衆議院

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第9号 平成18年3月24日(金曜日)

会議録本文へ
平成十八年三月二十四日(金曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      下村 博文君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳本 卓治君    石関 貴史君

      泉  健太君    枝野 幸男君

      河村たかし君    津村 啓介君

      細川 律夫君    伊藤  渉君

      保坂 展人君    滝   実君

    …………………………………

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   参考人

   (千葉大学法経学部教授) 多賀谷一照君

   参考人

   (日本弁護士連合会副会長)            鹿野 哲義君

   参考人

   (京都大学大学院情報学研究科研究員(COE)・客員教授)         鷲見 和彦君

   参考人

   (神奈川大学大学院法務研究科教授)        阿部 浩己君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十四日

 辞任         補欠選任

  河村たかし君     泉  健太君

同日

 辞任         補欠選任

  泉  健太君     河村たかし君

    ―――――――――――――

三月二十四日

 刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第八五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案(内閣提出第五六号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、千葉大学法経学部教授多賀谷一照君、日本弁護士連合会副会長鹿野哲義君、京都大学大学院情報学研究科研究員(COE)・客員教授鷲見和彦君、神奈川大学大学院法務研究科教授阿部浩己君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきますよう、委員長としてお願いを申し上げる次第でございます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、多賀谷参考人、鹿野参考人、鷲見参考人、阿部参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただきますようお願いをいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承を願いたいと思います。

 それでは、まず多賀谷参考人にお願いいたしたいと思います。よろしくお願いいたします。

多賀谷参考人 千葉大学教授の多賀谷と申します。

 私は、専門は行政法、情報通信法ですので、その観点から、今回の入管法改正と個人情報保護法との関係を中心にお話をしたいと思います。

 我が国において、行政機関には、まず日本人のことから入りますけれども、日本人の多くの個人情報が記録されております。住民基本台帳、戸籍、固定資産課税台帳、社会保険関係、犯歴、学校での内申書、指導要録、介護記録等々です。

 政令市レベルで、おおむね一人当たり五十種類ぐらいのファイルに事細かに記録されております。それぞれ、必ずしも任意に収集されるのではなく、登録、許認可等において義務的に収集されます。項目としては、住所、氏名、病歴、犯歴等々の項目が記録されておりますけれども、中には介護記録、治療にかかわるカルテ、精神に関する疾病にかかわる措置入院記録など、個人の人格、品位にかかわるようなデータも、必要がある限り記録されております。

 このように、ある意味において行政当局に膨大に記録されている個人情報を行政機関が濫用しないように、また、不必要に収集しないように定めているのが、国並びに地方公共団体における個人情報保護制度であります。

 これに比べて外国人には、出入国記録に関するファイル、外国人登録ファイルがあるのみであり、多くのファイルにより管理されている日本人と比べて未整備な状況にあると言えます。今回、指紋採取による外国人の記録というのは、日本人に比べて限りあるファイル、情報しかない外国人について情報を整備し、成り済ましによる不法入国の摘発、なかんずくテロリストの発見という必要性によるものであると考えます。

 ただし、このようにして外国人にかかわる指紋情報が登録された場合に、それがみだりに収集されたり濫用的に利用されることのないように、日本人と同様に個人情報保護法制により保護しなければいけないということになります。

 以下、行政機関の保有する個人情報保護法に関するコメントをしますけれども、私の資料としてはA4の一枚紙、条文の関係部分のみ引用していますので、それを参考にしてください。

 まず、外国人情報の収集についてですけれども、行政機関の保有する個人情報保護法四条によれば、行政機関は、入管当局は、入国に際し指紋採取をする場合において、その利用目的を原則として明示しなければなりません。テロリストの入国阻止を含む出入国管理のためというのが、この場合の目的となると思います。

 そして、採取された指紋の利用は、この利用目的による利用、その他法令に基づく利用、例えば刑事訴訟法百九十七条二項、民事訴訟法百八十六条などの法令に基づく利用の二つにおおむね限定されるということになります。通常、このように行政調査の一環として収集された情報は、直ちに犯罪捜査等のために用いられるべきではないとされております。

 次に、法十条、十一条によれば、国の安全、国の重大な利益に該当する場合などを除いて、行政機関は、個人情報ファイルの存在を総務大臣に通知し、一般にホームページ等で公表しなければならないとされております。この公表項目のうちには、利用目的、記録項目、経常的提供先等が含まれます。したがって、外国人を含め、何人も行政機関が外国人にかかわる指紋情報をどのように管理するかをおおむね知ることができるというふうに考えられます。

 次に、法八条によれば、法令に基づく場合のほか、目的外利用、提供というのは原則としてはできないわけですけれども、例外として、当該行政機関内部で目的外利用し、もしくは他の行政機関に対し外部提供することが当該所掌事務との関係で相当な理由があればできるという例外規定が設けられております。

 この相当性の概念についてですけれども、相当性という概念だと一般、抽象的なとらえ方ができますけれども、実際にはこの相当性は行政機関の恣意的な判断を許すものではなく、それによって本人または第三者の利益を不当に侵害するものであってはならないことが八条本文で明記されております。

 また、相当な理由があるかは、保有個人情報の内容や当該目的外の利用目的等を勘案して、行政機関の長が個別に判断することになるが、あくまでも例外であることから、例外としてふさわしい理由でなければなりません。

 また、裏のところに法三十六条の規定がありますけれども、法三十六条は、利用停止請求権についての規定であります。

 これは、行政機関が仮に八条の規定に違反して保有個人情報を提供したような場合には、当該本人は行政機関に対してその利用の停止を請求することができるということになっております。この意味において、入管局が行う目的外利用、提供が、八条の認める相当な理由の範囲内であるかどうかは本人がチェックすることができる形になっており、そして、入管局との間で解釈をめぐって争いがあった場合には、それは不服申し立てを経て、内閣府に置かれる情報公開・個人情報保護審査会へ諮問され、その答申を受け、最終的には取り消し訴訟において裁判所により判断される、そういう仕組みが個人情報保護法制においては定められております。

 次に、指紋情報のセンシティブ性ですけれども、個人情報保護法は、個人情報一般に対して規定を置いております。罰則については、個人の秘密に関する情報というより狭い規定を置いておりますけれども、一般的には個人情報一般という形になります。これは、立法過程において、いわゆるセンシティブ情報については個別の規定を設けるべきであるという意見もありましたけれども、何がセンシティブであり、そうではないかという限界があいまいなので、結局見送られておりました。

 地方公共団体においての条例ではセンシティブ情報に関する規定がありますけれども、それは結局、センシティブ情報の記録は慎重に行うべきであるという規定以上には出ておりません。

 ただ、個別の法とかガイドラインで加重的な規定を設けることは可能でありまして、例えば、民間の部門ですけれども、金融信用情報に関するガイドライン六条では機微情報という概念を用いて、実質的にセンシティブ情報について、それを取得、利用、提供する場合のルールが定められております。

 次に、保存期間ですけれども、入国時に採取された外国人の情報が、出入国管理の必要性からすれば、直ちに消去すべきではなく、一定期間保管することが必要だろうと思いますけれども、それがどの程度保管されるべきであるかというようなことは、恐らく外国人によってさまざまですので、一律的にこれを規定することは無理だろうと思います。

 ちなみに、電気通信事業にかかわるガイドラインでも保存期間の定めがおおむね定められておりますけれども、この場合にも、例外的な場合があることは規定がされております。

 そこで、時間だということですので、あと一、二分で終わりにしますけれども、以上のように、外国人の入国時における指紋採取は、社会的なリスクが高まっている現代社会において、安全性を確保するためにやむを得ない措置と考えます。現在、個人の人権を確保することは確かに必要でありますけれども、個人の人権は、社会に一定の安定性が確保されることを前提として初めて成り立つものであります。

 今までの個人情報保護法制の経験によれば、個人情報の利用、活用の問題は、あらかじめ大枠を定めるのはかなり無理であって、現実に、自治体では、個人情報保護条例に基づいて審議会、審査会等が外部提供とか目的外利用について事後的にチェックをしております。

 我が国の個人情報保護制度の仕組みにおいても、入管局の指紋情報の管理のあり方に問題があれば、それについては、事後的に、内閣府に置かれていて中立的な第三者で構成される情報公開・個人情報保護審査会において事例として提起され、そこで判例法的に運用のあり方が定められる、そういう形で外国人の個人情報の適正な管理が図られるべきである、そういうことになるべきなのが個人情報保護法制の本来の仕組みだろうと思います。

 以上で私の意見を終わります。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、鹿野参考人にお願いをいたします。

鹿野参考人 日本弁護士連合会副会長の鹿野哲義でございます。

 昨年十二月に発表した日弁連の意見書に基づいて意見を述べさせていただきます。

 本法案は、テロの未然防止を目的としております。この点、テロリズムの防止が国際社会の共通の課題であることは、日弁連も十分に認識しているところであります。

 他方、国連の人権委員会は、二〇〇五年の決議で、テロリズムとの闘いにおいて人権の侵害が発生していることに深く憂慮し、基本的人権の尊重、テロの防止が相互に関連するとともに相互を補強するものであることを認識すべきであるとしています。

 日弁連も、国際社会で確立された基本的人権の保障は、それが世界における正義及び平和の基礎であるからこそ国際的に承認されてきたものであり、テロの防止も、基本的人権の保障を十分に尊重することによって初めて国際社会の平和及び安全の維持に資するものになると考えております。

 それでは、三点に絞って意見を述べさせていただきます。

 まず、指紋、顔情報等の個人識別情報の提供につきましては、入国時の採取の問題と、採取した情報の保管、利用の問題、この二つの問題があります。

 まず、入国時の問題です。本法案は、十六歳以上の外国人の入国に際して、指紋、顔情報などの提供を義務づけております。

 指紋にせよ、顔情報にせよ、それをみだりに取得されない権利が憲法十三条を根拠とするプライバシー権によって保障されていることは、最高裁の判例でも明らかになっております。もっとも、プライバシー権といえども、テロ防止目的など公共の福祉との関係での調整は必要です。

 このうち、特に指紋に関しては、日本では、公権力によって指紋押捺を義務づけられているのは、刑事訴訟法二百十八条により、身体検査令状が裁判官によって発付された場合であるか、または身体の拘束を受けている被疑者のみとされております。また、日本ではかつて、外国人登録において指紋押捺制度がありました。しかし、強い反対運動により、二〇〇〇年までに指紋押捺制度が廃止されました。このように、日本では、指紋の採取それ自体に対して強い抵抗があります。

 指紋採取の義務化は、自由権規約七条によって禁止されている品位を傷つける取り扱いに当たります。世界的に見ても、現在、入国に際してすべての外国人に指紋情報の提供を求めているのはアメリカ合衆国だけです。また、国連の機関である国際民間航空機関は、パスポートに関する国際標準において、顔情報を記録することを必須としておりますが、指紋は必須とはされておりません。

 以上の理由から、日弁連は、入国をする毎年七百万人もの人々から、テロ行為、犯罪の嫌疑の有無にかかわらず一律に外国人というだけで指紋を採取すべきではないと考えております。

