衆議院

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第22号 平成18年5月9日(火曜日)

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平成十八年五月九日(火曜日)

    午前九時三十二分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      笹川  堯君    柴山 昌彦君

      下村 博文君    平沢 勝栄君

      福井  照君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳本 卓治君    石関 貴史君

      枝野 幸男君    河村たかし君

      津村 啓介君    細川 律夫君

      伊藤  渉君    保坂 展人君

      滝   実君    今村 雅弘君

      山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   参考人

   (中央大学法学部教授)  藤本 哲也君

   参考人

   (日本労働組合総連合会副事務局長)        高橋  均君

   参考人

   (ジャーナリスト)    櫻井よしこ君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月九日

 辞任         補欠選任

  柳澤 伯夫君     福井  照君

  津村 啓介君     小宮山泰子君

同日

 辞任         補欠選任

  福井  照君     柳澤 伯夫君

    ―――――――――――――

五月八日

 共謀罪の新設に反対することに関する請願(奥村展三君紹介)(第一八五四号)

 同(達増拓也君紹介)(第一八五五号)

 同(平岡秀夫君紹介)(第一八五六号)

 同(牧義夫君紹介)(第一八五七号)

 同(松本大輔君紹介)(第一八五八号)

 同(柚木道義君紹介)(第一八五九号)

 同(仲野博子君紹介)(第一九〇六号)

 同(西村智奈美君紹介)(第一九〇七号)

 同(鉢呂吉雄君紹介)(第一九〇八号)

 同(阿部知子君紹介)(第一九四二号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第一九六九号)

 同(笠井亮君紹介)(第一九七〇号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一九七一号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一九七二号)

 同(西村智奈美君紹介)(第一九七三号)

 同(保坂展人君紹介)(第一九七四号)

 国籍法の改正に関する請願(北橋健治君紹介)(第一九〇四号)

 同(西村智奈美君紹介)(第一九〇五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百六十三回国会閣法第二二号)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 第百六十三回国会、内閣提出、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案並びにこれに対する早川忠孝君外二名提出の修正案及び平岡秀夫君外二名提出の修正案を一括して議題といたします。

 本日は、各案審査のため、参考人として、中央大学法学部教授藤本哲也君、日本労働組合総連合会副事務局長高橋均君、ジャーナリスト櫻井よしこ君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席を賜り、まことにありがとうございました。それぞれのお立場から忌憚のない御意見の開陳をお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、藤本参考人、高橋参考人、櫻井参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言いただきますようお願い申し上げます。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願いたいと存じます。

 それでは、まず藤本参考人にお願いいたします。

藤本参考人 おはようございます。中央大学法学部教授の藤本でございます。

 本日は、参考人としての意見を述べる機会を与えてくださいまして、まことにありがとうございます。私の専門分野は刑事政策でございますので、刑事政策的な観点から意見を述べさせていただきます。

 まず、政府案ですが、政府案は、国際組織犯罪防止条約の要請を踏まえ、現行の組織的犯罪処罰法の構成にのっとって立案されたものであり、基本的には賛成でありますが、これまでの国会における議論を踏まえ、本日は、共謀罪に関する与党修正案と民主党修正案に焦点を絞って意見を述べることにしたいと思います。

 まず、与党修正案は、一、共謀罪の対象となり得る団体を、長期四年以上の犯罪等を実行することを目的とするものに限定する、二、共謀に加え、一定の外部的行為が行われたことを処罰条件とする、三、運用に当たっての留意事項を加えるというものであり、いずれも条約で許された内容であると理解されます。

 これに対して、民主党修正案は、一、共謀罪の対象となり得る団体を、長期五年を超える犯罪等を実行することを主たる目的または活動とするものに限定する、二、共謀罪の対象犯罪について、性質上国際的な犯罪であり、かつ、法定刑が長期五年を超える犯罪に限定する、三、共謀に加えて予備行為が行われなければならないものとする、四、運用に当たっての留意事項を加えるというものでありますが、最後の留意事項のほかは、いずれも条約上許されないものであると考えます。

 以上を前提にして、私は、政府原案、与党修正案に賛成し、民主党修正案に反対する立場から意見を述べることにいたします。

 まず、基本的な視点でございますが、国際的な威信という視点から申し述べます。

 今回の法案の大きな目的は、国際組織犯罪防止条約の締結に伴って必要となる法整備のために提案されたということであります。この条約は既に百十を超える国々が締結しておりますが、我が国は、既に三年前に条約の国会承認を終え、必要な法整備に係る法案も同時期に提出されたにもかかわらず、同法案が成立していないことから、いまだ締結ができない状況にあります。

 世界各国が組織犯罪に立ち向かうために共通の枠組みをつくる努力をしている中、我が国は先進国の中でもひときわ条約の締結がおくれておりますが、早急に法整備を終え、条約を締結しなければ、我が国の国際的な威信にかかわることになると思います。したがって、これだけ締結がおくれたあげくに、仮に民主党が主張するような条約に違反する内容の修正がなされるとなれば、我が国は国際的に相手にされなくなると言っても過言ではないと思います。

 次に、世界レベルの標準化、グローバルスタンダードという視点ですけれども、国際組織犯罪防止条約は、一定の犯罪を行うことの合意を犯罪とすることを義務づけております。そして、この共謀罪の対象となる犯罪は、条約上、重大な犯罪として、長期四年以上の拘禁刑またはそれより重い刑を科することができる犯罪と定義されており、また、国際的な性質とは関係なく定めると規定されているところであります。

 したがって、この条約が求めているのは、それが国際的な性質を有する犯罪か否かを問わず、このような重大な犯罪を実行することの共謀を犯罪としなければならないということであり、これが、まさに国際組織犯罪対策の世界標準、グローバルスタンダードとして定められたゆえんであります。

 確かに、我が国のこれまでの刑事法では、実行の着手前の共謀や陰謀を処罰するのは例外的であったかもしれませんが、この条約が世界各国に義務づけていることや、既に百十を超える国がこの条約を締結していることから明らかなように、少なくとも、組織犯罪に対抗するためには、犯罪の共謀の段階から処罰するというのがむしろ現代における刑事法の世界標準であると言ってもよいかと思います。我が国の刑事法のあり方も、旧来的な発想ではなく、このような世界標準に合わせていくことこそが求められているのではないでしょうか。

 次に、人権への配慮という歩み寄りの視点でございますが、処罰を強化するということばかりでは国民の理解も得られにくいし、刑罰法規の人権保障機能への配慮も必要であると私は思います。

 この点についての私の考え方は、ある罰則を策定するときに生ずる種々の懸念の多くは健全な運用によって解消されるべきであるということであります。

 罰則、特に組織犯罪に対抗するための刑罰法規を策定しようとする場合、これまで起きた犯罪だけではなくて、これから起きる犯罪を漏れなく取り込めるようにしておかなければならないのではないかと考えます。絞り込み過ぎてしまって肝心なものが抜けるよりも、ある程度の余裕ないし幅を持ってつくっておき、さまざまな懸念については運用面で適切に対応すべきではないかと考えるわけです。

 その意味で、思想及び良心の自由や団体の正当な活動の関係で共謀罪の適用に当たっての留意事項を加えた与党や民主党の修正案は、評価されるべきであると思います。

 次に、各修正項目の評価についてでございますが、まず、団体の限定について申し述べます。

 国際組織犯罪防止条約は、共謀罪の対象犯罪について、「組織的な犯罪集団が関与するもの」という限定をつけることを認めておりますが、この「組織的な犯罪集団」とは、「一又は二以上の重大な犯罪又はこの条約に従って定められる犯罪を行うことを目的として一体として行動するもの」と定義されております。

 与党修正案における団体の限定はまさにこれに従ったものであり、妥当な内容であると評価いたします。

 他方、民主党の修正案は、この組織的な犯罪集団について、長期五年を超える犯罪を行うことをその主たる目的または活動とするものにしていますが、そのような内容では条約に違反するものと理解されます。

 現実問題としても、民主党案では、例えば、人身売買の罪であるとか、出資法の高金利受領罪であるとか、入管法の集団密航者を不法入国させる罪等の組織的な犯罪集団によって実行されることの多い犯罪を実行することを目的とする団体が除外されてしまうこととなりますが、このような限定は、国際的な威信という観点、世界レベルの標準化という観点からも不相当であると考えるところでございます。

 次に、重大な犯罪の限定、国際的な犯罪への限定をしている民主党案についてでございますけれども、民主党の修正案は、国際犯罪防止条約が長期四年以上の犯罪を共謀罪の対象犯罪としなければならないと義務づけているのに、その対象犯罪について、長期五年を超える犯罪とし、かつ、条約が禁止しているのに国際的な性質を有する犯罪にだけ限定しています。

 民主党の修正案は、条約の締結に必要な法整備でありながら、あえて条約に反する立法をしようとするものであると言わざるを得ませんが、いずれにしても、国際的な威信という観点や世界レベルの標準化という観点からは不相当であると考えます。

 特に、国内犯罪を除外して、国際的な犯罪だけに限定しているという点については、これが条約に反することはもとより、法制度のあり方から見ても、重大な犯罪を外国で実行しようという共謀が行われた場合や、重大な犯罪を実行しようという共謀が外国で行われた場合は処罰できることにしながら、肝心の重大な犯罪を日本で実行しようという共謀が日本で行われた場合は処罰できないこととなり、我が国が定める刑事法のあり方としては不合理であると考えます。

 次に、犯罪に資する行為の付加についてでございますけれども、国際組織犯罪防止条約は、共謀それ自体を犯罪として処罰することを義務づけた上で、その際、国内法上必要であるならば、例外的に、共謀に加えて、合意の内容を推進するための行為を伴うという要件をつけることを認めているところ、与党修正案は、この要件を採用し、実行に資する行為が行われたことを処罰条件、すなわち共謀を処罰するための条件とするものであり、妥当であると評価します。

 他方、民主党の修正案は、共謀に加えて予備行為が行われなければならないものとしていますが、そもそも、予備罪における予備行為は、その行為自体が処罰の対象となるものであり、また、予備罪における予備行為と言えるためには、犯罪の実現にとって客観的に相当程度の危険性を備えたものであることが必要であるとする裁判例もあることを考えますと、結局、民主党の修正案は、この予備行為自体を処罰の対象としているに等しく、共謀それ自体を犯罪として処罰することにならないのではないかという疑問があります。したがって、このような修正は、共謀それ自体を処罰せよと義務づけている条約の趣旨に反するおそれがあり、国際的な威信という観点や世界レベルの標準化という観点からしても不相当であると考えます。

 以上のとおり、我が国の国際的な威信を維持するためにも、一日も早く必要な法整備を行って条約を締結することが急がれる中、世界レベルの標準化の視点から、条約で許される範囲の与党修正案が提案され、その内容は、人権への配慮という観点からも十分なものであると考える次第です。

