衆議院

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第12号 平成16年4月9日(金曜日)

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平成十六年四月九日(金曜日)

    午前十時六分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    佐藤  勉君

      桜井 郁三君    中野  清君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    泉  房穂君

      鎌田さゆり君    河村たかし君

      小宮山洋子君    高井 美穂君

      辻   惠君    寺田  学君

      中井  洽君    西村智奈美君

      松野 信夫君    上田  勇君

      富田 茂之君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局刑事局長            大野市太郎君

   政府参考人       

   (司法制度改革推進本部事務局長)         山崎  潮君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君

   政府参考人       

   (文部科学省大臣官房審議官)           金森 越哉君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月九日

 辞任         補欠選任

  枝野 幸男君     寺田  学君

  加藤 公一君     西村智奈美君

  小林千代美君     高井 美穂君

同日

 辞任         補欠選任

  高井 美穂君     小林千代美君

  寺田  学君     枝野 幸男君

  西村智奈美君     加藤 公一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内閣提出第六七号)

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六八号)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。

 この際、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。野沢法務大臣。

野沢国務大臣 まず初めに、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案について簡単に御説明いたします。

 国民の中から選任された裁判員が裁判官とともに刑事訴訟手続に関与することは、司法に対する国民の理解を増進させ、また、その信頼の向上に資するものと考えられます。そこで、この法律案は、刑事裁判に裁判員が参加する制度を導入するため、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法及び刑事訴訟法の特則その他の必要な事項を定めるものであります。

 法律案の内容につきましては、第一に、合議体の構成並びに裁判官及び裁判員の権限について、第二に、裁判員の選任の手続及び裁判員の解任の手続について、第三に、裁判員の参加する裁判の手続について、第四に、裁判員の参加する刑事裁判における評議及び評決について、第五に、裁判員の保護のための措置について、それぞれ所要の規定を置き、その他所要の規定の整備を行うこととしております。

 続きまして、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について御説明いたします。

 我が国においては、刑事司法がその役割を十全に果たし、国民の期待により一層こたえることができるようにするため、刑事裁判の充実及び迅速化を図ることなど、刑事司法の改革が求められております。そこで、この法律案は、このような状況にかんがみ、刑事訴訟法等の一部について所要の改正を行うものであります。

 法律案の内容につきましては、第一に、公判前整理手続を創設し、検察官による証拠開示を拡充するなど、刑事裁判の充実及び迅速化を図るための方策の整備について、第二に、被疑者に対する国選弁護人の選任制度の導入等国選弁護人制度の整備について、第三に、検察審査会の一定の議決に基づき公訴が提起される制度の導入等について、それぞれ所要の規定を置き、その他所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、両法案の内容であります。

 よろしくお願いいたします。

    ―――――――――――――

柳本委員長 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務省刑事局長樋渡利秋君、文部科学省大臣官房審議官金森越哉君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局大野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小宮山洋子さん。

小宮山(洋)委員 民主党の小宮山洋子でございます。

 国民が主役になる百年に一度の司法制度の大改革、その柱となる裁判員制度、本格的な審議ということでございますが、とにかく審議時間をしっかりとって審議をしていきたい、そのようにまず申し上げたいと思います。

 そして、今回、裁判員制度の法案と刑事訴訟法改正案、一緒に趣旨説明を行われておりますが、私どもも、この裁判員制度と深くかかわる、可視化を含めた取り調べのあり方についての刑事訴訟法の改正案、民主党案を出しておりますので、ぜひ一緒に審議できるような態勢を早くつくっていただきまして、しっかり審議をしていきたいということをまず申し上げておきたいと思います。

 市民が主役になる制度にするためには、やはり国民の理解が深まることがぜひ必要だと思います。もちろん、準備期間で深めていくこともあるかと思いますけれども、今、法案審議をしているところへも国民の関心が大きく集まらなければいけないと思いますが、どのような周知の方法を現在とっていらっしゃるのか、まずそのことを、この取り組む姿勢も含めまして、大臣に伺いたいと思います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、裁判員制度につきましては、制度の施行までに国民の十分な理解と関心を深めることが重要であると考えております。こうした観点から、これまでも新聞、テレビ等を通し、活用するなどして、積極的に裁判員制度の広報に努めてきたところでございます。

 今後も引き続きさまざまな手段を用いての広報啓発活動に努めますとともに、文部科学省とも連携しながら、法及び司法に関する教育のあり方についても検討を進めまして、国民の理解を深めていきたいと考えております。

小宮山(洋)委員 その国民がかかわる裁判員の選び方につきましては、後ほど同僚の山内議員が詳しくお尋ねしますけれども、二点だけ、私の観点からまず伺いたいと思っています。

 一つは、国民の理解を進めるということもかかわりますが、どれぐらいの人が実際にこの裁判員制度にかかわることになるのか、これは、関心を持っている方はどうなるのだろうと思っている点かと思います。その実感が理解を進めることにもつながると思いますので、今考えられている範囲では、どれぐらいの確率と申しますか、国民が選ばれることになるのか。

 そして、あわせて、五十カ所の地方裁判所で行われると聞いております。北海道が四カ所、あと四十七都道府県ということだと思いますが、その中で、特に東京とか大阪など都市部の人が選ばれる確率が高くなるというような仕組みがあるのかどうか、その点もあわせて、ちょっと後ほど参加しやすい仕組みのところで伺いたい点と関連もありますので、お尋ねします。

山崎政府参考人 まず、全体的な人数の関係で申し上げたいというふうに思います。

 これは、事件ごとによっていろいろ事情も異なりますので、正確な数字を言うことはできないわけでございますけれども、仮に裁判員が六名のものを頭に置いて、それから補充裁判員もおられますので、これは全部の事件についてどの程度採用されるかとか、その辺のところはまだわかりませんけれども、これが仮にその半分の三名が選任される、そういう事例を頭に置いて計算をしていくということになりますと、平成十四年のいわゆる対象事件がございますので、それとの関係で、平成十四年の十月一日現在の二十歳から六十九歳までの人口を基礎にして計算した場合で申し上げますけれども、その場合に、選任される方の人数が二万五千数百人ということになりまして、それで、これをどのぐらいの割合でということで計算いたしますと、年間で三千三百五十人に一人の割合、そういう率になるということでございます。

 それから、もう一点お尋ねの、大都市における件数等でございますけれども、これはやはり十四年の実績で申し上げますけれども、東京地方裁判所における対象事件は三百六十五件ということでございます。それから、大阪地裁における対象事件は三百七十一件ということになります。これに、先ほど申し上げました六プラス三ということで考えますと、九を掛けていただければ大体の人員が出てくる。こういうことになるわけでございます。

小宮山(洋)委員 それから、もう一つ私からぜひ伺いたいのは、選ぶときにジェンダーの視点、男女の割合、そこに配慮をしてほしいと考えているのですが、これは選挙人名簿から無作為抽出になりますので、その選ぶ段階でジェンダーの視点というのは難しいかと思いますけれども、裁判所に来てもらった人の中から実際にする人を選ぶわけですね。そのケースで、そこの場面で、そういうジェンダーに配慮というようなことができないのかどうか。

 特にDV、配偶者からの暴力とか、今社会で置かれている女性の立場にかかわりのあるものについては特にそういう配慮が必要かと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この法案では、やはり裁判員候補の方につきましては公平に抽出をしていくということで、ジャンルを設けないという建前でできております。

 したがいまして、もちろん性別の問題もございますけれども、それ以外でも、年齢構成、職業とかさまざまな要素があるわけでございますけれども、そういうものについてジャンルを設けることはまず事実上困難でもございますし、事件ごとにそのジャンルを考えていくということもますます困難になってくるだろうということで、それから平等性が保てるかという問題もございまして、そういう制度を設けておりません。

 ただ、ただいま御指摘の点は、この制度の中で、例えば、ジェンダーの関係で不公平な裁判をするおそれがある者、これは面接するわけでございますので、そういうところで判明をするということになれば、これは不公平な裁判をするおそれがある者を不選任請求をするという手続もございます。

 それから、各当事者が、原則四名ずつでございますけれども、理由を付さないで不選任請求をすることができる、こういう制度を設けているわけでございますので、それぞれの当事者がその辺のところを配慮しながら選んでいくということは可能になるわけでございますので、そういうところにゆだねているということで、これを制度としてこうする、ああするというのはなかなか決めにくいということでございますので、そこは御理解を賜りたいというふうに思います。

小宮山(洋)委員 市民団体の市民の裁判員制度をつくろう会が、ドメスティック・バイオレンスを受けていた妻が夫を殺害する事件を取り上げた模擬裁判を五百人規模で行ったところ、やはり男女で事件に対する見方が全く異なっていて、どちらかの性に偏った場合、公正な判断を確保するのが困難ではないかというような感想が多く寄せられたということも聞いております。

 確かに、法制度でこういうふうにということが難しいという今の御説明がありましたけれども、その公判に合ったいろいろな配慮も含めて、ぜひそのあたりは配慮をしていただく工夫をお願いしたいというふうに思いますが、いかがでしょう。

山崎政府参考人 これは日本の現在の人口を見ると、多分、男女はほぼ半々だろうと思うんですね。これを無作為で抽出してきても、確率はほぼ半々ぐらいになるだろう。現実に個々の問題を見れば、それは若干偏りがあるかもしれませんけれども、そういうことで、私は、全体を見れば、かなりバランスよく抽出がされてくるだろうと。

 その中で、今申し上げましたような不公平な裁判のおそれがある場合の不選任請求と理由を付さない不選任請求、こういう制度を設けておりますので、これを法制度で、あるいは裁判所の方が、この事件についてはこちらを多くするとか、それをやりますと、また逆の立場から見れば、それは不公平であるという問題にもなりますので、そこは、この法制度を使っていただく、あるいは当事者の選択にゆだねる、こういうことでバランスをとっていきたいというふうに考えております。

小宮山(洋)委員 ただいまのこととも多少かかわりますが、せっかく選ばれた裁判員が参加しやすいような環境整備をぜひ整えていただきたいということを、前の質問も、予算委員会でもさせていただきましたが、その点について、お答えいただいたことをさらに前に進めていただくための質問を幾つかさせていただきたいと思います。

 一つは、選ばれた人が参加しやすい環境整備ということで、託児とか託老の施設、これを裁判所につくることについては、前回も伺いましたけれども、それはなかなか難しいと。

 先ほど、どれぐらいの割合で大都市部にあるかと伺ったのは、このデータがいただきたかったわけなんですが、例えば、裁判員制度にかかわる事件を多く扱う可能性がある東京と大阪にとりあえずつくるとか、そういうようなことも考えていいのではないか。先ほどのいただいた数字をちょっと計算いたしましたら、大体八分の一ぐらいがおおよそ東京で行われることになる。そうすると、東京の裁判所につくるということは一つ考えられるのではないか。

 また、一時保育とかデイサービス、そのようなことを、できれば支援もした方がいいと思いますけれども、紹介をするとか、先ほどの、大体、育児の九割は依然として女性が担っている、介護も八五%は女性が担っている中で、およそ半々選ばれたとしても、その人が実際にやりやすくしなければ、結果として半々にはならないわけですから、こういう工夫をぜひしていただきたいと思うんですが、その点はいかがでしょう。

山崎政府参考人 この点は、制度というよりも運用の問題にわたるんだろうと思いますが、一般的に申し上げれば、まず、さまざまな事情を抱える一般の国民の方が裁判員として参加しやすくするためにさまざまな工夫を行っていくべきである、これは前提としてはそのとおりだろうというふうに私ども思っています。

 育児所等につきましては、今後の裁判員制度の運用の詳細、これにつきまして、今後、まだいろいろ検討していかなければならないことが多々ございます。ですから、一概にその必要性を論ずるということは難しいのでございますけれども、一つは、辞退がどのように認められていくかということ、それから、そういう養育を抱えた方が本当にどの程度辞退の申し出をするか、あるいはしないのか、その辺の動向も影響してくるだろうと思います。それから、そういう方がどれだけ裁判所の近くの、あるいは裁判所の託児所、こういうものを選ぶのかということ、そういうような動向を見ないと、一律に今の状況から推察して考えていくということは非常に難しい状況にございます。

 そういう動向を踏まえて、少し運用して、それ以降どういう手当てをしていくかという問題だろうというふうに理解をしております。

小宮山(洋)委員 私はそうは思いません。運用してみてと、入り口のところで入りにくい制度にしてしまったら、ああ、じゃ、子育てしている人は行かなくていいのだと。そうなると、この制度の趣旨と違うと私は思います。

 一番最初のとき申し上げたように、国民が参画をする新しい司法制度をつくると言いながら、どうも国民を、なるべく入らないようにと言うのはこれは言い過ぎかもしれませんが、可能な限り、選ばれた人が参画できるようなチャンスをつくることに、その環境整備をすることに非常に前向きだとは、少なくとも受けとめがたいというふうに思います。

 その点、もう一つとあわせて伺いますけれども、せっかく選ばれたチャンスという形に、できればこの制度をつくり上げていきたいと思いますので、そういう意味では、リストから外さないからいいということではなくて、やむを得ず今は受けられないけれども、何カ月後あるいは一年以内なら受けられるという人は延期制度が必要ではないかということを民主党は提案してきております。

 それも余り無制限にやると煩瑣になるというお答えもありましたけれども、例えばその期限を切るとか一回に限るとかいうことで、選ばれた人が積極的に参加できるような仕組みをあわせてつくる必要があるんじゃないか。

 その延長制度のこととあわせまして、運用してみてからやるということでは、やはり、育児、介護の負担が多い女性たちは、できることなら、じゃ、やめておこうかということになってしまって、趣旨と合わないのではないか。あわせてお答えください。

山崎政府参考人 まず、先ほどの介護の点でございますけれども、御指摘の点、私も趣旨は理解できるところでございますけれども、ただ、これを裁判所等につくるということになると、それはやはり、どの程度の利用率があるかとか、そういう問題がその前提でわからなければ、直ちにつくるということにはなかなか結びつかないんだろうというふうに思います。

 ただ、本当にそこの、また裁判所の託児所をどの程度利用する希望があるのかということもちょっとはっきりしない状況でございまして、この点につきましては、もう少し動向を見ながら考えていくということになろうかというふうに思います。

 それと、もう一点の点でございますが、裁判がある時期に都合があるということで辞退をされる方という点について、もう一度チャンスをという御指摘だろうと思います。

 これにつきましては、前回、確かに仕組みが非常に複雑になるということは申し上げました。確かにその実際上の理由はございますが、もう一つ、これはちょっと理念的な理由がございまして、結局、仮に複雑じゃない仕組みを設けることができるとしても、裁判員を広く国民から公平に選ぶという建前からすると、辞退が認められた一部の方に優先的に裁判員となる地位を与えるという結果になるわけでございまして、いわば、例外的な取り扱いを認めるということになりますので、この点については、やはり広く平等な条件から抽出をしていくという理念に抵触をするおそれもございまして、そういう意味で、私どもは、もう一度優先権を与えるというのは非常に難しいだろうと。

 しかし、この法文上手当てをしておりまして、いわゆる辞退を認められた者を裁判員候補名簿からは除外しませんで、再度裁判員に選任されることを可能とする、こういう制度を設けているということで、御理解を賜ればというふうに思います。

小宮山(洋)委員 やはりなるべく国民に本当に参加をしてもらいたい、一人でも多く、選ばれた人はこれに参加をしたいと思うような制度にしていくかどうかという、その基本的な考え方のところがずれているんだと私は思うんですね。

 例えば、勤労者の場合、労働基準法第七条「公民権行使の保障」、選挙権その他の公民権の行使と同等に、不利益な取り扱いを受けずに休業が認められるということは以前にもお答えをいただいているんですが、さらに、それを権利として安心して休めるようにするためには、裁判員休暇制度の創設が望ましいと私どもは提案をしているんですけれども、それもやはりそのスタンスの違いかと思うんですが、この点についてはいかがですか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘のような議論があること、私ども承知はしております。いろいろ検討を加えたわけでございますけれども、やはりこれは、そうなりますと、今度、事業主側、こちらの方の負担という問題も起こってくるわけでございまして、現在、そういう点について直ちに導入できるような状況にはないということから、この点を設けていないわけでございます。

 そういう意味で、今後、どのような事態になっていくか、それいかんによることかと思いますけれども、現時点では、なかなかそこの了解を得るまでには至っていないという状況でございます。

小宮山(洋)委員 直ちに導入できる状況にないということは、その後、状況を見てはこういうことをつくることも考えるということでよろしいですか。

山崎政府参考人 この制度を導入して安定的に運用されていく、そういう状況の中で事業者側の了解も得られるということになれば、そういうことを導入していくこともあり得る話だろうと思います。

小宮山(洋)委員 勤労者の場合も参加しやすい制度がぜひ必要だと思いますが、自営業者の場合も、休んだ日の所得の補償などという問題が出てくるのだと思います。

 それで、裁判員になった場合の日当について伺いたいんですが、検察審査員が八千五十円、調停委員は一万六千九百五十円など、今の制度でもさまざまです。そして、裁判官と比較しますと、これは、裁判官の報酬ですとどう見ても三万円以上は要るという意見もありますけれども、今、裁判員の場合はどのようにお考えになっているのか。各地裁でやるとすると、遠くから来る人については旅費とか宿泊費はもちろん支給されるのだと思いますけれども、そのような所得の補償について伺いたいと思います。

山崎政府参考人 まず、日当でございますけれども、これは現在、この法律で決めているわけではございません。いずれ最高裁判所の規則で定めるという建前になっております。

 ここの基本的な考え方についてでございますけれども、やはり今回の裁判員制度、非常に職責として重いわけでございますけれども、その職責に見合った十分な額の日当を考えていくということになろうかと思います。まだ、具体的にどの程度の額にするということはこれから検討ということになりますけれども、基本的な理念はそういうことだろうというふうに思います。

 それから、必要になります旅費、宿泊費、これはもう当然支給をするということになろうかと思います。

 それからもう一つは、自営業者の点でございます。

 これは、自営業者の所得を補償するという考え方があることも私ども承知はしておりますけれども、これをもし導入すると、所得が高いか低いかによって差が出てくるという問題もございますし、あるいは、無職の方、主婦の方、どういう基準をとったらいいのかとか、公平に物を決めていくというのは極めて難しい状況がございます。

 それからもう一つは、自営業者で本当にお困りになるという方、この方につきましては、辞退が可能だということで、そこは辞退で避けていただきたいということと、では仮に、出てこられる方についても、それぞれの収入、あるいは収入がない方、それをきちっと、そのランクづけが本当に可能かどうかという点が非常に難しいということをおわかりいただきたいというふうに思います。

小宮山(洋)委員 この環境整備については今後とも伺っていきたいとは思いますけれども、先ほどから申し上げているように、いろいろ環境整備のことを申し上げると、これは辞退できるようになっていますからということで辞退で片づけようというのは、これは違うと思います。

 そういう意味で、細かい点を法文にこれから盛り込むのは難しいかと思いますが、ぜひ与党の理事の方も聞いていただきたいと思いますが、条文の中に例えば環境整備の努力義務を盛り込むというような姿勢は、ぜひこれは考えていいのではないかと思います。

 細かい点を一々盛り込むのではなくて、今のような、とにかくこういうことは辞退すればいい、辞退すればいいといったら、この裁判員制度の概念自体が崩れるわけですから、なるべく積極的に取り組むような環境整備をする努力義務ということをぜひ法文の中に盛り込むことの御検討もお願いをしたいというか、私たちは検討するように積極的に意見を言っていきたいというふうに思っています。

 それでは次に、守秘義務の問題について伺いたいと思います。

 これはやはり、これから新しい二十一世紀の社会をつくっていく一つのいい制度として取り組みたいと思っているのに、どうも暗いイメージ、なるべく避けて通りたいイメージをつくっている一つは守秘義務に懲役刑が科されているということだと思っておりますし、メディアの報道などでもそのような形でとらえられて、その面で一番裁判員制度に焦点が当てられるというのは非常に不幸な事態だと私は思っております。

 裁判員は、公判中だけでなく終わった後も評議の経過や職務上知り得た秘密を漏らしてはならず、守秘義務が課せられる、違反した場合は懲役または罰金とされているわけですが、この点についてぜひ改善をして、なるべく積極的に参加できるような仕組みにしていきたいと思っています。

 一つは、守秘義務を裁判が終わった後もかけることについてはいかがなものかと思うのですが、この点はどうでしょうか。

山崎政府参考人 裁判終了後の点でお尋ねかと思いますけれども、評議の秘密を考えますと、裁判が終わった後であっても、評議の状況が明らかになるとすると、評議における自由な意見の表明が阻害されることになるというふうに考えられるわけでございますので、裁判終了後であっても評議の秘密を守る必要性は私は高いというふうに思います。

 要するに、終わった後にだれさんがどういうことを言ったということになれば、その人がいろいろな嫌がらせを受けたり仕返しを受けたりするおそれもあるわけでございます。そういう状況になってしまいますと、ほかの裁判員、この制度全体として、自由に物が言えない、こういう事態が生ずるわけでございますので、これはやはり裁判終了後であってもその必要性はある、守秘義務を守る必要性がある、こういうことになろうかと思います。

 それからもう一つは、他人のプライバシーの問題がございます。この情報につきましては、裁判が行われているか終了したか、これにかかわらず、やはり他人のプライバシーは守るべきものということで、裁判の前後で分けるのはなかなか難しいだろうというふうに考えております。

小宮山(洋)委員 守秘義務の範囲が明確でないということがいろいろな懸念を呼んでいるのだと思います。

 例えば、一口に評議の秘密といいますけれども、どこまでを評議の秘密というのか。確かに、プライバシーとか、だれがどう言ったかということは、それは言ってはならないと私も思いますけれども、懲役まで科すというような形の罰則をかけて、その評議の秘密の範囲がはっきりしていない、これは問題なのではないかと思います。ですから、守秘義務の範囲を限定を明確にして、そのことをきちんと周知していく、それが欠かせないことだと思いますけれども、いかがでしょう。

山崎政府参考人 御指摘の点は私も理解できます。

 それで、この法案におきましては評議の秘密の定義が掲げられておりまして、評議の経過並びにそれぞれの裁判官、裁判員の意見並びに多少の数ということでございまして、定義はされているわけでございますので、一応の範囲はここで画されているということでございます。この内容につきましては、裁判官、裁判員が表明した意見の内容だとか数だとか、それから評議における検討の内容、順序、こういうものが含まれるわけでございます。

 こういう点が守秘義務の対象になるということでございますが、これ以外の点については守秘義務の対象にならないということを逆に言っているわけでございます。

 例えば、例を若干挙げさせていただきますけれども、法廷でのやりとりというのは、これは傍聴されておりまして、公開のことでございます。それから判決の内容、これもみんなが読むことができるわけでございますので、この法廷のやりとりあるいは判決の内容、これについて話すということは禁じられていないということになる。

 それからもう一つは、やはり一般の国民の方にこの仕事をしていただくわけでございますので、将来につながるという問題もございまして、やはり、裁判員制度をこうしたらいいんじゃないかとか、いろいろな御提言等があろうかと思います。こういうものについては禁じられているわけではないということでございますので、その範囲は画されていると。

 ただ、現実においてどの程度まで明確なのかということがございますので、今後きちっとしたわかりやすい周知をしなければなりませんし、個々の裁判員の方にもきちっとした説明、わかりやすい説明をして、そこは迷いがないようにしていく、これは実務上の運用として必ずやらなきゃいけないということで我々も理解はしているところでございます。

小宮山(洋)委員 その評議の秘密の定義、はっきりしていると言われましたが、意見とか多少の数というのはわかりますが、経過というあたりがどこまで入るのかというのもはっきりしないように思うんですね。今局長が言われたような、法廷でのやりとりですとか判決の内容、こうしたらもっといい制度になるというようなことはいいというようなことを言われましたけれども、そこがどうなのか、この法律を見ただけでは素人にはわかりません。

 そうすると、やはりこれは全体として、なるべくできることならさわりたくないなと思わせてしまうと思いますし、そのあたりは後ほど伺うメディアとの関係でも非常に重要だと思いますので、今のような具体的な、こういうこういうことは大丈夫なのですよ、この点が守秘義務なのですよと、少なくとも守秘義務の範囲を明確にすると同時に、それの周知を図ることを重ねてお願いしたいと思います。

山崎政府参考人 二つございましたけれども、一つは評議の経過の問題でございますけれども、これは、経過を語ると抽象的にはなかなか語れないところがございますので、結局、どういうポイントについて協議をしてきたかということ、そのポイントを言わないとつながらないわけですね。ですから、ここのところは非常に微妙な問題になりますので、そこを、これでいいよということになったときに、やはりその評議の秘密がそのまま出てしまうおそれが十分にあるということから一線を画しているということでございます。

 それから、もう一つの御指摘の点につきましては、法文上は、評議の秘密についてほかの法令でも大体こういうような表現をしているわけで、今までこれで対応してきているわけでございますが、ただ、今度は、一般の国民の方がその対象になるということでございますので、御指摘のとおり、わかりやすいものをつくって、一般的に周知をするとともに、そこの裁判員の対象になった方、そういう方にはまた別途個別にきちっと御説明をする、こういう運用上の工夫が重要であるということはそのとおりだろうというふうに思っております。

小宮山(洋)委員 それで、日本のこの裁判員制度は、アメリカの陪審制、そしてヨーロッパなどでの参審制の間のような制度とも言われていますけれども、諸外国の場合は、こういう守秘義務と罰則の関係というのはどうなっていますか。

山崎政府参考人 典型的な三カ国ぐらいちょっと申し上げたいというふうに思います。

 まずイギリスでございますけれども、これは陪審員でございますけれども、陪審員が評議内容を開示する行為と、それから陪審員に対し評議内容を尋ねる行為、これはいずれも法廷侮辱罪に当たるということでございまして、その刑罰でございますけれども、自由刑と言っておりますから身体の自由を奪う刑でございます、懲役か禁錮というようなものでございますけれども、上限二年の自由刑と、それから罰金刑、これを科すことができるというふうにされております。

 それから、フランスでもこれはやはり刑罰の対象になっておりまして、一年間の拘禁刑及び一万五千ユーロの罰金ということになっております。それからイタリアでございますけれども、イタリアでは六カ月以上三年以下の懲役ということになっております。

