衆議院

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第20号 平成18年4月25日(火曜日)

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平成十八年四月二十五日(火曜日)

    午前十時二十二分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      近藤 基彦君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    下村 博文君

      平沢 勝栄君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      伊藤  渉君    滝   実君

      今村 雅弘君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         杉浦 正健君

   法務副大臣        河野 太郎君

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    大林  宏君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 辻   優君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十五日

 辞任         補欠選任

  柳澤 伯夫君     近藤 基彦君

同日

 辞任         補欠選任

  近藤 基彦君     柳澤 伯夫君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百六十三回国会閣法第二二号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 ただいま、民主党・無所属クラブ及び社会民主党・市民連合所属委員の御出席が得られません。

 理事をして御出席を要請いたさせますので、しばらくお待ちください。

 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

    〔委員長退席、倉田委員長代理着席〕

    〔倉田委員長代理退席、委員長着席〕

石原委員長 速記を起こしてください。

 理事をして御出席を要請いたさせましたが、民主党・無所属クラブ及び社会民主党・市民連合所属委員の御出席が得られません。やむを得ず議事を進めます。

 第百六十三回国会、内閣提出、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案及びこれに対する早川忠孝君外二名提出の修正案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長大林宏君、外務省大臣官房参事官辻優君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより原案及び修正案を一括して質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 早速質問に入らせていただきます。

 修正案提出者にお伺いします。今回、なぜこのような提案をされたのでしょうか、理由をお聞かせください。

早川委員 政府案に対しましては、これまでの審議において、特に組織的な犯罪の共謀罪について、一般の労働組合や民間団体の活動も対象となってしまうのではないか、犯罪の共謀をしただけで処罰することは人の内心を処罰することと紙一重ではないか等の御懸念が示されてきたところであります。

 そこで、これらの御懸念の点をも踏まえ、法案の共謀罪が成立する範囲をさらに明確かつ限定的なものとするため、今回の修正案を提出することといたしました。

 修正の第一は、一般の労働組合等の正当な目的を有する団体の活動についてはおよそ対象にならず、犯罪組織と言えるような団体の活動として行われるものである場合に限って対象となることを条文上明らかにするため、政府案の「団体の活動として、」という要件に言う「団体」を、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に限定するものであります。

 第二は、組織的な犯罪の共謀罪については、共謀をしただけの段階にとどまる限りその処罰を差し控え、さらに進んで実行に向けた段階に至ったことのあらわれである外部的な行為が行われた場合に初めて処罰の対象とすることにより、その処罰範囲を明確かつ限定的なものにするため、政府案に、処罰条件として、共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合という要件を付加するものであります。

 また、これらの点以外にも、組織的な犯罪の共謀罪や証人等買収罪の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵したり、弁護人としての正当な活動を制限するようなことがあってはならないことなど、運用上留意すべき事項を定めることとしております。

 以上であります。

柴山委員 今回、一たん法案を撤回して出し直すのが筋ではないかというように野党は主張しているわけですけれども、この法案をここまで早急に成立をさせなければいけない必要性について教えてください。法務大臣、お願いします。

杉浦国務大臣 この法案が成立するまでは、我が国は、国際組織犯罪防止条約、既に国会で御承認済みでありますが、それに附属する人身取引に関する議定書、それからサイバー犯罪条約、これも国会で御承認いただいておりますが、それを最終的に締結することができません。国際組織犯罪防止条約につきましては、既に百十九カ国もの国々が締結しております。我が国としても、これらの条約を早期に締結して、これらの国々と手を携えて、協力して組織犯罪に立ち向かっていくことが必要であるというふうに考えております。

 また、この法案は、我が国におきまして、暴力団による組織的な殺傷事犯、あるいはいわゆる振り込み詐欺、何人かが共謀して振り込み詐欺を、仕事を分担してやっておるのが多いわけですが、そういうもの等、組織的な犯罪による重大な被害が発生することを未然に防止し、国民の安心と安全を確保することにも資するものでございますし、また、最近はウィニーを通じた情報流出などが問題となっておりますが、コンピューターウイルスの作成等に適切に対処するために必要な法整備を図ろうとするものでございますが、その成立がおくれれば、このような治安に関する取り組みもおくれることになってしまいます。

 したがって、法務省としましては、この法案につきまして、この委員会において御審議いただいた上で、また、関係者の御努力で内容のすばらしい修正案を御提案いただきましたが、それを含めて、できる限り早急に成立させていただきたいと願っております。

柴山委員 今、諸外国での条約締結状況についてお伺いしたんですけれども、特に日本以外の先進七カ国、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、カナダ、ドイツ、イタリアでの締結状況について、外務省の方からお聞きしたいと思います。

辻政府参考人 お答え申し上げます。

 締結国につきましては、先ほど法務大臣がお答えした百十九カ国でございます。

 G8のうちにおきましては、カナダ、フランス、ロシア、米国及び英国は、既に締結を了しております。また、その他のイタリア及びドイツについても、国内の手続を了し、あとは締結手続を残すのみと理解しております。

 以上でございます。

柴山委員 そのような、まさにこの法律を我々としてもしっかりと成立させるに熟しているという状況にあることを前提とした上で、以下、内容の質問に入らせていただきたいと思います。

 まず、修正案六条の二第一項で、団体の説明のところで、「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体」という文言が加わりましたが、これはどのような意味でしょうか。