 したがいまして、早急に与党修正案の内容で法整備が実現されるべきであるというのが私の結論でございます。

 ちょっと急いで話をしましたが、以上でございます。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、高橋参考人にお願いをいたします。

高橋参考人 連合本部で副事務局長を務めております高橋均と申します。

 きょうは、発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 私は、三十二年前に、中堅の旅行会社で労働組合を結成するその中心メンバーとして参加をして、以来、企業内の組合、産業別労働組合、そしてナショナルセンター連合の役員として活動してまいりました。そして、それぞれの段階で具体的な労使交渉、ストライキ、労使紛争を数多く体験してきたところでございまして、そうしたこれまでの経験を踏まえて、労働組合の現場から、共謀罪で危惧する点について、二つに絞って申し述べることにさせていただきたいと思います。

 一つは、労働組合の活動が犯罪とされる危険性についてでございます。

 労働組合を結成する場合、いろいろな動機がありますけれども、給料が安い、深夜までの残業、残業代が払われない、有給休暇がとれない、あるいは風通しのよい会社にしたい、いろいろな動機から労働者が自主的に集まり、労働組合を結成いたします。結成いたしますと、直後に、その旨を会社に通告しに参ります。

 その際、これを機に労使で力を合わせて立派な会社にしていこうというふうに真摯な対応をされる経営者もたくさんいらっしゃいますけれども、残念ながら、正常な労使関係をつくろうとしないといいますか、逆上する経営者が時々いるのが現実でございます。

 例えば、おれの目の黒いうちは労働組合なんか認めない、会社の敷地から出ていけとか、飼い犬に手をかまれたというふうに労働組合を敵視する、団体交渉に応じないで逃げ回る。仕方がないので我々も追いかけて、社長、団体交渉に応じないのは労働組合法違反ですよ、残業代を払わないのは労働基準法違反ですよというふうに言っても馬耳東風でありまして、うちは労働基準法に加盟していないとかとわけのわからないことを言う経営者、社長さえいらっしゃるわけであります。

 渋々団体交渉に応じても、のらりくらりで時間が経過をする、徹夜交渉になる。逃げ帰らないかと、組合の役員がトイレまでついていくような始末であります。組合の要求を前向きに検討するから暫時休憩と言って、そのまま自宅に帰ってしまう。やむなく、自宅まで行って交渉の継続を求める。余りにも理不尽な対応を糾弾するために、やむにやまれず、会社の不当性を訴えたチラシを会社の門前や街頭で配る。

 このように、正常な労使関係を築くまでの間、難儀する事例が労働組合結成の現場ではよく見られるのでございます。しかも、そんな場合、面会強要だ、営業妨害だ、一一〇番するぞと大騒ぎする社長さんが少なくありません。

 もちろん、私は、こうした労働組合の行動は至極当然でありまして、普通の正当な労働組合の活動だというふうに考えております。けれども、外見上、組織的な強要だ、監禁だ、威力業務妨害、信用毀損、業務妨害というふうに言われかねないわけでありまして、与党修正案では、普通に活動している一般の労働組合や民間団体について共謀罪は成立しないというふうに説明されていますが、普通、一般と、一体だれが認定するのでしょうか。法律が成立してしまうと、往々にしてそれがひとり歩きし、捜査当局の恣意的な判断が優先されるおそれがあります。

 しかも、組合の会議で、社長が誠実な交渉に応じなければ、自宅まで出かけていって社長が決断するまで交渉を継続しようとあらかじめ合意、確認したことが、組織的な監禁、組織的な威力業務妨害の共謀罪にされる可能性があること自体、労働組合の常識としては到底考えられないわけであります。

 考え過ぎだというふうに指摘されるかもしれませんが、現に、十数年前でしょうか、全国一般労働組合でストライキ中の会社前抗議行動の最中に、威力業務妨害で労働組合役員が逮捕されたことが何件か発生をしておりますし、ごく最近でも、浦和や大阪で、強要罪、威力業務妨害罪で別の労働組合の役員が起訴されている事実をつけ加えておきたいと思います。

 二つ目は、自首減免規定についてでございます。

 法律の用語では自首減免制度と言うそうでありますけれども、普通、社会生活上ではこれを告げ口、密告と呼んでおりまして、我が国では軽蔑した響きを伴った言葉として受けとめられております。

 労働組合を嫌悪する経営者は、時として脱退強要の不当労働行為を行います。あからさまな脱退強要だけではありませんで、君の将来にプラスにならないとか、組合に入っているうちは昇進させられないと、利益をえさに脱退を示唆するものであります。

 そもそも、不当労働行為は会社の犯罪であり、許されるものではありませんけれども、人間弱いもので、利益を目の前に見せられると、情けないことに心が動きがちなものでありまして、仲間を裏切るようで悪いな、けれども会社ににらまれるのも怖いなと思い悩みながら、やむなく脱退をするという者も出てきますし、中には、会社に取り入ろうと御追従する者すら出てまいります。そして、残念なことに、労働組合内部の情報を逐一会社に告げ口するスパイのような人間があらわれるときがあるのでございます。

 私は、明治生まれの警察官であった父から、告げ口はみっともない人間のすることだと教えられ、育ちました。強きをくじき弱きを助けるのが人の道であり、おのれの保身のために告げ口をするような、強きにおもね弱きを足げにするような人間は最低だと教えられました。

 私は、このような考え方は我が国の誇るべき思想、哲学だと思うのです。告げ口、密告を奨励するような法律は、日本的風土に根づいた道徳観に反するもの、日本人の法意識、法文化になじまない、言うならば、日本の品格を損ねるものだと思います。

 結論を申し述べます。

 与党の修正案を拝見いたしましたが、労働組合の立場から見ますとわかりにくい内容となっております。むしろ、共謀罪の対象となる団体や対象となる重大な犯罪について厳格に限定をする、自首減免規定についても重大な犯罪に限る、共謀罪の成立について予備行為を要件とするなど、民主党の提出された修正案がより日本社会の常識に合致した内容だと思います。

 さまざま、これほど問題点が浮き彫りになっている法律案ですから、まさか新聞報道のように、この参考人質疑を終えてすぐ採決されることはないでしょうが、ぜひとも大方が納得できる内容に修正されますよう審議を尽くしていただきたいことを申し添え、意見表明にかえさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、櫻井参考人にお願いいたします。

櫻井参考人 櫻井よしこでございます。

 きょうは、意見を申し述べる場を与えていただきまして、ありがとうございます。

 藤本参考人と高橋参考人が極めて具体的な法的解釈及び現場の事例をお話しなさいました。私は、ジャーナリストとしてさまざまなことを取材してきた立場から、一般論としてこの共謀罪について述べてみたいと思います。

 日本で、あるグループが共謀して日本国民の命を危うくしたり危害を加えたりするケースとして典型的に私が思い浮かべるのは、オウム真理教の事件と北朝鮮による拉致事件でございます。疑問は、なぜこうした事件を日本国は防ぐことができなかったのかということです。

 例えば、ある人は、このようなことを防ぐ法律がないんだというふうに言います。北朝鮮の拉致工作員が日本国に入国して捕まった場合も、彼らを逮捕できる法的根拠としては、出入国管理法違反であるとか外為法違反、極めて微罪で、実刑一年、執行猶予三年でみんな釈放されてしまうわけです。ひどい場合には、彼らは、日本国潜入に使ったゴムボートであるとか通信機器を私有財産であるからといって要求して持って帰る、それを日本国は取り締まることができない。こういう現実があるときに、共謀罪のようなものはやはり必要なのかなと思わざるを得ない面は確かにございます。

 しかし、それと同時に、今回の法案を見ますと、これが国連の条約に合わせて国内法として整備するという側面は十分に理解できるのでありますけれども、もしかして、この国連条約の域を超えている部分があるのではないか、日本の法体系になじまない面があるのではないか、もしくは、組織犯罪集団というけれども、本当にそれが組織犯罪集団にだけきちんと限られているのか、もしくは、これは拡大解釈されて、共謀しましたね、あなた、うなずきましたねというふうな、一種の心の問題にまで、内面の問題にまで踏み込んでいく危険性はないのか、こうしたことを慎重に考えなければならないだろうと思います。

 なぜこのようなことを申し上げるかといいますと、例えば、私たちは個人情報保護法案というものを体験しております。これは一年前に導入されました。そして、今や、これがどのような使われ方をしているかというのは、多分議員の皆さん方も、これは幾ら何でも行き過ぎじゃないのという事例が全国津々浦々、少なくないわけですね。だれも、法律をつくるとき、このような事態が出現するとは恐らく考えなかったであろうというふうに思います。

 もう一つ私が心配しているのは、このところ随分と国会で議論になりました人権擁護法案のことでございます。

 人権擁護法案は、御案内のとおり、だれかが差別を受けた、嫌がらせを受けたとされることを人権擁護委員に通報して、人権擁護委員から人権委員会に通報して、それが認められれば当該本人は調べられるというものでございます。これはもう公正取引委員会と同じ強い権限を人権委員会が持ちますから、これを拒否すれば罰則を科せられるわけでございますが、これも私たちはさんざん議論してまいりましたけれども、人間の心の問題に踏み込んで、これは差別ですねということを言ってしまうわけですね。

 心の問題を法律で規定することは極めて難しい。難しいがゆえに、人間は往々にして過ちを犯す。だから、各国での人権擁護というのは極めて具体的な個別法に基づいて行われているわけであります。今回のこの共謀罪も同じような問題を含んでいるのではないか。もしそうだとするならば、ここに私たちは留意をして、しっかりと歯どめをかける必要があるんだろうなということを感じております。

 もう一つ。例えば、自民党も共謀罪に関しては、共謀罪に資する行為というふうな歯どめをおかけになりました。これは私は評価したいと思いますし、民主党の方は、予備行為、準備行為ということを言いました。これも私は評価をしているわけです。私は、この二つの案の細かい相違ということを、重箱の隅を針でつつくような議論は実はしたくないのでありまして、私の心の中で考えていることは、もしここで、歯どめをかけましたよ、規定しましたよということでみんなが納得してこの法律をつくったと仮定いたします。その後一体どうなっていくか、これは住基ネットで非常にはっきり出ているわけですね。

 住基ネット、私は、全国でいろいろなところを駆けめぐって、あの住基ネットシステムに反対をした本人でございます。そのとき、総務省とさまざまなやりとりをいたしまして、総務省は、いえ、この住基ネットはごく限られた政府の事務に使うんですということから始まりました。それで、導入されて五年目になろうとしているわけですが、今、すべての政府事務にこの住基ネットが使用されているわけですね。範囲が飛躍的に拡大されました。途中で変えられていくことについては、議員の皆さん方もほとんど留意なさらない。メディアもほとんどこれを報ずることがない。知らないうちにわっと広がっていっているわけですね。

