衆議院

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第2号 平成23年3月9日(水曜日)

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平成二十三年三月九日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥田  建君

   理事 滝   実君 理事 辻   惠君

   理事 橋本 清仁君 理事 樋口 俊一君

   理事 牧野 聖修君 理事 稲田 朋美君

   理事 平沢 勝栄君 理事 大口 善徳君

      相原 史乃君    井戸まさえ君

      大泉ひろこ君    奥野総一郎君

      京野 公子君    熊谷 貞俊君

      黒岩 宇洋君    黒田  雄君

      桑原  功君    階   猛君

      橘  秀徳君    中島 政希君

      三輪 信昭君    水野 智彦君

      森岡洋一郎君    山崎 摩耶君

      横粂 勝仁君    吉川 政重君

      河井 克行君    北村 茂男君

      柴山 昌彦君    棚橋 泰文君

      森  英介君    柳本 卓治君

      漆原 良夫君    園田 博之君

      城内  実君

    …………………………………

   法務大臣         江田 五月君

   法務副大臣        小川 敏夫君

   厚生労働副大臣      小宮山洋子君

   総務大臣政務官      内山  晃君

   法務大臣政務官      黒岩 宇洋君

   防衛大臣政務官      松本 大輔君

   政府参考人

   (内閣法制局第一部長)  横畠 裕介君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    金高 雅仁君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    西川 克行君

   政府参考人

   (外務省総合外交政策局長)            鶴岡 公二君

   政府参考人

   (外務省領事局長)    川田  司君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房審議官)           井上 俊之君

   法務委員会専門員     生駒  守君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月九日

 辞任         補欠選任

  川越 孝洋君     吉川 政重君

  野木  実君     森岡洋一郎君

  水野 智彦君     奥野総一郎君

同日

 辞任         補欠選任

  奥野総一郎君     水野 智彦君

  森岡洋一郎君     野木  実君

  吉川 政重君     川越 孝洋君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

奥田委員長 これより会議を開きます。

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として内閣法制局第一部長横畠裕介君、警察庁刑事局長金高雅仁君、法務省刑事局長西川克行君、外務省総合外交政策局長鶴岡公二君、外務省領事局長川田司君、国土交通省大臣官房審議官井上俊之君の出席を求め、説明を聴取したいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。平沢勝栄君。

平沢委員 自由民主党の平沢勝栄でございます。おはようございます。

 まず初めに、江田大臣には、法務大臣御就任おめでとうございます。

 ただ、江田大臣は参議院の議長をされたわけでございまして、参議院の議長というのは三権のトップでございまして、その三権のトップまでされた方が一行政部門の長である法務大臣に御就任されることについては、いろいろな意見がありまして、参議院の権威をおとしめるというような意見もあるわけでございますけれども、そういう中で、むしろ断った方がよかったのではないかという意見もあったと思いますけれども、参議院の議長もされたにもかかわらず法務大臣をお引き受けになられたそのお気持ちについて、お答えいただけますか。

江田国務大臣 就任おめでとうございますと言われたんですが、なかなか、時局多難の折、本当に私も全くおめでたいと思っていないので、ぜひとも全力でこの任務を仕上げて、本当におめでとうと言われて、私自身が喜ぶことができるようにしたいと思っております。

 その上で、議長経験者なのになぜ一行政府の長の仕事を受けたかということでございますが、これは、任命権者である菅総理大臣も、また私自身も悩みました。別に私、自分が偉いというわけじゃないんですが、衆参の議長、そして最高裁の長官と内閣総理大臣、それぞれ三権を代表する立場でございますから、国会なり参議院なりの権威というものも、これも大事にしなきゃならぬ、それはよくわかっておりまして、今御発言のような御批判も当然あるものだと思っております。

 ただしかし、今、これはもう述べ出すと長くなりますから省略しますが、我が国の状況もなかなか大変です。今の政権も、これも言われるまでもなくなかなか大変なところへ来ておりまして、菅首相が、ある種の覚悟を持って、議長経験者である私にひとつ手助けをしてくれということで、法務行政も、検察の信頼失墜初め、いろいろな難問があるので、私、もちろん微力でございますが、しかし、やはりここは、菅総理大臣の覚悟を私も共有したい、こういう思いで引き受けたものでございまして、ぜひ御理解をいただきたいと思います。

平沢委員 法務大臣の御決意のほど、よくわかりましたし、ぜひ頑張っていただきたいなと思います。

 法務大臣の前の前になるんでしょうか、柳田元法務大臣は辞任に追い込まれたわけですけれども、柳田元法務大臣が言われたのは、法務大臣は二つだけ覚えていればいい。一つは、個別の事案についてはお答えできない、もう一つは、法と証拠に基づいて適切にやっております、この二つだけ覚えていれば法務大臣は務まると。

 すべてを知っていて、しかし、どうしても答弁はその二つになってしまう、これならわかるんです。ところが、柳田元法務大臣がスピーチの中で言われたのは、わからなかったらこれを使えばいい、こういうふうに言われたわけですよ。ですから、確かにいろいろ質問していても、柳田元法務大臣は余り知っておられるとは思わない、勉強しておられるとも思わない。ただその二つだけ知っていれば答弁は切り抜けられると言うから、余りにもそれは国会軽視じゃないかということで辞任に追い込まれたわけです。

 あの柳田元法務大臣のコメントについて、法務大臣はどう考えられますか。

江田国務大臣 私の前々任者でございますから、後を引き受けております私が、余り口幅ったいことを言うのもどうかと思います。

 私は、個別の事案と法と証拠、その二つだけで済むとも思っておりませんし、また、わからなければその二つを言えばいいとももちろん思っておりません。しかし、私にも、もちろん、すべてわかっているとか知っているとか、思い上がっているつもりもありませんし、いろいろと委員各位から御指導いただくことは謙虚に耳を傾けたいと思っております。

平沢委員 答弁をその二つだけで切り抜けないで、ぜひ正直に答えていただきたいなと思います。

 ところで、最近、前原前外務大臣が辞任されたわけですけれども、その辞任は、政治資金規正法で禁止されている、在日外国人ですか、外国人からの献金を五年間にわたって年五万円、トータル二十五万円受けていたということで、言うまでもなく、政治資金規正法の外国人からの献金の禁止の趣旨というのは、日本の政治とかあるいは選挙が外国あるいは外国政府の影響を受けてはならない、こういった趣旨でこの規定が設けられているわけでございます。

 同じ趣旨でいえば、外国人に選挙権を与える、地方参政権であれ選挙権を与えたら、私は、日本の政治、選挙が同じように影響を受けるんじゃないかなと思います。

 大臣は、外国人への地方参政権にたしか賛成だったと思いますけれども、これは間違いありませんね。

江田国務大臣 間違いございません。

平沢委員 在日外国人に地方参政権を与えた場合、当然のことながら、地方というのは国防と密接に結びついているんです。例えば、沖縄の知事選挙というのは、これは基地の移転に大きく影響してくるわけですよ。ですから、地方であれ、国防に、安全保障に密接に結びついてくるんです。

 そして、私たち国会議員は、地方議員の応援ももらっているんです。ですから、地方議員が在日外国人の応援で出てくれば、その応援をまた私たちは受けるわけですから、間接的に受けることになります。ですから、日本の政治が、選挙が、こんな二十五万円なんというお金以上に影響を受けるとお思いになられませんか。

江田国務大臣 そこは一つの悩みがあることは確かなんです。しかし、前原さんの場合、国会情勢がこういうときで、今参議院で予算が審議をされている、そのさなかに起きたことで、これはやはり潔く身を引いて、国会審議をスムーズに進めたい、そういう思いからの決断だったと私は思います。

 しかし、幼いころにお父さんが亡くなって、大変な困窮の中、御近所の焼き肉屋のおばさんがいろいろ助けてくれて、かわいがってくれた。そのおばさんから、年に五万円ですから、言ってみれば月に五千円いかないんですね。広く地域の皆さんから浅く政治献金をいただいて、これで、どんと来てそっちへ頼るという、そういうことでない、市民にしっかり根を張った政治活動をやっていこうという趣旨で、新しい政治献金のあり方というものを前原さんは追求されていたと思うんですよ。

 それが、もらう人が、これはやはり地域住民ですから、経済活動もやる、あるいは子育ても一緒にする、ごみ掃除も一緒にする、そういう地域住民の、この人からはもらえる、この人からはもらえない、私も細かなことは知りませんが、やはり恐らく日本名だったんでしょう、そういう区別が住民生活の中であっていいのかと。

 地域の住民生活を規律していく、そういう地方議会の場合には、やはり地域に根を張って、そこへ住んでいる皆さんがそれぞれ参政権も持つというのも一つの私はあるべき姿だと思うので、おっしゃるような悩みがあるのはそれは確かですから、そこはいろいろな制度設計をする必要はあるかと思いますが、しかし、地方参政権というのは、上手な制度設計をして、地域の皆さんがみんなでその地域のことを決められるようにしていった方がいいと思っております。

平沢委員 私は、地方議会が地方の道路とかごみだとかそういったことだけを処理するんだったら、この参政権に反対する人なんかだれもいないと思いますよ。ところが、地方の参政権というのは、今言ったように、国政に密接に結びついているんです。ちなみに、この前、日韓の友好議員連盟の会合が東京で開かれまして、そこで地方参政権の議論が行われまして、ちょうど沖縄の知事選が行われた翌日なんです。韓国の議員の方が、いや、韓国でも認めていますよと言うから、きのう沖縄の知事選挙が行われました、沖縄の知事選挙の最大の争点は基地の問題ですよ、地方議会でも基地が問題になるんですよ、韓国では、地方議会というのは、こんな国防に関係したことが争点になるんですかと言ったら、韓国の議員は黙っちゃったんです。ならないんですよ、韓国は。だから、韓国と日本というのは違うんですよ、これは。

 ですから、今大臣が言われたことはよくわかるんです。ごみとか道路だけをやるんだったら、これは地方に一緒に住んでいるわけですから、選挙権を与えてなぜ悪いんだ、それはそのとおりだと思います。しかし、国政にも密接に関係している、そして、私たちはその影響を、地方議会の議員の応援をもらって出てくるということになると、いろいろな形で関係してきますので、そこをきちんとセパレートできるなら私はいいと思いますけれども、それはできないんじゃないかなと。

 それと、この前の、おととしの衆議院選挙ですけれども、民団が外国人の地方参政権に賛成の議員に対して総力を挙げて応援したということが、民団の新聞にはでかでかと毎号のように出てくるんです。どういう応援をしたかというと、自分たちの地方参政権に賛成の議員に対して、ポスター張りだとか、証紙張りだとか、公選はがきを出すとか、ミニ集会に参加する、出陣式に出ていく、あらゆる方法でいわば応援したということが出てくるんです。

 前原さんの五万円より、はるかにこちらの方が日本の政治に対する影響が大きいと思うんですけれども、大臣、どう思われますか。

江田国務大臣 民団の皆さんがどういう選挙の応援をしているかというのは、私は存じ上げておりません。恐らく、そういう民団の広報紙にそういうことが出ておるなら、それはそういうこともあったのかもしれませんが、ただ、やはりそこは節度を持ってやっていただくべきものであるし、在日の韓国人の皆さんは、言ってみれば、かなり古い時代から日本に住みついて、日本の共同体の構成員になっているんですよね。かなりの人たちが日本語の方が達者で、むしろ韓国語の方が不自由すると。だから、日本にいると在日だと差別される。韓国へ行くと、今度は、韓国語が不自由だということで、やはりそこへ定着できない。そういう谷間にいる皆さんですから、しかも、いっとき彼らは日本国籍を持っていた人たち、まあ、そうでない人たちもいますよ。だけれども、今、基本はそういう人たちのことを私たちは考えているわけで、こういう皆さんについては、やはりなるべく一緒に地域をつくっていこう、そういう姿勢が大事だと思っております。

 民団の皆さんに選挙の応援をいただいたら、それはもう、この日本の国益を忘れて韓国の国益を第一に考える、そういうことは私はないと思います。

平沢委員 いや、大臣、ちょっと焦点がずれているんですけれども。

 献金だって全然善意でくれる人もいるけれども、そういう意図で、日本の政治をゆがめようということで献金しようと思ったらできる、その余地を残しちゃいけないということで禁止しているわけでしょう、これは。

 だから、私も今度の京都の焼き肉屋のおばさんが政治に影響を与えたとは思わないですよ。だけれども、そういう可能性だってあるわけですよ。旧ソ連時代には、日本の政治にいろいろとソ連が金をあれしていたというようなことはもう出ているわけですから、いろいろな形でそういう可能性はあり得るわけですから、それを、可能性を阻止しなきゃならない、排除しなきゃならないということでこの規定が設けられているわけです。

 外国人参政権だって、それは一般的にはそうかもしれないけれども、そういう形で影響を及ぼそうとしたら、影響を及ぼすことはできる。例えば基地の問題、あるいは島根県は竹島の条例なんかをつくっていますけれども、こういうところで影響を及ぼそうと思ったら幾らでもできる、そのことを排除しようということじゃないんですか。

 ですから、一般論としてはわかりますけれども、それはやはり日本の国益を考えた場合に、果たしてそういった大臣の言われることが妥当かどうか。大臣、どう思われますか。

江田国務大臣 私は今、一般論のことを話をしておりまして、個別具体的にいろいろなことが起きる可能性がある、だから、その悩みはあるということはよくわかります。

 したがって、例えば献金の場合であれば、それは額の制限があるとか、あるいは今の参政権であれば、一定の国益に関する事項が地方自治体に係る場合には、それは国の関与を強めるとか、そういういろいろな手だてはあると思うんですね。そういう知恵を働かせば、必ずそこは解決する道はあると思っております。

平沢委員 これは、やはり一番いい解決方法は帰化されればいいんです。ですから、国籍を取得されればいいわけで、実際に韓国の方でも帰化されれば国会議員にもなれるわけですから、私はその道をとるべきじゃないかなと。これは時間がありませんので、またいずれ、別途させていただきたいなと思います。

 そこで、去年の九月の中国船の衝突事件の問題ですけれども、この中国船の問題、当時、国交大臣は前原さんですけれども、極めて悪質な事件ということを言って、そして、この船長を逮捕して、それで勾留を二回もつけたんですけれども、二回目の勾留の途中で釈放した。釈放のときに、那覇地検の次席検事は記者会見をやっていますけれども、わけのわからない理由で釈放してしまった。そして、一月二十一日に、その船長に対して、もう予想されたことですけれども、不起訴処分ということを記者会見で言われました。

 そこで、まず大臣、きのうあらかじめ言ってありますけれども、那覇地検がプレスリリースのときに出しているコメントですね、これを見ますと、もう何度か出ましたけれども、中国人船長をなぜ釈放するかということについて、我が国国民への影響や今後の日中関係を考慮しと、こういうことを言っているわけです。

 これは検察が言うことじゃないですよ。だって、そうでしょう。日中関係なんて、人によって考え方なんか全然違うんですから。人によって全然違うようなことを捜査当局が判断することじゃないですよ。捜査当局は、柳田さんは正しいんですよ、法と証拠に基づいてやればいいんですよ。日中関係なんか、私と大臣だって全然考え方は違いますよ。それを捜査当局が判断してやったなんというのはおかしいと思いませんか。これは検察の自殺じゃないですか。

 大臣、ちょっとこれはどう思われますか。

江田国務大臣 釈放のときに那覇地検の検事正が会見で述べたコメントですよね。(平沢委員「次席検事です」と呼ぶ)次席ですか。

 これは、私は、那覇地検が、あるいはその船長を担当している検察官が、身柄の拘束をこれ以上続ける必要はないという判断を検察官の立場としてやったことであって、その検察官の立場として判断する場合に何を考慮してできるかということについては、これはもうさまざまなことがあるわけで、その中に今後の日中関係というものも考慮をしたと。あくまで事件の処理、身柄の釈放というその点に絞って、その中で必要であるから判断したのであって、この事件処理に当たっての判断というのは、それはもうすべてのことを総合して判断できるものだと思っております。

 それ以上でも以下でもないので、日中関係をどうしよう、外交関係をどうつくっていこう、こんなことをこの検察官が判断したものではないと思っております。

平沢委員 日中関係を考慮したということを言っているわけですから、堂々と。そうしたら、日米関係を考慮して米軍の犯罪に裁量を加えることだって可能になるんですよ、これは。日米関係だ、日ロ関係だなんということは捜査当局が考えることじゃないでしょう、これは。そう思われませんか、大臣。大臣の前のときのあれですけれども、大臣だってそう思われるでしょう。あくまでも捜査当局は法と証拠に基づいて、それは情状とか何かというのはいろいろ出てきますよ。それは情状の問題であって、やはり事件をやるかどうかというのは、そんな日中関係だ、日米関係だ、何だかんだなんということを考えることじゃないんじゃないですか。

江田国務大臣 この事件が公務執行妨害に当たるかどうか、そういう犯罪の嫌疑があるかどうか、証明できるか、これは法と証拠で、そこで日中関係がどうだから事件になるとかならないとか、そういうことを言っているものではないと思うんですね。

 しかし、身柄拘束を続けていく必要があるかどうかということで、これはもう森羅万象、情状面もまさに入るわけで、今、日米関係とおっしゃいましたが、検察官が日米関係をどういうふうに処理しようと思って、ある一定の事件についての判断を下す、それはいけません。それはいけませんが、今の外国との関係などもいろいろ総合的に考えてこういう判断をするということは、私は、これは検察官ののりを越えているものではないと思います。

平沢委員 これは捜査当局の判断じゃなくて、明らかに政治家の方から、あるいは政府の方から何らかの働きかけがあってなされたんでしょう。まあ、それはいいですよ。

 では、刑事局長でいいですから。

 今回、不起訴処分にしました。不起訴処分にしたときに、これは計画性はなかったというようなことを言ったと思いますけれども、不起訴処分にした理由をちょっと教えてください。

西川政府参考人 お答え申し上げます。

 不起訴処分の理由でございますが、一つは、「よなくに」及び「みずき」、あるいは二つの船に現実に発生した損害は、航行に支障が生ずる程度のものではない。それから、「よなくに」及び「みずき」の乗組員が負傷するなどの被害の発生はない。それから、被疑者が「よなくに」の船尾直近を通過して逃走しようとしたものであって、「よなくに」に関しては犯意は未必的なものにとどまっていることや、「みずき」の追跡を免れるためとっさにとった行動であって計画性がない。それから、「よなくに」と本件漁船では船体の大きさに大差があって、船尾側の衝突という衝突形態から見ても危険性は比較的少なかった。それから、被疑者には我が国における前科等はありません。それから、被疑者は退去強制により既に帰国しているところ、本件後、被疑者あるいは本件漁船が尖閣諸島付近海域で漁業を行った事実は確認されていない。さらに、本件後、尖閣諸島付近海域では操業する中国漁船は激減していて、昨年十一月以降は中国漁船は確認されていない状況にある上、今後、海上保安庁の体制の充実強化等、同種事案の再発防止に向けた取り組みを期待している。

 以上を総合して、起訴猶予ということになっております。

平沢委員 今、刑事局長がいろいろ理由を言われました。

 その中に、例えば、船長が帰国しているというのを言われました。船長を帰国させたのではないですか。船長を帰国させたんですよ。あのときに、釈放はおかしいと言っていたにもかかわらず釈放していて、それで本来ならクローズしている飛行場を真夜中にあけて、特別待遇で帰したんじゃないですか。そして、船長が帰国したから、今からもうできないというのは、これは論理矛盾じゃないですか。

 それから、今、とっさにとった行動で計画性が認められないということを刑事局長は言われました。最初のプレスリリースのときに、那覇地検の次席検事は何と言っているんですか。刑事局長、いいですか。故意に同漁船左舷船首部を「みずき」右舷船体中央部等に衝突させたことは明白でありますと。故意にと言っていますよ。それが、何で計画性が全くないと。故意にやったんだから悪質じゃないですか。

西川政府参考人 釈放のときの説明というのは、故意にということで、故意自体は「みずき」の衝突に限ってでございますが、故意自体は確定的であった。ただ、それは逃走の際にとっさになした行動ということで、必ずしも、故意があったということと、計画性があった、なかったということは矛盾するものではないというふうに考えております。

平沢委員 それはちょっと、刑事局長、苦しい答弁ですね。大体、そもそも、起訴猶予の不起訴にするというのは、犯罪が軽いとか、本人が本当に反省しているとか、もうこれから再犯のおそれはないとか、相手方、被害者の方が納得しているとか、こういう事情があるときでしょう。今回、そういう事情はあるんですか。そうでしょう、一般的には。そういうときじゃないですか。

 今回、この不起訴について、沖縄の漁業関係者はかんかんに怒っていますよ。そういうときに、普通、起訴処分にするんじゃないんですか、刑事局長。

西川政府参考人 不起訴処分の理由というものについては、刑事訴訟法に規定がありますけれども、その中で、もちろん犯情も考慮いたしますし、本人の情況も考慮することができる、さらに、犯行後の情況も考慮することができるということでございますので、そのもろもろを総合した結果、処分が出てくるものだということでございます。委員御指摘の点ももちろん考慮されるでありましょうけれども、ほかの部分ということも考慮されるということであろうと思っております。

平沢委員 刑事局長も苦しい答弁をせざるを得ないのは同情しますけれども、ちょっとどうでしょうかね。

 では、もう一つ聞きましょう。

 例の元海上保安官、映像をネットに流出させた保安官ですけれども、これについては、当時の官房長官は仙谷さんですけれども、ゆゆしき事態と、えらい怒っていたわけですよ。それで、警察も検察も大々的な捜査体制をしいたわけです。国家公務員法違反ですよ。前例がないでしょう。

 そして、結果的には、身柄の逮捕もできなくて、書類送検して、そして今回、同じ日に、一月二十一日に不起訴にしたんです。

 警察は、警視庁と沖縄と合同捜査の、たしか六十人体制とかとこの委員会で答弁があったと思うんですけれども、それで、検察は検察で二十人近い体制で捜査をやったと。

 犯罪は、警察か検察か、どっちかに普通は告発するんですよ。海保は両方に告発した。海保に、長官に、なぜ両方に告発したんだと言ったら、事案が重大だからと言っていたんです。その重大な事案が、犯人の身柄は逮捕できない、そして不起訴になってしまう。

 どう考えたって納得できないですけれども、警察は逮捕もできない、こんなのは初めからわかっていたことですけれども、そんな起訴もできないような事件、事案について、大々的な捜査体制を組むというのは、これはだれの指示でやったんですか。

金高政府参考人 本件につきましては、海上保安庁から警視庁に対し告発がなされたことを受けまして、事件の広域性、匿名性等にかんがみ、必要な捜査を尽くすべく、警視庁、沖縄両都県警察で合同捜査本部を設置して、約六十名の体制をもって捜査に当たっております。必要な捜査体制につきましては、警察庁の調整のもとで、両都県警察において決定したものでございます。

平沢委員 同じことを、では、検察。

西川政府参考人 検察当局においては、本件の事件の被疑者の取り調べ、関係者の事情聴取、証拠物の分析等、相当の作業量があったということで、東京地検公安部でございますけれども、さらに、同地検の検事、事務官だけではなく、地方の検事、事務官の応援を得て、二十人弱の捜査体制で実施をしたと聞いております。これは東京地検が中心になって組んだ、そういう体制でございます。

平沢委員 では、警察。書類送検したんですけれども、そのときの意見はどういう意見で送ったんですか、情状意見。

金高政府参考人 情状意見としては、相当処分ということで送致いたしております。

平沢委員 相当処分。だから、厳重処分の次になるわけですよ。ですから、それなりの処分をしろということで送ったのが不起訴になってしまった。

 検察。もう一回聞きますけれども、これは不起訴処分にせざるを得ないんでしょう。なぜならば、相手方の中国人を帰しておいて、こちらの元保安官だけやったら、これは国民が許しませんよ。だから不起訴になったんでしょう。警察は相当処分という意見をつけて送っているんですよ。それで結局、不起訴になってしまった。初めからこの捜査はおかしかったんじゃないですか。初めからこれは政治的に行われたんじゃないですか、この捜査は。

西川政府参考人 まず、中国人船長の事件と、それと海上保安庁の保安官の事件、これは、公務執行妨害等の事件と、それとあくまで国家公務員法違反ということで、全く別の事件でございます。

 それで、国家公務員法違反の海上保安官の不起訴の理由は、捜査を開始しましたところ、本来この映像データは厳重に管理、保管されるべきであったが、残念ながら、その管理に不十分な点があって、一時期ではございますけれども、海上保安官がすべて見られるような状況にあった、そのような状況の機会に被疑者がそのデータを偶然、偶発的に入手をした、こんなような事情があったということでございますので、最終的にそのような事情等も考慮して起訴猶予にしたもの、こういうふうに理解しております。

平沢委員 いや、この事件は、先ほども言いましたように、初めから官房長官が、捜査当局がやる事件について、ゆゆしき事態だとか言ってみたり、要するに、船長の方は早く帰しておいて、こっちの方はゆゆしき事態だということで、これは徹底的にやれというようなシグナルを送っているんですよ。だから、捜査当局はやったんじゃないですか。そして、結果的には起訴もできない。できないというより、そういう方向に行かざるを得ないでしょう、これは船長がいないんだから。船長と事件が関係ないのは当たり前だけれども、関係ないけれども密接にリンクしているんです、この二つの事件は。いずれにしましても、これはまだ終わったわけじゃありませんので、またいずれやらせていただきたいと思います。

 大臣にお聞きしたいと思うんですけれども、そのビデオ、もうこれは、我々国会議員は短縮されたビデオを見ることはできました。そして、ネットではもう流れているわけですね。このビデオはまだ公開されていないんです。しかし、もう裁判、公判が行われるわけでも何でもないわけですから、公開してもいいと思いますけれども、大臣、これは公開した方がいいと思われませんか。

