衆議院

メインへスキップ



第32号 平成16年6月1日(火曜日)

会議録本文へ
平成十六年六月一日(火曜日)

    午前十時二分開議

 出席委員

   委員長 柳本 卓治君

   理事 塩崎 恭久君 理事 下村 博文君

   理事 森岡 正宏君 理事 与謝野 馨君

   理事 佐々木秀典君 理事 永田 寿康君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      江崎洋一郎君    左藤  章君

      桜井 郁三君    柴山 昌彦君

      中野  清君    蓮実  進君

      早川 忠孝君    平沢 勝栄君

      古屋 圭司君    保利 耕輔君

      森山 眞弓君    柳澤 伯夫君

      山際大志郎君    阿久津幸彦君

      泉  房穂君    鎌田さゆり君

      河村たかし君    小林千代美君

      小宮山洋子君    辻   惠君

      中井  洽君    本多 平直君

      松野 信夫君    上田  勇君

      富田 茂之君    御法川信英君

    …………………………………

   法務大臣         野沢 太三君

   法務副大臣        実川 幸夫君

   法務大臣政務官      中野  清君

   最高裁判所事務総局総務局長            中山 隆夫君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           園尾 隆司君

   政府参考人

   (警察庁刑事局組織犯罪対策部長)         知念 良博君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    房村 精一君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    樋渡 利秋君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  増田 暢也君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 長嶺 安政君

   政府参考人

   (外務省条約局長)    林  景一君

   政府参考人

   (財務省理財局次長)   日野 康臣君

   法務委員会専門員     横田 猛雄君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月一日

 辞任         補欠選任

  松島みどり君     蓮実  進君

  保岡 興治君     江崎洋一郎君

  加藤 公一君     阿久津幸彦君

  川上 義博君     御法川信英君

同日

 辞任         補欠選任

  江崎洋一郎君     保岡 興治君

  蓮実  進君     松島みどり君

  阿久津幸彦君     加藤 公一君

  御法川信英君     川上 義博君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第五二号)(参議院送付)

 民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第七七号)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

柳本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局組織犯罪対策部長知念良博君、法務省刑事局長樋渡利秋君、法務省入国管理局長増田暢也君、外務省大臣官房参事官長嶺安政君及び外務省条約局長林景一君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山内おさむ君。

山内委員 民主党の山内でございます。国際捜査共助法について質問をさせていただきます。

 我が国の中で来日外国人による犯罪の増加が見られるという、犯罪者そのものが国際化したという問題と、外国を犯罪地とする邦人の犯罪の増加という、犯罪そのものの国際化も認められると思っています。

 これに対処するために、捜査や司法の分野で国際協力の強化が求められていると考えていますが、その点について、まず法務大臣の所見を伺います。

野沢国務大臣 委員御指摘のとおり、近年、我が国におきまして外国人による犯罪が増加し、また、世界的に見ても、国境を越えて敢行される犯罪が増加しておるところでございます。

 かかる犯罪から社会を守るということは、全世界が一致して取り組まなければならない大事な課題であるわけでございますが、このような犯罪の国際化は、犯罪の立証に不可欠な証拠が自国以外の領域に存在するという事態をもたらしておりまして、そのような場合、国家間で緊密な連絡、連携をとることによって適切に証拠を収集しなければならないわけであり、刑事司法分野における国際協力の重要性はますます高まってきていると言えます。

 今回の捜査共助法の改正は、まさにこのような国家間の緊密な連携を図る趣旨に基づいたものであります。同改正により、今後、我が国が米国以外の国との間でも同様の条約を締結することが可能となり、外国人による犯罪や国際的な犯罪に効果的に対処する上でその意義は極めて大きいものがあると考えております。

山内委員 国際捜査共助条約の批准あるいは組織犯罪に関しての条約の批准、それから今回の法改正を通してみますと、刑事司法体系をアメリカ型、アメリカに近いものへと変更を求められる可能性もあると考えていますが、御見解を伺いたいと思います。

樋渡政府参考人 刑事司法における共助といいますものは、異なる刑事司法制度を前提にしながら、証拠の収集のために行う国際的な協力でございまして、今回の条約及び法改正も、そのような共助の性格を変更するものではございません。

 したがいまして、この条約批准とこれに伴う法改正を行うことが、我が国の刑事司法全体を殊さら米国に近いものに変更することにつながるとは考えておりません。

山内委員 しかし、アメリカ型の刑事司法手続で、いいところはやはり積極的に取り入れるべきだと思っています。

 国際捜査共助が発展することは望ましいことだと私も思っていますが、その共助の網が全世界に広がる、つまり、これからほかのいろいろな国と共助条約を結んでいくことになると思うのですが、そうして網が広がっていくと、むしろ共助制度がとられていない、あるいは整備されていない国と比較して、全く手が出せないところに、あるいはそういう地域に容疑者が逃げ込んでしまうということもあるかと思います。そうすると即犯罪の聖域となってしまうというおそれがないか心配するのですが、この点については手当てができるのでしょうか。

樋渡政府参考人 今般、国際捜査共助法の改正によりまして、条約を締結した国との間では、双罰性の要件が緩和され、中央当局制度が設けられるなど、共助を促進するための改善が図られるのは事実でございまして、今後、米国以外の国とも同様の条約を締結してまいりたいと思っておりますが、かといいまして、条約を締結していない国との間で共助が実施できなくなるわけではございません。犯罪者が我が国とは条約を結んでいない外国に逃亡したといたしましても、従来どおり、我が国から当該外国に対して共助を要請し、適切な捜査を求めることは引き続き可能でございまして、今後とも、従来どおり、犯罪の捜査に国際協力を求めていくことに変わりはないと考えております。

山内委員 今の話によりますと、共助条約を結んでいない国との間においても今までも捜査共助をしているということのようですが、もしそうだとすれば、条約を結ばなくても捜査共助がされるのですから、捜査共助条約を他国と締結する意味について、その意義が問われると思うのですけれども。

樋渡政府参考人 国際間では、相互主義に基づきまして、捜査共助の要請に応ずることはおおむね慣行となっておりまして、我が国も従来より、条約を締結していなくとも、相互主義の保証があれば共助を実施し得る法制をとっておりましたが、このような相互主義の保証は法的義務ではないために、我が国から相手方に対して共助を要請しても、相手国が共助を実施してくれるか否か、なお不安定な状態にあったことは否定し得ないというふうに思います。

 これに対しまして、刑事共助条約は、締約国間におきまして、刑事事件に関する包括的な協力を強化するため、証言、供述または物件の取得、犯罪収益の没収等の各種の共助を行うことを定めるものでございまして、この条約の締結により、条約に定める各種の共助の実施が条約上の義務となり、共助が一層確実に実施されることを確保することができると考えております。

 また、この条約の締結に伴い、共助の範囲が拡大する上、両国で中央当局を設置し、共助の実施のための連絡を外交ルートではなく中央当局間で直接行うことにより、関連する事務処理の合理化、迅速化が期待できると考えております。

山内委員 今のお話ですと、共助の実が上がる、一層確保されるであろうということですが、アメリカが日本に捜査共助を行う件数の方が日本がアメリカに捜査共助を行った件数よりも倍半分も違うという事件数が報告されています。捜査共助の負担が私たちの国あるいは法務省、国家公安委員会などに重くのしかかるのではないかと思うのですが、この点は大丈夫でしょうか。

樋渡政府参考人 確かに、現在までの実績におきまして、アメリカからの共助要請の方が我が国がアメリカに対して行います共助要請の倍近くの数値に上っていることは事実でございますが、これは、アメリカと我が国との人口比あるいはアメリカの犯罪発生率から見まして、あながち不均衡なバランスだというふうには思っておりません。

 日米刑事共助条約を含めまして、各国との刑事共助条約の締結の増加が実際の刑事共助の件数にどのように影響を与えるかにつきましては、現段階で確たることを申し上げることは困難でありますが、これまで迅速性が欠けることなどから差し控えていたような要請が今後行われるようになるという意味で、共助件数が増加する可能性はないではありません。もっとも、これは日本と相手国の双方に当てはまることでございまして、我が国の負担だけが一方的に増大することになるものではありませんし、国際協力の促進という観点からすれば、こうした相互の共助件数の増加はむしろ望ましいものとさえ言えると考えております。

 いずれにいたしましても、今後、国際協力の強化に適切に対応できるよう、鋭意努力してまいりたいと考えております。

山内委員 外務省に来ていただいていますが、一九九八年に発効した国際刑事裁判所条約をまだ日本は批准していません。これを批准しない理由があるかどうか、それをお聞きしたいと思います。

林政府参考人 御指摘の国際刑事裁判所でございますけれども、この設立の規程、ローマ規程と申しますけれども、これは九八年の際に採択されておりますけれども、実際に発効いたしましたのは二〇〇二年の七月でございます。

 それを申し上げた上で、我が国といたしましては、常設の国際刑事裁判所の設立というものが、国際社会におきます最も深刻な犯罪の発生を防止し、もって国際の平和と安全を維持するという観点から、この設立規程を採択いたしました外交会議、ローマで行われましたけれども、この外交会議以来、一貫して支持をしてきておりまして、その実現に努力してきております。

 ただ、御案内のとおり、条約の締結ということのためには、その誠実な履行のための適切な国内法整備というものが不可欠でございます。

 このICC、国際刑事裁判所につきましては、集団殺害罪、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略の罪に対して管轄権を行使し得ることとなっております。侵略の罪についてはまだ未制定でございますけれども。これらの罪につきまして、我が国としてきちっと履行できるかどうかということを検討していかなければならないということでございます。

 このうち、戦争犯罪につきましては、ジュネーブ諸条約の重大な違反行為等が該当するということで規定されておりまして、今回、武力攻撃事態対処法制といたしましてジュネーブ条約等の国内実施のための法整備が進められておりますけれども、これが実現いたしますれば、我が国による国際刑事裁判所規程の締結に向けまして前進であるというふうに考えております。

 他方、ICC規程の締結につきましては、先ほど申し上げましたその他の罪のうち、例えば集団殺害罪というものの国内法上の取り扱い、それから、規程に定められております裁判手続や締約国によりますICCへの協力といった詳細な手続事項に関連いたしまして、裁判所からの犯人の逮捕及び引き渡しの要請に応じる義務をどうやって履行していくかという、そういう履行するための法整備などにつきまして検討する必要があると考えております。

 私どもといたしましては、冒頭申し上げましたとおり、二〇〇二年の七月にICC規程が発効いたしましたことを踏まえまして、以上の点を含めまして、鋭意検討を進めていきたいと考えておるということでございます。

山内委員 アメリカも国際刑事裁判所条約に反対をしているわけですが、これは、アメリカ兵が戦争犯罪を理由として他国に裁かれることへの強い拒否感があるからだという見解がございます。この点についてはどのような見解を持っていますか。

林政府参考人 アメリカにつきましても、アメリカ側は実は、ルワンダでございますとか旧ユーゴなどにおきます人道上の罪あるいは戦争犯罪というものにつきましては強い問題意識を持っておりまして、これは常設ではございませんけれども、こういった国際裁判所の設立などに非常に努力したという経緯、経過というものもございます。そういう意味で、こういう国際犯罪の処罰にアメリカが無関心であるということではないというふうに理解しております。

 ただ、このICCの規程に関しましては、確かに当初、一たん署名をしたんでございますけれども、批准まで至らない、批准しないという意図を通知、公表いたしたわけでございます。ただ、その理由といたしましては、今先生御指摘で、海外における米兵の取り扱いの問題というものを御指摘になりましたけれども、公にアメリカが説明しておりますのは、ICCの検察官という制度がございます。裁判所に起訴する、訴追するための検察官の制度がございますが、この検察官制度というものが、現状のままでは政治的な動機に基づいた訴追というものが行われる可能性というものがあるのではないか。

 それから、未定義ではございますけれども、侵略の罪などとの関係におきまして、ICCというものが、国連安保理、侵略の認定というのは国連安保理の一義的機能ということになっておりますけれども、そういうものとの関係において、国連安保理の役割を損なうおそれがあるのではないかといった点を指摘しております。

 もちろん政治的動機に基づいた訴追というのは、アメリカ自身が非常に海外において活動する可能性が高い、実績があるわけでございますから、そういうものとして米国民が訴追の対象になるのではないかといった考え方というものももちろんあると思います。同時に、米国自身は、少なくともICC規程自体を害する意図はなく、各国がICC規程の締約国になる権利を尊重するということを述べた上で、同時にICC規程の締約国とならないという米国の権利も尊重してほしいという見解を表明しておるというふうに承知しております。

山内委員 アメリカもいろいろな見解を述べて抵抗しているようなんですけれども、先ほどの刑事局長の話で、捜査共助がふえることはいいことだというのは、余りいいことじゃないと思うんですね。やはり、犯罪が多くなるということですから、捜査共助件数はどちらからの要請も少なくなることが本当は望ましいと思うんです。やはり、アメリカからの要請が今までの例でいえばふえることは間違いない、それから国際刑事裁判所条約についてもいろいろな理由をつけて拒否するということは、アメリカの、自国民を大切にする、あるいは海外に行っている兵隊を大事にしていくという姿勢がすごく出ているなと私は思います。

 その関係で、地位協定の問題についてこれから触れたいと思うんですが、まず、アメリカ兵による犯罪が増加傾向にあるのではないか、九五年の運用の改定によっては、アメリカ兵の犯罪に歯どめがかかっていないのではないかという論者がいますが、この見解について、まず外務省にお聞きしたいと思います。

長嶺政府参考人 お答えいたします。

 今委員の御質問、最近の刑事に関する地位協定上の運用の改善の点と、それから実際に米兵による事件が減っていないのではないかという点の御質問でございますが、初めに後段の方の米軍関係者による犯罪でございますが、御指摘のように、米軍関係者による犯罪が発生するということにつきましては遺憾なことであるというふうに考えておりまして、私どもといたしましても、累次の機会に高いレベルで政府から米側に対して綱紀粛正、再発防止の徹底への取り組み等の申し入れをしてきております。犯罪防止の対策につきましては、まずは、今申し上げましたように米側の綱紀粛正ということが必要であるということで、我々といたしましては、最近の動向も踏まえて、改めて一層の綱紀粛正を求めていきたいというふうに考えております。

 そこで、最初にお尋ねでございました最近の地位協定上の運用改善の関係でございますが、これは四月二日の日米合同委員会におきまして、昨年六月以来行われてまいりました日米地位協定のもとでの刑事裁判手続に関する日米交渉の結果といたしまして、日米間の捜査協力の強化等に関する合同委員会合意を作成したものでございます。また、その機会に、いわゆる平成七年合意、一九九五年の合同委員会合意でございますが、に言うところの「その他の特定の場合」についても日米間で認識の一致を確認したものでございます。

 今回の合意は、できましてまだ日がたってございませんので、こういった措置を通じまして犯罪の防止にも役に立つということで今回運用の改善を図ったものでございますので、今後の結果を見守ってまいりたいと思っております。

山内委員 今ありました、ことしの四月二日に日米両政府が地位協定の運用を改定したという話がございましたけれども、我が国の国内で犯罪を犯したアメリカ兵に対して日本政府が取り調べをする際に米軍司令部の代表者を同席させるというような制度を新たに設けたわけですが、これは具体的にはどういう人を立ち会わせることになるんでしょうか。

長嶺政府参考人 お答えいたします。

 ただいま申し上げました今回の合同委員会合意によりまして、平成七年合意に基づく起訴前の拘禁の移転の対象となる事件につきまして、米軍当局が速やかに捜査を行うことができるようにするために、米側からの要請に基づきまして、当該事件について捜査権限を有する米軍司令部の代表者が日本側当局による取り調べに同席することが認められるようになったということでございます。

 この合意における米軍司令部の代表者についてでございますが、これは日米地位協定に基づきまして米軍当局は米軍人等に対して刑事及び懲戒の裁判権を行使する権利を有しておるわけでございますが、これらの裁判権を行使する前提といたしまして、米軍人等が犯した疑いのある犯罪についての捜査権限を米側が有しております。ここで言う米軍司令部の代表者というのは、そういう意味におきまして、みずから捜査を行い、また裁判権を行使する権限を有する司令官に対して捜査結果を報告することを任務とする者というふうになっております。

山内委員 今の話ですと、米軍司令部の代表者は、日本政府が取り調べている間も、同時にアメリカ軍としても捜査権限を行使して調べをするという仕組みになるということですか。

長嶺政府参考人 仕組みのことを少し申し上げますが、もともと一九九五年の合同委員会合意というのがございますが、この対象事件につきまして、本来であれば、被疑者が日米地位協定に定める規定に従いまして、起訴の時点で身柄を我が国に移転するということになっておりましたのに対して、この九五年合意におきましては、起訴の前の段階で身柄が我が国に移転されるということに道が開かれたわけでございます。