 問題点の二つ目でございます。採取した情報の保管、利用に関するものです。

 先週来の審議の政府答弁によれば、このようにして採取された個人識別情報を七、八十年にわたって犯罪捜査などの外国人の在留管理の目的で保管することが予定されています。この点、本法案の提案理由は、テロの未然防止という目的となっています。犯罪捜査に利用することについてまで本法案の改正の目的に含まれていないものと解されます。

 ところで、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律三条一項は、「行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない。」としています。テロリストの入国を水際で防止するために、上陸審査をし、いろいろなブラックリストと照合してチェックを終えたのであれば、目的は達成したわけで、ほかの目的に利用するというのは、この条項から見ても許されないものと考えます。

 次に、データベースができるとすれば、上陸審査を済ませ、テロリストでもない、何の犯罪の嫌疑もないとして入国が認められた外国人が、どのような使われ方をするのか、場合によっては濫用され、さまざまな場面で照合されるのではないか、監視されているのではないかと認識するとすれば、萎縮効果が働き、表現の自由や行動の自由が制約されることになります。このような意味で、個人情報コントロール権ないしプライバシー権を侵害するおそれがあると日弁連は危惧しております。

 さらに、特別永住を除くすべての外国人の指紋情報等を、犯罪捜査のために利用することを目的として保管することは、外国人に対する差別的取り扱いに当たるものと考えられます。このような取り扱いは、外国人はもともと犯罪を起こす可能性が高い集団であるかのような偏見、差別を日本社会に生むおそれがあります。外国人に対する偏見、差別が広がれば、外国人を孤立させ、かえって社会不安を増すものとなります。そして、外国の人々が日本に対して好ましくないイメージを持つおそれがあります。

 その上、本法案では、どのくらいの期間、どのような方法で情報を保管するのか、捜査機関などから照会が来たときはどのような基準で提供するのか、すべてのデータを提供するのかといった重大な問題がいずれも運用に任されているという大きな問題があります。また、近日来、捜査機関や矯正施設でのデジタルデータが流出してしまったという事件も起きております。

 以上のように考えますと、入管が個人識別情報を入国時に取得したとしても、上陸許可を受けて入国した外国人については、もはやその個人識別情報を保管しておくべきではありません。入国審査終了後、直ちに廃棄すべきであるとするのが、日弁連の意見です。

 第三に、テロリストとされる者の退去強制の問題があります。国際的に見ても、テロリストの定義はなかなか定まってはおりません。その点はさておき、本法案の二十四条の三の二に定めた退去強制事由の規定の対象は広範で、しかもあいまいと言わざるを得ません。

 この規定は、公衆等脅迫目的の犯罪行為の予備行為または犯罪行為の実行を容易にする行為についても、これを行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者を退去強制することとしています。

 犯罪行為の予備行為や実行を容易にする行為というものは、さまざまな態様の行為を対象としております。しかも、これを行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者にまで対象を広げることは、広範かつあいまいに過ぎると言わざるを得ません。退去強制をされる者は、生活の本拠を失う結果となることもあるということを考慮すべきであります。

 時間の関係で、本法案の問題点の指摘は以上三つにとどめますが、冒頭申し上げましたとおり、いかにテロ防止、犯罪対策といっても、人権の保障とのバランスをとるべきです。人類の歴史的成果である基本的人権が保障され、外国人に対する偏見や差別をすることなく、外国人と信頼、友好関係を築くことは、憎悪の連鎖を断ち切り、テロ防止、犯罪対策という点からも望ましいものと考えます。

 以上、御清聴ありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、鷲見参考人にお願いをいたします。

鷲見参考人 京都大学研究員・客員教授の鷲見と申します。

 私は、この十年、生体個人認証の技術開発に携わってきた立場、また最近では、国内、国際の標準化を通じて社会基盤としての生体個人認証の普及に努めてまいりました立場から、この法案に対する意見を述べさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 まず、私は、生体個人認証は何かという話をさせていただきまして、また、その歴史、技術について、次に、入出国管理に応用した場合の利点、問題点、また、効果と注意、そういったところについてお話しさせていただきたいと思います。

 まず、生体個人認証が何かということなんですけれども、生体個人認証は、人が個性として備えております生物学的、行動的特徴を用いて、その特徴の持ち主がだれであるかを確認したり探し出したりするという技術でございます。英語では、生物、バイオというものの情報を計測して比較するということでバイオメトリックスとも呼ばれております。

 従来の認証法は、唯一の物証を持つということあるいは秘密の情報を知っているということによって、その人物が本人であるかどうかということを確かめてまいりました。唯一の物証といいますのは、公的な機関が発行した証書であったり、かぎというふうなものです。入出国に関しましてはパスポートがそれに相当いたします。また、秘密の情報というのは、合い言葉でありますとかパスワード、こういう情報になっておりまして、例えば銀行カードにおける暗証番号というのがそれに相当いたします。

 これらの物証あるいは秘密の情報といいますのは、本人が知らない間に奪われる、あるいは意図的に人に渡す、また、偽造する、なくすというふうないろいろな危険性をはらんでいることが、既にいろいろな事件を通じて明らかになってきております。

 これに対して生体個人認証の技術というのは、偽造が不可能ではありませんが、従来の方法とはまた違う方法、特別な技術を要しますので、従来の犯罪者あるいは悪意を持った者のやり方では、そのままでは破ることができないという利点を持っているということで、近年着目されているわけです。

 続きまして、人体のどこが使えるかという話なんですけれども、まず、形態的特徴としましては、手、指紋、掌紋、掌形ですとか、目、網膜、虹彩、あるいは顔、血管、手のひらや指の静脈、あるいは細胞、DNAですね、そういうものが使われます。また、行動的特徴としましては、音声、筆跡というものがよく知られております。

 日本においては、過去いろいろ開発してきました結果、指紋が最も実績が多く、また最近では、虹彩、あるいは銀行カードに応用されておりますような静脈というものが近年技術的に伸びてきているというふうな状況です。一方、顔ですが、顔は、経年変化が大きく、また類似している人も散見いたしますので、何十万人という規模から一人を特定するというレベルにはまだ現在至っていないというのが現状です。

 続きまして、バイオメトリックスの歴史なんですけれども、これは、非常に何千年も前から、人の手形を使う、あるいは証文として書き残すというふうなことがずっと行われてきておりましたので、コンピューターが普及する以前からの技術であるというふうに考えられます。また一方、科学的には約百年間の指紋の研究の歴史がありまして、その実用性、正しさについては、ある一定の理解ができているというふうに考えられます。

 また、今回利用していただくコンピューターによる照合というものにつきましても、一九七〇年代ごろから国内で技術開発が進んでまいりまして、約三十五年の歴史があります。一九八五年ごろになりますと、従来は指紋をインクでとっていた、これを、直接カメラを使ってとって、その場で判別するような技術が研究され始めまして、ここ十年は、いわゆる犯罪捜査に使われますようなインクで残した指紋ではなくて、カメラでとってその場で判断する指紋照合というような技術が進んでまいりました。

 実際、この技術がどのくらいの精度を持っているかということにつきましては、米国で非常に鋭意研究されておりまして、資料に御紹介いたしました、アメリカの国立の機関でありますNISTが二〇〇三年に実施しました二十七社の指紋照合の性能をはかるという試験において、大体一万分の一の確率で他人を受け入れてしまうという条件のもとで、本人は九九%以上同定できるというような試験結果が出ております。

 このような技術を出入国管理に応用しましたときに、応用方法としまして二通り考えられます。

 一つは、ブラックリストの照合です。この場合は、姓名を詐称しているということが十分考えられますので、すべてのリストに入っているデータと本人、そこにあらわれた人物との照合を行う必要があります。これは、過去の実績から推定いたしまして、来訪者一名に対してほぼ一人かあるいは数人の候補者、もしこれがブラックリストの中にいるとしたらこの人物であるというふうなところまでは絞り込めるということが考えられます。

 ただ、完全な自動識別というのは困難でございますので、他のバイオメトリックスとの併用ですとか、情況証拠による判断、すなわち、審査官が疑義を総合的に判断して最終結論を出すという現在のやり方というのは維持されるべきであるというふうに考えられます。

 一方、シンプリファイド・パッセンジャー・トラベルと言われております、いわゆる我々自身が簡単に入出国を行うという応用も考えられます。この場合は、通過するために自分の姓名を正しく申告しているというのが前提でございますので、本人かどうかだけ確認できればいい。こちらに関しましては、正常に登録さえできていれば、九割以上の確率で自動で認識させることが現状の技術でも可能となっております。また、実際、海外のいろいろな空港で、この生体個人認証を使った旅客の効率的な入国、出国の実験がされておりまして、それぞれ成功しているというふうに聞いております。

 続きまして、効果について述べさせていただきます。

 まず、現在、偽造パスポートですとかそういうものが横行しているという中におきましては、まず、犯罪者の流入、脱出の抑止効果というものが考えられます。先ほど申しましたように、最終的には審査官の判断を仰がなければならないので完全というわけにはいかないにいたしましても、八割、九割の率で見破れるということがわかりましたら、普通の犯罪者は非常にちゅうちょするということが考えられますので、抑止力として十分であろうというふうに思います。

 また一方、こういう形で本人の何らかの記録が蓄積されるということは、一たん犯罪事件がありました場合に、その人物が過去どのように入出国をしたのかという履歴をさかのぼって見ることができるということが効果として挙げられます。こういう情報がなければ、では、その人物は一体どう行動していたのかという過去がわからなければ、未来に対する対策もありませんから、これは必須のことであるというふうに考えます。

 また、ホワイトリストと呼ばれる、我々、正常な人たちですね、その人たちに関する作業を自動化でき、剰余人員を外国人に振り向けるということができます。

 ちょっと時間が足りなくなりましたので、注意点について簡単に申し上げて終わりたいと思います。

 まず一点目は、生体個人認証は万全ではありませんので過信しないということ。二番目には、生体情報の安全な保管、適切な運用、これをきちっとやらなければならないということが挙げられます。また、もう一つは、利用者のメリットが明確化されなければならない。また、利用者の不快感、不安の払拭ということで、特に利用範囲の限定、あるいはセンサーにうまく手が届かないというときに無理やりつかんでするというふうな失礼なことがあってはならないと考えます。

 以上、結論を申し上げますと、犯罪の抑止、犯罪者の履歴の解析のために生体情報を記録するということは有効であります。また、現状の指紋照合技術と顔画像認証技術を従来の審査官による入出国管理システムに適用することで、これは実現可能だろうというふうに考えます。

 精度、適用率、適用不可者への対応、攻撃方法の進化への対応、利用者への説明など、過信を避けて常にシステムを改善していくということが運用上必要だろうというふうに考えます。

 以上でございます。ありがとうございます。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、阿部参考人にお願いいたします。

