衆議院

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第26号 平成16年5月18日(火曜日)

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平成十六年五月十八日(火曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      左藤  章君    桜井 郁三君

      柴山 昌彦君    葉梨 康弘君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      保利 耕輔君    松島みどり君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      保岡 興治君    山際大志郎君

      荒井  聰君    枝野 幸男君

      鎌田さゆり君    小林千代美君

      小宮山洋子君    中井  洽君

      松野 信夫君    上田  勇君

      富田 茂之君    坂本 哲志君

    …………………………………

   参考人

   (明治大学法科大学院教授)   青山 善充君

   参考人

   (東京ガス株式会社総務部法務室長)   綿引 達郎君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会倒産法制検討委員会委員長)   須藤 英章君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十八日

 辞任         補欠選任

  柳澤 伯夫君     葉梨 康弘君

  加藤 公一君     荒井  聰君

  川上 義博君     坂本 哲志君

同日

 辞任         補欠選任

  葉梨 康弘君     柳澤 伯夫君

  荒井  聰君     加藤 公一君

  坂本 哲志君     川上 義博君

    ―――――――――――――

五月十八日

 難民等の保護に関する法律案(中村哲治君外一名提出、衆法第四一号)

同月十七日

 国籍選択制度と国籍留保届の廃止に関する請願(高木美智代君紹介)(第二二六一号)

 国籍法の改正に関する請願(高木美智代君紹介)(第二二六二号)

 同(肥田美代子君紹介)(第二三〇六号)

 成人重国籍の容認に関する請願(肥田美代子君紹介)(第二三〇五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 破産法案(内閣提出第四一号)(参議院送付)

 破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出第四二号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、破産法案及び破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、明治大学法科大学院教授青山善充君、東京ガス株式会社総務部法務室長綿引達郎君、弁護士・日本弁護士連合会倒産法制検討委員会委員長須藤英章君、以上三名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただきまして、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、青山参考人、綿引参考人、須藤参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いをいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず青山参考人にお願いいたします。

青山参考人 ただいま御紹介いただきました明治大学法科大学院の青山善充でございます。

 本日は、当委員会におきまして、御審議中の破産法案並びに破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、意見を申し述べる機会を与えられましたことを大変光栄に存じております。

 私は、過去四十年間近く東京大学法学部におきまして民事訴訟法や倒産法の研究教育に携わり、また、平成八年十月から始まりました法制審議会の倒産法部会におきまして終始部会委員として審議に参加し、さらに昨年九月に、現在上程されております破産法案のもとになりました破産法案要綱を法制審議会総会において決定した際にも、法制審議会の総会委員として関与いたしました。本日は、このような立場から私の意見を申し上げたいというふうに存じます。どうぞよろしくお願いいたします。

 時間の関係もございますので、早速、総論と各論に分けてお話をさせていただきたいというふうに思っております。

 総論といたしましては、二つございますが、第一に、今次破産法改正の日本における民事手続法制の中における位置づけ、及び、第二に、破産法を全面改正することの資本主義経済社会における意義について申し述べたいというふうに思います。

 第一に、今次破産法改正の位置づけでございますが、御高承のとおり、現在御審議中の破産法案は、平成八年から始まりました倒産法全体の改正作業の実はこれが第五弾目でございます。

 第五弾目と申しますのは、御存じのとおり、平成十一年の十二月に旧和議法にかえまして民事再生法が制定され、翌年、平成十二年の十一月には小規模個人再生及び給与所得者等再生に関する民事再生法の一部改正が実現し、同時に、外国倒産承認援助法が制定され、最後に、平成十四年十二月には会社更生法の全面改正が実現したということでございますので、今次破産法の改正は第五弾目の改正であり、しかも、これがいわば倒産法制の全面的なリニューアルの総仕上げとしての意味を持っております。

 また、目を転じて、倒産法に限らず、民事手続法全体を視野に入れて見てみますと、平成に入ってからだけでも、民事保全法の制定、これは平成元年、それから平成八年の新民事訴訟法の制定、昨年の新人事訴訟法の制定、同時に昨年の仲裁法の制定と、いずれも明治、大正時代に制定された片仮名、文語体の法律を、国民の、あるいは利用者に利用しやすく、わかりやすく現代語化してきた民事手続法分野の法典再整備事業の掉尾を飾るものと位置づけることができるというふうに私は把握しております。

 総論の第二でございますが、資本主義経済社会における破産法全面改正の意義でございます。

 資本主義自由経済のもとにおきましては、自由な競争の結果として、市場から、マーケットから退場する企業や経済生活に破綻を生ずる個人が出てくることは、破綻という現象、破産という現象は決して望ましいことではありませんけれども、これは不可避な現象でございます。そこで大事なことは何かと申しますと、企業や個人が経済的に破綻した場合に、それを受けとめて、きちんと処理する制度が確立していることでございます。

 その制度は、その倒産に巻き込まれた労働者を初めとする多くの債権者の権利を保護しつつ、もしその倒産の原因が役員等による違法行為に起因するような場合にはその責任を厳重に追及するとともに、一たん競争に敗れた事業者でありましても、自分に原因がなく、もう一度経済界に復帰したいと考える者には再チャレンジの機会を提供する、そういう倒産法でなければならないというふうに思っております。

 倒産法は、まさに全体として、そのような経済社会の最後の受け皿といいますか、競争社会のセーフティーネットの一環をなしているわけであります。特に破産法は、個人にも法人にも適用される倒産法全体の基本法であります。これが今回、これまで指摘されてきたさまざまな不備を是正し、全面的にリニューアルされることは、昨今薄日が差し始めたと言われております最近の日本の経済社会のセーフティーネットを強化するものというふうに評価してよいかと存じます。

 次に、各論といたしまして、今次破産法案の特徴と私が考えている点を逐次申し述べたいと思います。

 その前に、全般的な印象を一言最初に申しますと、私は、冒頭にちょっと触れましたとおり、昭和四十年から東京大学法学部におきまして助教授あるいは教授として倒産法の研究教育に当たってまいりましたが、その研究あるいは講義のたびごとに、破産法についてはさまざまな不都合な点あるいは不合理な点を感じてまいりました。

 そのこともございまして、法制審議会倒産法部会におきましては、一委員として、そのような不備あるいは不都合を改正すべく協力をしてまいったところでございますが、今回の破産法案は、これまでの破産法の不備をほぼ全面的に払拭するものでございます。本日の意見の陳述に備えまして、数日来、改めて破産法案を隅から隅まで読み返しまして、私自身の倒産法とのこれまでのかかわりと重ね合わせまして考えますところ、ややオーバーな言い方かもしれませんけれども、はるけくも来つるものかなという感慨を抱いた次第でございます。

 それでは、具体的にどんな点が今次破産法案の特徴であり、それは現行破産法の不備をどのように改正しようとしているかにつきまして、私の考えを申し上げます。

 三つのグループに分けまして、手続的な問題グループ、実体権に関する問題グループ、さらに個人破産の問題グループに分けて意見を申し上げたいと思います。

 まず手続的な問題グループから申しますと、第一に破産手続の迅速化、合理化、第二に破産財団に属する財産の保全の強化、第三に債権者の手続関与の機会の保障の強化という三点を挙げてよいかと思います。

 まず第一の破産手続の迅速化、合理化という点でございますが、これにも幾つかございますけれども、現行の債権調査期日方式は、専門的なことになって大変恐縮でございますが、債権者が期日に出席して異議を述べ合い、異議が出た場合にはその債権につきまして判決手続というやや重い手続で決着をつけるという、時間と費用がかかることを今やっているわけでありますが、そういう方式を今度は改めようとしております。

 どういうふうに改めるかといいますと、破産管財人がまず調査をいたしまして、認否書というものをつくり、それに異議がある場合には、もちろん裁判で決着するわけでありますが、これも判決手続という重いものではなくて簡易迅速な決定手続で債権の調査、確定をしようということにしている点であるとか、現行法では債権者集会というものは必ず開催しなければならないという点も、膨大な債権者を抱えている場合には開催が非常に困難でありますので、これは場合によっては開催しなくてもよいという弾力的な措置をすることができるとか、あるいは現行の最後の配当手続というのは非常に厳格な、通知、公告等、厳格な手続をしているわけでありますが、これを改めまして、小規模な事件あるいは債権者が同意している事件については、公告だとか除斥期間だとか、配当手続というものを簡易にしようというような点が手続的な問題の合理化、迅速化の内容でございます。

 第二に、破産財団に属する財産の保全の強化という特徴でございますが、破産手続の開始決定前に財産が散逸してしまわないように、債務者の財産に対する強制執行等を一律に禁止する包括的禁止命令の制度を導入したり、あるいは保全管理人の制度を導入したりし、さらに破産者に重要財産開示義務を課した点、さらに申しますと、法人が破産した場合の経営者の責任追及としまして、役員責任査定制度というものを導入したというような点が、破産財団に属する財産の保全の強化というふうに評価できるかと思います。

 手続グループの第三が、債権者の手続関与の機会の増大ということでございます。

 これは債権者集会という制度を任意化するかわりに、債権者委員会という制度を新たに設けまして、債権者全体の意見を機動的に破産手続に反映させようとしている制度でありますが、特に労働組合につきましては、裁判所は一定の事項について労働組合に通知し、さらに、営業の譲渡というような重要な事項については必ず労働組合の意見を聞かなければならないというようなこととしております。それらと関連いたしまして、破産管財人には情報提供努力義務というものを課したというのも今度の破産法案の特徴でございます。

 次に、第二の問題グループは実体権に関する破産法改正の特徴でございます。これは五点について申し述べます。第一が労働債権の保護の強化、第二が財団債権となる租税債権の範囲の見直し、第三に賃貸借契約の取り扱いの見直し、第四が否認の要件の見直しないしは明確化、第五に担保権消滅制度の導入という五点でございます。

 この第一、労働債権につきましては、これまでは、民法の規定によりますと、最後の六カ月間の賃金だけが優先破産債権になるにすぎなかったわけでございますが、この点を改めまして、給料については破産手続開始前三カ月分の給料を財団債権に格上げいたしました。退職金についても同様に給料三カ月分を財団債権に新たにいたしました。残り全部は、これは優先破産債権としたわけでございます。これによって、労働債権は、使用者が仮に破産した場合でも正当に保護されるというふうに私は評価しております。

 第二の租税債権につきましては、これまではほとんどすべてが財団債権とされていたためにその範囲が広過ぎる、そのために一般破産債権者に対する配当が逼迫するということがあったわけでございますが、このたびは、財団債権とするのは、破産手続開始当時、納期限が到来していないもの及び納期限から一年を経過していないものに限りまして、それ以前にもう納期限が到来しているものは優先的破産債権に格下げをするということにいたしました。これによって労働債権と租税債権のバランスが保たれることになったのではないかというふうに思っております。

