衆議院

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第22号 平成17年6月10日(金曜日)

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平成十七年六月十日(金曜日)

    午前九時二分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 平沢 勝栄君

   理事 三原 朝彦君 理事 吉野 正芳君

   理事 津川 祥吾君 理事 伴野  豊君

   理事 山内おさむ君 理事 漆原 良夫君

      秋葉 賢也君    井上 信治君

      小野 晋也君    大前 繁雄君

      左藤  章君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    園田 博之君

      谷  公一君    松島みどり君

      水野 賢一君    宮下 一郎君

      森山 眞弓君    保岡 興治君

      柳本 卓治君    井上 和雄君

      稲見 哲男君    加藤 公一君

      河村たかし君    小林千代美君

      佐々木秀典君    樽井 良和君

      藤田 一枝君    松野 信夫君

      松本 大輔君    江田 康幸君

      富田 茂之君

    …………………………………

   法務大臣         南野知惠子君

   法務副大臣        滝   実君

   法務大臣政務官      富田 茂之君

   政府参考人

   (内閣官房内閣参事官)  鈴木 基久君

   政府参考人

   (警察庁生活安全局長)  伊藤 哲朗君

   政府参考人

   (警察庁刑事局組織犯罪対策部長)         米田  壯君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  三浦 正晴君

   政府参考人

   (外務省大臣官房国際社会協力部長)        神余 隆博君

   政府参考人

   (厚生労働省雇用均等・児童家庭局長)       伍藤 忠春君

   参考人

   (慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授)            井田  良君

   参考人

   (日本弁護士連合会副会長)            出口 治男君

   参考人

   (日本キリスト教婦人矯風会 女性の家HELP ディレクター)       大津 恵子君

   参考人

   (アジア財団日本事務所人身売買問題担当)     玉井 桂子君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十日

 辞任         補欠選任

  井上 信治君     宮下 一郎君

  小野 晋也君     早川 忠孝君

  河村たかし君     井上 和雄君

  仙谷 由人君     藤田 一枝君

同日

 辞任         補欠選任

  宮下 一郎君     井上 信治君

  井上 和雄君     河村たかし君

  藤田 一枝君     稲見 哲男君

同日

 辞任         補欠選任

  稲見 哲男君     仙谷 由人君

    ―――――――――――――

六月九日

 治安維持法の犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(石井一君紹介)(第一七三九号)

 同(大島敦君紹介)(第一七四〇号)

 同(五島正規君紹介)(第一七四一号)

 同(中根康浩君紹介)(第一七八三号)

 同(山内おさむ君紹介)(第一七八四号)

 同(平野博文君紹介)(第一八二〇号)

 法務局・更生保護官署・入国管理官署及び少年院施設の増員に関する請願(漆原良夫君紹介)(第一七四二号)

 同(小林千代美君紹介)(第一七八五号)

 同(山内おさむ君紹介)(第一七八六号)

 選択的夫婦別姓の導入など民法改正に関する請願(池坊保子君紹介)(第一八一六号)

 国籍法の改正に関する請願(池坊保子君紹介)(第一八一七号)

 同(高井美穂君紹介)(第一八一八号)

 同(玄葉光一郎君紹介)(第一八八〇号)

 国籍選択制度と国籍留保届の廃止に関する請願(池坊保子君紹介)(第一八一九号)

 民法改正において選択的夫婦別氏制度の導入に関する請願(池坊保子君紹介)(第一八二一号)

同月十日

 治安維持法の犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(生方幸夫君紹介)(第一九五八号)

 同(小平忠正君紹介)(第二〇〇五号)

 同(末松義規君紹介)(第二〇〇六号)

 同(長浜博行君紹介)(第二〇〇七号)

 同(谷畑孝君紹介)(第二二〇八号)

 同(辻惠君紹介)(第二二〇九号)

 民法改正において選択的夫婦別氏制度の導入に関する請願(水島広子君紹介)(第一九五九号)

 裁判所の人的・物的充実に関する請願(加藤公一君紹介)(第一九六〇号)

 同(津川祥吾君紹介)(第一九六一号)

 同(松野信夫君紹介)(第一九六二号)

 同(小林千代美君紹介)(第二一二二号)

 同(松本大輔君紹介)(第二一二三号)

 同(佐々木秀典君紹介)(第二二一〇号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(河村たかし君紹介)(第二二〇四号)

 同(近藤昭一君紹介)(第二二〇五号)

 成人の重国籍容認に関する請願(河村たかし君紹介)(第二二〇六号)

 同(近藤昭一君紹介)(第二二〇七号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第五二号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、慶應義塾大学大学院法務研究科教授井田良君、日本弁護士連合会副会長出口治男君、日本キリスト教婦人矯風会女性の家HELPディレクター大津恵子さん、アジア財団日本事務所人身売買問題担当玉井桂子さん、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわりませず御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますようにお願いを申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、井田参考人、出口参考人、大津参考人、玉井参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず井田参考人にお願いいたします。

井田参考人 おはようございます。井田でございます。

 私の専門は刑法でございますので、いわば刑法学者として、今回の刑法等の一部を改正する法律案について、十分ほどお時間をちょうだいして御意見を申し上げたいと思います。

 今回の法律案を拝見させていただきますと、改正の重要なポイントというのは四つほどあろうかと考えます。

 まず、第一のポイントでございますけれども、人身の自由を侵害する犯罪につき法定刑の引き上げが提案されております。すなわち、刑法二百二十条の逮捕監禁罪の刑の上限を懲役五年から七年に、そして、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律三条の逮捕監禁罪の刑の上限を懲役七年から十年に引き上げる、また、刑法二百二十四条の未成年者略取誘拐罪の刑の上限を懲役五年から七年に引き上げることが提案されております。

 犯罪に対して定められた法文の刑といいますのは、具体的なケースが起きましたときにその犯罪に見合った適正な処罰を可能にするものでなければいけません。重いケースであれば、それに応じたそれなりの重い刑をもって対応できるものでなければなりません。同時に、この法定刑というものは、立法者である先生方が国民の生活利益のそれぞれをどれだけ価値あるものとみなしているかという、その評価がそこに示されているということができます。こういう見地から見ますと、今回の法定刑の引き上げには基本的には合理性が認められるのではないかと考えています。

 法律家は、一般に、逮捕監禁あるいは略取誘拐といった犯罪を、自由を侵害する罪、自由に対する罪であるというふうに呼ぶのが普通であります。現に、多くの事件では、まさに自由を侵害する罪にすぎないのでありましょう。しかし、新潟でありました、当時九歳の女子小学生を九年間以上にわたり監禁したというケースなどにはっきりとあらわれていますように、これらの犯罪は、ただ単に抽象的に自由を害するというばかりではなくて、被害者に後々まで残る深い心の傷を与える、さらには被害者本人の人生を破壊し、そして子供を奪われ、残された御両親の人生をも破壊するだけのポテンシャルというものを持っていると思うわけであります。そういう意味で、刑というものを引き上げるということには合理性があると私は考えますし、見直しが必要であるという気持ちは持っております。

 ただ、では、逆に法定刑を倍にして直ちに十年にするということになりますと、これまた逆の意味で行き過ぎでもありますし、その実務的な必要性も今のところはないというふうに考えます。また将来、もし刑法を全面的に改正して、それぞれの犯罪に対する刑というものを見直すというときには、また、それはそれでいろいろと大幅に刑を上げるといったことも考えられるかもしれませんけれども、今こういう形でこの部分を改正するというときに大幅な刑の加重をするというのは、また逆の意味で行き過ぎだと私は考えています。

 いずれにしても、日本の刑法が目に見えない心の傷に対して非常に冷淡である、先般、目に見える傷の方につきましては上限を十五年に引き上げるという改正が実現いたしましたけれども、目に見えない心の傷には冷淡だというふうなことを言われないためにも、法定刑の刻みというのは五年、七年、十年というふうに上がっていくものでありますけれども、今の五年を一ランク上げて七年にするということには十分合理性があるのではないかと思います。

 続きまして、第二のポイントでございます。

 刑法二百二十五条に手を加えまして、生命や身体に対する加害の目的による略取誘拐を処罰するということを提案しているところが注目されます。

 今の刑法のもとでは、例えば、働かせて搾取する目的で成人の被害者を連れてくるというような行為は同条の営利目的拐取罪で処罰できますけれども、例えば、リンチ目的で成人の被害者を連れてくるというようなケースでは、リンチが始まるまでは処罰できないという不備がありました。また、この条文では、性的な暴行というものとそうでない暴行とを区別しておりますけれども、これも必ずしも理解しがたい区別だということも言えます。そういう意味で、今回の改正案には実は合理性があるのではないかと私は考えます。

 ただ、人身取引議定書が臓器摘出目的の拐取を処罰するということを求めているのでありますので、ここでも臓器摘出目的の場合に限定すべきだという意見もあるようであります。私には、恐らくそれは理由がないだろうというふうに思います。

 現行の臓器移植法の用語法に合わせますと、これは、狭い意味で臓器という場合には臓器ですけれども、広い意味では組織も含むものでありまして、恐らく臓器のみならず組織も客体に含めることが必要になってきまして、そうなると、身体に対する加害目的ということに結局は帰着するのではないかと思われます。

 また、移植目的でもって臓器を奪うということに特別の誘惑が感じられる状況というのは、他の国はあるかもしれませんけれども、現在日本には存在しませんし、そういう意味で、議定書の要求を満たしつつも、しかし日本の現状に対応した立法を行うということでは、御提案のようなものがベターであるかと思うわけであります。

 第三のポイントでございますけれども、人身売買罪の新設ということが大きなポイントになっています。

 これは、人身取引議定書が人身取引を処罰することを求めているわけで、これまで、日本の刑法では単なる人身取引だけでは直ちには処罰されることがなかったということから、その要求を満たすための人身売買罪の処罰規定というものが必要になったというふうに理解をしております。

 現行刑法の略取誘拐罪を見ますと、未成年者を相手とする場合は別といたしまして、成人を客体とする場合につきましては、営利の目的とか、わいせつの目的とか、身の代金取得の目的とか、国外移送目的とか、そういう特に不法な目的を持って行われるということを要求しています。それは、そのことによって犯罪による処罰の輪郭がぼやけてしまうということを防ぐ、いわば歯どめをかけるという趣旨でそういう特別な不法の目的を条文上要求しているわけでありまして、それは十分に理由のあるところであると考えます。ただ、反面、若干そのために穴だらけになってしまっている面がありまして、人身取引への対応が十分にできにくいという事態が今生じているわけであります。

 そこで、法改正の一つのあり方として考えられますのは、今の目的要件というのを全部外してしまいまして、要するに基本的な類型については目的要件を外してしまい、とにかく、どういう目的であれ人に対する不法な支配関係を設定すればそれによって処罰する規定をつくるということが考えられるわけであります。

 しかし、これも、略取誘拐罪というものが予定しているところの不法な支配関係の設定というのは、例えば監禁罪なんかと比べますとかなり緩やかな支配関係の設定がそこでは予定されていますので、そういう目的要件を外してしまいますと、これは使い方によってはかなり処罰の範囲の広い、逆に危険な刑罰法規になってしまうおそれがあるわけです。

 そこで、今回の法律案は、目的要件を外した人身売買そのもの、すなわち買い受け、売り渡しというものを処罰するということにしました。

 買い受け行為について見ますと、これは、人を不法に支配するその過程において買い受け代金というものを負担しているわけで、まさに元を取ろうというふうに考えて、何らかの形で被害者の自由をより強く拘束し、被害者の負担において不当な利益を得ようというような形で搾取しようとすることが当然予想されますから、その反面において被害者の立場というのは非常に危険なものだというふうに言うことができます。

 そういう意味で、仮に買い受けた人において、営利の目的とかわいせつの目的とか、そういう不法な目的がない、あるいはそういう目的を持つことが証明できないという場合でありましても、買い受けるというだけで処罰に値するということは十分可能だと私は考えます。売り渡す方も、対価を得て被害者をそういう危険な立場に陥れているわけですから、もちろん処罰に値すると言えると思います。そういう意味では、今回の御提案というのは、広過ぎず狭過ぎず、実によく考えられた立法提案なのではないかと思います。

 売買という言葉に若干抵抗を感じられる向きもあるかと聞いていますけれども、これも、「不法な支配関係を設定した者」などと規定するとすれば、余りにも漠然としたもの、あいまい過ぎて、条文としてはかえって使えないということにもなりかねません。人の売買という言葉は、現在の刑法にもある用語でありますし、専門家の解釈も固まっておりますし、そもそも、人を売り買いの対象にしているとしか言いようがない行為というのは、それなりに我々だれしもがある程度はっきりとしたイメージを持っているものだと言えると思います。

 人身売買罪などというのは、法が人を物扱いしてけしからぬという批判を聞いたことがありますけれども、そういうことではなくて、現実世界にある、人を物扱いするようなすごく卑劣な行為を正確に、過不足なくつかまえる、そういう規定だというふうに考えることができます。少なくとも、私には、提案されている以上に適切な条文というのはなかなか思いつかないというふうに申し上げていいかと思います。

 最後の第四のポイントは、簡単に済ませることが可能です。

 現行刑法では国外移送目的拐取となっているところを、この法律案では所在国外移送目的拐取と変えることを提案しています。今の刑法ができたころは、被害者としては専ら日本人だけを想定し、日本から国外に連れ出すということだけを処罰するということに理由があったのかもしれませんけれども、今の時代にそのような限定はまさに時代おくれと言わざるを得ません。現在までこの規定を放置してきたこと自体、問題視されてもやむを得ないという面もあるかと思います。この点は特に早急に改正を必要とすると思われます。

 以上でございます。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、出口参考人にお願いいたします。

出口参考人 日弁連の副会長の出口でございます。本日は、ここで発言する機会を与えられまして大変光栄に存じます。

 私どもの意見につきましては、二つの意見書を既に公表してございます。一つは、「人身取引の被害者保護・支援等に関する法整備に対する提言」、これは昨年十一月十九日のものでございます。もう一つは、「人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備に関する意見書」、本年一月二十一日に公表をしてございます。この二つの資料につきましては、本日配付をさせていただいておりますので、適宜御参照いただきたいと思います。

 なお、衆議院の調査局法務調査室がおつくりになりました資料でございますけれども、その中に私どもの今申しました意見書等が収録されておりまして、これも日弁連としては大変光栄に思います。ぜひ御参照いただきたいと思います。

 時間がございませんので、私の方は大きくは二点申し上げたいと思います。

 まず第一点は、逮捕監禁罪、未成年者略取誘拐罪の法定刑の上限の引き上げについてでございます。

 今回は、御承知のとおり、もともとは越境組織犯罪防止条約に基づくものでございますけれども、この二つにつきましては直接には関係がない部分でございます。この二つについての法定刑の上限の引き上げということになっております。これらにつきましては幾つかの疑問がございます。

 まず、逮捕監禁罪についてでございますが、これも今御指摘を申しました法務調査室の資料にもございますとおり、認知件数、それからもう一つ、判決の二点について御指摘を申し上げたいと思います。

 逮捕監禁事案の認知件数は、そんなに大きく増加しているというふうには見られません。また、現行法の法定刑の上限に近い判決が多数出されて、現在の法定刑で対応できないという状況にあるとも認められません。

 今、井田先生の方からも御指摘のありました新潟の案件でございますけれども、こういう長期間の監禁事案につきましては、いわゆるPTSD、心的外傷後ストレス障害、この点をとらえて、監禁致傷罪として対応することが十分に可能でございまして、本年一月一日に施行された刑法改正によりまして監禁致傷罪の法定刑の上限が十五年に引き上げられておりますので、適正な処罰は可能になっているというふうに考えております。

 さらに、特に長期の監禁事案に対応するのであれば、長期の場合について別の構成要件と刑罰を規定するということを検討すべきではないかというふうに考えております。現に、ドイツにおきましては、この調査室の資料の中でも御指摘がありますけれども、一週間以上という期間、そういう逮捕監禁とその他の監禁罪についての法定刑について差異を設けております。

 逮捕監禁の法定刑の上限を今引き上げなければならないという必要性、立法事実はないのではないかというのが私どもの考え方でございます。

 もう一点、未成年者略取誘拐罪についても、同様に、認知件数の増加、あるいは現行法定刑で対応できないという状況にあるとは思われません。したがって、この未成年者略取誘拐罪の法定刑上限を引き上げるという点についても疑問を抱いております。

 二点目でございますが、人身売買罪の新設についてでございます。

 この人身取引議定書に基づく国内法整備自体については私どもも特に異論はございません。しかし、今回の人身取引の規制に関しまして、特に人身取引被害者に対する保護、救済の施策が十分に講じられなければ、被害者は報復を恐れて警察等への通報をしないために、これまで実際にも我が国において人身取引がほとんど表面化してこなかったという事情がございまして、本当にこれらの改正によって人身取引を実効性ある検挙対象とするということであるとすれば、被害者の保護、救済が本当に実効性のあるものとして定められるべきではないか。単に運用ではなくて、法に基づいた被害者保護、救済が図られるべきではないかというふうに考えております。

 本日配付させていただきました私どものこの保護・支援等に関する法整備に対する提言の中には詳細ございますので、その具体的な内容についてはそれに譲らせていただきたいと思います。

 いずれにしましても、こういう被害者保護、救済、この法整備をしなければ、人身取引撲滅という本来の今回の法改正の目的について実効性を上げることは甚だ困難ではないかというのが私どもの考え方でございます。

 なお、この人身売買罪について若干二、三点、法的な観点から疑問を呈しておきたいと思います。

 まず、単純人身買い受け罪の新設の御提案でございますが、略取誘拐罪につきましては、現行法上、営利、結婚、わいせつ以外の目的で成人を略取誘拐することは不可罰とされております。成人に対する単純買い受け罪を処罰するのは刑法の謙抑性という観点から見て疑問があり、また議定書も、搾取目的がない場合には人身取引として規制はしてございません。この新設そのものには強く反対はいたしませんけれども、それらが濫用されることのないよう慎重に運用されるべきではないかというふうに考えております。

 人身売買罪だけではございませんで、営利目的等略取誘拐罪についての改正案中、「生命若しくは身体に対する加害の目的」の項目が追加提案されてございます。これは、議定書三条の臓器摘出の目的を規定するための改正であると説明されておりますが、「生命若しくは身体に対する加害の目的」に臓器摘出ということが入るとするにはいささか疑義があります。また、この目的を追加することによって現行法にはなかったリンチ目的ということも含まれる、こういう当局の御説明でもあります。しかし、リンチ目的の場合を新たに処罰すべき立法事実があるのかどうかということにつきましては、これは法制審議会の部会の議論の中でも必ずしも十分な根拠が示されていなかったのではないか。

 したがって、その点において、この改正案には疑問があるということで私どもは考えておりまして、むしろ、条文上は「臓器移植の目的」というふうな文言を入れてこの条項について規定すべきではないかというふうに考えております。

 以上、法的な問題について、あと幾つかの疑問点はございますけれども、これは既にお配りをさせていただいた本年一月二十一日付の意見書に譲らせていただきたいと思います。

 時間の関係で、以上で終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、大津参考人にお願いいたします。

大津参考人 女性の家HELPの大津でございます。

 きょうは、現場から発言させていただきます。一つは、被害者の立場から、一つは、その被害者を受け入れているシェルターの立場からお話をさせていただきます。

 配付資料の中に、昨年と今までの入所者の、人身売買被害者の数が出ていると思います。それで、やはり一番HELPに来ましたのが、タイ人の方が多いんです。今まで、タイだけではなく、コロンビア、香港、台湾、韓国、中国、メキシコ、ルーマニア、ペルー、コスタリカというような方々が大体一九九六年からHELPに来ておりますが、その中でもタイ人の方が多い。それは、やはり人身売買のブローカーのつながりがあるのではないかと私たちは見ております。

 HELPを利用した女性たちがまず私たちに訴えることは何なのかということを、まず女性たちの言葉から続けたいと思います。

 HELPから帰国までの期間は最近はとても短く、一カ月未満の方が多いんです。それは、その状況というものが余りにも過酷な状況であった。それは、言われていた、例えば出る国にてブローカーたちに言われたことと、日本に来てから自分たちがさせられたことというのは全く違っていたということだと思います。

 強制的に売春させられて、返済のたびに売春料金は相殺され、お金は全くもらえなかったと。最近も、多くは五百万円、全く架空の借金です。それから、六百万円の方がいました。本当に大きなお金ですから、それを返すまでは一銭も彼女たちの手元には入りません。働かなければ二十万円の罰金、四カ月以内に借金を返済しなければ二〇%の利子を罰金に課せられたという女性もおりました。一日に十人以上の相手をしなければならなかった、できるだけ多くの客をとらないとリンチされた、このまま働き続けたら狂ってしまうと思ったと言います。

 HELPにどうして逃げましたかと言ったら、先ほど言いましたように、約束が違う、それから監禁、常時監視状態、精神的にも極限状態に置かれている場合が少なくなかったと言います。どこに行っても監視されている気がした、休み時間は二、三時間だけ、昼も夜も働かされた、やくざが管理している道で客を誘わなければならなかったと。

 HELPに来ても、その精神状態が、そういう中で来ていますので、一人だけ、HELPがまた転売の場所だと思った人がいました。それは、入っている人たちが寮母さんに向かってママさんと言ったために、また転売されたと思ったわけです。台所にある包丁を寮母さんに突き刺して、私にもう一度何かしたら殺すぞという格好をした。それ以来、私たちは、彼女がしゃべっている言葉でまずは通訳をして、ここは安全な場所である、怖い人はだれも来ませんよということを伝えなければならないという、そのことに努めております。

 それで、今現在、表を見ていただきますと、在特になられてからは滞在日数がぐんとふえております。一カ月を超えているんです。入管の方に、できるだけ早くに帰国するようにお願いしたいということを伝えてやりますと、入管の方々は、もう超スピードでやっておりますと。本当にそうだと思います。というのは、私たち今まで、在特を取るために、外国籍の方が国際結婚されたときに連れていきますと一年半以上がかかりますから、そういう意味では超スピードでしていると思いますし、私たちは、被害者として認定されれば、どうしても在特をいただきたいと。

 今までは、法律を犯した者として日本におりましたし、強制送還をされていたわけです。今現在、法律ができる中で、女性たちは被害者として認定されるということですから、その女性たちに、あなたは、これからは帰ってもちゃんとしたビザをもらって帰れるのよということを説得いたしまして今帰っております。しかし、長くなれば長くなるほど、落ちついてきますとやはり心の傷が出てくるわけですね。

 まずは、免疫力の低下。日本では余り、水ぼうそうというのはもう子供のときにやっていると思っていますけれども、入ってこられて水ぼうそうになられて、施設の中に入っている子供たちにうつる、それから、外国籍の方がほかにも入っていらっしゃったので、その人たちにうつるので、慌てて病院に、予防注射、それから治療のために連れていきました。

 そこで問題になるのが医療費なんです。今までHELPは、自分たちが病院に連れていっても、その医療費の負担を全部HELPがしてまいりました。今、行動計画の中で、無料低額診療事業を使える、厚生労働省はそういうふうに通達を出してくれました。それで、私は近くの病院に電話をしましても、いや、そんなものを自分はまだ使ったことがない、保険がある人しか使えない、それからホームレスの人にしか使えない。それで幾つかの病院に電話をしたら、知っているソーシャルワーカーがいるところの病院で、使えますよと言ってくださいました。今そこに全部、もういろいろな、それこそ、妊娠している可能性がある、性病の可能性がある、それからHIVの可能性があるということではそこに、病院に連れていっているわけですけれども、その病院を私たちはこれからもふやしていかなければならない。病気に対する負担というものは、本人だけではなく私たちの施設の方の負担にもなってまいります。

 それで、昨年二十一名、ことし四月から六月までの滞在者が書かれているんですけれども、初めて婦人相談所から委託で参りました。今までどうだったんですかというふうにおっしゃるかもしれませんが、今までは東京都が七百二十万円の補助金を出しております。その中で被害者の人たちを私たちは受け入れてきたわけです。例えば帰国費用が、今タイ大使館の方は貸し付けているんですが、ほかの人たちに関しては私たちが負担をするということが、HELPが負担をするということがありました。

 それで、委託費で来られますとどこがどういうふうに違うのかといいますと、委託費で来られると、HELPに対する一日の利用料というものを払っていただけます。通訳費用も払っていただけます。そういう意味では、今まで一番多いのが長野県なんですが、長野県で受けられたとしましても、すぐに大使館に引き渡されて、そのままHELPに来られますと何のお金も入ってこないということで、今、長野県の方と、ぜひ委託費でHELPに送ってくださいということを言っております。

 それから、帰国費用はIOMの方がお金を出してくれるということになっておりますので、インドネシア人の方がお二人これから帰国いたしますけれども、IOMの方でお金を払ってくださるというふうになっております。

 それで、もう時間が来ておりますのでもう少しだけですけれども、これから私たちが目指すのは、民間シェルターで、緊急避難所ですので、長くはいるのは無理なんです。今来た人たちに対して、例えばアートセラピー、それからフラワーアレンジメントのボランティアの方に来ていただいたりして、女性たちがHELPにいる間、ある意味では本当に心が安らかになるような努力をしておりますが、外にも一歩も出られない。

 例えば、一歩出たら、今私たちのいる場所は特に繁華街ですので、警察官が、パスポートを見せなさい、外国人登録を見せなさいと。私は電話番号を持たせまして、ここに電話してくださったら説明しますというふうに言われたりするんですが、またそれで警察官の方が来られて説明をしたりしてしまいますので、ある意味では同行をするスタッフが絶えず要るわけです。そういう意味での私たちの負担も大きいです。入管、そして大使館、病院、さまざまなところにスタッフたちが同行しなければならない。そういう意味では、スタッフたちのこれからの、どういうふうにお金を捻出したらいいのかということも私たちの頭の痛いところです。

 女性たちがHELPに来てから、もし加害者を処罰し、加害者からお金を取り戻せるならば、きっと女性たちは長くいることもできるでしょうし、また、次のステップハウスというものも皆様に考えていただければありがたいと思います。

 緊急シェルターはいろいろな人たちが入っていますので、人身売買の方だけが入っているわけではありません。私がお出ししましたニュースレターの中に去年の統計が出ております。どういう人たちが入っているのかということを見ていただけると思いますので、ぜひごらんになっていただければありがたいと思います。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 次に、玉井参考人にお願いいたします。

玉井参考人 アジア財団の玉井でございます。おはようございます。

 私は、アジア圏十七カ所に事務所を置く国際NGOで、人身売買防止のプログラムの立案と運営を仕事としています。そして、個人的に、ボランティアとして被害者の支援にもかかわっています。きょうは、私の体験を踏まえて、人身取引対策における日本の課題について意見を述べさせていただきたいと思います。

 昨年のことなんですけれども、二十一歳の女性二人の帰国支援に携わりました。彼女たちは、母国で近所の人に、日本に行けば月給三万円でウエートレスの仕事があると言われて、それで、ブローカーが手配するパスポート、飛行機のチケットを得て、短期滞在の在留資格で日本に来ました。年期は三年間との約束で、でも、来日したその日から店に出て、そこでわかったのは、性的なサービスを伴う接客が仕事であったということなんです。食事は一日一回に制限されていました。店主は、腹が減るのなら店に来た客に食べ物を注文してもらって食べろ、同伴やアフターで客とデートをして食べさせてもらえと言ったそうです。裸でショーをすることに耐えられず、監視の目を盗んで、彼女は監禁されていた部屋から逃げることを考えました。なぜか。体重が一キロふえると一万円の罰金、体重が五百グラムふえると五千円の罰金が月給三万円から引かれるからです。

 彼女は、友達と一緒に、意を決して逃げ出しました。いろいろなことがあって、ようやく民間の施設に保護されたんです。でも、そこから今度私たちが頭を悩ませたのは、彼女たちをどうやって母国に無事帰国させるかということでした。ブローカーの脅迫が及ばない安全な居場所を確保すること、母国のNGOと連絡をとって、実家から離れた場所に安全な場所を確保して、それから空港まで迎えに来てもらえるように手配しました。約二カ月間かかりました。

 被害を受けた外国人が日本から母国へ帰ることを希望したとして、その人が無事に出身地での日常の生活に戻れるのかというと、これもなかなか現実は厳しいのです。ふるさとににしきを飾ることができず、一文なしでふるさとへ戻ったとしたらば、親戚や家族の期待を裏切った、何か外国で変な仕事をしてきたんじゃないかなどという冷たい視線で見られます。帰国者への差別や偏見がある中での暮らしになじめず、経済的に自立する道もない。そこへ再びブローカーが言い寄ってきて、今度こそはもっと稼げるぞ、そしてまた人身売買ルートに乗る人たちもいます。この悪循環をどこかで切らなければならないんです。

 被害者を保護し、支援するということは、被害の再発を防止するための対策なんです。そのためにも、送り出し国と受け入れ国である日本の連携が必要だと思います。

 先ごろ外務省が地球規模問題に関する意識調査を行ったんですが、その中で、人身取引対策について政府が力を入れて取り組むべき点は何かという質問について、取り締まりの強化であると答えた人の回答率が五五・五%と最も高く、これに対して、シェルターの整備など被害者保護とする回答率は一七・五%で、五項目の質問の中で四番目でした。

 この調査結果を見てわかることは、日本の人たちの視点から被害者保護の重要性というのが欠落しているのではないか、というより、その必要性を理解できずにいることが問題なのではないかと思います。その意識の欠如こそが日本を人身売買の温床にしてしまっているのではないかと思います。

 ことしの初め、興行の在留資格でホステスとして働いていた三十五歳の女性が店主から暴行されて、知人を介して私に支援要請があったんですが、事件が起きたのは地方で、私は、新幹線と電車を乗り継いで現地に行って彼女と会って、それからまた電車を乗り継いで、県庁所在地にある婦人相談所に相談に行ったんです。婦人相談員の方は本当に親身に相談に乗ってくれたんです。でも、そこでわかったことというのは、現状の限られた人員体制の中では、外国人のケアをするということが現場にとっては大変負担であるということです。

 被害者は、帰国するためにはいろいろな渡航書類をそろえなければならないので大使館へ行かなければならないんですが、大使館や領事部は大都市圏にあるので、一時的に地域で婦人相談所に保護されたとしても、結局は、そこから大使館がある場所まで通わなければならないんです。

 このときの場合でいうと、婦人相談所から大使館に行くためには、私は、彼女を連れて事件があった町を通り抜けていかなければいけないんですね。被害者本人も同行する者にとっても、大変不安を覚える、ストレスの大きい仕事です。結局このときは、被害者をかくまっていた人が加害者側からおどされたり、被害者も一刻でも早くその地域を去りたいと言っていたので、その女性を引率して首都圏にある民間シェルターのサーラーに一緒に行き、保護してもらいました。

 このときに強く感じたことは、保護を求める被害者と支援機関を円滑に結びつけるシステムが必要であるということ、大使館などのある首都圏に人身売買の被害者の保護、支援を担う施設を集約して、センター機能を持たせることが必要だと感じました。

