衆議院

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第14号 平成16年4月14日(水曜日)

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平成十六年四月十四日(水曜日)

    午前九時四分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    佐藤  勉君

      桜井 郁三君    中野  清君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      松野 博一君    水野 賢一君

      森山 眞弓君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    山際大志郎君

      井上 和雄君    泉  房穂君

      枝野 幸男君    鎌田さゆり君

      小林千代美君    小宮山洋子君

      田嶋  要君    辻   惠君

      中井  洽君    中村 哲治君

      西村 真悟君    細野 豪志君

      松野 信夫君    山花 郁夫君

      若井 康彦君    上田  勇君

      富田 茂之君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局総務局長   中山 隆夫君

   最高裁判所事務総局刑事局長   大野市太郎君

   政府参考人

   (司法制度改革推進本部事務局長)   山崎  潮君

   政府参考人

   (警察庁長官官房総括審議官)   安藤 隆春君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君

   参考人

   (東京大学教授)     井上 正仁君

   参考人

   (株式会社読売新聞東京本社代表取締役社長)    滝鼻 卓雄君

   参考人

   (日本弁護士連合会司法改革特命嘱託)

   (前日本弁護士連合会副会長)   尾崎 純理君

   参考人

   (社団法人日本新聞協会人権・個人情報問題検討会幹事(日本経済新聞編集局次長))   木舟 一郎君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十四日

 辞任         補欠選任

  松島みどり君     松野 博一君

  泉  房穂君     田嶋  要君

  加藤 公一君     若井 康彦君

  河村たかし君     細野 豪志君

同日

 辞任         補欠選任

  松野 博一君     松島みどり君

  田嶋  要君     泉  房穂君

  細野 豪志君     井上 和雄君

  若井 康彦君     加藤 公一君

同日

 辞任         補欠選任

  井上 和雄君     中村 哲治君

同日

 辞任         補欠選任

  中村 哲治君     山花 郁夫君

同日

 辞任         補欠選任

  山花 郁夫君     西村 真悟君

同日

 辞任         補欠選任

  西村 真悟君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案(内閣提出第六七号)

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第六八号)

 総合法律支援法案(内閣提出第六九号)

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案及び総合法律支援法案の各案を議題といたします。

 まず、内閣提出、総合法律支援法案について議事を進めます。

 趣旨の説明を聴取いたします。野沢法務大臣。

    ―――――――――――――

 総合法律支援法案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

野沢国務大臣 総合法律支援法案について、その趣旨を御説明いたします。

 我が国においては、内外の社会経済情勢の変化に伴い、法による紛争の解決が一層重要になっております。この法律案は、このような状況にかんがみ、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに、弁護士及び弁護士法人並びに司法書士その他の隣接法律専門職者のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援、すなわち総合法律支援の実施及び体制の整備に関し、その基本理念、国等の責務その他の基本となる事項、その中核となる日本司法支援センターの組織及び運営について定め、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを目的とするものであります。

 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、総合法律支援の実施及び体制の整備については、民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して行われるものとするとともに、情報提供の充実強化、民事法律扶助事業の整備発展、国選弁護人の選任態勢の確保、被害者等の援助等に係る態勢の充実等が図られなければならないものとしております。

 第二に、これらに関する国の責務について所要の規定を置くとともに、地方公共団体及び日本弁護士連合会等の責務についても所要の規定を置いております。

 第三に、日本司法支援センターは、総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行うことを目的とすることとし、その設立、組織及び運営に関し所要の規定を置くこととしております。

 この支援センターは、その業務として、法による紛争解決制度の有効な利用に資する情報提供の充実強化の業務、民事法律扶助業務、国選弁護人の選任に関する業務、弁護士等を依頼することに困難がある地域における法律事務に関する業務、犯罪被害者の支援業務等を行うこととしております。

 その組織及び運営については、役員の任命や中期目標を定める際等に最高裁判所の適切な関与を得ることとするとともに、その業務運営上特に弁護士等の職務の特性に配慮して判断すべき事項について審議させるため、支援センターに審査委員会を置くこととしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、ただいま議題となっております各案について議事を進めます。

 この際、お諮りをいたします。

 各案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、法務省刑事局長樋渡利秋君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局大野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小林千代美さん。

小林(千)委員 おはようございます。民主党の小林千代美です。

 裁判員制度について、事務的なお話を少し教えていただければというふうに思います。

 といいますのも、先日の公述人の質疑のときに私も質問をさせていただきましたけれども、私は全く司法、法曹の素人でございまして、どちらかといえば私は裁判員に近い立場にあるのではないかというふうに考えております。その裁判員の立場から、一般の市民の、法律を何も知らない市民の立場から質問をさせていただきたいと思います。

 ぜひこの答弁を、国会議員に答弁をするのではなくて、これから例えば制度が始まるということになれば、市民の方々にさまざまな説明ですとか講習会みたいなものを開くのではないかと思います。ぜひ、その予行演習と申しますか、そのようなお気持ちで答えていただければというふうに思います。

 一般の市民の立場として、どうやらこういう制度が始まるらしい、自分もひょっとしたら裁判員に選ばれる可能性があるかもしれない、仕事を休んで裁判所に行かなければいけない、一体どうなるんだろうといった不安が今あるのではないかと思います。そういった観点から、まず最初に、事務的な内容なんですけれども、お聞かせいただきたいと思います。

 一般的な市民に対して、そういった裁判員にあなたは呼ばれていますよ、当たりましたみたいなところから始まりまして、裁判員に選任されるまでの手順を、一般の市民に説明するつもりでお知らせいただきたいと思います。

山崎政府参考人 手順は幾つかに分かれます。

 まず、地方裁判所は、毎年、裁判員候補者名簿、これをつくるわけでございますが、それをつくったときには、そこに記載された者にその旨を通知するということになります。それがまず前提の作業でございます。

 それから、裁判員の参加する合議体で取り扱ういわゆる対象事件につきまして、第一回の公判期日が定まったときは、裁判所は、その審理にどのぐらいの期間を見込むか、そういう期間その他をいろいろ考慮しまして、呼び出すべき裁判員候補者の員数をまず定めるということにしております。具体的に言えば、原則形態でございます裁判員六名の合議体とした場合に、補充裁判員の方も必要であれば選ぶということになるわけでございます。仮にそれが三名ということになりますと、九名ぐらいになるわけですけれども、それの何倍かの員数、まずそれを定めるということになろうかと思います。

 そして、裁判員候補者名簿に記載されました候補者の中から、その員数分の呼び出すべき者をくじで選定するということになります。裁判所は、その選定されました候補者をその期日に呼び出す、選定期日に呼び出すということになるわけでございます。

 この場合、裁判所は、必要な質問をするために質問票を用いることができるということでございまして、質問票等にいろいろ事情があれば記載をして出していただくということにもなろうかと思います。こういう質問票などによって、呼び出しの前に、いわゆる欠格事由だとか、それから辞退事由、こういうものがあるというふうに認めた者については呼び出しをしないということになるということでございます。

 その後、裁判員等の選任手続が行われるわけでございます。この選任手続においては、裁判所は、候補者に対して質問を行いまして、この法文にございますように、欠格事由だとか、それからあるいは辞退事由等、いろいろな選任されない理由がございますけれども、そういうものに当たるかどうかとか、その辺のところをそこで質問をして、最終的に決めていく手続になるわけでございます。あるいは、検察官や被告人側によって、理由を示さない不選任請求というのも認めているわけでございます。それぞれ四名ずつというのを認めているわけでございますけれども、そういうような手続を全部経るわけでございます。

 そういうことをやって、不選任の決定をして、あるいは不選任の決定をするんですけれども、されなかった者から、くじあるいはその他の作為が加わらないような方法で、最終的に裁判員を決定するということになろうかと思います。

 補充裁判員を置くときも同様の手続を行ってやるということでございます。作業的には並行して行うという形になること、これが一連の手続でございます。

小林(千)委員 ありがとうございます。

 では、その一連の手続の中で何項目か確認したいことがありますので、伺いたいと思います。

 まず、対象の事件が決まったら、呼び出し状が来るということを伺いました。それは、対象となった事件の期日のどのぐらい前に呼び出し状が裁判員候補者のところには来るのでしょうか。

 といいますのも、先日の公述人の方、敷田公述人から提言がございましたけれども、やはり、仕事の関係で、何日か前には少なくともわかっていないと困るだろうと。例えば、仕事をローテーションで回している人もいるかもしれない。タクシーのドライバーさんですとか看護師さんですとか、そういう方々は、やはり一ヶ月ぐらい前には少なくとも、自分の休みですとかそういったことを、きっと、ローテーションで職場の働く勤務日程というものを多分決めているんだと思います。そういった準備もあるでしょうから、ある程度の期間をいただかないと、なかなか休みを都合するというのは勤労者にとっては難しいのではないかと思いますが、期日よりもどのぐらい前にこの呼び出し状というものは届くんでしょうか。

山崎政府参考人 この法案では、選任手続の期日と候補者に対する呼び出し状の送達との間には、少なくとも最高裁判所規則で定められる猶予期間を置かなければならないものとしております。この猶予期間が具体的にどのぐらいの期間になるかということでございますけれども、今後検討しなければならないということになりまして、現段階で確定的に申し上げることはできません。

 ただ、先ほど委員の方からも御指摘がございましたように、それぞれ仕事の都合をいろいろ抱えております。そういう方でもなるべく、可能な限り参加をしていただく、そういう趣旨を尊重しなければならないということになりますので、そういう点で、都合をつけることができる十分な期間を置くという要請が片っ方であります。片や、裁判は迅速にやっていかなければならないという要請がございまして、そのバランスで決まっていくということでございまして、ただいまちょっと具体的にどのぐらいと言うことはできませんけれども、支障のないような日程をとりたいということでございます。

 それから、審理の期日の、どのぐらいかかるかということによっても、猶予期間は違ってくるんだろうと思いますね。かなり日数を要するものであれば、かなり前からしないと仕事の段取りというのはできないでしょうし、一日二日の話であれば、それは割合短い期間でも段取りがつく可能性もあるという、そういうことも相関的に考えるということでございます。

小林(千)委員 勤労者の場合でも申し上げましたけれども、自営業の方でも、仕事の都合ですとか、店のあける閉めるですとか、そういったような影響は大きくあると思いますので、ぜひ、実際のそういった環境なども調べた上で、今後、この検討、猶予期間というものを現実的な範囲で考慮していただきたいと思います。

 次に御確認したいのは、その呼び出し状が届いた、その中には必要な質問票みたいなのがありまして、その中で、欠格あるいは辞退事由に当たる人は、それに記入をして、郵送し直すなのか送り返すのか、どういうふうなことになるかわかりませんけれども、その時点で欠格あるいは辞退に該当できる方というものは、この欠格、辞退理由の中のどのくらいの範囲のところなんでしょうか。

山崎政府参考人 この点につきましては、裁判所は、呼び出し後、その出頭すべき日時までの間に、裁判員等の選任手続を行う期日から裁判員の職務が終了すると見込まれる日までの間、職務に従事する予定期間でございますけれども、その期間において、次に申し上げますけれども、これに該当すると認める裁判員候補については、呼び出しを取り消すことになるという形になります。

 それに当たる方でございますけれども、例えば、裁判員の選任資格を有しないという者でございますね、選挙人名簿に登載されていない、あるいは欠格事由があるということ、あるいは就職禁止事由、それから辞退の申し立てをした者で辞退事由があると認められる者、こういう者で呼び出しを取り消した者については、出頭を要しないという形になります。

 ただ、これら以外の者に関しましては、出頭義務を負うということになるわけでございます。

小林(千)委員 今お答えいただきました欠格あるいは辞退理由に該当する方、この今の条文の書き方ですと、余りに漠然とし過ぎているのではないかな、こんな思いもあります。

 例えば、辞退理由の中で、政令で定める例の思想、信条というものがありましたけれども、この時点で、例えば、質問票に私は自分の信条として裁判員にはなりたくありませんということを送り返して、これは辞退理由として認められるんでしょうか。

山崎政府参考人 事由によっては、客観的に認められるものは当然あります。

 しかし、ここのところは、かなり主観にわたるところでございまして、客観性をどこの基準で判断するかというのはなかなか難しい話でございます。この場合には来ていただかなければならないだろうというふうに私は考えております。

小林(千)委員 客観性がその場で認められる人以外は出頭していただかないと困るということですね。

 ということは、この時点で客観性があるというふうに認められない方は、期日に出頭しなければ、例の罰則十万円が科せられることになるんでしょうか。

山崎政府参考人 原則として、期日に出頭していただくことが原則でございますが、その前の段階で客観的に辞退等の事由に当たるという方については、これは出頭義務を免除する、外す、こういう考え方でございますので、そこに当たらない方について、出頭しなければ過料十万円というものの対象にはなるということでございます。

小林(千)委員 とてもあいまいだと思うんですよね。送られてくる質問状の中で欠格事由や辞退事由をどの程度具体的に書いてあるのか。一般市民からしてみれば、例えば、自分はこうこうこういう職業についている、あるいはこういう立場である、こういうふうに思っている、そういうことが果たして認められるのかどうなのか。そういうことが認められなければ、客観的理由がないということで出頭をしなければいけないのか。

 出頭するということになれば、たとえ一番最初のところで、選任の質問のところで辞退をされるのかもしれないですけれども、裁判所まで出向かなければいけないことは確かですよね。ということは、そこのところまで行かなければいけない、仕事を休んで都合をつけなければいけないということも当然考えられることですから、ぜひここのところは具体的にしていただかないと困ると思うんですけれども、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 確かに、いろいろ、就職禁止事由に当たるか当たらないかとか、あるいは辞退事由に当たるか当たらないか、これはきちっと明確なものを、これから政令もつくるわけですが、それできちっとした周知をしなければならないということは当然でございます。

 その上で、それを前提にしまして、先ほど申し上げましたように、呼び出し状を出しますけれども、客観的事由があるという方については呼び出しを取り消すということにいたしますので、取り消しが届いた方は出てこなくていいということになります。届いていない方は出てきていただく。ここは客観的に明確だと私は思っております。

小林(千)委員 それはそうだと思います。客観的理由、例えば、裁判員制度の映画の中にありましたけれども、きょうは娘の結婚式なんですとお父さんが言うせりふがあるんですけれども、娘の結婚式に朝裁判所まで行くのは、それはなかなかできないことだと思いますし、そういうのは客観的理由の中に当然含まれていいことだと思いますが。

山崎政府参考人 十六条の七号のニというところに、「父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがあること。」となっておりまして、娘さんの結婚式を他の日にするというのはできませんから、これは正当な理由があるというふうに思われます。

小林(千)委員 結婚式だけではなくて、葬式は多分緊急のことだと思いますので、その辺のところはより具体的に、まあ運用あるいはこれからの検証ということになっていくとは思いますけれども、ぜひ一般の市民の方にわかりやすくしていただくような内容にしていただきたいと思います。

 ここでとまっていたらなかなか最後まで行かないので、次に進みます。

 それで、次なんですけれども、裁判所に呼び出しを受けて出頭いたしました。選任手続ですか、質問がされるわけですね。この裁判員候補者に対する質問というものは、具体的にどのようなことを私たちは聞かれるんでしょうか。

山崎政府参考人 この選任の手続は、裁判員の選任資格があるかどうかとか、欠格事由があるかどうかとか、就職禁止事由、あるいは事件に関連する不適格事由、従来、除斥事由と言っていたものでございますけれども、こういうものに該当するかどうかが、まず第一次的なものでございます。

 そういうことで、裁判員としての候補者たり得る者かどうか、そこの質問だけでございまして、その辺を中心に行われるということでございまして、それが材料がそろえば、最終的には、お引き取り願う方は願う、残っていただく方は残っていただく、その中から最終的に選任をしていく。こういう振り分けの手続だということでございます。

小林(千)委員 対象事件によっても質問の内容は当然変わってくると思いますけれども、具体的にどのような、例えば、十七条に書いてありますけれども、あなたは被告人または被害者ですか、これはないと思いますけれども。第二号は、被告人または被害者の親族あるいは親族でありましたかですとか、ここを読み上げていけば切りがないですけれども、被告人の関係者ですかですとか、友人ですかですとか、そういうことを聞かれるんでしょうか。

山崎政府参考人 十七条は事件関係のことを言っているわけでございますので、じゃ、あなたはこういう被告人の事件を担当する可能性があるけれども、被告人と何らかのいろいろな関係がございますか、全くございませんかという聞き方だろうと思います。その状況いかんによっては、この何号に当たるかというのでもう少し聞かなければならないということになろうかと思います。

小林(千)委員 今の御答弁の内容ですと、そういった質問というのはかなり個人のプライバシーに触れるところもあると思います。特に、被告人と何らかの御関係がありますかなんということは、なかなか口に出して言うのは難しい問題ではないかなと思います。

 そういうような質問というものは、例えばその出頭、呼び出しを受けた人たち、そこに何人候補者がいるかわかりませんけれども、先ほど九名掛ける何倍かというふうにおっしゃっていましたから、何倍になるんでしょうか。三十名、四十名、五十名、いるかもしれません。五十名の人たちが一緒にいる中で、一人一人、あなたは、あなたはというふうに聞かれるんですか。

山崎政府参考人 具体的にまだ手続が定まっているわけではございませんが、共通事項、これを説明するというのは、みんな一緒にいても構わないんだろうと思うんですね、一般的なこと。

 あと、個別のいろいろ質問に入れば、今御指摘のように、かなりプライバシーにわたることだって出てくる可能性がございます。ここはやはり個別に配慮をしなければならないだろうと考えております。

小林(千)委員 ぜひ、個別に配慮する事項につきましては、例えば一人ずつ別室に呼んで質問をするですとか、そういった個人のプライバシーを守るといったような視点からも、こういった手続は行っていただきたいというふうに思います。

 それで、続きまして、検察審査会の件についてちょっとお伺いしたいんですけれども、今回の裁判員制度のいろいろな手続について、検察審査会の手続ですとか、そういったものが参考にされることが多々あるわけなんです。

 実は、私の母が、検察審査員というんですか、の方に二年か三年ぐらい前に選ばれまして、栃木県の小山市だったんですけれども、六カ月間、その任務に当たったということでした。私は、法務委員会に所属していることもありまして、実家の母から、いろいろ根掘り葉掘り、どうだったの、どうなったのということをヒアリングしたわけでございます。

 母がいろいろ教えてくれたんですけれども、その中にちょっとびっくりする項目が実は一つありました。この選任手続、同じように検察審査員にもされるということでしたけれども、質問の項目の中で一つ、母が質問をされたことは、あなたの親戚に精神障害者はいますか、こういった質問をされたそうです。もちろん、これは母からの又聞きですので、正確に一言一句そのままに聞かれたかどうかはわかりません。だれがそういうふうに聞いたかも特定されておりませんし、言った言わないの議論になってしまうのかもしれないですけれども、こんな質問、本当にされているんですか。

大野最高裁判所長官代理者 初めに、検察審査員として御協力いただきまして本当にありがとうございました。

 それで、検察審査会を始める前に具体的な事件が参ります。そうしますと、その事件との関係で、審査の公平を担保するということが必要ですので、先ほど、裁判員の関係では不適格事由とされていた、検察審査会では除斥事由というふうに言われておりますけれども、審査員として職務を行っていただいてよろしいかどうかということを確認します。そのために、審査員が事件との関係で、ないかどうかという質問の中の一つとして、親族という言葉が使われているといたしますと、被疑者や被害者の親族ではないかということを確認する、その点はございます。

 これは法律で定められた除斥事由ですのでそれを確認いたしますが、御質問のありましたような、審査員の親族に精神障害者がいるかどうかということにつきましては、検察審査会法上は精神障害者であることが除斥事由というようなことにされておりませんので、そういった質問をすることはまずない、ないというふうに私は思っておりますけれども。

小林(千)委員 先ほども申し上げましたように、言った言わないの議論は水かけ論になりますので、余りこの場では追及はしたくないと思うんですけれども、あなたは精神障害者が親族にいますかって、まあ、母が言っているから本当かどうかわからないですけれども、そんなことを、そういうことを言うわけですよ。当然、私も聞きましたけれども、うちの母のことですから、しゃべりまくっていると思います。そういう状況になっているんです。

 それはもちろん、精神障害者の方が不適格事由になるかどうかという問題もありますし、そういった方が親族にいるかどうかということが何の関係があるんですか。お答えください。

大野最高裁判所長官代理者 ですから、関係がないものですから、お尋ねしないはずだというふうに申し上げているわけですけれども。

小林(千)委員 母の肩を持つわけじゃないですけれども、実際にそういうふうに言っているんですよ。もっとひどい言葉で言っていましたよ。今、差別用語ですとか、そういうのを使いませんでしたし、母の認識もちょっと、ちょっとといいますか、人権感覚ですとか、そういった問題もありますので、あえて言葉を選んで私は質問をいたしましたけれども、そういったことがされているから言っているんでしょう。

 全国のこういった審査会で検証されているんですか。私、これ、事前に質問を通告、かなり前にしておりましたので、ほかの検察審査会でこのような質問をされているんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 御指摘のとおり従前からお尋ねありましたので、私どもの方で、審査会を始める前にどのようなことを尋ねているかということについてのひな形を取り寄せてみました。その中には、そういったことは書かれておりません。

小林(千)委員 書かれていなければ、何でこんなことが起きているんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 それはちょっとわかりませんけれども、先ほど委員の方から、精神障害者というよりはもっときつい言葉であったというようなこと、お話もありましたが、裁判所では、今そのあたりの教育はきちっとしておりまして、いわゆる差別用語的なことは決して使わないようにということを徹底しておりますので、そういったことはないんではないかというふうに私は思っておりますが。

小林(千)委員 差別用語を使ったか使わないかではなくて、こういうことが質問の中に入っているということが問題だと私は言っているんです。ぜひこれは検証してください。これから始まる裁判員制度でも同じような質問がされるわけですよね、検察審査会の例に見習って。

 ぜひ、今、全国の二百十カ所の、行われている、されている、検察審査会の質問、実際に、事務官の方か、書記官の方というんですか、どなたがされているのかわかりませんけれども、少なくとも、裁判所、司法というのは、人の人権あるいは権利といったものを統括するところでしょう。こんな人権侵害の発言があってはならないと私は強く思います。これは必ず検証してください。どうですか。

大野最高裁判所長官代理者 幾つかの庁で調べておりますので、さらに、調べられるところについてはきちっと調べてみたいと思っております。

小林(千)委員 これは物事の根源にかかわることだと思いますので、ぜひ、野沢大臣、この件に関して御発言をいただきたいと思います。

野沢国務大臣 関係方面とよく打ち合わせをしまして、そのようなことにならぬような配慮をこれからしてまいりたいと思います。

小林(千)委員 それは当然していただかなければいけないことだと思います。

 そして、気になったことが一つ。蛇足かもしれませんけれども、母はこういったことをぺらぺらぺらぺらしゃべっています。私は、それを聞きまして、いろいろな方にもお話をいたしました。この場でも質問に使わせていただいております。母は守秘義務違反を犯したのでしょうか、私は漏えいをしたのでしょうか。教えてください。

大野最高裁判所長官代理者 選任手続の際に一般的に聞かれていることの中の一部を、そういうことは言っていないと思いますけれども、その手続の中で一般的に聞かれていることをお話ししただけですし、職務上知り得た秘密ということには当たりませんので、守秘義務違反にはならないと思いますが。

小林(千)委員 安心しました。一万円母が罰金を取られるんじゃないかと思いまして、心配をしておりました。今一万円ですけれども。

 次に進ませていただきます。

 欠格事由のところで御確認をしておきたいところが一つあります。きのう、山内委員の方で、この件につきまして、特に、ここに挙がっております第十四条の三号、心身の障害のため職務の遂行に著しい障害がある者、ここのところでかなり突っ込んだ質問をいたしておりましたけれども、私もそれに関して引き続きちょっと一つ聞きたいと思います。

 先ほど検察審査会の話を例に出しましたけれども、私も地元の札幌の高等裁判所に行きまして、一生懸命これでも勉強しているんです、このような検察審査会のパンフレットをいただいてまいりました。このパンフレットの中に、後ろのところに、もう皆さん、これ持っていらっしゃいますよね、当然持っていらっしゃる、御存じだと思いますけれども、「なお、視覚、聴覚、言語などに障害のある方は、検察審査員として選ばれた場合に円滑な意見交換ができるよう検察審査会事務局において準備をしますので、事前に最寄りの検察審査会事務局まで御連絡ください。」というふうに、ちゃんとパンフレットに書いてくれております。

 今回の裁判員制度、裁判員にこういった障害を持った方々が候補者となった場合も、ちゃんとこういった配慮はされるんでしょうか。

山崎政府参考人 ただいまのパンフレット、私も見て承知はしておりますけれども、裁判員制度についても同様な配慮が必要になってくるだろう、運用上いろいろ工夫をして配慮をしていくということを考える必要があるということになりますが、具体的にどのようにしていくかということは、今後検討して詰めていくということになろうかと思います。

小林(千)委員 例えば、手話通訳を通せばちゃんと裁判員として職務を遂行することができる、あるいは、さまざまなサポートをすればちゃんと裁判員としての職務を果たすことができる、こういったサポート体制というものはしっかりととっていただきまして、障害があっても、もちろん程度にもよると思いますけれども、より多くの方が裁判員として司法に積極的に参加できるサポート体制というものは当然つくっていただきたいと思います。

 最高裁の方にお伺いしたいんですけれども、例えば、そういったバリアフリーですとか、その場所のハード的条件もあると思います。その辺についてはどのように取り組んでいらっしゃるでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 バリアフリーの関係、施設面の関係ですけれども、全国に裁判所の庁舎というのは四百六十ございますが、これまで、新築、増改築といった際の機会をとらえまして、バリアフリー化を進めてまいりました。

 車いす利用者の方のための玄関のスロープやトイレにつきましては、ほぼすべての庁舎に整備されています。また、玄関付近のインターホン等の呼び出し施設は約九割の庁舎につけられておりますし、エレベーターも、三階建て以上の庁舎の約八割に設備されております。

 裁判所としては、これからも増改築等の機会をとらえながら、そういった設備の整備を図っていきたいというふうに考えております。

小林(千)委員 ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。

 続きまして、辞退事由の中でちょっと確認をしておきたいことがあります。

 辞退事由の中に、育児、介護にかかわっている、同居の方というふうな項目が辞退事由の中にあります。この件につきましては、先日の敷田公述人の方からもお話がありましたとおりに、特に現状として女性が育児、介護に大きな役割を果たしているということを考えますと、こういった方々を、育児、介護に対してのサポート体制というものをしっかりととって、裁判員として任務を果たせる、裁判員の仕事ができるというようなサポート体制をとることが必要だというふうに言っておりましたし、そのために、例えば裁判所や裁判所近辺に育児スペース、介護スペースを設けるですとか、あるいは育児手当というようなことも、アメリカの例を出して説明をしてくださいました。

 このようなサポート体制を考えていらっしゃるでしょうか。

山崎政府参考人 アメリカでも州によってかなり違うとは思いますけれども、一部の州でいろいろな工夫をされているということは承知はしております。

 この点につきまして、体制整備としてどうするかということでございますけれども、確かに、介護、養育を要する方についてのそういう問題が生ずるということはございますが、それ以外にも、それでは自営業者について、仕事ができないことによる休業補償、あるいは損失補償をどうするかとか、それから、それ以外の方でもさまざまに、参加したことによっていろいろ生ずる損失、それから費用、こういうものを全員に認めていくかどうか、そういう大きな問題になるわけでございまして、そういう、あるものについては認めるけれども、あるものについては認めないというのは、それなりの理由が必要になるわけでございますので、これを全体的に拾い上げて、そのすべてについて手続を設けるということは、現時点ではなかなか困難なことであると。また、そこまで国民の理解が全面的に導入することについて得られているかどうか、そこについてもはっきりしたものは出てきていないという状況でございます。

 そういう中の一つのものとして、なかなか現状では困難であるというふうに考えております。

小林(千)委員 こっちだけ考慮するわけにいかない、だから両方とも考慮しないということになりますと、どんどんどんどん裁判員になれる方は減ってしまうじゃありませんか。あなた、忙しそうですね、いいですよ。あなた、介護で忙しそうですね、いいですよ。育児で忙しそうで、仕事で忙しそうで、いいですよ、いいですよ。だれも参加できなくなってしまいます。

 実際に今、検察審査会で人数が集まり切らなくて、お流れになっているんでしょう。だとすれば、仕事を選ぶか、社会的任務を選ぶか、あるいは育児、介護を選択するのか、それとも裁判員として社会の重要な決定に参画するのか。こんな二者択一ではなくて、このそもそもの裁判員制度の導入の意義というのは、広く多種多様な価値観を持っている市民の方たちに、なるべく世の中の多種多様な考え方というものを導入しようとして行われる制度なんですから、どういったら、より多くの市民の方々に来てもらうような努力をするのかということが、この裁判員制度を成功させる前提としてあるのではないでしょうか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の点、私は一般論としてはよくわかるんですが、現実に、じゃ本当にどういうものについて手当てをしていくかということですね、これにつきましては、まだ一般的に、今、客観的な基準をこれで打ち出すということがなかなか困難である。やはり実際やってみて、いろいろな問題が生じてくる可能性がございます。そういう中で本当に必要なものは手当てをしていくということでございまして、現時点で、じゃそれを全部頭の中で想像をして、こういうものについては、こういうものについてはと、なかなかそういう作業は難しいということで、まず今後の課題であるというふうに考えております。

小林(千)委員 育児、介護だけではもちろんないと思います。さまざまな事態が考えられると思います。ですので、やはりこれは、これから施行までに何年ということになるかわかりませんけれども、ぜひこの環境整備という点につきましては、育児、介護ももちろんそうですけれども、なるべく広範の方々が参加できる準備というものを十分にしていただきたいというふうに要望をしておきたいと思います。

 そこで、もう一つ確認を、順序が逆になったと思いますけれども、十六条の七号、「同居の親族の介護又は養育を行う必要がある」というふうに書いてありますけれども、何でこれは同居に限定するんでしょうか。

山崎政府参考人 この十六条の七号のちょっと構成を申し上げたいと思います。イロハニと四つの事由が掲げられておりますけれども、これは典型的に生ずる事由ということで掲げてございます。

 例えば、すぐ近所にその親族が住んでいて介護をするという場合も当然考えられるわけでございまして、これはニアリーイコールのものでございますけれども、こういうものについては柱書きのところに、「その他政令で定めるやむを得ない事由」とございます。そういう中で、今後いろいろな周知をしていく中で、どういうような事由が考えられるのか、そういうことをいろいろこちらの方でもきちっと把握した上で、政令の中で手当てをしてまいりたいというふうに考えております。

