衆議院

メインへスキップ



第5号 平成16年3月23日(火曜日)

会議録本文へ
平成十六年三月二十三日(火曜日)

    午後三時五分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      小西  理君    左藤  章君

      佐藤  勉君    桜井 郁三君

      中野  清君    早川 忠孝君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    泉  房穂君

      枝野 幸男君    加藤 公一君

      鎌田さゆり君    河村たかし君

      小林千代美君    小宮山洋子君

      佐藤 公治君    辻   惠君

      中井  洽君    中村 哲治君

      松野 信夫君    上田  勇君

      富田 茂之君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           園尾 隆司君

   政府参考人

   (司法制度改革推進本部事務局長)         山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  吉戒 修一君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房総括審議官)         井口 直樹君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           大石  明君

   政府参考人

   (特許庁総務部長)    迎  陽一君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十三日

 辞任         補欠選任

  鎌田さゆり君     中村 哲治君

  中井  洽君     佐藤 公治君

同日

 辞任         補欠選任

  佐藤 公治君     中井  洽君

  中村 哲治君     鎌田さゆり君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 知的財産高等裁判所設置法案(内閣提出第六二号)

 裁判所法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六三号)

 労働審判法案(内閣提出第六四号)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、知的財産高等裁判所設置法案、裁判所法等の一部を改正する法律案及び労働審判法案の各案を議題といたします。

 この際、お諮りをいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務省人権擁護局長吉戒修一君、厚生労働省大臣官房総括審議官井口直樹君、厚生労働省大臣官房審議官大石明君、特許庁総務部長迎陽一君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りをいたします。

 本日、最高裁判所事務総局園尾行政局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。左藤章君。

左藤委員 自由民主党の左藤章でございます。

 ちょっと風邪を引いておりまして、非常にお聞き苦しいと思いますが、お許しを賜りたいと思います。

 労働審判法について質問をさせていただきたいと思います。法務大臣、ひとつお願いを申し上げたいと思います。

 長らく不況で非常にリストラが大きくなった、そして、景気が一部よくなったといいますけれども、やはり失業者が多い、またフリーターも多い、そういう、経済環境が非常に変わってまいりました。そういう中で、やはり雇用の問題、特に労働者と事業主との間の個別労働関係紛争が、いろいろな資料を見ますと、かなり増加をしております。

 このような個別労働関係紛争の解決については、その紛争の特性に応じて解決が求められるところでありますけれども、以前に司法制度改革審議会の意見書で、日本の司法の健全な発展のためには、訴訟の機能を改善するとともに、訴訟と並ぶ紛争解決の魅力的な選択肢としてADRを充実発展させることが必要であるともされています。

 そこで、今回、司法制度改革推進本部より、いわゆる個別労働関係紛争の迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目指して労働審判法案が提出されたと思います。

 大臣にお伺いしますのは、今回、労働審判制度を導入された意義、そして導入することによって具体的に労使間にどのようなメリットがあるのか、お答えをお願い申し上げたいと思います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、この社会経済情勢の変化に伴いまして、解雇に関する紛争など、個々の労働者と事業主の間での権利関係をめぐります個別労働関係に関する民事の紛争が増加しております。個別労働関係紛争は、継続的な労働関係について生じまして、労働者の生活や事業主の事業活動に大きな影響を及ぼすことから、実情に即した迅速かつ適正な解決が求められるところでございます。

 そこで、これらの個別労働関係紛争について、訴訟とは別の新たな紛争解決手続として、労働関係の専門的な知識経験を有する者が関与しまして、調停を試みつつ、当事者間の権利関係を踏まえて実情に即した解決に必要な審判を行うものとする労働審判手続を設けることとしたものでございます。

 このような労働審判制度の導入によりまして、個別労働関係紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることが、労働者及び事業主の双方にとって大きなメリットがあるものと考えております。

左藤委員 そういう労使ともにメリットがあるということでございます。

 推進本部の方にお伺いをさせていただきたいと思います。

 この労働審判制度と労働委員会、また都道府県にある労働局での紛争処理制度との関係はどのように考えていいのですか。

山崎政府参考人 御指摘のとおり、既に労働関係の問題を扱う機関がございます。

 ただいま御指摘の労働委員会でございますけれども、これは労使交渉の調整とかあるいは不当労働行為事件等集団的労働紛争、これを中心に扱っている行政機関であるということでございます。

 それから都道府県の労働局でございますけれども、これは個別労働関係紛争についての相談、あっせん等を行っているわけでございますけれども、この手続は比較的軽微な事案を簡易迅速に解決するというものでございまして、事実やあるいは権利関係に争いのある比較的複雑な事件、こういうものに関しては手続的には対応が難しい、こういう特徴を備えております。

 これに対しまして、今度、労働審判手続でございますけれども、個別労働関係の民事紛争を対象といたしまして、その事実関係を審理いたしまして、調停が成立しなければ、原則として権利関係を踏まえた労働審判を行うということにしております。それから、労働関係の専門的な知識経験を有する者が評決権を持って関与するということ、それから訴訟手続との連携を図る、こういうような仕組みをとりまして、解雇の事件等比較的複雑なものも含めまして紛争の実効的な解決を図る、こういう役割を果たすというものでございます。

左藤委員 実は、私の地元で恐縮なんですが、大阪府で、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第二十条に基づいて、大阪府総合労働事務所と大阪府地方労働委員会とが提携して、今おっしゃった調整、あっせんを行う個別労使紛争解決支援システムというのを実は平成十四年度から実行しております。

 今の場合はこういうことに当てはまるのかもしれませんが、ほかの都道府県も同じようなのがあるんじゃないか。この辺は現状はどうなっておるんでしょうか。

山崎政府参考人 ちょっと、所管でございませんので、都道府県全体でどうなっているかというのを詳しく承知はしておりませんけれども、ただ、これは相当な件数、相談等が出ているというふうに、全国でも十万件を超えるものが出ているということでございますので、それなりにそれぞれのいろいろな組織をつくっているものと承知をしております。

左藤委員 大阪の話でしたら一万一千ぐらい去年あったという話ですけれども、そういうものも、地方も国も挙げてということになるんだろうと思います。

 これからしっかりとした、労働審判委員会というのがこれからつくられるわけでありますが、この委員会のつくり方。一つは、審判官と言われる方、これは裁判所の方というふうに聞いておりますが、また審判員と言われる方、これで合わせて三名ということでやられるわけです。

 審判官と言われる方の選び方、人選の仕方、どういう経験のある方なのか。また審判員と言われる、これは判事でも何でもない人ですから、こういう人たちをどうやって選ぶのか。どういう経験のもとで、ある人をどうやって選ぶのか。その手段といいますか手続といいますか、また、そういう人たちをどういうぐあいに教育するのか。いろいろな問題が今度出てくるわけであります。この辺のお答えをひとつお願い申し上げたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 まず、労働審判官ですが、新しい手続ですので、労働審判事件についてどのような裁判官に担当してもらうかということを検討するということになりますけれども、今までのところの検討状況によりますと、従来から労働事件を担当していた裁判官、これが担当するのが最も適当で、専門的な能力を発揮できるだろうというような意見が大勢でございます。

 労働審判員につきましては、これは裁判所外から人材を得る、しかも、労使のそれぞれの労働関係に関する専門的な知識経験を経た人の中から選ぶということでございますので、この点についてはなお、裁判所としては、さまざまな方々の御意見に耳を傾けて、専門的な知識、能力を有する点、それから公平な解決を図るという能力がある点、あるいは法律知識などについても素養がある方、そういうような方々について公平な推薦をしていただけるような何らかの仕組みをこれからつくり上げるということで、これは今、鋭意検討に入っておるというところでございます。

 それから、労働審判員を選んだ場合の研修あるいは専門的知識の習得という点でございますけれども、これは、労働審判官と並んで労働審判員二人が加わって三名で合議をするという仕組みでございますので、専門知識のほかに公正な裁判をするだけの能力、資質を身につけなければいけないということでございまして、研修についても十分に意を用いなければいけないということで検討しておるところでございます。

 この研修の程度をどの程度に行うのかということにつきましては、どのような資質の方を選任できるかということとの相関関係ということにかかっているわけですが、現在のところ、労使の関係者の御意見を伺いますと、これは新しい、なかなか期待できる制度なので、そのような人材の推薦に協力をしようという声も多々聞こえてまいっておりますので、かなり資質の高い労働審判員を選任できるのではないかというように期待をしておるところでございます。

 そうしますと、その労働審判員に対して、なお裁判手続に関する基本的な知識、それから公平性というような規律に関する研修、このような点を補充的に裁判所の方で、講師あるいはパネルディスカッション方式というような形で研究をしていただければ十分な素養を身につけることができるのではないかというように考えておるところでございまして、そのような研修体制の整備について、全国の裁判所ともこれから鋭意協議をして体制を確立していきたいというように考えております。

左藤委員 最高裁、本当にわかりやすく御説明をいただきましたけれども、今の中で推薦という言葉がありました。非常に難しい話ですけれども、いろいろな人、この人は労使間よくわかっているよということで推薦をいただこうというんだろうと思いますが、公募という考え方もあるんじゃないかな、こういう件についてはいかがなんでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 この点は、これから鋭意検討をしていかなければならない大変重要な問題だというように考えております。いろいろな可能性を検討して、最も公正でしかも専門的な知識を持っている者を確保できる方法は何かということを検討していきたいというように思っているわけですが、裁判所の側で、専門的知識を持つ者がどの程度いらっしゃるか、そういうようなことに関してやはりその分野で経験のある経営者側、それから労働側の高い知識を持っている方に助言をいただくということがぜひとも必要ですので、そのような点について推薦というように申し上げましたが、そのようなことも考えながら、いろいろな可能性について今後検討していきたいというように考えております。

左藤委員 そうなりますと、推薦をされて、本人が承諾をして審判員になりますということになりますけれども、一つは、審判員になった場合の任期、期間ですね、それから、失礼な話ですが、報酬の問題、この辺は、最高裁、どのように考えておられますか。

園尾最高裁判所長官代理者 いずれも重要な検討点でございまして、任期につきましては、他の委員、非常勤の委員、調停委員あるいは専門委員については任期二年というように定めてございます。そのようなことを参考にしながら、恐らくそれに準じたような任期を定めて、定期的にその人に審判員を続けていただけるかどうかということについて見直しをしながらお願いをしていくというようなことになっていくだろうというように考えておるところでございます。

 それから、手当につきましては、これは、調停委員、専門委員というように非常勤職員として手当を支給しておる、そのような仕組みがございますけれども、この労働審判員というのは全く新しい制度で、非訟手続ではございますが、裁判手続に直接関与するということ、しかも、裁判官と二名の審判員とが合議をして裁判を行うということであることから、この手当についてもしっかりと確保するということで、これから予算要求の作業などに入っていく、そういう検討をしていかなければいけないというように思っております。

左藤委員 推進本部にちょっとお伺いしたいんですが、今のお話で、審判員の問題、いろいろ任期とか報酬の問題ありましたけれども、実は、そこによって審判員がいろいろ知るわけですね。裁判員制度の問題とも同じようになるんですが、一つ、個人の秘密情報の問題はどうなるのか。

 それから、こういう審判員制度ができましたよという、一般国民、労使間問わず、幅広くこれは啓蒙しなきゃならないと思いますが、これについてどのような手当てをお考えになっているんでしょうか。

山崎政府参考人 まず、秘密の点でございますけれども、審判員につきまして、これは評議の秘密を遵守しなければならないという条文が十二条の二項に置かれております。これに関しまして罰則も置かれておりまして、これが三十三条と三十四条でございますけれども、まず、評議の秘密に関してこれを犯した者という場合については罰金刑が定められております。それから、職務上知り得た人の秘密、これを漏らした場合、この場合には一年以下の懲役刑と罰金の選択ということで、これが設けられているということでございます。

 これは、類似のものといたしまして、民事調停法、家事調停がございますけれども、これの関係でも同様な規定が置かれているということになります。それとバランスを合わせているということでございます。

 それから、御指摘の周知徹底の問題でございます。これは、せっかくいい制度をつくるわけでございますので、大いに利用していただかなければならないということでございます。

 私どもといたしまして、この法律の趣旨、それから、それ以外にどういう具体的な問題点がいろいろ起こるか、ここら辺もわかりやすく、それがどういう場合に利用が一番可能なのかとか、そういう点についてはさまざまな広報を通じて周知をしていきたいと思いますし、また、いろいろ書物等でも紹介をしていくという形で、政府とまた最高裁判所の方と、あわせていろいろ周知の方法を考えていきたいというふうに思っています。

左藤委員 周知徹底をして、できるだけ多くの方にこれを利用していただきたい、このように思いますけれども、いざ紛争が発生した、申し立てを地方裁判所に一応出すわけでありますけれども、この法案の中に、第一条の目的規定は、「紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図ることを目的とする。」と書いてあるんですけれども、これですと、受け付けられてから三回ぐらいで調停をしてやる、そういうことになっています。

 三回という調停はあるんですが、月日はどのぐらいをめどにしてお考えになっているのか。また、そういう場合、三回で解決しようとすると、かなりの準備というものも必要じゃないかな。一回目を始める前から大変だろうと思います。この準備手続についてはどうなっているのか、お願いを申し上げたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 この労働審判の審理の方法につきましては、ただいまの御質問のとおりに、三回以内に原則として結論を出すという目標を持っておりますところからしても、迅速な手続ということが大変必要だというように考えております。迅速な手続のほかに、三回の期日でめり張りのある事情聴取をする、それから証拠調べをするということも大変必要で、その中で充実した審理をしていくということも必要だというように考えております。

 そのために、労使の専門家に入っていただいておりまして、この点についてはどこがポイントだということについて十分裁判官の側も助言を得られるというように考えておりますので、三回の期日の中で、まず最初の期日には双方が集まってもらって最終の審理の計画を立てる、例えば、第二回期日には証拠調べを徹底して行う、第三回目の期日に裁判を行うというような、そういうような手続がございますが、そのようなことを当事者と協議をしながら手続を迅速に進めていくということを考えておるところでございます。

 そういう意味で、期日期日においてきちんと準備をするということに最善を尽くすというようなことを方針として今後研究をしていって、迅速かつ充実な手続を実現していきたいというように考えておりますので、今後、各裁判所の間で大いに研究をしていただくという場を最高裁としても提供していけるように努力をしていきたいと思っております。

左藤委員 よくわかりましたけれども、アバウト何カ月ぐらい、ちょっと済みません、事案によって違うことは十分承知しておるんですが、大体めどというのがやはりある程度必要じゃないかと思いますので、よろしくお願いします。

園尾最高裁判所長官代理者 その点について申し落としておりましたが、現在、期日の準備といたしましては、一カ月強で次の期日を準備するというような、かなり定着をしたそのような進行方法がありますが、それと比べまして、当事者がなお急ぐということで、双方がそれで、証拠についてあるいは弁論をすることについて支障がないということであれば、一カ月ごとに三回開くというよりもさらに速く進めるという可能性もありますし、それから、証拠の準備に、例えば第二回期日には少し長くとってほしいという要望が出る場合もあります。そういう場合には、例えば次までの期日の間に二カ月をとるというような、そのような審理方法も考えられるというふうに思いますが、おおむねのところ、一カ月強くらいの間隔で三回の期日を持ってそれで結論が出せるかどうか、これはかなり難しい課題だということもございますけれども、当事者の御協力も得ながら、そういう迅速な審理ができないものかということを研究しておるところでございます。