早川委員 「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるものをいう。」とされています。これは、組織的犯罪処罰法の第二条第一項であります。

 そして、この「共同の目的」とは、結合体の構成員が共通して有し、その達成または保持のために構成員が結合している目的、すなわち、構成員の継続的な結合関係の基礎になっている目的をいうと解されております。

 また、「これらの罪」とは、「死刑又は無期若しくは長期四年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪」を指しております。また、「別表第一に掲げる罪」とは、この法案によります改正後の組織的犯罪処罰法別表第一に掲げる罪を指します。

 したがいまして、「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体」とは、構成員の継続的な結合関係の基礎になっている目的が、先ほど述べました罪のいずれかを実行することにある団体という意味であります。

柴山委員 ということは、先ほど、冒頭御指摘もいただいたんですけれども、その構成員を結びつけている目的が、例えば消費者利益の増進ですとか労働者の保護にあったりするなどの正当な団体に関しては、その性格が変わらない限り、こうした犯罪の謀議をしてもこの法律では処罰できないという理解でよろしいでしょうか。

早川委員 委員御指摘のとおりであります。

 修正案は、共謀罪における「団体の活動として、」という要件に言う「団体」について、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体である場合に限って共謀罪が成立することとするものであります。この共同の目的とは、構成員の継続的な結合関係の基礎となっている目的、すなわち、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続的な結合関係を基礎づけているその根本となる目的でなければならないと考えられます。

 したがって、御指摘のような目的で活動している団体の場合であれば、仮に、ある特定の時期に、ある特定の犯罪に当たる活動をしたとしても、そのことだけで直ちに、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあると認められるわけではなく、構成員の継続的な結合関係が全く一変して、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続的な結合関係を基礎づけているその根本となる目的が重大な犯罪行為を実行することにあると認められない限り、なかなかその解釈が厄介でありますけれども、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体には当たらないことになります。

柴山委員 簡潔にお願いしたいと思いますが、ということであれば、去年の十月十四日に私が質問をさせていただいたんですけれども、例えばOLが万引きを目的としたような形で集まった場合には、原則としてそのような実体を備えないということが明確に定められた、そういう理解でよろしいんでしょうか。

早川委員 全く御指摘のとおりであります。

 なお、政府原案におきましても、そもそも団体の定義に当たらない場合、団体の活動としての要件に当たらない場合、犯罪行為を実行するための組織に当たらない場合などが考えられるところであります。

 今回の修正案で団体を限定したことによって、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、先ほど御説明申し上げました構成員の継続的な結合関係を基礎づけているその根本となる目的が重大な犯罪を実行することにあると認められる団体でない限り、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体には当たらないことになります。

 今回の修正案によりまして共謀罪が成立するのは、お尋ねの事例に即して言えば、組織的な窃盗団のような犯罪組織の活動として行われる場合に限られることになるのでありまして、御指摘のような事例については、原則として共謀罪の対象とならないことがより明確になるものと考えております。

柴山委員 この点、一部には、指定暴力団のような犯罪組織に限定して適用するべきではないかという意見もあるんですけれども、なぜそのような修正にしなかったんですか。

大林政府参考人 団体指定という御意見に対するものとしては、御指摘のいわゆる暴力団対策法は、暴力団という一定の種類の団体の危険性に着目して、その活動を直接規制することを目的としたものであることから、同法においては、規制の対象となる暴力団について、あらかじめ特定して指定することとされているものと考えられます。

 これに対し、この法案が定める共謀罪は、国際組織犯罪防止条約の定めに従って、組織的な犯罪の共謀をした者に対する適切な処罰を目的とするものであることから、団体の性質や危険性という観点からではなく、犯罪組織の性質や態様に着目して、共謀に係る犯罪行為が、団体の活動として、犯罪行為を実行するための組織により行われるもの等の要件を定めたものでございます。

 また、法案の共謀罪の対象となる団体は、暴力団だけでなく、外国人犯罪組織ややみ金融会社、組織的詐欺商法を行う団体など多種多様のものが想定されますので、このような団体のすべてを暴力団対策法のように行政的な手続で把握し指定をすることは現実問題として困難であり、実効性を欠くものと考えられるところでございます。

柴山委員 今のような趣旨から今回の修正の対象には加えなかったということでよろしいですか、法案提出者。

早川委員 委員御指摘のとおりであります。

柴山委員 次に、共同の目的の対象として「別表第一に掲げる罪」というものが加わっているんですけれども、このリストを拝見するとかなり広範にわたっているように思われるんですが、これを含めた理由についてお伺いしたいと思います。

早川委員 お尋ねの別表第一でありますけれども、これは、国際組織犯罪防止条約に従って定められる犯罪、すなわち、国際組織犯罪防止条約の締結に伴って、いわゆる犯罪化を必要とする犯罪の一覧であります。

 この条約は、共謀罪の対象となる犯罪について、組織的な犯罪集団が関与するものという要件をつけることを認めております。この組織的な犯罪集団とは、「一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するものをいう。」とされております。

 したがって、仮に、この条約に従って定められる犯罪、すなわち、別表第一に掲げる罪を実行することを共同の目的とする団体について共謀罪が成立し得ないことといたしますと、条約が求めるところよりも処罰範囲が狭くなってしまいます。条約の義務の履行上、問題があることになります。

