衆議院

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第31号 平成18年6月14日(水曜日)

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平成十八年六月十四日(水曜日)

    午前十時一分開議

 出席委員

   委員長 石原 伸晃君

   理事 倉田 雅年君 理事 棚橋 泰文君

   理事 西川 公也君 理事 早川 忠孝君

   理事 松島みどり君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 漆原 良夫君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    太田 誠一君

      近藤三津枝君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    下村 博文君

      寺田  稔君    平沢 勝栄君

      松浪 健太君    三ッ林隆志君

      水野 賢一君    森山 眞弓君

      矢野 隆司君    保岡 興治君

      柳澤 伯夫君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    枝野 幸男君

      河村たかし君    小宮山泰子君

      高井 美穂君    細川 律夫君

      伊藤  渉君    照屋 寛徳君

      保坂 展人君    滝   実君

      今村 雅弘君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         杉浦 正健君

   法務大臣政務官      三ッ林隆志君

   参考人

   (成城大学名誉教授)   鳥居 淳子君

   参考人

   (日本弁護士連合会国際私法現代化関係及び国際裁判管轄制度に関する検討会議座長)          鈴木五十三君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十四日

 辞任         補欠選任

  近江屋信広君     近藤三津枝君

  太田 誠一君     寺田  稔君

  柳本 卓治君     松浪 健太君

  小宮山泰子君     高井 美穂君

  保坂 展人君     照屋 寛徳君

同日

 辞任         補欠選任

  近藤三津枝君     近江屋信広君

  寺田  稔君     太田 誠一君

  松浪 健太君     柳本 卓治君

  高井 美穂君     小宮山泰子君

  照屋 寛徳君     保坂 展人君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 連合審査会開会に関する件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 法の適用に関する通則法案(内閣提出第四三号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――

石原委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、法の適用に関する通則法案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として成城大学名誉教授鳥居淳子君、日本弁護士連合会国際私法現代化関係及び国際裁判管轄制度に関する検討会議座長鈴木五十三君の両名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、鳥居参考人、鈴木参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願い申し上げます。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願いたいと思います。

 それでは、まず鳥居参考人、よろしくお願いいたします。

鳥居参考人 ただいま御紹介いただきました鳥居でございます。

 私は、法制審議会国際私法(現代化関係)部会に委員として審議に参加してまいりました。

 本日は、法の適用に関する通則法案につきまして意見を申し述べる機会をいただき、大変ありがたく存じております。

 法案の内容に入ります前に、まず、今回の法案が作成されるに至った背景をごく簡単にお話しいたしたいと思います。

 御承知のように、法例は、国際的な私法的法律関係に適用すべき法を定める国際私法の基本法でございます。国際私法は、諸国の民法、商法などが異なっていることを前提にいたしまして、問題となっている法律関係に最もふさわしい国または地域の法を選んでこれを準拠法とすることによって、国際的な私法交通の円滑と安全を図るという役割を担っております。

 法例は、今から約百年余り前の明治三十一年に制定されました。制定当時の法例は、世界的に見ても大変すぐれた立法として評価されておりました。制定後、平成元年に、婚姻及び親子に関する部分についての改正が行われましたが、本格的な全面的な見直しは行われていないままに過ぎております。

 これに対しまして、諸外国、特にヨーロッパ諸国では、科学技術の発達、社会経済状況の変化などに対応すべく、近年、国際私法の改正を次々に行っております。

 さて、国際的な私法交通の円滑と安全のために、国際的な私法的法律関係については、それがどこの国で問題となっても適用される準拠法、適用される法律のことを準拠法といいますが、準拠法が同一であることが望ましいことは言うまでもありません。そのためには、国際私法の統一が必要でございます。そして、統一のための努力は続けられておりますが、現段階においてはまだ十分とは言えません。したがって、国際的私法的法律関係の規律の大部分は、依然として、各国が独自に定める国内法としての国際私法によって行われております。この現状のもとで、国際私法の目的とする国際的私法交通の円滑と安全をできるだけ確保するためには、我が国の国際私法と諸外国の立法例との調和を図ることが必要でございます。

 そこで、諸外国の動向を踏まえ、我が国をめぐる社会経済情勢の変化に対応するため、法例を見直すべきであるとの機運が高まってまいりました。

 平成十三年三月三十日に閣議決定されました規制改革推進三カ年計画では、債権流動化の基盤整備を進める観点から、法例十二条の定める債権譲渡の第三者対抗要件の準拠法について見直しが求められ、さらに、平成十六年三月十九日に閣議決定された規制改革・民間開放推進三カ年計画においては、法例十二条の見直しを含めた、法例中の国際私法規定の全般的見直しについて検討が求められました。そして、それとともに、お手元の法例をごらんになるとおわかりになりますように、法例は片仮名文語体で書かれております。この片仮名文語体の表記を、国民にわかりやすいものとするため、平仮名口語体に改める必要があるとの指摘がされております。

 このような背景のもとに、平成十五年二月五日に、法務大臣から法制審議会に対しまして、法例の現代化を図る上で留意すべき事項について御意見を賜りたいとの諮問が出されました。この諮問を受けて、法制審議会に国際私法(現代化関係)部会が設置され、同部会で活発な審議がなされ、その結果決定されました国際私法の現代化に関する要綱案が平成十七年九月六日の法制審議会で採択され、同日、法務大臣に答申されました。法の適用に関する通則法案は、この要綱に基づいて立案されたものでございます。

 では、法案の内容に入りたいと思います。

 法案は法例の全面的改正を目指すものでございますので、平成元年に改正された部分及び同改正では対象となっていない部分、物権、相続、遺言などでございますが、それについても審議会では検討されましたが、検討の結果、おおむね現行法を基本的に維持するという態度がとられております。

 そこで、時間の関係もございますので、ここでは、法例の規定の内容を実質的に変更しているもののうちから、行為能力、法律行為、不法行為及び債権譲渡について述べてみたいと思います。

 お手元の法の適用に関する通則法案、以下、法案と呼ばせていただきますが、この法案と法例をお比べになりながらお聞きいただければ幸いでございます。

 まず第一点は行為能力についてでございまして、これは三条に規定がございます。

 三条の一項の方も少し文言の変更がございましたが、肝心なのは三条二項の規定でございます。この三条二項は、自国での取引の保護を図った規定でございますので、内国取引保護に関する規定と呼ばれております。しかし、これは、自国中心と言っていい規定でございますので、内外国法を平等に扱うという国際私法の理念に反するという批判がございました。そこで、法案の四条二項は、行為地が日本であろうと外国であろうと、それにかかわらず、行為地における取引の保護を図るという規定になっております。お比べいただければと思います。

 第二点は法律行為についてでございますが、これには重要な幾つかの変更が含まれております。

 ちょっと飛びますが、法案七条では、現行法例七条同様、当事者に準拠法の選択を認めております。審議会では、この点に異論はございませんでした。

 当事者による準拠法の選択がない場合には、批判のある法例七条二項の行為地法主義を改めまして、法案の八条は、契約と最も密接な関係がある地、今後最密接関係地と申しますが、この最密接関係地の法を準拠法とすることにしています。

 しかし、この最密接関係地法を個別的に探求するのは大変困難でございますので、法案八条の二項で、この場合には特徴的給付の理論に基づいて、ちょっと耳なれない言葉かと思いますが、契約に特徴的な給付をすべき者の常居所地の法、これを当該法律行為について最も密接な関係がある地の法と推定しております。

 今申しました特徴的給付というのは、ある契約類型を他の契約類型から区別する基準となる給付のことでございます。例えば、売買契約では、買い主の代金支払い義務は他の契約一般にも見られますので特徴的給付ではなく、売り主の物の引き渡し義務が特徴的給付となります。もっとも、不動産を目的とする法律行為につきましては、この特徴的給付の理論にはよらないで、その不動産の所在地法を当該法律行為の最密接関係地法と推定しております。

 さて、このように当事者に準拠法の選択を許すことにいたしますと、契約の当事者間に力関係において差があります場合には、力の強い者に有利な法が選ばれてしまうということが生じます。現行の法例には、この点についての手当てはございません。そこで、弱者保護の観点から、法案には、消費者契約における消費者保護及び労働契約における労働者保護に関して特則が設けられております。

 まず、消費者契約につきましては、消費者にとって最も身近な法であって、なじみの深い法は、消費者の常居所地の法であります。そこで、消費者の常居所地の法が消費者に与えている保護を消費者が受けることができるようにという考えから、法案では、消費者契約の成立及び効力並びに方式の準拠法について特則を設けまして、その第十一条で、たとえ消費者の常居所地法ではない法が消費者契約の準拠法として選択されたとしても、消費者は、その常居所地法が消費者保護について定めている強行法規の適用を主張することができることとし、準拠法の選択がない場合には、消費者の常居所地法によることにしております。

 しかし、この消費者保護の規定には次のような例外がございます。つまり、これは、原則に対する例外である消費者保護規定にさらに例外を設けているわけでございます。この場合の例外は、いわゆる能動的消費者と言われる消費者、つまり、自分の意思で国境を越えて事業者の事業所の所在地で契約を締結したり、履行のすべてを事業所の所在地で受けるような消費者のことでございますが、このような能動的消費者が締結する消費者契約には消費者保護規定を適用しないということを法案の第十一条の六項は定めております。このような消費者にも常居所地法上の保護が与えられるということになりますと、国内でのみ事業を行っているような事業者までが、国外からやってくる個々の消費者の常居所地法の適用を想定しなければならないということで、事業者にとって酷であると考えられるからであります。

 ただし、このような場合でも、事業者が消費者の常居所地に向けて熱心に勧誘をしたような結果、契約の締結や契約のすべての履行が事業者の事業所の所在地で行われたような場合には、その原因が事業者にあることから、この場合の消費者は消費者保護規定の適用の対象としております。ちょっとややこしいところでございますが、そういうことになっております。

 次に、労働契約の準拠法についてでございますが、労働契約については第十二条で、準拠法の選択がある場合であっても、労働者は、労働契約の最密接関係地法の中の強行規定の適用を主張することができることが定められております。そして、準拠法の選択のない場合も、特徴的給付の理論に基づく最密接関係地法の推定を行わず、この推定を行いますと労働者の常居所地法ということになってしまいますが、労働者の常居所地法は必ずしも労働契約と密接な関係を有するとは限りませんので、労務給付地をこの最密接関係地法と推定することにしております。

 第三点目は、不法行為についてでございます。

 不法行為につきましては、加害行為地と結果が発生した地が異なった国であるような不法行為、これを隔地的不法行為と呼んでおりますが、この隔地的不法行為のような場合には、法例十一条一項が規定する「原因タル事実」の発生地が加害行為地なのか結果発生地なのか明らかでないため、解釈上争いがございます。法案の第十七条では、不法行為の制度を損害補てんに重点を置くものとして、原則として結果発生地法によるということにして、この点を明らかにしております。

 しかし、すべての場合に結果発生地法を準拠法といたしますと、加害者側には全く予想もつかなかった場所の法が準拠法となる場合が出てまいります。そこで、その地における侵害結果の発生が通常予見できないものであった場合には加害地の法によるということにしております。

 なお、ここは問題の箇所ではございますが、法例十一条二項及び三項の規定がございますが、これは特別留保条項と言われているものでございまして、学説上は過度に内国法を優先しているとして批判されており、審議会でも実は議論が分かれたところでございます。しかし、現在、実務的に機能しているということを重視いたしまして、最終的にはそのまま残すことになりました。二十二条に規定されていると思います。

 次に、個別的な不法行為に関する特則についてお話ししたいと思います。

 今述べました不法行為の準拠法についての一般原則に対しましては、法案では、特定の不法行為につきまして、法例には特別に規定のない特則を設けております。その一は、生産物責任に関するものでございまして、二番目は、名誉または信用の毀損に関するものでございます。

 まず、生産物責任。これは十八条でございますが、生産物は、その性質上、生産者の意図とは関係なく、世界じゅうに転々流通する可能性を持っております。そのことから、法案の第十七条本文の規定する損害、要するにこれは原則でございますが、その原則が規定する損害の結果発生地が非常に広範に広がるという可能性がございます。また、これが偶然的に決まる場合というのも出てまいります。そういたしますと、加害者にとっても被害者にとっても思いがけない地の法が準拠法となる可能性がございます。

 そこで、先ほど言いましたように、法案の第十八条は、生産物責任の準拠法を被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法としております。市場地は生産者と被害者との接点でありますから、双方に中立的で双方に密接な関係がある地であるという考えでございます。しかし、市場地という概念は、生産業者が最初に生産物を流通に置いた地、すなわち生産物供給地を意味するのか、被害者が生産物の引き渡しを受けた生産物引き渡し地を意味するかなどが必ずしも明らかでございませんので、法案第十八条では、被害者保護の観点から、市場地の具体的な内容を被害者が引き渡しを受けた地としております。

