衆議院

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第23号 平成16年5月11日(火曜日)

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平成十六年五月十一日(火曜日)

    午前十時一分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    桜井 郁三君

      柴山 昌彦君    中野  清君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    阿久津幸彦君

      泉  房穂君    枝野 幸男君

      鎌田さゆり君    河村たかし君

      小林千代美君    小宮山洋子君

      辻   惠君    中井  洽君

      松野 信夫君    上田  勇君

      富田 茂之君    川上 義博君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    房村 精一君

   参考人

   (東京大学名誉教授)   塩野  宏君

   参考人

   (日本経済新聞社論説委員)  藤川 忠宏君

   参考人

   (弁護士)

   (龍谷大学法学部教授)  水野 武夫君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十一日

 辞任         補欠選任

  加藤 公一君     阿久津幸彦君

同日

 辞任         補欠選任

  阿久津幸彦君     加藤 公一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 行政事件訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出第六六号)

 不動産登記法案(内閣提出第七五号)

 不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出第七六号)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、行政事件訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、東京大学名誉教授塩野宏君、日本経済新聞社論説委員藤川忠宏君、弁護士・龍谷大学法学部教授水野武夫君、以上三名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、塩野参考人、藤川参考人、水野参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いをいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず塩野参考人にお願いいたします。

塩野参考人 ただいま御紹介にあずかりました塩野でございます。

 本委員会におきまして、今般の行政事件訴訟法改正について私の意見を申し述べる機会を与えられましたこと、大変光栄に存じております。

 私は、長年大学において行政法の研究教育に従事してまいりました。行政訴訟に関しましても若干の論文を公表してまいりました。そのような関係もありまして、司法制度改革推進本部に置かれました行政訴訟検討会に参加し、座長として検討会の進行をとる役割を仰せつかりました。そこで、本日の私の意見は、主として行政訴訟検討会の座長としての立場から申し上げるということにしたいと存じます。

 まず最初に、行政訴訟検討会の検討の経緯について、簡単に御説明をいたします。

 行政訴訟検討会は、平成十四年二月に発足いたしまして、その後、ほぼ二年間の間に二十七回の会合を開き、一回三時間ないし四時間かかったこともございます。鋭意行政訴訟制度の改革に向けて検討を行ってまいりましたが、去る平成十五年十二月の第二十七回会議におきまして、「行政訴訟制度の見直しのための考え方」と題する文書を公にいたしました。

 以下、これを「考え方」と略して申しますが、これは、今次の司法制度改革における立法課題としての行政訴訟検討会の見解でありまして、お二人の委員の意見が付記されていますけれども、この意見も、その多くは、「考え方」への反対意見というのではなくして、委員としてよりよいと思われる意見を開陳されたものであります。したがいまして、「考え方」は検討会における大方の意見の集約であるというふうに見てよいと思います。

 ところで、司法制度改革審議会意見におきましては、司法の行政に対するチェック機能の強化が一つの検討課題として取り上げられまして、国民の権利救済を実効化する見地から、行政過程全体を見通しながら、法の支配の基本理念のもとに、司法と行政それぞれの役割を見据えた総合的、多角的な検討が求められるとされていたところであります。

 「考え方」におきましても、この意見書に示された基本的方向を踏まえ、行政訴訟制度につき、国民の権利利益のより実効的な救済を図るため、その手続を定めることをもって見直しに際しての基本的考え方といたしたものであります。

 これを具体的に申しますと、救済範囲の拡大。つまり取り消し訴訟の原告適格の拡大、義務づけ訴訟の法定、差しとめ訴訟の法定等であります。

 審理の充実、促進。これを具体的に申しますと、民事訴訟法百五十一条の特例としての、裁決の記録の送付、処分の理由を明らかにする資料の提出の制度の新設でございます。

 それからさらに、行政訴訟をより利用しやすく、わかりやすくするための仕組み。すなわち、抗告訴訟の被告適格の明確化、抗告訴訟の管轄裁判所の拡大、出訴期間の延長等、それから出訴期間等の情報提供制度の新設であります。

 最後に、第四番目として申し上げたいのは、本案判決前における仮の救済制度の整備。つまり執行停止要件の整備、仮の義務づけ、仮の差しとめの制度の新設であります。

 さて、今般内閣より提出された行政事件訴訟法改正案も、その提案理由に見られますように、行政事件訴訟による国民の権利利益の救済の範囲の拡大を図ること、審理の充実及び促進を図るため、釈明処分として、裁判所が行政庁に対して処分の理由を明らかにする資料等の提出を求めることができる制度を設けること、行政事件訴訟をより利用しやすく、わかりやすくするための仕組みを整備すること、本案判決前における仮の救済の制度の整備を図ること等が挙げられておりますけれども、これは、先ほど申し上げた「考え方」について、項目的にも一致しておりますとともに、内容的に見ても、「考え方」の提案を法制技術的見地から整備したものと理解することができ、私としてはこの改正案に賛成の意を表するものであります。

 このうち、被告適格とか裁判管轄、出訴期間、釈明処分の特例に関する規定、これは一見大変地味ではありますけれども、実は、現実問題としては、ほかの制度改革以上に行政訴訟の活性化をもたらすものであるというふうに考えられます。

 ただ、時間的関係もありますので、本日のところは、理論的見地からも重要と思われます救済範囲の拡大に重点を置いて意見を申し述べることにいたしたいと思います。

 救済範囲の拡大に関する問題の中でも、原告適格については検討会においてもかなり議論を重ねたところであります。比較法的に見ても、原告適格に関する日本の裁判実務、これはかなり狭いということ。これを何らかの形で実質的に拡大する必要があることには意見の一致を見たところでありますけれども、その方法につき、現行法における「法律上の利益」という言葉自体を変更すべきであるという意見がある一方、それは実際上の意義を持たないのではないかという意見もあり、結局のところ、改正案に示されておりますように、裁判所が原告適格を判定するに際して考慮すべき事項を定め、これによって裁判所が実質的に原告適格の範囲を拡大することへの道を開こうとしたものであります。

    〔委員長退席、塩崎委員長代理着席〕

 例えば、税務処分のように、公益と私益、これが明確に対峙するものも、あるいは対立するものもありますけれども、現代国家におきましては行政活動はさまざまな利益の調整の役割を担っているということが特徴的でありまして、これらの関係諸利益が司法の場においても適切に当事者によって主張される、そうすることによって救済の範囲を拡大し、もって国民の権利利益の救済の実効化が図られることが期待されるわけであります。

 救済範囲の拡大として、新たに、義務づけ訴訟、差しとめ訴訟の二つを法定することが提案されております。これは、従来の取り消し訴訟中心主義、取り消し訴訟をできるだけ利用しよう、そういった取り消し訴訟中心主義から脱却いたしまして、国民に多様な救済方法を提供するものであり、学界からもかねて強く望まれていたものであります。

 その際、申請に対する義務づけ訴訟のみならず、原告が第三者に対する処分権限の発動を行政庁に求める、こういった義務づけ訴訟は、理論的、実務的の両面から見ても大変大きな意義を持つものであります。

 なお、この二つの訴訟についても仮の救済制度が法定化されましたこと、これは、従来の執行停止一本やりと比較すると大きな進歩と言えます。

 なお、救済範囲の拡大につきましては、確認訴訟の法定に触れておく必要があります。

 実は、行政訴訟検討会におきましても、行政活動、作用の複雑多様化に対応して、国民の権利利益の実効的な救済を図る観点からは、確認訴訟を活用するということが有益かつ重要であることが指摘されておりました。ただ、これを法律上明文で明らかにするかどうか、仮に法律上定めるにつきましてもどのような形で定めるかということは、法制的見地からの詰めた検討が必要であると「考え方」のレベルではされていたわけであります。

 ところが、今般の改正法案では、公法上の法律関係の確認訴訟が、法案の第四条に例示するという形で処理されました。これにより、形成訴訟、取り消し訴訟としての形成訴訟、それから給付訴訟、義務づけ訴訟としての、あるいは差しとめ訴訟としての給付訴訟、これになじまない法的紛争の解決のためのよりどころとしての確認訴訟が行政事件訴訟法においても存在するということが明確になったわけでありまして、いわば救済の多様化政策の締めくくりと言うことができようかと思います。

 以上、今回の行政事件訴訟法の改正の重要なポイントについて、その意義を指摘してまいりました。

 そこで、最後に、今回の改正法の趣旨を現行の行政事件訴訟法と比較して申し述べたいと存じます。

 すなわち、昭和三十七年に制定された行政事件訴訟法は、当時の行政法学説、田中二郎、雄川一郎、二先生に代表される行政法学説、民事訴訟法学説、兼子一、三ケ月章等の大先生の学説のいわば結晶とも言われるものであります。その意味では理論的価値は甚だ高いものがありますが、他方、枠組みがかたいために、必ずしも制度に習熟していない国民の使い勝手という点から見ると、どうもふぐあいである、あるいは使いにくいという点があるところとか、あるいは社会情勢の変動に伴った柔軟な対応の要請にこたえにくいところがありました。

 また、裁判所の方でも、当時の社会情勢を反映してということだと思いますけれども、積極的に救済の法理をみずから形成するという機運にはありませんでした。

 これに対しまして、今回の改正案は、国民の使い勝手に十分意を払うとともに、裁判所が国民の権利利益の実効的救済を図るための条件を整備するというか、裁判所に適切な救済法理を展開してもらうための広場、検討会ではオープンスペースという言葉も語られました。そういう、裁判所が積極的に救済の法理を展開していくというための場を提供するというものであります。

 その意味で、原告適格の判断のみならず、新たな法定抗告訴訟の運用、出訴期間の判定、執行停止の運用、言わずもがなのことでございますけれども、確認訴訟の活用といった点において、裁判所の適切な解釈、運用が期待されるとともに、当事者も、原告あるいは原告の代理人である弁護士、そしてもちろん行政庁が当事者の中に含まれますけれども、それなりの対応が必要であると思われるわけであります。

 最後になりますが、今回提出された行政事件訴訟法改正法案には、附則第五十条におきまして、五年後のいわゆる見直し条項があります。私は、持論としては、本来、制定法は常時点検を行い、時代の要請に対応すべきものと考えております。できたからそれで終わりというものではないはずであります。そういう意味で、時限をつけた見直し条項には従来必ずしも積極的な発言をしてまいりませんでした。

 しかし、今回提案されている制度改正は、先ほど来申し上げておりますように、裁判所の適切な運用にまつというところが大きいと同時に、裁判官、これは弁護士ももちろん含むわけでございますけれども、実務の上で、その趣旨を十分にそしゃくして適切な対応が可能になるには、多少の時間が必要と思われます。

 また、制度本来の趣旨が生かされていない、改正された後の制度の本来の趣旨が運用上生かされていないというようでありますと、それは運用に由来するというよりは、むしろ制度に由来するものであるかどうか、この点も見きわめる必要があります。

 そのようなことからいたしますと、しばらく施行の状況を観察し、一定経過後、例えば、提案されているように五年を経過した時点でさらなる制度上の手当てが必要となれば手当てをするという方策をとるのが適切と存じ、この点に関しましても改正法案に賛意を表する次第であります。

 以上でございます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長代理 ありがとうございました。

 次に、藤川参考人にお願いをいたします。

藤川参考人 おはようございます。日本経済新聞の藤川でございます。

 お手元に簡単な資料をお配りいたしましたので、それに基づいてお話をさせていただこうと思います。

 今、塩野先生から、日本の行政訴訟法の第一人者としてのさまざまな学問的な立場からのお話がありました。この後、水野弁護士から、実際に行政訴訟を長く手がけてこられた弁護士の立場からのお話があると思います。そうなりますと、私は、行政訴訟を利用する国民の立場から今度の改正をどう考えるかということについてお話し申し上げたいと思います。

 一番初めに資料に書きましたように、国民に使いやすく頼りがいのある行政訴訟制度をつくる第一歩としてぜひこの改正を実現していただきたいというのが私のきょうの意見の結論でございます。

 では、なぜそのようなことになるかと申しますと、今、世の中が大きく変わっているのにもかかわらず、行政訴訟制度がその変化に追いついていないということでございます。

 まず、大きな変化の第一に挙げられますのは、国民の意識や企業の意識というのが非常に大きく変わってきた。

 御案内のとおり、国民が裁判を利用することについて非常にふえているということは御存じのとおりだと思いますけれども、実は、企業、特に大企業が国や自治体を訴えるということが現実に非常に多くなってきています。これまで企業というのは、お上とよろしくやる、逆に言うとみつ月関係ができているということでございまして、それが癒着とか何かを生んできたんですけれども、ところが、最近、大企業が国や自治体を訴えるということが相次いでおります。

 有名な例は、大手銀行が東京都を相手に起こしました外形標準課税訴訟であるとか、それからまた、新電電五社が、総務省が行いましたNTTの接続料値上げ認可、これに対して取り消しの訴えを起こすであるとか、あるいは森ビルが、これは皆さんも関係すると思いますけれども、衆院の宿舎改築、これの業者選定がおかしいといって取り消し訴訟を起こすとか。今まで私も長年、三十年近く司法記者をやってきましたけれども、大手企業が国を訴えるというのは今まで常識的に考えられなかったこと、そのような事態が起きているということでございます。

 それからもう一つ、これは塩野先生や水野先生を前に非常にお恥ずかしい話ですけれども、行政の中身が変わってきた、方法が変わってきたということでございます。

 これまで行政というのは、さまざま国民の生命、健康、財産を守るために規制権限を強化するというのが主力でしたけれども、多様な国民の利害を調整したり、あるいは国民にサービスを提供したり、あるいは場合によっては利益を与えたり、そういう行政の割合が多くなってきた。それに伴いまして行政の方法も、今までの規制権限の強化から、行政指導であるとか計画であるとか通達であるとか、非常にソフトタッチな、ソフトな手法による行政目的の実現ということがふえてきた。そうなってきますと、今までの行政事件訴訟法では対応できなくなってきています。

 例えば、外形標準課税の問題です。あれは、税金を課されたことに対して取り消し訴訟を起こしましたけれども、三千億円を銀行側が払って、その後取り消しを求めて、それで和解に持ち込みましたから後で四%の利息をつけてお返しするということになりましたけれども、例えば、初めから条例無効の裁判を認めたり、あるいは租税債権の債務がないよという確認の訴訟を認めれば、そんな面倒なことをしなくて済んだということだと思います。

 NTTの接続料認可の訴訟についても、この訴訟が起きた直後、当時の総務大臣が非常におもしろいことを言っていました。これは裁判所でけられる、門前払いを受ける可能性があるよと。それは、今までの判例の流れからいうと、ある面で非常にまともな指摘なんです。

 例えば、ジュース裁判であるとか近鉄特急の値上げの問題であるとか、認可した人でない第三者が取り消しを求めるということは、今までの行政訴訟では認められてこなかった。だから、総務大臣が、こんなのはけられるかもしれないよということを言っておられたのはまともなことだと思います。

 でも、それでいいのかといいますと、例えばジュース訴訟、ジュースの一%、一滴も天然ジュースが入っていないのにジュースと表示していいかという、一番影響するのは我々消費者なんですけれども、その消費者に訴える資格がないという、どう考えてもおかしな行政訴訟法になっていました。そういう意味で、司法制度改革審議会がこの行政訴訟を直しなさいと言ったのは非常に意味があることだと思います。

 司法制度改革審議会の言ったことは、大きく言って、私の理解では三つあると思います。

 一つは、今申し上げましたように、訴える資格とか訴えの対象であるとかそれから期間とか、そういうものが非常に制限されている、これを何とかしなさいということが第一点。

 それから、申し上げましたように、行政のスタイルというかタイプが変わってきたんだから、それに対応するような新しい行政訴訟の形をつくりなさいというのが第二点。

 それから三番目、僕はこれは非常に重要だと思いますけれども、今の裁判所や、もっと言いますと弁護士さんの体制が行政訴訟にきっちり対応できるようになっていない。

 例えば、ここにも弁護士の先生が多いと思いますけれども、町の弁護士事務所へ行って、行政訴訟を起こしたいと言ったら、必ず断られます、勝ち目がないよと。行政訴訟と医療過誤と欠陥商品、これは絶対皆さん断られます。それほど日本の今の法曹の方の行政訴訟への取り組みというのは非常におくれています。

 その三つを改善しなさいということをこの意見書は言いました。

 それに対しての今度の改正が回答になっているかということでございます。私は、まあ合格点を上げられるんじゃないかと思います。

 第一点の、今非常に狭い抗告訴訟、要するに、訴える入り口を広げようというものにつきましては、先ほど塩野先生から、「法律上の利益」、これを変えろという意見があったという御指摘がありましたけれども、実は私も変えた方がいいんじゃないかと思いましたけれども、変えなくても、今回のような考慮事項を実際に法文の中に盛り込むことによってかなりの効果が期待できるのではないかというのが私の考え方の一つです。

 それから二番目に、先ほど塩野先生からお話がありました義務づけ訴訟、それから差しとめ訴訟という新しい類型をつくった、これは大変意味があると思います。

 例えば、介護保険の申請をしました。ところが、けられました。そうしますと、今どうするか。取り消し訴訟を起こす。取り消し訴訟で、介護保険の申請却下の処分の取り消しを認められる。そうすると、改めて申請を出す。そこでまた改めて審査をし直して、却下処分がおかしいと言っているんだから認められるとは思いますけれども、という二重手間をしなきゃいけない。だったら、初めから裁判所がこれは認めなさいと言った方が国民の救済になります。そういう問題がある。

 それから、差しとめ訴訟。先ほど外形標準課税の話を申し上げましたけれども、あれだって、課税差しとめをしておけば、銀行側は非常に金が欲しいときに三千億も払わなくて済む、東京都だって利息をつけて戻さなくて済むという問題があります。もっと早目に問題が解決できる。それは双方にとって非常に便利なことだと思います。そういう意味で、これは画期的なことじゃないかと思います。

 それから、確認訴訟。これは非常に面倒くさいのでよくわからなかったんですが、いろいろお話を聞いてみると、これも非常に意味がある。

 例えば、行政指導という問題があります。これは、公権力の行使と言われている強制的にやっているものではありません。行政手続法で、不利益な取り扱いをしてはいかぬということですからそういうことになっていますが、これは御存じのように、江戸のかたきは長崎ということが行政の世界では幾らでもあります。

 某大手損保会社に対して金融庁が、生命保険会社との経営統合を見送ろうとしたら圧力をかけた問題があります。御存じのように、民主党の皆さんがそれに対して告発されましたけれども、あれだってまさに行政指導です。それをどういうふうに食いとめるか。

 今の訴訟制度では権利救済の仕組みがないんです。例えば、これを確認訴訟で、そのような義務はないという確認を求める訴訟、あるいは場合によっては、あの場合には行政処分をちらつかせてやりましたけれども、行政処分を差しとめの訴訟というのを起こせる。そういう意味で、国民の権利救済にとって非常に意味がある回復ではないかと思います。

 三番目に、もっと裁判所やそれから弁護士さん、あるいは法曹界全体の行政訴訟に対する取り組みを強めろという提言でしたけれども、これは、今、法科大学院がことしから開校されまして、本格的に、特に行政に強い法曹を目指した法曹教育が行われようとしております。そういう意味で、これからだんだんよくなるんじゃないかなという気がいたします。

 それから、国民の立場からいいますと、大分使い勝手がよくなった。例えば、出訴期間といいますか、訴えを起こせるのは今まで三カ月です。そうすると、弁護士さんが一生懸命資料を当たって調べている間に三カ月なんかとっくに過ぎます。それを半年に延ばした。これも非常に意味があると思います。

 それから、処分をするときに、もしも不服だったらこういう手だてをできますよ、いつまでにこうしなさいということを教える、情報提供する制度も今度盛り込まれました。これも国民の立場にとっては非常に意味があることだと思います。

 では、最後に、いいところばかりかといいますと、ちょっと一つ苦言を呈したい点があると思いますが、積み残した問題があります。

 一番初めに、私、国民に使いやすく頼りになる行政訴訟制度をつくる第一歩としてということを書きました。第一歩というのはそこに意味がありまして、これから国民のためにすべきことはまだたくさんあると思います。その第一歩が、今度は土俵に乗せるようになってきたけれども、では、本当に行政の中身のチェックができるのかという問題です。

 我々国民にとっては、裁判してもらって何ぼの話ではありません。裁判に勝って権利が救済されて何ぼの話です。それからいいますと、行政の裁量についてきっちり基準なりなんなりが示されなかったというのは、私は残念な気がいたします。

 これは難しい問題があって、法律適合性については審査できるけれども、公益適合性については審査できないというような議論がありますので、専門家じゃないのでそれほど詳しいことはわかりませんけれども、これについては何らかのもう少し手当てがあってもよかったんじゃないかなという気がします。

 それから二番目は、今の問題と絡みますけれども、裁量審査なり、どの範囲で訴えを認めるかというのは、個別行政法でもっときっちり決めるべきじゃないかと思います。

 例えば、公共事業について、どの範囲の人がそれについて救済を求めることができる、あるいは裁量判断についてはこういう手順で、こういう方法で、こういう基準でやるということを個別行政法できっちりすべきであると思います。そういう意味で、行政訴訟改革は、司法改革だけではなくて行政改革と接続点があると思います。

 三番目に、納税者訴訟を認めるかどうか。これは、私は検討会をずっと取材していまして、非常に議論になりました。今、御存じのように、住民訴訟という制度があって、国民が自治体の不適正な財政行為については訴えを起こすことができます。同じようなものを国に認めるべきかどうか。これは日本の三権分立の根本にかかわる問題だと思います。

 例えば、イラクへの自衛隊派遣、これの支出を認めるかどうか、財政行為であるからというので裁判を起こせるかどうか、そういう問題までかかわってきます。ですから、これも非常に大きな問題で、宿題として残ったと思います。

 そういう意味で、これから国民にとって使いやすく頼りになる行政訴訟制度をつくる、その第一歩がこの改正だと思います。一歩を踏み出さないと改革は進みません。そういう意味で、ぜひこの一歩を前進させていただきたいと思います。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長代理 ありがとうございました。

 次に、水野参考人にお願いいたします。

水野参考人 御紹介いただきました水野でございます。

 私は、弁護士といたしまして行政訴訟を何件か担当しております。それから行政訴訟検討会の委員を務めておりましたので、そういった立場から意見を申し上げたいと思います。

 まず最初に、行政訴訟の現状はどうかということでございます。これは、ある意味では、今回の改正法の立法事実、なぜこういう改正ということが問題になるのかということにつながるわけでございますが、これは、我々弁護士の立場からいいますと、現在の行政訴訟はもう絶望的であると言うしかないわけでございます。