 アメリカについては、必ずしも全部の州というわけではございませんけれども、公判終了後について一般的な規制はございませんけれども、一部の州では、報酬を受けての取材等を処罰する規定があるというふうに承知をしております。例えば、カリフォルニア州でございますと、陪審員の任務解除前及び任務解除後九十日間の間に、訴訟に関する情報と引きかえに報酬の支払いを申し込み、またはそのような支払いを受ける行為を罰するということで、六カ月以下の拘禁もしくは千ドル以下の罰金という刑を設けている、こういう状況でございます。

小宮山(洋)委員 諸外国と制度が違うわけですから、単純に比較はできないかと思いますけれども、日本の中でのこの守秘義務の問題については、範囲の限定、そのほかのことをもっと綿密にやっていくような方向で審議ができればと思っております。

 もう一点は、裁判官には守秘義務に刑罰はないこととのバランス、これはどういうふうに考えるんでしょうか。

山崎政府参考人 裁判官も、評議の秘密につきましては、裁判所法で守秘義務がございます。それから、一般的な守秘義務としては、大変古いものでございますけれども、勅令で、官吏服務規程ですか、たしか明治二十年ぐらいにできたものでございますけれども、この適用によりまして、守秘義務が一般的に課されている、こういう状況でございます。ただ、罰則は、御指摘のとおりございません。

 これは、裁判官につきましては、高度の職業倫理に基づき行動ができる、そういう期待ができるということ、あるいは、それを担保するものとして、弾劾裁判あるいは分限裁判というような手続が設けられておりまして、これらによってそのような義務違反を抑止することが十分に可能であるということで刑罰が設けられていないというふうに承知をしております。

 それから、裁判員の方に何でこれを設けるのかということでございますが、やはり、事件ごとに選任されるわけでございまして、他に担保措置がこれは考えられないということになるわけでございますので、その点で刑罰で担保をする、こういう発想ででき上がっているということでございます。

小宮山(洋)委員 その罰則、懲役を科すことがなぜ必要か前回伺ったときに、やはり金銭で秘密を売ったりするケースがあるというお答えがあったと思うんですが、非常にまれなケースのために、全体の印象を非常に暗く、なるべく遠ざかりたいと思わせることは、やはりマイナスだと考えます。もしもどうしても必要なら、そういう場合に限るということを法文上にしっかりと記すということも一つあるのではないかと思いますが、いかがでしょう。

山崎政府参考人 確かに、今まで私の方から、対価を得て秘密を漏示する場合、これを典型的な例として申し上げておりますけれども、それだけには多分限られないんだろうというふうに私ども理解をしておりまして、例えば、報復、嫌がらせのために、証拠物に記載されている被害者の生活上の秘密をインターネット上で公開していく、それで重大なプライバシー侵害の結果を生ずる事案、こういうものも考えられるわけでございまして、一律に、どういう場合は懲役だ、そうじゃない場合は罰金であるということが本当に現実として画することができるかどうかという問題もございます。そこはやはり、最終的には個別の事案、事案で判断をしていく、こういう制度にゆだねざるを得ないということでございますので、そこは御理解を賜りたいというふうに思います。

小宮山(洋)委員 この点につきましては、この後もしっかりと議論をしていきたいと思います。

 この関連でもう一点だけ。検察審査員の罰則を、この制度導入に伴って上げようというのは、これはおかしいのではないかと思うのです。これまで一万円以下の罰金ということで、これはもう半世紀以上も問題なく運用されてきた制度で、その一万円以下の罰金も恐らく適用はないというふうに聞いているんですが、そうしたものを、この裁判員制度をつくるからといって、いきなり、懲役一年以下、そして五十万円の罰金というようなことに、伴って上げていく、これはおかしいのではないかと思うんですが、これをなくすというお考えはないですか。

山崎政府参考人 確かに、現在の検察審査会制度の中で、守秘義務違反に問われたというのは、私が承知している限りはないというふうに理解しております。

 今回なぜ引き上げたのかということでございますけれども、検察審査会制度の法律、大変古い法律でございまして、その後さまざまな、いろいろな法律例が出てきておりまして、そういう点について、現在と大分考え方が変わってきているということが、プライバシーの保護についての時代背景が違うということが一つございます。

 それからもう一つは、今回、刑事訴訟法の改正で検察審査会制度が変わるわけでございますが、これは、今までは、起訴相当の議決をして、検察官がもう一度捜査して、最終的にそこで不起訴となればそれで終わりだという制度でございましたが、今回は、もう一度審査をいたしまして、起訴議決をいたしまして、これはもうその検察官じゃなくて別の法律家を選任いたしまして、現実に起訴をしていくという非常に強い効力を認める形になっていくわけでございます。これは社会の要請からこのようにするわけでございますが、そういうふうに、今までの制度よりはるかにやはり重要性を増してきている、その中でやはりプライバシー等が表に出るということについては厳に慎まざるを得ない。

 こういうような点から、考え方としては、裁判員と検察審査会の場合と、場面は違いますけれども、考えていく趣旨は同じであるというふうに考えたわけでございます。

小宮山(洋)委員 今の御説明でも守秘義務違反は一件もないというのに、上げるというのはやはり納得できないことだと思います。

 次に、この守秘義務とも非常に関連がありますけれども、接触規制とメディアの関係について伺いたいと思います。

 アメリカからは、先日、マイケル・ジャクソン被告に対する大陪審の審査と過熱した報道ぶりについてのニュースが届いているんですけれども、陪審制をとっているアメリカの場合、あるいはヨーロッパの参審制をとっているケースなどについて、メディアとの関係はどうなっているのか、例えばマイケル・ジャクソン被告に関する件についてはどのようにごらんになっているのか、伺いたいと思います。

山崎政府参考人 諸外国の若干の例をちょっと申し上げたいと思います。

 事件報道に対する規制でございますけれども、陪審制を採用しております中で、イギリスでございますけれども、進行中の事件に関し、公正な裁判を害するおそれのある情報を報道すると、これはやはり裁判所侮辱罪に問われるということでございます。それから、同じく陪審制を採用しているアメリカ、これについては一般的な規制はございません。

 それから、参審制度を採用しておりますイギリス以外のヨーロッパ諸国でございますけれども、ドイツ、フランスでは、やはり一般的な規制はないということでございます。

 それから、具体的な事例につきましてお尋ねございましたけれども、この点につきましては、過熱報道がされているということを日本の報道機関からの情報で承知はしておりますけれども、具体的なその事実関係がよくわかりませんし、それぞれ、国の事情も異なりますので、その点について意見はあるいは感想はというのは御勘弁をいただきたいというふうに思います。

小宮山(洋)委員 今伺いましても、アメリカもドイツもフランスも規制はないということですね。

 それで、メディアと裁判員制度との関係、これは、制度改革の検討の過程で浮かび上がってきた課題とか懸念は依然払拭されていないのだと思います。

 昨年三月に出されましたたたき台では、報道機関は、事件報道をする際に、裁判員らに偏見を生じさせないように配慮しなければならないという表現が当初たたき台で盛り込まれていました。これは、メディア規制を容認したものということでメディア関係者だけではなくて各方面から異論がありまして、結果的には、このように懸念された表現自体は盛り込まれなかったわけですけれども、懸念が払拭されていないという声も踏まえて、今回の法案ではメディアとの関係についてはどのように考えているのかを伺いたいと思います。

山崎政府参考人 確かに、検討の過程でただいま御指摘になりましたような点、考え方、これが出てきたことは間違いございません。検討の過程でございますので、さまざまな意見がありまして、それを経て最終的にまとまっていくという性質のものでございます。

 これを、私ども、項目として掲げたということから、マスコミの方からも、あるいはそれ以外の方からもいろいろな御意見がございまして、最終的には、よく打ち合わせを、打ち合わせというか協議をいたしまして、この点については私どもも何も設けないということにいたしました。これはマスコミの自主的な取り組み、これにゆだねるという選択をしたわけでございます。

 今回、では法案でどういう点があるのかということでございますけれども、直接メディアを対象にした規制というものは設けておりません。ただ、この法案の中で接触規制をしている条項がございます。これはやはり、裁判の公正、あるいは裁判に対する信頼を確保するという目的、さらには裁判員の生活の平穏を保護する、こういう点から設けております。特に、裁判係属中に接触が許されるということになりますと、裁判員の負担は相当大変になってくるわけでございますし、公正さも疑われるということになりますので、ここは禁止をしております。

 ただ、裁判終了後につきましては若干そこを緩めておりまして、裁判員等が職務上知り得た秘密を知る目的での接触、これに限定をいたしまして規制をするということを設けております。これは決してメディアを対象にしたわけではございません。一般の方も全部同じ規制を受けるということでございます。

小宮山(洋)委員 今言われた、終了後の職務上知り得た秘密の中身は何ですか。

山崎政府参考人 これは、評議の秘密の問題と他人のプライバシー等、先ほど申し上げましたけれども、その二つが対象になるということでございます。

小宮山(洋)委員 それも、やはりその範囲を明確に周知する必要があると思います。

 国民が参加をする、参画をする開かれた司法を目指すとしているのですから、その観点からしますと、裁判に関する取材とか報道については今までと同じように原則として法的規制を加えない、これが当然なのではないかと考えます。報道機関が市民の代表として情報を取材し伝える、これは裁判の公正さを担保するという意味でも不可欠ですし、これは憲法の理念にも基づいたことだと考えます。裁判員に公判中だけでなく公判後も、生涯にわたって罰則を伴う守秘義務を課しまして、一切の取材、一切のといいますか、先ほどの職務上知り得た秘密はいけないというようなことを課していくということは、開かれた司法を目指しながら、相変わらず、密室性というのでしょうか、閉ざされた部分が残されるというか、そういうことがございますし、裁判員制度への理解も深まらないということがあるのではないか。

 だから、特に最初、守秘義務のところで申し上げましたように、裁判員に対する取材への制限、これは公判中に限るということが知る権利にこたえるためにも必要ではないかと思うのですけれども、その開かれた司法との関係でいかがですか。

山崎政府参考人 確かに、この守秘義務との密接な関連があるわけでございますけれども、裁判が終わった後はでは全く自由かということになるわけでございますけれども、これはやはり一般の国民の方でございますので、そこでいろいろ接触されるということになりますと、そういう方々が立場が非常につらい立場にもなることもあるわけでございますので、そこは係属中とは要件を分けておりますけれども、最低限の点、この点には接触を禁止するということにいたしますが、それ以外のことであれば、それは接触されても構わないということでございますので、やはりこれは制度の最低限の担保かなということで考えたわけでございます。もちろん、報道の自由は大切であるということ、私ども十分承知しながら、最低限のものにさせていただいたということでございます。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

小宮山(洋)委員 そして、ちょっとこの項目の中で、先ほど諸外国の例の中でもあったことで一点伺いたいことがあるのですが、イギリスの場合、漏らした側とそれから尋ねた側も両方とも刑罰があるというふうなお話が先ほどありましたけれども、今提案されております裁判員制度は、漏らした裁判員の側には刑罰がかかっておりますけれども、取材したメディアの側については何も書かれていないと思うんですが、その点はどうなんでしょうか。

山崎政府参考人 確かに、七十三条に規定がございますけれども、この七十三条に違反をして裁判員等に接触した場合の罰則、これは設けておりません。漏らした方の人については、それは守秘義務違反ということで罰則がある、こういう状況でございます。

小宮山(洋)委員 今、メディアの接触規制の問題についてお話をしておりますけれども、メディアの側にもこれまで確かに過剰報道を含めて問題な点があったかと思いますが、これはあくまでやはり自主規制、それから、カナダなどで行われておりますような第三者機関によるチェック、こういうことで、自分を律する形でやっていくということがあるべき形だと思っております。

 そういう意味では、知る権利の問題と公正な裁判ということのバランスの問題だと思うんですけれども、そこのところはもっとやはり綿密に議論を重ねていく必要があると思うんですが、担当の局長、そしてまたその後大臣にも、裁判の公正さと知る権利のバランス、その問題についてぜひ通り一遍ではない、心のこもった御答弁をいただきたいと思います。

山崎政府参考人 これまでに至る議論のステップを考えますと、当初は、御指摘のとおり、偏見報道の禁止というものが入っていたわけでございまして、これにつきましていろいろ御指摘を受けて、我々としては最終的には、やはりマスコミの自主的な行動にゆだねるべきだということを理解いたしまして、ここのところは全部落としたわけでございます。そういう点では、私どももその点は大変に重要なものであるということは十分理解した上、この法案を提出させていただいているということでございます。

 先ほど来申し上げているのは、もう本当に最低限のものということでございまして、これはマスコミに限られるものではない、一般の方でもやはり接触はしてはならないという全体の制度の問題であるということで御理解を賜りたいと思います。

野沢国務大臣 国民の知る権利と裁判の公正さはいずれも重要なものと心得ておりますが、この適正なバランスを図る必要があると考えておりますが、ここまでが要するに表向きの議論でございます。

 私の所感を一つ申し上げさせていただきますと、知る権利ももちろん重要、そして裁判の公正さも重要であるからには、それぞれの当事者がこれに関してしっかりと育てていくという立場から努力をするべき課題ではないかと思います。

 知る権利という意味でのメディアを代表される方々については、その使命に応ずると同時に、自律性といいますか、自主的な、常識の範囲での報道ということについて十分な配慮をしながら、やはり節度のある報道が行われるということ。

 それから、国民の皆様にしてみれば、やはり公正な裁判ということが何よりも期待されるわけでありますし、今度のこの裁判員制度の発足ができますれば、まさに裁判に関して自分たちが、今まではるか遠いところにあったと思われていた裁判制度がまさに自分たちの手で実行できるという、大変なこれは改革になるわけでございますので、この制度に関してやはり公正さが保たれ、自分たちの権利がここでしっかりと主張できる、そういう面で、これは両者相まって工夫し、育てるべき課題と考えております。

小宮山(洋)委員 ぜひここは、やはり納得がいく形でしっかりと議論をさらに詰めていきたいというふうに思っております。

 次に、裁判員と裁判官の教育について伺いたいと思うんですが、裁判員制度を導入するためには、義務教育の段階からの法教育が必要だということを前回も主張いたしました。それは行っていくということだったんですが、行っていくというだけではなくて、現在どのような法教育が義務教育段階で行われていて、この裁判員制度導入ということも含めて、これからどういうふうに行っていくのかを、なるべく具体的に文部科学省の方にお尋ねしたいと思います。

金森政府参考人 お答え申し上げます。

 義務教育段階において、児童生徒が法や決まりの意義、司法の仕組みを理解いたしますとともに、社会の一員として法や決まりを尊重してよりよい社会の形成にかかわる態度を育成することは、大変重要であると考えております。

 このため、学習指導要領では、社会科などの各教科で法や司法に関する指導を行うこととしておりまして、例えば小中学校の社会科では、日本国憲法の基本的原則や権利義務の関係、法に基づく公正な裁判の保障があること、裁判の働きなどを指導しているところでございます。また、道徳でも、法や決まりの意義を理解し遵守することなどを指導するなど、学校の教育活動全体を通じて、児童生徒が主体的、積極的に法にかかわる態度の育成を図っているところでございます。

 今後の法教育のあり方につきましては、学校教育等における法や司法に関する学習機会を充実させるために、昨年九月から法務省の法教育研究会において検討が行われているところでございまして、私どももこの研究会に参加をいたしているところでございます。

 文部科学省といたしましては、この法教育研究会における専門的な検討の動向も踏まえまして、各学校において今後とも法や司法に関する教育が適切に進められるように努めてまいりたいと考えております。

小宮山(洋)委員 何か、今伺っただけでは、何が行われるのか余りよくわからないんですけれども、確かに社会科でやっているかもしれませんけれども、これはただ暗記をさせる、なかなか身になる教育が行われていないのではないかということを申し上げているんです。

 確かに、その研究会の結果を見て取り組むということは結構ですが、時間が足りないのではないかということもありますし、どういう人がどう教えるのかということもあると思うんですね。やはり、これからこの二十一世紀の社会の市民になっていく人たちにどういう法教育をするかというのは、この裁判員制度のことだけではなくて、これをきっかけにして本当に身近な司法に参画できる市民を育てていくという視点で、これはもう少し具体的なお答えをいただきたいと思うんですが、きょうは時間が足りないのでまた改めて伺いますので、これももう少し血の通った御答弁をいただきたいと思います。

 それから、もう一つは、裁判官の方の研修、教育のことについて、これは最高裁にお尋ねをしたいんですが、一つはコミュニケーション能力。裁判官が司会をしてというか進行をして、裁判員の意見を聞きながら評議を進めるわけですから、そこの会話能力、コミュニケーション能力というのはもう必然のものだと思うんですが、ともすればそれが欠けている。そのあたりが社会常識に欠けるということにもつながるかと思うので、この能力をどういうふうに培っていくのか。

 さらに、先ほど、裁判員の選ばれ方のときにジェンダーの視点ということを申し上げたんですが、特にそういう男女の視点というようなのに欠けている裁判官が多いということはいろいろな方からも聞いています。それから、子供の権利の問題とか、そういういわゆる新しい人権と言ったらいいんでしょうか、そういう人権感覚なども含めてどのような研修をしていくのか。スタートするまでに全裁判官にそれが行き渡らなきゃいけないと思いますので、その点をお答えいただきたいと思います。

大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 委員御指摘のとおり、裁判員裁判におきましては、コミュニケーション能力が非常に、今まで以上に要求されるということだろうと思います。

 裁判員裁判におきましても、適正な手続のもとに証拠に基づいた認定が行われる必要があるかと思います。このような裁判を実現するためには、裁判官は裁判員に対しまして、証拠の内容ですとかあるいは法律の解釈、意味等をわかりやすく丁寧に十分に説明した上で、裁判員の一人一人の方々からの意見を十分に引き出していく、そして、裁判官と裁判員とが意を尽くした評議といいますか議論を行っていく。そういったことによりまして、裁判官と裁判員との間の協働関係も、そして裁判員の方々の意見もその裁判の中に反映されていくんだろうと思います。

 そういったことを実現していくためには、これまで以上に、先ほど申し上げたようなコミュニケーション能力というものが要求されることになります。今までも裁判官、得意ではないというふうに言われておりますけれども、打ち合わせの席ですとか法廷ですとか和解の席等ではそれなりの能力を要求されていたわけですけれども、さらにこれからはより一層そういった能力、高い能力が求められると思います。

 裁判所では、昨年開かれました長官・所長会同におきまして、裁判官に求められる資質、能力はどのようなものか、それを涵養するためにはどのようにしたらよいかといったような点を議論いたしました。これもそうした問題意識に基づくものでありまして、今後は、諸外国における国民参加の刑事裁判の具体的な運用方法等をさらに研究しまして、その成果を活用するとともに、実際の裁判員の参加する刑事裁判を想定した実践的な研修なども行ってまいりたいというふうに考えております。

 また、御指摘のジェンダー教育、あるいは人権教育、あるいはDVの問題といろいろございますけれども、そういった研修につきましては、これまでも司法研修におけるいろいろな研究あるいは研修があります。その中で多々取り上げてきて実施してきたところでありますけれども、これからは、裁判員の参加する刑事裁判の場面といったようなものを想定して、ジェンダーに関する一層適切な研修というものについて検討してまいりたいというふうに考えております。

小宮山(洋)委員 この点についてもまた伺いたいと思います。

 最後に一つだけ山崎局長の方に申し上げたいんですけれども、施行時期、五年後、長いということは申し上げたんですが、その間、施行までの間に、ぜひ、市民、国民が参加をして、参画をして推進していくような組織をつくって一緒に進めていくことを検討していただきたいと思うんですが、その質問をして、私の質問を終わります。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の点、まだ具体的に私もイメージがわかないんですけれども、ただ、この制度はやはり国民の方の理解を得ながらやっていくという点が大変重要なことでございますので、国民の意見をどのように把握していくか、こういうような工夫をしながらやっていかなければならない。そういう中でどういうものがあり得るかということは、また将来的な検討課題であるというふうに理解をしております。

小宮山(洋)委員 終わります。

塩崎委員長代理 山内おさむ君。

山内委員 民主党の山内おさむでございます。

 昨日、自衛隊のイラクからの撤退を求めて、日本人三名が人質になりました。この事件について、まず大臣の所見を伺いたいと思います。

野沢国務大臣 本件につきましては、現在、事実関係を確認中でございますが、伝えられるように、自衛隊のイラクからの撤退をもくろんで日本人を人質にとったということであれば、まことに許しがたい行為であり、このように卑劣な犯罪行為に対しては国家として毅然とした態度で臨む必要があるとともに、政府一丸となって人質となっている方々の救出に全力を尽くす所存であります。

山内委員 救出をお願いする国家体制がまだイラクにはでき上がっていないと思うのですが、法務大臣としては、何が今御自身の立場ではできると思っておられるんでしょうか。

野沢国務大臣 まず何よりも、情報の収集が目下最大の急務であると考えております。

 当省といたしましては、公安調査庁を初めとする調査機関もございますので、それらのスタッフを動員しまして、かつまた、政府においてきょう発足をいたしました対策本部の各機関から、できる限りの正確な情報と、今後の対処方針について参考となる情報があれば、これを集約した上で対応を考えていかなきゃいかぬと考えております。

山内委員 自衛隊の支援活動がまだまだイラクの皆さんに十分な理解を得ていないのではないかという心配もしております。テロが激しくなっていく可能性もあると思うんですが、こういう将来の事態につき大臣としてどう心構えを持っておられるのか、お聞きしたいと思います。

野沢国務大臣 昨今の国際テロ組織の動向やイラク情勢に照らしてみますと、今委員が懸念をしておられますように、さらにテロが頻発する可能性はあるものと認識をいたしております。

 このような情勢を踏まえまして、これを未然に防止するためには、法務省といたしましては、先ほど申し上げましたような内外の機関との連携を強化いたしまして、情報の収集と、それに対する対策を強化する。特に、公安調査庁によりますテロ関係の情報収集、並びに我が国の国内におけるテロの発生を防止する意味でも出入国管理の徹底、水際でしっかりと問題のある人を食いとめていく、これがもう非常に重要ではないかと思っております。

 きょう発足いたしましたイラクにおける邦人人質事件の緊急調査室は、国際テロ対策調査本部の中に設けられるものでございますけれども、こういった機関と今後とも連携を密にしまして、全力を挙げて、やはりこういった宣戦布告なき戦いとも言われております行為を何としても防止していかなければならない、かように考えております。

山内委員 イラクに関連する質問についてはこのあたりまでにしますけれども、法務省当局においては、危ないと言っていた国に行く民間人が悪いのだというような考え、見方だけはなさらないで、予告期間があと二日しか残っていないようですので、ぜひ全力で立ち向かっていただきたいと思います。

 さて、裁判員法案について質問させていただきます。

 十九世紀、フランスの政治学者のトクヴィルという方が「アメリカの民主主義」という本の中で、刑事犯を裁く者こそ真に社会の主人公である、陪審制度は人民自体を裁判者の席に着ける、それは真に社会の統制を人民の手にゆだねるものであると記しています。私も、刑事裁判に市民がかかわり、市民が裁判に主体的にかかわっていくことで民主主義の実質化が図られるという意味で、健全な裁判員制度をつくり上げたいと思っています。

 民主主義あるいは国民主権と裁判員制度の関係について、まず大臣の見解を伺います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、この裁判員制度は、国民の感覚が裁判の内容に反映されることによりまして、司法に対する国民の理解と支持がより一層深まりまして、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるという点で、大きな歴史的な意義を有する制度であると考えております。

山内委員 だとすれば、裁判員法案の附則の第二条に、政府と最高裁判所の努力義務規定として、裁判員制度への国民の理解と関心を深めると同時に、国民の自覚に基づく主体的な司法参加が行われるべきである、そういうふうに記されていますが、この文言をさらに発展させて、百年続く制度を今私たちこの法務委員が全員で創設をしていくんだ、あるいは、最高裁も政府も、国民全体が百年の計を誓い合っていくんだということを、前文の形で、あるいは第一条として法案の前に述べるべきだと思うのですが、御見解を伺います。

山崎政府参考人 確かに、前文というのは、典型的なのは憲法が前文を置いているかと思いますけれども、他の法律で前文を置いている、余り最近は例がないわけでございます。それで、大体冒頭に趣旨規定、目的規定ですね、こういうものを置いて、その法律の趣旨をまず高らかにうたい上げる、こういうような形をとっているわけでございます。

 私ども、そういう意味で、この法案でも趣旨規定を置いているわけでございまして、国民的基盤を得るという、国民の参加が非常に重要であるということはそこでもうたっているわけでございまして、あえてまだ前文まで置いて高らかにうたい上げるところまでいくのかということの選択でございまして、この法案全体を読んでいただければ、非常に大切なものであるということは条文の中に全部あらわれているというふうに考えております。

山内委員 裁判員制度という今まで日本にもなかった新しい仕組みをつくっていく、そういう思いをやはり前文あるいは第一条で述べていく、このことはやはり大切じゃないかと私は思うのです。

 昨年、私も関与しました少子化社会対策基本法という法律を議員連盟でつくり上げたんですけれども、やはりそこにも、女性の産む産まない、あるいは何人産む、そういう権利を尊重すること、そして、その上に立って、やはり国民みんなで、子供ができやすい環境を、国民も社会も企業も国も地方自治体もすべてが理解し合う、そういう社会をつくっていくんだということを、今大変少子化が進んでいる日本を何とか、子供を持つ楽しみを味わいたい人には味わってもらおうという社会をつくっていく、そういう思いで少子化社会対策基本法というのをつくったんですけれども、しっかりと前文にそれをつくったんですよね。

 ですから、私は、少子化社会対策基本法と同じぐらいというか、あるいはそれ以上に、国家の裁判の仕組みに初めて国民が判断者として関与をする、そしてそれに拘束力を持たせるという仕組みをつくっていくわけですから、やはりそれは検討を願いたいと思うのですが、どうですか。

山崎政府参考人 私どもの考え方は、一条の趣旨規定と、それから附則にありますような文言、こういうことを含めて、国民参加が非常に重要であるということをうたっているつもりでございまして、私どもの現段階の立場としては、あえて前文まで置く必要はないのではないかと考えておりますけれども、いずれ、これをどういうふうにしていくかということは、国会の御判断ということになろうかと思います。

山内委員 私は、これまでの裁判制度について、例えば証拠開示が十分でないなとか、あるいは可視化の問題についてはまだ政府に認識が足りないな、そういうふうに思っていました。抜本的に改革する必要がたくさんの点についてあって、その反省の上に立って、やはり、新しく仕組みができる制度なんだから、今まで不足していた部分をその中にどんどん入れ込んでいこう、そういう思いでこの裁判員制度をつくり上げていきたいと思っているんです。