小林(千)委員 同居かどうか、すぐ近くかどうかというのもよくわからないところですけれども、すぐ近くというのがどの辺のところまで指すのかですとか、同居じゃなくても、例えば隣の敷地に母さん、おばあさん一人で住んでいるですとか、あるいは、車で何分のところに住んでいるんだけれども介護が必要で毎日通っているですとか、そういう状況は実際としてあるわけなんですから、ここは「同居」と書いてありますけれども、「その他政令で定めるやむを得ない事由」とこっちに書いてありますので大丈夫ですよだなんて、そんなわかりづらいことをしないで、だったら、「同居」というのを消せばいいじゃないですか。何で「同居」がここに必要なんですか。

山崎政府参考人 これは、こういう想定でございますと、仮に遠隔地にそういう方がおられるといった場合に、そんなにしょっちゅう行けることにはならないわけですね。ずっと行きっ放しというのは、それは同居になってしまいますし。結局、そういうことを考えると、その間はどなたかにお願いをしているということになるわけですね。ですから、必ずしも典型的ではないわけです。

 ですから、言われているような状況で、本当に必要だということでしょっちゅうやっているんだということであれば、これは認める方向で考えております。

小林(千)委員 そういうことをおっしゃられると、何キロから何キロまでが遠隔地で、何キロから何キロまでがすぐ近くなのかというようなくだらない論議になってしまいますので、そんな誤解を生じさせるような言葉遣いはしない方がいいでしょうというふうに申し上げております。

山崎政府参考人 先ほど来、同じことかもしれませんけれども、介護、養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある親族がいる場合には、介護者も同居をしているのが通常だということを踏まえているわけですね。ですから、本当に日常介護を必要な方は同居あるいはそれに近い形で行われているだろうということで、これが典型だろうということでございまして、それ以外のことを否定しているというわけではございません。

小林(千)委員 先ほど質問いたしました介護サービスというものが充実して、利用できるような制度になれば、この問題は解決をされると思いますので、ぜひ、ここの「同居」というのはどうかというふうに、これ以上やってもあれですので、御意見を申し上げさせていただきたいというふうに思います。

 次に移ります。

 欠格事由、第十四条一号、二号、三号に当たる方々は、なぜこの方々が欠格事由に当たるのか、御説明ください。

山崎政府参考人 十四条には三つの事由が掲げられております。

 一つは、中学校の卒業を終了していない、義務教育を終了していないということが書かれております。それから「心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者」。この二つの事由につきましては、職務遂行能力に欠ける場合があるということを考えているわけでございます。

 それから、二の「禁錮以上の刑に処せられた者」ということがございますけれども、これは、人格的信用に欠けるということから欠格事由にしている、こういう大きな二つの理由によるわけでございます。

小林(千)委員 同様に十五条、これは就職禁止理由ですけれども、ここに挙げられている方々は、なぜ就職、裁判員としてなることが禁止されているんでしょうか。

山崎政府参考人 これにつきましても幾つかのジャンルに分かれるわけでございますが、まず国会議員、国務大臣、それから行政機関の幹部職員でございますけれども、これにつきましては、三権分立の観点から就職禁止事由とされているものでございます。それぞれ三権独立でございますので、例えば行政権のトップにある者が裁判の中に入っていくということが三権の相互関係の関係でいいかどうか、こういうことを配慮したものでございます。

 それから、今回の裁判員制度、国民一般の感覚を裁判に反映させるという理念から、やはり司法関係者、そういう者については、あるいは法律の専門家、この点については除外をしましょう、こういうことでございます。

 それから、その他の者といたしまして、知事あるいは市町村長、これは選挙で選ばれました長でございますけれども、その職務を十分に行っていただくという観点から除く。それから、あと自衛官でございます。緊急の態勢に備えなければならない、こういうようなことが主なものでございます。

小林(千)委員 私は、就職禁止事由に挙げられている方が、何でこんなにたくさん項目に入っているのかなというふうに思うところもあるんですけれども、ちょっとそれは後に回しまして、それでは、第六十四条の法文、これは刑事訴訟法の適用に関する特例という項目なんですけれども、その中で、控訴理由の中に、「法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。」というものが事由に挙げられております。

 私も法律の知識がない頭で一生懸命この条文を解釈しているんですけれども、つまり、それは合議体が違法であったというふうに解釈をしていいのでしょうか。その違法によって構成をされた判決だったから、それは控訴理由になりますよというふうに私は勝手に解釈をしているんですけれども、その中に、例外として、「この限りでない。」というものの中に、十五条の就職禁止事由の方々が、質問の中で絞り切れなくて間違って入ってしまって判決が下された。もう一つは、欠格事由に当たる人も何らかの事情で中に入って判決が出てしまった。

 しかし、この条文を見ますと、就職禁止事由の方々が間違って入っていた場合は控訴理由にならなくて、十四条の欠格事由に当たる方は控訴事由になる。これは何で二つの条文で違うんでしょうか。

山崎政府参考人 御指摘のとおり、取り扱いを変えております。

 まず、欠格事由に当たる方につきましては、先ほども申し上げましたけれども、職務遂行能力あるいは人格的信用に欠ける者が関与するという形になりますので、これは絶対的な控訴理由になるというふうにしておりますけれども、では、片や就職禁止事由に当たる方、この方については、その遂行能力とかあるいは人格的な信用とは全く別の、それを欠いているという問題ではございませんで、別の政策上の理由で裁判員となることができないというふうにしているわけでございますので、そこの重さは違うということから、就職禁止事由の方がされてもそれは控訴理由にしていない、こういうことでございます。

小林(千)委員 先ほど御説明いただきました十五条の就職禁止事由が、なぜ裁判員の資格がないのか、そのときに山崎事務局長の方から御答弁いただいた内容は、三権独立の観点がある、三権の相互関係がいいかどうかという、つまり三権分立の観点から、こういった立法、司法、行政にかかわっている方は就職禁止事由に入っているんですよね。そういう方が入っていた裁判はなぜ同じように控訴理由にならないんですか。私は、こちらの控訴こそ、その答弁していただいた三権分立の概念から外れるものだと思うんですけれども、判決の内容が。

山崎政府参考人 これは、そういう三権分立の趣旨に配慮して政策的に除外、除外といいますか、就職禁止にしたということでございます。まさに政策的にしているということでございます。

 除外の事由の方は、やはり裁判の公正さということを疑われるおそれもあるわけでございますので、そういう意味では絶対的な控訴理由だ、こういうことでございます。

小林(千)委員 政策的に外したんだったら、それで出た結論、判決についても政策的にまずいんじゃないんですか。

山崎政府参考人 これは政策的にそうしただけでありまして、その方たちが能力がないということを言っているわけではございませんで、それは裁判の公正らしさは疑われないというふうに思います。

小林(千)委員 それはひどいと思いますよ。十四条に該当する方は能力がない人だ、十五条に該当する人は能力のある方だという答弁なんですか。

 多分、ここの部屋の中にいらっしゃる方、ほとんどがこの十五条に該当する方だと思います。国会議員、私たち、大臣、そして中央省庁の幹部の方々、全部読み上げたっていいんですけれども、裁判官経験者の方、検察官経験者の方、弁護士あるいは弁護士の経験のある方あるいは資格のある方、裁判所の職員の皆さん、法務省の職員の皆さん、学校の法学部の先生、判事、検事の経験のある方、司法修習生、首長さん、まあ自衛官はいらっしゃらないのかなと思いますけれども、この項目にこの部屋の中で該当する方はどれだけいらっしゃるでしょうかということは聞かないですけれども、どう見ても、私は、これは差別する必要がなぜあるんだろうかということを強く思います。

 私たちは、私も含めて、国会議員ですから特別なんですか。これは差別じゃないんですか。十四条と十五条の、三百七十七条の第一号、どうも裁判というものがある一定の選ばれた人たちによって構成されているもので、その中に一般市民を適当に呼んでおいて、そういうような感覚があるとしか思えないんですけれども、どうでしょうか。

山崎政府参考人 これは、欠格事由が何のために設けられているかということでございますが、裁判は、やはり被告人の防御権といいますか、被告人の立場ということにも配慮しなければならないわけでございますので、やはり裁判でございますから、裁判の意味をわかってそれで判断をしていただくということがどうしたって必要になるわけでございます。そういう点からこれは設けられているわけでございますので、これを欠く方がもしやったということになれば、裁判の公正さを疑われるおそれがあるわけでございます。

 ですから、そういうことについては絶対的な控訴理由にしてきちっとやって、公正さをきちっと担保していただきましょうということでございます。そういうことから、その差が設けられているということになろうかと思います。

小林(千)委員 繰り返しになりますけれども、就職禁止事由の理由を伺いました。三権分立の相互の関係にいいかどうか、政策的な判断で外されたんですから、私は、政策的な理由で当然これは控訴理由になるべきだと思いますし、同等に扱われるべきだと思います。そういうような観念がどうも根底に流れているような気がしてなりません。

 もう時間が少なくなってしまいましたので、質問通告している中で全部やり切れないんですけれども、今回、裁判員制度を私も勉強する上で、日本が昭和三年のときからとられていた陪審制度というものも少し勉強いたしました。「陪審手引」という本が復刻版となっております。この本は、当時、昭和五年だそうですけれども、当時の陪審員として資格のある方々全員に配付をされた小冊子の復刻版だそうです。

 当時の陪審制度というものは、当然今の裁判制度とは観念も観点も全く違うものだと私は思っております。

 といいますのも、ここに書いてある文章、復刻版そのままなんですけれども、読み上げます。

 裁判というものは、「畏くも天皇の御名に於て行はれる、神聖の裁判に列し、恁うした重大の義務を果たすことは、」「大なる名誉であり義務である」というふうに書いてあるんですね。

 ほかのところにも、「陪審員候補者として、御当選になられた諸君は、」当選なんですよ、これ。選挙と一緒ですね。「当選になられた諸君は、非常の光栄であり、また名誉と言はなければなりません。」というふうに書いてあります。こういう冊子が当選をされた陪審員の諸君に全員に配られたんでした。

 しかも、配られたものはこの小冊子だけではなくて、表紙の見開きにありますこのメダルというんですか勲章というんですか、ごらんになっていただきたいんですけれども、記章と一緒に、陪審員にこの小冊子と記章が配られたという内容でした。

 天皇の御名において行われる裁判、神聖なる裁判というところに、一般の皆様も天皇の御名において呼ばれたんですよ、光栄なことなんですよ、当選したんですよ、皆さんも。しかも、その条件は、「日本臣民で年齢三十歳以上の男子」ですとか、「引続き二年以上、同一市町村内に居住して居る」、これは理由を、ここの本の中で読み上げます。「定まつた住居もなく、各地を流浪して渉り歩くやうなものは、陪審員として種々の不都合がある」と書いてあるんですね。そして、納税三円以上なんですけれども、「土地其他の財産を有つて居るか、又はこれ位の納税の出来る、営業をして居る人でないと、陪審員といふ甚だ大切な職務を行ふに、不都合である」というふうにこの小冊子には書かれておりました。どうもそこから抜け切れていないような気がします。

 最後にお伺いいたします。

 この法案の第九条、裁判員の義務のところに、三項、裁判員は、裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為をしてはいけない、第四項、品位を害するような行為をしてはいけない、これは一体どういう意味でしょうか。

山崎政府参考人 裁判をおやりになる方でございますけれども、ですから、それなりのものを備えていただくという趣旨でございまして、まず、三項に言う、裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれがある行為というのは、例えば係属中に合議の内容をべらべらしゃべるとか、これはもう、それはやはりお引き取り願いたいということになろうかと思います。それから、裁判員の品位を害するような行為というのは、例えば泥酔をして、朝出てきて酔いつぶれちゃったというようなことであれば、それは裁判員としての資格はやはり疑われるだろうと。そういうことを排斥することでございまして、先ほどお読みになったようなものとは全く違うということでございます。

小林(千)委員 たしか、この中も泥酔、出ていましたよ、酒を飲んで酔っぱらっているようなやつはと。

 時間になりました。どうもこの法案自体に、これと同じ精神が引き続きずっとあるような気がしてなりません。これからも引き続き質疑を続けていきたいと思いますので、御検討よろしくお願いいたします。終了いたします。

柳本委員長 御苦労さん。

 辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 先週の金曜日九日と昨日火曜日、二回にわたって、裁判員制度の導入をめぐる憲法的な問題点についてお伺いいたしました。結論的には、一方で、刑事被告人の憲法上の権利というものの保障は絶対的に要請されるべきであるということがあり、他方で、国民の常識を判決に反映させるんだという政策的な目的がこの裁判員制度導入の立法目的の主要なものであると。その二つの要請が抵触した場合には、やはりそれは問題である。提案者の側は、抵触することはあり得ないということをおっしゃったわけでありますが、昨日、その点も野沢大臣に確認させていただいて、しかし、仮にそういうことがあればその条項は違憲であり、それは撤回すべきであろうということについて基本的には了解をいただいた、こういうふうに思っております。

 本日は、各論について具体的に、刑事被告人の権利がどのような危殆に瀕する状況になる可能性があるのかという点に関連して伺ってまいりたいと思います。

 裁判員制度と内閣提出第六十八号の刑事訴訟法等の一部を改正する法律案、その両方が関連いたしますので、裁判員制度にも当然のことながら適用になると思われる、これは必然的に適用になるというふうに法文上なっておると思いますけれども、この刑事訴訟法の一部を改正する法律案の方が、そういう意味では妥当する範囲がより広いというか、適用の範囲がより広いということですので、まずこちらの問題点について具体的に伺っていきたいというふうに思います。

 公判前整理手続を中核とする内閣提出六十八号の刑訴法の改正案というのは、金曜日にも申し上げましたけれども、一九四九年の一月一日付で施行されている現行の刑事訴訟法、戦後の改正された、新刑訴と言われていた刑事訴訟法のまさに様態を侵害するものである、それを基本的に変更するものではないのかというふうに思わざるを得ないのであります。

 戦後の刑事訴訟法は、立法の経過なり、その当時の、いろいろ学説とか国会での論議の状況を私なりに検討いたしましたが、やはり戦前の裁判に対する深い反省を出発点としている。戦前の裁判が、予審判事のもとで、予審制度という形で、公開の法廷ではなくて、密室の中で基本的な証拠調べも行われ、そして心証も形成される、そのような裁判であったと思います。

 したがって、起訴後の正式の公開の法廷での審理というのは形骸化したものではなかったのか、そこについての深い反省があって、そうであるがゆえに、刑事訴訟法の二百五十六条で起訴状一本主義というものを採用して、裁判官は公開の法廷以前は起訴状だけしか見ていない、予断を持っては臨まないんだ、予断排除の原則というものを大原則として、戦後の刑事訴訟法はその精神的な骨格としてうたっているわけであります。そのことの上に立って、公開の法廷で直接主義、口頭主義で、密室裁判ではなくて、心証をとっていくというのが原則であるとされているわけであります。

 そこの、戦後の刑事訴訟法の起訴状一本主義、予断排除の原則という大原則に変容を迫るものである、実質はそれを空洞化させるものである、それがこの公判前整理手続を中核とする刑訴法の改正であろう、こう思います。

 先日の公聴会で、高井公述人でしたか、起訴状一本主義に関して、たしかこのように言われたと思います。公判前の整理手続では証拠は双方箱の中に入っているんだ、検事側の提出する予定の証拠、弁護側の提出する予定の証拠、双方は箱の中に入っているんだ、したがって公判前整理手続では裁判官はその箱の中はのぞかないんだ、審理が始まった後、裁判員の前で箱をあけるんだと。公判前整理手続で、争点を整理する、証拠を整理するということと、具体的に証拠調べを行う、箱の中を見るというのは手続が分離されているんだ、このように述べられたと思いますが、これで、この刑訴法の改正案の内容として、過不足なく、間違いない供述だったんでしょうか。この点はいかがですか。

山崎政府参考人 この点につきましては、心証形成のための証拠調べ、これは公判期日で行われるということでございますので、この点は現行法と変わっていないというシステムでございます。

 問題は、公判前の整理手続の点でございますけれども、この点につきましては、その証拠の内容に入るのではなくて、証拠の採否あるいは証拠能力の問題もいろいろあろうかと思いますけれども、そういうようなもので、内容ではないんですね。そういう点について整理をして、それで必要な心証形成の手続は全部公判手続で行う、こういうものでございます。

 そういうことから、直接証拠の内容に触れるということではないということから、起訴状一本主義には反しないというふうに考えております。

辻委員 公判前の整理手続で心証をとるわけではないんだ、公判開始後、審理が始まって以降心証をとるんだ、それは職業裁判官として当然の訓練であり、当然、資質としてもそれを受け入れるものでなければならない、理念としてはそのとおりですよ。

 だけれども、やはり人間、いろいろな予断を抱くわけですね。それは、ある意味では心証にいろいろな形で影響を生じることがあるわけだから、理念だけではなくて、やはり制度的な保障としてきちっとそれは担保するものが予定されなければいけないだろうというふうに思うわけですよ。だからこそ、戦後の刑事訴訟法は起訴状一本主義というきちっとした制度を持って、それ以前は心証をとることができないんだということを精神としてうたい、それを制度として法文化しているわけですよ。

 そういう観点で、起訴状一本主義と刑訴法の改正案との関係が聞かれた質問に対して高井公述人は、あたかも公判前整理手続では証拠を一切見ないがような供述をされた。これは間違っていますよね。現実に今、山崎さんがおっしゃったのは、内容にわたるものではないとおっしゃっているけれども、証拠自体は見る機会があるじゃないですか。

 今回の刑事訴訟法の改正案の中で、三百十六条の二十七で提示命令を出すわけですよ。だから、証拠を見る機会があるわけですよ。

 だから、そういう意味では、それをどのように評価を加えようと、見る機会が生じるという、事実問題としては、今の起訴状一本主義の現行制度とは異なるものが導入されているというふうに思いますが、この点は事実としてお答えください。

山崎政府参考人 高井公述人がどのような思いで言われたのか、これはちょっと私はメンションの限りではございませんけれども、多分比喩的に言われたんだろうというふうに思います。

 私、今申し上げているのは、実態として、今条文の御指摘がございましたけれども、提示命令というものがあるわけでございまして、証拠に触れることは間違いないということでございます。

辻委員 だから、イメージとして語られている面が非常に多いんですけれども、具体的な個々の条項を見ていくといろいろ問題点が生じてくる、起訴状一本主義が具体的に空洞化される可能性のあるいろいろな制度が新たに設けられるというふうに私は思っているわけです。

 ですから、そのような点を一つ一つチェックしていかなければ、今の現行刑訴法のもとで保障されている刑事被告人の権利がやはり後退することになる。そうだとすれば、それと不可分に結びついて提案されている裁判員制度もまた、刑事被告人の権利を後退させる、そのような機能を果たす制度になるんだということが言えると思うわけであります。

 そういう意味におきまして、まず、この改正刑訴法の改正の手続、内容について具体的に伺っていきたいというふうに思います。

 まず、この改正刑訴法で公判前整理手続をとる必要があるかどうかについては、検察官及び弁護人の意見を聞いた上で、第一回公判期日前に裁判所が決定するというふうになっていますね。これは、通常、否認事件なり争点のたくさんある事件を想定しているということでいいんでしょうか。この点はいかがですか。

    〔委員長退席、下村委員長代理着席〕

山崎政府参考人 これは、刑訴全般について言えば義務づけではないわけでございます。そういう観点からは、やはり争点が非常に複雑、証拠が大量だということで、整理をしないとなかなか審理の計画が立たない、そういうふうに認められるものというふうに理解をしております。

辻委員 現在の刑事手続の流れを簡単に私なりに概括しますと、争点の多い案件また否認事件について言えば、第一回の公判廷で、人定質問があった後、起訴状が朗読されて、その起訴状に対する認否が行われ、その後、検察官側の立証段階に入るということで、検事側が冒頭陳述を行いますね。そして、証拠請求を行う。通常は、証拠関係カードで書証なり物証を、標目を提示する。

 それに対して弁護側が同意、不同意を答えをして、そして、同意部分については取り調べをする、不同意部分についてはそれにかわる方策を考える、通常は証人申請を行うわけですね。その証人について裁判官、裁判長の方が採否を判断して、第二回の手続になるか第三回の手続になるか、第一回にも一部行われるかもしれないけれども、検事側の申請証人の証人尋問手続が行われる。

 通常は、検事側の立証が、書証や人証や物証やそういうさまざまな立証手段を一応提示して、それを現実に行って、検事側が相当な疑いを入れない程度、有罪を立証できるまで検事側が立証を尽くす。

 検事側の立証はこれで終了ですか、終了だということになった段階で、では、弁護側は、冒頭陳述をする場合もあればしない場合もありますが、弁護側の反証段階に移って、きちっと争う事件であれば、弁護側が冒頭陳述を行い、弁護側が証拠請求をし、それは、書証にしろ、人証にしろ、証拠請求をして、裁判所がそれの採否を判断して、弁護側の証人尋問等が行われて、一応弁護側の反証の段階が終了した段階で論告、弁論が行われるというのが通常の流れだと思うんですね。

 こういう、まず検事側の立証が行われ、続いて弁護側の立証が行われるという現在の仕組みは、今回の刑事訴訟法の改正によってどう変わるんでしょうか。

山崎政府参考人 公判前整理手続の若干具体的な流れを前提として申し上げます。

 まず、検察官が、公判期日において証拠により証明しようとする事実、これを明らかにしなければならない、主題を明らかにする。その証明のために用いる証拠の取り調べを請求するということをするわけでございます。これは、取り調べを請求して、同意、不同意、いろいろあろうかと思います。これが弁護人の側に渡るわけでございますね。

 弁護人の側は、これを精査するわけでございます。その上で、同意、不同意という問題も出てくると思いますし、あるいは、検察官が出している証拠の証明力、これを判断するために重要な資料がある、必要であるということになれば、これは証拠開示の申し立てをするわけでございまして、そういうことによって証拠がかなり出そろってくるわけでございます。これで大体の状況が、検察官の主張立証の全貌がわかるわけでございます。

 これが終わりますと、今度、被告人・弁護人側が検察官証明予定の事実あるいは開示を受けた証拠を検討した上で、みずから公判でする予定の主張を明らかにして、みずから取り調べを求める証拠があるときはその取り調べの請求をする。

 こういうふうに、まず検察官側から始めて、それから被告人・弁護人側に移っていく、こういう点については変わらない構造でございます。

 ただ、これは証拠を決定したり採用したりすることでございまして、例えば証人尋問、これは公判廷で行われることになりますし、書証の取り調べもすべて公判で行われるということになりますので、そこの違いは当然ございますけれども、手続の順序、それからやはり検察官の起訴の全体を把握した上で弁護人側の方の行動に移っていく、こういう構造については変わっていないというふうに考えております。

辻委員 結局、先ほど申し上げたように、現行の刑事裁判の手続では、検事側の立証段階がまずあって、ですから、検事側の請求証拠とか主張とかいうことが全部まず明らかにされて、その証拠の取り調べが行われて、弁護側のそれに対する弾劾も行われて、もしかしたら、弁護側の弾劾が功を奏して、検察官側立証で立証が不能である、もうお手上げであるということで、例えば、公訴を場合によったら取り下げるとか、裁判所が公訴を棄却するとかいうことも含めて、現実的な問題からいうと、検事側立証がそれぐらいで終わって、弁護側は反証はなく、これで判決してくれということで無罪判決が出るということだって可能性としてあるわけですね。

 つまり、まず、検事側が手持ちの証拠なり必要と思う立証手段を全部明らかにして、弁護側、被告人側の弾劾にさらして、それが弾劾され尽くすということが、まず手続として先行するわけですよ。

 それが終了した後に、弁護側がどういう主張で反証するのか。だから、反証の主張だって、検事側の立証の仕方いかんによっては反証の角度が変わってくる。弁護側が証拠請求をして弾劾しようとする弁護方針だって、それは変わってくるわけですよ。まさに裁判は生き物だと言われるように、公判廷で、公開の法廷で、傍聴人がいる前で、皆の前で、真剣勝負で闘われる中で、検察官側の立証が本当にまともな立証なのかどうなのか、そこで弾劾し尽くされる可能性だってあるわけですよ。

 それを受けて弁護側は反証をする、これが現行の刑事裁判の大原則である被告人に無罪の推定と言われる原則の制度的保障なんですよ。まず検事側が立証を尽くす。そこでだめだったら、もうそれで裁判は無罪だ。その上で、弁護側はどういう闘い方をしようか、これはフリーハンドなわけです。弁護側の選択権なわけです。

 そういう形で、まず検事側が疑いを入れない程度に有罪を立証しなきゃいけないという、それが無罪の推定の重要な、ある意味では、私は制度的保障と言いますけれども、そういう制度があってこそ初めて無罪が推定されるんだ。つまり、検事側が立証できなければ無罪なんだという推定が、こういう形で保障されているのが今の戦後の刑事訴訟法の現実なんですよ。この現実が、今回の公判前整理手続では変わるんじゃないですか。

 つまり、検事側の立証が全部終わらない前に、弁護側がどういう主張をするのか、どういう証拠を予定するのか、全部とりあえず明らかにしろ、公判前整理手続が終了する前までにそれを出さなければ、原則としてそれは取り調べはできないんだよ、こういう規定になっていますよね。だから、これは、今の刑事裁判のシステムを重要な点で変えることになると私は思いますが、この点はいかがですか。

山崎政府参考人 この点につきましては、ちょっと先ほど説明が足りなかったかもしれませんけれども、現在でも、これは規則上の要請でございますけれども、準備手続がございます。

 この中で、事件の争点を明らかにするため、相互の間でできる限り打ち合わせをしておくことが求められているわけでございまして、それを、手続をもう少し拡大し、明確化したという位置づけになるわけでございまして、これは現行法でも、事前にその争点を明確にしていくということですね、こういうことが行われているわけでございます。ですから、現行法でも、必ずしも、今言われたとおりに、全部がそうなるということではない。通常はそうなる可能性はございますけれども、全部がそうなるということではないということ。

 それから、公判期日ですね。公判期日においては、これは、手続のルールは変えておりませんので、検察の方の立証ですね、冒頭陳述が行われて、それから証明をし、証人尋問等をし、それから被告の方に移っていくという点ですね。最初に冒頭陳述は両方やるかもしれませんけれども、立証の関係はそういう流れでいくということについては変わっていないというふうに思っております。

辻委員 いや、質問の趣旨を全然理解されていませんよ。

 二つおっしゃった。後半の点について、この改正法でも、最初に検事側が立証して、弁護側が後から立証するのは変わらない。それは、審理が開始された以降は変わらないかもしれないけれども、私が申し上げているのは、公判前整理手続の段階で、検事側の立証がどうなるか、行く末がはっきりわからない段階で、弁護側に主張責任、証拠の提出責任を結局負わせることになっている、この点は決定的に違うだろうということを申し上げているんですよ。

 これは、具体的にもう少し、後に、具体的な経過に即して質問していきたいと思います。

 前半に言われた、現行法でも全部がそうなるとは限らないというのは、これはどういうことをおっしゃっているんですか。事前準備手続が現行法でも行われておりますけれども、それは、検事側がまず立証を尽くす、検事側の立証段階が先行して、弁護側の反証段階がその後に続くんだという基本構造とは何ら抵触しないものですよ、現行法の事前準備手続というのは。どういう意味でおっしゃったんですか。全部がそうとは限らないというのは、検事側立証がまず尽くされてから弁護側が反証が始まるという制度が、必ずしもそうではないんだ、現行法でも。そういう趣旨ですか。

山崎政府参考人 私、申し上げたのは、全部について準備手続が行われるわけではない、そういう意味でございます。

辻委員 今申し上げた無罪の推定という原則が、刑事裁判の現場でどのように生かされているのか。それが具体的に、被告、弁護側にとってどのような形で制度として保障されているのか。無罪の推定ということが単にお題目で語られるんではなくて、具体的な裁判の経過を進めていく中で、防御の手段としてそれがどのように現実のものとされているのか。この点が極めて重要なわけですよ。

 現実に、いろいろな裁判で攻防があるわけです。それは、別に死刑、無期に限らず、例えば議員に関連する公職選挙法の違反の事件とかいうことだって、攻撃防御は全部、そういう、まず検事側が疑いを入れない程度まで立証を尽くして、それに対して弁護側がどのように間隙をつく、その不十分なところをつく、そのことによって無罪の推定原則を引き寄せるのかということを、現実に、知力、全能を尽くして現実の裁判は闘われているわけですよ。

 そういう意味で、検事側の立証段階が先行してまず尽くさなきゃいけない。検事側にすべて最初に義務を課される。そして、弁護側は、それに対してどう反撃するのか、反撃をしなくてもいいんだ、そういう選択権が弁護側にある。そのこと自体が無罪の推定の制度的な担保である、保障である、こういうふうに申し上げておりますが、この点については、基本的な理解は山崎さんにはあるんですか。どうなんですか。

山崎政府参考人 現在、刑事裁判がそのような形で行われているという実態というんですかね、それは理解はできます。私も前に刑事裁判はやっていたことがございますので。

辻委員 それは具体的に、今回の改正刑訴法の中で具体的に変容を余儀なくされている、非常に弁護側に不利益が課される、ある意味では勝負なわけですから、先に検事側が手のうちを明かさなければいけないはずなのに、弁護側も審理が始まる前に手のうちを一部明かさなければいけないようなことを強制される、そういう制度になっている。それが公判前整理手続なんだと私はやはり思わざるを得ない。そこについて、もう少し流れに沿って伺っていきたいというふうに思います。

 まず、先ほど、概要は山崎さんが述べられましたけれども、裁判官が必要性を判断するというのは、事実上、これは検事側に、これは争点が多い事案なのかどうなのかを事実上問いただす、それは形式的、外形的に問いただす、弁護側がそれに対して否認するかどうかをやはり外形的に問いただす、そのことの上で、裁判所は、やはりこれは公判前整理手続を適用すべき事案だ、その必要性がある事案なんだということで出発する、こういう理解でいいんですね。

山崎政府参考人 これは、裁判員裁判は義務的でございますが……(辻委員「それはとりあえず別で」と呼ぶ)それは別ですね。

 それ以外のものについては、やはり今、外形的なものを全部触れてから公判前の整理手続とおっしゃられましたが、そうではないんだろうと思うんですね。起訴状なんかを見て、それから、どののぐらいの証拠があり得るかということ、証拠の内容じゃございませんね、そういうことで、争点も非常に複雑であるとか、そういうようなことの判断の上で、公判前整理手続をするかしないかを決めていくんだろうというふうに思います。

