衆議院

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第5号 平成17年10月14日(金曜日)

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平成十七年十月十四日(金曜日)

    午前十時二分開議

 出席委員

   委員長 塩崎 恭久君

   理事 田村 憲久君 理事 早川 忠孝君

   理事 平沢 勝栄君 理事 三原 朝彦君

   理事 吉野 正芳君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    井上 信治君

      稲田 朋美君    近江屋信広君

      太田 誠一君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    菅原 一秀君

      谷  公一君    藤井 勇治君

      三ッ林隆志君    水野 賢一君

      森山 眞弓君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      山本ともひろ君    石関 貴史君

      枝野 幸男君    河村たかし君

      玄葉光一郎君    津村 啓介君

      伊藤  渉君    保坂 展人君

      今村 雅弘君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         南野知惠子君

   内閣官房副長官      杉浦 正健君

   内閣府副大臣       林田  彪君

   法務副大臣        富田 茂之君

   総務大臣政務官      松本  純君

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   最高裁判所事務総局総務局長            園尾 隆司君

   最高裁判所事務総局人事局長            山崎 敏充君

   政府参考人

   (内閣法制局第一部長)  梶田信一郎君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    縄田  修君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (社会保険庁運営部長)  青柳 親房君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月十四日

 辞任         補欠選任

  秋葉 賢也君     赤池 誠章君

  近江屋信広君     藤井 勇治君

  松島みどり君     菅原 一秀君

同日

 辞任         補欠選任

  赤池 誠章君     山本ともひろ君

  菅原 一秀君     松島みどり君

  藤井 勇治君     近江屋信広君

同日

 辞任         補欠選任

  山本ともひろ君    秋葉 賢也君

    ―――――――――――――

十月十二日

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第二二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出第二二号)

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

塩崎委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣法制局第一部長梶田信一郎君、法務省刑事局長大林宏君、社会保険庁運営部長青柳親房君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局園尾総務局長及び山崎人事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。津村啓介君。

津村委員 民主党・無所属クラブの津村啓介でございます。法務委員会での質問は初めてになります。どうぞよろしくお願いします。

 まず最初に、犯罪収益の分配の問題について伺ってまいります。

 去る十月六日、法制審議会から、犯人から財産犯等の犯罪収益を剥奪して、これを被害者の財産的被害の回復に充てるための法整備につきまして答申がございました。

 現在の組織的犯罪処罰法におきましては、被害者は民事訴訟法上の損害賠償の請求権等がございますけれども、しかし実際には、その権利を行使せずに泣き寝入りをするケースが多いというふうに聞いております。

 昨今では、いわゆる振り込め詐欺ややみ金融など、暴力団等の組織的な犯罪集団がこういった犯罪を行うケースがとみにふえていると思いますし、実は私の身近でも、やや遠い話かなと思って新聞等は見ておったんですが、私の周囲でも、振り込め詐欺の被害に遭われて、御子息の名前をかたられて、何百万円だったでしょうか、大きな被害に遭われた方がいらっしゃいました。

 そういった身近な事例を見て、大変この問題は大きな問題だなと痛感した次第なんですが、今回の答申を受けて、新聞報道によれば、来年の通常国会には法案が提出されるというようなことも出ておったんですけれども、具体的な施行時期も含めて、現在の検討状況につきまして法務大臣にお尋ねしたいと思います。

南野国務大臣 御質問にお答えいたします。

 お友達は大変だったなというふうに思っております。

 先生御指摘のように、犯人から財産犯等の犯罪収益を剥奪し、これを被害回復に充てるための法整備につきましては、去る十月六日に、法制審議会において要綱が採択され、答申をいただいているところでございます。

 現在、この答申を踏まえまして、できる限り速やかに法案を提出できるよう立案作業を進めているところでございますので、法案の具体的内容を今の段階で申し上げることはちょっとできかねるところでございますけれども、答申にもございますように、一つとしては、犯罪被害財産の没収、追徴の禁止を見直し、これにより、没収、追徴した財産を被害者の被害回復に充てることができるようにすること、さらに、当該事件におきまして没収、追徴した財産を財源にして、検察官が、起訴された犯罪行為の被害者及び当該犯罪行為と一連の犯行として行われた犯罪行為の被害者等に対し、被害回復給付金を支給することなどを内容とするものとなると考えております。

 今後、立案作業を進めるに当たりましては、この手続による被害者等への被害回復給付金の支給ができるだけ公平、適正かつ迅速に行われますようにとの視点を踏まえつつ、引き続き作業を続けてまいりたいと考えております。

 また、施行時期についてのお尋ねでございましたが、いつ法案を提出することができるかにもかかわるものでございますので、現在検討している段階でございますが、この手続による被害者の被害回復を図るためには、公布後できるだけ早期に施行すべきと考えられる一方、検察の現場への周知等の相応の準備期間を設ける必要もございます。これらの事情を勘案いたしまして、引き続き検討してまいりたいと思っております。

津村委員 ありがとうございます。

 御丁寧に答弁いただいたわけですけれども、これまでも被害者の救済については、全くその方法がなかったわけではなくて、先ほども申し上げましたように、民事訴訟法上の損害賠償請求権というものはあった。しかし、組織対個人ということでもありますから、なかなか個人が表に立って組織と闘うといいますか、訴訟するというのは気おくれするということが恐らくあって、泣き寝入りをするケースが今までは多かったということで、ここに法務省として被害回復給付金ですか、新しい制度を設けられるということは大変意義深いと思うんですが、やはり、その実効性を担保していく、今までの泣き寝入りをなくしていくという、そこの取り組みのところが大変実はキーになっていくのかなというふうに直感的に感じております。

 そういった意味で、その実効性を上げていくには、あなたはこの給付金の対象になり得るよということをできるだけリアルに伝えていくことが大切だと思うんですが、そのための広告の手段、周知の方法というのは、官報等にちょっと載っているということではなかなか、つぶさに見ている方は少ないわけですから、実効的な周知の方法ということについて、現在の検討状況をお知らせください。

南野国務大臣 御指摘のような御意見については、法制審議会でも議論がなされたものの、財産犯罪の被害者の中には、被害回復給付金の支給を申請する意思を持っていない被害者の方もいらっしゃるということでございます。そのような被害者の情報を国が不必要に把握してその私生活の平穏を害するといったことがないようにする必要もあるとの意見もございまして、結局、採用されるには至らなかったものというふうに承知いたしております。

 いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたとおり、法制審議会の審議の内容または委員の御指摘も踏まえ、引き続き検討を進めてまいりたいと思っているところでございます。

津村委員 ありがとうございます。

 続きまして、最高裁判所の国民審査制度につきまして御質問したいと思います。

 最高裁の国民審査制度につきましては、毎回選挙のたびになかなか不思議な制度だなという印象を持ちますし、また、つい先般、九月二十九日には、アメリカの連邦最高裁長官、新しくロバーツさんという方だそうですけれども、指名、承認というニュースも出ておりました。前任のレンキスト前長官が十九年間も在職されていたということや、今回、ロバーツさんが五十歳という若さであることも含めて大変大きく報道されたようで、日本国内でも何度かその報道に接したわけですけれども、そうした報道を見るにつけ、彼我の違いといいますか、アメリカと日本の最高裁の認知度といいますか、国民社会における存在感を、こういった最高裁の方もお見えなので失礼ですけれども、感じることがございます。

 これは私の個人的な経験なんですが、実は、大学時代に憲法のゼミに入っておりました折に、その教授から、最高裁の判事は学者からも枠があるわけですけれども、大変やりがいのある仕事なんだ、しかし、アメリカと日本では最高裁判事の存在感というのは大きな違いがあるんだ、アメリカで多少法律に関心のある人であれば、日本人が閣僚の名前を、南野大臣いらっしゃいますけれども、国民がある程度の方は法務大臣といえば南野さんというふうに認知されているのと同じように、連邦最高裁判事の名前を何人かは言える人がアメリカにはたくさんいるんだという話がありました。

 それに対して、日本人でどれだけ最高裁の判事の名前を覚えている人がいるんだというような話をされて、私も法学部の憲法学の学徒だったわけですけれども、しかし、私もほとんど、判例で見たことがある何人かの方を思い出す程度で、なかなか思い浮かばないというのが現実でもございました。

 今般、司法の信頼を高める意味も含めて、司法制度改革ということが、開かれた司法ということが声高に言われておりますし、実際に法制度の面からはさまざまな整備も進められて、法務省さんも大変汗を流されているところだと思うんですが、こうした最高裁の長官も含めて判事の方々が日々仕事に精励されているわけですから、その業績というものはどういったものかということをより国民に知らしめて、この国民審査制度というものも、いわゆる解職制度でございますけれども、そういうネガティブな面だけではなくて、仕事を知ってもらう貴重な機会だというふうに前向きにぜひおとらえいただいて、もう少し国民から見てなじみのある制度として活用いただければいいのではないかな、そういったことを今回、私自身総選挙を戦う中で国民審査制度の投票にも参りましたし、また、このロバーツ新長官の指名、承認人事などを見て改めて感慨を持ちました。

 そういった問題意識でお尋ねしますけれども、国民審査制度の現在の意味づけあるいは今私の申し上げたようなことについて、大臣はどういった御感想を持たれるか、御所見を伺いたいと思います。

南野国務大臣 先生の御意見を拝聴させていただきました。

 最高裁判所判事の国民審査の制度ということにつきましては、国民が、既に内閣の意思に基づきまして、天皇または内閣によって任命された裁判官を罷免すべきか否か、これを決定する一種の解職の制度であるということでございます。最高裁判所の裁判官にふさわしくない裁判官が任命された場合に、国民の投票により解職できるという司法の民主的基礎を明確にする重要な制度であると理解しております。

 先生がおっしゃるように、最高裁の仕事、これを国民にもっとわかってもらうためには、本当に、こういった者がふさわしくないとまで判断されることがなかったことであろうと考えておりますので、そういうふうなことを注視してまいりたいと思っております。

津村委員 今のお話というのは、今まで、近いところでは平成十二年だったかと思いますが、高村法務大臣の御答弁の流れに沿ったものだと思うんですけれども、私が先ほど私自身の考えとして申し上げたのは、解職制度というのはややネガティブなというか、司法の民主的基礎ということについてはおっしゃるとおりだと思います。しかし、申し上げたように、その枠を多少超えて、積極的な意義、今日的な意義を見出すべきじゃないかというのが私の先ほど申し上げた意味で、ぜひ御感想も伺いたいと先ほど申し上げたんですが、もう一度御答弁いただけますか。

南野国務大臣 先生おっしゃるように、国民にもう少し理解できるような広報ということも必要でしょうし、そういう方々の役割ということについて、本当にプラス思考で我々は持っていかなければならないということもあろうかと思っております。

 先生の御意見を拝聴し、考え直してみようと思っております。

津村委員 それでは、総務省の方も来ていただいておりますので、少し実務的な側面からお話を伺っていきたいと思います。

 現在、この数年の国民審査制度に関する議論といいますと、平成十二年、十三年ごろの司法制度改革審議会で、さらに判断材料をより多くの方に提供していくことが重要だろうというようなことが議論されたようで、それを受けて、総務省さんが審査公報の字数制限撤廃、私はこれは相当地味な取り組みだなと思うんですけれども、この字数制限の撤廃を含めて、国民審査に当たっての判断材料の充実というものに取り組んできたということが一応公式なお話だと思うんですが、正直申しまして、そういったことがあったことすら私も実は知りませんでしたし、国民の多くの皆さんは、最近、最高裁の国民審査制度で大分情報はふえてきたなという印象はなかなか持たれていないんじゃないかなという感じがいたします。

 やっていますよと言うのは簡単なことですけれども、国民の皆さんに実際どれだけ伝わっているかということを検証する営みも当然必要で、例えば内閣府さんが時々されるような国民に対する意識調査とか、手法は幾つかあると思いますけれども、今どういうお取り組みをなされているのか、総務省の方に伺いたいと思います。

松本大臣政務官 お答えいたします。

 国民審査に対する国民の関心を高めるためにつきましては、ただいま先生から御指摘のありましたように、平成十五年におきましては、審査公報の掲載内容について、字数制限が一千字でありましたが、これを撤廃する、あるいは写真等の使用制限を撤廃するなどの手をとってまいりまして、各裁判官に一定の枠内で自由に記載をしていただくなど、国民の判断材料の充実を図ろうというための政令改正などが行われてきたところでございます。

 今後とも、最高裁判所等とも相談しつつ、この判断材料の充実として何ができるか考えていきたいと考えておりまして、その際に、必要があれば国民の御意見を直接お聞きする、そんな機会も考えてまいりたいと思っております。

 なお、国民審査のときだけでなく、日ごろから裁判、司法制度に関して一般国民が関心を持って身近に感じるようにしていくことが極めて重要であると考えておりまして、関係当局にも御協力をいただき、裁判そのものに対する国民の関心を高めていくことが期待されているところと承知しております。

津村委員 国民の声を聞く機会を設けていくというふうに今おっしゃられたと思うんですが、新しくそういう機会をつくるということでよろしいですか。

松本大臣政務官 これにつきましては、私どもだけで進めるということはなかなか困難でございまして、最高裁判所等とも相談をしつつ、その体制を整えていきたいという考えでございます。

津村委員 ごめんなさい、ちょっとよくわからないんですけれども、今のは御答弁が変わったということですか。

松本大臣政務官 この国民の声を聞いていくということについては、総務省だけではなくて、共管でありますので、当然、法務省あるいは最高裁判所等とも御相談をしながら、一体何ができるのかということについて、まず方向性も示していかなければなりません。そのための判断材料の充実という中身についてはこれからまだ詰めていかなければなりませんので、そのためにこれから検討をさせていただきたいということでございます。

津村委員 ちょっと二つの話をまぜていらっしゃるなと思います。

 私が申し上げているのは、判断材料の充実というのは非常に重要ですし、それについて総務省さんが現在取り組まれたとおっしゃるのは、字数制限の撤廃と写真の掲載を認めるというか、条件を緩和したということでしょうし、後ほど最高裁の方にも、質問通告もしていますし、お尋ねする予定でしたが、ホームページを充実させているというお話も恐らくこれから伺うんだと思います。それは判断材料の充実の話であって、私がもう一個伺ったのは、それに対する効果を検証する作業を、国民に対する意識というか、国民にどれだけ伝わっているかという検証作業をされていますか、多分されていないので、するべきじゃないですかということを私は御質問しました。

 それに対して大臣政務官は、先ほどの御答弁をお読みになる中で、国民の声をこれから聞いてまいりたいということをおっしゃったので、つまり、今までしていないことをこれからするというお話を初めて言われたのかなと思ったものですから、そうですねと確認したのです。判断材料の充実の話ではなくて、検証作業をこれから始められるということを御答弁されましたよねという確認です。

松本大臣政務官 ただいまの御指摘などを踏まえまして、必要があれば国民の御意見をお聞きする機会も得たいということで考えたいということでございます。

津村委員 ごめんなさい、議事録がないのですぐにはわからないですけれども、必要があればということが突然ついたのでちょっと私は戸惑っているのですが、私は必要性を指摘して、ぜひするべきだと思うのでというのが最初の質問で、大臣政務官は、大事なことだと思うのでこれから聞いてまいるというふうに必要性をお認めになったのに、今、必要があればというふうに、今度は話がもとに戻られたのはどうなんでしょうか。

松本大臣政務官 この件につきましては、何度も繰り返しで恐縮でございますが、後ほど御答弁もあろうかと思いますが、最高裁判所等とも御相談をさせていただく中でのことでございまして、その中で必要があるということが認められれば、国民の御意見をお聞きする機会を得たいという意味でございます。

津村委員 後ほど、最初の御答弁の会議録を私ももう一回よく読みたいと思います。

 押し問答になるので次に行きますが、最高裁の方もお見えだと思います、総務局長さんでしょうか。最高裁の判事の、今、ホームページを大分充実させたということを多分、時々拝見するんですけれども、私自身はそのホームページがどれぐらいヒットしているのかとかわかりませんが、どういうふうにそれが十分だと御判断されているのか。ヒット数とかもあるでしょうし、今申し上げたような国民の調査とか、あるいはもしかしていろいろな感想が文書で寄せられているのかわかりませんけれども、やっていますよと言うだけではそれはやったことにならないので、どの程度の効果があるかをぜひ検証されるべきと思っています。

 そういった観点から、最高裁の判事に関する情報をどれぐらい最高裁として情報開示しているのか、現在のお取り組みについて、自己評価をお聞かせください。

園尾最高裁判所長官代理者 まず、最高裁判所のホームページの内容についてですが、このホームページにおきましては、「最高裁の裁判官の紹介」という項目を設けまして、ここに最高裁判事の写真を掲載いたしますほか、経歴、信条、趣味などを掲載しております。

 これに加えまして、最高裁ホームページオリジナルの情報といたしまして、各裁判官が最高裁判所において関与された裁判例を紹介しております。ここには、当該裁判官が関与された判決の事件名、裁判年月日、それから判示事項、全員一致であったかあるいは多数意見ないし少数意見であったかなどが掲載されておりまして、さらに、判例に関しましては、そのホームページ内で判決全文にアクセスすることも可能であるという状況にしてございます。

 このホームページに国民の皆さん方にアクセスをしていただくことによりまして、各裁判官の人となりや、どのような裁判を行っているかについて知っていただく一助になるものと考えておりまして、また、これは同時に最高裁裁判官の国民審査の際の判断資料としても役立てていただけるというように考えておるところでございます。

 その最高裁のホームページのヒット数ということですが、これは、ひところ前には十万件台というようなところであったのですが、最近の数値を見てみますと、今のは一カ月の件数ですが、一カ月に百万件を超えるような状況にもなっておりまして、これがどういう現象なのかはまだ、よく分析をしてみたいと思いますが、大変ヒット数が多いという状況になっております。

 私どもといたしましては、今後とも、司法制度改革審議会の意見もございますので、その趣旨も踏まえまして、ホームページの掲載情報の充実を図ってまいりたいと考えております。

津村委員 一カ月で百万ヒットが多いのか少ないのか、ちょっと議論のあるところだと思うんですけれども、その議論は深入りしませんが。

 先ほど申し上げたように、今かなり詳細に御答弁いただいたとは思うんですけれども、これまでの最高裁そして総務省さんのこの問題に対する御説明というのは、これはやっていますよという話だけで、それがどの程度数字的にアピールできているかということの検証というか振り返りということが余りされていないように、少なくとも報道はされていないというふうに思うものですから、先ほど、必要性について大臣政務官から最高裁とぜひ話をしたいというお話をいただきましたので、ぜひ目に見える形で今後取り組んでいただければと思います。また、必要と私が感じましたら、この問題についてお話を伺っていきたいと思います。

 その数字的な評価の、私が今すぐできることとして思いついたことについて伺います。それは、実際に国民審査制度に棄権も含めてどのぐらいの方が投票されているのかということについてですが、まず、大臣政務官、数字をお伺いしたいと思います。

 衆議院の総選挙と同時に行われると憲法にも定められているわけですが、衆議院の小選挙区で投票した方で、しかし最高裁の国民審査の投票はしなかったという方が世の中にはいると思うんですが、過去五回の総選挙において、この国民審査投票だけしなかった方の数の推移を伺いたいと思います。

松本大臣政務官 過去五回の国民審査における投票者数は、いずれも同時に行われた衆議院議員の選挙、これは四十回については中選挙区で四十一回から小選挙区になっておりますが、この投票者数よりも少なくなっているところでありまして、その差につきまして、過去五回にわたって御報告をさせていただきたいと思います。

 第四十回、約二百九十一万人、第四十一回、平成八年の十月でありますが、約二百四万人、第四十二回、平成十二年でありますが、約二百一万人、第四十三回、平成十五年でありますが、約百七十八万人、第四十四回では約二百八万人となっております。

津村委員 投票率との関係もありますので一概には言えないと思うんですが、一つの大きな背景になっている実務的なことで、実は、これは知らない方もいらっしゃると思うんですが、衆議院の期日前投票というのは告示の翌日から行うことができますけれども、この国民審査制度についてはその四日後ないし五日後。これは過去五回でも、四日後からできたときと六日後からできたときと少しばらばらのようなんですけれども、期日前投票に行ったんだけれども最高裁の国民審査に投票できないという日数が四日ないし五日あるということだと思います。

 その理由としては、何やら投票用紙の印刷が間に合わない、そういう理由だと聞いておりまして、それを投票するためにはもう一回期日前投票に行けばできるんだというような御説明をいただいて、大変不思議な制度というか、そういうことでいいのかなという気がしているんですけれども、これは今後改善されていくということはないんでしょうか。

松本大臣政務官 最高裁判所の裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民審査に付すこととされております。これを受けて、総選挙の公示までに任命された裁判官を国民審査に付すこととしております。

 また、国民審査は、裁判官の氏名を印刷した投票用紙にバツの記号を記載する投票方法を採用しておりまして、投票用紙の調製、印刷、送致に時間を要することから、国民審査の期日前投票の期間を衆議院議員選挙の期日前投票の期間と合わせるということについては困難でありまして、現行制度では選挙の期日前七日からとなっているところであります。それまでの間に衆議院議員選挙の期日前投票を行う場合には同時に国民審査の期日前投票を行えないということから、衆議院議員選挙に比べて国民審査の投票率が低くなっている一因とも考えられているところで、先生の御指摘のとおりと存じております。

 この記号式投票を維持しつつ、期日前投票期間を衆議院議員選挙と同じ公示日の翌日からとするためには、公示日の一定期間前に審査に付される裁判官を確定させる必要がありますが、審査に付す裁判官の確定時期については、少なからず憲法解釈の問題を含むということから、慎重な検討が必要と考えているところでございます。

津村委員 済みません、憲法解釈の問題とはどういう問題ですか。

松本大臣政務官 これは第七十九条でございますが、この二項に書かれておりますように、最高裁判所の判事の任命は、その任命後初めて行われる衆議院選挙の際ということで、この衆議院選挙が行われる際という時期をどこでとらえるかという位置づけ、日程的な区切りの部分をどこにするかということについて、現在の考え方では、公示前までのぎりぎりのところを目指して手続がされているところでありまして、今後それが、その前に区切らないと印刷等の手続が間に合わないということになりますので、その前をいつまでに区切るかということについて、憲法上では初めての衆議院選挙の際にという指定がされているところでありますので、そこの解釈をどのようにするかということは、慎重に今後また検討をしていかなければならないと考えているところであります。

