衆議院

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第6号 平成18年10月31日(火曜日)

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平成十八年十月三十一日(火曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 七条  明君

   理事 上川 陽子君 理事 棚橋 泰文君

   理事 早川 忠孝君 理事 松浪 健太君

   理事 高山 智司君 理事 平岡 秀夫君

   理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    小野寺五典君

      近江屋信広君    奥野 信亮君

      後藤田正純君    笹川  堯君

      柴山 昌彦君    杉浦 正健君

      薗浦健太郎君    中森ふくよ君

      松本 洋平君    三ッ林隆志君

      武藤 容治君    矢野 隆司君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      石関 貴史君    大串 博志君

      岡本 充功君    園田 康博君

      細川 律夫君    松木 謙公君

      横山 北斗君    伊藤  渉君

      保坂 展人君    今村 雅弘君

      滝   実君    山口 俊一君

    …………………………………

   法務大臣政務官      奥野 信亮君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      能見 善久君

   参考人

   (弁護士)        小野  傑君

   参考人

   (公認会計士)      橋上  徹君

   参考人

   (筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻長)  新井  誠君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月三十一日

 辞任         補欠選任

  稲田 朋美君     松本 洋平君

  宮腰 光寛君     小野寺五典君

  森山 眞弓君     中森ふくよ君

  河村たかし君     松木 謙公君

同日

 辞任         補欠選任

  小野寺五典君     宮腰 光寛君

  中森ふくよ君     森山 眞弓君

  松本 洋平君     薗浦健太郎君

  松木 謙公君     園田 康博君

同日

 辞任         補欠選任

  薗浦健太郎君     稲田 朋美君

  園田 康博君     岡本 充功君

同日

 辞任         補欠選任

  岡本 充功君     河村たかし君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 信託法案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第八三号)

 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第八四号)


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     ――――◇―――――

七条委員長 これより会議を開きます。

 第百六十四回国会、内閣提出、信託法案及び第百六十四回国会、内閣提出、信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授能見善久君、弁護士小野傑君、公認会計士橋上徹君、筑波大学大学院ビジネス科学研究科法曹専攻長新井誠君、以上四名の方々に御出席いただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 四人の先生方には、本日は、御多忙のところ、わざわざ御出席を賜り、本当にありがとうございました。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れればと思っておりますので、どうかよろしく御指導、御協力賜りますようよろしくお願いを申し上げて、簡単でございますが、委員長としてのごあいさつとさせていただきます。よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、能見参考人、小野参考人、橋上参考人、新井参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず能見参考人にお願いいたします。

能見参考人 おはようございます。能見でございます。

 私は、東京大学で民法、信託法を教えております。また、このたび法制審議会で信託法の要綱を審議いたしましたときに、それに参加しております。しかし、きょうの意見の陳述は、私の個人的な意見を陳述するということでお聞きいただければと思います。

 資料は、お手元に一枚のA4の紙がございます。ちょっと何か授業のレジュメみたいで恐縮ですが、これに沿ってさせていただきます。

 最初は、このたびの信託法の改正、実に八十年ぶりと言われている大改正でございますが、この間、いろいろ信託の世界では新しい需要、新しい社会的な希望、そういうものが出てまいりまして、信託の実務の間でもいろいろと対応はしてきたわけでございますが、やはり根本的には信託法を改正して、抜本的に新しい信託法のルールのもとでさらに一層信託というものを発展させる必要があるということで、このたびの法案が提出されているというふうに理解いたします。

 どういう点が一番問題であったかということを私なりに整理してみますと、まずこの1のところの左側の枠の中でございますが、従来の信託といわれるもの、投資信託ですとか、あるいは単純な財産の管理ですとか、あるいは多少事業性がある土地信託などというものが行われてまいりました。年金もある種の投資信託ですけれども、やはり年金というのは確実に年金受給者に財産がいかなくてはいけないということから、多少社会性のある信託というふうに私は位置づけております。そしてさらに公益信託、こういうものが主な信託だったわけでございます。

 しかし、先ほど申し上げましたように、この間いろいろな新しい社会的なニーズの中で、例えば、投資運用型の信託につきましては一層の効率性というものが要求されてくる。特に受益者が多数などおりますと、どういう形で受益者の意見をまとめたらいいかとか、あるいは、受託者の能力というものもすべてにわたってあるわけではなくて、分業体制で幾つもの受託者を使うということがかえって効率的である。あるいはさらに、受託者から外の専門家に管理を一部ゆだねるとか、外部委託と呼んでおりますが、そういうものが必要になって、一層の効率性を追求するということであります。

 それから、財産管理に関しましては、新しい財産というものが出てまいりまして、特に知的財産でございますが、こういうものの信託というのは、従来の単純な財産管理と比べると一層難しい問題をたくさん含んでいるということから、新しいルールが必要になってきているというふうに理解しております。

 それから、事業性のある信託につきましては、今までは、土地を信託して、つまり、財産を信託して、その土地に関する事業を受託者が一部行うというものでございましたが、だんだんと事業そのものを信託するというニーズも出てきているというふうに聞いております。

 そして、社会性のある信託というのは、これは公益そのものではございませんけれども、多少周辺的な、先ほど申し上げた年金のような信託、単なる個人の利益だけではなくて、やはり社会の中で重要な位置づけのある信託ということですが、こういうものもますます拡大しているということでございます。

 公益信託に関しては、きょうは詳しくは触れませんが、これも多様なニーズがあると理解しております。

 以上の、今までの信託の中でもいろいろな新しい変化、新しいニーズがあったわけですが、さらに、全く別なタイプの信託といたしまして、資産流動化の器としての信託でありますとか、あるいは、財産を次世代にいかに承継させていくか、これもいろいろなニーズがあると思いますけれども、そういういろいろなニーズに対応した、いわばハイブリッドな承継の仕方というものが要求されているのではないかというふうに思うわけであります。

 こういうものに対応しようというのが、このたびの新しい信託法であるというふうに理解しております。

 次に、全体的な特徴というものを簡単に見てまいりますと、私の見ますところ、今回の信託法案の中には次のような特徴があるというふうに思いました。

 一つは、先ほど触れたこととも関連いたしますけれども、実に多様な信託というものが現在要求されており、それに対応するための信託法ということが必要である。これは、ある意味で非常に広い一般的なルールかつ柔軟なルールということが必要で、そういう意味では、後で触れますけれども、信託法の各種の受託者の義務というものが任意法規化される、すべてではありませんが、一部任意法規化されて、当事者のニーズに応じてそれを柔軟に変更できるというのも重要な柔軟性の一つである。さらに、多少特化した、一般法の信託法とはいえ、ある程度類型的に特化したものが想定できるところではそういうものを規定しておくということで、ここに挙げました自己信託であるとか限定責任信託ですとか後継ぎ遺贈型の信託とか、さらには目的信託もございますが、そんなものが今回の法案には入っているということでございます。

 それから二番目には、あるいは順番としては、ちょっと先に四番をごらんいただいた方がいいと思いますが、4です。今のような多様なニーズに対応する柔軟な信託ということは、ある意味で4と共通しておりまして、効率的な信託運営を実現するということで、これは先ほど触れた受託者の義務の任意法規化とか外部委託の柔軟な規律とかいったものでございます。

 以上のように、信託をある意味でやりやすくするという一面、当然ながら、受託者というものの責任というのは厳格化しなくてはいけないのではないかということでございます。やりやすいような仕組みをつくるのである以上は、それについての責任はちゃんととらなくてはいけないということで、受託者の厳格な義務、責任でございます。

 これは、今回いろいろなところにありますけれども、一番わかりやすいのは忠実義務でございまして、後で時間があればちょっと触れますけれども、現在の忠実義務の規定というものは非常に簡単な規定が一つあるだけで、しかも、忠実義務として議論されている非常に広い領域のすべてをカバーするわけではなくて、単純な自己取引と言われる、受託者が信託財産を自分の所有にしたり、あるいは受託者が自分の固有財産を信託財産に売るというのですか、移転するとか、そういう自己取引の類型だけを規律しております。

 しかし、忠実義務と言われる領域、特に受託者と信託財産の間の利益が相反する場面における規律というのはもっといろいろなものが必要なわけでして、こういうものを今回の信託法の規定は十分に法案の中に規律しているというふうに理解しております。

 責任の厳格化、それから、ある意味でそれと共通いたしますが、信託がやりやすいようになっているときには当然受益者の利益というものを十分に保護しなくてはいけないということで、今回も受益者保護の規定というものが十分入っているというふうに理解いたします。

 さて、少し幾つかの個別の問題に簡単に触れたいと思いますが、今回も大分議論になっております信託の設定段階での問題ということについて、一言、特にこの自己信託というのが相当議論されているということでございますので、これについての私の簡単な理解と、また評価というものを述べたいと思います。

 御承知のように、信託は委託者と受託者の間の契約と、それから委託者の遺言による信託の設定、これはもう従来から認められているわけでございますが、今回、自己信託、委託者がみずから受託者になって信託を設定する、こういうものを認めたらどうかという提案が今回の信託法案には出ているということでございます。

 自己信託というのは確かに新しい試みであり、いろいろ不安材料というのはないわけではございません。しかし、英米といいますか、特にアメリカですが、アメリカにおいては一般的には自己信託というものが可能である。一般的に言われている典型的なアメリカにおける自己信託の例は、アメリカは一般的に、ファミリー信託というんでしょうか、家族内の信託が多いわけですけれども、親が自分の子供のために財産を管理する、そのとき、親が一番いろいろな事情をよく知っているので親が受託者になるのが望ましいということから、そういう場面でもって自己信託を使っていると言われております。

 我々といいますか、日本の社会においては、もちろん今のような信託も考えられると思います。これから民事信託というものが一層ふえていきますと、家族内での財産管理のあり方というものも非常に重要なポイントになるわけですが、さらに、日本の社会においては、いろいろな経済的な取引の場面でも自己信託というものが意味があるのではないかというふうに私は考えます。

 例えば、これも言われていることでございますが、この図の四角の点線の囲まれたところでございますが、委託者のAが自分の事業の一部をいわば分離して効率的な経営をしたい、そのときに信託を使いたい、しかし、この委託者Aと全く関係のない例えば信託銀行とか、あるいは全く関係ない別な信託会社に信託をすると、その受託者が十分その事業を受託者として行っていくということはなかなか難しい。特に、事業というものは相当その領域に精通していないとできませんので、そういう意味で、委託者自身が受託者になれば、一番これが望ましいというふうに考えるわけであります。

 これは先ほどの、親が自分の子供のために財産をするのと同じでして、恐らく自己信託の基本的な考え方は、だれが一番受託者としてふさわしいか、いろいろ考えたときに、一番いろいろよく知っている、事情に精通している委託者自身が望ましいということから、委託者が受託者になるものだというふうに思います。

 ただ、委託者と受託者が同一ですから、外部からはわかりにくい。ですから、これをわかりやすいようにしなくてはいけないし、また、委託者の債権者というのが知らないうちに財産が移転してしまったというのでもまた困りますので、今のように明確に信託が設定されたことを明らかにすると同時に、委託者の債権者に対してはさらに一層の保護がいろいろ必要なのではないか、今回の信託法案の中にはそういうものが幾つかあるというふうに思います。

 それから次に、この私の紙では算用数字の4のところでございますけれども、今回、何といっても一番の特徴は、受託者の義務というものを非常に明確に規定し、また広範に規定したということでございます。ただ、同時に、受託者の義務を一部任意法規化している、すべてではございません、一部任意法規化している。

