衆議院

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第4号 平成18年10月25日(水曜日)

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平成十八年十月二十五日(水曜日)

    午前十時二分開議

 出席委員

   委員長 七条  明君

   理事 上川 陽子君 理事 倉田 雅年君

   理事 棚橋 泰文君 理事 早川 忠孝君

   理事 松浪 健太君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      近江屋信広君    奥野 信亮君

      後藤田正純君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    杉浦 正健君

      萩原 誠司君    三ッ林隆志君

      宮腰 光寛君    武藤 容治君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    市村浩一郎君

      田村 謙治君    中井  洽君

      細川 律夫君    横山 北斗君

      保坂 展人君    今村 雅弘君

      滝   実君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣         長勢 甚遠君

   内閣府副大臣       渡辺 喜美君

   法務副大臣        水野 賢一君

   法務大臣政務官      奥野 信亮君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    寺田 逸郎君

   政府参考人

   (財務省大臣官房審議官) 古谷 一之君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房審議官)           和泉 洋人君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月二十五日

 辞任         補欠選任

  武藤 容治君     萩原 誠司君

  河村たかし君     市村浩一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  萩原 誠司君     武藤 容治君

  市村浩一郎君     田村 謙治君

同日

 辞任         補欠選任

  田村 謙治君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 信託法案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第八三号)

 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第八四号)


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     ――――◇―――――

七条委員長 これより会議を開きます。

 第百六十四回国会、内閣提出、信託法案及び第百六十四回国会、内閣提出、信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。長勢法務大臣。

    ―――――――――――――

 信託法案

 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

長勢国務大臣 信託法案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 この法律案は、最近の社会経済の発展に的確に対応した信託法制を整備する観点から、受託者の義務、受益者の権利等に関する規定を整備するほか、多様な信託の利用形態に対応するための新たな諸制度を導入するとともに、表記を現代用語化し、国民に理解しやすい法制とするものであります。

 第一に、この法律案は、信託制度について、受託者の義務、受益者の権利等に関する規定を整備することとしており、その要点は次のとおりであります。

 まず、受託者の義務に関しては、形式的には受託者と受益者との利益が相反する行為であっても、信託行為において許容する旨の定めがあるときなど実質的に受益者の利益を害しないときはこれを許容することとし、また、信託事務の処理を第三者に委託することができる範囲を拡大するなど、その規律の合理化を図ることとしております。

 次に、受益者の権利に関しては、帳簿その他の書類及び信託財産等の状況に関する書類の作成、保存、閲覧等の規定を整備し、受託者に対する損失てん補等の請求に加えて違法行為の差しとめ請求の制度を創設するとともに、受益者の意思決定について多数決によることを許容するほか、新たに、受益者にかわって受託者を監督する信託監督人制度等を創設するなど、その行使の実効性及び機動性を高めるための規律を整備することとしております。

 第二に、この法律案は、信託制度について、多様な信託の利用形態に対応するための新たな諸制度を導入することとしており、その要点は次のとおりであります。

 まず、状況の変化に即応して信託の形態を再編できるように、信託の併合及び分割の制度を設けるとともに、信託を利用した資金調達の要請にこたえる観点から、受益権の有価証券化が可能となる受益証券発行信託の制度を設けることとしております。

 次に、受託者の履行責任の範囲が信託財産に限定される限定責任信託の制度を創設し、公益信託でなくとも受益者の定めのない信託を一定の要件のもとに許容し、委託者がみずから受託者となる信託についてその要件、方式等を一般の信託より厳格なものとした上でこれを許容するなど、信託の類型の多様化を図ることとしております。

 第三に、この法律案は、信託法の表記を現代用語化しようとするものであります。

 信託法は、大正十一年に制定された法律であり、片仮名の文語体で表記されていることから、利用者にわかりやすい法制とするため、これを平仮名の口語体の表記に改めることとしております。

 続いて、信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案につきまして、その趣旨を御説明いたします。

 この法律案は、信託法の施行に伴い、旧信託法、信託業法その他の六十三の関係法律に所要の整備を加えるとともに、所要の経過措置を定めようとするものであります。

 以上が、これら法律案の趣旨でございます。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに可決していただきますようお願いいたします。

七条委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

七条委員長 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長寺田逸郎君、財務省大臣官房審議官古谷一之君、国土交通省大臣官房審議官和泉洋人君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

七条委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

七条委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。

 本日から、八十年ぶりの信託法の全面改正案を審議することになりました。信託銀行等が取り扱う信託財産の総額は五百兆円を超え、信託の我が国の経済活動における重要性は極めて高く、また、障害者、高齢者、被扶養者の福祉のためにも有力なツールとなるものであります。今回の改正は信託制度の活用範囲を飛躍的に増大させるものであり、大変意義のあるものである、こう考えます。

 今回提案されております信託法案あるいは整備法案等の目的は信託の多様な発展を促進することであり、その際に最も大切なのはユーザーの視点であると考えます。信託という制度を利用する者の立場から見て利用しやすく、魅力あるものとすることが、結局、信託を普及させる最善の方途ではないかと思うわけでございます。

 信託法案では、このような観点からどのような改正を行おうとしているのか、法務大臣に見解をお伺いしたいと思います。

長勢国務大臣 今委員お話しのとおり、信託法、八十年ぶりの改正ということになります。

 信託という仕組みはそれほど普及しなかったんですけれども、近年に至りまして、いろいろな金融商品として活用されております。例えば貸付信託あるいは年金信託、証券投資信託というように、多くの形で利用が普及してまいりました。

 さらに、新たな形態での信託というやり方を活用して資産流動化、財産を現金化するというやり方ですけれども、こういうことのための信託。あるいは、お話にもありましたように、障害者ですとかお年寄りの方々のためにこういうものを利用したいといったようなニーズがふえてまいりましたので、こういうことを受けて、信託銀行あるいは事業会社を初めとする経済界からは、もっと使いやすいものにしてほしいとか、もっと活用できるような仕組み、新たな信託制度を創設してもらいたいとか、高齢者や障害者等の生活を支援する、あるいは確保する、こういう目的での活用ができるようなものにしてもらいたいといったような指摘がなされてきておるところでございます。

 今回の信託法案、これらのいろいろな要望というものを精査いたしまして、信託制度というものを、その利用者である委託者あるいは受益者、受託者の目から見て、より合理的で利用しやすいものにするということから改正をしようとするものでございます。

 例えば、企業といいますか、商事的な分野におきましては、一つは、受託者と受益者の利益とが相反する行為の禁止について、今までは厳密に禁止をしてまいりましたが、一定の要件のもとでこれを緩和しないと使いにくい、もちろん厳密な要件はつくるわけですが、ということにするとか、あるいは受託者が第三者に信託事務の処理を委託する、管理をするときにみずからやらなくてもいいものもあるわけでありますので、そういう場合を拡大するとか、あるいは第三者の選任監督上の受託者の義務についても規定を整備する。

 三番目にも、受益者の意思決定について、今までは全員一致という形になっていましたが、これを多数決によらないといろいろやりにくいことも出てきておりますので、多数決によることを許容することとしますとともに、受益者集会の手続等及び反対者の受益権取得請求権の規定などを整備する。

 四番目として、受益権の流通性を強化するというために、受益証券を発行する受益証券発行信託を創設する。こういう形で流通性が強化をされる、現金化しやすいということになりますが、こういうふうに体制を整備する。

 あるいは、受託者が信託財産のためにした行為によって生じた権利や信託事務の処理について生じた権利等についての債務を履行すべき責任を信託財産のみをもって負担する信託、いわゆる限定責任信託と言っておりますが、こういう制度を創設するとか、あるいは、今までは委託者と受託者は別ということになっていましたが、委託者が、自分がみずから受託者になるということによって行う自己信託という制度を新たに設ける。これは、特に障害者とか高齢者のために、自分の財産をきちんと使いたいということに活用しやすくなっておりますが、こういうようなことによって、今回、皆さんが利用しやすい、活用しやすい、また間違いのない制度に抜本的につくり直そうという趣旨のものでございます。

大口委員 今、大臣から非常に丁寧な御説明がございました。信託といっても、実際上さまざまなものがあるわけです。投資家や企業がその資産を運用するといったこれまでのこと、あるいは資産の流動化を初めとした資金調達、あるいは受益権の証券化、こういうことのために信託を利用する、それから非営業的な信託、こういうものまでさまざまあるわけであります。このような信託のタイプの違いに応じて、例えば営業信託と非営業信託とでは、受託者の監督の必要性なども異なると思われるわけです。

