衆議院

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第9号 平成25年4月19日(金曜日)

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平成二十五年四月十九日(金曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 石田 真敏君

   理事 江崎 鐵磨君 理事 奥野 信亮君

   理事 土屋 正忠君 理事 ふくだ峰之君

   理事 若宮 健嗣君 理事 田嶋  要君

   理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君

      安藤  裕君    池田 道孝君

      小田原 潔君    大岡 敏孝君

      大見  正君    門  博文君

      神山 佐市君    川田  隆君

      菅家 一郎君    黄川田仁志君

      小島 敏文君    古賀  篤君

      今野 智博君    末吉 光徳君

      鳩山 邦夫君    林田  彪君

      三ッ林裕巳君    盛山 正仁君

      郡  和子君    階   猛君

      辻元 清美君    今井 雅人君

      西根 由佳君    西村 眞悟君

      大口 善徳君    椎名  毅君

    …………………………………

   法務大臣政務官      盛山 正仁君

   参考人

   (中央大学大学院法務研究科教授)         高橋 宏志君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会副委員長)           長谷川京子君

   参考人

   (那須塩原市副市長)   渡辺 泰之君

   参考人

   (特定非営利活動法人全国女性シェルターネット理事)            大津 恵子君

   参考人

   (中央大学大学院法務研究科教授)         棚瀬 孝雄君

   法務委員会専門員     岡本  修君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十九日

 辞任         補欠選任

  門  博文君     大岡 敏孝君

  宮澤 博行君     川田  隆君

  枝野 幸男君     郡  和子君

同日

 辞任         補欠選任

  大岡 敏孝君     門  博文君

  川田  隆君     宮澤 博行君

  郡  和子君     枝野 幸男君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案(内閣提出第二九号)


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     ――――◇―――――

石田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、中央大学大学院法務研究科教授高橋宏志君、弁護士・日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会副委員長長谷川京子君、那須塩原市副市長渡辺泰之君、特定非営利活動法人全国女性シェルターネット理事大津恵子君及び中央大学大学院法務研究科教授棚瀬孝雄君、以上五名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございました。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、高橋参考人、長谷川参考人、渡辺参考人、大津参考人、棚瀬参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず高橋参考人にお願いいたします。

高橋参考人 御紹介いただきました中央大学の高橋宏志でございます。

 私は、今回のハーグ条約の実施に関する法律案の作成のために法務省の法制審議会に設置されましたハーグ条約部会の部会長として参加し、法律案要綱案の作成に携わりました。その立場から、今回は、子供の返還手続に関し、管轄の集中、返還拒否事由、子供の返還の強制執行のあり方の三点に絞り込みまして、法制審議会の部会での議論を御紹介しつつ、意見を申し述べます。

 まず、管轄の集中でございますが、どの家庭裁判所、東京、大阪、いろいろありますが、家庭裁判所が扱うものとするかという、その議論でございます。

 これに関しましては、一方では、相手方、普通の訴訟だと被告ということになりますが、相手方の出頭の便宜というものを考えなければいけません。

 しかし、他方では、このハーグ条約の国内実施法というのは日本において新たにつくられる制度でございますので、まだまだ未解決の点がございますので、専門的な知見の集積、蓄積、ノウハウの形成というものが必要になります。裁判官や弁護士の専門性の向上というものも必要になります。また、中央当局、外務省に置かれますが、その中央当局が諸外国といろいろやりとりをするわけですが、中央当局と裁判所とのいろいろな意味での連携という点もございます。こういうものが他方にございます。

 それで、そのバランスをどうとっていくかということを考えたわけでございますが、例えばドイツにおきましては、以前は六百以上の裁判所に管轄を認めておりましたけれども、いろいろと実施してみると不便が多いというので、二十二の裁判所に限定したということもございます。フランスもそうでございます。そういたしますと、日本でも、各都道府県にあります家庭裁判所全部というのは適当でないだろうということで、どこまで絞り込めるか、東京だけ、東京、大阪、あるいは八つの高裁所在地の家庭裁判所等々を検討いたしました。

 最終的には、これは見込みでございますが、いろいろなデータから考えますと、家庭裁判所の審判事件にまでなる事件は年間数十件であろうと予測することができます。そして、何よりも、制度発足当初、新しい制度ですからいろいろ考えなければいけないことが出てくるであろうということを考えますと、やはりできるだけ絞った方がいいということになりまして、最終的には、東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所の二つに絞り込みました。

 ちなみに、我が国のほかの制度で申しますと、私の専門としております民事訴訟法で申しますと、知的財産権に関する訴訟は、大阪地方裁判所と東京地方裁判所の二つに絞られております。あるいは、外国倒産処理手続の承認援助に関する事件につきましては、東京地方裁判所一つに絞られております。このように管轄を絞ることによって、むしろこの法律のきめ細かい適用を促進するという考え方で、このように原案、要綱案を作成したわけでございます。

 ちなみに、今まで、裁判所の体制と若干申しておりまして、裁判所のことを申し上げておりましたが、これは広い意味の裁判所でございまして、裁判官、家庭裁判所調査官、事務官のみならず、弁護士も含めて、弁護士の専門性の向上も含めて、司法インフラストラクチャーの向上ということを考えて二つに絞ったということでございます。

 二番目、返還拒否事由でございます。

 子供の返還を拒否することができる事由というのは、ハーグ条約の中に既に規定がございます。このハーグ条約を国内法としてどうつくっていくかというのが私どもの与えられた使命でございますので、条約に則した内容にする必要がまず大前提としてございます。しかしながら、この条約は、文言はかなり抽象的でございます。

 例えば、十三条第一項bには、「返還することによって子が心身に害悪を受け、又は他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険があること。」というふうに極めて抽象的でございまして、国内の裁判所が裁判する際の規範としては、日本法の体系から見ると、やや、あるいはかなりそぐわないものがございます。当事者から見ましても、このような抽象的文言では何を主張、立証すればいいのか目標が立てにくいということもございます。

 そこで、いろいろ検討したわけでございますが、他方で、国内におきましても、この条約の国内実施法がつくられますと、とにかく子供をもといた国に戻せ戻せ、そういうことになるのではないかという懸念の声が私どもにも寄せられました。

 例えば、配偶者から暴力を受けてやむなく子供を連れて帰国したような場合とか、子供を連れ帰った者がもとの国に戻ると逮捕されたり刑事訴追を受けたりしてしまうために子供とともに戻ることができない事情がある場合、こういう場合にも戻すのかというような懸念が示されたところであり、それを受けまして、平成二十三年五月に閣議了解が出されておりますが、その閣議了解におきましては、子供への暴力や配偶者間暴力、子供を連れ帰った者が常居所地国、もといた国ですが、もといた国で子供を監護できない事情等を盛り込むべきだ、そういうような閣議了解がされております。それを受けまして、私どもは、日本の法律にふさわしい条文を模索したわけでございます。

 テクニカルなことにちょっと入りますが、返還拒否事由、例えば配偶者間暴力があったときには返還拒否事由とすることができる、そういうずばり条文に書く案と、それははっきりするわけですが、硬直的になります。そしてまた、ハーグ条約の文言からは離れるわけであります。我々はハーグ条約の解釈の中だと思っておりますが、表面上は離れてしまうことになり、諸外国からの批判というのも予測されるところでございます。

 他方では、既にこれは二十年、三十年と諸外国で実施されておりますので、その裁判例の蓄積がございまして、それを見ますと、ほかの国の裁判所も、多くの場合、いろいろなファクターを取り上げて総合判断しているということがうかがわれます。

 そこで、我が国でも、我が国の法令としてはやや異例かもしれませんが、最近はこういう例が結構ありますのでそれほど異例でもないのですが、考慮要素、考慮するべきファクターを掲げる、そういう形で返還拒否事由をつくりました。これによって、国内でハーグ条約に入ることによって生ずる懸念というものに対しましてそれなりの配慮をしたつもりでございますし、他方では、条約の文言との整合性にも配慮したと考えておる次第でございます。

 三番目、子供の返還の強制執行のあり方でございます。

 再三申し上げておりますように、この法律は、子供にとって離婚した親のどちらのもとにいるのがよいのかという、私どもでいいますと、監護権のあり方、権利義務の関係そのものを決めるものではありません。違法に連れ去った以上、とりあえずもとの国に戻せ、こういう法律でございます。ある意味で、暫定的な保全処分の性質を持っているわけでございまして、日本の法令では例を見ない新たなものでございます。

 そこで、そのような新たな制度の強制執行というのはどうなるのかというのを理論的に詰める必要があります。他方では、子供、人間、人格を持った子供を動かすということでございますから、子供への配慮ということも重大な考慮要素ということになります。

 そこで、結論的に申しますと、最初に間接強制という方法をとることにいたしました。必ずこれを経なければいけない。間接強制と申しますのは、もとの国に戻せという裁判が確定するわけですが、そのもとの国に戻せという裁判の履行をしないと、一カ月当たり金幾ら支払えというふうに、お金を払えという形で、心理的に、サイコロジカルに履行を促す、そういう方法でございます。

 これは、ある意味では、執行債務者、多くの場合、連れ戻した親でございますが、その人の任意の履行に期待するという面がございまして、やわらかい制度ということになります。やわらかい制度ですから、子供への配慮という面ではすぐれているのでございますが、しかしながら、これはちょっと極論になりますが、金幾ら支払えということの強制で促すわけですので、お金のない人には影響がないと申しますか、免れることができる。

 また、ともかくもとの国に戻せという日本の裁判所の判断があったのに、それが今言いました間接強制だけでは弱いわけでございますから、それだけでは不十分だということで、そこでいろいろと検討いたしまして、現在の民事執行法の中にある代替執行というものを使うことにいたしました。

 これは、子供をもといた国に戻すというのは、連れ戻した親が戻してくれればもちろんそれが一番いいわけでございますが、ほかの人でもできることなのですね。例えば、もといた国にいるおじいさん、おばあさんが日本に来て連れ戻すということでも構わないわけであります。ほかの人が、執行債務者以外の人がやっても構わないという、それに対応する、強制執行としての代替執行、これを取り込むことにいたしました。

 しかし、通常の民事執行法によります代替執行だけでは不十分。と申しますのは、先ほど来申し上げておりますように、子供自体を動かすということでございますので、そこへの配慮ということに十分考慮いたしまして、子供を解放すると申しますか、連れ戻して、子供を囲っている人から子供を解放させる。この行為自体は、責任ある、公の立場にある執行官にさせるということにいたしましたし、また、執行官が何ができるかということについても細かい規定を置きました。つまり、子供自身に対しては威力、物理力ですね、を用いてはいけないとか等々の制限を課しております。

 そういう、間接強制をまず行って、それでだめなら代替執行という形で、強制執行の手段は整えました。

 しかしながら、私ども部会といたしましては、理論的に強制執行の方法を整備いたしましたけれども、この強制執行の方法が盛んに行われると申しますか、強制執行が多く行われるということは想定しておりません。強制執行はもちろん最後の手段でございまして、執行債務者、連れ戻した親が説得に応じて、いろいろな人の説得に応じて、任意に子供をもとの国に帰してくれる、これが一番いいことだ、しかし、それを担保するためには強制執行も制度としては用意しなければいけない、こういう頭でございます。

 以上、簡単でございますが、私の意見とさせていただきます。(拍手)

石田委員長 ありがとうございました。

 次に、長谷川参考人にお願いいたします。

長谷川参考人 私は、二〇一〇年に日弁連のハーグワーキンググループに参加して以来、条約を勉強し、さまざまな問題と懸念があることを知りました。法制審議会では、子の返還拒否事由を中心に、子の利益を守るための意見を申し述べました。今回の法案は、条約の懸念を最小化する努力の末まとめられたものと思いますが、なお幾つかの点を指摘させていただきます。

 第一に、条約の懸念と子の利益を守るための実践についてでございます。

 まず、日本も批准した子どもの権利条約は、その第三条で、子供にかかわる全ての措置をとるに当たり、子の最善の利益が最優先に考慮されるべきことを定めています。全ての子供は人権の主体であり、子の最善の利益は一人一人の子供に帰属するものです。したがって、何がその子の最善の利益になるかは、その子の置かれた状況により、その子の視点で検討されなければならず、その結論は当然さまざまに異なるはずです。

 他方、ハーグ条約は、子の監護紛争に関する国際的な司法管轄を子の常居所地国とするということを内容とする手続的な性質の条約です。

 同条約は、その管轄ルールを確保するために、一方の親の了解なく国境を越えた子の連れ出しを不法とし、子を原則迅速に常居所地国に返還することといたしました。

 さらに、締約国の多くは、子を国外に連れ去った親に対し、刑事罰を科したり、再入国、滞在資格を与えない、裁判で子供の監護権を剥奪するなど、厳しい制裁措置を制度化してきています。

 しかし、ここでの不法の定義は、親の視点に立った監護権侵害ということであって、子供中心の視点はありません。具体的なその子の利益は棚上げされたまま、子供は常居所地国に送り返されます。しかも、締約国がふえるにつれ、子供の原則迅速な返還が強調され、返還拒否事由を制限的に解釈、運用するべきだという意見が有力になってきました。

 このように、同条約は、具体的な子供の利益に分け入らないことで国際的な司法管轄を確保しましたが、それゆえに、その子の利益を害するリスクを構造的に内包しているわけです。

 この点、欧州人権裁判所は、二〇一〇年七月、スイスからイスラエルへの子の返還が確定した事件について、その子の返還を執行することは人権条約に違反するという判決をいたしました。

 そこでは、あらゆる条約は人権原則に適合しなければならず、ハーグ条約は子どもの権利条約に調和するように解釈しなければならないこと、子供の最善の利益は、その性質や重要性にもよるが、親のそれに優先すること、子が健全な環境のもとでその発達を保障されることは子の最善の利益の重要な柱であること、人権条約の見地からは、ハーグ条約が適用されるからといって、自動的、機械的に子の返還が命じられてはならず、子の最善の利益は事案に即して検討する必要があることなど、子供の人権を確保するための重要な考え方が示されています。

 返還ありきの運用に歯どめをかけ、まさにその子の利益を第一に考え、これに反する解釈、運用は許されないという方向での大きな修正が始まっているのかもしれません。

 また、連れ出した親が、常居所地国での逮捕、刑事訴追のおそれや入国、滞在の禁止など、厳しい制裁措置や不利益措置のために、返還される子に同行することができない事例が少なくありませんが、ハーグ条約は子を連れ出した親がその返還に同行できるかどうかは問いません。

 さらに、返還を拒否する子供の声は年齢と成熟度に応じて考慮することとされていますが、十歳に満たない子供の拒否はしばしば受け流されてしまいます。

 しかし、これらは子供にとってとても重大なことです。すなわち、子供は生まれたときから自分のニーズにきめ細かく反応してくれる特定の人と安定したきずなを結ぶことで生存し、情緒的、知的、社会的発達を遂げていきます。その特定の人は、子供がその人との間で自分のニードを満たし、心響かせた、そういう経験を積み重ねて選択した人であります。それを奪うことは、その子の生存と発達の基盤を奪うことになるからです。

 同条約が対象とする国境を越えた子の連れ去りの実態は必ずしも明らかではないのですが、条約事務局の調査によれば、連れ去り親の七割が母親、七割が子供の主たる監護者でした。これは、子を返還することが、その子にとって成長発達の基盤になっている主たる監護者とその子とを事実上も法律上も切り離してしまう可能性が相当多数あるということを警告する調査結果であります。

