衆議院

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第18号 平成27年5月27日(水曜日)

会議録本文へ
平成二十七年五月二十七日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 盛山 正仁君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    門  博文君

      菅家 一郎君    小林 鷹之君

      今野 智博君    辻  清人君

      冨樫 博之君    中村 裕之君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    村井 英樹君

      簗  和生君    山下 貴司君

      若狭  勝君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    大口 善徳君

      國重  徹君    清水 忠史君

      畑野 君枝君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十七日

 辞任         補欠選任

  宮川 典子君     中村 裕之君

  宮崎 謙介君     村井 英樹君

  山口  壯君     小林 鷹之君

同日

 辞任         補欠選任

  小林 鷹之君     山口  壯君

  中村 裕之君     宮川 典子君

  村井 英樹君     宮崎 謙介君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁刑事局長三浦正充君及び法務省刑事局長林眞琴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。若狭勝君。

若狭委員 おはようございます。自由民主党の若狭勝でございます。

 本日は、刑事訴訟法の一部を改正する法律案について、法務当局にいろいろとお尋ねをさせていただきたいと存じます。

 私が司法修習生のころ、今から三十五年前に、冤罪事件と今でも思っている、ある事件に関与しました。そのために、私は、冤罪を防止するという一つの大きな動機のもとで検事になったといういきさつがございまして、冤罪というものの悲惨さについては非常に痛切に感じているところでございます。

 法務省の在り方検討会議においても、私が参考人として出席させていただきまして、そのときも、取り調べの録音、録画ということが重要であるという旨の意見を述べさせていただきました。

 その意味では、この取り調べの録画、録音というのは、これから非常に大事な、いわゆる取り調べ及び供述調書に過度に依存しないという新しい制度として、やはり育てていかなければいけない制度だというふうに思っております。

 その観点で、まずは、取り調べの録音、録画について少しお聞きしたいと思います。

 この取り調べの録音、録画の制度というのがこういう形で法律案に書き込まれるというのは、私としても非常に感慨深いものがございまして、私は、現職の検事のときから、取り調べの録画、録音というのをやはり推進すべきだという意見を持っていました。

 そこで、現在の法律案では、裁判員裁判対象事件及び独自捜査事件というのが録画、録音の対象となっておりますが、運用として四つの類型、つまり、それに加えて、知的障害によりコミュニケーション能力に問題があるという被疑者の事件、それから四つ目としては、責任能力の減退、喪失などの問題があると思われるような被疑者の事件、これらの合わせて四類型については、既に検察庁の方において試行しているというふうに伺っております。

 さらに、昨年の十月ころからは、将来起訴が見込まれる事件で、参考人の供述というのが極めて重要な立証の柱となっている案件についても、試行的に録画、録音をしているというふうに聞いております。

 これについて、今後の取り調べの録音、録画の有用性というものについて、まずは、今後どのような動きになっていくのか。法律案においては確かに二つに限定されていますが、今現在の試行過程、それから、それを踏まえて、今後、裁判員裁判、独自捜査事件だけではなく、先ほど申し上げた四類型を初めとしてどういうような見通しがあるのかということについて、刑事局長にまずはお聞きしたいと思います。

林政府参考人 取り調べの録音、録画の有用性でありますとか、今後の録音、録画の施行の見通し等についてのお尋ねでございます。

 まず、有用性につきましては、取り調べの録音、録画全般につきましては、一方で、被疑者が十分な供述をしづらくなり、取り調べや捜査の機能に支障を生じる場合があるといった問題点もあるものの、被疑者の供述の任意性等の的確な立証、判断に資する、また、取り調べの適正な実施に資する、こういった有用性があると考えております。

 検察におきましては、御指摘のとおり、四類型の事件につきましては、取り調べの録音、録画を本格実施しております。

 また、平成二十六年十月からは、公判請求が見込まれる身柄事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らして被疑者の供述が立証上重要であるものなど、被疑者の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件、また、公判請求が見込まれる事件であって、被害者、参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの事情によりまして、被害者、参考人の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件、これにつきましては、罪名を問わずに、新たに録音、録画の試行を開始しているものと承知しております。検察におきましては、この新たな録音、録画の試行に積極的に取り組んでおりまして、録音、録画を実施する事件数は既に大幅に拡大していると承知しております。

 検察では、近時の実務におきましては、捜査段階の供述の任意性等をめぐって争いが生じた場合に取り調べの録音、録画記録による的確な立証が求められるという認識を有しておりまして、公判立証に責任を負う立場としまして、そのような立証ができるようにするため、今後も積極的に録音、録画に取り組んでいくこととしているものと承知しております。

 以上でございます。

若狭委員 そのような方向性を持って、今後、試行を踏まえながら、裁判員裁判対象事件とか独自捜査事件のみならず、録画、録音の対象事件というのを拡大していってもらえれば。私も、録画、録音というものが冤罪防止にも非常に資するというふうに考えている立場ですので、よろしくお願いいたしたいと思います。

 続いて、合意制度、マスコミでは言葉として司法取引というふうに言われていますが、この関係について少しお聞きしたいと思います。

 私は、東京地検特捜部の副部長などをして、いわゆる会社、組織犯罪事件の捜査にかかわり、東京地検公安部長として、暴力団事件とか薬物事件、それから銃刀法違反事件などを捜査指揮していました。検事として三十年近く、そして今、弁護士として六年くらいたっておりますので、恐らく、刑事手続については最もよく知っているうちの一人だというふうに自負しております。

 今回の合意制度ですけれども、確かに、組織犯罪の解明というのは、私も、現職にいて、しばしば困難、難しさがあるというふうに感じていました。ですから、その意味では、これまでは、取り調べというのがいわば解明のための主なる手段だったというふうに思っております。しかしながら、今は、冤罪の防止等も含めて、そうした取り調べとか供述調書への過度の依存から脱却して、改革していかなきゃならないという立場であろうと思います。

 そうした取り調べとか供述調書への過度の依存から脱却して、しかしながら、きちんと組織犯罪を解明するという必要性もこれまたあると思うんですよね。そのために、やはり新しい相当な手段というものが必要だと思います。

 しかしながら、相当な手段といっても、それは適正でなければいけません。しかも、適正であるということがきちんと担保されるような制度でなければいけないというふうに思っております。

 そのために、今回の合意制度というのは、組織犯罪解明のための証拠収集の適正化、多様化という一環で法案が作成されているんだと思うんですが、いずれにしても、この制度は、我が国には今までなかった新しい制度です。条文も非常に技術的なところがあって、なかなかイメージを持てないというところもあると思いますので、少し具体的に条文に沿っていろいろとお聞きしたいと思います。

 まず、いわゆる巻き込みの危険なんですが、合意制度については、いわゆる巻き込みの危険、つまり、合意をしようとしている被疑者、被告人が、自己の事件について有利な取り扱いを受けるために、他人の刑事事件について虚偽の供述をするというおそれがあると思うんですよね。特に、もともと共犯者供述というのは、そうした虚偽の供述をして他人を巻き込むという危険性がつきまとっているというふうに言われていました。今回の合意制度がそのようなおそれを高めることになるのではないかという問題意識、批判もあるとは思うんです。