江田国務大臣 お尋ねのビデオは、これは検察庁が保管しておるもののことをもちろん言われていると思います。

 これは刑事訴訟法の規定で、確かに処分としては起訴猶予ということで終わっているわけですけれども、起訴猶予で終わった事件は、やはりこれは証拠物というのを公開することははばかられるということになっております。それは、検察官が、検察が捜査のために集めた証拠物は、すべてこれは非公開で、しかし、実際に公判が行われて公開の法廷で出された場合には、これはもう公開の法廷で出されているんだから公開する、そういう仕切りになっております。ですから、このビデオもまだ、不起訴ということにはなりましたが、公開の法廷に出していることはないわけで、したがって公開しない、そういう仕切りです。

 ただ、御承知のとおり、国会というものがありまして、国会が国政調査権ということでそういうお求めがあれば、これは捜査当局の方で適切に判断をして、この部分は出せると。そして、そういう形で、衆議院にもあるいは参議院にもそれぞれ一定部分のものをお出ししているわけで、今の状況はそういうところでございます。

平沢委員 要するに、あれでしょう、これはもうこれ以上聞きませんけれども、また別の機会にしますけれども、やはり中国側に最大限の配慮をしてこの事件捜査は行われた、それで、中国側に対して配慮していることを妨げるようなビデオを流したやつはけしからぬというので大々的な捜査を組んだけれども、結局これは事件としてできなかった、極めて政治的な思惑が絡んだ事件捜査だった、こういうことでしょう。これは時間がないから、次に行きます。(江田国務大臣「いいですか」と呼ぶ)どうぞ。

江田国務大臣 当時、私はもちろん大臣ではないので、これは具体的事件なので大臣としての答えということは差し控えたいと思いますが、一議員としては、国家公務員が自分の正義感に駆られてやるということは、やはりそれは公務員秩序からすると大変なことだということ、それは御理解いただきたいと思います。

平沢委員 そのとおりなんですよ。だから、私もそれは否定しないんですよ。それはなぜかというと、中国人船長がぶつかったときに、これは極めて悪質な事件だということを関係者は言っていたわけですから、そちらの方の船長は勾留の途中で釈放して、空港を真夜中にあけて異例の状況の中でさっさと帰すというようなことをして、そして、こっちは、責任追及が、普通だったらやらなきゃならないのにできないわけですよ。だから、おっしゃることはそのとおりなんです。だから、私はこの事件はおかしいんじゃないかなと思いますけれども、またこれは別途やります。

 次に、大臣に死刑についてお伺いしたいと思います。

 死刑について、大臣は、就任会見で、いろいろな欠陥を抱えた刑罰ということを言われました。その後、ちょっと言葉がきつ過ぎるから、取り返しがつかないという意味で悩ましい制度ということで言われました。大臣は死刑の廃止論者だと理解していますけれども、そういう理解でよろしいんでしょうか。

江田国務大臣 今、法務大臣という立場でございますし、それは法律の規定もございますから、そこはしっかり考えていきたいと思うんですが、私個人としては、死刑という制度は、取り返しのつかない、悩ましい刑罰だと思っております。

平沢委員 死刑を廃止する議員連盟の中に、例えばアムネスティ議員連盟というのがありますね。大臣はたしかメンバーでもあり、それから顧問か何かされておられたと思いますけれども、これもまだやっておられるんでしょうか。

江田国務大臣 死刑廃止議連には確かに入っておりましたが、先日、これは抜けさせていただきました。アムネスティ議連についても同様です。

平沢委員 死刑は、刑事訴訟法で、判決確定から六カ月以内に法務大臣が命令して執行しなければならないということになっているわけですけれども、刑事局長でいいですけれども、判決が確定して六カ月過ぎているいわば死刑囚というのは、今、何人くらいいるんですか。

西川政府参考人 現在の死刑判決の確定者が百八名でございまして、お尋ねの六カ月以上経過している者は百四名ということになります。

平沢委員 その百四名、六カ月以上過ぎている百四名の中で、例えば再審請求だとか恩赦の請求だとか、こういうものが出ていない死刑囚というのは何人くらいいるんですか。

西川政府参考人 その中に相当の数おられますが、数字については御勘弁いただきたいというふうに思っております。

平沢委員 ですから、六カ月過ぎて、要するに、もう完全に要件は満たしている、命令を下さなきゃならないという人もいるわけですよね。大臣、結局、刑事訴訟法四百七十五条の規定ですね。死刑執行しなきゃならない。

 これは別に大臣だけじゃなくて、今までの歴代の大臣、ずっとそうなんですけれども、結局、判決が確定して、しかし、規定はあるけれども命令を法務大臣が下さないということで、どんどんどんどん死刑囚はふえていく。司法が下したわけですよね。死刑という判断を司法が下したんです。それを、行政府の方の一部門の長の、それは法律に規定があるから命令ですよね、その命令で、司法の決定をいつまでも守らない状態をずっと続ける、これはおかしいと思いませんか。

江田国務大臣 その点に悩みがあるのは確かでございます。ただ、これは、私はこういうことを言っているんですが、確定した判決の執行というのは、民事は全部裁判所ですよね、執行官を含め。刑事はすべて検察官で、唯一死刑だけが法務大臣の命令によって検察官が執行指揮をするという仕切りになっております。

 一体なぜ死刑だけが検察官ではないのかというところに、実は法律の深い深い思慮があるんではないか。それは、そのときの国民の動向であるとか、世界の潮流であるとか、いろいろなことを考えて、裁判が確定しているから、だから機械的にではなくて、やはりそこは、世界の中の大きな動きの中での日本のあり方ですよということを考えて、政治家としての法務大臣が判断しろということで、六カ月というのはありますが、これは訓示規定でございますので、私もこういう立場に立ちましたから、しっかりと考えてみたいと思っているところです。

平沢委員 訓示規定であれ、こういう規定があるわけですけれども、それで、司法は司法としてそういった判断を下すわけですから、もし、おかしい、要するに、今のような状態がずっと続くということになると、この四百七十五条というのは全く意味をなさなくなってくるんです。

 だったらば、大臣によっていろいろなお考え方があるわけですから、そういう形で、結局、死刑の命令が下されたり、下されなかったりというような状態が続くのだったらば、むしろ法律を変えちゃったらどうかという意見もあるんですけれども、これについては大臣はどう思われますか。

江田国務大臣 これはさまざまな意見があると思います。私も、死刑の存廃を含めて、これはしっかり考えてみたいと思っております。あるいは、人によっては、法務大臣の命令ではなくて、通常の刑罰と同じように検察官の執行指揮だけでいいじゃないか、そういう主張をする方もありますし、それと、これは議員よく御存じのとおり、世界の潮流というものももう一つありまして、やはりここは今それらも含めてしっかり考えるときだと。

 千葉前々々大臣が執行されて、その後、勉強会をおつくりになっておりまして、ここでしっかり勉強していこうというのが今の私のスタンスでございます。

平沢委員 民主党はかつてマニフェストの中で終身刑の創設というのをうたっていました。私は死刑は当然あるべきだと思いますけれども。それと、裁判員制度が始まったんですけれども、無期懲役、実際には十年で仮釈放が可能という制度との間には余りにも大きなギャップがあるから終身刑を創設と、かつて民主党はうたっていたんです。

 この終身刑の創設については、大臣はどうお考えになられますか。

江田国務大臣 これは私も、そういう民主党のマニフェストをつくった当時、当然、民主党の党籍を持っておりまして、そのマニフェストは私のマニフェストでもあると思っております。

 無期が十年たてば仮釈放というんだけれども、実際には、十年で出ているような例は、それはほとんどないと思いますが、しかし、それにしても、そういう制度で、もう一方が死刑ですから、その間の間隔というのは非常に広い。そこで、仮釈放のない無期懲役、終身刑というものを創設すると。ただ、これも一方で、社会へ出る希望が全くない、ずっと拘禁が続くというので大変残虐だ、そういう意見もあるんですよね。なかなか難しいところです。

平沢委員 死刑の問題はまた別途やりたいと思います。

 大臣に、お読みになっておられると思いますけれども、万が一と思って、昨日、事務方に菊池寛の「若杉裁判長」という短編をお渡しさせていただきました。これはもう読んでおられたと思いますけれども。

 これは、簡単に言いますと、要するに、裁判官をやっていて寛大な判決を下していた、今度は自分が被害者になる、自分のところに、盗賊が家に入ってくる、奥さんと三人の子供さんが精神的に非常に痛手を受ける、そうしたら、今度はがらっと変わって厳しい判決を下すということなんです。そこで何と言っているかというと、今まで自分は犯人の側、罪人の側からのみ罪を考えていたのではないか、これはやはりおかしいということに気づいたというような、こういう短編小説なんです。

 死刑も、もちろん死刑囚の立場を考えることも大事ですけれども、同時に被害者の立場を考えることもこれは当然大事なので、菊池寛のこの短編というのは非常にそういったことを問題提起していると思いますけれども、これをお読みになられて、大臣はどういう御感想お持ちになられたでしょうか。

江田国務大臣 若いころに読んだかどうか記憶がなかったんですが、きのう事務方からもらいまして、読みました。文豪の小説ですから、私ごときがいろいろ論評するのもどうかと思いますが、私も若いころ裁判官をやっておりまして、この小説が提起している問題はわからないわけじゃありません。

 例えば、私は、刑事事件はほんのわずかしかやっていないんですが、単独の刑事事件をやりますと、こう言うと申しわけないけれども、検察官は、とにかく時間のことだけ考えて、罪体をばっと証明して、そして情状についても簡単に終わるわけですよ。弁護人の方は、もうこの被告人は世界で一番すばらしい人だと言わんばかりの弁論をするわけです。そうすると、法廷は、何か、その被告人はもうすばらしい人柄のような様相を呈してしまう。しかし、私は、裁判官として、これには違和感といいますか、自分の法廷で、やはりそこは被害者の苦しみ、被害者の被害感情、こういうものが適切に法廷の中にあらわれるようなことも何か考えなきゃいかぬのじゃないかと思いながら、どうも私の下す判決は弁護士さん方には非常に評判が悪くて、大変厳しいという、そういうことだったんですが。

 ただ、この小説で一つだけ言わせていただくと、裁判官は法と良心に従って判決をする。法はもちろん法です。良心です。良心というのは、個人の良心だという意見もあるんです。あるんですが、一般的に認められているのは、裁判官としての職業的良心だ。その裁判官としての職業的良心が、こういうふうに、自分の寝ている場所での出来事ですから、大変だったとは思いますよ。だけれども、こういうことでこれだけ動くというのは、私は、十数年やられた裁判官のことではありますが、ああという、そういう思いはいたします。

平沢委員 よくわかりました。だけれども、やはり、被害者のことをちょっと忘れ過ぎているんじゃないかなと。そういう意味では、私は、問題提起としてはいいんじゃないかなという感じがしました。

 そこで最後に、この前の所信の中で、大臣は、取り調べの可視化について、これは実現に向けて着実に取り組んでいきたいということを言われたと思いますが、これも、民主党のマニフェストでしたか、政策集の中にも取り調べの可視化というのは入っているんです。その中に、冤罪の防止というのが書いてあるわけです。

 だから、これは極端なことを言えば、冤罪を一〇〇%防止するためには一切捜査をしなければいいんです。犯人を検挙しなければ冤罪なんて起こるはずないわけですから。だけれども、二つの目的があるんですよ。何でもそうですよ。目的は二つあるんですよ。冤罪は防止しなきゃならない、冤罪は絶対起こっちゃいけない。同時に、真相は究明しなきゃならないんですよ、犯罪者を検挙しなきゃならないんですよ。この両方をどうやって両立させるかということなので、冤罪は絶対起こしちゃいけない、当たり前。だけれども、同時に、事案の真相も究明しなきゃならない。

 そういう中で、取り調べの可視化、これは、もちろん冤罪の防止という観点だけからすればあれかもしらぬけれども、その一方で、犯罪の事案の、その事実関係の解明、究明、犯人の検挙ということの方からいくと、必ずしもプラスかどうかという点ではいろいろな意見があります。これについては、大臣はどう思われますか。

江田国務大臣 これはもう委員、もちろんよくおわかりのとおり、どんな社会制度でも万全というものはありません。また、社会制度の目的というのが一つだけということもないと思います。さまざまな目的を総合的に推進していくためにいろいろな社会制度というのができて、これは時々、また見直したり、いろいろ改めていかなきゃならぬところも状況の変化によって出てくるわけですよね。

 私は、この可視化の問題というのは、今、冒頭ちょっと申し上げましたが、検察の信頼が非常に揺らいでいるときです。さまざまな取り調べの問題点というのも出てきております。そんな中でこの可視化というのがクローズアップしてきているので、ここは検察の信頼の回復のためにも、やはり可視化というのは避けて通れない課題だと思っています。

 ただ、これも委員おっしゃるとおり、可視化で、すべての事件というのは膨大な事件がありますから、全部可視化が本当にできるのかとか、それはいろいろなことがあるので、そこは今、政権交代して、法務省の中に可視化の勉強会をつくって、次に、今度は大阪の事件が起きましたから、これで検察の在り方検討会議というのをつくって、さらに、その大阪の事件の検証を最高検の方でもやって、そしていろいろな試行もするというようなことで、今恐らく三つぐらいなチャネルでこの可視化の検討が進んでいるという状況でございまして、これは今、鋭意進めていきたいと思っております。

平沢委員 可視化は諸外国で行われているところはありますけれども、法制度とか取り調べ機能の意味合いが全然違うとか、いろいろありますし、諸外国の捜査当局と日本の捜査当局の権限というのを比較しますと、日本の捜査当局というのは極めて権限が限られているので、もし可視化を進めるのであれば、同時に、諸外国の捜査当局に与えられているいろいろな権限、例えば通信傍受の権限とか、あるいは司法取引とか、あるいはおとり、潜入捜査とか、いろいろな権限が与えられているんですけれども、そういった権限もあわせて検討しないと、片方だけで、可視化だけ進んでも、これは治安に少なからぬ影響が出るおそれもあるように思いますけれども、大臣はどう思われますか。

江田国務大臣 これもそういう意見があることもよくわかっております。

 通信傍受というのもあるでしょうし、あるいはおとり捜査であるとか、あるいは、言葉がどうかわかりませんが、司法取引といったような制度を持っている国もありますし、そうしたこともあるんですが、今、私ども、可視化の議論をしているときに、可視化をやるのと、そうした新たな捜査手法なり刑事司法の新たなあり方なりを導入するのとを同時にセットでというふうには今考えておりません。

 そうではなくて、やはり取り調べに行き過ぎがある場合があったんじゃないか、ここをやはり解明しなきゃいけない、それがないと検察の信頼は回復しないということで、可視化をまず何らかの形で実現をしたいと思っておりまして、そういうことやりながら、また新しい捜査手法が必要だということが将来起きてくるかもしれません。そのときにはまたそうした議論もしていきたいと思っております。

平沢委員 この可視化の議論は極めて大きな、奥行きの深い問題なので、また別途、議論させていただきたいと思います。

 きょうは小宮山厚生労働副大臣においでいただいていますので、ちょっとお尋ねしたいんですけれども、この可視化の議論が起こるようになった一つの大きなきっかけは、村木さんの事件なんです。村木さんは刑事事件でもう無罪が確定したわけで、これについては検察は大いに反省してもらわなければならないわけで、この事件は事件として、村木さんは厚生省の課長だったときに、その直属の部下が、郵便料金の割引制度ですか、それが受けられる心身障害者団体であること認定する証明書、これを村木さんが保管している印鑑を使って、その下の担当係長がつくったんでしょう、これは。それで今、公判中なわけでしょう。

 だとすれば、村木さんの責任は、私も役人であったからわかりますけれども、公務以外で何かとんでもない事件を起こしたときに担当の上司が監督責任を問われるなんということは幾らでもあるんです。これは職務ですから、職務に関連して、しかも自分が保管していなければならない印鑑が使われて、そして証明書として発行されて、そして日本郵政公社に何十億という被害を与えたわけでしょう。これは村木さんの、刑事事件は何度も言いますけれども全く別です。この村木さんの責任というのは極めて極めて重大だと思いますけれども、この監督責任はどうなっているんでしょうか。

小宮山副大臣 村木元局長は、刑事事件につきましては無罪判決がおっしゃったように確定をしていますが、御指摘の上村元係長の上司としての責任はあるものと考えています。

 村木元局長を含め、当時の関係者の監督責任について検討していますが、具体的な結論を出すためには上村元係長に関係する事実関係が確定をする必要があると思います。現在、上村元係長に対する刑事訴訟が係争中であり、厚生労働省として判断する段階には至っていませんが、判決が確定しない段階であっても、事実関係が確認できれば、上村元係長の処分とあわせて、当時の関係者の監督責任について結論を出したいと思っています。

 ただ、今、上村元係長は起訴休職中でございまして、なかなか接触ができていません。御指摘の点も含めまして、早期に事実関係を確認できるように検討していきたいと思います。

平沢委員 村木さんは、たしか去年無罪が確定した直後に内閣府の政策統括官として復職しておられるわけですよね。ただ、監督不行き届きの結果、三十億とも四十億とも言われている大変な被害が出たわけですよね。今、確かに上村元係長の裁判は係属中です。だけれども、上村元係長は、大体事実関係は全部もう認めている、自分が単独で証明書を発行したということを認めているわけでしょう。

 だから、いずれにしましても、今の段階ではっきりしていることは、要するに、上村元係長がこういったにせの証明書を発行したということはもう明らかなわけですから、村木さんは上司として大きな責任があるということが一つと、そのときに村木さんが本来適正に保管していなきゃならない印鑑が使われたということ、これはもうはっきりしているじゃないですか。この辺だけでも、この裁判が今係属中で、裁判が終わるのを待たなくてもいいといったって、これはいつになるかわかりませんけれども、退職してから処分するんですか。これはいつ処分するか知りませんけれども、事実関係でもう既に明らかになっていることはいっぱいある。これだけでも極めて極めて私は大きな監督責任があると思いますよ。

 だから、その後、追加的にまた起こるということはあるでしょう、それは。だけれども、今の段階でも、今わかっている事実だけで大きな監督責任があるんじゃないですか。

小宮山副大臣 今おっしゃった観点で、なるべく早くその事実関係を確認したいとは思っているんですが、ただ、今起訴休職中の上村元係長が今おっしゃったように事実関係を認めていたものの、村木さんが無罪になったということで、また何かそこのところがはっきりしなくなっているようで、私が聞いているところでは。間に弁護士さんがいますので、こちらが接触できない状況ですので、その事実関係をしっかりと確認した上で、先ほど申し上げましたように、村木元局長を含めて、関係者の監督責任についてはなるべく早く結論を出したいというふうに思っております。

平沢委員 いずれにしましても、これは私たちも十分注視していきたいなと思っていますので、これは別に村木さんがどうのこうのということではなくて、やはりこれだけ大きな問題を起こしたわけで、それに大きな責任があるわけですから、そこはやはり刑事事件とは別にしっかり考えてもらいたいなと思います。

 そこで最後に、今、法務省は検察の在り方検討会議、あと死刑の方もたしかいろいろと検討していると思いますけれども、今後のタイムスケジュールはどうなるんでしょうか。検察の在り方検討会議と、それから、死刑の方も、たしか千葉元法務大臣ですかのあれでいろいろな検討会議が開かれていますので、このスケジュール感をちょっと教えてください。

江田国務大臣 検察の在り方検討会議は、これは、千葉座長のもとで、有識者に集まっていただいて、かなり精力的に審議を進めておりまして、今月末をめどに、検察の信頼回復のために何ができるか、この答えを出していただく。それを受けて、その後は私のところで、この答えを参考にしながら改革案を取りまとめていきたいと思っております。

 その中にはいろいろなものがあるんですが、可視化についてだけでいえば、この六月をめどに、いろいろな、今、国の内外の調査をしていますから、そういうものが集まってくる。しかし、それまでの間は何もしないというのもどうもこれもいけないので、今、スピードアップをしようということで、省内の検討を進めている。

 それから、死刑については、これは千葉さんが残された勉強会がありまして、これまで有識者の皆さんからのヒアリングをしておりますが、これも引き続いてやっていきたい。ただ、こちらの方は、どういうめどで結論をというものはまだ持っておりません。

平沢委員 時間が来たから終わりますけれども、死刑の問題にしろ可視化の問題にしろ、これは極めて大きな問題なので、引き続きこの委員会で質問をさせていただきたいと思いますし、先ほど言いましたように、中国人の船長の問題は終わったわけじゃありませんので、引き続きまたこの問題は質問をさせていただきたいと思います。

 時間が来たから終わります。ありがとうございました。

奥田委員長 以上で平沢勝栄君の質疑は終了いたしました。

 次に、稲田朋美君。

稲田委員 おはようございます。自由民主党の稲田朋美です。

 今、平沢委員と大臣とのやりとりを聞いておりまして、大臣が全く官僚の答弁をお読みにならずに、御自分のお言葉でお話しになっていることに私は感銘を受けました。当たり前のことなんですけれども、前大臣とはそういうやりとりが全くできずに議論がかみ合わなかったものですから、きょうは大臣のお考えをじっくりお伺いしたいと思います。

 また、平沢委員とのやりとりの中で、私はちょっと疑問に思うことも幾つかございましたので、そういった点もお聞きをいたしたいと思っております。

 先ほど平沢委員からもお話がございましたが、素朴な疑問といたしまして、なぜ、国権の最高機関である国会の、しかも良識の府である参議院の長であった方が、行政府の菅内閣の一大臣になられたのか。先ほど大臣から並々ならぬ決意をお話しいただいたわけですけれども、大臣は法律家でもいらっしゃいますので、三権分立の観点から問題はないのか、その点について、大臣のお考えをお伺いしたいと思います。

江田国務大臣 先ほど平沢委員にもお答えいたしましたが、任命権者である菅首相の覚悟、これを私も共有し、大変な難局にある我が国のために、微力ながら力を注いでみたいと思っているわけです。

 もう一つ、私個人のことです。個人のことですが、私は去年の参議院選挙でさらに六年間の議席をいただきました。この六年間の議席は、もう議長経験者としておつに澄ましていろとか、そういう意味で有権者が私に議席を与えてくれたんじゃないだろうと思うんです。やはり、議長の経験も踏まえて、この六年間、議員として、立法府の中で、あるいはもちろんそれは時には行政府ということもあるかもしれません、全力を尽くせというのが、私は、私を選んだ有権者の皆さんの気持ちであり、ここは、議長経験者だからもう有権者のそういう気持ちと関係なく院の権威ということを体現しておつに澄ましているというわけにはいかない、こんなふうに思っておりまして、決して三権分立という建前から矛盾するものではない。新たな六年間の議席を今いただいて数カ月たっているというところだと思います。

稲田委員 ただ、大臣になられなくても、六年間の議席、参議院議員としても、大臣であれば立派に有権者の期待におこたえになったのではないかなと思います。

 大臣は、参議院の議長を平成十九年の八月七日から平成二十二年七月二十五日まで務めておられました。参議院の議長経験者が大臣になられるのは初めてのことだとお聞きをいたしております。また、議長は、議長就任の間、その中立性を保つために院内会派を離脱されていたわけであります。

 また、大臣が議長のときに菅総理が誕生したわけです。菅総理を選んだときの参議院の議長でいらっしゃったわけですけれども、そのときの議長であった大臣が同じ菅政権の大臣になること、これは、議長の中立性に関する歴史だとか、国権の最高機関である国会の権威をないがしろにすることにならないでしょうか。

江田国務大臣 参議院の議長経験者が大臣になるというのは初めてのことです。しかし、衆議院の議長経験者が後に大臣になるというのは幾つも例がございます。衆議院の議長も参議院の議長も、参議院は良識の府で格が高いと言っていただいて大変ありがとうございますが、これはやはり同格、というよりもむしろ衆議院の方が時には優越するわけでして、衆議院の議長経験者が大臣になっている例というのは私は参考にはなるものだろうと思っております。

 ところで、菅直人さんを内閣総理大臣に参議院で指名した、そのときに私は議長でございました。しかし、先ほど申し上げましたとおり、その議長の任期は、そのときの議員の任期の終了、つまり昨年の七月の二十五日ですか、ここで終わって、翌日からは昨年の七月の参議院選挙でいただいた議席が六年間始まっていますので、そこは一つの区切りがついているものと、自分の気持ちの中では区切りをつけております。

稲田委員 ただ、参議院は衆議院と違って解散がありません。六年間議席があるということは、衆議院よりもさらに良識だとか品位だとかそういうものが要求される院ではないかなと私は思っております。

 また、先ほど形式的なことをおっしゃいましたけれども、やはり菅総理を選んだときの議長であったということは特別の意味があるのではないかなと思っております。また、国会は行政をチェックする立場にあります。大臣が菅政権下で参議院の議長ということは、菅政権を監督、チェックする機関の長であられたわけです。そのような立場にあった人が、監督されていた、まさにチェックされていた側の行政府の一大臣におさまれば、あなたが、大臣が参議院議長だった時代の国会運営の中立性ということまで疑われることになり、参議院の権威をおとしめることになるのではないかと思いますが、その点はいかがでしょうか。

江田国務大臣 議長が行政府をチェックするというよりも、これは国会の機能でございまして、その国会を議長ということで代表しているという意味では、確かに行政府をチェックする、その頂点に立っているということは事実でございます。

 しかし、先ほども申し上げましたとおり、その議長の職は私の前の任期の終了と同時に終わりまして、今の任期は、その直前に行われた参議院選挙でいただいた議席ですので、ここは、前のとき議長で、そのときに菅さんを総理大臣に選んだ本会議を主宰したから、後、その菅さんの内閣に入るのは参議院の品位をおとしめるとか、そういうことにはならないと思っております。

 いずれにしても、その点はよく自分で自重自戒しながら、議長までやった人間だということをしっかり自分で認識をし、自覚をして職務に当たっていきたいと思います。

稲田委員 でも、チェックをしていた国会の長であられて、そして、また新たな任期が始まったとおっしゃいますけれども、同じチェックをされていた菅政権の側に入られたわけですね、大臣として。これは、まさしく天下り、所属官庁の事務次官がその所管の団体に天下りするのと同じことになるのではないかなと私は思うわけです。

 なぜ天下りが禁止されるか。これは、天下りを許すと行政がゆがむわけですね。いずれ天下りすると思えば、どうしてもその団体に対して甘くなって、行政がゆがんでしまうということが問題なわけです。同じように、監督、チェックする立場の国会の長である議長が将来大臣になるということがこれからも慣例になるとすれば、私は、国会自体がゆがんでしまうのではないか。だから、特に良識の府である参議院の議長が大臣になられたということは前代未聞なわけです。