左藤委員 ちょっと質問しなかったので、今おっしゃったので、続けて事務局の方にちょっとお伺いします。

 この一条なんですが、労働審判手続においては、「調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み、その解決に至らない場合には、労働審判」云々を行うとされています。

 そこで、労働審判が行われることによりどのように紛争の実効的な解決につなげるのか、お伺いをさせていただきたいと思います。

山崎政府参考人 まず、事案の事実関係、これを聴取いたしまして、それで法的なポイントについて整理をいたしまして、話し合いが可能であれば調停を行うわけでございます。ここで調停が成立いたしますと、その調停については執行力を持つことになります。和解と同一の効力を持つということになりますので、後々何かあった場合でも強制執行が可能になるというような効力が伴うということでございます。

 仮にそれで調停ができないときでも、一応、権利関係に基礎を置きながら、具体的な事案として、実情に即してどういう解決案が一番いいかということを裁判体の方で考えていただきまして、それで解決案を示すということになります。ここで確定をすれば、異議が出なければ、やはり同じように、執行力を持ったそのものになるわけでございます。

 仮にこれがうまくいかないといった場合で、異議が出たという場合でも、そのまま訴訟の方に移行していくということでございまして、訴訟との橋渡しも行っている、こういうことでございますので、これを御利用いただいて、解決、早くできるものはしていただく、どうしてもできないものは裁判に行っていただく、それから、最初から大変難しい、長期にかかるだろうという事件につきましては、あるいはこの手続ではなくて最初から訴訟で解決をしていただく、そういうようないろいろな選択肢を広げたということでございます。

左藤委員 よくわかりました。

 ちょっと話が飛ぶので申しわけないんですが、今、内閣委員会の方で多分審議されるんだと思いますけれども、公益通報者保護法案というのが提出されていると思うんですね。公益通報によって労働者が不当に解雇されたり、不当に転勤とか配転、また、昇格のとき差別をされたりということになると、このような紛争も労働審判制度の対象になり得るのかどうか、一つ聞きたいのと、もう一つ、きょうの新聞で、厚生労働省は企業が従業員に出向や転籍を命ずる際の手続など労働契約のルールを法律で明確にするために、二年ほどかけて法整備をしたいということが出ておりましたが、先ほど申し上げたように、そういう問題については労働審判制度の対象になり得るか、お答えをお願いしたいと思います。

山崎政府参考人 ただいま御指摘がされました法案について、国会に提出されているということは承知しております。

 この関係で、解雇だとかいろいろ、転勤、配転、こういうのが行われたときの問題でございますが、これが民事紛争に当たるというものであれば、この労働審判手続で行えるということでございます。これは、この法律の目的の一条で、個別労働関係民事紛争を対象にするということを書かれておりますので、民事紛争に当たる限りはこの対象になり得るということでございます。

 それからもう一つ、厚生労働省の方から今検討中というものがございますけれども、これは法律関係を明確にしていくためのものだろうというふうに理解をしておりますけれども、この関係で紛争が生じて民事紛争になるということであれば、当然、対象になるということでございます。

左藤委員 よくわかりましたので、もうこれで質問の中身はなくなりましたが、そういうもろもろのお話を聞くと、準備をするのに二年近くかかるのはやむを得ないかなと思いますけれども、改めて、山崎さん、済みませんが、二年かけてきちっとやっていただけるのかどうか、確認をさせていただきたいと思います。

山崎政府参考人 二年の期間をちょうだいしたんですが、これはやはり、先ほどから最高裁の方でも御答弁ございますけれども、もう少し細かい手続を最高裁規則で置かなければならないという問題が一つございます。それのみならず、労働審判員の確保ということ、これがまず一番のキーポイントだろうと思います。これを全国的に確保しなければならないということでございますので、このための準備期間はそれなりにかかるだろう。それから、確保しても、その研修とか、その辺のところにも時間を費やさざるを得ないだろう。それから、周知徹底でございますね。

 こういうことを総合すると、一応二年以内で準備ができた段階で施行させていただく、こういう考え方をとったわけでございます。

左藤委員 これで質問を終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

柳本委員長 漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原良夫でございます。

 社会経済状況の変化とか長引く不況のために、労働者と事業者との民事に関する紛争がふえております。労働者が賃金カットやリストラの対象になった場合には、最終的には裁判という格好で救済を求めなければなりませんけれども、裁判をやれば、裁判の長期化、その間の生活費の問題あるいは弁護料の負担、さらには、賃金の未払いなどの少額事件では弁護士さえも引き受けてくれないというふうなケースがあるわけですね。そういう意味では、労働者にとって非常にリスクが大きいと私は思います。この社会的、経済的に弱い立場にある労働者が泣き寝入りをしなきゃならぬようなことは断じてあってはならないと思いますし、迅速、適正かつ実効性のある解決が図られなければならない、こう思っております。

 そこで、厚生労働省にお尋ねしたいんですが、このような要請にこたえるために、平成十三年に、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律、この法律が成立しておりますけれども、平成十四年度の法律の施行状況について尋ねます。

井口政府参考人 お答え申し上げます。

 お尋ねの個別労働紛争解決制度の実績につきましてですが、平成十四年度、まだ立ち上がってから間もないものですが、一年間でございますが、その実績を見ますと、労働に関しますあらゆる相談を含む総合労働相談件数は全体で六十二万五千五百七十二件、そのうち、労働関係法上の違反を伴わない、いわゆる民事上の個別労働紛争相談件数につきましては十万三千百九十四件、また、助言指導申し出受け付け件数は二千三百三十二件、それから、あっせん申請受理件数は三千三十六件、こういうふうになってございます。

漆原委員 厚生労働省が発表した平成十四年度個別労働紛争解決制度施行状況、これを見ますと、助言指導、あっせんの申請は非常に解雇が多いんですね。助言指導の申し出で解雇は三六・四%、それから、あっせんの申請でも解雇が四六%と非常に多くなっているわけなんですが、今申されました助言指導の手続を終了した件数というのは二千二百四十四件ある。助言を実施したのが千六百四十一、指導実施が九十、打ち切ったのが百二十九、こうなっておりますが、助言を実施、指導を実施した中で助言指導の効果については統計をとっていますか。効果があったのかないのかという点についてはどうですか。

井口政府参考人 まことに申しわけないんですが、効果があったものがどの程度あるかというところまでの数字がございません。

漆原委員 そうですか。

 この助言指導の中で、打ち切ったのが百二十九件とありますが、この打ち切った理由はどんな理由なんでしょうか。

井口政府参考人 申し出があったにもかかわらず助言指導まで至らなかったものでございますけれども、例えば、解雇が不当であるというので撤回を求めて、そのための助言指導をしてほしいという申し出があったケースにつきまして、例えば本人の申し出を調べてみますと、実際には申し出人に遅刻だとか無断欠勤が相当に上るというような事例が見つかったようなケースが大変非常に多いというふうに承知しております。

 そのほかに、申し出に係ります事案が例えば労働組合と事業主との間で問題として既に取り上げられておりまして、両者の間で解決に向けた取り組みが行われているというような事実がありました場合にも、先ほど言ったような形に至らないというようなことでございます。

漆原委員 このあっせんの実施状況についてお尋ねしますけれども、あっせんの手続を終了した件数が二千八百八十二件、当事者の合意の成立が千八十六件、それから、打ち切りが千三百八十八件、こうなっておるわけなんですが、あっせんの打ち切りのパーセンテージは四八・二%になっているわけですね。五〇%近くがあっせんが不成立、こうなっておりますが、この不成立の理由は何か、そしてまた、どのような場合にあっせんが打ち切られるようになるのか、その辺を教えてもらいたいと思います。

井口政府参考人 御指摘のとおり、平成十四年度中にあっせんの手続を終了いたしました二千八百八十二件のうち、約五割、四八・一%に当たります千三百八十八件が打ち切りになったわけでございます。

 その理由といたしましては、まず第一に、あっせんを開始する旨の通知を受けました被申請人、これは通常は事業主に当たりますけれども、これがあっせんの手続に参加する意思がないというようなことであっせんに参加できなかったことが主な理由になってございます。

 このほかに、あっせんが打ち切りになりました理由としましては、あっせん委員から提示されましたあっせん案につきまして紛争当事者の一方または双方が受諾をしないというようなとき、あるいは紛争当事者の一方または双方があっせんの打ち切りを申し出たときがここに当たる理由でございます。

漆原委員 相談を受け付けた件数が十万三千百九十四件、こうありますね。そして、助言指導、あっせんの件数を合わせますと五千三百六十八件、こうなっておりますが、この数は、平成十四年度の全地方裁判所における労働関係民事通常訴訟事件の新受件数二千三百二十一件の倍ぐらいになっているわけですね。

 そういう意味では、この制度、国民の期待というのは非常に大きいものだ、また、労働紛争の解決に非常に大きな貢献をしていると私は思っております。

 そこで、この制度を支える人的、物的施設の概要について、どんなふうになっているのか、お尋ねします。

井口政府参考人 お尋ねの個別労働紛争解決制度につきましては、現在、全国の主な労働基準監督署あるいは都道府県労働局及び主要都市の利便性の高い駅周辺のビル等に約三百カ所の総合労働相談コーナーを設置いたしまして、そこで、総合労働相談員を配置しておりまして、労働に関するあらゆる相談に応じ、情報提供等を行ってございます。

 また、これと並行いたしまして、全国の都道府県労働局総務部には労働紛争調整官を配置いたしまして、必要な助言指導等に係る業務のほか、あっせん申請の受理等の業務を行っております。

 さらに、各都道府県労働局には紛争調整委員会が設置されておりまして、そこで、弁護士や大学教授等の学識経験者の中から厚生労働大臣によって任命されました委員が必要なあっせん等の業務についております。

 以上でございます。

漆原委員 社会の要望に応じて、この制度に対する期待はますます大きくなってくると思うんですね。そういう意味ではぜひとも頑張ってもらいたいということを申し上げて、退席していただいて結構でございます。ありがとうございました。

 そこで、このような個別労働紛争を解決する制度に加えて新たにこの労働審判制度を導入する趣旨と目的をお尋ねします。

山崎政府参考人 ただいま厚生労働省の方からも報告がございましたけれども、その手続で解決するものもございますが、解決に至らないものも相当あるという実態でございます。

 では、こういう方々がいきなり裁判に行くかという問題になりますけれども、これはなかなか、裁判というのは覚悟が要るわけでございます。時間もかかる、お金もかかるということになります。そうすると、そういうような不満が残った状態で、結局、何も解決がされないという状態が続いてしまう、これは社会的にいいことではないということでございます。そういう個別紛争が次々に最近ふえているという実態にございます。

 そこで、やはり労働者の家族の生活に重大な影響を及ぼす、そういうおそれのある紛争でございますので、その迅速な解決が必要であるということになります。それと、継続的な関係であるということからやはり実情に配慮した柔軟な解決が望ましいという形になるわけでございます。

 そこで、当事者間の権利関係を踏まえつつ、事案の実情に即して、納得に基づいた解決を簡易迅速に図ることができるよう、労働関係の専門的な知識経験を有する者が関与する新たな手続というものを設けたということでございます。

漆原委員 厚生労働省のこの制度も、基本的には労使の合意を前提としております。したがって、一方の当事者が出てこないとか不誠実な対応だとか、あるいは利害が一致しない、この場合にも解決が不成立、こうなりますね。

 しかし、この労働審判制度も、審判に対して異議の申し立てがあれば審判は効力を失うわけでございますから通常訴訟に移行されるのであって、その意味では、やはり紛争解決のためには基本的には労使の合意が前提となっているというふうに言ってもいいと思います。

 そこで、異議があれば通常訴訟に行ってしまう、こういうふうな制度設計で迅速、適正かつ実効的な解決が期待できるのかどうか、この辺をお尋ねしたいと思います。

山崎政府参考人 これにつきましては、まず、非常に短い、大体三回以内の期日で、権利関係に基づいて最終的な解決案を示すということでございます。その解決案は、法律に基礎を置きながら実情に基づいたもので行うということでございます。

 この内容に関しまして、いい解決案が示されれば当事者は調停にも応じるでしょうし、それから、最終的には、判断を下されれば従っていくことになるのではないか。そういうことになれば、それは早く解決するわけでございますし、その履行の確保も、一応その調書に執行力が付与されるわけでございますので、そういう関係では確実なものになるということでございます。

 仮にここで解決がしないというような場合でも、訴訟へ移行するということで早く解決を促進していく、こういうものでございますので、私は、利用の仕方によっては十分機能していくものというふうに考えております。

漆原委員 この労働審判制度の導入に当たっては、弁護士会とか労働界の方から労働参審制ということの導入が提唱されたと聞いておりますが、労働審判制度と労働参審制の違いはどこか、今回、労働審判制度を導入した理由は何か、お尋ねします。

山崎政府参考人 確かに、労働参審制、これについても、私どもの検討会の方で議論はいたしました。ただ、これにつきましてはさまざまな考え方もございまして、私どもの検討会では、おおむね、裁判所の訴訟手続の中に労使が参加する制度という大きなくくりで議論がされてきたわけでございます。

 これに対しまして、労働審判制度は、司法事件手続の中で労働関係に関する専門的な知識経験を有する者が関与する制度でございますし、権利関係に基礎は置きますけれども、その事案に即した解決をするという点で違いがあるということでございます。訴訟になれば権利義務関係そのもので判断せざるを得ないということになりますけれども、そこが違ってくるという手続上の違いでございます。

 では、なぜこういう制度になったかということでございますけれども、労働参審の関係でございますけれども、我が国には、労使が裁判に関与するという実績がないため、事実認定や法令の適用に関しまして専門的な訓練を積んでいる者がなかなかいないという状況にございまして、そういう状況の中で適切な判断が行われるかという点について、大きく意見が分かれました。そういう関係から、これを導入することについては大方の意見の一致を見ることができなかったという現状でございます。

 この問題はまた、労働事件のみならず、民事訴訟一般における専門的な知識経験の導入のあり方、こういう点とも密接に関連をするわけでございまして、そういう意味では、極めて大きな視点からの検討が必要であるということになろうかと思います。

 こういう中で、この労働審判制度の運用の状況を見ながら将来的な課題とさせていただいたわけでございます。

漆原委員 労働審判委員会、これは裁判官の中から指名される一人の労働審判官と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命される二名の労働審判員によって構成されるわけなんですが、この審判委員会というのは地方裁判所の本庁だけではなくて支部にも設けられるのかどうか、お尋ねします。

園尾最高裁判所長官代理者 労働審判制度をどのように運用するかということに関しましては、労働審判員に人を得るかどうかということが大変重要なかぎになってくるというように考えておるところでございます。

 この点に関しまして、政府の司法制度改革推進本部に置かれました労働検討会におきましては、そのような人材の確保という点にかんがみますと、当面、地方裁判所の本庁において実施するというのがよいのではないかというように議論がされていたと承知をしております。