 このような事件につきましては、先ほど申し上げましたように、裁判権は第一次的に日本側にございますけれども、米側にも刑事または懲戒上の裁判権というのがございますので、そういう意味では、地位協定に規定されているより前の段階で身柄が日本側に移るということに伴いまして、米側の捜査上の支障が生じるということがございます。そういう意味で、今回の合意というのは、そういった捜査上の支障を少しでも軽減するために、日米間の捜査協力を強化する措置として導入されたものでございます。

 したがいまして、ただいま委員お尋ねの件に関しましては、地位協定上、我が国の裁判権、これが公務外の行為については優先しておるわけでございますが、米側にも刑事または懲戒上の裁判権というのは同時にあるということは、それは前提となっております。

山内委員 前提となっているかどうかを聞いたんじゃなくて、日本の刑事司法、捜査手続と、アメリカの刑事司法、裁判権行使が、とにかく同じ取り調べをするときに同じ速度でというか、同じように進んでいくという認識でいいんですね。

長嶺政府参考人 私、申し上げましたように、このような事件においての裁判権が第一次的には日本側にございます。したがいまして、日本側の捜査というのは進んでおるわけでございますが、米側におきましても、特に懲戒の権限というのは米側が持っておりますし、そういう意味では、今先生がお尋ねの同時という意味がそういう趣旨であるということであれば、日本側の捜査と同時期に米側も特に懲戒権について捜査を行う権限というものは有しているというふうになると思います。

山内委員 もしそうだとすると、日本に第一次裁判権があるという主張と矛盾するんじゃないんですか。

長嶺政府参考人 私、ちょっと答弁の仕方が十分でなかったかもしれませんが、このような事案につきまして、第一次的な裁判権が日本にあるということは前提でございます。ただ、そのことを妨げないといいますか、と同時並行に米側が懲戒権を行使するために一定の調査、捜査を行うこと自体を妨げているということではないという趣旨を申し上げたわけでございます。

山内委員 しかし、アメリカは、通訳もアメリカが推薦した人間を通訳としてつけてくれという申し立てもしていたんじゃないんですか。

長嶺政府参考人 お答えいたします。

 今回の合意につきまして、通訳ということについては特段定められておりません。合意におきましては、米側の代表者が取り調べに立ち会うということを定めただけでございまして、通訳はあくまでも我が国の方で選定された通訳が用いられるということになっております。

山内委員 いや、私が聞いたのは、アメリカ側がアメリカの政府の代表者を立ち会わせてくれという要求をしていたころに、通訳もアメリカが推薦した人間をその取り調べ時の通訳として使えというような要求をしていたのではないですかと聞いたんですよ。

長嶺政府参考人 冒頭申し上げましたように、この交渉は昨年六月から行われてきた交渉でございまして、この四月に至ってそれが結実したということでございます。結実しました最終的な合意の中に、通訳についての合意というものはございません。これはあくまでも、先ほど申し上げましたように、通訳につきましては、我が国の方で選定された通訳が用いられるということで、米側が選定する、あるいは何らかの形で米側から通訳が提供されるということは、一切この合意の中にはございません。

山内委員 合意の中に含まれていたかどうかを聞いているんじゃない。ではもういいです。

 通訳の要求をしたということは、じゃ、ないんですね、今まで。

長嶺政府参考人 まことに恐縮でございますけれども、これは日米間の交渉ということでございましたので、交渉の途次における一々のやりとりについては、詳細を御答弁することは差し控えさせていただきたいと思いますが、申し上げましたように、今回の合同委員会合意、これは日米間の捜査協力を強化する措置として導入したものでございまして、これは、米軍当局が迅速な捜査を実施することができるように、米軍当局の要請に応じて、当該犯罪についての捜査を行う権限を有する米軍司令部の代表者の同席を認める、こういう枠組みをつくったものでございます。そういうことで御理解をいただきたいと思います。

山内委員 こういう、新聞記者に記事を書かれるということは、あなたが今秘密にしていても、あなたの部署のだれかが言わないと新聞記事にならないわけで、それを国会であくまでも答弁を拒否するというのは、ちょっと解せないんですけれどもね。

 では、大臣にお聞きします。大臣、アメリカ兵が日本国内で事件を起こしたときに、アメリカの国内でこういう話がよく出るというのを聞かれたことはないでしょうか。

 日本の刑事捜査は密室の中で行われる、密室性の高い日本の取り調べは容疑者への暴力や自白強要につながりかねない、そういうことを、アメリカ人が日本で事件を起こしたときに、よくこういう話がアメリカの国内で巻き起こるという話は聞かれたことはありませんか。

野沢国務大臣 日本の刑事司法制度については、さまざまな御意見があることは承知しておりますが、米兵事件が起こるたびに、米国内で、日本の捜査当局の取り調べに対しまして今委員御指摘のような意見が出るというようなことは、何分にも外国における事柄でもございまして、私自身は聞いたことはございません。

 むしろ、今回の合意に至る日米協議におきまして、米側が日本の刑事司法制度に対する不信やこれを非難する意図を有していないことは確認されていることは承知しておりまして、今回の取り決めについては、あくまで捜査協力という立場で進めたものと伺っております。

山内委員 捜査協力というのは、アメリカ軍の捜査に日本側だけが協力するという名目になるのですね。

樋渡政府参考人 捜査協力は、あくまでも相互のものでございますから、アメリカ側も我が国に協力する、我が国もアメリカ側の捜査に協力する。先ほど、アメリカ側の裁判権について外務省の方から御説明がございましたが、捜査をするに当たりまして、我が国は立ち会いを認めることによって協力をしようというのがこの合意の趣旨でございます。

山内委員 ですから、今回の運用の改定については、アメリカ側の捜査に日本が協力をするという形の合意ができたということですよね。

樋渡政府参考人 そればかりではございませんでして、そういうことによって、アメリカからの身柄の引き渡しをスムーズに、向こうの平成七年の合意の実行をスムーズにしてもらえるという意味での、我が国は捜査協力の利点があるわけであります。

山内委員 ではもう一点、刑事局長に伺いますが、日本の捜査、取り調べにアメリカの政府関係者を立ち会わせるというのは、刑訴何条の適用ですか。

樋渡政府参考人 刑訴何条というものではございませんでして、捜査当局が行う取り調べにつきましては、必要に応じて捜査当局の判断と裁量により第三者の同席を認めることが可能でございまして、今回の合意に基づいて米軍関係者の同席を認めることについても、その意味で可能であるということでございます。

山内委員 私は、日本の刑事訴訟法の何条に基づいてアメリカの司令部の代表者を立ち会わせることができるかと聞いているんですから、その条文を示してくださいよ。

樋渡政府参考人 捜査官は、必要な取り調べができるわけでございまして、取り調べに必要な処分を、対応をできるということでございまして、刑事訴訟法で禁止されていないことについて、検察官、取り調べ官のさまざまな対応によって可能であるということでございます。

山内委員 取り調べとか捜査というのは強制力を伴うわけですから、法律上の手続に従っていなければいけないということは共通の認識ですよね、刑事局長。だとしたら、捜査及び取り調べは、司法警察職員が行う、あるいは検事が行うというような条文は書いてあるんですが、そこにもう一人の捜査担当者であるアメリカ兵を、アメリカの司令部の代表者を置くというのは、根拠条文がなければできないんじゃないんですか。

樋渡政府参考人 あえて申し上げれば、刑訴法の百九十七条で、「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。」となっておりまして、「但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」ということでございます。

 例えば、普通の捜査におきまして、先生、委員御承知のように、対峙する取り調べもあるわけでございまして、相手方を目の前に、二人、相反する者を同席して、対峙して調べるということも可能なわけでございまして、また、捜査共助では、広く外国の捜査共助を受け入れる場合あるいはこちらから捜査共助を申し出た場合に、質問はできないが立ち会いは認めてもらうあるいは認めるということは、往々にしてやっていることでございます。

山内委員 ちょっと、今おかしなことを言われたんですが、アメリカの立ち会う当局者は、日本の警察が取り調べをしているときに質問ができるのですか、できないんですか。

樋渡政府参考人 できません。

山内委員 では、後ろに座っている彼に聞きましょうか。彼は、私の議員会館でできると言ったじゃないですか。発問の前に警察官に了解をとればできると言ったじゃないですか。ちょっと、ちゃんと意見を統一してください。

樋渡政府参考人 普通の場合には、こういう発問をしてほしいということを申し出まして、その申し出に協力をするということであれば、取り調べ官がその申し出に沿って発問をすると思いますけれども、先ほど簡単にすべてできませんと端的に答えてしまいましたけれども、今後の運用のあり方によりましては、発問の申し出があった場合に、妥当なものであれば直接発問させることができるように運用していく場面もあるのかもしれないと思います。

山内委員 こういういいかげんな答弁を聞きたくて私も質問しているんじゃないんですよね。

 被疑者にとってみれば、やはり逮捕された後は、取り調べに応じる義務があるわけですから、取り調べをされます。だけれども、強制力を伴う部分についてはできるだけ憲法や法律に書き込んでいこうというのが、敗戦直後に我々国民全員が思った理念なわけですよ。

 だから、日本の警察官からも聞かれる、それからアメリカの捜査当局からも聞かれるというと、被疑者になっているアメリカの兵隊は、もう二重に聞かれるということで、しかも、今も、質問できないと言われたり、できる場合もあるかもしれない、それは運用だなんという話だと、ちょっと刑事司法制度ということが揺らいでいるんじゃないかなと私は思うんですけれども、外務省、何か言うことはないですか。

長嶺政府参考人 先ほど御答弁申し上げましたように、今回の合同委員会の合意は、日米間の捜査協力に資するという見地からつくられたものでございますので、そのような目的のための枠組みでございますから、このことが、今委員御指摘になりました、既存の制度が揺らぐことになるのではないかという御指摘は当たらないと考えております。

山内委員 その取り調べを受ける当該の米兵は、アメリカで事件を起こしたら、アメリカの弁護士が立ち会って取り調べを受けることができるわけですよ。ところが、たまたま日本で事件を起こしたために、アメリカの捜査官からも調べを受ける、日本の刑事からも取り調べを受けるということは、これは、幾ら取り調べをする国が違うからといっても、不合理な扱いじゃないですか。

樋渡政府参考人 我が国に駐留する合衆国軍隊の構成員等に係る刑事事件につきましては、それが我が国の法令によって処罰し得る犯罪でございまして、我が国において裁判権を行使すべき事案である限り、原則として我が国の刑事訴訟法の手続に従って捜査、訴追をすべきは当然でございます。刑事司法制度は各国ごとに異なっておりますが、それぞれさまざまな手続が全体として機能しているところでございまして、その一部のみを取り上げてその比較をすることは適当ではないのではないかというふうに考える次第であります。

山内委員 裁判員制度をここの委員会で議論しているときに、私たち民主党は可視化を求めました。取り調べについては、ビデオあるいは録画、録音、あるいは弁護人の立ち会い、そういうのを求めました。そのときに、法務省の方でこういう答弁をされたのは覚えていますか。自白がとりにくくなる、調べの仕方が変わってくる、つまり、取り調べの部屋の中に弁護士がいる、あるいは録音、録画されているということによって、従来の取り調べ方法と違って、みんなが本当のことを言おうと思ったりすることができにくくなる、自白がしにくくなるという状態を作出することになるのではないか、だから、可視化については、アメリカで採用されているような可視化というのは日本ではまだとり得ないんだというような説明をされた記憶はありますか。

樋渡政府参考人 可視化をすると、取り調べにおきまして、要するに、取り調べというのは、要は心と心のぶつかり合いといいますか、そういう通い合うことによって相手から真実の供述を引き出すもの、そういうふうにしておりますので、そういった意味で、取り調べがといいますか、相手から真実を聞き出すことが難しくなるという意味で申し上げたことは事実でございます。

山内委員 だったら、取り調べ室にアメリカの取り調べ官が立ち会うということも、日本の取り調べの中にそういう異質な人を立ち会わせるということになって、同じじゃないですか、状況は。だとしたら、そういう人は立ち会わせたくないということをもっと主張しないと、可視化の点でえらく抵抗されたことと合致しませんよ。

樋渡政府参考人 何度も御説明申し上げておりますとおり、今回のこの合意は、日本側の捜査機関と米軍側の捜査機関との捜査協力という意味での立ち会いを認めているのでありまして、これを被疑者の権利ということで認めているわけではございません。捜査側の捜査の構成にきちんと対応した捜査官の協力体制で行うものでございます。

山内委員 今度は、逆の見方からすると、逆にアメリカ兵としては、アメリカ語、米語、英語が通じるという人が取り調べ室の中にずっと任意同行の段階から立ち会ってくれて何となくほっとする、そういう米兵もいるかもしれません。そうなってくると、加害者であるアメリカ兵を保護するような規定を合意したともとる論者もいますが、この見解についてはどうですか。

長嶺政府参考人 先ほど来御答弁申し上げていますが、今回の合同委員会合意、これは日米間の捜査協力を強化するという措置として導入されたものでございます。これは、同席を認められるのは、当該犯罪についての捜査を行う権限を有する米軍司令部の代表者ということでございまして、被疑者である米軍人等に特別の権利を与えるものでは一切ございません。そういう意味で、被疑者にとって何らかの有利な状況ということでつくられているものではなくて、あくまでも、米軍が行う捜査の実施を迅速に行うという見地からつくられているものでございます。

山内委員 調べには密行性というか密室性も当然要求されるとは思うんですけれども、何人かの、複数の人が調べに立ち会うということによって、そういう取り調べ状況あるいは供述内容が外部に漏れるということもあると思うんですよ。それについてはどういうふうな法律でそういうことがないように担保できるのでしょうか。

    〔委員長退席、森岡委員長代理着席〕

樋渡政府参考人 これは捜査機関同士の協力でございますから、そういうことがないようにお互いにきちんと約束を守っていく以外にないわけでありまして、もしそのことが守られなければ、また合意というものは考え直さなきゃならないことがあり得るかもしれないというふうに思うわけであります。

山内委員 事件数が減らないんだったら、アメリカの人間にも、アメリカ兵にも、外国で事件を起こしても冷たいよと、あなたたちを救済する考えはないし、アメリカの人たちが立ち会ってあげてあなたの供述についても見ていきますよというような態度はやめて、もっと突き放すような方法はとれないんですかね。やはり、同じ英語を使える人が取り調べ室の中にいるということが事件の減少にはつながらないと思うんですけれども、どうでしょうか。

長嶺政府参考人 私どもといたしましては、今回の合意によりまして、これは日米地位協定運用改善という観点から意義があるというふうに考えておりますが、その理由といたしまして、この平成七年合意の対象となる事件についての捜査協力が強化されるということ、これは累次申し上げてきたところでございます。具体的には、米側が取り調べに同席して必要な情報を得ることによって米側が捜査を迅速に行えるということになりますと、これは米軍人等にとりましても犯罪対策上のメリットがあるというふうに考えております。

 こういう観点から、私は、先ほど申し上げましたように、四月にできた合意でございますので、運用につきましては今後見ていく必要がございますが、犯罪防止という観点からもメリットのある合意であるというふうに考えております。

山内委員 しかし、こういうことも聞いているんですよ。アメリカ軍の放送では、地位協定があなたを守る、そういうPRをしていると聞いているんですが、ではこういう事実はないんですか。

長嶺政府参考人 ただいま委員が言われました、地位協定があなたを守るという、その言葉については寡聞にして承知しておりませんが、日米地位協定によって、これは日米の場合には十七条というところに規定がございますが、刑事事件の際の手続、措置について定めているという意味においては、日米地位協定によって駐留する米軍人等の待遇といいますか、これが規定されるというのはそのとおりでございます。

山内委員 今回の合意に意義があると言いますが、身柄引き渡しを要求してから何時間以内に引き渡しをするというような規定をどうして盛り込まなかったんですか。

長嶺政府参考人 何時間ということではございませんが、今回の合意によりまして、当該事案につきまして、米側が早い段階から情報を得るということができることになりますので、これは、平成七年合意に従って我が国が引き渡しの要請をする際に、米側にとっては迅速に決定を行えるような下地ができるものというふうに考えております。

山内委員 それはあなたが思っていることで、協定上は、好意的な配慮を待つしかないという書き方になっているじゃないですか。

長嶺政府参考人 これは、もとより日米地位協定上は、身柄の引き渡しは起訴を待って行われるということになっておる中で、平成七年合意において、起訴前の段階においても身柄を引き渡すことができる、そういう枠組みをつくったわけでございます。それで、今回の合同委員会合意は、そのような要請があった際に、米側として情報を事前に得て迅速な決定ができるような、そういう枠組みを提供するものというふうに考えておるところでございます。