 この理由は、先ほど申し上げた効率的な信託運営というのが必要になってきた時代においては規定の任意法規が必要である。さらに言えば、信託法というのはある意味で信託に関する私法的なルールを規律するものですので、ちょうど契約法、売買法と同じように、原則はむしろ任意法規化である。特別にいろいろな、業法的な観点とかある種の特定な類型において強行規定が必要であれば、これはそういうものを設ければいい。ちょうど売買契約における割賦販売法などの中にいろいろな強行規定があるのと同じように、そういうふうに、一般の信託法と、それから特別法、これはどういうものができるかわかりませんが、そういう特別法の中での強行規定というのとうまくすみ分ける必要があるというふうに考えております。

 今申し上げたように、いろいろな義務というものが明確化され、かつ任意法規化されている。忠実義務に関しても、先ほど既に触れた点でございますが、従来は自己取引しかカバーしていなかったものが、利益相反行為について非常に広範にカバーするようになった。それから、従来はこれが強行規定とされていたのが一部任意法規化されるようになりました。

 これは、自己取引というのは信託財産を受託者に移すわけですが、もちろん対価をとって移すわけですけれども、これは場合によっては非常に信託財産にとってもありがたいことがある。そういうときにこれが一切できないというと困りますので、忠実義務に関しても任意法規化することが必要ではないかというふうに私は考えております。

 それから、受益者の保護の徹底に関しましては、これは、今の忠実義務違反というものを明確に規定して、この違反があったときには非常に重い責任を受託者に負わせる。特に、この受託者が利益を上げたときにはこれを損害と推定するということで、すべての利益を実際上吐き出させるというものでございます。それから、受託者の違法行為に対しては受益者から差しどめを求めることができるとか、そのほかにもいろいろ厳しい受託者の責任追及、同時に受益者の利益の保護というものが図られているというふうに考えるわけでございます。

 最後、ちょっと一分だけ使わせていただきますと、このようにして信託法が充実してくるということは、私は大変いいことだと思うわけでございます。ただ、どうしてもやはり今までの実務が商事信託を中心としておりますので、民事信託の領域というのは若干手薄といえば手薄でございました。今回、信託法は、その民事信託の中にも幾つかの新しいルールを設けて、民事信託が一層発展するようにその基盤をつくったわけでございますが、この点につきましては、さらに民事信託の充実ということを訴えたいと思います。

 この点は信託法そのものの問題ではないかもしれませんが、やはり受託者にだれがなるかということが非常に重要な問題でして、これはむしろ信託業法の問題かもしれませんが、民事信託の領域においては、単に現在の信託の免許を取れる、まあ大会社が中心だと思いますが、そういうものだけでなく、もうちょっと広く、例えば公益法人などが受託者になれるとか、そのほかにもいろいろあると思いますけれども、そういうふうに受託者の範囲を広げることが民事信託の充実につながるのではないかということで、御審議をお願いしたいと思うわけでございます。

 簡単ではございますが、以上をもちまして私の意見の陳述を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、小野参考人にお願いいたします。

小野参考人 弁護士の小野でございます。

 ただいま能見教授より信託法全般にわたりまして御説明がありましたので、私からは弁護士としての実務家の視点から、今般の信託法改正についての意見を述べたいと思います。

 当然のことながら私個人の意見ではございますが、発言中に、弁護士会または日弁連というふうに述べる場合があります。これにつきましては、基本的に、日弁連の正式な意見書等において述べられている見解、並びに、今私が信託法関連の委員会に属しておりますので、そこでの総意、また、担当理事、事務局長、事務次長の意見ということで御理解いただければと思います。

 時間も限られておりますので、私からは五つの点について申し述べたいと思います。

 まず、今般の信託法改正に対する日弁連の見解、評価。それから二番目に、この点が一番重要だし、本日強調したいところでありますけれども、民事信託、よりわかりやすく申し上げれば、福祉信託に対する弁護士及び弁護士会の取り組み。三番目が、中小企業の資金調達その他事業承継にとっての今般の信託法改正の意義。四番目が、受益者たる投資家保護の視点。最後に、信託法改正につきまして濫用を懸念する声があるようでございますが、そのようなことはないということにつきましても明らかにしていきたいと思います。

 日弁連の取り組みについてですが、今回の信託法改正につきまして、法制審議会におきましては、私を含む委員または幹事ということで三名が参加しておりました。また、その三名の弁護士委員を、または幹事をサポートするということで、バックアップチームと呼ばれる委員会が結成されまして、会内での積極的な意見が取り交わされ、なおかつ、現時点におきましても、信託法、信託業法改正チームという委員会がありまして、この信託法及び信託業法改正について注意深く見守っている次第でございます。

 日弁連の意見は、本日資料としてお渡ししておりますけれども、中間試案、改正要綱試案に対する意見というところで明確に述べられておりまして、五点ございます。

 まず第一点としましては、民事基本法としての信託法の位置づけということをぜひ明確にしてほしい。二番目といたしましては、そうした法理論的な面だけではなく、法政策的にも民事信託が重要であるということも認識してほしい。三番目には、信託が基礎とするところの法律関係、社会関係は大変複雑かつ深刻であり、専門家の関与が必要不可欠であり、民事信託の担い手としては弁護士の積極的関与が必要であること、言いかえれば、法律事務に関する処理として弁護士が適切な紛争解決の方法として受託者となることについても当然認められること。四番目に、信託の本質を損なわないという限度であれば、任意規定化ということについては了承する。最後になりますけれども、五番目としましても、多様な信託のニーズということにこたえる意味におきましても、濫用防止措置がとられる限りにおきましては、そうした新しい信託の設計についての制度の導入については反対をしないということでございました。

 それで、今般の信託法改正案そのものですけれども、私の意見でも、また日弁連の総意といたしましても、基本的に賛成でございまして、日弁連の示しました要請に対して十分こたえるものであるということでございます。

 具体的に細かい点を申し上げても、ちょっと時間の関係もありますけれども、受託者責任が明確にされていること。また、受託者の補償請求権というものが、現在の信託法と百八十度転換され、制限され、受益者保護の徹底が図られていること。三番目といたしましては、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託、遺言代用信託など、高齢化社会を踏まえました新たな信託制度の構築がなされていること。四番目といたしましては、自己信託につきましても、後ほど詳しく述べさせていただきますが、民事信託における利用というものも十分考えられますし、また、中小企業等における資金調達、事業承継にも十分役立つものであるということ。五番目といたしましては、目的信託につきましても、非営利活動への民間資金の導入という、民間の自律的な活動による社会インフラの整備という観点から十分役立つことが期待できること。この論点についての最後になりますけれども、自己信託、目的信託、限定責任信託など、新しい信託制度につきましても十分な弊害防止措置がとられているというところでございます。

 かような意味におきまして、日弁連といたしましても、今般の信託法改正について十分評価しております。

 ところで、最大の関心事というのがございまして、この点が今日私が強調したい、また日弁連として強調したい点でございますが、先ほど申し述べましたように、弁護士が民事信託の担い手として認められるか否かという点でございます。

 この点につきまして多少詳しく述べさせていただきますと、民事信託という言葉自体、幅広い意味で使われますので、ここでは福祉信託という言葉で理解していただいた方がよりわかりやすいかと思いますが、具体的な例として三点申し上げますと、まず、親亡き後の問題と言われる論点でございまして、これは身体障害や知的障害を持つ子がいる場合の親が死んだ後の子の将来の生活保障に対する不安、これを解決する手だてとして信託の活用というものが考えられるということ。二番目としましては、配偶者が病弱であったり、また配偶者の財産管理能力や財産をめぐる親族間の争いに対して不安がある場合、この点につきましては伴侶亡き後の問題というふうに言われておりますが、この場合においても信託が有効に活用できるのではないかということ。三番目といたしましては、以上のまとめのような形になるかもしれませんけれども、その他、高齢者や障害者の財産管理または死後の事務処理などにおける信託の活用というものでございます。これらについて、福祉信託ということで御理解いただければと思います。

 これらにつきましては、財産をめぐる複雑な人間関係に起因するところの争いというものが当然ございますし、数多くの法律問題を抱えております。したがいまして、担い手ということが一番重要なポイントになるかと思いますが、弁護士がその担い手となるということがまさしく市民が期待しているところである、このように弁護士会、日弁連といたしても強く信ずるところでございます。

 なお、付言いたしますと、その他民事信託と言われるものにつきましては、少子高齢化社会におきまして財産承継を円滑にするということでの、今般法改正に規定されております後継ぎ遺贈型の信託、後継ぎ遺贈型のニーズというのがございまして、これにつきましても新たな制度が導入されていることは既に御承知のことかと思います。

 先ほどの、弁護士は福祉信託の担い手となることができるかという点について、制度上検討していただきたく、なおかつ、ぜひともそれが可能であるということを明らかにしていただきたい問題点というものがございます。

 それは何かと申し上げますと、信託業法の適用対象となる信託業というものが、営利目的を持って反復継続するか否かということで判断されるということでございます。言いかえますと、収支相償うことということによって判断されるということでございまして、弁護士が事案の妥当な解決といたしまして福祉信託の設定を考え、報酬を得まして受託者となるということが、この収支相償うことに該当するということで、そういう行為は信託業に該当するのではないかという懸念があるということでございます。

 仮に、信託業法の適用があるということになれば、参入資格は株式会社に限られておりまして、弁護士個人または弁護士会ということで取り組むことはできませんし、なおかつ、弁護士でございますから弁護士自治というものが極めて重要ではありますけれども、金融庁の監督下に置かれるということになりまして、弁護士会としても到底受け入れることはできません。

 もちろん、弁護士会といたしましては、信託業法の適用があるという見解を持っているわけではございませんが、あいまいであるということは確かでございまして、弁護士が業法違反を問われることなく福祉信託の担い手となるために、信託業法の適用がないということをぜひとも明らかにしていただきたいと思います。

 より具体的には、今般の信託業法の改正あるいは近い将来に行われます信託業法の改正におきまして、弁護士が福祉信託の担い手となることにつきまして制度上明確に許容していただきたい。そのためにも、信託業法における営利目的という単一、抽象的な概念をそのまま弁護士による福祉信託に当てはめるということにつきましては、そのようなことがないようにしていただきたいということでございます。

 なおかつ、それまでの間の時間というものがございますから、解釈論といたしましても、現行法におきましても、弁護士が福祉信託の担い手となることは許容されているということをぜひとも明確にしていただければと思います。

 このようなことが達成されますと、今般の信託法改正の中で、国民生活に最も密接に関連する福祉信託の積極的な活用というものに大変資するものであると強く考えるところでございます。

 以上につきまして、何点か付言をさせていただきますと、今般の信託法改正におきましては限定責任信託が導入されることになりますが、弁護士が福祉信託の担い手となる場合を考えた場合でも、やはり弁護士が責任を無限に負うというような制度は妥当ではなく、こうした限定責任信託というのは重要な機能を果たすということ。また、今般の信託法改正におきまして自己信託が導入されることになりますが、委託者がみずから受託者となることがふさわしい場合、例えば財産管理能力に乏しい未成年の子女や障害児を抱える家庭におきまして、その親御さんが自己信託を設定するということを考える場合に、福祉信託における自己信託の利用というものも十分普及すべきであるというふうに考えます。

