園尾最高裁判所長官代理者 これは御指摘のとおり、事件の内容によってもかなり異なることでございますが、特に特許庁の審決の取り消し、これと侵害訴訟といいますか、損害賠償、差しどめを求める訴訟とでは、かなり関与の仕方が違っております。

 審決の取り消し訴訟になりますと、これは多くの調査官が特許庁の審判官の出身であるということで、手続的なところについても大変よく承知をしておるということ、それから、技術的な補佐も得るということから、助言を得るということは大変多いわけでございますが、ただ、裁判所は独立した立場で審決の取り消しをするかどうかということを決めなければいけないという職責を負っておりますので、これは裁判所の指導の範囲内での補助を求めるということがぜひ必要なことでございまして、その方向性をもって努力しておるという説明をさせていただくということになろうかと思います。

 侵害訴訟について言いますと、これはやはり法律の分野の争点というのが大変多いわけでございまして、損害賠償、差しとめという問題になってまいりますと、これは技術的な面での補助を得るということになりますけれども、主に裁判官が法律的な観点から、補助を得ないで結論を出すということも、この分野ではあるわけでございます。

 以上のような状況でございます。

辻委員 やはり司法裁判所ですから、裁判所の主導権が確立して、その指導力のもとで事が進められなきゃいけない。まさに園尾局長がおっしゃるとおりなんですが、現状がそのように進んでいるのか、多くのいろいろな懸念材料があると思うんですね。

 そこでお伺いするんですが、訴訟に参加している原告、被告、両当事者から見ると、裁判所調査官に対して、どのような考えを持っていて、どのような意見を持っていて、それが、ある意味では誤った方向に進んでいるのではないかとか、考えが違っているのではないかというようなことを、当然、審理の中で当事者としてはただしていきたいというふうに考えますけれども、その点はどのように保障されようとしているんですか。

山崎政府参考人 先ほどから最高裁から御説明ございますけれども、報告書ができますけれども、これは当事者には見せないという構造でございます。これは証拠ではございませんし、裁判をする上の過渡的な資料だという位置づけでございます。

 では、当事者は、それをどういうふうに考えているのか全くわからないのかという問題だと思いますけれども、この今回の法案で、期日に立ち会ったり、和解、それから証人尋問に立ち会いますので、そこでいろいろ発問もございます。特に、主張の整理のところでは調査官も一緒にやるということになれば、その応答を通じて、何を考えているかということはおのずとわかってくるだろうというふうに私は思っております。

辻委員 徐々に浮き彫りになってきていると思いますけれども、特許訴訟の審理の中において、裁判所調査官が下準備というか、裁判官が判断する以前の主要な論点なり技術的な問題点なりをかなりまとめて事を進める、そういう意味で、果たしている役割が非常に大きいのではないかというふうに私は思うわけであります。その点について司法のチェックはちゃんと及ぶのかという問題と、両当事者の意見がきちんと生かされていくというか、裁判所調査官がどのような経験に踏まえ、どのような見識をお持ちの方で、どのような中立的な、また透明性を持った方なのかによって、いろいろ問題点が生じてくるわけであります。

 だから、裁判所調査官の役割なり権限なり、その中立性、透明性を図るためにどのようにチェックしていくのかという、ここをもっと詰めて論じなければいけないというふうに思うわけでありますが、裁判所調査官の給源としてはどのような方が考えられているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 現状を申し上げますと、現在、二十一名の裁判所調査官がおりますが、そのほとんどが特許庁の審判官を経た者ということになります。これに対しまして、これは最近のことでございますが、弁理士の出身の調査官という者も、二名でございますが、任命をしてございます。

辻委員 今回の法案を見ますと、結局、これは九十二条の八ということでありますけれども、「当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこと。」九十二条の八のこれは一号になるんでしょうか。裁判所調査官が、「訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこと。」二号では、「証拠調べの期日において、証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発すること。」三号では、「和解を試みる期日において、専門的な知見に基づく説明をすること。」四号で、「裁判官に対し、事件につき意見を述べること。」

 つまり、今までは裁判官の命によって採用されていた、権限の範囲がはっきりしなかった、しかし、実情としてはこれと同じようなことがなされていたかもしれないと私は思いますけれども、それを法律にはっきり明記して、まさにこれは、審理を主役として裁判所調査官が行うということの権限を与えているわけですね、権威を与えている。

 そうすると、先ほどから私が申し上げている司法裁判官の役割、その主導性がどのように確保されるのかという、そうではなくて、裁判所調査官が前段階でかなりの部分を牛耳ってしまう、主役となって動いてしまう、そのことの問題性が私はあると思いますけれども、そのことがさらに強められる結果になる、そのように感ぜざるを得ないんですが、その点はいかがでしょう。

山崎政府参考人 確かに、九十二条の八、民事訴訟法でございますけれども、ここでこのような規定を置いているわけでございますけれども、あくまで、法廷なり審尋、和解、これは裁判官の指揮下でやっているわけでございまして、まさに裁判官は、マイコートで、自分で指揮をして、最終的な責任を負うわけでございます。それはもう当然の前提として、技術的な分野等について裁判所調査官がこのようなことができるということを書いているわけでございますので、そこは、大きな構造は全く崩れていないというふうに考えております。

辻委員 では、伺いますけれども、当事者の立場から、ある意味では、例えば証拠調べ期日を取り上げれば、訴訟指揮権は当然裁判長が持っていると思いますけれども、同席をした裁判所調査官が証人尋問みたいなものをするわけですね、これは。

 そうすると、要するに、そういう調査官が、例えば間違った観点においていろいろ質問をする、法律的な見解においてもどうも相入れない法律的な立場に立っておられる、学説に立っておられる調査官が仮に担当者で出ているとしたときに、当事者からはそれについてはどのような異議を申し立てたり、どのようなチェックをすることが可能なんですか。

山崎政府参考人 先ほど申し上げました九十二条の八の柱書きの後段ですね、「この場合において、当該裁判所調査官は、裁判長の命を受けて、当該事務を行うものとする。」というふうにしております。

 先ほど証人尋問等をするというふうにおっしゃられましたけれども、そうではなくて、証人尋問は、代理人がまずやります、裁判官も補充をいたします。そこのところで、技術的な問題で足りないところを問いを発するということでございまして、そういう意味において、今までの訴訟の形と全く違わない、そこに権限を明確にして、技術的な点で補充の行動ができる、こういうふうに考えているわけです。

辻委員 御説明の仕方としてはそうなるというのはよくわかりますけれども、現実を見たときに、例えば産業界から漏れ聞くところによれば、現在の特許裁判官は技術的に物を知らな過ぎる人がいっぱいいるじゃないか、だから、裁判所調査官なりしかるべき専門委員なりを入れて、間違いのないような、要するに特許訴訟にしてもらわなければ困るというような意見があるように聞いています。

 ということは、先ほどからおっしゃっているように、裁判所調査官に対しては裁判官が主導権を発揮することができるんだというふうにおっしゃっているけれども、現状において、裁判官は、技術的な問題なり知見なりについて、裁判所調査官よりもより優位を持っているとは思えない場合が多々あると思うんですね。それは、法律的観点で、訴訟指揮権なりやるのとはまた別なんだというふうなお答えが返ってくるかもしれないけれども、いわば主役と主客が転倒してしまうような懸念というのは、やはりますます強まっているんではないか。

 では、裁判所の特許訴訟の専門的な裁判官の養成として、現在で十分だとお考えなんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判官の専門的な訴訟に関する対処の仕方として、研修をする、研究会を重ねる、あるいはさまざまな海外での経験を重ねるというようなことでレベルアップを図るということは、なお一層必要だというように考えております。

 これまでも研修、研究会、あるいは海外でのさまざまな経験をしてもらうというようなことで、専門的な分野に関しての技能、それから法律的な知識、そういうようなものについて研さんを図ってまいりましたが、今後とも、この点についてはなお一層強めていくという考えでやっているところでございます。

辻委員 ほかの論点もありますから、本当はもう少し突っ込んでいきたいというふうに思いますけれども、あと幾つかこの点については質問していきたいと思います。

 報告書を、これは当事者に見せないというのはどうしてなんですか。最終的にそれがそのまま判決になってしまうからなんですか。いわば、裁判所調査官の裁判官に上げる報告書というのは、ある意味では、技術的な問題を含んでいるのでありますから、鑑定書的な性格を有するとも言えるんではないかと私は思うんですよね。

 そうなると、当事者からすれば、どのような鑑定結果らしきものが書面化されているのかということを見て、それに対して反論の機会を与えるということが審理を充実させるためにはより重要なんではないでしょうか。その点はどうですか。

山崎政府参考人 これでちょっと似て非なるものがありまして、家庭裁判所の調査官の報告書でございまして、これにつきましては、家庭事件につきましては職権探知主義をとられております。そういう構造の違いから、口頭弁論における証拠調べの結果に加えて職権探知的な証拠も判断の材料にできるわけでございますので、これにつきましては、裁判の資料とすることができる関係から、当事者に閲覧ができるという形をとっております。

 こちらの訴訟の関係では、これは完全に当事者主義、それから要するに職権探知主義をとっていない構造で行われているわけでございまして、基本的な証拠は、これは法廷にあらわれた証拠ということになるわけでございます。

 調査官はあくまでも技術的な補助ということで、その技術的な点について参考意見を言うという一種の過渡的な資料にすぎないわけでございまして、最終の判断は裁判官が行うわけでございます。そういう意味において、証拠資料という形にはならないというふうに考えております。したがって、それを当事者が閲覧することはできないというふうに考えております。

辻委員 ですから、訴訟手続的にどのようにそれを解決するのかという問題はあるというふうに思いますけれども、特許審理をより充実したもの、そして、当事者がやはり納得いくような形で迅速に、しかも正確に進められるということが重要なわけでありますよ。

 当事者からすると、裁判官でもない、しかも選任の経過なり、資格なり、権限はこの法律ではっきりするのかもしれないけれども、その裁判所調査官が出てきて、何か審理を大きく左右するような意見を形成、つくって、それを、報告書を裁判官に上げる、もしかしたら裁判官はその報告書のまま判決を書いてくるかもしれない、そういう懸念を持たざるを得ない状況の中にあって、調査官のつくった報告書について、全く反論の機会なりチェックする機会を当事者に保障しないということは、これはやはり審理の充実という観点からも反することになると思いますが、その点、再考していただきたいと思いますが、いかがですか。

山崎政府参考人 これは先ほど申し上げましたけれども、今回の法案では、法廷等に立ち会えるわけでございます。そこで調査官が発問できるわけですね。そうすると、やはり当事者との、そこのいろいろな議論になるんだろうと思います。(辻委員「議論になるんですか」と呼ぶ)議論というか、考え方の交換はするわけですね、それで整理をしていくわけでございますので。その問答の中で、調査官がどのような考えを持っているかというのはおのずとわかってくるだろうというふうに私は思っております。

辻委員 今のお話は、審尋期日なり弁論準備手続の中で、問答が、争点は何なのかとかいうようなことでやりとりがあって、おおよそどういう考えを持っているのかというのはわかる機会があるじゃないか、こういうお話ですか。

山崎政府参考人 そのとおりでございます。

辻委員 では、ちょっと観点を変えて、裁判所調査官について、その中立性なり選任の透明性を確保するために、除斥、忌避、回避の制度を準用するんだというふうになっておりますけれども、具体的な進め方としては、除斥、忌避、回避、この裁判所調査官はこういう傾向がある、ないしは、以前に、今焦点となっている訴訟の絡みではこういう判断を下すものに関与していたとか、こういう学説を公表しているだとか、それは除斥、忌避、回避の直接的理由とはちょっと離れているかもしれませんけれども、情報を事前にどういう形で開示されているんですか、当事者の方には。

山崎政府参考人 調査官の方の今までの経歴ですか、これについては、今現在もそうでございますけれども、開示はしていないと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 お尋ねの点ですが、裁判所調査官は常勤の裁判所職員という関係にございまして、そういう意味では、常勤の裁判所職員という意味では、裁判官、裁判所書記官、そういう者と同じ勤務をするというものでございますので、それと同じ形態での訴訟の関与をしてもらっておりますので、今のような点についての開示をしていないということでございます。

 お尋ねの点に関しましては、例えば専門委員で、非常勤、裁判所の常勤職員でない者が事件の手続に関与するという場合には、これは別途の考慮を要するというように私ども考えておるところでございます。

辻委員 そうすると、結局、裁判所調査官について、除斥、忌避、回避というのは特殊な親族の関係とかいろいろなことが中心ですよね。私が伺いたいのは、やはり特許というのは非常に重要な権利、普通の裁判もそうでありますけれども、とりわけ技術的な物の考え方とか分析の考え方ということによって、学説の違いで結果が大きく変わってくるわけであります。