 ですから、私は、日本国民を守るという意味での、共謀罪という法律の名前そのものがかなりおどろおどろしいわけではありますけれども、この趣旨は大事なものだとは思うんですけれども、しかし、それを安易に導入してしまった後でどこまで拡大するのかということについて、過去の事例を見れば、少なくとも、この会場にいるだれも責任を持つことはできないだろうということが予想されます。

 したがって、私は、民主党案の限定しましょうということに非常に強い共感を覚えつつ、自民党の皆さん方にもしっかりとした歯どめをかけていただくような法的措置をこの中に盛り込んでいただきたいというふうに思います。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。早川忠孝君。

早川委員 自由民主党の早川忠孝でございます。

 本日は、藤本、高橋、櫻井参考人の三人の皆様には、当委員会に御出席を賜りまして、大変貴重な御意見の開陳を賜りました。本当にありがとうございます。

 特に、まず藤本哲也参考人のお話でありますけれども、私どもが、これまでの審議経過を踏まえて与党としての修正案を出させていただきました。その内容についてその趣旨を十分御理解を賜って評価をいただいたなということで、心から感謝を申し上げているところであります。

 念のためお聞きをしたいのでありますけれども、政府原案について藤本参考人はどこに問題点があるというふうに現在お感じでありましょうか。

藤本参考人 お答えいたします。

 政府原案そのものが問題だということではございません。といいますのも、もともと、既に国会で承認されて条約の締結段階に至っているこの法律をどうするかという問題が前提にありますので、そういう意味で、政府案がそもそもつくられた動機を考えますと、そのあたりでの問題点はないと思うんです。

 ただ、共謀罪そのものを処罰するという点では政府案はそのままになっておりますが、今いろいろと御意見がございましたように、あるいは本委員会での審議記録等を見てみますと、どうしても、それが国民一般に納得できるような形になっているかというと、必ずしもそうではないだろうというのがマスコミ等の中心となっている問題提起でございまして、そういう点から我々専門家が見ますと、やはり共謀罪そのものを処罰する、これは当然だと思うんですね。

 すなわち、内心の自由といいますけれども、それは、今の刑法のシステムそのものが個人が犯罪を犯すことを前提につくられた法律でございますから、個人が、一人が、一罪で、故意で、既遂であるということまで前提にして刑法はつくられているわけです。この一九〇七年につくられたいわゆる百年前の刑法でもって新しく今生起している組織犯罪に対して対応するというのは、そもそも無理なんでございますね。

 そして、国際的な条約から見れば、共謀罪を制定しなさいということになっているわけですから、そういう意味で、政府原案そのものは我々専門家は理解できると思うんですが、ただ、一般に誤解を生じますから、それならば処罰条件で犯罪に資する行為という形で置いて、オーバートアクトを入れておいて、それで少し限定をしてわかりやすくしよう。そういう意味では、与党修正案の方が一歩進んでいると思いますので、別に政府原案がおかしいと思っているわけではございません。

早川委員 これは、昨年の通常国会で、実は与党側で政府原案について、法律の専門家としての立場から、さまざまな疑義があるのではないだろうかと。要するに、だれでも同じように読んで同じ解釈にたどり着くか、その辺について誤りがないようにしておきたいということを私がトップバッターになって申し上げたところであります。その後の特別国会でも審議をされまして、今回の通常国会に与党の修正案として提案をさせていただいたという経緯がございます。

 そこで、櫻井参考人にお尋ねをしたいと思います。

 先ほど、人権擁護法案の問題について、これがそのまま提案されるということに対しては大変な問題がありますねということで御意見をちょうだいいたしました。

 私も、昨年、自民党の法務部会等の関係部会で、まさに人権侵害の定義のあいまいさ、あるいは行政機関である人権委員会を設置したことによって逆に行政機関が人権侵害について判定をするということになると、例えば、一つの事案について何らかの判断がなされれば、ほかのケースにも同じ判断が及んでしまう。司法機関でないところが人権侵害を判断するということの危険性、それをより個別具体的に対応するべきではないかという意見を申し述べました。そういったことがたまたま、櫻井参考人がたしかサピオか何かに私どもの名前を挙げて述べておられました。そういう意味では、同じ立場で大体こういった大事な法案の審議には関係をしてきているということだと思います。

 そこで、私どもの与党の修正案というのは、組織犯罪集団によるいわゆる重大犯罪の共謀を処罰の対象とする、要するに組織犯罪の共謀罪というふうに呼ぶのがいいだろう、こういうふうに思っているところであります。また、現実に法案の中ではそういう見出しをつけているところでありまして、単なる共謀罪ではない。

 さらに、組織犯罪集団という用語を採用するかどうか。ただ、この解釈が非常に広がってまいります。そういう言語に対して非常に厳しい感覚をお持ちの櫻井参考人、もし組織犯罪集団を定義するとすれば、国民に誤解がないようにするための表現としてはどういうことがよろしいでしょうか。

櫻井参考人 組織犯罪集団を定義せよという御命令でございますけれども、私は法律の専門家でもありませんので、これはなかなか難しいお尋ねだというふうに思います。

 自民党案は組織犯罪を犯す同じ目的のグループというふうに書いていると思いましたけれども、私は、民主党が、共謀をして予備行為までも行っているということをつけ加えておりますけれども、そこまで踏み込めば、自民党は共謀罪に資する行為という、ほとんど同じ意味なんでしょうけれども、もっと漠としたものであると思います。

 予備行為ということを入れればもうちょっと具体的になるのではないか。例えば何か武器を買う、これは本当に難しい話ですね。例えば武器を手に入れるためのお金をどこかでおろしてきた、これは予備行為と言えるのかどうか。どこかのホテルをとって犯罪行為をお互いに話し合う、そのホテルの予約が予備行為と言えるのか、資する行為と言えるのか。これは非常に難しいわけでございますので、私は、さっき申し上げましたように、細かい言葉を参考人として吟味するというよりは、日本で今までに施行されてきた法律が、意図されていた次元よりもはるかに超えて広がって適用されている、解釈されている。そのことは、この共謀罪の場合、余り解釈されますと、言論の自由であるとか表現の自由までも圧迫してしまう危険性がございます。これはだれも望んでいないことであります。だから、きちんとした歯どめをかけるということに力を注いでいただきたいというふうに申し上げました。

早川委員 ありがとうございます。

 なかなか一般の市民の方々が法律を読みこなすというのは大変難しいものですから、定義というのを非常に大事にしなきゃいけない。これは法律家の立場であります。

 そういう意味では、構成員の継続的な結合の基礎となる目的が重大な犯罪を実行することがある集団、こういうふうに私どもはこれを理解し、そのような定義のための修正案を出して、結果的には組織犯罪集団の重大犯罪の共謀を処罰する、要するに適用範囲を限定しようという、そのための修正案であります。

 そこで、まず国際組織犯罪防止条約そのものの締結に櫻井参考人は反対なのかどうか。あるいは、世界各国におけるテロ対策についてどのようにお考えであるか。一応、理解できないわけでもないというお話がありましたので、念のためお伺いをいたします。

櫻井参考人 私は、この条約に自民党も民主党も賛成して締結したことについては賛成であります。それは認めたいというふうに思います。

 ただ、テロといいましても、テロというのは場所を選ぶわけですね。テロが日本でいきなり起きるかというとこれは起きないわけで、起きないというか、起きる可能性、蓋然性は今のところ低いわけですね。ですから、ほかの国々と全く同じレベルでこの条約を日本に適用して、それを国内法に移しかえていくということがいいのかどうか。そのプロセスの中で、先ほど来申し上げておりますように、日本国の、日本国民の特質といいますか、日本国の官僚の特質といいますか、そうしたものをきちんと踏まえることが大事なのではないか、それが政治の役割ではないかというふうに思っております。

 私は、この条約そのものに反対するものではありません。

早川委員 念のため、もう一度お伺いいたしますけれども、政府の原案に対しての修正案が、今、与党からの修正案と民主党からの修正案と二つ出ております。先ほど藤本参考人から、刑事政策あるいは刑事法の専門家のお立場から、条約との抵触関係ということで指摘がありました。

 すなわち、私どもは、法定刑を長期四年以上のものということで、条約上そういうふうに定められていますのでそれを対象とする。それから、共謀を処罰の対象とする。ただし、国内法の整備の関係で、いわゆる合意の内容を推進する行為ということを条件に付加することは条約上認められている。それから、越境性ということについては、これは国際的な対処の関係で、条約上そういった要件を設けることは認めない、こういう条約の制限があるわけであります。そういったことを踏まえて、国内法の整備をするということの作業をした。しかし、構成要件の解釈が非常に広がってしまう、一般の方からは理解ができないというところを極力なくすという努力の中で、与党の修正案というのを取りまとめさせていただきました。

 この与党の修正案についての御評価をお願いしたいと思います。

櫻井参考人 与党の修正案につきましては、私は評価をしていると申し上げました。

 ただし、これは繰り返しになりますけれども、日本国の官僚の体質であるとか、これまでの法律を施行してきた経験から、民主党が、限定をしよう、範囲を狭めようとしている、その努力は私は非常に大切なものだというふうに思っております。

 ほかのどの国で、例えば個人情報保護法を通したと仮定して、卒業生の名簿もつくることができない、学生が教授の住所を聞いても個人情報だから教えない、救急車で運ばれた病人のお見舞いに行っても、個人情報だから何号室に入っているか教えないというふうなことが起きるかどうか。これは、ほかの国では起き得ないと私は思うんですね。しかし、実際に日本ではそういったことが起きている。

 つまり、こうですよと決めたら、その方向にだあっと走っていくという癖がなぜかこの国にはあるんですね。それは恐らく、今まで官僚の皆さん方、政府の皆さん方が国民に情報を与えないことをよしとして、よらしむべしという政策で来た、そのなれ合い体質みたいなものが私たちの中に残っているからだろうと私は思います。

 これはどちらがいいとか悪いとかいうことではないんですけれども、そのような国柄というものが一つあるときに、やはり、民主党が考えているような、できるだけこれは限定していきましょう、注意をしていきましょうという慎重さは忘れてはならないものだというふうに思っております。

 ただ、国際法上、自民党がなさった修正案の法的な整合性というものについては敬意を表したいと思っています。

早川委員 ありがとうございます。

 高橋参考人にお伺いをいたしますけれども、これは、団体の共同の目的が何であるかということの関係で、労働組合の目的というのは何であるのか。あるいは、労働組合にいわゆる犯罪行為を実行するための組織というのが恒常的にあるのかどうか。労働組合が重大な犯罪を実行するということは考えられるのかどうか。この三点についてお答えをお願いいたします。

高橋参考人 労働組合は、労働者の労働条件を向上し、社会的な地位を高めていくという役割を担っておりまして、犯罪を起こそうなんということはこれっぽっちも思っておりません。おりませんが、先ほど申し上げたように、これまでも、いろいろな口実で労働組合の役員が逮捕されたり、あるいは起訴されたりということがあるものですから、慎重に御審議をいただきたいというふうに申し上げておるところでございます。