 まず最初に、訴えを起こすときに何に悩むかといいますと、まずだれを訴えるのかという被告の選定ですね。そして、どういう内容の訴えをするのかということについてまず悩むわけであります。

 実を言いますと、これは弁護士の先生方は御経験だと思いますけれども、訴状を出しまして、答弁書というのが参ります。答弁書が来るまでは、もうびくびくとしていますね。何か私が知らないことがあって、こういう法律がある、こういう条例がある、こういう規則がある、そういう規則からすると、例えば権限が委任されておって、あなた被告を間違っているよというようなことを言われないかどうかということをびくびくしながら答弁書を待っている、これが実情でございます。プロでも間違えるというのが、行政訴訟の訴えの提起なんですね。

 それから、訴状を出しまして、それじゃすぐに本格的な裁判をやっていただけるかというと、それはそうはいかない。まず土俵に上げてもらうまでが大変なんですね。そもそもこれは訴訟にならぬじゃないかという抗弁というのは、必ず被告の方から出てまいります。やれ原告適格がない、やれ処分性がないといったふうなことが出てまいりまして、いわゆる本案といいまして、中身の答弁というのは出てこない。裁判になるかならないかで実は何カ月もやるわけであります。裁判になるかならぬかということについて、例えば一審では裁判になると言っておった、高裁へ行きますと、いや、そもそもこんなものは裁判にならないよというようなことを言って、逆転をするといったふうなことがございます。

 私は大阪国際空港の事件を担当いたしましたが、あれは実は民事訴訟なんですけれども、これは行政訴訟とも関係があるので紹介いたしますが、要するに、人格権に基づいて、夜間の九時から十時まで一時間の飛行を差しとめてほしい、こういう請求をしたんですね。一審、二審は、訴え自体は適法だということで認めた。最高裁へ行きまして、三回も弁論をやりました。第一小法廷で一回、大法廷で一回、またさらに大法廷で一回。三回も最高裁で弁論を重ねた結果、そのあげくに、これはそもそも訴え自体が間違っている、訴えができないというんですね。こういう判断になったわけであります。

 こういったのは、本当に、日本の行政に関する訴訟の制度がいかに貧困であるか、貧弱であるかということを示すものであります。つまり、裁判ができるかできないかということについて十何年もかかって、最高裁の判決でも意見が分かれるというふうなのは、制度としてはおかしいですね。中身の勝ち負けなら別なんです。裁判ができるかできないかについて、十何年もかかってようやく結論が出る。こういった制度は、もう制度としてはおかしい、欠陥があるということでございます。ですから、まず土俵に上げてもらうまでが大変だということが一つ。

 その次に、いよいよ土俵に上がって相撲が始まった。これは、大体が力が違うんですね。いわば横綱と幕下が相撲をしているみたいなものです。それは、横綱の側にはいろいろな財力もそれから情報量も与えられておる。一方、幕下の方はそういうものがない。なかなか勝負にならない。そして、いよいよ判決ということで、今度は珍しく相撲に勝ったというふうに思ってそして判決を待ちますと、実は判決には負けておった。つまり、相撲に勝って勝負に負けた、こういった例が幾つもあるわけでございます。

 こういった行政訴訟の欠陥というのはどこから来ておるのかということでございますけれども、これはまず第一に、何といっても現在の行政事件訴訟法自体に、法律自体に欠陥がある、これを変えなければならない、これが今回の改正の一つの目的でございます。

 もう一つはやはり、行政に対する司法が、最高裁判所を頂点としまして余りにも消極的であった。つまり、裁判所の姿勢を変えてもらわなければならない。先ほど藤川さんが、世の中が変わっておる、それに応じて行政訴訟も変わってもらわぬと困る、こうおっしゃいましたけれども、まさにこれは、裁判官がそういった実情をよく認識して、そして行政訴訟を変えていくという意識がなければ困る。今回の行政事件訴訟法の改正の中では、裁判所に対するそういったメッセージを強く出す、これが必要だろうと思うんですね。つまり、その二つが必要ではないかというふうに思うわけでございます。

 今回のこの行政事件訴訟法の改正は、先生方を前に釈迦に説法のようでございますけれども、行政改革を初めとする一連の構造改革が行われてまいりました。事前規制から事後規制へという、事後救済制度が整備されていなければならないと。これが行政改革に伴う当然の結論なんですね。したがいまして、今回の行政訴訟の改革というのは、ある意味では行政改革を初めとする日本の構造改革のいわば仕上げに当たると言っても過言ではないのではないか。そういう極めて重要な問題であるというふうに私は認識しているところでございます。

 今回の改正案につきましては、もうこの委員会でもかなり御議論なさっておるようでございますので、時間の関係もありますので余り詳しくは申し上げませんが、まず第一には、取り消し訴訟中心主義が見直されるということになった。これは先ほど塩野先生もおっしゃいましたけれども、その点は評価できると思います。これは、義務づけ訴訟、差しとめ訴訟といった新しい訴訟類型を明文で決めたということ、それから確認訴訟を活用するということを条文の中に取り込んだということ、これが一つでございます。

 二番目は、被告適格を変えるということにいたしました。これは先ほど言いましたように、被告の選定については大変弁護士が悩むところでございまして、そういった技術的な困難性といいますか、そういったツケを、いわばそのリスクを国民に負担させておったのがこれまでの状況であったわけなんですけれども、それを改正する、これは大変大きなことだと思います。

 それから、原告適格を拡大するという方向が打ち出されました。これも結構なことだと思っております。

 さらには、仮の救済制度を整備した。これは、今まで執行停止だけでしたけれども、いわゆる仮の義務づけ、仮の差しとめといった制度も設けることになったといったようなこと。

 それから、処分の根拠となった資料、裁決の記録を提出するということが釈明処分として認められた。

 こういったことで、今回の改正については私としては、検討会の委員としては手前みその感じがするかもわかりませんが、それなりの改革が提案できているのではないかというふうに思っているところでございます。

 そこで、この法律案が成立した暁のことでございますが、まず一つは、この法律がやはり実際に、この国会で審議された意思に従って、実効のあるものとして活用されなければならないというふうに思います。そのためには、この法律がどういう趣旨で制定されたものかといったふうなことについて十分周知する必要があるだろう。この周知の方法ということについて考えていただく必要があるのではなかろうかというふうに思うわけでございます。

 もちろん、立法というのは、法律が成立した後、ひとり歩きするわけでございます。裁判官が自分の独立の判断で、解釈でこれを判断するわけでございますけれども、やはりそうはいっても、立法者の意思、立法をして社会の方向をある一定の方向に導こうというのは、これは立法府である国会の役割でありますから、国会がどういう意図でこの法律をつくったのかということを十分に知らしめるというのは極めて重要なことだろうというふうに思うわけでございます。

 そのためには、例えばこういった委員会での議論、これが十分に伝わることが重要でございますし、さらには、例えば附帯決議といったふうな形で立法者の意思を十分にお伝えいただくということが極めて重要になってくるのではないかというふうに考えているところでございます。

 もう一つは、藤川さんもおっしゃいましたけれども、積み残し課題でございます。

 検討会では、今回の改正案に盛り込まれた事項以外に、いろいろな問題について幅広く検討をいたしました。しかし、今回の改正案の段階までには、残念ながら時間切れで十分な成案を、意見の一致を見るところまでいかなかったものが幾つもございます。そういった行政訴訟の根本的な改革についての議論を、さらに今後続けていく必要があるだろうというふうに思っているわけでございます。

 これは、一つには、そもそも行政訴訟の目的というのは何なのか、民事訴訟とは別に行政訴訟というのを設けるのはどこにその必要性があるのか、どこに理由があるのかという、行政訴訟の目的ということを根本的に考える必要があるだろうというふうに思いますし、現在もなお取り消し訴訟というのが一つの大きな核になっているというこの行政訴訟制度のあり方自体を根本的に考えていく必要があるだろう。これはかなり根本的な議論でございますが、そういったところから議論をしていく必要があるだろうというふうに思います。

 それから、藤川さんもおっしゃいましたように、裁量審査の基準といったふうなことについても、これは何らかの明確な規定を設ける必要があるのではないかというふうに思いますし、団体が訴えを起こせるという団体訴訟の導入、そういったことも検討する必要があるだろうと思います。

 それから、これは今すぐにでもやろうと思ったらやれることでございまして、今回の改正案に盛り込むべきだと私なんかも主張したわけでございますが、一つは訴え提起の手数料の問題でございます。

 これは現在、民事訴訟費用法に準じておりまして、訴訟物の価額に応じて印紙を張るということになっておるわけでございまして、例えば一億円の課税処分の取り消し訴訟ということになりますと、それに応じた印紙を張れということになっております。しかしながら、行政事件というのは、これはいわば個人の権利救済の面もございますが、ある意味では行政の違法をただすという面もあるわけでございまして、そういった面からいたしますと、これは特別に一律の低額の印紙でいいという制度にするべきではないかというふうに思うわけでございます。

 これは、例えば国税でいいますと、国税不服審判所というのがございまして、そこで不服審判をやる。この場合には印紙も何も要らないんですね。同じ国がやっておる、裁判所に準じたような国税不服審判所では印紙はただだ。ところが、裁判所に行きますと何百万も印紙を張らないかぬというのはおかしい。

 あるいは、例えば大型のダムだとか道路だとか、何百億もかかるような事業についての裁判をやるときには、これは算定不能ということで何千円の印紙でよろしい。ところが、今言いましたように、金額のあるものについては何百万といった大きな印紙を張らなければならない。これもまたバランス上おかしいわけでございまして、そういう意味からいたしますと、行政事件の手数料というのはやはり一律低額にすべきではないかというふうに思います。

 それから、弁護士費用の片面的敗訴者負担制度の導入ということでございます。これは、原告が裁判に勝ったという場合、これは裁判所によって行政の違法がただされたということになるわけでありまして、そもそも裁判まで起こして行政の違法をただした、これはもともと行政が違法な行為をしたからということになるわけであります。その場合に、やはり原告が負担した弁護士費用というのは、これは行政側で負担すべきではないかということでございます。こういった制度は、私はすぐにでも実現可能な制度だというふうに思っておるわけでありまして、こういったものについても実現していく必要があるだろうというふうに思います。

 さらには、藤川さんも御指摘がありました納税者訴訟、こういったものも検討していく必要があると思っております。

 こういったことを検討するための新たな組織というのをきちっとつくる必要があるだろう。附則には五年後の見直しというのがございますが、これは、今回の改正がどこまで実効的なものになっているかということの見直しだと思います。しかし、私が今申しました、残された積み残しのテーマというのは、これとは別でございますから、やはり引き続きこれを検討していく必要があるだろうというふうに思います。

 最後に、今回の改正案につきましては、極めて不十分じゃないかという御意見もちょうだいしております。しかしながら、私は、やはりかなりの部分が改革できるのではないかというふうに考えておるわけでございまして、改革の第一歩として、この法律、改正案をぜひこの国会で通していただきたいということをお願いいたしまして、意見陳述を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

柳本委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。松島みどりさん。

松島委員 自民党の松島みどりでございます。

 きょうは三人の参考人の方々、貴重な御意見、どうもありがとうございました。

 国会議員の中には、法曹界出身者もいれば行政出身者もいます。私はそのどちらでもなく、この職につくまでは新聞記者として、それも藤川参考人と違って司法担当ではなく、主に経済記者そして政治記者というのをやってまいりました。さらに、国会議員になって間もなく四年になります。

 この間、社会人になってから、ずっと行政というものを、非常に強い大きい存在である、かつ、一人一人の行政に携わる人、私が主に見てきたのは国家公務員、官僚でございますが、一人一人は良心的なつもりであっても、かなり誤謬、政策の誤り、通達の誤り、そしてまた実際に、運用面で実態を見ていない、国民から離れた部分があるということを多々感じてきた人間でございます。そういう立場におきまして、幾つか質問させていただきたいと思っております。

 先ほど水野参考人が言われました、弁護士から見ると、行政訴訟、そして医療過誤、商品欠陥、これは非常に勝ち目がなかったり、なかなか大変で、やる人間、引き受ける人間が少ないということをたしかおっしゃいました。

 そのうちの二つにかかわることなんですが、例えば、素朴に三人の方に質問ですが、こういうことは国民がというか、関係ある国民が裁判を起こそうとして、裁判でやってもらえるのか。そして、今までの法律でどうだったか、これから法律を改正したらそれに明るさが見えるのかということを伺いたいのが二つございます。

 一つは、医師の免許に関しまして、厚生労働省がやっております医道審議会がございまして、医師法に基づいて、問題のある医師の医師免許を剥奪したり、あるいは一定期間停止するというのがあるんです。

 それはどういう人がかけられるかというと、診療報酬の不正請求だとか、あるいは、単なるミスぐらいじゃかからないようなんですけれども、悪質な場合とか、かなりひどい医療過誤を重ねたような場合、そしてそれ以外にも、医者としてじゃなくて、強制わいせつとか、飲酒運転で人をはね殺したとか、そういうときもかかるようなんですけれども、これはその医道審議会というところで、医師の免許のありようを決めるところでございます。

 例えば、ここに悪質な医療過誤、幾つか裁判になっているようなことがございます。実際に自分の子供あるいは自分の親、近親者の命を、むちゃくちゃな、普通、通常あり得べき薬の何十倍ものものを投与されて死なされてしまったとか、体をめちゃくちゃにされたとか、そういう実際に刑事の事件あるいは民事事件になっているような人が、例えば医道審議会でかけられない、かからない、あるいは、かかったけれども余りにも処分が軽いんじゃないかというようなことを実際関与した人が思った場合に、これは行政訴訟として裁判を起こせるんだろうか。

 つまり、これから多分その人は、自分及び家族についてそんな医者にかかることはないと思います。ただ、例えば停止が三年間だったり、あるいは免許停止期間がなかったりしたら、世の中のだれかにひどい悪を与えるのではないか。いわば消費者というか国民の一般として、これはひどいと怒りに燃えたとき、今までだと処分というのは、処分の対象となった医師がそんなのひどいと言って訴えることができて、一般のそういうかかわりの人はできなかったと思うんですが、こういうことが可能になるのかどうかということが一つ。

 もう一つは、これは医師の話じゃなくて、またちょっと似たようなことではございますけれども、学校の先生。学校の先生で余りにもという人を配置転換するというか、普通の公務員にする。これもひどい話で、学校の先生でひどい人を普通の公務員にされても公務員も困るんですけれども、私が国会議員になりましてから、長年課題であったことがやっと法律が通りました。都道府県によって、都道府県の教育委員会が任命権者としてやるわけですけれども、都道府県によって、教育委員会によってそれは厳しかったり甘かったりすると思います。

 身近に見ていて、私どもよく有権者から言われるのが、ひどい教師がいる、それは、これは価値判断はいろいろですから、魔女狩りしていくとかなり多くの先生がやめなきゃいけないような事態になるかもしれませんけれども、こういうことを地域の住民として、あるいは子供を持つ、自分の子供に対する対応などで、これもいろいろな程度の差はあると思いますけれども、教育委員会がこの教師を取り上げないことが問題、あるいは、取り上げたけれどもちょっとかからなかったことが問題とかそういったことを、これも行政訴訟の裁判としてできるのかどうか。

 私は、素人の国民の代表として、今度行政訴訟法が使いやすくなると聞いたときこの二つを思い浮かべたものですので、三人の先生方にちょっと御意見なり感想なりを伺いたいと思っております。

塩野参考人 せっかくの御質問でございますが、私、政府の説明員ではございませんので、余り個別の条文を引用しながら御説明するのもいかがかとは思いますけれども、最初に行政法を長く勉強してまいりましたなどと言ってしまいましたものですから、私の知る限りのことを、考える限りのことを申し上げます。ただし、余り個別の事案というよりは、むしろ、今度の改正法案ではこうなっております、しかしこの場合の御質問については、ここはこういうふうになってなかなか難しい、あるいは、これならばなるだろう、そういうやや抽象的、定性的なお話にさせていただきたいと思います。

 今の御質問は、先ほど申しました義務づけ訴訟のうちの第三者に対して行政庁の公権力の行使を求めるというものでございまして、これを今度の条文で申しますと、三十七条の、三条からずっとございますけれども、三十七条の二あたりにその要件が書いてございます。

 今のようなお話が、一つ、第三者に対する、つまり大変不適切な医師あるいは不適切な教師に対して何らかの処分権限を発動すべきだということで、これは、カテゴリーとしては今度そこの道が開けました。しかし、この訴えは、法律上の利益を有する者に限り訴えることができるというふうな限定がございます。

 それは、改正法全体が、個人の権利利益の救済に資するものあるいはその実効的な救済を図るものということを根本にしておりますので、およそ関係のない方々、例えば、青森県のどこかの町のお医者さんが大変不当であるということで鹿児島県のどこかの町の人が義憤に駆られて訴えを提起するということは、およそ想定はしておりません。それでは青森県のどこかならばどうかという話にだんだん詰まってくるわけでございますけれども、これは個別の事案によるだろうというふうに思います。

 そこを抽象的に考えてもなかなか難しい話がございますけれども、例えば、一つの村に一つの診療所しかない、そのお医者さんが問題だ、そのお医者さん以外にはかかれないというようなことがあった場合に、さて裁判所はどう考えてくれるかという問題で私は議論をする価値はあるだろうというふうに思っておりますが、果たして勝つかどうか、これはなかなか難しいところだと思います。

 ただし、そういう問題があることは事実でございまして、これは既に最高裁判所の判例で、ある士法の士について、その士をやめさせるべきである、あるいは、やめさせなかったのが不適切であるという事件が最高裁判所まで行っていた記憶がございます。ただし、その場合には、訴えの利益、そういう形がないということで最高裁判所の判決は出たわけでございますけれども、今度はこういう形で制度が整いますと、そこの道が開ける、あるいは議論の対象になるということは言えようかと思います。

藤川参考人 大変難しい御質問であるとともに、私も身につまされて、そうだろうなと思います。

 義務づけ訴訟でこの議論をしてきたときには、御指摘のようなところは実は余りしてこなかったような気がいたします。例えば、あのとき議論の頭にありましたのは公害規制ですね。深刻な公害が起きているのに、行政がそれに対して規制権限を行使しない、そういう場合、公害の被害者から規制してくれという訴えを認めるべきではないか、それはそうだなと、それは非常に多かったんです。例えばマンションで、周辺に非常に深刻な日照被害などを起こす、それに対して、建築確認の段階でそれをとめる方法はないかという議論をしてきたんですが、今、先生のお話しのようなことなどはだれも議論してこなかったんです。

 私は、法律解釈はわかりません。ただ、心情的には、それは認めていいんじゃないかなという気はします。

 例えば、非常に不適切な医療過誤、深刻な医療過誤を繰り返す、要するにリピーターといいますけれども、医療過誤のリピーターの患者さん、被害者、まるきり関係のない人はともかく、被害者がこれはどうもひどいじゃないかということについて、それは僕は医療法の問題じゃないかと。先ほど、三つあれの中に、残された問題でしたか、中には書きましたけれども、行政実体法をもう少し直すべきだということを書きましたけれども、その実体法の中で、こういう患者、家族の人については医道審に訴えを起こすことができるということを書いて、そこで処理することが僕はふさわしいんじゃないかなという気がします。というのは、行政というのは非常に幅広いものですから、一律に、全部、こういう場合は認める、こういう場合は認めないというと非常に難しいところがあると思いますので、そこでやるべきだと思います。

 それから、二番目の問題教師。ではこれは学校教育法で、これはちょっと難しいし、まさにそのために教育委員会もあるんですから、これはむしろ、行政の場なりなんなり、PTAの段階で処理することが望ましいんじゃないかなという気がします。

 お答えになっているかどうかしりませんけれども、そういうふうに感じます。

水野参考人 お二人の先生がもう回答されましたので、それにつけ加えることだけ申し上げます。

 今度の義務づけ訴訟の要件には、もう一つ、重大な損害を生ずるおそれがあるというのが要件になっておりますね。したがって、重大な損害があるというふうに言えるかどうかというのがもう一つのポイントになるんだろうと思います。

 それから、塩野先生が御説明になりました法律上の利益を有する者というこの解釈は、それぞれの根拠法規あるいは関連する法規で考えるわけでございますので、医師の場合ですと、医師法とかあるいは関連する法律、そういったものを精査して、場合によればいわゆる原告適格が認められるという解釈も成り立つのかなと思いますが、ただ、今直ちにこうだという確定的なお答えは、ちょっとしかねます。

松島委員 どうもありがとうございました。

 今、申し上げました医師の話で申しますと、塩野参考人、確かに、例えばその村で一つの診療所だったらという話があったんですけれども、医者というのは免許一本で全国どこでも流れていくことが、言い方が悪いですね、どこででも開業することも、勤務することができます。ある地域でしばしば問題になっても、例えば医療の過疎の地域だと、もうだれでもいいから来てくれというようなことがあります。そういう意味で、都会で起こした、そういう問題医師としてレッテルを張られていても、医療的に過疎で恵まれないところだと受け入れられる、そういうこともありますので、すべての国民が被害者になるおそれがあるんじゃないか、関係するおそれがあるんじゃないかなと思っております。

 今、三人の先生方からお話も伺いましたけれども、この行政訴訟というものが非常に、行政というものが国民一人一人から見えにくい、なおかつ、行政指導及び通達というもの、私自身、一回生時代に、厚生労働省の課長通達と局長通達一本ずつを改めさせるために十カ月ぐらいかかったことがございます。

 私、国民健康保険でございますが、夫が会社の社会保険で、私自身がお金を払って、しかも私自身しか受けられない健康保険証なのに夫名義で必ず来る、これはあんまりじゃないか。かつて女性の厚生政務次官が問題だと言っても直らなかったらしいんですけれども、私は、区役所、区長とそれから自民党の部会で公言して、十カ月不払いをして、年金は払って納めていますけれども、健康保険の不払いを十カ月やって、もめにもめまくって、そして本人への通知という当たり前といえば当たり前の形をつくったことがございます。

 国会議員が国会議員という公権力を行使してもそれだけ大変なことでございまして、一般の方がやるには、できれば裁判とかの手続がないと、ただ文句を言っただけでは、行政の壁というものはたかが通達やガイドラインでも崩せることができません。どうか、また今後とも、使いやすい行政事件訴訟法をつくるために、先生方も含め私たちも努力を続けてまいりたいと思います。

 どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さん。

 柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦と申します。

 埼玉地区から今回の補選で当選させていただきましたが、従前、弁護士をしていたということで、水野参考人の先ほどの御説明で私の質問しようとしていたことがすべて解消されてしまったような部分もございまして、今さら何を聞けばいいのかという部分もあるんですけれども、今回の政府の改正案については、特に実務家の目から見れば、先ほどおっしゃった被告適格の緩和、あるいは争点整理の段階から釈明処分という形で、行政庁の手持ち資料を積極的に開示するという形で、立証責任の転換を図ることなく武器対等ということになるべく近づこうとしている、このような点も含めて、また義務づけ訴訟の導入も含めて非常に評価できる点が多いとは考えております。

 ただ、若干私としても疑問に思っている点が残っていますので、これについて、ほとんど時間がないんですけれども、幾つか質問をさせていただければと思います。

 まず第一点は、従前、原告適格については非常にいろいろなところでさまざまな議論がなされていて、今回は原告適格の判断のための文言上の要件という形で補充が行われた。ただ、そこで示された四要件のうち、結局、従来の判例の整理だけで、実のあるのは最後の四番目の不利益の部分だけではないかというような声も聞こえてくるんです。

 まず、三人の参考人の先生方にお聞きしたいのは、このような不利益あるいは原告の害される利益というものの中で、それが憲法上の利益をダイレクトにしんしゃくすることができるのか。関連法律とかそういう問題をしんしゃくすることなく、例えば処分の根拠法あるいは趣旨を共通にする法律以外の、例えば環境の問題あるいは騒音、景観、そういったものについても憲法上ダイレクトに原告適格を判断するのにしんしゃくすることが今度の改正法によってできるのかという点について、まず先生方にお聞きしたいと思います。

塩野参考人 私は、行政法の定義として、憲法的価値の実現の技術に関する法であるというふうに講義もいたしましたし、教科書にも書いてあります。その枠内で考えるということであれば、基本権というのは当然にその考慮の対象になるということであると思います。

 ドイツにおきましては、基本権の考慮義務というものを原告適格の拡大の一つのてこにして動いてまいりました。ただ、それでは、基本権が何でもすべて、根拠法規の処分要件の解釈の問題でございますから、それとおよそ関係のない基本権を持ち出してきてこれで認めろといっても、それはなかなか裁判所としては認めがたいところでありましょうし、あるいは今度の四項目についても、そこは憲法的なことは直接には書いてございませんけれども、およそ関係のないものを持ち出してくるということにはならないのではないかと思います。

 しかし、繰り返して申しますけれども、憲法的価値の実現の技術に関する法が行政法であるということを御理解いただきたいと思います。

藤川参考人 お答えいたします。

 大変難しい問題で、私のような法律の素人には答えられるかどうかわかりませんが、そうであってほしいし、そうあるべきだというのが私の基本的な考えでございます。

 今御指摘のありました、例えば環境の問題です。

 私は三年ほど四国に赴任したことがあるんですが、そのときに白砂青松の浜辺を埋め立てるという問題がありました。埋め立てて工業用地をつくる、そのときに、漁業補償、これは公有水面埋立法に基づいた補償対象ですから彼らの同意が必要なんですが、そうではなくて、朝に晩に海岸に出て浜辺を散歩したり、海水浴を楽しんだり、潮干狩りをしたり、そういう人にその埋め立てをちょっと待ってくれという権利があるかどうかというのが非常に問題になった。ところが、今の、これまでの考え方だと、それはだめですよということだと思います。

 今御指摘のように、憲法十三条に基づく人格権なり環境権という考え方からすると、私はそれを認めてもいいのじゃないかという気がします。そういう行政訴訟法であるべきではないかという気がいたしますので、その憲法上の権利あるいは憲法上の利益がここに書きました考慮すべき利益とすごいストレートにつながるかどうか、これは学者じゃないのでわかりませんけれども、そういうものを実現する行政訴訟制度であってほしいという気がいたします。

水野参考人 今回の、九条二項を設けたことによってどれだけ原告適格が広がるのかという御趣旨でございます。

 おっしゃるように、一から三まではこれまでの判例が認めてきたとおりじゃないか、四だけが多少広がる可能性があるか、こういう先生の問題意識で、御指摘はそのとおりだと思います。

 私どもの「考え方」というのを出しましたときには、今おっしゃった四つを並列的に並べておったんですね。今回の法律案では四番目の項目というのが二番目の項目の中に組み込まれた形になっておりまして、それが私としては若干気になっているところでございますが、いずれにしましても、原告適格を拡大する、今の判例の到達点よりも拡大するということで今回の法律ができておるわけでございますので、今おっしゃる四について柔軟に解釈していく必要があるだろうというふうに考えております。もちろん、憲法に保障された具体的な権利、そういったものも当然、先生のおっしゃった四のところで十分に考慮すべきものだというふうに考えております。

柴山委員 次に、義務づけ訴訟についてお伺いしたいと思います。

 実は、私も弁護士時代に、この義務づけ訴訟というものがあればややこしい国家賠償の請求なんかしなくても済むのになというようなことで制度化を非常に心待ちにしていた一人でございます。ただ、今回の義務づけ訴訟については、各界から要件がかなり厳し過ぎるのではないかという声が上がっております。

 よく挙げられる例では、原子力発電所の建設について、取り消し訴訟、これを起こす場合については、隣の住民が生命身体を害されるおそれがあるということで恐らく原告適格が認められる。ただ、結局、原子力発電所あるいは工場について、最新の技術水準に合うように改善命令を出してくれというような義務づけ訴訟を起こすためには、処分が行われないことによって重大な損害を生じるおそれがあって、かつ重大な損害を避けるためにほかに適切な方法がないことなどというような非常に厳しい要件が付加されているわけでございます。

 当然のことながら、取り消し訴訟よりもこういった改善命令の方が、少なくとも再考してくれという判決ぐらいはすぐに出せるのではないかと思うんですけれども、この要件の厳しさというものについて三人の参考人の先生方の御意見をお伺いしたいと思います。

塩野参考人 ただいまの御質問にすぐお答えする前に、先ほどの原告適格に関する四項目で、第四番目のものについては従来の判例はない、それまでは従来の判例のそのままではないかということでございますけれども、第四番目も従来の判例に見出すことができます。それから、そのまま引き写して従来の判例、既往の判例の固定化を考えているという御趣旨の御発言であれば、それは誤解であるということを申し上げておきたいと思います。

 私は、検討会の間におきましても、判例評釈はやめてくださいと。この四項目はそれぞれ一つの視点を持ってきたものである、その視点の素材は既存の判例からとったものですけれども、これをどう発展させ、どう組み合わせていくかは、それこそ裁判所、そして弁護士の役割であるというふうに考えております。

 それから、今のお話でございますけれども、これは原子力発電の施設の許可における許可の基準の問題をどう見るかということとも関係いたしますが、現在の最高裁の判例ですと、当時の科学水準というのは、つまり科学水準ですから常に新しい水準で見直す、そういう形になっておりますので、日本ではなかなか今のような、新しい技術が発展してきたので、あるいは知見が発展してきたので、今までのではどうも危ないから、取り消し訴訟ではなくて義務づけ訴訟を出すということにはなかなかならないんですけれども、ドイツではまさにそういう議論をしております。第三者に対する義務づけ訴訟の典型的な例が原子力発電所等の停止命令でございます。

 今の例ですと、私はまさにそのものずばりだと思います。原子力発電について、何かしら新しい知見でもって多少危険なものがあるということであれば、それはもう当然にこの三十七条の二は導き出せるということで、それを押しとどめるような議論は全くしたことがございません。

藤川参考人 お答えいたします。

 大変難しい問題で、私みたいな素人にはよくわからないんですが、やはり考え方としては、考慮すべきことを考慮し、考慮すべきでないことを考慮したというのは非常に問題であると思います。そういう意味において、現段階において考慮すべきことの内容として最新の技術水準を考えるというのは、それは当然のことだと思います。

 ですから、現在の水準から見て欠陥があるとわかったことについて、それについて差しとめるなり、あるいは補修を義務づけるなりというのは、周辺住民として僕は当然認められるべきことではないかという気がいたします。

 以上でございます。

水野参考人 御指摘の問題は、今回の義務づけ訴訟の要件では、一つは、一定の処分ということの解釈、これが問題になろうと思います。ただし、この一定の処分というのは、具体的な改善命令、どういう改善命令をせよというところまで特定しなくても、何らかの改善命令をせよというので一定の処分と解釈すべきだという、これは検討会で一致しているところでございまして、そこの点はまずクリアできる。

 それから、重大な損害については、これは原発のことですから生命身体にかかわる、これは重大な損害に当たるだろうと思いますし、その損害を避けるために他に適当な方法があるかどうかということについては、これは極めて例外的な場合のことを指している、例えば民事訴訟でやれるからいいじゃないかということにはならないということは、これまた確認されておりますから、この問題もクリアできる。

 原告適格が認められることについては、これは現在の判例でも認められておりますから、御指摘の事例については、義務づけ訴訟で何らかの改善命令をせよといった義務づけ判決ができるというふうに解釈できると思います。

柴山委員 今はわかりやすい事例で、恐らく、水野参考人がおっしゃったように、判決としては不当な判決は出ないであろうと思いましたが、ただ、要件論として、今みたいな厳しい要件がこの義務づけ訴訟で定められているということで何らかの不当な結論が出る可能性があるのではないかという問題意識だけは提起をさせていただきたかったわけでございます。

 さて、時間がほとんどないんですけれども、まだまだ、納税者訴訟についてもお聞きしたかったんですが、またの機会に譲らせていただくこととしまして、次の質問は確認訴訟についてでございます。

 確認訴訟の積極的な活用によって、処分性のない行政行為についても、その違法の確認をすることによって、行政庁に対して何らかのインパクトを与えることができるのではないかということについては、私も賛成でございます。

 ただ、この確認訴訟についても、やはり対世効がないという問題がある一方、また、確認の利益を厳格にとらえた場合に、それがどれほど救済に役に立つのか。あるいは、確認訴訟で違法が確認されたにもかかわらず行政庁が何らその違法状態を是正することなく放置していた場合に、それをどうやって改めさせればよいのかというような問題があると思いますが、これについて、お三方の意見を最後にお伺いしたいと思います。

塩野参考人 私どもが大変頭を悩ませている論点についての御指摘というふうに承りました。

 まず対世効についてでございますけれども、実は判決の効力については、検討会では十分な議論をする余裕がございませんでした。義務づけ判決についてもそうでございます。ここは私としては大変心残りのことでございますけれども、これは今後の学説、判例にゆだねざるを得ないというふうに思っております。

 判決の効力につきましては、昭和三十七年の行政事件訴訟法制定に際して、六年もかけて、その時々にその判決の効力についての議論がなされました。それ以後は、学説、判例、かなり積み重ねておりましたけれども、今度の検討会においては、それがいろいろな事情で間に合わなかったということでございます。

 それから、確認の利益について。これは一番頭の痛いところでございまして、これはだんだんに積み重ねていくよりしようがない。その場合の積み重ねとして、例えば、行政訴訟検討会で素材にいたしましたのはドイツの行政事件訴訟法における確認訴訟でございます。

 つまり、日本の民訴あるいは民訴法学はドイツ法を基礎に成り立っておりますけれども、ドイツの行政事件訴訟法でもこれだけ確認の利益を認めているではないかという資料が出てまいりまして、そういうことを参照にしながら、確認の利益というものについて、十分行政訴訟の特殊性を考慮しながら判断していただきたいというのが裁判所に対する私の希望でございます。

 それからもう一つ、それに従わない場合どうするか。これは、判決についてすべて同じようなことが起こるわけでございまして、例えば取り消し判決の拘束力というものがございますけれども、その拘束力に従わないで行動した場合にはどうなるか。例えばこれは、諸外国におきましては、裁判所侮辱罪的なものを使うとか、あるいは罰金を科するとか、そういった手だてをとっておりますけれども、日本の場合には、そこは割合従うという慣例がございます。それで、今回の場合も、判決に対しての違反、それに従わないということについては特段の措置は講じておりません。

 ただ、確認訴訟の場合には、同じく、準用規定におきまして行政主体あるいは行政機関に対する拘束力が働きますので、その拘束力が、従来の取り消し判決の拘束力と同じような意味合いにおいて、行政機関においてそれを守るということを期待しているという次第でございます。

 以上でございます。

藤川参考人 お答えいたします。

 だんだん専門的な話になってきまして、不得意な分野でございますけれども。

 まず対世効の問題でございますけれども、確認訴訟を求めた当事者が求めているものは何かというと、要するに、違法の宣言、それによって紛争の根源を絶つということだと思います。だから、取り消し訴訟と違って、確認訴訟の段階で、例えば、先ほど御指摘のありました違法な行政指導が行われたという場合を考えた場合、その指導そのものが違法であるということを宣言してもらえれば、それで指導を受けた側としては目的を達し得たと思います。そういう意味で、判決主文の主観的範囲といいますか及ぼす範囲をそれ以上に広げる必要があるのかな、取り消し訴訟と違ってあるのかなという気が私はちょっといたします。それはまあ素人の考えです。

 それから、確認の利益のことでございますけれども、そもそも、憲法で裁判を受ける権利というのを認めている以上、僕はかなり広くとっていいんじゃないかという気がします。今までの行政訴訟法は、憲法で認められている裁判を受ける権利を勝手に裁判所というか法律の都合で切っているわけですから、かなりもっと広げていいんじゃないかと思います。

 それから、違法状態については、僕はこういうことだと思います。行政というのは公益を目的としておりますから、裁判所によって違法と宣言されたものを追求することが果たして行政としていかがかという問題であり、行政はそういう意味で社会的な責任を追及されるんじゃないかと思います。

水野参考人 先ほど塩野参考人が御答弁されたとおりでございますので、それを援用させていただきます。

 一つだけつけ加えさせていただきますと、先生の御質問では、当然に、例えば行政指導、そういったものの、そのものの違法確認ができるという前提で御質問されたと思います。私も、今回、確認訴訟の関係で、公法上の法律関係の確認というのが例示されましたけれども、法律関係に置き直せない場合においても、行政処分的なもの、例えば行政指導とかありましたけれども、そのものの違法確認を求めることができるというふうに今考えておりますので、そのことだけつけ加えさせていただきます。

柴山委員 五分ほど時間がオーバーしてしまいました。後続の御質問の方に御迷惑をおかけしたことをおわび申し上げます。

 本当はもっと具体的な事例をとらえて申し上げたかったんですけれども、初めての質問ということで、多々不手際な点があったことをおわびしたいと思います。

 以上です。どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さん。

 富田茂之君。

富田委員 公明党の富田茂之でございます。

 三人の参考人の先生方、きょうは貴重な御意見ありがとうございます。特に塩野参考人は、実は、私、司法試験の勉強をしておりましたときに行政法を専攻しておりまして、一橋大学だったものですから先生の講義は聞けなかったんですが、先生の講義ノートというのが東京大学の生協で売っておりまして、それを友人に購入してもらいまして勉強させていただきまして、それで何とか合格できましたので、きょうは質問できる機会をいただきまして本当に感動しております。

 先ほど先生の方から、今回の改正事項、大きく四点あるんだということで、救済範囲の拡大がまず第一点、そして第二点として審理の充実、促進、三点目として行政訴訟をより利用しやすく、わかりやすくするための仕組みだ、四点目として本案判決前における仮の救済制度の整備、この四点を挙げられて、審理の充実、促進のところをちょっとお話しされませんでした。行政訴訟の活性化という意味では、ここは目立たないけれども重要なんだというふうにおっしゃられたんですが、私も今回の改正の中で、実務面ではここが一番今後生きてくるんではないかなというふうに感じております。

 裁判所が、釈明処分として、行政庁に対して裁決の記録や処分の理由を明らかにする資料の提出を求めることができるようになった。これの解説として、審理充実、促進の観点から、訴訟の早期の段階で処分の理由、根拠に関する当事者の主張及び争点を明らかにするため、新たに釈明処分の特則を定め、裁判所が行政庁に対して裁決の記録や処分または裁決の理由を明らかにする資料等の提出を求めることができることとしたんだというふうに説明されているんです。

 文書提出命令の特則というような考え方も多分議論されたと思うんですが、釈明処分を特則という形で規定されて、どうしてそういうふうになってきたのかという経緯と、今後、この特則が実際の裁判実務の中でどのように生かされていくことを、議論された先生方としては期待されているのか。また、逆に、こういう処分がされても行政庁の方で拒絶するということがあると思うんですが、そういったときの取り扱い等についてはどんな議論がされたのか。御説明いただければと思います。

塩野参考人 私も先ほどちょっと申しましたように、審理の充実、促進というのが今回の行政事件訴訟法改正における重要な目玉の一つであるというふうに考えております。実務的には、むしろこれが一番きくのではないか。つまり、第三者の義務づけは、話としてなかなか、いろいろ事例があり興味を引かれるところですけれども、現実の多くの訴訟は取り消し訴訟における審理の充実、促進というところであろう、それをどう図るかということであろうかというふうに思っております。

 そこで、今のお話の点についてでございますけれども、一つは、経緯といたしましては、もちろん文書提出命令をどんどんやるべきだ、そちらの方の手当てをすべきだという議論もありまして、ただ、御案内のように、文書提出命令につきましては、昨今の民訴法の改正が動いている最中、動いてというのは、改正ができて、まさに運用を見守っているところでございますので、しばらくそれを見ようではないかということが一つございました。

 それからもう一つは、これは実は実務家の方から非常に強く出てきた議論、これはというのは、つまり、訴訟の場において、行政はなかなか資料を出さない、裁決の一件書類も出してこないということについて非常に強い不満がありまして、私ども学者はそこまでは熟知はしておりませんでしたけれども、そういうことであれば、ぜひこういうことは必要であるというふうに賛同したわけでございます。

 ただ、賛成の仕方はそれぞれ違いまして、一つは武器対等の原則ということの御説明で、これは弁護士の方がしょっちゅう言われることなんですけれども、私は、どうも、いつも武器は行政庁が持っている、弁護士の方は、原告の方は何も持っていないとおっしゃるんですけれども、税務訴訟なんかになりますと、どっちに資料がたくさんあるかというのはなかなかしんどいところかと思います。しかし、私の説明は、これは武器の対等原則というより、行政に対する行為規範の責務を改めて司法の場で確認したものだという理解でございます。

 つまり、何かといいますと、それは、行政過程におきましては、説明責任、説明する責務ということが情報公開法によって明定されまして、行政過程における行政の公開性と説明責務というのは非常に強く行き渡っております。それが司法の過程の段になると途端に両者対等の当事者であるというのは、私は、それは国法の体制としては一貫しないのではないか、むしろこれは、この新しい制度は、私の頭の中では、武器対等の原則の実質化というよりは行政の説明責任の司法過程への投影であるというふうに理解をしております。

 そして、それから最後に、これはやらなかったときに、拒絶したときにはどうなるかということでございますけれども、これはむしろ委員の方が御案内のように、釈明処分に対して、それに当事者が従わなかったとしても、当然に文書提出命令のような形には参りません。しかし、これも、私は全く素人でございますので憶測でございますけれども、あるいはやや希望的な観測でございますけれども、そんなに資料を出さない行政庁であれば、どんどん心証を悪くしていけばよろしいのではないかなということでございます。

富田委員 武器対等の原則ではなくて、行政の説明責任からこういうふうになられたという御説明ですが、実は、私、司法修習した法律事務所とイソ弁として勤務した事務所が同じなんですが、その事務所が、多分この委員会は弁護士さん出身が多いんですが、国の指定代理人をやっていた弁護士さんで、県の訴訟事件も一手に引き受けていた事務所なものですから、行政事件の被告側の代理人として随分仕事をしておりまして、やはり行政庁側はどんな資料も持っているんですよね。

 県の事件なんかやりますと、弁護士報酬は物すごい安いんですけれども、弁護士が何もしなくても、文書課の皆さんがどっと資料を持ってきて、この中から選んでくださいというような形でやるものですから、今回のこの釈明処分ができたということによって、今塩野先生が言われたように、裁判実務の中で、出さなければ心証を悪くするし、行政庁側の方もどんどん出していくようになると思うんです。

 検討会の中で福井秀夫委員の意見というのが出ておりましたけれども、「資料の提出については、処分の理由を明らかにする資料に限定せず、広く訴訟の対象である行為をするに当たって行政庁が利用した資料は、すべて提出を求めることができることとすべきである。訴訟の争点を明確化するためには、単に「理由を明らかにする」資料のみならず、行政庁の判断を左右しえたであろう参考資料も含めて、適法な行政行為を基礎付ける資料はすべて、法廷で明らかとすべきであるからである。」というふうに意見を言われているんですが、私もこの方がよかったんではないか。

 こういうふうにすると、広げ過ぎて何でもかんでも出せというふうになるからだめなんだというような議論が多分あったと思うんですけれども、一たん広げてみて、中で選んで訴訟で使えばいいというふうに思うんですが、その点は、塩野先生また水野参考人は、どのようにこの検討会の中で思われて、今どのように考えられているか、御意見をいただければと思います。

塩野参考人 先ほどの御質問に対して一つ釈明させていただきますけれども、武器対等の原則、全くそれが意味のないことであるなどと言っているわけではありません。およそすべて行政訴訟はという言い方をされるものですから、そうでもない場合があるのではないか、むしろ行政法学者としては説明責任を強調したい、そういう趣旨で申し上げた次第でございます。

 それから、資料のことでございますけれども、理由の範囲をどこまでとるかということでかなり広がると思います。つまり、これは行政庁、私もそう詳しくございませんけれども、一件書類というものがありまして、大体まとめているものでございますので、それはごそっと出てくるのであろうと思います。

 それ以外に、それでは、あちらこちら散らばっているものをとにかく何でも出せ、出さないと釈明処分に反したということになりますと、これは行政庁としてはなかなかやりにくいところがあるのではないかというふうに私は今のところ考えておりまして、まず、とにかく一歩これを踏み出して、運用の過程でどこまで出てくるかということをごらんいただくのが得策かなというふうに思っております。

水野参考人 その点は私も福井委員の意見と同じでありまして、こういう資料であったという、いわば処分を支える資料だけしか出してこないんじゃないかと。むしろ、いろいろな資料は、反対の資料もあり得るわけですね。そういったものを全部総合して、その処分が適法かどうかを判断しなきゃならない。ですから、そういう意味では、処分の際に参考にしたいろいろな資料を全部出すべきだというのは、非常にそのとおりだと思うんです。

 ただ、先生も御指摘のように、それではどこまで出すのかといったような議論がございまして、最終的にはそこまで詰め切れなかったということでございますが、ぜひそういうふうなことになればいいというふうに私は考えております。