 また、別表第一に掲げる罪は、いわゆるマネーロンダリングや司法妨害の罪など、犯罪組織によって典型的に犯される犯罪としてこの条約において各国が処罰の対象とすることを義務づけられたものであります。これらの犯罪を実行することを共同の目的とする団体の活動として行う犯罪行為の共謀がなされた場合には、重大な犯罪を実行することを共同の目的とする団体の場合と同様に、共謀に従って犯罪が実行されて重大な法益侵害が生じる危険性が大きいと考えられます。

 そこで、修正案におきましては、その共同の目的が別表第一に掲げる罪を実行することにある団体の活動も、共謀罪の対象となり得ることとしたものであります。

柴山委員 ありがとうございます。

 続きまして、修正案に「その共謀に係る犯罪の実行に資する行為」ということが新たに要件として加わったんですけれども、この「実行に資する行為」というのはどういう意味なんでしょうか。

早川委員 今回の修正案における実行に資する行為の要件でありますけれども、これは、共謀が行われただけでは足りず、これに加え、共謀に係る犯罪の実行に向けた段階に至ったことのあらわれである外部的な行為が行われるまでは処罰を差し控えることとする趣旨から設けるものであります。

 したがって、実行に資する行為と言えるためには、次の三点が必要になります。すなわち、第一に、共謀が成立した後であること、第二として、共謀の段階を超えた、すなわち共謀する行為とは別の行為であること、三番目に、共謀に係る犯罪の実行に役立つ行為、共謀の推進といったことの表現も妥当するかと思いますけれども、こういった要件が必要であると考えております。

柴山委員 具体的に、今おっしゃった実行に役立つ行為というのはどのような行為を想定されているんでしょうか。ちょっと事例を挙げていただけますか。

早川委員 具体的に事例を申し上げますと、例えば、ある場所で凶器を用いて殺人を実行する旨の共謀がなされた場合において、犯行現場の下見をする行為、凶器を購入する行為等、個別具体的な事実関係にもよりますけれども、いずれも通常は実行に資する行為に該当し得ると考えられます。

 また、共謀がなされた後に、犯行現場の下見をするために共犯者との集合場所に赴く行為や凶器を購入するために銀行口座から金を引き出す行為、犯行現場に赴くためのレンタカーを予約する行為なども、個別具体的な事実関係にもよりますけれども、同様に、実行に資する行為に該当し得ると考えられます。

柴山委員 今の具体的な事例なんですけれども、例えば、犯行現場に赴くためにレンタカーを借りる行為も犯罪の実行に役立つという話になりますと、実は、レンタカーを借りた行為が、家族と行楽に行くために借りたという場合だってあり得るわけでして、そうした行為も、いや、これも実行に資する行為だということになりますと、甚だ運用が難しいということになろうかと思います。

 どうやって実行に資する行為かどうかということを証明していくのでしょうか。また、立証できなかった場合はどうなるんでしょうか。

大林政府参考人 実行に資する行為の存在を立証する方法としては、被疑者の供述のほか、関係者の供述や物的な証拠など、必要な証拠を収集して立証することとなると考えております。

 お尋ねのような主張がなされている場合であっても、その他の関係者の供述や物的な証拠などによって、レンタカーを借りる行為が、真実は犯行現場へ行くためのものであって、実行に資する行為、すなわち共謀に係る犯罪の実行に役立つ行為であると立証できる場合もあろうかと思いますが、仮に、家族と行楽に行くためとの主張を覆す証拠が他にない場合には、そのような行為は実行に資する行為とは認められないこととなると考えられます。

 そこで、仮に、捜査の過程でこの点に関する立証ができないと判断した場合、検察官は起訴をしないことになるものと考えられます。

柴山委員 起訴をしないことになると考えられますというお話があったんですけれども、そもそも、犯罪として処罰されるのは共謀なのか、実行に資する行為なのか。この実行に資する行為の法的な位置づけは一体どういうものなのですか。

    〔委員長退席、倉田委員長代理着席〕

早川委員 実行に資する行為の要件は、共謀が行われただけでは足りず、これに加え、共謀に係る犯罪の実行に向けた段階に至ったことのあらわれである外部的な行為が行われた場合に限って初めて処罰の対象とする、そのことによって共謀の処罰範囲を明確かつ限定的なものにするという見地から、共謀罪として処罰するためのいわゆる処罰条件として設けるものであります。

 したがって、法案の共謀罪において犯罪として処罰されるのは、実行に資する行為ではなく、共謀自体であります。

柴山委員 ということは、処罰はできないにせよ、共謀の嫌疑さえあれば、実行に資する行為があるかどうかにかかわらず、逮捕を含め強制捜査をすることができるという理解でよろしいでしょうか。

大林政府参考人 共謀が行われたという嫌疑があるのであれば、犯罪が行われた嫌疑があるということになりますので捜査を行うことは可能ですが、実行に資する行為が行われていない段階で逮捕や捜索等を行った場合、その後に実行に資する行為が行われることは想定されず、起訴することもできないことになりますので、現実問題としては、そのような捜査が行われることはないと考えております。

柴山委員 もちろん、逮捕等の強制捜査が行われた後に実行に資する行為が行われるということは多分ないでしょうけれども、そういう実行に資する行為があったかどうかわからない段階で、共謀が行われたという嫌疑のみで逮捕して、それで調べていって実行に資する行為があったかどうかを捜査の中で判定することはあり得るのかなということは指摘をさせていただきたいと思います。