山内委員 枠組みを提供するものというふうには読めないでしょう。迅速に引き渡しをするという迅速という言葉を、ではなぜ要求しないんですか。

長嶺政府参考人 お答えいたします。

 これは、平成七年合意というものがあって、その上で、それをさらにより有効なものにするための合意であるというふうに考えております。その意味で、先ほどのまた繰り返しになりますが、平成七年合意をさらに有効に活用するという意味で、今回の立ち会いということによって、米側が捜査を進めることができるという見地、情報を得ることができるという見地から、迅速な対応ができるということが期待されると考えております。

山内委員 だから、それはあなたが期待しているだけなんじゃないですか。これはアメリカの言いなりの合意でしょう。沖縄の人たちはどう考えていますか。話をしてくれたのはありがたいけれども、内容については全く評価していないと言っているじゃないですか、知事さんを含め。何でこんな合意をするんですか。運用の改善とさっきから言われているけれども、改善なんて何もないじゃないですか。

 地位協定そのものを見直して、事件を起こした後の損害賠償あるいは基地の環境浄化、そういうものも、根本的に地位協定を改正するという考えにどうして外務省はなれないんですか。言ってください。

長嶺政府参考人 繰り返しになりますが、今回の交渉の結果につきましては、私どもは、地位協定の運用改善という観点から意義のある結果であるというふうに考えております。

 それは、第一に、先ほど申し上げましたけれども、米側の捜査を迅速に行えるということになりますので、これは米軍人等の犯罪対策上メリットがあるというふうに考えております。

 また、平成七年合意に基づきます日本側の要請に対する米側の判断が迅速に行い得るという観点から、これも平成七年合意の運用改善措置をさらに円滑化するという効果があるというふうに考えております。

 また、冒頭申し上げましたけれども、平成七年合意に言う「その他の特定の場合」につきましても、今回、日本政府が重大な関心を有するいかなる犯罪も排除しないということが日米間で明確に確認できたということで効果があると考えております。

 先生御案内のように、政府としましては、従来から申し上げていますように、日米地位協定につきましては、その時々の問題について運用の改善によって機敏に対応していくことが合理的であるというふうに考えております。そういう考えのもとで運用の改善に努力しており、今回の交渉妥結も、運用改善の努力の一環というふうに考えております。

 私どもといたしまして、引き続き、目に見える運用の改善を進めるよう、さらに努力してまいる所存でございます。

山内委員 しかし、韓国では、韓米地位協定を、女の子の乱暴事件か何かあったときに変えたんですよ。どうしてそんなに弱腰なんですか。地位協定を改定する考えはないのかと聞いているのに、運用の改善に努めますということを答弁したってちぐはぐでしょう。ブルームフィールド国務次官補は、地位協定の改定について、日本政府から一回の提案もないと言っているじゃないですか。何でそんな弱腰なんですか。

長嶺政府参考人 ただいまお答えいたしましたけれども、これは、その時々に生じます問題について運用の改善で機敏に対応することができる、日米合同委員会という組織も、こういった運用上の問題を解決していくために置かれているものでございます。

 こういった機敏な対応ができる体制でございますので、これからも運用改善でもって問題を解決していくということでやっていきたいと考えているところでございます。

山内委員 アメリカ兵の本人も家族も持っている車について、車庫証明はきちんととって車を所有させているでしょうね。

長嶺政府参考人 ただいま委員御指摘になりました車庫証明の件につきまして、これは米軍関係者も、地位協定上、我が国の国民と同じような条件でということになっております。一部そういうことができていない事例がございましたので、今、米側とも鋭意話し合いをして、この問題の解決に努めておるところでございます。

山内委員 刑事局長、車庫証明をとらないで車両を持つと、これは車庫法違反で刑事罰がありますよね。

樋渡政府参考人 急なお尋ねで、私、すべてに精通しているわけではございませんが、車庫証明に関する法律かな、何かそういう法律がございまして、それに違反する者は罰金があるように記憶しております。

山内委員 治外法権というのは、今の国際社会の中では許されませんよ。一部なんてことじゃないでしょう、沖縄はまだそうでしょう。沖縄はまだ、車庫証明をとらなくても家族が自由に車が登録できる、これはおかしいじゃないですか。刑事局長、捜査はされませんか。

樋渡政府参考人 捜査機関の活動の有無、内容にかかわることでございますので、私の方からはお答えは差し控えさせていただきます。

山内委員 刑事局長、では最後に一点。こういうアメリカの言われるとおりに、何かアメリカの司令部の代表者を立ち会わせるとかじゃなくて、すっきりとアメリカの刑事司法みたいに、最初に質問したときに、アメリカ的なことでも、いいことについてはどんどん採用すべきじゃないかという議論もさせていただいたんですけれども、本当に可視化というものを正面からとらえて、アメリカ並みに弁護士をきちんと立ち会わせる。

 この地位協定に基づく合意でも、そんな、二人の捜査官からやいやいいじめられるような仕組みを考えるんじゃなくて、弁護士をきちんと立ち会わせる、取り調べの場面でも立ち会わせるというような法制度を真剣に考えませんか。

樋渡政府参考人 まず、お尋ねの前提として、御質問の中にありました、日米の捜査官が被疑者に対して両方から責めるというようなことは考えてもおりませんでして、我が国の捜査機関が調べる、先ほど申し上げましたけれども、聞きたいことがあったら、それにもっともだと同意すれば、かわって日本の捜査官が聞いてやる、あるいは、これからの運用によっていろいろ考えていこう、これは別の捜査共助でも同じようなことを考えなきゃならないということを言わせていただきまして、その御質問でございます。

 そういう弁護人の取り調べへの立ち会いとそれから可視化の問題、すべてを含めまして、司法制度改革審議会意見におきましても、刑事手続全体における被疑者の取り調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であること等の理由から、将来的な検討課題とされているところでございまして、慎重な検討が必要であると考えております。従来から答えておりますように、現在、法曹三者の中の協議でこの問題を解決していこうというふうに考えているところでございます。

山内委員 以上です。終わります。ありがとうございました。

森岡委員長代理 御苦労さまでした。

 永田寿康君。

永田委員 民主党の永田寿康でございます。

 まず、冒頭、ちょっと通告から外れる質問をするかもしれませんが、一つ教えていただきたいんですが、今回の捜査共助法の範囲というか守備範囲のことなんですけれども、例えばアメリカの軍紀違反、米軍の内規だといえば内規なんでしょうけれども、軍紀違反みたいなものについても対象になるんでしょうか。

樋渡政府参考人 要請する側、この場合ではアメリカ側の法律で処罰されるものである犯罪である以上は、除外はされておりません。

永田委員 例えば、軍紀違反に問われた人が、問われるというか、疑われるに十分な理由をアメリカの政府が認識をしている人が例えば日本の国内にいる。その人が、最終的には逮捕をしたいんでしょうけれども、容疑を固めるために捜査が必要だ、こういうふうにアメリカの政府、捜査機関が認識をしたときには、今回の手続に従って捜査を要請することがあり得るということをもう一度ちょっと確認をしたいんですけれども、そういうことですね。

樋渡政府参考人 その犯罪を犯した人が日本国にいるか否かにかかわらず、アメリカにおりましても、そういう犯罪がありということで捜査共助を申し出てくれば、共助条約と我が国の国内法に合致する以上は、それを、協力する、共助を受けるということになろうかと思います。

永田委員 捜査をした結果、例えばその容疑者たる人が日本国内にいて、逮捕をすることもあり得るんでしょうけれども、犯罪人引き渡し条約というのがありますよね、これに従って引き渡しをするケースというのは、一般論としてはあり得るんだと思いますけれども、それはどういう要件を満たしたときとか、どういう手続によるとか、そういうのは、これは犯罪人引き渡し条約のことになるので守備範囲じゃないかもしれませんけれども、わかる範囲で、可能だったら教えてください。

樋渡政府参考人 おっしゃるとおり、お尋ねの趣旨は犯罪人引き渡し条約の問題であると思いますが、双罰性がまず要件でございますし、もろもろ、ちょっと詳しく口では言えませんけれども、その要件を満たす必要があるということでございまして、逮捕というものは我が国の捜査機関が捜査する場合に言うことでありまして、身柄を引き渡す場合、我が国捜査機関が捜査しているものでない以上、逮捕なんということは起こり得ないと思います。

永田委員 軍紀違反を問われた米軍人が日本国内にいるということがわかり切っているときに、米軍政府が、例えば日本の政府に対して、犯罪人引き渡し条約に従ってその人を引き渡してくださいという要請があったとします。これに対して、そういうことはしないんだ、引き渡しは起こらないんだということを政府が断言するということは、一般論としてはあり得るんでしょうか。

樋渡政府参考人 何分、事実の仮定でございますし、実際にそういう犯罪があるのかどうかということの確定がまず第一だろうと思いますので、一般論としても、何とも申し上げることはいたしかねるところでございます。

永田委員 いや、法制度と条約の話をしているんであって、一般論としては、例えばこういう要件が満たされていなければ引き渡しは起こらない、あるいはこういうような手だてをすることによって引き渡しの要請を拒否することができる、そういうふうなケースを、一般論として法制度の仕組みを理解した上で議論することは僕はできるんだと思いますけれども、犯罪人引き渡し条約に従って軍紀違反に問われている元米軍の兵士が日本国内にいる場合、引き渡しの要請を断れるようなケースというのはどういうケースが想定されるんですか。

樋渡政府参考人 あくまでも具体的な事実が確定してからの問題でございまして、なかなか一般論としてもお答えいたしかねるところでございます。

永田委員 それはおかしいでしょう。大体、僕がこの委員会で質問するたびに、それは具体的な問題ですので個別の件については議論するのは差し控えたいと思いますという答弁が繰り返されたわけですけれども、今度は一般論過ぎて答弁できないという言い方をしているわけですね。

 法制度として、では一体何を、どういう場合に議論できるのかという問題なんですよ。法制度と条約の話をしているんですよ。その仕組みはもちろん理解はされていますよね。日本政府として、引き渡しの要請があっても引き渡しは起こらないというギャランティーを出すことは、いかなる場合だったらできるのかということを教えていただきたいと思います。

樋渡政府参考人 何度も申し上げて申しわけないのでございますけれども、一般論といたしましても、米国の法律に関係する事柄について現時点で申し上げることは、さまざまな憶測を呼ぶ可能性もございまして、今後利益を及ぼし得るので、答弁は差し控えさせていただきたいと思います。

永田委員 しつこいようですけれども、本当にこれが議論できないテーマだとお考えになるんだったら法案質疑は難しいと思いますよ、これは法制度の仕組みの話をしているんですから。

 犯罪人引き渡し条約にしても、あるいは、それに基づいて何かいろいろガイドラインとか過去の適用例なんかもあるんでしょうけれども、実際に運用されている制度なわけですから、どういう場合に引き渡しが起こり、どういう場合には起こらないというようなことを、それは要件は決まっているはずですよ。

 例えば、引き渡しが起こるという要件を満たすためには何が必要かといったら、実際に要請があるということも大事なことでしょう。あるいは、犯罪者が国内にいるということも、瑣末な要件ではありますけれども当然あるでしょう。そうした引き渡しが実現するための要件というのは制度の中にしっかりと書き込まれていなければならない話ですから、逆に言うと、その要件が十分満たされなかったら引き渡しは起こらないというケースを議論できるはずなんですよ、制度論ですからね。

 これが具体的な事実に即してしか議論できないというのであれば、それは法案質疑なんて成り立たないですよ。そして、具体的なケースを持ち出すと、それは個別具体のケースですから言及は避けますという態度をずっととられるわけですから、一般論も議論できない、具体論も議論できない。一体我々は何のためにここに立っているんですか。

 どういう要件を満たした場合には引き渡しは起こらないということについて、例えばのケースでも構いません、全部ここで列挙できないんだったらそれでもいいですよ。日本国政府が引き渡しは起こらないんだ、実現しないんだと断言し得るケースはどのような場合であるのか、教えてください。

樋渡政府参考人 一般的に、いろいろな要件はございますが、例えば双罰性があるとか政治犯罪ではないとか、いろいろな要件はございます。その前に、そもそも証拠があるかどうかという問題もあるわけでございまして、したがいまして、一般に、引き渡し条約に基づいて引き渡しを求められましても、常に、証拠の問題とか双罰性の問題とか、いろいろ詰めていかなきゃならない問題がたくさんあるわけでございます。したがいまして、なかなか難しい問題がたくさん起こり得るわけでございますので、したがいまして、具体的な事実が明らかにならなければ何とも申し上げかねるというふうに先ほど来申しているところでございます。

永田委員 それはおかしいんですよ。制度上さまざまな要件を満たさなければ引き渡しは実現しない、裏を返せば、さまざまな要件、満たすべき条件のうち一つでも欠けていたら引き渡しは実現しない、これは議論としては正しい道筋なんですよ。だけれども、私が質問しているのは、日本国政府が引き渡しは起こらないと断言し得るケースはどういう状態なんですか、どういうケースが想定されますかというお話をしているんです。

 例えば、今刑事局長は、証拠の問題などさまざまな問題がありますとおっしゃった。例えば、証拠がなければ確かに実現はしないのかもしれない。証拠があるということが引き渡しを実現する条件になっているんだったら、証拠がなければ実現はしないかもしれない、確かにそれはそうなんですよ。だけれども、ということは、日本国政府が引き渡しは実現しないんだと断言し得る背景は、証拠がないということを日本国政府が確信しているケースだ、こういうふうに主張しているわけですか。

森岡委員長代理 樋渡刑事局長。わかりやすく、しっかりと答えてください。

樋渡政府参考人 引き渡し請求がまだ現実にない段階で、それが私たちの条約の解釈としてどういう場合に起こり得るかということを私の立場で一般的にお答えすることも、なかなか難しいものだというふうに思います。

永田委員 制度の論理構成を今議論しているわけですよ。こういう場合には日本国政府は引き渡しは起こらないと断言し得るというケースがあるとしたら、それは制度論を文理解釈していってどういう場合が考えられますかという質問をしているだけであって、具体的事件に即して話す必要なんか全然ないんですよ。

 そのことを一つ質問したいのと、もう一つ、この犯罪人引き渡し条約あるいはただいま議題になっている国際捜査共助法、これの守備範囲として、在外の日本大使館は含まれますね。二点、答えてください。

樋渡政府参考人 日米間の犯罪人引き渡しに関する条約によりますと、まず、法定刑等の問題で、「死刑又は無期若しくは長期一年を超える拘禁刑に処することとされているものについて行われる。」という条件がまずあります。次が、先ほど申しましたように、「引渡しを求められている者が被請求国の法令上引渡しの請求に係る犯罪を行つたと疑うに足りる相当な理由がある」、すなわち双罰性の問題がございます。それも要件でございますね。それから、政治犯罪でないということ。あるいは、引き渡しを求められている者が被請求国において引き渡しの請求に係る犯罪について訴追されている場合、または確定判決を受けた場合。

 日本国からの引き渡し請求にあっては、合衆国の法令によるならば時効の完成によって引き渡しの請求に係る犯罪について訴追することができないというもろもろの場合には請求できないというような要件もございまして、そういうものであるかどうか。これも、犯罪とされているものが証拠に基づいて確定されることがまず第一義でございますから、証拠をいろいろ要求しなければならないというところがある。それが条約の要件でございます。

 それから、二番目の御質問で、外国国家、日本の在外公館を場所とするということですか。(永田委員「そうです」と呼ぶ)で犯罪が起こるということですか。(永田委員「そこに犯罪人がいたときに引き渡し条約の適用対象になるかどうか」と呼ぶ)

森岡委員長代理 挙手をしてから質問してください。

永田委員 失礼しました。

樋渡政府参考人 それは、我が国に対する引き渡し要求、請求でありますから、我が国の管轄の及ぶところにいる者に対しての要求ということになれば除外はされないと思います。

永田委員 二点目に対しては大変明確に、在外の日本大使館、場所としての日本大使館は犯罪人引き渡し条約の適用対象になる、管轄内に入っていると。つまり、軍紀違反を犯した元米軍人が日本国大使館にいたときに、それがたとえ第三国であったとしても、そこにいたときには、犯罪人引き渡しの要請があった場合、応じなければならない、要請が要件を満たしている場合ですけれども、そういう答弁だったというふうに解釈をさせていただきます。