 第三に、賃貸借契約の見直しでございますが、現行法のもとでは、賃貸人が破産すると、破産管財人は賃貸借契約を解除することができるわけでございますけれども、賃借人を保護するという必要から、その賃借権が第三者に対抗できる、そういう要件を備えている場合には解除できないといたしまして、賃借人の保護を図っております。

 第四に、否認の要件の見直し、明確化という点でございますが、現行破産法では、財産減少行為と債務の消滅や担保権設定行為とを同一の要件で否認の対象としておりますけれども、財産減少行為と特定の債務者に対する弁済なり担保権の供与というのはかなり性質が異なりますので、それぞれ別の要件を立てるとともに、従来争いがありました適正価額による不動産の処分だとか新規融資を受けるために不動産に新たに担保を設定するという行為は、これは原則として否認の対象にならないということを明文で規定して、取引の安全に配慮しているわけでございます。

 第五に、担保権消滅制度という制度でございますが、これはこれまで破産法の実務において行われてきました処理の工夫を制度化したものでございます。

 破産財団に属する財産の上に担保権が設定されておりまして、それを競売の手続で売るのではなくて、管財人が任意売却によって市場価格に近い価格で売却することができた場合には、裁判所の許可によってその売却代金の一部を財団に組み入れることによって、破産債権に対する配当を充実させるとともに担保権を消滅させるということにしたものであります。

 これによりまして、競売によってはなかなか売れない、あるいは売れても買いたたかれる物件をより高価に売却して、その一部を破産財団に組み入れて一般債権者への配当の財源にするとともに、そういう任意売却であっても抵当権等の担保権を裁判所の許可によって消滅させるという新たな工夫をこの制度の中に組み込んだわけでございます。

 最後のグループとして、個人破産につきましては、自由財産の範囲の拡大と免責手続の合理化の二点について申し述べたいと思います。

 第一の自由財産の範囲の拡大という点でございますが、現行法では、破産者が自由財産として破産宣告のときに保有できるのは、金銭で申しますと、標準的な世帯の二カ月間の必要経費を勘案して政令で定める額、具体的には、この三月末までは四十二万円、これは四月一日から改正されましたために、六十六万円だけ現金は保有できるということにされておりましたが、そしてそれが自由財産に連動していたわけでございますが、差し押さえ禁止財産の場合と違いまして、破産の場合はすべての財産を破産者は失うわけでございますから、差し押さえ禁止財産よりも広い範囲で自由財産を認める必要がある。では具体的にどのくらいかということを、これはさんざん協議をいたしました結果、一・五倍はどうであろうかと。ちょうど九十九万円までは自由財産として保有できるということにした。

 また、裁判所が自由財産の範囲を裁量によって拡大するという制度を導入しようとしておりますものですから、金銭だけではなくて、具体的な物でも自由財産として保有できることになりました。これは、こういうふうに自由財産の範囲を拡大することによって、個人、事業者の再チャレンジの機会を保障するものというふうに評価できるかと思います。

 第二に、免責手続の改善でございます。これは、破産事件の大部分を占める個人破産、すなわち免責目的の自己破産の合理的な規制を目的としておりますが、具体的には三点ございます。

 一つは、破産手続と免責手続の一体化でありまして、これまでは破産手続と免責申し立て手続が別の手続であったために、その中間をつきまして強制執行がなされるという事態がありましたけれども、今回は、破産手続と免責申し立て手続を一連の手続として、その間に強制執行が入り込まないように工夫したというのが第一点でございます。

 第二は、非免責債権の新設でございます。保護の必要性が特に高いと従来から指摘されてきました二つの債権、具体的には、交通事故を受けた被害者の損害賠償請求権というもの、あるいは扶養料請求権というものにつきまして、債務者が破産したからといってこういうものがもう免責されるというのではモラルハザードを生じますので、この二つを新たに非免責債権につけ加えたというのが改正の二番目の柱でございます。

 最後は、免責不許可事由の見直しでございまして、従来は、破産者が免責申し立てをする前十年以内に免責許可の決定を受けていたとすれば、それが免責不許可事由になるわけでございましたけれども、これを七年に短縮いたしました。

 免責は、債務者にとりまして経済的再生のきっかけを与える制度でございますから、免責制度が導入された昭和二十七年から比べまして、半世紀以上たった今日、免責による経済的再生のチャンスを制限する期間としては十年間は長過ぎるのではないかということで、じゃ、それでは五年間にしたらどうかということも協議いたしましたけれども、五年間にすればやはりモラルハザードが生ずるのではないかということで、結局七年ということになった次第でございます。

 以上、大変駆け足で私が新破産法案の特徴と考えている主要なものについてその内容を御説明申し上げましたが、全体として申しますと、これまで指摘されてきた不備をほとんどすべて解消されている、現時点ではこの破産法案が望み得べきベストの法案ではないかというふうに考えておりますことを申し添えまして、私の意見の陳述を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 青山参考人、ありがとうございました。

 次に、綿引参考人にお願いいたします。

綿引参考人 ただいま御紹介いただきました、東京ガスの綿引でございます。法制審議会倒産法部会に日本経団連の代表として委員として参加させていただいております。本日は、このような場にて意見を申し述べる機会を与えていただきまして、まことにありがたく存じます。

 長らく低迷し続けてきた日本の経済も、昨今は回復の兆しが見えてまいりました。日本経団連では、日本の経済社会が活力あふれるものになるようにと、税制の改革、財政構造、社会保障制度の改革等さまざまな提案をしてまいりました。経済社会のあり方を規定している法制度の改革も、我々が取り組んでまいったことの一つであります。

 特に破産法は、法人に関していいますと、お手元の資料の二ページにございますように、債務超過により行き詰まった人、物、金といった経営資源を一度整理し、解きほぐして、新たな組織に生まれ変わらせる役割を担っており、経営資源の循環という点からは、法人の設立、存続と並んで重要な法律であります。この破産法の持つ整理と再生という役割は、個人についても同様かと思われます。

 このような破産法ですが、大正時代、一九二二年に制定されて以来、実質的な見直しがほとんどなされなかったという経緯もあり、実情に対応していない面や使いづらい面が多々あります。その意味で、今回、現代にふさわしい姿に見直しが行われるということは、実務の面からも大変ありがたく、意義深いものがあると評価しております。

 我々が今回の改正で何よりも期待しているのは、資料の三ページ目にありますように、手続の迅速化が図られることであります。この意義は幾つかありますが、最も大きいのは、迅速に問題を解決して前向きの取り組みに経営資源を集中しやすくするということでございます。過去の清算に長くとらわれておりますと、経営の効率化や事業の拡大などの足かせとなります。

 また、資産デフレのときには、時間がかかればかかるほど資産の価値が下がりますので、整理、換価が難しくなり、さらに手続がおくれるという悪循環に陥ってしまいます。

 破産手続は、債務者を初め、破産管財人、債権者、法曹関係者と、極めて多数の関係者がいる世界であり、手続自体に多大な時間とコストがかかるということは、社会全体から見ても大きな損失となります。今回、この迅速化の観点からさまざまな改善がなされており、喜ばしいことと思っております。

 具体的に申しますと、第一に、裁判所管轄権の拡大が挙げられます。例えば、親子会社の破産事件について一体処理が可能になっております。従来は、複数の親子会社が同時期に破産した場合、管轄裁判所が異なると、担当の破産管財人や事件の経過が裁判所ごとに異なってくるため、手続書類も別個に作成しなければならないなど、大変な不便を強いられているところでございます。

 法人の代表者と法人の破産を同じ地方裁判所で扱えるようになるということも、事件を一体として管理できる点で、債務者だけでなく、債権者にとっても迅速な事務処理が可能になるものと思われます。

 その他、債権者が一千人以上の事件は東京、大阪地方裁判所に、五百人以上の事件は高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てることを認めている点も、事件の集中管理の点から合理的であり、手続の迅速化に資するものと思われます。

 第二に、債権の調査、確定手続の合理化も、破産手続の迅速化に資すると考えます。現行法では、債権調査は破産者と破産債権者が一堂に会する集会を開いた上で行うことになっていますが、開催の場所、時間帯の面で債権者全員の都合がつくことは少なく、ほとんどの債権者が出席できない場合も多々ございます。出席するのは関心が高い事件や異議を述べるときだけといった状況で、現行規定は実態を反映していないものとなっております。今回の改正案では書面による異議申し立て制度が導入されることになっておりますので、手続の実効性を維持しつつも、簡素な手続が可能となりますので、迅速化が大いに期待できるものと存じております。

 また、現在、債権調査において異議が述べられた場合には訴訟を提起する仕組みですので、破産債権の確定に時間がかかる要因の一つとなっております。配当額は各債権者の有する債権額の割合で決まるという性質上、一つでも異議の訴訟が提起されますと、当該債権者だけでなく他のすべての債権者について配当額が決まらないという事態になります。

 改正法では、債権調査において異議が述べられた場合には、まずは裁判所が査定をし、決定により確定することが可能となっている点も、実効性を確保しながら手続の簡素化を図るものであり、迅速化に資すると考えます。

 以上、迅速化の観点から期待している点を申し上げました。

 次に、手続を速くできるようにすると同時に、手続の公正さの確保も図られておりますので、私どもが注目している点について述べたいと思います。資料の四ページ目をごらんください。

 第一は、破産手続開始前の保全処分の多様化であります。今回の改正により、破産手続開始前にさまざまな保全処分が認められるようになります。

 例えば、破産手続開始前の保全管理命令が挙げられます。実務においては、破産手続開始前とはいえ、破産の申し立てをした債務者が引き続き財産を管理することについて債権者が不安に思うケースがしばしばございます。しかしながら、現行破産法は、破産手続開始前に裁判所が保全管理命令を出すことができるのか明確ではありません。今回の改正案では、破産手続開始前の保全管理命令が明文で認められますので、積極的に活用すれば、財産保全に関する債権者の不安の解消に役立つことと思います。

 一方、これらの破産手続開始前の保全処分は、保全処分を得ることのみを目的として債務者が破産申し立てを濫用する懸念もございますので、破産手続開始前の保全処分を得た後は容易に破産手続を取り下げることができないこととしているのは、バランスのとれた妥当な措置であると考えます。

 第二に、破産者の重要財産開示義務を導入した点が挙げられます。

 現行の破産法では、破産者は、破産管財人等からの請求があったときに一般的な説明をする義務がありますが、違反しても制裁がないことから、実効性に欠ける傾向があります。そこで、債務者の財産の開示状況に疑問を持つ債権者は、登記簿謄本等を取り寄せたり、関係者に聞いて調べるなど、各自手間とコストをかけているのが実情であります。

 今回の改正で、破産者に不動産等の重要財産を開示する義務が課せられ、それに違反した場合は罰則も用意されることは、債務者による財産隠匿行為の防止に役立ち、破産手続に対する債権者の信頼も高まりますので、歓迎しております。

 また、今回の改正では、資料五ページ目をごらんください、五ページ目にありますように、現行解釈で運用している部分が明文化され、法的安定性が高まった点が幾つかあります。