 しかし、生産業者にとっては引き渡し地が全く想定できないというような場合が出てまいりますので、法案の第十八条は、その地における被害者による生産物の取得が通常予見できないものであった場合には、生産業者の主たる事業所の所在地によることとして、両者間の衡平を図っております。

 二番目の特則は、名誉または信用の毀損についての特則でございます。

 名誉または信用に基づく不法行為は、侵害される法益が形がないもの、無形のものでございますので、名誉を毀損する情報が複数の国に伝播したような場合には、いずれの地が結果発生地かを確定することは困難でございます。そこで、法案の第十九条では、不法行為の特則として、この場合は被害者の常居所地法を準拠法とすることにしております。

 時間が余りないようでございますので、最後に申し上げなくてはならないのは、債権譲渡に関する法例十二条に関するものでございますが、これは、債権譲渡の第三者に対する効力を債務者の住所地法によらせている法例の規定に対してさまざまな批判がございました。そこで、審議会では、さまざまな議論をした上で、実務界から、集合債権の譲渡や将来債権の譲渡のニーズは現時点では余り大きくないという意見がございまして、結局、譲渡対象債権、譲渡される債権の準拠法説の支持が多かったところから、法案二十三条では、債権譲渡の債務者その他の第三者に対する効力の準拠法を譲渡される債権の準拠法とすることになっております。

 ちょっとはしょって申しわけございませんが、法案の内容を大変概括的にお話しさせていただきました。私は、審議会に委員として参加しておりまして、さまざまな議論をつぶさに聞いておりまして、この法案の内容はおおむね妥当であるというように考えております。

 どうもありがとうございました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 次に、鈴木参考人にお願いいたします。

鈴木参考人 私は、日弁連の国際私法の現代化関係及び国際裁判管轄制度に関する検討会の座長をしております、弁護士の鈴木五十三です。

 本日は、法の適用に関する通則法案につきまして、本会に招致されまして、参考人として意見を述べさせていただく機会を持たせていただいたこと、本当に光栄でございます。

 日弁連は、この通則法案につきましては、昨年の五月二十三日に「国際私法の現代化に関する要綱中間試案についての意見」というものを提出いたしまして、そこで一応、日弁連としてのこの法例改正に関する基本的な考え方をまとめております。

 大きく分けて三つの基本的考え方を表明いたしましたが、一つ、この段階での改正の必要性についてでございます。

 これにつきましては、現行法例は、明治三十一年、今から百年以上前に制定されたものであります。制定当時と比べますと、今日は、社会現象とそこから発生します紛争類型は多様化し、複雑化しましたし、中でも国際的要素を含む法律関係につきましては、事実関係を対象とする国際私法についてその現代化を図る必要性を迫っているのが実情だと思います。したがいまして、こうした事態を背景にしまして、現行法例の現代化を図るということについては賛成でございます。

 その上で、改正に当たりましての日弁連の立場でございますが、先ほども御説明がありましたように、国際私法そのものは、特定の法的な効果を実現するための実質法ではありませんで、特定の法的効果を実現するための実質法をどのように指定するかということを定めた、いわば間接的な法律であります。したがいまして、国際私法の解釈適用に当たりましては、現実に生起するさまざまな国際的法律問題の前提の問題であるという認識のもとで行わなければならないと思います。この前提問題そのものにつきまして、なるべく争いが生じない、なるべく紛争が予防されるという観点から検討するのが望ましいというふうに考えてまいりました。

 したがいまして、日弁連といたしましては、実務において現在の法例の各規定についてその加除修正を要するという現実的な必要性が生じているかどうか、あるいは、加除修正を要する箇所については、新たな規定内容が簡潔で客観的に明快であるかどうか、解釈運用上の論争の余地をできる限り排除し得るものとなっているかどうか、こういう観点を主眼といたしまして検討を行いました。

 その結果、一応意見書として取りまとめさせていただいたわけですが、なお、日弁連の内部には、国際私法につきましては一定の保護法益に関する機能を強調すべきという立場の意見もございます。もう少し進歩的な改正を行い、あるいは個別の法益の実現に向けた詳細な規定を置くべきであるという意見もございましたので、このような意見につきましては意見書に併記させていただいております。

 日弁連といたしましては、この法案全体についての評価をまず先に述べさせていただきます。この法案につきましては、後ほど、日弁連の意見と食い違う幾つかの点を除きまして、大宗におきまして日弁連の意見の見解と整合しているというふうに評価しております。したがいまして、大宗として、日弁連意見から見て問題のない法案であると考えております。

 以下、契約準拠法の見直し、消費者保護などの特例、不法行為に関する準拠法の見直し、それから債権譲渡に関する準拠法の見直しという各論点ごとに御説明させていただきます。

 まず、契約準拠法の見直しについてでございます。

 現行法例の七条一項は、契約準拠法につきましては当事者により選択された準拠法によるということにしているわけですが、当事者が準拠法を選択しない場合には、七条の二項によって、行為地法を準拠法としています。法案は、七条において、当事者による準拠法の選択を維持しつつ、かかる選択がない場合には八条において、最密接関連地法によるというふうに改めておりまして、契約におきましてこれを特徴づける給付がある場合には給付者の常居所地法、あるいは不動産については不動産所在地法を最密接関連地法と推定するということになっております。

 今回のこの法案の改正は、今日の契約類型の多様化、現代化、特に国際取引における契約の内容と行為地との関連性の希薄化ということに照らしますと、これらに適用される法として、契約に最も密接な関連を有する地の法を準拠法とするということについて、実務的な違和感はありません。また、特徴的な給付につきまして、この推定をするということも、反証を許さないものではありませんので、実務的に受け入れ得るものというふうに考えております。

 次に、消費者保護の特例について意見を述べさせていただきます。

 消費者契約の特例につきましては、消費者契約そのものが、いわば事業者との力関係や約款の使用によりまして、消費者にとっては一方的に不利益な準拠法の選択が行われる可能性があります。消費者契約の準拠法につきまして一定の消費者保護規定を置く立法例も見られるところでありますので、消費者保護については、密接な関連地の強行法規である消費者保護法をいわゆる絶対的な強行法規、必ず適用される強行法規として、合意された準拠法のいかんにかかわらず適用すべきであるという立場もあります。

 しかし、これにつきましては、絶対的強行法規の概念につきまして、一般にその存在を認められてはいるものの、具体的にどのような内容になるのかということは、必ずしも一義的には明らかではありません。また、消費者契約の場合には、密接関連地の消費者保護法の適用の有無が類型的に問題となり得るものにつきましては、あらかじめその範囲や適用要件を明確にしておくことが望ましいというふうに考えます。

 他方で、いわゆる優遇原則、すなわち、裁判所が当事者の法的主張を待たずに、合意された準拠法と消費者の常居所地法との間の、それぞれの争点ごとに消費者に有利な方を適用するという考え方も有力に主張されています。日弁連意見書に併記しました日弁連内の消費者問題対策委員会は、この主張を提言としています。

 しかし、日本の裁判実務を前提にしました場合、あらゆる争点についてそれぞれの準拠法における要件効果をすべて比較するということの実務上の負担は、裁判所にとって重いだけじゃなくて、消費者を含む当事者にとっても過重なものになるおそれがあると言えます。したがって、その結果、手続の遅延や複雑化も招きかねず、場合によってはそれが消費者に有利とも言い切れません。そこで、消費者が法的効果を主張した特定の争点について、消費者の常居所地法である強行法規を適用するという考え方が妥当であるというのが日弁連の考え方であります。本法案の十一条一項は、この意見と整合しております。

 次に、このような消費者保護規定を置く場合ですが、自分の意思で外国へわざわざ出かけていって、そこで契約を締結したり、あるいはその外国で履行の全部を受けたような場合、いわゆる能動的消費者につきまして例外を認めるということにつきましては、事業者と消費者のバランスをとる意味でも合理的であります。また、本法案十一条六項は日弁連の意見書と整合しているというふうに考えております。

 労働契約の特例について説明させていただきます。

 労働契約につきましても、日弁連の意見書では、労働者保護の立場から、労働契約について当事者による準拠法選択がなされた場合でも、その契約成立、効力に関して労働者が当該契約に最も密接に関連する地の法律の強行規定に基づく特定の効果を主張したときは、当該主張に係る強行法規が適用されるものとし、最も密接に関連する地の法律として労務供給地の法律が推定されるとしております。これも、本法案十二条はこれと整合しておりますので支持したいと思います。

 不法行為に関する準拠法の見直しにつきましては、不法行為の原則的連結として、加害行為の結果が発生した地の法によるとしております。これも日弁連意見と同じであります。また、例外といたしまして、その結果の発生が通常予見することのできないときは加害行為地であるというふうに書いておりますが、これは、むしろ日弁連提言が受け入れられたものとして評価させていただければというふうに思います。

 生産物責任の特例につきましては、被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法によるということで定められております。この場合に、必ずしも被害者は生産物を引き渡した場合に限りませんので、その場合の手当てをどうするかという問題は残るというふうに思います。

 名誉、信用毀損の特例でございますが、名誉、信用毀損に関する準拠法につきましては、本法案は、被害者の常居所地法によるというふうにしております。日弁連としましては特段の規定は設けないという意見でございましたが、その意見では、報道の自由という観点から、発信者の方の保護を考慮しなければならないという観点を考慮したものであります。

 次に、不法行為に関しましては特別留保条項の問題があります。日弁連意見書では、成立、効力に関する二十二条一項の制定には反対いたしました。簡単に言いますと、結果発生地法によって無過失責任が認められる場合でも、日本で裁判をするときには日本法によって過失責任によらなければならないというふうな結果になるわけで、これが必ずしもそぐわないということが理由でございます。

 他方、損害賠償の方法、範囲につきましては、二十二条二項でその排除を規定しておりますが、これは、懲罰的損害賠償あるいは三倍賠償について排除することを念頭に置きますと、日弁連としては、この二十二条二項の法案につきましては問題ないというふうに判断しております。

 最後に、債権譲渡に関する準拠法の見直しですが、債権譲渡の第三者に対する効力につきまして、現行法例十二条は債務者住所地法としております。日弁連意見は、これにつきまして譲渡対象債権の準拠法によるというふうに考えておりましたが、本法案はこれも採用したものであり、評価されると思います。

 以上、簡単でございますが、意見を述べさせていただきました。(拍手)

石原委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 本日は、参考人の先生方、貴重なお時間を割いていただきまして、本当にありがとうございました。

 なかなかなじみの薄い国際私法の問題についてなんですけれども、まず、両参考人、特に鈴木先生にお伺いしたいのは、こうした領域の法律が必要になるのは、特に取引法について、やはり先進国同士で不整合な部分があるということが大きな要因になってくると思うんですが、この特に取引法の部分について、先進国間での統一の動きをもっと促進すべきではないかという意見があるかと思います。そうした意見について、何か日弁連として取り組まれているのでしょうか。

鈴木参考人 おっしゃるところは、取引に関する実質法の統一という問題であるかと思います。

 この実質法の統一の問題につきましては、個々の実質法の分野におきまして統一化の動きがあると思いますが、現状で、日弁連として正面から取り組んでいる現状にはございません。実際の国際私法の改正問題の取り扱いにつきましては、むしろ、まだ統一が進んでいない、あるいは、現状では統一できていない分野についてどのような処理をするかということを中心に検討しております。

柴山委員 ありがとうございます。

 それでは、法案の中身について具体的にお伺いしていきたいと思います。

 今回、日弁連の方から、特に消費者契約ですとかあるいは労働契約ですとか、弱者保護の問題については大変な御関心をお持ちだったと伺っております。特に消費者を対象とした不法行為について、より消費者に有効な形での準拠法を選択できないかというお取り組みがなされたところも評価をさせていただきたいんですけれども、その一方で、労働契約に関しては、これは割とすんなりと、労務提供地を労働契約に最も密接に関係する地の法という形で推定をなさっているというか、そういう法案になっております。

 EUでもそういった定めがなされているということは伺っているんですが、ただ、それですと、労務提供地を労働者保護が少ないところにあえて持っていって、それで働かせるというようなことも当然考えられるわけでして、消費者のところで日弁連さんが御提案されたように、例えば労働者の常居地、さまざまなフォーラムの中から、労務者に一番有利なものを選択する自由を認めるべきではないかという主張も恐らく考えられるところではないかと思うんですが、これについて日弁連の御意見はどうなんでしょうか。

鈴木参考人 日弁連としまして、労務提供地をもちまして最密接関連地と推定するということに賛同いたしましたのは、労働者自身が日常的に業務を通じまして服さなければいけないさまざまな取り決め、それはやはり労務提供地が中心になるだろうということでございます。

 例えば、日本の労働者が日本におきまして外国の企業との間で労務契約を締結して、準拠法が外国法になるというような場合もあるかと思いますが、その場合でも労務提供地である日本の保護を受けるということを念頭に置いております。