 だから、そういう意味での中立性、そういう意味での選任の透明性ということが裁判所調査官にやはり図られなければ、権限が強化される一方で、その点はブラックボックスになるということでは極めて問題が残るのではないかと思うから伺っているんですが、そういう懸念に対しては、では、どのような形で解消されることになるんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいまの点につきましては、裁判所の中でも裁判官の検討課題として現在も研究をしておるというところでございますが、やはりこの裁判所調査官に何を補助してもらうのか、そういう点をきちんと検討して、補助してもらう対象、これは専門技術的な、いわば裁判の前提となる専門技術的な面でのサポート、そういうような点についてのサポートをしてもらうということをきちんと裁判所の中でも明白にして、なお裁判官がその裁判所調査官に調査の命令を出すときに、この点について明瞭な検討をした上で出すというような、そういう運用をさらに強めていくという必要性があるというように認識をしておるわけでございまして、ただいまの御指摘のような点につきましては、私ども内部でも大変重要な点だということで、検討、研究の課題にしておるということでございます。

辻委員 そうすると、裁判所調査官はどういう手続で、だれによって、どういう手続で選任されることになる、選ばれることになるんですか。その点に関して、第三者的な意見が反映する機会というのは保障されているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判所調査官をどのように使っていくかということに関しましては、これは裁判体が個別の事件の特性に応じて決めるということでございますので、先ほど申し上げましたような忌避、除斥などの規定につきましては、その後に当事者の申し立てなどを得るというようなことでございまして、当初の任命手続は裁判所の責任をもって行うということになります。

辻委員 今全国で二十一人、東京高裁管轄内で十一人、裁判所の調査官がいらっしゃるわけですね。これは、この法案をもって数がふえるとか、そういうことが予定されているんですか。ふえるとすれば、その選任の手続はどのように予定されているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判所調査官の数でございますが、東京高等裁判所に十一人、それから東京地方裁判所に七人、それから大阪高裁、地裁に三人という現状でございます。これは何年か前から幾人かをふやしてきたということでございますが、去年、ことしという点につきましては、この人数を維持していくということで、なお、ことしの四月から専門委員という制度ができましたので、この専門委員については百名規模で選任をしていくということで技術的なサポート体制を得ていきたいというように考えております。

辻委員 そうすると、調査官の数も現状では変わらない、そして、その関与の形態も変わらない。迅速という観点からも、特にそれはよくわからない、どうなるかわからない。もしかしたら、逆に長くなるかもしれないじゃないですか。それで、結局、残るエッセンスというのは、裁判所調査官の権限が強まるだけである。

 そうすると、現状で、私も弁護士の端くれですし、弁理士の方々も友人がたくさんおりますけれども、特許訴訟の中で、裁判所調査官の動きが見えない、裁判官が何をしているかわからない、何か裁判所調査官がほとんどの問題を決めてしまっているんではないか、こういう疑念なり懸念なり不安なりを持っているという現状が全然認識されていなくて、それを変えなければいけないということについて、裁判所の主導権を発揮するんだというふうに言うけれども、では裁判官の養成については研修を行うという以上の具体的な方策は示されていない。結局、残るところは裁判所調査官の権限が強化されるということがひとり歩きするんではないか、こういう懸念を持つわけであります。

 現に、特許訴訟以外の訴訟で、例えば地方裁判所の通常の訴訟になっているときに、家賃の値上げの問題とか、建築紛争とか、またソフトの開発の問題とか、いろいろな問題について調停に付するという形になりますよね。裁判官は専門ではないから、やはりその専門の調停に付して、そこでやった方がいいんだということで、そこで調停委員会の調停意見が出て、それに対して当事者がそれには従えないというふうになったときに、本裁判に戻って、出てくる判決の結論というのは調停委員会の調停意見とほとんど同じものが出てくるわけであります。

 だから、そういうことをそのままアナロジーすることはできないかもしれないけれども、まさに行政的な判断で出された結論をそのまま司法が受け入れてしまうというような現状が、どんどん広がっている。それがこの特許訴訟においてもそのような結果になるんではないか、こういう懸念を持っております。

 この点について、そういう懸念は全く懸念であって、そういうものはないんだ、全くないんだというふうにお考えなのか、確かにそういう懸念はあるけれどもこういうふうにやっていきたいというふうに考えられるのか、それ以外のお考えがあるのか、この点についてどうなんですか。

山崎政府参考人 ただいま委員が御指摘の点、本当にそういう事実なのかどうか、これはちょっと私もお答えするわけにいきませんけれども……(辻委員「それは検討不足ですよ、現状を」と呼ぶ)いや、これは、もしそうであるならば裁判の否定になります、そういうことになれば。結果が調査官のお考えと同じだということはあり得る話だろうと思いますよ、それは裁判官として。しかし、そこは裁判官がみずから判断されてやっていることでありまして、そこを調査官が全部支配しているということになれば、これはもう裁判の否定という問題になりますので、そういうことは私は行われていないというふうに考えております。

辻委員 今のお話では、そういう懸念すら何か感じていないというような、そういう前提でのお話ですよね。だけれども、懸念している人たちは法曹関係者の中にもたくさんいると思いますよ。

 だから、今問われているのは、司法裁判官がきちっと特許訴訟を主導的に発揮していけるような体制をどうつくるのかということじゃないんですか。だから、専門的な知識を持った特許裁判官をどのように養成していくのか。例えばロースクールの問題で、数がふえる。その中で、理科系の人たちも、ちゃんと法曹資格を持った、特許裁判官としてなり得るような、そういう給源として育てていくんだ、そういうところが重要であって、本末が転倒している。

 裁判所調査官の権限を強めることが今問われている問題ではなくて、今問われているのは、特許訴訟を充実化させるために法曹をどのように養成していくのか、裁判官をどのように養成していくのか、それが重要なんじゃないんですか。順番が逆転している、このように思いますが、いかがですか。

山崎政府参考人 ただいまの委員の御指摘は正しい見方だろうと私も思います。

 一昨年ですか、法科大学院を設けることにいたしまして、この四月からいよいよ動き出すわけでございますけれども、やはり、多様な知識、それから倫理観を持ち、その中で専門性を持った、そういう法曹を育てていくということでございますので、理科系からの法科大学院の入学、これも推奨しているわけでございますので、まさに今後は、そういう理科系の方に法律家になっていただいて、それで裁判官になっていただくということが必要であるというように考えております。

 ですから、養成の問題は養成の問題として当然必要でございます。それと、やはり調査官の強化、権限の強化、明確化、これも両方相まって必要だというふうに考えております。

辻委員 ほかにも質問したい点がたくさんありますもので、ちょっと時間の関係で、これについて、むしろ、さっき百名規模で専門委員を新たに設ける、では、その専門委員はどのようなかかわりをするのか。法律的な観点で、常勤でかかわるのは裁判所の調査官であって、専門委員は個別の案件に技術的な面を中心にかかわるというふうになっておりますけれども、特許訴訟をより充実させていくためにどのようなかかわり方があるのか、その選任の手続なりがどのようになるのか。調査官との関係、裁判官との権限の関係等について、やはりもっともっとこれは煮詰めていかないと、法案としては全くまだ内容が融通無碍で、ひとり歩きしてしまうような非常に懸念を持ちます。

 この点を指摘し、もっとこれは審議を詰めるべきなんではないかということを申し上げて、この点についてはとりあえず打ち切って、次に進みたいと思います。

 余り時間がありませんから、一点だけ。侵害訴訟と無効審判の可能性があります。これは、キルビー判決が出て、特許の無効が明白な場合には、侵害訴訟の裁判の中で有効無効の判断をすることができるんだという判断が出た。これは、現実に無効審判と侵害訴訟との判断のそごがあって、侵害訴訟の方は、抗弁で無効審判が出た場合には、無効審判の行方を待って、侵害訴訟が何か様子見をするとか、いろいろなことが考えられるわけですから、そこについて、相対的な、戦略的な形でどのように解決するのかということが必要だと思うんですよね。

 今回、この裁判所法の改正案で出ている点は、キルビー判決で言っていた明白な場合という明白性の要件は撤廃しているわけでありますけれども、無効審判と侵害訴訟の判決がそごする可能性があるということについては、依然、そのまま放置されているわけであります。ということは、現在問われている問題について解決する法案としては成り立っていないというふうに思いますが、この点についてはどうですか。

山崎政府参考人 今回は、キルビー判決をもう一歩進めたという位置づけになろうかと思います。

 確かに、侵害訴訟と審決取り消し訴訟、これについては、この中で判断は一応しますけれども、それ以外のものについては、両方でその制度を残すということでございます。そういう意味では、究極的に統一をしているというわけではございませんけれども、少なくとも、侵害訴訟の中で、無効か有効か、これを判断して、その事件としては一応終局の判断を下すということでございますので、その点においては、迅速、統一が図られるわけでございまして、あと、審決の判決、これいかんによっていろいろまた結論が変わりますけれども、とりあえず侵害訴訟の方はそれで決着ができる、こういうことを考えているわけでございます。

辻委員 だから、侵害訴訟で一審判決が出て、控訴をされている。その一方で、無効審判なり、さらに審決取り消し訴訟になって、これは違った判断が出る可能性があるわけじゃないですか。そうすると、この改正法案において、その問題が解決されるわけじゃ全くないですよね。だから、どういう意味があるんですか、この法案は。

山崎政府参考人 この法案は、無効の主張が出たら、現在は無効審判を申し立ててもらいまして、待っているわけですね。そうじゃなくて、侵害訴訟の中で、裁判所がそこで判断をしていいということを認めているわけでございますので、そういう意味では大きな違いがあろうかと思います。

 それから、あるいは、無効審判を申し立てたときに、裁判所と審判所との方で、いろいろ通知をしたり、必要な書類を交付して、その審判の判断、これを早急にやってもらう、こういうことによって、なるべく紛争が早く終われるようにということを提案しているわけでございます。

辻委員 いや、今のお話では、侵害訴訟の審理と無効審判の方が連絡をとり合って、侵害訴訟を速く進めるから無効審判も速く進めろというお話で、それで迅速になるんだということですけれども、結論が違う、変わる可能性があるわけじゃないですか、無効審判の。そうすると、それで物事は解決しないわけだから、さらに先に延びるわけじゃないですか。

 だから、そういう意味で、解決されない状態がそのままになる。まさにこの法案は、現状で問われている、無効審判と侵害訴訟なり審決取り消し訴訟なり、そういうそごについて終局的な解決を図って、日本における特許訴訟のシステムをきちっとやっていくという観点からいうと、びほう策にもなっていない。現実の終局的な解決を図る、そういう内容になっていない。

 侵害訴訟になった場合には、抗弁として、無効だという抗弁が出たとしても、無効審判の手続は利用できないんだというふうにやった方が、むしろすっきりするんじゃないですか。

山崎政府参考人 行政処分とその無効、これは行政訴訟のものでございまして、こちらの侵害訴訟は民事の事件であります。異種の手続を一緒にやるということは、今のところできないということになっておりますし、それから、では一般的に、無効審判について、これを全部裁判所でやるのかという問題も、統一の方法としては考えられないわけではございませんけれども、これは、侵害訴訟が起こる率というのは非常に少ないわけでございますので、そうなりますと、侵害訴訟も起こらない審決の事件がいっぱいあるわけですけれども、それも全部裁判でやるということになりかねないわけでございまして、これは現実的ではないだろうというふうに私は思っております。

辻委員 残念ながら、時間が来ました。

 問題点は、今、無効審判と侵害訴訟の関係でもあるわけですから、議論は全くまだ煮詰まっていない局面があるわけです。だから、そういう意味で、再検討してこれは出し直していただきたい、このように思います。

 この行政法規の裁判所法の一部を改正する法案の内容について、裁判所調査官の問題、そして無効審判、侵害訴訟との関係の問題、きょうはちょっと質問できませんでしたけれども、証拠開示、秘密保持命令の問題がありますけれども、少なくとも、前の二点についてはまだまだ十分な審議がされなければ、本当にプロパテント政策を日本で発現していくために、そしてそれで司法インフラを確立するための、その不可欠な法案の内容たり得ていないということを指摘して、私の質問を終わりたいと思います。

柳本委員長 計屋圭宏君。

計屋委員 民主党・無所属クラブの計屋圭宏でございます。

 昨年から、景気が回復に向かっているということで、数字の上では回復の基調にあるわけでございますけれども、ただ、バブルがはじけて以来もう十余年を経過しているわけでございますけれども、実態ではまだまだ厳しい状況が続いているわけでございます。そういう中で、日本の二十一世紀というもの、どういうふうにして戦略、戦術を立てていくかということが大切であるわけです。私ども民主党では、いち早く、「はばたけ 知的冒険者たち」ということで、知的財産権についての二十一世紀の戦略ということで戦略を立てさせていただいたわけでございます。

