衆議院

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第10号 平成27年4月22日(水曜日)

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平成二十七年四月二十二日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 盛山 正仁君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 遠山 清彦君

      小田原 潔君    大塚  拓君

      門  博文君    菅家 一郎君

      今野 智博君    辻  清人君

      冨樫 博之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    山下 貴司君

      若狭  勝君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    重徳 和彦君

      大口 善徳君    國重  徹君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君

   政府参考人

   (総務省自治行政局選挙部長)           稲山 博司君

   政府参考人

   (法務省大臣官房審議官) 高嶋 智光君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   政府参考人

   (国土交通省大臣官房物流審議官)         羽尾 一郎君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十二日

 辞任         補欠選任

  辻  清人君     小田原 潔君

同日

 辞任         補欠選任

  小田原 潔君     辻  清人君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第四一号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として総務省自治行政局選挙部長稲山博司君、法務省大臣官房審議官高嶋智光君、法務省刑事局長林眞琴君及び国土交通省大臣官房物流審議官羽尾一郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局平木刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。宮崎謙介君。

宮崎(謙)委員 おはようございます。自由民主党の宮崎謙介でございます。

 本日は、委員長初め理事の皆様には、質問の機会をいただきまして、心から感謝を申し上げます。

 初めて法務委員会で質問をさせていただきます。上川大臣、葉梨副大臣、大塚政務官、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 本日は、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案について質問をさせていただきます。前半は本法案についての質問、後半は裁判員制度全体的な質問をさせていただきたいと思います。

 まず、本法案の質問に入ります前に、裁判員制度自体についてお伺いをいたします。

 裁判員制度を導入する趣旨というものは、国民の皆様が広く裁判の過程に参加をして、その感覚が裁判内容により反映されるようになることによって司法に対する国民の理解や支持が深まることを目的としていると認識していますが、いま一度、導入趣旨について、確認の意味も込めましてお伺いしたいと思います。大臣、よろしくお願いいたします。

上川国務大臣 委員から、裁判員制度についての趣旨というお尋ねがございました。

 触れていただきましたけれども、一般の国民が裁判の過程に参加をする、そして裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによりまして、国民の司法に対する理解、支持が深まり、また司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようになるとの観点から導入されたというふうに思っております。

宮崎(謙)委員 裁判員制度は、平成二十一年に導入されてから六年が経過をするわけであります。その中で、裁判員裁判は、やや低調ではあるものの、堅調に刑事手続に根を張りつつあるように思います。裁判所の意識改革に役立ったことも否定はできないと思います。

 ただ、裁判所、検察庁、弁護士会、それぞれになれが生じつつあって、よりよい制度にするためには、安定し始めたこの時期に、もう一度てこ入れをしていく必要があると感じております。

 今回の法改正は裁判員制度の改善のために行われると私は承知いたしておりますが、裁判員制度の現状について大臣はどのように御認識されているかということをお伺いしたいと思います。

上川国務大臣 裁判員制度の現状についての認識ということでございますが、平成二十一年五月に制度が施行されまして、裁判員候補者の方々、約八〇%近くの高い割合で裁判所に出頭をしていただきまして、裁判員等に選ばれた方々におかれましても、大変熱心に審理に御参加をいただいているというふうに考えております。

 裁判員裁判において、検察といたしましても、わかりやすく迅速で、しかも的確な主張、立証に努めているということ、そしてその他の関係されていらっしゃる皆さんにおかれましても、それぞれわかりやすい裁判の実現に向けて取り組んできたというふうに考えているところでございます。

 裁判員の経験者につきまして、裁判所におきましてアンケート調査が行われておりますけれども、経験者の方々におかれましては、九五・九%の方々が、裁判員として裁判に参加したことにつきまして大変よい経験をしたというふうに感じておられる、こうした回答を寄せていただいているところでございまして、裁判員が充実感を持って審理に取り組んでいただいているということがこうしたアンケート調査からもうかがえるということでございます。

 わかりやすい裁判の実現に向けました法曹三者の御努力ということで、一定の成果が得られてきたものと評価できるというふうに考えておりまして、裁判員制度そのものがおおむね順調に実施され、国民の皆さんの間にも定着をしてきているというふうに考えているところでございます。

 先ほど御指摘ありましたけれども、やはり、絶えず現状についての評価を加えながら、裁判員制度の一層の定着のために引き続きの御努力をしていただかなければいけないということで、そうしたことについては大変重要であるというふうに考えております。

宮崎(謙)委員 裁判員制度につきましては、一定の評価をされていて、順調に進んでいるというふうに御認識されているという御答弁をいただきました。ありがとうございます。

 その上で、今回の改正のポイントは大きく四つあるというふうに承知をしておりますが、一つ目は、非常に長期にわたる事件の対象事件からの除外ということでありまして、つまりは、審判の期間が著しく長期または公判期日が著しく多数で裁判員の選任等が困難な事案については、裁判官のみで審判を行うというものでございます。これは、裁判員の負担が大き過ぎるというふうに指摘をされている中で、とても重要な改善点であろうかと思っています。

 このたびこの改正に至った理由をお教えください。

林政府参考人 裁判員制度施行後五年以上経過しておりまして、その運用状況についてはおおむね順調であると評価できるものと考えておりますが、今後、例えば、公判前整理手続において十分な証拠の整理などを行ったとしましても審判に要する期間が著しく長期化する事案、あるいは、その期間が著しく長期であるとは言いがたいものの、週に四日とか五日といった頻度で著しく多数回にわたり公判が開かれるような事案、こういったものが生じることは否定できないところでございます。

 裁判員制度の趣旨でございますが、先ほどありましたように、広く国民が裁判の過程に参加して、その感覚が裁判内容に反映されることによりまして、司法に対する国民の理解、支持が深まって、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようにすることにあるわけでございますが、そういった趣旨に鑑みますと、現在の裁判員制度対象事件については、できる限り裁判員の参加する合議体で取り扱われることが望ましいと考えております。

 しかしながら、今申し上げたような、審判に要する期間が著しく長期にわたるような事案におきましては、裁判員の負担が非常に過重になる、そういった場合が生じるところでございます。こういった事態は避けるべきであろうと考えます。

 また、そのような事案が起きますと、裁判員の選任等に要する期間も非常に長期に及んでしまう場合が生じるわけでございますが、そうしますと、迅速な裁判を受けるべき被告人の利益を不当に損なうということにもなりかねません。

 このような問題が生じる場合にまで、あくまで裁判員の参加する合議体による審判をあえて行うということになりますと、かえって裁判員制度の趣旨に反する、また、刑事訴訟法の目的からしても問題が大きいことから、そういった場合には、裁判員の参加する合議体でなく、裁判官のみから構成される合議体による審判を可能とする、こういったことが必要でありますし、適切であると考えまして、今回、このような法改正を行うこととしたものでございます。

宮崎(謙)委員 皆様のお手元にお配りしていますけれども、審理が比較的長期に及んだ事例一覧表というものがございまして、これを見ますと、最も長期の職務従事期間は神戸の裁判におけるものでありまして、百三十二日でございます。また、次に長期になっている裁判はさいたまの裁判で百日とありますが、このさいたまの裁判においては、公判期日の回数が三十六回ということでありまして、詳しくは調べていますが、単純計算をしますと三カ月に三十六回ですので、一カ月に十二回で、二、三日に一回の頻度で公判が開かれているという計算になるわけです。

 これでも十分に負担がかかっていると思いますが、今回の改正の中でうたわれています著しく長期というのは、具体的にどのぐらいの期間を想定されているのか、お教えいただきたいと思います。

林政府参考人 裁判員制度の趣旨に照らしまして、できるだけ広く裁判員裁判を実施すべきであるという観点からしますと、これまで裁判員の参加する合議体で審判をすることが可能であった事案と同程度の審判期間となる事案につきましては、今後も通常は裁判員の参加する合議体で取り扱われることとなると考えられます。

 そのために、法律案の第三条の二によりまして裁判員制度対象事件から除外しようとする事件につきましては、裁判員制度の施行後、現在までには生じたことがない審判期間を要するものとなりまして、事柄の性質上、具体的に審判期間がどの程度になる場合には著しく長期に当たるかといった基準を示すことは困難であると考えております。

 いずれにしましても、この著しく長期に該当するか否かは、個別具体的な事情に基づきまして、裁判所においてまず判断されることでございます。

 これを超える審判期間となる事案について、どの程度の場合に除外の対象とすべきかに関しましては、本法案の趣旨に鑑みまして、法案に明記されている考慮事情がございます。

 この考慮事情というのは、客観的状況を踏まえて個別の事案ごとに裁判所が判断することになるわけでございますが、法文上は、他の事件における裁判員の選任または解任の状況、あるいは裁判員等選任手続の経過その他の事情を考慮するということとなっておりますことから、施行後、当分の間におきましては、実際に裁判員等選任手続を行いまして、その上で、審判期間が長期となる見込みであることを理由として裁判員になることの辞退の申し立てが相次いで、あるいは、それによって必要な員数の裁判員を選任することが困難である、このような客観的な状況が認められる場合などにこの除外決定が行われることが想定されるということになります。

宮崎(謙)委員 ありがとうございます。

 裁判所で判断をされるということで、いろいろな事情を考慮されて決められるということでありますけれども、ちょっと追加でお伺いしたいのが、私が今お配りした資料、例えばこの神戸の事件というのは、これは著しく長期というのに当てはまるかどうかということをちょっとお伺いしたいと思います。

林政府参考人 当該神戸の事件がこれに当たるかということに対してここで明確にお答えすることは困難でございますけれども、先ほど申し上げましたように、これまで実際に裁判員裁判を行うことが可能であった事案、これを除外するという趣旨ではございません。

 それから、先ほどさらに申し上げましたが、裁判員等選任手続の経過その他の事情を考慮ということとなりますと、実際に裁判員等選任手続を行ってみて、そういった辞退が相次ぐ事態になるか、あるいは、その選任が困難となるかどうか、こういったことを踏まえて、その上で除外決定をすることとなります。

宮崎(謙)委員 では、次の、改正点のうちの二つ目と三つ目のお話に移りたいと思います。

 これは、どちらも災害時における話でございまして、二つ目においては、災害時における辞退事由の追加ということで、第十六条第八号に該当しますけれども、重大な災害で被害を受けて生活再建のための用務を行う必要があることを辞退事由として明記とあります。三つ目に関しましては、非常災害時における呼び出しをしない措置、第二十七条の二、第九十七条の第五項、著しく異常かつ激甚な非常災害で交通が途絶するなどした地域に住所を有する裁判員候補者は呼び出しをしないことができることとして明記をするということであります。

 これは、言われてみれば当たり前のことなのかなとは思いますが、恐らくこの五年、六年の間に東日本大震災などがあったから、そのことから考えて改正されるものなんだろうと思いますけれども、その背景というか、また教えていただきたいと思います。

林政府参考人 災害時の対応に関する今回の法改正についての、行う背景及び理由でございますけれども、まず、重大な災害により被害を受けた者に辞退を認める改正でございますが、東日本大震災の経験などに鑑みますと、重大な災害によって生活基盤に著しい被害を受けまして、その生活の再建のための用務を行う必要がある、こういった者につきましては、裁判員となることについて辞退が認められるのが相当であると考えております。

 そして、現状におきましても、裁判員法十六条八号を受けて規定された政令によりますと、裁判員の職務を行い、または裁判員候補者として裁判員等選任手続の期日に出頭することにより、自己または第三者に身体上、精神上または経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理由があること、包括的な書きぶりでございますけれども、こういったことが辞退事由として規定されていることから、これまでも、重大な災害の被害を受けるなどした裁判員候補者が、これに該当するとして辞退が認められる場合もあったものと思われるところでございます。

 しかしながら、現行の裁判員法上には、この重大な災害によって被害を受けた場合についての明確な辞退事由というものは、規定は存在しないところでございます。

 そこで、今回の法改正によりまして、こういった重大な災害によって生活基盤に著しい被害を受けて、その生活の再建のための用務を行う必要があることを辞退事由として法文上明記しようとするものでございます。

 二点目の、非常災害時における呼び出しをしないという措置につきましては、東日本大震災の後に、仙台地裁、あるいは福島地裁の本庁、福島地裁の郡山支部及び盛岡地裁におきまして、一定の被災地域に住所を有する裁判員候補者に呼び出し状を送付しない措置をとるなどしていたことがあったものと承知しております。

 こういった措置につきましては、当時の特殊な状況に鑑みまして、現行の裁判員法に照らしても許されないわけではないと考えられるところではございますけれども、法的な根拠がなくて問題ではないかといった指摘も一方で見られたところでございまして、こういった措置につきまして明確な根拠を与えるための法律上の措置をとる必要性があると考えられたところでございます。

 そこで、このように、極めて重大な災害の被害を受けまして交通が途絶するなどした地域に住所を有する裁判員候補者が辞退の申し立てや選定の取り消しの申し立てをした場合にはこれが認められることも明らかであるところ、交通が途絶などした状況においては、そもそもそういった辞退等の申し立てを行うこと自体が困難であるのが通常でございます。

 そのような裁判員候補者に対しまして、法律上、過料の制裁を伴う出頭の法的義務を生じさせる呼び出しを行うことは、被災者に対しまして過度の負担を強いるものであって相当でないことから、こういった場合には、例外的に裁判員等選任手続に呼び出さないことを法律上可能とすることとしたものでございます。

宮崎(謙)委員 改正のポイントの最後でございますけれども、裁判員等選任手続で、被害者特定事項の保護、裁判官、検察官、被告人、弁護人は、裁判員候補者に被害者特定事項、つまりは氏名、住所等個人情報に当たるようなものだと思いますけれども、その被害者特定事項を正当な理由なく明らかにしてはならないということ、裁判員候補者または裁判員候補者であった者は、裁判員等選任手続で知った被害者特定事項を公にしてはならないということが追加されます。

 この法改正に至る理由をお聞きしたいのと、あわせて、仮にこれを公にしてしまった場合に、罰則が設けられておりませんけれども、なぜ罰則が設けられていないのか、国民の皆さんにはそれがどういうふうに映っているのかなということがちょっと気になりますので、その点もあわせて御説明いただきたいと思います。

林政府参考人 まず、被害者特定事項の保護に関する法改正を行う理由でございます。

 現行の裁判員法上、裁判員等選任手続におきましては、裁判長等が、裁判員候補者に対しまして、被害者との関係がないかなどについて質問することができます。そうした機会に、被害者の氏名が明らかにされるなどして、被害者特定事項が裁判員候補者に伝わる事態が想定され得るところでございます。

 しかし、刑事訴訟法に設けられております被害者特定事項の秘匿制度という制度がございますが、この制度の効果でありますとか裁判員の守秘義務などにつきましては裁判員候補者には及ばないために、裁判員等選任手続につきましては、裁判員候補者との関係で、被害者特定事項の保護に関する規定が十分とは言えない状況にございます。

 そこで、被害者の権利利益の保護に万全を期して、被害者に安心感を与えて、司法に対するより確かな信頼を確保するために、裁判員等選任手続に関して被害者特定事項を明らかにしてはならない旨の規定を設ける法改正を行うこととしたものでございます。

 さらに、裁判員候補者に係る守秘義務について、これを公にした場合について罰則が定められていない理由でございますけれども、被害者特定事項秘匿決定があった事件につきまして、裁判員もしくは補充裁判員、またはこれらの職にあった者、こういった者につきましては、被害者特定事項を漏らした場合には裁判員法上罰則が科され得るのに対しまして、本法律案によって新設される場合の裁判員候補者または裁判員候補者であった者については、罰則が設けられていないところでございます。

 この理由でございますが、これは、端的に、裁判員及び補充裁判員と、他方、裁判員候補者との立場の差異によるものでございます。

 どのような差異かと申しますと、裁判員及び補充裁判員は、法令に従って公平誠実にその職務を行う旨の宣誓をした上で審理に立ち会いまして、評議に出席し、または傍聴するなど、非常勤の裁判所職員としての地位を有しているのに対しまして、裁判員候補者は、裁判所の呼び出しに応じて裁判員等選任手続期日に出頭する義務はありますけれども、裁判員等の権限や地位等は有しておらず、裁判員等選任手続が終了すれば、それ以上は何ら裁判手続に関与しないという立場にございます。

 そして、裁判員候補者は、こうした被害者特定事項につきましても、選任の判断に必要な限度で裁判員等から一方的に明らかにされる立場にある者でございます。

 そのような裁判員候補者について、たまたま被害者特定事項が明らかにされたからといっても、被害者の権利利益の保護の観点からこれを公にしない義務が課せられるということについてはともかくとしまして、この義務に違反した場合に罰則が科せられるとまですることにつきましては、裁判員候補者または裁判員候補者であった者の言動に過度の制約を課すものでありまして、相当でないと考えられます。

 また、義務に従って裁判員等選任手続に出頭した裁判員候補者または裁判員候補者であった者につきましては、法律上明確に義務を課すことのみによっても、それぞれみずからに課せられた義務を遵守することが期待できて、あえて罰則を設ける必要性に乏しいと考えます。

 これらのことから、こうした者につきましては罰則は設けていないものでございます。

宮崎(謙)委員 ありがとうございます。

 本法案についての質問は以上になりますが、今後の裁判員制度の充実、推進に向けて引き続きお考えを聞いてまいりたいと思います。

 関係者に裁判員裁判についていろいろヒアリングをさせていただきましたところ、裁判所が裁判員の辞退を緩やかに認める傾向があるんじゃないかなという声がございました。実際には、百人にお声がけをしても、選任期日に出頭する人が二十人台ということも結構あるそうでございます。

 それで、私も辞退理由についていろいろ調べてみました。最も多いのは、裁判員法十六条一号から七号での辞退、つまり、七十歳以上または学生であるからというようなことでの辞退が三六・三%です。次に、事業における重要用務による辞退が二四・三%となっています。そして、疾病、傷害が一四・五%、介護、養育が一〇%になっています。

 こういう中で、ランダムに候補者を選定していますけれども、最終的に候補として残っている人たちはどういう人たちかといいますと、本当に裁判員になりたくてなりたくて仕方がないような方、それから、極めて真面目な方という人たちが裁判員になりがちだという声を聞きました。

 多様な意見を反映させていくのであれば、もうちょっと出頭率を上げなきゃいけないんじゃないかなというふうに思っているんですけれども、例えば、先日もこの委員会でも話がありましたし、先ほど大臣のお話にもありましたけれども、アンケートですね、裁判員をやった方の満足度が非常に高いと。九五・何%の水準でありますので、そういったキャンペーンを通して知ってもらうことが例えば出頭率の向上につながったりすることも考えられるわけです。

 今、そういう出頭率を上げるための秘策というものを何か考えていらっしゃるか、もしくは行っていらっしゃるのであれば、教えていただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 委員御指摘のように、国民の視点や感覚を反映させるという制度趣旨に照らしますと、より多くの国民の皆様方に裁判員制度を御理解いただき、高い参加意欲を持っていただくことが望ましいと考えております。

 そのため、裁判所では、裁判官等が会社や団体などへ赴き、裁判員裁判の運用の現状と改善への取り組み状況などを説明しますとともに、実際に裁判員裁判を経験した方の多くが肯定的な評価をしていることなど、裁判員経験者の声もお伝えするなどして、裁判員制度に関する正確な情報の発信に努めております。また、裁判所では、従前より、国民の皆様が参加しやすい裁判となるよう、迅速でわかりやすい裁判の実現等に取り組んでおるところでございます。

 裁判所といたしましては、今後とも、裁判員制度に対する理解が広がるよう、適切な情報発信等に努めてまいりたいと考えておるところでございます。

宮崎(謙)委員 一方で、裁判員になって、人が人を裁くというのは本当に重たいことであって、責任の重さを感じて、本音の部分ではそれが障害となって、壁となって辞退をされている方も事実いらっしゃるんじゃないかと思っています。いつ自分が裁判員に選ばれるかもしれないので、そういう意味では、心の準備も知識の準備もやはり必要だと思うんですね。

 そういう中で、やはり、裁判について、また司法についての理解を深めるための教育、法教育というものをもっともっと進めていく必要があるように思いますが、大臣はいかがお考えでしょうか。