辻委員 あらゆる可能性を想定してきちっとお答えになろうとされるからそういうお答えになるんだと思うんですけれども、事案の概要、争点の複雑化、争いがあるのかということを、とりあえずそれなりに掌握して始めるんでしょう。必要性の判断をするに当たって、そういうある程度の起訴事情というものについて裁判官が認識して必要性を判断するんだということをおっしゃっていると思うし、法の趣旨でもそうなっているというふうに私は思います。

 その上で、まず、検察官側が証明予定事実を記載した書面を提出する、これは冒頭陳述書みたいなものを提出するという意味だと思います。そして、取り調べ請求証拠の開示をする、これは、現状はやはり証拠関係カードということで弁護人側に第一回の公判廷で通常渡されるものが、公判前整理手続で渡されるということで恐らくいいんだろう。

 それ以外の、取り調べ請求する予定以外の証拠の開示については、別途手続があるというか、別途段階があるということだと思いますが、これに対して被告、弁護側が意見を明示するということになっておりますが、これは証拠意見を明示するということなんですか。証明予定事実を記載した書面に対する意見も明示するというのが一体になされるべきだ、こういう趣旨ですか。

山崎政府参考人 これは、検察官側から証明予定の事実、まず冒陳に匹敵するものが出されるわけでございますけれども、そこで証拠の請求があります。これが弁護人側に渡りますね。これで弁護人側はその判断ができるわけですね。それで採否が、同意するかしないかということが決まるわけでございますけれども、それのみならず、その検察官が出してきた証拠、この証明力で重要なポイントとなるようなものについては、さらに開示請求をすることができるわけですね、一定類型のものについて。こういうものを全部開示してもらって、見た上で、それでその採否がはっきりしないようなものについても、それを見た上で、その証拠の採否についての意見を言う。こういうことがまず前提になるわけでございまして、その上で、今度、被告人・弁護人側の主張、これを出していく。それから、それに伴う証拠の請求があればしていただく。

 こういうことでございまして、その手続を相互に繰り返していくことで争点を明確にし、取り調べ予定の証拠を確定していく、こういう手続だということでございます。

辻委員 検察請求証拠以外の証拠については、検事側の冒陳と取り調べ請求書ですか、その証拠関係カードが開示された段階で、さらに、こういう証拠があるからそれの開示を求めるという手続を弁護側はすることができるんだと、こういうお話ですね。その手続を受けた上で、被告、弁護側は主張予定の提示及び証拠の取り調べ請求を行うんだということが、一応手続としては予定されているんだ、こういう理解でいいんですね。

 そうすると、現実問題としては、取り調べ請求予定の検事側手持ち証拠というのはどの段階で弁護側に開示されるのですか。

山崎政府参考人 公判前整理手続で証拠を請求しようとする場合には、それは事前に見ていただかなきゃなりませんので、それは今と変わらないと思います。

辻委員 冒頭陳述に引き続いて、被告、弁護側は、「証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、」「これを明らかにしなければならない。」という規定が三百十六条の三十にありますけれども、これをそのまま読むと、冒陳が出た段階で出さなければいけないというふうにも読めますね。検事側の証拠関係カード。「二百九十六条の手続に引き続き、」というふうになっていますね。

 二百九十六条は冒頭陳述を行うということになっていますから、証拠関係カード等の証拠請求をする以前に、弁護側が証拠により証明すべき事実を明らかにしなければいけないというふうに規定されているようにも読めますが、この点はどうなんですか。

山崎政府参考人 これは公判整理手続を経たものについて公判で行うときのことを書いているわけでございますので、公判前整理手続のことについては、先ほど私が申し上げたようなルールで行われるということだろうと思います。

辻委員 要するに、整理手続は公判前整理手続以外に期日間の整理手続が予定されていて、これは期日間の整理手続の場合に該当する話なんだと、こういうことですか。

山崎政府参考人 期日間の問題というよりも、公判前整理手続を行って、それから公判に入る場合、このことを言っているわけでございます。

辻委員 いや、ちょっとお答えが、どうもしっかりと判明しないというふうに思いますけれども。

 公判前整理手続の進め方の中で、先ほど、要するに、検事側が冒陳と証拠調べ請求を行って、それに対して、証拠の認否なり、さらに開示を求める証拠請求手続なりを行って、その上で、弁護側はみずからの主張予定書面、証拠の請求をすればいいというようなお話だったから、この三百十六条の三十というのを読めば、冒頭陳述を行った後に弁護側は主張をしなければいけないという規定になっているから、その点はどういう関係性に立つのですかということをお尋ねしているのですよ。

山崎政府参考人 今のその三十の規定ではなくて、公判前の整理手続の中の手続は、三百十六条の十七という規定がございまして、これは、ここに記載があるように何条か条文の規定がございまして、それによる開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その被告人または弁護人は「その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、」「これを明らかにしなければならない。」と書かれておりますので、公判前整理手続の中で、やはり、いわゆる証明すべきものと、それから証拠ですね、これが開示された後にその主張が出てくるということになります。

辻委員 いや、それはいいんですよ。だから、その手続はそういうふうに規定されているのはわかった上で質問しているのであって、しかし、公判手続の特例ということで三百十六条の三十に書いてあるから、その意味を問うているわけですよ。

 ただ、ちょっと、もう時間があと二十分しかありません。これはある意味では極めて付随的な問題でありますから、ちょっとまた後日、あわせて質問させていただきます。

 きょうの段階では、もう少し、少なくとも核になる、肝になる問題についてのさわりだけはきちっと伺っておきたいというふうに思います。

 まず、本当は条文を整理して順を追ってやっていきたいのですけれども、とりあえず、時間の関係上、飛び飛びになりますけれども、期日間整理手続というのがあるわけですね。そうすると、これは裁判員制度の場合にも期日間整理手続があるということでいいんですか、それはないんですか。

山崎政府参考人 これにつきましては、適用がないということでございます。

辻委員 では、次に伺いますけれども、三百十六条の三十について伺います。

 これは、結局、冒頭で私が申し上げた危惧感ということが現実に問題になる場面の規定だと思うんですけれども、弁護側、被告側は、公判前整理手続が終了するまでの間に、自分が公判審理の中で求めようとする主張なり証拠なりは、基本的に全部言ってしまわなければいけないんですよということが前提となっていて、やむを得ない事由によって請求ができなかったものに限っては、公判整理手続が終わった後でも証拠調べ請求することができるんだ。だけれども、それは、やむを得ない事由がある例外的な場合なんですよ。規定としてはこう書いてあると思いますが、規定の理解としてはそれでいいんですか。

山崎政府参考人 証拠につきましては、整理手続終了後、原則としては提出することができないという原則でございます。

 ただ、いろいろな事情がございますので、証拠が後から発見されたとか、いろいろやむを得ない事由もございますので、そういうものについては提出が可能である、もっとも、職権で裁判所が調べることも可能である。こういう構造になっております。

辻委員 だから、こういう、極めて例外的な、やむを得ない事由によって請求することができなかったものを除いては、公判廷では証拠調べを請求できないんだというふうに書いてある。こういう書き方になっていると、やむを得ない事由に当たるということをかなり強く弁護側が疎明できない限りは、証拠調べ請求は却下される、棄却されることにほとんどの場合なると思うんですよ。

 それで、今例示的に挙げられた、後で証拠が出てきたような場合とおっしゃったけれども、例えばこれは、松川裁判の諏訪メモが後で出てきて、死刑判決がひっくり返ったということがありますけれども、例えばそういうような事例以外に、後で証拠が見つかった以外に、どういう場合がこのやむを得ない事由だというふうに現時点でお考えなんですか。

山崎政府参考人 この答弁の前に、先ほどちょっと若干不正確な点を申し上げましたので修正をさせていただきたいと思いますが、裁判員裁判について、期日間整理手続があるかないかということでございますけれども、これは、可能性としてはできる形になっております。私が認識していたのは、裁判員の方に御負担をいただいて連日的に開廷をするということから、現実問題としてなかなか難しいだろうという認識で申し上げましたけれども、法的には可能になっているということで御理解を賜りたいと思います。

 それから、今御質問の点について申し上げたいと思いますけれども、やむを得ない事由ということでございますけれども、今、私、典型的に申し上げました点はそのとおりでございます。証拠は存在していたが、これを知らなかった、あるいは、あったけれども出せなかったという事情ですね。あるいは、証人が外国に行っていて証言できなかったとか、そういうようなことはあり得るのかもしれませんけれども、それ以外に、公判前整理手続または期日間整理手続における相手方の主張や証拠関係などからして、証拠調べ請求をする必要はないと考えて、そのような判断をすることが合理的だったというふうに考えられる場合、これは後から事情が変更したわけでございますので、こういうものについては許される。こういうことがやむを得ない事由だということでございます。

辻委員 だから、二つの問題、後で述べられた問題は極めて重要であるから時間をかけてじっくりと伺っていきたいと思うんですけれども、先に述べられた問題は、裁判員制度でも期日間準備手続を開く可能性があるんだというのは、これはちょっと、法規上、条文上の説明をしてください。

山崎政府参考人 三百十六条の二十八でございます。

 この一項は、「裁判所は、審理の経過にかんがみ必要と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いて、第一回公判期日後に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を期日間整理手続に付することができる。」ということでございまして、これが裁判員裁判にも適用になっているということでございます。

辻委員 この三百十六条の二十八が裁判員制の加わる手続においても排除されていないというのは、どこで、どの条項に基づいてそう言えるんですか。

山崎政府参考人 法律上、この適用、これを刑訴で排除していないというところから適用になる、こういうことでございます。

辻委員 そうすると、裁判員制度は、連日法廷だとか、それが前提になって言われているけれども、期日間準備手続というのが開かれる可能性はシステムとして残っているということですよね。だから、現実化する可能性もあるわけだと思うんですけれども、その場合は、そうすると、当然のことながら、期日間準備手続には裁判員は参加しないんですね。いかがですか。

山崎政府参考人 これは、整理手続は裁判官のみで行うということですから、参加はしないということになります。

辻委員 きょうはちょっと時間がないから聞けませんけれども、裁判員が評決に参加したときに、本当に、言われるような、国民の常識を体現しているとされる裁判員の意見が評決に本当に反映するような、そういうシステムになっているのか、そういう現実的に可能性があるのかということについては、私は、極めてそれは疑わしい、ほぼあり得ないだろうというふうに考えております。

 ですから、そういう問題意識に基づいて具体的に、それはそれで議論させていただきたい。裁判員が参加することによって、評決で市民の常識が反映されているというのは言葉だけの問題であって、現実は、そんなことは本当にはなかなかあり得ないんだというふうに、つまり、いわばかけ声だけで言われているんではないかというのが実態じゃないかというふうに、私はやはり思わざるを得ない。

 だから、それの質問は別途させていただきますが、期日間で準備手続が開かれ、既に公判廷の審理が始まり、裁判員がそれに参加しているにもかかわらず、途中で期日間に準備手続が入り、そこで、裁判員はそれには参加しないで一たん中断をして、また審理が始まってそこに裁判員が参加するという、ますます評決に裁判員の意見が反映する可能性が制度的に奪われていくわけではないですか。これについては後でまとめて質問させていただきたいというふうに思います。

 もう時間が十三、四分しかありませんから、この三百十六条の三十二の「やむを得ない事由」について伺います。

 これは、現在の刑事訴訟法でも、控訴審が事後審査審だということで、取り調べ請求するときに、極めて権利としての請求は限定されている。もちろん、裁判長の職権において証拠調べされる場合があると思うんですけれども、刑訴法上の控訴審の事実の取り調べ請求で認められているよりは、今のお話では広いと。つまり、必要がないと考えて判断することが合理的な場合にそれはやむを得ない事由ということで認められるんだと。これはやや広いのかな、ちょっと厳密な法解釈の話をここでしてもしようがないので、やや広いのかなというふうに思いますけれども、今山崎さんがおっしゃられた、そういう、必要がないと考えて判断することが合理的な場合はこのやむを得ない事由に含まれるんだというのは、どこに書いてあるんですか。

山崎政府参考人 これは解釈でございます。

 この「やむを得ない事由」という文言というのは、法文でいろいろなところで使われていると思います。それは、それぞれのシチュエーションにおいて解釈というのは固まってくるわけでございまして、先ほど、私、二つ申し上げました。

 そのうちの一つ、最初に申し上げた理由は、これは、先ほど委員が御指摘の控訴審の問題ですね、そこの解釈と同じだろうと思います。

 それから、私、二番目に申し上げたのは、やはり今度公判前整理手続というのをつくるわけでございますね。そういう中で、必要なものについては整理をしていくということになりますけれども、事情が変更して、それで新しい主張が出てきたという場合、それは、当然出す必要ないと思っていたけれども必要になってきたというようなものについては、これは、公判前整理手続で後の手続をシャットアウトするということになれば当然出てくる可能性があるものだ、そういう構造上の解釈からこういうものが出てくるということでございます。

辻委員 刑事訴訟法の三百八十二条の二によれば、「やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて」云々とありますね。今山崎さんがおっしゃられた、やむを得ない事由について第一と第二があって、第一に該当する部分は、今私が読み上げた現行刑事訴訟法の三百八十二条の二の規定とほぼ同じという意味でおっしゃっているんだと思うんですよね。

 だとすれば、第二のやむを得ない事由部分も、やはりそれは規定しないとわからないですよ。ほかの、現在の刑事手続、刑訴法、刑訴規則も含めて、そういう、例えば三百八十二条の二よりも広い、やむを得ない事由についての書いている条項なりくだりというのはあるんですか。参考になる、解釈の類推する根拠となるような条文が、今山崎さんがおっしゃられたやむを得ない事由の二番目に当たるような、取っかかりになる条項がほかの刑事手続の中でありますか。

山崎政府参考人 その点は、突然の御質問で、私も全部条文を当たっているわけではございませんので、今何とも申し上げられません。

 ただ、趣旨としては、先ほど申し上げましたように、手続構造が新たに今度きちっとできるわけでございますね。それに伴ってどういう事態が生ずるかということですね。これは、シャットアウトはいたしますけれども、一切まかりならぬ、そういう手続ではなくて、例外も許すということでございますので、そういう手続の中から生じてきて、なるほどなと思うものはそのやむを得ない事由として許す、こういう解釈につながってくる、こういうことでございます。

辻委員 山崎さん、きちっといろいろまじめに考えておられる、ちょっと年上の先輩に対して失礼な言い方で申しわけありませんけれども、それは信じて疑いませんよ。だけれども、山崎さんがこの場で発言されていることは、別に公権的な解釈なり公権的な判断ではないわけだから。ちょっと意味がまた、首を後ろでかしげられているから、要するに、後の裁判実務を拘束するという意味での公定力みたいなものを持つわけではないわけですよ。

 法令で、よく附帯決議とかいうふうについてされるけれども、こういう趣旨でこの法令は運用されなきゃいけないというようなことがあるけれども、現実に適用となっている法令というのは、どんどんどんどん機能的にいろいろな意味で幅広く運用化されていって、おろそかになるわけですよ。附帯決議の当初の、まじめに国会で議論していたときの思っていた趣旨から外れて現実に運用が起こっていくということが多々ある。

 だからこそ、今おっしゃっているやむを得ない事由について、例えば刑事控訴審のやむを得ない事由よりも広い事由としてこれを考えているというのであれば、それをちゃんと明文で規定しなければ、それはわからないですよ。現場の裁判官だって、やはり判断がはっきりと法文化されていなければ、基準がないに等しいわけですよ。広く考えろと言われても、どこまで広く考えるのか。では、そういう指導が日々行われているわけじゃないわけだから、やはり裁判官が考える準則として、法規にのっとって考えるわけだから、やはりこれは明文化をきちっとすべきなんじゃないですか。

山崎政府参考人 私、今ここで答弁していることは、立案当局者といたしまして、それは立法趣旨であるということを明確にしているわけでございます。したがいまして、解釈の基準あるいは手がかりになるというふうに理解をしております。

 ただ、条文というのは、抽象的に書いている条文というのはかなりいろいろなところにあるわけですね。そのほか、正当理由だとかいろいろなものがあるわけでございますが、これは、やはり時代背景が変わってくればその解釈が変わってくるということも当然あり得る話でございまして、それは法で否定はしていないわけでございます。ただ、当初きちっとこの点についてどういうふうに考えていたかということは、当然解釈の指針となるというふうに考えておるわけでございます。

辻委員 立法趣旨でいかに語られようとも、それが立法趣旨どおり運用されていない例なんというのはたくさんあります。これは、私、幾らでも言うことができます。だけれども、時間の関係上、それはまた、言うのは、後日言う機会があれば言わせていただきますけれどもね。

 つまり、冒頭の問題意識からすれば、非常に弁護側の、無罪の推定という制度的保障で守られている、検事側立証が終わってから弁護側の手段を、どのような手段を講ずるのか、どのような証拠請求なり主張をするのかというのは、確保されるその選択肢が奪われる結果になるじゃないかと私は考えているわけですよ。その点にかかわって、この三百十六条の三十二の「やむを得ない事由」というのは、まさにそれを端的に、つまり、公判前整理手続の段階までに出さなければ、公判廷に入ってからは新たな証拠は請求できないんだということが原則なんですよね。

 そうすると、つまり、今の現行裁判においては、検事側が立証が全部終わってから、弁護側は弁護側の角度で主張を行い、証拠請求ができるわけですよ。ところが、公判前整理手続で、三百十六条の三十二で、そこまででできないんだというふうになると、事前の整理手続が終わった後、公判審理が始まって、検事側の立証があって、それで検事側の立証いかんによって弁護側が出すべき証拠というのは、公判前整理手続以前にそれを出すというふうに言っていなければ出せなくなるわけですよ。それは、現行の刑事裁判の実情からすれば、弁護人の立証活動、反証活動を大きく制限することになるじゃないですか。その点を聞いているわけですよ。だからこそ、やむを得ない事由ということをもっと広げるんだったら広げると明文化しなければだめなんですよ。この点、いかがですか。

山崎政府参考人 こういうようなやむを得ない事由とか正当事由とかいうものについて、これを克明に全部書き始めたら、どういう場合も全部広げられるということになろうかと思いますね。これはなかなか難しい作業でございます。

 私は、典型的に今解釈されているものと、この手続構造から当然出てくるそういう性質のもの、これをきちっと申し上げているわけでございまして、その運用の中で不都合は解消されていくだろうということを考えております。

 それから、あるいは職権で裁判所が調べる、これは真実発見義務を負っているわけでございますので、そういうことも全部駆使をして、その防御に影響がないというふうに考えているわけでございまして、ここで今私が申し上げていることが一つの指針になるということで御理解を賜りたいと思います。

辻委員 刑事裁判に心血を注いでいる多くの全国の弁護人が、非常に、この刑事訴訟法の改正によって、公判前整理手続でみずからの弁護活動、防御活動の手段が狭くなるということについて、物すごい懸念を示しているわけですよ。だから、そういう思いを、やはり具体的に、そうではないんだという形でこれは明文化しなければ、提案の立法の趣旨として語っているから十分だということでは、やはりそれでは、現実がそのようにいっていないという多くの現状を見れば、これは納得できません。

 だから、そういう意味で、例えばこれこれこれ等やむを得ない事由ということで例示的に列挙することは、法文の規定の仕方としてあるわけですから、その点について努力するべきだ。

 これについて次回までに回答をいただきたい。きょうは回答をいただかなくていいです。次回までに回答をいただきたい、このように思います。

 時間がなくなりました。具体的に今の点について、例えば、アリバイ立証をしなければいけないのかどうなのか。仮に、犯行現場にいたとかいうことの立証が尽くされるかどうか微妙なそういうケースを取り上げたときに、それは、現実に公判廷の審理が始まって検事側の証人がどのような証言を行うのかによって、弁護側は、ああ、そんな程度の立証しかできないんだったら、あえて弁護側からアリバイ証人、それに類する証人を立てて弾劾しなくても、無罪の推定原則からいって、これは有罪にはできないというふうに考える。ある程度、相当程度の証言が出てきて、ああ、これはやはり弁護側としてはこのアリバイ問題についてみずからの証人を立てて弾劾しないとまずいなというふうな判断、これは公判が始まって以降の、要するに法廷のダイナミズムの中でそういう判断ということを弁護側というのはする場面が多いんですよ。そういうダイナミズムの中での弁護側の選択肢が、公判前整理手続までに証人を申請しなければ公判後の証人申請は原則としてできないということになれば、今私が申し上げたような場面についての証人は請求できなくなるわけですよ。

 私が措定した事例で物を言えば、そういうことになりませんか。この点はどうですか。

    〔下村委員長代理退席、委員長着席〕

山崎政府参考人 具体的例で申し上げるのはちょっと差し控えたいと思います。

 ただ、一般的に言えば、検察官の方の証拠、出てくるわけですね。そうすると、証人等が大体どういう供述をするかということはほぼ予測されるわけでございまして、もしアリバイ云々ということがあれば、弁護人側としてはその予定の証人を請求しておけばいいんだろうと思うんです。それで、現実に法廷で行われまして、ああ、これは必要ないということであれば、それは撤回すればいいわけでございます。その選択肢は残っているというふうに私は考えております。

辻委員 時間が参りました。最後に一言だけ。

 失礼ですが、裁判の現状、検察官の心理、弁護人の心理、どのような攻防でどのような秘策を尽くして頑張っているのか、駆け引きも含めて、どういう証拠があるのかということをあらかじめ相手に明らかにすることがどれだけ被告人に対してダメージを与えることになるのか、そのことについて真剣に弁護人は悩んでいるんですよ。そういう現実を踏まえない発言であります。

 そういう現実を見ない刑事訴訟法の改正はやはり大きな問題がある、この点を最後に申し上げます。この点については後ほどまたきちっと具体例を挙げてお答えいただきたいと思います。

 以上です。

柳本委員長 松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。

 私の方からも、引き続いて、この裁判員法、刑訴法の改正法案について御質問をさせていただきたいと思います。

 原則的に言うならば、今度の裁判員制度というものがスムーズに進まる、そして国民の司法参加ということ自体、このこと自体は別に異論はないと思うんですが、しかし今、辻議員の方からもいろいろ質問があっていましたように、刑事被告人の権利というものが侵害されないように、あるいは刑事被告人の権利がしっかり守られた上で、できるだけスムーズな裁判員制度の導入というものが望まれるのではないか。

 そういう観点から見ますと、正直言って、まだまだこの裁判員法案あるいは刑訴法の改正案については修正をしていかなければならないところが多々ある、こういうふうに考えております。

 この裁判員制度、これまでは国民の司法参加というところでは、一般的には、最高裁の国民審査とかあるいは検察審査会、あるいは民間の人も調停委員になったり参与員になったりというようなことで裁判に加わっていたわけですが、これに新たに裁判員が加わるということの意義、これは一定の評価はできないわけではないというふうに考えておりまして、この点についての大臣の御所見をいただきたいと思います。

 また、これとあわせて、日本の陪審制度というものが現在は停止状態になっている。昭和十八年にこれが停止されてしまったわけですが、どうもその経過を見ますと、陪審制を選択するというような人がだんだんだんだん少なくなってしまった。どうもそのバックグラウンドとしては、日本の国民性として、隣人に裁かれたくない、一般市民に裁かれたくないというような意識というものがやはりあったのかなというふうにも思いますので、そういう意識が今のこの社会情勢の中で変わってきたのかどうか、その辺について大臣の御所見をいただきたいと思います。

野沢国務大臣 国民が裁判官とともに刑事裁判に関与することは、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資するものと考えております。すなわち、裁判員制度の意義は、広く国民が裁判の過程に参加しまして、その感覚が裁判の内容に反映されることによりまして司法に対する国民の理解や支持が深まり、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようになることにあると考えておりまして、これは五年にわたる司法制度審議会の中で大変議論を尽くしてこういった考え方に到達しているわけでございます。

 加えて、この裁判員制度が導入されますと、職業や家庭を持つ国民の方々に裁判に参加していただくことができるようにするため、裁判が迅速に行われるようになることはもう間違いございません。

 また、裁判の手続、判決の内容を裁判員の方々にとってわかりやすいものとする必要がありますから、これは、ひいては国民にとってわかりやすい裁判が実現されることになると考えます。

 陪審制につきましては、後ほどまた担当の方から御説明を申し上げたいと思います。

実川副大臣 陪審法の停止ですが、委員御指摘のように、十八年に停止されております。

 停止されたその理由につきましては、委員御指摘のように、毎年だんだん少なくなりまして、昭和十三年以降、一件あるいは四件にすぎない状態になりまして、その一方で、戦時下の緊迫した状況のもとで、各市町村によります陪審員資格者名簿等の作成あるいは陪審員の出頭の負担が少なくないこと等の諸事情を考慮しまして、その施行を停止したものとして考えられております。

松野(信)委員 私が申し上げたのは、当時の社会情勢と今のこの社会情勢、やはり国民性というものも十分に踏まえた上でこの裁判員というものをよく考えて、運用面についてもこれを当てはめていかなければならないのではないか、こういうような点でございます。

 そこで、いろいろな点でこの裁判員制度については比較検討する必要があろうかと思いますので、検察審査会との比較というものが、これは極めて重要ではないかと思っております。

 検察審査会の取り扱いの件数を見てまいりますと、だんだんだんだん増加する傾向にあるのかなというふうに見ております。調べましたところ、平成十一年に、新しく受け付けられたというのが千六百十四件あった。これが平成十五年には二千二百九十五件になっている。そのうち、起訴相当あるいは不起訴が不当だというような判断がなされたものが、平成十一年には八十三件であったものが、平成十五年には百四十五件というふうに、いずれも増加をしている。それだけ検察審査会に対する国民の目というものが少しずつ変わってきているのではないか、司法に対する国民の目が変わってきているのかなという気もいたします。

 それで、検察審査会の実際の事件について、審査員の選任手続、これは概略どのようなものになっているのか。概略で結構ですので御説明をいただきたいと思います。

大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 まず最初に、年一回、市町村の選挙管理委員会が、衆議院議員の選挙人名簿に登録された方の中から、くじによりまして、各検察審査会ごとに、第一群から第四群まで四つの群に分けておりますけれども、各群二百名、合計八百名の検察審査員候補者の予定者を選定いたします。各予定者につきまして、審査員としての資格を調査した上で、さらにくじで各検察審査会ごとに第一群から第四群までの各群百名、合計四百名の検察審査員候補者を選定いたします。

 その後、市町村の選挙管理委員会から送付された各群百名の検察審査員候補者の名簿の中から、検察審査会事務局におきまして年四回、各群につきまして五名または六名の審査員及び同じ数の補充員をくじによって選定する、そういう取り扱いをしております。

松野(信)委員 そういうような形で選任された検察審査員も、どうも実態を見ますと、なかなかなり手がないというか、出頭率が余りよくないというか、あるいは、もうやめさせてくれ、辞退させてくれというようなことで、この審査会の事務局もいろいろ御苦労があるというふうに聞いております。

 私の方で調べたところでも、この出頭率、審査員の出頭率というのがだんだんだんだん下がってきている。平成五年では七三・一%あったものが、平成十四年度では六八・三%というようなことで、どうも出頭率が必ずしも余り芳しくない。こういうことがこの裁判員の方に影響しては大変困ることだろうと思いますが、大体どういうようなことで出頭が確保できないのか、その実態のところを概略御説明いただければと思います。

大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 先ほど申し上げましたようにくじで選定されるということで、一般の方々が出席してくださらない理由はそれぞれ相当異なってまいりますけれども、例えば、職場の上司の理解が得られない、あるいは、会社を休むと手当や賞与等が減額される、リストラされるおそれがある、また自営の方につきましては、その自営業の仕事が忙しい、ほかに仕事を任せられる人がいないといったような理由で審査会議を欠席されるという方が多いというふうに承知しております。

松野(信)委員 そういうふうに現実には欠席をされる、その場合、この審査会法では、正当な理由なく出頭しないというような場合には、やはりこれは罰則、過料が科せられるということになっているかと思います。

 今回のこの裁判員法についても、正当な理由なく出頭しないという場合には過料十万以下が科せられるようになっているんですが、しかし、これはもう法曹関係者は大体皆さん御存じかと思いますが、いわゆるこういう過料、出頭しないということについての過料については、これは証人の場合もありますし、例えば調停の相手方あたりもありますが、現実には、出頭しないからといって過料を科せられるということはまずほとんどない、恐らくこの二十年ぐらいほとんどないというふうに理解をしておりますが、審査会の方では、出頭しないということで審査員に過料を科したというようなことがあるんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 検察審査会の方では出頭確保のためにいろいろ努力をしておりまして、職場等に伺ったり、あるいは事前に電話等でお願いをしたりというようなことを行っておりますが、これまで審査員が不出頭の場合に過料を科した例ということで、私ども最高裁の刑事局が承知しておるという限りでは八件あるということですが、昭和四十六年が最後ということで、その後は過料を科した例はないというふうに承知しております。

松野(信)委員 そうすると、もう三十年ぐらいほとんど使っていないということではないかと思います。

 先ほど申し上げたように、この過料の制裁というのが、この審査員だけじゃなくて、ほかの民事調停にしても家事調停にしても、通常の裁判、民事訴訟にしても、規定は不出頭だと過料制裁というのがあるわけですけれども、現実にはこれはもうほとんど使われていないわけですね。この三十年ぐらいはほとんどゼロだと。これを使わない理由というものは、現実のところどういう理由でしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 すべてを承知しているわけではございませんけれども、先ほど申し上げましたように、検察審査会の方でいろいろ出頭をお願いして、それぞれの方について事情を確認するなどしていることもございまして、そういったこともありまして、過料を科すまでもない、過料を科すのは酷であろうということで科していないんだろうというふうに思われます。

松野(信)委員 実際は過料を科すまでもない、しかし、客観的には不出頭だということであります。

 今度の裁判員法についても、裁判員が不出頭だというような場合には過料を科すというふうになっているわけですけれども、私は、こういうようなほとんど使われないような規定、わざわざ設けるまでもなく、こういうような過料の制裁で出頭をしゃにむに確保しようというようなやり方はもうやめた方がいいというふうに率直に思いますが、この点いかがでしょうか。

山崎政府参考人 裁判員の方はなるべく広く参加をしていただきたいという点から、出てきていただくことを義務とする、この点は多分御理解いただいているんだろうと思いますが、問題はその後の、その秩序罰をどうするかということでございますけれども、この点も、現実にどれだけそれで罰せられた方がおられるかという問題というよりも、やはり制度的担保の問題だろうというふうに思うわけでございます。

 では、これは何も置かないということになったときに、そうするともう出頭しなくてもいいんだということになるわけでございまして、そういうことを避けるがために置かれているわけでございまして、やはり履行確保のために行うということと、それから、では誠実に義務を履行した者とのバランスをどうするのか、いろいろなことを考えざるを得ませんので、やはり制度の最低限の担保として置かざるを得ない。ほかの制度でも皆そうなっているということを御理解賜りたいと思います。

