衆議院

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第11号 平成19年4月13日(金曜日)

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平成十九年四月十三日(金曜日)

    午前九時四十三分開議

 出席委員

   委員長 七条  明君

   理事 上川 陽子君 理事 倉田 雅年君

   理事 武田 良太君 理事 棚橋 泰文君

   理事 早川 忠孝君 理事 高山 智司君

   理事 平岡 秀夫君 理事 大口 善徳君

      赤池 誠章君    稲田 朋美君

      今村 雅弘君    近江屋信広君

      奥野 信亮君    後藤田正純君

      笹川  堯君    清水鴻一郎君

      柴山 昌彦君    杉浦 正健君

      三ッ林隆志君    武藤 容治君

      森山 眞弓君    矢野 隆司君

      保岡 興治君    柳本 卓治君

      山口 俊一君    石関 貴史君

      大串 博志君    河村たかし君

      中井  洽君    横山 北斗君

      保坂 展人君    滝   実君

    …………………………………

   法務大臣政務官      奥野 信亮君

   参考人

   (立教大学大学院法務研究科教授)         廣瀬 健二君

   参考人

   (元東京都知事本局治安対策担当部長)       久保  大君

   参考人

   (国立成育医療センターこころの診療部部長)    奥山眞紀子君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会子どもの権利委員会少年法「改正」問題緊急対策チーム座長)            斎藤 義房君

   法務委員会専門員     小菅 修一君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十三日

 辞任         補欠選任

  石関 貴史君     三日月大造君

  河村たかし君     高井 美穂君

同日

 辞任         補欠選任

  高井 美穂君     河村たかし君

  三日月大造君     石関 貴史君

    ―――――――――――――

四月十二日

 更生保護法案(内閣提出第五三号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 連合審査会開会に関する件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 少年法等の一部を改正する法律案(内閣提出、第百六十四回国会閣法第四四号)


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     ――――◇―――――

七条委員長 これより会議を開きます。

 第百六十四回国会、内閣提出、少年法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、立教大学大学院法務研究科教授廣瀬健二君、元東京都知事本局治安対策担当部長久保大君、国立成育医療センターこころの診療部部長奥山眞紀子君、弁護士・日本弁護士連合会子どもの権利委員会少年法「改正」問題緊急対策チーム座長斎藤義房君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、本当にお忙しい中、四人の先生方には、わざわざ本委員会においでをいただき、本当にありがとうございます。どうか忌憚のない御意見をお述べいただきまして、御審議に御協力のほど、よろしくお願いいたします。ありがとうございます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、廣瀬参考人、久保参考人、奥山参考人、斎藤参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず廣瀬参考人にお願いいたします。

廣瀬参考人 御紹介いただきました廣瀬でございます。

 立教大学の法務研究科、いわゆるロースクール、法科大学院で、刑法、刑事訴訟法、少年法などを教えております。このような席にお招きいただきまして、多少なりともお役に立てれば大変光栄に存じます。

 私は、ちょっと特徴的なのは、三十年間、刑事、少年関係を中心とした裁判官をいたしておりました。その中で、刑事事件はずっと三十年やっておったわけでありますけれども、少年事件については、半分ぐらい、十数年、家庭裁判所での少年審判、それから地方裁判所での少年刑事事件、それから高等裁判所でその抗告審、不服申し立ての手続ですね、これを担当してまいりました。その中でいろいろな少年たちと出会ってまいりましたし、また、関係機関の方々ともいろいろおつき合いをさせていただいてまいりました。それから、司法研究ということで、英米独仏の少年司法制度の調査にも行ってきたことがございます。少年法の研究についてはその傍らやっておりまして、それから、大学に行ってからは刑事関係と一緒に今研究しているというところでございます。

 そういうことで、きょうは実務の観点からの話もさせていただければと思っております。多少なりともお役に立てれば幸いであります。ただ、時間がございませんので、結論だけというようなことにもなるかと思いますが、また御質問いただければ、詳しく御説明できればと思っております。

 まず、少年の問題というのは総論的なところがやはり大事だろうと思いますので、時間もありませんけれども、ごくかいつまんで総論的なところからお話をさせていただきたいと思います。

 少年法というのは、申し上げるまでもなく、年少者、未成年者に対して、成人の場合よりも保護教育的な修正を加えた手続、あるいは処分をするという法制度であります。これは、刑事手続を少し修正するというようなものから非常に福祉的なものまで、国によっていろいろシステムは違いますけれども、なぜそういうことになっているかといいますと、責任を追及して制裁するよりはきちっと教育し直した方が可塑性のある少年には改善更生の役に立つということから出発している、これは皆さんよく御存じだと思います。

 しかし、同時に、少年の問題で難しいのは、軽い事件で、本人が謝って、親が謝って、相手も納得しているというようなことであれば、本人が立ち直るということだけを考えていけばよろしいわけでありますけれども、非常に重大な犯罪をやったということになりますと、被害者の問題が出てまいります。幾ら年少者がやったといっても、例えば殺人は殺人ですし、むしろ、社会一般の受けとめ方も含めて、衝撃は大きいという場合がございます。これは、長崎や佐世保の事件などでもおわかりだと思いますし、外国でも、例えばイギリスのバルジャー事件などというのは非常に、立法の契機にもなっております。

 そういうことで、わかりやすい例を申し上げますと、人を殺してしまったけれども非常に反省しているという場合、二度と問題を起こさないだろうという子供もいるわけですけれども、だから大した処分をしなくていいということには恐らくならないだろうと思います。やはりそういう問題を考えていかなきゃいけない。やったことに相応する処分、贖罪といいますか償いといいますか、そういうことは、やはり本人自身にとっても必要だろうと思いますし、被害者や一般社会の方に受け入れていただくというためにも大事なことだろうと思います。

 今回の問題は、虞犯とか触法の問題、それも十四歳未満ということが中心になっておりますので、刑事裁判の問題は出てこないわけでありますけれども、それでも、やはりそういう観点は外せないのではないかと私は思っております。

 それから、日本の法制でいきますと、刑事裁判の手続、少年法の手続、それから児童福祉の手続、少年関係を扱うものはいわば三本立てになっているわけでございます。このすみ分けをどうするか、どう使っていくか、これがやはり一番大きな問題だと思います。今回のところでは、児童福祉手続と少年保護手続、少年審判手続をどう使っていくかという問題になっていくかと思います。

 今回の法案の全般的な印象から申し上げさせていただきますと、日本の少年保護の法制というのは全体的には非常にすぐれているものだというのは、外国を見てきまして痛感しております。その基本原則は変えないで、問題点のある点を手直ししていく、修正していく、そういう改正だろうと受けとめております。そういうことで、全体的には、私としては賛成いたしたいと思っております。

 各論的なことに入っていきますけれども、まず、虞犯少年あるいは触法少年に対する警察の調査権ということでありますけれども、先ほど申し上げましたように、私も、少年裁判官、審判官と言った方がいいかもしれませんが、十数年やりましたが、虞犯事件や触法事件というのは、家裁におりますと、第一印象は、とにかく記録が薄い、証拠が薄いということでございます。これはやはり、きちっとした調査、捜査、もちろん触法であれば捜査はできないわけでありますけれども、資料が十分そろわずに家庭裁判所に事件が来てしまうということが非常に多い。

 その結果として、家庭裁判所の方では、もちろん調査官はおりますからできる限りの調査はしてもらうわけでありますけれども、やはりなかなか警察がやるような調査というのはできないわけでありまして、実際には非常に苦慮するというような事件もございます。

 これは、既にいろいろ御指摘がありますように、証拠物の問題でありますとか、それから強制捜査はおよそできないわけですから、資料が足りないという問題はやはり痛感しているところであります。この辺は、急に最近問題になっているということではなくて、家庭裁判所では昔から、少年裁判官同士で話をすれば、やはり触法や虞犯事件は困るというような話は出ているわけであります。

 それから、調査をどこがやるのが正しいだろうかということも考えるべき問題だろうと思いますけれども、ここで一つ考えておかなければいけないのは、やはりすみ分けの問題があると思います。もちろん、全く新しく制度をつくるのなら別でありますけれども、今あるシステムを前提にしてどこでやっていくかということを考えた場合に、一番専門性があって、特徴をとらえている、ふさわしいという機関が中心になってやるのが正しいやり方でありましょうし、効率もいいだろうと思います。

 そういう意味で考えますと、家庭裁判所、これは恐らく、調査をするとすれば調査官になると思います。それから児童相談所、児童福祉の関係は主として児童相談所ですが、これは児童福祉司ということになろうかと思います。もう一つは警察あるいは検察ということになるわけですが、今回は触法ですと検察は出てまいりませんけれども、やはり一からきちっと事件の証拠を集めていく、あるいは争いのある事件の証拠を裏づけ等も含めて集めていくという作業、これはどれが一番専門家で向いているだろうかということを考えますと、やはり明らかに警察であろうと思います。

 ただ、しかし、いろいろ御指摘がありますように、大人の場合とは違って、少年であります、しかも年少者であります。そうすると、確かにいろいろな、少年自身の性格的な問題、心理的な問題がございます。ですから、担当するのは警察の方できちっとやってもらって、しかしそこを性質に応じて修正する手当てをしていく、やはりこれが基本的な枠組みとしては正しい方向性ではないかというふうに私は思っております。

 この辺はイメージ的にも大事でありまして、例えば家裁調査官というのは、ケースワークもやりたい、あるいは心理教育的なアプローチもしたい、信頼関係をつくって、少年の真意をつかみたいということで活用しております。それから、児童福祉司も恐らくそうだろうと思います。そうしますと、そういう人たちが、調査官や児童福祉司というから信用したら、刑事さんと同じようなことをしているのかということにもしなりますと、やはりイメージダウンというのも非常に問題ではないかと私は思います。

 それから、時間がございませんので次の問題に移りますが、少年院の年齢の問題ですけれども、これも最近、先ほど言いましたような重大事件が起きて、それが児童自立支援施設でよいのかということで問題になっていることは確かでございます。

 少年審判実務をやっておりますと、例えば、中学生が、同じ学年で十三、十四歳がおりますね、同級生のクラスで共犯で事件を起こす、それがたまたま、けんかして、運が悪くて死亡事件になってしまう、傷害致死になりますね。そうすると、十四歳の子は家庭裁判所に来まして、相手が死んでいるということもあって、少年院へ送ろうかどうしようかというような問題になるわけでありますけれども、十三歳の子供は児相の方に行って、場合によると、そのまま児相から家裁に事件が来ないということも私のやっていたころなどにはありました。最近は児童相談所の方もかなり家庭裁判所に送ってくださるわけでありますけれども。

 そうしますと、本当に、処分の均衡といいますか、やはり十四歳の子の審判をしていますと、一緒にやったA君はどうなっているんですかという話が出てまいります。それに対して、我々としては非常に苦慮するわけですね。

 もちろん、本人が納得しないからといって、重大なことをやっている場合に処分をしないというわけではありませんけれども、しかし、本人が納得しないで保護処分をしても、効果は半減します。ですから、そういうところの手当てというのは、必要性はかつてからあって、これは、従前から私は物にも書いておりますし、提言しているところであります。

 それから、年少者、十一歳とか十二歳とか、あるいは先ほど申しましたイギリスのバルジャー事件などというのは十歳の子が二歳の子を殺したというような事件ですけれども、そういうような事件が実際に起きてくるわけですね。その場合に、そういった子供たちを、児童自立支援施設というのはイメージ的にはやはり、非行性はそれほどないけれども保護環境に恵まれない子供たちを親がわりで育て直すというようなイメージですね、中心的なものは。

 そうすると、例えば、家出少年と人を殺したりしたという少年が同じところで、処遇の内容は強制措置とかいろいろ違いは出るにしましても、一緒に扱われるということが果たしていいのだろうか、特に被害者や一般社会の方々が見られて納得がいくのだろうかという問題があるだろうと思います。

 それからもう一つは、児童自立支援施設のイメージも、さっきの調査官や児童福祉司と同じように、福祉施設だと思ったけれどもそういう人たちも入っているのか、まるで少年院と同じではないかということになったのでは非常にまずいのではないか、そういうこともやはり考えていく必要があるのではないかと私は思っております。

 ですから、すみ分けの問題を考える場合に、もちろん児童自立支援施設の方でも大変努力をされておりまして、うまくできないと私は申し上げるつもりはありませんけれども、逆に少年院の方でも努力すればできないことはないだろうと思います。そうしますと、すみ分けとして考えたらどちらがよりふさわしいのだろうかという枠組み的なことをお考えいただきますと、あるいはイメージの問題も含めて考えていただきますと、これはやはり少年院の方がいいのではないか。

 それから、厳罰化ということも言われておりますけれども、例えば医療的な措置でいきますと、やはり少年院の方が充実しているだろうと思います。

 それから、少年というのは先が長いわけですから、予後が大事なわけですね。要するに、施設に入れましても、出てきてから社会復帰していく、そのプロセスが非常に大事なわけですけれども、これが少年院ですと、例えば、期間が足りなければ収容継続というのもできます。それから、仮退院をして、その後、保護観察で環境調整をしたり、いろいろなケアをしていくということができます。それに対して、児童自立支援施設の方はその後のケアができない、こういう問題もあります。