柴山委員 ありがとうございます。

 それでは、一般の法律行為につきましての準拠法の選択についてお伺いしたいと思います。

 今回、非常に大きな考え方の変更があったわけでして、いわゆる行為地法では、鈴木先生が論文で書かれている例えばFOB契約ですとか、あるいは最近問題となっているインターネットの契約とか、必ずしも行為地が明確でないというような事例がありましたので、これを契約に密接に関係する地という形に変えているわけですね。ところが、これはこれでやはり非常に適用に難しい問題が出てくる部分もあるんじゃないかということで、以下、ちょっと具体的に事例を挙げて質問させていただきます。

 先ほど鳥居先生の方から御説明のあった、例えば売買契約。売買契約の場合は、物の給付を行うということが特徴的な給付だよというのはわかるんですけれども、例えば消費貸借契約ですね、お金を貸します、借りますと。日本の法制では、お金を貸すというところは契約の内容になっていないんですね。これは要物契約として契約の成立要件にはなっていますけれども、あくまでも、債権債務の関係としては、貸した後のお金を返すというところが債務の内容となっているわけです。そうなると、日本の法律では、お金を借りた人が一方的に貸し主に対してお金を返さなければいけないということが債務の内容になっているわけですね。

 そうなると、給付というのは、お金を借りた方が貸した方に対してこれを渡さなければいけない、返さなければいけない。だから、これが特徴的な給付になるのかということですね。あるいは、準消費貸借契約という類型があります。これは、例えば売買契約によって、代金債務を貸し金債務に切りかえるというような場合ですね。こうした場合に、果たして特徴的な給付というのは一体どういう考え方をすればいいんだろうかということについて、鳥居先生、ぜひ伺いたいと思います。

鳥居参考人 実は、この特徴的給付というのは大変難しいところがございまして、今、質問者の方が言われましたような問題点はございます。したがいまして、特徴的な給付があると言える場合についてはこの推定を行うことになるわけでございますので、それが非常に不明確であるという場合には推定は働かない。推定でございますから、反証ができるということでございます。

柴山委員 鈴木先生から、もし今の事例について何か補足されることがあれば。

鈴木参考人 不明確な点につきましては、判例法の集積であるとかによってこれから明らかにされていくと思いますが、今の御質問の例でいきますと、消費貸借契約自体の弁済は金銭の弁済にすぎないということで特徴性がないんじゃないかというのもありますけれども、恐らく締結された時点で、例えば債務者の資産であるとか債務者の責任財産の状態であるとか、そういったその時点における最も密接に関連する場所というのは比較的容易に見出せるのではないだろうかと思います。

 従前の場合ですと、それを行為地という概念でやっておりましたので必ずしも明確ではなかったということでありまして、今回の法律である密接関連地という概念の方がより便宜にかなっているのではないだろうかと思います。

柴山委員 ちょっと事前にいろいろと勉強させていただいた範囲では、むしろ逆に、例えばお金を貸すという契約の場合は、貸し主、要するに債権者ですね、債権者の貸す行為自体を何か特徴的な給付と考える考え方もあるというように聞いておりますので、このあたり、本当に基本的な類型の契約なわけですから、混乱が起きないような形で今後運用がされ、また解釈が積み重ねられていくことが必要なのではないかというように感じております。

 次の質問に移らせていただきます。

 先ほど鈴木先生の方からも御指摘くださった不法行為、特に生産物の引き渡しの不法行為についてなんですけれども、これについて、特に鳥居先生の方にお伺いします。

 被害者が生産物の引き渡しを受けたということの認定が、例えば、被害者の方が第三国で、全く被害者に本来縁もゆかりもないような地で引き渡しを受けて、それを自分の国に持って帰って使う。そして、自分の国で、例えばとんでもない製造物の欠陥によってけがをしたというような場合に、本当に、たまたま購入した第三国、縁もゆかりもない国の法律で、これを日本の裁判所なりが判断するということが妥当なのかどうか。具体的に予見可能性の縛りももちろんあるとは思うんですけれども、こうした原則についての妥当性について、もう少し突っ込んで御説明をいただければと思います。

鳥居参考人 今おっしゃいましたようなことが起こるわけでございます。したがいまして、例えば、全く思いもかけない、要するに、ある国で、男性の方でしたらひげそりの機械をお買いになって、それをまた旅行によって全然別の国で使っているときに故障が起きてけがをした、そういうような場合というのは当然考えられるわけでございます。

 けれども、これはやはり想定できないということでございますので、一応は、そこにございますように、まだ法案の内容が頭の中に何条と入っておりませんのでもう一度見させていただきますが、生産物責任につきましては常にそういう問題が起きるということは考えられていることでございますので、予見できない場合には、通常予見できないものだということになりまして、生産物の引き渡しということについて法案の十八条はそのように申しておりますけれども、この場合にはやはり事業所の所在地の法になるということが出てくるのではないかと思います。

柴山委員 そろそろ時間がなくなってくるんですけれども、ただ、今最後に鳥居先生がおっしゃったように、結局、わけがわからないようなところで引き渡しがされてしまったような場合には、その場合は生産者の主たる事業所の所在地の法律で定めることになっているわけでして、これが本当に被害者の保護という観点から妥当性を持つのかどうかということについて鈴木先生にお伺いします。

 あと債権譲渡で、先ほど鳥居先生の方から、集合債権譲渡等のニーズがそんなに大きくないんじゃないかという御指摘がありました。債権自体が一体となって譲渡される場合に、債権それぞれの準拠法が違うような場合には、やはり譲り渡し人の例えば居住地、常居地等をフォーラムとするようなことも考えられてしかるべきではなかったのかと思うのです。

 以上二点について、鈴木先生、御意見があればお願いします。

鈴木参考人 まず、先ほどの生産物の引き渡し地の問題でございますが、例外としまして、通常予見することができない場合には、生産業者等の主たる事業所の所在地法になる。それでもだめな場合、それでも不都合のある場合というのが、恐らく、明らかにより密接な関係がある地がある場合というふうに考えるのがいいかと思います。

 例えば、今、外国の生産しましたエスカレーターが日本で生産物のゆえに事故を起こしたという場合を考えたらよろしいと思うんですが、このような場合には、事故に遭った人は決してエスカレーターの引き渡しを受けているわけではございません。そうしますと、一体どこがより密接な関係がある地かというふうに考えますと、恐らくおのずと答えが出てくると思います。

 それからもう一つ、債権譲渡の準拠法に関する御指摘でございますが、おっしゃられましたように、恐らく集合債権譲渡の場合のことも想定した上で、譲り渡し人の常居所地を一つの準拠法としてどうだろうかという意見もありました。ただ、集合債権譲渡の場合に、全部譲渡人を同じくする場合とは限りませんで、それぞれの債務者がまた異なっておりますので、譲渡債権そのものの準拠法というのは必ずチェックしなければいけないということで、いろいろ考えました結果、日弁連としては、実務的にこれが簡便であろうというふうに考えたわけでございます。

柴山委員 本当は、この後、身分法について鳥居先生に詳しくお聞きしたかったんですけれども、大変残念なんですが、持ち時間が終了してしまいました。すばらしい法律の改正の内容だと思いますので、しっかりと支えていきたいと思っております。

 どうもありがとうございました。

石原委員長 次に、石関貴史君。

石関委員 民主党の石関貴史です。

 両先生におかれましては、大変お忙しい中をおいでいただきまして、本当にありがとうございます。

 先ほど、るる御意見をいただきましたけれども、まず、この法例という名称の変更について、先生方お二人にそれぞれお尋ねをしたいと思います。

 先ほどの御意見の中でもありましたし、明治三十一年以来、百年以上続いてきた法律であるということであります。今回の改正で、法の適用に関する通則法、こういった名称になるということでありますが、ある意味、こういった非常に歴史のある伝統的な法律の名称を変えるということについては、先生方におかれましても、いろいろな感慨ですとか御意見を特にお持ちではないかなというふうに思います。

 今回の改正に当たって、法例の名前を残した方がいいのではないか、こういった意見が出されたというふうにも聞いております。また、特にこの法例の一条と二条、一条については法律の施行時期であり、二条については慣習の効力についてという部分と、三条以下については全く性格が違う、こういった構成になっているわけであります。三条以下をまとめて国際私法とすべきだという意見があったというふうにも聞いておりますが、この点についても、特に先生方、どのように御意見をお持ちでしょうか。お尋ねをいたします。

鳥居参考人 法例という名称でございますが、もう既に御承知かと思いますけれども、これは、もともとは古く、西暦三世紀から五世紀の中国に存在した晋という国において、法例律という言葉が法律適用の通則、原則という言葉で用いられていたのがその起源だと言われております。多分、御承知かと思います。

 日本では、明治十三年の刑法の総則の中で初めて法例の語が用いられました。二十三年に、一般の法律の適用に関する通則を定めるために制定された法律を法例と称したわけでございます。明治二十三年の法例というのは、旧民法と一緒に制定されなかったのでありますけれども、これを受け継ぎまして、明治三十一年の現在の法例も法例という言葉を使っているわけでございます。今御指摘のように、第一条は法律の施行時期について、第二条は慣習法の効力について定めておりまして、第三条以下が国際私法の規定でございます。

 この法例という言葉は、別にこの法例だけではなくて、明治三十二年の商法の総則の中でも通則の意味で用いられておりましたし、それから、刑法の中でも用いられておりました。しかし、この刑法中の法例は平成七年の刑法改正の際に、商法の方の法例は昨年の商法改正の際に、どちらも通則に改められております。

 そこで、この法例という言葉は確かになじみ深く、私どもも大変親近感を持っておりまして、これがなくなるというのは残念とは思いますけれども、一般の人々には非常にわかりにくいということがございます。そこで、これを口語的に直しますと、もともとの由来からいって、法の適用に関する通則ということになるのではないか。しかも、現在の法例の一条と二条がそのまま残っておりますので、そういうことになるのかなと。

 ただし、これは審議会で審議したことではございませんので、このようにお答えしていいのかどうか、私には自信がございませんが、一応そういうことではないかと思っております。

鈴木参考人 この点につきましては、日弁連内部で十分な議論が尽くされているわけではございませんので、私の意見を述べさせていただきます。

 従来、法例という言葉に対しては大変な感慨がございますし、今述べていただいた歴史もございますので、容易に変えるということにつきましては、すぐにがえんじがたい経過もございました。

 ただ、実は、その法例という言葉を外国に説明する場合に、例えばロー・コンサーニング・ザ・アプリケーション・オブ・ローというふうに翻訳していたこともございまして、今回の法の適用に関する通則法というのをそのまま訳して十分にわかりやすい表題であると思いますので、実務的には違和感はないというふうに御理解いただければと思います。

石関委員 それでは、鈴木先生にお伺いをいたします。

 今、実務的という部分がありましたが、今回の法例の改正によって、実務面で大きく変わるということになるんでしょうか。いかがでしょうか。

鈴木参考人 確かに今回の改正は、現行の法例を全部改めまして、御指摘のような、題名も改めるという非常に大規模なものでした。しかし、現在の国際私法を適用して行われている実務から見ますと、必ずしも根本的な変更をもたらすものではないというふうに考えています。

 日弁連の意見書でも、実務的に加除修正の現実的な必要性がある部分についてコメントしたいというふうに述べておりましたように、ここで言う現実的な必要性というのは、現在、判例法あるいは実務慣行によってある程度一般化しつつある法理があるわけですが、その法理が現行法例の文言に適用させるということの必要性も意味しております。この観点から、実務的に修正が必要であるという面について改正が主に行われたというふうに考えておりますので、実務の根本的な変革ということはないと思います。

 したがいまして、本法案自体は、国際私法の実務の流れを尊重して、これに混乱をもたらすことなくその現代化を図っているというふうに評価できると思います。

石関委員 引き続き、鈴木先生にお尋ねをしたいと思います。

 この法改正によって不法行為の準拠法が見直されることになった、このことに関して、特にわかりやすく事例を挙げて実務的な御説明をいただければと思います。名誉毀損の事例については後ほどまたお尋ねをしたいと思いますので、それ以外の部分でわかりやすく御説明いただければと思います。

鈴木参考人 先ほど、途中までお話しさせていただきましたが、例えばヨーロッパのある国で製造されたエスカレーターがあるとします。そのエスカレーターが日本に輸出されまして、日本のデパートに設置された、そのエスカレーターに乗った子供がそれによって事故を起こされたという事案を考えてみたいと思います。

 この場合には、子供とエスカレーターの製造メーカーとの間には契約関係がございませんので、まず不法行為というものの成立が考えられることになります。メーカーは外国の会社であり、子供は日本人でございますので、国際的な事件でございます。

 今回の改正されました法案によりますと、結果発生地法ということでございますので、日本法が適用になるというふうに言えると思います。ただ、このエスカレーターが日本に輸出されることを知らなかった、とても日本向けの輸出品ではなかったという場合には、日本に行くことを予測していなかったということでございますので、加害者であるエスカレーター製造国の法律が適用になるというふうに考えております。