阿部参考人 委員長、どうもありがとうございます。

 国際人権保障という観点から、私は意見を申し述べます。

 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案提案理由説明によれば、法律案の要点の第一は、テロの未然防止のための規定の整備でありまして、これは平成十六年十二月に策定されたテロの未然防止に関する行動計画に沿ってのことであるとされています。九・一一以来、各国はテロ対策を強化してきておりまして、今回の入管法改正には、そうしたテロ対策における国際協調という側面もあらわれ出ているように思います。

 テロ対策について国際的に主導的役割を担ってきているのは国連安全保障理事会であり、二〇〇二年一月十八日にはカウンターテロリズム委員会が安全保障理事会の枠内で設置されたことは周知のとおりです。法務省の作成した出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案資料にも、参考資料として関連安保理決議が幾つか抜粋の上、掲載されています。

 これらを一読して若干違和感を覚えたのは、安保理がテロ対策をとる際に各国に繰り返し遵守を呼びかけてきている義務の存在に関心が払われていないことです。例えば、安全保障理事会決議一四五六が採択された際に、安全保障理事会は、各国は、テロリズム撲滅のためにとられるいかなる措置も国際法上の義務に適合していることを確保しなくてはならず、国際法、特に国際人権、難民、人道法に従ってそうした措置をとるべきであるということを強調していました。

 テロリズム対策が国際人権法や難民法上の義務を逸脱してはならないということは、昨年九月に招集された国連サミットで採択された成果文書であるとか、あるいは安保理サミットで採択された決議一六二四などで再三再四確認されています。

 今般の入管法改正は、テロの未然防止を第一の要点に掲げている以上、法案審議に当たっては、安保理決議や国連サミット成果文書に従い、国際人権法、難民法などとの適合性審査を十分に行う必要があります。この観点からの審議を尽くすということは、日本が国際法上負っている義務の履行という意味で、殊のほか重要であると考えます。

 今般の法律改正案は、一定の人たちを除くすべての外国人に対し、上陸審査時に指紋等個人識別情報の提供を義務づけるものです。これらはテロの未然防止のためにとられる措置であるため、必然的にこうした外国人はいわばテロ予備軍と認識されることになります。また、退去強制事由にも、テロ対策として新たな規定が付加されることになっています。

 要するに、危険なテロリストを選別し、国境の外に排出するということなわけですが、これは、人間を管理し、危険な人間を排除するという発想に裏づけられており、実際には、特定の人種、宗教、民族集団に不均衡な不利益を生じさせる危険性を伴っています。現下の世界情勢においては、すべての外国人が均等にテロリストという懐疑のまなざしを向けられるわけではなく、特定の人種的、宗教的集団に不利益待遇が生ずるおそれが十分に考えられます。これはレーシャルプロファイリングと呼ばれるものであり、人種差別の一形態として、その防止と撲滅に向けた対策が強く求められる事象であります。

 法務委員会におけるこれまでの審議を管見するに、例えば米国などで、指紋押捺が既に実施されていることに注意を喚起する向きがあります。そのこと自体は事実なわけですが、ただ、見落としてならないことに、米国やあるいは欧州諸国は、日本の何千倍あるいは何万倍もの難民を毎年継続的に受け入れてきています。最も困難な状況に陥っている多くの人間たちに庇護の地を与え続ける営みは、管理、排除に対置される寛容の精神に連なるものであり、それは、難民条約を初めとする国際人権法、難民法の理念を体現する営みだと考えます。また、米国や欧州諸国には人種差別や外国人差別を禁止する法制度が整備されており、テロ対策によって生ずるおそれのあるレーシャルプロファイリングに対抗する仕組みも整備されています。

 こうした諸国の営みと比較するまでもなく、今般の入管法改正が典型的なように、日本のテロ対策には国際人権法、難民法への関心が余りに希薄であり、外国人を制度的に危険視する結果、国籍あるいは人種による差別が一方的に増幅されていくおそれがあります。問題は、こうしたおそれが十分に認識されていないだけでなく、そうした事態を顕在化させないためにとられるべき措置が全くと言っていいほど考慮されていないことではないかと思います。

 指紋などの採取は個人情報の取得でありまして、その限りでプライバシーの規制となります。もっとも、プライバシーの規制は全く許されないわけではなく、市民的及び政治的権利に関する国際規約第十七条は、プライバシーへの恣意的、不法な干渉を禁止しています。つまり、指紋等の採取に当たっては、それがプライバシーへの恣意的、不法な干渉に当たるかどうかが審査されなくてはなりません。

 この点で留意すべきは、プライバシーを規制する目的が具体的に存在しているかどうかということと、その目的を達成するためにとられる手段がプライバシーの規制を最小限度にとどめているかということです。テロの脅威が抽象的次元にとどまっている場合には指紋採取の必要性がなく、それにもかかわらず、なお指紋が採取される場合には、プライバシーへの恣意的な干渉に当たってしまいます。

 その一方で、テロの具体的脅威を立証し得たとしても、そうした脅威に対抗してとられるプライバシーの規制は最小限度のものでなくてはなりません。これは国際人権規約の法的要請です。また、国連安保理などが繰り返し強調してきているのは、まさにこうした人権への配慮であるわけです。

 しかし、採取された指紋が他の行政機関や、場合によっては他国にまで提供され、あるいは入管当局により長期間にわたって保有されるおそれがあるとなれば、プライバシーへの干渉は余りに広範であり、恣意的という評価を免れないかもしれません。いかにテロ対策であっても、人権の制約は、目的を実現するために必要かつ最小限度のものでなくてはならないということを改めて確認しておく必要があります。

 ところで、これまで私はテロリストという言葉を何の定義もなく用いてまいりましたが、このことは、今般の法案についても相当程度に妥当することではないかと思います。

 特に、テロの未然防止と言いながら、上陸審査の場面で特定されるテロとは一体どのようなものなのか、それが法文からは明らかではありません。退去強制の場面で登場する「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」という定義にしても、その境界線はかなりあいまいであり、ここにも深刻な問題が伏在しています。

 いずれにせよ、テロの未然防止ということで国境における入国規制が強化されるのであれば、上陸を禁止される者、つまりは上禁者がふえることは確かであります。指紋採取を拒否した者やテロリストとして上陸を禁止された者は、特別審理官による退去命令を受けた後、例えば空港では、送還便による送還までの間、上陸防止施設で身柄を確保されることになります。身柄の確保という表現が一般的に用いられていますが、しかし、これは実態は身体の自由の制限でありまして、これもまた、市民的及び政治的権利に関する国際規約の統制を受ける事象です。

 市民的及び政治的権利に関する国際規約は第九条で、身体の自由の制限が恣意的であってはならないということを求めています。この規定は、上陸審査の局面にも妥当します。しかし、退去強制の手続の場合とは異なり、上陸手続の際には、上陸防止施設での身柄の収容を根拠づける明文の規定は入管法には存在していません。また、上陸防止施設は国家の責任下にあるにもかかわらず、身体の自由を制限される者についての処遇規則も整備されていません。

 テロリストとして上陸を禁止される場合には、他国の例を見るまでもなく、非人道的な処遇を受けるおそれが高まる危険性があります。そのためにも、上禁者の身体の自由の拘束を正当化する法的根拠の明文化と処遇規則の整備その他適正手続の保障が欠かせないはずだと考えます。しかし、残念ながら、この点についても、法案では人権への配慮が全くと言っていいほど見られません。入国規制を強化する度合いに応じて、人権面での法整備を同様に強化していくということを欠かしてはならないと考えます。

 また、テロリストとして上陸を禁止される者であっても、難民としての保護を求めることはできます。難民条約は、難民性の欠格事由として、戦争犯罪や人道に対する罪などを行ったこと、あるいは、避難国に入国する前に重大な非政治的犯罪を行ったことなどを挙げています。テロリストとされる者が難民としての保護を受けられない場合には、こうした条件のいずれかがなければなりませんが、その存否を判断するには難民認定手続のもとでの審査が不可欠です。

 テロリストとされた者が上陸を禁止される場合であっても、難民としての保護を求めるとき、一体、難民認定手続への接続はどのように保障されているのでしょう。また、上陸を禁止され退去命令を受けた場合、迫害や拷問を受けるおそれのある国に送還されないという手続的、制度的保障が確保されているのかについても疑念が残ります。難民条約や拷問禁止条約により日本に課せられた法的義務の遵守を確保するセーフガードが今般の入管法改正案に見られないことに、私は、重大な懸念を表明しなくてはなりません。

 最後に、テロリストを排除することそれ自体が正当な目的と認められる場合であっても、そのためにとられる措置は、国連安全保障理事会が繰り返し言っているように、国際人権法、難民法などと適合するものでなくてはなりません。今般の入管法改正案にはテロ対策という側面が突出しており、国際法によって要請される他の義務、とりわけ国際人権法、難民法上の義務をどのように実現するのかについての配慮が、控え目に言っても不十分であるように見受けられます。

 テロリズム対策の際に人権保障の必要性が強調されるのは、それが法的義務であるからということは言うまでもありませんが、これにさらにもう一つつけ加えるなら、管理や排除ではなく寛容の精神を体現する人権保障政策こそが、実はテロの防止と撲滅に最も効果的であると広く考えられているからです。テロの未然防止を目指す入管法改正に当たっても、こうした人権保障の視座を軽視することがあってはならないと考えます。

 以上です。どうもありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。棚橋泰文君。

棚橋委員 自由民主党の棚橋泰文でございます。

 本日は、多賀谷参考人、鹿野参考人、鷲見参考人、そして阿部参考人の四人の参考人の先生方におかれましては、大変御多忙のところ、当委員会に御出席をいただきまして、貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。

 今、四人の参考人の方々のお話を伺っておりまして、それぞれの立場から、大変専門的な観点も含めて、本当に参考になる御意見をいただきました。

 基本的なスタンスとして、まずプライバシー、これは当然のことながらきちんと守っていかなければいけない憲法上の権利であるということと同時に、プライバシーに対する権利も公共の福祉のためには制約をされることもあり得るというその前提は当たり前でございますが、その中で、特に、残念ながら国民の中で大変今高まっておりますテロあるいは犯罪等に関する不安、こういったものにこたえていく中で、特にテロ対策としてどのような有効な措置がとられるかという観点からこの法律案が議論されているということについてはもう重々御認識の上、御議論をいただいたというふうに思っております。

 私自身も、先ほどまさに多賀谷参考人が、外国人の入国時の指紋採取に関してはやむを得ないというお言葉をお使いになられましたが、私自身もまさにそのお言葉、同感でございまして、できることならば、指紋の採取という、やはりこれは全く抵抗感のないものではございません。こういった個人情報の採取に関してはできる限り慎重であるべきというのは当然だと思っております。

 しかし、大変残念なことに、国際的な犯罪、そして何よりもテロ、こういったものに対する国民の不安の高まり、そして、これに対するきちんとした対処というものが求められている中で、さらには、外国人犯罪等に対する対応に関しても国民から多くのニーズがある中で、きちんとした対応をしていくためにはどうしたらいいのかという観点からこの法律案が出されているというふうに私どもは思っております。