 その一つが、否認の一般要件の明確化です。

 債権管理の立場からは、債務者の経営悪化のシグナルを察知した場合には、債務者の支払いサイトを短くしたり、債務者に追加担保をお願いしたり、回収できるものは回収を図るなど、信用リスクの軽減に努めるのが鉄則です。しかしながら、債務者が実際に破産してしまいますと、早期回収を図ったものが、破産処理手続における公平さを害したとして否認されることがあります。いわば回収努力と否認は相対立している側面があり、法的不安定性が高く、実務でも非常に神経を使っております。

 今回の改正案は、一般的に否認の対象となる行為として、破産者の総財産の価格を減少させる詐害行為と、へんぱ行為のうちの非義務的行為、この二つを挙げ、要件を明確にしていることは評価できるところであります。

 また、破産者が行った適正価格による不動産等の売却に関して否認の要件を明確化した点に賛成であります。資金繰りが悪化し始めた債務者が運転資金の調達のために適正価格で資産を売却するケースがありますが、これも否認のリスクを抱えております。今回、否認される場合が、限定の上、明確にされることは、売却の相手方となる債権者にとっても、リスクが軽減され、望ましいことと考えます。

 このほか、劣後ローンや相場のある商品の取引などの取り扱いにつきましても、法的な整理を行い、手続が明確になり、法的安定性が高まることを評価しております。

 さて、今回の改正法では、資料の六ページをごらんください、六ページにありますように、個人の破産免責手続についても、破産手続と免責手続の一体化、自由財産の範囲の拡張といった大きな改正が図られております。日本経団連では、これらの点につきましても、破産者の生活再建の観点から、早くから支持をしております。

 自由主義経済の活力維持のためには、債務者に相応の負担が求められることは言うまでもありませんが、今回の個人破産に関する改正は、債務者のモラルハザードの防止といった観点からも、ある程度バランスのとれたものと考えております。

 また、建物などの賃貸人が破産した場合に、賃借人が登記や建物の引き渡し等の対抗要件を備えている場合には、破産管財人は賃貸借契約を解除できないとする改正も図られております。この点につきましても、賃借人の保護の見地から好ましいと存じます。

 以上、今回の破産法改正案を支持する理由を述べてまいりましたが、意義の大きい改正でありますので、日本経団連としましては、破産法案及び関係法律の整備等に関する法律案の早期の成立と施行を期待しておりますことを最後に申し上げまして、私の御説明とさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 綿引参考人、ありがとうございました。

 次に、須藤参考人にお願いいたします。

須藤参考人 ただいま御紹介いただきました須藤英章でございます。このような機会を与えてくださいまして、大変ありがとうございます。

 倒産法制全般の見直しは平成八年の十月から行われたものでございますが、私ども日本弁護士連合会でも、平成九年から、倒産法制検討委員会を設けまして、どのような倒産法制が望ましいのか検討してまいりました。私は、その委員長をしておりますので、そのような立場から意見を申し上げさせていただきます。

 まず、総論的に言いまして、この改正は私どもにとって望ましいものだというふうに考えております。破産の申し立て件数を比較いたしましても、五十年前に比べますと、現在は約百倍の申し立てがございます。十年前に比べましても、約五倍の申し立てが行われております。このようなことから、破産手続の迅速化、合理化というものは望ましい点でございますが、それに即応した改正であるということがまず第一でございます。

 そのほかに、公正で実効性のある制度を実現しようというもの、あるいは現代の社会経済情勢に適応した権利関係の調整を図る、このような点でこの改正法案は大変高く評価されるものでございまして、私どもとしましても、早期にこれが立法化されることを望んでおります。

 各論的に申し上げますと、まず第一に、破産手続のさまざまな手続が選択できる、多様化されたということによりまして、手続が柔軟性を持ったということが挙げられます。

 破産手続は対象が非常に多種多様でございまして、個人もあれば法人もございます。債権額、負債総額と言ってもいいんですが、これが数百万程度のもので債権者数も十人足らずのものもあるかと思えば、負債総額が数百億円、債権者数も数千人に及ぶというものもございます。これらを画一的な手続で処理することは必ずしも妥当ではありませんが、今回の改正法では、複数の手続を設けまして、選択ができるようにされております。

 先ほど、青山先生や綿引さんからも御紹介がありましたように、債権者集会を開催するかあるいは他の手続で行うかというようなことが認められるようになったということもそうでございますし、あるいは配当の見込みがないのに債権の届け出をさせたり、あるいは債権の調査に時間をとったりということもむだな点がございますので、配当の見込みがない場合にはそれらを定めないでおいて、見込みができたときに初めて届け出期間や調査期間を定めるというようなことも選択できるようになっております。配当手続につきましても、官報公告などをする原則的な配当手続のほかに、簡易な配当手続なども用意されております。

 また、管轄裁判所が拡大されまして、親子会社あるいは主債務者と保証人の事件なんかが、片方が先行しているときに同じ裁判所で処理ができるようになるということも便利な点かと思います。

 第二に、手続が簡素化、合理化されて、したがって迅速に処理が可能になったということが挙げられます。

 迅速に処理するということは手続が早期に終結するということでございますが、これは債権者にとっても好ましいことでございます。何年もかかるのでは困るというのが債権者の偽らざる感想かと思います。しかし、それと同時に、経済的な再生を図る債務者にとっても、これは大変望ましいことでございます。

 具体的な例は既に他の参考人から挙げられておりますので省略いたしますが、例えば、異議が述べられた債権について、これを確定する手続が査定という簡易迅速な決定手続で行われるようになったこと、あるいは管財人が財産を評価して配当財源をつくるときに、動産や債権の場合には、一定の金額以下であれば、裁判所の許可を一々得ずにどんどん迅速に進めていくことができるというようなことも一つでございます。あるいは、管財人の仕事が終わったときに、任務終了報告のために債権者集会というものを開くのが今まででございましたが、これも一々集会を開かずに、書面による報告でかえることができるなどもこのような手続でございます。

 三点目としまして、労働債権者の保護が強化されるということが挙げられます。

 会社が破産した場合に、そこで雇用されている従業員は職を失うことになりますので、その保護というものが必要でございます。未払い賃金あるいは退職金といったものが十分に払われるようにということが必要なわけでございますが、現行法ではこれは優先的破産債権とされておりますが、これよりもさらに優先するものとして財団債権というものがございまして、租税債権はこのような財団債権に属しております。

 したがいまして、財源が乏しい事件におきましては、この財団債権としての租税債権を払うだけで、労働者の債権にはお金が回ってこないということもございました。先ほど御紹介ありましたように、この対策としまして、租税債権の一部を優先債権に格下げして、逆に労働債権の一部を財団債権に格上げする、こういうことによりまして労働者の権利が保護されるように図られたのも一つでございます。

 ただ、租税債権の一部が財団債権、他の一部が優先的破産債権ということになりますと、実務上その区分けなどが大変難しい点もございますので、これから裁判所と課税当局との調整によりまして運用上の協議がなされて、これが混乱なく行われることが望ましいものというふうに思われます。

 労働債権の保護としましては、早期弁済の制度も挙げられるところでございます。財団債権ではなくて優先的破産債権にとどまる労働債権につきましては、これは配当手続によって弁済されるしかなかったわけでございますが、これも裁判所の許可によって配当を待たずに弁済をすることができるようになる、これも妥当な改正点であろうというふうに思います。

 四点目としまして、賃貸人、大家さんが破産した場合の賃借人、たな子の保護も挙げられます。

 これにつきましては、先ほど賃貸人、大家さんの破産管財人が解除をするときに対抗要件を備えた賃借人は追い出されずに済むというようなことが挙げられましたが、そのほかに、家賃を前払いしている場合の問題とか、あるいは敷金を預けている場合などについても賃借人の保護が図られているのが今回の改正法の特色でございます。

 五点目といたしまして、破産財団の確保、充実のための制度が整備されたことが挙げられます。これは、配当財源をふやして配当をなるべく多くできるようにという措置でございます。

 これにつきまして私どもが注目しておりますのは、担保権消滅請求制度でございます。これは、担保がいっぱいついた財産を任意売却の方法によってお金にかえまして、その一部を破産財団に組み入れていただいて配当財源を確保するという手続でございますが、大変巧みな法制がなされております。

 否認権の制度につきましても要件、効果が見直しされたわけでございますが、例えば破産管財人が従前なされた不動産の売却が安過ぎるということで否認したような場合に、その財産を取り戻すということも一方ではございますけれども、そうではなくて、安過ぎたのがいけないんですから、公正な価格との差額を追加して買い受け人が払うように、こういうような形で是正をする、財源の確保をするという道も開かれるようになりました。

 六番目に、個人債務者の再生支援策が充実したということが言えます。

 先ほども御紹介ありましたが、これまでは破産手続とそれから免責手続とは分けられておりました。破産手続は限りある財産を公平に弁済するという手続でございますが、債務者にとりましてはそれだけでは足りないわけで、それだけ自分の財産を全部吐き出したんだから、それ以上の債務については勘弁してもらうという免責手続が必要でございます。これが今まで二つに分かれていたために、その端境期といいましょうか、手続のすき間をねらいまして債権者から給料の差し押さえがなされるというようなことがございました。

 これにつきまして、改正法では二つの手続を一体的なものにして、破産手続の申し立てがあったときには原則として免責許可の申し立てもあったものというふうにみなす、そして免責許可の裁判が確定するまでは強制執行などは許さないというふうに改正がなされております。

 また、自由財産、弁済用に提供しないで持っていてもいい財産というものが拡充されたということも先ほど御紹介のとおりでございます。

 最後に、免責不許可の点について一言申し上げます。

 免責許可決定がなされても免責されない債権、これを非免責債権と呼んでおりますが、例えば租税債権であるとか、あるいは今回取り上げられました扶養義務に関する債権、これらが免責されないということは、これは妥当なことだと思うんですが、免責されない債権の中に一つ、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債権というのがございます。これは、悪意で行った不法行為ならしようがないだろうというふうに思われるかもしれませんが、運用いかんによっては大変問題のあることもございます。

 例えば、多重債務者は、いろいろなところから借りては返し借りては返しということで、借りかえ借りかえでその場をしのいで、いずれ破産に至るということがよくあるわけでございますが、これが、終わりごろになりますと、返せないことがわかって借りたんではないか、これはもう詐欺である、悪意による不法行為であるということで免責されないという解釈も、これは解釈によってはあり得るわけでございます。そうなりますと、多くの多重債務者の場合に、ほとんど、免責をされても債務が免責されずに残ってしまう、つまり免責不許可、非免責債権として残ってしまうというおそれがあるわけでございます。

 このような点から考えますと、多重債務者の経済生活の再生の機会を与えるという破産法の改正の趣旨、これが十分踏まえられた運用がなされることが望ましい、このように考えております。

