衆議院

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第20号 平成16年4月27日(火曜日)

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平成十六年四月二十七日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    佐藤  勉君

      桜井 郁三君    中野  清君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    泉  房穂君

      稲見 哲男君    枝野 幸男君

      鎌田さゆり君    河村たかし君

      小林千代美君    小宮山洋子君

      鈴木 克昌君    辻   惠君

      中井  洽君    松野 信夫君

      山花 郁夫君    上田  勇君

      高木美智代君    富田 茂之君

      川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局総務局長            中山 隆夫君

   政府参考人       

   (司法制度改革推進本部事務局長)         山崎  潮君

   政府参考人       

   (司法制度改革推進本部事務局次長)        松川 忠晴君

   政府参考人       

   (法務省民事局長)    房村 精一君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十七日

 辞任         補欠選任

  加藤 公一君     山花 郁夫君

  河村たかし君     鈴木 克昌君

  辻   惠君     稲見 哲男君

  富田 茂之君     高木美智代君

同日

 辞任         補欠選任

  稲見 哲男君     辻   惠君

  鈴木 克昌君     河村たかし君

  山花 郁夫君     加藤 公一君

  高木美智代君     富田 茂之君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 総合法律支援法案(内閣提出第六九号)

 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出第六六号)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、総合法律支援法案を議題といたします。

 本案につきましては、去る二十三日質疑を終了いたしております。

 この際、本案に対し、塩崎恭久君外八名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を求めます。泉房穂君。

    ―――――――――――――

 総合法律支援法案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

泉(房)委員 ただいま議題となりました修正案について、提出者を代表して、その主な趣旨及び概要を御説明いたします。

 第一は、総合法律支援の実施及び体制の確保について、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供に当たり、高齢者及び障害者に特段の配慮が必要であることを踏まえ、連携の確保強化を図る対象として、「高齢者又は障害者の援助を行う団体」を加えるものであります。

 第二は、支援センターの審査委員会及び法律事務取扱規程について、規定の趣旨を一層明確化するため、「当該契約に基づき契約弁護士等に対してとる措置」について記載された「(懲戒を含む。)」との文言を削るものであります。

 第三は、支援センターの業務の範囲について、特に被害者等に対する適切な弁護士によるサービスの提供等が重要であることを踏まえ、被害者等の援助に関する情報提供等の業務につき、「この場合においては、被害者等の援助に精通している弁護士を紹介する等被害者等の援助が実効的に行われることを確保するために必要な措置を講ずるよう配慮すること。」との文言を加えるとともに、連携の確保強化の業務につき、この対象として、「高齢者又は障害者の援助を行う団体」を加えるものであります。

 第四は、支援センターの義務等について、「支援センターは、前項に規定する者が高齢者及び障害者等法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供を求めることに困難がある者である場合には、前条に規定する業務が利用しやすいものとなるように特別の配慮をしなければならない。」との条項を加えるものであります。

 以上が本修正案の趣旨及び概要であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより本案及び修正案を一括して討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、総合法律支援法案及びこれに対する修正案について採決をいたします。

 まず、塩崎恭久君外八名提出の修正案について採決いたします。

 本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本修正案は可決いたしました。

 次に、ただいま可決いたしました修正部分を除いて原案について採決いたします。

 これに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、塩崎恭久君外八名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。塩崎恭久君。

塩崎委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    総合法律支援法案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たっては、次の事項について特段の配慮をすべきである。

 一 日本司法支援センターが国民の多様な法的ニーズに迅速かつ適正に対応することができるよう、十全の財政措置を含む必要な措置を講ずるよう努めること。

 二 日本司法支援センターが行う業務等に関しては、国民の法的ニーズに応えられるよう常に見直しを行うこと。

 三 日本司法支援センターが、「弁護士、弁護士法人及び司法書士その他の隣接法律専門職者」の司法過疎を解消するための対策を積極的に進め、また、利用者の利便性を考慮した業務運営ができるよう配慮すること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 塩崎恭久君外八名提出の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。野沢法務大臣。

野沢国務大臣 ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

柳本委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

柳本委員長 次に、内閣提出、行政事件訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。野沢法務大臣。

    ―――――――――――――

 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

野沢国務大臣 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。

 現行の行政事件訴訟法は、昭和三十七年に制定されたものでありますが、近年においては、行政需要の増大と行政作用の多様化に伴い、行政による国民の利益調整が一層複雑多様化するなどの変化が生じており、このような中で、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る必要性が指摘されております。

 この法律案は、このような近年における変化に対応し、行政事件訴訟について、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図り、審理の充実及び促進を図るとともに、これをより利用しやすく、わかりやすくするための仕組みを整備し、さらに本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ること等を目的とするものであります。

 以下、法律案の内容につきまして、その概要を御説明申し上げます。

 第一に、行政事件訴訟による国民の権利利益の救済範囲の拡大を図ることとしております。まず、取り消し訴訟の原告適格についての適切な判断が担保されるようにするため、処分または裁決の相手方以外の第三者について原告適格の要件である法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分または裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとするなどの事項を定めることとしております。また、救済方法を拡充するため、抗告訴訟の新たな訴訟類型として、義務づけの訴え及び差しとめの訴えを定め、これらの訴えについてその要件等を規定することとしております。さらに、当事者訴訟としての確認訴訟の活用を図るため、当事者訴訟の定義の中に、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」を例示として加えることとしております。

 第二に、審理の充実及び促進を図るため、新たに、裁判所が、釈明処分として、行政庁に対し、裁決の記録または処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができる制度を設けることとしております。

 第三に、行政事件訴訟をより利用しやすく、わかりやすくするための仕組みを整備することとしております。具体的には、まず、抗告訴訟の被告適格者を行政庁から行政庁が所属する国または公共団体に改め、被告適格の簡明化を図ることとしております。また、国を被告とする抗告訴訟について、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができることとして管轄裁判所を拡大するとともに、取り消し訴訟について、処分または裁決があったことを知った日から三カ月の出訴期間を六カ月に延長することとしております。さらに、取り消し訴訟を提起することができる処分または裁決をする場合には、当該処分または裁決に係る取り消し訴訟の出訴期間等を書面で教示しなければならないものとしております。

 第四に、本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ることとしております。まず、執行停止の要件については、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質が適切に考慮されるようにするため、「回復の困難な損害」の要件を「重大な損害」に改めるとともに、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっての考慮事項を定めることとしております。また、新たに、仮の義務づけ及び仮の差しとめの制度を設けることとしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として司法制度改革推進本部事務局長山崎潮君、司法制度改革推進本部事務局次長松川忠晴君及び法務省民事局長房村精一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局中山総務局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水野賢一君。

水野委員 おはようございます。自由民主党の水野賢一でございます。

 ただいま提案理由説明がございました行政事件訴訟法についてお伺いをしたいと思います。

 この行政事件訴訟法は、昭和三十七年に制定をされましたので、それ以来の大幅改正、全面改正、四十数年ぶりということになるわけでしょうけれども、改正をするということは、つまり、現行法に何らかの改善すべき余地がある、見直すべき余地があるということでしょうし、従来から、この行政事件訴訟法に対しては、訴えるときに使い勝手が悪い、訴えを起こしにくい、そういうような批判というのがあったと思うわけであります。

 そこで、私は最初の質問者ですので、概観的に全体をお伺いしていきたいと思いますけれども、まず最初の質問といたしまして、この行政事件訴訟法について、今回、改正案を提出した趣旨は何か、その辺をお伺いしたいと思います。

実川副大臣 御指摘のように、昭和三十七年に制定されたわけでありますけれども、近年におきましては、行政需要の増大と行政作用の多様化に伴いまして、行政によります国民の利益調整が一層複雑多様化するなどの変化が生じております。このような中で、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る必要性が指摘されております。

 今回の行政事件訴訟法の改正では、このような近年における変化に対応いたしまして、行政事件訴訟につきまして国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図り、審理の充実及び促進を図るとともに、これをより利用しやすく、また、わかりやすくするための仕組みを整備し、さらに、本案判決前におきます仮の救済の制度の整備を図ることを目的とするものでございます。

水野委員 行政事件訴訟法というのは、もちろん、関係者にとっては非常になじみのある法律ではあるんでしょうけれども、実は、一般の国民にとっては必ずしもそうではないという面もあるかもしれないと思うわけであります。諸外国に比べても、日本の場合、行政訴訟の提訴の数というのが少ないというふうにも言われておりますし、そういう意味では、この法律の目的とか、そういうことを改めて国民に周知徹底する必要もあると思うわけですね。行政訴訟の提訴件数が少ないというのが、日本の行政が瑕疵がなくて完璧であって、だからこそ少ないというのであればこれはいいんですけれども、必ずしもそういうふうにも言いがたいだろう。

 そういう中で、この法律の、行政事件訴訟法の目的は何か、そして、どういうことを規定している法律なのかということを改めてお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 行政事件訴訟法の目的ということでございますが、これは、行政というのは、公益の実現のために処分その他の公権力の行使などを行うという点において、私人の行為とは相当異なる性質がございます。そういうことから、行政をめぐる紛争をより適切に解決するために、民事訴訟とは異なる扱いをする必要がある場面が相当ございます。

 そういうことから、行政事件訴訟に関する基本法としてこの行政事件訴訟法を定めまして、行政事件の類型に応じてそれぞれ適切な定めを行う、例えば、訴訟の当事者となることができる資格その他の訴訟要件、あるいは裁判所の管轄、出訴期間、証拠調べの方法、執行停止、こういった訴訟上の各要件、手続等につきまして、行政事件の特質に応じた定め方をしているということでございます。

水野委員 行政訴訟という場合、一般的に思い浮かべるとすると、典型的なものとしては、行政による許認可、例えば、公共事業に対して、では、こういう工事に対しての、許認可に対しての取り消しを求めるということもあるでしょうし、はたまた、課税処分に対しての取り消しを求める、そういうようなことも典型的なものとしてあると思います。また、我々議員などに関係の深いものとしては、一票の格差をめぐる問題、これも行政訴訟の一つですよね。

 さまざまな行政訴訟があると思うんですけれども、その中でどういう訴訟類型があるのかということをお伺いすると同時に、この行政事件訴訟法がなぜこのような訴訟類型を規定しているのか、それをお聞きしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、行政事件訴訟の類型、幾つかに分かれております。

 大きく分けますと、まず、国民の権利または法律上の利益の保護を図る、そういう目的のために認められているものとして、ただいま委員の御指摘になりました処分の取り消し、こういうようなもの、これを一般に、行政庁の公権力の行使に対する不服の訴訟である抗告訴訟と言っておりますが、これが一つの類型でございます。

 それから、そういう公権力の行使に対する不服の訴訟以外の公法上の法律関係に関する当事者訴訟、これも認められております。

 それと、もう一つ別の類型といたしましては、法規に適合しない行為の是正、あるいは行政機関相互間の紛争解決を目的とするというものといたしまして、法規に適合しない行為の是正を求めるものとして民衆訴訟、それから、行政機関相互間の紛争解決を目的とするものとして機関訴訟。合計四つの訴訟類型が定められております。

 抗告訴訟につきましては、さらに細かく、取り消し訴訟、それから無効等確認訴訟、それから不作為の違法確認訴訟というぐあいに、求める裁判の内容に応じた類型がさらに細分化されておりますが、このような訴訟類型を規定いたしましたのは、訴訟を類型化することによりまして、それぞれの訴訟類型ごとに適用される法規、規律等を明確にするためでございます。

水野委員 今、類型について御説明がございましたけれども、その中の抗告訴訟の中の取り消し訴訟、これがやはり、今までの行政訴訟の中では最も典型的なものであり、また、マスコミなどで大きく扱われたりするようなものもこういうものが多いわけだと思うんです。もちろん、扱われないようなものでも、たくさんこういうものがあると思うんですけれども。

 この取り消し訴訟という類型はどのような訴訟なのかということ、また、この訴訟の類型を設けている意義についてお伺いをしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、現在の行政訴訟の中でやはり中核的な位置を占めておりますのは抗告訴訟、しかもその中の取り消し訴訟でございます。

 これは、行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為、先ほど例に挙げられました例えば課税処分、こういうものが典型でございますが、そういった処分そのものの取り消しを求めるというのが処分の取り消しの訴えでございます。このほか、取り消し訴訟としては、行政庁が行った処分に対してさらに不服を申し立てて審査請求をする、こういうような場合がございますが、そういった裁決そのものの取り消しを求める裁決の取り消しというものもございます。

 このような取り消し訴訟を一つの類型として設けておりますのは、やはり、典型的な公権力の行使に当たる行為である行政処分を取り消すことによって国民の権利利益の救済を図るということを法律上明確にしているということでございます。

水野委員 まさにその取り消し訴訟についてでありますけれども、現行法の第三条にはこうあるわけですね。「行政庁の処分その他公権力の行使」、これが取り消し訴訟の対象だというふうにあるわけですけれども、この対象については、広げるべきじゃないかというような考え方もあるわけですよね。すなわち、直接的なそういう行政の処分だけではなくて、もしくは計画の段階からとか、はたまた要綱だとか行政指導だとか、そうしたものにも対象を広げていくべきじゃないか、その方が、行政による違法行為があったときその芽を早く摘めるんじゃないか、こういう指摘というのは当然あり得るわけですよね。

 そこで、改めて、この三条の「行政庁の処分その他公権力の行使」というこの部分についてお伺いをしたいんですけれども、この「処分その他公権力の行使」とは何であるのか、また、今回の改正によってこの範囲というものはどういうふうに変わるのか、そこをお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘の「処分その他公権力の行使」、これの意義につきましては、判例によりまして、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているもの」をいう、こういうぐあいにされております。先ほどの課税処分のようなものが典型でございますが。この「処分その他公権力の行使」の意義につきましては、今回の改正によっては範囲は変わらないということであろうと思っています。

水野委員 この取り消し訴訟の原告適格、つまり裁判を起こす資格ということでいいますと、現在の行政事件訴訟法の第九条だと、「法律上の利益を有する者」にこの原告適格を限っているわけですよね。そうすると、つまり、この部分によって門前払いをされてしまう人が多いんじゃないかというような声というのがよくあるわけであります。つまり、実質的な裁判での議論に入る前にまさに門前払いをしてしまって、これが国民の裁判を受ける権利とか、そういうようなものを阻害しているんではないか、もしくは使い勝手が非常に悪いんではないかというような議論というのがあるわけですけれども、この文言、つまり「法律上の利益を有する者」という文言は、今回の法改正によっても温存されているわけですよね。九条の一項だと思うわけですけれども、この部分は変わらないわけです。

 ですから、この文言について改めて着目をしてみたいと思うんですけれども、法律上の利益を有する者に限り、取り消し訴訟を提起することができると規定している現行のこの規定の趣旨をお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 先ほども申し上げましたように、取り消し訴訟の制度を設けている趣旨でございますが、これは、違法な処分によりまして権利利益を侵害されている者、それを救済するために違法な処分その他の公権力の行使を取り消す、こういうことでございますので、このような訴訟を起こす利益を有する者というのは、すなわち、そういう取り消し訴訟を提起するに当たって法律上の利益を有する者であるということになりますし、また、制度の目的がそういうことでございますから、これを利用する者はそういった者に限るということがこの法律の趣旨でございます。

水野委員 今回の改正でこの部分が、九条の二項によって、取り消し訴訟の原告適格の判断について考慮事項を定める、そういうような改正があるわけですね。これは、原告適格を実質広く認めることによって、そういう意味では、国民が行政訴訟というものを受けやすくしていく、また、門前払いというような形でのそれを減らしていく、そういうようなねらいがあると思うわけですけれども、この考慮事項を定めるという今回の改正の趣旨、この辺をお伺いしたいと思います。

実川副大臣 考慮事項を定める今回の改正の趣旨ということでございますけれども、個々の具体的な事案におきましては、法律上の利益の有無につきまして、当該処分の根拠法令の文言のみによることではなくて、根拠法令の趣旨及び目的並びに当該処分におきまして考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮することとしております。

 また、根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たりましては、これと目的を共通にします関係法令の趣旨及び目的をも参酌し、また、当該処分におきまして考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するに当たりましては、当該処分が当該法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質等をも勘案して、適切に判断されることを確保しようとするものでございます。

 これによりまして、原告適格が実質的に広く認められることになるものと考えております。

水野委員 この法案では、新たに義務づけ訴訟とか差しとめ訴訟についても法定をしているわけですよね。今まで、行政訴訟というと取り消し訴訟中心だったんじゃないかというふうに、先ほどの話もありましたけれども、抗告訴訟の中の取り消し訴訟というのがとりわけ中心だったというふうに思われるわけですけれども、義務づけ訴訟とか差しとめ訴訟というのも一定の場合には可能だというふうに明文化をされた、これは、原告を救済するという点で私は非常に意義深いのではないかというふうに思います。

 従来、これは今回は非常に明文化をされたわけですけれども、従来の法律の中の、現行法の訴訟類型の中では、義務づけの訴えとか差しとめの訴えというのは認められなかったのか、それとも、認められてはいたんだけれども、非常に解釈などでの難しさがあったからその点で明文化をするようにしたのか、そのあたりをお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、現行法におきましては、抗告訴訟の類型といたしましては、処分の取り消し、それから無効等確認の訴え、それと不作為の違法確認の訴えということで、義務づけ訴訟あるいは差しとめ訴訟を明文では規定しておりません。

 ただ、抗告訴訟は必ずしも法定されている三種に限定されず、解釈上、義務づけの訴えや差しとめの訴えも一定の要件のもとで認められると考えられてきておりました。ただ、その要件が必ずしも明確でないというようなことから、これらの義務づけあるいは差しとめの訴えは、必ずしも活用されてきたとは言えない状況にあったものと考えられます。

 そういうことから、今回このような改正になったのではないか、こう思っております。

水野委員 これは通告になくて申しわけないんですけれども、現行法でも、解釈の中では義務づけもしくは差しとめというのはあり得るというふうに、ただ、余り、まさに明文化されていないからこそ活用されてきていないというのがあると思うんですけれども、これまでに実際にそういうことが行われた例というのは、判決において認められた例というのはどんなのがありますでしょうか。

房村政府参考人 義務づけ訴訟が争われたものといたしましては、これは、船員保険の遺族年金の支給に関して義務づけが主張されたというようなものがございますし、それからもう一つ、建物の除却命令等の請求事件という、除却命令を求める形での義務づけ訴訟というようなものもございます。そのほか幾つかございますが、数としては余り多くはないわけでございます。

水野委員 その点は、まさに義務づけの訴えとか差しとめの訴えというのを新しく法律で明文化するということは非常に大きい前進だというふうに思うわけですし、まさにその部分も大いに活用し得るのではないかというふうに思いますけれども、このことを新たに訴訟類型として法律に定めたということによってどういうメリットがあるのか、具体的なケースなどを含めてお答えいただければと思います。

房村政府参考人 義務づけの訴えといたしましては、典型例といたしましては、例えば社会保障給付を求めるあるいは福祉施設への入所を求める、こういうような申請が拒否された場合でございます。それから、もう一つの類型としては、例えば公害防止などのための行政の規制監督権限、これの発動としての是正措置の処分をすべきであるのに、それがされないような場合。こういうときに、例えば給付あるいは施設への入所を義務づけの訴えとして求める、あるいはこういう規制監督権限の行使をしてもらうということを義務づけ訴訟として求める、こういうようなことが考えられるわけでございます。

 このような場合について、一定の要件のもとで行政庁が一定の処分をすべきことを義務づけるという救済方法を今回の新たな訴訟類型として定めたことによりまして、まさに、今申し上げたような訴訟が可能になることによって、国民の権利利益のより実効的な救済が可能になると考えられます。

 また、差しとめの例といたしましては、例えば行政の規制監督権限に基づく制裁処分が公表されると名誉や信用に重大な損害を生ずるおそれがある場合、このような場合にその処分の差しとめを求めるということも考えられます。このような場合、事後的に取り消し訴訟を提起しても十分な救済が得られない場合があり得ますので、そういうときに、この新たな救済方法としての差しとめの訴えが認められるということによってその救済が図られるということが考えられます。

水野委員 それによって原告が救済される可能性という、その道が広まるということは非常にいいことだと思いますし、まさにこの部分が生かされるということが大切だと思うんですけれども、この法案では、まさに今の義務づけ訴訟また差しとめ訴訟が抗告訴訟の類型として規定をされているわけですね。これらの訴えが抗告訴訟というふうにされるのはどういう理由によるものなのか、そこはどうでしょうか。

房村政府参考人 義務づけの訴えは、行政庁が一定の処分または裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟と考えられているわけでございますが、この行政庁がなすべき処分あるいは裁決というのは、まさに行政庁の公権力の行使に当たる行為でございます。公権力の行使をめぐる訴訟類型としては現在抗告訴訟があるわけですので、やはり今回新たに設けます義務づけ訴訟は、この行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟という抗告訴訟の類型に入るということでございます。

 また、差しとめの訴えにつきましても、行政庁が一定の処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟ですが、この対象となる処分または裁決は行政庁の公権力の行使に当たる行為にほかならないということで、やはり抗告訴訟の一類型とされているものでございます。

水野委員 この義務づけ、差しとめの問題というのは、行政と司法の関係というものにある意味では大きい影響を与えるわけですね。まさに三権分立、チェック・アンド・バランスという中で、よく言えば、この部分というのが行政のいろいろな問題点に対して司法がチェック機能を十分果たしていくことになるんじゃないか。今までそういうようなチェック機能というのが、行政が走ることはあっても、それに対して司法が余りチェックできていなかったのではないかというような議論があるわけですから、そういう中で見ると非常に前進をしたということも言えるわけでしょうけれども、一方で、これを懸念する人からすれば、行政に対して司法が過大に介入をしてくるのではないかというような懸念というのも一方ではあるのかもしれない。

 そういう意味で、いずれにしても、行政と司法の三権分立の観点からするバランスというものに、役割分担という点から見ても、この問題というのは非常に大きいというふうに思うんですけれども、法案ではこの司法と行政の役割分担の観点ということからしてどういうふうに配慮をしているのか、その点をお聞きしたいと思います。

    〔委員長退席、漆原委員長代理着席〕

房村政府参考人 御指摘のように、取り消し訴訟が行政庁が行政処分をした後になってその処分の適否を判断するという性質のものであるのに対しまして、義務づけの訴えそれから差しとめの訴えは、行政が具体的な処分をすべきことあるいはこれをすべきでないということを裁判所が直接命ずる裁判を求める訴えということになりますので、その訴えの要件といたしましては、国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮しつつ、御指摘のような司法と行政の役割分担のあり方を踏まえた適切なものとされる必要がございます。

 この法案でございますが、これについて見ますと、例えば他人に対する規制権限の行使などの処分を求めるような場合の義務づけの訴えにつきましては、「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」こととされております。

 このような要件が定められておりますのは、まさに救済の必要性と、司法と行政の役割分担の観点、こういうものを考慮しつつ適切な結論を得るべく、その要件が定められているものと考えられるわけでございます。

水野委員 この行政事件訴訟法の改正案の中では、確認訴訟を公法上の当事者訴訟の一類型として明示をしたわけですね。そうすると、そもそも論になるかもしれませんけれども、この公法上の当事者訴訟というのはそもそもどういうような訴訟なのか、お伺いをしたいと思います。

房村政府参考人 実は、現行法の四条にこの公法上の当事者訴訟の規定がございますが、訴訟類型としては大きく二つございます。

 まず最初の一つは、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの」と、ややわかりにくい条文でございますが、これは具体例といたしましては、土地収用法での収用裁決で損失補償が決まった場合に、その損失補償の額を争う訴訟、これにつきましては起業者を相手にして訴訟を提起するということが定められております。

 これは、土地の収用裁決というのは当然公権力の行使である行政処分に当たりますから、収用裁決そのものを争う場合には、その取り消し訴訟を起こすことになるわけでございます。ただ、収用の損失補償の額ということになりますと、基本的には対価としての額が適正であるかどうかという財産上の争いに帰するものですから、それについては、実質的な当事者である土地収用の原因となった起業者とそれから収用される者との間で直接解決をすることが適切である、こういうことを法律が考えて定めているわけでございますが、そのような法律が特に定めたものとして当事者訴訟というのが一つございます。これを形式的な当事者訴訟と申しております。

 もう一つは、後段にあります「公法上の法律関係に関する訴訟」という、これも当事者訴訟となっておりますが、これは直接的な公権力の行使を取り消し訴訟等で争うのと違いまして、公法上の法律関係について当事者間でその有無等を争っていくという形の類型でございます。

 今回の法案で入っております公法上の法律関係に関する訴訟は、後者の一般的な公法上の当事者訴訟の一類型として確認の訴えを改めて明示したという関係に立ちます。

水野委員 現行法の中でも抗告訴訟の一類型として処分の無効等確認訴訟が規定をされてはおるわけですよね。法案で新しく規定する確認訴訟はこれとはどこがどういうふうに違うのか、この辺はどうですか。

房村政府参考人 現行法の抗告訴訟の一類型としての処分の無効等確認訴訟というのは、これはまさに行政処分、すなわち公権力の行使に当たる行為についてそれが有効であるか無効であるかという意味での争いをするわけでございますが、今回新しく規定されております確認訴訟は、公法上の法律関係に関する訴訟としての当事者訴訟の一類型として規定するものでありまして、処分その他の公権力の行使を直接確認の対象としているものではないということで、それぞれ確認の対象の行為の性質が異なるということでございます。

水野委員 現行法でも当事者訴訟としての確認訴訟というのは可能だというふうに言われているわけですね。具体的な事例でどういう場合にこの確認訴訟がこれまで使われてきたのか、その辺はどうですか。

房村政府参考人 御指摘のように、公法上の確認訴訟につきましては、現行法のもとにおいても可能であるという解釈がされておりまして、具体例として申し上げますと、薬局の開設を登録制から許可制に改めた薬事法の改正が憲法違反であると主張いたしまして、既に登録を受けている者が改正後でも許可を受けずに引き続き薬局の営業をすることができる、そういうことの確認を求めた訴訟がございます。これにつきましては、公法上の確認訴訟として中身に入った実体的な判断がなされております。

 それからもう一つ例を挙げますと、首都高速道路の料金改定が違法であるとして高速道路の通行者が改定された料金の支払い義務がないことの確認を求めた訴え、これにつきましても、公法上の確認訴訟として適法なものであるということで、実体的な判断がなされております。

 そのほかもう一つ挙げますと、ごみの収集場所をダストボックスに限定した廃棄物処理計画が無効であるといたしまして、従来の場所で市がごみを収集する義務があることの確認を求めた訴え、これについても、確認訴訟として適法であるということで、実体的な判断がなされております。

水野委員 行政訴訟というときに、さまざまな問題が、使い勝手が悪いとかいろいろ言われてはおったわけですけれども、そういう中の一つの問題点として、行政訴訟に時間がかかり過ぎるという話がありますよね。時間がかかり過ぎるという中で、今回の法案の中では、行政側の資料の提出に関して新しく釈明処分の特則を考えていらっしゃると思うんですけれども、これは民事訴訟法の百五十一条に言うところの釈明処分の特則を定めた、そういうことですよね。それで、この釈明処分は具体的にどのような場面で使われるというふうに考えられますでしょうか。

房村政府参考人 行政事件におきましては、行政庁の専門的、技術的判断あるいは裁量判断、こういうものを争うということが多いわけでございますが、そのために現在どうしても、適切にそれを判断するための時間がかかっているという指摘もあるわけです。

 そういうことを早期に解決するためには、裁判所ができるだけ早い段階で、どういう争点があり、そのためにどういう証拠調べをするかというような適切な計画を立てる必要がございます。

 そのためには、やはり行政庁がその判断の根拠とした資料を早期に出していただいて、それに基づいてどういう審理をしたらいいかということを早期に確定していくということが必要になろうかと思います。

 そのために、この釈明処分というものを活用いたしまして、訴訟の比較的早い段階においてこのような資料を出していただいて、今後の訴訟運営を適切、迅速に行えるようにするということが今回のこの改正のねらいではないか、こう思っております。

水野委員 時間がかかり過ぎるということに関して言えば、今までも非常に長い年月争われているというものが、これによってどのぐらい短くなるのか。これは一概に言えないでしょうし、ケース・バイ・ケースだというふうにしか言いようがないと思うんですけれども、どうなんですかね。この辺はちょっと具体的な例などに即して、あり得ますでしょうか。

房村政府参考人 これは確かに御指摘のように、ケース・バイ・ケースとしか申し上げようがないんですが、ただ、実際に相当複雑な行政事件などを見ておりますと、主張を整理して争点を明確にするために相当時間を要しているものもございますので、そういうような場合には、この釈明処分を活用することによって比較的早く争点が絞られて、結果的に迅速な解決につながるのではないか、こう思っております。

水野委員 この迅速化によって、まさに時間がかかり過ぎて、結論は出たけれどももう既に時遅しみたいなことがよく指摘されたりするわけですので、こういうような制度というものが活用されて、もちろんきちっとした審理をやっていかなきゃいけないということは、手抜きがあっていいというわけではないわけですけれども、しかしながら、無用な時間をロスするというようなことを避けることを期待していきたいというふうに思うわけでございます。

 さて、今回の法改正の中の一つに、被告適格の改正ということがあるわけですよね。これもまさに国民が行政訴訟を利用しやすくするということの大きい柱だというふうに思うわけですけれども、この被告適格が改正されることで、訴える際の、行政訴訟を行う際の訴状には具体的にどういう記載をすればいいことになるのか。この改正によって、従来の場合と、現行法の場合とどういうふうに変わったのか、それは非常に簡便になったということなんでしょうけれども、その辺についてお伺いをしたいと思います。

房村政府参考人 これは、今回の改正によりまして一番大きく変わってくるのは被告の表示でございます。従来は、例えば取り消し訴訟であれば、その処分をした行政庁そのものを被告として訴状に表示をしなければならなかった。それが今回の改正によりまして、その行政庁の所属する国または公共団体、これを被告として表示すれば足りるということになります。

 したがいまして、従来ですと、行政庁の判断について、なかなか迷うような場合もあったわけですが、そういうときに、今回のことであれば、その所属する国または公共団体を被告とすればいいということで、比較的迷わずに被告を特定できるということがメリットでございます。

 ただ、実際にどういう行政機関が処分をしたのかということはやはり訴状に記載していただくという意味で、「行政庁を記載するもの」というぐあいには定められておりますが、この行政庁の記載がなくても原告には特段の不利益は及ばない、こう解されております。

水野委員 これまで行政庁を被告としていたのに対して、今度は国もしくは地方公共団体を被告というふうにすることができるようになったと思うんですけれども、今までは、問題として行政庁がどこであるのか、つまり、被告適格について、一般国民からするとわからない。それは当事者の行政側にとっては当たり前のことであっても、国民の側からすれば、そのことに必ずしも、細々としたそういうような、どこが所管してどうのということについて精通しているわけではないでしょうから、このことについて必ずしも詳しくないために被告適格を誤ってしまって訴えが却下されてしまった、門前払いになってしまったというようなことというのも中にはあるのではないかと思いますけれども、そういう事例というのは具体的にございますか。

房村政府参考人 御指摘のような例は、まさにございます。

 例えば、道路の供用開始処分でございますが、これにつきましては市町村が道路の管理者となっておりまして、供用開始処分は道路管理者が行うとされておりますが、一方、道路管理者の権限は地方公共団体の長が行う、こう書いているんです。ですから、市が道路管理者ではありますが、その権限そのものは市長が行使をする。こういう場合に、道路の供用開始処分を争うときに、一体、市を被告にすべきなのか市長を被告にすべきなのかというのは私どもでも迷うわけでございますが、これが現実に訴訟になった例がありまして、市長を被告として提起されました無効確認訴訟などにつきまして、被告は市とすべきである、こういうことで却下になった、こういう例がございます。