富田委員 次に、藤川参考人にお尋ねしますが、調査室の方からちょっと資料をいただきまして、藤川参考人が二〇〇三年の一月五日の日経新聞に「行政訴訟の夜明けは近い」という文を書かれたんですが、御本人の文章ですので覚えていらっしゃると思いますが、「杉作、日本の夜明けは近いぞ」という鞍馬天狗の言葉を引かれて、活力ある社会への土台づくりになるんだということで御指摘をいただいておりまして、本当にここに書かれていることはもうそのとおりだなと思いますし、この趣旨にのっとってきょうも参考人としての御意見をいただいたと思っているのです。

 裁量に対しての今回動きがなかったということで御指摘がありましたけれども、ここは本当に難しいと思うんですね。やはり一番司法のチェック機能を強化するには裁量処分に対する審査基準をつくる必要があるだろうという御指摘ですけれども、私もこのとおりだと思うんですが、ここの部分を、裁量にも自由裁量とか覊束裁量とかいろいろありますし、一律にやるというのはやはり厳しいんだろうなと。ただ、ここに踏み込まないと、これまで司法が行政に対してチェックしていなかったという批判はやはり免れないんではないかなと思うんです。

 ここの部分について、きょう、藤川参考人は、個別行政法の中に司法救済システムをつくったらどうだという、これは新たな指摘だと思うんですが、これも含めまして、もう少しこういうふうに踏み込めるんではないかというような考え方がございましたらぜひ御教示いただきたいと思うんですが。

藤川参考人 お恥ずかしい、昔のというか一年前に書いた原稿にお目がとまりまして、大変光栄に存じます。

 御指摘のとおりだと思います。先ほど申し上げましたように、入り口に入っても結局権利が救済されないと意味がないということでございます。そのとき、一番ブラックボックスになっていますのが裁量権です。行政裁量であるといったら、今の三十条でいうと、逸脱かもしくは濫用以外には何ら及ばないということになっています。これは大変問題であると思います。

 これまで、私は素人ですけれども、私が初めて司法記者になった当時、三十年ぐらい前でございますけれども、日光の太郎杉事件というのがありまして、御存じだと思いますけれども、日光の国の史跡に指定されています杉並木の一番大きな杉の木を切ろうとした事件でございます。

 それを差しとめるときに、僕は、非常に公正な判決で、いい判決だったなと思うんですけれども、考慮すべきことを考慮しなかった、考慮すべきでないことを考慮した、それはいかぬじゃないかということをあの判決の中で言ったのが印象に残っております。そこで示された規範というか考え方、今言ったような、考慮すべきことをきちっと価値づけ、そしてそれについて考慮する、考慮すべきでないことを考慮した、そういうものが一つあれすると思います。

 それであるとか、この間の圏央道の判決で、例えば公共事業なんかの場合、案がたくさんありますけれども、代替案に対する検討の問題であるとか、これはそのまま使えるかどうかわかりませんけれども、費用便益であるとか、さまざまな判断基準の新しい手法というのができてきていると思います。そういうものを、僕は、一般法の中にどれだけ取り込めるかよくわからないんですけれども、そういうものをこの三十条の中に落とし込めないかなという問題意識でございます。

 ただ、それが難しかったら、先生御指摘のように、二項で書きました個別の立法、例えば環境なり、あるいは公共事業でも結構ですけれども、そういう中で裁量の手続と基準を明示する、それに従ってなされたかどうかという司法審査をするという二段構えが僕はできるんではないかなという気がいたします。

 以上でございます。

富田委員 残り時間もあと一分ちょっとしかありませんので、最後に、藤川参考人も御指摘されておりましたが、行政訴訟を担当する裁判所の体制、裁判官と弁護士の専門性の強化が必要だということで、法科大学院に期待されるというふうに意見を言っていただきましたが、実際、法科大学院は、この四月一日から動き出して、私の友人も教えているんですが、これは大変だと、いろいろなレベルの方が来て。

 本当にこの人たちが専門性を持った法曹になっていっていただけるのかというようなものもあるみたいですし、それよりも、私はこの委員会で何度も言っているんですが、平成四年、五年以降、司法試験合格者をどっとふやして、その人たちに対する教育指導がきちんとされないまま、どんと弁護士が一番ふえちゃったわけですけれども。そういう中で、行政訴訟の専門性というものについて、どういうふうに法曹を育てていったらいいか、三人の先生方から、もしこういうのがあれば、一言ずついただければと思います。

塩野参考人 今度の改正案の中では、裁判所の管轄についての定めがありまして、それは、一つは、今の、専門的な裁判官を育てるということで集中部というのを設けよう、そういった構想で一つできております。

 それから、今後のお話でございますけれども、私、常々思っておりますのは、時に医師会等の皆さんとお話をいたしますと、卒後の教育というもの、あるいはその後のいろいろな研修等々に大変熱心でございまして、それをどうして弁護士会の方は勉強されないのか、もっと学んでもいいのではないかというふうに常々思っておりました。この機会に、ぜひ医師会における医師の免許を与えた後の研修制度についてもごらんいただいて、参考にしていただければというふうに思います。

藤川参考人 御指摘のとおりだと思います。

 ただ、私が思いますに、司法試験法が改正になって、選択科目、先生は先ほど行政法を選択されたと言っていましたけれども、行政法は司法試験科目から外れてしまったんですね。卑近な例ですけれども、やはり試験科目に入らないと勉強しないんです。そういう意味で、今度は新司法試験がどうなるかわかりませんけれども、僕は、ぜひそこをしっかりやってほしい。

 それと、私も法科大学院に関心がありますのでいろいろ取材していますけれども、憲法と行政法の垣根がだんだん、何か法科大学院は授業数が少ないせいか、融合して教えられているケースがふえていますね。僕は、あれは非常にいいことじゃないかと。先ほど御質問がありまして、柴山先生から御質問がありましたけれども、憲法上の権利をどういうふうに具体的に行政訴訟に実現していくのか、そういうような教え方、憲法訴訟という考え方を、今非常に法科大学院は実務的に教えているところがふえております。そういう意味で、新しい、行政法に強い法曹が生み出されるんじゃないかと期待しております。

水野参考人 司法試験の件については、今藤川さんがおっしゃったとおりでございますが、今度の新司法試験では、公法と民事法と刑事法と、三科目になりました。公法というのは、憲法と行政法なんですね。それで、実務教育をやるということでありますから、これはおのずと行政法が中心になるだろうというふうに思っておりまして、かなり行政ないし行政訴訟に強い法曹がこれから生まれてくるのではないかというふうに思っております。

 それから、弁護士会の研修が不十分じゃないかという塩野先生のおしかりをいただきましたけれども、弁護士会も、最近は非常に研修を重視しておりまして、例えば税務の研修を今始めているんですね。これは、税務の専門家を育てようということでやっておりまして、これは大変熱心にたくさんの弁護士が参加しております。この行政事件訴訟法の改正が成立した暁には、これまたかなりの機会をとらえて、そういった研修をする。これは、私は別に会長ではございませんけれども、弁護士会では当然、行政事件訴訟の研修をするということは間違いないところでございますので、引き続きやっていきたいと思っております。

 それから、弁護士会にも行政訴訟の支援をする窓口的なものを設けたらどうかということも、現在検討しております。

富田委員 ありがとうございました。終わります。

柳本委員長 御苦労さま。

 辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 本日は、三人の先生方、貴重な御意見をちょうだいしてありがとうございました。

 行政行為、行政処分の適法性をチェックすべきであるというのは、行政訴訟の中心的な課題の一つではあろうと思いますが、この要請は必ずしも行政訴訟の場面だけではなくて、今の日本のいろいろな諸現象といいますか、やはり行政権がどんどんどんどん肥大化していって三権分立の原則が変容してきている、司法の役割、立法の役割、それぞれ変容してきているという意味において、この行政権の肥大化をどうチェックしていくのかというのが、国のあり方、社会のあり方を考えていく上において非常に必要なことである。その手段として行政訴訟が位置づけられるべきであるし、それ以外にも行政の適法性のチェックの制度、システムというのは、もっとほかにいろいろ工夫されて、拡充されてしかるべきかなという問題意識を持っております。

 本日、まず塩野先生にお尋ねさせていただきたいと思いますが、確かに、救済範囲の拡大、審理の充実、促進、利用しやすく、わかりやすくするための仕組みの整備、仮の救済の制度の整備ということで提案されております。

 ただ、例えば九条の原告適格の問題を見ますと、一項でやはり「法律上の利益を有する者」ということが依然として残っておる。二項で「当該法令と目的を共通にする関係法令」という限定が加えられている、これは必要性がないんではないかというような意見も多々あると思います。さらに、二十五条の執行停止についても要件が過重ではないかとか、細かくは申し上げませんけれども、三十七条の二の義務づけの訴えの要件や三十七条の四の差しとめの訴えの要件、そして三十七条の五の仮の義務づけ及び仮の差しとめの要件。

 非常に救済の範囲を、ある意味では運用のいかんによっては狭めるような、つまり発動を限定するような加重された要件が多々加えられているように私は思うのですが、果たして本当に行政のチェックということが、現在のこの提案されている法文で、実効性を持つということの根拠となる、何か具体的な根拠となるものはうかがうことができるのでしょうか。

塩野参考人 御質問の前にお話しになりました行政行為のチェックについては、何も司法的統制だけではないのではないかということについて、私も全く同感でございまして、行政手続法制がまさにそのチェックの一つとしてございますし、それから情報公開も、そういった面では横から支えているものでございます。

 それから、行政行為ができる前の、される前の行政立法の透明性を図る必要がございますので、行政立法手続の充実ということも必要ですし、さらにもっと根本にさかのぼりますれば、法律、行政作用法において、国会におきましてその透明性を、運用に際しまして恣意的なあるいは濫用的なことが起こらないような形でのきめの細かな法律をつくる、あるいは要件を定めるということも重要かと思います。

 ところで、今の、今回のものにつきまして、要件が厳し過ぎるというようなお話がございました。ただ、なかなか難しいものでございまして、何で義務づけ訴訟、差しとめ訴訟、確認訴訟というものが余り発達しなかったということにつきましては、どうも裁判実務の方の方のお話を聞いていますと、要件がわからないので裁判所はなかなか踏み込めないんだと、今までの司法と行政の関係を前提にしてのお話でしょうけれども、やはり要件が書いてあるともう一歩進めるんだというようなお話もございました。

 ですから、私も含めて行政訴訟検討会では、例えば義務づけ訴訟あるいは差しとめ訴訟は、これは本案の問題なので、訴訟要件の問題ではなくて、すべて本案の請求権の成立の有無に係るものではないかと。その本案請求権の成立の有無は、これは個別の事例に従って裁判所が開発していくべきものではないかという議論と、それから他方、それでは実際上動かないという議論、例えば現在の義務づけ訴訟における裁判所の三要件ぐらいを明文化してもらわないとなかなか動けないという議論、この両方がありました結果、現在のような形になっております。

 現在のものも、請求権の要件を定めたのか、訴訟要件を定めたのか、これはこれから学者がいろいろ議論をするところでございまして、大変残念なことでございますけれども、日本の学説も、請求権の要件というのはどういうものか、差しとめの要件とは民法における差しとめの要件とどこがどう違うのかというようなことについて、あるいは、義務づけ訴訟ですと給付請求権の要件ですね、特に第三者に対して公権力の発動を求めるというような、およそ民事では考えられないような給付、あるかもしれませんけれども余りないようなことについて、要件をどう考えるかというのは、これは諸外国の請求権の要件を見ていかなければいけないと思います。

 そういう意味で、今回はいろいろな考慮の果てに一つの案として出てきたものでございまして、出るたびに同じようなことを申し上げて大変恐縮なんですけれども、まずこれで始めていただきたい、それで開発をしていただきたい、それでだめならば五年後にきちんと見直しをしていただきたい、そういう趣旨でございます。

辻委員 裁判所が、結局のところ、積極的にこの救済のために運用するということを期待するんだ、オープンスペースということを先ほどおっしゃられたと思いますが、これは検討会で、例えば解釈指針を入れるべきではないかというような議論もありましたが、それは適当でないということで取り上げられなかったという経過がありますが、裁判官が、私の経験上は、やはり行政優位の思想みたいなのがかなり体質的にしみついているような面を非常に感じることがあるんです。

 それは、そのようなことをお感じになっておられるのかどうなのかということもできればお聞かせいただきたいと思いますけれども、そういう裁判官に積極的な運用を期待するというときに、裁判官へのアピールがどのようにこの法文の中であらわれているのか、そして具体的に裁判官のそういう体質的な問題を改善できるためにはどうすべきなのか、この点についてはどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。

塩野参考人 まず、ちょっと抽象的なお話にさかのぼって大変恐縮でございますけれども、司法制度改革審議会の意見書には、法の理念に基づきという言葉がございました。検討会では、法の理念とはいかがなものか、これが法治主義、法治国家とは違うかどうかというような概念論争はいたしませんでした。

 しかし、その根底に流れる法の理念というのは、やはり裁判官が法をつくるということでございます。立法者があれこれ余り細かくして裁判官の手足を縛る、あるいはここをこうせいと言うのではなくして、それはまた私の理解でございますけれども、行政官に対してはもう手を縛り、足を縛り、しかし突き進むべきところは、ここを突き進めという指示を与えるのが、私は立法者の本来の責務だと思いますけれども、裁判の場における救済法理においては、これは裁判官の創造するものでございます。

 それは、一つの例だけ申しますと、アメリカにおきましてもデクレアトリジャッジメントあるいは行政手続法の法理が発展し、今制定法ができておりますけれども、それがどういうわけでできたかというと、最初は、連邦議会がこうせいああせいとしてつくったのではなくて、デクレアトリジャッジメントでも、裁判所がどんどんいろいろなことをやってきて、余りいろいろなことが起こるので、では連邦法で統一してみよう、そういった発想になる。行政手続法もそうでございます。

 それから、ドイツの例でいいますと、原告適格はレヒツフェアレッツィング、つまり権利侵害があったものに限り提起することができるというのがドイツの法文でございますけれども、先ほどちょっとお話にありましたように、基本権をまず持ち出してきて、それを広げる。それは立法者が広げるということではなくて、救済法は裁判官の役割なので、それをもう一度根本に立ち返って思い起こしていただきたいというのがこの行政事件訴訟法改正に臨んだときの私の基本的な立場でございますし、また検討会の考え方もその筋ででき上がっているものでございます。

 それを何か麗々しくお説教みたいに書くかどうかという問題でございまして、私は、これは個人的なあれで大変恐縮でございますけれども、余りお説教は好まないということでございます。

辻委員 もう一点だけ塩野参考人にお伺いさせていただきたいと思いますが、この「行政訴訟制度の見直しのための考え方と問題点の整理」というのを読みますと、「十分な検討を行う必要がある。」とか「なお検討する。」とかいうように、次の課題ということで規定されているものがあると思うんですね。

 これは、先ほど水野参考人がおっしゃられたように、五年の見直し規定とはまた別のものであって、できるだけ速やかに、早急に考えられるべきものだというふうになっていると思うんですが、この中で、優先順位として、塩野参考人としては、すぐさま何と何をやはり加えていくべきなんだというふうにお考えになっているのか、御意見をいただければと思いますが。

塩野参考人 大変難しい質問で、結論から申しますと、ちょっとお答えはできないのですね。座長である私が、この点、この点と申しましたらば、今度の行政訴訟検討会は動きません。

辻委員 時間の関係もあって、ちょっと質問の数が少なくなって申しわけないんですが、藤川参考人に伺わせていただきます。

 新聞記者としてずっといろいろ取材をなさってきて、行政訴訟がなかなか活用されない。これは、制度の問題、法の問題ということがありますが、それ以外の問題も非常に大きな要素があるんではないか。今回の制度改正に当たっての御指摘は先ほどいただきましたけれども、それ以外の面において、行政訴訟をより実効化させるために考えるべき諸課題というか、お感じになっているような点があれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

藤川参考人 御質問いただきましてありがとうございました。

 そのとおりだと思います。法律を変えたからといって世の中の仕組みなりあり方が変わるわけではないと思います。

 なぜ行政訴訟が使われないか。一つは、やはり何のかんの言ってもお上意識ですし、それからもう一つは、こう言うと喜ぶ方が出てしまうかもしれぬけれども、かなり行政は目配りをきかせているんですよね。目配りをきかせていまして、よっぽどおかしな行政というのは余りないので、そういう面もあると思いますけれども。ただ、長いものには巻かれろ。それから、やはり裁判というのは非常に金がかかり時間がかかるという、そのアクセスの悪さ、そういう問題があると思います。

 それからもう一つ言うと、私は日本経済新聞ですから企業の取材歴が長いんですけれども、やはり、後で何か、江戸のかたきを長崎でという、ちょっと話が長くなってあれなんですけれども、昔、JR三社の追加負担問題というのがありました。そのときに、行政訴訟を起こすかどうか、ある大学の先生、憲法の先生に話して、起こそうとまで言ったんですが、とうとう起こし切れなかった。なぜかというと、後で人事で報復されるよ。当時、まだ株を全部放出していませんでしたから、株の放出で嫌がらせされるよと。そういう問題があって、そういう制度外の問題で起こしにくいという面があると思います。

辻委員 藤川参考人にもう一点伺わせていただきたいと思いますが、行政をチェックする仕組みとして、例えばオンブズマン制度を新設するとか、いろいろなことが考えられると思いますが、具体的に何か、そういう行政チェックとしての手段、方法について御意見があればお聞かせいただきたいと思いますが。

藤川参考人 お答えいたします。

 私は、やはり一番大切なことは情報の公開だと思います。

 そういう意味で、情報公開法ができてきた。それから、それを使ってさまざまな今裁判が起きています。特に、地方自治体での裁判というのは非常に内容のあるものが出てきています。

 それからもう一つは、情報公開審査会、あれが意外に今いい活動をしています。物によっては、えっ、こんなものまで。例えば、外務省関係で、この間びっくりするような資料が出てきましたけれども、そういう意味で、情報公開制度の充実というのが非常に重要だと思います。

辻委員 最後に水野参考人に伺わせていただきたいと思いますが、先ほど、行政訴訟の欠陥の原因として、行政事件訴訟法自体の問題と、それから行政に対する司法の消極主義だということをおっしゃいました。裁判所に対するメッセージが必要だと。では、この法案の中にメッセージが入っているのかどうなのか。では、具体的にどういうメッセージを発すべきなのかという点が一つであります。

 もう一つは、積み残した課題を早急に実現させるべきだ、私も同感でありますが、これは具体的にどう現実化させていけばいいのか。その辺についてのお考えをお聞かせいただければと思います。

水野参考人 メッセージといたしましては、九条に二項をわざわざ置いた。それから、確認訴訟というのをわざわざ追加して置いた。これは、やはりもっと拡大していこうというメッセージだと思います。

 それから、先ほども申しましたように、ぜひ、この委員会の意思あるいは院の意思を附帯決議という形で裁判所に対してメッセージを出していただきたいというふうに思います。

 それだけでしたか。(辻委員「見直しの現実化」と呼ぶ)見直しの制度についても、アメリカに行政会議というのがかつてあったようなんですね。これはやはり独立した形でないと、行政のあれというのはなかなかできないということでございますので、独立したそういった行政会議的なものを設けて、そこで議論をするというのも一つの方法ではないかというふうに思っております。

辻委員 終わります。ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。

 三人の先生方、大変御苦労さまでございます。私が最後ということで、もうしばらくおつき合いをいただきたいと存じます。

 まず最初に、塩野参考人の方にお伺いしたいと思います。

 先ほど来から出ておりますが、原告適格の拡大の問題。

 九条の第二項を新設するということで、この法案を読みますと、四つの要素を総合的に考慮しなさいというふうに条文としてはできているわけです。ただ、これで本当に原告適格が広がるのかなという疑問もなきにしもあらずで、率直に申し上げて、私は、一項の、この「法律上の利益」という、ここをやはり本当は変えてほしかったなというのが率直なところですが、それはおきまして、現在の判例の状況を見ますと、どうも、むしろ下級審の方は結構厳しく原告適格を考えている。ところが、最高裁の方がむしろ逆に広くとらえる。

 例えば「もんじゅ」の訴訟あるいは新潟空港の訴訟あたりを見ますと、下級審では否定されていた原告適格が最高裁で認められる、こういうような動きもあるものですから、そういうような現在の判例の状況を踏まえて、この九条の二項ができたおかげで、例えば、この手のこういう種類の訴訟は原告適格が従来よりは広がるのではないかという、例えばというようなことで、一定の種類の訴訟など、もし可能でしたら挙げていただいて、この九条で拡大する方向性が示されるんじゃないかなというようなところで、もし御説明できればお願いしたいと思います。

塩野参考人 今の下級審と最高裁の判例の傾向につきましての分析は、私も全く同感でございます。そういうことでございますので、ある方によりますと、この四項をつくったので、結果的には最高裁のレベルにまで地裁のレベルが上がるのかな、それだけではないかという認識の方もおられるかもしれません。

 しかし、私は、そうではなくて、今委員の御発言は多分そういった趣旨で御発言があったように、最高裁といえども、この四項目についてもう一度先ほど来のこの法律案のメッセージを真摯に受けとめれば、広がる可能性があるというのが私の認識でございます。

 そこで、どういうものがそれなのかと言われますとなかなか難しいのですけれども、よく検討会で話題になりましたのは環境関係のもので、環境影響評価法という一種の横断的な立法がございました。横断的な立法をこの国会でおつくりになったこと自体、私はそれは大変重要なことだと思いまして、従来は、個別法について個別の、それこそタコつぼの中で議論をしていた、あるいは解釈していたものが、そうではなくて横断的な立法ができてきた。その横断的な立法をこの中で生かしていけばというのが一番典型的な例として思い浮かんでいるところでございまして、それは、例えば都市計画なんか、あるいは河川法等々でもそういう問題が起ころうかと思います。

松野(信)委員 ありがとうございました。

 具体的な例を挙げますと、藤川参考人のところでもございました主婦連のジュース訴訟、そして近鉄特急料金の訴訟、藤川さんの方でこの二つを挙げておられて、この変化についていっていないではないか、こういう御指摘もありました。

 確かに、この二つの訴訟、いずれも結論とすれば裁判所では原告適格は認めない、こういうふうになったわけですけれども、しかし、そうすると、例えば主婦連のジュース訴訟、表示がおかしい、間違っているじゃないか、消費者全部にかかわるわけで、だけれども、どうも現在の裁判所の考え方からいけば、だれも表示の点について異議が述べられないということにもなりかねない。また、近鉄特急料金を値上げするという問題についても、近鉄の側は、値上げを認めてもらったわけですから、これについて異議を言うはずはありませんので、異議を言うとすればもう乗客しかないわけですが、残念ながら、裁判ではこの乗客も原告適格なしというような、こういう形になってしまったわけですね。