 その意味では、これまで不法行為につきましては、原因事実発生地ということで大きな解釈論争がありまして、個々の事件ごとに何回も何回も膨大な解釈論争をしていなければいけなかったんですが、今回の改正によりまして、まず原則が決まりまして、例外も決まりましたので、そういう意味では争点が簡便化したというふうに言えるのではないかと思います。

石関委員 それでは、引き続き鈴木先生にお尋ねをしますが、特に名誉毀損の関係についてお尋ねします。

 先ほど、名誉、信用毀損の特例ということで御意見もいただきました。報道の自由という観点からの考慮も必要であるということで御意見をちょうだいいたしましたが、特にこの名誉毀損の事例について御意見をいただければと思います。

鈴木参考人 これは私が取り扱った事例でございますが、ある日本の出版社が日本語で月刊誌を編集して出版しておりました。その一部が外国に渡りまして、アメリカで、その記事によって名誉を毀損されたという被害者が出てまいりました。そして、日本の裁判所で、どこの法律が適用になるのかということが論争になったわけです。

 今回の法案では、被害者の常居所地ということになっておりますので、日本語で主に日本で出版された場合であっても、被害者が外国に住んでいれば、そこの法律によって名誉毀損の成否が判断されるということになります。

 ただ、出版の自由といいますか、報道の自由の観点からいうと、ある場合には、その出版の地の法律によって認められるところまでで名誉毀損の成立を限定すべきだという考え方もあるかと思いますので、日弁連の意見としましては、この点についてはあえて新しい特例を設ける必要がないという意見でございました。

石関委員 同じ名誉毀損の関係で、鳥居先生にお尋ねをしたいと思います。

 審議会の中で、モザイク理論というんでしょうか、個別の侵害結果の発生地ごとにその地の法を適用するということをモザイク理論と呼ばれていると思います。このことについても検討がされたというふうに伺っておりますが、どんな内容でありましたでしょうか。

鳥居参考人 モザイク理論についても一応の議論はされたのでございますが、やはり、これでは焦点が定まってこないということでございまして、結局は、被害者の常居所地というものが、先ほど申し上げましたような理由で、その地の法律を適用するということに落ち着いたわけでございます。

 モザイク理論というのは、全部の不法行為、要するに、例えばイギリスでもアメリカでも日本でも中国でも、名誉毀損が伝わったすべてのところで不法行為が成立するということになるわけでございますから、これは非常に複雑になってまいりまして、実務的に機能しがたいだろうというふうに考えられたわけでございます。

石関委員 それでは、鳥居先生にお伺いをします。

 今回の改正後の課題、引き続き残る課題ということでありますが、特に知的財産権の問題については、杉浦法務大臣も参議院における答弁で積み残しという表現もされているということでありますが、今後どのように取り組んでいくべきだとお考えでしょうか。

鳥居参考人 知的財産権については随分いろいろ議論がございましたけれども、少なくとも、現状ではまだ立法の中に取り入れるということは時期尚早であろうという結論になって、今回は取り入れておりません。

 けれども、これは非常に、現在さまざまなところで研究もなされておりますし、日本でも、WIPOといいますか、いろいろな知的財産関係の業界とか研究者とかが今なお研究を続けておりますし、また条約でも考えられると思いますので、そちらの方で今後検討していただきたいというふうに考えております。

石関委員 それでは、時間になりましたので、最後のお尋ねをお二人にさせていただきたいと思います。

 我が国の法律について、準拠法としては国際的にどの程度の評価をされているのか、日本の法律の競争力というか、これについてのお二人の御意見をいただきたいと思います。

 競争力という意味で、例えば、準拠法として我が国の法律がなかなか選ばれなくなってきている傾向があるということや、他国が法制をつくるときに日本の法律をなかなか参考としてくれない、こういった指摘もあると伺っておりますが、そういう意味での日本の法律の競争力が落ちているのではないかという指摘について、お二人の御意見をいただきたいと思います。

鳥居参考人 競争力という意味がちょっとよくわからないわけでございますが、日本法が使われるという意味でございましょうか。

石関委員 先ほど申し上げたように、準拠法として我が国の法律が選ばれなくなっているとか、他国が法制をつくるときに日本の法律を参考にしなくなる傾向があるのではないか、こういうことです。

鳥居参考人 必ずしもそうとは言えないのではないかと思います。特に後者の点につきましては、多分皆さんも御存じかと思いますが、法整備支援というのを日本はやっておりまして、特に東南アジア系の国々の立法につきましては積極的にそれを支援するということが行われております。これは公的にも、それから例えば大学がそういうものに取り組んでいるという場合もございますので、そういう点では当然日本法が影響力があるだろうと思いますし、選ばれないというのがどういう意味かわかりませんが、客観的に準拠法が定められている場合には、日本がその客観的に定められた準拠法の所属地という、要するに、例えば契約、この場合は行為地と言ってもよろしいかと思いますが、それが日本であるというような場合には当然選ばれるわけでございます。選ばれないというのは当事者自治の場合のことをおっしゃっているのかなと思うのですが、その場合には、日本法をやはり必要な場合には選んでいるだろう、私は実務について余り詳しくございませんが、そうだろうと思います。

 そして、もし選ばれないということの一つの理由に日本語の難しさというのがあるとすれば、それは日本語を、世界的に通用するような言葉に日本の法律をするということが必要ではないかと思っております。少なくとも英語にしよう、日本語の英語化ということもやはり考えられておりまして、幾つかの主要な法令については既に英訳文がございます。そういう意味では、私は必ずしも競争力が落ちているというふうには思っておりません。

鈴木参考人 まず、日本法が選ばれるかどうかというのは、主に準拠法の選択の場合に一番鋭くあらわれると思います。その場合に、日本の企業と外国企業との交渉、結果成立する契約の場合に日本法が選ばれるということは、半々までは行かないにしても、決して少ないとは言えません。それは恐らく日本の企業の力も強いということにもよると思いますし、金融取引が円建てで行われる場合を想定していただければおわかりだと思いますが、さまざまな要因の中から日本というのが選ばれると思います。

 ただ一つ、おっしゃるように、競争力が弱いというのは、考えるとすると、全然違う国同士の契約において、第三国法として日本法が選択されるということが余りないというふうに言えます。例えば、私どもとアメリカとの交渉のときに、両方で契約が詰まってしまったときにイングランド法にするとか、そういう場合がございますけれども、全然違う国同士で日本法が三国法として指定されるというところまではまだ至っていないのではないか。

 ただ、これからアジアとの取引がどんどんふえてまいりますので、その中で日本法が指定されるという場面も必要であるでしょうし、ますます増加させたいというふうに考えております。

石関委員 大変貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございました。

石原委員長 次に、伊藤渉君。

伊藤(渉)委員 公明党の伊藤渉でございます。

 本日は、本当に御多忙の中、当委員会のために時間をいただきまして、ありがとうございます。

 早速、質問に入らせていただきます。

 この通則法という法律、私も専門家ではございませんので、こういった法律の存在すら、正直、今回の審議まで存じ上げなかったのが実情でございます。そういう意味で、一般的にはそういった方もたくさんいらっしゃると思います。こういった法律は、詳細にわたっては当然専門家の方だけが御存じであればよいかと思うんですが、一般の方にも最低これぐらいは知っていた方がいいんじゃないか、そういうような御意見があれば、まず冒頭、お聞かせいただきたいと思います。両先生にお伺いします。

鳥居参考人 大体、今回の改正は財産法中心でございますので、一般の市民では、国際的な取引とかそういうものに関連している方にとりましては、例えば先ほどの契約の準拠法とか生産物責任に関する準拠法とかというのは大変重要なものだと思いますので、それは当然知っておかれるべきであろうと思いますし、大企業の法務部などはそのことは大変よく御存じでいらっしゃいまして、ちゃんと対応していらっしゃると思います。

 それとは違いまして、一般の市民ということになりますと、これはむしろ身分法の方に、要するに婚姻とか離婚とか、そういうことの方に多く出てくると思います。御承知のように、非常に多くのいわゆる国際結婚というのが行われておりまして、日本人が外国人と結婚する場合、あるいは結婚していた国籍の違う夫婦が離婚する場合というのは、非常に多うございます。そちらのニーズが高かったということ、そちらの準拠法の整備が必要とされるというニーズが高かったということで、現在問題としております改正に先駆けて、平成元年の法律、要するに法例の改正が行われたのでございますが、それは婚姻と親子に関してでございました。

 そういうことでございまして、例えばそれぞれ国籍の違うAさんとBさんが日本で結婚した場合に、有効な結婚をするにはどうしたらいいかというようなことは、むしろ一般の市民の方にはかなり身近な問題ではないかと思います。

 それから、国際結婚というのは残念ながら割合に破綻しやすいものでございまして、そういう場合に、一体、離婚の場合にはどの法律によって離婚したらいいのかなというような問題も出てくると思います。そういう意味では、むしろそういった身分関係の方は一般の市民に身近な法律だと言っていいのではないかと思います。

鈴木参考人 今、日本に住んでおられる日本の方を中心に、国際私法といいますか法例の改正がどういう意味をもたらすかということで言いますと、一つは、やはり消費者保護ということで、日本を常居所地としておられる日本人の方については、法例の適用上は日本の保護規定が適用になるようになっているというのも、一つ大きな指摘ができる点かと思います。

 あと、もう一つは、不法行為の問題でございますが、先ほど申しましたように、日本で事故が発生した場合、結果発生地ということで日本法が適用になるだろう。これは非常に大きな原則論でございまして、たくさんの例外がありますので必ずそうなるというふうに言えませんが、その二つは指摘できるのではないかと思います。

伊藤(渉)委員 続いて、参議院の参考人質疑の中で、経済界の方の御意見として、大企業の実務、特に契約実務では、法例を意識するという局面は余りない、なぜなら、諸外国の企業との間などで国際取引を行う際には、どこの国の法を適用するかという準拠法はあらかじめ合意をし、契約書に規定をしているからだというような意見がございました。

 今回の法改正に当たって、この経済界という意味でどういった意義があるか、具体的に、少しわかりやすく御教授をいただければと思います。これも両先生にお伺いいたします。

鈴木参考人 ただいまの御意見を拝聴しておりますと、恐らく契約交渉をして、準拠法をどこに決めるかということで決めてしまえばもうそれでおしまいになってしまうので、そこから先は国際私法上の問題は起きないということだと思います。

 ただ、そこで決まる法律が非常に特異な場所の法律の場合には、今回の法案にはっきりしておりますように、最密接関連地法が適用になるということでございますので、実務的には、合意される法律だけではなくて、それよりも最密接関連地法がないかどうか、このチェックは必要になるかと思います。

伊藤(渉)委員 ありがとうございます。

 次に、法律行為についてお伺いします。

 現行法で、第一項では、当事者の合意によって選択をされた準拠法とし、第二項で、合意、選択がなければ行為地法を準拠法とすると。

 そもそも、今の現行法で、当事者の合意、選択がないときに行為地法をとるとしたのはなぜだったのか。また、現在では、これは今までと重なるところですが、この行為地法によるという規定でどのような問題が発生をしているのか。この点について、両先生の御意見をお伺いしたいと思います。

鳥居参考人 行為地というのは、もともとは、契約が発生するのは契約をした場所であるという考えに基づいているかと思います。要するに、契約を締結しなければそもそも契約はないということからその行為地というのが出てきたのだと思いますし、実際に、行為地は、日本の判例を見てみますと、少なくとも古い判例におきましては大変大きな機能を果たしてきておりまして、ただ単に行為地というだけではなくて、行為地というのは、ほとんどの場合、契約と大変密接な関係がある場所であったということが言えるわけでございます。

 しかし、昨今のような状況になりますと、必ずしも行為地が契約に密接な関係がある地とは言えないという状況が生じてきております。

 そうすると、法例の現在の規定では、まず、その一項で、当事者自治の原則、というのは当事者の意思に従って準拠法を決めるということでございますので、当事者の選択の意思が不明な場合には行為地によるということになるのでございますが、それで、明示の準拠法の指定と申しておりますが、当事者が明らかに準拠法を指定していない場合に、直ちに行為地法に行ってしまうと、非常に偶然的な行為地というものが準拠法になってしまいます。例えば列車の中で契約を締結したとか。

 そういうことから、そういう不都合な場合には、いろいろと細工といいますか工夫をいたしまして、当事者自身の、要するに一項の方で、黙示の意思の探求という名前の、要するに明示的には準拠法は指定していないけれども、黙示的に当事者はこの法律を指定したということで、実際には最密接関係地法を適用するということが、そういう判例もございますし、また、学者の方もそのようなことを言っているという状況がございます。

 しかし、それが次第に高じていきますと、現実に当事者が全然考えもしなかったような法律を当事者が意図した法であるというような、いわゆる架空のものでございますね、フィクションの意思というものを意思だとして、意思はなかったんですから本当は意思ではないにもかかわらず、フィクションによって準拠法を決めるということが起こってまいりました。