松野(信)委員 その点、実際に運用として、過料制裁を科してまで出頭を確保しているんだというような現実の運用があれば、そういう制度的な担保というのもわからないではないんですが、現実には、民事調停、家事調停、訴訟関係においては、こういう過料というのはもうあってなきがごとしというのが大体法曹関係者のほぼ一致した認識ではないかというふうに思いますので、そういうようなものはこの際よくお考えいただいて、もう廃止すると。制度的な担保としては、もっと出頭しやすいようなものを裁判員制度の中に設けていくという方がずっとずっと実効性はあるというふうに、この点は御指摘だけさせていただきます。

 それから、検察審査会の審査員については、これまた守秘義務が定められているわけで、これもまた裁判員と同じようなことではないかと思います。守秘義務が定められ、これについて罰則まで設けられているわけですね。

 では、検察審査員がこの守秘義務に違反をしたということで罰則を科せられたというようなことはありますか。

大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 罰則を科せられた例といたしましては、例はありませんが、会議の秘密を、模様を漏らしたという秘密漏えいで、昭和四十年に一件不起訴になったという例があるというふうに承知しております。

松野(信)委員 これも、実際はほとんど罰則を適用されていないというのが実態だろうというふうに思います。

 それから、この検察審査員に対して、審査員の役割とはこういうものですよ、こういうような判断をしてもらいます、あるいは権利や義務はこうなっているというような説明、これはどの段階でどういうような手段を使ってされるんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 検察審査員ないしは補充員として選定されました後に会議がございまして、その際に、検察審査会審査員あるいは補充員としての心構えといったものにつきまして裁判官から説明があり、また、その後、検審の事務局長の方から、具体的な心構え、守るべきこと、あるいは出頭していただきたいといったようなことについて、その権限、義務等について説明をしているということであります。

松野(信)委員 私が聞いたところでは、ビジュアルにビデオあたりを見せて説明をしているというふうに聞いておるんですが、実際、そういうビデオあたりを活用はしていないでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 わかりやすい説明ということで、ビデオを利用しているということもございます。

松野(信)委員 検察審査会の審査員の数は、言うまでもなくこれは十一人になっております。これは最高裁の事務総局がおつくりになったチラシだと思いますが、「不起訴には十一人の審査の目」ということで、立派なチラシまでできて、十一人が審査の目でもって担当する、こういうふうにうたっているわけですね。

 今度、裁判員の方は、法案では裁判官が三人、裁判員が六人ということで、九人になっている。

 恐らく、裁判員の行う判断というものは、有罪か無罪か、量刑はどうするかということで、極めて重要な判断をするわけだと思います。言うと失礼かもしれませんが、検察審査員の十一人の人よりもはるかに重大な責務を負っている、こういうふうに思います。そうした観点で、余り数的なことを単純に比較するのもどうかとは思いますが、検察審査員は十一人で審査をする、裁判員の方は三人と六人というような形で数を少なくしている。

 私ども民主党の方は、もっと裁判官の数を減らして、市民参加、裁判員の数をもっとふやせということで主張しているわけで、検察審査員が十一人で判断するということですから、せめてこの程度を確保するというのも一つの考えではないかというふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この点につきましては、人数をどうするかという基本でございますけれども、やはり、人数が余り多過ぎると十分な議論ができない、主体的に参加ができない、こういう実態があるという、これを踏まえまして、我々としましては、十人未満で議論した方が活発な議論が行われるのではないかということを考えたわけです。

 それからもう一つは、判決の場合は、日本の司法は判決書にかなり詳細な理由を付して行うという伝統でございまして、こういう伝統を前提にいたしますと、やはり、余り人数が多い方で審理をしたという場合に本当にそこがスムーズにいくのかという点も、よく考えなければならない。

 こういう点を考えまして、十人未満ということは最大限九人でございますが、それの中で、裁判官、重大な事件を行いまして、場合によっては憲法判断も法律解釈も行わなきゃいかぬということになりますと、やはり三名はどうしても必要であろうということでございまして、残りの六の中で最大限国民の方の意見を取り入れるために六名という選択をしたわけでございます。

 総体として言えば九と十一の点でございますけれども、やはり裁判員裁判、その重大性、重さ等を考えた場合には、私ども、今提言を申し上げている人数、これが相当であるというふうに考えております。

松野(信)委員 余り人数の点について議論してもあれかもしれませんが、しかし、今の局長のお話だと、人数が多いと議論が散漫になって緻密な議論ができないというようなお話ですが、それでは、検察審査員の方は十一人でやって、この審査員の議論が散漫になって困った、十一人で多過ぎたというようなケースでもあるんでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 十一人で困ったということを聞いたことは、特にありません。

松野(信)委員 ぜひそういうような実態も踏まえて、余り裁判員の数を減らすというのではなくて、むしろ市民感覚をやはり導入していくということが大変必要だろうというふうに思います。この点については、いずれ民主党の方から修正の案も出させていただきたいと思っております。

 それから、実際の審理の方について御質問をしたいと思います。

 実際の審理については、裁判員を使わない裁判というのも法では予定をしているわけですね。これが法案の第三条で、対象事件からの除外、こういうことで、被告人の言動や被告人が構成員である団体の主張などから、裁判員に何らかの危害が与えられる、そういうおそれがあるという場合には、裁判員でなくて裁判官による裁判をする、こういう条項でございます。

 少し条文が長くてわかりにくいものですから、要するにどういうようなケースをこれは想定しているのか、これについて御説明をいただきたいと思います。

山崎政府参考人 この条文、非常に長く書かれておりますけれども、結局、裁判員の方が職務につこうとした場合に、御本人あるいはその親族等に脅迫あるいは危害が加えられるおそれがあるような事件、こういうことを念頭に置いておりまして、そうなりますと、裁判員に就任することをまず拒否するだろうという状況も出てまいりますし、裁判員となられても、ほとんどおちおち判断をしていることができない状況になります。

 これでは公平なきちっとした裁判ができないおそれがあるわけでございますので、そういう点を念頭に置いてこの条文を書いているわけでございまして、被告人がある特定の団体に所属していただけ、そういう事由で除外をされるということではなくて、やはりそういうことをきっかけとして裁判員の方が非常に職務が行いにくいような状況が考えられる事件ということで、例外的に置いているということでございます。

松野(信)委員 この三条の規定の仕方を見ますと、裁判所が職権で裁判員制対象事件から外すというばかりでなくて、検察官、被告人もしくは弁護人の請求でも、この裁判員制度を使わないでくれ、こういう請求ができるようになっております。しかも、これは時期的にいつできるというような規定もありませんので、これはいつの時点でも申し立てができる、こういうふうに解釈できるように思いますが、それはそのとおりでよろしいですか。

山崎政府参考人 御指摘のとおりでございまして、三条四項にその趣旨があらわれておりますけれども、「合議体が構成された後は、職権で第一項の決定をするには、あらかじめ、当該合議体の裁判長の意見を聴かなければならない。」とされておりますので、合議体が組まれた以降でもあり得るということを前提にしております。

松野(信)委員 この三条の規定が、ともすると濫用でもしかねないおそれが正直言ってあるのかなというふうに思っております。

 例えば、被告人の言動が非常に粗暴で、おれのバックにはいろいろな団体がついているとかいう話で、そういう連中がもう何をするかわかりませんよ、こういうようなことでも言い立てて、裁判員の裁判というものが事実うまく機能しなくなってしまう、そういうことになっては、せっかくのこの裁判員制度というものがどうもおかしなふうになってしまうのではないか、こういうふうに考えておりまして、この三条というのは、あくまでこれは例外的な規定なんだというふうな理解でよろしいんでしょうか。

山崎政府参考人 御指摘のとおり、裁判員の関与が非常に困難と認められる、そういうようなごく例外的な事案に限って認める、こういう趣旨でございます。

松野(信)委員 それから、実際の法廷ですけれども、現在の法廷というのは、ひな壇のところに裁判官が座っている。単独の場合は一人、合議の場合は三人座って、その下に書記官、廷吏さんあたりが座っている、こういうような仕組みになっているわけですね。

 今後、この裁判員制度が採用された場合、法廷の中のつくり、これはどういうふうになっていくものなのか。裁判官は相変わらず三人が高いひな壇に座って、裁判員というのは下の方に座るような形にでもなるのか、対面、向きはどういうふうになるのか、この辺についてはどのようにお考えでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 裁判員の参加します事件を審理する法廷のあり方の問題ですけれども、裁判員が裁判官と一緒になってともに審理に集中して臨むことができ、審理の内容を十分に理解していただく、そういったことができるようにするためにどのようなあり方がいいのか、どこに座っていただくのがいいのかといったようなことを、現在鋭意検討している最中であります。

 まだ、どのようなものということでの具体的なことは決まっていない、今お答えできるような状況にはありませんということです。

松野(信)委員 決まっていないということであれば、ぜひ、こちらの要望といいますか、こういう点を考慮すべきではないかということを申し上げたいと思いますが、まず、どういうような法廷のつくりにするかというのは、やはり市民の声、これをぜひ聞いてもらいたい。市民が参加をしてこの裁判員制度というのをつくり上げていくわけですから、そういう市民の声を十分にやはり法廷のつくりに当たっては考慮してもらいたい、こういうふうに思います。

 今回、裁判員制度を導入するに当たっては、市民の中にもいろいろなグループもできて、この裁判員制度が立派に運用されるように、こういう団体もあります。また、日弁連初めいろいろな法曹団体もあります。そういうような声を十分に聞いてもらって、その上で決定していく。裁判所の方で勝手にさっさと決めてしまうというようなやり方をとるべきではない、こういうふうに思います。

 それから、やはり裁判員が真剣に実際の裁判に参加をしていくというためには、やはり被告人あるいは証人と向き合うといいますか、よく見えるような形、そういうような位置関係をとっていただくことが必要ではないか。そして、今のように裁判官三人だけがひな壇に上がっているというのでなくて、もっと下におりてくる、裁判員と同じ高さで実際の裁判に当たる、こういうようなことも必要ではないかというふうに思っておりますので、ぜひそういうようなことも検討していただきたい、こういうふうに思っております。

 それから、実際に裁判員が選ばれるということになりますと、裁判員に対して、裁判員の役目、義務、権限、こういうような説明が裁判所の方からなされるというようなことになろうかと思いますが、これは場所的にはどういうところでなされるというふうにお考えでしょうか。

山崎政府参考人 この法案の三十九条一項で、ただいまの点につきましては、裁判長が、最高裁判所規則で定めるところにより、選任された裁判員及び補充裁判員に対し、その権限、義務、その他必要な事項を説明するということを定めているわけでございます。

 具体的内容についてはまたこれから最高裁判所の規則で定められるということになりますけれども、この説明を行う時期でございますけれども、裁判員等の選任手続、これの最後の方で行われる、こういうことを想定しているわけでございます。

松野(信)委員 法文によりますと、この裁判員の選任の手続のところは、これは非公開だ、公開の法廷ではやらない、こういうふうに書いてあるわけですね。それはそれである程度仕方がないのかなというふうに思いますが、それの一番最後に、今言われた三十九条の、裁判長が裁判員に対して説明をするというのが一番最後に行われるということですと、そうしますと、そのままの流れでいけば、公開の法廷でないところで裁判員に対する説明というのがなされることにもなりかねないというふうに思います。

 しかし、私は、やはり裁判員に対し、裁判員の権限とか義務、あるいは、この事件はこういうような事件だとか、こういう問題があるとか、恐らく裁判官はそういう説明をされるんじゃないかと思うので、そういうものは公開の法廷、被告人も弁護人、検察官も出席している公開の法廷で、やはり裁判員、緊張の上に立って、裁判員の権限、義務、これをしっかり説明するということが必要ではないかというふうに思いますが、いかがでしょうか。

山崎政府参考人 先ほども申し上げました選任手続の最後で行う、裁判長による、裁判員の権限、義務、この説明でございますけれども、これは一般的な権限や義務の説明でございまして、あるいは、何かわかりやすいものをつくって、それを土台に説明をしていくというようなイメージでございまして、これは公開の法廷でやる必要はないのではないかというふうに考えております。

 ただ、御指摘のとおり、事件の内容にわたるようなことについてでございますけれども、例えば、事件の争点、あるいは争点と取り調べる証拠との関係など、いわゆる実体面の点につきましては、これは基本的には、公判手続におきます冒頭手続あるいは公判前整理手続の結果の顕出とか、そういうふうに明らかになるもの、これによって順次行われていくということでございまして、審理に入った以降、評議の場でも行われますし、公開の法廷でも行われていく、こういうことになるわけでございますので、その点は御理解を賜りたいと思います。

松野(信)委員 それから、この裁判員の中には、正式に裁判員として評議にも参加してくる裁判員もいれば、補充裁判員も出てくる、あるいは、候補者として裁判所に出頭してきたけれども不選任ということでお帰りいただくというような方も出てくるわけですね。

 日当の点について質問したいと思いますが、そういうふうに、呼ばれたけれども不選任になったというような方についても日当は支払われるのか、それから、補充裁判員と正式の裁判員との間には日当の差があるのか、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 これは、日当等につきましては最高裁判所の規則で定められることになっておりますけれども、基本的な考え方といたしまして、出頭された方でも、それだけ時間を使っているわけでございますので、それは日当は支給されるということでございます。

 それから、裁判員の方と補充裁判員の方、補充裁判員の方も全部ずっと一緒に評議に参加するというようなシステムになっております。どのぐらいの時間について審理をいただいたかとか、そういう点で若干の傾斜がつくということはあっても、やっていることについては同じであれば、基本的には同じ日当というふうに考えております。

松野(信)委員 日当の点は余り細かく質問するつもりはないんですが、検察審査会の方の審査員の場合は日当が八千五十円だったと思います。しかし、裁判員の持っている重み、この点を考えるならば、この検察審査会の審査員よりはるかにやはり負担が重いだろうというふうに考えております。この日当については政令で定めるというようなことのようですけれども、ぜひこの点については、検察審査会の審査員をはるかに上回る分の日当というものをやはり考えていかなければならないのではないかというふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この日当等につきましては、政令ではなくて最高裁判所の規則になりますけれども、ここで定めることになりますが、やはり職責に見合った十分な手当て、そういう発想でこれから具体的に詰めてまいりたいというふうに思っております。

松野(信)委員 それから、実際の審理ですけれども、これはもう、実際の審理では調書というものが大変たくさん提出される、これが実態で、日本の裁判というのは調書裁判ではないかということがかねてより批判をされているわけですね。

 しかし、せっかく裁判員という市民が参加をする裁判ということであれば、調書裁判ではなくて、やはり、生の証人尋問、生の現場のやりとり、こういうものを踏まえて判断をしてもらうということが当然必要になってくるだろうというふうに思います。

 実際のところは、例えば、特にそう争わないケースですと、同意書面ということで、簡単に告知がなされて、それこそ山のような調書が裁判所に提出される、こういう実態があるわけですね。

 しかし、同意書面だからといって、そういう調書を裁判員にさあ読めということでどんと渡されても、これはとてもとても、裁判員の負担も大きいし、今回、この裁判員制度が目指す市民参加型の裁判ではないはずだというふうに思います。

 実際の調書の取り調べについては、やはり裁判員にわかりやすいような形に、調書自体、いろいろな、被告人調書やらあるいは参考人調書というのがありますけれども、やはり調書自体をわかりやすくしていかなければならないということが当然必要になってくるし、また、法廷での取り調べも、もう調書に書いてあるとおりというのでなくて、具体的に、裁判員にわかりやすいような告知、要旨の告知、あるいは調書を一部朗読するなり、そういうことが必要で、まさに直接主義が生かされるようにしていかなければならないと考えておりますが、この点はどうでしょうか。

山崎政府参考人 裁判員裁判はわかりやすいものにしなければなりませんので、かといって書証を一切なしというわけにまいりませんのでこれは必要かと思いますけれども、やはり裁判員の方にもわかっていただくようなものにしなければならない、これは当然でございます。そういう努力をしなきゃならぬ。

 それからもう一つは、書証が提出されたときに法廷でどのような説明をしていくかということになるわけでございますけれども、ただいま御指摘がございましたような点を踏まえまして、この法案の五十一条では、裁判官、検察官及び弁護人は、裁判員の負担が過重なものとならないようにしながら、裁判員がその職責を十分に果たすことができるように審理を迅速でわかりやすいものとすることに努めなければならないと定めておりまして、こういうような具体的な工夫をもちまして、裁判の全貌がよく裁判員にわかるような、そういう工夫をしなければならないと思います。

 例えば図面を用いながら丁寧な説明を行うとか、そういうようなことを加えながらわかっていただくようにする、こういう工夫が大変大切であるという認識をしております。

松野(信)委員 わかりやすい裁判をしなきゃならないし、また、その記録の残し方もわかりやすいような形にしていかなきゃならないだろうというふうに思います。

 今の裁判でいうと、いわゆる公判調書という書面がつくられているわけですけれども、私の方は、こういう実際の裁判については、例えばビデオ録画しておく、DVDあたりでちゃんと実際の審理のありさまを、あるいは証人尋問のありさまを録画しておく、こういうような形で記録に残しておくというのも一つの方法としては大いに検討に値するのではないだろうかというふうに思っております。

 これはなぜかというと、例えば、一審の判決が出て控訴審に移った。控訴審で仮に差し戻しということになって、また一審の地方裁判所の方に審理が差し戻されると、これはまた裁判員が判断することになるわけですね。そうすると、もとの一審の状態がどういう状態であったのか。まあ当然記録類はあるでしょうけれども、大体、文書になっている。公判調書もそんなに詳しく書いていないというようなことでもあれば、もとの一審がどういう状況でどういう審理をしたかというのは、例えばDVDあたりで録画をして残しておくというような方法は非常に有効ではないか、このように思いますが、いかがでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 連日的開廷といったもとで、証人尋問は争点に絞って簡潔なものにしていく必要もありますし、裁判員が後に調書等を確認するというようなことはなく心証形成できるようにしなければならないというふうに思っておりますが、こういった公判審理のあり方を今後検討していく必要がある。

 その中で、今委員御指摘のような録音テープあるいはビデオ、DVDといったようなものにつきましても、技術的な進捗状況等を踏まえながら、こういったものが活用できるかどうかということを検討してまいりたいというふうに考えております。

松野(信)委員 ちょっと確認をしておきたいと思いますが、公判調書には、もちろん、出席した弁護人とか被告人の名前が出るようになっていると思うんですが、出席した裁判員は、公判調書に名前が記載されるんでしょうか。

山崎政府参考人 条文はちょっと浮かんできませんけれども、済みませんけれども、この考え方といたしましては、裁判員の方につきまして氏名等、これは、当事者はわかる構造になっておりますけれども、それ以外の方にはわからない構造をとっておりますので、公判調書に記載されることはないというふうに考えております。

松野(信)委員 公判調書に記載されないということの答弁ですけれども、これは私の意見ですが、やはり公判調書というのは大変重要な調書で、実際、裁判がどういうふうに行われたのか、裁判官はどうか、あるいは検察官のだれが出頭しているか、弁護人はどうかというのをきちんと残して、だれがどういうことを言ったというのも残しておくべきものなんですね。

 そういう観点から見れば、裁判員がだれが出席しているとか、あるいはもしかしたら何か発言でもしたのか、そういうのはやはり公判調書に記載されるべきだということで、裁判員の名前も公判調書に記載した上で審理というものは進められることが、正しい公平な裁判を進める上では大変重要なことではないかというふうに私は思いますが、最高裁、いかがですか。

大野最高裁判所長官代理者 公判調書に裁判員の氏名まで記載するかということについては、今後検討していかなくてはいけない、プライバシーといった個人保護の問題もありますので。

 ただ、もちろん、裁判員がその法廷に立ち会った、どの裁判員が立ち会ったか、そしてどのような発問をしたかということについて、記録と照らし合わせればわかるように、例えば甲乙丙丁というようなことで考えていくとか、これもいろいろな方法があり得るだろうと思っております。

 この点につきましても、公判調書から、だれが出席し、どのような発言があったのかということがわかるようにしなければいけないという要請もありましょうし、一方では裁判員の方々の個人的な保護という面もありますので、そのあたりの調和をどこで図っていくかということをこれから考えていきたいというふうに思っております。

松野(信)委員 この点については、やはり少なくとも被告人・弁護人は、だれに裁かれたのかというのがしっかりこういう調書でわかるような仕組みを担保しておかないと、どこのだれに裁かれたのかわからないというようなことでは、やはり被告人の権利、あるいは公正な裁判を確保するという観点から、この公判調書への裁判員の記載は必要なことだというふうに思います。

 それで、先ほど、連日的開廷の話がありました。確かに今の刑訴規則でも、連日的開廷ということを一応うたってはいるわけですが、現実には、もう一年も二年も三年もかかっているという事件が現実には多いわけですね。

 特に、裁判員の事件で、そんなに争わないというならともかく、無罪を主張するということで、例えば、殺人だとか強盗だとか、そういうので無罪を主張するというようなことにでもなれば、実際問題として、毎日毎日、連日的に開廷するというのは、これはちょっと現実問題としては難しいだろう。そうすると、半年とか一年とか、そういうようなある程度の期間をかけて審理をする。

 その間、裁判員の方は、大変御苦労ですけれども、例えば一週間に一遍とかぐらいの間隔で裁判所に来ていただくということになるんではないか、現実の問題として。そういうふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。

大野最高裁判所長官代理者 できるだけ、本当に期間を短くして、裁判員の方に負担のかからないようにというふうに心がけていきたいと思っておりますが、やはり相当程度期間がかかる事件も中にはあろうかと思います。

 そういった審理のあり方のイメージにつきましては、現在検討しておりますけれども、数カ月かかるような事件につきまして、本当に毎日毎日ずっと続けるということは、恐らくそれはできない、ないだろうと思いますけれども、その間、一週間に例えば何回程度開廷していくのがいいのかといった問題につきまして、一般的に予測を立てるということはなかなか難しいんでございますけれども、一方では、適正かつ迅速な裁判を実現しなくてはいかぬという要請がありますので、こういった裁判員の負担と、今言いました要請とを考慮しながら、どの程度のものでやっていくかということを考えていきたいというふうに思っております。

松野(信)委員 恐らく、数カ月もかかるという裁判、こういうことも十分予想できるし、裁判員がその間、一週間に一回ぐらい家から通ってくる、こういうことが考えられるわけですね。まさか裁判員をどこかホテルに缶詰にしておくというわけにもいかないでしょうから。

 そうすると、現実には裁判員は、当該事件が有名であれば、テレビやラジオや新聞でいろいろ書かれる、あるいは週刊誌でも書かれる、そういうのを現実に見てしまうということが十分予測できるわけですね。建前は、それは、裁判員はあくまで法廷での証人の証言とか、法廷に出てきた証拠によって判断するというふうには言われますけれども、現実にはそういうメディア、目に触れるということで、ともすると予断を持ってしまう、あるいは偏見を持ってしまうというような心配がなきにしもあらずだというふうに思いますが、こういう点、どういうふうにしてそういう予断、偏見を持たないようにするのか。何らかの手当てというのは考えておられるんでしょうか。

山崎政府参考人 裁判員の方、これはやはり、法と証拠に基づいて裁判をしなければならないということになるわけでございますけれども、この点につきましては、審理係属中であれば、裁判長から裁判員に適切な説明がされるだろうということがまず一つでございます。

 それから、それにもかかわらず、なかなか裁判の進行に従っていただけない、予断と偏見を持って行動をする、意見を言うという方につきましては、これは、不公平な裁判をするおそれがあるということで、その解任をしていくという手続もございます。

 解任という、それは最後の手段でございますけれども、そうならない場合でも最終的には評議を行うわけでございますので、その評議の中で意見をきちっと闘わせて、最終的には裁判官、裁判員両方の意見が入った上での過半数で定めていく、そういう制度的な担保がございますので、その中で適切に運用されていくというふうに理解をしているところでございます。

松野(信)委員 残された時間、今お話がありました過半数での評決、これは法案の六十七条ですが、これについて質問したいと思います。

 今ありましたように、過半数だというふうに言われましたが、私は基本的には、これだけ重大な判断をするということ、もしかしたら死刑とか無期とかこういう判断もする、ぜひとも三分の二という特別多数決でいくべきだ、こういうふうに考えております。

 それはさておき、この法案によりますと、裁判員が六名、裁判官が三名で、これでどちらかずつ必ず一人の意見が入った形の過半数だ、こういうふうになっているわけですね。

 そうしますと、例えば、裁判官三人とも無罪、裁判員六人が全員有罪だと。過半数の点でいえば、裁判員が六人とも有罪ならこっちが勝っているわけですが、しかし、この場合は、裁判官が三人とも無罪ということであれば、これは無罪になるということでよろしいですか。

山崎政府参考人 これは、被告人を有罪とすべきかどうかというその評決を行って、結局きちっとした評議は成立しないということになりますので、検察官の証明が不十分という結論に達しまして無罪でございます。逆の場合でも同じでございます。

松野(信)委員 これは当然のことかもしれませんが、そういう意味では、常に被告人の有利な形での判断ということがなされるだろうと思うんです。

 ただ、その中で、例えば、裁判官は判決を書いているわけですので、その判断、有罪か無罪か、あるいは公訴棄却、免訴、そういうような結論をもちろん言うと思うんですが、裁判員の中に、今まで審理してきたけれども、どうしても私はわからない、有罪か無罪かもわからない、あるいは量刑について、五年がいいのか六年がいいのか八年がいいのか無期がいいのかそれもわからない、そんなことにはちょっと答えられないというような、そういう意見を出されるという人も当然出てくるだろうというふうに思います。

 そういう人の意見、つまり結論が出せないという人の意見は、どういうふうにこれはカウントされることになるんでしょうか。

山崎政府参考人 これは、なるべくそこは理解していただけるように説得をしていくということになろうかと思います。きちっと意見を言っていただきたいということになりますが、どうしても言われないという方もおられる可能性がございます。

 その場合も、結局、わからないということは、最終的には、証拠によってその事実を証明しようとしていることについてわからないということになりますので、これはやはりその立証が不十分という方にカウントをしていく、そういう取り扱いをせざるを得ないだろうというふうに思っております。

松野(信)委員 そうすると、わからないという判断の人は、要するに、被告人に有利な側に取り扱う、こういうことになるわけですね。ちょっと確認のため。

山崎政府参考人 これは、有罪無罪、量刑ともそのように判断されるということになると思います。

松野(信)委員 もう時間が参りましたので終わりたいと思いますが、先ほど申し上げたように、単純多数決で無期だとか死刑だとかそういうような判断をするというのは、これは大変問題があるというふうに思います。

 基本的には、こういう評議というものは全員一致であるべきだ。アメリカの陪審あたりは全員一致というようなことでありますし、またヨーロッパあたりだと大体三分の二というような特別多数決をとっているわけですので、ぜひそういう方向にこの点は修正をしていかなければならないと思います。

 また、この評議に当たっても、裁判官だけでもう勝手にリードして決めてしまうというようなのではなくて、例えば、裁判員から意見を言うとか、あるいは裁判官だけでのそういう秘密めいた評議はしないとか、評議をするときには必ず全員でする、こういうようなルールづくりを今後ぜひともしていかなければならないだろうという点を指摘させていただいて、質問を終わります。

 ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さまでした。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時二分開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学教授井上正仁君、株式会社読売新聞東京本社代表取締役社長滝鼻卓雄君、日本弁護士連合会司法改革特命嘱託・前日本弁護士連合会副会長尾崎純理君、社団法人日本新聞協会人権・個人情報問題検討会幹事(日本経済新聞編集局次長)木舟一郎君、以上四名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつ申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、井上参考人、滝鼻参考人、尾崎参考人、木舟参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず井上参考人にお願いいたします。

井上参考人 井上でございます。このような機会を与えていただきまして、深く感謝申し上げます。

 私は、司法制度改革審議会の委員として審議会意見の取りまとめにかかわった後、司法制度改革推進本部事務局の裁判員制度・刑事検討会及び公的弁護制度検討会の両方の座長を務めさせていただきました。本日は、そのような経緯、経過も踏まえて発言させていただこうと存じますけれども、御承知のように論点は非常に数多く、すべての点について触れることは到底できませんので、幾つかの点に絞ってお話し申し上げたいと存じます。

 最初に、刑事裁判の充実、迅速化に関する刑事訴訟法の改正について述べさせていただきたいと存じます。

 まず、法案では、新たに公判前整理手続というものを導入することといたしております。この手続は、当事者間での適正な証拠開示を実施させつつ、真に争いのある点、争点を整理し、公判で取り調べるべき証拠を決定し、実効的な審理計画を立てて公判に臨ませるということによって、公判の審理を争点を中心にした充実し、かつ集中したものとしようとするものであり、刑事事件の公判の充実、迅速化を実現する上で極めて重要なものであると承知しております。とりわけ、裁判員が加わって刑事裁判を行う場合には、このような形で公判の審理を実質的で集中したものとすることは、ほとんど不可欠の条件となるものと言えます。

 この公判前整理手続における争点整理を可能とするために、検察官のみならず、被告人・弁護人も、公判期日で主張する予定の事実面ないし法律面の主張については、これをその段階で明らかにしなければならないものとされております。

 このような義務づけというものは、公判前整理手続における争点整理の実効性を確保するというために不可欠なものであるというふうに考えられますが、これに対しては、被告人の憲法上の自己負罪拒否特権、これは自己に不利益な供述を強要されないという権利でありますが、これや、刑事訴訟法上の黙秘権、これは有利不利を問わず言いたくないことは言わなくてもいいという権利ですが、それとの関係で問題があるという意見もあるようであります。

 しかし、ごらんになればおわかりのように、法案の規定というのは、あくまで、まず検察官が公判で証明しようとする事実とその証明に用いる証拠というものを被告人側に示される、そういうことを前提として、その上で、被告人側としてみずからの判断で公判で明らかにしようとする主張を、時期を前倒しして、あらかじめ整理手続で明らかにしてもらうよう求めるだけのものにすぎません。自己に不利なことを認めるように求めるものでないばかりか、そもそも当の主張をするということ自体を強要するものではありませんので、憲法上の自己負罪拒否特権には抵触せず、刑事訴訟法上の黙秘権の趣旨にも反しないというふうに考えております。

 次に、証拠開示の拡充という点について述べさせていただきます。

 審議会意見は、御承知のように、充実した争点整理を行うために証拠開示を拡充するということと、そのルールを法令により明確化するということを提言し、かつ、それに当たっては、証拠開示のルールの明確化に当たっては、証人威迫、罪証隠滅のおそれ、関係者の名誉、プライバシーの侵害のおそれといった弊害の防止が可能となるものとする必要があるということを言っておりました。