 ですから、そういう意味でいきますと、これは本人にとっても不利益というばかりではないという気が私はいたします。その辺もお考えいただければと思います。

 それから、下限の問題ですが、これは、先ほど申し上げましたように、十四歳で機械的に切るというのは非常に困るわけでありますけれども、といって余り低い子はどうだろうかという御心配があると思うんですけれども、例えばイギリスなどは十歳あるいはアメリカやカナダでは七歳とか、そういう下限がありますけれども、そういう国でも、あと犯罪意思、故意の問題ですね、故意とか過失とかそういうところの問題でまた絞りをかけるわけですね。

 ですから、日本でも、下限を外したからといって、本当にめちゃくちゃに年齢の低い子が送られることになるかというと、それは当然、家庭裁判所で絞りをかけるわけであります。

 それから、家庭裁判所が少年院へ送っているということ自体も、統計でおわかりだと思いますけれども、保護観察に比べれば、八対一とかいうような非常に絞り込んだ運用をしております。そういうことから考えても、それほど御心配になることはないのではないかと思っております。

 それからもう一つ、保護観察の問題ですけれども、遵守事項違反に対して少年院に送る、あるいは児童自立支援施設に送るという改正については、私も理論的な研究もいたしておりますけれども、理論的にはなかなか難しいものがあるというのは確かであります。しかし、現行法上あるいは法改正でできないことかというと、理論は何とかクリアできるだろうと思っております。

 必要性がないかといいますと、非常に必要性はある。これも、少年審判官をやっておりますと、やはり保護観察中の再犯というのは非常に多いわけでありまして、もっと保護観察でしっかりやってもらいたいというのはずっとあるわけでありますね。しかし、その次の処分というと、少年院、収容処分しかないわけですね。これは物すごいギャップがあるわけです。ですから、家庭裁判所としては、できる限り頑張って、社会の中で立ち直れるのであれば立ち直らせてあげたいということで、ぎりぎりのところを保護観察にしているというのはたくさんあるわけです。そうしますと、保護観察の現場では恐らく大変な御苦労をされているだろう。お話も伺っております。

 ある意味で、今回の法案が非常に変わったものになってくる原因の一つは、少年法の保護観察というのは非常に特殊な処分なんですね。諸外国でも保護観察はございますけれども、これは必ず、厳しいサンクションといいますか、問題があれば処分を変更して施設に入れるとか、あるいは制裁的な対応ができるというのが普通の枠組みです。それを使ってうまくやっているというのが大半のところだろうと思います。

 日本の場合はそれがなくてやってきたわけでありまして、虞犯通告というのがありますけれども、これは、虞犯の要件が変わっているわけではありませんから、普通の虞犯少年の場合と同じことでありますので、ですから、そこを緩めるという考え方もあるかもしれませんけれども、虞犯を緩めてしまうと虞犯少年一般に影響が及んできて、これも大問題になってしまうだろう。

 そうしますと、やはり保護観察を充実強化するという意味で、こういった今回のような、違反をして、まともに受けない、従わないというので非常に重大だという場合、そして将来的に非常に心配だという子に限って、絞り込んで対応するというのは、一つの知恵ではないかと思っております。

 ですから、本質的に担保規定がないというのが、ある意味では非常に変わっていたところでありまして、それを運用上の努力で今まで指導、説得して何とかやってきた。しかし、もうそろそろ限界に来ている。保護者に対する指示の規定なども家庭裁判所でもつくったわけでありますけれども、要するに、今までだったら素直に聞くところが、何の根拠があるんだということで聞いてくれない人たちがふえているという世の中で、やはり担保するものが必要になってきているという面は間違いなくあるだろうと思います。

 それからまた、運用の見通しでありますけれども、実際に取り消し条件がついている仮退院ですとか仮出獄の例を見ましても、違反した場合に取り消して収容できるということになったからといって、それが多用されるということは余り考えられないんですね。違反自体が重いという縛りもありますし、そこから警告をして、さらに申請をして、その申請に対して家庭裁判所の方でも調査をします。当然、調査官は働きかけます。さらに、審判段階での働きかけもあります。さらに言えば、その審判で試験観察にしてさらにチャンスを与えるということもできるわけであります。それをすべてやってだめな場合に少年院に送られる場合が出てくるということになりますから、これで少年院に行くのが非常にふえて大問題になるということはないだろうと私は思います。それぐらいの伝家の宝刀といいますか担保の規定は、やはりあった方がいいのではないかと思っております。

 それから、国選付添人の選任の拡大につきましては、これも私も前から提言していたところでありまして、全面的に賛成でございます。

 時間を超過して申しわけございません。御質問があればまたお答えしたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、久保参考人にお願いいたします。

久保参考人 久保でございます。

 私は、長い間地方自治の実務に携わってまいりましたが、昨今のいわゆる治安の悪化を理由とする地方自治体の諸施策に一石を投じる意味で、昨年来、批判的意見を公にしてまいりました。その中で、犯罪統計の見方についても、これまでの通説とはいささか異なる見解を示しております。

 そこで、少年の非行や犯罪についての問題を、私は、こうした切り口で取り上げて、意見を申し述べさせていただきたいと思います。

 さて、この少年問題を考える場合に、木を見ることから始めるのか、森を見ることから始めるのか、二通りの対応が考えられます。もう少し具体的に申し上げますと、少年犯罪の量的な増加や凶悪化などの傾向を取り上げて問題にすることを森を見ることに例えれば、個別の少年の更生や非行防止などにとってどのような対応が望ましいのかの論議を木を見ることに例えられるかと思います。ただし、私がこれから申し上げようとすることは、木を見て森を見ずということを戒めようというのではなく、かえって森を見るその見方自体、つまり現状の評価そのものに対して疑問を呈することにあります。

 ところで、本法案の提案理由説明でも、「近年、少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している上、いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど、少年非行が深刻な状況にあります。」とされていますが、こうした見方は、往々にして、少年法改正に反対する立場の方にも共有されていることが少なくありません。

 すなわち、少年犯罪に関しましては、従来から、増加、凶悪化、低年齢化という三つのフレーズによって語られています。そして、そのことを裏づけるものとして統計データが提示、引用されています。

 しかしながら、そうして示される統計は、しばしば相互に矛盾した事実を示しており、一貫した説明の根拠とはなり得ないこと、それゆえに、現在政府によって示されている犯罪白書その他の統計データからでは、例えば、犯罪自体がどれだけ増加しているかとか、減少しているかということを正しく根拠づけることは難しいというのが、私の見解です。

 それでは、具体的に少年犯罪の増加、凶悪化、低年齢化という主張のどんな点が問題だというのでしょうか。統計データのどんなところに難点があるのでしょうか。

 まず、増加説の当否から御説明してまいります。

 第一に、少年犯罪については、一般に検挙人員の増加を少年による犯罪の増加と読みかえて議論されています。ところが、検挙人員の増加が示される一方で、犯罪白書は、少年の場合には成人に比べて共犯率が顕著に高いことが特徴であるとしており、しかもその傾向が強まりつつあることを示しています。このことは何を意味するのでしょうか。検挙人員がふえたことは、犯罪が複数の少年によって遂行され、共犯者が芋づる式に検挙される場合が少なくないことを説明するものではあっても、検挙人員の増加に比例して少年による犯罪件数自体がふえたという結論を導き出すことはできないということです。

 また、比較する期間のとり方によって、評価がほとんど正反対になってしまう可能性もあります。例えば、戦後生まれが青少年期を迎えた昭和三十五年ごろから比較するか、その十年後、ちょうど社会が七〇年安保や大学紛争に揺れていた昭和四十五年ごろから比較するか程度のささいな違いであっても、評価が違ってくるだろうということであります。

 凶悪化しているかどうかについても、比較する期間のとり方によって同じように評価の違いが生まれますし、さらに、これはどうやら世界的な傾向のようですが、温情主義から厳罰主義へと空気が変わってきたことに伴って、警察での取り扱い上もカテゴリー変更、つまりより罪の重い犯罪へと分類される傾向が生まれており、その影響を無視することはできないということもあります。

 さらに、低年齢化については、犯罪白書自身が否定的なデータを示しています。まず、少年非行率、これは、ある年に生まれた少年が十四歳から十九歳までの間のいつの時点で非行少年となったのかを人口比で示したものだとされていますが、少なくともこの十数年の間により高年齢化しています。また、検挙された少年を在学する学校や就業状況によって分類したデータを見ると、年を追うごとに中学生の割合が大幅に減少し、その分高校生の割合がふえていることが示されています。

 さて、いささか駆け足で説明してしまいましたのは、実は、そうした一つ一つの論駁を経なくても、最近になって、今回の提案理由が主張する事実を否定するような統計データさえ公式に示されているからであります。

 ここでもう一度、本法案の提案理由の説明を取り上げてみます。まず、「近年、少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、」と言われますが、警察庁が本年二月に公表した資料、ちなみに、これは法務参考資料第九号に収録されているものとは別のものですが、より新しい時期のデータまで参照することができます。

 これによれば、平成十八年中の刑法犯少年の検挙人員は過去十年間で最も少なくなっており、これを人口比で比較しても、平成十五年一七・五、十六年一六・八、十七年一五・九、そして十八年一四・八パーミリオンと、四年連続で低下しているのです。

 また、「強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している」とも説明されていますが、平成十八年には、やはり過去十年間で最も少なくなっており、十年前の約二分の一になっています。

 いかがでしょうか。こうした政府が示している統計データは、残念ながら、提案理由を裏づける根拠としては不適切なのです。しかし、私は、こうしたデータを取り上げて、少年犯罪はむしろ改善されているのだと主張しようというのでもありません。その理由は後ほど述べることにいたします。

 さて、統計データでは減少傾向を示しているからといっても、やはり、近年になって、神戸や長崎、佐世保での事件に代表されるような特異な少年犯罪が頻発しており、このことは看過できない重大な問題であると主張する向きもあります。再三引用しますが、提案理由で「いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生する」と述べているのも、これと同様の主張です。

 そこで、恐縮でございますが、お手元に配付してあります私の資料をごらんいただきたいと存じます。内容を逐一説明することはいたしませんが、最近に特有の事象だと主張されるさまざまな事件もまた、過去に起こったものと何らの違いもないものであることを対比して示したものです。

 さらには、近年の触法少年による凶悪事件や低年齢化の傾向を説明するために、しばしば、平成五年、一九九三年にイギリスのリバプールで発生した、十歳の少年二人が二歳の幼児を殺害したといういわゆるバルジャー事件などが引用され、それとの類似性が強調されることも少なくありません。

 しかし、翻って、昭和三十年、一九五五年前後の我が国に目をやりますと、五歳児と六歳児による嬰児殺害事件、小学校一年生による同級生刺殺なども発生しているのであり、その早熟さ、アンファンテリブル、恐るべき子供たちという点では、日本の団塊の世代もなかなかのものだったのであります。

 ですから、もし、その後の日本の社会がこうした子供たちを含めた団塊の世代の指導育成に失敗したというのであれば、長崎や佐世保の事件を理由に触法少年に対する対応が見直されるべきだという意見も説得力を持ってくるでしょう。

 それでも、少子化と言われる時代にあって、非行に走る少年を一人でも減らすために、むしろ虞犯と呼ばれる段階から適切に指導することが必要なのではないかという意見もあるでしょう。そうした考え方が、この法案にも反映されていると見ることもできます。

 ところが、これも警察庁の公表資料、こちらはこの法務参考資料にも収録されていますが、これによりますと、補導された虞犯少年は昭和二十六年以降ほぼ一貫して減少傾向を示しており、人口比でいっても、昭和三十年には少年人口十万人当たり百八十八人だったものが、平成十五年には二十五人とほぼ七分の一ないし八分の一になっているのです。

 こうしたデータからは、三通りの解釈が可能でしょう。

 第一は、これまでの少年に対する施策や関係者の努力の成果が年を追うごとに実を結びつつあるという見方です。第二は、社会全体が次第に少年の補導に関心を失い、手抜きをするようになったから、あるいは、子供たちの逸脱行動に対して寛容になってきたからだという評価です。そして第三は、補導の対象となる人員は事実上変わらなくても、何らかの理由で家庭裁判所や児童相談所に送致、通告されることが少なくなっているという解釈になります。これらのうち、いずれの解釈をおとりになるかはお任せいたします。

 ところで、先ほど私は、公表されている統計データを引用して、少年犯罪の増加等の主張に否定的な説明を試みてまいりました。そして、それにもかかわらず、少年犯罪が改善されていると主張しようというのではないのだというふうにも述べました。

 実は、私には、同じデータを使って、例えば平成十四年ごろまでというように都合よく期間を区切って引用することにより、全く反対に、増加しているという説明を加えることも可能だったわけです。

 つまり、私が犯罪統計を読み進むうちに気づいたことは、この統計自体から一定の結論を導き出すことは危ういことであるが、反対に、ある結論を導き出すために自説に都合よく統計データを引用することは大変簡単だということでした。

 こうした考え方の背景にあるのは、二つの認識です。

 第一に、戦後の犯罪統計データを概観しますと、そこに変動の大きな波と小さな波の繰り返しを見てとることができます。大きな波は、社会構造や人々の意識の変化などの要因を抜きにしては考えられません。一方、小さな波は、その時々の事情や偶然的な要素から少なからぬ影響を受けていると考えられ、その変化に一喜一憂すべきものではあるまいということです。