 そこで、最初に多賀谷参考人に改めて伺いますが、先ほどお時間が短い中で、最後に結論として、社会的リスクが高まっている中で外国人からの指紋採取もやむを得ないというお話がございました。本法律案では、特別永住者の方等を除く外国人の方から基本的には指紋情報等を採取させていただくことになっておりますが、もう少し最後の結論の部分ですね、まさにやむを得ないとお話しなさった社会的リスクの高まり、それからこの法律案の有効性あるいは必要性について、少し参考人の御意見をお話しいただければありがとうございます。

    〔委員長退席、早川委員長代理着席〕

多賀谷参考人 ありがとうございました。

 若干、先ほど省略したことをお話しいたしますけれども、基本的に、このシステムは個人の本人性の確認という形になると思います。

 そこで、日本人も当然出入国するわけですけれども、例えば日本人の場合においては、我が国の行政機関自体が本人確認をしたパスポートを持っている。パスポートについては、我が国でそれなりの本人性、残念ながら、全く成り済ましがないわけではありませんけれども、不正は年間、全体で数十枚か若干多いぐらいにとどまっていると理解しております。そういうパスポートを所持した日本人が窓口に立ち、しかも、その挙動や発言を同一言語を話す日本人の入国警備官がチェックする。そのことによって、日本人のパスポートを持っている者の成り済ましによるゲートの通過というものが発生するリスクは総体的に低いものと考えます。

 これに対して、外国人の方は、残念ながら、その多くは、話しぶりや挙動からはその怪しさといいますか、本人性というものを推測することはできません。また、外国で作成されたパスポートについては、なるほどちゃんとしたものもありますけれども、過去の例からいえば、パスポートは国によっては極めて偽造しやすいような場合も残念ながらあります。

 そういう場合においては、やはり外国人の方をゲートにおいてその本人性をチェックする、あるいは、テロリストであるかどうか等をチェックするということはなかなかできない。つまり、その場合のリスクは極めて高いだろうと。そういうことで、そのリスクを低減するために、その指紋なりフェースを採取して確認するということはやむを得ないんじゃないかというふうに私は先ほど申し上げたということであります。

 以上です。

棚橋委員 ありがとうございました。大変参考になる御意見でございました。

 特に、日本人の情報、それから外国人の情報を出入国管理の観点から把握している度合いが違うという観点からの御指摘は大変ごもっともだと思っておりますし、また、残念なことではありますが、御指摘のとおり、一部の外国においては、その国の発行するパスポートの信頼性に疑義があるという点も、私どもはやはりこの法律案の審議の中で、当然その前提にして考えていかなければいけないと思っております。

 続きまして、鹿野参考人に少し伺いたいと思います。

 これは御承知のように、特別永住者等は除いておりますが、すべての外国人からその指紋情報の取得をすること、それを義務づけることは日弁連としては反対だというお考えでございます。プライバシーの保護その他の観点からの御指摘だと思うんですが、しかし一方で、この法律案は、御承知のように、出入国管理をきちんとやっていく、不法入国をきちんと防止する、そして、最終的にはテロ等を防いでいくという観点からつくられているものでございます。

 そうしますと、当然のことながら、日弁連としては対案として、この範囲の外国人の方の指紋情報を採取するという対案があると思うんですが、では、どの範囲の外国人の方の指紋情報を採取することを日弁連としてはお考えなのか、また、それによってこの法目的が達成できるというふうにお考えであるとすれば、その根拠は何なのか、その点、もし御開陳をいただければ、ありがとうございます。

鹿野参考人 ただいまの御質問でございますが、指紋採取は、必要やむを得ない場合ということに限られていると思います。日本の法律の場合に、具体的な身体検査令状あるいは被疑者ということがあって初めて採取できる、それとほぼ同様の状況がなければならないというぐあいに思います。この場合に、外国人にもそれが基本的には相当するものと考えております。

 もちろん、テロ防止のためにさまざまな措置が必要であるとは考えますが、それと、基本的人権それから日本人と外国人との平等な取り扱い、これが基本的に重要なものと考えております。

 以上です。

棚橋委員 もし御対案があればで結構なんですが、鹿野参考人にもう一度だけお伺いしますが、それでは、どのような範囲の外国人の方から指紋情報をとればこの法目的は十分に達成されると、どのような外国人の方に限定して指紋情報をとればこの法目的は十分に達成し得るというふうにお考えでございますか。ちょっと具体的にお話をいただければありがとうございます。

鹿野参考人 要するに、具体的に相当の理由があって、テロを行うおそれがある、あるいは幇助を行うおそれがあるというような具体的な嫌疑が存在する場合ということになると思います。抽象的に、一般的にとることは許されないと考えております。

棚橋委員 ありがとうございました。

 時間の関係でこれ以上の質問は差し控えさせていただきますが、少しその御意見は、先ほど多賀谷参考人からもお話がございましたように、出入国管理の観点から見たときに、把握している外国人と日本人の情報の差異等も含めて、それで果たしてこの法目的が十分に達成し得るのかなと、私自身も原則として、もちろん例外はございますが、すべての外国人から指紋を採取するということは、できれば、避けられるものであれば避けた方がいいけれども、まさにやむを得ないというふうに考えております。

 もう一点だけ、最後に鷲見参考人に御質問をさせていただきたいと思います。

 阿部参考人にもお伺いをしたかったんですが、時間が余りございませんので、大変申しわけございません。

 鷲見参考人にお伺いをしたかったのは、先ほど、特に指紋情報等の、この法律案の改正によって、犯罪者の流入、脱出の抑止効果について少しお話をいただきました。ただ、残念ながら、少し時間がございませんでしたので、専門的なお立場でありながら、余り十分にお話をいただけなかったような気がいたします。特に、生体個人認証については、鷲見参考人は大変お詳しいと私は伺っておりますので、このシステムの導入により、効果の部分、お出しをいただきました資料にございますが、少しこれを、具体例も含めて詳しく御説明をいただければありがたいと思います。

鷲見参考人 それでは、効果について簡単に繰り返させていただきます。

 まず、効果といたしましては、犯罪抑止等の面では二つございます。

 一つは、ブラックリストとの照合による効果です。これは、犯罪者側がもしパスポートを詐称してあらわれたというふうな場合に、その詐称された人物であるということを、恐らく九〇%以上の確率で発見することができます。その結果、犯罪者側としては、普通の方法で日本に立ち入ろうとしても、十のうち九は失敗するということがあらかじめわかっておりますので、そうすると、そのリスクを避ける、わかった際にはそれなりの処罰を受けるわけですから、それを避けるために、立ち入ることをやめるだろうというふうに考えられます。また、出ていくときにも二度目のチェックがありますので、国内で犯罪を犯したということがあらかじめわかっている人が他人に成り済まして逃げ出すということを予防することができます。

 もう一点は、何らかの形で、例えば外国である犯罪者が捕まった、その過去の行動履歴にどうも日本に立ち寄った節があると思われる場合に、その人物の指紋情報なりを入手して過去の履歴と照合することによって、その人物がいつ日本に来て、いつごろ立ち去ったのかということを過去にさかのぼってチェックすることができます。そのため、その人物が何をしていたかということもわかりますし、また、どういう形で日本の従来のシステムを破ったのかという、破ったいきさつなどもわかるわけです。そうすると、それを用いて、今度は日本のシステムをより確固たるものに改善することができます。

 以上の二点が大きな利点であろうというふうに考えます。

    〔早川委員長代理退席、委員長着席〕

棚橋委員 ありがとうございました。

 もう少し時間がございますので、特に生体個人認証の専門家としてのお立場から、もう少し鷲見参考人に御意見を伺いたいと思います。

 今お話にありましたように、現実にチェックがなされる、なされない以前に、おっしゃるように、例えば偽造パスポートが見破られる等の可能性が高くなるということだけで、不法入国をしようとする者にとってこれを思いとどまる効果があるという観点からの指摘は、私、大変重要だと思っておりまして、大変残念ながら、今のシステムでは十分に対応できないものが、システムの精度が上がる、しかもそれが不法入国を企てている者に知られることによって、抑止効果というのは非常に大きいと私は思います。

 と同時に、この法律案の改正の後も議論をしていかなければいけないのは、生体個人認証というシステムは、これはある意味では常にバージョンアップしていくというか、レベルアップしていくべきものだと思っておりますし、と同時に、その観点から、やはりきちんと認証できる、より認証できるシステムを求めていかなければいけないと思っております。

 現在、参考人の御意見でも、そういう観点からすると、顔情報等に比べて指紋がベストだというようなお話もございました。ただ、これは将来的な観点で、しかも、ちょっと私の個人的な考えも含めてでございますが、顔情報の大変難しいのは変化するというようなケースもあると思いますが、一方で、顔情報の中でも、経年しても、年を重ねても変化しない情報もあるわけで、参考人は、将来的には顔情報に対するこういったシステムの精度が上がってくれば、比較的抵抗のある指紋採取というものではなく、顔情報だけでも大変高い精度の認識が可能になる、また可能になるとすると、それはどれぐらいの期間がかかるのか。これは、ちょっと私の個人的な考えも含めてお聞きをしたいと思います。お願いいたします。

鷲見参考人 それでは、顔、指紋その他の生体情報に関する比較について申し上げます。

 現状では、顔を使った認証で何十万人というレベルでの探索、識別を実現するのはほぼ不可能でございます。これは、米国とかで、ブラックリストで顔を登録しておいて、空港などでそれの照合を実際やってみたところ、余りにも多くの誤った情報で再チェックが必要というふうな現象が出てきて、実際のシステムが成り立たなかったという実績からも明らかだというふうに考えております。もちろん、現在、いろいろな機関でこの研究が日夜進んでおりまして、恐らくあと十年あればかなり精度が上がってくるというふうに思いますが、それは一年、二年という単位ではありません。

 一方、指紋に関して言うと、顔に比べると非常に高い精度が出ている。あるいは虹彩ですとか静脈、こういった身体の器官では精度が出ているということが実証されておりますので、顔にこだわる必要はないのではないかと思います。

 また、指紋においては、犯罪者扱いということで非常に忌避されているという部分がありますが、例えばUS―VISITというアメリカのシステムですと、なかなか指紋がとれない人に対して、審査官がその人の指を持って無理やり押しつけてとるというふうな、ちょっと乱暴な場面があったみたいで、よろしくないというふうな話も出ているように聞いております。しかし、指紋の撮影の技術そのものも非常に進歩しておりまして、今では非接触で、つまり、機械に指を押しつけずにとる方法なども出てきております。こういう人にとって圧迫感のない方法というのを使っていくというのが、一つの方法ではないかというふうに考えます。

棚橋委員 ありがとうございました。

 生体個人認証に関しての最新の現状あるいは将来に対する展望もお話しをいただきまして、この法律案の審議に大いに参考になりました。

 以上で私の質疑は終わらせていただきますが、改めまして、四人の参考人の先生方に、御多忙の中おいでをいただきましたこと、心から御礼申し上げまして、私の質疑を終わらせていただきます。ありがとうございました。