 信託の関係法律としては信託法、信託業法などがあるわけでございますけれども、両者はどのような関係にあって、信託法はどのような役割なのか、法務省の見解をお伺いしたいと思います。

寺田政府参考人 今お話がございましたとおり、信託に関しましては、大きく信託法と信託業法という二つの法律がございます。これはともに大正十一年、一九二二年に制定されたものでございまして、今日までいわば並走してきているわけでございますが、理念的な関係から申しますと、まず信託法というのが民法の特別法としてございます。これは、当事者の権利義務関係を基本的に決めるということでございまして、それがたとえ事業に用いられるものであれ、あるいは高齢者の養護その他の民事的な色彩を持った目的に用いられるものであれ、いずれも適用になるものであります。したがって、監督する場面でも、現行の信託法ではかなり大幅に裁判所がこれを監督するということで、行政庁の関与は排除されております。ただし、公益目的の信託につきましては、別途、公益目的の信託という形で一番最後に信託法に規定が置かれているわけでございます。

 これに対しまして信託業法は、事業としてこの信託を行う者について、その監督を行政的に行うということを基本としているわけでございまして、一定の権利義務が決まりましたとしても、その上でさらに、業者に対しましては、これを、より厳しい制約を課するというようなことが現に信託業法の中では幾つか見られるわけでございます。

 今回も、信託法については相当、先ほど大臣の方から御説明申し上げましたように、いろいろなタイプの目的に応じました新たな法律関係というのが信託法にはできますけれども、逆に、それに沿ってこれを業として行う者についての制約を設けるということで信託業法にも新たな手当てがされている、こういう関係に立つわけでございます。

大口委員 それでは、各項目についてお伺いしたいと思います。

 まず、今回の信託法案では、受託者の義務に関して合理化を行うこととしていますが、この義務の合理化は、受託者のためではなく、委託者や受益者の利便や経済的利益を促進する、そういう改正でなければならない、こう思っております。

 まず忠実義務についてでありますが、これについて、形式的には利益相反に当たる行為であっても、例えば信託契約に当該行為を許容する定めがある場合や受益者が承認を与えた場合には、例外的にそのような形式的利益相反行為を許容するとしています。しかし、信託がされれば受託者と受益者との間には信認関係が築かれるという信託の本質に照らすと、受益者の承認については、受益者が利益状況等を十分理解した上で承認することを要求すべきである、こう考えます。この点が一点。

 それと、善管注意義務についてでありますが、受託者は善良な管理者の注意をもって信託事務を処理しなければならないという現行の趣旨は重要でありますが、他方で、私的自治の観点から、その注意義務の水準、内容を個別的に変更可能とすることは私も必要であると思います。一方で、このような注意義務の軽減が全面的に許容されるべきではないようにも思われるところでございます。

 そういう点で、今、忠実義務そして善管注意義務について、信託法においてこれらの点についてどのように整備されているのか、お伺いしたいと思います。

水野副大臣 先生御指摘のとおり、今回の信託法案におきましては、受託者の忠実義務の内容を見直しておりまして、受益者の承認を得ることによって受託者がいわゆる利益相反行為を行うことも可能になっております。

 ただ、もっとも、単に受益者から承認を受ければよいというふうにしたのでは、受益者が承認するか否かの判断をするのに必要な情報を知らせることのないままに受託者がその判断を受益者に迫るといったような、そういう懸念があり得るというのも、委員のおっしゃられるとおりだというふうに思います。

 そうやって十分な情報を与えないままというのでは、受益者のために忠実に信託事務を遂行すべきだという受託者の地位にもとるものですから、今回の信託法案では、単に承認を得ればいいというのではなくて、法文上も「重要な事実を開示して」という文言を入れておりますし、いわば、医療なんかの言葉で使われる言葉でいえばインフォームド・コンセントとか、そういうものがあって初めて、そういうものが開示されて受益者の承認を得る必要があるというものとしております。

 あと、後段の方で先生が御指摘された善管注意義務の方の話でございますけれども、このお話に関しても、要するに、何でもかんでも注意義務を引き下げればいいというものじゃないんじゃないかという御指摘だと思うんですけれども、この部分に関しても、信託というのは民事的な法律行為ですので、私的自治の原則が妥当いたします。したがって、その内容や程度を加重あるいは軽減することが許されるのは原則ではございますけれども、他方で、受益者の保護が必要な信託についてまで義務の軽減を認めると弊害も予想されることもございます。

 このような観点から、今回の信託法案では、信託行為の定めによって受託者の善管注意義務の程度を加重あるいは軽減することを原則としては認めつつも、例外として、受益者が多数の投資家に転々流通することを予定したような受益証券発行信託、こうしたものについては義務の軽減を一切許さないというようなことにしてございます。

大口委員 また、受益者の権利行使についてお伺いしたいと思うんですが、信託は受益者に利益を帰属させるために使われる制度であります。信託法案では、この受益者の権利は十分か、特に、受益者が受託者を監督するための各種の権利が適切に確保され、かつ適切に行使できるようになっているかが重要であると思います。

 また、受託者の義務を合理化するのであれば、さらにこのバランスをとるべく受益者の権利行使を充実させるべきと思われますが、このような観点から、今回の改正法案ではどのような規定を設けているのか、お伺いしたいと思います。

奥野大臣政務官 新しい信託法案では、信託について、当事者の私的な自治にゆだねられるような範囲が非常に多くなっているわけでありますが、一方でやはり、御指摘のとおり、受益者のための財産管理制度としての信頼性を失ってはならぬ、そういうことを考えるわけでありまして、受益者の権利行使をより実効的、機動的なものにするための措置を講じております。

 具体的には三つ新しく制定しているわけでありますが、法令または信託行為の定めに違反するような行為があった場合、受益者がこれを差しとめられる権利をつくっていること。また二つ目には、複数の受益者による意思決定に関して特段の措置を講じようということで、受益者が多数あった場合に、機動的な意思決定を可能にするため、信託行為の定めを置くことによって受益者が多数決をもって意思決定をすることができるんだ、こういうのが二つ目であります。それから三つ目が、受益者が未成年者や高齢者である場合、なかなかチェックができない、そういう方の場合に、みずからが受託者を十分に監視することができない場合には、受益者にかわって受託者を監視、監督する信託監督人というものを弁護士とか公認会計士の中から選べるというような制度を新たにつくっているわけであります。

大口委員 次に、新たな類型の信託についてお伺いしたいと思います。

 自己信託あるいは信託宣言ということについて、今回の信託法案では委託者がみずから受託者となる自己信託を制度化しているわけです。その利点として、委託者兼受託者が破産しても、信託財産は債権者から隔離されるということがあります。その効果として、自己の破産リスクを気にすることなく親が子の養育費を確保したり障害者の生活をサポートできる、また、信託財産から得られる将来の利益、例えばビルの賃貸料、特許使用料等を証券化して販売することによって資金調達が行えることになります。

 その一方で、問題点としては、債権者の財産隠匿のために利用されるのではないかというのが一点。そして、その悪用を防ぐために、今回の改正法案では、公正証書作成の義務づけや詐害信託の取り消し、あるいは信託監督人等の第三者による委託者兼受託者の監視といった対策が施されていますが、これがどれほど実効性があるのか。そして、この法案の附則の二項の自己信託に関する一年の経過措置の趣旨についてどうなのか。これらの諸点について、法務省のお考えをお伺いしたいと思います。

寺田政府参考人 今御指摘のありました自己信託、これは、信託を設定する方法といたしまして一番多く用いられるのは当事者の合意、契約によるものでありますけれども、そのほかに、遺言とこの信託宣言が今回新たに認められるということで、従来の二つに加えましてさらに一つ、三つ方法ができた。その最後の三つ目の方法によるものであります。

 これにつきましては、新しい方法ではありますが、信託の先進国であります英米法でもこういうものは認められておりますし、理念的にまず申し上げますと、信託といいますと、私どもはどうしても委託者が受託者に財産を譲渡するということを考えるわけでございますけれども、信託全体の理念から申しますと、委託者というものの比重というのは、信託が行われた後はそれほど大きいものではない。つまり、どちらかといいますと、委託者はもう財産はそこで処分してしまうのに近い形になるわけで、後は受託者と受益者の関係が非常に重要になるわけであります。そういう意味では、この自己信託というのも決して信託の制度として違和感のある制度ではないということをまず申し上げたいと思います。

 次に、ただ、これはどうしても、財産隠し等に利用されるのではないかという声が、この点について非常に、利用しやすくなって結構な信託法の改正だけれども、ここはどうも問題があるのではないかという御指摘が非常にこれまでも見られたわけであります。