 そのほか、あえて申しますと、今回、免責が許されない不許可事由というものが、先ほど御紹介のように、過去に破産、免責がなされたときから十年たったら再度の免責は許されるが、それでは長過ぎるんではないかということで七年に短縮された、これは妥当なところでございますが、私どもの方で一つ気になっておりますのは、給与所得者等再生手続という手続で、これは計画どおり弁済がなされた場合でも、後で例えばリストラに遭ったりして再び破産手続をとらざるを得ない、こんなときに、その再生計画が認可されてから七年間たっていないと免責が許されない、こんな点もございまして、これはややそういう債務者にとって過酷ではないかなというようなことが私どもの委員会では言われておりました。

 そんな幾つかの点はございますけれども、今回の破産法の改正は全体を見て大変望ましい改正でございまして、一刻も早くこのような改正が実現されることを望んでおります。

 以上、意見を申し述べさせていただきました。ありがとうございました。(拍手)

柳本委員長 須藤参考人、ありがとうございました。

 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。左藤章君。

左藤委員 おはようございます。自由民主党の左藤章でございます。

 参考人の先生方、本当にありがとうございます。お話を聞いていますと、三人の先生方ともども、今回の破産法はおおむね良好だということでございますので、どれを質問していいかなと、ふと困ってしまうわけでありますが、済みませんが、綿引参考人にお願いを申し上げたいと思います。

 須藤先生また青山先生から、この例の財団債権の件についてお話がありましたけれども、綿引先生からはなかったものですから御質問させていただきたい。特に労働債権の一部を財団債権としてしまう、それから租税債権の一部をするということについては、会社側の、法務部としてどうお考えか、御質問をさせていただきたいと思います。

綿引参考人 お答えいたします。

 労働債権につきましては、労働者の生活を支える最も基礎的なものでございますから、その保護を図る必要性が高いことは私どもも十分に承知しておりますし、要綱案の審議のときも労働債権の保護についてはできる限り意を用いてきたつもりでございます。

 今回の破産法案では、未払い給与債権については、手続開始三カ月後の給与債権は財団債権とする、最も高い債権に位置づける、それから退職手当についても同様の保護をするということで、またそれ以外のものでも優先的破産債権になるということで、実際にかなりの進歩が進んでいると思っておりますが、破産は、基本的には会社を全部清算してしまいますので、雇用関係についても終了することを想定するために、労働債権を最優先に保護するということとなると、退職金にしても、全雇用が終了するため、総額が相当大きくなるという懸念はございます。労働債権がすべて財団化されますと、破産財団で財団債権すら払えない、それで、手続費用が払えずに破産手続が終わってしまうという可能性もふえてきます。

 それから、清算を目的とする破産手続においては、会社更生と同じように、共益性というのがなかなかちょっと難しいところがあるんじゃないかということで、三カ月という今回の案につきましては、労働者の一定の保護が図られ、しかも、現在の破産実務に与える影響、これも許容できるんじゃないかというところで三カ月になったというところで、妥当なところじゃないかと思っています。

 労働債権の保護がこれで十分かと言われますと、まだまだ検討の余地はあるかと思いますけれども、この労働債権がぶつかる相手が、租税債権の国家財政にかかわる問題とか、担保権という経済秩序にかかわる問題でございますので、そういうところを検討しないとなかなか結論を出せない、非常に重要な問題だとは思っております。

 以上でございます。

左藤委員 ありがとうございます。

 今、労働債権の三カ月の担保という話が出て、おおむね会社側としてはそんなものかなという話でしたんですが、青山先生も須藤先生も、その辺、ちょっと具体的に、三カ月ということについては、妥当というか、もう少し多くてもいいか、いや、逆に少なくてもいいか、さっき二カ月という話もありましたけれども、その辺の御意見をひとつ賜りたいと思います。

青山参考人 労働債権の保護を、財団債権として何カ月分保護を図るのかということにつきましては、会社更生法では六カ月という保護の範囲になっております。これは、会社更生の場合には、企業を再建するために労働者にも全面的に協力してもらわなくちゃいけないということで、過去六カ月分にさかのぼって財団債権として保護し、それ以外のものは優先更生債権として保護するということになっております。

 破産法の場合はどうかといいますと、それとは少し違うかもしれないということから、今までは、破産法の場合には、全額、六カ月分が、株式会社の場合は全額ですが、普通の民法の適用を受ける会社と雇用関係の場合には、六カ月分が優先破産債権、残りは通常の破産債権となっていたものを、これを一挙に、三カ月分は財団債権とし、残りは全額優先破産債権にしたということですから、バランスがとれた解釈、立法かなというふうに思っております。

 これをさらに、例えば四カ月とか五カ月に引き上げろという考え方もあるいはあるかもしれませんが、そうしますと、今度は、配当財団というものが当然減るということになります。それとの兼ね合いで、会社更生が六カ月に対して破産は三カ月ぐらいがバランスがとれた立法論かなというふうに私自身は考えております。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 弁護士会で議論しているときには、六カ月程度保護してもよろしいんではないかという意見もかなり有力にございました。しかし、いろいろ権利関係を調整するという点から考えまして、三カ月というところは妥当な落ちつきどころではないかというのが私どもの方の意見でございます。

 以上でございます。

左藤委員 ありがとうございます。

 それと、個人の破産者の問題で、自由財産の問題、今度、範囲を広げさせていただいた。先ほどお話ありました、一・五倍の九十九万円まではいいんじゃないかという話になっておりますけれども、非常に難しい話、これも、必要生活費から見れば三カ月ぐらいかなと。それから先ほどの労働債権も三カ月、ちょっとリンクするのかもしれませんけれども、非常に、債務者になって破産をして、家族もある、そして再スタートしなきゃならない。

 そうすると、果たして三カ月、いろいろそれは、債権者にも非常に迷惑をかけたということはもう間違いなく事実でありますし、大変なことであることは事実なんですが、その九十九万、三カ月分ということについて、もうちょっと緩和できないかという考え方もあるし、先ほど申し上げたように、当然、それでも多過ぎるんじゃないか、それだけ人に迷惑をかけたんだからもうちょっと減らしてもいいんじゃないか、いろいろな考え方があるんですが、これについては弁護士会の方はどうお考えになられたんでしょうか。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 弁護士会の方では、三カ月分というのは相当大きな数字ではないかという第一印象でございます。もちろん、再生を図る債務者の立場で日ごろ活動している弁護士もおりますし、また、債権者の立場で、破産の配当が少なくて困るという立場の弁護士もおりまして、それらの弁護士同士でいろいろ協議した中では、三カ月というのは、それほど少なくはない、再生にとっては妥当な線ではないかというのが大方の意見でございました。

左藤委員 済みません、同じように、青山先生にひとつお願いします。

青山参考人 今度の破産法の改正は、先ほども申しましたけれども、手続の迅速化とか透明性の確保とか、いろいろの中で、特にやはり破産法というのは自由主義社会のセーフティーネットだから、これによって元気の出る破産法、希望のある破産法というものをつくろうというふうに私は考えました。

 その意味では、自由財産の範囲が今までの範囲よりも多くなって、九十九万、約百万円の現金が手元に残せるというのは、それが少ないという評価もできますけれども、破産者がそれだけ確保して再起をしようというものとしては最小限の資金になるのではないだろうかというふうに考えまして、三カ月ということで多くの方の御賛同を得たというのが私の印象でございます。

左藤委員 個人の話で申しわけないんですけれども、要するに、破産手続、三カ月残していただくのと、破産手続の問題、予納の問題がいろいろ言われておりますけれども、やはり予納するというのは、その分お金を持っていないと破産もできないという変な話なんです。特に、ないときは国から一時立てかえ払いも含めて検討はしているんですが、妥当かどうかは知りませんけれども、十五万という話であったりするわけであります、個人の場合。

 この辺はどうお考えになられるか、須藤先生にお願いします。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 ただいまお話にも出ましたように、国庫からの仮支弁という制度もございますので、予納できない場合でも、一応手続は進められるということになっております。そのほかに、いろいろ運用で、破産管財人をつけるけれども、少額管財などと呼んでおりますが、簡易な手続で行うんだから管財人の報酬も少な目で我慢してくれというようなことで予納金を低くするという運用もありまして、破産の申し立てをしたいんだけれども費用が出せないので手続がとれないというような事例というのは、かなり少なくなっているし、これからもなるんではないか、そんなふうに思われます。

左藤委員 ありがとうございます。

 実は、今度の破産法の前提で、迅速化、合理化ということで、親子会社の問題、特に、大阪、東京の、これは、千人以上の場合はそれぞれ大阪と東京の地裁ですね、そして五百人以上については高裁があるところの地裁へ申し立て可能ということになりますけれども、これによってかなりの迅速化、合理化、速くなる、これはもうありがたいことだと思います。

 そして、簡素化もできるだろうと思いますが、それ以外の、やはりもう少し小規模の負債者がおられる。五十人とか百人とかというのは、これについて、裁判所だけではなくて、私、一つの考え方ですが、司法書士さんを中心として、ADRのやり方もあるんじゃないか、このように思います。

 そういうことについては、青山先生はどういう考え方をお持ちになっておられますか。

青山参考人 お答え申し上げます。

 非常に債権者が少ないというような事件の場合には、現在でも、必ずしも裁判所に正式な形で破産の申し立てをするということではなくて、弁護士さんがそれぞれ工夫して、私的整理ということが盛んに行われております。

 今委員御指摘のADRというのも私的整理の一種だと思いますけれども、すべての倒産事件が裁判所に来るわけではない。現在、破産事件は大体二十五万件ぐらいでございますけれども、現実の日本の倒産事件の件数はもっと多いわけでございます。そういうものが、すべて裁判所ではなくて、特に少額、小規模の場合には、債権者集会を私的に開いて、そこに弁護士さんが関与されて適正に処理されているというケースもある。そういう中での今回の破産法の改正だというふうに私は考えております。

    〔委員長退席、下村委員長代理着席〕

左藤委員 須藤先生、申しわけないですけれども、弁護士会、これは隣接の司法書士会もあるんですが、今の問題、今、青山先生もお話があったように、ADR、これと破産について、ADRに対しての取り組みというか、これに関してどうお考えなのか、御質問させていただきたいと思います。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 ただいま青山先生からお話しのように、裁判外で解決される案件というものも多数ございます。破産になった場合にこういうような解決になるんだから、これがバックにありまして、それと似たような形での解決ということで、背後に破産手続があるために任意の整理ということもやりやすいというのが現状でございます。

 また、こういった倒産処理につきまして、弁護士、必ずしもこれは、いわゆる報酬の点で割のいいような案件ではありませんけれども、非常に献身的にこのために力を割いている弁護士も多数おりまして、比較的スムーズに処理はなされているんだろうと思います。

 お答えになったかどうかわかりませんが。

左藤委員 最後にちょっと一つ、そういう破産手続をする、それは弁護士さん、そしてそういう方も非常に忙しくなるわけでありますので、そういう関係の職員といいますかの教育、またそういうふうに、東京ガスさんなんか法務室があるわけですから、そういう大きなところで、そういうお客様に対してどういう話ができるような教育をなさっているのか、ひとつ綿引参考人からお答えをいただきたいと思います。