 そして第二に、統計上は表に出ない犯罪、つまり暗数は、昭和三十五年の犯罪白書が想定したものから次第に変わりつつあるのではないかということです。これを敷衍し、九〇年代以降の欧米の犯罪学の知見と照らし合わせると、公式の統計データによって示される犯罪の現状報告というものは、どうやら不可避的に根本的な欠陥を持ってしまっているのではないかという疑問です。

 ですから、私は、この少年問題に関しても、いわば森に注意を向けるのではなく、木を見ることが大切なのではないかと思います。つまり、状況が悪化しているという前提、これまでの常識としてきた前提を一たん括弧に入れた上で、一人一人の少年の指導、更生にとってはどのような施策が望ましいのか、また、被害者を慰謝し救済するための方策はどうあるべきかというアプローチによって真摯な検討が行われるべきだと考えます。

 委員の先生方におかれましては、ふだん余り耳にしたり目にとめたりされることの少ない話になったかと存じますが、以上をもちまして、私の意見とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、奥山参考人にお願いいたします。

奥山参考人 よろしくお願いいたします。奥山と申します。

 まず最初に、このような機会を与えていただきましたことに感謝をしたいというふうに思います。

 私は、どちらかといいますと、被害を受けたお子さんと接することが多くて、また、時には御遺族の方と接したこともございます、そういう方たちの回復ということに携わってまいりました。

 その中で、やはり、被害を受けた方々も、最初はとにかく二度と起きてほしくないということが一番ですけれども、そのうち、真実を知りたい、この気持ちも非常に強いものです。そして最後に、力がついて回復が進んできますと、やはり自分の気持ちをぶつけてみたいということにもなります。被害者と加害者の対話、コミュニケーションということにも私は少しずつ参加をし始めまして、いかにそれが、被害者の回復にも役立ち、それから加害者にとっても非常に重要かということにも気づいてまいりました。

 そのようなことを考えますと、もちろん、内容によってすべてにできるというわけではございませんが、被害者の側から考えても、やはりそういう加害少年が真実を明らかにして人の痛みをわかる、被害者のニーズにもこたえられる力をつけていく、発達をさせていくことが非常に重要なことだろうというふうに思います。

 ここでは、真実ということと、加害少年の発達ということ、二つの点を私なりに考えながら、この法案に関して少し意見を述べさせていただきたいというふうに思います。

 まず、ここで中心課題になっております触法少年、いわゆる十四歳未満、つまり、どちらかというと思春期前のお子さんが多いという中で、思春期前の子供たちの特徴というのをここに簡単に挙げておきました。

 簡単に言いますと、比較的大人に依存している子供たちです。依存がうまくいって愛着がうまく形成されていけば、安心、安全な感覚というのが育ってきますので、その中でいろいろな真実ということの大切さがわかってまいりますが、それがうまくいかなかったときには、特に生き残りという方が先に立っていきます。そうなると、真実よりその場その場を切り抜けていく生き方というのがその子たちの特徴になってくるということがございます。

 また、子供たちの認知の能力にはやはり限界がございます。大人とは異なります。特に、因果関係の把握というのは非常に難しいですし、それから全体と部分を見るということもなかなか難しいです。

 被害を受けたお子さん、例えばいじめを受けているお子さんたちとお話をすると、クラス全員が私のことを嫌っていると言いますし、加害をするお子さんに聞くと、クラス全員が同じことをやっているんだよと言います。それは、よくよく聞いていくと部分なんですけれども、みんながそうだというふうに普遍化するのも思春期の入口にある子供たちの特徴でもございます。

 ですから、やはり子供の特徴ということをぜひ考えていろいろなことを御判断いただければというふうに思います。

 それで、先ほど申しましたこのお子さんたちを発達させていくということを考えますと、やはり愛着を形成していくということがこの時期にとっては非常に重要なことであるということも御承知おきいただければというふうに思います。

 その上で、今回の少年法改正に関して、幾つか、私が気がついたところをお話しさせていただきたいと思います。

 まず、触法少年及び虞犯少年にかかわる事件の調査手続に関してですけれども、触法もしくは虞犯が疑われる少年に任意調査権限を警察が持つということでございます。

 まず、虞犯ということでございますけれども、私も以前から虞犯の背景には虐待ありというふうに思っておりましたが、実際、今回、法を読ませていただいて非常にびっくりいたしました。実は、私が教科書などに虐待を受けたお子さんにありがちな行動として書いているものとほとんど一致しているということなんです。

 私が虐待を比較的専門にやっているということもございまして、性的虐待を受けたお子さんなどとかかわっておりますと、家出とか不純異性交遊を繰り返すお子さんというのがございます。そういうお子さんたちは信頼感が育っておりませんので、保護された後にすぐいろいろ聞きましても、大人を信頼していないということもありますし、自分がいる状況を崩したくないというのもございますから、虐待を受けていたという話はほとんど出ません。

 その中で、じっくりおつき合いをすると、一年、二年で信頼感が育ってくるとそういうお話が出てくるんですけれども、その以前に、その調査の中で悪い人間というレッテルを張られたということがさらに不適応行動を助長していくという結果になることも多く経験しております。

 ですから、やはり虞犯ということは環境の問題が非常に大きいんだということをまず頭に入れなければいけないのではないかと思います。特に、十四歳未満ということを考えますと、まず思春期前の子供たちは、反抗期に至る前でございますので、親元にいたいと思うのが普通です。そのお子さんたちが、徘回をしたり、いろいろな悪いところに出入りをしたりするということの背景には、ほとんどの場合、そのお子さんにとって何らかの適切ではない養育がなされている可能性が高いと考えた方がよろしいのではないかというふうに思います。

 その次の、触法少年あるいは虞犯少年に対する調査面接ということに関してでございます。

 まず、任意の調査をするということですけれども、子供の任意性というのは一体どこで担保されるのかということは、私自身ずっと疑問に感じていることです。大人に依存する子供にとって、ちょっと来て、お話を聞きたいんだと言われたら、それは任意というふうに子供たちは受け取らないということがあります。やはり、大人に言われたことは、子供にとっては任意というよりどちらかというと強制に当たる。自由意思で本当に任意と判断することに子供は限界を持っているとしたら、やはり大人がそこをサポートしてあげなきゃいけない、大人が支援して任意性を担保してあげなきゃいけないんだろうというふうに思います。

 まして、例えば、警察の方が何らか私にお話をということになれば、私は、まずその辺が任意であるかどうかの確認をしたり、もしかしたら弁護士さんにちょっと御相談をしたりということをするかもしれませんけれども、子供の方はそういう能力がございませんから、やはり、あなたが信頼している人と相談できるということをきちっと伝えて、相談をして自分の意思を確かめていくということをきちっと担保していくということが大切なことだろうというふうに思います。

 そういう意味で、ここに書いてありますように、警察以外の方がきちっと任意性を確認するということ。それから、信頼できる人と相談できるということを確認すること。

 それから、お子さんの場合、どういう状況で面接がされるのか想像がつきませんので、やってみたら違っていたということもあります。ですから、その任意の同意を撤回できるということ。子供では、なかなかもうやめてくださいと言えません。私たちが面接をするときでも、これ以上お子さんはちょっと無理だなと思ったときにはストップをかけなきゃなりません。ところが、面接をして一生懸命聞き出そうとしている方がやっているテープや何かを見ますと、かなりやり過ぎてしまうときがあります。ですから、やはりだれか付き添った方がこれ以上は無理だというところのストップをかけざるを得ないだろうというふうに思います。

 それからもう一つ、子供の調査そのものの内容ですけれども、ここには被暗示性のことを挙げさせていただきました。しかし、逆に言えば、子供は、非常に安心した中で適切な聞き方というものをすれば、決して全く真実を述べない存在ではありません。適切にやれば、かえって大人よりもきちっと真実を述べるということがあります。ですから、本当に適切な面接の仕方というのがとても大切になってくるというふうに思います。

 その適切さの中で非常に重要なことが言われているのは、繰り返し聞くということはまず最大の誤りというふうに言われています。一つのことを繰り返し聞いてはいけない。それから、当然、子供の心理状態を把握して聞かなきゃならない。それから、先ほど言いましたように、聞き出そうと思っている人が聞いていくときに、どうしても行き過ぎ、それから子供のそのときの状況判断の誤りということがありますから、ビデオ撮影ということは、本当に子供から真実を聞き出そうとすれば絶対に欠かせないものということになると思います。

 それから、子供の場合には、いじめの問題でも御承知のように加害、被害が混同していることが結構多くございますので、本当にそこに至った理由、例えば集団でいろいろなことが起きたときに、その中でどんなことがあってこの加害行為が起きてしまったのかということを考えるに当たっては、加害だけに注目するのではなくて、その子の被害性ということにも注目した聴取なり面接なりということが必要になってくるだろうというふうに思います。面接自体が子供にとってトラウマになりますと、さらに子供は話せなくもなりますし、その後の回復ということも非常に問題になってきますので、そういう十分な配慮も必要だろうと思います。

 順番が少し異なりましたけれども、やはり発達年齢によってそれらはかなり異なってまいりますので、まず子供の発達年齢に応じて、どんな場所で、どんな人が、どのような形で聞くのかということをきちっとアセスメントして面接が開始されなければならないということも重要なことだろうというふうに思います。

 こういうことを考えますと、残念ながら、それほど、心理学の分野でもこれが日本の中で研究が進んでいるとは言えないのが現状でございます。実際、警察の中でそのような研究が進んでいるということも、全くないとは言いませんけれども、十分な形でなされているとは思えません。もしこういうことが行われていくことになるといたしましたら、きちっとした研究なり、調査研究も含めてよい形というのを見出していくことが必要でしょうから、今回だけではなくて、やはり今後のエビデンスをきちっと出して、もし警察の調査面接があるとしたら、それがどうなったのかということをぜひ調べていくことが重要だろうというふうに思います。

 あと、最後のページに、重大事件のこと、それからその後の措置について書きましたけれども、重大事件の中で私がちょっと気になっているのが、物置への放火も含まれるという放火の問題です。

 小さいお子さんが、だれもいない空き家になっている物置みたいなところを燃やすというのは、皆さんも何か映画で見たことがあるなというシーンだろうと思います。子供のある一定時期にこういうことをしてしまうということは、決して少なくないことでもありますし、発達上の一過程でもあります。

 ただし、これを放置していいと言っているわけではないのですけれども、それが殺人と同じ重大犯に並んでいる。つまり、私が何を言いたいかというと、大人の犯罪のカテゴリーを子供に当てはめるということが本当によろしいのでしょうかということを少し疑問として挙げさせていただきたいと思います。

 そして、それ以上に、お子さんの更生、お子さんが犯罪を起こさない力をつけていくということを考えますと、してしまった行為、結果だけではなくて、やはり結果以上にそのプロセスということが非常に重要になってまいります。ですから、本当に、結果、行為はそんなに大したことじゃなくても、家庭裁判所できちっとしていただいた方がいい方もおられますし、一見重大なことでも福祉的な対応が重要なお子さんもいると思います。その辺の判断ということには、やはり福祉調査ということが非常に重要になってくるだろうと思います。

 その後の措置に関しては、二点お話をさせていただきたいと思います。

 一つは、少年院という問題ですけれども、少年院はやはりプログラム優先です。先ほど言いましたように、このお子さんたちが犯罪をしない力をつけていくには愛着形成は欠かせない問題です。その中で、やはり夫婦小舎制が基本の児童自立支援施設の効果というのは非常にあるというふうに思っております。もう一つ、少年院は例外的にということで言われていますけれども、例えば年に一人、二人入ってくるという中で、そういう小さいお子さんへの対応というのが積み重なっていくものなのかということに私は多少疑問を感じます。

 それから最後に、昨今のいろいろ社会をにぎわせている問題として、発達障害、不適切な養育、そして性の問題、これはなかなか表には出てきていないんですけれども非常に大きな問題だろうというふうに思います。この三つが絡んだ問題というのは非常に重要な問題で、これからも対策を立てていかなきゃならない問題です。

 ところが、今のシステムだけではやはり対応し切れない問題にもなってきていると思うんですね。やはり、ここに対して、福祉、司法、医療と書きましたけれども、あと教育、警察すべてが入って、こういう問題にどう私たちが対処していくべきかというのを省庁の壁を越えてきちっとした議論をするような場をぜひつくっていただきたい、それが本当に私の切なる願いでございます。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 次に、斎藤参考人にお願いいたします。

斎藤参考人 斎藤でございます。

 少年法改正法案につきまして、意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 時間の関係から、少年非行の実情、あるいは今回の改正の必要性につきましてはほかの参考人の方に譲りまして、法案の各論的問題から述べさせていただきます。

 第一は、虞犯少年である疑いのある者に対する警察の調査権限付与の問題であります。

 虞犯少年とは、少年法三条が定めている、将来犯罪を犯すおそれのある少年ですが、その範囲があいまいであります。それに加えて、今回の法案は、警察の権限行使の要件をさらに緩め、警察官が虞犯少年である疑いのある者を発見した場合に調査をすることができるとしております。つまり、犯罪を犯すおそれの疑いのある者に対して警察官が権限を発動するというものであります。これでは、警察の権限行使に歯どめがないに等しいと言えます。