 今回の大臣の行動が、国会のチェック機能を疑わせる、そして国会に対する国民の信頼を疑わせる、日本の民主主義がゆがむということにつながると思われませんか。

江田国務大臣 日本の民主主義をゆがめるようなことがあっては大変でございますが、そういうことはないと思っております。

 菅内閣の発足のときに議長をして、六月から一カ月ちょっと議長をやっていて、今この立場に立って、そういえばあのときに随分不公平なことをしたのではないかとみんなに疑われるという御指摘がございましたが、私は、それは当たらないと。

 当時、まさかこういう立場に立つなどと、そんな夢にも思っておりませんし、今のこの法務大臣というのは、ことし一月の十四日の朝、私にとってもまさに青天のへきれきでございますし、それは、議長当時に、会派ももちろん離脱をしておりますし、また、東京でも地方でも政党の活動にも参加を自粛していたわけでありまして、そこは議長の中立性はしっかり守ってきた。いろいろな御批判はございますよ、御批判はございますが、守ってきたと、私は、だれに恥じることもなく、そう思っております。

 そして、今、何か天下りで、監督する方が行政に入ると行政をゆがめる、そういう論理です。これはちょっとうまく理解ができないんですけれども。そんなことを言ったら、衆議院の議長さんで大臣になった人が何人もいるということを申しましたが、これは皆、自民党時代のことなんですね。そのことによって何か行政というものがゆがんだというふうに委員がお話しになるのかどうか。

 参議院の場合はちょっと違うと。参議院議員が入閣するのはいけないという、この主張はあるんです。それは私もわかっております。しかし、それは主張としてわかりますが、今そういうことを言っているときじゃなくて、やはり菅首相の決意を私も共有したいと思ってお引き受けをしているわけでございます。

稲田委員 私が先ほど天下りのことを持ち出しましたのは、事務次官が天下りをするとすれば、監督である行政庁が、将来天下りすることが慣例になっているような団体に対して、どうしても甘くなるんじゃないか。そうすれば、行政の中立公正性が疑われる、そういう点を指摘いたしたわけであります。

 私は、やはり参議院議長だった人が大臣になることが前代未聞、今までそういうことは皆さん控えられていたことには理由があり、ましてや議長だったときの政権と同じ政権のもとで大臣になるということは、議長の権威をおとしめるだけではなくて、先ほど大臣がおっしゃったように、振り返って、大臣の議長時代の議会運営そのものが中立ではなかったのではないかという国民の不信を招くものだと思うわけです。

 確かに、私はやはり中立性が疑わしいなと思うようなことがあったと思うんですね。例えば、昨年の参議院選の前、菅内閣が誕生した後に、予算委員会の質疑もせず、菅総理、荒井大臣、問責決議案二件、そして御自身の、議長の不信任決議案も全く審議をせずに、議長は国会を閉じられたんですよ。

 私は、これは振り返ってみて、やはり議長の中立性を疑わせるに十分な行動であり、今回、議長が大臣に就任されたことで、国民も不信が募っていると思いますけれども、いかがでしょうか。

江田国務大臣 寡聞にして、私、直接にそういう不信感というものを聞かせていただいたことがございません。きょう初めてでございまして、そういう論理もあるかなと今伺っていたところなんです。

 昨年の参議院の通常国会の幕切れの出来事というのは、これは私にとってもちょっと残念なことではございました。ただ、国会の運営というのは議長だけで決めていくことではないので、さまざまな各会派のいろいろなやりとりの中でああいうことになっていまして、そこはひとつぜひ御理解をいただきたいと思います。

稲田委員 やはり私は、参議院の議長という大変な議会運営の責任者としては、昨年の参議院選の、あの全く審議をせずに国会を閉じる、これは十分中立性を疑わせることだったと思います。

 また、さらにさかのぼってみますと、大臣が議長時代に行われたことで、大変私は不信を持っていることがあります。

 それは、平成二十年のいわゆるガソリン国会のときなんですけれども、三月に期限の来るガソリン税の暫定税率について、当時の与党であった自民党が議員立法で暫定税率の延長法案、ブリッジ法案を提出したところ、一月三十日に両院議長のあっせんでブリッジ法案を取り下げたんです。ところが、あっせんをされたあなたが議長を務められている参議院で審議をせずに、たなざらしをされて、結局、暫定税率が期限切れになって、ガソリンが一たん下がって、そしてまた五月に再び上げるということで、非常に政治が混迷をし、また当時、私も自民党の議員としておりましたけれども、だまされたという不信感が非常に募ったわけですけれども、その点についていかがでしょうか。

江田国務大臣 これは、当時の河野衆議院議長と参議院の議長の私と、二人でいろいろ相談をいたしました。そして、議長のあっせん案を出したのではないんです。そうではなくて、各党の皆さんに集まっていただいて話し合いをしていただく場を私どもは設定をして、そして、その各党派の責任者の皆さんが一つの合意をつくって、それに皆署名をされた。河野さんも私も、その文書には全く名前を出しておりません。

 私どもは場を設定して、そして皆さんのこの合意を、言ってみれば仲介をいたしました。議長の方で、このあっせん案といって、のんでくださいと言ったわけではございませんが、そこは一つの経過ですから。その結果、つなぎ法案というものを取り下げていただいて、そして、年度内に措置するものとする、そういう合意になっていたわけですが、その合意が実現されませんでした。これは、私も河野さんも大変残念に思いました。

 なぜその合意が実現されなかったかということについて、だまされたというお話ですけれども、これは、私は、長く国会という場にいて、会派に分かれていろいろな議論をします。どうしても、当たり前といえば当たり前なんですが、それぞれの会派の中にいますと、その会派がやっていることが一番いいというふうについついみんな思ってしまうんですね。しかし、お互いに中の事情を知ると、いや、そうでもない、あそこがおかしかった、ここが違っていたというようなことがお互いにあるということがございまして、そこのところは、なぜあの合意が実現できなかったかというのは、私は私なりに知っていることが、両方の間の中立ですからございますが、それはもう今さらいろいろ解説すべきことでもないと思いますので、ぜひ、そこはひとつ、だまされたという認識じゃなくて、もうちょっと議論を生産的に、議論を前へ進めるという立場からいろいろな論陣を張っていただければ大変ありがたいと思います。

稲田委員 ただ、私は、そのとき自民党の総務会におりました者として、今、議長があっせんではなくて場を設定しただけだとおっしゃったんですけれども、ここに「両院議長あっせん」、平成二十年一月三十日付の書面があるんです。そして、これを、当時の自民党の幹事長が総務会の場で説明をされました。そして、その一項で、「総予算及び歳入法案の審査に当たっては、公聴会や参考人質疑を含む徹底した審議を行ったうえで、年度内に一定の結論を得るものとする。」と書かれておりましたので、三月までに結論が出るものと信じてブリッジ法案は取り下げることに総務会でも了承したということを覚えております。

 したがいまして、私は、あっせんではなかったと言われますと非常におかしいなと思いますし、そのときの政党間の信頼関係がやはり破壊されたということが、今の政治に対する不信を招いていると思います。

 そういう意味から、私は、議長の中立性ということを、今、大臣になられて、振り返ってみると、そういうことも思い起こされて、大変遺憾だなということを感じているわけでございます。

 続けます。

 さて、大臣は、今ずっと、るる、いかに決意を持って菅政権を支えることにしたかということをお述べになりました。また、私からもいろいろなことを申し上げましたけれども、それでもやはり自分は菅政権を支えるべきだということで、迷いはあったけれども就任したんだという決意を伺いました。

 また、大臣は、菅総理と社民連時代からあたかも師弟関係というような関係でいらっしゃると思います。その大臣から見られて、今の菅内閣についてどういう評価をなさっているでしょうか。

江田国務大臣 私から見て菅内閣をどう見るかというのは、一生懸命仕事をしている、大変困難な中、とにかくこの状況をしのぎ切って予算を成立させ、さらに、予算関連法案につきましても、これは、率直に言って、予算関連法案の成立については数の算段はついていないんです。しかし、予算関連法案が成立しないというのは、国民生活にとっては大変な事態です。ぜひ野党の皆さんも、ひとつここは、やはり自分たちの意見も加えながら何か合意をつけて成立させよう、そういう立場に立っていただきたいなと祈るような気持ちで、菅内閣は一生懸命に仕事をしていると思っております。

稲田委員 一昨日、筒井農水副大臣が、菅内閣の支持率低下をめぐって、この状態が続けば内閣総辞職ということも出てくるのではないか、このまま支持率が下がれば政権はもたないと指摘、きちんと国民に公約の原則は果たさなければならないと、菅政権を批判する発言をされております。

 内閣の一員からこういった発言があることについて、私は、大臣と菅総理は盟友であり、先ほども言いましたように、師弟関係というか信頼関係で結ばれていて、だからこそ、前代未聞の、議長から大臣にも転身をされたと思いますので、こういう発言が内閣からも出ている、既にもう菅総理の統治能力や求心力は失われているというふうに思われませんでしょうか。

江田国務大臣 政府の中からそういう発言が出ていることは遺憾に思いますが、しかし、テレビの報道などはその部分だけを切り取って報道されますので、その前後のどういう文脈の中でそういうふうに言われたかということを私はぜひ見てみたいと思うんですけれども、必ずしも、政府の中からもうだめだという声が出ているかどうかは、ちょっとそれだけでは判断できないと思っております。

 いずれにしても、今こういう状況の中で、菅総理大臣の心のうちは私もわかっているつもりなので、支持率ということじゃなくて、やはりここはしのぎ切って、そして新たな事態に向かっていきたい、こういう強い強い決意を持っていますので、今の支持率、このままでいけばもう辞任せざるを得ない、そういうふうには思っておりません。

 それともう一つ、そういう声が閣内から起きないように一層頑張れという委員の激励だと今の御質問は受けとめたいと思います。ありがとうございます。

稲田委員 菅総理のいわば後見人的な立場に大臣がいらっしゃるのかなと私は思うので、あえてお尋ねをしているわけですけれども、私は、前回の総選挙、あのときに民主党が掲げたマニフェストはもう崩壊をしていると思います。

 特に、マニフェストの核はやはり財源だったんです。政権を交代して、自分たちが政権をとれば、無駄遣いをやめて九・一兆円、天下りをやめて十二・一兆円、予算を組み替えれば、一割、二割、すぐ出るんだ。一割、二割といえば二十兆、四十兆なんです。すぐ出るんだと。だから、子ども手当だとか、ガソリン値下げだとか、高校授業料無償化もそうです、高速道路無料化もそうです、締めて十六・八兆円の、国民の耳ざわりのいい、そういう政策ができるんだということをおっしゃって政権をとられた。その核は財源なんです。

 私は、この間、予算委員会で、与謝野大臣にこの財源のことについてお伺いをいたしましたら、与謝野大臣は、民主党は知らなかった、もっと言うと、民主党は無知だったということをおっしゃったわけです。だとすると、私は、今の、ばらまきをやめないで、社会保障と税を一体改革するだとか、規制仕分けですか、そういったことがもう本当にすべて、国民の税金を使った、いわば時間の無駄なんですよ。菅政権を延命するだけの壮大な時間の無駄を、開国フォーラムもそうです、そういうことではなくて、このマニフェストの核について今崩壊している以上、もう一回国民の信を問い直して、解散・総選挙でもう一回出直しするのが民主党にとってもいいと私は思うんですけれども、そういった御助言は菅総理にされていますか。

江田国務大臣 解散・総選挙をすべきだという助言、これは私はしておりません。

 また、それは長い盟友関係で、私の方が若干年が上だということはございますが、いやしくも菅さんは内閣総理大臣でございます。私は、後見人であるとか、あるいは助言をするとか、そういうような思い上がった気持ちは持っておりません。そうではなくて、もちろん菅さんから相談があれば何でも相談しますし、私の考えも申し上げますし、時に気づいたことは、それは参考として言うようなことはありますが、総理大臣の一番重要な権限である解散ということ、これを私が何か差し出がましく助言をするような、そういうつもりは全くありません。

稲田委員 ただ、大臣は、議長という立場から、前代未聞の、菅政権を支えるために大臣になられたわけですから、私は適切な助言をなさるべきだと思っております。

 次に、外国人参政権のことについてお伺いをいたします。

 先ほど平沢議員からの質問にお答えになって、大臣は、外国人地方参政権については賛成の立場であるというお答えをいただきました。

 まず、政務官。政務官は外国人地方参政権を付与することについて賛成のお立場ですか。

黒岩大臣政務官 私も賛成の立場でございます。

稲田委員 副大臣、外国人地方参政権付与に対して賛成のお立場ですか。

小川(敏)副大臣 永住外国人について地方参政権の付与に賛成でございます。

稲田委員 では、大臣にお伺いをいたします。

 この地方参政権、永住外国人、一般永住者、特別永住者、区別なく地方参政権を与えることについては、かなりの県議会で反対の決議がなされております。四十七都道府県中三十六県が反対の決議をしているんですけれども、こういった県議会、地方の声があるわけですけれども、それでも外国人に地方参政権を与えることについて賛成でいらっしゃいますか。

江田国務大臣 先ほども平沢委員との質疑の中で私の考え方を申し上げましたが、いかなる制度でも万全というのはないので、いろいろな悩みはつきものなんですね。にもかかわらず、やはり地域のことは地域で実際に生活している皆さんで決めていく、そういうことが大切なので、その地域社会を構成している人たちにはその地域の参政権を与えるべきだと思っておりまして、永住外国人の地方参政権は賛成でございますが、今の地方議会のいろいろな決議というものもあるし、また国会の中でもいろいろな意見がありますので、ここはしっかり各党各会派で議論をしていくということが大切だと思いますし、また、今法務省という立場でいうと、これは法務省の所管ということでもないので、所管の省を中心として具体的な議論を進めていかれるものだと思っております。

稲田委員 では、大臣、国政参政権を外国人に与えることについてはどのようなお考えでしょうか。

江田国務大臣 それは、外国人が国政について参政権を持つということは大変困難だと思います。

稲田委員 ただ、国で決めること、地方で決めること、明確に区別ができないこともありますし、地方で決めていることも非常に国に影響することもあります。また、国政の選挙、私たちも選挙をやっておりますけれども、地方の選挙が非常に影響を与えます。

 外国人に地方参政権を与えますと、国政の選挙や政治に対しても影響があるというふうにはお考えになりませんか。

江田国務大臣 そこは制度の立て方であって、いろいろな知恵はあるだろうと思います。

 それと、影響というのが具体的にどういう影響かで、一般論として言えば、それはどんなことでもすべてのことにいろいろなことは影響していくので、世の中、森羅万象、お互いに影響し合わないことはなかなか難しいと思います。私は制度の設計の仕方だと思います。

稲田委員 大臣は、主権国家というのは何だというふうにお考えでしょうか。

江田国務大臣 主権国家は何だというのはなかなか大きな御質問ですが、私は、これは世界史の歴史の中で、ウェストファリア条約ですか、その後、近代主権国家というのが生まれてきたということだと思いまして、領土と、そして国民と、そしてそれぞれの国の自立権といいますか、そういう主権というものがあるんだと思います。

稲田委員 私は、やはり、主権国家というのは、自分の国のことは自分で決めるということだと思うんです。だから、憲法十五条に、公務員選定、罷免は国民固有の権利であると書かれております。これは、日本が主権国家で、そして、日本の行く末を決める公務員の選定、罷免は国民固有の権利であって、国籍を持っていることが条件だということが憲法十五条に書かれているわけですけれども、この憲法十五条と外国人に地方参政権を与えることとの間にそごがある、憲法違反になると私は思いますけれども、その点についての大臣の見解をお伺いいたします。

江田国務大臣 憲法十五条一項の規定は、今言われるような規定でございまして、最高裁判決でも、これは日本国民のみを対象としているということが書かれているわけでございます。

 それはそうですが、同時に、この判決では、永住外国人の地方参政権については憲法上禁止されているものではないと解するのが相当だという判示がございまして、これは、いわゆるむちゃくちゃな論という意味の暴論ではなくて、傍らの論という意味での傍論ではございますが、私は、最高裁判所が、傍論ではあれ、そういうことをあえてここへ書き込んだという、その最高裁判所の気持ちというものは尊重できるものだと思っております。

稲田委員 今大臣が読み上げられた部分は、最高裁の傍論部分であり、判決としての先例性はないんですね。しかも、最高裁、平成七年に判決が出ておりますけれども、その前に、日本で初めて、国政参政権と地方参政権を分けて、国政参政権を外国人に与えるのは違憲だけれども地方参政権を与えるのは違憲ではないという学説を紹介された長尾教授が、最近になって、自分の考えは間違っていた、地方参政権であれ国政参政権であれ与えることは憲法違反だというような考えを披瀝されております。

 私はやはり、憲法十五条の公務員選定、罷免権については、国政、地方を問わず、参政権を与えれば、日本が自分の国のことを自分で決めるという主権国家であることをやめることにつながりますので、それは憲法に抵触する、このように考えております。

 さらに、先ほど、また平沢議員からの質問に対して、前原大臣の政治献金の問題についてお尋ねがありましたけれども、先ほどの大臣の御答弁を聞いておりましたら、五万円ぐらいだったらいいのではないか、また、地域の方々であれば、地域の人から応援してもらうという意味からは、外国人の方々からも献金をもらってもいいのではないかというように聞こえたんですけれども、その点、もう一度答弁いただけますか。

江田国務大臣 これは、今現に政治資金規正法というものがあるわけでございまして、その法律があるのに、もらってもいいんじゃないかというようなことは言えません。

稲田委員 また、民団という外国人の団体が先ごろの衆議院選にかなり応援をしたということが民団新聞から明らかになっております。ビラ配りをする、それからポスター張りをする、選挙事務所に詰める、そういった活動をして、そして政権交代に力をかしたと。そして、民主党政権の閣僚が新年会に行って、皆さん方、皆さん方というのは民団の皆さん方ですよ、皆さん方のおかげで政権交代することができた、だから、皆さん方に対する公約として外国人地方参政権の成立に向けて頑張っていきたいというようなあいさつをされておりますけれども、私はこれまた主権国家の閣僚としては非常に不適切な発言だと思っております。

 大臣は、選挙活動について、公職選挙法では外国人の選挙活動について規定はありませんけれども、制限を設けるべきだと思われませんか。

江田国務大臣 民団の皆さんがどういう選挙活動をされたかというのは、先ほど平沢委員の御紹介がありまして、私はそれを読んでおりませんし、また具体的には知りませんが、そうしたことはあったかなとは思います。そして、閣僚が民団の会合で述べられたということについては、これは私は論評する立場にはいないと思っております。

 そして、外国人の選挙運動への参加、これは今、公職選挙法上そういうことについての規定はないのは事実でございまして、そこは立法上どうするかというのは、ちょっと、今、法務大臣という立場でそのことについての見解を述べるというのは、やや私ののりを越えるのではないかと思っております。

稲田委員 それはおかしいんじゃないですか。確かに公職選挙法には規定はございません。しかし、昭和五十三年に、大臣も御承知だと思いますけれども、最高裁判決がございまして、外国人の政治活動というのは無制限ではないはずであります。その点についていかがですか。

江田国務大臣 最高裁の判決ですか。(稲田委員「はい」と呼ぶ)ごめんなさい、ちょっとそれは知りません。

稲田委員 マクリーン判決といって、外国人の政治活動は無制限ではなくて、日本の政治や選挙に重大な影響を与えない限りにおいて自由であるという判示をしております。それからしますと、公職選挙法にたとえ規定がなくても、日本の政治、政権交代に影響を及ぼすような政治活動、選挙運動は憲法で禁止されている、私はこのように考えておりますので、ぜひ大臣もその判決を読んでいただきたいと思います。

 次に、もう一つ、私は、憲法違反の疑いが非常にあるのではないかと考えております防衛省の通達についてお伺いをいたしたいと思います。

 まず、大臣に伺います。

 表現の自由というのは、憲法が保障する基本的人権の中でも、他の権利と違って大変優越的な地位があるとされておりますけれども、それはどうしてですか。

江田国務大臣 表現の自由というのは、やはり人間が人間であるあかしだと思いますね。

 これは、基本的人権、さまざまなメニューがございますが、その中でもやはり思想、信条の自由、思想は表現しなければそれは思想にならないので、私が心の中だけでこう思っているという内心の自由は、もちろんこれは最も重要でございますが、その一つの系として自分の内心を外へ表現するという自由、これは民主主義国家にとって最も重要な権利だと思います。

稲田委員 そういう自己の表現とか、自己充実というのか実現というか、そういう意味から、表現の自由というのは大変重要だと思います。

 また、民主国家において、議会制民主主義、特に民主党は、議会制民主主義を日本に根づかせるんだとおっしゃって先ごろの選挙をお戦いになったわけですけれども、表現の自由とか政治活動の自由というのは、議会制民主主義、民主主義国家にとって非常に重要です。

 ですから、これを制限するには大変な基準が必要でありまして、どういう場合に制限できるかについては、最高裁判決でも、明白かつ現実の危険があり、他にとり得る手段がないときに限られると、非常に限られた場合でしか表現の自由、政治活動の自由というのは制限できないというふうになっております。

 そこで、きょう防衛省の政務官にお見えいただいておりますのでお伺いをいたしますが、昨年の十一月三日、自衛隊入間基地航空祭の祝賀会で、地元協力団体航友会の会長の祝辞が発端となって、十一月十日、防衛省事務次官通達が出されました。私は、この通達自体、憲法違反だと思っておりますけれども、航友会会長のどのような発言が問題になって、そして、何を契機に通達を出すことになり、その通達の内容はどういうものであったか、お答えをください。

松本大臣政務官 お答えいたします。

 幾つかいただきましたので、ちょっと漏れがあったらまた教えてください。

 まず、航友会の会長の発言が契機となってということで、何が不適切だと考えてというような御質問だったかと一問目は思いますが、これは、会長の発言を不適切というふうに考えているわけではありませんで、自衛隊が、自衛隊の施設内で行われる行事で、隊員が政治的中立性を害するような行為を行ったのではないかというような誤解を招くようなことが起こった、そのことが適切ではないということで対策を講じたということであります。

 それから、通達の中身について、これが何か表現の自由との関係で問題なのではないかという御質問でしょうか。(稲田委員「なぜ通達を出すことになり、その内容ですね、あと、会長のどの発言ですか」と呼ぶ)

 最後の部分については、会長のどの発言ということではなくて、自衛隊が、自衛隊の施設内で行われる行事において、隊員が政治的中立性を害するような行為を行った、つまり、施設を提供した、このことが、こういうことが疑われるような事案が起こったことが不適切であるというふうに考えて発出をされた通達であります。

 ごめんなさい、あとは、もう二つぐらいあったと思いますが。(稲田委員「なぜ通達を出すことになり、その通達の内容はどういう通達ですか」と呼ぶ)

 なぜ通達を出すことになったかといえば、自衛隊法に六十一条、それから施行令八十七条というのがありまして、自衛隊についてはそもそも政治的行為が制限をされている、さらには、この施行令の八十七条にも「政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。」ということも規定されておりまして、ここに定める政治的中立性の確保を害するような行為を行ったというふうに誤解されるおそれがあった、したがって、そのようなことがないように通達を発出したということであります。

稲田委員 今の政務官のお答えがほとんど私の問いに対する答えになっていないので、少し具体的にお聞きをいたしますね。

 今、政務官は、航友会の会長の発言が不適切ではなかったとおっしゃるんですけれども、この通達の中で、「誤解を招くような極めて不適切な発言を行った。」と。この通達の中で、「極めて不適切な発言を行った。」この主語は航友会の会長なんですよ。その航友会の会長の極めて不適切な発言とは何を指すんですかと聞いているんです。

松本大臣政務官 通達の柱書きの部分ですが、実は、今引用していただいた部分の前に、「自衛隊の施設内で行われた行事において、」という一文がございます。ここが一つのみそと言うと言葉があれかもしれませんが、自衛隊の施設内で行われた行事で、自衛官が政治目的のために自衛隊の隊舎を貸した、これは政治的中立性という観点からどうなのかというような疑いを持たれるような行為を行ってしまったと疑われる可能性がある、それはやはり不適切であったということを指しているわけでございます。

稲田委員 政務官、議論がかみ合っていないというか、質問は、この通達の中で、今政務官がおっしゃったような、誤解を招くような「極めて不適切な発言を行った。」と。極めて不適切な発言を行ったのは、この通達でそれを摘示されているのは、航友会の会長の発言なんです。だから、どの発言ですかということをお伺いしているんです。

松本大臣政務官 発言の内容には、特定の政権、あるいは特定の内閣を、たしか菅政権をぶっつぶせというような御趣旨の発言だったと思いますが、自衛隊法の施行令の中にも、「特定の内閣を支持し、又はこれに反対すること。」ということは政治的目的であるというふうに定義をされているわけでありまして、こういった観点から、その発言を行うために隊舎を使用させた、このことは、自衛隊法の六十一条、さらにはその施行令に定める政治的中立性の確保の観点から不適切であるというふうに判断をしたものであります。

稲田委員 この通達で指摘をしているのは、航友会の会長が不適切な発言をしたと指摘をしているわけであります。

 それで、議論がかみ合わないので次の質問に行きますけれども、この発言を、不適切だということを指摘したのはだれですか。

松本大臣政務官 これは、だれがということでは特にないわけでありますけれども、千三百人という極めて多数の聴衆の前で、部外団体の会長により、特定の内閣や政党を否定する発言が行われ、その結果、自衛隊の政治的中立性との関係で問題となることが予想されたことから中央に報告されたのではないかと考えております。

稲田委員 政務官、ぜひこの問題、大臣からレクを受けて、きちんと詳細を把握してから来ていただきたいんですよ。

 この問題、私から答えを言います。これは、入間基地の祝賀会で、航友会の会長が民主党政権を批判する発言をしたんです。それを民主党の議員が抗議して、そしてその自衛隊の施設の長を呼びつけるという事態に発展して、それが大臣、政務官まで行って、こういった政権を批判するような発言を自衛隊内でしてもらわないように対処するということを決めて、通達を出したんです。そして、この問題を問題視したのは、民主党の松崎議員以外だれ一人いなかったんです。これは予算委員会で明らかになっております。