 ただ、財産隠しというのも、なかなか考え方が難しいところでございます。まず、普通の意味での財産隠しということになりますと、これはいわば委託者兼受託者になるわけでありますけれども、その人の手元に財産がそのまま、形式的にはその人の所有のまま置かれるわけでありますから、別に、財産を隠すのであればもっと巧妙な方法というのは幾らでもあるわけであります。しかし、おっしゃる趣旨は、今大口委員がおっしゃったように、この場合の財産隠しの批判の意味でございますが、これは多分、債権者を害する、つまり、あたかも外形的には前と同じような所有形態にありながら、行ってみたらそれはもう受益者のための拘束がかかっている、こういう状態になる、そのこと自体を御批判になっておられるんだと思います。

 これにつきましても、これを審議いたしました法制審議会での法律専門家の御議論では三つほど意見がございまして、一つは、これはやはり問題だ、同じように債権者を害するおそれがあるという御意見。しかし、これは、第三者に譲渡される、受益者の拘束がかかるという意味では普通の財産譲渡とちっとも変わらない、したがって特に普通の詐害行為の取り消し以上に債権者の保護を考える必要はないのではないかという御意見。

 三つ目に、理屈の上ではそのとおりではあるけれども、ただ、現実問題として、やはり少し気持ちが悪いと。特に、同じような所有形態になっているわけですから、もとの委託者の債権者にとっては、もう少し何らかの救済手段が与えられてしかるべきだ、こういう三つの意見があったわけでございまして、この法案では、三つ目の意見に最後収れんしたということになるわけでございます。

 すなわち、自己信託を設定する場合に、それを明らかにさせるために公正証書によることを要求いたしておりますけれども、それだけでなく、裁判所によって詐害行為の取り消しがされるという一般原則に対しまして、裁判所によって詐害行為の取り消しがされるという公式の手続を踏まなくても、この場合には、すなわち自己信託の設定の場合には、委託者の債権者が信託財産に対して詐害行為の要件があれば直接強制執行ができるという簡便な権利の救済策というのを設けているわけでございます。二十三条の第二項に当たるわけであります。

 したがいまして、そのおそれというのは、事実上の問題といたしましては、確かに気持ちが悪いというところはございますが、救済策としては相当思い切ったものがとられているということは言えようと思います。

 それからさらに、よほどよくない形で財産譲渡が行われた、これはどうも許しがたい形で自己信託が行われているといった場合には、裁判所が法務大臣あるいは委託者の債権者等の利害関係人の申し立てによって信託を終了させてしまうというような道もあるわけでございます。

 このようなことから、財産隠しに利用されるというのも、基本的にはこの手当てはされていると私どもは考えて提出をさせていただいているわけでございます。

 二番目に、信託の監督人の選任という手段がございます。

 これは、先ほども出ましたが、受益者が十分な決定ができるような状況にない場合に、これにかわって受益者の権利を行使する、こういう立場にある者として新たに設けたわけでございますけれども、この中には、裁判所に対する受託者の解任の申し立て権、それから、権限違反行為を受託者がした場合に、その取り消しをする権限、日ごろから信託事務の処理についての報告を求める権利、帳簿の閲覧権等、非常に広範な権限が認められているわけでございます。最後は任務違反があれば差しとめをする権利まであるわけでありまして、監督人による監督というのも一つの大きな保護の手段だということは言えようかと思います。

 最後に、では、なぜ自己信託については施行を通常の施行日よりさらに一年おくらせたのかと。

 この点は、信託法案の附則の第二項によるところでありますけれども、今申しましたようないろいろな御批判もありますが、とりわけ自己信託については、やはり税金がどういうふうにかかるのか、あるいは会計原則の適用はどういうふうになるのかというようなことが、なかなか難しいところが確かにあるわけでございます。したがいまして、普通の施行よりもさらにそれについてはより慎重な検討が必要だということで、一年をさらに延期しているわけでございます。

 もちろん、新しい制度でございますので、周知徹底を図る必要があるわけでございます。そういう、税金がどうなるのか、あるいは会計はどうなのかということを含めて、つけ加わりました一年の間に十分な措置をとりたい、このように考えているところでございます。

大口委員 今回の改正法案においては、事業信託というのがあります。事業を信託することが可能になったわけです。その効果として、企業は事業部門を丸ごと信託できる、企業本体の財務と切り離されるので、リスクが大きい事業に取り組みやすくなる、また、不振事業再生のツールとして利用できる。例えば、総合電機メーカーが、液晶TVの生産部門をその分野に強い他のメーカーに部門ごと信託することが可能になる。

 その一方で、問題点として、自己信託を組み合わせて利用された場合、投資家の保護を図ることができないのではないか。例えば、企業は赤字の事業を信託宣言を使って切り離し、その事業の受益権を証券化し販売するケースが想定されるが、投資家の保護はどうか。また同様に、自己信託と併用された場合、コーポレートガバナンスを回避する手段になりかねないとの懸念があるが、どうか。また、事業信託によって会計処理上はどうなるのか、自己信託併用の場合どうなるのか、こういうことについて法務省、金融庁の見解をお伺いしたいと思います。

寺田政府参考人 まず、私の方から、前段の御質問についてお答えをさせていただきます。

 事業信託とおっしゃられたわけでございますけれども、今回よく、この改正案の中には事業信託が新たに認められるようになった、そういう内容だ、こうおっしゃるわけであります。しかし、事業信託というものを新たな類型として認めたものではございません。

 ただ、従前も、財産を移転することに伴って、債務を引き受けるというような形で事業全体を信託に付することができることになるのかどうかという議論がございまして、それは一般的にはできるのではないかと解する方が多かったわけでございますけれども、その点がはっきりしないところがございました。そこで、今回は、資産の移転に伴いまして、債務もあわせて引き受けることもできるということを前文で規定したために、結果的に事業を信託にできるのではないか、こういう解釈がされているのだと思います。それは、今私が申し上げた限度では決して間違いではないところでございます。

 ところで、今の、事業の一部を自己信託するということによって、いろいろな弊害があるのではないかということでございます。

 しかしながら、まず、そもそも、自己信託をするために事業を譲渡することにおいてどういう手続が必要かということになりますと、事業の重要な一部を信託の対象にするということになりますと、これは株主総会の特別決議が必要になるわけであります。これは会社法自体による規律ということになります。また、同じく、事業の重要な一部に該当しなくても、その財産そのものが非常に重要なもの、例えば大きな不動産だというようなことになりますと、それは取締役会の決議が必要になるわけでございまして、そういう意味で、会社の内部でのコーポレートガバナンスは会社法自体によって保たれていると言ってもいいかと思います。

 問題は、その後、今度、自己信託がされた後に一体きちっと事業に対する監督が行われるかどうかでありますけれども、その点は、今度は逆に、自己信託における受託者の義務というのは受益者の間で当然生じるわけでありまして、これは、善管注意義務、忠実義務等ございます。これはむしろ通常の信託の監督、権利関係に移行するわけでございまして、そこではまたそれなりの権限の行使がされるわけでありますから、この点でもまた問題はないというように考えております。

 したがいまして、事業譲渡についてはいろいろ慎重に考えなきゃならないことはもちろんあるわけでございますけれども、法律上の手当てはされているというように私どもは考えております。

渡辺(喜)副大臣 まず、投資家保護の問題でございますが、委員御指摘のように、会社が赤字の事業部門を自己信託を行った場合、どうやって投資家保護を図るのかという問題でございますが、自己信託におきましても、通常信託と同様、信託受益者が投資家となるわけでございます。信託法に従ってBS、PLの帳簿を作成し、これを受益者が閲覧をすること、また、信託業法によりまして信託財産状況報告書等を受益者に提示すること、こういったことから受益者は保護されると考えております。

 したがって、会社が赤字の事業部門について自己信託を行うような場合でも、こうしたことから投資家保護は図られるものと考えております。

 また、信託受益権を販売する場合でございますが、この受益権の内容に関する説明義務、書面交付義務など、投資家保護の観点から必要な信託業法上の規制が適用されることになります。

 蛇足でございますが、金融商品取引法が成立をしております。今回の法整備と同日の施行が想定されます金融商品取引法では、受益権を有価証券とみなし、今はそうなっていないわけでございますが、その販売に係る業務を金融商品取引業として規制対象に取り込むこととしております。

 また、会計基準でございますが、これは、会社が財産を信託した場合、信託受益権を第三者に売却をしないままみずから保有するか、あるいは第三者に売却をした場合どうなるか。当然のことでございますが、みずから保有する場合はオフバランス化は認められない、第三者に売却をした場合にはオフバランス化が認められるということでございまして、このことは、事業信託や自己信託についても同様でございます。