 この点、スイスは、国家間の裁判管轄のために親から切り離される子の重大な不利益を考慮して、二〇〇七年に国内法で条約返還例外規定のみなし規定というものを置きました。日本の国内法二十八条二項もこれを参照されたものと理解しています。

 私は、子連れ帰国事案で人身保護請求事件を受任し、五歳の子供の心情を専門家に聴取してもらったことがあります。その子は、生来、日本人親から主たる監護を受け、他方親の無責任な言動に傷つけられていました。専門家が外国人親について怖いと尋ねるとうなずき、優しいと聞くと首を振り、好きと聞かれるとこわばった表情で答えず沈黙し、では日本人親について好きと聞かれると顔がぱっと輝き、すかさず大好きと言い、日本にいたいと答えました。五歳の子供です。

 幼少の子供ほど監護者とのきずなが重要であることを考えれば、その子の意思を丁寧に聞き取り、尊重する責任は実に重いと言うべきです。

 条約事務局による調査結果はまた別の懸念も示唆します。DVや子供虐待からの逃走という事案が相当数含まれているのではないかということです。

 DVと虐待は世界じゅうあらゆるところで発生しています。日本の実情や米国に住む日系女性の被害率などは、資料三、DVファクトをごらんください。

 子供への虐待も同じです。特にDVと虐待は同時に発生します。暴力が支配する家庭の中で、子供は生まれたときから暴力に巻き込まれ、頼りとする母への暴力にさらされて、安全と安心を奪われ、必要なケアを受けることができず、耐えがたい状況に置かれます。これらの経験はいずれも子の生存と発達を幾重にも脅かし、傷つけ、その子の生涯を苦しいものにします。

 私は、十数年前の依頼者が連れていた、かつての子供の言葉を思い出します。すさまじいDVから母と十二歳で逃げた子供が驚異的な努力で進学、就職して、世間的には成功しながら、自殺企図と拒食症にずっと苦しんできました。そのために仕事をたびたび失い、崩れそうになる気持ちをこういうふうに語ってくれました。十二年前に家を出て、同じだけの時間、精いっぱい生きてきたのに、まだ終わらない。

 暴力にさらされる親子への理解は始まったばかりです。でも、二〇一二年、イギリスの最高裁判所は、常居所地でDV被害を受けた母が子供の返還に同行すれば再度状態が悪化し、子供のケアが悪化すると見込まれる場合に、子が耐えがたい状況に置かれるとして、返還を拒否する判断を示しました。

 国際司法管轄という手続ルールのために子供を自動的、機械的に返還するという条約のアプローチは、その子を見詰めて案じる大人たちによって見直され始めているのだと思います。

 第二に、以上の実情を踏まえて、今回、本条約を締結する日本としては、適用を受ける一人一人の子供の利益の確保に力を注いでいく責任があると思います。

 そこで、東京家裁と大阪家裁の担当裁判官には、国内法二十八条に列挙する事項を子供の視点で理解できるために、DV、虐待の実態を含め、子供や被害者に対する専門的支援の経験者の協力を得るなどして、十分な研修を実施してください。

 返還による子供のリスクを判断するには、子供の情緒的心理的発達を含む専門家の意見を真摯に評価して、活用していただきたい。

 特に、子供は返還手続の最も重要な利害関係者です。年齢にかかわらず、その子の意思や心情を丁寧に聴取して、尊重していただきたい。子供が心を開いて内面を打ち明けるには、十分に訓練された聴取の力量が必要であるということを踏まえて、人材育成や訓練プログラムの開発に世界の研究成果を取り入れていただきたいというふうに思います。

 第三に、中央当局、在外公館の役割についてです。

 子供の返還拒否事由は、連れ出し親の側に証明責任が課され、真偽不明の場合、子供は送り返されます。しかし、DVや虐待の事案では、被害者や子供は目の前の危険に対処して、そこから逃げるのに精いっぱいで、証拠収集などに至らないケースが大半です。そのため、DVや虐待が実際に存在したにもかかわらず、証拠が収集できず、被害事実が認定できず、子供への重大な危険を見逃してしまうおそれがあります。

 こういうことは国内のDV、虐待事案でも起こることですが、ハーグ事案においては、日本に戻った後、被害を受けた外国からその証拠を収集しなければいけないのですから、一層困難であることは明らかです。

 例えば、病院の診断書、各支援機関や警察への相談記録、通っていた学校や保育所での子供の生活記録などは、法二十八条一項四号の有無を判断するために不可欠な証拠資料です。

 この点、当委員会における外務省答弁は、裁判所の嘱託があれば当該国の中央当局に要請するという内容に終始しています。しかし、当該国の中央当局がその協力をしなければ、それでおしまいです。そうではなくて、中央当局、つまり外務省は、在外公館を通じて、みずから当該子供及び連れ出し親に係るDVや虐待の実態を調査し、証拠を収集するべきです。

 こういう活動は、どちらかの親を支援することではありません。本条約の趣旨である子供の利益を守るために、事実を明らかにし、子供を害さない司法判断がなされるための活動です。ぜひ実施していただきたいと思います。

 次に、在外公館は、邦人からのDV、虐待等の相談を記録し、これを公証する役割を果たしていただきたい。

 国内では、DV防止法の保護命令の申し立てに当たり、警察、配暴センターの相談記録を証拠資料の一つとして、家庭内で起こり、客観的証拠が残りにくいDVについて、その認定に役立てています。同様の公証支援を海外にいる日本人のために在外公館に担っていただきたいのです。

 具体的な方法については、レジュメの二ページに手順を記載しておりますので、ごらんください。

 第四に、執行です。

 代替執行に当たっては、法百四十条五項に言う子供の心身に有害な影響を与えないことを必要最小限の戒めとして、子供の心を守ることに配慮していただきたいと思います。

 すなわち、子供が拒否していたり、同居家族らが抵抗する事案において、子を親等から無理やり引き離すとしたら、子に非常に大きな恐怖と絶望感を与えるリスクがあります。引き離しの状況が子に与える心理的影響を見定めるため、執行の現場には、DV、虐待の専門的経験のある精神科医を同行させて意見を求め、執行不能の判断をするなど、慎重な対応をしていただきたいと思います。くれぐれもこの点は配慮をしてください。

 最後に、いわゆるハーグ事案の調査の体制を整えていただきたいと思います。

 ハーグ条約は、子を返還するものの、その事案の実態や返還による子供の福祉に関する実情が不明です。これらは、条約に基づく子供の返還の当否や返還手続のあり方を評価する上で前提となる重要な事実でありますが、これまで日本においても条約事務局においても十分な調査が行われていません。しかし、締結後は、日本にかかわるハーグ事案については一元的に中央当局に集約されるのですから、国として子の福祉にかなう条約実施を推進していくために、その実態を解明する調査が行われるべきです。

 すなわち、子供の連れ出しの原因、子供の双方の親との関係、子供の双方の国との関係、返還後の子供の監護の状況、監護裁判の結果などなど、そういったことについて信頼性のある調査を行うなどの体制を整えていただきたいのです。

 これにより制度を評価して、必要であれば見直しを行うということも検討していただきたいと思います。

 以上が私の意見です。御清聴ありがとうございました。(拍手)

石田委員長 ありがとうございました。

 次に、渡辺参考人にお願いいたします。

渡辺参考人 ただいま御紹介いただきました渡辺でございます。現在、栃木県の那須塩原市の副市長をしております。

 九八年、総務庁、現在の総務省に入りまして、内閣官房で行政改革、公務員制度改革などに取り組んできたという経緯があります。ここにいらっしゃる先生にも、そのときには何人か大変お世話になった方もいらっしゃいます。

 しかし、今回、ここに参考人として来ているのは、仕事とは一切関係ない、五歳の娘を持つ父親として出席しております。したがいまして、発言は一個人のものとして考えていただきたいと思います。

 まず、私の件につきまして簡単にお話をしたいと思います。

 私の件につきましては、主として国内の話ではございますが、二点でハーグ条約に関係しております。一点目は、私の娘が国外に連れ去られるおそれがあるという点です。それから二点目は、国際的な子の連れ去り、親子の引き離しと、国内の子供の連れ去り、引き離しというのは構造が全く一緒でありまして、密接に関連しているということから、国内の話を抜きにして実はこのハーグ条約の話というのは進められないというふうに考えているからです。

 まず、私の件を述べますと、二〇一〇年五月に、当時二歳の娘を妻に連れ去られました。妻は元国連職員で、アメリカ国籍も有しております。妻は娘を連れて国外の職場に復帰しようとしていたのに対しまして、娘の養育環境として、国外で、しかも妻一人で娘を養育することに関して私が強く反対いたしました。結局、私は仕事をしながら娘の主たる監護者として娘を養育することになって、数カ月生活をしていました。

 そのような状況の中におきまして、一緒に暮らしていくことは難しいということで、面会交流、養育費等につきまして定めた離婚協議書を妻の方に私から提示したところ、妻から二週間待ってほしいと言われて、その回答を待っていたところ、一週間後に、保育園に私が娘を迎えに行ったら娘がいなくなっていたという状況です。

 そして、その数週間後には、警察署で警察に見張られての面会交流なるものを強要され、さらに数カ月後には、突然、裁判所から、妻からの申し立てということでDVの出頭命令が来ました。結局、それは事実無根であるということで妻側が取り下げざるを得ませんでしたが、その直後に、妻から監護者指定の審判の申し立てがなされ、その担当が、参考の記事にも入れていますが、多くのメディアで現在取り上げられている若林辰繁という裁判官です。

 その審判が行われている中、民法七百六十六条が改正されまして、妻らが行ったような子供の連れ去り、引き離し行為というのは、裁判所の親権者、監護権者指定において不利な推定が働く、そういった立法趣旨も国会で当時の法務大臣より明確に答弁されました。

 若林裁判官には、その議事録等を見せまして、法に従った運用をしていただきたいと私が要請したところ、その裁判官は、法務大臣が何を言おうが関係ない、国会の議事録など参考にしたことはないとおっしゃられ、あなたと法律の議論をするつもりはないと言って、その場で法廷を退出してしまいました。

 その後、この発言が不適切であるとメディアで報道されたことに反発しまして、この若林氏は、公文書である審判書において、私が妻に対しはさみを突きつけたなど、何ら根拠なくDVを事実認定。一方で、私が提出した、妻に年百日近くの面会交流を認めるという共同養育計画などにつきましては、私の主張は一言も記載がありませんでした。

 さらに、民法七百六十六条の規定は、従前から認められていた裁判所の運用に明文が一部追いついただけ、今回の法改正を取り上げて、これまでと違うと強調することは相当ではないなどと、立法趣旨と全く異なることを書いた上で、娘の連れ去りや引き離しについては何ら問題ないと、妻を監護者としました。

 裁判官は、言うまでもなく、法と事実に基づき判断することが仕事であるはずです。その二つとも堂々と無視したこの文書は、公文書に値するものでないことは明らかです。高裁、最高裁は、当然、この事実認定や法解釈を含め、覆すと思っておりましたが、その期待は裏切られ、監護者を妻とする決定が昨年の十月になされました。

 娘は二〇一〇年の九月に私に会ったきり、全く会えておりません。会いに行けば、妻や妻の母親が警察を呼びます。私は警察官六人に囲まれ、娘の顔すら見ることができませんでした。電話をすれば着信拒否、娘の誕生日にプレゼントを贈れば受け取り拒否でそのまま返ってきます。裁判所にはこのような事実を伝えていますが、一切事実として認定することは行いません。

 このままいって妻が親権者となることが確定すれば、妻が外国に娘を連れ去ることになっても、私は何らとめることができないということになります。ハーグ条約に入ろうと、このように、まずは国内で子供を連れ去り、引き離した上で、親権を一方の親から奪いさえすれば、ハーグ条約加盟国への国外への連れ去りも堂々と合法的にできます。民法七百六十六条を無視した現行の裁判所の運用を放置したままでは、このハーグ条約実施法は完全なざる法になります。

 私のケースは、妻が国外に娘を連れ去ろうとしている点では特殊です。しかし、娘を連れ去られた後は、子供を連れ去られた親が経験することとほぼ一緒です。子供を連れ去られた瞬間に、数年後には、子供の親権、監護権を連れ去った親に裁判所が付与するということは確定しているのです。

 裁判官が下すその結論に向けて、全てが自動的、一方的に進行していきます。その進行をマニュアルに従い進めていくのが弁護士です。妻や妻の母親からは、娘を連れ去った後、これまで一度も口にしたことのないような、DV、内閣府男女共同参画局、面会交流、FPICなる言葉が出てきました。まるで何かに憑依されたかのようです。

 そして、その弁護士らにより作成されたシナリオどおりに物事を進めていくと、そのシナリオがそのまま裁判所の審判書になるようになっています。裁判官にとっては、決められたフォーマットに主語を入れ込めばよいだけです。一度子供を奪われれば、その後、どのようなことをしようが、ベルトコンベヤーに乗せられたように、全ては自動的、一方的に進み、親子関係は機械的に解体されます。

 ぜひ、私の話を聞いている方には、私に同情しないでいただきたいと思います。恐怖を感じていただきたいと思います。

 結婚し、子供ができた瞬間から、潜在的に、子供を奪うか奪われるかという状況に置かれているのが、この国の裁判官らによってつくり出された仕組みです。きょう、国会を終えて皆さんが家に帰ったときに、配偶者と子供がいなくなっていれば、三年後に、この場にあなた方が立っているということです。

 なお、多くの者が誤解していますが、子供の連れ去り、引き離しに遭うのは父親だけではありません。多くの母親が子供を奪われ、苦しんでいます。資料につけたように、子供を取り戻そうとして逮捕される母親も少なくありません。きょうも、子供に会えない母親の方がたくさん傍聴に来ていただいております。先に連れ去られれば、男、女に関係なく、監護権、親権を裁判所に奪われるんです。

 国会において最高裁の家庭局長らは、裁判官らがさまざまな要素を考慮し、総合的に判断しているなどと答弁していますが、それは事実と全く異なります。子供を連れ去られた親から監護権、親権を奪うという以外の判断はしていません。裁判官らはさまざまな言いわけをしますが、事実は一つです。私の言葉がうそだと思うのであれば、審判、裁判の結果について国会で徹底的に調査していただければ、すぐわかるはずです。

 このような裁判官のやり方につけ込んでいるのが、離婚弁護士と言われる人たちです。彼らは一様にハーグ条約に反対しております。それはなぜでしょうか。それは、国内の連れ去り問題に影響するからだと吉田容子弁護士がおっしゃっています。まさにそのとおりです。

 国際的に連れ去りを禁止、引き離しを禁止、国内はそのまま、そんなことは一般的な感覚からして不自然なことであり、放置しておくことはできません。

 では、なぜ国内に影響すると困るのか。それは、子供の連れ去り、引き離しビジネスができなくなるからです。

 私も現在、月に十四万円、給与から強制徴収としてお金を取られています。娘が、ほぼ三年間、どのような生活をしているのかも全くわからないまま、金だけは裁判所から毎月強制徴収されます。私が親権を奪われれば、養育費との名目で、娘が大学卒業するまでの間、月に何万円もの金を給与から強制徴収されます。トータルで数千万円は下りません。その最低でも一割を弁護士は報酬としてピンはねできます。こんな楽にもうけられるビジネスはありません。妻の父親は私に対して、あなたは公務員だから取りっぱぐれがないと弁護士から言われたと笑いながら言っていましたが、まさにそのとおりです。