綿引参考人 破産法改正に関しましては、私ども、企業の債権管理という点で非常に密接な関連がございまして、私、ガス会社でございますので、ガス料金の回収とかそれから工事費の回収、そういうようなものがございます。

 実際にお客様に接しているセクションに対しましては、破産法改正というようなことで、こういう内容が改正になったと。特に、継続的取引に関する契約等の改正点がございますので、そういうものを十分に日常の業務に生かせるように教育していきたいと考えております。

 以上でございます。

左藤委員 時間になりましたので、失礼します。どうもありがとうございました。

下村委員長代理 柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 参考人の先生方におかれましては、本日は、御多用中のところをどうもありがとうございます。

 個人的なところを申し上げますと、青山参考人は、私が学生時代に民事執行法を教えていただいた非常に学恩ある先生ということで、本日は、よろしくお願い申し上げます。

 早速質問に入らせていただきます。

 今回の破産法の改正につきましては、先生方から御説明のあったとおり、非常に大きな前進であると私も考えております。そこで、まず先生方、なかんずくユーザーとしての立場から綿引参考人にお伺いしたいと思うんですけれども、今回の破産法改正が積み残した問題点、とりわけ経済界におきましては、例えば管財人の解除権との関係で、登録のない契約、登録のないライセンス契約の保護などをどうやって図っていくかというようなことが私は個人的には問題なのではないかなと思っているんですけれども、今後の課題についての御意見をまず先生方にお伺いしたいと思います。各参考人の先生方にお願いしたいと思います。

青山参考人 ライセンス契約は、双方未履行の、双方が義務を持っている一種の双務契約であろうというふうに思います。そこで、ライセンサー、ライセンシー、どちらでも一方が破産した場合の処理は、これは破産法の今までの現行法の規定ですと、五十九条の双方未履行の双務契約から考えていくべき問題であろうというふうに思います。

 そこで、破産管財人は、従来のライセンス契約を継続するのかどうかということを選択し、そしてその結果、もし継続をするということになれば、そのために払うべきものは財団債権として払うし、解除した場合には、相手方からの損害賠償という問題は破産法の中で処理する、そういうことになっているというふうに考えております。

綿引参考人 お答え申し上げます。

 今回の破産法案で、賃貸人が破産した場合の取り扱いについては、賃借人が対抗要件を備えている場合について、破産管財人の解除権を制限するというふうにしたわけですが、この規律は、契約上の使用収益権一般を対象とするということで、第三者に対抗することができる権利を目的とするライセンス契約におけるライセンサーの破産についても適用されるということになったわけです。しかし、対抗要件制度が用意された知的財産についても、通常実施権の登録は実務上非常に少ないと言われておりますので、一歩前進ではあるものの、やはり限界があるなと考えております。

 この点、昨年の七月に政府の知的財産戦略本部がまとめた報告の中に、知的財産権法における第三者対抗要件制度の見直しに関する検討を行うというようなことを言っておるようですから、知的財産権法による保護をちょっと今は期待しているという形でございます。

 以上でございます。

須藤参考人 弁護士会の方で統一的に、この点が積み残しなのでまた改正をというような統一見解は持っておりません。あくまで個人的な意見でございますが、例えば、いろいろな債権の優劣を決めるときに、現在は租税債権というものが一番優先する形になっておるわけでございますが、考え方によりますと、倒産した企業に一番密接なところから保護すべきではないか。

 例えば、労働債権というのは、そこに全面的に依拠していた人たちの権利ですから、これが最優先されて、それからその企業と取引をしている取引債権、こういったものが次に優先される、そして金融債権、そして租税債権は国民全体で負担するんだから一番遠い債権ではないかなどという考え方もありまして、いろいろ優先関係については意見がたくさんあるところでございます。ただ、租税債権の優先性というものについて、もう少し見直されてもいいんではないかというような個人的な考えを持っております。

 以上でございます。

柴山委員 どうもありがとうございました。

 次に質問させていただきたいのは、先ほど来、破産者のモラルハザードと、あとは、一度破産した人でももう一度やり直すことができるようにしなくてはいけないという、二つのある意味では相反する要請をどうやって調整していくかということに非常に大きな議論が割かれたのではないかなと思っております。

 その点から、今回の免責制度については、私が先ほど質問しようと思っていた事項については須藤先生の方から、悪意で加えた不法行為の運用の問題、あるいは給与再生の開始手続から七年ですか、以内の免責の申し立てというものが免責不許可になるということの問題点については御指摘いただいたんですけれども、私がここで一つ取り上げたいのは、免責手続中、例えば同時廃止とかによって既に破産手続が終わった後、免責が確定するまでの間に強制執行が結局できなくなってしまうというところで、これは非常に大きな議論、また判例の動きもあったところだと思うんですけれども、これについて新法では、個別の強制執行は結果としてはできなくなってしまうということで、行き過ぎた破産者の保護になっているのではないかという意見も当然あろうかと思うんですけれども、これについての御意見を伺いたいと思っております。

下村委員長代理 だれがいいですか。

柴山委員 では、青山先生と須藤先生に。

青山参考人 お答え申し上げます。

 今の問題は、最高裁の判例も出ておりますが、例えば、破産手続が同時廃止で終わった、免責の申し立てをしている、その間に、例えばその破産者の被相続人が亡くなって自分に財産が少し入ってきたというと、それを目がけて強制執行をする。その強制執行が許されるかどうかといいますと、従来の制度では、それは強制執行は禁止されておりませんので許されたわけでございます。しかし、その後に破産者が免責を許可されますと、そうすると強制執行でとられたものが不当利得になるかどうかということの問題もございました。

 そこで、今度の破産法の改正は、そういう破産手続と免責手続が連続しないことによって、その間を縫って債権者が、強制執行をかけられる債権者とかけられない債権者との間にバランスを失するのはおかしいのではないか、たまたま債務名義を持っている者は強制執行をかけられるし債務名義を持っていない者は強制執行がかけられない、そういう債権者の平等に違反するようなことはやめようと。それからまた、後になって免責が許可された場合に、その間にとられたものが結局返ってくるのかこないのか、そういう複雑な問題もありますので、この点は、債務者の再生、再チャレンジを保障しようということで一連の手続とした。

 これは私は、モラルハザードを生じさせないで、むしろ、これはアメリカ法なんかと同じですが、破産手続と免責手続を一つの倒産手続として考えることの方が合理的だというふうに考えております。

 以上です。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 破産というのは、破産宣告、今度の言葉で言いますと破産手続開始決定ということになりますが、その開始決定時にある財産はすべて吐き出す、先ほど自由財産というのが広げられたという点はございますが、しかし、それ以外の財産というものはすべて吐き出して弁済に充てるという手続でございますから、したがいまして、その後、免責をされるということは非常に妥当なものだろう。そうすると、たまたまその手続が進行している途中で給料債権等が差し押さえられるというのは、これはやはり何とか防止してあげていいんではないか。弁護士会の中ではほとんどがそういう意見でございまして、差し押さえを許さないことがモラルハザードを来すんではないか、このような意見は余りなかったように記憶しております。

 以上でございます。

柴山委員 個別の問題点をやっているとほとんど時間がなくなってきますので、ちょっと大きな観点から質問をさせていただきたいと思います。

 今回、我々自由民主党では、倒産法制のみならず、例えば、中小企業の社長さんを連帯保証人にとる包括根保証制度について、これを何とかして見直す必要があるのではないか、保証人を保護する必要があるのではないかという観点から意見を述べさせていただいているところでございます。

 そのような中で、保証人の倒産法制におけるあり方について、従前、いわゆる全部義務者ということで、破産宣告後にその保証人が履行しても、一部履行である場合には、その破産債権者たる地位の承継をする必要がなかったわけですね。この点について、実は、今まで実務に非常に混乱を来していた部分があって、例えば保証協会の代理人とかから、一部弁済するので破産債権の一部について地位承継をしてくれなんということを私も弁護士時代に何度か言われたこともあるんですけれども、こういうような制度をむしろ促進した方が保証人の保護ということにもつながるのではないかということで、いわゆる、この点についての抜本的な改革というものについてどうお考えか、青山先生に特にお話を伺いたいと思うんですが、いかがでしょうか。

青山参考人 大変大きな難しい問題を提起されました。今、法務省では、保証制度の見直しという、法制審議会にそういう部会がありまして審議しておりますけれども、そこでその問題を扱うかどうかは私は十分には存じておりません。

 会社が倒産した場合に、特に中小企業の場合には、社長さんが個人保証人になってもらわなければお金を貸さないという事態は、もう一般的でございます。そうすると、もともと有限責任である会社が倒産すると、では個人である連帯保証人である社長さんが今度は前面に出てきて無限責任を追及される、これはおかしいのではないかというのは、感覚としては私は非常によく理解できる、その点は委員のおっしゃるとおりでございます。

 さて、それでは、民法の保証制度、特に連帯保証というものをどういうふうに考えるかという大きな問題があろうかと思います。もともと連帯保証人、あるいは通常の保証人もそうでありますが、主たる債務者が破産した場合には連帯保証人が全面的にそれを引き受けるということで民法はつくられているわけですね。

 しかし、一般に世の中で、私も何人も連帯保証人になって大丈夫かなと思ったこともありますけれども、連帯保証人になる場合に、それほど、この人が倒産したら自分は全部ひっかかるということをきちんと意識して判こを押すのか、あるいはそこまで考えていても、判こを押さないと言ったらこれは人間関係がこじれちゃうなというようなことがあって判こをつい押してしまうという現実があろうかと思います。

 最近は、そういう個人、連帯保証にかわって保証協会とかそういうものができつつありますけれども、しかし、全部が保証協会で保証がされるわけではない。そうすると、委員今御指摘のように、やむを得ず連帯保証人になってしまった、それで主たる債務者が倒産しちゃった、さあどうしようかという事態はおっしゃるとおりだと思います。

 これは二つの方向があると思いますが、一つは、連帯保証というものはそういうものであるということをきちんと教育して、そういうものとして運用していくということが一つ。もう一つは、連帯保証人の義務というものを軽減するということは、これは法律の改正をすればできるわけであります。どちらをするかということは、これは日本の金融政策全体との関係で考えなければならない問題かなということで、特に私は今連帯保証人の義務は軽減した方がいいというような定見は持っておりません。広く検討していただきたいというふうに思っている次第でございます。

柴山委員 最後の質問とさせていただきたいんですけれども、これも私の実務における一つの経験であったんですけれども、賃貸借契約における賃貸人の倒産についての今回の法制度について、対抗要件を備えればそれは引き続き保護されるというお話をいただいたんですが、この場合の賃借人の敷金返還請求権がどうなるかという問題が一つございます。

