衆議院

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第13号 平成18年4月4日(火曜日)

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平成十八年四月四日(火曜日)

    午前十時三十分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君 

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      下村 博文君    丹羽 秀樹君

      平沢 勝栄君    三ッ林隆志君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      河村たかし君    津村 啓介君

      細川 律夫君    伊藤  渉君

      保坂 展人君    滝   実君

      今村 雅弘君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         杉浦 正健君

   法務副大臣        河野 太郎君

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   政府参考人

   (警察庁長官官房長)   安藤 隆春君

   政府参考人

   (法務省大臣官房司法法制部長)          倉吉  敬君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    小貫 芳信君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月四日

 辞任         補欠選任

  森山 眞弓君     丹羽 秀樹君

同日

 辞任         補欠選任

  丹羽 秀樹君     森山 眞弓君

    ―――――――――――――

四月四日

 民法第七百六十六条改正と共同親権特別立法を求めることに関する請願(石井郁子君紹介)(第一〇八五号)

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案廃案に関する請願(穀田恵二君紹介)(第一〇八六号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(松木謙公君紹介)(第一一〇三号)

 成人の重国籍容認に関する請願(松木謙公君紹介)(第一一〇四号)

 国籍選択制度と国籍留保届の廃止に関する請願(中井洽君紹介)(第一一九八号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第八五号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房長安藤隆春君、法務省大臣官房司法法制部長倉吉敬君、法務省刑事局長大林宏君、法務省矯正局長小貫芳信君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石原委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。漆原良夫君。

漆原委員 公明党の漆原でございます。おはようございます。よろしくお願い申し上げます。

 早速質問させてもらいますが、代用監獄の存廃につきましては、これまで鋭い対立があったところであります。先回、杉浦法務大臣御自身が弁護士時代にどのような思いでこの問題にかかわってこられたかも、十分にお話をお伺いさせていただきました。五十五年当時弁護士であった国会議員はみんな同じような思いで、私も含めて思いを持っていたというふうに認識しております。

 この点について、有識者会議ではこう言っております。「代用刑事施設制度を存続させることを前提としつつ、そこにおいて起こり得る様々な問題を回避し、国際的に要求される水準を実質的に充たした被疑者の処遇がより確実に行われるような具体的な仕組みを考えるべきであり、」こういう提言をされております。この提言を受けまして、法案第十四条は、「都道府県警察に、留置施設を設置する。」十五条で、第三条に掲げる者は、中略しますけれども、「刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる。」として、いわゆる代用監獄の法的根拠を今回明確にしておるところであります。

 この点については、こういうような批判があります。代用監獄の廃止どころか努力目標も示さず、逆に法的根拠を与えて固定化させる内容になったというような鋭い、厳しい指摘がなされておりますが、そもそも、代用監獄制度について、将来どのようにしていこうというふうに法務省はお考えなのか、この点を大臣にお尋ねしたいと思います。

杉浦国務大臣 漆原先生とは、考えますと、長い御縁になりました。少年法もそうですし、通信傍受法と言わなきゃいけないんですが、戦友でございますし、同志でありますし、長い弁護士の経験、豊富な経験をお持ちで、法曹の仲間としても本当に尊敬申し上げているわけでございますが、大体、本法の審議に当たっても同じような思いでいらっしゃるんじゃないかと拝察しておるところでございます。

 私どもが、今の代監制度、この新しい法律における代監制度を所与の制度だと考えているわけではございません。御案内のとおり、刑事訴訟は迅速化されておりますし、裁判員制度も導入されます。被疑者の公的弁護制度も導入される。刑事司法制度全体が大きな変革の時代を迎えておるわけでございます。そういうことを考えますと、今後、刑事司法のあり方を検討する際には、取り調べを含む捜査のあり方に加えまして代替収容制度のあり方についても、刑事手続全体との関連の中で、検討を怠ってはならないものと考えております。有識者会議でもそういう御結論だというふうに私は思っておるところであります。

 先生が、将来どのようにすべき、将来というのをどれぐらいの幅でお考えになっているのか、五十年先なのか、百年先なのか。将来と申しますか、長いスパンで考えますと、理想と現実という言葉がありますけれども、理想としては、いわゆる代監は廃止するのが理想だと思います。しかし、現実はそうではない。そこから、二十五年前、苦悩から出発したわけでありまして、これは、私の考えとしては、日本の政府あるいは政治が考えるべき問題だ。現実に、例えば小菅拘置所は、あの地に今最新鋭の拘置所を建設しておりまして、ほぼ建設が完了するというような事態になっております。

 先日も申し上げましたけれども、全国で、多くの場所で、例えば、私が見たのでは名古屋、広島、高松では、もとのお城の中に裁判所もあれば、検察庁もある、拘置所もある、弁護士会もある。狭いエリアの中にあって、市の真ん中、中心部です。ほかにもそういうところはあると思いますが、非常に、裁かれる方にとっても、弁護する側にとっても、捜査する側にとっても便利な位置関係にあるわけですね。

 先日も申し上げましたが、巣鴨から小菅へ移ったときに弁護士会は猛反対運動をやった、先輩ですけれども。あの時代、まだ日本は発展途上にあったわけで、あの時代に旧江戸城の近くに政治が大拘置所を建設するということを決めておれば、随分様子は変わってきたと思うんですね。

 勾留の裁判そのものは裁判官がなさるわけですね。どこへ収容するかも裁判官がお決めになることであって、そういう全体のロケーションが、例えば名古屋、広島、高松に倣っておれば、勾留の裁判で留置場じゃなくて拘置所を選ぶという裁判も、裁判官もしやすくなるんじゃないでしょうかね。裁判官も現実を考えて決定をされるんだと思うんですね。

 日本は自由主義、民主主義の国家として今後ますます発展して成熟度を加えていくと思うんですね。そういう長いスパンで考えた場合には、そのころは私は生きていませんが、次の小菅拘置所を廃止して新しくつくるような場合には、国会議事堂の近くに、旧江戸城の中に建設するぐらいの政治は決定をしてほしい、こう思います。理想に近い、これは政治が決めることですから、してほしいと思います。

