衆議院

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第10号 平成22年4月27日(火曜日)

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平成二十二年四月二十七日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 滝   実君

   理事 阿知波吉信君 理事 石関 貴史君

   理事 辻   惠君 理事 樋高  剛君

   理事 山尾志桜里君 理事 稲田 朋美君

   理事 森  英介君 理事 大口 善徳君

      石森 久嗣君    加藤 公一君

      熊谷 貞俊君    桑原  功君

      坂口 岳洋君    竹田 光明君

      橘  秀徳君    中島 政希君

      永江 孝子君    長島 一由君

      野木  実君    橋本  勉君

      藤田 憲彦君    細野 豪志君

      牧野 聖修君    山口 和之君

      山崎  誠君    横粂 勝仁君

      河井 克行君    柴山 昌彦君

      棚橋 泰文君    馳   浩君

      柳本 卓治君    山口 俊一君

      遠山 清彦君    園田 博之君

      城内  実君

    …………………………………

   法務大臣         千葉 景子君

   法務副大臣        加藤 公一君

   内閣府大臣政務官     泉  健太君

   法務大臣政務官      中村 哲治君

   厚生労働大臣政務官    足立 信也君

   政府参考人

   (警察庁長官官房総括審議官)           坂口 正芳君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    金高 雅仁君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十七日

 辞任         補欠選任

  山崎  誠君     橋本  勉君

同日

 辞任         補欠選任

  橋本  勉君     山崎  誠君

    ―――――――――――――

四月二十六日

 選択的夫婦別姓制度を盛り込んだ民法改正反対に関する請願(石田真敏君紹介)(第八二一号)

 子供の保護に名を借りた創作物の規制、捜査機関による濫用の危険性が高い児童ポルノの単純所持規制反対に関する請願(城内実君紹介)(第九〇一号)

 改正国籍法の厳格な制度運用を求めることに関する請願(松浪健太君紹介)(第九〇二号)

 人権擁護法案の成立反対に関する請願(松浪健太君紹介)(第九〇三号)

 選択的夫婦別姓制度の法制化反対に関する請願(松浪健太君紹介)(第九〇四号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案(内閣提出第五三号)(参議院送付)


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     ――――◇―――――

滝委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、参議院送付、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房総括審議官坂口正芳君、警察庁刑事局長金高雅仁君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

滝委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

滝委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。辻惠君。

辻委員 民主党・無所属クラブの辻惠でございます。

 一八八〇年に治罪法ということで日本の国に時効制度が導入されて、いわば一部時効を廃止する、公訴時効の廃止という百三十年ぶりの改正ということに当たって、やはり本質的なところにさかのぼった、きちっとした議論がなされるべきであろうということで、そもそも国家の刑罰権をめぐって、その中で公訴時効というのはどういう位置づけなのかということを含めて御質問させていただきたいと思います。

 まず、国家の刑罰権の確立ということは、実は、これは学説上も言われていることでありますが、私人間の復讐の禁止が前提になっているというふうに理解しておりますが、この点はいかがでしょうか。

千葉国務大臣 基本的にはそのような考え方であろうと私も認識しております。

辻委員 国家の刑罰権を考察するときに時効というのはどういう関係に立つのかというと、国家の刑罰権の行使を時間的に制約するものであるという理解に立っているように思いますが、この点はいかがでしょうか。

千葉国務大臣 御指摘のとおり、公訴時効制度というのは、犯罪行為の終了時を起点として、一定の期間の経過によって原則として一律に公訴権を消滅させるという制度でございます。公訴権が消滅することによって、検察官は公訴を提起することができません。仮にこれがなされた場合にも免訴の裁判がなされることになるわけでございまして、そういう意味では、有罪判決を得て刑罰法令を適用実現することができなくなる、こういうことになります。

 これは、ひいては当該犯罪に対する国家刑罰権を行使することができなくなる、こういうことを意味するわけでございますので、そのような意味では、国家刑罰権行使の時間的な制約との評価もできるのではないかというふうに考えております。

辻委員 犯罪と刑罰というのは古くて新しい問題で、ある意味では現実的な問題なんですね。刑罰のありようについて講学的には応報刑とか教育刑とかいうことがありますけれども、今日の社会において再犯者が非常にふえている、では収容先の刑務所における刑罰の機能として、教育刑的な要素がどれだけきちっと充実させられているのかということについても検討していかなきゃいけない問題だというふうに思っております。

 翻って、国家の刑罰権の根拠というものについてどう考えるのかということ、国家の刑罰権は絶対のものではないわけでありまして、その根拠にさかのぼって考えれば、やはり合理的な範囲の中で行使をされなければならない、このように思うわけであります。

 近代国家の成立ということからいえば、一七八九年のフランス革命の人権宣言によって罪刑法定主義がうたわれた。これは、罪刑の法定、罪刑の均衡、類推解釈の禁止、遡及処罰の禁止ということで、罪刑の法定されていること以外は自由なんだという意味で人権保障機能をうたったものであろうと思います。

 このフランス革命の二十五年前にイタリアのベッカリーアという学者が「犯罪と刑罰」という著作を発表して、これは、いわゆるルソーの社会契約論やまたモンテスキューの権力分立論、三権分立論を引き継いで、罪刑法定主義を確立するに当たって大きな役割を果たした方だというふうに思います。

 今、私の手元に岩波文庫の「犯罪と刑罰」、ベッカリーアを持ってまいりました。この中で、刑罰の起源と刑罰権の真の基礎ということについて、少し長くなりますが、ベッカリーアは次のように言っております。

  拘束されず孤立していた人間が、たがいに結合しあったその条件が法律を作った。たえまない戦いの状態に疲れ、保持して行くことが不確実になったむなしい自由の享受に疲れた人間は、じぶんの自由の一部分をさし出して残った自由を確保することを考えたのである。この各人の自由の分け前の総和が一国の主権をかたちづくる。そして主権者とは、とりもなおさず、合法的にこれらの自由の供託を受け、その管理をおおせつかった者にほかならない。

  しかしこのような供託をつくっただけでは十分でなかった。各個人の侵害からこの供託を守らなければならない。

  社会をふたたびその昔の混乱状態におとし入れようとするこうした専制主義的な精神をおさえつけるに十分な力強さをもち、感性にじかに作用する契機が、ここに必要になってくる。この契機がすなわち、法の背反者に対してもうけられた刑罰であった。

このように言っているわけであります。

 これは、その後、ベッカリーアの系譜の中で、いわゆる客観主義の刑法学が確立されていって、刑罰については応報刑主義ということが思想的には定着をして、他方で主観主義刑法がその後出てきて、教育刑という要素も加味をして、そして議論の中で現在があるということでありますけれども、そもそも刑罰権の基礎を考えるときに、客観主義刑法の確立ということが罪刑法定主義をもたらしたものであって、今日、私たちは歴史的に先人の知恵としてそれは非常に尊重すべき考え方であろうと私は思うわけであります。

 そういう立場に立って、刑罰の基礎ということについて、ベッカリーアはさらに次のように言っているわけであります。

  各人にその自由の割り前をさし出させるように強制するものは、ただ一つその必要性だけである。こうして各人はできるだけすくない割り前だけを公けの供託にまかせようとする。いいかえればじぶんが残った部分を勝手に処理することを他の人々に許容してもらうのに必要なだけの最少限度をさしだすのである。

  この自由の小さな割り前の総和が刑罰権の基礎である。この基礎を逸脱する刑罰権の行使は、すべて濫用であり、不正である。それは事実上の権力ではあっても、法にもとづいた権利ではない。

ということを言っているわけです。

 刑罰をできるだけ最小限度にとどめるべきだという考え方、国家に委託をして自由の制約を与えた、しかし、その国家権力が与えた範囲以外のものに濫用的に権力を行使する場合には、これは不正なんだということを言っているわけなんですね。ですから、この考え方の延長で罪刑法定主義も出てくるでありましょうし、刑罰の均衡という問題も必要だという考え方も出てくるのではないかというふうに思うわけであります。

 現実的に考えた場合に、国家の刑罰権の合理的な範囲はどのような基準でどう考えられるべきなのかというときに、一つは、被侵害利益がどうであったのかという、利益の侵害の大きさですね。それからもう一つは、行為者の犯意についてどのように評価するのか。故意、過失とか、ドイツなんかでは、殺人罪については謀殺とか故殺とかいうことで、細かくその犯意を認定していくという作業の上で、刑罰権の範囲はどこまでなのかということを議論していくべきだというふうになっているわけであります。

 確かに、そういう議論の中で、被害者の感情というものについては、量刑判断に当たって非常に重要な要素ではあるけれども、法のあり方をどうするのか、法制度をどう決めていくのかというときに、被害者の個々の感情が法や法制度を動かしてはならない、このように考えますが、大臣、この点のお考えはいかがでしょうか。

千葉国務大臣 今、辻委員から、大変歴史的な、さまざまな議論を踏まえた刑罰権のあり方、こういうものがあるんだということを御指摘いただきました。

 私も勉強したことを改めて思い起こしているわけですけれども、基本的には、刑罰権、刑罰のあり方というのは、法益にどのような侵害が生じているのか、それに対して、その行為の側の態様とかあるいは真意、こういうものとの兼ね合いといいましょうか、そういうもので刑罰というのは考えていかなければいけないということは、私も十分に承知をしております、理解をさせていただいているつもりです。

 それに対して、被害者の感情、これは、私もこれだけで例えば刑罰を左右するということには当然ならないものだというふうに思っております。ただ、被害者のいろいろな感情、そういうものがいろいろな刑罰のあり方を考える、あるいは刑罰をどのように定めていくかということを考える一つの契機となったり、あるいはその軽重を考えるに当たっての一つの材料というんでしょうか、一つのメルクマールになるということはあろうというふうに思いますけれども、それだけが刑罰を左右するということになってはならないのだというふうに理解をいたしております。

辻委員 被害者、遺族の感情、ひいては国民感情というふうに整理してもいいと思いますけれども、それは量刑判断に当たって非常に重要な要素である、また、罪刑の均衡を考えるときの法定刑の定め方とかいうことに当たって十分考慮しなければならないということは確かな事実だろうというふうに思いますけれども、今回の改正に当たって主要な話として聞こえてくるのは、真犯人の逃げ得を許さないということについての被害者の感情が非常に大きな役割を果たしているということが指摘されているわけであります。

 そういう意味におきますと、先ほど申し上げたように、刑罰の基礎を歴史的にさかのぼって、これはいろいろな先人の、近代国家成立以来の知恵の集積として時効制度というのはあるわけでありまして、それを、逃げ得を許さないという、ある意味では非常に生の、それは理解できる感情でありますけれども、それをそのまま法制度や法の改正に持ち込むというのは、やや問題があるのではないかというふうに考えざるを得ないわけであります。

 やはりもう少し本質にさかのぼった議論というのが十分になされなければ、百三十年目に日本で一部時効が廃止になった、公訴時効が廃止になった、それは後世のいろいろな、法学者だけではない、国民にとってどのように評価されるんだろうか。人類の歴史は、単純な進歩の歴史では必ずしもなくて、復古主義的な傾向やいろいろな逆戻りの過程を経て、しかし大きくは前進していくということでありますから、そういう歴史の流れの中で、今回の法改正が被害者の処罰感情ということを中心に組み立てられていたとすれば、それは非常に大きな問題として後世に指摘されるのではないかというふうに私としては御指摘申し上げておきたいというふうに思います。

 それで、今回の法案、例えば強盗殺人については公訴時効が廃止になる、しかし強姦致死についてはならないとか、いろいろな問題点があります。ただ、今回の運用を今後考えていく上に当たって、一つ御指摘申し上げたい点があります。

 それは、一九九六年の四月十一日に立教大学の学生が死亡した事件があります。午後の十一時三十分ごろ、池袋駅の山手線外回り七・八番線ホームで、当時、立教大学学生であった男性二十一歳が男に顔を殴られ転倒した際、後頭部を強打し、五日後に収容先の病院で死亡した。当初、警視庁は傷害致死容疑で捜査したが、公訴時効の直前の二〇〇三年三月に今度は殺人容疑に切りかえて捜査を続けている。つまり、時効にかかるのを、罪名を切りかえることによってクリアしたという形になっているわけですね。

 この点は、参議院の附帯決議で、四項目めに「殺意の有無により公訴時効期間が大きく異なることにかんがみ、捜査機関がその認定を行うに当たっては、十分な証拠に基づいて適切公平な判断を行うべきよう努めること。」というふうになっております。

 この点については、大臣、どうお考えですか。

千葉国務大臣 御指摘のとおり、今回の法律が成立をするとすれば、殺人罪の公訴時効は廃止、そして傷害致死罪の公訴時効期間は二十年ということでございます。そういう意味では、殺意の有無の認定によって公訴時効期間が大きく異なるということになりますが、これは、ある意味では、現在も同様に異なるという状況は生ずるわけでございます。

 そういう意味では、捜査段階において、最終的には検察官が公訴を提起するか否かの判断をするわけですけれども、その際、殺意の有無を認定するに当たって恣意的な判断がされるようなことがあってはならない、これで公訴時効にかかるからとかあるいは短くなるから、こういうような判断がなされてはならないというふうに思います。

 捜査機関においては、参議院でも附帯決議で御指摘をしていただいているということでもあり、十分な証拠の収集に努めるとともに、収集された証拠に基づいて適正、公平に判断をされるものと承知をいたしております。

 いずれにいたしましても、成立する犯罪の認定を誤って起訴をして、公訴時効が仮に完成していたとするならば免訴ということになりますので、こういうことがあってはならないわけで、こういう点からも、犯罪の認定というのは十分慎重に、証拠に基づいてなされるものだというふうに理解をいたします。

辻委員 もう時間も余りありません。実は、重大凶悪犯罪については、二〇〇四年に刑法の法定刑の期間を一・五倍、また公訴時効についても一・五倍にしたということについて、十分な検証の期間がまだいまだなわけであります。そういう中で今回の法改正が行われるということについて、これは両方含めてやはりきちっとした検証が必要だろうというふうに思いますし、刑罰権の行使の時間的制約という意味で公訴時効及び刑の時効について考えるということからすれば、遡及処罰の禁止という問題についても、これは実体法説、訴訟法説とかそういう議論ではなくて、実質的な問題として、刑罰権の内容、範囲については司法だけではなくて立法、行政も拘束していると考えるべきものでありまして、軽々に遡及効を認めるのはやはり問題があるというふうに私は思っております。