 次に、その一方で、実行に資する行為は犯罪行為ではないわけですから、この資する行為の現場で令状なしに現行犯逮捕することはできないという理解でよろしいですか。

大林政府参考人 委員御指摘のとおり、修正案の実行に資する行為の要件は、いわゆる処罰条件としてつけ加えられたものであり、修正案による修正後の共謀罪においても、犯罪として処罰されるのは共謀自体であると理解しております。

 したがって、実行に資する行為を現認したからといって、犯罪を現認したということにはなりませんので、それだけでは現行犯逮捕ができる場合には当たらない、このように考えております。

柴山委員 ありがとうございます。実務上極めて重要な点だと思います。

 それと、これは前に聞いたことなんですけれども、共謀をした後に実行をやめた場合、中止犯ということで刑の必要的減免がなされるんでしょうか。念のために確認をさせていただきます。

大林政府参考人 中止犯の成立の問題でございますね。

 いわゆる中止犯について、刑法第四十三条は、犯罪の実行に着手したが、既遂に至る前に、自己の意思によりその犯罪を中止した場合には、刑を減軽し、または免除する旨を規定しております。

 一方、法案の共謀罪は、重大な犯罪を実行することについての合意がなされた時点で既遂に達することから、共謀後に翻意しても、既に既遂に至っている以上、予備罪や準備罪について中止未遂の規定が適用されないのと同様に、中止犯とはならないと考えております。

柴山委員 理論上は当然そうなると思いますが、ただ、今回の修正案によって、実行に資する行為というのが処罰条件、要件として加わった場合には、共謀したけれども実行に資する行為が行われる前に実行をやめた場合は処罰されないと当然考えてよろしいわけですね。

早川委員 委員御指摘のとおりであります。

 今回の修正によりまして、共謀が行われた場合であっても、実行に資する行為が行われない限り処罰されないこととなりますから、共謀が行われた後、実行に資する行為が行われる前に共謀に係る犯罪を実行することをやめた場合には、いわゆる処罰条件を満たさないことになりますので、処罰されないことになります。

    〔倉田委員長代理退席、委員長着席〕

柴山委員 逆に、実行に資する行為が行われてしまった後、謀議が撤回されたような場合はどうなりますか。

大林政府参考人 組織的な犯罪の共謀が行われた後に、修正案の実行に資する行為も行われた場合には、処罰条件も満たされることとなりますので、そのような共謀については、その後処罰することが可能な状態になると考えられます。また、仮に共謀後に翻意しても、既に既遂に至っている以上、中止犯とはならないと考えられます。

 もっとも、実行前に翻意したという事実については、刑事手続においても当然に有利な情状として考慮されることになりますし、仮に共謀した者が実行に着手する前に自首した場合には、刑が減軽または免除されることになります。

柴山委員 どうもありがとうございました。

 続きまして、修正案には留意事項として幾つか規定を設けられていたと思います。

 具体的には、組織的な犯罪の共謀罪や証人等買収罪の規定の適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵したり、弁護人としての正当な活動を制限するようなことがあってはならないということなどを条文に明示された。この趣旨はどういったことからなんでしょうか。

早川委員 今回の修正案の提案に当たって最も提案者が腐心したところでありまして、単なる訓示規定ではない、あるいは附帯決議のようなものではない、法律事項としてこの留意事項を定めるということの重要性を訴えたいと思っております。

 政府案が定める組織的な犯罪の共謀罪に対しては、これまでの審議において、内心の自由を制約することになるのではないかという御懸念や、労働組合等の団体の正当な活動を妨げることになるのではないかといった御懸念が示されてまいりました。

 もとより、憲法の保障する基本的人権を侵害するようなことがあってはならないのは当然であります。共謀罪の規定の適用に当たり、いやしくもこういった御懸念のようなことが生じることのないよう、思想及び良心の自由を侵したり、あるいは団体の正当な活動を制限することがあってはならないという運用上特に留意すべき事項を条文に明記することとしたものであります。

 また、政府案が定める証人等買収罪に対しましては、これまでの審議において、弁護人が証人と打ち合わせる等の弁護活動を制限したり、これを萎縮させることになるのではないかとの御懸念が示されてきたところであります。

 そこで、証人等買収罪の規定の適用に当たり、いやしくも御懸念のようなことが生じることのないよう、弁護人としての正当な活動を制限するようなことがあってはならないという運用上特に留意すべき事項を条文に明記することとしたものであります。

 以上のとおり、今回の修正案は、捜査機関や裁判所など、これらの規定を実際に適用する者が、万が一にも、思想及び良心の自由を侵したり、団体の正当な活動を制限したり、あるいは弁護人としての正当な活動を制限するようなことがないようにするとともに、一般の御懸念を払拭するため、法的な責務として、この点を法文上も明らかにしたものであります。

柴山委員 大変よくわかりました。

 私の質疑時間は以上で終了したということですので、これで終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

石原委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉でございます。

 このような重要な法案の審議に当たって、一部委員の方の御出席がいただけないことはまことに残念でございますけれども、多くの国民の方が不安を抱いている法案でもございます。答弁者の皆様には、ぜひともわかりやすい御答弁をいただきたいと思います。