 法案では、それを踏まえまして、検察官は、現行法で開示が義務づけられている取り調べ請求予定の証拠書類や証拠物といったものに加えて、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠というものと被告人側の主張に関連する証拠についても、開示の必要性と弊害の有無、種類、程度等を勘案して開示するものとしております。

 このように、弊害の防止にも目配りしつつ、証拠開示の範囲を相当程度に拡大させ、さらに当事者間で争いが生じたときには裁判所が裁定するという仕組みを導入するという形でバランスのとれた制度を組み立てており、全体として見るときには、争点整理と被告人の防御の準備を十分に行うことを可能にする適正な制度に仕上がっているというふうに考えております。

 なお、この点で、検察官の手持ち証拠を原則としてすべて被告人側に開示すべきであるという意見もあるわけですけれども、その考え方は当事者主義という刑事訴訟手続の基本構造との関係で原理上問題がないわけではないと思われますし、実際にも、そのような制度では、本来事件の争点とは何の関係もなく、しかもその内容が人のプライバシーにかかわるような証拠についても無限定に開示の対象とされてしまうという問題があり、適切とは思えないところであります。

 また、検察官手持ち証拠の一覧表を開示することとすべきだという意見もあるようですけれども、この意見も現実的ではないというふうに考えております。一覧表といいましても、両極を考えますと、一つは証拠の標目だけを掲げた形式的なものというものを考えますと、これは開示されてもほとんど意味がありませんし、そうかといって、他方の方ですが、証拠の内容や要旨まで一覧表に記載するとしますと、初めから証拠を全面的に開示しているのとほとんど同じになってしまうというふうに考えられるからであります。

 次に、そのようにして開示された証拠の目的外使用の禁止という点について触れたいと思います。

 刑事訴訟法の規定に基づきまして、一方の訴訟当事者から他方の当事者に開示される証拠というものは、あくまで当該事件の審理とその準備のために必要なものとして開示されるものでありまして、それにとどまるはずであります。そのような目的と切り離して、開示を受ける当事者の自由な処分にゆだねられるというものではありません。

 しかも、当該事件の審理以外の目的でその証拠を使用することを認めますと、その証拠、例えば、わかりやすい例を挙げますと、だれかの供述調書や、あるいは殺害された被害者の写真といったものを考えていただくとわかりやすいと思いますが、そういったものが例えば金銭により譲渡されて雑誌等に掲載される、その他の形で不当に利用されて、関係者の名誉やプライバシーの侵害という結果を招くおそれもあるわけですから、目的外使用は一般に許されないのは当然のことだというふうに言えます。

 ただ、現在の刑事訴訟法ではこの点についての明文の規定を欠いておりますので、今回、証拠開示を大幅に拡充するというのに当たっては、明文の規定を設けるということが適切ではないかというふうに考えております。

 これに対しては、そのような禁止規定を設けますと、例えば、関連する民事訴訟でその開示された証拠を使用したり、あるいは学術研究目的で利用する、その他の利用ができなくなるので不当であるという意見もあるようであります。

 しかし、それらの目的で刑事事件の証拠を使用することを相当な範囲で可能にする方策は現行法においても設けられておりまして、そのような方法によるのが本来のあり方だと思われますし、他の利用のためには、必ずオリジナルなもの、開示されたものそのものを用いないといけないというわけではなく、この禁止の対象外になっています、その概要を伝えるといったことで十分目的を達せられるのではないかというふうに考える次第であります。

 次に、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案の方に移らせていただきます。余り時間がありませんので、合議体の構成という点と裁判員の守秘義務の点のみに触れさせていただくことにします。

 まず、合議体の構成につきましては、御承知のように、裁判員制度の意義についての、裁判員が裁判体に加わって裁判することの意義についての重点の置きどころの違いとか、あるいはヨーロッパ大陸諸国のような参審制度をモデルにして考える立場と、英米などの陪審制度をモデルにして考える立場の対立などをも反映しまして、ここに至るまでさまざまな意見があったということは御承知のとおりであります。

 私自身も、検討会の議事、議論を進めるために、たたき台としてやや異なった構成を提案したことがありますけれども、今回の法案の規定は、審議会意見が考えていた、裁判官と裁判員とが対等な立場でかつ相互にコミュニケーションをとることによって、それぞれの異なった知識経験を有効に組み合わせて共有しながら協働して裁判を行う、こういう制度理念といいますか制度構想を踏まえた一つの合意点として十分了解可能なものであり、まずこの辺から始めてみて、ふぐあいがあれば適切な時期にまた見直すこととするのがよろしいのではないかというふうに考えております。

 最後に、裁判員の守秘義務について触れさせていただきたいと存じます。

 今回の法案では、裁判員や裁判員であった者等は、評議の秘密その他の職務上知り得た秘密につき守秘義務を負うものというふうにされております。その評議の秘密の具体的内容につきましては、法案の七十条一項に定められておりますが、そこに見る定義は、現在の裁判所法の規定を踏まえたものであり、明確性の点でも妥当なものだと私は考えております。また、その中の「評議の経過」という用語も現在の裁判所法で使用されておりまして、用語それ自体として明確な内容を持ったものであるというふうに思います。

 この守秘義務の範囲につきまして、評議の経過の一部は対象から除外すべきだという意見もあるようですが、それではかえって、守秘義務を負う裁判員の立場から見ましても、話してよいことと話してはいけないことの区別が非常に難しくなるという難点があり、適切ではないように思われます。

 また、守秘義務の期間を限定すべきだという意見もあるようですが、守秘義務は、御承知だと思いますが、裁判の信頼性や、評議において合議体の構成員が安心して自由に意見の交換をすることができるということを確保するということとともに、事件関係者のプライバシーや秘密を保護するというためにあるわけですから、そのような必要が短期間でなくなるということは考えられないのではないかというふうに思われます。

 また、仮になくなることがあるとしても、それがどのくらいの期間であるのかということは、一律に言うことは非常に困難だというふうに思います。少なくとも、当該事件の裁判が進行中であるか終了した後であるかということによって守秘義務の有無やその範囲を区別するということに十分な合理的な理由があるようには私には思えません。

 さらに、裁判員であった者が自分の意見を公表することは許すべきであるという意見もあるようですけれども、評議において述べられた意見というのは、自分の意見であることは確かだとしても、当該事件の審理や証拠から得られた情報に基づき、あるいは合議体の他の構成員との意見交換を通じて形成されたものでありまして、しかも評議の過程で述べられたものでありますから、それを対外的に公表することを許すというのは、結局は評議の秘密の制度趣旨に反してしまうのではないかというふうに思われます。

 実際、多くの元裁判員であった方たちがそれぞれ自分の意見を公表してしまえば、評議の内容は明らかになってしまいますし、またこういうことはない方がいいんですが、あったとしてですが、元裁判員が評議の過程で述べた意見とは異なることを、それが自分の意見であったというふうな形で公表したようなときには、そうではなかったんじゃないかと言う人が出てくるかもしれませんし、誤解や紛糾を生じさせ、裁判の信頼を損ねることにもなりかねないように私は思います。

 最後に、守秘義務に対する罰則として懲役刑を設けることにつき批判的な御意見もあるようですけれども、刑事罰則の定め方としましては、法定刑の上限というのは最も悪質な場合を想定して定めるのが通常でありまして、例えば、営利目的で秘密を漏らす、あるいはプライバシー侵害の程度が特に重大であるとか広範囲にわたるといった悪質な事案も想定されるわけですから、そうした場合にも対応できる制度としておくべきではないか。ただ、そのようにしても、これは当然皆さんおわかりだと思いますが、重い罰というのは特に悪質な場合のみに適用されるわけでありますから、通常の善良な国民に実質的な影響を及ぼすものではないというふうに考えております。

 裁判員制度につきましては、もう五年近くつき合ってきておりますので、ほかにも申し上げたい点が多々ございますけれども、時間に制約がありますので、この程度とさせていただきたいと存じます。

 ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 井上参考人、ありがとうございました。

 次に、滝鼻参考人にお願いいたします。

滝鼻参考人 滝鼻でございます。

 今回、法務委員会におきまして意見陳述の機会を与えていただいたことにつきまして、委員長初め法務委員会の皆様に心から感謝申し上げます。

 私は、過去、司法記者、主に裁判所とか検察庁とか弁護士を担当する記者でございますが、司法記者、それから司法担当の論説委員を約十七年間務めてまいりました。そういう経験から、この裁判員法案について若干の意見を述べさせていただきたいと存じます。

 国民が司法に参加するということは、参政権に匹敵するほどの大きな意義を持っていると存じます。

 刑事訴訟法の大きな目的の一つであります正義の実現、この正義の実現につきましては、これまで日本の社会というのはどちらかというとお上任せでございました。市民が正義を実現するよりも、どちらかというとお上、お上というのは裁判官とか検察官とか、あるいはその他の公務員も当てはまるかもしれませんけれども、そういう人たちによって実現をしていくという空気が日本社会では非常に強かったと思います。司法の世界でいいますと、職業裁判官が正義を実現してくれるという空気も、これもまた日本社会では支配的だったんではないかというふうな気がいたします。

 しかし、私が司法を担当し始めた一九六〇年代、今から四十数年前でございますが、一九六〇年代から、少しずつではありますが、司法に対する国民参加の声というのが上がるようになりました。適切な表現ではないかもしれませんが、六法全書と判例でこちこちになっている裁判官の頭の中に、少しでも素人の空気、素人の声というものを吹き込むべきではないかという声が六〇年代から上がっていたと思います。一部の弁護士の方々がアメリカの陪審制度について研究を始めたのもこのころだったかと思います。

 その後、最高裁自体も、司法研究という形で裁判官をアメリカあるいはヨーロッパに派遣いたしまして、この司法に対する国民参加の問題を研究し始めました。多分、一九八〇年代のことだったと思います。

 それが、近年、司法改革の動きの中で、あれよあれよという間に裁判員制度が生まれようとしております。

 国民の司法参加という方向は正しいと思います。しかし、かつて近代国家の国民が参政権を得たときに興奮していたような、そのような興奮が、今国民が司法参加権を得ようとしているとき、国民一般が興奮しているでしょうか。まだまだ一般国民にはこの問題が浸透していないんじゃないかというふうに思います。

 法案を提出した政府、それから法案をこれから審議される国会の方々、この問題を国民に周知する方法を早く見つけ出して、法律ができ上がってから国民がこんなはずじゃなかったと言わないように、ぜひ努めていただきたいと思います。

 裁判所、検察庁、弁護士会、いわゆる法曹三者と言われますが、相当な覚悟で全国規模のPR作戦を展開していただけないでしょうか。国民がこの大きな負担を納得するまでに、周知徹底のやり方を徹底してもらいたいというふうに考えます。

 次に、この法案の若干の問題点を指摘させていただきます。

 まず、裁判員の辞退理由の問題でございます。

 裁判員制度は全員参加が原則です。これは参政権と同じようなレベルにあろうかと思います。しかし、選ばれた人たちは、法律にある辞退事由が見つからなければ法廷に行かざるを得ません。その点が参政権と大きな違いがあるところであります。残念なことですが、参政権を行使する人は、任意ですが、それほど最近多いとは言えないかもしれません。しかし、この司法に対する国民の参加権、これを正当な理由なくして拒絶することはなかなかできるものではありません。

 したがいまして、法律が国民に対し、この司法参加権を強制する以上、法律はもっとはっきりと辞退理由を法律で明記すべきと考えます。政令だけに任せるべきではないと思います。職業裁判官の裁量にゆだね過ぎることも、なるべく避けた方がいいと思います。一定程度のことは法律で明記されておりますけれども、その他、大切なところをすべて政令に任せてしまうということについては、若干疑問の考えを持ちます。

 次は、審理の充実の問題であります。

 ほかに職業を持っている、ほかに仕事を持っている裁判員にとって、審理の短期化、集中化、そしてわかりやすい裁判が行われているということが絶対的な条件だと思います。傍聴席から聞いていて、何をやっているかわからないというときがよくありました。特に書面のやりとりです。

 刑事裁判では、直接証人を立てて証拠調べをすることもありますけれども、多くの場合、検察官や警察官が作成した調書をもとに、その信用性、あるいは任意性、場合によっては特信性を判断してやり合うことが多いんです。傍聴席から見ていると非常にわかりにくい証拠のやりとりが行われております。

 最近でこそ、その調書の中身の要旨というもの、主な点が告知されることはありますけれども、それはそう多くないケースであります。裁判官、検察官、弁護人は、その内容についてはわかっているんでしょうけれども、傍聴席から聞いていると内容がよくわかりません。傍聴席でわからないということは、素人の裁判員もわからないということと同じことです。法廷がプロの法律家のゲームになってしまうということは、国民の司法参加の意味が全く失われてしまうと思います。

 また、審理を迅速に終了させる、終結させることも、この裁判員法案の成否のかぎであろうかと思います。そのためには、今の訴訟法の起訴状一本主義から脱却して、公判前の準備手続を充実させて、事件の核心だけを絞って立証する方針に転換しなければならないというふうに考えます。

 最近、仙台で起きた、いわゆる筋弛緩剤という事件の判決がありました。これを担当した裁判所は審理の迅速化を図ろうとしたと聞いています。それでも公判は百五十六回という長期に及びました。これは多分、審理の迅速化という点ではモデルケースになるんだろうとは思いますが、こういう公判廷の数では、裁判員がその任務を全うすることは多分できないでしょう。幾ら国民の義務といってみても、つき合っていられないよというのがやはり裁判員候補者である国民の本音ではないでしょうか。

 最後に、裁判員制度とメディアの関係について触れてみたいと思います。

 罰則つきの守秘義務違反、あるいは接触禁止などの点が問題になっていると聞いております。

 私は、現役の司法記者の時代にも、事件を担当している裁判官に直接取材目的で接触いたしました。成功したケースもあれば、目的を果たすことができなかったケースもあります。どちらかというと、なかなか目的を果たせないケースの方が多うございました。

 しかし、これは制度の問題ではないと私は考えています。私個人の腕力、言いかえれば取材能力の問題と考えております。もちろん、これによって公務員法違反に問われたことは、私の場合はございません。当然のことです。正当な取材行為が犯罪になるわけがないと考えているからであります。

 しかし、取材に名をかりた裁判員に対する不当な圧力、これは許すわけにはいきません。そのあたりは、取材する者として、いつもきっちりと考えていなければならないことだと思います。

 私は、職業裁判官も、これから国民の中から選ばれる裁判員も、重要なニュースソースと考えております。罰則つきの守秘義務違反の条文があろうとなかろうと、正当な目的を持った取材は行われると思います。それがプロの新聞記者の務めであります。そのような条文があるからといって、取材や報道が萎縮するということは、私、そして私の部下たちの新聞記者はないと思います。私は、新聞社の編集主幹として、部下の多くの新聞記者に対してそのように教育しているつもりでございます。

 ただし、裁判員に接触することによってもたらされるマイナス、不利益と、その問題を報道しなきゃならない報道の利益というものは、いつもはかりにかけて、どっちが重いかということは考えていかなきゃならないと思います。報道の利益の高いときは報道するでしょう。しかし、裁判員に接触する、あるいは近づくことの不利益が大きいときは、多分報道を断念することもあろうかと思います。利益衡量の問題だと思います。

 裁判員制度は、開かれた司法の重要な部分だと思っております。法務委員会の皆さんには、どうか深い議論を交わされて、実現可能な制度に仕上げることを心からお願いいたします。また、国民の中から修正の、あるいは改善の意見が出てきた場合は、どうか立法も司法も、迅速に、かつ弾力的に制度の改善を進めるよう強く希望いたします。

 ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 滝鼻参考人、ありがとうございました。

 次に、尾崎参考人にお願いいたします。

尾崎参考人 尾崎です。このような機会を与えていただきまして、ありがとうございます。意見を申し上げたいと思います。

 戦前の陪審制度が停止して以来六十年ぶりに、戦後初めて、無作為に選ばれた国民が直接司法に参加する裁判員制度の導入が現実のものとなろうとしております。裁判員制度は、申すまでもなく、国民の司法参加と、司法参加の結果、刑事裁判が大きく変わるという二つの点で画期的な意味を有するものでございます。

 御紹介いただきました特命嘱託という任務、非常に聞きなれないものでございますが、本通常国会でほとんどの司法制度改革法案を成立させることに日弁連として協力していこう、そういうことでこの任務を与えられております。したがって、私の任期は通常国会終了までということになっております。私は、裁判員制度法案に関しましては、与野党の合意により、必要な修正を経て成立させていただきたいと考えております。本日は、そのような立場で発言させていただきたいと思います。

 まず最初に、裁判員法案について申し上げます。

 裁判員が参加しやすい制度、そして守秘義務の問題点について触れたいと思います。

 裁判員裁判は、仕事や家事を休んで裁判に参加される国民の方々が、参加してよかった、参加する意義があったと感じ、その経験を国民に伝え、還元できる裁判でなければなりません。

 主権者である国民が司法参加するのですから、この制度は国民の権利の行使という意味を有しております。同時にまた、国民すべてがこの制度を理解して負担しなければならないという義務の側面も有しております。したがって、この制度は、参加する国民の視点に立って制度設計をしていかなければならないというふうに考えるわけでございます。

 確かに、裁判員の任務は、他人の秘密に触れる機会があります。何らかの守秘義務は課せられるべきであろうというふうに考えます。しかしながら、その範囲は明確で、必要最小限度にとどめるべきであろうというふうに思います。職務上知り得た他人の秘密、あるいはまた他の裁判員、裁判官の言動、さらにはそれを対価を得て漏らした、こういうようなケースにやはり守秘義務の範囲はとどめるべきではないかというふうに考えております。また、罰則として長期一年以下の懲役刑まで必要であるかどうか、これは検討すべきではないかというふうに考えております。

 国民にこの制度を理解していただいて、できるだけ参加しやすい環境を整えることは、この制度定着のためには大切です。この点で、国の責務は極めて重要であるというふうに考えております。育児・介護施設を利用しやすくする、休暇をとりやすくする、そういったことや、あるいはまた、裁判員制度実施後、制度の定着に応じて、さらにより参加しやすい制度に改正していく、そのような手続が必要であろうというふうに考えます。

 裁判員にわかりやすい公判活動について述べたいと思います。見て聞いてわかる裁判でなければいけないということは、言うまでもないことでございます。

 改善しなければならない第一の点は、書面に頼って行ってきた裁判を、証人尋問中心の、見て聞いてわかる裁判にしなければならないというところでございます。現在の刑事裁判は、捜査段階に作成された供述調書が多数証拠として提出され、裁判官はそれを読み込んで事実認定をしております。裁判員の方々が、公判廷でそのような多数の供述調書を読んで有罪か無罪かを判断することは不可能でございます。可能な限り公判廷での証言に基づき、裁判員がそれを見て、聞いて、心証を形成していく、そのような審理に変えていく必要があるかと思います。

 第二の点は、被告人の自白が強要されたものでないかどうか、すなわち、被告人の自白の任意性、信用性についての立証のあり方です。これまでの裁判では、自白調書を作成した捜査官と被告人が、取り調べの過程をそれぞれ証言することにより立証してきました。密室の中で行われた取り調べの状況を客観的に記載している直接的な記録がないために、どちらの言い分が正しいのか、認定が非常に難しい場合があります。

 このような状況をなくすためには、取り調べの様子を録音、録画して客観的に記録することが、被疑者の権利を守るためだけではなく、裁判員にとってわかりやすい裁判とするために、この制度を実施するまでに行っておく必要があるというふうに考えております。そしてそれは、結果的には捜査能力の向上に連なるものであるというふうに私は考えます。

 こうしたわかりやすい裁判にしていくための取り組みは、法律実務家である裁判官、検察官、弁護士が行わなければなりません。それぞれが行うこともさることながら、協力して取り組んでいくことも重要です。弁護士会としても、弁論の技能向上のための研修等も取り組んでいく、そのようなことも企画しているところでございます。また、法曹三者において、全国各地で模擬裁判等の取り組みを行っていきたいというふうにも思っております。

 さらに、こうしたソフトの面だけではなく、法廷における席の配置、わかりやすい証拠の説明方法、ビジュアル化のための設備の充実といったハード面の改善も必要不可欠です。そのためには、裁判所だけの考えではなく、検察官、弁護士など法律実務家はもとより、国民の方々の意見を聞きながら、そういったハード面の整備を充実していく必要があると考えます。

 次に、「充実かつ迅速な裁判のために」を申し上げます。

 当然、国民の方々に負担をかけないためには、迅速な裁判を行う必要があります。一方で、裁判における被告人の防御権は十分保障されなければならず、その犠牲の上に「迅速な」裁判が行われてはならないことは言うまでもないことでございます。

 被告人の防御権が十分保障された、充実かつ迅速な裁判を行うためには、公判前の事前準備の充実が必要でございます。刑事訴訟法改正法案では公判前整理手続が新設されておりますが、公判前整理手続において行われる証拠開示は、争点を整理するためにも、被告人の防御権を十分保障するためにも、その拡充が極めて重要でございます。また、裁判官、検察官が証拠開示を広げる方向で運用を心がける、このようなことが不可欠であるというふうに考えております。

 次に、連日的開廷の点でございます。

 連日的に公判が開かれる場合には、次の公判期日の準備を公判終了直後に、あるいは公判開始直前に、頻繁に行う必要がございます。また、土日など休日をまたぐ場合には、休日の準備も必要となります。

 現在運用上できない休日、夜間の面接ができるよう、運用を変えていく必要がございます。また、公判直前や直後に面接して準備するには、裁判が行われている裁判所構内における面接が不可欠であり、そのための制度の改善、設備の整備も必要でございます。さらに、連日的に公判が開かれる場合には、翌日の公判の準備のために公判記録を即日手に入れる必要がございます。そのための制度、設備の改善も必要であると思います。

 それでは、次に、刑訴法改正法案について二、三意見を申し上げたいと思います。

 まず、開示証拠の目的外使用の禁止の点でございます。

 第一に、審理の準備の目的が極めてあいまいなこの法案でございます。被告人の防御権を侵害するおそれが多分にあるというふうに考えております。例えば、無罪を訴える被告人が、支援者に理解を訴えるために証拠を使用して訴える、そういった場合、審理の準備の目的でないと判断される危険性を否定できません。このような正当な理由がある場合も、条文は一律に禁じているとも読めるわけでございます。

 また、この規定は、捜査など司法に対する検証をできなくさせるおそれがございます。例えば、裁判を傍聴してメモをとった人が、そのメモの正確性を確認するために被告人・弁護人に証拠を見せてもらうことは、この罪の共犯ともなりかねません。また、捜査機関による証拠そのものの改ざんの事実を広く社会に知らせることにより、捜査の改善を問題提起することもできません。

 この規定は、証拠開示の過程で開示された後、公開された公判廷で取り調べた証拠についてもすべて規制の対象となっており、裁判公開の原則からも不合理と言わざるを得ません。現状で許されたものを、理由を問わず一律禁止しようとするもので、情報開示の時代に逆行した法律であるというふうに言わざるを得ないと思います。

 このような裁判に関する情報の開示に消極的な考え方は、裁判員の守秘義務を広くし、重い罰則で担保しようとする考え方と共通しているのではないかというふうに考えます。

 裁判員に対する守秘義務や、裁判員が参加しやすくするための国の責務の確認などとともに、目的外使用の禁止の点についても、実質的な議論を踏まえ、立法に携わる議員の皆さんが賢明なる合意をされることを心から確信している次第でございます。

 次に、被疑者段階での国選弁護制度について簡単に申し述べたいと思います。

 今まで行われていなかった被疑者段階での国選弁護制度の創設が提案されていることは、拘束された被疑者の弁護人の援助を受ける権利を大きく拡充するもので、極めて重要な意義があると考えます。弁護士会も、早くから会員の会費で行ってきた当番弁護士制度の成果であるというふうに考えております。

 その上で、若干の問題点について申し上げます。

 法案では、被疑者が国選弁護人選任を請求できる事件を一定の重大な事件に限定しています。しかしながら、弁護の必要性と刑の軽重とは必ずしも比例しません。例えば、最近少なくない無罪判決が出されている痴漢冤罪事件は、法定刑自体は重くはありません。また、微罪であっても重大犯罪に連なる場合もあります。そのような場合に、弁護人なしに十分な防御ができないことは明らかです。

 法案が対象事件を限定した主な理由は、弁護士の対応能力に限界があることとされています。確かに、現時点では、裁判所の支部がある地域でも弁護士が一人もいないといった、いわゆる弁護士過疎地域が存在しています。この点について、日弁連は、会費により援助するひまわり公設事務所を設置し、対策を進めております。今後、国が行う体制整備と相互に補完し合いながら、また、法曹人口の増加によって、将来、身体を拘束されたすべての被疑者を対象とする制度の実施は十分に可能と言えます。

 本法案の審議に当たっても、こうした将来の拡充を見据えた御審議をお願いしたいと思います。

 検察審査会制度でございます。

 この点については、議決に法的拘束力を持たせたという点については、国民の司法参加という点で非常に評価できると思いますが、守秘義務について裁判員と同じような罰則という形をしたことは、その必要性について疑問を感じるところでございます。

 最後に、ベルリンの壁と日本におけるバブルは、八九年末に時を同じくして崩壊いたしました。その後の人、物、金が国境を越えて自由に移動するグローバリズムの時代に、日本はバブルの後始末に追われて、残念ながら対応は立ちおくれました。

 戦後六十年を経過して、我が国は至るところに制度疲労が生じております。行政官や裁判官がいかに良心的で有能であっても、制度改革抜きには個人的レベルでは問題は解決できない、そのような時代を迎えているわけでございます。

 裁判員制度に代表される今回の司法制度改革は、象徴的にいえば、行政指導中心から法の支配へこの国の形を変えるという、単に司法の改革にとどまらず、政治、行政、経済財政改革、あるいはまた地方分権などと並ぶ日本の再生を目指す改革の一環であると私は認識しております。必ず実現させなければならないと考えているところでございます。

 私の意見を終わらせていただきます。どうも御静聴ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 尾崎参考人、ありがとうございました。

 次に、木舟参考人にお願いいたします。

木舟参考人 新聞協会の人権・個人情報問題検討会の幹事をしております木舟と申します。

 このたびは、新聞協会の立場から御発言を許していただいて、ありがとうございます。新聞協会としての考え方を述べさせていただきたいと思います。

 冒頭に、新聞協会として、ここ一年半の間、人権・個人情報問題検討会でこの裁判員制度について議論をしてきました。前提として、今回申し上げることは、新聞協会としてはその制度の是非論については議論しない、この制度がいいのかあるいは悪いのかということは各社の対応に任せましょうということにしております。報道にかかわる部分についてのみを議論したという前提で御理解いただければというふうに思います。

 お手元に資料を用意させていただきましたので、その資料に我々の考え方がかなり集約されておりますので、それをもとに御説明をさせていただきたいというふうに思っています。

 新聞協会は、この間、五種類の声明、見解をまとめております。

 順番に紹介させていただきますと、右下のノンブル〇七と書かせていただいているもの、これが最初に我々がまとめた見解です。これは、司法制度改革推進本部の事務局が「裁判員制度のたたき台」というのを提出しまして、その発表に基づいて新聞協会としての考え方を書いたものです。

 総論と四項目から成っておりまして、四項目については、個人情報、接触禁止、偏見報道それから守秘義務、この四項目について述べたものであります。このペーパーが我々の考え方を大体網羅しているというふうに考えていただければというふうに思います。

 それから、次いで、右下のノンブル五を見ていただきます。ノンブル五は、この前の見解の一番最後のところに指針をつくる用意がありますというふうに書きましたので、それに基づいて、「「裁判員制度の取材・報道指針」について」ということについて、我々としての中間的な取りまとめというか、中間的な協議状況を説明したものであります。

 〇六については、その中間的な協議内容について、個人情報の保護及び接触禁止について書かせていただいております。

 それから、三番目にまとめさせていただいたものは、右下のノンブル〇三であります。これは、去年の十月の二十八日に、ここにいらっしゃる司法制度改革推進本部裁判員制度・刑事検討会の井上座長が井上試案というのをまとめて提出されました。それを受けて我々が考え方を述べたものであります。

 それから、次いで、一枚めくっていただいて〇二を見ていただければ、これは、政府の裁判員制度についての骨格案というのが一月二十九日に公表されました。これに基づいて、我々が二月十三日に、この骨格案について考え方を述べたものであります。

 それから、一番最初のページ、ノンブル一をごらんいただきますと、これは先日、当法務委員会で、裁判員制度の法案についての審議入りが始まりました。これを機会に我々の考え方をまとめさせていただいて、法務委員長に提出させていただいたものであります。

 これをもとに若干説明させていただきますと、今回、法務委員長に提出させていただいたものは、我々の考え方を大ざっぱに述べたものでありますが、まず、これまで、昨年五月の十六日の最初の見解では四つの点について、先ほども申し上げたとおり指摘しております。

 偏見報道の禁止規定の全面削除と、二番目には、裁判員等に課せられる守秘義務について、範囲とか期限をはっきりさせていただきたいということ。それから三点目は、裁判員に対する接触禁止規定については、裁判員を退いた人まで一律禁止することについては弊害が多い、裁判員は一審ということになっておりますので、一審を終われば接触禁止を解いていただいてもいいのではないかというふうに指摘したものであります。それから四番目には、裁判員等の個人情報についても、すべてを非公開とするようなことにはしないでいただきたいというふうにこれまで求めてきたわけです。

 今回の政府案では、我々の考え方ないし我々の取り組みを理解していただきまして、偏見報道については盛り込まれていません。これについては高く評価させていただいております。ただ、残りの三点については、まだ我々の考え方が必ずしも取り入れられていないということをここで述べております。

 まず、守秘義務については、範囲とそれから期間、これが明確でないというふうに書いてあります。範囲については、ここにもあるように、「その他の職務上知り得た秘密」というのはどういうことなのか、一般の裁判員になる人がはっきりわかるのだろうかというふうに疑問を持つわけです。

 罰則規定があるんですから、その範囲がはっきりしないとちょっと怖くてしゃべれない、自分らの、みずからの裁判員としての経験について仮に話したいとしても、事実上ほとんど話せなくなってしまうのではないか、ひいては裁判員のなり手がなくなってしまうのではないかというふうな懸念を持っているわけであります。

 しかも、守秘義務の期間について限定されていないわけで、これについても、それと相まって、我々は事後検証が不可能になるのではないかというふうに危惧しております。

 二番目は、個人情報についてであります。

 個人情報については、どういう人がこの判断に加わったのか、そういうことが明らかでないと、裁判の公正に対する社会の信頼というのが得られないのではないかというふうに考えております。