石原委員長 次に、津村啓介君。

津村委員 民主党の津村啓介と申します。

 きょうは、御多忙の中、こちらまでお越しいただきまして、本当にありがとうございます。

 早速でございますが、質問の方に入らせていただきます。

 まず、多賀谷先生にお伺いしたいんですが、現状、既に個人情報保護法制は一定のものが整備されているわけですけれども、今回の入管法改正というのは、個人情報を国が取得するという意味では、従来以上にかなりレベルの高い個人情報を国が扱うということを意味すると思います。そういう意味で、現状の個人情報保護法制がこれで十分なのか。

 恐らく、将来的には今まで以上に、後ほどバイオメトリックスのお話も伺いますけれども、個人情報というものが社会にどんどんふえていく。その一方で、その保護法制もまた進化していかなければいけない。ある意味ではシーソーゲームということが、これからの、未来の日本社会において起きていくと思うんですが、今回、ある意味では、個人情報のステージが少し上がる、レベルが少し上がることを意味すると思うんですけれども、これに現状の個人情報保護法制は十分ついていくのか、現状のままでよいのか、そういった意味で御質問させていただきたいと思います。

多賀谷参考人 先ほど申し上げましたように、現在、行政機関が持っている個人情報が指紋情報と比べてレベルが低いということではないと私は思います。指紋情報に匹敵するような、例えば犯歴情報とか、あるいは、先ほど言いましたように、典型的な例が介護に関する情報などで、その人の全人格に関する情報が、これは地方自治体ですけれども、事細かに記録されます。今回の場合に、もし従来と多少違うということになれば、それは、七百万人という外国人全員の方の指紋が記録される、その点があると思います。

 したがって、レベルとしては同じような、それほど高いとは思いませんけれども、この場合においては、その提供、利用のあり方について十分考えなければいけないと思います。それについては、私が先ほど申し上げましたように、具体的に、この種の情報については、あらかじめ法律で規定するのは、一定程度はできますけれども限界があって、やはり事後的な運用について十分にそれをチェックしなきゃいけない。

 そして、現在の個人情報保護法は、内閣府にある有識者から成る専門的な審査会でチェックをするという仕組みがあります。ほかの先行する自治体でも、こういう場合について、どのように当該個人情報を利用、提供するかにつきまして、定型的な場合それから例外的な場合について審査会、審議会でチェックしていく、そういう仕組みがあります。この場合にも、指紋情報についてもそういう形で、問題があれば、行政当局による恣意的な利用がないようにチェックするような形になっている。そういう意味で、それを十分利用すれば機能するだろうと思います。

 以上です。

津村委員 先ほどは制度的にお伺いしましたが、実際の運用という意味で、現在の個人情報保護法制というのは、現状、日本社会において十分であって、かつ、今回の法改正にもたえ得る運用になっている、そういう御評価ですか。

多賀谷参考人 十分であるかということは制度の運用次第ですけれども、例えば、私自身、地方自治体でこの種の審議会、委員会、審査会等で関係した実例を挙げますと、地方自治体で、例えば外国人についての登録情報等、あるいは日本人についてのいろいろな情報がありますけれども、それについて、行政内部でそれを利用する、例えば地方税に関する情報を幼稚園とかほかの分野で利用するというような、情報についてそういう利用の仕方がある、それについて意見を求められることがあります。

 あるいは、例えば警察からの照会があった場合に、警察からの照会には個別的な照会と包括的な照会といろいろありまして、実は自治体でも対応がさまざまなわけですけれども、個人情報保護に関する条例ができまして、警察に対する情報の照会について、ある程度ルール化されてきた。前はかなり警察に対して情報が流れていたのが、一定のルールでもってしか流れないような形で法整備がされて、運用が整備されてきた。それと同じようなことが、やはりこれから国の法制度でもできていくんじゃないかというふうに考えます。

津村委員 それはちょっと、現状の評価として少し期待が込められ過ぎかなという気がしまして、少しリスクがあるんじゃないかなという気がいたしました。

 次の質問をさせていただきます。

 同じく多賀谷先生に伺うんですけれども、先ほど、取得した生体個人情報を一定期間保有することが必要であるということを最後に少しお述べになりましたが、この一定期間というのは大体どのくらいの期間で、それはなぜその期間なのか、教えてください。

多賀谷参考人 これは私よりも先ほどの鷲見参考人の話とかかわることだと思いますけれども、外国人の方が繰り返し日本にいらっしゃるという場合においては、その場合に、外国人として本人性を確認するという限りにおいて、それは保存しておくことが必要だろうと思います。ただ、一度来たきりで、その後しばらくいらっしゃらないというときに、どの範囲でもってその外国人の情報というものを保存しておくかということは、やはり行政機関の政策的判断という形になると思います。

 ちなみに、例えば例を挙げますと、電気通信事業における個人情報保護に関するガイドラインにおいては、その十条で保存期間がありますけれども、これは、電気通信事業者が取り扱う個人情報について、利用目的に必要な範囲内で保存期間を電気通信事業者がみずから定めるというふうにしている。ただし、例外として、その規定にかかわらず、例えば、法令に基づき保存しなければいけない場合、それから、その他一定の場合に、相当な理由がある場合には消去しないで保存することができるという規定があります。

 したがって、これはどのぐらいかということは私には一言では言えませんが、おおむねの期間を定めることはできるでしょうけれども、その場合でも、やはり例えばテロリストの疑いが消し切れないような外国人の方については、もう少し長期間に保存するということはあるかもしれません。

 以上です。

津村委員 ポイントは、その人が、平均的な寿命も考えて、ほぼ永久的にというか、一度とったものをずっと保存する。例えば六十年、七十年ぐらいですかね、十六歳からですから。そのぐらいのレベルまで保存するべきなのか。それとも、当面、五年なのか十年なのかわかりませんが、国際情勢に大きな、どのぐらいのペースで変化があるかわかりませんけれども、そういう五年、十年といった期間なのか。半永久的なものか、それとも当面の措置と考えるか、その違いをお聞きしたいんですけれども、先生としてはどういうお立場でしょうか。

多賀谷参考人 これは、別に入管当局と私はそんなことを相談していない、私の個人的な意見ですけれども、私は、恐らく、通常の場合には五年、十年ぐらいなんじゃないかと思います。ただし、その方々が、反復的にいらっしゃるような方は、事実上、かなりの長期にわたって保存されなければいけないだろうというふうに考えております。

津村委員 ありがとうございました。

 それでは、次の質問に移ります。

 先ほど鹿野先生のお話の中で、外国人との共生を妨げる効果を持つおそれがあるというお話がありましたけれども、日本の人口減少が言われる中で、これから、さまざまな意味で外国人との共生というのは大変大きなテーマだと思います。もう少し具体的に、どういったマイナスの効果が予想されるのか、お聞かせください。

鹿野参考人 外国人が日本にやってくるということは、日本にとっては大歓迎すべきことだと思います。そして、その人たちと日本人が交わって、お互いにその人格あるいは文化を理解する、それが非常に重要なことだろうと思います。文化を理解し、人を理解することによって、国際的な平和というのが維持されるものと考えます。これがお互いに疑いをし出すと、やはりそこに大きなトラブルというか、そういうものが生ずるのではないかということが考えられます。

 特に、やはり人間のコミュニケーションというのは非常に重要だろうと思います。入ってくるときに、あなたはテロリストかもしれない、あるいは不法入国者かもしれないということで、七百万人、あるいは将来もっとふえると思うんですが、その人すべてからとるということは、初めから疑っているということ、せっかくやってくるお客さんに対してそういうことをするというのはやはり問題ではないかなというぐあいに思います。

 しかも、その指紋データをデジタル化してすべて保管しておくということについて、これは、保管をする理由というのがそもそも入国の問題でありますので、在留管理についてまで保管をしておくということまで必要かどうかというと、かえって疑いの文化を生じさせてしまうのではないかなという危惧が非常に強いというぐあいに思います。

津村委員 ありがとうございます。

 今の鹿野先生のお話と非常に近いといいますか同じような形で、阿部先生から先ほど、寛容の精神がテロ防止に役立つんだというお話があったと思うんですが、他国の例等も含めて、具体的にはどういうことをイメージされているのか、お話を聞かせてください。

阿部参考人 どうも御質問ありがとうございます。

 私が先ほどのお話で申し上げたのは、一番申し上げたかったのは、テロの未然防止という目的それ自体を否定しているわけではなくて、それに伴って生じてくる人権面での配慮をきちんとすべきではないかということでした。この点に関して、日本の入管法改正に当たっては、その人権面での配慮という点に関してほとんど具体的な策というのがとられていないのではないか。

 他国の例を見ますと、もちろんアメリカがよく頻繁に引き合いに出されますけれども、アメリカは日本に先んじて出入国管理の場面で指紋の採取等を行っています。そういう点で、日本のこれからの入管法改正に当たって、いろいろ見てみなければならないところがあると思うんです。

 しかし、アメリカは、先ほど申し上げたとおり、指紋採取等に伴って、例えば外国人に対する偏見であるとか差別であるとか、そういうものが生じてくる場合に備えての措置というものも他方で用意しているというところがあるわけですね。

 それは、特定の人を除いて外国人を一律に対象にして指紋をとるとはいいながら、しかし、具体的にテロリストではないかと疑いがかけられがちな人たちというのは、現在の世界情勢の中ではかなり限られてきているところもあると思うわけですね。そういう人たちが不利益を生じて、つまりそれが形を変えた人種差別的な取り扱いになるのではないかということに備えて、もしそのようなことが生じた場合には人種差別を禁止する法律などを用いてそのような措置を取り締まっていくというようなことも行ってきております。

 これはもちろんアメリカだけでなく、ヨーロッパの国々もオーストラリアも、指紋はとっていませんけれども、人種差別的な措置が生じてきた場合にとるべき措置として共通にとっているところなわけですね。そういうような配慮ということをすることによって、寛容の精神というものを具体的に法律を通じて社会の中で実現していく道というのが一つ築かれていくのではないかと考えております。

津村委員 ありがとうございます。

 鹿野先生への御質問に戻るんですが、先ほど、お話の最後に、そのほかまだまだこの法改正案は問題点も多いけれども、今回は時間がないので三点に絞るというふうにお話をされたんですが、多少時間がありますので、その他の問題点があれば教えてください。

鹿野参考人 御質問いただきましてありがとうございます。

 もう一つの問題点は適正手続の問題だと思います。法務大臣がテロの予備行為をするおそれのある相当の理由がある者というぐあいに認定する手続、これについては、重大な人権侵害行為、要するに入国を拒否するということになるわけですから、重大な人権侵害行為になるわけです。不利益処分を与えることになるわけです。

 その重大な不利益処分を与えるときに、その人に対する防御権をどうやって保障するのか、これがほとんど記載されていない、あるいは具体化された法律になっていないという点は大きな問題であろうと思います。特に、防御するためには、なぜあなたがテロリストと疑わしいのか、それらの相当な理由というのを開示し、それに対しての反論の機会を十分に与えるというようなことが必要だろうと思います。それらが欠けているのではないかというぐあいな不安を持っております。