 まず、修正案について、何点かお伺いをしてまいります。

 今までの質疑でもありましたとおり、団体の限定ということにつきまして、この修正案のうち、法案の共謀罪の成立要件である「団体の活動として、」に言う「団体」、これを限定することとした趣旨をまず御答弁いただきたいと思います。

漆原委員 今までの法案審議におきまして、共謀罪に関する政府案に対しては、一般の労働組合とかあるいは民間団体の活動も共謀罪の対象となるのではないかという強い懸念が示されました。また、このような意見の背景として、我が国においては、犯罪の実行の着手に至る前の行為を処分することは例外だったんですね。そういう意味では、共謀罪を設けるについてはやはり謙抑的であるべきだというふうな考え方があろうかと思います。

 この点、政府案でも、普通に活動している一般の団体の活動が共謀罪の対象になるということは想定しがたいんですけれども、しかし、政府案の条文をそのまま読んで一般の国民の皆様にそこまで御理解をいただけるかどうかというのは、やや難解であろうかというふうに思っております。

 そこで、法案の共謀罪が成立する範囲をさらに限定して、このような一般の団体の活動についてはおよそ共謀罪の対象にならないということを法文上も明確にする意味から、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体、すなわち、犯罪組織と言えるような団体の活動として行われる場合に限って共謀罪が成立するという、条文上これを明示したものであります。

伊藤(渉)委員 引き続き、修正案についてお聞きします。

 その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に当たるかどうかは、どのように認定、判断をされるのか。一般の労働組合や市民団体であっても、犯罪に当たる活動をすればこれに当たるのではないかという意見もございますけれども、この点について御所見をお伺いいたします。

漆原委員 組織的犯罪処罰法において、「「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われるもの」というふうに定義されております。そして、この共同の目的とは、結合体の構成員が共通して有し、その達成または保持のために構成員が結合している目的、すなわち、構成員の継続的な結合関係の基礎になっている目的というふうに理解されております。

 したがって、団体の共同の目的が何であるかということについては、継続的な結合体全体の活動実態などから見て、客観的に何が構成員の継続的な結合関係の基礎になっているか、これを社会通念に従って判断されるべきだと考えております。

 そこで、このような考え方を具体的な場合に当てはめますと、まず、例えば暴力団あるいは詐欺会社など、その構成員が重大な犯罪等を実現する意思を有し、そのために継続的に結合して集団をつくり上げているようなものは、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に当たり得ると思います。

 他方、一般の労働組合やあるいは民間団体のように、構成員の継続的な結合関係の基礎が正当な活動を行うことにある団体については、仮に、ある特定の時期に、ある特定の犯罪に当たる活動をした場合であっても、そのことだけで直ちに重大な犯罪等を実行することがその団体の構成員の継続的な結合関係の基礎になっていると認めるわけにはいかないと思います。通常は、そのような団体がその共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に該当するとは思われません。

 以上です。

伊藤(渉)委員 明確な御答弁、ありがとうございます。

 引き続き、重大な犯罪等を行うことを団体として意思決定した場合、その団体は重大な犯罪等を実行することを共同の目的とするものということになってしまうのではないかという意見もございます。この点について御所見をお伺いします。

漆原委員 修正案は、共謀罪における「団体の活動」に言う「団体」について、先ほど申しましたように、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体というふうに、その場合に限って共謀罪が成立することにしたわけでありますけれども、この共同の目的とは、構成員の継続的な結合関係の基礎になっている目的、すなわち、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続的な結合関係を基礎づけているその根本となる目的でなければならないと考えております。

 したがって、仮に、ある重大な犯罪を行うことを共謀し、団体として意思決定をした場合でありましても、そのことだけで直ちに、共同の目的が一変して、その団体が共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に当たるというわけではないというふうに思っております。あくまでも、そのような犯罪行為を行うことがその団体の構成員が継続的に結びつく基礎になっていると認められる場合でなければ、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体には当たらないというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 引き続き、修正案について、これも当委員会でずっと質問されてきた内容でございますが、正当な目的で活動をしていた団体が、その後、重大な犯罪等を実行する目的で活動するようになった場合には、そのような団体はその共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体に該当するのかどうか、これも御答弁いただきたいと思います。

漆原委員 この点は、私も委員会で質問をさせていただいたことがありますが、こう思っております。

 団体の共同の目的が何であるかの判断に当たっては、団体の過去の性質や共同の目的の変質の有無が問題となるのではなくて、今現在、個別具体的な事実関係のもとで、その時点における共同の目的が重大な犯罪行為を実行することにあると認められるか否かということにあると考えております。

 そして、共同の目的とは、先ほども申し上げましたように、まさにそのために構成員が継続して結合しているという、構成員の継続的な結合関係を基礎づけている根本の目的であるわけでありますから、ある特定の時期に、ある特定の犯罪に当たる活動をしただけでは、直ちにその団体の共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあると認められるわけではないというふうに思っております。

 また、重大な犯罪等を実行することが構成員の継続的な結合関係の基礎になっているとまで認められない場合には、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにある団体には当たらないというふうに思います。

伊藤(渉)委員 次は、政府にお聞きします。

 その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあるという要件について、捜査機関としてはどのように捜査、認定することになるのか、御答弁をお願いします。

