衆議院

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第10号 平成25年4月24日(水曜日)

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平成二十五年四月二十四日(水曜日)

    午前九時二十四分開議

 出席委員

   委員長 石田 真敏君

   理事 江崎 鐵磨君 理事 奥野 信亮君

   理事 土屋 正忠君 理事 ふくだ峰之君

   理事 若宮 健嗣君 理事 田嶋  要君

   理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君

      池田 道孝君    小田原 潔君

      大見  正君    門  博文君

      神山 佐市君    菅家 一郎君

      木内  均君    黄川田仁志君

      小島 敏文君    古賀  篤君

      今野 智博君    笹川 博義君

      末吉 光徳君    橋本 英教君

      鳩山 邦夫君    林田  彪君

      三ッ林裕巳君    宮澤 博行君

      村井 英樹君    盛山 正仁君

      泉  健太君    枝野 幸男君

      階   猛君    辻元 清美君

      今井 雅人君    高橋 みほ君

      西根 由佳君    丸山 穂高君

      三宅  博君    大口 善徳君

      椎名  毅君

    …………………………………

   法務大臣         谷垣 禎一君

   法務副大臣        後藤 茂之君

   外務副大臣        鈴木 俊一君

   法務大臣政務官      盛山 正仁君

   外務大臣政務官      あべ 俊子君

   最高裁判所事務総局民事局長

   兼最高裁判所事務総局行政局長           永野 厚郎君

   最高裁判所事務総局家庭局長            豊澤 佳弘君

   政府参考人

   (警察庁生活安全局長)  岩瀬 充明君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    稲田 伸夫君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 新美  潤君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 山田 滝雄君

   法務委員会専門員     岡本  修君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十四日

 辞任         補欠選任

  安藤  裕君     橋本 英教君

  門  博文君     木内  均君

  黄川田仁志君     村井 英樹君

  階   猛君     泉  健太君

  西村 眞悟君     高橋 みほ君

同日

 辞任         補欠選任

  木内  均君     門  博文君

  橋本 英教君     安藤  裕君

  村井 英樹君     笹川 博義君

  泉  健太君     階   猛君

  高橋 みほ君     三宅  博君

同日

 辞任         補欠選任

  笹川 博義君     黄川田仁志君

  三宅  博君     丸山 穂高君

同日

 辞任         補欠選任

  丸山 穂高君     西村 眞悟君

    ―――――――――――――

四月二十三日

 選択的夫婦別姓の導入など民法の改正を求めることに関する請願(照屋寛徳君紹介)(第五一六号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第五四一号)

 同(辻元清美君紹介)(第五四二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案(内閣提出第二九号)


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     ――――◇―――――

石田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁生活安全局長岩瀬充明君、法務省民事局長深山卓也君、法務省刑事局長稲田伸夫君、外務省大臣官房参事官新美潤君及び外務省大臣官房参事官山田滝雄君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局永野民事局長兼行政局長及び豊澤家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。泉健太君。

泉委員 民主党の泉健太でございます。

 昨日も、本会議では、外務委員会の方でハーグ条約の法案が衆議院を通るという状況になりました。国内体制の整備ということでこの法務委員会でも質疑をされるわけですので、関心を持っている方々が非常に多くなっているという昨今の情勢でございます。ぜひ、充実した審議をお願いしたいというふうに思います。

 大変悩ましい問題というか、難しい問題であるなと改めて感じます。このハーグ条約を国内に取り入れることが、人によってはメリットというか、物事の解決につながるというケースもあるでしょうし、中には、親子が場合によっては離される状態になってしまうかもしれないというようなところで、それぞれその当事者の状況によってこのハーグ条約というものがいろいろな影響を及ぼしてくるということであると思います。

 国内においては、できる限りきめ細やかな配慮をしていくということが求められているでしょうし、他国との認識の、法的な考え方のすり合わせというか、価値観のすり合わせみたいなこともこれからよく行っていかなければいけないんだろうなということを感じるものであります。

 特に、我が党は、政権担当時からも、このハーグ条約については、しっかりと、子供の最善の利益というところの観点からまずは体制整備を行っていきたいということを考えておりまして、特に、子供たちが虐待を受けていたり、あるいは親がDVを受けていたりするケースというのがこの国際離婚の場合にはあるということでありまして、そういった意味では、少なくとも我が国の中では、DVというのも子供に対しての心理的虐待である、児童虐待防止法を読み解けば、DVそのものも、子供がそれを見せられるようなことがあれば、子供がそういう形で家庭の中で圧迫を受けているような状況であれば、それもまた児童虐待であるという認識で我が国の児童虐待防止法も成り立っているというところから、このDVについてしっかりと配慮をしていくべきということも訴えてまいりました。

 そして、先ほど言ったように、他国の司法ですとか、当然、他国の当事者と争うわけですので、やはりそういったところのサポート、外務省、そして国内体制、この両方のサポートがとにかく重要であるということを訴えてまいりました。その観点から幾つか質問をさせていただきたいと思います。

 まず、今回、日本国内、中央当局ということで、これは外務省ということであろうかと思いますけれども、国内でも従来から民間団体で国際離婚に対してさまざまなサポートを行ってきた支援団体というものもございます。あるいは、国内においても、これは離婚のケースで、親権をめぐる争いですとか、あるいはDVから逃れるためのシェルターですとか、いろいろな形で支援をしてきた方々がおられます。

 そういった結婚、離婚、子供の扱いということに関してさまざまな支援団体や専門家があるわけですけれども、今後、中央当局において専門家を配置してさまざまな検討を続けていくというふうに言われていると思うんですが、これは学術的な専門家だけではなくて、今言ったような日本におけるDV被害者の当事者団体であったり支援者団体、そして、逆のことで言えば、来日をされている外国人の支援団体とか、そして、当然、先ほど言ったような児童虐待の防止の専門家や団体、こういう方々も広く公募をして、多様な観点から中央当局内においてさまざまな今後の細かな検討を加えていくべきだというふうに思いますが、いかがでしょうか。

鈴木副大臣 条約の定める中央当局の任務といたしましては、具体的には、子の所在の特定、子に対するさらなる害悪の防止、子の任意の返還または問題の友好的解決の促進、司法手続のための便宜の供与、子の安全な返還の確保など、ハーグ条約の実施にとって非常に重要なものが含まれております。

 こうした重要性というものをしっかり認識した上で、中央当局には、外務省、法務省から人材を適切に配置するほか、ソーシャルワーカー、弁護士といった各分野からの専門家も中央当局の職員として採用する考えでございます。

 先生の御指摘のございました専門家の配置につきましても、DV被害者支援や児童虐待防止などの業務に携わる人材を対象として公募を行っていくことも検討しております。

泉委員 ぜひ、その公募を行っていただきたいと思います。

 我々も、例えば自殺対策ですとか、あと障害者政策とか、そういったところでは、政権担当時には民間から募集をさせていただいて、そういった方に事務局長になっていただいたり参与になっていただいたりしましたけれども、そういうリアルな声を一番迅速につかんでいるのが、まさに現場で支援活動をしている方々だと思いますので、ぜひそういった方々を公募で採用していただきたいというふうに思います。

 今お話があったように、外務省、法務省から人を出して、そういった民間の方々も含めて中央当局を構成していくということでありますけれども、外務省や法務省、また裁判所の中にも、さまざまな法的運用ですとか実務面での課題をクリアするということで、それぞれワーキングチームみたいなものを設置していくべきだというふうに思いますけれども、その点は、各省、いかがでございますか。

鈴木副大臣 先ほど述べましたとおりに、中央当局には、外務省及び法務省からの人材のほかに、弁護士さん、ソーシャルワーカーなどの専門家を適切に配置することといたしております。

 御指摘のような法の運用や実務面での課題につきましても、法務省や裁判所などの関係府省庁、機関と密接に連携をしつつ、適切な体制を整備し、政府全体としてしっかりと取り組んでまいりたいと思います。

 政府当局として、関係府省庁、機関と密接に協力連携するわけでございますが、その中で、ワーキングチームというお話もございましたが、必要に応じ、体制の見直しについて検討してまいりたいと思っております。

泉委員 続いて、民間の団体からも要望が幾つか届いているわけですけれども、例えば全国女性シェルターネットさんとかからも要望をいただいております。

 その中では、子の所在の特定ということについてなんですが、離婚ですとか、あるいは海外から自分の国に逃れてくる中で、一つ、よく事例として挙げられるのは、DVを受けて、ほうほうのていで逃げてきたということがあります。しかし、DVが実際にどういう状況で行われて、それが公的に認められない状況の中でその国を離れて戻ってくるというケースもあるわけです。

 そういった意味では、なかなか真偽がはっきりしにくい状態もあるわけですが、今回のこのハーグ条約というのは、まずはその子がもといた国に返還されるということになっておりますので、子の所在の特定ということになるわけですけれども、しかし、一方では、例えば、父親のもとを離れて、母親に連れられて母親の住む国で生活を始めたという子供が、また急に所在を特定されて、また急にもともといた国に連れ戻されるということが一方的に行われるということは、やはり避けなければいけないというふうに思います。

 そして、子供というのは、とても敏感な世代でありますので、例えば、学校の前で、いきなり公的機関の方が立ち塞がって、あなたを連れ戻しにやってきましたなんということがあれば、それは子供の心理にも余りいい影響を与えるとは思わないわけでありまして、さまざまな面で慎重な対応が求められるんだと思います。

 そういった意味で、DV被害を訴えてシェルターに避難をしているというような親ですとかその子供の安全を確保するということは大事でありまして、国内においても、シェルターの存在というのは、所在地等々は明らかになっていないケースが多いわけですね。

 そういった意味で、中央当局が所在を特定する場合に、中央当局が所在を特定し、その住所に関する情報の扱いということですけれども、これは調停や審判のための情報のみに限定すべきだという意見がございます。そのことについてどのようにお考えになっているか、お聞かせください。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今委員からも御説明ありましたとおり、まず、ハーグ条約におきましては、各締約国は子の所在の特定のために全ての適当な措置をとる義務を負っております。その対象となる事案は、家事審判や調停等の裁判手続にはとどまりませんで、中央当局があっせんする当事者間の任意の解決等の措置も含まれております。

 これを受けまして、今御審議いただいております条約実施法案におきましては、中央当局たる外務大臣は、日本からの子の返還を実現するための援助の申請を受けました場合、必要と認めるときは、関係機関、団体に対して、申請に係る子及び申請に係る子と同居している者の氏名、住所または居所を特定するために情報の提供を求めることができる旨規定しているわけでございます。

 他方、同時に、先生からもまさに御指摘ございましたとおり、提供された情報につきましては、例えば、子供あるいは子供を連れ去った者がDVの被害者であるような場合、その居住地がDVのいわば加害者に知られることによってさらなる危害が及ぼされるような事態を生じさせないような注意も必要でございます。

 かかる観点から、実施法案の五条の四項におきましては、中央当局が得た情報は原則として開示してはならないということを定めておりまして、さらに、その住所状況等を提供できる場合を、裁判所が手続を行うときに住所が必要な場合という意味で、限定して書いてございます。

泉委員 それぞれの当事者にとっては、また支援をする方々がいて、両方とも善意で行動しているケースもあるかもしれません。そういう意味で、逆連れ去りみたいなケースも中には想定されるわけでして、この辺の生活の安心、安定が確保されるような状況の中で、和解なり調停なり、今後の審判が進んでいくという形にしていかなければいけない。連れ去りも、ない方がいいわけですが、逆連れ去りというものも、本当に振り回されるのは子供でありますので、そういったことがないような情報の管理、これを徹底していただきたいというふうに思います。

 続いてですけれども、在外公館、我が国も世界各国に在外公館があるわけですけれども、今後、現地におられる日本人、主に女性の方々が多いかもしれませんけれども、そういう方々から、外国人の伴侶、配偶者からDV被害を受けたですとか、あるいは離婚をしたいですとか、さまざまな相談あるいは支援要請がふえる可能性というのは十分あり得るわけです。

 しかし、我々、どこの大使館をお伺いしても、なかなか、何かのための人材を置いておくというのがとても難しい環境にあるわけですね。その辺の人員的な確保をどのように行っていくのかということがまず一つ。

 そして、人員が置けないまでも、相談記録等々の保存ですとか、これは、その後、例えばさまざまな審判をする際に、場合によっては証拠として使われるということもあるかもしれません。どういう被害に遭ったのかですとか、そういうようなことも保存しておければ保存をしていただきたいと思いますし、現地において、支援者ですとか弁護士の紹介、こういうこともお願いをしたいというふうに思います。

 さらには、一度本国に帰る、そしてもう一度渡航をして争うということも含めた、渡航や滞在に対するサポート、こういったものが当然なくてはならない。

 その拠点になるのが、よりどころになるのが在外公館だということになるわけですが、人員とこういった体制と、どのように考えられているのか、お聞かせください。

鈴木副大臣 外務省といたしまして、まず人員でございますが、ハーグ条約締約国に所在する各在外公館に対し、ハーグ条約関連業務に対応するための館内の役割分担につきまして具体的に指示をしているところでございます。これにより、領事担当のみに業務が集中することなく、公館幹部のもと、館内横断的に協力して対処していく体制が整っているわけでありまして、当面はそうした対応で対処していきたいと思っております。

 それから、もう一つの後段の御質問でございますが、国境を越えた不法な子の連れ去りを行う在留邦人、これは、DVや離婚等の夫婦間の問題に関し、現地で適当な相談機関、救済措置がないことを訴える例というのが多くございます。そのために、ハーグ条約締結に向けて、邦人からの家族問題に関する相談について適切に対応すること、これは先生の御指摘のとおり大変重要であると思います。

 そのために、具体的には、在外邦人におきまして次のような対応を、支援を行っているところでございます。

 その一つは、家族問題について相談を受けた際、相談記録を作成し、相談者本人が希望する場合に、当該相談記録を提供している。

 二つ目として、家庭内暴力や離婚等、家庭問題の相談に対して、任国の保護、救済制度を説明し、弁護士や福祉専門家、シェルターの紹介など、解決に向けた支援を行っていること。

 三つ目といたしまして、離婚や親権をめぐる裁判等のため、相談者が当該国に滞在する必要がある場合には、当該国の査証や滞在許可の制度に関する情報を提供していること。

 四つ目といたしまして、DV被害等のケースにおいて、現地の官憲の保護やシェルターが有効に機能せずに、邦人の生命や身体に差し迫った危険が及ぶ状況があり得るわけでありますが、そのような状況で帰国を希望する場合には、邦人保護の観点から、その緊急性に鑑みて、帰国のための渡航書を発給するという形での支援を行うこと。こういうことをいたしているわけでございます。

 条約を締結すれば、これらの支援措置は一層重要なものとなってくると思いますので、さらなる支援体制の強化に努めてまいりたいと思っております。

泉委員 ぜひ在外公館での支援をお願いしたいと思います。

 結婚されたときに、こんな支援がありますというところまでの情報提供というのはなかなか難しいかもしれませんけれども、事が起こってからということでは、場合によっては、さまざまな事案が埋もれてしまいかねないというか、支援が欲しいと思ったときに、なかなか支援にたどり着けないケースもあると思いますので、日ごろからの情報発信、情報提供と、在外公館の本来業務として、一つ今後はハーグ条約への対応がありますよということを広く在留邦人の方々に伝えていただきたいということもお願いをしたいと思います。

 そろそろ時間でありますけれども、もう一つ、日本国内において、監護していない親が子と面会交流を行うという場合もあると思いますが、子の連れ去り防止のための措置、これは、第三者の立ち会いですとか出国禁止あるいは旅券提出命令等々が可能なのかどうかということをお聞かせいただきたいと思います。

石田委員長 法務省深山民事局長。時間が参っておりますので、簡潔にお願いいたします。

深山政府参考人 本法律案の出国禁止命令の制度は、子の返還申し立て事件が係属している場合にのみ用いることができるものとされておりまして、お尋ねの、日本国内での面会交流を行う場合には用いることができないものとされています。

 その理由ですけれども、そもそも出国禁止命令というのは、海外渡航の自由に対する過度の制約ではないかという指摘もある中で、子の返還申し立て事件においては、子が出国することが却下事由とされている、手続が無駄になってしまう、こういうようなたてつけとなっていることから、これを防止するために必要性が特に高いということで設けられた制度です。

 これに対して、面会交流は、合意あるいは裁判によってその内容が定められた後に、子が成人に達するまで反復継続して行われるものでございまして、その実施のたびに反復継続して出国禁止命令を出すということは現実問題として困難でしょうし、また、成人に達するまでの間、ずっと出国を禁止するということになると、これはお子さんの海外渡航の自由に対する過度の制約になるのではないか、こういった議論がありまして、今申し上げたような結論になっているものでございます。

泉委員 終わります。ありがとうございました。

石田委員長 次に、辻元清美君。

辻元委員 民主党の辻元清美です。おはようございます。

 本日は、ハーグ条約の実施に関する法律案に関する質問、特に運用面につきまして質問をさせていただきたいと思います。

 先日から、そして先ほどの泉議員もそうですが、DVの問題、これは国際的に、日本人の女性に対する他の外国での被害だけではなくて、例えば、私の手元に、これはアメリカ人の女性がアメリカ以外の国外で国際結婚をし、そしてDVに遭った被害を訴える、要するにアメリカでのレポートも手元にあるんですけれども、このレポート、ハーグ条約とドメスティック・バイオレンスということで、アメリカの国内でも、同じようにアメリカ人の主には女性が被害に遭う場合が多いわけですけれども、レポートなどが提出されておりまして、国際的にやはりハーグ条約を締結する、そして国内で運用するという国々は、このドメスティック・バイオレンスの問題、かなり議論がされている、それを各国、世界じゅうで、どう、しっかりと対応していくかということが大事であるということ、さまざまな他の国のレポートからも明らかになっているところです。

 そこで、まず最初に、本来であれば連れ去りが起こる前に解決ができればよろしいわけですけれども、なかなかそうもいかないという事情で連れ去りが起こってしまうということですので、先ほどもちょっと、在外公館でのドメスティック・バイオレンス等での相談にどのように対応しているかという質問がございましたが、それをもう少し具体的にお伺いしたいと思います。

 日本の在外公館にドメスティック・バイオレンスなどの被害の訴えがあったとき、現状、今どういうふうになっているのか、それから、これからどういうようにさらに充実させていこうかという点をまずお伺いしたいと思います。

 この前の本会議でも、先ほどの御答弁でも、その国の支援システムを説明するとか、弁護士やシェルターの紹介を行うとか、領事業務を迅速化してサポートするとか、いろいろ御答弁があったんですけれども、それぞれの国、例えばアメリカでしたら、アメリカの民間のシェルターを運営していたり支援をしているNGOなどとの連携や、それから、民間というか、アメリカであればアメリカの弁護士さんたちとの協力関係とか、そういう踏み込んだ協力体制をどういう形でそれぞれの在外公館がとっていくことができるかという点が非常に重要だと思うんです。相談窓口を紹介するというだけで果たしていいのか。相談窓口を紹介されてもなかなかうまくいかないので在外公館に駆け込んできている場合も多いと思うんです。

 先ほど泉議員の質問の中でも、ちょっと自殺対策の国内での例の紹介がございましたけれども、今、国内でも、自殺に追い込まれる人たちの対策や、それからもう一つ、仕事につけない人たちの対策、ただ窓口を紹介するだけではなくて、パーソナルサポート、一人一人に寄り添って最後まで見届けるというか、紹介するだけではなくてその人が最後どうなったかというところまできっちりと見届けていく、そういう対応をすることによって国内でも自殺に追い込まれる人たちの数が減っていったり、それから、仕事について自立していく若者への支援の実績が上がっております。

 ですから、在外公館に相談が来たとき、単に相談窓口を紹介するとか弁護士さんを依頼するだけではなくて、どれだけ寄り添えるかというところが私は一つキーになるのではないかと思っております。

 そこで、先日の法務委員会でも、具体的に、在外公館における邦人保護については現地の支援機関との日常的な関係構築だけではなく、具体的な業務委託と財政支援が必要であるというように考えているという御答弁がございました。その一例として日本語での相談窓口をアジア人女性センター等に総領事から業務委託を開始したとかあるわけですけれども、こういうことが紹介されましたが、一時保護や同行支援についても同様に、それぞれの国のNGOなどとの連携や業務委託などまで踏み込む必要があるのではないかと私は考えるんですが、いかがでしょうか。

あべ大臣政務官 辻元委員にお答えいたします。

 本当に、DVの被害に遭われた方、その後のアフターケアというのは非常に重要だということは認識をしているところでございます。

 今外務省として現地でどうしているかということでございますが、家庭内暴力の被害者支援、さらには緊急シェルターの運営、カウンセリング、法律相談、裁判支援等を行っている関係団体、専門家の方々と今連携をいたしまして、日本人向けの活動を強化するなどの方策をとっているところでございます。

 ニューヨークの総領事におきましては、平成二十三年の十月より、ニューヨークアジア人女性センター、ここと業務委託契約を結びまして、援助及び支援を行っているところでございます。

 また、在ロサンゼルス総におきましても、平成二十四年十月よりリトル東京サービスセンター、ここと業務委託契約を結びまして、同様に援助及び支援を行っているところでございます。

 またさらに、本年度中には、ほかの在外公館とDV被害者支援団体との契約を締結いたしまして、委託先を拡大することを検討しているところでございまして、その選考の際には、日本人DV被害者の一時保護、また裁判所などの付き添い支援の支援を行うことができる団体を優先することも検討していきたいというふうに思っているところでございます。

辻元委員 もう一つ、今専門家というお話があったんですけれども、いろいろ各国の事情などを調べてみますと、在外公館がその国のDVなどに詳しい弁護士と委託契約をするとか、かなりきめ細かに踏み込んでいるところもあるようなんですが、そういうことは政府としてはお考えになっているんでしょうか。

あべ大臣政務官 辻元委員にお答えいたします。

 在外公館における相談対応、また支援体制の強化は非常に重要だというふうに認識をしております。

 外務省平成二十五年度予算においては、在外公館による家族法の専門の法律家、弁護士への諮問経費を計上しているところでございまして、特に、在外公館におきましては個別の案件について在留邦人から相談を受ける場合、領事がアドバイスをすることが難しい事案におきまして、領事が家族法の専門の法律家、弁護士などに迅速に相談できる体制を整えているところでございます。

辻元委員 そういうその国の専門家なり外部との協力ということと、それから、在外公館のスタッフの専門性を高める教育。これは、私、先ほど申し上げました、ハーグ条約プロジェクトというのを米国の専門家たちが立ち上げて、そして、米国立司法研究所に、アメリカ人の女性の被害についての対応などのわけですけれども、レポートを読みまして、それぞれの在外公館の果たす役割がいかに大きいか。

 いろいろなアメリカのケースも、アメリカの世界じゅうの在外公館に駆け込んでいるわけなんですね。そうすると、外の協力、弁護士さんとかその国の専門家だけではなく、在外公館のスタッフが、例えば一例なんですけれども、ここで紹介されております。

 米国大使館が決定的な役割を果たして、彼女、そのアメリカ人の女性が子供を連れて、米国に、DVが認定されて、帰国する手助けをした。その際に、夫からパスポートを隠されたりいろいろなことがあるわけですが、大使館員が中心になって、コーディネーターになって、いろいろな、弁護士さんであったり、それからDVの専門家であったりというところ、それから病院にも付き添って診断書をとったりするところまでコーディネーターのような形で在外公館の担当官が面倒を見ていくというか、寄り添ってサポートしていく。こういう役割を強化していくことが、連れ去る前にというか、このハーグ条約で国内に戻ってきて、そして、探してというか対応する前にこういう手厚い支援をしていくことが、私は一つ大きな、重要なポイントになると思います。