 裁判所といたしましても、この制度は、民間の労働の専門家の意見を労働審判という決定手続の中に反映させるということを目的といたしました新しい手続でございますので、適切な労働審判員を確保してしっかりとした労働審判制度の運用をしていきたいというように考えておりますので、この労働検討会での議論も踏まえまして、まず地方裁判所の本庁において労働審判制度を実施いたしまして、労働審判員の確保の状況や労働審判手続の状況を見きわめてまいりたいというように考えておるところでございます。

漆原委員 私の地元に佐渡島があるんだけれども、支部がありますね。佐渡でこの申し立てをしたいという場合に、佐渡に労働審判委員会が開けない、そうすると、その申立人は船に乗って新潟市の本庁まで来なきゃいけない、こうなるんでしょうか。私は、これは労働者にとってみればまことに不都合なことだろうなというふうに思います。

 仮に本庁に置いても構わないんだけれども、その場合に審判員が佐渡に行くというふうな柔軟な対応もできないのかなというふうに思っていますが、この辺はどうでしょう。

園尾最高裁判所長官代理者 どの範囲で労働審判を実施するかということ自体につきまして、今後の検討課題になるというように考えておりますが、この労働審判制度、私どもも、今後の運用次第によっては大変大きな可能性を秘めておるというように考えるものですから、しっかりとした手続をまず成功させるというところに重点を置きたいというふうに現在のところは考えておるわけでございます。さまざまな意見を伺いまして、今後の検討について十分に研究を重ねていきたいというように思っております。

漆原委員 審判員の任命要件であります、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者、どのような人を考えているのか。学者、弁護士、社会保険労務士などの活用については、いかがにお考えなんでしょうか。

山崎政府参考人 抽象的に言えば、労働者または使用者の立場で実際に個別労働紛争の処理等に携わった経験があって、そうした中で労働関係についての実情とか慣行とかあるいは制度の知識、こういう点について身につけた関係者ということになろうかと思います。

 ただいま御指摘の、学者、弁護士あるいは社会保険労務士という事例が出されたと思いますけれども、これらのものにつきましても、制度上、労働審判員から除外されるということにはなっておりませんが、具体的な点につきましては、その経験等を通じまして個別労働関係紛争に役に立つような専門的な知識経験を有するか否かという点、こういう観点から最終的には判断がされるということになろうかと思います。

漆原委員 今、最も頭の中にある、こんなのがいいな、こんな人がいいなというふうに、労働関係はこういう人、使用者関係はこういう人、こういうのは頭の中に何かありますか。それとも真っさらで、今私が申し上げた学者とか弁護士とか社会保険労務士まで含めた真っさらな中で考えていくのか。原則こんな考えだなというのがあるのかどうか、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 特にこういう場合ということではございませんけれども、やはり紛争の実務、こういうことについて、その処理について経験があるということがまず第一で、かつ実情、労働界それから労使慣行、こういうことによくたけている方ということでございますので、別に弁護士とか学者等ではなくて、その実務をやっている方、こういう方も当然対象になっていくということでございます。

漆原委員 「労働審判委員会における労働審判員の構成について適正を確保するように配慮しなければならない。」こういうふうに条文が規定しておりますが、具体的にはどんなことを考えて、適正確保にどんな配慮をするのか、お尋ねします。

山崎政府参考人 ここで、中立かつ適正な立場でということでございますけれども、これは、例えば労使の実務にたけている方がおられるということで、労働界あるいは使用者側、そこから選ばれたといたしましても、裁判をやる以上は、出身母体はあっても中立でかつ公正な判断をしなければならないということでございまして、やはり利益代表ではないということを前提に置いているわけでございます。

漆原委員 労働審判員の職務権限ですけれども、条文では、「労働審判委員会が行う労働審判手続に関与し、」「労働審判事件を処理するために必要な職務を行う。」こういうふうな条文になっているんですが、審判員の職務権限は具体的にどんなことなのか。

 これは、基本的には審判官と同じと考えていいのかどうか。審判官のやる任務の中には、証拠調べ、事実認定、それから法律解釈、法的判断が含まれるわけなんですが、委員会の決議は過半数をもって行う、こうなっておりますね。したがって、法律判断も含めて審判官と同じ権限を持つというふうに解釈していいのかどうか、お尋ねします。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

山崎政府参考人 基本的には審判官と同一の権限でございます。

 ただ、法律の規定がございまして、審判員には権限がないものもございます。例えば、十三条で手続の指揮というものがございますが、これは審判官で行うということでございます。それから、期日の指定、呼び出し、これは十四条でございますけれども、こういう手続的なものについては審判官の権限となっておりますが、そういうふうに特定していないものについてはすべて権限を持つということでございますので、証拠調べあるいは事実認定、法律解釈、こういうものを含めて一緒にやるということでございます。

漆原委員 私は、この労働審判制度の成否というのは、優秀な労働審判員が十分に確保できるのかどうか、これにかかっていると思うんですね。その意味では、国は、単に審判員を探し出すという観点ではなくて、優秀な労働審判員を育成していく、こういう観点がぜひとも必要だと思います。

 ましてや、今局長おっしゃったように、法律判断まで審判官と同一な権限を持って処理することができるわけですから、相当な法律知識と研修が必要だなというふうに思うんですが、審判員の育成についてどのようなお考えを持っておられますか。

園尾最高裁判所長官代理者 審判員の育成という点も大変重要であるというように私ども認識しております。

 まずは、私どもとしましては、優秀な審判員の確保、専門的な知識経験を有して、しかも紛争解決の場面で公正に行動ができるというようなレベルの高い審判員の確保ということにつきまして、いろいろ知恵をかしていただきながら、裁判所の運用がレベルが高いものになるように努力をしていきたいというように思うわけですが、それにしましても、やはり裁判という特別な手続についてきちんとした知識それから見識を持っていただくということはぜひとも必要でございますので、これも並行して検討していくという手順を考えております。

 まず、労働審判手続の流れがどうか、それから審判員としての職務を遂行する上での公平性を中心とした心得、それから非常勤の国家公務員としての服務規律というようなことについても研修を行いたいというように考えております。具体的な研修計画などにつきましては、なお、施行までに、この審判員の任命手続ということとあわせて研究をしていきたいというように思っております。

漆原委員 三回の期日で事件を終了させるというふうになっておりますが、争点整理、証拠調べの実施、調停の試み、これを含めて三回で終わらせるということは非常にハードな作業だと思います。特に、審判については主文のほかに理由を書かなきゃならない。そういう意味では、先ほど最高裁言っておられたけれども、審理の充実というのも要求されるわけですね。それを全部三回でやるというのは非常にハードな要求だと思うんです。

 こう考えますと、私は、ある意味では、期日外の準備手続の実施だとか、あるいは証拠資料を事前に全部開示すべしとかということとか、あるいは証拠調べも、申立人、相手方、一遍に調べろとか、相当これは準備をして工夫をしないと、三回ではとても無理だなというふうに思っておるんですが、最高裁、特段の考えはありますか。

園尾最高裁判所長官代理者 私どもも、まさにそのとおりであるというように考えておりまして、証拠についてきちんと事前に開示し合う慣行、それから集中的な証拠調べができるような、そのような証拠調べの体制、そのような簡にして要を得た審理手続というのがぜひとも必要で、これから大いに研究をしていきたいというように思っております。

 期日外の準備の手続となりますと、これは審判員の方々の出席ということの確保がどの程度できるかというような問題もありますので、できる限り充実した期日を運営していくというような方向で研究を重ねていきたいというように思っております。

漆原委員 最後の質問でありますが、リストラをされて収入源を失った労働者にとって、弁護料を払うというのは物すごく負担になるわけですね。そういう意味では、民事法律扶助法の対象として十分な弁護をできるような体制を整えるべきだと思うんですが、法律扶助の適用になるかどうか、お尋ねします。

吉戒政府参考人 お答え申し上げます。

 労働審判手続、これは新しい手続でございますが、これは民事法律扶助法の二条に言います「裁判所における民事事件」に該当するというふうに解されます。したがいまして、リストラされた労働者の方につきましては、資力要件は整いますし、また、その後勝訴の見込みがないとは言えないことという要件も恐らくあると思いますので、法律扶助の対象になるというふうに考えます。

漆原委員 以上で終わります。ありがとうございました。

塩崎委員長代理 辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 私は、三月十九日に、知的財産高等裁判所設置法案及び裁判所法等の一部を改正する法律案について御質問いたしました。法案の規定の中から読み取れるさまざまな問題点について、いろいろ疑問を提示しました。一応のお答えはいただいたんですが、なお払拭できない疑問等も多々あります。問題は、やはり今後の運用の実務面で、どのような方向性、どのような姿勢をもってこれを運用されていこうとしているのか、その辺がより重要な点なのかなというふうに考えます。

 きょうは、幾つかの問題のうち、五点について、具体的にどのように運用していく姿勢をお持ちなのかについてただしていきたいというふうに考えます。

 まず一点目なのですが、私の問題意識としては、知財訴訟において、裁判所調査官がどういう役割を果たすのか。

 指摘するところによれば、最終的に報告書を裁判官のもとに出して、それに基づいて裁判官が同じ判決を出してしまう、そのような例もあるやに聞いているわけであります。そういう意味におきまして、法文上は、裁判所が必要を認めたときに裁判所調査官を登用するというふうになっておりますけれども、裁判官が、その特許訴訟の審理を、本当に主導権を持って訴訟指揮権を最初から最後まで発動できるのかどうなのか、この点について具体的にどのような保障なり担保なりがあるのか、どういう姿勢で臨もうとされているのか、この点についてお伺いしたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 この点につきましては、実務の裁判官も研究に研究を重ねておるという点でございますけれども、裁判官が、争点に関してしっかりとかみ砕いて、どの点について補助を得るのかという点について、みずからしっかりした認識を持って手続を進めていく、そういうことが必要であるという認識を持ちながら、今研究を続けておるところでございます。

 この点につきましては、最高裁判所としましては、この裁判官の専門的な訴訟指揮について、きちんとその権限の行使ができるように、研修その他の研究を重ねていって、それだけの能力を備えていく人材を多数確保していきたいというように考えておるところでございます。

 現在も、研修体制につきましては、司法研修所において特別な研修コースを設ける、あるいは、国際的な論点が多々ございますので、海外の留学による研究、あるいは世界的に著名なドイツのマックス・プランク研究所あるいはアメリカのロースクールの知的財産セミナーに裁判官を派遣するというような研修も行ってきておるところでございます。

 今後も、そのような専門的な技法あるいは国際的な感覚を身につけて、主体的に訴訟を追行していけるというような能力が涵養できるような体制をつくれるように、鋭意努力をしていきたいというように思っております。

辻委員 例えば、民事訴訟法の九十二条の八の第一号で、「訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこと。」というのがありますね。

 立証を促すということになると、具体的な審理をどのように進めていくのかということについて、かなり主導的に争点を設定して問題点を明らかにし、どのように審理を進めていくのか、そういう意味を持ってくると思うんですが、この「立証を促すこと。」ということについては、これは、事前に裁判所と調査官がきちっと確認をして、裁判所の指示を仰いで臨む、そういうことを運用としてはお考えなんでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 まさにそのとおりで、裁判所の指揮の範囲内において行動してもらうということでございますが、特に専門的な事項に関して、補助を得ながら、立証活動について促してもらうというようなことが適当だという場合には、直接やってもらうというようなことも考えられるところだということでございます。

辻委員 技術は日進月歩で、特許訴訟、いろいろ複雑な、また非常に先端的な技術の問題があって、裁判官も、なかなか最高水準の知識を常に身につけるというのは難しい。

 そういう意味において、専門性を持った方、調査官とか、さらに言えば専門委員を登用していくということが必要だと思いますけれども、しかし、それは司法裁判所の行う訴訟であるということをやはりわきまえていただいて、そのことが裁判所の訴訟指揮下で進めることができるように、裁判官の研修をさらに進めていっていただきたい。そして、私が疑問を提示している、行政官が仕切ってしまうのではないかというようなことのないように、ぜひとも配慮、運営の指針をそのように定めていただきたい。

 この点、確認させていただきたいと思いますが、いかがでしょう。

園尾最高裁判所長官代理者 御指摘の点、しっかりと受けとめて、さらに研究をしていきたいというように思っております。

辻委員 では、次の点に進みます。

 次には、裁判所の調査官が、地位と権限を明文化されて、いろいろ質問を発したり意見を述べたりするということが民事訴訟法九十二条の八で規定されているわけでありますけれども、審理を進めるというのは、裁判官がいて、そして調査官、場合によっては専門委員が参加して、しかし、訴訟を持ち込むのは当事者なわけでありますね。だから、当事者にとって何が争点であり、どのような問題点があるのか、そして、裁判所調査官がどういう意見を持って、何をどう整理しようとしているのかということがわからないと、主張立証活動を十分に効果的に行うことができないということが言えると思うんですね。

 そういう意味において、裁判所調査官の考えていること、そういう点について当事者の側からただしていく、それを理解することができる、掌握することができるために、どのような運営の指針なりをお考えになっているのか、この点についてはいかがでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 今回の法改正でも、裁判所調査官が期日においてどのような行為をするかというようなことに関しましては手続的に明らかにされていっておりますが、そういう中で、裁判所調査官の行動に関して当事者の主張、意見というものがあるならば、裁判所としては、それに関して十分に耳を傾けていくということは、これは当然のこととも考えておりますし、今回の法改正をきっかけとしてもさらに徹底がされるであろうというように考えておるところでございます。

 私ども、知的財産権訴訟は専門性の極めて高い訴訟だというように認識しておりますので、専門的な知識経験を有する裁判所調査官や専門委員の補助を受けるという必要性は高いというようには考えておりますが、民事訴訟事件の審理において何よりも重要なことは、まず、裁判官が当事者の主張と意見に耳を傾ける、争点についての当事者の主張について十分な理解を持つということであるというように考えております。これは知的財産権訴訟につきましても全く変わらないというように考えておりますので、このような基本が訴訟の中で発現できるように、私どもも、事務当局としてできるだけのことをやっていきたいというように考えております。

辻委員 今回の法案を提出するに当たって、知的財産訴訟検討会で議論が二十回ぐらいにわたって積み重ねられていると思うんですが、特許訴訟において、裁判所調査官の役割について、どのような意見を持っているのか等につきまして、当事者の側でいろいろそれを知ることのできる機会が保障されなければいけない等の点については議論がされていたんでしょうか。その点はいかがですか。

山崎政府参考人 この点につきましては、私どもの検討会で意見を交わしました。ほとんどの方、全員が意見一致したところを申し上げますけれども、裁判所の運用において、裁判所調査官が当事者に対して釈明権を行使するなどの権限を行使する際に、必要に応じて、技術的事項について、みずからの理解、認識を裁判官の面前で当事者に示すことで、裁判所調査官と当事者との間で事件全体についての理解、認識の共通化を図ることが可能である、また、これが必要であるということでございます。

 もう少しかみ砕いて言えば、当事者双方において、争点についての前提となる技術的な事項でございますが、こういう点について理解とか認識が異なっている場合、裁判所調査官が、原告側の理解、認識と被告側の理解、認識の相違点について当事者双方に指摘をした上で、適宜、双方に釈明を求めるなどいたしまして、認識あるいは理解の共通化を図る、こういうことが期待される、こういう意見で一致したということでございます。