 この女性が帰国するとき、私がまた空港へ送っていったんですが、出発便のチェックインカウンターは帰国するエンターテイナーの女性たちで込み合っていて、この私の目の前で、彼女の手を引いている目の前で、日本人男性が、大変お若い、恐らく十代とおぼしき女性たちに封筒に入った現金を手渡ししているんですね。興行で来ているエンターテイナーの方たちがお給料をもらえるのは、三カ月か六カ月過ぎて、日本の国を離れる空港のチェックインカウンターの前です。私が支援した女性の場合も、契約書では給与は月額二千ドルですが、実際に受け取るのはその四分の一ほどです。

 空港で彼女は言いました。私が失ったものは大きい、けれども私を殴った店主が失ったものは何なのか、金で片がつくことなのか、それが悔しいと。

 恐らく、日本でつらい思いをした人たちは、母国へ帰っても、帰国しても、その体験を語ることはほとんどないと思います。話すとしたら、よかったことだけです。被害者の証言が得られにくいということも人身売買を助長する要因です。

 ところが、日本の人の中には、在留資格外の風俗産業で働く外国人女性に対して、日本が仕事場を提供していることがあたかも国際協力のことであるように、大きな勘違いをしている人もいます。本当に国際協力を考えるのであれば、そうした女性たちが適正な仕事につけるように、就業訓練をして自立を助ける基盤づくりを援助するのが最も大切なことなのです。帰国した被害者たちへの精神面でのケア、被害の再発を防ぐために必要なことです。

 この一年ほどの間に、日本人男性からも五件ほどの問い合わせがありました。ガールフレンドが人身売買の被害者のようだ、どうしたらいいのかというんです。中には、今すぐシェルターに入れてやってくれといってうちの事務所に駆け込んできた人もいました。私は言いました。シェルターは、あなたとデートをする自由がある人のためにある場所ではないんですと。

 でも、そうした問い合わせがあるということに、私は一縷の望みを抱いています。知り合うきっかけはともかくも、潜在的被害者の人たちと出会ったことで、今日本で起きている人身売買という問題に関心を持って、何か変だぞと気づいてくれて、その解決へ向けて動いてほしい、動いてくれるのではないかと期待するんです。

 でも、一抹の不安もあります。お客の日本人男性と結婚した外国人の女性たちの中にDVの被害者の人たちがふえる傾向にあるということです。

 人身売買の受け入れ国である日本が、私たち日本人がこの問題に取り組むべき責務を負っているという意識が浸透するように、社会啓発が必要だと思います。

 法整備、被害者の保護、支援、送り出し国、受け入れ国の連携、そして国民へ向けての啓発、この四つの課題は、例えて言えば、人身売買撲滅というゴールを目指している自動車の四つのタイヤです。バランスが欠けたらこけます。前へ進めません。これらの点は政府の行動計画にも盛り込まれている点なんですが、果たして計画どおりに事が運ぶのか。今後、検証と見直しの機会も必ず設けて、現実に即した対策がとられるよう検討を重ねていただきたいと思います。

 多文化、多言語での対応や大使館との連携に重点を置いた、一般の人たちの相談にも対応できる窓口を備えた、そして、被害者が受けた心の傷、損害を少しでも回復できるように、そのための人身売買被害者のための保護施設を全国に少なくとも一カ所置いていただきたいと強く思います。

 以上です。(拍手)

塩崎委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。左藤章君。

左藤委員 おはようございます。自由民主党の左藤章でございます。

 四人の先生方、本当にありがとうございました。

 今、一つずつ順番にお聞きしたいんですが、例の刑法の改正についてひとつお伺いをしたいと思います。

 今、井田先生の方から、逮捕及び監禁の罪の上限を五年から七年に上げる、これは妥当だ、こういうお話でありましたけれども、弁護士会の出口先生は、これは保護や救済が不十分なまま人身売買罪を新設しても何ら実効性がない、五年から七年に上げても余り意味がないんじゃないかというお話であります。

 両方の先生とも、新潟の少女監禁九年間の話がありました。井田先生のおっしゃるとおり、この一番大事な、立ち直っていただければありがたいんですが、恐らく、生涯それが心の傷であったり、親もそうですが、みんなそれを背負って生きていくわけです。それで、それは救済の、罪が云々というのはよくわかる、これもしっかりやらなきゃなりませんが、私は五年でいいとは思えないんですね。

 出口先生、その辺の根拠を、その人の一生を、言い方は悪いですけれどもほぼパアにした可能性が高いわけですね。それを五年、我々は正直言って十年でも十五年でもいいんじゃないかという議論がある中で、七年がだめで五年のままでいいとおっしゃるのは、ちょっと私は解せないんですね。その辺の理由をちょっと教えてください。

出口参考人 今御指摘の部分につきまして、若干言葉足らずだったかもしれません。

 私の方が申し上げたのは、いわゆる非常にお気の毒なあのケースのお嬢さん、PTSD、これは傷害というふうにとらえれば、監禁致傷罪として対応することは可能だろう。かつ、監禁致傷罪の法定刑の上限につきましては十五年ということになってございますので、こういうケースについても現行の部分で対応はできるのではないか。それで、こういう特殊なケース以外について私の方で先ほど申し上げたつもりでございます。

左藤委員 わかりました。今、監禁致傷罪十五年というのは、おっしゃるとおり、それもやはり考えるべきだろうし、やはりそういうことでお願いをしたいと思います。

 それと、大津先生それから玉井先生からお話がありました。被害者保護という、この参考人の前に、おとといも法務当局と論議をさせていただいたんですが、これは保護となると、どうしても厚生労働省の分野になります。私も江田先生も、公明党の江田先生が後で質問なさると思いますが、厚生労働省に聞いたんですね。そうしたら、こういうことをやっていますと、はっきりおっしゃるわけです。

 私らは、お二人の話を聞いていても、我々の受けた実感でも、正直言って、十分とはとても思えないんですね。厚労省の言っているのと現場とはどれだけの差があるか、済みませんが、大津先生、ひとつお願い申し上げたいと思います。

大津参考人 現在、厚生労働省は、人身売買の被害者の人たちに一千万円予算をつけたというふうに言われております。HELPでは、その一千万円の費用がどういうふうに使われるのかということで、今まで厚生労働省とちょっとお話をしていました。ところが、HELPに対しては東京都から補助金が七百二十万円出ていますので、委託費と補助金というものは一緒にはできないと東京都は申します。ですので、東京都管轄の警察署でも入国管理局でも、そこから直接に来た方に関しては委託費が出ないということになります。

 そういう意味では、通訳費用のこともそうですけれども、全部私どもが自分たちの運営費から出さなければならない。今までも厚生労働省とお話しして、何らかの形でそのお金がHELPに来るように、それはHELPだけではなくてサーラーに対してもそうですが、民間のシェルターは今までも本当に少ない運営費でやってきておりますので、さらに今、この人身売買という問題が国として法律ができようとしているときに、やはり何らかの措置をしていただきたいということを厚生労働省の方に言いましたが、やはり予算の関係上、なかなか難しいと。

 それで、ある意味で私の提案なんですが、これは各省庁またがって人身売買の問題はありますので、例えば、入国管理局でしたら通訳費用を出すとか、それから帰国費用、病院の費用、それぞれの、どこが出すのかということに関してはお話をしていただきたいと思います。

 私たちが言えるのは、これだけしかない中で、スタッフたちはフルタイムにというか、パートタイムでありながらフルタイムで働かなければならない現状で今おりますので、ぜひその点を各省庁で考えていただきたいと思います。

左藤委員 同じく玉井参考人さん、お願いします。今の件で、要するに、実際現場の方はどうなんでしょうか。

玉井参考人 一番の問題は、外国人の被害者に対して接するときに外国語での対応が必要だということなんですが、厚労省等の方では、もし外国人の方が被害者として婦人相談所等に保護された場合、通訳が必要な場合は、その地域での登録されている通訳の方たちをお願いするということでした。

 ただ、被害者の方たちは、同国人コミュニティーの中で情報が漏れるということを非常に怖がっている部分があるんですね。それで、その地域の例えば国際交流協会等で、あるいは地域ボランティアとして参加しているコミュニティーの通訳の方たちにそういう大変プライバシーにかかわる部分の通訳をお願いするというのが、恐らく被害者の方たちの中にはちょっとそれを不安に思う人たちもいると思います。

 実際、先ほどの私の話の中で紹介した一例では、一度通訳の方をかえているんですね、入管での事情聴取があった際に。というのも、最初の方が男性であったということ、それから日本の同国人コミュニティーの方であったということ、それで被害者の方からリクエストがあって、日本の人で女性の方、もしくは女性の方がいらっしゃらなければ男性ということでお願いしたという経緯があります。(左藤委員「経費の方はどうですか」と呼ぶ)

 経費についてですか。実際には、今までのところ、ほとんど民間の善意にゆだねられて、結局、私が紹介した事例では、そこにかかわっている民間の支援者の方たちは全部ボランティアです。ただ、シェルターについては、NGO等からの国際機関からの委託費が出て、その中で保護、滞在費が捻出されていました。

左藤委員 今、お二人の、そういう現場でなさっておる方の御労苦というのはよくわかりますけれども、ただ、予算の問題は大きな問題だと思うんですね。

 また、弁護士会の方も、被害者の支援というのをしっかりやれ、こういうお話、レポートも我々見ております。

 井田先生は学者ですから、この辺の刑法の話はお聞きしました。私も先生のおっしゃるとおりだと思っておるんですが、今の被害者の救済、そして入管の問題があります。そしてまた、今、厚生労働省の問題があります。この辺に対しての先生の注文といいますか、ひとつ、何かありましたらおっしゃっていただければと思います。

井田参考人 大変難しい御質問でありますけれども、まず一つは、刑法を改正して例えば条文をつくる、あるいは刑を引き上げるというのは簡単にできるんですね。そういう意味でいうと、何か問題が起こりますと新しい条文をつくって、あるいは刑を引き上げるということで、何か十分対応した気になってしまうという危険が刑法改正にはつきものでありまして、これは社会問題に対して取り組む全体的な取り組みの中のあくまでも一つの一翼を担うにすぎないんだという意識は常に持っていただいて、刑法は確かに有用な道具ではありますけれども、道具ができただけでは、使わなければどうしようもないというので、それは全体的な体制の中で、システムの中で使っていくものだろうというふうに考えています。

 それから、被害者という問題につきましては非常に耳が痛いところで、どうも法律家はこれまで、いわば加害者のことばかり考えてきて被害者のことを考えてこなかったとよく言われるわけで、これは我々の方で反省すべきところもありますけれども、しかし幾つかの理由もございます。

 といいますのは、伝統的には刑法と民法というのが分離して、よく民刑分離という言い方をするんですけれども、長い法の歴史の中で、被害者の救済は民事にお金で済ませるという形で任せて、刑事の方はいわば公共的な秩序の維持という利害の方を担うという形での役割分担が次第次第にでき上がってきて、そういう意味でいうと、被害者の対応よりも社会の秩序の維持みたいな方にどうしても目が行くという面が一つございました。

 それからもう一つは、犯罪を行った加害者に対してやはり社会の方は非常に厳しく当たるものでありますので、法律家としては、いわば犯罪者を守ってやるということもしませんと、世の中でだれも犯罪者の側から物を見る人がいなくなってしまうということで、バランスをとるという意味では加害者の方の利害というのをある程度考えなければいけないということで、我々やってきたわけです。

 ただ、それにしましても、被害者の方に目が行き届かなさ過ぎたということはそのとおりでありまして、ここではなかなか、私が全刑法学者を代表して何か謝るというのはおかしな話ではございますけれども、刑法学者の方針もだんだんとそういうことについては考えるようになってきてはいますが、さっき申し上げましたけれども、それにしてもやはり、余りバランスがそっちの方に行き過ぎてしまいますとまたまたそれはいけないということで、加害者の方も考える人もどこかにいなければいけないということはありますので、その点は御理解はぜひいただきたいと思います。

    〔委員長退席、三原委員長代理着席〕

左藤委員 ありがとうございました。

 済みません、出口先生にちょっとお願いを申し上げたいと思います。

 弁護士会で、人身取引被害者支援センターをつくれとか、本当にすばらしいことで、私もそうしたいと思うんですが、この中で当然、予算はどうするかといったら、国が持て、これはそのとおり、残念ながら、なかなかお金がないというのが情けない話であります。しかし、これはほっておくわけにいきませんし、予算をしっかり少しずつでもふやしていかなきゃならないんですが、そうおっしゃる弁護士会は何かやっておられるんですか。

出口参考人 大変重い御質問でございまして、ただ、私自身の具体的なことだけちょっと申し上げたいと思います。

 私は京都なんですけれども、京都弁護士会の方では、実はこういう問題についていろいろ取り組みは従来からしてきておるんですね。例えば、京都でも有名な繁華街といったら祇園というのがございますね。そういう幾つかの繁華街にできるだけアクセスポイントを置いて相談を受ける、そういうことで従来、試みはしてまいりました。

 シェルターの問題につきましても、今、大津さんあるいは玉井さんの方でいろいろお話はしておられますけれども、特に、京都弁護士会の方で活発にやっておる女性の会員もおられまして、結局、いろいろ一生懸命やるんですけれども、やはり法的な整備、法制度について非常に不十分というか、全く皆無である、そういう中での手探りでこれまでやってきたというのが事実でございます。

 したがって、この日弁連の昨年十一月十九日の提言も、要するに、自分たちがこれまでやってきたことを踏まえて、やはりこういうふうな形で動いていかないと、本当の意味での、底辺で非常に苦しんでいる外国人のこういう関係の被害者、ここまでどうも到達できないという、やはりそこが私ども一番、私も若干それに関与したことがございますので、非常にもどかしいんですね。実態もなかなかよくわからない。しかし、現実にあらわれたケースについては非常にシビアなケースが多い。

 ですから、それを本当にきちっと解決する上では、ここにいろいろ書いてございますけれども、やはり基本的には、外国人がこういう形で日本の国へ入ってきた、外国人のいわば人権といいますか人間の尊厳、そのあたりをどういうふうに見て、どういうふうに国として取り組むべきかという、そのあたりを根本的にどう考えるべきかというところがあるんではないかというふうに常々思っております。

左藤委員 時間がないので一つだけお聞きしたい。大津参考人と玉井参考人にお願いしたい。

 シェルターに、皆さんのところに被害者の人が来る、それでケアをしている、本当にありがたいことですが、加害者の特定のために、警察、司法当局、この連携はどうなのか。これは両方やらなきゃならないんですが、こっちも捕まえないと何ぼでも繰り返しになるので、この連携は現場はどうなっているんでしょうか。簡単にひとつお願いします。

大津参考人 実は、DVの加害者であります夫がシェルターにたどり着いたということがあります。それ以来、危機管理に関してはHELPもやっているんですけれども、今まで二十年近く、十九年になりますが、加害者であるブローカーややくざの人が来たというのは、私の知っているのは一件だけなんです。それは、女性がそのブローカーに連絡して、そしてそのブローカーが、このあたりの教会というのはどこにありますかと聞きに来られた、それ一件なんです。

 私は、いろんなところで顔も出しますし、今一生懸命、人身売買、この法律のことでいろんなところへ行っておりますが、私自身が最近いろんな人から気をつけなさいよと言われるんですね。今まで加害者に何かをされるという恐怖感というものはなかったんですが、周りから言われたり、実はきのうまた、これはDVの加害者ですけれども、シェルターの周りをうろついていたんです。それで、私たちを見たら跡をつけてきたんです。それですぐに交番に入って、実はこういうことがあったので巡回をしてくださいというふうにお願いをいたしました。

 そういう意味では、これから警察庁の方には、例えば、ぜひ生活安全課の方に巡回をしていただきたい。それはなぜ交番の方にお願いできないかというと、シェルターというものはやはりある特定の方しか知ったらいけないと思うんです。いろんな人たちが知るということは、それだけいろんな人たちからここにシェルターがあるということがわかることになりますので、例えば、東京等の地域の生活安全課の方に、定期的に、一日一回でも夜の時間に見回ってくださいますと、私たちはシェルターとして安全かなと思います。それが一つです。

 ですから、これからのことは、人身売買罪というものができますと、ブローカーの人たちはきっと女性たちを今までも捜そうとしたことはあると思います。そういう意味では、私たちは本当に防げない、どうしていいかわからない、それはやはり警察庁の方たちにお願いしたいと思います。

三原委員長代理 玉井参考人、手短にお願いします。

玉井参考人 私どもアジア財団は、シェルターを運営しているのではなく、国際NGOで、特に受け入れ国と送り出し国の連携ということをしていますので、その立場からとしてですが、被害者の方たちが証言をしても、それが実際にどのような形で役立っているのかとなるとなかなかわからない部分があって、やはりとにかく一刻でも早くその人を速やかに帰国させるという方に重点が置かれているような気がいたします。

左藤委員 ありがとうございました。終わります。

三原委員長代理 次に、吉野正芳君。

吉野委員 自由民主党の吉野正芳でございます。四参考人には、本当にお忙しいところ、ありがとうございます。

 今、日本の国は世界一豊かな国ということで、民主主義もきちんと行われており、世界に向かって恥ずかしいところが何にもない、そう思っておりました。

 私は福島県なんですけれども、私の町にも外国の方々が働いております。そこで人身売買が行われていたというニュースを聞いたときには、本当にびっくりしました。この日本で、昔ならいざ知らず、人の売り買いが行われていてという、そこに私は大きなショックを受け、それがもし事実だとすれば、今事実なんですけれども、本当に日本国民の一人として、日本の外の方々におわびをする、謝罪をする、そういう気持ちでございます。

 この人身売買、人身取引をどう防ぐかということは、まずは、日本国内でどうやって保護していくかという部分と、NGOの玉井さんのところで、外国に帰したって、結局また日本に連れてこられるという、外国での、いわゆる母国での再犯といいますか、そこをどう防ぐために我が国は関与していくかという、これはなかなか難しいんですけれども、大きく分けてこの二つだろうと思います。そんな観点から質問をさせていただきます。

 まず、大津参考人に、HELPをつくられた動機といいますか、つくられて何年になるのか、その辺のところをお伺いしたいと思います。

大津参考人 HELPは、一九八六年に日本キリスト教婦人矯風会が百周年の記念事業としてつくりました。当時、外国籍を受け入れる施設というのはどこもなかったというふうに思っております。それで、キリスト教の団体ですので、フィリピン大使館を通していろんな女性たちが逃げ込んできた。

 もともと矯風会は、売防法の制定に力を尽くしてきたり、女性の人権に力を尽くしてきた団体ですので、何かしないといけない、それから、からゆきさん、日本から女性たちがアジアの方に行きましたときにも、何か受け入れをしなければならないというふうに矯風会の会員たちは考えておりましたので、何をするかというときに、まず外国籍のためのシェルターをつくろうと。

 一九八〇年代の前半は、エンターテイナービザをとって日本に来たフィリピンの女性たちが働いていた場所から、やはり賃金不払い、それから性的搾取、いわゆるエンターテイナーですから、ダンサーやシンガーとして来たのにもかかわらず、客の酌をしなければならないという中で、大使館に逃げて、大使館の方から何とかその女性たちを支援してほしいということでそういうのができ上がりました。

 しかし、後半は、タイの女性たちがどっと来たんです。一九九一年から九三年にかけて、驚くべき人数なんですが、九一年二百七十名、それから九二年が二百十名ぐらいです。二百台の人の数がHELPに来たということは、十部屋しかないんですね、今は一人一部屋というふうな数え方をしていますので、それぞれの方が違う環境の中で来られた方は一緒の部屋に入れないんです。しかし、人身売買の方は、例えば五人で逃げてきた、別々の部屋に入るのは嫌だから同じ部屋でいさせてほしい。その人には五人のお部屋、ちょっと大きい部屋に入っていただくんですが、その二百名を超えたときは、もう居間から、それから布団部屋から、いろんなところで人が本当にいっぱいいたというふうに思います。

 そういう意味で、十九年になりますが、今現在は、先ほど言いましたように、三十名にも満たない人たちが入ってきます。しかし、当初から何も変わらないのは何か。架空の借金、強制的な売春、いろんなことは同じです。そういう意味では、何にも変わっていないというふうに私の方からは申し上げられると思います。

吉野委員 ありがとうございます。

 人身売買の実態調査なんですけれども、役所の方では、昨年は七カ国で七十七人という数字を出しているんですけれども、今大津さんがおっしゃったように、本当にそんなものでは足らない。

 現実に、我が国ではどのくらいの人身売買でそういう被害者がいるのか、想像で結構ですから、体験を踏まえて、大津参考人にお願い申し上げます。

大津参考人 残念ながら、私もその総数というのがわかりません。

 というのは、シェルターへ来られた人に関しまして、私たちは何人の方が何名という形で出しますので、それで、JNATIPというふうに、人身売買を防止するための連絡のネットワークができまして、今調査を始めております。その調査は、シェルターそれから婦人相談所、そして外国でその女性たちが帰国したときにその女性たちの情報をやはり入れまして、それから、もちろん入管や大使館、そしてきっと警察署の方はそれぞれのところで持っていらっしゃると思います。

 ただ、なぜその総数が出てこないのかというのは、今まで、女性たちが人身売買として見てこられなかった、いわゆる不法で滞在する好きで日本に来ている女性としてその人たちを見ていたから、人身売買の被害の状況は出てこないと思います。

 例えば、コロンビアの大使館がこれぐらいのファイルを持っているんです。その数はもう本当に、私も幾つありますかと聞かないんですけれども、それだけそれぞれの大使館は人身売買の被害者の総数というものを持っています。ですから、それを合わせますと相当の数があると思います。

 ちょうど九一年のピーク時、外国籍の方が入ってきたときには、タイ人の女性たちが、二万とも三万とも言えない数の人たちが日本に来たというふうに言われています。その当時起こったのは、タイ人がタイ人のママさんを、ママさん殺しがいろいろなところで各地で起こりました。そのときに、人身売買の状況というものが、ママさんを殺した女性たちから、また支援団体から、いろいろなところで出てきたと思うんです。それ以後殺人事件というのは余り起こっていませんが、その起こっていない状況の中に、やはり隠れたところで行われているものだから表に出てこない。それを今、これからきっといろいろな方たちが掘り下げていく必要があると思います。

 私たちは、民間シェルターとしてきちっとしたデータをお出しすることはできます。そういう意味で、それをまとめて、日本の中に大体どれぐらいの人たちがいるのかというものがきっと人身売買禁止ネットワークの方から近々出ると思います。それは本当に限られた人数だと思いますけれども、それが一番、ある意味では数をつかんでいるかなというふうに思います。

吉野委員 また大津さんにお伺いしたいんですけれども、婦人相談所といわゆる民間シェルターと、参議院の参考人質問のときには余り連携がとれていないというお話だったんです。また一千万の一時保護委託制度の使い勝手、先ほどお話しになりましたけれども、一千万じゃ足りないと思うんですね。あと医療の問題、無料低額診療事業ですか、一定額はただだ、でもその範囲でおさまらない病気もありますね、こんな場合はどんな形でやっているのか。

 まず、婦人相談所との連係プレーがどうなっているのか、その辺をお聞かせ願いたいと思います。

大津参考人 人身売買に関しましては、初めて栃木県からインドネシア人の女性がHELPに来ております。これは最近のことです。それで、私たちはやっと委託をしてもらえるところができたと。

 私自身が、例えばいろいろな各県の婦人相談所に話をしに来てくださいと言われましたら、出かけていってまず何をお話しするかといったら、外国籍の問題なんですね。一つは人身売買、そして外国籍のDV。それは連携していまして、人身売買で来られた方が日本人男性と知り合って結婚し、またDVを受けるという、連鎖的なものがありますのでその状況を伝えます。

 そういう意味では、人身売買に関しては、各都道府県の婦人相談所はDVの被害者を受け入れる支援センターとしてDV防止法以降しているわけですけれども、今まで人身売買の方を受け入れたことがない婦人相談所のスタッフの人たちは、言葉の問題どうするのですか、それから、例えば性感染症、いろいろな心の問題、それに対してどうしたらいいのですかと。今までしてこなかっただけにわかられないんですね。

 そういう意味では、これからだと思います。DVでもそうですけれども、外国籍の一人の人間をシェルターが受け入れる、そのことによって、女性たちの置かれている状況、例えば在留資格がないと日本にはいることができない、子供は日本国籍でないとなかなかいろいろな支援が得られない、その在留資格を得るときにはどういうふうな手続が必要かというのは、その人を受け入れられたらいろいろなことがわかられるんです。

 いかに大変かというのをHELPに言ってこられるんですが、同じだと思います。人身売買の方を受け入れた中で、女性たちが毎日、寝られない、それからうなされるとか、そういうことを言われたときに、婦人相談員の人たちはどういうふうな形で病院と連携をとったらいいのかということで初めてわかられるわけです。

 ですから、私たちは長野県からたくさんの人たちを受け入れていますが、もうストレートに大使館が長野まで迎えに行って、そして連れてこられる。そうすると、もう婦人相談所は素通りなんです。いつまでたっても被害者を受け入れないと、どういう状況に置かれるのかわからない。ですからこれからはぜひ、一たんは婦人相談所に受け入れていただきたい。

 それから、関東圏はどうしても、先ほど言いました大使館それから入管が関東圏にあります。そういう意味ではHELPやサーラーに送らないといけないでしょうけれども、地域にある民間シェルターも利用しながら、どうぞ学んでいただきたいというふうに思っています。

 それから病気の件ですが、やっと無料低額診療事業を使えるということで、私どもは病気になった方に、やはり病院にコンタクトをとっていますがなかなか、私どもではそんなことはしたことがありませんというのが電話の回答なんですね。今のところは一つの病院だけが積極的にその女性たちを診てくださっています。でも、積極的に診てくださっても、その一つの病院だけ負担を、やはりそれはいけないと思いますので、できたら、私たちが連絡するのではなくて、例えば厚生労働省の方で、確かに通達は出ているんです、通達は出ていても紙だけですから、病院の方はどういうふうにしていいかわからないわけですから、こういうところで、来たときにはぜひこの制度を使ってほしいということを例えば国の方から言っていただくと絶対変わってくるというふうに思います。

吉野委員 まさに、こういうすばらしい制度があるんですから、各病院が積極的にわかって使うような、そんな動きを私たちはやっていきたいと思います。

 玉井参考人、やはり日本国内のこと、一時保護そして帰国。帰国した後なんですよね。帰国した後、これも日本の国、特におたくのNGOの方々、おたくだけじゃないと思うんですけれども、その連係プレーとか、そこが一番大事で、再発防止というところ、国の役割、皆さんの役割、玉井さんの考え方をお聞かせ願いたいと思います。

玉井参考人 一番大事なことは人材、専門スタッフの育成だと思います。

 例えば、海外支援予算等で向こうに、送り出し国に設備をつくったとしても、それだけでは全然役に立たないんです。最前線で被害者の保護に携わっているソーシャルワーカーの方たちが、送り出し国とそれから日本の方の現状を両方理解できないとなかなか難しいんですね。日本でその人たちがどういう状況に置かれているのか。

 例えば、日本で特定の国の女性の示す言葉、呼び名がエンターテイナーやホステスさんの代名詞に使われてしまっているようなそういうスティグマタイズされた状況にあるというようなことや、ところが送り出し国の方では必ずしもそうでもないというようなことがあって、例えばそういうところで被害者本人に与える心理的なストレス等についての理解ですとか、かなり専門的な知識が必要になってくると思うんです。

 ですから、もし予算があるのであれば、例えばHELPのように最前線でかかわっているスタッフの方たちと、あるいは送り出し国側での同じようなカウンターパートになる方たちとが交流して、顔を合わせて意見を交換する機会が必要だと思います。

 そして、もう一つ必要なことは、元被害者の方が、そういう集まりの中に、中心になって被害者自身たちの社会との接点を持つエンパワーメントをするということが必要だと思います。

吉野委員 最後になっちゃったんですけれども、出口参考人にお伺いしたいんです。

 この参考資料、被害者保護・支援の九ページ、「在留資格」のところに、定住資格を与えようという日弁連さんの提言があるんですけれども、やはり、被害者だからイコール定住というのはちょっとおかしいと私は思うので、定住というからには、それなりのきちんとした定住できるだけの資格といいますか、そういうものがあってしかるべきであって、被害者だからイコール定住というのは私はちょっとおかしいなというのですけれども、御意見を賜りたいと思います。

出口参考人 直ちにということについては疑問があろうかと思いますが、今いろいろ実態についてのお話が出ておりまして、要は、送り出し国の方へそう簡単には戻れない。向こうに戻っても結局は再犯の対象になるとか、あるいは非常に肩身の狭い思いで生活せざるを得ない。

 そうすると、その当該被害者の人が、例えば、この受け入れ国である日本で生活をしたい、真摯な気持ちでしたい、かつ、いろいろな就職の援助を受けながら何とかここでやっていきたい、そういう気持ちを仮に持った場合に、それについてはやはり定住といいますか在留資格をきちっと認めて、我々日本の社会の構成員として迎えてもいいのではないか、そういう権利を認めるべきではないか、そういう基本的な考えです。

吉野委員 井田先生には、質問があったんですけれども時間となりましたので、本当に申しわけありません。

 参考人の皆様、ありがとうございました。

三原委員長代理 次に、江田康幸君。

江田委員 公明党の江田康幸でございます。

 きょうは、参考人の先生方には大変貴重な御意見をいただきまして、これからの法案の改正の審議にぜひとも役立てていきたい、そのように思って、その意味からも幾つか質問をさせていただきたいと思っております。

 今、参考人の皆様から、今回の改正については一応評価できる、人身売買罪も新設されていきますし、法定刑の上限も引き上げる、一応の評価はできるだろうと。しかし、今後の一つの大きな課題として、被害者の保護がやはり重要であって、これなくしては、加害者の処罰も人身取引の防止に至ってもそれはできないのではないか、こういうような御意見ではなかったかと思います。

 まず最初にお聞きしていきたいのでございますけれども、人身売買罪を新設して、刑法の法定刑も引き上げるということでございます。しかし、私、一昨日も当局の方に質問をさせていただきましたけれども、ことしの米国国務省のレポートによれば、昨年に引き続いて、人身取引にかかわった者に対する処罰が軽いと。例えば、これはNGOの方から聞いたことでございますけれども、四百人と言われるような人身売買をした男性に対して、判決が懲役一年十カ月であったと。

 幾ら法改正を行ったとしても、それが実質的に、適正な判決が、加害者に対して厳格な処罰がなされなければ、これはまた人身取引が摘発されていかないし、またその防止にもつながらないというふうに思います。

 この点に関して、実際の判決というのが低いというような事例を知っておいでであるのか、そこら辺のところを紹介いただき、また、今の私の質問に対するお考えを井田先生にまずはお聞きしたいと思います。