津村委員 済みません、いま一つ意味がよくわからなかったんですけれども。

 きのう、ちょっと事務方の方とお話ししたときには、何か、告示日にならないと審査の対象となる判事を確定できない、極端に言うと、告示日の前日に亡くなられるかもしれないわけですしというような、そういったお話だったかと思うんですけれども、それは、一つは、ずっといらっしゃることを前提に用意しておけば、多くの場合、問題は起きないでしょうし、あるいは、投票用紙の体裁にももしかしたら工夫の余地があるのかもしれません。いずれにしても、四日間国民審査制度の投票の自由が失われるというか、もう一回行かなきゃいけないという負担がそこに発生すると、どうしても投票率が下がるのは事実としてあるわけですから、制度として大分改善の余地があると思うんですが、改善の余地があるとは思われませんか。

松本大臣政務官 これにつきましては、憲法七十九条で「任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、」とされているこの部分でありますが、任命後初めて行われる総選挙とは、任命後初めて公示される総選挙という意味でとらえておりますので、この解釈の学説が既にあるところでありまして、公示の一定期間前に審査に付す裁判官を確定するということになりますので、解散されたときと公示をされたときのタイムラグなどについて、その対応についていろいろな意見があるというところでありまして、この解釈も含めて慎重な検討が必要という立場に今あるところであります。

津村委員 端的に言って、これはもう改善の余地はないということですか。技術的な問題なのか、いま一つ問題がよくわからないんですが、印刷技術が早くなればいいということなんですか。

松本大臣政務官 今現在の手続、印刷をする、配るなどのさまざまな手続の方法の中では、改善をしていくというのは大変困難な状況にあるということでありますが、では、将来にわたってそれが全く改善されないかどうかということについては、いろいろな電子的な投票の方法など、あらゆる角度からの検討がなされたときに、可能性はないということは言えないと思っております。

津村委員 現場の方は大変苦労されているわけでしょうから、一概に総務省さん全体の怠慢だとは申し上げませんが、しかし、立法といいますか、制度設計をされる方については、これはもう少し努力をされてもいいのかなというふうに思います。この四日間の空白というかずれが国民審査制度の投票率を下げているということは明らかな事実だと思いますし、先ほどそういう背景があるということもおっしゃっていたわけですから、そこは問題を認識されているということでしょうし、ぜひ改善に取り組んでいただきたいと思います。

 ほかの質問もありますので、次に行きます。

 やはり、最高裁のこの国民審査制度について、これは最高裁の判例もありますが、その後の高裁の判決と多少食い違っていることが一つございます。特定の裁判官の審査に対する棄権の自由という問題ですが、何人かの裁判官の名前が列記されている、そういう投票用紙になっておりますけれども、バツをつけなければ、それはマルとみなされる。それはさまざまな議論の結果そうなっているわけですから異議のないところなんですけれども、この裁判官についての情報が十分じゃないから、先ほどの話じゃないですけれども、判断材料が十分じゃないから、自分としては責任を持ってマル・バツを判断できない、そういう良心的な投票者からすると、この裁判官については判断を留保したい、棄権したい、そういう判断というのは当然あり得ると思うんですね。

 特定の裁判官、現在の制度では、棄権をするとなったら、もうすべてについて棄権になってしまう。逆に、一人の方に棄権と字で書いたら、それは他事記載ということになって無効になってしまう。そういう制度だそうですけれども、この制度について、最高裁の判決では、棄権と書いたものを、他事記載に当たる、そういう判例があるようですけれども、その後の東京高裁の判決で、特定の裁判官の審査に対する棄権の自由というものは認められるべきだ、そういう判例もあるようです。それだけを見ると少し矛盾しているわけですけれども、実務的には、現在、事実上認められていない形になっていますが、これは、私はおかしいと思うんですけれども、どういうふうに整理されているんでしょうか。総務省に伺います。

松本大臣政務官 お答えいたします。

 現行法におきまして、投票用紙にバツの記号以外を記載したものは無効とすることとされておるところでありますが、特定の裁判官のみの棄権は事実上認められていないというのは、今先生のお話のとおりでございます。

 国民審査につきましては、憲法の規定に基づき解職の制度として設けられており、国民が、ある裁判官が罷免されなければならないと思う場合にその裁判官の罷免の投票をするだけで、その他につきましては内閣の選任に任す建前でありますから、通常の選挙の場合におけるいわゆる良心的棄権も考慮しなくてよいというのが、先ほど御指摘のありました昭和二十七年の最高裁の判決にもあるところでございます。

 憲法上、最高裁判所裁判官は内閣が任命することとされており、その上で国民審査が解職の制度として設けられているということから見て、特定の裁判官の棄権を認めることが妥当なものかどうかにつきましては慎重に検討する必要があると考えております。

津村委員 技術的な問題等につきましては慎重に時間をかけて検討すべき点もあるんでしょうが、こうした国民の権利にかかわることですから、時間をかけて慎重に検討されても困るわけで、そこの解釈はしっかりと定まっていなければ実務はできないと思うんですけれども、棄権の自由が認められていない、事実上とおっしゃったのは、私は事実的なことしか確認できないからそう申し上げたのであって、政府としては、事実上ということではなくて、認めているのか認めていないのか、どっちかはっきりしていただきたいんですけれども。

松本大臣政務官 この二十七年の最高裁判決、あるいは二十九年の最高裁判決にもあるところでありますが、現在私どもの受けとめでは、現行法のもとでは無理であるとされているところであります。

津村委員 少し駆け足で行きます。

 これは数字だけをお答えいただければいいんですけれども、今回の総選挙と国民審査全体でかかった費用は七百五十億円程度というふうに聞いております。そのうち、なかなか分けるのが難しい、例えば立会人の費用とかは単純に分けるのはなかなか難しいということを事前に伺っていますが、総選挙、衆議院選挙プロパーでかかった費用、それは、例えば選挙カーその他の公費負担の分もあると思いますけれども、そうした総選挙プロパーの費用と国民審査プロパーの費用、それから両者なかなか分かちがたい費用、大ざっぱに三分して、この七百五十億円の内訳を教えてください。

松本大臣政務官 お答えいたします。

 今回の衆議院議員選挙及び最高裁判所国民審査の執行に要する総務省所管の予算額は、合計で約七百六十四億一千九百六十万円であります。このうち衆議院議員総選挙特有の費用につきましては約二百五十億四千九百六十四万円であります。最高裁判所国民審査特有の費用につきましては約六億一千七百四十八万円。この両者に共通する費用となりますが、これにつきましては約五百七億五千二百四十八万円であります。

津村委員 少し種を明かしますと、きのう質問通告をさせていただくときに、なかなか分かちがたい部分が多いというお話がありました。当然だと思います。

 それは、先ほど申し上げたように、立会人の、どこまでがこっちの作業でどこまでがこっちの作業か、なかなか難しいと思うのですが、私、この国民審査制度をきょうこれだけ長い時間をかけてお伺いしているのは、現在、憲法特別委員会の設置も含めて憲法上の議論がさまざまなされる中で、やはり司法制度についても、コスト意識も含めて議論をしていただく素材を提供していただきたい、そういう思いで伺っております。

 そういう意味で申し上げれば、この国民審査制度の費用というのは、例えばその分かちがたい五百億円余りについても、ある選挙区について補欠選挙が行われた、あるいは同一地域での首長選挙が行われた際との、例えば開票時間がどれぐらい違うのかということも、現場の方は割と具体的におっしゃるわけですね。大体最高裁のもので二、三時間は余分にかかるんだよとか、それは地域によって違うと思いますけれども。

 そういったコスト、先ほどの何円まではなかなか難しいのでしょうが、大ざっぱな費用というものは、実は、もう少し時間をかけていただければ分析もできるでしょうし、また、先ほど申し上げたように、どれほど国民に対して広報というものが行き渡っているかも、もう少し数字的なものが時間をかければできる。今、その辺はどうもどんぶり勘定でやっていてエクスキューズに終わっているんじゃないかな、そういう問題意識でるる御質問させていただきました。

 もう一つ御質問のつもりでしたけれども、私の意見だけ申し上げますが、最高裁判所の裁判官の選任に当たっても、例えば、アメリカ流が必ずしもいいとは限りませんけれども、議会証言とかあるいは国会の同意人事のあり方を考えるなど、もう少し裁判官の方のネガティブチェックというだけじゃなくてぜひポジティブな部分も、冒頭申し上げたように、私はこういう人間なんだということをアピールしていただく場を国民の代表たる国会の場で提供していくことも立法政策としてあり得るのかな、そういう問題提起だけして、次のテーマに入らせていただきます。

 きょうは、実は内閣府の方にも来ていただいているんですが、この春、通常国会でいわゆる筆界特定制度が新設されたと思うんですけれども、それに関連いたしまして、現在、国土交通省さんを中心に、いわゆる地籍調査というのが大変精力的に進められていると思います。

 それに関連して、直接ではないんですけれども、少し関連いたしまして、今地籍調査では、GPSという新しい技術を使ってさらにその精度を高めるという努力をされているわけですが、このGPSというのは、実は昨年、自分の身近な話で恐縮なんですけれども、私の住んでいる地域で大変大きな土砂災害が発生しまして五人の方が亡くなったときに、このGPSを活用して、土地がどういう形状になっているかということを今後にわたってフォローしようという、要は防災の観点からもこのGPSを活用する、そういう取り組みが草の根で始まっておりまして、報道等もされているところでございます。

 実は、くしくもきょうお越しいただきました林田副大臣におかれては、防災担当の副大臣としていち早くその現場に駆けつけていただきまして、当日だったかと思うんですが、私も参ったんですけれども、現場を見ていただいたこともございますので、それはどういう状況かということはよく御理解いただいていると思うのです。このGPSの防災行政における活用、方向性について、具体的な事例もあれば御紹介いただきながらお話しいただければと思います。

林田副大臣 御指摘のように、昨年の災害は非常に厳しいものというか、大変な災害でございました。ことしも実は災害が起きておりまして、全国で二十九名の方が亡くなっておられます。そのうちの二十二名が今おっしゃいましたいわゆる土砂災害でございまして、この土砂災害をいかに軽減するかというのは、我々政府、内閣府にとっても喫緊の課題であろうと思っています。

 そういう中で、GPSの活用につきましては、いわゆる電子技術の発達によって非常に、過去に考えられなかったような技術が進んでいるというふうに私は思っております。

 今、国土交通省では、いわゆる地すべりと申しますか、地盤の挙動調査、いわゆる縦、横、高さも含めて三次元の、どういうベクトルで動いているかということをリアルタイムで実は観測しているところでございます。

 具体的には、大和川という地すべり地帯としては非常に有名なところがございますけれども、ここでは常時監視体制システムをつくっております。今おっしゃいました、いわゆる全国に危険地域が散在しておるわけでございます。これらをすべて網羅するというところまではいっておりませんけれども、いわゆる土砂災害に対しましては、地形、地質、土質と言った方がいいかもしれませんけれども、これらの関係、あるいはそこにかぶっております地層、累層、どういう累層になっているかによっても違いますし、また、これは、いろいろな土砂災害を引き起こします長期的な外力と申しますか、降雨であったり地震とかそういうものも含めまして、国土交通省あるいは地理院、それぞれ関係省庁を含めまして、これからのGPSを活用した新技術の活用をより進めていきたいというふうに思っております。

津村委員 ありがとうございます。

 では、ちょっと時間が押しておりますので最後の御質問になりますけれども、今月の十二日、鳥取県の方で、人権侵害救済推進及び手続に関する条例、人権救済条例というのが成立いたしました。これらについては大分、法務省の取り組みとも関連づけてさまざまな報道もなされておりまして、けさの新聞でも鳥取県知事のコメント等も出ています。法務省としては人権擁護法案等の議論を抱えていらっしゃるわけですけれども、大臣の御感想を伺えればと思います。

南野国務大臣 お答え申し上げます。

 鳥取県議会の審議を経まして成立した条例であるというふうに思っておりますし、その当否につきまして私の立場から見解を申し上げるべきではないと思っておりますが、法務省といたしましては、与党の御理解をいただきながら、人権擁護法案をできるだけ早期に再提出できるよう努めてまいりたいというふうに思っております。

津村委員 短い御答弁だったので、もう一個質問ができそうなのでさせていただきますけれども、最後、またこれは別件なんですが、今月の二十五日にハンセン氏病関連でソロクト訴訟の判決が予定されているかと思います。

 判決前にその訴訟内容についてはなかなか、いろいろお伺いできないと思うんですけれども、私個人としましては、今回国側が敗訴した場合は、やはり原告の年齢、あるいはかなり以前の事象についてのことであることも考えて、ぜひ控訴を見送るべきだということを申し上げたいんですが、それに関連いたしまして、今回、その提訴から判決言い渡しまで十三カ月という、かなりスピード感のある訴訟になっているということだと思います。これは総務省さんがいろいろと御努力をされているんだと思いますが、こうした裁判の迅速化について、今回の訴訟のことも踏まえながら、訴訟当事者としての法務大臣の御所見を伺いたいと思います。

南野国務大臣 ソロクトの問題でございますけれども、まだ判決がされておりませんので、一般に、判決に対して控訴するかどうかということについては申し上げられない。判決の内容を踏まえまして、関係機関と協議して検討すべきことでありますので、現段階ではそれはちょっと勘弁していただきたいと思いますが、迅速な裁判が実現できるようにということについては、一当事者である国側の準備だけで決まるものではないということもございまして、すべての事件におきまして可能な限り裁判迅速化法の趣旨に、これを実現的に努力していきたいというふうに思っているところでございます。

津村委員 時間が参りましたので質問を終わります。お呼びしながら御質問できなかった法制局の方におわび申し上げます。

 ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 きょうは、資料で配付させていただきますが、年金をめぐって起きた殺人事件についてちょっと考えてみたいと思います。

 二年前に起きたこの事件は、去年の春、大阪高裁で控訴棄却ということで、無理心中事件ということで、殺人罪で七年という実刑が確定をして、現在服役中という事件だと思います。

 結婚されて建設作業員の夫と三十五年ともに暮らしてきたと。夫は朝五時に起きて働きに出かけて、帰ってくると巨人戦を見て晩酌を楽しむ、ごくごく平凡な御家庭だったと思います。三人のお子さんにも恵まれて、そろそろ体が弱ってきたということで、年金で暮らそうということで社保事務所に問い合わせたところ、少ない額ですが二月で十六万円は出ますよと言われて受給申請した。そして、裁定通知書が来るのですが、それを見て、出ないのではないかと。支給停止額というのが非常に多いということで、これは誤解だったと思うんですが、その妻の方が思い詰めて、夫は体が弱っている、これでは暮らしていけないということで無理心中を図ってしまったという事件かと思います。

 刑事局長に事件の概要を伺います。

大林政府参考人 御指摘の事件の控訴事実の要旨は、無職の夫と同居していた被告人が、年金を受給できないと思い込み、前途を悲観して夫を殺害した上で自殺しようと決意し、平成十五年五月十七日、大阪府下の山中において背後から夫の頸部にタオルを巻きつけ、その両端を強く引っ張って頸部を締めつけ同人を窒息死させたというものであり、懲役七年の有罪判決が確定しているものと承知しております。

保坂(展)委員 今言われたように、そうして夫を殺害した後みずから包丁で死のうとしたけれども死ぬことはできなかったということと記事にもございますが、きょうは社保庁から来ていただいていると思います。

 この記事にあるように、殺害された夫は本来年金は受給できたんでしょうか。この妻の方はできないと誤解をして殺害ということを今言われたわけなんですけれども、いかがでしょう。

青柳政府参考人 このケースにつきましては、年金の裁定がされました六十歳の時点で夫の方がまだ在職をされていたということで、被保険者中であれば年金額が一定の額が、所得に応じてでありますが、支給停止される。したがって、退職をされればこの額がいわばそのまま支給される、ここら辺がちょっと、場合によっては説明不足があったのではないかということを懸念しております。

保坂(展)委員 無理心中までいってしまうというのは珍しい事件だと思うんですが、恐らく、無理心中ということには至らないけれどもよくわからないという方は極めて多いのではないかと思うんですね。

 今ちょっと懸念とおっしゃいましたけれども、その妻が年金は出るんですかと。社保庁では、記事にもあるように、受給できますと答えているんですね。答えているのですが、どうも信じられないということでこういった悲劇に結びついてしまったと。この窓口対応などが適切だったかどうかという検証はいかがですか。

青柳政府参考人 年金制度の場合は、委員もよく御存じのように、一人一人によって、その年金額でありますとか、先ほど申し上げました、在職をされているかどうかでありますとか、個々の事情によって、支給停止の状態がかかったりとかという、状態の変化が非常に幅がございます。

 したがいまして、私ども、年金の相談を受ける際には、そういった個々の事情をよく照らし合わせた上で適切な、場合によってはアドバイスをする、それから相談に応じるということを心がけておるつもりでございます。

保坂(展)委員 本来なら必ず出るんだということをこの妻が理解できればこの悲劇は防げたかと思うんですが、さて、その際に、やはりこの書式の問題が出てくるのじゃないかと思います。

 私も、社保庁から白紙の様式を取り寄せて、そしてまた、実際には当該事件の基本額が九十二万八千円、そして支給停止額が六十七万二千四百八十円で、年金額が二十四万八千三百二十円。この支給停止額というところにその妻はくぎづけになったと。支給停止だ、これは出ないのか、ここから始まっているわけですね。

 それで、社保庁にお聞きしたいのですが、支給停止額という概念ですね、その言葉自体非常にわかりにくいのじゃないかと思うんですが、どうして支給停止額という表記になっているのでしょうか。

青柳政府参考人 これは、年金法の、法律上の規定が支給を停止するという規定になっていることから、法律上の言葉をそのまま使わせていただいているということだと理解しております。

保坂(展)委員 やはり無理心中事件というのは犯罪ですから、これは今服役しているという重い結果があるわけですね。しかし、そこに制度の問題というのが幾らかあるのじゃないか。幾らかというよりは、この支給停止額というのは何だろうと妻は見たと思うのです。こちらに、「年金証書、裁定通知書の見方」というのがあるんですね。これを多分見たと思うのです。見ると、支給停止額の解説は、「支給停止される額です」と書いてあるんですね。これでは、やはりよくわからない。

 例えば、本来支払われる年金の総計額から、例えばいつからいつまでの間支給がとまる額ですよとか、もう少しわかりやすい表記の仕方はないのかという点はいかがですか。

青柳政府参考人 この点につきましては、かねてより年金受給者の方にお送りしております各種の通知書それから裁定請求書について、例えば記入の仕方が難しいとか、あるいは記載内容がわかりづらい、こういった御意見が大変多く寄せられてございます。したがいまして、私どもは、国民サービスの向上を進めていくという上では、見やすくわかりやすいものにしていかなければいけないということは大変重要な課題であるというふうに考えております。

 したがいまして、この点につきましても、例えばただいま御指摘のございました裁定請求書でございますけれども、年金受給者の方に送付する各種の通知書、大変多岐にわたっておりますけれども、そういったものの送付件数でありますとか照会件数、こういったものの多さとか、あるいは調達の時期といったことを考慮して、今後、計画的により見やすいものに見直しを行っていきたいというふうに考えております。

保坂(展)委員 制度の問題にすぐ入ったんですけれども、こうした事件が起きたことについてはどういうふうに考えていらっしゃいますか。

青柳政府参考人 事件そのものについては、大変痛ましい事件であるというふうに、私もこの話を伺いましたときに大変心を痛めました。

 私ども、こういった事件を再発させないようにするために、先ほども申し上げましたように、例えば裁定請求書を初めとする通知書等についてよりわかりやすい記載に努める。

 それからもう一つ例を挙げて申し上げれば、この方の場合にも、恐らく年金生活に入ろうという直前のところでこういうことで御判断をされたので大変混乱をされたということもあったと思いますので、私どもはできる限り早目に、例えば年金の記録の確認であるとかそういうことについて、今では五十八歳の時点で書類をお送りして、よく確認をしていただく。そして、年金受給年齢になったときに、事前にその確認に基づいて私どもがあらかじめ記載をいたしました裁定請求書をお送りして、これに基づいて十分御相談やあるいは確認の時間をとっていただけるような対応をしながら年金受給に結びつけていくということを、やっと本格的に、ことしの十月から取り組ませていただいているところでございます。

 こういったこと等を心がけて、こういった事件が再発しないように私どもとしても努力をしてまいりたいというふうに考えております。

保坂(展)委員 痛ましい事件である、そして再発させてはならない、まさにそのとおりだと思いますが、この書類、多分初めて見るわけですよね、多くの裁定通知書をもらう方が。基本額そして加給年金額、あるいは並んで五つの項目がございますが、簡単に御説明いただけますか、これはどういう意味なのかということを。

青柳政府参考人 お手元の書類を参照いただきながら、簡単に御説明をさせていただきたいと思います。

 まず、この年金証書自身、老齢年金の裁定請求をいただきましたことに基づきまして、年金額その他の情報をお伝えするということが主たる目的でございます。

 ただいま委員の方から具体的に五つの欄というふうにおっしゃったのは、基本額からの欄ということだろうと思います。

 基本額につきましては、本来、この方の年金額としてどういう年金額が支給されるかという、ベースになる額というふうにまずはごらんいただきたいと思います。計算については、基本的にはその方の現役時代の報酬額の平均額と、それからその方が被保険者であった期間の長さ、これに応じて計算をされるということになっておるわけでございます。

 それから、その次にございます加給年金額または加算額ということにつきましては、この方に、老齢年金の受給をされた際に、まだ年金受給年齢に達していない奥さん、あるいは障害やあるいは十八歳未満の年齢のお子さんがいらっしゃったときに一定の額が加給されますので、この額がどうであるかということを示した欄でございます。

 それから、繰り下げによる加算額ということで書いてありますのは、実は現在、年金は一定年齢から支給開始されるというのが原則になっているわけでございますが、その年齢を、いわば、今は、その年齢のときには年金は要らないけれども、もうちょっと後になって、例えば自分が退職したのが、普通の方が六十で退職するところを、例えば六十六とか六十七とか少し遅く退職をするという場合に、退職した年齢に応じて、後でもらうときに若干年金額を加算して、増額して支給することができるわけでございますので、その場合の額ということになります。

 それから、支給停止額というのは、ただいま話題にもなりましたけれども、例えば年金の受給時に現役の被保険者である場合には、賃金を得ておられるわけですので、その金額に応じて一定の額が年金額が停止されるということになります。