辻委員 そのような争点について、非常に充実させるために、具体的に明らかにして一致を求めていくということが論議されたということだと思うんですけれども、それについて、例えば当事者の側から裁判所調査官に対して、具体的な疑問なり、争点の整理の仕方について、その点はどうなのかと釈明を求めたり質問をしたりすることは可能なんですか。そのように理解されているんでしょうか。

山崎政府参考人 これは私、可能だと思っております。それは、当事者の方からも、十分納得いかない言い分が出てきたという場合に、それはどういうことかということを確かめることは当然でございますので、お互いにここで議論をしていただく、まずそういうことになろうと思います。一方的なものではないということだと思います。

辻委員 裁判所調査官の見解なり、透明性を高めて、何を考えているのかについては質疑応答も十分なされるべきだということが議論され、この法案の提出に当たって当然それを前提にされているというお話として理解しますけれども、最高裁としては、特許訴訟に臨むに当たって、そのような理解を尊重するという立場に立っておられるのかどうなのか、それを具体化するためには何か、どうすべきなのか、考えておられるのかどうなのか、その点はいかがですか。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいまの御指摘については、私どもも、それが当然であるというように考えておりまして、この趣旨がなお徹底されるように、最高裁といたしましても、この立法の経緯や趣旨についての本国会での議論、その他の議論について、各裁判所に対して十分な情報提供をして、遺漏のないように努めていきたいというように思っております。

辻委員 その点はさらに徹底していただきたい。個々の裁判官がそれを理解できるように状況づくりをしていただきたいということをお願いしておきたいと思います。

 三点目に、裁判所調査官そして専門委員の選出についての中立性、公平性というものが確保されているのかどうなのかということだと思います。

 この点については、一番問題なのは、どういう人をリストアップして委嘱するのか、やはりその選任の手続がきちっと公平になされているのかということが重要だと思いますが、どのような経過で選任されることになるんでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 専門的な補佐を得るという、そのような人的な備えとして専門委員それから裁判所調査官というのがございますけれども、専門委員につきましては、これはそれぞれの分野の極めて高度な事項に関することだということでございまして、これは各分野の学術団体あるいは研究所というようなところから人材を推薦していただきまして、私どもとしましては、その分野におけるトップクラスの人を推薦していただくということで推薦依頼をしておりまして、そのような推薦に応じていただいておるということで、ことしの四月には百人余りの規模の人材を選任するということでございますが、さらに公平性を確保するというために、この専門委員につきましては非常勤の職員であるという特質がございますので、事件ごとに、専門委員の了承を得た専門委員の経歴、それからその専門委員の得意分野、そのようなことについて情報を開示いたしまして、双方当事者の意見を待つというような体制をさらに整えたいというように考えまして、運用について各裁判所と打ち合わせをしておるところでございます。

 裁判所調査官については、これは常勤の国家公務員であるということでございまして、常勤の裁判所職員になるわけでございますが、その選任につきましては特許庁あるいは弁理士会に推薦を依頼しておりまして、裁判の手続に関与することの重要性にかんがみて、適切な人材を推薦してもらうということで、これまでもそのような実行をしておるところでございます。

 今回の法改正によりまして、この手続について、通常の、例えば裁判所書記官などと同じように忌避などの制度についても導入されるということで、なお一層中立性に心がけるというようなことを裁判所の中でやっていきたいというように考えておるところでございます。

辻委員 前回の質問で、裁判所調査官二十一名でしたかね、専門委員を百名、これは一応専門委員として委嘱をしてリストアップをしておいて、個々具体的な訴訟ごとにその争点となっている専門性に応じてその都度委嘱をする、こういうことでよろしいんですね。

園尾最高裁判所長官代理者 そのとおりでございます。

辻委員 そのときに、除斥、忌避という制度が専門委員にも、準用ですか、適用になるということなんでしょうけれども、除斥、忌避というと利害関係が非常に密接だとかいうふうにかなり限定されると思うんですね。一般の裁判でもなかなか除斥、忌避が認められることは少ないというふうに思いますから、もっと具体的にその公平性なり中立性なり第三者からのチェックを高めるという意味においては、除斥、忌避以外にももう少し広い形での拒否権みたいな、異議を申し立てるような権利ということも検討されていいのではないかと思いますが、この点はいかがでしょう。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘のように、例えば忌避ということになりますと、裁判官にとって当てはめてみますと、これはある意味で裁判所、裁判官の存在の生命線のようなところにかかわるもので、これについては、客観的な裁判の公正を害する事由というようなことの解釈、運用がされておるわけですが、私ども、そのような手続を一つの象徴として、公平な運用に努めていくという心構えをしておるわけでございます。

 ただいまの御指摘のような点につきましては、やはり裁判所と当事者とでよく議論を交わして、この手続についての信頼性が得られるという形で判決まで至らないと、最後に出ました実体上の判断について信頼性が薄くなってしまうという問題点がございますので、今後ともこの点については、よく当事者の意見を聞いて議論をしながら手続を進めていくというようになると思っております。

 なお、専門委員につきましては、双方の当事者が合意をすれば、そのような事由にかかわらず専門委員から排斥をされるというようなことにもなっておりますので、そのような規定もあわせて、裁判所として公正さを考えていきたいというように考えております。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

辻委員 調査官、専門委員の中立性、公平性というのは、やはり審理を信頼関係のもとに納得のいく形で進めるための不可欠な要素ですから、ぜひとも、より配慮して運用に当たっていただきたいということを申し上げておきたいと思います。

 四点目に、無効審判と侵害訴訟の関係について、やはりこの法案ではそごが生じるのではないかという可能性は否定できないと思うんですね。ただ、そのそごができるだけ少なくなるような努力を運営の中でされてしかるべきだと思いますけれども、この点について、どうなんですか、知財訴訟検討会では何らかの議論があったんでしょうか。もしあれば、それの御紹介と、それを受けてどのような方向でこの法案を提案されているのか、その点についてお答えいただきたいと思います。

山崎政府参考人 私どもの検討会でも、この判断そごの防止方法について議論がされました。判断そごの防止を図るために、特許無効審判を審理する審判合議体が、必要に応じて、侵害訴訟において提出された抗弁等の関係資料を裁判所から入手できるようにすること等により、裁判所と特許庁の進行調整を充実させる、こういう結論でございました。これに基づきまして、特許法百六十八条の第五項と第六項、これを新設したわけでございます。

 これは法的な手当てでございますが、それ以外に運用上の問題についても意見が出されておりまして、侵害訴訟係属中に請求があった特許無効審判については、早期に審理する対象とすることで判断そごを防止する、また、両者の判断がそごするおそれがあるときは、裁判所は裁量により訴訟手続を中止するという運用面の工夫について議論がされたわけでございます。

辻委員 運用上でいろいろ努力をするというか、そごができるだけ少なくなるように御努力いただきたいというふうに思いますけれども、具体的に侵害訴訟を進めるに当たって、このような観点の意見ということについては、最高裁としては、どのようにお考えで、どういうふうに対処するべきだとお考えなのか、また、裁判官全体に対してどのように方向性を示そうと考えておられるのか、その点について伺いたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 ただいまの判断のそごの問題に関しましては、裁判所でも問題点を感じておるところでございまして、知的財産権の検討会におきましても、真剣な議論がされたというように承知をしておりますが、その結果のいわばアウトプットとして出てきたものというものは、かなり限られておるわけでございます。

 ただ、裁判所といたしましては、特許無効に関する抗弁が提出された場合にはその旨を裁判所から特許庁に対して通知する、こういう規定でございますが、この通知に基づいて、運用上の配慮として、特許庁が無効審判について早期に判断を示すというような姿勢も示されました。こういうことにも大いに期待をするところでございます。裁判所の中でも、特許庁についての無効審判が間もなく出ることが見込まれるという場合には、手続を当分中止するというようなことでも配慮していきたいというように考えておるところでございます。

 なお、このような立法趣旨につきましては、先ほどと同じく、この国会での議論などにつきまして各裁判官に周知を図って、この点についても改善がされていくように努力をしていきたいというように思っております。

辻委員 持ち時間もほぼなくなりましたので、最後の五点目について伺わせていただきます。

 前回、吉田委員の方からも質問があったと思いますけれども、例えば、原告も被告も、そして関係者も大阪であるというような場合に、何が何でも東京に来なければいけないのか、これはやはり問題があるんではないかというような質問があったと思います。

 民事訴訟法の改正で、既に、特許訴訟の専属管轄は東京高裁というふうになっておりますから、その点は、制度上、現行法上やむを得ない面があると思うのでありますけれども、やはり司法アクセスを十分に改善するという視点も同時に必要だと思います。この点についてどのようにお考えなのか。

 まず、今までの論議の中でそういうことはどのように扱われてきたのか、この法案提出に当たってその点はどのように考えておられるのか、改革本部はいかがですか。

山崎政府参考人 まず、一つ法的な手当てでございますけれども、やはり東京で審理することによって著しい遅延その他いろいろ支障を与えるという場合には、移送ができるという規定を設けております。これ以外に、テレビ会議システムあるいは電話会議システム、こういうものを利用していこうということでございます。

 なお、さらに言えば、本当に証人等が出てこられないとかそういう事情があれば、当然、裁判所が期日外尋問という形でやっていただくということもありますので、そういうものを総合して、当事者のアクセスの障害にならないように考えているということでございます。

辻委員 民訴法の改正問題の中でもそのように言及されたやに伺っておりますが、例えば巡回裁判のことを考えるとか出張尋問をもっとふやすとか、いろいろそういう司法アクセスを一方で配慮しながらやっていくということが重要だと思いますが、最高裁はこの点についてどのような見解を持っていますか。

園尾最高裁判所長官代理者 当事者等の裁判所へのアクセスということに関して配慮をするということも、訴訟手続を検討する上の重要な課題であるというように認識をしております。

 民事訴訟法で管轄の集中ということが実施されたわけですが、そのような管轄の集中ということが実施されましても、司法機関への当事者のアクセスということについて害されるということができるだけなくなるように努力をしていきたいということで、設備の備えとしては電話会議システムあるいはテレビ会議システムというような備えをやっておりますが、やはり最も重要なことは、できるだけ少ない期日で、きちんと争点整理をして、証拠調べに関しても簡にして要を得たというような手続を進めていくということが重要であるという認識を持っておるわけでございます。

 現在、知的財産権部の裁判官では、期日前に双方の準備書面や証拠を十分に期日外で交換し合った上で、一回の期日において集中的に争点を整理する、それから判決に至るまでについてもできるだけ集中的な取り調べをしていくというようなことで、当事者と協議をしながら手続を進めているというように承知をしております。

 今後も、さまざまな運用上の工夫の方法を研究するということによりまして、地方在住者のアクセスに支障ができるだけ生じないような配慮をしていきたいというように考えております。

辻委員 今後の具体的な運用の中で、さらに司法アクセスについても改善の余地を考えていくというお答えをいただいたというふうに認識いたします。

 きょう五点にわたってお伺いしましたけれども、やはりこの法案を意味あらしめるためには、今申し上げた点も含めて、運用でいろいろ努力、改善していっていただくことが必須不可欠だと思いますので、その点を御要請いたしまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

柳本委員長 佐々木秀典君。

佐々木(秀)委員 佐々木です。

 労働審判法についてお伺いをすることになりますが、きょうは、せっかく法務大臣がお見えですけれども、余り法務大臣からのお答えが求められていないようで大変恐縮に存じますので、私の方から冒頭少しお確かめをさせていただきたいと思います。

 申し上げるまでもなく、この労働審判法案につきましても、これは司法改革の一環として策定されたものだと私は心得ております。

 小泉内閣は、聖域なき行政改革を声高に言っておられるわけですけれども、しかし私は、必ずしも、そう言っちゃなんですけれども、小泉内閣のもとでの改革はそう成功している例は少ないのではないかと思っております。その中で、しかしこの司法改革だけは、他に先んじてというか、非常に有効に具体化されて、そしてこういうように、それを具体化するための法案も準備されて、進んでいるわけであります。

 ただ、皮肉なことに、この司法改革の構想というのは、小泉内閣でつくられたものではなくて、その前の前の橋本内閣時代に基本的な構想が練られ、それに基づいて小渕内閣のときに発足をいたしました司法改革の審議会、ここで本当に熱心な御検討があり、そしてそれに基づいて意見書がつくられているわけであります。

 そして、その意見書の中で、さまざまな司法改革、特に、我が国の場合には、国民の司法に対する参加という制度が非常に少ない、他の先進国に比べて少ないということの指摘がございまして、むしろ司法に対する国民の参加が得られる方が、国民のための司法を実現するためには非常に有用なのだ、大切なのだという指摘がなされている。それに基づいて、これからこの委員会で審議をされることになるでありましょう、この司法改革の大きな柱であるいわゆる裁判員制度、これが、刑事事件に直接に有権者である国民の皆さんが参加をするという全く新しい制度として登場することになることが予想されているわけであります。

 あわせて、また、さまざまな紛争について、国民の皆さんのニーズにこたえて、迅速で適正な抜本的な解決を図るために、特に司法の分野でのさまざまな手だてが講じられている。その一環として、個別的な労働紛争の解決も迅速かつ適正に行われるようにという要請があり、これを審議会の方で意見書に取りまとめておるわけであります。

 それを受けて、内閣でも、平成十四年の三月の十九日の閣議決定で、司法制度改革推進計画を立てられております。ここでは、「国民の期待に応える司法制度の構築」ということの中で「労働関係事件への総合的な対応強化」という項目を立てられ、そのためには、労働関係事件に関し、民事調停の特別な類型として、雇用・労使関係に関する専門的な知識経験を有する者の関与する労働調停の導入を図ることとするということと、もう一つは、労働委員会の救済命令に対する司法審査のあり方について検討すべきだという提言がございます。

 この労働委員会の問題については後ほどまた厚生労働省の方にもお伺いをしたいと思っておりますけれども、今の司法的な個別の労働事件についての解決の方策として、それを受けてこの労働審判制度が、まあ、実際の具体的な作業は小泉総理が本部長を務められる司法制度改革推進本部でつくられたわけですけれども、しかし法務大臣、閣僚の一員として、今の、審議会の意見を具体化された閣議決定に基づいてこれを具体化するという、この私の認識については間違いがないかどうか、お確かめをいただきたいと思います。

野沢国務大臣 司法制度改革が、委員御指摘のとおり、橋本内閣当時の提案で、その後、小渕、森、そしてただいまの小泉総理の段階で仕上げ、こういうことで、五年にわたる長期の歳月と各方面の英知をいただいて仕上げに今入っているわけでございます。十本の法律に今まとめておるわけでございますが、私は、この労働審判法案につきましては、大変実はよくまとまった法案だというイメージを持っております。

 私自身、実は、委員も御承知のとおり、昔の国鉄というところにおりまして、労働組合との交渉については大変実は苦労をしてきた経験がございます。そして、あの改革を顧みても、そのことによってさまざまな問題が出た中で、いまだに解決をしないこともまだ残っているということで、時間との勝負ということが労働事案の解決のためには実は非常に重要だということを身にしみて感じておるわけでございます。