井田参考人 まず申し上げたいことは、例えば犯罪者として、刑が今五年のところが七年になりましたというのを見て、五年だったらやるんだけれども、七年だったらやめておこうというような犯罪者は恐らくいないと思うんですね。ですから、刑が例えば何年具体的に上がったからどうだということは、基本的には、具体的な犯罪者の心理に何か影響を与えてどうなるかという問題ではないということは、やはり押さえておかなければいけないのではないか。

 むしろ、私、先ほど出口先生のお話を聞いていてちょっと疑問に思いましたのは、今、統計なんかを見ましても、それほど刑が重いところには行っていない。例えば、今五年でありますけれども、五年の上限のところで、上限をつつくという言い方をよくしますけれども、つつくような刑が頻繁に言い渡されて、どうも裁判官も、もうちょっと上げてくれないと適正な量刑ができないじゃないかというような姿勢がうかがえるような、そういう事例が非常に頻発しているということでは必ずしもないということが言われました。

 これは、ある意味でいうと、今の実務がどうなっているかということ、そして、国会の方で法定刑を引き上げることによって裁判官に対してメッセージを送って、こういった考慮というものもしなければいけないのではないのかという形で、例えば、ここで問題となっている、被害を刑という形で評価するときに、もう少し重い刑を科すことによって評価したらどうだというメッセージを裁判官に送るということもあっていいのではないかと思うんです。

 そういう意味でいうと、現実にどういう刑が科されているかということは、これまでのいろいろな量刑の積み重ねというものもございますし、恐らく以前は、それほど無形の傷みたいなものに対する配慮というのは比較的希薄だったかもしれません。だんだんと無形の傷に対する、心の傷に対するいろいろな配慮が出てきて、そのことが被害者の苦しみみたいなものへの配慮につながって刑が上がっていくというような、そういう傾向がどうもあるようですけれども、それにしてもその上がり方というのはそんなに、裁判官としては、例えばいきなりぽんと従来の量刑の水準を上げるということは、これまた公平という観点から許されないということもあります。

 ですから、さっきお話しくださった、具体的な事例で何か軽過ぎると思われるものを挙げてみよと、なかなかこれは私自身も、特に材料を持っているわけではありませんし、先ほど挙げられた例も背景にどういう事情があるのかということもわかりませんので、コメントはできないんですけれども。

 そういう意味で、実務が、そういった従来からの行き方とか公平性とか、そういうバランスということを考えて、ある程度低いところに刑が行っているのであれば、それは国会の方で立法という形でメッセージを送って、多少引き上げる方向に動かしていくというのも、これはやはり司法判断を民主的にコントロールするという側面からするとあっていいことなのかなと思います。お答えになっているのかどうかわかりませんけれども。

江田委員 今、先生、個々の事例でどうかということを判断しないとわからないということでございましたけれども、やはりこういう厳格な処罰というのが法改正と伴ってなされなければ意味がないと私は思いますので、そのことを大臣にお伺いし、大臣からも、人身取引の実態解明をよくやった上で、犯罪組織の壊滅に向けて、加害者に厳格に対応するということでお返事をいただきまして、そのように加害者への厳格な処罰が法改正とともに進むように我々も期待するところでございます。

 二点目でございますけれども、先ほども参考人の何人かの方々からありましたけれども、これまでは被害者が不法滞在等で犯罪者として扱われて、被害者としては扱われないような、こういう状況にあったことが、被害者からの申告等が少なくて、それで検挙に至らないというようなことにもなったのかと思います。

 それで、今回の法改正では、在留特別許可につきましては、これを人身取引被害に対して付与することができるということに、その規定を明文化することになったわけです。このこととか、強制退去に対しても、退去事由の見直しということで改正が行われるわけでございます。このような在留特別許可また退去強制事由の改正ということで、人身取引の被害者が入国管理当局に安心して被害の実態を訴えられるようになっていくのか、そのことに関して今回の法改正をどのように評価されているか、また今後どのような配慮が必要なのかについて、これは日弁連の出口参考人にお聞きしたいと思います。

出口参考人 今回の、今先生御指摘の関係につきましては、私どもとしても評価はしておるところでございます。

 今回の制度の改正によりましてどういうふうな具体的な状況になっていくのかということについては今後の推移を見守りたいと思いますが、弁護士会としては、ただ単に見守るだけではなくて、私どもが提言で申し上げましたけれども、やはり彼女たちが現実に当局に出頭して、きちっとした法的な手続をとる、そういう知識は十分ございません。したがって、そういう人たちを法的な側面からも援助する、その点が非常に重要だと思いまして、私どもの提言の中でも弁護士の選任権をうたっておるんですが、そのあたりを現実的に確保していくということは非常に重要だろう。

 具体的な提案としましては、いわゆる総合法律支援法、このあたり、恐らく自主事業の中でこの制度を何とか組み立てて、費用の面はそちらからきちっと出してもらった上で弁護士がその手続の中に参加していく、こういうふうなことを今考えておるところでございます。

江田委員 なかなか質問の時間が短いものでございますので、最後の質問にさせていただくことになるかと思いますけれども、きょうはせっかく、女性の家HELPの大津ディレクターとアジア財団の玉井さんが来られております。

 我が党も今回の法改正に伴って、それこそ政府に対しまして、人身取引被害者支援センターを早急に設置する、これが必要であるという申し入れを人身取引被害者の保護に関してはやってきたところでございます。しかし、今回は、政府の判断としては現行の婦人相談所を活用していくという立場をとっているわけですけれども、婦人相談所であるならばなおさらのこと、婦人相談所とNPO、民間シェルター等との連携が非常に大事かと思っております。それと、NPOの方々、先ほどからお話を伺って、大変な、頭の下がる献身的な努力をしていただいております。そこに対する支援が本当に政府としては必要だということを思っております。

 そこでお聞きしたいんですけれども、この婦人相談所というのが十分そのニーズにこたえることができるのかどうか、先ほどからの御質問の回答でも言われているかと思うんですけれども、率直にお伺いをしたいということ。

 また、NPO等の支援についても、これは平成十七年度の予算化を我々も強く申し入れて実現したわけで、民間シェルターへの一時保護委託費が一千万。しかし、聞くところによりますと、もう全体の費用が二千万を超すんだということもお聞きしております。そういう意味では、具体的に一番必要な支援としてどのようなものがあるのか、はっきりとこの国会の場でまとめて言っていただくといいかと思っております。

 それと、やはり私どもは総合的に被害者を支援するこの支援センターの必要性というものをぬぐえないわけですけれども、それについてどのように思われておられるのかを最後にお聞きしていきたいと思います。

 時間がございませんので、代表してHELPの大津ディレクターにお願いします。

    〔三原委員長代理退席、委員長着席〕

大津参考人 HELPは、年間予算を四千万円ぐらい、四千万に満たないんですが、しておりますが、その二分の一を寄附に頼っております。それはもともと、矯風会の会員の方たち、個人の方たち、学校、それからアメリカの各教会とかいろいろな方たちから二千万円近いお金をいただいておりますが、寄附に頼っていたのでは本当にだめなんです。

 それで、一番頭が痛いのは人件費なんです。よいサービスをする、女性たちに対して本当に心のこもったサービスをするには、やはり人が必要なんです。そういう意味では、今のHELPの財源では十分にない。それをどこでどうしていくのかというのは、もう私たちの力を超えております。

 そういう意味では、どこからそのお金が得られるのか。一つには、先ほど言いましたように、婦人相談所が、そういう委託費というものが出るならば、その委託費をHELPにも下さいと。一たん受け入れた後にHELPに来たら、それだけの委託費が来ます。

 ここに表があります。委託費で来られた方たちが、これは栃木県の場合でも、もう既に二週間を超えているんですけれども、その後、HELPに来られるわけです。婦人相談所の中で警察の取り調べをして、そして、最終的に帰国ということでHELPに連れてこられる。それでも、在留特別許可が出るのに二週間以上かかる。それをHELPにいらっしゃるわけですけれども、その二週間の委託費をもしHELPがいただくことができますと、それだけお金が入ってくるということだと思います。

 そういうことで、婦人相談所はこれからもきっと私たちと連携をとっていかれるということを期待しておりますので、これから見ていきたいというふうに思っておりますし、私の方からも婦人相談所にいろいろ働きかけたいというふうに思っております。

江田委員 しっかりとお受けいたしました。

 政府の方のこれまでの答弁の中で、そういう支援に対して必要な場合には、この一千万円に限らず、婦人保護事業費八億円の中で、全体の中で十分対応すると言っておりますけれども、そういうようなところ、本当に必要なところを我々も見きわめて、予算措置等もしっかりと対応していきたい、そのように思っております。

 きょうは、玉井参考人、お伺いできなくて申しわけございませんでした。

 以上で終わります。ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、佐々木秀典君。

佐々木(秀)委員 民主党の佐々木です。

 きょうは、参考人の四人の方々、御苦労さまでございます。お話をじっくりと聞かせていただきました。

 まず、井田先生にですけれども、今回の法定刑の引き上げは合理性が認められるというお話でございました。確かに、出口参考人も言われるように、先生もおっしゃいましたけれども、刑罰を重くしたからといって犯罪が必ずしもなくなるあるいは抑止できるというものではないと思うけれども、社会正義その他の、あるいは公平の観点から、やはり反社会的なこれだけの犯罪行為をしたということになればそれ相応の応報もということも、これは一般の通念として、また国民感情としてもやむを得ないのかなと思っております。

 そういう点からですと、法定刑の上限は引き上がっているんですけれども、下限の方が引き上がっておりません。これがいずれも、人身売買についても下限は三月以上、三月ということで、一般から見るとこれは低過ぎるんじゃないのというふうな感情を持つのではないかと思いますけれども、これについてはどんなお考えですか。

井田参考人 これも個別の事例にはいろいろな事例がございまして、必ずしも一般的に決めつけて悪い人間だからこうだというふうに言えない事例もあるということで、ある程度下については低いところを残しておくというのは一つの知恵かなというふうに思っております。

 例えば、先般、殺人罪についての刑が、下限が引き上げられましたけれども、あれも、なぜこれまで三年という軽い刑であったのかといえば、殺人というのは、いかにもそれだけ聞きますと大変悪いことのようには思われますけれども、個々の事例を見ていけば、安楽死に近いような事例があったりとか、あるいは親族で、看病疲れでやむを得ずといいますか、ぎりぎりのところまで頑張ったけれどもというふうな事例があったりとかいたしまして、なかなか犯罪というのは、そういう意味で、強い犯罪者が弱い人間をというばかりとは限らないという面もございまして、それがこのことに当てはまるかどうかわかりませんけれども、必ずしも直ちに下限も引き上げるということにならないんではないかというふうに思っております。

佐々木(秀)委員 次に、出口参考人にお伺いをしたいと思いますけれども、私どもにきょうお示しをいただいた日弁連の意見書の中の四、五、六で、構成要件について、「人を売り渡した者」との構成要件、国外移送目的略取等の罪の改正で、「売買した者」及び「売買された者」との構成要件、それから、被略取者収受等の罪の改正には賛成するが、「売買された者」との構成要件は改められるべきである、こう書いてあるんですが、どのように改めるべきかということが記載されていないものですから、その点、どう改めるべきなのかということを具体的にお示しいただきたいと思います。

出口参考人 今御指摘の本年一月二十一日付の当連合会の意見書の中で、今先生が御指摘になっておられます売買、売り渡し、買い受けの構成要件に対する、不明確ではないかという考え方、これは、この意見書の四ページから五ページにかけて書いてございます。今お尋ねの部分は、では、さればどういうふうな内容、文言で書くべきなのかという御指摘でございます。

 私どもとしては、今回改正の発端になりました人身取引議定書の具体的な文言、有償等でとか、そのままの文言でいいのではないかというふうに考えておるところでございます。

佐々木(秀)委員 次に、大津参考人にお伺いしたいと思いますけれども、きょうちょうだいいたしましたペーパーの中に表がございます。「二〇〇四年度人身売買被害者状況」という、これの見方についてお伺いしたいんですが、入所の経路というところで、長野、茨城、横浜、その下にフィリピン大使館、タイ大使館とか茨城県警とか三重県とか長野県警とか、こうあるんですけれども、これは、大使館と書いてあるのは、フィリピン大使館の方からこの人についてHELPの方に御連絡があったということなんでしょうか。その場合に、ただ長野とか茨城とかと書いてあるのは、これはどういうように見たらいいんでしょうか。

大津参考人 HELPに来られる今までの経路の中に、多くは大使館、警察、それから本人自身が自分で逃げてくるという三つの経路があったと思います。しかし、本人自身が自分で逃げてきたとしても、HELPに直接来ることができませんので、大使館を通してHELPに来ます。

 「長野県警」というところは、長野県で女性が摘発されて、この人が人身売買の被害者であるというふうに見られて調書をとって、そしてその後長野県警から大使館に連絡し、HELPに来る。最初のこの書き方が、余り細かく書きますとなかなか問題になりますので、そういう意味で書き方がわかりにくいかと思いますけれども、長野県から来たということに関しましては、長野から来て、そして大使館に行き、大使館からHELPに行く、そういう経路が大体の経路です。

 ですから、警察の場合には、「長野県警」というのを書きましたのは、長野県警でこの方が、何らかのブローカー等の関与がある、それを調べるために長野県警でしばらくおられて、そしてHELPに来た例がございます。その場合にも、大使館がなかなか忙しいものですから、私どもが友達を長野の方まで、駅まで迎えに行きまして、友達がHELPに連れてきた例があるということで、ある意味で、私はここに書きましたのは、どれだけ、どの地方が一番HELPに来た人が多いのかといいますと長野県ということをわかっていただくためにちょっとこういうふうな書き方をいたしました。

 その後で、ある意味では、大体どれだけの日数をHELPにいられるかというと、今までは大体二週間だったんですね。二週間おられて、入管に連絡し、そして強制退去という形をとるのにはその日数なんですが、今現在は、在特というものが出るために、結局長くかかっている。それから、例えば五十四日いらっしゃった方に関しましては、未成年であったために警察が取り調べをいたしまして、結局長くかかった例がございます。

 そういう意味では、一人一人の来られた状況によって、どこが関与してくるか、それから、本人が例えばブローカーを訴えたいと言うか、それとも警察の方からこの女性をどうしても調べてそのブローカーを突きとめたいということに関しましては相当数の時間がかかるということが、私はこの中でわかるというふうに思います。

 HELPは緊急避難所ですので、DVの方もいればホームレスの方もいる、それからメンタル的な問題もいる、人身売買の方もいる、そういう小さな施設にさまざまな人たちが入っている。その一つのいいところは、赤ちゃんからお年寄りまでHELPにいることができる。しかし、それぞれの持っている、抱え込んでいる状況が違うので、緊急避難所に一たん緊急避難をされた後に、長期的に、例えば訴えるといったときにはもう二カ月、三カ月とかかりますから、やはりそういう施設、ステップハウスと私は言っておりますけれども、ステップハウスが必要なのではないかというのを今まで申し上げました。それは、HELPに、緊急避難所にいる間は一歩も外に出られない女性たちですので、そんなところに閉じ込めるというのはとても難しいです。二週間を超える状況の人たちを同じ場所でどこにも行かせないということはできませんので、そういう意味ではこれからの問題だと思います。

 昨日、タイ人スタッフが被害者の人を入管に連れていったときに、帰りに入管の職員が、危険だからHELPまで送っていきましょうと言ってくださいました。そこら辺、今まで、先ほど申しましたように、本当に危険であるということが、その危険意識というものが私たちもちょっと低いなと思ったんですが、そういう配慮をしてくださいました。これからはきっと、そういう配慮がしていただけることによって被害者の人たちが安全に帰国できるということだと思います。

 ちょっと余分なことを言ったかもしれません。

佐々木(秀)委員 時間が押し迫っちゃったんですが、最後に玉井参考人にお聞きをしたいと思います。

 それと、大津参考人、この表で「在特」というのは法務大臣の特別在留ということですね、私どもの方は特在、特在と言っているんです。今度、これに伴って入管法も改正になって、この被害者であったことが特別在留を認める要件の中に相当大幅に入れられるということになるんだけれども。

 さて、玉井さん、さっき帰し方が難しいというお話がありました。確かにそうだろうと思うんですが、そういう被害者の方たちは、確かになかなか帰りにくいということはあると思うんだけれども、そうかといって、それじゃ日本に今後ずっと長くいることを望む方とどっちが多いんですか。帰りたいというのと残りたいというのと。この辺どうです、接していた感じで。

玉井参考人 人身売買被害者の数もはっきりしていない中で、帰りたい人と帰りたくない人を大きく分けるだけの統計水準はないんですが、帰らざるを得なくて皆さん帰っていたんですね。もし、本人が受けた被害もしくは損害を少しでも回復できるために、例えば損害賠償等を起こして、そういう期間があるのであれば、それはその間少しでも長くいてということになります。というより、その時間がかかり過ぎるんですね。

 私自身のかかわったケースでも、訴えをしてということになると、どうしても三カ月以上かかってしまう。その間に、彼女自身がシェルターで暮らしていくことに精神的に耐えられなくて帰国をしたというケースもあります。

佐々木(秀)委員 時間が来てしまいました。まだまだお尋ねしたいことがあるんですけれども、これからの審議の中でまた参考にさせていただいてと思います。

 特に、この被害者の方々の今後をどうするかということが、私は実は本当に重い課題だろうと思うんですね。それは、確かに、だまされて来たり、おどかされてそういうことになったんだから、母国に帰りたいという気持ちはあるんだろうけれども、帰ってもまた居心地が悪いとか、いろいろある。そうかといって、日本にずっといていただくということになると、これまた仕事のことから何から、そしてまた、そういうおどかされた連中におびえるというようなこともあったりする。そこで、どういう対策を立てるのかということは本当に大事なことだろうと思いますので、これは立法者との間でしっかりまた議論していきたいと思います。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、津川祥吾君。

津川委員 民主党の津川祥吾でございます。

 本日は、四人の参考人の方々、貴重な御意見をいただきましてありがとうございます。特に、大津参考人、玉井参考人におかれましては、現場の声を私どもにお伝えいただくために本日足をお運びいただきまして、本当にありがとうございます。

 時間がありませんので、早速中身に入らせていただきます。

 大津参考人にお伺いをいたします。

 専門家というよりも現場の声ということでお伺いをしたいんですが、先ほど、約束が違うと被害者の方々、皆さんおっしゃるということをおっしゃいました。この人身取引の被害者が実際どのくらいの規模でいるのか、全体がわからないにしても、約束が違うと言って駆け込んでこられる方々をごらんになりながら、約束はそう違わないという形で言ってみれば仕事を続けていらっしゃる方がどのくらいいらっしゃるのか、あるいはそういった数がこれまでよりもふえてきたのか。

 今までは、例えば、処遇とか待遇とか言っていいのかどうかわかりませんが、非常に厳しかった。何百万というわけのわからない借金をいきなり負わされる、食事もろくにもらえない、自由に外に出ることもできない。それが、例えば、借金の金額がもう少し低かったりとか、あるいは手取りで幾らかお金がもらえたりとか多少の自由が認められていたりとか、そういう条件がそれなりによければ、人身取引だけれども、もちろん進んで来るわけじゃないけれども、まあもう少しやってみようかなみたいな方が、今現状ふえているのかどうか。

 つまり、人身取引そのものを処罰して、取り締まって、根絶をしていこうという我々の思いというか議論の中で、待遇がまあまあいいから黙っていようかという方がもし多くなってしまうと、またこの全体が見えにくくなってくる部分があるものですから、現場にいらっしゃって、そういった感覚をどのようにお持ちか、大津参考人にお伺いをしたいと思います。

大津参考人 残念ながら、どれだけの人がそのままいて働いているのかというのは、私たちの方でも本当に見えていません。女性たちの中には、以前も十年ぐらい前までは、本当にだまされて来た。例えば、縫製工場で働けるとか、ホテルで働ける、そういうふうな形で連れてこられたんだけれども、今は知って、売春するということはわかって来ているという方も多いんです。

 しかし、ちょっと約束が違うというのは、例えば売春をしたとしても、客を選べるとか借金がない。多くの女性たちは、なぜ日本に来るかといったら、家族のために来ます。家族に仕送りをするということが彼女たちの一番の目的です。それができない。その中で、本当に数人ですけれども、私はママからお金をもらった。それは、働いて得たお金の何%でしかすぎないんです。例えば一カ月百万円としたとしても、たった二十万円、そのお金を、二十万円でも十万円でも五万円でも国に送ることができる。国に送れた、そうすると、ママに対するイメージというのは変わってくるわけです。一切何にもお金をくれないという人に対しては、その女性たちのママに対する発言というものは物すごい厳しいものです。私は、本当にお金を何にももらっていない、何をするのでも、洋服一枚買うのでもすべて借金として課せられた。

 そういうふうに言っていますから、その意味では、本当に残念ながら、どれだけの人たちが地方に行っていて、どういうふうな形で過ごしていらっしゃるのかというのは、HELPに来られた中で、その人たちの言われることを聞いてしかないんですね。ただ、女性たちが、あなたのスナックに、いろいろなところに何人働いていたといったときに、例えば五人、そのうちの三人はタイ人、二人は、例えば韓国だったとかほかの国の人だったというふうに言うんですね。決して、一つのスナックに一人だけということはないわけです。

 ですから、今現在、警察の方でそういうところを捜査されているというふうに思いますので、その中で被害者であるというふうに見られた方が、例えば警察からHELPに来られるのではないかというふうに思っています。

 そこら辺が、私たちも現場でしか見えていないものですから、全体像というのはどこでどういうふうに見たらいいのかというのを、先ほど言いましたように、それぞれの団体がかかわっているところからデータをとって、今それを集めているところなんですね。ですから、その集まった段階の中で、少し大きなところが見えてくるかなというふうに思います。

津川委員 ありがとうございます。

 玉井参考人にお伺いをしますが、今も申し上げましたが、本人の希望と大きくかけ離れた、最初に言われていた約束と大きくかけ離れたところでようやく少し問題が見えてくるというこの問題の難しさからいくと、そんなに大きく離れなくなってきたときに、問題が非常に見えにくくなるんじゃないかと思うんです。

 先ほど、例えば、日本でシェルターに駆け込んで本国に帰ったけれども、また日本に来ざるを得ないような状況になるという悪循環があって、その悪循環を断ち切らなければならないという話をおっしゃいました。それについては、外国との連携が必要だというお話をされましたが、この悪循環を断ち切る上で、例えば日本が、これまでの現状のように取り締まりも含めて非常に緩い状況であったということがこの悪循環をある意味で助長していた部分があると思います。

 ここを厳しくするというのは当然ですけれども、そのほかに、根本的にこの悪循環を断ち切るために、どこが大事なのか。もちろん外国と連携をするというのも大事だと思いますが、ここが特に大きなポイントである、あるいはそこが今決定的に欠けている、そういったものがあれば御指摘をいただければと思います。

玉井参考人 一番の問題は、受け入れ国日本に暮らす私たちの意識だと思うんですが、もう一つは、やはり非正規の労働市場をここまで発展させてしまったことの責任というのは大きいというふうに思っています。

津川委員 ありがとうございます。

 井田参考人にお伺いをします。

 先ほど井田先生から、人身売買ということを法律に入れることに対して否定的な見解をされる方があるけれども、これは必要なんだという御意見をいただきました。

 実は、私もやはり人身売買という罪をストレートで罰するというときに、若干何か違和感を感じる部分がありまして、人はそもそも売るものじゃないわけですよね。しかも、買い受ける側がお金を払って人を買ったというのは何となく現象として理解しないではないんですが、売る場合、そもそも自分が売る権利を持っていないものを売るという契約です。この契約がそもそも契約として成り立っているのかどうか、その辺について御意見がありますでしょうか。

井田参考人 幾つかお答えしなきゃいけないと思うんですけれども、まず、民法上の話については、公序良俗とかそういう話になってくるわけで、当然無効だという話になってきます。

 それから、大事なことは、人身取引、人身売買という言葉自体がある程度言葉として定着しているのではないか、これは法律の世界でも定着していますし、一般でも定着しているのではないか。これは、言葉が定着しているのは非常に大事なことで、実態が見えにくいものでも、言葉が定着していればその実態が見えてくるという側面があります。いい例かどうかわかりませんが、セクシャルハラスメントというのは以前はあったかもしれませんけれども、それが見えてこなかったのは言葉がなかったからだと思うんですね。

 ですから、ある言葉がつくられて定着することによって、あいまいだったものが見えてくるということはあるわけでありますし、この問題についていえば、今でも十分それに対応する事態というのはあるのではないか。つまり、それは、法が別に人を物扱いしているのでも何でもなくて、まさに人を物のように扱っているとしか言いようがないような事態、実態が世の中にあるんじゃないかということですね。

 それをまさにつかまえるために、どういう言葉を使ってそれを法律の規定の中に入れていくかという、そのときに、例えば不法な支配を設定するというような言葉に変えたときに、それが果たしてその実態を正確につかめたことになるのかどうか。むしろ逆なので、実態をあいまいなものにしてしまうことになるのではないか、私はそう思うわけでございます。

津川委員 不法な支配という言葉を使って、それを法律にしたときにあいまいになるんじゃないかという話がありました。ただ、そこを法文にどう書き込むかは別として、やはり不法な支配があるということが問題であるということ、これは間違いないところだと思いますね。

 さらに加えて、いや、これは契約だという話でもし犯罪加害者側が言い張った場合、それでも最初に売り渡す場合の契約が非常に難しい、そんなのはあり得るのかなと思いますが、買った場合は、契約だ、例えば書類も含めて本人のサインもあるんだぐらいのことを話すかもしれません。

 そういう話をした場合に、先ほど大津さんからお話がありましたが、被害者の支援のために、まず経済的な支援が足りないということと、それから約束が違うというところで、お金がもらえると言われていたのにもらえなかった、こういう場合、売春であるかどうかは別として、もらえるという契約が成り立っているのであるならばその分のお金は被害者に対して当然払うべきだ、こういう考え方はあり得ると思うんですが、そこについての御意見をいただけますでしょうか。

井田参考人 大変難しい御質問で、おっしゃる趣旨は大変よくわかります。つまり、法的な目で見ればそれは無効だ、あるいは事実認定について人身売買といったら不法な支配だと言ってみても、当人同士がそれに納得して、それがそういう形でまさに裏の世界の取引として通用していっているのであれば、これが表に出てくることはなかなかない。

 つまり、今回入管法の改正があって、なるべくその被害者が駆け込むことができるような、要するに、被害を申告できるようにしようというのは、そういう裏で泣いている人たちをなるべく表に出やすいようにしようとしたのがこの改正ですね。

 そういう意味で、もし、裏で泣いていないといいますか、半分納得していわば裏の商売に従事しているということになってきたときには、確かに、それは実態は非常に見えにくくなるし、それを表から摘発するというんでしょうか、そういうことは非常に難しくなるというのはおっしゃるとおりだと思うんですけれども、とりあえず、第一歩としてはこういう形で進めてきて、あとは国民の意識という話になってくるかもしれませんし、なるべくそれが表に出てくるような形に配慮していくというしかとりあえずはないのではないか。私自身が何か大臣になったみたいな感じですけれども、そういうことなのではないかと思うんです。

 要するに、法はやはりある程度道具でありまして、なかなか使い方によって大変難しい面があって、うまく使えばうまくいきますし、法ができればそれですべてうまくいくというものではないのは、まさにおっしゃるとおりだと私は思います。

津川委員 大臣じゃないので、どうぞ忌憚のない御意見をどんどん言っていただければいいんです。ありがとうございました。

 最後に、出口参考人にお伺いをしますが、「人身取引の防止につき、」という、これはホームページになるのかな、人身取引の防止につき四点ほど指摘がありまして、その中の一番最初に、「特に日本国内における需要の抑制のための効果的対策を積極的に講じ、性産業の法的規制の在り方についての検討も行う。」ということがあります。

 先ほども、法律で規制をする、罰則をつくる、人身取引を撲滅するための実効性を上げなければならない、実効性を上げるためには、被害者の保護、救済が必要なんだという話をされました。もう一つは、このいただいている書類の一番目にある、日本国内における需要の抑制を含めた全体的な対策が必要ということになろうかと思いますが、これは具体的にどういったことをお考えか、お話をいただければありがたいと思います。

出口参考人 済みません。私の今手元にある提言と、それから今私が拝見しました文とは、内容、表現において若干の違いがあるんですね。

 今御指摘の部分は、「人身取引の防止につき、特に日本国内における需要の抑制のための効果的対策を積極的に講じ、性産業の法的規制の在り方についての検討も行う。」というこの部分でございますか。これについて当連合会として具体的にどういうふうに考えておるか、こういう御質問でございますか。

 この私の手元にある提言の中では、今御指摘の部分についての具体的な記載は、まことに申しわけないんですが、ございません。ただ、私どものこれまでの実務の経験から申しますと、私も若干、こういう被害の女性についていわゆるオーバーステイの件で弁護するケースがございましたので、その観点などからも申しますと、この辺は、やはり本当に、オーバーステイの女性に対する搾取を含めて非常にシビアなものが現実にはございます。

 強制送還の対象になるというふうな中で、やはり女性自身が本当にどういうふうに今後生活をしていったらいいのかということの問題が非常にありまして、私ども、今、先ほど申しました京都のある繁華街の中での部分というのは、まさにこの辺を具体的にメスを入れていかないと、恐らくオーバーステイの女性の問題というのは解決できないだろうというのが実務的な実感でした。

 したがいまして、性産業の法的規制については、外から見ますと若干イタチごっこ的なところはあるんですけれども、暴力団を含むそういうふうなところへ、警察の方も含めて積極的なメスを入れていってもらいたいということと、それから、具体的な就労支援における、片言の言葉しかしゃべれない女性についての就労支援はどういうふうにするのかということは随分大事だなというふうな思いを持って実務をやっておった次第でございまして、今の御質問には正面からお答えできないのは大変申しわけないんですけれども、これで御容赦願いたいと思います。

津川委員 本当に貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。これからの法案審議に生かしてまいりたいというふうに考えております。どうもありがとうございました。

塩崎委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げたいと思います。

 参考人の方々は御退席いただいて結構でございます。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として内閣官房内閣参事官鈴木基久君、警察庁生活安全局長伊藤哲朗君、警察庁刑事局組織犯罪対策部長米田壯君、法務省刑事局長大林宏君、法務省入国管理局長三浦正晴君、外務省大臣官房国際社会協力部長神余隆博君、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長伍藤忠春君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。藤田一枝さん。

藤田(一)委員 民主党の藤田一枝でございます。審議のトップバッターでございますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

 早速お尋ねをしてまいりたいと思いますけれども、大臣も御承知のように、日本は大変性産業がはんらんをしている、つまり需要があるということで、人身売買の受け入れ大国であるというふうにこの間言われてまいりました。このことは、アメリカ政府からいろいろ指摘をされるまでもなく、国際機関や、あるいは被害者の支援活動に携わっている方々から強く指摘をされてきたことでございますけれども、なかなか対策が十分にとられてこなかった。それが、今回やっと、行動計画の策定であるとか、あるいは人身取引議定書の批准に向けた法改正であるとかということで動き出したということは一歩前進である、このように受けとめているところでございます。