 日本の場合も、この知的財産というものをいかにふやして、そしてそれを活用していくかということが大切であるわけです。ですから、そういう中で、会社の労使関係、あるいはまた会社関係、さらには国際の会社関係ということでこの知的財産権の紛争というものが多くなっているわけです。そういう中で、この知的財産の司法というものをいち早く整備していかなきゃいけないということが昨今問われているわけでございます。そういった中で、私は、今質問がありましたように、少し視点を変えながら質問をさせていただきたいと思います。

 さて、この知的財産権に関する事件についての審理の一層の充実、迅速化のために東京高等裁判所の中に知的財産高等裁判所を設立することになった経緯をまず説明いただきたいと思います。

山崎政府参考人 経緯でございますので、私の方から御説明を申し上げます。

 まず、この点につきましては、昨年の民事訴訟法の改正で、知的財産、特に特許権等についてでございますけれども、東京高等裁判所に事件を集中する、そこでいろいろな手続を設けて、大合議部をつくったりとか、そういう形で中身の問題は手配されていたわけでございます。これがことしの四月から施行になるということでございますけれども、これに関して、ではその手続だけでいいのかという議論が起こりまして、やはり組織的にも独立させて、それで非常に機動的にして、その上でその裁判を内容を高めて速くする、こういうことが必要ではないかという議論が沸き上がってまいりました。

 そういう中で、二つの考えがございまして、これは九番目の高等裁判所にする、現在八つあるわけでございますけれども、そういう考えと、それから、そこまでの必要はないであろう、そこまでいくとかえっていろいろな問題が起こり得るだろうということから、東京高等裁判所の中に組織的に独立性の高いものをつくって、その中でやっていけばいいではないか、この議論になったわけでございます。

 そこで、最終的には、東京高等裁判所、その中に独立性の高いものをつくるということで、今この法案を提出させていただいておりますけれども、この主な理由は、九番目の独立した高等裁判所にしますと、やはり独立しているのですから、権限はそこに全部専属をさせるということにならざるを得ないことになります。そうなった場合に、例えば、著作権の事件、あるいは不正競争防止法の事件等がございますけれども、これにつきましては非常に地域色が強いわけでございまして、その地方で独特な事件になるわけでございます。そうなりますと、そういう事件を全部東京高等裁判所でやるということになったら逆に利用者の不便という問題も出てくるだろうということを考えまして、そこで、ここで全部、独立させてここに権限を集中するのではなくて、地元でやれるものはやる。

 それから、専門性の高いものについては、東日本は東京地裁に起こすことができる、それから西日本は大阪地裁にも起こせることができる、こういうふうにしたわけでございまして、それは、その形で、もし不服があれば片っ方は東京高等裁判所、片っ方は大阪高等裁判所ということになりますし、それから、あるいは地元のところで起こしたいということならばそこの地方裁判所、それからそこの管内の高等裁判所ということで、そういう地理的な、そういう当事者の利益、これも守りながら専門性の高いものにしていこうというふうに考えました。

 そうなりますと、やはり東京高等裁判所の中に独立性の高めたものをつくるということが一番それに匹敵をするということから、こういう結論になったということでございます。

計屋委員 一極集中になるということで東京高裁の中に設けた、こういうことでございますが、では、引き続いて、知財高等裁判所の目的と目指す具体的な内容ということを簡単に説明いただきたいと思います。

野沢国務大臣 ここに独自の司法行政事務を担当する独立性の高い組織ということで今回知的財産高等裁判所を置いたわけでございますが、これは、そこに勤務する裁判官の会議の議によって事を決めること、それから事務局をもちろんつくるということ、当然それに必要な要員をそこに集中するということでございまして、専門的な事件処理の体制が一層整備されまして、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実、迅速化が図られることを期待しているわけでございます。

計屋委員 いずれにしましても、この知財高等裁判所を設置することによって知的財産に関する訴訟事件の迅速な解決を図り、かつ、判決の予見可能性を向上させるという目的があると思いますので、今度は裁判官の技術的な専門性の確保というものが、これが大切だと思うんです。

 先ほどの場合ですと、調査官の権限を拡大していくということ、明確化するということで、これは問題がある。ですから、私の場合は、裁判官がもう少し専門性を持っていくということが大切だと思うんですが、どうでしょうか。

山崎政府参考人 私、ただいまの御指摘は正しい御指摘だろうと思います。車の両輪だというふうに私は考えておりまして、調査官の権限の拡大、明確化も必要でございますし、それからやはり、それを担う、マイコートを担う裁判官、この質を高めるということも当然重要になるわけでございます。

 現在、裁判所の方も、いろいろな研修あるいは海外留学等を含めて、努力をされていると思います。ただ、今後は、この四月から法科大学院がスタートをいたしまして、そこにかなり理科系の知識を持った方も入ってこられるわけでございます。それからやはり法曹になっていただく、そういう方に裁判を担ってもらう。これはもう少し先になると思うんですね、人が育つのは。ですから、そのころになると、両方が相まって、極めていい裁判が行われていくだろうというふうに思っております。

計屋委員 今、知的財産権を扱う裁判官は何名いるんでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 現在、全国で知的財産権訴訟があるわけですが、専門部を持っているのが東京それから大阪の地方裁判所、高等裁判所でございます。

 この知的財産権事件の専門部の裁判官がどの程度いるのかという観点からお答えをしたいと思いますが、これは、東京地裁には現在十五名、それから大阪地裁には五名、それから東京高裁に十六名、それから、これは大阪高裁では専門部というよりは集中部といいまして、知財事件はすべてその部に行くけれども、ほかの事件も扱うという部があるわけですが、この部の裁判官が五名、そういう内訳になってございます。

計屋委員 東京、大阪の地裁で事件を審査して、そしてそれをもっと専門性のあるのは東京の高裁、知財の高裁で裁くわけでございますけれども、この東京の高裁の十六名というのは、これは専従としてやるわけなんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 そのとおりでございまして、知的財産権の専門部が四カ部ございます。その専門部に配属されまして、専門的に処理をしておるという裁判官が東京高等裁判所に十六名いるということでございます。

計屋委員 この十六名という数で、これから知的財産訴訟という問題がふえていくと思うんですけれども、十分今満ちているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 できるだけ専門的に処理をして、効率のよい、内容的にすぐれた裁判をということで、十六名の裁判官がやっているわけでございますが、なおこの知的財産権訴訟に関する審理を充実させていかなければいけないということで、ことしの四月からはさらに二名を増配置するという考えでございます。

計屋委員 今、裁判所の調査官が二十一名いるということでございますけれども、アメリカの知財高裁の場合ですと、CAFCということで、テクニカルアドバイザーだとか、あるいはまた、さらにはスペシャルマスターという専門の方がいまして、その事件ごとにそういう人たちを委嘱して、そして裁判官の補佐をしていく、あるいはまた参考意見として聞いていくという形をとっているわけですが、さらに、裁判官一人につきロークラークという、法律の専門家という補助的なお手伝いをする方がいる。

 ところが、日本の場合ですと、今二十一名の裁判所の調査官、この人によって審理をスピーディーに運ぶということにおいて、私は、知財の高裁というのを東京の高裁の中に設けるということでございますから、そういう点では、逆にスピードが遅くなるんじゃないかという懸念をしているわけです。そこで、その点はどうでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 確かに、アメリカで、テクニカルアドバイザーなど、これは非常勤で事件ごとに任用されるというような補助者を有しておるということでございますが、私ども、裁判所調査官の補助を受けてこれまで裁判をやってきたわけでございますが、昨年成立いたしました新しい民事訴訟法の改正法によりまして専門委員が任命されるということになりましたので、この専門委員として、先端部分の技術的な専門家、これを百名余り今度の四月に任命していくという考えでございます。これは知的財産権訴訟に限っての専門委員ということで、百名余りの専門委員を任命するということでございます。

計屋委員 専門委員を百名増員するということ、これはアメリカの場合と日本のシステムが違っていいわけですけれども、アメリカの場合ですと、その事件ごとにテクニカルアドバイザー、そういう人を委嘱するというんですが、そういったものは、この百名、常時雇用していくというのはどういう意味があるのか、お聞かせいただきたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 説明が少し足りませんでしたが、この四月から任命される専門委員というのは、専門委員の候補者を百名余り用意をしておきまして、事件ごとに、必要が出た都度、非常勤の専門委員ということで、その事件ごとに専門委員を任命するということになるわけでございます。

計屋委員 では、その専門委員というのはどういう範囲から委嘱していくのか。

 それからさらに、技術に強い弁護士や判事を養成すべきだということで、先ほども話が出ていたわけでございますけれども、この四月から開校するロースクール、ここで理工系の、そういう法曹界に採用していくという形をとろうということでございますけれども、それは積極的に、例えばそういったふうなクラスを設けてやるような、そういう大学があるのかどうか。理工系がそういう法曹界に入っていくというのはなかなか厳しい状況であって、何かそういった道筋を立てて、計画を立てているのかどうか、その辺をお聞きしたいと思うんです。

園尾最高裁判所長官代理者 それでは、私の方から専門委員についてお答えいたしますが、専門委員の出身母体としては、これは大学教授あるいは研究所で研究に携わっておる専門委員、そのような方が中心でございますが、さらに、技術的なレベルの高い弁理士の方々にも加わってもらうということで、そのような専門技術を習得された方というのを百名余り専門委員候補者として任命をするという予定でございます。

山崎政府参考人 突然のお尋ねでございますので、ちょっとロースクールのデータ、現在持っておりませんけれども、私が承知している限りでは、知的財産権に特化する法科大学院は今のところはないというふうに理解をしております。ただ、それぞれの法科大学院で、選択科目の中で知的財産関係の科目を重視して入れていくというところはあるというふうに聞いております。

計屋委員 これから、やはり日本も知財立国ということで、この司法に係る訴訟問題というのは大きくなってくると思うんです。それに対応できるために、裁判官、あるいはまた弁護士というものをやはり育てていかなきゃいけない。そういう点で、その辺をもう少し、理工系、そういう畑の人を育てることを積極的に行っていかなければならないと思います。

 ですから、これに対して、今後、どういったふうにして取り組んでいこうとするか、その辺をお聞かせいただきたいと思います。

山崎政府参考人 法科大学院に関しましては、法律の規定ではございませんけれども、運用上の問題でございますけれども、法学部以外の者、これを大体めどとして三割ぐらいは入学させるという方針で行っておりまして、この関係で、別に理科系に限らないわけでございますけれども、ほかのジャンルでも結構でございますけれども、こういうことで、まず、そういう人たちを採っていくよという姿勢をちゃんと示しております。

 それから、そういう中で、今後、もう少し進んだ段階で、大学院側と、いろいろな要望に合わせて私どももいろいろお手伝いをしたいと思いますけれども、本当に、知的財産権に特化したような、そういうような大学院、こういうものが出てくる可能性がございます。そういうものに対して、我々としても、いろいろお手伝いをして、人材を育てていきたいというふうに思っております。

計屋委員 これから、大変大切な分野でございますので、力を入れてひとつ取り組んでいただきたい、これは要望します。

 それから、今度は、知的財産に関する訴訟事件を東京高等裁判所に集中させることにより、地方在住者、地方企業のアクセスに支障を来すことになるのではないか、こういうふうに考え、なおかつ迅速性というものに支障を来していくんじゃないかというふうに懸念するところでございますが、この辺はどうでしょう。

山崎政府参考人 先ほど答弁をさせていただきましたけれども、著作権等あるいは不正競争防止法等の事件につきましては、やはり地方の利益というものを重視いたしまして、そこの地方でも起こすことができるし、あるいは東京の方に持ってくることもできる、こういうような、場合によっては大阪に持っていくということで、そこはそれぞれの当事者の選択にゆだねておりまして、そこは配慮をしております。

 ただ、問題は、特許権等の非常に専門性の高い事件でございまして、これはもう昨年の民事訴訟法の改正で、東京高等裁判所に集中をするという法律ができておりますけれども、ただ、その法律の中でも、やはり支障が生ずるような場合、それから、非常に遅延してしまうというようなおそれがある場合は、東京にあったものはやはり大阪に移送をするということが可能であるという規定も置いております。

 それ以外に、例えば電話会議システム、これは何人かで電話で全部しゃべれるわけでございまして、一種の口頭弁論をそこでできるような形になるわけでございますが、こういうものを導入したり、あるいはテレビ会議システムというものを使いまして、地方に在住の方も、そこにいながら、いろいろ、証言をしたりとか、そういうことができるような、そういうことをちゃんと手当てをしておりますので、この辺を御利用いただいて、余り負担が多くならないようにということでやっております。

柳本委員長 御静粛に願います。私語は慎んでください。

計屋委員 知財の高裁というのを東京に持ってくる、それから、大阪高裁の中に今までと同じように知財の専門部というのは置いているわけですね。それは、大阪高裁の知財の専門部というのは廃止するんですか、その辺は。