 三番目の論点に移らせていただきます。

 この点は、先ほど申し上げましたように、今般の信託法改正と中小企業による資金調達、事業承継との関連でございます。新しい信託制度というものが、みずからの信用力だけでは十分な資金調達を賄うことができず、かといって、十分な不動産たる担保というものを提供できない中小企業にとりまして、資金調達におきまして大変新たな局面を開く可能性があるという点でございます。

 まず第一点目でございますが、今般の信託法改正におきまして、いわゆるセキュリティートラストというものの利用が明確にされます。シンジケートローンにおきまして担保を設定するということが容易になります。言いかえれば、中小企業の信用力だけではなく、担保の価値というものに応じたファイナンスというものが可能になります。

 次に、この関連でございますが、事業用財産を信託するということも可能になりまして、そうしますと、シンジケートローンにおきまして、事業自体、言いかえますと、事業からのキャッシュフローというものを担保とすることも可能でございます。また、自己信託が認められることと限定責任を併用することによりまして、事業主体を変えることなく事業信託が認められ、受益権をファイナンスのツールとして利用することによりまして、従来の金融とは異なる新たな資金調達の道を開くということも可能です。

 また、事業承継につきましても、この自己信託、新しい信託制度というものが有用である点についてもちょっと述べたいのですけれども、時間に限りがありますので割愛させていただきます。

 それから、四番目の論点といたしまして、投資家保護の点について述べようかと思った次第でございますが、時間も限られておりますので、最後の論点といいますか、信託法改正の意義と、信託法が濫用にわたることもあり得るのではないかという懸念に対する反論ということで、一言述べさせていただきます。

 信託法の意義でございますが、繰り返し述べましたように、民事、商事両方の信託法のプラットホームとして、単なるビークルとしての機能だけではなく、国民の生活、経済にわたって細やかな配慮をすることが可能でございます。

 ところで、自己信託につきまして、例えば財産隠匿の可能性があるのではないかという御懸念もあるようでございますが、隠匿という言葉そのものからして、自己名義のままで隠匿ということ自体、もともと観念しがたいことでございます。

 また、自己信託につきましては、いわゆる他益信託型と自己信託型、この二つが考えられると思いますけれども、他益信託型というのはいわゆる贈与型ということでございますが、債権者を害するような贈与がなされれば、当然詐害行為取り消しの対象になりますし、今般の信託法は、詐害行為取り消し請求を待たず、より直接的に債権者が強制執行等可能であるということで対応しております。もちろん、要式性も必要とされておりまして、この点何ら問題がないように制度設計されていると思います。

 また、自己信託が商事目的で利用される場合、先ほどの中小企業の資金調達等がございますけれども、その場合には、受益権を相当な対価で必ず販売するわけですから、それに見合う金額、金銭が固有財産として中小企業に入ります。また、自己信託の受益権を販売する前という状況にございましては、何ら委託者兼受託者の財産状態には変わりはないということで、その点についても問題はありません。

 この点につきましては、信託の設定行為が契約か信託宣言かによるというだけの違いでございまして、でき上がりの姿というものは、受託者がいて受益者がいるという姿でございます。信託法というものは、受益者が受託者を監督する、またそれが十分できない場合には、例えば信託監督人を置くとか、そういう制度によって担保されているものでございまして、信託設定行為が、自己信託、信託宣言によるのか契約によるのかということは、本来重要なことではございません。

 また、先ほど来申し上げておりますように、また能見教授からの御意見にもありましたように、今般の信託法改正案におきましては、受託者の義務履行の確保のためにさまざまな義務が明確化され、これに違反した場合の受託者の責任ということも明確にされておりまして、受益者の保護に資するべく制度設計がされております。

 まとめということで、もう一度繰り返して申し上げますと、信託制度というものは、国民生活の隅々にわたりまして細やかな目配りが可能な制度でございまして、新信託法がもたらしますさまざまな可能性や我が国の社会経済に対する有用性を考えた場合、この新信託法による濫用の懸念をいたずらに強調することによりまして、長い間、学界、実務界の検討の成果でありますところのこの信託法の理念及び意義というものが見失われてはならないものと強く思う次第でございます。

 以上です。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、橋上参考人にお願いいたします。

橋上参考人 公認会計士の橋上でございます。

 本日は、改正信託法案につきまして意見を述べる機会をいただき、まことにありがとうございます。

 公認会計士は、証券取引法に基づき上場会社などの監査を行うとともに、会社法に基づき会社法上の大会社、委員会設置会社などに対する会計監査を行っております。

 本日は、昨今、ファンドを利用いたしました一部の上場企業の会計不祥事件などを踏まえ、改正信託法案の中に会計、開示、監査に重大な影響を与える部分があると考えるため、投資家や債権者を保護する機能を担う一人の公認会計士としての立場から、信託法の改正について意見を述べさせていただこうと思います。

 なお、本日の私の意見は、私の関係する諸団体とは一切関係ないことをあらかじめお断り申し上げます。

 さて、さきの通常国会で成立いたしました金融商品取引法では、改正信託法案に基づく信託受益権が既に有価証券として定義されております。また、特定有価証券、いわゆる開示規制などを受ける資産金融型有価証券の定義が、金融商品取引法第五条において初めて明らかになりました。特定有価証券に該当する信託受益権には、金融商品取引法第五条第五項や第二十四条第五項など、一定の開示規制がかかることになると認識しております。

 しかしながら、特に改正信託法案で導入される予定の自己信託につきましては、企業内容等の開示、会計監査上も、重大な懸念があると考えております。

 先に結論から申し上げますと、私は、自己信託を正面から是認する改正信託法案は、ライブドア事件後、ファンドに対する会計、開示、監査が強化されている現状の中では、自己信託が企業の資金調達の円滑化に資する可能性がある点を考慮してもなお、拙速に容認するのは問題があると考えております。金融商品取引法や会社法の開示規制の議論もあわせて行い、十分議論を尽くした上で、自己信託の是非につき再度検討することが、投資家、債権者保護の上で重要なことであると考えております。

 それでは、今申し上げました自己信託に関する重大な懸念事項について御説明いたします。

 まず、懸念事項に関する大枠のお話をいたします。

 自己信託は、改正信託法案第三条第三号に記載されておりますが、委託者と受託者が同一の者となる信託と認識しております。現行の信託法第一条におきましては、財産権の移転が信託成立の要件となっております。改正信託法案では、必ずしも財産の移転なくして信託が成立することになると認識しております。

 米国で発生したエンロン事件では、不良資産を切り離し、特別目的会社に移転させ、エンロンの破綻により、結果としてこの不良資産の切り離しが粉飾決算として発覚し、社会問題となりました。

 日本におけるライブドア事件では、エンロン事件とは性格が異なりますものの、会社の財務諸表から切り離されました投資事業組合において自社株売買が行われ、損益として認識してはならない自社株売却益を売り上げに計上し、やはり粉飾決算として問題となったわけでございます。

 自己信託を認めてしまいますと、今申し上げましたような、投資家や債権者に見えない、あるいは見えにくいところで、不良資産、不良債権や問題事業の運営、問題投資の隠匿を行うような行為を企業が行いやすい環境を提供することになり、問題があると言えます。

 さらに、自己信託と事業信託を組み合わせるなど今後多様な信託形態が活用され、それが仮に悪用されることになりますと、それに即応した監査証拠が確保されなければ、会計監査の実効性が危うくなる懸念がございます。しかし、このようなことは自己信託が悪用された場合には期待しがたいと考えております。繰り返しになりますが、過去、大きな企業会計不祥事件は、流動化という名目のもとでつくられましたビークルがその温床となった事実を重視しなければならないと思います。

 次に、金融商品取引法や会社法上の会計上、開示上及び監査上の懸念点につきまして、個別にお話をいたします。

 まずは、会計法規上の問題について指摘させていただきます。信託への資産の譲渡についてお話をいたします。

 委託者イコール受益者であることが通常である日本の信託におきましては、信託を設定した段階においては委託者の資産への継続的関与が遮断されないことから、支配の移転が認められず、資産の消滅要件を満たさないと考えられております。

 信託財産の委託者からの支配の離脱性は信託の本質的要件であると考えますが、これは専ら企業会計審議会が作成した金融商品会計基準の、契約上の権利に対する支配が他に移転したときとして定型化され、金融商品会計基準第二の二、1(1)から(3)の三要件として具体化されております。

 自己信託につきましては、信託の本質要件と見られます財産の移転そのものもなく、委託者が受託者の地位も兼ねますため、信託受益権を委託者がすべて留保している場合には、これも信託の本質要件と考えます、信託財産の委託者からの支配の離脱がございません。したがいまして、会計法規上、資産の消滅要件を満たさないものと思われます。

 しかしながら、それでは、そもそも、一体幾ら受益権が第三者に譲渡されれば、会計法規上、投資家や債権者が見る財務諸表から信託宣言された資産を切り離せるかという点、すなわち資産の消滅要件を満たすことができるのかという、会計法規上難しい問題の検討が必要になります。また、自己信託が導入されますと、この点につきまして監査の現場でも非常に困難な判断を迫られる状況が引き起こされ、今般の投資事業組合の件のような問題を引き起こすことが懸念されます。

 このような問題を潜在的に内包する自己信託は、現在の環境では、そもそも投資家、債権者保護を念頭に策定される会計法規、監査法規の視点からは、制度的に直ちには容認しがたいものと考えております。

 次に、財務諸表の見方が大きく変わり得る点について御説明をいたします。

 自己信託宣言をすることにより、公認会計士の監査対象企業の財産の一部が信託勘定に転換され、その財産を裏づけとして信託受益権が発行されることとなります。この場合、仮に、今御説明いたしました資産の消滅要件を満たすという整理が行われたとしますと、会計監査の対象となる投資家、債権者が目にする開示財務諸表には、発行された信託受益権を財務諸表提出会社、連結子会社が引き受ける場合には信託受益権勘定、なお、金融商品取引法施行後は有価証券勘定として表示されます。

 現行、信託受益権勘定につきまして、何が裏づけ財産になっているのかについては、開示する義務はございません。したがって、自己信託の導入により、例えば不良資産や不良債権が裏づけ財産になっている場合など、その実態が開示されず、財務諸表の信頼性が損なわれるおそれがございます。また、信託受益権を例えば関連会社やその他の関連当事者に保有させた場合など、不良債権、不良在庫や、ライブドア事件などで問題とされましたような不適切な組合持ち分がその裏づけ財産である場合、連結財務諸表には有価証券信託と表示されるのみで、企業内容等の開示の実態を不透明にさせることになります。

 次に、信託勘定には会計監査がない点について、懸念事項を御説明いたします。

 改正信託法案第二百四十八条におきましては、受益証券の発行される限定責任信託には会計監査人を設置できるものとされており、また受益証券の発行される限定責任信託の負債の額が二百億円以上であるものにつきましては、会計監査人の設置が強制されることは承知しております。しかしながら、このような特例を除き、自己信託における信託勘定には会計監査を受ける義務規定がなく、会計監査の対象外となっております。

 もっとも、会計法規上、資産の消滅要件を否認しますと、固有勘定の財産として会計監査の対象となります。しかし、仮に資産の消滅要件を満たすという整理が行われたといたしますと、次のような懸念がございます。