 一個目のお話でしたけれども、もう時間も大分かけてきたので締めくくりたいと思いますけれども、引き渡し条約に基づく要請があった場合に、それを拒否、引き渡しが実現するための要件を先ほど小さな声でつぶやかれていましたけれども、日本国政府が引き渡しは起こらないんだと断言をできるケースはどういうケースですかという質問をしたときに、局長は、実現をするケースはこういうケースです、こういう要件を満たしていなければなりませんと。だから、そこまでで切っちゃったんですけれども。ということは、その裏返しとして、その要件を満たしていないということを日本国政府が確信をしている場合には引き渡しが起こらないという断言をなし得るという答弁を暗になさったんだと思います。違うんですか。首をかしげているんですけれども、違うんですか。違うんだったら、ちょっと補足をしてください。時間が短いので、してください。

樋渡政府参考人 要は、法務当局といたしましては、法令の解釈等はできますが、それ以上、私が政府を代表して何かをお答えすることができないというふうに思うわけであります。

永田委員 法制度の話をしているので、政府を代表する者としてはやはり大臣がここにいらっしゃるわけですけれども、証拠が不足しているとか、あるいは双罰性の要件を満たしていないとか、そういうような確信を日本国政府が持っていなければあり得ない、絶対にできない、断言を我が国の総理はしたわけですよ。しかも、書面にして当の元米軍人に示したというほぼ確実なニュースが流れています。一体、何の根拠を持ってそういうことをするのか。法的根拠はあるんですか、こういう行為には。

 とてもあり得ない話だということを指摘して、法案の質疑、この法案そのものに対して全く当てないのもおかしな話なのでちょっと当てておきますけれども、これは国際問題に発展するケースがあるんじゃないかというのを一つだけ指摘しておきたいと思います。

 例えば、アメリカが日本に対して捜査共助を依頼してきた。これに従う場合には、アメリカの要求を満たすわけですから、要求は満足されるわけですから、アメリカと日本の間で国際問題になることはあり得ないという立場から、今回のスキームでは、法務省は、捜査共助の要請に従う場合には外務省に相談をしなくてもいいというスキームになっています。

 しかし、日本とアメリカの関係では国際問題にならなくても、第三国との間で、アメリカの要請に従って捜査をした結果、日本と第三国の間の外交関係がおかしくなっちゃうということは、理論的にはあり得るんだと僕は思うんです。そういう意味で言えば、従う場合であっても、必ずこれは外務省に相談をしておく方が安全だなというふうには思っているんですが、なぜ外務省に相談をするというスキームが今回の法律で盛り込まれなかったのか、明確な答弁をお願いしたいと思います。

 今までのスキームであれば、外務省は必ず通ってくるので、これはどこどことの間で外交関係に発展する可能性がありますよというアドバイスは出し得る状態にあるわけですが、今回は、捜査共助の要請に従う場合には外務省に相談をしなくてもいいことになっているので、知らず知らずのうちに捜査をして、知らず知らずのうちに第三国との間で外交関係に発展することは理論的にはあり得るんですね。なぜこういう仕組みになっているのか、教えてください。

樋渡政府参考人 委員御指摘のとおり、現行法でも、相当性がないことを理由に共助の要請を拒否する場合等には要請国との友好関係を損なうおそれがあることから、外務大臣の外交上の観点からの意見を参酌することが適当と認められているわけでありまして、改正においても、拒否する場合には外務大臣との協議を定めておるわけであります。

 一般的に、要請を受ける場合におきましてはそういう問題は起こらないだろうという想定もあるわけでございますけれども、委員御指摘の要請を拒否したい場合につきましても、法律上外務省に対する協議義務はないものの、当省から外務省に対しては必要な連絡協議は行っていく所存でございます。

永田委員 なぜ法律上そういう制度を書き込まなかったのかという質問に対しては答弁は不十分だと思いますが、時間いっぱいなので、この質疑はこれで終わりたいと思います。

 ただ、最後に一言だけ申します。

 曽我さんとジェンキンスさんの話を想定した質問をしたということは多分気づかれたと思います。曽我さんの北京で会うとか会わないとかということについて、本人の気持ちが踏みにじられるような対応がなされようとしているやの報道に、私は、深い懸念というか、強い懸念を持っています。ぜひ、曽我さんの人権にも配慮をし、気持ちにも配慮をし、そして、なおかつ、確信のないギャランティーを勝手に出すようなことはないように、ぜひ大臣、総理に会ったら一言おっしゃっていただきたいと思いますね。本当に、日本国の格を下げることになるので、しっかりその辺を見張って、これは条約違反になるからそういうことはできませんということは一言おっしゃっていただければいいなというふうに思います。

 以上で質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。

森岡委員長代理 御苦労さまでした。

 泉房穂君。

泉(房)委員 民主党の泉房穂です。二十分間という限られた時間ですので、答弁の方もポイントに沿ってよろしくお願いいたします。

 まず、法案に関してでありますが、双罰性の問題であります。

 私は、犯罪捜査に当たって、やはり、犯罪のない社会をつくるために捜査の必要性があることは当然認めるものであります。しかしながら、反面、犯罪の捜査の必要性を強調すると、その分、国民の人権保障、つまり、普通に暮らしている人にとって不利益をこうむる可能性も高まるという問題がありますので、その点、双罰性に欠ける場合の捜査のあり方という点で質問したいと思います。

 具体的には、日本では犯罪とされていないものにつきまして、国際捜査共助の要請を受けたときにどういうふうな捜査をするのかという問題であります。普通に日本で暮らしていた場合、日本では処罰されないわけですから、そういった事柄について捜査の対象になるということは、驚くといいますか、不意打ちという面もあります。少なくても、強制捜査、逮捕はないと思いますが、力づくで捜索、差し押さえで物を持っていくような強制捜査もしないという運用をすべきだと思います。

 また、例えば、産業スパイ罪がないからといって窃盗罪で逮捕するとか窃盗罪で強制捜査をするというような別件での捜査というものも、それは本来あってはならないことであると思います。そういった別件での対応もしないというようなこともぜひともお願いしたいと思いますし、また、本来日本では処罰されないわけですから、捜査をされるとしても、それはあくまでも任意である、あなた自身は、それに応じるかどうかはあなた自身の判断によるんですよということをきっちりと当の対象者に説明すべきだと思います。これは、例えば書面で行うとか、十分な配慮が必要であろうと思いますが、これらの点、双罰性に欠ける場合の捜査のあり方について、通常の犯罪捜査と違って、よりなお一層の慎重な対応が求められると思いますが、法務大臣の答弁をお願いします。

野沢国務大臣 御指摘のとおり、今回の改正法は、双罰性がない行為であっても条約に別段の定めがあるときは共助を実施し得るものとしておるわけでございます。そのような行為についても、証人尋問や捜査、差し押さえなどが法律上はこれで可能となります。

 しかし、双罰性がないということは、我が国の法令によれば罪に当たるとは言えない場合でございますので、強制処分については、当該証拠の重要性、処分を受ける者の不利益の有無、程度などを総合的に勘案し、慎重な運用を心がけてまいりたいと考えております。

泉(房)委員 今の答弁でしたが、慎重という言葉がありましたが、強制捜査については義務ではありません。本当に慎重に、国民のサイドに立った運用をぜひともお願いしたいと思います。

 先ほどの質問の、別件での捜査をしないのかという問題、それから、任意捜査であるということをあくまでもきっちりと説明すべきであるという問題についての答弁もよろしくお願いします。

樋渡政府参考人 別件の捜査ということでございますが、双罰性の有無の判断は、罪名が一致するかどうかの判断ではなく、法的評価を離れて、共助の対象となる社会的事実関係に、我が国の法令において犯罪行為と評価されるような行為が含まれているかどうかを検討して判断するものでありまして、これはいわゆる別件捜査とは何の関係もないところであろうというふうに思っております。

 また、丁寧に説明しろといいますことは、例えば参考人からの事情聴取結果を記載した供述調書の提供等でありますれば、あくまでも参考人の協力のもと任意で行われるものでございますから、実際の運用に当たっては、参考人に理解を求めるため、共助の対象となっておる事案の概要や必要性等をある程度つけて協力を求めることになると思われますが、要請国から第三者への情報開示をしないように求められる場合等、共助の遂行上あらかじめ説明できる事項の範囲に一定の制限が加わる場合もあると考えられますので、ケース・バイ・ケースで対応したいというふうに思っております。

 なお、何らかの定型的な書面等を用いての説明につきましては、今後の制度の運用状況を見ながら、必要であれば事案概要等の事前説明のあり方についても検討を加えてまいりたいというふうに思っております。

泉(房)委員 納得のできる答弁ではありません。ただ、一言だけ申し上げます。日本政府としては、アメリカ政府の利益も大事ですが、それと同じかそれ以上に、日本で普通に暮らす人の不利益にならないような運用をするべきだ、そういう観点でもって運用をすべきであるということを強く申し添えておきたいと思います。

 本日は、この点のみならず、今回の法案の背景となっております外国人犯罪の増加という点についても質問をしたいと思います。

 お手元の方に資料を配らせていただいております。私自身、弁護士をしておりまして、刑事弁護もやっているものですから、私の実務感覚として、外国人で犯罪をする人がふえているとはとても思えません。おかしいなと思って、改めて統計を調べまして表をつくってみたのがこの表であります。

 図一、図二、図三とありますが、図一は、確かに検挙人数、外国人で検挙される人の数はふえております。しかしながら、外国人の数そのものがふえておりますので、比率に直しますと、比率は平成五年時点で〇・三三%、平成十四年で〇・二八%ということでありまして、決して外国人で犯罪を犯す人がふえているというわけではないというふうに統計上は示されています。

 そして、二つ目の図二ですが、不法滞在者の問題でありますが、では、検挙される外国人のうち、不法滞在が問題と随分言われておりますけれども、どうかといいますと、例えば、これはピーク時の平成九年を見ますと、平成九年時に検挙された外国人のうち、不法滞在者の割合は六二・五%ありました。しかし、平成十四年度では五一・九%に減っています。つまり、犯罪を犯す外国人のうち不法滞在者の割合は、ふえているどころか、むしろ減少の傾向を示しております。とすれば、外国人を仮に犯罪の対象として捜査をより重要視するとしても、それは不法滞在ということを殊さら取り上げるということが妥当なのかというふうなことが疑われる資料だと私は思います。

 そして、三つ目でありますが、検挙される数はふえております。犯罪はふえているということは事実だと思います。では、その中で、日本人と比べて外国人の比率が高まっているかという問題であります。これは、平成五年度に検挙された人のうち、外国人の数は二・四%でありました。ずっと横、一番下の欄を見ていただきますと、二・四、二・三、二・二、二・〇、一・七、一・七、一・九、二・〇、二・二、二・二、二・三ということでありまして、平成五年の二・四%から見て、平成十五年度、昨年度は二・三%でありまして、この間の推移を見ても、犯罪を犯す外国人の率が高まっているわけではありません。ここはしっかりと確認すべきことだと思います。

 法務大臣も、きょうの答弁でも、外国人犯罪の急増ということを平気ですっと言われるわけですけれども、統計上ちゃんと見れば、犯罪を犯す外国人の数はふえていません。これは客観的事実であります。ただ、事件の数はふえています。なぜかというと、組織犯罪とか複数の犯罪を犯す率が高いので、結果的に事件の数はふえているということだろうと思います。

 とすれば、着目すべきは、国籍という、外国人という国籍に着目して、外国人という枠で考えるのではなく、組織犯罪であるとか、また近時、特殊な犯罪といいますか、これまでなかったような特殊な犯罪が生まれてきたというような犯罪類型に着目した対応をとるべきなのが本来あるべき姿でありまして、殊さら外国人の何か犯罪増加ということを強調して立法化を進めていくというようなことは、むしろ犯罪捜査の見地からしても望ましくないのではないかということを思わざるを得ません。

 この点、警察庁の方はどのようにお考えか、お答えください。

知念政府参考人 平成十五年中の来日外国人犯罪の検挙件数、人員は四万六百十五件、二万七人で、前年に比べ、ともに約二割増加し、過去最多となっております。これは十年前の平成五年に比べ、件数で約二倍、人員で約一・六倍に上るものであります。このうち刑法犯の検挙件数、人員は二万七千二百五十八件、八千七百二十五人で、前年と比べ、ともに約一割強増加し、過去最多となっております。これも平成五年、十年前に比べまして、件数で約二倍、人員で約一・二倍に上るものであります。

 また、最近における来日外国人犯罪の特徴としましては、国民に不安を与える強盗や侵入盗の検挙件数が、十年前に比べ、強盗が二倍、侵入盗は七倍に増加していること、発生地域別の刑法犯検挙件数を十年前と比較すると、東京、近畿以外の地域での増加率が高いなど、全国に拡散していることなどが挙げられます。これらの状況は、国民の体感治安の悪化の大きな要因となっているものと認識しているところであります。

 このような来日外国人犯罪に対処するため、警察といたしましては、引き続き犯罪の徹底検挙に努めるほか、来日外国人犯罪組織の壊滅を図るための捜査体制の充実強化、関係機関とのより緊密な連携による水際対策などの推進、関係各国の捜査機関との協力の一層の緊密化を図ってまいる所存であります。

泉(房)委員 長い答弁でしたが、質問とかみ合っていません。犯罪は日本人も外国人もふえています。犯罪の重大化も進んでいます。それはそのとおりなんです。問題は、殊さら外国人がそうなのかというと、そうじゃないじゃないかと。であるならば、外国人に限らず、日本人についても重大犯罪を防止すべきだし、組織犯罪を防止すべきだし、そういった見地でやるべきなのに、わざわざ外国人だけを取り上げるということが、外国人の人権保障の問題も当然ですが、それのみならず、捜査をする側からいっても、金とエネルギーを使うんだったら、もっとちゃんと統計資料を読み込んで、それに沿った対応をすべきじゃないかという質問を私はしているわけであります。

 今の答弁でも、体感治安という、要するに不安だということですが、確かに新聞では外国人の大きな犯罪は大きく取り上げられます。その結果、何か不安な気がします。でも、そこの不安をあおるのではなくて、そこを冷静に分析して対応をとるのが本来の役目ではないのですかと私は思うわけであります。

 そして、この問題はメール通報の問題にも関係してきます。本日の資料の方で配らせていただいております、兵庫県や神戸市から中止などの要請があることはもう既に同僚議員が取り上げております。またホームページも印刷しましてお手元に配らせていただいておりますが、これにつきましても、別に外国人犯罪のうち不法滞在者の割合がふえているわけではないわけです。殊さら不法滞在の問題を取り上げること自体に合理性があるのかということ自体、そもそもどうかと私は思います。

 また、これほど多くの批判が、こういった兵庫県、神戸市、アムネスティ・インターナショナル日本などから寄せられているにもかかわらず、なお維持しなければならないほどのことなのか、このメール通報の受付が。答弁では、千七百件あって、うち十八人が検挙されたといいますが、メール通報があったから検挙されたかどうかも疑問ですが、それにしても、その割合を維持するために、わずか一%程度のために、これほど人権の問題からも指摘されていることを続ける理由があるのかということは本当に疑問であります。

 そして、批判の中で、確かにホームページの文章を変えた面はあります。お手元のホームページを印刷した資料の二枚目でありますが、二枚目の「情報受付」という欄の方で、その下の二行が批判を受けてつけ加えた文章であります。読みますが、「なお、本メールは不法滞在者と思われる外国人に関する情報を受け付けるものであり、適法に滞在している外国人に対する誹謗中傷は固くお断りします。」、この二行を、批判を受けて、その批判の対応として二行つけました。

 しかし、この文章を見て私は驚きます。適法に滞在している外国人に対する誹謗中傷は断る、では違法な外国人に対しては誹謗中傷はいいのか、誹謗中傷なんというものはだれに対してもしてはいけないはずじゃないんですか。かつ、適法に滞在しているかどうかは、メール通報している人は怪しいと思って通報するんだから、違法と思っているんですから、その本人からすれば、違法と思って通報している以上、誹謗中傷可になってしまうじゃないですか。こういった感性自体が問題なんです、日本語の能力も問題だと思いますけれども。

 こういった観点を、もう少しちゃんと批判を踏まえて、対応するならもっと誠実な対応をすべきであります。今私が質問したからといってすぐに返事も難しいでしょうけれども、少なくとも、これほど多くの批判が寄せられているわけですから、やはりもっと抜本的な見直しというものを考えるべきであります。そして、一たんやったものはなかなかやめられへんと言うのかもしれませんけれども、だったら、ちょっと工夫して、こういった外国人のみに限らず、一般的な入管業務に対する相談受け付けの窓口というふうに改変するとか、知恵を絞って、批判を受けながら続けるほどの理由はないと思いますから、少なくとも何らかの検討をしたらいかがかと思いますが、この点いかがでしょうか。

増田政府参考人 不法滞在者の問題につきましては、委員からいろいろ御意見は述べられましたが、しかしながら、政府として、今現在二十五万人と見られる不法滞在者が我が国に存在している、そのことが国民にとって治安に対する不安を与える一つの要因になっているという声があること自体はやはり重視せざるを得ないと考えておりまして、それだけに、私どもは、この不法滞在者を今後五年間で半減させます、責任を持って半減させますということを約束して、その実行に取り組んでいるところでございます。