大林政府参考人 法案の共謀罪に関する捜査についても、他の犯罪に関する捜査とは特段異なるところはないものと考えております。

 したがって、捜査機関においては、修正案により新しく共謀罪につけ加えられている、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあるという要件も含め、犯罪の構成要件に該当する行為が行われたという客観的な嫌疑があった場合に、刑事訴訟法等の法令に従って捜査が行われることとなると考えられます。

 そして、その共同の目的が重大な犯罪等を実行することにあるという要件を満たすためには、継続的な結合体全体の活動実態などから見て、その共同の目的、すなわち、その団体の構成員の継続的な結合関係の基礎になっている目的が重大な犯罪等を実行することにあるということが収集された証拠から客観的に認定されることが必要であると考えております。

伊藤(渉)委員 では、引き続き修正案、次は実行に資する行為の付加について、何点かお伺いをいたします。

 修正案のうち、その共謀に係る犯罪の実行に資する行為の要件を付加することとした趣旨をまずお伺いいたします。

漆原委員 この点については、私も政府案について質問したところでありますけれども、今までの審議におきましては、政府案に対しましては、犯罪の共謀をしただけで処罰するということは、人の内心にかかわることであって、内心を処罰することであるというふうな批判がありました。

 また、もう一方、我が国においては、犯罪の実行の着手に至って初めて処罰するという、刑法のある意味では大原則があるわけでありますけれども、それ以前の行為を処罰することは例外的なものですけれども、そういう御懸念の背景には、このような原則、例外の関係を覆すことになりはしないかという指摘があります。そのために、仮に共謀罪を設けるにしても、やはり刑法の原則に従って謙抑的な方法であるべきだ、何らかの外形的な行動が必要とするべきだというふうに私どもも考えてまいりました。

 この点、政府案でも、共謀とは、二人以上の者が特定の犯罪を実行することについて具体的かつ現実的な合意をする行為をいうというふうに解釈がされて、真剣でない話し合いや漠然とした飲み屋での相談とかいうことでは法案の共謀罪は成立しないわけでございますけれども、外からの存在や真剣さを確認することは困難な合意というものだけで処罰範囲が画されることは、一般の国民の皆様にとってみれば、萎縮的な効果をもたらすおそれがあるというふうに考えております。

 そこで、今回の修正案は、このような意見を踏まえて、共謀しただけの段階にとどまる限りその処罰を差し控え、さらに進んで実行に向けた段階に至ったことのあらわれであります外部的な行為が行われた場合に限って初めて処罰の対象とすることによりまして、共謀罪の処罰範囲を明確かつ限定的にするために、共謀に加えまして、実行に資する行為、すなわち共謀に係る犯罪の実行に役立つ外部的な行為が行われた場合に初めてそのような共謀を処罰するというふうな要件を加えたわけでございます。

伊藤(渉)委員 それでは、実行に資する行為、この要件の法的性質は何か、これもあわせて御答弁をお願いします。

漆原委員 少し理屈っぽくなりますけれども、今回の修正案におきまして、実行に資する行為の要件は、提案理由において述べられておりますように、共謀が行われただけでは足りず、これに加え、共謀に係る犯罪の実行に向けた段階に至ったことのあらわれである外部的な行為が行われた場合に限って初めて処罰の対象とすることによりまして、共謀の処罰範囲を明確かつ限定的にするという見地から、共謀罪として処罰するために必要ないわゆる処罰条件、犯罪成立要件ではなくて処罰条件というふうに考えております。

伊藤(渉)委員 では、この共謀罪について、他の共謀者が実行に資する行為がなされたことを認識することは必要かどうか、これについて御答弁いただきます。

漆原委員 我が国の刑法では、故意犯の場合には、行為者が犯罪の構成要件に該当する事実を認識し、容認するということが必要とされております。これが原則であります。

 しかし、例えば、同じ処罰条件とされております事前収賄罪における「公務員となった場合」、あるいは詐欺破産罪における「破産手続開始の決定が確定したとき」のように、処罰範囲の明確化や限定の見地から要求される処罰条件については、そのような事実が客観的に存在すれば足りるというふうにされておりまして、それについての認識は要らないというふうに考えております。

 この点、法案の共謀罪において犯罪として処罰されるのは重大かつ組織的な犯罪の遂行を共謀する行為でありまして、実行に資する行為の要件は、提案理由でも述べておりますように、共謀罪の処罰範囲を明確かつ限定的なものにするという見地から、いわゆる処罰条件として設けたものであります。

 したがって、この実行に資する行為の要件も、他の処罰条件と同様に、それが客観的に存在すれば十分だ、足りるというふうに考えておりまして、実行に資する行為を行った共謀者以外の共謀者においてそのような行為が行われたことの認識をする必要はない、要らないと考えております。

伊藤(渉)委員 引き続き、今の場合、少し具体的にお聞きします。

 例えば、AさんとBさんとお二人いらっしゃって、共謀をして実行に資する行為が行われた後、新たにCさんという方が共謀に加わった場合、さらに、加わった後、実行に資する行為を行わなければ、Cさんは共謀罪で処罰されないのかどうか、これを御答弁いただきたいと思います。