 いずれにしましても、会計上の取り扱いの明確化につきましては、金融庁として、ASBJ、企業会計基準委員会の方に、会計基準の設定主体でございますので、事業信託や自己信託を含む信託に関する会計処理基準の明確化を要請しているところであります。昨日でございますが、信託に関する会計処理基準について今後検討を進めていくことをASBJの方で決定をしたと承知をいたしております。

大口委員 このほか、限定責任信託あるいは目的信託等の類型もございます。

 次に、平成十六年十一月十二日の衆議院の財務金融委員会で、信託業法案に対する附帯決議に、「政府は、次の事項について、十分配慮すべきである。」として、「次期法改正に際しては、来るべき超高齢社会をより暮らしやすい社会とするため、高齢者や障害者の生活を支援する福祉型の信託等を含め、幅広く検討を行うこと。」とうたわれています。

 高齢者や障害者等の財産管理について信託の仕組みを利用することを福祉型信託と呼んでおりますが、この福祉型信託の担い手としては、NPO、あるいは成年後見制度で大きな役割を担っています弁護士や司法書士が想定されるところであります。

 ところで、信託法との関係では特別法に当たる信託業法において、営業として信託の引き受けを行えば、それは信託業として同法の規制の対象となり、内閣総理大臣の免許を受けることが求められる等の規制を受けることになります。この信託業法の規制が福祉型信託の利用促進、発展を妨げる側面があるのではないかとの懸念を私は持っております。信託業法の適用対象となることによって、参入資格は株式会社に限定され、また金融庁の監督下に置かれることになるわけです。果たして、NPOや弁護士、司法書士が福祉型信託の担い手となることができるのか、NPOや弁護士等が個々に行う福祉信託の設定が、信託業法で言うところの「信託の引受けを行う営業」に該当するのかしないのか、問題となっております。

 そこで、四点まとめてお伺いします。

 一つは、信託業法上の営業信託の概念はどのようなものか。

 そして二番目に、信託業法上の受託者となれるのは株式会社に限定されると聞いておりますが、弁護士、司法書士あるいはNPO、弁護士法人、司法書士法人が信託を業として引き受けることができないということなのか。

 そういう場合に、例えば福祉目的の信託について、NPOや弁護士や司法書士が受託者となるのはどのような場合許されるのか。

 そして、福祉型信託をNPOや弁護士、司法書士が受託することを認め福祉型信託の担い手とすることは受益者の利益にもなるわけでございまして、高齢社会あるいは障害者の生活をサポートするといった問題を考えると、信託業法によるよりも、規制の対象となる営業信託の範囲や受託者となることの範囲についても検討する必要はあるのではないか。この点についてお伺いしたいと思います。

渡辺(喜)副大臣 まず、信託業法上の営業信託の概念でございますが、営利の目的を持って反復継続して行うことと理解されております。その場合の営利の目的とは、少なくとも収支相補うことが予定されていると承知いたしております。

 次に、受託者となれるのは株式会社だけじゃないか、弁護士さんや司法書士さんはどうなんだということでございますが、確かに、現行信託業法上は株式会社以外の者が信託会社となることは認められておりません。

 福祉目的の信託について、弁護士、司法書士が信託の引き受けを行うのはどのような場合に許されるかということでございますが、信託業法上の取り扱いは、株式会社を設立した上で、通常の信託と同様にこうした信託の引き受けを行うことは可能でございます。

 でも、それだけでは不十分じゃないか、こういう問題認識かと存じます。

 平成十六年の十一月に行われました前回の信託業法の改正の際の衆議院、参議院財務金融委員会の附帯決議がございます。その附帯決議の中で検討事項の一つとして御指摘をいただいております。三年以内の検討の中で、今御指摘になられました高齢者や障害者の福祉のため、社会的信用を有する弁護士、司法書士などが福祉信託の引き受けを行うことができるようにすべきではないかという点についても必要な検討を行ってまいりたいと考えております。

大口委員 大変前向きな答弁をいただき、ありがとうございました。

 あと、NPOについてちょっと言及していただきたいと思います。

渡辺(喜)副大臣 NPOや公益法人についても認めるべきとの指摘がございまして、必要な検討を行ってまいりたいと考えております。

大口委員 次に、マンションと信託制度についてお伺いしたいと思います。

 信託法の改正案に盛り込まれている自己信託をマンション管理組合の資金管理に活用したり、あるいはマンション一棟丸ごと信託財産とするなど、分譲マンション管理の分野において信託の活用が可能ではないか、こう考えられます。それぞれのメリットなども含めて、国土交通省としての考えをお伺いしたい。

 それから、分譲マンションにおいて、各区分所有権を一の受託者に信託した場合、当該マンションの所有者は受託者のみとなります。一方、当該マンションの真の所有者は受益者たる居住者であり、その態様は明らかに区分所有物に類似している、このような信託建物において区分所有権は適用されないと解釈してよいのか。それと、居住用の分譲マンションの区分所有権を信託した場合において、受益者たる居住者が取得する信託受益権をマンション一室及び共有部分の利用権と解釈することは可能なのか、これについては法務省にお伺いしたいと思います。

和泉政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、分譲マンション管理組合の財産でございます管理費や修繕積立金等の金銭を保全するために、信託の持つ倒産隔離機能を活用することが考えられるわけでございます。

 例えば、管理費等が管理業者の口座へ一時管理されたとき、その間に管理業者が倒産した場合といったトラブルがあるわけでございますが、組合財産が信託財産とされておれば、きちっと保全されるということになるわけでございます。このような手法は、現行の信託法においても活用可能でございますが、マンション管理適正化法においては、管理業者による組合財産の管理について信託を想定していないといったことがございますので、現在、関連業界とも協力して検討を開始しているところでございます。また、自己信託が解禁されれば、信託コストの低減、あるいは手続の簡素化が図られ、利便性が向上するものと考えております。

 次に、御指摘の分譲マンションの共有部分と専有部分を丸ごと信託するということが考えられます。分譲マンションの居住者の高齢化、あるいは分譲マンションの賃貸化が進む中で、管理組合がみずからではマンションの適切な維持管理のために十分な機能を果たせないということも想定されるわけでございまして、あらかじめマンションのすべての区分所有権及び共有部分の所有権を一の受託者に信託しておけば、受託者責任に基づきまして、マンションの適切な維持管理が図られるものと期待されます。

 いずれにしましても、今や国民の約一割が居住する分譲マンションについて、長期にわたって適切に維持管理していくために、信託の活用を含めてどのような手法が一番適切か、しっかりと検討してまいりたいと考えております。

寺田政府参考人 今おっしゃいましたようなマンションの区分所有権、敷地利用権の全体を一つの信託会社に信託するということになりますと、あたかも区分所有権が全体で一つの所有者になってしまいますので、区分所有権でなくなってしまうという御疑念が生ずるかもわかりませんが、区分所有法上は、そういうことであっても区分所有関係に影響を及ぼさないということでございます。

 また、おっしゃるような形での信託が行われた場合の受益権というのは、これは実際の信託を見てみないとわかりませんが、概念的に申し上げますと、信託財産の利用権、信託契約終了後の区分所有権、敷地利用権の受領権、こういったものが受益権とみなされるのではないかなというように考えます。

大口委員 以上で終わります。ありがとうございました。

七条委員長 次に、柴山昌彦君。

柴山委員 自由民主党の柴山昌彦でございます。

 信託法に関しては、今、大口委員からお話がございましたとおり、制定されてから八十年以上実質的な改正がされなかった法律でありまして、それを今回のような形で大変ドラスチックに大幅な改正を加えるということですので、ぜひ慎重に審議をしたいというように思っております。大口委員から御質問がありました事項については、できるだけ重複を避けながら質問を進めていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 まず最初に、大変その弊害が懸念をされております信託宣言、いわゆる自己信託の問題点についてお伺いしたいと思います。

 今、大口委員から御質問がありましたとおり、これに関して、さまざまな将来の可能性というか有益性については指摘をされているとおりだと思います。証券化ビジネスの拡大ですとか、あるいは事業再編において必ずしも法人格、その権利主体を交代する必要がない、あるいは最後に御指摘がされたマンション管理等において有効活用できるのではないか、さまざまな指摘がされております。

 ただ、実際にこの信託宣言を導入しているアメリカで果たしてこれがきちんと活用されているのかどうかということについて、例えば二〇〇五年十一月二十一日付の「金融財政事情」、こちらの方に紹介をされているところによりますと、アメリカでは、個人の相続ですとか贈与の手段として信託宣言は活用されているけれども、ビジネス分野においては決して一般的には活用されていないという指摘がされています。信託宣言を利用した公的機関であるファニーメイの住宅ローン、こちらの債権流動化というようなものを除いては余り活用されていないというようにも指摘をされていると思います。