上川国務大臣 この法教育については、大変重要な課題だというふうに考えております。法あるいは司法制度、また、これらの基礎となっている価値、こうしたことについてしっかりとした理解をしていただく、また、法的な物の考え方についても身につけていただくということで、その意味で、法教育については大変大事だというふうに考えております。

 これは、裁判員裁判への国民の皆さんの主体的な参加という上でも大事ですし、また同時に、今、自由で公正な社会の担い手として、こうしたさまざまな課題についてもしっかりと取り組んでいただくということについても大変大事だというふうに考えております。

 これまで、法務省におきましても、その趣旨にのっとりまして、学校においての法教育を支援するための教材の作成に力を注いでまいりました。二十五年度には小学校向けの法教育教材の開発をいたしまして、さらに、二十六年度には中学校向けの法教育の教材を作成してきたところでございます。

 同時に、法務省の職員を講師として派遣する法教育授業ということを行ってきておりますし、また、学校のみならず、地域の集まりにも法務省の職員が伺って、この裁判員制度につきましても説明を加えさせていただいてきたところでございます。

 さまざまな取り組みにつきましては、やはり十分な推進体制を整えていかなければいけないということで、省内の体制も拡充してまいりたいと思っておりますし、また、法務省といたしましても、これまでのあらゆるノウハウ、こうしたことにつきまして連携をさせていただきながら、全力を挙げて法教育の充実にこれからも積極的に取り組んでまいりたいというふうに考えております。

宮崎(謙)委員 最後に、評議の進め方についてお伺いしたいと思います。

 裁判官によって評議の進め方が異なるのではないかという疑問の声がありまして、確かに、実際には公式に誰も確認をしていないという現状があります。あくまでも疑問の声ではありますけれども、裁判官の独立を重視する上でいたし方ない部分もありますけれども、裁判官の意図によって評議が進められていくというのは、国民の声を広く集めるという観点では目的にかなっていないのではないかなというふうに思います。

 この点を払拭するためにも、例えば、評議方式にある一定のルールというかマニュアルというか、そういうものを設けるか、または透明性を高めてやっていくのか、法曹三者による調査委員会のようなものを設置するということも考えられると思いますが、そういうようなことに対してどのようにお考えか、最後にお伺いしたいと思います。

奥野委員長 平木刑事局長、なるべく端的にお願いします。

平木最高裁判所長官代理者 個々の事件における評議の進め方につきましては、担当する裁判体が判断すべき事項とされておりますし、事件の内容や、その事件で検察官、弁護人がどのような主張をしているかによっても当然変わるべきものですので、統一的な評議方式というものはございません。

 もっとも、裁判官の協議会や研究会におきましては、裁判員と裁判官がしっかりと議論し、裁判員法の趣旨に沿った評議がなされるよう、例えば、難解な法律概念や量刑の基本的な考え方についてどのように説明すべきかという問題など、評議のあり方について議論が行われてきたところでございまして、その結果、裁判官の間では、裁判員と共有すべき量刑の考え方などについて、一定の共通認識ができつつあるように思っております。

 事務当局としましては、今後も、このような議論の場を設けるなどして、よりよい議論がなされるよう配慮していきたいと考えております。

 また、法曹三者による調査委員会についてでございますけれども、個々の事件における評議の進め方について調査や検討を行うことは、その裁判官が将来担当する事件の訴訟指揮や評議の進行に影響を及ぼすおそれが大きく、裁判の独立等の関係で問題があるかと思いますので、なかなか困難ではないかと考えておるところでございます。

宮崎(謙)委員 終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 なるべく短くやってくださいと言ったら、短くやってください、長々としゃべらないで。

 次に、鈴木貴子君。

鈴木(貴)委員 皆さん、おはようございます。

 質問に入らせていただきたいと思います。

 まず、先ほどの宮崎委員の質問の中でも触れられておりましたが、そしてまた、きっと皆さんのお手元にもあるであろうこの裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案関係資料、この間大臣も趣旨説明をしていただきましたが、ここの二行目に、「裁判員制度は、これまでおおむね順調に運営され、国民の間に定着してきているものと」思われる、このように書いてあります。

 まず、大臣にお尋ねをしたいんですけれども、この「おおむね順調に運営され、国民の間に定着してきているものと」思う、この判断はどういった傾向もしくはデータなどをもとにしての総括なのか、お尋ね申し上げます。

上川国務大臣 裁判員制度の現状に対しての評価ということでございます。

 二十一年五月に施行されたわけでございますが、裁判員の候補者につきましては、八〇%近い高い割合で御出頭をいただいて、大変熱心に御審理をいただいてきたところでございます。また、裁判員の経験者に対しまして裁判所の行ったアンケート調査によりましても、九五・九%の方々が、裁判員として裁判に参加したことに対して大変よい経験と感じたという回答をしておりまして、裁判員の皆さんが充実感を持って審理に取り組んでいただいているということがうかがえるわけでございます。

 法曹三者のさまざまな努力によりまして、わかりやすい裁判員裁判の実現に向けたそうした努力の一定の成果が得られてきたのではないか、それが評価という形でアンケート調査にも出てきたのではないかというふうに思っております。そういう意味で、五年以上たっておりますけれども、おおむね順調に推移をし、また国民の皆さんの間にも定着をしてきているのではないかというふうに考えております。

 これから先、さらに一定の定着を進めていくためにも、関係者によりましての引き続きの努力が何よりも重要であるというふうにも考えているところでございます。

鈴木(貴)委員 今大臣が述べられたアンケートというのは二〇一三年に実施をされたものか、このように思っております。

 ここで、まさに公正公平な観点から物事を判断するという意味でも、もう一つ、別の世論調査を御報告させていただきたいと思います。

 ことしの三月二十一、二十二日両日で実施をされた、先ほど大臣が述べられたアンケートよりも新しい世論調査の結果なんですけれども、この世論調査によりますと、裁判員制度が社会に定着しているもしくはある程度定着しているは三一%にとどまり、余り定着していない、定着していないの六五%を下回っている。制度を評価しないという声が五三%、過半数を上回っており、評価しないという声は前回の調査よりも一二ポイントも上がっている、こういったアンケート結果も出ております。また、裁判員候補者に選ばれた人が選任手続で裁判所に出向く出席率というものも年々低下傾向にある、こういったことも同時にこの世論調査では明らかにされております。

 このアンケート結果を踏まえた上で、改めて大臣にお伺いをさせていただきます。

 こういったアンケート結果も実際に出ている中で、それでもやはり、おおむね順調に運営されというのは、このデータを見ると、余り楽観視はできないのではないのかなと私は思うんですけれども、大臣はどのようにお考えでしょうか。

上川国務大臣 アンケートについては、さまざまな視点からアンケートを実施して、そしてそれに基づいて評価も的確にしながら、さらに改善に向けての努力をしていく、あるいは現場の中で努力をしていただく、こうしたことは大変重要なことだというふうに思っております。

 先ほど申し上げたアンケート調査の結果につきましては、最高裁が、このアンケート調査の質問項目あるいはどういうふうな聞き方をするかということにつきまして、いろいろな角度で検討した上で実施をしてきたというふうに考えておりまして、今委員御指摘のアンケート調査につきましても、それぞれの趣旨の中で行われたというふうに思っております。

 質問の項目及びその回答肢がどのような形になっているのか、私も、ちょっと今伺っただけでは十分に評価することができないところでございますので、また調べさせていただきたいと思いますけれども、いずれにしても、新しく始めた制度につきまして、国民の皆様からは、本当に参加してよかった、参加する前と比べると参加して本当によかったという方が非常に多いということでありますので、そうしたことを大事にしてまいりたいというふうに思っております。

鈴木(貴)委員 一点、ここで注目というか、ハイライトしておかないといけないのは、最高裁でとられたアンケートというものは裁判員経験者を対象にしたアンケートだ、このように思います。先ほど私が申し述べさせていただいたアンケート、これは世論調査、つまりは裁判員を経験した人たちだけが対象のアンケートではない。

 つまり、これからもしかしたら裁判員に選ばれるかもしれない、そういった皆さんの中では、まだまだ不安の声の方が圧倒的に多い。こういった客観的な事実、こういったことを踏まえて、まさに今回の改正案にしっかりと取り組んでいかなくてはいけないな、このように私自身も思っているところであります。

 それでは、法案の方に具体的に入ってまいりたいんですが、今回のこの法改正では、主に四つ、新設の規定があるかと思います。今回、私は、特に、裁判員の負担軽減の観点、そして誤判対策、また守秘義務に係る質問をさせていただきたい、このように思っております。

 先ほど来から、長期審理は裁判員に選ばれた皆さんにとって非常に負担になっている、こういった質問がなされているんですけれども、今、私も質問を聞きながら、負担の尺度というものが審理期間になっているというのはそもそもどういった経緯からなのかなとふと疑問に思いまして、裁判員が感じる負担というものは審理期間が長いだけ、そういったことではなくて、例えば移動であるだとか、人によっては連日続くことが負担である、もしくは審理が週に一回で長期にわたることが負担になる、さまざまな観点があると思うんですけれども、今回この改正で盛り込まれている、あくまでも長期にわたる事件、これについて改正案を出されたそもそもの趣旨というものを御説明ください。

林政府参考人 今回、著しく長期にわたるなどして裁判員に対して非常に過重な負担がかかる、こういった事案については除外することができる改正を行うこととするものでございます。

 現行におきましても、審理期間に着目ではなくて、例えば裁判員に対して加害行為が行われるようなおそれが非常にある、こういった場合に、それにまで裁判員として裁判に参加していただかなくちゃいけないというようなことはやはり非常に裁判員に対しての負担になるので、それを除外する規定というのが別途ございます。

 それに加えまして、今回、今度は審理期間に着目して、こういった負担に着目したのは、実際のところ、これまでそういった事案があるとは考えていないんですけれども、今後あり得ることとしては、いろいろな事案の争点の整理とか証拠の整理などを公判前整理手続で行って、その結果、審理計画というのができますが、それによって見込まれる審理期間、これによりますれば、やはり、それについて裁判員を務めるについては裁判員に負い切れない非常に過重な負担がかかる、こういった事案が起き得ることは否定できないところでございます。

 現行でいいますと、それを除外する規定はございませんので、あくまでもそれは裁判員裁判として選任手続を行って、かつ裁判体を構成して、それによって裁判を行わなくちゃいけないということになります。

 これは、本来、国民に参加していただいて、支持また理解を司法にいただかなくちゃいけない、こういった目的でつくられたこの裁判員制度をそういった事案にまで強行することになりますと、かえって、その本来の目的、趣旨に反することとなる。そういったことから、今回、法案でそういった事案について除外をすることができる改正を行うことをお願いしているものでございます。

鈴木(貴)委員 林刑事局長、いつも以上に御丁寧な答弁をありがとうございます。

 まさにこの裁判員制度も、国民に広く裁判や司法についての理解を促進する、そういう意味でも、専門的な言葉ではなく、わかりやすい言葉でわかりやすい審理をしていくということも一つポイントだと思いますが、ぜひ、この委員会においてもわかりやすい答弁をいただきたいな、このように思うところであります。

 また、先ほどのアンケート、私は大臣にも質問させていただいたんですけれども、ちなみに、このアンケートで、あなたが裁判員を務める場合に心配なことは何ですかという質問があって、一番多くのポイントを集めた、五三・五ポイント集めたものは、重要な判断をする自信がない。そして、三四・一ポイント、仕事に影響が出ること。そして、殺人など悲惨な事件の審理にかかわること。こういったことが心配事として挙げられております。

 また、裁判員にはいろいろな人が参加をすることが望まれています、参加しやすい環境をつくるため、あなたは何が必要だと思いますか、こういった問いに対して、有給休暇制度や休業補償制度をつくる、これが四〇・二ポイント。次が、裁判の内容をもっとわかりやすくする、三六・一ポイント。その次が、逆恨みなどの不安を解消するため、住んでいる地域とは異なる地域の事件を審理する、これは二六・一ポイント。こういった結果といいますか、アンケートの答えが返ってきております。

 こういった意味でいえば、まさに国民の不安であるとかこの裁判員裁判への関心というのは、長期審理というよりも、もっとほかの、別のところにあるのではないのかな、このように私はこの世論調査の結果を見て思ったところであります。

 改めて林刑事局長にお尋ねをしたいんですけれども、今回の法律改正案は、特に非常に長期にわたる事件の対象事件からの除外は、国民の実際に抱えている不安だとか心配事、こういったものを客観的に捉えようともちろん努力をされた上での今回のこの改正案だと思うんですが、具体的にどのような取り組みをなされたのか、教えていただけますか。

林政府参考人 これまでにも、裁判員制度に対しましての国民の意識調査というようなものがありまして、そういった結果におきましては、国民の間に、裁判員裁判に参加することについて心配や支障というものが幾つか出てきております。それにつきましては、やはり、まずそういった国民の中にある不安、心配というものを解消して、安心して裁判員として裁判に参加していただくための取り組みというのが必要となってまいります。

 それにつきましては、まずは、一つにおいては、裁判員制度全般についての説明というものを十分に国民に対してしなくてはいけないという観点から、例えば法務・検察におきましても、学校や地域の集まりに伺って説明会を実施するなどして、細かないろいろな心配、不安というのが指摘されますので、そういった説明会などでそういった心配等を解消するように努めていたところでございます。

 また、裁判所におきましても、裁判官等が会社とか団体に赴いて、そういったところで、裁判員制度の運用の現状とか改善への取り組み状況などを説明していると承知しているところでございます。

 そのような形で、裁判員制度自体についての、いろいろな意味での、広い意味での広報、説明に努めるというのがまず一つでございます。

 また、実際に裁判員として参加されて裁判を行う中におきましては、裁判所において、裁判官において非常に裁判員に寄り添う形で、さまざまな不安というものがあるとすれば、それを解消できるような形でのコミュニケーションをとったり、接し方をされているということはいろいろな意見交換会の中でもうかがわれるところでございまして、そういった裁判員制度自体の運用を通じまして、そういった不安解消というものについては絶えず行っていかなくちゃいけないものだと考えております。

鈴木(貴)委員 さまざまな取り組みがなされているということは私も承知をしていたので、もうちょっと具体的なものがあればありがたかったな、このように思うわけなんです。

 先ほど質問をされていた委員の質問にもありましたが、では、何日以上を長期審理とみなす、こういった具体的な線引きはされていらっしゃらないというふうに伺っております。

 裁判員が抱える負担という意味でいけば、例えば都市部と地方都市の条件だとか環境の違いというものもこれまた考慮に入れるべきではないのかな、このように思うところなんです。

 例えば、私の地元北海道、釧路、根室地域でありますが、特に、冬になると雪が降りますので、いまだに四メーター、五メーターと雪が積もっているような地域です。例えば、実際に、都市部での六カ月間の審理、それと地方都市、仮に豪雪地域としたとして、その豪雪地域における六カ月間の審理というと、負担の度合いがやはり等しいとはなかなか言い切れないと思うんですが、そういった条件、環境面における考慮というものはなされているんでしょうか。

林政府参考人 確かに委員御指摘のとおり、当然、地域によっては、そもそもの、裁判員になり得る資格を持つ人口に大幅な差がございます。そういったところで、これは裁判員候補者名簿というものでございますが、それに登載される員数というのは、地方部と大都市部を比べれば非常に大きな差がある、こういったこともございます。また、恐らく、交通機関とか人口の偏在状況というのはまさしく異なっておりますので、そういった意味で、今回の除外決定の前提となるそうした事情というのは、地域によって異なると思います。

 いずれにしても、その場合に、そういった地域性の問題がどのようにこの除外決定の中で反映されるかということにつきましては、先ほど、やはり、著しく長期にわたるというようなことに該当するかの判断というのは個別具体的な事情に基づいて裁判所において判断されるものであると申し上げましたけれども、全く何の考慮事情もなく自由に判断するというわけではございませんで、具体的な当該事件の裁判員等選任手続の経過その他の事情を考慮するというふうになっております。

 例えば、その地域におきまして、一定の裁判員あるいは補充裁判員を選任するために呼び出して、そして選任手続を行うわけでございますが、実際にそういう選任手続というものをやってみまして、その結果、辞退がその地域において相次いで選任等が困難となる、こういった事情がもしあるとすれば、そういった事情を考慮して今回の除外決定というものに至る、こういう流れになります。そういった中で、実際に裁判員等選任手続をやってみるということの中で、そういった地域における差というものがおのずから反映されてくるだろうと考えております。

鈴木(貴)委員 この法案の提案理由説明にも、国民の負担が過重なものとなるような事態を避ける、こういった一文も書かれております。

 先ほど私が申し上げましたように、例えば豪雪地域とかであれば、十一月から三月いっぱいまではまだ、雪害といいますか、そういった事情が、おのずと自然環境だとか地理的な問題というものが出てくるかと思うんですね。そうなった場合に、裁判所の方でもしっかりとそれは選任手続の中でも考慮するんだ、配慮するんだということであれば、十一月から三月、冬場の間というものは裁判員裁判が開かれづらいということに逆になってしまわないかな、このように思うんですが、そこら辺は、刑事局長、どうなのでしょうか。

林政府参考人 先ほど申し上げたように、具体的な裁判員等選任手続の経過その他事情を考慮してというところに係るところでございますが、あらかじめ、この時期については裁判員裁判を行わない、あるいはそのための選任手続も行わないというようなことを想定するものではなくて、やはり、ある時期において、必要となった時期に裁判員裁判を行うための裁判員等選任手続が実施されます。

 その中で、実際のところ、審理期間が長期であるということが理由で裁判員になることの辞退の申し立てが相次いだり、それによって必要な員数の裁判員を選任することが困難になる、こういった具体的な客観的な事情が生じてまいります。そういった場合に今回の除外決定を行うということになりまして、その地域のいろいろな特殊性というのは、実際の裁判員等選任手続の中で、辞退というものがどの程度に及ぶのか、それによって必要な員数の選任が困難になるのかならないのか、こういったところで地域性が反映されてくると考えております。

鈴木(貴)委員 地域性という意味でもう一つお尋ねをしたいんですけれども、例えば、地方部においては、就業者における職種、これにどうしても偏りが出てくると思うんですね。例えば一次産業における従事者の割合が多い。そうなってくると、裁判員として選ばれる可能性も、もちろん割合もおのずと上がってくる、このように思うんです。

 こういった、例えば農業だとか漁業だとか、自然を相手にしていらっしゃる皆さんというのは、田植えであったり漁の最盛期であったりというのは、繁忙期というものはどうしても自分の意思で動かせない、こういったことも生じるかと思うんですけれども、そうした地域特性、職業的な特性、こういったものはどう勘案されるのでしょうか。

 また、これも先ほどと同じような趣旨の御答弁を多分いただくんだと思うんですが、そのたびに除外をしていたら、結局、除外に除外を重ねて、選ばれる裁判員裁判の対象の方たちに逆に偏りが生じてくるんじゃないのか、こういったことは念頭に置いていらっしゃるでしょうか。

林政府参考人 地域において、職業に従事されている方の構成割合が違うのかということは、もちろん差があるわけでございます。

 ただ、裁判員制度というのは、一定の選挙権を持つ者から名簿がつくられて、その地域のそういった選挙権を持つ者によって構成される名簿がつくられまして、その中から選ばれるということにおきまして、当然、個別の事件としては別ですけれども、結果として、全体の中では、その地域の職業従事者の構成割合というものが反映されるというのは前提とされておると思います。

 そのことから、農業であるとか漁業の例えば繁忙期等の兼ね合いで、実際に長期間継続して裁判員として職務を行うことが困難だという裁判員候補者が、ある時期に、ほかと比べれば比較的多くなるような地域、こういったものは生じ得るものだと思います。

 しかしながら、そういった場合におきましても、先ほど申し上げたように、裁判員候補者としての呼び出しをして、選任手続をして、実際のところ、長期間であるということが原因で辞退が相次ぐのか、あるいはその結果、裁判員の選任が困難になるのかどうかということ、その経過を見まして、その上で除外決定がなされるかどうかを判断するということになります。そういった中で、そういった地域の特殊性というものが反映され、考慮されるということになると思います。