 ただ、世界の多くの地域が影響を受けて、かつ、国際的組織犯罪にとっては最も利益のあるビジネスというふうにまで言われているこの人身売買は、現代奴隷制とも言われておりまして、日本は、主として東南アジア、南米、東欧からの女性の性的搾取を目的とした人身売買の目的地国となっているというこの事実をやはり厳しく認識をしていかなければならないというふうに思っています。

 先ほどの参考人質疑でも、人身売買をめぐる問題点というのがいろいろな角度から指摘をされてまいりましたけれども、大臣は、人身売買の背景あるいは要因、こういった問題についてどう分析をされ、認識をされておられるのか、まずその辺の御所見からお伺いをしたいと思います。

    〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕

南野国務大臣 先生御指摘のように、我が国が人身売買の国であると言われているということは大変悲しいことでありますので、そこら辺を払拭すると同時に、我々国民が安心、安全の生活ができるようにということが一番大きなポイントになってくるだろうと思っております。

 そこで、先生がお尋ねの背景とか要因ということにつきましては、本当に今さら申し上げるまでもございませんけれども、国際的に見てみましても、地域間の所得格差がある、これは開発途上国などの例でございますが、また、人の移動が容易であり、活発化されている。さらに、組織犯罪が進んでいるというような国際的な情報もございます。国際化されている。さらに、先生が冒頭おっしゃったように、性的搾取のそういう需要があるということが私は一番悲しい事情であるのではないかな、そのようにも思っております。

 それで、政府が昨年十二月に策定いたしました人身取引対策行動計画、これは、このような人身取引の背景の要因となり得る事情をも踏まえたものでございまして、人身取引の防止、撲滅、それを図ることをこの行動計画に盛り込んだというふうに思っております。

藤田(一)委員 人身売買の背景等々も十分御認識をいただいて、なおかつ女性の人権ということについて十分御理解をいただいている大臣でございますので、ぜひ内閣の中でもリーダーシップを発揮していただいて、被害者の保護あるいは人権の回復ということに取り組んでいただきたいということをまず冒頭お願いを申し上げたいというふうに思います。

 そこで、少し具体的な問題に入らせていただきたいと思いますけれども、まず、昨年十二月に策定された人身取引対策行動計画と本法案の位置づけということでございます。

 行動計画は、人身取引は重大な人権侵害と明確に位置づけて、被害者を保護の対象とし、きめ細かな対応を行う、そして同時に、加害者に対しては処罰、取り締まりを強化する、こういうふうに述べているわけでございます。

 したがって、本法案がこの行動計画の中で述べられていることとの関係でどういう位置を占めるのかということでありますけれども、保護と取り締まり、この二つの柱のうちの一つを担う法案である、十分であるかどうかということは別にして、その一つを担う法案であるというふうに理解をしていいのかどうか、お尋ねをしたいと思います。

南野国務大臣 本当にこの問題のあれが解決するためには、私一人じゃなく、先生方もともに行動をしていただきたいというふうにも思っております。

 先生お尋ねの行動計画の中では、人身取引を撲滅するための対策として、「人身の自由を侵害する行為の処罰に関する罰則の整備」、それが挙げられておりますし、また、人身取引被害者の保護の施策といたしまして、「在留特別許可の弾力的な運用による被害者の救済」というものが掲げられておりますから、それぞれの対応するものとして、今回、刑法または出入国管理及び難民認定法、それもあわせまして改正することといたしました。

 このように、この法律案は人身取引対策行動計画の重要な一部をなすものでございますので、その他も含めまして、今後とも、総合的な行動計画、これを着実に進めていきたい、そのように思っております。

藤田(一)委員 本法案が大変重要な一部を担うということは当然のことでございます。そしてまた、この法案の改正案の中に、入管法等々の改正で被害者の保護の部分も一部入っているということも事実でございます。

 ただ、この行動計画も十分であるかどうかという問題ももちろんありますけれども、行動計画の中で述べられている問題をすべてきちっと担保していくという意味では、やはり被害者保護という問題をきちっと重視した包括的な体制整備であるとか、あるいは支援法であるとか、こういったものが必要ではないかというふうに思うわけでございます。この点の御見解は、大臣、いかがでございましょうか。

南野国務大臣 本当に先生御指摘のとおりだと思っておりますが、政府の人身取引対策行動計画におきましては、人身取引の被害者の保護をそれの対象として明確に位置づけた上でということでありますので、その位置づけはそこら辺に置かれているというふうに思っております。

 法整備が必要なものにつきましては法整備を行う、現行の法体系の中でも対応可能なものについては、予算措置等を講ずることにより対応できるものは対応していくということでございます。

 そこで、被害者の保護に関しまして、被害者が安定的な立場で本邦に在留しながら保護を受けられるよう入管法を改正することといたしましたので、これも皆様方に御審議いただくことだと思いますが、その他の被害者の生活支援ということにつきましても、一時保護のためのシェルターの提供、または被害者の帰国支援等のきめ細かな対応が行われることとなっております。

 まず、法務省も含めた関係機関が一丸となってこの行動計画を着実に実施することによりまして、被害者の適切な保護に効果を上げていくものであると思っております。

藤田(一)委員 いろいろと御説明をいただいてありがとうございます。

 ただ、確かに、言葉としては行動計画の中にいろいろ述べられているんですけれども、先ほどの参考人質疑の参考人の皆様からの御指摘でも、やはり具体的に動かしていくときにはいろいろな問題がありますし、そのことをきちっと担保していく法律というものがもっと明確になっていないと進まないという部分もあるんだろうと思います。

 そういった意味で、人身売買というものをきちっと撲滅していくというための体制整備と、包括的な支援法、被害者の保護、支援ということに着目した支援法がやはり必要なのではないかと私は強く思っております。

 私ども民主党も、こういった点に着目をいたしまして、プロジェクトチームを立ち上げて検討をしてまいりましたし、与党の皆さんもそういうお立場でいろいろ検討をしていただいているというふうに思っています。

 そういう意味では、こうした包括的な体制整備、そして支援法というものをつくっていく方向性で、ぜひ大臣も、言葉だけではなくて、積極的な取り組みというものをさらにお願いしたいというふうにまず申し上げたいと思います。

 その上で、行動計画の中身について少しお尋ねをしたいというふうに思っています。

 昨年の四月に、法務省、警察庁、厚生労働省、そして外務省の担当部局と内閣官房によって省庁連絡会議というものが設置をされて、そして、その後にこの行動計画が策定をされたわけです。この間、実務者レベルの会合というものは何度も重ねられてきたというふうに聞いておりますけれども、しかし、やはり政府としての人身売買全般を所管する責任部局というものが大変わかりづらい。あるいは、その施策全般を網羅したこの行動計画といえども、施策ごとの個別対応というものはあるわけですけれども、全体の推進体制というものが全く見えてこない。こういうことでは、やはり組織的国際犯罪に立ち向かうということも難しいのではないかというふうに思いますし、国際合意となっている被害者保護、支援ということは行えないのではないか、こういうふうに思います。

 そこで、この際、まず責任省庁がどこになるのかということを明確にしていただきたいというふうに思いますけれども、お答えいただきたいと思います。

鈴木政府参考人 人身取引対策に関する関係省庁連絡会議の行動計画の責任それから推進体制についての御質問でございます。

 人身取引は、委員御指摘のとおり、重大な人権侵害、また国際的な組織犯罪でありまして、政府を挙げて対策を講じる必要があるところ、政府としては、昨年四月に関係省庁連絡会議を設置いたしまして、十二月に人身取引の防止、撲滅と被害者の保護を含む総合的、包括的な対策として、人身取引対策行動計画を策定したところでございます。

 これは、関係省庁連絡会議で作成したのみならず、その後、内閣総理大臣を主宰者といたしまして、全閣僚がメンバーである犯罪対策閣僚会議にも御報告申し上げ、その推進を確認したところでございます。

 行動計画に盛り込まれた各種の施策についてでございますが、これは各省庁、関係省庁がそれぞれ適切な対策を講ずるとともに、関係省庁連絡会議におきまして、NGOの方々とかの意見を伺い、連携も図りつつ、情報の共有ですとか、必要な調整を行っておるところでございます。

 人身取引対策は内閣の重要課題の一つでございますことから、人身取引の防止、撲滅と被害者の保護に向けまして、引き続き、内閣官房を中心に関係省庁連絡会議の枠組みの中で、NGOや関係機関の皆様とも協力しつつ、行動計画に掲げられた施策を着実に実施してまいりたいと考えております。

藤田(一)委員 今お答えをいただきましたけれども、そういたしますと、人身売買にかかわる直接的な窓口というのは内閣官房である、こういうふうに理解をしてよろしいんでしょうか。

鈴木政府参考人 国の行政機関の性格上、それぞれの所管省庁がそれぞれの施策を実施して、内閣官房において必要な総合調整を行うということでございます。

 したがいまして、行動計画に盛り込まれたそれぞれの施策については、施策ごとにそれぞれの省庁が責任を持って実施するということでございます。

藤田(一)委員 人身売買の問題の深刻さ、あるいは国際的にこの問題にきちっと立ち向かっていかなければいけない、こういう状況が日本政府にも求められているわけでございます。このことについては、多分異論はないところだというふうに思うんです。

 そのときに、施策はそれぞれの省庁が行って、内閣官房は総合調整をするだけなんだというレベルでは、やはりだめなのではないか。推進体制というものがもっときちっと明確に位置づけられていく、人身売買というものを撲滅していく政府の意思というものをきちっと示していくということがやはり要るのではないかと私は思いますが、もう一度お答えいただきたいと思います。

鈴木政府参考人 政府といたしましては、人身取引対策は内閣の重要課題の一つであるということで、政府を挙げて対策を講じようということで、関係省庁連絡会議を設置し、また、行動計画を取りまとめ、その後も関係省庁連携して対策を推進しておるところでございます。

藤田(一)委員 多分、いろいろ伺っても同じようなお答えしか返ってこないのかなという印象を今の答弁から持ちましたけれども、しかし、今回出されました人身取引対策行動計画の中には、いわゆる推進体制というものが全然入っていないんですね、明記されていないんですよ、よく御承知のとおりだと思いますけれども。

 これだけのことをやっていかなければいけないわけでして、これでも不十分で、もっともっといろいろと補足をしなきゃいけないということがいろいろ指摘されているときに、その推進体制というものがまずきちっとあって、政府として断固としてやるんだということが伝わってくるものにならなければいけないのではないかというふうに思うんです。

 そういう意味で、この行動計画というのは、普通、いろんな計画が出されますね、政府はおつくりになります。そうすると、推進体制ということは、最初か終わりか、どこかに必ず入っているわけでございます。本部長がだれだとか、だれのもとにどういうところがきちっと所管していくんだということが、図式も含めて大抵示されているわけでありますけれども、この行動計画にはそういうものが全然入っておりません。終わりの方に、「国内の関係機関との連携確保」という項目の中で、「総合的な体制整備を図る。」という一行が、わずか一言入っているにすぎないわけでございます。私は、これはとても問題だというふうに思います。

 今回、この法改正と同時に、その法改正のベースになるのもこの行動計画ということでございますので、この行動計画を、やはりきちっと推進体制を確立して、明記をしていただきたい。

 民主党は、内閣総理大臣が本部長になって、官房長官のもとにきちっと施策を推進する、こういう体制をつくらなきゃいけないというふうに考えておりますけれども、この点は、大臣は法務大臣というお立場ではありますけれども、冒頭申しましたように、内閣の一員でございます。ぜひ、その点、御理解をいただいて、きちっと推進体制を確立し、こうした行動計画の中に明記をしていただきたいと私は思いますけれども、御所見を伺えたらありがたいと思います。

南野国務大臣 いろいろな事柄があると思いますので、そういう意味では、関連の省庁または内閣とも検討させていただきたいと思っております。

藤田(一)委員 確かにいろいろな事柄があるんですが、多分、一つの取り締まりという部分を担う、あるいは入管行政も含めて担う、人身売買のある意味ではかなり大きな部分を担う法務省、法務大臣というお立場であれば、やはり私は、推進体制がしっかりしていなきゃ困るというふうに思われるだろうと思うんですね。そのことをしっかりとこの中に打ち出していただきたいんです。

 普通、行動計画は大体目標年があると思います。五年でやり上げるとか、何年間の行動計画だとかというのも大体きちっと精査されているんだと思いますけれども、この行動計画には、「検証・見直し」という項目は一番最後に入っていまして、省庁連絡会議の中でいろいろと検証するという話にはなっていますけれども、これが何年までの目標なのか、行動計画なのか、全然明記をされておりません。

 そういう意味で、大変まだまだ不十分な行動計画であるというふうに思っておりまして、これは参事官の方に、大臣というより参事官に伺わなければいけないのかと思いますけれども、この行動計画、目安を持ってやっていらっしゃるのかどうか、お答えいただきたいと思います。

鈴木政府参考人 この人身取引対策行動計画は、政府として早急に、総合的、包括的な人身取引対策を講ずるということをもって策定させていただいたものでございます。

 したがいまして、この行動計画を受けて、早急に、条約の批准ですとか、あるいは関係法令の改正とかをお願いしておるところでございますし、また、本年度の予算措置もお願いしておるところでございまして、できる対策は早急に講ずるという意味で、既に、この行動計画に基づいて関係の施策がかなり動いておるということを御理解いただきたいと思います。

藤田(一)委員 当然、急いでやらなければいけないということでありますから、やれることはどんどんやっていくということでありますけれども、この行動計画で十分なわけではないという指摘は、この間いろいろなところからもあったというふうに思いますし、実際に動かしていく過程で問題も出てくるだろうと思います。

 そのために「検証・見直し」ということも設けているんだと思いますけれども、やはり行動計画ですから、ある程度の目標というものを定めて、そしてバージョンアップしていっていただかなければいけない、きちっと補強をして、さらに強化をしていただくということがやはり必要なんだというふうに思います。

 そういうお考えは十分持っていただいておりますよね。確認させていただきたいと思います。

鈴木政府参考人 委員御指摘のとおり、「行動計画の検証・見直し」ということで、行動計画の中にも、時々の情勢に応じて行動計画の見直し等を関係省庁連絡会議で行うということで訴えさせていただいておるところでございます。

 ただ、私どもといたしましては、まずは行動計画の中に掲げました施策を着実に実施する、こういうことがまずは重要であるというふうに考えております。

藤田(一)委員 いずれにしても、行動計画が去年の十二月にできたわけでありますから、これをしっかりと生かしながら、人身売買の撲滅ということに対して取り組んでいかなければいけないわけでございます。

 そういう意味で、先ほど申しましたように、推進体制の確立、そして、しっかり確立をしていただいて、この行動計画の中にそれがきちっと明記されるということをやっていただく、あるいは、今申しましたような、これをずっと引きずっていくわけではないはずですので、めり張りを持って、この行動計画の見直しもきちっとやっていただくということを強くお願いして、またこの問題、別の機会に、内閣委員会等々でお尋ねをしてまいりたいというふうに思います。

 次に、法案の中身に関係する問題として、今回、議定書三条に定められた人身売買の定義に基づいて人身売買罪というものが新設をされて、加害者処罰というものが強化をされていくわけでございます。

 二〇〇四年の警察白書を見ておりますと、不法就労目的の不法入国あるいは不法残留事犯の多くに雇用主やあっせんブローカーが関与し、または暴力団の関与もある、こういう記載が出ております。外国人雇用関係事犯の検挙件数のうち、外国人女性をホステスや売春婦として従事させていた事犯の割合というのが五三・三%、検挙された事務所等で雇用されていた外国人のうち、女性は五九・六%。さらに、人身売買事犯の検挙状況ということになりますと、七十九件五十八人、うちブローカーが二十三人、大変少ない数字となっているわけでございます。

 今回の法改正によって、いわゆる加害者処罰の実効性というものがどれだけ向上するのか、まずその点からお伺いをしたいと思います。

南野国務大臣 先生お尋ねの、人身取引の加害者、これを実効的に処罰するためには、この問題の重要性を広く国民に浸透させ、その協力もいただきながら、捜査機関が関係罰則を積極的に活用していくことが必要であるというふうに思っております。

 まず、今回の法改正では、人身売買が犯罪であるということを明確にしております。それが広く知られるようになることによりまして、被害者やその周辺の方々からも被害の申告や、また市民からの通報と、人身取引に関する犯罪捜査のきっかけが相当多くなってくるのではないかなというふうにも思われます。

 そして、検察当局におきましては、各検察官に対しまして、今回の人身売買罪、これは新設されましたので、こういうものの施行及び内容につきまして周知させていく、これは必要な課題であろうと思っております。こうした犯罪につきまして、関係機関と緊密に連携をとりまして、その実態の解明、または犯罪組織がありますので、その犯罪組織自体の壊滅を目指した捜査を行っていこう、より一層厳正な科刑の実現に努めるべきこと、これを徹底しているものと承知いたしております。

 これらがすべて相互作用しながら、人身取引の加害者の処罰が着実に進むものというふうに思っております。

藤田(一)委員 どれだけその実効性が上がるのかということを具体的にお示しいただくのはなかなか難しいことだというふうに思います。

 確かに、大臣に今お答えいただきましたように、広く問題が知られていくということは非常に大事なことでありますし、それから、情報収集、実態調査、こういうことをして組織の状況というものをつかんでいくということによって、摘発ということにつながっていくんだというふうに思いますので、そういう意味では、この法改正によって実効性が上がるということを私も期待しているわけでありますけれども、そのときに、やはり加害者処罰というものをしっかりとやっていくためにも、被害者の認知とか認定、こういったものが大変重要になってくるんだろうというふうに思います。

 今まで、先ほど参考人の方々もおっしゃっていましたけれども、人身売買ということがなかなか理解をされていないがゆえに、被害者であったとしても、被害者というふうに認識されないままに、オーバーステイで強制送還になるとか、こういうケースが非常に多かった、こういうお話もございました。これからやはり、疑いがあるという人に対して、速やかに、適切な、的確な対応をしていくということが大変大事なんだと思います。

 しかし、従来、被害者であるかどうかということを判別する場合に、被害者が申し出てくるとか、あるいはどこかに助けを求めてくる、こういうケースでありますと、それなりに状況というのはわかるわけでありますけれども、こういう新しく法律ができて人身売買ということを大きく取り上げるようになったとしても、実際には、入管とか警察の取り締まり、いろいろな、売防法だとか風営法だとかあるいは職安法違反だとかという形で摘発をされたときの供述調書によって判別をしていくというケースがやはり多いのではないかというふうに思うわけであります。

 ただ、問題なのは、被害者が、摘発をした相手、入管であるとか警察の人というものを簡単には信じないのではないか。大変精神的に受けているダメージというものもあって、シェルターの方さえ信じない、こういうお話も先ほどあったわけですけれども、容易に、なかなかその人を信じて自分の状況を率直に話すということは難しいのではないか。あるいは、人身売買の被害者であるということを自覚して申し立てができるというような状況の人というのは本当に一握りなんだということが言われてきております。

 そういう意味では、絶対にNGOであるとか専門家の方々の協力というものが必要なわけであります。その協力をどう得ていくのか、あるいは、しっかりと連携をしながら、被害者の認知、認定というものを速やかに行っていくのかというその体制というものは、まだ残念ながら十分にはできていないというふうに思います。

 入管の中で、いろいろな形で認定をしていくということでの御努力、あるいは体制整備ということを検討されているということは伺ってきております。しかし、入管だけで事足りる問題ではなくて、警察の中や、あるいは今回シェルターとして位置づけている婦人相談所の問題もありますけれども、いろいろなところで、こうしたNGOとか専門家の協力を得ながらきちっと体制整備を図っていく、それは国としてそういうものをどういうふうに位置づけていくのかということがやはり必要なのではないかというふうに思いますけれども、その点、どのようにお考えになっているのか、お聞かせをいただきたいと思います。

南野国務大臣 先ほど先生が、入管の問題についても大切な部分があると言われておりました。本年の三月に、入国管理局の那覇支局が沖縄県の女性相談室、警察、検察等に呼びかけまして、人身取引対策の沖縄関係機関連絡会議というものも立ち上げたりいたしておりますので、これは各県、横の連絡をとりながら、こういう問題についても展開していくものと思っております。

 それで、今のお尋ねの件でございますけれども、委員おっしゃるとおりだというふうに思っております。

 人身取引対策につきましては、人身取引の被害者に該当するかどうか、これをまず的確に判断することが重要であると考えております。そのためには、被害者であるとの判断に当たってどうするかというと、各地方入国管理官署で、人身取引対策の担当者として指名された複数の幹部に関与させております。その人を特化いたしておりますので、一つのポイントかなというふうにも思います。

 また、職員に対するさまざまな研修の機会を利用いたしまして、人身取引問題に対する職員の意識を向上させるよう研修内容の充実も図っておりますが、今後とも人身取引に関する研修を積極的にやってまいりたいと思っております。

藤田(一)委員 いろいろ、総論的なというか全体的にそういうことが必要だということは御認識をいただいているということで、大変ありがたく思いますけれども、現実の問題としては、その体制というのはまだまだ不十分だというふうに私は思うわけです。

 特に、被害者というのはステレオタイプではないということなわけですよね。日本人と結婚をしている、偽装である場合もあるし、そうではなくて本当に結婚している場合というのもあるということでありますし、非常にさまざまなタイプがあります。

 性産業に従事するということがわかって入国をしてきている人たちというのも、今は大変多くなっています。しかし、実際にわかって入ってきたけれども、パスポートを取り上げられたり、借金漬けにされたり、あるいは暴力にさらされたり、薬漬けにさらされたり、こういう状況に追い込まれていっているということで、身の危険を感じ、これ以上命がもたないということで逃げ出していく、助けを求めていくというケースになっているわけであります。

 形態は非常にさまざまで、被害者だからとてもかわいそうな人なんだというレベルで事がくくれるという問題ではない、非常に複雑な、冒頭大臣がお示しいただいたこの人身売買の背景とこれは密接にかかわっている問題であります。参考人の先ほどのお話でも、少しでもお金をもらえていれば、やはりそのお金を自分の国に送るということで、そのことで我慢をしている人たちがたくさんいるという本当に難しい問題なわけです。

 そういう被害者に接していくということは、いろいろな経験を積んでおかなければいけませんし、そしてまた、いろいろな専門性というものが求められるだろうというふうに思います。ですから、被害者を発見して認定をしていく仕組みというのがとても大事になっていくわけです。

 そのときに、先ほど担当者を指名しているというお話もございましたけれども、いわゆる幹部の方を指名するというレベルではなくて、もっと具体的に、被害者を保護、支援する、そういう機関に、これは入管も含めてあっていいと思いますけれども、被害者認定専門官、これは仮称ですけれども、そういうようなお立場の方を配置していく、あるいは、そういうふうに、今担当官というふうに大臣おっしゃられているわけですから、その担当官という名称は担当官でもいいんですが、やはりその方をきちっとトレーニングをして、専門性を付与して、そして数をふやさなきゃいけないということなんだと思うんです。

 これをしっかりやらないと、やはり被害者の認定ということがスムーズにいかないということだと思いますけれども、この辺、いかがでしょうか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のとおり、人身取引の被害者の認定ということにつきましては、かなり高度な事実認定も要しますし、その前提として、被害に遭われたと思われる方から、本当の、真実のお話を聞き出すということも非常に重要なことだろうと思います。したがいまして、そういったいろいろな経験を持った担当官がやはり必要であろうというふうに考えております。

 先ほど、大臣の方からも、入管局におきまして専門の担当官を指名しているというお話がございましたが、これに加えまして、当然、関係の職員に対する研修というものも重要であろうというふうに考えておりまして、入管といたしましては、職員に対するさまざまな研修の機会を利用いたしまして、人身取引問題に対する講義を実施しておるところでございます。これによりまして、必要な知識を習得させるとともに、人身取引問題に対する職員の意識を、きちっとしたものを持ってもらって、向上を図るということをしておるところでございます。

 具体的な研修の例で若干御紹介させていただきますと、例えば、中堅職員を対象とした研修におきまして、NGOから講師をお招きしまして人身売買問題の講義を受講させたということのほか、毎年実施しております人権に関する研修というのがございます。昨年度は、この研修を人身取引問題に特化いたしまして実施いたしました。その際、国際移住機関でございますとかNGO、また大学等から講師の方においでいただきまして、人身取引問題について、また最新の状況や各国事情についての理解を深める機会とした次第でございます。

 また、WHOでトラフィッキングされた女性のためのインタビューマニュアルというものを作成しておりますし、警察庁におかれましても広報啓発ビデオを作成しております。こういったものにつきましても、全国の地方入国管理局や支局、収容所等に配布いたしまして、職員の教育に活用しておるところであります。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

藤田(一)委員 いろいろ入管のところで取り組んでいただいているということは大変心強く思うわけでありますけれども、最終的にというか、被害者が発見をされて、いろいろな警察の取り調べとか聴取とかを受けて入管の方に来て、入管でまたいろいろという、入管に来るまでの間にもいろいろな過程がありますし、その過程の中で婦人相談所を使うというような話も出てきているわけでありますので、入管だけでその認定ということを行う、あるいはそこに専門的なトレーニングを受けた人を配置するということだけで事足りるのかなという感じもいたしています。

 これはどういうふうに全体像をつくり上げるのかという問題とかかわってくるということでございますので、今すぐできる、あるいはやれるというお答えをいただけるとは思っておりませんけれども、やはりもっと広く、いろいろな形でこの被害者の認知、認定に伴う体制整備というものを図っていただきたいということを強くお願いしておきたいというふうに思います。

 今、いろいろなマニュアルも使ってやっていらっしゃるというお話もありました。WHOのガイドラインというものも参考にされているということでありますので、ぜひ、被害者の人権擁護という視点からも、被害者の認定ということについて、こういったマニュアルを使っていただいてしっかりとやっていただきたい、こういうふうに思うわけです。

 そのときに、もう一つ非常に問題になってくるのが通訳の問題、これも参考人の皆さんからもいろいろ出ておりましたけれども、被害者のダメージというのは大変深刻であります。そういう意味では、すべての場面で母国語の通訳というものが必要になってくるんだろうと思いますけれども、これも残念ながら余り十分ではない。特に、聴取の場面とか、入管とか警察というところはその体制が大事なのではないかと思いますが、この体制整備はどのように図られているのか、取り組み状況を教えていただきたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘ございましたように、特に被害者の方につきまして、その被害の実態を詳細に聴取するためには、言語、言葉の問題というのが非常に重要だというふうに思っております。

 入管の実情を御説明申し上げますと、入管はその仕事柄、通常の業務におきましても通訳を必要とする場合が多々ございますので、平素から入国管理局の通訳をしていただける方という人たちを多数確保しておりまして、通訳の必要がある場合にはおいでいただくという体制になっております。

 したがいまして、人身取引事案が発生した場合でありましても、この認定のための事情聴取に的確に対応できる体制があるというふうに私どもは考えておるところでございます。

藤田(一)委員 入管は、業務の特性から、通訳の問題というのはいろいろ常日ごろから求められていることだろうというふうに思いますが、では、警察はどうなんだろうかというふうに思うわけです。

 本庁の方になればそれなりの体制がとれるかもしれませんけれども、地方の出先の警察などで、被害者が駆け込んできたとかあるいは被害者だと疑いのある人がいるということで、あるいは逆に、いろいろな違反行為ということで摘発をするということもあって、そして、その摘発の中に被害者がいる、こういったことを把握していくときの警察における体制というものについても少し御説明をいただければと思います。

三浦政府参考人 警察の方はちょっときょうお見えでないようでございますので、入管でございますが、私ども、警察の通訳体制、申しわけございませんが、具体的にどういう形になっているのか、詳細を現時点で承知しておりませんので、申しわけございません。

藤田(一)委員 もちろん、大臣は細かいことは御存じないというふうに思いますので、大臣にお尋ねするのは申しわけないんですけれども……(発言する者あり)はい。

 警察は非常に大事なんですね。特に、今回法改正をして、やはり実効性を上げるということ、つまり摘発をするということをやらなきゃいけないわけです。そうすれば、加害者の捜査に踏み切るというときには、必ずそこには被害者がいるわけですから、それはやはり、警察の第一段階のところでしっかり体制をとっていただかないと、そこで被害者は二次被害を受けてしまうということになります。

 この行動計画の中にも、交番に被害者が駆け込んできたときはというような形でのことが書いてあるんですけれども、やはりそういうケースがこれから、いろいろな情報をできるだけ被害者の方、外国女性の皆さんに、こういう保護の仕組みがありますよということを知らせていく。警察はこういうリーフレットのようなものをおつくりになっていますよね。そういうものをあちこちに配るということになれば、交番に駆け込むというケースも当然これからは出てくるわけでございます。そういう意味で、しっかり警察の体制というものをとっていただきたい。

 大臣、御決意だけお聞かせください。

南野国務大臣 警察のことにつきましては、警察官の方々またはその所管庁の方でしっかりとしていただけるものと承知いたしておりますし、大臣にお会いしたときにもそのようなお話も申し上げておりますので、横のつながりを持ちながら努力していきたいと法務省側では思っております。

藤田(一)委員 ぜひ取り組みをしっかりやっていただきたいとお願いをしたいと思います。

 時間に限りがありますので、少し急いで先に質問を進めさせていただきたいと思っています。

 この加害者処罰の実効性というものを確保していくためには被害者の認定ということが必要だということを先ほど申し上げて、いろいろ伺ったんですが、もう一つは、やはり被害者の保護ということがとても大事であります。

 人身売買というのが組織的に行われているということからしても、被害者にとっては、加害者の報復あるいは威嚇とか母国の家族への影響、こういったことを大変心配するわけであります。今回、裁判所における保護ということは刑事訴訟法の一部改正ということで出てきておりますけれども、刑事手続全般にわたる被害者の保護の徹底、匿名性だとか個人情報の保護だとかということ、このことは、今回の法案の中には残念ながら含まれておりません。この点、やはりしっかりとやっていただかないといけないというふうに思いますが、御見解をお聞かせいただきたいと思います。

南野国務大臣 先生のこの件につきまして、現在の刑事手続におきます被害者保護の制度といたしましては、被害者の住居等の秘匿についての検察官から弁護人への要請や、また裁判長の尋問制限、または関係者の被害者への付き添い、これは付き添いもしていただけるようになっております。法廷内の遮へい措置、これも時々テレビ等でもごらんいただけていると思いますが、またビデオリンク方式、これは顔を見せずに別のところからビデオでその人の証人をしていただく、そういう尋問などがございます。

 検察当局におきましては、人身取引の被害者につきまして、各検察庁に配置された被害者支援員による支援も含めまして、その安全や心情等に配慮しながら、これらの制度を積極的に活用しているものと承知いたしております。