 ですから、今申し上げたようなさまざまなメリットは、別の、例えば営業譲渡ですとか、あるいは企業担保を利用しての資金調達とか、あるいはマンション管理についてももう少し管理組合について柔軟な制度をつくっていくとか、そういう代替的な手段でカバーできるのではないかという指摘も恐らくされるところだと思うのですが、この外国との比較、あるいはその代替手段との関係、こういうものについて、冒頭、ぜひ御説明をいただきたいと思います。

長勢国務大臣 外国の自己信託について、どういうことになっておるかというお尋ねだと思います。詳細、また必要があれば事務方から答弁をさせますが、先生も相当勉強されておられるようで、先生の方が詳しいのかもしれませんが、答弁をさせていただきます。

 今おっしゃいましたように、海外においても自己信託というのは認められておるわけで、例えばアメリカでは、アメリカの統一信託法典においても、信託の設定方法の一つとして明示をされております。

 アメリカで具体的な自己信託の例としては、今もお話がありましたファニーメイが住宅ローンの証券化で信託宣言をする場合とか、あるいは銀行の預金者が、その預金につき、みずからを他人のための受託者である旨の信託宣言をすることによって預貯金信託をする場合、債務者が債務を支払うためにみずからの特定の財産を信託財産として自分で受託者になる場合等が挙げられます。ちょっと日本では余り例のない、少ない例だと思います。

 また、イギリスでもアメリカと同様のものが認められておるというふうに承知をいたしております。

 なお、ドイツ及びフランスには信託制度がございませんので、こういう自己信託というものもございませんが、EUにおける取り組みとしては、一九九九年一月に欧州信託法の権威者が集まってつくりました欧州信託法基本原理におきまして、自己信託による信託の設定も認められておるというふうに承知をいたしております。

 必要があれば、詳細は事務方から答弁をさせます。

寺田政府参考人 先ほど申しましたように、この制度はもともと英米法の制度でございまして、英米においては、今大臣が御説明申し上げましたような利用形態というのが一応考えられておるわけでございます。

 ただ、委員も御指摘のように、アメリカにおいて、ではこれが全面的にビジネスに利用されているかといいますと、これもまた、一部、債権の流動化には利用されておりますけれども、それは総合的な評価としてはまだまだこれからだという御意見も当然あるわけでございます。我が国でも、とりわけ同じように債権流動化にこれを利用したいという声があるわけでございますけれども、そういう意味では、この自己信託というのはこれからの制度だ、利用面においてはこれからの制度だということにもなるわけであります。

 ただ、大臣が申し上げました三つの例のうちの後の二つ、つまり、だれかのために資金を預かっているという状態は一般に広く見られることであります。ある種の会費というのを幹事さんが預かっている、こういうものをどういう権利関係に置くのが適当かというと、おっしゃるとおり、いろいろな代替手段と申しますか、法律で賄えることもあるわけであります。現にそういうときは民法上の寄託がされているというような形になるわけでありますけれども、そうした場合に、では私の債権者にそれが差し押さえられないのが正当なのかどうかということは常に悩むところであります。

 そういった意味で、こういう新しい選択肢が民事上もできるということはそれなりに意義のあることだと思いますし、それが商事上、事業上も利用される場面があるということも、これも否定しがたいところでございますので、私どもとしては、できるだけ弊害防止措置というのを考えた上でこれを利用に供するというのが正しい姿勢ではないかなと考えているわけでございます。

柴山委員 まさに弊害なんですけれども、今寺田局長がおっしゃった財産の隔離ということがこの制度の大きな眼目になっておりまして、その意味で、先ほど大口委員も財産隠しに対する不安ということを口にされたわけですけれども、こういった執行逃れをどのように防止していくか、あるいは対外的なディスクロージャー、ガバナンスの問題も含めてですけれども、これをどうしていくか。また、租税回避の問題ですね、利益を移転して税金逃れを図るんじゃないか。あるいは、マネーロンダリングに使うんじゃないか。こういうようなさまざまな懸念が指摘をされているところだと思いますが、簡潔に御答弁をいただきたいと思います。

寺田政府参考人 今、弊害として予想され得るものを列挙していただいたわけでございます。

 先ほども大口委員の御質問に対して御答弁申し上げたとおり、財産隠しと一般的に言われましても、この場合は、だれかと通謀してその財産をどこかにやってしまうということではなくて、自分の手元にありながら責任財産から一部離れるという性格のものでございますので、当然、債権者を詐害するかどうかということが問題になるわけであります。

 この点については、先ほど申しましたように、これはいわば受益者のもとに実質的な利益を移転してしまうという形でございますので、通常の詐害行為と本質的には変わりがないんじゃないかなというように考えるところであります。したがって、本来であれば、詐害行為取消権ということがあれば、それをうまく立証できるかどうかという問題だろうと思います。

 ただ、先ほど申しましたように、これを懸念される方の中には、実際上の問題としてなかなか難しいのではないかという御懸念もあったものでございますから、私どもの手当てといたしましては、詐害行為については、裁判所によって詐害行為の取り消しがされて初めて債権者が掴取すべき財産としてもとの委託者のもとへ戻ってくるというのではなくて、二十三条の二項にお示ししているところでございますけれども、もう要件さえあればいきなり強制執行を当該債権者ができるという形の規定を設けたわけでございます。したがいまして、執行を逃れるということからいえば、相当強力な武器が債権者側には与えられたというように御評価いただけるのではないかと思います。

 なお、先ほど申しましたように、それでも、債権者が動くだけでは十分ではないという場合に、これはいわば公共的な悪のレベルだという評価ができまする場合には、公益確保のための措置として、裁判所が関係者の申し立てによって信託の終了を命ずるという措置も用意されているところでございます。

 次に、税金逃れという問題がございます。これは、実際に税務でこれをどう評価して税金をおかけになるかということでございますので、この点について、一年の執行の延期をここに盛り込んでいるということで先ほど申し上げたわけでございますけれども、この自己信託についてどういう課税の仕方をするかということは、一般的な信託の課税とはまた一段レベルの高い検討をしていただくということになろうかと考えております。

 それから、マネーロンダリングの問題も御指摘があるところでございます。ただ、この点は、一般的なマネーロンダリングの懸念については規制がございまして、金融機関等による本人確認法あるいは組織犯罪処罰法等がございますので、そちらのいわば公的な規制にこの自己信託も当然服するということになるわけでございます。そういったわけで、法律上の手当てとしてはこれでなされるところでございます。

 あと、事業者につきましては、もちろん、冒頭に申しましたような事業者特有の規制というのもまたあり得るところでございますが、それは信託法自体の問題ではない、こういう整理でございます。

柴山委員 事業者の問題にもお触れになったんですけれども、この自己信託、信託宣言を取り扱うことのできる主体に関する規制、これは、今寺田局長の方からお話があったように、信託法自体には定めがないということでよろしかったでしょうか。そうだとすれば、信託業法の方でどのような定めがされているのでしょうか。

寺田政府参考人 信託法でこの自己信託をだれができるかということについては、何の制約も一般的にはございません。受益者の定めのない信託につきましては経過規定で一定の制約がございますが、この自己信託につきましては、先ほど申しましたように、個人でのニーズというのも、福祉その他を中心として十分に考えられるところでございますし、またビジネスにおいては当然考えられるところでございますので、その制約はないということにいたしているところでございます。

渡辺(喜)副大臣 自己信託を行う者が信託業法上の登録を受ける要件いかん、こういう御質問でございますが、一般に自己信託を行う者が多数の受益者を顧客として事業を行う場合には、多数のお客さんと事業者との間に情報量や交渉力の差が生じます。また、信託は信託財産を受託者が自己名義で管理運用するという特質がございますから、事業者側に特に高い信頼性が求められるわけであります。

 したがって、信託受益権を多数の方々が取得できる場合には、一定の要件を定めた上で、信託業法上の登録を求めることといたしております。具体的には、自己信託を行う者が信託業法上の登録を受ける際には、株式会社とか合同会社等でございますが、会社法上の会社であること、次に、一定以上の資本金、純資産を有すること、第三に、自己信託を的確に遂行することのできる人的構成を満たしていること、第四に、兼業業務が信託事務の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと等の要件を満たすことを求めることとなります。

柴山委員 最後の兼業規制についてなんですけれども、要は、自己信託業務に悪影響を及ぼしてはいけないという以外に、従たる業務として他業をしなくてはいけないですとか、あるいは兼業する業務について何らかの種類の規制をするとか、そういったようなことは想定されていないのでしょうか。