 ハーグ条約に反対する弁護士らがいたら、ぜひ聞いていただきたいのは、あなたは幾つの家庭を壊しましたか、それで一体幾らもうけたのですかということです。

 このように、弁護士らが子供の連れ去り、引き離し、そして虚偽のDVを教唆しています。子の利益など全く考慮していないことは明らかです。それにより、多くの罪なき親子が引き裂かれております。一番の被害者は子供です。これは、ハーグ条約で問題となっている国際間だけの問題ではありません。

 しかし、弁護士らにこのような連れ去りビジネスをやめるように指導したところで意味がありません。弁護士の仕事は裁判に勝つことです。勝てなければ報酬も得られません。結局、子供や子供を思う親を利用して荒稼ぎする弁護士をつくり出しているのは裁判官です。

 拉致司法と呼ばれるような国内の子供の連れ去り、引き離し問題を解決するため、一昨年、民法七百六十六条が改正され、離婚時に、子の利益を最優先に考慮し、面会交流その他について夫婦で協議するように規定されました。

 その国会審議の中で、法務大臣が、裁判官に親権者、監護権者を決定する際の判断基準として、継続性の原則を使うべきではないこと、そして寛容性の原則を基準の一つとして採用すべきことに言及しました。

 この立法趣旨を踏まえ、裁判官が従来の親権、監護権決定の判断基準を改めれば、私は娘と二年前にともに生活できるようになっていたはずです。しかし、裁判官らはこのような基準を徹底的に無視しています。

 前述の若林裁判官が公文書に記載した文言は、まさに今の裁判官の意識をそのまま文字にしたにすぎません。国会で法務大臣が何を言おうが、法改正しようが、そんなことは関係ないということです。最高裁は、若林裁判官がこれだけメディアで非難されていても、懲戒処分一つしません。彼が誤ったことなどを言っているとは全く思っていないということです。

 民法七百六十六条が改正された一昨年前から、民法七百六十六条の改正について、最高裁家庭局の裁判官や法務省民事局に出向している裁判官らは、国会で聞かれれば、民法七百六十六条の立法趣旨を周知徹底しますと答弁してきております。しかし、子供を連れ去った親、引き離しをしている親を監護権者、親権者として不適格としている判決が出されたとの話は一切聞きません。彼らは、一体何年たてば周知し終わるのでしょうか。

 裁判官らが態度を一切改めることがない中で、多くの親が子供を連れ去られ、会えないことを苦に自殺しています。裁判所の判決直後、妻の実家の庭で首をつった父親もいます。彼らは裁判官らにより殺されたと言っても過言ではありません。

 裁判官らを含め、裁判所にいる公務員がどのような者かを象徴する資料があります。裁判所職員が書いたブログで、お手元に入れてあります。

 そこに書いてあることを読み上げますと、自分の要望が通らないからといって自殺を図ろうとする当事者、自分の要望が通らないイコール裁判所が相手の味方をしていると完全に妄想中、もうだめだと窓から飛びおりようとしたりして本当に迷惑だ、裁判所でやられると後始末が大変だからやめてくれ、ああ、敷地の外ならいつでもどうぞ。

 私は、このブログを見て、全く驚きませんでした。私なり多くの子供を連れ去られた親たちが裁判所で出会う職員は、裁判官を初め、皆このようなものです。多くのこのような意識が司法全体に蔓延しているのだと考えれば、なぜ、民法七百六十六条を改正しようが裁判官らが先例を変更しないかわかるはずです。ハーグ条約に批准しても、裁判官らは全く行動を改めることはないでしょう。

 国会議員の方には、ぜひ、民法改正のときと同じ轍を踏まないでほしいと思います。裁判官ら、それから裁判所から出向している法務省民事局の公務員、彼らに絶対にだまされないでほしいと思います。

 具体的には、ハーグ条約批准を機に、面会交流などについて裁判官らの裁量の余地が残されている部分については、極力裁判官の裁量を許さないよう、法解釈を確定させてほしい。それから、ぜひ、国内の裁判所の運用を国際的なルールと整合性をとるよう、条文の修正をしていただきたいと思います。附則でも構いません。そうしなければ、裁判官らによって殺された親や、親を殺された子供たちが救われません。

 最後に、私の話に戻りますが、私の中の娘の記憶は二歳でとまったままです。娘は、父親がどこにいるかもわからないまま三年近く過ごしています。誕生日、クリスマス、夏休み、それからこれから来るゴールデンウイーク、普通の親子が一緒に体験できるはずのことが全くできていません。娘は、今は父親に捨てられたと思っているでしょう。

 私は妻を非難するつもりはありません。弁護士に、親権をとりたければ夫をだまして娘を実家に連れ去らなければだめだ、夫に先に奪われたら決して裁判に勝てない、二度と子供に会えないと言われて、それにあらがえる者が世の中にどれだけいるでしょうか。そして、一度子供を連れ去ってしまえば、もう後には戻れません。親権を奪うためには、弁護士に言われるがまま、あらゆる手段を使うことになります。虚偽のDVの主張などもやらざるを得ません。

 私の家庭は、どこにでもある普通の家庭であり、妻も私も娘に愛情を持って接していました。単に、妻と私とが、ともに仕事を続けたいと考えていただけの家庭です。

 しかし、この日本の司法のせいで、娘は私と三年近く会うことができない状態となり、私は裁判官にDV男と認定されました。不毛な裁判を二年近く続け、私と妻、そして娘の人生はめちゃめちゃにされました。もうこの失われた三年間は戻ってきません。

 繰り返しになりますが、私のケースは決して特殊ではありません。誰でも、弁護士に狙われたが最後、ある日突然、子供を奪われ、私と同様の状況となります。一度は一生をともにすると誓った者と徹底的に闘わされます。

 裁判官も弁護士も、徹底的に夫婦で争ってもらわなければ仕事になりません。金になりません。子供を誘拐された上に虚偽のDVで訴えられて、冷静でいられる者など誰もいません。そこまでやられれば、夫婦で協議することなど決してできなくなります。それこそが弁護士や裁判官が望む状況です。

 数年にわたり、裁判官と弁護士らにより家庭を徹底的に破壊された後に残るのは、一人で家事、育児、仕事をこなさなければならない親、それから子供に会えない親、それから親に会えない子供です。裁判官と弁護士以外、誰も得をしない仕組みです。

 最後に訴えたいのは、このような悲惨な境遇に置かれる親子というのは私たちで最後にしていただきたいということです。法律、国会を完全に無視して好き勝手にしている裁判官らを放置しないでほしいと思います。私もそうですが、彼らは単にテストが得意なだけです。国民から、この国、社会を任されているわけではありません。

 ぜひ、国民の代表である国会議員の方々が責任を持って、この国にいる子供たち、そして日本人を親に持つ子供たちが、両方の親からきちんと愛情を感じて育つことができる仕組み、皆が笑って暮らせる仕組みに改めていただきたいと思います。よろしくお願いします。(拍手)

石田委員長 ありがとうございました。

 次に、大津参考人にお願いいたします。

大津参考人 私は、日本国内で女性と子供のための緊急シェルターに長年かかわってきました大津恵子といいます。

 二〇〇一年に制定されましたDV防止法の策定や改正に、被害当事者とともに力を注ぎました。

 シェルターの利用者の八〇%近くがDVの被害者です。多くの日本人及び外国籍の女性と子供が避難してまいります。

 子供たちは、直接親からの虐待を受けなくても、そのような場面を見たり、夫婦の緊張感や夫婦の問題の影響を受けていて、望ましい環境に恵まれているとは言えません。特に、自分の目の前で母親が父親に殴られる、父親の暴力が自分に向かってくる、いつ爆発するかわからない父親の暴力におびえながら暮らすというような体験は、幼い子供にはかり知れないほどの傷を残します。

 多くの専門家の指摘にあるように、子供にとってトラウマからの回復の最低条件は、安全な場の確保です。

 子供たちは、シェルターに来ますと、まず不安で母親から離れられない、分離不安が強くなることが多いです。シェルターで思いどおりにいかないことが起こると、父親と同じような暴言、ばかやろう、死ね、殺すぞなどと吐き、また、母親やシェルターにいるほかの子供たちに暴力を振るうことがあります。例えば、叱られたり注意されたりしますと、お母さんをおどすこともあります。

 入所期には、不眠、お漏らししていた子供が、スタッフに褒められたり、だっこしてもらったり、感情を受けとめてもらったりすることにより、次第に落ちついてきます。母親が安全な場所と感じることによって、子供たちも落ちついてきます。

 私がハーグ条約のことを聞きましたのは二年前です。アメリカから子供を連れて逃げ帰った女性と子供に会いました。女性は、DVの被害者であるにもかかわらず、アメリカでは子供を連れ去った者として犯罪者扱いでした。アメリカは、DVの対策については日本より十年以上も進んでいる国です。その国で、被害者であるにもかかわらず、ウオンテッドと賞金つきの指名手配を受けることに、大変な衝撃を受けました。また、そのことを信じられませんでした。

 在米日本人女性へのDVの現実に光を当てたのは、ミシガン大学社会福祉大学院准教授の吉浜美恵子さんによる、ニューヨーク市保健衛生局、二〇〇四年の調査でした。

 この調査によると、親密なパートナーに殺された人の五一%は移民であったといいます。日本でもDV被害者が多発しており、内閣府の調査でも、女性が四人に一人、身体的暴力を受けており、三日に一人、配偶者によって殺されています。しかし、在米日系女性のDV被害率はもっと高く、およそ半分の女性が身体的暴力を受けているとの調査もあります。

 二〇〇四年の吉浜さんによる調査は、在米日本人女性によるDV通報率の低さを指摘し、在米アジア人DV被害者を支援する資源が非常に不足していることを指摘しています。調査当時、在米アジア人の総人口に対してシェルターは四カ所しかない、これらの機関はアジア人が集中する地域にあり、地方に住む被害者は保護を求めるのに遠くまで行かなければならなかったと書かれてあります。

 その後、在米のアジア人の人口も飛躍的に増加していますので、アジア系住民への支援も少しずつふえているようですが、それでも、移民女性や子供への支援が圧倒的に不足している現実は、十年前とはそれほど変化していないと推測できます。

 私は、日本にいる外国籍女性と子供を支援する者として、外国に生活する日本人女性や子供が、移民であることによって暴力の被害を受けやすいこと、被害からの救済にたどり着くことが困難なことは十分理解できます。そのために、やむを得ず子供を連れて一時的に自国に避難することが起こるのです。

 日本にいる外国籍女性も同じ状況です。言葉や文化の背景による習慣の違い、家族がそばにいないなど、女性たちは孤立しています。シェルターで保護した外国籍女性の話を聞いていると、シェルターにたどり着いた女性と子供は氷山の一角であることがよくわかります。その背後に、シェルターにたどり着かない、支援が届かない外国籍被害女性と子供たちが実にたくさんいるのです。

 緊急にシェルターに入ってきたある外国籍母子は、長く夫の暴力に耐えてきましたが、たまたま外国籍支援の団体の助けがあり、逃げて、民間シェルターにたどり着きました。女性は、心身ともに衰弱していたために、しばらく国に帰って母親や兄弟に会いたいと言いました。私は、それがいいと思って同意し、母子は国に帰りました。ところが、その後、女性が帰国していることを突きとめた夫は、国まで後を追い、母子は夫の手により再び日本に連れ戻されてしまいました。帰国後も夫の暴力は続き、母子は再びシェルターに保護を求めて避難してきました。

 このように、父親の暴力によって何度も生きる環境を変えなければならない子供たちは、想像ができないくらい心が傷つき、大人を信用できずにいます。子供のケアスタッフは忍耐強く子供と向き合い、時間がたつと、子供たちは心を開いていきます。ただ、性的虐待や身体的虐待のひどい子供には、子供専門のカウンセラーが必要です。

 日本がハーグ条約に加盟した場合、このようにやむを得ない事情を抱えて避難している母子であっても、子の返還の申し立てがなされれば、ハーグ条約の原則にのっとって常居住国に子供を返還されてしまうのではないかとの大きな懸念があります。

 ハーグ条約の国内実施法の運用に当たって、次のことを要望いたします。

 避難してきた母子の所在調査について、特にDVや子供の虐待など、やむを得ない事情を抱えて避難してきた母子の場合には、被害者保護や子供の教育や医療の権利の観点から、民間シェルターや学校、医療機関などに情報提供を求めないこと。過去にDVや子供の虐待の実態があった場合には、返還されればその被害が再発する危険は極めて大きいので、そのような場合は子供の返還拒否を保障すること。海外において、日本人女性や子供がDV被害や虐待から保護され、裁判を受ける権利を保障されるよう、在外公館が必要な支援と保護の体制を整備すること。

 DVや虐待に苦しむ日本人女性や子供への支援強化について申し上げます。

 外務省も邦人保護を強化すると言っています。しかし、在外公館はもともとDVや児童虐待の専門機関ではなく、相談や支援に習熟、精通した職員の配置もなく、一時保護や生活費援助など具体的に利用ができる制度はありません。研修実施に加え、現地関係団体と連携して、以下の具体的対応を実施していただきたい。

 まず、現地の支援機関に業務委託を行うこと。外務省はニューヨークの総領事の例を挙げていますが、相談業務は、専門的知見と経験、他機関とのネットワークなどが必要で、これがなく、ただ話を聞くだけでは役に立ちませんので、これは大変歓迎すべきことだと思います。さらに、一時保護や同行支援についても、現地支援機関へ財政支援つきの業務委託を実施していただきたい。そして、随時、そのような支援拠点を各地に広げていただきたいと思います。

 次に、法律相談や法的支援についても、現地の家族法専門弁護士を紹介するだけではなく、DV問題に詳しい弁護士などと領事館が顧問契約を交わし、その弁護士が法律相談や必要な法的支援を行うという体制を講じていただきたい。弁護士紹介だけでは、その費用が支弁できず、相談も支援も受けられない場合が十分に懸念されるからです。

 ハーグ審理の結果、返還された子供や母親は、返還後、非常な困難に直面し、ほぼ半数が夫からの暴力や脅威の被害を再びこうむっているという報告があります。子が返還された場合、在外公館の役割として、子供が安全で安定した生活を送れるよう、少なくとも三年以上にわたる支援を行うこと。また、返還された子供についての事後調査をきちんと実施し、実態を把握した上で、生じる問題について、子の最善の利益の観点から対策を講じること。

 以上のほか、有効、適切な在外邦人への支援について具体的な施策を検討するため、民間支援機関を含むDVや虐待の専門家によるワーキングチームを設置していただきたいと思います。

 日本における国際結婚をした女性と子供について、DV被害や児童虐待防止と被害者保護の観点からの支援強化をしていただきたいと思います。

 以上、御清聴ありがとうございました。(拍手)

石田委員長 ありがとうございました。

 次に、棚瀬参考人にお願いいたします。

棚瀬参考人 私は、研究者として、長く、比較法的視点から、司法制度の比較、あるいは家族法、契約法の比較をしてきました。また、この五年間ほど、国際離婚あるいは国内の面会交流事件等も扱ってきました。

 きょうは、その観点から、この問題について少し専門的な意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず、ハーグ条約が批准されることは大変好ましいことだというふうに思っています。しかし、批准するということは、その条約の精神に沿って忠実にその実現を図ることであります。そうでないと、批准したことにはならないばかりか、国際的な信用をかえって失墜することにもなりかねません。私は、そうした懸念があるというふうに今回の批准法を見て思いました。

 まず、ハーグ条約の精神なんですが、少しレジュメに沿ってお話しさせていただきます。

 これは、言うまでもなく、ハーグ条約の前文にはっきりとうたわれています。それは、子を不法な連れ去りまたは留置により生ずる有害な結果から国際的に保護する、つまり、連れ去りが子に有害であるということがはっきりうたわれています。そして、連れ去りがあれば子を常居所を有する国に迅速に返還する、これを返還原則といいますが、これがハーグ条約の精神であります。