 今回のこの提案の中で、とにかく裁判というところまで行く手前で専門的な審判官それから審判員二名、三人寄れば文殊の知恵というのは、私はまさにそのとおりではないかな、非常にいいところをこれはまとめていただいているなということ。それからさらに、三回以内にまとめる、これも先ほどの三人と並んで大変な生活の知恵ではなかろうかなと思います。

 しかも、まとまらないものをそのままだらだらやるということではなくて、まとまらない場合にはもう打ち切っていいんだということが一つございますし、どうしても難しい話は、裁判所の中に設置されているということからして直ちに裁判手続に移行ができる、しかもそれまで議論したことがむだにならないで使えるという点で、私、今回の十本の法案の中でもこれは、みんな立派なんですけれども、非常によく日本の今の現状に適した法案ではないかなと思っておるわけでございます。

 こういう歴史的な改革の仕上げの時期に任命をいただきました者といたしまして、大変実は生きがいを感じておるところでございまして、全力を挙げてこの問題の今後の成立並びに運営に向けて努力をする所存でございます。よろしくお願いします。

佐々木(秀)委員 ぜひ、この制度を本当に役に立ついいものにみんなでしなければならないと私どもも思っているわけです。

 そこで、この司法制度改革の諮問委員会の中ではいろいろな御提言があって、例えば、さっきも漆原委員からもお話が出ましたけれども、労働参審制にも触れているわけですね。例えば、ドイツなどでは労働裁判所という裁判所がある。そして、そこに持ち込まれる事件数というのは二十万件からになるという、大変な数のようですね。それに比べると、日本の場合には、労働訴訟の事件数というのは必ずしも多くない。

 しかし、先ほど漆原委員のお尋ねとお答えにもありましたけれども、個別の労働事件の件数というのは、相談案件としては随分あるんですね。随分あるにもかかわらず、実際に具体的な救済を求めて訴訟、裁判所に持ち込まれるということになると非常に減っちゃうというのは、やはり裁判という制度が非常に使い勝手が悪いとか、あるいは費用の問題があるとか、さまざまな要因があり、それを解消するためにこの労働審判制というのが考えられたことになるんだろうと思います。

 労働参審制については、今後の検討事項ということでさっきもお話がありましたから、この件についてはちょっとはしょりたいと思いますけれども、しかし、いずれにいたしましても、この制度が訴訟そのものではない、先ほどの山崎事務局長のお話だと非訟事件手続という性格を持つのだ、こういうことでしたでしょうか。よろしいですか、それで。――うなずいておられますので、それでいいんだろうと思います。

 しかし、非訟事件手続としても、これは裁判所の中に置かれるわけですね。ですから、準司法的なというか、極めて司法手続に近いものだと私は思う。そして、その結果として、審判されるということになった場合に、それで合意がされるとそれが訴訟上の和解と同じ効力を持つというわけですから、法的拘束力を持つことになるわけですね。そういう意味でも、やはり司法的な救済なんだろうと私は思う。そこに、裁判官である審判官のほかに民間から選任される審判員が加わるわけですから、このことは私は非常に画期的だと思うものの、先ほどもお話しのように、それだけに、この審判員に人を得るということは非常に大事なことになるだろうと思うんですね。

 先ほどのお話だと、まず地裁の本庁に委員会をつくるということですけれども、例えば東京地方裁判所の場合には個別の労働事件を扱う専門部としてたしか三カ部現在あると思うんですが、この制度ができるとすると利用者も相当多いということを考えると、例えば東京地方裁判所の本庁に、一カ部というのではない、一委員会ということになるんですかね、委員会だけというのではちょっと少な過ぎるんじゃないかと思うんですけれども、複数設置ということは考えられているんでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 この労働審判の委員会というのは、一つの事件ごとに一つ構成するということでございますので、事件の数だけ委員会が構成されるということになります。これについて、東京地裁でいいますれば、今の検討状況によりますと、労働の専門部の裁判官が審判官になって、それで一事件に構成される一つの委員会を合議をしながら指揮していくというようなことになっていくというように考えておるところでございます。

佐々木(秀)委員 ちょっとイメージが、一事件ごとにというのがわからないんですけれども。

 そうすると、例えばあらかじめ、今の三カ部、労働事件のための箇部が置かれているように、東京地方裁判所の中に労働審判第一委員会、第二委員会、第三委員会というようにつくるのではないんですか。申し立てがあったときにその都度三人の構成による委員会ができていくということになるとすると、同時にしかし十件とか二十件とか申し立てがあった場合にはどういうことになるんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 まだ発足をしておりませんのでイメージがわきにくいという点もあるわけですが、調停事件に関していいますと、三人の調停委員会を構成する、それが一つの調停委員会となって事件ごとに何百あるいは何千という形で構成されるということになりますが、それと同じ仕組みだというように考えていっております。

 したがいまして、一人の裁判官はかなり多数の委員会について関与をしていくということになりますし、審判員につきましては、一事件について関与していく、恐らくそれが終わってからまた次の事件に関与していくというようなことで手続が進んでいくのであろうというように考えておるところでございます。

佐々木(秀)委員 そうなってきますと、民間人である審判員も、これは相当考えなければ、どうやって調達できるのかなとちょっと心配になるんですね。お話しのように、例えば、法案の十条によると、審判員の方も事件ごとに任命をするということになるわけでしょう。そうすると、あらかじめ審判員名簿なんというのがあって、プールしてそこからということにはならないわけですね。

 そうすると、さっき言った、審判員の研修も大事ですというお話があったんだけれども、研修なんというのは一体どこでやるんですか。事件が来て、その事件についてあなたがこれに審判員として関与するんですよという任命をする。しかし、片っ方では、当事者は早い解決を求めているから早く審判手続を始めてくれ、三回でやっちゃおうというんですからね。そうしたら、その間に研修をなんといったって、マニュアルがどの程度できているのかわからないけれども、そんなことをやったら間に合わないんじゃないですか、これは。その辺、どういうふうに考えているんですか。

園尾最高裁判所長官代理者 その点につきましては、これは迅速に立ち上げさせるという必要がありますので、あらかじめ審判員を任命しておく。この任命行為というのは、名簿をつくって候補者として任命しておくということでございます。その任命の名簿の中から、事件が来ますと直ちに選任をしていくというような手続を考えておるところでございます。

佐々木(秀)委員 そうでもしないと、それは具体的な対応ができないと思うんですよね。

 ということは、あらかじめその名簿に登載された人々については、マニュアルに従った研修などということを具体的な事件を担当する前に研修してもらうということは可能だというように考えていいですか。それならよろしいと思います。

 いずれにしても、しかし、初めてやることですから、いろいろやってみなきゃ、こんなことがあったのかなんということも出てくるかもしれない。ですから、ここのあたりは、やはり大胆に手続を直していくというようなことも考えていかなきゃいけないでしょうね。要は、せっかくつくっても、それが機能しなければ何にもならないわけですからね。いろいろな心配はやはりあると思うんです。しかし、時間がありません。同僚の委員もまた質問を予定されていますから、その辺はお譲りをしたいと思います。

 それで、せっかく厚生労働省も来ておられますから、実は、先ほど御紹介もいたしましたけれども、閣議の推進計画の方でも労働委員会のことにも触れているわけですね。これもよく言われることですけれども、労働委員会は、地方労働委員会の上に中央労働委員会がある。ところが、裁判とは違うとはいいながら、準司法的な手続もやっているんですね。個別事件の解決は本来ではないとはいいながら、不当労働関係の申し立てに絡んで個別的な救済を求めるような事案というのもある。私も弁護士時代には実際に代理人でやっているんですけれども。

 ところが、その労働委員会での結論に納得がいかないということで、それが当事者の一方から今度は訴訟の方に持ち込まれると、その訴訟で委員会の決定がひっくり返る、逆になるという結論があるわけですね。近くは、それこそ法務大臣が関係されていた国鉄の関係で、いわゆる国鉄労働組合、今でもあるわけですけれども、国労の人たちがJRを相手にした不当労働行為の申し立て、救済申し立てで、地方労働委員会、中央労働委員会、いずれもその申し立てを認めて救済命令が出たと思うんですが、それが訴訟ではひっくり返って、最高裁までやったわけですね。

 そういうことで、労働関係は五審制になっているんじゃないかということもよく言われるわけですけれども、この五審制について、今度の労働審判制度というのが影響するのかどうか。あるいは、お聞きをするところによりますと、三月五日に閣議決定がされて、労働組合法の改正、労働委員会の機能なんかについても改正が行われるということなんですけれども、この辺について、厚生労働省、どうですか。

大石政府参考人 お答え申し上げます。

 いわゆる労働委員会の決定に対しまして、あるいは命令に対しまして、これを不服として行政訴訟になるということにつきましては、今度の労働審判制度におきましても、この点については基本的仕組みは変わらない。ですから、最悪の場合、地労委そして中労委、その中労委の命令に対する行政訴訟ということで、最終的にまた地裁、高裁というふうに進んでいくということがあり得るという点におきましては変わらないわけでございます。現実問題としてそこまで行くケースというのは非常に少ないわけでございますけれども、ただ、制度としては御指摘のとおりでございます。

 また、労働委員会につきましては、不当労働行為事件の審査につきまして、やはりかなり遅延ということが指摘されております。それを受けまして、今回、今国会に現在法案を提出させていただいております。この中身を簡単に敷衍させていただきますと、特に、今御指摘のありました行政訴訟との関係で申し上げますと、労働委員会におきまして、今まで労働委員会の場で出されなかった証拠というものが行政訴訟になって新たに出てくる、こういうケースが結構あったわけですけれども、今度の法案におきましては、労働委員会が公益委員の合議によって物件の提出等を命ずることができる、証拠とか証人とかですけれども、命ずることができることとし、命ぜられても提出されなかった物件につきましては取り消し訴訟における証拠の提出を制限する、こういったような規定も設けておりまして、その他の事項とあわせまして労働委員会の審査を促進してまいりたいというふうに思っておりますので、そちらの方もまたどうぞよろしくお願い申し上げたいと思います。

佐々木(秀)委員 今お話しのような労組法の改正がこの国会でなされようとしていて、その審査の手続も改善されそうなんだけれども、しかし、何といっても、労働委員会の機能も、こういう労働事案の、紛争事案の解決に資するためにということとすれば、準司法的な手続も実際には行われているわけですね、証拠調べなんかも、証人なんかも調べられているわけですから。もう少し突っ込んで、例えば、証拠法則なんかについてももう少しはっきりさせるとか、そういうような改善、改正があってもいいのではないかと思われるわけです。

 それで、司法制度改革審議会の意見書でも、労働委員会の機能についても改正を促しているわけですから、その辺も、関係者のお話なんかも十分に聞きながら、厚生労働省としてももう少しお考えになった方がいいのではないだろうか。せっかくあるわけですから、ADRとして。これが、本当に解決のためにやはり役に立つものでなければいけないだろうというような思いがあるものですから、そういうことを申し上げました。

 時間が参りましたけれども、それと先ほど本庁だけでなくて支部にもというお話もありましたけれども、私も、やはりその辺は、人的な問題もあるにはしても、裁判官の配置の問題があるにしても、できるだけ支部にも、例えば、東京地裁の八王子支部なんというのは本庁と同じぐらい事件もあって、ニーズもあるわけですから、そういうところは、まあまあ人とお金の問題はありますけれども、できるだけやはり使い勝手がいいようにしていく必要があるんじゃないかと思いますので、この辺もぜひ御討議をいただきたいと思います。

 時間が参りましたので終わります。ありがとうございました。

柳本委員長 加藤公一君。

加藤(公)委員 民主党の加藤公一でございます。

 ちょっと二年ぶりぐらいになりますでしょうか、法務委員会でまた質問をさせていただきます。よろしくお願いします。御支援をいただきまして、ありがとうございます。

 きょうは、時間がコンパクトですので、とっとと行きたいと思いますが、労働審判法案について伺いたいと思います。

 仮にこの法案が成立をしたといたしまして、その後、法の施行までにきちんと準備が整うかどうかということ、それと、本当に使いやすい制度だということが広く知れ渡るかどうか、認知されるかどうか、こうしたところが非常に重要なポイントなんではないかと思っておりまして、それをきょうは確認させていただくという趣旨で質問をさせていただきます。

 まず初めに、仮にこの労働審判制度ができたときに、では果たしてどの程度利用されるんであろうか、どれぐらいの申し立ての見込みがあるんだろうかということを推進本部に伺いたいと思います。

山崎政府参考人 数字でぴたっとこれだけと言うのはなかなか難しいんですけれども、先ほど来の質疑の中で出ておりましたけれども、個別労働紛争に関しまして都道府県労働局、ここで行っております、相談はちょっと別といたしまして、あっせんの事件、これが三千件ちょっとあると思います。その中で、きちっと終わったものもありますけれども、結局打ち切りになったというものが約千四百ぐらいあるんだろうと思います。それがまず一つの予備軍だろうと思います。これが全部来るかどうかは、またこれは別問題でございますけれども。

 それともう一つ、大きな数字といたしまして、裁判所の労働関係の通常民事事件でございます。これが平成十四年で新受が二千三百件でございます。これも全部この手続に来るかどうかというのはまた別問題でございまして、相当大きなもの、複雑なものにつきましてはもう最初から訴訟でやろうというふうに思いますので、このうちのある部分が来るだろうということでございます。

 それともう一つは、仮処分命令事件でございます。これにつきましては、仮処分でそのまま決着をするものもありますし、それからまた本訴に移行していくもの、両方ございます。ですから、全部ではございませんけれども、この中の一部も利用されていくだろうというふうに思います。

 それから、数字は明らかではございませんけれども、現在、労働関係のものといたしまして、通常の民事調停で行われているものもあるということでございます。そういうものについてもこちらの利用が見込まれるということになりますので、これは何万件というふうにはいきませんけれども、今その数字を合わせると大体数千件という単位になるのかなと。

 ただ、これはやってみないとわからないところもございます。それから、これが有効に機能するということであれば、もっともっと潜在的なニーズが掘り起こされてくる可能性もある、こういう認識をしております。

加藤(公)委員 実際に使いやすい制度だということが認知をされれば、その申し立ての件数自体がふえるというのは私もそのとおりだと思いますので、スタート段階の数千件程度を見込んだとしても、場合によってはそれがもう少しふえていくかもしれないというのはおっしゃるとおりだろうと思います。

 仮に、今お話をいただいたような申し立て件数を見込んだ場合に、では審判官の方そして審判員の方というのはどの程度の人数が用意をされていればこれが滞りなく処理をされるとお考えでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 事件数に関してはまだ不確定な要素が大変多いわけでございますが、私どもも相当件数の申し立てがあるだろうということを考えております。そういたしますと、一事件について労働審判員を二人ずつ任命していかなければいけないということになります。ただ、三回の期日で終えるという極めて迅速な手続でございまして、その手続が終われば、意欲のある方についてはまた次の事件をおやりいただくというようなことにもなります。そういうようなかれこれを考えますと、五十の地方裁判所において行われるという手続であることも考えますと、少なくとも全国で千人規模の労働審判員を確保していかなければいけないということになっておるわけでして、これは大変重い数字であるというように認識をしております。