 それで、よろしければ、塩野参考人と藤川参考人のお二人に、例えば今申し上げたような主婦連の事件あるいは近鉄特急の事件、今のままですとだれも異議、文句が言えない、果たしてこれでいいのかということ。それで、新しく例えば九条二項がつくられて原告適格が広がるような様相を呈しているわけで、例えば今申し上げたこの二つの事件などは、どういう影響がこの新しい法律では出てくるとお考えなのか。よろしければお二人に御説明いただければと思います。

塩野参考人 なかなか私の方で個別案件について、判例評釈はしないでくださいと行政訴訟検討会で言いながら、お答えするのはなかなかしんどいものがございます。

 ただ、例えばの話ですけれども、情報公開開示請求権につきまして、かつて横浜地裁で、これはだれでも開けるんだから原告適格はないんだ、国民の全体の利益なんだ、公益的な利益だからこれはだめだといったものに対しまして、高裁判決で原告適格を認め、最高裁判所もそれを当然のごとく認めている例がございます。

 これは、なぜそうなったかというと、だれでも文書を見れる、あるいは開示請求ができるんだけれども、その開示請求権は、先ほどのお話ではございませんけれども、憲法の知る権利、あるいは行政、政府の説明責任に由来するものであって、これはもう個人の主観的権利としてこれは認められているんだ、そういう理解だと私は思います。そういう目で主婦連の訴訟を見た場合にどう見るかというのが一つのポイントであろうと思います。

 それからもう一つのポイントは、こういった非常に拡散したものについて、しかし、しっかりした団体がいればその団体に訴訟を認めるべきだというのが一つの筋として出てくるわけで、それを解釈論のレベルでいくのか、あるいは立法論のレベルでいくのかという問題でございまして、現在までのところ、そういった主婦連のような団体について原告適格を認めるということには至っておりませんけれども、逆に申しますと、それならばということで、現在、こういった消費者についての訴訟について団体に訴訟適格を認めるという方向での議論が非常に進んでいるというふうに聞いております。私は、それは大変重要な筋ではないかというふうに思います。

 それから、近鉄特急事件につきましては、これもまたいろいろ議論がございまして、では航空運賃で全国の人が、乗るかもしれないというので、札幌からどこかの運賃について東京の人が争うかどうかというような、いろいろ議論がございます。ただ、この場合にはやはり利益の性質等々について裁判所はもう少しよく見てもらいたいという気はいたします。およそ、近鉄に乗る人とあるいは乗るかもしれないという人ではなくて、この近鉄にこの時間に乗るためにはこの定期を買わなければならないという人が登場しています。

 そういった点では、例えば、最高裁でも、法定外公共物、現在では全部公共物になりましたけれども、法定外公共物の廃止問題につきまして、生活としてその道路を使っている人についてはそういった法定外公共物についても原告適格があるんだというふうに認めているわけでございまして、これは、先ほど来の御発言で出ております四項目について最高裁ですらそこまで行っている例もある。そうすると、もう少しそれをここまで行けないかということのメッセージとして今度の四項目が生きてくればというふうに私は思っております。

藤川参考人 お答えいたします。

 私は、意見陳述の骨子の中で書きましたように、法律上の利益を有する者というのが残ったのが残念だというのはそういう趣旨でございまして、要するに、今までですと、個々人の個別的利益が全体の利益の中に還元されるといいますか解消される場合にはだめですよという考え方があったものですから、それがそのまま残るとちょっと残念かなと思ったんですけれども、こういうような四つの考慮要素が入ってきまして、例えば、私は法律の解釈ができませんからわかりませんけれども、例えばジュース訴訟は、あれは景表法ですよね。そうすると、景表法の目的、趣旨は何だろうというものを考えた場合、消費者の利益というのは当然その考慮すべき目的、趣旨の中に入ってくるのではないかなという気がいたします。

 それから、鉄道営業法、近鉄特急の場合は鉄道営業法が根拠法だと思いますけれども、その中の、それでは事業者だけでいいのかな、利用者の利益というのは考慮しなくていいのかな、それから、四項目の処分が違法になされた場合に害される利益、この中に消費者の利益が入ってこないかなという気がいたします。

 よってもって、先ほど塩野先生が御指摘になられましたように、団体訴権というものによって守っていくか、私、先ほどもちらっと言いましたように、個別的な行政法、その中で、景表法なりそれから鉄道営業法の中にこの範囲の人についてはこういう申し立てができるという制度をつくるか、それからまた、行政訴訟法一般の中に原告適格を広げるか、三つのルートがあると思います。それぞれ、僕は競合的に、複合して整備して構わないんだと思います。今度はそういう形で九条の二項が設けられたので、一つの突破口ができたんじゃないかなと思います。

松野(信)委員 塩野参考人に最後にちょっとお尋ねしたいんですが、少し細かいところですが、この九条の二項の中の四つの要素のうち一つ、処分の根拠となる法令と目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的、これを考慮しなさいと。

 しかし、処分の根拠となる法令と目的を共通にしなきゃだめだと、目的の共通という縛りが入っているものですから、どうも、いろいろ聞く中では、環境影響評価法はこれに入るかもしれないけれども、それ以外のものはなかなか具体的な法令が出てこない。何でこういう目的を共通にするというような形での縛りが入ったのか。もし検討会の中でこの辺の議論がございましたら、ちょっとその辺、御説明いただければと思います。

塩野参考人 お尋ねについて、ちょっと多少前置き的なことを申し上げさせていただきたいと思いますけれども、行政訴訟検討会の考え方及びそれを踏まえて立案されました九条二項、これでございますけれども、個別法令における処分要件の判定に際しての考慮事項につき一般的基準を定めたものであるということは御理解いただいているというふうに私は思います。

 その際に、それでは当該根拠法の規定の文言のみに頼るべきでないということが、あれが私は大変立派なものでございまして、考え方にもそれらしきことは書いてありましたけれども、あれだけ直截に書いていないということで、私は、今度の改正法案と考え方を比べますと、ああ、あそこはなかなかよく書いたなというふうに大きく評価しているところでございます。

 この基本的解釈権利を敷衍するものとして、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たって、今お話しの、目的を共通にする関係法令の趣旨及び目的を参酌すべきということが定められているわけでございますが、ここで、目的を共通にする関係法令というこの文言自体は「考え方」にも出ております。今回法案に初めて出てきたものではございません。それからさらに、これに素材を提供いたしました新潟空港訴訟の最高裁判決にもこれは見られるところでございまして、ですから、今度初めて出てきて、何か考え方に縛りをかけたというものではございません。

 そこで、第三者の原告適格の問題となるような処分というのは、つまり、当該第三者との利益調整が法の趣旨、目的の中に含められている。つまり、第三者への考慮というものが処分要件とされている場合でありますので、そうしますと、関係法令としてはまず目的を共通にするものが想定されますので、そのことを、私の変な言葉ですけれども、必要的考慮事項として定めたものである。だから、最高裁としては新潟空港判決で出てきたけれども、下級審判決もすべてこれを十分、必要的な考慮事項として考えたらどうかということではないかというふうに思います。

 仮に裸のまま関係法令といたしますと、関係法令とは何かというこれまたいろいろな解釈問題が生じて、かえって、関係法令なんだから、関係するのでうんと狭いということにもなりかねない。そこで、必要的考慮事項という形でまず押さえたということでございます。ただ、目的を共通にする関係法令について定めているのも、原告適格の実質的拡大を配慮したものでございますので、委員御指摘のように、これを限定的に解する必要は毛頭ありません。

 検討会で、これとこれとこれということをそう詳しいものは言っておりませんですが、航空法とそれから航空機騒音による障害の防止、これは新潟空港のものでございますけれども、あと幹線道路の問題では、道路法と幹線道路の沿道の整備に関する法律なんというのが資料として出てきておりますので、御参照いただければと思います。ただ、限定的に解するべきではない。

 それから、処分要件の解釈は、これは最後に一つだけ申し上げておきたいんですけれども、最終的に処分要件の解釈は裁判所にゆだねられております。本条項は、法律によって必要的参酌要素を定めたものでございますので、具体の処分要件の解釈に当たって、それ以外の要素、共通する目的以外の要素を裁判所の解釈権を行使しまして解釈しても、それは法律違反とか憲法違反とかにはならない。むしろ、この改正法の趣旨から申しますと、積極的にそういったものとして処分要件の中に、ほかのいろいろなところを見渡して、こういうものはやはり入れるべきではないかというふうに解釈していただければ、それは共通する目的であろうとなかろうと、私は、それは関係ないというふうに思っております。

 以上でございます。

松野(信)委員 済みません。時間が来ているんですが、せっかく水野参考人においでいただきましたので、一点だけお願いしたいと思います。

 水野参考人からもお話がありました裁量処分の取り消しの行訴法の三十条、要するに、裁量権の逸脱あるいは濫用でない限り取り消せないという、これについてやはり一定の抑制をすべきだ、具体的にこういうふうにしたらいいというのがもしございましたら、御説明いただきたいと思います。

水野参考人 これは大変重要な課題でございまして、どういうふうな形でそれを明文化すべきかということについて若干の議論をしたんですね。ただ、実際に明文化するということになりますと大変難しい問題でございまして、私ども、今この場でこういうのでどうだというのは持ち合わせておりません。ですから、そこのところは極めて重要ですから、きちっとした議論をして明文化すべきだというふうに思っております。

松野(信)委員 以上であります。ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

     ――――◇―――――

柳本委員長 次に、内閣提出、不動産登記法案及び不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。野沢法務大臣。

    ―――――――――――――

 不動産登記法案

 不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

野沢国務大臣 最初に、不動産登記法案につきまして、その趣旨を説明いたします。

 不動産登記制度は、国民生活や経済活動の基盤である不動産について、その権利関係などを公示することにより、国民の権利の保全及び取引の安全と円滑を図るための制度であります。

 この法律案は、不動産登記制度について、登記の正確性を確保しつつ、国民の利便性の一層の向上を図るため、インターネットを利用したオンライン申請の手続を導入するとともに、片仮名、文語体の法文を現代語化する等の規定の見直しを行い、不動産登記制度を高度情報化社会にふさわしい制度にしようとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げますと、第一は、登記の申請手続に関する規定を見直し、インターネットを利用したオンライン申請の手続を導入することとしております。これに伴い、従来の書面による申請についても、当事者の出頭主義を廃止することとしております。

 第二は、登記済証にかわる本人確認手段として、登記識別情報の制度を導入することとしております。

 現行法では、登記完了時に登記名義人に登記済証を交付し、これを次回の登記手続の際の本人確認手段として用いておりますが、これにかえて、オンライン申請においても利用することができるように、登記完了時に登記名義人に登記識別情報を通知することとし、これを次回の登記手続の際の本人確認手段として用いることとしております。

 第三は、申請人から登記識別情報の提供がない場合の本人確認の手続について、登記官から登記名義人に事前通知を行うことを原則とし、資格者代理人による適切な本人確認情報の提供がある場合には、登記官の判断により、事前通知を省略することができることとしております。

 第四は、登記の正確性を向上させるため、登記申請の際に、登記原因を証明する情報を必ず提供しなければならないものとしております。

 第五は、紙の登記簿を原則とする現行の規定を改め、登記簿は磁気ディスクをもって調製することとするとともに、登記所に備えつける地図等についても電子化を図ることができることとしております。

 また、執行妨害のため濫用されているとの指摘がある予告登記制度の廃止等の改正を行うこととしております。

 なお、この法律の施行に伴い、政省令の制定等所要の手続が必要となりますので、その期間を考慮いたしまして、この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。

 続いて、不動産登記法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 この法律案は、不動産登記法の施行に伴い、公示催告手続ニ関スル法律外百二十八の関係法律について、規定の整備等を行うとともに、所要の経過措置を定めようとするものであります。

 以上が、これら法律案の趣旨でございます。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 この際、休憩いたします。

    午後零時十九分休憩

     ――――◇―――――

    午後二時十二分開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 この際、お諮りいたします。

 ただいま議題となっております両案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長房村精一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。森岡正宏君。

森岡委員 私は、自由民主党の森岡正宏でございます。

 先ほど、野沢大臣の方から不動産登記法の改正について趣旨説明がございました。明治三十二年以来の全面改正だと言われておりまして、また、この中にはオンライン申請の導入ということが主でございまして、画期的な改正だと思うわけでございます。私も早くこれを成立させたいなという立場でいるわけでございますが、きょうは、この法案の中で私がまだ疑問に思っている点、また不安に思っている点などが幾つかございますので、それを中心に質問をさせていただきたいと思います。

 まず、今野沢大臣御不在でございますので副大臣に伺いたいと思いますが、今回の改正法案の意義というものはどこにあるのか、国民にとってオンライン申請がどういうメリットを及ぼすのか、ここのところをお話しいただきたいと思います。

実川副大臣 お尋ねの改正法案の意義、また国民にとってどのようなメリットがあるのか、そういう御質問でありますけれども、まず最初に、改正案の意義でございますけれども、情報処理技術の進歩その他の社会の変化に適合するためのオンライン申請の導入等、不動産登記制度を全面的に見直すことにより、登記の正確性を確保しつつ、国民の利便性の一層の向上を図るところにございます。

 具体的には次のとおりでございます。

 まず、インターネットを利用しましてオンラインで不動産登記の申請が可能になり、また、書面で申請する場合におきましても、登記所に出頭することなく郵送による申請が可能になります。さらに、登記識別情報を提供することができない場合におきましても、保証人を要することなく申請することができる制度とするとともに、国民の利便性が向上されることになります。

 他方、登記識別情報によります本人確認手続、事前通知手続の強化、さらには、登記原因証明情報の提供の必須化等の措置によりまして、登記の正確性が確保されることになります。

森岡委員 今、年間二千万件ぐらいの登記があると言われております。登記所の職員が約一万二千人、うち登記官が三千五百人と伺いました。それを支える司法書士さんが一万八千人、土地家屋調査士さんが一万八千人ぐらい、同じようにいらっしゃる。

 そこで、今回、オンラインの申請導入によりまして、どの程度の投資額が必要になるのかなと。私は、このe―Japan計画の一環として行政サービスの効率化を行うこと、これは大賛成でございます。しかし、費用対効果、この点を法務省はどう考えておられるのか。まだ全部の登記所がコンピューター化されていないというようなことも聞きますし、人件費の削減などにつながるものだろうかということを心配しているわけでございまして、ここのところを民事局長さんの方からお答えをいただきたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、オンライン申請を可能にするためには、オンライン申請のための新たなシステムを開発する必要がありますので、一定程度の費用が必要となるということは間違いございません。

 ただ、既に登記所の方では登記事務のコンピューター化そのものを進めておりまして、これは大体毎年数百億の費用を要しておりますが、そういったコンピューター化全体の経費と比べますと、オンライン申請のシステム開発の経費そのものは大した額ではないということが一つ言えます。

 せっかくコンピューター化をする以上、そのメリットをできるだけ広く国民に利用していただきたいというのが私どもの基本的な考え方でございますが、その一つの大きな手段が、オンライン申請を可能にすることによりまして、国民が登記所に出頭することなくいつでも登記の申請が可能になる。これを受けますコンピューター化庁の方にとりましては、そのオンラインで来た情報を直接自動受け付けをしたり、あるいは、今までは紙を見て職員が入力していたものを、直接来た情報をそのまま入力ができる。こういうような意味で、行政の効率化にも資するというところが非常にございます。

 そういうことをあわせ考えますと、具体的な数値でお示しするのは困難でございますが、やはり国民の利便性あるいは行政の効率化というようなことを考えますと、今回のオンライン申請に要する経費を償って余りあるメリットが得られるのではないか、こう思っております。

    〔委員長退席、下村委員長代理着席〕

森岡委員 この不動産登記法につきまして、昭和六十三年、また平成五年にも改正が行われております。そのときに、現代語化の推進、地図の整備、真実性確保の充実、そして日本司法書士会連合会、日本土地家屋調査士会連合会との協議などを求めた附帯決議が採択されております。これらの附帯決議が今回の改正にどう生かされているのか、そこのところを副大臣から御説明をいただきたいと思います。

実川副大臣 御指摘の附帯決議におきましては、不動産登記法の現代語化、地図の整備の促進、また資格者代理人の活用、さらには登記の真正を確保するための登記申請手続の改善及び関係団体の意見を十分に聴取すること等が内容とされております。

 今回の不動産登記法案は、法文のすべてを現代語化するものでございまして、また、申請手続に関し登記原因証明情報の提供を必須化し、資格者代理人によります本人確認情報の提供を制度的に位置づけること等の改正によりまして、登記の真実性を向上させることを図るほか、地図の電子化を制度的に可能にするものでございます。

 また、今回の改正法案の立案の過程におきましても、日本司法書士会連合会及び土地家屋調査士会連合会から推薦されました委員を交えた研究会、また法制審議会におきます調査審議を経ているほか、随時、日本司法書士会連合会及び日本土地家屋調査士会連合会と意見交換をしております。

 したがいまして、今回の不動産登記法案の内容は、御指摘の附帯決議の趣旨に沿ったものであるというふうに考えております。

森岡委員 今回の法案の中心的な改正と申しますと、登記申請のときに出頭主義はやめる、そして登記済み証は廃止する、ただし、書面による申請も認めるというのが今回の改正のポイントの一つだと思います。

 オンライン申請と紙申請の併存ということを認めているわけでございますが、オンライン庁の指定、どんどんどんどん進めていく、スピードを上げていくということが大変重要だと思うわけでございますけれども、早くこの改正案の趣旨に沿った現実が進んでいくように私は願っているわけでございますが、法務省として、このオンライン申請と紙申請、両方併存しているけれども、どんなふうにこれから進めていこうとしているのか。

 もうオンライン申請の方をぐっと多くしていって、できるだけ紙申請を少なくしていこうとしておられるものならば私はいいと思うんですけれども、いや、いつまでも併存していくんですよというような形になるものなのか。その点、民事局長さんのお考えを聞きたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の改正後は、オンライン申請とそれから紙申請が併存することになります。

 時代の流れからいきますと、やはりオンライン申請の方向に動いていくと私どもとしては思っておりますし、オンライン申請が可能になる登記所の指定もできるだけ速やかに拡大していきたい、こう思っているところでございますが、ただ、残念ながら、やはり、国民多くの方がいらっしゃいますので、今すぐコンピューターを利用してオンライン申請をするのはなかなかしにくいというような方がまだまだいらっしゃることも事実でございます。

 そこを考えまして、私どもとしては、当分の間はこの両者を併存させていくということで、国民の多くの方に御不便、御迷惑をおかけしないようにしたい、こう思っておりますが、長い目で見れば、方向としてはやはりオンライン申請の方向へ世の中は動いている、こういうぐあいには考えております。

森岡委員 次に、不動産取引について伺いたいんですが、不動産取引というのは、単独ではなく、幾つかの取引が合わさってなされるのが普通だと思います。買い主が売買物件を担保に借り入れた資金を売り主に支払う、そして売り主が受け取った代金で既存の抵当権の債務を弁済する場合、買い主と金融機関の融資取引、そして売買取引、そして売り主の金融機関への弁済、こういう三つの取引が組み合わさっているのが普通だと思います。この場合、登記は、売り主抵当権抹消登記、そして売買による所有権移転登記、買い主の抵当権設定登記というふうに、相互に関連する一連の登記を行うことになります。

 連件登記申請がこれからも可能なのかどうか、今までと不動産登記が変わらないのか、この点について局長さんのお考えを聞きたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、一連の取引の流れがございます。そういう場合に、当事者といたしましては、最初の抵当権の抹消、それから所有権の移転、移転後の抵当権の設定、この登記が全部できて初めて一連の取引の目的が達成できる、こういうつもりでいるわけでございます。

 現行法のもとでの取り扱いといたしましては、そういう場合には、この三つを一括して連件申請ということで申請をしていただきまして、三つの登記すべてができるというときに初めてこれを行う。例えば、最後の抵当権の設定登記ができないというときに、その前の二つの抵当権抹消と所有権移転だけを登記してしまうというようなことはしない、こういう扱いをしております。

 これはやはり、当事者の意思として、最後までできるから、初めて、現在ある抵当権を抹消したり所有権を移転するんだ、こういう当事者の意思に沿う扱いをしているわけでございますが、これは、今回オンライン申請を可能とする不動産登記法の改正をいたしました後も、オンライン申請におきましても、そういった形の従来の連件申請が可能な仕組みにするということで私ども考えておりますので、実務の扱いといたしましては従来どおりの取り扱いができるということになります。

森岡委員 それで安心いたしました。

 私はちょっと辛口のことを申し上げたいわけでございますが、私のような法律の素人がこの法案を見ておりますと、この法案の中には、「政令で定める」とか「法務省令で定める」という言葉が非常に多く出てくるんですね。不動産登記についての手続が非常に国民にわかりにくい法律になっているんじゃないかなという気がしてならないわけでございまして、立法府、すなわち国会議員が関与しないところで登記手続の重要部分が決められていくんではないかというところに、私はちょっと不安を感じますと同時に、不満でもあるわけでございます。ここのところをどういうふうに考えておられるのか、局長さんのお話を伺いたいと思います。

房村政府参考人 確かに、御指摘のように、今回の不動産登記法の条文を見ますと、政令とか省令で定めるという規定がかなり目につきます。これは、確かに一つの考え方としては、法律を見ればすべてのことがそこに書いてあるというのも一つの考え方だろうとは思います。ただ、非常に技術的な、細目的な事項まですべて法律で書くということになりますと、どうしても法律の条文が非常にふえます。また、そういう意味で全体が見通しが悪くなってくるということもございます。

 そういうことから、今回は、不動産登記法の法文本体には法律上重要な事項、これを書いて、技術的、細目的な事項はその下の政令とか省令に委任をする、こういうことによって、法律本体を読めば一番、登記手続の構造、また重要な事項がぱっと頭に入る、さらに細かいことを見たければ、さらに政令、省令を見ていく、こういう順番で手続全体を理解していただける、こういうことを考えまして、基本的に、申請権者であるとか申請義務者、あるいは登記事項、それから申請手続の原則、こういった制度の骨格や国民の権利義務に関する事項を不動産登記法本体に規定いたしまして、さらに、申請手続の細目であるとか登記所内部の事務処理に関する事項については政令あるいは省令にゆだねる、こういう形にしたわけでございます。

 確かに、今回、法律本体だけを見ておりますと、そういう意味で、政省令がわからなくてなかなか理解しにくいという感想をあるいはお持ちになられるかもしれませんが、実際に利用していただくときには、当然のことながら、政令、省令も含めて一体のものとして国民に理解していただけるように努めるつもりでございますので、御理解をお願いしたいと思います。