 そして、実際に、半減にはいろいろな方策はありますけれども、私どもがこれに取り組む一つの手がかりとしては、今国内にいる人にはやはり出ていってもらわざるを得ない、出ていってもらうにはやはり情報が必要である、そういった観点から、これまでも電話やはがき、手紙などで毎年国民の皆様からは不法滞在についての情報をいただいていたわけですけれども、そのうちに、入管はメールで不法滞在の情報を受け付けないのか、そういう声があったものですから、今、そういった声も踏まえまして、ことしの二月から不法滞在者についての情報を受け付けるメールを入管のホームページに設けたという経緯でございます。

 委員からは、千七百件でしょせんは一%程度ではないかということでございますけれども、これは、実際に受け付けました情報というのは、所管する地方入管においてその内容を精査して、その確度なども吟味し、必要な内偵も行い、そして摘発に取りかかるものでございますから、今のところはまだ、先週末現在で二十一人の摘発ではございますけれども、現にこうして国民の皆様から情報をいただいているものですから、これはこれで生かして、今後も摘発に努めてまいりたいと考えているところでございます。

 それから、委員からは、批判を受けて適法に滞在している外国人への誹謗中傷をかたくお断りするということについての御指摘もございましたが、これは何も、私どもはこの二行だけを加えたのではございません。

 もともと批判を受けたのは、何の説明もなしにこの情報受付ページが設けられていました、それでこんなことをやっていれば外国人に対する偏見であるとかをあおるのではないかということがあったので、これは入管法の六十二条に基づく、法律に基づくものなんですということを説明する文章を入れた。その入れた最後にこのなお書きの二行を入れたわけで、委員の御指摘も今伺いましたけれども、私どもとしては、よく言われたのが、こんなことをやったのでは適法に滞在している外国人だってみんな足を引っ張るようなことの情報提供があるんじゃないか、悪用するんじゃないか、こういう御意見がこの国会での委員会などでも質問を受けました。

 そういったことも踏まえまして、あくまでもこれはまじめな情報受付なんですから、適法に滞在している人を陥れるようなそういう悪用はやめていただきたいのですということをこの二行の文章にしたわけです。委員御指摘のような誤解による混乱は生じないとは考えておりますけれども、しかし今の御指摘もございますので、今後ともそれは、寄せられるメールの内容も検証しながら、必要があれば随時見直しは行っていきたいと思います。

 それから、こういう情報受付ということじゃなしに、もっと一般的なメール受付を考えたらどうかということの御指摘でしたが、それは実は今現にもう設けられている入管のホームページの中にございまして、それは委員がお配りになられた中には今なかったようですけれども、「インフォメーションセンター」というところをクリックして開いていただくと、そこには入管に対する御要望、御意見などを自由に書き込んでいただけるページがございます。

 ですから、そういう意味では、それはそれで設けているわけですが、ただ、なぜそれと別にこういう情報受付を設けたかというと、それはやはり、情報受付用にコンパクトに、うちが摘発に必要な最小限度の情報を受け付けやすいようなものとしてこの情報受付の項目を設けたということでございます。

泉(房)委員 随分長いお答えをしても、多分ここにおられる方も納得できないような答弁であれば、本当に見直してもらいたいと思います。

 最後に大臣に一言だけ。外国人犯罪の増加の点、きょう指摘させていただきました。本当は人はふえていないんじゃないか。メール受付の問題も指摘させていただきました。この点、少なくとも検討するぐらいの答弁をいただきたいんですが、よろしくお願いします。

    〔森岡委員長代理退席、委員長着席〕

野沢国務大臣 この委員会でも、入管法の審査等を通じまして、外国人の皆様の通報のあり方についてのさまざまな御要請をいただいております。これは、私どもとしてもできる限り迅速に対応しようということで改善もやってまいりましたが、今後ともそういった外国人の皆様との共生を考えますと、人権に配慮しつつも、不法滞在を減らすという大きなまた政府の方針に沿ってこれを上手に運用していかなければならないと考えております。

泉(房)委員 このメール通報の問題、引き続き、これはやめるまで取り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 以上です。

柳本委員長 御苦労さま。

 本多平直君。

本多委員 民主党の本多平直でございます。

 きょうはこの国際捜査共助法の改正案について質問をさせていただきたいと思うんですけれども、国際捜査の共助というのがどんな役割を果たしているのかという資料をいろいろ読ませていただいた中に、私の選挙区であります埼玉県熊谷で殺人に遭った方の御遺体が中国まで運ばれてしまって、その御遺体を捜すときの中国当局と日本当局の協力が功を奏したおかげで、無事というわけじゃないんですけれども、その御遺体が発見できて捜査が進展したという例が近時の一番重要な例として載っていたのを読みまして、本当に、国際間でいろいろ価値観が違ったり仕組みが違う中で御努力をされている法務省と警察など関係の方々には心から敬意を表したいと思います。

 その中で、こういう方向を、どんどんどんどん協力の仕方を見直して、役所と役所のできるだけスピーディーにやっていくという方向性にはおおむね賛成なんですが、双罰性という概念、今回この法律を勉強する中で、これについて緩和されていくという方向性が指し示されているんですが、私は本当にそれでいいのかなという疑問を少し感じましたので、その観点から御質問をさせていただきたいと思います。

 そもそも双罰性というのはどういう概念なのか、お答えください。

野沢国務大臣 国際的な犯罪の捜査を進める上でそれぞれの国が両方とも共通の処分をする、こういったことが整っているところが双罰性あり、あるいはその必要がないところは双罰性不要ということで処理をしているところでございます。

本多委員 どうしてそういう概念が今までは必要とされてきたのか、お答えください。

中野大臣政務官 今の御質問でございますけれども、例えば我が国で行われたといたしましても犯罪にならない行為、例えばアメリカでいいますと、単純な児童ポルノの所持だとか被告人による偽証とか、いろいろ問題がございますけれども、そういうような行為について捜査機関が証拠の収集を行って外国に提供することは、国民感情に反するおそれがあるということから一般的には適当でない、そういうことが当時から言われておりまして、そういう点からこのような考えになったと思います。

本多委員 今非常に政務官からいいお言葉があったんですけれども、日本では犯罪ではないものの捜査に協力するというのは、国民感情として余り納得はいかないんですよね。そうですよね、当然。日本では犯罪じゃないことの捜査をアメリカが一生懸命するのは勝手だけれども、それに協力するということは、日本で犯罪じゃないんだから、ない。

 その条件を緩和していこうとされているのがこの今回の法律、条約なんですが、なぜなんでしょう。

実川副大臣 近年、我が国におきましては外国人による犯罪が増加しております。また、世界的に見ても国境を越えて敢行されます犯罪が増加しておることは委員御指摘のとおりでございますけれども、このような事態に有効に対処するためには、諸外国との捜査協力を一層推進し、また捜査共助の迅速化を図ることの重要性が極めて高くなってまいっております。

 そこで、我が国政府は、米国との間におきます捜査共助の実効性をより一層高くするために、刑事に関する共助に関する日本国とアメリカ合衆国との間の条約を締結しまして、条約に別段の定めがある場合には、双罰性の有無にかかわらず共助を……(本多委員「時間がないんで、済みません」と呼ぶ)そういうことで、国際共助法の関連規定の改正を行うこととしたものでございます。

本多委員 ちなみに言っておきますけれども、今、泉議員の質問を聞いていらっしゃいましたか。外国人の犯罪はふえているんですか。私はそんなこと、委員の御指摘のとおりと言われると困るんですが、言っていませんので。訂正してください。

野沢国務大臣 今、泉委員からいただいたこの資料でございますが、この図二にございますように、一並びに二ともに件数そのものはしっかりふえております。

本多委員 そこはいろいろな言い方ができるということを先ほど泉議員は質問していて、それを一方的にだけとらえて、委員も御指摘のとおりとか、そんな勝手なことを言わないでください。

 それで、双罰性は国民的な感情に沿った仕組みなんですね、双罰性を国際共助に要求するのに。今の副大臣のお答えの中には、ちょっと、なぜ今回双罰性を緩和するのか、全然お答えになっていないんですが、もう一度お願いします。

実川副大臣 条約を締結する場合には、双方の締約国の法制度の相違、また国民的感情等にかんがみながら、どの範囲での共助を実施するか、どのような場合に共助を拒絶するか等について、外国との間で詳細に取り決められております。我が国の法体系上、共助をする場合が相当でない場合には、共助の義務を負うことがないように取り決めることもできることから、条約に別段の定めがある場合には、双罰性の有無にかかわらず共助を実施することができるようにすることは、問題ないというふうに思われます。

 また、我が国で犯罪とならない行為についての共助であっても、共助の実施が任意処分により可能である場合には、そもそも処分の対象者の任意の協力があることから、その権利保護の観点から見ましても、条約の要請に従って共助を実施することに問題は生じません。

 また、他方、強制処分が必要な場合におきましても、裁判官において令状を発するか否かの審査を行う上……(本多委員「ちょっと、質問に答えていないよ」と呼ぶ)日米間に、共助の場合に、条約においては個々の具体的事案に応じて国民の権利保護に配慮をし、双罰性がない場合には強制処分等を行うか否かは我が国に裁量権があるようにしているものでありまして、この点も問題ないと思われます。

本多委員 副大臣の説明ときのう役所の方が言っていたのは若干違って、何か国際的な趨勢だという説明を受けたのでそういう答弁がいただけるのかなと思って聞いたので、違うということなので、それはそれでいいです。

 外国では、今、双罰性の要件というのがどういう状況になっているんでしょうか。これはしっかり堅持、共助を行うときに双罰性なんか要らないよという国と、いや、それでも双罰性は要るんだよという国、両方あると思うんですが、どういうふうに法務省としては把握されているでしょうか。

中野大臣政務官 外国の例について申し上げますけれども、あらゆる国について調査したわけではございませんけれども、米国だけではなしにフランスとかカナダ等におきましても双罰性は共助の要件とはされておりません。また、オーストラリアとか韓国、英国及びドイツも双罰性は原則不要としておりまして、これに対して、イタリアとかタイでは双罰性を原則必要としておりますけれども、条約で別に定めれば不要という法制であるということを承知しておりまして、今回の法案におきましては、日本においてもこのような趣旨で今御提案しているわけでございます。よろしくお願いします。

本多委員 そういうことなんですよね。国際的には双罰性を必要としない国が多いし、イタリアやタイは双罰性を要るとしていても条約では例外にできるということなんで、そのぐらいには合わせようという今回の提案だと理解をしています。

 しかし、私は、ちょっと賛成反対は別として、疑問を呈したいということなんです。ですから、疑問として聞いていただきたいんですけれども、本当にそういう国際的な流れに沿っていいのかなということなんです。つまり、捜査の、何を犯罪とするかというのは、国家にとって本当に大事な部分だと思うんですね。まさに法務省が担っている刑事法制の根幹だと思うんです。そして、今回アメリカと日本の関係なんですが、アメリカで犯罪になって日本でならないもの、日本で犯罪になってアメリカでならないもの、例えばどんなものがありますか。

実川副大臣 我が国で犯罪とされていて米国で犯罪とされていないものという御指摘でございますけれども、米国には連邦法のほか各州に法律があります。これは御指摘のとおりでございますけれども、すべての法律を調査したわけではありませんが、例えば我が国では犯罪とされていて米国では犯罪とされていないものにつきましては、けん銃の単純所持あるいは覚せい剤、大麻の自己使用行為、または信書の隠匿・開封行為などがございます。

本多委員 逆はいかがでしょう。

実川副大臣 逆でありますけれども、例えば、我が国では犯罪とされていないけれども米国では犯罪とされているものにつきましては、陪審員に対します影響力の行使、または被告人による偽証、さらには児童ポルノの単純所持などがあると称されております。(発言する者あり)

本多委員 今、後ろからと言ったらいけないんですね、戸別訪問とかがあるのかないのかわからないです。

 例えば、脱走罪というのはどうですか、軍隊からの。

野沢国務大臣 突然の御質問ですので、調べましてまた御返答いたします。

本多委員 きのう通告してあるんですけれども。

野沢国務大臣 外国の法律の適用の問題でもございますし、全く事実の具体的な問題を離れての成否をここでお答えするのは差し控えたいと思います。

本多委員 具体的な事実というのは何ですか。私は、軍隊からの脱走罪というのは、これはどっち、日本にはあるんですか。

野沢国務大臣 その事柄だけでは抽象的でございますから、その辺についてのしっかりした事実関係、そういった具体的事実がやはり必要であろうかと思います。

本多委員 わかりました。

 それで、私が言いたいのは、犯罪が違うところというのは、実は、別に殺人というのはどっちでも罪にできるんですね。例えば、だれから見ても、強盗とか強姦とか、本当にそれはもうだんだんだんだん、特に、もちろんアラブの一部の国とかには、日本では犯罪じゃないようなことが犯罪とされている極端な部分はあるんですが、おおむね日本とアメリカでは共通しているわけですよ。ですから、わざわざ双罰性の要件なんか緩和しなくても、ほとんどの犯罪においてそんなに支障はないわけです。

 そして、では残されたところはどんなところかというと、今、本当に具体的に出たのは、例えば、単純にけん銃を持っているのが、日本では犯罪だけれども、アメリカでは違う。児童ポルノというのは、アメリカでは持っているだけで犯罪になるけれども、日本ではならない。

 これは、非常にミクロではあるんですけれども、実は、御存じのように、けん銃を持つことを違法にするかどうか、アメリカでは大変な議論を、二分してやっているところなんです。それから、例えば児童ポルノの話も、私も今回党内で議論をしました。これを、本当に違法にして、さらに犯罪にしようという声もたくさんあるんです。ただ、それは、捜査の面でいろいろ行き過ぎが生じたりするのではないかというおそれから、私なんかはそこは消極なんですよ。単純に持っているだけを犯罪にまでしちゃったり違法にしちゃったら、これは、パソコンをあけたら大変なことになる。これは、意見は日本の中でも分かれているんですよ。

 こういうことを一生懸命国会で議論して、それからアメリカの方もけん銃のことを議論して、それを犯罪にするかしないかというのは、これはまさに国家の大事なポイントとして決めていることなんですね。それを、違うものを別に共助する必要はないんじゃないか。それはおおむね、別に殺人とか強盗とか、大きな犯罪に関して関係するわけではないので、今回この要件を緩和する理由がよくわからないんですが、そこはいかがでしょうか。

野沢国務大臣 共助をする、しないの問題もいろいろございます。それから、双罰性の有無についても、国によっての国情の違いもある。これは、委員今御指摘のとおりの状況にございますが、今回、私ども、双罰性の要件を緩和することにつきましては、今までのこの法律の仕組み、それから証拠の取りそろえ、また、それに対する解釈、適用の問題等々、相当慎重に審議をして取り組んできたわけですが、条約でそれを明確にすることによりまして、これらの検討に要する時間を短縮しまして迅速な捜査が行われる、ここに目的があるわけでございます。

本多委員 もちろん、捜査の迅速さという説明も受けましたし、今大臣からもそういう御答弁をいただきました。

 迅速さは必要だと思うんですが、今後、ますます国家間でこういう刑事の部分というのが近づいていくというのは、ある意味いい面もあるんです。ただ、残された違いというのは、まさに国家がある限りそれは大事にしていく。それは、一方の国では犯罪になること、違う国では犯罪にならないものというのが残るからこそ国家が違うという部分だと思うので、そこは一概に、もちろん犯罪人の引き渡しなんかに関しては双罰性がしっかり残っているということですからそこは安心しているんですけれども、捜査の協力ということだって、例えば児童ポルノの単純所持の捜査、これはアメリカでは犯罪ですから、では日本でも協力してくれというと、日本人のパソコンをどうあけて、つまり、私が懸念をしているような懸念が生じてくるわけなんですよ。

 ですから、そこは、国家として毅然として、何か本当に大きな支障があるならもちろん双罰性の要件を緩和してもいいです。これで極悪人が逃げちゃう、こういう要件を緩和しないとアメリカと協力できない。本当に重要な要件があるんだったらいいんですが、何かついでのように、国際捜査共助法の二条ですから、二条を変えるというのは、やはりある種法律の大きなところを変えることになると思いますので、そこは重要な変更をしていくんだという覚悟というか、それはあるんですかね、大臣として。

野沢国務大臣 今、具体的な課題として、委員、児童ポルノの問題を御指摘されましたが、米国では処罰されてはいるものの、我が国では処罰されていない、こういう行為についても常に共助を実施することは不当だということにはならないと思います。