 また、こうした配慮を進めるために、昨年制定されました犯罪被害者等基本法に基づきまして、内閣府に設けられました犯罪被害者等施策推進会議におきまして基本計画の案が策定されているということになっておりますが、法務省といたしましても、この基本計画の定めるところに従いまして、他の関係機関とも連携し、委員御指摘の氏名、住所の秘匿の問題も含めながら、被害者のための制度や運用の充実を図るなど、さらなる施策を推進してまいりたいと思っております。

藤田(一)委員 確かに、犯罪被害者の基本計画とか支援法とかを活用するということも大変大事ですし、いろいろな仕組みを使ってやっていただかなければいけないというふうに思いますけれども、やはりここは、刑事手続における被害者保護ということがしっかりと確立をされていかないと、加害者処罰の実効性ということもなかなか上がっていかないのではないかというふうに思っています。これは車の両輪であろうというふうに思いますので、ぜひしっかりと取り組んでいただきたいということをお願い申し上げたいと思います。

 次に、これもとても大事なことだというふうに私は思っているんですけれども、人身売買被害者の法違反の問題でございます。

 人身売買被害者の人権確保ということを考えた場合には、やはり被害者が法違反を犯しているという問題については不処罰あるいは抑制的に扱われていくということがとても大事なのではないかというふうに思っているわけでございますけれども、今、仮定の話をするのはなかなか難しいかもしれませんが、一人の被害者がここにいるとしたら、どういう法違反が想定されるのか、少し御説明をいただけないでしょうか。

南野国務大臣 いろいろあるだろうというふうに思いますけれども、人身取引の被害者について、例えばという例題で申し上げるならば、ブローカーから手渡された偽造旅券などを用いて入国したことによる出入国管理及び難民認定法上の不法入国それから不法上陸罪、定められた在留期間を超えて我が国に滞在したことによる不法残留罪、あるいは売春の業務に従事したことによる売春防止法上の売春勧誘罪、これは売春をするということだけではなく、それを勧めるということなどが勧誘罪でございますが、そのようなものが考えられております。

藤田(一)委員 今ざっと伺っただけでも六つ、七つ、いろいろと出てきているわけでございますよね。これは非常に大変なことで、従来は、そういう形で摘発をされて、被害者である女性がその意味でも処罰の対象になっていたということなのではないかと思います。

 今回、人身売買ということで問題が顕在化をしてきていて、被害者ゆえの法違反、本人の意思ではなくて、強制であるとか脅迫だとか暴力だとか、こういう結果に基づいて行っている法違反について、これは国連人権高等弁務官の指針というものが出されていますけれども、この中でも訴追の免除というようなことも指摘をされているわけでありますけれども、どう考えられていくのか、どう対処されようとされているのか、その辺、お聞かせをいただきたいと思います。

南野国務大臣 人身取引の被害者が何らかの犯罪を行った場合、人身取引の被害者であるからといって、法律上、直ちに犯罪の成立が否定されるわけではないと考えられております。

 しかしながら、人身取引の被害者が人身取引の一環として犯罪を犯すに至ったと認められる場合には、検察官において、起訴、不起訴の判断においてということになりますが、人身取引の被害者であることなどの諸事情を総合的に考慮いたしまして、適切に対処するものと承知いたしております。

藤田(一)委員 具体的な、個々のケースによって取り扱いがやはり違ってくるということも十分理解をいたしますけれども、しかし、被害者であるがゆえの法違反ということを十分踏まえて、そして保護に着目をして、そしてまたそのことが本人の人権の回復につながっていくということでありますので、ぜひそのことをしっかりと受けとめていただいて対応していただきたい、このようにお願いをしておきたいと思います

 そしてもう一つ、それに伴って、議定書七条に記載されております、つまり被害者の地位、在留資格の問題であります。

 これも参考人の方々からも、在留資格の問題、先ほどいろいろお話がございましたけれども、今回、在留資格について非常に柔軟な対応をしていくという形で入管法の見直し等々も行われているわけでありますけれども、やはり文言上は、できるものとするという法務大臣の裁量の範囲になっているわけであります。

 ここは、この裁量の範囲という部分というのはやはり明確にしていただかないと、安心して対処できないということではないかというふうに思っています。被害者が希望する場合には、やはり速やかに在留資格を認めていくということを明確にすべきではないかというふうに思いますけれども、大臣の御見解、これはきちっとした御見解をいただきたいと思います。

南野国務大臣 お答え申し上げますが、今回の入管法の改正におきましては、不法滞在状態にある人身取引被害者が保護の対象であることを法律上明らかにしておく必要があると考えたものでございまして、人身取引によりまして他人の支配下に置かれたために不法滞在状態に陥った方については、人身取引事件の捜査協力の有無にかかわらず、原則として在留を特別に許可することとなると考えております。

藤田(一)委員 ありがとうございます。ぜひそこは徹底してそのようにお取り扱いをいただきたいというふうに思います。

 あと、これも確認なんですけれども、従来、被害者は、大体加害者の訴追以前にほとんど入管法違反で強制送還されてきたということではないかというふうに思います。そのことが逆に加害者の特定とか確定とかというところで不十分さを持たざるを得なかったという部分もあったんだとは思いますけれども、いわゆる在留許可、特在の許可に当たっては、加害者処罰への協力ということが条件にならないように、あるいは判断基準にならないようにしなければならないと思います。これは当然そうであろうというふうに思いますけれども、確認をさせていただきたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 ただいま大臣からも御答弁がございましたが、今回の入管法の改正案の趣旨といいますか精神は、まさに人身取引の被害者であると認定された方につきましては、これは不法滞在状態になっておる方についてでございますが、原則として在留特別許可を付与して保護をするという形でございます。

 したがいまして、刑事事件の被害者といいますか証人的な立場に立つか立たないかということとはまた別の次元で、保護の対象ということで考えておりますので、そういった条件については特にないものという扱いになるわけでございます。

藤田(一)委員 ありがとうございます。確認をさせていただきました。

 そしてもう一つ、入管のこの間の取り組み、いろいろと記載をされているわけですけれども、そのリーフレットを見ますと、仮放免の弾力的運用というようなことも実は記載をされているわけであります。

 これももう言わずもがなのことでございますけれども、人身売買の被害者の収容などということはもってのほかのことでございますので、この点も確認をさせていただきたいと思います。

南野国務大臣 退去強制の手続ということがございますが、これは原則として身柄を収容した上で進めることとされておりますけれども、当初から人身取引の被害者であることが明らかな方につきましては、形式的に収容令書を発付いたしますが、同時に、仮放免を許可し、事実上収容しないこととするなど、被害者の方の心身の状態などを十分に勘案しながら、人権と人道の両観点に立って適切に対処いたしているものと思います。

藤田(一)委員 ありがとうございます。ぜひ、被害者の在留資格、あるいはその取り扱いというんでしょうか、その問題については、今大臣がおっしゃられたように、人権、人道的配慮をしっかりと踏まえて取り組んでいただきたい、このことを重ねてお願いしたいと思います。

 そしてもう一つ、この入管法の改正の中で、運送業者の旅券等の確認義務と外国入管当局に対する情報規定の問題についてお尋ねをしたいというふうに思います。

 この点については、既に参議院の附帯決議の中にも盛り込まれておりますので、ここでいろいろなことを改めて申し上げる必要はないだろうというふうに思います。十分御理解をいただいているというふうに私は認識をしているわけでありますけれども、難民認定申請者の置かれている状況ということを十分考慮していただいて、危険にさらされることのないように対応をしていただきたいというふうに思います。

 人身売買の被害者の場合であっても、庇護を求めて第三国経由をして入国してくる場合というのも考えられないわけではないわけです。そういうときに、いろいろな書類が果たしてどうなのかというのは当然問題になってくるわけでありまして、そういうことも含めて、十分留意をしていただきたいというふうに思います。

 特に、難民の情報の問題でありますけれども、これは各国ともにいろいろな形で十分に配慮をしているのが実態でございます。この問題は以前も大臣に伺わせていただいたことがありますけれども、日本のように難民認定申請者の出身国に協力を得るとか調査をするというのは非常に問題であるというふうに私は思っておりますので、そういったことが絶対にないように、今回のこの法改正の中で確認であるとか情報提供だとかということが一つ入ってきておりますから、その点が、誤った運用がされないように、ぜひしっかりと取り組んでいただきたい、きちっと確定をさせていただきたいというふうに思っております。

 大臣のお答えをいただきたいと思います。

南野国務大臣 法務省といたしましては、先生御指摘の参議院の附帯決議に従いまして、運送業者による旅券等の確認に当たりましては、恣意的な運用がなされることのないよう指導の徹底を図ってまいります。

 また、外国入国管理当局に対する情報の提供、これも先生は大切とおっしゃっておられましたので、当然のことでございますが、それらに当たっては、人身取引の被害者または難民認定申請者等が危険な目に遭わないように、また遭わせないように、そういうようなことを図り、その個人情報が濫用されることがないように特に配慮し、両制度について厳格に運用してまいりたいと思っております。

藤田(一)委員 ありがとうございます。ぜひその趣旨は徹底をしていただきたい、お願いをしておきたいと思います。

 今いろいろとお尋ねをしてまいりました。やはりまずは被害者の認知、認定ということがとても大事だというふうに私は思います。そのことがきちっとされないと、今回、被害者を保護していくというための施策というものがいろいろと取り組まれているわけですけれども、その適用を受けないわけですね、被害者でなければ。

 そうではなくて、被害者と認定をされない人の中でも、いろいろな事情の中で、性的搾取に遭ったりとか、いろいろな過酷な境遇に置かれているというような方たちもいる。そして、そういう人たちは強制送還の対象になっていくというふうになって、非常にそこは微妙な問題がたくさんあるわけです。そういう意味で、きちっと被害者の認知、認定ということをやらなければいけないし、それは人権の擁護という立場でやらなきゃいけないということだと思うんです。

 行動計画、先ほどからいろいろ申し上げましたけれども、やはり保護の部分をもっともっと法体制も含めて強化しなければいけませんし、もとに戻りますが、推進体制というものももっとしっかりと確立をしていかないと、日本における人身売買の撲滅というものを力強く推進していく、前進させていくということにならないのではないかという気がいたしておりますので、ぜひその辺、しっかりお取り組みをいただきたいと思っています。

 それで、時間も余りなくなってまいりましたので、最後に、少し違う確度からこの問題についてお尋ねをしてみたいと思っています。

 人身売買を撲滅していくというためには、いろいろな手だてをしなければなりません。いわゆる途上国の貧困対策をどうしていくのかということもありますが、それは国際的な大きな課題であろうというふうに思います。

 少し小さく見て、先ほど、冒頭、一番初めに私は、日本は非常に性産業がはんらんをしていて、つまり需要があるんだということを申しました。その需要の抑制ということもやはりしっかりやらなければ、被害者の保護や支援ということを一生懸命やって、そこの国際的な連携もうまくいってといっても、一方では、そのことを助長していく風土というものが、ある意味では国民文化というものがどんどん育っていくような形であれば、これはイタチごっこの話になってしまうわけであります。

 そういった意味からも、やはり需要の抑制ということをしっかりとやっていくことが大事なのではないかというふうに思っています。

 日本の現状というものを見ますと、この需要抑制ということもいろいろな角度から見ていかなきゃいけないんですが、一つ端的な、この人身売買に絡んで考えますと、一つは売春防止法、これで、先ほど大臣も触れられておりましたけれども、売春助長行為というものが禁止をされているわけであります。でも、一方では、風俗営業適正化法で、性的搾取の可能性が非常に高い、そういう性風俗の営業というものも公認をしていっているというのが実態なんですね。

 そういう意味では、非常に矛盾をしている部分があるのではないかなという、矛盾なのか、ちょっとここは表現が難しいんですけれども、助長行為を禁止し、しかし認めることが矛盾なのかというのは、ちょっと私も理解に苦しむ部分もありますけれども、いずれにしても、日本は、売春というものが禁止をされているんだといいながら、こういう形で実態は動いているというのが現実でございます。

 そして、この売春防止法というのも、買春する男性というのは処罰をされないわけであります。そして、五条によって、先ほど大臣が言われた勧誘罪でありますけれども、勧誘する女性というのが処罰をされる、そういう問題も抱えているということで、需要抑制、この法的な規制というものを厳しくしたから簡単に需要が抑制されるわけではないと思いますけれども、需要抑制ということを考えていったときに、こうした売防法の抜本的な見直しであるとか、性産業にかかわるところの法律の見直しということをやはりしっかりやる必要があるのではないかというふうに思いますが、大臣の御見解をお聞かせいただきたいと思います。

南野国務大臣 今先生がお話になられた、需要がまだまだあるという、需要が大きいことに対してどう対処していくかという課題は、これはもう本当に大きな課題だと思っております。国民総力挙げてこれに取り組んでいかなければならないと思いますが、我が国は男女がいるわけでございます、当然でございますが、その人間性をどのように培っていくかという、これは長いスパンで考えなければいけない課題もあり、また、家庭での教育というものをどのようにしなければならないかという問題もあり、もちろん社会教育というような問題にも広がっていくというふうに思っておりますが、先生の御指摘のとおり、難問題であろうかと。でも、これはしなければならない課題でありますので、それぞれの立場でそういうものの撲滅またはそういうような嗜好というものをなくしていく方向にも行かなきゃならないと思っております。

 そういう意味で、人身取引、これを撲滅するためには、その温床となるような悪質な売春事業等を社会からなくしていく、これも一番大切な課題であろうかなと思っております。そして、売春防止対策としては、取り締まり、処罰だけでなく、啓発、先ほど申しました教育活動、こういったものも連携させていかなければならない、社会全体としての取り組みが不可欠であります。

 こうした取り組みの効果や、売春及び、その間、いろいろな行為をめぐりまして、社会の実態、国民の全体の意識、これが広く変わっていかなければならないわけでございますので、それを踏まえながらその要否を見きわめていく問題であろうかというふうに思っております。周りを見渡していきながら、周りから問題に取り組んでいかなければならない課題であろうかと思っております。

藤田(一)委員 いろいろなところから取り組んでいくという大臣の今のお答えは、それはそうだと思っておりますが、せっかく大臣は法務大臣というお立場でいらっしゃるので、私はこの売防法をやはりぜひ見直していただきたいなというふうに思っています。もちろん、すぐできる話ではないかもしれませんけれども、法的矛盾みたいなものはやはり解消していっていただきたい、そのことを強くお願いしたいと思います。

 質問時間が来てしまいました。いろいろお尋ねをしてきましたけれども、やはり究極の人権侵害であるこの人身売買という問題において、被害者の保護、支援ということは最も重要な課題であろうというふうに思っています。この具体的な保護、支援策については、後ほど同僚議員からもいろいろとお尋ねがあると思いますけれども、事この法案だけで足りるわけではないということでありますので、ぜひ人身売買の防止、被害者保護の法整備というものを図っていただきたい、そのことを重ねて強くお願いして、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 この際、暫時休憩いたします。

    午後零時十四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時三十四分開議

塩崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。稲見哲男君。

稲見委員 民主党の稲見哲男でございます。

 出入国管理及び難民認定法の一部改正について御質問いたします。

 まず、午前中もありましたが、人身売買の被害者と認定されたときの在留許可の問題であります。既に参議院の審議で、「手続上も、事実上収容をしない形で手続を進める」、こういうふうに答弁がありますが、具体的にはどういうことなのか。その点、まずお聞きをしたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 人身取引の被害者の方に関しまして不法滞在状態にある場合につきまして、入管法上、退去強制手続につきましては、まず入国警備官が容疑者を収容令書というものによりまして収容いたしまして、その後、入国審査官にその身柄を引き渡した上で入国審査官が違反審査を行うというふうな手続になっております。したがいまして、退去強制手続を行う際には必ず収容するということになっております。

 しかしながら、当初から人身取引の被害者であることが明らかであるような方につきましては、退去強制手続をとるに際しまして、形式的には収容令書を発付いたしましてこれを執行いたしますけれども、同時に仮放免の許可を発出いたしまして、事実上身柄を拘束しない形で手続を進めるということを考えておるわけでございまして、このことを参議院でも御答弁申し上げたところでございます。

    〔委員長退席、平沢委員長代理着席〕

稲見委員 今回の改正の中で、上陸拒否事由からの除外というのが、この被害者の場合、第五条第一項七号で規定をされていると思うんですね。そういうことでいいますと、なぜ退去強制手続を前提にしなければならないのか、この根拠は何かということをぜひお答えいただきたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 上陸拒否事由に関しましては、これから我が国に上陸しようとする方について拒否をするということでございますが、退去強制手続に関しましては、既に我が国に在留している方について問題が生じた場合、こういう立て分けになるわけでございますけれども、人身取引の被害者の方が不法滞在状態になっているときには、先ほども申し上げましたが、退去強制手続をとった上で在留特別許可により保護を図るということになるわけであります。

 これは、入管法上、在留特別許可につきましては、退去強制手続が進められまして、その最終段階になりまして、退去強制事由があるということが確認された後、それでもなお特別に我が国に在留を認めるべき事情があるという場合に初めて在留特別許可が付与される、こういう法律の手続になっております。したがいまして、退去強制手続を前提としなければならない、こういうことになるわけでございます。

 なお、今回御審議いただいております改正法案におきましては、被害者が不法滞在となっている場合に退去強制の対象から除外することはしておりません。これは今の御説明とも関連いたしますけれども、不法滞在者につきまして退去強制事由に該当しないということにいたしますと、およそ在留資格を持たない者が退去強制の対象にもならず、したがって在留特別許可も付与されないということになりまして、在留資格を持たないまま本邦に事実上滞在し続けるという状態を生むことになりますので、このような退去強制の対象から除外することはしないということにしておるわけでございます。

稲見委員 これは国際的にも、議定書ができた上で、こういう希望する場合は在留資格を与えるということから出発していると思うんですね。そうすると、今局長が言われたようにしゃくし定規に、オーバーステイになっている、あるいは不法入国をしているから、それは違反審査のところから出発しなければならないんだというのは、やはりちょっとおかしいと思うんですね。

 例えば、病気なり負傷で入院している、本人が出頭できない、その間に在留資格が切れる、こういう場合は何か救済措置というのはあるんですか。

三浦政府参考人 委員御指摘のような例につきましては、今の取り扱いといたしまして、疾病その他の事由によりみずから出頭できない場合には、当該外国人の方の親族ですとか同居している方といった方の中から地方入国管理局長がこの方は適当であると認める人が、本人にかわって在留期間の更新の申請書等の提出ができるということになっております。

 また、仮にこういう方がいないということで在留期間を経過、出てしまったというようなケースにつきましては、いろいろ無理からぬ事情等があるような場合につきましてですが、当初から在留期間中に申請を出していれば当然許可が確実に認められただろうというようなケースについて、なおかつ災害ですとか疾病とかそういった事故等のためにその期間内に申請ができなかったという事情があるようなケースにつきましては、申請を受理する扱いを現在でもしております。

 以上であります。

稲見委員 そうでしょう。そういうことは運転免許証なんかでもあるわけですよ。

 この場合、私が申し上げたいのは、被害者の方、それはパスポートも取り上げられて、どこかに強制的に住まわされているということが前提ですよね。そうすると、そこから逃げてきた、そして被害者として申し立てを行い、認定をしていくということは、例えばオーバーステイになっていても、本人が大体それまでに来れないということじゃないですか。そういうことを国際的にどう保護していくのかというときに、その退去強制手続、違反審査から物事を出発しなければならないということにはならない。

 そういう意味では、運用上、被害者認定を先行させる、そして、その上で在留特別許可を与える、こういうのは、今おっしゃった救済措置というようなことを含めて、運用上可能だというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘の趣旨は、なるべく空白期間がないような形で、早く安定した資格を付与する必要があるという御指摘であろうというふうに理解しております。(稲見委員「退去強制手続がおかしいと言っているんだ」と呼ぶ)

 退去強制手続につきましては、先ほど来ちょっと御説明したとおりでございまして、要は、退去強制手続を速やかに行って、短時間で在留特別許可を付与するということが現行の制度のもとで一つとり得る考え方だろうと思っております。私どももその方向で鋭意努力をしておるところでございます。

稲見委員 この場ですぐ例外規定をつくるということにならないかもしれませんが、問題は、国際的な要請も受けて、とりわけ被害者については保護をしよう、そしてその場合、本人が希望するのならば日本に住めるようにしようということから出発しているわけで、法務省のように、その人がその段階でオーバーステイあるいは不法な滞在になっているから、違反審査、退去強制手続をしてから被害者の認定をする、これはやはり建前としておかしいと思うんですよ。

 法律をここで変えるんだから、まず保護するんだ、保護をする人を認定するんだということで、例えば退去強制の手続を保留しておくとか、あるいは先ほど言ったように、やむを得ない事情という形で、そのことについては申請を受けたような形で、そして改めて在留資格を与える、あるいは在留特別許可を与えるという形にした方が、これは国際的にも、きっちり被害者を保護しているという法律上の建前になるんじゃないかというふうに思いますので、その点はぜひ御検討いただきたいと思います。

 それから次に、運送業者等に対する旅券の確認義務を課するという条項であります。

 入管難民法改正については、特にテロ対策、外国人の取り締まりという名目での取り締まりの強化を主目的にしているように見受けられます。参議院の質疑の中でも、この入管難民法改正の部分の効果についてきちんと答弁がなされていないという点がありますので、もう一度明確な御説明をお願いしたいと思います。

南野国務大臣 お答え申し上げます。

 運送業者によりますカウンターでの搭乗手続の際や、また外国に向けての出入国管理当局における出国審査時には有効な旅券等を使用し出国審査を受けた後に、空港のトランジットエリアというのがございますよね、あそこにおきまして、偽変造のそういった旅券を、偽造した旅券を渡す、受け取る、そういうような収受が行われるような場合、そのために、偽造旅券等によりまして航空機に乗り込もうとする事案が多発している。

 そういう新たな形といいましょうか、そういうものに対して、今回の改正によりましても、航空機等の搭乗口において運送業者に旅券等の確認を行っていただくというようなことを義務づけていこう、それにより、一層確実に不法な事犯を防止することができるんじゃないかなということが我々考えているところでございます。

稲見委員 ちょっと参議院のときの答えと違って、少し追加がされているんですが、別の観点でお聞きします。

 現行法において、入国審査の段階で入国を拒否して本国へ送還する場合、これは多くあると思うんですね、そういうときは、戻っていくときの航空運賃はだれが負担をしているのか。

 あわせて、退去強制の場合、法務省の係員が送還先までついていくということがありますけれども、その場合に、その退去強制者の航空運賃はだれが負担をしているのか。

 また、帰国希望の申し出、いわゆる自首によって退去強制令書を発付する、しかし、先ほどあったように、即日仮放免をして、帰国準備をして帰国をしていく、こういう場合は航空運賃はだれが負担をしているのか。この点をお聞きしたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 三点御質問があったかと思いますが、最初の、一点目の御質問は入国の拒否の事例でございまして、後の二つが退去強制の事例だと思います。

 入国拒否をされた方につきましては、これは入管法の五十九条一項という、ここに規定がございまして、我が国の空港のブースから、国内に入れないものですから、そのまま帰っていただくわけでございますが、その場合には、その方が乗ってきた航空会社の責任と費用により送還をすることになっております。

 それから二点目でございますが、退去強制の場合の航空運賃はだれが支払うのかということでございます。

 これも入管法に規定がございまして、五十二条の第三項に基づきます国費による送還というものがございますが、同じ五十二条の四項には、被退去強制者のみずからの負担で退去する、いわゆる自費出国という場合がございます。また、入管法の五十九条、先ほどちょっと申し上げましたが、運送業者がその責任と費用で送還する場合、この三つの場合がございます。ほとんどというか、九割以上が自費出国でありまして、みずからの帰国の費用がどうしても捻出できないという方につきましては国費でチケットを買うという形をとっております。

 それから、入管の職員が一緒に飛行機へ乗っていくというケースでございますが、このケースは、本人が送還をかなりかたくなに拒否しているというようなケースですね、入管職員が付き添っていかないとその飛行機の他の乗客等に迷惑がかかるというような可能性もあるようなケースについて、一緒についていっております。もちろんこれは、職員は出張で行くわけでございますが、本人は、そういう場合、普通は自分でチケットを買いませんので、国費ということが多いと思います。

稲見委員 それでは、今回の改正で、確認義務と罰則規定との関係で、民間運送業者にミスがあって入国した者、これを本国に送還する場合、これは、今出された中でどれに当たっていくんでしょうか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 仮に委員御指摘のような、航空会社の方が搭乗口で見損なったといいますか、それで偽造旅券の者が入ってきたというようなことでありまして、こういう人について、本人がそのまま不法に入国したというケースになるわけでございますので、仮に空港の入国のブースから国内に入らなくても、既に我が国の領空に入った段階で不法入国ということになりますから、退去強制の対象になりまして、その手続がとられるわけでございます。

 その場合の送還につきましては、先ほどもちょっと御説明いたしましたが、国費か運送業者の負担か、もしくは自分のお金で帰る、この三つの選択肢があるわけでございます。その場合、我々としてもできるだけ、本人がお金を持っている場合には自費で帰るようにということを説得しておるわけでございますが、どうしてもお金の工面ができないというような場合には、国費送還ということで、こういうケースも措置をしているということでございます。

 先ほど御質問のような、出発時点で旅券等の確認を航空会社が怠ったというような場合でございましても、不法入国者が本邦に上陸するときに、運送業者がその者について不法入国の事実があるということを明らかに知っていたと認められるようなときには、先ほど申し上げました入管法の五十九条の規定によりまして、この不法入国者の送還費用を運送業者に負担させることができるということになっております。

稲見委員 ちょっとよくわからないんですが、現行法でも、日本内に入らない場合は航空会社と先ほどおっしゃった。今度は、法が改正され、確認義務もある、罰則規定もある、しかし、その場合は三通り、国費と自費と航空会社、そのどれでもありだ、そういうことでいいんですか。

三浦政府参考人 先ほど御説明したとおりでございまして、仮にその航空会社の方がミスがあったということで、我が国に入国した以上、本人は不法入国ということで退去強制の対象になりますので、その退去強制者の帰国の費用をどう扱うかという範疇で考えることになると思います。

稲見委員 つまらぬことを聞いたのは、今でも航空会社の負担で帰しているということがあり、改めて航空会社の確認義務が生じるということになれば、その分についてはすべて航空会社になるんじゃないかというふうな疑問を持ったんですよ。事実、質問取りのときにはそういうふうなお話でした。したがって、この運送業者に対する確認義務というのは、非常に矮小な言い方をすると、そんなお金のところに意味があるのかなというようなことも思ったものですから御質問いたしました。退去強制という形で、すべて、三つの負担の方法があるということで、これは確認をしておきたいというふうに思います。

 しかしながら、参議院では、先ほど法務大臣おっしゃいましたけれども、出国に当たってはそれぞれの入国管理担当の公務員が行う、したがって、航空機に搭乗する前段階で発見される確率の方が高くて、特段、このことが改正をされても、従前と異なった形になるものではないという御答弁だったわけですね。そうすると、なぜ特段変わらない、意味もないことを民間業者に押しつけていくのかという点が改めて疑問になったわけです。その点、南野大臣、先ほどの御答弁がありましたけれども、参議院のときの特段変わったことはないという政府側の御答弁との関係はどうですか。

南野国務大臣 現在でも、運送業者は運送約款に基づいて旅券等の確認を行い、偽造旅券等を発見した場合には搭乗拒否をしているところでございますけれども、確認の方法等については必ずしも統一されているものではない。今回の改正では、近年多発しております、出国審査後、空港のトランジットエリアにおいて、これは先ほど申しましたことですが、偽造旅券等を収受し、その偽造旅券等によりまして航空機に乗り込もうとする事案に対応できるように、航空機等の搭乗口で、運送業者に対して、旅券等の確認をしてもらおうとしております。そのために指針を作成しまして、確認方法、程度を明確にすることといたしております。

 今回の入管法の改正におきます運送業者による旅券等の確認、それは一般的な運送業者の職員であればそれほど難しいことではない、当該旅券等が有効であるのか否か、また、真正なものであるのか否かということについては判断していただけるものであろうと思っておりますので、現在行われておる旅券等の確認に比べて大きな御負担をおかけするというものでもないというようなことを我々は考えており、このような義務を運送業者にお願いするということをいたしたわけでございます。

稲見委員 私も何度も外国へ行っていますが、出国審査があった後というのは、もうチケットだけを持って搭乗口に行っているんですよね。そこで改めて旅券を航空会社の係員が見るということは現実的にはないと思います。しかしながら、ちょっと次の時間がありませんので、その点はまた置いておきたいと思います。

 このことと難民認定申請者との関係ですが、真正な旅券を所持し入国をした難民、あるいは難民認定申請者、こういう者がどのぐらいの割合でおられるのか。また、インドシナ難民の場合は、そういうことはなかったと思うんですが、どういうふうな対応だったのか、その点をお聞きしたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 平成十六年の統計でございますが、難民認定の申請をした方が、入国時において真正な旅券及び査証を、これは査証は必要な場合でございますが、所持して適法に我が国に入国したという割合は約九割となっております。このように、難民認定申請を行った方の大半は真正な旅券を持って本邦に入国しているという実情でございます。

 それからインドシナ難民についてのお尋ねでございますけれども、いわゆるボートピープルとして旅券を所持しないで我が国に到着したインドシナ難民につきまして、昭和五十年当時は出入国管理令に基づきます上陸特別許可という形で上陸を認めておったわけであります。また昭和五十七年にこの管理令が現行の入管難民法に改正された後におきましては、新たに設けられました一時庇護のための上陸の許可などの制度を用いて上陸を認めていたわけでございます。その後、このような取り扱いを悪用するような人が大分ふえまして、インドシナ難民を装ったいわゆる偽装難民というような入国が増加したことから、平成六年の三月四日付で閣議了解がなされまして、いわゆるボートピープルへの対策についてというものでございますが、従来の取り扱いを改めまして、有効な旅券を所持していない者については不法入国者として取り扱う、本人から難民である旨の申請があった場合には難民認定手続を開始するということとして現在に至っております。

    〔平沢委員長代理退席、吉野委員長代理着席〕

稲見委員 九割という非常に高い率のようですが、インドシナ難民の現在の扱いも含めますと、つまり出国時にこの確認申請がありますと、難民の方がとどめられてこちらに来れない。現在の扱いも、それからあと一割と言われている真正な旅券を持っていない方、これはきっちりやれば難民として真正に日本に入国できない、こういうことになると思いますが、いかがですか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 我が国においでになる方につきましては、航空機なり、船で来られる方も一部あるかと思いますが、出発国で搭乗の手続をする際には、まずチェックインカウンターで旅券等を示してチェックイン手続をいたしまして、その後、その出発国の入国管理当局における入国審査を当然受けるわけでございますが、そこで旅券の確認が行われる。その後、今回の改正案でお願いしておりますように、航空機の搭乗口でもう一度航空会社の人に確認していただく、こういうことになるわけでございます。