 私が今までの裁判制度を見ていて正すべきだったという部分については、これから逐次皆さんにお話をさせていただこうと思いますけれども、まずその前に、政府として、今までの刑事司法手続ではいけないんだ、裁判員制度を採用しなければいけない、裁判員法案を出さざるを得ない、ここまでの、裁判官のみによる裁判制度による問題点、どういうことを考えて、今裁判員制度をつくらなければいけないという結論に至られたのか、お聞きしたいと思います。

実川副大臣 委員御指摘の、これまでの裁判官による裁判制度、問題があったかということでございますけれども、我が国の現在の司法制度は、基本的には国民の信頼を得ているものと認識をいたしております。

 しかしながら、これまでの司法の果たすべき役割がより大きくなっていく中で、司法がその機能をよりよく果たしていくためには、その国民的基盤をより強固にすることが必要であると考えております。

 また、先ほど大臣から答弁がありましたように、裁判員制度が導入されまして、国民の感覚が裁判の内容により反映されるようになることによって、司法に対します国民の理解、また支持が一層深まり、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようになるものと考えております。

山内委員 しかし、刑事裁判手続というのは今まで裁判所が担っていた。裁判所の構成員は裁判官である。ですから、学者や実務家の中には、裁判官こそが司法の担い手であって、一般の人が裁判官みたいなことをやることは今の憲法では考えていないんじゃないかと指摘する方もおられるのですが、この点については、政府としては、合憲だと考えられて法案を出されていると思うんですけれども、この辺はどういうふうに検討されたことなんでしょうか。

山崎政府参考人 ただいまの憲法との関係でございますけれども、まず、憲法では、司法権に関しまして、七十六条以下の規定を置きまして、裁判官の職権の独立あるいは身分保障を定めております。これとともに、三十二条で裁判所において裁判を受ける権利、それから三十七条で公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利、こういう規定を置いているわけでございます。これらの規定によりまして、憲法は、独立して職権を行使する公平な裁判所による法による裁判が行われることを要請しているというふうに解釈できるわけでございます。

 この法案における裁判員制度は、このような裁判を確保することができる制度でございまして、その憲法の趣旨に沿ったものであるというふうに解釈しております。

 裁判官、通常言われている裁判官ですね、これを基本的には念頭に置いているというふうに考えられますけれども、それでは、裁判員等一般の国民の方が入ってやる制度について否定をしているかというと、それは否定はしていない。要するに、公平な裁判所の迅速な公開の裁判を受ける、そういう制度になっているかどうかという点が、その一つのポイントであるということでございます。

 その詳細につきましては、今ここでお答えした方がよろしゅうございますか、その内容の点については。よろしゅうございますか。――はい。

山内委員 だとすると、政府としては、憲法上の疑義も全くない、今までになかった新しい仕組みを創設すると理解しているということでよろしいんでしょうか。

山崎政府参考人 憲法の解釈上、またその憲法の要請する裁判所に見合ったものとして我々はこの裁判員制度を提案させていただいているということでございまして、憲法上問題はないというふうに考えております。

山内委員 ところで、大臣、「参加」という文言は、今ある既存の仕組みに裁判員である国民が参加をするということですよね。

 そうすると、裁判官と裁判員、国民で全く新しい仕組みをつくろうという思いなのに、「参加」という言葉を使われると、がしっとした裁判官による刑事司法制度があって、ただ国民がそこに行くというか近づくというか加わる、そういうふうにしか私は「参加」という文言を理解できないんですよ。

 この法案の名前が、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案なんですね。これを何とか、法律の名前を変えていただくというか、検討していただくことはできませんかね。

野沢国務大臣 私は、今副大臣からもお話がございましたように、現行の裁判制度、これはもちろん憲法に基づいて組み立てられておるわけでございますが、これは国民の皆様からこれまで相当信頼され、これに従って日本の法秩序が形成されてきている、それぞれの分野で実績と権威があったものと考えておるわけでございまして、がっちりとしたということもあろうかと思いますが、さらにこの制度をより国民の皆様に近づける、そして国民の皆様がむしろ主人公になった形で運営できるような姿が望まれるということから、このような制度を今提案しているわけでございまして、「参加する」という言葉の意味を広く御解釈いただければ、委員おっしゃるような理想に近づけるのではないかと思うわけでございます。

山内委員 大臣のお考えは今お聞きしてわかるんですが、後で議論すると思いますけれども、裁判官の数を三人を絶対減らさないというのが推進本部の考えなものですから、絶対に減らさないというかたくなな態度にしか私には思えなくて、そうすると、今ある刑事司法制度については、絶対に曲げません、考え直しません、ただ、国民が来られる人数論について検討しましょうというような議論、これは後で時間をかけて推進本部と議論しますけれども、ぜひこの議論をもう一度再検討をお願いしたいと私は思っております。

 ところで、国民が参加する制度というのは、一九二八年に我が国でも陪審制度が行われたという過去もありまして、多少の国民の司法参加というのは昔も実現されたことがあったんですけれども、残念ながらこれが一九四三年に中止になりました。裁判員法のいわば先輩である陪審法がどんな理由によって中止になったのかを教えていただきたいと思います。

実川副大臣 今委員御指摘のように、陪審法、昭和十八年四月に陪審法の停止に関します法律によりまして、その施行が停止されました。

 その理由につきましては、帝国議会におきます法律案の提案理由説明などによりますと、陪審の評議に付されます事件が減少し、昭和十三年以降は毎年一件ないし四件にすぎない状態になってまいりました。その一方で、戦時下のもと、緊迫した状況の中で、各市町村によります陪審員資格者名簿等の作成でありますとか、陪審員の出頭の負担が少なくないこと等の諸事情を考慮しまして、その施行を停止したものと考えられております。

山内委員 役場の仕事としても、陪審員名簿を整備するよりも、多分、召集令状の事務とかそういうのも大変だったでしょう。とにかく戦争がもたらしたものだとは思うんですけれども、しかし、利用されなくなったというのは、制度上の問題も何かあったのではないのですか。

山崎政府参考人 ただいま副大臣からもお話ございましたけれども、制度上の点についてもいろいろ指摘がされております。

 まず、必ずしも明確ではないんですが、現在から推察するということになろうかと思いますけれども、この戦前の陪審法では、陪審裁判が原則とされる重大事件についても陪審を辞退することができるということを置きまして、被告人に要するに陪審の選択権が与えられていたということが第一点でございます。

 それから、裁判所は、陪審の答申に拘束をされませんで、何度でも陪審を更新するということができるというふうにされております。また、その陪審の答申を採択して事実の判断を行った判決に対しては一切控訴が認められない。こういうような制度になっていたわけでございまして、まだ細かいところもいろいろあるわけでございますけれども、こういう点から、やはり陪審を選択しない被告人が多かったということが原因ではないかというふうに言われております。

山内委員 ですから、この裁判員法については選択権を認めない、国民は、自分たちの自覚と責任の名において裁判員になったということによって、国民の国民による国民のための刑事司法を実現していくということだろうと思います。

 しかし、その思いとちょっと矛盾するような規定があると思うんです。法案の第二条、ここに対象事件ということでくくってあるんですが、この対象事件の中には、法定合議事件のうちの選ばれた事件であると。たとえ法定事件の倍くらいの事件数になるとしても、国民の司法参加を推し進めるならば、裁判員制度については法定合議事件全部について認めるべきだと思いますが、どうでしょうか。

野沢国務大臣 裁判員制度の円滑な導入のためには対象事件をある程度限定する必要があるということから、その範囲については、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい事件とすることが相当であると考えたわけでございます。

 そのような観点から、最も重い法定刑が定められている罪として、死刑または無期の懲役もしくは禁錮に当たる罪の事件をまず対象とすると同時に、特に国民の関心が高いものとして、法定合議事件であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた事件を対象としたものでございます。

山内委員 今のお話を聞くだけでは、例えば幾らぐらいあるんでしょうか、仮に事件数がふえたとして、三千件ぐらいがこの対象事件数になるのが四千件ぐらいになるということで、さて、どれほどの、事件数を絞って裁判員に関与してもらう仕組みを考えたという理由としてそういうようなことになるのかなと思うんですが、推進本部、何か数字的に把握していますか。

山崎政府参考人 おっしゃられていることは、法定合議事件でも全部が対象になっていないじゃないかという点がポイントだろうというふうに思いますけれども、法定合議事件の中でも、国民的な関心の高い、それから社会的に影響が大きい事件、こういうところにやはり一般の国民の方が入って裁判をしていただく、そういうようなインセンティブといいますか、そういうものがあるものについて参加をしていただくという点を考えたわけでございまして、法定合議の中でも、本当に裁判員の方に関心を持っていただくような事件、そうじゃないものも入ってくるわけでございます。

 それだけでは、それを除くということになりますと少ないということから、やはり態様としては、裁判員の方の関心が最も高いであろう、人を死に至らしめたようなもの、こういうものも加えてやっていこう、こういうふうに考えたわけでございます。

山内委員 ですけれども、法定合議事件でない事件であっても、社会的な関心を呼ぶような事件については、余り法定刑としては高くない事件でも裁定合議事件として合議部で審査をするということもあります。

 それから、例えば強姦事件の場合には、それが殺人まで至らない場合には裁判員制度には適用にならないわけですけれども、強姦事件で争われる場合としては、例えば合意による行為であったということが争われる典型だと思うんですね。そういうような事件こそ、国民の意識、つまり今の男女の生き方とか、社会での性風俗のあり方とか取り締まり方とか、個人の認識のレベルの違いであるとか、そういう、まさに国民がこぞっていろいろな判断をした方がいい事件もあると思うんです。

 だから、そういう強姦事件などを考えると、やはり法定合議事件については、今後の課題としては、全部裁判員制度の適用を考えていくという方向は持てないんですか。

山崎政府参考人 現在、画している範囲でございますけれども、これはやはり、制度の円滑な導入ということ、それから、現実に全事件について裁判員の方にお願いするというのは不可能であろうということから、こういう一線を画したということでございます。

 今後、これが安定的に運用されていって国民に理解が得られるといった場合に、果たしてもう少し広げるかどうかということ、これは対象にはなります。ただ、現在から、それが本当にそうなるかどうかということは申し上げられませんけれども、一つの視野に置きながら運営をしていくということになろうかと思います。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

山内委員 さらに、裁判員制度の範囲あるいは適用を抑えるような規定が第三条に書いてあります。

 つまり、裁判員あるいは裁判員候補者、あるいは裁判員の親族、あるいはそれに準ずる者、そういう方々に対して、身体、財産に危害を加えられる、あるいは生活の平穏が著しく侵害される、そういう場合には、裁判員の入らない今までの既存の裁判官の合議体で取り扱うという仕組みを残していますが、これも、広く国民のいろいろな考え方を裁判所の中に取り入れて、裁判官と一緒になって新しい判断をこれから行っていこうという仕組みを考えるに当たっては、国民に、こういう事件は来てもらわなくていいですという制約を書き込んでいるようにしか読めないんですけれども、そもそもこれはどういう趣旨なんでしょうか。

山崎政府参考人 この点は、やはり、裁判員それからその親族等に対する加害行為が行われるおそれがあるというような事件につきましては、裁判員のなり手が本当に確保できるかどうかという大きな問題点があるということでございます。そういう点を考えまして、負担を与える上にさらに精神的な負担ということになるわけでございます。現実に、何か本当に仕返しとかそういうことが起こったらまた大変な話でございますので、そういう例外的なものについてこれは除外をしていくということでございまして、それはやはり裁判員のためでもあるということでございます。

 ただ、これは例外中の例外でございますので、基本的にはなるべく裁判員の参加する裁判でやる、そういう考え方でございます。

山内委員 しかし、例外中の例外、そういう書き方が法文上書けるわけはないということはわかりますけれども、例外中の例外という書き方にも読めないんですよね。

 つまり、例えば、現に危害が加えられている場合は確かに書いてあるんですけれども、「加えられるおそれ」、それも、裁判員ら以外の、「親族」、「準ずる者」、随分広範囲に書いてありまして、このおそれまで書いてあるということは、広範囲の人の、例えば、今、割と陰湿化していて、ホームページに書き込みがあったりメールを送信されたり、そういうこと、あるいはおどしがあった、あるいは裁判官と裁判員の十二名の中の一人に対して、何かちょっと被告人あるいは傍聴席にいただれかから言葉を浴びせられそうな、そういう事件の場合でも、前もって、ああ、これはちょっと裁判員たちも怖がるからやめておこうかという短絡的な判断につながるのじゃないかと思うのですが、どうですか。

山崎政府参考人 確かに、法文では、そういうおそれがあるものということも対象にしているわけでございますけれども、これは、例えば、被告人がかつて裁判官への加害報復を行ったことのあるような組織のリーダーであるとか、あるいは、その組織が、被告人を有罪にした場合には担当の裁判官や裁判員に対して報復する旨の声明を発している場合とか、それは、現実にそのおそれが外部的にあらわれている場合が結構あるわけでございます。そういう場合に、なおその状況で裁判員の方にやっていただくということになるのかということでございます。

 私、経験を申し上げて恐縮でございますけれども、やはりプロとしての職務についている場合であっても、物すごい脅迫が行われるわけでございまして、私個人はプロでございますからそれは構いませんけれども、家族のプレッシャーというのは相当なものがあるということでございまして、そういう状況の中で本当に正しい裁判ができるのかという、そこを問わざるを得ないだろうと思います。

 ですから、例外ではございますけれども、そういうような状況がある場合にはやはりプロだけでやった方がいいだろう、それがやはり国家として国民を保護する方向であろうというふうに考えているわけでございます。

山内委員 事務局長にどういう危害のおそれがあったのかということは私は存じませんけれども、そういう自己体験で法案をつくられることはちょっとどうかなとも思うんですけれどもね。これは、考え、いろいろあるんでしょう。法廷侮辱罪とか傷害罪とか証人威迫罪とか、そういうものに対応するような刑事罰というのは用意されています。

 それから、私もいろいろな方から話を聞く中で、例えば、暴力団の親分よりもチンピラの方が怖いということを言う人がいます。ヒットマンなんかは、もうみんないわゆる組員、チンピラが実際の現場でけん銃を撃つわけですから。だから、組織のリーダーの公判廷がありそうな場合にはこの三条を適用するという考えも、やはり一面的にしか見ておられないんじゃないかなと私は思います。

 暴力団の事件が全体として、たとえ小規模な事件でも、あるいは単なる組員の事件でも、ほとんどがこのおそれがあるということで裁判員が関与できない、国民が関与できない裁判になっていく、そういうことをこの条文から読めるんですが、この私の疑問を何か解消してもらうような発言はないですか。

山崎政府参考人 先ほどは私的なことを申し上げまして恐縮でございます。

 ただ、これで理解をしていただきたいのは、そういう危害が加えられるおそれがあるということに加えて、そういう状況の中で、裁判員が怖がってしまうということからその職務ができない、では、かわりがいるか、こういうことになりますと、そもそも裁判ができるのかどうかということにかかわってくるわけでございまして、裁判員裁判といいましても、成立をしないという状況になったときに一体どうするかということは、必ず考えておかざるを得ない制度的な最小限のものであるというふうに理解せざるを得ないと思います。

 それからもう一点は、御指摘は、暴力団の事件であっても、これがすべて対象になるということではございません。暴力団の事件でありましても、その暴力団の一員が本当に個別で行動をした、組織としては何も関与しないというものも当然あるわけでございまして、暴力団の関係では、被告人の所属する組織の構成員によってその裁判員の人に対する危害が加えられたり他の裁判員が怖がっているというようなもの、そういう事態に当たるものが除外をされるということでございまして、それは、ただ暴力団員であるから対象外になるということではないということでございます。

山内委員 ですから、危害を加えられるおそれがあるのは、もうまさに裁判官についてもあるわけですから、その人たちと一緒に判決を下す裁判員についても、それをお客さんだとかあるいはお飾りとして位置づけると、やはりお客さんに迷惑をかけられないというような発想にどうしてもなると思うんですね。

 もう少し、既存の司法制度に後から裁判員が参加するという発想をぜひ捨ててもらって、裁判員裁判という新しい仕組みを国全体でつくっていくんだ、そういう意識が必要だとも思いますし、もし、そういう意識を裁判官も裁判員も持っていただけるような仕組みをつくり上げるんだったら、私は、それほど裁判員をお客様扱い、お飾り扱いにして、できるだけ、第二条のような限られた事件にしようとか、あるいは第三条のように、周りの人、準ずる人もすべて含めて、おそれで裁判員になっていただかなくてもいいんだと遠慮するというようなことまでは考えなくてもいいんじゃないかと思うんですが、どうですか。

山崎政府参考人 これは、基本的に裁判官と裁判員の大きな違いは、裁判官は、みずから職業を選択したわけでございます。ですから、たとえどのような事件でも必ずやり遂げる、これがプロでございます。裁判員の方は、みずからの意思でここに参加をするということではございません。最終的には任意の意思でやっていただきたいのでございますけれども、やはり無作為抽出ということで選任がされるという方でございまして、そういう方について、プロと同じような状況になってもやれ、それだけの負担を負わせるということが果たしていいことかどうか。私は、それはいいことではないというふうに考えております。

山内委員 裁判員に対して、裁判所に来ていただく、あるいはその審理中、あるいは裁判所から帰られるとき、そういうときにいろいろな配慮をしてあげる、そういう仕組みを考えられるのは私は非常に大切なことだとは思うんですが、最初から、あるいは入り口から裁判員を除外するということについて、こういう非常に漠とした概念で除外をしていくということについて、きょうのところは懸念を言わせていただきたいと思っています。

 もう一つ、今までの裁判所が裁判員を主人公だと考えていないんじゃないかと思うのが、例えばアメリカでは、陪審員を十二人以上、そして裁判官を一人という構成にしています。これぐらい一般国民を多く採用して多様な意見を聞く制度をつくるべきではないかと思っているのですが、どうでしょうか。

野沢国務大臣 まず、評議の実効性の確保や個々の裁判員が責任感と集中力を持って裁判に主体的、実質的に関与することを確保するという観点から、合議体全体の数には一定の限度がありまして、十人に至らない程度が適当であると考えたわけでございますが、今委員御指摘のありましたアメリカの陪審制度につきましては、有罪無罪の結論のみを評決して事実誤認を理由とする上訴も認められないために、判決に実質的な理由が示され、それが上訴審の審査の対象ともなる我が国とは事情がやや異なるのではないかと思われるわけでございます。

 この裁判員制度の対象事件につきまして、法定合議事件のうちでも特に重大と考えられる一定の事件を取り上げておりますのは、これは、原則として裁判官三人による慎重な審査、審判を行うことがやはり必要であるということで構成しているものでございます。

 合議体全体の規模を一定の限度内とした上で、裁判に国民の感覚がより反映されるようにするためには、相当程度、裁判員の数を多くするという点から六人という数字も出てきたわけでございまして、今お話しのように、すべての事案を扱うということについては、この制度発足をまずさせるということ、そして、国民の皆様がより実感を持って裁判に参加していただくという観点から、ちょうどこの辺が適当ではないかということで絞り込んだということでございます。

山内委員 私は、大臣とは違う考えなんですね。

 つまり、国民の司法参加を求めていくというのが制度の趣旨なんですから、アメリカは有罪か無罪かを決めるためだけに陪審制度を使っていて、有罪か無罪かを決めるためだけにでも十人以上の人数を要している。だとすれば、日本のように、有罪無罪を決めるためだけではなくて刑の重さまで決めるんだったら、余計に国民からの声を聞く、つまり、有罪無罪かを決めるためだけの制度でしかないアメリカの人数より日本の人数を多くして、刑の量刑についてもしっかりと国民に判断をしてもらうという仕組みの方が私は筋として通っていると思うんですが、どうですか。

野沢国務大臣 日本の制度はいわゆるヨーロッパにおける参審制に似たところがあるわけでございますが、裁判官の方々とそれから裁判員とが対等に議論をして、その上で多数決でしっかり決めるという点は、やはり日本のこれまでの制度と新しく国民の皆様に道を開くという点でなじみが一番いいんじゃないか、専門家の意見を聞きながら、かつ、自分たちの常識的な生活感覚をより反映させるという意味で、日本の制度は、日本の風土といいますか、国民感覚にちょうど適しているんじゃないかと私は考えておるわけでございます。

山内委員 日本の感覚に適してと、それがどうして法壇の上に九人しか並んじゃいけないんだという結論になるのか、私は本当にちょっと理解できないんですけれども。

 こういう話がございまして、検察審査会の職員の皆さんが話していただいたんですけれども、検察審査員というのは、裁判員と同じように無作為抽出なんです。選ばれた当初は非常に議論も十分じゃなかったんですけれども、つまり、検察庁に検察審査会として意見を通すということでも余り説得力を持った話し方ができなかった、そういう無作為抽出の審査員の皆さんが、しかし、真剣に、真摯に議論をされて、任期が終了するころには、事務局の職員の皆さんも驚くような立派な報告書を書かれる、そういうことも聞いているんですね。

 だから、私は、このような実情から考えると、国民をもっと信頼していただいて、人数をふやして、裁判所の法壇の上に十人以下でしか絶対に並んじゃいけないという仕組みじゃなくて、もっと、まじめにしっかりとした議論をしていただいて判断を出していただく、その仕組みを、刑の量刑まで含めて判断してもらう新しい仕組みをつくり上げていくんだ、そこに国民もたくさん参加してくださいよという仕組みをつくり上げるんでしたら、その十人未満で抑えるという結論にはならないと私は思うんですけれども、どうでしょうか。

山崎政府参考人 先ほど大臣からもお話ございましたけれども、要は、評議をどれだけ実質的に、実効的に、有効ならしめるかという点でございまして、それはやはり、数が多いとしゃべる機会もない人も出てくる、あるいは、もうだれかしゃべっているんだからいいだろうということにもなりかねないわけでございまして、充実した評議を行っていただきたい、審理を行っていただきたいという点から、まず、これが行えるのは大体十人未満であろうということを考えているわけでございます。

 先ほど検察審査会の関係で言われましたけれども、十一人でございますが、そこの中には裁判官が入っておりませんので検察審査員だけで十一人ということでございますが、こちらは裁判官を含めて九名ということでございまして、そんなに大きく数字が変わるわけではございません。

 そういう点を考えて、裁判官三人、それから、最大限国民の方に参加をしていただくということで六という数字を提唱させていただいているわけでございます。

 それともう一点は、これは最後は判決になるわけでございまして、日本では、かなり詳細に判決書を作成するという伝統でございます。

 そうなりますと、最終的にそこまで関与をしていただくわけでございますね。少なくとも言い渡しまで関与をしていただくということになりますと、実質的な判決の理由、そういうところまでも関与をしていただくわけでございます。これが、極めて多い人数になったときに、本当にどれだけの時間がかかるかという問題もございますし、その有効な作成ができるのかどうか、そういう問題も当然ございます。そういう点も踏まえまして、このような人数を考えたということでございます。

 それから、世界の各国で、これよりずっと少ない人数で行っているところもいろいろあるわけでございまして、それぞれ、いろいろな司法制度は各国によって事情が変わってまいりますので、それを踏まえて行うということで、私は、おかしくはないというふうに考えております。

山内委員 検察審査員の十一人のメンバーの中に裁判官がいないのは当然なんですね。なぜなら、そこで決議がなされることによって拘束力が出て、それが検察官の立件を促したり起訴をさせたりして、それで裁くのは裁判官ですから、検察審査員制度に裁判官が入らないのは当然のことなんですよ。

 だから、今の事務局長のおっしゃることは、だけれども裁判員制度については裁判官三人が入っていて合計九人だから人数的には対々じゃないかみたいな議論は、それは説明としては全くなっていないわけですよ。国民が司法参加あるいは検察審査員となって何人来ているかの問題なので、十一人と六人を比較するならいいけれども、十一人と九人を比較するなんという話は、全然、話としてはならないんですよ。

 その上でお聞きしますけれども、今のそういうお話を聞いていると、どうも、国民というのは十分な法律知識もないし判断力も持たないし、そんなに人数をふやしても仕方がないんじゃないかという国民不信がどこかでありませんか。

山崎政府参考人 ただいま裁判官と言ったのはちょっと間違いでございますが、要するに、法律家ですね、プロが入っていないという意味でございます。

 それで、今回の制度は、裁判官と裁判員の方が一緒に判断をして行う、こういう形をとっているわけでございまして、そういう意味では、総体で九人が考えているということになるわけでございます。

 そういう意味で、全体として評議あるいは審理をスムーズに進めていくにはやはりどの単位の人数が必要か、あるいはそれ以下でなければならないか、こういう点も全部配慮した上で決めたわけでございまして、決して、人数がそういう人数だから国民は頼りないからということではございません。一緒にやるということ、これを決めているわけでございまして、双方の意見が反映された過半数で決める、こういうルールをとっているわけでございますので対等でございます。

山内委員 この制度が国民不信に基づく制度設計だったら本当に悲しいことだし、大問題だと私は思っています。できるだけ人を多くして、国民が裁判に主体的にかかわることに意義がある、そういう民主主義の思想がやはり根底になければいけないと思っています。

 ところで、この法案が、検討会が終わった後、法案が出てくるまで、与党合意の形成が随分苦労されたというふうに聞いておりますけれども、まず公明党が、当初、裁判官二名に対して裁判員七名としていたのを、裁判官三名を認めるかわりに自民党の方が裁判員をふやすという、私たちから見ると妥協をしたように与党合意というのは見えるんですけれども、このあたりは民主主義の原理原則というのはどういうふうに反映されていたんですか。

野沢国務大臣 この人数の構成につきましては、各方面から御意見をちょうだいしているわけでございます。例えば、最高裁判所の判断とか、それから、司法制度改革におきます第三者機関といいますか、有識者意見での座長様の御意見、それから、各党ももちろん御意見を出していただいておりますし、日弁連等からも御要望もあったところでございます。