園尾最高裁判所長官代理者 大阪高裁では、知財事件の集中部ということで大阪高裁に来た知財事件はすべてその部で扱うし、そのほかの事務分配も受けるという形で仕事をしておるということでございますが、今後も、管轄の変更という法律ができましても、これは、例えば著作権事件で、その地方で処理をするというような事件につきましては、例えば大阪高等裁判所管内の事件であれば大阪高等裁判所に控訴されるということになりますので、大阪高等裁判所の集中部はこのまま維持をしていくということの計画を立てております。

計屋委員 それで、例えばスピード化あるいは迅速化というものを図っていく上において、知財高等裁判所は事実審も行っているわけですよね。そうすると、例えばCAFCの場合ですと法律審のみ行ってスピード化を図っているということでございますけれども、この辺はどうなんですかね。

山崎政府参考人 御指摘のとおり、アメリカのCAFCは法律審でございまして、口頭弁論も基本的に一回という形でやっているようでございます。現在は、これは巡回はしていないというように承知をしておりますけれども、そういう性格上、法律審ですから、意見を闘わせて一回で終了する、こういうシステムになっています。

 我が国の知的財産高等裁判所に関しましては、これはやはり事実審でございまして、基本的には最高裁だけですね、法律審ということは。したがいまして、そこの点については手当てを加えておりませんので、そこは事実審はそのままに守りたいというふうに考えております。

計屋委員 その事実審というのも大切なことで、質という意味で。ただ、今目まぐるしく時代は変わっておりまして、企業が求めるのはやはり迅速性、もう日進月歩でございますから、それに対応していくには、やはり地裁の方でしっかりと事実審というものをやって、そして高裁というところでは法律に基づいた判断をしていくということがスピードに対応できる、こういうふうに私は考えるわけです。そういったことを検討していただくということで、時間がないので次に進みたいと思います。

 特許権などに関する訴訟事件のうち、技術的事項を欠くものについては本来の管轄の裁判所に移送することとされているわけですけれども、専門技術的事項を欠くか否かの判断基準は明確になっていないわけでございまして、その点が不明確であれば、その事件がどの裁判所で取り扱われるかが、当事者の予見可能性が確保されていないと思うんですが、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 特許権等の事件につきましては、実用新案とかございますけれども、この専門性の高いものにつきましては、東京高等裁判所、ここに集中されるわけでございます。

 それ以外の著作権あるいは不正競争防止法、この事件については、地元の裁判所あるいは東京地方裁判所、どちらかを、東日本の場合はそういうことでございますけれども、選べる。西日本の場合は地元か大阪、これを選べるということになっておりまして、これはやはり当事者の判断にゆだねられておりまして、ここはどちらと強制しているわけではございません。これはやはりかなり難しいということで専門家のいるところでやった方がいいという判断であれば、東京あるいは大阪に起こしていただく、こういうことになるわけでございまして、そこは特段、これが専門性が高い、これは高くないということを決めているわけではございません。

計屋委員 判決の予見可能性というものを高めていくということにおいては、やはり地域の方でやって、それをまた東京高裁に持ってくるという形になりますので、スピードあるいは迅速性という意味からおいて、その辺の予見可能性というものを、しっかりとこれを決めていただくということが大切であるわけです。ですから、そういうことから考えてまいりますと、最初からきっちりとそれを決めて、そしてそこでやれるようにやっていってもらいたいというふうに思うんです。

 いろいろと突っ込んで話したいところでございますけれども、時間が来ましたので、質問を終わりたいと思います。

柳本委員長 山際大志郎君。

山際委員 自由民主党の山際大志郎です。

 本日は、今回提出の知的財産高等裁判所設置法案、裁判所法等の一部を改正する法律案、この二法案について御質問申し上げます。

 二十世紀の日本というものを考えますと、日本はどうやってこの高度成長を遂げてきたのか、私は、やはりその根底には物づくりがあったんじゃないかと思います。特に、この戦後六十年の間に世界で日本以外にはまだなし遂げたことがなかった先進国への非常にスピーディーな仲間入りというものを果たした、そして、その財産を持って二十一世紀に突入してきたわけですけれども、今そのスピードにブレーキがかけられ、なおかつ少し下がってきてしまっているんではないか、このような状況であることは、だれが見ても明らかなものだと思います。

 そこで、では二十一世紀、日本はどういう方向性を持ってこの国際競争社会の中で進んでいかなくてはいけないんだろうか、こういうことを考えたときに、やはり私は、知的財産立国という言葉が本当に当てはまるんじゃないかな。ですから、政府が打ち出しております知的財産立国、これをしっかりとつくっていくということ、まさしくこれは時宜にかなったものでありますし、これをしっかりと法的にもバックアップしていくこと、これが重要かなと思っております。今回のこの知的財産高等裁判所の設置、私は、こういった観点からも非常に意義のあるものであると理解しております。

 そこで、まず、この知的財産高等裁判所について御質問申し上げます。

 知的財産の重要性が高まっている、こういった状況を受けて、昨年、平成十五年には民事訴訟法の改正が行われました。特許権などの控訴審の管轄が東京高等裁判所に集中された、これをもちまして実質的には知的財産高等裁判所というものが設置されたと同じじゃないか、こういった意見もございますけれども、さらにこれを内外にしっかりとアピールしていくためには、やはり、また、産業界からの知的財産に関する事件についての裁判の迅速化あるいは充実化というものを求める声にこたえる、そういった観点からも、私は、知的財産を一層保護する、そういった観点で独立した裁判所を設置する必要があるんじゃないか、また、そういった声も強いのではないか、このように聞いております。

 こういった状況をかんがみたときに、自由民主党でも、知的財産高等裁判所を創設する、これは非常に重要であるという認識のもと、昨年の総選挙におきましても、政権公約の中においてその説を掲げました。

 また、諸外国においてもこの知的財産に関する専門の裁判所が設置されておりますし、特にアメリカにおきましては、一九八〇年、早くもこのプロパテント政策というものの重要性が認識されて、国策として特許戦略、これが展開されています。

 そこで、今回の法案である知的財産高等裁判所というものが、諸外国の知的財産に関する事件を専門に扱う裁判所と比較したときにどのような特徴があるのか、これを司法制度改革推進本部に御答弁願いたいと思います。

山崎政府参考人 まず、アメリカの例から申し上げたいと思いますが、CAFCと言っているわけでございますが、これは、知的財産に関する事件でございましても著作権等の事件は取り扱わないという形で線を引いております。また、それ以外の、知的財産権以外の事件も一緒にやっている、こういう特徴を持っているわけでございます。

 それから、ドイツあるいは韓国の制度でございますけれども、ドイツでは連邦特許裁判所、韓国では特許法院というものがございます。これは、特許権の侵害等の事件、これは取り扱わないということでございますので、いわゆる審決取り消しというものの事件を取り扱うという形になっておりまして、ですから、ここで取り扱うものと通常の裁判所で取り扱うものが分かれているわけでございます。

 今度、我が国の知的財産高等裁判所、今御承認いただくものについては、知的財産権に関する事件に特化をいたしまして、特許権の侵害に対する損害賠償事件ですね、侵害訴訟、これもこの中でやります。それから、特許の有効性の判断、これについても、いわゆる審決取り消し訴訟でございますが、この中で行う。それから、当事者の選択によりますけれども、著作権等の事件につきましても一定のものを、例えば東京地方裁判所に起こされたものにつきましてはやはり知的財産高等裁判所の方で扱うということになりますので、世界の中でも範囲は一番広く取り込んでいるものというふうに位置づけができると思います。

山際委員 おくればせながらといいましょうか、やっと日本の政策も少し追いついてきたのかなという感じを受けますけれども、当然これは改正をするわけでして、まだまだ完璧なものができるかどうかという疑問も残るところでございますけれども、これに関連いたしまして、この裁判所法等の一部を改正する法律案、これについて御質問申し上げます。

 裁判所調査官というものについてですけれども、周知のとおり、昨今、科学技術が非常に発展して、あるいは社会経済の高度化そして細分化、これに伴って知的財産訴訟、これが今後ますます増加することは間違いないだろう、このように思われております。また、その事件といいましょうか、この訴訟の複雑、専門化、こういうものがますますこれから上がっていくことは間違いありません。このように細分化したり専門化した事件を迅速に、さらに適正に処理するために、裁判所における専門的処理体制を強化することが極めて重要、これはもう言うまでもないわけですけれども、これは既に諸外国では国家戦略として専門性の強化というものがされている、このように聞いております。

 そこで、諸外国でこの裁判所の専門的知識の導入が実際にはどのように図られているのかということを司法制度改革推進本部に御説明願いたいと思います。

山崎政府参考人 例えば、アメリカで申し上げますけれども、アメリカの場合は、CAFCにおきまして各事件の検討を行いまして、判決の草案の作成を行いますロークラーク、あるいは、判決が起案された段階で先例との抵触があるかどうかをチェックする役割を担いますテクニカルアシスタント、こういうものを導入しているわけでございます。まさに専門的な知識の補助を受けながら裁判を行っているという実態でございます。

 我が国の裁判所調査官と、必ずしもイコールかどうかはちょっと別でございますけれども、同じようなシステムは設けているということでございます。

 それから、ドイツの民事訴訟法では、鑑定人という立場で関与をするということが行われているようでございます。それから、特許の無効とかそういうものを扱う、いわゆる審決取り消しに当たるものでございますが、これは連邦特許裁判所において行われるわけでございますが、裁判の裁判体を、法律系の構成員と技術系の構成員、両方で構成をして専門性を高めているということをやっているようでございます。

山際委員 日本においても、昨年、民事訴訟法改正というものが行われまして、今の専門委員ですね、専門委員制度というものが導入されました。先ほどの質問の御答弁の中でも、これがこの四月から百人導入されるというお話でしたけれども。

 さらに、知的財産立国として日本のかじを切る、日本の生きる道が、知的財産立国として生きていくんだ、こういうことをしっかりと明確にしていくためには、知的財産に関する裁判における裁判所の調査官、この権限はやはり拡大しないと、専門を特化したものにはとても対処できないと思いますし、先ほどのお話では、裁判官そのものの能力も上げていく必要があるんじゃないか、このようなお話でした。しかし、どんなに裁判官が勉強をしたとしても、やはりもちはもち屋であって、専門家は専門家になるのは間違いないことでございますので、裁判所調査官、この役割というのは本当に重要だと私は考えております。

 そこで、今回のこの裁判所調査官の権限の拡大及び明確化等についての改正法案という法案が出ておりますけれども、司法制度改革本部に、どの点がどうやって改正されていてここを補完しているのかということを御説明いただきたいと思います。

山崎政府参考人 ただいまの御指摘の前段の部分でございますけれども、当然、技術系に強い裁判官、これを育てていくということは重要でございますが、裁判官を長くやっておりますと、技術の、何というんですか、すごいスピードで動いていくわけでございますので、そこになかなか、全部ついていけるということになるかというと、そこはやはりクエスチョンマークがつくだろうと思います。

 それから、やはり専門が非常に狭く特化している時代でございますので、あるところの専門家であっても、他のところは専門家ではないという事態も起こりますので、そうなりますと、裁判官も能力を磨かなきゃいかぬということですけれども、どうしてもやはりそれをお手伝いする方というのが不可欠であるということになろうかと思います。

 そういう意味で、ずっと裁判所の職員でおります裁判所の調査官と、それから、事件ごとに選ばれます専門委員、この両方がやはりどうしても必要になるだろうというふうに思うわけでございます。

 私ども、今回の法案に関しましては裁判所の調査官について権限の拡大と明確化をしているわけでございますが、これにつきましても、今までは確かに、裁判官にその技術的な参考意見を申し上げる、いわゆる報告書を出すという形で行っていたわけでございますが、それ以外のところについては権限が明確ではございませんし、法廷の中でいろいろ発言できるかどうか、この辺も明確でなかったわけでございます。やはり、そういうところできちっと補助の発言をしていただいて、その上で論点を整理して、速やかな判断に行くように行っていく必要があるということでございまして、そういうことから幾つか明確化しております。

 まず、期日において当事者に対して釈明をすることができるということですね。それから、証拠調べの期日で証人等に発問することができる。それから、和解ですね。和解期日においてもその技術的な点について説明をすることができるということ。それから、裁判官に対し参考意見を述べることができる。この四つを明確に規定をさせていただいたわけでございます。

 これだけ権限が大きくなってきますと、やはり中立性を制度的に担保する必要もございますので、除斥とか忌避とか、こういうものを手当てしているということでございます。

山際委員 ありがとうございました。

 続きまして、侵害行為の立証の容易化、これに関する改正について御質問を申し上げます。

 特許権の侵害訴訟では、侵害を立証するための証拠が、どうしても侵害した側、あるいは侵害したと疑われる側にのみ存在する、性格上、こういうふうになるんだと思います。現行の法律におきましては、侵害された側、特許の侵害された側がこれを立証することが、その証拠を提出するのが非常に、向こうにしかないものですから、困難だ、こんなふうに指摘をされていると思います。