 そこで、現在では、この行為地法というのは、準拠法の指定がない場合にその契約の準拠法として指定する、機能するのにはふさわしくないのではないかということで今回の法案になったわけでございます。

鈴木参考人 従前の行為地の認定におきましては、黙示の意思があるのかないのか、その場合に、どういう要素に重点を置いて決めていくのかということ自体が一つの裁判の論争になりまして、そこで多くの労力を費やしてきたという経過がございます。

 今回、最密接関連地ということで整理されましたので、その点も簡便化は図られたというふうに思います。

 ちょっと、先ほど私の意見で一つだけ修正させていただきたいんですが、当事者の準拠法の指定がある場合にそれが排除されるのは、公序という別の項目によるところでありまして、最密接関連地法ではございませんので、修正させていただきます。

伊藤(渉)委員 次は、消費者契約のことでお伺いをいたします。

 今回の法案のように、消費者が主張をした場合のみ強行規定が適用されるという考え方と、また一方で、ヨーロッパのように、優遇比較を行うべきだという見解があるとお聞きをしましたけれども、この論点について、両先生の御意見をお伺いいたします。

鳥居参考人 これは先ほど鈴木参考人が言われましたように、優遇比較というのは非常に裁判上も大変だし、当事者にも大変だということで、当事者の主張にゆだねた方がいいのではないかという結論になりまして、そちらの、当事者が自己に有利な消費者の常居所地法の強行法規を主張するということになったわけでございます。

 確かに、実際にすべてを比べてみて、こちらの方が消費者に有利だという判断の方が消費者に有利のようには見えるかもしれませんが、先ほどの鈴木参考人の意見にもございましたように、それをいたしますところの問題点がございましたので、こういうことになったわけでございます。

鈴木参考人 裁判所はすべての法律を知った上でそれの検討をしなければいけないということになりますと、当事者もそれに応じて負担が過剰になります。当事者には消費者の当事者も含まれますので、その点について、多少簡便な方法といいますか、便宜な方法としてこの方法が選ばれました。

 また逆に、裁判所の方にもある程度の、釈明義務といいまして、法律について探索することが行われますので、その中でバランスがとれるのではないかというふうに考えております。

伊藤(渉)委員 最後に、鳥居先生にお伺いします。

 十一条で、どの程度事業者からアプローチがなされたかによって、その度合いに応じて消費者の保護規定の適用の有無が決まる。最終的に勧誘という言葉でそれが定義されているんですが、具体的な勧誘、この法律をつくるに当たって、勧誘という言葉のイメージを最後に教えていただきたいと思います。

鳥居参考人 ただ一般的に広告を出したというのでは勧誘にはならないということでございまして、具体的にダイレクトメールでアプローチがあったとかということで、要するに、買い物だといたしますと、当事者がそこへ行って買い物をしたくなるような、そういう勧誘、これは大変難しいわけでございますが、具体的には区別が非常に難しい場合も出てくるかと思いますけれども、そういうような場合には、また例外の例外ということになりまして、もとに戻るということになるわけでございますが、そういうように一応考えてきたわけでございます。

伊藤(渉)委員 ありがとうございました。

 以上で質問を終わります。

石原委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 本日は、両参考人に貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。

 最初に鳥居参考人にお伺いをいたします。

 きょうの法の適用に関する通則法の参考人質疑との関連で、私、急遽、鳥居参考人が雑誌「ジュリスト」にお書きになって掲載された「取引保護主義」と題する論文を読みました。渉外取引に関する国際私法は、取引の円滑、迅速、安全のために配慮すべきであるという鳥居参考人の意見に賛成であります。

 取引保護主義は、個人の利益保護よりも取引の保護を優先する立場でありますが、今回の法の適用に関する通則法案において、取引保護主義はどのように規定をされ、貫かれておるのか、鳥居参考人の御意見をお聞かせください。

鳥居参考人 お読みいただきまして、どうもありがとうございました。

 今回の法の適用に関する通則法案というのは、先ほども少しお話しいたしましたけれども、行為能力に関しまして四条で規定しておりまして、その第一項は「人の行為能力は、その本国法によって定める。」としております。

 この本国法というのは、今ではそういう言葉は余り使わないかもしれませんが、日本ではこれは属人法と言われておりまして、その人の身に帯びた法律、その人がどこに行っても適用されるような、その人に密接な関係がある法律のことを属人法と申しております。この本国法を日本では属人法、これは、英米のように住所、日本の法の住所とはちょっと違いますが、というように考えている国もございますが、大陸諸国とか日本は、伝統的に本国法を属人法としていたわけです。したがいまして、属人法が適用されるということは本人の保護につながるという考え方がその基礎にございます。

 そういたしますと、能力という問題を本人の属性の問題だとして本国法に従うということになりますと、例えば、日本にやってきた外国人が日本の小売店で買い物をしたような場合に、その人の年齢がよくわからない。わかっても、例えばパスポートを見せてもらってわかったといたしましても、その人が本国で一体成年年齢に達しているのかどうかということがわからない微妙な場合というのはございます。

 そのときに、お店の方がそれを一々調べて、この人は行為能力者だから大丈夫だ、だから売りましょうというようなことは、なかなかできがたいことでございます。一応行為能力があると思って、大丈夫だと思って売ったところが、それが実はまだ本国法による未成年者であったということになりますと、取引の安全が害されます。そのために無効になったり取り消されたりするということが起きますと、取引の安全が害されます。

 そこで、取引の安全を守るためには、これは法例三条の二項でございますが、日本で取引をした場合には、日本法で法律行為能力があれば行為能力者とみなす、そういう規定を設けたわけでございます。これは内国取引保護の規定でございます。

 しかし、これは自国の取引だけを考えているわけでございまして、広く一般に、世界的に見て取引の安全を考えているという規定ではないわけでございますね。そのためには、行為地、一般の取引保護を考える規定の方が望ましいということは従来から言われておりました。そこで、日本が批准した条約に基づいてできました手形・小切手法に関しては、ここに国際私法規定が最後についておりますが、そこでは、これは行為地法によるというふうになっております。

 そのことから、今回は、この内国取引保護主義の規定というのはやめまして、一般的に取引保護を考える、すなわち、日本であろうと外国であろうと、行為地において行為能力があれば行為能力者として扱うべきではないか、そういう規定に変えたわけでございます。

照屋委員 次に鈴木参考人にお伺いしますが、国際私法の現代化に関する要綱中間試案に対する日弁連の意見書を読みました。

 法例が制定されたのは明治三十一年、今から百年以前のことであります。この間、社会現象あるいは紛争類型が多様化、複雑化していることは言うまでもありません。また、交通手段、情報通信技術の発展、国際的紛争の増加など、国際私法の重要な法源である法例の改正は必要だと私も考えておりますし、社会民主党も賛成であります。

 先ほど、鈴木参考人が御意見を述べた中で、日弁連の中に、個人の利益保護をもっともっと重視すべきだとの意見もある、こういうことでしたかね。通則法については日弁連としても賛成である、こういうふうに受け取ってよろしいんでしょうか。

鈴木参考人 日弁連の意見としましては、通則法について大宗において賛成であるというふうに受け取っていただいて結構でございます。

 ただ、日弁連の中にはさまざまな委員会がございまして、例えば、この通則法に関係しましては、消費者委員会あるいは労働法制委員会というところからも意見を徴しております。消費者委員会の場合には、先ほど議論になりましたが、いわゆる優遇原則を適用して、常に消費者にとって有利な法律を適用するような法律にならないだろうか、こういう提言がなされておりますが、これについては、さまざまな検討の結果、日弁連としてはこの法案でよろしいという意見になりました。

 なお、労働法制委員会の方は、労働契約の特例につきまして意見を提出しておりますが、労働契約の特例についてはこれで賛成であるという意見を徴しております。

照屋委員 鳥居参考人にお伺いをします。

 同じように「ジュリスト」の「国際離婚におけるいわゆる日本人条項」と題する論文を読みましたが、同論文で指摘をする現行法例十六条ただし書きの問題点並びに法の適用に関する通則法との関連で、実務上の具体的な問題点を詳しく御指摘の上、御教示いただければありがたいと思います。

鳥居参考人 実務上といいますと、実は、戸籍などではこの条項があるがために大変便利であるということになっております。

 しかし、これは、私の立場といたしましては、日本人であれば、日本人が日本に常居所を持っていれば日本法によって離婚ができるということでございますので、外国人である相手の立場を考えた場合に、これは公平ではないのではないかというふうに考えております。

 しかし、大変残念ではございますが、審議会で、この日本人条項は要らないのではないかという意見は私ほぼ一人でございまして、大方の賛同が得られず、また、実務的には大変重要な機能をしているということでございますので、今回の法案ではそのまま残っているということでございます。

照屋委員 最後に、鳥居参考人に、現行法例十三条三項のただし書きは通則法でも実質的な変更はないと私は理解をしておりますが、この現行制度が維持されたことに対する参考人の御意見、あるいは戸籍制度の信頼性維持との関連で何か実務上の具体的な問題が発生するでしょうか、そのことをお伺いします。

鳥居参考人 十六条のただし書き同様、今の法例ですと十三条三項のただし書きでございますが、それにも私は反対でございます。

 これは日本人条項と言われているものでございます。この場合はかなり深刻な事件がございまして、それは、当時、法例が改正される前でございましたから、婚姻の方式というものは、日本で挙行した限りは日本法によるということになっておりました。ところが、夫の本国の方式は満たしていた、だから自分は婚姻が成立していると思っていた。それが、実は、日本法上の届け出がなかったということで、女性は日本人であったわけでございますが、その婚姻が成立しなかった。そして、結局、夫が死亡したとき、夫といいますか、これも大変難しい問題ですが、ともかく、自分が相続人になれると思っていたところが、有効な成立が存在していなかったということで相続ができなかったという事件がございました。

 そういうこともありまして、要するに、この日本人条項があるために、では、この問題は平成元年の改正でこれが改まったかというと、今、条文をごらんになればおわかりのように、改まってはいないわけでございますね。ですから、やはりこれは、当事者の平等の観点からも、また公平の観点からも改めるべきであると私は思っております。

 これは一応議論にはなりましたけれども、やはり実務的にはこの条文が必要である、日本人については必ず正確にそれを戸籍に記載すべきであると、非常に戸籍を大切に考えられておりますので、それはそれで大変大きなメリットでございますし、日本の戸籍制度というのは世界に誇れるべきものだと私も思っておりますが、そういうことからか、やはり余り賛同を得られることなく、こういう形になっているわけでございます。

照屋委員 私も日弁連の会員の一人ですので、鈴木参考人にもっともっとお聞きをしようと準備しておりましたが、時間が参りましたから終わりたいと思います。

 きょうは、両参考人、ありがとうございました。

石原委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 この際、暫時休憩いたします。

    午前十一時三十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

石原委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 午前に引き続き、内閣提出、参議院送付、法の適用に関する通則法案を議題といたします。

 質疑の申し出がありますので、これを許します。枝野幸男君。

枝野委員 今回、法例の全面改正ということで、もともと読みにくい文章でもありましたし、実は二十年近く前に、私はなぜか司法試験の法律選択科目に国際私法を選びまして、なぜ選んだかというと、教科書が一番薄くて、条文が一番少ないという非常に合目的的な理由だったんですけれども、その分解釈にゆだねられている、しかも、解釈にゆだねられている割には判例の集積がなかなかできない分野であるということですので、これをできるだけ整理するという今回の法改正の趣旨というものは、大変望ましいことだというふうに受けとめております。

 これは通告していないのでお答えはいいんですが、まず、実は、法の適用に関する通則法という法律名に法例を変える、法例という呼び方もよくわけがわからないんですが、僕はこれはいわゆる基本法だと思いますので、例えば民法とか商法とか、できるだけ基本法の部分のところは「に関する」とかをつけないで、一言で短くできる呼び方の方がいいのかなと。かといって、国際私法というのを法律の題名につけるのもなにかなと思いますし、ここは悩まれたのではないかというふうに思いますが、今後、この法律あるいはこの法律分野についてどういう呼び方をしていくのかというのはちょっと悩ましいなと思いながら、まずは質問に入らせていただきたいと思います。

 まず、三十八条関係、本国法の意義についてお尋ねをさせていただきたいというふうに思っております。

 これは、三十八条では、本国法の決め方については一応のルールが書いてありますが、本国法の定義はこの法律には書いていないと思うんですが、本国法とは何であるのかということをまずお尋ねします。

杉浦国務大臣 枝野先生は国際私法を選択されたそうですが、私は選択しなかったもので余り詳しくないんですけれども。

 先生おっしゃったとおり、法例といいながら、事実上、国際私法についての通則法だという、実質上、中身はそうなっておるわけでございます。この名前をわざわざ長くしたのも、起案する者としては随分悩んだと思います。国際私法の通則以外のものも入っておりますからこうなったんじゃないかと思いますけれども、実質上は国際私法にかかわる部分が大部分でございますので、この名前もやむを得ないかなと思っている次第であります。