 ですから、まずは、そうした批判などについて、及びこの合意制度について、どのような配慮をしているのか、刑事局長にお尋ねしたいと思います。

林政府参考人 今回の合意制度でございますが、一定の財政経済犯罪等を対象といたしまして、組織的な犯罪等における首謀者の関与状況を含めました事案の全容解明に資する証拠を得るということを可能にするものでございます。

 この合意制度につきまして、御指摘のとおり、被疑者、被告人が虚偽の供述をして第三者を巻き込むおそれがあるという指摘がございます。そのようなことが生じないように、今回の制度上、次のような手当てをしているところでございます。

 まず、すなわち、今回の合意制度は、協議という手続、最後に合意という手続、これが一緒になった手続でございますけれども、協議の開始から合意の成立に至るまで弁護人が関与する仕組みとしております。

 また、この合意に基づく供述が他人の公判で使われるときには、合意内容が記載された書面が、当該合意において捜査の目的とされました当該他人及びその弁護人にも、またその他人の審理をする裁判所にも、オープンにされる仕組みとしております。これによりまして、当該供述は一定の有利な取り扱いを受けるという合意を契機としてなされるものであること、したがって、その動機ないし経緯に照らして、信用性の判断に当たっては慎重な吟味を要するものであることが明らかとなるわけでございます。

 その結果、当該他人及びその弁護人による反対尋問等を通じまして、供述の信用性が厳しく吟味されることとなります。また、裁判所といたしましても、そのような供述の経緯を把握した上で、信用性を慎重に判断することとなります。そのために、検察官といたしましても、十分な裏づけ証拠があるなど、裁判でも十分に信用される場合でない限り、合意に基づく供述を証拠として使うことはできないこととなります。

 さらに、合意をした者が捜査機関に対して虚偽の供述等をした場合には、新設の罰則による処罰の対象となります。

 したがいまして、このように、合意制度につきましては、虚偽の供述により第三者を巻き込むおそれという指摘に対しまして、適切に対処できるものになっていると考えております。

若狭委員 巻き込みの危険については、後ほど、研修とか教育のあり方ということでもう少し触れさせていただきたいんですが、次に、私は法律家なので、やはり条文というのが非常に気にかかるところでございますので、少し条文に沿った形で、一応教えていただきたいという点を申し上げたいと思います。

 まず、三百五十条の二の一項一号ロというところに、被告人や被疑者の合意の一つの条件として、「証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。」というのが規定されています。この点についてお聞きしたいんですが、例えば、具体的なイメージとして、インサイダー事件を例にとりたいと思います。

 つまり、被疑者が、同じ会社の上司が犯した金融商品取引法上のインサイダー事件について、将来、その上司の裁判、公判で本当のことを話すことを約束して、それと引きかえに自分の事件については不起訴にしてもらうという合意があるとしますよね。

 ところが、その上司の裁判というのは、いつなされるかというのは必ずしもわからないわけですよね。いわゆるタイムラグがある。そうすると、その部下の方は、将来、ちゃんと上司の裁判では本当のことを話しますよと言って約束したにもかかわらず、大分たってから証人になった際は、本当のことを言わずにうそをついたとした場合に、いわば、その男は、非常に不当な利益を得る、つまり、自分は不起訴にしておきながら、約束を履行しない、証人としてきちんとしたことを言わずにうそをついたというようなことが起こり得ると思うんですよね。

 そうした場合にはこの制度上はどのような取り扱いがされているんでしょうか、刑事局長にお尋ねしたいと思います。

林政府参考人 合意ができまして、この合意に対して被疑者が違反した場合、こういった場合には、検察官としては、この合意から離脱することが可能となります。これによりまして、例えば、合意に基づく検察官の義務がまだ一部未履行となっているような場合には、その履行義務を負わないこととなります。

 他方で、例えば既に検察官が不起訴合意に基づきまして不起訴処分をしていた場合には、その合意から離脱することになりますので、事件を再起した上で起訴することが可能となります。

 また、被疑者が合意に違反しまして裁判で偽証したとき、これは偽証罪が成立し得ますし、あるいは、合意で証人尋問での供述を約束していたにもかかわらず、その召喚を受けたのに正当な理由なく出頭しないようなときには、出頭拒否罪というようなものが成立し得るところでございます。

若狭委員 その男を不起訴にしていた場合は、いわゆる再起といって、もう一度起訴するという手続が検察内部の手続にあるということは私も承知しているんですが、不起訴ではなくて、例えば、求刑を軽くするという約束で、既にもう求刑を軽くしてしまって、判決ももらってしまったというような場合というのは、やはりその男は、約束したにもかかわらず、求刑を低くしてもらって得をするという形になってしまう、そういうことはないでしょうか。刑事局長、お願いします。

林政府参考人 そのような場合に、最初に合意した被疑者の裁判において既に裁判が確定しているような場合、このような場合には、その裁判の確定に対するそれを変更することはできません。

若狭委員 そういう意味では、合意制度だけでは限界があるというところは言えるのかもしれませんが、その際に、偽証罪や何かをもって手当てするということを御指摘しているんだというふうに理解しました。

 それで、少しテクニカルな話なんですが、三百五十条の二第一項二号のニについてちょっとお聞きしたいと思います。

 今後、全部、刑訴法というか条文も含めて、単に条文だけしか言いませんが、全て改正案の条文という形で御理解賜りたいと思います。

 その三百五十条の二の第一項二号ニというところは、特定の訴因もしくは罰条の追加もしくは撤回というのが検察官の行う一つの行為というふうな規定になっているんですが、この訴因の追加とか罰条の追加というのは、被告人に対しては重くなる方向ですから、やはり撤回とセットになっていないとおかしいのではないか、一見するとそう読めるんですよね。ところが、条文上は、訴因の追加とか罰条の追加もしくは撤回という形になっているので、条文上、何かつくり方が間違いじゃないかと私は一見すると思ってしまったんです。

 このような形で、イメージが非常に捉えづらいというので、その辺のことについて簡単に刑事局長に教えていただければと思います。

林政府参考人 確かに、例えば特定の訴因の追加だけを見ますと、被疑者、被告人にとって不利な内容のようにも考えられるところからの御質問だと思いますけれども、いずれにしましても、この条文に掲げております検察官の行為といいますのは、それ単独で合意を形成することを求められているものではございませんので、ある一定の行為との組み合わせによって合意が形成されるということがございます。

 例えば、訴因の追加ということで申し上げれば、詐欺で起訴済みの被告人が、これと牽連犯の関係に立つものも含めまして、複数の有印公文書偽造、同行使の罪を犯しているときに、これらの複数の罪を一括して合意の対象といたしまして、例えば、当該詐欺と牽連犯の関係に立たないものについては一方で不起訴としながら、牽連犯の関係に立つものに限って訴因、罰条の追加をする場合、こういったような合意もあり得るわけでございまして、このように、例えば、不起訴と訴因の追加というようなものをあわせて合意の内容とすることなどが考えられると思います。