 以上です。

津村委員 続きまして、鷲見参考人にお尋ねいたします。

 先ほど、指紋、虹彩等のかなり技術的な読み取り術のお話がありました。一部は棚橋さんからも御質問があったと思いますけれども、この指紋と顔写真、それぞれ必ずしも精度は十分でない、その結果、併用して、なおかつ従来の制度とも同時に使っていくべきである、そういうお話でありましたけれども、そのほか虹彩とか静脈認証とか、最近民間で使われている認証制度も幾つかあると思います。

 コスト対効果も含めて、あるいは、国がやる認証システムですから精度も十分高くなければいけないと思うんですが、なぜこの指紋あるいは顔写真という制度が合理的なのか。顔写真については、例えば整形等で骨も含めて変える方というのも最近ではよくいらっしゃるようですけれども、そういったことも含めて教えてください。

鷲見参考人 まず顔につきまして申し上げますと、これは、最終的に審査官が対面して判断するものというシステムを考えましたときに、最もその人をあらわすものとして、やはり顔であるということが言えます。もちろん、今おっしゃられましたように、整形の問題、経年変化の問題がございますが、顔はそういう可能性があるから使えないというわけではなくて、ほとんどは顔でいける。ただ、顔が同じだから、あるいは顔が違うから絶対だということもやはりありません。

 同じように、指紋の例でいきますと、指紋は、一部に何か削り取るとかいろいろな話がありましたが、削っても削っても指紋は再生してきて、同じものが戻ってきてしまいます。また、指の表面の奥に隠れている指紋を浮き立たせるような技術も最近は出てきておりますので、顔などに比べると安全であろうというふうに考えられます。

 虹彩、静脈は、国内でも最近非常に使われるようになってきて、有望な技術というふうに考えられますが、次には、国際間でその情報が得られるかという問題点があります。

 例えば、静脈に関しては日本が非常に先行しておる技術でございまして、海外から、この人物の静脈パターンを入手したいというふうなことを言ったときにも、得られることは多分ないです。そういう意味では、ブラックリストをつくろうと思っても、静脈ではブラックリストはつくれませんというのが現状です。

 虹彩に関して言いますと、ヨーロッパなどでは比較的広く使われているというふうに聞いておりますが、今度は国内ではそれほど広く使われている技術ではありませんので、やはり、ブラックリストのデータベースがつくりやすいかどうかという点において指紋が有効であろうというふうに考えるわけです。

 以上です。

津村委員 今、技術的に非常に国内が進んでいるというお話があったんですが、今回のこの法改正のレベルで結構なんですけれども、委託可能な業者の数というのは、国内、国外のメーカーさんという意味でどのぐらいの業者の数があるんでしょうか、教えてください。

鷲見参考人 まず指紋に関して申し上げますと、先ほどの米国のテストに参加した企業が世界で二十七社ありました。また、国内にも大手メーカーを中心に数社ございますので、指紋に関して申し上げますと、数社から二十社ぐらい応募できるのではないかというふうに思います。虹彩に関しては、国内は二社しかありません。また、静脈に関しますと、国内は三社になります。

津村委員 最後の御質問です。

 やはり鷲見先生にお伺いするんですが、今回の法改正においては十六歳以上が対象になっていますけれども、指紋とか顔情報というのは年齢によってどのぐらい変化するものなのか、十六歳ということに生物学的には何か根拠というか、その時期に特徴的なものが何かあるのか、教えてください。

鷲見参考人 私の技術的な立場から申し上げますと、十六歳以下でも指紋は既に安定しているというふうに考えております。実際の民間の使用の例で申し上げますと、小学校の低学年から使えているという話を伺っております。十六歳というのは、それは多分運用上の問題なんだろうというふうに私は理解しております。(津村委員「顔の方はどうですか」と呼ぶ)

 顔に関して申し上げますと、顔は数年間という短いレンジでいくともっと小さいときから使えますが、やはりパスポートのように一度発行したら十年という期間を保たなければ、使い回しますから、そういう意味では、十六歳以下というのは大きく変わってしまうと思います。

津村委員 ごめんなさい、今のことで一点だけなんですけれども、河野副大臣が七十年間のデータ保存というお話をされているんですけれども、顔写真、特に未成年の顔写真については七十年というと少し使用にたえないということでよろしいですか。

鷲見参考人 はい。個人を識別するという観点でいいますと、七十年前の顔を見て同一人物であると正確に言うのは非常に困難だろうと思います。ただ、面影という意味では残りますので、精度は悪いですけれども、利用価値が全くないわけではありません。

津村委員 ありがとうございました。

石原委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉です。

 本日は、お忙しい中、参考人の先生方におかれましては、お時間をいただきましてまことにありがとうございます。今までの質疑のやりとりと若干重なる部分があるかもしれませんが、御容赦いただきたいと思います。

 再三申し上げられているとおり、本法案の審議は、国民の生命と安全を守るという観点から、テロの未然防止を主な目的として、入国審査の厳格化と円滑化という一見相反する事柄を、基本的な人権に配慮しながら何とか改善しなければならない、そういうような前提で議論が行われております。テロは起こってからでは遅いというような大前提があると認識をしております。

 まず、多賀谷先生は何度も先ほどからお聞かせいただきましたので、多賀谷先生以外の先生方にお聞きいたしたいと思います。

 そういった意味で、大前提として、この出入国管理のあり方、今のままでいいのか、やはり何らかの改善はしなければならないのか、その基本的な、根本的な現状認識についてお考えをお伺いしたいと思います。

石原委員長 それでは順次、鹿野参考人、鷲見参考人、阿部参考人と意見の開陳をお願い申し上げます。

鹿野参考人 コンピューターあるいはデジタル情報の進歩に従って、それらの最新の機器を使うこと、それについては必要だろうと思います。そして、それらを利用すること、それ自体問題はないというぐあいに思っております。

 特に顔情報の問題につきましては、極めて多数の照合が必要だということから、その相当性、必要性が十分に認められるのであれば導入も検討がされてしかるべきものと考えますが、その前提たる条件としては、やはりデータベース化するという点については問題があるとは思うんですが、一瞬使ってそしてすぐ捨てるということであれば、一定程度の利用は許されるものと考えております。

 以上でございます。

鷲見参考人 私は、生体情報は、通常用いられます券面の情報、姓名ですとか生年月日を書いてある券面があります、これと、それを持っている人物が同一であるかということを担保するために重要な情報であるというふうに考えます。昨今、そういう偽造ですとか詐称というふうなことによって、本人が申告しているものと実際の本人が違うということがしょっちゅう起こるようになってきているわけで、それを担保するために生体情報を使うという考え方なんだと思います。

 ですから、それは、まず、券面自身が非常に信用の置けるものであれば毎回使って使い捨てにしてもいいというふうには考えられるんですが、現状ではパスポート自身これが絶対であるというふうに信ずるに足らないわけですから、その場合は、今度は生体情報を長期間保存しておいて、その生体情報をもとに、券が以前持ってきた人間と同じかどうかということを確認するということが必要になってくるわけです。そういう意味での長期保存が重要なんだろうというふうに考えます。

阿部参考人 私は、入管法については、バランスというのが非常に大切だと思います。入国を管理する、この名称が法律の中に入っておりまして、したがって管理をするということは当然目的なわけですけれども、同時に、そこは人間が絡んでくるわけですから、人間の権利をいかにして保障していくのかという側面を同時に入管法の中にも織り込ませていくということが必要だろうと思います。

 したがって、指紋を含めた個人識別情報を採取するということに関しても、例えばその必要性がなくなった時点での廃棄を含めてプライバシーの規制を最小限度にするとか、あるいは上陸を禁止された者に対する処遇をどのように確保するのか、つまりその点での人権保障をどのようにするのか、そういうような点を含めたバランスのよい入管法というものを制定していくということが重要ではないかというふうに考えています。

伊藤(渉)委員 ありがとうございます。レベルに差はあれ、何らかの手はやはり打たざるを得ないだろう、人権とのバランスとかそういったことを考えながら何らかの手は打たなければならないという方向性が確認できたと思います。

 それで、上陸時に外国人の指紋等について個人識別情報の提供を本法案では義務づけようとしておりますけれども、ここにもさまざまな議論がございます。

 そこで、多賀谷先生と鹿野先生にお伺いしますが、今回の法案では特別永住者を除くすべての外国人を対象にしようとしておりますけれども、その妥当性、やはり若干問題があるとすれば、逆に参考までにお考えをお聞かせいただければと思います。

多賀谷参考人 今回の法案では特別永住者以外ということになっております。その中には一時滞在の方それから定住者の方等々いらっしゃいますけれども、確かに、一時滞在で観光でいらっしゃる方の場合には、テロリストの疑いのある方が紛れ込むぐあい、リスクは一番大きいというふうに考えます。これに比べると、定住者の方は一定程度日本に滞在しているわけですから、相対的にリスクは少しは低いだろうと思いますけれども、しかし、そういう方々でも、初めて日本に来る場合においてはそれなりのチェックをする必要があるだろう。

 つまり、日本人の場合には、生まれてから戸籍とかいろいろな形で本人性、成り済ましについて二重にも三重にもチェックがかかっているわけですけれども、外国人の方でも、定住の方も、最初は、日本にやってきたときには日本の入管局は何ら情報を持っていないわけですから、それについてはやはり情報が必要だろうと思います。

 特別永住者の方について排除するのは、要するに日本人並みに日本にずっといらっしゃって、それについてはリスクが低い、そういう判断によるんだろうと思います。

鹿野参考人 少なくとも永住者に関しては、長年、何年かにわたって日本に住んでいる、実際に生活をしているというわけですから、その周辺の情報というのはたくさん集まっていると思います。その人から改めて入国に際して指紋をとる必要は全くないというぐあいに考えております。

 また、日本に一回入ってきて一時的に出国し、さらにまた戻ってくる、例えば、三年間の在留資格があって日本で研究生活をし、一時的に母国で母親が死んだときに戻って、また帰ってくる、そのときにまた指紋をとるというのも、これもまたおかしいことというか、やり過ぎではないか、バランスをかなり失している、そのバランスの失し方がひどいというぐあいに思います。

 基本的には、すべての外国人から一律にとるというのはおかしいというぐあいに考えておりますが、特にそういう方々にとってはさらに著しいものがあるというぐあいに考えております。

伊藤(渉)委員 次に、指紋の採取の件につきまして、この委員会でも議論がされてきている中で、かつて、日本に在留している外国人の方の指紋採取について、人権上の観点から審議を廃止した経緯があると聞きました。

 今回の法改正では、主目的がテロの未然防止、国民の安全、安心、生命を守るという大義名分がありまして、加えて、かつての指紋押捺制度は、聞くところによると、スタンプ方式といいますか、指に墨をつけて十本指とも全部指紋をとるといったのに対して、今回政府が考えているのは、電子的に、先ほど鷲見先生からもお話があったような、要するに指紋のとり方が昔とは違うんだというような議論が出ていました。