 そして、各国の批准法を見ますと、アメリカの批准法、アメリカは、御案内のように、条約制定のころの主要なメンバーでありますし、またその後の国際的な判例の形成に大きな役割を果たしている国であります。アメリカの批准法を見ますと、その第二項に、議会は次のような認識を持って法を制定したということが書いてあります。そこに四つあります。

 これは非常に重要だと思うんですが、まず第一は、子の連れ去りは子の福祉に有害である。それから二番目、子の連れ去りによって子の監護権を獲得することは許されないこと。つまり、連れ去り勝ちは許さないとはっきりとうたっています。そしてまた三番目に、子の連れ去りを防ぐためには、国際的な合意に基づく一致した協力が必要である。つまり、国際的な信義に基づいて国際的な協力が必要である、こういうふうに書いてあります。それで、最後に四項、子は、条約が定めた狭い例外とはっきり書いてありますが、そのいずれかが適用される場合を除いて迅速に返還されなければならない、こう入っています。

 今回の日本の批准法に関しては、こうした条約の精神を高らかにうたった規定はありません。これは裁判官の条約適用の解釈において大きな指針となるものでありますので、ぜひこうした精神を改めて確認するような批准法が必要かと思います。

 そして問題は、普遍化、ハーグ条約の十三条1bを代表とするようなものですが、そこでは、子の返還が子を心身の危難にさらし、その他子を耐えがたい状態に置くこととなる重大な危険、これは英語では、グレーブリスクがある場合、こう書いてあります。日本の批准法二十八条一項四号はこの規定をそのまま受けたわけですが、実は二十八条二項に解釈規定を置いています。これは非常に世界の批准法で見て異例です。

 そして、この二項、幾つかありますが、ここで三つ取り上げてみました。

 まず第一に、子が心身に有害な影響を及ぼす言動、「暴力等」とわざわざ書いてあるんですが、これを受けるおそれというふうに書いてあります。これは、先ほど挙げた重大な危険と比べて、おそれという形で要件が緩和されていることに御注意いただきたい。しかも、暴力等という形で、言葉、言動が含まれているということが違います。

 それから第二項の二号ですが、相手方、これは母親です、特に典型なのは母親ですが、母親がDVを受けた等そういう場合、これは面前暴力といいますが、確かに子に心理的外傷を与える場合があります。これもおそれというふうに出てきます。

 そして三号は、相手方の国において、常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無というふうに書いてあります。先ほども説明がありましたように、刑事訴追を受けるおそれだとか、あるいは、言葉が不自由であり、周りに親戚、友人がいない、生活が困難である、あるいは就職が困難で経済的に困難であるといった事情も、解釈上、三号の中に入ってしまうことになります。これも非常に世界から見ると異例であります。たくさんの判例を私は読みましたが、こうした例はほとんどが一蹴されています。

 問題は、さらに二十八条二項は、そうした実体的に範囲が緩やかに規定されているだけじゃなくて、手続的な問題も含んでいます。二十八条二項は、今のような事情を列挙した後、その他一切の事情を考慮するという形で、包括的な裁量を裁判官に与える規定となっています。実は、条約の十三条bが抽象的で曖昧であるというのではなくて、かえって逆にこの二十八条二項が解釈を曖昧にしている、裁判官に大幅な裁量を与えているということに御注意いただきたいと思います。

 そして、こうした観点、先ほどの事情の大きな特徴として、おそれだとか困難な事情、あるいは子のトラウマとなりますと、母親が戻れない事情、父親が十分に子供の面倒を見られない等の事情が詳細に検討されなければ子の返還をめぐる判断ができないことになりますので、結局、監護紛争に深入りしていくことになります。これこそが実はハーグ条約が一番避けたかったことです。

 連れ去った後、子供が長期に監護親のもとに置かれますと、これは制定のときの議事録にありますが、子供にとって、子供の監護にとって、時間こそが最大の敵であるというふうに書かれています。子供が新しい環境で一年、二年と過ぎてしまえば、もう戻れません。そういう面では、時間が勝負です。

 そしてまた、立証責任の欠如もあります。

 これもアメリカの批准法を見ますと、厳格な証明責任を課しています。第四項が司法救済のことを書いた規定なんですが、そこの(d)で、条約に一致するようと、わざわざ条約の趣旨をうたっています。そして、(2A)で、条約の十三bが定めた例外を明確かつ説得的な証拠で、これはあるいは確信を抱くに足る証拠というふうにも言われていますが、刑事の合理的な疑いを入れないに次ぐ、非常に重い証明責任だというふうに考えています。つまり、それぐらい返還原則を大切にするという形がアメリカの批准法であります。そして、それが世界の共通理解であるということを強調しておきたいと思います。

 こうした日本の批准法のもとで、果たして本当に子供は帰されるんだろうかというのを多くの人が実際危惧しています。

 実際、どれぐらい帰されているのかということで、二〇〇三年、さらに資料は二〇〇八年もあるんですが、二〇〇三年の資料を見ますと、これはアメリカの例ですが、ほかの国でも同じようなものですが、返還命令が出された場合あるいは返還に同意した場合が約四七%、拒否が一二%ですから、あとは係属中だとか取り下げですので、それを除きますと、約四対一の割合、つまり八割が返還されます。

 果たして日本はこうした世界の水準に達するでしょうか。そこを非常に私は危惧いたします。

 確かに、ハーグ条約が制定されたときは、主として考えられていたのは、監護権がない者が監護親から子供を奪う、まさに誘拐を考えていました。しかし、もう既に、一九八一年にはアメリカで共同監護法ができるように、むしろ両方の親が離婚後も共同で子供を監護することが大切だ、そして、親の誘拐、英語ではペアレンタルアブダクションと言いますが、そういうものも犯罪である、それこそが子供の方から片親を失わせるものであるというふうな認識が急速に広まっていって、現在のハーグ条約の運用を形づくっています。

 では、なぜ連れ去りがいけないのかということを改めて確認したいんですが、五ページのところで三つの弊害を端的にまとめました。

 まず第一に、トラウマであります。

 これは、子にも親にとっても、両方です。これは、心理学ではボールビーという有名な学者が言いましたが、愛着対象の剥奪といいます。そしてまた、親にも大きなトラウマであります。親で、子供が死んで悲しまない親はいないわけです。しかし、先ほどの話にもありましたように、離婚で子供を失ってしまう親、三年あるいは永遠に失ってしまう親、その悲しみというのは非常に深いものがあるというふうに私は思います。

 そしてまた、きのうまで本当に当たり前のようにかわいがっていた子供を突然奪われてしまえば、当然怒りが出てきます。そして、子供を取り戻そうと必死になります。そうしますと、対立が激化して、奪い合いの様相を示していきます。一層紛争がこじれていきます。子供の手を引っ張り合うことになります。

 そして三番目、これは先ほども言いましたけれども、まさに子供の監護にとっては時間が勝負です。連れ去り勝ちは必ず起きてきます。幾らお父さん、パパっ子だった子供でも、最初は、ううん、会わなくてもいいとか、うつむいて言うんですが、やがて会いたくないとはっきり言います。それは、監護親が会ってほしくないというメッセージを伝えれば、弱い子供は、まして既に父親を失った子供は母親だけに頼らざるを得ませんので、結局は母親の意図と同じような形で父親に会うことを拒否します。

 次に、では、こうした離婚というものは一体子供にどういう影響を与えるのかということについての心理学的な研究はどうなのかということを少し見てみたいと思います。

 ここではほんのさわりだけですが、アメリカでは非常に多くの研究があります。そして、その研究をまとめた、メタ分析というんですが、それを行ったジョン・ケリーという非常にすぐれた学者なんですが、これの結論は、離婚は心理的不適応及び学業の問題を引き起こすリスクを高める。つまり、離婚ははっきり言ってリスクなんだ、子供にとってのリスクである。しかし、唯一の救いは、共同監護の結果を調べた三十三の研究では、結論として、どの物差しを使っても、そのように父親が深くかかわる場合には、子供の適応が非常によく、非離婚家庭と変わらないということが示されています。

 これはアメリカだけの例じゃないかというふうに思われるので、昨年、政府の研究機関が発表したデータをたまたま見つけましたので、ぜひごらんいただきたい。七ページです。

 これは子供のいる世帯の調査なんですが、まず図表三―三を見ていただきますと、この下の方で、こういう子育ての悩みを持っていますかということなんですが、いじめ、非行、家庭内暴力いずれも、二人親世帯に比べて母子世帯は顕著に三倍から四倍、そうした悩みを抱えています。

 そして、右側の図表三―五を見てください。これは、子供の不登校経験、現実に子供が不登校している、あるいは不登校していたという経験なんですが、これも二人親世帯は三・八%にすぎないのに対して、母子世帯は一二・一%にも達しています。

 そしてまた、図表四―五というのは、これは心理調査でうつ感情というのを調べたものですが、無業母子世帯というものは三四%、三人に一人の母親がうつ傾向であるというふうに診断。これは十点以上なんですが。それに対して、二人親世帯の母親の場合にはわずか六・七%です。この母親のうつ傾向というものは、当然、子供の監護に影響を及ぼさないはずはないと思います。

 そういう面で、父親が離婚後も育児あるいは養育に関与してくれることは母親にとっても好ましい、もちろん、それは子供にとっても好ましいというふうに私は思います。

 それでは最後に、そういう状況の中で果たして子供を返還して大丈夫なのかということを危惧されるわけですが、DVの被害者保護が一番大きな念頭に置かれる課題ですが、これに対する答えは、一言で言えば、常居所地国の法を信頼する。

 これは、ハーグ条約の先ほど挙げた三号目に、アメリカの批准法に書いてあるのと同じなんですが、まさに国際的信頼と協調、つまり、他国の司法、法制度を信頼してそこに子供を帰すという、その相互信頼こそがこのグローバルな時代に不可欠なんだということですが、では、実際にアメリカではDV保護はどうなっているのか。

 私は、昨年、二週間かけていろいろな裁判所をつぶさに見てきました。調査官だとか検察官だとか、裁判官、弁護士、全て会ってきました。

 そして、そこでいろいろなことを学んだんですが、DVについて非常に印象深かったのは、二十四時間、緊急保護命令が出せる。もしDV被害を受けていると言ったら、裁判官に電話すると、すぐその場で緊急保護命令を出すんですね。ただし、一つだけ条件がありまして、この電話をかけられるのは警察ですので、まず母親は警察を呼ばなきゃいけない。それで、警察が現場に来ると、警察官がDVを目撃した後、すぐに裁判官に電話します。二十四時間待機の裁判官がいます。そして、その場で保護命令を出します。そして、二週間後に再び法廷に出ろという形の期日も入れていくわけですが、そして直ちに退去させます。こういう保護の徹底。

 それからまた、連れ去り禁止。先ほど、連れ去ってFBIのウオンテッドリストに載せられているという話もありましたけれども、子の連れ去り禁止は全米にありますが、刑罰も科されるわけですが、実は例外がありまして、DVの被害者については刑罰は科しません。ただし、直接に身体の傷害や情緒的危害を受けるであろうと真摯にかつ合理的に信じてという、つまり、それが第三者的に見ても合理的であるということが条件になります。単に主観的な訴えだけではなくて、そういう合理性があればそれを認めるということです。

 最後に、もう一点だけですが、先ほど来、ノイリンガー判決のことが出ました。また、スイス法のことが出ました。だけれども、ノイリンガー判決については、ごく最近、すぐその直後、半年ほど後に、イギリスの最高法院、最高裁、貴族院でその問題を扱った判決が出ました。そして、それについてはこういうふうに言っています。ノイリンガー判決は間違っている、なぜならば、それはまさにハーグ条約が排除しようとした監護権の紛争、つまり、誰が監護したらよいのかという問題にこの問題を引き込むものであるというような言い方をして、ノイリンガーは適用されないというふうにイギリスの最高裁の判決は言っています。

 結論として、このハーグ条約について、これは日本の社会慣行に反する外国の制度だというような言い方もされます。しかし、私は、ハーグ条約は外国の制度ではない、まさに国連の児童権利条約と同じように、現在必要とされる子供を守るための普遍的な国際人権であります。やはり離婚というものは子供にとって大きなリスクです。そして、そのリスクを防ぐには、離婚しても親を失わない、離婚する前と同じように両方の親から愛情と養育を受ける、そういう社会を私たち日本がつくっていく必要があるというふうに私は強く思います。

 ありがとうございました。(拍手)

石田委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

石田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。大口善徳君。

大口委員 公明党の大口でございます。

 各参考人には、大変有意義な御意見、また体験談をお話しいただきまして、ありがとうございます。

 各皆様のお話を聞いておりますと、DV被害者の方、虐待を受けている被害者の方、そういう方々の本当に不安な、また命に及ぶ危険、恐怖におののいておる、そういうような状況も学ばせていただきました。

 一方、渡辺参考人のお話、要するに、子を連れ去られたことによる苦しみ、そしてまた家庭の全てを破壊されてしまったことに対する怒り、さらにそれが司法に対する不信につながっている、こういう側面もお伺いさせていただきましたし、そういう連れ去られた父親だけじゃなくて母親も多くいらっしゃる、こういうこともお伺いしたわけでございます。

 そういうさまざまな現実の問題の中で、国境をまたぐ、監護権を侵害する不法の連れ去り、不法の留置、これについて国際的なルールを決めてやっていく。そのことがまた連れ去りの防止にもつながりますし、そして、例えばアメリカにおいては、一時里帰りということもこの条約に入っていないために認められない、こういうような声も聞くわけでございます。

 そこで、国内実施法を見ますと、一条に、「子の利益に資する」ということが目的に書いてあるわけです。要するに、「我が国における中央当局を指定し、その権限等を定めるとともに、子をその常居所を有していた国に迅速に返還するために必要な裁判手続等を定め、もって子の利益に資することを目的とする。」こういうふうに書いてあるわけです。

 一方、子の返還拒否事由ということで、二十八条の返還拒否事由の中に、二十八条の一項では子の利益のことを書いております。一項の一号には子が新たな環境に適応しているかどうかということが入っておりますし、そしてまた、今も御指摘がありましたように、一項の四号の子の心身に害悪を及ぼすということについての重大な危険等が拒否事由の判断になっております。あるいは、一項五号におきましては、子の意見を考慮するということ、そしてさらに返還されることを拒んでいる場合についても返還拒否事由となっていること。そして、二十八条の二項で、子が虐待を受けている、暴力等を受けるおそれでありますとか、DVに関して子の心理的外傷ということが触れられていたりするわけであります。そして、執行につきましても、このことについて配慮が、心身への影響に対する配慮がなされておるわけでございます。

 そこで、まず高橋参考人に、こういうハーグ条約そして国内実施法の目的、そして、その返還拒否事由においての子の利益ということで、子の最大の利益ということについてどういう形で今回工夫されたのか、これをお伺いしたいと思います。

 そしてまた、長谷川参考人におかれましては、迅速な裁判ということと子の返還の利益を十分審議するということの関係性、これがどうなのか。そして、棚瀬参考人にも同じ問いをお伺いしたいと思います。

高橋参考人 先ほど、棚瀬教授が非常に的確に御説明くださいましたが、この条約は、違法な連れ去りに対する暫定的な救済を目的としているわけです。違法に連れ去った以上、もとの国に一回戻してください、そういうことなんですね。戻された国で改めて、子供の成長のためにどういう形の親子関係を築くのがいいのか、親同士あるいは裁判所を交えて判断してくださいと。違法に連れ去ってそのまま違法状態を固定すること、それを否定するというのがこの条約、そして私どもが要綱案をつくりました国内実施法の目的でございます。