 例えば、家庭内暴力などで妻が殺されたというようなケースで、その場合、どういう裁判員の構成で裁判されたのかというようなことは重要なことではないかというふうに思います。例えば、性別であるとか年齢であるとか職業であるとか、そういう点については明らかにしていただいてもいいのではないかというふうに考えているわけであります。

 それから、接触禁止についても、守秘義務の範囲と相まって、これは裏腹の関係だと考えておりますが、相まって、これの違反については罰則規定があるということとあわせて、実質的に取材が難しくなるのではないかというふうに考えております。

 それともう一つ、もう一枚めくっていただいて、ノンブル二の下に書かせていただきましたが、刑事訴訟法にある、開示された証拠の目的外使用の禁止、これについては実質的に取材制限につながるおそれが大きいというふうに考えております。

 公開された法廷で証拠として採用された調書でありますとかそういうのは、早口で朗読されたようなケースには、我々はなかなかメモがとれません。それから、まだ朗読されているものならともかく、帳簿のたぐいとか図面のたぐいとかこういうものは、我々は報道することが事実上できなくなるというふうに考えておりまして、この点についても触れさせていただいたものがここであります。

 ただ、よく誤解があるのでありますが、実は、情報をすべて、公開していただいたものを、ではイコールすべて報道するかというと、我々はそういうふうには考えておりません。

 これは九月の十日、ノンブル六を見ていただきたいと思いますが、我々が考えました「取材・報道指針」の中間的な取りまとめで、「協議状況」というのがありますけれども、これの個人情報のところを見ていただきますと、裁判中については、住所、氏名など、その人物を特定できるような個人情報は、原則として裁判終了までは報道を控えるという考え方を示させていただきました。それから、裁判終了後についても、この公表については本人の意見を尊重したいというふうに考えております。

 それから、裁判員への接触禁止についても、我々は、裁判員が審理中、一審の判決が言い渡されるまでは、原則として裁判員等への直接取材や取材の働きかけはとり行わないというふうなことを考えております。裁判員としての活動中については取材を控える、接触を控えるというふうなことであります。

 我々は、こうした点を踏まえて、国民参加の司法として、報道の仕方や姿勢が今回の裁判員制度の導入とともに大きく変わってくるだろうというふうに考えています。新しい制度のもとでの報道のあり方については、法曹三者、裁判所、検察・法務省、それと日弁連の方と具体的な議論を重ねております。これまでも、最高裁と二回、法務省と二回、それから日弁連とは一回話し合いをさせていただきました。今後も継続的に議論を深めて、新しい制度のもとでの報道の仕方あるいは姿勢の問題については、我々として考えていきたいというふうに考えております。

 我々は、裁判への国民参加という理念に基づく今回の裁判員制度をより開かれたものにするためには、国民に可能な限り多くの情報を開示することが必要だと考えております。その点、この制度下での取材と報道の役割が一層の重要性を持つことは言うまでもないというふうに考えております。

 今回、こうした我々の考え方を踏まえていただいて、十分に審議していただければ幸いだと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 木舟参考人、ありがとうございました。

 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。森岡正宏君。

森岡委員 私は、自由民主党の森岡正宏と申します。

 きょうは四人の参考人の皆さん方、それぞれ司法制度改革をぜひなし遂げたいものだという強い思いでそれぞれの立場から御意見をいただきまして、参考になりました。本当にありがとうございました。

 私たち法務委員会でも、連日精力的に裁判員制度の導入について議論をしているわけでございますが、裁判員制度というのは、私は、本当に司法の中に国民主権というものがしっかりと根づいていくかどうかという非常に大事な法案だと思っておりまして、私は与党でもございますし、またぜひ成立させたいものだというふうにも思っております。

 国民により開かれた司法にという思いを四人の参考人の皆さん方もお述べいただいたわけでございますが、私はそういう立場ではございますけれども、これまでの議論の中でいろいろな疑問点が、与野党を問わず出てまいりました。そんな中で、私も疑問に思っているところを、たった十五分でございますのですべてを申し上げるわけにはいきませんけれども、幾つか申し上げて、御意見を伺いたいと思います。

 一つは、裁判員の選任についてでございますが、本法案は、欠格事由でありますとか就職禁止事由でありますとか辞退事由でありますとか不適格事由、いろいろ並べられております。私は、裁判員になることは国民の義務である、日本は徴兵制はございませんけれども、同じくらい重い国民の務めにすべきだというふうに思っているわけでございます。

 先日、公聴会が行われまして、アメリカの陪審制度を見てきた公述人の方がこんなことをおっしゃっていました。アメリカの陪審員は、のっぴきならない事情以外、多少の市民生活は犠牲にしてもらわないといけないなというふうに思うことがよくあります、アメリカでも学生や仕事を持っていない主婦などに偏っておりますというような発言をしておられました。

 私は、この法案を見ておりまして、例えば一般公務員は全部参加させたらいいじゃないか。また、自衛官なども、なぜ禁止しているんだ、非常事態でさえなければ参加させたっていいじゃないか。そしてまた、障害者の方は補助者をつけて、車いすの人だって裁判員という務めを果たさせるようにしてあげたらいいじゃないか。また、育児の必要な人は託児所を設けてあげるとか、できる限り、あらゆる分野の人が裁判に加われるようにした方がいいというふうに思っている一人でございます。

 また、私たち国会議員も、どうも司法制度改革本部の事務局長さんのお話では、立法と司法とは違うんだから国会議員は除外しておりますということでございますけれども、それでは、地方議員は会期以外だったらいいということになっているわけでございまして、こういうのも、私たちは各界各層の人と常に接触しているわけでございまして、最も常識的な判断ができるのが我々じゃないかなというふうにも思ったりしているわけでございます。

 職業裁判官が常に国民の一般常識に触れることによって、その感覚が現実遊離せずに研ぎ澄まされるという効果が期待されるんじゃないかなというふうに私は思うわけでございまして、余りにも職業禁止事由などを事細かに書き立てると憲法第十四条違反になるんじゃないかというような思いさえするわけでございますけれども、この点につきまして、井上参考人と尾崎参考人、それぞれ簡潔に御感想を伺いたいと思います。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

井上参考人 それでは、簡潔にお答えをしたいと思います。

 それぞれの国において、それぞれの形で国民の司法参加というのがあるわけですが、そのそれぞれの国においても、例えば欠格事由というのは、その人が裁判員、あるいは陪審員もそうですが、そういう職務を行うのにどうも適当ではないんじゃないか、そういう事由を洗い出して定めているわけですね。就職禁止事由の方は、そういう角度というよりは、むしろほかの義務だとか、その地位の性質からふさわしくないということで定めているんだろうと思うんですね。そういうことで、今回の案も幾つかの種類のハードルを設けているわけですね。

 たくさんおっしゃったので簡単に申し上げますと、特に国会議員の先生と地方の議会の先生で違うのはおかしいと。これは、忙しいという意味では似ているだろうと思うんですが、やはり司法に直接参加して司法を動かしていくという立場と、国会で立法に携わっておられるという立場の三権分立という点からなじまないのではないかという観点から恐らくできていて、常識がないということでこれは禁止事由にしているのではないと思います。

 障害のある方につきましては、これは私も、できるだけ社会のいろいろな活動に参加していただくということを国としてもバックアップされるべきだと思います。ただ、他方で刑事裁判、刑事裁判に限りませんけれども、裁判というものの性質上、やはり限界がある場合がある。直接証拠を聞き、あるいは見、しないといけない。それで微妙なニュアンスを判断していかないといけないという場合に、やはりどこかに、社会参加という意味でも限界があるので、そこのところはやむを得ないものとしてこういうものが設けられている。ただこれは、事案の性質等とか、どういう証拠が問題になっているのか、具体的な事件との関係で恐らく最終的には判断されるべきものであろうというふうに考えております。

尾崎参考人 さすが、経験に基づいて、大変私、ほとんど同意できるような御質問をいただきまして、ありがとうございます。

 当然、この裁判員制度というのは、国民の常識を反映させていく、やはりあらゆる人たちができるだけ参加できるような方法にならなきゃいけないんじゃないかというふうに思っております。立法のスタート時でございますので、それなりの立法当局者の苦労もあるのかと思いますが、やはり今委員のおっしゃられたような形でこの制度は導入をしていくべきだろうというふうに思います。導入時では不可能であったとしても、その定着を待って、そういった方向でどんどん広げていく、これがやはり当然ではないかというふうに私は思っております。

森岡委員 次に、木舟参考人が先ほど資料を見ながら御説明いただきました。守秘義務に罰則を設けることなどについての御意見がございました。これを見せていただきまして、日本新聞協会が主張しておられる自主的な取り組みとして、裁判員制度の取材・報道指針の制定に向けて努力しているんだということが書かれております。裁判終了までは報道を控えるとか、裁判員等への直接取材や取材の働きかけは行わないと書いてあるんですが、それぞれ「原則として」と書いてあるんですね。

 こんなことでいいんだろうか、余りにも甘く考え過ぎているんじゃないかなというふうに思いますし、新聞協会だけの御意見ではございますけれども、私は、テレビもあれば雑誌もあるではないか、こういうことを考えると、こんな自主規制という形だけでうまく機能していくんだろうかという疑問を持っているわけでございます。やはりこの法案に書かれてある程度の罰則は必要なんじゃないかな、先ほど井上参考人がおっしゃったとおりじゃないかなというふうに思うわけでございます。

 やはり表現の自由、知る権利をめぐって、犯罪被害者の問題でありますとかプライバシー論争は絶えず起こっているわけでございまして、それぞれメディアの人たちは他社を抜いてやろう、こういう気持ちで仕事をしておられるわけでございますから、やはりこれはマスコミの本能じゃないかなというふうに思うわけでございまして、この件について滝鼻参考人と木舟参考人、それぞれ御意見を伺いたいと思います。

滝鼻参考人 今、最後に言われましたマスコミの本能というのは、まさにそのとおりだと思います。

 先ほど申し上げましたように、新聞業界の自主ルールあるいは報道規範というものをつくる前に、やはり我々が持っていなければならない物差しというのは、報道する価値があるものかどうか、あるいは報道する価値がないんじゃないかという物差しをきちんと持って、それによって、報道する報道しない、取材する取材しないということを決めなきゃならないというふうに私は新聞記者の一人として考えております。

 法律があるから報道を控えるとか、あるいは法律に書かれていないから報道するという問題ではない。やはりニュース価値があるかどうか、その尺度でこの裁判の報道もやっていきたいというふうに考えております。

木舟参考人 なかなか我々は職業柄、質問するのは得意なんですが質問されるのはなかなか難しくて、うまく答えられるかどうかあれですが、お答えしたいと思います。

 「原則として」という御指摘がありました。あくまで我々「原則として」というふうに考えておりまして、例外というのは極めて少ないというふうに考えています。

 どういうところが例外かといいますと、例えば接触禁止なんかについては、裁判員の方がどうも取材とかその過程で明らかに忌避事由に当たるあるいは除斥事由に当たるというようなケース、事件の関係者であるというようなことが極めて疑わしいという情報を入手しましたというようなことで、その場合は接触させていただいてそれを確認しない限り、裁判の公正そのものがおかしくなるという可能性があるというふうに考えております。そういうごく一部の例外的なことを除いては、我々、原則論でいきたいというふうに考えております。

 それから、先生おっしゃった後段の、新聞だけが一生懸命やってもテレビとか雑誌とかあるじゃないかという御指摘は、そのとおりの面もあると思います。これについては、我々の新聞業界でこれから議論させて決めさせていただくルールについては、極力、民放連さんとか雑誌協会さんとかと話し合わせていただきまして、働きかけさせていただいて、同一歩調、同じような道を歩んでいただけるように努力を続けていきたいというふうに考えております。

森岡委員 守秘義務規定を見ておりまして、裁判官はしゃべらない、裁判員はしゃべるんじゃないか、そういう先入観があるんじゃないかと思えてならないわけでございます。裁判官に罰則規定がないのはおかしいじゃないかと言う人もございます。

 平成十三年の二月に明るみに出た事件でございますけれども、福岡地検の次席検事が捜査対象者の夫である福岡高裁の判事に捜査情報を漏らしたという事実がございました。東京高裁の判事が少女買春をやったという事件もございました。判事だって人間だ。守秘義務を全うできない人もいるんです。裁判員に罰則をかけるなら裁判官にもかけるべきだという考え方がございます。また、手をかえ品をかえて裁判員などに近づいて無理に情報をとろうとするマスコミ側にも罰則規定があってしかるべきだという考え方もございます。

 全員、一人一言ずつ、このことについてお答えをいただけませんでしょうか。

井上参考人 どうも一言で答えるのは難しい問題だと思いますが、裁判官につきましては、御承知のように、かなりハードルの高い資格を取って、職業についてからもいろいろな訓練を受けるということによって職業倫理が徹底されるという面と、違反があった場合には弾劾とかあるいは分限等の措置によって身分を失う、こういうことによってその規律が担保されているんだろうというふうに思います。やめた後も、そういうふうに身についた職業倫理というのは、私の知る限りは非常に厳格に守られていまして、そういうことで恐らく成り立っているんだろう。

 それに対して、今回の裁判員の場合には、その事件だけに選ばれて、かなり多様な方が参加される。もちろん、多くの方は、大半の方は、ちゃんと義務を尽くされて、守秘義務がもし課されるとすれば守られるでしょうけれども、中には違った方も出てくるかもしれない。いろいろな働きかけもあるかもしれないということだと思います。

 一言だけということだったんですが、もう一点だけ申し上げたいんです。

 守秘義務は、何か参加する方に重い負担を課するとか、あるいは何か国の方がそういう義務を押しつけるという面だけがどうも強調されている嫌いがあるというように思うんですけれども、これは自分たちが実質的に裁判に参加するために、安心して忌憚のない意見を評議で交わし合える、お互いにそういう立場を確保するという意味で、お互いにそういうことは、そこであったことは外に漏らさないでおこう、そういう義務だと思うんですね。

 そういう面からすると、むしろ裁判員を保護しているとか、あるいは裁判員制度の趣旨を保護している面もあるということをお忘れないようにお願いしたいと思います。

滝鼻参考人 職業裁判官と裁判員の間に守秘義務違反に対する罰則がありなしの問題がありますけれども、これはやはりアンバランスだと思います。

 今井上参考人が申し上げたように、確かに職業裁判官には分限あるいは弾劾の手続がございますけれども、それは、罰則、いわゆる刑事罰とは違うということであって、私の個人的な意見としては、やはり裁判員と同じように職業裁判官にも、もし、万が一、秘密漏えい、守秘義務違反の行為があったときには、どういう処罰かはともかくとして、同じ重みを持ったペナルティーがあるべきだ。それがやはり、三対六であろうと一対四であろうと同等に対話する、審理するという立場でございますから、バランスを欠いているんじゃないかというふうに考えます。

尾崎参考人 アンバランスであるということは、まさに御指摘のとおりかと思います。

 そしてまた、裁判官にそのようなものが課せられていないということは、国民がやはり基本的には裁判官を信頼しているというところにあるんじゃないかと思います。

 私どもは、やはり裁判員も基本的に信頼して制度設計すべきじゃないか、そういう意味で、罰則を科するという方向じゃなくて罰則を科さないという方向でバランスをとるべきじゃないかというふうに思っています。そのように考えます。

木舟参考人 職業裁判官と裁判員との罰則規定の話については、バランスを欠いているというふうに考えております。なぜ裁判員のみ信用されていないのかというようなことにもつながるのではないかというふうに思いますし、国民に義務だけ重く課しているのかというような声にどう答えられるかという問題があろうかというふうに考えております。

 それから、先生もう一つおっしゃられました、マスコミにも罰則をということについては御勘弁いただきたいというふうに思っています。我々は、本人の意向を尊重してお話を伺うということでありまして、無理にしゃべろとかいうようなことは全く考えておりませんし、また、無理にしゃべろと言ってもなかなかしゃべってくれるものでもないというふうに考えております。

 それから、昨今言われております、マスコミが取り囲んで威圧的にしゃべらせるという批判も一部ありますけれども、これについては、我々、新聞協会の内部で集団的過熱取材対策小委員会という組織をつくらせていただきまして、いわゆるメディアスクラムについては自粛していくということで進めております。

 例えば、先日の北朝鮮から戻られた家族の方への取材活動などについては、我々のマスコミのこうした取り組みが非常にうまくいって、メディアスクラム的な状態は起きていないというふうに考えております。

森岡委員 ありがとうございました。終わります。

塩崎委員長代理 富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 四人の参考人の先生方、きょうは貴重な御意見ありがとうございます。

 ただ、私、この法案は個人的には余り好きな法案ではございませんで、党が決定しておりますので、どうしようかなと悩んでおるのですが。

 きょうも参考人の先生方、皆さん賛成だと。こういう大きな法案で、全員が賛成あるいは修正すればいいんだというような流れになりますと、私のような者は、えっ、本当かなというふうにどうしても思ってしまいます。そういった観点から、きょう、ちょっと参考人の先生方に何点かお伺いをしたいと思うんです。

 まず、井上参考人。先生は、裁判員制度・刑事検討会で座長を務められて、この問題に関しての一番の御専門家だと思うんですが、調査室の方からいただいた資料に、実は、季刊「刑事弁護」という本の中からの抜粋がございまして、京都弁護士会に所属されている三野先生の論文が載っておりました。この論文を見て、ああ、本当だなと思う部分がかなりございまして、その点について、ちょっと井上先生から教えていただきたいんですが、今回の裁判員制度、または刑事訴訟法の改正というのは、連日的開廷、これを確保するという方向になっております。そのための関連の諸制度の整備をどうするかというのが論点になったと思うんです。

 この三野先生の論文によりますと、そういう論点に関して、法務省と最高裁の方は、争点整理、弁護体制整備、連日開廷及び審理期間の法定化というようなことを論点として挙げられていた。日弁連の方が、証拠開示、身体拘束からの解放、接見交通権など、異なった内容を述べるというような展開になっていたんだというふうに指摘されて、これは刑事裁判の充実、迅速化に対する考え方に、もともとの考え方が違うんじゃないかという指摘をされておりました。

 ちょっと御紹介をさせていただきたいんですが、法務省や最高裁は、弁護人が争点を明らかにしようとせず、期日の差し支えが多く、連日的開廷に応じようとしないから裁判が長期化するのだ、そういう前提に立って、連日的開廷や審理期間を法定化し、訴訟指揮権を強化して弁護人を従わせる方向を考えているんじゃないか。

 それに対して日弁連の方は、現状の刑事裁判においては、事前に十分な証拠開示が行われないため争点を明らかにすることができずに、また、厳しい身体拘束がなされ、接見交通権が大幅に制限されているんだ。弁護人には調査権限が付与されていないから、こういう不十分な状態で防御活動の準備がきちんとできないから連日的開廷が現実にできないんだという考え方に立って、それぞれが論点を出しているというふうにこの三野弁護士さんは指摘されているんですが、実際に、検討会において、こういった論点について、どういった議論がなされ、どういうふうに収束されていったのか、また先生はどういうふうにお考えになられたのかを差し支えない範囲で教えていただければと思います。

井上参考人 私ども検討会の議事録は全部公開されておりますので、差し支えのある部分は全くございません。

 むしろ、検討会でというよりは、それに先立つ司法制度改革審議会の方でこういう方向をまとめたわけであります。その際には、もちろん前提とする事実の認識について、今委員御指摘のような立場の違いによって、どこが原因だ、あっちが悪いんだ、こっちが悪いんだという意見の対立はあったというふうに記憶しています。

 ただ、立場の違いはあれ、要するに、刑事裁判を、中身を充実させることによって全体としてスピードアップを図る。スピードアップだけが目的ではなくて、それが刑事裁判の一つの理想である、それを実現しないといけないということは、これは間違いないことでありまして、現行の刑事訴訟法あるいは規則においても、そういう理念自体はうたわれているところであります。

 特に、裁判員が加わる制度ということを考えますと、さっきの委員からも御指摘のありましたように、余りにも長い期間がかかる、必要ならしようがないんですが、無用に。それをやはり避けて、連日的に開廷をして、真に争いのあるところに絞って実質的な審理を行う、これを実現しないといけないということはもう間違いないことなんですね。ですから、その出発点において、どっちが悪いんだと言っていても物事は前に進まないわけでして、実現しないといけないということは共通していたと思います。

 それを支えるために、必ずしも一方が、その後期間を、被告人・弁護人の方から主張を明らかにさせて、それで期日を決めてこれに従え、そういうことを審議会として描いていたわけではなくて、弁護側、被告人側に争点を明らかにしてもらう、これを明らかにしてもらうということを要求しても、これは全然不合理ではないというための体制をつくる。

 そういう意味では、刑事弁護に専従するような弁護体制ですとか、弁護人ができるだけ早い手続の段階でかかわることによって事件を十分知った上で公判に臨める、そういうものを一方で確保すると同時に、適正な範囲で証拠開示を拡充するということによって、被告人・弁護人側も、それに基づいて、こういうことを公判で主張していこうということが言えるような体制をつくった上で、公判前で争点を整理し、それに基づいて証拠調べの決定等をして審理計画を立てて審理に臨めば、審理自体は集中して、争点を中心にした実質的なものになるだろう。それは、被告人・弁護人側にとっても、防御にとっても非常に有用なことであろう、そういうふうな議論の流れになっている。

 検討会自身は、その意見書を前提にしまして、それを具体化するにはどうすればいいかということを、事務局の方と協力して議論をさせていただいたということであります。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

富田委員 井上参考人に、ちょっと引き続き今の点についてお伺いしたいんですが、今のお話はそのとおりだと思うんですけれども、では、実際の刑事弁護の場で、被告人の方が身柄拘束をされているときに、今先生が言われたように、十分な打ち合わせ等をした上で、公判で集中審理ができるような、現実そういう体制にあるかというと、やはり私はちょっと違うと思うんですね。警察の留置場あるいは拘置所に弁護人は接見に行って、窓越しに会うわけですよね。そういう中で十分な打ち合わせが本当にできるのか。

 先ほど尾崎先生の方から提言がございましたけれども、実際に刑事弁護の現実の場面から考えると、今井上参考人がお話しいただいた部分というのはちょっと理想的過ぎるんじゃないかな。もう少し弁護活動を、本当に被告人の防御権という観点から見て、きちんと防御できるだけの実質を担保した上でないと今の制度は転がっていかないんじゃないかなという実感があるんですけれども、そこはいかがでしょうか。

井上参考人 そこは、恐らく見方の違いがあるのかもしれません。ただ、私自身も刑事訴訟法をずっと専門にしておりまして、多少とも実務の実態ということは存じ上げているつもりです。もちろん、弁護士会の方としてはまだまだ不十分だという御指摘はあると思いますが、事態はかなり大きく、先生は刑事実務をやられていたかどうかわかりませんが、それからも恐らく大きく変わってきつつあって、接見等についてはかなり十分な接見時間が確保されているというふうに聞いていますし、これは弁護士さんの方からも聞いています。

 私は、何よりも、やはり被疑者の公的弁護というものが実現して、捜査段階から弁護人がかかわる。これは今圧倒的に少ないわけですね。そういうことが常態化していくということ自体が物事を大きく動かしていくということになるんじゃないか。楽観的と言われればそれまでですけれども、そのように考えております。

富田委員 井上先生からそういうお話を伺って、少しは心強くなりましたが。実は、私、十一年前に初当選をする前は弁護士をしておりまして、四年前に落選しまして、また弁護士に戻りました。刑事弁護をまた落選中やってまいりましたので。

 ただ、確かに接見なんかはしやすくなってはいるんですが、この連日的開廷にたえられるかなというと、まだまだやはり私は疑問に思うんですね。

 尾崎参考人に伺いたいんですが、先ほど紹介しました京都弁護士会の三野先生は、「連日的開廷を可能とするための制度整備」ということで、日弁連もきっと挙げられていたと思うんですが、「証拠開示の拡充」、先ほど先生言われていましたね。あと「十分な公判待ち期間の保障」そして「被疑者・被告人の身体拘束からの解放」、起訴前の保釈ということですよね。あと「接見交通権の保障、拡大(夜間、休日、裁判所構内など)」、これは先ほど尾崎先生言われておりましたけれども、こういったことをきちんと保障しろ、これがないとできないじゃないか、私も本当にそう思うんですね。

 先ほど尾崎参考人の方から、運用面での改善も含めて今のような点について何とかならないのかという御意見がありましたけれども、今提案されているこの二法案を前提として、運用面での何か改善を期待するとか、あるいは今後のこの審議の中で、修正というので本当にいいのかなと。私は、連日開廷を可能とするための制度整備が、この二法案を通すのであればきちんとあわせて行われないと、本当に被告人の防御権というのは保障されないんじゃないかな、日弁連としてそこをなぜきちんと主張されないのかな。この法案は賛成です、こう修正してくださいというのは、私は弁護士という立場から考えると非常に不満なんですが、そこは先生いかがでしょうか。

尾崎参考人 富田委員がこの法案に余り賛成していないというので、どういうことなのかというふうに思いましたが、今お聞きしている限りは、私とかなり一致しているところもある。したがって、もう一息御理解いただけば、この法案は修正していただければ大変よいというふうに考えていただけるんじゃないかと思っております。

 御指摘の三野委員でございますが、去年、私は副会長をしておりましたが、そのとき私のもとで一緒に働いていただいたものでございます。そういう認識、先ほど富田委員から御指摘の意見については、日弁連は全くそのとおりであるというふうに考えています。

 私どもは、今富田委員が御指摘のとおり、やはり日本の刑事裁判、これは変えなきゃいけないんだろうというふうに思っております。高名な刑事学者は、日本の刑事裁判は絶望的であると言ったり、あるいはまたガラパゴス的な進化をしたみたいなことを言っております。この刑事裁判を、今御指摘のようなところを変えていくためには、やはりこういう裁判員制度をやる、裁判員にわかる裁判をやらなきゃいけないという形で変えていくしかないんではないかというふうに思っています。

 私どもとしては、このようなことを導入する、そして同時に、先ほど言いましたような証拠開示を十分に行う、接見もきっちり行えるようにする、いわゆる人質司法と言われるようなものもやめる、こういったものもやはりこの実施までには実現しなければならないというふうに思っておりまして、御不満を感じる点について、わからないわけではございませんが、山を登るのは必ずしも一つのところから登る方法しかないわけではないのでございまして、北から登る、南から登る、いろいろな方法があろうかと思いまして、我々としては最善の方法をとっているつもりでございますので、よろしく御理解いただきたいと思います。

富田委員 もう時間が来ますので最後の質問にしますが、井上参考人にお伺いしたいんですけれども、もともと司法制度改革の流れの中で司法制度改革推進法というのが成立しまして、これは私落選中だったものですから全然かかわりなかったんですが、戻ってまいりまして条文を読ませていただきますと、基本理念として、二条に、「高度の専門的な法律知識、幅広い教養、豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り、」これが大前提になっている。

 この流れの中でこの四月一日から法科大学院というものがきちんと動き出して、これはすばらしいことだと思うんですが、最近の法曹三者の現状を見ていますと、とてもじゃないけれども、今言ったような法曹を生み出しているのかなと。弁護の現場で、本当に基礎的なことも知らないような司法修習生から出てきた新米の弁護士さんがいたり、私、落選中に刑事弁護したときに、検察官が、弁護士として意見を言いに行きたいというふうに連絡しましたら、意見を聞いても私が起訴、不起訴を決めるわけじゃありませんですからと言った検事さんがいたんですね。ではだれが決めるんだという、そういうぐらい、現場はかなりレベルが落ちているなというふうに思うんですね。

 きちんと法曹の養成、確保ができないと、せっかく裁判員制度等を導入しても、本当に国民に開かれた司法、被告人の防御権がきちんと保障された司法というのは確立していかないんじゃないかという、非常に不安も不満もあるんですが、そのあたりについて先生は今どんなふうな認識でいらっしゃいますか。

井上参考人 その点についてはかなり近い感覚もあります。それがゆえに、別の問題になりますけれども、新しい法曹養成制度をつくったというところがありまして、私も改革審議会でそのレポーターをやりましたので、かなり危機感を募らせたわけです。

 そういう意味で、私、今東大の法科大学院の方の責任者をやらせていただいていますが、ここのところ連日、教室に行って若い人たちと話し合っていますが、非常に熱気にあふれて、強い希望を持った人たちが集まってきています。それに対して、こちらの方もそれにこたえるだけの体制をつくって、実務的な感覚も養いながら、きちっとした素養、能力を身につけさせたいと思っています。

 もう一つは、これまで、委員は反対だとおっしゃったんですが、私も慎重論なんですね、もともとこの司法参加については。だけれども、慎重にやれば意味があるだろうということなんですが。

 今まで、刑事法に限らず、司法の世界というのはプロだけでやってきた。そういうところでやはり何かお互いのなれみたいなものがあって、緊張感がどうもなくなっているんじゃないか、外から見ると。そこに国民が司法参加することによって、これは裁判体の中から物を見ますから、それぞれの当事者も、そうのんびりした、のんきなことを言っていられないはずですので、これが司法全体について強い緊張感を与えて、それぞれの、その三者もみずからを律していくということをせざるを得ないんじゃないか。その両面がやはり非常に重要ではないかというふうに認識しております。

富田委員 ありがとうございました。終わります。

柳本委員長 小宮山洋子さん。

小宮山(洋)委員 民主党の小宮山洋子でございます。四人の参考人の皆様、貴重な御意見ありがとうございました。

 私たち民主党も、今回のこの司法制度改革、とにかく国民が参画をする形で私たちから一番遠い存在である司法が身近になる、そしてやはり、社会の仕組みを変えていくものになるということで積極的にいろいろな提言をしてまいりました。

 そして、なるべくよりよい形に仕立てたいと思っているんですが、質疑をしている中で、やはり皆さんの質疑を聞いていますと、これは皆さん反対法案になるんじゃないかというぐらい問題はいろいろある。それでも何とかスタートをさせてというふうに私自身も思っておりますけれども、一番、まだこのことをよく知らない国民が、ただでさえ面倒くさそうなのに、これは嫌だと思っているのが守秘義務のことなんだと思います。

 四人の参考人の皆さんが漏れなく今回触れられたということからしても、ここをどう扱うかということが、これからよりよい形で仕上げていくための一つの大きなポイントだと思いますので、これは四人の皆様に伺いたいと思うんですけれども、私たちは、なるべくやはり守秘義務というのは範囲を狭くして、そしてしかも判決の確定後は外した方がいいのではないかというふうに思っているんです。