加藤(公)委員 質問しておいて私が驚いている場合じゃないんですが、千人の審判員の方を、今後、仮に法律が成立をしたとして、施行までの二年間で用意をされる、実際になっていただいて、しかも教育をし、研修をするというのは、これは大変な作業だろうというふうに思うんです。

 時間の関係がありますので二つまとめて伺いますが、まず一つは、大変な数の審判員の方をどうやって選んでこられるのか。実際に、例えば資格要件が何かあるのかとか、あるいはどんなレベルの知識経験があればいいのかとか、その辺をまずお聞かせいただきたいということ。それから、千人という規模になりますと、なかなか容易なことじゃないと思いますので、その見通しがあるのかどうか。

 それと、もう一方で、審判官の方についても、要するに、裁判官の方の仕事がそれだけふえるわけですから、今の人員で本当にそれが十分に機能することができるのかどうか。

 この二つ、あわせて伺いたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 いずれも大変重要な点に関する御質問ですが、まず選任につきましては、これは人数が大変多い、それからレベルの高い者を確保していかなければいけないという二つの大きな要請を賄うために、現在、さまざまな方々に御意見を伺っておるというところでございます。これは、労働界の事情に通じた方、あるいは労働関係に関する経営に通じた方、そのようなさまざまな方々に御意見を伺っておるところでございまして、最終的には、裁判所といたしましては、何らかの仕組みで推薦をいただくということをしないとこれだけの膨大な人員の選任はできないわけですが、そのような仕組みも含めまして今検討中というところでございますので、いま少し検討を継続していきたいというように考えておるところでございます。

 この見通しがどうなんだというところに関してでございますが、大変困難な作業ではありますが、一つ明るい見通しがあります。それは、今まで御意見を伺ったところによりましても、労働界あるいは経営の堪能な方、そのような方々とも、この手続はよい手続であるという認識を持っていただく方が大変多いということでございます。ですから、何とか骨を折ってやろうというようなことを言ってくださる方も多々確保できておるというような状況でございますので、さらに知恵をかりながら研究をしていけば、このような困難な作業も法律の施行日までに何とかやり遂げられるのではないかというように考えておるというところでございます。

 労働審判官につきましては、これはかなりの事件を同時に並行して進めていくというだけの専門的な知識経験のある裁判官が、これが現在労働事件を処理しておりますので、この裁判官とよく協議をしてやっていきたいというように考えておりますが、これにつきましては、複数同時に処理をしていくということに堪能な裁判官が多数いるというところから、この事件に十分なだけの労働審判官の確保ということはできるであろうというように考えております。

加藤(公)委員 過去、労働裁判に携わってこられた裁判官の方がいらっしゃって、その方々がこの審判官になられるということで、お一人で幾つもの審判をこなせるんじゃないかというのは、それはプロでいらっしゃるし、優秀な方々ですから大丈夫なんだろうと思いますが、そうはいっても、今、労働裁判を専門にやっていらっしゃる方が日本全国、五十の地裁にそれぞれいらっしゃるわけではないと思いますので、ちょっとこれは突っ込んで伺いますけれども、現状でいうと、要するに、東京地裁なんかはいいのかもしれませんが、そうでない地方の裁判所において、本当にその審判官の方が、今言ったような経験のある審判官の方が確保できるのかどうか。ちょっとこれはお知らせはしていませんけれども、確認をさせてください。

園尾最高裁判所長官代理者 私どもの経験といたしまして、事件が大変多いのは大きな規模の裁判所である、それから地方の裁判所ではそれなりに事件が少ないというような分布になっておりますので、その結果も勘案しますと、必要な裁判官、これは現在労働事件を担当しておる裁判官ですが、その裁判官にこの事件を処理してもらうということが可能であると考えておるところでございます。

 東京地裁でいいますと、現在、専門部三カ部に裁判官が十四名おります。その十四名の裁判官でこの非訟手続を担当していくということになりますと、相当件数処理できる。それから、地方に関しましては、人数が大変少ないわけで、他の事件も処理をしておるわけでございますけれども、それなりに少ない件数ですので、専門的な処理の仕方を大きな裁判所から学びながらやっていくということで手続を進めていけるというような見通しを持っておるところでございます。

加藤(公)委員 若干不安が残らないわけではないのですが、要は地方で、例えば本当に小さな企業にお勤めの方とか、そうした方が、例えば給料の未払いだとか理不尽な解雇だとかいう目に遭ったときに、多分今だと、本当に訴訟だ何だというところまで行かずに泣き寝入りになっちゃっているケースが多いんじゃないかと思うわけですよ。そうした方々が、せっかくできた制度を使おう、それで筋を通そうと思われたときにきちんと対応していただければいいな、これはお願いだけ申し上げておきます。

 次に行きますが、先ほどのお話で、審判員の方が千人規模だというお話がありました。その千人規模というのは、一度選任したからといってそれが未来永劫ずっとその方々がやっていただけるわけじゃありませんから、ある一定のスピードで入れかわったり、あるいは先ほども申し上げましたとおり、徐々に知れ渡って申し立ての件数がふえてくれば、それに合わせて審判員の方の数もまたふやさなきゃいけないということにも当然なるわけでありまして、その方々が幾ら、例えば経済界や労働界で活躍をされていて知識経験をお持ちだとはいっても、この労働審判という新しい制度で審判員として判断を下すということになると、これは単に、例えば経済界の方が使用者側の意見を代弁するとか労働者側の意見を代弁するということではなくて、皆さんが公平中立な立場でということに今回なるわけですから、やはりある程度充実した教育ないしは研修というものをしていただいた上でないとうまく回らないんではないかと思うわけです。

 さっきの千人規模ということになると、この教育研修の部分というのは、相当なエネルギーが必要で、大変なボリュームですから相当なエネルギーが必要だと思うんですが、どういう研修をどんなレベルでお考えなのか。千人規模ということになりますと相当な予算も必要になるんじゃないかと思うんですが、ぜひその点、今のお考えを伺いたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 研修につきましても、これは専門的な知識経験は持っておられる方でございますけれども、裁判に関与されるというために、ただいま御指摘のような公正さだとか、あるいは裁判所の手続、法的な問題点、そういうようなところについての一応の基礎的知識を持つという必要がございますので、私どもとしましても、それぞれの裁判所に依頼をしまして、十分な研修ができるような体制をとりたいというように思っております。

 人数が大変多いものですから、それぞれの裁判所で研修を実施していただくということで、その実施の仕方について、最高裁判所の方で、大きな裁判所からの情報を得ながら、各裁判所の研究、それから指導に遺漏がないようにしていきたいというふうに考えておるわけですが、施行までの間にはこのような体制も整えていきたいというような、現在はそういう検討をしておるところでございます。

加藤(公)委員 済みません、ちょっとわからなかったところがあるので突っ込んで伺いますけれども、これは、その千人規模の方というのは、それぞれの地裁で選ばれるのですよね、そうですよね。そうすると、五十の地裁なら、それぞれで選ばれて、そこで研修もされるということになるということだとすると、その五十カ所の研修あるいは教育のばらつきが出るという心配はないのかということ、ここが本当に大丈夫かということをちょっとお答えいただけませんか。

園尾最高裁判所長官代理者 例えば、調停委員、それから専門委員などにつきましての仕組みといたしましては、最高裁判所で候補者名簿という段階での任命をいたします。ただ、それぞれの裁判所に勤務するという形で任命をするということで、任命は統一的に最高裁判所で一定の基準以上の方というようなことでやっていきたいというように考えております。

 そういうことで、任命についてばらつきがないような配慮をしていきたいというように考えておるわけでございますが、具体的な研修の内容、あるいは研究会を実施する、その内容につきましてはそれぞれの裁判所でお願いするわけで、これは、それぞれの裁判所のこの事件の担当者に、例えば最高裁判所に集まっていただいて協議会を実施して研修の方法について検討をするだとか、あるいは資料をお送りして検討してもらう、そういうようなさまざまなやりとりを通じて、均一な研修が実施できるというような体制を整えてまいりたいというように思っております。

加藤(公)委員 これは制度を利用される方も、それから審判員になられる方に対しても、ぜひ不安のないように充実したものをお願いしたいと思いますので、そこだけ申し上げておきます。

 次に、最初に申し上げた今回の確認をしたいポイントの一つで、きちんとこれが使いやすい制度だということが広く認知をされなければならないんじゃないかということを申し上げましたが、その意味では、この労働審判制度というのが仮にできたとしたら、その制度をPRしていく、広報していくということが非常に重要になると思うんですが、これは今どんな方法で国民の皆さんにお知らせをする予定でいらっしゃるのか、そこを伺いたいと思います。

山崎政府参考人 私どもといたしましては、この手続の非常にわかりやすい解説等を、あるいはパンフをつくったり、そういう形で、これは労働界の方あるいは使用者側の方、そういうところにもお配りして、まず理解をしてもらうということが一番大切かなと思います。それからまた、この手続を行った場合の利点とか、そういう点についても積極的にPRをして使っていただけるようにする、これが一番肝要かなと思います。

 また、裁判所の方といたしましては、先ほど来ございますけれども、審判員の研修、これを通じてどんどん意識改革をしていく、こういうことによる周知と両方あるかと思います。それぞれの立場で頑張っていきたいというふうに思っております。

加藤(公)委員 知れ渡らない限り、幾らいい制度をつくっても意味がないので、それはよろしくお願いしたいと思うんです。

 もう一つは、新しい制度ができたときに、私個人の感覚からいうと、例えば弁護士さんにお願いをしなくても自分でも最低限何とかできるなと思えるくらいの方が本当はいいと思っているんですが、現実には、恐らくある程度の割合で弁護士さんのサポートというのも必要になると思いますので、日弁連なども通じた広報といいますか、PRというのもきっとなさるんだろうと思いますけれども、そこもまたお願いをしておきたいと思います。

 それともう一つ、浅学ではありますが、私の知る限りで、ドイツの労働裁判において非常に簡便な申し立て書というのが使われているようで、私もその日本語訳版というのを拝見したことがあるんですが、さすがにそこまで、簡単なフォーマット化をしてこの制度をスタートするということは、それは難しいだろうとは思いますけれども、そうはいっても、この制度が本当に使いやすいかどうかというときに、やはりこんな難しいことは自分はできないなと思われたら元も子もないわけですから、その申し立てのところというのはスムーズにいけるように、できるだけ簡便な申し立て書の、例えばフォーマットをつくるとか、あるいは書式を統一するとか、何か工夫をしていただいて、それを含めてPRをしていただくということが有効じゃないかと思うんですけれども、ちょっとそこのお考えを伺いたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 労働審判は、これは証拠に基づいて裁判をするという手続でございますので、申し立て書にどのような配慮をして記載をしなければいけないかというポイントがございます。そういうような点について、きちんと周知ができるような体制を裁判所としてもやっていかないと審理に支障が生じるというわけでございます。

 現在、例えば簡易裁判所におきまして、定型的な紛争類型である未払い賃料支払い請求訴訟あるいは解雇予告手当の支払い請求訴訟について定型訴状を作成しておりまして、利用者の便宜を図っておるところでございます。

 労働審判制度の場合には、これらの事件よりは定型化が難しいようなレベルの高い事件というのも十分予想されるわけですが、このようなことを参考にしながら、この手続の勘どころが何であるかということを裁判所の方からも申立人に知らせるというような配慮をしていきたいというように計画をしておるところでございます。

加藤(公)委員 本当に弱い立場に置かれたときにこの制度が役に立たなきゃ意味がないわけでありますから、そこは今のお話でスタートされるんでしょうけれども、ぜひよろしくお願いしたいと思います。

 時間になりましたので、最後に一点だけちょっと確認をさせていただきたいんですが、この労働審判制度ができてこれでもうすべてオーケーということではなくて、ぜひ今後、継続的に、労働参審制への移行なども検討していただきたいなと個人的には思ってございまして、その御意思についてちょっと確認をさせてください。

山崎政府参考人 労働参審制につきましては、私どもの検討会でも議論をいたしました。最終的には両論ありまして、現段階では一致した意見に至らないということで今回のような形になったわけでございますが、これを運営していってどういうような状況になるか、あるいは労働の紛争が今後どういうような流れになっていくか、こういうことを見ながら、また将来的に検討をしていくということでございます。

 ただ、これは労働の事件だけではなくて、専門家を裁判にどのように登用していくかという大きな制度の問題に絡むわけでございますので、例えば審議になっております知的財産の関係でも、調査官あるいは専門委員を利用してやっていくという考えがあるわけでございますが、そういう形でやっていくのか、あるいは専門家が中に入ってやるのか、こういう大きな分かれ道にもなるわけでございますので、将来の裁判制度のあり方を含めまして考えていきたいということでございます。

加藤(公)委員 ありがとうございました。終わります。

柳本委員長 小林千代美さん。

小林(千)委員 民主党の小林千代美です。

 引き続きまして、労働審判法律案について御質問をさせていただきたいと思います。

 私も自分の経験に照らし合わせてこの法律案のことを考えていたんですけれども、実は私、議員になる前は中小企業の営業マンで働いておりました。北海道にある地場の年商二百五十億ぐらいの小さな会社なんですけれども、その中で営業マンとして働いてきたわけなんです。

 御多分に漏れず、今のこの経済社会情勢ですからなかなか実績も伸びないという中で、私の労働条件、賃金も切り下げられてずっと働いてまいりました。また、会社も経営の合理化ということで、不採算部門は切り捨てなければいけないということから、どんどんとどんどんと不採算部門の切り捨てと同時に人減らしというものもしてきたんです。そういう中で同僚も解雇をされていきました。

 幸いなことに大きな紛争になることはなかったわけなんですけれども、私が言うまでもなく、世の中にはもっともっと厳しい環境で働いている方々、あるいは厳しい環境の中で経営者として働かなければならない方々、あるいはやむなく首を切られている方というものがたくさん今のこの社会情勢の中ではいると思います。

 そんな中で、先ほどお話がありましたとおりに、実際にこの制度がどのぐらい利用されるかの中で、あっせん手続終了したものが年間で三千件ぐらいだというふうに山崎事務局長から先ほど御回答いただいたわけなんですけれども、私は、潜在的にはもっともっとニーズはあるのではないか、逆に、こういった今泣き寝入りをしている人たちが救済されるための制度にしていかなければいけないというふうに思っているところでございますし、そのために、ぜひこの法案が意義のある制度、より実効性を持つ法律案にするために私は仕上げていく必要があるのではないかなというふうに今思っているところでございます。

 そんな中で、二、三、具体的なことについてお伺いをしていきたいと思います。

 この労働審判制の導入に当たり、審判員といういわば法律のプロではないけれども労使の専門的知識を持った方がその合議体の中に一緒に入るということは、今回の司法制度改革の中でも大変大きな意義を持っていると思います。

 この審判員となる方々、先ほどの御説明の中では、これから二年間の中で何らかの仕組みをつくっていって、労使からの推薦により出てくるような仕組みづくりをされるということを御回答いただきましたけれども、こういって推薦を受けて審判員となられた方々がどういった立場で合議体の中で合議を形成していくのか、それは労側からの代表者として、使側からの代表者としてという立場で合議をするのか、それとも全くそれぞれが公正中立な立場で専門知識を生かして合議を形成するのか、最初、まずそれを確認させていただきたいと思います。