 棚瀬教授が強調されましたように、子供にとって父親と暮らすのがいいのか母親と暮らせばいいのかという最終判断を今回の実施法でするのではありません。違法な状態の原状回復なんですね。しかしながら、原状回復をすること自体が、もとの国に戻すことが子供にとってよくないことがあり得る。典型例は、先ほど来出ている、残された親がDVであったりとか、あるいは薬物中毒やアルコール依存症であったりとか、そういうことがあるときには子供をもとに戻すこと自体が子供にとって危険である、こういうことで法律案はできているわけでございます。

 棚瀬教授が御指摘のように、返還拒否事由の方が広い、帰さないことの方が広いというように一見条約からは見えるかもしれませんが、これは各国の判例を、読み方が棚瀬教授と私と違うのかもしれませんが、それを見ますと、これぐらいまでは条約の解釈としてグローバルに、俯瞰的に行われていることだろうと考えて、こういうような要綱案を作成したわけでございます。

 委員御指摘のように、子供の利益は帰すときにも十分配慮いたしますし、先ほど申しましたように、強制執行の場合でも、子供の目の前で執行官が物理力を用いてというようなことはしないというような形で十分に配慮しているわけでございます。

 民事執行法の原則から申しますと、これは執行不能、強制執行できないことをふやすのかもしれません。私どもは民事執行法も専門にしておりますので、その観点からは若干のちゅうちょはあるわけでございますが、子供の利益、子供のためという観点からは、これもやむを得ないものだと考えております。

 あとは、この法律の趣旨をよく裁判所なり執行官なり弁護士なりが会得して、その事件その事件で最もよい解決をみんなが知恵を出し合ってつくっていくことだというふうに思っております。

 以上でございます。

長谷川参考人 御質問ありがとうございます。

 迅速な裁判で、条約上は六週間をめどにというふうな規定があることは私も存じておるのでありますけれども、実際の統計によりますと、返還命令が出されるまでの平均日数が百六十六日に対して、返還が拒否される事例では平均二百八十六日かかっているというふうに伺っております。

 つまり、迅速に帰せばいいというたてつけにはなっていても、恐らく、返還される裁判というのは不法の判断がしやすい事例なんだろうと思うんですね。しかし、返還拒否する事例に長くかかっているということは、返還すると子供に重大な危険が及ぶのではないかという懸念があるから、それを丁寧に調べた結果、やはり帰せませんということになったんだと思うんですね。

 監護権侵害だといっても、一概にそれを帰してよいのかどうかというのは、具体的な子供を前にしたときに、裁判所あるいは関係者たちはやはり悩むんだろうと思うんですね。その結果がこの日数の違いにあらわれているというふうに思います。

 このハーグ条約が採択されてから、子どもの権利条約が九年後に採択されております。そこで、公式には初めて、子供が人権の主体である、子供の最善の利益の主体であるということが確認されたわけです。そういうものをあわせて考えてみますと、やはり、子供の重大な危険というものを考えるときに、子供が具体的に置かれた状況を無視して、子供の心身に有害な影響があるのかどうか、返還するときに耐えがたい状況に置かれるのかどうかということを決めるわけにはいかない。したがって、時間がかかるのだろうというふうに思います。

 それから、もう一点。ハーグ条約で誤解される点ですが、原状回復のために子供を返還すると言われます。しかしながら、子供を返還しても原状が回復されるわけではありません。

 条約をよく見るとわかるのですが、どこに返還するかということは、常居所地国には限られていません。つまり、第三国に帰されるかもしれないのです。それは、もちろん、子供とは関係のない国であることが多いと思います。それから、常居所地国に戻されたとしても、そこに連れ去った親が同行できるとは限りません。ですから、常居所地国でもともと両親がそろって平和に暮らしていた家庭というものが取り戻せるわけではないということを念頭に置いて考えられなければいけないというふうに思います。

 そういう意味で、子供を迅速に原状回復させて、それからゆっくり判断するべきだというのは、実は、返還される子供の現実を余り正確に捉えていないことになるのではないかというふうに思います。

 いずれにしましても、やはり返還される子供が最も重大な影響を受けるわけですから、その子供の視点とか利益というものを丁寧に判断するべきだというふうに思います。

 どうもありがとうございました。

棚瀬参考人 簡単にお答えさせていただきます。

 子の利益というのは前文にもうたわれているんですが、原則はやはり子供を帰すこと、つまり連れ去りを防止することが子供の最善の利益だという点で世界が一致しているというのをまず念頭に置かなきゃいけない。

 それから、もう一点は、子供の利益は何かということを個別具体的に判断することは避ける、これも世界が一致していることです。子の利益は何かということを考えてしまうと、あらゆることを考えなきゃいけない。そうなってきますと、とても迅速な返還はできなくなってくる。そして、時間との勝負の中では決定的に失われてしまう。

 迅速な返還の際、もう一つ大切なことは、よくハーグ条約は国際私法、つまり管轄をめぐる規定であるというふうに言われますが、これもアメリカの判例等を見ますとよく書いてあるんですが、まさに常居所地国こそが最善の管轄であるという言い方をします。つまり、そこで子供と親とが生活していたわけですから、そして、もちろん、DVがあるならそこでもDVが起きたわけですから、まさにそこの場所で問題を解決するのが一番迅速にその問題の、しかも最良の解決が得られる。

 ですから、よその、自分の都合のいい管轄のところに子供を持ってきて、さあ、やってくださいと。それで、相手はそれを追いかけてこなきゃいけない。実は、私、人身保護請求事件で、スペインから子供を連れ去られた事件で、父親は監護権まで持っていたんですが、母親が連れ去って、その事件で七カ月かかりました。お父さんは七カ月間スペインを離れました。そして、その間、何とか子供にだけ会わせてくださいと言ったんですが、たった三回、二時間が三回しか、七カ月、会えませんでした。

 それが日本の裁判の現実であるとすると、やはり連れ去られた者が圧倒的に不利ですし、しかも、子供と過ごしたスペインでの情報は一切得られない。まして、スペインから証人を呼んでくることはできませんでした。そこをぜひ御理解いただきたいと思います。

大口委員 それでは、大津さん、全国女性シェルターネットの責任者でいらっしゃいます。百のうちの六十の構成員だということでございまして、アメリカから逃げてこられた方々の状況、それと、所在地の調査について、直接民間シェルターをその調査の対象とすべきではないという御意見、それをお伺いしたいと思います。

 あと、済みません、渡辺参考人には、離婚をするかどうかはこれは夫婦の問題、しかし、子供と接触をする、親子の関係というのは一生切れないものだと思うんです。そこら辺はやはり大事にしなきゃいけないと私も思っておりますけれども、それについてお伺いできればと思います。

大津参考人 ありがとうございます。

 全国女性シェルターネットは、各地にあります民間のシェルターで構成されております。そういう意味では、さまざまなDV被害者の方がそのシェルターに駆け込んでまいります。私がかかわりました外国籍の女性たちは、もう本当に三十五カ国以上の人たちが民間シェルターを訪ねております。その中には、アメリカから逃げ帰った人たちもおります。

 私たちができることは、本当にその人の心の回復、子供たちの元気を取り戻すということで、一生懸命運営しております。ですから、民間シェルターがハーグ条約においてどういう形で協力ができるのかといいますと、運用面において参加することができるかと思いますし、もしガイドラインをつくられるときには、そのことにも参加させていただきたいというふうに思っております。

 それでよろしいでしょうか。

渡辺参考人 先生の方からいただいた件で、まさに私が述べたように、離婚というのは大人の勝手な事情でありまして、私の件も含めてですけれども、基本的には夫婦の話です。DVについても、私、決してそれは許してはならないと思いますけれども、厳密に言えばそれは夫婦の話であって、極端なケースでいえば、本当に物すごいとんでもないDVをする親であっても、子供に対しては物すごい優しい、子供は物すごい懐いているというケースもあります。

 ですから、今、私は、多くの日本の中の議論が混乱していると思うのは、まるで子供が親の所有物であるかのような、親の利益、親の不利益イコール子供の利益、不利益と考えて議論している傾向が少しあるのではないかと思っております。

 あくまでも大人の都合で、夫は嫌い、妻は嫌い、もう二度と顔を合わせたくないと思っても、子供はその両方が好きということは当然あるわけでして、それを無理やり、私が嫌いだからあなたも嫌いになりなさいというのは、子供の権利、子供の人権を明らかに侵害しているものだと思います。

 そういう意味では、離婚というのは、不幸ながら、それはないにこしたことはないですけれども、そうなってしまうケース、それでも子供の利益を本当に考えて、子供にとってはとにかく両方の親から愛情を受けることが大切だ、それをこの国はきちんと保障する、制度ももちろんそうですし、裁判の運用も含めて、そういう形にぜひ変わっていっていただければというふうに思っております。

 以上です。

大口委員 どうもありがとうございました。

石田委員長 次に、菅家一郎君。

菅家委員 自民党の菅家一郎でございます。よろしくお願いいたします。

 大変貴重な御意見を頂戴しました。やはり子の返還事由、返還拒否事由が極めて重要かなというのを改めて認識したものでありますので、この点について、ちょっと時間も限られますから絞って御意見を頂戴したい、このように思いますので、よろしくお願いいたします。

 まず、高橋参考人にお聞きしたいんですけれども、先ほど棚瀬参考人から、本法律案第二十八条第二項において、三つの事情、コメントがあったわけですが、いわゆるハーグ条約第十三条第一項bに規定する返還拒否事由の考慮事情の例示として、三つの事情、これが掲げられておるわけでありますが、なぜこの三つを考慮事情の例示とすることが相当であるのか。この点についてちょっと確認してみたいと思いますので、お願いしたいと思います。

 それから、大津参考人にちょっとこの点。

 返還拒否事由についての資料は、基本的には相手方が提出されるものとされていると思うわけでありますが、例えば、子がもともと居住していた国において、子や子を連れ去った親が申立人から暴力等を受けていたことを資料によって裏づけようと思った場合、ここが課題だということなんですけれども、どのような方法が一番望ましいのか。先ほども御意見がありましたけれども、ここが私も一番問題かなと思うので、いい方法があれば御意見をいただきたいと思います。

 もう一つは、渡辺参考人にちょっとお伺いしたいんです。

 先ほど、三つの考慮事情の一つに、「申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無」、これが掲げられているわけでありますが、いわゆるこのような事情の有無について、逆に被害を受けられた立場でおられますから、どのような方法でこれらを調査したらいいのか。誰が、どのような機関がきちっと、DVをしていないのにそういう虚偽の報告をされているわけですから、事実関係をどのように調査したらいいのか。何かいいお考えがあればお教えいただきたいと思います。

 それから、棚瀬参考人にちょっとお伺いしたいんです。

 返還拒否事由の一つとして、「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」これが掲げられているわけでありますが、いわゆるその条件が曖昧なものですから、もうちょっとこの辺は基準があった方がいいのかなと思うんですが、何歳程度、どのような状況に達していれば適当なのか。この辺の御意見を頂戴したいと思います。

 以上です。

高橋参考人 法律案で申しますと二十八条の第二項でございますが、これは、返還原則、もとの国に戻すのが原則でありますが、もとの国に戻すと子供にとってよくないことがあるものの考えられる典型例を出したわけでございます。

 例えば二号も丁寧に書いてあるわけでありまして、相手方、つまり連れ去った親がもとの国に戻った場合に、連れ去った親が連れ去られた親から何かされる、親同士で、親の方が何かされる、それが子供にトラウマを生じさせる、こういうつくりになっておりまして、あくまで子供に悪い影響があるかないかということを考えたものでございます。

 そしてまた三号は、これは実際は相手方の方が中心になるわけですが、連れ去った親がもとの国に戻ると、例えば逮捕されてしまう、収監されてしまう。そうすると、その間、子供は、小さな子ですから誰かが監護しなければいけないわけですが、申立人の方もいろいろな事情があって適当でないのかもしれません。そうすると、その国の公的な施設というのも十分考えられるわけですが、それが、その国の制度としてはそれはいいわけですが、その子供にとってみると、そういうところはふさわしくない。年齢とか性格とか、そういうことがありますので、そういうことも考えているということでございます。

 そういうことまで配慮してでございますが、委員御質問のとおり、これは例示であります。最も典型的に考えられるものを考えて条文としては掲げたものでございますが、二項そのものは、その他一切の事情ということでございまして、その他の事情も考慮することは可能でございます。

 では、どういう事情がそうなるのか。これは、具体的な事件の中において、代理人の弁護士さんが、この事件ではこういう事情があるから子供をもとの国に帰すとまずいのだということを証明していくということになります。これはまさに、先ほど申しましたが、関係者が個々の事件ごとに創意工夫を凝らしていく、そういうものとしてあるわけでございまして、それを受け入れる、バスケット条項などと我々は申しますが、その他一切の事情ということで、受け皿は用意しているということでございます。

 以上でございます。

大津参考人 御質問ありがとうございます。

 民間シェルターでは、普通、一般に、直接に被害者の方々が来ることはできません。それは、やはりさまざまな事情によって、まず最初に警察やそれから役所などでDVの相談を受けた方々が警察を通してシェルターに入ってくるということです。

 ですので、在外におられる日本人の方の場合には、例えば病院で、それからまた大使館でそういう相談を受けているかどうかということをこちらの方でやはり調査する必要があるかなと思います。また、帰ってこられる方に関しましては、相手国の中でそういう相談をされたかどうかというそのものも取り寄せる必要があると思います。

 本当にDVであるということを私たちがどういう形でわかるのかということなんですけれども、その人の表情や子供たちの表情、それからさまざまな心の、それこそトラウマとか何かは、専門の方々に協力していただいて、そしてその状況を知るようにしております。

 そういう意味では、被害者の人たちに関しましてはきめ細やかな支援が必要だというふうに思っております。それは、外国であっても日本であっても同じことだと思います。

渡辺参考人 いただいた質問についてですけれども、私は、結論から申し上げると、やはりそれぞれ常居所地国の公的機関、そこに対してきちんと証拠を提出、調査依頼をする、その迅速かつ確実な体制の確立が最も重要だと思っております。

 ただ、特に、今DVの話が問題になっていますので申し上げると、欧米は、私の知る限りですと、DVについては刑事罰を科する国が多いと聞いております。私は当然だと思っておりますが、そういう国であれば、実際にDVがあってそれで逃げてきた人について、例えば日本からアメリカに照会をかければ、アメリカの警察機関がきちんとしたデータを出してきて、そこは証拠として提出されます。そういう意味では、いいかげんなことはできないわけです。

 一方で、日本のDV法の問題点としては、第三者が調査するということが一切ないわけですね。私もやられましたけれども、結局、いきなり地裁に呼ばれまして、ひたすら自分がやっていないということを、やっていないという証明をするのは本当に難しいわけですけれども、誰もそれについて調査もしてくれない。ですから、結果的にどうなるかというと、言った者勝ちになるわけですね。DVをやっていないという証明は本当に難しい。

 逆に、やった、特に、子供を連れ去らなければいけない、着のみ着のままで逃げなければいけない、子供にトラウマを与えるようなDVがあったなどという場合は、私もアメリカの友人なりからも聞きますけれども、やはり近所の人であったり、必ずそういうのは見えているものがあるわけですね。