 改正信託法案では、その第九十九条で受益権の放棄を可能としております。企業が不良債権など不良資産を自己信託した場合、受益権の放棄により、ある日突然、会計監査の対象となる開示財務諸表に大きな欠損が表示される可能性がございます。自己信託宣言に伴い発生する信託勘定についても会計監査を行い、受益権放棄の可能性を見ながら、固有勘定に引当金などを計上することが必要でございますが、信託勘定への会計監査が制度化されていないため、問題が生じる可能性がございます。

 なお、受益権の放棄につきましては、改正信託法案第九十九条ただし書きで「受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない」と記載され、自己信託の場合は、委託者及び受託者で、これがまさに当事者となり、今申し上げましたような懸念はないとの見方もあるかと思いますが、改正信託法案はそもそも諸規定を任意法規化しておりますので、特約、別段の定めで信託受益権の法規がうたわれますと、こうした懸念が顕在化し、監査上は深刻な問題となる余地がございます。

 次に、事業信託について会計上、開示上、監査上の懸念点について御説明をさせていただきます。

 会社法上制度化されております、会社分割などによる子会社、関連会社を通じた事業を上場企業が行えば、連結財務諸表により開示統制が働き、連結財務諸表自体も公認会計士監査の対象となり、投資家保護が図られることとなっております。

 一方、事業信託では、事業信託先への会計監査が制度化されておらず、また事業信託の内容の開示が不透明になり、開示統制が大きく後退する懸念がございます。子会社関連会社を通じた事業展開と事業信託による事業展開で同一の開示統制の効果を及ぼさなければ、投資家保護にとって問題があるものと考えております。

 さらに、自己信託と事業信託を組み合わせますと、これまで指摘いたしました問題が複合的に顕在化する懸念がございます。

 最後になりますが、ライブドア事件を二度と起こしてはならないというのは、社会の共通の認識であると思います。そのために、法で何ができるのかについて金融商品取引法の規制が今後始まり、会計で何ができるのかについて企業会計基準委員会から実務対応報告第二十号が公表され、監査で何ができるのかについて日本公認会計士協会から「連結財務諸表における子会社等の範囲の決定に関するQ&A」の改正が行われました。

 しかし、改正信託法案による信託の考え方の抜本的転換、特に自己信託の導入は、ライブドア事件で利用されました投資事業組合にかわる新たな箱、ビークルを提供する可能性を秘めたものであります。流動化の新しいビークルをつくることを急ぐ余り、金融商品取引法や会社法における投資家、債権者保護のための開示規制の議論などを十分に行わず、安易に自己信託を導入することにつきましては、証券市場の番人としての機能を担う公認会計士の一人といたしましては、問題があると言わざるを得ません。

 以上をもちまして、私の御説明を終了いたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、新井参考人にお願いいたします。

新井参考人 おはようございます。筑波大学の新井と申します。

 大学で民法と信託法を教えておりますが、法制審議会の審議には一切関与しておりません。学界の片隅で細々と研究を続けている者です。私の見解は学界では常に少数説でありますが、そのような者に本委員会において発言の機会を与えていただいたことに対してお礼申し上げます。

 信託法は、制定以来八十有余年の星霜を経て、現代化が必要であることは論をまちません。今般の信託法案も一日も早く成立することが望まれます。しかしながら、これから述べる理由により、ぜひとも慎重な審議をお願いいたします。

 第一に、信託法案の性格について述べます。

 今般の信託法案を中立的な立場から観察してみると、資産流動化論者の声が強く反映された結果となっています。自己信託の許容、三条三号、信託の要物契約から諾成契約への変更、四条、受託者と受益者の地位の兼併の許容、八条、受託者が立てかえた費用と報酬の受益者への償還請求権の制限、四十八条、五十四条、有価証券化した受益証券発行信託の創設、百八十五条以下等にその結果があらわれています。

 商事信託を念頭に置き、資産流動化を中心として企業の再建、再生等に資する仕組みを提供するという色彩が強く、信託のビークル性が強化されたと言われるゆえんです。

 資産流動化信託は、受託者が財産管理にほとんど裁量権を持たず、管理業務はプロパティーマネジャーに委任するいわゆる器貸し、ビークルを特徴とする特殊な信託であり、一般法である信託法ではなく、特別法で規定するのが妥当です。既に、一九九八年に施行された資産流動化法が存在しており、同法には資産流動化のための特定目的信託が導入され、二〇〇三年の改正では、自己信託の代用機能として特定持ち分信託が導入されています。しかし、資産流動化計画書の提出、財務局への登録等の規制が厳しいことなどから敬遠され、両信託とも利用されていません。資産流動化信託を活用するためには資産流動化法を改正すべきであるのに、一般法である信託法を一挙に改正することは妥当とは言えません。

 第二に、民事信託の中核を占める個人信託、とりわけ福祉型信託については、さらなる検討が必要です。後継ぎ遺贈型信託の導入は高く評価されるものの、高齢社会を迎えて、意思能力に問題を抱えた高齢者、障害者の財産管理が社会的に注目されている状況において、意思能力喪失者が信託当事者となった場合の法律関係、法定後見人や任意後見人が信託を利用するときの法律関係について、全く検討が加えられていません。信託法案は、受託者の義務を任意法規化していますが、高齢者、障害者が当事者となる民事信託においては、受託者の義務の任意法規化は妥当ではありません。また、信託監督人の受益者擁護機能も決して十分だとは思われません。

 第三に、信託法案における信託概念は必ずしも適切なものとはなっていません。

 第二条の信託の定義において財産の移転という要件が含まれていないのは致命的であると考えます。これは自己信託を導入し、自己信託においては財産の移転がないことから、信託一般の定義から財産の移転を外したものです。このような定義は信託の本質をミスリードするものであり、信託が不適切に用いられる温床になるものです。

 第四条は、「信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。」とし、極端な諾成契約的な構成を採用しています。

 十月二十七日金曜日、午後の本委員会において、法務大臣は、信託法案は債権説に基づいて立案されていると明言されましたが、債権説に依拠しつつ、財産の移転がないのに、委託者と受託者との債権的合意のみで信託が効力を生ずるというのは、矛盾ではないでしょうか。比較法的にも、このような信託の定義は極めて特異です。この点については慎重な審議をぜひお願い申し上げたいと思います。

 第八条は、「受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合」を許容することによって、受託者と受益者との地位の兼併を一般的に承認しています。受託者と受益者とは対立概念であると考えるのが信託の基本であるとするなら、受託者と受益者とが同一人であるというのは信託の否定にほかなりません。そのような地位の兼併がたとえ期間限定のものであったとしても、一般法である信託法が受託者と受益者との地位の兼併を一般的に承認するのは、信託の理念の否定ではないでしょうか。しかも、自己信託においては、委託者兼受託者兼受益者の一人しかいないという事態も許容されています。どうしてこれが信託であると言えるのでしょうか。

 信託法案では、善管注意義務、忠実義務、分別管理義務等の受託者の義務が任意法規化され、大幅に緩和されています。それらの義務を一切負わない受託者というものも想定し得るわけですが、この点に関連して、法制審議会のあるメンバーが次のように述べています。以下は引用です。

  すべてが任意規定化されたからといって、完全に自由であるというわけではなくて、信託であると認められるためには最低限どこまでの内容が必要かという問題が存在することがわかります。緩和の限界が存在するはずだということです。そして、これは信託とは何か、信託の本質はどこにあるか、という議論に支えられて明らかになってくるわけで、今後の解釈にゆだねられていることになります。これがはっきりしないと真に安定した信託制度はできないわけでして、これからもじっくりとした議論が必要です。

 引用終了です。

 これほどの重大問題が今後の解釈にゆだねられるというのでは、立法の意味はないのではないでしょうか。もし受託者の義務の任意法規化に限界があるのであれば、それは信託法案の中に明示的に示されてしかるべきではないでしょうか。それが示されないのは立法の瑕疵と言わなければなりません。

 第四に、以上を踏まえて、信託法案は幾つかの点において修正されるべきであると考えます。一、自己信託の導入は見送るべきです。二、自己信託の導入の見送りに伴い、第二条の信託の定義に財産権の移転という要件を加え、第四条に要物契約的な見直しを行う、第八条は受託者と受益者の地位の兼併を禁止するべきです。三、目的信託の導入は見送るべきです。四、目的信託導入の見送りに伴い、公益信託に関する規定を信託法案本体に取り込むべきです。

 第五に、総括的な所見を述べます。

 信託制度の沿革を研究して気づくことは、信託が大変柔軟な制度である反面、信託の歴史は濫用との戦いの歴史でもあったという事実です。現在の我が国においても、信託の悪用事例は決して少なくはありません。しかも、現在我が国において実際に用いられているのは、自益信託という本来の信託とはやや性格の異なるものが過半を占めており、本来型の信託である他益信託は、委託者の所有権が実質的に受託者に移転してしまうことへの抵抗感などから、少なくとも民事信託の分野においては普及が困難な状況にあります。

 比喩的に言えば、我が国の民事信託の分野においては、よちよち歩きの赤ん坊という状態です。この子が健全に育っていくためには、信託の形をきちんと教え込み、社会に信託の健全性と安定性を定着させることが何よりも必要です。よちよち歩きの赤ん坊に時代の最先端の超現代的なスキームを与えることは、法政策的に妥当とは思われません。我が国に信託制度を根づかせるためには、信託の信頼性を確立することが求められています。とりわけ自己信託と目的信託は、少なくとも現在の我が国においては信託の信頼性を損なう危険性が大きいものであると考えます。

 ここで、目的信託について一言述べておきます。

 目的信託は、ケイマン諸島などで利用されている資産流動化のための慈善信託、いわゆるチャリタブルトラストを実務界の要望にこたえて導入しようとするものですが、前にも述べたように、このようなスキームの導入は資産流動化法が手当てすべき問題です。一般法である信託法の問題ではありません。信託法案に目的信託が規定されることによって、民事信託一般にも広く目的信託が認められるようになりますが、受益者の定めのない信託は、その濫用が危惧されます。

 信託法案の問題の一つは、商事目的信託に限定されずに、民事信託でも自己信託や目的信託が認められることです。金融庁の監督が及ばない民事信託では、自己信託や目的信託の濫用が懸念されます。

 信託法案は、自己信託、目的信託、限定責任信託、受益証券発行信託等の新しい信託類型を規定していますが、本来は特別法の対象であるようなものまで含まれており、一般法としての信託法が目指す信託の姿が拡散化、希薄化してしまい、信託法の改正の意義がどこにあったのか、必ずしも明確ではなくなった面は否定できません。

 本委員会の審議においては、信託法案が、規制緩和に歩調を合わせて信託概念を拡散化、希薄化しただけに終わることなく、信託の本来の理念、役割、特性を踏まえつつ、とりわけ高齢社会における福祉型信託の活用を促進するものとなるように、特段の御配慮をお願いいたします。

 最後に、結論を申し上げます。

 信託法案には若干の修正が必要ではないでしょうか。その上で、私としても信託法案の一日も早い成立を望むものであります。

 御清聴、ありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

七条委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。赤池誠章君。

赤池委員 自由民主党の赤池誠章でございます。本日は、信託法の参考人質疑ということで、トップバッター、質問に立たせていただきたいと思います。

 私は、昨年の郵政民営化解散・総選挙で初当選をさせていただきました。郵政民営化そのものも歴史的な大事業、その場に初めて当選をさせていただきました。その後、小泉内閣から安倍内閣の中で、安倍総理が「美しい国、日本」を掲げる中で、大きな時代の中で、現在、教育基本法の改正であったり、また国民投票法の実施という形で、私自身、国会議員、衆議院議員とならせていただいて歴史的な立場、現場に政治家としてかかわらせていただく、そういう面では非常にやりがいのあることを感じております。