早川委員 これは高橋参考人でありますけれども、国際組織犯罪防止条約の締結そのものに反対をされているのか、あるいは、平成十五年の五月の第百五十六回通常国会で、条約の締結を承認する国会決議がなされているわけでありますけれども、これに対して反対の運動をされたのかどうか、この二点についてお伺いいたします。

高橋参考人 日本も批准をしております国際組織犯罪防止条約の発効には国内法の整備が必要でありまして、また、安心、安全な生活を確保していくために、組織的な犯罪集団を取り締まることを目的とした法律それ自体は必要であるというふうに認識をしております。

早川委員 これは先ほど櫻井参考人にもお尋ねしたことでありますけれども、政府原案に対して与党の修正案とそれから民主党の修正案と、二つの修正案が出されております。なるべく厳格に適用の範囲を狭めていきたいという趣旨の中で、民主党の修正案に賛意をお示しになりました。

 今、全国の自治団体等から私どもの方にさまざまな文書が寄せられております。これがたまたま同一に近い内容での表現になっております。労働組合の立場として、例えばストライキの話し合いをしただけで処罰されます、国民の要するに内心の自由、良心の自由を侵害する行為であります、憲法に違反します、だから廃案を求めます、こういうふうな文書での要請書というのが、四月の二十五日から昨日まで、もう山ほど寄せられております。これは、高橋参考人が所属されます連合の方でそういうふうな見解をおまとめになったんでしょうか。

高橋参考人 どういう内容か、それは全く承知をしておりません。

早川委員 例えば保健医療福祉労働組合協議会というところから出ているものでありますけれども、共謀罪は、法律違反に関する行為を話し合おうとしただけで、その準備とみなされ処罰されるということです、こういうふうな表現がなされているんですけれども、参考人は、この共謀罪、いわゆる条約刑法の条文に当たって、この法律案の問題点を検討されましたでしょうか。

高橋参考人 先ほどお読みになった内容については、その当該の労働組合が判断をされている内容だというふうに思っています。

 先ほども申し上げましたように、できるだけ共謀罪の対象となる重大な犯罪については厳格に限定をしていく。私どもが先ほど申し上げたようなストライキですとか、さまざまな労働組合の諸活動については、それはこの共謀罪に当たらないんだということを厳格にお示しいただきたいというふうに思っているところでございます。

早川委員 時間が参りましたので最後に藤本参考人にお尋ねいたしますけれども、与党修正案の提案者としましては、構成要件を明確にして、かつ、その適用範囲を限定する、まかり間違ってこれが濫用されないように厳格な留意事項というのを法文上明記しよう、こういう趣旨で、その意味では本日の参考人の皆さんのお考えと基本的には一緒だと思います。ただ、条約上許されるかどうかというその法律解釈、整合性の関係で、民主党の修正案の中でどうしてもこれは無理でしょうねと言わざるを得ない部分があるわけであります。

 そこで、藤本参考人として、例えば、与党の修正案についてさらに検討をするという余地があるとすれば、どういったところにあるというふうにお考えでしょうか。

藤本参考人 お答えいたします。

 今の与党修正案でございますが、大きな違いは、本来、条約の趣旨、目的に従って国内法を整備する上でどこまで許容範囲があるか、すなわち、条約の内在的制約というものを考えながら与党修正案が出ています。この点が私は評価できると思うんですね。ところが、逆に国内法というものを基準として、そして条約そのものを修正しようとするのが民主党案ですから、これは議論が逆立ちになっているという気がするんですよ、専門家が見た場合。

 だから、もしも与党修正案が、今のいわゆる内心の自由等に対しての留意事項を持っていまして、団体活動も規制しないという留意事項を持っていますから、少なくとも共謀罪を処罰するという条約に従う以上は、今のオーバートアクトの段階、アメリカのように何らかの行為ではなくて犯罪に資する行為、少なくとも犯罪の遂行に役立つ行為とまで限定していますので、これまでの構成要件しか定められないのかなと。法律の条文はコンパクトにしなくちゃいけませんので。

 ただ、その解釈をするときに果たして、私は国の捜査機関も裁判所の機関も性善説で考えていますから、そうしないと我々は法律を運用できませんので、法律を運用する以上は捜査機関もきちっとこの法律を理解して運用してくれるし、そして皆さんのように立法府の方も、我々は全員でこの法律をつくっている、国民の権利、自由を守るものだと考えていますから、その点を条文に明記していますので、もしもいじるとしたならば、この犯罪に資する行為がわかりにくければ、これをもう少しわかりやすい言葉に訂正するということは可能かなと思いますけれども、今のところ、この言葉しかないのかなという気もします。

早川委員 質疑時間が終了いたしましたので、本当に参考人の皆さん、ありがとうございました。

石原委員長 次に、津村啓介君。

津村委員 民主党・無所属クラブの津村啓介と申します。

 共謀罪の審議をめぐって、今、大変国民的な関心も高まりつつある中で、各界を代表される見識ある参考人の皆様に貴重なお時間を割いて当委員会にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。私からの質問を順次、藤本先生からさせていただきたいと思っております。

 藤本参考人のお話を伺う中で、世界レベルの標準化という視点を再三強調されたような印象を受けたわけですけれども、もともとの条約では、参加罪と共謀罪、それぞれ選択可能のような形になっていまして、各国の法体系がそれぞれ違っていることについて条約自体が十分配慮した、そういう構成になっているように思います。

 また、今回、この共謀罪のあり方をめぐる委員会審議においても、我が国独自の法体系というものに沿った内容になるかどうかということが一つの論点にもなっているわけですが、世界レベルの標準化というのは、そういう意味では、テロに対する考え方とか、そういった部分では共通認識というものは確かに生まれているんでしょうし、共有すべきことだとは思いますが、共謀罪が具体的にどのレベルまで設けられるべきか、犯罪の対象はどの程度であるべきか、あるいは、改めて後で伺いますけれども、予備行為のあり方とか、そういったところまで世界的な標準というものが確立しているとは、ちょっと私はそういう認識を持っていないんですけれども、もう少し詳しく御説明いただけますか。

藤本参考人 お答えいたします。

 私がグローバルスタンダードと申しておりますのは、今回の条約に限ってということではございませんけれども、そもそも、我々が国際的なレベルで何らかの犯罪に対応しようとする場合には、それぞれの国の法体系が違いますから、当然それぞれの国の法体系に従って国内法を整備することは必要でございます。そのために、条約はある程度考慮の余地を残しているのもおっしゃるとおりでございます。

 したがって、我々ができる範囲は、その条約の趣旨、目的に照らして、どこまで条約の内容を考えながら国内法を整備するかという視点が大切なのでございまして、そういう意味で、今までの議論を見ておりますと、どうも日本の現行刑法を中心にして考えているところがあるようでして、国内法を考える場合、当然刑法を考えることは必要だと思いますけれども、そもそもの刑法そのものがこうしたいわゆる組織犯罪というようなものに対して対応できるような形で一九〇七年には制定されておりませんので、刑法の原理で、今の個人が主体となる法律体系で、集団が主体となる法律体系というものを整合性を持たせようとする場合は非常に難しいだろうと思います。

 そして、もう一つ、これだけ百十カ国が既に、百十カ国以上、百十九とも言っていますけれども、これらの国がこの条約を締結しているということは、この共謀罪を制定することに合意しているという共通の基盤があるわけです。そうしますと、日本もその共謀罪を制定するという基盤のもとに国内法をどう整備するかというのが、条約を承認した国会の責務だと私は思うんです。

 そこまでいきますと、その責務を果たすためにどこまでのいわゆる留保が許されるか、どこまでの修正が可能であるかというふうに限定的に物を見ていきますと、やはり条約のコアとなっているような四年以上ということは修正できないだろう。同時に、国際性は加味しちゃいけないと書いていますから、これもやはり修正できないだろう。

 そういうふうに、この条約に伴う内在的な制約そのものが既にございますから、その点を考えると、与党修正案の方が、その条約に従った、いわゆるグローバルなスタンダードに従っているんだなと言っているだけでして、グローバルスタンダードそのものは、それぞれ各国の、百十ある国がそれぞれの国内法を整備していく、このそれぞれの国内法の整備が、全体的に見て、トランスナショナルで見ればこれがグローバルなスタンダードになっているわけです。

 そういう意味では、それぞれの国の独自性を認めながらも、国際的な協力のもとに、一つの条約のもとで協力して国民の権利と自由を守ろうというのがこのいわゆる組織犯罪の共謀罪の制定目的ですから、そういう意味ではグローバルスタンダードはあるんだろう、国際的なレベルの標準化というのがあるんだろうということでお話し申し上げました。

津村委員 そうした中で、条約に内在的に存在する共通すべき部分とそれ以外の部分というのがあるというお話なんですが、先ほどの冒頭の御発言の中で、民主党の修正案は予備行為を要件としている、予備行為を要件としているとこれはもう共謀罪とは言えないというようなかなり断定的なお話があって、私は少し驚いたんですけれども、今回の与党修正案と民主党修正案、確かに文言が違いまして、私どもの民主党修正案の方がより明確な歯どめになっていると自負をしているわけですけれども、こうした修正をするとこれはもう共謀罪とは呼べない、国際社会においてこれは共謀罪と呼べない、そういう御認識なんですか。

藤本参考人 お答えいたします。

 もし民主党案のような定義の仕方になりますと、それは共謀予備罪になってしまうと思うんですね、共謀そのものを処罰するわけではございませんので。共謀行為そのものが犯罪の成立要件なんです。

 ただ、与党修正案でなぜ「犯罪の実行に資する行為」というのをつけたかというと、これは国民にわかりやすくするためということもありますけれども、いわゆるアメリカやオーストラリアのようにオーバートアクトとして何らかの行為というのがありますから、単に思想、良心の自由を処罰するというふうに誤解されては困りますので、処罰条件として犯罪に資する行為という文言をここにつけ加えているだけなんです。

 民主党案の場合は予備行為となっていますから、完全に予備行為でしたらもう既に共謀の段階を超えていますから、そうなりますと、条約の本来の趣旨である共謀罪そのものを処罰するという形で国内法を整備するのではなくて、いわゆる共謀予備を処罰する国内法の整備になってしまいますから、その点が問題があるのではないかと申し上げたわけでございます。

津村委員 済みません。なぜ与党の修正案の方だとそうならないのかの違いがよくわからなかったんですが、もう少し説明してください。

藤本参考人 今申し上げましたように、そもそも、今回の条約の中身がいわゆる共謀を処罰することになっていますが、この共謀といいますのは、実際に二人以上の者が特定の犯罪に対して具体的で現実的な合意をする、この合意をした段階でもう既に共謀罪は成立しているわけでございます。ここでこれを処罰するのが、もともと政府原案であり、与党修正案なんです。