水野委員 そういうような例というのは、行政訴訟を行う上においては物すごい形式的な、非常にテクニカルな話で、実体に入れないままに却下をされてしまう、門前払いをされてしまうというのは、これはやはり本来の行政訴訟のねらうところと全然関係のない話になっちゃっていると思うわけですね。そういう意味で、この部分が改正をされるということは、国民にとって使い勝手のいい制度をつくるという意味で非常に大きい前進だと思うわけです。

 さて、この被告適格についての話なんですけれども、まさに今の話にもあったように、これまでは行政庁が被告とされていたのが、国や公共団体が今度被告になるわけですね。これによって被告側の訴訟に対する対応というのが何か変わるのか、その辺をお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の改正によりまして、従来、行政庁が被告になっていたのが、その属する国または公共団体が被告になる、このことによりまして、法令の規定によって国または公共団体を代表する者が訴訟を行うということにはなります。しかし同時に、その処分行政庁につきましても、当該処分または裁決に係る国または公共団体を被告とする訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を有するという規定が今回新たに設けられておりますので、実質的には従来と変わらないということだろうと思います。

水野委員 さて、法案では、裁判の管轄についても改正が加えられておりますよね。

 これは、訴え出る裁判所が、今まで行政の所在地のところに訴え出なければいけなかったのが、行政側の所在地を基準にして定められていたのが、今度は原告側の所在地を基準にできるということになったと思うわけです。これは、そういう意味では、行政庁というのは大体は東京にございますので、東京近郊に住んでいる人間にとっては従来でもそんなに大きい差しさわりがなかったのかもしれないけれども、それ以外の方々にとっては行政訴訟を非常に提起しにくいという面があったと思うわけですけれども、この管轄の変更について、管轄についての改正について現行法とどのように変わるようになるのか、その辺についてお聞きしたいと思います。

房村政府参考人 管轄につきましては、原則として被告の普通裁判籍の所在地の裁判所を管轄とするというのが原則でございますので、御指摘のように、従来の定めでいきますと、行政庁の所在地を管轄する裁判所ということになります。

 ただ、従来の定めでも、例えば不動産に係る処分でありますと、その不動産所在地の地方裁判所、それから処分に関して事案の処理に当たった下級行政機関があるときはその下級行政機関の所在地の地方裁判所ということで、必ずしも行政庁の中央のいわば霞が関だけということではなかったわけでございます。

 今回、改正をいたしまして、当然、被告が行政庁から国または地方公共団体に変わりましたので、その被告の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄裁判所へ加わりました。

 そのほかに、御指摘のように、原告の普通裁判籍を基準といたしまして、原告の普通裁判籍を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができる。やや回りくどい規定ぶりですが、これは、例えば青森に住んでいる方が原告になるというときに、この普通裁判籍を管轄する高等裁判所としては仙台高等裁判所ということになりますので、青森の方が仙台の高等裁判所に訴えを提起できる、こういうことが今回新たに設けられた管轄の規定でございます。

 これにつきましては、行政訴訟における裁判所の専門性を確保しつつ訴えを提起する原告の便宜を図るということから、このような改正がされたものと考えられます。

水野委員 この裁判管轄の特例というのは、国の行政機関の情報公開法についてもこういうような特例というのはあるわけですよね。今回の改正案は、この情報公開法の管轄の特例とはどのような違いがあるのか。いかがですか。

房村政府参考人 お答えの前に、今の答弁で、青森の方が仙台の高等裁判所にと申し上げたようですが、仙台高等裁判所の所在地を管轄する仙台地方裁判所に起こせるということでございますので、申しわけありません、訂正させていただきます。

 それから、国の行政機関の保有する情報の公開に関する法律において管轄の特例が定められているという御指摘ですが、そのとおりでございまして、今回の改正は、内容的には、この行政機関の保有する情報の公開に関する法律の管轄の特例と同一内容となっております。

水野委員 今、青森、仙台の例などを出されて御説明があったことと重なってしまうかもしれないんですけれども、管轄の問題については、先ほど大臣の提案理由説明の中でもこういうふうにおっしゃっていましたね。「原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起」できる。非常に、一度読んだだけでは何を言っているかよくわからないような表現になっていると思うんですけれども、それを、具体例というのを今挙げていただきましたので大分わかりやすかったんですが。

 ということは、これは高等裁判所のあるところの地方裁判所ということなわけですから、高等裁判所、全国八カ所ですよね、要するに地方裁判所に訴えられるといってもどこでもというわけではなくて、全国八カ所の地方裁判所には訴えていいと。つまり、青森県にある地方裁判所にというわけじゃなくて、あくまで仙台にある地方裁判所、そういうような理解でいいのか、ちょっとこの辺についてもう一回詳しく教えていただければと思います。

房村政府参考人 御指摘のとおりでございまして、行政事件を一審として判断することになりますので、当然、地方裁判所でなければいけない。そのときに、例えば東北の仙台高等裁判所の管内のそれぞれの県に所在する方が起こせる地裁としては仙台の地方裁判所、関東地方であれば東京地方裁判所、こういうような全国八つの高等裁判所所在地の地方裁判所にそれぞれの高裁管内の方々は訴えを起こせる、こういうことでございます。

水野委員 行政訴訟ということになると、極めて専門性が高いという面もあるわけですよね。特に、そうすると、裁判所の方が、司法の方が、その専門的なものに対応するだけの知識とかそういうものを本当に持っているのかというような議論というのも一方であり得ると思うわけですね。

 例えば、昨年だったですか、高速増殖炉「もんじゅ」の原子炉の設置の許可というものが無効だというような判決が、これはたしか名古屋高裁の金沢支部だったですか、そんなところであったと思うのですけれども、これは、もちろん核燃料サイクルとか高速増殖炉をどうする、これはいろいろな意見があり得ると思うのですけれども、果たして、これを進める、反対、いろいろな意見があるにしても、裁判所が、裁判官が、原子炉の設置基準とか安全性というようなかなりテクニカルな科学的な問題を、裁判官がそのことについて高度な知識を必ず有しているのか、もしくは、有していないにもかかわらず、そういうような問題に対して極めて甚大な影響を与える判決を下していいのか。これはそういう議論というのは当然あり得ると思うのですけれども、そうすると、やはり、特に行政訴訟の場合は、そういう意味ではテクニカルな専門性というのがあると思いますので、行政専門部など裁判所の専門的に取り扱う体制というのはどのようになっているのか、ここはいかがでしょうか。

中山最高裁判所長官代理者 委員御指摘のとおり、専門性が高い行政訴訟事件を適正かつ迅速に処理するために、行政事件が多い地方裁判所においては、これを専門的に処理する部または集中的に処理する部というものを設けて対応しております。そういったところは、例えば、東京地裁におきましては三カ部、集中部は大阪地裁については二カ部、そのほか、横浜、さいたま、千葉、京都、神戸、名古屋、計七カ所に置かれている状況でございます。

 また、裁判官の専門性を高めるということから、司法研修所におきまして、全国の行政事件を担当する裁判官を対象とする研究会を毎年継続的に実施し、行政法学者の講演や、あるいは行政訴訟の実務家による講演、訴訟運営等についての共同研究を行うなどして、その専門性を高めてきているところでございます。

 その成果というわけでもございませんけれども、往時は二十二、三カ月かかっておりました審理期間というものが、一昨年は十七カ月まで短縮されてきているという状況で、これはほぼドイツに匹敵するものになってきているというふうに考えております。

水野委員 今後、行政訴訟というのが使い勝手がよくなって多く提起されるようになれば、ますます多くの行政、多くの問題というのがテーマになるわけでしょうし、また、これは司法が行政をチェックするという点でも重要な問題だと思うわけですけれども、その一方で、当然、司法の側にもそれだけの専門性というのが要求をされてくるわけでしょうから、今のような対策というのをますます充実されることを期待するわけでございます。

 さて、この法案では、本案判決前の仮の救済の制度、この整備が図られているわけですね。これは現行の制度と比べてどのように改善をされるようになるのか、いかがですか。

房村政府参考人 御指摘のように、この法案では本案判決前の仮の救済の制度の整備が図られておりますが、その内容といたしましては、まず、現行法でも認められております執行停止、この要件を改正するという内容と、それから、新たに仮の義務づけ及び仮の差しとめの制度を新設する、そういう大きく二本の柱になっております。

 まず、執行停止の要件でございますが、これは、現行法では「回復の困難な損害」があるときに執行停止ができるとなっておりますのを「重大な損害」に改めるということとしております。また、その重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たりまして、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質、程度、処分の内容、性質をも勘案するということを明記する、こういうことによりまして、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質が適切に考慮されることが担保される、こういう改正内容となっております。

 それから、もう一つの柱であります仮の義務づけあるいは仮の差しとめの制度の新設でございますが、これは、現行法におきましては、行政庁の処分その他の公権力の行使につきましては、執行停止以外に仮の救済はないということのために、仮の義務づけとか仮の差しとめということは現在は求められません。民事訴訟においては、民事保全の仮処分の内容として、そのような義務づけあるいは仮の差しとめということが可能でございますが、行政訴訟につきましては、民事保全法に規定する仮処分はできませんので、現行法のもとにおいてはこういったことができなかったわけでございます。

 これにつきまして、本法案では、一定の要件のもとで、裁判所が行政庁に対しまして、処分をするべきことを仮に義務づけ、あるいは処分をすることを仮に差しとめる、こういう裁判をすることができる制度を新設することとされております。

水野委員 今のおっしゃられた仮の義務づけ、仮の差しとめ制度が新設されるわけでしょうけれども、これも、一定の要件のもとでまさにこういうようなことが認められるようになったということですけれども、想定される例として、この仮の義務づけや仮の差しとめについて、どういうようなことが具体的にはあり得そうなのか、どういう点で前進するのか、その辺、何かありますでしょうか。

房村政府参考人 これは、一定の要件といたしまして、今回、仮の義務づけ及び仮の差しとめを求めるには、例えば「義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるとき」にこの仮の義務づけをするというような形になっております。

 これは、例えば、先ほども申し上げましたが、何らかの給付を求める処分を求めるというときに、緊急にその給付をしてもらわないと、例えば生活が成り立たない、こういうような場合は考えられるところだろうと思います。社会福祉関係の給付を求める処分を争うといいますか、給付を求めて拒絶されたときに、単に拒絶を取り消すだけでは足りずに、やはり積極的に義務づけを求めてやっていかなければいけない、そのときに、仮に義務づけをして早急に支給を受けないと生活が成り立たない、こういうような償うことのできない損害が生ずることがあって、それを避けるために緊急の必要がある、こういうような場合が想定されようかと思いますが、具体的な場合については、事案に応じて裁判所において適切に判断をして運用していただけるのではないか、こう思っております。

水野委員 もう一つの執行停止の要件の緩和に関して、今まで「回復の困難な損害」というような表現が、この「重大な損害」に改まったということだと。

 確かに、この「回復の困難」ということだと、相当狭められちゃう、相当厳しいというのがあると思うのですけれども、これはどうなんでしょうか、緩和によってどういうようなことが今度から執行停止の要件として広がるのか、この辺もちょっとイメージとして何か例を挙げていただければと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、従来、執行停止については「回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるとき」、こうなっておりましたのを、今回の改正によりまして「重大な損害を避けるため」、こう変えまして、さらに、この「重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する」、こうなっております。

 これは、従来「回復の困難な損害」といいますと、例えば、性質的に金銭的な損害を生ずるというようなことであると、これは常に、金銭的な損害であれば回復は可能ではないかというような判断がされるおそれもあったわけでございますが、今回、こういうような定めを置くことによりまして、例えば、金銭的な損害で、金銭による賠償が不可能ではないけれども、回復の困難の程度が非常に著しいと言えなくても、事業の継続が事実上不可能になるような影響があるというような場合には、ここで言っております「重大な損害」ということで執行停止を認めることが可能になるのではないか、従来に比べればやはり執行停止が認められる場合が広くなるということは、この今回の改正の内容として言えるのではないか、こう思っております。

水野委員 この行政訴訟を利用しやすく、またわかりやすくするためということの一つとして、今度、取り消し訴訟の出訴期間を三カ月から六カ月に延長というのがありますよね。

 これはどういうことで延ばすようにしたのかというのが一点と、また、これは知ったときから六カ月ということでしょうけれども、まさか、何年もたってから全然それは知りませんでしたということで、過去にそういうのは知りませんでしたという意味で、例えば、五年たってから初めて知ってそれから六カ月ということでは当然ないはずなわけですけれども、その点についての確認をしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、現行法におきましては、処分があったことを知った日から三カ月以内に取り消し訴訟を提起しなければならない、こうしておりますが、先ほども申し上げましたように、行政事件というのはかなり複雑な内容を含んでおります。そういうことから、行政事件について訴えを提起しようと思いましても、訴訟要件そのものも複雑ですし、また実体的な要件についてもいろいろ難しい検討が要るということから、どうしても訴訟準備のために相当の期間を要するのではないか、こういうことで、従来の三カ月ではやはり短過ぎるという御指摘があったのではないかと思っております。

 一方、行政行為というのは、多くの国民にも関係する場合もありますし、一般的に、早期に確定をして法律関係の安定を図るという必要性もございますので、今回の改正は、その出訴期間の定めによる法律関係の安定と、それから、国民が取り消し訴訟による権利利益の救済を受ける機会を適切に確保する、この調和を図って、従来三カ月であったものを六カ月に延長したということだろうと思います。

 この処分を知ったということですが、これは、行政処分であれば当然当事者に告知されますので、そのときが基準になりますし、また、処分があった後一年を経過することはできないという条文がこの二項の方に定めがございますので、不当に長期間にわたって争いを提起できるということはなかろうと思っております。

水野委員 時間が来ましたので終了いたしますけれども、今回の行政事件訴訟法の改正、これは行政への、私は必ずしも行政のやることに対して性悪説に立つわけではないですけれども、さはさりながら、一方で、健全なチェック・アンド・バランスというものが機能するということは極めて大切ですし、また、国民が、不当に権利を侵害された者があれば、それに対して訴訟という形で救済を図る、これは当然の国民の権利であり、その部分に対して、使い勝手が今まで悪かったとすれば、今回の法律の改正というものは大きい前進ではないかというふうに思っております。

 一時間質疑をさせていただきましたけれども、今後成立をするときがあればこれに基づいてよりよい行政訴訟のシステムというのが確立していくことを期待いたしまして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。

漆原委員長代理 塩崎恭久君。

塩崎委員 自民党の塩崎恭久でございます。

 大臣がおられないのは大変残念でありますが、いろいろ質疑が滞ったりいたしておりますので、時間のロスをなく質疑をしようということで、きょうは与党が質問させていただくということにさせていただいております。

 今、水野議員から大変重要かつ本質的な質疑が行われたわけでありますが、続きまして、私の方から、とりあえず午前中は三十分、午後また一時間ということでさせていただこうということで、ダブルヘッダーでお願いをしたいと思うわけであります。

 この行政訴訟、いろいろ議論がこれから始まるわけでありますけれども、やはり私の感じでは、官と民の関係をいわば裏から規定してきたような、そういう制度ではないのかな。さっき水野議員からも、三権分立、民主主義の基本の話、チェック・アンド・バランスの話がありましたけれども、言ってみれば、余り十分司法による行政へのチェックが働いてこなかったということではないかと思いますし、それは、作為それから不作為、両方についてやはりそういう問題があったんではないのかなというふうに思っております。そういう意味で、国民の権利利益の救済が不十分だった。それから、法律としては極めて不親切な法律だった。

 先ほど、今回の改正でいろいろ新設あるいは事実上の新設というのがありますけれども、そのほか出訴期間の話も、今三カ月から六カ月にという話がありましたけれども、考えてみれば、大体この処分、裁決を受けた人は、怒っているうちに、どうしよう、どうしようと言っているうちに三カ月なんかたっちゃった。それから、今回、書面での教示というのを明定いたしますが、今まで要は書いたものでも来なかったという話でありますから、わかれという方が、どうやったらいいのかわからない、国民にどういう訴えの手段があるのかというのがわからないという法律だった。言ってみれば、行政の方にしてみれば、やり得、ラッキーみたいな、そういうことが極めて多く起こってきたということではないのかなというふうに思うんですね。