 参議院の附帯決議で、「公訴時効の廃止及びその期間の延長によりもたらされる効果について、今後ともその検証に努めること。」ということが規定されております。これについて、きちっと尊重していただけるということを御確言いただきたいと思います。簡単によろしくお願いします。

千葉国務大臣 おっしゃるとおりでございます。

 附帯決議も踏まえて、今後十分に検証を続けてまいりたいというふうに考えております。

辻委員 真犯人を取り逃がしているというところがむしろ問題であって、時効を延長したからということで検挙率は上がらないということは、法制審でも警察庁の刑事局長がそのように答弁しているところなんですね。だから、今いろいろな犯罪に対して捜査機関の側がきちっと充実した捜査なり遂行能力をなかなか持ち得ていない現状をどう変えるのかということがむしろ問題であろうというふうに思うわけであります。

 被害感情、国民感情ということで、国の、とりわけ司法の制度は軽々に変えられる傾向が今どんどん進んでいるという危機感を私は非常に持っているわけなんですね。そういう流れの中の一つとして、この公訴時効の一部廃止の問題もあると思います。司法は少数者の権利を保護するための制度なんです。罪刑法定主義を含めて、人権保障機能をこの国がもっと、本当にみんなが自由活発に振る舞える、そういうことを保障することこそが司法の機能であり、犯罪と刑罰が均衡しなきゃいけないという根拠であると思います。

 そういう近代国家として日本がさらにきちっと法整備をされていくように、私は、この問題に際して、改めて司法制度全般のあり方を皆さんと検討して、未来の日本をよりよくするために全力を尽くしていきたいということを、個人的な決意でありますけれども、皆さんに表明申し上げまして、質疑を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

滝委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 民主党の山尾志桜里です。

 先日のこの委員会でも、犯罪被害者御遺族のお二方からお話を伺いました。大変心に残るメッセージが多かったんですけれども、そのお一方、最後の方でこういうことをおっしゃっておりました。人をあやめたら、刑事法的には刑罰から逃れられない、また、民事法的には賠償責任が被害者から、またはかわって国から求められる、こういう制度をぜひ確立していただきたいとおっしゃっておりました。

 今回、刑事法的には、そういう遺族の方のお気持ちという点で考えますと、一つの答え、解決を見ようとしておりますが、民事法的にはまだまだという点があるかと思います。

 実際、家族の方があやめられたときに、残された家族が負う経済的な負担というのも無視できないくらい大きいものがございます。仕事が手につかない、あるいは、もう仕事をなげうって真犯人を捜すのに奔走されるという方も少なくありません。あるいは、家族の大黒柱を失った場合には、残された御家族はとりわけ経済的に大打撃を受けるわけです。そんな中で、必死の思いで刑事裁判に対応し、自分で民事裁判に訴え、そして何とか損害賠償判決をかち取っても、絵にかいたもちということでは、これはあんまりかなということを私も思うわけです。

 私の個人的な思いとしては、犯罪被害者の方というのは、社会のひずみを犯罪被害という形で私たちにかわって一身に受けられた方というような気がしております。だからこそ、犯罪は社会のひずみを映し出す鏡だということも多くの方がおっしゃっている。そういう中で、そういう方々の被害というのは、たまたま犯罪を受けなかった私たちが経済面も含めてできるだけ一緒に背負わせてもらうということが、私はあるべき姿だと思っております。

 大臣、ここで、民事法あるいは経済的な救済ということについて御所見をお伺いできればと思います。

千葉国務大臣 御指摘をいただきましたように、参考人質疑の中でもこのような御意見が供せられたということを私も承知をいたしております。

 犯罪被害者の皆さんの経済的あるいは精神的も含めてサポートをしていく、救済をしていく、そういう支援の体制というのは、今後、より一層充実をしていかなければならないというふうに思います。

 現状では、民事上の損害賠償請求というのは当事者が行うという制度になっておりますので、直ちにこれを使うということはなかなかできませんけれども、それにかわるということではありませんけれども、犯罪被害給付制度などを少しずつですけれども充実をさせてきているということがございます。

 また、犯罪被害者等基本計画の改定、こういうことが今議論をされておりますので、こういう作業の中で、一層充実した犯罪被害者の皆さんの保護のあり方、そして御指摘がありました、損害賠償を国がかわって行うような、こういう課題も含めまして、今後、関係省庁とも協議、検討をしてまいりたいと考えております。

山尾委員 前向きな御回答、御決意ありがとうございます。

 ただ、今は、やはりどうしても民事法の中での損害賠償請求ということに多くを頼らざるを得ない中で、被害者あるいは御遺族の方からちょっと不安の声を聞いております。

 それは、今、債権法の改正が法制審議会にかかっていると聞いております。この中で、債権法の、民法七百二十四条、不法行為の損害賠償請求権の時効が、現在は、損害または加害者を知ったときから三年、あるいは不法行為のときから二十年ということになっております。

 諸外国の債権法の改正の流れを見ると、権利関係の早期確定という要請も含めてどうしても短縮される傾向にあるという中で、犯罪被害における損害賠償というのはちょっと別の要請が働くと思うんですね。なので、この改正の議論の中で、あるいはその答申が出た後かもわかりませんが、ぜひここは切り分けるなどして別のしっかりとした考慮を働かせていただきたいという声がありますし、私ももっともだと思っておるんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 債権の消滅時効期間につきましては、今議論がされているということでございます。

 御指摘がありますように、これは本当に、経済関係あるいはビジネス上の債権関係とはやはり異なって、特に人身被害等については考える必要があるのではないかと私も感じます。

 そういう意味で、これから債権関係の民法の見直しの一環として法制審議会において審議されるものというふうに思いますけれども、やはり、経済的なものとは異なる、そういうところも十分目を配りながら、国民の皆さんの御意見、こういうことにも心をいたしながら議論をしていただけるものと期待をいたしております。

山尾委員 ありがとうございます。

 今回、殺人事件の時効の廃止ということを受けて、私は、魂の殺人と言われます性犯罪被害者の方、あるいはその支援団体の方とも長らく話す機会がありました。ちょっとその声の一端を御紹介させていただきたいと思うんです。

 性犯罪被害は、見た目では被害者であることがわからない、自分の口で伝えることも難しい。だからこそ、裁判という最も公の場で、悪いのはあなたじゃない、あなたは被害者なんだと認めてもらって、生き直す機会を広く確保してほしい。また、ある方は、子供のころに性犯罪被害を受けて、当時は何が起こったのか、自分が何をされたのか、わからないまま届け出できなかった。その後、大人になって、自分の受けた行為が性暴力であることを知った。立ち直るためにできることをすべてやりたいという思いに突き動かされて活動を続けてきた。その思いを時効という壁で阻まないでほしいと。

 実際に、最近も茨城の強姦事件で報道がございました。時効二日前に強姦罪で起訴された男性について同種の余罪が見つかって、さらに時効二日前に追起訴をされた、こういう事件もございます。

 私は、無条件に時効を延長、廃止をするのがいいとは思っておりません。ただ、性犯罪ということについては、三つの特殊性から、やはり延長ということを考えてもいいんじゃないかと思っております。

 一つが、繰り返すという特殊性、後から犯人が発覚する可能性が高い。二つ目が、客観的証拠を残すという特殊性、後から立証できる可能性が高い。そして三つ目が、性的自由を侵害されるという罪種の特殊性、社会全体で一緒に戦う、こういうメッセージを発信する、そういう必要性が高いと思っております。

 大臣、この点、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 今委員が御指摘をされましたこと、私は基本的に本当に同感でございます。そして、その被害の深刻さということも十分理解をさせていただいております。

 今回は、違うメルクマールによりまして公訴時効の廃止、延長という形をとりましたけれども、引き続いてやはり性犯罪についての公訴時効のあり方を考えていかなければならないというふうに思いますし、それから、被害の重大さを考えるときには、性犯罪について、いろいろな、公訴時効のみならず多角的な検討も必要だというふうに思いますので、今後、継続をして私は議論してまいりたいと思っております。

山尾委員 ありがとうございます。

 最後に一点だけ、ちょっと話題がかわりますけれども、先日、竹田委員の方から質問がございました民事法情報センターの件、進展がありましたら、その対処を最後に簡潔にお教えいただければと思います。

滝委員長 千葉法務大臣、時間が来ておりますので、簡潔にお願いいたします。

千葉国務大臣 それでは、細かいところは、ちょっと時間がございません。この問題については、昨日、法人の方から、自主的に解散することとしたいという旨の報告を受けました。今後、この方針に従いまして、私どももしっかりと監督をしながら、この方向を見定めていきたいと考えております。

山尾委員 以上です。ありがとうございました。

滝委員長 次に、馳浩君。

馳委員 自由民主党の馳浩です。

 きょうも、辻先生また山尾先生のお話を聞いていて、もっともだと私も思いました。ちょっとこの法改正は拙速過ぎたんじゃないのかなという印象を持ちながらも、そうはいいながらも、与野党理事で、きょう採決があると聞いておりますので、私なりに思うところもありますので、前回に引き続き質問を続けさせていただきます。

 先般、参考人質疑がございまして、日弁連の江藤洋一さんから反対のビラが配付をされましたので、これに基づいてまず質問させていただきます。

 このビラに、「被害者・遺族の方々の声は多様です」とあり、「公訴時効の廃止・延長をもって被害者救済とするなら、あまりに安易です」と主張されておられます。

 そこで、今回の法改正に合わせて、被害者や被害者家族の支援のあり方を今後どうしていく方針か、検討されたのでしょうか。

千葉国務大臣 御指摘のとおり、公訴時効の廃止をめぐりましては、被害者、御遺族の方々の中にもさまざまな御意見があるということ、それから、被害者の救済のためには経済的、精神的な支援が必要であるという意見が示されているということは、私も十分承知をさせていただいております。また、犯罪被害者に対する支援、これはさまざまなものが考えられるかと思っております。

 本法案では、人の命を奪った殺人等の犯罪について、時間の経過によって一律に犯人が処罰されなくなってしまうのは不当ではないだろうか、こういうことに基づきまして、被害者等の皆さんのいわば感情、こういうもの、それからそれが国民の間で広く共有されるようになっているということを踏まえて、これに対応しようと考えたものでございます。

 ただ、被害者支援そして保護の施策というのは、この公訴時効ということで足りるものでは当然ございません。今後とも、犯罪被害者に対する適切な保護、支援を充実させていくということが必要であろうというふうに思います。

 先ほどの答弁でもちょっと触れさせていただきましたけれども、平成十七年十二月に閣議決定された犯罪被害者等基本計画の計画期間が五年ということでございまして、今後、この計画の改定作業、こういうことが進んでまいります。その中で、一層充実した被害者保護のあり方について、これは法務省のみならず政府全体、関係する省庁が中心となりまして検討をしてまいりたい、そして、よりよき計画を策定させていただきたいと考えているところでございます。

馳委員 もし私がこういう被害者になったり被害者の家族となったとしたらどうだろうかな、こういうふうに私も考えます。できる限り情報が開示されることを望みますし、それによって受けた心の傷とあるいは財産上の負担というものを回復させよ、こういうふうに求めることにもなろうと思いますし、二度とそのような犯罪が行われないような警察また司法の取り組みの強化を求める、こういうふうになるのかなと私も思っております。この被害者、被害者家族に対する支援というものは、政府としてもさらに考えていくべきであると思います。

 そこで、次の質問に移りますが、ある犯罪について公訴時効が成立した後、その事件はどのように処理をされていくのでしょうか。時効が成立したからそれで何もしない、一切終わり、報告もしないということなのかどうか、まず教えていただきたいと思います。

加藤副大臣 先生御存じかとは思いますが、事件送致の一般論から少しお話をさせていただきますと、刑事訴訟法の二百四十六条に規定がございまして、「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、」原則として「速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。」こう定められてございます。この「犯罪の捜査をしたとき」というのに当たるかどうかというのが問題でございますが、これは個別具体的な証拠関係等によって個別に判断をされるということになるわけであります。

 この一般論は、仮に公訴時効が廃止をされたといたしましても、その場合の事件についても同様でございまして、警察においては、犯人が検挙されない限り永久に事件送致ができないということになるわけではありません。すなわち、場合によっては、その証拠関係等から、真犯人がもう明らかにこの世にいないというようなケースも考え得るところであります。この個別具体的な証拠関係に基づいて、今申し上げたような事態に至ったときにつきましては、公訴提起の可能性がなくなるわけでございますので、警察において事件送致をして、検察当局において不起訴処分によって捜査を終結するということがあり得るところであります。

 少し細かな話になりますが、検察における不起訴処分について、裁定主文をどうするかという問題が実はございます。今申し上げたとおり、犯人を特定することができないという意味でいえば嫌疑不十分ということにするのか、あるいは被疑者が死亡したと考えられることから被疑者死亡とすべきか、あるいはまた、今回の法改正に当たって別の裁定主文というものを設けるのか、ここが問題でございますけれども、現在検討している最中でございますので、また鋭意先生方の御意見なども承りながら協議を進めてまいりたいと思っております。

馳委員 素朴な質問ですが、そういうふうに処理をされた案件は、被害者や被害者家族には情報は開示をされないのでしょうか。それとも、何らかの手続をして要求すれば情報は開示をされることになっているのでしょうか。

加藤副大臣 現行の制度で申し上げますと、被害者等通知制度というのがございますので、御希望がある場合には、その不起訴処分等について御通知を申し上げるということになってございます。

馳委員 わかりました。

 では、関連して、民事賠償裁判において賠償判決が出ても、被害者に賠償される機会が少ないと聞いておりますが、実態はいかがでしょうか。

千葉国務大臣 民事で賠償を請求した、そういう際でございますけれども、まず一つは、判決を得て、加害者から訴訟外で任意に支払いを受けるというケースがあろうかと思います。これはなかなか難しいだろう。加害者が任意に支払いをしない場合には、被害者は判決に基づいて強制執行の申し立てをしてそれを取り立てるということになりますが、例えば、加害者、相手方に財産がない、あるいは経済的なそういうものがないということになりますと、なかなかこれも、強制執行はできますけれども、現実にはそれを得ることが困難だということも多いというふうに思います。

 そういう意味で、被害者に対してどのように支払われたか、あるいは強制執行でそれが確保できたかということは、非常に個別の問題になりますし、それから、それぞれのプライベートなところにもかかわるということで、実態の把握というのがなかなか困難でございます。いろいろな形で、確保できた、あるいは全くできない、一部はできた、いろいろなケースがあるというふうに思いますが、これを実態的に把握するというのはなかなか難しいことでございまして、これからも、調査をして把握するというのはなかなか難しいのではないかなというふうには思います。