 これについては、再生手続あるいは会社更生手続におきまして一定の保護はされたところでございますけれども、実は、私、これが果たして本当に全額保護されるものなのかどうなのかというところで、非常に、裁判でも争った経験があるものですから、これについて、今後、破産手続でどのように処理されるのかということについて御意見を伺いたく思います。それでは、青山先生と、では須藤先生にお願いします。最後の質問です。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 間違っておりましたら青山先生に御訂正いただきたいと思いますが、敷金を預けている場合に、賃料は払うけれどもそれを寄託しておいてくれという制度が今回設けられたわけでございます。

 そうしますと、敷金の返還請求権というのは、後に明け渡した後でなければ返還の請求ができないわけで、現在、すぐにそれを賃料と相殺ということはできないわけですが、そのように、寄託させておいて、後に明け渡すときに賃料と敷金返還請求権を相殺した上で寄託していたお金を全額返してもらう、こういったことができるようになったんだというふうに私は理解しておりまして、これは妥当な改正だろうというふうに思っております。

 以上でございます。

青山参考人 私の答えも今の須藤参考人の答えと全く同じでございますが、従来は、賃貸人の破産の場合に解除ができる、賃借人は保護されない、ただ敷金を納めている場合には当期及び次期の分だけが保護されるという法制であったわけですが、今回は、賃借人はそこに居続けることができるという保護の制度を取り入れ、今御指摘にありましたように、敷金返還請求権についても、寄託という制度を設けることによって金銭的にも保護が図られたのではないかというふうに思っております。

柴山委員 以上です。どうもありがとうございました。

下村委員長代理 漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。きょうはどうもありがとうございました。

 早速質問に入りますが、まず青山先生に、冒頭のお話の中で今回のこの法案の意義について、債務者に対する再チャレンジ、セーフティーネットというような話がございました。破産といえばもうとにかくすっからかんになるんだというふうに頭の中にあったんですが、しかし再チャレンジ、セーフティーネットという意義づけがあるんだということをお聞きしましたが、今までの破産に対する考え方が変わったのか、あるいは、さらに具体的にどんな法文になってあらわれているのか、その辺の御説明をしていただきたいと思います。

青山参考人 破産というものをどういうふうにとらえるかということにつきましては、年代によってかなり違うと思います。国によってもかなり違うと思います。

 日本は、従来から、破産というと破産者の烙印をぺたっと押されまして、この人間はもう人格も何もない、特に昔は選挙権まで剥奪されましたから、破産者はもう人生の落後者であったわけでございます。そういう制度が、昭和二十七年に、アメリカの制度を導入して、免責という制度をし、破産者は別に犯罪者でもない、むしろ破産者がフレッシュスタートに立って再スタートをしていくのを支援する制度でなければいけないというふうに、破産制度は昭和二十七年から転換したわけでございます。

 しかし、そうはいいましても、日本では破産の免責の申し立てというのは、昭和二十七年からそういう制度があったんですが、ほとんどずっと使われておりませんで、それが使われ出したのは昭和五十年代、昭和四十年代の暮れから五十年代に入って、サラ金地獄ということが始まった時期でございます。これは、裁判所に破産の申し立てをみずから申し立てて免責を得るということが、日本人にとってはやはり恥ずかしいということがずっとあったわけですが、もうそうは言っていられない、サラ金に追いかけられている、裁判所の前は門前市をなすような状態になってきたわけですね。

 アメリカでは、破産は年間百万件ぐらいある、ほとんどが消費者破産でございますが、日本では、先ほど言いました二十五万件の破産事件のうちの九割五分ぐらいでしょうか、二十二、三万件が個人破産だと思います。

 ですから、今は破産法というのは二つの面を持っておりまして、一つは、破産したらその財産を清算する、これは無色透明で清算する、しかし、破産をしたという個人は、やはり再チャレンジの機会を与えて、経済界に復帰することを支援しようではないか、そういう二つの面を持っているのが現在の破産法でございまして、具体的な条文ということをおっしゃいましたけれども、先ほどちょっと申しました自由財産の範囲の拡大というようなものがそういうフレッシュスタートを支援する最大のものというふうに私は了解しております。

漆原委員 綿引参考人にお尋ねしたいと思います。

 破産手続の迅速化という点については大変すばらしいと思うんですが、異議が述べられた場合に、従来であれば訴訟手続で厳格な裁判をやってきたわけですね。ところが、今度は決定手続でいいというふうな話になりまして、非常に迅速化には役立つんだろうけれども、一方で債権者の保護に欠けることはないのかというこの観点からはいかがでしょうか。

綿引参考人 お答えいたします。

 査定の制度という感じで非常に迅速な手続がなされるということでございますが、それで問題があれば、また異議の訴訟というものが起こせますので、そちらでできるということで、最終的な制度的保障はなされているというふうに感じております。原則的には査定の手続で迅速にやる、そして問題があれば訴訟まで行くというふうな形で、問題ないかと思います。

漆原委員 青山参考人にお尋ねしたいんですが、今回は、財団債権の範囲について、租税債権と労働債権の位置づけが大きく変わった、逆転するぐらいの変わり方をしましたね。一生懸命管財人がお金を集めても、今までは全部税金で持っていかれちゃって何も残らないというケースが結構ありまして、この辺が非常に大きく変わったんですが、これをこういうふうに変えるについてどんな検討がなされたのか、お尋ねしたいと思います。

青山参考人 お答え申し上げます。

 租税債権が従来はほとんどその全部が財団債権であったことは委員御指摘のとおりでございます。これは、しかし、破産手続前に生じた、破産手続開始決定以前の原因に基づいて生じた債権ですから、ほかの私的取引から生じた債権ですと通常の破産債権であるのにすぎないのに、それを財団債権として保護するのはおかしいのではないかということがもう随分前から指摘されておりました。

 これについては、諸外国はどうかといいますと、やはり租税債権、地方税もそうですし社会保険料もそうでございますが、そういうものは国家財政の基盤、国家運営の基盤でありますから、通常の破産債権、私的取引の債権よりも保護の程度はどの国でも高いわけでございます。高いわけでございますけれども、それを日本でいいますと、優先破産債権まで高めるのか、財団破産債権までにするのかという点は問題があるところでございます。

 日本は、大正十一年にできた破産法以来、租税債権は財団債権としてほとんど全額保護されていた。これを、やはりおかしいという議論がありまして、どこまで下げるのかということで、これは全額を優先破産債権にすべきだという意見と、いや、やはり財団債権として一部は残しておくべきだという考え方とありまして、先ほど申しましたように、結局は、破産手続開始決定前に、まだ納期限が到来していないもの、あるいは破産手続開始決定より一年前に、一年以上納期限から過ぎていないものというものは、これは財団債権として保護しよう、それ以前の、ずっと取りっぱぐれをしなかったものについては、これは財団債権としなくてもいいのではないかという結論になったわけですけれども、これはそれを財団債権にしない、全額もう財団債権にしない、もっとさかのぼらせるというようなことになりますと、財務当局は、取りっぱぐれだと優先破産債権に格下げされちゃうというと、どんどん国税徴収、徴収手続をかけてくる。そうすると、かえって債務者の経営を圧迫するということも懸念されます。

 そこで、どこまでを財団債権とし、どこまでを優先破産債権として処理するかということのバランスを考えまして、まあ一年、破産手続開始から一年前ということで、まだ納期限が到来してからわずかであるというものは財団債権として保護する、それ以前のものは、もともと徴収しようとする努力をすれば徴収できたはずなのだから、優先破産債権として保護していいんじゃないか。その辺が大体、債務者の経営の圧迫を回避しつつ租税債権をある程度労働債権とバランスよく処理する手続になるのかなということで、先ほど申し上げたような結論になったという次第でございます。

漆原委員 須藤参考人にお尋ねします。

 先ほども多重債務者という話が出ましたね。債務者の中には、本当に借金を返すために、後半になりますと借金返しのために借金をしていく、こういうケースが多いですね。それからまた、これは特に女性なんかに多いんだろうけれども、クレジット会社から、どんどんクレジットで買いますね。自分の給料をオーバーするような、もう今までのものを全部累計しますと、分割払いのお金も累計しますと、給料をオーバーするような場合にまで、まだ買ってくるというようなケースが結構多いんですが、現行法では、本来こういう人は免責不許可事由になると思うんですが、現在の裁判の実態はどうなんでしょうか。お尋ねします。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 確かに、浪費であるとかそういったものについては免責不許可事由に当たるということのようでございますが、ただ、一応免責不許可事由に当たるような場合でも、最近は、管財人にその辺の調査をさせまして、免責相当であるというような意見が出た場合には免責を許しているというような実務がございますので、今回の改正によって実務がそんなに大きく変わるということではないかというふうに思っております。

漆原委員 今の若い人は本当に気軽に借りて気軽に破産をして罪悪感がないという、大変これは問題があると僕は思っているんです。

 今回の手続の中でも、免責手続と破産手続を一体化する、あるいは免責手続中の個別執行禁止効を持たせるとか、さらには審尋を不要にするとか、これは迅速という観点では非常に私はいいと思うんだけれども、しかし、モラルハザードという観点から見るとどうなのかなという気がするんですよね。やはり借りたものは返す、借りたものを返させる、こういうことが大事なのではないのかな。今の法律扶助制度もほとんど免責に使われているような状況でございまして、いい法律をつくっても、結果的にそういうモラルハザードを助長するようなことに全体的になってはいないのかなというふうに思うんですね。

 たしか、十年ぐらい前だったのかな、東京地裁は免責決定をすぐにくれませんで、一割ぐらい返済させるんですよ。返済したという領収書を持ってきたら初めて免責、こういうことをやっていましたが、今はそんなことはしませんね。ばあっと全部免責になっちゃいますので、ここまでやったら本当に裁判所が免責の手続を、お墨つきをくれるだけの機関になってしまいやしないのかなというふうに思います。

 したがって、これは青山参考人にお尋ねしたいんですが、今回の改正の中で、このモラルハザードという観点から、できるだけ借りたものは返させるんだというシステムにすべきじゃないのかという、こういう観点からの意見はなかったんでしょうか。いかがでしょう。

青山参考人 お答えいたします。

 借りたものは返せというのは、平時における、日本における基本的なルール、世界における基本的なルールでございまして、日本も借りたものは返せという純風美俗が今でも生きていると思いますし、それは当然のことでございます。

 しかし、一たん倒産になったという場合に、本人が必ずしも、その倒産に巻き込まれたあるいは倒産したということに重大な過失がないという場合に、その人間を免責もしないで放置しておきますと、今度は自殺をしたり一家離散とか心中とか、そういうことにつながるわけでございます。

 そこで、モラルハザードを防ぎながらそういう事態をどう打開するかというと、この場合には平時における我々が通常考えている規則とは別のルールを考えていかざるを得ないのかなということでございます。