 それらの数をすべて念頭に置いた上で、最終的な詰めを行った上でこの数字が固まってきたわけでございますが、その数の決定の経緯というのは、繰り返しになるかもしれませんが、もう一度確認をいたしますと、やはり評議の実効性を確保する、それから、それぞれの裁判員の方が責任感と集中力を持って裁判に主体的、実質的に関与する、それから、発言の回数も、やはり自分の思っていることを十分に言い尽くすためには余り数が多いとまた難しいなということもあって、まずは、合議体全体の規模は十人に至らないというところの枠の方を固めまして、その上で、裁判員の対象とする事件が法定合議事件でも重大なものということであるからには、これまでの実績等を考えまして、現行の法定合議事件と同様に裁判官三人というのが慎重な裁判を行う上には必要であるなと、その中で、さらに裁判員がなるべく多くということから、相当程度の数をということで六人が決まってきた。

 こういうことで、まことに合理的な、各方面の御要望がそれなりに配慮された数と私どもは理解しておるところでございます。

山内委員 もう一つわかりにくいことがあるんですけれども、検討会と法案の提出までの間に、公訴事実に争いがない場合に裁判官一名、裁判員四名という体制をとる、そういう仕組みもつくられたんですけれども、これもそれ以前では全く議論がなされていない仕組みなんですが、この数字は何を根拠にして出てきた数字なんでしょうか。

山崎政府参考人 こういう制度が設けられた趣旨は、事件によっては公訴事実について被告人が争わない、それから両当事者にも異議がない、あるいは量刑上の問題もそう大きな問題も出てこない、法解釈の問題も出てこないという事件があり得るわけでございます。そうなった場合に、国民の方に参加していただくわけでございますので、そこまで負担をお願いすべきものかどうか、そこまで至らなくてもできるのではないか、こういう配慮から、裁判官一名、裁判員四名、こういうものを設けたということでございます。

 この根拠でございますが、縮小の単位といった場合に、裁判官、もともと二名がどうかという議論もいろいろあったわけでございますけれども、裁判官は法解釈について権限を持つわけでございます。それから、訴訟手続上の判断も裁判官のみで行うということになります。そうなりますと、二人の場合には、意見が食い違った場合にはどうやって解決をするのかという点が大きく問題になりまして、これをなかなか解決する方法はございません。

 そういうことを考えますと、縮小の単位としても、やはり公訴事実に争いがなくて、その上でそれほど大きな問題もないということであれば、現在、単独事件をやっております、それと同じような発想でございまして、裁判官は一人でいいだろう。これも、三人の裁判官で考えた上で一人でいいよと言っているわけでございます。それで、まず一が出てくるということでございます。

 それから、裁判員の方でございますけれども、全体としてどの程度が妥当かということでございますけれども、これはいろいろな考え方がございます。その中で最終的に四人ということになったわけでございますけれども、議論の中では、日本の裁判みんな、奇数の数字ですべて構成がされているわけでございまして、そういう方が評決が非常にスムーズにいくということを考えてのことかと思いますけれども、そういう点で考えますと、選択肢は二、四というところがあるわけでございます。その中で、二というのは幾ら何でも少な過ぎるだろうということから、やはり四が妥当である、こういう結論に達したということでございます。

山内委員 いわゆる単純な強姦事件、これも法定合議事件なんですが、強姦事件については、裁判員が加わらない、裁判官三人だけの審理で判決に至ります。ところが、裁判員制度が適用される事件で死に至った事件についても、認めていた場合には裁判官一名、裁判員四名という仕組み。つまり、裁判員制度が問題となる事件でも裁判官一人、裁判員制度が問題とならない、例えば強姦事件でも裁判官が三人の合議事件になる。これはアンバランスでしょう。

山崎政府参考人 合議事件の中でも、確かに認める事件がございます。そういう事件でも三人でやるということになっているわけでございます。

 それで、この裁判官一人、裁判員四人の事件、これにつきまして考えますと、なぜ合議をするかということでございますけれども、やはり、ある程度重要な事件につきましては複数の目で見て妥当な結論を下そう、こういう要請によるものでございます。裁判官一人と裁判員四人のこの類型も、重大な事件の類型でございます。その中で、裁判官は一人かもしれませんけれども、裁判員の方も対等の権限で入っておられますので、要するに、複数の目で見る、そういう合議の実質は確保できているわけでございまして、そういう点では発想は同じというふうに考えております。

山内委員 やはり違うんじゃないですか。だって、今までは、単純な強姦以上の事件は必ず裁判官三人で判断してもらっていたわけですよ。そして、今までの議論を通じていると、裁判官三人という仕組みは絶対変えない、それは、法解釈も混乱してはいけないし、裁判所としても責任を持ちたい、そういう思いからするとやはりバランスを欠く仕組みだと私は思っています。

 だから、先ほどからいろいろ話を聞いていますけれども、裁判員の人数については、少なくともこれといった何か哲学があるというふうには、私は、話を伺っていて理解できないんですね。だから、与党合意のときにも出ていたように、裁判員が七名だと主張していた党も、それは裁判員が七名だというのが必要だ、大切な人数なんだということで主張されていたと思うんです。

 私たちも、裁判員を、今皆さんがつくり上げたような六名ではなくて七名にして、多様な人を裁判体の中に巻き込んでいく、引き込んでいく、一緒になって責任を持ってもらう、そういうような仕組みをつくるべきだと思うのですが、どうでしょうか。

山崎政府参考人 確かに、数字の点について哲学はあるかと言われると、これはないのかもしれません。

 ただ、その実際上の考え方は基本にございまして、まず、評議全体をどうやったら有効ならしめるか、みんなが意見を言いやすいような単位にするかということでございます。そういうことから、さんざんいろいろな角度から議論をしたわけでございますけれども、やはり十人未満で行った方が意見が十分に言いやすいじゃないか、こういう選択をしたわけでございます。

 それから、先ほど来申し上げておりますけれども、やはり重大な事件でございます。どういう法解釈が入ってくるか、あるいは憲法解釈も入ってくる可能性もあるわけでございます。そういう関係から、やはり裁判官は三人必要であるということになります。その範囲内でどれだけ最大限国民の方のお声を入れていくか、こういう判断をしたわけでございます。

 当初におきまして、私どもの検討会でも、裁判員は四人というその中間的なまとめもあったわけでございます。もちろん、五、六も許容はしておりましたけれども、それはいろいろな考えがございまして、その中で、最大限やはり国民の方に意見を言っていただくようなシステムを設けたいということから、考えたわけでございます。

山内委員 ところで、大臣、刑事裁判を受けている被告人あるいは弁護人の最大の関心事は何だと思っておられますか。

野沢国務大臣 やはり、罪を軽くしていただきたいとか、あるいは公正な裁判を受けたいとか、とにかく事実を明らかにして、それに伴うしかるべき処遇を受けるということにあるのではないかと考えております。

山内委員 一番の思いは、やはり、自分の判決がどれぐらいになるかだろうと思うんですね。

 裁判官の全体から見まして、女性裁判官の割合が四分の一、割と女性裁判官はふえたんですね。それに加えて、女性の裁判員が、その事件についてはたまたま六人とも女性の裁判員になっちゃった、裁判官も、三人のうち二人、あるいはもう三人とも女性裁判官だという場合に、強姦殺人の裁判をやっている被告人あるいはその弁護人にとっては、かなり厳しい刑が予想されると思うんじゃないかと思うんですけれども、どう思われますか。

山崎政府参考人 今のような構成でどちらに働くか、これはやってみないとわからないところがございます。同性に厳しいという見方もあるかもしれません。

 ちょっとこれは私が今どうこう言う話ではございませんが、ただ、裁判官の場合も、その順点をきちっとしておりまして、そこの構成を選べるわけではないわけですね。そういうシステムにしております。それはやはり不平等になるということでございます。したがいまして、裁判員の方についても、そこでいろいろ作為を入れると公平を欠くということにもなりますので、そこはやはり、そういう制度を設けるわけにいかないだろうというふうに思います。

 ですから、本当に希有な例として、裁判官も裁判員も全部女性ということはないわけではないということになろうかと思います。

 ただ、では、そこでどういう裁判が行われるかということですね。これは、一審の裁判は確かにそういう状態で行われましても、これは本当にそれでおかしい、結論としておかしいということになれば控訴がございまして最終的には是正もされる、こういうシステムで、三審で全体で考えていくということになろうかと思いますので、そこは御理解を賜りたいと思います。

山内委員 ただ、希有の事例であっても、先ほどのような裁判体が構成されることも予想されますので、例えば一つの工夫として、六名の裁判員、私は七名の裁判員を主張したいんですけれども、六名の裁判員にも老若男女をまぜて国民の多様性を確保する、そういう気持ちが政府にはないのかなと私は思うんですね。

 例えば、これは簡単なことで、今、無作為抽出を、選挙人名簿をばばっと一緒くたに整理されるようですけれども、男性の選挙人名簿、女性の選挙人名簿、これはパソコンをクリックを一回押せば一つずつ出てくるわけですから、そういうふうに分けるなどして上手に裁判員の構成を、少なくとも老若は難しくても男女の部分ではそういう仕組みを考えたりされませんか。

山崎政府参考人 現在、日本で無作為抽出を設けている制度、検察審査会制度もございます。この検察審査会制度でもそういう仕切りは設けないという形で長年行っているわけでございまして、これで、では本当に不都合がいろいろあったかということですと、そういう声は私ども聞いておりません。

 それで、これを最初から分けて全部平等にするかということでございますけれども、そうなりますと、年齢層も全部分けて、あるいは職業、いろいろな形のジャンルで分けるということが提唱されてくるわけでございまして、そうなったときに、一体どこの区切りにどういうふうにするのか、具体的事件にどういうふうに当てはめていくのかということを考えますと、これは気が狂いそうな作業が必要になってくるということで、正解はないという状況になろうかと思います。ですから、そこは御理解を賜りたいと思います。

山内委員 大臣、もう一つお伺いしたいんですけれども、こういう話を聞かれたことはないですか。裁判官が時々寝ているとか、あるいは特に向かって左側に座っている裁判官、右陪席裁判官というんですけれども、がよく居眠りをしながら法廷に座っているというような話を聞かれたことはないですか。

野沢国務大臣 そういうお話は聞いておりません。沈思黙考しておられるかどうかは、これはまた別でございますが。

山内委員 それでは、時間が来ましたので、昼からの質疑にさせていただきたいと思います。

柳本委員長 この際、休憩いたします。

    午後零時二十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後二時九分開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。山内おさむ君。

山内委員 先ほど、右陪席裁判官が寝ているのではないかという話をさせていただいたんですが、この話は、傍聴をしている一般国民から割と聞く話でございます。

 これはなぜならばということなんですが、なぜならば、三人で刑事裁判をする際に、裁判長とそれから左陪席、一番若い裁判官が主に合議事件について集中して審理をする。つまり、判決の下書きというか、たたき台を書くのは、常に、主任である左陪席、一番若い裁判官なんですね。一番若い裁判官と裁判長とでしっかりとその合議事件について判決を書いていくというシステムに今三人の裁判官の中でなっていますから、どうしても右陪席の裁判官というと、もう一つ集中力に欠けるというような実態があるんです。

 公明党が二人の裁判官と七人の裁判員という案を出されたのは、それぐらいの比率の方が一般国民である裁判員も裁判官に対してしっかり物が申せるということが根拠になっているようですけれども、もう一つは、やはり、裁判官の中でも熱心さにおいて違う右陪席裁判官というのはいない存在でも、裁判長と若い左陪席裁判官で一生懸命合議事件について審理を尽くしていけば判決に至るという実態も考えて、公明党は二人の裁判官で七人の裁判員という案を出されたのではないかと私は思っているんです。

 今の三人の合議体の実情を聞かれて、どう思われますか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘がございましたけれども、右陪席の役割はということでございますが、裁判長と左陪席で、これは当然、意見が全部一致するとは限らないわけでございます。そういう点から、最終的には三人入ってきちっとした議論をしなければ結論が出ないということがあるわけでございまして、そういう役割は当然担うわけでございます。

 それから、左陪席からいろいろ相談があったり、あるいは起案が上がってきたとき、これは素通りではございませんので、きちっとそこで手を入れ、そこでいろいろ指導をしていくという役割も当然担っているわけでございます。

 そういう点から、やはり三人で物を決めていくというのが、合議体で決めていく、非常に合理性があるということから歴史的にずっと採用されてきているものでございまして、それなりの役割をきちっと果たしていると私は理解をしております。

山内委員 大臣は現職の裁判官から話を聞かれたことがあるかどうかわかりませんが、裁判官の生活は、まず、裁判官三人とも、同じ公務員宿舎、朝出勤するときも五時に裁判所を出るときも、同じ公用車で出勤し、帰ります。朝の九時から夕方の五時までは、十坪か二十坪の部屋に一日じゅう三人がいます。このことから考えても、三人の裁判官の意見が余り割れるということは考えにくいんです。

 もう一つ言わせていただきますと、三人の裁判官で合議事件を、ほかの法定合議事件も、それから、軽い事件であっても合議とした方がいい、社会的に注目を集めているから裁定合議事件にした方がいいといって合議事件を担当している。この、ほかの事件についても、その裁判官がいつも常に人をかえないで同じ事件、三人、毎日仲よくやっているわけです。

 その左陪席、つまり一番若い裁判官は、裁判官になって一日目の裁判官もいます。そういう裁判官が裁判長に、裁判員が入ったからといって、裁判長、あなたの事件の見方は間違っている、視野が狭い、証拠判断はおかしい、そういうようなことを指摘できるような環境にはないと私は思うのですが、大臣はどう思われますか。

    〔委員長退席、下村委員長代理着席〕

野沢国務大臣 確かに、同じ部屋で同じような事件を、こういうことでございますが、私どもは、そこで、年が違い、育ちが違い、そして物の考え方が違うからこそ、三人寄れば文殊の知恵ということもあるんじゃないかと思うわけでございます。

 私自身は、三人の裁判はやっておりませんが、弾劾裁判所の裁判長として、いろいろな人の御意見を公平に聞くという点では、やはり非常に貴重な存在である、どのような立場の方でも、これを十分最後の判断に生かしていくということがこれはもう必要なことでございまして、書く人も必要でありますし、しかし、それをどういうふうに書くかという点での右陪席の方の指導的な役割というのはやはり大事ではないかな、こう思っておるところでございます。

 裁判員の方々の持っておりますいわゆる国民的な意味での広い常識、経験というものも、今回の制度の中では十分生かされた形で合議の中で活用できるものではないかと思っております。

山内委員 裁判官三人が、五時の時間が来て、裁判所の外に例えば飲食に出かける。その場合も、裁判官の転勤とか、あるいは、部あるいは係の書記官、事務官の転勤、あるいは新しく部の中に入ってきた、そういう場合に飲み食いに五時以降出かけるわけですけども、それも、三人、常に一緒なんですよ。

 そして、部の裁判長は、左陪席の裁判官や右陪席の裁判官のいわば通信簿をつけます。その通信簿によって、左陪席や右陪席の裁判官の次の任地とか、今後どういうルートを進むか、民事に適しているか刑事に適しているか、そういうことまでも決まってしまうんですよ、裁判長の意見で。

 そういう裁判長に、個々の陪席裁判官が対等な立場で、三人の文殊の知恵で何とかいい結論を出すというような仕組みになかなかなり切れないというのが実情なんですが、大臣、そういうことを聞かれても、三人の裁判官は自由な発言で結論を出していると思われますか。

山崎政府参考人 これは裁判の実態の問題、実務の問題でございますので、私の方からお答えをさせていただきたいというふうに思います。

 裁判官、当然、憲法上の権限として、それぞれ権限を持って一票であるという建前でございます。

 先ほどおっしゃられたいろいろな実態の点がございますけれども、これは裁判官それぞれがどれだけ自覚して判決をするかということに絡んできているわけでございまして、これは、現実に、裁判の経験を通じて若い人でもきちっと必要な意見は言うし、それで裁判長と合わなければ右陪席も含めて議論をするということでございまして、決して、上ばかりを見ているとか、評点がどうなるか、そんなことをやっていたら裁判にならないわけでございます。ですから、それは、私は少し違うというふうに思っております。

山内委員 私が一番気になるのは、裁判官三人は、朝の迎えの公用車の中から、夜、官舎まで運んでもらえる公用車の中まで、つまり、例えば八時半から夕方の六時ごろまでの間、しかも宿舎も、特に地方の都市で合議体のある裁判所では大体宿舎も一緒なわけですから、大体常に、どの時間でも、どの場所でも合議ができるんですよ。合議ができるということは、三人が、事務局長がそういう擬制に乗っかって、では、私も話しましょう、その擬制に乗っかって話をするにしても、三人が常に同じところで、長時間かけて合議するわけですよ。そうすると、大体、三人の意見がまとまるんですね。

 さあ、三人の裁判官がまとまりました。裁判員六人は、呼ばれた日に来ます。裁判のある日に来ます。評議だと言われた日に来ます。裁判員六人が裁判所に来る前に、裁判所の外で、どこかで六人が一緒になって協議をするということはあり得ません。

 だから、私は、三人の裁判官がこういう結論を出しましたと言うときに、ほかの裁判員六人、一般市民の皆さん六人が裁判所に来て、そして、裁判官三人はこういう意見で一致していますと言われたときに、果たして自由な発言ができるのか、そう思っているんですが、大臣、どうでしょうか。

野沢国務大臣 裁判員の方々がいきなり来て話を聞いてわかるか、こういうこともあろうかと思いますが、だからこそ、私は、国民一般の皆様から任意に抽出された、選ばれた裁判員の方が、プロの裁判官の御意見に物を言う、質問をする、そして、納得をするかしないかはあろうかと思います。そこで、最終的には、多数決という民主主義のルールに沿った判定が下されるというところですべての判断が妥当性を持つ、こう考えてよろしいんじゃないかと思います。

山内委員 法案第六条に裁判員と裁判官の権限が規定されていますけれども、それでは、身柄を確保する、保釈とか、身柄を拘置所あるいは留置場あるいはどこかそういう施設に置いておく、そういう勾留をしておく、あるいは一カ月や二カ月ごとに更新をしていく、そういう権限は裁判官が持つのですか、裁判員が持つのですか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の点は、この六条二項二号に「訴訟手続に関する判断」ということが記載されていると思いますけれども、これは裁判官のみで判断をする、裁判官の合議によって判断をするということでございますので、それについては裁判員は関与しない、こういうことでございます。

山内委員 つまり、裁判官は、裁判員と違って、そういう身柄を確保しておくこと、あるいは保釈についても、裁判員が関与しない、全く独自の、今まで持っていた権限は裁判員には渡さない、つまり国民には渡さないという仕組みになっているわけですよ。

 だとしたら、法律解釈もこういう解釈です、この場合は絶対に正当防衛に当たりません、今までの判例がそうです、そういうふうに裁判官三人が言ったときに、果たして、たまたま裁判の日あるいは評議の日に来る裁判員、一般の国民が、それは違いますというような発言ができるかどうか。

 そういう配慮があるからこそ、裁判官の掛ける二倍の裁判員を置いているんじゃないんですか。単純な過半数でいいんだったら、裁判員が裁判官と同じ、三人、三人でいいわけでしょう。それを、なぜ裁判官が三人で裁判員が六人にしているのかというのは、まさにそういう国民の意思ができるだけ入るようにという意思で私はこの制度が設計されていると思っているのですが、違うのですか。

山崎政府参考人 今回、なぜ六人にしたかということでございますけれども、これはまさに、国民の多様な考え方がここに投影されてよりよい裁判になっていくということを考えて、六ということにしたわけでございます。

山内委員 だから、裁判官三人が、例えば、裁判員の皆さん、六人の皆さんがどんな素人発言をしたって、そんな判決をしたら高裁に行ったらひっくり返りますよ、そう言われたら、なかなか六人の人たちがいろいろな意見を言ったって通らないと私は思いますよ。(発言する者あり)

下村委員長代理 いや、定足数は足りている。続けてください。どうぞ。足りています。

山内委員 もう一つ言わせていただければ……(発言する者あり)

下村委員長代理 御静粛にお願いします。

山内委員 今までの殺人罪についての量刑はこういう事件では十五年ですと裁判官三人が言ったときに、裁判員が、今までの量刑の相場が十五年だったら、それはおかしいですから五年にしてください、あるいは反対に、無期にしてくださいという発言ができますか。大臣、どう思われますか。

    〔下村委員長代理退席、塩崎委員長代理着席〕

山崎政府参考人 それは、この法律でも条文を置いておりまして、評議に当たりましては、裁判員が発言する機会を十分に設けるなど、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮すべし、配慮しなければならないという規定を置いているわけでございまして、これはどういうふうにやるかというのは、その裁判長の、その裁判体の自由かもしれませんけれども、基本的には、まず、裁判員の方にきちっと意見を言っていただく、そこから始まることだろうと思います。

 量刑も、それは検察官の求刑もございますし、それから、弁護人の弁論もございます。そういうような一定の範囲が画された中でやっていく話でございます。

 最終的にその裁判の全体が今どうなっているかということを聞かれれば、それはもちろん御説明をするということになろうかと思いますけれども、大体、その辺の範囲で一応物は考えられるということではないでしょうか。

山内委員 裁判員、国民の皆さんが先に話してくださいということをその担当の裁判長が配慮するということによって十分な評議がなされるとは、私は到底思っていません。

 だけれども、では、大臣、外国にも例があるようなんですが、裁判員である国民の皆さんが先に意見を言う権利を保障するというような条文でも考えられますか。

山崎政府参考人 これは、現在の一般の裁判でも、裁判の中でどのような評議を行っていくか、それは各裁判所に任されていることでございます。

 したがいまして、その事案、事案によって、裁判員の方で、一般的な話をまず聞きたいという方もおられるかと思うのですね。総員がそういうことを言われる、その場合には、やはり裁判所からお話をするということもあり得るわけでございまして、すべてこういう順番でこういうふうにやらなければいけないということにはならないというふうに私は理解をしております。

山内委員 それでは、補充裁判員の関係についてお聞きしますが、補充裁判員は、当該裁判の判決の評議に加われるかどうかをぎりぎりまでわからない状況の中で裁判に立ち会うことになります。これは全く迷惑な話です。

 補充裁判員は、評議に加わらないかもしれないのに、守秘義務を初め、刑事罰でおどされた義務だけ課されるのは問題だと思うのですが、どうですか。

山崎政府参考人 まず、この制度を支えるものとして裁判員の方は絶対必要なわけでございますけれども、それは各人いろいろな事情がございまして、審理の途中で対応できなくなる方もおられるわけでございますので、そうなりますと、やはり補充員という制度を設けておかないと制度が円滑に進行しないということになるわけでございますので、最低限それは必要であろう。

 その場合に、本当に欠ける場合もあるわけですね。欠けたときには正式な裁判員になるわけでございますが、それまでの審理を聞いていなければ、全部、手続をやり直すという形になるわけでございます。それは、やはり幾ら何でも、短時間でやっていこう、そういう理念には合わなくなってくるわけでございます。

 補充裁判員の方も、ただ聞いているだけではございませんで、評議の場にも参加できますし、最終的に評決権はございませんけれども、意見も言うこともできますし、そういう形で、実質的な審理にはずっと関与をしているわけでございますので、そこは、ただずっといる、それだけのものであるというわけではございません。

 それから、現実に、他人の秘密あるいは評議の秘密、それは聞いているわけでございますので、そこはやはりお守りをいただきたいということでございます。

山内委員 アメリカの陪審制度においては、評議に加われない補充陪審員が評議において意見を述べる制度はないようでございます。むしろ、補充陪審員は、正規の陪審員が定数を満たしたまま評議に入った場合には全く評議に加わらないという運用をしているということです。補充陪審員の発言が評議の議論に重大な影響を与え、評議の結果を左右した場合があり得るということもおもんぱかってのことのようなんですが、これは、評議に加わらない者が評議に影響を与えるという不当な事実をもたらす可能性もあるという見解からも行われている運用のようなんです。

 私も、評議に意見を言わなくてずっと最後まで補充裁判員のままだというつらい思いをさせるのも酷ですし、あるいは、最終的に判決を下さないのに最初から最後までいろいろ意見を言う補充裁判員の存在もまたどうかとも思うんですが、この法案六十九条二項の規定については、これはどういうふうに悩まれたんですか。

山崎政府参考人 意見を述べることができるということでございますけれども、「意見を聴くことができる。」という規定でございますけれども、これは、意見を参考にさせていただくということでございまして、評決権はございませんので、そういう意味で、評議に不当な影響を与えるということにはならないというふうに考えております。

山内委員 大臣とも少し、最初、お話、議論をさせていただきましたけれども、被告人の最大の関心事は死刑か無期か懲役二十年かというような量刑が一番の関心事だと思うんですが、私たちは平気で死刑とか無期とか言いますけれども、こういう被告人にとって大変重要な身柄拘束あるいは死の結果に至るわけですから、軽々しい判断は絶対にしてはならないと思うんですね。

 そう思えば思うほど、単純に過半数というのはいかがなものかと思うんです。つまり、五人の裁判官、裁判員が死刑だ、四人の裁判官、裁判員が無罪だと言った場合に、たった一票差で有罪になり、たった一票差で死刑か釈放か、これ、大臣、どう思われますか。

野沢国務大臣 現行の裁判所法というのは、裁判は過半数の意見によることとなっておりますから、裁判員が評決に加わる場合のみ、これと異なる評決要件を定めることは合理的な理由がないんじゃないかと思うわけでございます。したがいまして、本法案においては、裁判員制度においても裁判は過半数の意見によることとしているわけでございます。

山内委員 いや、過半数にしておられるんですけれども、慎重な評議、誤判の防止、裁判員、裁判官の責任の自覚、こういう観点からして、今の私の例というのは限界事例だと思うんですけれども、こういうことが起こり得るわけですから、もっと慎重に、例えば三分の二以上とか、死刑の場合については全員一致を目指すとか、そういうような仕組みを考えられませんか。

山崎政府参考人 これは、現行の制度であっても、一票差で決まっていくということは、すべて最高裁までそういうルールで貫徹されているわけでございます。これに対して、今の制度で、これに矛盾がある、あるいはおかしいという声は私どもは聞いておりません。

 今度、裁判員の入られる裁判員裁判、これになりましても、私は、ルールは基本的には同じであるべきだというふうに思います。例えば死刑にするについて慎重な判断は必要である、それはそのとおりかと思いますけれども、最終的にはそこは多数決で定めていく、これがもうやむを得ない現在のルールであるというふうに理解をしております。

山内委員 言葉を返すようですけれども、今の合議部の裁判官、現在の裁判所の合議部の構成は三人です。意見が分かれても二対一になる。つまり、二対一ということは過半数じゃないんです。今の制度では、三分の二以上の賛成があって初めて合議体として判決を下しているんです。三分の二の絶対多数決制度を採用しているわけです。