 そして、本日は、法務委員会におきましても、大正十一年という八十数年ぶりの大改正、信託法の審議にもかかわらせていただくということは、そういう面では本当に政治家冥利に尽きるなというふうに考えております。

 その中で、今回、四人のそれぞれの識者の方から御意見をいただきました。非常に幅広く、賛成、反対相まみえまして、聞いておりましても非常に刺激的な感じがいたしました。

 まずもって、今回、法制審議会の信託法部会において部会長を務められまして、信託法学会の理事長とも聞いております能見先生に、既に陳述をしていただいておりますが、またその一方で、信託法の概念の中で、財産権の移転がないので致命的な欠陥というふうに新井先生からも厳しく御指摘をいただいていたり、さらに、自己信託、目的信託に関して、これは非常に問題だという御指摘も既にある中で、それを含めて、改めて今信託法の改正の歴史的意義をお聞かせ願いたいと思います。

能見参考人 私の考え方を述べさせていただきます。

 先ほども既に少し触れましたが、今回の信託法というのは、従来、信託法というのは非常に商事の信託に偏っていて、民事信託というものが十分に発展しなかった、そういう中にあって、民事信託のニーズも酌み取り、商事、民事両方を含んだ共通の基盤としての信託法というのを確立するということがまず第一の目的でございます。

 この考え方に対しては、先ほど何人かの参考人からも、商事の信託についてだけこういう規定を設けたらどうかとか、いろいろ御意見ございましたが、商事と民事を分けるというのは実はそう簡単ではございません。これは必ず、商事とは何か、こういう場合は商事なのか民事なのかと。例えば、現在でも、福祉型の信託というのは信託銀行が行っております。信託銀行がやっているのだから、ではこれは商事なのかというと、何か信託の中身としてはやはり民事的なものでございますし、そういう区分を設けることはやはり難しい。

 そこで、民事、商事も含めて共通のルールをつくろう、そのために、多少幅広い、柔軟になっておりますけれども、まずはそこから出発して、そして、それぞれの個別の信託については、信託法の中で対応できるものは対応するし、特別法が必要なものについては特別法で対応していただくというのが基本的な理念であり、将来の、これからの信託法の発展の基盤をつくりたいというのがまず第一でございます。

 それから、財産権のことについて一言申し上げますと、確かに、今回の信託法は、信託契約を締結した段階で信託というのが成立いたします。そういう意味では、まだその段階では財産権が移転していないということがあり得るわけでございます。

 しかしながら、こういう考え方をとりました最大の理由は、実際の信託というのは、恐らく委託者と受託者が相談をして、では、こういう信託をやっていこうということで合意をいたします。そういう意味では契約が必ず先行するわけですが、そういうときに、実はもう利害関係はいろいろなものが発生しておりまして、例えば、受託者の方からいえば、委託者がどういうことを考えているかということがわかりますから、場合によっては受託者がその情報を使って受託者自身が利益を上げてしまうということもあり得ます。これは一種の利益相反行為でありますが、こういう利益相反行為の危険というのはもう既に契約の段階からありますので、これはやはり信託法できちんと、そういうことはもう契約の段階からいけないんだというふうにしておきたい。

 財産権がまだ移転してはいないわけですけれども、財産権は、もちろん必ず、将来といいますか、直ちにといいますか、一定の時間内に移転いたしまして、移転しないまでの間はどうなるかといいますと、委託者の財産のもとにとどまっている限りはまだ信託財産としての独立性はありませんので、そういう意味では委託者の債権者などを害することはなくて、委託者の債権者としては、財産がまだ移転していない以上は、委託者の財産としてそれには係っていくことができる。

 こういうことで、一方で委託者の債権者は保護されるし、受託者は、契約に基づいて信託が成立した以上は忠実義務などを負って、そういう意味で委託者ないし受益者を害することがない。こういうことから、財産権の移転という要件は、契約の段階では必ずしもなくてもいい、しかし必ずどこかの段階では必要だというのが信託の、信託というのは何といってもやはり財産の管理のための制度ですから、必ずや財産が移転するということはもちろん必要でございます。だから、どこの段階で移転するかというだけの問題であるというふうに思います。

 自己信託、目的信託については、もし今でよければあれですけれども、後の方がよければ後でお答えします。

赤池委員 ありがとうございます。

 時間がございませんので、究極のもの、財産の移転の部分に関しては、今先生きちっとお答えをいただいたということで、既に法制審議会でも三十回にもわたって、英知を集めて専門家の中での議論がなされていたということを確認させていただきました。

 また、先ほど橋上先生の方からも、いわゆる公認会計士という専門の立場の中で、会計に関して、会社の中での具体的な事例に関して自己信託に関する懸念が何点か表明をなされております。

 それに関しまして、小野参考人の方で、弁護士として当然それぞれの実務にも精通をなさっていらっしゃるというふうに聞いておりますので、その点、橋上参考人からのいわゆる会計との問題の中での懸念、指摘について、小野参考人の方から実務に即して御意見、反論をいただければと思います。

小野参考人 それでは、私から意見を述べさせていただきます。

 橋上参考人がいろいろな論点にわたってお話しされておりましたけれども、まず、資産流動化ということに対して非常に懐疑的な目を向けておりましたけれども、我が国における資産流動化、これは詐欺的に資産流動化と呼んでいるものではなくて、投資家がきちっと流動化として購入している資本市場における商品でございますけれども、これに関しましては、今までデフォルトした例が全くないという、資本市場において極めて優良な商品でございます。

 資産流動化は、別に優良企業は本来する必要はございませんでして、資金調達のために、みずからの格付、みずからの信用力よりもより高い信用力、要するにより低い金利で調達をしたいという企業にとって有用でございますし、なおかつ、投資家におきましても、そういうデフォルトした事例がないという世界に誇る流動化市場でございます。したがいまして、この辺に対して、何か詐欺まがい的な商法で資産流動化と呼んでいるものとやや混乱しているのではないかと思います。

 とりわけ、エンロンとかライブドアとか、そういう発言がございましたけれども、かなり資産流動化とは違う話でございまして、その点につきましては、本来、会計とか内部統制の議論でございますし、なおかつ、その点につきましても、既に会社法が改正されましたし、会計につきましても内部統制ということで議論されていると思います。

 あと、不良債権云々という議論がございました。

 先ほど私からの意見で述べさせていただきましたように、自己信託というものはでき上がった姿でございまして、投資家たる受益者がいて受託者がいる、こういう姿でございまして、出だしのところが契約か信託宣言かという違いでございます。

 不良債権につきましては、既に不良債権の証券化ということで多くの事例がございます。それにつきまして自己信託を使ってやるということであれば何ら相違はありませんし、なおかつ、会計の議論に関しましても、通常の会計における資産流動化との関連でのオフバランスの規定の適用がある、実務指針がございますが、適用があるということでほぼ完結する問題でございます。

 橋上参考人がおっしゃられた点は、いずれも、悪意を持って何か制度を濫用しようとする人がこれを利用するかもしれないという、ある意味では、会社法、またはすべての器または法人または仕組み、組合、すべてについて当てはまるかもしれないという議論でございまして、今般の信託法改正とは何らかかわりのない議論だと思います。

赤池委員 小野参考人の方から今明確に御意見をいただきました。エンロン事件やライブドア事件、非常に一般国民にとってもわかりやすく関心が深いということで、信託法の改正論議が第二のライブドアを生むみたいな、そういった非常に耳目を集めやすいのですが、小野参考人の御意見のように、本質的に信託法とは関係のないところで議論がなされている、その反論としてはしっかりとした御意見をいただいたのではないかと思います。

 そして、個別の話、四人のそれぞれの参考人の方も、商事信託、日本は会社中心、法人中心で、いわゆる個人、家族の伝統的な信託が非常に弱かったところを今後伸ばしていこうということに関しては、四人とも同意をいただけたのではないかと思います。

 その中で、福祉型の信託ということで、特に小野参考人から弁護士の活用の御意見もいただいておりますが、この福祉型信託を今後どう伸ばしていったらいいのか。信託法以外の問題はたくさんあると思うんですが、能見先生の方から、いわゆる審議会の中で議論が出たポイントだけ、時間がないので一点だけ、今後福祉型信託を伸ばす上での信託法、それからその周りで意見が出たものをちょっとお聞かせ願いたいと思います。

能見参考人 福祉型信託について集中的な審議をしたというわけではございませんが、各委員は福祉型の信託というものを十分に念頭に置いた上での議論をしたというふうに思います。

 福祉型の信託というのは、幾つもポイントはございますけれども、やはり財産の単なる効率的な運用ということではなくて、健全性というんでしょうか、財産が確実に安全に運用されるということが重要で、そういう意味では、これは受託者の重い義務と受益者のコントロール、こういうものが十分になされるということが一番のポイントであるということで、この点を十分審議したつもりでございます。

赤池委員 今回、非常に短い時間ではございましたが、一連の信託法の改正議論、また本日の参考人の皆様方の陳述を聞きまして、改めて私自身も、今まで信託というのはなかなか縁がない、わかりにくい部分があったのですが、そもそも十六世紀にイギリスで始まった制度がアメリカ、インドを経て日本に移り、戦後の経済成長の中で発展をしていったという過程の中で、信託そのものが本当に、自分の財産を移譲するという、一番人間にとって、自分のものを人に移譲するという、誠実さとか正直さとか、そういったものを基礎に置く制度であるということ、人によっては人類の最高程度の徳義、道徳を基礎とする制度であるということを聞きまして、改めて、信頼と道徳、自由と規律という基本的なものを信託の中に感じることができました。

 そういう面では、現在四百二十七兆円という形で、五年間で毎年平均一三%も伸び続けているという、先ほども御意見をいただきましたが、単に経済的な問題のみならず、今後、中小企業の資金調達の面においても、また、もともと持っている伝統的ないわゆる個人、家族そのものを伸ばしていくという、まさに社会の成熟度の指標であったり、民主主義の根幹であるような、民度みたいなものをこの信託法そのものが内包しているということで、非常に重要な法案であるなということを痛感させていただいたところでございます。

 冒頭にも述べましたとおり、安倍内閣の美しい国づくりにとって、この八十数年ぶりの信託法の改正は、ぜひとも今国会で関係諸兄の協力の中で実現を図っていきたいというふうに思っておりますし、弊害に関しては十分対応が可能だということも聞かせていただきましたので、私も与党の一員として引き続き全力で改正審議に力を尽くしてまいりたいと存じます。

 きょうは、短い時間ではございましたが、貴重な御意見を賜りまして、本当にありがとうございました。今後とも御指導をよろしくお願いいたします。

 質疑を終わらせていただきます。

七条委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 きょうは、能見先生、小野先生、橋上先生、新井先生、本当に貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございます。全員にお伺いしたいところではございますけれども、時間の関係で一部の方にお話をお伺いさせていただきたい、こういうふうに考えております。

 一つは、今、橋上先生の方から、自己信託、事業信託における会計上、開示上、監督上の懸念点、こういうものが提示されたわけでございます。これにつきましては、十月二十四日、ASBJ、企業会計基準委員会、ここで会計基準の明確化等をやっていくということでございますので、その御懸念も十分配慮した企業会計基準がこれから整備されていくんじゃないかな、そう思います。