 ただ、実際の、私のこれまでの経験とかあるいはいろいろなケースを考えてみますと、支払われる機会というのが大変少ない、厳しい状況だろうということが推測はされます。

馳委員 大臣もおっしゃったように、被害者の泣き寝入りが多いというふうに推測されます。民事賠償の代行を国が行い、国が犯人に求償する、こういう制度も限定的に創設すべきではないかと思います。

 私は、二年前にオウム犯罪被害者救済法案にかかわったときに、この求償制度というのが非常に議論の的になりまして、一般のというよりも、特にこういった凶悪犯罪、こういうことについて国が求償制度をもって限定的に救済する、こういうことも考えられる時代ではないのかなとそのときから思っておりましたが、大臣の見解を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 国が賠償した上で求償するという制度、一つの考え方ではないだろうかというふうに私も思います。馳委員も、ほかの課題でも、お子さんの養育費などもこういう制度はどうだろうかという議論があったりいたします。ただ、これについては、結局は国民の税金をみんなでそれに使っていこうということになるわけですので、いろいろな議論が必要になってくるかというふうに思っております。

 そういう意味では、先ほど申し上げましたような犯罪被害者等給付金という制度がございますけれども、それだけではなかなか十分でないという問題もあり、あるいは、そのほかにも、犯罪被害者の皆さんの経済的、精神的な支援をどうしていくかということはこれからも考えていかなければなりません。

 基本計画の改定等もございますので、そういう中の議論も含めて、そして国が賠償して求償するというのは本当に一つの大きな考え方だというふうに思いますので、ぜひ今後の検討の重要な材料にさせていただきたいというふうに思います。

馳委員 これは、だれもが思うと思うんですね。犯罪被害者を、経済的にも、また生活再建においても、さらには日常生活の精神的な支えとなるべく支援が必要だということはだれもが理解をできることだと思います。したがって、私も限定的にという言い方をさせていただきましたが、ここは今後の大きな課題だと私は思いますので、ぜひ大臣にも御理解をいただきたいと思います。

 では、またビラに戻りますが、「何よりもえん罪を発生させる危険性が高まります」と主張されておりますし、巻き込まれの可能性も指摘しておりますが、本当にそうなのでしょうか。冤罪発生の危険を防止する具体策などあれば、お伺いしたいと思います。

加藤副大臣 御指摘のとおり、冤罪といいますか、無実の人が処罰されるようなことがあってはならないというのは論をまたないところでございますし、私も、もちろんそのことは大変強く考えてございます。

 その意味では、公訴の提起に当たって、証拠の吟味というのを慎重にする、あるいはさまざまな条件、要素について十分に留意をしていくということは、当然検察官にも求められるものと思います。

 今御指摘の、時が経過をして証拠が散逸をするがゆえ、被疑者、被告人の防御が困難になって冤罪を生むのではないか、こういう御指摘かと思いますけれども、確かに、証拠の散逸が時とともに進むということは否定しがたいことだろうと思います。

 ただ、一方で、これも先生よく御案内のとおりでありますけれども、公訴の提起におきましては、検察官が非常に重い挙証責任を負っているというのも事実でございますので、一方的に、被疑者、被告人の側だけが不利になるということではなく、その立証の方も難易度が高まるというふうに理解できるのではないかと思います。

 あわせて、刑訴法では、被告人の人権にも配慮をいたしまして、適正な裁判を行う仕組みとしてさまざまな制度が設けられてございまして、証拠裁判主義、自由心証主義、自白法則、伝聞法則、それぞれ定められておりますし、何よりも、疑わしきは被告人の利益にという大原則があるところでございますので、これらの機能が正しく働いている限りにおきましては、裁判も厳格かつ適正に行われるのではないかというふうに考えられます。その意味では、時が経過したからといって、ただ冤罪がふえるという御懸念は当たらないのではないかなというふうに考えます。

 ただ、一言付言をさせていただくならば、そうはいいましても、長期間たって裁判をするというケースが今後あり得るところでございますので、証拠の適正な保管等につきましては、今まで以上に十分な配慮が必要になってくるというふうに考えてございます。

 とりわけ、DNA型の鑑定試料等の保管につきましては、既に予算措置なども講じてございますけれども、警察あるいは検察におきましても、今まで以上に適正を確保していきたいというふうに考えているところでございますので、今後一層、私どもも含めて、先生方の御指摘もいただきながら、重きを置いてこの問題についても取り組んでまいりたいと思っております。

馳委員 ビラに戻りますが、「いまもなお、日本の刑事司法には重大な問題があります」とありまして、取り調べの可視化、弁護人の立ち会い、時間制限の早急な検討を主張しておりますが、大臣の見解を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 日弁連の方からそのような御指摘があることは、私も承知をいたしております。

 取り調べの可視化につきましては、今回の公訴時効の廃止、延長ということにかかわるだけではなくして、今既に、これは取り調べの透明化を図るということを考え、取り調べの可視化の実現に向けていろいろな検討をさせていただいているということでございますので、この御指摘にはどこか適切な時期におこたえをすることができるようになろうかというふうに考えております。

 それから、弁護人の立ち会い権それから被疑者取り調べ時間の制限、こういうことがやはり指摘をいただいております。

 この立ち会い権の保障についても、これもいろいろな御議論があるところでございます。今後また、いろいろな観点から検討させていただく問題ではないかというふうに思っております。

 また、時間制限、これについても、この間一定の、夜間などにわたるようなことがあってはならないとか、あるいは一定の時間ごとに休憩をとるようにというようなことを、検察の取り調べに当たっても実施をしているところでございます。

 なかなかこれを、ではあとどのような形にするかということも、取り調べの実情、時間をじっくりかけて話を聞くというようなケースもあろうかというふうに思います。そういうこともあわせながら、このあり方についてもさらに検討が続けられていくものというふうに承知をいたしております。

馳委員 いずれも検討の課題ということでの認識があるということを私も理解して、次の質問に移ります。

 またビラに戻りますが、「捜査資料・証拠物の全リスト作成と弁護側への開示が必要」と主張されていますが、所見を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 検察官の手持ち証拠の開示、これについても大変御議論のあるところでございます。

 平成十六年の刑事訴訟法の改正によりまして、その範囲が大幅に拡充をされております。しかし、それでも不十分である、そういう御意見もあることは承知をしております。

 当事者間で証拠開示をめぐる争いが生じたときには裁判所が裁定をするということになっておるわけでございまして、今後、この証拠開示に関する制度の見直し、関係者のいろいろな、やはりこれも名誉、プライバシー等々の問題もないわけではございません、そういうことも十分考えつつ、運用状況も踏まえながら、やはりこれも一つの大きな検討の課題であるというふうに認識しております。

馳委員 私は、これはさらに進めるべきだと思っています。証拠がある、本当にその証拠が確実なものなのか、正確なものなのか、それは裁判において挙証されるべきものだともちろん思いますが、弁護側の立場に立てば、あるいは裁判官としても判断をする際に、その証拠が本当にそうなのかということの精度、確度、これをやはり高めていくということが、裁判を、国民に開かれた、そして信頼の置けるものとしていくためにも、私は今の日弁連の御指摘は当然のことだと思っていますので、さらに検討をお願いしたいと思います。

 では、次のテーマに移りまして、公訴時効進行中の犯罪への遡及適用、先ほどから辻先生も御指摘をしておられました。憲法第三十九条、「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」こういうふうにあります。

 では伺っていきますが、今回の法改正、憲法第三十九条の遡及処罰の禁止に反しないかという論点があります。学説は鋭く対立をし、判例は判断を留保していると聞いておりますが、いかがでしょうか。

加藤副大臣 まず、さまざまな研究者の方がいらっしゃいます中、学説の状況につきましても、私がすべてを網羅的に把握しているわけではございませんので、その点は御理解をいただきたいと存じます。

 その上ででありますが、把握している範囲で申し上げれば、まず、消極的な見解として、公訴時効制度は、刑罰を加える必要性が時間の経過とともに消滅、減少するという実体法上の根拠も持っているゆえ、公訴時効期間の事後的な延長は憲法三十九条の根底にある実質的人権保障の原理に反するから認められないという見解があるということは承知をいたしております。

 一方、逆に、積極的な見解といたしましては、公訴時効期間に関する定めは、公訴時効が持つ安定的機能のもたらす利益と犯罪者の処罰を確保する利益とを比較考量して立法者の決すべき事項であり、したがって時効期間の事後的な伸長も許されるという見解でございます。

 先生御指摘のとおり、両論あるわけでありますが、法制審議会の刑事法部会におきましては、そうしたさまざまな御意見、学説も踏まえた上で、憲法三十九条の趣旨というのは、行為者の予測可能性を保障するために事後的な立法による遡及処罰や刑の加重を禁止したものと考えられる、そのため、公訴時効の定めは、犯罪の実行時に、行為者に対し一定期間逃げ切れば処罰されなくなることを約束するものではない、また、仮に行為者がそのような期待を抱いたとしても、その期待は保護に値するものではなく、憲法もそれを保護しているとは考えられない、したがって、公訴時効について、裁判時の法規を適用しても憲法三十九条に違反するものではないという見解が多数を占めたというふうに聞いております。

 判例でありますが、もう御存じのとおりでございまして、犯罪後に実体法の改正を伴うことなく公訴時効期間が改正された場合に、改正後の規定を適用することが憲法三十九条に違反するかどうかについて判示した最高裁判例はございません。

馳委員 私は、この問題は間違いなく違憲訴訟が提起をされると思います。したがって、当委員会でも十分審議をした上で、今回の法改正の立法趣旨を明らかにして憲法三十九条の論議をしておく責務があると思いますが、加藤さん、どう思いますか。

加藤副大臣 参議院も、そしてこの衆議院の法務委員会におきましても、あるいは法案策定過程において、法制審議会も含めてさまざま御議論をいただいてきたところでございますけれども、もちろん十分な御審議をいただくということは必要だと思っておりますが、この公訴時効の改正規定を時効が進行中の事件について適用するということは、私どもは、憲法三十九条の趣旨に反しないということで内閣提出法案としてこの法案を提出させていただいているところでありますが、なお一層、先生も含め、十分に御審議をいただきたいというふうには考えてございます。

馳委員 法解釈において、文理解釈と目的論的解釈の解釈があります。どんな解釈方法か、まずお伝えください。

千葉国務大臣 文理解釈と目的論的解釈というのは、法令の用語というわけではございません。ただ、一般的に言われるように、あるいは私も勉強したような気がいたしますが、文理解釈というのは、法令の規定を、その規定の文字あるいは文章の意味するところに即して解釈をするという考え方でございます。

 また、目的論的解釈というのは、法令の解釈について、その法令の達成しようとしている目的や法令のあるべき趣旨、こういうことをどちらかといえば重視して、その趣旨にのっとって結論を導いていく、こういう解釈の仕方だというふうに言われております。

馳委員 そこで、この文理解釈と目的論的解釈の解釈が対立をした場合、一般論として目的論的解釈が優先されると聞いておりますが、それでよろしいでしょうか。

千葉国務大臣 これも、今考え方を申し上げましたけれども、文理解釈だからといって全くその趣旨とかそういうものが捨象されるということではないというふうに思いますし、それから、目的論的解釈だといっても、では、法令の文言やあるいは文章と全くかけ離れる、そういうことはあり得ないわけでございまして、そういう意味からすると、どちらが優先をするというふうには一概には申し上げにくいのではないかなというふうに思います。

馳委員 では、ちょっとまた意地悪な質問に入りますが、この問題について、憲法第三十九条の文理解釈をすれば、遡及適用は合憲ですか、違憲ですか、どうなりますか。

千葉国務大臣 今申し上げましたように、どちらの解釈をすればという前提でお答えをするというのはなかなか困難なところでございますけれども、あえて分けて考えてみますと、憲法三十九条の文理上、実行のときに適法だった行為を後から処罰することは禁止、こうなっているわけですので、現に時効が進行中の事件は実行のときに適法だった行為なわけではありませんので、この文言上、そのまま考えると、憲法には違反しないということになろうかというふうに思います。

馳委員 では、憲法第三十九条の目的論的解釈で決定的な役割を果たす、この三十九条の立法趣旨について政府はどう考えておりますか。

千葉国務大臣 憲法三十九条は、事前に、どのような犯罪が処罰をされ、そしてそれについてどのような刑罰が科せられるかということを告知して、普通に行為をしている者の予測可能性を保障する、いわば自由の保障ということになりましょうか、こういうことがこの三十九条の趣旨というふうに考えられると思います。

馳委員 今大臣もおっしゃった、行為者の予測可能性を保障するという立法趣旨を重視して、実行時に違法だが刑罰がなかった行為を後から刑罰を定めて遡及適用することや、実行時に刑罰を科されていた行為に後からより重い刑罰を定めて遡及適用することも禁止していると解釈されております。

 私が今指摘したことについて、政府見解も同じであり、この法改正で解釈変更することはありませんね。

千葉国務大臣 今回の法改正でこの考え方が変わるわけでは全くございません。

馳委員 法改正で今問題となっている事例は、殺人罪を例に挙げると、実行時に刑罰を科せられている行為で、後から公訴時効が廃止され、犯人が死ぬまで半永久的に処罰される可能性がある事例となります。この事例は、確かに刑罰が重くなっている事例ではありません。しかし、時間軸という物差しから眺めてみると、二十五年で国家の刑罰権が事実上消滅していたものが、事後法の適用で国家の刑罰権が半永久的に存在することになるわけでありまして、一般人の価値評価からして、時間的観点からして、刑罰が重くなったと受けとめるのが通常であります。

 そうであるなら、さきの遡及適用を禁止している刑罰が重くなった事例と区別すべきではなく、遡及適用を禁止すべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 これも多少繰り返しになろうかというふうに思いますけれども、憲法三十九条が禁止しているのは、先ほどから指摘をさせていただいているように、実行のときに適法だった行為を後から処罰をする、あるいは後から刑罰を重くする、こういうことだというふうに理解ができると思います。それは、先ほどもこれも触れましたように、行為者の予測可能性を保障しよう、こういうものでございますので、公訴時効の定めはここには当たらないというふうに考えております。

 ただ、例を挙げていただいたわけですけれども、やはり、犯罪を行うというか、その行為に当たって、行為者が何年間逃げ切れば処罰されなくなると考えて犯罪に及ぶこと、こういうことが通常であると言えるかというと、大変疑問だというふうに思うんですね。