 だから、最高裁の数字のことを言われましたけれども、地方裁判所の合議体の構成員でいけば、三分の二の特別多数決で判決が下されています。その点はどうですか。

山崎政府参考人 現在のルールは奇数でできておりますので、その人員によっては比率は変わってきます。三人であれば二対一です。それから、五人の大合議がございますが、これは三対二ということになります。それから、最高裁に行けば八対七ということにもなるわけでございまして、それは人員によってその比率が変わってくる、これはやむを得ない話だろうと思います。

山内委員 やむを得ないと言われたら、それはもうそれで議論は終わらざるを得ないと思いますけれども。

 それから、裁判官一名、裁判員四名の合議体がありますよね。公判中にこの被告人が否認に転じた場合にはどういうふうになるんですか。

山崎政府参考人 これについては規定が二条七項で設けられておりまして、その場合には、裁判官一名、裁判員四人で始めたその決定を取り消すという形になりまして、もとの三人と六人の裁判に復する、こういうことでございます。足りない人員はそこで補充をしていくという形になります。仮に補充員がいるという場合であれば、補充員が正式の裁判員になるということになりますし、裁判官が足りなければ、その部の裁判官が、もとの裁判官が加わっていくという形になろうかと思います。

山内委員 それでは、こういう場合はどうなんですか。例えば、三カ月とか半年置きに殺人事件が起訴になる。そういう場合に、一番最初に関与した裁判体は六カ月たって起訴になった事件についても関与するのですか。

山崎政府参考人 ちょっとシチュエーションがよくわからないんですけれども、最初、起訴がされまして、それで審理をしている、六カ月後にまた別の殺人事件が起こったという場合でございますね。そうすると、併合するかどうかという問題として考えるかどうかということだろうと思います。

 この併合するかどうかのあり方につきましては、併合審理により立証に時間を要して裁判員の負担が重くなる場合があるということも一方にございます。他方、その事実を合一的に確定して適正な量刑を図るという必要もあるわけでございますので、事件相互間の関連性の有無とか程度、それから、事件が対象事件か否かということを考慮して、裁判所において併合審理の適否を判断していくということになろうかと思います。

 その前に集中的な審理を行いまして、なるべく一緒にできるようにするということにはなりますけれども、そういう点で、仮にもう時間的にそれは併合できないというなら、またそれを別々にやるということにもなっていくだろうと思います。

 いずれにしましても、この点につきましても、私どもの方の検討会でもいろいろ議論があったわけでございますけれども、最終的には、併合罪の科刑のあり方、あるいは裁判員制度対象事件以外の刑事事件の処理、こういう点との関係も考慮する必要があるということから、さらに検討を続けていく、こういう結論に落ちついたということでございます。

山内委員 最高裁、今推進本部が言ったような運用に実際はなるんですか。

大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 同一被告人に対しまして複数の事件があった場合にどうしていくかということですが、時期的な関係ももちろんございますけれども、併合した場合には、現在では、併合しないで分離したまま判決した場合に比べて、刑が、トータルとしては、併合した場合の方が軽い、分離した場合の方が重いという問題が出てきます。現在の裁判では、そういった被告人の利益を考えて、原則として併合して審理をしております。

 しかし、裁判員が関与する事件になりました場合には、今言いました被告人の利益、それから、当該事件を併合することによって裁判員にどの程度の負担がさらに加重されるか、期間が相当長くなるかといったようなことも考えていかなければならないかと思います。そういった両方の要請をどうやって満たしていくかという困難な場合が生ずるということになろうかと思います。

 そういった関係で、一概にどうということは言えませんけれども、その両方を勘案した上で、併合するかしないかということをこれから考えていくということになろうかと思います。

山内委員 Aという殺人事件で起訴になって、その事件を連日開廷をして、十日後に懲役十五年だと言った。しかし、その被告人は、六カ月あるいは一年たってからBという殺人事件で起訴された。こういう場合には、Bという裁判体でまた裁判員も加わって懲役十年とか十五年とかいう判決を宣告することになるんですか。

大野最高裁判所長官代理者 Aという事件で判決が出ていますと一審ではもう併合できませんので、今度は、別の裁判体を構成してBという事件を審理するということになると思います。

山内委員 そのとき、Aという事件で出た懲役十五年と、Bという事件を担当した裁判体が出した懲役十五年との、十五年、十五年の判決の結果はどういうふうになるんですか。

大野最高裁判所長官代理者 現在の規定では、刑を調整するという規定はございませんので、十五年、十五年、両方の判決が確定した場合には、後は、刑の執行の段階で調整するという規定があるという、そこのみです。

山内委員 Aの事件で判決が言い渡しから二週間で確定して、確定した日から刑期が進行する、しかし、Bという一年後に出した懲役十五年という判決も、言い渡しから二週間たって控訴がなければ、懲役十五年という日にちが進行していく。これをどう調整するんですか。

山崎政府参考人 先ほど、最後の方にちょっと申し上げましたけれども、確かに、その調整の問題とか、どう扱っていくかという問題が残るわけでございます。

 私ども、検討会でもさまざまな議論をしたわけでございますが、現時点ではなかなかそこの成案に至らないということでございまして、再度またこの検討を続けていくということでございまして、この法律が施行される、そういう時期にはある程度間に合うように検討を続けてまいりたいというふうに思っております。

山内委員 私たち民主党は、施行期間に五年間も要するというような今の法案については大反対でございまして、もっと、こういうふうに議論が盛り上がっているときに、やはり三年とかいう期間ぐらいで実施していくべきじゃないかと議論をしています。

 ただ、今の山崎局長のお話のように、五年間あるうちに検討していきますという話では、私は、健全な裁判員制度を願っている私の立場からいっても、すごく不安になる制度なんですよ。

 ですから、しっかりと、大臣、いい仕組みをつくっていただきたいと思うし、きょうから質疑が始まって、我々民主党も論客をそろえていますので、しっかりと答弁をしていただきながら、お互いに問題点の少ない制度づくりをしていきたいと思っています。一生懸命頑張りましょう。

 ありがとうございました。

塩崎委員長代理 辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、そして公判前整理手続を中心とした刑事訴訟法等の一部改正案、この両法案というのは、一九四八年に改正された日本の刑事訴訟法、一九四九年一月一日から施行になっておりますけれども、その後、きょうでちょうど五十五年間と百日だと思いますが、五十五年間と百日間、日本で機能していた刑事裁判の実態というものを大きく根本から変えてしまう、そのような法案であるというふうに思います。ですから、今本当に改正する必要がどこまであるのか、本当に真剣に徹底した議論がなされなければならない、このように思うわけであります。

 本日は、このうちの裁判員法案に関して、立法目的と立法事実ということをきっちりと確定させたい、そういう議論をしていきたい。

 なぜかというと、やはり一つの法案が、その射程範囲ということをはっきりと固めなければ、実際運用になったときに解釈が非常にあいまいになるわけでありますし、きちっとした運用がなされていかない。翻ってみれば、立法目的と立法事実が本当にきちっとした形であるのかないのかということを含めた議論をしていきたいというふうに思います。

 このように審議をきちっと遂げなければいけないということについて、野沢法務大臣、どのような姿勢でお考えでしょうか。

野沢国務大臣 この裁判員制度の法律につきましては、委員御指摘のとおり、まさに画期的な内容のものとわきまえておるわけでございます。

 特に、国民の皆様に直接参加していただいて裁判を行うということの中から、裁判が今まで、とかく、専門家に任せればいいという意味で、高ねの花といいますか、門戸が狭いというような印象をやはり国民が持っていたということも一つございますし、また、時間がかかるということから、これは大変な重荷にもなっていたということもあろうかと思います。

 そういった面を一気にここは克服し、より国民の皆様が、身近なわかりやすい裁判、わかりやすい司法制度に近づくことのできる、大事な大事な法案であると考えております。

辻委員 画期的な内容だとは私は必ずしも思いません。

 今おっしゃったのは、立法目的に関連して、専門家に任せればいい、門戸が狭いんだ、それを広げるんだということが立法目的の一つだということをおっしゃっているように聞こえます。

 また、時間がかかると。では、この法案で、時間がかかることがどのように解消されるのか。かかることをもっと解消しなければいけないのだということも立法目的の一つだ、このようにおっしゃっているように聞こえる。

 本当にそれでいいのかということについては、この後、具体的に詰めていろいろ議論させていただきたいと思いますが、今私がここで質問をしたのは、そのように立法目的なりそれに沿う立法事実というのが本当にあるのかということをきちんと審議しなければいけない、そういう姿勢でこの審議の場を考えているのかどうなのか、その点についての大臣の見識を伺っているんです。いかがですか。

野沢国務大臣 審議をまさに尽くしてお願いをするべく、私どもも連日出てきておるわけでございます。今後ますます内容をひとつ深度化させていただきまして、あらゆる御疑問にお答えをし、結果がいい形になりまするよう期待をいたしておりますので、どうぞひとつ積極的な御提言、御意見をちょうだいいたしたいと思います。

辻委員 あらゆる観点から審議をきちっとやりたい。私は、一人でも二十時間、三十時間質問させていただきたい、このように考えております。

 そうすると、現在の日本の刑事裁判がどのような現状にあって、何が問題だから、この裁判員法案によってどのような姿を実現しようとするのか、立法目的についてまず簡単に概要を伺いたいと思いますが、いかがですか。

山崎政府参考人 現在、プロのみによる裁判を行っているわけでございますけれども、この裁判の中には、裁判はおおむねきちっと行われているというふうに理解はできますけれども、ただ、やはり、著名な事件、あるいは著名じゃない事件でも、いろいろ報道に接しますと、一般の国民から見れば、どうしてそういうような結論になるのかということで、若干首をかしげるというような事件もあるわけでございます。そういう事件がありますと、そうすると、なかなか国民に司法を理解していただけないということにもなりかねないわけでございます。

 そこで、やはり国民の方に入っていただいて、国民の感覚を裁判に投影させていただいて、プロと一緒に判断をしていただく、そのことによって、やはり司法に対する理解というものもきちっとできてくるのではないかというのが、これが大目的でございます。

 それからもう一つは、やはり裁判の迅速化等の要請でございます。これにつきましても、今回、裁判員制度の導入に合わせまして刑事訴訟法の改正をしております。この中で大きなものは、証拠開示の範囲を拡充するということでございます。したがいまして、証拠がかなり、必要なものは出てくるということでございますので、これをもちまして被告人側としては十分な権利防御をしていただきたい。それから、早くその証拠が出てくれば、審理も争点が明確になり、それで時間的にも迅速な裁判が行われてくる、こういうことになるわけでございます。

 それからもう一つは、公判前整理手続、これを設けまして、事前にきちっとした争点を絞りまして、そこに証拠を投入して、必要な証拠調べは早く行ってそれで結論を出していく、こういう制度を設けている、こういうことでございます。

辻委員 今、三つおっしゃったと思います。

 一番主要なものとしておっしゃったのは、プロのみの裁判で一般国民から見たら首をかしげるような結果が生じることもある、したがって、国民に入ってもらって国民の常識を反映させてそれを投影させるんだ、このようなことをおっしゃったというふうに思います。こういう理解でいいですね、まず主要な点ということでおっしゃったのは。いかがですか。

山崎政府参考人 今、かみ砕いて申し上げたわけですけれども、国民の意見が、感覚ですか、感覚が裁判に反映をされまして、そしてプロと相まっていい裁判が行われるように、これが大目的ということでございます。

辻委員 例えば、刑事事件ではありませんけれども、つい先日の靖国参拝の違憲訴訟の判決がありましたよね。私は憲法調査会の委員でもありますから、きのう憲法調査会の場でいろいろ議論をし合った。自民党の議員の方々の多くは、これは国民の常識に反するんだというような、そういう観点で批判をされていたと思います。

 つまり、刑事裁判ということを考えたときに、何を基準に有罪とか無罪とか、事実を認定していくのか、証拠を評価していくのかというときに、そういう問題と国民の常識ということはどのような関連を持つんですか。国民の常識を反映して、首をかしげるような判決を国民の常識に合わせるようにしていくんだ、それが裁判員制度だというふうに言われると、そこについてはっきりと、証拠構造と憲法と法律、法令に従ってしなければならない。とりわけ刑事裁判にあれば、刑事法規に従って、罪刑法定主義という原則にのっとってやらなきゃいけないわけじゃないですか。それに国民の常識を反映するというのはどういうことなんですか。

山崎政府参考人 法と証拠に従う、この大原則は曲げることができません。それはもう今回の裁判員制度の前提としているわけでございます。

 ただ、それを前提としながらも、その認定をしていく、あるいは量刑をしていく、そういう場合に、それなりの一定の幅があると思うんですね。すべてこういう場合だったらこうなるというわけではございません。それは判断が入るわけでございます。その判断の幅の中に国民の意見が投影されるということでございます。量刑は特にその辺の幅があり得るものでございますので、その中にはいろいろ投影されていくということになろうかと思います。

辻委員 ますます疑問が深まりますね、そういう回答を聞くと。

 まず、事実を証拠によって認定するに当たって、罪刑法定主義の原則があります。例えば、殺人罪というんだったら、罪刑法定主義の要件をきちっと認定していかなきゃいけない。証拠によって厳密に、厳格な証明がこれは必要なわけですよ。合理的疑いを入れない程度に有罪が立証できなければいけないし、有罪判決を下すためには厳格な証明が必要なんですよ。そういう罪刑法定主義の解釈に当たって、国民の意見を投影するというのはどういうことなんですか。どういうふうに投影されるんですか。答えてください。

山崎政府参考人 法律は、その規定がございますので、その範囲を超えることはできないと思いますね。それは従わなきゃいけない。

 しかし、証拠の評価については、それぞれいろいろな見方があるはずですね、それぞれの人生観に応じて。それが突拍子もない認定、これは許されない話ですね、ちゃんと法に従わなければなりませんから。しかし、その幅はあるはずでございまして、その中でいろいろな人生観で物を見ていくということによって結論が変わることだってあり得るわけですね。そういうことを私は申し上げているわけでございます。

辻委員 いや、それはもっときちっと議論しましょう。

 刑事訴訟法上で、有罪の認定に当たっては自由な証明と厳格な証明が必要で、厳格な証明の証拠によって初めて認定されなければいけないというふうになっていますよ。では、厳格な証明をするということと、厳格な証明に当たって、その証拠の判断を評価するに当たって国民の意見を反映するというのはどういうことなんですか。

 国民なんて、いろいろな、多種多様な意見を持っておられるわけですよ。だからこそ、具体的な構成要件の認定に当たって、要するにどのような証拠で有罪を認定できるかということについても、判例の蓄積なり、具体的な学説がいろいろ真剣に議論をして蓄積されたりして、それで煮詰まってきているわけですよ。それを、ああ、これはおもしろそうだから、例えば、ちょっと語弊があるかもしれないけれども、もうちょっとこれは証拠として幅を広げよう、それは国民の常識にかなうんだ、そういうことで証拠の幅を広げていいんだ、こういうことですか。

山崎政府参考人 まず、議論が混乱しているようでございますので、もう一度繰り返させていただきますが、まず法律解釈、この点については、裁判官のみで行うということになっておりますので、そこは変わらないということです。それから、ただいま御指摘がございました証拠能力の判断、これも裁判官のみで行うということになります。

 問題は、そういうものではない一般の証拠、これは証拠能力があるとして、その証拠の判断をどうするかということですが、これは刑訴法にも条文がございまして、その証明力については裁判官の判断にゆだねるということになっておりますので、一緒に判断をするわけですから裁判員の方もそれと同じことになるわけでございます。そこは一定の幅があり得るだろうということですね、自由な判断ですから。

辻委員 この問題については、もっと具体例を取り上げて厳密に議論をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、私の問題意識を申し上げておきますけれども、これは、刑事訴訟法の改正、公判前整理手続ということで新たに設けられている今回の刑事訴訟法の改正案というのは、一九四九年一月一日に施行になっている現行刑事訴訟法に基づく刑事裁判を根本から変えるものであるという理解を非常に持っております。

 今、戦後の刑事訴訟法の改正の経過、議論の実態を検討しておりますけれども、戦前の予審裁判、一方で治安維持法とかそういう悪法があった、そしてそれ以外の裁判が、結局は公訴提起される以前の予審制度のもとで、密室の裁判の中で証拠調べも行われて、結局のところ公判廷での審理は形骸化したものでしかなかった。このことに対する深い反省があって、だからこそ裁判官は、ニュートラルな立場で、起訴状一本主義という、起訴状のみを見て公判廷に出て、その場で直接主義、口頭主義でみずからが心証をとっていく、それが一番公平で公正な裁判を実現する制度なんだということで戦後の刑事訴訟法の改正は出発していると思います。

 そういう公判廷で直接主義、口頭主義で心証をとっていくということに対して、刑事訴訟法の今回の改正において、公判前の準備手続において、心証の形成と証拠の整理は別だというふうな反論を当然されると思うけれども、しかし同じ裁判官がそれを見るわけですから。しかも、ほとんどの争点の整理なり証拠の採否の問題については第一回の公判審理以前に決められてしまう。そうすると、公判廷に立った後はある意味で形骸化する傾向が非常に強くなるだろう。そういう意味で、非常に危惧感を持つわけであります。

 その構造等については、今後、刑訴法の改正問題もいずれ議論の俎上に上るわけですから、その段階で議論をきちっとさせていただきたいというふうに思います。そういう危惧感を指摘している学者もいれば弁護士もいますし、そういう危惧感を表明している市民もいる。現に私もそういう危惧を持っている。

 そういう危惧がありつつも、なお裁判員制度を今新たに設置しなければいけないということの意味は何なのか。現状の刑事裁判が、それを導入しなければ解決されないほど金属疲労を起こしているのか。現実の刑事裁判で問題になっている問題点は何なのか。何をどういう観点からどう解決しなければいけないのか。この点についての基本的なスタンスというか理解をまず問いたいと思います。

山崎政府参考人 この点は、現在の司法制度、基本的には私、国民の信頼は得ているというふうに考えております。

 ただ、やはり司法の役割は非常に重要になってきておりまして、国民が注目すべき、そういうジャンルになっているということでございます。そうなりますと、やはり要求されるものは高度になっていくということでございますし、やはり国民が納得できるものにしていくという視点が必要になってくるわけでございます。

 そういう観点から、やはり一定の範囲ではございます、事実認定と量刑ということではございますけれども、国民の方に入っていただいて、よりよく、いい裁判にして、国民の納得いくものにしたいということでございます。

 もう一点、ちょっと指摘させていただきたいと思いますけれども、さきに御審議いただいたと思いますが、裁判官、検察官が弁護士になって実働をしていくという法案、承認をいただきましたけれども、活動していくということですね。これにつきまして、やはり裁判官、検察官も外に出て、きちっと世の中の動きそれから当事者の苦しみ、悩み、こういうものを実感して、その上で裁判に反映させてもらっていい裁判をしてほしいということでございまして、ですから、やる方もそうですし、それから外部からも入っていただく、この両方があって、国民に信頼される裁判になっていくんではないか、これが一番大きな目的でございます。

辻委員 今おっしゃったのは、国民の基本的信頼は得ているけれども、より国民が納得していけるように裁判員制度は意味があるんだ、法曹の、それを担っていく内側からも、もっと世の中の実態がわかるように外に出ていかなければいけないんだ、こうおっしゃった。それはそれで評価する必要のある観点だというふうに思うんですよね。だけれども、刑事裁判ということを問題にしたときに、国民の側、国民が納得をするという観点から刑事裁判を考える必要もある。

 しかし、まず考えなければいけないのは、現在の刑事裁判の運用で、やはり冤罪があるとか、やはり自白を強要する捜査が行われているとか、なかなか刑事の被告人、被疑者の権利が十分に反映されていない。裁判長、裁判官が強権的な訴訟指揮を行うじゃないか。そういうような問題、そういう観点から現在の刑事裁判を考えるという視点も同時に必要だと思いますが、その必要性についてはお認めになりますか。いかがですか。

山崎政府参考人 改革審議会の議論でもいろいろな議論が交わされたというふうに承知をしておりますけれども、裁判員制度、これの導入ということにつきましては、皆様方、内容的にはそれぞれ意見が違うかもしれませんけれども、おおむね一致しているということだろうと思います。

 問題は、いろいろな訴訟手続をどうしていくかということでございますけれども、これは、基本的な構造は、裁判員制度につきましてもそのまま導入されているわけでございます。それ以外のいろいろなもろもろの手続がございます。こういう点についてはさまざまな御意見がございましたが、やはり現在の段階ではこれは将来課題ということで、本部の法案の中ではそういう位置づけをしておりまして、いろいろな御指摘があるということは、それは我々としても意識はしておりますし、そういう点についてはやはり将来検討していく課題であるというふうに認識はしております。

辻委員 今おっしゃったのは、刑事被告人の権利をどのように守っていくのか、拡充していくのかという観点については、論議はいろいろあったけれども、この法案の提出に当たっては将来課題というふうに位置づけたんだ、こういう御説明ですか。いかがですか。

山崎政府参考人 もちろん、この制度の中でそれを守っていけるということは、それはもう前提でございます。なぜそうかということを申し上げますけれども、先ほど来申し上げておりますし、裁判員制度につきましては、法律解釈それから訴訟手続上の解釈、判断、これについてはもう裁判官にゆだねるという形にしておりまして、従来と変わっておりません。

 それから、審理に当たりまして、例えば不公平な裁判をするおそれがある者とか、あるいは適格じゃない方、こういう方についてもお引き取りを願うというような制度を設けているわけでございます。また、就任されてもきちっとした裁判をすることができないというようなおそれがある場合には、解任手続とかさまざまの手続を設けまして、やはりきちっとした裁判が行われるようにという制度的な手当てを設けているわけでございます。

 私が申し上げているのは、こういうことは一応全部できているんですけれども、その先にいろいろな手続上の議論がございまして、こういう手法を入れるべきだとか、そういう御議論があります。こういう御議論については将来課題である、こういうことを言っているわけでございます。

辻委員 恐らく、今おっしゃっているのは、被告人の権利、被疑者の権利ということを論ずるに当たって、例えば、捜査の可視化の問題とか取り調べにおける弁護人の立ち会い権の問題とかいうことをおっしゃっていて、改善すべきだという大まかな理解はあったとしても、いろいろな議論があって、すぐには法改正の俎上には上らないんだという趣旨のことをおっしゃっていると思うんですけれども、そういう理解でいいんですね。

山崎政府参考人 ただいま御指摘のあった事項以外にも、もう少し全体として、捜査のあり方全体を見直そうとか、さまざまな御意見がございました。ただいま御指摘があったものも含めたいろいろな手法について検討課題である、こういう認識でございます。

辻委員 要するに、この法案の提出に当たって、いろいろ改善するべき課題というのは私が今御紹介した以外にもいろいろあるけれども、それはその先にまた議論をするということで、とりあえず裁判員制度というのを、とりあえずまず箱を設けましょう、こういうことなんだということですね。

山崎政府参考人 これは刑事裁判全体の問題もございまして、この裁判員裁判だけじゃなくて、それ以外の裁判もあるわけでございます。そういうふうに共通したものでございまして、これはそれなりにいろいろな考え方がございまして、もう少し時間をかけてきちっとした議論が必要であろう、こういうことで継続課題であるということを申し上げているわけでございます。

辻委員 もっと端的にお答えいただきたいところですね。それは、要するに、裁判員制度を新設するということが先であって、被疑者、被告人の権利をどういうふうに改善していくのか、いろいろな論議があるところだから、これはその先に、後で議論をいたしましょうということなんだ、こういう結論でいいんでしょう。端的におっしゃってください。

山崎政府参考人 これは、この裁判員制度の関係でいろいろ御意見はございました。いろいろ御意見はございましたけれども、ただ、一定の方向で、大きな方向としてこれでいこうということがおおむね理解されたということでこの法案になっているわけでございます。

 ただいま私が申し上げているようなもの、それに取り残されたもの、残されたもの、これについてはさまざまな御意見があって、まだ全体としてどちらの方向に行こうかというところまでには達していないという理解でございまして、それについてはやはり議論をしていく必要があるということでございます。

辻委員 今の答弁では、さっきの答弁よりもっと後退していますよ。

 つまり、さっきまでの話だったら、裁判員制度をまず設けるんだ、その他立ち会い権の問題とか捜査の可視化の問題とか、いろいろ改善すべき問題は後に検討するんだということなんだという御説明で、それでいいんですかと私が確認したところ、今、山崎さんのお答えだと、それ以外の点についてはまだどちらの方向に行くかもわからないというようなことなんです。つまり、可視化の問題や弁護人の立ち会い権の問題もいろいろな議論、両方向からの議論があって、それが改善の方向に進むのかどうか自体がまだどちらの方向かもわからないんだ、こういう状態なんだ、こういうお答えなんですけれども、どちらが正しいんですか。

山崎政府参考人 検討するわけですから、それは前へ進むように検討をするという姿勢でございます。ただ、どういうふうに進んでいくか、これはいろいろな考え方がございますので、その中で最終的には定めていくということでございまして、ただ何か議論をすればいい、そういう趣旨ではないということでございます。

辻委員 第三の概念が何か新たに登場したようでありますね。改善の方向に進むんだというふうに言っていて、次には、まだどちらの方向かは定めかねているというふうにおっしゃって、どっちなんですかというふうに聞いたら、前に進むというふうにおっしゃった。

 前というのは、何が前で何が後ろなんですか。被疑者、被告人の権利の充実という観点からいって、何が前で何が後ろなんですか。どういう意味なんですか。

山崎政府参考人 だから、先ほど来申し上げておりますけれども、さまざまな考え方があるわけですね。そういう中で、では、議論しっ放しで、現状でいいのかということになるわけでございますが、そういうことを言っているわけではなくて、いろいろな考え方はあるんですけれども、一定の方向では前進をしていくということを目指してやっている、これからやるということを申し上げているわけでございます。

辻委員 一定の方向で前進している、一定の方向というのはどういう方向なのか。前進するというのは何が前進しているのか。議論を深めるということを、前へ進めるんだ、前進させるんだということなのか。結果を現実にきちっと実現するものとしておっしゃっているのか。

 そして、その内容をもっと具体的に、被疑者、被告人の権利を私は問題にしています。とりあえず、捜査の可視化の問題と弁護人の取り調べ時の立ち会い権の問題を問題にして伺っているんですよ。その被疑者、被告人の権利を拡充する、きちっと制度化して認める方向で話をするということなのかどうなのか。前へ進むというのはそういう意味なんですか。