 ただ、現実の状況を見ますと、本法で提案しております代替刑事施設が現実的には無視できない。警察は警察なりに改善、改良を加えまして、今度はさらに新たに視察委員会とかさまざまな改善の措置を講じておりますから、現実から出発して、しかし、将来へ向かっては、発展する社会の中で、刑事司法のあり方、刑事手続全体との関連の中で検討していくこととならざるを得ないんじゃないかというふうに思っております。

漆原委員 ありがとうございました。理想としては廃止するのが望ましいという大臣のお考え、そのとおりだと思っております。

 ところで、この法律案の提出に至るまでの間にも、昭和五十五年、法制審議会から監獄法の改正についての答申がなされました。その答申の百十項(二)でこう書いてあるんですね。「関係当局は、将来、できる限り被勾留者の収容の必要に応じることができるよう、刑事施設の増設及び収容能力の増強に努めて、被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくすること。」というふうな書きぶりがあるわけなんですが、法務省はこの百十項の(二)、これをどのように理解しておられるのか、お尋ねしたいと思います。

小貫政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘の答申の百十項(二)の趣旨は、本来刑事施設に収容することが相当と判断されるような者につきまして、刑事施設の収容能力の不足から留置施設に収容せざるを得ないというような事態が現に存在し、あるいは、そのような事態が生じるおそれがある、こういう認識に立ちまして、刑事施設を所管します法務省に対して、その増設等に努めることによって、その事態が生ずることがないようにすべきことを要請するものだというふうに理解しております。

漆原委員 しかしながら、今伺った法務省の理解とは違って、この第百十項の(二)については、警察の留置場、今回法整備をされる留置施設を減少させていくべきだというふうな見解も見られるところでありますけれども、警察庁、このような理解に対してどのようにお考えか、お尋ねしたいと思います。

安藤政府参考人 御指摘の法制審答申第百十項(二)は、我々としては、警察施設を減らすべきことを意味するものではなく、また、当該項目は運用上の留意事項を述べたものでありまして、当該条項の規範化を意図するものではないと承知しております。

 仮に、これに反しまして、将来的に留置施設を減少させるべきとの規範ができた場合には、例えば、現在、被疑者の九八%以上が留置施設に勾留されているという現実の必要性を無視することになり、必要な捜査活動に支障を招くおそれがあることや、あるいは、現在、過剰収容状況におきまして、施設収容力の確保に各都道府県警察は尽力しているわけでありますが、これに反しまして、留置施設の収容力を減じる方向に働く規範となりまして、予算、人事面における支障が生じてくるということで、これは、こういう方向につきまして各都道府県が現在取り組んでいる治安回復のための諸対策に逆行するものと考えております。

漆原委員 本年二月まで有識者会議による会議が開かれたわけでございますけれども、その中で、いわゆる代用監獄等については廃止すべきだという意見が出されたのでしょうか、出されなかったのでしょうか、その結論を教えてもらいたいと思います。

小貫政府参考人 未決拘禁者の処遇等に関する有識者会議では、代用刑事施設制度について、無理な取り調べが行われやすく、また、被疑者の留置場におけるさまざまな処遇が捜査に利用され、その人権が侵害されるおそれがあるなどとして、将来的には廃止すべきとの意見も示されました。

 一方において、これに対しては、刑事施設制度が捜査を適正迅速に遂行する上で重要な機能を果たしているなどを踏まえると、刑事施設制度を将来的に廃止すべきものと考えることは適当ではなく、また、現在の司法の運用において、大半の被疑者が代用刑事施設に留置されている事実を踏まえますと、現実的ではないという意見が多数を占めたところでございます。

 そして、会議の結論としましては、今回の未決拘禁者の処遇等に関する法整備に当たっては、代用刑事施設制度を存続させることを前提としつつ、そこにおいて起こり得るさまざまな問題を回避し、国際的に要求される水準を実質的に満たした被疑者の処遇がより確実に行われるような具体的な仕組みを考えるべきであって、これによって、捜査の適正な遂行と被疑者の人権の保障との調和を図ることが国民の負託に最もよくこたえるものであるとの結論に至ったところでございます。

漆原委員 この代用監獄制度というのは、世界的にほとんど類を見ない日本独特の制度というふうに言われておりますが、世界の法制の上において、身柄の勾留と捜査の関係はどうなっているのか、御説明願いたいと思います。

小貫政府参考人 諸外国の制度につきましては、これを網羅的に把握しているものではございませんが、未決拘禁者の身柄の拘束の場所は、警察による被勾留者の取り調べ権限の有無や、勾留期間その他の刑事司法手続と関連しているものと考えられます。

 例えば、フランスでは、警察官により逮捕された者は、警察署内にとどめ置かれた後、重罪の場合は、原則として最大四十八時間以内に予審に付されまして、身柄を拘束される場合には拘置所に勾留されますが、勾留は、起訴まで延長を含めると最長四年間に及ぶ。その間の捜査は予審判事が主体となって行いまして、取り調べも予審判事が行うものと承知しております。

 また、韓国におきましては、警察官による逮捕が行われた場合については、警察官は、逮捕後四十八時間以内に拘束令状を請求しなければならず、裁判官が拘束令状を発付したときは被疑者を十日間拘束することができまして、その場合は、被疑者は警察留置場に留置されるということになっております。そして、警察が十日以内に被疑者を釈放しないときには検事に引致しなければなりませんで、検事は、引致を受けた後に、被疑者を拘置所に留置した上で、原則として十日間身柄を拘束して捜査することができるものとされていると承知しております。

漆原委員 日本の法制度において代用刑事施設が必要とされる理由について、法務省と警察庁にお尋ねしたいと思います。

小貫政府参考人 御案内のとおり、我が国の刑事司法は、被疑者の取り調べを含む緻密な捜査と、それに裏づけられました起訴、不起訴の決定段階における厳格な選別をその真髄としつつ、起訴前の被疑者の身柄拘束には、令状主義と最長二十三日間の期間制限という厳しい限定を設けているところでございます。

 このような短期間に被疑者の取り調べその他の捜査を円滑、迅速、効率的に実施するためには、津々浦々にきめ細かく設置されております留置施設に被疑者を勾留することが必要かつ現実的な方法であると考えております。