 大臣にお伺いをいたしますけれども、この通達で、航友会の会長の発言について、「極めて不適切な発言を行った。」このように事実を摘示して、航友会の会長、民間人ですね、民間人の航友会の会長の社会的地位を低下させることになる。私は、名誉毀損に該当するのではないか。大臣のように、人権救済機関をつくり、人権を擁護しなきゃいけない、そういう大臣の立場から考えて、通達の中に一民間人の発言を「極めて不適切な発言を行った。」と指摘することが、人権侵害になりませんか。

江田国務大臣 これは防衛省の関係のことで、私がいろいろコメントをする立場にはいないと思うんですが……(稲田委員「憲法違反の問題です」と呼ぶ)憲法の解釈については、この内閣は官房長官が対応するということになっておるので……(稲田委員「でも、法務大臣ですよ」と呼ぶ)ちょっと、御質問なら立って、というのは委員長の仕事ですか。

 ただ、私はこの事案を詳しくは存じておりません。レクチャーを受けているわけでもありませんが、私が知っている限りで言えば、防衛省の、ある施設で行われたある行事で、部外の人が、一定の内閣についての厳しい批判の言葉を大勢の人の前で述べられた。そうすると、その発言自体は、それは表現の自由だと思いますが、その施設を管理している者からすると、その施設の管理者が、そういう発言内容を一般にメッセージとして伝えるのに一役買ったというように誤解される心配がある。そこで、そうしたことは慎むようにしようということで、施設の管理者であるとか、あるいは隊員であるとか、そういう人に対して内部の通達を出した。

 こういうことであって、この通達を出すに至った経過といいますか動機といいますか、そういう意味で今の前文のところが書かれていて、そこは、こういうふうに書いたらこれで人権侵害になるということではないと思います。

稲田委員 大臣らしくないお答えですね。私は、大臣が所信で人権救済機関の設置に非常に前向きな発言をされております。したがいまして、そういう表現の自由だとか、民間人の言論の自由だとか、名誉毀損だとか、そういうものについて大変敏感というか見識もおありなのだろうと。

 しかも、この通達については質問通告をいたしております。そして、予算委員会でも憲法問題について大変議論がありますし、大臣は、法務大臣なんですから、憲法問題について所管じゃないというのはおかしいと私は思います。また、このさわりの部分で書いてあるから人権侵害じゃないなんておっしゃいますけれども、この通達という公開された文書の中で、一私人に対して、その発言をとらえて、「極めて不適切な発言を行った。」というふうに摘示することは、私は、これは名誉毀損になり、人権侵害になると思います。

 この通達を簡単に申しますと、防衛省・自衛隊の行事やその施設内で行われる行事において、参加する団体、民間人に自衛隊員の政治的中立性を疑わせるような政治的発言、行動をしないように要請をして、そういう発言をしそうな民間人だとか団体は呼ばない、そして、そういう政治的発言のおそれがある人がいる団体の行事に自衛隊員の参加を禁止するということが内容で書かれております。これは、民間人に対する言論統制、表現の自由に対する制限になりませんか。

江田国務大臣 この通達は、今も松本政務官が言われたように、「先般、自衛隊の施設内で行われた行事において、」というふうに書いてあるので、その行事というのは、これは自衛隊の施設内ですから、自衛隊というものに係るいろいろな法規制がそこへかかっているわけですね。その中には自衛隊法の六十一条とか施行令の八十七条とかというものもあるわけで、その行事というものが政治的中立性を疑うようなものになってもらったら困る、そういう自衛隊の立場というものがあって、その立場からすると不適切だということを書いているんだろうと私は読みました。

 それ以上に、その発言自体が何か一般的に不適切だとか、そういうことを言っているものではない。こういうことがあって、行事というものがそういう意味合いを持ってしまったら困るので、以後注意するようにしたい、そういう趣旨の通達だと理解をしております。

稲田委員 先ほど判例の基準を大臣にお話をいたしましたけれども、明白かつ現実の危険があり、他にとり得る手段がないときに限り、表現の自由、言論の自由に対する制限は許されるわけですけれども、このように、事前に政治的な発言をする人かどうかということを調査し、しないように要請をし、そういうおそれがあるところに隊員は行かせないようにするというような、こういう抽象的、広範囲、不明確な通達を出すこと、この通達自体が憲法違反だと思われませんか。

江田国務大臣 これは、そういう発言をする人、そういう表現に加えられた制限じゃなくて、こういう自衛隊の施設というものの利用方法、活用方法について注意をしようということでありまして、発言をする人に何か規制を加えようというものではないと理解をします。

稲田委員 大臣、ぜひ冷静に考えて、もう一度この問題については大臣の見解をお伺いしたいと思いますけれども、この通達を出すことによって、この通達は確かに自衛隊、自衛隊員を相手にしておりますけれども、この効果として、一般人に対して、言論の自由だとか、その施設内で行われる行事について発言する内容だとか、それについて事前に調査をされ、そして、その内容に制限をさせる、そういう効果が生まれているんです。しかも、事務通達で、自衛隊の施設の行事の中で行われた祝辞について、すべて書面で書いて防衛省に報告を上げさせているわけですね。そういったことはもう明らかな憲法違反の通達であり、これを撤回すべきであると私は考えております。

 またこの問題については議論をしたいと思います。本日はどうもありがとうございます。

奥田委員長 以上で稲田朋美君の質疑を終了いたします。

 次に、大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 大臣、就任おめでとうございます。そして、大臣には、法律家でございますから、やはり法律家としての見識をしっかり答弁していただきたい、こう思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 さて、最高検は、昨年十二月の二十四日、「いわゆる厚労省元局長無罪事件における捜査・公判活動の問題点等について」という検証報告を出されました。しかし、私、この検証報告を読ませていただきましたけれども、非常に問題点がある。そして、このことは、今、検察の在り方検討会議、ここでも委員から厳しい評価が出ているわけであります。

 例えば検面調書、この特信性を否定した件についての記述ですけれども、五人の特信性は肯定され、三人のは否定された、こうなっているんですが、実際、四十三通のうち三十四通が否定されているんですね。やはりそれは記述にあらわれているんですね、最高検の今回の問題についての気持ちが。非常に私は問題だなと思うわけであります。

 そしてまた、客観的事実と異なる内容の調書が膨大、これは一定の設計図に基づいたのではないか。そしてまた、特信性が否定の取り調べが横行している、見立てに沿ったものではないか、こういうことも指摘。あるいは但木さん、元検事総長も、検察あるいは検察の特捜部というものが抱えている、あるいは伏在している危険性みたいなものがある、こういう点が不十分であったのではないか。そして江川さんが、被害者から出発した検証でなければならない、だからやはりこういうものはだめだ、こういうふうに言っているわけでございますが、大臣の御見解をお伺いしたいと思います。

江田国務大臣 最高検の検証結果は、これは最高検が独自の立場で検証して報告書を出したものでございます。

 この報告書、検証結果自体については私もいろいろな思いはございますが、しかし、やはり検察は独立して全体を動かしていっているわけで、その中で、最高検というものが、その時々、最高検が自分のところで所管をしている検察全体の状況を踏まえながら検察全体を信頼回復のために前へ進めていこう、そういう立場でこういう検証結果をまとめたものであって、私が法務大臣として、確かに検察をいろいろな意味で指揮監督する立場にはございますが、この件について指揮権を行使してということはちょっと控えて、検察、最高検の判断と、そして最高検の指揮によって検察内部を信頼回復のためにまとめていっていただきたいという思いで今これを見守っているところでございます。

 なお、この検証結果が検察の在り方検討会議において俎上にのせられて、今委員御指摘のようないろいろな議論があったことはそのとおりでございます。そうした議論は、私も、これは重要な議論だと思っております。

大口委員 大臣、ですから、在り方検討会議の委員の皆さんが、こういう厳しい評価をしているわけですよ。それに対して、大臣として指揮権を発動するということではなくて、大臣としてどう考えておられるのかということをお伺いしたいんです。

江田国務大臣 これは、それも含めて今、検察の在り方検討会議で、この月末をめどに一定の検討の結果を出していただくということになっておりまして、そこへ今託しているということでございます。私自身が、この検証結果について法務大臣という立場でコメントするのはとりあえずは控えておこう、検討会議の中でいろいろ議論していただこうと思っております。

大口委員 とりあえずは控えておくということですから、行く行くはちゃんと発言するということでよろしいですね、大臣。

江田国務大臣 検討会議の中でそういう議論が出てきて、恐らくこれをさらに乗り越えるようなお答えが出てくるものと期待しております。

大口委員 特に、村木さん、これは長期勾留、百六十四日間ですよ、勾留されているわけでありますね。この事件の、実際に取り調べを受けた被告人本人、あるいは弁護人からヒアリングを一切受けていない。これは検証として私は無理であり不十分であると。伊藤前次長検事も、話を聞くことを考えると昨年十二月二十四日に言っているわけでありますし、また、笠間検事総長も、ことしの二月二十八日、言われてみると確かに村木さんはいろいろなことを経験された御本人だから、村木さんから聞いてみる手はあった、こういうふうに言っているわけであります。

 大臣として、やはり村木さんから聞くということは、これは被害者からの検証ということで大事ではないかと思うんですよね。ここは問題であるということを指摘してください。

江田国務大臣 最高検が独自の立場でやられた検証のプロセスですから、これは最高検の判断にまずはゆだねたいと思っております。

 村木さんの無罪判決や、あるいは大阪地検での証拠隠滅、犯人隠避事件、こうしたものを踏まえて、検察当局でいろいろな原因を追求し、問題点を明らかにしたわけでありまして、その検察の立場でヒアリングを行うことは必ずしも必要ないと認めて行わなかったものだと思うんです。

 ただし、今の検察の在り方検討会議においては、村木さんあるいはその他の皆さんにも来ていただいて、そしてお話を伺い、本当に皆、真剣な質疑応答を村木さんその他の方とやっておられるということを私は報告を受けておりますので、検察、最高検が村木さんに聞かなかったこと自体は、これは検察、最高検の判断と受けとめる以外にないと思っております。

大口委員 笠間現検事総長も、やはり聞いてみる手はあった、こう言っているわけですよ。大臣、なぜそこまで最高検に遠慮しなきゃいけないんですか。そんなことで指導できるんですか。

江田国務大臣 笠間検事総長がそう言われているとおり、それは、最高検としても村木さんから聞くという方法はあったのだろうと思います。だけれども、それも含めて、それは検事総長がそういう反省をされるなら、それはそれで、私は、検事総長が一つの態度を示されているということであって、全体に検察をどういうふうに信頼回復させていくかという場合に、一つの参考になる検事総長の発言だと受けとめるほかありません。

 とりあえずは最高検で、とにかく信頼するからやってみろ、こう言っているわけで、その信頼にこたえているかこたえていないか、笠間検事総長がそういう反省をされたということだと思います。

大口委員 そのほか、今回、共犯者とされている倉沢氏、上村氏、一切ヒアリングがなかったと。この二人の検面調書もすべて却下されているということで、ここら辺についても問題があったと思うわけでございます。いずれにしましても、最高検の検証については極めて不十分である、こういうふうに考えております。

 ですから、補充の検証ということを大臣は考えておられますか。反省しているわけですから、今の検事総長は。

江田国務大臣 最高検に、この検証結果では不十分だからさらに補充せよと指揮するかということですよね。

 とりあえず、今はそういうことは考えておりません。この結果を検討会議で十分たたいてもらうということで進めたいと思っております。

大口委員 では、検討会議、そしてこれからの法務省も、可視化の勉強会等々もありますから、そこでしっかり大臣の考えを明確にしていただく。そのときには、最高検の検証についても、批判的な立場であるのであれば、それは明確にしていただきたい、こういうふうに思います。

 この笠間検事総長、二月二十八日の日本記者クラブの会見で、今回の再発防止策として、高検に特捜係検事を置き、総括補佐検察官を置いて主任検察官に対してチェックもしていくと。不良成績者を充てることができずと。こういう人たちにはですね。きちっと意見の言える人でなければならないと。そのような新たなポストができ、現在の体制を維持できるか。これは、東京、大阪、名古屋の各特捜部体制を維持できるか、やっていく中でいろいろ吟味していこうと考えている、のっけから現体制を維持すると言っているものではない、フレキシブルに検討していかなきゃいけないと考えている。こういうふうに述べていますが、これは、この三特捜体制というものの維持に対しては、見直していくということでよろしいですか。

江田国務大臣 笠間検事総長の二月二十八日の日本記者クラブ主催の記者会見で、高検に特別捜査係の検事を置き、主任検事に総括補佐検察官をつける、そういうようなことも考えていると。これにはもちろん優秀な人材を充てなければならないので、そうすると、全体に資源というものは限られているわけですから、それを、そういう配分をすると、全体がそのまま維持できるかどうかというものは、これは検討しなきゃいけなくなる。そこで柔軟に考える必要があるということは言ったと聞いております。

 しかし、今の、東京、大阪、名古屋の三特捜体制、これを二つにするとか、そういうように変容させるということまでを視野に入れているものだというようには理解をしておりません。ただ、特捜三つを二つの体制にすることも、検討会議の中で議論の俎上には上がっていると聞いております。そこはいずれにしてもまだ結論が出ている話ではありませんし、何かの結論に向けての目標が定まっているわけでもありません。

大口委員 また、最高検の今回の再発防止策の中で、十二あるわけですが、九番目に、公正な検察権行使についての指導の徹底の対策として、公正な検察権行使に関する基本的な原理ないし心構えについて、これまで、特にこれを取りまとめ、明示したことはなかったわけでありますが、今回のような重大な事案の発生を踏まえ、最高検において、二十三年、本年の二月上旬をめどにその案を作成し、二月十六日に開催する全国長官会同において、これについて議論を深めるなどした上、これを取りまとめて公表する、こうなっているわけですが、この案というのはもう既に作成されているんでしょうか。そして、その内容はどういうものなのか。いまだに公表されていませんが、いつ公表されるのか。お伺いしたいと思います。

江田国務大臣 これは、御指摘のとおり、本年の二月中旬に開催されました検察長官会同において議論はされた、そして、今はその議論を深めている段階であって、まだ結論に至っていない、したがって、公表はまだされていないというように承知をしております。

 今後ですが、最高検において、現在、検察の在り方検討会議においても検察官の倫理について議論がなされておりまして、この推移をも踏まえつつ、議論の経過を取りまとめて公表するものだというように理解をしております。

大口委員 最高検として検証した結果、こういうものを発表する、こういうふうに言っているわけですから、検察の在り方検討会議は検察の在り方検討会議としての試案があるとおっしゃっていましたよね、大臣。やはり最高検としては、きちっとけじめをつけるためにも、これを出すべきじゃないですか。これは、在り方検討会議の結論の後となりますと、三月が終わって四月以降になりますよ。それでいいんですか。

江田国務大臣 これは、したがって、検察の在り方検討会議で、検察官の倫理について、べからず集にするのか、こうしろというのにするのか、法三章風にするのか、ずっと長く書くのかなどということを今議論している最中でございまして、そういう議論も踏まえながら最高検の方で結果を取りまとめて公表する、そういう最高検の立場で今いるというように承知をしておりまして、それを、いやいや、最高検は長官会同の議論をさらに深めて早く出しなさいという、そういう直接的な指揮をする必要があるとは思っておりません。

大口委員 十二項目を発表して、今どんどん出しているわけですよね。これについて、なぜおくれているのかちょっと理解ができない。最高検としてきちっと出すべきものを出す、その上で在り方検討会議でまた変えればいいだけのことであって、そこは一番肝心なところでしょう、ここが。最高検としてしっかり考え方を出すべきだと私は思いますけれどもね。

 それでは次に、この最高検の報告書で、取り調べの録音、録画の試行を開始するということで、二月二十三日に試行指針が発表され、三月十八日にそれが実施されるということでございます。

 これについては、特捜部の独自捜査事件で、拘束中の被疑者の事件の取り調べを対象として、取り調べの持つ真相解明機能を損なわない範囲内で、相当と認められる部分を検察官が選択して録音、録画を行う、被疑者が拒否した場合等は行われない。

 現場の検察官にその判断を丸投げしている、こういう批判があるわけでありますが、現場の検察官にその判断を全面的にゆだねる問題についてはどう考えておられますか。

江田国務大臣 現場の検察官の判断にゆだねておりまして、そのことについて批判があるということは承知をしております。

 ただ、先日も私は検察長官会同にお集まりの皆さんにも申し上げたんですが、とにかく、検察の信頼がここまで地に落ちているときに、検察官の皆さんも、これはなかなかのみにくいな、あるいは痛い痛いというような、そういうところまでやらなかったら検察の信頼は回復できないということを申し上げて、また、笠間検事総長もその会同で、今は苦い薬を飲まなきゃいけないということを言ったということでございまして、私も、検察が、最高検、笠間総長を中心に、検察全体の信頼回復のために一生懸命に取り組もうとしておるということを信頼しているわけであります。

 ただ、今までの検察のやり方、これをまずは踏まえながら、そこに、大変だということを察していかなきゃいけないわけですから、そうした検察の全体像というものをよくわかっている最高検の方で、今はここまでやってみよう、そして、検察の現場の裁量にゆだねているけれども、その裁量はかなりしっかりした裁量の判断をしなさいよ、こういうことで最高検が現場を指揮してくれるものと思っております。

大口委員 それで、この試行については、裁判員裁判対象事件で行われている一部取り調べの録音、録画よりも範囲が広い、自白の任意性に加え、信用性等についても証明することを目的とすると。ですから、弁解録取段階といいますか、あるいは否認から自白に転ずる場面も録音、録画される、こういうように解釈しておりますが、その点がどうか。

 もう一つ。ただ、いずれにしましても、これは、身柄の被疑者のみに限定しており、任意での聴取は対象とされていないという点で不十分との指摘があるわけです。村木さんの事件では、問題になったのは、被疑者だけでなく参考人とされる人たちで、参考人の中に、逮捕されずに任意で取り調べを受けて、村木さんが事件に関与したという虚偽供述をされた人も多数いるわけですね。そういうことで、この最高検の指針では、やはり村木さんの事件を防ぐということはできないのではないかと思いますが、この二点、お伺いします。

    〔委員長退席、滝委員長代理着席〕

江田国務大臣 今のこの最高検が出している指針で、村木さんのようなケースの録音、録画がなされるということにならないというのは、御指摘のような懸念はあると思います。弁解録取書の段階から全部録音、録画するのかとか、あるいは否認から自供に変わっていく、その過程も全部とるのかとか、これらも含めて当面はその検察官の判断にゆだねて、しかし、そこは、自分自身がやりやすいようにやるというのではなくて、検察の信頼を回復するためにやってみなさいという趣旨で検察の判断にゆだねているわけだから、具体的な裁量については、その趣旨を十分体して判断してくれということだと思っております。

 それから、身柄事件だけで任意のものについては入っていないことは確かでありますが、やはり問題になってくるのは、村木さんの参考人のようなケースもあるかと思いますが、身柄事件がとにかく今一番争点になりやすいので、身柄事件を対象にとりあえず試行していこうということで、この点もまずスタートを切ったということだと理解しております。

大口委員 村木さんは、在り方検討会議の中で、ヒアリングでこうおっしゃっているんですね。

 二つ疑問が残る。一つは、私が全くかかわっていないにもかかわらず、どうしてたくさんの検事さんによって、たくさんの私がかかわったという調書がつくられたのかという疑問であります。検察が組織として、チームとして、そういうことを実際に行ってしまった。それは何なのかということでございます。

 フロッピーの改ざんは確かにショックでしたが、私は、改ざん自体はそんなに怖さを感じませんでした。一人の変な検事さんがいて変なことをしてしまったということで、あってはいけないことですが、それよりも、たくさんの検事さん、副検事さん、まじめな方もたくさんいらっしゃるはずだろう、そういう人たちがチームでそういうたくさんの調書をつくったということが、私としては大変恐怖に感じました。

 もう一つは、私がこの犯罪にかかわった、あるいは犯罪の首謀者であったと、責任者であったというストーリーを検察がつくり、それを維持されたのか。何でだったんだろうという疑問が結局最後に残った、こういうふうにおっしゃっているわけですね。

 そういうことで、大臣も今、参考人については対象にならないということとか、村木さんの事件については、最高検の再発防止策では、これは対応できないんだとはっきりお認めになられました。ですけれども、村木さんの事件を防ぐために検証したわけですから、それが結局は、大臣が今認められましたように、十分ではないということについて、どう考えられるのですか。

江田国務大臣 身柄事件で、身柄拘束されていない関係者の取り調べについて、そこまで録音、録画をするということについては、それぞれのまさに検察官の判断によると思いますが、そこの部分は、また別個の再発防止策を着実に実行することにより、再発防止を図ることは可能だと思います。

 今、総じて、身柄をとられている被疑者の供述過程のことを私どもは主として問題にしておりまして、身柄をとられていない参考人のところまで録音、録画というのを及ぼすことができるかどうか、これも検討対象ではありますが、なかなか難しい。

 村木さんについて、今指摘されましたようなことを述べられたというのは、非常に重要でありまして、特捜が、みずから頭に描いたストーリーに合わせるように、いろいろな捜査上の工夫をして、村木さんも、みんながこう言っているのに、あなた一人違うというのは、あなたが記憶喪失しているんじゃないかと言われると、どうも私が記憶喪失になっちゃったのか、そんなように思うような恐怖を感じたというので、本当に捜査というものの怖さをよく村木さんが指摘されたと思っております。

大口委員 それでは、在り方検討会議の議論についてお伺いしたいと思います。可視化についてお伺いいたします。

 千葉座長が、三月三日の第十一回の検察の在り方検討会議で、これまでの議論を整理すると、適正手続等の観点から、取り調べの可視化は有用であり、拡大していくべきとの点は、大方のところで異論はなかった、他方、取り調べの可視化により、取り調べの持つ真相解明機能が害されるとの懸念があるという点でも認識が一致したと。この発言に対しては異論が出たようでありますが。

 この二つのバランスをとって、可視化に向けた考えられるプロセスをまとめると、一、直ちに取り調べの全過程の録音、録画を実現すべきとするもの、二、試行等を可能な限り積極的に行うなどして、可視化が取り調べの真相解明機能に与える影響を吟味しながら、その具体的なあり方を検討すべきとするもの、三、可視化を実現するのであれば、取り調べ以外の方法により、証拠収集を可能にするための捜査手法等を導入する法改正を同時に実現することが不可欠とするもの、そして、可視化のみならず、過度に調書等に依存する捜査、公判構造全体の転換を行うべきものに分けられると思う、このような整理を踏まえて議論していただきたい、こういうふうに千葉座長がおっしゃっているわけであります。

 大臣は、可視化についてはこの一番から三番ですが、どの立場を法律家として、個人で結構です、お考えでしょうか。

江田国務大臣 これは今、検討会議でまさに議論をしていただいている最中でございまして、三月三日の千葉座長のこういうまとめといいますか、進行、これをしっかり見ていきたいと思っております。

 私自身がどの立場といって、これは今、検討会議で検討していただいている最中ですから、しっかりこういう、いろいろな立場のものを議論してほしいということでございまして、それから、四はすべてに係ることですが、一から三の、一をとれば、直ちにというのと試行というのとは、これは両立はしないかもしれませんが、三のところは、新捜査手法を入れることと可視化のこととは、これは一緒でなきゃならぬということではないので、しかし、セットという議論もなくはないので、その辺のことを十分、いよいよもう三月も半ばですから、これからラストスパートをかけていただきたいと思っております。

大口委員 先ほどの平沢委員の質問に対して、可視化をまず実現する、新たな捜査手法と同時セットじゃない、こういうふうに答弁されたわけですね。だから、大臣のお考えは、この三番は、要するに、同時実現ということはとらない、こういうふうにお伺いしたんですが、それは違うんですか。

江田国務大臣 私どもは、その新たな捜査手法というものはある、そういう検討もそれは排除するものではない、しかし、それとセットでなければ可視化が導入できないという立場には立っていないということでございまして、そこは、新たな捜査手法は捜査手法としてそれは議論すればいいけれども、今我々がやっているのはそこのことではなくて、可視化の議論をしているんだと思っておりまして、可視化をやって、そしてしばらく進んでみて、どうも可視化でやはりこういう新たな捜査手法がどうしてもそれは必要になってくるというようなことが起きるかもしれません。それはそのときにまた考える。その検討を排除することではないけれども、今は可視化のことを議論したいと思っております。

大口委員 そうしますと、千葉座長が整理した、要するに一番か二番であって、三番はとらないということを今はっきり御答弁になったわけであります。それはそれで確認させていただきます。

 そこで、大臣のおっしゃるこの可視化というものは、これはどういうものなのか。全過程の可視化ということなのか、もちろん事件の対象はいろいろあると思いますが、全過程の可視化を目指すのか、あるいは一部の可視化でよしとするのか、これはどうなんでしょうか。民主党のマニフェストとの関係も含めて、お伺いしたいと思います。

江田国務大臣 全面的な可視化という言い方もあるわけですが、全面的ということになれば、全事件と全過程と両方この対象になるわけですが、今、全事件といっても、これはもう千差万別、さまざまですから、現実的ではないだろう。そうすると、やはり事件というのは一定程度絞っていかなきゃいけない。全過程というと、これまた何が全過程ですかということもいろいろ議論がありまして、それらを含めて、今、鋭意検討を検討会議において、あるいは省内でも進めているというところで、さらに最高検による試行もありますし、これらを一生懸命に検討しているところと御理解ください。

大口委員 私、二〇〇九年の十一月十七日、この法務委員会で、千葉当時大臣に、今は在り方検討会議の座長でありますが、この件について質問をいたしました。それに対して、千葉当時の大臣は、マニフェスト、これは二〇〇九年ですね、ちょうど二〇〇九年の衆議院選挙の後、間もないころです。民主党のマニフェストでは明確に全面的な可視化ということを申し上げております、こういうふうにおっしゃっているんですね。ですから、全面的に可視化ということで、全事件、全過程ということなわけでありますが、こういうふうに当時の大臣は民主党のマニフェストを明確におっしゃっているわけです。