渡辺(喜)副大臣 兼業を行う場合でございますが、通常の信託に係る信託会社の兼業業務につきましては、この兼業が本業である信託業務に関連性、それから付随性を有することが承認の要件とされております。これは、信託会社につきましては、銀行、保険会社などと同様に、自己名義で他人である顧客の財産を預かるという特徴がございますので、兼業業務を行うことによって本体業務に影響を及ぼすことがないよう、専業を原則とした規制を行っているということに基づくものであります。

 他方、自己信託につきましては、みずからが所有する財産を受益者のために管理運用するという特徴がございますので、他の事業活動に伴って生じた財産を自己信託する目的での参入が想定されるということを踏まえれば、専業が原則であるという前提はとり得ません。自己信託業務と他の業務との関連性及び付随性は特に求めないことといたしております。

 そのために、自己信託を行う者につきましては、兼業業務の状況が悪化をし、信託財産を毀損する事態を未然に防ぐため、兼業業務の財務の健全性を確認できるような基準を内閣府令で定めることといたしております。

柴山委員 ただ、忠実義務の緩和ということに関して、信託業法の方では緩和にストップをかけているわけですから、ある程度そこら辺はしっかりとした信託契約の保護ということを行っていくことが特に業法の関係では必要ではないかなという問題提起だけをさせていただきまして、次の質問に移りたいと思っております。

 新しい信託の仕組みとして、限定責任信託制度が導入をされました。この制度について、なぜ必要かということについて、まず簡単に御説明をいただきたいと思います。

寺田政府参考人 限定責任信託につきましても、この法案を作成する過程でいろいろな議論があったところでございます。しかし、最終的にはやはり必要だということでこういうことを載せているわけでございますけれども、もともと限定責任信託と申しますのは、対象となる信託の財産が、その信託の運営の過程で生じた債権の債権者の責任財産であってそれだけだ、そういう信託でございます。

 通常の信託におきましては、なるほど、受益者に対する責任の関係では、今申しましたように信託財産そのものが責任財産に限られるわけでございますけれども、その他の関係では、外形的に受託者が権利の主体、財産の主体になるわけでございますので、これの活動に関して生じた債権についての債権者は受託者にその責任を追及できるというのは大原則でございます。これは我が国の信託法だけではなくて、もともと英米法の信託でもそれが大原則になるわけでございます。

 しかしながら、この信託をいわばビジネスに利用する傾向にあるわけでございますけれども、そういうことになりますと、どういたしましても、債権者というものの持っている債権が、受託者が全部この責任を負うというのは、同じようにビジネスをしている例えば会社を想定してみますと、甚だ不都合があるところでございます。本来なら、そのビジネスをしている財産そのものが公示されているわけでございますから、その財産をもとに債権者は責任財産を考えていただいてもいい、そういうものがあるはずでございます。

 ただ、そういう財産においては、もちろん公示でありますとか、責任財産の確保というのが非常に重要になってまいりますので、それは相当の手当てをする、そういうことを条件にいたしまして、責任財産を信託財産そのものに限った、債権者に対する責任財産を限った、そういう信託を新たに認めるということがビジネスの上では非常に有用である、こういう御指摘がございましたので、そういう形でこれを用意したわけでございます。

柴山委員 ビジネスにとって有効であるということはそのとおりなんでしょうけれども、例えば、信託財産に責任が限定されるということになりますと、その財産が滅失あるいは毀損をされてしまったような場合には、これは当然のことながら、信託債権者としては大変な損害を受けるわけですね。ですから、これについて、どういう責任が受託者に準備をされているのか、そして、それが過失責任なのか無過失責任なのかということについても御指摘をいただきたいと思います。

 また、この財産については、例えば、土地工作物であるような場合に、土地工作物責任、つまり、危険な工作物とかによって不法行為責任が発生をしたりすることもあろうかと思うのですが、そういうような場合にでも、そのものの価格だけに責任が限定されるということでよいのか等々含めて、ぜひ御指摘をいただきたいと思います。

寺田政府参考人 おっしゃるとおり、限定責任信託というのは、先ほど申し上げましたように、結局のところ、債権者にとって、どういう資産状況にあるかということがわかるような仕組み、またそれが限定責任信託であるということがわかる仕組み、それが非常に重要でございますし、また、どういう種類の債権がその対象になるかというと、やはり一定の債権は責任を限定しないのが適当だということもまた考えられるわけでございます。

 まず、前者の方から申し上げますと、これはそもそも、取引する相手に対しまして、これが限定責任信託のためにする契約であるということを示さないとこの効果は出ないという規定になっております。

 次に、今度はその財産の中身が流出するかどうかという問題でございますが、一番は、受益者に対して全部その財産を給付してしまうということになりますと、債権者はたまらないわけでございます。したがいまして、これについては、純資産額の範囲内において一定の額しか受益者に対して給付をしてはならないという規定を置いているところでございます。それに違反して給付が行われた場合には、受託者、受益者の方から逆に限定責任信託の方に財産を戻さなきゃならない、そういうてん補義務を負っているわけでございます。それから、受託者、受益者は、一定時期に生じた欠損額についても、同じようにてん補責任を負うわけでございます。

 次に、どういう対象について責任の限定が決まるかどうかでございますが、これは原則としてはそういうことですべての債権ということになるわけでございますけれども、今おっしゃったような不法行為債権については、責任を限定するのは政策上適当でないということで、限定の対象から外しているというところでございます。

柴山委員 過失責任か無過失責任かというところについても、当然会社法の改正と結構パラレルな部分がありますので、ちょっとお答えを追加していただきたいのと、あと、済みません、ちょっと質問を追加させていただくのですが、ガバナンスの問題として、先ほどの自己信託、信託宣言については、第三者、士業の方によるチェックということが働いていますし、公正証書で契約を定めなければいけないという仕組みも確保されております。しかし、今回のこの限定責任信託に関しては、特にどういうガバナンス、さっき公示ということをおっしゃってくださったんですけれども、そういった仕組みがあるのかどうか、お聞かせをいただきたいと思います。

寺田政府参考人 失礼いたしました。

 先ほど御説明いたしましたてん補責任は、会社法の四百六十二条の第一項第六号と同様の性格のものでございますので、これは過失責任ということになるわけでございます。

 次に、ガバナンスの問題でございますが、これは、一般的にガバナンスをどう信託においてとるかと申しますと、それは基本的には受益者がこれをチェックしているということになるわけでございまして、受益者には受託者を監督、監視するための帳簿閲覧権等、あるいは報告請求権等が認められておりますし、違法行為を是正するために、損失てん補の請求権でありますとか、あるいは信託の違反行為の差しとめ請求権まで認められているわけでございますが、受益者が必ずしも判断能力が十分でないという場合には、新たに信託監督人の制度を設けている、これが一般の信託の利用で限定責任信託のガバナンスをカバーする部分でございます。

 しかし、先ほど申しましたように、限定責任信託においては、特に債権者にとっての債権債務状態の公示、財産状態の公示というのが重要でございますので、通常の信託と異なりまして、必ずその信託についての計算書類の作成義務というのがございます。これは二百二十二条でございます。したがいまして、これによって、債権者にとっては通常よりもしっかりした公示がされるということになるわけでございます。

 第四に、限定責任信託の受託者に対しまして、仮に信託事務が悪意、重過失で行われたということになりますと、受託者はこれによって第三者に生じた損害を賠償しなければならない。会社法で言う取締役の第三者責任みたいなものがここでも認められているわけでございまして、そういう悪意、重過失がある場合には、債権者は直接にその限定の責任性を打破することができる、こういう関係になっているわけでございます。

柴山委員 しっかりと穴のないような制度運用をしていただけたらと思います。

 次に、目的信託、受益者を特定しない形の信託についての質問をさせていただきたいと思います。

 先ほど、大口委員の方から、福祉型の信託制度について、現行法制度上、甚だ規定が不備であった、利用しにくかったという問題提起がございました。公益信託に限定されない形でこうした受益者を特定しない形の信託ということが導入されたのは大変画期的なことだとは思うんですが、まだまだ不十分な点があるのではないかと思います。先ほど、三年を目途としての見直し、業法の見直しということも御指摘をいただきましたので、それについてはぜひしっかりと前向きに進めていただきたいと思います。

 ただ、ちょっと概念上整理をさせていただきたいのは、例えば、個人が、相続あるいは後継ぎ相続人というんですか、孫等に財産をとっておきたいというような後継ぎ遺贈型の信託、これと今回の目的信託、これはどのように概念上区別されるのでしょうか、御説明をいただきたいと思います。