 警察庁作成の「少年非行等の概要」によれば、二〇〇六年に、深夜徘回、喫煙などの不良行為で警察が補導した少年の数は約百四十三万人です。十歳から十九歳までの八・六人に一人が補導されています。現在行われている補導は声かけという事実行為でありますけれども、今回の法案が成立しますと、それが警察官の法律上の権限に格上げされ、警察官の判断一つで、犯罪を犯すおそれの疑いがあるとして、事実上あらゆる子供が警察官の調査の対象となってしまいます。

 しかも、法案が定める警察官の調査の対象は広範であり、子供に限らず、保護者や学校の先生、スポーツクラブのコーチ、友人、知人などについても、警察署に呼び出して質問をすることができると定めております。さらに加えて、警察官は学校やさまざまな公私の団体に対して必要な情報を求めることができるようになります。

 また、警察官は、少年を児童相談所や家庭裁判所の手続にのせるかどうかの判断権を持つことになりますから、その気になれば、少年が成人になるまで監視を続けることができるようになります。まさに、警察権限の行使に対する法によるチェック機能が喪失し、警察主導の監視社会化につながるでありましょう。

 第二は、触法少年に対する警察の調査権限の問題です。

 十四歳未満で刑罰法規に触れる行為をした少年、すなわち触法少年について、警察が聞き取り調査をすることがふさわしいとは言えません。

 十四歳未満で重大事件を起こした子供の多くは、虐待やいじめを受けていたり、複雑な生育歴を有しています。中には、発達障害に対する周囲の無理解から適切な援助を受けられなかった子供もいます。そのような子供からの聞き取りは、警察が行うよりも、児童相談所が福祉的、教育的な観点から丁寧に行ってこそ、非行の背景を探り出すことができます。

 さらに、警察が年少の少年に対して不適切な取り調べを行い、虚偽の自白をさせて冤罪を生み出すおそれがあります。

 警察の取り調べは、少年であっても、保護者や弁護士の立ち会いがないままに密室で行われています。最近の鹿児島選挙違反冤罪事件や富山の強姦冤罪事件に見られるように、大人ですら、警察の強引な取り調べにより、やってもいないことをやってしまったと自白してしまうことがあります。少年の場合は、大人以上に萎縮し、警察官に迎合して虚偽の自白をしてしまう傾向があります。十四歳未満の少年では、その傾向がさらに強くあらわれます。

 日弁連は、従前から、警察の取り調べ段階から少年に弁護士の援助を受ける権利を保障すべきであると主張しておりますが、もし仮に十四歳未満の少年について警察官が調査をするのであれば、弁護士などを立ち会わせるとともに、聞き取り状況をビデオ録画すべきであります。

 第三に、十四歳未満の少年の少年院送致の問題であります。

 法務省は、十四歳未満の少年にも処遇選択の幅を広げるのだと説明しています。しかし、長崎県の幼児殺害事件を受けて出てきた今回の法改正の経緯を見ると、重大な事件を起こした少年を児童自立支援施設に入れるのでは甘過ぎるという考え方が浮き出ております。その結果、重大事件を起こした少年については、事件の重大性ゆえに少年院に収容するという運用になるでありましょう。小学生でも少年院送致の対象となります。

 少年院は、一般社会と異なる集団規律により、少年に規範精神を育てることを目的としております。しかし、とりわけ重大な事件を起こした年少の少年ほど、人格形成が未熟で対人関係を築く能力を欠いており、規範を理解して受け入れるところまで育っていないことが多いのです。そのような少年には、まず温かい疑似家庭の自立支援施設で育て直しをすることが必要です。生育歴の中で自分自身が傷ついた体験を持っている少年は、みずからが一人の人格として大切にされることを体験して初めて、他者も尊重されるべき存在であることを認識し、被害者に対する真の贖罪と責任の感情が生まれます。そのことが、再非行の防止につながるのです。

 また、重大な非行を犯す少年ほど自己肯定感を持てないでいる子供が多く、自分など死んでもよいという心理状態になっていることもあります。そのような少年は、少年院送致などの罰を受けるからといって非行を思いとどまることはありません。

 第四に、保護観察中の少年の遵守事項違反を理由とする少年院送致の問題であります。

 法務省は、保護観察中の少年が保護司のところに面接に来なくて大変苦労しているからと説明しております。しかし、その対応策として、少年院に収容する新たな制度が必要かどうかが問題です。

 現行の犯罪者予防更生法四十一条は、保護観察所の所長が少年を呼び出し、質問する権限を定めています。また、家庭裁判所による引致状発令を定めています。さらに、犯罪者予防更生法四十二条には、保護観察中の少年が虞犯、すなわち罪を犯すおそれのある段階に至った場合には、少年院に送致するという制度を定めています。なぜ、現行法の制度で足りないのか、説明がありません。問題は、現行制度を適切に運用できないほど、保護観察官が不足していることにあります。

 今回のような制度の導入は、遵守事項を守らないと少年院に入れるぞというおどしにより保護観察を確保しようとするものであり、信頼関係を基礎とした保護観察制度の真髄を変質させてしまうでありましょう。

 第五に、少年の釈放による国選付添人の選任終了の点であります。

 今回の法案で国選付添人選任の機会が広がることは、一歩前進であると評価しております。

 しかし、法案は、選任に係る事件の終局決定が出る前に少年が少年鑑別所から釈放されたときは、国選付添人選任の効力が失われるとしております。これでは、観護措置の取り消し申し立てなどをして尽力した国選付添人は、その申し立てが家庭裁判所に認められた途端に、国選付添人の資格を失い、少年の釈放後に必ず開かれる審判に出席できないことになります。

 また、試験観察決定により少年が釈放されることもあります。この場合も、国選付添人は資格を失います。試験観察は、少年の立ち直りにとって極めて重要な期間であります。その期間中、付添人は最終審判に向けて少年に対し積極的な働きかけと援助を行っております。今回は、その重要な付添人活動の資格を奪うということになります。

 今回の法案は、少年審判手続における付添人の役割と活動に対して著しく無理解であると言わざるを得ません。

 第六に、国際人権法から見た問題点について述べます。

 国連子どもの権利委員会、CRCは、二〇〇四年一月三十日、日本政府に対して勧告を行いました。その五十四項(a)では、子どもの権利条約、少年司法運営に関する国連最低基準規則、北京ルールズといいます、及び少年非行予防のための国連ガイドライン、これをリヤド・ガイドラインといいます、この全面的実施を確保することとしております。同勧告の五十四項(f)では、問題行動を伴う子供を犯罪者として取り扱わないよう確保することとしております。

 また、子どもの権利条約四十条二項は、子供は、防御の準備及び申し立てにおいて弁護人その他適切な援助を行う者を持つことと定めています。北京ルールズ三条一項は、少年司法運営の基準規則は、少年犯罪者に対してばかりでなく、成人が犯しても処罰されないような特別な行為を理由に手続がとられた少年に対しても適用されなければならないと定めております。

 今回の法案策定に当たり、これらのCRCの勧告や国際人権法を日本政府がどのように受けとめているのか、これが問われております。特に、虞犯少年である疑いのある者に対する警察官の調査権限の拡大は、CRC勧告五十四項(f)に違反する事態を生じさせるものであります。

 今回の法案は、我が国の少年非行防止施策の基本理念を、福祉、医療、教育による援助・支援型から、警察中心の取り締まり・監視型へと転換させるものです。

 そもそも、広範な子供を非行予備軍として不信の目で監視することが少年非行の防止につながるという発想に根本的な問題があります。今回の法案は、子供を見守る大人の目を疑いのまなざしに変えるものと言えます。不信の目で見られている子供が、不信の目で見ている大人や社会を信頼することはあり得ません。

 このような立法が続くならば、追い詰められる子供たちは増大し、新たな犯罪被害者の発生も食いとめることができないまま、プライベートな領域に警察が介入する息苦しい社会に変貌するでありましょう。

 少年法の理念の尊重及び憲法と国際人権法の視点から今回の法案の見直しを求めるとともに、立法府におかれましては、真に実効性のある非行防止施策を実現していただくことを強くお願いいたしまして、私の意見といたします。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

七条委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

七条委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。保坂展人君。

保坂(展)委員 社民党の保坂展人です。きょうはありがとうございます。

 まず、久保参考人にお話を伺いたいんです。

 私も、この「治安はほんとうに悪化しているのか」という本を読ませていただきました。久保さんは、東京都知事本局治安対策担当部長、こういう立場にいらっしゃって、ある意味で、体感治安、外国人犯罪の問題もそうかもしれませんけれども、特に少年の事件、これに対して非常に生理的な、いわゆる少年でない大人の側の反応が近年増加をしているということを書かれていると思います。例えば、あるデータによると、世論調査で、大人の事件より少年の事件の方を厳しく罰してほしい、こう考える人が四分の一いた、こういうデータもございます。

 そこでなんですが、久保参考人はなぜこの本を書こうと思われたのか、そこをちょっとお話しいただけるでしょうか。

久保参考人 お答えいたします。

 少し本筋から離れてしまうかもしれませんが、私はただいま保坂先生御紹介のような仕事をしていたわけでございます。当然、自治体における治安対策ということでございますので、住民の皆さんに現状についていろいろと御説明をして御協力を仰ぐ、これが私の第一の責務であったわけでございます。

 その根拠で調べてまいりますと、先ほど来申し上げたような問題が起きてきます。つまり、この法案でもそうでございますけれども、こちらの法案の法務参考資料の法務省の提出資料を見ますと、これは、事態は多少落ちついてきているけれども、まだ気を抜けないぞというふうに読み取れるかと思います。

 私は、そういった視点で物を見ているうちに、別の資料を見てみますと、実は、その認識も打ち消せるようなデータが出てきてしまう、これは本当に、単純にそのような形で信用していいのかどうか、そういった目先の動きが大変だ、大変だということによって、本質的に何が重要であるかという議論を、地方自治体を含めて我々は忘れてしまっている、これに対して警鐘を鳴らしたかったということでございます。

保坂(展)委員 もう一点伺いますが、いわゆる凶悪事件の中に少年による強盗事件がふえている、こういうデータが示されるんですが、端的に言って、どうしてふえたというふうに分析されるでしょうか。

久保参考人 先ほど私の意見陳述の中でも一部触れさせていただきましたが、温情主義から厳罰主義という言葉を使っております。犯罪のカテゴリー変更といいますか、より重い罪で処断するために、いろいろな対策が実務的に行われるようになった。つまり、例えば、これは先日、私はあるところで張り紙を見たのでございますけれども、バイクによる少年のひったくり事件がございまして、その犯人、目撃者を捜している、これを強盗事件というふうに称しておりました。これは多分、二十年前、三十年前であれば、少年による窃盗事件という形で処理をされていただろうと思います。

 要は、繰り返される少年の犯罪ということに業を煮やして、重く処断することによって犯罪が抑止できるのではないかという考え方、これが温情主義から厳罰主義という考え方なんですが、そういった考え方に社会全体、世界全体が動きつつあるということだろうと思います。

保坂(展)委員 ありがとうございます。

 続いて、奥山参考人に伺います。

 奥山さんには、児童虐待防止法制定当時からたびたびお話を伺ってまいりました。とりわけ、法務総合研究所が近年明らかにした少年院在院者の半数以上が児童虐待の被害を受けた被虐待児童である、こういうデータもあります。先般、私どもは少年院に行ったわけですけれども、男子の少年院でしたが、児童虐待の被害者についてはそう多くないし、特段余り意識をしていないというようなお話を聞きました。

 また、この委員会においても、警察庁、いわゆる触法少年あるいは非行少年、虞犯少年として警察官が対応する少年自身が、いわゆる加害行為をとがめて対応するんですが、被害の当事者であるんだという視点はあるのか、このことは、認識はしてきているんだけれども、統計もないし把握もないという実情なんですね。

 そのことについて、とりわけ虐待と少年事件との関係について、もう一言お願いをしたいと思います。

奥山参考人 虐待を受けたお子さんが全部非行をするわけではないということはもちろんそうなんですけれども、やはり非行の陰に虐待ありということは昔から言われていることだというふうに思います。

 先ほど最後の方で夫婦小舎制の児童自立支援施設ということを申しましたけれども、やはり相手の人との信頼関係、愛着関係があって初めて、また、性的虐待を受けたお子さんが信頼関係ができて初めて、自分が性的虐待を受けたんだということを私に言ってくれたということもあります。やはりそういう状態になって初めて、私は被害を受けたんだということが認識されるんだと思うんですね。ですから、加害のことに対して向き合うだけで、愛着形成というところをうまくやっていかないと、やはり自分が被害を受けたんだというところまで至らないんだと思います。

 そして、実際、虐待を受けたお子さんたちは、自分が悪いと思い込まされていることが圧倒的に多いですから、ゆっくり聞いてあげると、実はこういうことをされて、あれは嫌だったということを言ってきますけれども、でも、それは私が悪かったからこうなったんだというようなことをさらに言うお子さんもいます。ですから、あなたは悪かったんだということを言い続けられれば、被害体験に関しても悪かったんだというところだけがとらえられていってしまう危険というのがあるんだろうというふうに思います。

 ですから、やはり加害と被害というのは分けられない問題として二つ一緒に考えていくという視点を、今後やはり私たちを含めたこういう業界の人間がきちっと意識をしていくということは非常に重要なことなのではないかと思います。