 以上でございます。

安藤政府参考人 お答えいたします。

 現在の刑事司法制度下におきましては、被疑者の逮捕後、国際的に見ても異例なほど短期間の勾留期間内に、所要の捜査を遂げ、起訴の適否の判断を行うことが求められておりまして、犯罪捜査を迅速かつ適正に遂行することが必要であるわけであります。

 そこで、証拠品の提示、取り調べ、被疑者を伴った犯行現場における捜査等を行わなければならないことを考えますと、被疑者の勾留場所については、やはり捜査機関と近接した場所であること、さらに取り調べ室等の設備が十分に整備されていることという条件を満たすことが必要と考えております。

 こうした条件を満たしているのは留置施設のみでありまして、かかる現状に照らしますと、被勾留者を刑事施設に収容することにかえまして留置施設に留置することができるとする代替収容は、迅速かつ適正な捜査を遂行する上で必要不可欠であると考えております。

漆原委員 この件について、いろいろな意見が私のところに寄せられまして、全くの素人の方の意見で、なるほどなと思ったことがあるので、ちょっと御紹介するんですが、我が国の法制上、どうしても代用刑事施設が必要であるならば、むしろ留置場を警察庁から法務省に移管する、留置場における職務を法務省の職員に担当させたらどうなんだと。留置場を拘置所の出張所にするような考え方なんですが、それによって、きちっと捜査と留置の分離が役所の仕事としてもできるではないか、こういう意見がありまして、なるほどなというふうに僕は思ったんですが、これに対して御見解があればどうぞ。

小貫政府参考人 そのような御意見があることは承知しておりますが、留置施設は、地方自治体、都道府県が、地方の治安責任を全うする必要から、独自の財源を充てて設置しているものでございます。これを国の所管に移すということは、治安に関する地方公共団体と国の役割分担や責任の所在にかかわる大きな問題であると認識しております。

 また、留置施設を国の所管に移すといたしましても、逮捕後の留置を行う施設としての留置施設は存続する必要がございます。現在の留置施設は、逮捕後の留置とこれに引き続く勾留を通じて用いられておりまして、要員の点でも、逮捕から勾留まで一貫しまして、地方公務員である施設の看守勤務員が対応しております。その機能を分割して被勾留者の収容に関する部分のみを国の所管とすることとなりますと、国の業務を行う区画を別に設けまして、共通した業務に従事する職員を国と地方ごとに配置せざるを得なくなるという事態が生ずるものと思います。こうした点などを考えてみますと、留置施設の所管を警察から法務省に移すことは現実的ではない、こう考えているところでございます。

漆原委員 これは、国と地方の組織からいったら、今のような御答弁になるんじゃないかなと思います。一般の人の要するに直観力といいますか、御指摘を御紹介させていただきました。

 警察庁にお伺いしますけれども、代用監獄は、被疑者の留置が捜査に利用されることになって、冤罪の温床となるという批判もなされております。しかし、これについては、昭和五十五年、警察庁内部で規則をつくって捜査と留置の分離をされてきた、こういうことも承知しておりますが、今回の法整備に当たって、具体的にどのような点について改善がなされたのか、お伺いしたいと思います。

安藤政府参考人 本法案におきましては、まず被留置者の適正処遇を期するという観点から、留置業務を管理する者について定めまして、その責任を明確にすること、あるいは、適正処遇を行うための留置担当官に対します教育訓練を行うことを定めること、あるいは、留置担当官は犯罪の捜査に従事してはならない旨法律上明記することなど、まず第一点として、そういう適正処遇を期するということを図っております。

 さらに、警察本部に留置施設視察委員会を新たに設けまして、留置施設を視察し、その運営に関しまして留置業務管理者に対して意見を述べることとしまして、留置施設の運営の透明化を図ることにしております。

 また、被留置者の処遇とか不服申し立て手続につきましても、刑事施設における被収容者とほぼ同様の規定を設けておりまして、処遇の均衡を確保しているものと考えております。

 以上のような改善を行っております。

漆原委員 警察庁において、捜査と留置部門の分離が法律上明確になったということでございますけれども、結局は、それぞれの部門の責任者というのは警察署長になるわけですね。したがって、警察署長が留置部門の意見について考慮することなく捜査部門の意見を優先させることになると、結局、こうした分離を図った意味がなくなってしまう。留置業務管理者の判断の適法性は何によって担保されていると理解されているでしょうか、警察庁。

安藤政府参考人 お答えいたします。

 警察署長につきましては、今御指摘のとおり、捜査の責任者でもあるわけでありますが、同時に、留置業務の責任者でもありまして、留置業務につきまして適切な判断が期待されるところであります。とりわけ、被留置者の処遇に問題があるなど、留置業務の遂行に当たりまして不適切な点がある場合には、当然、警察署長の責任を問われることになるものと考えております。

 さらに、被留置者の留置場への出入り等の被留置者の処遇状況につきましては、これは留置担当者が記録することになっておりまして、警察署長の判断の適正さは、客観的にこれによって担保されるものと考えております。

 加えまして、今回の法整備におきましては、被留置者の処遇に関しまして、一つ、警察本部長や公安委員会に対する不服申し立て手続が整備されていること、さらに、留置施設視察委員会の視察等が実施され、施設の運営の透明化が図られていること、さらには、警察本部による実地監査、警察庁によります巡察によりまして専門的観点からのチェックが行われることなどによりまして、その適正な職務執行が担保されるものと考えております。

漆原委員 そもそも、この代用監獄制度をめぐりましては、捜査機関である警察において被疑者の身柄を拘束、収容することになって、自白の強要等の違法な捜査が行われやすく、冤罪の温床となるとの批判がなされてまいりました。このことは、長年弁護士経験を有する杉浦法務大臣も、また倉田委員も先回指摘され、私もまた同感でございます。

 ただ、今回の改正案では種々の手当てがなされていることはよく理解もし、評価もするところでありますが、そもそも代用刑事施設制度そのものの中に自白の強要等による冤罪の危険性が内在しているということを私は指摘しなければならないというふうに思っております。

 大臣所信に対する質問で、取り調べの可視化という点について、私は強く法務大臣に御質問申し上げました。これについては大臣の答えは要りませんけれども、さきの審議の際にも、柴山委員もこの点を指摘されておりました。