 弁護士さんのお話を聞いてみると、大体門前払いになっちゃうし、どうせやったって負けちゃうんだから、ばかばかしいから余り受けるのはやめていましたみたいな話が平気で出てくる。こういうのを聞いて、極めて使い勝手の悪い法律だったし、おまけに、四十年余りそれをほったらかしてきたということでありますから、そのほったらかしたのは行政だけじゃなくて、実は立法府、我々政治家の側にも大いに責任があったということではないかと思っているわけであります。

 そんな中で、官僚統治の社会主義なんて日本がやゆをされることが頻繁でありましたが、その文化を、官と民との間の関係の文化をつくってきた一つの原因が、やはりこの行政訴訟というものがうまく機能しなかったということにあるのではないのかなというふうに思っておりまして、私は、ですから、この非常に地味で小さな法律で来たわけでありますが、いわば日本のこれからの経済社会の仕組みというもの、あるいは官と民との間の関係、あるいは民主主義、三権分立のあり方というものを変える極めて重要な法改正ではないかと思っているわけであります。

 そういう意味で、ここで議論を尽くすということは大変大事だし、我々自民党で、実は平成十四年の九月から、自民党の若手の議員とそれから弁護士さんや法学者の皆さんと、国民と行政の関係を考える若手の会ということで二回ほど提言を出しました。去年の三月と去年の十一月と、二回提言を出しているわけでありますが、その一方で、自民党の中の司法制度調査会の経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員会、実は今私が小委員長をしておりますが、その前には原田義昭現文部科学副大臣がこの小委員長を務めてまいりまして、この問題を鋭意議論してきたわけであります。

 そんなことで、今回こうしてやっと法律の形になる過程でいろいろと役所の皆さんとも議論をさせていただきましたが、きょうはとりあえず一時間半させていただきたい、こう思うわけであります。

 自民党の中での議論でも、私としては、行政訴訟改革、言ってみれば、今回は最低でもこのくらいやらなきゃいけないというものがあるだろう、その際の指針というのは何だろうかということを考えてみると、やはり一つは、さっき門前払いというのがありましたが、行政訴訟の入り口というものがちゃんと広がるかどうかというのがまず第一点。第二点は、やはり国民が使いやすい、そういう制度になるかというのが第二点だと思います。そして第三点は、公平な行政訴訟、フェアトライアルが実現するのかということではないかと思っておりまして、そういう観点で、果たしてどこまで今回の改正でできるのかというのを考えていきたいと思うわけでございます。

 まず、きょうは副大臣がおいででございますので、副大臣にお願いをしたいと思います。

 今、司法制度改革というのをやっておりますが、そのほかに行革とかいろいろな構造改革をやっているわけでありまして、この行政訴訟制度の改革というのが行政改革や構造改革との関係でどういう意義があるのかということについてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

実川副大臣 先ほど委員、党の中で、自民党の司法制度調査会ですか、経済活動を支える民事・刑事の基本法制に関する小委員長ということで大変熱心に取り組んできたことを承知いたしております。大変敬意を表しておるところでございます。

 近年、行政需要が増大しまして、行政作用が多様化しておることは、もう間違いございません。これに伴いまして、行政による国民の利益調整が一層複雑多様化しまして、それとともに、行政の果たすべき役割にも変化が生じてきております。

 こうした変化を踏まえまして、行政を簡素かつ効率的なものとするとともに、その総合性、また機動性、さらには透明性の向上を図る必要性と、行政に対しますチェックの仕組みの重要性が増大してきております。

 このような状況のもとにおきまして、行政改革を初めとします社会経済の構造改革を進める中で、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会への転換を図り、より自由かつ公正な社会を実現していくことが必要でございます。そのために、その基礎となる司法の機能を充実強化していくことがさらに重要になってまいります。

 行政訴訟制度の改革は、このように司法の果たすべき役割が一層重要となることを踏まえ、司法と行政の役割分担、あり方を踏まえつつ、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図るものでございまして、極めて重要な意義を有するものというふうに考えております。

塩崎委員 さっき水野議員からお話が出たかもわかりませんけれども、諸外国での行政訴訟の数字、件数というのを見てみると、日本は、これは二〇〇〇年とちょっと古いんですけれども、二千件ぐらいですよね。ドイツというのは五十万件以上あるんですね。それから、フランスでも十二万件とか、アメリカでも四万件弱とか。

 何でこんなふうに少なくて、どこにどういう問題があってこの行政訴訟というのが日本では起きないのか、これについては、副大臣、どうですか。

実川副大臣 御指摘の行政制度の現状の問題点というお尋ねだと思いますけれども、行政訴訟制度の現状を受件数のみによって評価することは困難であるというふうに考えております。

 他方で、近年、行政需要の増大あるいは行政作用の多様化に伴いまして、行政による国民の利益調整が一層複雑化また多様化しております。

 このような変化の態様に対しまして、行政訴訟制度についての国民の権利利益の救済手続として、その実効性をより高める必要が生じてきております。そのためには、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図り、審理の充実及び促進を図るとともに、これをよりよく、利用しやすく、またわかりやすくするための仕組みを整備しながら、さらに本案判決前におきます仮の救済の制度の整備を図ることが必要であるというふうに考えております。

 そこで、このような観点から、行政事件訴訟法の一部を改正する法律案を提出したものでございます。

塩崎委員 結論みたいなことを先に聞くのもなんですけれども、やはり、今回は、必ずしもこれでもう終わりという感じじゃなくて、行政訴訟法の改正というのはもっとやっていかなきゃいけないんじゃないかなと思っておりますが、まあ富士山に例えると何合目まで来たという感じの案だと見立てられていますか。

実川副大臣 現行の行政訴訟法、先ほど御指摘ありましたように、昭和三十七年に制定されたものでございますし、それからもう四十年余りを経ておるわけでありますけれども、行政需要の増大あるいは行政作用の多様化に伴いまして、行政による国民の利益調整が一層複雑化、多様化するなどの変化が生じております。

 そういう中で、何合目かという御質問でありますけれども、数量的に表現しにくい点もございますので、先ほど申し上げましたように、今回の改革は四十年ぶりに行政訴訟制度を抜本的に改革するという大きな改革であるというお答えをさせていただきたい、このように思います。

塩崎委員 後でまた大臣に聞こうと思っていますけれども、他の行政全般の見直しなんかも含めて見ると、まあ三合目とか四合目ぐらいかなという感じが私はしているんですが、まあしかし、それでも、今まで四十年間ほったらかしているよりはずっといいわけですから、とりあえず一歩前進ということではないかなというふうに思います。

 そこで、義務づけ訴訟、差しとめ訴訟の件については、大分、水野議員から質問があったのでありますから、ちょっと事前通告していたものを飛ばすことになりますが、今まで認められていたかというと、実際、事実上認められていたということでありますが、さっき例が幾つかありましたけれども、本当に限られたものしかなかったですよね。何でほとんど認められてこなかったのか、今回の改正で本当に認められやすくなったと考えるんだったら、その理由は何だと、それをまずお願いします。

房村政府参考人 先ほども申し上げましたが、抗告訴訟の一種として義務づけあるいは差しとめというものを認める余地があるということは、一般的にそういう解釈がされていたわけでございますが、御指摘のように、実際にそういった訴えが活用されていたかといいますと、これは非常に数が少ないというのも御指摘のとおりだろうと思います。

 その理由でございますが、これはもちろん、解釈として認めるということになりますので、どういう要件のもとに認めるかということが必ずしも明確ではない。したがいまして、裁判所としては、なかなかその要件がはっきりしないものについて認めていくということについて困難を感じるということが、一般的にまず言えようかと思います。

 そのほかにつきましては、まず、義務づけにいたしましても差しとめにいたしましても、行政庁が処分をしてそれを後からチェックするという取り消し訴訟と違いまして、裁判所の方が先に行政庁に対して、こういう行政処分をすべきであるという義務を課する、あるいはそういう処分をしてはならないということを差しとめるという違いがございます。これは、行政と司法の役割分担からいいますと、行政がまずは処分をしてそれを事後的にチェックする取り消し訴訟の場合とは、やはりその役割が大分違ってくる。

 そうなりますと、裁判所としては、どういう場合に、行政がまだ処分をしていないのにこれをあらかじめ義務づけたりあるいは差しとめたりすることが認められるのか、また、義務づけにしろ差しとめにしろ、その根拠となる法規からそういう解釈が一義的に出てくるのかどうか、こういうような点をすべて解釈で賄っていかなければいけない。

 そういうことで、やはりどうしても、当事者の方もなかなかそういう主張を立証しにくいわけでございますし、裁判所の方も、そういう条文上にない新たな訴訟類型を認め、かつそれが行政と司法との役割分担にも直接かかわるような問題だということになりますと、これを積極的に活用することがなかなか難しかったのではないか、こう思っております。

 今回、この義務づけの訴えと差しとめの訴えにつきまして、訴訟類型として法律にはっきり明記をいたしまして、しかも、それが認められる要件を法律に書いてありますので、これからは、当事者の方もこの要件に沿った主張立証を当然していくことになりますし、裁判所も、この法律に書いてある要件の存否を判断するということによってこの新たな訴訟類型を活用できるわけでございますので、従来に比べますと、紛争の種類や性質に応じて適切な利用が可能になってくるということではないかと思っております。

塩崎委員 そうなればと期待をするわけでありますが、義務づけの訴えの対象となる行政庁の処分を、これは第三十七条の二ですね、これを見ると、「一定の処分」と規定をしているわけでありますけれども、「一定」とはどういうことを意味しているのか、それから、やはり多少の幅を持った形で処分を義務づけることが権利救済のために必要となる場合もあるんじゃないか、この点、民事局長はどう考えるか、お話しいただきたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の法案の三十七条の二の三項を見ますと、「第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき」、こういう規定になっております。

 ここで「一定の処分」と申しておりますのは、まずは、義務づけの訴えの要件について、裁判所の判断が可能な程度に特定をされていなければいけない。漠然と、何を、どういう処分を求めるのかがはっきりしなければ、これは訴訟そのものとして成り立ちませんので、そういう意味で、特定が必要ですということが入っているわけでございますが、ただ、この一定の処分として具体的にどの程度特定すべきであるかということにつきましては、御指摘のように、必ずしも具体的な処分に限らず、ある程度の幅が許されるのではないかというぐあいには考えられます。

 この特定の程度については、当然、当該処分または裁決の根拠法令の趣旨及び社会通念に従って判断すべきものと考えられますが、そうした観点からは、特定の必要性の限度を超えて過度に厳密な特定が必要とされるということはないだろうと思いますし、例えば、是正措置の具体的な方法につきまして、その根拠法令において複数の選択肢が定められている場合に、その根拠法令の定める範囲内における一定の幅のある処分の義務づけを求める訴えであっても、その根拠法令の趣旨に照らして、義務づけの対象となる一定の処分としてその対象が特定されているというぐあいに解されれば、そういった、ある程度幅の持った一定の処分を義務づけ訴訟で求めるということも可能ではないか、こう考えられます。

    〔漆原委員長代理退席、委員長着席〕

塩崎委員 要件がやはり非常に気になるところであって、今の、一定の幅があってもということで、大変前向きな御答弁をいただいて、結構なことだと思いますけれども、やはり要件が厳し過ぎて実際には使えないんじゃないかなという見方がよく聞かれるのでありますが、ペシミズム、今までの長い歴史が大体そうだったから、そういう点の懸念について、意見についてはどんなふうにお考えでしょうか。

房村政府参考人 義務づけあるいは差しとめの要件でございますが、例えば、義務づけ訴訟について見ますと、「行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるとき」、こういうようなことが言われておりますし、さらに、その前提として、「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」というように、かなり厳しくも思えるような要件が定められております。

 しかし、これは、義務づけの訴えあるいは差しとめの訴えというのは、行政が具体的な処分をすべきこと、またはこれをすべきでないことを裁判所が直接命ずる裁判ということでございますので、その要件は、国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮しつつ、司法と行政の役割分担のあり方を踏まえた適切なものとしなければならない、こういうぐあいに考えられるわけでございます。

 そういうことから、今回の法案におきましては、義務づけ、差しとめ、それぞれにつきまして、類型に応じた要件を定めているわけでございますが、例えば、ただいま読みましたような、他人に対する規制権限の行使などの処分を求めるような場合の義務づけの訴え、これについて考えますと、これは、そもそも申請権のない者が行政の介入を求める、こういう場合でございます。したがいまして、「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。」こういう要件が定まっておりますのは、まさに、そういう者の救済の必要性と、そういう者が求める場合の司法と行政の役割分担、こういうことを考えてこのような要件が定められているんだろうと思います。

 同じ義務づけ訴訟でありましても、法令により申請権を認められている者が、その申請を違法に拒否され、または放置された場合の義務づけの訴えについては、端的に、法令に基づく申請が違法に拒否され、または放置されたということが要件で、他人に対する規制権限の行使の処分を求めるというような場合とは要件が大きく異なっているわけでございます。そういうことで、この法案は、やはりそれぞれの類型に応じて適切な要件を定めているのではないか。

 さらに、差しとめの訴えについて申し上げますと、これは、処分または裁決がいまだされていないのに、処分または裁決の違法性を事前に判断して救済する訴訟である、こういう性質がございますので、やはり一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限って提起することができる、こういう要件を定めております。

 他に適当な方法があるかどうかという点につきましては、この差しとめの訴えについては、原則的にそういう重大な損害があれば認めることといたしまして、例外的に、損害を避けるため他に適当な方法があるときには差しとめの訴えを提起することができないという例外的な事由としているわけでございます。

 このように、それぞれの類型に応じて必要な要件を定めておりますので、一概にこの要件が厳し過ぎるということは言えないのではないか、こう思っております。

塩崎委員 今の、他に適当な方法がないことという、いずれの場合にも出てまいりますけれども、補充性の要件というのが必要とされる場合なんですが、例えばどのような場合だと考えられるのか。今ちょっとお話ありましたけれども、第三者に対する義務づけを求める場合に、別途第三者に対する直接の民事訴訟が可能であるというだけでこの義務づけ訴訟が排除されるものではないというふうに理解をしていいのかどうか、この点、いかがでしょうか。

房村政府参考人 他に適切な方法がないことという典型的な場合でございますが、これは、最終的には裁判所が個別の事案に応じて判断をしていただくことになろうかと思いますが、例えば、過大な申告をした場合、この場合には、現行法上、税額の減額を求めます更正の請求の制度がございます。そういう制度がある場合に、この制度を利用せずに、直接減額更正の処分の義務づけを求める、こういう訴訟を起こす、この場合には、個別法の中で、損害を避けるための方策として減額更正の請求ということが用意されているわけでございますので、他の方法をまずは使っていただくということが法の趣旨だろう。

 今回のこれでいえば、そういうものが用意されている場合には、他に適切な方法があるということになって、直接義務づけ訴訟を提起することは認められない、こういうことになろうかと思います。

 御指摘の、例えば、第三者に対する規制を求める処分を義務づけで訴えたいというときに、他に第三者に対して直接民事上の請求が可能な場合どうかということでございますが、これは具体的な請求内容その他にかかわることでございますが、直ちに一般的に、そういう民事訴訟の提起が可能であれば他に適当な方法があるということにはならないだろうと思います。

塩崎委員 最近、このところ、この司法制度改革そのものがそうでありますけれども、事前裁量から事後チェックへということで、大きな流れとしてはみんなそういう方向へ行って、司法制度改革そのものがそういう位置づけではあるんですけれども、ところが、行政、さっきいろいろ冒頭申し上げましたけれども、最近のお上の文化は、事前裁量しないという名のもとに、行政が本来やらなきゃいけないことをやらなくなっちゃっている。しかし、これを行政訴訟でやれというふうに言うような文化も今まで制度も余り整っていなかった。言ってみれば、行政の無責任というものが広まりつつあったのではないか、法務省とは言いませんが。