 仮に偽造旅券を所持して我が国に来ようとする方でありますと、まず一番大きな関門は出発国の入管のところのチェックだろうと思うんですね。そこをすり抜けるということは、いわば専門家の目を欺くような精巧な偽造旅券を持っていたというようなことになるんだと思います。そういうものにつきましては、これは先ほど大臣からも御答弁ございましたが、民間の航空会社の職員の方も多分それは見破れないだろうということでありますので、実質、そういうケースにつきましてはこれまでと同じような結果になるのかなというふうに考えております。

稲見委員 もう少し時間があればいいんですが、押していますので、あと、これまでも南野大臣と議論を続けてまいりました外国入国管理当局への情報提供、とりわけ難民の申請者にかかわってのことについて最後にお聞きをしたいと思っております。

 これは以前にも申し上げたんですが、UNHCRは二〇〇一年十月の執行委員会で、そしてまた難民条約の五十周年を機に行われまして日本政府も参加をした世界協議において、この情報提供の問題で確認をしております。少し読みますと、難民認定手続のすべての段階において難民申請者のすべての情報の守秘義務が尊重されなければならず、決して出身国に提供されてはならない、こういうことであります。

 これの解釈の問題で、この情報の内容には、名前やID番号など直接的に本人を特定する情報のみならず、住んでいた場所や経歴など情報の集積によって間接的に本人を特定できる情報、あるいは申請者が難民申請を行っていたという事実も含めて、これは出身国に提供してはならない、こういうふうなことになっております。

 参議院でこの難民申請者の方々の情報提供というようなことで議論があったところでありますが、とりわけ世界協議についての確認といいますか合意、これを法務省、外務省は御存じなのかどうか。そして、御存じであれば、今回の外国入国管理当局への情報提供について、とりわけ難民認定申請者についてどういう具体的な配慮を行っていくのか。

 さらには、これまでも申し上げましたが、法務省の担当者がトルコまで出かけて、警察や、地方では治安維持に当たっているのが軍隊ですから、警察、軍隊とともに調査をして情報を本国に漏らした、こういう後発難民の問題が大きな問題になって、さらにマンデートされた後発難民を退去強制するということで諸外国からも非常に大きな非難を浴びた、こういうふうなことになっております。

 したがって、前段申し上げた点の認識と、では、難民認定申請者についてはそれをきっちり区別して配慮するのかどうか。しかも、今の合意からいきますと、これから諸外国に行って法務省の職員が申請の真贋について調査をするということは厳に戒めるべきものだと思いますが、その点を含めて、ぜひ回答をお願いしたいと思います。

南野国務大臣 先生の今の御質問は案外多岐にわたっておりましたので、まず最初に、外国入国管理局における情報提供につきましては、我が国の入国管理当局が保有するあらゆる情報を提供するようになるわけではございませんので、性質上、提供できない情報も存在しているということも申し上げなければいけないと思います。

 これまでも、入国管理局は、難民条約の趣旨等によりまして、難民認定申請者に係る情報については、相手国の国情を踏まえながら、申請者のプライバシーの保護及び新たな迫害の誘発のおそれがないことなどについて十分配意してきたところでございますが、お尋ねになっておられますUNHCRの見解に関しましては、我が国に対して拘束力を有するものではないと理解いたしておりますけれども、我が国自身の判断として、新設する情報提供規定の運用に当たっては、UNHCRの見解をも念頭に置き、そのことについては今話し合いもしながら、十分に配慮し、適切に運用してまいっておりますし、これからもそのようにしたいと思っております。

 それから、それで含まれていると思いますが、最後に、もう一つのマンデートの問題、トルコまで出かけていってという課題がございました。

 先生御指摘のとおり、現在、外務省、法務省及びUNHCRの三者で、UNHCRがマンデート難民として認定した方の取り扱い、この問題を、法務省とUNHCRとの協力関係のあり方等について今協議を行っているところでございます。

 現在も協議が継続中でございますが、その詳細について言及をすることは差し控えさせていただくのでございますけれども、このような協議を通じて、UNHCRとの緊密な協力関係を構築しまして、一層適正な難民認定行政の遂行に努めてまいろうということでございますので、親密なる話し合いを通じ、UNHCRが難民と認めるかどうか、我が国はそれについてどのように受けとめていくかという話し合いは継続いたして、努力しているところでございます。

神余政府参考人 お答え申し上げます。

 難民認定を適切に行うため、場合によっては現地における調査等が必要になることもあろうかと考えます。その一方で、調査を行うに当たっては、もう既に御答弁もありましたように、難民認定に関する情報の取り扱いについては十分な配慮が必要であるというふうに考えておりまして、それは御指摘のとおりでございます。

 外務省としましても、このような調査の方法について、万が一にも誤解を招くことがないように細心の注意を払うとともに、関係の部局が行う調査につきましては適切な助言と協力を今後とも行ってまいるつもりでございます。

 御指摘のありました外務省と法務省とUNHCRとの間の三者の協議の点につきましては、幸いに建設的な協議が行われておりまして、望ましい方向に進展しつつあるということでございますので、外務省としましても、引き続きこのような努力を重ねていきたいと思っております。

稲見委員 時間が参りましたので終わりますが、三者協議、マンデートされたというところに基準の違いがあるわけですから、マンデートされている方全員の待遇の問題も今進められておると思いますが、この基準の違いについてぜひ三者で合意をするように、そして、そのことをもって、難民認定申請者の個人情報を絶対に本国に教えないというふうな立場に、ぜひ法務省、外務省は立っていただきたいと思います。

 時間が超過しました。終わります。

吉野委員長代理 次に、井上和雄君。

井上(和)委員 民主党の井上和雄です。

 やはり二十八度というのはかなり暑いなという印象を受けますけれども、ぜひよろしくお願いします。

 実は、人身取引の問題について、私も昨年の二月の衆議院の予算委員会で取り上げさせていただきました。その背景をちょっとお話ししたいと思うんですけれども、ちょうど二年前になりますが、私、タイのバンコクで国際会議があったんですが、その出席に絡んで、在京のタイの大使とお話ししたことがあります。

 その際に、タイの大使から、この人身取引の問題に関して日本政府がとにかく動かないんだ、議会でこの問題に関して立法をするような応援をしてもらえないかということを言われました。私もタイ料理が好きですから、大使に、では、ぜひお国のためにも、特にタイの非常に多くの方が大使館に逃げ込んできている現状があるということもお伺いして、何とかしなければいけないということで、昨年、衆議院の予算委員会で取り上げさせていただいたわけです。

 その後、与党の先生方にもお声をかけさせていただいて、超党派で勉強会をつくりまして、政府の関係省庁の方にも参加していただいたり、在京のタイ大使館、コロンビア大使館に御協力をいただいて、いろいろな側面からこの問題について議論を進めることができました。

 その際、本当に各省庁にはいろいろ勝手なことを言ったわけですけれども、いろいろ御協力いただいたということで、この場をおかりしてお礼を申し上げたいと思いますし、その後、こういった法案を出すまでになったということに関しても、皆さん方の努力に対して敬意を表したいというふうに思います。

 私は、東京の錦糸町というところが選挙区でございます。住んでいるところも、錦糸町から歩いて十分ぐらいのところに住んでいるわけでございます。御存じのように非常に繁華街でありまして、いろいろなバーとかクラブがたくさんありまして、そこで外国人のいろいろな人が働いている。私が街頭演説をしていますと、よくいろいろな人が通って、ロシア系の人とかいろいろな方がいらっしゃるというところでございまして、そういうことからもこの問題に関心を持ってはいるわけでございます。

 そこで大臣にちょっとお伺いしたいんですが、人身売買の問題というのは、ごく一般の日本人の方にはちょっと縁遠いんじゃないか、余りよく知らないという問題かもしれません、なかなか表面には出てこないような問題。そういった意味で、こういった法律ができることによって、多くの国民に、実は海外から多くの女性が日本に来ていて、いろいろな面で人権侵害を受けているということが広く知られるということでは非常に大きな意味があると思うんですね。

 そこで、大臣御自身に、この人身取引の問題、これまでどういう御認識を持っていらしたのか。例えば実際にそういう盛り場とかを視察したことはあるのか。もしそういうことがなければ、ぜひ私、錦糸町の方に御案内させていただきたいというふうに思いまして、きょう招待状を差し上げたいというふうに思っているんですが、いかがでしょうか。

南野国務大臣 先生と一緒に錦糸町にお邪魔したいなと思ったりいたしておりますが、私が議員になりましたときには、まだ、トルコ風呂とはどんなのと、私、知らなかったわけです。だから、行ってみたいねというような形で、どこか視察ができないものだろうか、そう言っている間にトルコという名前の禁止があったり、いろいろいたしましたけれども。

 私が大阪に行きました、先生は大阪は御存じかどうかわかりませんが、通天閣の近くに新地がございます。そこの新地が飛田新地でございますが、あそこに行ったとき、私はもう愕然といたしました。日本でまだこの人たちは、どういう看板、どういう商号でお店を営んでいるんだろうかと。赤いじゅうたんを敷いてございました、御記憶の方もいっぱいおられると思いますが。そこで私たちはゆっくりと車を走らせていったわけですが、車から見て、ああ、今お客さんが入ったねという情報なども私たちはこの目で確かめながら、こういうことを私たちはなくしていかなければならない。そこにはやはり男性のニーズがあるんだなということも思っております。

 また、日本だけではなく、カンボジア、ベトナム、フィリピン、いろいろな仕事の都合で、また会合のために行かせていただきました。その都度、私はお邪魔いたしております。それは、人種というか、何人、何人ということによって値段も違うことを先生御存じですよね。悲しいですよ。日本でもその値段は違っております。そして、そういうところに若い女性がいっぱいいます。我々がゆっくりと車を走らせると、すぐシャッターをおろしてしまったりしております。

 そういうことは、同じ女性に生まれながら、どういうことなのかな、この人たちが何をもって幸せと言えるのかな。私も皆様方にいろいろ厳しいお言葉をいただくと不幸せなときもございますけれども、やはり何が幸せなのかなということを感じながら一生懸命生きていっているわけでございます。やはり女性と生まれたからには女性の本来の生き方が展開できるように、それをサポートするのが男性であり、男女共同参画社会というものがそこになってくるのではないかなと思っております。

井上(和)委員 大臣もこの問題に深い関心をお持ちだということで、非常に安心いたしました。

 実は、御存じだと思うんですが、アメリカでは、先駆けて二〇〇〇年に人身取引に関する法律ができたわけですね。私、よくこの法律のタイトルをいろいろなところで言うんです。トラフィッキング・ビクティムズ・プロテクション・アクトなんですね。つまり、ビクティムズ・プロテクションですから、被害者の保護法だということになっているんです。もちろん、それで取り締まりに関しても書いてあるわけですが、つまり、被害者の保護を目的としてつくった包括的な法案であるという精神だと思うんですね。

 やはり保護の問題が今回の法案の非常に大きな争点になるというふうに私は思っておりますので、直接には担当は厚生労働省になるかもしれないんですが、一応、タスクフォースですか、内閣府のチームの一員である法務省の責任大臣として、ぜひこのことに関してもちょっと御意見をお伺いしたいと思うんです。

 法務省として、人身売買の被害者が警察によって発見されて、そういったことで保護をする必要が出てきたという状況があったときに、まずそういった女性をどこで具体的に保護されるんでしょうか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 人身取引の被害者と思われる方がいろいろなところに恐らく出頭してこられるんだろうと思います。その一つに入国管理局というところがあると考えておりますし、現にそういう方もおられます。

 入管としては、今回の法改正でもお願いしておりますが、まさに被害者としての保護という観点からそういう人たちを扱うということでございますが、現実には、入管で施設といえば収容場しかございませんので、そこに収容するというわけにもいきません。NGOの団体でございますとか、いわゆる婦人相談所、それから警察ももちろんでございますが、こういったところと日ごろから連携をとっておりまして、必要なところに連絡をいたしまして、こういうところに、もし今夜泊まるところがないというようなことであれば、施設等にお願いして、そこで過ごしてもらい、必要なときには事情を聞かせていただく、こういうようなことをやっているところでございます。

井上(和)委員 昨年、私たちの勉強会の方から、やはり実際に保護する場所の問題が非常に大きいということで、警察の方から各県警に、婦人相談所、厚生労働省も御協力いただいて、とにかく婦人相談所に引き受けてくれるようにという指示を出していただいたんですね。

 きょう厚生労働省も来ているのでちょっとお伺いしたいんですけれども、その指示が出た後も、例えば婦人相談所が本当に適切な場所なのか。つまり、ドメスティック・バイオレンスだけでもう手いっぱいだ、そこにまさかさらに外国人を受け入れることなんかできないという話も現場の方で私も実際にちょっと聞いたこともあるんですね。そういった意味で、今、婦人相談所の方で外国人を受け入れる体制があるのかということに対してちょっとお伺いしたいんですけれども、どうですか。

伍藤政府参考人 全国の四十七都道府県に婦人相談所が設置されて、そこに一時保護所というのを必ず併設することになっておりまして、DV法ができたときから、そういう関係の方々を収容するということで、確かに収容件数はふえてきておるのは事実でございます。

 ただ、現状で申し上げますと、四十七カ所、定員が全部で約七百名でございますが、今入っている方が大体三百五十人ぐらいで、全国平均で稼働率が五〇%ぐらい、そういう状況でございます。

 それから、一時保護所はそういう体制でございますが、今回の十七年度から予算措置もしておりますが、仮に、都道府県によってはそこが満杯になったというような場合には、さらにほかの婦人保護施設とか母子生活施設とかいろいろな施設、それから民間団体の施設もありますが、そういうところに、DVの被害者の場合に今二百カ所ぐらいお願いをして、一時保護委託というような形でやっております。こういったところも活用できるということで、一時保護所で直接処遇する場合、それから一時保護委託をする場合、こういう形をそれぞれの都道府県で実情に応じて活用していきたいというふうに考えております。

井上(和)委員 それでは、人身取引の被害者に対しての支援ということの予算措置で、ことしは幾ら予算をつけたんですか。

伍藤政府参考人 そういった従来からやっている婦人保護の関係の予算として、平成十七年度、八億円ございます。その中で、DV被害者も、あるいはDV被害者以外の従来からの婦人保護の対象になっている方も、それから今回の人身取引の被害者も、すべて同じ予算で対応できるようになっておりますが、一応、明示的に、一時保護所で対応するものは全部、この人のため、この人のためという仕分けをしておりませんので、この費用の中でやりますし、一時保護委託というところだけに着目して、今回特別に明示的に予算を計上しておりますのは、人身取引被害者用として一千万円を一時保護委託の経費として計上しておりますが、これも一応目安として一千万円で、仮にたくさんこれが活用されて一千万円では足りないという場合には、その八億円の予算の全体の中の経費で運用できる、予算上はそういう仕組みになっております。

井上(和)委員 例えば、婦人相談所で病気になったとか、そういう場合の医療費はどういうふうになるのですか。

伍藤政府参考人 医療費の場合、これもDV被害者といいますか、人身取引だけの特有の問題ではございませんが、従来から、御本人が、ある程度の資金があれば当然自由診療、保険がきかないのが普通でありますから、保険を持っていない場合には本人の自己資金でその診療にあずかっていただくということになります。

 婦人相談所に仮に来た場合には、婦人相談所に一応嘱託医がおりまして、そこで一応の見分けをするとか診断の見立てをするとか、あるいは非常に軽度なもので処置を要するような場合にはそこで対応するということになっておりますが、通常、やはりちょっとした処置が必要なものについては、近隣の病院を紹介したり、そこで振り分けをして誘導するということになろうと思いますが、その場合に、御質問の趣旨は、お金がない場合にどうするか、こういうことだろうと思います。

 一応、無料低額事業といって、社会福祉の関係から、医療費を無料で診療するという制度がございます。これは全国に約二百六十カ所ぐらいの病院がそういうところに指定されておりますが、そういったところを紹介するというようなことで、できるだけ対応するようにいたしております。

井上(和)委員 今の御答弁で私が思うのは、とりあえず一時的に被害者の人を預かって保護をする、そういうことに関してはある程度やれるんだろうなという感じがするんですね。

 ただ、もちろん外国人ですからね。やはりカウンセリングも必要だし、当然通訳も必要だし、日本人とは違う体制が当然必要なので、果たして今の予算でそれだけのことができるかどうかというのは疑問なんですが、それ以上に、人身取引の議定書の第六条に、「人身取引の被害者に対する援助及び保護の提供」とあるのですが、その三項には、被害者の身体的、心理的及び社会的な回復のために措置が必要だということを言っているわけですね。

 つまり、婦人相談所であれば、普通は二週間とか三週間とか、非常に短期間の措置だと思うんですけれども、単に一時的じゃなくて、例えば性病にかかっている場合もあるでしょうし、心理的にも非常にひどい目に遭っている方が多いわけですから、そういった身体的、心理的な回復のためには、やはりある程度時間がかかる。だから、そうなってくると、今の御答弁だと、とてもその対応はできないなという印象を私は受けます。

 先ほどもNGOという言葉がありましたけれども、実際に今、人身取引の被害者を受け入れているNGOは日本に二つか三つですよね。だから、そういう中で、今社会的に大きく問題になっているこの問題に対する被害者の保護が本当に十分にできるのかなというのは、私は非常に疑問に思っているんですね。

 だから、ある程度政府の方も、つまりは、単に一時的な措置ではなくて、本当に被害者が回復するまである程度の期間面倒を見られるような対策をとる必要があると私は思います。もし大臣、御意見がございましたら、直接の担当じゃないですけれども。

南野国務大臣 我が国で御病気を発見した場合には、それはもう手厚い看護をしてさしあげたい、医療もしてさしあげたいと思いますけれども、これについての料金その他につきましても、やはり財政上の問題がございますので、それは関連省庁としっかり検討し、どういうレベルでどのようにできるかということは検討しなきゃいけないと思っております。

井上(和)委員 私も、昨年の秋に、アメリカの国務省の人身取引の責任者でミラーさんという方、もともと下院議員だったんですね、その後、政治家をやめられてから国務省に入って、大使級の方なんですが、来日したときにその方とお会いしましたけれども、彼らも言っているんだけれども、日本の被害者に対する保護というものは本当にやる気があるのかということを非常に深く懸念していたんですね。

 直接の予算は一千万であって、それ以外にも当然八億円あるということですけれども、決して大きな額じゃないし、予算規模がすべてというわけじゃないですけれども、やはりもう少しきちっとした姿勢を見せないと、これは完全な国際的な問題ですから、私はいかぬなというふうに思っております。

 その際、私が言ったのは、別にアメリカから言われたから日本で今こういう活動をしているんじゃなくて、我々はその問題意識を持ってやっているんだということは言ってありますので。

 次に、具体的に、加害者を訴追する場合に、当然、被害者であった方々がいろいろな意味で裁判に出廷したり、証人としてやっていただく必要があるわけですよね。そうなりますと、当然、刑事手続に関係する被害者の安全をきちっと確保していかなきゃいけない。だから、被害者保護というのは、個人の人権を守るという意味と、加害者に対する、刑事手続のためにもやはりきちっとしておかないと、証人としてやっていただけないということがあると思います。

 よくあるのは、基本的には、不利な証言をすると出身国にいる家族を殺すとか危害を加えるということが往々に言われているんですね。そういった意味で、当然、被害者ですから非常にいろいろな意味でおびえている。その中で、よっぽどきちっとした身柄の安全を図らないと、捜査にも協力してくれないということがあると思うのです。

 今までは、もちろん、この人身取引に関しての捜査というのはまるっきりできていないというのは、すぐに強制送還されていたということもありますし、そういう保護はやっていないということがあるんじゃないかなというふうに私は思っているんですね。

 そういった意味で、そういった刑事手続に関しての被害者の安全確保、保護ということに関して、どういう措置を今後とっていくのでしょうか。

南野国務大臣 先生御指摘のように、被害者に安心して証言などをしてもらうということのためには、被害者の安全を確保することが重要であるというふうに思います。

 検察当局におきましては、人身取引の被害者からの事情聴取に際しましては、警察や婦人相談所などの関係機関と連携しながら、被害者への連絡や情報聴取の場所などについては、被害者の安全の確保に十分配慮した対応を行っているものと承知いたしております。

 また、人身取引の被害者が被害状況等の証人となるに当たっても、自己またはその親族に危害が及ぶおそれがある場合には、検察官が弁護人に対し、被害者の住居等を関係者に知られないようにするなどの配慮を求めたり、また、裁判長が尋問を制限することができるとされております。

 さらに、法廷におきましても、証人と被告人や傍聴人の間につい立てを立てたりというようなことをいたします。また、お互いに見えない、聞けないように遮へい措置を行ったり、またビデオリンクの方式によりまして、証人尋問なども被害者の安全の確保に努めているという形をとらせていただいております。

井上(和)委員 建前は非常にわかるんですよ、そういうことをやりますと。問題は、本当にそれをちゃんとやれるか、やれる体制があるかということだと思います。

 私は、恐らく、従来どおりやっていれば、今もそういう建前でやっているんでしょうから、ほとんど今と余り変わらないんじゃないかなというふうに思っています。

 アメリカなんかでは、ウイットネス・プロテクション・プログラム、証人保護の制度があって、先日映画を見ていたら、あくまで映画上のことですけれども、FBIがつけていた人が、実はUSマーシャル、USマーシャルというのは別の司法機関ですけれども、USマーシャルの方の証人であって、全部その過去を消されていた。捜査機関同士でもわからないようにきちっと証人は各司法機関が確保して、絶対身元がわからないようにしているというような、映画でそれをやっていたんですけれども、実際はどうかわかりませんが、でも、実態でもかなりそれに近いような状況できちっとアメリカなんかではやっているんじゃないかと思うんですね。

 日本の場合は、法務省の方、警察の方ともお話ししても、恐らくそこまで証人とか被害者が危害を受けるようなことはないんじゃないかというお話なんですけれども、日本ではそういうウイットネス・プロテクション・プログラムみたいなものは制度としてないんだろうと思うので、これを法務省がつくったらどうですか。

南野国務大臣 先生がおっしゃっております米国の証人保護プログラム、この内容にはいろいろなものが含まれているというふうにもお聞きいたしております。

 先ほど先生もお話にお触れになりましたが、我が国におきましても、人身取引の被害者に危害が及ぶおそれが認められる場合には、警察等の関係機関におきまして、その安全確保のための適切な措置がとられておるものと承知いたしております。

 米国と同様の制度を導入することにつきましては、証人保護の実効性確保のための方策、そのあり方などについては、さまざまな観点から慎重な検討が必要であるというふうに思っております。

井上(和)委員 基本的に、やはりもう少しきちっとした制度をつくるべきだということで議論をとめたいのです。

 そこで、ちょっと話を変えて、特にフィリピンから多くの女性が興行ビザで日本に入国されている例が非常に多いと思います。そして、興行ビザですから、これはダンサーということで日本に入国して、実際にはフィリピンパブ等で働いていたり、人身取引の被害者として強制売春させられたりする方も出ているというふうに私は理解しています。

 昨年度、興行ビザでフィリピンから一体何人入国したか、言ってください。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 八万二千七百四十一名でございます。

井上(和)委員 八万人もの方がダンサーでいらしている。私は、日本にそんなにダンスを見せる場所があるのかなというふうに思うぐらいなんですね。私の理解では、恐らく数年前には半分以下だったと思っているんですね。これは急速に伸びてきているということです。

 実際には、興行ビザでお客にお酒をついだりすることは当然できないはずですけれども、これはできるんですか。

三浦政府参考人 興行の在留資格と申しますのは、演劇ですとか演芸、演奏、スポーツ等の興行に係る活動またはその他の芸能活動が認められる活動とされておりますので、これに限定されております。

 したがいまして、今委員御指摘のような形で、興行の在留資格を持っている方が例えば客席等においてお酒をつぐなどいたしまして接客行為を行う、いわゆるホステスとして稼働するということになりますと、これは当然、興行の在留資格には該当いたしませんので、違反ということになると思います。

井上(和)委員 ホステスとして働けないということを確認してもらったわけですが、そうなりますと、これは当然資格外活動ですから、入管法違反ということになるわけですね。でも、実態的には、かなり多く違反している実態があるんじゃないでしょうか。どうですか。これまでどの程度の人が資格外活動で検挙されているんですか。

三浦政府参考人 実は私ども、一昨年から昨年にかけまして実態調査をしたことがございますので、ちょっとそれを御紹介させていただきたいと思っております。

 興行の在留資格で入国したフィリピン人女性を対象にいたしまして、平成十五年の一月から翌平成十六年の九月にかけまして、我が国で退去強制の対象となった者につきまして、その退去強制の手続の中で、我が国に滞在中にどんな就労をしておったかということを調査したわけでございます。その調査の対象者は約千九百七十名でありましたが、そのうちの約七〇%がホステスとして従事していたというふうに言っておる状況でございました。

井上(和)委員 本来の目的で、ダンサーとして入国されて、そのとおりダンサーでやっている方は少ないんじゃないかなというふうに思うので、今後、やはりきちっとそれは取り締まりをやっていかなきゃいけない。そして、そういう方が本来別の分野でちゃんと入っていただけるような制度をつくっていかなきゃいけないと私は思っているんですけれども、とりあえず今あることに関しては取り締まりをしなきゃいけないと思っているんですが、大臣、今後どういうふうにやっていきますか。

南野国務大臣 興行ということと人身売買ということは全く関係がないということは言えないのではないかな、そこら辺は感じております。そういう意味では、興行の在留資格を悪用して、興行を装って入国をさせる人身取引等を行う事例も報告されておりますので、人身取引等の被害をなるべく少なく、さらに、申請に偽りがないか否かにつき、今後とも適正な審査を行ってまいりたいと思っておりますし、これに資するために、出演店舗への実態調査を行って実態把握に努めるとともに、その結果、不正が判明した場合には、同店舗に関連する申請につき、これはもう厳正に対処したいというふうに思っております。また、上陸許可の基準のさらなる見直しも含めて、制度の見直しについても検討してまいりたいというふうに思っております。

井上(和)委員 最後に、一問だけ警察の方にお伺いしたいんです。

 実は、人身取引に関しては、私、今手元に、ILO、国際労働機関のレポートですが、これは去年、割と最近発行されたものなんですが、日本の人身取引に関する調査なんですけれども、ここでも、やはり人身取引と組織犯罪が、やくざということも実際に述べられているんですが、関係が非常に強いんじゃないかというふうに言っているわけですね。今回の国連の議定書も、基本的には国際犯罪の中の一つの条約であるということで、国際的な犯罪が絡むということも非常にあるというふうに私は思っています。

 そういった意味で、我が国における組織的な暴力団とか、そういうものが人身取引に絡んでいると私は見ているんですけれども、警察庁の見解はいかがですか。

米田政府参考人 平成十六年中に人身取引事犯で検挙いたしました人員は五十八人でありますが、うち、暴力団構成員及び準構成員は九人であります。暴力団構成員等に係る具体的な検挙事例といたしましては、飲食店従業員という名目で雇用した外国人女性を売春稼働させたものとか、不法滞在者たる外国人女性に金を貸し付け、その返済をさせる目的で当該女性を売春稼働させていたものなどが見られるところであります。

 警察におきましては、この人身取引等の捜査に当たりましては、こういう犯罪組織の関与ということを視野に入れつつ捜査を展開しているところでございます。

井上(和)委員 はっきり言って、今まで全然捜査されていないというふうに私は思っているので、今後いろいろな捜査をやっていくといろいろなことがわかってくるんじゃないかなと思うんですが、そのためにも、やはりちゃんと被害者の保護がないと捜査もできないというふうに思いますので、ぜひその辺をしっかり努力していただきたいと思います。

 これで終わります。どうもありがとうございました。

吉野委員長代理 次に、伴野豊君。

伴野委員 伴野豊でございます。

 暑いですね、大臣。私も、委員会でノーネクタイでやらせてもらうのは初めてでございます。大臣はずっとノーネクタイで、いいですね。

 今国会、いよいよ会期末ですし、お互い疲れましたよね。百年ぶりの改正も二つもやっちゃいましたし、本当に六月十九日が楽しみでございますけれども。

 では、質問に行かせていただきたいと思います。

 私も法務委員会に来させていただきまして、週末に地元へ帰りますと、娘がいつの間にか南野大臣の顔を覚えちゃいまして、テレビに出ていると、南野さんだ、南野さんだと。大変失礼な言い方をすれば、のんちゃんだと最近言い出しているので大変失礼しておるわけです。

 この間も、テレビを見ていましたら、大臣が歌舞伎町の視察をされたという報道がされていまして、きょうもちょっとそこから、関連がございますので、先ほども少しほかの現場を見られたときのお話もされていましたが、この五月十三日の夜行かれたんでしたかね、歌舞伎町へ。私もほとんど最近行っていないんですよ、もう怖くて怖くて。六本木あたりも全く、もう怖くて行けません。

 そんな中で、大臣、よく行かれたなと思っているんですけれども、御記憶のある範囲で結構ですので、十三日の何時ごろ、どんなような状態で御視察をされて、その結果、どんなことを思われて、今後どういうふうに反映させていきたいかなということをどんなふうに今お感じになっていらっしゃるか、率直に教えていただければと思います。

南野国務大臣 いろいろ危険な場所はいっぱいあるのじゃないかなというふうに思っておりますが、歌舞伎町にお邪魔しましたのは、平成十五年の四月、東京入国管理局新宿出張所、これを設置し、警察等関係機関と協力して不法滞在者の強力かつ集中的な摘発を実施して治安回復を図り、地元住民及び地元自治体によって進められている安全で安心な町づくりに協力しているところでありというふうに聞いておりますので、今回は、その成果と町の雰囲気を確認するために、新宿出張所を視察するとともに、夜の歌舞伎町の町を歩いてまいりました。当日は金曜日の夜でございました、ちょっとメモしてまいりましたので。活気ある歌舞伎町の町の雰囲気、これを肌で感じることができました。

 私はひばりが好きですので、ずっと前にコマ劇場に行ったことがありました。でも、そこから出てきますときには本当に何か怖いような感じがして、人をかき分けさあっと乗り物のところに走っていったようなことを記憶しておりますが、この前視察させていただいたときには、本当に普通の町という感じがございました。路肩に一人だけ寝ておられる方がおられましたが、お尋ねはしませんでしたが、ホームレスかどうかの確認はしておりませんけれども、そういう方々も少ないなということは確認いたしました。

 視察に出る前に出張所でいろいろお話をお聞きいたしましたが、その方たちの御苦労というのは本当に大変で、摘発隊というものをどのように応用していくかということもございまして、何かあったらいつでも出動ができるということで、四十人の方々がスタンバイしておられる、それも大きな御苦労だなというふうに思っておりました。みんな、ベッドなども置きながら、いつでも仮眠して出ていける、そういうようなことについては大変感銘深く、これで治安を守っていただけているんだなということも感じることができました。

伴野委員 そういう映像がテレビに映し出されていたものですから、娘が走ってきたものですから、私もぱっと見て、ああ、大臣、頑張っていらっしゃるなとそのときは率直に思いました。