 私も、被疑者の人権という観点から、後で任意性があったかないかが争われて、これは事後的に判断するわけですから、有罪になったり無罪になったり、認定いかんによっては、有罪、無罪、どっちに転ぶかわからない、こういう意味で、やはり被疑者の人権という点で重大な問題があろうかと思います。また、裁判員制度導入に伴って、審議の長期化を防ぐ意味からも、ぜひとも取り調べの可視化について、改めて大臣にお訴えを申し上げておきたいと思います。お答えは結構でございます。

 次に、時間の関係でちょっと質問を飛ばしますが、どうしても指摘しておきたい点があります。

 弁護人の接見交通について尋ねます。

 刑訴法の三十九条は、弁護人の秘密交通権を規定しております。しかし、今回、法案百十七条、百十九条は、百十三条一項一号ロを準用しまして、刑事施設の規律及び秩序を害する行為があった場合には、弁護人等との面会の一時停止及び終了させることができる、こう規定しておりますね。すなわち、一般面会者のほかに弁護人もその対象となっております。この規定は、刑訴法三十九条一項の弁護人の秘密接見交通権に反するのではないかというように私は考えておりますが、いかがでしょうか。

小貫政府参考人 今回の改正法律第百十七条におきましては、先生御指摘のとおり、刑事施設の規律及び秩序を害する行為が行われた場合には、これを回復、維持するために、刑事施設の職員がそのような行為を制止し、または面会を一時停止させることができるとされております。

 もとより、未決拘禁者と弁護人等の面会において、その面会の内容の秘密が保障されることは当然のことでございまして、それゆえに、第百十七条は、未決拘禁者と弁護人等との面会につきまして、百十三条第一項第二号の発言内容に着目した制限をすることはできないものといたしまして、百十三条第一項第一号ロの、未決拘禁者または弁護人等が刑事施設の規律及び秩序を害する行為に及んだ場合にのみ、刑事施設の職員がかかる行為を制止し、または面会を一時停止させることができるとしているところでございます。

 このように、未決拘禁者または弁護人等が刑事施設の規律及び秩序を害する場合に、その行為を制止するなどの行為ができるとすることは、面会におきます会話内容を聴取するなどとするものではございませんで、また、面会の状況を監視しようとするものでないことから、未決拘禁者と弁護人等との接見交通の秘密を侵害するものではないと考えております。

漆原委員 時間が参りましたけれども、そもそも、あの接見室の中において、被疑者と弁護人との間には厚いつい立てがあるわけですね。物を差し入れられないようになっている、手も届かない、そんなところで、被疑者と接見交通しているときに弁護人が、刑事施設の規律違反だとか秩序を乱す行為、できるわけないんですよ。だから、弁護士がそんなことをするということを想像されるだけで、予定されるだけでも私は弁護士に対する侮辱だなと思っております。多分、杉浦法務大臣も同じ思いではないのかなというふうに思っております。

 必要のないもの、およそ事例として考えられないものをなぜこんなところに入れなきゃならないのか。今後、司法ネットで弁護士会の協力も得なければならないという事態になっているのに、弁護士が接見室で刑事施設の秩序を乱すような行為をする可能性があるなんということを法律で書くこと自体が、いかがなものかなというふうに私は思って御指摘だけをさせていただいて、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

石原委員長 次に、稲田朋美君。

稲田委員 ありがとうございます。自由民主党の稲田朋美でございます。本日は、質問の機会を与えていただきましてありがとうございます。

 本日審議しております刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案でありますが、私は、この法律の前身である監獄法が、実に百年間も改正されず、その間、代用監獄についてさまざまな議論がなされ、改正案が三回も法案が廃案になり、そういった長い議論を経て今回の法律案となったことに、法務省、警察庁、日弁連を初めとする関係各位の御努力に敬意を表し、感謝申し上げます。

 特に、杉浦法務大臣は、先週の御答弁でも、長年弁護士として活躍され、大臣が一弁の副会長時代には拘禁二法の反対運動を先頭を切ってなされていたというふうにお聞きをいたしました。したがいまして、法務大臣は代用監獄の問題点やその課題をよく御存じでいらっしゃり、代用監獄に収容された被疑者または被告人の人権を最大限に尊重すべきであるというお考えであると思います。そういった法務大臣のもとで今回の法案が提出されることは、非常に意義深いことであると存じております。

 総理は、今国会冒頭の所信表明演説の中で、世界一安全な国日本の復活が内閣の最重要課題であるというふうに述べられました。また、法務大臣も、当委員会の冒頭の所信表明演説の中で、犯罪に強い社会の実現のための行動計画に基づき、各種犯罪対策の充実強化を図り、世界一安全な国日本の復活に向けて全力を挙げて取り組むと、力強い決意をいただきました。

 安全な国日本の復活、すなわち治安のよい国日本の復活には、刑事事件の捜査が効率的に行われ、公判により迅速に事件が解決されることが必要であることは言うまでもありません。ただ、その一方で、未決拘禁者という、いまだ刑が確定していない人々の人権を守るということも重要であるというふうに思います。

 法務当局にお伺いいたします。

 先ほども漆原委員から御指摘がありました昭和五十五年十一月に法制審議会から出された「監獄法改正の骨子となる要綱」の百十項には、「関係当局は、将来、できる限り被勾留者の収容の必要に応じることができるよう、刑事施設の増設及び収容能力の増強に努めて、被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくすること。」という運用上の配慮事項が書かれております。

 このいわゆる漸減条項の解釈でございますけれども、先ほどの御答弁では、代用監獄を少なくしていくとか廃止していくという方向性を示したものではなくて、本来刑事施設に収容すべき者を収容能力がないがために刑事施設に収容できないという事態を解消すべきであるということを書かれたものであるというふうにお答えになったかと思いますけれども、その理解でよろしいんでしょうか。

小貫政府参考人 私どもの理解は先ほど申し上げたところでございますが、そういった要請にこたえた結果といたしまして、やむを得ず被勾留者を留置施設に収容する例は少なくなっていくものでありますが、法制審議会の要綱は、代用監獄に収容された収容者を漸次減少させて、代用監獄制度を将来的に廃止するという趣旨まで含むものではない、こう理解しているところでございます。