鈴木(貴)委員 今後もこの裁判員裁判制度が続く限り、しっかりと見直しというものも行われていくと思いますので、こうした地域特性であるとか、さまざまな条件下におけるこういったこともしっかりと鑑みていただきたいな、このように思います。

 続いて、職業裁判官による判決と裁判員による判決の比較という点で質問をさせていただきたいと思います。

 公判前整理手続を担当する裁判官と公判を担当する裁判官は、これは同一の裁判官でしょうか。

林政府参考人 裁判官につきましては、それは同一でございます。

鈴木(貴)委員 私は、その点を若干疑問視、問題意識を持っておりまして、公判前整理手続での裁判官と実際にその公判を担当する裁判官が同一であった場合に、もう既に、公判前整理手続に入っている時点で心証がおのずと決まってしまっているんじゃないかと。

 心証が形成されるという危険性はどのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 公判前整理手続におきましては、事案の争点を整理したり、あるいは証拠の整理をする。それが結局のところ、後の公判期日における審理の円滑な実施に資するということで、そのために、最終的には審理計画なども立てて臨むわけでございます。

 それに当たりまして、証拠の整理とか争点の整理をするときには、基本的にそういった観点で証拠の整理をするものでございまして、個別の証拠の信用性などの判断をすることはございません。

 したがいまして、そういった形で心証形成というようなものには至らないことでございまして、この問題は、公判前整理手続をつくるときに、予断排除という原則がございますが、予断排除の観点でこの公判前整理手続が問題がないのかどうかという観点から十分に検討された上で現状の公判前整理手続ができ上がったものと考えております。

鈴木(貴)委員 まさに、予断排除原則といいますか、予断を生じるおそれがあるのではないのかというのが私の問題意識でありまして、この公判前整理手続の段階でありとあらゆるものをその裁判官が見、そしてまた審理に移行する。

 裁判官もやはり人間でありますから、この予断排除原則、よく大臣も答弁でも使われますが、予断を生じるおそれがある、これをよく盾に、さまざまな法整備であるだとかそういったことも、逆に改革されていたりされていなかったりということもあるとは思うんですけれども、これは刑事訴訟法の理念である予断排除原則というものにひっかからないと断言できる具体的な根拠をいま一度お示しください。

林政府参考人 予断排除という観点からすると、予断を持たないようにするという観点からしますと、まず、この手続が裁判員、裁判官だけ、あるいは裁判官と検察官だけ、このような形で行われるということはあってはならないことです。実際にこの手続は、当然、当事者が全部そろった形で行われます。弁護人も公判前整理手続に当然必要的に関与しております。その中で行われるものであるということ。

 それからもう一つは、先ほど申し上げましたように、証拠の中身、証拠の信用性というようなものについては、この手続のものでは踏み込まないということになっております。

 そういった意味で、捜査段階でのいろいろな資料に基づいて一方的に裁判官が予断を抱くというような形の危険性は排除されているものと考えております。

鈴木(貴)委員 公判前整理手続、そもそもの導入としても、法と証拠に基づいた適正な捜査、そしてまた審理の充実、円滑化、こういったものがあったかと思います。やはりこういった問題意識が投げかけられている以上、しっかりとこの点に対しても継続的な見直しそしてまた検討、こういったものが必要になってくるのではないのかな、このように思っております。

 私自身は、公判前整理手続をする裁判官と実際に公判を担当する裁判官というものは、これはやはり分けて、こういった疑念であるとか問題意識というものを一つずつ潰していく、こういったことがまさに司法改革、検察改革、そしてまた国民にわかりやすい、理解をより抱いていただける法の改正などにつながっていくものと思っております。

 言葉をかえれば、この情報を裁判官が終始一貫してずっと見ていられるということは、これはおのずと情報格差にもつながってくるのではないのかなと。裁判官は全ての証拠を見ている。しかしながら、裁判員の皆さんはあくまでも公判前整理手続で選ばれた限られた証拠物しか見ることができない。となると、これは市民感覚を反映することに重きを置いた裁判員制度であるにもかかわらず、やはり最終的には、職業裁判官の見解、そういった意向が強く反映されやすいのではないのかなと。

 実際に、一審で例えば死刑と出たものも、二審で、結局次の段階でこれが死刑ではなくなってしまうなど、せっかく市民感覚の裁判員制度における裁判を行っているにもかかわらず、全く裁判員たちの議論、評議というものは何だったのかなと思わざるを得ない事例も何件も出てきております。

 そういう意味でも、こうした情報格差が、結局は裁判官の意向が判決に、また量刑に強く反映をされがちではないかと思うんですが、どのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 公判前整理手続におきましては、事案の争点の整理それから証拠の整理をいたします。

 その場合に、特に証拠について申し上げますと、これは、公判期日においてどのような証拠を取り調べるか、それを決める手続でございまして、基本的に、例えば、現在、裁判員裁判等では証人による立証、証人尋問というのが重視されておりますけれども、その証人の証言というものには、公判前整理手続に関与している裁判官はその段階で当然接しないわけでございまして、あくまで公判期日におきまして証人尋問において裁判員とともに初めて接するわけでございます。

 重ねて申し上げますが、基本的に公判前整理手続は、将来行われる公判期日における審理においてどのような証拠を取り調べるか、これを決めることもこの手続の一つの目的でございまして、その段階で実際に証拠に当たる、証拠調べにおいて証拠の信用性等を判断するという点においては、裁判官と裁判員は全く同じ立場、同じ形でそれに接する、最初に証拠に接するということになると思います。

鈴木(貴)委員 この公判前整理手続、私も一定の評価をもちろんしております。争点を絞り込む、そしてまた証拠の絞り込み、こういったことがまさに、今回も問題視されている長期化を避けるであるとか、そういった迅速化、そしてまた、よく使われるのは、わかりやすさ、論点整理の観点からのわかりやすさにもつながってきている、こういったことを私自身も受けとめております。

 ここで、裁判員に負担をかけない、論点整理をする、逆にこういったことが審理計画を作成するときに審理日程をよりタイトなものにしてしまっていないか、こういった懸念の声も上がっておりますが、その点についてどうお考えでしょうか。

林政府参考人 これは、公判前整理手続を主宰する個々の事件におけるあり方の問題でございますので、私からどうであるというふうに申し上げることはできないわけでございますが、いずれにしても、公判前整理手続の目的というのは、初めにスケジュールありきではございません。

 あくまでも、実際にその事案にとって、まず争点が何なのか。これは、争点というのも、裁判官において決められるわけではございません、当然、検察あるいは弁護人側からのいろいろな主張の中で整理がなされるものでございますので、あらかじめスケジュールを決める、あるいは、あらかじめなるべく短い期間で行うということを念頭に置いて手続を行うということにはできないわけでございます。

 あくまでも、その事案において適切な争点を整理して、争点を解明するに当たって必要な証拠は何かという観点でその整理がなされるものだと考えております。

鈴木(貴)委員 今刑事局長は、期日ありきというか、そういうものではない、そういうふうにおっしゃって、もちろん、それがそもそもの趣旨ではないというふうに私も思っております。しかしながら、今の流れ、傾向を見ると、その公判前整理手続の審理日程を決める段階で、もう、いついつ、何月何日に判決を出します、こういった日程作成まで最近はふえてきている、こういった声も実際に聞かれているわけであります。

 負担の軽減というものが結局審理日程の短縮につながって、それが結局争点を減らし、そしてまたそれが証拠の量を減らす、こういったことにつながってきてしまっては、元も子もない話になるかと思うんです。まさに刑事裁判の充実という一番根本のところに相反するものになるかと思うんですが、これがしっかりと保障されている、そういった具体的な例示なり御答弁をいただけますでしょうか。

林政府参考人 公判前整理手続においては、実際に争点を整理して、また証拠の整理をしまして、審理計画まで立てます。これは、具体的には、例えば裁判員制度を前提とすれば、この審理計画があって初めて選任手続というものが行われまして、当然、先ほど来の著しく長期にわたるという除外事由決定というのも、こういった審理計画を前提とした上で、そういった選任がなされるかどうかということが一番問題となるものでございます。そういった意味で、手続においてそういった審理計画まで定められるのは、これは当然のこと、また手続自体が当初から目的としていることの一つであると思います。

 その上で、これは先ほどの答弁とも重なりますが、初めにスケジュールありきという形ではなく、やはり、その争点を明らかにするに当たってどの程度の審理が要るのか、そのための証拠が何なのかということを整理するものでございまして、実際に負担のことばかりを考えていたのであれば、これまで非常に長期にわたっている審理計画というのが実際に行われまして、それは裁判員の御協力も非常にあって実際に裁判員裁判として実施ができたわけでございまして、そういった事案についても事例としてはあるわけでございまして、全て公判前整理手続が訴訟の期間の短縮化、それだけを目的に行われている、それによって本来の刑事訴訟の目的を外れてしまうような事態になっているものとは承知していないところでございます。

鈴木(貴)委員 私もそれが目的になっているとは言っていないわけで、繰り返しになりますが、公判前整理手続、これの導入というものは、弁護側にとっても一歩進展をしている点もあり、評価すべき点もある、このように思っております。

 ただ、争点を減らす、おのずと出てくる、目に見える証拠としては減るというのは、これは物理的に減るわけでありますから、そういった意味でも、今のような私の問題提起をしっかりと、逆に大丈夫ですよと太鼓判を押していただく上でも、これはやはり全ての証拠の開示、こういったものが必要になってくる、ここに尽きるのではないのかな、このように思っております。

 全ての証拠が開示をされていれば、幾ら公判前整理手続で争点が絞られた、絞られたがゆえに証拠も絞られたとなっても、弁護側にとっても、見る権利、知る権利、こういったことも保障されている。これはお互いにとっていい形であると思うんですが、刑事局長はどのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 委員御指摘のとおり、まず、公判前整理手続が所期の目的を達する、円滑に実施されるためには、やはり証拠開示というものが十分になされないといけないというのは全くそのとおりであると考えております。

 その上で、現行の証拠開示制度というのは、公判前整理手続とセットになされまして、一定のルールができ上がったものでございます。

 その際に、証拠開示というものについて、全面的な証拠開示が必要かどうかということにつきましては、これはいろいろな諸外国の法制を見ましても、例えば当事者主義の構造をとっているアメリカとかイギリスにおきましても、全面的な証拠開示というようなものになっている、例外のない全面的証拠開示になっているという例は、私は余り知らないわけでございます。むしろ、証拠開示で一定のルールをつくって、必要な証拠開示がなされるようなルールを設定しているような形で制度を組み立てている国があろうかと思います。

 我が国も同じでございまして、結局、平成十六年の刑事訴訟法改正におきまして、公判前整理手続における争点及び証拠の整理と関連づけて現在の証拠開示制度というものができ上がったわけでございます。現在の証拠開示制度は、御案内と思いますけれども、三段階ぐらいに分けて、段階的に証拠が開示されていく。それで、検察と弁護人との間で証拠開示の問題で意見が異なった場合には裁判所が裁定する、こういったようなルールができ上がっております。

 この制度を導入するときに、当時も、事前の全面開示制度というものが議論はされました。しかし、そのときには、やはり、かなり長時間かけて議論された結果、被告人側の主張が明らかでない段階で全ての証拠を開示することは争点及び証拠の整理が十分になされなくなるという弊害などが指摘されて、結局、それは採用されなかったわけでございます。

 そのかわり採用されたものは、三段階ぐらいに分けまして、まずは、検察官が自分が請求する証拠を開示する、また次の段階では、その検察官が請求した証拠の証明力を判断するために必要な一定の類型の証拠の開示を行う、最後には、被告人側の主張が明示されてから、その被告人側の主張に関連する証拠を開示する、こういった三段階の形での証拠開示制度ができて、現行に至っているわけでございます。

鈴木(貴)委員 裁判員裁判制度が始まってもう何年もたちますが、いまだに多くの国民は、今の局長の答弁の中身を具体的によく知っていましたという方はまだまだ少ないのではないのかなと、私自身、この場で聞いていながら思い、そしてまた、裁判のあり方、どういった制度があるのか、こういったことの周知徹底というものをしっかりしていただきたいなと思うと同時に、局長がおっしゃったように、一定のルールの中でしっかりとその制度を活用していく、こういったことはもちろん大事であります。私も何ら異論はありません。ただ、それがしっかりと運用されていればの話であります。

 現実問題として、検察改革、まさに当時の法務大臣がわざわざ法制審議会に諮問をして、検察改革だ、国民の信頼を失墜させたことに対しての見直し、反省、そして改革が必要だと。こういったことが実際にあったがゆえに、今私たちは、今まで以上に国民の皆さんにより開かれた、そしてまたわかりやすいあり方というものを提示していかなくてはいけないのではないのかなと私は強く思っているわけであります。

 これまで捜査当局が、例えば、証拠の捏造であるだとか、証拠隠しであるだとか、証拠があったにもかかわらず被告人に有利な証拠を全て破棄していただとか、そういった例がもしなければ、今局長がおっしゃったように、そのルールの中でしっかりとやってくださいという話で終わることができた。しかしながら、現実問題、今我々が接しているのは今の真逆であります。そういった実際の問題がある。

 だからこそ、この枠組みというものを、必要なものは新設をしながら、全面証拠開示、こういった新しい、真の改革に打って出る、勇気という言葉が正しいのかわかりませんが、こういった取り組みというものも必要なのではないのかな、このように強く思っているところであります。

 時間ももう限られてきましたので、守秘義務の方についても、許す限り質問させていただきたいと思います。

 そもそも、裁判員法の守秘義務の目的というのは裁判員の保護と評議での自由な発言確保である、このように思っております。であるならば、裁判官の評議においての発言については、原則として裁判員に求められている守秘義務から外すということも考えるべきではないのかな、このように私は思っております。

 なぜ裁判官の発言が裁判員の守秘義務の範囲の中に入っているのか、説明をお願いします。

林政府参考人 守秘義務というものが定められているのは、まず一つには、被害者を初めとする事件関係者等のプライバシーの保護というのがございます。そして、さらには、裁判の公正さや裁判の信頼を確保して、評議における自由な意見表明というものを保障するということ、こういった観点から守秘義務がかかっております。

 そういう意味におきまして、評議の秘密、評議の中で誰が、それは裁判官、裁判員を問わず、誰がどのような意見を言っているのか、それを支持する意見がどのぐらいあって、また反対する意見がどのぐらいあったかとか、あるいは、評議の経過、どんな問題を評議の中で取り上げて、どういう順番で評議が行われていったか、こういったものについて守秘義務をかけることによりまして、最終的には、先ほど申し上げた、一つには事件関係者等のプライバシーの保護、もう一つには評議における自由な意見表明の保障というものを図っているものでございます。

鈴木(貴)委員 その評議の秘密、私は、プライバシーを守る観点、今るる御説明がありました、納得をしております。

 ただ、評議の秘密は口外してはいけない、しかしながら感想は述べていい、こういうことになっているかと思います。ゆえに、裁判員の皆さんがよく記者会見をされて、感想を述べていらっしゃる。

 しかしながら、同時に、皆さんが往々にしておっしゃるのは、その評議の秘密と感想、口外していいよと言われている感想のその基準、線引きが非常に曖昧だ、だから、どこまで話していいのかわからないと。

 せっかく選ばれた、だからこそ、私の経験や感じたことを多くの人に周知徹底して、裁判員制度により多くの人に関心を持ってもらいたいと実際に思っていただいている国民の皆さんがいるにもかかわらず、その規定が曖昧なゆえに、皆さん、なかなか発言の機会がなくなってしまっている。ゆえに、心の中で一人で抱え込んでしまい、もやもやと、ストレス、精神的ストレスというものの増加にもつながっていってしまっているのではないのかなと。

 改めて、そういった国民の皆さんの不安に応えるという意味で、最後に林局長から、感想と評議の秘密、それぞれの定義、線引き、具体的に、国民の皆さんにわかりやすいようにお答えください。

林政府参考人 どこまでが守秘義務の範囲なのか、あるいはどれが守秘義務違反になるのかということについては、確かに、実際に裁判に参加する裁判員に対しては、明確に、しっかりと説明がなされるべきであると思います。そういったことにつきましては、実際に、裁判員に向かって裁判官の方からいろいろな説明がなされていると承知しております。

 具体的に言えば、感想を述べること、これは当然できます。公判あるいは公開の法廷でのやりとりというのも、これは公にしても問題はありません。他方で、評議、いわゆる法廷そのものではなくて評議室の中で行われる評議の内容については、これは明らかにしてはなりません。こういうふうな形でわかりやすく説明がなされているものと承知しております。

鈴木(貴)委員 時間が来ました。

 わかりやすくない、伝わっていないから、実際にこういった声が上がっている、この現実をしっかりと受けとめていただきたい。

 そして、一点だけ提案をさせていただきたいと思います。ゆえに、裁判官も同席させて記者会見を行えば、ああ、ここまでは言っていいんだな、ここからは守秘義務なんだなということもより明確になるのではないのかなということを提案させていただき、質問を終わらせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、階猛君。

階委員 まず、四月一日のこの委員会で取り上げました、補助金交付先企業から上川大臣への政治献金の問題について、追加の質問をさせていただきたいと思います。

 四月一日の質疑では、国交省所管の広域物資拠点施設整備費補助金の交付決定を受けた鈴与という会社が、その後一年以内に、大臣が支部長を務める政党支部に寄附をしたという事案について質問をしたわけです。その中で、私は、仮に今後、同じ補助金をもらった企業があったとして、違法か合法かということを総務省に尋ねたとした場合、どういう答えになるのでしょうかということを選挙部長に聞きました。それに対して、結局のところ、答えはなかったわけであります。

 今般、総務省の方では、きょうお配りした資料一のようなペーパーをつくったわけです。「国から補助金等の交付を受けた法人に対する寄附制限の運用改善について」と題するものでございますが、見ていただきますと、要するに、二十七年度予算に計上された補助金については、総務省の定めたガイドラインに基づいて、所管の役所において、補助金交付先企業からの政治献金を違法と定めている二十二条の三という条文の適用除外事由に当たるかどうかを判断してほしい、判断した結果を当該企業に通知してほしい、こういう内容でございました。

 しかし、この資料一の対象とする補助金というのは平成二十七年度予算に計上されたものですから、平成二十六年度予算で計上されたものであっても、まだ一年以内で、合法か違法か、問題になり得るものがあるわけですね。

 こうしたものについて、二十二条の三の適用除外事由、すなわち、この資料一の一番上から三、四行目に書いていますけれども、「1 試験研究、調査に係るもの、2 災害復旧に係るもの、3 その他性質上利益を伴わないもの」、こういったものに当たるかどうかということについては、誰がどのように判断することになるんでしょうか、総務省、お答えください。

稲山政府参考人 お答え申し上げます。

 これまで、総務省におきましては、今御指摘ございました個別具体の補助金につきまして、寄附が行われる前に十分な時間的余裕を持って補助金を受けている法人などから照会でございますとか相談があった場合には、その補助金の性格や内容を十分確認する必要がございますので、関係府省庁にも問い合わせた上で、当該補助金の交付要綱等を検討した上で、ただいま御指摘のありました条項の適用に係る総務省としての考え方をお示ししてきたというところでございます。

 他方、今お話ございましたように、今通常国会で、政治資金をめぐるいろいろな質疑の一環といたしまして、法人からの政治活動に関する寄附についてもたび重なる御質疑がございました。

 このため、今般、ただいま御指摘ございましたように、総務省におきまして、国から補助金等の交付を受けた法人に係る寄附制限に関する適用除外要件などにつきまして、可能な限りその趣旨を明確化したガイドラインを作成したところでございます。

 二十七年度予算に計上された補助金等につきましては、補助金等を所管する各府省庁におきまして、このガイドラインに沿って補助金等を分類の上、その結果を交付決定の際に交付先に通知するなど、その運用改善を速やかに行うこととし、現在、各府省において作業を開始しているところでございます。