 また、ますます複雑化する産業社会において、その証拠だとおぼしきものが営業秘密にかかわるということは、これは非常に多いはずでございまして、営業秘密としてあるものだからこそこれらの情報を保護しなくてはいけない、こういった面も当然ありますし、保護する必要性というものも増大していると私は理解しております。

 ところが、今の日本のこの訴訟におきましては、こういった営業秘密の保護に関する法整備が十分ではないということでありまして、営業秘密を含んだ証拠、これを提出できない状況だ、このように指摘されているところでございます。

 こういった問題を解決するためには、どうしても侵害行為の立証、これを容易化するとともに、営業秘密の保護強化、これもセットで行わなくては有効な裁判にならない、このように私は思うわけでございます。

 そこで、侵害行為の立証の容易化及び営業秘密の保護強化について、改正案の内容をわかりやすく御説明をいただきたいと思います。

    〔委員長退席、森岡委員長代理着席〕

山崎政府参考人 確かに、御指摘のとおり、現在の訴訟におきまして、侵害行為、これを立証しようとする場合に、その相手方は、私はその特許のアイデアを使っているわけではない、別の考えでやっているんだということを主張するわけでございますが、では、どういう製法でやっているんですかと問われたときに、これはかなり営業秘密に絡むことが多いわけでございまして、それをしゃべっちゃうと全部外へ出ちゃうということで、それがなかなか言えない。言えないと立証がなかなかできないという問題で、周りからいろいろ立証をしようとするために非常に時間がかかってしまう。

 それから、最終的には、裁判所の方としても、的確な証拠が出てこないと判断を過つおそれもあるわけでございます。こういうことはやはり解消して、きちっとした判断をしなければならない。かといって、営業秘密が外へ出てしまったらその方たちも大変でございますので、そこの保護もしなきゃいかぬ、こういうことで、今回、提案をさせていただいているわけでございます。

 営業秘密が記載されている文書とか、そういうものを提出するときには、まず当事者から秘密保持命令の申し立てをすることができるという規定を置きまして、これを見る可能性があります相手方、相手方の本人もおりますし、その使用人もおります、あるいは代理人もおりますけれども、そういう方に秘密保持命令というものをかけまして、それをもし破ることになると刑罰の罰則もありますよというぐらいのものを設けるわけでございます。そのかわり、それを担保として、営業秘密が記載されたものであってもきちっと法廷に出してくださいということをやるわけでございます。

 こうなりますと、営業秘密は保護されますし、裁判としても、裁判所もその判断が非常にやりやすくなるわけで、的確な判断が早くできるということになります。

 それからもう一つは、証拠を提出するときに、文書提出命令という申し立てがございまして、これは相手から提出を求めるんですが、そこのときに、営業秘密があるから出せない、こういう主張があることがあるわけですが、この場合に、裁判官が、現在インカメラ手続といいまして、ほかには見せないで自分だけで見る手続があるんですが、これを見ても、非常に専門技術性が高いとなかなか判断しにくいという問題になります。

 そこで、今回の改正では、相手方にも見せて意見を言わせる、こういう手続をつくっております。情報がきちっと両方から来れば裁判所も判断がしやすいわけですね。だけれども、秘密が出てしまうと大変でございますので、そういう場合に、やはり申し立てがあれば秘密保持命令というものをかけまして、それで提出をさせる、こういうような手当てをしたわけでございます。

山際委員 ただいまの御答弁の中に秘密保持命令という言葉が出てきましたけれども、アメリカにおいては、プロテクティブオーダーという類似の制度がもうあるというふうに聞いております。さらには、営業秘密の保護のためにこれが極めて有効に機能している、こういった話も聞いておりますけれども、こういった制度が今まで日本になかったということも非常に驚くべきことではあるんですけれども、今回の改正におきまして、まさにこれは画期的な改革だと私は評価したいと思います。

 私は、この秘密保持制度、これを有効に機能させていくということは、やはりこれから国際社会の中での日本の知的財産立国としての競争力を高めていく上にこれは本当に重要だと。あの国は本当に適正なことをやっていて、透明性が非常に高くてという、この信頼度を増すという意味でも非常に重要だと私は思うわけでございますけれども、秘密保持命令というものが実際にどういった場合に発令されてくるのかということ、これをもう少し詳しく教えていただきたいと思います。

山崎政府参考人 先ほどお答えした中で一つ申し落としておりましたので申し上げますけれども、もう一つ、やはり営業秘密等を供述でしゃべっちゃうと、これは外へ出てしまうという場合もありますので、そういう場合には、裁判は通常は公開でやるわけでございますが、公開の停止をするという制度もこの中で設けております。ですから、記載されたもの、それからしゃべることについても、いずれも外には出ないような形にするという手当てをしております。

 秘密保持命令でございますけれども、例えば、書面とか証拠の内容に営業秘密が含まれているという場合には、その訴訟の追行の目的以外の目的で使用してはならないということですね。ですから、それを見て、そのノウハウで研究開発をするということ、これも禁止をするわけですね。

 それから、営業秘密に係る秘密保持命令を受けた者以外の者へその内容を開示してはならない、命令を受けている範囲の中では、お互いに知っておるわけですから、その中で話してもいいんですけれども、それ以外のところに話をしてはいかぬ、こういうような内容で命令をかけるわけでございまして、これに違反をいたしますと刑事罰の罰則もある、そのぐらいやはり営業秘密は当然保護をすべきであるという考え方からこういうような制度を設けさせていただくということでございます。

山際委員 どうもありがとうございます。

 次に、侵害訴訟と無効審判の関係の改正、これについて御質問申し上げます。

 特許侵害訴訟においては、特許権を侵害しているかどうかということが当然争点となるわけですけれども、そもそもそのよりどころとなる特許そのものが本当に有効なのか、こういったことも争点になり得るんじゃないか、こういった考えがあろうかと思います。

 現にアメリカの侵害訴訟事件におきましても、その特許が有効かどうかについて争えるとされており、日本にもこの制度を導入するべきだ、このような意見が出ていると聞いております。

 平成十二年には、キルビー最高裁判決というものが出されまして、これは、特許に無効理由が存在するかどうかについて、侵害訴訟においても裁判所がこれを判断できる、このような判断がされました。

 この考え方をさらに進めて、侵害訴訟をより使い勝手のいいものにするべきだ、こういった要望が産業界からも強く出されている。今回の改正では、この点について、産業界の声にこたえるべく、具体的にどのような制度手当てがなされているのか、これを司法制度改革推進本部にお尋ねいたします。

山崎政府参考人 今御指摘の、平成十二年、最高裁判所のキルビー判決でございます。これは、侵害訴訟の中で特許無効だという主張が出て、無効であることが明らかな場合、こういうような例外的な場合には判断をしてもいい、そういう判決でございます。

 そうなりますと、道は開けたんですけれども、明白かどうか、明らかかどうかという基準がなかなかはっきりしないわけでございまして、では、本当にそれは使えるのか使えないのかということにもなりまして、予測可能性がないわけでございます。

 そこで、産業界から非常に強い御希望もございまして、やはり訴訟の中で有効無効の判断を可能にする、そういう制度を設けてほしいということでございまして、今回、私どもは、明白性ということではなくて、侵害訴訟の中で、特許等が無効審判にもしかかったとすれば無効にされるべきものというふうに認められる場合、こういう場合には判断をしてもいいということになりまして、今まではその判断を待っていて非常に時間がかかったということでございますので、そこのところを解消しようということでございます。

 それからまた、特許の無効審判を申し立ててもいいわけでございますが、こちらの裁判にありますような資料をそちらに役に立つならば送付をして早い判断を仰ぐ、こういう手当てをしているわけでございます。

山際委員 どうしても特許庁と裁判所との関係というものがあって、制度的に不透明なというか、そごが生じないようにということなんだと思いますけれども、ここの部分だけはどうしても、私は、どちらかがイニシアチブをとるというか、例えば、特許庁の言うことを優先させるのか、あるいは裁判所のことを優先させるのかということが、これから先いずれ出てくるような気がするんです。

 今の現行法においても、特許庁に無効審判というのを出して、無効かどうかというのを出して、特許庁がそれを判断して、それに不服という場合はやはり裁判所にその判断をゆだねる、こういった制度になっていると思うんですけれども、特許庁が出した判断とそれから裁判所が出した判断というものがもし食い違うというようなことになると、これはまた非常に大きな問題になるんじゃないかなと私は個人的に思うんですけれども、その辺を、適正な判断にするために、裁判所と特許庁との間の橋渡しというのを具体的にどういうふうにしていくかということを御質問申し上げたいと思います。

山崎政府参考人 これにつきましては、特許法の百六十八条という規定を置いておりまして、裁判所は、特許権についての審判の請求があった旨の通知を受けた場合において、その訴訟において使われたいろいろな書面等、証拠等、こういうものにつきまして裁判所から特許庁の方に通知をするということにしておりまして、それでやはり特許庁の方で必要だというような書面等についてはこれを送付するという手当てをしておるわけでございます。

山際委員 どうもありがとうございました。

 いずれにいたしましても、この司法制度改革というものが二十一世紀の日本のこれからの未来を強く決定づけていくものであることは間違いないわけでございまして、そういう大きな目で見たときには、今回のこの制度改革というものは、私は本当に評価ができるものだと思いますし、完璧なものではないかもしれませんけれども、千里の道の一歩を確実に踏み出したものだ、このように私は思う次第でございます。

 当然、いろいろな意味でまだ足りない部分は出てくるでしょうけれども、それは迅速にまたこれからしっかりと改革を続けていく、このようなことをお願い申し上げまして、質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。

森岡委員長代理 次に、上田勇君。

上田委員 それでは、知的財産高等裁判所設置法案及び裁判所法等の一部を改正する法律案につきまして、何点か御質問させていただきます。

 今日のグローバルな経済社会の中におきまして日本の経済を再生させていくためには、生産性が高く、国際競争力のある、付加価値の高い分野での産業の育成が不可欠でありまして、そういう意味では、高度な技術や創造性を基盤とした産業分野の一層の振興というのが、必要性が増しているというふうに思うわけでございます。

 そのためには、こうした知的財産を形成し、また保護する、そういうシステムをつくっていくということが重要でありますし、また、そうした観点から、今回この法案が、知的財産権の保護と、それから紛争の処理の迅速化、適正化、そうしたことを目指すという意義は非常に大きなものだというふうに考えているところでございます。

 法案の中身、内容につきまして、また今後の制度の運用などにつきまして、何点か質問させていただきたいというふうに思います。

 まず初めに、これはもうかなり以前の報道で、新聞記事でありますけれども、日本企業が特許侵害裁判を日本国内ではなくて外国、特にアメリカで提訴する事態が多発しているというような記事がございました。事実関係は必ずしも正確ではないというふうに理解をしておりますけれども、ただ、こうした記事が書かれるという背景には、やはりそういう先端的な技術を開発する企業の中に、我が国の特許裁判の迅速性や信頼性に疑問を感じている向きがあるということは、これは否定できないのではないかというふうに考えます。そうした特許にかかわる紛争というのは経済活動と非常に密接にかかわっているものでございますし、経済界の信頼というのは、これもまた一方では重要なことではないかというふうに考えております。

 今回のこの法案によります制度の充実、改正によりまして、こうした問題に対する答えが十分なされているのか、またどういう面での改善が行われるのか、御見解をまずお伺いしたいというふうに思います。

山崎政府参考人 まず、以前に日本の特許裁判は遅いというような御意見もあったということを私も承知をしております。ただ、先ほど裁判所の方からも答弁がございましたが、十年前に比べまして審理期間が半減しているという状況でございまして、運用上の努力は着々と続けてきているという状況だと思います。

 ただ、これだけではもうどうしても限界があるわけでございまして、今回、一つは知的財産高等裁判所の設立でございます。これは昨年、民事訴訟法の改正でいろいろな手続が設けられたわけでございますけれども、これを行うについて、やはり組織的に独立をさせて機動的に動けるようにということから、この高等裁判所をつくりまして事務局も独立させ、その中でやることについてはそこの裁判官会議で決めていく、こういうようなことをしたわけでございまして、やはり外側の組織と中身と、これを一体として独立させていくということで、さらに一層の迅速化を進めていきたいということでございます。

 それからもう一つは、それ以外の手続の問題でございまして、裁判所調査官をより有効に使って、より早く、いい裁判ができるようにということ、あるいは無効審判と侵害訴訟、これとの関係を明確にするということとか、あるいは営業秘密を保護しながら裁判をどうやって迅速化させていくかということで、また別途の手続も加えまして、より早く、いい裁判ができるような工夫を御提案している、こういうことでございます。

上田委員 法案の作成過程の論議で、知的高等裁判所を独立した九番目の高裁として設置すべきという意見と、それから今回の法案にありますように東京高裁に設置すべきと、両方の意見があったというふうに承知をしております。

 報道等で見る限りにおきまして、前者については産業界を中心としてそういう意見が強く、また後者の問題については法曹界を中心としてそういう意見が強かったのではないかというふうに受けとめておりますが、また産業界からは、技術裁判官制度の創設についても、そういう要請があった、強かったというふうに承知をいたしております。