保坂(展)委員 続いて、廣瀬参考人にお願いします。

 今回、少年院に送致できる年齢の下限を政府の提案では撤廃する。それに対して、そうみだりに、司法の方できちっと判断するので大丈夫だろう、こういうお話だったんです。

 この委員会で、ちょっと後で修正されたんですが、法務大臣は、私の十歳、八歳、五歳であり得るんですかという質問に対して、五歳というのは想定できないけれども、世の中何が起こるかわからないんだ、こういう御発言をされた。そして、前回の委員会で、矯正局長は、少年院に五歳の子が入ってきて大丈夫ですかというふうに聞くと、それはにわかに想定をしている段階ではありません、しかし、我が方にはたくさんの専門家がいるので、いざそういうことになれば全力を挙げて対応しますと。他方、刑事局長は、いや、矯正教育が理解できる年齢というのがあって、その年齢に到達していない子が少年院に送致されるようなことはないんだと、かなりばらばらなんですね。

 私どもは、やはり年齢のしっかりした線引きをした方がいいという考えなんですが、その点について、御意見はいかがでしょうか。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 先ほども申し上げましたように、家庭裁判所で実際に少年院に送るかどうかという処分を決める場合には、これは御承知のように、調査官がまずきちっと調査をいたします。それから、少年鑑別所での資質鑑別もいたします。それから、当然裁判官は記録をよく見まして一生懸命考えて、本当に行った先で、一番どこがふさわしいだろうか、あるいはどういう処分ができるだろうか、その場合、まず、何とかうちへ帰して、親元で何とかならないだろうか、そこから当然考えていくわけですね。それで、どうしてもやはり、やったことも重大だし、家庭環境もよくないし、問題があるという子に限って少年院へ送っている。これが実際、今のデータを見てもおわかりいただける数字だろうと思うんです。

 そういう中で、年少者ということになれば、それはより以上に慎重に扱っているのは間違いないと思います。それがましてや法改正になって、仮に下限が外されて、非常に小さい子が来るということになった場合、やはりちゃんとまず犯罪の認定ですね。さっきも申し上げましたように、故意か過失かとかいうことも含めて。悪気で重大なことをやったのか、例えば放火といっても、これは失火であれば非常に軽い罪ですね。ですから、例えばそういうようなことも含めて、非常に絞りはかかるだろう。

 それを前提といたしまして、私はやはり、個人差がありますから何歳とは言えませんけれども、私自身も書いているものがありますから申し上げますと、実際問題としては十歳ぐらいが限界事例になっているのではないかということを本にも書いておりますし、今でもそういう考えでおります。

 ただ、一律の線引きがいいかという問題は、立法政策として外すというのもあり得るのではないか、そういう趣旨で先ほど申し上げたわけであります。

保坂(展)委員 この点について、奥山参考人にもう一度聞きたいんです。

 私どもは、先日、きぬ川学院を見に行って、ちょっと駆け足だったもので、住み込んで御夫婦で対応されている、対応というか、四六時中自分のお子さんも一緒に育てながら暮らしているという疑似家族制度、小舎制の中身というんですかね、十分まだ聞けなかったところもあったんです。今の話題ですね。例えば、十歳、八歳、五歳、この法案では年齢が取っ払われていますので、あり得るわけなんですね、児童自立支援施設ではなくて少年院。ここが大きな焦点になっているわけですね。どういう御意見でしょうか。

奥山参考人 年齢の問題は、やはりある程度きちっとしておいてあげた方がよろしいのではないかというふうに私は思います。なぜかというと、やはりだれが決めるのかということになるわけですけれども、先ほども出ていましたように、家庭裁判所の流れの中で、もちろん背景を十分考えていただいてはいるんですけれども、やはりしてしまった行為ということで決まっていってしまう危険性が一つあるだろうということがあります。

 矯正教育が自分のした罪と向き合えるか、要するに、罪を犯した自分を客観的に見ることができるかどうかという年齢ということは非常に重要で、それでないとプログラムに一緒にのれないということもあります。

 それから、例えば私たちが病棟を扱う上でも、精神的な問題を持っているお子さんたちの小学生と中学生を一緒にした途端にかなり大変になります。小学生ではX、Yは使わないんですね。中学になると数学でX、Yを使う。つまり、そういうちょっと抽象的な思考ができてくる、そのぐらいの年齢がやはり罪を犯した自分というのを考えられる年齢としてある程度育ってくる最初なのではないかというふうに思います。

 それから、もう一つは、私の友達にも聞いてみたんですけれども、思春期の、身長がぐんと伸びる年齢があります。やはり、あのあたりで子供たちの認知が少し変わっていくということを考えますと、あの年齢が、女の子で十二歳プラスマイナス二歳、男の子で十四歳プラスマイナス二歳ぐらいですね。

 ですから、やはりその間、十二歳から十四歳の間ぐらい以上ないと、やはり少年院のプログラムというのが適切に動かないでしょうし、逆に言えば、それまではきちっとした愛着を育てていくという方が優先されるのではないかというふうに思います。

保坂(展)委員 斎藤参考人にお願いをします。

 この委員会でも、虞犯の疑い、警察の調査の権限が付与される、虞犯というのはそもそも将来犯罪を犯すおそれであって、おそれの疑いというのは、おそれ掛ける疑い、あるいは疑い掛ける疑いというか、非常に広い、だれもが範囲に入ってしまうんじゃないか。さらに、よく説明を聞いていきますと、十四歳未満の虞犯少年も少年院に送致される、こういう内容になっている。

 虞犯の拡大と調査権付与、例えば、学校に調査したり親に調査したり行っている塾に調査したり、これはどういうことが懸念されるのか、問題はどこにあるのか、虞犯の問題についてお願いします。

斎藤参考人 お答えいたします。

 保坂委員御指摘のとおり、虞犯の疑いというのは大変問題があると思っております。

 警察官の方で本当にその気になれば、どんな子供でもその対象になる。夜、塾帰りに町を歩いていても、場合によっては、それが警察官によっていかがわしい場所に入る疑いもあるのではないかというふうにみなされれば、調査の対象になる。その結果、その子供の学校の方に連絡がとられる、あるいは職を持っている子であれば職場に連絡がとられる。それによって、学校での不利益な扱い、あるいは職場での不利益な扱いということが出てきます。

 学校も、警察から連絡がありますと、何らかの措置をとらないとまずいのではないかという強迫感にさらされる可能性もあります。そういう意味で過剰反応が起こってくる。そういう中で、学校においてのその子の居場所がなくなってしまうとか、場合によっては、十四歳以上でしょうけれども、若い労働者が職を失うということもあり得る、そういう危険性があると思います。それがより悪い方向に行く、つまり、居場所がなくなった子供が非行に走っていく、追いやられてしまう、そういう危険性が生まれてくると思います。

保坂(展)委員 もう一点、斎藤参考人に。

 保護観察中の遵守義務違反で再び少年院に入るというのは、これは非行事実として、例えば虞犯だったりした場合に、虞犯で終局処分がされて保護観察になっているところで、また虞犯なので来いよというようなことで、これは憲法上の二重処罰の禁止違反に相当するのではないかという声がございます。その点についてはいかがでしょうか。

斎藤参考人 先ほどもお話ししましたけれども、現在の犯罪者予防更生法の四十二条に虞犯通告という規定がございます。すなわち、保護観察中に何らかの問題行動があって、それが虞犯に達すれば、現行法でも家裁の方に通告されることはあるわけです。

 今回の規定の問題は、虞犯にまで至らない段階で家庭裁判所にもう一遍送られて審判を受けるという、ここに大きな問題が実はあります。そういう意味で、その審判の対象は何なのかということになりますと、虞犯まで至らない遵守事項違反ですから、現行の少年法三条に書いてある審判に付すべき少年は、犯罪少年と触法少年と虞犯少年、その三種類なんですけれども、新たな四番目の類型をつくることになるということになりまして、これは実は理論上大変な問題があると思っています。

 この法務委員会での法務大臣の御回答でしたか、遵守事項違反にプラスして前の行為についても考慮するというようなお答えがあったように記憶しておりますけれども、そうなりますと、前件をもう一度審判の対象にするのか、二重処罰という問題が出てくるのではないか、理論的には大変問題があると思っております。

 以上です。

保坂(展)委員 大変ありがとうございました。終わります。

七条委員長 次に、武藤容治君。

武藤委員 自由民主党の武藤容治でございます。

 きょうは朝から、皆さん本当にありがとうございます。また、短い時間で、皆さんそれぞれ思いは言い尽くされないと思っておりますけれども、私は二十分でございまして、時間が余りないのでひとつよろしくお願い申し上げます。

 少年法の改正につきましては、私はまだ法務委員会の経験が浅いものですから、国民の視点という観点からいろいろ皆さんに御質問をさせていただきたいと思います。

 先ほど久保参考人の方から、数についていろいろと御持論をお述べいただきまして、大変参考になりました。この辺も、物の見方の尺度がいろいろとまたあると思いますけれども、先ほど廣瀬参考人からはお伺いしていないので、数についての尺度についてちょっと御高説をいただきたいと思います。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 犯罪統計の問題、これは統計全体の問題ですけれども、久保参考人がお話しになったように、いろいろな見方ができる、それでまた、いろいろ場合によっては当局によって操作される、これは学問的にも指摘されているところであって、気をつけて見なきゃいけないというのはそのとおりだろうと思います。

 しかしながら、やはり日本の犯罪統計に関して言いますと、一定の基準で長期間、かなり完備した形でデータをとっております。そうしますと、動きというのはそれなりのものを反映しているということを私は言ってもいいのではないかと思います。

 それから、もう一つは、それほどふえていない、あるいは多少減っているとかという議論はありますけれども、では、例えば殺人が四百から百に減った、百だからもう放置していいのか、結局はこういう問題なんだろうと思うんですね。それから、触法の問題でも、例えば、最近の統計で六件ですか、年に五、六件だからそんなのはうんと軽くていいんだ、こういう考え方をすればこれはまた話は別でございますけれども、一つ一つの事件に被害者がいて、一般国民が見ているわけでありますから、やはりそれにきちっとした対応をしていくということは必要ではないかと思います。

 そういう意味で、今回、こういうような問題を議論して法改正をしていくという前提が欠けるというようなことにはとてもならないのではないか、統計を批判的に、厳しく、謙抑的に見たとしても、私はそう思っております。

武藤委員 廣瀬先生がおっしゃるように、やはり国民の視点というのは、確かに数は減ってきている、これは大変結構なことだ、ただ、重大事件としてこれが厳然としてあるというこの現実をやはり我々としてはしっかりととらえていかなきゃいけないというふうに思っております。

 先日も視察に行ってまいりましたし、私も岐阜県でございますので、女性刑務所もあればロングライフのいわゆるヘビーな刑務所もございまして、いろいろなところを見てきておるわけですけれども、やはり少年の問題については、教育の問題も非常に大きくかかわってくると思いますし、非常に時間が長くかかるだろうという思いでございます。

 きょうの先生方のお話を伺いまして、ちょっとまた伺わせていただきたいなと思ったのが奥山参考人ですけれども、先ほどのお話では、被害者の方にも接していただいているということでした。

 犯罪被害者の基本法もできまして、いろいろその角度からの司法制度改革というのも今非常に駆け込みで進んでいるわけですけれども、そういう被害者の方の観点から今回の少年法の改正というものについて、被害者の方はどうおっしゃっているのか。我々も本とかでいろいろうかがっておりますと、やはり被害者からすると、幾ら年齢が下がってもこれをそのまま見過ごしていいのかというような観点もいろいろとあります。それについて、何か御見識があればお伺いさせてください。

奥山参考人 直接少年法の改正を御説明して意見を伺ったわけではないんですけれども、やはり一番先に申しましたように、被害者の方々の中に、やはり真実を知りたい、それから、今本当に加害者がどういう状態になっているのか知りたい、特に御遺族の方とかそういう方々には、そういう意見は結構多く聞かれるというふうに思います。

 ただ、実際に被害を受けた少年が、例えば何らかの傷害を負わされたとか、性犯罪の被害を受けたとかということになりますと、そういう方々は、とにかく、まず二度と起きてほしくないというのが一番最初に来ます。罰を受けてほしいというよりも、今、自分に二度と起きないという保証が欲しいというのが第一だというふうに思います。

 それから、先ほど申しましたように、最初は被害者の方々も、とにかく加害者に会いたくないというのが非常に強いんですけれども、本当にその方々が回復していい状態になるためには、加害者に自分の気持ちをぶつけたいというような思いが出てくることも結構あります。そこまでいけば、逆に回復してきたということにもなると思うんですね。

 被害者の方々が被害者の感情だけで常に落ち込んでいったままいくのではなくて、被害者が回復するのを支援する中で、それに対して、その被害者のニーズに加害者がどうこたえることができるかということも考えていかなきゃいけない問題だろうというふうに思います。

武藤委員 奥山参考人のおっしゃるとおりで、会いたくないという思いが大半の考え方なのかなと思います。

 ただ、重大事件というのは、いわゆる人を殺してしまったとか、そのようなたぐいでございまして、その被害者の方々がどう思われるのかというのは一つ大きな問題でもありますし、裁判のこれからの改革をしていきますと、いわゆる裁判員制度というのが再来年に入る予定にもなっておりますし、このままでいくと、例えば少年、十四歳未満の子も刑事事件になって衆人環視のもと処罰されるというようなこともないとは言い切れない状況でございまして、きょうは将来的な意味で参考の判断をいただきました。