山崎政府参考人 これは私どもの現在の課題ではないので、私の方からお答えするのがいいのかどうかという問題がございますけれども、私が申し上げているのは、今先生が御指摘になりました被疑者の権利、こういうものの主張があるということは当然存じ上げている。

 ただ、そういうものと捜査全体のあり方、こういうものも含めて議論をしていこうという考え方も当然あるわけでございまして、そういうような両方の意見がある中で、お互いに議論をして、本当に解決すべき点は何であるか、そういうことを探していこうということでございますので、それは今、どちらの方向に行くというのは、決められるのなら私だってこの法案の中に織り込めるということになりますけれども、まだその状況には至っていないということでございまして、そこのところは御理解を賜りたいと思います。

辻委員 二月の後半の段階で、法務委員会の一般質問で、捜査の可視化をめぐって三十分間、私、質問させていただいたんですけれども、そのときのお答えが、結局は、日本の捜査全体ということを考えたときに、立ち会い権とか捜査の可視化ということは、日本の今の捜査の構造とは、なかなか組み込むことが難しいんだというようなお答えが法務省サイドからあったように記憶しています。

 二月の末にそういう話があったから、今私が伺っているのは、この裁判員法案を提出するに当たって、民主党は、やはり被疑者、被告人の権利を拡充する、当然、証拠開示の問題も含めて、それがやはり必要不可欠なんだ、この制度を出発するに当たって必要不可欠なんだという意見を従来から述べているわけです。

 ですから、裁判員制度をまず創設するということと、そういう被疑者、被告人の権利を拡充するというその方向に進むものなのかどうなのか、その点について私は何度も伺っているんだけれども、前向きに進めるんだというふうにおっしゃったり、まだどちらの方向に行くかわからないというふうにおっしゃったり、今の答弁ではむしろ後ろ向きの発言ですよ。今の日本の捜査の構造から難しいということをおっしゃっているんですよ。だから、何が何だか、答弁の趣旨がはっきりしない。全然ばらばら、統一されていない。きちっとした、理解できるような答弁をはっきりおっしゃってください。

樋渡政府参考人 この間も委員の御質問に答えさせていただいたわけでございますが、取り調べの状況の録音、録画や弁護人の取り調べへの立ち会いにつきましては、司法制度改革審議会意見におきましても、刑事手続全体における被疑者の取り調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であること等の理由から将来的な検討課題とされているところでございまして、法務省といたしましても、慎重な検討が必要であると考えているところであります。

 委員がおっしゃっておりますように、刑事手続全体の中でこの問題をどう扱っていくか、ほかの捜査手法等の取り入れとか、いろいろな問題を含めながら、慎重に考えなきゃならない問題だというふうに考えているところでございます。

 なお、最高裁判所、日本弁護士連合会及び法務省、最高検察庁は、本年の三月、裁判員制度の導入等を踏まえまして、検討を要する刑事手続のあり方等に関し協議、検討を行うために、刑事手続の在り方等に関する協議会を設けたところでございます。

 この協議会におきましては、委員御指摘の取り調べの状況の録音、録画等の問題につきましても協議、検討することとされておりまして、法務省といたしましては、同協議会における議論をも踏まえまして、刑事手続のあり方全体の中で多角的な見地から検討することが必要であると考えている次第でございます。

辻委員 いや、協議会を開いて検討するとかいうのは、それは事実問題としてそういうことはあり得ると思いますし、ただ私が伺っているのは、法務省ないし、この法案を今回提出しておられる、これは司法制度改革推進本部ですか、裁判員制度を提出するに当たって、被疑者、被告人の権利については将来課題として、まだ真っ白な立場で、どっちの方向に改善するのか改善しないのか、どう取り扱うのかという、どっちの方向なのかということについては、まだ言える段階ではないんだ、とにかく裁判員制度を先に新設してくれ、こういうことなんでしょう、要は。

山崎政府参考人 若干、お話し申し上げたことに紛れがあったかと思いますけれども、私が考えていることは、まだ検討課題で、どういう方向に行くかというのは確かにわからないということは、わかりません。それはそのとおりでございます。

 ただ、私は、姿勢としては、何らか改善点を考えていこうということですね、そういう姿勢で検討はしていくんだろうということを申し上げているわけでございまして、ただ何かやればいいということを申し上げているわけではないということでございます。

辻委員 今のは山崎さんの個人的な意見ですか。司法制度改革推進本部でそういうような決議が上がっているんですか。そういう合意がきちっと形成されているんですか。そういうことが会議録なり議事録なり、書面できちっとあるんですか。いかがですか、その点は。

山崎政府参考人 ですから、最後に申し上げたのは私の考えでございまして、全体としては、とにかく一定の方向でどういうふうにしていくということはまだ決まらない、そういう状況で、検討課題ということでございます。

辻委員 まだそれは検討課題でどちらの方向に進むかどうかについても推進本部としてははっきりしていないんだという回答であるということを確認して、次の質問に進みたいというふうに思います。

 先ほど私が御質問申し上げたのは、この裁判員制度を新設するに当たって、国民の常識を反映するんだ、意見を反映する必要があるんだ、それはそれで尊重すべき一つの要請であり、検討しなければいけないと思いますよ。私もそれはそう思う。だけれども、他方で、裁判員制度で、その直接の対象となる刑事被告人の権利がどのようになるんだろうか、そういう観点から、やはり同時に問題をとらえなきゃいけないということも重要なんじゃないですかということを申し上げたんですよ。

 ですから、そういう刑事被告人の権利をどうするのかという観点からもこの裁判員制度をとらえ返す必要があるのかないのか、そして必要があるとすれば、どういう問題点としてどういうふうに被告人の権利について取り扱おうということで論議があるのか、その二つの点についてお答えください。

山崎政府参考人 先ほど来申し上げておりますけれども、私ども本部は、それぞれ各省庁が持っている権限を、意見書の範囲内でここに権限を移譲して、こちらで作業を行っているということでございまして、今回の裁判員制度、これはもう改正をするという項目でございまして、これについてはまさに今御審議をいただいておりますけれども、先ほどから出ている将来の課題について、これは将来課題でございまして、私どもの本部で検討する権限も今のところはないという状況でございまして、それはやはり私どもとしても将来にゆだねるということでこの法案を提出させていただいた、こういうことでございます。

辻委員 私は、この法務委員会に出席して以降、刑事被告人の権利がどうなるのか、それが危殆に瀕するのではないかという観点からこの裁判員制度をもう一回見よう、そういう問題提起ということが、私以外の委員の、とりわけ与党の質問の中ではそういう観点からの質問はなかったように思うんですよね。何でなのかなというふうに思っておりましたけれども、今の山崎さんのお答えでは、司法制度改革推進本部の意見書なり、その範囲内で権限が移譲されたんだ、したがって、被告人の権利という観点については意見書の範囲内には入っていないから、この法案の提出に当たっては被告人の権利という観点は除外されているんだ、そういうふうにおっしゃっているというふうに理解しますけれども、それでいいんですね。

山崎政府参考人 ですから、この裁判員制度に伴って必要な被告人の地位、権利、こういうものについては当然手当てをしておりますけれども、ただいま委員から御指摘のような問題は、この裁判だけではなくて刑事裁判全体にかかわる大きな問題でございます。そういう点から、それは別途検討していただくということでございまして、それは私どもの方が今直ちにこれをできる状況にはないということでございますので、御理解を賜りたいと思います。

辻委員 この裁判員制度というものの要するに提案のスタンスというのが今はっきりわかりましたね。つまり、被疑者、被告人の権利を改善していくんだ、補充していくんだということは、とりあえずさておいて、将来課題であると。それは、山崎さんの個人的見解では改善するのが望ましいと思っておられるけれども、推進本部なり法務省なりはいろいろな意見があるからそれはどうなるかわからない、だから、とりあえずそれは先の話であって、そのことはともかくおいておいて、とりあえず裁判員制度だけは先につくろうじゃないか、これが刑事被告人の権利との関係で言う裁判員制度の提案の理由ですね。いかがですか。

山崎政府参考人 何回も御説明申し上げておりますけれども、この裁判員制度としては、例えば被告人の立場、権利を考えまして不公平な裁判が行われないような、そういうような制度をこの中にも当然投入しております。

 それから、仮に裁判員が選任されましても、公平な裁判をすることができないおそれがあるような場合には解任の規定を持ったり、それなりに被告人の人権それから権利、そういうことにはちゃんと配慮をした、そのような規定を設けているわけでございまして、それを全くやっていないということではございませんので、裁判員制度だけではなくて全体にわたる大きな問題についてはこの中だけで決める問題ではないし、もっと広がりも、いろいろな問題がありますので、それは将来の課題にさせていただいているということでございますので、御理解を賜りたいと思います。

辻委員 まさにそこなんですよ。私は、改善すべき点を改善する議論をきちっとやるべきだと思うけれども、問題なのは、この裁判員制度の導入によって、現在保障されている被告人の権利がより悪くなるのではないか、このように考える。その点についてきちっとやはり検証した上でなければならないと私は思うんですよ。被告人の権利が現在保障されているよりもより悪くなるのではないかというふうに、非常に強い疑念を私は持っております。

 そこで、刑事被告人の権利ということについて、これは憲法三十一条から三十九条に、基本的人権の中の刑事手続として、基本的人権としてきちっとうたわれているわけですね。これは、日本国憲法の中においていえば、民主主義の制度とか平和主義とか、そして基本的人権を守るというのは、これは根本規範であって、奪ってはならない価値なわけですね。

 この点についてはいかがですか。刑事被告人の権利というのは、基本的人権の重要な一部をなす価値である、権利である。この点はどうですか。

山崎政府参考人 被告人の権利につきましては、憲法上もきちっと規定をされておりますし、それから刑事訴訟法一条でございますか、ここでもきちっとうたっているわけでございまして、今回の裁判員制度も当然それの適用を受けるということで、そこは全く変わっていないということでございます。

辻委員 歴史的には、要するにもともとはタリオの法ということで、目には目とか歯には歯ということから刑事手続というのは出発していて、それが、人類の歴史の中でようやくこういう罪刑法定主義という、法令に基づいてのみ処罰されるんだと。つまり、その法規に違反しなければ何をしても自由なんだということで、人権が保障される、自由が保障されるということが歴史的な真実なわけであります。

 やはり裁判において今までよく問題になったのは、魔女狩り裁判、そしていわばリンチ裁判、人民裁判と言われるもの。ある国民なり市民の怒りによって、血祭りに上げてしまえということで、人権規定、手続の規定も保障されないで、処罰される、処刑されていく。そのような悲惨な歴史があって、それに対する克服の制度として今の制度があると思うんですが、魔女狩り裁判、人民裁判は、これは許されないものなんだという理解がありますか。いかがですか。

山崎政府参考人 それは、現行の憲法下で当然のことだというふうに理解をしております。

辻委員 その上で、刑事裁判の大原則、これはいろいろ紹介するまでもありませんけれども、無辜の不処罰という大原則が、私どもはこれは本当に刑事裁判における貫かなければならない真理だというふうに思いますが、これについてはいかがですか。

山崎政府参考人 それは、無実の人が罰せられてはならないということは当然のことでございます。

辻委員 もう少しかみ砕いた法諺としては、具体的な刑事裁判に適用する法諺として、疑わしきは被告人の利益にということがありますが、これについては、そのとおりだということでいいんですか。

山崎政府参考人 今回の法案におきましても、そういう大原則は全部適用になるということでございますので、そこは変わらないという理解でございます。

辻委員 刑事被告人の権利が基本的人権の非常に重要な一環をなすものであり、刑事裁判の原則として、無辜の不処罰、疑わしきは被告人の利益ということは、決してゆるがせにできないものであるという回答をいただきました。

 したがって、今回の諸法案が、こういう原理原則と照らし合わせてどうなんだ、本当にそれが貫かれているのか、現在保障されている被疑者、被告人の権利が一歩でも後退することがあってはならないのではないかという観点から、私は、具体的にいろいろな観点で御質問をさせていただきたいというふうに、きょうではありませんが、御質問をさせていただきたい。きちっと議論をいろいろ闘わさせていただきたい、このように思います。

 そのことを申し上げた上で、きょうはちょっと時間の関係で足りないかもしれませんけれども、国民の司法参加、国民の意見を刑事裁判に反映する必要があるんだとおっしゃるけれども、これは憲法上の要請なんですか。どういう要請なんですか。憲法上のどの規定に合う、どういう権利なんですか。

山崎政府参考人 憲法との関係でございますけれども、憲法では、七十六条以下で裁判官の地位の独立ですか、これを保障しております。それ以外に、三十二条で裁判を受ける権利を規定しておりまして、三十七条で公開の裁判によって法によって裁判を受ける、こういう権利を保障しております。

 したがいまして、独立の職権を行使する、そういう裁判官による、それから公開の法廷で法に従った裁判を受ける、こういう点について憲法は要請をしていることになろうかと思います。そうなりますと、裁判所としてそういうような公開の法廷できちっと法に従った裁判をするという要請が、当然憲法にあるということになります。この裁判員制度につきましては、いろいろな制度を設けまして、その要請に従っているということでございます。

 そのポイントは、一つは、先ほど来申し上げておりますように、へんぱな裁判をされるおそれがあるような場合とか、そういうような点については、不選任の請求をして、不選任決定をして排斥をしていくということにもなっておりますし、法解釈については裁判官が行う、それから訴訟手続についても裁判官が行っていくというような、いろいろな制度を設けております。そういう制度を総合いたしますと、やはり公開の法廷で法による裁判を受けられるという要請を満たしている、そういうものであるというふうに考えているわけでございます。

辻委員 いや、今おっしゃったのは、裁判員制度においても、現在の憲法上の三十二条や三十一条や三十七条に違反しないようにしているんだよということをおっしゃっているだけであって、裁判員制度を導入することが憲法上のどこに位置づくんですかということを私は質問しているんですよ。その点について答えてください。

山崎政府参考人 憲法に直接は規定はございません。憲法の中で、その趣旨を先ほど申し上げましたけれども、そういう趣旨を解釈すると、裁判員制度、こういうことを設けるのも憲法は否定はしていないという位置づけでございます。

辻委員 だから、一番最初に私が申し上げました立法事実と立法目的をはっきりさせようじゃないか、そのために議論をきちっとしようじゃないか。では、この裁判員制度はどういう立法事実があって、その中でどういう立法目的を持っているのか。

 主要な目的としては、国民の意見を判決に反映させるんだ。それについて私の質問の中で、結局のところは、法解釈や証拠の認定についてはこれは裁判官の行うことであって、証拠の評価ですかについて裁判員の意見を、そこに国民の意見を反映させるんだ、このようにお答えになっているわけですよ。

 そうすると、そういうところに国民の意見を反映するのは望ましいかどうかというのは、これはまた別だと私は思うし、反映のさせ方についていろいろな制度がある。今提案されている裁判員制度以外に、もっときちっとした反映のさせ方があると私は思っております。ですから、それはそれで議論したいというふうに思います。

 では、そういうふうに反映させるという要請をすることが憲法の趣旨にかなっているのか。今、山崎さんがおっしゃっているのは、憲法の趣旨に違反するものではありませんよということをおっしゃっている。それは、この議事録を見て、与党の議員の方が既に憲法違反ではないかどうかということを質問されている。だから、その延長のお答えにすぎないわけですよ。

 だから、積極的にこの制度を導入することが憲法上の意味でどういうふうな要請にかなうものなのか、憲法上の要請とは違う、もっと違う政策的判断なのか、どっちなんですか。その点について明らかにすることは、この裁判員制度の射程範囲を厳格に決めることに資する議論だと思いますから、はっきり答えてください。

山崎政府参考人 現在の憲法の解釈で、この制度を当然に要請しているという解釈ではないだろうと思います。

 ただ、先ほど来私申し上げておりますけれども、政策でそういうものを導入して、それが憲法に違反するかどうかという意味では、それは違反はしないということでございます。

 戦前、陪審制度がございました。これは、戦後どうするかということで、現在停止にはなっておりますけれども、裁判所法の規定がございまして、陪審裁判を妨げるものではないという規定でございます。これは憲法上の考え方を確認したということに理解をされているわけでございますけれども、それでは憲法が要請をしているかといったら、そうではないのではないかと。ただ、それは許容されているよということを言っているわけでございます。

辻委員 今、憲法が要請したものではないということをお答えいただきました。

 それで、司法制度改革審議会の意見書、これは佐藤幸治さんの特殊な言葉がいろいろちりばめられておりまして、統治客体意識から統治主体意識への転換だとか、司法の国民的基盤をより強固なものとして確立するために裁判員制度が必要だと、ある政策的な判断で必要なんだというふうに言っているんですよ。

 だから、どういう政策的判断なんですか。その政策的判断は我々の五十年先、百年先の日本の刑事裁判を充実させるという観点において本当に有益な政策的判断なのかどうなのか、これがきちっと議論されなければいけないんですよ。だから、どういう政策的判断でこの裁判員制度を今提案されようとしているのか、お答えください。

山崎政府参考人 裁判員制度につきまして、何回も申し上げておりますけれども、国民の感覚が裁判の内容に反映されるということによって司法に対する国民の理解と支持がより一層深まる、それによって国民の支持を得られるものになっていくという点が一番大きなものでございます。そういう目的からこの制度を導入していく、こういうことでございまして、これはもう何回も繰り返して申し上げておりますけれども、そういう趣旨でございます。

辻委員 そうすると、この裁判員制度を設ける意味というのは、国民の意見を判決に反映させるんだ、その反映させるに当たっては、要するに、法令解釈や証拠が厳格な証拠の要件を満たしているかどうかという判断は裁判官が行うんです。裁判員が行うのは証拠の評価、そこに国民の常識を反映させる、そのためにこの裁判員制度があるんですね。そういうことでいいんですね。それがこの裁判員制度の主要な目的なんですね。どうですか。

山崎政府参考人 この点は、ちょっと繰り返しになりますけれども、私、先ほど来、事実認定、そこのところと量刑、これに国民の感覚を導入するということを申し上げておりますので、まさにそれがポイントだということになります。

辻委員 だから、量刑も入れるというのは、さっき申し上げた、悲惨な犯行が生じた直後、やはり人々は怒りますよ。心を痛めます。それで、犯人と思える人を処罰する処罰意欲がどんどんどんどん増すわけですよ。マスコミも物すごく取り上げる。だから、そういう国民のみんなが沸き立つ状況の中で量刑が決められていいものかどうなのか、それは現代のある意味では魔女狩り裁判につながるのではないのか、こういう危惧を私は抱きます。この点について私は、きょうはちょっと時間がありませんから、次回以降もっと詰めて議論したい。

 結局、先日の文春と田中眞紀子さんの長女の問題についても、ある意味でプライバシーの権利と出版の自由との権利の対立のときに、どちらをどう優先するのか、どう調整するのか、そのことが問われた問題であります。この裁判員制度を考えたときに、国民の司法参加ということで語られる利益と、一方で被告人が失うかもしれない利益、守られなければならない利益、その比較考量の問題だというふうに私は思います。どのように被告人の権利が危殆に瀕していくのか、その具体的な事実については次回以降質問させていただきたい。

 そして、その利益の衝突で、どちらがより優先されるべきなのか。被告人の権利は憲法上の権利だとお認めになった。そして、国民の司法参加という裁判員制度は憲法上の権利でも要請でもないというふうにお認めになった。だとすれば、憲法上の権利である被告人、被疑者の権利が奪われるような事態になったら、憲法上の権利を侵害することになり、憲法違反の法律だということになるわけであります。ですから、そこについて私は伺っている。

 そのことを申し上げ、次回この継続をさせていただくということをお約束というか申し上げて、きょうの質問は終わらせていただきます。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

柳本委員長 川上義博君。

川上委員 川上でございます。

 裁判員制度を導入するときに、私は単純に、これはいい制度だ、国民の司法参加にもなるし、いろいろな意味でいい社会になるのではないかなという単純な賛成をしておりました。教育委員会制度も、レーマンコントロールということで、世間の常識というのを教育の中に取り入れようということでやっているんです。だから、そういう意味でも私は大変賛成しておりましたが、いろいろな意見を聞いていましたら、もう本当に裁判員になられる方というのは、これは物すごく重い負担というのがあるんじゃないかなという思いをどんどん、議論を聞いていましたら深くいたしました。

 本当にこれは、裁判員になってみんなが常識を表明して、公正な裁判を本当にみんなやれるんだろうか、それほど立派な人々がたくさん世の中にいるんだろうかなという思いがしておるわけでありますが、先般の質問の中で、この裁判員というのは国家公務員であるという話だったんですね。

 では、その国家公務員の身分とか服務の取り扱いについてはどのように規定をされるのか。服務義務規程とか、やってはならないようなことというのは公務員にあるわけでございます。それは一般の人は全くわからないわけなんですよね。おれは公務員なのかというのは全くわからないわけです。そのあたりをぜひ、身分、服務規程、具体的にまず説明をしていただきたいと思います。

山崎政府参考人 裁判員は、臨時に裁判所によって選任をされて裁判という国の事務に従事をするという、いわば非常勤の裁判所職員、こういうふうに位置づけられております。

 裁判所職員につきましては国家公務員法の適用がございますので、そういう意味では、例えば職務に関連してお金をもらってはならない、いわゆる贈収賄に当たるようなことはやってはならないとか、あるいは、一般的に言えば公務員が守るべき義務について、常勤ではありませんから、非常勤の職員として守るべきものは守っていただく、こういう考え方でございます。

川上委員 実は、憲法十七条で、不法行為をやった場合は国とか地方団体に賠償を求めることができるとあります。

 不法行為によって国が責任を負うというのはどのような場合。あるいは、審理中あるいは審理後に、評決後というか時間がたった後に第三者の名誉を毀損した場合、これは国が国家賠償責任、本人は秘密漏えいみたいな罪に問われるわけですが、国も国家賠償責任を負うという場合は想定されるのかどうかということを質問したいと思います。

山崎政府参考人 これにつきましては、国賠法でございますけれども、この一条で、国の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国が損害賠償責任を負うというふうにされております。

 裁判も、これは司法権という国の公権力、この行使に当たるというふうに言われているわけでございます。したがいまして、一般論として言えば、それが国家賠償法の要件を満たすという場合にはその責任が生ずることがあり得るということでございます。

 ただ、裁判の場合は通常のものとちょっと特別に扱われて解釈されておりまして、裁判官が違法または不当な目的を持って裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いているということ、こういうような場合には国家賠償責任を負うというふうに言われておりまして、そこに至らないものについては責任は負わない、こういう解釈でございます。裁判員の方についても基本的にそれと同じ考え方になるわけでございます。

 退職後、職務が終わった後、他人の名誉を傷つけたということは、これは職務はもう終了しておりまして、それはもう個人として行ったという範疇に入ろうかと思いますので、それについて国が損害賠償責任を負うということは通常はないだろうというふうに考えております。

川上委員 仕事上何か不法行為があった場合は国が責任を負うということは、これは間違いないということだろうと思います。

 先日、与謝野先生の方から質問がありましたけれども、贈収賄が成立し得るんだという話がありまして、もう一度ちょっと質問いたしますと、例えば、裁判員に選ばれた人が、裁判が終わったら評議で話し合われた内容を教えてほしいという依頼を受けて、その報酬としてあらかじめ金品を授受した、あるいは後でお金をもらう約束をした場合にはどのようなことになるでしょうか。これは刑事局長に。

樋渡政府参考人 犯罪の成否は収集された証拠に基づいて個別に認定された事実に基づいて判断される事柄でございますので、仮定的な質問には一概にお答えいたしかねるところでございますけれども、あくまでも一般論として申し上げますれば、裁判員の職務に従事する人が、裁判が終わったら評議で話し合われた内容を教えてほしいとの依頼を受け、その報酬としてあらかじめお金をもらったり、後でお金をもらう約束をした場合には、受託収賄罪が成立する場合があり得ると思っております。

川上委員 それでは、もう一度質問をいたしますけれども、それは裁判審理中の話でありますけれども、職務を終了した人が、評議で行われた内容を後で教えてほしいと依頼されて、その対価として金品を授受した場合、これはどうでしょうか。

樋渡政府参考人 これもあくまでも一般論として答えさせていただきたいんでありますが、裁判員としての職務を終わった人は公務員ではございませんので、収賄罪は成立しないものと承知しておりますが、裁判員としての職務を務め終わった人でありましても、その在職中に評議の内容を教えてほしい旨の依頼を受けて、これに応じたことの報酬として金銭を収受した場合には、事後収賄罪が成立する場合があり得るものと思います。

川上委員 最初に私が申し上げた、余りにも負担が重過ぎる、義務が余りにも過重であるということなんですね。要するに、国家公務員であるということになるでしょう。

 そもそも裁判員制度の導入というのは国民の司法参加にあって、これは立法権とか行政権に次ぐ第三の国民の主権の行使になるんではないかなというふうに私は考えておるんですね。今でも考えておる。だから、それはあくまでも義務ではなくて権利であると。その権利者がいろいろな制約を受けて過重な負担を強いられるというのは、これはどうかなという危惧があるんですね。これは物すごく考えてもらいたいんですけれども。

 辞退事由の中でいろいろ、辞退事由がまだあいまいもことしています。したがって、主権者であるところの国民が、あなたは裁判員候補になりました、選ばれましたと言われたときに、首に縄をつけてでも裁判所に引っ張っていくんだというふうなことをしないで、あくまでも本人の、国民、主権者ですから、自由裁量に任せた方がいいんじゃないかと思うんですよ、最初は。これは絶対そう思います、私は。

 私は自信を持って裁判員をやる、世の中のために一生懸命やるんだという人と、いや私は、人を裁いたり、そういったことはどうしても嫌だという人は出てきますから、自由裁量でこれはどうしてもやるべきだと思いますね。

 もうこれは、昔、働いている人を徴用してどこかの戦地に引っ張っていく、徴兵制というのがありましたけれども、まさにこれは徴員制じゃないんですか。私は、これは、今回の裁判員制度をやるというのは、徴用するというのは、強制的にやるというのは、要するに現代版徴兵制、徴員制だと思っていますよ。このあたりのことはどうなんですか。自由裁量に任せるということ、主権は国民であるんですから。選挙権だってそうですから、投票に行こうと投票に行くまいと自由なんですから。そのあたりのことをぜひ御答弁をお願いします。