 今後、こうした取り組みを通じまして、会社その他の法人が寄附するに当たっての趣旨がより明確になってくるものと考えておるところでございます。

 お尋ねの二十六年度予算に計上された個別の補助金でございますが、そういった取り組みの中のある意味過渡的なものでもございます。法人が補助金を受けたが、まだ寄附をしていないという場合も想定され得るところでございますので、そうした場合には、現在行っている分類作業も踏まえつつ、これまで申し上げているとおり、政治資金規正法二十二条の三の一項の適用に係る一定の考え方をお示ししていきたいというふうに考えております。

階委員 すなわち、二十六年度予算に計上されたものについては、個別具体的な補助金がこの適用除外に当たるかどうかというのを総務省で答えていただける、国交省じゃないということでよろしいわけですね。

稲山政府参考人 お答え申し上げます。

 二十七年度の取り組みを今スタートしておりまして、その中でどういったことになるのか、私ども、少し見通せない状況もございます。

 御説明したとおり、従来、総務省よりお答えいたしておりますが、そういった取り組みを始めておりますので、関係府省庁ともよく相談した上で考え方を示させていただきたいと思います。

階委員 それでは、せっかく国交省にも来ていただいていますので、考え方を示してほしいんです。

 今回、こういうガイドラインが定められましたけれども、問題となっている先ほどの広域物資拠点施設整備費補助金というのは、果たしてこの適用除外事由に当たるのかどうかということをお答えいただけますか。

羽尾政府参考人 お答えさせていただきます。

 先ほど来御議論ありましたように、総務省が策定いたしましたガイドラインに基づく補助金の分類というのは、平成二十七年度予算に計上された補助金について行うものとされております。

 一方で、広域物資拠点施設整備費補助金は、平成二十六年度以前の補正予算に計上された補助事業でございます。

 国土交通省としては、政治資金規正法の例外規定に該当するか否かをお答えすることは困難でございます。

階委員 そこで、二十六年度以前のものについては誰に聞いたらいいんでしょうかという話になるわけですけれども、ここは、総務省は、二十六年度のものについては、従来同様、事前に相談いただければ答えるということですから、やはり総務省じゃないかなと思うわけですね。

 総務省に対して改めてお尋ねしますけれども、二十六年度のものについて、個別の企業から、さきの報道の広域物資拠点施設整備費補助金をいただいたんですけれども、政治献金して問題ないですかと聞かれたとします。それについてどう答えられますか。合法ですか、違法ですか。

稲山政府参考人 広域物資拠点施設整備費補助金に係るケースでございますが、これにつきましては、当委員会でも御質疑がございますように、既に寄附がなされておるもののケースでございます。寄附されたものにつきましては罰則の適用等がございまして、最終的には司法の場において個々具体の判断がされるべきものと承知しておりますので御答弁は差し控えさせてもらいたいと、先般、御答弁をさせていただいたところでございます。

 一般的に、御質問があったときには、それぞれ照会には回答をいたしたいというふうに考えております。

階委員 そうすると、この補助金に関して言うと、二十七年度は予算に計上されていませんから、今後、このガイドラインに沿って、この補助金が適法か違法かということを所管の役所で検討する必要はないと思うんですね。

 でも、補助金の中には、二十六年度以前から計上されていて、二十七年度以降も計上されるというものがあります。そういったものについては、当然、各役所が、合法か違法かという見解を出さなくちゃいけないわけですね。

 例えば、そういう補助金があったとして、二十六年度に同じ補助金をもらっていた企業がもう既に献金してしまっていたような場合、当初は合法か違法かわからなかったけれども、二十七年度、このガイドラインができたことによって、仮に事後的に違法だというふうになった場合というのは、これは違法ということで確定してしまうのか、あるいは、違法だという判断を所管の役所が示したとしても、過去にさかのぼってはこれは効力を持たないんだということなのかどうか、この点について御見解をお願いします。

稲山政府参考人 今回お示しいたしました一定の考え方でございますけれども、行政といたしまして規正法の趣旨に照らした考え方をお示ししたものでございまして、いろいろなことが、寄附されたものについての罰則の適用等の問題があったときには、いずれにいたしましてもこれは司法の場で最終的に決定するものでございますので、その点については変わらないことではないかというふうに考えております。

階委員 いや、最終的には司法の場で結論が出るというのは、それはそれでいいんですよ。だから、逆に、さっきの例のような、二十六年度まで計上されていて、二十七年度で計上されたものについては、今回のガイドラインが出たことによって白黒はっきりしてくるわけですね。でも、それは最終的には司法の場で判断されるものだから、最終的な判断はそこに委ねるとして、それはそれでいいんですよ。

 だから、私としては何を言いたいかというと、問題となっている広域物資拠点施設整備費補助金については、もう二十六年度以前で終わっていますから、ガイドラインにのっとって白か黒かというのをはっきりする可能性はないんだけれども、だとすれば、従来同様、総務省の方で見解を示していただけないかと。見解を示したとしても、それが最終的な結論ではなくて、判決で白黒はっきりするわけだから、別に、総務省は総務省としてどう考えるのかということを示していただく分には、先ほどのガイドラインに沿って白黒が出る場合と同様、問題がないのではないかと思うんですよ。

 だから、私は、従来から言っていますけれども、この広域物資拠点施設整備費補助金について適用除外規定に当たるかどうかというのを、総務省としてどう考えるのかということを示してほしいと言っているわけです。お答えいただけませんか。

稲山政府参考人 再三同じ答弁で恐縮でございますが、御指摘の補助金につきましては、既に寄附がなされているケース、再三御指摘があるケースでございますので、再三申し上げておるとおり、総務省としてのお答えは差し控えさせていただきたいと存じます。

階委員 そういうことで、総務省が見解を示さないという中で、我々として、今回の補助金が本当に白だったのかということを、なかなか確証が得られない状況です。

 そこで、大臣には、四月一日のときに、例の鈴与さんの方で弁護士意見をいただきました、そこで適法だと判断していただきましたと。その理由としては、その他性質上利益を伴わないものだということで適法だということでした。

 その弁護士意見を見せていただいて、なるほど、そう判断するのはごもっともだなと思えば、我々は、これは適法だと確証が得られるわけですよ。総務省が答えを出していただけない以上、その弁護士意見を我々は見させていただきたいんですけれども、その点について、既に理事会の場で委員長から法務省を通じて打診があったと思いますが、大臣、この意見書の提出に御協力いただけませんか。

上川国務大臣 四月一日の委員会におきまして、階委員から同種の御質問をいただきました。

 私自身、民間の企業のさまざまな書類あるいはそれに係るものにつきましては、民間の企業ということでございまして、私の方からそれに対して御要請をするということにつきましては差し控えさせていただきたいという旨の報告をしたところでございます。それについては今も変わりございません。

奥野委員長 政務官が補足したいと言っているから。

 政務官。

大塚大臣政務官 私が大臣の補足をする立場にはないんですけれども、御指摘の件につきましては、四月七日に理事会の方で民主党さんから御依頼がございまして、大臣にその旨、速やかにお伝えをし、お答えをいただいておるところでございます。

 今の趣旨と同様のことでございますけれども、基本的にはこれは理事会で取り扱うことと整理をされていることと思いますので、理事会で議論させていただくことが適当というふうに考えておりますけれども、これまでのところ、前回までの理事会では、ほかの御議論がございましたので、御報告をする機会がなかったというところでございます。

 きょう、理事会でも少し委員長からお触れがありましたので、引き続き理事会の方で対応させていただきたいというふうに考えております。

階委員 大臣も所信の中でも、弁護士意見を踏まえて適法だということをおっしゃっていましたよね。私は、大臣の方で、ちゃんと弁護士意見は見ていらっしゃると思うんですね。見ていらっしゃるのであれば、ちゃんとそれを示していただいてもいいと思うんですよ。

 お手元には弁護士意見はないのか、あるいはその弁護士意見というのをそもそも見ていらっしゃらないのか、そのあたりについて事実関係を教えてください。

上川国務大臣 私が寄附について何ら問題がなかったというような判断に至った理由につきましては、所信の後にそのような説明をさせていただいたところでございます。

 特に国土交通省が所管をする補助金につきましては、これは国が直接交付を決定したということが確認されたということでありまして、政治資金規正法上、補助金が「試験研究、調査又は災害復旧に係るものその他性質上利益を伴わないもの」というところに該当するというふうに考えたところでございます。

 この点のやりとりにつきましては、当該企業との間のやりとりということでございまして、民間企業の活動に係ることでございますので、お答えは容赦させていただきたいというふうに思っておりまして、鈴与さんの調査の結果につきましては、いろいろな方法で把握をしながら、この寄附に何ら問題がなかったという判断に至ったところでございます。

階委員 なぜその弁護士意見を出せないのかが私は不思議でしようがなくて、別に大臣にとって不利な内容が書かれているわけでもなくて、かつ、大臣はそれを引用して、性質上利益を伴わないものに当たるんだということをおっしゃっているわけですから、御自身の見解を補強するものとして出せばいいと思うんですよね。なぜ出せないのかが私にはわからないんです。

 そして、性質上利益を伴わないものに当たると言っているんですが、その根拠が私は知りたいんですよ。大臣、それは御自身の言葉で説明できますか、なぜ性質上利益を伴わないのかということを。

上川国務大臣 今回の広域物資拠点施設整備費補助金ということで、当該企業がこのことにつきまして補助金を受領したということでございますけれども、災害が発生したときにおいて、さまざまな、電源設備も含めまして、それにしっかりと対応していく、さらに、災害が発生したときに、例えば物資の流通というところについて、しっかりとした公の目的の中で受け皿として活用していくということを目的としてこの補助金が使われたというふうに理解したところでございます。

 災害発生ということが生じたときにこの事業が生きていくということでございまして、むしろ、御自分の企業そのものの活動を制約したとしても、公のところで、さまざまなところから搬送されてくる物資のさらなる配分というか、やりとりということについての拠点としての役割を担うという大変大事な施設になろうか、被災をされたたくさんの方々にとっても大変大事な施設になるというふうに考えて、私自身、そのように判断をしたところでございます。

 私の地元、東海地方でございまして、東海、東南海、南海ということで、大変巨大な地震の発生が予測されるところでございます。そういう意味では、企業のみならず、さまざまな形で、こうした事態に遭遇したときにどのように対応していくかということについては、これは、あらかじめさまざまな御協力をいただきながら対応していこうということで、そうした取り組みをずっとしてきたわけでございますが、私は、この事業につきましても、その趣旨の一環としてなされたものというふうに考えているところでございます。

階委員 確かに、災害のときに災害復旧に協力するような物資の輸送というのもあるでしょう。ただし、鈴与さんというのは、御自身の業務としても、災害時も物資の輸送をしなくちゃいけないわけですよね。それにも資するわけですよ。ある面では公共のための補助金ですけれども、ある面では自分の利益のための補助金でもあるわけです。それが、この法律の文言に言う「その他性質上利益を伴わない」とまで言えるのかどうか。一部は利益になっているんじゃないかと私は思うんですよ。

 前回、過去の、多分、総務省がかかわりになってつくられたであろう逐条解説の資料も出しました。その逐条解説の資料で、どういうものが「その他性質上利益を伴わないもの」に当たるかということが三つぐらい挙げられていたんですね。そのいずれにも今回のケースは当たらないんじゃないかということも私は指摘させていただきました。「その他性質上利益を伴わない」ということであれば、もうちょっと踏み込んだ説明が必要であるし、また、弁護士意見であれば、そのあたりもちゃんと書かれているんだろうなと私は思うわけですよ。

 もし今の私の疑問点に対して答えられるならば、答えてください。答えられなければ、弁護士意見を出してください。大臣、お願いします。

上川国務大臣 先ほど委員の御指摘ございました、性質上利益を伴うものに当たるのではないかというような御指摘だったというふうに思います。

 当該企業においては、災害によって拠点施設の発電設備等を用いることとなる非常事態の際には、支援物資の輸送のみに注力をし、それ以外の物品の輸送をすることなどは考えていないということであって、そして、民間企業としての利益を求めない、むしろ犠牲を払うものであるということで、御指摘の補助金につきましても、性質上利益を伴わないものに該当する、こうした結論につきまして、私自身、疑問がないというふうに判断したところでございます。

階委員 国交省に最後にお聞きしますけれども、今の大臣の説明によると、この補助金が支給されるのは災害時の輸送をする場合に限られるというような御説明でした。それで間違いないですか。

羽尾政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど申しましたように、本件について、国交省としては答えにくい問題でございますが、議論の経緯から、仮定の話でございますが、一定の、広域物資拠点施設整備費補助金が交付されたという場合の整理として一般的な考え方をまずお話し申し上げないと、今の先生の御質問にお答えしづらいところがございます。

 まず、一般的な考え方としましては、ガイドラインの適用除外の考え方についてという中で、3のイという、いわゆる利益を伴わないものを例示したものの中に、「法律、政府の方針等に位置付けられた公共性の高い事務又は事業を行うために生じる追加的な負担を補てんする限度において交付されるもの」、これに該当する補助金は利益を伴わないものに当たって、いわゆる政治資金規正法二十二条の三の寄附制限の対象とならない補助金だというふうにされております。

 広域物資拠点施設整備費補助金につきましては、災害が起きたときの支援物資の円滑な輸送の確保のために広域物資拠点施設の整備を支援するものでございます。これは、災害対策基本法に基づく防災基本計画、あるいは国土強靱化基本法に基づく国土強靱化基本計画、こういった政府の方針に基づいた公共性の高い取り組みでございます。

 したがいまして、仮に二十七年度に広域物資拠点施設整備費補助金と同様の補助金を交付することとなった場合には、こういった点を踏まえまして、制限の対象になるかどうかを判断すべきであると考えております。

 その上で、今委員御指摘の、いわゆる災害時以外にも使えるじゃないかということでございます。

 そういった可能性はゼロではございません。災害時に物資拠点としての機能以外の通常営業に使うことも可能ではございます。これにつきましては、総務省との相談も踏まえましてお答えいたしますと、そういったいわゆる非常用設備を支援物資輸送以外の用途で使用するということの可能性はゼロではございませんが、蓋然性は極めて低いというふうに考えています。

 また、仮にそういった支援物資輸送以外の用途で使用されたとしましても、通常業務が一定期間継続可能となるというのにとどまりまして、直接的な売り上げの増加とか、あるいは、本来の経営に必要な費用の直接的な軽減につながるものではないというものでございます。

 さらに、当該補助金による補填を受けた企業も、その企業も物流事業者も、残る初期費用に加えまして、残る初期費用というのは、いわゆる補助金が出ていない分は自己負担であります、その初期費用に加えまして、維持管理費用なども負担しているという状況にございます。

 こういった状況のため、この補助金による利益が、今委員御指摘のようなものがあったとしても、直接的に物流事業者の営利を助長したり経営を強化するものではないというふうに考えておりまして、そういった点を総合的に考えるべきものではないかというふうに、仮定の話ではございますが、考えております。

階委員 丁寧な答弁、ありがとうございました。

 ただし、文言はあくまで「その他性質上利益を伴わないもの」というところから、なぜそんなに敷衍させて、そこまで具体的かつ広範な内容になるのかというのが私にはちょっとわからないんですね。

 私は、前回指摘したとおり、「その他性質上利益を伴わないもの」というのは、逐条解説では極めて限定されております。

 資料の三ページ目を見ていただきたいんですけれども、今、国交省の方から御説明があったのは、問題となっている補助金は、「3 その他性質上利益を伴わないもの」の、ア、イ、ウ、エ、オ、カ、キと挙がっているうちのイの部分に当たるというようなことをおっしゃっていたと思うんですね。「法律、政府の方針等に位置付けられた公共性の高い事務又は事業を行うために生じる追加的な負担を補てんする限度において交付されるもの」ということに当たるという趣旨でおっしゃっていたと思います。しかし、公共性の高い事務であっても、必ずしも利益を伴わないとは言えないわけでございます。

 そもそも逐条解説で挙げられたのは、ア、ウ、エ、丸をつけている部分だけでございまして、今回、ガイドラインになって、急遽、イとかオとかカとかキが加わってきた。これも私は、何か後づけで正当化しているように思えてならないんですね。

 こういう例外事由、適用除外事由を拡大していくようなことが安易に認められると、私としては、この法の趣旨を没却するのではないか、補助金をもらった企業が政治家に寄附をすることによって何か癒着の構造が生まれるのではないかということを防ごうとした趣旨、これを没却すると思っています。

 私は前回、大臣に申し上げました。こういった適用除外事由は撤廃して、疑惑を招かないようにするということについて、意見は真摯に受けとめたいということをおっしゃっていました。この適用除外事由がどんどん広がっていく中で法の趣旨が没却されかねないということも踏まえて、ぜひ、大臣には、改めて、この例外事由をなくすということについて前向きに検討していただきたい。

 法の所管は総務省ですが、前回も申し上げたとおり罰則が絡んでおりますので、法務省も絡んでいると思います。そこで、大臣に、この法の適用除外事由撤廃についての考え方をお聞きします。

上川国務大臣 今回の私の政党支部に係る問題につきまして、この間、さまざまな形で、私自身も説明のために真摯に取り組んできたところでございます。きょうもそのような形で御質問いただきましたし、また、新しいガイドラインをつくるという中で、この法の趣旨がしっかりと生かされる、生かし切ることができるようにしていくということについては、ある意味で、大変大きな前進というか、大きなことではないかというふうに思っているところでございます。

 この法律は総務省の管轄でございます。そして、全ての政治家、そしてそれに係る、私の方は受けるという形でございますけれども、出す側ということについても、非常に曖昧になっていくということになれば、大変それも問題であるというふうに思うところでございます。この法の趣旨を没却しないようにということでございますので、そういう方向性の中で、運用のところについては、しっかりと襟を正して適正に取り組んでいくことができるように、さらに私自身も襟を正してまいりたいというふうに思っております。

階委員 国交省はもうお帰りになって結構です。

 運用でとおっしゃいましたけれども、この運用のためのガイドラインがむしろ法の抜け穴を拡大しているようなところを私は指摘しました。このガイドラインの問題についてはまた別途指摘したいと思いますけれども、大臣にも問題意識を共有していただいて、運用では対応し切れなくなっているというのであれば、積極果敢に法の改正というものを考えていただきたいということを最後に申し上げます。

 本題の質問に入りますけれども、今回、裁判員裁判が平成二十一年から始まって、もう五年ぐらいたっております。そこで、見直しということなんですが、これまで裁判員裁判にどれだけコストがかかってきたのだろうかという素朴な疑問についてお示ししたのが資料三でございます。資料三は、通し番号でいくと四ページです。

 ここに、裁判員関連経費ということで、最高裁の方に調べていただきました。実際には平成二十一年度から裁判員裁判が始まっていますけれども、その前から準備の費用が発生しておりまして、かなりの額が投じられてきたわけです。累計でいいますと、右上の方に、三百六十四億円という少なからぬ経費がこれまでかかってきております。

 私がここで気づいたことは、裁判員裁判が始まってから今年度予算に至るまで、どんどん減ってきています。

 済みません、総務省ももう結構ですよ。

 減ってくるのは、私が当初予想していたのは、始まった当初は設備投資やそういった費用がかかるからかなと思っていたんですけれども、実は、そういう固定費の部分だけじゃなくて、変動費も減ってきている。

 例えば、この明細のところに、一として、裁判員等の日当・旅費とか、あるいは二番として名簿記載通知発送等業務委託経費、郵便料金というのがあります。この部分については、裁判員の人数に応じたり、あるいは名簿に登載された人数に応じたりして、人数が変わらなければ同じような額が発生するんだろうなと思っておりましたところ、次の資料四を見ていただきたいんですが、上のイというところに裁判員候補者名簿記載者数というのが挙がっていまして、平成二十一年から平成二十六年までの数字でございますが、確かに減ってきてはいるんですけれども、それほど極端には減ってきていない。三割ぐらいは減っていますかね。

 ところが、先ほど申し上げました裁判員関連経費の名簿記載通知発送等業務委託経費のところを見ますと、大幅に、半分以下になってきているわけですね。また、裁判員等の日当・旅費ということについても、この経費の数字で見ますと三分の一近くになってきておりますが、実際の裁判員の数というのを見ますと、資料四の下から二段目の数字で、平成二十一年は年度途中からでしたので、平成二十二年度あたりと比べても、そこまでは減ってきていないんですね。