 加えて、現行法のもとでも、例えば公訴時効の進行というのは、共犯者の一人に対してした公訴の提起によって停止がされる、あるいは犯人が国外にいる場合等にも停止をするというようなことがございます。そういう意味では、公訴時効の期間というのは、犯罪行為の時点で当該犯罪の法定刑を基準とした公訴時効期間に一義的に定まるものではなくて、その後の、今申し上げましたような事情によっても変わってくるということがございますので、そういう意味では、決して三十九条に違反するということはないというふうに考えております。

馳委員 ここは慎重に議論されなければいけないところだと思いますが、実は、ここの価値判断の差が、遡及適用が合憲か違憲かの分かれ道ではないかと私は思います。

 私は、公訴時効期間に対する予測や期待は、憲法三十九条が保護すべき予測や期待だと考えております。公訴時効が廃止された殺人罪などは、一般人から見れば、新たな第二の殺人罪が誕生したことと価値的には同じと言えると思います。それだけ、公訴時効の延長とは別に、その廃止は、実体法の構成要件や刑罰の改正と同視され、刑罰の目的である犯罪抑止効果は確実に上がったと見るからであります。

 大臣の見解を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 第二の新たな犯罪を創設することになるかどうかというのは、いささか委員とはちょっと私も考え方を異にしておりまして、犯罪を犯した場合の刑罰に関する行為者の予測可能性と公訴時効に関するものとは、やはりおのずと性質が違うのではないかというふうに思います。

 また、今回の法整備によって犯罪抑止の効果が期待できる、これは私も一定そのような効果を期待させていただくわけですけれども、これは、今委員が御指摘したような観点からということではむしろなくて、刑事司法に対するいわば信頼、こういうものが、こういう犯罪に対しては決して許さないのだということによって刑事司法に対する信頼が確保される、それから、この種事犯がそういう意味では絶対に許されないということが一層明確になる、こういうことで犯罪のいわば抑止的な効果というのが出てくるのだろうというふうに考えられますので、先ほどの、第二の新しい刑罰をつくるという意味で抑止効果が出るということとはちょっと異なるのではないかというふうに理解をいたしております。

馳委員 そこは私との見解の違いということで、次の質問に移ります。

 有力な学者の中には、憲法三十一条の適正手続条項に違反するという意見もありますが、三十一条との関係ではいかがでしょうか。憲法第三十一条、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」とありますが、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 これも、憲法三十九条ということではなくして憲法三十一条に抵触をするのではないかという考え方、学説、学者さんの中にそういう考え方を唱えておられる方がいらっしゃるということは承知をいたしております。

 基本的に、国家の持つ刑罰をめぐる権能のうちで、訴訟法に関する事項に関する改正、これは、改正の時点で既に発生した犯罪についても適用するものとされるのが一般的でございます。判例においても、上告理由の一部を制限した訴訟手続に関する刑訴応急措置法の規定をその制定前の行為に対して適用して審判をするということは憲法三十九条に違反するものではないというふうにされておりまして、およそ国家の持つ刑罰をめぐる権能を、事後的に改めた上で既に発生した事件に対して適用することが一切禁止されるということではなかろうというふうに思っております。

 御指摘の見解について、憲法三十九条で禁止される事後法には当たらないということであっても、一定の事項については国家がみずからに課した制限を事後的に緩めることが公正ではない、そういう意味では三十一条に違反するのではないか、こういう考え方であろうかというふうに思っております。

 ただ、事後的に緩めることが公正ではないと御指摘をされている理論的根拠というのが必ずしも明らかではない。それから、公訴時効期間を定めることによって国民に対して国家刑罰権行使の期限について約束をした、そういうことではまたなかろうというふうに思っております。

 そういう意味で、公訴時効期間が事後的に変更されないことに関する期待が合理的であり法的保護に値するものかどうかということについては、いささか私も疑問を持つところでございまして、そういう意味で、三十一条に違反するのではないかということは必ずしも当たらないのではないかというふうに私は理解をいたしております。

馳委員 わかりました。

 では、この問題について、先進国の法令や判例はどうなっているんでしょうか。法務省の資料ではアメリカの事例しか紹介されておりませんが、これでは不十分でありまして、アメリカ以外の先進国の実態についても教えていただきたいと思います。

加藤副大臣 米国以外ということでございますので、二カ国、例を申し上げたいと思います。

 まず、ドイツでございますが、ドイツにおきましては、謀殺罪等につきまして、公訴時効期間算定に関する特別の定めというのを設けること、あるいは、公訴時効期間の延長、廃止ということが行われております。これらの改正法は、現に時効が進行中の事件についても適用されたということでございます。

 これについては、判例上、公訴時効期間算定に関する特別の定めをすることによって実質的に時効期間が延長されたという立法につきまして、ちょうど我が国の憲法三十九条とほぼ同じ内容となってございますドイツ基本法第百三条第二項に反しないかどうかということがドイツ連邦憲法裁判所で争われたというふうに承知をいたしております。ドイツ連邦憲法裁判所におきましては、今申し上げた立法の趣旨というのが指摘の基本法には反しないという判断を示したというふうに聞いております。

 もう一カ国、スウェーデンでございますけれども、スウェーデンにおきましては、近時、謀殺罪、故殺罪を含む殺人罪その他の重大犯罪の時効を廃止するという立法を行ったところでございますが、こちらも現に時効が進行中の事件にも適用することといたしているところであります。

馳委員 確認したいことが一点ございまして、平成十六年の改正当時は遡及適用はしないとなっていたと思いますが、いかがでしょうか。そうであるならば、遡及適用を禁止した理由はなんでしょうか。そして、この憲法問題で、ここ五、六年で、つまり平成十六年の改正以降ですね、憲法学界や刑事法関係の学界でこの問題が大きく取り上げられて、遡及適用賛成の解釈が学界の大きな流れになってきたのでしょうか。そういう議論を踏まえて、今回遡及適用という判断がなされたのでしょうか。教えてください。

千葉国務大臣 前回、平成十六年改正の際には、遡及適用をするということにはなっておりません。

 ただ、この十六年改正の際には、この遡及適用について憲法三十九条に反するかどうか、こういう点については、必ずしもそれを判断して遡及適用しなかったということではなく、そのときの立法政策といいましょうか、まとめる範囲として遡及適用ということにはしなかったということだというふうに思いますので、憲法上の問題点の考え方が変わったということではないというふうに御理解をいただきたいと思っております。

 それから、その後について、どのような学説等が展開をされてきているかということでございますけれども、今回の公訴時効の改正が議論されるようになる前に、憲法学界や刑法学界においてどの程度取り上げられていて、それがどんなものかというのは必ずしもつまびらかではございませんけれども、今月二十三日に当委員会に参考人として出席されました東京大学大学院の大澤教授、その参考人質疑の中でこのような御指摘をなさっておられるものと承知をしております。

 これまで教科書類では抽象的に比較的簡単に記述がされておりまして、公訴時効の改正規定を進行中の事件に適用することは遡及処罰の禁止に反するというような一、二行の記述が書かれている例はございますけれども、逆に、これは時効が進行中の事件に適用することについては立法政策の判断であるという見解も示されておりまして、この問題が本当に議論されるということになりましたのが、今回、このような法改正をするに当たって御議論いただき、そして法制審の中でも改めて御議論をされるようになったということでございます。これまでなかなか、これを詳細に議論したというものは余りないように思われます。

馳委員 大臣、済みません。今、平成十六年の改正当時に遡及適用しなかった理由について、ちょっと私の耳が聞き逃したのか、十分に確認できなかったので。

 平成十六年の改正当時に遡及適用はしなかったんですよ。そのしなかった理由は何でしょうかというところをもう一度お願いできますか。

千葉国務大臣 遡及適用しなかったことについては、平成十六年については、公訴時効に関する規定を現に時効が進行中の事件に対して適用することが憲法三十九条に反するかどうかということについて、反するので遡及適用はしないということではなくて、そのときの立法政策といいましょうか、そういう意味でそこまで範囲を広げなかった、こういうことでございます。

馳委員 とすると、聞かざるを得ないのは、今回遡及適用するわけですから、そこまで範囲を広くする理由は何なんですか。

千葉国務大臣 やはり、今進行しているものについて、もう時効が間もなく完成をするというような事例について、では、公訴時効を延長するということが全く適用できないということはいかがなものか、やはりそういうことに対して厳しく、これから将来に向けてきちっと処罰をすべし、こういう意見が高まっているということでございます。

 そして、それについては憲法三十九条に違反をするということでは決してございませんので、そういう意味では、公訴時効を延長し、そしてまた廃止するという趣旨を十分に生かすということを考えたときには、遡及適用ということも当然立法政策として必要であろう、こういうことでございます。

馳委員 今の話を聞いていると、どうしても、平成十六年の改正で見送った、今回は改正するという立法事実としては大変根拠が薄いと私は思わざるを得ないんですね。だから、法制審の刑事法部会で、この点についてどういう突っ込んだ議論がされたのかということを私はあえて聞きたいと思うんですよ。どういう議論をされたんですか。

 どうしても遡及適用しなきゃならぬというふうな立法事実があったり、社会的要請があったのか。私は、この間からの議論を聞いていても、被害者、国民の声というのは確かにあったと思いますが、遡及適用について、そこまでの声があったのかどうかというのは判断できないんですね。いかがですか。

加藤副大臣 法制審議会の刑事法部会における憲法三十九条との関係の御議論でございますけれども、一部を御紹介したいと思います。

 まず、公訴時効は被疑者の利益のためにも存在する制度であり、挙証責任の転換などと同様に、被疑者の実質的地位に直接影響を与える実体法に密接な手続規定として、現に時効が進行中の事件へ改正法を適用することは憲法三十九条の趣旨に反するというたぐいの御意見は確かにございました。

 一方で、憲法三十九条は、行為者の予測可能性を担保するため、事後的な立法による遡及処罰や刑の加重を禁止したものと考えられる、それゆえ、公訴時効の定めはこれには当たらない、行為者に対し一定期間逃げ切れば処罰されなくなることを約束するものではないし、仮に行為者がそのような期待を抱いたとしても、それは法的な保護に値するものではない、それゆえ、憲法三十九条に違反しないという意見もございました。刑事法部会の中でも両論あったというのは事実でございます。

 ただ、最終的には、その法制審刑事法部会の中でも、現に時効が進行中の事件に新たな公訴時効の規定を適用するということについては賛成が多数を占めたということでございますし、私どもとしても、その御意見を尊重させていただきながら、また多くの御議論をいただきながら、最終的にこの法案のような形で御提案をさせていただいているということでございます。

馳委員 このところが、私が実は納得できないところなんですね。

 この法制審刑事法部会の構成メンバーに問題はなかったのかと指摘をします。すぐれて憲法解釈の問題の割には、六名の政府関係者が委員であり、もちろん全員賛成されています。これは多過ぎると思うんですが、いかがですか。学者の委員は五名で、賛成三名、反対二名で拮抗しておりました。十名の賛成者のうち、もう一人の賛成者は被害者代表ですね。

 また、単純な多数決で判断してよかったのかどうか。将来の違憲訴訟の提起が予想される中で、この問題については、今回は結論を留保して、この遡及適用の部分のみ今回の法案提出を見送るべきだったんじゃないのかな。私は、先ほどからの議論、また辻先生のお話も聞いていて思いましたが、遡及適用する立法事実を判断するだけの強い論拠は感じることができませんでした。

 この部分はやはりさらに慎重にすべきではなかったかなと私の意見として申し上げますが、大臣、いかがでしょうか。

千葉国務大臣 法制審議会の委員でございますけれども、これは法務大臣が任命をすることとなっておりまして、部会に属すべき委員などについては、この中から、法制審議会の承認を得て法制審議会の会長において指名をするということになっております。

 このメンバーについては、私も、ふだんから本当に造詣の深い、そして識見高いさまざまな皆さんに入っていただく、そしてまた、いろいろな角度から御議論をいただける、そういう皆さんをということを心がけて、わずかずつですけれども、そういう構成を図るよう努力をさせていただいているところでございます。

 今回も、そういう皆さんのもとで御議論をいただいて、そして、確かに全会一致という課題ばかりではございませんけれども、この法制審議会でも議論が十分尽くされた、いろいろな角度からなされたということになりますれば、やはり一定、多数決で審議会としての結論を出されるということも少なからずあるというふうに承知をいたしております。

 でき得る限り、これは皆さんの納得がいただけるということが大前提であろうというふうに思いますけれども、こういう状況の中で十分な審議を尽くしていただいたということでもあり、その後、政務三役などでも、問題点を改めてきちっと検討、認識をしてこのような形に至っておりますので、決して何か手を抜いていたり、議論が尽くされていない、あるいは今回は見送った方がよかったのではないかということは当たらないのではないかというふうに思います。

馳委員 ここは、私と大臣また政務三役の見解の違いでありますから、あえて私は申し上げます。

 私は、この法案には基本的には賛成します。しかし、公訴時効が廃止される犯罪について、公訴時効の廃止が時効進行中の事件に遡及適用される、これは憲法違反と考え、反対します。したがって、この部分については削除すべきだと主張をして、終わります。

 ありがとうございました。

滝委員長 次に、森英介君。

森(英)委員 千葉大臣が法務大臣に御就任になって七カ月が経過いたしました。ということは、とりもなおさず、私が法務大臣を退任いたしまして七カ月が経過したということでございます。初めての法務委員会での質問をさせていただきますが、よろしくお願い申し上げます。

 今お聞きしておりまして、議論が終局に近づきつつありますけれども、いろいろな論点がいまだ指摘されているということは感じますが、私個人としては、自分の産んだ子が、自分が養育能力がなくなってよそのうちに預けて、いじめられると思っていたら、そうしたら大変いい親でもって、それを育てていただいて成人を迎えそうな、そういう大変感無量の思いでここに立っているところでございます。

    〔委員長退席、樋高委員長代理着席〕

 私が法務大臣を務めましたのは、平成二十年九月からの約一年間でありました。ちょうど司法制度改革の大詰めの時期に遭遇したということもあるかもしれません、実にいろいろな出来事がございました。今から思い返してみても、なかなかに大変な毎日でありました。次から次へとさまざまな、かつ困難な判断を求められ、本当に緊張感の抜けない毎日だったというふうに思い起こします。

 千葉大臣、加藤副大臣、中村大臣政務官におかれましても、この七カ月間、外からうかがい知ることのできない大変な御苦労を重ねられて、みずからの職責をこなされてきたのではないかと拝察をいたします。本当に御苦労さまですと申し上げたいと思います。