 これは、多賀谷先生と鷲見先生、そして阿部先生、三人の先生にお聞きしたいと思いますけれども、今申し上げたように、かつて廃止をされた外国人の指紋の採取とは、テロという状況の変化、あるいは今回のテロの未然防止という目的、そして方法が違うので以前とは状況が違う、だから指紋採取をしてもいいんだ、そんなような議論がこの委員会でなされておりますけれども、そこについてお考えを伺いたいと思います。

多賀谷参考人 かつて指紋の押捺がされていたのは、入国に際してではありませんで、外国人登録に際してだったと思います。

 そのときに、ただし、私の知る限りでは、裁判所はその場合において、外国人に対して指紋押捺をすることは違憲ではない、すなわち、日本人の場合には戸籍があるけれども外国人にはそういうものがないではないか、したがって、指紋押捺をすることは違憲ではないというふうに考えた。したがって、私は、その場合において、外国人に指紋押捺をやめたのは立法政策的な判断であったと思います。

 そして、今日、今度は登録ではなくて入国においてそれを考えられているということは、おっしゃるように、やはりテロの時代になったということの社会的リスクの高まりとともに、それからもう一つ、さっき私だけ今回の趣旨のことで発言できなかったのでついでにお話しいたしますけれども、基本的に、恐らく今後、外国人が日本に入国する数はかなりふえてくるだろうと思います。国土交通省は、観光立国といって、要するに、外国人の方々を今後倍増、あるいはもっとふやすと。

 今後、そういう外国人の入国がふえることはあれ減ることはないという状況のもとにおいて、今の入国管理局の陣容でその方々の出入国の安全性をチェックするのは恐らく限界だと思います。そして、公務員制度の中で、入管局の人員を強化することは多分できないだろうと思います。したがって、ほうっておくと安全性が下がっていく。したがって、その人力による限界を補うために、こういう指紋押捺の仕組みを導入せざるを得ないという状況にあるんだろうと私は考えます。

鷲見参考人 私は、まず、先ほども申し上げましたように、券とそれから本人、持っているパスポートと本人、この結びつきを担保できるのはそういう生体情報のみであろうというふうに考えます。そういう点では、ほかにいい方法が現状では見つからないのではないかというふうに考える次第です。

 また、運用において、その情報というのは要するに国に出入りするときだけの情報ですので、その情報がふだんの生活の中に影響を及ぼさない、つまり、日本に滞在している間にその人がトラッキングされる、追跡されるというふうなことがないというふうな保障があれば、使う側、使う側というか押捺する側に対しての心理的な問題というのはなくなるわけですから、そういう入り口、出口だけを押さえるものであるということを明記されるということが望ましいのではないかというふうに考えます。

阿部参考人 今、かつての指紋の採取の仕方について多少御説明をいただきましたが、もちろん、当初はそのような形で五指あるいは十指に色のつく指紋をとっておりましたが、指紋押捺廃止の直前では透明のものになっており、人さし指のみということですね。そういう点で、精神的な負担を少なくするというふうな説明がなされておりました。今回、当時の指紋採取の仕方と今回の指紋採取が異なる、本質的なその点での違いはないだろうと思います、採取の仕方そのものについては。

 かつては、特に、在日の人たちに対する日本の歴史的な事情と、同一性の確認においてその必要性がないだろうということから、指紋採取の最終的な廃止が決定されたわけです。その直前において、相当程度、裁判所において、指紋押捺を人権の観点から審査するということが行われてきました。

 もちろん、最高裁に関しては、先ほど多賀谷先生がおっしゃったような見解が表明されましたけれども、例えば高裁レベルなどにおいては、特に在日の人たちに関しては、その歴史的事情、それから同一性の確認等で問題がないということから、指紋をなお採取するということについては違憲の疑いがあるのではないか、あるいは非人道的な取り扱いに当たるのではないかというような見解も表明されておりました。

 今回、そういうことと比較して違いがあるのかということですけれども、そういう観点も踏まえて言いますと、日本では、指紋採取ということに関しての社会的な一つの心証、イメージというものがある程度刻み込まれているところがあると思います。

 これは、法制上ということとは別に、日本社会において、特に犯罪者あるいは犯罪視されるような人が指紋採取の対象になっているのではないかというふうな負のイメージが指紋採取に付着していて、そこから人種差別的な言動というものが伴って生じてくるということがあったわけですね。

 そういう観点で、本来的には、この指紋採取というのは人種差別の問題などと連動してくるわけですから、もし採用されるにしても、極力少なく、そしてその保有期間等も含めてプライバシーの規制を最小限度にするということをするということは、これまでの日本の歴史を踏まえて、当然にすべきことだと考えています。

 そして、特別永住者と永住者、一般の永住者を永住者の間でも区別しているということですが、この点に関して、先ほど申し忘れましたが、同一性の確認という点でいえば、特別永住者のみに限定する必要もないということも言えるわけであって、したがって、そういう点で、どの範囲の人々から指紋を採取するのかという点に関しても、なおその議論の余地というのはかなりあるのではないかと思います。

 そして、もう一点だけ付言させていただきますと、今後の流れとして、採取された指紋が一体どのように処理されていくのかということですが、入管当局と他の行政機関との間での共有のみならず、国境を越えてその採取された情報が他国に提供されていくということも、現在の入管法においても可能になってきているわけです。

 このような形で、個人情報というものが一つの機関を越えて、そしてさらに国境を越えて広く提供されていくということに関しても、人権の観点からきちんと歯どめをかけておかないといけないのだろうというふうにも思っております。

伊藤(渉)委員 次は鷲見先生にお伺いしたいのですが、最先端の技術、そして今後の見通しも含めて、指紋以外に非常に有効でかつ人権にも配慮し得る識別情報、こういったものが出てくる、また研究段階で何かあればちょっと教えていただければと思うんです。

鷲見参考人 指紋にかわる有効な個人識別方法といたしましては、現在、虹彩と静脈が有効であるということが知られています。

 また、指紋に関しても、性能がどんどん向上しておりまして、先ほどのインクからカメラに変わってきたというだけでなく、指をこういうふうに押しつけてとるというとり方から、指を浮かしたままでもとれるというように技術が変わってきておりまして、そのあたりでも、とられているという負のイメージ、そのあたりは改善しつつ、また、指紋に関しては、とれない人がいるというのが非常に大きな問題です。指の表面が荒れてしまって指紋が観察できないというふうな人がいらっしゃるわけですけれども、そういう人の率も技術によって大分減ってきているというのが事実です。

伊藤(渉)委員 あと、先ほど来、保存の年数の話も出ていましたけれども、例えば、この委員会の議論の中で七十年から八十年保存してはどうかという話が出ています。私が思うのは、やはり長期間保存すればするほど、あってはならないことですが情報が流出をして、そして、例えば指紋を復元されて悪用されてしまうという、長ければ長いほどそういうリスクも大きくなるんじゃないかと思うわけです。

 先ほど、技術的には復元は可能だというようなことをちょっとおっしゃったように聞こえたんですが、長く、例えば八十年保存したとして、そういったリスクは、どの程度と定量的に言いにくいと思うんですが、ちょっとお聞かせいただきたいと思います。

鷲見参考人 ここで、入国管理で使われる指紋というのは、最終的に人が見ても判断できるようにという形で、恐らく原画像、原画像と呼んでおります生の画像ですね、これを残すことになるだろうと思います。これが流出した場合には、その像から指のレプリカをつくることは現状の技術でもできるようになっています。ただ、センサーの方にも進歩がありまして、レプリカの指、つまり、生きている指と死んでいる指、これを見分ける技術というのも進んでおりますので、それを使って、また別の、例えば銀行であるとか保険とか、違うところのシステムを破ろうというふうな犯罪に対しては、徐々に閾値が高くなっていくのではないかと期待しております。

 また、入国に際しましては、これはやはり人の前でやってみせるというのが原則だと私は思っておりまして、例えば、指型を持ってこういうふうにしていれば、人から見ると明らかにおかしな行為ですので、そういうのが人が介在することによって見破られるという形での危険性の予防、それができると思います。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 時間が来ましたので、私からの質問を終わりたいと思います。きょうは本当にありがとうございます。

石原委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 まず、鷲見先生の方に伺いたいんですが、先ほど資料を使ってお述べになったお話の中で、指紋の照合の確度についてなんですけれども、こちらの二十七社が参加した公開試験があり、これは九九%以上の精度とあります。そして、あるいは一万人に一人くらい間違いが出てくるというお話もありました。指紋と指紋が間違って判別されるというのは、本人拒否というのと他人受け入れというのがあるそうですけれども、そのあたりの相関関係というのがどうなっていて、実際のところ、どのぐらいの確度だと、指紋の技術ですね、これについてもう少し詳しく。

鷲見参考人 本人拒否、他人受け入れというふうなお話をいたしましたが、まず、本人を拒否するというのは、ある人の指紋データがあって、もう一度その同じ人物が指紋を見せたときに、これは同一人物ではないというふうに機械が判断してしまう場合です。使い方によってそれはどのようなエラーになってくるかは変わりまして、ブラックリストのような話ですね、ブラックリストがあって、その人物がブラックリストに含まれるかどうかという観点で見ますと、それは見逃すことになります。それで、本人が自分自身であると言っているような、例えばSPTですね、自分が通ろうとするときには、通ろうと思ったのに通れないという現象となってあらわれます。

 一方、他人受け入れという誤りは、まるで赤の他人の指紋と自分が同一人物であるというふうに判断されてしまう場合、そういう誤りでして、ブラックリストの場合はあらぬ嫌疑をかけられるというエラーになります。また、SPTの場合はほとんど問題ないんですけれども、例えば銀行カードなんかですと他人がお金をおろせてしまうとか、そういう危険性としてあらわれるわけです。

 これは片一方をよくすると片一方が悪くなるというふうなちょうどシーソーゲームのような状態にありまして、現実は、実際、一時間に何人を処理しなければならないかとか、どのくらいの危険度まで許容するのかという判断の上で運用上決めていくのが実際でございます。

 例えば、ブラックリストで不正入国を防止するというふうな立場で申し上げますと、余り精度を上げようとして他人受け入れを許すようにしてしまいますと、多くの人が嫌疑をかけられて、一時間当たりに、例えば飛行機が着くと三百人というふうな単位で人がどんとおりてくるわけなんですけれども、その方々を処理できなくなってしまうという現実的な問題になります。また、それを恐れて、二次審査に回す率を今と同じぐらいにするというふうにしましたところは、そうするとすり抜ける人もふえてしまうというふうなことになってしまいます。

 ですから、実際には、運用しながら適切なレベルに落ちつかせるというふうなことになるんだろうというふうに考えております。

保坂(展)委員 続いてなんですが、エラーの率なんですけれども、例えば十万分の一しかエラーしないというようなことは技術的に可能なのか、その場合、先生が今おっしゃったような長蛇の列となってしまうというふうになる、技術的に十万分の一というのは可能なのかどうかという点と、あと、こちらの資料の方で、これは九九%以上の精度という言い方があり、また、先ほどの一万分の一という数字もあり、今度、SPTの方では、これは九〇%以上というような書き方があるんですが、このあたりの数字がどういう関連があるのか、教えてください。