 そうすると、民主党のマニフェストを変更されたということでございますか。

    〔滝委員長代理退席、委員長着席〕

江田国務大臣 民主党のマニフェストの記載は、ここへ私が持っておるのですと、「取り調べの可視化で冤罪を防止する」、「政策目的」としては、自白の任意性をめぐる裁判の長期化を防止すること、そして、自白強要による冤罪を防止すること、そして「具体策」として、ビデオ録画等により取り調べ過程を可視化する、こういう書き方でございまして、インデックスの方に、「取り調べの可視化、証拠開示徹底による冤罪防止」、「警察、検察等での被疑者取り調べの全過程についてビデオ録画等による可視化を図り、公正で透明性の高い刑事司法への改革を行います。」というような記載がございます。

 これは、全過程といっても、ここで全過程とさっと書いておりますが、しかし、捜査というのは、本当に端緒から始まって、ずっと長い過程があるわけですから、全過程というのは、極力、捜査の検証というものを後できっちりできるようにして、そして冤罪を防止したり、あるいは裁判の長期化を防いでいったり、あるいは人権の侵害を防いだり、そういうことをしようということで、その政策目的との兼ね合いで具体的にどういう制度設計をするかということを今検討しているわけで、マニフェストで言っていることがだんだん進化してきているんだと私は理解しております。

大口委員 マニフェストで言っていることは進化していると。まあ言いようですね。

 ただ、本当に民主党さん、野党時代は二回も無条件で可視化の法案を出しておられるし、また、民主党の議員さんの中でも、これは全面、全過程の可視化だとおっしゃっているわけでございます。だから、民主党のマニフェストというのはどこでどうつくられたのか、民主党の方が皆、納得してつくられたのかわからないように私は受けとめました。千葉大臣はもう全面的な可視化ということをこの法務委員会でおっしゃっているわけですよ。それと今の大臣の答弁は明らかに違うわけです。ですから、大臣になった方でもマニフェストのこの解釈は違うということがよくわかりました。

 次に、知的障害者の取り調べの全面可視化は直ちに運用で実施すべきだ、こういうふうな意見が在り方検討会議で相次ぎました。そしてまた、知的障害者の取り調べについて、福祉関係者や心理関係者の立ち会いを認めるべき、こういう意見も出ております。

 ここについて、宇都宮事件もございました、あるいは貝塚放火事件もございました。もうこれは直ちに知的障害者の取り調べについては全面可視化を運用でやるべきだ、そして福祉関係者、心理関係者の立ち会いを認めるべきだ、こういうふうに考えますが、いかがでございましょうか。

江田国務大臣 検察の在り方検討会議で、委員から知的障害者の取り調べに関し、運用によって全過程録音、録画を実施すべきであるという意見が相次いだということは承知をしております。

 これは、二〇〇九年の政権交代後に省内につくった勉強会が去年の六月に中間取りまとめを行いまして、その中でも、こういう知的障害者についての録音、録画、可視化については特出しをして、これについては特に検討しようというようにしていますので、私どもは、運用によって即座に、直ちにということにはなかなかなりませんが、知的障害がある人についての捜査のあり方というものはそれとして、きっちりしたものをつくっていかなきゃいけないと思っております。

大口委員 法務省の勉強会をつくって、一昨年の十月ですよね。何をのろのろしているんですか。特出しで、中間報告を取りまとめをしたといって、そういうことではだめなんじゃないですか。在り方検討会議で直ちに運用でもってでも実施すべきだ、こうおっしゃっているのだから、それをすぐ受けとめてやるべきじゃないでしょうか。

江田国務大臣 スローペースじゃないかというおしかりがあるのはよくわかっておりまして、私もスピード感を持ってやろうということを言っておりますが。

 しかし、例えば国の内外の状況を調べるというのは、ことしの六月をめどにその内外の調査結果が上がってくるということでずっと進んでいますので、それをもっと早められないかと検討してみたのですが、なかなかやはり、そう急がせても簡単にはいかないので、ここはスピード感を持ってやりますが、しかし、何かあすにも変わるというふうにはなかなかいかないというところはひとつ御理解をいただきたいと思います。

大口委員 だから、スピード感を持ってやるというのは、いつまでにやるんですか。

江田国務大臣 ですから、省内の勉強会を、六月をめどに結論を出して、そして、その後なるべく速やかにということを言っておりまして、まだ何月までにとかいうようなことは決めておりませんが、今、国の内外の調査などと並行して省内での検討も進めていますので、六月にそうした勉強会の結論が出た後、なるべく早くやっていきたいと思っております。

大口委員 これまで、六月までの勉強会を続け、その後早い時期に具体案を取りまとめる、こう答えておられたんですが、そうすると六月に具体案を出すということですね。

江田国務大臣 六月にこの勉強会の結論をいただいて、いろいろな内外の調査の結論をいただいて、それを受けて具体案をまとめていくということです。

大口委員 全然スピード感を持っていないじゃないですか。これまでの大臣と同じ答弁じゃないですか。それでいいんですか。

江田国務大臣 私としてはスピード感を持ってやろうということで、これまでは六月の内外の調査結果を見て、それからなるべく早くと言っていたんですが、それを見てということは見るんですが、しかし、同時並行で省内での検討も進めていこうということで今取り組んでいるところです。

大口委員 検討は勉強会でやっているわけですよ。ちょっと今の説明では全然わかりません、スピード感が出た。

 貝塚放火事件は、これはもう本当に大変な事件で、昨年一月逮捕されて十カ月半勾留の末、結局、公判で自白の信用性を立証、有罪に導くことは困難ということで、これは公判前整理手続の中で、誘導による自白が行われた疑いがあるわけですけれども、十一月二十六日に公訴取り消し請求の結果、公訴棄却決定ということになっているわけですよ。

 宇都宮事件、これは二〇〇四年八月。こういうことが現実に刻々と起こっているわけですから。それに対して、今の大臣の危機感というか、今回のこの検察の不祥事を一体大臣はどういうふうに考えておられるのか。在り方検討会議が直ちにこれは運用でもやるべきだ、こういう声に対して真摯にこたえていないと私は思いますが、いかがですか。

江田国務大臣 おしかりは真摯に受けとめたいと思います。

大口委員 だから、真摯に受けとめて何をするかが大臣の仕事でしょう。

江田国務大臣 これはしかし、やはり全体の、検察すべての人にこういう理解をしていただいて、そして可視化へと乗り出していかなきゃいけないので、そこはやはり一歩一歩ということはあるので、しかし、一歩一歩を、一歩、一歩ではなくて、もうちょっと一歩一歩一歩とやりたいということでやっているわけで、ぜひ御理解ください。

大口委員 どうも法律家らしからぬ表現を使われました。

 平沢委員のときにも、この勉強会でできることはどんどんやっていく、こう答弁もしているわけですよ。だから、そのできることの一つじゃないかということです。

 あと、大臣は、参議院の法務委員会で、少年の取り調べの可視化が緊急課題だということを十八年十月二十六日におっしゃっています。また、十九年五月十五日には、触法少年の事情聴取にも可視化が必要と述べています。こういうふうに、少年の取り調べの可視化というものについて、緊急課題ということで進めていくべきだ、こうおっしゃっているわけですが、この点についてはいかがでございましょうか。

江田国務大臣 参議院の法務委員会でそういう質問をしたのは事実でございます。

大口委員 ですから、どうされますかということです。

江田国務大臣 これも含めて検討いたします。(発言する者あり)

大口委員 今政治主導という声がありましたが、本当に、今、この四十五分間、大臣の答弁をお伺いしまして、政治主導ということがどうも感じられない。大臣は法律家ですし、よく司法制度改革等に取り組んでおられた方ですから、参議院の議長までやられた方ですから、もし、そのことの批判をプラスに変えるのであれば、江田大臣は、役人をきちっと指導して、政治主導で、この大変な検察の不祥事に対して、見事その信頼を回復した、そういうことをやはりやるべきじゃないかなと。まだきょうの答弁ではそこまで至っていないかなと、私がそんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、そういう感想を述べて、質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

奥田委員長 以上で大口善徳君の質疑を終わります。

 次に、城内実君。

城内委員 無所属、国益と国民の生活を守る会の城内実でございます。本日、十五分、時間をいただきまして、ありがとうございます。

 本日は、江田大臣に、人権救済機関の設置、そして、時間がありましたら、司法修習生の給費制の復活の問題について質問させていただきたいと思います。

 本題に入る前に、先ほど大臣は、平沢勝栄議員の質問に対しまして、在日外国人の方は共同体の構成員として定着しているので、在日外国人の方々にも参政権を付与すべしという立場を明らかにされました。先般、前原前外務大臣が外国人からの献金を受けましたが、これにつきまして、時事通信の三月八日の記事によりますと、江田五月法務大臣は、献金を広く浅くいただくときに、在日外国人かどうか尋ねるのは現実的ではない、何かいい方法はないかというようにお答えになったという記事が載っておりますが、法務大臣として、あるいは国会議員として、江田大臣、あるいは江田議員は、外国人からの政治献金については、特に在日の方については、日本人に準ずる方だから将来認めるべきであるかどうか、これについて、法務大臣としての立場と国会議員としての立場で相違があるのであれば、それぞれお答えいただきたいと思います。

江田国務大臣 先ほども申しましたが、これから私ども政治活動をやっていくときのファンディングというのをどういうふうにするかというのはなかなか問題でして、今、とにかくいろいろなものを制限しようというのは、それはそれでやらなきゃいけないことだと思うんですね。

 しかし、やはり理想は、広く浅く一般の人の個人献金で賄っていくということが必要なので、これはもちろん、遠く離れた人からも広く浅くもらえばいいんですが、やはり、自分の生活関係の中で、いろいろな人から少しずついただくということができていったらいいと思います。

 そのときに、地域社会の中に、それは本当に、日本名で、日本語で、日本の生活習慣で暮らしている、そういう在外の方々がおられますので、そういう人たちに、あなたは在外ですか、在外でないんですか、戸籍謄本を持ってきてくださいなどと言っていたら、それはそういうシステムはできない。ですから、私はそこは何か考えた方がいいということを言っているので。

 しかしながら、今の法制度、これは外国人からの政治献金はだめだということで罰則もついている、そういうものがあるわけで、それはそれで、こういう制度があることは、意味が当然あるからこういう法規制があるわけですから、これは守らなきゃならぬということでございます。

城内委員 今の大臣の御答弁を聞きますと、在日外国人の方については前向きに検討してもいいのではないかというふうに受けとめられるんですが、例えば朝鮮総連の幹部である方々についてもそれを認めるということなんでしょうか。

江田国務大臣 そこまで具体的なことを考えているわけじゃありません。

城内委員 あと、京都地検が前原前外務大臣を外国人献金ということで刑事告発したという記事が載っておりましたが、よもや尖閣問題のように、那覇地検が勝手に判断したということで、身内の民主党の議員に対しては不問に付す、そしてその判断を大臣ないし官邸が了とするというようなことが起きないと信じたいんですが、身内では不問に付して野党議員だったら厳しく処罰するということがないようにしていただきたいと思います。

 ちなみに、私が調べましたら、これはかなり重いんですね。外国人からの献金の禁止は、政治資金規正法によりますと、何と、罰則三年以下の禁錮または五十万以下の罰金、そして五年間の公民権停止ですよ。非常に重い罰則規定があるわけですから、この点についてやはりきちんと法務大臣としても認識していただけますでしょうか。その点についてお聞きしたいと思います。

江田国務大臣 ちょっと今、聞き間違いでしょうか、京都地検が告発したと。(城内委員「京都地検にです」と呼ぶ)にですよね。わかりました。

 その告発の事実は私はまだ承知をしておりませんが、これは具体的な事件ですから、まさに捜査当局が法と証拠に照らして適正に判断する、そうしか言いようがありません。

城内委員 法と証拠にのっとって、与党議員であろうが野党議員であろうが、適切に淡々粛々と対処していただきたいというふうに考えております。お願いいたします。

 さて、人権侵害救済機関の設置についてお尋ねしますが、二月二十二日の所信表明におきまして、江田大臣から「多岐にわたる法務行政の中で特に私が精力的に取り組みたいこと」として、検察の再生、これが一番、二番目に被疑者取り調べの可視化、それに次ぐ三番目の最優先課題として「長年の懸案であった新たな人権救済機関の設置」を挙げられました。そして、「政府からの独立性を有する新たな人権救済機関については、現在、その創設に向け、具体的な制度のあり方について検討を行っており、これを着実に前進させてまいります。」と大臣は明言されました。ということは、この法案を今次通常国会に提出されるんでしょうか。

江田国務大臣 政府から独立した人権救済機関をつくるというのは、人権擁護推進審議会の答申が出て、当時の政府から法案が出されて以来、民主党は野党時代にも法案をつくり、ずっと議論をしてきた本当に長い懸案でございまして、私もこれは設立をしなきゃいけないものだと思っております。

 おりますが、いろいろな角度からの議論があることもこれも事実でございまして、政府案というのは、私は当時、参議院の法務委員会の理事をしておりまして、政府案にいろいろ私ども意見はあったけれども、というのは、法務省に置くのか内閣府に置くのかということが中心ですが、いろいろな議論がございましたが、しかし、ここは政府案に沿った内容でと、かなりぎりぎりまで決断をしかけたこともあったんですが、いろいろな不幸な事情がございまして、名古屋の刑務所での事件などがあって、これがつぶれ、その後、当時の与党はなかなか提出するというところまでいかなかった。

 今の私どもの方でも、これはさらにいろいろな議論をして、現実に提案をして国会で成立する、そういう段取りをつけなきゃいけませんので、これは今、鋭意検討中というところでございます。

城内委員 私はこれまで、千葉景子当時の法務大臣、そして柳田元法務大臣にも、この問題について質問をしてまいりました。この人権侵害救済機構を設置する、しかも、内閣府のもとに人権委員会、しかもさらに、行政組織法上のいわゆる第三条委員会として、公正取引委員会あるいは公害等調整委員会のような巨大な権限を持たせるということは、私は非常に危険であると。

 既に末端の法務局あるいは人権擁護委員の方々が人権啓発活動を行っておりますし、私が入手しましたこの法務省人権擁護局の「人権の擁護」という冊子、あるいは「第三十回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集」、こういった地道な活動をもっともっとやるべきであって、ちなみに、私が非常におかしいなと思ったのは、「主な人権課題」で、「一 女性」「二 子ども」「三 高齢者」「四 障害のある人」とずっとあって、全部で十六あるんですが、「北朝鮮当局によって拉致された被害者等」というのは十五番目で、何かすごく下なんですね。こういうのはやはりもうちょっと改めていただきたいというんですか、これはわきにそれましたけれども。

 いずれにしましても、本来やるべきことは、まさにコンクリートから人へと言っているわけですから、末端の人権擁護委員の方々が活動しやすいように予算を振り分けるべきであって、何か巨大な組織を、三条委員会をつくって、当然、事務所経費、そして人件費、いろいろな経費がかかるわけですから、それは私は無駄じゃないかと思うんです。何度も言うように、ネズミはネズミ取り、殺鼠剤、ゴキブリはごきぶりホイホイというので、ミサイルとか核兵器を使って攻撃するような、そんなことをするんでしょうかということを申し上げているわけです。

 大臣にお聞きしたいのは、では、今まさに行政刷新会議や事業仕分けをおやりになっていますけれども、私はこれについてはいろいろ疑問がありますけれども、まさに、そういう中にあって、どれだけのお金がかかるのか、当然試算をされていると思いますが、その金額を、年間どれだけ予算が必要なのか、教えていただきたいと思います。

江田国務大臣 ネズミ取り、ごきぶりホイホイじゃなくてミサイルというようなお話がございましたが、これはまだどういう制度設計にするかを検討中なんですね。

 新しい政権になって、これも昨年六月でしたか、政務三役の中間取りまとめというのがございまして、そこに、内閣府に置くことを念頭にというふうに書いてあります。念頭にということではありますが、そういうことも含め、あるいは地方の組織をどうするかということも含め、今なかなかこの段階でミサイルというわけにもいきませんので、そこは今の財政状況でも十分賄い得るものにするほかないと思っておりますが、費用についての具体的な検討は、これは制度設計をもうちょっとやってみなきゃ何とも言えないので、そこまでは今行っておりません。

城内委員 やはり制度設計をするに当たってはぜひ試算をしていただいて、それをその判断基準にさせていただきたいと思います。

 また、先ほど、稲田朋美議員から、自衛隊行事での民間人の政権批判を封殺するような、まさに憲法が保障する表現の自由違反になりかねない事案についての話がございましたが、さらに、自民党国会議員講演会に保全隊という防諜部隊を投入して、現職自衛隊員が参加しているかいないかと監視をする、これもまた、憲法で保障された思想、信条の自由を侵害する行為ではないかと、私は法律の素人でありますけれども感じているんです。

 まさに、内閣府のもとに中央人権委員会が設置される、そして、地方に地方人権委員会がある。そうすると、幾ら政府から独立された機関といっても、人権委員会のメンバーに与党の都合のいい人間を指名して、これは別に抽せんで選ばれるわけじゃないんですから。ですから、そういうことで、野党のあの議員は人権侵害をやっているとか、そういう危険なことになりかねないと言っているんです。

 私は、ドイツに十年いましたけれども、ナチスの時代のことをよく勉強したんですが、闘う民主主義、自由主義というのは、こういう軽はずみな、強力な機関をつくると、いつか独裁的な政権あるいは一党独裁制になったら悪用されますよというのを、すごく慎重にしているんですね。

 ですけれども、何かそこら辺が、よかれと思ってつくった人権委員会が、まさに人権擁護の名のもとに冤罪事件を起こしたり、人権擁護の名のもとに新たな人権侵害を誘発するんじゃないかと私は思うんですが、その点について大臣の御認識を問いたいと思います。

江田国務大臣 そういう御指摘もしっかり踏まえて、濫用のない制度設計をしたいと思っております。

城内委員 大臣は所信の中で、「スピード感を持って政策判断を行います。」という話をされましたが、同時に、「もちろん、拙速に過ぎたり、独断で進めていくつもりはありません。国民の皆様からのさまざまな御意見、国会等での御議論、関係各方面の御見解などを虚心坦懐にお聞きします。」とおっしゃったのでありますから、ぜひ十分議論を尽くして、私は全く反対の立場ですが、慎重な対応をお願いしたいと思います。

 最後に、もう時間も余りありませんが、司法修習生の給費制の問題について、御質問させていただきたいと思います。

 私は、当初は、これは貸与制でもよいのではないかなと思ったんですが、しかし、いろいろな声を聞いてみたところ、しかも、修習期間中はアルバイトも禁止されておるわけですし、また法曹を目指しているわけですから、当然、裁判官や、今問題となっている検事は言うまでもなく、弁護士さんも、社会正義の維持のために公的な性格と責任を持って仕事をしているわけですから、こうした者に対して、やはり国費を惜しむことなく投ずることが大事じゃないかと思うんですね。

 それが、財務省の論理で急に制度が変わって、人がふえたから金がないよじゃ済む話じゃないと思うんですね。ですから、一年延長したということは多としますけれども、もうもとに戻すべきじゃないかと思いますが、この点についての大臣の御見解をお聞きしたいと思います。

江田国務大臣 昨年十一月二十四日の当委員会での決議というものを踏まえて、今、法務省の中に、法曹養成全体についての検討体制を立ち上げるために鋭意準備を進めているところで、その中で十分議論をしてまいります。

城内委員 ぜひ前向きにお願いいたします。

 これで質問を終わります。ありがとうございました。

奥田委員長 これにて城内実君の質疑を終わります。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時三分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

奥田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。辻惠君。

辻委員 民主党の辻惠でございます。

 法曹として、また国会議員として大先輩の江田大臣に質問をする機会を与えられたことを光栄に思っております。

 大臣御就任おめでとうございます。

 今の司法の現状についていろいろな問題点があるということについて、深い洞察力とやはり危機感をお持ちなんじゃないかなというふうに私は思うわけであります。現状を打開しなければいけないという危機感を共有しながら、司法のあり方を改善していく、そういう方向性で質問をさせていただきたいというふうに思います。

 江田大臣は、所信においてこのように述べておられます。これは二月二十二日、この法務委員会でありますけれども、「多岐にわたる法務行政の中で特に私が精力的に取り組みたいことは、まず、検察の信頼回復のためにも避けられない被疑者取り調べの可視化、さらに、」云々ということでありますけれども、現状についての危機感という意味において、検察の信頼がある意味失墜をしているという現状があると思います。それを回復するために避けられない被疑者取り調べの可視化というふうに述べておられますが、これは、簡単で結構ですけれども、どういう趣旨なんでしょうか。

江田国務大臣 まず、検察ですが、やはり刑事司法というものは私どもの社会を成り立たせる一番基本的なインフラの一つであって、その刑事司法のかなめの一つがやはり検察なんですね。公益を代表して裁判所に対して刑罰権の行使を求める、そして、単に人を罪に陥れるということを求めるだけではなくて、そこに適切な法の適用というものを求めていくわけですから、これはやはり社会から検察が信頼されていなければ、法の支配というものも望むべくもないということでございます。

 そういう検察、言ってみれば正義の味方という検察が、実は大変な間違いをこのところを犯した。とりわけ大阪の事件で、自分が自分の頭の中でつくり上げたストーリーに、いろいろな証拠関係、被疑者の供述、参考人の供述も含めてこれを押し込めて、そして、一つのストーリーのままで、十分な検証なく起訴をする。

 村木さんが無罪になって、その経過の中で、多くの調書が採用されなかったというような事件が起きたわけで、これはやはり検察の捜査、とりわけ取り調べというものが適切に、自分のストーリーにのっとった仕方で供述を誘導するということなくやられているのかどうか、これが一番重要なポイントになって、可視化ができれば検察の信頼が直ちに回復するということでもないし、可視化だけが唯一信頼回復の道でもないけれども、やはりそこに、供述の得方に対する後からの検証というものができる制度というものが今大切になってきていて、しかも、いわば社会の目がここへ集中しているわけですから、これを目鼻だちの整ったものにするということが今一番大事なことで、しかも緊急にやらなきゃならぬことだと思っております。

辻委員 今おっしゃられましたように、可視化は、これが絶対的なものではなくて、私も、最初の一歩だ、改革の第一歩として不可欠なものだというふうに共通の認識をさせていただけたものと思います。

 今いみじくもおっしゃられましたように、頭の中でストーリーをつくり上げて、これを被疑者、参考人に押し込めて調書を作成するということが、村木裁判を通した大阪地検特捜部のあり方の、それだけではないですけれども、一番の問題だというふうにおっしゃられたと思うんですね。

 そういう観点で考えたときに、これは午前中の質疑でも出ておりますけれども、二月二十三日に、最高検が、特捜部における取り調べの録音、録画の試行指針というものを策定、公表しました。これについて、民主党内の法務部門会議では、小川副大臣の方は、政務三役はこれに拘束されるものではないというような御発言をしていただいておりますけれども、江田大臣も同じ御見解でしょうか。

江田国務大臣 これは、可視化の問題が我々の政権で課題となって、まずは省内に勉強会を立ち上げた。大阪の事件があって、検察の在り方検討会議もスタートさせた。と同時に、最高検も大変な危機感を持って、自分たちで独自に自分たちなりの検証をして、そして結果を得て改革のための指針を出して、今これから実行しようとしているということであって、検察の独自の検討であり指針なんです。

 私の方でこれはいかなる指揮もしていないので、ただ、検察がやはり自分でやる気にならなきゃ意味がないですから、幾ら我々が押しつけようと思っても、検察にはね返されるんじゃしようがないので、まずは検察やってみろ、それをまた十分に検討会議でたたくからということでやってもらっているわけでありまして、当然これは政務三役が拘束されるものではありません。

辻委員 最高検のこの試行方針について、江田大臣は多分、国会議員としてお考えがもちろんのことおありだと思います。ただ、法務大臣として、御自分の意見を法務行政をつかさどる立場で具体的にどう発動するのかということについては、時期を見なければいけないということで今の御答弁はあったんだろうというふうに思います。

 やはりこれは、十二月二十四日に、最高検が村木さんの事件を含めた検証チームをつくって検証結果を出した。私ども、この検証チームをつくるときに、第三者を入れないと、身内だけでお手盛りで、シビアにみずからを切り裂いて総括をしたり分析をすることはできないんだ、それは善意であるか悪意であるかは問わず、それは組織なりあり方としてそうなんだということを意見として申し述べた。当時の法務大臣にもその趣旨の申し入れをしておりますけれども、やはり、そういう身内だけでは限界があるということが、もう端的にこの検証結果に出ているというふうに私は思わざるを得ない。

 この検証結果の報告書の四十一ページで、「特捜部が担当する独自捜査事件の身柄事件に関し、被疑者の取調べの録音・録画を試行することとし、録音・録画が取調べの持つ真相解明機能や関係者の名誉・プライバシー等に与える影響をも踏まえ、被疑者の取調べのうちどのような範囲についてこれを行うことが相当か等の観点から検討を行って、」ことしの二月から試行を開始すると。

 これに基づいてこの二月二十三日の試行方針が出ていると思うんですけれども、先ほどおっしゃられたように、村木裁判は、検察が頭の中でストーリーをつくり上げて、それを被疑者、参考人に押し込めて調書をつくったところに原因があるんだということがこの問題の本質の一つだとすれば、この真相解明機能を考えて、被疑者の取り調べのうちどのような範囲を可視化するのかどうなのかというのは検察官の担当者に任せるということでは防止できないということは明らかだと思いますが、その点についてはどう思われますか。

江田国務大臣 これは、おっしゃるような批判は成り立つと思います。やはり、自分の裁量でこの範囲だけ可視化しましょうというのでは、それはぐあいの悪いところは可視化しないということになるのは理の当然です。