若狭委員 いずれにしても、解釈上、ちょっと次々に少しマニアックな話になってしまうんですが、続いて、やはり今の検察官の行う行為のところで、ホというのがあるんですが、そこにおいては、いわゆる論告求刑においては、被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を言うというような規定になっていると思うんです。

 例えば、懲役二年を求刑しますよという合意があるとした場合に、では、そもそもどのぐらいの刑であるべきものを懲役二年にしますよというような形というのが、わかりやすく見える化されているのか。

 つまり、被告人においては、検察官は、わかった、わかった、では懲役二年ということで軽くしておくよということで合意したとしても、それが本当に、本来は懲役四年だったのが懲役二年の求刑でとどまったのかどうかというのが非常にわかりづらい、透明性がないということにもなるわけですけれども、その辺は、どのような担保というか工夫をされる予定でございましょうか。

林政府参考人 求刑の合意をする場合、当然、その合意に至るまでの協議の過程で、実際のその事案における適正な求刑というものがどういうものであって、そしてまた、検察官にしてもらいたいと考える求刑がどういうものであるかというようなことは、当然、弁護人もその協議の過程で入りますので、その中で合意がなされます。

 そういった形の中で、例えば、被告人を今回懲役二年に処するのを相当と思料する旨の意見を陳述するといったことが合意の内容になった場合でございますけれども、これを、実際に検察官がどのような形で意見を述べるかということについては、さまざまなやり方があろうかと思います。

 これについて、検察官としては、例えば、合意がなければしたであろう求刑の内容をあわせて明らかにした方が、合意をした当該被疑者、被告人の裁判所において裁判所の適切な量刑判断に資すると思えば、やはり、合意がなければしたであろう求刑もあわせて明らかにした上で、また、合意書面も証拠に顕出しておりますので、それを踏まえて、この合意に基づいて今回求刑を二年とするというような形で求刑を行うというような形で審理に臨むといったことが考えられると思います。

若狭委員 それはある意味、透明性をきちんと担保するという話になろうかと思うんですが、次に、今度は三百五十条の四で、合意をするために必要な協議という規定があるんですが、これは初めての制度なので、合意をするために必要な協議というのがどういう形で開始されるのか、いろいろなパターンがあると思うんですが、典型的なパターンで、一つモデルケース的に教えていただければと思います。刑事局長にお願いいたします。

林政府参考人 今回の制度では、協議という手続があり、その後に合意がございます。そして、合意に基づいての証拠化、証拠の作成という手続に進んでいくと思います。

 この流れについて御説明を申し上げますと、まず、合意制度における第一番目の協議というものは、検察官、被疑者、被告人及び弁護人の三者間で行われるものでございます。その開始をいずれから申し入れるか、検察官側から申し入れるか、あるいは被疑者、被告人、弁護人側から申し入れるかということについては、これは事案によっていずれもあり得るものと考えます。

 そして、協議が開始された後にどのような行為がどのような順番で行われるかについては、もちろんこれは事案によってさまざまであろうとは思いますけれども、例えば、一つには、協議の段階で弁護人から検察官に対して、被疑者、被告人がどのような事件についてどのような協力をすることができるかを提示するということがございます。さらには、検察官が実際にどのような証拠が提供され得るのかを見きわめるために、提供され得る証拠の概要について被疑者、被告人から供述を聴取するということが可能でございます。また、検察官から弁護人に対しまして、不起訴も含めますが、処分の軽減等の内容を提示する、また、そういった提示された内容について、検察官と弁護人との間で合意内容などについて最終的な意見のやりとりをする。こういったことが行われることとなろうと思います。その上で、この三者の意思が合致すれば、合意内容書面を作成するということとなります。

 他方で、それまでの間で、最終局面までで、協議の段階で三者の意思が合致しなければ、合意は不成立ということになります。

 そして、合意が成立した場合には、検察官と被疑者、被告人側がそれぞれ合意に基づく義務を履行することとなります。

 この履行の内容と申しますのが、一つには、例えば、被疑者、被告人が取り調べに際して他人の刑事事件について真実の供述をすることというものが合意の内容とされた場合には、これに基づきまして取り調べというものが行われます。それによって、必要に応じて供述調書が作成され得ることとなります。もちろん、証人尋問というものが行われて、証人尋問を受けるということもございます。

 なお、今申し上げました合意内容の書面でございますけれども、合意がされた場合の合意内容の書面につきましては、その具体的内容については、運用上の問題として今後検討されていこうと思います。

若狭委員 大体の流れはわかるんですが、一つ非常に気になる点がございます。三百五十条の四のただし書きにおいて、要するに、協議に弁護人が関与しないようなこともあり得るということが規定されていると思うんです。やはり弁護人の関与というのは非常に大事だとは思うんですが、どうして弁護人が関与しない形で協議を行う余地を認めているのか、その理由についてお教えいただきたいと思います。刑事局長。

林政府参考人 協議と合意といった中で、まず合意については、当然、弁護人も加わらないと合意というものはできません。そして、協議については、その一部については、例外的に弁護人を交えずに行うことができるという制度となっております。

 この協議につきましては、一つには、法律の専門的事項について協議する場合などを考えますと、例えば、被疑者、被告人の関与は必要でなく、むしろ、検察官と弁護人の二者の間で進めることが円滑な協議の進展に資する場合があるということがございます。必ず三者でやらなくてもいい場合があるということの一つの例としては、そういった検察官と弁護人との間だけで行う場合があり得るということを申し上げたことでございますが、もう一方で、常に弁護人の同席を要するとすると、弁護人にとって過重な負担となる場合もあり得るということでございます。

 そういうことから、被疑者、被告人及び弁護人の双方に異議がない場合には、そのいずれか一方との間で協議をできることとしております。

 ただ、これにつきましては、たとえ弁護人が異議がないと言っても、協議全部を弁護人のいないところで協議するということは、本制度ではできないこととなっております。あくまでも、できるのは一部に限られております。

 この一部に限っている理由につきましては、合意が適切になされるためには、検察官が協議におきまして、被疑者、被告人に、提供し得る協力内容や、どの程度の真摯な協力の意思を有しているかなどを直接確認する必要がありまして、検察官と弁護人の二者間のみで協議を尽くす仕組みとするのは相当でないこと、また、弁護人を協議に必要的に関与させる趣旨に照らしますと、被疑者、被告人及び弁護人の双方に異議がない場合であっても、弁護人が関与しないまま、検察官と被疑者、被告人との二者のみで協議の全てを行うことは相当でないことから、協議の一部についてのみ、いずれか一方の間で行い得ることとしているものでございます。

若狭委員 続いて、三百五十条の五の第二項についてお聞きしたいんですが、この規定は、合意が成立しなかった場合、合意をするための協議で被疑者、被告人がした供述は証拠として使えないと規定されていますが、これは、その供述というのは未来永劫使えないという趣旨でよろしいんでしょうか。