 お尋ねの点でございますが、本国法というのは、多くの場合は国籍を有する国の法となるわけでございますが、例外がございまして、三十八条以下、規定されておるわけでございます。

 まず、三十八条一項によりますと、当事者が二つ以上の国籍を有する場合には、規定されているとおり、国籍の一つが日本の国籍であれば日本法が本国法となりますし、いずれの国籍も日本の国籍でなければ、国籍を有する二つ以上の国のうち、当事者が常居所を有する国の法が本国法となります。したがって、二つ以上の国籍を持っておっても、規定される本国法以外の法は、いわゆる国籍を有する国の法であっても本国法とはならないわけでございます。

 また、三十八条二項本文によりますと、当事者が無国籍の場合には、その常居所地法が本国法となるわけでございます。

 また、三十八条三項と第四十条に規定されておりますけれども、当事者が地域的または人的な不統一法国の国籍を有する場合には、その国の規則に従って指定される法があればそれが本国法となりますし、規則がない場合には、当事者に最も密接な関係がある地域の法が本国法となるわけでございます。したがいまして、国籍を有する国が例えばアメリカ合衆国というような連邦であるとか、あるいは人的不統一法国、例えばインドであっても、例えば回教徒については回教法を適用するというような規則があればそれが適用されるわけで、その国の法自体が本国法となるわけではございません。

 そのように、本国法は、人の身分とか能力を規律するいわゆる属人法としてふさわしい法が指定されておるところでございまして、国籍を有する国の法とは常に一致するわけではないわけでございます。

枝野委員 ただ、今三十八条の規定を御説明いただきましたが、三十八条を見ても、一項は国籍が二つある、二項は国籍がない、三つ目は国籍のある国の法制度がちょっと特殊であるということですので、いずれにしても、本国法というのは国籍を連結点としている制度であるというのは、条文上、自然な見方ではないかというふうに思っております。

 その上で、お尋ねをしたいのは、台湾の皆さん、台湾に住み、あるいは台湾の陳水扁総統の統治下に国籍があるといいますか、この皆さんの本国法はどうなるんでしょうか。

杉浦国務大臣 台湾の人々につきましては、今までの法例においての解釈があったわけでありますが、本法案によっても、どのように決定するかについては、現行法例どおり、変わるところはございません。

 国際私法上、考え方としては複数ございまして、一つは、国際私法においては、外交上の承認のあるなしとは関係なく、中国の状態を二つの国家が存在するものと見て、それぞれの国の国籍法によって二重国籍になる場合には、重国籍者の本国法の決定の問題として処理するという考え方が一つございますし、また、国内に二つの政府が存在して、それぞれの支配地域に独自の法を有する地域的不統一法国類似のものと見まして、本法案三十八条三項を類推適用するというような考え方もあるわけでございます。

 いずれにしても、準拠法の指定は、国際私法においては、私法関係に適用すべき最も適切な法は関係する法のうちどれであるかという観点から決まる問題でございまして、一般に国家または政府に対する外交上の承認の有無とは関係がないと解されておりまして、台湾出身の方については、国際私法上は、台湾において台湾の法が実効性を有している以上、その法が本国法として適用されるということとなり、実務上もそのように取り扱われているというふうに承知しております。

枝野委員 当然、台湾法が適用されなければいけないと思いますし、また、そのことは国際関係上の国家としての承認ということとは全く別次元で決められる、これも非常に正しいことだというふうに思っております。

 ただ、法制度でありますから、どういう根拠でそうなるのかということ、実際上、それが一番適切、合理的だから台湾法を適用していますということでは説明にならないと思うんですね。従来の法例は非常に古い法律ですから、やむなく解釈でというか、事実上、台湾法を適用してきたということかと思いますが、せっかく新しい法をつくるわけですから、今、三十八条と関係なくというか、そもそも、台湾、中華民国国籍ということを前提に物事を組み立てるのか、それとも、三十八条三項の類推というか、三十八条三項的な位置づけでやるのか、どちらの考え方もあるというお話でしたけれども、これは少なくとも行政庁としてはどちらかに整理しなきゃいけないんじゃないかと思うんですけれども、どうなんでしょうか。

杉浦国務大臣 先ほど申し上げました法例についての解釈は、既に定着していると申しますか、根づいていると申しますか、安定して解釈されておりますので、そのことを法律上明記するまでの実務上の必要性はないということから、今回の法例になったんだと思います。

 台湾出身の方々については、先ほど、考え方としてはいろいろあるわけだけれども、国際私法上、台湾において台湾の法が実効性を有している以上、台湾の法が当事者にとって最も密接な関係がある地域の法となって、本国法として適用されることになるものと考えられ、実務上もそのように取り扱われているものと承知しております。

枝野委員 法例というか国際私法は専門家が余りいないというか、ですから、普通に台湾の皆さんがこの新しい法律を直接見るという人がどれぐらいいるかということはありますけれども、論理的には、例えば日本におられる台湾の皆さん、たくさんおられるわけで、自分が日本国内において裁判をしなきゃならないような、特に婚姻関係にかかわるところ、まさに本国法で規定されるわけですが、せざるを得なくなったというときに、何法が適用されるんだろうと思ってこの条文を見たら、おれはどうなるんだということになりかねないんだと思うんですね。

 念のため申し上げますが、私は、外交関係上、日中共同宣言といいますか、それは尊重すべきであるし、中国・北京の政府を承認していて台北の政府を承認していないというこの国際政治上の関係について変更すべきであるという考え方ではありませんが、しかし、日本にとって事実上最も、ある意味では親日的であるし、将来にわたって日本の国際的なパートナーとして、アメリカ以上に信頼できるのは台湾ではないかと私は思っておりますので、こうした皆さんが国内で日本の法制度に、自分もかかわる法制度について疑念を持たれるようなことはない方が望ましいのではないかというふうに思っております。

 特に、先ほど、三項的な話というのがありました。大臣もよく御理解をされて、類推適用とおっしゃったのは理解をされているからだと思うんですが、三十八条三項を適用してしまいますと、北京が何か勝手に、反国家分裂法みたいな変な法律もあそこはつくっていますから、変な法律をつくったりすると、台湾島に住んでいる人たちの本国法は北京法とするだなんて変な法律をつくったら、三項を適用されるとわけのわからないことになるわけですよね。

 だとすると、ここはかなり明確に、最初に大臣もおっしゃられた解釈でいいんだと思います。つまり、我が国が承認しているかどうかということの関係ではなく、国際私法上は国際私法上の視点から国籍の存する国というのを判断する。したがって、当然のことながら、台湾の皆さんは中華民国国籍を持っているから、三十八条適用以前の問題で、自動的に本国法は台湾法というか中華民国法になる、こういうことを明確におっしゃっていただいた方がいいのではないかと思うんですけれども、どうでしょうか。

杉浦国務大臣 当事者が国籍を有する国が、中国と台湾のように、事実上国内に二つの法秩序があるような例外的な場合であると思いますが、政治的に言いますと、双方とも、中国全部が領土だ、中華人民共和国は、台湾が領土だ、台湾、中華民国も、いや、中国全部が自分の領土だ、こう主張して国際的に争っておられるという事態なわけでございます。そういう例外的な場合だと思いますが、国際私法の立場から当事者の本国法をどのように決定するか、これについてさまざまな考えがあることは先ほど申し上げたとおりでございますが、先生おっしゃったとおり、国際私法上、人の能力や身分関係に適用すべき属人法を決定するための解釈論としていろいろあるということでございまして、もちろん、その国の属する国家または政府に対する外交上の承認の有無とは関係のないことでございます。

 ですから、公法的な意味で中華民国国籍という存在を認めるかどうかということとはちょっと次元を異にするというふうに私は思っております。

枝野委員 ですから、公法上ではなくて、まさに国際私法上との関係においては、台湾の皆さんは中華民国国籍というのが連結点になって、中華民国法が適用される。これは公法上の承認とか公法上の国籍の概念とは別次元として、そういう解釈であるから、三十八条で中国と台湾の関係についての処理を具体的にする規定がなくてもいいんだ、こういう理解をしたんですが、それでよろしいですね。

杉浦国務大臣 それでよろしいと思います。そういう解釈が定着しておりますから、改めて法文に規定するまでもないというふうに思っておる次第であります。

枝野委員 実はもう一つ、ダライ・ラマ亡命政権というのがあるんですね。ダライ・ラマ法王を初めとして、チベットにおける北京政府の弾圧から逃れて、インドに亡命政権をつくっております。私も、この場合、国賓扱いという言い方になっていいのかどうかわかりませんが、インドの山奥まで、十年ほど前、ダライ・ラマ亡命政権の政府までお訪ねをしたことがございます。

 このダライ・ラマ亡命政権、ダラムサラというんですけれども、もちろん、インドには寺院などもつくって生活をされている皆さんが一定数いらっしゃいますし、そこの代表部は日本にも存在をしておりますので、自分はそのインドに亡命をしているダライ・ラマ法王の統治下にあるという認識をしているチベット人の方も少なからずいらっしゃいます。

 ダライ・ラマ法王は、国籍の扱いとしては無国籍扱いというふうに聞いておるんですが、そうだとすると、ダライ・ラマ法王の身分関係、婚姻関係を規律する法は三十八条二項になってしまいまして、常居所地法になる。常居所地法はインドなのかということになると、これは違うんじゃないか。あるいは、日本に住んでおられるダライ・ラマ代表部の職員の皆さんなどは日本法になってしまう。これも、私もチベットの身分法までは詳しくは知りませんけれども、結論は似ているかもしれないけれども、考え方は多分違う、宗教法の社会ですから。

 これはちょっとおかしい結果になるんだと思う。亡命政権をつくって、小なりとはいえ独自の統治体制をつくっている。そして、特に宗教国家ですから、宗教国家としての、特に身分法については独自の物の考え方を持っておられるような人たちは、やはりこれはチベット法が身分関係について適用されるべきだというふうに思うんですが、このあたり、三十八条との関係でどう扱われるのかをお尋ねします。

杉浦国務大臣 ダライ・ラマ亡命政権があるということは、もう国際的にも認知されておりますし、何万、数はわかりませんが、相当多くの方が亡命されて、インドを中心にしてあちこちにいらっしゃる、これはもう事実でございます。

 インド政府と亡命政権の関係がどうなのか、難民として扱っておられるのか、そのあたりはちょっとはっきりしないところがございます。したがいまして、一般論としてしか申し上げられないんですけれども、先ほど申し上げましたように、準拠法の指定は、私法関係に適用すべき最も適切な法が関係する法のうちどれであるかという観点から決めてまいるわけであります。

 ただ、ラマ教、チベットの方々が信仰している宗教、相当法的規律の強い宗教であるというふうに言われております、例えば回教もそうですが。そういう方々の身分関係がラマ教の教義に従って相当規律されているといたしますと、人的法ということでその適用も考えられないわけではございません。

 もちろん、その国の属する国家または政府に対する外交上の承認の有無とは関係がございません。ですから、一般論としては、ダライ・ラマ亡命政権は今インドにいらっしゃるわけですが、ある地域に実効性のある私法秩序が存在しておって、人々がその私法秩序が適用される地に属し、かつ、それがその人々に最も密接な関係のある法であると認められるものであれば、その実効性のある法が本国法として適用されるものであるというふうに申し上げる以外にないと思います。

枝野委員 私は、今のような理解をしていただいて、だとすると、ダライ・ラマ亡命政権統治下にある、少なくとも中国・北京の統治下にいないチベット人の皆さんには、本人が例えば日本の裁判所で、チベット法ではこうなっているんですという主張をすれば、それが本国法として身分関係に適用されることになるというふうに理解をいたしましたし、またそうであるべきだと申し上げたいというふうに思っております。

 さて次に、二十二条関係をお尋ねしたいというふうに思っております。不法行為についての公序による制限ということでございます。

 まず、これは余り異論がない二十二条二項、当該外国法を適用すべき事実が不法になるときでも、「被害者は、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができない。」と書いてあります。ここにある「日本法により認められる損害賠償その他の処分」という言い方からすると、処分の種類が問われていると読むのが自然であると思っております。損害賠償の算定の仕方などについては、国によっては違いがあるだろうというふうに思いますので、その算定の仕方などによって実際の金額がどうなるかということなどについては二十二条二項では縛られないという理解をするのが自然かなというふうに思うんですが、これはどうなるんでしょうか。

杉浦国務大臣 その点は、従来の法例の解釈、運用では、先生のおっしゃられた文理的解釈と少し違う解釈、運用が行われていたようでございます。

 規定としては、日本法により認められる損害賠償その他の処分に限られるというふうになっております。この規定は、一番典型例が、我が国の公序に反するとされております懲罰的損害賠償について、第四十二条の公序規定の適用をまつまでもなく、定型的にその請求を否定することができるといった点に意義があるわけでございます。

 そして、この規定が、懲罰賠償であるかどうかといった処分の種類のみに適用されるのか、損害賠償の計算方法や限度額についても適用されるのかという点については、現行法例においても議論があるところでございます。