 ところが、いろいろと誤解をされることがあるからというので犯罪に資する行為がつけ加わっただけでして、これは恐らく今までの我が国の刑法にはないような新しい文言だと思いますけれども。

 それにかえて、民主党案の場合は、明らかに予備行為と書いていますので、これは現行刑法の予備行為と同じでございますから、そういうのは予備行為を処罰するのであって、共謀罪そのものを処罰するものではない、そういうことになる……(発言する者あり)

石原委員長 御静粛に願います。

藤本参考人 そういうことが私の言った趣旨でございます。

津村委員 そうした中、基本的な視点としてもう一つ挙げられている、国際的な威信という表現があります。これは世界レベルの標準化ということと同じようなことを意味されているのか、わざわざ別に書かれているので別のことをおっしゃっているのかもしれませんが、これは非常に強い言葉でして、ほかの国が条約を早く批准しているから、日本も早く共謀罪を設けないと威信にかかわるということなのか。

 一方で、後で櫻井参考人にも伺おうと思っているんですが、やはり日本の海外からの評価というのは、例えばジャーナリズムのあり方とか、場合によっては労働運動のあり方とか、いろいろな、自由で公正な民主主義国家としてどういう社会が築かれているかということ全体で、国際的な威信とか海外における日本のあり方というものが問われるわけだと私は思うんです。

 ここで国際的な威信にかかわると書かれているのは、これはどういう意味ですか。

藤本参考人 お答えいたします。

 私が国際的な威信にかかわると申し上げましたのは、まだこの条約に対して署名もしない段階で、国内法の整備ということで、国内法だけを問題にされて新しい法律をつくられるのでしたら、それはそれでどんなに時間がかかっても構わないし、きちっとした議論をされて、長い時間をかけられて法律をつくられるのが本来の筋であると思います。

 しかし、今回の条約の場合には、既に国会で署名されて承認されている、あとは締結を待つばかりであって、国内法の整備に既に三年かかっている、それはそれでよろしいと思います。

 しかしながら、そうした長い時間をかけても、もしも今この条約を締結できないとなりますと、G8の国では我が国だけが、まだこの国内法の整備の段階でこうした議論をしている段階でございますので、そういう意味での国際的な信用というものを落とさないためにも、なるべく早い段階で、今の与党修正案の場合には問題がないと私は思いますので、与党修正案でいってみてはどうだろうかと申し上げているだけでございます。

津村委員 国際的な信用というのは、表現の自由とか言論の自由とか、そういうさまざまなほかの価値もある中、総体として築かれるものだと思いますので、多少荒唐過ぎるかもしれませんけれども、そうした一面的な観点で日本の国際的な信用とか威信とかいうことを議論するのは、私は少し飛躍があるのかなという印象を持たせていただきました。

 そうした中で、次に高橋参考人にちょっと御質問させていただきたいんですが、先ほど、かなり具体的といいますか、わかりやすい事例に即して、現場の事例に即して御説明をいただいたと思うんです。

 私は、日本の労働運動というものが、戦後六十年を経て、非常に成熟というか健全に発展を遂げて、これまでのいわゆる五五年体制といいますか、戦後、まだ混乱期ではさまざまな、場合によっては不法行為も含めて、非合法的な行為も含めて過激な時代もあったと思います。しかし、だんだん日本という国が民主主義国家として成熟していく中で、労働運動のあり方というのも非常に健全な発展を遂げて今日に至っているというふうに思うわけです。

 そうした中で、こうした共謀罪というような、ある意味では今の健全な労働運動に水を浴びせかねないようなこういう新しい法制が今議論されているというのは、個別の事案でこういうことが処罰されるかもしれない云々を超えて、労働運動のあり方自体にともすればゆがみを与えてしまうのではないか、萎縮をさせてしまうのではないか、そういったことを大変懸念するんですけれども、この共謀罪が新しく創設されることによって、労働運動全体に与える影響というのはどういうマイナス効果があるとお考えか、お聞かせください。

高橋参考人 成熟をしてきたというふうにおっしゃいましたけれども、今組合に入っている方の数は一八・七%ということで、圧倒的多くのパートやいわゆる非正規の労働者の方々が労働組合を今待っているわけでありまして、そういった方々と一緒に労働組合を結成していこうというふうになりますと、先ほど私が申し上げたような事例が出てくる可能性がございます。新しいそういう非正規の方々の労働条件や権利を守る上で労働組合を結成していくといったことに対して、心の中でマイナスに影響をするのではないかというふうに思っております。

津村委員 私がもう一つ懸念しているのは、新しく組織拡大の際の事例を先ほどお話がありました。ただ、現に存在するといいますか、現在行われている労働運動、労働組合の活動の中でこの共謀罪が与える影響についてはどういうふうにお考えでしょうか。

    〔委員長退席、松島委員長代理着席〕

高橋参考人 真摯な対応をされております正常な労使関係でいるうちは、この問題は起きないのではないかというふうに思っております。

 しかし、往々にして、先ほど申し上げたような、わけのわからないといいますか、極めて無理解な経営者の方がいらっしゃることも事実でありますので、その懸念がぬぐい去れないということを申し上げたわけでございます。

津村委員 先ほどの御説明の中で浦和や大阪の事例にもお触れになっていました。現在の労働運動、先ほど私は健全な発展を遂げて成熟してきたというふうに評価をさせていただいたわけですけれども、しかし、やはりその最前線ではさまざまな緊張感を持って活動されているんだろうと思います。私もそういう現場を拝見することもございます。

 そうした中で、今回、こうした共謀罪という、先ほど櫻井参考人もおっしゃっていたような、最初は聞こえがよく入ってくるかもしれないけれども、今後さまざまな広がりを見せかねない、あるいは、国民から見ればいま一つイメージがわかない新しい犯罪類型がつくられるという中で、あるべき、そして現にある正当な労働組合活動が萎縮していったり、マイナスの効果を持つことを大変恐れるという趣旨で御質問させていただきました。

 そのことを最後に申し述べて、次に櫻井参考人に御質問させていただきたいと思います。

 まず最初に、少し大きな御質問をさせていただきたいんですけれども、先ほど住基ネットの例を挙げられたように、最初は小さく生まれた新しい制度であっても、次第次第にその影響が社会全体に及んでいくという話を大変わかりやすくお話を伺ったわけですが、今回、この共謀罪という新しい制度ができることによって、ジャーナリストのお立場ですので、日本の言論界といいますかジャーナリズム、あるいはマスコミにおいてもやはり言葉が命だと思いますので、こうした、言うなれば言葉だけで犯罪が成立してしまう新しい制度ができることによって、日本のジャーナリズム全体に与える影響と言うとちょっと大げさかもしれませんが、お聞かせいただければと思います。

櫻井参考人 お答えさせていただきます。

 実は、与党修正案の共謀罪にはその実行に資する行為を入れたから私は評価すると先ほど申し上げましたけれども、例えば、この点についても、四月二十八日の衆議院のこの法務委員会だったと思うんですけれども、稲田議員の質問に対して、実行に資する行為がない場合、共謀のみの段階で強制捜査することはできるのかということを多分稲田さんが御質問になったんだと思うんですが、これに対してその答えが、あり得ないということでございました。私は、あり得ないのであるならばいいなと思ってずっと議事録を読んでいきましたら、それからずっと後の方に、今度は民主党の細川律夫さんが同じように質問なさっているんですね。資する行為が現実になければ逮捕はされないんですね、逮捕できるんですかというふうに確認をとる形で質問をしたときに、今度、答えが微妙に変わってきているんですね。

 その答えは以下のようでございました。少し長いのですが、読んでみます。

 共謀だけで犯罪が成立いたします。したがって、逮捕することは法的に可能と考えます。しかし、実行に資する行為がなければ事実上起訴はできません、犯罪が成立しませんから。処罰できませんから、起訴できません。したがって、共謀の段階で逮捕することは現実問題としては考えられないと申し上げましたというふうな答えが戻っているんですね。

 稲田さんに対する答えは、できませんというもので、極めてはっきりしたものだった。ただ、細川さんに対する答えは、できるんです、だけれども起訴ができないから、起訴ができないようなものはやりませんということですね。

 私たちマスコミの、私たちというのは語弊があります、私一人の心配ですけれども、もしそうであるならば、共謀罪だけで法的に逮捕できると言っているわけですね。であるならば、逮捕して、その後、一体どういうことがあったのか調べるという名目で勾留することもあり得ると当然考えなければならないですね。だから、私がさっきから申し上げているのは、拡大解釈されるようなものではいけませんよと。

 だから、私が民主党の予備行為というものを評価すると言ったのは、予備行為というのは少なくとも外形的に形になって見ることができるものでありますから、少なくとも、自民党の、まあ趣旨は多分同じだと思うんですね、自民党の方々もそれで引っ張って強制捜査しようという気持ちはないと思うんですけれども、少なくとも民主党案の方がもう少ししっかりした担保があるのではないかというふうに感じております。

 言論の自由というのはこの国では保障されているといいながらも、本当に保障されているのかどうかということになると、私はわからないところがたくさんあります。

 組織ジャーナリズムという大きな組織に入っていれば、その組織と政権とのさまざまな交流、関係があるのは当たり前でございまして、その中で本当にジャーナリズムが機能しているのかどうか。

 それから、法的に、名誉毀損裁判などというものも、国会議員の皆さん方から、損害賠償の額が少な過ぎるからというので、あるときから突然、五百万円とか八百万円とか一千万円というふうに上げられてきているわけですね。これは、弱小の雑誌社であるとかフリーのジャーナリストにとっては大変な負担なんですね。訴訟そのものが大変な負担でありますから。

 だから、こういったことで、言論の自由というのは憲法では保障されていますけれども、実際の日常生活の中では非常に制限を受けている。その制限というのは、各種の法律ができることによって狭められていきつつあるのではないかという危機感を私は持っております。

 ですから、この共謀罪は、先ほど来申し上げているように、私は基本的に必要だろうと思っているんですけれども、よほど注意をしていただかないと、皆さんが意図するところとは反対の方向に、また私たちが望むのとは反対の方向に走っていって、拡大解釈されて、言論の自由を阻害し、表現の自由を阻害し、この社会を息詰まるものにしていくおそれが十分にあると思います。だからこそ、歯どめをしっかりかけていただきたいと先ほどから繰り返し申し上げております。

 以上です。

津村委員 大変示唆に富むわかりやすいお話、ありがとうございました。

 時間でございますので、これで質問を終わります。

松島委員長代理 伊藤渉さん。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉です。

 本法案審議に当たりましては、人権の党の公明党としても庶民の目線でこの問題を考えなければならないと認識をしておりますし、その意味で、本日お越しの参考人の皆様方には、本当に、お時間のない中、ありがとうございます。真摯に、国民一人一人がこの法案の内容をきちっと理解できるように、忌憚のない御意見をお伺いしたいと思います。