 なぜこんなに経費が減るんだろうかということを、まず最高裁判所にお聞きしたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判員制度は、平成二十一年から開始され、その開始に当たりましては、委員御指摘のとおり、必要となる物的整備のほか、制度周知のための広報等を行うため、施行前である平成十七年度からそのために必要な予算を相当額確保してきたところでございます。

 現在は、それらの整備が一段落し、裁判員制度の運営に必要な経費として、裁判員等の旅費、日当や裁判員候補者への通知費用等を計上しておりまして、これらは、裁判員裁判対象事件の事件数などの要因に左右されるものでございます。

 事件数だけなのかどうなのかということなんですけれども、裁判員裁判の運営コストは、事件数のほか、審理期間や出頭率などにも左右されますことから、それらの各要素についても変動がなければ、全体として予算額に大きな変動は生じないのではないかと思われるところでございます。

階委員 今後は、事件数に大きな変動がなければそんなに変動はないという趣旨でよろしいですか。済みません、最後のところがよくわからないんです。

 では、今後のコストの見込みについてお答えいただけますか。

平木最高裁判所長官代理者 裁判員裁判の運営コストは、事件数というのが大きな要因となっておるところではございますが、そのほかにも、審理期間ですとか出頭率などにも左右されますことから、それらの事件数以外の要素について変動があります場合には、事件数が同じでございましても、全体として予算額が変わってくるということはあり得るというふうに考えております。

階委員 今後コストがどうなるかということは明確に言えないということなんだと思うんですが、多少は減ってきているとはいえ、今もなお、ことしの予算でいいますと十七億近くのお金が計上されていますね。こういう多額のお金が、今、財政難の中で裁判員裁判を運営するのにかかっているということを大臣には知っていただいた上で、これだけのコストをかける以上は、やはりそれに見合うようなメリットといいますか意義といいますか、そういうものがなくてはいけないと思っています。

 このコストをかける意義について、大臣のお言葉で結構ですので、どのように考えているか、御答弁をお願いします。

上川国務大臣 一般の国民の皆さんが裁判にかかわるということにつきましては、やはり裁判の中に健全な日常の常識が反映されるという趣旨に照らしてみても、大変大事なことだというふうに思っております。

 皆さんの中には、参加する前についてはなかなか不安もあるという御意見もありましたけれども、しかし、そうした中で一旦裁判員になった皆さんの御意見を見ますと、大変参加してよかった、そして、司法に対してもさまざまな理解また支持が強まっているというふうに考えておりますので、大きなコストではございますけれども、この充実強化ということにつきましては、たゆまぬ改革をしながら前進していく必要があるのではないかというふうに考えているところでございます。

階委員 そうやってコストをかけて、たゆまぬ改革にも心がけていくということであれば、資料四を見ていただきたいんですが、私が憂慮しているのは、今、裁判員の辞退者とか、呼び出されて出頭しない人の割合がふえているという問題です。

 資料四を見ていただくと、真ん中あたりに出席率という数字がございまして、上段、下段に分かれております。

 上段の出席率は、実際に選任手続に出席した裁判員の候補者が、選定された裁判員候補者に対してどれだけの割合がいるかということであります。これが、二十一年は出席率四〇・三%だったのが、直近では二六・七%、平成二十六年の数字です。

 また、下段の数字というのは、同じく選任手続期日に出席した裁判員候補者数の、選任手続に出席を求められた裁判員候補者数に占める割合ということですね。つまり、いろいろな辞退の理由があって出席を求められなかった人もいるわけですが、出席を求められた裁判員候補者数のうち、実際に来た人はどれだけかという数字です。こちらについては、同じく、当初は八三・九%だったのが、だんだん下がってきて、七一・五%ということであります。

 こういうふうにどんどん出席率が減る傾向にあるわけですけれども、ここはやはり、不断の改革とおっしゃる大臣であれば、問題意識を持っていただきたいと思うんですが、まずは、この点についての大臣の問題意識をお伺いします。

上川国務大臣 委員が御指摘になりました資料四のところのリに係る出席率ということで、二つの数字が挙がっているところでございます。

 二十一年から六年間の実績ということで、トレンドのような形でお示しをしていただいている資料だということでございまして、この数値から見るところについては、やはり下がっているということは事実ではないかというふうに思っております。

 ただ、この数字をもって、今どうなのかということについての評価を加えるには少し時期が早いのではないかと思うわけでございまして、これについては、下がっているということについては事実として認識するわけでございますけれども、これからもこうした数字についてはしっかりと見据えてまいりたいし、また、出席率につきましても、さまざまな理由があろうかと思いますが、そのようなことも、いろいろな形で出席された方の意見を反映できるような形でしていく必要があるのではないかというふうに思っております。

 いずれにしても、できるだけ多くの方に参加をしていただくことが重要であるというふうに考えておりますので、こうした出席率の二つの数字につきましても、十分に注視してまいりたいというふうに考えております。

階委員 注視するとおっしゃいましたけれども、これは結構重要な話であります。

 例えば、資料五に、「裁判員候補者による虚偽記載罪等」という裁判員法百十条の条文がありますけれども、裁判員候補者が質問票に虚偽の記載をして裁判所に提出した場合などは五十万円以下の罰金に処するという規定があります。だから、本来、裁判員候補者が質問票に正しいことを書かないで辞退したということになると、これは刑事罰もあり得るわけですね。

 刑事罰だけではなくて、百十一条には、過料ということで、同じように虚偽の記載をしたりすると裁判所の決定で三十万円以下の過料という条文もあって、また、裁判員候補者が、呼び出されたにもかかわらず、正当な理由がなく出頭しないときも、十万円以下の過料というのがあります。

 こういう規定があって、出席しない人、また辞退理由を偽って辞退した人、こういった人は取り締まることにして、真面目な人、正直者がばかを見ないようにしようというふうにしているわけでございますね。

 ところが、今現在、聞くところによると、罰金とか過料というのは適用事例はないと伺っています。まず手始めにやれることからやるということでいうと、過料とか罰金の適用について積極的にやるべきではないかと思うんですが、この点について、大臣、御見解はいかがですか。

上川国務大臣 法律の定めがございますので、そうしたことに該当する事案があるとするならば、それについては適用するということであるというふうに思います。

 しかし、今の状況で見ましても、五年以上たちますけれども、皆さん大変積極的に審理にかかわっていただくということで、しかも、その後の評価につきましては、参加してよかったという、大変理解が深まり、また支持をいただくというような方向になっているということにつきましては、これは大切にしていかなければいけないというふうに思っております。

 ただ、裁判員裁判制度そのものの御理解でありますとか、あるいは不安の部分をお持ちであるということもございますので、そういうことの御懸念を払拭することができるように、裁判員制度そのものをできるだけわかりやすく皆さんに御理解いただくべく努力をしていく必要があろうかというふうに思っております。

 法務省といたしましても、ホームページなどで、かなり細かく、しかしわかりやすく、皆様に御理解いただくべく努力をしているところでございますし、また、出前教室などを通して御理解をしていただくということもさせていただいておりまして、こうしたことの蓄積そのものが、これから出席率の向上にもつながっていくというふうに考えておりますので、さらに全力で取り組んでまいりたいというふうに考えているところでございます。

階委員 辞退者に本当に辞退事由があるのかどうかということは、サンプル調査なりして調べてみた方がいいと思うんですね。傾向的に辞退率が上がってきておりますので、本当にそうなのかどうか。何か、制度が始まってしばらくして、どうも辞退してもおとがめがないらしいというふうに思われている節があるかもしれません。ここらでやはりサンプル調査をして、辞退事由がない人に対しては、場合によっては厳しい対応をするということも必要ではないかと思いますが、この点についていかがですか。

 まず大臣からお願いします。最高裁でもいいですよ。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 サンプル調査にいたしましても、過料の制裁の前提となるものでございます。そうしますと、サンプル調査でありましても、これを行うか否かは、受訴裁判所が個々の事案ごとに判断すべきものでございますので、事務当局としてはお答えする立場にはございません。

階委員 では、大臣、お願いします。お答えする立場にないそうですので、大臣、お願いします。

上川国務大臣 辞退についての御質問でございますけれども、裁判員候補者の辞退率については、個々の事件における裁判所の判断の結果であるというふうに考えております。その意味では、出席率、辞退率ともにデータ的にはいろいろ変化はございますけれども、しっかりとした辞退事由に基づいて、義務を果たしていただくということが前提でございますので、そういう意味で、この趣旨の徹底と理解の増進というところに全力を傾けてまいりたいというふうに考えております。

階委員 サンプル調査もぜひしていただいて、辞退率がこれ以上高まらないようにしていただきたいと思っています。

 だんだん時間も迫ってきましたので、改正事項についても触れていきたいんですが、その前に、今回、せっかくの見直しをするのであれば、二つ大きなことが見過ごされているのではないかということで、私が指摘したいのは性犯罪の事案ですね。

 これについては、裁判員裁判の対象とすることについて、そもそも反対の意見もあるわけです。裁判員裁判の全事案に占める割合は結構高いわけですけれども、しかし、被害者からすれば、裁判員という一般の人に、自分の余り知られたくないようなことを知られるのは差しさわりがあるということで、これはなかなか微妙な問題だと思っています。

 例えば、見直しのヒアリングのときの被害者側の弁護士さんの意見からすると、除外すべきであるとか選択制にすべきだとかいう意見が被害者側からはある、被害者の意見を聞いて検討すべきであるということもヒアリングの場で意見が出されています。

 今回、最終的には、性犯罪事案について今までと変わらぬ対応になってしまったわけですけれども、実際に被害者の意見を聞いて検討されたのかどうかということについて教えてください。大臣、お願いします。

上川国務大臣 性犯罪の事案につきまして裁判員裁判の対象事件に含めるかどうかということについて、これは、裁判員制度に関する検討会におきまして、今委員から御指摘がございました、裁判員裁判の対象から一律に除外すべきではないか、あるいは、裁判員裁判を実施するか否かについて被害者の選択に係らしめる被害者選択制をとるべきではないか、この二つの大きな御意見があったというふうに承っております。また、詳細な議論が行われたということでございます。

 この一律除外について、先ほど、被害者のプライバシーに関する懸念ということでございましたけれども、こちらについては、運用上の対応によって可能である、また、性犯罪が除外されますと、国民の皆さんが悪質な性犯罪の被害につきまして考える機会を失って、その実情が理解されないままになるなどの消極的な意見が多く示された一方で、これを支持する積極意見が見られなかったということでございます。先ほどの、国民が悪質な性犯罪の被害について考える機会を失い、その実情が理解されないままになる、こうしたことについて、委員の方からもそうした御指摘があったところでございます。

 また、被害者選択制につきましては、被害者に選択の責任を負わせるということ、これはかえってその負担が大きくなる、こうした御指摘もございましたし、被害者選択制自身、訴訟関係人の希望によって裁判員裁判が実施されるか否かということについて決せられるという仕組みとなってしまうということでありますので、これは裁判員制度の趣旨に反するのではないかということにつきまして、これも消極意見が大勢を占めたということでございます。

 ただし、検討会におきましては、先ほど御指摘ありました被害者等のプライバシー保護に関する実務上の運用につきましても御紹介をしていただいたところでございまして、裁判官の委員の方からは、裁判員との間で、被害者等のプライバシーに必要以上に踏み込み過ぎるような質問などがなされないように、裁判員の補充質問の内容、方法について協議を行うでありますとか、あるいは検察官の意見につきましては、必要に応じて遮蔽の措置とかビデオリンクの方式による証人尋問の実施を求めるよう努めている、こうした御紹介があったところでございます。

 そうしたさまざまな御議論を経た上で、法改正につきまして法制審議会への諮問を行わないということで、今回の法律案につきましても、御指摘の点の改正は含めていないというところでございます。

階委員 最後、一点だけ。

 今回、裁判員裁判で死刑に相当するような事件についても除外すべきかどうかという議論はあったと思うんですが、私も、そもそもこういう重大事件を一般の方が審査することによってすごく負担がかかると思っていまして、実際に急性ストレス障害になった人もいるというふうに伺っております。

 逆に、そこまでして負担を課すのであれば、裁判員裁判で死刑判決をしたのであれば上級審ではなるべく覆させないというような制度設計が必要ではないかなと思うんですけれども、例えば、裁判員の意見を聞いて上級審が覆すかどうか判断したりとか、あるいは、そもそも刑法で法定刑の範囲が広過ぎて、人を殺した者は一人であっても死刑にすることができると条文上はなっているわけですよ。犯罪の構成要件や法定刑を見直すということなども考えることによって、死刑判決が上級審で覆せないようにすることもできると思います。

 こういった上級審で覆すことについて、大臣はいかなる問題意識あるいは見解をお持ちでしょうか。最後、手短にお願いします。

奥野委員長 上川大臣、手短にお願いします。

上川国務大臣 一般論といたしまして、裁判員の関与した裁判につきましても、量刑の誤りのおそれがあって、これは死刑判決の場合も同様であるというふうに考えております。当事者に控訴を認めるということが相当であるというふうに考えているところでございます。

 先ほど来お話しいたしました裁判員制度に関する検討会におきまして、上訴について法改正を要する旨の意見ということにつきましては大勢を占めるに至らなかったということでございますので、現時点におきましては、御指摘の点も含めまして、裁判員の参加する合議体の判決に対する上訴のあり方を見直す必要性そのものについては考えていないというところでございます。

階委員 では、引き続き御議論させていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 維新の党の重徳和彦です。

 きょうは、裁判員の法律の改正案につきまして審議をさせていただきます。

 この裁判員制度は、平成二十一年に始まりまして、法律がつくられた当初から、附則九条に検討規定があったんですね。「政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、」云々「所要の措置を講ずるものとする。」というところから今回の改正がスタートしていると思うんですが、そうであれば、これまで三年、現時点まででいえば五年以上が経過したこの裁判員制度について、問題点、課題を全てきちんと整理して、それに対応した法改正というものをやっていかなくちゃいけないと思うんです。

 そこで、何点か指摘をさせていただきたいんですが、まず、裁判員裁判が始まって以来、重大な性犯罪、傷害致死罪について量刑が重くなっている面がある、そのように見られます。

 資料一をごらんいただきますと、裁判官裁判のときと裁判員裁判のときで、求刑を上回る判決、求刑どおりの判決、これがどう変わったかというのが裁判所の検証報告書の中で示されています。

 求刑を上回る判決は、裁判官裁判のとき、四年ほどの間に二件しかなかったんですね。それが、裁判員裁判になってから二十二件にふえている。それから、求刑と同じ、つまり求刑どおりという判決は、裁判官裁判では四十五件。それが、同じぐらいのパイの中、二千数百件の中で、裁判員裁判になると百二十六件というふうに大幅にふえています。

 このような意味では、量刑が重くなっている部分というのは間違いなくあると思うんですが、これは裁判員が参加する裁判が始まったことによる成果といいましょうか、効果といいましょうか、結果といいましょうか、そういうふうに評価していいんでしょうか。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 量刑傾向は個々の事件におけます裁判体の判断の集積でございますので、その評価について事務当局としてはお答えする立場にございませんが、客観的なデータを申し上げますと、御指摘の性犯罪、すなわち強姦致傷罪及び強制わいせつ致傷罪と傷害致死罪につきましては、裁判官裁判と裁判員裁判で量刑分布を比較しますと、三つの罪のいずれにおきましても実刑とされた場合の刑期のピークは裁判員裁判の方が重くなっておりますが、傷害致死罪におきましては裁判員裁判の方が執行猶予に付される率がやや高くなっているというところが出ておるところでございます。

重徳委員 全般的に厳罰化傾向があるというようなこと、一方で執行猶予がついているということで、もちろん何でもかんでも重くなっているとは思いませんが、確実に、裁判員が参加することによって判決の傾向が変わっている、変化が生じているということは言えるのだろうと思います。

 その意味で、裁判員として参加をする国民の立場からすれば、せっかく参加したんだから、やはり我々の感覚、我々の社会常識というものが、これまで裁判官が常識がなかったとは言いませんが、裁判官だけの常識じゃなくて国民の常識も取り入れた裁判結果が出るということが期待されることであり、また結果として出ているということでよろしいんじゃないかとは思うんです。

 一方で、ここのところ、高裁、最高裁で裁判員判決が覆されるケース、こういうものも出てきていますね。去年ですか、強盗殺人事件などで、高裁、最高裁で覆されるケースが出ております。そのときの理由の一部を抜粋すると、過去の裁判例を検討すべきなのは裁判官だけの裁判でも裁判員裁判でも変わらないんだとか、死刑がやむを得ないとの説得的根拠を示していないんだ、だから覆さなきゃいけないんだというようなこと。

 理由はそれぞれあるとは思うんですが、しかし、要は今までの裁判官裁判の常識、ルールが正しいんだとして、最高裁が、あるいは高裁が次々とひっくり返していくということは問題があると思うんですけれども、大臣、いかが認識されていますでしょうか。

上川国務大臣 さまざまな事件につきまして今御指摘がございましたけれども、これは裁判所の判断についてということでございます。そういう意味では、一般論として、裁判員の関与した裁判につきまして上訴審で破棄されるということはあり得るというふうに考えております。

 上訴審におきましても、同種事例等も参考にしていると承知をしているところではございますが、司法に対する国民の理解増進、信頼向上、こうした裁判員制度の趣旨については十分に踏まえているというふうに認識をしているところでございます。

 上訴審が判決を覆したとしても、裁判員制度そのものの存在意義につきまして否定することにはならないというふうに考えております。

重徳委員 もう一度大臣にお伺いをしたいんですが、先ほど申し上げましたように、裁判員裁判が始まってから、やはり国民感覚が入っていって、判決結果というものも変化が生じているわけですよ。

 それで、そこに対して、当然、裁判官はプロという意識もありますから、もちろん、過去の例とか公平性から見て、やり過ぎじゃないかとかいうことでひっくり返すことが絶対あってはいけないとは言いませんけれども、しかし、裁判員は、ふだんの自分の仕事、生活を多少よそに置いてまでも、もともと関係なかったような裁判に参加しているわけでありまして、しかも、多くの場合、重大な犯罪が多いわけですから、もう本当に凄惨な写真を、遺体の写真を見せられたり、心的ストレス障害、PTSD、こういったものにさいなまれる、そういう方もいらっしゃるわけですね。

 そこまでしてでも裁判員裁判をやるんだということでやっているわけですから、今の大臣の御答弁だと、これは上級審がひっくり返すことは当然あり得ることで、別に裁判員裁判の趣旨を否定することにはならないんだ、全然問題はないんだというように聞こえたんですが、何の問題もないということをおっしゃっているんでしょうか。

 先ほど階委員からも指摘がありましたけれども、上級審でも裁判員の地裁における意見を少し聞くとか、少し見直しをする余地はあるんじゃないか、問題は全くないとは言えないんじゃないか、こう思うんですけれども、大臣はどうなんでしょうか、問題は全くないとおっしゃるんでしょうか。

上川国務大臣 今委員の方から、裁判員裁判、国民の皆さんがいろいろなことを抱えながら、大変真摯に審理に参加をし、そして結論を出しているということについて、これは大変大きな重みがあるという御指摘がございました。私もそのとおりだというふうに思っております。

 そういう意味で、上訴審におきましても、国民の皆さんが裁判員裁判を通じて司法に対しての理解を深め、また信頼を向上させる、こうした趣旨でこの裁判員制度が運用されるということでございますので、この趣旨をしっかりと踏まえながら、刑事訴訟法等の法令に従って、個々別々に具体的な事件についての判断を行っているものというふうに考えております。

 その意味で、裁判員裁判の存在意義を否定することには必ずしもならないというふうに申し上げましたけれども、この上訴審そのものも、こうした裁判員裁判の趣旨をしっかりと踏まえた上で、また個別具体の事件につきましての判断を行っているというふうに考えているところでございます。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

重徳委員 上訴審においてもこの裁判員の趣旨を踏まえているんだというふうにおっしゃいますが、これはもう少し個別の検証が必要だと私は思いますよ。これはまさにケース・バイ・ケースですから、マクロの数字を見ただけでは判断できない部分もあると思います。