 在外公館に出されるスタッフの研修や専門性を高めるということについては、今後どのように対応をさらに強化していこうとされているんでしょうか。

あべ大臣政務官 辻元委員にお答えいたします。

 やはりドメスティック・バイオレンスに関しましては、非常に、アセスメント部分、さらには支援体制に関しては、これは日本全体が実はまだまだこの教育部分は足りない部分でもございます。そうすると、チームで一体どのような支援が行えるのかということが私は重要だというふうに思っております。

 今、在外公館における相談対応、また支援体制の強化は非常に重要だというふうに認識しておりまして、また、海外の現地事情に詳しくて、DV被害、児童虐待に対応している支援団体と在外公館の間では既に連携を図っているところもありまして、ワーキングチームとして、どのように連携していくかのところは有効に機能しているのではないかと思っているところでもございますが、さらなる強化も必要であるとは思っております。

 また、DV、児童虐待の専門家を含むワーキングチームをつくるよりも、むしろ現地のこういう団体と在外公館との間の連携を強化していくということも重要ではないかというふうに思っておりまして、相談者に迅速に団体を紹介できるようにするなどの取り組みを積極的に進めていく。今後とも、さらなる支援体制の強化にも努めてまいりたいというふうに思っております。

辻元委員 そうしますと、連れ去りが起こる前に相談を受けたりすると、在外公館もその邦人の情報をかなり持つことになるかと思うんです。いつ相談が来た、そして、どこに照会をした結果こうだったとか、病院からこういうような証明書があるんですけれどもという相談を受けたり。

 仮に、その邦人が日本に子を連れて、いわゆる連れ去りをして、ハーグ条約から、相手国の中央当局から日本の中央当局に連絡が来た場合、この邦人がその国で裁判等をする場合に、相手国の中央当局に対して、それを立証する協力要請を日本の中央当局は出すことになりますよね。

 この際に、日本の中央当局が相手の国の中央当局に対して、この邦人の案件を扱う情報提供の協力要請をするというふうになっているわけですが、このとき在外公館は、この邦人が米国だったら米国で裁判なり、その後、子の連れ去りの案件を解決していくに当たって、今までDVなどの相談を受けていた場合の情報は全て、相手の中央当局との関係でいえば、その在外公館が持っている情報はどういうように提出し、それを有効に活用していくことができるのか、それはどういうようになっているんですか。

あべ大臣政務官 辻元委員にお答えいたします。

 御指摘のような場合におきまして、我が国中央当局は、子がもともと居住していた国の中央当局に対して調査を要請することになります。具体的にどういう情報がどういう機関から得られるのかについては個別の事案によって異なっておりまして、一概に申し上げることはできないものの、我が国のハーグ条約締結の準備段階におきまして、主要締結国の中央当局との間で協議を行った結果、調査に対する協力につき、前向きな回答がおおむね得られているところでございます。

 現在の条約の締結国が、またほかの締結国からの要請に応じて情報収集さらには情報提供を行っている例としては、例えば以下のようなものがございまして、ドイツでは、ほかの締結国から中央当局に対して子の社会的背景に関する情報提供が要請された場合、中央当局は少年局に依頼を行いますけれども、そのような場合、少年局は、ドイツの国内法によりまして、子の社会的背景及びその生活環境について情報を提供する義務を負っているところでございます。

 もう一つ例を挙げますと、またフランスにおきましてでございますが、ほかの締結国から要請がございますれば、中央当局は検察官にその旨連絡することになっておりまして、検察官は子の就学情報また社会福祉情報などの必要な情報を収集することになります。

辻元委員 どちらにいたしましても、その当事者にとっては人生を左右する案件で、それぞれのもとの居住国の在外公館の情報収集能力というか、それから寄り添う姿勢みたいなものが、そしていざこのハーグ条約によって、仮に連れ去って、もとの居住国での裁判などになった場合も非常に大きな役割を果たすと思いますので、その在外公館における担当者の教育であったり研修であったり、そこはさらに力を入れていただきたい。非常に大きなポイント、どこの国でもそこがやはりポイントになっているんです。

 相手国に頼んでも、やはり相手国ですから、在外公館がしっかりしないと、コーディネーターのような役割を担える人物がしっかりそれぞれ対応していく体制をとっておかないと、この案件はやはり子にも大きな影響を及ぼすと考えますので、そこはしっかり強化をしていただきたいと思います。

 先ほどもう一つ、代替執行についての話がありました。これは、ハーグ条約を受け入れている国は全て代替執行というのがあるんでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今私どもが承知している限りで、他のハーグ条約の締約国におきまして、我が国と同様の代替執行の制度があるとは承知しておりません。

辻元委員 日本は、これはどういう経過でこういう措置をつくったんでしょうか。

深山政府参考人 子の返還が裁判所で命ぜられて、それが確定したときに、それを実効的に実現するためにいろいろな我が国の強制執行制度の中で考え得るものとして、間接強制があり、代替執行があり、理屈の上では直接強制もあるという中で、ハーグ条約の実施法でどういう形で日本の国として担保するのが適当かということが法制審議会で議論になりまして、まずは、子に心理的影響の少ない間接強制、帰さなければ一日幾ら払いなさいという形で心理的に強制するという形で履行を強制するのがいいのではないか。

 しかし、それだけでは、ほかの国でも、日本と同じような代替執行の仕組みがあるところがあるわけではないんですが、この間接強制だけという国もまた先進国は少なくて、さらに間接強制でうまくいかない場合の次なる措置、国によっては身柄を拘束するなんという制度もありますし、執行官が連れていってしまうというような仕組みもありますけれども、日本の強制執行制度との調和ということを考えたときには、日本では、代替執行に特則を設けた、今回の法律に盛り込んだようなシステムを代替執行の次の執行の手続として設けるのが適当である、そういうことでこういう特殊な手続を設けたものでございます。

辻元委員 先ほどの質問の中にも、第二の連れ去りという言葉もございましたように、一旦、一方の親と、女性の場合が多いと思いますけれども、戻り、そしてもう一度、もと住んでいた国に帰るということの子に及ぼす影響というところは、十分配慮がなされるようにということで、先日からも、慎重な対応が求められるという姿勢の御答弁はあります。

 その中で、中央当局で採用するソーシャルワーカー等の子の福祉に関する専門的知見を有する職員が代替執行の場面に立ち会う、返還実施者が安全に子を返還することができるよう国内での移動に同行するといった協力という御答弁、これは岸田外務大臣の御答弁でした。

 私は、このソーシャルワーカーなどの専門家に聞いてみたんですね、今回このハーグ条約関連の質疑をするに当たって。そうしましたら、非常に心配だという声が返ってまいりました。こういう案件の研修であったり、それから、事案についてのいろいろなケースのヒアリングであったり、そういうこともまだなされていませんので、非常に心配だという話を現場からは聞いております。

 そういう意味で、その中で、ソーシャルワーカー、具体的に社会福祉士とか精神保健福祉士の皆さんなどを指すというように理解しているんですけれども、そういう方々もやはり、今回、こういう案件をどのように対応すればいいのか、研修が必要だと思います。

 そしてさらに、法務省や外務省というのは、協力しながらとよく出てくるんですが、厚生労働省もやはりきちんとチームの中に入ってもらって、そして、ハーグ条約事案に対応し得るソーシャルワーカーの研修の創設とか、それから、そういう研修を受けたソーシャルワーカーをきちんと配置していく、政府が把握しておくというようなことが必要ではないか、この点はいかがかという点。

 それからもう一つ、トラウマがもう一つの大きな問題になるかと思うんですけれども、子供たちのそういう事案に精通した児童精神科医とか児童カウンセラーなどの立ち会いなども求められる場合があるかと思いますけれども、このハーグ条約についてしっかりと理解をしていただく、そういうチームが必要ではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生からも御指摘ございましたとおり、ソーシャルワーカーといいますと、一般的には国家資格である社会福祉士等を指すものと理解しております。ただ、先生から御指摘いただきましたように、まさに今回このハーグ条約に入りましたとき、特に子供の連れ去り事案との関係では、DVあるいは児童虐待等の被害等の支援業務に携わった経験のある専門家の方を御差配することを考えることも必要だと思いますし、あと厚生労働省とも協議、調整をしていきたいと思っております。

 単に社会福祉士、ソーシャルワーカーというだけではなくて、児童のDV、児童虐待、あるいは先生から御指摘があった児童精神科、やはり、子の福祉に関する専門的な知見がないと、なかなか実務をしていく上で支障があると思いますので、それは厚労省とも相談をし、また、そういう経験あるいはそういう知見があるソーシャルワーカー等の方を採用できるように、必要があればお話し合いもしていきたいと思いますし、やっていきたいと思います。

辻元委員 いろいろな子供たちのケアは必要なんですけれども、非常に複雑だと思うんですよね。ですから、そこはちょっと厚労省も入れて、しっかり対応していただくよう検討してください。

 それからもう一つ、この代替執行の執行マニュアルというものをつくっていくというような御答弁が先日の法務委員会でございました。このマニュアルの作成の検討をされていると思いますけれども、この場合も、子の心身への有害な影響、虐待、DV等の専門家も入れてつくっていくべきだと考えておりますが、これはどのように検討されておりますか。

永野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 御質問いただきました執行官のマニュアルの作成に当たりましては、委員御指摘の点も踏まえて、中央当局を含む関係省庁と十分な協議を行うとともに、家庭裁判所に専門家がおりますので、その意見を聴取するなど、家裁が保有しておりますこの分野における専門的知見を十分に反映する形で進めてまいりたいと考えております。

辻元委員 その際、日本でも、このDVや児童虐待について、政府での取り組みも少しずつ認識され、進んできたわけですけれども、もともとは、やはり民間のいわゆるNPOなどがいろいろな支援を始める中で、私たちも当時、児童虐待に関する法律をつくろうという運動が盛り上がっていったケースがありまして、国内を含めまして、かなり専門性を持ったNPOも、実態に即した解決策など、悪戦苦闘している人たちもおりますので、私は、そういう人たちも入れてつくっていくことが肝要ではないか、現場にさらに即したものになるのではないかと思っておりますので、そういうこともぜひちょっと念頭に入れて検討していただきたいということは申し上げておきたいと思います。

 そしてもう一つ、もう一度在外公館の機能の話なんですが、子供が返還された場合なんですね。返還された子の状況が、送り返された国において安全で安定した生活が送れるようになっているのかということを、最低三年ぐらい継続して実態把握といいますか、そういう案件を取り扱うわけですから、実態把握をして、そして、そういう支援を現地の機関に委託したり、そういうこともケアしていくべきではないか。

 先ほど寄り添いということを申し上げましたけれども、はい、返還して終わりと言ったら変なんですけれども、ではないと思うんですね。その子供が、やはりある一定期間安定した生活が送れるところまで責任を持つというか、持たないと、この件はこれで、返還して、ここまでですというわけではないと思います。

 ですから、そういう実態把握を行ったり、これは在外公館の役割になるかと思いますが、それをまたフィードバックして、今回、この法案の審議をしていますけれども、運用の見直しであったり法律の見直しであったり、やはりその実態の調査に基づいて適切に行っていくべきだと考えていますが、その後のケアは在外公館では何か検討がなされているんでしょうか。

あべ大臣政務官 委員の質問にお答えいたします。

 ハーグ条約の子の返還手続のもとにおきまして、子がもともと居住していた国に返還された後、仮に、子や子とともに戻った親が、DV被害、また児童虐待を含む何らかの家庭内の問題に巻き込まれるおそれがある場合、また実際に巻き込まれた場合におきまして、在外公館は、こうした当事者からの家庭問題の相談に対して適切に対応し、また、その国におきます保護、救済制度を説明し、弁護士や福祉専門家、シェルターの紹介などの解決に向けた支援を実施しているところでございまして、また、外務省といたしまして、これらの対応を通じまして実態把握に努め、得られた経験をその後のハーグ条約のより適切な実施に活用していく所存でございます。

 また、この調査の件でございますが、在外公館みずからが有する情報、これを提供することは可能でございますが、この独自の調査に関しましては、相手国関係機関による個人情報の保護との関係が生じるためになかなか難しい部分もございますが、いずれにせよ、在外公館に相談がありますれば、現地にて適切な支援機関の協力を得られるように側面支援を行っているところでございます。

辻元委員 このDVの問題などは、国内でもまだまだ対策が必要で、そして、日本の在外公館も、今までも十分な対応ができていたかというと、決してそうではない、難しい部分だと思うんですね。

 ですから、今度、ハーグ条約ということになりますので、さらに在外公館の役割が重要になるかと思いますので、この点は引き続き、また法務委員会でも扱ってまいりたいと思います。

 時間が参りましたので終わります。ありがとうございました。

石田委員長 次に、田嶋要君。

田嶋委員 田嶋要です。

 この間、いろいろなニュース、新聞記事、あるいはいろいろな方のお話を伺っておりまして、先日の参考人質疑も含めて、いろいろな不幸な形があるのだなと改めて学ばせていただいたわけであります。

 特に女性の方々、団体等からはDVの話がございますが、それが恐らく一番数的には多いかもしれませんが、それの枠にとどまらない、さまざまな悲しいケースが世界じゅうにあるということを知って、問題の根深さというか、そういうものを感じさせていただいたわけでございます。

 そういう中で、条約の方は衆議院で承認されたということでございますが、改めて、まず外務省にお伺いしたいんですけれども、そういったいろいろなケースがある中で、この条約と法律というのがどういう意味で国益にかなうのか、どういう意味でこれに我々が入るのが大事なのか。その点、改めて、基本的なところでございますが、御答弁いただきたいと思います。

鈴木副大臣 失礼いたしました。

 ハーグ条約を締結することは国益にどのようにかなうのかということでございますけれども、ハーグ条約は、子の利益が最重要であるとの認識に基づいた、国際的な子の連れ去り等の問題を解決するために作成された、今や国際的なルールとして確立をいたしております。米国や欧州各国から我が国に対し、ハーグ条約の早期締結についての要請がなされていることは事実であります。

 しかしながら、日本人の国際結婚及び国際離婚が増加するに伴って、外国から我が国に不法に子を連れ去った事例のみならず、我が国から外国に不法に子が連れ去られた事例も多く見られるようになっております。

 このように、我が国国民が当事者となっている子の不法な連れ去り問題に待ったなしに取り組むという観点から、ハーグ条約の早期締結は国益にかなうものと考えております。

田嶋委員 少し長い国益のお話でございます。

 先日、法務大臣の御答弁で、国が守ってくれるという法律ではない、技術的法律だというふうにおっしゃいました。その国が守ってくれる法律ではないという点は、若干、聞いている方からすると、非常に突き放されたような、あるいは、苦しんでいる方からすると、自分たちにとっては不利な中身になっているんじゃないかというふうに思う方も多いと思うんです。

 今国益の話があったことと若干矛盾するような感じもいたしますけれども、もう一度、どういうふうにお考えかを改めてお願いします。

谷垣国務大臣 四月十二日のこの委員会の質疑で、私は確かに、この法律は離婚して帰ってきても国が守ってくれるという観点から理解すべき法律ではなく、技術的な法律だと捉えているというふうに発言いたしました。若干舌足らずなところがあったかなと実は思っております。

 この趣旨は、ハーグ条約は監護の権利を侵害する子の連れ去りあるいは留置があった場合に、原則として子を常居所地国に戻して、そしてその手続をどうするかということを定めるものであって、子の親権や監護権に関する争いは、返還された後に常居所地国においてその国の法律に従って解決されるというのがこの法律の基本構造だというふうに私は理解して、そのための手続等の条件整備を定めるのがこの法律だ、そういう趣旨をああいう言葉で表現したんですが、若干舌足らずのところがあったかなと思っております。

田嶋委員 御説明を今いただきました。

 やはり、一緒に、世界の中で調和のとれた形で問題解決、もう待ったなしだというお話は私も賛同するところでございますけれども、であるならば、なぜ今日までこんな状況が長く続いてしまったのかというのも、やはり多くの人の疑問点であると思います。

 これまで政府はこの問題に関しては何度閣議決定をいつされたのかということを、確認で御答弁をお願いいたします。

鈴木副大臣 政府がハーグ条約について閣議決定をしたのは二回ございます。

 一回目は、民主党政権下において、昨年の三月九日閣議決定を行い、条約及び条約実施法案を第百八十回国会に提出いたしました。二回目は、本年の三月十五日に閣議決定を行いまして、条約及び実施法案を今国会に提出しているところであります。

田嶋委員 お配りした資料の一ページに、結婚、離婚の数のデータもございます。誰でも知っているこういう状況が我が国を取り巻く数字でございますけれども、やはり余りに対応が遅過ぎるというふうに言わざるを得ません。

 これまで締結はしないという判断を政府で行ったことはないというふうな御説明もいただいたわけでございますが、きのうきょう何か劇的に状況が変わっているという問題は何もないわけでございまして、そういう意味では、私ども民主党政権がようやく閣議決定をしたにもかかわらず、そのときには国会の状況の中で、当時の谷垣総裁もいろいろな役割があったかと思いますけれども、残念ながら結果を出すことができなかったということは、改めて大変残念であるということも申し添えたいというふうに思います。

 この条約を締結すると、そういう国益にかなっているということでございますが、具体的には、締結をしない場合との比較において、紛争解決というものに関して、例えばどういうふうに進展が見られるのか、必要な日数、そういったものに関してはどういうことを期待されておりますか。

鈴木副大臣 ハーグ条約がまだ未締結の状況でございますが、その現在において、そもそも事案解決に至っていない例も多数存在すると考えております。残念ながら、実態も十分明らかではございません。

 条約締結によりまして、個別の事案の解決のため、関係国の中央当局が協力することが可能となって、さらに、子の任意の返還や友好的解決が困難な場合、連れ去られた子のいる所在地の裁判所が子の返還適否を判断するということが可能になります。

 したがいまして、問題解決に要する日数が何日減るかという観点ではなしに、国際的ルールに従って、子の不法な連れ去り等の問題を効果的に解決することが可能になる、それが国民のメリットになるというように理解すべきものであると思います。

 比較ではございませんけれども、各国の問題解決に要する時間、これはハーグ条約を締結している国でありますけれども、ハーグ国際私法会議二〇〇八年の統計分析報告書によれば、任意の返還の場合には平均百二十一日、返還命令の場合は百六十六日、返還拒否の場合には二百八十六日が要されたと記されております。

田嶋委員 そこで、先日、参考人の方、五名来ていただきまして、いろいろなお話もお伺いさせていただきました。そのお話もお伺いしておりまして、例えば、中央大学の棚瀬先生のお話なども、本当になるほどなと思って聞いておったわけでございますが、改めて外務省にお伺いをいたします。

 ちょっと質問通告に入ってございませんでしたけれども、この条約も国内法も、返還が原則だということで間違いございませんね。

鈴木副大臣 そのように理解しております。

田嶋委員 その返還が原則の中で、返還拒否できるケースというのが書いてあるわけでございまして、条約があって、その条約に準じた形で法律、国内法の法案の文言があるわけでございますが、もう一つ確認なんですが、その拒否の要件というのを、条約で決めている要件を国内法で広げるということは国際的に認められているんでしょうか。

    〔委員長退席、土屋(正)委員長代理着席〕

鈴木副大臣 それは認められていない、条約の枠内でということでございます。

田嶋委員 参考人の方から少しその辺の懸念も発せられておりました。文言でしょうけれども、非常に深刻な場合というものの非常にが落ちているみたいな、そういうような話で、表現上の懸念を表明されておられたと思っております。

 では、今の御答弁で、条約の決めた、こういう場合は認めるというものを、どういう書きぶりにせよ、それを広げる意思は政府としてはないということでよろしいですね。

鈴木副大臣 条約の枠内で定めるということでございます。

田嶋委員 それでは、今、大原則の部分は確認させていただきましたので、少し個別の話をお伺いさせていただきます。

 同じく外務副大臣にお伺いしますけれども、この遡及のことでございます。

 今、新聞記事等でいろいろ出ているさまざまな事例、二百件ほどあるとかという数字も見聞きするわけでございますけれども、この条約とこの法律が適用となる事例というのは、いつからの事例だと考えたらよろしいのでしょうか。

鈴木副大臣 子の返還に係る条約の規定は、これは条約の効力発生後に行われた子の不法な連れ去りまたは留置にのみ適用されます。したがいまして、条約の効力発生前に行われた子の不法な連れ去りまたは留置につきまして、子の返還に関する援助を申請することはできません。司法手続において返還が命じられることもございません。

 ただし、条約の効力発生前に、相手親の同意や裁判所の許可を得るなどして、いわば正当に日本に子を連れて里帰りしたようなケースであっても、滞在中に条約の効力が発生し、その後に、事前の合意に反して子をもとの国に戻さない場合には、不法な留置に該当することになり、条約の対象となります。

田嶋委員 特に、DVを実際受けられたということで日本国に逃げ帰っているお母さんと子供さん、そういう事例が大変数多いと思いますが、そういたしますと、今、いろいろ新聞報道とかで書かれておるそういう事例は、基本的には、ほとんど適用されるケースはないということで理解してよろしいですか。

鈴木副大臣 そのように理解しております。

田嶋委員 では、そういうケースは、今後、どういうようにその紛争というのは解決をしていくということなんでしょうか。

 これは、今、日本はまだ入っていないわけですから、入っていない状況から締約国になる、その過渡的な状況の中で起きる現象かと思いますけれども、今、二百件ほど日本がほかの国との間でこういう問題が起きているという話でございますが、基本的にはこの条約は無関係だということになりますね、そういった方々にとっては。これからどういうような紛争解決を行っていくということでしょうか。

鈴木副大臣 そうした事例につきましては、それぞれの国内の法令に従って友好的な解決が図られるよう、政府としても可能な限りの支援を行っていきたいと思っております。

 具体的には、子が連れ去られた国の現行制度の活用の推奨、親が子と会えない場合に領事が子と面会し、状況を確認する領事面会を外務省として側面支援すること、情報共有を目的とする二国間の連絡協議会を通じた対応等を行うということでございます。

田嶋委員 そういたしますと、今おっしゃった面会交流に関しては、いつの事例からこの条約と国内法が適用対象になるということでしょうか。

鈴木副大臣 面会交流につきましては、条約の効力発生後に子との接触の権利が侵害されているということが要件となります。

 したがいまして、条約の効力発生前に子の連れ去りまたは留置が生じた事案については子の返還申請はできないものの、会うことのできていない子に会いたい、連絡をとりたいなどの子との接触の権利が条約の発効後に侵害されている場合には面会交流に係る支援を受けられることになっております。

田嶋委員 ということは、先ほど申し上げた、今存在すると言われている二百件ぐらいの事例は、この条約と法律が成立しても、常居所地国に戻すという話に関しては全く無関係だけれども、しかし、面会交流に関しては、ある意味、本人たちは多分嫌だと思っているわけでしょうけれども、それでもそれはもう拒否できないということになるわけですね。

鈴木副大臣 面会交流については、この法律のもとでの支援を受けられるということであります。

    〔土屋(正)委員長代理退席、委員長着席〕

田嶋委員 支援を受けられると言いぶりは面会したいと思っている方から見た場合の言い方ですけれども、逆にお母さんと子供が日本に逃げ帰っている、大変なDVを受けたという方々から見れば、それは望まなくても面会交流は、この法律ができてハーグ条約締約国になれば、そこはもうこのルールにのっとって面会交流をさせられることがあるということですね。