 それは、先ほど井上参考人が、国が重い義務を課すばかりが強調されているというふうに言われたんですけれども、やはり中身のわかっていない者からしますと、そちらの方が私は当然なのではないかと思うんです。戦前の陪審制でも、該当したものは一件だけで、それも処罰されなかったとも聞いておりますので、そのごくごくまれな例のために、せっかくこれからの希望がある仕組みに私たちはしたいのに、暗いイメージが物すごく強くなってしまう。ここはやはり何としても修正をしなければというふうに思っておりますが、四人の皆様、それぞれお答えいただいておりますが、そういう考え方についてどのようにお考えかを伺いたいと思います。

井上参考人 私の考え方は先ほどのお話の中で触れさせていただいておりますが、私、時期を進行中か終了後かで区切ることについては合理的な理由がないのではないかと申し上げたのは、進行中の場合は、進行している当の裁判に対する影響ということが最も懸念されるわけですね。

 しかし、終了後の方は、終了後、そういうことが、守秘義務がかけられなくて自由にしゃべっていい、評議の中でだれがどういうことを言ったとか、どういう経過であったというようなことが外に出るということが、制度的にそういうものがありますと、他の事件の裁判員というのが、ああ、そういうことが外に出てしまうんだな、いろいろな嫌がらせを受けるかもしれない、あるいは脅迫を受けるかもしれない、嫌な目に遭うかもしれないということで、その評議の中で安心して自由濶達に、思いつきの意見も含めて、意見を言えなくなってしまう。これは、裁判員が主体的に、実質的に評議に参加をして裁判の形成に寄与するという意味からは決定的なマイナスだろうと思うんですね。

 これは要するにプライオリティーの問題なんですけれども、そこのところがきちっと確保されませんと、せっかくの裁判員制度というのが結果として裁判というものをだめにしてしまうということになりかねないので、そこのところが非常に大事だと思っています。

 一般の人というか、参加する方の人が、どうも何かしゃべったら罰せられるぞという面ばかりがどうも強調されているんですが、ここのところは、そうではなくて、自分たちが自由に物を言える環境をつくるためにこういう義務があるんだということをやはり理解していただくように、時間をかけてこちらから、こちらというか国の方からも働きかけていくということでないといけないのではないかというのが私の考え方です。

小宮山(洋)委員 済みません。次に行く前にちょっとだけ補足をしておきたいんですけれども、先ほど、私、刑の確定後に外すと言ったのは懲役刑を外すということなんで、守秘義務を外すということではないので。ちょっと私の先ほどの説明が欠けていたかと思いますので、それで、あと、お三人の方に伺いたいと思います。

滝鼻参考人 守秘義務は、職業裁判官であろうともそれから裁判員であろうともやはり課せられると思います。その範囲とか期間についてはこれから審議されると思うので、私からどの程度ということはなかなか言いづらい立場ですけれども、メディアの側から見れば、この守秘義務というのはいつもそれを飛び越えるというか突破していくか、そういう立場にあるので、我々の方からその範囲とか期間というのを明確にしたくないというふうに考えます。

 以上でございます。

尾崎参考人 守秘義務の範囲を限定して明確にする、それは私の意見で申し述べたところと同様でございます。そしてまた、事件の進行中と進行が終わった後を分けること、これはまさに合理的な理由があるのではないかと思います。評議に影響を与えるかどうかという点で、やはりそこは区別する意味はあるのだろうというふうに思います。

 また、確定後について懲役刑を外す、そういう考え方も一つの制度設計としてあるかと思います。あるいはまた、対価目的でこれを漏せつした場合に懲役刑にするというような、いろいろな形での罪の限定の仕方というのはいろいろあるかと思います。

 民主党さんの御意見は大変参考になるというふうに私は思っております。

木舟参考人 守秘義務については、我々は二つぐらいに分けられると思っています。個人的なプライバシーの問題については恐らく未来永劫守らなければいけない部分だというふうに感じておりますが、裁判員が裁判の中で感じた建設的な意見ですとか提案ですとか自分の考え方みたいなものを披露していただくということについては、もっと前向きに考えていただいたらいいかというふうに思っております。

 現在のように守秘義務が非常にあいまいな規定になっているということにおいては、裁判がどのように行われたかということを事後的に検証することが非常に難しくなるというふうに考えておりますので、守秘義務の範囲や期限についてははっきりさせていただきたいというのが我々の考え方でございます。

小宮山(洋)委員 もう一点、私、法律の方の法曹は素人でございますけれども、メディアの方の放送界にずっといた者といたしまして、やはり接触規制とメディアとの関係、これは本当に、国民に開かれた司法にしていこうとしていることとメディアとの役割ということで、裁判の公正さとそれから知る権利のバランスという大変難しい問題だと思っております。

 私は、原則としてこの裁判員制度でも法的な規制はメディアにはかけないで、メディアが自分を律する、自律的にしていく、あるいは第三者機関がチェックをするという形が望ましいと思っておりまして、経過で出てきたようなメディア規制の文言がなかったことは非常に歓迎をしたいと思うんですけれども、まだまだそこの懸念が払拭をされていないという面もあるかと思います。

 開かれた裁判員制度で少しでも内容をみんなに知ってもらいたい、それから、行われていることがきちんと伝わるようにするということと、公正な裁判をするために、ではメディアにどこまで、特権的にといっていいんでしょうかね、知るような形が許されるのか、いろいろな問題があると思うんですけれども、これも、できましたら皆様、御四方の御意見を伺いたいと思います。

井上参考人 その点も、開かれた、あるいは国民に知らせないといけないというお考えというのはよくわかるところなんですが、これもプライオリティーの問題だろうと思うんですね。何よりも大事なのは、やはり裁判員が裁判に加わって実質的、実効的な評議をして判決の形成ができる、それができるためにはどういう条件を整えないといけないか、これが恐らく第一義だと思います。

 そのためにはある程度のところを、ほかの要求とか要請というのは譲らざるを得ないところが出てくるのではないか。そこを崩してしまいますと、結局、制度の根本が崩れてしまいますので、ですから、検証ですとか、あるいは裁判員制度がどういうふうに動いているかということはその他の形で報道していただくということになろうかと思います。

 評議室の中で何が行われているかということが恐らく関心の対象だろうと思うんですが、そこは、実質的な評議が行われた結果、判決に実質的な理由が書かれる、そのことを手がかりに判断していくというのがこれまでの考え方ですし、それは裁判員制度になっても変わらないのではないかというふうに私は考えております。

 それから、一点だけ申し上げたいのは、接触禁止というのは、メディアに限って接触禁止をかけているというふうに私は読んではいませんで、いろいろな形で事件関係者とかいろいろな人が何があったのか教えろというふうに言ってきた場合に、これは裁判員としてはアドホックにその事件にかかわって守秘義務を負うわけですが、それ以上の負担、煩わしさとか負担とかは負わせないようにする、そういう保護をするという趣旨のものでありますので、マスコミをねらい撃ちにしているものとは私は考えておりません。

滝鼻参考人 この今審議中の裁判員法案それから刑事訴訟法の改正案、この二つの法案につきましては、メディアに特別の特権を与えていただきたいということは全く考えておりません。普通の市民と同じような、法のもとの平等で我々は取材活動をしていきたいというふうに考えております。

尾崎参考人 広く裁判員の経験を社会に還元していくということは非常に重要であるというふうに考えております。その意味におきまして、マスコミの役割も大変重要であるというふうに思います。

 御指摘の接触規制の点でございますが、七十三条では、一項、二項で裁判員であるときとあったときというふうに分かれておりまして、現職でない場合は比較的自由に接触できるようになっている。「職務上知り得た秘密を知る目的で、」というその目的以外の場合は許されているということでございますし、またペナルティーもないということでございますので、適切な運用をしていけばマスコミに対する過度の規制にはならないのではないか。これは、今後の運用を見ながら、改めるべきならば改めなきゃいけないことではないかというふうに思っております。

木舟参考人 裁判の公正を保つためには、利害関係者による裁判員の接触禁止ということについては理解できると思います。ただ、裁判員を経験しての感想とかあるいは提言などを語ってもらうことは、この裁判員制度を定着、育成していく上で不可欠だというふうに考えております。あるいは、その裁判の経過を事後的に検証するということが必要な場合もあろうかというふうに思っております。そこで、裁判員を退いた人、それまでについて、そういう人まで一律的に接触を禁止することについては、我々は弊害が非常に大きいというふうに思っております。

小宮山(洋)委員 もう一点だけ、この法律の中には見直しの条項が入っておりませんけれども、先ほど、井上参考人は合議体構成のところで、そして尾崎参考人は環境整備のところで、いろいろやった上で見直したらというような御発言があったかと思います。私どもも見直しの規定は入れた方がいいかと思うんですけれども、この点について、四人の方に一言ずつ、あともう二分弱でございますので、よろしくお願いします。

井上参考人 私が申し上げたのは、どっちの方向で見直すかということは特定していません。これは、やってみて、失敗だったということもあるかもしれませんし、もっと参加の程度をふやせということになるかもしれません。そこのところを見直し規定を入れるべきかどうかは、先生方が御判断になることだと思います。

滝鼻参考人 先ほど冒頭陳述で申し上げたとおり、制度の改正は常にやっていかなきゃいけない、それが定着する制度に向かう道だと思います。そういう意味では、見直し規定は当然必要だろうというふうに思います。

尾崎参考人 国民の司法参加がより実質化する方向で見直すべきだろうというふうに考えております。

木舟参考人 我々、先ほど申し上げたとおり、新聞協会としてはこの制度の是非論については議論しておりませんので、この場で申し上げることはできません。恐縮です。

小宮山(洋)委員 ありがとうございました。きょうの御意見も参考にいたしまして、ぜひいい修正をしていきたいと思っております。

 ありがとうございます。

柳本委員長 佐々木秀典君。

佐々木(秀)委員 民主党の佐々木でございます。

 最後の質問でございますので、お疲れだと思いますけれども、おつき合いをいただきたいと思います。貴重な御意見をそれぞれお伺いさせていただきまして、ありがとうございました。

 滝鼻参考人とは随分久しぶりにお目にかかりまして、私がまだ東京で、いろいろな司法の問題、特に司法のあらしと言われる時期に渦中にあった者として、現場で司法の記者として第一線で御活躍された滝鼻参考人にいろいろ御示唆をいただいたこと、今懐かしく思い出しています。

 そういう長い司法の現場での御経験、特に、いろんな裁判を、法廷も実際に傍聴され、取材をされ、あるいは司法関係者の皆さんとも接触の多かった滝鼻参考人の御経験からいって、今まで日本の司法には国民の参加が非常に薄かったと言われているわけですけれども、ここで非常に思い切った制度としての国民参加の裁判員制度が今議論になっているわけですが、こういういわゆる一般の国民が司法に参加する裁判員制度が、これからの日本の司法に対して積極的な、有益なものとなり得るかどうかということについてはどうお考えでしょうか。

滝鼻参考人 佐々木議員とおつき合いした四十数年前から同じことを考えておりますけれども、佐々木弁護士の守秘義務もかなりかたいものがございまして、なかなかそれを突破するのは苦労いたしました。

 今お尋ねの点ですけれども、非常に重要なことだと思います。当時から、やはり開かれた司法、どうすれば開かれた司法府になるのかということは常に取材者として考えておりました。

 一つの方法は、この国民参加の問題であります。今日、こういう形で具体化し、さらに議論を積み重ねて、いい制度ができればなというふうに考えております。

 もう一つの開かれた司法は、やはり使いやすい裁判所になってもらいたいということでございます。一番いけないのは、やはりアウトローによって紛争を解決するということが、最も我々が慎まなきゃならない、我々日本国民がやってはいけないことだと思います。アウトローによって紛争を解決しないためにも、国民一人一人が非常に距離感の短いところに司法があって、そしてそこで紛争が解決できる、使いやすい裁判所になってもらいたいということ、この二点でございます。

 以上でございます。

佐々木(秀)委員 戦前の陪審との比較などでも議論をされてきたと思います。

 それで、実は午前中に、私どもの同僚の小林委員が、戦前の陪審制度に当たって、陪審員として当選された方へ政府から渡された「陪審手引」という、復刻版だそうですけれども、これを引用しての御質問がございました。

 なかなかこれはおもしろいというか、確かに戦前のことですからあれなんですけれども、しかし、大変国民の皆さん、当時は臣民なんでしょうけれども、私は信頼しているんじゃないかというように書かれている記載があるんですね。

 もちろん、戦前のことですから、これは、裁判は、国民の名においてではなくて天皇の名において行われる裁判ですね。そのことも書いてあるんですが、「畏くも天皇の御名に於て行はれる、神聖の裁判に列し、恁うした重大の義務を果たすことは、」「大なる名誉であり義務である」こう書かれて、それで、当選された方に対して、「陪審員候補者として、御当選になられた諸君は、非常の光栄であり、また名誉と言はなければなりません。」こう言っているんですね。

 そして、それに対して当たった人には勲章みたいな記章というようなものを与えたり、それからまた、こういう手帳というのですか、陪審裁判参与日誌というようなものを与えて、この中には、その日にどういうような裁判の審理が行われたかということまで書いていいようになっているんですね。そしてまた、陪審員になることができる資格の中では、学歴などは読み書きができればいいと書いてあるんですね。尋常小学校卒業程度でよろしいんだ、読み書きができればいいんだというように書いてある。

 私は、ある意味では大変国民の皆さんを信頼しているんじゃないか、そして、このことが大変名誉なことなんだぞということを称揚しているんだと思うんですね。

 それに対して今度の裁判員制度では、これに準じたと言えば言えるのかもしれないけれども、資格の中では義務教育を終えた人ということになって、これも、そこまで課す必要はないんじゃないか、我が国では小学校を出ただけで総理大臣になった人もいるわけですからなんというような話も出ているわけですけれども、それに比べるとちょっと重いのではないかと思われたり、あるいは、陪審員に対する罰則を見ますと、懲役がないんですね。

 これは、義務づけは、もちろん秘密を守るということはありますけれども、大体みんな過料と罰金だけになっているというようなことを考えますと、先ほど井上参考人からは、やはり罰則の必要性ということを言われたんですけれども、私は、全部野放しにしていくことはないとは思うけれども、懲役まで科するというのはいかがなものかな。

 この戦前の陪審制度に比べても、国民に対する信頼、あるいは名誉のこととして参加してもらうというようなことを考えると、罰則としては懲役までは必要がないのではないかと思われたり、あるいは、先ほど来、時期が不明確だというお話がありましたが、これも、裁判員の身分を離れてからも生涯その秘密に縛られるというのは、いかにも負担が重過ぎるんじゃないだろうか。例えば、犯罪でも時効というのがあるわけですけれども、時効などという考えはここには生きていないのかどうかということも含めて、井上先生、どうでしょうか。

井上参考人 罰則として懲役まで、これは選択刑ですが、上限として設けるべきだという理由についてはさっきるる御説明したとおりで、非常に悪質な場合もあり得る。そういう場合に備えてのものであって、普通の場合はそういうものは常識的に言っても科されるわけではなくて、科されたらそれは量刑不当だと思いますね。ですから、いろいろな場合に備えて幅を設けておくべきではないかというのが私の意見で、もう一点は……(佐々木(秀)委員「今の期限の点です」と呼ぶ)それについては、これも申し述べましたが、要するに、裁判が終了したから守秘義務なくなっちゃうということですと、いつ、自分が評議の中でしゃべったことが外に出ていくかもわからないという不安に他の事件の裁判員は駆られるだろう、そうすると、自由に物が言えなくなるのではないかと。

 その場合に、もちろん、五十年も六十年もたって、どうなんだという御質問はあろうかと思いますが、それでは、そこのところで一律にそういう必要がなくなるという期限を設定できるかどうか、それは非常に難しいんではないかという感じを持っております。

佐々木(秀)委員 木舟参考人にお尋ねをいたします。

 今も小宮山委員からも報道との関係でいろいろお話がありましたし、それからまた、先ほど私どもに御配付をいただきました資料についても御説明がございました。

 特に、私、この二〇〇三年の九月十日の裁判員制度の取材・報道指針についての新聞協会編集委員会での推進本部あての書面、この中に書かれております取材・報道の際のガイドラインの制定ですか、これについて協議をなさっているという、二枚目の「協議状況」というのは非常に重要だと思いますけれども。

 先ほど森岡委員も、報道関係といってもいろいろあるじゃないか、雑誌もあるし、その他、放送もあるしというようなお話がありましたけれども、新聞協会さんだけではなしに、この各種の報道関係の間でもこういうことというのは協議をされているのでしょうか。あるいは、今後このことについてはどういうようにこの協議を発展させていくというようなお考えがあるのでしょうか。その辺についてお伺いをさせていただきたいと思います。

木舟参考人 この裁判員制度についての取材及び記者の取材の仕方、ルールなどについては、ほかの雑誌協会さんとか民放連さんとこの問題について直接これを主なテーマとして議論をしているケースは今のところありませんけれども、機会に触れて、いろいろな折に、ほかのテーマと同様にこのテーマについても意見交換はしております。

 それから、今後は、我々の意見がもう少し固まってきた段階では、先ほど申し上げたとおり、民放連さん、雑誌協会さんにも同一歩調をとっていただきたいという趣旨から、お話の機会を設けさせていただくということになろうかというふうに考えております。

佐々木(秀)委員 それでは、次に、尾崎参考人にお尋ねをしたいと思います。

 先ほど滝鼻参考人からもお話がありましたけれども、この裁判員制度がうまくいくためには、裁判そのもののあり方も変わっていかなければならない。そのために今度の刑事訴訟法の改正もあわせて今提案されておりまして、これに対しては、私ども民主党としては、この対案になるような刑事訴訟法の改正案を実は今準備をして、これもここでの審議をいただこうと思っています。

 これはお話にも出ましたけれども、例えば取り調べの可視化、録音、録画、こういうようなことも、ぜひ実現することが有用ではないかと考えているわけです。ただ、先ほど滝鼻参考人からもお話がありましたように、そういうことからすると、審理が行われる前の準備といいますか、そういうことが非常に大事になってくるんじゃないか。争点の整理や、あるいは証拠の整理といいますか。

 そういうことになりますと、いわゆる、裁判が始まる前に裁判官は予断を持っちゃいけない、起訴状一本主義というような刑事訴訟法の原則があるわけですけれども、この原則が崩れることになるのか、崩れても、それよりも、今の準備手続を充実させるということがより大きな命題なのか。その辺についてはどうお考えになっているか。尾崎参考人からお伺いしたいと思います。

尾崎参考人 私は学者じゃないので、ちょっと権威に欠けるかもしれませんが。私自身は、予断の点は問題ないんではないかというふうに考えています。

 これは、裁判所が検察官からの資料だけを一方的に扱うというようなことになれば問題でしょうけれども、今言われている主張の整理の段階におきましては、弁護人、あるいは場合によっては被告人も一緒に出ていって主張を整理していくという点におきまして、やはり一方の当事者から意見を聞くということではないという点で、予断排除の問題はクリアできるんではないかというふうに思っています。

 また、同時に、この事前準備手続、事前整理手続におきましては、証拠の内容には触れないということになっておりまして、この二つの点を守っていけば、予断排除という点、裁判の公正さというものは当然守っていける。そしてまた、守らなければいけない、これを犠牲にしていっていいものではないというふうに私どもは考えておりますので、当然守らなきゃいけないけれども、そういう歯どめをしておけば守れるというふうに考えております。

佐々木(秀)委員 時間が参りましたけれども、最後に、今の点で井上先生にも、学者としてのお立場からお話をいただければと思っています。

井上参考人 結論として、尾崎さんと珍しく意見が一致するんですが、最初の点については私は書いたことがありますし、第二の点につきましてもうちょっと補足しますと、例えば証拠開示をするときに、当該証拠がどういうものであるかということに触れる可能性はあります。ただ、それは証拠開示に必要があるかどうか、要件はあるかどうかを判断するために触れるのであって、そこから実質的な心証を得るというものではないだろう。それは現在の手続でも、前じゃないんですけれども、公判が始まっているときに、公判外で、公判廷とは違う場で、証拠開示の必要を判断するということがあります。

 そこでもし心証をとっているとすれば、公判で心証をとらないで、外でとったものに基づいて判決をするということになりますが、これは許されないんですけれども、そういうことにはなっていないという考え方で今でき上がっているものですから、それと同じことではないかというふうに考えています。

佐々木(秀)委員 時間が参りましたので終わらせていただきます。

 参考人の四人の先生方、本当にありがとうございました。

柳本委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼を申し上げます。

 午後四時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後三時七分休憩

     ――――◇―――――

    午後四時開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長樋渡利秋君、警察庁長官官房総括審議官安藤隆春君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局中山総務局長及び大野刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。永田寿康君。

永田委員 民主党の永田寿康でございます。

 きょうは、私からのたっての願いで一般質疑の時間をとっていただきましたことを、理事各位及び大臣、委員長にお礼を申し上げたいと思います。

 前回私が質問をしたときに、実は週刊文春の出版差しとめ事件というのを取り上げました。当時は、地裁で出版差しとめの命令が確定をしておりまして、それを週刊文春が抗告をしたという時点で質疑をさせていただきました。

 果たして、プライバシーの保護と言論の自由、報道、出版の自由というものはどのようにして調整されるべきか、その価値の重さはどうなのかという、私の乏しい知性と教養を振り絞った質疑であったというふうに思っておりますが、たまたまその私たちの、私と大臣の討論をしている最中にこの出版差しとめ命令が取り下げとなり、高裁レベルでこの決定が確定をいたしました。

 ここで一つ、質疑という形にはなりませんが、報道の自由と出版の自由、それからプライバシーの侵害について、そのときに私が感じたことをここで述べたいと思います。これは質疑ではありませんが、やはりこういうことを国会議員が当時考えていたということを議事録に残しておきたいと思うから、私の真情を吐露するわけであります。

 やはり、私は、あの事件を振り返っても、プライバシーの保護というものは本当に大事なものだというふうに思いました。しかし、それが理由で出版の自由を侵してはならないというふうにも感じたわけであります。

 つまり、憲法十三条では、個人の尊重という形でプライバシーの保護が尊重されるという規定になっておりまして、一方、憲法二十一条では、出版の自由はこれを保障するという、保障という規定になっております。尊重と保障ではどちらが重いかといえば、それは保障の方が重いのは明らかでありまして、今回もそういう形に沿ったものであるというふうに思っています。その後、各界のジャーナリストあるいは学者、それから政治家などからも、あの判決はおかしい、プライバシーの保護を優先すべきだというような言論もなされています。最近のそういう風潮について、一言私から申し上げたいと思います。

 やはり、雑誌がげびたメディアである、人のプライバシーをのぞき見主義で暴露して金もうけをするげびたメディアであるというふうに大手の新聞の社説までが書いているわけですけれども、私は、そういうような評価をすることによって、げびたメディアである雑誌の出版はとめてもいいんだというような世論が巻き起こっているのであれば、これはゆゆしき事態だというふうに思っています。

 というのは、則定東京高検の検事長ですか、の女性スキャンダルを暴露したのは「噂の真相」という、本当にこれまた世の中では下品なメディアと評価されているものでありました。しかし、それがもとでスキャンダルが明らかになった。あるいは、山崎拓前幹事長の女性スキャンダルも、雑誌がこれを明らかにしたものでありました。江角マキコさんが国民年金を払っていないということも、これもまた雑誌が明らかにしたものでありました。こうした雑誌の持つ力というものを見ていますと、必ずしもげびたことばかり書いているわけではないということは考えなければならないと思います。

 加えて、私が、前回の質疑では、記者クラブに所属をしている大手メディアは事実上国家権力の統制下にあるのではないかという指摘をしたと思いますが、この記者クラブの持つ報道機関への統制力というものを徹底的に嫌った政治家が長野に一人います。田中康夫長野県知事ですね。記者クラブは解散されたわけですよ。それで取材に何か支障が出ているかというと、そうではない。そして、出版の自由、言論の自由というものを本当にこよなく愛した田中康夫長野県知事が「噂の真相」に連載していた記事は、「ペログリ日記」という、これまた本当に下品な記事だったわけですね。

 つまり、民主主義というのはエログロとともにやってくるんですよ。エログロが世の中に流れないほど報道を規制してしまっては、民主主義の基盤となる報道の自由、出版の自由、言論の自由というものは確保されないというふうに考えるべきだというふうに思います。

 人間にとってよい言論と悪い言論を分けて、よい言論だけを世の中に満ちあふれさせて、それによってよい社会をつくろうという考え方は、私は間違っていると思います。よい言論と悪い言論を同時に人様の、国民の前に提供して、そしてその中でよいものと悪いものを見分ける力を国民が身につけていくこと、それが民主主義の基本であり、そしてよいものと悪いものを見分ける力を国民が身につけることによって批判精神が生まれてきて、そして国家権力の暴走に歯どめをかけようという民主主義本来のチェック機能が働くようになっていくのではないかと思っています。

 ですから、この国会の議論においてでも、私が、実は元法務大臣のスキャンダルというか疑惑につきましてここで議論をしたいというお話をしておったわけであります。やはりそれは、一たん議事録に残した後、歴史の評価にさらしていくということが、健全な民主主義の発展に資するものだというふうに考えております。

 そういう意味で、もうとりあえず議論をする、そしてすべて記録に残す、こういう姿勢をこれから私も貫いていきたいと思いますし、ぜひ、この議事録をごらんになる方、あるいはお聞きになっている先輩議員の方々にもそのことの大切さをわかっていただきたいなというふうに私の真情を吐露したいと思います。

 さて、その文春問題のところで、大臣から、最後、全国の記者クラブに対して出入り禁止措置を役所の方からしている実態はないのかということを私から質したところ、大臣は、調査をしますというふうにお約束をいただきました。大臣、どのように調査が進んでいるのか、ぜひ現在の進捗状況を御説明いただきたいと思います。

野沢国務大臣 前回、委員からの御注文もございまして、早速調べていただいておりますが、これまででわかったところについて御報告を申し上げたいと思います。

 法務本省におきましては、特定の報道機関を出入り禁止にするようなことはなかったというふうに承知をいたしておりますが、東京地検等におきましては、従来より、司法記者クラブとの間で、報道の自由と捜査の秘密及び適正な遂行との調和を図るために、互いに意見を交換し、検察庁側から、捜査妨害その他信義関係を著しく損なうような取材、報道等は差し控えられたいこと、及びそのような取材、報道がなされた場合は不本意ながら取材に対応しない場合があることを要望するなどして、両者の間ではいわば紳士協定的な一定のルールができておって、同地検、高検等では、このルールにのっとって適切に対応しているものと承知をいたしております。

永田委員 法務本省の調査について、その調査期間はいつからいつまでを対象にしたんですか。そして、東京地検の話では、適切な対応をするというような表現がされましたけれども、実際にこれはもう取材に対応しないというような判断をして措置をしたケースはどれぐらい見つかっているんですか。

野沢国務大臣 法務本省は私の在任中についてのお話でございますが、東京地検の方では、昨年の、十五年六月からことしの三月末まで、こういうことでございます。

永田委員 私の在任中だけでは済まないのであって、私が指摘をした坂井隆憲衆議院議員の逮捕にまつわる事件というのは、多分大臣の在任期間から外れているのではないかというふうに思っていますので、そこのところで私から指摘をしているわけですから、出入り禁止措置がとられたかどうかは確認しないと私の依頼にこたえたことにはならないと思いますが、そこはお調べいただけますか。

樋渡政府参考人 御指摘を踏まえまして、検察が報道機関の取材に協力しなかったケースについて、東京地検、高検等から報告を受けましたが、いずれも検察の捜査活動についての報道に関するものでございました。

 これらの具体的な内容につきましては、検察における個別具体の捜査内容にかかわることとなりますのでお答えは差し控えさせていただきますが、いずれにしましても、検察としましては、先ほど大臣からお答えがありましたルールにのっとって適切に対処をしているものと承知しております。

永田委員 昨年の衆議院総選挙の間に民主党が発表した、民主党が政権をとった場合にどのような閣僚を据えるかというような報道がニュースステーションで流れまして、これが不当に民主党を持ち上げるような報道であるというふうな判断が自民党の方でなされまして、自民党はそれからしばらくの間、自民党幹部のテレビ朝日への出演を拒否するというような事態に至ったというふうに承知しております。

 果たして、政党助成金も多額にもらっている、そして法的な位置づけもしっかりしている天下の公党が、特定のメディアに対して出演拒否をするというようなやり方が、報道、言論の自由の確保をして、そして民主主義を健全に育成していくという立場から望ましいことかどうかということを、私、その自民党の議員である大臣以下にもお伺いしたいと思うんですけれども、ぜひ御所見をお伺いしたいと思います。御答弁をお願いします。御答弁をお願いします。(発言する者あり)

柳本委員長 答弁がないようでございますので、継続して質問をお願いいたします。

永田委員 与党の理事から答える必要がないという発言があって、それを受けて、受けたかどうかわかりませんが、答弁がありません。

 実は、こういうことが問題なんですよ。あらゆる議論をする、それが言論の府の仕事であります。質問が適切なものであるかないかは、私たち立法府のメンバーが決めるのではなくて、国民が決めることです。理事が決めることではありません、国民が決めることです、歴史が決めることなんです。それを理事会で話せばいいというような姿勢で質疑を中断するというのは、まことにゆゆしき問題であります。あらゆる議論をする、それが我々の仕事ではないですか。

 実は、つい最近まで、野党は、国会のあらゆる質疑に応じないという姿勢をとっておりました。この間、約一週間の間、与党だけで開かれていた委員会や本会議などでたびたび出てきたのは、国会議員は議論をするのが仕事であるから、議論をしないのは、それは職務怠慢であるというような評価をなされています。

 冗談ではありません。いいですか、我々がなぜ質疑に応じなかったかといえば、もともとは総理が答弁を拒否したからであります。我々の質問に対して、本会議の質問に対して答弁をしなかったからであります。質問をすることが国会議員の仕事である、そして質問をしないのは国会議員の仕事をサボっているのに等しいというのであれば、答弁をするのも総理の仕事であって、答弁をしないのもこれまた総理の仕事の怠慢だというのが、それが公平な姿勢というものであります。

 加えて、最近の法案審議を見ていても、一日この裁判員制度の法案審議を見ていても、大臣、副大臣、政務官の方々が答弁に立つ回数は実に少ない。もともと司法制度改革というのは、本部長たる内閣総理大臣小泉純一郎さんがお出になって答弁をするのが、それが私は正しい道だと思いますけれども、その代理として法務大臣がお出になっている。出てくるのは、発言の回数からいえば、専ら事務局長が答える回数が多いわけですよ。一体、これはだれとだれの議論なんだという話なんですね。これでは、国会の議論は全く成り立っていない。

 加えて、私の先ほどの、自民党の出演拒否問題について取り上げたときに、与党の理事から、それは理事会で取り上げるべきだというお話がありました。冗談ではありません。理事会というのは、公開されてない、議事録も残らないようなものです。そんなところで幾ら議論をしたって、歴史の評価にはさらされないわけですね。