 今回も、しかし、モラルハザードを生じないように、破産者は重要財産を全部出せとか、免責をする場合も管財人がきちんと調査をするとか、そういうことをしながら、しかし、免責不許可事由が、今度も免責の不許可事由があるかどうかは慎重な審査をいたしますし、それから、これは免責は、幾らほかの債権は免責してもこれだけは絶対許さぬ、不法行為の、重大交通事故などの被害者に対する損害賠償債務とかあるいは扶養料債務というようなものは、今まではそれは免責されていたわけですけれども、そういうものはやはり免責はしない。破産者としては、そういうことについてはきちんと責任を持たなくちゃいけない、そういうことを法律で明確にしたつもりでございます。

 ただ、この問題は、委員御指摘のとおり、倒産法という狭い世界だけで処理できるものではなくて、私は、日本における教育制度の中に消費者教育というものをもっともっと浸透させて、消費者として賢くある、そういうものを小さなうちから教育していかなくちゃいけない。そういう中で、借りたものは返せという法律の最も基本的な原則をきちんと身につけさせる、そのことが必要ではないか、倒産法だけで処理しようとしても少し限界があるのかなというふうに考えております。

漆原委員 時間になりました。ありがとうございました。

下村委員長代理 山内おさむ君。

山内委員 民主党の山内おさむでございます。

 参考人の皆さん、本当に御苦労さまでございます。貴重な御意見を賜ることができまして、これから野党の破産法に対する質疑が始まるものですから、そういう意味でも、御意見を踏まえて、政府に改正の趣旨の徹底等を図らせていただこうと思っています。

 のっけからまことに恐縮なんですけれども、綿引参考人、東京ガスでは、例えば銀行から東京ガスが借り入れをする際に、代表取締役や取締役は全員が連帯保証人になっているんですか。

綿引参考人 私は法務のセクションにおりますが、実は財務のセクションで多分そのようなことはやっておると思いますので、ちょっと詳しくは知らないんですが、取締役が全員、連帯保証しているということはないんじゃないかと考えております。

山内委員 破産事件について、官報を見ますと、たまに同じ名字の人が二人、破産宣告を受けているというようなケースがあって、これは多分、例えば夫がリストラに遭って、もう生活が狂っちゃって、女房にまで借りに行かせて、結局二人そろって破産しているんじゃないかなと思っているんですが、今お話をお聞きしました、会社の場合、法制審議会で二月から審議をされている中の一つに、包括根保証の問題点について検討がなされているわけです。結局、会社が借金をすると、代表取締役は当然のこととして個人保証を押す、取締役も押させるし、銀行の運用によっては会社内だけではなくて第三者の印鑑を求めたりすることもあるわけなんですね。

 そのときに、私もこれってちょっとひどいなと思うのが、連帯保証人の判こを押させる文書の中に、今まで会社が借りている借金も保証する、これから判こを押したその一件の借り入れについては当然だけれども、それ以降の借り入れについても全部保証するということが書いてあるんですね。

 結局、会社が倒産をすると、判こを押した全員がまた個人破産の申し立てをする。この包括根保証の問題については、判例で、かわいそうだ、酷だなというような事例の場合には個別に救済をしている例もあるようなんですが、だけれども、やはりこれは法律で、そういう無制限な包括根保証は禁止するというような法整備、あるいは、何か、金融機関に指導するというだけではちょっと足りない、もっとしっかりとした指導が必要ではないのかな、法律による指導が必要ではないのかなと思うんですが、まず、青山先生とそれから須藤先生、お願いしたいと思います。

青山参考人 包括根保証の問題について、私、詳しくは存じ上げていないんですけれども、企業が銀行等から融資を受ける場合に、融資の条件として、金融機関は、これは確実に返済してもらわなくちゃ困る、そのために担保権、物的担保をとるということのほかに、最後の堡塁といたしまして代表取締役等に連帯保証人になってもらう。特に、今おっしゃるように、包括根保証みたいに、債権額がふえたり減ったりしても全部最終的には担保をとるということが現在行われております。

 かつてはこれは、それは形式だけで、それが実際に発動されることは余りないというような時期もあったかと思いますが、今は法律がきちんと、法律意識が、もう判こを押したものは押した、義務を負ったんだからやれということで、それが強制的な履行を迫られている。そうなると、今委員御指摘のように、会社が倒産すると、たちまち包括根保証の保証人は一蓮託生に倒産に追い込まれるという事態がしばしば見られる。そこで、これは非常に問題だということで、法制審議会が、まさに今そういう部会ができて動き出している。

 これは、法律でどうするかという問題と、金融の実務をどうするかという二つの問題があると思います。かつては、そんな、最後の堡塁としては精神的にそういうものをとっても、実際には発動しないというケースもあったわけですから、金融の実務の改善だけでもひょっとすると片づくことかもしれませんし、そういう銀行等に対する指導だけで、行政指導だけではもう片づかないということになれば、法律で何らかの手当てをする。

 どういう手当てをするかということについては、私はここで申し上げる地位も経験も持っておりませんけれども、それは何とかしなければいけないという問題意識だけは持っておりまして、それから、間もなくそれは何らかの、法制審議会での、どういう立法になるか、あるいはしないのかわかりませんけれども、結論が出るというふうに私は期待しております。

須藤参考人 お答えを申し上げます。

 保証人がいるので、保証人に迷惑をかけられないから倒産手続の申し立てはできない、こういう事例も結構あるわけでございまして、企業が再スタートを切るためには、なるべく傷が浅い段階で倒産手続の申し立てをして債権者の迷惑も最小限にとどめるということが望ましいんですが、ところが、保証人には迷惑をかけられないということで、それがなかなか早期に決断ができないという点がございます。こういった点で、保証に頼る金融というものについてはやや問題があろうかと思います。

 また、金融機関からの相談を受けることも我々弁護士はあるわけでございますが、法人が倒産した、もう会社からはとれない、個人も大した財産はないんだけれども、しかし保証をとっている以上は、これに対してそのまま放免というわけにいかないので、どこまでやったらもう貸し倒れにしていいだろうか、そういった銀行内のコンプライアンスという点から、保証をどの程度履行を求めるかについて苦慮している、こんな点もございまして、債務者、債権者双方にとって、保証をただとればということはやや問題になっているのが実情かと思います。

 金融の実務においても、担保とか保証に頼らない金融というものを考えるべきである、こんな考え方が趨勢になってきているようでございますので、この辺は今後いろいろ手当てがなされることが望ましいだろうというふうに思っております。

山内委員 破産法の中には破産管財人に関する規定がありまして、その破産管財人の規定の中に複数の破産管財人を選任したときの規律が何条かあるんですが、一人の管財人を選任するのと、それから複数の管財人を選任することとのメルクマールみたいなものをつくっておく必要はないんでしょうかというお尋ねを青山先生にさせていただきたいと思うんです。

 なぜこういう質問をするかといいますと、管財事件が長いと思うんですね、終わるのが、終結をするのが。昨年、裁判については、とにかく二年以内に解決すべきだという迅速、充実化法というのを私たちの方でつくったものですから、そういう裁判と比較しても、管財人もいろいろな事件があるでしょうから、二年以内に何か結論を出せというのも酷でしょうけれども、もう少し早く管財事件を終わらせるべきではないかと。何年も管財事件が長引いていて配当率が一%だったというと、これは腹が立つ以外の何物でもないものですから、その点、先生、何かお考えはないでしょうか。

    〔下村委員長代理退席、委員長着席〕

青山参考人 十分なお答えになるかどうかわかりませんけれども、会社更生の管財人の場合には、法律管財人と事業管財人という複数制がとられることが間々あります。破産事件の管財人は、やっていることが、財産を集めてそれを換価して配当するという一つのことでございますから、複数の管財人が選ばれる必要はそうないだろうと思います。ただ、事件が大きくて、それから幾つかの部門に分かれているというような場合には、この部門についての管財事務と別の部門についての管財事務ということは分けるというようなことも考えられますし、それから、一つの事務所、その管財人のマンパワーが十分でないという場合には、一人ではできないから、共同管財人という例もあるだろうと思います。

 今の委員の御指摘は、何か複数の管財人を立てるのか、単独の管財人を立てるのかについてメルクマールを明らかにしたらどうか、そういう御指摘だと思いますが、裁判所の実務では、それは管財人の忙しさとか、その事務所のマンパワーというようなものを考えて、具体的に管財人を依頼して選んでいるだろうと思います。その場合に、では、複数の管財人はどういう場合に選ぶかというのも、一応の裁判所としての基準があって運用されているのではないかというふうに私は推測しております。

 ただ、それとは別に、今御指摘のように、破産、特に管財事件が三年も四年もかかって配当率が一%ということになると、これはやはり債権者としては問題だ。具体的には、例えば、非常に売れにくい物件が残っていて、その後始末に困るとか、破産財団の中に汚染されている土地があって、それは売れない、むしろ負担がある、これをどう地方公共団体と折衝しながらその汚染されている土地をきれいにしていくかというようなこともあるだろうと思うんですね。そういうことで、破産事件が長引くということはあると思いますが、私の認識では、破産事件の処理は二十年前に比べると随分速くなったという印象を持っております。

 ただ、例外的に、大きな事件とか例外的な事情を抱えている事件がたまには長いこともある。それは今後どういうふうにして改善していくかというのは、裁判所なり、裁判所と弁護士会と協議をするというような場を設けて、改善をしていくべきではないかというふうに考えております。

 以上でございます。

山内委員 今の論点に少し関連するかと思うんですが、須藤先生の書かれたものを読ませていただいた中に、佐賀商工共済協同組合のことを書かれた論考があったんですが、この事件は、昨年九月以降問題となっているようですけれども、陣内という理事長の時代に粉飾が始まって、借金もかさんでいったということのようですが、この理事長さんの責任というのは問われているんですか。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 ごらんになっているものは恐らく新聞か何かの記事かと思いますが、私は、その事件そのものはよく存じておりませんで、ちょっと記憶をたどりますと、電話か何かで地方の新聞社か何かからの取材を受けまして、一般論を申し上げたことはございますが、具体的な中身については存じ上げておりません。

 ちょっと一般的に申し上げますと、破産会社あるいは破産者の理事等の役員について不正行為があるというようなことで、損害賠償の請求をすべきだという場合には、今回の破産法の改正でも、役員の責任についての査定という簡単な決定手続で損害賠償額を決めてもらうというような手続も出ておりますので、そういう必要のある案件ではそんなことが活用できるんではないか、そんなふうに思っております。

山内委員 時間が来ましたので最後の質問になりますが、今のお話の中で、管財人が一人で五千人の債権者を相手にしていたということで、私は、これも先生が問題にされているのかなと思って読んだんですが、先ほどの青山先生にお聞きした論点に関して、つまり、破産管財人を複数にする手段、あるいは法制化、あるいはそういう基準というんですか、そういうものについては、先生はどう考えておられますでしょうか。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 先ほど複数管財人ということが話題になっておりますが、管財人は一人でも、管財人代理を多数つけまして迅速に処理をするということが考えられます。今回の改正法では、管財人代理というものを選任できるということが明文化されましたので、これを活用することによって、そういう複雑あるいは広範囲な案件も迅速に処理できるんではないか、こんなふうに考えております。