 本当に、個別にはいろいろな、先ほど申し上げましたPTSDを抱えながら、その後も本当に苦悩しながら生活している方もいる。そういう意味で、そういう方の犠牲の上に成り立っているという言い方もできると思います。そうした裁判員制度なんだということも、もっと控訴審、上級審においても踏まえてやれる仕組みが必要ではないかと私は思います。

 そして、これは最高裁の方に確認しますけれども、最初に申し上げました、裁判の判決の結果が変容してきているという傾向があるということでございます。

 要は、裁判官なら従来認めてきたであろう、あるいは認めなかったであろう犯罪の故意とか過失とか、そういうことについて、裁判員裁判においてはいろいろ意見が割れるというか、つまり、法曹三者、いわゆる裁判官、検察官、弁護士のプロの世界の中ではこれまでであれば常識だった故意の認定、過失の認定ということについても、裁判員の方が参加することによって、必ずしも認められるとは限らない、あるいは認められなかったようなものも認められるようになった、そういった傾向の違いというものは見てとれるんでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 一般的には、故意等の法律的な概念につきまして裁判員の方々が適切に判断できるように、裁判官が評議等の場でわかりやすく丁寧に説明しているところでございますが、故意の有無等につきまして裁判員がどのような意見を述べたのか、裁判員が入ったことで従来の裁判官裁判と異なる判断がなされる傾向があるのかということにつきましては、評議の秘密にわたる事項でございますし、事件は一つ一つその内容や争点が異なるため、判断の傾向について単純に比較することもできませんので、そういった点につきましては事務当局では把握しておりません。

重徳委員 把握していないのか言えないのかわかりませんけれども、しかし、何も変わらないんだったら裁判員をやる必要もないわけですから、当然、裁判官だけの事実認定あるいは故意、過失の認定というもののあり方は、裁判員が入ったことで変わったと見るのが、変わっていないとは言えないんじゃないかと思うんですが、もう一度、いかがでしょうか。

 わからないというのでは答弁になりませんので、どう見るべきなんでしょうか、我々は。

平木最高裁判所長官代理者 委員御指摘のとおり、裁判員制度が導入されましたのは、職業裁判官のみならず、国民一般の方々が刑事裁判に参加することによって、一般市民の感覚や健全な常識が事実認定にも反映される、それがよりよい裁判につながるということが制度の目的の一つであると考えております。

 ただ、具体的な事件でそういった裁判員の方々がどういう意見を述べたか、それによって故意の認定等がどう変わったのかという具体的な点につきましては、守秘義務等の問題もございますので、把握することは困難でございます。

重徳委員 裁判所からはこのぐらいが限度なのかもしれませんが、趣旨として、健全な国民常識が入ることがそもそもの目的であり、それは、それに沿った運用がされているというふうに受けとめておられるんだと思います。

 その意味では、これまでの裁判官を含む法曹三者のいわゆる常識、よくも悪くもですけれども常識というものに対して、裁判員の方は基本的には人生に一度きりの経験になりますから、いわば素人感覚、それが違う、ずれているというのは当然であり、むしろそれが期待されるということでありますね。

 その結果として、恐らく、先ほどは厳罰化という結果について指摘をしましたが、しかし、その過程において、証拠に対する評価とか心証というものは、プロの裁判官と、人生で一度きりの裁判員とで随分違うんじゃないか。

 よく聞きますのが、裁判員の方は、本当に、人を裁くという重大な、人の人生を左右するような、それも重大犯罪の場合ですから、場合によっては死刑だとか無期懲役とか想像を超えるような人への裁きを下さなきゃいけない、こういう立場に立たされるわけですから、当然、物すごく慎重になりますよね。誰が考えてもそうだと思うんです。

 そうなると、おのずと、証拠に対する、何というんですかね、私も素人ですから言葉がいま一つかもしれませんが、証拠に対する自信が起訴をする側の検察官としてはないような場面、これは裁判員には認めてもらえないんじゃないか、そういう局面というのは出てくると思うんです。

 それで、少し数字を見ていたら、資料二をごらんいただきたいんですけれども、細かい数字が載っておりますが、これは検察統計年報の数字でございます。例として、真ん中に線を引いておきましたが、殺人罪、これは未遂も含むんだと思いますが、平成十九年から二十五年にかけての起訴、不起訴、そして起訴率の数字が並んでおります。

 裁判員制度が始まったのが平成二十一年でありますから、この起訴率というところに着目していただきたいんですが、平成十九年、二十年、二十一年、このあたりは五〇%前後、五二・九%、四八・九%、四八・六%なんです。ところが、裁判員制度が始まった翌年から、平成二十二年は三八・三%、二十三年は三七・一%、二十四年は三一・八%、そして二十五年には何と三〇・七%まで落ち込んでしまうんですね。

 この起訴率の著しい低下、もうちょっと前までさかのぼると、もっと高いときはもちろんありましたけれども、低下していくこの勢いというのが明らかに裁判員制度が始まってから非常に急激に落ちていると見てとれるんですが、これは裁判員制度導入による影響が大きかったのではないでしょうか。いかが受けとめておられますか。

林政府参考人 御指摘のように、未遂を含む殺人罪についての起訴率、すなわち、検察官により起訴または不起訴の処分がされた人員のうちの起訴された人員の割合、こういったものにつきましては、例えば平成十八年から平成二十五年まで低下傾向にあるものと承知しております。

 しかしながら、この場合の不起訴の理由というのにもさまざまなものがございまして、例えば、犯罪死の疑いがあったことから司法解剖を実施したものの、その結果、犯罪の嫌疑がないことが判明した場合でありますとか、あるいは、被疑者の責任能力を明らかにするために精神鑑定を実施した結果、責任能力がないという判断がされた場合など、犯罪として処罰することができないために不起訴となる人員も多くございます。こういった不起訴となる人員というものについて、その増減がこの起訴率の変動につながっているものと思われます。

 実際に、起訴率といいますのは、さらにさかのぼってみますと、裁判員制度導入以前におきましてもかなり変動幅がございます。時に二〇%台という年もございますし、それから六十数%台まで、大きく変動しております。

 それで、それが裁判員制度導入後の傾向かと申しますと、そういった一定の傾向は見られずに、かなり大きな幅で変動しておりまして、実際に平成十八年から平成二十五年までの低下傾向と申し上げましたが、平成二十一年に実施される前からやはり低下という状況は起きておりますので、これが何によるものなのかというのは断定的に申し上げることはできませんけれども、少なくとも、不起訴になる事案というものが大きく変動する、この増減が実際の起訴率の変動につながっているのではないかと思います。

 したがいまして、裁判員裁判の施行によってこの起訴率が低下したということについて、それを断定する、そのように申し上げることは、まだそういった根拠は持っておりません。

重徳委員 今、林局長は変動があるんだというふうにおっしゃいましたが、きょう資料として用意しましたのは平成十九年以降ですが、もう五、六年さかのぼっても、基本的にはずっと低下傾向なんですね。

 だから、さっきもちょろっと申し上げましたが、六〇%台だったときもあります。そこから低下傾向というのはわかる。二十一年までの間どういう理由で低下してきたのかというのは、それはまた局長の分析に委ねますが、そこまでの低下傾向の減少率に比べて、明らかに二十一年からは大幅に、だって、五〇%が三〇%まで落ちちゃっているわけですから、六〇が五〇になるのとは全然レベルが違うと思うんですよ。

 これを断定できないというのは、断定までできなくても、関係ないとまでは言えないと思うんですが、いかがでしょうか。関係ないとまでおっしゃいますか。

林政府参考人 この起訴率について、さらにさかのぼってみますと、例えば私どもの調べたところで言いますと、昭和六十三年とか、そういうことになってきますと、かなり、二〇%台というような年もございます。その後も、平成に入ってからも、三〇%台という年もございます。

 そういった意味で、こういったものが裁判員制度施行によるものなのかということを申し上げる根拠は持っていないということでございます。

重徳委員 全く関係ないとまでは言えないというところまでは来ていると思うんですが、この場で断定してくださいと言っても、断定はしてくれないと思います。そこまではいいんですが、しかし、やはり無関係ではないと思います。

 それから、別の指摘では、これはちょっとどう認識されているかをお聞きしてみたいんですが、裁判員制度が始まってから、当然、重たい犯罪が裁判員の対象になるわけですから、何の罪で起訴するかということによっても、裁判員にかかるか、従来の裁判官にかかるかということも変わるんですね。

 ですから、いろいろなケースがあると思いますが、例えば殺人未遂でもともと逮捕されて、起訴をどうするかと考えて、結局、殺人未遂では裁判員裁判になってしまうから傷害罪で起訴することにしようと。これは俗に罪名落ちと言うんですかね。法務省でそう呼んでいるかどうかは知りませんが。

 そういう罪名落ちなんという現象も起きているのではないか、それも裁判員制度が始まってからそういうことが顕著になっているのではないかという指摘もあるんですが、それについてはどのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 今委員御指摘のいわゆる罪名落ちということにつきましては、いろいろな論文等でそれが指摘されたことがございまして、それについて、果たしてそういうものがあるのかどうか、当然、そういうことについては注目して見ておるわけでございますが、少なくとも、そういった裁判員裁判対象罪名で受理した事件を、あえて裁判員裁判対象でない軽い罪名で起訴する例というものがふえているという認識はございません。

 これは、今、罪名落ちというときによく言われるのは、例えば殺人罪で受理したものが殺人罪で起訴された比率が低下してきている、恐らく、それが低下しているのは、裁判員裁判対象罪名でない処理がなされているからじゃないかということがそういった論文の中では指摘されておるわけですが、少なくとも、統計によりますと、例えば一年間で検察が未遂を含む殺人罪で受理した件数と殺人罪で処理した件数、これを比べますと、その比率は、裁判員制度導入以前から現在まで大きな変動は見られておりません。要するに、殺人罪で受理して、その処理が同じ罪名で処理されている。

 それで、この場合の処理ということでございますが、処理の中には、当然、不起訴がございます。殺人罪という罪名で不起訴になった事案も含めて処理になりますけれども、もちろん起訴もございますが、起訴と不起訴を合わせて処理件数になります。この罪名ということでいきますと、殺人罪という罪名で受理した件数と殺人罪という罪名で処理した件数というのは、比較しますと、これまで、裁判員制度導入以前から現在まで大きな変動は見られていないところでございます。

 そうしますと、先ほどの御質問にもかかわりますが、果たして不起訴というものがどのように推移しているのかということにもかかわってまいりまして、少なくとも、現時点において、あえて検察において、裁判員裁判を意識して、軽い罪名で、罪名落ちの形で起訴する例というものがふえているという認識は持ってはおりません。

重徳委員 今局長は認識を述べられましたが、今回の裁判員制度の検証において、いろいろな数字、傾向があると思うんですが、私が見るに、一番劇的なのが起訴率の低下だと思うんですよ。先ほど、求刑を上回る判決がちょっとふえたとか、求刑どおりの判決がちょっとふえたという指摘はさせていただきましたが、しかし、一番劇的なのは起訴率の低下だと思いますよ。

 罪名落ちについては、今、そんなことはないんだとおっしゃいましたが、これも数字が出ていないのでわかりません。

 そこで、大臣、今回の検証に当たって、私、非常に重要なところだと思うんですが、今議論になったものについて、今すぐ出なくても、数字できちんと示した上でこの委員会で議論するべきだと思うんですが、これを出していただけませんか。こんな議論をしていても、わからないです。

奥野委員長 大臣答弁の前に、僕もそれは非常に興味があるので、平成になってからの数字を、今議論になっている数字をばっと出して、理事会に出してくれないですか。それの方が議論しやすいよ。これはちょっと短いからね、平成十九年からだから。

 そんなことを出せるか出せないかだけ、刑事局長。

林政府参考人 私、今お答えさせていただいた中に数字も若干引用したところがございますので、そういった、もう少し長いスパンの、起訴率でありますとか、あるいは先ほど申し上げた受理した事件数とそれから不起訴も含む処理の件数とか、そういったものについては、後刻、提供させていただきたいと思います。

重徳委員 委員長、ありがとうございます。

 裁判員制度があろうとなかろうと、起訴率が余りに低下して、殺人罪は三割しか起訴していないというのは、逆に言うと、では何で逮捕したんだという話にもなります。逮捕した段階でニュースにもなるわけですから。

 ですから、確かに、起訴したけれども結局無罪というのは、これはこれで重大な人権侵害だ、これはわかりますが、その前に逮捕があるわけですし、ニュース、報道によって、これは社会的制裁も十分受けてしまう。制裁というか、結局無罪で起訴されないような事件についても報道されてしまう。被疑者に対しては大変な人権侵害だって起こってしまうわけですから、起訴率の低下というのは非常に重要な問題だと思います。

 今のこの低い状態がおかしい、きょうは私はそういう立ち位置から質問をさせていただいておりますが、今の状態がおかしくないのであれば、今までは何だったんだという見方もある。

 いずれにしても、裁判における有罪率というのは、裁判官裁判の時代も九九%以上、そして今の裁判員裁判になってからも九九%以上ということで、有罪率はちゃんと確保しております。だけれども、それは、そもそものあり方を考えたときに、警察が逮捕しても、それは起訴されるとは限らない、起訴される率がどんどん下がっている。一方で、起訴をされたからには九九%有罪だという意味では、一体、誰が有罪、無罪を決めているんだというような感覚にも及んでしまうわけです。

 ですから、正確な証拠を集めて、より正確な起訴をするというのはいいんですけれども、検察官の仕事の仕方としてそれが全然間違っているとは申し上げませんが、しかし、この起訴率が急激に低下するというのは、余りに、場合によっては起訴すべき容疑者も起訴していないんじゃないかという疑いさえ出てくるわけです。

 大臣、今までの議論をお聞きになって、どう認識されていますか。これはもう全く問題ないと思われますか。

奥野委員長 ちょっと待って。

 葉梨副大臣は警察上がりなんだよね。さっきからぶつぶつ言っているから、何か言いたいことがあったら言ってもらった方がいいと思うよ、大臣の前に。

重徳委員 では、副大臣の話を伺った上で、大臣の御見解をお願いします。

葉梨副大臣 裁判員裁判が始まったときにはもう私は警察を退官しておりましたので、最近の状況というのはちょっとわからないところがあるんですが、逮捕された者が起訴されていないというような委員の御指摘でございましたが、この件数は、逮捕の件数ではございませんで、警察が検察に送致をした件数です。

 例えば、被疑者が死亡している場合、こういったものは逮捕になりませんし、先ほども不起訴事由としてございましたけれども、責任能力が問えない、そういうような場合、これを逮捕しない場合というのも相当数あるということです。

 一般的に、私が社会面で知る限りにおいて、警察が逮捕をして相当大きな問題となった事案が公判請求されなかったというような記憶は余りありません。

重徳委員 今のお話はわかりましたが、それは、ここのところ、起訴率が下がっている理由にはならないと思うんですよ。

 だから、より適切な議論になったという意味では感謝申し上げますが……(葉梨副大臣「裁判員裁判が理由かどうかわからない」と呼ぶ)もちろん。そこは、でも、検証しなければわかりません。今マイクに入っていないと思いますので、裁判員裁判が原因だったかどうかは、そこをまさに今検証しようとしているわけですから。

 逮捕と送致と起訴の関係はわかりましたが、いずれにしても、ここ数年間で劇的に起訴率が下がっているということとは今の御答弁は関係ないと思っております。

 大臣、私の本論に戻りまして、起訴率がここまで大幅に急激に、裁判員裁判が始まってからこれまで五年間に下がっているということにつきまして、問題ないでしょうか、問題意識をお持ちでしょうか。お答えください。

上川国務大臣 起訴率に着目をされて、裁判員裁判が導入された後、これが急激に下がっているという御指摘をいただいた上で、刑事局長から答弁をしたところでございますけれども、長期のトレンドの中でどのように位置づけるかということについて、数字をきちっとした上で評価をしていく、こうしたことになったかというふうに思います。

 そういう意味では、私、変化してきたことに対して、どのような背景があるのかということについてやはり真摯に考えていく必要があるというふうに思っておりますので、今のようなトレンドについてのデータに基づいてまた議論をしていただきたいというふうに思いますし、そもそも、検察におきましては、先ほど御指摘ありましたが、法と証拠に基づいて個別の事案ごとにしっかりと適切に起訴するあるいは不起訴とするという判断をする、そして起訴罪名についての選択をするということ、この基本にのっとってやっていくということが大変大事だというふうに思っております。

 その意味でも、御指摘いただいたということでございますので、きちっと調べて、データを出したいというふうに思っております。

重徳委員 ぜひしっかりした議論をしましょう。今までちゃんと検討されていなかったのであれば、おかしいと思いますよ。私、ことしに入ってから、法務委員になってからちょっと調べて、おかしいなと思ったぐらいの話ですから、皆さん方が問題意識を持たないのはおかしいと私は思います。ぜひ深い議論をしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 それから次に、もう一つ、残りの時間で、裁判員の辞退率について議論していきたいと思います。

 資料三をごらんください。階委員からも出席率などについて御指摘がありましたが、私は、枠で囲ってあります裁判員候補者の辞退率、辞退する方の率について取り上げますと、平成二十一年、制度が始まったころは五三%、半分ちょっとの方が辞退されていたということですが、これが年々大きくなっていまして、平成二十六年は六四・四%、三人に二人は辞退だというような状況になっております。

 これは、ちょっと調べましたところ、事業における重要用務、つまり、自分が欠けたら仕事にならないんだという理由で辞退されている方がふえているというようなことなんですけれども、この辞退率アップというものが問題だと思っておられるのかどうかがこれまで役所からの説明をお聞きした中ではよくわからないんですが、辞退率が五三%から六四%までふえていること、これは問題だと捉えておられますか。刑事局長、お願いします。

林政府参考人 辞退率の変化というものについては、当然、今後も裁判員制度が適正に運用されていく中で常に注目していかなくちゃいけないデータであると認識しております。

 他方で、実際にこの辞退率がどうして上昇しているのかというようなことにつきましては、基本的に辞退を認めるか認めないかについては個々の裁判体において、裁判所において判断が行われていることでございますので、その集積ということでございますので、その理由とか原因については私どもからはお答えすることはできないと思いますが、いずれにしても、重要なデータであるというふうには考えております。

重徳委員 これは重要だと思うんですよ。国民に参加していただくのが裁判員なんですから、辞退する人がふえてしまったら、本当により少ない人の間でしか裁判員としての審理ができないということになりますから、これは非常に本質的なところだと思うんですね。

 ですから、今回、そういうこともあるので、分母を減らす話にしかならないかもしれませんが、それにしても、こういう辞退率を少しでも減らすために審理期間の長いものは除外していこうという改正が行われるのかなと最初私は思ったんですが、そうではないんですね。

 これまで五年間、百日超えあるいは百三十日ぐらいの審理日数に及んだ、そういう裁判もありました。それは確かに国民、裁判員の方にとっては大変な負担だったかと思うんですが、そういうこともあって、仕事があるから、忙しいから、自分がいなくちゃ仕事にならないからということで辞退する人がふえている、そういう分析になっているにもかかわらず、では、それをどう捉えているのかというのは、重要な数字だとか注目すべきところだとおっしゃいながら、だけれども、粛々と今までどおりやっていきますと。

 特に今までは問題にならなかったけれども、これから、一年二年かかるような裁判が出てくるかもしれない、それに備えて今回の改正規定を置くなんというのは、全然、課題に対する対策、対応になっていないんですね。今回の制度改正は、何だか、何をやっているんだか、わからないんですよ。

 むしろ、私の感覚では、そんな、期間が長くかかる、一年も二年もかかるような重要な裁判こそ、何人辞退されてでも、とにかく裁判員にちゃんと入っていただいて裁くべき裁判なんじゃないか、こういうことだって言えると思うんですよ。だけれども、それは、何か全然かみ合った制度改正になっていないと私は思います。