 なお、共助を実施することは、それが任意の処分により可能である場合には、処分の対象者の任意の協力があるわけですから、その実施は不当とは思えない。他方、強制処分が必要な場合については、例えば、対象者が任意に証拠の提供に応じる用意があるのに形式的に捜査機関に対して令状の取得を求める場合もありまして、あらゆる場合でも、強制処分により共助を実施することが不当とは言えないと考えております。

 なお、日米刑事共助条約においては、双罰性がない場合の強制処分の実施は我が国の裁量権にゆだねられているところでございます。

 いずれにいたしましても、共助を行うかどうかということにつきましては、要請された証拠の重要性、処分を受ける者の不利益の有無、程度などを総合的に勘案しまして慎重な運用を心がけてまいりたいと思っております。

本多委員 ぜひとも、双罰性のないものに関しては、私の考えとしては、今回この条約、法律がどうなるにせよ条約はもう結んでいらっしゃると思うんですが、慎重な共助の対応というのをしていただいた方が、私は、それは国家というものが残って、刑事法制をそれぞれ独自に持っていくということの価値はそこにあるのではないかと思いますので、そこはしっかりと御理解をいただければと思います。

 先ほどの脱走の話は後ほど調べていただくということなんですが、実は、これはある意味、けん銃の所持と児童ポルノの単純所持というのは、ミクロというとけん銃の方は大きい気もするし、児童ポルノも重大なんですけれども。

 例えば、日本とアメリカで軍隊を持つか持っていないかという違いがあるわけですね。自衛隊にももちろん職務怠慢とかそういう犯罪はあるんでしょうけれども、軍隊から脱走するのと、また自衛隊という組織からというのは、それは本当に双罰性と言えるのかどうか私は疑問ですので、そういうこともしっかりと検討して、今話題になっているいろいろな課題にも対応をしていただければと思います。

 以上で私の質問を終わります。

柳本委員長 御苦労さん。

 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより討論に入るのでありますが、討論の申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、参議院送付、国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、塩崎恭久君外二名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。永田寿康君。

永田委員 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    国際捜査共助法及び組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。

 一 近年、重要犯罪人の国外逃亡、テロなどの国際的組織犯罪及びインターネット犯罪など、犯罪の国際化が進み、犯罪人の引き渡し及び捜査共助等の国際協力が不可欠となっている現状に鑑み、刑事司法に関する国際協力に向けた施策を常に検討するとともに、外国捜査当局との十分な情報交換に努めること。

 二 受刑者証人移送制度の運用に当たっては、受刑者に対し、制度の趣旨、手続、移送期間及び方法等について十分な説明を行うとともに、証人移送の決定に際しては、受刑者本人の意思確認及び意見を十分尊重するよう努めること。

 三 我が国の要請により移送された外国の受刑者を拘禁するに当たっては、当該外国の受刑者の人権を十分尊重するとともに、適切な処遇に努めること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 塩崎恭久君外二名提出の動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

柳本委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。野沢法務大臣。

野沢国務大臣 ただいま可決されました附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

柳本委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

柳本委員長 次に、内閣提出、民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。野沢法務大臣。

    ―――――――――――――

 民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

野沢国務大臣 民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 民事関係手続については、近年の社会経済情勢の変化等に伴い、特に、社会における情報通信技術の発展への対応を強化するとともに、権利実現の一層の円滑化を図る必要があると指摘されております。また、公示催告手続についても、明治二十三年に制定された民事訴訟法の一部である現行の公示催告手続ニ関スル法律の規律を改めて、手続をより迅速なものにする必要があると指摘されております。

 そこで、この法律案は、民事関係手続を国民がより利用しやすいものとするとの観点から、その一層の迅速化及び効率化等を図るため、民事訴訟法等の見直しを行うものであります。

 この法律案の要点を申し上げますと、第一は、民事訴訟手続等における申し立て等のオンライン化を図ることであります。民事訴訟法等の法令上書面によることとされている申し立て等であって最高裁判所規則で定めるものについて、電子情報処理組織を利用して行うことができるようにすることとしております。

 第二は、少額訴訟債権執行制度を創設することであります。少額訴訟に係る債務名義については、地方裁判所のほか、国民に身近な簡易裁判所でも債権執行を行うことができることとしております。

 第三は、最低売却価額制度を見直すことであります。最低売却価額を売却基準価額として、これを二割下回る価額の範囲内での買い受けの申し出を認めることにより、不動産の競売手続の円滑化を図ることとしております。

 第四は、扶養義務等に基づく金銭債務について間接強制を認めることであります。養育費等の扶養義務等に基づく金銭債務についての強制執行は、現在認められている直接強制のほか、間接強制の方法によることもできるようにすることとしております。

 第五は、公示催告手続の迅速化を図ることであります。公示催告手続について、有価証券の無効の宣言をするための公示催告期間の下限を六カ月から二カ月に短縮し、手続全体を決定手続とすることとしております。

 なお、この法律の制定に伴い、最高裁判所規則の改正等所要の手続が必要となりますので、その期間を考慮いたしまして、この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決くださいますようお願いいたします。

柳本委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十五分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

柳本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 内閣提出、民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案について議事を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長房村精一君及び財務省理財局次長日野康臣君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局中山総務局長及び園尾民事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

柳本委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

柳本委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。上田勇君。

上田委員 それでは、民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律案につきまして、何点か質問させていただきます。

 まず、この法案では、民事訴訟手続の申し立てあるいは督促手続をオンラインによることができるとして、それに伴います手続等の整備を行っております。このことは今の時代の要請に対応するものでありまして、当然のことであるというふうに考えますけれども、ただ、オンラインの申請が可能になることによりまして、各方面、これはいろいろな方々からでありますけれども、データが漏えいをするのではないかとか、あるいは消滅することはないのか、あるいは本人に成り済まして申請を行うというような危険性はないのか、そうしたさまざまな懸念も指摘をされております。

 こうした懸念というのは当然のことであろうというふうに思いまして、当然、こうしたことについては万全の対策を講じていく必要があるというふうに考えますけれども、裁判所としてどのように対処されるのか、御見解をまず伺います。

    〔委員長退席、森岡委員長代理着席〕

中山最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判手続は個人の権利義務に直接かかわるものでありますから、民事訴訟手続等のオンライン化に当たっては、情報管理の徹底やデータの正確性の確保が、今後システムを開発したり運用していくに当たって極めて重要であるというふうに考えております。

 こうした観点から、現在、政府においてもさまざまな取り組みがされており、例えば、情報の漏えい、改ざん、成り済まし等を防止するために、情報を暗号化してやりとりをするいわゆるSSLと呼ばれる通信方法を用い、政府認証基盤を構成するブリッジ認証局と相互認証された認証機関から発行される電子証明書を用いた電子署名を要求するなどの対策を講じられております。

 裁判所におきましても、こうした政府における取り組みと並行して同様の対策を既に講じてきており、この五月に、政府認証基盤に参画するための最高裁判所認証局の構築を終え、政府のブリッジ認証局との間で相互認証をしたところでございます。

 また、不正侵入による情報の漏えい及び消滅を防止するために、外部ネットワークと内部ネットワークとの接続点に不正侵入監視装置を設置した上で、システムやサーバーに対するアクセス制限の徹底についても実施してきております。さらに、外部からの攻撃にさらされないシステムが構築されているかどうかについて監査人による脆弱性検査も適時実施しているところであり、今後とも、万遺漏なきシステムを目指して努力したいと思っております。

上田委員 ありがとうございます。

 今、情報の管理についてはさまざまなところで問題も提起をされておりますし、また関心も高まっているところでございます。非常にセンシティブな内容も含めての情報であるというふうに思いますので、ぜひとも万全を期していただきたいというふうにお願いをいたします。

 それでは次に、法案では、民事執行法の第十八条第一項を改正いたしまして、執行官による官庁または公署に対する援助請求をすることができる、こうした規定を設けておりますけれども、その意義、また、そのことによって期待される効果はどのようなものがあるのか、伺います。

房村政府参考人 御指摘のように、現行法におきましては、執行裁判所は、一般的な権限として、必要がある場合には官庁あるいは公署に援助を求めることができるとされておりますが、執行官にはそのような権限が認められておりません。執行官が職務の執行に際し抵抗を受けるときに警察上の援助を求めることができる、こういうような個別の規定はあるわけですが、一般的な形でのそういう権限が認められておりません。

 しかし、実際に執行官が職務を執行する場合には、事案に応じてさまざまな態様の援助が必要と考えられるわけであります。現行法上は、そのような場合、執行官は執行裁判所を通じて援助を求めるということになるわけでありますが、実際の執行の場面に直接携わっている執行官が官庁等に赴いて、みずから援助を求めることが執行官の職務の円滑な執行の実現に資するというぐあいに考えられます。そこで、今回の改正に当たりまして、執行官につきましても執行裁判所と同様に、一般的な権限として、必要に応じて官庁あるいは公署に援助を求めることができるとしたものでございます。

 具体的な適用場面として考えられますのは、例えば建物の明け渡し執行のときに、非常な高齢者であるとかあるいは病気がちの人であるというようなときに、その転居先の確保であるとか保護の方策につきまして、市町村あるいは民生委員などの福祉関係機関に連絡をしてその援助を求めるというようなことも考えられますし、また明け渡し執行の場面で、例えば大量の化学薬品等の危険物が残っている、このようなときに消防署などの協力を得た上でその除去を行うというようなことも考えられますし、さまざまな場面でこの援助請求を活用し得るのではないか、こう思っております。

上田委員 それでは次に、養育費にかかわる間接強制の問題につきまして何点か御質問させていただきます。

 法案では、扶養義務等に係る金銭債権について間接強制の方法によることができるということとしております。そのような規定を設けた理由、また、この扶養義務等に係る金銭債権だけにこの方法を限定した理由はどの辺にあるのか、お伺いをいたします。

房村政府参考人 間接強制と申しますのは、本来の債務を履行しない場合に裁判所の定める制裁金を課する、そういう制裁金という心理的な強制によってその執行を確保しよう、こういう制度でございます。

 これは、従来、金銭債権につきましてはそのような間接強制の方法は認められてきておりませんでした。それは、例えば、お金がないために金銭債務を履行できない、こういう場合に、間接強制で、その債務を履行しない場合に例えば一日当たり幾らを払え、こういうような間接強制が課されるということになりますと、履行したくても履行できない状態で、間接強制金の負担がますますかかってくる、そういう事情が生ずる可能性がある、そういうことから、金銭債務に間接強制を認めると、債務者にとって過酷な結果を生じかねない、そういうことが懸念されて、金銭債権についての強制執行においては間接強制が認められてこなかったわけであります。

 ただ、間接強制というのは、直接強制に比べますと、そういう意味で、裁判所が間接強制金を定めて心理的な強制で履行を促すということで、ある意味で債権者にとっては非常に利用しやすい面がございます。

 扶養義務に基づく請求権ですが、これについては、何といっても請求権者の生活を支えるものということで、非常に保護の必要性が高いわけでございます。そういうことから、これの支払いを怠ったときに強制執行をできるだけ容易にする必要があるだろうということで、実は、昨年の改正に当たりましても、将来、期限が到来する分も含めて給料等の定期金の給付を差し押さえることができるというような新しい仕組みをつくりまして、その執行を容易にするという方策を講じたわけでございます。

 ただ、給与債権を差し押さえるということになりますと、会社に知られて会社にいづらくなってしまう、その結果退職してしまう、そういうことを懸念して給与を差し押さえることがなかなかできない、こういう指摘がございました。また、給与債権を持っていない者に対しては、給与債権の将来分も含めての差し押さえということはそもそも使えない。そのようなことから、他に何らかの扶養請求権の強制執行を容易にする方法がないのかということで今回検討いたしまして、間接強制を認める、こういうことで扶養請求権の強制執行を容易にしようと考えたわけであります。

 特に扶養義務の場合には、これを認めるときに、請求者の事情とあわせて義務者の生活状況等も判断をした上で、支払い可能な範囲でその扶養請求権の額が決められるということが一般でございますので、通常、扶養請求権が認められている場合には支払い可能と考えられます。

 したがいまして、先ほど申し上げた間接強制を認めることによって過酷な結果をもたらすというおそれが類型的に少ない請求権だということが言えるということと、それから、この間接強制を認めることによって、先ほども申し上げたような給与債権がない場合、あるいは会社の地位を失うことを恐れて給与債権を差し押さえることをちゅうちょしてしまう、こういうような場合にも間接強制であれば請求権者として比較的容易に使える、このようなことを考えまして、今回、扶養請求権等に限りまして間接強制の方法を認めるということにしたものでございます。

上田委員 今の答弁で目的としているところというのはよくわかりました。

 こうした措置を新たに講じなければいけないというのは、やはり養育費について支払いが円滑に行われていないという実情がその背景にあるんだというふうに思います。

 日弁連の調査でも、離婚した母子世帯のうち六〇%以上が一度も養育費の支払いを受けていないというようなことも言われておりますし、また、そもそも離婚時に養育費の取り決めを行っている割合というのが三五%というふうにも言われております。これはアンケートによる調査でありますが、そうした養育費の支払いの履行状況は実際にはどうなっているのか、実情をお伺いしたいというふうに思います。

中山最高裁判所長官代理者 裁判所として正確に実態を把握しているわけではございませんけれども、平成十三年の八月に法制審議会の審議の参考とするために実情調査を行いました。その結果によりますと、養育費の支払い状況については、定められた額を期限どおりに全額を受け取っているというものが全体の約五〇%、期限どおりではないけれども全額受け取っているが全体の二〇%、期限どおりかはともかく一部については受け取っているとするものが全体の二四%、全く受け取っていないというのが全体の約六%でございました。

上田委員 今最高裁の方からの御報告でも、養育費が十分に円滑に支払われていないという実態が明らかになったというふうに思います。そういう意味で、今回のこの改正、効果が上がることを期待しているところでございます。

 そこで、この法案では、将来分の養育費についても間接強制の方法を六カ月以内に確定期限が到来するものについては認めているわけでございます。

 しかし、養育費というのは子供が大人になるまで必要なわけでありますので、これは六カ月で大人になるわけではないので、何年にも及ぶ長期債務になるわけですね。そういった性格があるものにもかかわらず、この六カ月に確定期限が到来するものに限定したというのでは、これは余りにも短過ぎるのではないかというふうに思いますけれども、そのようにした理由をお伺いいたします。

房村政府参考人 強制執行の原則からいいますと、確定期限が到来しているもの、直ちに支払いを受けられるものに限って強制執行を認めるというのが原則でございます。

 ただ、この養育費のような場合、月に数万円程度という非常に少額でございますので、確定期限が到来するたびにその執行を申し立てなければならないということでは余りにも債権者にとっての負担が重い。したがって、こういうものについてはその執行を容易にすることを検討する必要があるわけでございます。そういうことから、昨年の通常国会で執行法を改正いたしました際には、一部に不履行があるときには、確定期限が到来していない分についても将来分も含めて差し押さえができるという新しい制度をつくったわけでございます。

 今回の間接強制を採用する場合にも同様に考えまして、確定期限の到来するものに限らず将来分も含めるべきである、こう考えたわけでございますが、しかし、間接強制の場合、先ほども申し上げましたように、その額の定め方いかんによっては債務者に過酷な結果をもたらすおそれがございます。

 例えば財政状況が非常に悪化して払えなくなってしまうということも考えられるわけでございますので、そういう場合に備えてもちろん取り消しの制度等も今回用意いたしましたが、やはりそういった間接強制の額を定めるに当たっては当然支払う側の状況も検討した上で裁判所が定めるということになっておりますので、余り長期間にわたって間接強制の額を定めますと適当でなくなる場合が当然あり得るわけでございます。そういうことから、変化の予測が可能な範囲として、六カ月以内に確定期限の到来する定期金に限って間接強制金の方法によるということを認めることとしたわけでございます。

上田委員 今の御答弁で債務者の立場というのもよく理解はできるんですけれども、しかし、この養育費の問題というのはやはり離婚したときに合意したものでありますし、それは子供の成長のためには必要不可欠なものでありますので、本当にそれが六カ月間という期間で、六カ月が来ればまたそれを繰り返すということは可能なんでしょうけれども、そういう未払いになるような状況を防ぐことができるのかというと、これは私は正直言って疑問に思わざるを得ません。

 そういう意味では、いろいろな角度から検討された上での結論というふうには思いますけれども、これは実際に運用されるときには、子供の権利をやはり最重視してしていただきたいというふうにお願いをいたします。

 もう一つ、重要な債権には労働債権がございます。未払い賃金ですね。これも労働者の生活の安定にとっては不可欠なものでありますし、金額からすれば、一回一回の金額、それほど大きなものではないんだろうというふうに思います。そういうことを考えると、債権者、労働者の側が直接強制の方法によるとやはり時間、費用の点でも手続的な負担が非常に重たくなるということを考えますと、今回の間接強制による方法もこういう未払い賃金の債権などについても認めるべきではないかというふうに思いますけれども、なぜ今回はそういうのを含めることにしなかったのか、お伺いをいたします。