稲田委員 そうしますと、この条項を素直に読んだ解釈とは若干異なるようにも思いますので、その点はきちんと明確にされた方がいいのではないかというふうに思います。

 続きまして、本来、代用監獄と言われるものに実際には未決拘禁者の九八・三%も収容され、拘置所に今わずか一・七%しか収容されていないという現実があるわけですが、その理由はどこにあるのでしょうか。刑事施設に収容すべき者を収容できないがゆえに留置場に収容されるという例はどの程度あるのでしょうか。

小貫政府参考人 委員御指摘のとおり、現在の司法の運用におきまして、大半の被疑者が代用刑事施設に勾留されているという実態がございます。

 その原因につきましては、勾留被疑者をどこの場所に留置するかという指定権、これは裁判所にございますので、これから申し上げることは推測の域を出ないわけでございますが、一つは、拘置所の設置の場所が限られているのに対しまして、留置施設が全国津々浦々に設置されている現状にある、こういうことが一つ。捜査を円滑かつ効率的に行う必要性、あるいはまた留置施設における処遇が改善されたこと、さらには留置施設において捜査と留置の分離が徹底されていたこと、あるいはさらには、未決拘禁者と弁護人等の接見が拡充されてきた、こういったさまざまの複合的な要因があるのではないかなというふうに考えております。

稲田委員 そういたしますと、先ほどの御答弁と関連しますと、やはりいまだ、刑事施設に収容すべき者もその収容能力の不足により留置場に収容している者もあるというふうに伺っておきます。

 そのような理解に立った上で、法務省としては、今後、拘置所の収容能力の増強についてどのように解消していくお考えでしょうか。法務当局にお伺いいたします。

小貫政府参考人 その前に、これまでどんなことをやってきたかをまず若干説明させていただいた上で今後のことを申し上げたいと思いますが、拘置所等の未決拘禁者の収容定員、これは昭和五十五年、法制審の答申が出された時点では、一万五千百十三人でございました。現在、平成十八年三月三十一日では一万七千二百五十三人と、約二百人分が増加してございます。また、現在、東京拘置所を初めといたしまして六つの施設で増改築工事を実施しておりまして、これらが完成いたしますと、未決収容者の収容定員は一万八千人を超えて、約九百人分増加する見込みということになっております。

 さらに、法務省といたしましては、未決収容者の収容能力の増強に努めてまいりたい、このように考えている次第でございます。

稲田委員 日弁連は、代用監獄が弊害のある制度であることを確認し、廃止の方向性を明確にさせるべきであるというような意見を出されているわけですけれども、大臣にお伺いいたしますが、今回の法改正を経てもなお代用監獄が弊害のある制度であるという認識をお持ちでしょうか。それとも、今回の制度改正により、代用監獄は既に弊害のある制度とは言えなくなったという認識でしょうか。その点についてお伺いいたします。

杉浦国務大臣 既に御答弁したことがあると思いますが、我が国の刑事司法制度のもとにおきましては、二十三日間という限られた身体拘束の期間において円滑かつ効率的に捜査を遂げなきゃならない。そういう中で、代用刑事施設制度は現実的に重要な役割を果たしていることは、再三御答弁しているところでございます。

 今回の法整備に当たりましては、代替収容制度を前提といたしまして、捜査と留置の分離を法律上明確にする。今までは、警察の方で自主的に分離して、私ども見ましたらきちっとやっておるようなんですが、法律的には明確でなかった。それを法律上明確にする。

 それから、留置施設視察委員会制度、これはこれから立ち上げるわけですが、この委員会が有効に機能することによって、適切な運営をある意味では監視することができるということなどの制度的改善を加えることとしているところでございます。

 こうした制度の適切な運用により、適切に運用しなければなりませんが、それによって被留置者の人権保障はより確実に行われることが期待されるものと考えております。

稲田委員 今の大臣の御答弁で、今回の法改正、またその運用によって代用監獄の弊害はなくなるというふうにお伺いしていいのかと思います。

 次に、各論的なことについてお伺いいたしますが、未決拘禁者と弁護人との外部交通権の拡充という観点から質問いたします。

 刑事事件の被疑者、被告人として身柄の拘束を受けている未決拘禁者にとって、防御の準備をすることは極めて重要だと思います。

 そこで、副大臣にお伺いいたしますが、副大臣は、未決拘禁者と弁護人との外部交通の拡充を図ることについて、どのようなお考えをお持ちでしょうか。

河野副大臣 未決拘禁者の防御権を実質的に保障するためにも、外部交通の拡充は必要なことだと思います。特に、ことしの末までには被疑者に対する公的弁護制度がスタートいたしますし、平成二十一年には裁判員制度がスタートするということでございますから、この拡充の問題についてはより真剣に検討をしていかなければならないというふうに思っております。

 ただ、その一方で、もちろん捜査との調整はしっかり図らなければいけませんし、仮に電話を外部交通の手段として使う場合には、例えば成り済ましで、共犯の人から電話がかかってきたりということがあっては証拠隠滅にもつながりかねませんので、そうしたことはしっかり考えていかなければいけないんだろうと思います。

 それからもう一つは、人的な体制が十分ではありません。法務省も三けたの増員をお願いしているという現実がございますので、例えば休日、夜間の接見その他を拡充する場合には、どうしても今の現状では人的な制限がございますので、そうした体制もしっかり拡充しながら前向きに検討してまいりたいと思っております。

稲田委員 ありがとうございます。

 今、副大臣からも御答弁がありましたように、未決拘禁者と弁護人との外部交通権の拡充というのは非常にこれからも重要だと思いますが、一方で、刑事施設も限られた職員によって、一定のルールのもとで運営されているわけで、およそ無制限に外部交通権が認められるというものではないと思います。

 その点に関連しまして、先ほど漆原委員からも御指摘がありました百十七条についてお伺いいたします。

 面会の相手が弁護人であっても、刑事施設の規律及び秩序を害する行為があれば、面会の一時停止が認められるというふうにされているわけですけれども、この刑事施設の規律及び秩序を害する行為というのが非常に抽象的で、広く解釈されるおそれがないのかという疑問があるわけです。

 先ほども御答弁になりましたけれども、具体的に一体どういう場合を想定されて、弁護人と被疑者との間の接見中に刑事施設の規律及び秩序を害する行為が起こり得るのか、そういう行為を起こすのが弁護人を想定されているのか、その点など、ちょっと具体的な事例をお示しいただければと思います。