 そういうところが感じられて、ややほかの、この十年間、失われた十年なんて言われたのは、まさに失わせたのはだれだろうか。もちろん政治も責任ありますが、行政の無責任というのも私はあるんじゃないかと思うわけであって、裁量行政はいけない、いけないということを言い続けてきたがゆえにまたやめちゃっているというところも実はあって、正しい裁量行政というのはやはりやらなきゃいけない、ただ、ルールベースで正しい裁量行政というのをやらなきゃいけないと思うわけでありまして、そういう意味で、この義務づけ、差しとめ、この辺の議論というのはもうちょっと深めていかなきゃいけないのかなというふうに思います。

 若干、午後にしようかなと思っていましたのを最後に一つだけ聞かせていただきたいと思います。

 さっき水野議員が大分お聞きになったので、審理の充実、促進の中の資料の話でありますが、釈明処分の特則の話を大分されておりましたが、文書提出命令のような制裁を伴わない制度では本当に実効性がないんじゃないか、そういう意見があるように思うんですね。この資料の提出を求める制度を新設するのは大変結構なことだろうと思うんですが、果たして今提示されていることで大丈夫なんだろうか、文書提出命令のようなものじゃなくていいのか、それについてのお考えをお聞きしたいと思います。

房村政府参考人 今回、釈明処分としてそういった資料の提出を求められることといたしましたのは、やはり行政処分が非常に専門性、技術性が高いということから、その争点をできるだけ早期に明確にする、そのためには行政庁の持っている資料をできるだけ早く出してもらうということが重要だ、そういうことから、特に釈明処分として規定したものと思われるわけでございます。

 文書提出命令ということになりますと、これはもう証拠調べの段階になりますので、裁判所が当事者双方の主張を的確に整理をするために行政庁の持っている資料を見たいということを考えますと、これはやはり主張整理の段階、すなわち釈明処分として提出をしてもらうということが訴訟構造の上からは適切な選択の仕方ではないかと思われますし、さらに、釈明処分として可能なことが、文書提出命令ができなくなるわけではございませんので、証拠調べの必要上、そういう資料を提出してもらう必要がある場合には、文書提出命令の活用ということは、当然、その後考えられるわけでございます。

 また、文書提出命令のように非常に義務づけをするということになりますと、その要件をやはりどうしても厳格に定めるということになりますので、訴訟の早い段階で適切に行使をして迅速に争点整理を行うということを考えますと、この改正案のような、釈明処分として提出を求めるということがやはり適当ではないかというぐあいに私どもとしても考えております。

塩崎委員 大分時間がなくなってしまったので、これは最後になるかもわかりませんが、今の資料でありますけれども、当然のこととは思いますけれども、第三者の営業秘密とか、あるいは個人のプライバシーにかかわるような情報とか、公務員の職務上の秘密にかかわる情報が含まれちゃっているというような場合は提出を拒むことができるというふうに考えるのは常識かなと思いますけれども、これはいかがですか。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の法案における釈明処分について、資料の提出または送付を拒むことができるというような積極的規定は置かれてはおりません。

 しかし、釈明処分である以上、一般の釈明処分の場合と同様に、提出に応ずべき義務の有無及び提出に応ずべき資料の範囲は、釈明処分を受けた被告等において法令に則して判断されることになりますので、第三者の営業秘密であるとか、あるいは個人のプライバシーにかかわる情報など、第三者の利益を害するおそれがあるときなどは、資料の提出または送付を拒む正当な理由があるといたしまして、解釈上、拒むことができると考えられます。

塩崎委員 また午後、質問させていただきますけれども、さっき申し上げたように、行政が無責任になってしまうようなことではいけないわけでありますが、冒頭ちょっと数のことを言いましたけれども、もちろん濫訴があってはいけないわけで、いいかげんな訴訟ばかり出てきても困る。しかしその一方で、我々もよく行政の人と話をしていて言われるのは、そんなことをしたら行政訴訟を起こされますよというようなこともある。そういう言いわけに使われるような行政訴訟ではよくないと思うんですね。

 ということなので、よりよい行政訴訟の仕組みというものをつくるという議論を引き続きやらせていただきたいと思います。終わらせていただきます。

柳本委員長 上田勇君。

上田委員 公明党の上田勇でございます。

 きょうは、行政事件訴訟法の一部を改正する法律案につきまして何点か質問させていただきます。

 行政訴訟といいますと、いろいろと報道されているものだと、例えば、大規模な公共事業にかかわる事案とか、またいろいろな社会保障関係の給付にかかわるそういう事案とか、実に内容も多岐にわたっているんじゃないかというふうに思います。

 ただ、一般的に持っているイメージというのは、どうも行政訴訟というのは、何か訴えても、もともと行政側に有利な仕組みになっていて、しかも、何か少し難しい案件になると結論が出るまでにもう何年も何年もかかって、結局、そうした結論が出たころには、最初訴えた目的がもうほとんど意味をなさなくなっているというような意味で、余りしっかり機能していないのではないか、これが一般的に持っているイメージなのではないかというふうに思います。これはやはり、政府、お上がやることは間違いがないんだという我が国の、伝統的というんでしょうか、行政を中心としたそういった国の統治システム、これに起因しているところが多いのではないかというふうに思います。

 そのためなんでしょうか、我が国においては、こうした行政訴訟の件数というのは、先進諸外国に比べて随分と少ないわけでございまして、これは、行政がきちんと仕事をしているからだということもあるのかもしれませんが、やはりシステム上に何らか使い勝手の悪さというのがあるんじゃないかというふうに思うわけでありまして、今回の改正で、そういう行政機関と個人との間のいろいろなトラブル、これを司法のシステムの中で解決していく、そのために有効に機能していくような改正になることを期待しているところでございます。

 きょうは、順次、法案の内容につきましてお伺いをしたいというふうに思っておりますが、最初にまずは、行政事件訴訟法、これは昭和三十七年の制定以来四十年ぶりの改正ということになるわけでありますが、この間、よく考えてみますと、行政のあり方というのも随分変わってきておるわけでありまして、規模も全然変わっておりますし、役割も相当大きくまた複雑になってきて、いろいろと、相当そういうふうな変化があるものと考えております。

 そういう意味で、今回、この改革に取り組まれました趣旨と、この法案によります改革の全体像についてまず御説明をいただきたいというふうに思います。

実川副大臣 御指摘のように、昭和三十七年に制定されたものでありますけれども、近年におきましては、行政需要の増大また行政作用の多様化に伴いまして、行政によります国民の利益調整が一層複雑、多様化するなどの変化が生じてきております。このような中で、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る必要が指摘されてきております。

 今回の改正におきましては、このような近年における変化に対応し、行政事件訴訟につきまして、国民の権利利益のより実効的な救済手続の整備を図る観点から、国民の権利利益の救済範囲の拡大を図り、審理の充実及び促進を図るとともに、これをより利用しやすくまたわかりやすくするための仕組みを整備しながら、さらに本案判決前におきます仮の救済の制度の整備を図ることなどをしております。

上田委員 ありがとうございます。今、副大臣の方から、この法案の全体の概要について御説明をいただきましたけれども、次に、順次その内容につきましてお伺いをしていきたいというふうに思います。

 まず、非常に重要な点でありますけれども、この法案では、取り消し訴訟の原告適格につきまして、処分の根拠となる法令の文言のみによるのではなく、その趣旨、目的などを考慮することとされております。こうした規定を置くこととした趣旨はどういうようなところにあるのか、御見解を伺いたいというふうに思います。

実川副大臣 御指摘の原告適格についての改正の趣旨でありますけれども、個々の具体的な事案におきましては、法律上の利益の有無につきまして、当該処分の根拠法令の文言のみによることではなくして、根拠法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮することとしております。

 また、根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たりましては、これと目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的をも参酌し、また、当該処分におきまして考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するに当たりましては、当該処分が根拠法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質等をも勘案して適切に判断されることを確保しようとするものでございます。

 これによりまして、原告適格が実質的に広く認められることになるものと考えております。

上田委員 ありがとうございます。

 よく報道されております行政訴訟の判決では、その結論が、原告に訴える利益がないということで、事実上門前払いになって終わっているというものをよく目にいたします。確かに法律上はそういうことなんでしょうけれども、ただ、一般の我々の方からすると、行政が行った政策であるとか処分、それが本当に正しかったのかどうかが本来司法で判断されることを期待しているわけでありますけれども、そうした判断がされることなくて、結局、原告の適格のところで、入り口で判断をされてしまって、それが司法の場では論議もされないということでは、これはその期待にこたえていただいていないのではないのかな、いつもそういう感じがしております。

 それは、そういう結果を見ますと、一般市民としては、どうもそうした行政裁判、本当にそれでいいのかどうか割り切れない感じがしているものでありまして、この改正によりまして、今副大臣からも御説明ありましたように、原告適格が非常に広がるということから、そうした事態が改善されるんだろうというふうに期待しているところでございまして、ここに書いてある文言というのは、この法案で書かれていることというのは非常に定性的な書き方でありますので、運用が大事になってくるというふうに思います。

 そういう意味では、これからそうした行政訴訟が、原告適格のこの要件、広く運用されていって、しっかり機能していくことを期待しているところでございます。

 次に、法案では、これまでは設けられていなかった義務づけの訴えあるいは差しとめの訴えを新たに訴訟類型として定めております。こうして新たに定めることによりまして具体的にどういうメリットがあるのか、教えていただきたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の法案におきましては、従来定められておりませんでした義務づけの訴え、それから差しとめの訴えが新たな抗告訴訟の類型として明文で定められております。これは、まずは、このような明文で定めたということによって、こういった類型の訴訟がより活用されるようになるということは考えられるわけでございます。

 従来も、解釈論としては、抗告訴訟の中に明文の規定はなくても、義務づけの訴えとか差しとめの訴えは認められるという解釈論はあったわけでございますが、現実にそういった訴えが活用される例は非常に少なかった。これはやはり要件等が不明確であったということ、法律に明文の規定がないということが大きな原因であったのではないか。そういう点、今回、法律でこの訴えを類型として認めたということで、より活用がされるようになるだろうと思います。

 具体的にどんな場合にこの訴えが利用されるかということでございますが、例えば、まずは義務づけの訴えについて御説明いたしますと、社会保障給付とか福祉施設への入所などの申請をいたしまして、この申請が拒否された場合、従来の訴えですと、この拒否処分の取り消しを求めるだけでございますので、取り消された場合に改めて行政庁がその処分をすることになりますが、これを一気に義務づけをして、具体的な給付とかあるいは入所を裁判所の命令で実現するということが今回の訴えで可能になります。

 また、公害防止などのための行政の規制監督権限の発動として是正措置等の処分をすべきであるのにそれがされない場合、これについても、従来の現行法のもとではなかなか十分な救済が得られないわけでございますが、今回はまさにこの是正措置を求める義務づけの訴えということが要件さえ満たせば可能になる、こういうことで、従来に比べますと、やはり救済が得られる場合が大分ふえてこようかと思いますので、これで、一定の要件のもとで行政庁が一定の処分をすべきことを義務づけるという救済方法を新たな訴訟類型として定めることによりまして、国民の権利利益のより実効的な救済が可能となると考えられるわけでございます。

 また、差しとめの訴えにつきましては、例えば、行政の規制監督権限に基づく制裁処分が公表されると名誉や信用に重大な損害を生ずるおそれがある、このような場合、従来ですと、その処分の取り消しということで事後的な形になってしまいますので、一たん毀損されました名誉とか信用を回復するのは非常に困難になるわけでございますが、今回の差しとめの訴えということで、このような場合に差しとめを認めるということになれば、国民の権利利益のより実効的な救済が可能になる、こういうことが言えようかと思います。

上田委員 次に、差しとめ訴訟については、民事訴訟による差しとめ訴訟も適用されております。行政訴訟の差しとめ訴訟とそれから民事の差しとめ訴訟、この両者の間はどういうような違いがあるのでしょうか。御説明をお願いいたします。

房村政府参考人 御指摘のように、民事訴訟におきましても差しとめを求める訴訟が認められております。

 ただ、これは、行政訴訟としての差しとめ訴訟と民事の差しとめ訴訟の違いでございますが、行政訴訟としての差しとめ訴訟は、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟として規定されております抗告訴訟の一類型として認められておりますので、差しとめを求める対象は行政庁の公権力の行使に当たる一定の処分または裁決、これをしてはならないという差しとめになるわけでございます。民事の差しとめ訴訟はそういう公権力の行使に関する行為について提起することは認められておりませんので、結局のところ、差しとめを求める対象が公権力の行使に当たる一定の処分または裁決であれば行政訴訟でいけますし、それ以外の行為の場合には民事訴訟で差しとめを求める、こういうことになります。

上田委員 もう一点、法案では、公法上の当事者訴訟として確認訴訟を明示することといたしております。その趣旨はどういったものか、御説明をお願いいたします。

実川副大臣 確認訴訟を明示することとした趣旨ということでございますけれども、先ほどから委員御指摘のように、行政需要の増大また行政作用の多様化は御指摘のとおりでございますが、典型的な行政作用を念頭に置きまして、行政庁の処分またはその他公権力の行使に当たる行為を対象といたしております取り消し訴訟などの抗告訴訟のみでは、国民の権利利益の実効的な救済を図ることが困難な場合が生じております。

 公法上の法律関係に関する確認の訴えを当事者訴訟の一類型として明示する趣旨につきましては、このような状況に対応し、抗告訴訟の対象とならない行政の行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係に関し確認の利益が認められる場合については、現行の行政事件訴訟法におきましても当事者訴訟としての確認訴訟が可能であることを明らかにしまして、その活用による多様な権利利益の実効的な救済を図るためにこれを訴訟類型として明示することにしたものでございます。

上田委員 ありがとうございました。

 今度は、釈明処分の特則の件についてお伺いをしたいというふうに思いますが、法案では、行政側の資料の提出に関しまして、新しく釈明処分の特則を設けております。裁判所はこれに基づいてどのような資料の提出を求めることができるようになるのか、御説明いただきたいと思います。

房村政府参考人 この法案では、御指摘のように、釈明処分として資料の提出を求めることが可能となっておりますが、その規定といたしましては、まず、「処分又は裁決の内容、処分又は裁決の根拠となる法令の条項、処分又は裁決の原因となる事実その他処分又は裁決の理由を明らかにする資料であつて行政庁が保有するもの」、これの提出を求められるということが規定されておりまして、さらにその処分について審査請求に対する裁決を経ている場合には、さらに、「当該審査請求に係る事件の記録であつて行政庁が保有するもの」、これの提出を求められる、こういう規定になっております。

 審査請求に係る事件の記録は、まさに記録として行政庁が保管しているものでございますので、そういう一件記録の提出、これを求めるということになろうかと思います。

 その前の、裁決の理由を明らかにする資料ということですが、これは、処分または裁決の直接の根拠として用いられた一件記録、これは当然入ることになりますが、そういった一件記録のようなものに限定されずに、例えば裁量基準を明らかにする資料など一件記録に含まれないような資料であっても、処分または裁決に際して行政機関相互の連絡調整の過程で参照されたりあるいは処分または裁決の判断に際して依拠されたようなもの、これは、「処分又は裁決の理由を明らかにする資料」に含まれて、提出を求める対象となり得る、こう考えられます。

上田委員 なかなか、行政側が持っている資料、これが提出をされないというようなこともよく聞きまして、あるいは原告側としては、そもそも行政側がどういった資料を作成してその意思決定になったのかということもわからないわけであります。それがわかっていれば、今はいろいろな情報公開等の制度も整備されているので、特定をしてその資料というのは開示はされるんだというふうに思うんですけれども、そもそもどういったものが作成されているのかがわからない。

 それだと、いや、そんなものはありませんと言われれば、提出をされずに済んでしまうのではないかというふうに思うんですが、そうすると、裁判所が、こうした規定をすることによりまして、これまではなかなか提出をされなかった、したがって、そうした情報を抑えることによってどうしても行政側が有利な立場になってきたという面が改まって、こうした改善によりまして、より公正で公平な裁判ができるということを期待しているものでございます。