房村政府参考人 先ほども申し上げましたが、間接強制の場合、通常は、債務を履行しない場合、履行しない一日当たり幾らを支払えというような形で間接強制金、制裁金が定められる例が多いわけでございますが、そうしますと、払わないでいると制裁金がどんどん膨らんでいくということで、そういうことがあるから心理的強制にもなるわけでございますが、一方、お金がなくて払えない、そういう場合に間接強制金を課されてしまいますと、雪だるま式に負担が重くなってくるということで、債務者にとって過酷な結果を生ずるおそれがある、そのようなことがあって、一般に金銭債権についての間接強制は認められていなかったわけでございます。

 ただ、扶養請求権のような場合には、そもそも額を決めるときに、もちろん請求をする側の事情とそれを支払う側の事情、その双方を考慮して支払い可能な範囲でその額が定められるというのが一般でございます。また、その後事情の変化が生じて支払えなくなった場合にはそれを減額するということもありますし、また逆に、必要性が高くて増額するということもある、そういう性質がございまして、扶養請求権の場合には、一般的に言えば、支払い可能な範囲でそれが定められているということが言える性質の請求権であるわけです。

 しかし、賃金債権につきましては、これは保護の必要性が高いというのは御指摘のとおりだろうとは思っておりますが、扶養請求権と違いまして、債務者に支払い可能な範囲で額が定められているというわけではない。したがって、これについて間接強制を認めますと、例えば会社の営業状態が悪くて払えない、手元に現金がない、そういうことで払えない場合に、間接強制が課されてしまいますと、非常に酷な結果になるおそれがございます。そういう意味で、やはり一般の金銭債務についてこの間接強制を認めるというのは相当慎重に検討しないと問題が多いということが言えるわけでございます。

 そのようなことから、今回はそういう問題が類型的に少ない扶養請求権に限って間接強制を認めるということとしたものでございます。

上田委員 わかりました。今回、間接請求を扶養請求権に限ったということでありますが、先ほども答弁にもありましたけれども、特に養育費については履行状況が非常に悪いということがあります。それによって特に子供たちが大変苦労をしているということもありますので、この法改正によりまして、この点改善される、効果が上がってくるということを大いに期待するものでございます。

 次に、不動産競売に関する改正につきまして、何点かお伺いをいたします。

 不動産競売は、これは債権者の正当な権利を実現するという意味では重要な手段の一つであるというふうに考えますけれども、不動産の競売に付された件数、売却率、そういった実情はどうなっているのか、まずお伺いしたいというふうに思います。

園尾最高裁判所長官代理者 まず、不動産競売の事件数についてですが、過去十年間の不動産競売の事件数の推移を見てみますと、平成十年ころを境として大きな変化がございます。すなわち、平成五年から平成十年までは申し立て件数が毎年増加してまいりまして、平成五年に六万二千八百九十一件だったものが、平成十年には七万八千五百三十八件にまで達しました。しかし、平成十年を境に、その後申し立て件数は横ばいとなってきておりまして、平成十五年には七万四千八百六十件となっております。

 一方、既済件数は、平成十年までは申し立て件数に達しない状態が続きましたが、平成十年を境に大幅に増加してまいりまして、平成十一年以降は申し立て件数を毎年一万件前後上回る状態となっております。その結果、未済事件数は、平成十年までは毎年増加しておりましたが、平成十年を境に未済件数は毎年一万件程度ずつ減少してきておりまして、平成十年には十二万八千五百三十九件だった未済件数が平成十五年には七万六百四十九件に減少しております。

 このような動きの中で、不動産競売における売却率は平成十年以降毎年増加しておりまして、東京地裁におきましては、平成十年の売却率は六六%でありましたものが、平成十五年には八七%となっております。また、大阪地裁の売却率も同様に平成十年以降増加しておりまして、平成十年には五六%であったものが平成十五年には八〇%に増加しております。

 したがいまして、不動産競売の状況は、およそ平成十年を境にしまして、その後毎年着実に迅速化が図られてきているという状況になってきております。

上田委員 売却率が平成十年を境に改善をされてきているという今御報告をいただきました。確かに、いろいろな社会情勢、経済情勢の変化もありましたし、またこの間、競売手続を改善するための累次の法律、制度の改正が行われてまいりました。こうしたこれまでの累次の改正、それらにどういうような効果があったのか、どのように評価しているのか、お伺いしたいというふうに思います。

房村政府参考人 御指摘のように、特に不動産競売に関しまして累次の改正がされております。大きな目的としては、執行妨害行為への対策、あるいは売却率向上のための方策、それから競売手続円滑化のための方策という三つの柱で行っているわけです。

 執行妨害行為への対策といたしましては、保全処分を非常に強化してきております。不法占拠者に対する保全処分が認められるようにする、あるいは競売開始決定前の保全処分を創設する、さらには、保全処分の要件としての価格減少の程度が著しくない場合であってもできるようにする、さまざまな方策を講じまして、これらの結果、相当程度執行妨害行為への対応が容易になったものと思っておりますし、また、昨年の改正におきましては、執行妨害に非常に濫用されておりました短期賃貸借制度を廃止する、あるいは陳述等拒絶罪の処罰範囲を拡充する、さまざまな対策をとっているところでございます。

 また、売却率向上のためにも、買い受け人が銀行ローンを活用できるような改善を行いましたし、昨年には、物件を見た上で買えるようにということで内覧制度を創設いたしました。

 競売手続円滑化のためには、執行官、評価人の調査権限を拡充するというようなことで、安心して買っていただけるような競売手続が運営できるようにしております。

 これらさまざまな改善が総合的な効果を生じて売却率の向上にもつながっているのではないか、こう思っているところでございます。

上田委員 次に、売却価額につきましてお伺いをいたします。

 現行制度では最低売却価額が定められておりまして、この目的とするところというのは、不当な安値での落札を防止することであるとか、あるいは一部反社会的な勢力によります執行妨害、そういったことを防ぐというような幾つかの目的があるというふうに承知をいたしておりますけれども、今度の法案では、その民事執行法第六十条の改正で、買い受け可能価額を売却基準価額の十分の八以上としているわけでございます。

 この買い受け可能価額をこのように定めた理由、また、それによりまして、これまで設けられておりました最低売却価額が目的としていたそうした対策、それに対しては十分な措置がとられているというふうに考えておられるんでしょうか。

房村政府参考人 御指摘のように、最低売却価額制度は、不当な安値で売却されることを防止して、所有者、債権者の利益を保護しようというものでございます。

 日本において執行妨害行為がなかなかなくならないという現状においては、このような最低売却価額制度の機能を今後も維持する必要があるということで、この制度そのものは維持をするということにしたわけでございますが、しかしながら、同時に、最低売却価額がやや高過ぎて物件が売れにくくなっている、こういう指摘も相当ございましたし、現実に調べてみましても、そういった指摘が当たるような場合もあるということが言えようかと思っています。そういうことから、今回この最低売却制度を、もう少し売却率が向上できるような、迅速に売れるような制度に改める方策を検討したわけでございます。

 評価というのはどうしてもある程度の幅がございますので、そういうことを考慮いたしますと、評価人に評価をしてもらって最低売却価額を定める場合にも、その定めた額の上下、相当の幅があるのではないか。現実の運用を見ましても、最低売却価額で売れなかった場合に、再度の評価を行わずに、最低売却価額を二割程度減価して再競売をする、その結果売れる物件が出てくる、こういうことも実情としてございます。

 そういうことを考慮いたしまして、今回、従来最低売却価額としてそれ以下の入札を認めなかった扱いを改めまして、二割程度下回る額まで、二割程度といいますか、法律では二割でございますが、二割下回る額まで入札を認めるということといたしたわけでございます。これによって、従来再度の売却を実施してやっと売れていたというものが、一回目から売れるようになるというようなこともありますので、これによって早期に売却が可能になってくるのではないか、こう思っております。

 今申し上げましたように、この考え方は、評価にはある程度の幅があるということを前提として、多少下回った場合であっても入札を認めていいのではないかという考え方でございますので、余り大幅な下回り方になりますと、その考え方にそぐいませんし、また、余りにも売却価額より下の額での入札を認めるということになりますと、執行妨害行為に利用されるというおそれもございます。その点をいろいろ勘案いたしまして、二割程度であれば執行妨害行為を助長するということもそう心配する必要はないであろうというようなことから、今回このような制度にしたわけでございます。

上田委員 もう時間でありますので、これで終わらせていただきますが、今回、その売却価額に柔軟性を持たせた、そのことによって売却が進むことを期待いたしますけれども、ただ、いわゆる執行妨害とこの価額の設定というのがどれだけ関係があるのかというと、私は、むしろ、その価額をどういうふうに決めるかということとそういう反社会的な勢力の動きというのとは、これは必ずしもそんなリンクをしているものではないんじゃないのかなという気がいたします。

 そういう意味では、そうした占有屋とか暴力団等の反社会的な勢力に対する対策もさらに一層講じていただく、このことを要請いたしまして終わらせていただきます。以上でございます。

森岡委員長代理 御苦労さまでした。

 塩崎恭久君。

塩崎委員 自民党の塩崎恭久でございます。

 今、上田議員から最後に質問のありました不動産競売手続の売却基準価額の設定について質問をさせていただきたいと思いますが、その前に、昨年の一月に房村局長の同僚でもありました原田審議官が急逝をいたしました。もともと商法を主に担当されておりましたけれども、総括的な立場の審議官ということで、この問題についても一緒に議論をたび重ねてまいったわけでありますけれども、大変スポーツマンで、非常に気立てもいい方で、一緒に仕事ができる人だなと私も思っていたわけでありますけれども、道半ばにしてああいう形で急逝をされた。非常に残念な思いをしたのが去年の一月だったと思うんですが、彼が他界されてからこの議論が結局こういう形で決着を見たということで、天国の原田さんはどう思っているかなという感じがいたすわけでございます。

 今、本質的なことを上田議員がおっしゃったと思うんですが、そもそも、この最低売却価額の存在について、我々自由民主党の中で、平成十年、先ほど平成十年というのは繰り返し出てきましたけれども、一九九八年の土地・債権流動化トータルプラン、後の金融再生トータルプランと我々呼んでいるものでありますが、その中の議論で、この最低売却価額がネックになって競売制度が機能不全になっているんじゃないか、そして、特に銀行の不良債権処理のネックになっているのがこの制度なんじゃないだろうか、したがって、ぜひとも最低売却価額の制度そのものを廃止すべきじゃないかという議論をさんざんいたしました。

 もちろん、その逆に、いや、いろいろ執行妨害等々あるからという話もあって、そのときに結論が出なかったわけでありますが、不動産の市況は、皆さん御案内のように、バブルの崩壊の後急落を続けて、ここに来て下げどまりを見ているわけですね。ようやく下げどまってきているわけでありますけれども、最低売却価額の問題は、今申し上げたように、六年も前に私たち政治の場が問題提起をした。しかし、法務省としては、やはり慎重な議論が必要だということで審議会でいろいろやって、結局、A、B、C案ということでありましたが、今回はそのA、B、C案のどれでもない、二割減価の制度を導入する、こういうことになったわけであります。

 結局、六年たって今下げどまったころに、事実上、最低売却価額の制度を廃止するに等しい、廃止とはさっきはおっしゃらなかったけれども、この法案を今回上げてきたわけでありますけれども、言ってみれば、これは、雨がどしゃ降りで降っていた後、やっと雲の間から晴れ間が出てきたときに、さあ、では傘でも買いに行くか、こんなような感じがいたすわけであって、法務省を責めてもいけないので、我々政治の場で指摘しておきながら、それをちゃんと最後まで制度化しなかったというのは、我々政治もやはり責任を感じなければいけないんじゃないかなというふうに思うわけであります。

 当時、デューデリジェンスという言葉はほとんどの人は知りませんでした。今、デューデリ、デューデリといってだれでも言うようになりましたけれども。例えば、百の簿価のものを十で売っちゃう。そうすると、引き当てがもしゼロだとすれば、九十損が出るね、この損を国税庁が損として認めるかどうかというのが、まさにこの十という価格をどう見るかという問題だったんだろうと思うんですね。

 当時は、国税庁は、そんなものはとんでもないということだったんですが、しかし、我々の議論を聞いて、これはやはりひょっとするとということで、実は国税庁も、不動産鑑定士協会とかあるいは公認会計士とか、そういう人たちが一緒になって、このデューデリジェンスのプロセスで決まる値段の言ってみれば正しさというものを税の世界で見てみようじゃないか、こういうことをやってくれたんですね。

 当時は、何しろ地価がどんどん下がる、しかし、それにどういう値決めをしていったらいいのかよくわからないというのが、全国どこへ行ってもそうだったんですね。例えば、共同債権買取機構なんというのができて、これは民間の銀行なんかが集まって株式会社でつくった不良債権の買い取り機構だったわけでありますけれども、そのときの値決めというのは、ほとんど簿価に近い、お情け程度の引き当てを引いてやる。

 ところが、それは市場の実態に全く合っていないものだから、結局、何が起きるかというと、共同債権買取機構に形だけは不良債権が行くけれども、実は銀行がひもつきでそれを管理する。そのときは不良債権の霊安室と呼ばれていたんですね。それを、今度は、要するに値段が高過ぎたわけですね、本当は百のものを十で買わなきゃいけないのを、七十とか五十とか、そんなので買っていた。ですから、そこから先、何にも行かないということだった。

 今度は、RCCというのができて、さすがにこれは反省をしたんですが、反省の振り子が逆に行き過ぎて、本当は十で買わなきゃいけないのに三で買ってみたり四で買ってみたり、何のことやらよくわからぬという、市場と全く関係ないことをやっていて、今、割合現実的な値段をつけるようにRCCもなっているということで、この値段の問題というのは実は極めて重要な問題なんだろうと思うんです。

 私は、基本的には、先ほど上田議員がおっしゃったように、執行妨害の行為を規制するということは、これは当然やらなきゃいけない、しかし、それと値決めとは別だろう。それはそれでやらなきゃいけないし、それをほったらかしておいて、それが直らない限りは値決めは今までどおりやりますよというんだったらば、談合は本当は悪いんだけれども、課徴金は余り上げないでねみたいな、そういう話につながるような話であって、本質論ではないんじゃないかなというふうに思っているわけであって、市場の失敗をどう直していくのかということをやはり政府はちゃんとやって、後の値決めは、それはさすが頭のいい裁判官といえども、経済実態で、この土地を何に使うのか、この不動産を何に使うかなんというのが、別にそろばんはじいて決めているわけでも何でもないし、不動産鑑定士でも、そういう商売をやりながら、必ずしも値決めをしているわけじゃない鑑定をされるわけですから、それはもうよくわからない。やはり市場で需要曲線と供給曲線がぶつかるところが正しい値段だろう、こういうことだろうと思うわけであります。

 法務省はよく、たまたま安値落札をしたときに、後順位抵当権者とか債務者が損をするというようなことでありますけれども、考えたら、これは一般の不動産取引の際でも、任売なんかの場合でも同じようなことが起きているので、競売においてのみ守らなきゃいけない利益でもないということじゃないかなと思うんです。

 きょうは個人演説会じゃありませんので、この辺でお話はやめたいと思いますが、法務省がつくった文書を見ると、例えば誤差の範囲とか、それから、さっきも民事局長お使いになられましたけれども、不当に低い価格、その不当とか誤差というのは、要するに正しいか正しくないか、あるいは不当か正当か、あるいはいいか悪いか、そういうことで実は値段というのは決まるんじゃないんじゃないかと思うんですね。価値観とか倫理観とかいうもので決まるんじゃなくて、やはり市場の条件だけを整えてやって、あとは民間に任すというのが本来の姿なんだろうと思うんです。

 そこで、最初の質問でありますけれども、先ほど、二割の根拠についてでありますが、何で二割減価を決めたのか、この根拠は何なのか、三割じゃいけないのか。私は実は三割を主張したわけでありますけれども、三割じゃ何でいけない、あるいはどこかでひっかかるのがあるのか。松山とか高知とかの数字を出してくださって、二割でも三割でも余り変わらぬぞ、こうおっしゃりたいんでしょうが、本当に変わらないんだったら、では二割も要らないんじゃないか。その点、いかがですか。

    〔森岡委員長代理退席、委員長着席〕

房村政府参考人 御指摘のように、物の価格というのは市場で決まってくるというものだろうと思います。

 ただ、その市場がどういう性格のものかということによるわけでございまして、そういう意味でいいますと、通常の不動産の取引がされる場合と違いまして、競売の場合にはさまざまな制約要因が入ってきております。一般的に申し上げても、市場参加者が非常に限られておりますし、情報もやや不足しがちになる、そういうような特別な性格がございます。