 こうしたことというのは、やはり産業界に、現行の特許裁判にかかわります司法システムの、そういう技術にかかわる部分について、やはり理解力や判断力、またその迅速性といったものについて、こういう疑問というか、不信感みたいなものがあるということの、そういう背景があるのではないかというふうに思います。

 こうした疑問の正当性、それはともかくといたしまして、先ほども申し上げましたけれども、産業界、経済界の信頼を得るということも、これもまた重要な側面であろうかというふうに思いますが、本法案ではそういった事柄に対しましてどのような手当てがなされているのか、再度お伺いしたいというふうに思います。

山崎政府参考人 産業界の希望は、知的財産高等裁判所について、九番目の独立した高等裁判所という考えがございましたけれども、最終的には東京高等裁判所の中で組織的に独立させるという形にさせていただきました。

 これは、産業界の意見に一〇〇%こたえているのかどうかという問題はございますが、やはりこれは裁判の制度でございますので、例えば著作権等の事件につきまして、どうも地域密着型の事件も結構あるわけでございますので、そうすると、やはり当事者の意向と負担、こういうものを考えざるを得ないということから、最終的にはこのような形になったということでございます。

 それ以外に産業界の希望といたしましては、やはり裁判所調査官等の権限を拡大して、それで早くその実質を裁判所にわかってもらって、いい判断をしてほしいということ。それから、裁判でしばしば問題になります営業秘密、これについて、保護を図りながらどうやって裁判の中で提出をしていけるかということの制度を設けてほしいということ。

 それからもう一つは、無効審判と侵害訴訟との関係でございますけれども、これは侵害訴訟の中で特許が無効であるという主張が結構出るわけでございますが、現在の状況では、明白な場合にしか判断はできないという状況になっておりまして、これでは予測可能性がないということから、ここでもう少し改善を加えてほしい、この要望でございます。

 要望は三つございましたけれども、それにすべてこたえているということでございます。

    〔森岡委員長代理退席、委員長着席〕

上田委員 また最近、企業における研究者の職務発明にかかわる裁判での判決が続いております。日立の特許訴訟であるとか、発光ダイオードにかかわる訴訟の判決、また味の素訴訟の判決など、そうした企業の研究者によります職務発明にかかわる判決が相次いで出されたところでございます。

 それらの判決では、企業の社員の職務発明の対価としては、従来一般に考えられているものに比べれば、随分高額な支払いが命じられたというふうに受けとめました。

 今日のそういった科学技術の研究開発を考えますと、個人がいろいろなことを発明するということよりも、企業の中の研究者や技術者などが、企業の中での仕事の一環としていろいろな技術開発が行われるという例の方がむしろ多くなっているのではないかというふうに思います。そういう意味で、今回のこうした一連の判決の持つ意味合いというのは非常に重要なものがあるというふうに考えております。

 こうした判決は、研究者、技術者の努力あるいはそれの成果、そういったものが従来はやはり評価が余りにも低過ぎた、それを適正に評価するというのは、我が国として、技術立国、知財立国を目指すという意味からも新しい方向なんではないかというふうに私も理解をいたしております。

 ただ、こういうときに、では金額の妥当性ということになりますと、いろいろな意見があるんではないかというふうに承知をしております。これは、先ほどそういう評価を高めるという意味は非常にいいことだというふうに私は申し上げましたけれども、ただ、そうした評価というのは、これは企業の経営者にとっても、またその企業の株主にとっても、やはり納得のいくような内容でなければならないんだろうというふうにも思います。

 そうすると、こうした職務発明が企業の利益や経営にどれだけ寄与したのかとか、あるいは発明が製品化されて実際に販売をされて利益を上げるというところで企業全体の役割というのはどういうふうに評価されるのかとか、また今度はそうした補償金の支払いによって企業の経営自体がおかしくなってしまっては、これは全くまた意味合いの違うことになってしまうというふうに思いますけれども、こうした評価がやはり客観的に、また納得のいく内容として行われなければならないんだろうというふうに思っております。

 そうして考えますと、こうした特許裁判、これは経済活動等に非常に密接にかかわっているものでありますので、そういう先端技術に対する専門的な知見のみならず、経営や財務などといったことにもしっかりとしたそうした信頼感、専門的な知見に基づく適切な判断が求められるんではないかというふうに考えるところでございます。こうしたことに対して、法案ではどういうような手当てがなされているのか。

 また、裁判官のそうした面での能力といいますか、素養の向上とか、あるいは今回の法案でも定められております調査官や専門委員、そうした活用についても、そういう経営とか財務についても相当な知見を備えた人の活用が必要になってくるのではないかというふうに思いますが、そうした制度の運用についてどのように考えられているのか。

 これは、司法制度改革事務局それから最高裁、それぞれ御見解を伺いたいというふうに思います。

園尾最高裁判所長官代理者 それでは、制度の運用に関してどのように考えているかということについて、まず御説明を申し上げます。

 特許事件を初めといたします知的財産権関係事件の処理に当たりましては、御指摘のとおり、法解釈の面でも多々問題がありますし、また専門的技術という面でも問題があります。それから、御指摘のように、経営判断あるいは経理的な観点からの検討ということも大事な問題になるということもあります。

 このような知的財産権訴訟に関しましては、高度の専門性を要する訴訟ということになりますので、その適正なかつ迅速である解決を実現するためには、裁判官の専門性の強化ということがぜひとも必要だという認識でおります。

 これまでも知的財産権部門における事件処理については、司法研修所において知的財産訴訟に関する専門知識を習得させる特別研修コースを設けましたり、あるいは、知的財産権の研究機関であるドイツのマックスプランク研究所やアメリカのロースクールの知的財産セミナーに若手裁判官を派遣するというような研修を行ってまいったところでございます。

 今後もこのような検討を続けまして、裁判官を知的財産関係の各種国際会議に派遣したり、あるいは国内の科学技術専門の研究機関で学ばせるというような多角的な研修を実施するというようなことによって、今申し上げましたような裁判官の専門性の強化ということを図っていきたいというように考えております。

山崎政府参考人 裁判官の資質をどうやって高めるかという問題に関しましては、一つは、法科大学院の卒業生で理科系の知識にも秀でている者、こういう者は採用していくという形が将来的には考えられるわけでございますが、もう一つは、今最高裁からもございましたが、さまざまな運用でございまして、この知的財産高等裁判所、今回独立性を高めたものをつくるわけでございますが、そういう中で大いに研究をしていただきまして、必要な分野への裁判官の派遣とか、こういうことを図っていただいて高めていくことを考えているということでございます。

上田委員 もちろん、そういう先端技術というか高度な技術についての資質の向上、専門性の向上というのも重要なんですけれども、私、先ほども申し上げましたように、特許にかかわるそういう裁判というのは、まさに企業の経済活動と非常に密接に結びついているものでありますので、そういった知見というのは非常に重要、適切なんだろうなというよりは、そういう知見が重要なんではないかというふうに思うわけでございますので、そういった面でのそういう能力、専門性の向上にもぜひ努めていただきたいというふうに考えるところでございます。

 また、一言で技術と言っても、まさにそういう特許が争われるような分野というのは、実に多岐にわたっているわけであります。電子工学の分野もあれば化学の分野もある、またバイオのような生物化学の分野もあるわけでございます。特に、そういう特許にかかわるような紛争が予見されるような先端的な技術というのは、これは日々刻々と進んでいるわけでありまして、しかも複数のそういう異なった分野について広い、非常に高い知見を持つ人というのはそう多くいるというわけではないんだろうというふうに思います。

 裁判官の方も優秀な方ばかりであるというのはそのとおりだというふうに思いますが、しかし単に理科系の大学で勉強した経験があるとか、また少しばかり研修をするというようなことで、本当の意味でそういう高度な技術的な面での専門的な知見を有するということは、なかなかこれは難しいんだろうというのが正直に思うわけであります。そうなりますと、やはりどうしても、この法案の中でも調査官というような形の、そういう専門的な知見を持った人の補佐が必要になるのは当然のことなんだろうというふうに思います。

 しかし、果たして、そういう調査官として登用する方の中にも、本当の意味で先ほど言ったそういう先端的な技術について十分な知見を持っている人というのを確保するのは、そう簡単なことではないんじゃないのかなという気がいたします。しかも、調査官や専門委員というのは、そういう専門的な知識や能力というだけじゃなくて、中立性、公平性も求められるわけでございます。これらを本当に両立した人材というのを調査官等に確保していくということが、果たして本当にできることなのだろうか。

 そういったことをやらなければいけないわけでありますけれども、どのようにお考えになっているのか、お伺いしたいというふうに思います。

園尾最高裁判所長官代理者 専門技術に関しましては、御指摘のとおりに、最先端の技術というのが極めて高度なものになるとともに分野が細分化されておるという状況でございまして、これをみずからマスターしていくということは、これは勤勉な裁判官あるいは勤勉な技術者ということであっても不可能に近い状態だというふうに言えるくらいに、大変高度で細分化されておるという状況でございます。

 今回、専門委員の選任ということでその人材を求めましたが、知的財産権関係の技術の専門分野に関する学会をとってみましても、これは五百をはるかに超えるような数があるというようなことでございまして、大変に細分化しておるというところから、それにすべてに通じるような人材を確保していくということは大変難しい問題であるというような認識を私どもも全く同じく持っておるわけでございます。

 裁判所調査官の人員というのは限りありますが、その限りのある中でも、この専門委員については、非常勤の公務員という性質上、かなりの数を確保できるだろうということで、先ほど御説明を申し上げましたが、ことしの四月には知的財産権関係の専門委員を百名余り任命するということで、差し当たってやってみるというようなことを検討しておるわけでございますが、今後ともこの制度の運用に関しましては、さらに研究を続けていって、努力をしていきたいというように思っております。

上田委員 ぜひそういう御努力をお願いしたいんですが、私が一番やはりここで懸念されるのは、専門性が高い調査官だといっても、やはりそれは特許権が争われるような裁判の高度な技術の分野からすれば、それほどの知見を兼ね備えている人というのはそう多くはないわけであります。

 ただ、そうした事実の中でも、そういう専門家であるというような考えのもとで、やはりそうした調査官等の判断に過度に信頼をしてしまうというようなことがあると、実は技術的に見たら誤ったようなことにもなりかねないというようなことがあるんじゃないかというふうに思うわけでありまして、その辺は迅速化という意味との兼ね合いで非常に難しいんでしょうけれども、やはり慎重に対処していただく必要があるんじゃないかというふうに思います。

 特に、そういう先端的な技術にかかわる特許の紛争というのは、先ほどの例でもないですけれども、莫大な金銭的なそういう判決に至るというようなケースもあるわけでありますので、その辺はぜひ運用に当たって特段の配慮をしていただきたいというふうに思うわけでございます。

 もう一つ、今非常に高度な先端的な技術のことについてお話をさせていただいたんですけれども、これはやはり法案の作成の過程でも、そういった先端技術の側面には非常に多く議論が行われてきたわけでありますけれども、ただ、この知的財産という中には、そういう先端的な科学技術だけではなくて、意匠とか、あるいはこの国会でも法案が提出される予定になっておりますいわゆるコンテンツとか、あるいはビジネスモデルなどといった知的財産もあるわけであります。

 これはやはり科学技術とは随分異なる性質のものであって、なおかつそうしたものを理解するためには相当高度な専門性が必要なんだろうというふうに思いますけれども、こうした分野について、これまでの論議をたどってみますと、必ずしも十分な論議が尽くされたのかなというふうに考えるんですが、この法案でそうしたことについてどのように手当てをされているのか、また制度の運用上について何か特段お考えになっている点があれば御説明いただきたいというふうに思います。

山崎政府参考人 この法案においては、裁判の迅速、的確性ということについて規定を置いているわけでございまして、将来的な知的財産権の関係についてどのように対応していくかという点については、これは運用の問題と、それから人をどうやって育てていくか、それと専門家をどのように登用していくかということでございまして、裁判所調査官以外にもそれぞれかなり細分化した専門家、専門が必要でございますので、専門委員をあわせて利用いたしまして、そういう関係で対応していく、こういう制度設計をしているわけでございます。

上田委員 ひとつよろしくお願いしたいというふうに思います。

 それでは、最後に、我が国として技術立国、知財立国を実現していく上でもう一つ重要なことというのが、やはりこれは海外からもすぐれた素養を持った研究者や技術者、そうした人たちが意欲を持って、しかも安定して活躍できるような社会にしていかなければいけないんだろうというふうに思うわけであります。やはり海外からいろいろな新しい発想を受け入れていくということも、技術を発展させていくという意味では非常に重要なことだろうというふうに思います。