 そういう点で、一年半の期間、そしてその後、自己信託については一年経過措置があるわけであります。施行から一年は自己信託についてはまだ経過措置がある。そういう中で、これはしっかりと整備をしていく分野ではないかな、こういうふうに思っております。

 そういう中で、能見先生にお伺いしたいと思います。

 能見先生、自己信託について、だれが最も受託者としてふさわしいか、これを考えるとき自己信託というのは非常に大事だ、そしてそれが、要するに高齢者、障害者という福祉型、そしてまた事業の信託というものを組み合わせて活用できるんだ、こういうお話でございました。

 そういう点で、この自己信託についての意義、これについては先送りをすべきではないかという新井先生のお話もあったわけでございますけれども、この有用性、意義、やはりこれは先送りすべきではない、こういう御見解を賜りたいと思います。

 それと、目的信託につきまして、今公益法人改革が進められておりまして、法律も通ったわけでありますけれども、民間非営利の分野について今回大きな規制緩和もなされたわけでございます。そういう点で、公益法人改革と並んで目的信託をどうとらえていくか、そしてその有用性、またこれも先送りすべきではないということのお考えをお伺いしたいと思います。

能見参考人 最初に自己信託についてでございますが、先ほど、自己信託が主として意義を持つであろう二つの場面をお話しいたしました。今おまとめいただきましたように、一つは、家族内あるいは親族内の信託というんでしょうか、身近の信託で、かつ、その受益者になる者について、どういう形で財産を運用したらいいかを一番よく知っている者、これは恐らく委託者ですが、これが財産管理をするというのが極めて自然である、また有用であるというタイプの自己信託でございます。

 それからまた、さっきの事業の場合も、ある意味で共通する、委託者が一番よく知っている者を受託者にする、これがベースでございます。

 私は、こういう自己信託というのは、確かにいろいろ懸念があるということはわかりますけれども、やはり早くこういう自己信託を皆様に使っていただいて、そして、その中からもし例えば会計上の問題点などがあれば、こういうものは会計の方で対応していただくというのがよろしいのではないかというふうに思います。

 一点だけちょっとつけ加えさせていただきますと、この自己信託において、先ほど申し上げましたけれども、いつ自己信託が成立したかというのを明確にするということがまず第一である。これは、公正証書であるとか、あるいは受益者が委託者とは別にいるときに、その受益者に対する通知、確定日付のある通知などでもって明確にするというのが一つでございます。

 もう一つは、成立は幾ら明確でも、実際に移転している財産、帳簿上移転したとされる財産に見合ったものがないと適当じゃない。これはまた会計の問題かもしれませんが、その点はきちんと、ちゃんと財産が移転している、帳簿に見合ったものが移転しているということを明確にする手段を講じていただければと思います。

 目的信託。これは、私は、目的信託にはいろいろな利用がありますけれども、一つは、やはり公益信託のいわば周辺的な非営利の領域というものをカバーするものが目的信託であるというふうに理解しております。ちょうど法人の場合も同じで、公益法人というのは、恐らく概念は幾ら広げても余り広げられないのですが、その周辺には非営利の民間の活動の領域がたくさんありまして、例えば、会社が従業員のため、そういう意味で、自分の会社の従業員だけですから公益とはちょっと言いにくいと思いますが、そういう従業員のための運動施設だとか、施設を信託でもって管理するというのが一つの使い方でございます。

 一般財団法人も非営利に広げられましたが、それと同じような活用がされるべきで、早く財団法人と信託がいわば競争して、その中からいいものが生まれてくることが望ましいのではないかと思います。

大口委員 次に小野先生にお伺いしたいと思いますが、小野先生も論文で書いておられますけれども、福祉信託における弁護士及び弁護士会の取り組みについてということで、福祉信託の担い手として弁護士というものを積極的に活用すべきではないか、司法改革の理念からいってもそうすべきではないか、こういうお話がございました。そして、この御見解の中に、信託業法の適用があるのかないのか、非常に重大な論点で、私も委員会でもこれを質問させていただいたわけでございます。

 その中で、営業信託というこの営業ということについて、信託の引き受けを業とする、こういうことでございまして、その中に、営利ということで、収支相償うという部分が、弁護士が報酬を得てやっている、本来の弁護士の業務に随伴する業務として信託というものの手法が必要だ、こういう場合についても、信託業法の営利目的、そして反復継続というものに該当するということになりますと、信託業法の適用がある。そうなってきますと、株式会社というもの、それから許可、そしてまた金融庁の監督、こういうことになりまして、弁護士が福祉信託における担い手として活用できないことになってしまう。

 こういうことは、私どもにとっても、せっかく民事信託というものを拡大していこう、国民の福祉、超高齢社会において、信託業法の衆参の附帯決議にもありましたように、この部分を拡大していくという趣旨からすると、非常に懸念を持っております。

 NPOでありますとか公益法人でありますとかあるいは弁護士等の専門家、こういう方々がやはり活躍していただかなきゃいけない、こういう点で先生と全く同意見でございますが、この信託業法の適用、非適用のことについて、これは法解釈論としても適用に当たらないんだ、適用されないんだというようなことがありましたら、あるいは、信託業法はやはり改正する中でこれを考えていくべきだということであれば、どういうふうに信託業法の改正をしていくべきなのかということをお伺いしたいと思います。

 そして、能見先生にも、受託者の拡大ということをお述べになっておりますけれども、この関連でお話をお伺いしたいと思います。

小野参考人 貴重な御意見、ありがとうございます。

 まさしく、弁護士会といたしましてもこの点をずっと議論しておりまして、やはり制度的に明確にしていただきたいという意味におきまして、信託業法上明らかにしていただきたい、かように思います。

 それは、信託業という定義全部を変えるという意味ではございませんでして、本来信託業が前提としているいわゆる営業信託とは全然異なる類型の弁護士による受託行為がたまたまその単一な概念に当てはまってしまうという問題でございますから、その辺につきましては例外的措置ということで明確にしていただきたいと思いますし、なおかつ、法制上、例外ということで規定されますと、時折ある論点でございますが、それまでは違法だったんじゃないか、こういうふうに言う方もおりますけれども、そうではなくて、現行においても解釈論上有効であって、その有効性を法文上明確にし、それによって福祉信託を推進するのである、こういうような視点でございます。何とぞよろしくお願いいたします。

 弁護士以外の、例えばNPO法人等と先生おっしゃいましたけれども、確かに、善良な受託者となるべき方というのは他にいるかもしれません。弁護士がやるというのは、決して弁護士または弁護士会におけるみずからの領域の問題ではございませんでして、法律紛争が非常に秘められている問題であるというところにございます。

 したがいまして、その法的紛争というものが全くないような民事信託であれば他の担い手ということも考えていいかと思いますけれども、弁護士の場合は、御承知いただいていますように、懲戒制度という極めて重たい制度がございまして、ましてや、依頼者の財産を預かるということでございますから、弁護士会といたしましてもその点につきましては極めて慎重に取り扱う、私どもは慎重に対応を考えるということでございまして、弁護士以外までの拡大ということになりますと、その点につきましてどういう制度的なたてつけが必要かどうかということが、また違う議論になると思います。

能見参考人 では、受託者の拡大という観点から簡単に意見を述べさせていただきます。

 私は、公益信託の領域というのは非常に重要だと思っているわけですが、実は、公益信託、いろいろな理由はあるんですけれども、現在、信託銀行は必ずしも公益信託の受託に積極的ではございません。そういう意味では、公益信託というのは先細りになっているという認識をしております。

 これを打開するにはいろいろな方法がありますけれども、一つ重要なのは、やはり公益信託の担い手というものを広げるということでして、これは公益法人ですとかいろいろなところが考えられると思いますが、とりあえず今すぐ思いつくのは、公益法人などが公益信託を受託するという道を開いたらどうかというふうに思います。

 その際に問題になるのはやはり業法の関係で、公益信託を反復的に受託するということがもしありますと、その受託者は業としてこれをやったことになるのかどうかということなんですが、これは私の個人的な意見ですけれども、業というのは、ただ反復ではなくて、やはり収支相伴うというんでしょうか、やはりそれによって利益を上げるというのが業であって、公益信託をもし公益法人が受託する場合には、それで利益を上げるというわけでは恐らくないので、これは業としてというふうに見ない方がいいのではないかというふうに思います。

 それからもう一つ、仮に業としてということになりますと、信託業法が全般的にかぶってくることになると思いますが、果たして公益信託の領域にすべてかぶるのがいいのかどうか。信託業法というのは本来、受益者保護のためのものだと思いますが、公益信託も広い意味では受益者がおりますけれども、投資ファンドなどの投資信託の受益者などとは違った社会一般が受益者というもので、これを信託業法で規制しようとするのは本来ちょっと理念が違う。公益信託の領域は、もし何か必要であれば、やはり別な法制が望ましいのではないかというふうに思います。

大口委員 済みません。もう一つ、弁護士が福祉信託をやることについてもお聞かせください。

能見参考人 この点につきましては、小野参考人と私は基本的に同じ意見を持っております。

 福祉信託というのはもちろん公正に行われなくてはいけないというのは第一でございますが、同時に、やはり高齢者などが関与しておりますので、恐らく非常に紛争も多いのではないか。そういう中で、弁護士が福祉信託を受託できるということは、その紛争処理も同時に解決できるという能力を持っておりますので、極めて適切な受託者ではないかというふうに思います。

大口委員 あと、投資家の保護につきまして、私も委員会で質問させていただいたんですが、この点につきまして、小野参考人からちょっと御意見をいただきたいと思います。

小野参考人 先ほどちょっと時間の関係で割愛させていただいた点でございますが、投資家保護につきましては、これは受益権の販売ということが伴います。そういたしますと、信託法だけではなくて、信託業法、それから昨今成立いたしました金融商品取引法におきまして、信託受益権、このすべてがみなし有価証券ということで指定されておりまして、金融商品取引法上の投資家保護が図られるというような制度的なたてつけとなっております。

 したがいまして、信託受益権になったからといって、それが問題であるという議論は全く観念しがたいといいますか、ある意味では法制度がより整う、まして、今般の信託法の改正によりまして、信託受託者の義務ということがより明確化されまして、また受益者の権利ということもより明確化される、とりわけ補償請求権というものもなくなるということですね。今回の信託法改正というものは、投資家保護にとって極めて資するものと考えております。

大口委員 まだまだお伺いしたいことがたくさんあったわけでございますけれども、時間が来ましたので、これで終わります。本当にきょうはありがとうございました。

七条委員長 次に、高山智司君。

高山委員 民主党の高山智司でございます。

 きょうは、金曜日に決めて火曜日の突然の参考人ということで、能見先生、小野先生、橋上先生、そして新井先生、本当にありがとうございます。

 まず、先ほどからお話を伺っていますと、今回の、疑義があるといいますか、自己信託であるとか目的信託に関しても社会的ニーズが非常にある、ただ、これが単なる箱というかビークルとして使われている面が多いんじゃないか、だから、そこをしっかりしていこうというようなお話は四方とも共通であったと思うんですね。