 そして、最後の年金額というのが、以上の加算でありますとか支給停止とかいうことを全部合計して、当面、現時点で現実に支給される額ということで表示をしたものでございます。

保坂(展)委員 そういう説明を聞くと、一回ですぐわかるという人はなかなかいないと思うんですけれども、この事件の場合、六十七万円という大変大きな額が支給停止というふうに書いてあるんですが、これは、しばらく支給停止が続いて、満額その後出るということだったんでしょうか。

青柳政府参考人 この場合の支給停止の事由は、在職によるところの支給停止というふうに伺っておりますので、その場合には、記事にもありますように、もし体が弱くて、退職して年金生活をしようということであるとするならば、退職されればこの額は満額支給されるというふうに考えております。

保坂(展)委員 それでは、今の運営部長の説明によれば、横に並んでこう書いてあるわけですね、この裁定書には数字が。最後の年金額というのは、実際に支払われる年金額だというふうに私は理解したんですけれども、少なくとも、この裁定書自体をつくりかえるという作業を今行っておられるというふうに聞きましたけれども、ただ、この裁定書の見方というのも、先ほど指摘したように、とてもわかりづらいんですね。これを見ていてもほとんど意味が、例えば、支給停止額の説明も、さっき繰り返したように、支給が停止される額ですということで、すぐにぴっとわからないわけです。例えば、横に並んでいるものを縦に並べかえて、そうすると、最後の数値というのが実際に支払われる年金額です、支給停止額というのは、一番最初の基本額から、いつからいつまで差し引かれる年金額ですというような形に変えていかなければいけないと思うんですが、応急処置として、この見方、この表自体を、できる限りわかりやすく、こういう誤解や悲劇が起きないようにつくりかえる、そしてそれを裁定書の封筒の中に封入するということはできないんでしょうか。

青柳政府参考人 年金の年間の裁定件数がおよそ二百十万件ぐらいに実は上っているものですから、これも機械で処理をするということから、一定のこの様式で今処理させていただいております。

 したがいまして、こちらの方は、私ども現在取り組んでおりますいわゆるレガシーシステムの見直しという形の中で、システム全体を見直す中で何とか改善を図りたいというふうに考えておりますが、これにはいましばらくお時間をいただかなければならないと思います。

 しかし、今委員から御提案がありました見方、これにつきましては、私ども、先ほどの答弁の繰り返しになりますけれども、送付件数あるいは照会件数の多さ、あるいは調達時期といったことを考慮して計画的に進めさせていただかざるを得ないとは思いますが、必ず見直しをさせていただきたいというふうに考えております。

保坂(展)委員 確かに、裁定書の見方を、例えば早わかりの、チャート式のわかりやすいものに、さらにそれを加えて入れるということは、大変その処理件数も多いかもしれない。

 しかし、私は、昨年来いろいろ調べて、例えば社会保険事務所の地方でつくられるポスターが、たった百枚単位の発注で、単価で割ってみると一枚一万円になってしまう。掲示料も入れると、駅の掲示料金を入れると三万円台とか、そういう広報費のむだがちょっとあるんじゃないだろうか。あるいは、国民年金についてというパンフレットだけでも、およそ見たところ百種類以上、各公益法人がつくっているようでございますし、裁定書の見方というのは、まさに本当に基本的な、自分の年金はどれだけ出るのということを、まず眺めてすぐわかるという絵解きを可及的速やかにつくるべきですよ。それはぜひ確約していただきたいと思います。

青柳政府参考人 社会保険庁におきますさまざまな調達案件につきまして、非常に不適切な予算支出があったというただいまの御指摘につきましては、大変申しわけなく思っております。

 私どもも、その後、十七年度の予算あるいは今後の十八年度の概算要求の中で見直しをすると同時に、いわゆる調達委員会という形で、件数の多いようなものについては必要性を含めた調達のあり方を検討させていただいておりますので、そういった今後の改善をもってかえさせていただきたいと思います。

 また、ただいま御指摘のございました裁定請求書の見方につきましては、先ほども申し上げましたように、必ずこれは見直しをさせていただきたいと思います。

    〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕

保坂(展)委員 ぜひ早くやっていただきたい。わかりやすく、どなたが見ても、かなり老齢の方が見てもああなるほどとわかるようにしていただきたいと思います。

 最後に、南野法務大臣に、これは法務大臣として答弁をいただくというよりは、こういった事件、大変悲しい事件でございますよね。しかし、そういった事件の中から、我々は、そういう悲劇が起こっていかないように、制度の見直しや議論というものを国民の立場でしていかなければいけないんだと思います。

 御感想を一言伺って、終わりたいと思います。

南野国務大臣 今先生がお示しになられたこの事案は、本当に悲しい事案かなというふうに思っております。最終的にその奥様がそのような行動に出られる前に、もう一クッション、だれかに尋ねたらどうだったのかなと、そのことを私、悔やまれてならないと思います。お友達もおられただろうに、一緒に行って聞いてみようというようなことができればよかったんじゃないかな、でも、広報はしっかりと相手に伝わるような形でしなければいけない、そのようにも思っております。

保坂(展)委員 これにて終わります。

吉野委員長代理 次に、枝野幸男君。

枝野委員 民主党・無所属クラブの枝野でございます。法務委員会は久しぶりでございますが、よろしくお願いいたします。

 きょうは、主観的に公正公平であるのかということとそれがどう見えるかということとは別問題だという観点から、幾つかの質問をさせていただいていこうと思っております。

 まず、最高裁について、最高裁判所の裁判官は、その中には一般の裁判官、判事から事実上ステップアップをして最高裁判事になられる方がいらっしゃいます。

 最近、これは二十五年分でやってもらっていますか、二十年分でやってもらっていますか、昭和五十四年最高裁判事任官の木下最高裁判事以降で、裁判官出身二十六名かと思いますが、これは間違いないですか。

山崎最高裁判所長官代理者 調べさせていただきましたのは昭和六十年以降に在職したということでございまして、委員御指摘のとおり、木下忠良最高裁判事以降ということになろうと思いますが、裁判官出身の方、二十六名でございます。

枝野委員 その中に、最高裁事務総局で局長以上を経験された方は何人いらっしゃいますか。

山崎最高裁判所長官代理者 十六名でございます。

枝野委員 その中に、最高裁事務総局の総長経験者は何人いらっしゃいますか。

山崎最高裁判所長官代理者 九名でございます。

枝野委員 それから、最高裁事務総局の局長経験はなくても、法務省の局長の経験がおありの方は何人いらっしゃいますか。

山崎最高裁判所長官代理者 恐れ入ります。ちょっと数を集計しておりませんが、香川保一最高裁判事、貞家克己最高裁判事、それから千種秀夫最高裁判事、藤井正雄最高裁判事……(枝野委員「法務省だけ」と呼ぶ)法務省でございますね。今挙げた方々でございます。

枝野委員 そうすると、裁判官出身の裁判官のうち、いわゆる行政経験なしの経歴で最高裁判事になられた方というのは、二十六名の中に何人いらっしゃいますか。

山崎最高裁判所長官代理者 失礼いたしました。先ほど申し上げましたとおり、最高裁判事で裁判官出身の方二十六名、うち十六名が最高裁事務総局で局長以上の経験、それに今お答えいたしました法務省の局長以上の経験の方を加えた数ということになりますと、三名加わることになると思いますので、十九名がそういう経験の持ち主。そういたしますと、差し引きいたしますと七名が、今申し上げましたポストにはつかずに最高裁判事になられた方ということになろうかと思います。

枝野委員 そうですね。二十六名のうち七名、三、七、二十一ですから三分の一以下、逆に言うと三分の二以上が、最高裁事務総局または法務省で局長級以上という大変重いポストで、行政官をされている方が最高裁判事になっている。逆に、そういう経験をしないで最高裁判事になっている方は三分の一にも満たないということなんですね。

 逆の聞き方をします。最近二十年間の最高裁事務総長の経験者は現職を除くと八名だと思いますが、間違いないですか。

山崎最高裁判所長官代理者 仰せのとおりでございます。

枝野委員 その中で、最高裁判事になられた方は何人ですか。

山崎最高裁判所長官代理者 六名でございます。

枝野委員 そうですね。しかも、そのうち一名は、長官までなられています。

 先ほど、逆に、最近の二十年間の裁判官というのを見てみると、実は十六名が事務総局の局長以上経験者で、九名ですが、最近の最高裁長官六名のうち五名が最高裁事務総局の経験者、うち三名は事務総長経験者ということになっておりますが、私の計算というか、間違いないでしょうか。

山崎最高裁判所長官代理者 恐れ入ります。ちょっと集計をしておりませんので、個別にお話しさせていただきますが、現長官、町田顯長官ですが、町田顯長官は事務総局の局長経験でございますし、その前の山口繁長官も事務総局の局長を経験しております。その前の三好達長官、これは事務総局の局長を経験しておりません。三代さかのぼりますと、そういう状況でございます。

枝野委員 多分その前、草場長官は事務総長を経験しておられますし、矢口長官も事務総長を経験しておられます。寺田長官も事務総長経験者ということで、長官六人のうち三名総長経験者、事務総局を局長以上で経験していない方がたった一人ということなんですね。

 どうしましょうか。ここで、最高裁判事はどうやって任命されるのかということで官房副長官にお願いをしていたんですが、まだお着きになっていらっしゃらないんですが、時計をとめてお待ちしますか。時計をとめてください、官房副長官が着くのをお待ちしますから。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

塩崎委員長 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

塩崎委員長 速記を起こしてください。

 枝野君。

枝野委員 それでは、お忙しいところ、官房副長官においでいただきましたが、最高裁判所の判事は内閣が任命するということになっておりますが、内閣が勝手に、閣議で急に名前が出てきていきなり決定するわけじゃないだろうと思います。慣習的にどういうプロセスで、特に裁判官出身の裁判官、最高裁判事の選任をしていくプロセスを説明してください。

杉浦内閣官房副長官 お答え申し上げます。

 最高裁判事は、憲法第七十九条及び裁判所法第三十九条に基づきまして、内閣が任命し、天皇が認証することとなっております。

 任命に当たりましては、極力、客観的かつ公正な見地から人選を行い、最高裁長官の御意見を伺った上で、人格、識見にすぐれた最高裁判事にふさわしい方を内閣として閣議決定しているものでございます。

枝野委員 もうちょっとだけいてくださいね。

 逆に、今度は最高裁事務総局にお尋ねしますが、最高裁長官が内閣からそうやって意見を求められたときに、最高裁長官が一人で勝手に考えて動くわけじゃないだろうと思います。最高裁長官のいわゆる官房機能を担っているのはどこですか。

山崎最高裁判所長官代理者 ただいま内閣の方からお答えがございましたとおり、最高裁判所裁判官の選任に際しましては、最高裁判所長官が長官としての立場から内閣総理大臣に対して意見を述べるというのが慣例となっておりまして、これは、長官というものは裁判所の運営に最も詳しい立場にあるということ、それと、最高裁判所の裁判官の選任という事柄の性質上、司法部の意見を聞くことが望ましいということからこの慣行ができ上がっていると承知しております。

 その意見というのは長官自身が考えておるところでございまして、事務総局というものはもちろんございますけれども、事務総局は、長官の指示がございますれば、その指示に基づいて基礎的な資料あるいはデータといったものを調えるということはございますけれども、先ほど申し上げましたとおり、意見の内容そのものに事務総局が関与するということはございません。

枝野委員 予防線を張ってお答えになっていますが、別に意見を事務総局が出しているんじゃないかとは言っていません。官房機能をどこが担っているのかと申し上げたので、それは事実上お認めになったわけですよね。

 つまり、人事局長に来ていただいているわけですから、裁判官の人事考査などの資料は最高裁事務総局人事局にあるわけですから、使う人使わない人いるかもしれませんが、そういった資料はベースになるわけですね。

 さて、そこで官房副長官、先ほど、今おいでになる前に、最近二十年の裁判官出身の最高裁判事二十六名のうち、七名を除いて十九名は最高裁事務総局の局長経験者または法務省の局長経験者、しかも、総長経験者が九人、逆に、最近二十年の最高裁事務総長の経験者八名のうち、長官一名、判事五名で、事務総長になりながら最高裁判事にならなかった者は二名だけなんですよね。なおかつ、最高裁長官が意見を求められた場合の、どれぐらい具体的に意見を言っているかどうかは確かにおっしゃるとおり別としても、官房機能を担っているのは最高裁の事務総局なんですよ。

 裁判官、たくさんいるわけですよね。たくさんいる中で、裁判官として有能であるのと、司法行政事務を担うに当たって有能である能力とは別ですよね。これはそう思いますよね、副長官。

杉浦内閣官房副長官 その点はおっしゃるとおりだと思います。

枝野委員 ところが、結局、事務総局が、官房機能を担った長官が意見を言って、事実上それに従っている。逆に、そこで政治的にいろいろなことがあったら困ると思いますから、決まっているわけですよ。その最高裁長官、あるいはそれを支える最高裁の判事の多くが裁判官出身ということは事務総局出身だと。ぐるぐる、裁判所という大きな機構の中だけれども、最高裁事務総局という、裁判業務とは別の能力でもってその職についている、そういうセクションが、最高裁判事という裁判官にとってある意味では最も権威ある、そういうポジションを一種寡占しているという指摘を受けないですか、これだけの比率を占めているのに。

 最高裁事務総局の局長を経験する裁判官というのは、同期の裁判官の中でもほんの一部ですよね。ところが、三分の二以上を占めているんですよ。寡占しているという指摘を外からは言われませんか、副長官。

杉浦内閣官房副長官 私も先生と同じ法曹界におる者でございまして、弁護士会副会長もやりまして、最高裁判事の人選はいかにあるべきかという議論をした覚えがございます。確かに、事務総局局長、それから人事局長等を経験された方が選任されるケースが多かったものですから、それはいかがなものかという議論をした記憶もございます。

 ただ、結果としてそういうふうになるわけで、私は、内閣としては、人格、識見ともに最高裁判事にふさわしい方を選任しているものでございまして、結果としてそういうふうな割合になったということで、内局の局長をやったから必ずしもそれは裁判官としていかがかということもない。最高裁判事としての適格性に着目して、内閣としては、十分に最高裁長官の意見を聞きながら、適切な方を選任されているというふうに思っております。

枝野委員 一般論としては、おっしゃることはわからないではないんですが、今の長官も事務総局の局長経験者でいらっしゃいますよね。それで、裁判官の人事は事務総局の人事局長のところでやっているわけですよ。判決の裁判の中身についての一番のトップも事務総局の経験者、実際の人事権を握っているのも事務総局ということだと、裁判官の独立性とかという観点からも、抑止効果が働くのではないかと指摘をされてもしようがないですね。主観的に、あるいは現実にそれが不公正であるとか偏っているとかと言うつもりはありません。しかし、外から見たときにそう見えませんかということを申し上げているんです。

 実は、まさにその最高裁判事の任命を内閣がその都度の政権の意図で政治的にするということは、今の日本の政治、社会状況からすると望ましくないだろうと私は思っていますので、個別に最高裁長官から推薦された名前を、内閣が、これはだめだとかこれでいいとかと言うべきではないだろうと思います。それから、最高裁の事務総局にいた人間は全部だめですと言うつもりもありません。

 しかし、一般的に、少なくとも外から見て偏っていると指摘をされても仕方がない数の比率になっている、過去ですね。そういうことを配慮すべきではないかということを、個別のときにではなくて一般的に、政府、内閣としての考え方としてあってもいいんじゃないかと思いますが、どうでしょう。

杉浦内閣官房副長官 枝野先生のようなお考えの方が法曹界にいらっしゃることは間違いございません。そういうお考えも、そういう批判があることも承知いたしております。

 ただ、現実に、最高裁判事の任命の過程がアメリカのような極端な政治的任用でないことも、これは御承知のとおりでございますし、先ほど申し上げましたように、内閣において最高裁長官の意見を聞いて、人格、識見ともにふさわしい判事が任命されている、私はそう承知をしております。

枝野委員 副長官、おわかりになってわざとお答えになっているんだと思いますが、過去に選ばれてきている人がふさわしくなかったなんと言うつもりは全くないんです。大まかには適切だったというふうに言えるんじゃないかと思います。

 ただ、これだけ事務総局の出身者が多い、あるいは事務総長を経験すればよほどのことがない限り最高裁判事になっているという裏表からの現実がある中で、最高裁事務総局の仕事というのは、裁判官の判事、判事補の仕事の中ではごく一部であり、ごく一部の人しかならない職である。本来最高裁判事に求められる裁判業務とは別の業務であるというのに、事務総局経験者が三分の二を超える比率を占めているという、この客観的なものに対して、幸か不幸か、まあ不幸なんでしょうけれども、日本の場合、先ほど津村さんが御指摘されていましたけれども、最高裁の裁判官に対しての国民の関心が低いから許されているのかもしれない。国民的な関心が高ければ、何でそんなに偏っているのということになりかねない話じゃないですかと。

 だから、僕は一方でやらなきゃならないと思う、つまり、最高裁判事になるような優秀な裁判官を何で裁判をやらせないで事務総局に置いているんだということも、実は最高裁事務総局の人事の問題として僕はあると思うんですが、ここは三権分立の中でどこまで言っていいかどうか悩みながら、この後言おうと思っているんです。

 しかし、少なくとも、内閣が最高裁判事を任命する権限を持っている。そこが、アメリカのように政治的に余り偏ってもいけない、政治的な争点になり過ぎてもいけないとは思うから、個別の人事のときに何か言ってはいけないと僕は思うんですが、少なくとも一般的な傾向として望ましくないということぐらいは、あるいは、少なくともそういった点の配慮は要るのではないかということ自体はおっしゃってもいいのではないかなと私は思うんですが、どうでしょうか。

杉浦内閣官房副長官 そういう御意見やら批判があることは、私個人としては承知しております。

 ただ、私の同期で最高裁判事になったのはおりませんが、内局の局長になったのはいますけれども、裁判官としても長年やり、局長もやったというわけで、ほかの時期の、今最高裁判事をやっている方々、局長をやっている方々の経歴はどうか、詳しくは存じませんが、必ずしも、内局だけでずっと裁判をやらないでいるという人はいないんじゃないか。裁判官をやり、内局もやりというようなことで、比較的バランスのとれた人事をなさっているんじゃないかな、これは個人的な感想で、正確に調べたわけじゃございませんが。

 ただ、先生の言われたような批判があることは承知をしております。

枝野委員 いいです。ここで明確なお答えは立場上もできないだろうと思いますが、そういったところに、もちろん人格、識見、立派な方だと思いますし、事務総局をやったから絶対だめだと言うつもりもありません。

 しかしながら、結果的に偏って見えているんじゃないかということ、そしてそのことが、個々の裁判官の立場からしてみれば、ただでさえ最高裁事務総局というのは人事権を持っているわけですから、次はどこの地方裁判所に飛ばされるか、基本的には最高裁事務総局の人事局長が持っていらっしゃるわけでしょう。その出身者が最高裁本体の意思決定機関である裁判官会議を構成する裁判官にがっと上がってくるんだよね、ここにいる人たちがねということだと、それはいろいろな意味での意識が働くのではないかなということをきちっと内閣として理解しているということで物事を考えていただきたい。だからといって、個別のところに余り介入してもらっては困るんですが。

 お忙しいと思いますので、本当は座っていて聞いていただいた方がいいんですが、もしお時間でしたら結構でございます。

 もう一つ、司法関係の人事関連の話のところで、判検交流と一般に言われているものがございます。これは、ここ数年間の実態、そちらでの判断で結構ですが、裁判所から法務省などに出向する裁判官、あるいは逆に、そういった出向を終えて裁判所に戻る裁判官、こういった人たちがどれぐらいの量いるのか、御説明ください。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 裁判官から検察官に転官している者の人数は平成十六年度において四十九名で、検察官から裁判官に転官した者は五十四名であります。

枝野委員 多分、平均的なところを出してこられているんだろうと思いますが、毎年五十人前後、裁判所から検察庁に行き、検事の身分を持って行政にいるわけですよね。そこにいた人たちは五十人ぐらい裁判所に戻って、裁判官に戻るということになりますね。

 さて、そういった人たちの中には多分、訟務検事と俗に言われている人がいると思います。どれぐらい訟務検事の中に裁判官出身者の方がいらっしゃったりするのかということはわかりますか。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 平成十六年度におきまして、訟務検事として法務省に出向しました人数は十七名で、訟務検事から裁判官に出向した人数は十六名です。

枝野委員 訟務検事というのは、前にお座りの方は御存じだと思いますが、要するに、国が当事者である裁判の代理人をするという役割ですよね。何で裁判官から訟務検事に人事異動させているんですか。なぜ裁判官を訟務検事に使っているんですか。

富田副大臣 裁判官から検察官に転官されて、その中に今政務官がおっしゃられた数字の訟務検事として活動されている方がいらっしゃるわけですけれども、それはもう、人格、識見が豊かで、その任にかなうから担当されているというふうに答えるしかないと思いますが。

枝野委員 そうなんですよね。人格、識見にすぐれて能力があると思うから、そういう人を訟務検事に使うんですよね。

 国が当事者である訴訟、訟務検事が代理人的な仕事を務める訴訟、相手方がいるわけです。相手方は弁護士を代理人にするわけですが、自分の費用で、どんな人がこういう事件に適切な弁護士であって、どういう能力を持っていて、人格、識見がどうなのか、全部自分で調べて、自分で選択し、その人が実は適切でなかった人だったりする場合のリスクも全部本人が持っているわけですよ。それに対して国の側は、自分たちの行政の側の検事さんだけじゃなくて、裁判所からまで優秀な人間を引っ張ってきて自分たちの代理人にできるんです。アンフェアじゃないですか。

富田副大臣 日本の国の弁護士、また検察官、裁判官、それぞれ同じ司法試験を受けて合格されて、それぞれの分野に行かれているわけですから、能力的にはもう全く同じような能力を持ってそれぞれやられている。

 委員は、全部自分の費用、責任で民間の方は弁護士を選任しなきゃならないじゃないかということを言われていると思うんですが、国の方も指定代理人制度で民間の弁護士さんを代理人として指定することもございますので、そういった意味で、それをアンフェアと言われても、いかんとも答えようがないというふうにしか答えられないんですが。