寺田政府参考人 今委員がおっしゃいました後継ぎ遺贈型の信託と申しますのは、委託者が、自分の生存中は自分が例えば受益者になる、死亡したら、第一に自分の妻が受益者になる、妻が死亡したら子供が受益者になる、そういう転々と受益者が変わっていくタイプの信託でございまして、受益者連続型とも言うわけでございます。

 もともと信託と申しますのは財産の処分の側面がございまして、遺贈に近いことをこれをもって行えるということでございますので、遺贈の場合ですと所有権が完全に移ってしまうわけでございますが、この後継ぎ遺贈型信託というのは、受益権が次々と移るわけでございます。そこが違うわけでございます。

 したがいまして、本来ですと所有権が移る、それが、ある人のその所有権は一定期間たったらまた次の人に移る、また次の人に移るということになりますと、ちょうど所有権が期限つきのものになってしまうという、民法の概念からいきますと極めて異例のことになります。それは、民法ではさすがに認められていないわけでございます。

 しかし、この後継ぎ遺贈型は、単なる受益権がそういう転々とするわけでございますので、機能的に似た側面はございますが、しかし、概念上は全くそういう所有権の期限性というようなものは抜けられるわけでございまして、これは、どちらかといいますと、信託の先進国であります英米においては、こういう型の信託こそまさに信託のメリットだということが言われるくらいでございます。

 しかし、これについても、いろいろ問題は相続との関係であるということから、一定の制約は課しているわけでございます。所有権秩序との関係で、余り長くなってもどうかということで、世代ということを考慮いたしまして制約は課しているわけでございますが、しかし、こういうニーズはこれからの高齢化社会には必ずあるだろうということで、今回、これを間接的に、つまりどういうものは有効かという形で示すことによって、新たにこの信託法の中に登場させた、こういう関係に立っているわけでございます。

    〔委員長退席、上川委員長代理着席〕

柴山委員 余り長期のものについては認めないということで、今回は三十年という期間が限定されていたかと思います。

 これは確認としてですが、この後継ぎ遺贈型の信託についても、遺留分を侵害することはできないという規制があることは当然だと思いますが、その点の確認がまず一点です。それから、これは後継ぎ遺贈型には限らないのですけれども、受託者が死亡して財産主体がなくなってしまったときに、この目的信託の財産というのはどのような扱いになるのか。それぞれについて、お答えを簡潔にいただけたらと思います。

寺田政府参考人 先ほど申しました後継ぎ遺贈型の信託につきましては、三十年という期間制限があるわけでございますが、当然のことながら、先ほど相続秩序の問題もあると申し上げましたとおり、これのやり方によっては遺留分の侵害ということが起こり得るわけでございますが、それは、相続法の秩序の方が優先する、つまり、遺留分の侵害がある場合には、当然、遺留分減殺請求権を持っている者は、その限度でその権利を行使することができるということになるわけでございます。

 次に、受託者が死亡した場合の目的信託のあり方についておっしゃったわけでしょうか。

 目的信託といいますのは、今の後継ぎ遺贈型の信託とは異なりまして、これは受益者がいないわけでございます。そう言いますと信託の本質にやや問題が生ずるかもわかりませんが、信託としては、いわば公益目的のようなものが現在でも目的信託的なものとして認められており、しかし、今後の公益を果たす主体のあり方といたしまして、基本的には非営利なものを認め、その上にさらに公益があれば公益認定をして、いわば要件を積み重ねた上で公益という新たな地位に上る、そういう仕組みが今後構想されている関係で、公益信託というのではなくて、非営利信託としての目的信託を認めたものでございます。

 これについて、受託者が死亡するということになりますと、この種の信託においては、基本的には受託者についての信認というのが非常に重要なものでございますので、受託者の相続人がそのまま受託者になるというようなことはございません。あとは、信託そのものがどう終了するかという利害関係者の問題になるわけでございます。

柴山委員 今後、税金の話についても恐らくしっかりと見ていかなければいけないと思います。

 例えば、遺贈によって目的信託がなされたような場合、この場合の課税関係についてちょっと指摘をさせていただきたいと思うのです。

 目的信託の場合は、受益者が不特定なわけですから、基本的には委託者が当然課税をされなければいけないということになるんでしょうけれども、遺贈によってこれがなされた場合には、委託者がいなくなるわけですから、これは結局課税ということが適切になされないのではないかという問題点が多分出てくるんだと思います。

 この点について、課税当局はどのような形で対応をされるのか、教えてください。

古谷政府参考人 お答えをさせていただきます。

 御指摘ございましたように、現行の相続税法におきましては、遺言によって受益者が特定されない信託が設定された場合、委託者の相続人は委託者の地位を引き継ぐということになっておりますので、現在では適切な相続税の課税ができるわけでございますけれども、今般の信託法案におきます遺言信託、ここでは、委託者の相続人は相続によって委託者の地位を承継しないということになっております。したがいまして、遺言によりましていわゆる目的信託が設定されました場合には、委託者が亡くなりますと、御指摘がございましたように、その権利につきまして相続税として課税できないという問題がございます。

 このことが相続税の租税回避に用いられる懸念がございますので、私どもといたしましては、この信託法案に対する税制上の対応につきまして、十九年度の税制改正でいろいろな検討をしなければいけないと思っておりますが、その中で議論をさせていただいて、適切に措置をさせていただければというふうに考えております。

柴山委員 税制の問題については重要な論点が結構たくさんありますので、時間も残り少ないのですが、簡単に網羅したいと思います。

 まず、結局、受益権を生み出すのがこの信託制度なんですけれども、例えば無償でその受益権を第三者に与えたような場合の贈与税、個人の場合ですが、贈与税のかかり方はどのようになっていくのか。また、受益権を売却したときの課税がどのようになっていくのか。また、受託者に対してどのような形で課税がされるのかということについて、それぞれお答えをいただきたいと思います。

古谷政府参考人 お答えをいたします。

 まず、委託者以外の者に受益権を取得させる、いわゆる他益信託が無償で設定されました場合には、その設定されました時点で委託者から受益者へのいわゆる信託受益権の贈与があったものとして、贈与税が課税をされます。それから、信託受益権が受益者から譲渡をされました場合には、課税上は信託財産を譲渡したものとして、譲渡所得税の課税が行われるということでございます。

 それから、受託者に対する課税というお話がございましたが、信託財産は法律的には受託者に帰属をしておるわけでございますけれども、現行の信託税制におきましては、このような信託財産から生じます収益に対しまして、信託の内容ですとか性格に応じまして幾つか取り扱いを異にしております。

 具体的に申し上げますと、特定目的信託ですとか私募投信のような一定の投資信託につきましては、同様の活動を行う特定目的会社などとのバランスを踏まえまして、その収益につきまして受託者の段階で課税を行う、いわゆる法人課税を採用しております。

 それから、貸付信託ですとか証券投資信託といいました不特定多数の受益者を有するような、いわば金融商品的な性格を有する信託に対しましては、これは収益が受益者に現実に分配をされるところまで課税を繰り延べまして、受益者の段階で、分配された時点で課税を行うという考え方をとっております。

 それ以外の信託でございますけれども、これにつきましては、信託財産から生ずる収益等が受益者に帰属するものだというふうにみなしまして、事業年度ごとに、分配がなくても、受益者にいわゆるパススルー課税をするといった取り扱いを行っております。

 以上でございます。

柴山委員 まだまだ非常に重要な論点がたくさん残っておりまして、例えば先ほど大口委員が御指摘いただいた忠実義務の緩和のところの類型化、特に、受益者の同意なくしてこれを本当に緩和してよいのか、その類型化が十分なのかといった論点、あるいは信託の併合あるいは分割制度についての規律、あるいは受託者が破産をした場合あるいは信託財産が破産をした場合の取り扱い等々、実務的に本当に取り上げなければいけない論点が多々ございまして、時間があればお聞きをしたかったのですけれども、これで質疑時間終了ということですので、またほかの委員の先生方にぜひ御質問をいただければと思っております。

 どうもありがとうございました。

上川委員長代理 次に、近江屋信広さん。

近江屋委員 自由民主党の近江屋信広であります。

 まずもって、法務行政をつかさどる長勢法務大臣、水野副大臣、そして奥野政務官、チーム一丸となって強力なチームとして法務行政に取り組んで、立派な成果を上げていただきたいな、このように念願をいたしております。どうぞよろしくお願いいたします。

 私からは信託法について、若干重複するかもしれませんが、質問させていただきます。

 信託法は信託に関する一般的な私法関係を定めるものであると理解しております。しかるに、他の多くの私法法規はこれまでたびたび改正されてきたと思いますが、信託法については、大正十一年以来、実質的な改正がなされていなかったということであります。