 それで、後ほど、自己信託と目的信託、それぞれ先生方に、立法事実と、他の制度で代替できないものなのか、ちょっとその辺に関して伺いたいと思うんです。

 その前に、先ほど、小野先生でしょうか、信託法だけじゃなくて、要するに、悪意ある利用者であれば、会社法であってもほかの法制でもこれは同じような問題だというようなお話がありました。この点、実際監査をされている橋上先生に、これは会社法でもほかの有価証券法でも何でもある問題だ、あるいはLLPだとか最近いろいろなのが出てきたから、悪意ある人にとってみたら全部同じなんだというお話を小野先生がされたわけですけれども、この点に関して、今回のやはりこの信託法だけ特別ちょっとほかのものより不備があるんじゃないかという点がもしあれば、また説明していただきたいと思います。

 では、橋上先生にお願いします。

橋上参考人 今回の信託法で、やはり先ほども懸念されるのは、非常にわかりやすい例で言いますと、私どもが例えば株式を買いたいといったときに、その会社の財政状態を見るために財務諸表を見るわけでございます。そのときに、例えば、今まで一〇〇という資産を会社が持っていた、そのうち五〇が不良債権であったといったような場合は、不良債権の開示というものが、銀行さんであればリスク管理債権、あるいは一般事業会社さんでも開示が行われていた。ただ、これが、例えば不良債権が信託勘定になってしまいますと、その部分が切り離され、私どもが目にする部分というのは残りの五〇の部分、例えば五〇の部分ということになってしまう。

 先ほど事例としてライブドアの事件とエンロンの事件を挙げたわけでございますが、エンロンに関しましても、これは不良資産を切り離すためにSPCをつくって、会計すれすれのところでオフバランスにしていたという事実がありました。今般のライブドア事件においても、これはその財務諸表、つまり、ライブドアさんが投資しているにもかかわらず、なおかつ支配をしているにもかかわらずオフバランスになっていたということで、問題が深刻化してから表面化したということでございます。

 そのほか、ちょっと具体的に会社名を挙げるのはあれでございますけれども、大型企業の不祥事、監査法人なんかを巻き込んだ不祥事等についても、これもSPCが使われたというふうに聞いています。

 ですから、ポイントとしては、目に見えるところに、ある会社の支配している財産を見せなければいけないということでございまして、証券取引法の世界でも会社法の世界でも、そういった理念は同じなんだと思います。ですから、今、会計とか監査等において規制の強化が行われ、毎日、新聞報道で投資事業組合の連結の問題などが議論されているところであるわけです。

 そうすると、今回の自己信託というものを認めてしまいますと、これは冒頭の繰り返しになりますけれども、会社の財務諸表というのが非常に見えにくくなって、一〇〇で見せたらいいのか、五〇で見せたらいいのかという問題になります。自己信託は、一年、受益者と受託者と委託者が同一であるということでございます。一年経過した後、例えば受益権、これは一%でも売れば自己信託というのは存続できるものと理解しておりますけれども、そうすると、そういった自己信託の中で、これがさらに事業信託もかませてしまうと、なかなかわかりにくくなってしまう。

 要は、我々投資家というものは何を見て財務諸表を判断しなければならないかという原点に立ち戻りますと、やはり自己信託という制度を仮に認めたとしても、財務諸表上は、通常の財務諸表にくっつけて見せるか、あるいは、会社法上の開示省令あるいは金融商品取引法のこれからできます政省令で開示の点を、信託で何が行われているのか、信託財産で何を持っているのか、こういったことを十分に開示して、投資家保護あるいは債権者保護を図る必要がある。

 そういったことで、時代が今、こういった簿外のビークルになり得るものについて厳しい強化をしている中で、自己信託というのは非常に使い勝手がいいわけでございますけれども、会社法の開示の問題とか、金融商品取引法の開示の問題とか、あるいはライブドア事件の動向などを見まして、やはりそういった議論も十分に尽くした上で、その上で、自己信託宣言というものはどうなのか、是非をやはりそこでもう一度問い直すべきではないかというふうに考えている次第でございます。

高山委員 ありがとうございます。

 先ほどからお話を伺っていますと、信託が民事信託、福祉型の信託に利用されるからいいじゃないかと言いますと変ですけれども、福祉型でニーズがある、特に障害を持つ親御さんがというような話を聞くと、確かにそうだなという面もあるんです。

 ちょっと立法事実について、まず自己信託の方から伺いたいんです。

 まず、能見先生から伺っていきたいと思うんですけれども、例えば、今、高齢者だとか障害者という話が出ましたけれども、後見制度、成年後見の制度もあるし、また遺言の制度もあるし、わざわざ自己信託ということをしなくても十分今ある制度でも対応できるんじゃないのかな、どこにわざわざつくらなきゃいけない理由があるのかなというのがちょっといまいちわからなかったんですけれども、その辺を踏まえて、まず立法事実について伺いたいと思います。

能見参考人 私の理解では、成年後見人というのは、もちろんそういう制度があるわけですが、これは基本的に法定代理人で代理人でして、そういう意味では、信託のように受託者がみずから財産を管理するのとは違う。そこは、したがいまして、代理人として管理する方がいいのか、あるいはみずからが受託者として管理する方が財産の管理の上で望ましいのかどうか、そういう問題だというふうに思います。

 私は、そういう高齢者で財産管理が必要な意思能力などが落ちてきた人間に関しまして、一方で、きちんと財産を管理する専門家が管理する、これは受託者が関与するのが望ましいというふうに思います。他方で、成年後見人の方も当然関与するわけでして、といいますのは、いろいろな、財産を管理しているだけではできない、例えば、財産をどういうふうに処分したらいいか、あるいは成年被後見人、つまり本人ですが、のために何をしたらいいかというのは、これはただ財産を管理しているだけではできない可能性があって、そういうところには成年後見人が関与してくる。両方が共同することによって、一方で財産を効率的に管理し、かつ安全な、一種の分業ですね、それが一番望ましい。その際、委託者が財産管理者として最も望ましいと考えられるときには、自己信託が使われることがあってもいいのではないかというふうに思います。

高山委員 今の能見先生のお話ですけれども、冒頭能見先生の方から、もともと信託というのは、ファミリートラストというんでしょうか、家族の財産を孫の世代や子供に残したいというような、それは、あらゆる人が大体、自分の子供やら孫に資産を残したいということは当然考えていると思うんですね。

 だけれども、ほかの第三者保護、先ほどの債権者保護ですとか、あるいは財務諸表がわかりにくくなるから投資家を保護しなきゃいけないとか、一方では自分の財産をどんどん残していきたいというニーズも当然あるかもしれないけれども、やはり、例えば倒産したときにきちんと第三者保護をするために責任財産を明らかにする、そういう必要性もあるわけでして、わざわざ自己信託というややこしい制度をとって責任財産の範囲を何かぼかすような、本当にそういう必要があるのかなとちょっとまだ疑念があるんです。

 次に、小野先生にまた自己信託の立法事実について伺いたいんですけれども、やはり先ほどから、福祉型であるとか、民事信託の可能性、特に弁護士の先生が受託者となる場合というようなお話もありましたけれども、確かに、顧客といいますか、福祉型の、いわゆる障害者であるとか、そういう貧しいような方のニーズもあると思うんですけれども、十分に資産を持っている方がより自分の子孫にお金を残したいということで自己信託を利用されるケースというのは当然出てくると思うんですけれども、条文上も、私が見た限りでは、何か書き分けがないわけですね。障害者用であるとか、そういうことの書き分けがないんです。

 この点に関して、実際、今、そういう他の制度、先ほど言いましたように、後見の制度であるとか遺言の制度とかもある中、わざわざこの自己信託をつくらなければいけない理由、また、現行法ではまだ定かではありませんけれども、弁護士の先生が受託することになった場合にはそういう懸念がどう払拭されていくのか、その辺を伺いたいと思うんです。

小野参考人 二つの論点があると思います。

 まず一つは、先ほど橋上参考人がおっしゃられた商事信託としての自己信託の利用ということと、今御質問のありました民事信託における自己信託の利用ということだと思います。

 質問は後者の方に直接にかかわることなので、それについてまず最初に述べさせていただきますと、この点につきましては、能見先生がおっしゃられたことと全く同意見でございまして、現在の成年後見制度、任意後見制度、それぞれ十分機能を果たしております。ただ、さまざまな状況に応じて、信託というのは非常に柔軟性があります。信託契約によって柔軟に対応できる、また信託受益権についても柔軟に設計できるということもございます。したがって、新しいそういう民事信託また福祉信託のための手段、ツールというものを提供するということは、今日の高齢化社会、また世代間における財産移転をスムーズ、円滑に行うことという視点からもやはり重要ではないかと思います。

 また、御質問は、そのときに自己信託である必要があるのか否かということだと思います。それは、信託の担い手、受託者がだれになるかということだと思います。先ほど私からは弁護士が福祉信託の担い手となることは必要であるということを繰り返し申し上げさせていただきましたが、もちろん、信託銀行、信託会社が福祉信託の担い手となっていただく、また、現在のところそれほど活用状態はないかもしれませんけれども、今後活用していただくということももちろん重要です。

 その中で、まだ健全な親御さんがみずから自己信託の担い手となる、これも決して異常ではなくて、極めてノーマル、通常の発想だと思います。その後に、例えば自分が亡くなる、自分が死ぬとか、いろいろな状況が生じるということはあると思いますけれども、とりあえず自分が自己信託の担い手となるということは、とりわけ問題があるとは思いません。また、必要だと考えます。

 もう一つ、時間の関係もありますけれども、商事信託の点で大分懸念の発言が先ほど橋上参考人からございましたけれども、この点につきましては、繰り返しになりますけれども、不良債権ということをおっしゃられていましたけれども、仮に銀行が、不良債権の流動化を図るということで、自己信託によって流動化を図るということになれば、でき上がりの姿は、他行に対して不良債権を信託して不良債権の流動化を図る状況と何ら異なるところはありません。

 受益権が販売される前におきましては、これは何ら状況は異なりませんから、自己信託設定によって何かを隠したということも会計上もあり得ないと思いますし、常識としてもあり得ないと思いますし、受益権が譲渡された後の姿というものは、通常の流動化における受益権が譲渡された後の状況と何ら異なることはなくて、投資家たる受益権者は、信託法に基づきまして、また今般の信託法改正はより義務を明確化しておりますけれども、さまざまな権利が与えられており、その中には信託財産に対する帳簿閲覧請求権とか、いろいろ権利を与えておりますから、その中で十分投資家保護は図られている、かように思います。

高山委員 ちょっと時間もなくなってきましたので、最後に新井参考人にも、まずこの目的信託、これを導入しなきゃいけない理由が何かあるのか、私は他の制度でもまだ代用できるんじゃないかということも思っていますので、その点に関して。

 もう一つは橋上参考人に、今の受益権の扱いなんですけれども、先ほど受益権の放棄などのお話もありましたので、もう一回詳しくお話をいただければと思いますので、そのお二方、お願いします。

七条委員長 もう時間が過ぎておりますので、簡単明瞭に、申しわけございませんが、よろしくお願いいたします。

新井参考人 簡単明瞭にということですので。

 目的信託は導入せずに本来の公益信託をきちっと活用するというのが、私は正しいやり方だというふうに思います。受益者の定めのない目的信託というのが相当長期間にわたって存続するということになると、私はいろいろな問題が出てくると思います。ですから、公益法人改革もめどがついたわけですから、公益信託についてもきちっと対応するというのが本来のあり方だと私は考えております。