 現行の入国管理政策においても、技術者等については積極的に受け入れていくというような政策をとっているわけでありますけれども、ただ将来物すごいすぐれた成果を上げるような人でも、初めからやはり高度な技術を持っているわけではないというようなこともあるわけでありますし、日本に来るときには普通のサラリーマンであったりしても、日本国内における教育訓練を受けて能力が開花するというようなこともあるわけでございます。

 そういう意味から、今のそういう専門家の積極的な受け入れだけではなくて、やはり中間層というんでしょうか、特に将来性のある留学生などの若い人たちに対しては、今の入管政策、この運用をもっと弾力的に行ってもよいのではないかなというふうに考えるわけでございます。余りにそういうような厳格な政策、制度をとっていると、やはり本当に優秀で将来性のある、日本の経済をひょっとすると大きく変えるような力のある人間も排除してしまうようなことになるのではないかということを恐れるわけでありますけれども、このことについて、御所見があればお伺いしたいというふうに思います。

増田政府参考人 法務省といたしましては、我が国社会の安全と秩序は維持しつつも、外国人の円滑な受け入れを図ることが国の内外から要請されており、また必要であると認識しております。中でも、委員御指摘の技術者を初めとした専門的、技術的分野の外国人労働者につきましては、我が国の経済社会の活性化とか、あるいは一層の国際化を図るといった観点から、より積極的な受け入れを推進してまいりたいと考えているところでございます。

 このような考え方に基づきまして、例えば平成十三年、IT関連分野の技術者受け入れの円滑化を図るため、日本のIT関連資格と相互認証された外国の資格、あるいは試験合格者等について、学歴や実務経験を問うことなく在留資格技術の上陸許可基準に適合する、そういうこととする法務省令の改正も行ったところでございまして、このような取り組みも、世界的な高度技術者の卵でもある若い技術者の受け入れ促進に資するものと考えております。

 今後とも、委員御指摘の中堅あるいは若手を含めた技術者の受け入れ、これを積極的に推進して、知財立国の実現に貢献してまいりたいと考えているところでございます。

上田委員 以上で終わります。

柳本委員長 吉田治君。

吉田(治)委員 民主党・無所属クラブの吉田でございます。

 今回のこの法案を審議する前提として、やはりこれは国民が裁判を受ける権利というもの、それがどう確保され守られるのか。まずは担当大臣から御所見を伺いたいと同時に、実際、こういう裁判所ができるということにおいて、最高裁判所は、国民の裁判を受ける権利というもの、これはやはり昨日の本会議でも法案質問の中で出ておりましたように、いつでもどこでも身近に裁判を受けるということが一番国民にとって大事な権利であり、また憲法に保障された法のもとの平等ということにもなるのではないかと思います。それぞれ、まずは御所見を賜りたいと思います。

野沢国務大臣 社会の複雑化、多様化あるいは国際化が一層進む中で、行政改革を初めとする社会経済の構造改革をこれから進めまして、明確なルールと自己責任に貫かれた、いわゆる事後チェック・救済型社会への転換を図りたい、自由な社会生活あるいは自由な経済活動をする中で、しかし最終的な責任はきちっと司法の世界で問題を明らかにしていく、こういうことがこれから望まれる大事な社会ではないかと思います。

 その基礎となります今回の司法制度改革につきましては、これからの時代にふさわしく、国民にとって、御指摘のとおり身近な、しかもわかりやすい、とりつきやすい改革でなければならない、こう思っておるわけでございますが、今回の知的財産関係訴訟のような専門的に非常に高い知識や経験を必要とする分野というのはそれなりのやはり対応をしなければなりませんが、今回、専門性の高い裁判官や裁判所調査官あるいは専門の委員を活用いたしまして、人材を適切に配置、活用しまして、しかも迅速な裁判を進めること、これが非常に大事な課題と思っているところでございます。

 いずれにいたしましても、さまざまな紛争を適時適切に、司法制度、特に裁判の利用、活用によって円滑に社会を運用する、経済を活性化する、そして国際的な常識に合った日本の社会に変えていくということが、今回の改革の中では最も大事と心得ております。

園尾最高裁判所長官代理者 裁判所の方からも答弁をさせていただきます。

 裁判を受ける権利というのは、これは憲法上の権利でございまして、司法を預かる裁判所としましては、これは最も重きを置かなければならない権利だという認識でおります。

 特許権、それから実用新案権に関する訴訟の管轄を東京高裁に集中する、あるいは著作権に関する件について、これを東京と大阪というふうに二つに分けて選択的な管轄裁判所にするというようなことは、昨年の民事訴訟法の改正で行われたわけですが、新しく考えられております知財高等裁判所につきましてはこの管轄自体は特に変更しないということで、東京高等裁判所の中に知財高等裁判所を置くということはそういう意味があるというように認識をしておるところでございまして、これも裁判を受ける権利という観点からすれば、大変私どもとして納得のできる選択肢であるというように認識をしておるわけでございます。

 したがいまして、知的財産高等裁判所というものは、これは従来の東京高等裁判所の事件を審理するということになるわけですが、それにいたしましても、管轄の集中ということが専門的な事件の処理という観点から行われております。これは民事訴訟法の改正によって行われております。

 こういうことで、実質的に国民が裁判を受ける権利を害されるということがないように、例えば、全国の裁判所に既に整備しておりますテレビ会議システムあるいは電話会議システムなどを使いまして、遠隔地の裁判所に出向かなくても訴訟活動ができるというようなことを配慮する、その他さまざまな配慮を重ねていきまして、実質的な裁判を受ける権利というものを保障していきたいというように考えているところでございます。

吉田(治)委員 大臣の御答弁を聞いていたら、東京の財界人の答弁みたいなものですな。専門性や迅速性だとか、東京にいたらそれで便利だからと。今回のこの知的財産というものに関しては、平成十四年に知的財産基本法というのが出ておりまして、その第四条にこう書かれているんですね。地域における経済の活性化、並びに就業機会の増大をもたらすものだと。また、同じく、知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画第四章三の二の七の中に、「地域におけるコンテンツの活用を促進する」と。

 まさに知財というものは、単に東京の発想ではなくして地域というふうなものが、このことによって、開発意欲をふやすことによって、地域の発展というものに対して一番大きく資するものである。今お話を聞いていましたら、では、その地域の方々にとって使いやすいものになるのかどうか。結果としては使いづらいものになるじゃないですか。

 まずその前に、本日は、それぞれ所轄をする経済産業省、やはり知的財産というものと地域経済というものがどうリンクをしていくのか。そしてその中でも、文部科学省の方が知的クラスター創成事業という形でさまざまなかかわりをしてきている。やはりそれを行っていくと、結果として紛争が起こってくる、また技術も保護しなければいけない。そうなってきたときに、ある意味で訴えやすいものでなければならないという視点が大事ではないかと私は思います。地域経済というものを考えていったときに、費用の部分で、費用がかかるような裁判が使いやすいと言えるのか。

 私は、この二点について、はっきり申し上げて、事務次官会議を通過した法案ですから、各省とも言いづらいことはよくわかります。しかしながら、結果として、それが各省庁とも地域経済のためにしようとしている知的財産というふうなもの、その進歩というものをとめるものであってはならないということ。その辺、それぞれ、経産、文科、いかがお考えでしょうか。

江田大臣政務官 経済産業省としましても、地域における産学官連携の促進を通じて、そして共同の技術開発、新事業の展開を図る上で、産業集積というのは非常に重要でございます。

 いわゆる産業クラスターの形成を推進するということにおきましても、地域経済の活性化には非常に重要でございますが、こういう施策の中から生まれた技術開発の成果につきまして、知的財産として保護、活用することは極めて重要になってきている、そういう昨今であると考えております。

 特に、ビジネスのサイクルが早まってきておりまして、従来にも増して迅速な経営判断というものが求められるきょうでございますので、こうした地域発の知的財産について紛争が起こった場合に、これを迅速に解決する要請というのは、地域の企業においてはますますこれが高まってきているという状況にございます。

 こうしたことから、今般の知的財産高等裁判所の創設によりまして、知的財産訴訟の、今までよりもさらに充実され、迅速に判断がなされていくということになれば、技術をもって発展していこうとしていく地域経済にとって、非常に、十分意義のあることであると本省としては考えております。

有本政府参考人 先生御質問の知的クラスターの創成事業との関連でございますけれども、この事業は、地域の主体性と競争力を重視いたしまして、地域の大学、それから関連の研究機関、企業、こういったところを結集しまして、国際競争力のある技術革新のための知財を集積するという目的で十四年度からスタートいたしてございます。特に、この事業でも、知財戦略というものを重要視いたしてございます。

 そういう意味で、技術と企業経営あるいは企業家のわかる、いわゆる目ききという方々あるいは弁理士というようなところを、十分体制を整えつつ現在進めておりまして、既に、特許でも四百件近く、それから参加企業も五百件以上になっているということで、既に製品化したものもあるわけでございます。

 そういう意味で、この事業につきましては、くどいようでございますけれども、知財の創造あるいは活用というところを非常に重視いたしてございまして、知財の事件を専門的に扱います知財高裁、これの創設ということで、専門的な事件の処理の体制が整備をされ、さらにその裁判の案件の処理の充実や迅速化ということが図れることになれば、非常にこの事業にとっても、あるいは地域経済にとっても大きく発展するのではないかということで期待をいたしておるところでございます。

吉田(治)委員 それぞれの出てくる言葉は迅速化ということと専門性ということ。これは、大臣それから最高裁の発言の中でも、また本日の審議の状況を見ても必ず出てくるキーワードですよね。しかし、そういう中でも、一つ、やはり地方という、地域に出ていくという観点。

 私は、最高裁の局長にお聞きしたいんです。テレビ会議、電話会議、これを活用するといいますけれども、知的財産というもののありようからしていったときに、特に特許紛争の中で、電話会議で事足りるんですか。テレビのような画面だけで事足りるのですか。それはどうなんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 知的財産権事件の審理の実情となりますと、例えば特許事件に関していいますと、これは専門技術というのが大変中心的な争点になるということで、現在も書証、それから専門的な技術に関する弁論というのが中心でございまして、これを例えば証人尋問でどの程度立証するかということについてはかなり限定された手続になっておるという実情はございます。

 そういう実情からいたしますと、技術が中心になる訴訟につきましてはやはりこの書証が中心の審理になっていくというところから見まして、御指摘のとおりに、テレビ会議システムあるいは電話会議システムで、どの程度これを使うのかという点につきましては、実情からすればそれほど多くないかもしれないと思っております。

 ただ、地方密着型の事件の中で特に東京に起こされてくるもの、そういうことが可能になってまいりますが、そのようなものに関しましては、例えば著作権事件だとか、そのようなもので東京に起こされてくるという場合にはただいまのような方法を使って証拠調べをするということもあり得ることでございまして、そのようなことに備えとして十分な対策をとっておきたいという趣旨でございます。

吉田(治)委員 きょうの委員会の質疑を聞いている中で、テレビだとか電話だと、さもすばらしいことのようにあなたは何度も言われた。でも、私が問い詰めたら、今の言っていることは補助的なものだと。それはそうですよね。私が大阪の地元から毎日のように新幹線に乗るとあれほど山盛り人が乗っているというのはまさにそうじゃありませんか。テレビ会議、電話会議、それで事が足らないから人がみんな東京へ集まってくるわけでしょう。

 知財のこの裁判所ができるということは、まさに、テレビであろうが何であろうがITは関係ない、みんな呼び寄せるんだ、そういうことじゃないんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 訴訟の実情といたしましては、当事者にそろってもらっての弁論をしていただくということが事案の解明という観点から大変重大な手続であるということは御指摘のとおりでございまして、そういうことのために、現実に出頭してもらって審理をするということは審理の中でも中心的な手続であるというように認識をしております。

 私の先ほどのテレビ会議システム、あるいは電話会議システムというのは、そのような備えをしておくという意味で、必要な事件について必要な場合に使うということで御説明を申し上げたわけでございます。

吉田(治)委員 訴訟の中身、六百件を見ていくと、大体六割が東京、三割大阪、その他一割ですよね。ということは、この裁判所ができるということは、大阪の原告、被告が大阪の弁護士をそれぞれ乗せて同じ新幹線で東京までやってきて、東京の裁判所で発言をして、また同じ顔ぶれが同じ新幹線に乗って帰っていく、こういうことが要するに起こるわけじゃないですか。昨年、地元の経済界からこのことについていかがかと要望書を出そうとした。結果として、それは差しとめられた、ちょっと待ってくれと。何でそんなことをするわけなんですか。

 もう一つ言うならば、この裁判所は、原則と例外という言葉がいろいろあると思います。原則的に一般的に普及すべき裁判所システムなのか、いや、裁判所というシステム、裁判というシステムの中である意味で例外的なものなのか、どうお考えなんですか、どちらなんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいまの御質問の点につきましては、立法政策としてどのようにあるべきかという問題、それから裁判所としてでき上がった法律についてどのように運用していくかという問題がございます。