山崎政府参考人 審判員の方について、それは出身母体いろいろあろうかと思います。そういう出身母体はございますけれども、それはそれぞれの立場から労働紛争についてよく経験をして、慣行等その実情等をよくわかっているということでございます。

 そういう知識を中に投影していただきたいということでございますけれども、先ほどちょっと申し上げましたけれども、利益代表ではないということでございまして、この法案でも定めておりますけれども、中立かつ公正な立場において審判を行わなければならないとしているわけでございますので、そこは、いろいろ立場もございましょうけれども、やはり中立的、公正にこの事件を見たときにどうなるかということで判断をお願いするということでございます。

小林(千)委員 御返答いただきまして安心をいたしました。

 そして、もう一点なんですけれども、この審判員となられる方についてちょっとお伺いをしたいと思います。

 今、各都道府県の労働局の労働相談窓口に一年間で寄せられている件数というのが、トータルとして平成十四年度は六十二万五千件余りというふうに伺いました。もちろん、電話でちょっと相談というだけの方もいらっしゃるでしょうし、そこを窓口としてもっと実際に深く相談に乗ってほしいといういろいろな方がこの中には含まれていると思いますが、この中で、厚生労働省の方に伺ったんですけれども、この六十二万五千人の内訳、男女別なんですけれども、大体男性六割、女性四割というふうな答えをいただいております。もちろん、電話で答えただけの方もいらっしゃいますから正式な統計ではないと伺っているんですけれども、この比率は今の労働者の男女の割合から見てもまあまあ妥当なところなのかなというような気がしています。

 そうすると、この労働審判制度、始まってみたら、実際に申し立てをする方の割合というのもこれと大体同じぐらいの割合でいくのではないかと私は推察するんです、男性六割、女性四割という。

 特に女性の方々の今の労働環境、依然として男女別賃金がまかり通っている、出産あるいは結婚を契機に退職を迫られるというようなこともあります。また、セクシャルハラスメントなどの労働環境の問題もありますし、首切りといったところが、切り捨てやすい人からということで、パートやアルバイトあるいは派遣労働者の方々がそういった調整弁になっている。実際にはそこに多くの女性の方々が携わっているという現状もありますので、ぜひ私は、この審判員の方々、六対四の割合で男性と女性といたっていいと思うんですけれども、こういった審判員の選任に対して女性が一定の比率を占めるような配慮はされるべきだと思うんですけれども、この点についてどのようにお考えでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 平等で民主的な社会を構築していくという上で、社会のさまざまな分野でジェンダーバランスといいますか、男女の実質的平等を図るための努力をしていくということは、大変重要であるというように考えておるところでございます。

 私どもが実情を最も承知しておる裁判官、これがなります労働審判官について言いますと、これは裁判官全体の男女比率に準じた男女比率で労働審判官も選ばれていくということになります。この男女比率は近年大幅に毎年増加しておるということでございますので、この労働審判官が女性であるという割合も年を経るに従ってさらに高まっていくということは期待できるわけでございます。

 問題は、労働審判員についてでございますが、これは、全国津々浦々で専門的な知識経験を持っておる労働審判員が男性あるいは女性であるのか、そういう知識が十分に裁判所にはないわけでございますのでこの公平な推薦を得るという体制をつくるわけでございますけれども、その中で、どのような割合で専門的な知識経験を得ておる労働審判員について女性が推薦されてくるか、これを見ていかなければいけないという問題がございます。

 この点につきましては、労働関係に関する専門的な知識経験を有する女性の比率が高まっていくということになりますと、裁判官の場合と同じように自然とその比率が高まっていくというように思うわけですが、現在のところ、裁判所から一方的にこの比率というようなことを指摘できるような状況でもございませんので、これは、制度が立ち上がったときに、ただいまの御指摘のような観点からもなお研究をしていきたいというように思っておるところでございます。

    〔委員長退席、下村委員長代理着席〕

小林(千)委員 司法制度改革の中で、法曹関係者の女性の参画する割合というのもふえているそうでございますから、ぜひこれを、同じ視点を審判員の方にもぜひ取り込んでいただきたいとお願いを申し上げます。

 続いて、この審判にかかる期日についてお伺いをしたいんですけれども、事がこれ、例えば解雇ですとか賃金ですとか、いわば生活に直結をしてくる問題ですから、当事者としてみれば、これは一日でも早く解決をしてもらわないと食うや食わずの生活になってしまうわけでございます。

 大体、この労働審判制度、三回の期日で審判を出すということになっているそうですけれども、この期日がどのぐらいの間隔をもって開かれるものなのか、あるいは一回目の審理に至るまでの準備手続というのももちろん必要になると思いますけれども、その申し立てのときから最終の決着がつくまで大体どのぐらい、もちろん事件によって長い短いはあると思いますけれども、どのぐらいを予想して考えているでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 これは、実際には、事件が起こりまして、各、審判官それから審判員との合議によって手続の進行を決めていくということで決まっていくわけですが、そういう意味で現在の予測ということになる点をお許しいただきたいわけですが、現在の訴訟手続の進行に関しましては、およそ一カ月強に一度期日を持つというようなことで訴訟関係者はこれはなれ親しんでおるところだろうと思います。

 そういう意味では、そのような手続でもって期日を運営していくということに関しましては、これは一つの標準的な形ということは言えようかと思うわけですが、しかし、事件によって、もっと急ぐ、あるいは、証拠に基づく裁判であるという関係から、証拠を集めて出すという点でこれだけの期間が必要だというような個別の事情もございます。

 そういう意味で、標準的なものにつきましては、今のように三回であればおよそ一カ月強に一回ずつ開くというような標準的なものは考えられるわけですけれども、ただ、それで果たして現実に申し立てられてくる事件がそのようなスピードに乗ってくるものなのかどうか、これについても鋭意検討をしていかなければいけない。むしろ、これは、施行後に本格的に検討していかなければいけないという問題ですので、我々のいわば考え方についてかなり大きな変革を迫られるという問題とあわせて研究をしていかなければいけないというように思っておるところでございます。

小林(千)委員 なれ親しんだ一カ月に一回ということですと、今の裁判制度と何も変わらないわけでございまして、今回のそもそもの司法制度改革の理由、テーマというものが、裁判の迅速化というものを当然挙げられていらっしゃる。もともと日本で労働裁判というものが年間三千件、二千何百件という数しか上がってこない理由の一つに、私は、裁判は時間がかかるものだ、歯医者の診療と一緒で次は一カ月後ですからねということであってはならないための司法制度改革なんですね。ぜひ、なれ親しんだ期間ではなくて、大きな変革を、先ほどおっしゃっていただきましたけれども、この制度に導入していただきたいと思います。

 引き続きまして、厚生労働省さんの方にお伺いをしたいと思います。

 厚生労働省さんの行っている例えば窓口対応といったようなものも、今年間に六十五万件のニーズがあるという報告をいただきましたところから、多分今回のこの労働審判制導入をされた後としても、最初のワンストップ、ファーストサービスとして、この各都道府県労働局の窓口というものは、私、これからでも大変大きな役割を持つだろうというふうに思っております。

 その中で、今回の制度導入により、厚労省として窓口対応はどのように変わっていくのか、あるいは、法務省と連携した取り組みというものを厚労省としてどういうふうに行っていくのか、お聞かせください。

井口政府参考人 先生御指摘のとおり、都道府県の労働局の相談窓口におきましては、これまでも民事調停制度等につきましては、リーフレットの配置等を通じまして必要な周知をできる限り図ってきておるところでございます。

 新しく労働審判制度ができますと、先生御指摘のような事態になるんではないかと私どもも想像しているところでございますので、具体的にはこれからの課題ということになりますけれども、今言ったような御趣旨に沿うような形で、できる限り相談窓口等を通じまして、新しい制度の周知につきましても私どもなりに十分努力をしてまいりたい、そんなふうに考えております。

小林(千)委員 ぜひ連携した積極的な取り組みというものを厚労省にもお願いしたいと思います。

 続きまして、実際に成立をしたとしたら、この制度というものが大きな利用促進のための役割を果たさなければいけないのではないかなというふうに思っておりますけれども、今行われている個別労働紛争解決制度というもの、例えば、あっせん制度ですとか調停制度といったようなものが、解決の過程ですとかあるいは経過、その内容というものが余りオープンにされていない、不透明ではないかというふうに私は感じられます。

 例えば、自分が当事者となった場合、自分の個別労働紛争の場合はどのような解決がされるんだろうか。あるいは、こういった前例といったものが公開をされていれば、企業の方、使用者側にとってみても、こういう前例があるからというような判断を下せる一つの判断材料になると私は思うんですけれども、今回のこの制度をわかりやすい形で公開して、さらに利用促進を推進するようにさせるために、例えば簡単な事例集をつくるなどの公開する必要が、利用促進のために大きな役割を果たすのではないかなというふうに思いますけれども、そのようなことはされる予定なんでしょうか、伺います。

園尾最高裁判所長官代理者 この労働審判制度は労使の専門的知識を持っている民間の方が判断者として参加するという大変新しい制度でございます。したがいまして、この制度の運用に対する国民の関心は、施行後はなおさら高まってくるというように考えております。したがいまして、裁判所としましても、これはできるだけ弊害が生じないような形で手続の内容について知らせていくという必要性を感じるであろうということは当然現在から予想されるところでございます。

 例えば、統計的な資料、あるいは、当事者名については記載しないけれども事例として手続の進行について公表していく、そういうような努力は施行後大変活発になされるだろうというふうに思っておりますし、私どもも、その方向で進めていけるということで、情報をできる限り外に出せるというような努力はしていきたいと思っております。

小林(千)委員 私も、この情報公開というものが、逆に、利用促進だけではなくて、一定の労使紛争の抑止力を持つものでもあると思いますので、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

 この労働審判制度を成功させるためには、審判員だけではなくて、審判官も大変大きな役割を果たすと思っております。審判官が労働問題に精通をしている必要は当然あると思いますし、また、新しく、法曹の素人ではあるけれども、こういった労使問題のプロである審判員の方との対等な合議というものをその三人の中で形成をしていけるかどうかですとか、あるいは審判員の持っている専門的な知識をどう引き出せるかということは、審判官の方の大きな役割であると思っております。

 そのためには、今の、裁判官の方が審判官になるというお話でしたけれども、裁判官の意識改革といったものも私は同時に必要であると思いますけれども、審判官制度導入に際しては、現在の裁判官の方への啓発あるいは教育といったものに取り組んでいくのでしょうか、お伺いいたします。

    〔下村委員長代理退席、委員長着席〕

園尾最高裁判所長官代理者 私ども、審判官について考えてみますと、労働事件を担当しておる裁判官が審判官になるということでおおむねの運用が進んでいくと思いますので、専門的な知識経験ということに関しましてはかなりな程度がもう備わっているというふうに考えられるわけですけれども、今回の新しい制度として、二名の民間の専門家が入ってこられるという手続でございますので、特に、今意識改革というように御指摘を受けましたが、コミュニケーション能力を身につけるというようなことだとか、それから、この二名の民間人の方ときちんと討議をして、あるいは吸収するものを吸収していくというような意味で、裁判官の意識改革を図るという点については私自身も大変重要なことだと思っております。

 これまで研修を実施してきまして、むしろ専門的な知識経験ということに関しましては十分な研修をやってきておるというふうに考えるわけですが、新しい審判制度にふさわしい研修ということも今後検討していきたいというように思っております。

小林(千)委員 裁判官の方にコミュニケーション能力がないとなれば、それこそ私は大問題だと思うんですけれども、そのためには必ず意識改革は行ってください、お願いをいたします。

 時間もなくなりましたので、最後に大臣にお伺いをしたいと思うんですけれども、この労働審判制度、私、実はこの週末、地元に帰りまして、実は今度労働審判制度というのに質問することになったんですけれどもというふうに聞いてみましたら、認知度が残念ながら今ほとんどと言っていいほどない。裁判員制度については、多分半分以上ぐらいの方がそろそろわかってきたんだと思いますけれども、この労働審判制度に至っては、まだ残念ながらほとんど知られていないというのが実情ではないかと思います。

 ぜひ、この制度を成功させるために、これからの積極的なPR含めて、十分な予算措置が必要であり、また司法制度改革推進本部はことし十一月に解散をすると伺っておりますけれども、引き続きどこの担当部署が担当されて、実施に向けてのしっかりしたものをつくり上げるかということをお伺いして、決意を最後にお伺いしたいと思います。

野沢国務大臣 先ほども私申し上げましたが、労働審判制度というのは、今度の司法改革制度の中でも大変実はよく考えられた仕組みではないか、大変使いやすくて、またお役に立つ制度である、私が自分で言うのはちょっとおかしいんですけれども、よく考えてあるなというイメージで取り組んでおります。

 ただ、委員御指摘のとおり、認知度、国民の皆様がどれだけこれを知っているかという点では、実は大変その点ではまだ行き渡っていないということで、これから御審議をいただく結果も踏まえまして、政府の広報、新聞、テレビあるいはさまざまな催し等を通しまして、これが具体化していきますように全力を挙げるつもりでございます。

 また、司法改革推進本部が解散いたしましても、法務省が責任を持ってこれは実行に移してまいるつもりでございます。

小林(千)委員 ありがとうございました。質問を終了します。

柳本委員長 松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。ちょっと言いにくい名前で大変恐縮でございます。

 最後になりますが、労働審判法につきまして質問させていただきたいと思います。

 我が党の小林委員の方からも最後に野沢法務大臣の方に質問がありまして、決意もお聞きしましたが、従来は、どちらかというと、労働組合が華やかなりしときには、地労委を中心とした集団的な労働事件というのが非常に多かったわけです。ところが、最近は、どうもそういうような傾向よりは、だんだんと個別労働紛争というのがふえてきている、こういうような背景はあります。

 そうした中で、従来ですと裁判所における労働仮処分、あるいは本訴、こういうようなものがありましたし、またいわゆる個別労働紛争解決促進法というものについては、労働基準局あるいは労働基準監督署あたりで対応していた、最近では地労委も個別の問題について助言をしている、こういうような幾つかの手法がある中で、今回新しくこういう労働審判法というものができたということは、個別紛争がふえているという実情からしても大変重要なことである、こういうふうに認識をしております。

 しかし、どうも法案の中身を見てまいりますと、施行が二年以内だというようなことで、少しのんびりしているんじゃないか。これだけやはり個別紛争がふえて、需要もしっかりあるということですから、ぜひ早急に、スムーズな船出というものが出ていくように、この点はまず大臣の決意をお聞きしたいと思います。

野沢国務大臣 労働審判制度が、個別の労働関係紛争の増加に対応して、迅速、適正な解決を図る新しい制度ということでございますので、十分準備をした上で、円滑に施行されるようにすることが私は大事ではないかと思います。