森岡委員 一年以内に定める、こうなっておるようでございますから、期待したいわけでございますが、例えば二十三条などを見ますと、「法務省令で定める」という言葉が五回も出てくるんですね。一つの条文で五回も出てくる。これはやはり、できるだけ内容を早くまとめていただいて、私たちにも示していただきたいな、国民がわかりやすい法律にしていただきたいなとお願いをしておきたいと思います。

 今回の法案の中で新しく出てくる言葉で、六十一条に登記原因証明情報という言葉がございます。この登記原因証明情報の提供が申請人に義務づけされているということになっておりますけれども、内容が、これまた見えてこないわけでございます。

 例えば、売買による所有権移転登記において、売買代金なども記載するようになっているのかどうか。どの程度の内容がここへ記載されるものか。そして、だれがこの登記原因証明情報なるものを作成するのか。現場の登記官によって指示とか判断が違うということでは困ると思いますので、その点についてお伺いします。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の法案の六十一条では、登記原因証明情報を提供しなければならないとしてその提供を義務化しておりますが、これは、現行法のもとにおきましても、登記をするときに、その登記原因を証する書面ということで登記原因証書と申しておりますが、これを原則として添付して提出することになっておりましたが、まだ義務化まではしていなかったわけです。今回の改正に当たりまして、やはりできるだけ登記の登記原因についても真実性を担保したいということから、この登記原因を証する情報の添付を義務化したというものでございます。

 ですから、内容的には、従来の登記原因証書と基本的には同じことになりまして、登記の原因となった事実または法律行為及びこれに基づき現に物権変動が生じたことを当該登記によって不利益を受ける者が確認し、署名または押印した書面あるいは電子署名をした情報ということになります。

 具体的にどんなものかということですが、例えば売買契約の契約書そのものということももちろんあり得ますが、しかし、その売買契約があるということ、それから、それに基づいて所有権が移転したということを特に売り主が証明した文書を別途作成して提出するということでも足りるわけでございます。

 その場合、代金額の記載が必ず要るのかというお尋ねでございますが、この点につきましては、売買契約の要素として、代金の定めがあることはこれは必要でございます。ですから、その書面から代金の定めがあることがわからなければ、それは困りますが、しかし、具体的な額まで記載してなければならないかというと、それは必ずしもそうではないだろう。額はわからなくても、売買代金の定めがきちんとあるということが読み取れれば原因証書としては有効ではないか、あるいは原因情報として有効なものと言えるのではないかと思っております。

森岡委員 登記原因証明情報の必要な提供制度がうまく定着すれば、日本の登記制度を大きく前進させるものだと私も思います。

 登記原因証明情報を確かなものとするために、この作成に関与した資格者代理人、例えば司法書士さんの名前と押印ですね、これを本人確認報告と同様に行うべきだ。このように資格者代理人の名前を残しておくことは、また次の取引に非常にプラスになるんじゃないか。こういう人が資格者代理人でしたよということがわかる、それによって次の取引が楽になる、わかりやすくなる、私はそういうふうに思うわけでございますが、法務省はどう考えておられますか。

房村政府参考人 御指摘のように、登記原因証明情報、これを提出する場合に、当然、原因情報として要件を満たしているかどうかということを判断した上で提供する必要がございますので、資格者代理人が申請手続を行う場合には、資格者代理人がその判断をした上で提供するということになりますし、多くの場合、そういった登記原因証明情報自体は資格者代理人が作成をいたしまして、それに売り主あるいは買い主が署名をするという形態がとられるのではないか、こう思っております。

 現行法のもとにおきましては、司法書士法あるいは土地家屋調査士法の施行規則によりまして、そういった司法書士あるいは土地家屋調査士の方が業務としてそういう書類を作成した場合には、その書類に記名し、職印を押すべきである、こういう定めがございます。ですから、書面で提出する場合には、必ずそういった司法書士あるいは土地家屋調査士の方の氏名あるいは印が押されるということになりますが、オンライン申請の場合に、現在そういう規定はございませんので、このような施行規則と同様の内容を持つ、いわば電子署名を職印として行っていただくというようなことを省令で定めるということを現在考えておりますので、そういった措置がとられれば、御指摘のような機能を果たすのではないか、こう思っております。

森岡委員 次に、今回の改正のポイントの一つは、登記の正確性確保であると思います。そのために本人確認手続の方法が、一つには登記識別情報の制度が導入されたということで、これは大変重要なことだと考えております。

 長年定着してまいりました登記済み証、すなわち権利証、権利証と言われているものですね、この制度がなくなって登記識別情報に切りかわることに不安感を感じる向きもあると思います。私なども、実はちょっと不安だなという感じがしておるわけでございまして、法務省はなぜ登記済み証、すなわち権利証の制度を廃止しようとしておられるのか。やはり田舎のおじいちゃん、おばあちゃん、自分の持っている不動産がこれだけあるんだという安心感を登記済み証があることによって持っておられる方はたくさんいらっしゃるんじゃないかなというふうに思うものですから、あえてお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、現在の登記手続におきましては、登記申請がされて登記が完了いたしますと、その当事者の提出いたしました登記原因証書または申請書副本に登記官が登記が済んだという登記済みの判を押しまして、これを当事者に交付するわけでございます。その交付を受けた当事者が次に登記を行うときには、自分が間違いなくその登記に表示されている者であることを証明するためにその登記済み証を提出していただく、こういう扱いをしているわけでございます。

 そのようなことから、登記を行うためには登記済み証が必要である。そういう意味で、これをしっかり持っている間は自分の権利が保全できる、そういう意識をお持ちになって国民の方々はこれを権利証と呼びならわしているのではないかと思っております。そういった意味で、国民の間に定着しておりますし、また本人確認の有力な手段として機能しているわけでございます。

 ただ、これは何分紙でございますので、オンライン申請をするということになりますと、オンライン申請には乗せようがないわけでございます。そういうことから、今回、オンライン申請を広く採用する場合に、どうも今のままの登記済み証ではオンライン申請と両立しないということから、その対策を講ずる必要があるだろうということで検討したわけでございます。

 そこで、今の登記済み証には大きく二つの機能がございまして、一つは、登記が済んだということを当事者に知らせる、まさに登記済みの判こを押して渡すわけですね、そういう機能と、それから次の登記のときの本人確認のための有力な手段であるという、この二つの機能があるわけでございます。

 この本人確認の手段の方につきましては、オンラインの申請で使えるということになりますと、何らかの形でオンラインに乗せられる電子情報である必要があるわけでございます。そこで、登記済み証、紙そのものを電子化するというのは不可能でございますので、それにかわるものとして登記識別情報、いわば一種の暗証番号のようなものでございますが、登記をしたときに登記所の方で登記ごとに固有の番号を振りまして、この番号を当事者にお知らせする、当事者の方では、その登記について次の登記を申請するときには、その登記識別情報、いわば暗証番号ですが、これを一緒に出していただく、そうしますと、機械的にチェックをすれば、この番号を使っているからこの最初の登記をした人であることに間違いないという本人確認が可能になるわけでございます。

 ですから、そういった意味で、今多くの銀行取引その他クレジットカード等でもいわゆるパスワード等が使われておりますが、それをより複雑にしたものとしてこの登記識別情報を考えたわけでございます。

 登記識別情報ということで、情報でございますので、他人に知られたりしてしまいますと悪用されるおそれはございますが、他人に知られないようにしっかり保管をしていただければ、従来の登記済み証と同等あるいはそれ以上に本人確認の手段として有効であるということを私どもとしては考えておりますので、これを使って本人確認をして、確実な登記の実現をしたい、こう思っているわけです。

 ですから、従来、登記が済みますと、その登記済み証を権利証としてしっかり保管をされていたわけでございますので、今後は、登記識別情報の通知を受けた場合には、それをしっかり保管して、他人に貸したり、見せたりということのないように、まあ保管には気を使っていただく必要がございますが、そういうことさえやっていただければ、従来の登記済み証にかわる機能を十分果たせるのではないか、こう思っております。

 それと、登記が完了したことを公に知らせるという点については、これは、登記識別情報はなるべく人に見せない方がいいものですから、これでその部分を代替するのは困難ですので、別途、登記完了証というものを登記所の方から御本人に通知をすることによって、ほかの人々に、この登記は完了したんだということは御本人にもわかっていただけるし、周りにも見せてわかっていただけるような、そういう仕組みを考えております。

森岡委員 御説明はよくわかるわけでございますけれども、書面による申請の場合、従来どおり登記済み証を交付したっていいじゃないかなというふうに素朴に思うわけでございますけれども、これについてはいかがですか。

房村政府参考人 確かに、紙で申請をした場合にはやはり判こを押してもいいじゃないかというのは、そういう考えもあろうかと思いますし、検討の過程ではそういう意見も出たんですが、ただ、そういうことをやっておりますと、結局、次の申請のときにはそれが使えなくなってしまう、次にオンラインでやろうと思うと。

 先ほども申し上げましたように、時代の流れは非常に早くオンライン化に向かうのではないか。そう思いますと、今の時点で紙で持っていて、次にオンラインでやるときにまたそれが使えなくなってしまうということでは、かえって御不便をおかけすることにもなりかねないものですから、それで、逆に、登記識別情報にした場合には、紙の申請の場合にも登記識別情報を本人確認手段として用いることが可能でございますので、そういうことを考えますと、ここで思い切って切りかえるということの方が混乱が避けられるのではないか、こう思っております。

    〔下村委員長代理退席、塩崎委員長代理着席〕

森岡委員 今の御説明でよくわかりました。

 事前確認では有効であった登記識別情報が登記申請までの間に失効してしまった場合、取引当事者は不測の損害をこうむることになりますね。事前有効性確認がなされたときは一定の期間失効しないという取り扱いが必要なんじゃないかなと考えるわけでございますけれども、登記識別情報の有効性検証はどの時点で行うのか、また代理人はどのようにして有効性を検証するのか、そこの点を教えていただけませんか。

房村政府参考人 まず、登記識別情報の有効性確認の考え方について御説明をさせていただきたいと思います。

 これは、紙の登記済み証でございますと、それをよく見れば、特に司法書士あるいは土地家屋調査士のような専門資格を持っている方々が見れば、本物の登記済み証であるかどうかということは印影その他で比較的容易に確認ができるわけでございます。

 ところが、登記識別情報というのは、先ほども申し上げましたように、いわばパスワード、数字とアルファベットの組み合わせでございますので、それを見ても、これが適当にでっち上げられたものなのか、本物であるのかということはわからないわけです。それでは取引をするときの当事者として安心してできませんので、そのために、登記識別情報を、これは間違いなくこの登記の識別情報であるのかどうかということを登記所に確認ができる、こういう仕組みを用意しております。

 それが御指摘の登記識別情報の有効性確認ということになるわけですが、これは、専用ソフトを用意いたしまして、それをダウンロードしていただいて、そのソフトを使って登記識別情報を登記所の方に送っていただいて、登記所の方でそれをコンピューターでチェックして有効かどうかを判定する。これは他人に知られると困りますので、専用ソフトで暗号化した上で安全なようにしてやるということを考えております。

 確認する時点でございますが、これはそれぞれ、例えば、これから取引の話をして融資を受けて、その前にまずは間違いなくこの登記の持ち主かどうかを確認したいという時点、その最初の時点でやるということももちろんあるでしょうし、本当にこれからいざお金のやりとりをする、その時点で確認をするということもあろうかと思います。実際にやはり取引をする立場の人たちからしますと、最終的に最後のお金をやりとりするその時点で確認ができるものならそこでしたいということがあるのではないか。そういう意味で、私どもとしては、登記識別情報についてはいつでも確認をしていただけるようにしておくということだろうと思います。

 一方、例えば登記識別情報を他人に見られたというようなことで、失効させるという手続も今回用意しておりますので、御指摘のように、一たん有効性確認をしたんだけれども、実際に取引のときになったら失効してしまっていたということもあり得るわけでございます。ただ、これはやはり安全性を確保するためにそんな制度を用意してありますので、登記としては、やはりその時点で失効している登記識別情報が来た登記は受けられないということになろうかと思います。

 ですから、当事者の方々としては、やはり安全性を考えれば、ぎりぎりの段階でも再度チェックをするということは多分実際になさるのではないか。私どもとしては、そういう最後のぎりぎりのときに確認を求められたら、それはそれでちゃんと応ずるような体制を整えておくということになると思っております。

森岡委員 私も、この登記識別情報の秘密保持と申しますか、セキュリティーの問題は非常に心配をするわけでございまして、代理人が登記識別情報をどのようにして依頼人に渡すのか、また秘密保持をどのようにしようとしておられるのか。

 例えば、登記所の中には、先ほどおっしゃったように、登記官を初めいろいろな職員の方がいらっしゃる。いろいろな人たちの目に触れるおそれがある。また、資格者代理人の方も多くの人の目に触れるおそれがある。そういうときに、この登記識別情報がほかの人に見られたり、また盗まれたことによって勝手に登記されてしまう心配がある。この点をどんなふうにチェックしようとしておられるのか、教えていただきたいと思います。

房村政府参考人 まずは、登記所内の扱いといたしましては、当然のことながら、資格を持った者、非常に限定された者しか扱えないということにいたしますし、登記所内の端末に識別情報が出るということがないようにしております。画面に出ますと、それはだれかが見て盗み取るということが十分予想されますので、その点はシステム的にそういうことが生じないようにしてあります。

 それから次に、御本人に対する通知でございますが、まずは、紙で通知をする場合には、印刷をした上に目隠しシールを張りまして、この目隠しシールは一回はがしてしまうと簡単には接着できない、無理に接着しても痕跡が残って一たんあけたものであるということがわかるような、そういったものにしたいと思っております。したがいまして、これを仮に代理人の方が受け取った場合でも、ひそかにはがして盗み書きをしておいてそれを本人に渡すということをすれば、痕跡からわかってしまうような仕組みにするつもりでございますので、そういう点で秘密は保たれるのではないか。

 それから、オンラインで直接お知らせする場合、これは、先ほども申し上げましたが、暗号化をしてオンラインで通知をします。その暗号化した情報を元に戻す、かぎと申しておりますが、このかぎは御本人が持っているかぎでしか解読できない。したがって、オンライン申請を代理人の方がして、その代理人の方あてにオンラインで識別情報が送られた場合にも、それは暗号化された情報ですから代理人の方は何が何だかわからないわけでございます。

 ですから、それをそのまま御本人に渡していただいて、御本人が自分の持っている秘密かぎで解読をいたしまして、それを紙に書くなり、また電子情報のまま保存するなり、御本人が自分で管理をしていただければ、代理人の方のところは暗号のまま通り過ぎますので、秘密が漏れるおそれはない。

 そういうようなできる限りの秘密を保てる方策を講じていくつもりでございます。

森岡委員 限られた時間でございますので、次の質問に移らせていただきたいと思います。

 資格者代理人の問題でございますけれども、日本司法書士会連合会、そして日本土地家屋調査士会連合会の皆さん方もこの不動産登記法の改正に賛成して、ぜひ成立させてくださいという気持ちだということを伺っております。私は、今回の改正で、司法書士さんでありますとか土地家屋調査士の皆さん、また弁護士の皆さん、こういう資格者代理人の存在というものがますます大きくなるんじゃないかというふうに思っているわけでございます。オンライン登記申請制度研究会、そして法制審議会でも、司法書士さんと土地家屋調査士の両代表の皆さん方が加わって審議されたということを聞いております。

 ところが、この法案の中に、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」とややこしい表現でございますが、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」と非常に間接的な表現でこの資格者代理人のことをうたっているわけでございます。

 なぜもっとストレートに法案に書けないものかな、ほかの法律にはこういう団体名を直接書くことがなかったのかなというふうに、私など素人が思いますと、ちょっと不思議に思うわけでございまして、過去の改正の附帯決議にも双方の団体名がはっきりと出ているのに、なぜ法案の中に示せないのか、今次改正における資格者代理人の位置づけを法務省がどう考えておられるのかということをお伺いしたいと思います。これは政治家である中野政務官に伺いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

中野大臣政務官 森岡委員の御質問にお答えしたいと思います。

 今回の改正におきまして、法務省といたしましては、登記制度における資格者の役割の重要性を認識、評価いたしまして、資格者代理人による本人確認情報の提供を初めて制度化したものでございます。

 委員御指摘の「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」との表現というものは、司法書士、土地家屋調査士及び弁護士を総称する概念でありまして、既に民事執行法に用いられておりますことから、できるだけ同じ概念というものは同じ表現で用いようという法制的な観点からこのような表現を用いたものでございまして、ぜひ御了解願いたいと思うわけでございます。

 法務省といたしましては、今回の法案におきましては、登記制度の中におけるいわゆる司法書士とか土地家屋調査士、弁護士さんという資格者代理人の役割を位置づけるものとして重要な意義を有するものというふうに考えておるところでございますので、ぜひ御了解願いたいと思います。

森岡委員 印鑑証明にかわるものとして、住基ネットのIDカードに連動している個人の電子証明の有効性確認、これが取引の現場で代理人が確認できないという仕組みになっているように思います。公的個人認証法の改正をしなければ、事実上、オンライン申請ができないことになるんじゃないかなというふうに私は思うわけでございますけれども、法務省はどう対応しようとしておられるのか、お伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、このオンライン申請に必要な公的個人認証、これを利用した場合に、現行法のもとでは、いわゆる資格者から公的個人認証法の有効性確認を利用することができないこととなっているわけでございます。

 これは総務省の所管でございますが、総務省において、この資格者団体から、こういう資格者が登記申請についてのこういった有効性確認のために利用させてほしいという要望があるということを踏まえまして、その制度化に当たって、司法書士や土地家屋調査士だけでなく、他の専門職種とのバランスも考慮した法改正が必要となるという観点から検討がされているということを承知しておりますので、私どもとしても、できるだけその理解が得られるような協力をしてまいりたい、こう考えております。

森岡委員 登記識別情報の提供がない場合の本人確認について、私も法案を読ませていただいたんですけれども、ちょっとこれだけではなかなか理解ができないんです。政省令、通達などで明らかになるのだろうと思うんですけれども、民事局長さん、どんなふうに考えておられるのか、ちょっとあらかた御説明いただけますか。

房村政府参考人 登記識別情報と、それからそれが提供がない場合の扱いについて簡単に御説明いたしますと、今回の改正では、基本的に、まず個人の電子署名あるいは電子証明、それプラス登記識別情報、これがある場合にはそれで登記ができるということとしております。

 ところが、たまたまその登記識別情報を失念してしまったというようなことでこれが提出できない、こういう場合がございます。こういう場合は、原則として事前通知をする。その申請をされた登記義務者の方に登記所の方から郵便で通知をいたしまして、それでその確認をした上で登記を行う、こういう手続をしております。

 ただ、事前通知の場合はどうしても多少時間がかかりますので、この事前通知を省略できる場合を定めておりまして、これは、登記識別情報がないけれども、資格者代理人が関与して、その資格者代理人が本人確認をしている、しかも、どういう形で本人確認をしたかを登記所の方へきちんと届けてもらう。それを見て、こういう形で確認をしているのであれば本人であることに間違いがない、こう思えれば、改めて事前通知をすることなく登記ができる、こういう仕組みにしております。

 その場合に、資格者代理人が本人確認情報として登記官に知らせる内容、これが問題になるわけでございます。これは、具体的には省令等で定めるつもりでございますが、基本的には、まずは本人との面識があるのかどうか。面識がある場合には、いつ、どういう経緯で面識を得たのか。あるいは、面識がなくて確認したのであれば、どういう手段で本人であることを確認したか。例えば、写真のある免許証あるいはパスポート、そういったものに基づいて確認した。そういったような事情を知らせていただいて、登記官の方でそれを見て、これなら間違いないと思えば、事前通知をしないで登記手続ができる、こういう仕組みにしているわけでございます。

森岡委員 無資格者による不法代理申請がある場合があるんだということを聞いているわけでございますけれども、資格者代理人の資格を確認する方法は、オンライン申請、窓口申請、それぞれどうやってやるのか、それを御説明いただきたいと思います。

    〔塩崎委員長代理退席、委員長着席〕

房村政府参考人 御指摘のように、資格者代理人が間違いなくその資格を持っている人であるかどうかということを登記官が確認をする必要というのがございます。

 その方法としては、まず、オンライン申請の場合でございますが、これについては、資格者団体、例えば、司法書士の方であれば日本司法書士会連合会、土地家屋調査士の方であれば日本土地家屋調査士会連合会の方で電子証明書を各資格者について発行するということを伺っておりますので、そういうようなものができれば、この電子証明書を添付して資格者の方が申請をしていただければ、資格者であることは直ちに確認をできるということになろうかと思います。

 また、窓口に直接おいでになる場合、これについては、資格者団体の発行している身分証明書、会員証というようなもの、これを提示していただくということも考えられますし、また、資格者団体の方で印鑑証明書を発行するというようなことも考えられているということでございますので、もしそういう制度ができれば、それを添付して書面を出していただければ確認ができる。

 このような形で、それぞれ資格者が代理人になっているかどうかを確認できることとなると思っております。

森岡委員 次に、オンライン申請では出頭主義を廃止する、こうなっておりますね。

 そうしますと、表示登記申請において、これまでは、いろいろな添付情報、地図でありますとかそれから建築確認の証明書でありますとか、いろいろな書類を、原本をわざわざ登記所まで持参して、そして代理人の方が手続をしておられる、そういうふうに伺っておるわけでございます。

 この出頭主義をやめるということになりまして、土地家屋調査士の皆さん方が代理人となって申請する場合は、これからは原本がなくとも、資格者代理人という方の資格がはっきりしておれば、この資格者代理人が要約をした情報をそのまま認めるという方策をとるべきじゃないかなというふうに思いますし、私は、土地家屋調査士さんが持っておられる機能というものを十分活用すべきだ、それが国民の負担をより軽くするということにもつながるし、よりよい制度、そして土地家屋調査士さんが誇りを持って仕事ができるんじゃないかな、そう思うわけでございますが、法務省の御見解を伺いたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、表示登記におきまして土地家屋調査士の方々が果たしている役割というのは非常に大きなものがございます。その専門的な知識を活用いたしまして、表示登記が円滑に運営されているというのは、まさに土地家屋調査士の方々の協力があってのことではないかと私どもとしても考えているところでございます。

 ただ、そういうことから今回、オンライン申請をする場合に、添付情報について、これはオンラインでは写しで済ませるということも可能にしておりますが、しかし、表示登記というのはやはり何といっても登記の出発点になるものでございますので、登記官の方も、職権で調査をして確認をしなきゃならぬという義務も負っているわけでございます。特に、表示登記の最初の所有権者がだれであるかという、当該不動産の所有者として表題部に登記される者が所有権者であるかどうかということを確認するということは非常に重要な意義がございますので、やはりそれを登記官として自信を持って判断するためには、必要な原本をチェックをしていただく必要があるだろうと思っています。