鈴木副大臣 制度として支援を受けられるということでありまして、決して義務ではないということでございます。

田嶋委員 それでは、返還の拒否の事由というのがいろいろ書いてございますけれども、その返還の拒否の事由というのと面会交流の拒否の事由というのは、これは一致させられているんですか。

鈴木副大臣 それは別の仕組みだということでございます。

田嶋委員 では、この面会交流、もう一つだけお伺いしますけれども、もし米国にいる配偶者が面会交流を申し立てすれば、中央当局、外務省が、日本に逃げ帰っている親子、お母さんと子供を、居場所を見つけられて面会を強制されるというようなことはあり得るのかどうか、確認です。

鈴木副大臣 条約の仕組みとしてはありません。

田嶋委員 ということは、今存在する約二百件のケースも、いろいろな思い、男親側、お母さん側、思いは真逆かもしれませんが、では、この法律ができて条約締約国になっても、先ほどの話で、本国に戻される話はない、対象外であるし、そして、この面会交流も強要されることはないということで確認させていただいてよろしいですね。

鈴木副大臣 それで結構でございます。

田嶋委員 あと何点か、拒否の要件について伺いたいと思います。

 過去の子や妻への暴力というものの実証でございますが、その実証ができれば、将来にその可能性があるということを実証したことと同義になるのかどうか、確認させてください。

谷垣国務大臣 過去の家庭内暴力の事実を立証したからといって、将来の家庭内暴力を受ける可能性を立証したということには、理屈の上では、論理的にはそうではないんですが、しかし、実際問題として、将来の事実を直接立証することはできませんので、通常は過去の事情あるいは現在の状況から将来の事情を推測するという手法によらざるを得ないのではないかと思います。二十八条第一項第四号に規定する子の返還拒否事由の存否というのは、通常はそういうことによって判断されるということだろうと思います。

 そのため、子の返還申し立て事件の相手方としては、例えば、子供を常居所地国に返還した場合に子や妻が申立人から暴力を受けるおそれがあるということを示すためには、過去にあった事実、申立人から暴力を受けたことを示す資料等を出して、裁判所は、一般論としては、こういった資料に基づいて事情、有無を判断するということになるだろうと思います。

田嶋委員 そうすると、過去の暴力の実証というのは、誰がその実証の責任を負うということでしょうか。

谷垣国務大臣 これは今度の法律の七十七条二項で、子の返還拒否事由に関する資料は子の返還申し立て事件の相手方において提出すべきものとされております。ですから、基本的には相手方が提出するということになるわけですが、もっとも、事情によっては相手方が裁判資料を提出するということが困難な場合も想定されるわけで、こういう場合には、裁判所が中央当局に対して調査嘱託をするというようなことを通じて国の行政機関や在外公館等から必要な資料を収集するといった、裁判所の職権で必要な調査をすることが認められている、これは七十七条第一項でございますが、そういう仕組みになっております。

田嶋委員 それは相当昔のそういう事例に関して、今おっしゃったのは、相手方というのは、例えば日本に逃げ帰った場合はお母さんと子供だからお母さん、そういう意味でございますよね。そのお母さんにアメリカで過去に自分がDVを受けたことを証明する一義的な責任がある、そういうことでございますか。

谷垣国務大臣 そういうことです。

田嶋委員 それが可能な場合はほとんどないんじゃないかなというふうに思うわけでありますけれども、後段の方でおっしゃっていただいた、そういう意味では、政府が情報収集に中心的に、協力的に活動、役割を果たす、そういう認識でよろしいですか。

谷垣国務大臣 はい、そういうことです。

田嶋委員 言葉上では可能かもしれませんが、現実的には本当に難しいことではないかなというふうに大変懸念をいたすところであります。

 それからもう一点、確認でございますけれども、「子に心理的外傷を与えることとなる暴力等」というふうにありますけれども、この「暴力等」というのは具体的にはどういう暴力を指しているのかということを御答弁お願いします。

谷垣国務大臣 二十八条二項第二号「子に心理的外傷を与えることとなる暴力等」、例えば子の返還申し立て事件の申立人が相手方に身体的暴力や心理的圧迫を加えて、そしてその状況を子が目の当たりにしているような場合、あるいは、申立人が相手方に子のいないところで身体的暴力や心理的脅迫を加えた結果、相手方が精神的に不安定な状態に陥って、それが子の心身にも悪影響を及ぼすような場合、こういったことが考えられると思います。

田嶋委員 これは子供に対するということではない、間接的なケースかと思いますが、先ほどと同じように、立証していくのが大変困難ではないかなというふうな懸念を持ってございます。

 もう一点確認させていただきますが、親が刑事訴追を受けている場合には、当然にその拒否事由に該当するというふうに法律は理解してよろしいんでしょうか。それとも、刑事訴追の取り下げが決定をされたら、その時点からは拒否はできないというふうに理解したらよろしいんでしょうか。

谷垣国務大臣 相手方が刑事訴追されて、かつ、帰国後、相手方が身柄拘束される可能性が高い場合には、常居所地国においてみずから子を監護することが困難となると考えられますので、二十八条第一項第四号の返還拒否事由の有無を判断するに当たって考慮すべき事情である「相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」に当たり得ると考えます。

 それから、お尋ねの刑事訴追の取り下げが決定された場合については、これは個別の事案ごとの裁判所の判断になると思いますが、具体的に逮捕や刑事訴追による身柄拘束の可能性が全くなくなったと認められるときは、刑事訴追を受けたことは、二十八条二項第三号に言う「相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情」には当たらないということになると思います。

田嶋委員 それでは、あと一問ぐらいかと思いますけれども、国内の課題についてちょっとお伺いしたいと思います。

 こういう条約とそれから国内法の整備というのは、国際的なこういうケース、離婚に伴う不幸なケースをいろいろ扱おうということであるのは言うまでもないわけでございますが、その結果として、国内の離婚、連れ去りというのもあるわけですが、そういった国内のケースとの間に扱い上のバランスを失するようなことというのは起きないのかどうか。

 具体的には、国境をまたがずに国内で連れ去った場合に、このハーグ加盟後の中央当局というのは、国内連れ去り事案に関しては居所を探すというような業務を行うことにはなるんでしょうか。

鈴木副大臣 ハーグ条約は国家間にまたがって生じている事案について規律をするものでございまして、国内連れ去り事例は本条約の対象とはなりません。

 したがいまして、国内連れ去り事例に関する業務を中央当局が行うことはございません。

田嶋委員 そういう国内の事例と国際的な事例で、今後政府の役割が変わってくるわけだと思いますけれども、それは当事者からすると非常に不思議な感じがするんですけれども、そこは政府はどういうふうにお考えなんですか。

谷垣国務大臣 ハーグ条約を締結しますと、国境をまたぐ子の連れ去り事案で、中央当局による相手方の所在調査が可能になる、しかし、国内における事案では、この相手方の所在調査の仕組みがない、だからダブルスタンダードではないか、こういう御議論があるわけですね。

 それで、国内において子の連れ去りが行われた場合には、その後、裁判等におきまして子の監護に関する紛争そのものについての解決が図られることになるわけです。これに対して、ハーグ条約は、子の監護に関する紛争そのものについて解決する手続を定めたものではない。その前提として、子の監護に関する紛争を解決するために、まずは常居所地国に戻しなさい、その手続を定めるものでございます。だから、その手続は性質を異にするということだろうと思います。

 それから、国内における子の連れ去り事案について国が相手方の所在調査を行うことについては、これは私人間の紛争に国家がどの程度まで介入するかという問題を解決しなきゃならないわけでございますが、これはハーグ条約の締結とは別に、いろいろな議論が必要なことだろう、慎重な判断が必要ではないかと私は思います。

田嶋委員 国際的な場合も私人間の紛争のような感じもいたしますけれども、時間が来ましたので、きょうは以上にして、終わりにします。ありがとうございました。

石田委員長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 よろしくお願いいたします。

 ハーグ条約については、官房長官を仰せつかっているときに、法務省と外務省に早くせいとせっついた側でございますので、中身については全く異論はございませんが、その前提で、幾つかの点について確認をさせていただきたいと思います。

 今、田嶋議員の質問でもポイントになっていました二十八条一項四号、これがどう使われるのかということが当事者の皆さんにとっては大変関心の高いところだろうと思います。

 いろいろ議論されていますが、改めてここで、「重大な危険があること。」を要件としています、この「重大な危険」の意義について、これは政府参考人の方からお答えください。

深山政府参考人 ここで言う「重大な危険」というのは、子を耐えがたい状況に置くこととなる危険性の程度が重大であるということを意味するものです。重大な危険があるか否かについては、結局のところ、裁判所が個別の事案に応じてさまざまな考慮事情を総合的に考慮して判断せざるを得ない、そういう抽象的な概念でございます。

枝野委員 まさにそこの危険性の程度、つまり、危険が、重大な、とんでもないことが起こる可能性が高いことを求められるのか、それとも、起こったら大変なことになるよねということが求められているのか、これは大きな違いです。

 先ほど来、海外の事情、なかなか証明することが難しい。一般的に、民事事件においては、証拠の優越があればそれで証明されると。可能性が高いことは求められていない、可能性があって、それが生じたときには大変深刻なことになりそうだ、こういう意味であるというふうに理解しているんですが、それで間違いないですね。後ろの方の方、うなずいていただいているんですけれども。

深山政府参考人 御指摘のとおりだと思います。

 分析的に言えば、危険、英語ではリスクですね、リスクが重大であるということですので、何らかのことが起こる可能性が高いということではなくて、非常に大きなリスクが発生するということで、リスクの程度をあらわしているのだと思います。

枝野委員 ここは大事なポイントだと思います。あくまでもリスクの大きさの問題であって、可能性の高さではないということは大事なポイントだと思いますが、それでも、先ほど田嶋議員の質問にお答えをいただいたとおり、海外での証明の程度を高く求められると、実際には意味のない規定になりかねません。これは、しっかりと、今の趣旨を踏まえた運用がなされると。これは、最終的には裁判事例ですから、法務大臣にお答えを求めるのはなかなか難しいところがあるんですが、でも、法務大臣も今のような解釈を前提にしている等のお答えをいただければ、それはいざというときには国会議事録を法廷に証拠で出せるかもしれませんので、法務大臣のコメントをお願いしたいと思います。

谷垣国務大臣 今民事局長からもお答えしましたように、今の二十八条第一項四号の事由を立証することは、まず相手方が裁判資料を出すことになるわけですが、特に高い証明の程度が求められているものではない、一般通常の要求されているものと同等である。

 それから、同時に、当事者が、相手方が裁判資料を提出することが困難なときは、職権による調査をすることが可能である。したがって、こういった職権による調査によって十分資料が収集できるような体制をきちっとつくっていくということが私は必要であると思います。

枝野委員 その上で、このもとになっている条約の相当する条項の裁判例が、衆議院の調査局のつくっていただいた資料の二百三十六ページ以下にまとめられております。これを見ますと、ああ、こういう場合は引き渡しを拒否できるというのが、同じ条約に基づいて各国で裁判例があるんだなということで、ある一定の御心配についてはお応えになっているような気もするんです。

 これは、衆議院の調査局が外務省のホームページを参考にして作成したということでありますので、これまでも外務省は、こうした海外におけるこの条約の適用裁判例等についてはきちっと収集をされてきたという認識でいいのかどうか。そして、今後は、批准をされて運用されるということになれば、こうしたこと、しっかり情報収集することの重要性がますます高まると思いますが、中央当局として、しっかりとこれをやっていただける決意があるのかどうか。これをお尋ねしたいと思います。

あべ大臣政務官 外務省といたしまして、中央当局の任務といたしまして、ハーグ条約について、外国の裁判例の収集及び取りまとめは本当に重要だという認識に基づきまして、ハーグ国際私法会議事務局の判例データベースなどの公開情報から事案を収集してきたところでございまして、取りまとめ作業も行ってきております。

 また、委員がおっしゃいますように、これから先はさらに重要だと思っておりますので、私ども、しっかり取り組んでまいりたいというふうに思っております。

枝野委員 これはなかなか難しい話なんですけれども、同じ条約に基づいていろいろな国で国内法があって、国内法の裁判はそれぞれの主権に基づいて各国が行っている。この同じ条約に基づく他国における裁判例というのは、日本の裁判所はどういうふうに参考にできるのかなと。これは政府参考人で結構です。

深山政府参考人 もとより、海外の裁判例がどの程度参考になるかというのはそれぞれの事案ごとではございますが、一般論として申し上げると、この法律案で定めている返還拒否事由はハーグ条約を踏まえて設けられたものですから、ハーグ条約に関する各締約国の裁判例というのは、本法律案の返還拒否事由の解釈、適用に当たっても、有益な参考資料として裁判所で適切に考慮されるものと思っております。

枝野委員 その上で、海外のこうした事例をちゃんと裁判所が参考にしていただくに当たって、裁判所に参考にせいやということを立法府が言うのはおかしな話なので、これまでの蓄積、そして、今後、中央当局としての外務省がしっかりやっていただくという情報収集と取りまとめの成果がきちっと裁判所に伝わるということが重要だというところまでが言えるところだと思います。

 これは外務省になるんでしょうか、法務省になるんでしょうか、しっかりとこうした情報を裁判所の方に伝えていただくということについての責任を果たしていただきたいんですが、お答えをお願いします。

あべ大臣政務官 外務省といたしましても、中央当局として、裁判所を含めた国内の関連府省庁と緊密に協力連携しながら、また適切な体制を整備する所存でございまして、御指摘のように、外国の裁判例の関連情報の提供も含めまして、今後の協力のあり方について裁判所と協議をしていくところでございます。

枝野委員 それはぜひしっかりと進めていただきたいというふうに思っております。

 それから、次に、この二十八条の一項五号で、子供の意思、返還されることを拒んでいるということが拒否理由になっています。それとの関連で、八十八条は、家庭裁判所の調査官が、「子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、」という規定がございます。

 この調査官の調査には、言語的表現以外の態度や表情も含むということについて、確認をしたいと思います。

深山政府参考人 御指摘のとおりでございます。

枝野委員 ここも実際には、最終的には裁判所の司法権の範囲の中かなとも思いますので、御答弁いただくことの意味がどれぐらいあるか難しいところではあるんですが、立法者の意思をしっかりと示していくということでお尋ねをしたいと思うんです。

 言語的に、つまり、どうするの、お父さんのところには帰りたくない、お母さんのところには帰りたくないとか、明確にお子さんの方が言葉で表現をしていない場合でも、お子さんの表情、態度等を総合的に判断すればこれは連れ戻しを拒否しているんだということが認定できる、あるいは認定すべき場合が現実には多々あり得るんだというふうに思います。そのことを前提として先ほどの二十八条や八十八条はできているんだということでよろしゅうございますでしょうか。

谷垣国務大臣 おっしゃるとおりだと思います。八十八条に決めておりますところは、言語的表現のみによることじゃなくて、年齢、発達の程度に応じて子の意思を考慮するよう努めるべきものとする趣旨だと考えております。

 実際の手続では、これは言語によることなくというのもなかなか難しいことでございますが、心理学等の専門的知識を有する家裁調査官等が子と面接して、またはその様子を観察するなどして子の意思の把握に努める。言語的表現だけではなく、言語的表現にはあらわれない子の心情その他を多面的に把握すること、家裁の調査官等を活用することによってそういうことを可能にし、そういう運用が期待されているというふうに考えております。

枝野委員 ぜひ、そういった運用がしっかりとなされることを期待したいというふうに思います。

 さて、その上で、若干の問題点なんですけれども、これも先ほどの田嶋議員の質問とも似ている部分があるんですが、条約や法案を読む限り、当事者全てが日本国籍を有している場合、お父さん、お母さん、子供、全てが日本国籍を有している場合であっても、常居所地がハーグ条約締結国の場合はこの条約や法律が適用されることになるということになります。

 まず、事実関係、この理解でよろしいでしょうか。

あべ大臣政務官 質問された、当事者全てが日本国籍を有している場合でもということでございますが、ハーグ条約及びハーグ条約実施法案に関しましては、当事者全てが同一国籍者でありましても、条約締結国の間で生じている対象事案であれば適用されます。したがって、御指摘のような場合には、常居所地国及び連れ去り先国の双方が条約締結国であれば、本条約及び本実施法が適用されることとなります。

枝野委員 これは条約がそういう条約になっているということ。

 それから、私も、もう二十五年ぐらい前になりますが、将来こんなの役に立つのかなと思いながら司法試験で国際私法というのを選択しまして、国際私法の基本的な物の考え方からすればわからないではないなと思うんですが、多くの国民の皆さんからすれば、恐らく事案もあり得るんですね。

 例えば、仕事の関係で海外赴任に家族で行っていました。そのときにDVか何かがあって、一方の親御さんがお子さんを連れ日本に戻ってきてしまった。仕事で現地に残っている方は、日本に戻ってきて裁判をやるわけにもいかない。ああ、この条約がちょうどいいと。それから、自分にとっても、もしかすると常居所地法の方が、実体法の部分としても適用されるのに都合がいいと思えば、使われることはあり得ると思うんですね。

 ということを考えると、国民の皆さんに、それでもこれは合理的なんですよということについてはきちっとした説明が必要だと思いますので、それをお願いいたします。

谷垣国務大臣 私は、枝野先生と違って国際私法を余り勉強したことがないものですから、ちょっと正確に申し上げられるかどうかわかりませんが、国内法の家事審判や家事調停の手続を選択することも日本人同士であればできるんだろうと思います。しかし、こっちの手続を利用するということも、今、枝野委員がおっしゃったように、ないとは言えない。

 このハーグ条約の考え方は、先ほど来御議論が続いておりますが、結局、常居所地国で起きた紛争は常居所地国のルールに基づいて解決するのが、こういう国際的な人の移動なり国際結婚が多くなった状況では望ましいという判断に基づいて条約ができておりますが、こういう条約の趣旨は当事者やあるいは子の国籍を問わず妥当するというふうに考えられるのではないか、このように思っております。

枝野委員 多分、今のお答えだけだと、当事者、特に、もし将来、今のような事案が生じて国内にお子さんを連れて帰ってきたら、配偶者も日本人なのに海外に戻れという決定が出れば、それはなかなか納得いただけないんじゃないだろうかなというふうに思います。

 ここは条約だから仕方がないという側面と同時に、もう少しきちっと理論的に法務省としても、あるいは外務省と御相談をして、これが一定の合理性を持っているんだと。それは、今大臣も趣旨は御理解されているんだろうというふうに思いますが、やはり家族法に関する法の適用は、国籍も大事だけれども、国籍以上に、どこに生活をしているのか、それも、一時的にいるだけではなくて常居所地ですから、そこに継続して生活をしているということは、その生活をしている地域の法を適用することが当事者にとって一番幸福なんだというのが基本的な立ち位置である。

 そのことを考えれば、国籍が全て日本人であったとしてもということについて、もう少し整理をして発信しておきませんと、そういった事案が出たときに当事者の皆さんが困惑をすることになるというふうに思いますので、ぜひそうした整理をよろしくお願いしたいと思います。

 その上で、次に、この法律を適切に適用するためには、これも従来からいろいろな方が議論されています、本邦から申立人となる者や本邦において申し立てを受けた者に対する諸外国の情報について適切に提供をする。これは、中央当局はしっかりやっていただく、政府としてしっかりやっていただく。それから、弁護士等の適切な専門家を紹介するなどの措置も不可欠だろうというふうに思います。

 裁判所を二カ所に絞っている、これについては異論もありますが、私もやむを得ないところはあるかなと。つまり、かなり専門性の高い案件ですから、一定のところで集積をしませんと適切な判断が出しにくいということはありますので、ある程度絞るのは裁判所については仕方がないところがあるかなということは、弁護士も、弁護士だったらこの手の案件は誰でもできるというわけではない。恐らく、相当限られた、専門的な、あるいは経験を積んだ方でないと、こうした事案に対応しろと、相談は受けられても実際の対応はなかなか難しいだろうというふうに思います。したがって、弁護士会等としっかりと連携をとって、専門性を持った弁護士をいつでも紹介できるという体制が必要であるというふうに思います。

 これについては、中央当局が責任を持つのか、実体的には弁護士会などと日ごろ接触している法務省が責任を持つのか。その辺のところを含めて、これまでの準備状況や今後の対応の決意について、どちらが担当されるのか、担当されるところをお答えください。

盛山大臣政務官 委員御指摘のとおりかと思います。

 現在、法務省、外務省、日弁連等の関係機関、これらが協議をいたしまして、ハーグ条約案件の運用に関する検討を行っているところでございます。その検討の中で、御指摘のとおり、ハーグ案件について専門性を持った弁護士、これを紹介するための体制整備について協議を進めております。

 法務省としても、この検討を通じまして日弁連等の取り組みに協力してまいりたい、そんなふうに考えております。

枝野委員 これは恐らく、実体的には、法テラスのようなところをうまく活用して、専門性を持った弁護士さんを求めに応じて御紹介するということになるんだろうと思います。ここのところの連携を、多分、法務省はなれていらっしゃると思うんですが、必ずしも外務省はなれていらっしゃるわけではないと思います。外務省、法務省が実体的にはうまく連携をした上で、しっかりと必要な専門性のある弁護士さんを求めに応じて紹介できるようにしていただきたいとお願いをいたします。

 外務省、もしあれば御決意を。

あべ大臣政務官 委員の御指摘のとおりでございまして、この案件に関しましては本当に専門性を持った弁護士が必要であるというふうに思っております。

 このハーグ条約を円滑に実施するためには、御指摘のとおりでございまして、中央当局は、諸外国の法制度等の関連情報を提供したり、ハーグ条約に関する専門性を有する弁護士等の法律専門家を紹介することが重要であると認識しておりまして、その重要性に鑑みまして、外務省は現在、日弁連及び法務省とともに、法律専門家の紹介の制度のあり方につき協議を行っているところでございます。

枝野委員 ぜひよろしくお願いをいたします。

 さてその上で、この法律とそれから条約ができたことを踏まえた上で、次の話をしたいと思っているんです。

 まず、今回の法案では百一条二項で、子の返還を命ずる終局決定に対して、子供本人も即時抗告をすることができるとなっています。先ほどのとおり、実体面で子供の意思というものが判断要素になるわけですから、子供にも即時抗告権があるというのは当然だろうというふうに思います。

 一方で、国内の家事事件手続法では、子の監護者の指定や変更、それから親権者の変更の審判について、子の異議申し立て権を認めておりません。もちろん、法の意味が違うんだということはよくわかりますが、しかし、子の監護者の指定、変更や親権者の変更等、それらの審判等を行うに当たっても、当然、子供の意思というものは、それだけで決まるわけではありません。それは本法でも一緒です。でも、子供の意思というものは当然しんしゃく、参考にされるわけですし、本法で即時抗告権を子に認めるんだとすれば、今後の課題として、家事事件手続法の子の監護権者や親権者の変更についても子供の異議申し立て権を認めるということを検討する必要があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

谷垣国務大臣 確かに、家事審判と今度の法律の手続の違い、即時抗告を与えているか否か、違いがございます。

 今、枝野委員がおっしゃったように、ハーグ条約、この法律のもとでは、原則は常居所地国に帰せということに対して、子供自身がそれを拒否する特別な地位を持っている、そしてまた、子の生活状況に重大な変更があり得ることなので即時抗告権を認めた、これが本法のたてつけですね。それで、家事審判の場合にはこういう特殊性は必ずしも当てはまらないのではないか。ですから、現在の段階で直ちにそこまでの検討は、私どもはまだ考えておりません。