枝野委員 本当に、みんな司法試験に受かっているんだからみんな優秀じゃないかとおっしゃるんだったら、やはり裁判所に本籍を持っている人を引っ張ってきて国の代理人なんかさせるのはやめた方がいいんじゃないですか。

 つまり、その人は裁判所に本籍があって、また戻るわけですよ。あるとき国の代理人をやっていた人が、大きな意味では国の組織の一つである裁判官という立場で、今度は国が一方当事者である裁判の裁判をするわけですよ。フェアに見えませんよね、国民から見れば。違いますか。

 もし能力が、どこにいる人でもみんな一緒じゃないか、司法試験に受かっているんだからというのだったら、わざわざそんな、裁判所に本籍がある人を国の代理人的な業務につかせるだなんという、いろいろと誤解を招くようなことはやめた方がいいですね。違いますか。

南野国務大臣 大変おもしろいというか、理論的なお話を今伺っておりますけれども、裁判官が裁判官としての職務以外の多様な職務経験を積むことは、広くかつ高い識見を得た裁判官を確保するという観点から極めて意義の大きなものと考えます。これは、いろいろな専門職についても言えるのではないかなと思います。自分の仕事を少し立場を変えて考えてみるということも、これも大きなその人のステップアップになるというふうに思っております。

 国に対して提起されました複雑困難な訴訟につきましても、法律による行政の理念のもとに適正に解決するためには、民事裁判の実務経験を積んだ法曹の能力、それを活用するという必要があると思いますし、裁判官としての経験を有する者が訟務検事の職責を担う、これは制度には十分に合理性があるというふうに考えております。

 また、法務省の所掌事務や検察事務の中には、一つ、司法制度に関する法令または民事及び刑事の基本法令の立案、また訴訟事件の遂行に関する事務など、法律に関する専門的な知識、経験を要する事務が多うございます。これらの事務を適正かつ能率的に行うためには、やはり法律の専門家として、裁判官としての実務経験を有する者の中から任用する必要性が高い、今の現場を見ていてもそのように思いますし、合理的な制度と考えております。

 このように、裁判官が訟務やそれから法務等に関する経験を積むことは、行政に関する知識を広め、法曹としての識見を高めるものであっても、裁判官としての中立公正な立場を揺るがすようなものではないと考えておりますので、先生の御指摘のような制度を導入する必要はない、そのように思っておりますが、どの専門職でも言えると思います。

 私、看護職でありますが、看護職だから病院だけにいなきゃならないということではない。地域への訪問看護もありますし、その他の、いわゆるスチュワーデスも、もともとはナースであるというところから、空のナースであるという観点からも、いろいろな立場の人間を見るということにも共通していると思いますので。

 以上でございます。

枝野委員 裁判官の方が、裁判所の中だけにいないでいろいろなことを経験した方がいい、これは私も全く賛成です。むしろ、裁判所の中だけしか知らない裁判官というのは、逆に迷惑だと思います。

 しかし、例えば弁護士任官という制度が最近あります。弁護士から裁判官になるケースがあります。弁護士時代にたまたま何か事件でかかわったことがありますというのが一方当事者になっていますということぐらいまでだったらいいかもしれないけれども、例えば、今、弁護士には企業内弁護士という仕組みがあります。大きな会社だと、弁護士の資格を持って、弁護士の登録をして、会社の取締役、法務部長とか、その会社に五年、十年、長くその会社の法務関係の最高責任者なんかを務める企業内弁護士がいます。そういう人が弁護士任官して、その会社が一方当事者である訴訟をやったら、やはり反対側の当事者は怒るんじゃありませんか。怒りませんか。

 例えば、Aという会社の法務部長を弁護士として十年務めてきました、そういう人が弁護士任官で裁判官になりましたと。たまたま訴訟が起こったら、そのAという会社が被告なり原告なりですという裁判をこの裁判官にされたら、やはり反対側当事者としては、それは立場が変わったんだから、第一この事件そのものにはかかわっていないんだからいいじゃないですかと言われたって、それは違うんじゃないという話になりませんか。

富田副大臣 具体的にどういう条件がそろうかわかりませんが、今、枝野先生御指摘のような案件の場合には、具体的な事案によっては裁判官の忌避事由になるんじゃないか、そういう形で当事者としては裁判を担当していただかないような制度が準備されておりますので、そういうふうにできるんじゃないかと思いますけれども。

枝野委員 そうですよね。やはり忌避なんかの事由に該当させて、それは幾ら何でもというのが普通の感覚ですよね。

 しかし、訟務検事というのはまさに国の代理人をやっているわけですよ、専門的に。国の企業内弁護士ですよ。しかも、国が一方当事者の事件というのは、民事事件の弁護を、あるときはA社の代理人をやり、あるときはB社の代理人をやりという話と違うんですよ。なぜかというと、まさに行政の観点とおっしゃいましたね、先ほど大臣。行政の観点というのは行政の外の観念と違うわけですよ。だから裁判官に行政をさせるわけでしょう。そういう話でしたよね、先ほどの大臣の話は。その行政の論理に基づいて行政の代弁をするという業務を、しかも単発でなくて数年間にわたって、それを専門で訟務検事としてやるわけですよ。先ほどの、特定の会社の法務部長とかを長年務めたケースと似たようなケースじゃないですか。

富田副大臣 具体的な事案に当てはめないと何とも答えられませんが、訟務検事というのは、法務省の方に、裁判官から検察官に転官されて、その中で訟務を担当していただくわけですけれども、その任を外れた場合に、また裁判所に戻った場合には裁判官として活動されるわけですから、企業内弁護士をされた方が裁判官になる場合と全くパラレルには考えられないというふうに私は思いますけれども。

枝野委員 それは一緒じゃないですか。だって、企業内弁護士をやっていた人間だって法曹の倫理に基づいて、企業内弁護士をやっているときはその会社のために全力を尽くすし、裁判官になったら中立公平にやるのは一緒ですよ。国の代理人をやっているときは国のために、つまり行政のために最善を尽くすし、それが裁判官の立場になったら中立公平な立場で見る。それは、弁護士から任官しようが、検事から裁判官になろうが、一緒じゃないですか。

 問題は、僕は、実際に訟務検事を経験された裁判官がアンフェアにやっているかどうかなんということを言うつもりはありません。どう見えるのかという話なんです。主観的な問題じゃありません。国民から、あるいは裁判の当事者から見たときに、あの裁判官はこの間まで国の、法務省の職員をやっていたんですよという裁判官が真ん中に座っていて、国を相手に裁判をやったら、こんなもの勝てないよねと普通の人なら思いますよ。それが、司法にとっても、法務省にとっても、この国全体にとっても、本当にいいことだと思いますか。

南野国務大臣 いいこと、悪いことということよりも、どの立場にあってもプロはプロです。例えば裁判官であっても訴訟事務をやる人であっても、その同じプロの人が、自分がどのような仕事をするかということで、今までやっていたことをそのままの価値観で立つということよりも、その人の人間性、基本的な司法官であるという人間性に立って事を運ぶのであって、それは私は合理性があるというふうに思っております。

枝野委員 もちろん、主観的にはそうする人がほとんどだろうし、まさにそういうことで実際に動いていくんでしょうが、当事者あるいは国民からどう見えるのかということですよ。

 例えば、私だって副大臣だって、あるいは先ほどの副長官だって、法曹資格がありますよね。選挙に落ちたら、じゃ、裁判官で任官してくれますかね。僕は、それはやはりよくないと思いますよ。それぞれみんな、政治家、国会議員になってやっている法曹資格者は、自分の政治的なスタンスをわんわん主張して、それで多くの人たちに、この人はこういう政治的な立ち位置だということを少なくとも宣伝し続けているわけです。私の信念はこうであるとやり続けているわけですよ。

 そういう人間が、国会議員じゃなくなったからといって裁判所で真ん中に座っていましたというのは、これは国民から見たら、例えば民主党の支持者から見れば、富田先生が真ん中に座っていたら、これはまずいよねと思うだろうし、自民党の支持者の人だったら、枝野が真ん中に座ったら、これはひどいじゃないかという話になりますよね。国民からの見え方というのはそういうものじゃないですか。

 国の代理人という、しかも単発で代理人をやったなら別ですよ。職として数年間にわたって国の代理人、企業内弁護士的なことをやってきた人をわざわざ裁判所に戻さなきゃならない、あるいは裁判所からわざわざそういう方を引っ張ってこなきゃならない。そこまでやらなきゃならない理由がありますか。裁判官はいろんな経験をした方がいいですよ。いろんな経験をするにしたって、国の代理人業務はいいんじゃないですか、それ以外のことで。あるいは、どうしても裁判官出身の人が欲しいといって引き抜くんだったら、片道切符で来させればいいんじゃないですか。

 これが定常的なシステムとして行き来をしていると、どんどんどんどん、国の代理人として行政の立場から法律を組み立てるという経験を数年間積んだ人間が裁判所のど真ん中に座る、こういうことをシステム化して経常化していくということが、本当に司法の中立性を、国民から信頼を高める方向に行くのかどうか、私は疑問です。

富田副大臣 私や枝野先生が任官したら、裁判官として法廷にいると、我々はある意味で政党人ですから一党一派に偏しているわけで、公務員は一党一派に偏さない、そういう形で活動されているわけで、裁判官は訟務検事から戻られたときにも一党一派に偏さず公平中立に活動されるわけですから、私たちが任官する場合とはやはり違うんじゃないかなというふうに思います。

枝野委員 それは違います。裁判官にもし任官してもらえたら、裁判官になったら一党一派に偏らない裁判をやりますよ、もちろん私だって。(富田副大臣「それはそうですよ」と呼ぶ)そうでしょう。

 では、一方で、例えば裁判官であった人が訟務検事になったときは、一党一派ではないかもしれないけれども、まさに国の代理人をやるわけでしょう。国の代理人をやるためには、まさに法曹倫理として、国の主張を裁判所によって通すための最善を尽くすんですよ。それが代理人の仕事じゃないですか。

 そのときに、中立公平ですからこの裁判は国が負けても仕方がありませんねだなんという判断に基づいて訟務検事をやられては困るじゃないですか。そうなんですか。訟務検事はどっちなんですか。一党一派に偏らず、中立公平な見地で、この事件は国が訴えられているけれども、負けだから仕方がありませんと負けちゃうのが訟務検事の職務なんですか。違いますでしょう。あくまでも国、行政の立場に立って、自分たちの正当性を徹底的に主張するのが訟務検事の仕事じゃないですか。どっちですか。

富田副大臣 今の点は枝野委員おっしゃるとおりで、ただ、私や枝野先生が仮に裁判官になった場合に、もともと一党一派に偏して活動していたという、その段階では公平中立性で活動していたわけじゃありませんから、それに対して国民がどう思うかという点では、パラレルには考えられない。

枝野委員 だから、訟務検事をやっているときの訟務検事も一緒じゃないですか。あくまでも国の代理人という立場で、行政という見地からの主張を徹底してやるのが訟務検事の立場なんですから。それは、いわゆる政治的な一党一派とは違いますけれども、つまり、国を相手に訴訟を起こそうだなんという立場からすれば、一方に偏っているわけですよ。その一方に偏っているという業務を数年間にわたって専従でやってきた人たちが真ん中に座るというのは、やはり当事者から見ればちょっとひどいんじゃないのという話になるのは、私は普通だと思います。

 本当にその人が偏ったことをやっているだなんて言っているつもりじゃないんですよ。見えている側からすればそう見えませんかということを言っているわけです。自分が国を相手に裁判をやって、裁判長が訴訟指揮をしている。中立公平にやってくれているのかなと思っていたら、この人は五年前は裁判所から法務省へ出向して、訟務検事で国の代理人で、同じ事件だったら忌避事由だけれども、同じような行政に関する事件で国の主張をがんがんやっていました。そんなことを知ったら、勘弁してくれよ、日本の司法というのはそんなに信じられないものですか、そう思うのが僕は普通じゃないかなというふうに思っておりまして、ここはしっかりと見直していく必要があるんじゃないかと私は思います。

 もしどうしてもというなら、片道切符ですよ。どうしても裁判官の中で訟務検事に引っ張りたい、それは、大きな意味では国でしょうから、訟務検事に引っ張るときは片道切符で訟務検事にするということが全くあっちゃいけないと言うつもりはありません。しかし、システムとしてでき上がっているんですからね、この行き来は。

 僕は、明らかに裁判の公正を、じわじわじわじわとこういうのは広がっていくんですから。一気に、おかしいじゃないか、裁判所のやっていることはだったら、直すのは簡単ですよ。じわじわじわじわと、おかしいよね、こういうケースは、ああいうケースはと広がっていって、どんどんどんどん司法不信が広がっていってからでは遅いんですよということを申し上げておきたい。

 最後に、十分しかありませんが、似たような話でちょっと違うんですが、法務省の本省局長級以上の方で検事採用でない方、つまり普通の省庁の、昔だと上級職試験といったんでしょうか、国家公務員試験合格で本省局長級以上の方は何人いらっしゃいますか。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 法務省の局長級以上の幹部のうち検事として採用されていない者は二名であります。これらの二人及び事務次官については一般職給与法が適用されており、これらの三人を除いた者には検察官俸給法が適用されております。

枝野委員 その二人のポストはすぐわかりますか。

三ッ林大臣政務官 一名は大臣官房審議官矯正担当、もう一名は大臣官房審議官で入国管理局担当であります。

枝野委員 局長級ですけれども局長じゃないんですよね。ということは、局長ポストは全部検事が占めているということなんですよね。何で検事じゃなきゃいけないんですか。普通の役所は、国家公務員試験を受かってきた人たちが局長とか次官になっておられて、いろいろな役所が法律をたくさんつくっているんですよね。なぜ法務省だけ、国家公務員試験じゃなくて司法試験に合格して検事採用された人が、法務省本省でそんな局長ポストを全部握って仕切っているんですか。どうしてですか。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 法務省の所掌事務の中には、司法制度に関する法令並びに民事及び刑事の基本法令の立案、訟務事件の遂行、検察に関する事項等専門的な法律知識、経験を要する事務が多く、これらの事務に関する高度な判断を的確に行いつつ法曹資格者を初めとする部下を指揮監督して適正に職務を遂行しなければならない法務省幹部に法曹としての豊かな専門的知識と経験等を備えた者を任用することには、合理性があると考えております。

枝野委員 例えば入国管理局長とか入国管理局というのは、検事の経験とか検事の資格は、ないよりあった方がいいでしょう。ないよりあった方がいいでしょうけれども、国家公務員試験だって法律の試験をしているわけですよね、法律職で採っている人たちは。ほかの役所は、例えば入国管理とある意味対になる外務省のビザの発給だなんという話は、別に法曹資格者がやっているわけじゃないですよね。矯正だってつながりはあるかもしれない、刑事司法とは。だけれども、やはりちょっと違うんじゃないですか。人権擁護に至っては、検察官のやるべき方向の仕事と矛盾する部分がかなり含まれていますよね。何でみんな検事なんですか。

南野国務大臣 先生の御指摘はそのようでございますけれども、御指摘のように、国家公務員の採用試験などによりまして採用された一般の行政職員等の職員がさまざまな経験を積んで、これは医療の世界でも医師の世界でもそうでございます、自分は外科を目指したいといっても、内科から何から全部知って、その上に人間を理解した上での医療が展開されるわけでございますので、そういうこととも関連するのかなと思っておりますが、基本法の立案などの専門的業務にも従事し得る能力、これを蓄えることはもとより望ましいことであるというふうに思っております。

 そのような職員を養成すべく努めているところでございますが、法務省には、検察に関することを所管する刑事局を初めとして、検察事務に精通した者でなければ円滑に遂行できない事務を所管する部局もございます。また、現状では、複雑な専門的知識を要する民事、刑事の基本法律案の立案や、ますます困難性を増してくる訟務事務などについても、法曹資格を有しない一般職の職員のみでは十分に対応し切れない実態も出てまいります。そのことも御理解いただきたいと思っております。

 いずれにいたしましても、法務省の官職のうち現在法曹資格者が占めているものにつきましても、必ずしも将来にわたって法曹有資格者じゃなければ任用し得ないと考えているわけではありませんが、今後とも、適材適所の観点から適切な配置に努めてまいりたい、このように思っております。

枝野委員 検察官も足りないんですよね。検事も足りないんですよね。検事が採用し過ぎちゃって余っていますとかいう国なんですか、この国は。さらに言うと、裁判所も裁判官が足りないと言っていますよね。だから裁判はおくれていますよね。民事局長は裁判官ポストでしたね。何でそこから持ってこなきゃならないのか。

 まあ、あしたから変えろと言ったら大変でしょう。つまり、法務省の職員の皆さんも、どうせ検事組がやってくるんだろうという思いで、つらい思いをされているのか楽な思いをしているのかどっちか、それは人によって分かれるのかもしれませんが、そこはある程度時間をかけないと大変だと思いますが、法務省の行政、国家公務員試験に受かった人たちも、法律職であれば、司法試験と同じとは言いませんけれども、それに準ずるかあるいはそれ以上の能力を持っている人もたくさん含まれているわけで、その人たちをちゃんと行政の見地から、法務行政にかかわる幹部に育つように養成していけばいいんじゃないですか。その努力を明らかに今まで怠ってきたわけですよ。

 それで、検事の資格を持っていたり裁判官の資格を持っている人は、裁判官も足りないんですから、検事も足りないんですから、その本来の業務に集中してもらって、もちろん、一切認めないとは言いません。状況に応じたり時期によっては、ここはこの時期だけはちょっと裁判所から人を持ってきてやってもらった方がいいとか、検事から持ってきてやってもらった方がいいとかというケースは例外的にあり得るかもしれないけれども、一般的には法務省の局長はみんな国家公務員試験採用の法務省の官僚の皆さんがなる、こういうシステムに来年からでも変える努力をスタートさせましょうよ。急に全部変えろとは言いません。トレーニングしていないんだから、そういう想定で来ていないんだから。でも、今から始めたって二十年ぐらいかかりますでしょう。始めましょうよ。

南野国務大臣 今の職員の方々の中にも、一般の試験を受けて入ってきておられる方もおられます。それは本当に数が少ないと思いますが。これから入省してこられた方々を立派に育てていくのが我々の役割かというふうに思っておりますので、枝野先生のお思いになるような形になるべく早く到達できるということも必要かと思っておりますが、そのように適材適所に配置できることを努力いたします。

枝野委員 余りみみっちいことを言いたくないのですが、国家公務員採用の人を局長にする場合と司法試験組を局長にする場合と、同じ局長にした場合でも給料は違いますよね。

南野国務大臣 それは違いますけれども、自分のプロを持ってその立場を変えられた場合に、その立場から今度はまた自分のもとの職場に帰る場合、うんと給料が下がるということは、これはまた大変なことでございますので、そういう意味では、その方のキャリアに合わせた賃金ということが今適用されておるところでございます。

枝野委員 僕も司法試験組ですから、国家公務員試験に受かった人よりも社会全体で司法試験に合格した人の方が高い給料を取るという社会的風潮は、個人的には都合がいいんですが、しかし、果たして本当にそれは合理性があるのかということも考えなきゃいけないし、少なくとも、司法試験に受かっていなくたって、ちゃんと法務省の中でキャリアを積んでくれば刑事局長だって民事局長だってできるにふさわしい能力と見識を二十二歳の段階で持っている人は、幾らでもいるはずなんですよ、司法試験に受かっていない国家公務員組でも。そういう人たちが局長になった方が、本当にみみっちい世界かもしれないけれども、人件費は安くなるんですよ。なのに、なぜか当たり前のように、法務省というのは検事と裁判官が占めるポストだということで、ずっと慣習的に来ている。

 繰り返しになりますが、検察官が余っていてしようがない、検察庁にポストがないんだ、裁判所も裁判官が余っていてしようがないんだ、ポストがなくてしようがないんだというならば、百歩譲ってまだあるかもしれない、せっかく採用して首にはできないんだから。だけれども、一般的には検事さんも足りない、裁判官も足りないと言われているんでしょう。

 だったらむしろ、検察官は、せっかく検事の資格を持っている人は検察業務をやってもらったらいいんですよ。裁判官の資格を持っている人は裁判官業務をやってもらったらいいんですよ。最高裁の事務総局も同じなんです。最高裁の事務総局だって、事務総局でやっていることは司法行政で司法と絡んでいるけれども、何で経理局長を裁判官がやらなきゃいけないんですか。書記官だって裁判所事務官だって、裁判所の庁舎のこととか、そこの備品のこととか、裁判官を長くやっているよりよっぽどわかっている人たちがたくさんいるじゃないですか。それもまた同じことが言えるんです。

 こういうことをちゃんと見直していくと、小さなことかもしれないけれども、先ほどの判検交流とか事務総局のあり方とか全部絡んできて、司法のあり方を見直すというのはこういうところからも手をつけなきゃいけないんじゃないでしょうか。最後に大臣の御感想を。

南野国務大臣 先ほども申し上げましたけれども、法務省の官職のうち、現在法曹資格者が占めているものにつきましても、必ずしも将来にわたって法曹の有資格者でなければ任用し得ないと考えているわけではないわけであります。今後とも、適材適所の観点から適切な配置に努めてまいりたいと思っております。

枝野委員 終わります。

     ――――◇―――――

塩崎委員長 次に、内閣提出、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。南野法務大臣。

    ―――――――――――――

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

南野国務大臣 御説明申し上げます。

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 近年のグローバリゼーションの進展に伴い、犯罪行為が容易に国境を越えるようになり、犯罪組織による国際的な犯罪が頻発しております。また、厳しい経済情勢の中で、暴力団等の反社会的勢力が組織的に関与する悪質かつ巧妙な強制執行妨害事犯が後を絶たないなどの状況にあります。さらに、近年、コンピューターが広く社会に普及し、世界的な規模のコンピューターネットワークが形成されておりますが、このような情報処理の高度化に伴い、ハイテク犯罪が多発しております。

 この法律案は、このような近年における犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化の状況にかんがみ、刑法、刑事訴訟法、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律、その他の法律を改正し、所要の法整備を行おうとするものであります。

 この法律案の要点を申し上げます。

 第一は、平成十五年五月に国会において承認された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締結に伴い必要となる罰則の新設等、所要の法整備を行うものであります。

 すなわち、条約の規定する重大な犯罪に当たる行為であって、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの等の遂行を共謀する行為を処罰する組織的な犯罪の共謀の罪及び、重大な犯罪等に係る刑事事件に関し、虚偽の証言、証拠の隠滅、偽変造等をすることの報酬として利益を供与する行為を処罰する証人等買収の罪を新設するほか、いわゆる前提犯罪の拡大など犯罪収益規制関係規定の整備や、贈賄罪につき国民の国外犯を処罰するなど国外犯処罰規定の整備を行うこととしております。