 例えば、その後の調べで被疑者、被告人がそれと同じような供述をした場合でも使えないということになるのか、あるいは、ほかの端緒からある事件が発覚して、既に被疑者、被告人が一応供述をしていた場合に、ほかの端緒でありながらも、その被疑者、被告人が一たび協議において供述して、それが合意に至らなかった場合には未来永劫使えないということになりますと、かなり不都合な状態というのが出てくるのではないかと思うんですが、その点についてはいかがでしょうか。

林政府参考人 今御指摘のあった、合意が成立しなかった場合の、被疑者等が協議の中でなされた供述についての証拠能力の問題でございますけれども、本法律案においては、被疑者、被告人が協議においてした供述は、合意が成立しなかったときには証拠とすることができないとしております。

 この理由でございますが、協議においては、検察官は、合意をするか否かや、合意内容等についての判断の前提といたしまして、被疑者、被告人から供述を聴取することが可能でありますけれども、仮に、合意が成立しなかった場合にも検察官がその供述を自由に証拠とすることができるとなりますと、被疑者、被告人としましては、協議における供述、ひいては合意制度の利用自体をちゅうちょすることとなりかねないわけでございます。

 そこで、協議における被疑者、被告人の供述を促進して、ひいては合意制度の機能を高めるという観点から、合意が成立しなかった場合には、協議において被疑者、被告人がした供述を、当該被疑者、被告人との関係でも、また第三者との関係でも、証拠とすることができないこととしているものでございます。

 他方で、合意不成立後の取り調べにおきまして被疑者等が改めて協議においてしたのと同様の供述をした場合につきましては、その供述自体は協議においてした供述とは言えませんので、したがいまして、そういったような場合、こういう合意が成立しなかった後の取り調べにおきまして被疑者が協議においてしたのと同様の供述をした場合におきましては、その供述を証拠とすることは可能となります。

若狭委員 続いて、三百五十条の十の第一項第三号という点なんですが、この規定は、検察官が合意から離脱できる場合というのを規定しています。それによりますと、被疑者、被告人が合意に基づいてした供述が虚偽であったときなどが検察官が合意から離脱できる場合として掲げられております。

 これは、逆に言えば、担当検察官が供述の真実性を見誤るということがあるんだという前提になっている規定なのでしょうか。その点について教えていただきたいと思います。

林政府参考人 本法律案におきましては、被疑者、被告人が合意に基づいてした供述の内容が客観的には真実でなかったときなどにおきまして、検察官がその合意から離脱することができることとしております。

 この離脱を認めている趣旨でございますけれども、これは、検察官が合意によって実現しようとしたところが実現しておらず、また、そのことにつきまして、真実と異なる証拠を提供したなどの意味におきまして被疑者、被告人に一定の帰責性を認め得るということから、実質的な公平の観点から、これを検察官の離脱事由として規定しているものでございます。

若狭委員 しかしながら、やはり検察官がそうしたうその供述を見破ることができなかったというようなことにも相なるわけですから、そうなりますと、巻き込みの危険、冤罪の危険というのも発生する余地が非常に出てくると思うんですよね。

 確かに、制度というのは、幾らすばらしい制度をつくったとしても、その制度を運用する検察官なら検察官一人一人の問題意識とか意識レベルを高めなければ、やはり過ちというのが生じてしまうおそれというのはあると思うんですよね。その意味では、この合意制度というのは、やはり各検察官の問題意識、能力というのを高めていかなければいけないというふうに私は思うんです。

 その辺のところを含めて、やはり真実なのか虚偽なのかを見抜く力とかいうのを一層各検察官が身につけていくということについて、法務・検察当局としてはどのような研修とか教育というのを考えているのか、その具体的なことについてお教え願いたいと思います。

林政府参考人 御指摘のとおり、この合意制度におきましては、例えば協議の段階でなされるであろうという供述について、一定の見きわめ、評価をした上で、そして合意をするかどうかを検察官が決めなくてはなりません。

 こういったことにおきまして、そういった供述の信用性でありますとかいったことについて、あるいは供述が出た場合でもその裏づけをどのようにしてとっていくのか、それとの関係で総合的に証拠評価をどのように行うのかといった能力というものが非常に重要になってこようと思います。

 そういったことで、現在におきましても、例えば、経験が豊富な検察官と若手検察官とで捜査、公判においてチームを組んで、証拠評価といったものの知識の共有を図るということでありますとか、実際の取り調べのDVD等の閲覧をして、当該被疑者の供述態度等を吟味して、その供述証拠の評価のあり方といったものを共同で検討する、あるいは模擬の取り調べを行う、あるいは事件記録を題材として供述証拠の信用性でありますとか客観証拠の証明力の評価を含む事実認定の研修を行う、こういったことを、検察官のそれぞれのキャリアの時期を捉えまして、研修、教育を実施しております。

 また、今後につきましては、確かにこの合意制度は新しい制度でございまして、特に弁護人等を交えて協議をするというようなことはこれまでの制度にないわけでございますので、こういったことについて、能力向上のための新しい研修、教育というものを考えていかなくてはいけないと考えております。

 協議をする相手というものは、特に弁護人が関与しますので、弁護士ということになりますので、弁護士が有する交渉の進め方といったことについての知見もまた取り入れたりする必要がございますし、もとより、供述の評価となりますと、やはり供述心理学の専門的、科学的な知見を取り入れることも必要となりましょう。また、こういった制度は諸外国にはございますので、諸外国における知見も取り入れていく必要がございます。

 そういったことを全体的に工夫しながら、今後取り組んでいく必要があろうかと考えております。

若狭委員 特に、刑事弁護人の特殊心理というのがありまして、私も、弁護人を六年近く、実際の事件をやっていたのでよくわかるんですが、法務・検察の検察官あるいは検事の人は弁護人になったことがないので、弁護人の特殊心理というのがなかなかわかりにくいところはあると思うんですが、刑事弁護人というのは、やはり自分の弁護している被疑者、被告人の利益を最大限優先するということがありがちなので、そういう意味では、第三者の引っ張り込み、巻き込みの危険というのをそれほど強く考えない人も中にはいるというような、やはり刑事弁護人のそうした特殊心理というものもいろいろと工夫して勉強していただきたいというふうに思います。

 今の関係では、私の個人的な考えですが、合意をする際、あるいは協議をする際に、録画、録音というのを将来的な試行みたいな形でやっていくというようなことも一つの選択肢かなというふうに思っております。これについてはいろいろと議論があろうかと思いますので、とりあえず私の考えというようなことで言わせていただくにとどめます。

 続いて、合意の終了と履行確保という点について、この法律案の中で真逆のことが書かれているんですよね。時間が余りないので条文的に一々引用しませんが、つまり、検察審査会で起訴議決とか不起訴不当の議決が出た場合、当該被疑者、被告人の供述というのは効力を失うというふうになっていると思うんです。