 それについて、廣瀬先生の御意見もいただきたいと思います。

廣瀬参考人 先ほど申し上げましたように、今回の改正自体についていいますと、例えば人が殺されてその御遺族の方が、少年が児童自立支援施設に入った、あるいは児相に行って家裁にも回ってこないとかということになった場合に、これできちっと責任をとっているんだろうか、ちゃんとしたことをされているんだろうか、やはりそれはちょっと受けとめられないんじゃないかということを私は心配いたします。

 特に、先ほど申しましたように、やはり福祉施設で、家出少年なんかも入っている、非常に保護的に福祉的に接せられる、それはそれで本人にとっては非常にいいことでありますけれども、やはり被害者サイドあるいは一般国民のサイドから見ると、それで本当にいいんだろうかという疑問は出てきてしまうのではないか。そういう意味で、やはり同じような内容の処遇をするとしても、これは決して刑務所へ入れろと言っているわけではないので、少年院の中の特別な処遇をしていくという形の方が、予後の問題、先ほど申しましたように、仮退院後のフォローとか、それから期間を延ばすとかというような問題も含めて、十分な対応ができるだろうと思います。

 特に、釈放後の問題を考えますと、児童自立支援施設というのは限界があることはもう明らかですね。それから、医療措置の問題でも、やはり医療少年院と比べますと、これは予算をとってやればいいじゃないかという御意見もあるかもしれませんけれども、今、現実的なものとしてはかなり差があるという気がいたします。

 それから、裁判員の方はきょうのイシューではありませんけれども、私は、年少少年、十四、五歳の少年が仮に逆送されて裁判員裁判にかかわるというようなことになると、公開制限の問題もやはり考えていただかなきゃいけないだろう、これは本にも書いておりますので、一言つけ加えておきます。

武藤委員 どうもありがとうございます。

 本を読ませていただいておりますけれども、またさらに深めさせていただきたいと思っています。

 先日も、私は少年院は別のところで行っていますけれども、児童施設も見せていただきまして、やはり廣瀬さんが今おっしゃるような、何かあったときの対応として、警察の一時預かりや児童施設に重大事件の子を入れるとなると、虐待を受けて避難みたいな形で入っているところへあの子たちを入れまぜるというのを、受け皿としての政治の姿勢として、このまま放置していくのはいかがなものかとやはり判断せざるを得ないのかなというふうに思います。

 今でさえ男の子と女の子と分けて、皆さんで見せていただきましたけれども、上のあいているところをちゃんと押さえているんですね。これは男の子が女の子の方へ行かないような対処をしたり、当初から想定できないようなこともございますし、やはりいろいろと、彼らが安心して本当に更生できるような体制づくりというのが必要であろうというふうに思っております。

 それから、先ほどからいろいろございました、例の警察の調査権の話でございますけれども、皆様方もやはりそれなりに御不安も当然おありになろうかと思います。私も、岐阜県警の人間なんかといろいろ意見交換をしたり、もちろん日弁さんからもいろいろ意見を承っていますけれども、マル暴対策の人間がやるわけではありませんので、警察の方も、それなりに考えてやりたいということで今検討をされているようでございます。

 斎藤先生にちょっとお伺いをします。

 やはり、日弁さんのお立場からいって、それなりに大変いろいろな足かせをして、警察の調査権がついたときはどういうふうにしていったらいいのかというのは、先ほどから言われるように、調査権は外した方がいいよということでしょうけれども、取り調べの中では、やはり重大事件に関しては、ある意味でそういう調査権を付与しないとなかなか進展しないようなこともあるのではないかと思いますけれども、参考人の御意見をもう一度、それについてお伺いさせていただきたいと思います。

斎藤参考人 私の立場、日弁連の立場ですが、虞犯については、これはもう外した方がいいという立場です。

 触法についてどうするんだというところでありますけれども、確かに、今の児相の中で十分にできないという問題があるという現状は認めざるを得ないところはあります。特に、被害者の死亡事件のような場合においては、児童相談所の対応は大変苦慮している。例えば、マスコミがどっと押しかけましてその少年のプライバシーの確保ができないとか、それから、一時保護所の施設が確かに不十分であって少年の立場に立っても心配だという問題はあるのですね。

 しかし、それにしても、私どもの考えでは、今回の法案は、ありとあらゆる触法事件について警察官が調査できるとしているところにつきましてはどう考えても広過ぎる、百歩譲っても、被害者が亡くなってしまったような事件で、大変に児相が困ってしまっているという状況に対応する手当てがあってもいいかもしれないというのが限度ですね。

 その場合において、ではどうするんだということでありますけれども、今回の法案は触法少年に対しての権利保障の規定がないのです。これは大変問題でありまして、触法少年は刑事訴訟法上の被疑者ではございませんので、刑訴法の適用はございません。被疑者であれば、弁護士の選任権、それから黙秘権の告知、これが明記されているのです。ところが、今回の法案にはそれは全く書いていないのです。これは明らかに不備だと思います。

 それから、先ほど奥山参考人も言われましたけれども、触法少年、十四歳未満の子供の特性に対する配慮がないと思いますね。やはり、警察の取り調べの部屋は密室ですから。取り調べとはいいません、調査といいますが、それでも密室です。そこにおいて、警察官と対峙した十四歳未満の子供がどういう心理状態になるか。一定の方向性で、おまえ、やったんだろうと言われれば、恐らくこれは否定できないだろうと思うのです。これは、皆様方、想像力を発揮していただきたいと思います。警察官の調査に対峙させられた十四歳未満の子供はどういう状態に置かれるか、これについては十分思いをいたしていただきたいと思います。

 そういう意味で、私どもは、何らかの配慮規定と、少なくとも子供あるいはその保護者が求めた場合には弁護士を立ち会わせるということは、法規の中で明記していただきたいと思います。

 実は、少年警察の関係で警察庁の通達がございまして、そこには、適切な大人を立ち会わせると書いてあるのですけれども、現実にはそれがなされていないのが実態でございまして、ここは大変問題だと思っております。警察も、本来であれば、そういう少年の調べは適切な大人を立ち会わせるべきなんだと思っていらっしゃるわけで、認めていらっしゃるわけですから、それをぜひ実行していただきたいし、通達で書いてあっても、それは実際にはやられていないのが現状でございますので、それは法規のレベルで明確にしていただきたいと思います。

 それから、やはり録音、録画は欠かせないと思います。奥山参考人も言われました、何度も聞いてはいけないというのが子供の事情聴取の鉄則でございます。最初に聞くことが一番真実に近い。聞き方もありますよ、聞き方もありますけれども、最初に子供が述べたことを記録にとっておく、これが基本だろうと思います。

 そういうことを、ぜひ実現していただきたいと思います。

武藤委員 ありがとうございます。

 ビデオについては、今検察庁で試験も始まっておりますし、我々も、冤罪というのは本当にあってはいけないという思いでございますので、今いろいろと検討をさせていただいていますので、また参考にさせていただきます。

 国選弁護人もちょっとお聞きしたかったんですけれども、時間もあと五分でございますので、私は、どちらかというと、この少年法の改正あるいは刑事事件のことにつきましては、一番の大事なこと、入りと出があるわけですけれども、出口の方の、いわゆる更生の関係ですけれども、保護観察の話にちょっと入らせていただきます。

 久保参考人に、せっかくですからちょっとお伺いします。

 久保さんがずっと東京都でやられてきたことがやっと功を奏してきたのかなと思いますけれども、例の、都が今度、いわゆる就労プラン、就労の応援とかいうものを保護司さんといろいろ情報交換しながら新しく検討をやっと始めたということになっていまして、これは全国でも多分自治体としては初めてだというふうに思いますけれども、その辺は久保さんがやられたことでしょうか、ちょっとお伺いします。

久保参考人 恐縮でございます。

 お尋ねでございますが、私は二年前にこの職を離れております。在職中にその端緒に加わったということはございますが、最終的にまとまりましたのは私の退任後でございます。

武藤委員 どうもありがとうございます。

 そのあれがあったと思いますけれども、東京都もお金が多いものですから、税金がたくさんあるものですから多分できるのかな、我々地方からすると、うらやましいプログラムだというふうに思っています。

 やはり更生については、少年院から出てこられても、あるいは施設を出られても、結局は受け入れる親御さん、就労施設あるいは学校の施設という形になると思いますけれども、どうもその辺が、我が国の体制としてはまだ整っていないのが現状じゃないのかなというか、日本国民の意識がなかなかそこまでまだいっていないのが現状じゃないのかなという思いでございます。

 奥山参考人はいろいろその辺のことは熟知されていると思いますけれども、もし参考になるようなことがあれば、お聞かせいただきたいと思います。

奥山参考人 アフターケアという意味で、要保護児童対策地域協議会というものも活動するようにということになっております。やはり福祉系であると、結局、児童自立支援施設に行って、最終的にその要保護児童対策地域協議会で、ネットワークで支えていこうという形になりますし、司法系だと、先ほどの保護司さんという形になっていて、そこがばらばらになっているところも大きな問題なのではないか。できれば連携していただきたいし、もっと言えば、本当は、小さい方じゃなくて、もう少し大きい方を考えましても、例えば少年院で非常にいいプログラムの中で何とかはなったんだけれども、本当に家庭的な部分が必要だ、あるいはそして社会に行くに当たって、そこのところが必要だという場合に、例えば少年院から児童自立支援施設を経て地域に帰っていくというようなプロセスも今後は考えていただいてもいいのではないかというふうに思います。

 もっとみんなが力を合わせて、何とかいい更生なり被害者対策なりをしていけるような形ができていくことを望んでおります。

武藤委員 どうもありがとうございます。

 そういう意味では、更生のプログラムというのはこれから我々もまだやりようが幾らでもあるというふうに思っておりますし、また、先ほど奥山参考人がおっしゃられたように、いわゆる司法、教育、医療、福祉、それらの横断的な総合プログラムというか考え方をやはりつくっていかなきゃいけない。

 ただ、この少年法につきましては、先ほど廣瀬先生がおっしゃられたように、とりあえずの現実的な選択としてはやはり用意していかなきゃいけない法改正かな、そのかわり、先生方からいろいろお伺いしたことについては、私どもとしては重々考慮しながら法案をまた考えていきたいというふうに思います。きょうは時間をいただきまして、本当にどうもありがとうございました。

 終わらせていただきます。

七条委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 きょうは、四人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見を賜りまして、この法案を審議する中で十分役に立ちますし、今、修正論議もいろいろやっておりますけれども、本当にしっかりと参考にしてまいりたい、こういうふうに思っております。

 そういう中で、一つは、これは廣瀬参考人にお伺いしたいんです。

 廣瀬参考人は、特に少年関係で十数年の実務の経験がおありだということでございますけれども、触法少年と虞犯少年、これは、ある意味では同じ部分もあるかもしれませんが、構成要件に該当した行為をやるかやらないかということで、かなり違うと思うんですね。

 そういうことで、触法少年と虞犯少年で、警察の調査のあり方ということが、認めるか認めないかで違いがあるんじゃないか。その違いと、今回の虞犯少年に対する警察の調査の必要性についてお伺いしたいと思います。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 今御指摘のように、触法については、これは構成要件に該当、違法というところまでは犯罪でありますが、やはり強制捜査ができないということでいろいろ問題が起きている、ここは改善しなきゃいけないというところは御理解いただけるんだと思います。

 虞犯の場合、先ほど斎藤参考人などから非常に広がり過ぎて問題があるんじゃないかという御指摘がありましたけれども、補導の人数とか実際に虞犯で立件されている件数、これは年間に大体千数百件ですね。家裁に来て処分しているというのは、さらに九百件とか、何百件というオーダーになります。

 つまり、我々実際に実務で、虞犯少年というのはどういう子たちが来ているだろうかというのを見ますと、これはもう本当に非常に問題がある子たちですね。よくありますのは、例えば警察が暴力団の手入れに行って、そこに一緒に不良少女などがいて、本当に親元にもなかなか帰せないというような子たちですとか、それから、家出をしたり放浪癖があったりしていろいろ問題を起こしかねない。ですから、少年院に送る例も、実際に虞犯少年というのは率は非常に高いわけですね、これは既に御紹介があったようでありますけれども。

 そういう意味でいいますと、まだおそれにとどまっているんだから余りやる必要はないんじゃないかということを思われるかもしれませんけれども、実際に今虞犯として扱われてきているもの、あるいはこれから先も対応していかなきゃいけないものというのは、きちっと前提事実を明らかにして、掘り下げたところまでの調査をして的確な処分をしていくという必要性は決して少なくない、そういうものだと思っております。

 逆に、そういうものに絞り込めば、そんなに弊害が起きてくるとか問題が起きてくるということも、私、実務の感覚としてはぴんとこないんですね。補導が多いのだから大変なことになるよと言われても、警察もそんなに暇ではないだろうと思いますし、現場の、少年関係で一生懸命やってくださっている警察官の方々は、きちっと、本当に熱心にやってくださっている方も多いですし、そういう方々が虞犯などについてはかなり対応されているという実感を持っております。

大口委員 今、奥山参考人の方から、特に思春期前の子供の一つの特徴というもののお話がありましたし、また、面接をするに当たっても、これは非常に技術の要ることであるし、トレーニングを要することでもある、こういうことでありました。

 そこで、特に十四歳未満の子供に対して、虞犯少年についての調査を警察がやるということについて、今の警察のあり方で大丈夫なのかどうか、それをお伺いしたいと思います。

奥山参考人 今の警察の状態というのが、本当に、どこをポイントにお話をするかということもあるかもしれませんが、やはり建物自体が非常に怖いということは子供たちにとってあります。