 ですから、そういう意味では、このまま今の日本の国内の体制を放っておくと、アメリカから日本に子供を連れ去ってきた人については、アメリカの方できちんとDVの結果が出ているので、証拠があるので帰さなくていいということになりますけれども、逆に、日本からアメリカに連れ去った場合、その人がDVがあったと主張して、日本と同じような適用をしますと、日本に調査をかけても、一切、何も出てこないわけですね。そうすると、結果的には、DVがあったと本人が言っていて、何ら証拠がないけれども、だったら、これは帰さないという結果を出すしかない。そうなってしまうと、日本からアメリカに子供を連れ去った人は、そのまま戻ってこないということになるわけですね。

 こういう非常に不均衡な状態をやはり放置してはならないと思います。特に、やはりDVというのはきちんと毅然とした対応をする必要があると思いますので、私としては、DV法、これをちゃんと刑事罰化して、本当にDVがあったかどうかというのを第三者、警察が入ってきちんと調べる、それで問題がある人間はちゃんと刑務所に入っていただく、そういう運用が必要だと思っております。

 以上です。

棚瀬参考人 二点、お答えしたいと思います。

 まず第一に、国連児童権利条約も批准されて、子供の意思を尊重するということなんですが、実は、子供の権利というのは、御案内のように、子供が保護を受ける権利と子供の意思表明権と両方あるわけですが、こうした親子の関係については、特に離婚の中の子供というのは非常に弱い立場にある。

 そういうことを考えると、そして、たかだか十歳か十一歳の子供が、もう私はお父さん要らない、お母さんとだけ生きていく、これは子供にとって幸せじゃないと私は思うわけですね。必ずお父さんが必要だと思う。そうであれば、そういうことは大人の側が子供を保護してあげなきゃいけない。いや、そんなことを言っちゃいけない、会いなさいぐらい言うのが、私は本当の意味で子供の権利を尊重することだというふうに思っています。

 そして、外国でも、子供に親を選ばせてはいけないとよく言います。ましてや十歳、十一歳の子供に、お父さんに会いたいか、もうお父さんと永遠に会わなくてもいいかといったときに、お父さんに会いたくない、嫌いといって子供に親を選ばせることは外国ではしちゃいけないというふうによく言っています。

 そして、むしろ外国では、この問題については、裁判所が公権的に考えて、そして子供に会わせるというのを最大限やります。そして、それが尽きたところで、実際に会っても会ってもやはり子供はお父さんを何らかの理由で嫌うということがあれば、そのときこそ離します。

 それから、もう一点ですが、こうしたハーグ条約の適用の関係で、子供がもう既に一年、二年と親から切り離されている、本当に子供が親を恐れているのかどうかわからない、本当の真意で子供が親を嫌っているのかわからないというような状況をどうやって確認するかということなんです。

 先ほど言ったように、一番いいのは、常居所地国で実際子供が連れ去られる前はどんなふうにお父さんと過ごしていたかというのを知るのが一番なんですが、もう一つ方法は、これもアメリカの判例に読んでいたらあったんですが、フランスからアメリカに連れ去られたケースで、申し立てがあった後、二年ぐらいたってからですが、裁判所は何を言ったかというと、まず審理が始まるまで三週間、毎日会わせなさい、こうやったんですね。毎日強制的にお父さんと子供と会わせた。そして、三週間たったところで、裁判官がこの親子は本当に切り離す必要があるかどうか判断したということであります。

菅家委員 もう一つ、時間もあれなので、管轄の集中について高橋参考人にお聞きしたいんです。

 先ほども裁判所の問題が出されたわけでありますが、管轄を東京家庭裁判所と大阪家庭裁判所、二庁に集中させた理由、これは専門的な知見の集積や事例の蓄積等を挙げていたわけではございますが、ハーグ条約に基づく子の返還の事件におけるいわゆる専門性とはどのような点にあると考えておられるのか。それから、管轄を集中させる必要性については理解するわけでございますが、他方で、管轄を二庁に集中させた場合には、遠隔地に居住する当事者の出頭の負担が問題になると考えているわけですが、これらについてどうお考えになるのか、お示しをいただきたいと存じます。

 いずれにしても、実は私、市長時代に、母子家庭が駆け込みする母子寮があるんですね、各市町村では。有無を言わさず身分を守るということから始めるんですね。ですから、ハーグ条約も大事ですけれども、まず母子の駆け込み的なものは守りながら条約に基づいて対応すべきという点も私は大事かなということを申し上げながら、今ほどの御質問にお答えいただきたいと思います。

 以上です。

高橋参考人 管轄を集中することにした際の専門性でございますが、端的に申しますと、これは、国際的な感覚、そして、発展途上、成長の途上にある子供の心理、児童心理に対する専門性、こういうものに集約されます。

 先ほどもちょっと申しましたが、子供を外国に戻したときに、外国の公的な施設に入ることになるのかもしれない、その公的な施設がどんなものなのかということ。これはもちろん、中央当局を使ってとかいろいろなところで情報は入ってくるわけでございますが、弁護士も含めて、弁護士がまた独自に調べる等々のことが必要になるだろうと思っております。そういうところ。

 あるいは、先ほど棚瀬参考人が盛んに強調されましたが、調査官が調べる。これは、国内事件でも蓄積がございますので相当できることだと思いますが、外国で育ってきた子供が日本に連れてこられて、その子にいろいろなことを聞く、その子を対象にして調査をするわけでございますが、言葉の壁もございますし、その子が育ってきた文化を背景にして、つまり、日本人の子供と同じように聞いていたのでは多分だめなわけでございますから、そのような配慮、調査官の調べ方、こういうところもそういう特殊な配慮が必要である。

 そうすると、現在のところ、そういうことを訓練し、専門性を蓄積させることのできるということになりますと、東京、大阪、二つが適切であろう、こういうことでございます。

 委員御質問の後半でございますが、そうすると、相手方、連れ去った親の方でございますが、これはどこにいるのかわかりません。東京、大阪以外、九州にいるかもしれません、北海道にいるかもしれません。そういう方に不便にはなります。なりますが、それを緩和する方法はいろいろと考えてございます。例えば電話会議システムを使うとか、テレビ会話システムを使うとかということもできます。あるいは、これは裁判所の予算との関係になりますが、調査官が出張して調べるというようなことも対応できます。

 そして、私は、この際強調したいと思いますのは、これは弁護士さんが非常に大事な手続でございます。この手続は、弁護士強制主義というものを日本のほかの制度との関係でとっておりませんが、実際上は弁護士さんがつかなければこの手続はうまくいかない、私はそう考えております。

 そういたしますと、申立人の住んでいらっしゃる、例えば北海道の弁護士さんと東京の弁護士さんが連携しながら事件を処理するということが必要になっていくだろうと思っておりまして、そしてまた、そういう体制が弁護士さんの方で組んでもらえるならば、相手方の不便というものも相当程度緩和できるのではないかというふうに思っております。

 この点も、再三、工夫工夫と申し上げておりますが、個別事件において関係者が工夫していかなければいけない、工夫していい事例を蓄積していかなければいけない、そのためには管轄を集中しておかなければならない、こういうことでございます。

 以上でございます。

菅家委員 どうもありがとうございました。

石田委員長 次に、郡和子君。

郡委員 民主党の郡和子でございます。

 きょうは、参考人の皆様方にそれぞれのお立場で大変貴重な御意見を御開陳いただきましたこと、私からも改めて感謝を申し上げたいと思います。

 ハーグ条約の締結をめぐって、国内法の整備というのは極めて重要でして、子供の利益が最大限確保できるようなものでなくてはならない、そしてまた、私は女性だから言うわけではありませんけれども、女性の権利保護にも十分な視点が置かれなければならないというふうに思っているところです。

 先ほど来お話がありました、子供の権利利益をどういうふうに守っていくべきなのか。それから、返還拒否事由についての課題等もお話がございました。また、子供の返還が強制執行されるに当たっての課題、それから在外公館の支援体制についてもお話があって、いずれもなるほどと思って聞かせていただいたところです。

 まず初めに、返還拒否事由についてお尋ねしたいと思います。

 重大な危険、考慮すべき事由がございますけれども、これでは不十分であるという心配もお話しいただいたというふうに思っております。私も、子供に対する重大な危険というものの立証責任は子供を連れ去った方の親にあるわけで、特にDVの被害に遭った女性などの場合は、そのDVの実態を立証していくことが大変難しいだろうというふうに思っているわけです。

 この点について、まずは大津参考人に知見を伺わせていただきたいと思います。

大津参考人 質問を少し聞き逃したことがあるかと思いますけれども、被害を受けた女性たちがどういうふうな状況におられるのかということに関しましては、やはり、DVを受けてきた年数、それこそ耐えてきた年数に関係し、その女性たちのトラウマ、PTSDというものが深くかかわってくると思います。

 ですから、逃げてこられてシェルターに入り、それから退所されて、また違うところで住まれていきましても、被害者の人たちの心の問題というのはやはりすごく長くありますので、そういう意味では、多くの方々の支援によってその人の回復が必要かと思います。

 また、その中で、子供たちが一緒に生活するということに関しましても、やはり子供たちにも影響していきますので、そういう意味では、周りの、地域の子どもセンターとかそういう方々の協力を得ながら、また学校や保健所、さまざまな協力を得ながら回復をしていくということになるかと思います。

 そういう意味では、暴力を振るわれたということがどういう形でわかるのかということは、その女性たちが、自分は暴力を振るわれて、そして逃げてきたんだということを自分で自己申告される。私たちは、その方の申告によってそのことを信じるわけです。しかし、その方が生きてこられたことを、ある意味では、シェルターでいろいろと聞き取りをしましたときには、これは間違いなくこの方は長く被害を受けてこられたということがわかるわけです。

 そういうお答えでよろしいでしょうか。また補足がありましたら、よろしくお願いいたします。

郡委員 ありがとうございます。

 長谷川参考人も、DVの女性支援にもかかわられておられます。この立証責任についてはどのように思われますでしょうか。

長谷川参考人 立証責任が非常に重い、立証するのが難しいということは、先ほど申し上げたとおりでございます。客観的証拠が残りにくいというのは、国内の事案でもそうであります。

 やはり丁寧に被害者らの被害状況を聞いていく、そのとき、どのときどうだったということを深く聞き取っていくことで、そのお話の真実味というものを理解していくことができます。

 しかし、ところどころに、いろいろその痕跡というのが残っていることがございまして、子供が通っていた学校だったりとか保育所だったりとか、そういう通いの中に、そういう片りん、事柄の片りんが起こっていることがあります。その評価を丁寧に重ねていくことで、事実というものを立証していく。

 しかしながら、それでも、裁判というのは人間が事実を裁くことでありまして、そこには限界があります。裁判の機能の限界と人が生きるということの重さ、どちらを優先させるかといったときに、最後に、緊急に逃れる、命を守るという逃げ道は残しておかなければならないのではないかというふうに思います。

 ありがとうございます。

郡委員 ありがとうございます。

 本当に難しいんだろうなというふうに私自身も認識しているところです。

 重ねて、返還後の子供がどういうふうな立場に置かれているのかということについて、これもしっかり確認をしていくことも重要な視点なんだろうというふうに思うんです。

 これについては、これまで条約事務局も調査をしていない、そういうようなこともあったようでございますけれども、まず高橋参考人、この点についていろいろ議論になったのかどうか、お尋ねしてよろしいでしょうか。

高橋参考人 私の記憶によりますと、その点が法制審議会ハーグ条約部会で重要なテーマとして議論されたということはございません。

 私どもは、国内の手続、裁判を中心とした手続をどうすべきかに神経を集中させておりました。御指摘のように、返還後にどうなっていくかということは国内の裁判所の手続とは少し違う問題でございますので、私どもは、それを、法制審の方では十分な材料を持たず、かつ審議はしておりませんでした。

 以上でございます。

郡委員 ここも重要な視点だと思います。条約を締結するに当たってはこのことについても心配りをしていかねばならないと思っていますが、長谷川参考人はどのような御意見でしょうか。

長谷川参考人 ありがとうございます。

 全く同じように私も思います。子供が連れ帰られた後、ハーグの返還手続に乗せられ、そして仮に返還された後、その土地でどのような裁判を受け、そしてその後の生活を送っていくのか、その適応がどうなのか。やはり、法手続に乗せられた形でその子の生活が決まっていくわけですから、それが本当に適切な判断が行われているのかどうかということを検証する必要があり、そのための調査の体制というのを整えていただきたいと思います。

 ありがとうございます。

郡委員 ありがとうございます。

 それでは、ちょっと話題をかえますけれども、ハーグ条約を締結することで、我が国の離婚後の単独親権制度との間に矛盾が生じるんじゃないかという問題が出てくるかと思うんですけれども、これについて長谷川参考人の御見識を伺わせていただきたいと思います。

長谷川参考人 ありがとうございます。

 先ほど来何度も出ていることなので確認になりますけれども、ハーグ条約というのは、元来、国際的な司法管轄を定めた手続的な条約であります。棚瀬先生もおっしゃったように、子の監護のよしあしに踏み込まない、そういう条約であって、返還例外規定以外は子の利益を考慮することにはなっておりません。それを定める、それを決めていくというのはまさに各国の実体法でございまして、そういったものをそれぞれの国がどういうふうに決めていくかというのは、それぞれ考えていかなければならない。

 きょう、資料でお配りしましたハーグ国際私法会議事務局次長であったダンカンさんも、日本に対して、条約に加盟するために日本が民法や単独親権制度を変える必要はないというふうにおっしゃっています。やはり日本は日本として、どのような監護制度を持つことが日本の子供たちの育ちを守って、支援していくのかということを真剣に議論しなければならないというふうに思います。

 ありがとうございます。

郡委員 また、ハーグ条約締結を契機に、共同親権のもとでの子連れ別居は、残された親の親権、監護権を侵害するものであって、これは違法とすべきであるというような主張も出てきているわけでございます。それからまた、一方では、子供の生活環境が変化をしていくということに兼ね合わせて、これも違法というふうにすべきではないかという主張もされる方がいらっしゃるわけですけれども、この点については長谷川参考人はどのような御見解でしょうか。

長谷川参考人 まず、親の親権とか監護権というものは、親が子供を支配する権利とか権力ではなくて、子供の生存と発達のニーズに応える責任というべきものであります。したがって、子供の移動の適否を親の権利侵害というフィルターを通して評価することには疑問があります。

 子供の移動の適否というのは子供自身の観点に立って行うべきであります。例えば、移動前の子供の生活状況、とりわけ誰からどのようなケアを受けてきたのか、どういう事情で移動することになったのか、移動後、子供の生活状況はどうなのか、ケアの状況はどうなっているのか、そういったことを個別具体的に検討して、どちらの親が子供と生活をするのが子供の福祉にかなうのかということを比べて決めればよいことだというふうに思います。

 現に、現在の家裁実務もそのように運用されていると思います。父母が別居する際に一方が子供を連れて家を出る、いわゆる子連れ別居というのは、それ自体が他方の監護権を侵害するというふうには考えられていません。

 子供にはそもそも、切れ間なく、なれ親しんだ監護を受ける権利があると言わなければいけません。だから、監護というのはそういう子供のニーズに応えていく親の責任であって、新たな環境が子供の成長、発達の利益を損なうのか、それに適するのか、子供中心の観点から評価するべきものだと考えられているというふうに思います。

 どうもありがとうございました。

郡委員 ありがとうございます。

 民法の改正がありまして、協議離婚の際に、面会交流やそれから養護費の分担に関して取り決めをするということが明文化されたわけでございまして、離婚届の中にそれを記載する欄も設けられるようになりました。一定の成果、効果というのも上がっているのであろうというふうにも思うわけですけれども、共同親権の行使それから積極的面会交流というのは、ある意味では条件が整っていないとなかなかできないことであろうというふうに思います。