 これは土地家屋調査士の方々ももちろんそういうものをきちんとチェックをして、自信を持って申請をされているとは思いますが、やはり昨今のように偽造技術が非常に進歩しておりますと、できるだけ多くの目でチェックをして、間違いのない登記を実現するということが結局は国民のためになるのではないか、こう思っておりますので、そういう意味で私どもとしてもできるだけの配慮はするつもりではございますが、やはり基本的に、登記官としては原本で確認をする、そういう職責は果たしていく必要があるだろう、こう思っております。

森岡委員 地図のことについてちょっと伺いたいと思うわけでございます。

 私は、十七条地図の作成現場に立ち会いまして、視察をさせていただいたことがございます。土地家屋調査士さんが、大変たくさんの方が出ていただいて、そして地図混乱地域、もう一人一人権利者に面接をしながら御苦労をなさっている、これは大変な作業だなというふうに思わせていただいたわけでございましたが、私は、本当にこれはとうとい仕事をやってくださっているなというふうにも思いますし、日本の将来を考えますと、登記所の備えつけの地図が、もう早く、もっと早くスピードアップして整備されなきゃこれは大変なことになるなと思っておりますし、また、早くしてもらわなければ困るというふうにも思っておるわけでございます。

 今後の見通しを聞かせていただけませんか。

房村政府参考人 御指摘の登記所備えつけ地図、これは土地の特定をするために極めて重要なものでございます。登記簿に幾ら権利関係を精密に書きましても、具体的にその土地建物がどこにあるかがわからなければ意味がありませんので、そういう意味で、この登記所備えつけ地図を整備するということは非常に重要なことだと思っておりますが、ただ残念ながら、現在、登記所に備えつけてある地図のうち、そういういわゆる十七条地図と言われる精度の高いものはまだ五四%にとどまっております。

 特に都市部においては、その精度の高い地図の割合は非常に低いという指摘がされています。これについて、今御指摘のような十七条地図整備作業というものを、登記所も土地家屋調査士の方々の協力を得て進めておりますが、なかなか進んでいないというのが実情でございます。

 そこで、実は昨年の六月に、内閣の都市再生本部におきまして、民活と各省連携による地籍整備の推進、こういう方針が示されまして、この登記所備えつけ地図について、主として全国の都市部における地籍整備を今後十年間でおおむねなし遂げよう、こういう方針が示されたところでございます。

 国交省と法務省、その他関連する機関、団体が協力をいたしまして、この方針のもとに強力に今後地図の整備を進めていきたい、こう思っているところでございます。

森岡委員 オンライン申請をやるからには、法案の中にもちょっと触れておりますように、地図の電子化、これを早く進めるべきだと思うんですね。登記簿情報と地図双方が電子化されているという状態が非常に望ましいと思うわけでございますが、このタイムスケジュールをどの程度と考えておられるのか、どの程度で進めようとしておられるのか、法務省のお考えを聞かせていただけませんか。

房村政府参考人 御指摘のように、現在のいわゆる登記簿の方のコンピューター化、これは多少時間はかかりましたが順調に進んでおりまして、あと数年でほぼ完成するのではないか、こう思っておりますが、次の課題は地図の電子化ということだろうと思っています。

 現行法のもとでは紙が地図でありまして、あくまで紙の地図を備えつけておく必要がありますが、一応法務省としては、現行法のもとにおきましても、紙の地図を電子化したデータを蓄積しております。

 今回の改正法が成立をいたしますと、地図そのものをもう電子化した地図として持てるということになりますので、地図情報システムと登記情報システムを連動させて、地図といわゆる権利の登記とを結びつけていく、あるいは表示の登記も含めてですが、そういうことも可能になります。

 今後は、そういった地図の電子化ということを強力に推し進めたいと思っておりますが、これは、先ほども申し上げました地籍整備とも関連をいたしまして、今、年限的にいつまでにと申し上げる段階ではございませんが、登記所のコンピューター化あるいはオンライン化、その次の課題がまさに地図の電子化、そしてそれをオンラインで国民に提供できるようになる、こういうことだと思って、今後精力的に取り組みたい、こう思っております。

森岡委員 私たちも応援をさせていただきますが、ぜひスピードアップしていただけるようにお願いしたいと思います。

 次に、登記官による裁量審査について伺いたいと思います。

 第二十四条でございますけれども、登記官による本人確認が書かれておりまして、この中に、「疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、」調査しなければいかぬ、こう書いてあります。「疑うに足りる相当な理由」というのはどういうことを想定しておられるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

房村政府参考人 基本的には、登記の審査に当たりましては、提出された資料に基づいて判断をしていくわけですが、例えば警察とかあるいは当事者から、自分の知らない間にどうも勝手に登記がされそうだというような通報があることがございます。具体的にそういった通報がある場合には、ここで言っている「疑うに足りる相当な理由がある」ということになろうかと思います。

 あるいは、処理をしていて、例えば偽造の印鑑証明をつけた申請があった、ところが、それと同じ人が別に別件で申請をしている、そういうことがたまたまその登記官がわかれば、これもやはり疑うに足りる相当な場合と言えるのではないか、こう思っておりますので、そういった、具体的に、相当この登記申請はおかしい、本人ではないのではないか、こういうことが言えるような場合ということになろうかと思います。

森岡委員 例えば、売り主が、売ってしまった後すぐに、もっと高い買い手があらわれたといたしますね。そして、売り主の方から登記官に直接電話が入って、その登記に待ったをかけるようなケースがあるとします。それに登記官が動かされて調査に入るというようなことになりますと、公正な取引が阻害されてしまうように私は心配するわけでございまして、こういうことを防止するために、資格者代理人による申請の場合は、登記官が直接本人確認に乗り出すというようなことは、やはりこういうケースはよくないんじゃないかなというふうに思うわけでございまして、資格者代理人による申請の場合は原則としてこの第二十四条を発動すべきではないんじゃないかというふうに私は考えるんですけれども、房村局長のお考えを聞かせていただきたいと思います。

房村政府参考人 資格者代理人の方は、もちろん相当一生懸命、本人確認をされていると思いますし、実際に、資格者代理人のところで発覚をして、登記申請に及ばないで防いだというような事案も伺うことがございます。そういう意味で、やはり資格者代理人の方が本人確認をしているということは、登記官としても、その事案を判断するときの要素として当然考慮することになろうかと思います。

 ただ、例えば今あった、心変わりをして申し出があったという、それが心変わりかどうかはやはり実際に調べてみないとわからないものですから、やはり登記官とすれば、そういう疑わしい事情があればまずは聞いてみて、その聞く相手は、もちろん資格者代理人も含めてだれにでも聞けるわけですから、そういうことをして、できるだけ迅速にかつ正しい登記をするということだろうと思います。

 やはり資格者代理人の方も登記官の方も、国民のために正しい登記をするということに関しては同じでございますので、そこはお互いに協力し合って、できるだけ多くの目で見て、そして違法な登記を防ぐ、こういうことで日本の登記の信頼性をお互いに守っていきたい、こう考えております。

森岡委員 今おっしゃるとおりだと思うんです。だけれども、登記官といえども人間でございますので、非常に公正な手続を踏んでいただければありがたいなと思うわけでございますけれども、登記官の個人的な、恣意的な運用、こういうものを防ぐような手だてというものは何か考えておられるのかどうか、その点をお聞かせいただけませんか。

房村政府参考人 もちろん、この審査権限というのは、正確な登記を実現するために与えられた権限でございますので、登記官がこれを濫用するようなことは厳に慎まなければいけない、こう思っております。

 ただ、どんな場合にその疑うに足りる相当な理由があるかということを個別的に列挙するのはなかなか難しいかとは思いますが、しかし、今後こういった事例を集積していくこととなろうかと思いますので、そういったものの事例集をつくるとか、個別の案件について疑問があれば、その問い合わせに応じて適切な指導をしていくとか、私どもとしても、登記官のこの権限の行使が適正に行われるような努力をし、かつ、そういう仕組みをつくっていきたい、こう思っております。

森岡委員 時間が参りましたので、最後の質問にさせていただきたいなと思うんですが、オンライン申請という新しい制度を取り入れられるにつきまして、まだ国民の皆さん方はほとんど御存じないわけですね。これからどのように周知徹底そして広報活動を行う予定なのか。その点、法務省がどう考えておられるのかお聞かせいただいて、私の質問を終わらせていただきたいと思います。

房村政府参考人 まずは、今回の新しい制度の内容を説明したパンフレットを、法務局の窓口はもちろんのことですが、資格者の方々の協力を得て、司法書士会あるいは土地家屋調査士会等を通じて広く配布をしたい。また、法務省のホームページに当然掲載をして、国民の方に見ていただく。あるいは、登記所の窓口相談等で丁寧な説明をする。それから、説明会等を、要望のあるところには職員を派遣して適切に行っていく。こういうあらゆる努力をして、国民の方々に十分理解をしていただきたい、こう思っております。

森岡委員 時間が参りましたので、これで終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 上田勇君。

上田委員 公明党の上田勇でございます。

 きょう、不動産登記法案につきまして御質問させていただきますが、この法案は、政府として、e―Japan戦略で、あらゆる行政手続をインターネット経由で可能にしよう、そういう電子政府の実現を目標としている中で、この登記申請手続のオンライン化また情報の電子化を進めるために必要な手続を定めたものでございますので、これは国民の権利の保護また利便の向上、そして経済活動の活性化、そういった観点から必要なものであり、かつ重要な内容のものだというふうに認識をいたしております。

 その前提で何点か、このオンライン化に伴う懸念あるいは地図の電子化に係るような内容につきまして、御質問させていただきたいというふうに考えております。

 まず、この法案では、登記情報の電子化に伴いまして、我々、多くが長年なれてきました登記済み証、いわゆる不動産の権利証といったものがなくなるわけでございます。これは、権利を保護し、事実を確認するという意味からはいろいろな方策がとられているんですが、やはりどうもこの辺は不安感、違和感が依然として残っているところじゃないかというふうに思います。

 確かに、申請手続や情報の管理の点では、かなり入念にさまざまな措置が講じられていることは認められるんですけれども、ただ一方、今の登記済み権利証には、不動産取引の際に代金と引きかえで買い主に渡すというような商慣行が確立をされております。これが登記識別情報になりますと、そうした商慣行が成り立たなくなるわけなんですけれども、ここはやはり国民にとってはなかなかわかりづらいのではないのかなという感じがいたします。

 今後、どのような形で、そういう不動産取引、これまで事実上成立してきたようなそういう慣行がどういうふうに変わっていくというふうにお考えになっているのか、まずお伺いしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、現在、実際の不動産取引におきましては、一般に司法書士等が立ち会いまして、売り主から登記申請に必要な委任状、印鑑証明書、そして御指摘の登記済み証、こういう書類を渡しまして、これと引きかえに買い主が代金を支払う、こういう形で決済が行われていると言われております。この登記済み証が今回なくなりますので、そういった取引形態がどうなるかということでございます。

 これは登記済み証そのものと同じではございませんので、どういう影響が出るかということについては、私どもとしても完全に予測が可能というわけではございませんが、基本的には登記識別情報が登記済み証にかわる機能を営むということでありますので、必要な書類等の中にこの登記識別情報、これが入ってくることになろうかと思います。

 ただ、登記識別情報を渡す場合には、登記済み証と違いまして、そこに記載されている情報そのものをむき出しで外へ持ち歩くと悪用されてしまいますので、やはり何らかの形でそれが見られないような、封緘をした上で渡すとか、確認をした上で封に入れて密封をして保存していただく、それで利用するときにそのまま登記所に出してもらうような工夫というようなことは、これから必要になろうかと思います。

 ただ、先ほども申し上げましたが、登記識別情報が本当に有効なものかどうかということを確認する必要がどうしても生じますので、そういった取引の前提として登記所の方にその有効性確認をとっていただいて、有効であるということもつけて多分お渡しになるということになるのではないか、こう思っておりまして、そういう形であると、現行の代金決済の仕方とそう大きくは変わってこないのではないか。

 また、登記識別情報が失効したり、あるいは最初から発行を求めないというような形で、ない場合には、これは資格者が本人確認をすれば登記が可能になりますので、登記識別情報なしでも、必要な書類とそれから資格者代理人の確認情報が用意できれば、その段階でいつでも登記できる状態にはなりますので、決済が可能になるのではないか。

 さらに、オンライン申請そのものを利用するというつもりであれば、まさにその取引の場でオンライン申請をして、その場で登記の内容を確認し、識別情報を確認し、登記申請をしてそこで決済をするということも可能になるのではないか。そこまでいけば、本当にいわば同時履行が非常に強く確保されるということになろうかと思っています。

上田委員 ありがとうございます。

 今いろいろと御説明をいただいたんですけれども、これは今までのやり方が一気に変わるということでありますので、やはり最初がどうしても重要なんじゃないかというふうに思います。

 これはやはり、不動産取引が円滑に進むためには、どうしても関係者のそうした不安や混乱を避けることが重要でありますので、今、司法書士などの専門家の皆さんもいろいろな方策を御検討されているようでございます。そうした専門職などを活用したバックアップが、やはり特に導入段階では必要なのではないかというふうに考えておりますので、そうしたこともぜひよろしくお願いしたいというふうに思います。

 今、ちょっと局長の答弁にもあったんですが、登記識別情報が今度使われるということになります。今までの登記済み権利証には原本というようなものがあって、それがただ一つ存在していた。それを持ってくることが一つの証明ということになったんですけれども、識別情報にはそういうものはないわけですね。ですから、情報さえ正しければ、それがオリジナルなのか、あるいはどこかから転記してきたものなのかといったことの区別が、どういう形で知り得たものかというのは問われないんです。

 そうなると、やはり、一番重要な所有権の移転の登記のときに、本当にそれでいいのかなとどうしても最後気にかかるところでございますが、そういう所有権の移転など特に重要なものについては、登記識別情報の提供があった場合でも、こういう本人確認報告のような、もう一歩入念な措置が必要なのではないのかなというふうに考えるんですが、その辺はどのようにお考えでしょうか。

房村政府参考人 確かに、御指摘のように、登記識別情報の場合には原本というものはございませんので、ひそかにコピーをされてしまうと、これはもう本物と全く変わらない、そういう意味で、登記済み証の場合に比べて何となく不安の念を国民の方々が持たれるということも、ある意味では理解できないわけではないんです。

 ただしかし、逆に言いますと、従来の登記済み証、これについては、原本を見なくても偽造することが可能です。登記事項を見て、それで登記官印を偽造すれば、原本を見ることなく登記済み証の偽造ということは可能なんですね。現に、法務局の窓口で年に何件かは登記官がそれを発見して警察等に告発をしております。

 そういう意味では、登記識別情報というのは、確かにコピーとかそういう意味の怖さはございますが、逆に、人に知らせない限りはおよそ偽造は不可能です。やはり十二けたのものを考えております。しかも、これがアルファベットと数字の組み合わせですから、要するに、アルファベット二十六文字、数字が〇から九までで十個、三十六の十二乗というそれだけの可能性がありますので、これを偽造するということはおよそ不可能でございます。

 したがいまして、保管の仕方に気をつけていただく必要はありますが、きちんと保管をされている限りは登記済み証よりも安全性は高い、こう思っています。

 また、それと、決して登記識別情報だけで登記申請が可能になるわけではなくて、従来の紙ベースで言えば、もちろん印鑑と印鑑証明書が必要でございますし、電子的なオンラインでやる場合には、電子署名と電子証明書というものが必要になります。そういったものを総合して本人確認を行っていくということでございますが、一応そこまでそろえば、所有権の登記、確かにある意味では非常に強力なものではございますが、これで足りるのではないか、こう思っているわけでございます。

 その登記識別情報がない場合に、資格者の本人確認によってこれを代替するということを考えているわけでございまして、登記をしたときに来た登記識別情報そのものが提出されているにもかかわらず、さらにその本人確認をするということまで法律で求める必要はないのではないかということで、今回、こういった制度にしております。

 余り厳重な手続を設けますと、やはり利用者の負担になってくる面もございますので、その点を考えて、制度としてそういう本人確認をさらに要求するということはしておりませんが、ただ、現実には、資格者代理人の方々が申請事件を扱う場合には、当然、職責としてその本人確認をきちんとやっていただいている、こういう信頼は持っております。

    〔委員長退席、森岡委員長代理着席〕

上田委員 所有権に関する登記というのは非常に重要なものでありますので、そこはやはりどうしても間違いがあってはいけないわけであります。そういう意味では、今いろいろな措置について御説明をいただいたんですけれども、これは運用を見ながら、本当に実際どういう措置が必要なのか、そういったことも引き続きやはり検討していかなければいけないということではないかというふうに思います。

 次に、ちょっと地図の問題について何点かお伺いしたいんです。

 今回、この法案十四条に地図が規定されておりますけれども、不動産登記制度におきまして、この地図というのはどのように位置づけられているものなのか。また、先ほど答弁にもありましたが、残念ながら、現在、地図の整備というものは余り進んでいるというところではないというふうに承知をしておりますが、現状をどういうふうにお考えになっているのか、また、それを改善していくために今どういうようにお考えになっているのか、基本的なところをお伺いしたいというふうに思います。

実川副大臣 不動産登記制度は、不動産に関します権利を公示する制度でありますから、権利の目的である不動産の客観的な状態を正確に公示する必要がございます。

 登記簿には、不動産の現況を示すものとして、土地につきましては、その所在、地目、地積等が記載されますけれども、これだけでは土地を現地において特定することができないことから、登記所には、各土地の区画及び地番を明確に表示する地図を備えつけることになっております。

 したがいまして、地図は、登記簿の記録と相まって、登記された土地を正確に公示するためのものとして不動産登記制度の不可欠の構成要素と位置づけられております。

 そこで、これまでも地図の整備に鋭意努めてきておりますけれども、御指摘のとおり、精度の高い地図は登記所備えつけ図面の約五四%にとどまっておりまして、いまだ地図の整備が十分進んでいるとは言えない状況にございます。特に都市部につきましては、地図の整備がおくれておりまして、登記所に備えつけているものの大部分は、一般に精度が低い旧土地台帳附属地図、いわゆる公図となっております。

 また、今後、地図の整備の推進でございますけれども、昨年の平成十五年六月に内閣の都市再生本部におきまして、民活と各省連携によります地籍整備の推進の方針が示されまして、法務省と国土交通省とが連携をいたしまして、全国の都市部におきます登記所備えつけ地図の整備事業を強力に推進することになっております。法務省といたしましても、地図の整備に積極的に取り組むこととしております。

上田委員 ぜひ、これは積極的に、さらに積極的に力を入れて進めていただきたいというふうに思います。

 今回の改正によりまして、地図に関する制度は地図を電子化することができる制度になるわけでございます。こうなると、今は、権利の登記、表示の登記あるいは地図情報、それぞれがばらばらになっているわけでありまして、それを関連づけるといってもなかなか容易なことではないんですけれども、地図を電子化するとそういったことも関連づけられるようになってくるのではないかというふうに思いますが、まず地図を電子化するメリットというのはどういうところにあるのか、お伺いいたします。

房村政府参考人 地図を電子化する場合のメリットでございますが、まず何よりも、紙の地図でございますと紙が傷んでしまう、登記所の場合、地図を非常にたくさん使うものですから、どんどん傷んでくる。電子的にやりますと、そういうおそれは全くございません。これがある意味では一番大きなメリットかと思います。

 それから次に、土地につきまして、分筆とかあるいは合筆というような変化を生じさせる場合があるわけですが、これを電子的に処理しておりますと、分筆で新たに境界線を引く場合に非常に正確に引ける。図面ですとどうしても誤差が出てまいりますが、そういった誤差の範囲が非常に小さくなります。そういう意味で、精度の高い地図、これが維持できるということになります。

 それから次に、電子化をいたしますと、御指摘のように、登記の電子化とあわせて連動をさせてその情報をさまざまな形で使うことが可能になってくる。国民に対して、登記情報、地図情報を開示する方法にいたしましても、オンラインでの公開が可能になってくる、そういうことがございます。

 そのほか、この電子化によってさまざまな使い方が今後考えられようかと思っておりますので、そういう意味で、今回の法改正をきっかけに地図についての電子化も強力に推し進めたい、こう思っているところでございます。

上田委員 現在も登記所に備えられている地図で電子的に管理されているというものもございます。今回の改正によって法律上の制度として地図の電子化を位置づけるということと、今までやってきたように事実上地図を電子的に管理している、この違いというのはどういうところがあるんでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、現行法のもとにおきましても、紙の地図が備えつけ地図とはいうものの、それを電子化いたしましてデータの形で管理をするということも進めております。

 ただ、この場合は、あくまで紙の地図が法律の要求する地図でございますので、紙に出力したものを必ず地図として備えつけておかないといけない、こういうことになりますし、建前としては、写しの交付もそれに基づく写しを交付するということにならざるを得ないわけでございますが、これを電子情報の形で地図を管理できるということになりますと、もう電子情報だけで紙の地図は不要になりますので、必要に応じて端末に出力をするというような形で地図を確認できる、あくまでデータの形で保存、管理をすることが可能になる、証明書につきましても電子的なデータから直接証明書を作成することも可能になる、こういう違いが出てこようかと思っております。

上田委員 今回の不動産登記法の改正によりまして、今後は新たな本人確認制度になるわけでありますけれども、そういう新たな制度のもとで、専門職であります土地家屋調査士の役割というのは非常に重要なんではないかというふうに思っております。今度の法改正によりまして、この土地家屋調査士の皆さん、どのような役割を果たすことが期待されているのか、見解を伺いたいと思います。

房村政府参考人 表示登記につきましては、基本的に土地家屋調査士の方々がそのほとんどの事件の代理をされておられるということになります。そういう事務処理に当たりまして、土地家屋調査士の方々は、土地家屋調査士法の求める職責を果たすために、本人確認を適切にした上で申請の登記をしていただいている、こういうぐあいに理解しております。

 そういうことから、今回の法改正のもとで、登記識別情報の提供ができない場合の本人確認について、司法書士あるいは弁護士と並びまして、土地家屋調査士の方々についても本人確認制度を適用いたしまして、土地家屋調査士の方々が行った本人確認情報を適切に提供していただいた場合には、事前通知をすることなく登記手続ができるということを定めておりますので、このことによりまして、土地家屋調査士の方々が適切な本人確認情報を提出することによりまして、登記事務の効率化及び不正な登記の防止が図られる、こういうことになろうかと思います。