 大臣、今回の改正、長期のものについては除外するという改正、一体何のための改正なんでしょうか。今までの御答弁は、それはそれで耳にしておりますが、今申し上げたような観点で、両面ありますね、辞退率を下げるためには余り長いものはどけておこう、辞退率を下げるためなのかどうか、それからもう一つは、いや、それよりも、重大な事件なんだからむしろ除外するべきじゃないんじゃないか。その両面、意見があると思うんですが、この点、どのようにお考えなんでしょうか。

上川国務大臣 裁判員裁判の趣旨に照らして考えてみますと、やはり裁判員裁判にできるだけ多くの国民の皆さんに参加をしていただく、そして司法に対しての信頼を高めていく、そうした趣旨にのっとってこれまで五年強取り組んできたわけでございまして、この中には、先ほど御指摘の百日を超えるような、非常に負担の大きい事案もあったというふうに思っております。

 そういう中にあっても、国民の皆さんが本当に真剣に審理に参加していただくということ、こうしたことの事例の積み重ねの上で裁判員制度そのものもさらに前進していくことができるのではないか、こう思うところでございます。

 ただ、余り過度な負担、超過度な負担になってしまう……(発言する者あり)失礼しました、意味するところは御理解いただきたいと思いますが、そうした負担を強いるようなことになりますと、裁判員裁判そのものに対しての非常に逆な反応が出てきてしまうということもあり得るということでございまして、やはり裁判員裁判が持続的に成長していくためにも、さまざまな御意見を踏まえながら、今回につきましても、円滑な、また適正な運用を図るという趣旨に照らして、長期につきましての判断をお願いしているところでございます。

 例外的に対象事案から除外できる規定ということにつきましては、これまでもさまざまな御議論をいただいたところでございますが、今回、著しく長期の審判の場合についても、本来の趣旨に照らしてしっかりと対応していくということが必要ではないか、これはあくまで例外中の例外ということでございますので、そうした観点から御判断をいただきたいというふうに思うところでございます。

重徳委員 超過度のものは除外する、これはわかりましたが、辞退率についてはどのように捉えておられますか。

 今局長からは、何か煮え切らない、重要な数字で注目すべきなんだけれどもそこまでだというような御答弁でしたけれども、これは問題だと思いませんか。全く問題ありませんか。どのように捉えていらっしゃいますか。

上川国務大臣 やはり辞退をするという意味においては、正当な理由があろうかというふうに思います。

 ただ、できるだけ多くの皆さんに参加をしていただくための環境整備でありますとか、あるいは理解を深めていただくための法教育も含めて、きめ細かな対応をしていき、環境整備をしていくというのは非常に大事なことだというふうに思っておりますので、どういう要因によって辞退率がどうなるかということもそうでありますが、全体としては、参加をしやすいような環境整備ということについてはさらに力を入れていかなければいけないというふうに思っております。

重徳委員 つまり、問題なんですか、どうなんですか。

 さっき、階委員への御答弁の中では、これを評価するには何か時期尚早であるというような御答弁を耳にしたんですけれども、これは五年間やって、ずっと辞退する人がふえている、出席する人が減っている、もうずっと同じ傾向なんですから、これは評価しようがなくはない、これはどう評価してもこういう傾向でしょう。

 これは今回改善すべき大きなテーマだと思いますよ。大臣、いかがですか。

上川国務大臣 辞退率についての着目でございまして、これが大きく低下しているということについての所見ということでございますが、個別事件において裁判所が判断をする、その結果として、こうしたことになっているということでございますので、私自身、そのことについて所見を申し述べるということについては差し控えさせていただきたいというふうに思うところでございます。

 この制度そのものが発展していくことができるようにしていくためには、先ほど来申し上げましたとおり、さまざまな環境整備について、そして参加しやすい取り組みということについては、やはり、いろいろな総合的な運用の中での改善ということもございますので、そうした面でも努力をし続けなければいけないと思います。

重徳委員 この委員会に入ってから、何か、答弁責任者が誰なのかよくわからない場面が多くて、所見を差し控えるとおっしゃいましたが、でも、今回の法案を提出されているのは上川大臣なんですから、ここで逃げちゃいけないと思います。

 時間も近づいてきておりますので、最後に確認なんですが、今回の改正の契機となりましたのは、前回、最初の法律におきます附則の検討規定ですね。三年たったら検討して、所要の措置を講ずると。だけれども、今回は、そういう規定はないんですか。

 だって、大臣は、さっき所見を差し控えるとおっしゃいましたけれども、階委員に対しては評価するのは時期尚早だというようなこともおっしゃいました。だったら、これから先、運用しながら、当然、検討、見直しをするべきじゃないですか。今回の法案に検討規定はなぜないんですか。もう見直さないんですか。義務的に、これは立法府の意思としても、検討をしなければ、こんなきょうみたいな議論では、もう全然、課題が幾らあっても、問題ないと答弁せざるを得ないですね、だって今回改正しないから。

 だから、やはり、ちゃんと課題を課題として捉えて、国会でも審議して、それに基づいた結論を出すというのが当然であって、今回も、当局からは問題はないような答弁があっても、それは改正した案になっていないんだから、そう答えるしかないでしょう。

 そこまでは百歩譲って理解するとして、立法府の意思としては、やはり、検討して見直すということは、必ずこれはまた三年とか期限を決めて見直すべきだと思うんですが、まず、政府当局として、なぜその検討規定を今回は置かないんでしょうか。

上川国務大臣 裁判員裁判そのものにつきましては、国民の皆さんの関心も大変高いものでありますし、また、司法の仕組みにつきましても大変重要な制度であるというふうに認識しているところでございます。

 今後につきましても、その施行状況を十分に注視しながら、必要に応じまして、制度上あるいは運用上の措置の要否も含めまして検討をしてまいりたいというふうに考えております。

重徳委員 その程度の御答弁しか最初から期待しておりませんでした。この委員会における答弁はもう期待外ればかりです。

 そして、今回、これはもうコメントで終わりにしますが、九五%を超える裁判員がこれを貴重な体験だったと肯定的な評価をしているなんていう超自己満足なことが、裁判所が出している検証報告書に書かれているわけですね。「国民の誠実さ、公的な機会への参加意識の高さ、新しいことがらに対する知的な関心と理解力の高さが確認できた」といって、これはまあ、すばらしい日本国民ですよ。そう思いますが、それに対応する裁判所も法務省もなっていないなと私は思います。

 きょうは、本当に言いたいことはまだ何時間でもありますが、時間が来ましたので、以上とさせていただきます。

 ありがとうございました。

奥野委員長 重徳君の質疑はこれで終わりますけれども、政務官、法務省、最高裁判所、よく調整して、必要なデータ、結果のデータをうまく整理して、確度の高いコメントが言えるならばそれも記述して、理事会へ出してください。

 あさっての朝、理事会だったと思いますから、そのときまでに出してください。ぜひよろしくお願いします。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時十四分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

奥野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。きょうもよろしくお願いします。

 冒頭、大臣にお伺いしたいんですが、先ほどの重徳委員との最後のところで、重徳委員から、附則の九条、この裁判員制度について見直しの規定をきちっと残すべきじゃないか、そういうお話があったときに、大臣からは、その要否も含めて検討する、そういう答弁があったかと思います。私も以前に、見直し規定を残すことは必要じゃないかという御趣旨の質問はさせていただいておりまして、そのときも、要否を含めて検討いたしますと。

 私は対象事件のあり方についてやはり議論が必要だろうということはずっと申し上げてきましたし、その対象事件が絶対的に固定的なものではなくて見直しの対象であるということは、前回、林刑事局長からも答弁いただきましたし、きょうの、辞退率が上がってきていますとか、重徳委員が御指摘の起訴率の問題とか、検証するべきところは多いと思っておりまして、ただ、それが、では見直し規定をきちっと残しましょうという提案に対しては、その要否も含めて検討するという話になってしまう。

 要否というのは、必要か否かも含めて検討しますということだと思うんですけれども、重徳委員の質問もそうでしたし、私が対象事件について議論が必要だというのも、我々からすれば、見直し規定というのはもう必置と言ってもいいぐらい、いろいろな材料があるよということを申し上げてきておるんです。

 この見直し規定の必要性、存続というものは、大臣の答弁よりはるかに重大性があると我々は考えておりますが、その点について御答弁をまずいただきたいと思います。

上川国務大臣 今回の法律案について、裁判員法の附則第九条を踏まえて設けられました裁判員制度に関する検討会におきまして、全十八回にわたって、裁判員法の施行状況あるいはそれを踏まえた措置の要否等につきまして検討が行われた、その結果として、法改正を要するとされた事項について、法制審議会での審議を経て、そして所要の法整備を行うということでございまして、今回お願いしている改正内容につきましては、必要かつ十分なものであると思っております。まさにそうした手続をしっかりと踏まえた上で、最終的に今の段階になっているということでございます。

 したがいまして、現時点におきまして、いろいろ御指摘はあるということでございますけれども、いわゆる検討条項そのものを設ける必要はないというふうに考えております。

 ただ、裁判員制度そのものについては、大変司法の基盤となる制度でございますし、また、国民の皆さんがまさに参加をするということでありまして、その御関心あるいは御協力、そうしたことについて大事な制度であるということでございます。そういう意味で、施行状況等を注視しながら、必要に応じ、制度上あるいは運用上の措置の要否を検討してまいりたいというふうに申し上げたところでございます。

井出委員 きょうの重徳委員初め、いろいろな論点を問題提起させていただいております。

 裁判員裁判は、特に対象事件に限って言えば、まず国民に参加をしてもらうために事件を限定する必要があると。私は、最初、この期間というのは、制度の導入期であったから事件の限定はあったと思っておりますし、導入期だからこそ見直しの必要があるという附則九条がついたと思っております。

 その附則九条に基づく、四年近い検討会の取りまとめ、それを私も読みましたが、特に、対象事件、例えば死刑事件を裁判員裁判の対象とするかどうかなどは引き続きの議論が必要だというような書きぶりも取りまとめ報告書にありましたし、私は、結論が出ていないものの方がむしろ多いまま、今回改正案が取りまとまったと思っているんですね。

 そういう意味では、この附則の九条、これからもきちっと、とある時期、別に私は三年にはこだわらないんですけれども、その見直しを必ずやるということは、これはもう法律上しっかりと残す必要があると私は思っておりますが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 こうした制度そのものがさらに定着をしていくために、さまざまな、たゆまぬ改革と私は前から申し上げているんですが、見直しをしながらたゆまぬ改革をしていく。

 これはどの制度でもそうですが、PDCAサイクルをしっかりと回していくということでございまして、そういう意味では、今回のさまざまな御指摘も含めて、データ的なところも必要ですし、検討を引き続きしていくということは大変大事だというふうに考えております。

井出委員 本当にその検討、見直しというものが必要であるということを、これからの審議の中でもいろいろな点を申し上げていきたいと思います。私は、附則を残すかどうかというところは非常に大事なところだというところだけは冒頭申し上げておきたいと思います。

 きょうは、前回の続きで、最高裁判所が裁判員経験者や候補者にとったアンケートについて伺うのですが、アンケートは、九五%を超える人がよい経験だった、国民の理解、信頼、そうしたものの増進という裁判員裁判の趣旨にかなった結果だというところまでは最高裁から御答弁をいただきました。

 私は、前回は、裁判員裁判が始まってから、一部の刑事裁判、裁判員裁判というものが、もちろん裁判員にわかりやすくやっていくというのも大事なことなんですが、裁判員にとってよい環境と申しますか、裁判員の充実度が高い、そこに法曹三者、法曹関係者の目が行ってしまって、本来の裁判の目的である双方の主張を聞くとか事実認定をしていくとか、そうしたところに影響が出ているようなことはないか、そういう問題提起をさせていただいたところで終わったんです。

 大臣にこのことを改めて伺いたいんですが、私は、前にも申し上げたように、アンケートがすばらしい回答が並んでいる、裁判員が満足しているからといって、必ずしも裁判そのものがうまく機能しているかどうかというところは言えないと思っているんですが、大臣の所見を伺いたいと思います。

上川国務大臣 裁判所が実施しているこのアンケート調査の結果ということで、こうした同じ質問をしながら毎年きちっと定点的に観測をしていくということについては、非常に大事なことであるというふうに思っているところでございます。

 こうしたアンケート調査の結果についてどのように評価をするかということについては、いろいろな評価の仕方があろうかと思いますが、先ほど御指摘いただいたように、裁判員を経験した後、九五・九%の方が裁判に参加したことについてよい経験をしたと。その同じ方が、裁判員に選ばれる前の気持ちとしては、やってみたいという気持ちが三四・五%、そのレベルにとどまっているということから考えると、本当に真剣に審理に参加をしていただきながら裁判員としての責務を果たしていただいてきたという結果ではないかというふうに思っておりまして、その意味で、大変定着をしてきているし、また非常にレベルの高い対応があったのではないかというふうに前向きに評価をしていきたいというふうに思ったところでございます。

 一つの物差しでありますので、いろいろなヒアリング等、あるいは専門家の委員の皆様もいろいろな角度からその評価の指標ということで取り組んでいるということでありますので、考え得ること全てがアンケート調査で語られているというふうには思っておりませんけれども、一つの物差しとして大変大事に評価をしていきたいなというふうに思っております。

井出委員 アンケートがいいからといって制度はいいとは限らないという話をしたときに、前回、最高裁からは、公判前整理手続をしっかりやっているし、論点もある程度明確にしている、そういうような話もあったんですけれども、裁判員裁判の課題として一つ挙げられているのが、裁判員の心の負担に配慮をして、証拠の写真、残虐な写真をイラスト化する、CGのようなものを使う、そういうことが言われております。

 きょうは一つの資料を持ってきたんですが、これは、ある一つの事件で、傷害致死、死体遺棄事件の被害者の負傷した様子を裁判所で証拠として示されたものを御遺族の方が再現する形で公表されているものなんです。

 この被害者は四時間にわたって暴行を受けた、いろいろなところを殴られ過ぎて致命傷がわからぬと。この被害者の御遺族は、葬儀会社に勤めていて、自分は一万体近い遺体を見たことがあるんだけれども、亡くなった被害者のこんなにひどい遺体は見たことがない、しかし、その遺体の写真というものは、公判廷で裁判所がそれを見せるのはやめましょう、そういう判断ではなくて、公判前の段階ではじかれてしまった、遺族としては非常に残念な裁判だったというようなことを言われておりました。

 私は、裁判員にわかりやすく、心理的負担がなく、裁判員に配慮した訴訟というものは必要だと思っているんですけれども、特に問題と言われている、証拠写真を別のものに置きかえる、こういったことについてはしっかりと議論をした方がいいのではないかと思っておりますが、大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 証拠をどういう形で裁判員の皆さんも含めて見せるかということについての被害者の皆さんからの御指摘ということで、ただいまのようなイラストについてお出しになったということであったというふうに思っております。

 検察におきましては、裁判員の負担が過重なものとならないようにということもあって、例えば、凄惨な写真等を取り調べる必要がある場合については、必要に応じて、あらかじめ凄惨な写真が含まれているということを裁判員に告げた上で提示をするでありますとか、あるいは、かわりに白黒の写真やイラストを用いるなどというような形で、さまざまな工夫をしながらこれまでも取り組んできたというふうに承知をしているところでございます。

 もっとも、事案によりましては、適正な事実認定及び量刑に資するため、犯行の実態、残虐性でありますとか、あるいは被害の重大性、こうしたことを立証するために必要があるということで、被害者の方の遺体のカラー写真等を証拠として請求をして、そして裁判員にも提示すべき場合もあるというふうに考えているところでございます。

 今後とも、事案に応じまして、必要かつ十分な証拠の取り調べ請求ということが行われるべきものというふうに承知をしているところでございます。

 いずれにいたしましても一定の配慮は必要ではないか、こうした御議論もあったというふうに思っております。

井出委員 このイラストは、実はこの間の日曜日に大臣も参加をされた犯罪被害者のフォーラムで出てきたものなんですね。大臣は、冒頭の御挨拶後、公務でお帰りになったんですけれども、大臣はもともと犯罪被害者に対する思いというものは強いものがあって、取り組まれてきておりますことは私も承知していますし、その挨拶のときでもそういう旨の挨拶をされたと思うんですね。

 裁判ですから、私も被害者の側だけの肩を持つということは申しませんが、遺体の写真をぼかすとか、証拠を出したいのに裁判員に配慮して公判前の段階ではじかれちゃうとか、そういうことに対してもう少し大臣自身の思いを聞きたいんですけれども、いかがでしょうか。

上川国務大臣 委員の方から、このイラストについての御遺族の方からの御表明ということについて御紹介いただいた、そのシンポジウムの方にも私も挨拶に行かせていただきまして、そうした心証も含めて持たせていただいたところでございます。

 個別の具体的な事件ということになりましたときに、証拠調べについてということでのお問いかけというふうに思っているわけでありますけれども、その意味におきましては、必要な証拠調べがしっかりと行われるべきであるというふうに思っておりまして、具体的にこれがというようなことについては答弁を差し控えさせていただきたいと存じます。

井出委員 大臣自身が今まで関心を持たれてきた、被害者から、証拠写真の提出のあり方というものに対して、これ一件だけではないんですよ、この問題はいろいろなところで新聞報道でもしておりますし、こういうこともきちっと議論をしなければいけない、問題意識を持っていただきたい、そういうことを申し上げて、また次回続けたいと思います。

 ありがとうございます。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 私は、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案について質問いたします。

 裁判員制度は、二〇〇九年五月に始まり、間もなく六年となります。本法案は、裁判員法附則第九条に基づく、制度施行から三年後の政府による見直しについての規定によるものであります。

 この法律の制定時そして制定後、あわせまして、日本弁護士連合会、自由法曹団などの法律家団体を初め、諸団体やメディアなどでも、改善すべき問題点が多数提起されてきたと思います。自白偏重とも言える日本の刑事裁判のあり方は、時に数多くの冤罪を生み出す役割を果たし、最近でも、袴田巌さんの事件に代表されるように、社会的にも問題となってきました。

 日本共産党は、裁判員裁判が推定無罪の原則を貫くとともに、国民の社会常識、市民感覚をよりよく反映させ、事実認定を適正化する制度となるよう提案もしてきたところでございます。

 最初に、上川陽子法務大臣に伺います。

 改めまして、裁判員制度を導入した目的についてお答えいただけるでしょうか。

上川国務大臣 裁判員制度導入の趣旨という御質問でございますけれども、一般の国民の皆さんが裁判の過程に参加をするということでございます。裁判内容に対して、国民の皆さんの健全な社会常識、こうしたものがしっかりと反映されることによりまして、国民の皆さんの司法に対しての理解、支持が深まる、さらに、司法がより強固な国民的基盤としての役割を果たすことができるということ、こうしたことを観点に導入されたというふうに考えております。

清水委員 今大臣がおっしゃったその目的が現時点においてどの程度達成されているのか、これを検証したいと思うんです。

 今、国民の司法に対する理解や支持の深まりだとか、あるいは国民的基盤を強固にしていく、このことをあらわす実績などがあればお答えいただきたいのですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 平成二十一年の五月から施行されたということでございますけれども、裁判員の候補者には七六・二%という高い割合で裁判所の方に御出頭いただいているということでございます。そして、裁判員に選ばれた方々につきましても、大変熱心に審理に取り組んでいただいているというふうに認識をしているところでございます。

 裁判員の経験者につきましては、裁判所のアンケート調査に御回答いただいているところでございますけれども、九五・九%の方々が裁判員として裁判に参加することができて大変よい経験と感じたという旨の回答をしているということでございまして、そのよい経験と感じたという中には、やはり、裁判に参加をして充実感を持って審理に取り組んでいただいたというふうに考えているところでございます。

 そういう意味で、こうした状況を見ますと、裁判員制度につきましては、おおむね順調に実施されてきているのではないかということで、一定の定着を見ているというふうにも認識しているところでございます。