 それぞれが円満に離婚できた場合には、そういうことが可能なのかもしれませんけれども、そうでない場合というのを想像いたしますとなかなか難しいわけでして、特に、DVからの救済システムがいまだ十分に整っていない日本においては、このことによって現場に妻がとどまらざるを得ないような状況もまた生まれてくるのではないかなと私自身も心配をしているところがございます。

 ところで、ハーグ条約の締結国は、御承知のように、ほとんどが離婚後も両親が子供の親権を持つ共同親権をとっている国でございます。法制審や外務省によりますと、ハーグ条約批准に関するパブリックコメントの中では、特に、この締結に当たって、日本でも離婚後の共同親権、共同監護制度を導入すべきであるという意見が寄せられていたというふうに承知をしておりますけれども、離婚後の共同監護法制につきまして、監護権をめぐる紛争解決の有効性、そしてまた子供の生存、発育といった福祉の観点から、どのように評価されているのか。実際に現場で裁判等を担当されてこられた長谷川参考人に伺いたいと思います。

長谷川参考人 ありがとうございます。

 私は、現場で事件を扱っております。ですから、そこの感想から申し上げますと、離婚後も父母が協調して子供の監護にかかわることが望ましい、理念としてはそうだと言えるとしても、そういう望ましい家族の理念というものと現実の紛争家族の実態とは大きく乖離しております。離婚後の監護を裁判所で法律に基づいて決着していかなければいけないのは、その紛争家族の方なのです。

 紛争家族に望ましい家族のモデルを当てはめて、そのもとで協力と協調をしなさいということを幾ら求めても、結果的には、さらに紛争をこじらせて、際限のない父母の争い、不和に子供を巻き込んでいってしまうという不幸があります。それはやはり子供の福祉を害するというふうに思います。

 そういうことで、ちょっと私も関心を持って諸外国の共同監護制について一部調べているんですけれども、例えば、子供の利益を重視したスウェーデンでは、一九九八年に裁判所による離婚後共同監護命令というのを制度化しています。しかしながら、父母が協力できない事案では子供の福祉を害するということがわかったので、二〇〇六年にそれを改め、父母が協力できない事案ではそういう命令は出せないというふうに改正しております。

 ニューヨークはアメリカで共同監護制をとっているところでありますけれども、そこも、双方の親が協力できる場合にはそういう命令を出す、あるいは双方が同意している場合には共同監護ということにするけれども、そうでない、うまくいかない場合には共同監護は命じないということが現役の裁判官の報告論文などで知られています。

 それから、英米法系の中で最も先進的だとされているのがオーストラリアという国なんですが、そこでは、二〇〇六年の改正で、とても監護紛争がふえるので、それを決着させるために、双方の親に子の監護にかかわる共同の責任があることを前提として、子供と過ごす時間を均等分配するというような法改正が行われました。親が、他方の親に対して友好的である方が、子供が他方の親との関係を維持できるだろうということで、友好的な親ルールというようなものも導入されたり、それから、虚偽のDV、虐待の主張をした者には制裁を与えるというようなことも盛り込まれていました。

 ところが、その結果、ふたをあけてみると、実際には、DVや虐待がある事案においてその主張ができなくなったり、安全面の懸念や暴力、それから、父母の高葛藤事案というもののもとでは、子供の福祉に重大な悪影響が出たり、それから幼い子供の発達上のニーズに有害な影響が懸念されるということが報告されました。これは、公的な調査の結果、報告されています。さらには、そういう当事者間でもともとだったら合意が形成されていたような事案にも紛争が拡大して、子供の監護をめぐる紛争がより激しくなってしまったということがあります。

 こういう二〇〇六年法改正の影響が見過ごせないということで、オーストラリアでは二〇一一年にさらなる改正が行われました。そこで採用されたのは、DVや虐待の定義を拡大しながら、別居親との交流よりも、子供の安全を最優先事項とするという方針です。また、その際には、友好的な親条項は削除されましたし、DV、虐待が証明できなかったときの制裁条項も削除されています。

 こういうようなオーストラリアの苦い経験は、例えばイングランドでも受けとめられて公的な検討が行われ、その結果、子供の養育に関して父母双方が相当の、または均等な養育時間を請求する当然の権利を有すると認識させるような規定、または、そう認識させるリスクのある規定を置くことに反対するという公式の最終結論が示されております。

 日本での……

石田委員長 参考人、時間が参っておりますので、簡潔にお願いいたします。

長谷川参考人 はい、申しわけありません。では、もう終わります。

 日本での印象とは別に、やはり、そういう欧米諸国で、必ずしも、共同監護制を導入したから紛争を決着することができなかったということを学びながら、日本として、そういう紛争家庭で育つ子供の福祉をどう守っていくかということをしっかり議論していく必要があると思います。

 どうもありがとうございました。

郡委員 ありがとうございます。

 私どもも……

石田委員長 いや、もう時間が参っておりますから。

郡委員 はい。検討したいと思います。どうもありがとうございました。

石田委員長 次に、西根由佳君。

西根委員 日本維新の会、西根由佳でございます。

 本日は、専門の先生方、貴重な御意見ありがとうございました。また、渡辺参考人におかれましては、当事者としてこの場に立つというのは本当に勇気の必要だったことだと思います。本当にありがとうございます。

 それでは、渡辺参考人にお伺いいたします。

 民法七百六十六条の立法趣旨を踏まえ、裁判官が従来の親権、監護権決定の判断基準を改めれば、私は娘と二年前にともに生活できるようになっていたはずとおっしゃっていられました。これは具体的にどういうことでしょうか。

渡辺参考人 お答えいたしたいと思います。

 民法七百六十六条、これの法改正の際には、国会審議の中で、先ほども述べましたけれども、法務大臣が、裁判官に親権者、監護権者を決定する際の判断基準といたしまして、子供の連れ去りを引き起こす元凶であるところの継続性の原則、そういうものを使うべきではない、継続性の原則というのは、現状維持、そのままでいい、連れ去った者勝ちを導くものですけれども、そういうものを使うべきではないということ、それから、寛容性の原則というものを基準の一つとして採用すべきということを言及されました。どのような基準かというのは、参考資料の十六番を見ていただければと思うんですが。

 裁判所が寛容性の原則というものに基づいて決定することが原則となれば、おのずから子供の連れ去り、引き離しというものはなくなります。なぜなら、裁判で勝てないとなれば、弁護士らは決して、子供を連れ去れ、引き離せとアドバイスすることはないからです。

 また、寛容性の原則というものに基づきますと、面会交流の日数を定めた共同養育計画に従わない親は、監護権、親権というものを奪われることになります。その場合、子供の引き渡しという直接強制を裁判所に訴えることを一方の親はでき、実効性を担保することができます。

 私は、実際に裁判所に共同養育計画というものを提出しましたが、私が監護権者となった場合には、隔週の週末あるいは祝日、長期休暇の半分を娘と妻との面会交流に充てるということをみずから義務づけたものです。

 妻は、FPICという、裁判所職員のOB、OGでつくっている組織があるんですが、そこで私と娘を面会交流させる、そういうことしか言っておりません。このFPICという組織で面会交流、これは月に一回しか認めない、プレゼントも渡してはだめ、録画もだめ、こういう厳しいルールを課します。にもかかわらず、一回当たり一万円以上のお金を取るということです。

 どちらの提案が寛容であるかは明らかだと思います。仮に若林裁判官なりが私の提出した共同養育計画を踏まえて寛容性の原則に従って私を監護者としていれば、私の娘は今ごろ父親と母親の両方に最低でも隔週の週末に会えていたということになります。

 これはハーグ条約にも関係する話ですけれども、今の日本の法制度のままですと、日本からアメリカに子供を連れ去られたケースについては、アメリカでは、そのまま返還拒否となってアメリカにいることになったとしても、きちんとした、夏休みの間なり、年間百日とかというような面会交流が保たれます。一方で、日本に連れ去られてきた子供は、アメリカ人の父親だったりして、その人は、日本国内ではこのような形で、月に一回FPICみたいなものを使えということで、ほとんど子供と会えないということになります。

 そういう意味でも、これから実際に動いていく中で、それぞれの国にはそれぞれの制度があるといっても、物すごい大きな不公平が出てくるということをあわせて付言したいと思います。

西根委員 今のお話の中で、日本の面会交流の問題点が出てきました。

 ここで棚瀬参考人にお伺いいたします。

 アメリカなど諸外国の面会交流の実態を専門家の立場から教えていただけますでしょうか。また、面会交流に関して、諸外国と日本の違い、日本の問題点につきどのようにお考えでしょうか。お願いいたします。

棚瀬参考人 お答えいたします。

 まず、アメリカでは最近、面会交流、これはもともとは原語はビジテーション、つまり訪問権という形で、お父さんが別居親だとしますと、お父さんの家に訪問して、そしてそこで泊まって過ごすという、訪問権というふうなのが伝統的で、そして大体、長い間、ずっと前から、隔週二泊三日、金曜日の夜から日曜日というのがいわば標準的なパターンとしてずっと続いてきました。だけれども、最近はそうした隔週二泊三日だけでも足りない、特に小さい子供の場合には二週間というタイムスパンは長過ぎるということを非常に強調してきましたので、例えば隔週二泊三日であっても、必ずあいている週の週日、平日に一回必ず夕御飯を一緒に食べるかあるいは泊まるかというのを入れるというふうにしてきました。

 そして、もう一つ大切なことは、面会交流というのは、顔を見せる、顔を見る、元気でやっているということを確認するだけじゃなくて、まさに別居親が親として子供を養育する、時には叱る、お父さんの手本を見せる、あるいは一緒にゲームして笑う、そういった生活時間を共有する、一緒にお風呂も入るという、まさにその中で子供は育っていくものだと思います。

 だから、そういう面で、この面会交流という言葉は、先ほどFPICもありましたけれども、月一回二時間なんという貧困なのはもう外国では考えられない。非常にDVケースなんかでも見てきましたけれども、DVケースでもスーパーバイズド、監視つき面会というのをやっていますが、その場合でも必ず毎週やっていました。ですから、そういう面で全然変わらないんです。

 そして、昨年度面会交流を見てきたんですが、非常にもう一歩進んでいる、もう一周先へ進んだという印象を受けました。それで、そこでは、ほとんどが五〇、五〇を原則とする。ただ、お父さんの勤務だとか子供の学校だとか、あるいは家庭の距離の離れ方とかで五〇、五〇ができない場合だけ変える。

 五〇、五〇で一番典型的な場合が二つありまして、一つは一週間交代、日曜日の午後四時に引き渡して翌週の午後四時に渡す、それを隔週でやっていました。それからもう一つは、最初ツーツーファイブと言っていて、何だかわからなくて聞いたんですが、そうしたら、ツー、まず二日間続けて、平日月曜日の、子供が学校から帰ってくるときに迎えに行って、それで水曜日の学校に送り届ける。そして今度はお母さんが水曜日の午後学校の帰りを迎えに行って、金曜日に送り届ける。そして週末だけは、ファイブ、つまり五〇、五〇で隔週でやるというようなことをやっていました。

 つまり、それを原則とする。そして、もちろんできない場合があります。できない場合があるんですが、少なくともそれが子供にとってよいということを裁判所は一生懸命説いていました。たくさんのガイドラインも出していました。

 ですから、少なくともそういう形で多くの人たちが面会交流をしていました。

西根委員 ありがとうございます。

 また面会交流関連の御質問を棚瀬参考人にお願いいたします。

 先ほど菅家委員の質問に対するお答えの中で、子の意見を考慮する場合の問題点につき御指摘がありました。

 棚瀬参考人は著作の中で、日本の面会交流の裁判における誤りの一つとして、子の意思の法理を挙げていらっしゃいます。その点につき、改めて詳しく御説明いただけますでしょうか。

棚瀬参考人 現在では、日本の家庭裁判所の調査官あるいは裁判官等にも共有された知識として、やはり離婚の中の子供の意思というのは非常にゆがみやすいということは認識されています。なのに、いまだに日本では意向調査という形で子供の意思を確認するということをやっています。

 特に、日本の裁判所の中では、子供が嫌がるのを無理して会わせれば子供の負担になるという言い方をします。確かに短期的にはそうだろうと思います。でも、私はたくさんのケースを見てきましたけれども、会いたくないと言っている子供がお母さんから離れてお父さんとだけいると、本当にいい面会交流には飛びついてきます。

 そして、私はいつも、先ほどの継続性の原則をこういうふうに理解しています。継続性の原則は大切なんだ、だけれども、それは同居中にあった関係を別居、離婚後も続ける、つまり、離婚によって、あるいは別居によって子供が親を失わない。もし同居中に親子の関係が悪かったんだったら、それは制限しなきゃいけない。しかし、同居中にいい親子の関係があるんだったら、なぜそれが続けられないのかというのが私の一番大きな主張です。

西根委員 ありがとうございます。

 次に、渡辺参考人には当事者として、棚瀬参考人には専門家としてお伺いしたいと思います。

 子供の連れ去り問題が日本で多く起きていますが、どうしてこれが起きるとお考えでしょうか。

渡辺参考人 先ほど、最初に述べたことと重複する部分もあるかと思うんですけれども、理由は非常に単純だと思っております。

 子供を先に奪って、いわゆる子連れ別居、連れ去り、どういう呼び方をするかは別ですけれども、それは何ら違法性は問われないわけですけれども、一度とられた子供を取り返そうとすると、参考資料にもつけましたように、母親であろうが略取誘拐罪として逮捕されるというような現状にあります。

 一回目の子供の連れ去りをオーケーとして、二回目の子供の連れ去り、それを連れ戻しという言い方もしますけれども、これに刑事罰を科すというのが日本の今の裁判所の運用ですけれども、これは明らかに仕組みとしていびつだと思います。

 やはり、一回目の連れ去りから刑事罰にするのか、あるいは連れ戻しについて刑事罰を科さないのか、そういうことにしていかないと、最初にとった者勝ちということになってしまうと、それは合理的な判断として、先に子供をとられたらもう二度と取り返せない、新聞記事にあるように逮捕されてしまう。さらには、今、私も知っている当事者の方で、子供に会いたいといって、結局捕まって、禁錮で刑務所に入られている方もいます。

 こういった状況ですので、これは私の専門ではないですけれども、いわゆるゲーム論というものがあります。囚人のジレンマというものがあるんですけれども、この場合の合理的な行動というのは、相手よりも先に裏切るということなんです。

 窃盗や殺人についても全て囚人のジレンマというものが背景にあるわけですけれども、誰かのものを奪える自由があるということは、自分のものがいつ奪われるかもわからないということです。殺人が許されるという社会は、万人の万人に対する闘争というものになってしまいます。それを防ぐものが法律であって、それを実効的なものにするのが警察であり、裁判所であるんだと思います。それが法治国家というものだと思うんですけれども、それが全く存在していないのが今のこの子供の連れ去り案件だと思います。

 欧米では、子供の連れ去り、一回目の連れ去りからきちんと刑事罰を科すということにしているのは、そういうことではないかと思います。

 非常に問題はシンプルです。別に男女の問題ではないと思っております。そういう意味で、ぜひともこれを機に、日本の法制度、裁判所の運用、これを改めていただきたいと思います。

 以上です。

棚瀬参考人 日本の裁判所の判例の言い方の中には、監護を継続する意思で子を連れて出るという言い方をします。つまり、主たる監護親が子供を置いて出られないから、別居するときには子供を連れて出るんだ、こういうのが基本的な日本のその最初の連れ去りの正当化だろうというふうに思います。