枝野委員 どうでしょう。例えば、理屈のたてつけ、原則がこうあって、それに対する申し立て権のようなものは、もともとそういうたてつけになっている、そこはわかりますが、実体としては、子供の立場からすれば、例えば海外に連れ戻されるのも監護権者が変更されるというのも、自分の生活、取り巻く環境が大きく変わるということ、これは海外も国内も余り大きな違いはないんじゃないだろうかなというふうに思います。

 そして、もちろん、監護権者の決定とか親権者の決定を子供の意見だけで決めるわけにはいかないところは、それも海外の子の引き渡し事案でも一緒だろうと思います。

 そういうことを考えると、もちろん実体法についても手をつけなければいけないのかもしれませんが、その実体法のところまで場合によっては含めて、何でこっちでは本人に抗告権があるの、でもこっちは何でできないのということについて、これは国内法でやりようがあるわけですから、先ほどの全部が日本人だった場合の話と違って、これは、本法が審議され施行されるのに当たってしっかりと検討をすべきではないだろうかということを申し上げておきたいというふうに思います。

 実は、それ以上に国内法の整理が必要だと思いますのは、強制執行の問題であります。

 百三十六条で「間接強制の前置」、間接強制を先にしなきゃならないということをこの法律案は規定しています。ある意味、当然のことだろうというふうに思います。その上で、百三十七条以下で代替執行の手続を定めているわけであります。

 ところが、いわゆる国内事件、国内で子供を連れ去った場合で、監護権者をどうする、一方的に連れ去った方ではない側が監護権者になった、当然子供を引き渡さなきゃならないというような場合の執行の手続については、国内法は規定がないということ。

 まず、確認として、それはよろしいですね。

深山政府参考人 御指摘のとおり、国内事案における子の引き渡しの強制執行の方法について定めた明文の規定はございません。

枝野委員 そうすると、実体的に、いわゆる直接強制を認めるのか認めないのかがどうも裁判例によって分かれている。もちろん、制度として可能だけれども、直接強制までは認めないというようなことが事案によってはあり得るとは思うんですが、しかし、それが事案によってなのか、裁判官の法解釈によってなのかということすら余りはっきりしない形で、直接強制ができるのかできないのかが裁判例で分かれてしまっている。

 さらに言うと、間接強制の前置ということも全く定められていないから、最初から直接強制を求めた場合でも、場合によっては認められている場合がある。

 まず、これは、実態として、現状こうであるということでよろしいですね。

深山政府参考人 御指摘のとおりだと思います。

 過去の裁判例を見ますと、まず、直接強制の可否については、これを許容しないとした裁判例もあれば許容できるとしたものもありますし、間接強制の前置は、これは本法律案で決まっていることで、一般の国内事案においてはこのような原則がとられているわけではありませんので、当事者が選択できる状況にあるということだと思います。

枝野委員 大臣、こちらは急がないといけないんじゃないでしょうか。つまり、やはり、特に離婚に絡んでいろいろなトラブルがあって、その中の一つの問題としては、裁判所で決定、審判や判決をもらっても実際に子供と会えないとか、実際に子供を引き渡してもらえないとか、あるいは、どうももらえそうもないから泣き寝入りをしてしまうとか、そういった話も少なからずあったりするわけです。

 まさにこれは、実際にお子さんを直接強制するというのはできれば避けたいことでありますけれども、でも、この法律、条約に基づいてやるケースがあるということですから、やれる場合をしっかりと法定するということは必要なことだというふうに思います。

 先ほどの件は若干時間がかかってもやむを得ないかもしれません。ぜひこれこそ急いで検討していただきたいと思うんですが、いかがでしょうか。

谷垣国務大臣 確かに明文の規定もない。それで、実際上は、裁判所は子の利益ということを第一に考えながら強制執行の是非を検討していると思いますが、こういうハーグ条約関連の法案ができますと、この点は検討しなければならないことだと思います。

枝野委員 ぜひよろしくお願いをしたいと思います。

 さて、離婚の事件というのは、私も二年しか弁護士をやっておりませんが、当事者はもとより、弁護士としてかかわってもなかなかつらいものがございます。

 ちなみに言うと、実は一番つらいのは、子供の取り合いならまだ救いがある、子供の押しつけ合いみたいな話というのは本当につらい。若干、この条約の実施に当たっては、外務省と法務省でそんなところがなかったかなという気がするので、今後の運用に当たってそんなことのないように、押しつけ合いにならないようにぜひお願いをしたいと思うんです。

 離婚事件が深刻化したり長期化したりする、それには理由はたくさんあります。ただ、そのうちの一つがまさに子供の問題で、お互いに、多くの場合は取り合いになる。今の仕組みだと、オール・オア・ナッシングに近いんですよね。少なくとも親権については完全にオール・オア・ナッシングですね。どちらか一方で、片方はゼロになるわけですね。

 監護権についても、なかなか面接交渉が、特に執行との絡みとかを考えると、実際には面接交渉を本当にどれぐらい確保できるのか、実際に担保できるのかなどということを考えると、やはり監護権そのものをとらないと、こちらはゼロではないにしても、でも、オール・オア・ナッシングにかなり近いような印象を当事者の皆さんは受けておられるだろうというふうに思います。

 それだけに、絶対に譲れないというようなことで角突き合わせて、余計トラブルが深刻化するケースが少なからずあるというふうに私は思います。これは当事者にとっても不幸なことですし、お子さんにとっても大変不幸なことだと思います。

 離婚の案件というのは千差万別ですから、それこそ、一方の親から配偶者も子供も暴力を受けて、とにかく完全に別れさせる、切り離すことが大事である、面接交渉なんてとんでもないというケースももちろんある。そうした場合は単独親権がいいし、監護権も一人の方が、明確にした方がいいしというケースもありますが、本人同士がいろいろな事情で夫婦としてはやっていられなくなったけれども、だから離婚はするけれども、子供についてはそこはお互い親だからうまくやっていこうねなんというケースも少なからずあるわけですよね。こうした場合は、そうはいっても、では親権者はこうでとか、うまく話がつくかもしれませんが、そういうケースなのに子供のことでトラブルが深刻になってしまうみたいなことは少なからずあるというふうに思います。

 そうした意味では、我が国においても共同親権を認めるというような余地を少なくとも制度上は認める、私は、共同親権が原則で、それこそDVとかいろいろな事情でそれが子供の福祉にとってよくない場合は単独もあり得るけれどもというぐらいにする方がいいのかなと思いますが、少なくとも共同親権を可能にするということを、面接交渉の実施をもっと、それこそ執行とかいろいろなことを含めて確保、担保していくこととともに進めていくことが、トラブル自体を減らせるし、小さくできるのではないかというふうに思うんです。

 今回の法改正を機にそうしたことの検討をぜひ急ぐべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

谷垣国務大臣 あれは平成二十三年度でしたか、平成二十三年度の法改正のときに親権について検討せよという附帯決議がございまして、現在、各国に照会したりして基礎的な検討をしているところでございます。

 共同親権を認めることがいろいろな、離婚の場合にも円満に物事が進んでいく一つのきっかけになるのではないかという枝野委員の御指摘でございますが、これについてはいろいろな考え方もあり、また、両方が親権者、共同親権だという場合に、実際に夫婦が争ってしまうと必ずしも問題がうまく解決しないということもございます。

 実は私、このハーグ条約の問題を研究しますときに、親権とは何だろうともう一回、ちょっと古い本でございますが、我妻栄「親族法」というのをひっくり返してみましたが、離婚後の共同親権なんというのは何にも書いてございません。民事局長に聞きますと、前は離婚後の共同親権なんというのは海外においてもほとんどなかった、大体七〇年代ごろからそういうものが出てきたというふうに聞いております。

 そして、そこでの共同親権のあり方についてもかなりいろいろな、それでよかったということもあれば問題点も指摘されているというような状況だろうと思いますので、私どもとしても、その点はいろいろな考えを念頭に置きながら慎重に議論していきたいと思っております。

枝野委員 大臣は十分御理解いただけているというふうに思うんですけれども、離婚に限らず、家族の問題というのは実は千差万別であります。

谷垣国務大臣 ちょっと済みません。今、平成二十三年と言いましたのは面会交流の間違いでございました。しかし、私どももいろいろな研究はしております。申しわけありません、ちょっと混同しました。

枝野委員 御理解はいただけると思うんですけれども、本当に千差万別で、実は、典型的なパターンを軸に物を考えると矛盾が出ます。

 例えば、このハーグ条約についても、圧倒的多数は、例えばDVなどで困ったお母さんが子供を連れて日本に帰ってきましたというケースを皆さん想定して、そのときに問題ないようにという議論がありますが、逆だってあるわけですし、いろいろなケースがあるわけです。

 それから、例えば、親権とか監護権とか面接交流の話なんですが、これも、母親が子供を連れ去って、それが既成事実になっているから、既成事実、子の保護のためにそれを守ってお母さんの勝ちというのがよくある話なんですが、逆もあり得るんですよね。お母さんと子供がいるところからお父さんが連れ去ってしまった、でも、連れ去って、離婚事件さえ長くやっている間に、もう子供はそこで友達もできてしまって、ではお父さんの方が親権者で監護権者だみたいなケースもあるんですよね。

 いろいろなケースがあるし、それから、先ほどのように、離婚についても、本当にもうどうにもならない、口もききたくない、口もきけないという夫婦の別れ方もあるし、お互い別の道を行こうねということで納得しながら別れる場合もある。

 多分、法律というのは、その全てのケースについて一番いい対応ができるような制度をつくっておいてあげる、このことが大事なのであって、八割の人たちにはこれがいいからということで、二割の人たちにとっては使い勝手が悪い制度ではいけないんだと思うんですね。

 まさに共同親権の話などというのも、もしかすると、大部分の人にとっては関係ないのかもしれない、大部分の人にとっては共同親権じゃない方がいいのかもしれない。でも、共同親権という仕組みさえあればうまくいくのになというケースがあるんだとすれば、それの使える余地をしっかりとつくるというのは、僕は、制度として必要だし、特に家族法の世界においてはこうした柔軟性が重要だというふうに思います。

 最後に、ぜひそうした視点も含めて、すぐに結論を出せとは言いませんが、検討を進めていただきたい。大臣、よろしくお願いいたします。

谷垣国務大臣 先ほど、ちょっと私、混同しまして、間違ったことを申し上げました。平成二十三年の改正に伴って附帯決議があるというのは面会交流の話でありまして、したがって、照会をしているのもその事案でございます。

 それで、共同親権については、ハーグ条約を結ぶについてさまざまな議論がまた出てきたところでございますが、今、枝野委員がおっしゃった、できるだけ幅広い人たちの、特殊な事例だけを考えないで一般的な事例も考えて検討せよというのは、おっしゃるとおりだと思います。

 ただ、先ほど若干申し上げましたように、欧米諸国でも、新しいそういうものを取り入れた上でまたいろいろな反省点もあるようでございますから、私どもとしても十分その辺も研究してまいりたいと思っております。

枝野委員 終わります。

石田委員長 次に、西根由佳さん。

西根委員 日本維新の会、西根由佳でございます。

 本日は、ハーグ条約及びハーグ条約実施に関する法律案につき質問いたします。よろしくお願いいたします。

 皆様御承知のとおり、グローバル化が進み、国際結婚がふえ、国境を越えた子の連れ去りが大きな問題となっております。このような状況の中、日本が国境を越えた子の連れ去りに関するルールを何ら持っていないというのは、大きな問題です。現在、国境を越えた子の連れ去りについては、国際的なルールとしてハーグ条約があるわけで、日本としてもこのルールに従っていくことが求められております。

 他方、国境を越えた子の連れ去り以前の問題として、国境を越えない子の連れ去り、つまり、国内での子の連れ去りに関する裁判実務について、国内外から疑問の声が上がっております。

 参考人質疑での渡辺さんの話によれば、日本では、子供を連れ去った親が得をするような仕組みになっています。取り残された親は、子供と一切会えない状況や、ほとんど会えないという状況に置かれ、夫婦の別れが親子の別れに直結しているという現実があります。

 これは、子供にとって本当に不幸なことです。離婚するのは親の勝手ですが、大人のエゴによって大好きなお父さん、お母さんに会えなくなる子供たちの気持ちを考えてみてください。私は、ニュースの映像で、小さな女の子が父親との非常に限られた短い面会時間の中で、お父さんのおうちで遊びたい、お父さんのおうちで遊びたいと半泣きしているのを見て、胸が締めつけられました。

 ハーグ条約は、親の離婚、別居といった悲しい事態に巻き込まれた子供たちを守るためのはずのものですが、国内のこのような状況は、ハーグ条約が目指すところに反しております。さらに言えば、児童の権利条約の理念、国連のチルドレンファースト決議の理念にも反するものです。

 国境を越える越えないにかかわらず、子の連れ去り事案の解決において何より大切なことは、子供自身の幸福を最優先することです。ハーグ条約の前文に「子の利益が最も重要である」との記述がありますが、子の利益とは、子供自身の幸福であり、大人の都合や親のエゴを離れて考えるべきものです。

 ハーグ条約実施法の質疑の中で国内連れ去り事案を論じるのは、筋違いと思われる方もいるかもしれません。しかし、子供の幸せを最優先にするという理念を、国内、国外問わず、貫徹する必要があります。

 また、国内の連れ去りと国境を越えた連れ去りは、完全に分離したものではなく、双方が連動してくる場合があります。参考人の渡辺さんの話にもありましたように、現在の国内裁判実務に従えば、国内で連れ去って親権、監護権を相手から奪った後に国境を越えるという二段階の連れ去りを行えば、ハーグ条約と無関係に子を奪うことができてしまいます。したがって、国内の連れ去り事案の問題もこの機会にきちんと考える必要があるのです。

 以下、子供の幸せを最優先にするにはどうしたらよいかという視点から、国内の連れ去りの問題につき質問させていただきます。

 さて、日本国内においては、弁護士が離婚を考える親に指示する勝利の方程式三点セットがあるそうです。一、子供を連れ去る、二、相手のDVを訴える、三、相手を子供と会わせないというものです。

 なぜ、子供を連れ去った親が勝つのでしょうか。その理由の一つに、日本の家庭裁判所が継続性の原則を過大視して、親権者や監護権者を判断していることが挙げられます。

 継続性の原則とは、判例法理であり、監護状況の安定を重視するもので、現実に子供を育てている親と子供との結びつきを重視して親権や監護権の帰属を判断するものです。もちろん、この考え方にも一定の合理性があります。しかし、この原則が子供を連れ去った親に一方的に有利に働いているという状況は、これは大きな問題です。

 二〇一一年五月二十七日に、監護権者や面会交流内容を決めるに当たっては、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」という内容に民法七百六十六条が改正されました。この改正に向けた二〇一一年五月の参議院法務委員会で、当時の江田法務大臣は、継続性の原則があるから連れ去った方が得だということがあってはいけないと明確に答弁されています。

 この点につき、今の法務大臣である谷垣大臣のお考えをお伺いいたします。

谷垣国務大臣 継続性の原則という考え方、これは、親子の心理的な結びつきを重視すれば、それまでの監護状態を継続させる方が子の利益にかなうという考え方だろうと思うんですね。今おっしゃったように、それにも一定の合理性がないわけではないんですけれども、では、実際の実務でそれだけを考えて判断しているかというと、私は必ずしもそうではないと思います。

 実際の判断に当たっては、誰が今まで監護をしてきたかということはもちろん一つありますが、それだけではなくて、現在の監護者が監護を開始するに至った経緯は一体何だったのか、あるいは、父親、母親双方の子に対する愛情あるいは監護に対する熱意といいますか、そういったものも当然考慮されなければならない、考慮されていると思うんですね。

 それから、面会交流に対する姿勢、これもやはり一つ大事なところです。それから、養育能力、居住環境、それから子の年齢ということもあると思いますし、子の心情や意向、こういった諸事情を総合して判断しているのではないかと私は考えております。

 それで、一般論として言えば、子を無断で連れ去って、もう一緒にいるから、だから継続性の原則だというような判断はあっていいわけもない、合理性もない、私はこのように思います。

西根委員 谷垣大臣が今おっしゃったような諸事情を考慮されているというのは、そうであってほしいし、そういう建前なんですが、実際に、この前、参考人質疑で来られた渡辺さんは、一緒に育てていたお子さんを、しかも、奥さんは働いておられたから、渡辺さんの方が御飯をつくったり保育園に連れていったりしていたお子さんを、奥さんが保育園から勝手に連れていって、それっきり会えなくなって、渡辺さんはそれを不法な連れ去りだということで裁判実務のときにも訴えましたし、共同養育の計画書も出し、面会交流の計画も出しというようなことをしたんですが、裁判所は、奥さんが連れ去ったそのことは不問にして、継続性の原則、つまり、奥さんが連れ去った後は奥さんとの結びつきが強くなっているというここの部分を重視して、渡辺さんは結局、監護権をとれなかったという結論になっております。

 ですから、諸事情を考慮しているという建前はあるんですが、実際にそうではないパターンによって子供と会えなくなっている方がたくさんおられる。この前、渡辺さんにいらしていただきました。ほかにも、傍聴席にもたくさんそのような方がいらっしゃっていました。そういう実情を見るときに、本当に裁判所がそういう公平な判断をしているのかという疑問が拭えない、こういうことなわけです。

 継続性の原則のお話をさせていただきました。子供の幸せを最優先にするためには、継続性の原則の機械的な適用、渡辺さんのときになされたような適用ではなく、同じく判例法理である寛容性の原則、これを裁判所が積極的に取り入れていくことが必要と考えます。

 寛容性の原則とは、親権者や監護権者の適格性を判断するに当たって、相手の親と子供との面会交流を許容できるか、元夫婦として、男女の感情と切り離して、相手の親の存在を子供に肯定的に伝えることができるかを考慮するものです。心理学者によれば、子供の成長にとって、両方の親とかかわりを持つことは非常に重要だそうです。また、片方の親から相手の親の悪口をたくさん聞かされて育つと、自己肯定感が育ちにくくなるそうです。ですから、この寛容性の原則というのは、子供の幸せにとってとても重要なものです。

 寛容性の原則についても、二〇一一年、江田法務大臣が、寛容性の原則だけを判断基準とするのは相当ではないが、寛容性の原則自体は重要な指摘だと思うと答弁されています。

 親権、監護権を決定するに当たり寛容性の原則を重視すべきであるとの指摘につき、谷垣大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 私も寛容性の原則だけで判断していいとは思いませんが、それは大事な原則だろうと思います。それから、実際、一方の親が他方の親と子供の面会交流について積極的であるということは、子の利益のためにも一般論から言えば望ましいことだろうと思います。

 しかし、他方、先ほど申し上げましたように、いろいろ子供の状況を判断するには多面的な判断が必要でございますから、今の寛容性の原則を貫いていれば、不利に判断されるということ、それが不利な要素になることはあり得ませんが、それだけで決めるというわけにもいかないんだろうと私は思います。

西根委員 多様な側面を考慮するというのは非常に大切なことだと私も思っております。

 継続性の原則、寛容性の原則、これ以外にも日本の裁判所の実務の問題点が指摘されております。それは、連れ去りの不法性に関する判断が適切でないのではないか、それゆえ、連れ去った者勝ちの状況が生まれているのではないかということです。

 日本の判例法理は、不法な連れ去りとは、非監護者が監護者の同意を得ずに子を連れていく行為のみを指すのであって、夫婦が別居するに際し共同監護下にあった子を連れて出る行為は、不法な連れ去りには当たらないとしています。そのため、先ほどの渡辺さんの事例のように、妻が共同監護下にあった子を勝手に連れて出ていっても、不法な連れ去りには日本では当たりません。他方、欧米では、同じような行為は不法な連れ去りに当たります。場合によっては刑事罰となります。

 我が国でも、このような行為、共同監護下にある子供を連れ去るような行為は不法な連れ去りに当たるとして、刑事罰にするかどうかまでは別論としても、せめて親権者、監護権者を決定するに当たって不利に働くようにするなど、連れ去りを抑止する仕組みにすべきではないでしょうか。

 この点につきましても、二〇一一年、法務委員会にて江田大臣は、監護権者を決定する場合に不当な連れ去りが不利に働くようにすべきとの指摘は、一般論として異論はないと述べられております。

 谷垣大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 西根委員は先ほどから個別の裁判についての感想、所見をおっしゃっていますが、私は法務大臣として、この委員会で個別の裁判手続について判断を申し上げるのは差し控えなければならないと思っております。

 その上で、子の連れ去りというものが、裁判所が、親権者、監護者の指定等の裁判をするに際して、子の利益の観点からいろいろな事情を総合的に判断しなければならない、これは先ほどから申し上げたとおりでございますけれども、そういった考慮事情の一つとしては、当然、現在の監護者が監護を開始するに至った経緯というものがなきゃなりません、挙げられると思います。

 ですから、子の連れ去りが行われた事案において、連れ去りの理由、それから態様、その悪質性の程度、こういったものは、裁判において当然、連れ去りをした親に不利な事情として考慮されることがあるものというふうに私は考えます。

西根委員 これまでの御答弁にもありましたように、多様な要素を考慮するということ、親権者、監護権者の決定に当たっては、継続性の原則だけを機械的に適用すべきではない、寛容性の原則も取り入れる必要がある、不当な連れ去りは連れ去った親に不利に働く場合もある、このような要素を考慮することが、民法七百六十六条改正の審議過程でもあらわれておりました国民の代表たる国会の意思、七百六十六条改正の趣旨と言えます。

 しかし、現場の裁判官は、どこまでこの国民の意思を理解し、実務に生かしているのでしょうか。

 二〇一一年の江田法務大臣の答弁後、家庭裁判所の裁判官が、法務大臣が何を言おうと関係ない、国会審議など参考にしたことはないと発言し、大問題になりました。これはマスコミでも大きく取り上げられました。この問題を受け、最高裁も慌てたのか、事務総局から全国の下級裁判所の裁判官に、民法改正に関する国会の会議録を読むようにとの指導があったようです。

 確かに、裁判官は司法権の独立で守られています。そして、司法権の独立というのは、人権保障の観点から非常に大切なものです。しかし、司法が独立ではなく独善に陥ってしまった場合は、逆に人権保障に対する脅威となります。

 現場の裁判官に、民法七百六十六条改正に込められた国民の意思、立法府たる国会の意思を忠実に実務に反映させるようにするための手段につき、最高裁判所に伺います。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えをいたします。

 最高裁判所といたしましては、これまでも、新たな法律等が成立した場合には、必要に応じて立法の経緯やその趣旨を周知するように努めてまいったところでございます。

 委員御指摘の民法等の一部を改正する法律に関しましても、公布された法律の内容についてはもとより、その趣旨に関しても、国会における審議の会議録の抜粋を書簡に添付する形で周知いたしましたほか、研究会等の機会を利用して立法の経緯や趣旨について説明するなどして周知を図ってまいったところでございます。

西根委員 それでは、続けて最高裁判所にお伺いします。

 そのような手段を講じた後に、実際に監護権者、親権者の判断に当たって、不当な連れ去りを不利に判断した裁判例は出てきているのでしょうか。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答えをいたします。