 まず初めに、ここまでのやりとりをお聞かせいただきまして、まず条約、既に署名をしております条約については、その大切さは皆様認識をしていただいている。組織犯罪を取り締まるということについては皆様御理解をいただいている。その上で、櫻井参考人のお言葉をかりれば、拡大解釈のないようにいかに限定をするか、国内法制定に当たってこれが非常に重要であるということだったと理解をしました。

 そうなると、櫻井参考人が先ほどからおっしゃっていただいているとおり、細かい議論は別にしてというお言葉をいただきましたけれども、やはりこの細かいところを詰めないと法整備ができないと思いますので、若干お聞きする内容が細かくなってしまうことは御容赦をいただきたいと思います。

 まず初めに、この共謀という言葉が非常にまた皆さんの不安をあおっているのではないかという認識を私は受けます。私も法律の専門家でもございませんし、もともとは会社に勤めてエンジニアをしておりましたので、そういう意味から、限りなく一般の方が抱く感覚に近いんじゃないかなと思っております。そういう意味で、この共謀という言葉が条約上どうなっているかということをちょっと改めて確認をしたいと思います。

 条約第五条において、「締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。」「金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、」云々、この「一又は二以上の者と合意すること」、この表現を国内法上で共謀と表現をしているわけですけれども、まず、細かい話で恐縮ですが、共謀と表現したことそのものについての御意見を、これは済みませんが、三人の先生方にお伺いしたいと思います。

    〔松島委員長代理退席、早川委員長代理着席〕

藤本参考人 お答えいたします。

 もともとの言語はコンスピラシーだと思いますが、一応、コンスピラシーを共謀と訳すのは問題ないだろうと思います。もちろん、現行刑法の中では陰謀という言葉を使っておりますので、陰謀がいいか共謀がいいかということになりますけれども、どうもニュアンスとして、陰謀の方が、何かはかって裏でこそこそやるというイメージがありますので、それよりも、二人以上の者が犯罪を犯すという意思のもとに集まって具体的、現実的に合意したという意味では、共謀の方が専門家としてわかりやすいと思います。

高橋参考人 とんでもない犯罪をやろうというわけですから、日本語の常識としては共謀という言葉ではないかというふうに思います。

櫻井参考人 国連条約で目指すものは、組織犯罪、テロの防止でありますから、そのような犯罪を防ぐ法律という意味では共謀ということになるのであろうと思います。

 ただ、日本の中では多少響きがおどろおどろしいかなという気はいたしておりますが、これは法律用語でございますので、そのとおりだろうと思います。

伊藤(渉)委員 次に、ここまでもさまざま議論になった、犯罪が四年以上なのか、五年以上の刑なのかということについてお伺いをしたいと思います。

 条約五条1の(a)の(i)で、「金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意すること」と規定し、重大な犯罪という点において、原案、与党修正では、条約二条の(b)、「「重大な犯罪」とは、長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう。」という規定に基づいて長期四年以上と規定をしておる。民主党修正案は長期五年超と規定をしている。

 改めて読んだだけで、つまり条約を前提に考えれば、長期四年以上しかあり得ないと思うんですが、犯罪の対象の数ですとかいろいろな視点があろうかと思いますので、ここは御自由な発言で結構ですので、高橋参考人と櫻井参考人に、条約は四年以上と書いてあるけれども、改めて四年か五年かと言われたらどっちがよりよいとお考えか、その考えの基礎になることもお話しいただければ幸いと思います。

高橋参考人 重大な犯罪ということでありますので、五年超でよろしいかと思います。条約が四年以上というふうに書かれているようでございますが、別の見解もあるというふうに伺っております。

櫻井参考人 少し枠を広げて問うてみたいというふうに思います。

 この共謀罪がなければ日本はそういった犯罪を防ぐことができないのか、もしくは、もっとさかのぼって考えなければならないのは、冒頭で私、グループが同じ犯罪を犯そうと考えて日本国民に害を及ぼしたケースにオウム真理教と北朝鮮による拉致のケースがあるというふうに申し上げました。

 私の疑問は、では、共謀罪をつくったらこうした犯罪は防ぐことができるんですかということですね。言いかえれば、あのオウム真理教であるとか拉致事件を防ぐことができなかったことについての反省はどこにあるんですかということを問わなければいけないと思うんです。

 もちろん、日本の法律の不備というのは私も重々存じております。スパイ防止法がないとか、国家保安法がない。そういったものは整備すべきだと思います。

 しかし、例えば拉致事件の場合、一九七七年九月、これは横田めぐみさんが拉致される二カ月前でありますけれども、久米裕さんという方が石川県の宇出津の港から連れていかれたわけですが、そのとき石川県警は犯人の一人を逮捕しているんですね。この犯人は、日本からだれでもいいから連れてこいと言われて北朝鮮に送りましたと言っているんです。このことがわかっていながら、なぜ日本国はその後の拉致を防ぐことができなかったんですか。

 オウム真理教の場合、多くの通報は警察に行われておりました。なぜ日本はその後のオウム真理教による地下鉄サリン事件、松本サリン事件を防ぐことができなかったんでしょうか。

 法律がなかったからとは私は言ってほしくないと思います。やる気がなかったのではないかと思います。国家として、国民の命を守る、こうした危機に対してどう対処するかという心構えがなかったから、その後、次々とオウムが事件を起こし、次々と日本国民が拉致されていったわけですね。

 こうしたことがありますから、私たちは法律だけを論じていてはだめなんだということを申し上げたいんですね。四年か五年か、これはもう、私は、さっき申し上げましたように、限定するという意味で民主党の方を支持したいと思っております。ただ、国際法上これは整合性がつかないんだと言われれば、そうですかと言わざるを得ないわけですけれども。

 両党の皆さん方にこうしたことの議論の前に考えていただきたいのは、法律があるから私たちはこうした犯罪を防ぐことができるのか、ないから防げなかったのか、そうじゃないだろうということを言いたいのですね。そこのところの確認なしには、新しい法律をつくることが一体この国をどういった安全な地平に連れていってくれるのかということについて、私は極めて深刻な疑問を持っております。

 ですから、この法律をつくるのは、日本も国際社会の一員で、既にもうこれは国連に約束をしたことでありますから、やるべきだと思いますし、繰り返しになりますが、法整備という意味からも必要な面はあると思いますけれども、しかし、法律の根本は心なんですよね。国家がどのように考えるか、その国家を構成する役所であるとか政治家であるとか一般国民がどう考えるかということをまず問うてほしいというふうに思っております。

伊藤(渉)委員 ありがとうございます。

 お話はよくわかるといいますか、おっしゃっている意味は私もわかります。そのためにも、冒頭申し上げたとおり、繰り返しになりますが、細かい議論をして突き詰めなければならないと思いますので、今の点、少し掘り下げさせていただきたいと思います。

 ただいま高橋参考人から、限定するという意味では五年の方がいいというお話をいただきました。ここまでの委員会の審議でも、条約への留保という話が何回か議論になっています。これは政府の答弁でも、留保というのは基本的にできないというようなお答えも聞いておりますが、これを改めてもう一度、私も自分の目で条文を読んで、確認の意味で、これは専門家である藤本参考人にお伺いをします。

 まず、この条約、国際的な組織犯罪の防止に関する連合条約三十四条二項で、「第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪については、各締約国の国内法において、第三条1に定める国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める。」とあります。条約の求める重要な犯罪類型の犯罪については、国際的な性質云々とは関係なく定めると明示をしております。

 ウィーン条約というのを勉強させていただきましたが、そうすると、そこには留保を付せない場合として、条約の趣旨及び目的と両立しないものである、このときは留保が付せないと明確に書いてありました。専門家でもありません、淡々と文言を読むとそう読めました。

 そうすると、今回の例えば国際性などという条件もそうですが、犯罪、四年、五年という話も、今回の条約では四年と明確に書いてある以上、五年という留保は付せない、私は本当に純粋に読んだだけではそう読めるんですが、この点について藤本先生の御意見をお伺いしたいと思います。

    〔早川委員長代理退席、委員長着席〕

藤本参考人 お答えいたします。

 もちろん、条約の趣旨、目的が違いますので、その趣旨、目的の範囲内で留保できるという場合もあると思います。しかしながら、今回のこの条約の場合に、四年以上というところ、法律というものは、皆さん、立法府の方にこんなことを言うのは失礼ですけれども、重要な順番で書かれているわけですね。そうしますと、二条に書かれている用語の解説の中で、重大な犯罪とは四年以上というこのコアな部分を五年に改めていいかどうか、そこを留保できるかどうかとなると、私はできないだろうと思うんですね。

 しかも、国際性を持たせちゃいけない、トランスナショナル、国越的な形での定義をしちゃいけないと言っていますのは、それぞれの国の事情がありますので、例えば日本とアメリカとの間での関係、日本と中国との間での関係、日本と韓国とで違いますから、それならその一つ一つの国によって二カ国間の条約になってしまいますので、そういうふうな留保をつけてしまったらもはや国際条約としての意味がなくなりますから、そういう意味での留保はできないだろうと申し上げているわけです。

 今のコアになるようなところが民主党の場合ございましたから、どちらかといえば、与党修正案の方がこの条約の中のコアな部分はきちっと守った上で国内法の整備がなされておりますので、与党修正案の方がいいだろうという意見を申し上げた次第でございます。

伊藤(渉)委員 高橋参考人に、私も今、参考人と全く同じ立場で藤本参考人のお話を聞かせていただきました。私のお聞きする限り、留保というのもやはりなかなか難しいんだろうというふうにお伺いをしました。冒頭でも確認させていただいたとおり、既に署名をしている条約は大切だと私も理解しております。

 そうした場合に、その上で、自由に御発言いただいて結構でございますが、四年か五年かと問われたときにどのようにすべきか、改めて、今のお話を聞いた上で、もう一度ありのままの御意見をいただければと思います。

高橋参考人 私も法律の専門家ではございませんのでよくわかりませんけれども、今先生がおっしゃった話とは別の法律家の見解もあるというふうに承知をしておりますので、限定的に取り扱うという意味では五年超でいくべきではないのかというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 次は、犯罪に資する行為、この言葉についてお伺いをしたいと思います。

 「国内法上求められるときは、」とした上で、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴う。法律というのは非常に難しい書きぶりになっているので、私も素人としてはなかなかしっかり勉強していかないと理解しがたいところがあるんですが、ここを根拠として、与党修正ではオーバートアクト、すなわち実行に資する行為と位置づけました。民主党修正では予備という言葉を使いました。

 オーバートアクトと予備という言葉は、私が勉強する限り、やはり概念的に異なると思われます。予備というのは、今までの判例などを見させていただいても、そのものが犯罪ですし、非常に危険な行為を含みます。それを共謀の処罰条件とすると、これは藤本参考人が冒頭の陳述でおっしゃっていただいたとおり、共謀という犯罪の条件が、予備という犯罪がないと共謀という犯罪の処罰ができないとなると、共謀をそもそも取り締まろうという本来の目的がずれてきてしまう。