 しかし、最高検にとにかく独自にここまでは自分たちのイニシアチブでやってみるということを今求めたわけで、その答えが出ているわけですから、何はともあれそれはやってみてくださいよと。そして、さらに進んでそのときに、検察の独自の裁量ですが、しかし世間はこう見ていますよ、このためにやるんですよ、そのことを十分意識しながら適切な録音、録画の範囲を決めろと。だから、安全なところでとどまるのではなくて、ちょっと踏み込んで思い切ってやったらどうですかということを私は期待をしておるというところです。

辻委員 おっしゃられるとおり、最高検のこれでは根本的な解決にならないし、本当に反省したと言えるか、国民の目から見れば非常な批判が残るということは十分認識された上での御発言だと思いますけれども、検察の在り方検討会議が三月の末に報告書を出す、それも見守るというのが法務行政をつかさどる立場からのお考えかと思いますけれども、明らかにこれでは話にならないなというようなことを法務当局、検察当局の方でやっている場合には、やはり臨機応変にいろいろ御指摘いただいてしかるべきかなというふうに思います。

 この二月二十三日の試行方針については、きょう三月の九日ですから、三月三十一日まで待ってというのも現実的だと思いますから、この点はそれ以上申し上げませんけれども、では、法務大臣として、村木事件なりの再発を防ぐためにどうすべきなのか。最高検の検証結果や最高検の試行指針はともかくとして、法務省として、法務大臣としてどうすべきなのかということについてどうお考えなのかを、ちょっと具体的に伺っていきたいと思います。

 実は、内閣官房副長官の藤井裕久議員が、二月二十六日の朝日ニュースター「愛川欽也パックイン・ジャーナル」で、民主党は可視化の法案を六回出している、当時の与党の抵抗に遭ってつぶされている、今度は与党ですから議員立法でも通すというような必要がある、この可視化はマニフェストにも明確に書いてあるわけだし、全面可視化なんだというふうにおっしゃっているんですけれども、大きな方針としてはこれと一緒であるということでお伺いしてよろしいんでしょうか。

江田国務大臣 藤井副長官のそのテレビ自体、私は見ておりません。かなり大胆な発言をしておられるという感じはいたしますが、今言われる大きな方向として、とにかく、これは私は検察長官会同でもあいさつで言ったんですが、小手先でちょっとごまかすのでは、これはもう検察の信頼は回復しないので、一人一人検察官の皆さんが、そこまでやらせるのか、痛い痛いというような、そういうところまで踏み込まなければ検察の信頼は回復しないので、そこはぜひ現場の検察官の皆さんも理解をしていただきたいということを言っておりまして、大きな方向としては同じだと思っております。

 ただ、具体的な制度設計は、これは私どもがやるわけですから、そこはひとつしっかりと検討させていただきたいと思います。

辻委員 その具体的な制度設計に当たって、やはり譲れない点は何なのか、本当に本質的にきちっとその制度の中に入れなきゃいけない問題は何なのか。そうではなくて、過渡的に、中間的な形態でもいいものはどうなのかということをやはり見きわめていかなければいけないというふうに思います。

 そういう観点に立ったとき、民主党は、二〇〇九年のマニフェストで、「取り調べの可視化で冤罪を防止する」ということをイの一番にうたっているわけなんですね。冤罪を防止するためには、冒頭で共通確認させていただきましたけれども、検察官が頭の中でストーリーをつくり上げて、それを被疑者、参考人に押しつけるようなことがあってはならないということが冤罪の防止の一番の中心だと思うんです。

 そのときに、原則としては、やはり一部だけつまみ食いで可視化をしても意味がない。最初はいろいろなことでなだめすかし、あめやむちでストーリーを教え込んでそれに従わせた後、大枠の調書がもう既にできそうな状況になってから可視化しても全く意味がないわけですね。それは、頭の中でつくり上げたストーリーを押し込むということが何ら防止できないわけですね。

 ですから、例外的なことはいろいろあるにせよ、原則としては全過程、つまり、取り調べは、最初からこれは真剣勝負で取り調べ官の方もしているわけですから、最初から最後までの全過程を原則としては可視化する必要性は非常に大きい、重要であると私は思いますが、その点はいかがでしょう。

江田国務大臣 これは、全面可視化という場合に、全事件というのと全過程というのがあって、全事件というのは、やはりちょっとこれは無理があるだろうと。そこはやはり絞るけれども、その絞り方をどうするかというのがあります。

 全過程というのがやはり私は一つの大原則だと思います。思いますが、全過程というのは、ではどこからどこかといっても、これもそれこそ、被疑者の家へ行って逮捕状を示すところから始まるんでしょうね、捜査ですから。そのときに何を聞いたか、あるいはその途中で、パトカーの中でとか、あるいはどこか施設に着いて弁解録取書から始まってずっとあるわけで、そこをどういうふうにするか。あるいは、それが事件によって、こういう事件はちょっとなかなか大変だとか、あるいは誘導に乗りやすいようなタイプの被疑者の場合には広げるとか、そこはいろいろあるので、その辺の制度設計をしっかりと詰めていきたいと思います。

辻委員 昨年の、二〇一〇年六月十七日に、民主党内で、取り調べの全面可視化を求める議員連盟というのが結成されていて、私はそこの事務局長をやっておりますけれども、六月十七日付で、民主党の国会議員二百八十七名の署名を、当時の法務大臣、警察庁長官、官房長官のところに提出をさせていただいたことがあります。

 これは、一遍に全事件、一遍に全過程というのはやはりなかなか難しいだろう、したがって、少なくとも事件の種類については段階的に分けて考えていこうと。この段階では、裁判員裁判対象事件から始めようというような提案の内容の署名、要請書を出しております。

 まずは始めることが大切でありますから、検察官が認知、直受けをした事件から始めるというのも一つでしょうし、一般事件でも、警察から送致を受けた後の検察の取り調べの過程からまずは可視化を始めるというのも一つの選択だろうと。だから、その辺の段階の踏み方はいろいろあり得ると思いますけれども、段階を踏むのであれ、検察サイドで、検察庁限りで、できるところからまず可視化を始めていこうという決意については、これは変わりがないということでよろしいんでしょうか。

江田国務大臣 法務省は、刑事訴訟法というものを所管しております。刑事訴訟法の中に捜査が書いてあるわけですね。その捜査は、司法警察職員、司法警察員と司法巡査、それと検察官、検察事務官というものがあって、したがって、可視化を議論する場合には、捜査全般にわたって、司法警察職員のところまで視野には入ります。視野には入るけれども、司法警察職員は、これは国家公安委員会の所管でございまして、法務省で独自に、法務省だけでここについての法規制なりいろいろな指針なりを出すことはできないので、これは国家公安委員長と協議をしなきゃいけません。その協議は協議としてしながら、しかし、その協議ができ上がるまで何もしないというわけにもいかない事態になっている。

 ということで、私としては、その協議はちゃんとやって、捜査の全過程も視野に入れながら、しかし、法務省が所管をしている検察段階でのことが先行するということはあり得べしかなと思っております。

辻委員 まず検察庁の取り調べについては可視化を先行的に開始したい、そういう制度設計を具体的にお考えいただいているというふうに承れる御答弁だったと思いますが、その上で、マニフェストで国民の皆さんにお約束をしているわけですから、これは、衆議院議員の、選ばれた任期の間に、少なくとも、全部でなくても、一部であれ段階的に実現に踏み込まなければいけないというふうに思いますが、もう一年半たちまして、ことしの通常国会を逃すと、来年の通常国会、再来年というのはもう非常に近い話になりますから、そういう時期的なめどをやはりしっかり御表明いただきたいなと。

 従来の、報告書が夏だということでありましたけれども、それを、ことしの六月中までに前倒しで報告を求めるような御発言もしておられるように思いますけれども、その辺をめどに可視化の検察庁マターとしての法案化についても具体化していただきたいと思うんですが、その点、いかがですか。

江田国務大臣 これは、衆議院議員の任期があと二年半ほどあるわけですね。これはぜひ全うしていただきたいと思っておりますが、そこまで、あと二年半まで待つというような話ではもちろんありません。

 そうではなくて、今までのイメージでいえば、国の内外で今勉強しておりますから、この六月までにそれのまとめをいただく、そして、その後なるべく早く省内の勉強会で結論を得るということでしたが、それではちょっと遅いということで、省内の勉強会のスピードアップを同時進行でやりながら、六月に国の内外の調査の答えをいただく、さあということで、もういろいろ準備をしていて、すぐスタートさせて、なるべく早い時期に成案を得たいというのが今のイメージでございます。

 ただ、日程的にいつまでにということはまだ言える段階ではありません。

辻委員 非常に重要なことは、検察が頭でストーリーを考えて、それをそのまま被疑者、参考人に押しつけられる、それが冤罪の原因になっているんだ、それを防ぐためには原則として全過程の可視化が重要で必要なんだということを御確認いただいた。また、検察の取り扱う事件をまず先行的に具体的に可視化をしていくんだということについても御決意をいただいた。そして、時期についても、可及的速やかに可能な範囲でやっていただくということの御確認もいただいたというふうに思います。

 全過程の可視化について、例外的にどんな場合に弊害があるのかということについては、副大臣、政務官と法務の民主党の理事の間で今具体的に煮詰めているんですね。ここでかなり、原則は確認をして、例外を、本当にどんな場合なのかというのを具体化して詰めるということになっております。

 ですから、この作業が詰まった段階で、その時点でなお内閣の提出法案としてはなかなか提出が難しいという段階で、例えば議員立法で提出をするということもあり得べしだと思いますが、その点は御理解はいただけますでしょうか。いただけますよね。

江田国務大臣 民主党の方に可視化議連があって、いろいろ勉強をしていただいたり、あるいは議論の素材を提供していただいたりしていることは存じております。

 ただ、議員立法でということに私があれこれ口を差し挟むのはちょっと僣越でございますので、その意見は差し控えますが、私どもとしては、立法の必要な部分は内閣提出のものとして出していきたいと思っております。

辻委員 本来は内閣提出ということで十分制度設計をしていただければいいと思いますけれども、やはり、より緊急に必要性がある場合には、議員立法としても提出をすることはあり得べしだと思いますし、民主党の政調でも、そういうことを含めて了解事項になっております。ですから、本質的なところで障害がない、そういう制度設計が議員立法としてもできるのであれば、当然法務三役も御理解いただけるというふうに私としては理解をさせていただくということを申し上げておきたいというふうに思います。

 時間がちょっとなくなりましたので、最後に、全く別の話でありますけれども、区分所有法の関係について伺いたいと思います。

 一九七〇年代からマンションがあちこちに建って、築三十年を超えた老朽化マンションは百万戸に達している、今後、毎年十万戸ずつふえていく、そして一九八一年の新耐震規制以前のものがどんどんふえていくわけでありますから、非常に危険であるという中で、建てかえの必要性も、また修繕をしてやりくりをしていく必要性も、民主党としてはいろいろな意味で住宅政策をしっかり考えていかなければいけないというふうに思います。

 そういう中で、これは、二〇〇二年に建てかえの円滑化法案とか、また区分所有法の建てかえ要件の緩和とか、やはり時宜に応じてそれぞれ、法務省サイドでも法の修正ということ、改正ということをされてきた経過があると思いますけれども、今の現状で、実態調査をされた上で、何が今建てかえについて必要なことなのか、それとの兼ね合いで、法の改正についてもやはり総合的に判断する必要があると私は思いますけれども、その点はいかがでしょう。

江田国務大臣 これは、区分所有法自体は、私が司法試験の勉強をする直前ぐらいにできた法律で、その後の建てかえ規定については、私が法律家になってから後のことで、こんなこと言いわけにはならないんですが、余りよく勉強していないんです。

 しかし、建てかえ規定ができて、そしていろいろな要件が変わっていって、現在のところは、区分所有者の五分の四以上及び専有部分の床面積に応じて認められる議決権の五分の四以上の賛成となっているわけですね。この要件を、法改正をするときに、たしか私は民主党は反対をしたのではなかったかなという気がしておるんですが、さはさりながら、今はこういう法規定になっている。

 というのは、五分の一以下の人の反対ならばできるということなんですよね。五分の一以下の人の反対の場合に、それはどういう人が反対するだろうかというと、やはり、建てかえをするときに求められる拠出ができないとか、あるいはちょっと一時出ていくときに出ていく場所がないとか、あるいは身寄りがなくて大変に困っているとか、そういう人が、自分はやはり建てかえは賛成できないと言うんだろうと思うんです。

 ですから、今のこの規定はこの規定として、そういうような人たちに十分な手当てをして、五分の四の賛成がちゃんととれるようなそういう施策をぜひやってほしい。そういう施策をやってそれでも、この規定がどうも、この要件が障害になってリノベーションというのができていかないというようなときには、それは考えることもあり得べしですが、まずはそうした社会的な施策というものをしっかりやるということが先行するんじゃないかというのが、私どもの考えているところでございます。

辻委員 済みません、最後に一問だけさせていただきたいと思います。

 今、民主党内で、総合特区・規制改革小委員会ということで議論をされていて、老朽化マンションの実態調査から、建てかえ要件の緩和は相当ではないという結論を出すというようなシートが配付をされて、これについて、私がその審議の場に参加をして、今後、法務省、国土交通省で住宅政策全般の問題の検討の中で建てかえ要件の緩和の問題も扱うべきなんだというようなことで発言をさせていただいて、そういう方向で進むということになっておりますけれども、これについて、国土交通省の方の見解というか意見を最後に伺いたいと思います。

井上政府参考人 お答え申し上げます。

 国土交通省としては、マンションの建てかえの現場のいろいろな悩みでございますとか課題にできるだけこたえていきたい、こういう立場でございます。

 そういう立場で申しますと、私どもの調査によりますと、これまで建てかえの検討を進めたマンションの中で、建てかえ要件の問題も、一割ぐらいのところは問題があるというふうな回答を得ているところでございます。

 また、これは指摘として受けているんですけれども、耐震性の不足するマンションにおいて、建てかえ要件が五分の四でございますし、また、大規模改修ということになるとこれは四分の三という要件がかかってまいりまして、いずれにも決しられないというようなケースが出るという指摘を受けておりますので、法制度の問題、それからいろいろな支援策の問題を含めて、重要な課題であるというふうに考えております。

辻委員 終わります。ありがとうございます。

奥田委員長 辻惠君の質疑を終了いたします。

 次に、階猛君。

階委員 民主党の階猛でございます。

 本日は、質問の機会を与えていただきましてありがとうございました。私も、検察の信頼回復というテーマで質問をさせていただきたいと思います。

 先般の江田大臣の所信表明の中で、私が非常に印象に残ったくだりがございました。それは、第二の「検察の再生」というところで、「先般の大阪地検特捜部における一連の事態により、検察に対する国民の信頼は失墜したと言わざるを得ません。」こういう表現を使われていました。

 私は、普通、役人であれば、ここは、信頼が揺らぐとか、信頼が低下するとか、そういう言い方をするところだと思うんですが、私の推測ですけれども、ここは江田大臣の言葉ではないかなと思ったんですが、まずそれが本当かどうかということと、なぜ失墜という強い表現を使われたのかということを教えてください。

江田国務大臣 もちろん私の言葉でございますが、私が初めから終わりまで自分でキーボードを打ちながらつくったわけではなくて、それはいろいろな人に手伝ってもらいながらつくったものでございまして、この失墜という言葉は、私がこういう表現にしたか、あるいは原案の段階で入っていたかはちょっと覚えていませんが、いずれにしても、これは私の責任を持った言葉でございます。

 失墜となぜ言うかというと、私もやはりそれは愕然としました。村木さんというのは大変に優秀な厚生労働省の職員で、いい仕事をしていたとみんなの信頼もあった。これは与野党を超えてですよね。そういう人に司直のメスが入って、ああ、そうか、あの人でもそんなことかと思ったら、それが、検察が自分でつくったストーリーに押し込んでいっていて、もちろん検察というのはあるストーリーを持ってやることはあると思いますよ、そのこと自体を否定するんじゃないけれども、このストーリーが正しいかどうかというのは常に自己点検をしながらやっていかなきゃいけないのに、そうじゃなくて、あらゆる証拠をそっちに合わせていって、あまつさえフロッピーディスクの改ざんまであった。それも、改ざんすることによって、その他の証拠と整合性がとれるような、自分の頭の中に描いたストーリーに合わせようというんですから、これはやはりゆゆしき事態だ。そして、やはりここはきつい言葉で指摘をして、そして検察全体を改革しないといけないというので、あえて失墜という強い言葉を使いました。

階委員 しかし、失墜という言葉を使ったからには、そこから回復する道のりもまた険しいということだと思いますので、そのあたりについてこれからお聞きしていきたいと思うんです。

 まず、ちょうど大阪地検特捜部の村木さんの事件、無罪判決が出たのが九月十日で、九月十四日には小沢民主党元代表の起訴議決がされているということになっています。

 ここから一般論としてお伺いしますけれども、検察が、起訴猶予ならまだしも、嫌疑不十分という理由で二度にわたって不起訴にした事件、こういった事件について、一般市民からくじで選ばれた方々が、公正な刑事裁判の法廷で白黒つけようという目的で起訴議決にしている、こういう事態について、まさに検察の信頼失墜を示す例と言えるのではないかと思うんですが、そのあたりについてはどう思われますか。

江田国務大臣 一般論としてのお話でございますが、検察の信頼というのも、やはり一番もとには国民主権というものがございます。その国民主権という制度の根本に照らして検察というのが信頼できるかどうかということなので、検察はもちろん準司法機関として非常に独立性の高い仕事をやっているわけですが、やはりこれも国民主権の目にさらされる必要があるということで、検察官適格審査会もございますが、それと別に検察審査会という制度、これはもう検察制度が始まった直後ぐらいじゃないでしょうか、できたんですね。

 それで、ずっとこれが長く続いて今日に至って、つい最近、この起訴強制制度というのも取り入れた。それはなぜかというと、検察審査会が幾ら言っても、検察が、国民からの、こうじゃないかということにこたえてこなかったのでこういう起訴強制という制度を入れたわけでございまして、国民主権の制度で検察の信頼を高めるためにこういう制度をつくっておる。

 ということなんですが、さて、今お話しの、起訴猶予ではなくて嫌疑不十分までこれを入れるというのはどういうことかと。

 これは、私はやはり、検察の不起訴の制度には、起訴猶予もあります、嫌疑不十分もあります、嫌疑なしもあります、あるいは公訴時効の完成もある、免訴というのもありましたか、いろいろなものがあるわけで、起訴猶予と嫌疑不十分は、確かに制度としては、これは全くそこにお互い出入りのない、嫌疑不十分は嫌疑不十分、起訴猶予は起訴猶予です。しかし、検察の実務の中では、やはり、ちょっとこれは嫌疑不十分臭いけれども起訴猶予にして何とかまあおさめようとか、ちょっと起訴猶予ではまずいから証拠判断というところへ落とそうとかというようなことが、私はないと信じたいんですが、やはりどうもそこを信じ切るにはちょっとちゅうちょがあって、この両方のところに検察審査会の目が光るということになっているんだろうと思います。

 これは、罪の成否について、一般の国民の証拠判断と検察の証拠判断とが食い違う場合、そういうことはあり得るというのでこういう制度にしておる。この制度の適用があったから検察の信頼が揺らぐということではないと思っております。

階委員 信頼失墜とは関係のないというお話ですけれども、むしろ、検察審査会の本来的機能として、検察が二回嫌疑不十分としたものでも強制起訴、起訴議決できるんだということとした場合、まかり間違えば、有罪の可能性がほとんどないのに被告人の立場に立たされるということにもなるわけですね。被告人の人権保障という面で見ると、私はちょっと問題があるのではないか。

 今の話は、ちょっと今のお答えを受けて御質問しているので、手元の資料にはありません。私の話ですので。ですので、被告人が有罪の可能性が低い場合でも被告人席に立たされるという制度、これは果たして見直す必要がないのかどうか、そこのあたり、通告していませんが、お願いします。

江田国務大臣 対象者といいますか、もちろん強制起訴になれば被告になるわけですが、被疑者、被告人に有罪の可能性が低い、にもかかわらず、申し立てがあって起訴強制となる。

 その低いというところの判断のことだと思うんですけれども、これは検察審査会の人選であるとか、あるいはその手続であるとか、二度起訴相当という議決が出た場合で、しかも十一分の八という高い多数決でなければならないと決めているとか、あるいは、二度目のときには検察官の意見とか、あるいは弁護士を補佐として助けを求めるとか、そういういろいろな手続でやっていますので、あえて、有罪判決を得るだけの心証がとれる証拠がそろっていないのに無理やりに起訴するというようなことがないような制度的な保障は十分設計の中に入っていると思っております。

階委員 私はそれだけではまだ不十分だと思っていまして、やはり情報公開のあり方とか、まだ改善すべき余地があるのではないかと思っていますが、この件についてはこのあたりにさせていただきます。また折を見て御議論させていただければと思います。

 それで、検察の信頼回復のために、最高検察庁が昨年末に検証結果報告書をまとめておりますけれども、今回の大臣所信を見ましても、そのあたり、言及がないんですね。私が解するに、この検証結果報告書、十二の再発防止策が掲げられておりますけれども、大臣としてはこれでは信頼回復の決め手にはならないというふうにお考えなのではないかと思った次第なんですが、いかがでございましょうか。

江田国務大臣 所信表明のときにこの最高検の検証のことに触れなかったというのには、特別何か理由があって触れなかったというわけではございません。最高検が一生懸命やっていることは、これはしっかり見守っていきたいし、また、検察の在り方検討会議でも十分、むしろ批判的な目でいろいろ議論されていることだと思っております。

 ただ、この十二項目で検察の信頼は回復できると私が今思っているというわけでももちろんございません。それも含めて検討会議でしっかりした議論をしていただきたいと思っているところです。

階委員 そうしますと、まだまだ信頼回復に向けての取り組みは道半ばということなんですけれども、大相撲でも今、八百長の問題で、これは信頼回復するまでは本場所を開けないんじゃないかとか言っていますけれども、言うなれば、今検察は、八百長が発覚したけれども本場所は開催し続けているというような状況にも見てとれるわけですね。本当に一刻の猶予もないわけでありまして、信頼回復について悠長なことをやっている場合ではないと思っています。

 検察信頼回復のために、私は大臣のイニシアチブでやれることがあるのではないかと思っています。

 実は、検察の在り方検討会議で、村木さんがヒアリングをされたときがございました。村木さんも厚労省といういろいろな問題のある役所で勤められてきて、どうやって組織の信頼回復を取り戻すかということについて、村木さんがその場で意見を述べられていました。まず、組織のミッションをきちんと確立して共有すべきということをおっしゃっています。

 そこで、大臣にお尋ねしたいんですが、検察という組織のミッションについて、ここはやはり大臣のお言葉で明確にされるというのが私は信頼回復の第一歩だと思うんですが、検察のミッション、ぜひ大臣のお言葉でお願いします。

江田国務大臣 先月開催されました検察長官会同において、私も、訓示ということなんですが、あいさつをいたしましたが、検察の任務は、厳正公正、不偏不党という立場から、適正手続を遵守した上で真実の発見に努め、刑事法令の適正な実現を図ることだ、そう思っております。

 なお、先ほど、嫌疑不十分と起訴猶予との間に、何か相互乗り入れではないけれどもそういうケースがあるかのようなことを申し上げましたが、検察の判断として、これは嫌疑不十分だ、これは起訴猶予だ、そこは検察の皆さんが皆、今申し上げた厳正公正、不偏不党の立場で、適正手続を遵守した上で真実の発見に努めて、刑事法令の適正な実現を図るという気持ちでやっている、そのことに疑念があるということを言っているわけではございません。ただ、後から見ると、これはやはりチェックが必要だということがあるだろうということを言っただけでございます。

階委員 今、真実発見とか法の適正な執行とか、そういうお話をされたと思うんですが、冤罪を出してはならない、そういう観点というのが抜けているような気がしました。それは入っていましたか。

江田国務大臣 冤罪を出してはならないということは、もちろん当然のことでございます。

階委員 もう少し私は、組織の末端にまで届くような、心に響くような、漢字がたくさん入ったようなミッションではなくて、もっとわかりやすい言葉で伝えるべきではないかと思っています。

 私も弁護士なので司法修習を受けたんですが、検察教官からの教えで、捜査に当たっての検察の心構えというか使命というものを教えていただいたんですが、検察の使命とは、九十九人の犯罪者を逃してはならず、かつ、罪を犯していない者を一人でも犯罪者に仕立ててはならない。これは非常にわかりやすく、まさに検察の使命を言い当てているのではないかと思っています。そういう、もうちょっと心に響くような、わかりやすい言葉を、できれば大臣におっしゃっていただきたかったなということを申し上げたいと思います。

 村木さんがそのヒアリングの場で、二番目として、検察組織の構成員一人一人の倫理観や行動規範を確立する必要があるというふうにおっしゃっていました。そのための取り組み、どういうことを行っているかということを教えてください。

江田国務大臣 これは最高検でも、先日の検察長官会同でも、いろいろな議論をしております、まだ議論を続けている最中でございますが。

 同時に、検察の在り方検討会議で、検察というもののミッション、検察の倫理、その他のこと等含めてこれを今議論している最中です。そして、べからず集で書くのがいいのか、それとも、べき、べしということで書くのがいいのか、十分中身がそろったものがいいのか、それとも法三章的にぱっとわかるものがいいのかなどという議論を今しているところです。

 私ども国会議員は皆、国会議員の、参議院、衆議院の手帖がありまして、ここに政治倫理綱領と行為規範、ちゃんと書いてありますね。そういうものを検察官もポケットへいつも持っているような、つまりそれだけの心構えを忘れてもらっては困る、そういうことをどうやったらできるかを今考えているところです。

階委員 そして、村木さんが最後におっしゃったことは、幾らミッションを確立して、かつ、個人の倫理観とか行動規範を確立したとしても、必ずそれを踏みにじるような人が出てくるということで、それをチェックする仕組みが必要だと。問題はその後でございまして、幾ら組織のラインの中でチェックを強化しても、それではしようがないんだ、組織の横、あるいは外部からチェックする仕組みが必要である、こういうふうにおっしゃっていますけれども、私は、まさにその部分が今法務省、検察庁にとって一番必要ではないかなと思っていますが、そのあたりの取り組みについてお聞かせください。