野沢国務大臣 幅広く国民の皆様の感覚を裁判に反映させるというこの裁判員制度導入の趣旨からいたしますと、裁判員はできるだけ幅広い層の国民の中から選ばれることが望ましいわけでございます。

 こうした要請から考えますと、これを制度的に担保するためには、辞退事由がない限り拒めないという意味において、裁判員となることを義務とするものでございまして、それによりまして国民の負担が平等になるものと考えられるわけでございます。そういたしませんと、希望者のみが裁判員となる制度になってしまっては、最終的に選任される裁判員の資質、性向に偏りが生ずることも懸念されるわけでございますので、この法案の趣旨は、基本的に国民の義務ということで位置づけをしておるわけでございます。

川上委員 だから、法務大臣がおっしゃった、希望者のみで偏りが生じる、あるいは裁判員のなり手がいないおそれがあるからというふうな答弁はまさにそうなんですね。義務を課すということなんですよ。新しく国民に義務を課す、負担を課すということが、これは明確にされているんではないかなと思うわけですね。

 先般、山崎参考人が、裁判員に過度な負担にならないようにという手だてを考えた法案なんだ、そういうふうにしていきたいというふうにおっしゃっているんですね。ところが、今ずっと議論を聞いていましたら、実態は、きょうの午前中もそうでしたけれども、裁判員に対する危害のおそれもあるとおっしゃいました。家族にもプレッシャーを与えるんだと、みずからそうおっしゃったんです、経験で。専門家でもプレッシャーが物すごくかかるというんですよ。専門家でもかかるんだけれども、素人なんかまさにそうだと思いますね。

 それから、刑量の判断、それから事実認定判断、それから自分の仕事の時間を割く、さらに、さっき公務員としての刑事罰も科す、裁判員としての刑事罰も科す。これ以上の重圧というか過度の負担というのがありますかということなんですよ。

 私は、必ず、これを強制的にやりますと悲劇の裁判員を生むんじゃないか、裁判員になったがゆえに自殺までするんじゃないかというふうな人が出てくるんじゃないかなと思うんですよ。気の弱い人、断ることもできない、かといって判断もできない、嫌だ嫌だとも言えない。嫌だ嫌だと、こう言えば裁判所が説得するでしょうけれども、絶対嫌だと言ったらこれはしようがない。要するに、公正な裁判ができないからこれは辞退してもらっても結構だとおっしゃっていましたけれども、それも言えないということになります。だから、悲劇の裁判員を生むんじゃないかなというおそれがあると思います。だから、したがって、御本人の自由裁量に任せた方がいいというのはそういう意味なんです。どうなんでしょうか。

山崎政府参考人 この裁判員制度と似ている制度で、検察審査会制度というものが五十年以上続いております。これは、検察官が不起訴にした事件について審査をして、起訴をすべきかどうか、これを判断するものでございます。そういう意味では刑事手続の一部を行っているわけでございますけれども、この制度について、五十数年続いておりますけれども、これはやはり、無作為抽出ということとそれから義務ということで行っているわけでございます。

 そういう関係から、先ほど言われましたような贈収賄の適用があったり、それから秘密漏示罪の適用があったりということになりますけれども、こういう関係でも、一つもそういう例は今のところ聞いていないわけでございます。これはもう制度の最低の担保ということでございます。そういう点で担保は設けておかなければならないということでございますけれども、基本的なその行動は、普通にやっていただければそんなところにひっかかる問題ではございません。

 それから、先ほど来申し上げておりますけれども、やはり物すごく裁判員の方に精神的に負担を与えるようなそういう事件については裁判から除外をしていく、こういうようなところで手当てをしておりますし、それから、やはり過重な負担にわたるような場合を考えまして辞退事由とかさまざまなものを設けておりまして、こういう点を使っていただければ最終的にはそんな過酷な状況にはならない、そういう中で行っていけるのではないかということでありますので、御理解を賜りたいと思います。

川上委員 検察審査会の審査員と裁判員というのは、私は素人でわかりませんけれども、全く違うと思いますね。プレッシャーというのは、不起訴にしたものがよかったのかどうだったのかといって検察官を相手にやるだけの話で、世間一般が被疑者を相手にしたりあるいは暴力団を相手にしてやるようなことじゃないんですから、身の危険というのは全然感じないはずなんですよ。だから、それは、検察審査会がそうだからといって裁判員が同じなんだということは、これは当たらないのではないかなというふうに思います。

 実は、合議体の中で裁判官だけの評議がある。それは法令だとか訴訟手続のことなんだというふうにおっしゃっているんですね。実はさっきも、午前中も話があったんですけれども、普通の裁判員を事実認定の際にも評議の際にも裁判員をコントロールする、官が民をコントロールするというおそれというのは出てくると思うんですよ。実際、参考人は、必ず裁判官の意見が入るとおっしゃったんですね、前に答弁で。最終的にも裁判官の判断がすべてに入るんだとおっしゃったんですよ。

 結局、さっき山内議員がおっしゃっていましたけれども、三人裁判官が寄っていつも合議をしておるというのをやれば、裁判官の意見というのは絶対割れることはないんじゃないか。絶対割れるものがない体が素人の六人に意見をばあっと開陳されれば、ほとんどこれはコントロール下にあるおそれがあるんですよね。意見を述べてはならないという規定はあるんでしょうかということですよ、事実認定とかについて。要するに、専門的な法令の解釈とかは述べても、いろいろな決定においての意見がましいことを述べてはいけない、そういった規定がありやなしやと。

 仮にそういうことができるんだということがあれば、完全に裁判官のコントロール下で、裁判員は要するに司法に、専門家に利用されている、国民は全く司法にいいように利用されているというふうなことを言われてもこれはしようがないんじゃないかというふうなことになるわけです。そのあたりをちょっと。

山崎政府参考人 この法案の規定の中で、事実認定、量刑について裁判官が意見を述べてはならない、こういう規定は全くございません。これは評議でございますから、お互いに意見を言い合うということです。

 ただ、この法案の中で、六十六条五項という規定を設けておりまして、これは、裁判長は、「評議において、裁判員に対して必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに、評議を裁判員に分かりやすいものとなるように整理し、裁判員が発言する機会を十分に設けるなど、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように配慮しなければならない。」ということを明記しておりまして、これに従ってその評議が行われていくということになろうかと思います。

 事案、事案によってどういう形をとっていくかというのは、必ずしもそれは一律には決められないことでございますが、この規定を設けることによって、やはり裁判員の方に十分に意見を言っていただいて、その上で最終的に評議を行っていくということになろうかと思います。

川上委員 だから、結局、私の言ったとおりを追認されているというふうなことになるわけですね。したがって、例えば評議の進め方はどのように進めるかというのは規則で定めるかどうかというのが一つあるんですよ。評議の進め方ですね。だれが指揮するんですか、指揮する者は裁判官ですと。裁判官がああだこうだと説示とか予告とかオリエンテーションとかそういうものをされるでしょうから、そこでコントロール下にもう絶対的に置かれるのではないかな。その評議の進め方ですね、そのあたりはどうなっていますかということ。

 それから、裁判官だけは構成裁判官だけでこれをやるんですけれども、裁判員だけで集まってああでもない、こうでもないという機会を与えてもいいんじゃないかと思うんですよ。裁判官だけはやる、裁判員だけはそういう機会は与えないというのはちょっとおかしいなというふうに思うんですが、裁判員のみの合議というのをやってもいいんじゃないかなと。息抜きのためとか、そういう人はおられませんけれども、そういうのがあってもいいんじゃないかなと思いますけれども。

山崎政府参考人 まだ規則の内容ははっきりしておりませんけれども、裁判の評議の進め方ですね。これを事細かに決めるということは多分予想はしていないだろうと思います。ただ、これは裁判の合議体でございますので、その指揮をするのは裁判長ということですね、評議の主になるのは。これはそのとおりでございまして、ほかの方が行うわけではないということでございます。

 それからもう一つ、最後におっしゃられました点でございますけれども、これは裁判員だけでお集まりいただくかですね。そうしちゃいけないともいいとも、何も書いていないわけでございまして、これについて、たまたまそういうふうに裁判官がいないところで集まるということだってあり得ないわけではないわけでございます。それを推奨するということではございませんけれども、それを否定することもないということでございます。

川上委員 それでは、公判の審理のことについてちょっとお伺いしますけれども、公判前で証拠の決定をするんだが、真実の発見によった場合は例外だ、証拠の信用性は問題としないと。証拠の信用性を云々かんぬん吟味するとすれば、素人に、裁判員によりわかりやすい調書とか、いろんな議論があったんですけれども、そういったものを提示する責任というのがどうしてもあると思うんですよ。したがって、中山長官代理者が三月十二日に、裁判員制度になれば、裁判員に回し読みで調書を読んでもらうようなことはほとんど不可能である、証人尋問を中心にしたものにせざるを得ないだろうというふうにおっしゃっていまして、そのとおりだろうと思うんですね。

 法務省は、刑事手続などの協議会の中で今そのあり方について検討をしておるということでありましたけれども、改革推進本部としては、このあり方についてどのように対応されるつもりでしょうか。

山崎政府参考人 捜査手法全体のあり方についてでございますけれども、これにつきましては、私どもの前身でございます改革審議会の意見書がございまして、その意見書で将来の課題であるということにされたわけでございます。

 私どもの本部といたしましては、現在やるべきものはやらなきゃならないということになりますけれども、将来課題についてはこの本部の方で検討をするということはしないという形で進めておりまして、この本部はいずれ期限が参るわけでございまして、それぞれみんな、それぞれの省庁が持っております権限、それをこちらに今切り出してきているわけでございますので、最終的にはそれぞれの権限がある省庁において今後進めていく、こういうことでございます。

川上委員 実は、今、法科大学院をつくって、年間五千人とか六千人を法曹界に、出身者というか、進出させようという計画でありまして、ところが、その半分の三千人ぐらいが専門家となって登用されるようでありますけれども、残りの二千人とか三千人というのはなれないわけであります。私は、なれない人たちはどうするのかな、ひょっとすると事件屋となって暗躍するんじゃないかなというふうに勝手に危惧しておるんですけれども、そうであれば、特に裁判員制度を導入されるとなると、学校教育の中に、教育課程の中にこれを、小中学校の中で模擬裁判とかそういったものを入れ込んでいくということが必要だと思うんですね。

 だから、法務省と文科省が一体となったプランを学校教育の中に組み入れるということが、ぜひこれは必要なことだと思います。さらに、そういった、あふれた人というのは変な言い方なんですけれども、司法ネットというような新しい支援サービスを今度やられるようでありますけれども、行政の中にそういった方もどんどん入れていくということも必要だと思いますが、そのあたりは文科省はどのようにお考えでしょうか。

金森政府参考人 お答え申し上げます。

 すぐれた知識経験や技能を有する学校外のすぐれた人材を積極的に学校現場において活用しますことは、学校教育の多様化や活性化を図る上で大変重要なことと考えております。

 このため、文部科学省では、教員免許状を有していない者でも教壇に立てるよう、特別非常勤講師制度を設け、その活用を積極的に推進しているところでございまして、学校によりましては、現に法律関係者を特別非常勤講師として活用している例も見られるところでございます。

 実際にどのような方を特別非常勤講師にお願いするかということにつきましては、各教育委員会の判断によるところではございますが、私どもといたしましては、今後とも、法や司法に関する教育が適切に進められるよう、法曹関係者などを含め、学校外におけるすぐれた人材の活用に努めてまいりたいと考えているところでございます。

川上委員 それでは最後に質問いたしますが、裁判員からいろんな意見を聞いて、運用改善、これからよりよい裁判員制度にしていくための運用改善などに活用していくということが、裁判員の皆さんから後で聞きながら反映していくという、そういった組織を構築するということが必要なことではないかなというふうに思います。

 そのあたりのことをどうお考えですかということと同時に、第六十七条第一項、これは、裁判員が権限を持つ事項については、裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見によるとされているんですね。例えば、殺人事件で、だれかが被害者を殺したことは、これは争いはない。被告人が犯人かどうかについて争われている場合、殺人は事実だったんだけれども、これは犯人かどうか争われている場合に、裁判員五人は被告人が犯人であるという意見を述べた、ところが裁判員一人と裁判官三人が被告人は犯人ではないという意見を述べた場合、どのような結論になるかという、これは非常にわかりやすく説明をお願いしたいと思います。

 以上です。

野沢国務大臣 まず、前段の御質問にございました、導入後さらに運用改善に努めるべきではないかと。これにつきましては、この裁判員制度のあり方につきましては、導入をした後も必要に応じまして見直しを行うことは当然のことと考えておりまして、実際に裁判員となった国民の皆様の御意見は、その意味で極めて貴重なものと考えております。そういった多方面の御意見を伺いながら、逐次この制度は育てていくべきものと考えております。

 六十七条につきましては、また事務局の方からお願いします。

山崎政府参考人 刑事裁判におきましては、検察官が犯罪事実の立証責任を負うということにされております。したがいまして、犯罪事実の一部である被告人が犯人であるということ、これが立証されているかどうかということがまず評決の対象になるわけでございます。

 御指摘のとおり、裁判員五人が被告人が犯人であるという意見ですと、全体の九名の中で過半数に達していることは達しているんですけれども、しかし裁判官の意見が一人も含まれていないという状況になりますと、評決が成立をしない形になります。その場合には、評決によって被告人が犯人であると認定することはできないということになるわけでございますので、したがいまして犯罪の証明がないということから無罪判決を出す、こういう構造になっているわけでございます。

川上委員 どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 松島みどりさん。

松島委員 自民党の松島みどりでございます。

 まず最初に、一点目を大臣に伺いたいと思っております。

 裁判員に当たったら裁判に参加することを国民の義務とするということでございましたら、日本国憲法で定める三大義務に追加するぐらいの重要なことなんじゃないかと私は思っております。つまり、義務だというのは非常に重たい話でございまして、そうしたら、憲法改正が必要なのか、あるいは、最低でも例えば全国民投票ぐらいはするような気持ちでないと国民の義務をふやすことはできないんじゃないか、そのように感じるんですが、いかがでございましょうか。

 これに関してでございますけれども、各種新聞その他マスコミの世論調査でも、まだまだ国民の認知度は低い、裁判員制度というのは認知度は低い。そして加えて、自分は裁判員になりたいかどうかと聞かれたら、積極的に嫌だという人と、あいまいに嫌だという人を合わせると、嫌だという人の方がかなり多かったです。

 こういう状況の中で、裁判員制度というのを司法制度改革の中心に据えて行うというのは私は変だなと思うんですけれども、大臣、政府としても世論調査を行っているんでしょうかということと、一体、裁判員制度導入というのはだれのため、だれの幸せのためのものであるのかということ。

 さらに最後に、これはちょっと質問通告に言わなかったんですが、先ほど事務局長のお話を聞いていると、司法制度改革本部というのは、今いろいろな役所から寄り合い世帯でできている、いずれ解散するということなんですね。そうすると、この制度をつくったことの責任は、将来を見て一体だれにかかってくるものなのか。そういうふうに思うんですけれども、御感想をお願いします。

野沢国務大臣 大変、そもそも論、基本的な御質問をちょうだいいたしましたが、何のためにだれのためにということでございますが、これはもう国民の皆様の幸せのために、こういうことがまず基本だと思います。

 そして、それであれば、憲法という基本法がございますが、現行憲法にも裁判に関する条項が幾つもございまして、その中にも裁判員ということは出てはおりませんけれども、戦前に施行されました例えば陪審法等についても、これは含みとしては可能であるという解釈もございまして、現行憲法の枠内で裁判員が参画する制度を創設することは、決して今の憲法を逸脱したものではない。もっとはっきり書けということであれば、また改正のときにはそういった手順を踏むことは必要であろうかと思っております。

 ただ、委員御指摘のとおり、国民の皆様がまだ十分これについて理解していないとか、あるいは賛成している方が過半に達していないんじゃないかとか、いろいろ御意見はございますが、これは、私は、この制度の解説なりあるいはPRなり、あるいは成り立ちなりをもう少し丁寧に御説明し、わかっていただければ、やがてこれは、皆さんがやはりよかったなと思っていただけることかと思っております。

 まだ政府としての世論調査は正式にはいたしておりませんけれども、各種の報道その他で行われているものを見ましても、逐次、改善されているものと理解をいたしております。

松島委員 私は、野沢大臣に異議を申し立てるのはとてもつらいんですけれども、しかし国民の幸せのためにといったとき、国民とは漠としているんですけれども、つまりこの問題に即していいますと、訴えられている人、被告人にとって幸せなのか、つまり常識に近づけるという意味で幸せなのか、あるいは裁判に参加できるということで裁判員が幸せなのか、どっちなんでしょうか。

野沢国務大臣 私は、被告の方にとっても、広く国民の皆様から選ばれた方々が参画して決めてくれたことであれば、なるほどと納得していただける結果が大数的には結果として出てくるんじゃないか、これを期待しているわけでございます。

 したがって、当然、被告人の幸せにも私はつながることでもありますし、参加する方にとってみると、今まで裁判というものは、だれかどこかでやってくれる、専門家に任せておけばよかったが、ただ、出てきた結論がよくわからない。あるいは時間がかかる、お金がかかる。いろいろな面で自分たちと遠いところにあったという裁判が、それに対して物を言えるんだ。そういう意味からいいますと、大変なこれは前進であろうと思います。

 司法、立法、行政といろいろな立場がございますが、司法だけがいわば国民の皆様からやや縁遠い存在であったという意味で、今回の改正は極めて重要な国民の参加する、国民の幸せのために必要な法律だ、こう考えております。

松島委員 国民から遠い存在であった司法をいろいろな意味で身近にするというのは、それは確かに重要なことだと思っております。その前提に立ってこれから質問させていただきたいと思います。

 司法というものが国民から縁遠いというのは、確かに裁判所というのが近寄りがたい、お金もかかって裁判というのをなかなかやる気にもならないし、何か遠い世界に思えるということもございます。

 それ以外に、まず前提となる法律、これは私、法務委員会でいろいろなときに申し上げているんですが、この法律の用語というのは普通の日本語じゃありません。普通の日本語にない言葉をわざわざ法律のために造語しているのではないかと思われる言葉が頻繁に出てくる。わざと難しい言葉で書かれている。これを特に基本六法についてわかりやすい日本語、当たり前の日本語に改めるための努力を法律関係者たちが今までしてきたんだろうか。

 片仮名から平仮名に改めたからそれでよしと言われるんですけれども、そんな置きかえだけで済む問題じゃなくて、例えば法律改正のときに、せっかくの機会に、法曹関係者だけでやるんじゃなくて、学者だけでやるんじゃなくて、学者の中でも法律の学者じゃなくて国語学者なり、例えば国語審議会のメンバーなり。

 私、特許庁へ行ったら、感心したんですけれども、特許に関する審議会のメンバーの中には、商標なんかの審査もあるものだから、それに関する審議会は歌人とか文学関係の方も入っておられるんですね。

 別に文学的表現を法律でする必要はないかもしれませんけれども、当たり前の日本語を使うという意味で、そういう国語の基本的な学者なり、わかりやすい文章を書くのにたけている、新聞記者がみんなわかりやすい文章を書くとは限りませんけれども、その中のこの人ならというような人を選ぶとか、それも加えるべきだと私は考えているんですが、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 用語の平易化というのはまさに大事な話でございます。

 日本の社会は、一たん文言を使うと、それを変えると定義が変わるとか範囲が変わる、こういう議論が出てくるわけでございまして、なかなかそこを思い切れないところがございます。

 この点につきましては、現在、現代語化を行っておりますが、やはり片仮名から平仮名に変えるときに、そこの平易化をきちっと図っていくということが大変重要だろうというふうに思っております。現在、民事局でかなりその作業が進んでおりまして、商法等につきましても現代語化をしていく、あるいは民法もしていく、こういう流れにございます。ですから、今後はやはりわかりやすいものにしていくということですね。これが非常に重要なポイントだろうと思います。

 それから、刑法の現代語化でございますけれども、これは直接私がやっているわけではございませんけれども、法務省の刑事局の方でやられたわけでございますが、この作業のときには、やはり国語学者からも意見を聴取して、逐条的な検討をしてきたというふうに聞いております。ですから、それなりの努力はしているということでございます。

 それで、この法案につきましては、法案の五十一条で、「裁判官、検察官及び弁護人は、」「審理を迅速で分かりやすいものとすることに努めなければならない。」ということを明記しておりまして、本当に法廷で難解な言葉をしゃべって説明をしたらまず理解不可能になりますので、そこは平易な言葉できちっと理解をしてもらうということに努めざるを得ないというふうに思っております。

松島委員 ぜひ、重々よろしくお願いしたいのと、それでしたら、この法案にある威迫という言葉、普通の日本語じゃないので変えていただきたい。脅威の威に、脅迫なんだか示威活動なんだかよくわかりませんけれども、威迫を与えないという言葉がございます。これを何とかならないかと私思っております。

 なお、大臣が言われました、裁判を身近なものにし、今までの裁判というものは時間がかかり過ぎるというようなことがございました。事実、いろいろな人が指摘しているところでございます。これに関して質問させていただきたいと思っております。

 今、特に、裁判員制度を導入したら、裁判員に大きな負担がかからないように日程を詰めて、迅速化、スピードを出してやるというようなことが言われているんですけれども、裁判員が加わった裁判というもののイメージを教えていただきたいんです。

 一日に何時間ぐらい公判に出席するのか。これは、大学の授業でも六時間、七時間、ぶっ続けるとつらいですし、この国会議員の委員会でも、本会議でも、四時間も五時間もぶっ続けてあると非常にきついものがございます。ましてや、別に法律に関心があるわけでもない人がたまたま言われてやってきて、幾ら平易にしたってやはりわけのわからないどこかの世界の話をずっと聞かされて、かなりつらいんですけれども、一日に何時間ぐらいそういうことが行われて、何時ごろまでやるのか。さらに、公判の後、密室での評議ですね、評議というのをまたその日何時間ぐらい今度やっていくのか、そういったことをどういうふうに考えておられるのかということを伺いたい。

 それに関連して、今、裁判がどうしても長くなっているものを、裁判員が加わったから短くできる。これもちょっと変です。どうしてできるのかな、だったら今やればいいじゃないかと私は思うんですけれども、この間、参考人に聞きましたら、そういう外的要因が加わらないと、今までプロでやっていたのではなかなか変わらなかったなんという正直なことを言われた大学の先生がおられましたけれども、今どういう問題があって長引いている、それをどういう方法や対策をとることで短くすることができるのか、どう考えているのか。

 そして、先ほど別の委員が質問されたこととひょっとしたら反対方向になってしまうかもしれませんけれども、現在、裁判が長引くことの一つは、検察とそれから弁護士の双方が証人を求めて次々に、次回はだれ証人、次はだれという形で、どんどん求めて長くなるケースもあると思います。これを、例えば起訴状一本主義を改めて、裁判官なりがどこまで証人を呼んでということをあらかじめある程度早い段階で決めていく、それで全体を短くするというようなことも考えていくのかどうか。いわゆる大陸法、ヨーロッパ式のやり方だと思いますけれども、そういうような考え方はないのかどうか。

 そしてまた、短期化するという場合に、今までこういうタイプの裁判だったらどれぐらい時間がかかっている、どれぐらい日数、月数がかかっているものをどれだけに短縮するという目標を考えておられるのか。考えているとしたら、この制度がスタートして何年ぐらいでそれを実現できるか。できない場合は、検証をして、何が悪かったか改めるように努力をするのかどうか。

 ただ、そのころには司法制度改革本部はもうなくなっているらしいですから、ちょっとどうなるのかわからないけれども、そのあたりのお考えがあったら聞かせてください。

山崎政府参考人 四つぐらい御質問があったかと思いますけれども、まず、一日にどのぐらいの審理時間があるかということでございますけれども、これは裁判所の判断でございますので一概には申し上げられませんけれども、通常であれば、裁判は十時に開廷をして大体終わるのが五時ということでございますので、六時間ですか、昼休みが一時間入ります。それから、午後の場合は途中に休憩というものが入りますけれども、基本的には六時間。その範囲内でどういうようにやっていくかというのは、一応その裁判所の判断でやっていくということでございます。

 それから、裁判のやり方でございますけれども、途中に休憩をとって、その間に若干評議をしたり、やる場合もあろうかと思いますし、終わってから評議をするということもあろうかと思います。

 いずれにしましても、例えば、審理を三時で終わって五時まで評議をするとか、そういうようないろいろな工夫を重ねていくことになろうかと思います。最大限一日六時間ということになろうかと思います。

 それから、審理の迅速化の話でございますけれども、これにつきましては、公判前整理手続というのを今度設けます。そこで必要な主張と証拠をお互いに出し合って、そして争点はどこであるということを確認いたしまして、では、その争点の立証のためにどの程度の証人とか証拠が必要であるかということを決めていただいて、そうなりますと、その審理のためには何日必要であるかということがそこで出てくるわけでございますので、それを決めて裁判員の方を呼び出すわけでございます。あなたにやっていただくということになると、これは三日かかりますとか二日かかります、こういうことを申し上げて協力をしていただく、こういうイメージでございます。

 では、これをもっと速めるために、起訴状一本主義とたしか今言われたと思いますけれども、起訴状一本主義というのは裁判所は起訴状以外に事前に心証をとってはならないということでございますけれども、この点につきまして、この原則を崩すということは私どもも考えておりませんで、この公判前整理手続のその証拠の内容にわたって見るわけではございません。整理をするということでございますので、その点で起訴状一本主義というのは、それは守るということになろうかと思います。その上で迅速化を図るということでございます。

 今まで何で長かったかということですが、この事前の整理手続が十分に機能していなかったわけでございます。ですから、五月雨式になっちゃうんですね。きょうはこれをやりましょう、では次はこうやりましょうという形の五月雨式になってくる可能性、それを避けたいというのが今度の手続でございます。

 それからあと日数でございますが、これはなかなか、事案によってわかりませんけれども、前に申し上げたあれでは、速いものであれば一日二日ということになろうかと思います。若干証人を調べても大体一週間程度かというような、そういう目安というんですか、で考えてはおりますけれども、具体的にもう少し長くなる事件とか、それは事件によっては出てくるということでございます。ちょっと始めてみないとそのしかとしたところはわからないということになりますが、なるべく短く審理を終えなければ裁判員の負担が大変であるということで運営をしていくということになろうかと思います。