 法務省は、やや地味な印象ではありますけれども、我が国の基本的な社会秩序、法秩序の根幹を担っている役所であるというふうに思います。この役所がしっかりしていないと、我が国の土台がぐらついてしまう、こういうことにもなりかねない、つくづくそう感じるものであります。政務三役の方々のこれまでの御努力に深く敬意を表するとともに、今後一層の御活躍を期待いたしたいと思います。

 さて、私は、法務大臣の職責を担っていたものの、千葉大臣のような法律家ではございません。私は、国会議員になる前は民間企業のエンジニアをしておりましたし、どうひいき目に見ても、専門的な法律知識を十分持ち合わせているとは申せません。また、国会に参りましてからも、法務行政には余りかかわりを持ってまいりませんでした。つまり、およそ土地カンのない分野のトップに突然なってしまったわけです。

 しかしながら、私の在任時は、時あたかも、裁判員制度が実際に開始されるなど、法務行政の中に法律の玄人ではない一般の人々の感覚を取り入れようという時期でもありました。そういうわけで、私のようないわばずぶの素人が法務行政を担うというのも一面においてタイムリーであったのかなと、ひそかにみずからを慰めているところでございます。

 私は、法務行政をつかさどるに当たりまして、何よりも、いわゆるコモンセンス、国民の常識に軸足を置こうと思いました。大変前置きが長くなりましたけれども、今回の刑事訴訟法改正につながることとなった凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する省内勉強会の立ち上げもその一環だったということを申し上げたいわけでございます。

 ところで、ここでちょっとわき道にそれますけれども、私は、自分が法務行政をお預かりしている間、党利党略はもちろんのこと、一時的な国民世論のみに依拠して法務大臣としての判断を行ったことは一度たりともなかったと自負をしております。法務大臣としての判断は、我が国の基本的な社会秩序、法秩序を担っている者の判断であって、大きく言えば、天下国家のためでなくてはならないというふうに思います。

 私が在任中、一番心外であり、また憤りを覚えたことは、現在の総理を初め当時の野党の皆さんから、私があたかも党利党略のために法務大臣としての権限を行使しているかのような、いわれのない中傷誹謗を受けたことであります。きょうは法案審議でありますので、多くを申し上げません。しかし、私の言わんとすることの意味、そして、そのようなことがあってはならない、実際問題としてあり得ないことは、現在与党として実際に法務行政を担っていらっしゃる政務三役の方には語らずとも理解していただけるのではないかというふうに思います。

 話を戻します。

 私は、法務大臣として判断を求められる事柄の多くは我が国の基本的秩序にかかわることですから、何事につけ、さまざまな立場の方々また専門家の方々などの御意見をお聞きし、省内においても十分な議論を重ねた上で物事を決してきたつもりです。公訴時効勉強会の立ち上げについても全く同様でありました。

 その当時から、犯罪被害者団体を中心に、重大事件に限っては、あるいは重大事件に限らずとも公訴時効を廃止すべきとの御意見がありました。私なりに考えてみますと、この公訴時効の問題に関しては、そうした犯罪被害者団体の御意見は十分尊重すべきであることは申すまでもありませんが、それはそれとして、いまだ国民全体としては十分理を尽くした議論がなされていないのではないかという思いを抱きました。すなわち、立場によっていろいろな見方はある、そしてそれぞれにそれなりの主張はなされている、しかし、合理的かつ科学的な結論に立ち至るような議論がいまだなされていないという印象を持ったのであります。

 その時点で私は、公訴時効を廃止すべきといった一定の方向性を持っていたわけではありません。まずは国民全体の議論を深める必要がある、そして、そのためには、法務省内において地に足のついた十分な議論を行うとともに、その内容を可能な限り国民に公表して議論を喚起していく必要があると考えたわけでございます。そのような思いから、凶悪・重大犯罪の公訴時効の在り方に関する省内勉強会を立ち上げました。そして、実務的な作業グループとして、このテーマに大変熱心であった当時の早川忠孝大臣政務官を座長とするワーキンググループを設置いたしまして、検討を進めさせることといたしました。その結果、今回の法改正につながる取りまとめがなされたものです。

 その後、先ほど申し上げたように、政権交代が起こり、千葉大臣に引き継がせていただいた際には、実を申せば、民主党の掲げておられた政策とは違う方向性の本件は、恐らく日の目を見ないだろうと半ばあきらめておりました。しかし、法制審議会の御審議を経て、ほぼ私どもの勉強会の結論に基づいた法案を国会に御提出いただきまして、その成立を目前にしていることは、重ねて申し上げますが感無量の思いであります。これまでの真摯な検討の成果であると同時に、現政権においても被害者の方々を含む国民世論を正しく受けとめていただいたということではないかと、率直に評価している次第であります。

 なお、今回の法案については、国会審議の中でも、現に本日の御議論を伺っていても、与野党を問わず、検討が拙速だったのではないかという御意見を耳にすることがしばしばあります。この点については、当初からこの問題を検討する場に加わった者として何とか誤解を解きたいと考えているところでございまして、法制審議会、その後の法務省の政策会議等における検討については既に大臣から詳細に御説明をいただいているところでありますので、本日は省内勉強会のことを中心にまず伺いたいと思います。

 まず、千葉大臣にお伺いいたします。

 法務省において省内勉強会を設置してこの問題を検討することとした経緯はどのようなものだったか、改めて法務大臣に確認をさせていただきたいと思います。

    〔樋高委員長代理退席、委員長着席〕

千葉国務大臣 森理事におかれましては、前任の法務大臣として、さまざまな法務行政について新しい土台、あるいは種をまいていただいたものではないかというふうに思っております。それを引き継ぎました私、養育を託されたということではございますけれども、養育をする者もまたなかなか力足らずでもございますし、養育方針がいささか異なるところもあるのかもしれませんので、必ずしも、まいていただいた種、このように育っていくんだろうなと思ったものが違う青年に育ってしまうというところもあるかもしれません。しかし、この間の土台づくりに、私も心から敬意を表させていただきたいと思います。

 この公訴時効につきましても、その折に法務省において省内勉強会が設置をされて、そして検討をされてきたというふうに承知をさせていただいております。

 この経緯でございますけれども、平成二十一年一月、当時、被害者の遺族の方々を中心として、殺人等の凶悪重大犯罪の公訴時効のあり方について見直しを求める声が高まっていた、こういう中で、そこで、この点に関するさまざまな御意見を参考にしながら、殺人等の凶悪重大犯罪の公訴時効のあり方について検討を行うために省内勉強会が設置をされ、そして、結論ありきではなくて、そもそも制度改正が必要かという根本的なところからスタートをされて、そして公訴時効制度の趣旨等の基本的理解、公訴時効に関連する事件の実情等も踏まえながら、理論的整合性にも十分配慮しながら、さまざまな観点から検討が行われることになったと私も承知をし、受け継ぎをさせていただいてきたところでございます。

森(英)委員 ありがとうございます。

 この省内勉強会については、昨年の三月までに検討すべき論点を整理して取りまとめを公表した後、さらに検討を続け、昨年の七月に最終的な取りまとめを行って、制度改正の方向性を打ち出したものと理解をしております。

 私の認識では、三月の取りまとめの時点で、現在この問題について論点となっている点については意識的に検討の対象に掲げられていたのではないかと考えております。

 法務省が三月に公表した中間取りまとめにおいて、どのような論点について検討すべき対象であるとして掲げていたのか、お伺いをいたします。

千葉国務大臣 三月に公表された中間的な取りまとめ、これは、私は逆に、当時は一議員として、そしてまた法務委員会等に所属をする者としてこの中間的な取りまとめを拝見させていただいたという経過がございました。

 この中間取りまとめにおきましては、見直し方策をとるにしても、共通して問題となる論点として、平成十六年改正との関係を含めて公訴時効制度を改正する必要があるのかどうか、それから、訴追までの期間が長期にわたると被告人の防御が困難にならないかどうか、公訴時効制度の趣旨として指摘される事実状態の尊重との関係をどのように考えるか、同じ公訴時効制度の趣旨として指摘される処罰感情等の希薄化との関係をどのように考えるか、対象犯罪の範囲についてどのように考えるのか、公訴時効制度を見直す場合に現に時効が進行中の事件にも適用することとするかなどの点が挙げられておりまして、そういう意味では、この委員会等でも御議論をいただき、私どもも、その後、法制審も含めて検討させていただいてきた論点がここで出されている、提起をされていたものではないかというふうに受けとめております。

森(英)委員 ただいまお答えがありましたように、例えば、平成十六年に既に公訴時効期間の延長という改正が一度行われており、この法整備との関係をどのように考えるか、あるいは証拠の散逸によって被疑者、被告人の防御にどのような影響が出るかという点についても昨年の三月末の時点で既に認識をされていたということでありまして、この問題が刑事司法における重要な課題であって、国民的な議論が必要ではないかという観点から問題提起をするという趣旨も込めまして、私の方で中間的な取りまとめの公表を指示させていただいたところです。

 このように、法整備について、問題点を洗い出す当局の報告書まで公表し、オープンな形で検討を進めていったものは、法務省の特に刑事の法案ではまれではないかというふうに思っております。このような形での検討を進めた法案はほかにあるでしょうか。そんなに古くさかのぼらないで結構でございますので、何かありましたら教えていただきたいと思います。

千葉国務大臣 おおよそ十年間ぐらいのスパンで考えてみますと、このような形で問題点を提起する、洗い出して報告書を公表するというようなものはなかったのではないかというふうに思います。

森(英)委員 大変まれな、非常にオープンな検討の仕方であったということを改めて感じるわけでございますけれども、この中間的な取りまとめで掲げられた問題点について、法務省内だけでなく、幅広く、公訴時効の問題に関係する外部の方々からも御意見を伺って議論を深めていこうという考えから、省内勉強会において、昨年四月以降も検討を継続していったというふうに記憶しておりますが、この昨年四月以降の省内勉強会の活動として、どのような外部の方々から御意見を伺ったか、法務副大臣にお伺いをいたしたいと思います。

加藤副大臣 森前大臣の御尽力でスタートをされた省内勉強会とは存じますが、お尋ねでございますので、私の方からお答えを申し上げたいと思います。

 平成二十一年の四月以降、被害者団体、警察庁、日弁連、そして大学の先生方、こうした皆さんからの御意見を承ったということを聞いておりますし、また、パブリックコメントに準じた手続によりまして、広く多くの国民の皆様からの御意見をお聞かせいただいたものと承知をいたしております。

森(英)委員 今御答弁いただきましたように、省内勉強会においても、国民の皆様一般からパブリックコメントに準じた形で御意見をお寄せいただいたというふうなことでありますけれども、これに対してどれくらいの御意見が寄せられたのか。

 またさらに、その後、今、千葉大臣の時代になってから、法制審議会と並行して、さらに重ねて二回目の意見募集を行われたというふうに聞き及んでおりますけれども、これに対してどのぐらいの御意見が寄せられたのか。

 さらに、この種の意見募集に寄せられた意見の数として、これら二回の意見募集で寄せられた御意見は一般的に見て多いのか少ないのか。

 そういったことを含めて、副大臣にお伺いいたしたいと思います。

加藤副大臣 まず、一回目というのが二十一年の五月から六月にかけての意見募集手続でございます。こちらでは合計三百四十一件の御意見をちょうだいいたしました。続いて、私どもが政権をお預かりした後でございますが、昨年の十二月から本年の一月にかけまして二回目の意見募集手続を法制審の議論と並行してさせていただきました。こちらには合計四百五十八件の意見をいただいております。

 この数が多いか少ないかというのは、なかなか一概に申し上げるのは難しいとは思うのでありますが、近年の刑事司法関連の意見募集の数と比較をしてみますと、これまで、最近でいいますと、例えば、裁判員の辞退理由についてということで意見募集などをいたしておりますが、そのときには三十八件とか四十五件とか、二けたでございますし、また、被害者等による少年審判の傍聴の導入、これも法改正がなされましたけれども、このときの意見募集につきましても七十八件というふうに承っておりますので、その意味では、一けた多い数でありますから、相当国民的な御関心が強かったのではないかというふうに考えられるところでございます。

森(英)委員 今お答えありましたように、一般の方からも大変多くの御意見が寄せられて、そういう意味では、要するに、独断専行じゃなくて、いろいろな御意見を踏まえた上での検討だったということが言えると思いますが、こうした外部の方々の御意見を踏まえまして、省内勉強会で、予断を持たずにあくまでも客観的、理論的な取りまとめを行ったものでありまして、この最終取りまとめは、先ほどの中間的な取りまとめで掲げた論点に対する考え方や、この制度見直しの方向性といった根幹の部分において、今回の法案、さらにはこれに対して大臣から御答弁いただいている内容と基本的に軌を一にするものであるというふうに考えております。

 この最終取りまとめにおいて、法務省としてどのような制度見直しの方向性を提示していたのでしょうか。改めて法務大臣にお伺いします。

千葉国務大臣 昨年七月に公表されました取りまとめでございますけれども、この取りまとめの中で、公訴時効の見直しについて、殺人罪などの重大な生命侵害犯については、その中で特に法定刑の重い罪の公訴時効を廃止する、それ以外の罪についても公訴時効期間を延長する方向で見直すのが相当、こういう大きな骨格、考え方が示されているというふうに私は承知をいたしております。そういうものを私も引き継いでまいりました。

 もっとも、廃止、延長の対象犯罪の範囲でありますとか、延長する場合の具体的な年数などの具体的な内容とか、廃止する場合に捜査を行うに際して時間的制限がなくなることにより生ずる問題への対応などについてはさらに検討が必要である、あるいは、刑の時効についても、公訴時効の見直しの内容に整合するように見直すことが相当ではないか、こういうことがこの取りまとめで示されているところでございます。

 また、現に時効が進行中の事件の取り扱いについて、これについては憲法上許されるのではないかと考えられるが、その当否を含め、さらに慎重な検討が必要ということで、大きな骨組みを提起いただき、具体的な範囲等々についてさらに十分に議論をすべし、こういう提示がされていたものと承知をいたしております。

森(英)委員 今御答弁にありましたように、勉強会ではその制度見直しの方向性は提示したものの、やはり今後もうちょっと詰めなきゃいけない部分というのが幾つか残されたわけでございます。そうした勉強会で固まっていなかった部分について、さらに法制審議会等で検討を加えられまして今回の法案のベースとなる要綱骨子が固まったものと理解をしておりますけれども、さらにそれを踏まえて政務三役において今回の法案の内容が決定されたと思いますが、省内勉強会の結論と今回の法案を比べまして、検討が進んだ部分というのはどこなのかということを伺いたいと思います。