江田国務大臣 これも重要なところでございます。

 私は、社会に出て十年近く裁判所にいたんですが、裁判所の改革というのは、なかなか外からの批判で裁判所を変えるということは、角を矯めて牛を殺すというようなことになりかねない。やはり、中から改革のイニシアチブが起きてこなきゃならぬ。同じようなことは検察にもやはり求められるんだろうと思うんです。

 したがって、検察の縦のライン、現場の特捜を、最高検とかあるいは高検とかに特別の人を置いてチェックする、それから横のラインでこれをチェックする。だから、例えば捜査と起訴とを分ける。これは、そういうことを笠間検事総長がおっしゃって、それがすぐそのまま実現するという話じゃないけれども、それも一つの考え方かもしれないし、あるいはもっと別に、検察の横の方に、検察の内部でチェックするシステムができるかもしれないし、あるいは公判部がまた別の目でちゃんとチェックをしていくというようなこともあるかもしれないし、いろいろなチェックのシステムをつくっていかなきゃならぬということで、今鋭意議論をしております。

階委員 今、横からということで、いろいろ、捜査と公訴を分けるというようなお話などをされたと思いますが、やはり、外部からチェックする、組織の内側だけではなくて、組織の完全な外からチェックする仕組みということでまさに被疑者取り調べの可視化というものが位置づけられるのではないかということで、先ほど辻委員も引用されていましたとおり、大臣所信の中でも、検察の信頼回復のためにも可視化は避けられないということをおっしゃっています。

 そういう中で、今回最高検が示した試行指針ですけれども、これが信頼回復につながるのか。これは、日弁連などは、検察は自浄能力がないなどと酷評されている代物でございますけれども、改めてお聞きしますけれども、この十八日から開始されます試行指針、これで信頼回復につながるという自信は、大臣、おありになるか、お聞かせください。

江田国務大臣 自信があるかというお尋ねですが、自信はありません。これは、私も、これで国民の信頼がすぐ達成できるというふうには到底思えないと思っております。

 ただ、しかし、まだ始まっていないですから、やはり、始めて見てもらわないといけないので、それは、現場の検察官の裁量で可視化の部分を決めるようにしておりますが、それぞれの現場の検察官が、もっとどんとやろう、そういう判断をするかもしれないし、そうなるとよくやったということになるかもしれないですし、ここは、私はやはり、最高検を中心に、検察の皆さんが、みずから自分たちの考えでこうやろうといって出てきていることを、これをまずは大切に、理解をしていきたいと思っております。

 しかし、繰り返すようですが、これで信頼回復するという自信はありません。

階委員 率直におっしゃっていただいたと思うんですが、しかし、これは危険なことだと思いますよ。現に、一部の可視化というものはかえって冤罪を招く、被告に、被疑者にとって有害きわまりないものだというような意見もある中で、この試行指針を断行することによって、信頼回復どころか、かえって失墜した信頼が底抜けで落ちちゃうということもあり得るんじゃないかということを危惧するわけです。

 ちょうど今、在り方検討会議も、三月末、年度内を目途として提言をまとめるようでございますが、その提言を踏まえて可視化というものをやった方が、信頼回復という意味ではよりプラスになるのではないかと私は思うんですけれども、そのあたりについて、いかがでございましょうか。

江田国務大臣 この最高検の試行指針も、そして、期間が非常に短いんですが、そこで行われたことも、検察検討会議の検討の対象になっております。実際にこの十八日から始まるものの中でどれだけテーブルの上に出すことができるかというのは、ちょっと時間が短過ぎますけれども、しかし、最高検の検証の結果は今検討会議で議論されておりますので、ここではむしろ批判的な意見の方が強いんですね。ですから、これで事足れりということには到底ならないだろうと思っております。そこはぜひやらせていただきたいと思います。

階委員 ちょうどきょうは内山政務官にいらしていただいていますけれども、私は、例の主婦の年金切りかえ忘れ問題と同じような事態にならないかというのを危惧しているわけでございます。

 とりあえず信頼回復につながるとやってみたものの、それに対して在り方検討会議のメンバーから非難ごうごう、こんなものやめてしまえ、新しいこういう可視化じゃないとだめだということを言った場合、大臣、どうなりますかね。私は、今、細川厚労大臣は本当に気の毒だと思うんですけれども、同じ轍を踏むと言ったらちょっと失礼な言い方かもしれませんが、私はそこは慎重に考えた方がいいのではないかと思うんですけれども、どうでしょうか。

江田国務大臣 これは最高検の試行指針も検討会議の俎上にのっているわけですから、そこで議論をしていくわけですから、しかも、そこでは非常に批判的な鋭い意見が出されているわけですから、私は、そういうものを踏まえて、さらに竿頭一歩を進めるということになっていくものと思っております。

階委員 そこはぜひ注意しながら進めていただければと思います。

 そこで、内山政務官にお尋ねします。

 先ほど来、検察の信頼回復のためには外部のチェック機能が必要だということで、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、総務省の年金業務監視委員会は、前身の、これは我々が野党の時代にできたものですが、年金業務・社会保険庁監視等委員会の時代から、年金記録に対する国民の信頼回復等のため、第三者の立場でチェック機能を果たしてきたというふうに理解しています。今回の専業主婦の年金の切りかえ忘れの問題でも、私はこのチェック機能が有効に働いたと思っております。

 ある行政組織が不祥事などでその業務への信頼を失った場合、信頼回復のために、今回の年金業務監視委員会のような総務省の行政監視機能が活用されるべきではないかと思うんですが、政務官、いかがでしょうか。

内山大臣政務官 御質問いただきましてありがとうございます。

 総務省は、これまでも、不祥事等を起こした行政機関の対応状況を注視しつつ、適当と考えられる場合には行政評価・監視機能を活用して調査を行い、必要な改善措置を指摘することにより、国の行政の信頼回復に努めたところでございまして、委員御指摘のとおり、行政監視機能が活用されるように考えるべきだと思います。

階委員 ありがとうございます。

 それでは、例えば、これから在り方検討会議の提言が出るわけですけれども、この提言を検察が着実に実行しているかどうかを監視させるために、総務省の中に、仮称ですけれども、検察業務監視委員会なるものを立ち上げることは法令上問題はあるかないか、お答えください。

内山大臣政務官 所掌事務の範囲では、法令または政令に基づいて審議会を設置することについては法令上制限はありません。他方、一般に、組織の新設に当たってはスクラップ・アンド・ビルドによることを原則としておりますので、審議会等については、閣議決定において「いたずらに審議会等を設置することを避ける」等の指針が定められております。

 行政評価局では、政府における各般の課題の中から幅広くテーマを選定して調査を行っており、特定行政機関の業務を長期にわたって監視することは通常行っておりません。しかし、御提案の委員会の設置について、検察の在り方検討会議における検討状況、検察の業務を長期にわたって監視する必要性、とりわけ総務省に委員会を置く必要性等を十分に勘案して検討することが必要であると思います。私としては、検察業務監視委員会として立ち上げる必要性があると考えています。

階委員 ありがとうございました。

 在り方検討会議も、第三者が非常に精力的に、高い見識でもって今提言をまとめている最中ですけれども、在り方検討会議自体は提言をする機関ということで、その後、その提言が実行されているかどうかというのを監視するところまでは予定されていないと思うんですね。そもそもそういう認識でよろしいかどうかということを教えてください。

江田国務大臣 検察の在り方検討会議は、おっしゃるとおり、今の検察の信頼の回復のためにどういう改革をするかについて提言をいただくということでございまして、しかし、その提言をいただいた後に、今度はどういうふうにそれをフォローアップするかということは、また、その要否も含めて検討していかなきゃならぬと思っております。

 ただ、一言申し上げますと、委員御指摘の総務省の行政監視機能ですが、検察の在り方検討会議で出ているもの、これは恐らく、諮問の答申といった格好ではなくて、幾つかの選択肢というようなものも出てきたりいたしますから、そこは私の判断で、これでいこうというようなことをどこかで決断してやっていかなきゃいけない。これが検察の在り方検討会議の提言に沿っているかどうかを、私としては、総務省にチェックをしていただくということはちょっとなじまないんじゃないか。

 そして同時に、検察の事務、検察の公訴権の行使、そういうものが行政評価の対象になるかというと、これはやはりちょっと違っているので、そこは、さまざまな要請の中で、準司法的な機関としての検察の機能を十分に生かしていきたいと思います。

 また、最高検の先ほどの試行指針が、これでは信頼回復になるという自信はないと申し上げましたが、それは、彼らがまじめにやろうとしているということに対する私の疑念ではありません。それは、彼らなりにその試行指針に従って一生懸命頑張っていくということは信頼をしております。

階委員 見ておりますと、法務省というのは、この委員会の途中でも、何か答弁に不行き届きがあればすぐ手書きでメモを入れて、すごい役所だなと。私、総務省のとき、そんなことは一回もありませんでした。それだからこそ、やはりなかなか外部の人の話は聞きづらくなるんだろうなという気はします。

 最後になりますけれども、この検証結果報告書に書かれていますけれども、これまで、この村木さんの事件にかかわらず、氷見事件とか志布志事件についてもいろいろな問題が指摘されて、改善策というものがその都度まとめられているんですね。ところが、それが生かされてこなかった。これも検証結果報告書に書いています。また、内部で不祥事があった場合に内部通報するための事務処理要領というものもあるんですが、それも使われたことがなかった。

 そういう組織が法務省ないし検察庁であるということを大臣には重々御理解していただいた上で、せっかく総務省にも行政評価局の監視機能がありまして、きょう、内山政務官にも、先ほど非常に前向きな答弁をいただきました。そういう政府の中の機能も最大限に生かして、検察の信頼回復のためにぜひ頑張っていただければと思います。

 本日はありがとうございました。

奥田委員長 これにて階猛君の質疑は終了いたしました。

 次に、熊谷貞俊君。

熊谷委員 民主党の熊谷でございます。

 江田大臣は法律家としても大変すぐれた方でいらっしゃいまして、大臣に御就任されたということ、我々大変感謝しておりますし、ぜひ長く職にとどまっていただきまして御尽力いただきたいと思います。

 さて、私、昨年の法務委員会で、関連質疑の中で検察審査会のことについて若干質問させていただきましたが、今回、改めまして検察審査会につきまして質問をさせていただきたいと思います。

 幾つか先ほどの階議員の御質問とかぶるところがあるかもわかりませんが、ひとつよろしくお願いいたします。

 前回、小川副大臣の方から検察の起訴便宜主義につきまして御説明いただきまして、それに関連して検察審査会の存在意義についても御説明をいただきました。

 検察審査会の制度が終戦後直ちにつくられたというのは存じております。また、平成二十一年から強制起訴という権限が付与された改正がなされた、大変大きな権限が検察審査会に付与されたわけでございますが、たまたま、けさの毎日新聞の「検事アンケート」というページに、強制起訴制度の、四十人ぐらいの検察の方にお尋ねしたアンケートの結果が載っておりまして、審査会を一層意識して事件を処理するようになり、従来なら不起訴にしていた事件を起訴するようになったとの回答もあった、また、相次ぐ強制起訴議決については否定的な見方が強く、市民感覚の反映で評価するとの肯定的意見は四十人中十二名にとどまった、こういう記事が載っておりましたので、これをちょっと御参考に念頭に置いていただきまして、質疑を続けさせていただきたいと思います。

 与野党の先生方から本日も検察のあり方につきましてはさまざまな質疑がなされたところでございますが、私はちょっと別の切り口から、検察のあり方、問題を提起させていただきたいと思います。

 一つは、現在の刑事事件の処理の状況。警察から送検されたり、あるいは検察に直接告発されたりというようなことで、検察がかかわった事件のうちの起訴の割合及び起訴された刑事事件の中での有罪の割合はどのぐらいなものでございましょうか。

江田国務大臣 これも役所の方から受け取っている資料のままでございますが、直近の統計に基づいて平成二十一年のものをお答えいたしますと、検察官が起訴または不起訴とした人数、事件ではありません、人数で言っております、総人数のうちの起訴人員数、この割合、つまり起訴率ですね、人に着目して、約三七・五%でございます。そしてこれも人数です。裁判確定人員の総数に占める有罪確定者の割合、有罪率、これは約九九・九%、こういう数になっておると承知しております。

熊谷委員 従来から、起訴率が高いか低いかはちょっと議論の分かれるところでありますが、有罪率の異様な高さというのはやはり日本独特のものではないかなと。

 これもたまたまきょうの新聞で見たんですが、アメリカは司法取引を含めてもせいぜい九五%ぐらいだと。司法取引がある中でのアメリカの有罪率でございます。

 さて、当然ながら、乱訴というのは厳に戒めるべきことなんでございますけれども、一たん起訴したら、何が何でも有罪に持っていかないとメンツがつぶれるといいますか、検察の無謬性が崩れるとか、ひょっとして、起訴独占主義の思い上がりと言うと言い過ぎかもわかりませんが、こういう背景の中で、一般に国際的に原則になっています推定無罪という感覚も、この国では非常に通用していない、そういう現状があろうかと思います。

 こういう中で、先ほど、毎日新聞のこれも御紹介いたしましたけれども、本来、起訴独占あるいは起訴便宜主義という形で非常に独立的な準司法の権限が付与されているしっかりした組織である検察、その検察官の中で、検察審査会が強制起訴の権限を持ったことによって、意識して事件を処理するようになったという人が半分ぐらいいる。これも私は、ある意味非常に問題ではないかなと。

 検察審査会というのは、あくまで、補助といいますか補完というような機関であるべきでありまして、本来、検察そのものが、権威を持った公訴を行う、こういうことをしっかりやるべき機関でありますから、それを担保するような検察制度そのもののあり方といいますか、今非常に問題になっておりますけれども、さらにその権威を高めるようにするにはどのような見直しが必要だ、こういうふうに大臣はお考えでしょうか。

江田国務大臣 なかなか奥の深い質問で、どうお答えしていいか苦慮いたしますが。

 私も、国会議員の方がもうはるかに長くはなっておるんですが、それでも、もともとが法律家でございまして、裁判所でかなり長く飯を食ったりいたしまして、裁判官とか検察官とかあるいは弁護士とか、もちろん、実務をそうやっていませんので、何でも知っているというわけじゃありませんが、やはり、こういう法曹三者の特色というもの、そのあり方というものはある程度知っているつもりでございます。

 そんな中で見ておりまして、やはり法曹三者が素人の介入を許さないというようなところがあって、とりわけ裁判官は、裁判官は弁明せず、一遍判決を書いたらもう後は一切弁明しない、これは控訴なり上告なりでやってくださいと。それはそれでわかるんですが、それが法廷の現場にまでいって、自分の言っていることが相手に通じようが通じまいがそんなことはどうでもよろしいというので法律用語でやりとりする、それに検察官も弁護士も全部集まって、外から見たら何をやっているかわからない、それにさらに調書が加わって、そういう世界になってしまったところがやはりあったんだと思うんですね。

 そこで裁判員制度を入れた。これを入れることによって、裁判官も普通の人にわかる言葉で話して、普通の人を説得できなかったら人を有罪にはできないということに今なってきたわけです。

 そのことが検察官にもやはり言えるんじゃないか。検察官が自分の頭の中で描いたストーリーに全部供述を持ってくるようなことでなくて、この人がなぜ、どういう気持ちでこういうことを言っているかということまでちゃんとその立場に立ちながら人の言うことを聞けるような検察官にならなきゃいけないというようなことがあって、今のこの村木事件なんかを契機にいろいろな改革に取り組んでいるところだと思うんですね。

 今、毎日新聞のアンケートをお示しになられましたが、ちょっと私、朝読んでくる暇がなかったので見ておりませんけれども、ちらっと見る限りでいえば、あの中に、やはり検察にも素人の批判を許さないというようなところがちらっと見えるんじゃないか。それではやはりいけないということで、したがって、この検察審査会制度というものも、これも重要な制度として存在しているんだと私は思っております。

 九九・九%という有罪率は、これは検察官一人一人が精いっぱい職務を執行する、それが積み重なってこういうことになっていると思いますが、その数字が今度は逆に自分にはね返って、この批判を許さないというような体質になったとするならば、これはやはり改めていかなきゃいけない。今、なっているというわけじゃありませんが、そういうような気持ちで検察についての行政にも携わっていきたいと思っております。

熊谷委員 ありがとうございました。

 ちょっと時間がございませんので、次に移らせていただきますが、検察審査会、もちろん積極的な意義を今大臣がお述べになられましたのですが、この強制起訴という権限付与につきましては、法改正時にもいろいろ問題が、議論やその議論に加わった有識者から問題点を指摘されている、現在そういうことも伺っております。

 まず、お聞きしたいのですが、検察審査会というのは、三権、司法、行政、立法のどれに所属する機関でございましょうか。

江田国務大臣 検察審査会は裁判所に置かれ、予算は裁判所の予算で運営されていることはそのとおりなんですが、しかし、司法権ではありません。かといって、もちろん立法権でもありません。国の三権を切り分けるときに、国家の権能をどこかに入れるということになれば、行政というのは控除説という説が、私ども学生時代に習ったときには控除説じゃない説も、いろいろ行政を積極的に定義しようというような努力もあったんですが、やはりなかなかうまくいかなくて、やはり控除説ということになれば、検察審査会というものも行政作用、つまり実質的な意味での行政権だと言わざるを得ないと思います。

熊谷委員 コウジョというのは漢字でどう書くかわかりませんが、まあそれは結構です。(江田国務大臣「除く、税額控除とかいうもの」と呼ぶ)わかりました。

 行政機関という位置づけだということで間違いないと思いますが、これには当然ながら、設置の責任者とか、あるいはその上部の何か監督責任を持つという部署が普通はあるわけでございますが、これは独立の機関ということで、そういうものはない、内閣のコントロールは、これも実はそういう意味で及んでいないと。

 それでは、この検察審査会の職務執行についての最終的な責任はどこが負うことになるんでしょうか。

江田国務大臣 これは、検察審査会の事務官は最高裁が裁判所事務官の中から命ずるとか、あるいは予算は裁判所の所管として計上されてはおりますが、検察審査会法第三条で、検察審査会は独立して職権を行うという規定でございまして、もちろん法務大臣の私が何か監督するものでもありません。全くの独立機関でございまして、その意味では、検察審査会を監督する機関というものはないと言わざるを得ません。

熊谷委員 同様の質問を昨年の参議院の予算委員会で森ゆうこ議員がなされまして、当時は仙谷大臣でございましたが、これは憲法上疑義があるのではないか、こういう踏み込んだ質問をされたわけです。そのときに、仙谷大臣の御答弁が、例えば会計検査院があるではないか、これもやはり独立の行政執行機関である、それで、同様の機関として憲法上問題ない、こういうような御答弁だったようでございますが、会計検査院は、実は人事あるいは会計報告等々につきまして国会への報告義務がございますし、そういう意味で、民主的コントロールが国会でなされているという点では、検察審査会とはちょっと違うのではないかなと思うんですが、この仙谷大臣の御所見につきまして、大臣の御所見をお願いします。

江田国務大臣 三権という意味でいえば、これは行政権。しかし、行政権は内閣に属するという憲法の規定でございますが、独立した機関というものは憲法上もある。これは会計検査院。会計検査院の場合も、しかし、もちろんいろいろなチェックは働く。検察審査会の場合には独立して職権行使しますが、そこの行使の仕方についてさまざまな抑制的な制度設計はなされているということでございます。

 法律の解釈の場合に仕組み解釈というのがございまして、いろいろ条文はあるけれども、条文の文理的解釈だけではなくて、どういう仕組みになっているかということで、こういういわゆる準司法機関というものがそうした独立した権限を行使するというのは、憲法自体は全く予定していないというわけではないので、そういうものとして憲法上も許されるということで、これは法制局の審査ももちろん立法のときにはありますし、また国権の最高機関である国会が決めた法律によってつくっているわけでございます。

 しかし、それは我々の意見であって、もし憲法違反だという主張をだれが判断するかということになれば、それは違憲立法審査権を持っている裁判所が判断するほかないと思っております。

熊谷委員 そういうことで、制度的にいろいろな抑制が、あるいは適正手続の担保がなされている、こういうふうに大臣は今おっしゃったわけでございますが、実はそこの中身がこれから御質問させていただきます内容でございまして、ちょっと問題が多いのではないかなと。

 まず、その審査の対象につきまして、起訴猶予あるいは嫌疑不十分、嫌疑なしと三種類あるとのことでございます。先ほど申しました司法制度改革推進本部で、法改正時に設置されておりましたここでの議論の中で、起訴猶予だけではなくて嫌疑不十分まで含むことにしたことについては多少の議論があった、こういうふうに言われているのを承知しておりますが、今こういう現在の制度設計になった経緯ですね、それをちょっと簡単に、もう時間がございませんので、ごく簡単にお話しいただけますでしょうか。

江田国務大臣 この起訴強制という制度は、検察審査会が幾ら起訴相当あるいは不起訴不当という議決をしても、検察の方が素知らぬ顔ということが続いて、いろいろ批判されて、そんなときに司法制度改革推進本部で議論されまして、その議論の中で、不起訴理由が起訴猶予の場合だけ起訴強制という議論も確かにございました。しかし、ここでの議論の帰結としては嫌疑不十分も入れようということになったわけで、そういう議論があったことはそのとおりでございます。

熊谷委員 私は、もちろん、嫌疑なしという判定に対して申し立てが可能であるというのは、これは検察の便宜主義の趣旨に全く反するものではないかな、こういうふうに思っております。

 また、そういう意味で、非常に専門的な知見を必要として、あるいは時間的にも十分かけないといけない、こういう嫌疑不十分というような審査対象に対して、やはり、今の検察審査会、これは、実は中身も手続も本当に外からうかがい知れないものなのでございますが、聞くところによりますと、これが、十分審査がなされるような、手続上の、制度上の担保がなされているかどうか、非常に疑わしいところがある。

 これは、私は、嫌疑不十分、もちろん嫌疑なしもそうですが、審査対象から外すべきだと思いますが、いかがでございますか。

江田国務大臣 起訴便宜主義というのは、もう今委員御承知のとおりでございますが、起訴猶予というのは、ある意味で検察官の裁量なんですね。これはさまざまな要素を総合勘案して裁量しますので、なかなかいわく言いがたいというような面もあるんだろうと私自身は思います。

 それに対して、嫌疑不十分というのは、証拠の評価なんですね。検察官は、確かに捜査官、公訴官としての証拠の評価をする専門家です。しかし、証拠の評価は、専門家が正しい評価ができるかどうかというのは、これはなかなか疑問なんです。裁判官が証拠をちゃんと適切に調べて事実を認定する、これは、素人の人の証拠から事実を認定する正確さの度合いとどっちが正しいかというのも、なかなか本当は疑問のところはあるんです。

 したがって、裁判員制度というもので、証拠の評価に素人の目も入れて、専門家である裁判官が素人を説得できるかどうか、そこまでやはりやって刑事裁判をちゃんとやっていこうという制度にしているわけでして、ですから、今のこの検察審査会についても、嫌疑不十分、証拠の評価、この証拠の評価も一般の国民の目にさらそうという制度設計でございまして、少なくとも、まだスタートして日が浅いので、これはぜひもうしばらくやらせていただきたいと思っております。

熊谷委員 図らずも裁判員制度のお話も出されて、素人といいますか市民も入ってというのがやはり意義がある、こういう御答弁でございます。

 もちろん、その観点も必要であろうかと思いますが、やはり、そのためには、裁判員制度で保障されていますようなああいう公開制でありますとか、非常に、時間、手続等も含めて十分な配慮がなされているようには、この今の現在の検察審査会は、思えないわけでございます。この辺の見直しというのは検察の在り方検討会議でもぜひやっていただきたいというのを、前回要望を出させていただいておるとおりでございます。

 ちょっと、時間の都合で次に移らせていただきます。

 検察審査会に審査を請求できるという、もちろん、告訴、告発人並びに被害者、こういうことだと思うのでございますが、社会的法益といったらいいんでしょうか、特に交通事犯なんかの被害者というものではなくて、政治資金規正法のような場合に、だれでもその申し立てができる。これは申し立ての乱用につながることになろうかと思うんですが、これを防止する手だてはあるのでございましょうか。

江田国務大臣 告訴、告発をした人が検察審査会に申し立てる。告訴は被害者でございますが、告発の方は被害者でなくてももちろんできるわけです。その告発をした人も検察審査会への申し立てができまして、そこのところのふるい分けというものは、制度上用意をしておりません。

 ただ、今、裁判員制度との比較を言われましたが、この検察審査会というのは捜査の継続の部分がありますよね。まだ公開の法廷でやるというところになっていない、捜査の継続の義務があるから密行性というものも要請をされるし、また、生の証拠が出てまいりますから、そこはプライバシーのことなどもあるし、素人の皆さんに大いに議論していただく自由闊達な議論というようなこともあって公開になっていない面はありますが、いずれにせよ、制度が始まったところでございますので、もうしばらく見させていただきたいと思います。

熊谷委員 繰り返し同じ趣旨の質問でございますが、そういう申し立ての不備といいますか、犯罪的な申し立てということに対しては、虚偽告訴罪、刑法の適用は成立するのでございましょうか。

江田国務大臣 これは一般論として申し上げるほかありませんが、虚偽告訴、刑法第百七十二条でございますが、これは、他人に「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした」場合に成立する。

 検察審査会に対する審査の申し立ては、この「その他の申告」に当たりますので、虚偽であることがわかりながらそういう目的を持って申し立てをすれば、それは場合によっては虚偽告訴罪の成立ということもあり得ると思います。ただ、まだ例がないので、私もあり得るというところまでしか申し上げることはできません。

熊谷委員 やはりこの適用が可能であるという御答弁だと確認させていただきます。

 大臣もおっしゃっておられますその密行性あるいは密室性といいますか、非公開の中での捜査の継続ということでの検察審査会のあり方という観点から、やはりそうはいっても、先ほど来の可視化の話もございますが、手続の適正というのがこれは非常に大事だと思います。幾ら一般の市民の方が参加されている検察審査会であるとはいえ、適正が担保されていないのは非常に問題であると思います。例えば、適正な手続が遵守されるような制度的な担保は、何か検察審査会においてなされておるのでしょうか。