 先生は、文理上それは及ばないのではないかというところについて御質問なさっていると思うんですが、議論があるところでございますが、特別留保条項は、不法行為の公序的性質及び実務的な予見可能性を確保するという観点もございます。そういった観点から、本法律案についても存続することとされたものでございます。

 そういったことを考えますと、損害賠償については、その方法のみならず、賠償額の計算方法や限度額についても、「認められる」に当たるかどうかに幅はあるものの、本条項の適用を排除するものではないと解することが趣旨に合致するものと考えております。今までの法例の運用においても、そういった解釈がなされてきたものと承知しております。

枝野委員 今の点と、それからこの一項、そもそもの、外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは請求できないという要するに内国法優先の規定についてはいろいろな意見があります。

 私は、我が国の公序良俗に反するような請求を認めて、そして例えば、それに基づく損害賠償とか何らかの結論、強制力を持った判決を出すということを日本の裁判所がするということは避けなければならないというか、適切ではないであろうということは非常によくわかりますから、こうした趣旨の規定が必要であるということ自体は否定をいたしません。しかし、今大臣もみずからおっしゃられましたとおり、そもそもその点は、四十二条で、一般的に外国法の適用が日本の公序良俗に反する場合というのは、これを排除する規定が存在をしているわけであります。

 実は、この公序良俗違反は排除するというのと二十二条とは若干違いがありまして、二十二条一項では、「日本法によれば不法とならないときは、」という要件なんです。公序良俗ではじかれるのは、日本の公序良俗に反するときは。つまり、日本法によれば不法とはならないけれども、その請求を認めることが日本の公序良俗に反するとまでは言えないというすき間はあると思うんですよ。それから、請求の中身、処分の中身についても、日本法により認められる処分でなければ請求することができないというところと、日本の公序良俗に反する請求はできないというところにやはりすき間はあるんだと思うんです。

 例えば、懲罰的損害賠償に近い制度を持っている国もある。日本の計算の仕方をすれば、それはちょっと、そんな損害賠償の請求を認めることはできない、だけれども、その国の趣旨を考えれば、日本法に基づいて計算したよりちょっと上乗せするところまでは日本の公序良俗には反しないなんということは十分にあり得るわけですよね。

 そうすると、実はこの二十二条の規定の仕方自体を、そもそも置かないで、全部四十二条で処理をすれば足りるとも言えますし、あえて、特に不法行為については公的側面が強いということで確認的に置くとしても、規定の仕方は、公序良俗に反するときはというところで要件にして、そのすき間のところについては、本来の連結点の準拠法を尊重するという姿勢をとる方が、国際私法の基本的な理念、考え方からして適切ではないか、こう思うんですが、いかがでしょうか。

杉浦国務大臣 先生の御指摘は極めて適切だと思います。

 四十二条の規定は、一般法と特別法と申しますか、公序良俗違反について網をかぶせた面、この二十二条一項の留保条項は一般法に対する特別法的な面があると思いますが、同時に、先生のおっしゃったようなすき間がございまして、すき間をカバーしているということも言えるのではないかと思います。

 この特別留保条項は、基本的には、不法行為に関する規範が公の秩序に関するものであることを理由にして設けられたものですけれども、現在においては、不法行為責任についての実務的な予見可能性を確保する観点からも重要な規定だと考えられております。また、国際私法の分野において、不法行為の問題が非常に量的にも多い分野でございます。ですから、四十二条の公序規定で、これも公の秩序に関する規定である意味では特別留保条項と共通しておるわけですが、特別留保条項とはその機能する場面と範囲が少し異なっている面もあるわけでございます。

 すなわち、四十二条の規定は、ある法律関係の準拠法として外国法が指定された、その準拠法を事案に適用した結果、我が国の公序良俗に反するという最後の局面におきまして、その適用結果を排除するものであります。

 これに対して特別留保条項というのは、外国法が不法行為の準拠法として指定された場合でも、我が国では不法行為とならない行為に基づく請求でございますとか、我が国では不法行為の効果と認められない処分を請求するということは、必ずしも公序良俗に反するほどの不法性はなくとも、許されないとしているところでございます。先生のおっしゃったすき間を埋める部分もあるということであります。

 このように、特別留保条項は、公序規定よりも前の段階で機能を発揮して、しかも、機能する範囲も広く、また、不法行為責任についての実務的な予測可能性をより高める機能を果たしていると言ってよいかと思います。

 したがいまして、公序規定があるから特別留保条項は要らないのではないかということにはならないと考えております。

枝野委員 今の大臣の御答弁のうち、予見可能性ということについては、そもそもが、原則的な準拠法の決定に当たって、十七条では、「その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。」ということで、不法行為、加害者の予見可能性を十分考慮した上で連結点が決定しているわけなんですね。これで、予見可能性という意味では十分過ぎるのではないのか。

 つまり、予想される結果の発生地でどういう法が適用されるのかということは、国境を越えて移動したり、国境を越えてビジネスをしたりという人は、当然その結果の発生し得るであろう地の法のことを予見することは可能であるわけですし、それが予見できないときには行為地ということですから、行為地の法についてもこれまた当事者として当然その法体系については予見可能なわけですから、予見可能性ということからすれば、もう不法行為の原則的な準拠法決定のルールで十分であると私は思います。

 むしろ、その上で、不法行為が公の秩序に関する制度であるということを踏まえた上でも、先ほど来申し上げているすき間が、国際的なお互いの協調関係を優先するのか、我が国の内国法を優先するのかということの違いにすぎない問題だと私は思います。

 そのことを考えたときに、最終的に我が国の裁判所が我が国の公序良俗に反するような判決は出せないという担保がとれていれば、我が国の法制度としては余り考えていなかったとか、我が国の制度としてはそこまでは考えていなかったんだけれども、だけれども、最も関連の深い準拠法に基づいていけばそれが認められたり、あるいはその額が認められたりということがあって、なおかつ我が国の公序良俗に反しないんだとすれば、国際私法の理念からすると、それを頭からはねのけるというこの二十二条の規定は必要ないと思うんですけれども、いかがでしょうか。

杉浦国務大臣 先生のような御意見も十分あり得るものと思います。検討の過程でもいろいろあったようですが、経済界からは、強く、削除しないでほしいという要望があったというふうに聞いております。

 実際の取り扱いとしては、先生おっしゃったとおり、日本の裁判所は、このような規定、あるいは四十二条であっても、あるいはこの特別留保条項を設けたからある意味では明確になったと思いますが、日本の公序良俗に反するような請求を認めないだろうということは、私もそのように思っております。

枝野委員 僕は、経済界がぜひ残してくれと言ったということ自体が、余りよくわからないで経済界は言っているんじゃないのかなと。多いんですね、経済界は、消費者契約法なんかのときも僕は思ったんですが。ちゃんとわかって、それは困ると言ってもらうんだったらいいんですけれども、何かイメージとして、とにかく自分たちの責任が重くなりそうな話は初めから反対するみたいな硬直的な姿勢があって、ここも、十七条できちっと、結果発生地が連結点であっても、その地における結果の発生が通常予見することができないときは除外されているんですから、一般的にといいますか、問題ないんですよね、予見可能性という観点からは。

 経済界の皆さんが、日本の製品は世界じゅうで使われるわけですから、いろいろなことを心配する、自分が全然知らない国でとんでもない損害賠償の額が認められるようなことになったら困るとかという心配をするのであれば、むしろ、この十七条の結果発生が通常予見することができないものであったときの意味、解釈をきちっと限定するというか広目に見る、そういうことをするべきなのであって、ちょっとこの特別留保条項のところでというのはピントが外れていると実は私は思っております。

 だからといって、この法案に反対するというわけじゃありません。特にこれを聞いていらっしゃる法務省の皆さんには、今後もこういった話はあると思いますので、率直に言って、経済界の闘うところのポイントがずれていると時々思いますので、ここはそのずれている一つの明確な大きなポイントだろう。むしろ、日本の経済界が意図しない、そして予想できないような結果を生じないためにということであったら、十七条の規定ぶりとかここの解釈であるとか、こういうところのことについてもっと詰めた議論をする方がずっと大事ではないかということを申し上げておきたいというふうに思います。

 さて、次に、婚姻の効力は二十五条で書いてありますが、夫婦の氏について、国際結婚などの場合、準拠法はどの規定でどういうふうに決まるんでしょうか。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 婚姻に伴う夫婦の氏の変更に関する準拠法の問題につきましては、本法案は、現行の法例と同様に、特段の規定を置いてはおりません。

 この問題につきましては、まず、婚姻に伴う夫婦の氏の変更の問題は、氏名権という夫婦それぞれの人格権に関する問題であることから、夫婦それぞれについてその本国法によって決定すべきであるとする見解があります。この見解に従いますと、夫婦の氏につきましては、夫婦それぞれの本国法が準拠法となります。

 これに対しまして、夫婦の氏の変更は婚姻という身分変動の効果として生ずるものであることから、婚姻の効力の準拠法によって決定すべきであるとする見解もあります。この見解に従いますと、夫婦の氏につきましては、本法案第二十五条により、夫婦の本国法が同じ場合にはその本国法が、本国法が同じでない場合であって夫婦の常居所地法が同一であるときはその常居所地法が、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関連のある地の法が準拠法になります。

 この点につきましては諸外国の立法例等も分かれておりまして、本法律案においては、現行法例と同様に、明文の規定を設けることなく、解釈にゆだねることとしております。

 しかしながら、行政当局としましては、氏の問題を身分行為の効果として身分行為ごとに別の準拠法に従うとするのは適当ではなく、夫婦の氏の準拠法については、夫婦それぞれについてその本国法によるべきものとする考え方が適当であると考えております。

枝野委員 今の、つまり、条文はないけれども、解釈としては、夫婦の氏というのは、身分行為の結果のことという側面よりも個人の人格権につながる話である、こういう側面の方が大きいんだということに基づいて解釈をしているというお答えになるんだというふうに思うんですが、なぜその思想を我が国の民法の改正に当たって貫かないんですか。

杉浦国務大臣 先生は選択的夫婦別姓を推進しておられるお立場で御質問されていると思いますけれども、政府としては、選択的夫婦別氏に対する反対の姿勢をとる場合に、外国人夫婦における氏が同一でないことをどう考えるかについて申し上げることは差し控えたいと思います。

 ただし、日本人と外国人の夫婦において、一方の氏と他方の家族名と異なる結果をもたらすような外国法の適用結果が国際私法上の公序に反するとして、本法案第四十二条によりこれを排除すると解すべきであるとは考えておりません。

枝野委員 先の方の答弁を読んでいただいたようでございますが、丁寧に説明いたしますと、まさに私たちは、個人の氏を含めた名前というのは個人の人格権にかかわるような話であるから、個人ごとに自己決定権があるはずである、したがって、結婚した場合にどういう氏を名乗るのかということについても、最終的な決定権はそれぞれの個人が決めればいい、したがって、結婚したときに、これは日本の最近の伝統、あえて最近のと言いますが、わずか百年余りの最近の伝統としては夫婦同じ氏ということがありますから、だから夫婦同じ氏にしたいという人はそうしたらいいけれども、自分はそうじゃないことをしたいという人については、従来の氏を名乗り続けるという個人の人格権を認めて何ら問題がないということをずっと申し上げてきておるんですが、そういう考え方は、今おっしゃった夫婦の氏についての国際私法的な我が国としての従来の解釈とむしろぴったりと合致をするということになるわけですよね。

 これに反対する皆さんは、そんなことを認めたら日本の公序良俗が崩れるとかということをおっしゃるわけですけれども、しかし、現行の法例、従来からの法例に基づいても、今度の、今のおっしゃった解釈によっても、一方が日本人である国際結婚をした夫婦で、日本が常居所地であるという夫婦であっても、相手の国が別姓原則であれば別姓になる、あるいは別々にそれぞれの国の法律で決まるわけですから、夫婦で同じ氏にならない。つまり、日本の国内において、日本を常居所地とし、日本法を本国法とする夫婦であっても、夫婦別姓というのは現実的に現行法でもう認めているわけですね、従来から法例において。もし部分的でも夫婦別姓を認めると日本の公序良俗が崩れるというんだったら、法例ができたときから崩れている、こういうことになるわけですよね、大臣。

杉浦国務大臣 法例の解釈の問題として運用されてきている問題だと思います。

 先生と申しますか、先生たちが主張しておられる選択的夫婦別姓制度の導入というのは、これはすぐれて立法政策の問題でございまして、民法を改正しなきゃなりませんが、この問題については国内でさまざまな議論があることは、もう申し上げるまでもないと思います。婚姻制度とか家族のあり方、国際的な保護とも関係がないわけじゃありませんけれども、まず国内の問題としてどうするかという重要な問題でございまして、国民各界各層でさまざまな議論がございます。まだ各方面の十分な御理解を得ることが難しい状況にあると言わざるを得ないと私どもは認識をいたしております。