 ところが、その際に、第三者の供述については、その当該男の供述というのは効力があるのかないのか、その点についてちょっとお聞かせ願いたいと思います。

林政府参考人 御質問の趣旨については、第三者の供述というよりは、他人の刑事事件において証拠として使えるかどうかということの御質問だと思います。

 本法律案におきましては、不起訴合意をした被疑者について、一旦不起訴としたけれども、検察審査会において不起訴自体が不起訴不当等の議決がなされた場合、こういった場合の証拠能力について定めております。この場合でありましても、当該被疑者が合意に基づいてした供述は、他人の刑事事件においては証拠として使用することができることとしております。

 すなわち、まず、本法律案におきましては、不起訴合意に基づいて不起訴処分がなされた事件について検察審査会の議決がなされたときは、その後、公訴が提起された場合においても、被告人が協議においてした供述、あるいは合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠、またこれらの証拠に基づいて得られた派生証拠、このいずれも、当該被告人との関係での刑事事件においては証拠とすることができないとしております。

 他方で、当該被告人の刑事事件ではない他人の刑事事件については、そのような証拠能力の制限は設けないところでございます。

若狭委員 そうすると、検察審査会絡みの場合は、他人の刑事事件については、当該取引をした人の供述というのは使えるということでよろしいですね。

 他方、今度は三百五十条の十四、検察官が合意を守らなかった場合というのは、例えば、第三者、他人の刑事事件においては、当該取引をした人の証拠、供述というのは、効力としてはどのような形になりますでしょうか。

林政府参考人 本法律案におきまして、検察官が合意に違反したときにつきましては、被告人が協議の段階でした供述、また合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠は、合意の相手である被疑者、被告人との関係だけでなく、それ以外の者との関係でも証拠とすることができないこととしております。

若狭委員 そうしますと、検察審査会の議決絡みの場合と検察官が合意を守らなかった場合というのは、当該取引をした人の供述の効力がどこまで他人の刑事事件に及ぶかという点で真逆ということでよろしいでしょうか。もしよろしいんだとすれば、どうしてそのような違いというのをこういう形で規定しているのかについてお教えいただきたいと思います。

林政府参考人 御指摘のとおり、検察官が合意に違反した場合と、検察審査会の議決により合意が失効した場合とで、被疑者が合意に基づいてした供述等の証拠能力の制限の範囲が異なっております。

 まず、検察官が合意に違反した場合において、第三者との関係においても証拠能力を制限するということにしている理由でございますけれども、これは、検察官が合意に違反したときには、例えば合意に違反して起訴した場合、これは公訴棄却の判決などがなされることとなっております。したがいまして、合意に違反する形での公訴権の行使は、その限りで、すなわち被告人との関係における限りで、これは合意に違反するということが防止されるという効果がございます。

 しかし、さらにこれに加えまして、検察官による合意の履行を確保して、ひいてはその合意の実効性を十分に担保するという政策的な観点から、検察官がこのような合意に違反したときには、合意に基づいて被告人の行為により得られた証拠等を、当該被告人との関係のみならず、第三者との関係でも証拠とすることができないこととして、これによって検察官の合意の履行を確保しようとすることでございます。

 他方で、検察審査会の議決により合意が失効した場合について、当該被告人の刑事事件においてのみ証拠能力の制限をするものとしている理由は次のとおりでございます。

 すなわち、検察官が不起訴合意に基づいて不起訴処分にした事件につきまして、検察審査会による不起訴不当等の議決がなされた場合には、検察審査会法の趣旨に鑑みまして、当該不起訴合意というものは効力を失うこととしております。したがいまして、不起訴合意をしていた被疑者は起訴されることとなります。

 もっとも、当該被疑者といたしましては、当該不起訴合意に係る自己の事件では起訴されないことを約束されていたわけでございまして、その合意に基づいて供述などをするに当たりましては、仮に自己の刑事事件の証拠となるものが含まれているとしましても、その証拠が自分の刑事事件で用いられるということは全く考えていなかったわけでございます。

 このような場合に、公訴提起後にその被告人の刑事事件でその証拠を用いることができるとするのは実質的に見て公平を欠くことになると考えられますことから、こういった合意に基づいて被告人の行為により得られた証拠等は、その当該被告人の事件において証拠とすることができないこととまずしたものでございます。

 これに対して、その場合の第三者との関係では、そういった公平性というものを考慮する必要がなく、また、合意の違反の場合のように検察官による合意の履行を担保するという観点からの証拠能力の制限が必要となるものでもないことから、そのような証拠能力の制限は、こちらの検察審査会の場合についてはそれを設けなかったということでございます。

 以上のような理由から、証拠能力の制限の範囲がそれぞれの場合で異なっているということでございます。

若狭委員 それでは、続きまして、通信傍受の合理化、効率化についてお尋ねしたいと思います。

 私は、冒頭述べましたように、暴力団犯罪を初めとして、組織犯罪の捜査に実際にかかわっておりました。やはり相当歯がゆい思いをしたことも事実であります。そういう意味においては、通信傍受というのが大きな手段になるということは確かなんですが、今回の通信傍受自体、非常に技術的で難解な面もあると思うんですよね。それで、仕組みも十分理解されていない。そういうことで、通信の秘密が不当に侵害されるのではないかという批判ないし不安も耳にするところであります。

 そこで、新たな通信傍受の方式、これは立ち会いとか封印を伴わずに傍受を行い得るという形になっていると思うんですが、そうした新たな通信傍受の方式がどういう形で適正性が担保されるのかとか、現行の方式と比較した場合、必要とされる立会人の役割が新方式ではどのように担保されているのか、その辺についてお聞かせ願いたいと思います。

林政府参考人 今回の法律案におきまして導入する新たな通信傍受の手続は、二つのタイプがございます。一つは一時的保存を命じて行う通信傍受、もう一つが特定電子計算機を用いる通信傍受、この二つでございます。

 まず、一時的保存を命じて行う通信傍受でございますが、これは、場所といたしましては通信事業者の施設におきまして、捜査官が傍受の実施場所にいない間に行われる全ての通信を通信事業者が暗号化した上で一時的に保存しておき、この暗号化された通信を事後的に通信事業者が復号いたしまして、その上で、再生してその内容を聴取するという手続でございます。この場合、再生して内容を聴取できる範囲といいますのは、現行の通信傍受法の場合と同一でございます。

 この手続におきましては、復号した通信を再生する際には、現行の通信傍受法のもとでの傍受と同様に、通信事業者を立ち会わせなければなりません。また、再生した通信を記録した記録媒体は、立会人に封印を求めなければならないこととなっております。この点において、立ち会いという観点では、この手続においては現行法と実質的には変わらないこととなります。

 次に、特定電子計算機を用いる通信傍受でございますが、これは、傍受令状により指定された通信事業者の施設以外の場所での傍受の実施ができることとなる手続でございます。この場合、通信事業者は、通信を暗号化した上で、傍受の実施場所に設置された特定電子計算機に伝送いたします。そして、捜査官は、特定電子計算機を用いまして、これを直ちに復号してその内容を聴取する場合もありますが、あるいは、これを一旦一時的に保存した上で、事後的に復号して、現行の通信傍受法の規定による傍受の場合と同一の範囲内で再生して、その内容を聴取するといったことが可能となる手続でございます。