 ずっと改正せずに今日に至る中、これまで我が国では信託はどのように利用されてきたのかということ、また、今回は約八十年ぶりの大改正になりますが、現時点で信託法制の全面的な見直しを行うこととした理由についてお伺いしたいと思います。これまでの利用の状況、そして全面的な見直しの理由を法務大臣にお伺いしたいと存じます。

    〔上川委員長代理退席、委員長着席〕

長勢国務大臣 信託法は大正十一年に制定をされたわけでございますが、戦前あるいは戦後もしばらくの間は、信託制度というのはさほど利用は活発ではないという時代が続いておりました。しかし、近年、社会経済活動が多様化をいたしましたし、そういうこともあって、信託を利用した金融商品というものが幅広く定着するようになってまいりました。

 我が国における信託は、信託銀行を受託者とする営業信託を中心に発展してきたと言われておるわけでありますが、実際にどういう形で利用されてきたかというと、代表的なものは貸付信託、年金信託、証券投資信託というようなことになろうかと思います。また、近年では、先ほど来話題になっております資産の流動化のための信託というものも増加をしておるわけであります。

 こういう営業信託、若干簡単に説明いたしますと、まず、貸付信託は、貸付信託法に基づくものでありまして、信託銀行が多数のお客さんから信託契約によって金銭を受け入れて、それを貸し付けまたは手形割引という形で運用する、こういうものでございますが、これは安全で高配当ということもあって受託残高を伸ばしておりまして、昭和四十年代には受託額の五割を超えたという時期もありましたけれども、昨今は金融の自由化ということもあって若干減少傾向というふうに聞いております。

 年金信託は、厚生年金保険法あるいは確定給付企業年金法等によって認められておるものでありまして、年金資産を信託にしまして、これを有価証券に対する投資等によって運用するというものであります。

 証券投資信託は、投資信託法に基づいて行われておるものでありまして、多数の投資家から資金を集めた委託会社がそれを信託銀行に信託をして、これをその委託会社の指図に基づいて特定の有価証券等で運用、その利益を受益者に渡す、こういうものでございます。

 こういうことで今まで発展してきたわけでございますが、先ほど来申し上げましたように、資産流動化のための信託とかいろいろな目的での活用を図るべきではないかという意見がありまして、今までも政府に対して、経済団体あるいは専門の学者の方々等々から幾つもの改正点が出されてまいりました。

 また一方で、高齢化が進むということもありまして、高齢者の財産管理を図るための制度としての信託ということも注目をされるようになった。また、障害者についても、その生活を支援する目的で信託の活用というものが期待されるのではないかという意見もたくさん出るようになりました。

 こういうふうに、信託については多様な目的のもとで信託を利用するというニーズが高まっているということでありますので、今般、この信託法全体を見直すということにいたしたわけでございます。内容等は最前来御説明をいたしておるようなものでございますが、利用しやすく、また安全なものにするという趣旨でこの改正を行ったところでございます。

近江屋委員 ありがとうございました。大変画期的な法案ではないかと思います。

 そして、今回の八十年ぶりの信託法改正、若干大臣から改正後の姿についてお話がありましたが、実際に信託の利用がどういうふうにどの程度促進されることになると考えられるのか、改めて法務大臣にお伺いしたいと存じます。

長勢国務大臣 具体的な改正内容等は後ほどまた事務方から説明をさせますけれども、今御説明いたしましたように、いろいろな意味で信託という仕組みを、経済界、事業の方々、あるいはまた個人の方々も、利用する方が今後の利便に資するという観点からたくさんの要望等があったことを踏まえて行われたものでございますから、これまで必ずしも合理的ではなかった受託者の義務や受益者の権利に関する規定を見直しまして、信託をより利用しやすいものにする、中身においてもそうでありますし、その範囲についても、利用しやすいようにするために、新たな類型の信託というものも創設をしたわけでございまして、今後、高齢者等の財産管理や企業の資金調達の手段として広く利用できるようになるものと思っております。

 これによって、利用者の便益が増進をする、また信託の利用が大きく広がるということを期待しておるものでございます。

近江屋委員 新しい信託法、これは信託を利用しやすいものとするため、受託者の義務を合理化しようとすることや、また新たな類型の信託を創設しようとするものでありまして、また他方で、受益者の権利を拡充して信託をより安心して利用することができるようにするものという、先ほどの法務大臣の御説明の趣旨はよく理解できるところであります。

 こうした新たな信託制度をつくるその必要性から、この改正法の施行をできる限り早くしてほしいという経済界等からの期待が高まっていると認識いたしております。

 経済界の代表的なコメントによりますと、やはり、過度な規制の見直し、また受益者の権利行使に係るルールの合理化、さらに、多様な信託利用のための制度整備等の観点から、今回の法改正には基本的に賛成であるということが言われております。

 そこで、そうした要望にこたえてできるだけ早期に成立をし施行すべきであると考えますが、その施行時期はいつを予定しておられるのか、その点をお伺いいたしたいと存じます。

寺田政府参考人 法案の上では、附則の第一条でございますが、「公布の日から」「一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。」こうされております。一年六月というと、少し期間があるわけでございます。

 この八十年来の全面的な改正、非常に大幅な改正になるものでございますから、周知期間としても相当期間が必要になりますし、これは登記その他技術的なところもございますので、準備にさまざまな、公証その他技術的なところが必要になりますので、そのぐらいの期間はやむを得ないかなと一方では考えているわけでございます。

 他方では、この信託法は、しかしながら、非常に新しい、先ほど来出ております目的信託ですとか自己信託の問題もございますけれども、旧来の信託がやはり行き詰まっていて使いにくい、今でもすぐに改善してほしいというところが非常に大きいわけでございます。

 一例を挙げれば、例えば受益者が複数の場合にどういう意思決定をするかということは今のところ全く規定がないものですから、こういうことについての整備を図ってほしいという期待は非常に強かったわけで、そういう意味では、一年六月とはいえ、できるだけ早い時期に御要望に応じて施行したいというところもございます。

 今後のことでございますけれども、基本的にこの範囲内で、今申しましたスタンスでできるだけ努力をしたいと思っております。

近江屋委員 ありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします。

 先ほどの質問来、課税の関係についてでございますが、今回の信託法改正法案によりまして、信託制度が従来に比べより利用しやすいものとなって、いわゆる事業信託とか自己信託などの多様な信託の利用が広まるものと期待されていると思います。その多様な信託の利用を進める上で、税制面での取り扱いが重要なポイントとなると思いますが、このことに関連して、今回の改正法案は信託の基本構造を変更するものではない、したがって課税関係の基本も変わらないということを確認いたしたいと思いますが、いかがでしょうか。

寺田政府参考人 税務関係につきましては、言うまでもなく、基本的には税務の関係の御当局で御判断をされるところでございます。

 その前提となる信託の性格について、今回の法改正によっていろいろな信託ができる関係で変わってきたのではないかというお考えをお持ちの方がいるかもしれませんが、本質的には、冒頭私も申し上げましたように、信託というのは基本的に財産の移転が行われること、その財産がある目的のための拘束を受けること、その目的のための拘束を受けている財産を管理している受託者、この受託者についての信認というのを制度の基本にしているということ、この三つでございますが、この点においては全く変わりがないわけでございます。

 むしろ、先ほど申しましたように、今回の改正の中で自己信託その他が焦点にはなっておりますが、しかし、改正の多くは、従来の信託の行き詰まっている例えば忠実義務のあり方、あるいは第三者への信託を運営する上での委託行為の範囲、それから、先ほども申し上げました受益者が多数に至るような現代的な形態において信託をとらえた場合にその信託の規律が十分なのかどうか、そういったところが大きいわけでございますので、今回の改正によって信託の性格が大きく変わるということは決してないものというように考えております。

近江屋委員 ありがとうございました。

 今の御答弁、この改正案においていわゆる事業信託が行えることが明確化されていますが、これについても、受託者が信託目的に従って信託財産を管理、処分し、受益者に信託財産から生ずる利益が帰属するという信託の基本構造は何ら変更するものではないと。したがって、若干課税関係はいろいろ検討しなければならないと思いますが、その課税関係の基本は変わらないということを確認させていただいたと思います。

 これまでの信託法の改正並びに関連法制度の見直し等によりまして、信託制度の利便性がより一層高まって経済社会の発展につながることを私も確信しておりまして、本法案の速やかな解決を期待し、若干時間は早いのでありますが、これで質問を終わらせていただきたいと存じます。

 どうもありがとうございました。

七条委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十三分散会


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