千葉国務大臣 先ほど答弁させていただきましたように、大きな、基本的なところについては取りまとめがなされ、提示がされていたものだというふうに思います。しかし、その段階では、先ほども申し上げましたように、公訴時効の廃止、延長の対象犯罪をどうするか、延長する場合の年数はどの程度がいいのか、あるいは時効が進行中の事件に適用することが政策的に妥当かどうか、それにプラスして、刑の時効の方も見直しはどうしたらいいのか、こういうことについて、その後、さらに検討をさせていただいたということでございます。

 法制審の御議論をいただき、そして政務三役におきましても多くの皆さんの御意見も拝聴しながら検討をさせていただきまして、今回のような内容にまとめさせていただいたということでございます。

 最終取りまとめでさらに検討が必要とされている部分についても、例えば、先ほど言いましたように、具体的にはもう法案の内容になっておりますのであれですけれども、骨格に基づいて、具体的な範囲等、そういうところにその後の検討をさせていただいたということかと思っております。

森(英)委員 ちょっと後先になりますけれども、その過程において千葉大臣は昨年十月に法制審議会に諮問をされたわけでございますけれども、公訴時効について見直しの必要があるという基本認識は恐らく共通していたのだというふうに思いますが、法制審議会に対しては、省内勉強会の結論を具体化した骨子案を提示なさらずに、いわば白紙で諮問をされたというふうに伺っております。検討の中身を法制審議会にゆだねたような形になっているわけでございますけれども、なぜこのような諮問になったのか、法務大臣として、あるいは法務省の政務三役として御議論なさった上で、どのような御判断からこういう形での諮問になったのかについて御説明を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 これまでの省内勉強会等を通じまして、さまざまな幅広い観点から方向性が出されてきたものだというふうに承知をしております。しかし、この公訴時効のあり方については、先ほど、意見募集のときに大変多くの皆さんからの意見が寄せられているように、国民の意識、御関心も大変高いということもあります。また、刑事司法の基本的なあり方にもかかわる重要な問題でもあり、そういう意味で、さまざまな考え方も既に出されていたということもございます。

 そういう意味では、さらなる多角的な見地から御議論をいただく、いろいろな考え方も一つの考え方の材料ですね、そういうものにもしていただきながら、幅広く検討していただくことが必要であろうということを考えまして、そういう意味では、法制審に専門的な見地から、あるいは幅広い有識者の皆さんの御意見も踏まえながら忌憚のない御議論をいただきたい、こういうことで、方向性を示さずに諮問をすることが適当ではないかということで、このような形をとったところでございます。

 そういう意味では、これまで省内勉強会でいろいろと問題点を整理していただいたこと、あるいは、その後、それを受けて、例えば私ども、当時民主党などでもいろいろな議論をさせていただいていたという経緯もあります。そんなさまざまな意見をやはり十分に法制審議会という場で見直していただく、そういうことが必要であろうということで、白紙で諮問をさせていただいたということでございます。

森(英)委員 ちょっとこれは質問通告を申し上げておりませんけれども、大臣に、その法制審の結果が出たときの感想はいかがでございましたか。

千葉国務大臣 白紙で、しかも後ろを切るわけではなく諮問をさせていただきました。しかし、大変熱心に御議論をいただいたと伺っておりまして、そういう熱心な御議論の中でいろいろな考え方も十分に検討いただいて、国民の皆さんの期待にこたえるために、本当に、できるだけ早く、そしてまた十分な議論での結論を答申いただいたということで、大変私もありがたく、そして、これを生かしていかなければならないと感じた次第でございます。

森(英)委員 ありがとうございます。

 先ほど伺いましたとおり、省内勉強会は、今後の検討にゆだねるとしておりました事項には、人を死亡させた犯罪のうち、公訴時効期間を延長する場合の具体的年数が含まれていたわけでございますけれども、今回の法案においては、公訴時効期間を延長するものについて、現行の公訴時効期間のほぼ二倍にすることとしております。これはどのような理由に基づくものなのか、法務大臣に伺いたいと思います。

千葉国務大臣 今回の公訴時効については、まず前提として、刑罰についておおよそ三つの区分ができるのかというふうに思っております。

 人を死亡させた罪という特定の罪種を特別扱いする場合でも、法定刑を基準として公訴時効期間を定めることは維持する以上、当該罪種の中でも法定刑に応じてやることが大事だと。そういう意味では、三つの分類に法定刑が定められているのではないか。

 一つは、法定刑として無期刑が定められているものというのは、故意の犯罪行為により人を死亡させた結果的加重犯のうち特に悪質なもの、こういうものが大体無期刑が定められている。それから二つ目は、法定刑として有期刑の上限である二十年を選択できるように定められているものというのは、それ以外の故意の犯罪行為によって人を死亡させた結果的加重犯が大体こういう刑罰だと。それから、それ以下の懲役刑または禁錮刑が適宜定められているものは、過失によって人を死亡させた場合等が該当すると。大体こういうふうに分けられるのではないかというふうに考えました。

 そこで、このような、人を死亡させた犯罪における法定刑の範囲に照らして、無期の懲役または禁錮に当たる罪、それから、長期二十年の懲役または禁錮に当たる罪、その他の懲役または禁錮に当たる罪という三つの区分を設けて、その区分ごとに公訴時効期間を定める、こういう考え方でよろしいのではないだろうかということでございます。

 ほぼ二倍とした理由ですけれども、公訴時効期間というのをどれくらいにするかというのは、別に定めがあるわけではございません。論理的にこうでなければならないということはなかろうかというふうに思いますけれども、生命侵害犯については、その法益の回復困難性から、時の経過による処罰感情等が希薄化する度合いや事実状態の尊重の必要性にも、おのずから差異がございます。生命侵害犯以外の罪の公訴時効期間と比べて、相当程度延長することが相当だろうと。

 他方、無期懲役を軽減した場合、有期懲役を加重した場合における有期懲役の上限が三十年ということでもございますので、また、現行の刑の時効の上限が三十年ということになりますので、人を死亡させた罪で無期の懲役または禁錮に当たる罪については、大体現行の十五年の二倍の三十年、こういうことが相当ではないか。それに応じて、ほぼその他も二倍の期間ということにすることが妥当と考えられるのではないかということでございます。

 論理的になかなか整理をできるものではございませんけれども、このような考え方に立って、ほぼ二倍という考え方をとらせていただきました。

森(英)委員 ありがとうございます。わかりました。

 この公訴時効の問題については、マスコミ等の関心も非常に高くて、テレビなどでもたびたび特集が組まれているところです。この法案の検討過程における御批判としては、先ほど来の御議論にも出ておりますけれども、国民的な議論が足りないとか、それから、被害者の声に引きずられ過ぎてはいないか、被害者感情だけが今回の改正の理由になっているのではないかという御意見を再々耳にするところであります。

 省内勉強会を初めとして、その後も含めて、法務省における検討がそのような御批判には必ずしも当たらないという内容であったのかどうか、その点について法務大臣の御所見を伺いたいと思います。

千葉国務大臣 森前大臣の当時からスタートされました省内での勉強会、こういうものも、確かに被害者の皆様のお声、国民の皆さんの声が高まっている、そういうことが一つの契機になってきたということはあろうかというふうに思っております。

 しかし、省内での検討も二回にわたって行い、二回にわたって国民の皆さんの意見も聴取をさせていただくというようなこともさせていただき、あるいは、法制審議会での時間を十分に尽くした議論をしていただく、こういうことを考えてみますと、決して、被害者の皆さんの声だけを取り上げたということではなくして、やはり国としての姿勢をどう示していくのか、それから、刑罰のあり方、あるいは公訴のあり方ということはどうあるべきかということも十分に検討させていただきながら結論を得たものだというふうに思っております。

 ただ、やはり被害者の皆さんの声、国民の声というものに耳を傾けるということも当然これは大事なことでございまして、こういう声も踏まえながら、しかし、十分な法的な、あるいはそごのない、いろいろな御議論を踏まえて結論を得たということで、決して、何かに引きずられたとか、あるいは偏ったという議論であったとは、私も思っておりません。

森(英)委員 私も当初からこのテーマにかかわった者として、確かに、今大臣がおっしゃるように、被害者の方々のお気持ちというのは十分に尊重すべきものではあると思いますけれども、検討そのものは、余りそう予断を持たずに、客観的、中立的、理論的になされたというふうに私は感じているわけでございまして、その点について、ぜひとも多くの皆様方の御理解をいただければというふうに心から期待をするものであります。

 省内勉強会以降、法制審議会における検討の過程においても、先ほど伺ったように、その世論調査が実施されたわけでございますけれども、これは直接的には内閣府で実施されたものだと思いますが、これは法務省から依頼をされるというふうに思いますが、昨年の段階でこの問題について世論調査を改めて行おうと思われたのはなぜかという点について、法務大臣に伺いたいと思います。

千葉国務大臣 御指摘のとおり、平成二十一年、昨年の十一月二十六日から十二月六日にかけて実施がされました。そもそも、基本的法制度に関する世論調査ということが定期的に行われております。そういう世論調査の中で、公訴時効制度に対する国民の意識も調査をさせていただくことになったということでございます。

 やはり公訴時効の見直しというのが、刑事司法のあり方にかかわり非常に重要な問題でもございますし、幅広く多角的な観点から検討する必要もあり、また、国民の皆さんのさまざまな御意見が寄せられているというようなこともございました。そういう意味では、改めて国民の意識を調査するということが大切であろうということで、基本的法制度に関する世論調査ということの一環として行わせていただいたということでございます。

森(英)委員 ありがとうございました。

 さて、遡及適用の問題に入りたいと思います。

 民主党の政策集インデックス二〇〇九に掲げておられる案や、法制審議会で検討された、検察官の裁判官に対する請求とそれに基づく裁判官の決定により、時効の進行が一定の期間停止、中断する制度を導入する案などの、個別の事件の公訴時効について特別扱いを認める方策においても、当然、過去に発生した事件に適用するか否かが問題になると思います。しかるに、民主党案ではこの点について何ら言及がなく、このような事件に適用されるか否かがそもそも明らかでなく、また、この点についても果たして詰めた検討をしておられたのかどうか、失礼ながら疑問に思っているところでございます。

 また、法制審議会で日弁連関係の委員から提出された、一定の証拠がある場合に検察官の公告によって時効を中断する制度を導入する修正案では、明示的に過去に発生した事件に対しても適用することを認めているところですが、衆議院、参議院の今回の参考人の日弁連関係の弁護士の先生方は、これについて、憲法上の問題があってすべきではないとお二人ともおっしゃっておられたわけです。

 しかし、今回の法案のように、対象となるすべての事件について公訴時効を一律に廃止、延長する方策とこのような個別的取り扱いをする案とでは、憲法三十九条の遡及処罰の禁止の条項に違反するか否かについての考え方が異なってくるということになるんでしょうか。その点についてちょっと確認をさせていただきたいと思います。

千葉国務大臣 公訴時効について、対象となるすべての事件について一律に廃止、延長するという考え方と、それから、個別の事件の公訴時効の進行について個々特別の扱いをするという考え方と、出されておりました。

 ただ、いずれも、公訴時効の進行について、その完成をいわば阻むわけですね。実質的に公訴時効完成までの期間をより長くするという意味では共通をしているわけでございまして、当該制度が適用される事件に関する限り、時効完成までの期間が延びることは共通するわけです。

 そういう意味で、当該制度が現に時効が進行中の事件に適用されることが許されるかという問題は、いずれの方策でも同様に生ずるものでもございますので、どっちかの方策を採用したから、憲法三十九条の遡及処罰の禁止の条項に違反するか否かについての考え方がそれと連動して異なってくるというわけではないというふうに理解をいたしております。

森(英)委員 今の大臣の御答弁にあったように、憲法第三十九条との関係でいったら、どちらの考え方も、問題であれば問題だし、問題でなければ問題でないということだと思いますけれども、私もそのとおりだというふうに思っております。

 次に、先週、参考人としてお話を伺った大澤教授は、公訴時効を訴訟を行う時点における基準として理解すれば、犯罪行為の時点の事柄について定めたものではないので、現に時効が進行中の事件について公訴時効に関する改正法を適用することは、何ら保護に値する信頼を裏切るものでないとお述べになりました。私としては、これは非常に説得力のある論旨ではないかと思っております。

 この御所見に関連して若干確認しておきたいわけでございますけれども、まず、刑罰に関する規定と異なり、訴訟法に関する規定については新法を適用することが原則とされているのはなぜでしょうか。法務大臣に伺います。

千葉国務大臣 これは、私が論理をつくったわけではございませんけれども、訴訟法上の規定については裁判時のものを適用するのが原則でございまして、事後法の禁止は適用されないとするのが一般的な学者さん等の理解ではないかというふうに思います。

 その理由については、予測可能性を保障するという観点から事後立法が禁止されているわけでございまして、行為規範である実体法規とは異なって、訴訟法規というのは、その性質上、将来の訴訟行為について適用されるべき手続規範であるということに求められるというふうに解されているものだと承知をしております。

森(英)委員 ありがとうございます。

 では、法務省として、改正法を現に時効が進行中の事件に適用することは、法定刑によってあらかじめ期間が定められている公訴時効の実体法的な側面に矛盾するという趣旨の先週の江藤参考人の御意見についてはどのように考えていらっしゃるか、伺いたいと思います。

千葉国務大臣 公訴時効には実体法的な側面があるとする見解があるということは承知をいたしております。要するに、実体法的側面を有するという考え方というのは、法定刑の重い重大犯罪ほど長期の公訴時効期間が定められている、法定刑を定めるに当たって考慮すべき要素である違法性の程度や責任の重さというのが、公訴時効期間を定めるに当たって考慮すべき要素となる処罰要求の希薄化及び事実状態の尊重等の点にも影響を与えるのではないか、また、そのために実体法で定められた法定刑が公訴時効期間を定める基準となっている、こういうふうに考えている考え方ではないかというふうに認識をいたしております。

 しかし、公訴時効の進行というのは、これは前の質問にもお答えをいたしましたが、共犯者の一人に対してした公訴の提起によって停止をすることがある、あるいは犯人が国外にいる場合等にも停止するということなどから考えますと、公訴時効の期間というのは、犯罪行為の時点において当該犯罪の法定刑を基準とした公訴時効期間に一義的に定まるものではなくて、犯罪後のさまざまな事情も踏まえて、有罪、無罪を決する刑事裁判手続を行うかどうかを判断する時点で問題とされる、また時効完成の場合に無罪ではなく免訴になるということなども照らし合わせますと、公訴時効は訴訟要件であって、あくまでも訴訟法上の規定であるということが明らかではないかと思います。