 もう一つ、これはやはり訴える側の立場に立った改正の点であるというふうに思いますが、法案では、被告適格についても改正することとしております。この改正によりまして、現行の制度とどのような点が変わることになるのか、御説明をお願いいたします。

房村政府参考人 従前は、処分をした行政庁を被告とするということでございましたが、今回の改正法案では、原則として、処分または裁決をした行政庁の所属する国または公共団体を被告とする、こういう形に改まっております。

 ただ、例外的に、例えば指定法人などのように、国または公共団体に所属しない者が処分または裁決をした場合、こういう場合には国または公共団体を被告とすることができませんので、この場合には当該の処分または裁決をした行政庁である当該指定法人などを被告として訴えを提起する、こういうことになります。

 このような改正が行われた理由としては、現行法において原告が処分または裁決をした行政庁を誤って訴えを提起した場合、この場合に被告を変更する手続が必要でありまして、重大な過失があるなど被告の変更が許されない場合には、結局訴えが却下されてしまう、こういうことになりますので、今回の改正によりまして、そのような点で、被告を特定する原告の負担が軽減されるということになろうかと思われます。

上田委員 一般の市民からは、行政内部でどこがそういう処分権限を持っているかというようなことというのは、これはもう行政の中の決め事の部分もありますのでなかなかわかりにくい。それが違っていたからといってその訴訟が却下されるといったことでは、これはやはり不利なわけでありまして、そういう意味で今回、より権限の源というところになります国とか地方公共団体、これを直接、訴訟の被告として訴えを起こすことができるといったことは、そういう意味では非常に便利になるのではないかというふうに思います。

 もう一つ、訴えるとき、原告側のメリット、利便性を考えての改正であるというふうに思いますが、管轄についても改正することとなっております。今の現行の制度のもとでは、その訴える行政官庁の所在するところでしか訴えを起こすことができなかったわけでありますけれども、今回このように改正されることになりましてどういうふうに変わるのか、そしてまた、これによって原告の負担というのは軽減されることになろうというふうに思いますけれども、どういう効果を期待されているのか、御説明をいただきたいと思います。

房村政府参考人 まず、現行法の管轄の規定を御説明させていただきますと、抗告訴訟につきましては、処分をした行政庁の所在地の地方裁判所、これが原則的な管轄裁判所でございます。ただ、そのほか、例えば土地の収用など不動産に係る処分については、その不動産の所在地の地方裁判所、これも管轄裁判所になっております。また、処分に関して事案の処理に当たった下級行政機関があるときには、その下級行政機関の所在地の地方裁判所、これも管轄裁判所になっておりますので、事案によって、それなりに密接な関連のあるところに管轄がいくというぐあいな定め方になっております。

 今回、まず被告を、行政庁から原則として国または地方公共団体といたしましたので、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、これが新たな規定としては入ってきますが、そのほかに、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも訴えを提起することができるという、やや持って回った書きぶりにはなっておりますが、先ほどもちょっと御説明いたしましたように、基本的に、例えば仙台高等裁判所の管内の東北の各県に住んでおられる方についていえば、仙台地方裁判所に訴えが提起できるということでございます。

 従来ですと、やはりどうしても、被告の所在地あるいは被告行政庁の所在地を管轄する裁判所としては、霞が関ということで、東京地方裁判所が管轄という例が非常に多うございました。そうしますと、地方に住んでいる方からいたしますと、訴訟を東京で起こしてそこまで行かなければならないという負担がかなり重かったわけでございますが、今回の改正によりまして、それぞれ御自分の住んでいるところを管轄する高等裁判所所在地の八つの地方裁判所のどれかに訴えを提起できるということで、わざわざ東京まで行かなくてももう少し身近なところで訴訟を提起できる、こういうメリットがあろうかと思います。

上田委員 ありがとうございます。

 もう一点、この法案では、出訴期間の延長と期間等の教示の制度が新設をされております。これによって現行の今の制度とどういうような点が改善されるのか、御説明をお願いいたしたいと思います。

房村政府参考人 まず、今回の改正によりまして、従来三カ月であった出訴期間が倍の六カ月に延びております。これは、やはり行政訴訟というのは、どうしても訴訟要件あるいは中の実体要件につきましても、いろいろ複雑で、訴えを提起しようと思えば相当の準備期間が要るというようなことから、従来の三カ月では短いという御指摘があったことを踏まえて六カ月に延長したということでございますので、これによりまして、国民が訴えを提起しやすくなるということが言えようかと思います。

 それから、この出訴期間につきまして、従来は、三カ月というのは不変期間、基本的には、三カ月を過ぎたらおよそだめだ、こういうことでございましたが、今回は六カ月に延長した上で、さらに、それを守れなかった場合でも、正当な理由があれば訴えを提起できるということとして、個別的な、適切な判断が可能なような仕組みにしております。

 それと、もう一つ大きな改正内容といたしましては、取り消し訴訟等の提起に関する事項の教示に関する規定、これが設けられたことでございます。

 これは、行政不服審査の申し立てにつきましては教示の制度が従来から定められていたわけでございますが、取り消し訴訟の提起に関する情報提供の制度は設けられておりませんでした。それが、今回の改正案におきましては、取り消し訴訟を提起することができる処分または裁決をする場合には、その処分または裁決の相手方に対しまして、当該処分または裁決に係る取り消し訴訟の被告とすべき者、それからその取り消し訴訟の出訴期間、それからその訴訟を提起するに当たって不服審査を前置しなければならないという定めがあるときにはその旨、これを書面で教示するということが行政庁に義務づけられました。

 これによりまして、処分または裁決の相手方に取り消し訴訟等の提起に関する適切な情報が提供されまして、権利利益の救済を得る機会が十分に確保されることになると考えられます。

上田委員 ありがとうございます。

 きょうは、この法案の主な改正点につきまして、順次御質問させていただきました。

 今回の改正によりまして、今までとかく使い勝手が悪いと言われていた行政訴訟も、随分と改善されるのではないかというふうに考えているところでございます。

 あとは、一つには、こういうように制度が、法律上の改正が行われたので、この運用についても、やはり訴える側、原告側の立場を十分考慮した上での運用をしていただきたいということ、また、広く一般に、今回、行政訴訟、こういうような形で使いやすく、またこういうふうになったというようなことを、広報というんですか、よく知っていただくための努力もまたしていただきたいというふうにお願いを申し上げまして、時間でございますので、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

柳本委員長 午後四時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時四十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後四時一分開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。塩崎恭久君。

塩崎委員 午前に引き続きまして、行政事件訴訟法の改正につきまして御質問をさせていただきたいと思います。

 予定外に大臣が早くお戻りをいただいたわけで、大変うれしゅうございました。けさはちょっと寂しい思いをいたしましたけれども、何分にも審議を進めないといかぬ、こういうことで頑張ってきたものですから、そのようなことで先に進めさせていただいたことをお許しいただきたい、こう思うわけであります。

 けさ冒頭私が申し上げたのは、この行政事件訴訟の法律というのは、いわば日本の、時々海外からも官僚統治、社会主義国家とやゆされたりするわけでありますが、戦後の官と民とのかかわりというか関係を裏から決定づけてきた、そんな制度だったのではないのかな。国民の権利や利益の救済というものが不十分で、また法律としても随分不親切な法律じゃないか。弁護士さんは余りやりたくないと。何でかというと、門前払いは多いし、それから、やっても負けることがほとんどだからばかばかしいからやらない、こういうふうにおっしゃっていた弁護士さんもおられましたけれども、しかし、さらに加えて、四十年間余りほったらかしていた。これは実はだれが悪いというと、それはやはり法律をつくるのは立法府でありますから、行政府が悪いのではなくて、むしろ法律をつくるべき、あるいは改正すべき立法府がそれを十分やってこなかった。

 しかしながら、今回、司法制度改革の中でこれを正面から取り上げようということで、政府もそれから政治の方も与野党問わずこれをやろうじゃないか、こういうことでございまして、冒頭、せっかく大臣がおいででございますから、意気込みのほどをひとつお聞かせをいただいて、それから細かな質問に入っていきたい、こう思っております。

野沢国務大臣 ただいま、本日は参議院と法務委員会が並行審議になっておる関係で失礼をいたしましたが、これからはずっとおつき合いを申し上げますので、どうぞよろしくお願いします。

 塩崎先生には、自民党の司法制度調査会におきまして本案件の小委員長をお務めいただきまして、原案につきまして取りまとめに大変御苦労をいただき、かつまた御指導をちょうだいしたことにつきまして、改めて本席をかりまして御礼を申し上げたいと思います。

 ただいまお話がありましたように、行政と国民の主権のあり方、あるいはそれぞれの人権を含めた個別の国民の立場と大きな行政という立場の調整を図る大事な実は法案であるということをわきまえておるわけでございますが、今お話がありましたように、三十七年成立以来、ほとんどそのままの姿で今日まで来たということにつきましては、相当これは反省をしなければならない問題が多くあろうと思います。

 行政はしばしば長期にわたり、あるいは規模が非常に大きく、一個人個人の利益を超えた形で、多数の利益のために仕事を進めるということから、一人一人の国民にとって見ると、いわばそれが人権の侵害とかあるいは個別利害の侵害とか、さまざまな点で逆に、よかれかしと思ってやっておる国の行政が、個人にとっては不幸せになってしまう、こういった問題を内包しておるのではないか。常にその点については司法制度、特にこの裁判を含めたこういった制度によって個別に救済される道が開けていることこそ、まさに民主主義の国家の法体系として望ましい課題、こう考えておるわけでございます。

 したがいまして、この制度がこのたび司法制度改革全体の中で大事な法案の柱として取り上げられましたことは、今後の国のあり方、そして、そこで暮らす国民の幸せにとっても大変大きなプラスになるものと考えておるわけでございます。

 そこで、この改正案におきましては、まずは義務づけ訴訟、差しとめ訴訟や、仮の義務づけ、仮の差しとめなど新たな制度を導入することとしておりまして、その運用状況を見きわめる必要があるわけでございます。そして、この一番課題でございます何よりもの、ただいま私申しましたような行政需要自身も大きくなっておる中で、個別の国民の皆様の利益あるいは利害も複雑化、多様化しておる。したがって、より実効的な救済手段がないとぐあいが悪いということから、この法律の改正につながったと考えておるわけでございます。

 そういう意味で、国民の権利利益の救済範囲の拡大、そして審理の充実及び促進、そして、これをより利用しやすい、わかりやすい仕組みに整備すること、そして、今も申しましたように、本案判決を前における仮の救済制度の整備を図ることを目的にしておるわけでございます。

 これは附則第五十条でつけていただいておりますが、この法律の施行後五年を経過した場合において、改正後の行政事件訴訟法の施行の状況について検討を加え、必要に応じて、その結果に基づき所要の措置を講ずる。だんだんよくしていこうということがこの中にも盛り込まれておりまして、今までのように、長いことそのままということにはならぬような配慮も加えておるところでございます。

 今後ともひとつ委員の積極的な御指導をお願い申し上げまして、お答えといたします。

塩崎委員 大臣、ありがとうございました。

 先ほどの続きでちょっと、大臣の大きな話の後にいきなり細かい話になっちゃって申しわけないんですが、不親切だったこの法律が親切になる中で、出訴期間等の書面による教示、これがなされなかった場合とか、誤っていた場合の救済については、今回の改正ではどうなるか、その考え方についてお答えをいただきたいと思います。

房村政府参考人 先ほどの続きということでございますので、私の方から答えさせていただきます。

 御指摘のように、今回の法案では、処分の後に被告とすべき者あるいは出訴期間等について教示をするということになっております。これがなされなかったり、あるいは誤っていた場合でございますが、特に、例えば教示期間を実際の六カ月よりもさらに長いような期間を誤って教示してしまったような場合、当事者がそれを信頼して本来の出訴期間を徒過してから訴訟を起こしたというようなことが当然考えられるわけでございますが、今回の法律では、そういう期間を徒過した場合に、正当な理由がある場合には救済をすることとしておりますが、その徒過したことが、今申し上げたように誤った教示によって徒過をしたというような場合には、他に特段の事情がない限り、正当な理由があるとして、適法な訴訟は提起されたという扱いになろうかと思います。

 教示がされなかった場合どうなるかということでございますが、教示がされず、当事者が出訴期間内に提訴をしなかった、そういう場合に、当事者が出訴期間内に提訴できなかった理由その他の事情が主張されようかと思いますが、おくれたことについて正当な理由があると認めるかどうかという判断の大きな要素として教示がされなかったという事実は考慮されることになろうか、こう思いますので、これは具体的な事案によってまた異なってくるのではないかという気がいたしておりますが、いずれにいたしましても、その当事者の正当な理由があると認められるかどうかという点について大きな判断要素になろうかと思います。

塩崎委員 ありがとうございました。

 それでは、確認訴訟、いわゆる当事者訴訟の方に移りたいと思います。第四条の条文であります。

 これまで日本の行政、先ほど申し上げたように、いい意味での裁量行政というのはいいと思うんですけれども、余りいい意味じゃない裁量行政もたくさんやってこられて、その根拠が、通達とか行政指導とかガイドラインとか、あるいは行政計画とか、そういうものがたくさんあったわけでありますが、こういった行政立法とか行政計画、通達、行政指導、ガイドラインなどが、行政活動を広く行政訴訟の対象として、行政訴訟の対象を拡大すべきであるというふうに私もかねがね思っておりましたし、そういう議論があるわけでありますけれども、こういう問題提起に対してどのような対応を今回の法律改正は行うことになっているのかということについてまずお話をしていただきたいと思います。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の行政立法、行政計画、通達等について、それ自体を争えるかという問題は、私どもの方の事務局の検討会でも相当議論された問題でございます。また、自民党における司法制度調査会の小委員会におきましても相当議論を経た問題でございます。

 これにつきましては、今回の法案でも、それ自体を争うことができるという制度にはしておりません。やはりこの行政事件訴訟法の使命は、国民の権利あるいは利益、これの救済というところに重点が置かれているわけでございまして、そういう関係に結びつくものは救済を図るということでございまして、ただそれ自体がおかしいというだけでは不服の対象にはしない、こういう制度で割り切っているわけでございます。あるいは、この辺の問題につきましては、これが司法の役割なのか、あるいはこれはもう行政それから国会を含めた役割なのか、そういう大きな問題もあるわけでございまして、今回はそこの点には踏み込んではいないということが第一点でございます。

 では、これについてどうするのかということでございますけれども、これは、抗告訴訟の対象とならないような行政の行為を契機として争いが生じた公法上の法律関係につきまして確認の利益が認められる場合には、現行法でも当事者訴訟の類型として確認訴訟を起こすことができると解釈されているわけでございますが、これがそうはっきり条文に書いていなかったわけでございますので、余り使われることがなかった。こういう点が検討会等を経まして浮かび上がってきたということでございまして、通達あるいは行政指導、こういうことが変わることによって自分の権利義務関係に影響があるという場合には、それについての無効確認の訴訟を起こすとか、自分に義務のない確認を起こすとか、こういうことが可能でございまして、現にそういう判例もあるわけでございます。したがいまして、そういう関係で救済をしていこうと。

 それにしても、この現在の四条の条文については、公法上の法律関係に関する確認の訴えができるかどうか必ずしも明確ではないということで、これが活用をされていくようにということから、その一類型として明示をしようということでこの条文を置かせていただいた、こういう経緯にあるわけでございます。

塩崎委員 この「公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の」という、これを加えたということなわけですね。そうすると、意味合いについては今おっしゃったわけでありますけれども、この確認訴訟というのは今までもできなかったわけではないということで、今回は一類型として明示をしたんだ、そのために、明示をするために今の「公法上の法律関係に関する確認の訴え」という言葉を入れたという理解でいいわけですね。