小貫政府参考人 その前に、先ほどの答弁の中で数字をちょっと間違えて申し上げたところがございましたので、訂正させていただきます。

 それは、未決拘禁者、収容者の収容定員の話でございますが、五十五年末には、正しくは一万五千百三十三人で、十八年三月三十一日で一万七千二百五十三人となりまして、私、先ほど二百人と申し上げたはずでございますが、これは二千人の誤りでございましたので、その点訂正させていただきます。申しわけございません。

 続きまして、規律秩序違反行為と目される具体的な事例についてのお尋ねでございました。

 まず一つは、最近もあった例でございますが、これはむしろ収容者の方に問題があった事例でございまして、接見中に仕切り板をけったりなんかして、そういう違反行為を行った被収容者があった、こういう事例がございました。

 一方で、弁護人側についてどういう例があったのかということでございますが、本当にレアケースだろうと思うんですけれども、公刊物によりますと、接見禁止がついておる被疑者に、接見室の中で携帯電話で話をさせたという事例があるやに私は伺っております。

 こういった事案を念頭に置きまして今回の法整備をした、こういう次第でございます。

稲田委員 今の例にちょっと関連してなんですけれども、弁護人が携帯電話で電話をさせたとおっしゃるんですが、密室で、どうやって弁護人が携帯電話を被疑者に渡しているなどということがその密室の外部にいる刑務官なりにわかったのかという点について疑問なんですが、その点はいかがでしょうか。

小貫政府参考人 これは拘置所の職員が発見したという例じゃございませんで、事後的に捜査の中で判明して、その後いろいろ処分につながっていった、こういう案件のように私は伺っております。

稲田委員 そうしますと、密室での弁護人と被疑者なり被告人とのやりとりを監視していくというような運用がなされないように、その点は御注意いただきたいというふうに思います。

 この刑事施設の規律及び秩序を害する行為を判断するのは、一体どなたなんでしょうか。

小貫政府参考人 まず、その運用をしっかりしろというお話、まことにそのとおりだと思っております。殊さら監視をするというようなことではございませんで、その点については、通常の面会の業務の中で判明した場合にその権限行使をする、こういうことでございます。

 次に、だれが判断するのか。これは、基本的には面会業務に従事している者が判断する、緊急時にはそうせざるを得ないだろうというふうに思っております。

稲田委員 法の運用に当たっては、今申し上げたような秘密交通権が害されないように、過度の監視にならないようにお願いいたしたいと思います。

 次に、法務当局に電話接見についてお伺いいたします。

 資料で、ことしの三月五日の朝日新聞の「電話接見来春試行へ具体化」という記事が載っておりますけれども、未決拘禁者と弁護人との電話による通信の枠組みについて、法務当局にお伺いいたします。

小貫政府参考人 まず、前提といたしまして、刑事訴訟法上の接見には電話による通信は含まれない、こう解釈されてまいりました。したがいまして、未決拘禁者には、現行法上、電話による通信を行う権利はないと解されているところでございます。実際、実務もそうやって推移してまいりました。

 しかし、司法制度改革等々の変革を見ますと、これについて、従前どおりのやり方では対応できない、こう考えているところであります。どういうやり方をするかということは、これから具体的にまた関係機関とよく御相談申し上げて決めていくことになろうかと思うのでございますけれども、ただ一つ、電話の場合でございますので、相手方が弁護人である、弁護士さんであるという確認の手続は必要であろう、こんなふうに考えているところでございます。

 以上でございます。

稲田委員 ありがとうございます。

 そうしますと、この新聞記事で「来春試行へ具体化」という報道については、おおむねここに書かれているような内容でよろしいんでしょうか。

小貫政府参考人 今回の法整備ができた後になろうかとは思いますけれども、なるべく早い時期という考えは持っております。特に、裁判員制度はまだ期間がありますけれども、既に公判前整理手続がもう実施に移されて、連日的開廷がなされているという状況にもございますので、これから検察庁あるいは日弁連等とよく相談した上で実現を図ってまいりたい、こんなふうに思っております。

稲田委員 警察庁としては、電話接見についてどのような取り扱いをなさるのでしょうか。

安藤政府参考人 防御権の行使の上で重要と考えられます被留置者と弁護人との外部交通について、その主要な方法であります接見を補完するものとして電話による通信を可能とすることについて、そうした要望があることは承知しております。

 ただし、未決拘禁者に電話を使用させる場合には、やはりそれにふさわしい場所や電話設備を確保する必要がありますし、加えまして、その場所まで未決拘禁者を連れていき、そして電話をしている間の被留置者の動静を監視するための職員も必要となるなど、人的、物的体制の整備や捜査との調整が必要と考えております。

 そこで、今、警察としましては、例えば弁護士過疎地域においては、事件を受任します弁護人が遠隔地に所在していることが多くなりますが、このような場合に電話による通信を行うことを想定しつつ、その可能性を検証するために、一部における試行を検討しているところであります。

稲田委員 続きまして、執務時間外の面会についてお伺いいたします。

 執務時間外の弁護人との面会について、現在の拘置所においてはどのような要件で認められていますか。また、東京拘置所においては、実際何件くらいの面会が執務時間外になされていますか。法務当局にお伺いいたします。

小貫政府参考人 刑事施設に収容されております被収容者の接見につきましては、現行の監獄法令上は、原則として執務時間内ということとされております。

 ただ、施設の長の判断によりまして例外的にこれを許すことができる、こういう取り扱いになっておりまして、弁護人等から執務時間外の接見の申し出があった場合は、刑事施設の長におきまして、接見の緊急性、必要性や接見のための職員の配置が可能であるかなどを検討いたしまして、個別に現状では許否を判断することとしているところでございます。

 現在の取り扱い状況を説明申し上げますと、休日における弁護人の接見の運用は、被疑者につきましては、初回の接見は、土曜日に限らず、連続する休日のいずれにおいても平日と同様の時間帯に、二回目以降の接見は、原則として土曜日の午前中に実施することとされております。被告人につきましては、翌週に公判期日が指定されているとき、上訴期限または控訴趣意書等の提出書類の提出期限が翌週に迫っているときに、原則として土曜日の午前中に実施することとしているところでございます。