 ちょっとややこしい話で恐縮なんですが、これは専門家の藤本参考人は十分御理解いただいている点だと思いますので、これは細かい議論で大変恐縮ですが、あえて高橋参考人と櫻井参考人に聞きたいと思います。

 もう一度繰り返しますと、共謀という犯罪の処罰条件を予備としてしまうと、その処罰条件そのものが犯罪ですから、そもそも共謀を取り締まろうとしているのに、予備という犯罪がその処罰条件として起こらないと共謀が取り締まれなくなってしまうと、そもそも共謀を取り締まろうとするこの国際条約、やはりこの趣旨に反してきてしまうと私は理解をしましたけれども、これも忌憚のない御意見をいただければと思います。(発言する者あり)

高橋参考人 私も頭がこんがらがってよくわかりませんが、とんでもない犯罪だということであればそういうことだと思いますけれども、私は先ほどから具体的な事例を申し上げて、それまでも処罰されるんですか、それは問題があるじゃないでしょうかということを申し上げているわけでございます。

櫻井参考人 ただいまの伊藤さんの解釈は間違っているという声が出ておりますし、これは恐らく、もう一人法律家をこの参考人の場に呼んで、予備行為というものについての法的解釈を論じた方がよろしいかと思います。

 ただ、もう一つつけ加えたいのは、自民党が、先ほどおっしゃった資する行為ということの解釈についても、この法務委員会での、逮捕、強制捜査できるのかどうかということについては、できないというところからできるというところにも変わっている面はあるわけでありますから、マスコミ、いわゆる言論人の立場としては、そういった言論の自由というものを阻害させないためにも、また、外形的要件がなくとも、心の中に立ち入って逮捕したり強制捜査したりすることができるような状況にならないためにも、きちんとした一つの形を整えるという意味で、民主党の予備というところを入れた方がよろしいのではないか、これは法律の素人でございますけれども、そのように感じます。

伊藤(渉)委員 ありがとうございます。

 時間ですので、最後に藤本参考人にお伺いをしたいと思います。

 先ほど、津村議員の最後の櫻井参考人とのやりとりの中で逮捕の話が出ました。共謀そのものが犯罪ですので、共謀をした事実が認定できれば、令状をとって逮捕できると思うのですが、理論上そういうことになりますけれども、共謀をしたという事実を認定するということは、あえて法律全部読みませんけれども、非常に困難にできていると私は読む限り理解をしましたけれども、よって、先ほどの最後のやりとりにあった、逮捕をされてしまうということに非常になりにくくなっていると私も同じ素人として理解しておりますけれども、最後にそこのところ、藤本参考人の御意見をお伺いしたいと思います。

藤本参考人 それではお答えいたします。

 今の点でございますが、もう既に政府案の方で代表者の方がお答えしておると思うんですけれども、もともと、法律を厳格に見ていきますと、共謀行為があった段階、それで、今回の与党修正案によりますと、共謀を超えた、いわゆるもう一つのオーバートアクト、いわゆる犯罪の実行に資する行為があった場合、これを処罰条件としていますよね。そうしますと、これは法解釈論、私は法解釈の専門家ではございませんが、純粋に法解釈論としますと、そこで犯罪は成立しています。ただ処罰するかどうかというところにその犯罪に資する行為という要件をつけているわけでございますから、犯罪は成立している。しかし、すべての犯罪が成立したからといって、すべてを処罰しているわけではございません。

 もともと法律というものは、犯罪を予防するという意味では、こういうことをしたらこういう罪になるんだよと決めて、一般予防効果はありますけれども、もともと、犯罪が起こった後での、ポストファクトの事実というものに対してどう対応するかというのが法律でございますから、その以前の段階で、予防効果があるとか、あるいは法律ができたから抑止できるとか、あるいは今のように、共謀罪があるからそれを即処罰するとかいうわけではございませんで、共謀罪がここに成って、合意があったら共謀罪になり処罰されますよということを一般に警告することによって、少なくとも組織的な犯罪に対して対応していこうという趣旨でございますから、そのことと、運用として実際に捜査機関がどう動くかは別の問題です。

 もしもそこまで考えてやられるんでしたら、これからたくさんの事件が次から次へ起こってくるでしょうから、それをすべて考慮に入れて法案をつくらなくちゃいけない。もう不可能なことを法律家に強いることになります。これでは到底立法はできませんので、そうではなくて、純粋に我々は国家の捜査機関を信じる、官庁は悪いことをしないという前提のもとで、法律家もきっとそういう前提で法律をつくっているわけですから、そこを信用できなくなると、もう法律全体が信用できなくなりますので……(発言する者あり)それではもう立場がない、いや、私の立場がないだろうと思うんですけれども。

 そういう意味では、我々は、どこまでで犯罪が成立するかということを明らかにすることによって、一般国民に対しても、特にこの場合、組織的な犯罪ですから、犯罪組織に対して、共謀すれば処罰されるんですよ、なぜならば、組織犯罪を共謀すれば、その計画性は高度であって、しかも犯罪の実行は確実であって、起こった結果が重大なことであって、国民に大きな損害を与えるんですよ。そういう意味では、共謀段階で何とかしましょうというのは国際的な条約の合意なんですよ。だから、そこをどうするかということを話しているんでして、その成立要件が、成立した後はどうするかという運用の問題は国内の問題でして、条約の問題ではないと私は思いますけれども。それでよろしいでしょうか。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 新聞報道等を初めとして、やはりこの法案については細かい議論、お一人お一人が細かく法案を読んでいただければ十分に、今漠然とした不安が世の中に漂っておりますけれども、そういったことは払拭をできると法律の素人の代表として私は確信をしておりますので、そのことを最後に申し上げて、質問を終わりたいと思います。ありがとうございました。

石原委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 続けて、今の議論につながる話なので藤本参考人に伺いたいと思います。

 今回の与党修正案の方は、実行に資する行為、三条件を挙げていらっしゃいまして、共謀が成立した後であること、それから、共謀の段階を超えた、共謀行為とは別のものであること、さらに、共謀に係る犯罪の実行に役立つ行為であることと三つ挙げられているんですね。なかなか工夫の跡は見られると思うんですが、ただ一方で、この委員会のやりとりでも、共謀の現場に踏み込み、実行に資する行為がなくても逮捕するということもあり得るだろう、その際、逮捕した後に実行に資する行為が出てくるのか出てこないのかということの問題はまた別にあるわけですけれども、そういう議論もありました。

 ただ、これはよく考えてみると、実際、例えばどこかに侵入して強盗のたぐいの共謀をしよう。中心人物がいるわけですね。中心人物がいて、例えば侵入をするためのバールであるとかあるいは地図ですね、地図に道順がつけてあるというようなものを箱に入れて自分の部屋に置いておいて、何人かを集めて共謀を行う。共謀は成立したんだけれども、しかし、実行に資する行為とおぼしきもの、バールや地図は共謀が成立した前にあったので、これは実行に資する行為とは認められないのかというような話が現実には起きてきてしまうんじゃないか。

 実は、先ほど先生もおっしゃったように、それは、捜査機関は前か後かというようなことは恐らく問題にしないのではないか。そういうものがあったらあったで、これはもう共謀として、実行に資する行為、オーバートアクトの要件というのは、そんなに予備行為に限りなく近いものではありませんよね。このあたりの見解を伺いたいんです。

 与党の三条件の中では、共謀が成立した後であることというのが実行に資する行為だというふうになっています。いかがでしょう。

藤本参考人 今の議員さんの説明ですべて、私が答える必要はないだろうと思うんですけれども、もともと、共謀が成立した後の、共謀の段階を超えた、共謀行為とは別の行為が犯罪に資する行為、実質的に役立つ行為となっていますよね。それを捜査機関がどう認定するかということは、それは運用の問題だと私は先ほどから言っているんですけれども、そういうこと自体と、今条約の国内法の整備で問題にしていますのは、共謀罪そのものを処罰するというのが原則ですから、既に共謀罪は成立しているわけですよね。

 ただ、それを、もっと具体的に処罰条件を加えることによって、いわゆる労働組合だとか正当な市民団体が処罰されないような配慮をしなくちゃいけませんので、そこでここにオーバートアクトという形で持ってきたということでございますから、この要件が整えば、もちろん処罰はできるということになりますから、犯罪が成立して、処罰要件が整って処罰ができれば、当然これは処罰対象になるという結論になるだろうと思います。

保坂(展)委員 これは委員会でも議論しなければいけないんですが、共謀が成立した後に行われるのが実行に資する行為だというのであれば、共謀が成立してからバールか何かを探しに行って地図を用意したというのは、まさに実行に資する行為だというのはわかりますけれども、もともと用意していたものがそこにあって、その後共謀があったとなれば、それは実行に資する行為だったのかというようなことが未整理なんですね、今のお話。

 この委員会の与党修正案提案者の委員の方の答弁が、いわばどういうふうにこの法律を解釈していくのかの一つの指針だとおっしゃっていますので、この点はもうちょっときわめていきたいと思います。

 今の点について、櫻井参考人に伺いたいんですが、この共謀罪、やはり具体的なシチュエーションに即して、引きつけて考えると、ここはどうなのかな、ここはどうなのかなと極めてあいまいになってくることがあります。この中で、中止ができないという問題があるんですね。

 個人であれば、個人が内心、悪いことをしようと決意して、その瀬戸際で、いや、こういうことをしてはいけないといって、きびすを返して日常に戻る、そんなことはなかったかのごとくまじめに生きていくということはあると思います。しかし、共謀してしまったら、した途端それが成立して、その後取り消しができないというようなことは、現実にはかなりの混乱を招くのではないかということを考えるんですが、そのあたりのことについて述べていただきたいと思います。

櫻井参考人 共謀しただけで罪が成立をして、それが取り締まりの対象になるとしたら、しかもそれは外形的に見て確認が非常に難しい場合が多いわけですよね。だからこそ通告をするということがここで進められていくわけですけれども、このようなことが日本で認められるとしたら、これまでの日本の法体系の中では極めてなじみのないことでありますから、まず混乱が起きるでしょうし、ここでさっきから私が言っている拡大解釈のようなものが多分起きてくるだろうと思うんですね。そうした場合、内心の思いをどこまできちんと話せるかということになってきますよね。

 私は、これは運用の次第によっては、非常に恐ろしい言論統制とか思想統制とか、それから、例えば選挙なんかでいえば、お金を出して票を取りまとめてみようかというような気持ちに、議員の皆さん、すれすれのときはなるかもしれないわけで、そうしたときにそれを通告した人が一人いたら、例えば、保坂さんなら保坂さんも失脚するかもしれないというふうに、悪用される余地も出てこないとも限らない。こうした事例は新聞に報道されていて、極めてわかりやすいわけですね。