 委員も御承知のとおり、親権者、監護権者の指定等につきましては、いずれも個別の事件においてそれぞれの裁判官が判断をしているところでございます。そのような中で、最高裁の事務当局といたしましては、個別の裁判において特定の事情を不利に判断したかどうかといった個々の判断内容について言及することはできませんので、御質問の点についてはお答えをいたしかねるところでございます。

 もっとも、子供のある夫婦の一方が子を連れて別居を開始するという場合に、その経緯や態様等、監護開始の際の事情については、子の親権者や監護権者を判断する上での事情の一つとして、事案に応じて子の福祉の観点から考慮、判断されているものと考えております。

西根委員 先ほど法務大臣から、個別の裁判の感想を述べているにすぎないのではないかという御指摘もありましたが……(谷垣国務大臣「そうは言っていない」と呼ぶ)そういう意味じゃないですね、失礼いたしました。ただ、渡辺さん以外にもたくさんそういう事例がありますから、本当に裁判実務で実行されているかというところをきちんと立法府としては見ていく必要が本当にあると思うんです。

 渡辺さんはおっしゃっていましたけれども、お子さんが二歳のときに別れて、それ以来三年間、全然会えていない。御自分が御飯もつくって、保育園にも連れていって、一緒に寝て、そういう育て方をしたお嬢さんと三年間会えていない。二歳の子供が三年間会わなければ、もう多分お父さんのことはわかりません。だから、仮にここから渡辺さんがお嬢さんと会えるようになったとしても、父親と娘という関係をもう一度回復できるのか本当に疑問なんです。

 この問題というのは、取り戻すことのできない時間、取り戻すことのできない大切なものを失わせてしまうような、そういう大切な場面の話ですので、私もちょっと厳しく質問していきたいと思うわけであります。

 何度も申し上げますが、七百六十六条の改正趣旨が司法において貫徹されなければ意味がないんです。しかし、今の質疑からもわかりますように、裁判所の自主性に任せていてはらちが明きません。こうなりましたら、親権、監護権の決定基準を明確に定める新法を制定するなど立法府が手を打つ必要があると私は考えております。

 法務大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 先ほど申し上げたことは決して、一裁判の事例を西根委員がおっしゃっているだけじゃないかと言ったんじゃないんです。行政府にいる法務大臣としては、個別の裁判の内容に入ってそれを論評することは差し控えたいと申し上げたわけでございます。

 その上で、今、立法府の意思を反映するために新しい立法をせよ、こういう御意見ですね。

 私、今、西根委員の御議論を聞いて思い出したことがあるんですが、昔、ある最高裁判所の判事に、裁判をするときに、あの法律は国会はどういう考えでつくったのか知りたいと思って議事録を取り寄せて読むことがよくあるんだ、しかし、なかなか、かゆいところに手が届くとまではおっしゃらなかったですけれども、どうも法律的な、要するに裁判実務で参考になるような議論が必ずしも行われていない場合が多いという苦言をいただいたことがございます。

 ですから、この今回の法律につきましては、ぜひ、あのときの西根委員の議事録を読めと言われるような、そういう議論を我々はやりたいと思っております。

 それで、それに加えまして、今の御質問でございますが、つまり、今の御提案は共同親権をつくれという御提案ですか。そういうことではないですか。

西根委員 共同親権というところまでは私は、最終目標はそこにあるんですけれども、まずは今の実務を変えたい。子供を連れ去られたらそれっきり会えないという実務状況ではなくて、少なくとも、一緒に育てている子供を片方が勝手に連れていったらそれは監護権の判断に不利に働く、それとか、もしくは、勝手に連れていったらその後は継続性の原則が機械適用で監護権が移ってしまうとか、そういうレベルのことをなくしましょうというお話をしております。

谷垣国務大臣 その点は、先ほど申し上げましたように、個別の問題に法務大臣が申し上げるわけにはいきませんが、私は、裁判所の実務としては、先ほど最初にお答えしたような、多面的な事情を考慮しながら判断をされているのではないかというふうに思っております。

 したがいまして、それをさらに変えていくかどうかは、今行政の場にいる私が申し上げるべきことではなくて、立法府の御判断だろうと思います。

西根委員 裁判官にもいろいろな方がいらっしゃって、先ほど大臣がおっしゃったような、審議録まで読んで真摯に向かわれている方もいらっしゃるでしょうし、一方で、前回マスコミでも問題になった、審議録なんか関係ないというような裁判官もいる。いろいろな裁判官がいる中で、そうしますと運用に幅が出てきてしまう。そこを縛っていくためには、裁量に任せるのではなくて、立法である程度明確な基準をつくった方がいいのではないか、こういう問題意識ですが、大臣おっしゃられたように、行政府ではなく、私たち国会議員がやるべきことと考えますので、問題提起をしている、そういうふうに御理解いただきたいというふうに思います。

 今まで申し上げたような、国内で連れ去った者勝ちの状況が続いていることは、今回のハーグ条約加盟にも影を落としかねません。まず、渡辺さんの話にもありましたように、二段階の連れ去りによってハーグ条約が骨抜きにされるのではないかという問題があります。また、二段階ではなく、直接国外へ連れ去った場合でも、連れ去りの不法性に関する判断が不適切な現在の裁判実務では不安があります。

 実際にあった裁判例を御紹介いたします。日本人男性、日本人女性の夫婦において、日本人女性がアメリカから日本に子を連れ去った事案で、日本がハーグ条約に加盟していればまさに条約の対象となる事案です。

 この事案につき、日本の裁判所は、不法な連れ去りを判断するに当たり、アメリカで生じた事案であるにもかかわらず、両親が日本人であることを理由として、準拠法は日本法だとしました。その上で、日本の法令下においては、不法な連れ去りとは、非監護親が監護者の同意を得ずに子を連れていく行為のみを指すと定義し、共同監護下にある子供を一方の親がもう一方の親の同意なく居所を変更することは、不法な連れ去りには当たらないと判断いたしました。そして、継続性の原則を適用し、アメリカから日本に連れ去った日本人女性を勝たせました。

 ハーグ条約に加盟すれば、親がともに日本人であることをもって、外国で起きた連れ去り事件につき日本法を準拠法とするということは起きないと思います。しかし、私が懸念しておりますのは、ハーグ条約締結後も裁判所のこの運用が踏襲されれば、共同監護下にある子供を一方の親が他方の同意なく日本から締結国へ連れ去った場合、常居所国である日本の法令に従い、監護権の侵害に当たらず、ハーグ条約が適用されなくなるのではないかという危惧です。

 重ねて申し上げますが、ハーグ条約締結に当たっては、国内の連れ去った者勝ちの状況を放置すべきではありません。何度も申し上げますが、いま一度、法務大臣の御所見をお伺いいたします。

谷垣国務大臣 今の委員の御質問は、日本では、連れ去った者、つまり継続性の原則を過度に適用して、連れ去った者が有利になっているのが日本の実務の実情であるという御判断の上にそういう議論をされているんだと思いますが、私は、先ほどから申し上げておりますように、多面的な事情を判断しながら結論を出しておられるのであって、一概に連れ去った者が親権者、監護者と指定されているわけではないというふうに考えておりまして、今の委員の御懸念が全面的に妥当するとは考えてはおりません。

西根委員 連れ去りの問題に関しましては、立法府が毅然とした意思で立ち向かわなければいけないことと思います。今後また取り組んでいきたいと思っております。

 次に、国内の面会交流実務の問題についてもお伺いしてまいります。

 国内の裁判実務は、親が離婚、別居した後の子供との面会交流についても問題がございます。というのも、現在、日本の裁判所では、写真を年に三回送ることや、施設内で月に一回限り、第三者の監視つきで子供に会わせることといった程度のことでも面会交流として認める運用がされているからです。

 子供の写真を送るだけ、月にたった一回、監視つきで、しかも狭い施設内で会うだけというのが面会交流と言えるのでしょうか。裁判実務でこのような運用がなされていることが事実か、最高裁判所にお伺いいたします。

豊澤最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 民法七百六十六条一項の面会につきましては、実際に父または母が子に会うことを意味し、また、交流という概念については、それ以外に、電話による会話や、手紙やメール等による意思疎通などを含む広い概念というふうにされております。

 そして、面会交流の頻度や対応等につきましては、一般的には、子の健やかな成長、発達のために、双方の親との継続的な交流を保つことが望ましいという子の福祉の観点から、監護親の生活状況、非監護親と子供との関係、これらに加えて、子供の年齢や性別、性格、就学の有無、生活のリズムや生活環境、子供への精神的な負担、子の心情や意向等の諸事情を総合的に考慮して判断されているものと承知しております。

 委員御指摘のとおり、面会交流事件におきまして、写真を送るというような間接的な形での交流が命じられる例があることは承知いたしておりますが、個別の事件におきましてどのような態様での面会及びその他の交流が相当であるかにつきましては、当該事件を担当する裁判官の判断事項でございますので、最高裁の事務当局といたしましてはお答えを差し控えさせていただきたいと思います。

西根委員 さまざまな事情を考慮して判断すべき内容であるというのは私もよく理解しております。

 ただ、日本の面会交流というのは、アメリカなど諸外国と比べまして、原則、例外が逆転しているのではないか。これはほかの委員からも御指摘ありました。例えばアメリカであれば、面会交流することが原則である、その上で、特段それをさせることが問題がある場合に限り、施設内で会うとかいう制限がつくということなんです。ところが、今の日本の実務、当事者の方からお伺いしておりますと、面会交流が必ずしも原則とはなっていません。それよりも、制限される度合いの方が大きいということを私は伺っております。

 例えば、そういう制限、日本の裁判実務で制限が大きく加えられる理由としてよく挙げられますのが、夫婦間の葛藤が強い高葛藤や、子が面会を拒否しているといった子の意思、こういったものを根拠に制限する場合が多いというふうに聞いております。

 高葛藤がある場合に面会交流を認めることは子に悪影響を与えるとか、子供が嫌がっているから会わせない方がよいとか、そういう理由は一見もっともらしく聞こえます。しかし、本当にそうなのか、慎重に考えなければなりません。

 参考人質疑で棚瀬参考人から御指摘があったように、子供の言動というのは、その置かれている環境次第で大きく変わります。一緒にいる方の親が子供に対して相手の親の悪口を言っていれば、子供はそれをそのまま口にすることがあります。また、相手の親に会いたいと言うことが一緒にいる親への裏切りになってしまうのではないかと感じれば、子供はその気持ちを隠します。会いたいという気持ちを隠して、会いたくないとさえ言うことがあるんです。したがって、子の意思を額面どおり受けとめて面会交流制限の根拠とすることには、大きな問題があります。

 また、夫婦間の高葛藤を面会交流制限の根拠とすることは、夫婦間の問題を親子関係に影響させることであり、子供の成長を第一義的に考えたものとは言えません。寛容性の原則の説明のときにも申し上げましたが、子供の成長にとって両方の親とかかわりを持つことは非常に重要です。子供の幸せを真に願うなら、親は、相手方に対する敵意や憎しみの感情を乗り越えて、寛容性を持って子供を相手方に会わせるよう努力すべきなのです。

 ハーグ条約五条bは、「「接触の権利」には、一定の期間子をその常居所以外の場所に連れて行く権利を含む。」と明確に規定しております。これは、子と同居しない親が、一定期間自分の家へ連れてくるなどして一緒に生活する時間を持つことを確保する趣旨であり、親に対して面会交流を権利として手厚く保障するものです。

 また、面会交流が子供にとっても非常に大切な権利であることは、国際的に確立されております。児童の権利に関する条約九条三項には、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。」と規定されております。他方、日本の民法においては、面会交流が親の権利としても子供の権利としても保障されておりません。

 親と子供の充実した交流を保障するためには、例えば、週末や夏休み、冬休みなどの長期休暇を利用して、一緒に生活する時間を確保することが重要です。したがって、ハーグ条約実施法の面会交流について、宿泊を伴う一定期間の子との交流が含まれることを明記するとともに、国内においても、民法上、面会交流を権利として明確に保障し、面会交流の内容を手厚いものにしていくことが必要と考えます。

 この点につき、法務大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 この法律案には、面会その他の交流という概念が多くの規定で用いられておりますが、これは民法七百六十六条の「面会及びその他の交流、」と同じ意味です。

 それで、面会や手紙やメールのやりとり、あるいは電話、学校行事への参加等、その時々の状況によって子の利益に最も適した方法で行う子供との交流を意味しておりまして、どれだけその回数をするか、頻度、それからその態様を含めて、画一的に決まった方法があるわけではございません。宿泊を伴う面会交流も面会その他の交流に含まれるわけですが、あくまでその一方法でございます。

 したがって、本法律案の面会その他の交流に宿泊を伴う一定期間ということを書き込む必要は必ずしもないのではないか。また、こういうことを書き込むということは、子の利益の観点に立った場合に、事案や状況に応じて定めるべき面会交流の内容に画一的な基準があるんだということになってしまうと、極めて実情に適しない場合があり得るのではないかと私は感じます。

西根委員 実施法の文言を変えるかどうかというのは別論としましても、今の国内の面会交流が非常に希薄な内容になっているというところはよく見詰め直しまして、立法府としては何か手を打っていかなければいけないところではないかというふうに考えております。

 国内事案の面会交流につきましては、今申し上げたような面会交流内容が希薄というだけではなく、実効性が確保されていない、そういう問題もございます。

 面会交流については、裁判所による履行勧告、間接強制という手段がございます。しかし、これらの手段は実効性がありません。間接強制で、債務者、つまり子供を相手の親に会わせる義務を負っている方の親、その親に、金銭の支払いと引きかえで面会交流の実行を強制しましても、お金を払ってでも会わせたくないと思ってしまえば、これは実効性がないんです。

 したがって、面会交流の実効性を確保するためには、面会交流の約束を正当な理由なく破ったら、親権者、監護権者の変更の重要な要素になるという仕組みにすべきではないでしょうか。立法の可能性も含め、谷垣大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 確かに、強制的な手法を定めたとしても、金を払っても会わせたくないという方には、これは実効性もないし、望ましい方法でもないわけですね。

 それで、今おっしゃったように、親権者、監護権者を変更するというようなことを考えるべきだとおっしゃっているわけですが、こういう面会交流が取り決められたにもかかわらず、正当な理由もなく、一方の親の意向で会わせない、実現されないとすれば、これは子の利益の観点からは問題だと思います。

 それで、面会交流に対する消極的な姿勢を示すものとして、もちろん親権者、監護権者の決定はそれだけで判断するわけじゃありません、多面的な事由で判断するわけでありますが、こういう面会交流に極めて熱心ではないということは、変更を判断するに当たって私は一つの理由になるものだと思います。

西根委員 続きまして、虚偽DVの話に少し入らせていただきたいと思います。

 先ほど御紹介しました弁護士が指南する勝利の三点セット、そのうちの一つがDVを申し立てるというものです。

 DV防止法は、DV被害者を迅速に保護するための非常に重要な法律だと思っております。しかし、その一方で、虚偽の申し立てがなされたときに、それに対する防御が非常に困難な制度になってしまっているということがあります。言いかえれば、たとえ虚偽であっても、申し立てした者勝ちな制度になっているということです。

 相手方の反論を聞かずに保護命令を発することができ、また、保護命令が発せられた場合、一週間という非常に短い期間内に即時抗告しなければ保護命令が確定し、申し立てが虚偽であっても保護命令の取り消しを求めることができなくなります。仮に虚偽が判明し保護命令がおりなくても、わずか十万円ばかりの過料を払うのみですから、虚偽のDV申し立てが行われる原因となっております。

 DVの有無の認定が正確になされないため、渡辺さんのように虚偽DVのぬれぎぬを着せられる人が出てきています。そして、それが進んでしまうと、子供の親権、監護権を失うことにもなってしまうんです。

 虚偽DVが横行することは、今のような問題もありますし、他方で、本当のDV被害者への風評被害が高まり、本当のDV被害者が救済されなくなるという危険性もはらんでおります。つまり、どうせ虚偽DVなんじゃないか、あの人はDVがあったと言っているけれども虚偽なんじゃないかというふうに思われてしまう、そういうリスクもはらんでいるということです。

 また、ハーグ条約適用事案において、虚偽DVの主張に基づいた返還拒否決定が出されるようなことになれば、外交上問題となります。ハーグ条約締結に当たっては、DV認定の正確性も担保する必要があると考えております。

 虚偽DVを防止するという意味、またDV被害者の真の保護を図るという意味で、DV認定の正確さが担保される制度が必要です。DV防止法は議員立法ですので、法務大臣の御所見を伺うのもちょっと筋違いかもしれませんが、谷垣大臣の御所見を伺います。

谷垣国務大臣 先ほどから三点セットというようなことをおっしゃり、DV冤罪ということもおっしゃって、そういう指摘があることは私も承知しておりますが、そういう実態がどれだけあるかについては、私は今、十分知見はございません。

 ただ、子の返還申し立て事件の手続で、当事者双方にそれぞれ、主張、反論の機会、あるいはみずからの主張を裏づける資料を提出する機会というのは十分保障されなければならないわけですが、裁判所においてそういう手続は、制度設計はきちっとなされているのではないかと思います。調査の嘱託、あるいは家裁の調査官による調査の活用という方法もありますし、職権で必要な調査を行うこともできる、こういう制度設計はなされているものと思いますので、要するに、現状の制度をきちっと活用していけば、私は今の御懸念には応えることができるのではないかと思っております。

西根委員 時間が参りましたので、最後に一点だけ申し上げますと、そのような制度を活用されれば虚偽DVがなくなるのであれば私もいいと思うんですが、現実には、今の制度では虚偽DVが発生している、このことは事実であると申し上げて、質問を終わりにしたいと思います。

 ありがとうございました。

石田委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時一分開議

石田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。今井雅人君。

今井委員 日本維新の会の今井雅人でございます。きょうは質問の時間をいただきましてありがとうございました。

 午前中に我が党の西根委員の方から、国内の問題について質疑をさせていただいたと思いますけれども、私も最初はちょっとこの問題を取り上げさせていただきたいと思います。

 先日、参考人で那須塩原の渡辺副市長が来られまして、公の立場でありながらプライベートな話をされておられまして、実は私も離婚経験者でございまして、いろいろな経験をしておりますけれども、いろいろ考えさせられまして、きょうは、私のプライベートもちょっとお話をしながら議論した方が議論が深まるかなということで、あえて自分の話もさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

 最初に、四月十二日の法務委員会で自民党の小田原委員から、できれば大人の都合で離婚しないで大半の人たちが一緒にという社会が現政権の保守の心ではないかという御質問があったと思いますけれども、それに対して大臣は、法務大臣として一定の価値観を押しつけるのは控えるべきであるという御答弁をなさっておられました。私は大変評価したいと思うんですけれども、法務大臣としてというよりは、やはり国が国民に対して特定の価値観を押しつけるべきではない、もちろん、離婚しないで円満にするのが一番いいのでありますけれども、いろいろな事情の方がいらっしゃいますから、やはり多様な価値というのを認めるべきであって、国がその価値観を国民に押しつけるべきではないというふうに考えておるのでございますが、まず、この点についての大臣の御所見をいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 確かに私はこの間、そういう答弁をいたしました。

 今、今井委員から改めてそういうお問いかけがありますと、これは考えていきますと、実は、そう簡単な問題ではないんですね。基本法を扱う法務大臣の立場からいたしますと、確かに、戦後、戦前の家制度を中心とした親族法、相続法の体系を現代、今の形に変えた、明らかに一定の家族観を持って従前の家族観を否定して新規の立法をつくった、そういうことも間々というか、これはしばしばございますので、そういう法律を担当する法務大臣として、価値観を押しつけるのはいかぬとばかりは言えない面もある、そういうことも申し上げなきゃならぬと思います。

 ただ、私は、個人といいますか、やはり国なりなんなりは、今、今井さんがおっしゃったように、それぞれ、いろいろなことを考えながら起きている私人の行動に、一定の価値観を余り押しつけるのは控えるべきだと基本的には思っております。基本的には思っておりますが、今のようなこともあり得ますし、それから最近、ちょっと離れて申しますと、私は法の支配というものは大事だなということをつくづく感じます。

 それぞれの途上国等々で、著しい発展を示しながらも、例えば、公務員の腐敗現象が著しいとか、あるいは、司法の独立というものが必ずしも十分でなくて市民的自由が妨げられているという例は、それは幾つもございます。

 そういうところを見ていますと、例えば私は法務大臣として、もちろん法の支配というのは法務大臣だけの仕事ではありません。立法府ももちろんそのために努力をすべきですし、裁判所も頑張らなきゃいけないわけでございますが、国際的に法の支配をどう押し広げていくかというようなことは、やはり一定の価値観を持って向かわなきゃいけない面もあると思います。

 何か余りはっきりしない答弁をいたしましたが、そんなふうに思っております。

今井委員 では、ちょっと視点を変えて同じような質問をしたいと思います。

 私の地元の事務所には、二人の女性が、離婚して母子家庭になっている方が働いていただいております。そういう方を応援したいということもあって働いていただいているんですが、プライベートな話なので離婚事情は申し上げませんけれども、それは仕方ないなというような事情があって、今、そうやって母子家庭で子供さんを育てていらっしゃるわけですね。

 ですから、私が心配するのは、こうでなきゃいけないという形を余り押しつけ過ぎると差別問題になりかねない。特に心配なのは、やはり子供です。子供がいじめの対象になったりする、そういう可能性があるので、こういうことは本当に慎重にやるべきだというふうに考えておるのでございますが、この点について御所見をいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 確かに、これは国あるいはその地域の文化によって違うかもしれませんが、日本の文化にもプラスマイナスがたくさんございますが、ある意味で、よく言えばきずななんですが、共同体のいろいろな規制を押しつけるということもかつては随分あったように思います。また、現在、逆に、そういうものがなくなり過ぎて、ばらばらな、つまり、握っても砂が固まらないようなさらさらの砂のような状況も一方で起きているような感じもいたします。

 しかし、委員がおっしゃったように、子供の状況、今、いじめとかいろいろな問題がありますが、やはりその背景に、一定の価値観を余りにも押しつけるというところにそういう原因が、ちょっと自分と違うものに対して、きもいというような言葉を使うんでしょうか、そういうようなことが行われたりしているのは、いろいろ考えなきゃならぬところがあるように思います。

今井委員 ありがとうございます。

 誤解のないように申し上げておきますが、私も家族は大事だと思いますし、そういう家族のきずなを強めていく必要があると思いますけれども、やはりいろいろな事情の方がいらっしゃるので、そういう方にもちゃんと配慮をするべきだろうなということを申し上げているということであります。

 実は、先ほど申したとおり、私、十数年前に離婚いたしました。そのとき、子供は三歳と六歳でございました。当初は私が親権をとるという話で進んでおりましたけれども、途中から妻側が親権が欲しいということで、知り合いの弁護士に相談しましたけれども、このケースは女性の方が有利なので勝てませんからと言われまして、では諦めよう、子供を法廷に出すというのもかわいそうだしということで、親権を渡すかわりに三つ約束をしました。お願いをしたわけです。一つは、お互いにお互いのことを決して子供に悪口は言わないようにしよう。二つ目は、子供が父親に会いたがっているときは必ず会わせてください。三つ目は、養育費は私が出して、教育にかかわる費用も全部私が出すという約束をして、離婚をしました。

 その後、私の場合は非常にラッキーで、別れた妻が非常に理解がありましたので、今の約束をしっかり守ってくれました。その結果、週末は私、平日は母親という生活が七年間続きました。土日は、私はとにかく子供に時間を費やそうということで、できる限りいろいろなものを断っていました。