漆原委員 お尋ねの事例をもとにして申し上げますと、AとBとの間で共謀が成立した後に実行に資する行為が行われた場合には、その共謀は実行に向けた段階に至っているのでありまして、このような共謀については、実際にも処罰をすべき必要がある段階になっていると考えられます。そして、このような段階に至った後に新たな共謀者Cが共謀に加わることとなったわけでございますから、仮にその後に再び実行に資する行為がなくとも、新たな共謀に加わったCも処罰する必要があり、また、実際にもそれが可能であるというふうに考えます。

 もっとも、新たな共謀者であるCが加わることによりまして、共謀に係る犯罪の内容が変わるなどとして、当初の共謀とは別の新たな共謀が成立したと認められるような場合には、Cも加わった新たな共謀がなされた後に改めて実行に資する行為が行われなければ処罰ができないというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 次は、法務省にお伺いをいたします。

 実行に資する行為の内容として、予備罪における予備行為と同じものとすべきではないかとの意見がございますけれども、予備罪における予備行為の意義について御答弁いただきたいと思います。

大林政府参考人 予備罪における予備行為につきましては、学説上、犯罪の実行を目的とする準備行為、あるいは犯罪の実行行為以前の準備行為などと定義されております。

 そして、具体的にどのような準備行為であれば予備罪に言う予備行為と言えるかにつきましては、さまざまな考え方がありますけれども、例えば昭和四十二年の東京高等裁判所の判決によれば、「実行行為着手前の行為が予備罪として処罰されるためには、当該基本的構成要件に属する犯罪類型の種類、規模等に照らし、当該構成要件実現のための客観的な危険性という観点からみて、実質的に重要な意義を持ち、客観的に相当の危険性の認められる程度の準備が整えられた場合たることを要する、」という考え方が示されております。

 また、これまでの裁判例において予備罪の予備行為と認定された具体的事例といたしましては、強盗をしようと企て、出刃包丁を携えて他人方に赴くなどした行為につき強盗予備罪の成立を認めた裁判例や、数日後に予定された警察官の殺害行為を含む首相官邸襲撃占拠を目的として、襲撃方法及び各人の役割等を指示、説明、承認し、これにのっとった軍事訓練、ひいては襲撃の予行演習ともいうべきものを行った事案につき殺人予備罪の成立を認めた裁判例がございます。

伊藤(渉)委員 次は、では外務省にお聞きをいたします。

 今の法務省の御答弁にありました、予備行為の意義に関する裁判例を前提とした場合に、共謀に加えて予備行為が行われなければ処罰されないという要件を付することは、これは条約上許されるのかどうか、御答弁いただきます。

辻政府参考人 お答え申し上げます。

 条約につきましては、先般来御説明がいろいろとありましたように、組織的な犯罪に効果的に対処するため、いわゆる共謀罪を独立の犯罪として設けることを義務づけてございますが、同時に、国内法上、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為ということを要件とすることを認めております。いわゆるオーバートアクトと言われているものだと思います。

 他方、予備罪におきます予備行為につきましては、先ほど大林局長の方から御説明したとおりの考え方を前提にいたしますれば、仮に、予備行為をそう解してしまう場合には、予備行為が行われたことを要件とした場合、犯罪の合意とは別に、こうした厳格な予備行為が行われなければならないこととなりますので、条約が想定しております、合意することそのものを処罰の対象とするという趣旨からいたしますと、そのものには合致しないおそれがある、こういうふうに考えております。

伊藤(渉)委員 もう一つ、外務省の方にお伺いします。

 国際組織犯罪防止条約の締約国で、共謀罪について、今おっしゃったとおりの、合意の内容を推進するための行為を伴うという要件を付した国はあるか、また、組織的な犯罪集団が関与するものという要件を付した国はあるのか、御答弁いただきます。

辻政府参考人 お答え申し上げます。

 最初の、合意の内容を推進するための行為、これを要件として付した国としまして当方で把握しているのは、オーストラリア及び米国がございます。また、組織的な犯罪集団が関与するものという要件につきましては、ノルウェーがございます。

 以上でございます。

伊藤(渉)委員 ここまでの議論の中で、本当に一般の方には少し難しい内容もあるので、この短時間ですべてを御理解いただくわけにはいかないとも思いますが、私としては、これまでの委員会の質疑を聞いてきて、今一般に言われているような御不安の点は払拭できたのではないかと思いますけれども、改めて大臣に伺います。

 今、新聞報道等では、例えば飲酒の席で、気に入らないから殴ってやろうとか、いや、殺した方がいいといった、意気投合して盛り上がったら、共謀罪によって逮捕されてしまうんじゃないか、冗談も言えないような社会になるといった懸念を持っている方、また、そういう報道が散見をされますけれども、そのような懸念に及ぶ必要がないことを明確に御答弁いただきたいと思います。

杉浦国務大臣 そういう報道が散見されますので、正しく理解されていないなというふうに感じます。御指摘のような場合に、この法案の共謀罪が成立する余地は全くありません。全くありません。マスコミの方にもう少し正確に理解していただこうと思って、私も、記者会見で詳しく御説明したこともございますし、機会あるごとに申し上げておるわけですが、この審議を通じて、国民の皆さんにもっとしっかり説明させていただきたいというふうに思っております。

 修正案提案者から詳しくお話があったとおり、この共謀罪は、重大かつ組織的な犯罪を実行することについて具体的かつ現実的な合意が必要でございますし、また、修正案は、特に厳格になりましたが、厳格な団体要件が求められております。犯罪組織と言えるような団体に限って対象となることがさらに明確に相なっております。