鷲見参考人 いろいろな数字が出てきて、混乱させましてどうも申しわけありません。

 まず、一万分の一と書かれていますのは、この評価をするときに、他人受け入れ率を一万分の一にした場合、本人が特定できる確率が何%かということをこれはあらわしたグラフです。そうしますと、例えば指を一本だけ使ってブラックリスティングをやった場合、一万人に一人だけが誤って二次審査に回されるという精度でやったときに、見逃さない率が九九%ですから、見逃す率は一%以下であるというふうな形になります。

 これは数字の上で見ますと非常にいい数字なんですが、現実には指紋がうまくとれない人がいるということの方が重要でして、そういう方が恐らく、百人いると数人、二、三%含まれている。それは、お年寄りですね、加齢によって指の表面が非常にかたい方、あるいは水仕事などをふだんからしていて指の表面が非常に荒れている人、指紋らしい映像がうまくとれないというふうな事例が出てくることの方が実際運用上は重要でして、はかろうと思ってもはかれないという人が列を延ばす原因になってしまうというのが恐らく現状だろうというふうに考えております。

 それでお答えになっておりますでしょうか。(保坂(展)委員「ゲートの方は」と呼ぶ)ゲートの方で九〇%以上というふうに申し上げましたのは、そのような指紋がうまく使えない人が数%いるということを勘案して、残り九十数%の人はうまく通れるというふうな意味で九〇%と書きました。

保坂(展)委員 では、もう一点だけなんですが、銀行などで指紋を使わずに静脈の方を使っているというのは、どうも指紋というと指紋採取に対するやはり抵抗感があるということかと思うんですが、静脈による認証でこのシステムを仮に考えるとすると、コストとか技術の面ではどうなんでしょうか。

鷲見参考人 このシステムを静脈を使ってすることも十分可能だと私は考えます。

保坂(展)委員 次に、鹿野参考人に伺いたいと思います。

 一つは、この委員会の議論の中で、自動化ゲートという中で、定住外国人と日本人の指紋も採取をされ、データとして登録をされていく。入管法の六十一条の九が新設をされて、海外の入管当局から求めがあった場合、一定の条件をつけてですけれども、情報として提供することができるという条項が生まれています。

 ということは、例えば海外から、これは外国人のみならず日本人も含めて、そういった情報が知らないところでやりとりをされる。マドリッド爆破事件で遺留指紋からアメリカのFBIが逮捕した方が、事実誤認で二週間後に釈放されたという件もありましたけれども、そのような、日本人も含めて定住外国人、そして外国人の指紋のデータの海外における扱い、あるいは日本が今度は海外からとるということもあり得るかと思いますが、いかがでしょうか。

鹿野参考人 問題点は、海外に行って指紋をとられる場合があると思うんです。その場合にどう使われているのかというのは、その国の法制によって大分違うと思うんです。それが今度は日本に持ってこられる場合ということがあるんだろうと思うんです。

 それからもう一つ、先ほども御質問がありましたように、日本の指紋が海外に持ち出しをされるという部分、これは情報管理の問題だろうと思うんです。情報管理の問題につきましては、やはりコンピューター化という時代の趨勢がありますので、よほど慎重にされなければならないということで、今の問題は、基本的には外国人の入国の問題かもしれませんが、これを広く考えれば、実は日本人の指紋の問題でもあるかと思います。日本人が海外に出たときに、同様の制度が海外で行われた場合には、日本人の指紋も海外において保管され、あるいは国内に逆輸入されるというおそれも十分にあるものと考えております。

保坂(展)委員 阿部参考人に、今の点もお聞きしたいんですが、それにちょっと加えて、US―VISITが発足したときに、ブラジルなどで対抗措置がとられたというのがございますよね。日本に観光客をたくさん受け入れようと、七百万人以上の方、私も体験しましたけれども、指紋を撮影されて、トランジットでも出されて、アメリカで受けましたけれども、これは決していい気はしないわけですね。

 こういうことが、では、日本がこうやっているんだからということで、海外に一体日本の人権感覚というのはどういうものなのかということで受けとめられるのかという点も加えてお答えいただきたいと思うんです。

阿部参考人 日本の出入国管理法制につきましては、一般的な評価というふうに断言していいかわかりませんけれども、多くの場面、国際会議等で耳にしますのは、かなり厳格に行われてきているということです。それはもちろん、日本の内部からいうと、それでもまだかなりの漏れがあるのではないかという指摘があると思いますが、にもかかわらず、例えば難民の受け入れなどにはっきりしているとおり、日本はかなり厳重に国境を管理してきているのではないかという一般的なイメージがあると思います。

 こうした中で、日本が今後、指紋の採取という形でさらに国境を管理していくということになりますと、ますます厳重な管理が行われていくだろう、そういうふうな心証というものが増幅されていくということは、これはもう間違いないんじゃないかと思います。

 しかも、現時点において、少なくとも入国管理の時点で指紋を採取しているのはアメリカ合衆国、米国だけなわけでありまして、そして他国に関しても、国境管理、入国の時点で指紋を採取するということに関しては、その採否も含めてかなり消極的な意見というのはあるわけですから、そういう点で、人権、特に私はプライバシーの観点をきょう強調いたしましたけれども、指紋採取をさらに日本がしていくということになると、人権保障ということよりは、国境を管理するという側面がさらに突出して強くなっていくのではないかというふうな心証が広まっていくのではないかというふうには思います。

保坂(展)委員 もう一点なんですが、先ほど上陸防止施設、私も八年ほど前、見に行きましたけれども、長いすがベッドがわりに使われていたり、ひどい方は半年、しかも、食費も自前で、出前をとったり弁当を買ったりして貯金もなくなってしまったという話を聞いたんですが、この国際的な扱い、他の国を見た場合に、この上陸防止施設、どういうふうにごらんになっているんでしょうか。

阿部参考人 上陸審査に関しては、現実的には、例えば特別審理官によって退去命令が出された後は運輸機関の管理下に入るんですけれども、実際には、上陸防止施設で送還までの間、身柄を確保されるということになっています。

 しかし、私が先ほど申し上げたとおり、身柄を確保することを根拠づける法的な規定というのが日本の入管法にはないんですね。しかも、身柄を確保されている期間、今保坂議員御指摘されましたけれども、場合によっては長期間にわたることがあるんですけれども、その間の処遇に関しても全く規則がないという状態になっています。そういう意味において、多少語弊があるかもしれませんけれども、上陸審査後の上陸禁止者の取り扱いに関しては法がないというふうな状態にもなっているかと思います。

 こういう状態の中で、上陸を禁止される人がさらにふえていく、しかもそこにテロリストという言葉が降りかかってきますと、非人道的な取り扱いを含めて、非常に危険性が高まっていくのではないか、そういうふうに懸念しておりますので、そういう点での対処というのが絶対的に必要だろうというふうに思っております。

保坂(展)委員 多賀谷参考人に伺いますけれども、今回の制度で、日本の入管のところに指紋データが蓄積されるわけですね。また、日本人の方も、旅券のIC化あるいは自動化ゲートというところで指紋情報がそれなりにたまってくる。これは、海外からの捜査上の照会だとか、あるいは日本から逆に要請するだとかいうことで活用されると考えられるかどうか。いかがでしょうか。

多賀谷参考人 お答えします。

 指紋情報あるいは日本の旅券に関するような情報というものが入管当局あるいは旅券担当課で蓄積されるわけですけれども、そのデータが海外あるいは日本国内で警察の犯罪捜査のために利用されるかどうかということですけれども、基本的に私はこう考えます。

 それは、刑事訴訟法百九十七条二項等に基づく個別的な照会については、これまでもほかのデータベースに各種データについての照会があったわけですが、それは十分に犯罪の嫌疑ある場合について個別的に照会される、それについては回答せざるを得ないだろう。

 これに対して、恐らく御懸念があるのは、ホワイト情報を含めてその情報が包括的にそのままデータとして警察なりあるいは海外に行く、そういうことを懸念されているんだと思うんですけれども、これは私の個人的な見解ですけれども、それはそうあるべきではないだろうと私は思います。基本的にこのようなホワイトリストを含むデータベースと他のデータベースとの間は個別的なマッチングであるべきであって、包括的な形でデータが海外の警察、インターポール等警察、あるいは国内でもそれが出ていくということは、やはりちょっと制度の趣旨に反するだろうというふうに考えております。

保坂(展)委員 もう一点なんですが、テロ対策ということですから、当然先行してアメリカで最も、US―VISITも含めてですけれども情報があるだろうというふうに思うんですが、ブラックリストのデータを入力してということが今回想定されているわけですけれども、海外のそういったブラックリスト情報をインプットしていわばゲートで見張るということになるのかどうか。どうお考えでしょうか。

多賀谷参考人 これは技術的な話なので、鷲見参考人あるいはほかの方の方がと思いますが、私の理解では、例えば、金融情報システムといいますか、金融機関が多重債務者についてのブラックリストの相互交換を行う。この場合には、お互いにブラックリストを全部共有するのではなくて、全体でその情報をある第三者的なところに保管しておいて、そこに照会していくという形で、その都度照会する。つまり、ブラックリストを共有するのではなくて、それをあるところに持って、そこに行く。要するに、お互いにブラックリストを相互に完全に預けるのではない、そういうシステムもあり得るだろうと思います。

 もちろん、実際に日本のシステムをどうするかというのはわかりませんけれども、いずれにせよ、そういう方が、セキュリティーなりあるいは個人のプライバシーが守られる程度は高いだろうと思います。

保坂(展)委員 では最後に、鹿野参考人、もう一度、今の点なんですが、結局、ゲートのところに、指紋でいわばブラックリストと照合をしていくわけですね。そのブラックリストのもとになるのは、他国のいわば問題のある人物なり、この人物はこうだという情報がブラックリストとしてなければ照合ができない。

 しかし、その情報が間違っている場合もございますよね。テロリストと間違えられてさんざんな目に遭った人も日本でもアメリカでもたくさん出ていますけれども、こういったところで、本人の知らないところで登録された情報が、しかも間違っていた情報が解除されないなどの問題点をどのようにお考えになるか。

鹿野参考人 実際にそういう例があるというぐあいに聞いております。そういうぐあいに間違えられた人が大変ひどい目に遭っているということも、実際の例としてあったものと考えております。

 その点については、かなりきちっとした防御権、要するに適正手続のもとに正式に認定する、厳格な認定をするという手続が本当に必要だろうというぐあいに考えております。百万人のうちに一人でもそういうように無実の人がテロリストと認定されて、あってはならないものと考えております。

保坂(展)委員 ありがとうございました。終わります。

石原委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見の御開陳をまことにありがとうございました。委員会を代表して御礼申し上げます。

 次回は、来る二十八日火曜日午前十時五十分理事会、午前十一時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十二分散会


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