 こういった場合の手続につきましては、暗号技術等を活用した技術的措置によりまして通信傍受の適正な実施を確保するということで、こういった特定電子計算機を用いる場合には、立ち会い及び記録媒体の封印が不要となって、傍受を行うことができることとなります。

若狭委員 続いて、裁量保釈の関係についてお聞きしたいんですが、私も、弁護人になって、保釈請求をしてもなかなか保釈を認めてもらえなかったという経験が少なからずあります。

 今回、いわゆる裁量保釈の考慮事情を法律に明記するという改正がなされると思うんです。

 法制審議会においては、いわゆる今の保釈制度は人質司法でなかなか保釈をしてもらえないという意見や、あるいは、今の状態で問題ないという意見がなされて、意見の一致を見なかったというふうに聞いておるんですが、それなのに、今回あえてこういう形で法律で考慮事情を記載したということについて、簡単で結構ですので、その理由についてお聞かせ願いたいと思います。

林政府参考人 今回の刑事訴訟法第九十条の改正につきましては、御指摘のとおり、現在の身体拘束や保釈の運用についての特定の事実認識を前提とするものではございませんが、被告人の身体拘束を継続するか保釈するかの判断においていかなる事情を考慮するかということにつきましては、現行法上はそのようなことが明記されておりませんので、実務上の解釈として確立している考慮事情を法文に明記することによりまして、その内容をできる限り明確化して国民にわかりやすい制度とすることを趣旨とするものでございます。そのことによりまして、保釈の運用というものの適正にも資するものと考えております。

若狭委員 以上、合意制度を中心に、録音、録画、通信傍受について聞いてまいりました。この合意制度とか通信傍受の拡大などを盛り込んでいるということで、捜査機関の焼け太りではないかという批判意見もあるわけですけれども、私としては、組織犯罪の真実解明には理解できるというふうに思っているところなんです。

 いずれにしても、検察・法務当局においては、やはり冤罪とか誤判、誤った裁判をなくすため、きちんとした体制をさらに一層整えて、適正に運用してもらいたいというふうに考えているところでございます。

 最後に、今回の法案の意義とその成立に向けた法務大臣の決意をお伺いしたいんですが、いずれにしても、今、世界一安全な国日本ということをうたい文句にして、安倍内閣においてもその戦略を進めているところでございますので、その辺を含めて大臣の決意を最後にお伺いして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。

上川国務大臣 刑事司法の根幹にかかわるさまざまな制度について、今回の刑事訴訟法の改正の中で御審議をいただくという大変重要な法案だというふうに認識をしているところでございます。

 加えて、二〇二〇年のオリパラの時代でございますし、世界一安全な日本を、あらゆる角度でそうした実が上がっていくことができるように、そういう流れの中で、刑事司法の領域につきましてもその例外ではないというふうに考えております。

 今回は、刑事司法に対するさまざまな問題が発生し、それに対しての厳しい問いかけがあった上で、新しい制度づくりに向かって前進していこう、こういう議論が長年続いた上での今回の御議論でございます。そういう意味で、刑事司法制度そのものが、本来の、適正で、しかも機能的なものであり、また、何よりも国民の皆様から信頼されるものでなければならない、こういう趣旨でお願いをするところでございますので、そういった意味で、充実した御審議をいただきまして、そして、法律案の成立に向けまして努力をいたしますので、ぜひともよろしくお願い申し上げたいというふうに存じております。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

若狭委員 以上で終わります。ありがとうございました。

柴山委員長代理 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案について質疑をさせていただきますが、先ほど、若狭委員の方から、主として合意制度の導入に関してるる質疑がございましたので、私は、若狭委員の半分の持ち時間、三十分という限られた時間でありますので、取り調べの可視化、また適正な取り調べに絞って、この基本的事項に関して質問させていただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。

 刑事司法の目的は、適正手続の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかにして、適切な処罰を実現することにありますが、密室における不当な取り調べによって虚偽の自白がなされ、冤罪が発生してきたことも事実でございます。

 先日、私、弁護士事務所に戻りまして、過去にやった刑事記録を読み返してまいりました。

 私が弁護人となった否認事件におきましても、被疑者が、この調書に書いてあることは僕がやったことと違うことが書かれているので訂正してくださいと言ったにもかかわらず、取り調べ担当の警察官から、おまえがやった事件はこの内容で間違いないからこれでいいんじゃとどなられて、それでも被疑者が、私は毎日接見していましたので、事実と異なるので訂正してくださいと食い下がったんですけれども、おまえの言っていることは後で別の調書にして書いてやるから、とりあえずこの調書にサインしておけと。嫁や子供に会いたかったら早く認めろ、認めへんかったらずっと会われへんぞなどと警察官から大声でどなられて、恐怖感や不安感にさいなまれて、事実と異なる内容が書かれている調書に署名押印したケースもございます。

 その件に関しては、すぐに私も、警察署、また担当検察官に厳重抗議しまして、担当検察官から謝罪の言葉がありまして、取り調べ担当の警察官もかえてもらいました。また、その自白調書に関しては、公判で証拠としても使われませんでした。

 ただ、このような不当な取り調べは、録音、録画がなされていたら、されていなかっただろうと思います。

 それで、次は、このことを話すかどうか迷いましたけれども、話します。

 先ほど、若狭委員は、検察官ということでさまざま取り調べに立ち会ったこともあるとおっしゃいましたけれども、私は、検察官でも警察官でもありませんけれども、警察官の取り調べを面前で目撃したことがございます。

 これはどういうことかといいますと、はしょって話します、大幅に短縮して話をしますけれども、今から八年前の七月、深夜に、一時四十分ごろでしたけれども、女性の悲鳴が聞こえて、外に出ますと、女性が襲われていました。男性が逃げて、私は追走して、取り押さえて、現行犯逮捕して、家から一緒に出てきた弟も後で追いついて、一緒に脇を抱えて交番に連行したことがございます。

 深夜の一時四十分で、私もお風呂から出て、特に携帯電話も何も持たず、女性の悲鳴が聞こえて一目散に出ていったので、交番に行くまで携帯電話から一一〇番通報もできなかったんですけれども、交番に着いたら誰もいない。だから、そこから一一〇番通報をしました。

 そうすると、警察署からパトカーに乗って複数の警察官が来まして、入ってくるなり、おまえかということで、声は実際よりもかなり抑えていますけれども、おまえがやったんか、何をやろうと思ったんじゃということで、持っていた書類のようなものをばんとたたきつけて、顔面を被疑者の十センチぐらい近くに近づけて、何をやろうと思ったんじゃということを繰り返し言っていた。