松島委員 その公判前整理手続というのは、だれが行うわけですか。

山崎政府参考人 これは、原則的には双方の当事者、検察庁であればまず起訴した事実、それとどういう点について立証を求めるか、こういうことを全部出すわけですね。それに基づきまして、被告人側の方で、その証拠で足りなければ検察官の方に証拠の提出を要求するという形になるわけですね。そういうものを出した上で、今度は被告人側の方の主張、立証ということ、これも全部出していく、お互いにやり合うわけでございます。

 そこで、最終的にその主張、証拠が出そろったときに、裁判所の方として最終的にその整理をして、どこが争点であるか、どれだけの証拠調べをするか、あるいはお互いに証拠を請求しても出さないというようなことがあれば、最終的には裁判所が裁定をして出させるというようなことでございまして、裁判所が主宰をして、両当事者が中心になりながらその整理を進めていく、こういうイメージでございます。

松島委員 わかりました。

 それで、裁判員の保護についてでございます。

 先ほど川上委員からも、裁判員に非常な負担がかかって、精神的にも、悪くすると自殺する人が出たらいけないというような話でございましたけれども、私は、裁判員の氏名が被告にばれるというのは絶対に問題であり、避けるべきことであると考えます。

 関係者かどうかを確認するために被告に尋ねてチェックするというような話を以前に伺っておりますけれども、例えば暴力団の事件を一般の裁判員が裁く、そういうことが往々にして起こる。その場合、仕返しが怖い。住所が明らかにされなくても、法廷から出るところをつけて、それは暴力団だったら仲間がいるわけですから、つけていけば幾らでも、どこに住んでいるだれかわかるはずだと思うんです。これは、裁判員の安全を守るためにも絶対に被告にはばれてはいけない、もちろん被告の弁護人にもばれてはいけないということだと思いますが、どういうふうになるんでしょうか。

山崎政府参考人 この点につきましては、さまざまな議論がございました。当初の議論では、氏名、住所等は公表すべきではないかという議論もあったわけでございます。いろいろな議論を経ていくうちに、やはり、それが全部出てしまいますと、いろいろな嫌がらせや報復とか、そういうおそれがあるじゃないかということから、そこの氏名は公表しないことにしようというように変わったわけでございます。

 ただ、問題は、検察官、弁護士、被告人、そういう当事者が、だれが、どういう人がこの裁判員をやっているのかということを全くわからないままやるということになりますと、これは今度、不安が、物すごい不安だろうと思うんですね。ある意味じゃやみの裁判というような状況になってしまいますので、少なくとも当事者にはお知らせをする。最終的には、その人がこの事件の関係者であるかどうか、それから面接をして、それで最終的には、公平な裁判をすることができるのかどうかとか、そういうことをみんな判断するわけですね。

 ですから、そういう意味では知らざるを得ない構造になっておりまして、ただ、そこの限りでありまして、その外には出していかない。もしその氏名を出すようなことになれば、それは罰則の適用を受ける、こういうような構造でできているわけでございます。

松島委員 私は、とんでもないと思っております。被告人にばれる。被告人って犯罪者でしょう、基本的には。だれが怖いかって、裁判員にとりまして、被告人のお礼参りほど怖いことはないじゃないですか。

 例えば、死刑あるいは無期懲役、死刑という判決で本当に死刑になればいいですけれども、そうでなくて無期懲役という判決で、平均十七年で出てきます。何人も殺人を犯した人が、現実には無期懲役になり、無期懲役の結果、平均十七年で出てきている。そうしたときに、あいつのせいじゃないか、こいつもそうじゃないかって、裁判員が片っ端からねらわれたらどうするんですか。

 だれそれだけには知らせるという中に被告人が入っているなどということでは、私は、もし自分の親しい人たちに、裁判員って手紙が来たけれどもどうしようかと聞かれたら、やめなさいと忠告したくなります。

山崎政府参考人 これは、現在のプロだけの裁判、これでもやはり、被告人には裁判官がだれであるかということは当然わかるわけでございますね。裁判員の方にも、そういう意味では、裁判官と裁判員というのは一緒に裁判をするわけでございまして、そういう意味で、被告人が全く知らないということはやはり避けるべきだろうというふうに思われます。

 それからもう一つは、やはり被告人と、事件関係者にあるかどうかとか、そういうことも全部チェックしなければならないわけでございますので、そこで、この人がどこのだれであるかということを、それを全く知らせないでやるということは制度としては難しいというふうに考えておりまして、現に仕返し等、もしそういう問題が生ずるのであれば、別途の方法でそれを防止していくというふうにせざるを得ないというように考えております。

松島委員 私は、プロの裁判官はいろいろな状況を考えながらこの裁判官という職業を選んだ人だと思っております。警察官、消防官、自衛隊の方々、皆さんいろいろなことを考えながらその職業を選んでいらっしゃる。裁判官も同じだと思います。

 裁判員は、先ほど赤紙徴集みたいな話がございましたけれども、あるとき突然、自分の意思と関係なく、国家から連絡が来て、基本的に義務として受けなさいと言われることです。これでプロの裁判官と同じような覚悟を必要とするというのは、私は決定的におかしいと思っております。

 それに関連して聞かせていただきます。

 裁判員を辞退できる理由を具体的に決めるということですが、これはどのようにして明示されていくのか。その中に、今、思想、信条などによるものを含めるというようなことが言われておりますけれども、思想、信条って、世の中、それほどはっきり言いあらわすことができない気の弱い方々で、人の人生を決めるものに加わるのはとにかく嫌だとか、もう煩わしいし、気が進まないし、何か怖いし嫌だなというような感じの方が、思想、信条じゃないんだからやりなさいと言われる。これは私は、暴力的なことだと思っております。

 そしてまた、別個の方で、このほかに、裁判員になることを強く拒んでおり誠実に裁判員の職務を行うことが期待できない者については忌避制度があるということになっているんですけれども、これは結局、結果的に裁判員から外れるから実態としてはいいとは思いますけれども、しかしながら、これですと、つまり忌避されたと。何かこれもきつい、何かよくわからない言葉ですけれども、忌避って、裁判所の方が忌避するということは、この人は悪い人だみたいな、自分はそういうことにかかわりたくないということが悪い人だと認定されて忌避されるみたいなイメージというのは、これもまた私は変だなと思うんですけれども、いかがでございましょうか。

山崎政府参考人 まず、思想、信条に基づく辞退という点でございますけれども、これは、典型的に考えているのは、そもそも人が人を裁くような制度、これはもう裁判制度そのものでございますけれども、こういうことはもう自分としては絶対肯定し得ないという考え方の方もおられると思うんですね。あるいは宗教上そういうふうにされている方もおられるかもしれない。そういう場合を言っているわけでございまして、そうじゃなくてただ嫌だとかやりたくない、そういう気持ちをお持ちの方ということであれば、それは辞退事由には該当はしないということになろうかと思います。

 ただ、そのやりたくないという気持ちが相当に強くて、そしてもうまともには裁判を、判断してもらえないというおそれがある場合もあるわけでございますね、それは面接すればある程度わかるわけでございますけれども。そうなったときに、本当に裁判をやっていただけるかという点もございます。その場合には、当事者の請求、あるいは裁判所から、その方については選任をしないという、不選任決定ということをするわけでございます。

 そのほかに、理由をつけない不選任決定をすることもできるということになっておりますので、両当事者が、四人ずつ、理由は要らない、お引き取りを願いたい、こういうことができるようになっておりますけれども、そういう中でお引き取りを願うということでございます。

 それで、不幸にして選任された、委員のお立場からでは不幸にしてということになるんだろうと思いますけれども、そうなった場合にどうするかということでございますが、それでちゃんとその仕事を務められる方もおられると思いますが、その中で、やはりどうしても嫌だといって、もう審理自体に加わりたくないというような状況になっちゃったら、これはやはり裁判をまともにやっていくことが非常に難しいだろうということから、解任の裁判というのがございまして、その任を解くという形になるということでございます。

 それから、先ほど忌避という言葉、文言が出てまいりましたけれども、今回の法律の関係では忌避という文言を用いておりません。不選任という文言を用いております。これは私も、個人的に、忌避というのはいいのかねと。本当に聞こえがよくないという指摘も受けたことが前にございまして、そこはかなり意識的に文言を避けているということでございます。

松島委員 その御配慮はありがとうございます。

 しかしながら、いろいろお聞きしていると、やはり、原点に戻りまして、一体だれのための幸せでこういうことをやるのかなと、もう本当に著しく私は不思議な気が、なぜそこまでしてやろうというのかわからない気がしてくるんですけれども、最後に伺います。

 司法に国民の常識を入れるということでしたら、殺人事件というのは、確かに、新聞によって非常に関心を持つ、憎い犯人を憎む、そういう気持ちはたくさん、いっぱい起こります。でも、細かく、ここでこうやって右手で凶器を持ってどうしたとか、後ろから何とかと言われたって、自分は何もそんなことやったことがないし、イメージもわかないし、常識と言われても、事実認定には、犯意があった、殺意がどれぐらいあっただろうかなんて言われても、困っちゃうんですよね。

 国民の常識を入れるというんだったらもっと身近なテーマ、例えば、何か大騒ぎしている人がいて近所迷惑だとか、どれぐらい賠償を求められるとか、ごみ出しがむちゃくちゃで近所に迷惑をかけるだとか、あるいは夫婦の離婚の問題だとか、離婚したときに子供の養育費ってどれぐらい払うべきだとか、セクハラの判断だとか、企業が解雇する、処遇で窓際へ送られて心が傷ついたとか、そういった問題だとか、そういうだれでも起こり得るところに常識を入れる裁判をやることから始める方が私は正しいのであって、人を殺したとか、強盗だとか、放火とか、自分が何か想像し得ない、土曜ワイド劇場や火曜サスペンスでしか見たことない世界を自分でやってみるというのは、何でこんなことになるのか、もう本当に不思議なんですけれども、それだけ御回答を願います。

山崎政府参考人 民事事件に関しましては、これは将来課題とされているわけでございます。

 世界的に見ても、民事関係に国民が参加する制度、調停なんか日本にはありますけれども、それ以外に本当の裁判に入ってやるという制度を設けている国はそう多くはないわけでございます。やはり民事関係の紛争というのは、時代とともに相当に複雑なものが入り込んでくるということですね。それと、それじゃ身近な、自分たちでもできるような身近な裁判とは何かということになりますと、どこかで線を引かなければならないわけでございます。それがそう容易なことではないということでございまして、ですから、そういう関係もありまして、民事裁判、これに導入していく世界の国々はそう多くはない。

 ほとんどの国では刑事事件、これに導入する。やはり刑事の事件は倫理なんですね、もともとが。人を殺してはならない、盗んではならない。ある意味じゃ非常に国民の生活の中でわかりやすい部分でもあるわけでございます。そういうことから、やはり刑事事件に導入をしていくというふうになっているわけでございます。

松島委員 どう考えても、プロがプロだけで考えたことのように私は思えて仕方がありません。倫理だと言われるんでしたら、人を一人殺したら死刑になるのが当たり前だと私は思っておりますけれども、今の裁判でもそういうふうにはなっていないわけですから、いろいろと不思議な気持ちになるその混迷は、自分としては深まっているだけでございます。

 どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。

 一昨日に続きまして、本日も、刑訴法等の一部を改正する法律案のうち、証拠開示に関する質問をきょうは主に法務大臣にお伺いしたい、こう思っております。

 今回の法案では、検察官による証拠開示を拡充するほか、裁判所が証拠開示に関する裁定をするという制度を新たに設けておりますが、裁判所による証拠開示に関する裁定の制度、これを新たに設けた理由をお尋ねしたいと思います。

野沢国務大臣 今回の刑事訴訟法の改正によりまして、証拠開示の時期、範囲等に関するルールを明確化するものとしておるところでございますが、証拠開示の要否をめぐって検察官と被告人側との間で紛議が生ずることも考えられます。そこで、中立公正な裁判所が証拠開示に関する裁定をするものとして、開示されるべき証拠が適正に開示されることを担保しようとするものでございます。

漆原委員 事務局にお伺いしますが、証拠開示に関する裁定の手続の流れ、これを概略的に説明をしてもらいたいと思います。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

山崎政府参考人 この流れでございますけれども、検察官または被告人側が取り調べを請求した証拠について、裁判所がその開示の時期、方法を指定しまして、あるいはまた条件を付すというもの、こういうタイプのものが一つでございます。それから、検察官または被告人側がその開示すべき証拠を開示していないときに裁判所がその開示を命令するもの、こういう二とおりのタイプがあるわけでございます。

 前者につきましては、証拠の取り調べを請求した当事者が裁判所に対して当該証拠の開示の時期の指定等を請求することによって手続が始まりまして、請求を受けた裁判所が、開示の必要性、弊害等を考慮した上で、特定の供述調書の開示の時期を一定の時期に指定するなど、そういう指定をすることを決定するというものでございます。この決定に対しても、あるいはその時期の指定をしないという決定に対しても、当事者は不服の申し立てをできる、即時抗告をすることができるということでございます。

 それから、開示を要求しても開示をしないというタイプのものでございますけれども、これは当事者の請求によって手続が始まりますけれども、請求を受けた裁判所において、その後、開示すべき証拠が開示されていないと判断した場合に、その開示を命ずるということになります。開示をする決定、あるいはしない決定に対しても、双方からそれぞれ即時抗告をすることができる、こういう手続の流れになっております。

漆原委員 そこで、法務大臣にお尋ねしたいんですが、裁判所の判断の方法、枠組みについてでございますけれども、被告人・弁護人から証拠開示命令の請求を受けた裁判所が、検察官の不開示の判断が合理的であったかどうかを審査することになるのか、それとも、請求に係る証拠について、証拠開示を認めるべきかどうかを裁判所が改めて判断することになるのか、いずれでございましょうか。

野沢国務大臣 裁判所は、検察官の判断の当否あるいは合理性の有無を審査するものではなくて、改めて法所定の開示の要件の有無を審査し、開示の要否を決するものでございます。

 したがいまして、例えば新設の刑事訴訟法第三百十六条の十五に基づきまして開示請求がされている場合には、裁判所は、当該請求に係る証拠が同条に掲げている一定類型の証拠に該当するか否か、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要なものか否か、開示の必要性及び弊害の程度いかんを考慮し、開示の要否を決することになります。

漆原委員 先回も御質問いたしましたが、裁判所の裁定の制度があるとはいえ、第一義的には開示請求を受けた検察官が開示の必要性と弊害を勘案して開示するかどうかを判断する、こういう枠組みになっているわけですね。

 第一義的に開示するかどうかを判断する検察官の判断が法律に従って適正に行われなければ、せっかくつくった趣旨もなくなってしまうわけでございまして、この点について、検察官を監督する立場にある法務大臣、しっかり監督をしていただきたいと思いますが、御意見をお伺いしたいと思います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、検察官の役割というのは非常に重要な役割を現在でも占めておりますが、今度の制度におきましてもこれは変わらない重要な立場をやはり有していると考えるわけでございまして、検察官は公益の代表者であり、法改正により新たな証拠開示の制度が設けられますと、その趣旨、内容を十分に理解し、適切に運用することを期待できるものと考えておるところでございます。

 もとより、各検察官に対しましては、新しい制度の趣旨を十分徹底するよう、今後とも指導してまいりたいと考えております。

漆原委員 証拠開示に関連しまして、今回の法案では開示証拠の目的外使用の禁止ということが盛り込まれております。

 検察官による証拠開示は、あくまでも争点の整理、被告人の防御の準備のために行われるわけでありますから、被告人側が開示してもらった証拠を、例えば、関係者の供述調書のコピーをみずからの事件の審理の準備のために使うとか、当たり前のことなんですが、そのコピーを第三者に売ったりしちゃいかぬというのも、また許されないことだと思います。

 そこで、開示証拠の目的外使用を禁止した理由を法務大臣に改めてお尋ねしたいと思います。

野沢国務大臣 検察官による証拠開示は、あくまでも現に係属する被告事件について、十分に争点を整理するとともに、被告人・弁護人が訴訟準備を十分に整えることができるようにするために行われるものであります。

 そして、開示証拠の複製等が本来の目的以外の目的で第三者に交付されるなどすると、罪証隠滅、証人威迫、関係者の名誉、プライバシーの侵害等の弊害が拡大するおそれが大きいと考えられます。また、開示証拠の目的外使用が許されるものとすると、証拠開示の要否の判断において目的外使用による弊害の可能性をも考慮しなければならず、かえって証拠開示の範囲が狭くなるおそれがあると考えられます。

 他方、現行法では開示証拠の取り扱いに関する明確なルールは定められておらず、開示証拠の複製等が暴力団関係者に流出したり、雑誌やインターネット等で公開された事例が発生しておるところでございます。

 そこで、開示証拠が本来の目的にのみ使用されることを担保し、証拠開示がされやすい環境を整えまして、ひいては証拠開示制度の適正な運用を確保するため、被告人・弁護人は開示証拠の複製等を本来の目的である被告事件の準備等の目的にのみ使用すべきことを法律上明らかにしたものでございます。

漆原委員 それでは、目的外使用の規定について具体的に質問をします。

 二つ一遍に聞きますが、具体的には、開示証拠のコピー等をどのような目的で使用することが許されるのか、同じくどのような使用行為をすることが禁止されるのか、二つを聞きたいと思います。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

野沢国務大臣 検察官による証拠開示は、現に係属する被告事件について、十分に争点を整理するとともに、被告人・弁護人が訴訟準備を十分に整えることができるようにするために行われるものでございます。このような証拠開示の趣旨にかんがみ、今回の法案では、当該被告事件の審理及び当該被告事件の審理に密接に関連する手続である再審請求の手続、非常上告の手続などにおける使用及びそれらの手続の準備のための使用が許されるものとしておるところでございます。

 二点目のコピー等の開示証拠に関しては、今回の法案では、開示証拠について、その内容自体を明らかにすることを禁止するのではなくて、有体物である複製その他証拠の全部または一部をそのまま記載したもの及び書面の目的外使用を禁止するものとして規制範囲の明確化を期しておるところでございます。これと同様の趣旨から、有体物である開示証拠の複製等、それ自体を使用する場合に限り禁止することとしております。

 具体的には、第一に交付、すなわち開示証拠の複製等の占有を他人に移転させること、第二に提示、すなわち開示証拠の複製等を示して他人がその内容を認識できるようにすること、第三に電気通信回線を通じて提供、すなわちインターネット等の電気通信回線を通じて他人が開示証拠の複製等を利用できるようにすることを禁止行為としております。

漆原委員 この目的外使用の禁止については、弁護活動を制約するとして日弁連なんかが大分批判をしております。先回も参考人の本林前日弁連会長が、弁護活動を不当に制限することになるのではないかという問題点を指摘されておりました。

 具体的に聞きますが、まず、開示証拠の目的外使用を禁止しますと、共犯事件において、各共犯者の弁護人が集まってそれぞれの弁護人が開示された証拠を見せ合って検討する必要があるのに、それができなくなるのは不適当であるという指摘がなされておりますが、この点は、大臣、いかがお考えでしょうか。

山崎政府参考人 この点につきましては、弁護人がみずからに開示された証拠のコピー、これを他の共犯者の弁護人に示すということが、例えば、その開示証拠に関する事実についての共犯者の認識を調査する、こういう目的でやるというような場合があるかと思いますけれども、そういうようなみずからの担当する被告事件の審理の準備のためであるというような場合、そういう場合については、当然のことながら、それは禁止されるものではないということになります。

 それから、開示された証拠のコピーそのものを示すのではなくてその証拠の概要を伝えること、この点についてはどういうシチュエーションでも何ら禁止されるものではないということでございますので、こういう点を利用していただければ、弁護活動に不当な支障を与えるとか制約になるということはないというふうに考えているところでございます。

 また、これを、それでは共犯の事件の方にも利用できるということになりますと、もともと開示につきましては、それぞれの被告人ごとに開示の必要性とか弊害とか、こういうのを比較考量して決定しているわけでございますけれども、それが共犯の弁護人相互間でそれぞれやりとりをするということになってまいりますと、被告人ごとに個別の開示の要否を判断する、そういう点が抜け落ちてしまうことにもなるわけでございます。

 そうなりますと、やはり、罪証隠滅等の弊害がおそれが高くて、証拠開示の範囲が最も狭くなる被告人と同じ範囲で開示をしていくという、一番狭い方にその前提が統一されてしまうというおそれもあるわけでございますので、そういうことを考えると、その他の被告人の防御に、利益に反して適当ではないという形になってくるわけでございます。そういう点で私どもは基本的に考えているということでございます。

漆原委員 次に、もし開示証拠の目的外使用が禁止されますと、弁護士が例えば無罪事例集のようなものを資料としてつくって出版したり、あるいは執務の参考にするということができなくなって不当だ、不適当だという声がありますが、これについてはいかがでしょうか。

山崎政府参考人 無罪事例集のような執務資料ですか、これを作成したり出版するということ自体、この必要があるということそれ自体は、私ども何も言うことはございませんけれども、ただ、そこに登載する場合に、あえて開示証拠のコピーをそのまま引用するというものではなくて、その概要を記載するということによってもその目的は達することができるのではないかということでございまして、開示証拠の目的外使用を禁止することとしても、資料の作成、出版ができなくなるというものではないというふうに考えているところでございます。

漆原委員 続いて、開示証拠のコピーを民事訴訟で証拠として用いられなくなるのではないかという指摘がありますが、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 民事訴訟での利用につきましては、民事訴訟法におきます文書送付嘱託あるいは刑事確定訴訟記録法による閲覧など、法律上、別途その使用を可能にする制度が設けられているわけでございます。それぞれの制度において送付の必要性あるいは相当性が判断されるなどいたしまして、所定の要件及び手続に従って送付あるいは閲覧が可能になっていくということでございます。

 このような制度によらず開示証拠を目的外使用することは、法がそれらの制度を設けた趣旨に反するものでございまして、相当ではないというふうに考えているところでございます。

 民事訴訟での利用が許されるものとすると、開示の必要性と弊害とを比較考量して開示の要否が決定されるに当たりまして、民事訴訟での利用、この可能性も考慮して判断をするということになるわけでございまして、これではかえって証拠開示の範囲が狭くなってしまうおそれもあるということで、相当ではないというふうに考えているところでございます。

漆原委員 検察官が開示する証拠の中には、公判廷で取り調べられるものもあります。そうすると、公判廷は公開の法廷で行われるわけでありますから、公判廷で取り調べられた証拠の内容は一たん公になったものと言うことができます。

 それで、公判廷で取り調べられた証拠も含めて開示証拠の目的外使用を今回禁止しているわけですが、適当ではないではないかという意見もあります。開示証拠が公判廷で取り調べられた場合もその目的外使用は禁止されているのかどうか、そうだとすればその理由は何か、お尋ねしたいと思います。

山崎政府参考人 公判廷で取り調べられます証拠は、公開の法廷において朗読あるいは要旨の告知または展示の方法により明らかにされることになります。しかし、明らかにされるのはその限度にとどまっておりまして、その状況を直接認識することができるのは傍聴人に限られるわけでございます。それから、実務的には、朗読をすると不必要に個人のプライバシーを侵害するおそれのある供述書の一部の朗読を省いたり、同様な考慮から、写真の展示を被告人らに対するものにとどめたりするということも行われているわけでございます。

 これに対しまして、公判廷で取り調べられた証拠それ自体を公開するものとした場合には、不特定多数の者がその証拠の全体に対していつでもこれに接することができるということになるわけでございまして、関係者の名誉、プライバシーの侵害等のおそれは、公判廷での証拠調べの限度での公開に比べまして格段に大きくなるということになろうかと思います。

 例えば、法律では、公判廷で取り調べられた証拠であっても、当事者、その本人である被告人でさえ、弁護人がいないときに限り公判調書の閲覧をすることができるにすぎないというふうにされているわけでございまして、そういう閲覧等の制限を課しているわけでございます。

 公判廷で取り調べられた開示証拠につきましては、その目的外使用が禁止されないものとすると、公判廷で取り調べられた開示証拠のコピーを自由に利用することが許されるということになるわけでございます。例えば、被害者が被害状況を赤裸々に語っている供述調書や、被害直後の被害者の状況を撮影した証拠写真をインターネットで公開することも可能になってしまうということになります。このような事態は、証拠書類の閲覧等に関する現行法の趣旨に反するだけではなくて、やはり関係者の名誉、プライバシーの侵害、そういうような弊害を生ずるおそれが大きいものと考えられるわけでございます。

 したがいまして、公開の法廷で取り調べられた開示証拠であっても、その目的外使用を禁止する必要があるというふうに考えているところでございます。

漆原委員 この点は、先回、本林前日弁連会長の参考人意見の中でこういうふうになっているんですね。

 改正法案は、検察官が開示した証拠について、被告人及び弁護人に、審理の準備以外の目的で使用してはならないとし、違反した一定の場合に懲役刑を含む刑罰を用意しています。しかし、現行法の規定は、公判で取り調べられる前に記録を公にしてはならないと言うにとどまり、取り調べ後は、裁判の公開原則との関係にも配慮して、また弁護士倫理にも期待して、特に規制は設けられておりませんということで、この刑罰、罰則の適用は排除すべきだ、こういう意見を述べられておるんですが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 確かに現行法では、取り調べられました証拠について、それをどう扱うかということのルールがはっきりしないということはそのとおりかと思います。

 私は、その点につきましては、ちょっとやはりルールが決まっていないということが問題であろうというふうに考えているところでありまして、今後、証拠開示原則を今回拡大しているわけでございますので、もっとより多く証拠がその当事者の方に渡っていく、こういうことを許容する制度を設けるわけでございます。したがいまして、そういうような制度を設けるに当たりまして、やはりきちっとしたルールは設けるべきではないかということが今回の考え方でございます。

 それで、被告人の点につきましては担保がございませんので、被告人については刑罰の問題がございますが、弁護人の場合は、それは懲戒の問題とかいろいろございますので、そこで十分に担保されるだろうということで、第一義的には罰則の適用はしないということで設けていないわけでございます。

 ただ、非常にルール違反が激しい場合、それは、例えば利益を得る目的で開示証拠をその目的外に使用するとか、こういうような場合については罰則を設けましょうということで今回考えているわけでございまして、すべからくすべて罰則の適用があるということを言っているわけではないということでございます。

漆原委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 次回は、来る十二日月曜日午後一時四十分理事会、午後二時公聴会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時十四分散会


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