 そういう意味で、公訴時効制度が上記のような実体法的な側面を有しているというところはございますけれども、現に時効進行中の事件について改正法を適用することが許されないということになるものではないというふうに考えております。

森(英)委員 ありがとうございました。

 次に、医療過誤の問題について触れさせていただきたいと思います。

 先ほど、省内勉強会で示された「制度見直しの方向性」では、人を死亡させた犯罪のうち、どの範囲で公訴時効期間を延長するかについてはその後の検討にゆだねられていたというふうにお答えいただきました。すなわち、業務上過失致死罪などの過失犯についても対象とすることはその後の検討で定められたということになります。そのように判断された理由についてお伺いいたしたいと思います。

千葉国務大臣 医療事故が発生した場合に原因究明が適切に行われることというのは、同様の事態の再発防止、こういうことのために大変重要なことだと認識をいたしております。

 今後、医療過誤に対する刑事責任の追及のあり方については、医療の安全を期待する国民の考え方、それから原因究明を求める患者さんや御遺族の皆さんの意識、現場で医療に携わるお医者さん方等からさまざまな御意見を伺って、関係省庁とともに検討しなければならないものだというふうに思っております。

 一方では、先端的な医療の抑制などにつながっていくということも避けなければなりません。そういうことも大変難しい問題でございます。

 そういうことも踏まえつつ、今後検討をしていくつもりでございます。

森(英)委員 法務省としてのお取り組みというのはそういうことになるんだと思います。

 次に、厚生労働省、足立大臣政務官にお伺いいたしたいと思います。

 業務上過失致死罪にはいろいろな類型があって、医療過誤だけ切り出して公訴時効について特別扱いするのは技術的に困難であるということは認めざるを得ないというふうに思います。また、医療過誤に対する刑事司法のあり方は、公訴時効という狭い観点から検討するのではなくて、もっと広い観点から検討すべきものだと思われます。

 医療は複雑で、高度で、また専門的な領域の業務ですし、また、もともと患者の生命を救い、症状を治そうという目的で行われる行為であります。このような点を踏まえて、医療行為について、どのような範囲で処罰すべきか否かを正確に認定していくのか、医療過誤に対しては刑事司法以外にも行政的に対応すべき余地も大きいのではないか、医者、患者、司法、それぞれの立場からどのような仕組みが最も望ましいかを検討していく必要があるというふうに考えております。

 この問題について、私ども前政権下においては、法務省も協力しつつ、厚生労働省を中心に、医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案等を発表しておりました。この試案は、医療過誤に対する刑事責任についてどのような内容の案だったか。また、長妻大臣からこの試案について、このままを成案とすることは今のところ考えていない旨国会で答弁されているというふうに承知をしておりますけれども、今後どのような検討をお進めになっていくのか、政務官にお伺いいたしたいと思います。

足立大臣政務官 お答えいたします。

 今の御質問で、医療における業務上過失致死とは何なのかという問題点と、今まで検討されてきた過程の中で、では、医療とは何なのかという二つのテーマがあるように思われます。

 そこで、厚生労働省の検討の過程ですが、これは御案内のように、十九年に、診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会を設置しました。そして一昨年、平成二十年ですが、第三次試案そして大綱案というものを出しました。パブリックコメントをいたしたところです。

 私ども、といいますのは民主党ということですが、この案に対する認識といたしましては、死亡が起きた時点、亡くなった時点で医療はそこで一たん終わり、その後は死因究明等責任追及の方に移っていくという認識をこの大綱案については持っております。

 そこで、民主党といたしましては、千葉法務大臣を初めとして、その約三年ほど前からこの問題を検討しておりまして、診断、そして告知、そして治療、そして不幸にして亡くなった場合の死因究明、それらは全部一連の医療のプロセスであるというとらえ方をしております。医療事故が発生した際には、まず当事者間で納得を得ることが基本である、そのように考えます。そんな認識に立って、平成二十年に法律案の骨子案を公表いたしました。その後、医療界あるいは患者団体等さまざまな議論が起こりました。かなり大きな議論になったと思います。そんな中で、医療とは何かという考え方が深まったのだろうと思っております。

 その観点から立ちますと、長妻大臣がお答え申し上げましたように、大綱案そのものを成案にするという考えは持っておりません。これまでの議論を参考にしつつ、関係省庁において検討されている犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度も踏まえながら、医療現場の方々はもとより、医療を受ける患者さんや国民の方々から広く御意見を伺うとともに、関係省庁とも協議を行い、引き続き医療事故の原因究明及び再発防止を図る仕組みづくりに取り組んでまいります。

 その一環としてですが、これはモデル事業をやっておりました。五年間で百五件、約六億円弱の予算で百五件でございました。これを全国あまねく広げるというのは無理な話だと思っております。そして、そのモデル事業というものが解剖に偏重し過ぎたのではないかということも含めまして、調査分析モデル事業の内容も見直すという方針で臨んでおります。

森(英)委員 これについてはちょっと時間がありませんので、これで打ちどめとさせていただきますけれども、時代につれていろいろな話が進歩していくのは結構ですけれども、現状のままで停滞してしまうというのはやはり問題だと思いますので、ぜひとも前向きの検討を積極的に進めていただきたいと思います。

 さて、内閣府の泉政務官にもおいでをいただいておりますけれども、宙の会の小林参考人が訴えておられましたように、重篤な被害に遭った犯罪被害者やその御遺族の方々に対して経済的な支援がまだまだ不十分な状況にあるように思います。

 小林参考人の御意見のように、国家が被害者等に対してこれを補償し、加害者に対して求償していくというようないわゆる父権訴訟については、犯罪被害者等基本計画によって内閣府に設けられた経済的支援に関する検討会で検討されたというふうに伺っておりますけれども、どのような検討結果になったのか、伺いたいと思います。

泉大臣政務官 御質問ありがとうございます。

 宙の会、小林さんからの衆議院法務委員会に対しての意見書というのを私も拝見をさせていただきました。

 このことについては、今ちょうど、その犯罪被害者の基本計画の有識者会議がありましたけれども、その中でもこれまでも議論されてまいりましたが、さまざま、やはりその実現のために乗り越えなければいけない課題というものがあるということでございまして、他の犯罪でも、例えばオウム真理教の被害者の場合でも、やはり国がかわって求償権を持つことができないかということが随分と課題になったわけですが、全体の構成についてそういったところにまでたどり着くにはもう少し検討が必要だということでございまして、今ちょうど犯罪被害者の基本計画をつくる検討会を、専門委員会を進めているところでありますので、今後、その中でやはりよく議論をさせていただきたいというふうに考えております。

森(英)委員 僕は、これについては、今のお話にありましたように、基本計画の見直しの中でいろいろと検討がなされているというふうに伺っておりますけれども、それにとどまらず、場合によっては新たな制度が必要になることもありましょうし、そういったことも含めてぜひ前向きの検討をお願いいたしたいと思います。

 さて、今回の法案の施行日は公布の日とされております。この法案が成立するとすれば、その効果が早く発現されるというのはまさに望ましいことであって、私としても、この措置は当然であると思っております。

 最後になりますけれども、早期の法案の施行に向けまして、法務大臣の決意をお伺いして、質問を終わりたいと思います。

千葉国務大臣 この委員会でもるる御質疑をいただきました。御議論をいただきまして、そしてさかのぼること、本当に時間をかけて、あるいは多様な御意見をいただきながら、この法案が審議をされ、ここまでやってきたということだというふうに思っております。

 そういう意味では、成立をいたしますれば、できるだけ早期にこの法律が適用されるように、特にこれは周知期間のようなものが必要な法律ではございませんので、公布をされましたら直ちにこれが適用できるように、施行できるように指示をしているところでございますので、ぜひ早く実行に移すことができればと思っております。

森(英)委員 ありがとうございました。

滝委員長 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口善徳でございます。

 先週、私は、公訴時効の趣旨と今回の廃止、延長の関係性、それから、被疑者、被告人になろうとする人の防御権の問題、そしてこの廃止等の対象の事件についての問題、さらに、進行中の事件への適用について憲法三十九条あるいは平成十六年の改正との関係をお伺いさせていただいたわけです。

 そして、四月二十三日は参考人質疑をいただきまして、学識経験者や被害者の団体の方からも貴重な御意見をいただきました。本日は、特にこの参考人の皆さんからいただいた御意見、こういうものを中心にお伺いをさせていただきたいと思います。

 前回、ちょっと積み残しになっていたところからお伺いしたいと思います。

 一つは、公訴時効が廃止、延長されると、捜査機関がより長期間捜査ができるようになることから、証拠の保管、管理等が非常に重要になってくるわけでございます。この点について何点か確認させていただきたいと思います。

 まず、公訴時効が廃止、延長されますと、保管する証拠の量、これもかなりの量になる、こういうふうに言われています。これは、法制審におきまして、法務省で試算を出されていて、今の重大犯罪の捜査本部が置かれた事件の証拠は、百年積み重なると東京ドーム半分ぐらいの広さが必要になるのではないか、こういうことでございました。この計算の根拠。それから、これは捜査本部の設置ということでありますけれども、延長等もございます。量的には相当膨大なものになるんじゃないかな、こう思います。そこら辺の試算、そしてまた、それに対してどう対応するのか、お伺いしたいと思います。

金高政府参考人 現在、各県の捜査一課が中心となって捜査しております殺人、強盗殺人といった、今回公訴時効の廃止の対象となっている事件、これらの中で捜査本部を設置して捜査をしているもの、それについて見てみると、平成七年中に発生したもの、つまり、計算上、本年中に公訴時効を迎えることとなる、こういうものがことしの一月現在で二十九件ございました。

 また、一つの捜査本部がどのぐらいの証拠品を保管しているかということについて見るために、平成二十年に設置いたしました捜査本部事件について、昨年九月末時点で未解決のものについて調査をしたところ、平均しまして証拠品が五百四十二点、保管に要するスペースは、これを人の身長程度に積み上げたとして平均七・〇平方メートルということでございました。

 そこで、これらの数字をもとに、今後おおむね、年間、一年に三十件程度の捜査本部事件が未解決のまま現在の公訴期限を超していくというふうに仮定いたしますと、公訴時効が廃止されることによって証拠品の保管に要するスペース、面積は、少なく見積もって十年間で二千百平方メートル、これを百年間として計算しますと約二万一千平方メートル、これが東京ドームの半分の面積という試算としているものでございます。

大口委員 これはもう法制審議会でいろいろ議論がされたわけでありますけれども、証拠の保管等については、平成七年九月六日付で警察庁から各都道府県警あてに、適正な取り扱い及び保管の推進に向けた指針が出されているわけですね。この指針においては、具体的に保管期間をどうするのかということが触れられておりません。

 法制審議会の専門部会において、警察庁の刑事局長が、この点については、公訴時効が廃止された場合に証拠をいつまで保管する必要があるのかということについて、保管期間の基準、それが定められなければならないと。また、その基準を考える場合の要素ということもこれは検討しなければならない、こう思うわけでございます。

 このことについては、明確にやはり指針等を出していく必要があるのではないかと思いますが、いかがでございましょう。

金高政府参考人 一般に、捜査上必要な証拠につきましては、原則として、捜査を継続する限り適切に保管しなければならないというふうに考えております。

 警察におきましては、従来から、国家公安委員会規則等に基づいて、押収した証拠資料については、滅失、毀損、散逸することのないよう、できる限り原状のまま保存するため適切な方法を講じているところでございます。

 もっとも、公訴時効が廃止されたとしても、例えば、被疑者が未検挙のまま一定の期間が経過して、犯人が当然死亡していると認められるに至ったときなどには、捜査自体を終結して事件を検察庁に送致することがあり得るというふうに考えておりまして、こういった場合には、証拠品も警察の管理を離れて、検察庁に送致されるものというふうに考えております。

 また、捜査の過程で押収したものの、後に事件とは無関係であるということが判明した証拠品については、早期に還付等を行うべきというふうに考えております。

 こういった点を踏まえまして、法務省等の関係機関と連携しつつ、証拠品の適切な保管のあり方について検討してまいりたいと考えております。

大口委員 次に、四月二十三日の日弁連の江藤参考人の提案で、捜査機関は、捜査資料、証拠物の適正かつ確実な保管に努めるとともに、捜査機関以外の第三者機関による保管体制を含め、公正かつ中立な保管のあり方が確立されることは必要、こういうふうに主張されています。

 法務大臣、こういう提案に対してどうお考えでしょうか。

千葉国務大臣 証拠物を第三者機関が保管する制度、どういう意味を持つのかなということを私も改めて考えてみたわけでございますけれども、多分、証拠物というのは、むしろ問題になるのが、当該証拠の内容としての信頼性、特に証拠の取得経過の適正等、こういうことが背景にあるのかなというふうには考えますけれども、直ちに第三者機関が保管をするということにはならないのかなというふうに思います。

 やはり、捜査機関としてこの捜査資料を適切に使う、活用するということが、利用するということが必要でございますし、それから、いつの時点で、あるいはどういう形で第三者機関に委託するのかというようなことも考えていかなければなりません。そういう意味で、中立、公正の観点で疑いがあるというときには裁判で争われるということにもなりますので、直ちに第三者機関に委託するということはなかなか難しいのではないかというふうに私も思いますが、ただ、証拠の公正さ、あるいはそういうものを担保するという意味での考え方として、検討に値するのかなということを今考えております。

大口委員 特にDNA型情報等の管理、使用について、今、国家公安委員会規則、DNA型記録取扱規則で定められています。この内部規則で定めることについては限界があるのではないか。また、警察サイドだけで管理、利用されていることも問題であって、DNA型情報等の管理、使用等の正確性を担保し、被疑者、被告人の側も利用でき、アクセス可能な制度を我が国においても法制化を含めて採用すべきではないか、こういう考えもありますが、これについて、警察庁また法務省、お伺いしたいと思います。

金高政府参考人 警察におきましては、刑事訴訟法に基づきましてDNA型試料の採取、鑑定を行いまして、その結果判明いたしましたDNA型については、国家公安委員会規則に基づいてデータベースに登録し、犯行現場に遺留されたDNA型と被疑者のDNA型との照合を行うなど、犯罪捜査に活用しているところでございます。

 各都道府県警察からデータベースに登録された情報については、DNA型記録取扱規則等によって警察庁において管理をしておりまして、また、そのアクセスについても各都道府県警察の科学捜査研究所のみに制限するなど、極めて厳格な管理を行っているところでございます。