江田国務大臣 適正手続の担保というのは、これは、検察審査会で起訴強制までに二度審査を経る、そしてそこには検察官の意見の開陳あるいは弁護士による補佐、そういうものもある。さらに、十一名中八名以上の審査員が起訴相当としない限り起訴議決はできないとなっているとか、そういうようないろいろな制度設計によって、これだけ慎重にやるんだから適正に行われるはずだ、こういう制度設計になっているということをぜひ御理解いただきたいと思います。

熊谷委員 もう時間が切れかかっておりますので、簡単に最後の質問をさせていただきたいと思いますが、やはり非公開という規定の中で結論に至ったところの経過というのは何らかの形できちっと公開されるべきである、私はそう思います。これは事後であってもちろんいいわけでございますが。

 それと、今の形式的な適正手続の制度というのを幾つかおっしゃったわけでございますが、そもそも審査補助員がたった一人であるというのも、宝くじでぴゅっと、今、弁護士会からの推薦で選んでおられるようですが、非常にぶれが多いんじゃないでしょうか。特定の弁護士さんのいろいろな考え方によって判断が誘導される、こういう危険性もたくさんありますし、だから、適正手続といったときには、その制度、幾つかこういう手だてがあるというよりも、むしろ全体、憲法三十一条にのっとった本当のきちっとした適正手続がなされるような実質的な中身をもう少し考えていただくべきではないかなと。

 だから今、複数の審査補助員を置くとか、あるいは議決書の内容、これも、公開されておる議決書は極めて形式的でありまして、情報公開につきましても審査会によってまちまちです。何曜日に何回行われたかとか、その程度のことが、公開される場合もあるし、それすら公開されない場合もある。

 一体、どこで、だれが、どういうことで、どういう経過でこういう判断に至ったのかというのが皆目わからないままで検察と同じ起訴の権利を持つというのは、これは甚だ……

奥田委員長 熊谷君、質疑時間が終了しておりますので、御協力ください。

熊谷委員 はい。

 それでは、ただいま申しました中身につきまして、大臣、御答弁いただけますでしょうか。

奥田委員長 短い御答弁でお願いいたします。

江田国務大臣 補助員については、もちろん一名でなきゃならぬという何か理屈があるわけではありませんが、しかし、こういう制度で、一名で補助するということですから一名という判断になったというように聞いておりまして、これはもちろん不行跡がありましたら職を解くこともできるわけでございます。

 理由の記載については、これも先ほど申し上げた捜査機能の継続の部分があることとか、したがって、プライバシーなどが余り開示されては困るとか自由な討論が必要とかというのでこういう議決書の書き方になっていて、検察審査会によって多少、どこまでオープンにするかに、やや区々まちまちの部分があるようですけれども、それはそれでそれぞれの検察審査会の独立した判断だと思っております。

熊谷委員 これで質問を終わります。ありがとうございました。

奥田委員長 これにて熊谷貞俊君の質疑を終了いたします。

 次に、井戸まさえ君。

井戸委員 本日最後の質問になります。どうぞよろしくお願いします。民主党の井戸まさえでございます。

 私は、大臣の所信の中で、本日は、最近、加盟している欧米諸国からの要請もあって、外交の課題ともなっています、国境をまたいだ子の連れ去りに関しますハーグ条約について伺っていきたいと思っています。

 この条約は、正式には、国際的な子の奪取の民事的側面に関する条約というもので、一九八〇年に制定されています。このハーグ条約というと、通常、報道でも国際結婚というのが最初に来るので、なかなか日本人の方々は、日本人同士で結婚していたらハーグ条約というのは自分の身近ではないというふうに理解なさる方というのは多いと思うんですけれども、これはあくまでも国境をまたいだケースなので、例えば、国際結婚をしていても、国内で、離婚した相手の女性が実家の方に帰った、こうした場合に関してはこのハーグ条約の対象にはならず、逆に、日本人同士でも、国境をまたいでどちらかが転勤になって、その一方の合意を得ないまま子供とそちらの国に一緒に行ったとなったらば、これはハーグ条約が適用されるという形になるので、日本人にとっても、これだけ経済的ないろいろなことで国際化が進んでいく中では非常に身近な問題であるということを指摘させていただきながら、御質問させていただきたいと思っています。

 この条約は、ドメスティック・バイオレンスとか、または子供の児童虐待の問題だとか、いろいろなところで懸念も指摘もされているんですけれども、大臣所信の中で、「就任時の総理指示の一つであるハーグ条約加入の是非の検討も、着実に進めます。」とおっしゃっています。

 まず、法務省ではどんな検討がなされているのか、教えていただきたいと思います。

江田国務大臣 委員おっしゃるとおり、ハーグ条約というのは、国境を越えた子の移動の場合の監護、教育、養育をだれが行うかという、それも、国境を越えてそれほど日時がたたないうちの、まずもとへ戻して議論しなさいよ、そういう仕組みで、国際結婚ももちろん当然関係しますが、日本人同士の場合もあるし、あるいはアメリカ人同士が結婚していて、そのアメリカ人の一人が日本に子供を連れてくるという場合だって、それはあり得るものでございます。

 私は、これは総理大臣の、私の就任のときの具体的な指示の一つでもありますが、そこに書かれていることは加入の是非の検討ですから、まだ政府としても答えを出しているわけではありません。

 ただ、検討をするのは事実でございまして、法務省としても、この条約の重要性は十分に認識をして、現在、副大臣会議というのが関係の府省庁間で設置されておりまして、条約を所管する外務省が中心になって可能性が検討されていまして、いろいろ議論はありますが、法務省としては、主として、条約の内容を踏まえて、具体的な子の返還のための裁判手続というものを鋭意検討中というところです。

井戸委員 このハーグ条約、先ほども懸念があるということでお伝えをさせていただいたんですけれども、そもそも、一九八〇年の起草時に想定されていたこのハーグ条約での範囲というのは、例えば、国際結婚が破綻した場合に、母が監護権に基づいて自分が世話をしていた十六歳未満の子というのを、逆に、監護をしていなかった、世話をしていなかった父親が、監護権の裁判が有利になるということで自国だとか他国に連れ去ってしまう、こうしたケースを想定していたんですね。なので、そもそも育てていた親のもともと住んでいたところの土地に戻して監護権の裁判をしていく、こうしたことを想定して、子の最善の利益というものを守っていこうということで起草された条約でした。

 ところが、これが一九八三年から発効して運用を始めると、実は、その想定をしていたパターンじゃなくて、逆のパターンというのが多いということがわかりました。つまり、連れ去っていくのが、監護をしていなかった親ではなくて、監護をしている親であるということなんですね。例えば、二〇〇三年の調査、ちょっと古いんですけれども、連れ去りの親の七割というのは子を世話していた人である、主に母親だと思うんですけれども。

 こうした世話をしていた親が子供を連れて今まで生活していた国を離れるというのは、通常、それなりの理由がやはりあると思われています。相当部分にDVとか虐待の加害者からの逃走、命からがら逃げ出してくるというものがあるのではないかというふうに言われています。

 なぜならば、このハーグ条約というのは、中の部分に関しては、例えばDVだとか児童虐待だとか、そうしたことが一九八〇年代ではまだまだ認識がなかったので、条文の中に、例えばこれだったらば例外で、返さなくていいというような規定というのは、きっちりと書かれていないんですね。

 当然ですけれども、条約の中の十三条の一のbというので、返還が子に重大な危機をもたらす場合だとか、または十三条の二で、子が返還に異議を表明した場合、裁判所が考慮できる程度に成熟をしているという場合には返還義務を負わないという規定もありますけれども、実際には、非常に狭量に運用されていて、返還したら再び子が虐待されるという事実が証明をされたところでも、裁判所が裁量で返還することは可能になっているということになっています。また、この条約の解説書では、十三条などの例外事由の規定はできるだけ制限的に運用されることとされています。

 こうした懸念に対して、先ほど国内法の整備ということで、裁判のところに関して今進めているということがありましたけれども、その点については配慮をされながら検討を進めていらっしゃるのでしょうか。

江田国務大臣 この条約自体にいろいろな懸念が寄せられているということも聞いております。

 そこで、この条約に抵触しない国内法だとどういうことができるんだろうというのをいろいろと、これは外務省と協議をして、そして、外務省の方からも、こういうことですよという答えをいただいて、それを、子の返還を拒否することのできる事由というようなことで並べてみてというようなことで、今まだお示しできるようなところまでいっておりませんが、議論をしている最中でございます。

 ちなみに、国際結婚である場合もない場合もありますが、夫婦間が破綻をして、そして子が国境を移動するケースというのはこれからだんだんふえてくるんだろうと思うんですね。今、委員、DVとかいろいろな理由を挙げられましたが、破綻の理由もいろいろなものがあって、一緒になってみたけれどもやはり反りが合わないから、まあ、仲よく別れて後は一緒に子育てしようよというような、そういう離婚もこれからふえてくるんだろうと思うんですね。そういうときに、やはり国境を越えた子の移動についてのルールがないというわけにはいかない。今あるのはハーグ条約だけなので、これは、日本として、そのハーグ条約をどうするかというのはやはり真剣に検討しなきゃいけない。

 私はこんなことを聞いたことがあるんですが、ハーグ条約は一九八〇年ですか、スペインが加入したのが一九八二年と聞いたですか、そのときに、スペインは、入るに当たって、ハーグ条約の担当者といろいろな協議をして、スペインにいる子供の利益が図れるようにというのでさまざまなことをやった、こんなことも聞いていまして、私は、ハーグ条約というのがもう所与のものであって、こちらはそれをイエスと言うかノーと言うかだけでなくて、やはりいろいろな交渉もやってみなきゃいけないし、あるいはそういうルールがこれからなきゃいけないとするならば、やはり、入ってそのルールをよくしていくとか、いろいろな対応があるので、いずれにしても、今、我々、是非をめぐって真剣な議論をしていると思っております。

井戸委員 ありがとうございます。

 ハーグ条約については、例えば、子供について両方が合意をして、離婚前だけれども国境をまたいでそちらに行っていいですよといった場合には、このハーグ条約というのは別に適用されるわけではなくて、やはりすごくもめたケースがこのハーグ条約の適用になってくるということもあるので、そうすると、自然と、もめているケースというのは話し合いができなかったり、仲よく離婚後も一緒に子育てをしようというケースというのはこれには当たらないので、そういう意味では、やはり紛争の解決の一つの形ではありますけれども、しかしながら、それが私はすべてこれでうまくいくのかなというところに関しては疑問を持っています。

 私だけではなくて、日弁連さん、意見書を出しているんですけれども、例えば、このハーグ条約に関しては構造的な問題もあるんじゃないかということで、先般二月に出された意見書、多分届いていらっしゃると思うんですけれども、そちらの方でも、例えば、このハーグ条約の構造について、「同条約は、監護権を侵害する国境を越えた子の移動・留置を原則すべて不法として、子の常居所地国への迅速な返還を義務付ける構造となっており、その際連れ去り・留置に至った原因や、子の常居所地国への返還が監護親や子に及ぼす影響を原則として問題としないこととなっている。」ということなんですね。なので、どんな理由があったとしてそこのところを越えたとしても、そこではなくて、とにかく早く子供をもといた国に返せというような構造になっている、ここが非常にやはり構造的な問題であり、実際に、子の利益、そして子と一緒にいる監護親の利益に反することとなる場合も相当あるのではないかという点が指摘されている。そして、子の不法な連れ去りだとか留置に関しての範囲が相当に広いために、本来だったらば連れ去りの事案にならないとか留置の事案にならないものも入っているのではないかというような指摘もされています。

 なので、私は、この条約自体の構造、先ほどおっしゃったとおりに、やはりこの条約に関しては、抵触しない程度で国内法でつくっていかなければいけない。先般、予算委員会の分科会で小川副大臣にも御答弁をいただきましたけれども、そうなると、例えば国内法をつくるとしても、せいぜい手続にかかわる部分だけではないのか。実際には、例えば返還の要件だとか返還例外事由の設定というのは、なかなかここをつくっていくというのは難しいのではないかなというふうに思っておりますけれども、大臣はいかがお考えでしょうか。

江田国務大臣 これは日弁連の意見書でも、日本がハーグ条約を仮に締結するとするならば、その場合には、国内担保法において、児童虐待あるいはドメスティック・バイオレンスが認められる事案や、返還を命じた場合に子とともに常居所地国に帰った親が同国において刑事訴追を受けることとなるような事案等については、返還を命じない、あるいは執行しないことができるような法制度とすることが要請をされておりまして、そういう意見書は大事にしていきたいと思っております。

 日本法の今の検討の中では、単に手続を決めるというだけでなくて、やはりそうした、それはハーグ条約も国際条約、国際ルールですが、同時に子どもの権利条約ももちろんありますし、あるいは国連総会のチルドレンファーストの決議もありますし、そうした今の国際社会のルールを総合勘案しながら、日本としてはこういう場合に子を返還する、そうでない場合には返還しない、そういうことをしっかり考えていかなければならない。

 それと、あわせまして、外国にいる日本人がなかなか、外国にいる日本の外交使節から、困っているようなケースに援助を受けられないというような話も聞くので、そうすると、ハーグ条約というものがありますよと、全世界の日本の外交使節はそういうものをよく徹底させながら、邦人が困難なことにならないようにしなさいよといったこともできてくる。そんなところが今非常に欠けているというようなことも聞きますので、総合勘案していきたいと思っているところです。

井戸委員 このことに関しては、非常に情報不足というのもあると思うんですね。そしてまた、実態もよくわからないという中で、この条約の加入の可否ということを検討を進めていくということに対して、私も党の方では検討小委員会の方にも所属しているんですけれども、やはりその辺、圧倒的な情報不足なんかもあるなということを実感もいたしております。

 先ほど、私、これは国際結婚だけではなくて、日本人のカップルでも国境をまたげば対象になるということを指摘もしましたけれども、このハーグ条約に例えば加入するとすると、日本国内で混乱がちょっと起こるのではないかなと思うところが二点あるんですね。

 一つは、裁判管轄の件なんです。これは平成十五年に、民事的には、離婚と離婚時の子供の監護に関する裁判管轄というのは、もともとは、ハーグ条約と同じように、夫婦が暮らしていたところでやるということだったのが、逆に、それではなかなか大変だ、離婚したときには、離婚前もそうですけれども、住居を別居とかすることも多いので、夫婦どちらかのところで訴えられることに変わってきました。というのはもう当然御存じかと思うんですけれども、なぜならば、それというのは、やはり裁判中から実家などからの援助を受けられたりとか、離婚後に向けて、生活に根をおろしたところでやることがやはり裁判を円滑に進めていくためには必要なのではないか、このような観点があったと思います。

 また、もう一つ私が懸念するところに関しては、例えば、国内では、通常、今、日本の中では、別居するときにはお母さんが子供を連れて実家に帰る、これは別に犯罪ではないですけれども、もしハーグに加入をした途端に、国境をまたいで同じことをしても、それが犯罪行為になるのではないか、刑事的なことで犯罪となるかというところもあると思うんですね。こういったところに関して、国内の、私たち、子供たちを育てている親たちにとっては、とてもここで百八十度違うことが起こってしまうということに混乱も起こってくると思うんですけれども、そうした点については、大臣、どのようにお考えでしょうか。

江田国務大臣 管轄の点は、これは今まさに国内法をどういうふうに整備するかという中で検討しているところだと思います。なるべく使いやすいように管轄を決めていかなければいけないと思っております。それから、常居所地国に戻ったときに、国境を越えてまた戻った母親が誘拐罪などに問われて刑事訴追を受けるおそれというようなこともあります。それも勘案しながら立法をしていきたいと思っております。

 同時に、これはやはり、それぞれ世界はさまざまな法制度で、それぞれの法制度が、案外日本と同じような法制度だと思って行動される、そうすると思いがけないことになるというようなこともありますので、私は、これからやはりこれだけ日本も国際結婚、国際結婚がふえれば当然国際離婚もふえてくるわけで、そうしますとそうしたことも起こり得るのだから、ここはやはりよく話し合いで解決をしよう、法的に間違いのない解決をしようということになっていかなきゃいけないので、そのためにも、こうしたことが大いに国民的に議論されることが必要だと思っております。

井戸委員 関連で、きょうは外務省の方にもおいでをいただいているので、伺っていきたいと思います。

 今、大臣もおっしゃったとおりに、こうしたことは本当にインフォメーションもない中で、思わぬことで自分たちが国外に出たことで、当然ながら知っていて出る場合もあれば、知らないで国を出てしまって、それで指名手配として訴えられるなんということはよくあることにもなっています。

 今まで邦人保護の観点から、例えば外務省はこのハーグ案件についてどのように対処をしていくのか、そうしたことを伺いたいと思います。今までどのようなこと、こうしたこと、いろいろ相談なんかもあったと思うんですね。どのように対処なさってきたのか、伺ってもよろしいでしょうか。

川田政府参考人 お答えいたします。

 在外公館におきましては、在留邦人の方々からDV被害や児童虐待の相談を受けた場合には、滞在している国における保護体制、保護制度を説明しつつ、必要な場合には弁護士あるいはシェルター、保護施設の紹介を行うなど、滞在国の法制にのっとった支援を行っております。

 いずれにしましても、今後とも、各国のDVあるいは児童虐待に関する保護法制度を把握しながら、被害に関する相談を受けた場合には在外公館において的確、適切な支援を行っていきたい、そのように考えております。

井戸委員 私も、国境をまたいでハーグ加盟国から日本に子供さんたちを連れて帰ってこられた方々、当事者の方たちにもお話を聞きました。

 そして、きょうは、アメリカの場合ですけれども、アメリカ人でハーグの加盟国の違うところにいてアメリカに戻ってきた方々がどうして戻ってきたのか、そんな報告書も出ているんですけれども、こうした連れ去った親の方々というのは、別に国籍に関係なく、いろいろな意味で、現地でどのようにそうしたところ、例えばDVなんかで被害を受けたときに、どんな対処をしているのかということで話を聞きますと、例えば、そこの大使館なり領事館のところに行っても、なかなかそれは民事面だから、民事の話だから、私たちには何もできないんですと言われたというケースが非常に多いと思うんですけれども、今のお話だと、ちゃんと適切に、いろいろインフォメーションをしているということなんですけれども、実際にはなかなかそういうふうにはなっていない。

 そして、例えばDVの件でも、日本とまた裁判のやり方もいろいろ違うんですけれども、それを証明するのが非常に大変である。例えばDV被害を受けたといって、それを認定してもらおうと思うと、裁判費用が非常にかかる。相手方もそれに対して反証をやってくるので、そのお金がどんどんかかってしまって、子供をそれで自分のところの監護権をとろうとするのに一千万だとか一千五百万だとか、そういったものを払ってじゃないとできない。途中でそれはあきらめて、いたし方なくそれで戻ってくるというような例もあるようです。

 私は、アメリカが、逆に今度ハーグで帰ってきた自国民に対してどのようにやっているのかというのを見てみましたらば、大使館の方々が、逆に連れ去りを支援していくじゃないですけれども、飛行機の切符を持っていて、国外に出るのを援助しているようなことも中にはやっているような形もあるんです。

 それで、やはり生命の危機に関するところに関しては、邦人保護の観点として、外務省としてやらなければいけないということもあると思うんですけれども、この辺に関してはいかがでしょうか。

川田政府参考人 大使館としましては、邦人保護のために全力を、できる限りのことは行いますが、あくまでも現地の法制度にのっとって行われるということでやっております。

 切符という話でしたが、日本国としてのやれることにも限度がありまして、それはできる限りのことを、相談に乗って、現地の法制度にのっとって、弁護士の紹介とか、あるいはシェルター、保護施設の紹介ということで、引き続き行いたいと思っております。

井戸委員 これは、別に切符を用意しろとかと言っているわけではなくて、例えば、ハーグの条約というのは、実は、これを批准しろと言っているアメリカでも、そうやって、ルールの中にのっとっていたとしても、例外的にこうした支援を行っているという事実がやはりあるんですね。やはり何かしらそこのところでこの条約自体の中には埋めていかなければいけないところというのがあるのではないかなということを指摘はさせていただきたいと思っています。

 先ほど、大臣も国際ルールということをおっしゃったんですけれども、例えば、ハーグ条約というのは欧米中心であるので、特に日本人が国際結婚しているアジアの諸国だとか、あと、イスラム圏というのは、イスラム法によればもう既に離婚をしたら親権は夫と決まっているので、そこに争いの余地がないということで、ハーグ条約というのは絶対にこれは加盟ができないというか、そもそも前提が違うということで、例えばイスラム圏、トルコなんかは例外的に入っているらしいんですけれども、そうしたところに関しては加入というのも難しいということも聞いています。

 こうした、ハーグ以外の国で、同じようにやはり、これは国際的な子の連れ去りということでは条件は一緒だと思うので、こうしたハーグ加盟国以外との関係というのはこれからどのようにしていこうというふうにお考えでしょうか。外務省に伺います。

鶴岡政府参考人 御指摘のとおり、現時点におきましては我が国もハーグ条約に加盟をしておりませんので、今御指摘のような関係にある国々ということになりますと、日本から見ると、全世界の国々が現状においてはそういう関係にございます。

 これまでの、今領事局長から御説明いたしました、現地で問題提起があった場合の御協力、さらに、具体的に課題が提示された場合には、現地における裁判制度、その法手続にのっとった適切かつ円滑な解決が得られるよう努力をすることが基本でございますけれども、日本人の利益が害されるような場合には、外交保護権という我が国の主権にかかわる問題もございますので、当然のことながら、必要に応じて外交当局間の連絡をとり合ったり、適切な結果がとられるような形での政府の協力というものがなされることとなります。

 これまで承知している範囲で申し上げれば、具体的事例としてそのようなことがあったとは承知しておりません。

井戸委員 具体的にはなかったわけなんでしょうか。

鶴岡政府参考人 御承知かと思いますが、既に発表されたものでございまして、ハーグ条約の加盟検討の過程で、情報収集の一過程といたしましてアンケート調査を行いました。

 その際に、これは自由な形でとったものでございますので、強制的にアンケートはできませんから、もともとこういった案件について、そもそも具体的な情報を行政府として把握しておりませんので、こういう子供の連れ去りに関する御意見を募った中で、具体的な御自身の御経験についての御意見を承りましたところ、これまでの、子を連れ去った、自分が子を連れ去って戻ってきた件数が十八件、自分の子供が連れ去られた案件が十九件ということで、私どもの方にアンケートの結果が参っております。

 他方、この十九件の、御自身のお子さんが連れ去られた件について、当然現地での御協力は申し上げておりますが、それ以上に、二国間でこれを取り上げるというところまで至った件がこれまでにあったとは承知しておりません。

井戸委員 アンケート調査については、ネットを使ってですよね。それをインフォメーションして、そこのところに自分で、私はこのケースですと言われたことだけですよね、その件数というのは。先ほど十八件だとか十九件ですかとおっしゃったんですけれども、例えば、アメリカからでも、今、日本への連れ去り案件というのは二〇一一年の一月で百件あるんですね。イギリスからは三十八件だとか、結局、そうした数字を行政府として把握していないというのが私は一番大きな問題だと思うんですよ。

 先ほど、前半にも指摘をさせていただきましたけれども、この条約に入る入らないというところの検討のそもそものところのデータというのが非常に乏しくて、実際にそれが本当に子の利益にかなうのかと。例えば、この条約が制定されてから三十年たちますけれども、実際にその条約で返還された子供が、本当に子の利益にかなうことをしているのかというような結果になったのかどうか。スイスはこのハーグ条約の改正というものを二〇〇六年に言っているんですけれども、そうした後追いも含めてしっかりやるべきであるというような指摘もしているんですね。

 やはり私は、そういったことも含めて、我が国としても、しっかりとこうしたところを把握していないというのはやはり非常に大きな問題だと思うので、まずは実態把握を、ネットの調査じゃなくて、こうして諸外国から言われるケースもあれば、当事者の方たちが声を上げているケースもあるんですから、そうした一件一件をしっかりと丁寧に検証しながら把握をしていただきたいなというのを要望させていただきたいと思っています。

 大臣おっしゃるように、私は何らかのやはりこういった国際ルールは必要だと思っています。しかしながら、そのルールというのは、世界の各国がやはり納得がいくものになっていかなければいけない、そして、よりみんなが入りやすいものにしていかなければいけないと思っています。そして、何よりやはり自国の子供たちの利益を守ることですから、主権国家としてしっかりと慎重に検討をしていくべきだと思いますけれども、最後に大臣のお考えを聞きたいと思います。

江田国務大臣 こういうところで申し上げるほど確度の高いことではないかと思うんですが、先日、ある国の大使が来られてハーグ条約の話をしていまして、日本にその国からお母さんが子供を連れて帰ったと。しかし、それはだめだというので、そしていろいろ説得して、子供をその国にもう一度、お母さんと一緒に戻ったのかな。そこの国で裁判をしたら、これはやはり男の方にDVがあるというので、お母さんが監護権者だと認められて無事に帰ってきたというようなケースがあるというようなことを大使から聞きまして、ああ、そういうケースもあるんだと思いました。

 ですから、いろいろなケースがあって、中には我々にとってつらいというケースもある。しかし、子の福祉にとって、やはりこれは何かのルールで決めていかなきゃいけないということもあるんだと思うんです。イスラムの国のことも言われましたが、アジアの国々で入っていないところは確かに多いけれども、G8の中では入っていないのが日本とロシアだけですから。ですから、やはり、何かみんなが納得して、とりわけ子の福祉に一番資する、そういうルールをつくっていかなきゃならぬ。

 国際ルールというのは、だれかがつくって、日本はそこへ入るかどうかだけを決めるというんじゃなくて、日本も加わって国際ルールをよりいいものにしていこう、そういう積極性がこのところちょっと日本に欠けてきているような気がします。若者がどうも外国へ行きたがらないとか、そこをやはりちょっと変えていかないといけないと思っております。

 ぜひひとつ、そういう気持ちも持って、子の国境を越えた移動についてのいい国際ルールをつくろうではないですか。ぜひお願いいたします。

井戸委員 ありがとうございました。

奥田委員長 これにて本日の質疑は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時九分散会


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