 その結果どうなっているかといいますと、非常に親子のつながりは今つながっておりまして、私が再婚したときの結婚式にも出てくれました。先週、大学の入学祝いで一緒にお祝いもしました。やはり、ずっと親として、別れてしまってはおりますが、親としての責務を果たすということで、子供との関係は非常にうまくいっていますし、幸いなことに非常に素直に育ってくれております。これはお母さんのおかげもあると思いますけれども。

 ところが、私の部下がちょうど同じ時期に離婚をいたしました。彼は、いろいろ協議はしていましたけれども、そのときの奥さんが神戸の実家に子供を連れていってしまいました。それからこれは裁判になりましたけれども、やはり母方に親権がとられ、そして今に至るまで十数年間、一度も会えないという状態になっております。裁判では面会権が認められているんですけれども、結局、母親が、子供が病気だとかあるいは会いたくないと言っているとか、いろいろな理由をつけてとにかく会わせてくれないというので、ここまで至っております。

 そのほかにも実は同じようなケースがたくさん私の周りにあるんですね。ですから、先ほど西根委員が質問をされていましたけれども、私の周りですらそういうケースが非常に多いんです。ですから、この問題はやはり真剣に考えなきゃいけないということをずっと考えておりまして、まず、ちょっと、済みません、今の点についての御感想をお伺いしたいと思います。

谷垣国務大臣 今の御経験を伺いまして、今井委員の場合、私は論評する資格はありませんが、非常に今井さんももとの奥様も賢明に行動されたな、聡明な行動をされたなと心から敬意を表したいと思います。

 確かに、離婚した後、それはいろいろな事情があるんでしょうが、一度も子供に会えないというのは大変な苦痛だろうと私は思います。どこまでそういうものを制度あるいは司法というものが踏み込めるのか、私もぎりぎりまでなかなか詰めて考えたことはないんですが、やはり当事者が子供の幸せを考えて賢明に行動していただけるということが一番望ましい。それは、離婚というやむを得ないことでそういうふうになられた場合には、一番望ましいのはそういうケースではないかなと思いますが、そうでない場合、どういう制度を仕組んでどういうふうにやっていけばいいのかということ、これはさまざまな事情がありますからよくよく考えなければなりませんが、今のお話を伺って、我々もさらに問題点はよく見ていかなければいけないなと思いました。

今井委員 きょうは事務方の方にちょっと来ていただいているので確認したいんですが、先ほどちょっと私が触れましたけれども、親権を争うときに、女性、母親方の方が有利であるというふうに私は弁護士の方から言われたのでありますけれども、そういう傾向が実際にあるのかということについて、ちょっとお伺いをしたいと思います。

深山政府参考人 親権者あるいは監護権者を指定するという際に母親の方が指定される割合がずっと多い、こういう御指摘だと思います。頻繁にこういう指摘があることは承知をしております。

 ただ、結果としてそうであるということは一般論として承知しているわけですが、現在、裁判所でこの点が争われた場合には、母親であるということだけが重視されるわけじゃなくて、両親双方のさまざまな事情や子供の事情を総合勘案した結果として、結論として、母親が親権者、監護権者になるケースが、父親がなるケースよりずっと多いということだろうと理解しております。

今井委員 ありがとうございました。

 この点について、もう一件だけ御質問をしたいと思いますけれども、先ほど午前中に枝野委員が大変すばらしい、私はすばらしい提案をされていたと思うんです。

 共同親権の件ですけれども、世の中にはいろいろな人たちがおりますので、例えば本当にDVで大変苦痛を味わった方もいらっしゃるでしょうし、逆に、子供に会いたくないという親も相当数いるわけです。ですから、一概にケースはどうというわけではないわけでありますけれども、やはりどれにも対応できるような、そういう幅広の政策を考えるのが筋じゃないか、先ほどそういう御質問があったと思うんですが、私も全く同感でございまして、私たちのようなケース、私のようなケースのところでは、やはり、共同親権あるいは共同の監護権、こういうものを日本も考える時期に来ているんじゃないか。

 特に、ハーグ条約というものを契機に、一度こういうものについてやはり議論を深めていく。国会、立法府の問題だと先ほどおっしゃられました。そのとおりなんですけれども、大臣も国会議員でございますので、この点についてぜひ国会で一度真剣に議論してみるということを提案申し上げたいんですけれども、その点についてのお考えをいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 私も、今、枝野委員いらっしゃいませんが、枝野委員がおっしゃった制度というのは、特定の方だけを対象とするのではなくて、いろいろなケースに対応できるような考え方でもって整備をしていくのが望ましいと思います。

 ただ、これも場合場合によって違うと思うんですね。やはり、非常に弊害が深刻になったときに緊急に法律をつくるような場合は、ある特定の問題点に対応できるような法律ができてくることも今まで私は見てまいりました。ただ、私の所管をいたしますのは基本法制でございますから、今回のハーグの法律も、こういう国際結婚で離婚した場合の一般的な取り扱いを定めるものだと思うんですね。そういう法律に関しては、先ほど枝野委員がおっしゃったような考え方が一番必要な分野ではないかと私は思います。

 それから、先ほどちょっと、私、誤解を招くような表現をしてしまったのでここで申し上げさせていただきますが、平成二十三年の法改正のときに国会から附帯決議で、もちろん面会交流についても検討するようにということがございましたが、同時に、離婚後の共同親権についても研究をするようにという附帯決議がございまして、現実に、その附帯決議を踏まえまして、各国にそれぞれの制度を照会する等々、今、基礎的な調査研究をしているところでございます。

今井委員 私は共同親権を認めろと言っているのではなくて、これも、懸念する声とすれば、そういうことを進めるとかえって離婚がふえるんじゃないかというような懸念も考えられると思いますので、軽々に結論を出す問題ではないと思っているんですが、しかし、やはりそういうことを議論するということは必要じゃないかなと思っており、それで今問題提起をさせていただいておりますので、今後の審議でもまたこの問題はどこかで取り上げさせていただきたいと思います。

 次に、ハーグ条約について少し御質問をしたいと思いますけれども、私が今一番心配しているのは、DVの認定であります。在外公館に事前に相談をしなさいということになっておりますけれども、では、現実に相談をするかということですね。もう怖くていきなり日本に帰ってきちゃった、在外公館にも相談していない。DVの認定をしようと思っても、傷ももうないしというので、情況証拠でありますが、先方に照会しても、結局、先方は先方側の知り合いばかりでしょうから、公平な立場に立つかどうかもわからないわけですね。

 そういう中で、ハーグ条約を結んだときに、DVの認定などをどういう形でしっかりやれるのかというのが少し心配なんですけれども、この点はどうでしょうか。

深山政府参考人 DV、家庭内暴力の裁判における認定というのは、国内の事案であっても、必ずしも決定的な証拠がないというようなケースは少なくありません。

 ただ、具体的には、傷害があった、傷を負った事実を立証するような診断書であるとか写真であるとか、あるいは、シェルターの関係者の陳述書であるとか、警察に相談したときの記録であるとか、そういったようなものを総合勘案して、国内事案でもDVを認定しております。

 ハーグの返還拒否事由として家庭内暴力があったかどうかが争われる場合にも、証拠となるようなものは同じような資料なわけですが、委員御指摘のように、そのような資料を持ってこられない、とにかく逃げ帰ってきてしまって手元にないという方もおられます。

 先ほど、なかなか難しい場合もあるんじゃないかと言われましたが、在外公館に相談しているケースは、在外公館の方で記録はしていますので、それを外務省経由で裁判の方に出すというルートはもちろん設けてございますし、そういうものがなくても、中央当局のルートで、外務省から、アメリカならアメリカの国務省を通じて、向こうの病院の記録、警察の記録、公的な機関の記録等々を取り寄せることもできるようになっています。

 さらに、それらもない場合だってあるじゃないか、それはそういう場合もあり得ると思いますが、最後は間接証拠等、あるいは情況証拠と先ほど言われましたけれども、当事者の陳述、供述を詳しく述べてもらう、述べにくいことも家裁の調査官などを活用してきちっと証拠化していただくというようなことで証拠収集をして、最終的に適切な認定がされるように努めていく、こういうことになるんだと思います。

今井委員 以前も多分、この質問をどなたかがなさったかと思いますけれども、もう一度確認しますが、在外公館に相談をすると言っておりますが、一般の方はそういうところに気が行かないと思うんですね。ですから、やはりある程度の周知をさせるような、そういうことが必要だと思いますけれども、その点はどういうことを用意していらっしゃるのでしょうか。

山田政府参考人 外務省でございます。

 ハーグ条約の締結に先立ちまして、既に我々としてもいろいろな体制をとっております。

 特に陳述書、在外公館で事情を聞いた場合には必ず記録をとって、それを保管する、そして裁判所等で証明する必要がある場合はそれが提供できるようにする、そういうこともしておりますし、また、DVの被害を受けた方は精神的に非常に追い詰められた状況にございますので、親身になって、その方の立場に立ってきちんと対応するように研修もしております。シェルターの御紹介、またシェルターまでの付き添い、地元の警察当局等への保護、救援要請、それから地元の支援団体の御紹介、その他いろいろなメニューをそろえております。

 これらにつきましては、ハーグ条約の締結に当たりまして、改めまして広報を強化したいと思っております。具体的には、大使館、外務省のホームページ、メールマガジン等、あらゆる手段を使ってやっていきたいと思っております。

今井委員 この周知が多分一番大事だと思いますから、丁寧にやっていただきたいと思います。

 それでは、もう一つ、在外公館に関してですけれども、ハーグ条約を締結している国を見ますと、かなりの数、日本大使館がない国があると思うんです。幾つかの国を兼務になっているところがありますね。こういう国ではどういうふうに在外公館に相談をできるんでしょうか。

山田政府参考人 お答え申し上げます。

 現在、ハーグ条約は八十九カ国が締結しておりまして、そのうち十六カ国には実館がございません。つまり兼轄で対応しております。ただし、これらの国は、バハマ、ベリーズ、アルバニア、アルメニア、アンドラ等、必ずしも在留邦人の方が多い国ではありませんが、しかし、兼轄の大使館が必ず在留邦人の状況をきちんと把握して、これらの国がハーグ条約の締約国であるわけですから、兼轄の大使館もきちんと対応できるように改めて指示もしたいと思いますし、体制もきちんと整備してまいりたいと思っております。

今井委員 外国人が少ないといってもゼロではありませんので、少ないからといって無視するわけにはいかないんです。日本人全員はやはりちゃんと面倒を見るというのが国家の仕事でありますから。現実問題、やはり国が離れているところにはなかなか相談に行けないんですよ。ですから、この点をもう一度やはりどういうふうに対応されるか、よく考えていただきたいというふうに思いますので、よろしくお願いを申し上げます。

 もう一点お伺いしますが、先ほど私のところで母子家庭の方が働いていらっしゃると言いましたけれども、一人は外国人の方と結婚しておられまして、その外国人の方は実はハーグ条約の締結をしていない国の出身の方であります。非常に想定されることとして、ある日子供を連れていって帰っちゃうみたいな、これは税関とかああいうところに多分とめるように申請をしておけばできるのではないかと思うんですけれども。

 この個別論は別として、これから日本はハーグ条約の仲間入りをしていくわけでありますが、ハーグ条約を締結していない国はアジアの国がたくさんありますね。アジアと日本の国際結婚というのは多分これからふえると思うんです。だから、そういうところの手当ても当然必要なわけでありまして、例えば、二国間の協定をするとか、あるいはそうした国にハーグ条約に入っていただくようなそういう活動をするとか、日本としてやはりそういうことをやっていく必要があると私は思っているんですけれども、その点について、何か今お考えがあったら教えていただきたいと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今先生おっしゃったとおり、我が国を含む各国がハーグ条約を締結することが、今先生から御指摘がありました例も含めて、子供の幸せ、子供の利益を保護する、そして、そういう国際的なネットワークを構築する上で極めて有意義なものと考えております。

 ハーグ条約は、もうできて三十年たって八十九カ国入っておりますけれども、御指摘のような二国間協定というのが主要国の間で締結されたというのは余り聞いておりません。

 したがって、先生からも御指摘がありましたとおり、むしろ、今回国会で御承認いただきまして日本がもしハーグ条約に入りましたら、そういうアジアの国々に対してもハーグ条約に入る必要性、重要性というのを働きかけていくということが重要ではないかと考えておりますし、実際そのように協議を行っていきたいと思っております。

今井委員 先ほども申し上げたとおり、せっかく入るんですから、やはり我が国の利益になるということもとても重要な問題だと思いますので、今後、今でも恐らく国際結婚、アジアの国の方とがふえていると思いますけれども、ますますやはりふえるんじゃないかなと予想されますので、その点はこれからの課題だと思いますけれども、ぜひやっていただきたいと思います。

 時間がございません。最後に、ちょっと事務的なことをお伺いしたいんですけれども、外国人に連れ去られた親とか、いろいろな、そういう人たちが、相談ですとか申請ですとか、こういうのをやっていくことになると思うんですけれども、なかなかやはり距離があって、相談しに来るのまでは大変だという方もいらっしゃると思うんですね。そういう方々が、例えばメールですとか電子での申請ができるとか、あるいは電話で相談ができるとか、そういう対応というのは今回はしていただけるんでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、ハーグ条約において、他の締約国に子供を連れ去られた、その親が中央当局に対して正式な申請を行う、その申請につきましては、この実施法案の規定に従いまして、やはり正式な申請でございますので、外務大臣に対して、これは定められた様式に従って書面により郵送によって行っていただくことを想定しております。

 ただ、先生からも御指摘ありました、それ以外といいますか、いろいろ手続とかそういうことについての質問とか相談事項、それまで全部一々書面で郵送だというのは、特に国をまたいで、国境をまたいで離れているわけですので、非常に御負担が多いと思います。したがって、そのような相談事項、質問事項につきましては、当事者の負担軽減の観点から、可能な範囲で電話とかメール等による相談もできるようにということを考えていきたいと思っております。

今井委員 時間が参りましたのでこれで終わりますけれども、ぜひ、せっかく入るんですから、当事者に配慮した丁寧な対応をしていただきたいということをお願い申し上げまして、質問を終わります。ありがとうございました。

石田委員長 次に、丸山穂高君。

丸山委員 日本維新の会の丸山穂高でございます。

 引き続きまして、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約、いわゆるハーグ条約の実施に関する法律案につきまして質疑させていただきます。

 本法案でございますけれども、ハーグ条約の締結に関しまして各国からの長年の要請への対応をすることが必要だということと、また、何より国民の生命と財産を守るということが国家にとって一番基本的な役割の一つでございますので、邦人の保護という点からも、この両面から非常に大事な法案だというふうに私も認識しております。

 しかしながら、幾つかの点におきまして、特に運用面での国内法の実施法ということでございますので、細かい点ではございますが、気になる点につきましてお伺いしていきたいと思います。

 まず、条約と国内法の上下関係と申しますか、位置づけにつきまして再度お伺いしたいと思います。

 まさしく、先ほどもお話しさせていただいたように、邦人の保護ということが国にとって一番大事なことだと思うんですけれども、一方で、やはり、先ほど来お話のあった、DV被害などを理由に子供さんを連れて帰国された邦人の方が、もしかすると今回のハーグ条約によって子の返還義務を負うということも十分にあり得る事態だと思います。そういった意味で、もちろん、子の福祉を守るということでございますけれども、一方で、下手すると子の福祉を害する可能性もある状況も考えられると思うんです。

 今回、この法案で、そういったものを防ぐために、返還の拒否事由という形で、具体的には二十八条で定められていると思います。しかしながら、先ほど少し、最初にお話しさせていただいた条約と国内法の上下関係におきまして、こういった国内法、特に二十八条の返還拒否事由というものが、他国からこのハーグ条約の枠組みを逸脱するものではないかというふうな指摘がなされる可能性があるのではないかという懸念がございます。

 この点に関しまして、まず御見解を伺えればと思うんですけれども。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 条約第十三条の一項のbの規定に基づきまして返還拒否事由を判断する、そのための考慮事項は条約の実施法案の二十八条二項に規定されているわけでございますが、これは、裁判規範としての明確化を図り、当事者による予測可能性を確保するという観点から、ハーグ条約の各締約国、既に八十九カ国入っておりますので、各国の判例等も参考にしつつ、その典型例を確認的に例示したものでございます。

 したがって、私どもとしましては、法案のこういう規定は条約の趣旨に合致すると思っておりますし、ハーグ条約の枠組みを逸脱しているという指摘や見直しの要望が他の締約国から出されるとは考えておりませんし、今の先生の御指摘の、各国からその点を指摘されるのではないかという点につきましては、このような法案の趣旨につきましては、在京の各大使館に過去三回説明をしておりまして、直近は昨年、二〇一二年の二月にも説明をしております。各国の理解を得ているものと理解しております。

丸山委員 仮に、そのような指摘や見直しの要望が、今御説明されているということなので、事前の対策を打たれているということなんですけれども、もし仮にこういったものがあった場合にどのような御対応になるのかということを少し確認のためにお伺いしておきたいということと、ちょっとこれは通告にないんですけれども、もしかして御存じであれば構いませんが、こういった要望が何か事例として他国間で生じたことがあるのかどうかにつきましても、もし御知見がおありでしたらお答えをいただければと思います。

新美政府参考人 例えば、日本のように、この条約の今申し上げた十三条の一項のbの規定につきまして、国内法でその内容を確認的に例示している国の例としてはスイスがございますけれども、スイスについても、もう条約に入ってかなりの年月がたちますが、私どもの承知している限り、そのスイスのそういう国内法の規定ぶり、そしてそれをハーグ条約のもとで適用しているということについて、ハーグ条約のほかの国からクレームというか批判あるいは指摘というのがあったとは聞いておりません。

 したがって、それがあるからということではございませんけれども、私ども自身、これはもう慎重の上にも慎重を期してこのような書きぶりにしたわけでございますので、かつ、繰り返しになりますが、各国にも三回にわたり説明をしておりますので、そのような御批判を受ける可能性は極めて低いと考えております。

丸山委員 わかりました。

 そういった意味で、慎重にも慎重を期してというお答えでございます。まさしく他国間の、相手があることでございますし、何より当事者の、人権の侵害されている子供さんだとか御両親がいるということでございますので、慎重を期すということをきちんとしっかりやっていただきたいんです。

 そうした中で、やはり何かそごが生じた場合には柔軟に見直していくとかいう姿勢というものも必要だと考えるんですけれども、一方で、慎重にも慎重を期すために、やはり見直し規定といいますか、附則というところだったり、いろいろなところで見直しを検討する必要も出てくると思うんですけれども、今拝見していると、そういった見直しの規定がございませんが、これはどうして設けられていないのか、その辺に関しましてお答えいただければと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、今回、条約及び実施法を御承認いただきました暁には、当然、政府といたしまして、この条約、法律の施行後も、条約の義務の履行を確保するために不断の検討は行っていく所存でございます。

 ただ、条約及び法律については、今御指摘がありましたように、見直し規定が入ってはおりません。

 その理由といたしましては、特に条約と条約の担保法との関係について申し上げますと、まず、ハーグ条約自身については、そもそも改正条項というのが設けられておらず、条約の改正というのは想定されておりません。実際、ハーグ条約はもう発効後三十年たっておりますけれども、一度も改正はされておりません。

 そして、このように条約自体が将来にわたって変更することが想定をされていない国際的なルールや原則を定める場合におきましては、過去の日本の例におきましても、その担保法、今回であればこの実施法なわけでございますけれども、条約担保法において見直し規定を置いた例は見当たらない、そういう前例があるわけでございます。

 そして、さらに申し上げれば、私どもで調査した限りでは、今、ハーグ条約、八十九カ国入っておりますけれども、その八十九カ国の中で国内担保法において見直し規定を置いている例も見当たらないわけでございます。

丸山委員 国内担保法において、大もととなる条約に改正条項がない場合には担保法においても改正条項を設けないという前例があるということなんですけれども、となると、もし何か本当に国民の、邦人の権利が害されている、国民の生命財産が危ぶまれている場合を想定して改正がないということであるので、そうした場合にはどのような状況になるのかというのが一番懸念するところなんですけれども、そうした場合には、ハーグ条約自体の脱退といいますか、条約自体をうちとしてはもう破棄しますという形になるんでしょうか。

 過去にこういった形で、ハーグ条約に関しまして、三十年ずっと変わらずやっているということなんですけれども、そもそも三十年ずっとやっているということに関しましても、私は三十年前のあれと変わっているとは思っているんですが、一方で、三十年間の積み重ねの中で、過去に、署名や批准、そして受諾、承認までされた国の中で、この条約から脱退といいますか、出た国があるのかどうか、その点に関しましてお伺いできればと思います。

新美政府参考人 事実関係についてお答え申し上げます。

 今先生から御指摘がありました、条約ができて三十年、そして今八十九カ国が入っているわけでございますが、過去に、条約に入ってから、署名、批准、あるいは受諾、承認した後に、何かいろいろな問題があってハーグ条約から脱退した国があるのかということについては、そういうような国はないと承知しております。

丸山委員 脱退した国はないということでございます。

 しかしながら、どういう状況が起こるかわからない。著しい邦人の権利侵害が起こる場合には条約の破棄ということも国の権利として認められているところだと思うんですけれども、もし仮に、ないように万全を期す、慎重に慎重を期していくということでございますけれども、何らかのそういう状況が起こっていったときに、改正条項がありませんので、要は、国内法での保護もできない状態にある、なおかつ、ハーグ条約も改正条項がないので訴えていくことができないというところであれば、そういうところであれば、最終的にはこの条約の破棄という形も、もし最大限に国民の権利が侵害されていると考えられたときには破棄ということもあり得るんでしょうか。選択肢にはありますか。御答弁いただければと思います。

あべ大臣政務官 丸山委員の、本条約の実施により著しい邦人の権利侵害が起こるような場合の条約破棄という件にお答えいたします。

 ハーグ条約は、そもそも、一方の親の監護権を侵害する形で不法な子の連れ去りが発生した場合に、子の利益を保護するために、子の返還手続を定めた国際ルールでございます。したがって、我が国の国民である親の監護権を侵害するような子の海外への連れ去りが生じた場合に、その問題を適切に解決する手段を提供しているところでございます。

 一方で、我が国国民である我が子を不法に連れ去り、返還手続の当事者になる場合においても、例えば海外でDVの被害を受けている当事者の状況については、国内の懸念の声も踏まえまして、我が国における裁判手続において適切に考慮されるよう、必要な法的手当ても行っているところでございます。

 このように、ハーグ条約の運用におきまして、子の利益を保護すると同時に、当事者となる親の立場、状況も踏まえまして、国内で寄せられる懸念にも応えるものとなっておりまして、条約の実施により邦人の権利侵害が起こるとは考えておりません。

丸山委員 現時点で起こると考えていないということでございます。

 ただ、慎重には慎重を期すというお話もありました。どうなるかわからないというのが未来でございますので、やはりあらゆる事態をチェックしていただいて、慎重に見ていただいて、権利侵害の起こらないように法の施行をしていただきますようお願いします。

 次に、先ほど今井委員からも御質問がありましたが、海外において発生したDVの証明に関する件についてお伺いしたいと思います。

 法案の第二十八条の二項にある「暴力等」という表現、また「子を監護することが困難な事情の有無」という語句がございます。

 先ほど今井委員からも御指摘がありましたように、この点、非常に立証が難しいのではないかと危惧しております。先ほどの今井委員の例ですと、傷が消えてしまうという表現もありました。また、物的証拠も時がたつにつれて、また遠方であればあるほど得にくいというのがやはり現状でございます。