 ですから、私どもが典型的なそういう組織を挙げるとすれば、例えばアルカイダのように、国際的テロ犯罪をやっている明確な組織があります、テロが目的の。あるいは、国内ですと組織暴力団、これは特に、犯罪行為を暴力団を挙げてやる、組織を持って、実行部隊を持ってやるという組織もございます。あるいは、おれおれ詐欺、振り込め詐欺なんかも、あれは何人かが、五人、六人が詐欺をやるために結合して、役割分担を決めて、実に巧妙にだます、それを反復、繰り返して相当被害が出ているわけですが、それなども犯罪行為を実行するための組織と言っていいと思うんですね。

 ですから、そういうような犯罪行為を実行するための組織を持っていない、一般の会社ですとか労働組合ですとか市民団体に属する人が犯罪の共謀をしたとしても、共謀罪は成立いたしません。御心配は無用だというふうに思います。法務省としても、いろいろ御説明もし、ホームページにも載せましたり、この意義を皆さんに御理解いただけるようにさまざまな努力はいたしております。

 当委員会におきましても、実は七国会目なんですね。前回の特別国会では参考人質疑もやり、二十時間近い質疑をしていただいて、終結直前で、漆原先生初め、修正案の協議まで入って、採決まで行こうというような御努力もなさった経過もございます。二度廃案になっていますが、解散前の通常国会でも七時間ぐらい質疑が行われておるわけでございますので、相当国会の中では熟してきて、今度の修正案のような、この法律の適用を非常に明確にする修正をしていただいたということで、国民の皆さんにとっては、全く心配は要らない。

 特定の犯罪行為を実行する集団が重大な犯罪を企画したような場合のみ、しかも、具体的、現実的合意をした場合に限って適用されるものだ、心配は要らないというふうに御理解をいただきたいと思います。

伊藤(渉)委員 大変に明快な答弁、ありがとうございます。

 ただ、国民の皆様に十分に理解をされていない。また、法務省におかれてもホームページ等でさまざま広報はしていただいておりますけれども、匿名のメールなどで、ホームページを見てもやはりよくわからないといった声も寄せられておりますので、引き続き、粘り強く、正確な認識を皆様に得られるように御努力をいただきたいと思います。

 もう少し時間がございますので、今回の法改正では、共謀罪に議論が集中しておりますけれども、ハイテク犯罪に対処するための法整備も行われようとされております。その中にウイルス作成罪といったものもございますけれども、それに関連して何点かお聞きします。

 最近、ウィニーを通じた情報漏えいが問題になっておりますけれども、これはどのような原因で起きているのか、これは法務省当局にお伺いします。

大林政府参考人 御指摘のウィニーとは、いわゆるファイル交換ソフトでございまして、ウィニーがインストールされたパーソナルコンピューター間では、インターネットを通じて互いのデータや情報を自由に入手することができるようになります。そして、このようなウィニーをインストールして利用していても、他人が自由に入手できるように設定していない情報やデータについては、本来、自分のパーソナルコンピューターから他人に漏えいすることはありません。

 しかしながら、ウィニーがインストールされているパーソナルコンピューターがアンティニーなどのコンピューターウイルスに感染しますと、このウイルスが作動することによって、他人が自由に入手できるように設定していない情報やデータまでもが、他人に自由に入手できる状態となってしまいます。委員御指摘のようなウィニーを通じた情報漏えいについては、このようなコンピューターウイルスが原因となっているものと考えられます。

伊藤(渉)委員 では、引き続き法務省にお聞きしますが、このコンピューターウイルスによるウィニーを通じた情報漏えいにつき、現行法上では何か犯罪が成立しないのかどうか、御答弁いただきたいと思います。

大林政府参考人 ウィニーを通じた情報漏えいの多くはコンピューターウイルスが原因となっていると考えられますが、現行法では、そのようなコンピューターウイルスの作成や配布という行為自体については、これを直接に処罰の対象とする罰則がないことから、個々の事案における事情にもよりますが、刑事責任を問えない場合が多いものと考えております。

伊藤(渉)委員 それでは、最後にもう一度法務省にお伺いをいたします。

 今回の法改正で、コンピューターウイルス感染によるウィニーを通じた情報漏えいに対処することはできるのか、御答弁いただきたいと思います。

大林政府参考人 委員御指摘のウィニーを通じた情報漏えいの問題などのように、近時、情報処理の高度化が進んだ我が国において、コンピューターウイルスは、短時間のうちに極めて広範囲に広がり、広く社会に被害を与え、深刻な問題となっております。

 そこで、今回の法改正におきましては、コンピューターウイルスなどの不正なプログラムの作成、提供、供用等の行為自体を処罰の対象とした不正指令電磁的記録作成等の罪を新設することとしております。

 これによれば、アンティニーのようなコンピューターウイルスを作成したり、これを人のコンピューターで勝手に実行させるような行為については、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、人が電子計算機を使用するに際して、その意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録を作成し、またはこれを人の電子計算機における実行の用に供した者として処罰の対象にすることができますので、委員御指摘のウィニーを通じての情報漏えいについても対処できることになると考えております。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 以上で質問を終わります。

石原委員長 午後三時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十二分休憩

     ――――◇―――――

    〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕


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