 ですから、私は、そういったことを避けるために、やはり外形的に確認できる基準を設けてはどうか。外国がどうであろうと、日本では個人情報保護法の問題もある、住基ネットの問題もある。そうしたことから考えると、この国では、一つ何かルールを決めたらそっちにだあっと走っていきやすいということがあるわけですから、そこはきちんとした歯どめをかけた方がいいということを先ほど来申し上げてきたわけです。

保坂(展)委員 次に、高橋参考人に伺いたいんですが、この委員会の議論があったからこそ、与党あるいは民主党の修正案も出てきたんだと思います。そういう意味で、審議というのはとても大事だと思いますけれども、その中で昨年大きな議論になったことが、では、いわゆる労働組合や市民運動や一般の会社に幅広く適用されてしまうんじゃないか、もともと政府原案、何の制限もありませんでしたということでした。

 その当時の政府の答弁も、そして今、与党修正案の中でも、いわば犯罪を目的とした集団ということに限定をしているので、一般の労働組合やその他のNGOだとかいうことはほとんど心配は要りませんと、今法務省もホームページで広告をされているんだと思いますが、他方で、参考人がおっしゃったように、労働組合の現場でも、時として、極めて長期にわたる深刻な争議などで、これは刑事事件として逮捕され、そしてまたそれは犯罪として裁かれる。他方、労働組合運動としては、これは不当弾圧であるということで、法廷闘争を闘うということが過去にもあったかと思います。

 その場合は、犯罪を、特に労働組合ですから、個人では行っていない、集団で行っているわけで、いわば、正当な目的を掲げる団体、労働組合は正当な目的を掲げる団体なんですが、その中の先鋭的な例えば五人なら五人が、ある種はね上がって、ある突出した行動をしてしまったということが、犯罪集団として認定されるんじゃないかと私は危惧を持っているわけなんです。

 このあたりについて、例えば、いろいろな示威活動といいますか、ビラをまいたり横断幕を垂らしたりというようなことも争議の場面であろうかと思いますが、そういうものにはおよそ関係ないですよという説明ではあります。しかし、先ほどの藤本参考人のお話では、これは捜査機関がちゃんとやるんだから、そこを心配し出したら法律はつくれませんという話もありました。どうお考えになりますでしょうか。

高橋参考人 労働組合は組織犯罪集団でないと、今、一般の労働組合はというふうにおっしゃいましたけれども、先ほどから私申し上げているように、一般というのは一体だれが、あるいは正当とだれが判断するのかを問うているわけでありまして、これまでの経験則でいっても、先ほど、拡大解釈をされて労働組合が取り締まりの対象になっているということを申し上げたわけでございます。

 もし労働組合は組織的な犯罪集団でないというのであれば、それを明快に法律に書き込んでいただければいいわけでありまして、書き込まないということは、疑義が残るということは、やはり労働組合も時によってはその団体の対象になる可能性を残しておきたいというふうに、そういう意思が働いているのかなということを考えたりするわけでございます。

保坂(展)委員 次に、また藤本参考人に伺います。

 私、この法案を前国会で審議するに当たって、法務省の御説明をよく聞きました。ちまたに、盛り上がって、居酒屋で騒いで、あいつやっちまおうというような話はもう全く問題にならないんだということはその当時から言われていて、たしか、共謀というのはそんな簡単なものではなくて、だれが企画を立て、そして役割分担をし、日時を決め、資金面だとかいろいろなことを構成して、そして初めて成立するものだという説明を受け、そういうふうに思ってきたんですね。

 ところが、共謀共同正犯の最高裁の判例がありました。これは暗黙の共謀というのを認めた判例で、暴力団の組長がけん銃所持をしていなかった、にもかかわらず、前と後ろの車両にけん銃が発見されて、当然この本人も、こんなものは当然、言葉は要らない、そういう立場であれば、もうこれは共謀は成立しているんだ、こういう判例だと思います。

 この判例がいいのかどうか、私はこれはちょっと行き過ぎだというふうに思いますけれども、しかし、この判例によって、今回の共謀罪の共謀も同じように解釈していくんですかというふうにこの委員会で聞いたら、同じですということでありました。同じですということになると、では、その暴力組織のリーダーがすくっと立ち上がって目くばせをして、時は来た、今だというふうに言ったら、これで共謀は成立するんですかと言ったら、成立する、そういう答弁だったんですね。

 ただ、目くばせで成立するというのは、これは一つの比喩ですけれども、非常に幅広い。では、それをどういうふうに証明するのか。幾つかしかないんですね。一つは、だれかが自首減免を願って、こういうことがありましたと言って何か証拠を持って駆け込むか、あるいは、何らかの手段でそういった会話、会話はありませんね、状況をだれかが記録しているものを提出させるか、あるいはやはり自白だろうというふうに思うんですね。

 こういう中で、そういう構成員の心の中の動きというものを、オーバートアクトというものがついたにしても、目くばせ、行為なき共謀というんですか、言葉なき暗黙の共謀までかけていくのはいささか広過ぎはしないか、いささかどころか、とても問題だと思うんですが、いかがですか。

藤本参考人 お答えいたします。

 今、議員さんが言及されました共謀共同正犯理論でございますけれども、もともとこれは、暴力団のように、後ろで指揮をしておりながら、実際には実行した人だけを処罰してしまったのでは、暴力団を壊滅できませんので、そうした場合に考えられましたのは、一応共謀という事実があれば、一人が眠っていて、一人は現場に行って、一人は見張りをしていて、一人が実行しても、全員を全部処罰しましょうという理屈なんですよ。

 ただ、それはあくまでも刑法の一つの原理でございまして、今問題になっている共謀罪は国際法の中で考えられていることでございますので、少なくとも、内心を処罰するのではなくて、二人以上が特定の犯罪を犯すことを共謀して具体的な危険性が出てくる、現実性が出てくるその合意というもの、このものに対して国際的に対応していこう、そうしないと、起こってからでは、甚大な被害が出てしまっては遅いじゃないかと。だから、みんなで協力して、少なくとも国際犯罪、組織犯罪だけはここできちっと抑えましょうよというのが本来の趣旨ですから、我が国のいわゆる現代の国内法で利用されている共謀共同正犯理論がそのまま、同じ共謀を使っていますけれども、国内法で同じように利用されるということはないだろうと思います。

保坂(展)委員 では藤本参考人、後ほど議事録を読んでいただくと、これは全く概念は同じですというふうに法務省は答弁していますので、共謀共同正犯における共謀、最高裁判決における共謀と今回の共謀罪の共謀の概念は同一でございますという議論からこの議論に発展しているということを申し上げておきたいと思います。

 高橋参考人にまた戻りますけれども、今回、暴力団というような例を今挙げましたけれども、例えば建造物損壊とか威力業務妨害というようなこと、その共謀の成立が例えば会議による、あるいは何かそういう打ち合わせによるものということだけではなくて、非常に幅広いという今の話ですね。つまり、委員長が何も言わずに場の雰囲気をつくり出していたなんというようなことも、その判例の枠で考えればあり得なくはないんですね。もうやるしかないなというような顔をしたということだって成立の条件に加えられてしまう。

 そのあたりについてお考えはあるでしょうか。

高橋参考人 大変危険なことだと思います。

 私も労働組合の委員長をずっとやっておりましたので、今やるしかないなというふうなことを会議で発言したこともございますし、場合によっては中の役員が告げ口をするとかいうことも想定をされますし、そういう非常に広範なものまで取り締まりの対象になるということは大変危険だというふうに認識をしております。

保坂(展)委員 では、櫻井参考人にお聞きします。

 今回、お話の中で、では、私たち、個人情報保護法、これもかなり危惧を感じていましたけれども、今や官庁の名簿ですか、こういうものももう発行できない、個人情報ですからということで、むしろ官が匿名性を主張する道具に使われていったりという面も出てきました。それから、住基ネットですけれども、四情報どころか、あらゆる政府情報に今おっしゃったように組み込まれている。まさにこれはID番号化しつつあるということが、危惧されながら現実に起こっている。国会でこういうふうに議論をしていることと現実に起きることが違い過ぎる。国会では謙抑的、抑制的にやりますよという立法者の意思を語っていたところで、現に起こることは違うという危惧を述べられたと思います。

 そういった点で、櫻井参考人から見て、この法律、私たちはもっと審議を尽くすべきだ、改善できる点は改善していく努力をさらに続けるべきだというふうに考えているんですが、審議が十分国民に伝わっているかどうかという点もあわせてお答えいただけたらと思います。

櫻井参考人 この法律は、三回目に今、提出されて、ようやく初めて審議されているわけですね。一回目は全く審議されずに選挙で廃案になって、二回目はちょっと審議に入って、また選挙になってしまってということで、三回目の今、では審議が尽くされたかというと、まだ尽くされてはいないだろうと私は感じております。

 なぜそういうふうに言うかといいますと、例えば興味を持って勉強してこられた議員の方々は、こんなに我々は一生懸命考えてきたんだとおっしゃるかと思うんですけれども、これは広く国民にかかわってくることであります。その国民レベルで、共謀罪というとほとんどの人がまだ理解をしていない段階だと思いますので、しかも、先ほど来、ここで私も意見を述べながら、ほかの皆さん方の御意見を聞いてみますと、法的解釈についても、恐らく専門家の間でも分かれる面があるんだろうと思うんですね。

 だからこそ、例えばさっき、四年か五年かということについても、私自身はそういったことの前にもっと大きな枠で考えた方がいいという考えがありますけれども、法律をつくるときにはそういったディテールこそが重大になってきますので、その辺についても、国際条約との関連性で何が可能なのか不可能なのかということも含めてきちっと、もっと精査をすることが必要であろうかというふうに思います。

 ただ、そうはいいながらも、こう言うと私の発言がいろいろな色合いを持っているように思われてしまうかもしれないんですけれども、この国連条約に連動する形で日本で法整備をしていくということは大事だと思うんですね。でも、法整備をしたから、では犯罪が防げるかとなれば、それは違いますよ、ここで歯どめをかけたからその歯どめが守られるか、それも違いますよということだけは立法府の皆さん方に認識をしておいていただきたいというふうに思います。

保坂(展)委員 一点だけ藤本参考人に、オーバートアクトと今回の実行に資する行為、アメリカで言うオーバートアクトと大体同じと考えてよろしいでしょうか。それだけで終わります。

藤本参考人 アメリカ全土、五十二の法体系は知りませんけれども、少なくともカリフォルニア州の場合には何らかの行為となっていますので、それは非常にカリフォルニア州の方があいまいでして、まだ与党案の、犯罪の実行に資する行為の方が限定的になっていると思います。

保坂(展)委員 終わります。ありがとうございました。

石原委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をどうもありがとうございました。委員会を代表して、委員長としてごあいさつ申し上げます。

 次回は、明十日水曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時二十九分散会


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