 特に日本の場合には、御承知のように、執行関係に暴力団等が非常に関与をしてくる。例えば、競売物件を不当に占拠して、いわゆるきずものであるというようなことを競売の申し出をしようとする者に知らせることによって競売をあきらめさせる、こういうようなことが比較的容易に可能な、極めて限られた市場でございます。その結果、放置しておきますと、そういう暴力団が他の者の入札を事実上そういうことによって阻止して、自分たちが非常に安い価格で競落をするということが可能になる、そういう性質がございます。

 したがいまして、現在のような最低売却価額制度を完全に廃止してしまいますと、そういった手段を講じまして、非常に安い値段で物件を取得して不当な利益を得るということが可能な仕組みがある。もちろん刑事罰等でそれに対して対応するということにはなっておりますが、現実に、多くの暴力団員が入ってきてやっているものをすべて取り締まるということは非常に困難であります。

 そういうことから、今回中間試案を公表いたしまして意見を募集しましたが、ほとんどの方が、ほとんどといったらあれですが、大多数の意見が、最低売却価額制度は基本的に維持すべきである、そういう執行妨害行為を防いで債務者あるいは債権者の利益を擁護するためには基本的にこういう仕組みは存続すべきである、こういう御意見でした。

 それを踏まえまして、私どもとしては、基本的に、そういう極端な低価格での競落が可能になるような仕組みは避けるべきである、こう思ったわけでありますが、しかし同時に、最低売却価額がネックになって本来売れるべき物件が売れていない、こういう指摘もございました。そういうことから、現在の最低売却価額制度をもう少し柔軟化して、より売れやすくする、そういう工夫をすべきではないか、そういうことを考えたわけでございます。

 そのときに参考になりましたのが、先ほども申し上げましたが、現在の競売実務で売れなかった物件について二割程度下げて再度競売を実施すると相当数が売れている。そういうことを考えますと、評価は評価として尊重すべきではありますが、やはり評価というのは一定の幅があって、その評価額が絶対的な基準ではないのではないか、ある程度下回る額までの入札を認めるということによって、より売却が容易になるのではないか、こういうことを考えたわけでございます。

 二割にするか三割にするかという点でございますが、これは、実際にそういった数字を調べてみますと、二割程度、二割下げますと、例えば東京地裁で調べましたが、第一回目の売却で九〇・三%のものが売れたわけでございます。残りのものをその後競売を実施いたしましたが、そのときに二割下げた場合にどのくらい売れたであろうかというのを計算してみますと、九七・一%ということで、約七%近く増加いたします。これがさらに三割減の場合どうかといいますと、九七・五%ということで、さらに一割下げても〇・四%の売却率の増加しかない。

 これは地方の裁判所においても同じような傾向がございまして、先ほどお話の出ました松山地裁の場合、第一回目で七六・四%売れておりますが、これを二割減にいたしますと、八八・二%ということで、約一二%上昇いたします。ところが、さらに三割まで下げましても、九〇・一%ということで、二%しか増加いたしません。もう一つ、高知地裁についても調べましたが、この場合、第一回目の売却率が六七・七%で、二割減にいたしますと、これが七六・二%、約九%近く増加いたします。ところが、三割減にいたしましても七六・二%で、全く変わりません。

 そのようなことから、こういった実際に調査をしてみますと、やはり、二割減の場合で、それをさらに下げても売却率の上昇率はごくわずかである。それと、余り低い額での売却を可能にするということは執行妨害行為を助長するというおそれもございますし、所有者あるいは債権者の利益も考えれば、余り幅を広くとって低い額での売却を認めるのは相当ではないのではないか、そこをやろうと思えば、再度調査をいたしまして改めて評価をすべきではないか。このようなことから、売却基準価額とした場合の下限は二割減までということにしたわけでございます。

塩崎委員 民事執行法の第七十一条第七号に、売却手続に重大な誤りがあるときには売却を不許可とするという定めがありますよね。今、二割でも三割でも余り変わらぬ、こうおっしゃったわけですね。もう一つ言ったことは、二割を三割にすると執行妨害行為を助長するとおっしゃった。果たしてそういうことになるんだろうか。例えば松山、高知の例を出していただきましたけれども、そんなに執行妨害行為があって売れないとか売れるとかいうことでもないし、それで値段がどうのこうのという話ではないんだろうと私は思うのです。

 私も実は三割減価を言ったのは、ある意味では妥協の産物として、本当は最低売却価額をやめろ、こう言っていたんですが、いろいろな声があるので、では三割でどうだと言ったんで、二割三割の話で、二割から三割にしたところで余り落札率が高まるわけじゃないということは、また逆に、三割だって別に困ることは何もないということでもあるわけです。いろいろ理由をつけなきゃいけないのが皆さん大変なので、ここは今回、少なくとも、最低売却価額を事実上、なくすとは言わないまでも、緩めるということなので、よしとするのかなということなんですが。

 問題は、では本当に、いわゆる今度の売却基準価額なるものが、今までの最低売却価額、鑑定されるものと同じなのかどうか。つまり、これをちょっと、二割ぐらい上げると、今度は二割下回るといったって何も変わらないということになっちゃうんですが、これは大丈夫でしょうね。

房村政府参考人 現在の土地の評価の仕方につきまして、それなりに確立した手法がございますし、また、裁判所においても、そういう鑑定に携わる評価人を指導して、できるだけ均一の評価ができるような手法をさまざまに工夫しているところでございます。

 そういう実情を考えますと、今回、この最低売却価額が売却基準価額と変わったからといって、評価の仕方が基本的に変わるわけではございませんので、同様の評価をしていただける、こう思っておりますし、また、今回、法律に、評価人が評価をするに当たってどういうことを考慮しなければならないかということで条文を置きまして、「近傍同種の不動産の取引価格、不動産から生ずべき収益、不動産の原価その他の不動産の価格形成上の事情を適切に勘案して、」評価をしなければならず、「評価人は、強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であることを考慮しなければならない。」このような規定を法律に設けたわけでございます。

 ただ、これは、実は現在、民事執行規則の二十九条の二に、やはりそういった評価人が評価をする場合の考え方が示されておりますが、基本的にそれをそのまま維持しております。

 そういうことから、この法律の趣旨は、従来の評価方法を変えるということではなくて、評価基準としては同様の基準を用いて評価をしていただいて、それを売却基準価額にするんだという趣旨が読み取れるだろうと思っておりますし、また、そういうことを当然評価人の方々も踏まえて、従来と同様の手法で評価をしていただける、こう思っております。

塩崎委員 そういうことであれば結構なんでありますが、やはり、結局、本来国がやるべきことは、市場のゆがみを是正して、あとは、今言ったような価格を参考に、自分がこの価値が正しいと思うものを入札で入れる、それで、本当は、下限はどこであろうと余り関係なく決まるべきではないか。そして、もし今、二割を三割にやると占有屋がふえるとかなんとかというんだったら、それは、まずそれを防止する施策を国としてやらなきゃいけないし、また一方で、ひどいときには七十一条の第七号でこれはだめですと言うことができるわけですから、余り値段のことで神経質になるよりは、市場の整備をどう整えるか。

 一つは、何か競売という市場は特別だとさっきもおっしゃったわけですね。特別だというところがやはり私はそもそもの問題の始まりであって、本当は、その市場自体は特別ではないはずなんですね。その条件が整っていないということで、内覧制度を始めたとかいろいろありますから、そういうところをやるのは当然でありますけれども、例えば、入札されたすべての価格を公表する仕組みとか、あるいは入札価格のディスクロージャー、これを徹底する、あるいは評価人を広くアウトソーシングして評価の厚みを持たせる、こういうようなことをやはり先にやるべきじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

房村政府参考人 先ほど、競売というのはかなり特殊な市場である、こう申し上げましたが、確かに、御指摘のように、特殊性をできるだけなくしていくということがまずとられるべき対策であることは、そのとおりだと思っています。

 ですから、そういう意味で、例えば裁判所においても、入札の参加者をできるだけふやすというために、競売物件についての情報の開示を広く行う、そういうことで、例えば、現在、インターネットを用いて競売物件の詳細がわかるような仕組みをとっております。現在、たしか八カ所の地裁でとっていると思いますが、いずれ全国の裁判所がそういう手法をとる、そういうことによって、できるだけ多くの人が入札に参加をしていただければ、それは、競争が働いて、より適正な価格が形成されていくだろうと思います。

 また、物件を直接確認していただくという趣旨で、内覧の制度を昨年の改正で導入いたしました。そういうことによって、物件を多くの人が見て、これによって参加をしていくということも期待されているところでございます。

 そういった意味で、できるだけ多くの方が参加をして適正な価格が形成されるようなものにこの競売市場を持っていくという努力は、御指摘のとおり必要だろうと思います。

 先ほど出ました物件の落札価格等でございますが、これについても、現在、落札価格については、まず売却許可決定中で明示をされておりますし、公告もいたしております。それと、基準価額はもちろん公表されておりますので、少なくとも、どのような額で公告をされ、それが幾らで落札されたということは、現状においても、すべての人にわかるような仕組みになっております。さらに、インターネットで公開している場合には、入札者数等の開札結果情報も公開をいたしております。これで、基本的には、どのような物件について、幾らの基準価額であり、どのくらいの数の人が入札をして、最終的な落札価格が幾らであるということはわかるようなものになっております。

 これを、さらにすべての入札価格を公示するかどうかというのは、手続上の負担等の関係もありますので、慎重な検討が必要ではないか、一応、基本的な情報は、現段階においても裁判所において公開する努力をしているところだ、こう思っております。(塩崎委員「アウトソーシング……」と呼ぶ)済みません。

 それで、評価のことでございますが、法律上は、評価人の資格について特に制限を設けておりません。これはまさに、評価について適切な能力を持っている方をアウトソーシングできるようにということが法の趣旨だからでございます。裁判所においても、そういった法の趣旨を踏まえて、かつ、その地方の実情を踏まえて、適切な方を評価人に選任しているのではないか、こう思います。

塩崎委員 もう一丁、内覧制度を一部始めたんですが、まだまだ十分ではないということで、何しろ、何となく暗い市場を我々は見ているわけでありまして、一般の不動産の取引の場合には、オープンハウスというか、日時を決めて、その居住者あるいは不動産の占有者の受忍限度を逸脱しないという判断のもとにオープンハウスというのをやったらどうだ、こういう提案をしているわけですけれども、これはいかがでしょうか。

房村政府参考人 やはり不動産を買おうという人にとっては、どういうものかというのを自分の目で確認するということは非常に重要なことだろうと思います。そういうことから今回もこの内覧制度をつくったわけでございますが、ただ、常に考えなければならないのは、執行妨害のことでございます。

 実は、不動産競売は、もともとはいわば一カ所に集まってやっていたわけですが、そういう形で入札をしますと、そこで威力を示して入札を妨害する、そういうようなこともあるということから、今は、ほとんど期間入札にして、だれが入札をするかわからない、したがって働きかけも難しい、こういうような配慮をしているわけです。

 ところが、内覧制度で皆さんがそこに、一カ所に集まるということになりますと、そこでいわばどういう人が入札を希望しているかがわかるということになって、働きかけが可能になるというおそれもあります。したがって、内覧の運用については、やはり執行妨害行為に濫用されないような、そういう工夫が今後必要になってくるだろうと思います。

 もちろん、裁判所においてそういった配慮をして適切に運営していただけると思っておりますが、そういう意味から、やはり通常の任意売却の場合とは異なる配慮が必要だということも御理解いただきたいと思っております。

塩崎委員 さっき、すべての価格を公表するのは手間がかかったりいろいろ大変だ、こういう話で、慎重なという、極めて慎重な話をしていましたが、インターネットでやったりするのに、手間がかかるだのというようなことは絶対あり得ないので、それを出していけない理由はほとんどないし、一堂に会してやるわけでもないんだから、結果としてこういう値段が入りましたよということを示すこと自体は、一つの不動産の市場としてどういう価格形成がされていたのかということを見せるという意味で大変意味があるし、やるべきだし、何らだれも損はしないし、危険な目にも遭わないんじゃないかな、私はこう思います。やはり二十一世紀の明るい競売制度をつくらないかぬという意味において、やるべきことはまだまだあるんじゃないか。

 きょうは財務省に来てもらっていまして、財政法の第九条に、財産の処分、管理で、「国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。」という、「適正な対価なくして」と書いてあるんですね。それで、適正な対価とは何だ、その趣旨を聞きたいのと、今回、最低売却価額が廃止されるわけでありますけれども、これで国有財産の処分の手続は今後どうするんだ。法務省、裁判所ですらやるということであれば、さすがの財務省もちょっと考えなければ、この根本的な哲学を変えるような話でありますから、考えなきゃいけないんじゃないか。

 例えば、物納相続財産の売り払いでは、財務省通達というのがあって、「一般競争入札等の取扱いについて」というのがあって、予算決算及び会計令臨時特例第四条の十五の規定というのがあって、事実上、最低売却価額の公表を定めているわけなんですね。こうした国有財産の売却におけるいわゆる最低売却価額、これを今回の法案の趣旨から考えてみて、やはりそれももう、ちょっと考え直した方がいいんじゃないか。つまり、世の中には需要する人と供給する人がいて、市場にゆがみがなければ当然その折り合ったところで値段は決まってくる。それが不当だとか高過ぎるとか低過ぎるとか、そういう話はやはりないんじゃないかなと本当は思うんです。

 ですから、市場を完璧にするという努力を我々はしなきゃいけない。もちろん、その最終手段として、さっきの民事執行法の第七十一条の第七号みたいに、これはどう見てもおかしいときは、だめよということで不成立にすればいいだけの話であって、あとは、不正常じゃなければそのままやればいいんじゃないかと思うんですけれども、財務省、今後の考え方、今の質問を含めて、お答えをいただきたいと思います。

日野政府参考人 お答えいたします。

 お尋ねございました財政法第九条の件でございますけれども、第九条は健全財政主義の一環として財産管理処分の原則を定めたものでございますが、この第一項後段に「適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。」とありますのは、法律に基づくことなく、国に不利な譲渡または貸し付けを行ってはならないという趣旨であると考えられます。

 このような財政法の趣旨を踏まえまして、国有地を競争により売却する場合におきましては、会計法の規定に基づいて、その最低売却価額として予定価格を定めております。そして、この価格を上回る最高の価格をもって申し込みをした者を契約の相手方としておるところでございます。

 国有財産というのは、言うまでもなく国民共有の財産でございますから、この売り払いにおきましては、公正、厳正な手続のもと、国にとっても最も有利な契約を行うことが重要でございます。国有財産を売却する場合につきましても、その対価が最も適正に収入の増加をもたらすということが必要で、そのために会計法等において所要の手続が規定されてございます。

 平成十四年十一月に相続税物納不動産を対象として予定価格を公表する制度が導入されましたが、この結果、個人等の購入希望者にとって応募しやすい環境が整備されまして、入札参加者の増加による落札率の向上等の成果があらわれ、平成十五年度では、入札実施件数も大幅に増加させたことも相まって、歳入額が予算額を約二割上回る、過去最高の三千六百七十七億円に達したところでございます。

 こうしたことから、私どもとしては、今後ともこの制度を活用して国有財産の売却促進に努めてまいりたいと考えております。

塩崎委員 今の制度でも、売れる場合はいいわけであって、今までの競売でも同じことが言えたわけですよね。売れないで困っていたわけです。だけれども、地価が大分下がってきたので今ごろ何だということもないわけではないわけでありますが。

 健全財政主義というのはよくわかることだし、それは基本中の基本だろうと思いますが、例えば、国に不利だとか、適正にとか、やはりさっきの、冒頭私が申し上げた価値観というかな、そういうので値段を決めようということであって、確かに売却件数がふえているとかなんとかいう話はそれはそれで結構なことなんでありますが、問題は、売れていない部分についてなぜなのかということを考えていかなきゃいけないので、その際に、こういう制度がネックになっていないのかということであって、きょうはもう時間がなくなっちゃったので、また財務省はこのメーンのお役所でもありませんから、ここではこれ以上は突っ込みませんが、少なくとも、言ってみれば最も保守的なこの競売制度の中での値決めの原理が変わったということはやはり考えて、なぜ売れないんだろうかということもよく財務省も考えて、今後のあり方、健全財政主義はもちろん大事にしながら考えていくべきではないのかな、こういうふうに思いますので、あえて申し上げておきます。

 以上で終わります。ありがとうございました。

柳本委員長 御苦労さま。

 次回は、明二日水曜日午前九時十五分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.