山内委員 終わります。どうもありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 松野信夫君。

松野(信)委員 民主党の松野信夫でございます。

 本日は、大変御苦労さまでございます。私が最後の質問ということで、よろしくお願いをしたいと思います。

 まず、青山参考人にお尋ねしたいと思います。

 破産法の目的については、第一条のところに記載があるわけであります。債権者と債務者の間の調整というのが一つうたってあるし、また債務者について再生の機会を与える、立ち直りをしていくというのとうたってあるわけです。そうすると、どうしても債権者と債務者というのは利害が対立をしているわけですから、債権者、債務者間の調整というのをより重視していくのか、それとも債務者の立ち直り、更生というのをより重視していくのか。ここで二つ、この破産法全体を貫く考え方というのが分かれるのかなという気もいたします。

 そうすると、今回の破産法というものは、例えば自由財産の範囲を拡大するということで、債務者が立ち直りやすいような配慮がうかがわれるわけで、私はこれは非常に評価をしているんですが、世界的に見まして、世界各地でも破産法というのは制定されていると思いますが、世界的な観点から見て、日本のこの破産法、今度の新法というのはどういうふうな位置づけになるのか。割合、債務者の立ち直りというのをより重視した部類の方に入るのかどうなのか、その辺、わかれば教えていただきたいと思います。

青山参考人 破産法の目的から、具体的に破産の理念は何かという御質問かと思います。

 かつての日本の破産法は、破産というものは、債権者のために債務者の総財産を清算して、なるべく多くの配当をするということが破産制度の目的だというふうに考えられておりました。これに対して、昭和二十七年にできた会社更生というのは、企業を再建する、立て直すということを目的とした制度でございます。そうすると、日本では、破産法の目的は企業の解体、清算、会社更生の目的は企業の再建というふうにはっきり目的が分かれていたわけでございます。

 しかし、破産法が昭和二十七年に改正されて、そのときに免責という制度が入ったということは先ほど申し上げましたけれども、免責というのは、実は個人の破産者を再生させるための制度でございます。

 今度の破産法は、その個人についての再生のところをきちんとうたい込んだ。したがいまして、新破産法の目的は、法人破産というようなものにつきましては、法人について法人格を再生させるということは考えられませんから、この場合には、財産を解体、清算するということに力点がある。債権者の保護のためになるべく多くの配当をするということに力点がある。

 しかし、個人の破産者、これは消費者破産もありますし、個人としての事業者破産もあります。こういう個人の破産者については、破産したからといって、もうあなたは経済界からは退場してほしいということは言えません。やはり個人としては、経済生活を再建しあるいは個人事業を再建し、また再チャレンジする機会を与えるということがどうしても必要であります。

 したがいまして、この第一条の後段に書いてあります、債務者についての経済生活の再生の機会を確保するというのは、主として個人破産者を念頭に置いてこれをうたったわけでございます。したがって、日本の今度の破産法は二つの目的をあわせ持っている破産法だということになります。

 それでは、それが世界的に見てどうなのかということでございますが、アメリカの破産法は、もともと破産というのは債権者に配当するためのものというよりも債務者を更生させるためのものというところに力点を置いております。それに対してドイツの破産法は、昔は日本と全く同じ制度、日本がドイツ法をまねたということですから同じ制度であったんですが、ドイツ法も二十世紀の末に、破産法は一九九九年から改正施行されましたけれども、それで法人倒産と個人倒産を分けまして、目的をそれぞれ別にしております。

 ですから、日本の破産法は、この二つの目的を持っているということでは、それぞれの世界が、世界の各国もそういう破産制度の目的というものについて、清算を目的とするのか、それとも個人の再建を目的とするのかと模索している中での法律だ、それが別に際立った法律ではなくて、世界のスタンダードに達しているというふうに私自身は評価しております。

 以上でございます。

松野(信)委員 ありがとうございました。

 もう一問、青山参考人にお尋ねしたいと思います。

 特に個人の破産者が非常にふえている、もう二十五万人ぐらいにもなっているということで、大変な問題になっているわけであります。その背景事情としてはいろいろな点があります。サラ金だとかやみ金融だとか、いろいろな問題があるんですが、そのうちの一つとして論点になるかなというふうに私が考えておりますのは、民事訴訟法の二百二十八条の四項という規定がございます。先生は民訴法の専門家でございますが、二百二十八条の四項というのは、要するに、文書に署名または押印をしていれば、それは本人がしたものと推定をするという推定規定があるわけですね。

 そうしますと、金融機関が十分な説明もしない。例えばノンバンクあたりがろくな説明もしないで、とにかく判こだけつけ、あるいは名前だけ書けということでやらせる。そうすると、いや、そんな話はろくに、金銭消費貸借の詳しい話、あるいは連帯保証人になる、そういう詳しい話はろくに聞いていなかった、勝手にうまいことやられたとなっても、現実にはその推定規定があるものですから、なかなか裁判所のレベルではそれをひっくり返すということが難しい。そうすると、やはり連帯保証人としての保証債務を追及されてしまうということから、例えば保証倒れのような形で負債がふえてしまう。

 こういう例もあるもので、私も実務的にそういう経験を踏まえて考えますと、この民訴法の二百二十八条の四項の推定規定というものは見直してもいいのかな、あるいは削除してもいいのかなというような考えもあるんですが、この点、先生の率直な御意見をいただければと思います。

青山参考人 私の答えは、木で鼻をくくったような答えになると恐縮ですけれども、そういう事態は民事訴訟法二百二十八条の四項の罪ではないというのが私の答えでございます。

 やはり、私文書に判こを押したというので真正が推定されるというのは、日本のように判こ社会では昔からそういうことになっていたわけでございまして、私文書は、それが本物かどうかをどうやって見るかというと、やはり判こ文化というものが、今だんだんなくなりつつあるかもしれませんけれども、まだ現実に機能している。その中で、一挙に、この二百二十八条の四項は悪い規定だから排除するということではなくて、やはり運用を改めていただきたいというのが私のお答えでございます。

 それからもう一つ、先ほどちょっとお返事申し上げるのを失念したことがありますが、破産事件が統計によるとどんどんどんどんふえている、毎年二万件、三万件ふえているという現象が今後続くかということでございますけれども、ことしの事件は決して去年の同時期に比べてそんなにふえていないということも言われております。

 破産者に対する免責について、免責手続を厳重に運用し、それから非免責債権というものもふやすということになると、安易な免責を目的とする自己破産、免責の申し立てというのもそんなにふえないのではないかというのを、私は希望的にそういうふうに考えております。実際にどうなるかわかりませんけれども、運用としてはそうなってほしいなと。安易に借りて、借りまくって、そして最後は裁判所に行けば救済してもらえるんだからということで運用がなされるということがなくなるようにということを希望しております。

 以上でございます。

松野(信)委員 ありがとうございました。

 では、続いて綿引参考人の方にお尋ねしたいと思います。

 否認のお話がありまして、適正価格で不動産が処分されるということで、否認の要件が明確になったというお話がありました。新法でいいますと、百六十一条という条文がありまして、相当の対価を得て不動産あたりを処分したという場合は、原則として否認の対象にしないということですね。

 ただ、具体的なケースではなかなか微妙なところもあるかと思うんですね。倒産しかかっている会社が、例えば不動産を持っていて、それが大体一億円ぐらいの不動産だと。それを、例えば七千万ぐらいで売ればいいのか、八千万ぐらいなら、六千万ぐらいならいいのか、具体的な事例では、「相当の対価」という記載になっているんですが、やはりなかなか悩ましい。

 買ってあげる人は、窮地に陥った会社を助けてやろう、こういう本当に善意の気持ちで、幾らか少しは安く買うということで、そういうケースも当然あるだろうと思うんです。そうすると、善意で少し安く買った、ところが、後からこれは相当の対価でないというふうなことで否認されてしまったら逆に気の毒だなということで、実際の実務上、「相当の対価」というふうにうたってはいるんですが、なかなかそういう悩ましいケースも出てくるんじゃないかという心配をしているんですが、この辺はどのようにお考えでしょうか。

綿引参考人 非常に難しい問題かと思うんですが、一応、法律をつくったときのお話によると、適正な価格というのは時価であるというふうに聞いておるんですが、時価が本当にその価格かどうかというのはなかなか難しいところだと思います。

 ただ、適正価格売却については、要するに、例えば不動産を金銭へ換価したというような場合の行為が隠匿等の処分をするおそれを現に生じさせるものであるというような要件とか、それから、破産者が隠匿等の処分をする意思を有していたこと、それから、相手方が当該行為の当時こういう意思を有していたことを知っていたときというような、いろいろな条件がございます。

 それからもう一つは、受益者の主観的要件に対する証明責任が受益者の負担となっておりますので、善意の証明に成功しないと否認権が成立するおそれがあるということですから、そういうことも踏まえて判断されると思いますので、今までに比べれば随分進歩したかなというふうに考えております。

 以上でございます。

松野(信)委員 最後に、それでは須藤参考人の方にお伺いしたいと思います。

 やはり破産事件が円滑に進むというためには、何といっても管財人、有能な管財人がしっかり手当てされるということが大変重要ではないか。特に最近は、少額管財事件、先ほど言われました、そういうケースがふえている。そうすると相当の数をそろえなければならない、こういう現状にあろうかと思います。

 私が見るところ、大都市、東京、大阪あたりだとかなりなり手がいらっしゃるので、それはそれなりに管財人を手当て、弁護士さんを手当てすることは可能かと思うんですが、地方に行きますと、そういう面倒くさい管財業務なんか余りしたくない、もっと別の仕事の方がある意味では割がいいということで、なかなか管財人のなり手もいないというような話も聞くんですが、その辺、弁護士会の方ではどういうふうにお考えになっていらっしゃるんでしょうか。

須藤参考人 お答え申し上げます。

 委員の先生、御指摘のとおり、東京では幾らでもなり手があるといいましょうか、若手の弁護士の研修会などを行いまして、そこに出席している弁護士は関心のある弁護士だろうというようなことで、そういった人たちを管財人の候補者ということで、幾らでも供給がつくわけでございますが、地方の弁護士会から来ている委員などの話を聞きますと、大体一人年間十件ぐらいを管財事件として処理しなきゃいけない、これはなかなか大変なものだというようなお話を聞くことはございます。しかし、皆さんで分担して、いろいろな経験の交流をしながら、適切に処理しているというのが現状だと思います。

 今回の改正法で、簡易な、迅速な手続をとることが可能になってまいりましたので、そういった面でも、この改正が通りますと、地方で管財人のなり手が少ない案件についても、地方についても迅速な処理が進むんではないか、こんなふうに期待しております。

松野(信)委員 時間が参りました。ありがとうございました。

柳本委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人各位におかれましては、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございます。厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、明十九日水曜日午前八時四十五分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十二分散会


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