 私、彼を交番に連行するときに、やはりこれは職業病なのかどうかわかりませんけれども、捕まえて、反省せなあかんと言いつつも、黙秘権の告知をしていたんです。君には黙秘権があるということも言っていました。公園の中にある交番だったので、そこにやじ馬がたくさん来ていたんですけれども、その中で、彼が私の方を向きながら、いや、最悪なこととか考えていませんよと言ったら、その警察官が最悪なことって何じゃこらとかいうことを言いまして、彼がずっと横を向いて黙ったということで、その後も、これからしっかり取り調べしてやるからなというようなことでありました。

 そういう一連のやりとりがなされた後に、この中で現行犯逮捕された方はどなたですかと言われまして、やじ馬が、ちょっと正確な人数は忘れましたけれども、多分、七人か八人ぐらいいたと思います。私がはいということで手を挙げまして、名前とか生年月日を聞かれました。るるそういったことを聞かれた後に、最後に職業はと聞かれまして、弁護士ですと言った瞬間に交番内がしいんとなりまして、警察官が何人か交番の外に出て、何か会議のようなものが始まった。

 その後、私もパトカーに乗って警察署に行きまして、取り調べに協力もしました、調書も作成しました。その件に関しては後に立件されましたけれども、ただ、そのときに、さまざまな警察官が、警察署に着いた後に入れかわり立ちかわり来て、いや、今取り調べの可視化ということが言われていましてということで言っておりました。

 そういったことがあって、私は、主観をとるためにはこのような取り調べもやらざるを得ない現状があるのかなとか、また、一般人の目の前でこのような、先ほど言ったようなことがなされているのであれば、密室においてはより不当なことがなされているんじゃないかなというふうにそのとき思いました。

 今ちょっとこういった体験を話しましたけれども、自白強要等による冤罪の発生を防止するためには、取り調べの適正化を担保する手段として、取り調べの可視化が必要である。このことは我が党も長年主張し続けてまいりました。今回の改正法が成立すれば、我が国で初めて、法制度としての取り調べの録音、録画制度がスタートすることになります。そういった意味におきまして、今回の法制化は非常に意義のあることだと思っております。

 他方で、録音、録画の対象事件は裁判員裁判対象事件、検察官独自捜査事件に限定されていて、これらは捜査段階の全刑事事件のうちわずか三%にすぎません。

 そこで、改めて、本改正法案で可視化の対象事件を限定した趣旨について、刑事局長に伺います。

林政府参考人 本法律案による録音、録画制度は、原則として被疑者取り調べの全過程の録音、録画を義務づけることなどを内容とするものでございますが、全ての事件を一律に制度の対象とすることについては、その必要性、合理性に疑問があり、制度の運用に伴う人的、物的な負担も甚大なものとなります。また、録音、録画制度というものが捜査機関にこれまでにない新たな義務を課するものでありまして、捜査への影響を懸念する意見もございます。

 そこで、法律上の制度といたしましては、取り調べの録音、録画の必要性が最も高い類型の事件を対象とすることが適当であると考えられまして、そのようなものとしては裁判員裁判対象事件、また検察官独自捜査事件というものが挙げられるわけでございます。

 これに対しまして、これら以外の事件につきましては、一律に制度の対象とするまでの必要があるとは言いがたいものがございます。とはいえ、もとより、録音、録画の必要性が高い場合というのもそれ以外の事件の中で考えられるわけでございますが、個別の事案の内容や証拠関係などによることから、そういったような場合を法律上の義務の対象として厳密かつ明確な形で適切に定めることは困難でございます。

 そこで、裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件以外の事件における取り調べの録音、録画につきましては、個別の事案における必要性に応じて、検察等の運用によって対応することが相当であろうと考えられたものでございます。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

國重委員 さまざまな意見はあるでしょうし、また、本法律案の附則におきまして、施行後三年が経過した後に必要な見直しを行う旨の検討条項も設けられておりますが、可視化を法制化する第一歩として、まずは録音、録画の必要性が類型的に高い事件について、警察段階を含めて、身柄拘束中の被疑者の取り調べの一部ではなくて全過程についての録音、録画を明文化する、これは画期的なことであると思います。

 その上で、改正刑訴法の三百一条の二第四項の適用範囲の確認をさせていただきたいと思います。

 取り調べの可視化の対象事件ではない犯罪で逮捕、勾留されている事件に関連する余罪取り調べとして可視化対象事件についての取り調べが行われるような場合、例えば、裁判員裁判対象事件に当たらない死体遺棄による逮捕、勾留中の取り調べにおいて、裁判員裁判対象事件である殺人についての供述がなされるような場合には、録音、録画義務の対象となって取り調べの録音、録画が行われることになるのか、刑事局長にお伺いします。

林政府参考人 本法律案におきましては、逮捕、勾留されている被疑者を対象事件について取り調べる場合を取り調べの録音、録画義務の対象としております。逮捕、勾留の理由となっている被疑事実が対象事件である場合には限定しておりません。

 したがいまして、身柄拘束中の被疑者であれば、いわゆる余罪取り調べとして対象事件について取り調べる場合も、録音、録画制度の対象となります。

國重委員 では、重ねてお伺いいたします。

 例えば、裁判員裁判対象事件に当たらない傷害で逮捕、勾留中の取り調べにおいて、その件で殺意があったかどうか、裁判員裁判対象事件である殺人未遂にまで話題が及ぶような場合についても、録音、録画の対象になって取り調べの録音、録画がなされることになるのか、刑事局長に伺います。

林政府参考人 先ほど申し上げましたように、本法律案では、身柄拘束中の被疑者であれば、その理由となっている被疑事実が本制度の対象とならない罪名でありましても、対象事件について調べる場合には、録音、録画義務の対象となります。

 したがいまして、お尋ねのように、本制度の非対象事件でありますところの例えば傷害の事実で逮捕、勾留中であったといたしましても、その被疑者を対象事件である殺人未遂の事実について取り調べる場合には、録音、録画義務の対象となります。

國重委員 ありがとうございます。

 可視化対象事件とならない小さい事件で逮捕、勾留して、その間に可視化対象事件の取り調べを録音、録画なしに行うことは認められないということが確認されたと思います。

 次に、取り調べ室以外の場所で録音、録画の対象事件の取り調べが行われるような場合、数としてはこれは非常に限られているとは思いますけれども、このような場合も録音、録画の対象となるのか、刑事局長に伺います。

林政府参考人 本法律案におきましては、逮捕、勾留されている被疑者を本制度の対象事件について取り調べる場合を取り調べ録音、録画義務の対象としております。その場所については、捜査機関の施設に限定しているわけではございません。

 したがいまして、逮捕、勾留中の被疑者を捜査機関の施設以外の場所におきまして、対象事件について取り調べる場合でありますとか弁解録取の手続を行う場合があるとすれば、それは取り調べの録音、録画が義務づけられることとなります。

國重委員 次に、大臣に伺います。

 本改正案のように対象事件を限定すると、対象が余りにも狭過ぎる、四名の誤認逮捕者を出して、取り調べによって虚偽の自白が生み出されたPC遠隔操作事件のような、社会的に耳目を集めたような事件も対象とはならず、自白強要等による冤罪を防止するという可視化の趣旨を全うできないんじゃないかという意見もありますが、これに関する大臣の見解を伺います。