 そうした点に関しましてどのようにお考えであるのか、見解をいま一度お伺いできればと思います。

深山政府参考人 先ほどもちょっと申し上げましたけれども、相手方が常居所地国において子の返還拒否事由に関する資料などを収集するいとまがなく我が国に逃げ帰るような形で帰ってきた場合などには、十分な証拠資料を持っていない。したがって、それを裁判所に提出することが困難な場合もあり得ると思っております。

 しかし、このような場合には必要に応じて、本来は当事者の立証というのが第一ですけれども、立証がうまくできないという場合には、裁判所が、中央当局である外務省を通じて外国の行政機関や在外公館から資料を収集して裁判所に提出するというふうなことや、裁判所自身が調査官などを使って職権で事情をいろいろ調査するという形で証拠化する、こういった形で得られた証拠を総合勘案して、返還拒否事由の認定というものが適切にされていくのではないかと思っております。

丸山委員 この点に関しまして、具体的な予算名目だとか施策としての、何か現時点であるものはありますでしょうか、お答えください。

新美政府参考人 今、裁判所の対応、そして裁判所から中央当局に調査の嘱託がなされる場合があるというような説明が法務省側からございました。

 そして、これも先ほど御説明いたしましたけれども、特に在外公館、これは海外に在留する日本人のDV被害者の方等から御相談を受けた場合、その相談内容を記録、保管して、それが必要があれば、御本人の希望があれば提供して、それを裁判所に出すことが可能であるという説明も申し上げました。このような措置をとるに当たり、特に新たな予算措置は必要だと思っておりません。

 ただ、その上であえて申し上げれば、これは今の御質問に対するお答えを若干はみ出ているかもしれませんけれども、今回のこの委員会で何度も御質問を受けました、在外公館としてのDV被害者の支援のために、これも先ほど別の参考人から説明させていただきましたけれども、いろいろな手当てを今しておりまして、例えば、そういう在外公館におけるこういった相談対応、支援の体制の強化という面では、本年度の予算では二千三百万円を計上しているところでございます。

丸山委員 そういった意味で、やはり先ほどの御答弁もありましたように、御認識としても、海外の事情を把握するのは非常に難しいということでございますが、そうした中で、やはり現地にいるような公的な団体だけではなく、例えば面会交流を行っているような団体だとか、例えば弁護士、現地の弁護士、国内の弁護士の方もいらっしゃいますけれども、そういった団体との連携というものが非常に重要になってくるというふうに、お聞きして思うんです。

 そういった中で、その団体等との連携の仕方に関しまして、その体制整備だとかというものは現状どうなっていらっしゃるんでしょうか。また、現状として、今、枠組みとして、予算上、政策上の、これといって枠がないということなんですけれども、そういった連携の面も含めまして、何か今後お考えになっていることがありますでしょうか。お答えいただければと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 特に、今先生から御指摘がありましたような団体との協力につきましては、本条約の実施に当たりまして、当事者間の話し合いを通じて面会交流の実現を図るという上で非常に重要だと思います。

 このような面会交流の実現を図る上で、面会交流支援機関との連携協力を強化していくことは重要だと考えておりまして、例えば、これは例示でございますが、家庭問題情報センターあるいは日本国際社会事業団といった、そういう機関と今後の協力体制について、そのあり方について話し合いを始めているところでございます。

 そして、いずれこの条約実施法を御承認いただきました暁には、こういう関連で、このような面会交流支援機関の利用を促進するために、こういった機関に対し政府からの業務委託というようなことを行うことも想定しておりまして、そのための予算も考えていきたいと思っております。

谷垣国務大臣 丸山委員の御提起された問題にぴたっと合うかどうかはわかりませんが、ハーグ条約に関して、子の返還申し立て事件あるいは面会交流事件の当事者となる日本人、やはり法律的なバックアップも必要だろうということで、いわゆる法テラス、総合法律支援法に基づいて、この支援センター、ここにおける民事法律扶助、資力の乏しい方を対象として、無料での法律相談やあるいは民事裁判等手続の準備、それから、訴訟を追行するための弁護士費用の立てかえ払いといったことの援助をすることができるようにしておりますし、それから、子の返還申し立て事件やあるいは面会交流事件等の当事者となった日本人が、必要な裁判費用を支払う資力がないというような場合もありますので、手続上の救助の裁判によって、申し立て手数料の裁判費用の支払いの猶予を受けることができる、こういった支援も用意しております。

丸山委員 御答弁ありがとうございます。

 しっかり連携していただいて、漏れのないようにフォローいただければと思います。

 そういった意味で、国内の法テラスも含めて、充実しやすいと思うんですけれども、一方で、海外の方でのフォローというのは、やはりどうしても、先ほどから各委員の御指摘あったように、薄くなってくると思います。そういった意味で、在外公館での研修の話等ありましたけれども、案件の多い国というのがやはり数字で出ておりますので、まずそういった国からでも構いませんし、なおかつ兼任という形でも構わないんですが、予算だけじゃなくて、機構・定員といいますか、部署の創設や、その専門員、人員の配置というものが非常に重要になってくるのではないかなと感じるんですけれども、そのあたりにつきまして御所見をいただければと思います。

あべ大臣政務官 丸山委員にお答えいたします。

 特に、人員の強化に関しまして、私ども外務省といたしまして、ハーグ条約の締結国におきまして、所在する各在外公館に対しまして、ハーグ条約関連業務に対応するため、館内の役割分担について具体的に指示を出させていただいているところでございます。これによりまして、領事担当のみに業務が集中することなく、公館の幹部のもと、館内横断的に協力し、対処していく体制ができているものというふうに理解をしております。

丸山委員 人員に関しましても、しっかりやっていただければと思います。

 もう一つ、最後になりますが、遡及適用について懸念している点がございます。

 この本法律案によりますと、法の施行前の連れ去り事案、返還事案に関しましての遡及適用がないのじゃないかという御指摘がありました。これまでにもありました。その中で、欧米諸国からも、既存の連れ去り事案について対応を要請されているんじゃないでしょうか。現状についてお伺いできればと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のとおり、日本は今ハーグ条約に入っていないわけでございますけれども、既にハーグ条約に入っている国から、外交ルート、あるいは主要な会合等におきまして、国をまたいだ、まさに子の不法な連れ去りの問題がある、そして、日本はまだハーグ条約に入っていないということで、早急に入ってほしいということと、問題解決のために協力してほしいというような申し入れは受けております。

丸山委員 具体的な国、件数等、現状おわかりのものがあればお教えいただきたいんですけれども。

新美政府参考人 申しわけございません。お答え申し上げます。

 今外国政府から提起されている子の連れ去り件数として申し入れを受けておりますのは、アメリカが八十一件、イギリスが三十九件、カナダが三十九件、フランスが三十三件でございます。失礼いたしました。

丸山委員 かなり、欧米から、特に特定の国から要望があるということで、恐らくこれは、条約を結んで、日本国としても法をつくったということで、さらに強い要請があるのではないかなと推察します。

 さらに、逆に我が国から海外への連れ去り事案に関しても、今回の法案の締結前の事例ももちろんたくさんあると思いますけれども、これらの、これまでの、以前の案件に関しましても、やはり何らかの対応が必要ではないかと思いますけれども、これに関しまして見解を伺えればと思います。

あべ大臣政務官 丸山委員にお答えいたします。

 ハーグ条約が効力を生ずる前に生じた子の不法な連れ去りに関しましてでございますが、ハーグ条約に基づく返還の対象とならないわけでございます。このような事案につきまして、それぞれの国内法令に従って、友好的な解決が図られるよう、政府として可能な限りの支援を行っていきたいというふうに思っております。

 なお、こういう事案に関しましても、条約の発効後に、面会交流、この権利が侵害されている場合においては、面会交流に関してハーグ条約に基づく支援を受けることは可能でございます。

 今後とも、個別の事案につきまして、関係国間の情報交換、さらには関係国の協力のもとでの面会交流の実現に向けた支援の実施など、子の利益を重視することを基本といたしまして、個別の事案の解決に引き続き取り組んでまいりたいというふうに思っております。

丸山委員 ありがとうございます。

 基本的に、法を施行する場合、遡及効という話は問題にはならないですけれども、今回は、やはり人権ということで、非常に大きなものでございますので、基本的な部分でございますので、やはり、これまでと少し今後は違ってくるとなると、実際に被害に遭われている方の中で、どうなっているんだというお声が出てくると思いますので、しっかりそのあたりはフォローできるような体制を組んでいただけますようお願い申し上げます。

 最後になりました。何分、かなり事務方の方にお伺いすることが多かったので、最後になりますが、やはり大臣や政務官の方々、政務の方々の所信と決意を伺いたいと思います。

 私自身、やはり国家の最大の役割は、先ほど来、最初から申し上げているように、国民の生命と財産をしっかり守っていく、もうここに尽きるんだと思っています。そういった意味で、対応の仕方を誤れば非常にこれは、ハーグ条約の件は取り返しのつかない人権侵害につながるというふうに認識しておりまして、この運用に関しまして政務の皆様の決意と所信を最後に伺って、終わりにしたいと思います。

谷垣国務大臣 丸山委員がおっしゃっておりますように、今御議論いただいている法律案、変な運用をされると、日本人である親、子、これは重大な被害を生ずる、重大な問題が生ずるわけでございまして、条約とこの法律案が目指している子の利益という観点に沿って、この法律の運用あるいは条約の運用がされることが何よりも肝要だと思います。

 これは法務省だけではなく、裁判所あるいは中央当局、それぞれ力を合わせて、その目的がきちっと達成できますように、我々としても意を用いてまいりたいと思います。

丸山委員 ありがとうございます。

 政府当局、各役所、しっかり連携していただいて、一丸となって取り組んでいただけますようお願い申し上げまして、私、丸山穂高の質問とさせていただきます。ありがとうございました。

石田委員長 次に、椎名毅君。

椎名委員 ありがとうございます。みんなの党の椎名毅でございます。

 本日は、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律案ということで質疑のお時間を頂戴いたしました。大変感謝を申し上げたいというふうに思っております。

 さきの三月十五日でございますけれども、三月の十三日に行われました谷垣大臣の所信に対する質疑で、この条約及びこの条約の実施法である本法について取り上げさせていただきました。改めて、各条項を深掘りして考えて、質疑させていただきたいと思います。前に質問された方々と重なる部分もあろうかと思いますけれども、御容赦いただければというふうに思っております。

 さきの大臣所信に対する質疑の際に、これが終わった後、さまざまな方々からいろいろな反響を実はいただきました。全く見知らぬ方々から私の会館の事務所に電話がありまして、国内における子供の連れ去りの問題についてよくぞ取り上げてくれた、ようやく我々にも光が当たったというような指摘をたくさんいただいた次第でございます。

 この問題というのは、先ほど来、日本維新の会の先生方含め、取り上げていただいているところではございますけれども、引き続き注視して検討していかなければならない問題であるという問題意識に基づいて、私自身、本法について質疑をさせていただきたいと思います。

 昨日ですけれども、衆議院本会議で、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約、いわゆるハーグ条約ですが、これが全会一致で承認されたところでございます。このハーグ条約が批准されるということは大変好ましいことだと私自身も考えております。当然ですが、私自身も昨日の条約の承認について賛成票を投じたわけでございます。

 しかし、私の懸念事項と申しますのは、国内の実施法において、このハーグ条約の精神を没却するような、そんな運用がなされるのであれば、本条約を締結する意味がなくなってしまうのではないかという観点で、問題意識を持っております。

 私自身の問題意識を具体的に申し上げますと、まず第一に、ハーグ条約の締結に関連しまして、外務省及び法務省との間で、消極的なセクト主義とでも申しましょうか、縦割りの弊害と表現をする方々もいらっしゃるかと思いますけれども、本条約の締結について、押しつけ合った結果として先送りをしてきたのではないか。さらに言うと、先送りの理由については、ハーグ条約の加盟に伴って、我が国の離婚後の親子関係に関する考え方に影響があるのではないかというような理由をもって先送りしてきたんじゃなかろうかというような仮説を持っております。

 さらにもう一つ、私自身の持っている懸念事項といたしまして、本条約に加盟したところで、DVによる被害者を保護するというような大義名分というか美名のもとで、そうではないDV冤罪と言われるような事案についてまで保護されてしまうことになって、実際にこの条約の精神を骨抜きにしてしまうのではないかというような危惧を持っております。

 こういった問題意識から、まず大前提として、条約そのものについて幾つか確認するところからスタートさせていただければというふうに思います。

 まず、先ほど民主党の田嶋委員からも質疑でございました、本条約の締結に先立って保護すべき国益ということで、実際に我が国の国民が当事者になるケースを保護しなければならないということでございました。これ自体は本当にそのとおりだというふうに申し上げたいと思います。

 これに加えて、私が物すごく懸念をしていること、それは何かということですが、国際的な日本の司法に対する信頼の確保という観点についてどのように考えているのかということを伺いたいと思います。すなわち、現在、日本という国が子供の連れ去りを許容する国であるという形で、日本の司法制度に対する国際的な信頼がおとしめられているというようなこともあるのではないかというふうに危惧をしているわけでございます。

 この点について、これも国益である、これを保護していかなければならないというようなことを伺いたいと思いますが、問題意識を伺えればと思います。外務省の方、お願いします。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御説明されたとおり、ハーグ条約というのは、子の利益が最重要という認識に基づいて、三十年前に国際的な子の連れ去り等の問題を解決するために作成されて、今や国際的なルールとして確立しているわけでございますが、日本は入っていなかった。そして、G8の中では我が国だけが締結していないわけでございます。

 そういう状況で、それが外国から見て日本の司法の信頼性という問題になるかどうかはちょっと、私どもからお答えすべき問題ではないかもしれませんが、日本がそういうルールに入っていない、つまり、世界の中の大国で、非常に多くの日本人が海外に出、また多くの外国人が日本に来て、多くの国際結婚があるのに、そして子の不法な連れ去りの問題も起こっているのに、日本だけがメジャーな国でそれに入っていないということに対して、非常に問題視、不信視するというのはあったと思います。

 例えばアメリカの例を言えば、DVの話がいろいろ出ておりますけれども、アメリカにおいて、やはり、日本がハーグ条約に入っていない、そういう中で、不法の子の連れ去りの問題が解決しないということに対して非常に懸念する意見というのが、アメリカの政府のみならず、議会あるいは国民の中でもそういう声があったというのは聞いております。

椎名委員 ありがとうございます。

 日本の国そのものに対する信頼、さらには日本の司法に対する信頼感というのは結構重要だと思います。

 現在、東京及び大阪を中心とする日本の大都市圏が、グローバル化した社会の中で、世界の経済の中心としてやっていこうとまさに羽ばたいているところなわけでございます。そういった中で、東京及び大阪、それからその周辺の大都市圏が外国人労働者を当然多数受け入れていかなければならない状況であることは間違いありませんし、逆に、日本人がグローバル化して海外の大都市その他もろもろで働いていくことを進めていかなければならないわけでございます。

 こういった観点からしても、日本の司法そのものに対する信頼感、日本が、子供が連れ去られたら保護をしてくれないそういう国であるというレッテルが張られることによって、東京それから大阪といった日本の大都市そのものに外国人労働者を誘致する、誘致というか、招いてそこで働いてもらうことすらできなくなるという意味で、非常に社会的なインフラなんだと思います。

 だからこそ、私自身、この観点について、日本の司法それから日本の裁判、そういったものに対する信頼感を確保していくことというのを国益として保護していかなければならないものだというふうに強く感じるところでございます。

 次に参ります。

 なぜこの条約を今締結するんですかと事務方の方々に御質問を何度かさせていただきました。事務方の方々から、今締結する理由はというと、国際結婚の数がふえたからだ、離婚の数もふえているということでございました。

 しかし、国際結婚の件数をよくよく見ると、先ほど田嶋先生が出された資料の中にもグラフがあったかと思いますけれども、実は、二十年前の国際結婚の件数が大体二万五千件ぐらいで、つい直近の国際結婚の件数も約二万五千件ぐらい、ほぼ一緒なわけでございます。六年ほど前の平成十九年ごろというところがピークで、大体四万五千件前後ぐらいということで、実は、今現状で別に国際結婚がすごいふえているということではないんじゃないかというふうに問題視しているわけです。

 だからこそ、二十年前ではなくなぜ今なのかということが問題になるわけであって、先ほど、一番最初に、冒頭に私自身が申し上げたことでございますけれども、要は、先送り先送りにしてきたけれども、結局、外圧によって締結せざるを得ないという状況に導かれているということなんじゃないかということなんですけれども、なぜ今なんでしょう。その先送りしてきた要因を教えていただければと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 多分、いろいろな要因があるんだと思います。

 まず、先生から今御指摘のありました国際結婚の数等は、確かに波がございまして、ここ数年は減ったりしております。他方、日本の結婚数全体が減っている。例えば別の数字で、日本の結婚の件数に占める国際結婚の数、これも先ほど田嶋先生が出しておられましたけれども、最近ちょっと減っていますけれども、過去十年、二十年のトレンドで見ると、今はたしか九%近く。非常に結婚の中には、これは我々の日常の生活でも、先ほども先生からお話がありましたけれども、自分たちの身の回りでも国際結婚をしている人がふえている。そして、国際離婚の数もふえている。長いトレンドで見れば、そういうのは一つあると思います。

 あともう一つは、先生から先送りという厳しいお言葉をいただきましたけれども、私ども、もちろん、ハーグ条約が三十年前にできたときから、継続課題として、この条約に入るべきか、入るとしたらどうするかというのを検討してきたわけでございますけれども、特に、ハーグ条約を締結した場合に、正直言って、私ども日本にとっては今まで入っておりませんので全くなじみのない条約、そして、今回もいろいろ御審議いただいておりますけれども、新しい制度でございます。そうやって、例えば新たな裁判制度、裁判手続をどういうふうに導入するのか、あと中央当局の制度設計をどうするのか、そういうのをいろいろ検討するのに数多く論点があった。そういうことで時間を要して、昨年からことしにかけての国会提出に至ったということだと思います。

椎名委員 ありがとうございます。

 おっしゃっていることの意味はよくわかります。とはいえ、例えば、一九九四年に子どもの権利条約、日本の六法によると、児童の権利に関する条約というタイトルになっておりますけれども、要は、子どもの権利条約と言われるこの条約を一九九四年、平成六年に締結しているわけでございます。

 この条約を締結した後、この十年後だと思いますけれども、平成十六年ごろ、例えば、子どもの権利条約の実施状況に関する報告というものの中で、批准の勧告というものが行われているわけでございます。これが平成十六年ですから、それでも今から九年前ということでございます。

 子どもの権利条約自体は、ハーグ条約の中に、ハーグ条約の理念でもあります子の最善の福祉というものを保障する内容なんだと思いますし、子どもの権利条約によって子の最善の福祉を保護するという理念が共通化されているからこそ、まさにハーグ条約を締結しなければならないという問題意識が出てくるんじゃないかというふうに私自身は推測しておりますけれども、少なくとも、今から十九年前である子どもの権利条約を締結したときに、ハーグ条約についても締結しなきゃいけないんじゃないかというような、そんな議論というのはあったんでしょうか。それとも、やはり、中央当局をどうするか、締結するとしてもほかの国の運用状況はどうかといったような調査をしていて、引き続きずっと検討課題として置かれていたんでしょうか。教えてください。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 先生の今御指摘がありました児童の権利条約、これは、おっしゃったとおり、一九九四年に日本は締約したところでございます。この児童の権利条約は、まさに児童の最善の利益というのを主として考慮したものでございまして、これはハーグ条約と目的を一にするものでございます。

 もちろん、児童の権利条約の締結が直接ハーグ条約の締結に影響を与えているわけではございませんけれども、結果として、まず、法理論的に言えば、ハーグ条約の締結及び実施により、児童の権利の尊重及び確保というのがさらに促進されることになると思います。

 そして、今、先生御指摘がございましたとおり、この児童の権利条約の枠内で、児童の権利条約に関する日本の政府報告に対する児童の権利委員会による最終見解というのが出まして、そこで、日本について、ハーグ条約を早く批准するように、実施するようにということを勧告されたということは事実でございます。

 その当時、それを踏まえて政府全体として、では、そこでハーグ条約を締結すべきだというところまで詰めた検討がなされたことは、私どもの承知している限りございませんが、当然、事務的には、それを何とかしないといけないなという一連の継続する検討の中で、一つの節目にはなったと思います。

 ただ、その時点で、例えば去年とかことしのように、こうやって国会まで、あるいは政府全体、上まで上げて、条約を締結する、あるいは実施法をつくるというような状態にはなっていなかったというのは事実だと思います。

椎名委員 ありがとうございます。

 そういう状況を評価して、私自身は先ほど先送りという表現をさせていただいたわけでございます。

 例えば、児童の権利に関する条約九条三項でございますと、父母との不分離というところ、それから、分離されている児童の接触する権利が保障されるべきであるというような、そういった条項が入っているわけでございます。

 こういった条項を踏まえますと、基本的には、国内の民法という観点からすると、共同親権を検討するかどうかはさておき、例えば、面会交流のあり方、それから親権のあり方という検討がなされてしかるべきでありますし、国際結婚という観点からすると、本条約を締結するかしないかというような観点で検討されてしかるべきだったんだろうというふうに思います。そこで何らのアクションが起きなかったということは、非常に残念なのではないかというふうに私自身は感じるところでございます。

 子どもの権利条約の実施状況に関する報告書の中での勧告を含めて、この三十年の間で、ハーグ条約を締結するべきであるという要請が、ハイレベル協議でいいですけれども、どの国からどのくらいの回数、今まであったということなんでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 御質問がありました、過去三十年の諸外国からのハーグ条約締結の要請、どういうふうにやってきたか。

 これは網羅的に今お答えできるだけの数字はございませんが、直近の数字で恐縮でございますけれども、二〇〇九年以降、ハイレベルでございます首脳会談または外相会談におきましてハーグ条約の締結の要請を受けましたものにつきましては、アメリカから二十二回、カナダから四回、イギリスとフランスからはそれぞれ三回となっておりまして、アメリカからは国務長官レベルのみならず大統領からも、イギリスも外相そして首相、フランスも外相、首相、カナダも外相、首相、それぞれハイエストレベルから要請を受けております。

椎名委員 ありがとうございます。

 直近の数年だけであってもこれだけあるわけでございます。手元にある資料なんかですと、平成十七年ぐらいから、いろいろな国々の大使を含めて、我が国に対して締結の要請等々が多々あったというようなことだけは確認することができることでございます。

 やはり、だからここで、先ほど来申し上げていますとおり、何度となく外国から要請されているのにずっと先送りしてきたのではないかというふうにどうしても感じざるを得ないんだということ、済みません、私の感想だけ申し上げさせていただいて、次に進みます。遅いんじゃないかと非難したところで全く建設的ではないので、ごめんなさい、次に行きたいと思います。

 次です。中央当局のあり方についてでございますけれども、他国では司法関係省庁等がなっている例もございますけれども、なぜ、外務大臣が中央当局となるというふうに本法では定めているのでしょうか。