 ただ、失礼な言い方をすれば、失礼な言い方をすればですよ、大臣がもう本当に普通のおばさまの格好をされて、割烹着なんか着られて、もう本当にその辺ひょろひょろっと、割烹着がいいかどうかわかりませんよ、多分サングラスに目隠し帽といったらかえって目立っちゃいますけれども、要は大病院の回診みたいな感じで見にいっても、多分ビラ配りのお兄ちゃんたちは陰に隠れちゃうと思いますし、何か悪いことをしようとした人はいるわけないですよね、多分。南野大臣の前でそんなことをやろうなんとは絶対思っていないと思うんですよ。

 申しわけないけれども、本当の実態を見るんだったら、やはりSPさんがついていかれるんだと思いますが、お一人ぐらいでひょろひょろっと行かれた方が実態が見られると思いますし、私も最近行ったことがないのでわからないですけれども、あそこは多分時間ごとに刻々と顔が変わるんだと思うんですよ。

 ですから、どの時間帯が一番危ないかとか、監視のビデオですか、あれもつけ方次第によっては防犯効果になると思いますし、最近では、光の色をブルーに変えることによって治安をよくしている町もあるんですね。さらには音楽なんかも流して、さすがに軍艦マーチとかそんなのだったらもうみんなけんかしちゃいますからね、チャンチャンチャンチャカチャッチャとなっちゃったらこれはだめですが、少し落ちつかせるような音楽を流していると落ちついてくるというか、やはりあるらしいんですね。

 さらには、おもしろいところにあるのは、政治家のこういう小さなポスターを幾つも張っていくと、チューインガムのポイ捨てがなくなるそうなんです。要するに、嫌な政治家のところにくちゅっとくっつける。これも本当にある。冗談じゃないんですよ、これは本当に。だから、いろいろ……(発言する者あり)いや、本当なんですよ、これ。これは冗談じゃない。私も事実に基づくことしか申し上げませんので。

 ただ、そういうところを工夫しながら見ていただく分には、やはり現地視察というのは非常にいいことだと思うんですね。ですから、ぜひぜひ実態が見える形の現地視察もこれから現場主義で続けていただければと思うんです。

 それぐらいにしまして、次に、本論へ少し入らせていただきたいと思います。

 会社法のときは、はっきり言って、これは名古屋弁で往生こいたと言うんですが、すごい量でしたよね。正直言って、全部読んだというのは、私もちょっとはばかります。ポイントの、いわゆる論点になるところを中心に最初から読んでいきました。だから、全部読んだかと言われると、私もうそは申しません。

 今回、これぐらいの量はやはりちょっと読んでみようと思いまして、私も一ページ目からどこまで辞書を使わずに読めるかやってみました。二ページで挫折しました。

 これは通告していないので、こういう言葉を御存じだったかどうか、そのあたりを聞きたいんですが、私は蔵匿という言葉でひっかかっちゃったんです、蔵匿。大臣、御存じでしたか。これも正直ベースで、済みません、もし御存じだったら御説明いただけますか。

南野国務大臣 私もレクチャーを受けるまでは知りませんでしたが、何か隠されているのかなというふうに思いましたが、対象者の発見を妨げる場所を提供することということを蔵匿というのだそうでございます。

伴野委員 すばらしい御回答というべきなんでしょうけれども、私も六法とかいろいろ辞書を調べたら、こういうふうに書いてあるんですね。蔵匿とは、官憲の発見、逮捕を免れるべき場所を提供する。官憲って今言うんですかね。それから、発見、逮捕を免れるべきところという使い方が本当に、要するに、今回、被害者保護というような観点の法律ですよね。

 だから、このとおりいくと、官憲の発見、逮捕を免れるということは、官憲をあえて現代語で言えば警察としましょう、ここはもう百歩譲って。警察の発見、逮捕を免れるべき場所を提供するということは、この女の人たちは逮捕されるべきような人なのかなというと、それは不法就労とかいわゆるビザが切れたとかということはあるかもしれないけれども、今回の一番論議になっている、はっきり言ってだまされて連れてこられちゃったような人たちを、この蔵匿という言葉が本当にいいかどうか。これはちょっと、身近な司法を扱っていただく法務省としては、これからやはり考えていただいてもいいんじゃないかな。

 この議論をやっていると多分時間がすぐ来てしまうと思いますので、これも通告していませんでしたので、ぜひ、できたらほかの言葉を使っていただいた方がわかりやすいし、先ほど弁護士御出身の先生にお聞きしたら、これはよく使うんですよというようなことを言われたんですけれども、普通の人はやはり知らないので、ぜひそういう言葉遣いも、実態と合わせつつ変えていっていただいてもいいし、それから、調べてみたら、官憲というのが出てくるというのも、ちょっとこれもやはり時代おくれなのかなという気がしますので、ぜひそのあたりにも気を配っていただければ、そんなふうに思っております。(発言する者あり)はい、ありがとうございます。

 続きまして、大臣に現場を見てこい、見てこいなんて偉そうなことばかり言って、私も今回反省しました。私、婦人相談所に今まで一回も行ったことがなかったんですよ。女房も行ってはいないと思います、ここは確信が持てませんが、聞いたわけじゃありませんので。

 もっと浅はかだったのは、二十四時間あいているのかなと思いまして、このレクを受けているときに、ああ、そういえば、私、婦人相談所というのは知らないし、一回も行ったこともない、どんな雰囲気なのかわからない。当初は、相談所というものですから、もっと気楽に、もうどこにでもある、ぱっと探せばSOSが出せるのかなというような感覚しかなかった。もっと言うなら、何とか相談所というパンフレットがそれらしいところに山積みにしてあって、ああ、ここへ行けば助けてもらえるんだというような感覚かなという、これも男考えだったんですね。そうじゃないんですね。

 ちょうどそのレクをしていただいた方に、急遽、御迷惑をかけて手配していただいて、じゃ、私、ちょうどその後、いろいろ打ち合わせがあった後で、九時ぐらいに行っていいかと言ったら、いや、先生、そのぐらいに男一人であそこへ行ったら勘違いされますよと。つまり、そこへお逃げになった方を連れ戻しに来た、こんなやわな顔をしていてですよ、そう疑われてしまう、ですからやめられた方がいいとおっしゃっていただいたものですから、私はけさ六時に行ってきました。とにかく雰囲気だけは見てくれば、少しは大臣と議論できるかと思いましてね。(発言する者あり)ありがとうございます。

 それで、行ってきて、何となく雰囲気もわかりましたよ。なぜ余り場所が公になっていないか。やはり、逃げ込んだ後、だれかがそこへ捕まえにというか何かしに来ようといって、余り目立ってしまってもいけない。閑静なところにひっそりとと言っては変ですけれども、一見どこかの社宅の寮みたいに見えますわ。入り口も、何かよく、そうでもないけれども、そんなに派手ではないですわ。ネオンがあるような、そんなわけではない。当然ですね。だから、本当に静かに。失礼しました、今のはちょっと削除しておいてください。

 それで、今回いろいろ参議院でも御議論されている中で、最終的に、今回こういう法律をつくって、少しでも被害者の立場に立った観点でやっていただくというのはいいんですが、今までの、例えば心神喪失もそうでしたし、あるいは犯罪を起こした方の更生の話もそうですが、どうも法務省と厚生労働省の境界の部分で、ここがきっちりしないと、いわゆる魂が入らないというか、いい法律をつくってもうまく機能しないんじゃないかな。

 そういう観点で、私は、やはりここは施設的には、この婦人相談所の機能というのは、もっと言うならば婦人相談所の機能いかんによって、今回の法律が、本当に魂が入るのか、点睛されるのかどうか、こういうことが決まってくるんじゃないかと思って、きょうも眠たい目をこすって見てきたんですね。やはりそうだと思いました。

 今後、今までこれは参議院先議でずっと議論されてきて、多分大臣もそういうお考えを持っていらっしゃるんだと思います。きょうも参考人の大津先生や玉井先生が涙ながらにおっしゃっているのを見まして、私も、自分の娘が知らない土地へだまされて連れて行かれて、そこで本当にとんでもない目に遭って、命からがら逃げてきたというようなことを想定しただけでぞっとするんですね。

 多分、被害者の、そのお子さんを持つ御両親もそうだと思いますし、もしそういう記憶なり経験をした人は絶対日本を好きにはなってくれないと思うんですね。たまたまそんなことで、不幸にもそういうことになってしまっても、日本人は助けてくれた、日本の施設が救ってくれたということを我々は見せないとやはりだめなんじゃないかと思うんですね。

 特に女性のお立場でどう今この婦人相談所を、私は大臣に、厚生労働省のことだからそれは厚生労働省にやってもらわなきゃわからないというような、そんな、どっちかというと縦割りの答弁を聞くつもりはないです、理想論をぜひきょうは言っていただけないかと思うんですが、よろしくお願いします。

南野国務大臣 理想論といいましても、これは数限りないというふうに思います。幾らでもお金があればもっともっとできるということでございますけれども、もともと婦人相談所というものの受け皿といいますか、それは売防法からスタートしておりまして、売防法がありまして、そこにDVを我々は根づかせていこうということで、DV法の二枚看板をお願いしました。

 その二枚看板のところに、今またこの看板を立てていこうとしているところでございますので、そういう意味では、中でお仕事をしてくださっている方はオーバーワークになるだろうというふうに思います。そういう人的な問題と、それから、このたびの場合は外国者の方々が多いだろうといえば、その通訳、また、その方たちをどのようにお世話するかというような課題もいっぱい出てくるだろうと思います。

 それから、先生がおっしゃっておられるように、人知れずにその人たちの幸せを築いていこうとするためには、取り戻していこうとするためには、それなりの努力、環境という問題もあろうかと思いますので、多くの方々が温かい心をそれに寄せてくださらないとどうしようもならない。この法律をうまく展開させていくのには、そういうボランティアの方のお力におすがりしなければならないという部分もございますが、やはり国がどのような形で担保していくかということも大きな課題でございますので、厚生労働省の方々にも、DV法のことにも力を入れてくださいました、それと同じくこのたびの課題についてもお力を入れていただきたい、一緒にやっていきたいというふうに思っております。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

伴野委員 まさにそうだと思います。この婦人相談所、やはりいろいろな、タイの方やフィリピンの方や、これからどんな国の方がいらっしゃるかわかりませんので、そういう言葉の壁をぜひまず破っていただくと同時に、先ほどの参考人の先生方のお話を伺っていましても、この方を少しでもいい形で、本国へお戻しするのが本当にいいかどうかというのもあるのかもしれませんけれども、そういうことも含めていろいろケアを、文化も違うでしょうし、それから背景もそれぞれ違うと思うんですね。

 そういう方たちのお話を聞きながら、はっきり言って緻密に、ピンセットで一つずつ、場合によっては事実関係を洗いながらやっていただく。場合によってはそういう人も、いわゆる人身売買をした犯罪組織からすれば、そういうお手伝いをしている人自体もリスクのターゲットにされるんだと思うんですね。ですから、大変なお仕事だと思うんですよ。

 ですから、そういうところの人材養成とともに、プログラムも含めて、何々省だからここで終わりとかというんじゃなくて、領域を超えていただいてやっていただければと。その点に関しては我々も異論はないことだと思いますので、法律をつくっていただいた大臣の責任者としての立場から、ぜひこの婦人相談所の充実に努めていただければと、これは物心両面でお願いしたいなと思うんです。

 今回、この法案を提出していただく、そのいろいろ背景の中で、それは結果論で言って申しわけないんですが、もうちょっと早く手を打っていただければということがないわけじゃないです。アメリカからもちょっとつらい成績表を突きつけられているわけでございまして、その成績表の物差しというのはよくわからないし、それはアメリカなりのやり方もあるんでしょうけれども、小泉さんも好きなアメリカですし、そこからちょっとつらい成績表をいただいたら、なかなか役人の方は、どういう物差しで、どういうふうでこんな点数がついているんだとは言えないけれども、仲のいい小泉さんだったら、ヘイ、ブッシュと言って、ここから日本語になっちゃうんですけれども、どうなっているんだというふうに聞いてもらってもいいんだと思うんですね。

 でも、そういうことはやってもらえないようで、何でこういう評価がついているかわからないけれども、第二監視リストですか、最初にいただいたレポートですか。これは何か、先ほどちょっと自分の娘に例えて言わせていただきましたけれども、日本の、北朝鮮に拉致されたお嬢さんの場合とほとんど変わらないんじゃないかと思いますよ、被害状況からすれば。取り返しのないことをされている可能性だってあるわけでして、それを我が国という領土内で、そこを舞台にしてやられていることが、これは国際的に見て、そういう状況があるならば、それは不名誉なことですよね。

 ですから、先ほど申し上げたように、日本に対しての悪感情を持っていただかないためにも、もしそういう被害に遭われてしまったような方があったら、やはり少しでもいい状態で、その人が望む形でお帰しをする、そういうことをやっていかなきゃいけないと思うわけでございます。

 ただ、アメリカは本当にどういう根拠でこういう評価をつけたのか。さらには、そうしていたら、何か急に今度は一ランク上げてもらえちゃったんですか。何か、お願いしに行ったら、点数、げた、不可だったのが可になるような、どこかの大学のあれじゃないですが、そんな話でもないんだと思うんです。

 まず、今回のその第二監視リストというのに位置づけられたということの御感想とともに、これはいろいろ参議院のところでも言っていらっしゃいますが、今回第二の方に上げていただいたのは、上げていただいたというのは別にお願いしているわけじゃないんでしょうけれども、勝手にやったのかもしれませんが、ただ、一応、米国務省がやったわけですから、何らかの根拠がないと、いいかげんにしろと言いたくなるわけでございますが、彼らもそんないいかげんにやっているとは思いません。だから、そのあたりを大臣はどう思っていらっしゃるか、御感想と評価をお聞かせいただければ。

南野国務大臣 今先生が御指摘いただきました報告書のことでございますけれども、アメリカがどういう意図でされたかということについては私は存じ上げません。何をランクにしているか、ランクの国名を見てみると、ううん、違うんじゃないと思うようなこともございますので、そういう意味では、我が国ほどいいところはないと思っているところでございますが、興行という課題を今度なくしたということは、いまだにそれはあってほしいと願う殿方もおられると思いますけれども、そういうことではなく、ちゃんと我々は向かっていっている、いい調整に手をつけているということの評価ということもあったんじゃないかなと思いますが、それについて、米国の評価について私はコメントする立場にはないというふうに思っております。

伴野委員 ただ、やはりこういうのが公表されてしまいますと、これを機に発憤してもらうのはいいんですが、やはり余り名誉なことじゃないので、何かの機会に南野大臣も、ヘイ、ブッシュと言って声をかけていただいて、聞いていただくといいんじゃないかと思います。

 時間がだんだん迫ってまいりましたけれども、今回のそういった人身売買をする不届き者は不届き者として、ただ一方で、タイやフィリピンあるいはアジアの方々できちっと日本で働きたい方がいれば、今後我が国も少子高齢化の大きな波の中で行くわけでして、そうしたときに本当にいい労働力が確保できるか。特に今、やはり介護、医療、さまざまなところでこれから必要になってくるんじゃないかと思うんですね。

 そうしたときに、今のままの状態よりも、逆にある程度、ここまでの枠であれば、何とか国さん優先という言い方はおかしいですね、例えば、こういう職種を持った人が百人、だけれども優秀な人を送ってくださいという、この優秀というのはちょっと言い方があれかもしれませんが、いわゆる犯罪にかかわらないとか、こちらへいらっしゃって、例えば看護婦さんになるおつもり、あるいは介護をやるというおつもりで、実際はこちらに来て違う、ちょっと残念ですけれども、風俗店でお働きになったりホステスさんをやられるというようなことがないような、何かきちっと国同士の信頼関係、あるいは、もし何か悪いことをしたらペナルティーで、その百人を、あなたのところは去年ちゃんとした人を百人送り込んでくれると言ったのに全然だめじゃないということになれば、来年はもう五十人。だけれども、ちゃんとやってくれた国は枠を広げますというようなことをやって、少し入国の管理のあり方とともに、良質な労働力、ちょっとこれも失礼な言い方かもしれませんが、きちっとお働きいただける方はきちっとしたシステムで、ルールにのっとってやっていただく。

 それを本当に国際的に告知してあげれば、こういった何か変なブローカーにかかわらなくても、自分は例えば日本でまじめに本当に資格を取ってやりたいという人があるならば、こんな変なブローカーにつき合わされるんじゃなくて、いやいや、そういう国際的に認められた資格でやるという人も出てくるんじゃないかということもありますので、これは通告していませんので、いいですか、言っていただけますか。

南野国務大臣 先ほど先生がおっしゃいましたフィリピンとの間のFTAの問題もこれに絡んでいると思いますので、そういう意味では、エンターテイナーといいますか、興行という形で入ってくる方ということをこのたびはとめようということであり、専門的に勉強した方とかそういった特殊な方だったら我々は門戸を開いているわけですから、その持っておられる立場でお働きいただければいいなというふうに思っております。

 先ほど先生にお答えするときに、私がちょっと言い間違ったのじゃないかということで、在留資格をなくしたということではないということをちょっと訂正させていただきたいというふうに思います。

伴野委員 今ちょうど興行資格というお話も出ましたので、大臣、前東京入国管理局長の坂中英徳さんのこれはお読みになられましたか。私も余り偉そうなことは言えません、つまみ食い読みですから言えないんですけれども、この方は、現場でずっと責任者として指揮をなさった方が、御自身の業務の中で反省、自省も込めながらいろいろ書いていらっしゃいます。

 その中で、人身売買、トラフィッキングの問題というのは、やはり非常に心を痛めていた節がございます。もう時間がないのできょうは読み上げませんが、その中で、この方の御提案として、例えば興行に関する入国許可基準を改正して、外国人芸能人の出演先から風俗店というものを除外するという思い切った措置をすれば、少しは改善されるんじゃないかなという御指摘もあったみたいです。

 ただ、私もこれを読んで、うん、確かにそうだなと思いつつも、そういうことを考えている人は今度また、何か風俗店じゃない、カラオケ店は風俗店になるんでしょうけれども、何か違う、例えばピアノ店と言っていいのか何かわかりませんが、表面的にはピアノ店だと言っているのに裏ではねというようなことをやるかもしれないから、余り風俗店という言葉にこだわっても本当に抜本的解決になるのかどうかわからないけれども、ただ、実際、東京入国管理局長をやられたような方がこういう御指摘をされているということに対して、御感想とともに、もっと被害者を少なくするという意味で、私はこういうところはもっと踏み込んでいっていいんじゃないかと思うんですが、御感想をお聞かせいただければ。

南野国務大臣 きのう先生に御指摘されました「入管戦記」については、すべてに目を通したわけではありませんが、部分、読ませていただきました。

 この著書には、不法滞在問題や日本語学校問題、また人身取引問題など、本人が携わられた入管行政をめぐる状況を邂逅しておるということでございますので、先生、感想をというお尋ねでございますけれども、全体的な感想といたしましては、現場の一線の実情によく目配りをしたい、そういう我々の役割ということを感じました。

 さらに、もう一つ最後にお触れになられた風俗営業店の課題でございますけれども、要は適正な興行活動が行われているというのが重要でありまして、それでない、裏の興行をしてもらうということが困るということでございます。

 そのような観点から、このような、先生がお尋ねのような店舗で興行活動が行われるための必要な施設、設備ということもあろうかと思います。もし興行であれば、ダンスするスペースが要るでしょうし、また控え室なども要るでしょうし、それも適正でなければいけない。そういうようなものもちゃんと整っているかどうか、そういったことも含めて適正に判断する必要があるのではないかなと思っております。

 娘さんにどうぞよろしくお伝えください。

伴野委員 優しい言葉をありがとうございます。

 最近、私も娘と過ごす時間が少なくなっているものですから、来週過ぎればいよいよ国会も終わるということですね。お互い充実した時間を過ごさせていただいたということで、今後質問に立つようなことはないと思いますが、これにて終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、小林千代美さん。

小林(千)委員 民主党の小林千代美です。金曜日の夕方でちょっと寂しいんですけれども、暑い中ですけれども、よろしくお願いをいたします。

 今回の刑法の一部改正、入管法の改正により、今まで本当にひどい立場にいられた人身売買の被害者の方たちを救えるようになることは、私も本当に必要なことだったなというふうに思います。また、先ほどから何回も言われておりますけれども、アメリカから不名誉なレッテルを張られてしまっている。日本の名誉回復のためにも、しっかりと対応をしていかなければいけないのではないかなというふうに思っているところなんです。

 今回の法改正の目的といたしまして、加害者に対する処罰、そして被害者の保護、それにより、人身売買、密入国の防止というものが挙げられております。この間、言われていますように、やはり加害者処罰という視点と被害者の保護という視点の両方の車輪がしっかりと同じ歯車で動いていないと、これは当然、犯罪防止、抑制ということにはうまく働いていかないのではないか。

 アメリカのこの不名誉な報告書の中には、第二群監視リストに入っている理由といたしましてこういうことを挙げられているんですね。「日本政府は、人身売買犯罪の捜査、起訴件数を増やし、より多くの有罪判決を下し、」そこまではいいんですけれども、「被害者支援を改善するなど、深刻な人身売買問題と闘う取り組みを強化する必要がある。」というふうに指摘をされております。

 また、同じ文章の中で、日本政府は人身売買防止のための国際的プログラムや国際会議に対する支援は今までも行ってきた、例えばNGOに対する支援ですとか、あるいは東南アジアの国々などのODA支援ですとか、そういったことは行ってきているけれども、しかしながら、日本が持つ人的資源や資金というものを考慮すると、日本は、性的奴隷となっている大勢の被害者を保護するためになし得ることは多い、日本は人身売買防止法案の検討を急ぎ、人身売買に関連する懲罰を、そうした深刻な犯罪に相応するものにしなければいけないというような痛い指摘をいただいたところでございます。

 私は、この二つの歯車のうちの今まで軽視されてきた被害者保護というところをやはり適正な形にしていかなければいけない、重視をしていかなければいけないのではないかなというふうに考えております。

 その一方で、法務省の出してきた今回の法案、刑法の改正と入管難民法の改正、これだけを見てみると、人身売買被害者の保護といった観点からだと少し弱いような気がしてならないんですけれども、大臣、人身売買被害者保護の観点というものの重要性をどの程度、もちろん重要だと思っていらっしゃると思いますけれども、どのようにお考えでしょうか。

南野国務大臣 今先生が最初に挙げられたアメリカの評価の件でございますが、私といたしましては、アメリカから言われるまでもなく、我が国としてどのようにやっていくかというのが大きな課題であり、アメリカの評価は、先生が読まれた中にもございますけれども、我が国は我が国としての歩みをもってやっていこうとしているところであろうかというふうに思っております。そういう意味でございます。

 それと、先生が今、二つの柱のようにお話しになられましたが、人身取引の対策というものを私は三つの柱で考えてみたい。予防であり、それから処罰であり、そして大切なのは保護であるという、その三つの柱から成っているというふうに思っております。そのどれもが重要であるということでございますけれども、先生御指摘のように、人身取引被害の保護につきましては、現に重大な人権侵害を受けている被害者を一刻も早く救済して保護しなければならない、これは時間的な急務でもあろうかと思っております。

小林(千)委員 被害者保護ということを大変重要にお感じになっていただいていて、私もそのとおりだと思います。

 ただ、例えば犯罪被害者保護ですとか暴力を受けていた被害者の保護という問題になりますと、どうも関連してくる部署がたくさんありまして、きょうも多くの参考人の方に来ていただいていることになるんですけれども、大臣とここでこうやって話していると、去年のDV防止法の改正を思い出すんですよね。大臣はそのときまだ大臣ではいらっしゃらなかったんですけれども、参議院のDV防止法改正のための調査会の責任者といたしまして、ちょうどそこの場所におかけになって答弁していただいたのが私も大変記憶に残っております。私もその当時法務委員でしたので、この場で質問をさせていただきました。

 あのDV、ドメスティック・バイオレンスにつきましても、やはりその問題が潜在化してあったにもかかわらず、世の中になかなかわかってもらえない問題だった。それが、ドメスティック・バイオレンスという言葉ができて、その対策のための防止法という法律ができたということは、やはりこれは被害者保護のために大きな役割を果たしたと私は思っているし、それは多分大臣も御認識はよくよく同じだ、重要さは認識されていらっしゃると思います。

 今回もこういった人身売買の被害に遭われた方々の保護と救済のために、もちろんさまざまな省庁の協力が必要なことは言うまでもないですけれども、やはりここは被害者保護のための一本ばあんとした柱を、例えば人身売買防止法ですとか、DV防止法をつくったのと同じように、このような法律も必要なんじゃないでしょうか、大臣。

南野国務大臣 先生が熱を入れておられる人身売買防止法という一本があっても難しいかな、このように大勢の方々が来ておられて、そのつかさつかさによって適切な対策がとられて初めて人身売買の問題点、保護の問題、防止の問題、罰則をかけていく問題、そこら辺が整っていくと思いますので、一人では何もできない、皆さん方の協力、各省庁挙げての協力、内閣挙げての協力というものが一番大切だというふうに今私は思っておりますし、もし先生からの御質問の中にやらなければならないことを見出せば、それは我々総力を挙げてやるということでございますし、ここにおられる各省庁の方々も、やる気でこれに取り組んでいただいていると思っております。

小林(千)委員 もちろん、そういった包括的な法律があろうとなかろうと、省庁の枠を超えた取り組みというものは十分にしていただかなければいけないことは当然なことなんですけれども、DV防止法のときも、質問取りすると部屋の中がわあっと、もう十五人ぐらいの方に来ていただくことになってしまうんですよ。もちろんそういった方々の協力は必要なんですけれども、やはりDV防止法をつくってDV被害者の方々の保護と救済のために大変大きな役に立った、資することができたのと同様に、私はやはり、今回のこの人身売買の被害者たちの救済のためにも、もちろん体制整備とともに、包括的な支援法というものが必要なのではないかなと思いますし、法律をつくったところで、DVと一緒ですから、またがる関係省庁の協力が必要なことは言うまでもありません。

 改めて、関係省庁の強い連携というものをお願いしたいんですが、いかがでしょうか。

南野国務大臣 先生がおっしゃるように努力したいと思います。

 例えばDV法であるならば、この前、五年以内の改正を三年でやってしまいましたが、あのときも加害者に対する対策を手がけたかったんですけれども、被害者の方々から、まだ自分たちをもっと助けろという声がありましたので、この前は加害者を入れておりません。これから加害者の問題に行くとすれば、人身売買との関連ももっと深く出てくる可能性もあるかなというふうにも思っております。

小林(千)委員 DVの場合は加害者処罰よりも被害者保護ということが一歩進んで起こっていたわけなんですけれども、今回の場合は逆に、今まで被害者保護というのがどこかにすっ飛んでいたものが、やっとこのポイントが出てくるようになったということは私は評価をしたいと思います。

 さて、その被害者保護についてなんですけれども、今回の法改正までの道のりといいますか、その中で、どうも法務省の認識として一つ足りないところがあるのではないかなというふうに思います。

 私の手元には、法務省入国管理局の出された平成十六年八月五日の資料があるんですけれども、これは、「入国管理局における人身取引対策」というテーマで出されている一枚のぺらのA4のものです。この中に、「被害者に対する一時滞在資格の付与及び国外追放からの救済等について」という項目があるんですけれども、被害者であるのに、一時滞在資格、国外追放からの救済というもののハードルがとても高く書いてあるんですね。被害者であるのにまるで加害者のような言われ方をしております。

 例えば、「現在は、本人の希望を最優先し、帰国を望んでいる者については、本国への送還を迅速に行っているが、」その次が問題なんですけれども、「「悪質な人身取引の被害者」で、証人として刑事手続に貢献する可能性がある者については、」仮放免だとか在留特別許可を付与するというふうに書いてあるんですよ。これは、「悪質な人身取引」というふうに、「悪質な」と限定しているんですね。そしてもう一つ、「証人として刑事手続に貢献する可能性がある者」というふうに、ハードルをもう一個設けているんですよ。

 この二点についてちょっと認識を伺いたいんですけれども、人身取引というのは悪質ですよ。悪質でない人身取引というのは余り想像できないですよ。悪質というのはどういう場合が悪質なんですか。(発言する者あり)良質な人身取引。何で「悪質な」というふうにあえて限定しているのか。では、悪質でない人身取引の被害者の場合は、そういった仮放免ですとか在特ですとかが認められなかったのか。

 これは悪質だとか、ハードルをわざと高くしている理由を一つ聞きたいのと、もう一つは、「証人として刑事手続に貢献する可能性がある者」、今まではきっと、証人として役に立たない人だったら認めませんよという認識なんでしょうね。この二点についてお伺いをいたします。

南野国務大臣 この二つの問題点でございますけれども、人身取引は主に女性に対する重大な人権侵害であるということは、これはもう十分認識されることであり、人身取引はすべて悪質だとおっしゃること、当然だというふうに思っておりますが、入国管理局が作成したこの文書の中の人身取引の前に「悪質な」を入れたということにつきましては、その文書の当該部分において、人身取引が悪質であるということを強調したという意味でその問題点を書いたということでございまして、それともう一点の問題については、「刑事手続に貢献する可能性がある」、そんなことは今要求してはいけないことであろうかなというふうに思っておりますので、私の説明が不十分であれば、担当官に説明させます。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のとおり、人身取引はまさに悪質、そのもの自体が悪質でございます。そこにさらに悪質がついていると、悪質な悪質な人身取引、こういうことになるのかと思いますけれども。

 実はこのペーパーは、昨年の八月五日付でございますが、この当時、入管局におきまして、いわば現行法のもとで、今御審議いただいている法案のその前の、まさに現在の法律でございます、この現行法のもとにおきまして、人身取引の被害者の保護がどのようにして考えられるかということをるる検討した際のペーパーでございまして、確かに、現在から比べれば、この当時はまだ法律上人身取引というものの概念が確定していたわけでもないという時期でもございますから、若干整理が十分でないということはあるかと思います。

 ここを見ますと、ここにあえて「悪質な」とついているのは、やはり人身取引というのは、悪質といいましても、ある程度程度の差があるという認識がこの当時あったのではなかろうかという気がいたします。(小林(千)委員「良質」と呼ぶ)良質はありませんね。悪質か極めて悪質か、こういうことだと思いますが。

 犯罪でありましても、例がいいかどうかわかりませんが、同じ殺人罪でも、最終的な量刑では、懲役五年のものもあれば無期懲役のものもあれば殺人のものもあるというようなことでございますので、しかしながら、殺人というのは悪質であることはだれもが争いのないことであろう、多分そういったたぐいの発想だろうというふうに思っております。

 後の記載を見ますと、「証人として刑事手続に貢献する」というようなことが書いてございますので、これは加害者側が刑事訴追をされているような重大な事犯という意味合いで恐らくこういう表現をしたのかな、こう推測はしておるわけでございます。