 第二は、強制執行を妨害する行為等についての処罰規定を整備するものであります。

 すなわち、現行刑法の関係罰則では処罰が困難な、封印等が不法に取り除かれた後における目的財産に対する妨害行為、目的財産の現状の改変等による妨害行為、執行官など関係者に対して行われる妨害行為または競売開始決定前に行われる競売手続の公正を害するような行為等の強制執行を妨害する行為等を新たに処罰の対象とし、関係罰則を含め、その法定刑を引き上げるとともに、報酬目的または組織的な犯罪として行われる場合に刑を加重することとしております。

 第三は、ハイテク犯罪に対処するとともに、昨年四月に国会において承認された欧州評議会のサイバー犯罪に関する条約を締結するため、罰則及び手続法の整備を行うものであります。

 すなわち、罰則の整備としては、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、不正な指令を与える電磁的記録等を作成等する行為を処罰する不正指令電磁的記録作成等の罪を新設するとともに、わいせつ物頒布等の罪の構成要件の拡充等を行うこととしております。

 また、手続法の整備としては、電磁的記録の記録媒体の差し押さえにかえて電磁的記録を他の記録媒体に複写等し、これを差し押さえることができるものとすること、電子計算機の差し押さえに当たり、電気通信回線で接続している記録媒体から電磁的記録を複写することができるものとすること、電磁的記録の記録媒体への記録を命じ、当該記録媒体を差し押さえる記録命令つき差し押さえの処分を新設することなどのほか、通信履歴の電磁的記録の保全要請の制度や、電磁的記録の没収に関する規定等の整備を行うこととしております。

 このほか、所要の規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

塩崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 午後一時十五分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十六分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時十五分開議

塩崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局長縄田修君、法務省刑事局長大林宏君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。平沢勝栄君。

平沢委員 自民党の平沢勝栄でございます。

 大臣初め関係者の皆さんには、本当にお疲れさまでございます。

 先ほど、大臣の方から、刑法等の一部を改正する法律案について提案理由の説明があったわけでございますけれども、その中で特に問題になっているのが、組織的犯罪処罰法の改正で共謀罪を新たに設ける、これについていろいろな御意見があるわけでございまして、これを中心に、主として大臣にお聞きしたいと思います。

 私自身は、長年捜査に携わってきた立場からしても、今回のこの改正は何ら特に問題とするところはないんじゃないかなと思っていますけれども、しかし、一部の人にいろいろな反対意見が根強い。あるいはその反対意見をよく聞いてみますと、誤解あるいは曲解に基づくものも少なくないなと思っております。

 ちなみに、私、きのうラジオ番組に出まして、そのラジオ番組で、この共謀罪について世論調査をリスナーからとって、それから街頭でとったものと両方やりまして、そしてそれについていろいろな意見、反対の意見もいろいろ聞かせていただきました。

 ちなみに、数字は、リスナーの方は賛否相半ばして、街頭でのいわば若い人を中心にした世論調査では、賛成が六割、反対が四割。ただ、しかし、中身は余りよくわかっていない。反対の人たちも、何か居酒屋で話をしていればすぐ処罰されるというような感じでございまして、この辺、まだよく理解されていないなという感じがしております。

 とりわけ、中心になって今回の共謀罪に反対しているのが弁護士会とか一部の団体なんですけれども、法務省が来ているからはっきり言いますけれども、弁護士会が言っていることが正しいとは限りませんからね。弁護士会が今まで言っていることでとんちんかんなことは幾らでもあったので。

 今ここにありますけれども、例えば、平成十六年の……(発言する者あり)ちょっと静かにしなさい。やじは黙っていろ。去年の二月、国立の小学校で、学校の先生が卒業式で君が代のピアノ伴奏を拒否したら、それについて東京第二弁護士会が、職務命令を出した校長先生が憲法違反だという勧告書を出しているんですよ。これはだれが考えたって弁護士会の方がおかしいと私は思いますよ。

 私は、実は今度の選挙で、こんなことを東京弁護士会はやっていますと言ったら、東京弁護士会というのはそんなところかと。皆さんそう思っちゃうんですよ。

 今のは東京第二弁護士会ですけれども、例えば、ことしの一月も、東京弁護士会が、養護学校でダッチワイフ等を用いたいわば児童の発達段階を踏まえない行き過ぎた性教育をしていたことについて、教育委員会が厳重注意処分にしたら、これがおかしいという警告書を出しているんですよ。私は警告書を出す東京弁護士会の方がおかしいと思いますよ。

 だから、もちろん弁護士会といってもいろいろな方がおられるわけで、私は、今この共謀罪についても、いろいろな弁護士の方にお聞きしますと、いや、これは別に全然問題ないという方もいっぱいおられるわけです。ただ、そういう意見があることも事実なので、私たちはそれは謙虚に聞かなきゃならないけれども、それがすべて正しいとは限らないわけで、その辺は法務当局、しっかり聞いていただきたいなと思っております。

 そこで、同じような形で反対が随分強かったのが、平成十二年に施行になった通信傍受法なんです。あのときも、例えば日本弁護士会は、犯罪と無関係な多くの通信が捜査機関の監視下に置かれる、要するに、だれでもが電話傍受されるというようなことを言って、そして盗聴社会、監視社会ができるというようなことで強く反対したけれども、通信傍受法ができてちょうど五年たったわけなんですけれども、実際に五年たって、通信傍受法というのはどういう形で運用されているのか、実際に盗聴社会というのは実現しているのか、そしてこの運用実態はどうなのか。これは警察庁、最初にまずちょっと答えてくれますか。

縄田政府参考人 通信傍受法の運用状況についてお尋ねでございます。

 法施行以降、平成十六年までに、組織的な薬物密売事件、いわゆる麻薬特例法等を使ったものでありますけれども、この事件、八事件につきまして通信傍受を実施いたしました。その結果、合計三十八名の暴力団幹部らを検挙いたしております。

 このうち、昨年実施されたもの、四件ございますけれども、これなんかを見ましても、通常の捜査手法では当然、全容の解明がなかなか困難であったものであり、そういった段階の中で通信傍受を実施することによりまして、薬物密売組織の全容が解明できる、あるいは関係者の検挙に相当効果があったもの、こういうふうに認識をいたしております。

平沢委員 ですから、当初、もちろん私たちは、濫用が万が一にも起こらないように厳しくチェックしていかなきゃなりませんけれども、そんな心配というのはなかったわけですよね。ですから、今回の問題も、共謀罪もいろいろと心配される向きがあるわけですけれども、それは、私たちは厳しくいろいろな面でチェック、濫用が万が一にも起こらないようにすればいいわけで、その辺はぜひ考えていただきたいなと思っています。

 そこで、大臣にお聞きしたいんですけれども、今回のこの共謀罪というのは、国際組織犯罪防止条約、これの要請に基づいて、いわば新設されようとしているわけで、この条約については既に国会で承認されているわけですよね。

 それで、この条約というのはなぜできたかというと、いろいろな組織犯罪を各国協力してやりましょう、したがって各国に対して共謀罪または参加罪を犯罪として制定するということを求めているわけで、日本は共謀罪というのを選んでいるわけなんです。

 なぜこういった共謀罪が必要になってくるかというと、犯罪というのは、起こってからでは被害が甚大で、なかなか回復が困難である。したがって、犯罪によっては、組織犯罪みたいなものは計画性が非常に高度なもので、しかも、組織の準備指令等に基づいて実際に犯罪が行われる可能性といいますか蓋然性が極めて高い、しかもその間の時間が極めて短い。したがって、早い段階で、確実に犯罪が行われそうなものについては事前に予防しよう、そして犯人を検挙、処罰しようということで、今回の共謀罪という規定が設けられたと思うんですけれども、これについて大臣の御所見をお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 先生のおっしゃるとおりでございまして、国際組織犯罪防止条約というのは重大な犯罪の共謀等を犯罪とすることを義務づけておりますけれども、その理由はただいま先生が御指摘のとおりでございます。

 すなわち、組織的な犯罪というものは、たくさんの者が計画や準備に関与し、綿密に計画を立てて、組織の指揮命令等に基づいて行われる、そのような性質がございます。

 したがいまして、そのような共謀がなされると、計画どおりに犯罪が実行される可能性が高いということ、また、一たび犯罪が起きてしまいますと、重大な結果、また莫大な不正な利益が生じるということでございまして、このような組織犯罪に効果的に対処するためには、犯罪の実行に着手する前の段階、それの一定の行為を処罰の対象とすることが不可欠である、先生おっしゃるとおりでございます。条約の要請、すなわち国際社会の共通の認識であると理解いたしております。

 そこで、我が国もこの条約を締結し、国際社会と協力して一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するため、この条約が義務づけるところに従い、組織的な犯罪の共謀罪を新設するということにいたしたわけでございます。

平沢委員 そういうことなんだろうと思いますけれども、今回この共謀罪を設けるのは、国際条約の要請ということもありますけれども、もう一つは、国際的な組織犯罪のいわば捜査協力の必要性、これもあるんじゃないかなと。

 そもそも、この条約ができる前から、アメリカとかイギリスは、共謀罪の規定というのはすべての犯罪について持っているわけですし、ドイツ、フランスでは参加罪の規定を持っているわけですから、例えばそういった国で犯罪が行われた場合、もし国内法の整備ができていなかったら、日本の場合、捜査共助ができるのかどうかという問題が生じてくるんじゃないかなと。

 例えば、犯罪組織が大規模なクレジットカード詐欺を実行する計画を立てていたと仮定した場合、共謀罪の規定を持っている国では、当然のことながら、計画の段階で犯人を検挙、処罰する、そして事件を未然に防ぐ、こういうことを当然やるわけですけれども、もし、既にそういった犯人の一部が日本に来ている、したがって日本で犯罪のいわば計画を着々と進めているということを外国の捜査当局が察知して、そして日本側にその犯人の引き渡しとかその他捜査共助を求めてくるといった場合に、今、日本ではこうした国内法の整備ができていませんので、そうした諸外国の捜査協力の要請に応じられないという大きな不都合が生じてきて、犯罪の国際協力の必要性というのがこれだけ叫ばれているときに、大きな支障になるんじゃないかなということが考えられますけれども、これについて法務大臣の御所見をお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 この件につきましても、先生御指摘のとおりでございまして、我が国が外国からの犯罪人引き渡しの要請に応じるためには、引き渡しの対象となる者が行ったとされている事実が我が国においても犯罪に該当するものであるということが必要でございます。

 しかし、現在、我が国では、今先生がおっしゃいましたように、詐欺の共謀罪が犯罪とされていないため、外国から犯人の引き渡しの要請があっても、法律上、これに応じることができません。しかし、法案の共謀罪を新設することによりまして、御指摘のような事例におきましても、外国からの要請に応じて犯人の引き渡しを行い、国際社会と協力して国際的な組織犯罪の未然防止に取り組むことが可能になるというわけでございます。

平沢委員 今大臣言われたとおり、犯罪というのは非常に国際的になってきて、そして犯罪者というのも場所を選ばないわけで、世界を飛び歩いているわけですよね。ですから、ある意味でいえば、双罰性というのが当然必要になってくるわけで、ほかの国では犯罪になる、日本では犯罪にならないというようなバリアをできるだけ除いていかないと、国際協力に非常に支障が生じてしまうわけなので、そこはぜひ考えていただきたいな……(発言する者あり)ちょっと黙っていろ。うるさいな。

 それから次に……(発言する者あり)黙っていろ。委員長、ちょっと注意してください、このうるさいの。

塩崎委員長 御静粛に願います。

平沢委員 それから、共謀罪が必要なのはもう一つありまして、国内的にもこれは必要なわけで、要するに、国内的にも、例えば暴力団等の一定の犯罪集団が犯罪を犯すときに、この共謀罪があることによっていわば大きな武器になるんじゃないかということが言われているわけです。

 例えば、今、暴力団も含めて、犯罪集団の犯す犯罪というのは非常に悪質巧妙化しているわけですよね。そして、例えば、暴力団が今、重機でATMごと持っていっちゃうというような事件が起こっているわけです。あるいは、会社を偽装した詐欺会社、表向きは普通の会社を装っているけれども詐欺会社、これが例えば振り込め詐欺あるいはリフォーム詐欺、こういったことを計画的に行っているというようなことも実際に起こっているわけです。

 これはもちろんテロもありますけれども、こうした犯罪というのは、実際に起こって被害が拡大してから犯人を検挙して処罰する、これは捜査当局からすれば一番簡単なことですよ。だけれども、被害が拡大してから犯人を検挙して、では、犯罪の被害者対策はどうするんだ、社会の安全をどうやって守るんだ、これからどんどん犯罪が行われる可能性がある中でどうするんだという議論が出てくるわけでございまして、もちろん最大限配慮はしなきゃなりませんけれども、計画段階で未然に防止するということが極めて大事なことになってくるわけです。

 今の段階では、もちろん一部の法令には共謀罪とかあるいはそれに類した陰謀罪というのがありますけれども、捜査機関が、これは大変に重要な犯罪を行おうとしている、そしてこれがまず確定的だという場合でも、いわば計画段階では全く何もできないわけですけれども、共謀罪というものが新設されれば、こうした組織犯罪を事前に食いとめることができて、社会の安全を守ることができるんじゃないかなと思いますけれども、これについて法務大臣の御所見をお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 先ほども申し上げましたように、組織的な犯罪、これは計画どおりに犯罪が実行される可能性が高く、また、一たび犯罪が起きてしまうと重大な結果や莫大な不利益が生じてしまうということから、そのような事態を防止するためには、犯罪の実行に着手する前の段階の一定の行為を処罰の対象とする必要があると考えられております。

 そこで、法案の共謀罪を新設することによりまして、先生御指摘のとおり、暴力団等によって行われる組織的な犯罪について、その実行に着手する前の段階での検挙、処罰が可能となり、被害の発生を未然に防止できるなど、我が国における組織的な犯罪により一層効果的に対処できるというふうに考えており、先生の御意見は全くそのとおりだと思います。

平沢委員 今法務大臣にお聞きしたんですけれども、警察庁も来ていますから警察庁にもお聞きしたいんですけれども、共謀罪が新たに設けられた場合、捜査当局にとってはこれを犯罪防止の観点から見て意義あるものと考えているかどうか、これについてちょっと教えていただけますか。

縄田政府参考人 共謀罪が新設された場合にどうかということでございますけれども、警察といたしましても、先ほど法務大臣からも御答弁がございましたけれども、例えば、暴力団による組織的なまさに殺傷事件とか詐欺事犯、あるいは暴力団の縄張り拡大等をめぐる恐喝事件とか殺人等の事件等につきましても、あるいは暴力団による売春をめぐる人身売買事犯とか、あるいは外国人の組織的犯罪集団による侵入強盗事件等につきましても、実行着手の前の段階、その共謀の段階で検挙が可能になるということでございまして、組織的な犯罪対策の観点からしましても意義深いもの、こんなふうに考えております。

平沢委員 警察庁、どうもありがとうございました。

 それで次に、共謀罪についてはいろいろと誤解された形でいろいろ報道されているんですけれども、その中の一つに、この共謀罪というのは思想、良心の自由を侵害するものだ、もう全くこれは誤解というよりも曲解としか言いようがないような反対論もあるわけです。心の中で考えていることを処罰するわけでも何でもないわけで、これは人の内心の思想とか意見を処罰するものでは全くないわけで、あくまでも重大かつ組織的な犯罪を実行しようと合意する行為を処罰するわけですから、共謀した場合。

 ですから、人が何か心の中で犯罪をしようなんて思ったことを処罰しようなんということは今度の法律は全く考えていないわけですよ。それがなぜこういう形でいろいろと喧伝されているのかというのがちょっと疑問なんです。

 今既に日本の法令の中にも共謀罪とかあるいはそれに類した陰謀罪というのがあるわけですけれども、実際に裁判でこの共謀罪とかこういったものが適用されて有罪になったケースもあるわけですけれども、そういった過去の事例に照らして、共謀というのはこんな人の内心の自由とか思想の自由を侵すものなのかどうなのか、これは過去の事例に照らした場合はどうなのか、法務大臣、その辺をちょっとお聞かせください。

南野国務大臣 先生御指摘のとおり、法案の共謀罪は、二人以上の者が重大かつ組織的な犯罪を実行しようと考え、共謀という行為に及んだことを処罰するものであります。人の内心にとどまる意思や思想を処罰するものではございません。

 また、共謀と言えるためには、特定の犯罪を実行しようという具体的、現実的な合意をする行為がなされなければならず、心の中で悪い考えを抱いているというだけでは共謀罪は成立しないということ、これは当然であります。仮にそのような考えを外に出したとしても、漠然とした相談程度では、具体的、現実的な合意でないものは、やはり共謀罪は成立いたしません。

 したがいまして、共謀を処罰の対象とすることは、思想、良心の自由を侵害するものではないと考えております。(発言する者あり)

平沢委員 ちょっとうるさいから、委員長、注意してくださいよ。特に平岡さんがうるさいから、平岡さんに注意してください。

塩崎委員長 静粛に願います。

平沢委員 要するに、単なる話し合いだけでは全然これはならないんですよね。現実的、具体的な合意がなければ、これは処罰されないわけですよね。

 では、刑事局長おられますから聞きますけれども、単なる話し合いだけじゃなくて、それから一歩踏み込んだ……(発言する者あり)

塩崎委員長 静粛に願います。

平沢委員 現実的、具体的な合意がなければならないわけでしょう。これもちょっと確認したいのです。

大林政府参考人 法案で新設する組織的な犯罪の共謀罪は、厳格な組織性の要件を満たす重大な犯罪、つまり、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行う犯罪、または、団体の不正権益の獲得、維持、拡大の目的で行う犯罪を共謀した場合に限って成立することとしております。

 この共謀があると言えるために必要な具体的、現実的な合意は、単に漠然とした相談程度では足りず、犯罪の目的や対象、実行の手段、実行に至るまでの手順、各自の役割など、具体的な犯罪計画を現に実行するために必要な要素を総合的に考慮して、具体性、特定性、現実性を持った合意がなされなければならないと考えております。(発言する者あり)

平沢委員 それは後であなたの質問のときに言いなさいよ。黙っていなさい。

 それで、今はあくまでも、要するに単なる話し合いでという形で何か処罰されるんじゃないかということがいろいろ言われているんですけれども、それはもうはっきり違うということをここでしっかり確認しておきたいと思います。

 中には、居酒屋で上司を何かしようというようなことを言っただけで罰せられるとかなんとかというとんでもない、いわば荒唐無稽というか、でたらめもいいところのような、こんなことまでいろいろと喧伝されていますので、その辺はしっかりと確認しておかなければならないだろうと思います。

 そもそも、居酒屋でちょっと話をしたというのは共謀罪で言う合意には全然当たりませんけれども、団体要件にもこれは当たらないでしょう。団体要件というのは、要するに犯罪を目的とした団体がそういった犯罪、特定の犯罪を実行しようとする共謀行為がなきゃならないわけですから、居酒屋で仲間が幾ら話をしたって、別にそういった団体に入っていないわけですから、それはそもそも当たるはずがないわけです。

 今回の法律の中でも、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われる犯罪、こういうことをはっきり書いているわけで、この要件が満たされないので、したがって、いろいろなところでの単なる仲間同士の話し合いの中でたとえ犯罪のことについていろいろ話し合ったとしても、こんなものは全然共謀罪には該当しないと思われますけれども、それについてもう一度法務大臣の御所見を確認しておきたいと思います。

南野国務大臣 先生も御指摘されましたように、法案で新設する組織的な犯罪の共謀罪、この要件はただいま局長が述べてくださったとおりでございます。

 具体的に申しますと、例えば暴力団による組織的な殺傷事犯、いわゆる振り込め詐欺のような組織的犯罪事犯などが、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行う犯罪に当たり、二番目ですか、暴力団の縄張り獲得のための殺傷事犯などが、団体の不正権益の獲得、維持、拡大の目的で行う犯罪に当たりますけれども、このような場合に限って共謀罪が成立することとなります。

 したがいまして、団体の活動や縄張りと無関係に友人や同僚等と共謀しても共謀罪は成立しませんし、また、犯罪実行部隊のような犯罪行為を実行するための組織を持つことのない市民団体や会社等の団体に属する人が共謀したとしても、共謀罪は成立いたしませんということでございます。

平沢委員 そういうことだろうと思いますけれども、そもそも今回の団体要件というのは、これは組織的犯罪処罰法の改正ということで、そのときの団体要件が引き継がれているわけですよね。だからそれと同じことになるわけで、組織的犯罪処罰法ができてから今までに適用になったのは暴力団と詐欺グループぐらいですから、それ以外の団体が適用になることはないだろうと思います。組織的な犯罪集団が関与する犯罪しかそもそも共謀罪の対象にはならないということでいいんだろうと思います。

 具体的には、要するに犯罪目的の団体といった場合、では、団体の共同の目的は何かとか、あるいは団体として犯罪することを意思決定したのかどうかとか、犯罪によって得る利益がその団体に帰属するのかどうかとか、あるいは犯罪を実行するための組織あるいは各人の役割分担はどのようなものかとか、こういったことの事実が解明されない限り、私も長年捜査当局にいましたけれども、これは事実上立件することはできないと思いますよ。

 ですから、共謀罪といっても、単に話し合っただけじゃなくて、今のようなことが具体的にきちんと証明されない限り立件は難しいと私は思いますけれども、ちょっと法務大臣にお聞きしたいんですけれども、どのような場合が処罰されて、どのような場合が処罰されないのか、具体的な例でわかりやすく説明していただけませんか。

南野国務大臣 法案の共謀罪には、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われるものという要件がつけられております。具体的には、先ほど述べましたように、暴力団による組織的な殺傷事犯、いわゆる振り込め詐欺のような組織的詐欺事犯がこの要件を満たす場合に当たると考えられます。

 また、この要件は、現在の組織的犯罪処罰法において一定の罪を加重して処罰する場合の要件と同じでありますけれども、これまでの適用事例としては、暴力団組長らが命令に従わなかった組員を監禁した上殺害した事案や、いわゆる紳士録への掲載料の名目での組織的詐欺商法の事案などがございます。