 これは、つまり、監護親となるべき者が子供を連れて出ることは何ら問題ではないという考え方で、まさにハーグ条約とは全然違います。ハーグ条約は、はっきりと、監護親となるべき者が子供を連れて出ても、国境を越えて出ても、それはだめなんだ、まず帰して、それから裁判をしなさい。

 なぜか。それは、先ほども少し言いましたけれども、昔の日本は、もうとにかく離婚したら一人の親だけが育てればよかった。だけれども、これからの社会は違うんだと思うんですね、考え方が。やはり子供は両方の親が必要なんだ、離婚してもやはり両方の、お父さん、お母さんがいる、そして、子供が初めて違う人格に触れて成長していくということがだんだん認識されてきました。

 それが裁判所でも、もちろん、一部は面会交流権の充実という形で認識されてきましたが、先ほど言いましたように、生活時間を共有するようになっていません。たった月一回、四時間でいいじゃないかみたいな感じの裁判所の態度です。それでは絶対子供は育たないということを強調しておきます。

 そして、最後ですが、連れ去り前に話し合って別れる、これをぜひ一般的な慣行にしていきたいというふうに思っています。そして、そのためにこそ、裁判所はいろいろな形でこの援助をすべきではないだろうか。

 お隣の韓国では、そのようにやっているのを見てきました。その方がかえって、その後、連れ去った後、対立をして、そして紛争がこじれて裁判所に来るよりは、はるかに司法行政的にも効率的なのではないか、子供にとっての負担も少ないのではないかというふうに思います。

西根委員 時間が終わりましたので、ありがとうございました。

石田委員長 次に、椎名毅君。

椎名委員 ありがとうございます。

 本日は、参考人の皆様方、大変貴重なお話を賜ることができまして、本当に感謝を申し上げます。特に、我々の党からは、みんなの党からは棚瀬参考人にいらっしゃっていただきましたが、国際法的な比較という観点から非常に貴重なお話を賜りましたこと、本当に感謝を申し上げたいというふうに思っております。

 その国際法的な比較という視点について、一つ高橋先生にお伺いできればと思います。

 まず、立法経緯の、その審議会のメンバーの選定という観点からなんですけれども、DV被害に関する専門家、それから民事手続に関する専門家、それから民法の債権法に関する専門家、それから担保法に関する専門家、それから条約に関する専門家、こういった方々はいらっしゃいましたし、家庭裁判所の実務家といった方々はメンバーの中にいらっしゃったかと思いますけれども、あと離婚の実務をやっていらっしゃる弁護士の先生方、こういった方々はいらっしゃったと思いますが、国際的な比較家族法というところを専門にされているメンバーという方はいらっしゃったんでしょうか。いないとすると、なぜそういう視点がなかったのかを教えていただければと思います。

高橋参考人 家族法の専門家といたしまして、早稲田大学の棚村教授がおられました。この方は英米法に特にお強いのですが、比較家族法です。それから、神戸大学の、当時は准教授だったかもしれませんが、浦野先生もいらっしゃいました。それなりにメンバーはそろえていたと思っております。

椎名委員 ありがとうございます。

 そうしますと、まず審議会の審議の経過なんですけれども、ハーグ条約は、基本的には、子の返還に関する手続を定める手続法だという理解をしておりますけれども、そういった中で、要するに何を申し上げたいかというと、国内の実体家族法については基本的には中立的な価値観を持っている、そういうふうに説明をされておりますが、事実を調べますと、基本的に加盟八十九カ国のうちの十四カ国のみが離婚後の単独親権主義、その十四カ国のうちの十二カ国がカトリックそれからイスラムなどで、基本的には離婚率の非常に低いような国々だったと思います。

 要するに、何が申し上げたいかというと、この審議の過程の中で、単独親権主義の国々がこの条約を締結した後どういった運用をなされているかといったことについて、どの程度調査をされていらっしゃったのかということを、同じく高橋参考人に伺えればと思います。

高橋参考人 委員御指摘のとおり、私どもは手続を扱いましたので、単独親権制度であっても、あるいは共同親権制度であっても対応できるような手続をつくりました。そして、単独親権か共同親権かは法制審議会で申しますと民法関係の部会で扱うことになりますので、そういう意味で本格的に議論はしておりません。

 しかしながら、我々も、いろいろな参考意見を、意見自身をお聞きしたこともございますし、学者の研究を全員に配付して勉強したこともございます。今ちょっと資料がなくて申しわけないんですが、九州大学のある有名な先生のものを特によく勉強させていただきました。

 しかしながら、この手続法に関しましては、共同親権か単独親権かは重要な論点にもともとならないものであったということでございます。

 以上でございます。

椎名委員 ありがとうございます。

 たてつけ上、価値中立的だというのはまさにそのとおりだと思いますけれども、今こちらにいらっしゃっていただいております渡辺参考人が御指摘されているところなんかはまさにそういったところだと思っておりまして、事実上、日本の家裁の実務を前提とした場合には、子供の連れ去りみたいなものが肯定化される、継続性の原則みたいな運用が肯定化されていくというような懸念を示していただいているんだと思います。

 そういった観点から、私自身、たてつけ上、価値中立的ではあったとしても、実際のところとしてどのように運用されているかというところに比較的問題意識を持っているところでございますが、今伺ったところですと、基本的に単独親権主義でどのような運用がなされているかというところは余り調査をされていないように見受けました。

 では、棚瀬先生にお伺いできればというふうに思います。

 子どもの権利条約、恐らく九条だったと思いますけれども、親子の不分離というような規定があるかと思います。私自身、この親子の不分離という規定そのものが、ハーグ条約の背景にある子の最善の福祉というものを価値づけているものなのではないかなというふうに思っておりますが、もう一回、子の最善の利益ということの意味について教えていただければというふうに思います。

棚瀬参考人 おっしゃるとおりです。国連児童権利条約九条三項というのが一番根拠規定になるわけですが、そこでは、別れて暮らす子供も、双方の親と定期的かつ直接の接触を持つというその子供の権利を締約国は保障する、そういう規定の仕方をしています。その意味では、実際に別れて暮らす親がいて、そして子供がその親と会えないような状態を国が半ば放置していれば、この国連児童権利条約九条三項に違反するというふうになると思います。

 では、なぜ子供がそうした両方の親と会うことが必要なのかということについては、先ほど心理学の研究で参照しましたように、やはり子供には両方の親が必要なんだというその一言に尽きるのではないかと思います。

椎名委員 どうもありがとうございます。

 子の最善の福祉を重視するからこそ、この法律のたてつけ上も二十七条で、条件が充足されたら原則として返還をする、そういうたてつけになっているんだというふうに思っています。

 しかし、二十八条というところで子の返還拒否事由というものがいろいろ記載されているところ、ここについて少し問題があるのではないかと私自身は思っています。この二十八条一項というところに返還拒否事由が多数記載されていることによって、これで事実上、子の連れ去りの可否という観点において実体判断をしてしまう結果にならないかというふうに思っています。

 すなわち、何かというと、結局のところ、子の最善の福祉からその返還をすることが原則であると言っているにもかかわらず、返還をするかしないかについて完全に実体的な判断をする、その結果として、先ほど棚瀬先生がおっしゃっていたような、常居所地国の相手方の裁判、家事手続を信頼する、そういったたてつけになっていないのではないかということを私自身は懸念しておりますが、棚瀬先生の御意見を伺えればというふうに思っております。

棚瀬参考人 御案内だと思いますが、実は、外国では、一部、もう本当に、日本はハーグ条約を批准しても本気で守る気はないのではないかという議論があります。そして、下院議員の、特にアメリカのスミス議員等を中心として、日本国を名指しで制裁しようというような法案も繰り返し出されているところであります。

 最近、私が見たアメリカの判例の中には、逆に、こんなのがありました。つまり、私たち日本から見れば、アメリカの常居所地法を信頼する、あるいはイギリスの常居所地法を信頼するわけですが、信頼して、子供を帰して、そこの裁判で判断してもらう。ところが、それについて今問題があるわけですが、逆に、ではアメリカはどうなのかというと、アメリカのワシントン州の判例なんですが、ごく最近の判例なんですが、堂々とこんなことを言っていました。

 それは、ワシントン州は、国際礼譲、インターナショナルコミティーというんですが、ハーグ条約と同じ精神ですが、それを尊重する、しかし、親と子供が分離されてはならないというその子供の基本的な権利を、人権を侵害するような国のその裁判決定に対しては私たちはインターナショナルコミティーを使わない、こういうふうに言って、そして、日本の離婚判決のワシントン州での執行を拒否したという判例をごく最近見ました。

 ですから、外国の日本を見る目は非常に厳しいということを御理解いただきたいと思います。

椎名委員 ありがとうございます。

 この二十八条の返還拒否事由を結局争うことによって、やはり実体判断、日本の家裁の実務の判断になってしまいかねないということの懸念を海外からもいただいているということだというふうに理解をいたしました。

 そういう中で、やはり、そうすると、この二十八条一項の取り扱いというのがどのように行われていくのかということが結構大きな問題になるんじゃないかと思います。この二十八条の一項の立証責任、これは誰が負っているんでしょうか。すなわち、ここで申し上げている立証責任と言っている意味は、要は、証拠によってきちんと立証されなかったら敗訴をするという責任を誰が負っているのかということです。

 敗訴をするということは何を意味するかというと、あくまでも、返還が認められて、その上で、常居所地国の家事審判の手続でもう一回子の監護権それから親権のあり方について定めをしていく、手続に乗るという意味だと思いますが、改めて伺いたいと思います。高橋参考人に伺えればと思います。

高橋参考人 立証責任についてまずお話し申し上げますと、立証責任と申しますのは、定義上といいますか、概念上、十分に証拠調べをしたけれどもどちらが真実かわからない、そうしますと裁判ができなくなってしまうわけですが、それで裁判拒否はいけないからどちらかに決めましょうということでございまして、証拠調べを十分にやった上でわからなかった、これを典型的なこととして考えております。

 そして、証拠調べを十分やったけれどもという、ここでは当事者がもちろん証拠を出してもらうということは必要です。それは当事者の責任としてこの法律にも書いてあります。しかし、裁判所も職権でいろいろ手助けをする。中央当局に調査の嘱託等々いたしまして、在外公館も協力してくれるでしょう。そういう体制で十分調べた上でなおわからなかったときということで、これは返還を拒む方に負担を課す、つまり、帰すということでございます。

 この審理を通じて、ハーグ条約が禁止している実体判断に入ってしまうのではないかという御懸念は、抽象的にはよく理解できます。だからこそ、管轄を集中して、裁判官も研修、裁判官だけではありません、いろいろな人が研修をしてそうならないような実務を日本でつくっていかなければいけない、そういうことだというふうに理解しております。

 以上です。

椎名委員 最後に、要は、この二十八条の一項の四号だと思いますけれども、ここで一番ターゲットにしているのは、先ほど来、大津参考人それから長谷川参考人といった方々が懸念を表明されていたDVに関する問題だというふうに思っています。

 DVに関して、返還拒否事由に該当するかしないかが問題となるのは、多分、四類型あると思います。何かというと、事実と証拠という意味です。

 事実上DVがあったかということについて、マル、バツ、三角、それから、証拠としてDVが証明できるかどうかというところについて、マル、バツ、三角で考えてみると、事実としてDVがあり、証拠としてDVを証明できる事例、これについては保護をしなければならないのは当然です。返還拒否事由に該当しなければならない、それはそうだと思います。

 その二番目として、事実としてDVがあり、証拠としてDVが証明できるかどうかよくわからない、この辺についても何とかして保護していかなければならない、それは事実だと思います。

 しかし、先ほど来、渡辺参考人が当事者として懸念を示している部分というのが、まさに、DVはないけれども、さらに、証拠、物証としてはないけれども口頭の証拠みたいなもので虚偽DVみたいなものが裁かれたとき、こういったところについて、むしろ保護をしてはいけないわけです。

 さらに言うと、もう一個、DVがあったかなかったかについて評価の問題になる。例えば、どこの夫婦でも夫婦げんかはあるわけでございますけれども、たまたま手が当たってしまったとか、軽く殴ってしまったけれども、以後、もう二度としないと反省をしているとか、そういった評価の問題として、これをDVと評価するのかしないのかというところ、人によって価値観が分かれる部分というのがございます。

 おおむね問題となり得る類型は、多分この四類型ぐらいだろうというふうに私自身は思っております。

 私自身の懸念としましては、虚偽DVといったものについて、三番目の類型ですけれども、これが二十八条の一項で保護されることになりかねないかということが、日本の家裁実務との兼ね合い、それから立証責任との兼ね合いで問題視させていただいたところでございます。

 今後の運用として、ここについてどのような展望、考え方を持っているか、高橋参考人それから棚瀬参考人に伺えればというふうに思っております。

高橋参考人 証拠の問題は大変重要な問題だと私も認識しております。また、特に、外国で起きたことの立証ということでございますから、大変重要な問題だと思います。

 私は、急がば回れではございませんが、この点は、日本の法教育に非常に期待をしております。これから、国内でも国外でも、特に国内であれば、法的にどういう妥当な行動をとらなければいけないのかということを、小学校、中学校、高校の段階から身につけてもらうということでございます。

 ちょっとよくない例になるかもしれませんが、DVの被害に遭っていると主観的にしゃべる。私は被害に遭いました、なぜ信じてくれないんですか、裁判官。これを言うだけではだめなんです。やはり、被害に遭ったとき、携帯電話で写真でも撮っておくとか、在外公館に駆け込んでそこで記録をとってもらうとか、そういう身を守る手段をこれからとっていかなければいけない。

 それは広い意味で法教育ですし、仄聞するところによりますと、外務省も法務省も、そういう教育活動というのでしょうか、広報活動はするというふうに聞いております。それをもとにしますと、虚偽DVも、これは楽観的かもしれませんが、見抜けるだろうと思っております。

 まさに、DVがあったあったと言うだけではだめなんですよね。それが本当にあったのを潰してもいけませんし、なかったのにあったと言うのを認めてもいけない。そういう手段は、法教育を含め、そして裁判所の実務の中で形成されていくものであると私は期待しております。信じております。

棚瀬参考人 アメリカの例でも、やはり、DVがあったという訴えは非常にたくさんあります。普通の家族法の事件でもあって、みんな裁判官は頭を悩ませていることはおっしゃるとおりです。

 ただ、二つのことだけを申し上げたいんですが、一点は、DVがあったということと、それから、だから親子はもう会えないんだということは、やはりできるだけ分けて考えたいというのがアメリカの考え方であって、DVはDVとしてきちっと保護する、だけれども、それが理由で親子が完全に生き別れになるという事態は可能な限り避けたい、こういうのがアメリカの基本的な態度であるというのが一点です。

 そしてもう一つは、DVについてもしっかりしたリサーチがこれから必要だろうと思うんですね、社会心理学的な研究が。

 そして、最近のアメリカの文献を読みますと、DVにも幾つかのパターンがあるといいます。まさに絵に描いたような、反復的に発生するDV、しかも非常に強度なDV、暴力と、それから、まさに夫婦が別れるときに、離婚をめぐって争いが出てきて、そして激しい口論になったというときのDVとは全然違うんだということをアメリカの裁判官たちは認識していて、それについてたくさんの社会心理学的研究が最近出ました。ですから、それを分けて対応するというのが現在の動き方です。

椎名委員 どうもありがとうございました。

石田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、予定を超えて貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十六分散会


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