 立法政策につきましては、政府の司法制度改革推進本部、それから知的財産権の関係の戦略本部、そういうところで議論に議論が重ねられたというように承知をしております。その中での立法政策ということでございますので、その点につきましてはまた立法政策という観点からの説明ということがあろうかと思います。

 裁判所といたしましては、今のような立法が進められましても、国民の裁判を受ける権利ということにはいささかも揺るぎがないような備えをしておくという考えを述べたものでございます。

吉田(治)委員 では、だれに聞いたらいいんですかね。

 この裁判所というものは、裁判所システムの中で、高裁の一支部とは言いながら、中身的には裁判所の所長が決まるわけですね。高裁の裁判所の所長は、たしか長官と言われて、認証官ですよね。この裁判所だったらどういう扱いになるのか。普通の一般的な裁判所なのか、特別の特別の特別の中で、ただ看板だけつけるそういう裁判所、まさに裁判システムの中である意味で例外として認めましょうというふうに決めた裁判所と言って言い過ぎではないと思いますけれども、これはだれが答えてくれるんですか、最高裁は私は知りませんと言っているんですから。

山崎政府参考人 これは東京高等裁判所の中に組織的に独立させた裁判所ということでございますので、長官は東京高等裁判所の長官がおります。それで、いわば、この法案にも書いてございますが、特別の支部として設けるというふうに書いてございます。特別の支部という意味は、通常は支部は最高裁が定めることになりますけれども、これはこの法律によって定めるという意味の特別でございますけれども、そういう位置づけでございます。

 したがいまして、ここは、一番筆頭の者に関しましては所長というネーミングになっておりますけれども、高裁長官ではない、こういう位置づけでございます。

吉田(治)委員 要するに特別な裁判所なんですね、特別な。特別だから、先ほどからの委員会の答弁の中に出てくるように、調査官の話だとか専門員というのが出てくるわけですよね、特別な裁判所だから。

 ということになると、特別なものとして考えてもらうとなれば、今までのような裁判所のあり方、もちろん経済情勢の知的財産における専門性だとか迅速性というものは十分考慮をしていかなければならないと思いますが、特別なものなんだから、今までの概念と違う裁判所の運営の仕方。例えば、日弁連の方からも提案があるように、東京だけに置いておくんじゃない、例えば月に一回は事案の多い大阪に行く。

 もしくは、先ほどから議論があるように、法曹人口がロースクールによってふえていく。同僚議員の質問の中で、意見の中で、いや、理系がふえたらそれでいいというものじゃないとは言いながら、例えば平成十五年度の法科大学院の適性試験の試験結果を見ていきますと、法学部出身者は五八%、法学部以外の文系が約三〇%、理系が一〇%。一橋大学の法科大学院の入試状況は、合格者が百十六名中、法学部出身者が八十七名、他学部出身二十九名。学生は八十名で約七割、社会人が三十六名で三一%。まさにこういう方々がこれから将来の法曹を担っていくという中で、知財というものを、知的財産というものを、特別な裁判所ができていくのであるならば、例えば地方に巡回をしていくであるとか、また、この知財高裁、ちょっと一点だけ、ここを聞きたいんですけれども、知財高裁自身の支部というのは設置が可能なんですか。

 まず一点目に聞きたいのは、そういう、待ってみんな来いというのではなくして、裁判を受ける権利、先ほど最高裁も法務大臣も言われた。国民にとって使いやすいものでなければならない。使いやすいのは、何もみんなで新幹線に乗って東京へ行くことじゃない、出向くことも大事だと。これから出向くということはどういうふうに考えているのか、それがまず一点。

 二点目は、今申し上げましたように、知財高裁というものがこれから先、支部がつくれるのかどうか、現実。つくれるのであるならばつくっていこうという気があるのかどうか。まずこの二点。

山崎政府参考人 まず最初の点でございますけれども、これに関しましては、まず裁判所の方から、例えば大阪なら大阪、これに出かける方法として、証人尋問等が必要であれば、これは裁判外尋問ということで現在でもできるわけでございます。それからもう一つ、例えば東京高裁に事件を全部集中いたしましても、やはりいろいろな支障があり得るということも当然生じるわけです。

 この点につきましては、大阪の方に、大阪高等裁判所に移送ができるという規定も置いているわけでございまして、そういう点で不都合は解消しよう、こういう考え方でございます。これは昨年の民事訴訟法で既に御承認いただいているものでございまして、今回の法案ではそこの管轄は全くさわっていないということを御理解賜りたいと思います。

 それから、今度、支部を置けるかということでございますが、これは東京高等裁判所に置かれた、東京高等裁判所の中の支部でございますから、その支部から支部へということはできません。要するに、大もとから出た支部ということでございますので、大阪の方であれば大阪高等裁判所でございますので、東京高等裁判所と全く管轄が違いますので、支部のまた支部ということは考えておりません。

吉田(治)委員 お話を聞いていくと、初めの方の話では、独立した、独立したと。でも、支部が置けないんだったら、正式な意味では独立ではないじゃないですか。特別な裁判所というあくまでも位置づけじゃないですか、結果としては。

 所長もいる、裁判官も二人ふやす。しかしながら、結果として、知財高裁として事件の案件がふえていった。今これができる理由はもう私が言うまでもありませんよね。多くの企業が、日本では遅いからアメリカで裁判を起こしているところがいっぱいある。だからこれを行わなければいけない。

 しかし、今お話を聞いていると、肝心の知財高裁はできました、たしか裁判所法二十二条か二十三条で、場合によってはできるんじゃないかと私は思ったんです。でも、今の答弁は、それはできないと。

 では、独立したものじゃない、支部の支部はできないということなんだからあくまでも位置づけは支部である、特別なものであって独立したものではないと考えざるを得ないと同時に、特別な場合にしか出張尋問はできない。

 出張の中身は、大体みんな聞いたらわかるじゃないですか。どうしても相手が病気で動けない場合が一点。二点目は、年度末になったら、どうもことしの年度予算がこの部分残っているからちょっとみんなでという話も、これは調べればすぐ出てくる話です。年度末にどれだけ出張尋問が多くなっているかということは、そこで何がなされているかということは。

 そうじゃない、あくまでも独立した特別な裁判所というのであるならば、こういう部分というものをもう一歩踏み込んだ形の知財高裁という運営をしていかなければならないと私は思います。その辺はいかがなんですか。

山崎政府参考人 支部の支部がつくれないという意味と、この知財高等裁判所が独立性を持つもの、その考え方は少し違うと思います。

 この法案でも、わざわざ所長を置き、それから裁判官会議もそこで設けて、それに伴う庶務として事務局を置くということでございまして、そういう意味の独立性は持っているわけでございまして、そこは、私はそういうことでやはり独立性はあるというふうに考えております。

 それから、支部の支部が置けるかという問題は、また組織法上の問題でございますので、それは違うというふうに考えております。

吉田(治)委員 組織法上は置けるの置けないの、どちらなんですか。

山崎政府参考人 支部の支部というのは置けないということを申し上げております。

 例えば、東京高等裁判所の管内に、いわゆるその土地の管轄としての支部、これはございませんけれども、例えば仙台で考えれば秋田にあるわけでございますね。そういう意味の同じ管内の高等裁判所からの手足が出るもの、これは可能だということでございます。

吉田(治)委員 いろいろその問題は、知財高裁という看板はできたんですけれども、中身の問題がやはりいろいろ出てきているということじゃないですか、きょう半日間の議論の中でも。

 私は、その一点が、これから知財政策を国として進めていく、その中で司法の部分で知財高裁をつくっていく、日本じゅうでそういう訴訟が出てきたときにどうするかという発想を持たないと、今の答弁のままだったら、また何年か先には法改正だ、やれ何だということを、大変な努力をしてやっていかなければならないということがあるということ。

 そして、最後に、私はぜひともこのことをお聞きしたいのは、きょうの朝の議論の中からずっと言われ続けている、今回のこの目的の多くは専門性だ、二つ目は迅速性だと。では、迅速性で何度も質問しても、平均十六・一カ月のものが、それをわかりませんばかりじゃないですか。目標とか目的とかという発想はないんですか、まずは。

 そして二点目は、この知財裁判所ができることによってどれだけ国民は、要するに、税金という形でコストを払って予算がつくわけじゃないですか。どれだけの予算が、今までの高裁の専門部でやっているのに比べて、所長となれば普通の裁判官よりも給料も上がるでしょう、事務局を置くとなれば別に人も要るでしょう。まずコストはどれだけ上げるのかということを、最高裁。

山崎政府参考人 予算については最高裁の方から答弁いただきますけれども、まず迅速化の問題でございます。

 けさ私お答え申し上げましたけれども、具体的数値で示すことは難しいということを申し上げただけでございまして、これは当然、この知的財産高等裁判所を設ける、あるいはそれだけではなくて、裁判所の調査官を有効に活用する、それから秘密保持命令というものを出して訴訟を迅速化する、あるいは裁判の公開を停止してやる、それから侵害訴訟と審判ですか、これの関係を調整していく、こういうことを合わせれば相当スピードアップをしていくことは間違いないことでございまして、それを確信して今回の法案を提出させていただいているわけでございます。

 ただ、具体的に、ではどのぐらい本当に縮まるのかということは、今そこは計数上出てこないということを申し上げているだけでございます。

 それから、去年、裁判の迅速化法というのを御承認いただきましたけれども、これにおきましても、基本的には事件は二年以内でみんな終わらせていこう、これは長いものも含めてということ。また、二年以内のできるだけ短い期間ということにしております。

 そういうことで、そちらはそちらで目標が掲げられているということでございまして、今十六カ月ぐらいでございますけれども、それをさらにできる限り短くしていく、こういう目標になろうかと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 予算の点についてお答えいたします。

 知的財産高等裁判所というものは東京高等裁判所の中に置かれるということでございますので、例えば庁舎、法廷というようなものが東京高等裁判所と不可分の部分がございます関係上、そこらも含めた知的財産高等裁判所の予算がどうなるのかということについては、まだ御説明をできるという状況ではないわけですが、知的財産権関係事件の審理充実経費ということで、純粋な訴訟の審理充実のための経費という項目がございます。

 これについて御説明をいたしますと、平成十六年度予算案におきましては、知的財産権関係事件の審理充実経費として七千六百万円を計上しております。これは、知的財産権関係事件の一層の充実、迅速ということを図るために、専門委員の幅広い活用、あるいは科学技術情報システムの整備などについての予算を整備するということでございまして、これは平成十五年度当初予算の五割増しに相当する金額でございます。

 このような状況にございますが、知的財産高等裁判所の創設に関する予算につきましては、これは平成十七年四月というように法案でもなっているところでございますので、これは今後の課題として、その整備充実が図られるような所要の関係予算を確保していきたいという考えでございます。

吉田(治)委員 もう時間ですから終わりますけれども、ちょっと不誠実やね、今の答弁は、はっきり言うけれども。七千六百万しか金出せへんって、どういうことやねん、それは。人件費が何人いてって、もうわかっているじゃない。裁判官が何人で、調査官が何人で、専門委員百人を七千六百万で雇うということ、それは。そう聞こえるじゃないの。

 もう人数はわかっている人間を、これだけいてます、人数の人件費はこれだけかかります、裁判官を二人ふやすんだ、そこに書記官がいてて、事務局をつくるんだ、これだけのものをつくると。そんなもの出さへんような法律を出しているのかということですよ。どういうことなんですか、それは、最高裁。

園尾最高裁判所長官代理者 知的財産高等裁判所につきましては、例えば所長を置く、事務局を設けるというような法案の内容になってございます。それにふさわしい予算の体制がどうかということは、これは法律の審議が行われまして、これについて成立した後に裁判所としてこの予算措置について考えていく、そういうことになりますので、先ほど御説明を申し上げましたのは、知的財産権関係事件の審理充実経費としてどういうものが掲げられているかということを御説明したというものでございます。

吉田(治)委員 余りにも質問取りが不誠実やね、こんな答弁やったら。今、裁判所の所長、給料を幾らもろうているのよ。そういうことでわかるのと違うん、出せれるだけでも。そんなもの出せぬというわけ。法律が決まらな出ないと。そんな不誠実な話がある、聞いていて。

 それで、局長、迅速化します、します、目標も目的もなく、行政というのは、とにかくスピードアップしますと。それで世の中許されるんですか。十六カ月だったら、いや、目標として二カ月は減らしたいんだ、三カ月は減らしたいんだ。その予算の裏づけでしょう。連携も何もなく、ただ法律が決まらな、法律が。そんな法律を人質にとるようなことでお二人は進めているはずないでしょうに。

 これで質疑は終局じゃないらしいですから、これから後、次の質問の機会のときにはしっかりとその辺答弁してもらわないと、私は、この法案というものについて、採否をまだ党として決めていないということでありますから、しっかりと押さえていきたいと思います。

 時間やね。終わります。

柳本委員長 次回は、来る二十三日火曜日午後二時五十分理事会、午後三時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時五十二分散会


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