 他方、このような組織性の要件を満たさない場合としましては、一般論として申し上げますと、組織的に犯罪を行って利益を図ることなどを共同の目的とすると言えないような、例えばマンションの建設に反対する住民グループが実力を行使して工事の邪魔をしようと話し合ったような場合が考えられております。

平沢委員 では、ちょっと刑事局長にお聞きしたいのです。

 団体要件のところなんですけれども、初めから犯罪目的の団体、暴力団みたいなものはわかるんですけれども、例えばNPOでもNGOでも、あるいは宗教団体でもいいのですが、犯罪を目的としているけれども、要するにそれを仮装してNPO、NGOの団体をつくった場合、これはどうなるのか。

 あるいは、例えばオウムみたいにもともとは宗教が目的でスタートした、あるいはNPO、NGOでも、最初はそういう本来の目的、活動があった、しかし途中から全然性格が変わって、活動の実態、そして目的が犯罪目的になってしまった。その場合、これは対象になるんでしょうね。

大林政府参考人 犯罪の成否は個別具体的な事案によりますので、確定的なことを申し上げることは困難であることを御理解いただきたいと思います。

 その上で、一般論で申し上げますと、組織性の要件を満たすかどうかは、団体の名称や法的地位から形式的に判断されるものではなく、その団体の実際の活動内容等を総合的に考慮して判断されるべきものであると考えております。

 したがいまして、御指摘のような、表面上は正当な団体を装っている場合でも、犯罪を目的としてつくられ、犯罪を目的として組織的に活動しているような団体の構成員がその団体の活動として重大な犯罪を共謀したような場合には、共謀罪は成立し得る、このように考えております。

平沢委員 そうしないと、これは社会正義に合致しないだろうと思います。

 そこで、次の質問に移りますけれども、いろいろな批判があるわけですけれども、その中の一つに、条約の審議経過からすれば、越境性というか国際性を共謀罪の要件とすることができるはずであるということが言われているわけです。

 この国際性の要件についてはいろいろ条約の審議の過程で意見が分かれたと聞いておりますけれども、国際性の要件を厳格に要求した場合には対象となる犯罪が不当に狭められる、そういったおそれがあるということの意見が通りまして、国内法において犯罪化する場合には国際性の要件を付することを許さないということで合意された、その結果として国際的な性質とは関係なく定めるという明確な条文として設けられた、これが今回の経緯であるということで聞いているわけでございます。その上で、国連の総会において全会一致でこの条約は採択されたわけでございます。

 したがいまして、国際性の要件を付せということはできないと私は思いますけれども、これについて、法務大臣、いかがですか。

南野国務大臣 国際組織犯罪防止条約の第三十四条第二項は、国内法で共謀罪を設けるに当たっては、国際的な性質とは関係なく定めると規定しており、その正文である英語の文章、英文では、しなければならないという意味をあらわすシャル、shall、これが用語として用いられております。

 したがいまして、先生も御指摘のように、条約の明文上、共謀罪の対象犯罪に国際性の要件をつけることは許されないことは明らかであると解釈しております。

平沢委員 国際性の要件をつけることはできない。したがって、四年以上の懲役、禁錮という要件が付されて、共謀罪の対象犯罪が多過ぎるんじゃないかという一方での批判もあるわけなんですけれども、この死刑または無期もしくは長期四年以上の懲役もしくは禁固の刑が定められている罪というのは、これは国際組織犯罪防止条約が定めているところに従っているわけですから、これについて、対象犯罪が多過ぎる、だから減らすということはできないと思いますけれども、これは条約上できるんでしょうか。ちょっと法務大臣、確認したいと思うんです。

南野国務大臣 先生も御指摘のように、国際組織犯罪防止条約、これは、重大な犯罪、すなわち各国の法律において定められている刑期の重さを基準としまして、長期四年以上の自由を剥奪する刑またはこれより重い刑を科することができる犯罪を共謀罪の対象犯罪とすることを義務づけております。

 したがいまして、このような重大な犯罪のすべてを対象犯罪とすることは条約上の義務でございますし、法案の共謀罪の対象犯罪を減らすことは、これは条約上できないと考えております。

平沢委員 日本も条約を早く批准しなきゃならないわけで、条約上できないということなんだとすれば、これは私は別に多いとは思いませんけれども、一部批判として対象犯罪が多いという批判があることも事実なんです。

 対象犯罪については、たしか前国会だったと思いますけれども、六百十五ですか、性質上、共謀罪の対象にならない過失犯とか未遂犯は当然除かれるわけですけれども、そういったものを除いて六百十五とか、あるいはもうちょっとあるのかもしれませんけれども、そういった数の犯罪が対象となるということで聞いているわけです。

 この六百十幾つ、要するに共謀罪の対象となる犯罪というのは、日本の今ある処罰法令全体の中で占める比率というのはどのくらいになるんですか、これをちょっと刑事局長から。

大林政府参考人 犯罪の個数につきましては、定まった数え方があるわけではございませんので、その数え方によって異なるところでございます。

 すべての法令について罰則を定める条が幾つあるかという観点で数えましたところ、三千四百余りの条があるのではないか、こういうふうに思われます。このうち、共謀罪の対象となり得る罰則の条の数は四百九十二ですので、こういう観点からすれば約一四%ということになると思います。

平沢委員 一四%というのは初めてお聞きしたのですけれども、ちなみに、国際的に見た場合はどうなるんでしょうか。既に共謀罪を有しているアメリカとかイギリスとかカナダ、こういった国では共謀罪の対象となる犯罪というのはほとんどすべてだと思いますけれども、それで間違いないのかどうか、これをちょっと確認させてください。

大林政府参考人 先進国の中で共謀罪の規定を有しているアメリカ、イギリス、カナダにおきましては、対象犯罪を特に限定することなく、その法定刑の軽重にかかわらず、一般的に犯罪の共謀を処罰の対象としている、このように承知しております。

平沢委員 今いろいろお伺いしますと、やはり国際的に見ても、今回の日本の法改正、別に特に私はおかしいものではないなという感じがしますけれども、かなり誤解されている面もあるなという感じがします。

 先ほど来申し上げているとおり、共謀罪の対象犯罪が多過ぎるために、何か普通の日常的な犯罪すべてが全部対象になっている、そして、ちょっと話をすれば全部それが処罰の対象になるというような誤解が一部あるわけですけれども、そういったことはないわけですから、その辺はしっかり言っていかなければならぬのじゃないかなと。

 あくまでも、重大な犯罪を、組織的な犯罪団体、犯罪を目的とする団体が実行しようとするいわば合意が得られた場合にこれを処罰するわけですから、あくまでも厳格な組織性の要件というのが必要になってくるわけで、しかも、犯罪についても重大な犯罪という要件がかかっているわけですから、入り口が極めて狭いということが言えるんじゃないかと思いますけれども、これについて、法務大臣、いかがですか。

南野国務大臣 先生御指摘のとおり、法案の共謀罪は、重大な犯罪、すなわち、死刑または無期もしくは長期四年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている罪の共謀を直ちに処罰するものではなく、組織性の要件、すなわち「団体の活動として、当該犯罪を実行するための組織により行われるもの」等の要件を満たすものに限られて処罰することとしております。このような共謀罪の成立範囲は厳格な組織性の要件によっても限定されていることから、対象犯罪の数や範囲のみをとらえた批判や懸念、これは必ずしも当たらないものと考えております。

平沢委員 それでは、かなり誤解というか曲解もありますし、一部の反対の中には、要するに、捜査当局に権限を少しでも与えるのは反対だと、いわば一種の原理主義者的な方もおられますから。

 いずれにしましても、いろいろとそういう反対意見が根強いことも事実で、私たちはそういった誤解を解くために最大限努力していかなければならないと思いますけれども、これについて、法務当局、法務大臣がいいと思うんですけれども、こうした誤解を解くためにどうしようとしておられるのか、ちょっと教えていただけませんか。

南野国務大臣 先生御指摘のとおり、法案の共謀罪につきましては、国民の方々に正確に御理解いただくことは極めて重大なことであると考えております。

 そこで、法務省といたしましては、法案の共謀罪についてのわかりやすい説明を当省のホームページに掲載しており、また、報道機関等に対しましてもできる限り丁寧に説明をしているところでございますが、今後ともこのような広報をさらに充実していきたいと考えております。

平沢委員 何かもう時間が来たみたいなので、まだ聞きたいことがいっぱいありますけれども、最後の質問にさせていただきたいと思います。

 今回の国内法の整備は、この条約上の要請がいわば一番の目的、直接的な目的ですよね。それで、国内法の整備をしないと今回の国際条約に批准ができないということになるわけですけれども、もしこの批准がいつまでもできないということになった場合にはどういう支障といいますか問題が生じるのか、これを最後に法務大臣に教えていただけませんか。

南野国務大臣 一番我々が気にしているところでございます。

 この法案が成立するまでは、我が国は国際組織犯罪防止条約やこれに附属する人身取引に関する議定書なども締結ができないわけでございます。国際組織犯罪防止条約、これは一層効果的に国際的に組織犯罪を防止することなどを目的とするものでございますので、既に百十カ国もの国々がこの条約を締結しておりますが、我が国がこの条約を締結しない限り、これらの国々と手を携えて、協力して組織犯罪に立ち向かっていくことができないということでございます。

 また、先ほどもお答えいたしましたが、この法案は、我が国において、組織犯罪による甚大な被害が発生することを防止し、国民の安心と安全を確保することにも資するものでございますので、このような治安に関する取り組みもおくれることになってしまいます。

 私としましては、この法律案につきまして、先生方がこの委員会で御審議いただいた上で、できる限り速やかに成立させていただきたい、そのように願っております。よろしくお願いいたします。

平沢委員 時間が来たから終わりますけれども、私も、国際協力の観点からも、一日も早くこの法律が通りますことをお願いいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

塩崎委員長 次に、柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 ただいま平沢委員から詳細な質問があったわけなんですけれども、私は、若干心配が残っておりますので、以下、具体的な事例を用いて質問させていただきます。

 これは、私が検察修習時代に実際に取り調べを担当した現実の事案を若干アレンジしたものです。

 ある会社にA子さんとB子さんという二人のOLさんがいました。二人は別の部門に勤めておりまして、顔はお互い見たことはあるけれども、会話はしたことはありません。

 ある日、近くのデパートの化粧品売り場で二人は顔を会わせたわけですね。そして、B子さんがA子さんにあいさつをした。そうしたら、A子さんがB子さんに対して、私、このデパートでちょくちょく万引きしているの、結構スリルあるわよ、やってみないと誘われました。B子さんは迷ったんですけれども、ちょっとやってみようかなということで万引きをして、まんまと成功したわけですね。これはなかなかおもしろいじゃないかということで、二人は、この二人の集まりを万引きクラブと名づけて、その後、ちょくちょく万引きを繰り返したということです。

 何回目かのときに店員さんに見つかったんですね。そこで書類送検をされて私のところに来ました。まじめに出頭していますし、前科もありませんでしたから、また二度とやりませんと真摯に言いますので、私は起訴猶予にしたわけなんです。

 さて、ここで問題なんですね。

 では、起訴猶予になったこの二人が、今後、また具体的な日時、場所を伴う万引きの共謀をしたら、これは共謀罪になるんでしょうか。メールでその相談をしたら、そのメールの通信履歴の差し押さえができるんでしょうか。言うまでもなく、窃盗は、十年以下の懲役が法定刑となっておりますので、今回の共謀罪の対象になります。また、この万引きクラブというのは、まさしく犯罪行為を実行するために形成された組織なんですね。

 こういうことで、今の質問についてはどのようにお答えになりますでしょうか。

大林政府参考人 まず、今問題となっておる法案の共謀罪について、適用の関係について御説明いたします。

 共謀罪は、重大な犯罪のうち、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われる犯罪行為、または団体に不正権益を得させるため等の目的で行われる犯罪行為を実行しようとした、こういうものでございます。

 そこで、今の例でございますけれども、今の事例はお二人がやったと。そうすると、前も御説明しましたけれども、団体というのは、共同の目的とかそれから犯罪実行部隊である、そういうものが必要だと。そうすると、今のような、対等の地位にある二人が一緒に万引きする、そういうものについては、これは要件を満たさないというふうに言えます。当然、第二の不正権益というものは、「団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力」、このような定義でございまして、このような要件も満たさないということで、お尋ねのような事案については共謀罪は成立しないものと考えております。(発言する者あり)

塩崎委員長 御静粛に願います。

柴山委員 対等な二人と言いましたけれども、それでは、暴力団が対等に集まって組織犯罪をしたときも、対等な立場ならば処罰できないということなんですかね。

 またこの二人について質問させていただいて、例えば、B子さんが、では見張りをしましょうと共謀して、A子さんは万引きを実際にやりましょうという謀議をした場合、あるいはこれまでそういうことをしてきた場合、そういう役割分担が実質的になされた場合はどうなんでしょうか。

大林政府参考人 窃盗集団もいろいろあるわけでございます。今のような法案の定義規定によれば、窃盗集団であっても、構成員の交代があっても集団としての同一性が認められる、かつ、指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体である組織を備えるような場合は、これは団体に該当する場合もあるのではないか、こういうふうに考えております。

 あるいは、利益の帰属の問題でも、その場で盗んで二人で分けるという形ではなくて、ある程度の集団が、とったものをある程度どこかに集めるなり上納して、それから分配する、このような形態を予想しているんだと思います。

柴山委員 ちょっとこれ以上この事例についての細部の議論には立ち入りませんが、要は、こうした比較的身近な事案についても構成要件上該当し得るということがかなり問題となってくる場面があるのではないかということで、次の質問に移らせていただきます。

 次の質問なんですけれども、この共謀罪というのは、自首減免の規定はあるんですけれども、いわゆる中止の規定がないんですね。

 一般の犯罪であれば、実行の着手をした後、自分の意思でそれをやめた場合には、刑の必要的な減免、いわゆる中止犯という規定があるんですけれども、当然のことながら、予備ですとか共謀というような場合にはもう共謀してしまったら即それが既遂なわけですから、実際に共謀したけれども後でやめましょうと言った場合にもこれは共謀罪の適用があるということになってしまうわけですけれども、この中止犯があり得ないということについては、刑事局長、理論的にどのようにお考えですか。

大林政府参考人 御指摘のとおり、法案の共謀罪は重大な犯罪を実行することについての合意がなされた時点で既遂に達することから、共謀後に翻意しても、既に既遂に至っている以上、中止犯とはなりません。この点は予備罪や準備罪について中止未遂の規定が適用されないのと同様でございます。

柴山委員 そうなると、実際に合意に至らなかったのか、それとも合意をしたけれどもそれは撤回したのかということが、この二年以下の懲役という極めて重要な犯罪の認定において微妙な部分になってくるということなんですね。そこがかなりあいまいではないかという問題意識があります。

 次の質問なんですけれども、現在の刑法百五十三条で通貨偽造準備罪という犯罪があります。これは現実の通貨偽造も当然犯罪なんですけれども、その定型性、当罰性の高さから、準備行為そのものが独立の予備罪として構成要件化されているんですね。

 それでは、この通貨偽造準備罪、五年以下ということでこの共謀罪の対象になるんですけれども、通貨偽造を共謀するのではなくて、この通貨偽造の準備を共謀した場合、これは共謀罪に該当するんでしょうか。犯罪の実行という、実行の定義についてお伺いしたいと思います。

大林政府参考人 予備罪ないし準備罪は、一般に、ある罪を犯す目的で予備行為をした者を処罰する犯罪類型でございます。

 予備行為の遂行を合意する場合には、その目的となる犯罪の遂行についての合意も認められるのが通常であると考えられます。したがって、通貨偽造準備罪のようにその法定刑が長期四年以上の重大な犯罪に当たる予備罪であっても、予備罪の共謀罪ではなく目的となる犯罪、すなわち通貨偽造罪の共謀罪が成立する場合が多いと考えられます。

 もっとも、みずからは目的となる犯罪を実行する意思がない、いわゆる他人予備行為の共謀に加わった場合であって、当該予備行為が御指摘の通貨偽造準備罪のようにその法定刑が長期四年以上の重大な犯罪に該当する場合には、当該予備罪についての共謀罪が成立する可能性はある、このように考えております。

柴山委員 しかしながら、例えば、通貨偽造については全く具体的な日時、場所等を明らかにしていない、だけれども、これから札の偽造をしたいので精巧なカラーコピー機を買いましょうという合意をすることは当然あるわけですね。この場合はどうなんですか。やはりこの場合も、正犯しかも既遂犯の目的が明らかということであるから、これは通貨偽造の共謀罪ということになるわけなんでしょうか。

大林政府参考人 今おっしゃられるもの、結論としては、それは成立する場合があろうかなと。

 ただ、証拠次第、先ほど委員がおっしゃったように、証拠の認定、収集の問題がございますので、それは、そういうことで可能性のある場合とない場合があるんじゃないか、このように考えております。

柴山委員 だから、成立する場合があるというのは百五十三条の共謀罪なんですか、それとも通貨偽造罪の共謀罪なんですか、どちらですか。

大林政府参考人 その本人がやろうとする、目的とする犯罪が何かということにかかっているのではないかというふうに思います。

 ですから、本罪の共謀罪が成立する場合もあれば……(柴山委員「そうですね」と呼ぶ)ということでございます。

柴山委員 以上、申し上げたとおり、この共謀罪というのは、具体的にでは何をするかということがかなりあいまいな場合であっても、またその当罰性がそれほど高くなくても、あいまいな基準によって刑罰権の行使がなされる、そういう可能性が高い類型だなということは、これはもう認めざるを得ないというように私は思っております。

 したがって、次に、ではその弊害というものをどうやって防いでいくかということになるかと思うんですけれども、国際的組織犯罪防止条約の第五条を見ると、この共謀罪の限定要素として、参加者の一人による合意の内容を推進するための行為または組織的な犯罪集団の関与ということが挙げられておりまして、一般に説明されるのは、この組織的な犯罪集団の関与ということを私たちの国はとったんだという説明がなされております。

 では、ここで質問なんですが、前者の参加者の一人による合意の内容推進行為、いわゆるオーバートアクトということを同時に要素とすることが条約上禁止されているんでしょうか。

大林政府参考人 条約との関係で申し上げれば、このようなオーバートアクトが認められる場合に限って重大な犯罪の共謀を処罰するものとすることは、特段の問題はないものと考えております。

柴山委員 それを要件とした場合に、法益保護上、あるいはその他の何か不都合な事例というものが、先ほど平沢先生からもお話があったんですけれども、あるでしょうか。

 というのは、オーバートアクトを要求しても、だれか一人が何らかの行為をすればいいわけです。例えば先ほどの国際的なクレジットカードの偽造の場面でいっても、だれか一人が例えばプラスチックカードを購入して、それを準備するという行為が認められれば、オーバートアクトの要件を導入したとしても、これを処罰することは可能なんです。ただ、これを全く要件としなければ、合意をしたかどうかということも不明確、合意を撤回したかということも不明確です。だけれども、その外部的な徴憑ということ、これを要求すれば明確性というのは格段に広がるんじゃないかというように思うんですが、この点はいかがでしょうか。

大林政府参考人 おっしゃられるオーバートアクトを条件とした場合には、理論的には、例えば共謀者の一人が共謀の成立直後に自首した場合など、いまだ当該共謀の内容を推進する特段の行為が行われていない場合には、他の共謀者についても検挙、処罰ができないという場面が想定されると思われます。

 もっとも、今回の法案の共謀罪においては、共謀の存在のほか、組織性の要件等を満たすものに限って処罰するものとしており、その要件は極めて厳格なものとなっております。そして、これらの共謀が行われたことや組織性等の要件に該当することを立証するためには、実務上はオーバートアクトの存在が非常に重要となり、オーバートアクトが存在せず、あるいはその存在が立証できない事案においては、これらの立証が困難になる場合も多いと考えられます。

 したがって、共謀罪において、オーバートアクトを要件としない場合と、した場合の実務上の差異は、結果としてはそれほど大きくない場合もあり得る、このように考えております。(発言する者あり)

柴山委員 今ありましたけれども、それなら入れても問題はないじゃないかというのが私の意見なんです。

 また、オーバートアクトが明確でないという批判があるんですけれども、これは、この条約の解釈として私たちが独自に決められると思うんですね。例えば予備行為とか幇助、まあ幇助までいくと書き込み過ぎかと思うんですが、例えば予備行為というような、あるいは予備とは何かということをちょっと定義づけたり、そういうことを入れればいいわけですから、それによって特段の不都合が生じる、それは、先ほどおっしゃった共謀の段階で一人が自首した場合という場合に確かに差異が出てくるかもしれませんが、これを入れることによって特段のデメリットがあるとは私は思えません。

 その一方で、先ほど申し上げたとおり、謀議の認定ということに非常にあいまいさが残るところをかんがみれば、やはり行為というものを一歩要求することによって、明確性あるいは当罰性というものが高まるのではないかという問題提起だけさせていただきたいというように思っております。

 共謀罪から、次にサイバー犯罪条約の問題に移りたいと思っておりますが、その前に、今のやりとりを聞いて、法務大臣、オーバートアクト、要するに外部的な行為を要求することについて、法務大臣なりの御感想というものがあれば、ぜひお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 先生が今お話しになられましたオーバートアクトに関しまして、御指摘のような御意見があるということは承知いたしております。条約も、共謀罪につきまして、合意の内容を推進するための行為を伴うものという条件を付加することを認めております。

 しかしながら、このような条件を付するべきか、つけるべきか否かについては、法制審議会での議論において、共謀罪については厳格な組織性の要件、それがつけられており、処罰範囲が不当に広がるおそれはないことなどに照らし、その必要はないとされた経緯がございます。

 このようなことから、政府案におきましては、条約が言っております合意の内容を推進するための行為を伴うという条件は付しておりません。

 いずれにいたしましても、御指摘の点も含めまして、十分に御審議いただきたいというふうに思っております。

柴山委員 私は、すべてのこの長期四年以上の犯罪についてオーバートアクトが絶対必要だと言っているわけではないんです。例えばテロですとか大規模な薬物犯罪、こういうものについては、オーバートアクトを要件としなくてもいい事案、いい構成要件についてもあると思います。現に、私戦陰謀罪ですとか、あと、破防法の犯罪でも陰謀罪というのはあるわけです。だから、本当に取り返しがつかない、もう早期の検挙が必要だ、重大な犯罪であるというようなものについては、こういうオーバートアクトが要らないものも当然あっていいと私は思うんですね、その法益保護の観点から。