 それから、刑事事件に協力をする者だけに限定したという今御指摘であったわけでございますが、その下の項目を見ますと、「在留特別許可制度について」という記載がございまして、ここには、現在御審議いただいている、被害者に対して原則在留特別許可を付与する、こういう法案で今御審議いただいておるわけでございますが、この源流となるといいますか、人身取引の被害者であるということも、在留特別許可の付与に当たって考慮すべき事情の一つとしているということが書かれております。

 これはまさに、現行法のもとでどのようなスキームで被害者の保護が図れるかということを入管局といたしまして検討した際のペーパーだというふうに御理解いただければ幸いでございます。

小林(千)委員 では、今回の法改正により、ここの、先ほど読み上げた「悪質な」ですとか、証人として、はっきり言って、利用できる場合ですとかというようなハードルはなくなるというふうに考えてよろしいですね。

三浦政府参考人 委員御指摘のとおりでございます。

 今回御審議いただいております入管法の改正部分は、特に、在留特別許可を付与するという条文の中に、人身取引の被害者であることというのが、表に出して一項目を設けておるわけでございます。これは、基本的には被害者であるということが確認されれば、原則在留特別許可を付与して保護の対象にしていく、こういうことでございます。

 したがいまして、何か特別な、こういう条件がなければいけないとか、そういうものではございません。

小林(千)委員 もう一つ、この同じペーパーの中で気になったところがあります。

 一番下のポツに書いてある、これは去年の入管法の改正内容なんですけれども、例のあめとむちの関係で、自主出頭、みずから出頭した者は上陸拒否期間が五年であるものを一年に短縮するという法改正が、昨年の入管難民法の法改正で行われました。そのときも私たちもここで議論をしたんですけれども、その法改正が、この制度、というのはこのあめとむち制度ですね、あめなんでしょうけれども、みずから出頭すればあめをもらえるよ、この制度は、「人身取引被害者の人権保護の面からも有意義と考えている。」というふうにこのペーパーには書いてあります。これは八月の日付ですから、八月のときには既にもう入管難民法は、法改正は成立をしていました。

 しかし、私たちがここの場で審議していたときに、このあめ玉、自主出頭すれば上陸拒否期間が短くなりますよというのは、人身売買の被害者に対しても人権保護の面から有意義だというような議論は何もなかったと思いますし、当時、たしか答弁の中でも人身取引の被害者に資するためにというようなことはなかったと思いますけれども、こういった認識も持って、こういったというのは、人身取引の被害者のためにも有意義だから去年この法改正を行ったんですか。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のとおり、昨年の通常国会で御審議いただいた際にはそういった議論はなかったんだろうと思っておりますが、もともとこの出国命令制度というのは、不法滞在の状態にある方がみずからの意思で不法滞在状態を解消して出直すということを期待しているものであります。

 不法滞在者をなるべく少なくしていきたいということもあったわけでございます。いわばそのインセンティブとして上陸拒否の期間を五年から一年に短くした、こういうことで、これが立法の主たる目的であったというふうに私ども認識しております。

 ただ、これも先ほどちょっとお答え申し上げましたけれども、入管局といたしまして、人身取引被害者の保護、それから、なかなか被害者の方、いろいろな思いがありまして、当局に出頭しづらいという面がやはりあったことは否めないと思うんですね。入管に行けば不法滞在状態であれば退去強制させられて、収容されてというふうな思いがある。場合によっては、警察に行けば犯罪だということで拘束されるかもしれないというようなこと、不安があったんだろうと思います。

 そういう面を考えますと、立法していただいた直接の目的は若干異なるかもしれませんが、人身取引被害者の保護の契機という観点から見ますとこの規定も有用であろうということで、この時点で整理をしたというふうに理解しておるわけでございます。

小林(千)委員 ちょっと納得することができません。

 もし自分が人身売買の被害者であったら、警察にも行きづらい、入管に行ったら不法滞在だということで収容されるかもしれない、こんなことを思っている被害者が、インセンティブがありますから、みずから出頭すれば上陸拒否期間が五年から一年になりますよ、これはインセンティブとして本当に人権保護の面から被害者に対して有意義なものなんでしょうか。

 ちょっとこれは、大臣、御答弁いただきたいと思います。本当に法務省がまじめにこれを考えていると思ったら、考えたら、それは違うのではないかと思いますが。

三浦政府参考人 申しわけございません。先ほどちょっと御答弁の中で一つ漏らしてしまったことがございますが、出国命令制度につきましては、収容をしないで手続を進め、早期に出国をすることができる、こういう制度でございますので、その点も被害者の方にとってみればやはりかなり心理的に違うのではないかというふうに考えております。

小林(千)委員 大臣、答弁をお願いします。

南野国務大臣 出国命令制度といいますのは、退去強制事由に該当する者のうち一定の要件を満たす者について、今局長がお話しになりましたが、収容するというのがもとでありますが、それを行うことなく簡単な手続で迅速に出国させ、出国命令により出国した者の上陸拒否期間を五年から一年に短縮するということは先生御案内のとおりでございます。

 同制度は、もともと不法滞在者の自主的な帰国を促すことを目的として導入したものでありますけれども、人身取引被害者が出国命令の要件に該当しており、同制度による出国を希望する場合には、出国命令の対象となる、退去強制手続を受けるよりは有利な扱いを受けることになるということでありますので、出国命令制度は人身取引の被害者の人権保護に資するものというふうに我々は考えているところでございます。

小林(千)委員 どうも今回の法改正の一つの理由である被害者の人権救済、保護ということを考えてみますと、前回の入管難民法の法改正のこのインセンティブというのは、人権面から有意義だとはちょっと考えられないと思います。

 先ほど答弁を局長と大臣の方からも伺いましたけれども、やはり被害者の方々に対して必要なのは保護なんですよ、一番最初には。インセンティブがありますから、ですから退去強制手続を発効されるよりいいでしょう、だから出てきなさいという考え方は、少なくとも人権保護の面から有意義だとはとてもじゃないけれども思えない。いかがでしょうか。

南野国務大臣 被害者の方々が、本当は帰りたいけれども帰れない、自分はどこにどう相談したらいいだろうかと悩んでおられて、門戸が開かれていない方たちも多かったと思います。そういう方々に対して、一応広告を申し上げることによって、では、自分はそこでちょっと相談してみようという気持ちを持っていただけたらうれしいということでありまして、本当は拘束して調べて、そしてお帰りいただくということですけれども、いろいろな条件が整えばこれは無罪放免でどうぞということがありますが、多くの方は、自国に帰りたいという方々が多いということでございますので、その心を察知して、今五年から一年というようなそういう問題についても我々は付加したわけでございますけれども、そういう親心もあったというふうに解釈していただければうれしゅうございます。

小林(千)委員 どうもそのような親心には感じられません。

 これはちょっと認識が違うということを、これ以上同じことをやっていても同じ結果しか出てこないようですので、認識が違うということを指摘させていただきたいと思います。

 そして、具体的な保護の流れというのを確認させてください。

 これはもちろん人身取引の被害者ということが認定されればということなんでしょうけれども、先ほどの同僚議員の質問の中で、認定するのは中央入管だ、中央入国管理局が被害者かどうかというものを認定、認定をする前に、まず、全件収容ですから、収容するんですよね。それから認定手続をやるんでしょうけれども、その間、保護された方あるいは出頭された方は収容されることになるんでしょうか、認定されるまで。

三浦政府参考人 被害者と認定されるまでに、まずケースによっていろいろだろうと思います。

 例えば、あらかじめNGOの方々などに保護されておるようなケースがございますね。そうしますと、我々の方にも連絡をいただけます。その段階でいろいろ事情も聞きまして、これはもう被害者に間違いないというふうなケースであれば、後の手続に入るに際しましても、不法滞在状態になっているとしますれば退去強制手続をとらざるを得ませんが、この際には収容令書を形式的に発付して直ちに仮放免許可をするということで、事実上は身柄の拘束は全くなくその後の手続を進めるというふうなケースもございます。

 また、場合によっても、本当は被害者ではないんだけれども摘発などで収容された場合に被害者だと言う、偽るケースがないわけでもないわけですね。そういう場合にはやはりある程度調査等に時間がかかるケースもございますが、しかしながら、それもその過程でこれはやはり被害者であるということがわかれば直ちに仮放免をする、いろいろなパターンがあるかと思います。

 ただ、我々入管といたしましては、収容の際に既に相当程度間違いない、被害者であるということがわかっている場合には、最初に申し上げましたような形で、事実上収容しないで手続を進めるということでやっていきたいと思っております。

小林(千)委員 被害者であるかないかということが仮放免許可を得られるか、在留特別許可を得られるかどうかというものの大変大きな判断基準だと思うんですけれども、では、被害者ではないケースというのはどういうことが考えられますか。

 例えば、その方は命からがら交番に駆け込むというケースもあるかもしれない、大使館に電話をするというケースがあるのかもしれません。自分自身を証明するようなパスポートは取り上げられてしまっているケースがほとんどでしょう。自分を証明するものは多分何も持っていないと思います。そういった当事者の方が、自分が被害者であるというふうに認定をされるためには何が必要なのか、あるいは、どういったケースは認定されないのか、ちょっと具体的に教えていただければと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 被害者であるかどうかという認定は、最終的には、今御審議いただいております改正法の二条の部分に新たに人身取引等の定義を設けておりますが、この定義のいずれかに当該外国人が該当するかどうかということに尽きるわけでありますから、要は、それを裏づける証拠、供述でありますとかその他の状況証拠もいろいろあろうかと思いますが、こういうものが的確に収集、確認できるかということになるんだろうと思います。

 一番大きなのは、恐らく御本人の申し出といいますか供述が中心になるんだろうと思いますが、もちろんそれだけで決めるわけにはいきませんので、それに対して、どの程度裏づけがあるのかといった、いろいろな観点から検討をすることになろうかと思います。

 この作業はかなり、本日の御審議でも御質問をいただいたところでありますけれども、非常に難しいところがございまして、そのために職員も当然いろいろな訓練を今しているところでございますが、そこに尽きるんだろうと思っております。

小林(千)委員 この被害者認定というのが、比較的条件がそろっていて早く認定されるか、あるいは、その審査に長く時間がかかるという場合もあると思います。とりあえず全件収容主義といいますか、退去強制手続というのは既に始まっているんでしょうから、認定されるまでの間は収容されることになるんですか。

三浦政府参考人 仮放免の制度と申しますのは、一般的に、人身取引の被害者の方でなくても情状によりまして仮放免が可能でございます。これは、現行法のもとでも仮放免を受けている方はたくさんおるわけでございます。例えば、体調が悪いですとか御家族との関係ですとか子供の扶養で、いろいろな事情がございます。そういうことも勘案して総合的に考慮いたすわけでございますので、認定が決まる前に仮放免になるというケースはかなりあるんだろうと思っております。

小林(千)委員 ぜひ、それぞれの被害者の状況あるいは家族的状況を勘案した上での運用をいただきたいというふうに思います。

 それから、具体的な被害者の保護の流れというのを確認したいと思います。

 きょう、資料を用意させていただきました。A4の二枚ものを配っております。法務省のホームページをいろいろ引っ張っていたんですけれども、被害者保護というような具体的なページがなくて、これは外務省から、外務省のページを探したらありました。外務省の「外交政策」の中の「犯罪」というところに「人身取引」、その中に「人身取引被害者保護の流れ」というわかりやすい表が出ていたんですね。

 こういうのをぜひ法務省でもつくってもらえたらと思うんですけれども、この表がわかりやすかったものですから、使わせていただきます。外務省の方にこれを全部説明しろと言っても、それこそ各方面の省庁がかかわることですので無理だと思うので、それぞれの関連省庁の皆さんに御説明いただきたいと思うんです。

 きのう質問取りをしておりまして、警察庁の方にも来ていただいていたんですけれども、このようなミニリーフをつくりましたというふうに渡されました。

 大臣にお渡ししてよろしいでしょうか。

塩崎委員長 どうぞ。

小林(千)委員 大臣、これはごらんになったことはあるでしょうか。六カ国語で、英語、中国語、ロシア語、スペイン語、タイ語、タガログ語だということだそうです。このように表面に、黒と黄色ですからかなりショッキングな色使いで、英語だと「Help!」と大きく書いておりまして、一枚ぺらをめくりますと、これも結構派手な色使いで、赤と白で「私は人身取引の被害者です。警察に連絡してください。」という、手帳じゃないんですけれども、こういったものを最近警察庁さんの方がつくられたそうです。

 これはどういうふうに使うんですかと伺いましたら、例えば入管ですとか、あるいは空港の入国審査のところにこれを置いておくですとか、あるいは警察が、見回りというんですか、パトロールに例えば風俗店かいわいへ行ったときに、何か女性がいたら渡すというふうに言っていたんです。

 これは、つくったことはすごくいいと思います。でも、これを実際に、もし私が人身売買の被害者の当事者で、日本の警察の方が来て、多分タイ語を話されないでしょうから日本語で何か言って、こういうふうに言って渡された。これを持っていたら、タイ語でもちゃんと書いてあるんですけれども、店のママも絡んでいるんですよね、かえって危なくないですか。これは使い方がとても難しいというか、気をつけていただきたいと思うんですけれども、こんなものを店にいて持っていたら、かえって、ママから殴られたり監視が強化されたり、あんた何しているのと言われたりすることもあり得るような気がするんです。

 ちょっとおっかなくて、怖いんじゃないかなと思うんですけれども、警察庁の方、これはどのようにお使いになるつもりなんでしょうか。

伊藤政府参考人 このリーフレットの使い方でございますけれども、今お話がございましたように、まず、例えば入国されるときに、いろいろな事情で来られるわけでございますけれども、その際にこういったものが置いてあるとすれば、何だろうと思ってこれを手にとっていただくということで、その後で、これは警察に一一〇番すれば保護していただけるということに気づいていただくということはあります。

 また、女性なんかが多いわけですが、いろいろな国の人たちがそれぞれの国のレストランに行かれます。あるいは、いろいろな食料品店なんかにも行くことがあるわけですが、そういったところ、外国の方々が行かれるところに置いておけば、こういったところで目にしてもらうことによって、あっ、ここで警察が保護してくれるんだということで、それをきっかけに警察へ駆け込むというようなこともあります。

 現実に交番に駆け込んでこられる人身取引の被害者も結構いらっしゃるわけで、いろいろなきっかけで駆け込んでこられたと思いますけれども、そうした一助になればということでつくっておるわけでございまして、NGOの方々とかいろいろな方々に協力をお願いしながら、各方面に、そういった被害者の方が目にする機会がある場所といったところに配布するようにお願いをして、現在、配布を続けているところでございます。

小林(千)委員 御答弁いただいたんですけれども、余りにも現実とかけ離れているのではないかなという気がしてなりません。

 空港の入管のところ、入国審査のところに置いてあるということですけれども、そのときは、だまされて、日本で稼げるぞということで連れてこられるわけですから、それをとるとは思えない。入管に置いてあっても、入管にたどり着くまで行くのは至難のわざですよ。

 それから、母国のレストランですとかそういうところ、母国人が集まるところに置いてあるとおっしゃいましたけれども、先ほど参考人でお話しいただいたんですけれども、当事者の被害者の方々は、それこそ御飯も食べさせてもらえない、レストランになんか行けないんですよ。御飯も与えられないで、食べるんだったらお客と同伴して食べておいで、あるいはアフターで食べに行ってください。そんなところでとてもこういうものを手にとれる状況ではないと思いますし、かえって、母国人が集まるところというのは、ある意味で危険なところでもあるわけなんですよ、ブローカーが介入をしていたりするわけですから。

 ですので、これをつくってくださったことはありがたいことだと思います。ぜひとも、この使い道というものをしっかりと考えて使っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

伊藤政府参考人 人身取引の被害者の方はいろいろなケースがあるわけでございまして、いろいろな形で、一人で歩いておられる方ももちろんいないわけじゃないわけです。いろいろな場面でそれが目に触れるようなところに配布したいというふうに考えているわけでございまして、警察だけではなくて、関係機関、大使館、そしてNGO、あるいはいろいろな方々の御協力を得ながら、そういった方々の目に触れる機会というものをできるだけふやそうということで、枚数につきましても百万部作成しておるわけでございまして、いろいろな場面で目に触れることができるようにしておるわけでございます。

 こういった場面のときは見ることができないだろうということはもちろんあろうかと思いますけれども、いろいろな場面をつくるということが大事なことだと思いますので、そのように努力してまいりたいと考えております。

小林(千)委員 せっかくつくっていただいたものですから、ぜひとも適切な、そして効果ある使い方をしていただきたいと思います。

 そしてもう一点、当事者の方々をどういうふうに保護していくかということになると、婦人相談所、各都道府県にあるような女性相談センターですとか、そういったところが大きな役割を果たすことがきっと望まれていると思うんですけれども、大臣、これはDVのときでもよくよく御存じだと思うんですけれども、今、各都道府県の婦人相談所、女性相談センターみたいなところも大変、規模として充実されているわけではない、それはもう重々御承知だと思いますし、そこに付設されている一時保護施設というところももうほとんど満杯の状態で、民間シェルターに委託をしている。ところが、その民間シェルターというのも、大変な財政難の中でやっている。

 今、各都道府県や市町村から補助を受けているところもありますけれども、この財政難の折で、その補助を今どんどん切られていって、うちのシェルターはもうやっていけないというところで、シェルターがなくなってきているのが現状です。そういうところに、婦人相談所を活用しましょう、民間シェルターも活用して、一時保護委託をお願いしましょうというからには、やはり財政的支援というものは当然伴わなければいけない。DVのときにもお話ししましたけれども、一日一人頭七千円の日当、日割りでは、とてもじゃないけれどもシェルターというものは存在していけないんですね。それは、大臣、よくよく御存じだと思います。

 こういった婦人相談所あるいは民間シェルターに対しての金銭的な支援、そして医師の診療、通訳、カウンセリング、こういったところにもお金がかかります。こういったところもしっかりと対策をとれるんでしょうか。

伍藤政府参考人 先ほどもお尋ねがありましたのでお答え申し上げましたが、婦人相談所の一時保護施設、満杯だ満杯だと言われますが、全国四十七カ所の定員七百人で、平均的な実績では、今、各都道府県を通じて五〇%程度の利用率ということになっておりますから、それぞれの都道府県すべてが満杯で受け入れられないという状況ではないということをまず御認識いただきたいと思いますし、過去三年、十四年度に二名、それから十五年度が六名、十六年度二十四名、それぞれ警察あるいは入管から御照会があって、婦人相談所で保護しておりますが、こういったところでもそれぞれ十分に対応できておるというふうに考えております。

 それから、一時保護所以外でも、民間シェルター等に今年度から新たに一時保護委託ができるという制度を導入いたしまして、既に、ことしの五月現在、今二件、そういう制度を新しく活用して民間シェルターに委託をしておるというふうに聞いておりますが、こういうことが普及して知られてくれば、こういうことを活用して、一時保護で直接預かる場合、それから民間施設を活用する、両面あわせていけば十分対応できるものというふうに考えております。

小林(千)委員 確かに、全国平均で、押しなべて平均すれば稼働率五〇%なのかもしれないですけれども、DVの被害者もそうなんですけれども、顔が割れてしまうような小さな村には逃げないんですよ。人口がたくさんいて、紛れてもわからないようなところに逃げるわけなんですね。

 そういうところはどういうところかといいますと、大使館のあるような、これは東京に圧倒的に集中しておりますけれども、大都市であったり、各国の領事館があるようなところというのは、政令指定都市である部分がほとんどです。そういうところが、きっと今回の人身売買の被害者の方も、一時保護される場所であるというふうに多分、大使館に行っていろいろと出国手続をしたり、領事館だったりするでしょうから、そういうところが一番ニーズとしてあるんです。

 そういうところへの、例えば今金銭的なお話にもなりましたけれども、そういった一時保護委託費、こういったものはしっかりと、一時保護、通訳、医師の診療、カウンセリング、こういったところにもちゃんと財政的措置はされるんでしょうか。

伍藤政府参考人 必要に応じて、各都道府県で対応できるように措置をしておりますし、今までの実績を見ましても、大都市部というか、今までの私どもの婦人相談所で預かった実績では長野県が一番多いわけですが、長野県を初め、愛知県その他、首都圏近郊、そういったところで引き受けているようなケースが多いという状況になっております。

 それから、それぞれのところで引き受けた暁には、必要な通訳、それからカウンセリング、カウンセリングは、婦人相談所に心理担当の職員あるいは心理判定員というのが必ず配置されるようになっておりますから、そういう人が通訳と協力をして、できるだけ相談にあずかるということをやって、最大限努力してやっていただきたいというふうに私ども都道府県にお願いをしておるところでございます。

小林(千)委員 実際、民間シェルターは大変厳しい中で運営をされているところがほとんどですので、しっかりとそういった対応措置をとっていただきたいと思います。

 そして、最後、外務省の方に伺いたいんですけれども、この一番下のところ、「被害者の母国における社会復帰」。

 当事者のお話を伺いますと、帰国をされた後、なかなか自分の住んでいた故郷に戻れるものではない。周りの白い目もある。日本で何か危ない仕事についていたんじゃないか。稼いで帰ってくるとは言ったけれども、一文なしになって帰ってきてしまった。それと同時に、やはりブローカーにねらわれるのではないか、家族がねらわれるのではないか、さまざまな危惧があります。被害者が自国に戻ったとしても、なかなか自分の出身地、ホームタウンに戻れるということは、難しい場合も当然あるでしょう。

 具体的に、被害者の母国における社会復帰というものを、これは外務省が担当されるそうですけれども、その当事者にどのようにされるつもりでしょうか。

神余政府参考人 お答え申し上げます。

 まさに先生御指摘のとおり、個人の保護、能力の強化ということ、そして安全に生活ができるようにするということが何にも増して大切でありまして、こういう個人の保護、能力の強化ということを掲げて、外務省としましては、人間の安全保障ということを外交の柱の一つに据えてやってきておるわけでございます。

 そういう人間の安全保障という考え方のもとに、国連に創設いたしました人間の安全保障基金というものを通じまして、人身取引被害者の帰国後の社会復帰支援なども積極的に行ってきております。例えば、平成十五年には、国連開発計画、UNDPが実施します南アジアにおける人身売買及びエイズ対策プロジェクトに対しまして約百三万ドルの支援を行っております。

 そのほか、国連の薬物犯罪事務所というのがございますけれども、それが実施いたしますフィリピンにおける人身売買の被害者の支援プロジェクト、それから、ILOという機関がございますけれども、国際労働機関が実施しますカンボジア及びベトナムにおける児童及び女性の人身売買の防止プロジェクトに対してそれぞれ二十四万ドル、それから百二十一万ドル等の支援を行っております。

 もちろん、これは一部の例でございます。外務省としましては、今後も人間の安全保障基金などの枠組みを活用いたしまして、職業訓練、あるいは女性の社会復帰、被害者の社会復帰が一刻も早く行われますように積極的に取り組んでまいる所存でございます。

小林(千)委員 今御説明していただいた内容だと、どっちかというと、被害者個人への支援というよりも、発展途上国の場合が多いんですけれども、そういったところの貧困解決、あるいは女性の人権の確立ですとか教育の充実ですとか、そういった大きな国際協力の枠組みの中であるような御答弁をいただいたような気がしてなりません。

 被害者個人に対する支援、これは、外務省が行うというのはなかなか方法としては難しいと思いますけれども、現地のNGOですとか、活躍している団体はたくさんあります。そういうところの取り組みというものも重要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

神余政府参考人 まさに、御指摘の点、そのとおりだと思います。

 外務省がやれることはもちろん限りがありますけれども、そういう被害者の方々が社会に復帰できるように、そして、それを本来は当該国が行うべきところでありますけれども、そこに所在しております国際機関、あるいは先生御指摘のNGOなどなどを活用しましてそういう社会復帰を進めていくということは、これからますます大切になってくると思います。

 そういうことも考えて、人間の安全保障基金だけではございませんけれども、いろいろな枠組みの中で、国際機関とNGO、そういった連携をとるようこれからも努力をしてまいりたいというふうに思っております。

小林(千)委員 ぜひよろしくお願いをいたします。

 時間が押し迫ってまいりましたので、最後に一つ、入管メール通報システムについてお伺いをいたします。

 これは二〇〇四年の二月から始められたシステムで、法務省の入国管理局のホームページ上に、怪しい外国人を見たら通報しろ、はっきり言ってしまえばそういうような内容のメール通報システムで、当初始まったときは、余りにも内容が、迷惑をかける外国人ですとか、そんなものもあったものですから、一部一カ月後に訂正をされたようですけれども、引き続きこのメール通報システムというものは今でもホームページ上でございます。

 二〇〇四年二月から始まって、もう一年半たつわけなんですけれども、この通報システム、開始時から今まで、直近でよろしいですけれども、全通報件数が幾つあったか、そのうち匿名で寄せられた件数は幾つあったか、そしてその通報件数のうちオーバーステイに関する通報件数は何件だったか、そしてオーバーステイに関する通報件数のうち実際に摘発に至った件数及び摘発された人数は何名だったか、それぞれお答えいただきたいと思います。

三浦政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘のように、二〇〇四年の二月十六日に開始されておりますが、本年、二〇〇五年三月の末日までの数字で申し上げます。

 入国管理局のホームページの情報受付に寄せられた電子メールの件数でございますが、約七千二百件となっております。(小林(千)委員「トータルで」と呼ぶ)はい、トータルでございます。このうち、入管法違反者と思われる者に関する情報提供が約六千件ございまして、この情報受付に関する意見、こういうホームページとして出しているそのものに関する意見が約八百件でございます。

 この電子メールによる情報提供をもとに地方入国管理局などにおきましてその内容を精査しました結果、同一期間におきまして三百三十一人を摘発しております。

 なお、平成十六年七月以降の電子メールについてでございますが、この情報提供のうち匿名で送付された割合は約九割となっております。

小林(千)委員 ほとんどが匿名で来ているわけですね、九割ということは。

 三百三十一人摘発されているというふうにおっしゃいましたけれども、件数としては何件ですか。

三浦政府参考人 申しわけございませんが、件数の資料を持ち合わせておりません。件数まで出しておりません。人数でしか数えておりませんので、件数についてはちょっとわかりません。

小林(千)委員 七千二百件、超過滞在者数に関しては六千件の中で三百三十一人の摘発に至ったということですので、これが多いか少ないかというような判断は一概にはできないと思いますけれども、しかしながら、九割、ほとんどの方が匿名でこのような通報をしている。

 それで、実際、この通報というのが人権侵害に当たるのではないか。この人は不法滞在ではないかというような外国人を見かけたら通報しなさい、匿名でも構いませんよ、こういうような受けとめられ方をしている。これは一年前にも質問をしているところなんですけれども、この通報制度というものが、一体、外国人排除というような人種差別を助長するような制度として使われていないかということは何回も指摘を受けているところだと思います。

 この通報システムに関する意見というものは、今まで何件か入管の方に来ていたでしょうか。

三浦政府参考人 先ほど御答弁を申し上げましたのが、八百件という数字を御説明いたしましたが、あの八百件が、情報ではなくて、このメールに対する意見でございます。

小林(千)委員 メールの存在自体に対する意見ですよね。八百件寄せられている、内容についてはいろいろとあると思いますけれども。

 このメール通報システム自体についてお伺いをしたいと思います。

 なぜこのような制度が存在をしているのか。解釈の一つに、通報制度というものは刑事訴訟法の二百三十九条第一項の告発と同趣旨の規定であるという考え方があります。刑事手続における告発と同趣旨の制度を行政手続である退去強制手続において規定したものであるから、同条項に言う、六十二条一項に言う通報というのは、単に一般的な意味での情報提供を意味するものではなくて、告発と同じ意味を有している。告発というふうに定義をとりますと、匿名の投書ですとか密告、あるいは電報による場合というものは有効な告発とは認められないとされております。

 このシステムによる情報提供をもって告発と同じ意味を有するところの通報ということにはできないんじゃないんでしょうか。入管法六十二条一項をもってこのシステムを根拠づけることはできないのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。

三浦政府参考人 御質問の入管法の六十二条一項の規定は、「何人も、第二十四条各号の一に該当すると思料する外国人を知つたときは、その旨を通報することができる。」こういう規定でございます。「第二十四条各号の一」というのは退去強制事由のことでございます。つまり、退去強制事由に該当すると思われる外国人を知ったときにはその旨を通報することができる、通報先は入管ということになっておるわけで、こういう規定でございます。

 この規定に基づきまして、入管局におきましては、これまでも電話や手紙で国民の方々からお寄せいただくさまざまな情報を摘発の貴重な端緒としてきておったわけでございます。これはまさに今読み上げました六十二条第一項の通報を根拠として情報を提供していただいたわけであります。

 今回、メールを新しく導入しているわけでございますけれども、これもまさに情報提供を受け付ける手段に新しいものが加わったという位置づけでございまして、根拠としては六十二条第一項が該当するというふうに考えております。

 なお、刑事手続における告発についての御質問がございました。刑事局長がおられるので、私が刑事訴訟法のことを御説明するのはちょっとどうかと思うんですが、立場上、若干説明させていただきます。

 いわゆる刑訴法上の告発といいますのは、被害者その他の告訴権者ですとか、犯人並びに捜査関係機関以外の第三者が、捜査機関に対しまして犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求める、刑事訴訟法上の意思表示であるというふうにされておるわけであります。これは、犯罪捜査との関係から申しますと、捜査の端緒ということになるわけでございます。

 一方、今申し上げました入管法の六十二条第一項の通報につきましても、入国警備官による違反調査の端緒となるという意味では、同様の制度であるということは言えるかと思います。

 ところで、委員御指摘の匿名の投書などにつきましては、御指摘のとおり、法律上の告発とは言えないというふうにされておるわけであります。刑事訴訟法の告発の場合は、告発人は、検察官が公訴の提起をしたか提起をしなかったかといった処分をする際に、速やかにその旨の通知を受けることができるというような規定が刑訴法にございますし、また、一定の犯罪につきまして、検察官の公訴を提起しない処分に不服がある場合には、付審判請求という制度がございますが、この請求を行うことができるということに法律上されているなど、さまざまな法的効果を生ずる制度でございます。

 こういった観点から見ますと、告発人の真実の氏名が表示されていないにもかかわらず、これらの刑訴法上の効果を生じさせるということは適当でないということから、今申し上げたような扱いになっているものと私は承知しておるわけでございます。

 他方で、入管法の六十二条の一項の通報につきましては、そのような規定はないわけでありまして、法的な効果において刑訴法上の告発と大きな違いがあるわけでございまして、通報が法律上有効であるための条件につきましても、告発と同一でなければならないというものではないということなどにかんがみますと、匿名の電子メールによる情報提供も、入管法六十二条第一項に根拠を有しているというふうに解されるわけでございます。

小林(千)委員 時間が終わってしまいましたので、この入管メール通報については、また後で質問をさせていただきたいと思います。

 人身売買被害者保護につきましては、ぜひとも包括的な体制整備を整えて、実効ある保護をしていただきたく、お願い申し上げまして、質問を終わります。

塩崎委員長 次回は、来る十四日火曜日午前九時十分理事会、午前九時二十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時十二分散会


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