 国会議員の仕事というのは、国会で議論をすることなんですよ。議論をするということは、議事録に残すということなんです。そして、歴史の評価にさらされるというような重要なチェック機能が働かないことになってしまう。そういうことはよくないんですよ。

 ですから、そういう意味でいえば、幾ら委員会に出席をしたって、議事録に残らないような議員活動をしているようでは、出てこないのと全く同じなんですね。そういう意味で、ぜひ、議論の大切さ、議事録に残すことの大切さを考え直していただきたいなというふうに思います。

 では次に、質問をしたいんですけれども、国民年金の保険料の問題であります。

 最近、年金の法案がおりてきて、国民の関心事は本当に年金のこと、非常に重大な関心を持っています。ですから、大臣、副大臣、そして政務官は国民年金の保険料を払っておられるのかどうか、質問の通告をしておりますので、ぜひ御答弁をいただきたいと思います。

野沢国務大臣 当法務委員会で年金問題について答えることがふさわしいかどうか、私は、考えますと、ここでプライバシーにわたることを申し上げることは差し控えたいと思います。

実川副大臣 大臣と同じような答弁で申しわけないんですが、プライバシーの問題もありますので、答弁は差し控えたいと思います。

中野大臣政務官 大臣、副大臣と同じでございますが、プライバシーの問題がありますので、答弁は差し控えさせていただきます。

永田委員 大臣に代表して御答弁いただきたいんですが、国民年金の保険料を払うことは国民の義務ですよね。

野沢国務大臣 これは当然、義務でございますが、それも、しかし年金の各種法令の定めに従って払うべきことと考えております。

永田委員 公職の立場にある方が、年金の保険料を払うという国民の義務を果たしているかどうかという質問に対して答えられないというのは、私は全く理解ができないんです。

 プライバシーといいますけれども、公職者のプライバシーというのは一般人のプライバシーとは大分意味合いが違うというふうに私は理解しています。やはり、国民の最低限の義務であるところの年金保険料を払っているかどうか、これを質問して、プライバシーを理由にして答弁を拒否するというのは、私は許されない姿勢だと思います。

 もう一度、国民の義務をちゃんと果たしていますか、そういう観点で質問をしますので、国民の義務であるところの年金保険料の支払い、これはされているかどうか、お三方、御答弁ください。

野沢国務大臣 国民の義務は当然果たしておりますが、年金の詳細については、プライバシーにわたりますので、差し控えさせていただきます。

実川副大臣 今の大臣の答えと全く同じでございます。

中野大臣政務官 今の大臣の答弁と同じでございます。

永田委員 国民の関心事であるこの年金保険料の支払い問題です。これに対して答弁を拒否するというのは、国民に対してどういうふうに説明するんですか。今、内閣が本当に全力をかけてお出しになった法案ですよ。そして、我が野党も全力をかけてこれに対して質疑をしている。しかし、そんな中で、なぜその提出者たる内閣の方々が、払っているかどうか、それを答弁できないのか。国民にわかる形でもう一度説明をしていただきたい。

 加えて、与党理事が、先ほど理事会で反論しろというお話がありましたが、それは違うんですね。理事会で反論をするんではなくて、議事録に残るこの委員会の場であなた方が反論をなさるのが正しい道だというふうに思います。理事会で幾ら議論をしたって、議事録には残らないんですよ。ですから、ぜひ皆様には、この委員会の議事録に残る形で反論をしていただきたいとお願いをした上で、改めて、なぜ年金保険料の支払いが説明できないのか、もう一度国民にわかる形で、プライバシーだけじゃ通らないですよ。それはどういうことなのか、もう一度御答弁ください。

野沢国務大臣 この貴重な法務委員会のこの場をかりてお話しするにふさわしい話題と考えておりません。年金の問題につきましては、お答えを差し控えさせていただきます。

永田委員 そんなことでは済まない話だということは大臣も重々承知だと思いますので、これは厚生労働委員会に多分場が移ると思いますけれども、ちゃんとお答えいただけるように準備をしていただきたいというふうに思います。

 もう一つ、大臣、先日、我が党の山内議員が、裁判官が居眠りをしているのが見られるんじゃないかという質問をしたことがあると思いますが、それは覚えていらっしゃいますか。

野沢国務大臣 覚えております。

永田委員 そのときに、大臣が、それは沈思黙考しているんだというふうに答弁されたのも御記憶されていますか。

野沢国務大臣 私は、そういったことは知らないということをまず申し上げたはずでございます。

 その後で、沈思黙考しているのではないかと思われますということは申し上げました。

永田委員 それは、知らないというのはよくないことなんじゃないでしょうか。

 刑事裁判を一度も傍聴されたことがないということでもありますけれども、裁判官がちゃんとした職務を果たしているかどうかというのを把握しているというのは、やはり法務省の大臣としては大切なことだと思いますが、いかがでしょうか。

野沢国務大臣 私も、法務の仕事は今回初めてなものですから、この点につきましては、また機会を見まして刑事裁判の現場を拝見させていただくつもりでございます。

永田委員 裁判員の制度を導入しようとする。そこで、裁判をつかさどる裁判体の中心メンバーである裁判官たちがどのような職務態度であるということを把握せずに、裁判員制度をつくろうとしているんですか。それは、裁判官、あるいは裁判員をこれからつくるわけですが、裁判員の方々の職場環境、職務環境というものが一体どういうものなのかということを全く想定せずに法案を出しているということになるじゃないですか。

 それは大臣、法案の提出者として恥ずかしい姿勢だというふうに思いませんか。

野沢国務大臣 もうこの問題につきましては、私のみならず、それぞれの立場におきます専門家の皆さん、学識経験者の皆さん、国民の皆様の声を聞いた上での法案提出でございますので、この点についてはいささかも問題ないと考えております。

永田委員 では、靖国参拝問題に移りたいと思います。

 先日、福岡の地裁ですが、靖国神社に小泉総理が参拝をするのは違憲であるというような判断がなされたというふうに考えています。この判断の重みについて、法務大臣の、それは国務大臣たる法務大臣の見解を問いたいと思います。

野沢国務大臣 本件は、小泉総理の平成十三年八月十三日の靖国神社参拝により、精神的損害を受けたとする原告ら二百十一名が、国に対し、国家賠償法一条一項に基づく損害賠償を求めたものと承っておりますが、この判決につきましては、原告らの請求はいずれも棄却ということでございまして、国側の勝訴と受けとめております。

永田委員 その中で、小泉総理の靖国参拝は違憲であるというような表現がなされていると思います。

 この表現の重み、拘束力等々について御答弁いただきたいと思います。これは裁判所になるんですかね、大臣になるんですかね、どちらでも構いません。

野沢国務大臣 この違憲判断ということでございますが、これは、総理はあくまで私人としての立場で行ったものと主張していらっしゃいまして、この主張が認められなかったことは遺憾だと考えております。

永田委員 公人と私人というのは分けることができるんでしょうか。週刊文春の出版差しとめ事案で、田中眞紀子前外務大臣の娘さんが公人であるか私人であるかという議論も激しくなされたところでありますが、私は、公人と私人をうまいこと使い分けるというのはできない話だというふうに思っています。

 私たち政治家も公人です。ですから、今は公人、都合の悪いときは私人というような切りかえというのは、許されないものだと思っています。公人は、二十四時間公人です。ですから、そのような私人であるという主張が認められないのは、これは当然なんですね。

 それに対して遺憾だというふうに思われる大臣の考え方を問いたいと思います。

野沢国務大臣 いかなる個人であろうとも、公人あるいは私人、これは、やはり憲法で認められた基本的権利であると私は考えております。

永田委員 憲法のどの規定によって認められている権利なんですか。

野沢国務大臣 人権条項でございます。

永田委員 よろしければ、委員長の席にある六法全書をとっていただいて、どこの文言なのか、はっきりとお示しをいただきたいと思います。

野沢国務大臣 後ほど検討しまして御連絡します。

永田委員 お待ちいたしておりますが、憲法に、公人と私人を分けることができるのは個人の権利だなんということが書いてあるなんというのは、全くの珍説でありまして、私は聞いたことがありませんので、ぜひ御教示をいただきたいなというふうに思っています。

 一方で、この国賠訴訟の弁護を法務省の検事が担当したというふうに聞いていますが、そのことについて、どうして法務省の検事が弁護することになったのか、教えていただきたいと思います。

野沢国務大臣 これは先ほども、冒頭申しましたように、国家賠償法に基づく訴訟ということでございますので、法務省が窓口になることは当然であると考えております。

永田委員 その弁護の過程の中でどのような論陣を張って、これは国賠には当たらないというふうな弁護活動をされたのか、教えていただきたいと思います。

野沢国務大臣 この詳細は、私、存じておりません。

永田委員 しかし、総理が私人だという主張をみずからしているのに、法務省の役人の方が、もちろんこれは税金から給料をもらっている役人ですよね、その方が弁護するというのはおかしな話だと思うんですが、なぜそのようなことになったのか、教えていただきたいと思います。

野沢国務大臣 これは、総理が神社に参拝する、こういったことは、私的参拝としてこれまでも行われてきたことでございまして、既に慣行として定着しているものと考えております。

永田委員 慣行として定着しているというのは、どういうような事例を見てそのように判断されているか、教えてください。

野沢国務大臣 例えば、お正月にお伊勢参りに行く、こういったことも一つの例でございます。

永田委員 私は靖国の話をしているんであって、靖国に参拝することが慣例として定着しているということは、それはあれですか、慣例として定着するということは、ほとんど大多数の内閣総理大臣がそれをやるということですか。

野沢国務大臣 詳しく申しますと、昭和五十三年十月十七日の参議院内閣委員会におきまして、「神社、仏閣等への参拝は、宗教心のあらわれとして、すぐれて私的な性格を有するものであり、特に、政府の行事として参拝を実施することが決定されるとか、玉ぐし料等の経費を公費で支出するなどの事情がない限り、それは私人の立場での行動と見るべきものと考えられる。」との内閣総理大臣等の靖国神社参拝についての政府の見解が出されております。

 国は、この政府見解に基づいて、本件参拝を私的参拝であると位置づけておるところでございます。

永田委員 答弁がすれ違っているんですけれども、私は、どうしてこれが慣例として定着したというふうに判断されたのかという話をしているんであって、政府見解に従ってやっているという答弁をしても、全く納得はできないわけですね。

 そして加えて、政府見解に従ってやるというのは、それは単なる独善なんですね。政府が政府見解に従って行動するのは、これは当たり前の話ですよ。それを周りの人が判断をする。例えば、国民の代表である国会議員が、それはいいことなの、悪いことなのというふうに議論をし、そして判断をする。あるいは裁判所が、これは法律に照らし合わせていいことか悪いことかという判断をする。そういうものに耳を傾けながら、みずからの行動を律していくことが求められるのであって、自分は正しいと思っているから正しいんだというような、そういう姿勢というのは、単なる独善、ひとりよがりの世界なんですね。

 これは、内閣全体の姿勢に見られるところであります。

 私は構造改革が進んでいないとは思っておりませんという総理の繰り返しの答弁、これは、自分で自分は正しいと思っているということを表明しているにすぎなくて、それは単なる独善なんですね。

 あるいは、最近のイラクにおける人質三人の誘拐事件についても、これは、その民間人三人の方々がイラクの国民のためによいことをやっているんだ、だからそんな人を誘拐するのは筋違いだという政府の見解があります。

 あるいは、総理は、自衛隊はいいことをやっているんだ、イラクの国民のためにやっているんだということを主張している。そして官房長官は、撤退する理由は見当たらないという発言をしている。

 しかし、そうじゃないんですよ。我々は善意でやっている、いいことをやっているつもりだというふうに思っても、現地のイラク人の人たちは、そうは思わない可能性もあるわけですね。そういう誤解をされた場合に、誤解をされたのは、それは誤解をする方が悪いんだという姿勢というのは、これは単なる独善であって、そういう姿勢で外交をやられたら、全くたまらないわけですね。

 ですから、ぜひ、国民の声、あるいはイラク人の声、そして裁判所の声にも耳を傾けながら政治をやっていきたいなというふうにお願いをしまして、私からの質問、これにて時間ですから切りたいと思います。

 大臣、副大臣、政務官、本当に耳ざわりなこともあったかもしれませんけれども、やはり、国民に対してちゃんと説明をするということは大事なことなんです。ぜひ、最後に、国民年金の保険料の支払いについて事実関係をはっきりと御説明いただきたいと、私からの気持ちを繰り返させていただきまして、質問を終わりたいと思います。

 ありがとうございました。

柳本委員長 松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。

 長時間の御審議、大変御苦労さまでございます。永田さんみたいにぺらぺらとなかなか上手にはしゃべれないかもしれませんが、よろしくお願いをしたいと思います。

 私の方からは、犯罪被害者に対する支援、この問題について御質問をさせていただきたいと思います。

 近時、犯罪被害者をしっかり援助していかなきゃならない、どちらかというと、刑事被告人の方の弁護というのが非常に強調されてきた向きもございますが、一方で犯罪の被害者がそのまま放置されていいということにはならないわけでありまして、次第に犯罪被害者に対する支援というものを強めていこう、こういうふうになってきているのではないだろうか、このように思います。

 ここに平成十五年版の犯罪白書がございますが、ここにも犯罪被害者の配慮というような一項目が設けられておりまして、「第二章 刑事司法における被害者への配慮」ということで取り上げられるに至っております。従来、こういうようなことは犯罪白書の中になかったのではないか。近時、こういうような形でも取り上げられてきているわけでございます。

 ところが、全体として犯罪被害者をどういうふうに支援していくかという、国としての全体的な、総合的な仕組みというものが必ずしもうまくかみ合っていないのではないかな、こういう気もしております。

 実は、警察庁の方にお願いしてパンフレットをいただきましたら、「警察による犯罪被害者支援」ということで、これは専らいわゆる犯給法のことがこのパンフレットではうたわれております。そして、他方、検察庁の方からパンフレットをいただきましたら、「犯罪被害者の方々へ 被害者保護と支援のための制度について」ということでうたってあるんですが、しかし肝心な犯給法については何ら触れていない。

 それは、犯給法は警察庁の所管で、検察庁の方は違うからといえばそれまでかもしれませんが、被害者から見ると、警察庁なのかそれとも検察庁なのかという区別というのは、なかなかそう簡単につくものでもないだろうというふうに思います。

 この辺の統一的な対策というのをやはりとっていかなきゃいけないだろう、こういうふうに私自身は考えておりますが、この点についての大臣の御所見をいただければと思います。

野沢国務大臣 確かに、犯罪被害者の皆様に対する救援措置、支援措置、これが十分でないということは私どもも重々感じておるところでございますが、これまで、今委員御指摘のような救済措置にかかわる警察庁あるいは検察庁の手当てにつきましては、この制度を逐次改善しながら取り組んできているところでございまして、これからも今後のこの新しい裁判制度の導入等に伴いまして、一層この分野、被害者の救済の分野についてもこれから意を用いていかなければならないものと思っておるところでございます。

 委員の積極的なまた御発言、御提言をお待ちしているわけでございます。

松野(信)委員 それでは、具体的な点について質問をさせていただきたいと思いますが、検察庁の方の被害者支援ということでは、このパンフレットにもありますように、被害者支援員制度というのが設けられております。他方、警察庁の方では、指定被害者支援要員制度というのが設けられておるようでございます。

 それで、まず検察庁の方の犯罪被害者支援員度というものの趣旨と、実際どういうような方が被害者の支援に当たっているのか、具体的な実績がどういうものか、この辺について教えていただければと思います。

樋渡政府参考人 刑事手続におきまして犯罪被害者の方々の保護を図りますことは、刑事司法に課せられた重要な課題でございまして、検察庁としましても、被害者等通知制度を実施するなど、被害者の方々に一層配慮するよう努めているところでございます。

 もっとも、被害者に対する支援のあり方は多岐にわたりまして、そのすべてを検察官または検察事務官に担当させることは困難な面がございます。

 そこで、犯罪被害者保護の一環としまして、各地方検察庁に被害者支援員を配置し、被害者の方々への支援業務に従事させ、被害者の方々に対し、よりきめ細やかな配慮を行うことを目的といたしまして、被害者支援員制度を実施することとしたものでございます。

 その被害者支援員にどのような者を充てているかということでございますが、被害者の方々に対し、犯罪被害に関する相談の対応、捜査、公判に関する各種情報の提供などの業務を行う必要がございますことから、検察の業務に精通している副検事や検察事務官などの検察庁職員であった者が被害者支援員になっております。

 そして、その具体的な活動といたしましては、被害者の方々からのさまざまな相談への対応、捜査、公判に関する各種情報の提供、法廷への案内、付き添い、刑事確定訴訟記録閲覧等の支援、さらに被害者支援機関、団体との連絡調整等の各種被害者支援業務に従事しております。

 それで、最後の御質問がこれまでの活動の実績ということでございますが、特に毎年統計をとっているわけではございませんが、たまたま平成十四年一年間でどのような活動をしたかのアンケートをとりましたところ、来庁された被害者の方々に対して支援を行った件数が全国で約三千件余り、電話やファクシミリによる対応を合わせますと一万一千件以上の支援活動を行っております。

松野(信)委員 ありがとうございます。

 それに似たようなのに警察庁でやっているところの指定被害者支援要員制度というものがあるようですが、これは、今の検察庁がやっている被害者支援員制度と具体的にどういうふうに違うのか、あるいはその実績がどういうふうになっているのか、おわかりでしたらお答えいただきたいと思います。

安藤政府参考人 お答えします。

 犯罪の被害者、特に凶悪事件や交通死亡事故等の被害者や遺族は、犯罪による直接的な被害だけでなく、精神的にも大きな打撃を受けております。こうした被害者に対しまして最初に接するのが警察でありまして、そこでの対応いかんが被害者の以後の立ち直りに大きくかかわっておりますことから、警察では、現在、組織を挙げて被害者支援に取り組んでおります。

 その一環として、事件発生直後から被害者と接し、事件捜査の上でも被害者と密接に関係を持つ警察署におきましては、捜査員とは別の被害者支援担当者をあらかじめ指定しまして、精神的被害が大きい事件の被害者に対しまして事件発生直後から付き添い、被害者のニーズにこたえた支援を推進します指定被害者支援要員の導入を推進しているところでありまして、具体的な活動内容としましては、被害者に対します情報提供とか、事情聴取等の立ち会い、あるいは病院の手配、送迎、家族への連絡、さらには被害者からの相談への対応などの支援を行うこととしております。

 こうした支援要員制度は、現在千二百六十九署、これは全警察署にほぼ該当しますが、その中で、全体で数としては二万一千以上の者が担当して、指定されているということでございます。

松野(信)委員 それぞれ似たような制度になっているのかなというふうに思います。

 それでは次に、被害者の人の刑事訴訟での意見陳述の制度、これは刑事訴訟法の改正で取り入れられているわけですけれども、これがどの程度実績を上げているのか、この点について教えていただければと思います。

大野最高裁判所長官代理者 この被害者の意見陳述制度が施行されましたのは、平成十二年の十一月からということでございます。

 十二年の十一月からことしの二月までの間に、意見陳述を行いました被害者等の数は合計で千四百四十三名、また意見陳述にかえて意見を記載した書面を提出することとした被害者等は三百四十一名となっております。また、年度別に見てみますと、意見陳述を行った被害者の数は、平成十三年には二百三十二名、平成十四年には四百五十七名、平成十五年には五百八十五名、また、意見を記載した書面を提出いたしました被害者等の数も、平成十三年には五十八人、十四年には百十人、平成十五年には百四十四人というふうに年々増加しているという状況にあります。

松野(信)委員 この被害者の意見陳述の制度というのは、基本的には被害者本人が陳述をするというような、法律の条文上はそういうふうに読めるんですが、しかし被害者の方もさまざま、いろいろな精神的な負担もあるわけですので、場合によっては弁護士がかわりにその被害者の代理人として意見陳述をするということも、これは十分考えてしかるべきではないかというふうに思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

樋渡政府参考人 意見陳述の制度は、犯罪被害の当事者でございます被害者やその遺族自身に被害に関する心情その他の被告事件に関するみずからの意見を直接陳述させようとするものでございまして、その趣旨に照らせば、本人が直接公判廷で陳述することが適当でありまして、その性質上、代理のように、本人以外の者がかわって行うことに親しまない面があるものと思います。

 また、法廷における陳述についての精神的な負担を軽減するため、証人の場合と同様に、付き添い、遮へいまたはビデオリンクの措置を講ずることができるとされております上、審理の状況その他の事情を考慮いたしまして相当でないと認めるときは、意見の陳述にかえて意見を記載した書面を提出させることができるとされておりますことから、弁護士による代理を認めなくとも十分にその意見を陳述することができると考えられます。

松野(信)委員 意見として承っておきますが、私の方は、やはりさまざまな事情を抱えている被害者の方もおられる。ビデオリンクなどの話もありますけれども、これは余りむやみに使うというのはいかがなものかなという気もしておりますので、ぜひこれは弁護士が代理人として被害者にかわってその思いを訴えるというような機会、制度、こういうのをやはり認めていくべきではなかろうか。これは私の意見を申し上げさせていただきます。

 それから、刑事事件の中でもいわゆる刑事和解、これが近時認められているわけですけれども、この実績はどの程度あるのか、これについて明らかにしていただければと思います。

大野最高裁判所長官代理者 この制度も平成十二年の十一月から施行されております。

 被告人と被害者等の間における民事上の争いについて成立した合意の和解調書への記載がなされましたのは、平成十六年の二月までの間に、合計で百七十九件となっております。平成十三年に五十五件、十四年に六十件、平成十五年には五十四件というふうになっております。

松野(信)委員 次に、この犯罪被害者の人たちに対する支援というものは、近時、いわゆる民間のNPOを初めとする民間団体がかなり活発にされてきているというふうに私も認識をしております。具体的に、どの程度の団体がこの犯罪被害者支援活動を行って、警察あるいは検察庁との協力がどういうふうになされているのか、概要をお話しいただければと思います。

    〔委員長退席、漆原委員長代理着席〕

安藤政府参考人 お答えします。

 民間被害者支援団体の設立が近年各地で進んでおりまして、現在、全国で三十五団体が設立されております。これらの支援団体は、警察などの関係機関との連携を図りながら、被害者からの電話相談や面接相談、あるいは病院や裁判所への付き添いとか被害者支援に関する広報啓発、さらにはボランティア相談員の育成及び研修などを行っております。

 そして、これらの民間団体のうち、犯罪被害等の早期の軽減に資する事業を適正にかつ確実に行うことができると認められる団体としまして、都道府県公安委員会から指定される、いわゆる犯罪被害者等早期援助団体につきましては、全国で東京都、茨城等、五団体が指定されております。

 以上でございます。

松野(信)委員 こういうような犯罪被害者等早期援助団体に指定されると、税制上の優遇措置、この辺は実際どういうふうになっているでしょうか。

安藤政府参考人 お尋ねの早期援助団体に対します税制上の優遇措置に関しましては、指定された民法法人が、寄附金控除等の対象となる特定公益増進法人及び相続財産を贈与した場合に相続税が非課税となります法人の範囲に加えられております。ちなみに、これまでこうした特定公益増進法人の認定を受けているのは、社団法人被害者支援都民センター一団体でございます。

松野(信)委員 残された時間につきまして、犯罪被害者給付金、これに関する御質問をさせていただきたいと思いますが、その前に、この犯罪白書の中にもうたわれているんですが、証人等、刑事事件の証人とか参考人が、その供述、出頭に関して他人から身体、生命に害を加えられたというようなことの場合に、証人等の被害についての給付に関する法律ということで、国が一定の給付を行うというような規定があるようです。この実態が現在どういう状況になっているか、教えていただければと思います。

樋渡政府参考人 これまでの実績ということで申し上げますと、そうはございませんでして、昭和三十六年に療養給付が二件、休業給付が一件、昭和三十九年に遺族給付が一件、葬祭給付が一件、昭和四十四年に療養給付が一件、休業給付が一件、昭和五十八年に療養給付が一件という実績でございます。

松野(信)委員 そうすると、この平成十五年版の犯罪白書に割合大きく証人等の被害についての給付に関する法律で国が給付を行うというふうになっていますが、最近そうすると二十年ぐらいは余りこれの適用がないということでよろしいんですか。

樋渡政府参考人 実績としては、おっしゃるとおりでございます。

松野(信)委員 それでは次に、犯罪被害者給付金の点です。

 これについては、私ども民主党の方は、せめて給付額というものを自賠責並みに引き上げるべきではないか、こういうような意見を持って、私もそういう考えでございます。

 というのは、例えば、交通事故でひき逃げに遭った、あるいは無保険車にはねられて死亡した、こういう場合には国が全額出して、死亡の場合は三千万出るようになっているわけですね。ところが、犯給法の場合はせいぜい千数百万円のレベルしか出てこない、こういう状況であります。

 一方では、自賠責の中でも、特にひき逃げあるいは無保険者というようなものは、ある意味では過失的な形ですね、過失によって亡くなられた。一方の犯給金の場合は、これは犯罪行為、まさに故意で殺害されたということで、考え方から見るならば、むしろ故意で殺害された人の方が大変気の毒だ、こういうふうにも思えるわけです。

 例えば、生命保険などを見ましても、犯罪で殺されたというような場合には、大体生命保険はおりないといいます。一方、過失の場合にはおりるというような形になっていて、この点から見ても、犯給金については、故意で殺害された人には余り有利でない、こういうふうになっているわけです。

 こういうような実態について、大臣、率直に御所見をいただけますか。

    〔漆原委員長代理退席、委員長着席〕

野沢国務大臣 確かに委員おっしゃいますように、交通事故と犯罪の被害者で大変な給付に格差があるということは、事実あろうかと思います。

 これらの対応につきましては、今後の御議論の中で、どのような姿が最も適切であるか、また救済として効果があるのか、各方面の御議論をちょうだいしながら、またそれぞれのお立場の皆さん方の将来得べかりし利益その他といった算定方法もございますので、そういった客観的なルールも取り込みながら研究すべき課題と考えております。

松野(信)委員 今は自賠責との比較を申し上げて、犯給金の方が少ないのではないか、こういう御指摘をさせていただいたんですが、どうもこの犯給金の趣旨というものは、損害の一部補てんの要素を含む見舞金だ、こういうふうな性格でとらえられているようであります。

 逆に言うならば、見舞金だから安くても仕方がないのではないか、こういうような側面がいささかあるのではないかというふうに思いますが、率直に言ってこの点はどうでしょうか。

野沢国務大臣 犯罪被害者の補償については、本来これは加害者に責任を持たせるのが一義的に重要かと思いますが、その加害者が賠償能力あるいは支払い能力がない場合にさあどうするか、こういう問題だろうと思います。その意味で、国がどこまで責任を持つべきか、あるいは持てるのか、こういったこともあわせまして、さらなる検討が必要かと思っております。

松野(信)委員 制度論から見ますと、見舞金だというふうに言うのであれば、ほかからお金が補てんされたかどうかにかかわりなく一定の金額、亡くなったときには幾ら、どの程度の障害のときには幾らというふうに決めるのが本来の見舞金だろうというふうに思います。

 しかし、実際、犯給金は、給付される金額の算定に当たっては被害者の人の収入を一つ参考にもしている、そして例えば労災保険などほかの給付があればその分は減額される、こういうような仕組みになっているわけで、どうもこの仕組みから見ても単純な見舞金ではない、このように言わざるを得ないかと思います。

 そうだとすると、被害者の損害を補てんするという、補てんあるいは補償的な側面というのが犯罪給付金の性格としてはかなり強いのではないか、このように私は理解しておりますが、いかがでしょうか。

安藤政府参考人 お答えします。

 若干経緯を申し上げますと、この犯罪被害給付制度につきましては、実は昭和四十九年に発生しました過激派による三菱重工ビル爆発事件の発生を契機としまして、当時は労災等何らの救済を受けられないまま放置されているお気の毒な被害者、遺族に対する支援の必要性が認識されまして、昭和五十五年でございますが、制度の性格、あり方などにつきましてさまざまな議論を経まして、今先生御指摘のように、現在のその性格としましては、被害者等に対し社会全体として一定の配慮を示そうとする趣旨で支給される見舞金的性格を有する制度として創設されて、今日までそのような制度として運用してまいっております。

松野(信)委員 見舞金であれば、もう出しっ放しで、犯人、加害者に対する求償というのは出てこないはずなんですね。

 ところが、実際、犯給法では、加害者、犯人に対する求償は国ができるようになっているんです、法律上。というと、どうも、見舞金的な性格だというふうにおっしゃるけれども、実際の法の仕組みは必ずしもそうではない。

 そうすると、国が立てかえて被害者に払っているということになるので、国が犯人、加害者に対する立てかえ、これは実際のところどういうふうにされているんでしょうか。

安藤政府参考人 お答えします。

 確かに犯給法の制度におきましても、加害者に対する求償という制度はありますが、実際、私が承知している限り、加害者に対して求償した事例はございませんと思います。

松野(信)委員 恐らく犯人の方が例えば無職、無収入というような形で、現実に国が求償するというのはなかなか困難な場合もそれはあろうかと思います。

 しかし、本来は犯人、加害者が負担すべきもので、それをある意味では国が被害者に対する立てかえ的なことでやっているわけですから、これはやはり徹底して、加害者から求償できる、取り上げることができるのであれば、法律に定めている以上、加害者に対する求償権、これを実施していくべきだ、こういうふうに私は意見を申し上げたいと思います。

 時間が参りましたので、最後に、先ほど申し上げたように、犯罪の被害者に対するいろいろな支援というのも、検察庁は検察庁でやる、警察庁は警察庁でやる、またどうも厚労省は厚労省でやるというような形で、いささかばらばらな形で被害者に対する支援というのがなされている。

 ところが、被害者というのは一人いるわけですから、あっちに行ったりこっちに行ったり行かなきゃならないというのもいささかどうかなと。むしろやはり総合的な観点に立って犯罪被害者に対する基本的な姿勢を示す、そういう意味でも、犯罪被害者基本法、これをぜひ制定する方向で検討していただきたい、このように思っております。

 私ども民主党の方、私も提出者の一人になっておりますが、去る四月十二日には犯罪被害者基本法案も提出させていただきまして、この中には、支援の基本計画をしっかり立てる、そして対策審議会あたりもしっかり設けるということで総合的に対応すべきだ、こういうふうに提案もさせていただいておりますので、ぜひ、これもあわせてまたいずれ審議させていただくことになるかと思いますが、よろしくお願いしたいと思います。

 ありがとうございました。

柳本委員長 次回は、来る十六日金曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時散会


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