 被害を受けたお子さんでも、性被害を受けたお子さんが、警察でお話をして戻ってこられて、私のところでお話をした。そうしたら、警察で言わなかったことが一つ出てきたというだけでもうおびえるんですね。私、聞かれなかったから言わなかったんだけれども、言わなかったことで罰せられちゃうんじゃないかしらと。そのぐらい警察というところはお子さんにとっても、悪い人を捕まえるところなんだということが、やはり大人以上に子供は大きな恐怖というのを持っているというのが前提だろうと思うんですね。その中で、幾らいい形で聞いても、その恐怖を本当にいい形で取り除いてあげないと非常に難しいだろうというふうに思います。

 虞犯ということに関しては、先ほども少し述べさせていただきましたけれども、思春期以前のお子さんが何らかの形で徘回をしているとか悪いところにいるということであれば、これは、その状態を見過ごしている親御さんのネグレクトの可能性の方が高いだろうというふうに思いますし、その中で、その子に直接面接して何かいい解決策が出てくるより、その周りの調査、何でこの子がここにいるんだということの福祉調査をきちっとして、その子を取り巻くシステムの調査をして、そこを明らかにして、子供を保護するなり、子供がそういうところに行かないような状態にしてあげるということが必要だろうと思います。

 ちょっと、PWと書いたのは、プラダー・ウィリー症候群といって、特別な先天性の異常の方で、かわいいお子さんなんですけれども、どうしても徘回が多くなってしまうような方が中にはおられます。そういうこともありますけれども、そういう方に関しても、親御さんに対する支援、やはり福祉の場合には、その子がそういうところに行かないように家族ごと支援をして、そういうことがなくなるという方向に行く。その方が、そういう事態を、虞犯の状況を軽減させるというか低減させるためには非常に役に立つのではないかというふうに思います。

大口委員 警察も一生懸命やっておられると私は思います。いろいろ研究もされていると思いますが、子供の立場からするとそういう気持ちがあるということも、今、奥山参考人がおっしゃったのが、一番よくわかっておられる方のお話ですから、これは尊重しなきゃいけないな、こう思っております。

 今の奥山参考人の御意見に対して、十四歳未満の虞犯について警察が調査することについて、廣瀬参考人にお伺いしたいと思います。

廣瀬参考人 今、奥山参考人もおっしゃっておられましたように、例えば、なぜその子がそこにいるのかという周りの背景的なことをきちっと調べなきゃいけないということでありますけれども、これは、例えばさっき言いました暴力団の例なんかでありますと、関係する参考人とか、まさに、事情聴取する相手はそういう関係者になるわけですね。そうすると、やはり児相の児童福祉司ですとか家裁調査官では非常に難しいということが出てきます。やはり警察がきちっと、暴力団関係者などについてもつながりも含めて、それから今後のことも含めて調査をして、これから先どう保護していったらいいのかというようなことを解明していくという必要が出てくるわけですね。

 ですから、虞犯事件であっても、そういう根の深い、いろいろな周りの問題がある、特に本人よりも周りの環境にいろいろ問題があるというような場合を考えますと、その辺の詳しい調査をしていくということについては、やはり警察の力が重要な場合も少なくないと私は思います。

大口委員 次に、十四歳未満の少年について少年院に収容するということが今回の法案にできると書いてあるわけでございますけれども、これについて奥山参考人からお話がありました。その中で、では、十四歳未満であれば本当に何歳でもいいのかと。やはり下限が必要だと私も思うんですね。

 それで、奥山参考人から、十二歳プラスマイナス二、あるいは十四歳プラスマイナス二、これは女性と男性でも違うわけでありますけれども、そういう身体的あるいは精神的な一つの区切りというものもある、こういうふうに言われまして、抽象的思考というお話をされました。

 そういうことも含めて、では、小学生を果たして少年院に入れるのがいいのかどうか。少年院の側としても、幅があり過ぎますと、プログラムをつくるのにも大変かな、やはりある程度ターゲットを絞ってやった方が少年院としてもきめ細かな処遇ができるんじゃないかな、私はそういう考えも持っておりまして、そのあたりも奥山参考人からお話をいただきましたが、その点が一つ。

 それから、殺人を犯したような少年、十四歳未満の触法少年、こういう少年に対して、では、十四歳未満であるということで、例えば、それがかなり低い、十歳とか、そういう子供が殺人を犯してしまったという場合について、少年院の方がふさわしい場合もあるのかどうか、そこら辺についてもお伺いしたいと思います。

奥山参考人 私の理解している限り、少年院というのはやはり矯正教育ということで更生をさせようという考え方ですので、例えば医療少年院では、医療を施してサポートをした中で矯正教育をするという形になります。矯正教育ができるかどうかということはやはり非常に大きなポイントになるだろうと思いますから、おっしゃるとおり、ある程度の年齢のお子さんの中に小さいお子さんが一人入るということは、非常に不都合が生じてくることもあるというふうに思います。

 逆に、今度は個別のノウハウというのがどの程度つくられていくかということになりますけれども、先ほど申しましたように、年に一人入るか入らないかという形でそのノウハウが蓄積されていくものかというところが多少疑問だろうというふうに思います。

 それから、殺人を犯したお子さんに対してどうするかということですけれども、十歳の殺人ということが確かにないわけではないだろうと私も思います。ただ、そのことが起きたときに、では、少年院で対処できるかということになると、それも非常に疑問があるだろうと思います。

 先ほど申しましたように、やはりいろいろな知識をかき集めてそれに対処しなきゃならない。私自身もいろいろなお子さんにかかわっていますけれども、小学生で性犯罪を繰り返してしまったようなお子さんに対して、児童自立支援施設の対応の中で、こちらに通っていただいて、思春期の調整をさせていただくというような医療的なかかわりも含めてやらせていただいたことがあります。

 ですから、やはり児童自立支援施設でも、ある種非常に進んだ医療を取り入れるような医療機関とともにやるということは十分可能ですし、そういう中で考えていかなければいけない問題ではないかなというふうに思います。

大口委員 次に、国選付添人の関係でございますけれども、観護措置が取り消されたような場合、少年が釈放される、その後、試験観察とかの場合もありますけれども、こういう場合、最後の家裁の決定が出るまで、やはり国選付添人をその前に終了するということは問題ではないかな、こういうふうに思うわけですね。

 この点につきまして、申しわけないです、簡単に、廣瀬参考人、それから斎藤参考人にお伺いしたいと思います。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 国選付添人に関しまして、私も、もっと認めた方がいいというのは従前から申し上げているところでありまして、ただ、予算もかかりますし、それから人の受け皿の問題もあります。そういうことで、範囲は結局、まさに政治的決断だろうと思います。

 ただ、御指摘のように、試験観察なんかの場合を考えますと、これはやはり最後までかかわっていただく方がいいのではないかというふうに思います。

斎藤参考人 これは、日弁連としても強く主張しておりまして、最後までやらせてくださいということですね。

 大人の事件とは違います。最後まで子供の世話をするというのが付添人の役割でありまして、調査官と並んで、子供の環境調整、さらには保護者に対する働きかけをやっております。そのことが、子供に対して、大人に対する、そして社会に対する信頼感を強めていくことになります。ぜひ、国選付添人は最後まで選任の効力を維持させていただきたいと思います。

大口委員 次に、非行少年が少年院なり児童自立支援施設から出ましてまた同じように非行ないし犯罪を犯す、こういう率は高いですね。それは、廣瀬先生が著述の中にも書いておられます。

 再犯についての率が高いということで、どこに処遇の問題があるのかということについて、廣瀬参考人と、それから久保参考人にも、統計についていろいろと研究されておられますから、そのあたりについてのお考え、こういうことが問題ではないかということをお聞かせ願いたいと思います。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 私は、少年院ですとか児童自立支援施設ですとか、施設の中の教育は日本は非常にすばらしい水準だろうと思いますね。実際に、我々も視察で、送った子供に会いに行ったりすることもありますけれども、見違えるようによくなっているということは多いです。

 ただ、そういう子たちが戻るときに、結局、戻る環境は、親も変わっていなければ周りの悪い友達も変わっていないというところに子供ですと帰らざるを得ない、そうするとそこでまたもとに戻ってしまう、これが非常に大きいだろう。

 だから、特に、ある程度長い期間施設にいればいるほど、やはりリハビリといいますか、社会にならしていくというところが一番大事なわけですね。今、仮退院、保護観察というようなことがありますけれども、ここがまだまだ十分でない。ここを強化するということが非常に大事なところだろう。成人でも同じようなことが言えるのですけれども、より少年はそうだろうと思っております。

久保参考人 治安という立場からはなかなかお答えしにくい部分でございますが、私の経験ということで申し上げさせていただきます。

 私は、十年ほど前までは、東京都の中の教育研究機関で、実は最近も問題になっておりますいじめ対策の研究、ちょうど十年前にもいじめ問題が自殺事件等で発生いたしましたので、対応のプロジェクトチームを率いていたわけでございますが、そのときいろいろと報告書を出し、研究をした成果が一つ役に立つかなと思っております。

 まず、子供の一人一人によってメニューを考えなければいけない、この問題はマスでとらえることはできないというふうに思っております。

 それから、よく、加害者であれ被害者であれ、虚心坦懐に、こちらが威圧的でなく聞くという態度が必要だということを、私は部下でありました臨床心理士から教えられた経験がございますし、確かに、そうした方向で問題の対策が講じられることが、一人一人の子供の対応を見て考えてみますと、時間がかかるようで実は一番近道であったという経験がございますので、少年法、少年犯罪の問題につきましてもやはり同じ対応が必要であろうというのが私の現在の考え方でございまして、それは在職中から考えていたとおりでございます。

大口委員 もう時間もだんだん終わりに近づいてまいりましたが、奥山参考人、最近の新しい問題、すなわち発達障害、不適切な養育、それから性の問題、こういうことで、今まで縦割りの問題があって十分対応できていない、こういう御指摘でございますけれども、その点について、最後に御意見をいただければと思います。

奥山参考人 ありがとうございます。

 近年の、先ほど来国民の方々がというお話が出ていますが、国民の方々がびっくりされたといいますか何とかしなきゃと思われた問題というのは、この問題が非常に絡んでいる問題が多うございます。そして、よく知れば知るほどそれが多いということになってきますので、それに対する対応というのは考えなきゃいけないというのが、まず第一点でございます。

 では、それに対してどこか一カ所、例えば司法だけで考えれば事が足りるのか、医療だけで考えれば事が足りるのかというと、決してそうではない。いろいろな方々のお知恵を一つにして、集約して、そして連携して、その中でいい対策を考えていくということが必要になってくるんだろうと思います。

 そこで、私が最後に申しましたのは、今回の法改正で、これで万々歳であるということではなくて、法改正の後に、法改正がなされた後どうなっているのかということをきちんと検証していただき、そして新しい問題にも対応するような場をつくっていただいて、次の新しいシステムにも向けていっていただきたい。ぜひ、立法府としてもその辺をお考えいただければと思ってお話をさせていただきました。よろしくお願いいたします。

大口委員 どうもありがとうございました。以上で終わります。

七条委員長 次に、平岡秀夫君。

平岡委員 民主党の平岡秀夫でございます。

 きょうは、各参考人の方々、本当にありがとうございました。お疲れだと思いますけれども、最後でございますので、よろしくお願いいたします。

 まず最初に、久保参考人にお伺いしようと思いますけれども、実は私、昨年の十一月十四日に本会議で質問をさせていただいたときに、久保参考人の著書から少し引用させていただいた部分がございまして、ちょっと思い入れがあって、久保参考人にまず最初に質問させていただくということでございます。

 今回の少年法の改正の背景というのは一体何なのか、立法事実というのは一体何なのか、これは非常に意図的なものがあるのかなというふうな気もしているんですね。この趣旨説明、提案理由説明を見ますと、これは大臣が読み上げたものでありますけれども、「近年、少年人口に占める刑法犯の検挙人員の割合が増加し、強盗等の凶悪犯の検挙人員が高水準で推移している上、いわゆる触法少年による凶悪重大な事件も発生するなど、少年非行は深刻な状況にあります。」こういうことなんです。

 先ほど、最初にいろいろ、検挙人員の割合の問題についても、あるいは強盗というような位置づけについては保坂委員の質問に対して御説明されまして、こういうような立法の背景を大臣が述べていることについては、率直に言ってどんな印象を受けられますでしょうか。

久保参考人 お答えいたします。

 先ほど来私が述べましたのは、一般に、これだけ犯罪状況、少年犯罪を含めてでございますが悪化している状況にある、だから何らかの対応をしなければいけない、とにかく手を打たなければいけないのではないか、こういうはやる気持ちの方が先行しているのではないか、これが、少年問題を含めまして全体に感じられること。本質的な真摯な議論というのが、地方自治体を含めまして、置き去りにされているのではないかということが私の大きな疑問でございます。この法案の提案理由をおとしめるつもりは全くございませんが、やはりそこに、はやる気持ちが先行してしまって、肝心の足元を忘れているのではないかというふうに考えたわけでございます。