清水委員 よい経験をしたと九五%以上の方が答えている。このことだけにとらわれていると真実を見誤るのではないかというふうに実は私は考えているんですね。

 実は、裁判員制度に関する検討会の委員でもありました主婦連会長の山根香織委員が、第十八回の検討会でこのように発言されているんですね。

 私自身の反省として、今までアンケート結果に「貴重なよい経験だった」、「様々な配慮が行き届いていた」という声がとても多かったということで、ちょっと安心してしまったところがあると思っています。やはり裁判を終えた直後の感想ということでは、満足感、達成感、安ど感がいっぱいなのは当然であって、やはり少し時間が経ってから体の不調が現れたり、いろいろ課題に気付いたり、もっとこうすれば良い制度になるといったような意見を持ったりということもあると思いますので、そこに焦点を当てた意見の収集なども丁寧にすべきではなかったかというふうな思いがあります。

こう発言しておられることは、私は非常に重要だと思うんですよね。

 裁判員の直後の印象のみをもって、この制度が国民的基盤を得たとか支持や信頼を深めたと理解するのは、時期尚早ではないかというふうに私は思います。

 裁判員制度とは、有権者からくじで選ばれた市民が、重大な刑事事件の裁判に参加して、被告が有罪か無罪か、有罪の場合は刑の重さをどれぐらいにするかを決める制度です。上川陽子大臣や私は、行政府、立法府の側に身を置く者でございますので、三権分立の観点から裁判員になることはできませんけれども、ある日突然、いつ何どき自分に裁判員の要請が来るのか、多くの国民は非常に不安を持っていると思いますし、そういう上でも、国民的理解をしっかり深めておくということは非常に重要だと思うんです。

 では、今、国民が裁判員になることに鑑みてどのような不安や疑問を持っているかということをやはり政府としてもしっかりと直視して、それに対応した、これは運用上の改善だけにとどまらない部分は多岐にあると思いますよ。やはり法改正も含めて対応していかなければならないわけで、そういう点において、今回の附則第九条による見直しについては、極めて重大な課題、ここをまずしっかりと御認識いただきたいというふうに思うんです。

 そこで、裁判員の選任過程における深刻な実態について伺います。

 資料の一をごらんいただきたいと思います。

 これは、ことし四月九日付東京新聞朝刊の記事です。見出しに、「選任要請四分の三応じず」と大きく書かれております。ここでは、急増する裁判員辞退者、また、裁判員に対する重くなる市民負担、このまま制度のきしみを放置したままでよいのかと、非常に手厳しく報道されているわけです。

 そこで、具体的な数字を改めて確認させてください。

 最高裁判所が、裁判員制度の運用に関する意識調査というものを、この制度が始まった二〇〇九年から毎年とっておられます。この中で、裁判員として刑事裁判に参加したいですかという設問があるんですね。それに対して、「あまり参加したくない」「義務であっても参加したくない」と答えた割合を合わせた数字について、二〇〇九年度と二〇一四年度の比較で教えてください。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 「あまり参加したくない」及び「義務であっても参加したくない」と回答した者の割合の合計は、平成二十一年度が八〇・二%、平成二十六年度が八七%となっております。

清水委員 これはすごく大きな数字だと思うんですね。

 余り参加したくない、義務であっても嫌だと答えた方が、もともと多い数字がこの五年間で七%ふえているということは、私は重大だと思うんですね。

 裁判員として刑事裁判に参加したくないと考える国民は、もともと制度が始まる以前から多数あったわけですが、そう考えている方々が年々ふえている。これで、この六年を通じて、裁判員裁判への国民の理解という点で、やはり検証が求められていると思うんですね。

 裁判員法では、国民が裁判員候補者になることについて辞退が認められております。二〇一四年、昨年一年間で、裁判員候補者に選定された人の数と辞退が認められた数、そしてその割合について教えてください。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 昨年一年間における選定された裁判員候補者数は十二万三千四十九人、辞退が認められた裁判員候補者の総数は七万九千二百八十八人であり、選定された裁判員候補者のうち辞退が認められた裁判員候補者の割合は六四・四%となっております。

清水委員 辞退率が六四・四%と。

 これは、辞退率が低ければいいという問題じゃないと思うんですよ。無理やり首に縄をつけて引っ張り出すなんという強制するようなやり方は当然認められないわけですが、裁判員制度が始まって以降、辞退率が高まり、先ほど意識調査の中で、義務であってもやりたくないという方がふえている。このような現状を、上川陽子法務大臣、どのように認識されますか。

上川国務大臣 ただいま委員から御指摘がありました辞退率でありますとか、あるいは、先ほどのアンケート調査がございましたけれども、「あまり参加したくない」及び「義務であっても参加したくない」、こうした数値を見てみますと、時間が経過することによって少しその傾向があるかなというふうにも思うところでございます。

 この裁判員制度そのものが六年ということでありますけれども、大変新しい制度として、国民の皆さんにそれこそ一から御理解をいただきながら参加をしていただくという過程の中で考えてみますと、六年間、さまざまな御努力があって、そして国民の皆さんも、非常に大切にしていただきながら、この制度に対して向き合っていただいてきたのではないか、私はそのように評価をしているところでございます。

 この先についても、少しトレンドを長くしながら絶えず検証していくということは大切であるというふうに思っておりまして、そういう意味でも、同じ質問で定点的にとっていくという中で考え得ること、いろいろな形で示唆に富む結果になっているのではないかというふうに思っております。

清水委員 私は、もっと分析をして傾向と対策ということを考えなければ、制度そのものの根幹にかかわってくる事態に陥ると思うんですね。

 別の視点から聞きます。

 事前辞退をせずに、事前に辞退するということを伝えずに選任手続期日当日に出席しなかった裁判員候補者の割合、言うなればドタキャン率とでもいうんでしょうか、昨年の数字で幾らでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 出席を求められたにもかかわらず選任手続期日に出席しなかった裁判員候補者の割合、昨年の数字は二八・五%となっております。

清水委員 三割近い方が当日欠席をする、ドタキャンをする。この数字についても、この制度が始まって以降、右肩上がりで上がっているわけなんですよね。たまたまこういう傾向になっているのではありません。義務であっても参加したくないという人の数がふえ、そして辞退率が高まり、期日当日、無断で出席しない、この割合も伸びている。

 なぜこういうふうになっているのかということを聞くと、なかなか、今の時点でどう分析されているのかというのがありますので、私、一つ提案したいと思うんですね。

 資料の二をごらんいただけるでしょうか。

 これは、最高裁判所の意識調査、昨年の数字であります。「刑事裁判に参加するとした場合、あなたにとって心配や支障となるものはどれですか。」ということで、複数回答を求めているわけです。

 一番多い順に言いますと、「自分たちの判決で被告人の運命が決まるため、その責任を重く感じる」、その次に、「素人に裁判という難しい仕事を正しく行うことはできないのではないかという不安がある」、その次に、「専門家である裁判官と対等な立場で自分の意見を発表できるか自信がない」、四つ目、「遺体写真等の写真を見ることに不安がある」、これについては女性の回答率が高いわけですが。

 本当に、今の時点で、国民の理解、裁判員裁判に対する司法への信頼というのを手放しで喜べるような状態にあるのかということを、私は率直に大臣にお伺いしたいと思うんです。ここの認識はすごく大切だと思います。おおむねうまくいっているということと問題がないということはまた違うと思いますので、その辺はぜひお答えください。

上川国務大臣 委員御指摘の最高裁の意識調査でございますけれども、刑事裁判に参加するとした場合の心配や支障となるものとして、自分たちの判決で被告人の運命が定まる、その責任を重く感じる、こうした御回答が千九百八十四人のうちの七五・七%というようなことに代表されるとおり、多くの皆さんがいろいろな形で心配をしていらっしゃるということ、これは大変重く受けとめなければいけないというふうに思っております。

 より多くの皆さんに安心して裁判員として裁判に御参加いただく、裁判員裁判に対しての認知度ということにつきましては大変高いということでありますので、その内容についてやはりしっかりと御理解をいただき、また、刑事裁判に参加することに伴う心配等も解消していただく、このことについては、本当に十分に尽くしていかなければいけないというふうに考えているところでございます。

 一つの手法でございますけれども、法務・検察においての取り組みということでありますが、学校や地域の集まりに積極的に伺わせていただきまして、裁判員制度の説明会を開かせていただく。また、実際にこうしたことに参加していただくことによりまして、どういう不安を持っていらっしゃるのか、それに対しても、きめ細かな解消策ということで説明をさせていただくということによって、また御理解が深まることができればというふうに考えております。

清水委員 重く受けとめるというふうに答えられましたので、これは、運用上の改善はもとより、必要な法改正については今後も検討していくことが必要だということを指摘しておきたいと思います。

 先ほどの新聞記事では、被害者夫婦の血だらけの遺体写真、これは俗に刺激証拠と呼ばれているらしいですね。これを証拠として見たことが一因だったとして、裁判員を務めた女性が急性ストレス障害を患ったとあります。

 かつてNHKが、連絡先のわかった裁判員や補充裁判員経験者三百三十人に行ったアンケートでは、六七%が、裁判に参加して心理的な負担やストレスを感じたと答えております。また、裁判で知り得た情報を漏えいすると懲役刑、罰金刑が科せられるという心理的な負担を生涯にわたって負うわけなんですね。

 最高裁にお伺いします。

 裁判員経験者のうち、心理的負担を感じている人がどれぐらいおられて、また、その心理的負担の解消のためにどのように取り組んでいるか、教えてください。

平木最高裁判所長官代理者 裁判員は、初めて刑事裁判に参加される方でございますので、ほとんど全ての方が大なり小なり精神的な負担を抱えておられることと思います。

 そこで、裁判所といたしましては、そういう裁判員の方々の精神的負担に配慮すべく、裁判官、書記官、職員一同が、裁判員の方の体調に変化がないかどうかなどを見守るということをしておるところでございます。

 そのほかに、最高裁判所では、メンタルヘルスサポート窓口というものを設置しておりまして、メンタルヘルス面で問題があった方には、そのサポート窓口を御利用いただくよう御案内しているところでございます。

清水委員 資料の三をごらんください。今おっしゃられたメンタルヘルスサポート窓口利用件数でございます。

 この間、五万六千人の方が裁判員等を務めておられるんですね。そのうち、これを利用された総数が二百九十四しかないんですね。それで、今おっしゃられましたけれども、カウンセリングを受けた人の数は、「面接」というところですが、わずか二十六人なんですよ、カウンセリングをやっていますとおっしゃるんだけれども。しかも、五回まででしょう、カウンセリングは。

 カウンセリングが五回終わった後、例えば医療機関を指定されたり、あるいはほかのカウンセリングを受けたり、そのまま同じところでカウンセリングを受ける場合、費用についてはどうなるんでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 まず、カウンセリングが五回に限られているということでございますけれども、この分野の専門的な業者から意見を伺いましたところ、カウンセリングを五回やりまして、その効果がはかばかしくないという場合には、同じ手法を続けるよりは、医療機関を紹介するなど、別の方策をとった方がよいのではないかという指摘が多かったものでございますから、五回というふうに設定しておるところでございます。

 医療機関等の費用につきましては、御自身でお支払いいただくということになるわけでございますけれども、一般論ではございますけれども、必要な調査、認定手続を経た上で、裁判員経験者が裁判員の職務を遂行するに当たりまして、職務に関連して精神疾患を発症したと認められる場合、職務を行ったことが精神疾患の主要な原因と認められる場合には、公務災害補償制度の対象となるということになっております。

清水委員 カウンセリング五回の話なんですけれども、業者の話より、心的ストレスを受けた裁判員の意見を聞くべきじゃないですか。業者が五回だからといって、裁判員が引き続きカウンセリングを受けたいと申し出た場合に、医療機関を勧めて、費用は実費だと。公務災害の手続もあるから必要に応じてやりなさいと。こんな上から目線だからこそ、私は、裁判員は義務であってもやりたくないという人が年々ふえているのではないかというふうに思うんですね。

 先ほどの資料に戻ります。下の方に、裁判員メンタルヘルスサポート窓口のホームページの一部を添付いたしました。これは実は最高裁判所のホームページなんですが、「ご覧いただくためにはログインIDの入力が必要です。」こうなっているんですよね。つまり、裁判員か、もしくは補充裁判員かな、そういう人限定でこの窓口の内容については推しはかることができるというふうになっているんですよね。

 こんなことで本当にいいのかなと。一体どれだけの裁判員がアクセスできるのか、また、スマホやパソコンを持たない高齢者や、そういう裁判員が果たしてこのホームページにアクセスできるのかということまでよく考えているのかというふうに私は言わなければなりません。

 先ほどのストレスによるメンタルヘルスの話もありましたけれども、結局、国民の裁判員選任に対する恐怖感、不安感、これは、事前の情報がたくさん寄せられるだけで随分軽減されると思うんですよ。安心して裁判員になってくださいという姿勢が、こうしたIDを入力してくださいというようなホームページだけでは到底感じられない。ここは率直に指摘をして、次の質問に行きたいと思います。

 今回の改正案は、長期間の審理を要する事件等の対象事件からの除外など、わずか四点の見直しになっております。極めて不十分だと言わなければなりません。

 裁判員制度に関する検討会の報告を踏まえ法制審議会に諮問を行った、その結果、今回出された法案ということなんですが、この検討会の取りまとめ報告書というのを読みますと、少し当初の趣旨から逸脱しているような気がするんですよね。

 といいますのは、裁判員制度に関する検討会で検討された論点のうち、今回法改正の対象に出てきておらないのが幾つかあるんですが、当検討会において議論を行うのは適切ではない、あるいは、当検討会において議論の対象とすべきではないとした論点が、読んでいたら幾つも出てくるんです。

 この論点とはどういうものでしょうか。教えていただけますか。

林政府参考人 この裁判員制度に関する検討会で、この場で議論するか、それともほかで議論するのかというような、そういったやりとりがなされたことがございます。それにつきましては、例えば、裁判員制度そのものというよりは、刑事訴訟全般にわたる事項というものをどこで取り扱うかということで議論がなされました。

 例を挙げますと、一つには、検察官手持ち証拠のリストを弁護人に開示する、こういった、証拠開示の範囲を拡大すべきではないかといった議論、あるいは、裁判員裁判において、事実認定の審理と量刑の審理を区別して、手続を分離して運用を行うべきではないか、こういった論点などがございました。

 これにつきましては、裁判員制度そのものというよりも刑事訴訟法全般にわたることでありますので、この検討会で取り上げるかどうかということについては、それ自体が議論となりまして、それについては否定的な意見が多かったということでございます。

清水委員 今、否定的な意見が多かったので、いわゆる公判前整理手続における証拠開示、あるいは犯罪事実の認定を行い、別途量刑の重さについて判定する手続二分論、こうしたものは適当でない、あるいはすべきではない、そういう意見が多かったということなんですけれども、この取りまとめ報告書のあり方そのものに私は実は疑義を持っております。

 これを読みますと、何々との意見が多数を占めたという言い回し、また、消極意見が大勢を占めた、あるいは何々という意見が多く述べられたなど、意見の多寡をあらわす、多さをあらわす表現が使われているんですが、これは、何をもって多数、何をもって大勢としているんでしょうか、教えてください。

林政府参考人 まず、この検討会でございますが、多数決で何かを決定するという会議ではございません。

 一方で、さまざまな意見が出た場合に、その意見について、全体として検討会においてどのような情勢であったかということを取りまとめる、そのような観点から、意見の多寡というものを示す表現がこの報告書の中にはございます。これらは、各論点について、議論の状況でありますとか経過、御意見の分布などを踏まえまして、その意見の状況について適切な表現を報告書の中で選択したものでございます。

 なお、こういった一定の多寡に関する、評価にわたるような表現をどのようにするかにつきましては、この報告書が取りまとめられるに当たりまして、これは全体で十八回会合をやったわけでございますが、十七回会合においてそういった表現も含めて取りまとめ報告書の案が議論されまして、その際に委員から出された指摘でありますとか意見を踏まえて修正されたものが、第十八回、最終回の会合において再度委員の間で確認をされまして、結局は、委員全員の異議のない形で採択されたものと承知をしております。

清水委員 聞いたことに答えてください。

 私は賛否を聞いているんじゃないんです。何をもって多数だとか大勢だとかしたのか、その根拠を伺っているんです。聞いたことだけに答えてください。お願いします。事実確認をしているんです。

林政府参考人 これは、各論点について、その時点での議論の状況、十八回やっておりますので、当然、各論点に分けて、各回でさまざま議論されてきます。それの議論の状況や経過、そしてまたそのときに出された意見の分布、こういったものを踏まえて表現を選択したと承知しております。

清水委員 聞き方を変えます。

 この取りまとめ報告書の二十九ページを読みますと、証拠開示、公判前整理手続について、裁判員裁判にかかわる問題なので、この検討会でもやはりしっかり議論すべきだと。例えば証拠開示をした後に新たな証拠が出てきて、弁護人の方が期日の設定についてやり直しをするというようなこともあったので、迅速で適正なという点においては、裁判員裁判においては証拠を全面開示すべきだという議論をしているわけですよ。ところが、それはふさわしくないと。二十九ページの下から八行目かな、「当検討会で議論の対象に取り上げること自体に否定的な意見が数多く示された。」ということを結論として、今回の法改正にはこうした問題は出されず、しかも、この問題自体が特別部会へ丸投げされているわけじゃないですか。

 では、私聞きますけれども、この問題で否定的な意見を述べた委員は、十一人中、座長を除いて何人いますか。

林政府参考人 例えば証拠開示につきまして、これを裁判員制度の検討会で議論するのか、あるいは、当時、同時並行して行われておりました新時代の刑事司法制度特別部会、そこで議論をするのかということにつきまして、この裁判員制度に関する検討会での議論の対象に取り上げることに否定的な意見というものを示した委員は、座長を除きますと五名であったと承知しております。

清水委員 十一人のうち、座長を除いて五名が、どうしてこれが数多いというふうな結論になるんですか。おかしいんじゃないですか、この報告書のまとめ方自体が。

 そして、必要な検討事項を、裁判員制度が始まって、私、前段の部分でたくさん言いました、辞退率の問題、国民の意識調査の問題、そして精神的負担のケアの問題。これはほんの一部ですよ。もっと言えば、対象事件の拡大だとか、あるいは死刑制度についての評決をどうするのだとか、細かい論点はたくさんありますよ。しかし、それを検討している検討会が、重要な意見を少数だったと、大した根拠もなく決めつけて、結局、取りまとめ報告書の中では、重大な論点が全部そぎ落とされて、矮小化されて、この四点が出てきている。

 これで本当に附則第九条に基づいた見直しを終えていいのかということが、この委員会に課せられた重大な課題だと私は思うんですよ。これは、党派かかわりなく、私たちもこの裁判員裁判については賛成した立場ですよ。国民が、本当に参加しやすく、信頼を寄せて、冤罪をなくし、誤判を防ぎ、よりよいものにしていく真剣な議論をしようとしているのに、その出された法案のもととなる検討会がこのようなあり方で、本当に議論ができるのかというふうに私は厳しく指摘をしておきたいと思います。

 それで、一番大事なことは、例えば裁判員法の問題につきましては、私は先ほど、冤罪事件の問題があると言いました。本来は、国民が注目し、関心を寄せ、そういう裁判に参加するからこそ、司法への関心、見識を高めるということで、死刑だとかあるいは無期懲役だとか、こうした事件を裁判員裁判にするということでした。だったら、私は、例えば袴田巌さんの事件も含めて、仮に再審が認められたときに、その再審の場において、裁判員裁判にするべきだと思っているんですよ。

 ところが、私、この裁判員法の法律をつらつらと読みますと、この裁判員裁判の法律ができる以前に判決が出された訴訟については、裁判員裁判が適用できないというふうになっているんですよ。国民が重大な関心を持っている事件、死刑判決を受けて四十五年も拘禁されて、それが本当に無罪かどうかという分野で大事な審理をやろうというときに、裁判員裁判にならない。そのためには何が必要か。法律改正しかないんですよ。

 そういう問題も含めて、今回の改正案の俎上にも上らず、これだけで全てよしとしていくようなことは、極めて私は不誠実な対応ではないかと思っております。

 いろいろ聞きたかったんですけれども、時間が来ましたのでこれで質疑を終わりますが、とても短時間で審議できるような中身ではありませんし、引き続き議論を進めていくという決意を申し述べまして、質疑を終わります。

奥野委員長 次回は、来る二十四日金曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後一時五十一分散会


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