 このデータベースにつきましては、犯罪捜査に活用するものでございまして、それ以外の目的で第三者に開示をするということは、犯罪捜査に支障が生じるおそれがあるということから適当ではないというふうに考えております。

千葉国務大臣 今、警察庁の方からもお話がございましたように、DNA型の証拠については、適正な管理に努めていただいている、それからデータベース化しているというようなことで、規則に基づいて行われているというふうに承知しております。

 法律で定める必要があるかどうかということは、その必要性も含めて、運用の実情等をかんがみながら、これも検討すべき課題ではあろうかというふうに思います。今後の検討課題として私も念頭に置いておきたいというふうに思います。

 それから、アクセスできるようにするべきではないかということでございます。

 これも、現在の証拠開示制度のもとで、関係する証拠の開示を受けて把握することは一応可能でございます。また、残存するDNA型鑑定試料が証拠物として保管されている場合でも同様に開示され得るということが言えようかというふうに思います。

 さらにどういうアクセスを認めるのかということについては、これもまた検討がかなり必要ではないかというふうに思いますけれども、みずから証拠調べを求めること等により防御を尽くすためにどういうことが必要なのかという観点等も含めて検討してまいりたいというふうに思います。

大口委員 DNA型情報につきましては、これは今回、時効が廃止されるわけでありますが、非常に決定的な証拠になってくるわけであります。その中で、被疑者、被告人の側のアクセス、これが本当に今のままでいいのか。それから、こういう重要な証拠物につきまして、果たして規則でいいのか。ここは、今大臣もおっしゃいましたように、しっかり検討していただきたい、こういうふうに思います。

 さらに、江藤参考人は、事後の検証可能性を確保する観点から、捜査機関によって作成、収集された一連の証拠資料、証拠物の目録を捜査機関が作成、保管し、弁護人への全面開示等、被疑者、被告人の反証に積極的に利用できるようにすること、こういうことを主張されているわけです。

 確かに、平成十六年の改正で手持ち証拠の開示というものが範囲が拡充をされた、そして、そういうことで前進をした、こういうお話であったわけであります。

 ただ、江藤参考人も、証拠開示制度がかなり充実してきておるということは認めているわけですが、これも類型証拠開示、主張関連証拠開示という形でいろいろな手続を経なければ出てこない、現在の裁判員裁判で千数百件係属、判決に至ったのは四百件程度、千件程度はまだ公判に至っていない、公判前整理手続で証拠を出す出さないで延々と続いている、証拠を全面的に開示するなり証拠リストを全部渡すなりすれば、訴訟経済という意味においても真実発見という意味においてもこうすることが大いに役立つ、こういう趣旨のことを述べられているわけです。

 この点につきまして、法務大臣の御答弁をお願いいたします。

千葉国務大臣 証拠開示、そして証拠リストの開示につきまして、大変強い要請があるということを私も承知しておりますし、一定の必要性ということは私も理解できるところでもございます。

 ただ一方、関係者の名誉とかプライバシー、こういうことにもかかわるということにもなりますので、全面的にできるのか、あるいはどんな範囲でやる必要があるのか、こういうことなども含めて検討していかなければならないというふうに思いますが、大変これは重要なことでもございます、防御権の行使というようなことからも重要なことですので、ぜひ私もしっかりと、いろいろな問題点を考慮しながら検討してまいりたいと思います。

大口委員 前向きの答弁でありますが、具体的にやはり検討していただきたいと思います。

 次に、犯罪被害者等に関する施策でございます。

 犯罪被害者等基本法ができまして、五年間の計画期間に基づいて第一次犯罪被害者等基本計画の施策が着実に進み、いよいよ来年から第二次になってくるわけでございます。

 そういう中で、警察庁で、犯罪被害者支援に関する調査研究、これを発表されました。これにつきまして、どういう中身なのか、お伺いしたいと思います。

坂口政府参考人 今回の調査研究は、警察の犯罪被害者支援施策の効果等を検証し、被害者支援のさらなる充実に活用することを目的としまして、平成十九年度から平成二十一年度にかけまして、犯罪被害者等給付金裁定対象者に対しまして、十四の支援施策についての認知度や満足度等を尋ねる調査票を送付しまして、回答のありました三百九十五票を集計して分析したものでございます。

 すべての施策について六割以上の方が満足またはやや満足と回答されておられますが、その一方で、被害を受ける前の認知度が各施策とも約一割と低いことから、ホームページや自治体の広報紙への掲載を初め、命の教室や防犯教室等の機会を利用した広報啓発活動を積極的に推進し、施策のさらなる普及に努めてまいりたいと考えております。

 また、自分と同じような被害者が被害から回復するために必要とする支援を複数回答可能として尋ねましたところ、支援内容や捜査情報についての情報提供や、給付金や公費の負担による経済的負担の緩和を選ばれた方が四割から七割となっておりまして、ニーズが高いものと認められましたところから、さらなる情報提供の推進や各種公費負担制度の充実に努めてまいりたいと考えております。

大口委員 とにかく、被害を受ける前に知っていたというのは一割程度であったと。ただ、本当に被害を受けた直後というのは、いろいろなサービスがあるということが頭に入らない状況なんです。ですから、本当に被害を受ける前にどう周知徹底させるかということをしっかりやっていただきたいと思います。

 それで、特に支援のニーズということにつきましては、やはり経済的支援の要望というのは大きい、あとは、やはり情報提供をしてもらいたいということが大きいと言えるわけでございます。

 そこで、今、第二次犯罪被害者等基本計画を策定するに当たって、基本計画策定・推進専門委員等会議が行われているわけでございます。それに関連してお伺いしたいと思います。

 犯罪被害者団体あるいは犯罪被害者支援団体からの要望に対する整理案というのが資料で配付されています。この基本計画を見直すに当たり、内閣府が二十一年に要望聴取をして結果をまとめたものであると理解しているわけでありますが、この要望があった項目の中に、公訴時効に関するものが複数挙がっています。凶悪重大犯罪について公訴時効の撤廃を求めるものが多かったようでありますが、平成二十二年二月の段階では、整理の位置づけとして、B、すなわち、担当省庁において検討し、担当省庁から計画案文の提出を求める、こういうふうにされているわけでございます。

 今回、刑法及び刑事訴訟法改正が成立しました場合に、この基本計画の見直しの中に公訴時効の撤廃等の要望がどういうふうに書かれていくのか。強姦等の性犯罪におけるものも含まれているわけでありますから、措置済みというような扱いにはならないと思います。

 大臣も、公訴時効の廃止の対象犯罪について、前回、今後もさらに被害者の皆さん、国民の意識等も踏まえて見直していくと答弁されていますので、この扱いについてお伺いしたいと思います。ここでCというふうになりますと、そもそも検討項目になりませんので、よろしくお願いしたいと思います。

千葉国務大臣 当然のことながら、これですべて措置済みというようなことにはなるものではございません。

 とりわけ性犯罪等の被害について、さらに、公訴時効の問題のみならず、さまざまな、多角的な、いろいろな被害の救済という問題がございます。

 そういう意味では、引き続きこれからも、この基本計画の見直しに当たって、これらの問題を含めて検討をさせていただきたいというふうに思っております。

大口委員 次に、犯罪被害者給付金支給制度の見直し、あるいは新たな補償制度、こういうことが今、大きなこれからの課題になってくるわけでございます。経済的支援ということに対して強い要望が出されているわけであります。

 あすの会の、一月二十三日、第十回の大会で、現在の被害者はもちろん、過去において犯罪に遭った者も、尊厳を守りつつ、平穏な生活に戻るまで補償を継続するため、犯罪被害者等給付金支給制度を抜本的に見直し、新しい補償制度を創設することが決議されたわけでございます。

 加藤副大臣もこれに御出席されたようでございますけれども、別居中の父親から実の子供が殺されたお母さんの基調報告があったり、あるいは、女性がそれこそいきなり体にガソリンをかけられ九〇%の大やけどを負わされて、本当に後遺症に苦しみ、何回も手術をし、そして生活も大変な状況にあるということが発表されているわけでございます。

 犯給法の改正がありました。それについて、せめて自賠責並みを補償するということであったわけでありますけれども、実際にはそこまで達していない。医療費の補償は一年に限られ、しかも休業補償を合わせて百二十万を限度としている。一たん被害者が負担しなければいけない。そして、さまざまな問題、例えば、身障者用の居宅の改造、あるいは介護費用、リハビリ代の考慮、こういうものもされていない。親族間の犯罪についても補償されないことがある。また、給付金は一時払いで一回しか出てこない等々の問題点が指摘されているわけでございます。

 第二回の基本計画策定・推進専門委員等会議におきましても、この犯給制度と、それから自賠責における給付金支給額の比較をしたわけです。そうしましたところ、山上議長もおっしゃっていますように、この犯給制度の給付金額と自賠責における給付金額の支給額がかなりの差があるということで、到底自賠責並みではないということで指摘をされているわけであります。

 あるいは、山田さんという弁護士も、自賠責並みになった自賠責並みになったということを繰り返し述べられておりますが、最高額が上がった、最低額も上がったけれども、その中間の支給はどうなっているのだ、手続面も含めて、実態はどうなのかということが極めて疑問である、こういうふうにおっしゃっているわけでございます。

 そして、あすの会の松村副代表幹事は、犯給法が自賠責になじまないということからいって、新しい制度をつくらなければならないということをぜひ議論を進めてもらいたいということでございました。

 これにつきまして、内閣府あるいは警察庁は、この議論の中において、どういうふうにこれを受けて対応されるのか、お伺いしたいと思います。

泉大臣政務官 ただいま御指摘がありましたように、三月二十四日の議論の中で相当な率直なやり合いがあったというふうに認識しておりまして、その中で、内閣府の方からは、最高額を自賠責並みにすることを一つの看板として先般の改正がなされたわけですが、まだ相当の差があるということがわかったわけでありましてという表現もございまして、やはり、実際の給付が自賠責と差が出ているという現状をしっかりと認識して、より被害者の皆さんが納得できるような体制に変えていかなくてはいけないというふうに思っておりますので、今後の大きな検討課題だというふうにとらえて、引き続きこの会議の中で検討していきたいというふうに思います。

坂口政府参考人 これまで警察としましても、犯罪被害給付制度の拡充に努力してきたところでございますが、現在、犯罪被害者等施策推進会議のもとに設置されました、有識者等から成る基本計画策定・推進専門委員等会議で新たな基本計画の検討作業が行われております。

 この中で、犯罪被害給付制度のさらなる拡充も含めまして、犯罪被害者等への経済的支援の充実についても主要な論点とされておりますところから、この会議の議論にも積極的に参画してまいりたいというように考えております。

大口委員 しっかり実態調査もしていただきたいと思います。

 最後に、宙の会の代表幹事の小林賢二さんから、遺族に対する民事賠償の代執行の措置という提案がありました。要するに、被害者の民事訴訟の損害賠償請求を国が肩がわりするということだと思います。これについては、今大臣が何回か答弁がありました。非常に重要な課題だ、こういう答弁でございました。

 しかし、今回の会議の整理としては、損害賠償債務の国による立てかえ払い及び求償等の是非は、研究会においては、給付制度の検討に帰着する、こういうふうに整理されていて、要するに犯給制度に帰着するということで、今回も論点から外されているんですね。Cになっているんです。

 ですけれども、大臣は今、これは重要な課題だということでございますので、もう一度このことについては、第二次の犯罪被害者等基本計画に当たっても課題として提案をしていただければと思うんですが、大臣、まずお願いしたいと思います。

泉大臣政務官 先ほど森委員の方からもお話があった件ですけれども、非常に重要な問題でありながら、一方で、そもそもこの犯罪被害者給付の制度が、損害賠償を受けられないという方々の現状に照らして発足されたということがございまして、そういった趣旨からすると、最終的には、それを国が肩がわりしても、国から請求したところで恐らく実態は変わらない。だから、直接被害者の方に給付をしていこうという流れで来ている制度でありますので、その辺の整理が非常に難しいということかと思います。

 しかし一方で、現実的には困っている方々が多いので、給付制度の方に帰着させて、その給付を充実させていこうという考え方に立っているということの整理で、今でも要望は出ているんですが、そういった形でまとめさせていただいているということでございます。

千葉国務大臣 今お話がございますように、その重要性というか、それについては認識が共通をするものだというふうに思います。それをどのような形で実効あらしめていくのかということが大事であろうというふうに思いますので、このような、肩がわり、そして求償していく、そういう趣旨がどのように生かされるのか、こういうことをきちっと私も提起をさせていただいていきたいというふうに思っております。

大口委員 時間が参りました。ありがとうございました。

滝委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

滝委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 内閣提出、参議院送付、刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

滝委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

滝委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、辻惠君外二名から、民主党・無所属クラブ、自由民主党・無所属の会及び公明党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。稲田朋美君。

稲田委員 ただいま議題となりました附帯決議案につきまして、提出者を代表いたしまして、案文を朗読し、趣旨の説明といたします。

    刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 犯罪発生から長期間が経過した事件においては、時間の経過による影響を十分に踏まえ、被告人の防禦の機会が適切に保障されるよう引き続き配意しつつ、事案の真相が解明されるよう努めること。

 二 犯人を検挙し、事案の真相を明らかにすることが犯罪被害者等を含めた国民の切なる要望であることにかんがみ、犯人の早期検挙のため、初動捜査を始めとする捜査態勢の充実・強化を図りつつ、捜査技術の開発向上等に努めることにより、捜査力をより一層向上させること。

 三 捜査資源の適正な配分に配慮した柔軟な捜査態勢や、事案の真相解明に資する証拠品及び捜査資料の適正な保管に努めるなど、捜査機関の人的・物的体制の整備に必要な措置を講ずること。

 四 性犯罪やひき逃げ事案等、人を死亡させた犯罪以外の犯罪についても、事案の実態や犯罪被害者等を含めた国民の意識を十分に踏まえつつ、公訴時効を含めた処罰の在り方について更に検討すること。

 五 医療事故に対する刑事責任の追及に当たっては、医療行為が患者の生命、身体に一定の危険を及ぼす可能性を内包していることにかんがみ、これに十分配慮した適切な運用に努めるとともに、その原因究明の在り方について検討すること。

 六 捜査機関において、未解決事件の犯罪被害者等との意思疎通を十分図るとともに、現在検討されている第二次犯罪被害者等基本計画(仮称)の策定等を通じて犯罪被害者等のための施策のより一層の充実に努めること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。(拍手)

滝委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

滝委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。千葉法務大臣。

千葉国務大臣 ただいま可決されました刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

滝委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

滝委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

滝委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時六分散会


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