 なお、東京拘置所について取り急ぎ調査してまいりましたが、平成十七年九月から同年十二月までの間に、いわゆる時間外接見の数は二百二十九件でございました。

    〔委員長退席、早川委員長代理着席〕

稲田委員 さらに法務当局にお伺いいたします。

 今まで、留置施設においては、逮捕直後には、深夜でもそうでない場合でも、夜間の面会を認める運用を行ってきたというふうに聞きます。法百十八条第三項においては、夜間、休日の弁護人面会について、「刑事施設の管理運営上支障があるときを除き、これを許すものとする。」という抽象的な文言が置かれているわけですけれども、少なくとも現在の取り扱いより悪くなることはないというふうに解釈しております。

 特に、裁判員制度が開廷中には、管理運営上の支障を理由として夜間、休日に面会ができないということになれば非常に問題だと思いますけれども、その裁判員制度を見越して、未決拘禁者と弁護人との間の夜間、休日の面会についてはどのような取り扱いになるのか、法務当局にお伺いいたします。

小貫政府参考人 先生御指摘のとおり、裁判員裁判の開廷期間中などには、防御権を実質的に保障するため、弁護人等との夜間、休日面会を実施する必要性は高いと考えております。そのような場合には、確実に夜間、休日面会を実施することができる必要な体制を整備いたしまして、管理運営上の理由をもってこれを拒むというような事態はないようにしたいと考えているところでございます。

稲田委員 ありがとうございます。ぜひとも充実していただきたいと思います。

 時間がございませんので、各論についてはこれ以上はお聞きいたしませんが、昭和七年の五月二十日にチャップリンが小菅刑務所に訪問をして、その際に、「一国の文化水準は監獄を見ることによって理解できる」という名言を残したそうでございます。今のこの平和で豊かな日本の文化水準にふさわしい刑事施設並びに代用刑事施設であっていただきたいというふうに考えております。

 ところで、仮にどんなよい法案がされて、被疑者の人権保障について制度的改善がなされたとしても、この法の運用が適正になされるということが必要になると思います。その意味からも、この法をチェックする裁判官を含めた法曹にリーガルマインドがなければ、せっかくのよい法律も絵にかいたもちになってしまいます。

 そこで、法曹養成制度についてお伺いいたします。

 リーガルマインドというのは、単に法解釈の技術とは異なり、ある程度時間をかけてじっくりと養成すべきものではないかというふうに思っておりますが、新しく導入されたロースクール制度では、法学部出身者以外も入学いたします。そして、先日の自民党の部会でのロースクール生からの聞き取りでは、かなり忙しいカリキュラムで、基本書を読む余裕はないというふうにお答えされていた方もいらっしゃいました。

 このように、特に法学部出身者ではない純粋な未修者に対して、一体リーガルマインドの育成についてはどのようにして図るおつもりでしょうか。法務当局にお伺いいたします。

    〔早川委員長代理退席、委員長着席〕

倉吉政府参考人 まず、前提としてでございますが、社会人としての経験を積んだ方を初めとして、多様なバックグラウンドを持った方々が多く法曹を目指していただけるということは望ましいことであると考えております。

 もちろん、ただいま御指摘ありましたとおり、こうした方々が法解釈の技術に偏ると申しますか、機械的な法解釈にきゅうきゅうとしてしまうということでは困るわけでありまして、法曹にとって必要とされる素養というものは、豊かな人間性や感受性を持っているとか、それから柔軟な思考力を備えているといった、極めて多岐にわたるものであろう、こう考えております。

 法学未修者におきましても、法科大学院、新司法試験、そして新司法修習というプロセスの中でこれらの素養を身につけていただくということが期待されているわけでございます。

 そして、その中核となる、今御指摘の法科大学院でございますが、その教育課程におきましては、法学未修者の修習年限は三年とされております。その上で、法律基本科目、法律実務科目、基礎法学、それからさらには先端科目のすべてにわたって授業科目を開設するとともに、学生の授業科目の履修がこれらの中のいずれかに過度に偏るといったことのないよう配慮することとされております。

 各法科大学院におきましては、それぞれが創意工夫を凝らしましてバランスのとれた教育を行うように努力していると承知しておりまして、こうした教育を通じてリーガルマインドの育成は図られるものと考えております。

稲田委員 今お答えがあったように、確かに、いろいろな社会経験を持ち、経歴を持つ法曹が多くできるということは、私も法曹の質の向上につながるという面があるというふうに思います。

 しかし、法律的な素養のない者がいきなりロースクールで、前期修習の前取りをしたような、要件事実的な勉強をしたり、また実務に即した勉強に入るのは、かなり無理があるのではないか。基礎なしの技術屋みたいな法曹を幾らつくっても、私は司法界はよくならないのではないかというふうに思います。純粋な未修者を、三年間で新司法試験を通るというか受ける資格をつけるには、ちょっと時間的にもかなり難しいのではないかというふうに感じているんですが、この点について、重ねて法務当局の御意見を伺います。

倉吉政府参考人 ただいま委員御指摘いただきましたとおり、全く法律的な素養なしに、一方的に、要件事実教育というのを挙げられましたが、そういう実務教育だけを受けるということになれば、真に国民のニーズにこたえられる法曹にはなり得ないということになろうかと思います。

 三年の期間が短いのではないかという御指摘がありましたが、しかし、先ほど申し上げましたとおり、法科大学院では、まず基礎法学、それから法律の基本科目から教えます。そして、さまざまな教育方法がいろいろと工夫されているところでございまして、初期のころは、法律の基本科目の中で、こういう実体法の解釈が、実務の場面ではこういうときに起こるんだよと徐々に教えていく、そして法律実務科目に入っていくというような工夫がさまざまされております。こうした中で、先ほど申し上げましたとおり、学生の授業科目の履修がいずれか、例えば法律実務科目だけに偏るというようなことのないように工夫されているところであります。

 新司法試験におきましても、先般プレテストを行いましたけれども、例えばその論文試験というのは、一定の社会的な事象、事件をもとにして、それが民法にかかわる、商法にかかわる、民事訴訟法にかかわる、あるいは強制執行にかかわる、こういったことを総合的に聞くというような問いかけをするようにいたしておりまして、これはもちろん、現在の法科大学院の教育を踏まえた試験にしようということで試みているところでございます。