 それで、そうはいいながら、これまでできたということでありますけれども、しかし、極めて厳格な解釈をしてきたわけですね。それで、今後のこの取り扱いというのが、この一言、ワンフレーズ入れることによってどう変わるというふうに考えておられるのか、今までの大変厳しい解釈がどう変わるのかということをちょっとお尋ねしたいと思います。

山崎政府参考人 確かに実務上も、判例をよく見れば、この類型のものの訴訟が起こっておりまして、結論は別として、起こしても構わぬということになるわけでございまして、これは認められているわけでございますが、やはりここの明文の規定がなかったということによって、解釈上も余りこれについて明確なものがなく、それでやはり利用が、そういう利用もできるんだということが一般に知られていなかったわけでございます。

 これを今度置くことによって、やはり今後は、公法上の法律関係に関して確認の利益が認められる場合について、国民と行政との間の多様な関係に応じた実効的な権利救済のために、この当事者訴訟としての確認の訴え、これの活用が図られるということを大いに期待してこの明示的な条文を置かせていただいた、こういうことでございます。

塩崎委員 だとすれば、この前、推進本部がつくったまとめの中にも「一類型として明示」と書いてあるわけですから、そうだとすれば、これに書いてあるのは「当事者訴訟」、こう書いてあるので、一般の人には確認訴訟、確認訴訟と言っていて、当事者訴訟だけではちょっとわかりづらいので、この確認訴訟という言葉も一緒になぜ表示しないのかなと思って、質問を別に通告しているわけじゃないんですけれども、これは法律にそう書いてあるんですね。この括弧の「当事者訴訟」という今までのおなじみのことで確認訴訟という言葉をもうちょっと、今おっしゃった、明示するんだというんだったら、少しプレーアップしたらいかがですか。

山崎政府参考人 御指摘の点、そういう点がございますけれども、ただ、この当事者訴訟は、確認の訴えだけではございませんので、給付のものとかいろいろな態様がございますので、それを、一つだけ確認の訴えを表題に抜き出しをするということは相当ではないのかな、やはり全体を包括して当事者訴訟というので正しいのかなというふうに思っております。

塩崎委員 少し具体例で、具体例はなかなか答えられないというのはもうわかっていながらちょっと言いますが、去年、一年前の日本の経済、随分違っちゃったんだなというのを感じると思うんですが、生命保険会社の予定利率の引き下げの法律というのが大変対決法案になったわけであります。自民党の中でもさんざん大騒ぎして議論しましたが、この保険業法の第百三十二条に基づいて、いわゆる銀行でいえば自己資本比率規制みたいなものが、ソルベンシーマージン比率というのがあるわけですね。これに関する、かつては省令、今は内閣府令になっているんでしょうが、これがありまして、それで一応健全性というものを見るわけですね。

 ところが、昨年、御案内のように、保険業法を改正いたしまして、予定利率の引き下げができるようにしたという法律がございました。行政庁、つまり金融庁がこのソルベンシーマージン比率で見ると、健全性に問題なし、必要な措置をとる必要がないというふうに内閣府令ではなっているにもかかわらず、まだ一件もこれはないんですけれども、予定利率を引き下げるという、この保険業法の第二百四十条の二において、これは何て書いてあるかというと、保険業の継続が困難となる蓋然性があるという判断を免許付与者が判断するんですね。

 そうすると、予定利率を引き下げるということができるようになるわけでありますけれども、しかし、その保険会社で保険契約をしている人は、保険契約者は、この保険業法の第一条の目的規定、つまり、保険契約者保護という一番大事な目的から照らしてみると、この府令、ソルベンシーマージン比率を定めている府令が不合理ではないか、あるいは、きちっとした健全性を保つための手だてを打たなければいけないということを本当はこれを根拠に言わなきゃいけないのに言わないということは違法性があるかもわからないということを、契約者が予定利率を引き下げられて不利益をこうむるわけですから、そういうときには、公法上の法律関係に関する当事者訴訟を提起することができるんじゃないかということを私としては感じているわけであります。

 こういう問題が今後、この法律が仮に通った場合には、この内閣府令を対象に、おかしいじゃないかという当事者訴訟を起こすことができるのかどうかということをちょっとお聞きをしたいと思うわけであります。

山崎政府参考人 確かに個別の事例でございまして、ちょっと私がお答えするのがいいのかどうか、それから、所管ではございませんのでこの制度の仕組みというのが十分よくわかっておりませんので、一般論でちょっとお答えをさせていただきたいと思いますけれども。

 要は、いろいろな通達とか指導とかそういうものが変わることによって、自分と対役所の関係というんですか、行政庁との関係の公法上の権利義務関係に影響があるというような場合に、自分がそういう義務がないとか、あるいは何らかの権利の確認とか、そういうことを起こすことができるということでございます。

 例えば、判例で言われている典型的な例は、ある事業を行うことについて、今まで届け出制であったものが許可制に変わったということでありまして、そうなりますと、自分としては、その業務をこれから続けていくためには許可の申請をしなければならないということになりまして、その許可自体の妥当性の問題を争って、自分にはそういう許可の申請をする義務がない、こういうふうに争ったというのが典型としてあるわけでございます。

 ただいま御指摘の点が、だれとだれの法律関係かという点がちょっと私も必ずしもよくわからない点がございまして、個別の点についてはちょっと勘弁を願いたいと思いますけれども、そういう関係で、行政庁とその当事者の関係に帰着するということになって、確認の利益があるということならば起こせる、こういうことでございます。

塩崎委員 ですから、金融庁と個別保険契約者の間の問題であって、金融庁の最大の目的は保険契約者の保護ということなんですね、これは第一条に書いてある。それで、その手だてが百三十二条で、府令に落とされて、ソルベンシーマージン比率がある。それしかないんですね。あとは一般的に、財務の状況にかんがみてとかなんとか、そういう一般論はありますけれども。

 その府令が、いいよ、これでもこの会社は大丈夫ですよと言っていながら、いきなり予定利率を下げろという話になって不利益をこうむる、こういう話ですから、そうすると、その府令自体がおかしいじゃないかというふうに考えるのが普通じゃないかな。ですから、不利益をこうむるわけですから、保険契約者が、その府令がおかしいということを訴えていいんじゃないのかなということを言っているわけであります。

 何かさらにコメントすることがあればあれですけれども、それを押し問答していても、金融のプロではないんでしょうが、しかし、裁判官というのは、もともと山崎さんも裁判官ですから、裁判官というのはこういうのを相手にしなきゃいけないんだから知ってもらわなきゃいけないし、これからは行政訴訟でこういうものだって対象になるかもわからないぞという、さっき言った官と民の間の文化を変える、こういうことでありますから、ぜひ全国の裁判官の皆さんもよく考えていただいて、行政のおかしいところはやはり正していくというふうにしてもらいたいな、こう思うわけであります。

 次に、本当は仮の救済を考えておったんですけれども、時間の関係で、原告適格の方に先に行きたいというふうに思います。第九条ですね。

 そこで、何しろ原告適格が非常に狭いということでありますが、今回、処分の取り消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、訴えを提起することができるという今までの原告適格について、法律上の利益の有無を判断するに当たっての考慮事項を定めた。その趣旨は何だと。

 それから、考慮事項を定めることで原告適格が、先ほど来ちょっと質問が出ていますけれども、本当に広く認められることになるのかということをまずお聞かせをいただきたいと思います。

山崎政府参考人 この原告適格につきましては、私どもの検討会でも相当に議論をしたところでございます。現在のその状況の指摘といたしまして、原告適格が認められる範囲が狭いとか、あるいは原告適格の判断が法令の文言にとらわれて硬直的になるおそれがある、こういうようないろいろ御指摘がございました。

 それで、いろいろな議論を経たわけでございますが、まず第一に出てきた点は、法律上の利益ということを言っているわけでございますが、これが非常にあいまいではないかということから、これをもっと拡大するために、法的な利害関係を有する者とか、そういう文言に置きかえたらどうかという議論がまず第一次的に行われました。

 ただ、これは、法律上の利益というものがあいまいで抽象的だと言われると、そうすると、利害関係というのも本当にはっきりしているのか、それに置きかえたことによって本当に広がるのかという点が問題になりまして、それは当然広がる保証にはならないだろうということから、そういう方法は難しいということでデッドロックになったわけでございます。

 では、どうするかということでございますが、そうすると、文言の置きかえをやってもなかなか難しい、しかし、その文言が柔軟に、広く解釈されていかなければならないだろうということから、非常に硬直的な解釈を避けるために、それでは考慮事項というものを法律で置こう、これを十分に考慮した上で当事者適格を定めていく、こういう規範をつくろうということでございます。

 従来でもいろいろな判例がございまして、解釈でさまざまな判例があるわけでございますけれども、非常に広く認めたもの、狭く認めたもの、ばらばらでございます。解釈ですから、これは裁判所が自由に、裁量の範囲でいいわけでございますが、ただ、それではやはりばらつきが非常に出てくる可能性もあるということから、法律できちっと考慮事項を置いて、この事項については考慮をしなければならないという規範を与えて、その上で柔軟に広がっていくような、実質的に広がっていくようにということを考えたわけでございます。

 そこで、この九条を置いているわけでございますが、ここで、やはり読んでいただければおわかりかと思いますけれども、処分または裁決の相手方以外の第三者の法律上の利益の有無、この判断に当たりまして、当該処分の根拠法令の文言のみによることなく、根拠法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するということにしております。

 そして、もう少しかみ砕いた文言を、規定を置いているわけでございますけれども、根拠法令の趣旨及び目的を考慮するに当たり、これと目的を共通にする関連法規の趣旨及び目的も参照するということにしておりますし、また、当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するに当たって、当該処分が根拠法令に違反したというふうに仮定をして、そうした場合に害されることとなる利益の内容、性質等をも勘案して、その法律上の利益の有無が適切に判断されるということを確保しようとしたものでございまして、具体的な事例にこれをいろいろ当てはめて解釈していただければ実質的に広がっていくことになるということで、私どもは提案をさせていただいたということでございます。

塩崎委員 考慮ということで、この二項に、考慮という言葉は四回も出てくるんですよね。よっぽど考慮しないといけないと思うんですが。

 今の御説明で、考慮事項を定めることで拡大をするんだ、こういうことでありますけれども、これまでは、公益とそれから私益を二分して、後者、つまり私益が問題となる場合のみ原告適格を認めると考える傾向が強かったんだろうと思いますけれども、今後は、いわば公益と私益の中間にある集団的、拡散的利益というものについても、一定の場合には原告適格を認めるということを期待した改正というふうに考えていいのかどうか、この点についてはいかがでしょうか。

山崎政府参考人 ただいま御指摘の、この法律は公益を守っているのか、あるいは私益まで守っているのかという議論、これは私どもの検討会でも議論されたわけでございますが、これは、そういう論者がおられまして、比喩的にかなりこの点を言われたわけでございますけれども、私どもの議論といたしましてこういう議論に乗ったということではないのでございますけれども、やはり文言を見ると、これは公益のみを対象にしているように読めても、それ以外の、条文とかそれから法の趣旨を見れば、必ずしも公益だけではなくて、個人個人に影響するようなもの、これも保護の対象にしているというような実態があれば、これは当事者適格を認めていく、こういうような考えをできるようにこの条文を置いているわけでございまして、では、本当に個人の利益も保護の対象になるかどうかは、もしその根拠法令に違反してある行為が行われたときに一体どういう被害が出てくるのかとか、そういう点も考慮をして、最終的に、法律がどういう利益を保護しているか、これを考慮しなさい、こういうことを言っているわけでございます。

 それからもう一つは、その法律だけではなくて、これに関連するような法規がありまして、そこでやはり別の個人的な利益、こういうものも保護の対象にしている、こういう事業をやる場合にはそれも考慮しなければならないと関連法規が定めている場合、こういう場合についても、それも考慮の対象にしてその当事者適格を判断しなさい、こういうふうにつながるわけでございますので、まさにそういう意味では、今までその文言だけ、根拠法令の文言だけにとらわれていたところから、その法律全体でどういうものを守っているか、それから実態がどうなっているか、それから関連法規がどうなっているか総合して判断をしなさい、こういうことを命ずるわけでございますので、私ども、具体的な事例でなかなか申し上げるのは難しいんですけれども、これだけの要素を盛り込めば実質的に広がっていくというふうに考えているわけでございます。

塩崎委員 ですから、今のは、この「当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、」というところがやはり一番のポイントだというふうに受けとめてよろしいんですね。

山崎政府参考人 まさにこれがキーワードでございまして、今まで私ども、こういう条文を設けることについていろいろ検索をいたしましたけれども、こういう、文言によることなくという表現というのはなかなかそうは見つからないわけでございまして、これは相当重いものというふうに理解をしていただきたいと思います。

塩崎委員 具体例はなかなか難しいという話ではありますけれども、例えば、風営法に基づく営業許可について、その周辺住民が良好な風俗、風営法ですから風俗環境、それのみならず居住環境を害されるおそれがある場合、これはどういうふうになるのか。それから、伊達火力が典型的な例でしょうけれども、公有水面埋め立てとか、環六でしたっけ、道路拡幅事業などへの環境影響評価法が適用される場合などにおいて、周辺住民の環境、例えば空気とか景観、自然環境、静ひつな環境とかが害されるおそれがある場合、こういう場合はどういうふうに解釈をするというふうにおっしゃるんでしょうか。

山崎政府参考人 なかなか具体的な事例について言うのは難しいんですが、ただ、今御指摘の点につきましては、私どもの検討会の方でもいろいろ議論がされた経緯がございますので、その議論を中心にちょっと申し上げたいというふうに思います。

 まず、風俗営業法の関係でございますけれども、これは基本的な保護は何を行っているかということでございますが、それは良好な風俗環境ということでございまして、これは一般的に、専ら公益保護の観点からいろいろな基準を定めていると言われております。

 それは確かにそうかもしれませんけれども、この中で、条文をよく見てまいりますと、風俗営業法の中では、営業所周辺の騒音、振動の規制、それから営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある広告及び宣伝の規制、あるいは具体的な営業所周辺の環境に配慮した規制を行っているわけでございまして、これの実効性を担保するために、法令の遵守を管理する管理者の選任を義務づけと、こういうような制度を設けておりまして、この管理者選任の確実性を風俗営業の許可の要件とするというような制度を設けておりまして、こういうような場合で法令に違反した営業が行われた場合には許可を取り消すことができる、こういう規定も置いているわけでございます。

 もう一つは、やはり騒音、振動ですね、こういうものも生じないようにしなければいけない、そういうような幾つかの条件を設けていまして、これを守るようにと言っているわけでございます。(塩崎委員「風営法の中で」と呼ぶ)はい。風営法の中でそういうことを言っているわけでございます。

 そうなりますと、最終的には公益だといいながら、こういう文言を見てまいりますと、やはり騒音だとか、そういういろいろ影響を受けるということも一つの態様にしているわけですね。それで、これについて問題があって、その遵守をしなければ取り消す、こういうような形になっているわけでございまして、そうなりますと、全体の法令、根拠となる法令の全体を解釈いたしますと、確かに、公的な環境の保護といいながら、やはり周りの方々の生活の安全の保護、これも行っているというふうに解釈されるだろう、こういうようなことにつながってくるわけでございます。

 それから、御指摘がございました埋め立ての関係がございます。

 これにつきましても、いろいろ判例もあるわけでございますが、この埋め立ての関係も、今までの考え方では、埋め立て対象の水面の漁業権者等の権利者に原告適格が認められまして、周辺水面の漁業権者には原告適格が認められない、こういうような解釈が一般的に行われてきたわけでございますけれども、これにつきましても、公有水面埋め立ての場合には、その趣旨、目的においても、いろいろな個人の権利義務関係について考慮をするほかに、関連の法令といたしまして、いわゆる環境影響評価法、アセスメント法と言っているかと思いますけれども、その趣旨、目的、これも参照をいたしまして、埋め立てによる環境の悪化によって被害を受ける周辺水面の漁業権者の被害等の実態も勘案して定めていく、こういうことにつながってくるということになります。