 だけれども、それが必要なものと必要でないものを一緒くたにして、長期四年以上のものであれば全部、組織犯罪であればこれを認めてしまってよいという考え方は、ちょっといささか間口を広げ過ぎなんじゃないかなということだけ指摘をさせていただいて、サイバー犯罪条約の問題に移りたいと思います。

 サイバー犯罪条約についてなんですけれども、これは平成十七年の一月二十七日現在、G7諸国を含む三十八カ国が署名を済ませていたということなんですけれども、署名した各国の中での批准手続は今どのような状況になっているんでしょうか。

大林政府参考人 御指摘の欧州評議会サイバー犯罪に関する条約につきましては、本年十月現在、すべてのG7諸国を含む四十二カ国が署名を済ませており、そのうち、デンマーク、ハンガリー、ルーマニア等の十一カ国が既にこの条約を締結済みであるものの、G7諸国はいまだこの条約を締結していないと承知しております。

 しかしながら、例えばフランスでは、本年、サイバー犯罪条約の締結を許可する法律が成立しており、大統領が署名すれば条約締結の承認の手続は終えることになると聞いておりますし、また米国では、サイバー犯罪条約締結のために法律の制定や改正の必要はなく、平成十五年、大統領がサイバー犯罪条約を上院に提出し、条約締結の承認を求めていると聞いているところでございます。

柴山委員 進んではいるということなんですけれども、要は、署名した各国でそういう手続が進んでいる中で、日本の法整備というものが突出して進んでいるのではないか。

 当然のことながら、サイバー犯罪ということになりますと、ちょっとこの後若干質問させていただきますけれども、やはり処罰の範囲の限定ということが恐らく重要な要素になってくると思うんですね。だから、そのあたりはやはりくれぐれも慎重な検討をしなくてはいけないのではないかということを付言したいと思います。

 それで、実際に今回、刑事訴訟法の改正なんですけれども、九十九条第二項に「電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、」複写した上で差し押さえすることができるというふうになっているわけですけれども、その当該端末で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されている、それは具体的にはどういうものを想定されているんでしょうか。

大林政府参考人 端的に申し上げますと、これまで、現在の現行法の刑事訴訟法は、差し押さえの対象を有体物としておりますので、コンピューターそのものを押さえる。しかしながら、現代問題となっているのは、コンピューターにある情報がどうなのかという問題がございまして、しかしながら情報自体は別のサーバー等に入っている、それを呼び出さないと意味がない、こういう場合に捜査手法としてどうしたらいいかということで手当てをするものでございます。

 御質問の、電子計算機、すなわちコンピューターに電気通信回線で接続している記録媒体からの複写の事例といたしましては、例えば、そのコンピューターの利用者にあてた電子メールが保管されているメールサーバーや、インターネット上のリモートストレージサービス、すなわちインターネットを利用して遠隔地にあるコンピューターにデータを保管することができるサービスを利用してデータを保管している場合、あるいは社内LANで接続されている他のコンピューターをデータの保管のために使用している場合などにおいて、これらの電子メールやデータを複写することを想定しております。

柴山委員 ということは、要するに、コンピューターの端末から勝手にプロバイダーから情報を得て、それを犯罪に利用している場合に、それを意外とする当該プロバイダー、このデータというものはどうなんでしょうか。要するに、勝手に端末でデータを写している場合でも、そのもとのプロバイダーが、処理すべき電磁的記録を保管していると認定できるかどうか、その線引きはどうなんでしょうか。

大林政府参考人 電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体からの複写の処分が認められるためには、まず、当該電子計算機自体について、裁判官によりその差し押さえを許可する差し押さえ許可状が発付されることが必要でございます。その上で、この処分が認められる範囲については、差し押さえの対象となっている電子計算機に電気通信回線で接続しているだけでは足りず、それに加え、当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にある記録媒体に限るとしております。そして、この処分が認められる記録媒体の範囲については、裁判官が発する電子計算機の差し押さえを許可する差し押さえ許可状に明示されなければならないことになっておりまして、捜査機関はこの範囲内に限って複写を行うことができることとされています。

柴山委員 質問に答えていただいていないんですが、要は、勝手にデータをダウンロードしてそれを使っているだけでその親のプロバイダーが差し押さえられるかどうかであって、その差し押さえの手続的な要件を聞いているわけじゃないんですね。

 要するに、当該端末のコンピューターで勝手にデータを引っ張ってきてもよいと言ったら、どんなプロバイダーも全部差し押さえの対象となりかねないわけですね、その令状さえ、特定さえしていれば。今特定性の要件をおっしゃったんですけれども。

 だから、当該パソコンとの実質的な結びつき、何らかの結びつきがなければ、プロバイダーを運営している人もたまったものじゃないですよ。勝手に犯罪をやったら、どんどん差し押さえられてしまう、そういうことにはならないんですか。

大林政府参考人 今申し上げているのは、今の当該電子計算機、それを使用する人について、例えば、何かの犯罪の被疑者の疑いがあります、その人のデータのやりとりが問題となりますというときに、当然、先ほど言いましたリモートに、サーバーに入っていることがあります。

 ただ、今おっしゃられることを私が正確に理解をしているかどうかわかりませんけれども、その被疑者のコンピューターからサーバーに対して今のようにデータが行っている場合には、IDなり、当然アクセスする権限を持っているはずですね。ですから、その範囲内の、IDにおいてアクセスできるところを引っ張るという形ですから、当然、サーバーの方ではそういうものに被疑者が利用するということは承知している実態があるわけですから、そこはサーバーの方の権限を害するということではないと思います。

柴山委員 以上です。質問を終わります。どうもありがとうございました。

塩崎委員長 次に、稲田朋美君。

稲田委員 自由民主党の稲田朋美でございます。本日も質問の機会を与えていただき、ありがとうございます。

 本日は、平成十五年に国会で承認されました国際組織犯罪防止条約に伴う国内法の整備、中でも、世論の議論が多うございます組織的な犯罪の共謀罪の新設についてお伺いしたいと思います。その前提として、私の意見を一言申し述べさせていただきます。

 私は、この審議をするに当たって、二つの観点があると思います。その一つは、言うまでもなく我が国は法治国家であり、日本国憲法のもとで行政をし、また立法をし、そして裁判をする、そういった国でございます。そんな中で、条約は内閣が締結権を有しておりますけれども、その事前もしくは事後に国会の承認が必要となっております。

 今回のこの国際組織犯罪防止条約につきましては、平成十五年の五月十四日に国会で審議され、そこで、自民、公明、民主、共産の多数の賛成によって承認が得られた、そういった条約でございます。いやしくも、国権の最高機関である立法府、国会で審議されて、そしてそれが承認された、そういった条約であり、その条約の中に国内法が義務づけられていることに伴う共謀罪の新設であるということでございます。

 したがいまして、憲法九十八条が、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」というふうにも定めておりますし、国会が承認した条約で、そしてその条約に義務づけられた国内法としてこの共謀罪を新設するということは避けて通れない、言いかえますと、国内法の成立をしないということは条約違反にもなる、そして、国会で承認されたものである、そういった観点が一つございます。

 そしてもう一つの観点は、やはり今回の共謀罪の新設ということは、人を処罰する、そういった法律を新しくつくるということでございます。言いかえますと、新しい法律をつくって、そして国民を処罰する、そういった法律をつくるということです。

 いかなる行為を犯罪として処罰することが正当であるかは、時代とともに変化していると思います。今回の条約も、同時多発テロ、また犯罪も国際化し、国境を越えているということに対応して条約が締結されたというふうに理解しております。

 しかし、そういった理解の上でもなお、私たちが今審議している法律が、最高では五年の長期の有期刑の刑罰をも可能にする、そういった刑罰を伴う法律をつくるんだ、そういった事実をやはり重く受けとめなければならないということ。

 そしてもう一つは、我が国の刑法が、行為、すなわち犯罪事実の実行行為に出て初めて処罰する、そういった原則のもとで定められている。そして、今条約に定められているからといっても、国内法になればそういった国内法としてひとり歩きする、そういったことからも、今までの法体系の原則というものも踏まえてこの審議に入るべきであるというふうに思います。

 その前提で、まず大臣にお聞きいたします。

 先ほどから先輩方がお聞きになっていることと重複するのでございますが、平成十五年の通常国会で、自民、公明、民主、共産が賛成して承認された、そういった多数で賛成されたこの条約の趣旨というものをもう一度御説明ください。

    〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕

南野国務大臣 御説明申し上げたいと思っております。

 国境を越えて組織的に敢行される国際的な組織犯罪の脅威が深刻化していることは、これはサミットの声明などでも繰り返し指摘されております。

 一方、我が国におきましても、集団密航事犯、または覚せい剤の密輸事犯、クレジットカードの事犯、またはピッキング用具を使用した窃盗事犯など、国際的な犯罪組織によって敢行される各種の犯罪が多発しております。

 国際組織犯罪防止条約は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し、これと戦うための協力を促進するということを目的といたしております。そして、このような目的を達成するために、重大な犯罪の共謀等の一定の行為を犯罪とすることを義務づけるほか、広範な分野にわたる協力に関する規定も設けながら、締約国間における組織犯罪対策のあらゆる協力の促進を図ることといたしております。

 このような国際的な組織犯罪の脅威という現実や、このような犯罪を防止し、これと戦うことを目的として、そのためのさまざまな方法などを定めておりますこの条約の内容にかんがみますと、我が国としても、この条約を締結する意義は大きなものがございます。これによりまして、司法、法執行の分野における一層強化された国際協力のもとで国際的な組織犯罪から国民を守ることができるようになるものと考えております。

稲田委員 条約の締結の必要性についてはわかりました。だからこそ、多くの国々がこの条約を締結しているんだと思います。

 しかし、これが国内法になるということになりますと、刑法は、人によい立ち居振る舞いを教えるものでもなく、また道徳を教えるものでもありません。刑法は人の法益を守るものです。殺人罪なら人の生命を、また内乱罪なら国家の存立をその保護法益としているわけです。

 今回の組織犯罪処罰法を改正して新設する共謀罪の保護法益が何であるかについて、法務大臣と刑事局長の御意見をお伺いいたしたいと思います。

大林政府参考人 法益という法律用語が出てきましたので、ちょっとお答えさせていただきます。

 法益としては、今回、対象犯罪がたくさんありますけれども、今回の共謀罪は、それぞれの犯罪が抱えている保護法益と同じものになる、こういうふうに考えております。

稲田委員 それでは、条約の五条では、国内法において、共謀罪と参加罪、どちらかを選ぶことができるというふうになっているんですが、今回、共謀罪の方を選んだ理由についてお伺いしたいと思います。

南野国務大臣 先生御指摘のとおり、条約第五条は、組織的な犯罪に効果的に対処するため、重大な犯罪を共謀することまたは組織的な犯罪集団の活動に参加することの一方または双方を犯罪とすることを締約国に義務づけております。

 まず、条約の参加罪は、組織的な犯罪集団の活動やその他の活動に参加する行為を犯罪とすることを義務づけておりますけれども、そのような犯罪集団の活動等に参加する行為と特定の犯罪行為との結びつきは要件とされておりません。しかしながら、このような特定の犯罪行為と結びつかない参加行為を犯罪とすることは我が国の法制にはないものでありますので、このような行為を犯罪とすることについては慎重な検討が必要であると考えられます。

 これに対しまして、特定の犯罪を共謀する行為の犯罪化につきましては、我が国では、例えば内乱陰謀や爆発物使用の共謀など、既に一定の犯罪について実行の着手前の共謀あるいは陰謀が犯罪とされております。したがいまして、このような共謀を犯罪とすることにつきましては、我が国の現行の法制度との親和性も認められると考えられることなどから、重大な犯罪の共謀を犯罪とすることを選択することとしたものであります。

稲田委員 お手元の新聞記事をごらんになっていただきたいのですが、最近の読売新聞、そして朝日新聞の記事を用意しております。

 このいずれの記事も、国際テロ対策、国境を越えた組織犯罪対策のために共謀罪の新設をすることについては必要性を認めているのだと思いますが、今回の法案については、読売新聞の方は修正するように、また、朝日新聞の方は出し直せというような社説を載せております。

 この朝日新聞の出し直せという社説については後ほど私もコメントをしたいと思いますので、まず、修正すべきであるという世論もあるということについて大臣にお伺いしたいのですが、今回の法案の修正の必要性があるというふうに考えておられますか、それとも必要はないというふうに考えておられますでしょうか。

南野国務大臣 今先生方に御審議をお願いいたしておりますので、この委員会におきましていろいろな御討議がされるものと思っております。その結論を待ちたいというふうにも思っております。

稲田委員 修正が必要であるか否かも含めて、ただ、こういった世論もありますので、国民に理解をしていただくということが非常に重要で、それによって不安を取り除くということが私たちの責務であるというふうに思います。

 そして、朝日新聞なんですけれども、私は、報道はやはり真実を伝えなければならない、また真実は正確に伝えなければならないというふうに考えているわけです。そして、その中で、例えば「政府が〇三年に初めて提出したが、野党は強く反対し、二度廃案となった。」というふうに今回の新設予定の共謀罪について書かれているんですけれども、私が調べましたところでは、衆議院の法務委員会で審議されたのはたったの一日だけであるということであり、野党が強く反対したことと二度廃案になったこととは関係がないというふうに思っております。

 また、共謀罪について、要件として、国際性それから重大性、そして組織性ということが議論に上っているようでございます。

 まず、国際性についてなんですが、国際性の要件を入れるということは条約に違反している、ちょっと言い方があれなんですけれども、条約により、国際性を国内法で要件とすることは条約違反であるという見解がありますが、この点について、いかがでしょうか。

南野国務大臣 先生御指摘のような御意見がありますことは承知いたしております。

 国際組織犯罪防止条約三十四条第二項、これは、国内法で共謀罪を新設するに当たりましては、国際的な性質とは関係なく定めると明確に規定いたしております。国際性を要件とすることを認めてはおりませんので、今回、共謀罪を新設するに当たりましては、国際性を要件とすることはできないと考えております。

 また、実際上の問題としましても、仮に国際性を要件とした場合には、例えば、我が国の暴力団が外国の対立するマフィアの構成員を実行部隊を使用して殺害するという共謀をした場合には国際性が認められ、これを検挙して処罰することができるのに対し、同様に、我が国の暴力団が国内の対立する暴力団の構成員を実行部隊を使用して殺害するという共謀をした場合には国際性が認められず、これを検挙して処罰することができないこととなりますけれども、組織犯罪を防止し、これと戦うという条約の趣旨から、そのような結果になることは不合理であると考えられます。

稲田委員 今の御答弁で、条約三十四条二項で国際性の要件を付することが禁止されており、仮に国際性を要件とすれば条約違反になるというふうに伺います。

 次に、重大性のことなんですけれども、先ほどの朝日新聞では、「今回の法案が可決された場合、法務省によれば、共謀を罰する罪は六百十五にのぼる。」「六百十五の犯罪の中には、」云々かんぬんというふうに書かれておりまして、私も今回、六百十五という数字を見まして大変驚いたわけでございます。

 ただ、条約には長期四年以上の罪という規定が既に入っておりまして、この重大性、犯罪を絞るということが条約上できるのか否か、この点について大臣の御所見を伺います。

南野国務大臣 条約は、重大な犯罪、すなわち、各国の法律において定められている刑期の重さを基準として、「長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪」を共謀罪の対象犯罪とすることを義務づけております。したがいまして、御指摘のように、共謀罪の対象犯罪を長期五年以上の犯罪とすることは条約に抵触し、許されないものと考えております。

 また、条約は、国内法におきまして共謀行為を犯罪とするに際しては、国際的な性質とは関係なく定めると規定いたしております。したがいまして、御指摘のように、共謀罪の対象犯罪から国際的な性質とは無関係な罪を除外することも、条約に抵触し、許されないものと考えております。

稲田委員 そうしますと、今問題になっております国際性、また重大性については、修正の可能性がない、修正すれば条約に違反するということだと思うんです。

 続きまして、刑事局長に御意見を伺いたいと思います。

 この中でも一番問題になっておりますのが、組織性、犯罪組織であるか否かという、組織的犯罪集団が関与するものというその要件であるというふうに思いますが、この朝日新聞の社説の中で、大林刑事局長が「一般の方々にとっては非常にわかりにくい構成要件であろう」というふうにお答えになったともあるんですけれども、今法務省が出されている法案に言う、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われるものというのがわかりにくいという御指摘があるようですので、これをちょっとわかりやすく御説明いただけますでしょうか。

大林政府参考人 お尋ねの件につきましては、本罪、いわゆる共謀罪は、御案内のとおり、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者」、こういう書き方をしてあります。ところが、これを、同じ法律の「団体」とか「団体の活動」というのは、これまでもお答えしていますとおり、第二条、三条で、「団体」「団体の活動」というものが非常に長い文章で定義されております。

 したがいまして、私がこの間御答弁申し上げたのは、そういう前段の問題、非常に長い定義を含んで、これは、いろいろな団体の反復性とか指揮命令系統の問題とか、先ほどから御答弁している内容がその中に全部入っているわけでございます。ただ、今問題となっている、委員御指摘のように、共謀罪の条文だけを見ますと、「団体の活動として、」「組織により」という簡単な形でしか出ていません。

 ですから、そういう意味において、私は、この条文自体を国民の方々が見た場合に、その前段の非常に長い定義規定がやや置き去りになっているというような感じがしまして、わかりにくいということは、私はそう思いますというふうに御答弁差し上げたところでございます。

稲田委員 文脈的にはわかりました。

 次に、先ほど柴山先生も御指摘があったんですけれども、条約五条で、共謀罪を国内法で犯罪とするに当たって、オーバートアクトの要件を付加できるということでございます。法案でこの要件を付加することによって、犯罪は行為である、行為があって初めて犯罪とするという我が国の刑法の法体系にも合致するのではないかなというふうにも思うわけでございますが、この点について、刑事局長はどのようにお考えでしょうか。

大林政府参考人 先ほども申し上げましたとおり、条約上は今のいわゆるオーバートアクトをつけることについては許容しておりますので、我が国の共謀罪についても、これをつけるということは可能だと思います。

 ただ、法務省の立場といたしましては、御説明していますとおり、いわゆるオーバートアクトをつけるような構成要件、陰謀罪とか共謀罪があるわけですけれども、どれもオーバートアクトをつけたような条文というのは日本の今の法体系にはございません。そういう点で、法制審議会等では、そこまで団体の要件がつけられているんだからその必要はないだろうという結論になって、法務省としてもそのような案を出させていただいたところでございます。

 ただ、もしオーバートアクトを今の法案につけられないかというお尋ねならば、それはつけることは可能だと考えております。

稲田委員 質疑時間が終了したようで、あと幾つかお聞きしたいことがあったんですけれども、私としましては、国会で審議をして条約を承認した以上、条約で義務づけられた共謀罪を国内法化するのが私たちの務めであるというふうに思います。

 ただ、最初に述べましたように、刑罰を伴う法律を新設するのだということから、新人議員ではありますけれども立法府の一員として、単に条約に決められているからいいんだというような消極的な理由ではなくて、今回の法案の成立が国民生活の安全のために欠かせないものである、そしてその要件が明確である、そして決して運用によって危険性があるものではないということを国民に理解してもらう努力をしたいと思いますし、また、先ほどからの質問のように、例えば修正するとすれば、オーバートアクトを入れるかとか、あと、組織性についての構成要件が明確であるか、その点に絞って審議をしないとこの審議が冗漫になってしまうのではないかなという意見で締めくくらせていただきます。

 ありがとうございました。

吉野委員長代理 次に、早川忠孝君。

早川委員 自由民主党の早川忠孝でございます。

 三カ月前に質問をさせていただきました。きょう、柴山、稲田両議員からの質問がありまして、私の言いたいことがほとんど、すべて尽くされているというふうに思いました。さらに、平沢委員の質問が、まさに国の治安を守るという観点から共謀罪等の法整備が必要であるということについての基本的な認識を改めて国民の皆様に訴えていただいたと思っております。

 ただ、今般の選挙を通じて考えておりますのは、国民にどうやって理解を求めるか、国民の理解なくしてはさまざまな制度改革は前へ進めることができない。治安の確保であり、今回の共謀罪はあくまでも、国際的な組織犯罪に対して国際的な協力体制をどうやって構築するか、そのための法制度の整備であるということの正しい認識をやはり広げるための努力を政府としてはしなければならない。

 それから、国会というのはもともと立法府でありますので、法務省が提案するものを単に承認する機関であってはならない。立法府としての国会がまさにみずから法律をつくっていかなければならない基本的責務がある。

 ただ、条約に基づいて国内法の整備をする場合は、これは内閣の方が、さまざまな制度との整合性をしっかりと確保しながら、十分の検討を経た上で提案をするというのも、これも現行の憲法上は認められておる制度である。しかしながら、本来ならば、国会が十分に審議を尽くして、みずから法律を策定すべきである。またそれにふさわしい案件であるけれども、残念ながら、立法府にその十分の力があったかどうかということについて反省をしてきたわけであります。

 幸い、公募で当選をされた弁護士出身の柴山昌彦議員、稲田朋美議員とも、法律の専門家としての役割を十分果たしていただいた。そういう意味では、きょうの質疑が後世に残る立派な与党としての質疑だったのではないかなと思っております。

 ただし、私は、法務大臣にお伺いしたいのでありますけれども、解散後の新たな、今回のいわゆる条約刑法と言われるものの提案に当たって、通常国会における委員会での審議内容等を反映した形で、必要な修正、検討があれば、ぜひともそれを反映したものにしていただきたかった。それをなぜされなかったんだろうか。そのことについて御所見をお伺いしたい。あわせて、今後の審議について、どのような審議を政府として期待されるか、お伺いをしたいと思います。

南野国務大臣 先生に前回も御質問いただきました。

 既に国会承認をいただいている国際組織犯罪防止条約は、国際社会と協力して一層効果的に国際的な組織犯罪を防止することなどを目的とするものでありますので、国際社会の一員として我が国としても早期に締結する必要があり、また我が国における組織犯罪対策にも資するものでありますから、早急に条約の内容に従った法整備を行う必要があります。

 法案の共謀罪などにつきましては、さまざまな御意見、また御批判があるということは承知いたしておりますけれども、法務省といたしましては、法案の共謀罪はこの条約の内容に従ったものであり、また、厳格な組織性の要件をつけることにより、組織的な犯罪集団が関与する犯罪の共謀に限って成立するものとしていることなどから、前回と同じ内容のものを提出するというふうにいたしました。