 米国では国務省が中央当局になるという例もありますけれども、結構、大陸法系の国々なんかでは司法関係省庁がなっているような例も多いように見受けますが、国務省がなる点、それから司法関係省庁がなる点、それぞれについて、どういったところがいいところで、どういったところが悪いところなのかというのを検討して、どこを重視するべく外務省となったのでしょうか。教えていただけると大変幸いです。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 まさに先生御指摘ございましたとおり、各国、既に八十九カ国がハーグ条約の締約国になっているわけでございますけれども、その中では、いわゆる法務系といいますか、法務省あるいは検察庁がなっているところが数でいえば多うございまして、それ以外に、社会福祉系と申しますか、日本でいえば厚生労働省というようなところがなっている例もございます。そして、外務省がなっているところもございますが、数でいえばそんなに多くはございません。

 その上で、日本として、今回、条約そして実施法案を国会にお諮りする前提として、中央当局はどこが受けるべきか、これは随分議論があったわけでございますが、各国の例も参考にしつつ、日本の場合、どの省が中央当局になると一番効率的かということの検討を行ったわけでございます。

 まず、それぞれのメリット、デメリットという御質問でございますけれども、司法省系のところが中央当局になっている国、こういう国についても調べましたけれども、確かにこういう国では、裁判手続に関する国内制度とか私人間の家事事案の解決等とか、そういう面ではやはり知見と経験がございます。そういうメリットはあると思います。

 他方、外務省系、外務省が中央当局を担うメリットといたしましては、やはりこれは国際条約でございます。そして、国境を越える不法な子の連れ去りに対する対応でございます。そして、今回、繰り返し御答弁を申し上げているとおり、外国の中央当局と緊密な連携協力が必要でございます。そして、DV保護の例でもございましたが、在外公館を通じた支援の確保というのも重要でございます。

 そういう点を総合的に検討いたしました結果、これはもちろん、ある意味でオール・ジャパンでやっていくわけでございますけれども、中央当局については外務大臣として、外務省を実施の窓口にする、その上で法務省を初めとする関係府省庁と緊密に連携をする、そして政府一丸となって任務をする、これが一番適当ではないかという結論になりまして、外務大臣が中央当局ということになった次第でございます。

椎名委員 ありがとうございます。

 一番最初にも指摘しましたけれども、消極的なセクト主義ということが、ついぞ、たまに役所の連携の話をするとこういう問題が生じかねないわけでございまして、どうしてもやはり外務省と法務省との連携の状況というのは非常に気になるところでございますので、運用面の話だと思いますが、今後とも緊密に連携をとるべく頑張っていただきたいなというふうに私自身は思います。

 私自身は、個人的には、法務省でやった方がいいんじゃないかなというふうに思ったりはしましたけれども、現行法で、これできちんと運用していただければというふうに思っております。

 そして、先ほど申し上げたような国益という観点で申しますと、日本の司法に対する信頼という面でございます。

 そういった面で申しますと、要は何かというと、やはり、次々同じような案件が出てくるんだと思いますけれども、それについて、裁判所としては個別具体的に判断をしますということをおっしゃるんだと思います。それはそのとおりだと思いますけれども、他方で、日本の国の司法に対する信頼感というものを確保していくという意味で、日本が開かれた法治主義国家であるということを明確に国際的に表現していくためにも、国際的に見てバランスいい、不合理ではない、そういった結論が出るような運用がなされていくべきなんだろうというふうに私自身は考えています。

 そんな中で、この内容の担保、それからチェック、そして国際的なバランス、整合性といったものについて、どのような形で確保をするということが見込まれているんでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今まさに先生からも御指摘ございましたように、ハーグ条約に入りまして、実施法を成立させていただいて、このハーグ条約のシステムが動き出します。そして、特に返還要請については、個別の事案について家庭裁判所で判断が下されていくことになると思いますが、まず、個別の裁判所の判断それぞれについて、それが国際的な評価がどうかというのを総合的に判断するということはなかなか難しいと思います。

 他方、まさに先生御指摘されたように、日本は多くの国からハーグ条約に入ってくれ、入ってほしいということを言われている状況で、入ってから、ハーグ条約の加盟国としてふさわしい、きちっとした条約の運用、適用がされていくのか。

 これは、特に私ども外務省から申し上げますと、中央当局を任じられている立場から、条約で定められた中央当局の任務というのをきちっと遂行して、当事者、当事者というのはもちろん日本人でありますけれども、当事者が外国人の場合もございます、そういう者を適切に支援する、そして、必要があれば在外公館に対する相談対応等もしていく。そういう中で、条約の実施状況というのをきちっと確認していくということは必要だと思います。

 したがって、先生の御指摘も踏まえまして、国境を越えた不法な子の連れ去り問題に関する実態の調査、検証、これは積極的に取り組んでいく必要があると思っております。

椎名委員 済みません。ありがとうございます。

 条約の実施状況につきましては、ハーグ国際私法会議という会議があろうかと思いますけれども、そことの関係でいうと、定期的に報告をするということ、それから、国際的な視点で検証されていくというような流れになっているんでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 まさに先生御指摘のとおり、要するに、ハーグの事務局がございまして、そこが例えば、先ほども御答弁させていただきましたけれども、各国の判例の蓄積、照会、あるいは分析のような仕事もしております。

 したがって、日本が今回、条約、実施法を御承認いただきまして、晴れてハーグ条約の当事国になれば、当然定期的に、これは義務ではございませんけれども、その事務局にも連絡をとり、あるいは日本の条約の実施状況というのを報告する、そして、それが事務局で、世界の、ハーグ条約全体の実施の判例あるいは事案の積み重ねとして、その中に日本の実績というのが入っていく、多分そういう形になると思います。

椎名委員 ありがとうございます。

 法務省の参考人の方にも伺いたいんですけれども、各国の今までの実施裁判例といったものについて、これが日本の子の返還手続の中でどういった形で参照されることになるという理解でよろしいでしょうか。

深山政府参考人 我が国の裁判所で返還拒否事由の判断をする際に、返還拒否事由は、何度も申し上げていますが、ハーグ条約に掲げられている返還拒否事由を基本的にはそのまま国内法化したものですので、それをどう解釈、運用するかというときの重要な参考資料として、既に締約国の裁判所で出されているそれぞれの返還拒否事由の判断内容を参酌して、これは既に公表されているベースの資料でございますので、参考にしながら日本の裁判所としての判断をしていく、こういう形になるんだろうと思います。

椎名委員 わかりました。ありがとうございます。

 こういった形できちんきちんと、国際的に見ても不合理でないような判断というのがなされていくこと、これの積み重ねによって、日本の中でこういった子の連れ去り問題が生じたような場合においても、そして日本人の方々が外国から子供を連れ去ってきてしまったような場合においても、合理的なきちんとした判断がなされるようになってくるんだろうというふうに私自身期待しております。

 いつだったか、ちょっと記憶にございませんけれども、恐らく四月の十二日だったと思いますが、さきの大臣の答弁で、本条約において予定されている離婚後の子の親権のあり方というものについては、基本的には共同親権主義を前提としない、あくまでも手続的な法案であるということだったと思います。しかし、後でも指摘させていただこうかというふうに思っておりますけれども、この条約はやはり圧倒的に共同親権主義の国の運用と親和性が高いんじゃないかというふうに思っています。

 現在、加盟八十九カ国のうち、単独親権主義を採用している国というのは十四カ国だというふうに聞いております。この十四カ国の中で、どういった形でハーグ条約の手続が運用されているのか、特に返還拒否事由について、国内で親権者を定める手続と実務的に軌を一にしているのかいないのか、そういったところについてどのような調査がなされているか、教えていただければと思います。

深山政府参考人 今委員も前提としてお話しされたように、ハーグ条約は特定の親権制度を前提としておりません。確かに、現時点では共同親権をとっている国が加盟国の相当部分を占めているのはそのとおりなんですが、この条約ができて発効した三十年前は、むしろ欧米の主要国でも単独親権をとっている国はたくさんあった時代でございます。

 そのことからもあらわれているように、国内の法制として、離婚後、単独親権か共同親権かということはこの条約と直接の関係はないという理解のもとに、今回のこの実施法案を作成する過程においても、現在、単独親権制度がとられているハーグ条約の加盟国において国内でどういう裁判手続がされているのかという点は、調査をしておりません。

椎名委員 ありがとうございます。

 ぜひ調査をしてほしいなというふうに私自身は思います。やはり、一番最初に申し上げました私自身の懸念事項と申しますのは、結局のところ、現在の日本の家事審判の実務の運用と、それからこの子の返還手続に係る返還拒否事由の手続の運用が軌を一にしてしまうことがあるのではないかという危惧なんだろうというふうに私自身は思います。なので、ぜひ、ほかの国でどうなっているかということを踏まえた上で今後の運用を考えていくべきなんじゃないかと私自身は考えています。

 という形で、ようやく前提の話が終わりまして、中身の話をさせていただきたいと思います。

 まず、私自身懸念しているところは、先ほど来ずっと申し述べていますように、子の返還原則と、それに対する例外である返還拒否事由、法案で言うところの二十七条及び二十八条の定めの内容だというふうに思っています。

 まず、原則として返還をするというたてつけに二十七条としてはなっています。そして、その例外として、これこれの場合には返還を命じてはならないという定め方になっていようかと思います。

 ここで一つ質問なんですけれども、もともとの条約では、「前条の規定にかかわらず、」少し飛ばしまして「当該子の返還を命ずる義務を負わない。」という形で、「義務を負わない。」という書き方になっているわけです。返還拒否事由が、返還拒否事由というか、十三条のa、bというところに書かれているこの事由があった場合には、裁判官としては、返還する義務を負わないだけであって、裏を返すと、返還をしてもいいんだということになっているかと思います。

 骨子案の中でも、返還拒否事由についての検討の中で、ここではどう書いてあるかというと、「一の要件の全てに該当する場合であっても、相手方が次に掲げる事由のいずれかがあることを証明したときは、裁判所は、返還命令の申立てを棄却することができるものとすること。」と書いてあるんです。

 しかし、これに対して二十八条の柱書きは、「返還を命じてはならない。」という書きぶりに変わっております。

 ここの意味の違い及び条約の内容との整合性、条約からはみ出している返還拒否事由を過大に認めていると評価することはできないかという点について、それぞれ、法務省の参考人の方とそれから外務省の参考人の方に伺えればと思います。

深山政府参考人 確かに、本法律案の第二十八条を見ますと、これは返還拒否事由の規定ですけれども、返還拒否事由がある場合には、子の返還を命じてはならない。しかし、これはただし書きがついておりまして、ただし、一切の事情を考慮して子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる、こういうふうになっています。

 つまり、委員も御指摘のとおり、返還事由というのが二十七条にあって、返還事由がある場合には返還を命じなければならない。しかし、返還拒否事由がある場合には返還を命じてはならない。ただし、そういう場合でも、子の利益を考えて返還を命じた方がいい場合は返還を命ずることができる、こういう三段構えになっています。これは、二十七条がいわば返還義務の発生原因事実、二十八条の本文の方がそれに対する抗弁事実、ただし書きが再抗弁事実、細かく言えばそういう構造になっています。

 ところが、条約の方はそんなに緻密に書いてなくて、一定の返還拒否事由があれば返還する義務を負わないと書いてあるだけではないかということで、まさに、骨子案だってそれと同じような規定ぶりになっていたじゃないかという御指摘だと思います。

 それは、経過としてはそのとおりで、骨子案の時点では、こういうふうにしたらどうかということを法制審議会で議論しておりましたが、その後、審議の過程で、これは日本法の書き方としてはおかしいのではないか、抗弁事由が認められたときに義務がなくなると明示しないで、ないかあるか、どちらも採用ですというような抗弁事由というのは、日本の法律の書き方としては不自然だと。

 ですから、これは、まずは返還拒否事由があれば返還義務はないんだけれども、しかし、この法律の根本目的である子の利益の観点からやはり返還した方がいい場合には返還をすることが裁判所はできるんだ、こういうふうに、日本法流でいわば書き分けて論理的な構造を明確にした方が妥当である、これが法制審議会の議論で、そういう考え方が強まりました。

 それで、非常に技術的な話で申しわけないんですが、条約は、各国法制でそれをどう書くかは、各国の法律の書きぶりの伝統がありますのでそれに委ねているということで、日本の法律として書けば、そう論理的に分析して書いた方がいいという結論になり、骨子案の時代から少し変わって今のような書きぶりになっているものでございます。

新美政府参考人 条約の書きぶりと解釈についてでございますが、まさに先生御指摘されていましたように、例えば条約の十二条の方で、子の返還を命じる義務につきましては、飛ばしますけれども、一定の条件が満たされた場合、「当該司法当局又は行政当局は、直ちに、当該子の返還を命ずる。」と書いてあるわけですが、まさに御指摘のとおり、十三条、子の返還を命ずる義務の例外については、「当該子の返還を命ずる義務を負わない。」と書いてあって、返還を命じてはいけないとか、返還を拒否することを命ずるとは書いてないわけでございます。

 まさに、そこの意味の違いについての御質問だったわけでございますけれども、それについて国内法にそれをどう書くかというのは、今法務省から御答弁をされたとおりでございまして、全く外務省も、協議をした上でそういうことになったわけでございます。

椎名委員 法技術的な話という意味でいうと、基本的に理解はできるわけでございますが、そうだとしても、二十八条の一項柱書きのただし書きで、一号から三号までまたは五号に掲げる事由ということで、四号と六号が抜けているわけでございます。そうしますと、この四号と六号があった場合には必ず返還を命じてはならないというたてつけになっているんだと思います。

 この四号というのが、常居所地国に子を返還することによって何たらかんたら、重大な危険があることということでございます。これがまさに条約の十三条のbというふうに記載されている部分でございまして、この条約の十三条のbについても、条約で見ますと、十三条の柱書き、ここが頭として存在しているので、条約のていを見ますと、基本的には、十三条のbがあっても返還を命じてもいいというていになっているはずだと思いますけれども、他方で、日本法の方では、二十八条の一項四号に該当する事案、これがあると必ず返還を命じてはならないということで、条約とそごがあると思うんですけれども、そこの内容、そこの違いについて教えてください。

深山政府参考人 今議員御指摘のような違いがあるのは、そのとおりです。

 これもまた法制審議会で、先ほどのように、抗弁的な事実と、ただし書きを設けて再抗弁的事実に義務を負わないというルールを分解して日本法で書いたとしたときに、各返還拒否事由ごとに個別に見ていくと、例外のただし書きの適用があってはおかしいものがあるのではないかという議論になりました。

 今御指摘は、四号です。四号は、同条二項を見ていただくと明らかなように、一切の事情を考慮して、子に重大な危険、危害が及ぶというような場合だということが認められた、こういう場合に、裁判官が裁量で、やはり子の利益に沿うから帰しましょうという判断をするのは、論理的にあり得ないのではないか。条約は、今御指摘のとおり、a号とb号をまとめて、柱書きで義務を負わないという書き方になっているので、そこはやや漠とした書き方になっていますが、一個一個ばらして見ると、返還拒否事由の性質によっては、その事由が認められた以上、この条約の趣旨、目的から考えて、ただし書きの適用の余地がない場合がある。

 もう一つが、これもちょっとお触れになりました六号です。六号も、返還すれば基本的人権に反する、憲法違反になる場合です。この場合に、裁判官が裁量で子の利益になるからといって帰すということは、これも論理的にないだろうということで、この四号と六号の場合だけはただし書きで書き分けてある、こういうことでございます。

椎名委員 わかりました。ありがとうございます。

 そうすると、やはりこの四号とそれから二項の問題が多分一番大きな問題になるんだろうというふうに私自身は考えます。

 その前提としてもう一点だけ、立証責任の話なんですけれども、先ほども大臣が答弁で触れていらっしゃいましたけれども、この立証責任という観点で申しますと、七十七条のところに一項、二項というところがございまして、基本的には家裁が職権で証拠調べをすると書いてあって、それから、申立人と相手方が二十八条の一項に該当するというような抗弁事由に関する証拠資料を提出するほか、証拠調べに協力するものとすると書いてあるわけです。七十七条で職権証拠調べをすると書いてあり、そして、七十七条の二項であくまでも相手方は証拠調べに協力するものとすると書いてあるんだと思います。

 これに対して、条約の十三条を見ると、「子の返還に異議を申し立てる個人、施設又は他の機関が次のいずれかのことを証明する場合には、」という形で、明確に、抗弁事由である二十八条の返還拒否事由を主張する側が証明責任を負っているというように読めるわけでございます。

 ここで申し上げている証明責任というのは、御承知だと思いますけれども、要は立証できなかったときに誰が負けるかという原則なわけでございまして、抗弁事由について、すなわち子の返還拒否事由があるということについて立証できなかった場合には、基本的に相手方が負けるということでございます。相手方が負けるということの意味はどういうことかというと、返還されるということでございます。そういうことなんだと思うんですけれども、他方で、日本法の立証責任のたてつけを見ると、必ずしもそうはなっていないと思います。職権証拠調べをすることが原則になっているように思います。

 そうすると、先ほど来問題になっております虚偽DVという事案で、相手方である返還拒否事由を申し立てる方が、口頭の証拠のみ、私がDVを受けました、相手方がそうではないと否認をしているような場合、こういった場合にどういったことが起きるのかというところが一番大きな問題になるんじゃないかなというふうに私自身は思っています。ぜひ御見解を伺えればと思います。

深山政府参考人 今御指摘があったとおり、子の返還申し立て事件は家庭裁判所の手続になっていて、職権探知主義がとられている。ただ、事実があるかどうかわからないときに、最終的にどちらが不利益を受けるかという意味での証明責任というお話がありましたけれども、それは、返還拒否事由については、返還拒否事由があるんだ、ないんだということで、わからなければ返還拒否事由は認められませんので返還されることになるという意味で、相手方が負う。そういう意味での客観的証明責任はやはり前提としてはあるんだと思います。

 ただ、それに加えて、家庭裁判所が職権で調査をするということが前面に出ているじゃないか、そこが少し違うんじゃないかというお話です。

 子の返還申し立て事件というのは、当事者は、申立人は外国にいる親御さん、相手方というのは日本にいる親御さんです。しかし、この手続で一番重視しなくちゃいけないのは子供の利益である。それは条約の趣旨から明らかでありますが、子の利益を保護するために職権による介入を認めたというのが、この職権調査あるいは職権主義をとった理由でございます。

 当事者の専ら処分できる利益について、普通の民事訴訟のようなものであれば、先生言われるとおり、それぞれが有利な証拠を出して、真偽不明であれば主張した方が負けということでいいわけですが、手続全体の究極の目的である子の利益の実現というときに、一方の当事者の主張が必ずしも証拠が弱いとか十分でないときに、やはり子の利益の観点から職権で証拠を補充するというようなことが必要なのではないか、そういう手続構造にすることがむしろこの条約の趣旨に合うんじゃないかということでこういうふうになっているということで、やや特殊なものであることは御指摘のとおりでございます。

椎名委員 ありがとうございます。

 私たちみんなの党が先ごろ招致いたしました中央大学の棚瀬孝雄参考人の意見では、まさにこのあたりの証明責任のあり方、それから二十八条一項の返還拒否事由の内容についてといったところの実務的な運用を想定した場合の危惧が提示されていたわけでございます。

 せんだっての参考人質疑、これをお聞きになられて、法務省としてどういう見解を持たれているか、教えていただければと思います。

谷垣国務大臣 私も、棚瀬参考人の議事録を読ませていただきました。

 今おっしゃったことは、二十八条二項というものを設けたことによって、本来返還されるべき事案についても拒否される場合がふえてくるのではないかという懸念を示しておられたわけですね。

 ただ、今民事局長が申しましたように、やや、ハーグ条約そのものよりも法制審議会の議論を踏まえまして技術的な表現になっていることはおっしゃるとおりでございますが、基本的に、従来のハーグ条約、それからその運用の実績等なんかも見まして、ハーグ条約の射程内で立法したものと思っておりますので、私自身は棚瀬参考人のおっしゃったような懸念は感じておりません。ただ、あとは運用の問題なのではないか、このように思っております。

椎名委員 ありがとうございます。

 だんだん時間がなくなってきましたので、あと一点か二点ほど伺いたいと思います。

 この二十八条の二項の例について、まさに棚瀬参考人が懸念を示したところでございます。その懸念の内容としては、例えば二十八条二項一号、二号を含めまして、「おそれ」という言葉があることによって二十八条一項四号の重大な危険があるとみなされやしないかということだと思います。さらには、三号において、申立人、相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情があったら、四号に該当するとして返還拒否がされないか、みなされないかというところだと思います。

 この二十八条二項のベースになったのが、恐らくスイス連邦法五条というところでつくられたもの、要するにノイリンガー事件を受けた上でつくられた重大な危険のみなし規定なんだろうというふうに思います。

 スイス連邦法第五条に関しましては、これこれこれこれの事由があるときについては基本的に重大な危険があるとみなすという表現になっていて、重大な危険を認定することになっております。これに対して、日本のこの一項四号それから二項の存在そのものだと、必ずしもそこまでは読めないわけでございます。

 しかし、先ほどの大臣の答弁なんかを見ると、例えば、米国から日本人の女性が子供を連れて帰ってきてウオンテッドとなっている、要するに、いわゆる国際的な指名手配のような形になっている、現地に戻ってしまうと逮捕をされてしまうような事案、こういったような事案が、相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情と定められている二項三号に該当し得るんじゃないかというふうに私自身は思います。

 しかし、例えば米国なんかでございますと、先ほど丸山先生に対する答弁でもございましたが、米国から今現在で約八十件ほどの子の連れ去り事案が申し立てをされているということだというふうに理解をしております。

 こういった中で、米国の刑事手続の法律なんかを参考にしますと、例えば相手方の共同親権を侵害して子供を日本に連れ去ってきたような場合については刑事罰が科される可能性があるということはそのとおりだと思いますし、せんだっての参考人質疑で大津参考人も指摘していたところかというふうに思います。

 こういった中で、二項に該当する事案があると四号に該当するとして、返還拒否を必ず命じなければならないということなのかどうかについて教えていただければと思います。

深山政府参考人 今お話に出ました二十八条二項の三号の考慮事情というのは、二項の柱書きにあるように、第四号の返還拒否事由の有無を判断するに当たって、考慮しなくちゃいけない一事情です。つまり、「次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮する」という中の一事情で、これは重要な考慮事情だから考慮してくださいという、いわば注意的、確認的な規定です。

 したがって、アメリカに行けば逮捕される状況にあるというケースはこれに当たり得るというのはそのとおりなんですけれども、それがあればスイス法のようにみなすという規定ではありません。その事情は、相応に重要な事情として一切の事情の中で考慮してください。しかし、あくまで、返還拒否事由があるかどうかの判断は、さまざまな事情の総合考慮です。したがって、子供の年齢とか、逮捕といってもリスクの程度とか、いろいろなケースがあります。それら全てを総合勘案して、やはり最終的に返還拒否事由の四号に当たるとなればもちろん拒否されますし、そうでなければ、二項三号の事情に当たったとしても、それだけで自動的に拒否されるものではございません。

椎名委員 ありがとうございます。

 時間も来てしまいましたので終わりにいたしますが、結局、要は、最終的には、先ほど大臣もおっしゃったとおり運用の問題に帰着するんだろうというふうに私も理解をしております。

 くれぐれも、現在家裁の実務で行われているような継続性の原則、先ほど来話題になっております、子の監護権を定めるときに使われていると言われている継続性の原則、こういったものを踏まえた上で、連れ去り勝ちになってしまうような運用、そして虚偽DVなんかを保護するような運用にならないように、裁判所の方の方々にもぜひお願いしたいというところで、私自身の質疑を終わらせていただきたいと思います。

 どうもありがとうございます。

石田委員長 次回は、来る二十六日金曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時四十七分散会


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