 あと、道路の関係で、都市計画法、道路の拡幅工事でございますけれども、これは従来の考え方でいけば、原告適格が認められるのは、拡幅対象土地の所有者等の権利者に原告適格が認められるということでございまして、その周辺に住んでいる単なる居住者あるいは通勤通学をしている者については原告適格がないというのが従来的な考え方になるわけでございますけれども、ただ、この点につきましても、先ほど申し上げました環境影響評価法、こういうものも当然、都市計画については対象になるわけでございますので、こういうところで保護をすべきもの、趣旨が盛られていれば、それに当たる、該当をする居住者であっても保護の対象につながっていくということで、こういうような関係で広がっていくということでございます。

 そのほかも、いろいろなケースについて検討会では議論をいたしました。必ずしも、この規定を置いたからといって、そのすべてについて広がるということではございませんけれども、典型的に今申し上げたようなものについては広がっていく、こういうようなことで考えたわけでございます。

塩崎委員 またちょっと具体例ですが、やはり去年の二月ぐらいだったでしょうか、某主要銀行が第三者割り当て増資をやりました、一兆円。そのときに、私の地元にもその支店があるものですから当然、取引先、中小企業の、私の友達の経営者から相談のメールが来まして、要するに、第三者割り当て増資一億円を頼まれた、どうしようかと。要は銀行から金を借りているわけでありますから、むげに断ったら後でいじめられるんじゃないかなということを考えて相談をしてきて、結果、その半分ぐらいつき合った、つまり五千万ですよね。私どもの地元の商店ですから、そこがつき合わざるを得なかった。

 そういう第三者割り当て増資で、いろいろな話題になって、支店長さんがもう嫌気が差して銀行をやめたとか何かいろいろなことがありましたが、あのときに金融庁はガイドラインというのを出したんですね。事務ガイドラインを出したというか、これは改正をして、第三者割り当て増資のときの扱いについてのガイドラインを出したわけであります。この事務ガイドラインには、行政庁、つまり金融庁が届け出を受けた後に、銀行が優越的な地位を利用して取引先中小企業などに増資引き受けを強要している場合には、業務改善命令等を発するように書いているわけなんですね。

 ということなんですが、では、実際に強要された取引先中小企業というのは、この届け出処分に対して、または、時点によりますけれども、行政庁に対する義務づけないしは差しとめ訴訟において、これは原告適格を認められるのかどうかということで、民事局長も首をかしげていますが、やはりどう見ても、私も個人的には、あのときのやり方というのはどうかなという思いがいたしましたし、ガイドラインがなきゃいかぬと思っていたらガイドラインが出てきた。そこにちゃんと書いてある。しかし、それがどうも守られていないんじゃないかなと、私もちょっとまゆにつばをしていたわけでありますけれども。

 この場合に、例えば私の地元の取引先の中小企業の経営者が原告適格になるのかどうかということについて、お考えをお伺いしたいと思います。

山崎政府参考人 これもなかなかお答えしにくい点がございまして、必ずしもその省庁の関係の所管をしているわけではございませんので難しいわけでございますけれども、一般的に言って、先ほどちょっと義務づけ訴訟という話が出てまいりましたけれども、何らかの規制権限の発動を求めるというような場合には義務づけ訴訟を起こすことができるという規定をこの法案でも置いているわけでございます。

 ただ、その起こす前提として、やはり法律上の利益があるということ、それが前提になる。そういう立場にある者であれば原告適格があって、義務づけ訴訟を起こすことができる、こういう規定を置いているわけでございます。今までに、解釈上では認められていても、ほとんど利用がなかったというものでございます。

 先ほど委員が御指摘になった例が、そういう法的構成から、法律上のその人の利益があると言えるかどうか、そこの問題でございまして、ちょっと具体的に今の条件の中でそれをお答えできる能力がございませんけれども、そういうことになれば訴訟の態様としては起こし得る、こういう形になろうかと思います。

塩崎委員 そのガイドラインには、「届け出を受けた内部管理態勢全般を検証し、その適切性に疑義が認められる場合には、必要に応じ、法第二十四条に基づき報告を求め、または、重大な問題があると認められる場合には、法第二十六条に基づき業務改善命令を発出するものとする。」ということで、その中に、「優越的な地位の濫用」とか、そういうのが入ってくるわけですね。ということなので、私は、当然訴えることができるのではないのかなというふうに思っておりますが、ぜひ、裁判官の皆さんにはお考えをいただいた上で不利益が高じないようにしてもらいたい、こう思うわけであります。

 原告適格の拡大のことは、一言で言ってしまえば、よく検討会でも言われていたのは、最高裁の判例の考え方の追認に終わるんじゃないかということで、あるいは、本当に現在の判例のまま固定してしまうんじゃないかという懸念が大分あったわけでありますけれども、その中で、検討会で推進本部の方がそうじゃないということを言っているようでありますけれども、そういった批判についてどう思っているんだろうか。

 それから、さっき、利害関係というのはなかなか法律上の利益にかわる文言としては余り適切ではない、こういう話がありましたが、それは置いておいて、今申し上げた、一言で言ってしまえば、判例の追認に終わらないのか、あるいは判例の固定化ではないのかということについて、もう一回お考えをお聞かせいただきたいと思います。

山崎政府参考人 この点に関しましては、現在の判例の状況、ちょっと具体的に申し上げませんけれども、かなり広く認めたものから、極めて狭い範囲しか認めていないものということがございます。

 先ほど申し上げましたけれども、これは解釈の中でやっていますと、それぞれ解釈の範囲でその考えがあるわけでございますから、かなりでこぼこになる可能性がございます。したがいまして、そういう状況ではなかなか安定的に解釈が行われていかないということでございまして、こうなると本当に広くなるのかならないのか、非常に不安定でございます。

 そこで、我々は、もちろん判例の考え方も参照はいたしましたけれども、現在ある法体系の中で最大限いろいろなものを考慮して、広くなるようにするためにはどういう手法があるかということから今回のような考え方を導入したわけでございますが、これは今度、解釈の範囲で自由にやるということではございませんで、少なくともこの点は考慮をしなければならないという規範になるわけでございまして、そういう意味では、今の実務が非常にばらばらになっているところを全体に上げていく、こういう役割を果たすだろうということでございまして、現在ある判例の実務の状況、これをただ追認したものではなくて、これをよりグレードアップしていく、こういう役割を果たすということで、この規定を置かせていただいたということでございます。

塩崎委員 力強いお言葉でありまして、やはり入り口が広がるかというときに、この原告適格が一番大事なことでありますので、実際にそれが広がってもらいたいと思うんですけれども、そういう意味で、今回いじっていない第十条の一項に、自己の法律上の利益に関係のない違法主張の制限というか、「取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。」こう書いてあるわけでありますけれども、この規定が今度どういうふうに運用されるのか。

 運用次第では、今おっしゃった、原告適格を拡大するんだというふうにおっしゃっているんですけれども、これが意味がなくなっちゃうんじゃないかという心配もないことはないと思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。

山崎政府参考人 この条文については、ちょっと二重の説明をしなければならないだろうと思います。

 これは、まず原告適格があるかどうかというのは、先ほどもお話し申し上げましたけれども、そこのところで決まってまいりますけれども、これは、原告適格があるとしても、それで裁判を起こす資格はあるんですけれども、その理由の中で、自分に関係のない主張を言ってもだめだよ、認められませんよということを言っております。

 したがいまして、典型的に申し上げますと、今まであった例でございますけれども、滞納処分であります差し押さえあるいは公売処分の取り消し訴訟において、公売物件の抵当権者に対する通知を欠いたまま行われた違法は担保権者の法益侵害であって、その所有者、納税義務者である原告の利益とは無関係であるから、その違法主張は許されない、こういうことでございますので、ちょっとその次元が違うものでございます。

 しかしながら、「法律上の利益」という点が書かれておりますので、これは先ほどの当事者適格の「法律上の利益」と同じ文言になるわけでございますので、その法律上の利益が広く解されていくということになれば、こちらの主張の方も広くなっていくということの相関関係はあろうかというふうに思いますので、そういう意味では、自己に関係のない主張というのが狭くなってくる可能性もあるということでございます。

塩崎委員 ぜひ、これが実際に、原告適格が広がる、そういう根拠になる法律になってくれることを期待したい、こう思うわけであります。

 時間が大分なくなってきたので、仮の救済の中で、ちょっと一つだけ。

 さっきも、午前中も房村民事局長から大分御答弁もいただいていますが、その中で、例えば、執行停止の要件を今回、回復困難な損害から重大な損害に緩和したわけで、これについての趣旨はもう既にお話をいただいているわけでありますが、例えば、どんなような場合に、認められるべき執行停止が認められなかったと考えるのか。

 それから、執行停止の要件の今回の改正によって、例えばどんなような場合に執行停止が認められやすくなるのかというあたりについて、ちょっと話が飛びますが、第二十五条のこの執行停止のところで述べられている点についてお話をいただきたいと思います。

山崎政府参考人 これにつきましては、具体的に申し上げるのはなかなか難しいところがございます。午前中、房村局長からもお話があったかと思いますけれども、ここで、従来「回復の困難な損害」と言っているわけでございます。これを「重大な損害」に変えているわけでございます。

 回復困難な損害といいますと、金銭的に後で補償を受けても償えないものというようなイメージになるわけでございます。そうなりますと、それがそれほど、金銭的な補償で足りるんだけれども、それが重大なものであるというような場合には射程の中に入ってこないということになります。そういうことで本当にいいのかどうか、そこは少し狭過ぎるのではないかというような議論が行われまして、いや、金銭的なもので回復のできない損害ではないんだけれども、やはり重大な損害をこうむる、こういうような場合にも執行停止の対象にしよう、こういうのが一つの考えでございます。

 それともう一つは、ただその損害だけではなくて、これによって停止をされる行政の処分がございます。そういう行政処分の受けるいろいろな影響等、こういうことと比較考量して、どちらの方をやはり重視していくべきか、そういう相関関係の中で判断をしましょうというのが今回の法案の考え方でございます。

 これは、現在の実務の中でも、やはり総合比較をして、最終的に停止をすべきかどうかということを実務上行っておりますので、それがやはり私も、バランスとして、受ける側と行政庁の影響、こういうものをやはり総合比較をして、最終的に停止をすべきかどうかを決めていく、これが非常にバランスのいい考えだろうということで提唱させていただいているということでございます。

 具体的に例をと言われますと、そんなに例がございませんので、今申し上げるわけにはいかないということを御理解賜りたいと思います。

塩崎委員 ありがとうございました。

 もうあと五分しかないので、今後の課題ということを少しお聞きしたいと思います。

 冒頭、大臣にお言葉をいただいたときに決意のほどということでお話しいただいたわけでありますけれども、その中でも、五年後の見直しということについてお触れをいただきました。やはり今までの四十年間ほったらかしだということの反省の上に立って、これからこれをよくしていこうということで、五年後に見直しをするんだ、こういうお話がございました。

 それはそれでわかりましたので、もし何か追加があればまた別でありますが、基本的にはそれはそれでいいんですけれども、問題は、けさ副大臣にも、何合目までこの法律改正で行ったんかいのという話をして、何合目とはさすがにおっしゃらなかったけれども、僕は、せいぜい全体的に見ると三合目か四合目かな、こう言っているわけであります。それは、この法律だけじゃなくて、行政手続法とかいろんなものを含めてやっていくという意味でそういうことを言っているわけで、皆さんの今回のお仕事については、かなり頑張ったということはよくわかっておりますが、さりとて、いっぱい残っているなと。

 例えば行政訴訟そのものの制度に関しても、国民と行政庁とがより対等かつフェアな関係で訴訟を行う観点から、例えば訴訟対象の拡大というのをまだまだ議論しなきゃいかぬ。団体訴訟の導入であるとか、訴え提起の手数料の合理化であるとか、それから弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入というような積み残し課題がたくさんあるんじゃないかな。

 これらの点をどう考えていて、今申し上げたようなもの以外に何が積み残してあるのか、今後、それら残っている課題についてどう取り組むつもりなのか。

 さらに、今申し上げた行政手続、立法手続については総務省なんかでやっているようですけれども、その手続法改正とかあるいは行政実体法の見直しなどで、より間口の広い課題について、政府部内について、どういう場で、今推進本部がありますけれども、この行政訴訟制度の見直しも含めて行政手続法の改正あるいは行政実体法の改正、行革全般との絡みもあるんでしょうけれども、どういう場で特にこの行政訴訟制度の改革については取り組んでいかれるおつもりなのかということを大臣からお話しいただきたいと思います。

野沢国務大臣 委員、今御指摘のとおり、積み残し課題というものはまだまだ相当残っているんじゃないかということで、引き続き、この点についての議論はいろいろな場で進めなければいけないと考えております。

 やはり何よりもこの国会の場が大事でございますが、それぞれの分野がありますので、法務省を初め各関係省庁がそれぞれの自分たちの検討の場を設ける、あるいは、各政党の段階での御議論も大事かと思います。そして、何よりも、この仕事を実行に移していった現場での御議論、これがやはり大きな問題の発生のしどころでもございますから、ここでの御議論も含めて、これを集約する中で、次には何を取り組むべきか、どの場で取り組むのが最も適切であるか、司法制度改革の推進本部のような場を再び設けるのか、あるいは、そういったことにとらわれず、常時の見直しも可能なような場を設定することが大事じゃないかと思っております。

 そういう意味で、今後、あらゆる機会をとらえまして、今御指摘のような積み残し課題についても意を用いまして、この制度のより一層な改善、改革を図りまして、委員が最初に御指摘しております行政と国民とが対等な立場で問題を前進させる、これが非常に重要なことと思っております。その意味で、今回この法案が出たということは、まさに国民と行政とのかかわりのあり方の基本を見直す大きな機会になったと考えておりますので、その趣旨を生かして頑張ってまいります。

塩崎委員 今、大臣のお言葉の中に、各役所が、省庁がということと、推進本部みたいなものも可能性としてはということ、これは言ってみれば省庁横断的な。ですから、私は、個人的には、オール霞が関を相手にするわけですから、どこかの役所一個でそれぞればらばらにやってもだめなんじゃないかなということで、やはり何らかの形で省庁横断的な推進あるいは改革推進母体というのはあった方がいいんじゃないかなと思うんですが、これについてはどこかで機会があればまたやりたい、こう思っております。

 最後に、一点だけ。こういうふうにいろいろ変わるということで、肝心の現場の弁護士さんとか裁判官、こういった人たちが、この改革の趣旨を徹底して、認識してもらわなければ、金融のことはわかりませんとか、原子力のことはよくわかりませんじゃ困るし、心がやはり一番大事でありますから、それを一体、では、特に推進本部として、改革の趣旨というものをどういうふうに徹底していくのか、何をすることが必要だと考えておられるのか、この点についてお答えを最後にいただいて終わりにしたいと思います。

山崎政府参考人 この改革の趣旨を徹底することが一番重要だろうと思います。

 私ども、今考えておりますのは、この改革の趣旨がわかりやすいような、いろいろな対談を行ったりあるいは論文を書いてもらったり、そういうことの周知徹底をまず行うということでございますし、また、今後のあり方について、弁護士会等も含めて、いろいろなところで例えばディスカッションを行うとか、それから、これを国民の方にもアピールをしなければなりませんので、利用していただかなきゃなりませんので、そういう関係についても、いろいろな手段を通じて拡大していくように、これからいろいろ具体的に検討を重ねてまいりたいと思います。

 それから、先ほど委員からの御指摘でございまして、残された問題につきましても、私どもの検討会は続いておりまして、もう終わっているわけではございませんので、これが、法案の方が山を越えたらまた再開をするということでございますので、その中で、どういうテーマが本当に可能で、ではこのテーマについてどういう場面でやったらいいのかということも含めて、これから鋭意検討をしてまいりたいというふうに思っております。

 その中で、また周知徹底のやり方についても検討会の方にお諮りをいたしまして、具体的なものをもう少し詰めてまいりたいというふうに思っております。

塩崎委員 終わります。ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 次回は、明二十八日水曜日午前八時四十五分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後五時三分散会


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