上田委員 ありがとうございます。

 先ほど地図の整備の促進についてお伺いをしたんですけれども、この地図の整備が促進されていくためには、やはりどうしても重要なところというのは境界線の確定の部分でありまして、従来もここの、境界線を確定するといったところに大変な時間と労力がかかってきたわけでございます。

 今後、先ほど都市再生本部で今後十年間で地図を整備するということでありましたけれども、実際に境界線を確定していく、特に都市部、密集地ではなかなか容易なことではないんじゃないかというふうに思うんですけれども、そういう土地境界紛争を迅速また合理的に解決する方策、それについてどのように考えているのか、また、そうした紛争解決に関して専門職である土地家屋調査士の活用などにつきましてどのようにお考えになっているのか、お伺いをいたします。

房村政府参考人 境界紛争の関係でございますが、実は、現行法のもとでは、境界紛争が起きたときにその境界を確定する直接的な法の規定はございません。これは、そういうことから、境界について紛争が起きますと、裁判所に境界確定訴訟を起こして、そこで確定をするというのが実際上、実務の慣行になっているわけでございます。

 ところが、これは訴訟でございまして、訴訟特有の問題があって多少時間がかかるということが指摘をされるわけですが、それ以上に、訴訟当事者が必ずしも境界について十分な資料を持っていない、あるいは訴訟であるということから境界についての専門的知識を有する者が審理に関与する制度的な仕組みがとられていない、あるいは登記手続との連携が図られていない、またはそういう当事者が訴訟を起こさない限り職権で確定する手段がない、こういうような問題点が指摘されているところでございます。

 そういうことから、法務省では、法律や実務の専門家から成ります境界確定制度に関する研究会というものを開催いたしまして、境界について専門的知識を有する者を活用し、簡易迅速に土地の境界を確定する制度を創設することについて現在検討を進めているところでございます。これができますと、そういった境界に関する争いをそこでまず迅速に解決いたしまして、あくまで不満がある場合に初めて裁判所に行くというようなことが可能になるのではないか、こう思っています。

 その新しい制度の枠組みでございますが、御指摘の土地家屋調査士の方々については、まさに境界についての専門的知識を有する方々でありますので、こういった方々をどういう形で活用するかということが今回の検討内容の非常に大きな柱にもなっておりますので、今後とも関係団体の意見も踏まえて検討を進めていきたい、こう考えているところでございます。

上田委員 今、境界確定について、紛争解決のための新しい方策を考えているということでございましたけれども、今、土地家屋調査士会では、土地境界センターにおいて、事実上、そういう専門的な知識を生かしながら、当事者間の合意を前提として、境界紛争の解決、境界の確定などのそういう推進をしているわけでありますけれども、今御検討いただいている新しいそういう境界確定制度と今こういう土地家屋調査士会などが自主的に行っているそういうような制度、その関係というのはどういうふうにお考えなんでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、現在、愛知、大阪、東京、福岡、この順番で各土地家屋調査士会が境界紛争解決センターを設立いたしまして、弁護士会の協力も得て、民間の裁判外紛争解決機関として、当事者から境界問題に関する相談を受け、また当事者の合意による紛争の解決を促進する、こういう機能を果たしていると承知しております。これは非常に貴重な試みだと思っております。

 先ほど御説明いたしました法務省で現在検討しております境界紛争の解決機関でございますが、これはいわば行政機関が公権力の作用として境界を確定するということを考えておりまして、必ずしも当事者の合意が調わなくても公的に境界を確定していくということを目指しているわけでございます。

 そういう意味で、土地家屋調査士会で設立をされております当事者の合意に基づいて解決をする境界紛争解決センターと私どものものと果たすべき役割も少しずれがございますので、ある意味で、お互いにそれぞれの分野の活動を生かして、協力しながら、トータルとして国民の間の境界に関する紛争をより適切な形で処理をしていくということが可能になるのではないか、こう思っておりまして、今後、紛争解決機関を法務省で設置する場合にも、当然こういった土地家屋調査士会が設けておりますセンターとの協力関係というものは大切にしていきたい、こう思っております。

上田委員 ありがとうございます。

 何点かこの地図の作成を促進するための方策などにつきましてお伺いいたしましたけれども、先ほど御答弁にもあったように、地図が整備されているのが約半分ということであります。これを、やはり現況が正しく掌握できている、把握できているということは非常に重要な、基礎的な資料でありますので、いろいろな今方策についても御検討いただいているということでありますが、特に境界確定に一番時間がかかるわけでありますので、そうしたさまざまな方策をぜひ引き続き積極的に進めていただきたいというふうに思います。

 それで、最後になりますけれども、この法案では、登記事務の実務上のルールについては、その多くはやはり政省令、あるいはまた、実際にはその下の通達等にゆだねられるのかもしれません、そういうような構成になっております。法案の中でもかなり事細かく規定されている部分もありますが、実際にそれを、事務手続の話でありますので、そうしたルールについてはさらに詳細な点を決めていかなければならないんだというふうに思います。

 そうした実務上のルールを制定するに当たっては、やはり実務に最も精通をしている土地家屋調査士あるいは司法書士といった専門職の方々と十分、意見をよく聞いていただく、そして、実際にそうした職務を遂行されている方々のやりやすいというんでしょうか、経験も十分生かした形でそういうルールの制定を考えていただきたいというふうに思いますけれども、御見解をお伺いしたいというふうに思います。

房村政府参考人 御指摘のように、この法案、技術的、細目的な事柄については、相当、政令あるいは省令にゆだねております。今後、法律が成立いたしました場合には急いでその政省令の制定をいたしたいと思っておりますが、これは、何よりも円滑な登記事務処理が可能になるようにということを考えておりますので、当然、現場に精通した方々の意見を十分伺って、その適切な処理が可能になるような仕組みを制定したい、こう思っておりますので、御指摘のとおり、意見を十分伺っていきたい、こう思っております。

上田委員 以上で終わります。

森岡委員長代理 御苦労さまでした。

 次に、漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。最後のバッターになります。

 不動産登記法は、国民生活や経済活動の基盤である不動産について、その権利関係などを公示することによりまして、国民の権利の保全または取引の安全、これを円滑に行うことを図るための制度でありまして、国民にとっては大変重要な制度であるというふうに思っております。今回、この改正法が今国会に提出されて、今、本日より審議が始まっているわけでございますけれども、副大臣にお尋ねしたいと思います。

 今回の改正法案の理念はどんなものなのか、それから二番目に、不動産登記制度にとって最も大切なものは何と考えていらっしゃるか、この二点について副大臣にお尋ねしたいと思います。

実川副大臣 今回の改正案の理念は何か、それから最も大切なものは何か、この二点お尋ねでございますけれども、不動産登記は、国民の重要な財産でありまた経済活動の基盤となる不動産についての権利を公示することによりまして、不動産取引の安全と円滑に資することを目的といたしております。

 今回の改正法案の理念でありますけれども、情報処理技術の進歩その他の社会の変化に適合するためのオンライン申請の導入等、不動産登記制度を全面的に見直すことによりまして、登記の正確性を確保しつつ、また国民の利便性の一層の向上を図るところにございます。

 また、不動産登記制度にとって最も大切なものは、不動産に関します権利を正確かつ迅速に公示するとともに、国民にとりまして最も利用しやすい制度にしていくことを考えております。

漆原委員 現在の登記申請は本人でもできるということになっているわけですね。ただ、実際には、専門家である司法書士さんとかあるいは土地家屋調査士さんの皆さんが代理申請をしている場合が多いと思います。

 そこで政務官にお尋ねしたいんですが、司法書士さんや土地家屋調査士等が代理申請している割合は全体のうちどのくらいの件数になるのか、割合になるのか、教えていただきたいと思います。

    〔森岡委員長代理退席、委員長着席〕

中野大臣政務官 漆原委員の御質問にお答えをしたいと思います。

 今御質問のことでございますが、法務省において平成十五年の五月に行ったサンプル調査の結果によりますと、現状におきまして、約千七百万件の登記申請のうち九五・八%程度、推計で約千六百万件程度が司法書士、土地家屋調査士及び弁護士である代理人によってされておると思われております。

 また、もう少し申し上げますと、類型別の割合の具体的な例といたしまして、例えば、所有権移転等については九四・六%、それから抵当権の設定については九九・三%、登記の抹消については九三・九%、それから表示の登記については九九・二%がこのいわゆる代理人によるところの登記申請として行われているというのが現状でございます。

漆原委員 大変大きな実績だと私は思っております。したがって、登記申請における本人確認の場面では、実際は司法書士さんや土地家屋調査士等の資格者代理人が重要な役割を今日まで果たしてこられたというふうに私は考えております。

 そこで、これらの資格者代理人の皆さんを今後制度上もきちっと活用していくべきではないかというふうに私は考えておるんですが、民事局長はいかがでございましょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、ただいま政務官からも申し上げましたように、登記申請の九五%以上が資格者代理人の方々によって代理をされているわけでございます。その申請に当たりましては、各代理人の方々は業法上の職責に従いまして申請人の本人確認を適切に行っていただいている、こう考えております。

 そういう実績を踏まえまして、今回の改正法におきましては、登記識別情報を提供することができない場合に、資格者代理人の方々に本人確認をしていただいてその本人確認情報を提供していただく、それが適切なものであれば事前通知手続を省略することができる、こういう形で迅速に登記手続ができるようにしておりますし、従来不動産登記法上定めがなかった資格者代理人の役割について、新たな役割を担っていただくということを明確にしております。

漆原委員 今局長がおっしゃった改正法案の二十三条四項、これは資格者代理人の本人確認情報の提供に特別な効果を認めている条文でございますけれども、その根拠としては、やはり今までのこの皆さんの実績というふうに考えていいんでしょうか。

房村政府参考人 資格者代理人の方々は、それぞれの業法に基づきまして、申請に当たって公正、誠実に業務を行うべき義務を負っております。また、そういう義務を果たして、現実に従来から適切な本人確認をしていただいておりますので、まさにそういう法律上の義務を負っているということとその本人確認の実績というものを考慮いたしまして、今回法律上の制度とすることとしたものでございます。

漆原委員 不動産登記の信頼性を確保するという観点から、資格者でない者が登記申請を業として行うことは現在禁止されているわけですね。それで、この資格者代理人であるかどうかの確認はどのような手段で、あるいはどのような形態で行うのか。ここはやはりしっかり押さえておかないと、今おっしゃったように、せっかく信頼、業法で任務遂行規定があって、だから特別な権限を与えているんだという、これが崩れるわけですから、この人は資格者代理人なのかどうかという確認は一体どのようにするのか、そこのところはいかがでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、本当にその資格者が代理をしているのかどうかということを確認するということは今後必要になるわけでございますが、方法といたしましては幾つか考えられますが、まずオンライン申請の場合でございます。

 これにつきましては、資格者団体の方で個々の資格者について電子証明書を発行するという計画があると伺っておりますので、そういう制度が実際に運用されるということになりますと、資格者の方が申請をするときにその電子証明書を利用していただければ、こちらとして間違いなく資格者の方が申請しているということが確認できるようになります。

 それから、紙ベースで、窓口に申請書を提出するという場合でございますが、これは現在でも資格者団体が身分証明書等を発行しているというところがございますので、そういったものを提示していただくということ、あるいは、これも計画として、印鑑証明書を発行するということを計画されているというようなことも伺いますので、仮にそういった資格者団体が印鑑証明書を発行するということであれば、その印鑑証明書を添付して、その印鑑を押捺して提出していただければそれで確認ができる。

 こういった幾つかの方法が考えられますし、今後とも、資格者団体とも協議をして、適切に確認できるような事務の運用をしていきたい、こう思っています。

漆原委員 資格者代理人の本人確認情報、これは今後法務省令で定めるというふうになっているわけですね。この省令の内容は、私は非常に大きなポイントだろうというふうに思っているんですね。したがって、ここのところを、法務省がどんなふうな省令を定めるかどうかによって、この制度の大きなかけになると思っているんですが、法務省としては具体的にどんなふうなものを考えておられるのか、わかる範囲で教えてもらいたいと思います。

房村政府参考人 今回の資格者による本人確認の制度は、現在、資格者の方々が登記申請の際に申請人の本人確認を行っている、こういう実績を考慮して設けるものでございますので、現実に行われている本人確認の実態を踏まえたものとしたい、こう考えておりますが、形としては、原則として資格者が申請人と面談をいたしまして、申請人本人であることを適切に確認したことがわかるような、そういう内容の情報を提供していただきたいと思っております。

 具体的には、まずは、面談をしたということであれば、その面談の状況、いつ、どんな状況で面談をしたというようなこと、それから、もう従来から申請人と面識があったということであれば、その面識が生じた時期とどういう経緯で面識を得たか、こういうようなこと、それから、面識がなくて証明書等で確認をしたということであれば、どういう証明書、例えば免許証であるとかパスポートであるとか、そういった確認の際に利用した身分証明書等の資料の種類、内容、こういったものを提供していただいて、登記官の方で、これだけの情報に基づいて本人を確認しているのであれば間違いないだろう、こう思えるような、そういったものを提供していただくことでございますが、今後、具体的に省令を定める場合には、やはり現実に行っております方々の意見も十分伺った上で適切な内容を定めたい、こう思っています。

漆原委員 今までは、どちらかというと、登記官は形式的審査主義ですから、来たものを受け取っているという感じだったんでしょうけれども、今度は、その前に、資格者代理人にある意味では大きな権限が与えられたと思うわけですね。

 そういう意味では、ここがきっちり、逆に、不正が行われると、登記官もそこを素通りしちゃうという、不正な登記が行われてしまうということになるわけでありまして、ここのところはしっかり資格者代理人の方と打ち合わせしていただいて政省令を決めてもらいたいというふうに思いますが、もしも資格者代理人が不正行為をした場合にはどう対処されるのか、また、その行為によって損害が、不動産の場合は大変大きな損害になることが予想されるわけですね、そういう場合はどのように救済されるのか、この辺をお答えいただきたいと思います。

房村政府参考人 まず、資格者代理人が故意に虚偽の本人確認情報を提供した場合、これにつきましては、今回の法案で刑事罰をもって臨むということで、二年以下の懲役または五十万円以下の罰金に処するということにしております。

 それから、そういう故意の場合ももちろんですが、それ以外の業務上必要な注意義務を怠ったということから結果的に事実と反する本人確認情報を提供した、こういうような場合は、業法上の義務に違反したものとして懲戒処分の対象になることが考えられます。

 それと、もちろん、こういう故意、過失があって本人の確認を誤った、そのことによって買い主等の依頼者に損害を与えた、こういう場合には民事上の損害賠償責任を負うということが現行法上認められると思います。今、そういう場合に備えまして、例えば日本司法書士会連合会では、損害賠償保険制度の創設というようなことも検討されているというぐあいに聞いております。

漆原委員 次に、本人確認情報だけではなくて、土地家屋調査士がつくる現地調査報告書、これについても制度上の位置づけをすべきではないのかというふうに思うのですが、この点はいかがになっておるでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、現在、表示に関する登記の申請におきましては、土地家屋調査士の方々が作成する現地調査報告情報、これが提出をされておりまして、非常に重要な役割を果たしているところでございます。

 今回の法改正に当たりまして、現実に大きな役割を果たしている現地調査報告情報にも法制上の位置づけを与えるべきではないかという御指摘もございました。私どもも検討いたしましたが、ただ、これを義務づけるということになってしまいますと本人申請が認められなくなってしまいますので、そこまではできないだろう。ただ、土地家屋調査士の方が代理人になってこの現地調査報告情報を提供した場合には、登記官の実地調査について非常に重要な判断資料になるわけでございますので、この点について、法務省令等においてその登記手続上の位置づけを明確にするということを現在考えております。

漆原委員 登記官による本人確認制度、明確にされておるんですが、これは現在の形式的審査主義とどう違うのか、同じなのか。また、この制度が明確にされた趣旨をお尋ねしたいと思います。

房村政府参考人 登記官による本人確認制度でございますが、実は、現行法では当事者出頭主義を採用しておりまして、申請人が出頭しないという場合には却下できる、却下事由になっております。したがいまして、現行法のもとでは、出頭した当事者の話を聞きまして、登記官が、これは本人でないということであると、その申請人が出頭していない場合ですので却下できる、そういう意味で、現行法のもとでは、当事者出頭主義という形で本人確認の権限と義務が登記官にあるということが言えるのだろうと思います。

 ところが、今回、当事者出頭主義を廃止いたしましたので、そういった本人確認のために登記官が何かできるということになりますと新たな条文が必要になりますので、それをはっきり正面から認めた。やはり登記の一番大きなものは間違いなく本人が申請しているかどうかということですので、そこをやはり最終的な責任を持っている登記官が確認できないということでは登記の真実性の担保に欠けるところがあるだろう。そういうことから、今回、この登記官による本人確認制度を明文で認めるということとしたわけでございます。

漆原委員 登記官がこの権限を行使することによって登記の実行がおくれるということが考えられますね。そうなると、不動産取引の迅速を害することになるのではないかという指摘がなされておりますが、登記の実行を留保することができる期間やその要件を限定すべきではないかというふうに考えますが、この点はいかがでございましょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、登記官が本人確認の権限を行使するということになりますと、その間は登記が実行できないわけでございますので、登記がおくれるということになります。

 通常、登記の実行を求める当事者は一刻も早く登記をしてほしい、こう思っているわけでございますので、そういう意味で、登記官の権限行使により余り延びるのは好ましくないということはそのとおりだと思っております。

 そういうことから、この本人確認権限を行使するのは、「申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由がある」という要件を今回法律で定めておりまして、登記官がむやみやたらとこの確認を行うということではなくて、合理的な理由がある場合に限定をしているわけでございます。この「申請人となるべき者以外の者が申請していると疑うに足りる相当な理由」といいますと、法文上かなり高度の疑いが要求されていることは、ほかの条文と比較いたしますと明らかだろうと思います。これだけの理由がある場合に、それが解消しないのに、一定期間が過ぎたから登記をしろということは、やはり登記の真実性担保の観点からはちょっと認めがたいだろうと思います。

 やはり当事者に対する迷惑を最小限のものにするために、本人確認をする場合には、できるだけ迅速に行って、早く結論を出して登記をするということが登記官には求められることはもう御指摘のとおりだと思いますが、法律で一律に期間を定めるとか、そういう形式的な形で処理を強制するということはやはり好ましくないのではないか、より適切な運用によって登記の真実性と迅速な処理を両立するような形で運用をしていきたい、こう思っております。

漆原委員 先ほど局長がおっしゃったように、資格者代理人は、それぞれ、各業法による法的義務を負って登記の申請業務をしているわけですね。したがって、そのような業務に基づいて登記申請を行っている資格者代理人による申請とそれ以外の申請とは、場合によっては区別して取り扱ってもいいのではないかというふうに思います。

 例えば、住所変更があるケースで登記識別情報の提供ができない場合に行うとされております旧住所地への事前通知も不要とする運用など、こういうことを行ってもいいのではないかなというふうに私は考えるのですが、この点の運用についてはいかがでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、司法書士の方にしろ、土地家屋調査士の方にしろ、登記に関する専門知識を持っていらっしゃるわけですので、そういう方々が代理人についている申請について、これを審査する場合に、やはりおのずからそういう方がついていない場合と違う扱いがされることは、それは現場の処理としてあり得るだろうと思っております。

 ただ、それを法制的にどこまで認めるかということになりますと、やはり個別に検討する必要がございますが、ただいま御指摘の、旧住所への通知、これでございます。この旧住所への通知を今回法的な制度として認めましたのは、要するに、住所の変更をいたしまして、その上で成り済ましてしまう、こういう例が実際に時々起きております。

 そういうことから、本人確認の場合に、現住所へ通知するのはもとよりのこと、所有権に関する登記の申請の場合で住所が変更されているときには旧住所にも通知をする、このことによって、そういう住所変更を利用して成り済ますということを防ごうとしているわけでございます。

 資格者代理人の方が本人確認をしている場合には、例えば、典型的な例で申しますと、免許証とかそういう公の証明書を使って確認をすることが多いだろうと思います。そういった証明書には当然住所等も記載されておりますので、その現住所にこの人がいるということまでは本人確認で確認ができると思うわけですが、成り済ましをして旧住所のところに実は本人がいるかもしれないということまではなかなか手が回らない。

 そういう意味で、現にこの目の前にいる人がこの住所にいるんだろうということまでは確認できても、それがそもそも成り済ましなんだ、旧住所から勝手に住所移転しちゃっているんだというところまで本当に調べようと思うと、これはなかなか大変でございますし、そこまでのことをすべて本人確認情報として要求すると、これはまた専門資格者の方々に対する負担が重くなる、そういうこともございますので、そういった旧住所への通知は、やはり省略しないで、登記所の方から行う。

 これは、向こうで本人がいなければ直ちに返ってきますので、それであれば問題なく登記できますし、受け取られて向こうから大慌てでそんな話はないということが来れば、そこでとめればよろしいわけですので、それほどの時間を要するわけでもない。そういうことから、この旧住所への通知は、やはりそういった成り済ましを防ぐというためには必要ではないか、こう思っています。

漆原委員 最後の質問になろうかと思いますが、オンライン登記申請制度研究会の最終答申には、実務配慮の観点が必要であるというふうにされております。不動産登記制度は、売買、融資など国民生活に密接にかかわり合いを持つ極めて重要な制度であります。登記識別情報や電子認証の有効性確認、本人確認の仕方など、今後、法施行までに確定しなければならない問題、省令に委任されている問題はたくさんあるわけでございます。

 先ほど上田委員からも、現場の意見をしっかりと聞いていただきたいという話がありましたが、私も同じく、実際に実務にかかわっておられる司法書士会や土地家屋調査士会あるいはまた弁護士会などと十分検討して、現場が使いやすい制度づくりをすべきではないかというふうに思うのですが、再度この点をお尋ねしたいと思います。

房村政府参考人 御指摘のように、今回の法改正によりまして、従来にない新しいいろいろな仕組みを導入しております。これをやはり円滑に運用するためには、実際に登記申請の代理を業としている方々、この方々がこの制度をうまく使える、こういう仕組みにすることが何より重要だろうと思っています。

 そういう意味で、これから政令あるいは省令を制定し、また、登記所での運用というものを私ども決めていくわけですが、その過程におきましては、これを使う資格者団体と十分意見交換をして、その方々が適切にこの制度を使えるように、こういう観点から努力をしていきたい、こう思っています。

漆原委員 以上で質問を終わります。どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 次回は、明十二日水曜日午前九時十五分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会をいたします。

    午後四時七分散会


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