 団体交渉というような形で、いわば集団対集団といいますか、力比べという時代ではなくて、本当に個人的な、あるいは個別の案件が、まさに人知を尽くして解決されるということが期待されるわけでございます。そのためにも、先ほどからの御議論にございますように、審判官あるいは審判員というような人材を得るということが極めて重要でございますし、また、ある程度家庭的な雰囲気での議論ができまするように、今までの裁判所の構造でいいのかどうか、こういう問題もございまして、円卓であるとか、普通の会議室を活用するとか、いろいろ血の通った仕組みもつくり上げていかなきゃならない。

 そのために多少の準備が要るということで二年以内ということも出てきたかと思いますが、いずれにいたしましても、利用しやすく、信頼を得られる制度、これが円滑に実施されるということが極めて重要でございますので、御指摘の御趣旨を踏まえまして、御一緒に私どもはこの制度を実のあるものにしていきたい、かように考えております。

松野(信)委員 そういう観点からしても、やはり審判官、審判員含めた人的な手当て、これをしっかりしていくことがまさに肝要だ、こういうふうに思うわけです。

 それで、この労働審判法、条文を見ますと、民事調停法を準用している。この審議の中でも、民事調停というのも一応念頭に置いた上で法的な仕組みを考えておられる、こういうことかと思います。

 それで、民事調停との比較をしながら少し議論したいと思いますが、現在のこの民事調停あるいは家庭裁判所で行われている家事調停、これも三人で構成するとなっているわけです。そして、必ず裁判官が一人入るということになっていて、あと残りの二人が民間から選ばれた調停委員で構成する、こういうふうに法律上はなっているんですが、現実の運用、どうなっているかと見ますと、家事調停にしても民事調停にしても、調停自体は民間の二人の調停委員がずっとやりとりして双方の言い分を聞いている、最後になって、調停が成立するかあるいは不成立になるか、この最後のところになって、ようやく裁判官が出てくる、こういうのが現実の実態であります。これは、実務をやっている弁護士であれば大体だれでも知っていることであります。

 せっかくスタートする労働審判が今申し上げたような形になっては絶対によくない、こういうふうに思います。調停の場合は、どうも裁判官の数が少ないとか、こういうような背景もあるのかもしれません。ですから、ふだんの調停自体は二人の民間にもう任せっきり、こういうふうになってしまっているわけですが、この新しい労働審判においてはそういうことがないように、大体もう三回というふうに決まっているわけですから、最初から最後までしっかり、裁判官であるところの労働審判官が責任を持って対応する、こういうふうにぜひしていただきたいと思いますが、この点はいかがでしょうか。

園尾最高裁判所長官代理者 私ども、この手続はこれまでに先例のない全く新しい手続だという認識で研究をしておるところでございます。裁判官とそれから労働審判員とが、三名が対等の立場でその事案の解明をして、最終的に裁判という形で決着をつけるということが目指されている、そういうようなものですので、内容的にも、実質的に三名の協議でもって結論が出されるというようなことを保障するために、裁判官が審理の最初の段階から、審判員に対してわかりやすく事情を説明した上で、三名の意思の相互の食い違いがないような形で配慮していかなければいけないというふうに思っておりますので、御指摘の点につきましては、同じ方向で検討していくという考えでございます。

松野(信)委員 ぜひそういう方向でお願いをしたいと思います。恐らくこの労働審判は件数がふえてくるだろう、こういうふうに予想されますので、最初のうちは裁判官がしっかり入って労働審判官としてやっていくけれども、だんだんだんだんその数がふえていって、とてももう裁判官は手が回らないということで、二人の労働審判員の方にふだんはもう任せっきり、こういうことにならないように、今後ともぜひその点はお願いをしたい、こう思います。

 次に、労働審判員。この労働審判員の点についても、先ほどからいろいろと質問があり、労側、使側から人選をしていく、こういうようなお話でした。しかし、どうもまだ具体的にその人選のところが余り進んでいないな、こういう印象を持たざるを得ないような状況なので、ぜひ早急にこれは適切な人選を進めなきゃならない、こういうふうに思っております。

 それで、具体的な条文で見ますと、九条の第二項のところで、「労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命する。」こういうふうになっています。ただ、これは残念ながら主語がありませんので、だれが任命するのか。形式的にはだれが任命するのか、そして実質的にはだれが任命というような形になるのか。例えば、先ほどからちょっと比較で申し上げている民事調停の場合ですと、形式的にはこれは最高裁判所が任命をしている、しかし、実際はそれぞれの地方裁判所あたりで適当に人選をしていらっしゃるというのがどうも実態かなというふうに思いますので、この点について、やはりこの労働審判法の運用が本当に円滑にいくかどうかの決め手になると思いますので、この点、再度確認をしたいと思います。

園尾最高裁判所長官代理者 労働審判員の任免につきましては、最高裁判所規則で定めるという法律の規定になっておりますので、最高裁判所規則を用意するということになるわけですが、御指摘のような調停委員それから専門委員につきましては、最高裁判所が任命をしてそれぞれの裁判所で勤務をしてもらうという形態をとっております。

 そういうことを参考にしながら、相当数任命しなければいけない労働審判員についても、今のような規則を考えていくというような方向で検討をしておるところでございます。

松野(信)委員 ぜひ、公平性が高い人選、そして透明性の高い人選をお願いしたいと思います。

 実際の調停では、この調停委員、特に民間の方の調停委員に対しては、正直言うといろいろと苦情もあって、例えば、申し立てする側の意見をろくすっぽ聞いてくれない、どうも相手の方にばかり立っているんじゃないかとか、あるいは、証拠関係は全く無視した形で、やれ譲歩しろ譲歩しろ、この調停はのめというような形で押しつけてくるとか、いろいろ不平不満、私自身、弁護士としてそういう経験もしているわけで、やはり優秀な審判員をきちんと選ばなきゃならない、こう思っています。

 それで、法案では、どうも審判員については忌避というような制度は設けられていない、いわゆる除斥という制度だけは民事訴訟法を準用するということで採用しているわけですけれども、実際、今申し上げたように、調停の場ではこの調停委員に対する不満というのも結構あるわけで、途中でもう交代をしてほしい、こういうような声が出てくるのではないだろうか、そういうふうに私は思います。

 そうした中で、除斥という制度しか設けられていない、この点についてはどうだろうかなという気もしておりまして、まあ、忌避というのはなかなか厳しいあれかもしれませんが、場合によっては、みずから交代をする回避というようなことも運用の中で考えられるのではないかと思いますが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 確かに忌避の規定は置いてありません。調停は基本的には話し合いで行っていくということから、忌避のような手続は置かないということでございます。今回の法案に関しましても、基本は話し合いというところにあるわけでございますので、それをベースにいたしまして、忌避の制度は設けておりません。

 ただ、今御指摘のように、どうしても信頼関係が失われてしまうというような場合、これはレアケースだろうと思いますけれども、そういうような場合には、やはり運用上いろいろな工夫をしていただく、交代をするとか、そういうことは柔軟に対応してもらえればというふうに裁判所の方にもお願いをするわけですけれども、ただ、これは余り濫用いたしますと、結局、自分に合う人が出てくるまでそれを言い続けるということにもなりますので、そういう面の慎重な配慮も必要であるというふうに思っております。

松野(信)委員 ありがとうございました。

 次に、管轄の問題について、ちょっと細かいですが、質問をしたいと思います。

 管轄は第二条にありまして、相手方の住所、居所、営業所もしくは事務所の所在地を管轄する裁判所、こういうふうになっているわけであります。最近は労働者の人たちも、遠くに出稼ぎに行ったり、いろいろ場所が変わっていたりというようなこともありますので、余り労働者の人たちが困らないような管轄についての配慮というのをぜひお願いしたいと思っております。営業所もしくは事業所というような記載になっておりますが、できるだけこういうものは広く解釈をしてほしいなと。

 例えば、支店登録をしていないようなところで勤務をしているという方もおられるし、あるいはもう職員が本当に一人、二人というような少数な事業所で働いている人もおられるかもしれない。そういうようなところでも、やはり労働の実態があるということであれば広く事務所と、商業登記にかかわらず、事務所というふうに考えて管轄を認めるべきだというふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この管轄の規定でございますけれども、今御指摘のところにその管轄を設けたという趣旨は、労働者が現に就業し、あるいは最後に就業した場所、こういうところにはいろいろな資料もあるだろうし、話し合いがやりやすいだろうということで認めたわけでございまして、ただいま御指摘のように、小さなところであっても、そういうところに資料等があれば、そこで話し合いを行う、あるいはその裁判をやっていくということは一番便利なわけでございますので、そういうような点で、不都合が起こらないような解釈をしてまいりたいというふうに思っております。

松野(信)委員 さらに、管轄については、例えばずる賢い企業あたりによっては、入社する際あらかじめ誓約書あたりをとって、労使の紛争はもう常に本社所在地の裁判所でやるんだ、こういうような合意管轄を取りつけてしまっているというようなことも考えられるわけです。

 そうすると、その合意管轄が優先して、必ず当該企業の本社でないと裁判できないというようなことになっては、これはいささか不都合だなという気もいたしますので、そういうような場合にも、例えば移送の規定などもありますので、その辺を活用して、余り労働者の方に不都合のないような運用をお願いしたい、こう思いますが、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 合意管轄につきましては、現在でもある問題だろうと思いますけれども、これを無効とする法制は今のところないわけでございますが、それを前提にして私どもの方ではこの法案の三条という規定を置いておりまして、これは、申し立てを受けた裁判所は、事件を処理するために適当と認めるときは、他の管轄裁判所に事件を移送することができるという規定を置いてございます。

 したがいまして、就業していたような場所と全然違うようなところに起こされた、本社に起こされたという場合で、やはり相手方が非常に不都合な場合が生ずるという場合には、この規定を利用していただきまして移送をしてもらう、こういうことを考えているわけでございます。

松野(信)委員 次に、証拠の関係について質問したいと思いますが、今山崎局長の方からお話ありましたように、就業している場所に証拠があるケースが多いということでありました。

 こういう労働紛争、私も弁護士をしておりましてたくさん経験をしておりますが、一般的には、証拠というものは、会社の方、つまり企業の側にあることが大変多いわけで、大体、素人の労働者の方には何にも手元に書類が残っていない、こういうのが実際で、まさに証拠偏在になっているわけです。例えばタイムカードだとか残業の記録、いろいろな仕事をした記録、そういうものは、全部もう会社にあるというようなことであります。ところが、実際の訴訟あたりでそういう証拠を出しなさいと言ってもなかなか出してこないというようなところもあって、大変苦労するわけでございます。

 今回、この労働審判法につきましては、証拠の関係についても、第十七条で、職権あるいは申し立てで必要と認める証拠調べをすることができる、こういうふうになっていますので、ぜひ必要な証拠調べはしていただきたい。

 先ほど来から申し上げている調停では、とかく証拠を無視して、お互いにもう譲歩しなさい、譲歩しなさい、この調停案をのみなさいというふうに、証拠はさておき、あるいは権利関係はさておきというようなところが間々見受けられるものですから、三回という制約がありますけれども、特にこの権利関係についてはしっかり証拠調べをしていただきたい。

 証人尋問を本格的にするとかいうのはなかなか難しいかもしれませんが、例えば文書の取り寄せをする、あるいは証拠を提出させる、こういうようなものはこの三回の期日の中でできるわけですので、そういうこともぜひ実施していただきたいと思っていますけれども、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の点につきましては、この法案の十七条二項に、民事訴訟法の例によるという規定が置かれているわけでございます。これは、そういう方式をもって行うということをうたっているわけでございます。

 こういうような中でいろいろな証拠調べの手続が利用されていくわけでございますが、ただ、これは、民事調停でも同じような規定がございまして、やはり話し合いをベースにしてという点がございますので、強制力をもって行うものについては、事柄の性質上、ここに適用にならないというような解釈も行われております。

 したがいまして、限度はあろうかと思いますけれども、裁判所の運用よろしきを得て、なるべく出せるものを早く出してもらう。これは後でまた訴訟につながるわけでございますから、そこで文書提出命令が行われるということになれば、いずれ出さざるを得ないという問題にもなってくるわけでございますので、そこは運用上の問題として、なるべく多くの証拠が出るような、そういうやり方をしてもらいたいというふうに思っているところでございます。

松野(信)委員 ぜひそういう方向でお願いしたいと思います。

 これはまだ法案が通っておりませんけれども、例えば地労委あたりでは、労働組合法の改正で証拠提出の命令が出せる、こういうふうにも運用がなってくるようでありますので、ぜひよろしくお願いしたいと思います。

 それから、今回のこの法案、そもそも労働紛争ということで、労働契約の存否について紛争が出た場合に取り上げる、こういうふうになっているわけです。ところが、実際は労働契約というふうにうたっていない場合も多いわけで、例えば業務委託契約とか請負契約とか委任契約とかそういうふうな、形式はそういう形式をとっておりながら、実質的には、指揮監督、こういう命令の関係に置かれている、そういう労働関係もあるわけで、形式的な契約文言にこだわらずに、実質的にそういう雇用の関係が認められればこの労働審判で取り上げてこれはしかるべきだというふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この点は、この法案の一条に書かれているわけでございますけれども、労働契約の存否その他労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争でございますので、契約のみならず、その労働関係の民事紛争、こういうものについて取り上げる、こういう構造になっていると思います。

松野(信)委員 時間が参りましたのでもう終わりたいと思いますが、冒頭申し上げたように、この労働審判法に対する期待というものは大変大きなものがあると思っております。

 少し事件は違いますが、民事訴訟法三百六十八条の少額訴訟事件、これは六十万円の訴額について扱っているわけですが、これも調べましたら、平成十年には八千三百四十八件取り扱っていたのが、平成十四年には一万七千百八十一件ということで大変ふえている。要するに、これは一回結審で判決を下すということで、事案によっては、権利関係がもうはっきりしているようなものについてはスピーディーに処理をしてくれ、そういうような要請も大変強い。ですから、こういう少額訴訟も大変ふえていることになると思います。

 今回の労働審判が、権利関係がはっきりしているものについてはスピーディーに解決いきますように、ぜひとも人的、物的な面で運用をよろしくお願いしたい、こういうことを最後に申し上げて、質問を終わります。

 ありがとうございました。

柳本委員長 これにて各案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 まず、内閣提出、知的財産高等裁判所設置法案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 次に、内閣提出、裁判所法等の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 次に、内閣提出、労働審判法案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、下村博文君外二名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。山内おさむ君。

山内委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    労働審判法案に対する附帯決議(案)

  政府並びに最高裁判所は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 労働審判制度の趣旨は、近年の労働関係事件の増加に適切に対応し、専門的知識をいかした迅速・適正な紛争解決の促進にあることを、広く国民に周知徹底し、その利用促進に努めること。

 二 労働審判員の任命手続については、公正性と中立性を確保し、その研修については、必要かつ十分な措置を講じるよう努めること。

 三 労働審判制度の実施状況などを踏まえて、将来、必要があれば、労働裁判に労使関係の専門家が参画する環境整備などの状況を見て、労働参審制の導入の当否について検討すること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。(拍手)

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 下村博文君外二名提出の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。野沢法務大臣。

野沢国務大臣 ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。また、最高裁判所にも本附帯決議の趣旨を伝えたいと存じます。

 以上です。

    ―――――――――――――

柳本委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました各法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

柳本委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後六時十五分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.