枝野委員 大臣とこれ以上詰めてもしようがないんだろうと思うんですが、理屈を申し上げれば、日本人はすべからく、すべての日本人が結婚したら夫婦で同じ氏を名乗るべきだという価値観に立たれるのであるならば、国際結婚をして夫婦別氏になっている夫婦に対しては、この国際私法の四十二条を適用して、日本の公序良俗違反だから同じ氏を名乗れという主張をしないと、論理矛盾であります。国際結婚の場合だったら夫婦別でもいいんだったら、本人がどうしても別の氏にしたいという人について例外を認めても何ら公序に反することはないというのがロジカルな話であって、もともと選択的夫婦別姓反対論は論理性がないと僕は思っておりますが、この一点でも明らかに論理性がないということを申し上げておきたい。感情論にすぎないということを申し上げておきたい。

 ちなみに、私個人は夫婦別姓にしたいと思っていませんし、現に別姓ではありませんし、もしも別姓の制度が通っても別姓にしようとは全く思っていない、そのことを念のために申し上げておきたいというふうにつけ加えておきます。

 次に、これはかなり確認的な話になるかというふうに思いますが、十八条の話をさせていただきたいと思います。

 これは、きょうの午前中の質疑とかきのうも若干議論になっているかというふうに思いますが、まず、この十八条、製造物責任の特例の規定で、引き渡しがなされた地が連結点になるということでありますが、例えば航空機の瑕疵があった場合、これは何度か言われていると思いますが、航空機に瑕疵があって事故が生じてしまって、被害が生じたと。飛行機の製造者の所在地あるいは被害者の所在地、国籍や常居所地等関係なく、一般的には、引き渡し地というのは航空会社の会社のある地ということになるんでしょう。

 こういうことになるのは違和感があるという指摘を受けております。そうではないんだということもわかっておりますが、そこをきちっと御説明いただきたいと思います。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 本法律案第十八条は、生産物責任について、不法行為に関する原則的な準拠法である結果発生地法によるときは、生産物の性質上、結果発生地が過度に広がってしまい、生産業者等にとっても被害者にとっても思いがけない地の法が準拠法となる可能性があるため、双方にとりまして中立的かつ密接に関係する市場地法による旨の規律を採用したものです。そして、その具体化に当たりましては、被害者の保護の観点から、被害者が生産物の引き渡しを受けた地の法によることとしたものです。

 被害者の中には生産物の引き渡しを受けた者以外の者も想定されますが、第十八条は、引き渡しを受けた者が基本的に被害者として生産物責任を主張する場合についての特則規定であります。すなわち、バイスタンダーには、生産物の購入者の家族からたまたま生産物の近くにいた者まで、さまざまなケースが考えられますので、バイスタンダーが被害者となる場合には、一律に市場地法を準拠法とすることは妥当ではなく、具体的な事案に即した関連規定の解釈、適用にゆだねるのが適切であると考えたものです。

 先生のお話しになりました飛行機に関してですが、瑕疵を有する飛行機の乗客がその瑕疵に基づく事故について航空機の製造業者に責任を追及する場合について申し上げれば、乗客は飛行機の引き渡しを受けていないのでバイスタンダーとなり、したがいまして、製造業者に対する損害賠償請求について本条の適用はありません。

 そこで、本法律案第十七条により、不法行為の原則的な準拠法である結果発生地法によることが考えられますが、結果発生地法が事故の発生という偶然の事情により決まること、また御指摘の事例においては、航空機製造業者が米国の会社で、被害者も米国に居住する米国人であり、加害者と被害者が不法行為の当時に同一常居所を有しているケースと同視することができることから、第二十条の例外規定が適用されて、米国法が準拠法となると解される可能性が高いものと考えられます。

枝野委員 念のためお尋ねをしたいんですが、十八条の表題「生産物責任の特例」と書いてあって、今の御答弁で、例えば航空機の瑕疵で事故、被害に遭われた場合には、被害者は十七条、不法行為の原則でいきますというお答えだったんですが、日本では製造物責任法という法律があります。各国とも、その生産者に対して無過失あるいは過失の程度を低い水準で責任を認めるという法制度は、日本に限らず、むしろ日本以外のところの先進国では結構たくさんあります。

 日本の場合、それを製造物責任法と呼んでおりますが、十七条に言う「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力」というのは、今の日本における法律の名前にかかわらず、引き渡しを受けた者でない者が損害賠償を請求する、例えばそれの根拠になっている法律が製造物責任法であっても十七条が適用になる、十八条ではない、こういう理解でよろしいんですね。

三ッ林大臣政務官 先生のおっしゃるとおりでございます。

枝野委員 それでも、これは通告しておりませんので御答弁は結構なんですが、なかなか悩ましいことは出てくるんだろうと。

 今政務官がお答えをいただいたように、アメリカの飛行機メーカーがつくって、被害に遭ったのがアメリカ人であれば、アメリカ法を適用しましょうね、これはわかりやすいんですけれども、例えば、飛行機を製造したのがアメリカでした、日本の航空会社が引き渡しを受けて、それに乗っている例えば中国人の方が被害に遭ったとしましょうといったときに、さあどこの法を適用したらいいのかというのは、なかなか難しい話だろうと思います。十七条とそれから二十条とを駆使して解釈をしても、非常に悩ましい話ではないかと思います。

 今回の改正はこれでいいんだと思いますが、今後、判例、学説の蓄積なども含めて、ここは法務省としてしっかりウオッチをしていって、こうした国際性を持った、一般的に、先ほど参考人の方が、外国で電気ひげそりを買って事故を起こしたらと、この程度の話はいいと思うんですが、まさに、航空機であるとか、世界をまたにかけて国境なく移動する、そして利用する製造物についての民事的な責任のあり方というのは、もしかすると従来の国際私法の概念を超えて、国際的な協調とかいうことに踏み込んで、行政的にといいますか、国際航空何とか規約とか規定とかで一部ありますけれども、そことの整合性も含めてやっていかなければならないんじゃないか。

 そこは、多分、法務省の中にも日常的に国際私法をウオッチして所管されている担当の方というのはなかなかいらっしゃらないんだろうと思うんですが、重要な話だと思いますので、ぜひ、そのあたりのウオッチと今後の検討をしっかりやっていただきたい。その前向きのお答えを、大臣、いただけますでしょうか。

杉浦国務大臣 当然、先生のおっしゃるとおりだと思います。

枝野委員 最後になりますが、確認的なお話です。

 十一条の消費者契約の特例について、強行規定については、消費者の常居所地法の強行規定を適用できる、その意思を事業者に対し表示したときはそれを適用できるという規定がございます。それから、十二条についても、「労働者が」「最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、」ということで、十二条においては労働者、十一条においては消費者が、ある法の適用の意思表示をしたときにはそれが適用されるという規定がございます。

 念のためなんでございますけれども、この意思表示の時期というのは、例えば、消費者契約であれば消費者契約の時点において意思表示が必要なのか、労働契約であれば労働契約の時点においてその意思表示が必要なのか。それとも、これは国際私法が裁判になったときの法の適用の話ですから、裁判になったときにその適用を求める意思表示をすれば足りるのか。できれば理由も含めて、説明も含めてお答えをいただければと思います。

三ッ林大臣政務官 お答えいたします。

 消費者または労働者が、その常居所地法に、または労働契約の最密接関係地法中の特定の強行規定による保護を求める場合には、これを適用するべき旨の意思を事業者または使用者に対して表示することが必要ですが、その意思の表示は、実体法上の意思表示ですから、訴訟においてはもとより、訴訟外において行うこともできます。

 また、本法律案においては、その意思の表示に時期的な制約はありませんから、消費者または労働者は、契約締結後、いつでもそのような意思表示を行うことができ、その契約についての紛争が訴訟となってからでも可能であります。

枝野委員 今の御答弁でそういうことなんだろうというふうに思いますし、ただ、これは私が頭が悪いのかもしれませんが、一応国際私法を、二十年前とはいえ、それなりに勉強したつもりなんですが、この条文、ざっと最初に読んだときに、あれ、これは裁判のときでもいいんだよね、どうだっけ、この書き方だと行為のときに言わないといけないのかなと、正直言って、一瞬戸惑いました。

 どう書いたらわかりやすくなるのかということについて知恵があるわけではありませんし、法律家的視点でもう一回慎重に読めば今のような解釈になるというのももちろんわかるんですけれども、せっかく今回の改正によって現代文化をしてわかりやすくしたということでありますので、実は、ほかの規定をいろいろ見ても、法律は、一般にわかりにくい、法律家以外が読んでもわからないという側面はあります。公職選挙法とか税法に比べればずっとましかなとは思うんですが、民事関係、身分関係などという、より一層国民生活に直接結びつく法律でありながら、事柄の性質上、非常に回りくどく、わかりにくくということになっている。

 あるいは、そもそもの、最初にお尋ねをした、本国法というのは何なのかとか、きょうもちょっと連結点とかいろいろな言葉を使って聞いてしまいましたが、ある意味、ちょっと勉強すれば当たり前のことが実は定義されていなくてこの法律ができてしまっているということなので、専門家用の法律だと割り切ってしまえばこれでいいのかもしれない。

 ですけれども、多分、法律というのはそれではいけないんだろうということを考えると、これもまたもうちょっと今後、例えば法律の表題のことを一番最初にお尋ねしましたが、そこも含めて、専門家以外の一般の国民の皆さんが見ても、あるいは中身を読んでもそれなりに理解できるという方向にさらなる努力は必要なのではないか。口語化できて、現代仮名遣い化できて、これでわかりやすくなりました、おしまいですというわけにはいかないということで、すぐにどうこうしろという話ではありませんが、そうした視点を持っていただければというお願いを最後に申し上げて、少し前向きの御答弁をいただければと思います。

杉浦国務大臣 この先生御指摘の規定に限らず、法律が一般国民の目から見てわかりにくいというのはあると思います。これは法務省だけに責任があるわけじゃありませんが、できるだけわかりやすい表現をするという努力は不断に積み重ねてやらなきゃいけないと思います。

 貴重な御指摘をいただきまして、ありがとうございました。

枝野委員 時間になりましたので終わりますが、まさにこれから、国際化、人の移動、物の移動、お金の移動、ますます激しくなってまいります。恐らく日本の裁判所もこの法律を使って判決を出さなければならない案件もふえていくだろうというふうに思いますし、その蓄積を受けてさらなるブラッシュアップが必要なこと、まだたくさんあるんだろうというふうに思いますので、ぜひ法務省としてもそのあたりのウオッチと経験、ノウハウの蓄積ということをしっかりやっていただくことをお願いして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

石原委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

石原委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、参議院送付、法の適用に関する通則法案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

石原委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

石原委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、松島みどり君外四名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ、公明党、社会民主党・市民連合及び国民新党・日本・無所属の会の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。高山智司君。

高山委員 民主党の高山です。

 ただいま議題となりました附帯決議案について、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    法の適用に関する通則法案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 国際化の進展に伴い、国際私法の重要性がますます高くなっていることにかんがみ、社会の変化、諸外国の立法動向等へ的確に対応するなど、利用者のニーズに適合した規律が確保されるよう、不断の見直しを行うこと。特に、不法行為の準拠法に関する規律については、本法の運用状況を注視しつつ、報道の自由の確保にも留意した上、国際的調和及び利用者のニーズの観点から、必要があれば見直しを行うこと。

 二 我が国の法令が準拠法として国際的にも幅広く利用され、国際取引の更なる活性化・円滑化に資するよう、法令外国語訳の早期整備及び法制度の一層の充実を図ること。

 三 我が国における国際的な紛争をめぐる裁判において、準拠法となる外国法の適用が的確かつ迅速になされるよう、国際私法及び外国法の調査研究を行う体制を確立すること。

 四 国際私法は、企業間取引のみならず個人の日常社会生活関係に深い関わりを有していることにかんがみ、消費者契約及び労働契約の特則についての改正内容を始め、その十分な周知に努めるとともに、国際私法についての理解を深めるため、法教育の充実を図ること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

石原委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

石原委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。杉浦法務大臣。

杉浦国務大臣 ただいま可決されました法の適用に関する通則法案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

 ありがとうございました。

    ―――――――――――――

石原委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんでしょうか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

石原委員長 この際、連合審査会開会に関する件についてお諮りいたします。

 本委員会において審査中の内閣提出、信託法案及び信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案に対し、財務金融委員会から連合審査会開会の申し入れがありましたので、これを受諾するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 また、連合審査会において、政府参考人及び参考人から説明または意見を聴取する必要が生じました場合には、出席を求め、説明等を聴取することとし、その取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次に、お諮りいたします。

 連合審査会において、最高裁判所から出席説明の要求がありました場合には、これを承認することとし、その取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石原委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 なお、連合審査会の開会日時等につきましては、委員長間で協議の上、公報をもってお知らせいたしますので、御了承願います。

 次回は、来る十六日金曜日午前九時三十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時二分散会


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