 こういうわけでございまして、法科大学院では、理論と実務の双方にバランスのとれた教育が行われるよう配慮されているということを先ほど申し上げましたが、このことによって、実務において真に活躍することのできる法曹は育成されていく、今はそう考えております。

稲田委員 本日の朝日新聞の朝刊に、法科大学院の、新司法試験、ことし司法試験を受ける人が半数合格の見通しという報道が出たんですけれども、この報道が事実かどうかという点。それから、半数が合格するとすれば、旧司法試験を受けている人との間に公平性が図れないのではないかという点。また、もう一点は、この報道の中で、例えば東京大学では、十人が進級、修了できなかったという結果が出ているんですけれども、法科大学院によって修了のハードルが高かったり低かったりするというのは、それもまた公平に合致しないのではないか。その点についてもお伺いいたしたいと思います。

倉吉政府参考人 けさ方の新聞報道でございますが、その中身が正しいかどうかというのは、現在、法科大学院、今度の司法試験を出願された方の中でどれだけの方が修了されたのかということを事務当局において照会中でございまして、数字についてはまだ確認できておりません。

 ちょっと前提から申し上げますが、新旧司法試験が五年間にわたり並行実施されることになります。そこで、司法試験を受験しようとする者がみずからの進路選択をする上での手がかりとすることができるように、昨年二月に司法試験委員会が、各試験における合格者数について一応の目安、概数をお示しいたしました。それによると、本年度については、新試験について、九百名から千百名程度を一応の目安とする、そうすることが適当であるとされているところであります。

 もっとも、司法試験は、受験者が法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有しているか、これに基づいて客観的に判定されるものでありますから、現にこれから実施されることになる試験結果に基づかずに合格者数を推測するということは困難であります。

 なお、昨年十二月に締め切られた新司法試験の出願者数については二千百三十七名となっておりまして、これはけさ方の新聞報道より数が少ないわけでありますが、恐らく、現行司法試験に既に合格してしまった者とか、最初の受験は、大学院は修了したけれども手控えようというような人がいるのかなと推測しているところでございます。

 それで、現行司法試験の受験生が非常に狭き門となるのではないかという御指摘でございますが、旧司法試験につきましては、これまでの司法試験の受験者に不当な不利益を与えないように、五年間、特別に並行して実施するというものでございますので、新制度導入に伴う移行措置として実施されている。そういうことを考慮いたしますと、受験者に不当な不利益を与えるものではないという意見の整理が、一応、司法制度改革推進本部の法曹養成検討会において行われているところでございます。

 いずれにしましても、司法制度改革審議会意見書に示されたような理念に従って、質の高い法曹が養成されるということを期待するとともに、司法試験の実施においても、プロセスによる法曹養成制度の健全な発展に向けて適正な実施を心がけてまいりたいと考えております。

 それから、最後に、大学によって基準が違うのではないかという御指摘がございましたが、これは、各大学において、確かに審議会の意見書では、厳格な成績評価と修了認定が行われなければならないとされておりまして、それがどのように行われたのかということを、今後の司法試験の結果も見ながら検証していかなければなりません。何よりも、大学の第三者評価機関の評価というものがこれからされることになりますので、それを見てみなければ当局としては何ともお答えしようがないというところでございます。

稲田委員 最後に、法務大臣にお伺いいたします。

 法務大臣がお考えになるリーガルマインドとは何か、真に今の司法界に必要な法曹とはどのような人材というふうにお考えでしょうか。御意見を伺いたいと思います。

杉浦国務大臣 リーガルマインドという適切な日本語訳はないようでございますが、英米法の分野で法曹教育の主眼とされている大きなテーマだと承知しておりますけれども、もちろん、これは知識じゃございませんね、我々人間が行動する際の規範に当たるものだと思います。

 この点について、私、思い出しますのは、司法試験に合格して、弁護修習の際に、私は第一東京弁護士会ですが、修習委員長は梶谷丈夫先生という、この間まで日弁会長をやっておられた梶谷剛先生のお父さんですね。最高裁判事をやった梶谷判事のお父さんに当たる、立派な先生ですが、その方が修習委員長で、講話の中で梶谷先生は、リーガルマインドを磨きなさいということの話の中で、土俵に例えまして、一般の人たちは大きな土俵の中で、法を守るといいますか遵法精神で行動しているとした場合、あなた方はその中に小さい土俵をかきなさい、小さい土俵をかいて、その土俵から逸脱しないように心がけなさいというわかりやすい表現をされまして、そのことが念頭に残って、まだいまだに思っておるんですね。

 デュープロセスといっても、法を運用するのは裁判官であり、検事であり、弁護士であり、一般社会人もそれぞれ、最近はコーポレートガバナンスなんという言葉がありますが、ルールを守って生活していく。法の紛争については、リーガルマインドを基本に持ちながら、適正に当たっていくということだと思います。これは本質的な人間の本性とかかわるものだと思います。知識とか技能とか、後天的なものじゃございません。身だしなみをよくするとか、そういう習慣にもかかわってまいると思うんですが、法曹には特に求められるものだと思います。

 新しい時代を担う法曹も、それは知識は持たなきゃいけない。外国語だとか、新しい専門的知識も必要になるでしょう。さまざまな知識、文化的な素養を勉強してもらわなきゃいけないわけですが、やはり根本の法曹としての精神において、法というのは、法の本質は私は良識、常識の塊だと思うんですが、そこから逸脱しない、それに沿った対応をする人間が求められているんだと私は思っております。

稲田委員 ありがとうございます。

 私も、法曹にとって最も必要な素質は、やはり幅広い教養、すなわち偏りのない世界観や歴史観に基づいて、広い視野に立ってのバランス感覚ではないかというふうに思います。特に裁判官には、単なる官僚的な技術屋ではなくて、広い視野を持ち、バランス感覚にすぐれた、しかも、実質的な違法行為については勇気を持って違法であると断ずることができる骨太の人材になっていただきたいというふうに思っております。そのためにも、リーガルマインドを持ったすぐれた人材を養成する法曹養成制度であってほしいと思います。

 本日はどうもありがとうございました。

石原委員長 次回は、明五日水曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十二分散会


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