 確かに、私に寄せられる批判の中に、日本の統計というのは可能な範囲で精緻にとられているんだ、それを信用しないでどうするんだ、こういうお話もあることは事実でございます。しかし、それを評価するということと、本質的に限界があるという認識を示すこととは別の問題だと思っておるわけでございまして、限界があるものに頼り過ぎて何が本当に今の問題になっているのかということを忘れてはならないということが、申し上げたいことの第一点でございます。

 それからもう一つは、最近、異常な事件が発生しているというふうに言われていますけれども、それは過去にも起こった事件であり、過去に対してはどういうふうに思っているのか、現在だけの問題ではないだろうということをやはり議論としてどこかに置き忘れているのではないかというふうに考えている次第でございます。

平岡委員 ありがとうございます。

 私の本会議での質問のときに、大臣もいろいろ答えているんですけれども、例えば触法少年の凶悪犯の状況なんかについても、「触法少年による凶悪犯の補導人員をここ十年間で見ますと、平成八年から平成十四年まで二百人未満で推移していましたが、平成十五年以降二百人を超えている上、近時、凶悪重大な事件も発生しているところであります。」というふうに言っているんですね。

 例えば、十五年以降二百人を超えているというような話についても、先ほど奥山参考人の方から、子供たちの一つの成長過程として火に関心を持ってということで、放火というようなことがあるということも言われました。その二百人を超えているという事情を本当につぶさに見てみると、まさに放火事案が、平成十四年百二件だったのが、平成十五年以降、百六十六、百七十九、百五十九というふうにふえているということで、触法少年の凶悪事件がふえているんだということなんですよね。

 こういうふうに、やはり中をしっかりと検証してこういうことを言わないと、国民の皆さんに対しても非常に誤解を与えるんじゃないかというふうに私は思うんです。そういう意味で、今回、立法事実といいますか、今回の立法の背景になっていること自体が、本当にそうなのかというところから検証していかなければいけないんじゃないかというふうに私は思っているところでございます。

 ちょっと時間がないので、奥山参考人にお伺いしたいと思います。

 先ほど、思春期前の子供たちの話についてお話をしていただいて、大変参考になりましたけれども、ちょっと言葉の問題としてお聞かせいただきたいと思うんです。

 愛着形成という言葉を言われて、愛着心があるとかというのはよくわかるんですけれども、愛着形成というのが一体どういうものなのかということと、どうすればそれができるのかというところをちょっと教えていただけますでしょうか。

奥山参考人 愛着というのは、ボールビーという人がアタッチメントということを言ったのを日本語で愛着というふうに訳して、私どもが比較的使っている言葉です。

 要するに、きずな、親子のきずなであって、子供は何か自分に怖いことがあったり危害が加わりそうだというときに、自分を守ってくれる大人に近づいて自分を守ってもらおうとする、その行動を愛着行動と呼びます。そして、母親と子供が多いわけですけれども、要するに、その親子のきずなのもとに、その子供の中にその後の人間関係の核となるものがつくられていくという考え方になっていますし、それが遺伝学的にも証明されてきている部分でございます。

 ですから、愛着形成というのは、要するに、そのきずなのもとに安全で安心な中で育つことによって、ここはちょっと省きますけれども、私というものがきちんと確立されて他人とのかかわりがうまくできていくという、その発達するプロセスの中で非常に重要なものが愛着形成であるということになるわけです。

 だから、ちょっと一般的に言う愛着とは違うかもしれませんけれども、子供の愛着形成というのはそういうことを指しておりまして、それがないと、私ができて、そして他人とのかかわりということがなければ、共感性というのもなかなか生まれてこないわけですから、他人の痛みがわかるというためには、このきずながきちっとできているということが非常に重要だということが言えるというふうに思います。(平岡委員「どうしたらできるのですか」と呼ぶ)

 本当に小さいお子さんでしたらば、育て直しということが可能だと思います。ただ、ある程度大きくなってきてしまわれたお子さんに関しては、残念ながら、全部普通の、いい愛着のところまで戻れない場合もあります。そのような場合には、本当に安心な環境というものを与えてあげて、そしてその安心な環境の中で、その愛着が形成されなかったことによってできてくる問題を修復していく、つまり、認知を使ったりいろいろなところを使ってうまくこなしていけるようにかかわりを持っていってあげる。そのためにも、安心したというところが非常に重要ですし、そして人とのきずなをできるだけつけていくということも非常に重要なことだと思います。

平岡委員 そういうことからいうと、思春期前の子供で、問題行動があるとか、あるいは触法少年というような形で顕在化してしまったというようなケースについて、今の日本の少年のそういう全体的な制度の枠組みの中で、一体何が足りないというふうに思われますか。これが足りなくてよくないんだということが何かあるんでしょうか。

奥山参考人 それは司法の制度の中でということでの御質問というふうに伺ってよろしいのでございましょうか。

平岡委員 どちらかといえばそういう方面でいいんだろうと思いますけれども、特にそれ以外にもあれば、別に限定しているわけではありません。

奥山参考人 私の分野から言わせていただければ、司法ということと関係なく言わせていただければ、やはり胎児期から乳幼児期にかけての一番重要な時期をどのように過ごさせてあげるかということが最も大切なことだというふうに思います。

 ただし、先ほど来お話をしました発達障害の場合には、お母様方が一生懸命やっても、その辺のところが、うまくお子さんがそれを受けとめ切れないということがあって、そこで悪循環が生じてしまうということはよくあることです。ですから、できるだけ早期にそこのところにはいろいろな形で支援を加えていくということが重要なことでしょうし、それから、何らかの行動の問題でも、いろいろな芽があったときに、その子の行動だけに目をやるのではなくて、その背景としての愛着形成の問題に目をやって、その子一人じゃなくて家族を含めた支援、その先を言えば地域全体での支援ということをして、そういう触法に至ることを防ぐということはやはり重要なことだと思います。

 残念ながらそうなってしまったお子さんに関して、先ほど申しましたように、被害者のこともありますし、その方はそれを一生背負っていくわけですから、その被害者の痛みがわかる人間になるような支援といいますか、そういうかかわり、発達を促していくということが非常に重要なことではないかというふうに思います。

平岡委員 今のお話で結論を出すつもりはないのでありますけれども、私は、今回の少年法の改正というのは何かちょっと筋が違うんじゃないかなというのをすごく印象として持っているんですよね。そういう観点から、この法案についてもまた検証していきたいというふうに思います。

 次に、ちょっと斎藤参考人にお伺いしたいと思うんです。

 今回の虞犯少年あるいは触法少年に対する警察の調査の話なんですけれども、これは、倉田委員が本会議で質問されたときに、今回の調査権限というのは一体何なんだというところで、大臣はこういうふうに答弁しているんですよね。「この法律案は、実務上、従来から行われてきた警察官による調査について、その法的根拠を明確にすることなどを内容とするものであり、従来の法制度の基本的部分を変更するものではございません。」ということで、いわば設置法に基づいてある権限を明確にしていくだけなんだ、こういうふうに言っているということで、私自身は、本当にそうなのかなというふうに、その説明もちょっと疑いの目は持っております。

 逆に言うと、現行行われている警察の活動について言えば、何か具体的に問題点というのはあるんでしょうか。どうでしょう。現在行われている警察の調査活動といいますか、いろいろな少年に対する活動について、何か問題として思っておられることはありますでしょうか。

斎藤参考人 虞犯と触法を分けますと、触法についてはございますね。非常に無理な調べを事実上しているというのがありますね。今の実務において、任意の事情聴取という形で触法の子供に聞くことがあるのですが、その中で相当無理がある、その中で現実の冤罪というのが生じている、そこは指摘しておきたいと思います。

 那覇の家裁でも、放火事件で、非行事実なし、不処分の決定が出たり、触法ではありませんけれども、最近では甲府の方でも、そういう非行事実なしの決定が出ている。そういう中で、かなり無理な調べがなされているということが第一です。

 虞犯について言いますと、十四歳以上の虞犯については、例えば、暴力団事務所に出入りしているとか、あるいは風営法違反で警察が捜査に入った風俗営業の事務所に子供がいたとか、あるいは、少年相談に保護者が訪れて、うちの子供が家に寄りつかなくて困っているというような現実の訴えがある、そういう場合に動いている、そしてそれの確認作業をして家庭裁判所に送致しているというレベルで動いているのでありまして、その限度においては問題はないと思っているんです。

 問題は、今回の法案はそれを超えた範囲で動き出そうとしている。虞犯の疑いというレベルで動き出すとなると、これは実質的に変わるんですね。これは歯どめがなくなるということを再三申し上げるんですけれども、そういう暴力団事務所に出入りしているんじゃなくて、出入りする疑いがあるというふうに判断すれば警察が動き出すという意味で、これは質的に変わってくるというふうに言わざるを得ません。

平岡委員 今言われたような現行行われている調査の問題と、これからやろうとしている調査というものを比較したときに、本当にどうあるべきかというのもやはりしっかりと検証していかなければいけないというふうに思います。

 斎藤参考人にもう一つだけ聞かせていただきたいんですけれども、今回、国選付添人という制度ができるんですけれども、これについては、ある一定の重大な事件について一定の状況の中でということでありますけれども、それ以外に、少年事件に関して付添人というものがどうあるべきかということについて、今回の国選付添人以外の面で何かございますでしょうか。

斎藤参考人 付添人の役割につきましては、弁護士会の中でもいろいろ議論しておりまして、子供のパートナーであるべきだというような今現在の通説、つまり、子供とともに歩む、そういうあくまでも子供の立場に立って、そして子供の気持ちを酌み込んで、子供の意思を代弁する。さらには、子供の置かれている状況、それについて環境調整に努める。特に保護者に対する働きかけが極めて重要で、その部分についてできるだけのことをやる。さらには、これは本来ならば家庭裁判所がもっとやっていただきたいのですけれども、補導委託先の開拓とか就職先のあっせんのようなことまでもやっている付添人がいます。かなり手広い活動をしています。全国でもそういう付添人の活動についての活動経験交流集会などもやりまして、さらにそれぞれのスキルを高めるという努力をしているところでございます。

 今回は、国選付添人の範囲が広がる、これは大変私ども評価しておりますけれども、まだ狭い。できれば、将来的には、少なくとも身体拘束を受けたすべての子供に、観護措置がとられた子供には全部国選付添人をつけていただきたいと思いますし、それは、被疑者段階から弁護士がついていくということが制度として発足しておりますし、さらに広がっていくわけですから、それに対応した形で、家庭裁判所の段階でも国選付添人の制度をぜひ実現していただきたいというふうに思います。

平岡委員 残された時間は廣瀬参考人にお聞きしようかと思っているんですが、本当に短くなってしまってあれですけれども、先ほど、警察の調査権限についてちょっとお話がありました。中心は触法少年の調査だったとは思いますけれども、その中でも、警察が単独でどんどん進めていくということについては、やはり年少者については性格的、心理的な問題もあって適当ではないんじゃないかというようなお話がありました。

 仮に、触法少年について警察が調査をするというような形であったとしても、何か工夫が必要じゃないかというふうに思うんですけれども、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

廣瀬参考人 お答えいたします。

 先ほどから出ていますように、年少者に対して聞く場合にいろいろなテクニックが要る。私は実は、児童虐待の被害者の、傷害致死とか、そういうような事件で証人尋問等をしたこともあります。ですから、これは何もこういう被疑少年だけの問題ではなくて、やはり警察としては、そういう性犯罪の被害者だとか虐待の被害者だとか、そういう年少者の供述を確保するということは必要な作業なわけですね。

 そういう意味で、やはり心理の関係ですとか児童の供述心理みたいなもの、あるいはその対応関係で発言がゆがめられないようにするためにどうしたらいいかというあたりの研究や実績、訓練ですね、こういったものが必要であるというのは間違いないと思いますし、まさにそういう知見を触法の調査なんかでは活用していく必要があるだろう。ただし、犯罪現象でありますから、ほかの証拠収集なんかは、これは成人と変わらないように、やはり警察がまさにきちっとやってもらわなきゃいけないということだと思います。

 それから、一点だけ、先ほど斎藤参考人が、規則にあっても、準則にあっても、保護者の立ち会わせとかをしていないんじゃないかということをおっしゃっていましたけれども、私の実務経験に照らしますと、触法でない、もうちょっと上の年少者の少年の調書などを見ていても、被疑者と、それから立会人だった保護者の署名があるというような調書をたくさん見ています。ですから、それは、実際やっている場合は結構あるのじゃないかと私は認識しております、たまたま私の個人的な経験かもしれませんが。

 以上でございます。

平岡委員 廣瀬参考人にはいっぱい質問があったので、最後にしっかりとやろうと思ったんですけれども、時間が来てしまいましたので、また別の機会に少し意見交換でもさせていただければというふうに思います。

 きょうはどうもありがとうございました。

七条委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の皆様方には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げます。

    ―――――――――――――

七条委員長 この際、連合審査会開会に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案に対し、厚生労働委員会から連合審査会開会の申し入れがありましたので、これを受諾するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

七条委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 また、連合審査会において、政府参考人及び参考人から説明または意見を聴取する必要が生じました場合には、出席を求め、説明等を聴取することとし、その取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたい存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

七条委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次に、お諮りいたします。

 連合審査会において、最高裁判所から出席説明の要求がありました場合には、これを承認することとし、その取り扱いにつきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

七条委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 なお、本連合審査会は、本日本会議散会後直ちに第十六委員室において開会いたしますので、御了承願います。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時八分散会


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