 さらに、国際的組織犯罪防止条約が認めております合意の内容を推進していくための行為、それに伴う条件をつけるべきか否かという点につきましても、法制審議会でも論議されましたが、法案の共謀罪につきましては厳格な組織性の要件がつけられております。処罰範囲が不当に広がるおそれはないことなどに照らしまして、その必要性はないとされた経緯等もございます。

 このようなことから、今回の法案におきましても、合意の内容を推進するための行為を伴うという要件はつけておりませんけれども、そのような条件をつけるべきではないかという御指摘があるということも承知いたしております。

 いずれにいたしましても、法務省としましては、この法案が条約の内容に従ったものであるという考えからこれを提出したものでございますが、先生方にはこれらの御指摘等も含めまして十分に御審議いただきたい、そのように願っているところでございます。

 以上でございます。

早川委員 どうもありがとうございました。よろしくお願いいたします。

吉野委員長代理 次に、漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。

 まず、政務官に、共謀罪に関する広報活動についてお聞きしたいと思います。

 この法律については、多くの市民団体の皆様等から、反対だ、あるいは撤回をしてもらいたいという強い要望が、メールとか問い合わせが私の事務所にもいっぱいあります。いろいろな理由が書いてあるのですが、理由とするところは三点ぐらいありまして、共謀罪が成立すると市民団体にも適用されるおそれがあるということ、あるいは思想処罰につながるおそれがあるということ、さらには主婦の井戸端会議さえも共謀罪の対象になってしまうといういろいろな心配が書いてありますが、私はそのほとんどが誤解に基づくものだというふうに思っております。

 ただ、この誤解も、後で述べますように、法律が非常に難しくなっている、わかりにくくなっている、一律的ではない、解釈の余地が大いにあるということで、この法律そのもの、条文の構成そのものも誤解を招く原因になっているんだろうなというふうに思っております。そういう意味では、法務省としては、このような不安の声に誠実にこたえて、国民の皆様に十分な御理解をしていただく必要がある。

 したがって、私は、三点についてしっかりと法務省としての共謀罪に関する意見を述べてもらいたい。

 一つは、先ほどから述べておられるように、共謀罪を新設する理由、必要性。二番目は、共謀罪の対象は組織的犯罪集団が行う行為に限定される、したがって、一般市民団体や普通の会社、労働組合は対象にならないんだと。対象犯罪が六百十五と言われておりますけれども、これは組織的犯罪集団に限られていますから、入り口が非常に狭いんだということ。したがって、ほとんどの国民の皆様は対象にならないんだということを訴えてもらいたい。さらには、共謀罪の成立には、単に漠然とした合意ではなくて、具体性、特定性、現実性を持った犯罪実行の意思の連絡、こういうものが必要であるということ。この三点は特にしっかりと訴えてもらいたいと思っております。

 この国民の皆様の不安を解消するために、今法務省はどんな御努力をされているのか、その法務省の取り組みについてお尋ねしたいと思います。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 法案の共謀罪につきまして、ただいま先生の御説明いただきました三点、大変重要な点だと思っておりまして、それらを国民の方々に正確に御理解していただくことは極めて大事なことであると考えております。

 そこで、法務省といたしましては、法案の共謀罪につきましてのわかりやすい説明を当省のホームページに掲載しており、また、報道機関等に対しましてもできる限り丁寧に説明をしているところでありますけれども、今後ともこのような広報をさらに充実していきたいと考えております。

 以上です。

漆原委員 ちなみに、政務官はこのホームページを御自身で検索されたことはありますか。

三ッ林大臣政務官 自分で見たことはあります。

漆原委員 私もこれを読ませてもらって、非常にいいことが書いてありますね。ただ、これにたどり着くまでが厄介なんですよ。本当に、普通の人であれば嫌になってやめちゃう。

 まず、ホームページを開きますと、こういうトピックスが出ます。このトピックスはいっぱい書いてあるんですが、この中に共謀罪がないんです。ではどうするかというと、次に開くのは、「法務省」のこの中にいっぱい書いてあるんだけれども、「法令」というところをクリックするわけですね。「法令」をクリックしますと、第百六十三回国会提出主要法律案、ここで初めて犯罪の国際化及び組織化並びに情報云々、この法律を提出しますよという法案名が出てくる。その法案名の資料のところで初めて「共謀罪に関するQ&A」というのが出てくるんですね。それをクリックして初めて、先ほどのこれが出てくるわけです。

 したがって、共謀罪のことを知りたいなと思っても、この手順を踏まないとこの「Q&A」にたどり着かないんですね。そういう意味では、最初のトピックスのところに共謀罪についてというのをぱっと載っけていただければすぐわかる。大臣も先ほどの答弁の中で、国民の皆様に丁寧にわかりやすい広報活動をしたいとおっしゃっておりましたが、ぜひとも広報活動の仕方、本当に、今一番問題になっているのはどこかというところにすぐぱっとたどり着けるようなやり方に変えてもらいたいと思うんですが、御意見はいかがでしょうか。

三ッ林大臣政務官 先生のおっしゃるとおりでありまして、興味を持たれている方がスムーズにその情報にアクセスできるような、さらなるホームページの改善というものを担当部門と相談してやってまいりたいと思っております。

漆原委員 ありがとうございました。

 それでは、組織的犯罪処罰法について局長にお尋ねしたいと思います。

 この法律の構成要件、大変にわかりづらい、それが共謀罪の不安の大きな要因となっているわけでありますので、今回は条文と具体的な事例、事案に即してお尋ねしたいと思っております。

 まず、六条の二第一項は、組織的な犯罪の共謀の構成要件として、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」、こういう規定をしております。しかし、同法第二条は、団体の定義として、「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。)により反復して行われるものをいう。」というふうに団体の定義をしているわけですね。

 ということは、すなわち、団体の概念の中に既に組織性の要件も組み込まれているというふうに私は思います。そうだとすれば、この六条の二第一項の構成要件としては、団体の活動として当該行為を実行したもので十分であって、「組織により」という「組織」という言葉は重複だから要らない、かえってわかりづらくなっちゃうというふうに私は思うのですが、この点、御見解を聞きたいと思います。

大林政府参考人 法案の共謀罪における「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの」という要件のうち、団体の活動として行われるという部分と、当該犯罪行為を実行するための組織により行われるという部分の関係についてお尋ねだというふうに思いますので、お答えいたしますと、御指摘のように、両者の要件は、前者が満たされれば後者も満たされるということは実際上は多い、こういうふうに考えております。

 もっとも、例えば、ある団体が犯罪を行うことを意思決定した上で、一人の者に犯罪の実行を依頼し、その者が単独で犯罪を行う場合のように、団体の活動として行われるものではあっても、当該犯罪行為を実行するための組織により行われるものとは言えない場合もあり得ると考えられます。

 このように、単独で実行される犯罪の場合に比べて、犯罪行為を実行するための組織により行われる犯罪は、組織の指揮命令に基づき、構成員各人が犯罪行為の役割分担をした上で行われることから、実際に犯罪行為が行われる可能性が高く、また、一たび犯罪行為が行われた場合には重大な結果を生じるという点で特に悪質であって、違法性も高いと考えられます。

 そこで、組織的犯罪処罰法第三条第一項は、「団体の活動として、」という要件とは別に、組織的な犯罪を加重して処罰するための要件として、このような犯罪行為を実行するための組織によりという要件を付したものでございます。

 法案の共謀罪においても、共謀の対象となる犯罪が、犯罪行為を実行するための組織により行われるものでなければならない、こういう要件を付したところでございます。

漆原委員 そうすると、団体性プラス組織性ということで要件を加重したというふうに理解してよろしいわけですね。団体性はあるけれども、たまたま組織性がない犯罪は対象にならない、こういうことですね。わかりました。

 それでは、ここでもう一度改めて解釈をしてもらいたいのですが、「団体の活動として、」という部分と「当該行為を実行するための組織により」という部分について改めて解釈をお願いします。

大林政府参考人 まず、団体の活動として行われるという要件は、犯罪行為が団体の意思決定に基づくものでなければならず、犯罪行為の効果、利益が団体に帰属するものでなければならないというものでございます。

 したがって、例えば、その団体の意思を決定する権限のない者が犯罪を実行することを決定した場合など、その団体の意思決定手続の実情に照らして団体自体の意思決定とは認められない場合や、犯罪行為による効果、利益をその団体が享受することがない場合には、この要件を満たさないこととなります。

 そして、当該犯罪行為を実行するための組織により行われるという要件は、犯罪行為を実行することを目的として成り立っている組織、すなわち、犯罪行為を実行するという目的が構成員の結合関係の根拠になっている組織によって行わなければならないというものでございます。

 したがって、例えば、既存の組織を利用して犯罪を行うという場合であれば、その組織が通常の業務を行うための組織であって、組織の構成員の間にいまだ犯罪実行を目的とした結びつきがあるとは言えないような場合には、犯罪行為を実行するための組織ではないのでこの要件を満たさない、このように考えております。

漆原委員 先回、私はこう質問しました。市民団体、会社、労働組合の正当な団体の幹部が、その組織として特定犯罪を実行することを決定したという場合は共謀罪が成立するかという質問で、局長の答弁は、「正当な共同の目的のために活動している市民団体や会社等については、仮に、たまたまその団体の幹部がその団体の意思決定として特定の犯罪を実行することを共謀したとしても、組織的な犯罪の共謀罪は成立しないと考えております。」中略しますけれども、「言いかえれば、団体が有している共同の目的が犯罪行為を行うことと相入れないような正当な団体については、仮に、たまたまその団体の幹部が相談して犯罪行為を行うことを決定したとしても、共同の目的を有する団体として意思決定したとは言えないため、「団体の活動として、」という要件を満たさず、共謀罪は成立しない」という答弁をされていますね。

 しかし、団体の本来の目的はどうあれ、現に、団体全体の意思として、詐欺、恐喝、威力業務妨害、強要等の具体的な犯罪行為を組織全体として実行することを共謀した場合には、法文上、構成要件に当たり得るのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

大林政府参考人 団体とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体ですので、そのような共同の目的を有する団体として犯罪行為を行うことを意思決定したと言えるためには、犯罪行為を行うことが団体の共同の目的に沿うものでなければならない。すなわち、共同の目的と相入れない場合には、「団体の活動として、」という要件を満たさないと解しているところでございます。

 したがいまして、正当な目的を持って活動している団体につきましては、仮に、たまたま団体の幹部以下が組織により行われる具体的な犯罪を共謀したとしても、犯罪行為を行うことがその団体の共同の目的と相入れない場合には、「団体の活動として、」という要件を満たさない、このように考えております。

漆原委員 例えば、会社の利益を守るためにする贈賄行為とか、あるいは株価の操作とか粉飾決算とか、あるいは最低入札価格を聞き出す行為など、いずれも会社の共同の目的と相入れないとは言いがたい場合も考えられると思います。

 例えば、ほかの会社との競争に負けないため、会社ぐるみで実行部隊をつくって、おのおのの役割分担を決めて贈賄、株価操作、粉飾決算等々を行う場合、この場合は構成要件に該当しますか、どうですか。

大林政府参考人 御指摘の事例におきましても、通常の会社の場合は、共同の目的は、例えば通常の事業活動を行って利益を得るということにあるというふうに考えられます。そのような共同の目的を有する通常の会社にとっては、御指摘のような犯罪行為を行うことは、客観的に見ればやはりその共同の目的に沿うものとは言えず、法案の共謀罪の構成要件に該当しないものと解しております。

 しかしながら、そこは証拠収集の問題でございまして、あくまで一般論としてお答えしているところでございます。

漆原委員 そうすると、当初は正当な団体として会社なら会社が発足しましたが、途中から組織的犯罪集団と認定されるような場合があると思います。

 例えば、初めは仲間五、六人で建築会社を始めました。ところが、その後不況になって、とてもやっていけない、仕事がなくなった。そこで、みんなで相談してリフォーム詐欺をやろうじゃないか、こうやることにして、おのおのの任務の分担や具体的実行についての共謀をした。このような場合は共謀罪は成立する可能性があると思いますが、いかがでしょうか。

大林政府参考人 団体の共同の目的とは、必ずしも、設立登記や定款に記載されている目的や、団体が形成された当初の目的のみをいうものではなく、当該共謀が行われた時点における個別具体的な団体の活動実態に照らして判断されることになります。

 したがいまして、具体的な事実関係にもよりますが、御指摘のような、建設業を行って利益を得るという当初の共同の目的が失われ、詐欺を行って利益を得ることが共同の目的であると認められるような犯罪集団化した場合には、共謀罪が成立し得ると考えられます。

漆原委員 そうすると、初めからリフォーム詐欺をやるつもりで団体を結成した場合には、ある意味では組織的犯罪集団と認定しやすいですよね。しかし、途中から組織的犯罪集団に団体が変質するケースがあり得るというふうに今話があったわけだけれども、この場合の認定は非常に難しいのではないかなというふうに思います。

 例えば、リフォーム詐欺をやる場合でも、三人三人で一課、二課と分けまして、一課の場合は通常の建設、建築関係をやっていく課にして、二課の方を詐欺専門にやるグループにして、会社全体でそれを決めて一課、二課としてやっている場合、これはどうなんですか。会社全体が組織的犯罪集団になったと言えるんでしょうか。それとも、二課だけが組織的犯罪集団になったんでしょうか。この辺の認定はどんなふうになりますか。

大林政府参考人 やはり具体的案件によってだろうと思います。

 今おっしゃられるケース、まあ、企業というのはいろいろな企業がございます。それから、詐欺の問題でいえば、少なからず、例えばオーバー的な、誇張的なセールストークをするということもあります。しかしながら、割合とはっきり言えることは、リフォームする意思もないのにリフォームするといってお金を取ることを相談しました、それを会社ぐるみの組織としてやりました、この場合は詐欺の共謀罪と言えるんだと思います。

 ただ、今のように、組織としてある程度一体として評価されますし、そういういわゆる犯罪集団が行動していくわけですから、今おっしゃられる意味が、一部正常なところがあるということの御趣旨なのかということがあろうかと思いますけれども、全体的に見てまさに詐欺しかあり得ないというような行動を組織的に行うという会社であれば、それは詐欺の共謀罪が成立しますでしょうし、今の具体的な、一部事情を知らない、手足となる、いわゆる間接正犯的な事情によれば、そういう場合も共謀罪が成立する場合というのは、当該利用された人を別として、共謀した人たちがその被疑者になるということはあり得るのかなと。いろいろなケースが考えられるのではないか、このように考えます。

漆原委員 同じく局長はさきの答弁で、「正当な共同の目的のために活動している市民団体や会社等については、仮に、たまたまその団体の幹部がその団体の意思決定として特定の犯罪を実行することを共謀したとしても、組織的な犯罪の共謀罪は成立しない」、こう述べられましたよね。

 しかし、今述べられたように、正当な団体が途中から組織的犯罪集団に変質する場合があるとすれば、そうだとすれば、仮に、たまたまその団体の幹部がその団体の意思決定として特定の犯罪を実行することを共謀した場合であっても、その団体の変質の有無を捜査するために、判断するために、その会社、団体は全部捜査の対象となると思われますが、いかがでしょうか。

大林政府参考人 法案の共謀罪についての捜査も、その構成要件に該当する行為が行われた疑いがある場合に開始されることになりますから、団体の幹部らが犯罪行為を行うことを意思決定したというだけではなく、その団体が少なくとも組織的な犯罪集団である、あるいは組織的な犯罪集団に変質したという客観的な疑いがなければ捜査を行うことはないと考えております。

 そして、団体が組織的な犯罪集団に変質したという客観的な疑いがあって捜査を開始した後においても、団体の共同の目的を解明するために団体の実際の活動状況等について慎重に捜査を遂げる必要がありますが、正当な団体であることが判明した時点で犯罪の疑いがなくなるわけですから、正当な団体が捜査の対象となることは通常は想定しにくいのではないか、このように考えております。

漆原委員 最終的には共謀罪が成立しなくても、捜査機関が捜査権を濫用して恣意的な捜査を行うようなことがあれば、市民団体、会社、労働組合といった団体は大きな打撃を受けることになりますが、そのような事態にならないという保証はあるんでしょうか。

大林政府参考人 委員御指摘のとおり、捜査機関が捜査権を濫用して恣意的な捜査を行うようなことがあってはならないことは当然のことであると考えております。

 法務省といたしましては、御審議いただいている共謀罪が施行されることとなった場合には、捜査当局が誤った運用をすることのないよう、正当な活動を行っている団体について共謀罪が成立することはないことなど、法律の趣旨、内容について周知に努めたい、このように考えております。

漆原委員 普通の団体が組織的犯罪集団に変質したという客観的事実があればという表現を先ほどされましたが、どんなふうな事態になったら普通の会社が組織的犯罪集団に途中から変わったというふうに外形的に見て判断されるんでしょうか。

大林政府参考人 これも具体的なケースだと思います。

 ただ、私が先ほど申し上げたとおり、一つの組織が犯罪集団と言える、収益もすべて、例えば詐欺罪でいえば、詐欺の手段によってその収益を得てそれを組織において入れるといいますか、受け取るといいますか、そういう状態になった、割合とはっきりとした状態でなければこの運用はできないだろうと私は思います。

 前から御説明しているとおり、組織犯罪処罰法、現在、その条文をもって今回の共謀罪の要件にしているわけですが、今の組織犯罪処罰法の具体的な摘発事例は、先ほども大臣の方から申し上げましたけれども、暴力団の事案、それからいわゆる詐欺的な、紳士録の事案を先ほど申し上げましたけれども、そのような事案がほとんどでございまして、詳細に私どもは把握しているわけじゃありませんが、私が知っている限りは、そのようなものが具体的な事例として、要するに、いろいろな分担を決めて組織的に行ってそういう収益を得た、こういうのが処罰事例である、この法律の性質はそういうものであるということをぜひ御理解いただきたいと思います。

漆原委員 問題は、組織的犯罪集団に該当しなければ、先ほど申しましたように、入り口が狭めてあるわけですね、該当しなければ全然問題ないんだけれども、問題は、まともな会社、まともな団体が変質する場合があり得る。変質すれば適用対象になるということだから、そこのところを本当に制限的に、厳密に考えていかないと、これは大変なことになるんだという感じを持っております。

 先ほどから国際性の話がありましたが、二、三聞きたいと思います。

 共謀罪の新設に当たって国際性を要件としない理由として、局長は、条約上の制約の問題、それから実際上の問題を挙げておられます。しかし、条約は、そもそもその名称が示すとおり、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約、また、同条約第一条には、「目的」として「この条約の目的は、一層効果的に国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進することにある。」こう述べていますね。

 こういう条約としてできているにもかかわらず、なぜ国際性を要件とすることを条約上禁じているんでしょうか。

大林政府参考人 委員御指摘のように、国際組織犯罪防止条約は国際的な組織犯罪の防止等を目的としており、今回の法案においても、組織的犯罪処罰法第一条の「目的」に、国際組織犯罪防止条約を実施するためを加えることにしております。

 そして、国際組織犯罪防止条約は、各国が国内法において共謀を犯罪とするに当たり国際性を要件とすると、対象となる犯罪事象が組織犯罪の実態に照らして不当に狭くなる上、早期かつ的確な検挙、処罰が困難となり、ひいては一層効果的に国際的な組織犯罪を防止するという条約の趣旨、目的を没却してしまうことになりかねないことから、国際性を要件とすることを禁止しているところでございます。

 いずれにいたしましても、委員御指摘のとおり、法案の共謀罪による処罰範囲が立法趣旨を超えて不当に拡大するようなことはあってはならないと考えております。先ほどもお答えしましたように、その運用に当たっては、正当な活動を行っている団体について共謀罪が成立することはないことなど、法律の趣旨、内容について周知徹底してまいりたいと考えております。

漆原委員 もう一点、実際上の問題としてはこう答えられているんですね。「例えば暴力団による国内での組織的な殺傷事犯の共謀が行われた場合について、そのようなものは国際性の要件を満たさないことから、これを共謀罪として処罰できなくなってしまいますが、そのようなことになるのは不都合であると考えられます。」というふうに先回答弁されておりますが、私は何もこれは不都合にならぬと思っております。

 先回述べたとおり、共謀罪は現行刑法では例外的類型に属するものであります。そのような例外的犯罪類型である共謀行為をすべて処罰の対象にしたいんだという立場からすれば不都合と思うかもしれませんが、犯罪の成立には客観的な実行行為が必要であり、それが原則だというふうに考える私の立場からすれば何の不都合もないと思っておるんですが、補充的にお答えになりますか。

大林政府参考人 国際組織犯罪防止条約が国際性を要件とすることを禁止した趣旨は先ほど申し上げたとおりですが、仮に我が国が共謀罪について国際性を要件とした場合、国際組織犯罪防止条約を締結できないことはもとより、事件の全容としては国際的な組織犯罪であるにもかかわらず、たまたま一国内での犯罪を共謀したにすぎない場合や、捜査の開始時のみならず、捜査を重ねても国際性を立証できるだけの証拠が収集できなかった場合に、共謀罪として処罰できず、したがって、国際的な組織犯罪が実行される危険があるのにこれを防止できないこととなり、また、外国との間の捜査共助等の面でも双罰性の観点から支障を生じることが考えられます。

漆原委員 最後の質問でありますが、組織的犯罪処罰法第一条は、今回の改正案では、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を実施するため、」という文言を入れておりますね。

 条約上の制限があって国際性を要件とできないということはまあまあ理解したとします。しかし、条約の目的、組織的犯罪処罰法の目的がもともと国際的な組織犯罪の防止ということであるとすれば、共謀罪の運用については、できるだけ法の趣旨、目的に沿うように運用されてしかるべきだと思いますが、いかがでしょうか。

大林政府参考人 先ほども申し上げましたけれども、委員御指摘のとおり、法案の共謀罪による処罰範囲が立法趣旨を超えて不当に拡大するようなことはあってはならないと考えております。その運用に当たっては、正当な活動を行っている団体について共謀罪が成立することはないことなど、法律の趣旨、内容について周知徹底してまいりたいと考えております。

漆原委員 ぜひ今のことをしっかりと確約、確認させていただいて、私の質問を終わります。ありがとうございました。

    ―――――――――――――

塩崎委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、参考人の出席を求め、意見を聴取することとし、その日時、人選等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

塩崎委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時二十二分散会


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