橋上参考人 自己信託された信託勘定には、投資家保護をすべき会計監査が制度化されておりません。したがいまして、仮に受益権放棄をされた場合に、そこに損失、うみがたまっている場合は、放棄によってそれが一挙に固有勘定の方に顕在化するおそれがあるという意味で、投資家保護、債権者保護が損なわれる懸念があるということでございます。

高山委員 ありがとうございました。

 本当に、この参考人の短い時間でもまだ全然足りないなということで、審議を十分これから尽くしてまいりたいというふうに考えまして、私の質問を終わります。

七条委員長 次に、保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。

 新井参考人に主に伺っていきたいと思いますが、まず、今回の信託法改正案における信託の公示方法の厳格化ということについて、公正証書または私署証書というんでしょうか、公証人認証があるものというほかに、確定日付のある書面なども認められている。このあたりはどういう問題を含んでいるのかについて、お願いします。

新井参考人 私は、公正証書なら公正証書で一本にするというやり方が法政策的にはベターだったというふうに思っています。公正証書といいながら、後の方で確定日付でもいいということですと、きちっとした設定という見地からは問題があるというふうに考えております。

保坂(展)委員 続けて伺っていきたいんですが、信託業法が、この信託法改正にあわせて条文が追加をされる。そして、自己信託により設定した信託の受益権を政令で定めるところの人数以上に販売する者については登録制だというお話もあります。実際に何人になるのか、これはわからないわけですけれども。

 この問題、具体的に、例えば宅地の販売であるとか、あるいはさまざまな分野で、実際にどういうふうな問題を生じさせるおそれがあるのか、その点についてお願いしたいと思います。

新井参考人 五十人の受益者で線を区切るということで規制がきちっと担保できるかということですけれども、そこには必ず抜け穴があるというふうに考えております。したがって、業法の方で受益者五十人に販売というのを規制ということでは、私は必ずしも十分じゃないというふうに考えております。

保坂(展)委員 先ほどの新井参考人の意見陳述にもありましたけれども、現行法では要物契約で、改正法では諾成契約となっている点、財産が受託者に移転をするということが原則だった信託がここで大きく組みかえられる。これは何が一体これで始まるのかという点についてはいかがでしょうか。

新井参考人 何が始まるかというのは、私はさっき申し上げたように、法制審議会の審議に一切関与しておりませんのでわかりませんけれども、少し勉強して思うのは、信託法の見地からはよろしくない事態だなというふうに考えております。

 といいますのは、信託の基本というのは、委託者が持っている財産を受託者に完全に移転する。今度の法案が債権説に基づいていると法務大臣が明確に述べておりましたけれども、債権説に基づけばそういう理解になるわけです。

 それで、なぜ移転をしなければいけないかというと、委託者から切り離すことに信託の意味があるんです。民事の分野において、例えば切り離すことによって、委託者が経済的に破綻しても信託財産は独立する、あるいは能力がなくなっても信託財産の独立性が維持される、あるいは亡くなっても、相続手続とかかわりなくその信託財産が処分されるということで、移転をするというところが、私は、ある意味では信託のもうすべての部分だというふうに考えるわけです。

 ところが、先ほど申し上げましたように、今度の信託法案では、財産権の移転がなくてもいい、これは信託宣言を入れたためなんですけれども、そういうことになったり、あるいは効力の発生についても、財産権の移転がなくて、委託者と受託者との債権的合意でいい。これは信託というものが非常に安易に設定できる。全く物を動かさずに、委託者と受託者が集まって、はい、信託ですと。

 それで、先ほど別の参考人の方が、効力が発生しても信託財産の独立性はないんだということがありましたけれども、私は違った解釈をしておりまして、信託の効力があるということは、信託財産の独立性を認めないと矛盾じゃないか。つまり、二段階の効力みたいなことになるのは非常におかしいというふうに思います。

 したがって、私は、やはりセオリーどおりに、信託というのは、きちっと委託者が受託者へ物を移すということによって信託になるんだというふうにしていただければというふうに考えております。

保坂(展)委員 ではもう一点ですが、投資家保護であるとか、あるいは私は、偽装倒産とか、労働組合の立場で、経営破綻時のさまざまな労働債権の行方の問題などを、これまで会社法制の中でこの委員会でもかなり議論をしてきたんですね。その会社法制と、いろいろ厳格に規定されたり、それなりの答弁が出てきているという部分が、この信託法とはどういうかみ合わせになっているのかという点について、何か無関係に信託法というものが出てきて、より自由自在に使えるんだという印象を受けるんですけれども、いかがでしょうか。

新井参考人 特に、自己信託はいろいろな面に使えるわけです。先ほど民事の分野、福祉の分野でのお話がありましたけれども、今御指摘のように、会社法制にも大いに関連があると思います。

 例えば、会社のある一つの独立したプロジェクト部門を自己信託によって切り離すということで、子会社の設立とか営業譲渡なしに実質的に同じ効果をつくり出すということができる。

 そのときに、従業員の移籍の問題も全くないのだというふうに言うんですけれども、それはやはり法的には問題がありまして、やはりまず会社法というものがあるわけですし、それから労働法制というものがあるわけですので、あたかもそういうような法律の、潜脱というとちょっと言葉が強いかもしれませんけれども、適用を免れるということがあってはいけない。そういう形での自己信託の利用というのは、私は適切だというふうには考えておりません。

 ですから、自己信託というのは、そもそもそういうふうに使われる余地を残しているという点で問題だと考えております。

保坂(展)委員 新井参考人に、これは高齢化社会において、やはり信託ということがとても、とりわけ障害を持つ方、高齢者の方、高齢でなおかつ障害のある方、これから有用だということだと思いますが、今回の改正法がその点に対してどのような考慮がされているかどうかということについて御意見を伺いたいと思います。

新井参考人 先ほどから、民事の福祉型信託について十分に配慮がなされているという参考人からのいろいろなお話があったわけですけれども、少なくとも私の目から見ると、極めて不十分だというふうに考えております。法制審の議事録を読んでも、福祉信託について何か集中的な議論をしたという箇所を私は発見することができませんでした。

 例えば、能力がなくなった後の財産管理を信託を使って行うということが考えられるわけですが、現行法制として既に任意後見制度というのが導入されています。例えばそういうものを使う。もちろん、信託を使っても可能なんです。

 つまり、これはどういうことかというと、信託をすることによって委託者が自分の財産を切り離す、能力がなくなっても信託の法律関係は続くということなんですが、それが果たして有効なのかどうか。私は自分のテキストにそれが有効だというふうに書いておりますが、ほかの権威のある先生方のテキストにはそんなことが全く書いてありません。

 したがいまして、先ほど私、少数説だというふうに申し上げたわけですけれども、例えば、法制審の審議の中で、委託者が能力がなくなった後も信託関係が持続するかどうかということについてきちっと議論する、あるいはその辺について少し法制的な手当てがないと、これは実務では使えないんじゃないか。つまり、能力がなくなったら、それは後見の問題ですよというふうにされたら、この分野は全く意味がないというふうに考えています。

 それから、ここに少し新聞記事をお持ちしたんですが、これは何もスキャンダルなことを申し上げるつもりは全くありませんで、福島民報の十月二十日の記事なんです。

 これはどういうものかというと、おばあさんが孫の財産を未成年後見人として横領した、それで福島家裁がこのおばあさんを告発した、そして判決が出まして、焦点は親族相盗の適用があるかないかということなんですけれども、これは適用なしということで、執行猶予つきの有罪判決が出たということがあるんです。

 こういう場合に、例えば、信託を使うということが有用なんですね。後見人ですけれども、自分では適切な管理ができないというときに、後見人としての財産管理を信託を使って行う、これはもう既に例があるというふうに聞いているんですが、こういう例、これは非常に有用だと思うんですね。親族間のいろいろな問題がある、あるいは自分で財産管理能力がないということで信託を使う。

 ところが、今度の法案の中で信託と後見との関係が一体どうなるのかということについて、検討もなかったし、規定もない。そういう中で、果たしてきちっと使えるのかどうかということについて、私は若干の疑問を持っております。

 ですから、本委員会では、ぜひその点をきちっと議論していただいて、場合によっては、その点についてさらに所要の手当てが必要だということで、附帯決議なりなんなりをつけていただければ、私としては大変ありがたいと思います。

保坂(展)委員 私もこの委員会で成年後見制度についてかなり慎重な議論を尽くした経験もありますので、今の指摘は重大な指摘だと思います。

 続いて、橋上参考人に伺いたいんですが、恐らく、大変幅広な自己信託、なおかつ事業信託ということで、私のとらえ方なんですけれども、いろいろやってみなければわかりませんよ、悪い人は今の社会にもいるし、それぞれの法制によって縛られているんだからというような若干楽観的な出発のような気がしています。

 企業会計の厳格化によって、会計の実務の仕事というのも、かなり刑事訴追などのリスクも背負い込むということになっていると思います。今、参考人は、要するに、これは私個人の意見なんだというふうにおっしゃいました。しかし、この改正法が成立をすれば、参考人だけではなくて、この会計実務にかかわる、特にこの自己信託、事業信託ということを財務諸表にどう載っけるのか、その見解が定まらないうちにそれぞれのやり方で処理がなされて、後からそれこそ事件になったりしたら、これは本当に困ると思います。そのあたり、皆さんはどう考えていらっしゃるのか、御自身の意見も含めてお願いします。

橋上参考人 まさに、今御指摘賜りましたように、昨今、監査人をめぐる、あるいは企業の開示をめぐる問題というのはかなり厳しい状況を迫られている状況でございます。したがいまして、この改正信託法案が、そういった今行われているようなさまざまな企業不祥事の問題等が一段落した段階で、もう少しかなり突っ込んだ議論をした段階で自己信託が導入されるのであれば、我々公認会計士としても安心はできます。

 ただ、これは、例えばライブドア事件であっても通常考えられないようなことが起こった、あるいはエンロン事件でも通常考えられない事故が起こるということでございますので、そういった流動化を促進するという名目のもとに余り拙速にビークルというものを与えていくというのは、監査リスクとしては非常に高いと思っておりまして、これはあくまで私見ですが、公認会計士の中にはやはりそういうふうに感じている者も多いのではないかと思います。

 それと、投資家保護、債権者保護の問題というのがございますけれども、これは一応、念のために分けてお話をさせていただきますと、信託受益権に対する投資家保護といわゆる自己信託をやった企業に対する企業の投資家、債権者保護の問題を分けて考えなければならないと思います。

 先ほど、受益権の投資家の保護については一定の保護が図られているのではないかという話がございまして、それは確かにそうなのかと思いますけれども、一方で、大企業、上場企業等影響のある企業の投資家とか債権者にとっては、そういった見えにくいものができる、契約で簡単にそういうものが成立してしまう、ビークルができてしまう、さらに、それが財務諸表としてあらわれなくて投資判断もできない、あるいは与信の判断もできない場合もあるといったようなことになると、証券市場に対する重大な影響があるかと思います。

 ですから、特に自己信託の問題については、監査権限を与える監査の問題、あるいは会社法の開示の問題、証券取引法の開示の問題、このあたりをセットでぜひとも御議論いただきたいというふうに思っている次第でございます。

保坂(展)委員 重要な問題があることがわかりました。慎重に審議をして、問題のあるところは削除するなり抜本的に変えるなりということが必要最低条件だということを感じました。

 ありがとうございました。

七条委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の皆さん方には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。四人の先生方、本当にありがとうございます。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時四分散会


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