上川国務大臣 取り調べの録音、録画の制度そのものを今回法律で規定するということについては、供述の任意性も含めまして的確な立証をしていくということ、また取り調べそのものが適正に行われていくべきということ、こうした背景の中で提出させていただいているところでございます。

 先ほど局長の方からお答えをしたわけでございますが、法律上の制度といたしましては、取り調べの録音、録画の必要性が最も高いと考えられる類型に絞ってということで、裁判員裁判の対象事件と検察官の独自捜査事件ということでございます。

 そして、これも先ほど来刑事局長からも答弁をしているところでございますが、検察におきましては、罪名を限定せずに、新たな録音、録画につきましても試行的に取り組んでいるところでございまして、トータルとして見ると、運用、さらには試行というところの中で、相当程度の事件につきまして録音、録画をしていく、こうした方向で考えているところでございます。

 いずれにしても、先ほど来委員の方から御指摘いただきました、もともとの録音、録画の果たす役割ということの大きな可能性ということについては、これは大変大事にしていかなければならないということでございますので、また適切に運用も含めて対応していくということが大事かというふうに思っております。

國重委員 ありがとうございます。

 今大臣の方からもありましたし、先ほど若狭委員の方からも触れられましたけれども、今、法制度の導入前に、現場では、検察、警察がそれぞれ運用によって取り調べの録音、録画をしているという現状がございます。

 そこで、伺います。現在、検察、警察は、いかなる事件を対象に取り調べの録音、録画を行っているのか、簡潔にお願いいたします。

林政府参考人 検察当局におきましては、まず、今回の取り調べの録音、録画制度の対象となっております裁判員裁判対象事件と検察官独自捜査事件、またそれ以外にも、知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者に係る事件、また、精神の障害等により責任能力の減退、喪失が疑われる被疑者に係る事件、こういった四類型の事件について、まず、被疑者の取り調べの録音、録画を実施しております。

 また、平成二十六年十月一日からは、公判請求が見込まれる身柄事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況に照らし被疑者の取り調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件、これにつきましては、罪名を問わず、録音、録画の試行の対象としております。

 さらに、最後に、参考人取り調べにつきましても、公判請求が見込まれる事件であって、被害者、参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの事情により、被害者、参考人の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件について試行を開始しております。

三浦政府参考人 警察におきましては、警察庁におきまして取調べの録音・録画の試行指針を策定いたしまして、平成二十一年四月から、これに基づいて、全国で裁判員制度対象事件に係る取り調べの録音、録画の試行を実施しているところであります。

 また、これに加えまして、裁判員裁判対象事件以外の事件でありましても、裁判員裁判で併合審理される見込みのある事件や、知的障害を有する被疑者であってコミュニケーション能力に問題がある者等の取り調べについても、録音、録画の試行の対象としているところでございます。

國重委員 ありがとうございます。

 検察は、公判請求が見込まれる身柄事件であって、被疑者の取り調べを録音、録画することが必要であると考えられる事件についても、運用として可視化の対象にしているということですけれども、いわゆる否認事件は運用として可視化の対象にしているんでしょうか、伺います。

林政府参考人 否認事件というくくりについて、それ自体を検察における運用の取り調べの録音、録画の対象としているわけではございません。これにつきましては、否認事件といった定義自体、必ずしも明確でないという点もございます。

 もっとも、そういった形で対象として取り上げているわけではございませんけれども、一方で、検察においては、運用による取り調べの録音、録画を積極的に実施しておりまして、結局、先ほど申し上げました、罪名を問わず、任意性が争われる可能性が高い、あるいは立証上その供述というものが中核となるようなものにつきましては、やはり否認事件のような場合についてはそういったものが多く含まれるわけでございまして、そういった形で運用による録音、録画の対象となってくるものと考えております。

國重委員 答弁ありがとうございます。

 法制化前に、今回の改正法の対象事件以外の事件も含めて、検察、警察ともに取り調べの録音、録画がされている、これについては私は評価をしております。

 その上で、否認事件は、やはり類型的に自白強要等の不当な取り調べが行われる危険性が高い事件だと思われますので、今局長の方もおっしゃっていただきましたけれども、そのことにも留意して、今後の運用を検討していただきたいと思います。

 次に、ちょっと質問を飛ばしまして、適正な取り調べを担保するための可視化も極めて重要ですけれども、これまで行き過ぎた不当な取り調べがなされてきた原因、これをしっかりと分析して、それを捜査機関で共有して、可視化されていようとそうでなかろうと、同様のことが起こらないように取り組んでいくことが何よりも大切だと思います。

 これまでさまざまな不当な取り調べがなされてきた原因、これは一体何なのか。組織の構造的な問題なのか、それとも個人の資質の問題なのか。検察、警察それぞれでその原因についてどのように分析をしているのか。そして、それを警察、検察それぞれでどのように現場に周知徹底しているのか。お伺いいたします。

林政府参考人 委員御指摘の行き過ぎた取り調べ、こういったものについて、裁判所におきまして取り調べの問題点が指摘されたものという形でお答えいたしますと、検察当局におきましては、これまでに、いわゆる氷見事件、志布志事件、あるいは足利事件、厚生省元局長無罪事件等に関しまして、取り調べ等の問題点について検証を行ったものと承知しております。

 その検証の結果につきましては、例を挙げますと、取り調べに関しましては、客観証拠の脆弱性からすれば、その取り調べに際しては細心の注意を払い、さまざまな角度から問いを発するなどして慎重に心証を形成する必要があったにもかかわらず、被告人とされた方が自白していることに過度に依拠したために、それが不十分であったという指摘でありますとか、警察官に迎合して自白したおそれがあることに思いをいたして、より慎重に被告人とされた方の自白が虚偽自白である可能性がないかということを十分検討すべきであった、あるいは、必ずしも相当とは言いがたい誘導等により客観的証拠と整合しない供述調書が作成されたのではないかと疑われるものが少なからず存在したといったような指摘がなされたものと承知しております。

 こういった検証結果につきましては、全検察官にその内容を周知するなどしてきたところでございます。また、この検証結果を踏まえまして、検察当局におきましては、取り調べの留意点や凶悪重大事件における組織としての指導、決裁のあり方などについて通達等を発出するなどしてきたものと承知しております。

三浦政府参考人 不適正事案といいましても、事案ごとにいろいろと問題点や背景などが異なっておりますので、なかなか一概に申し上げることは難しいわけでございますけれども、過去の事案の検討結果などから極めて概括的に申し上げますと、例えば、客観証拠の評価の問題、すなわち、特定の証拠を過大評価してしまったり、逆に消極証拠の吟味が不十分であったといったような問題でありますとか、あるいは、供述の信用性に関する吟味が不十分であったとか、被疑者が取り調べ官に迎合して供述をしてしまうということがあったわけでありますが、そうした迎合の可能性に対する留意が足りなかったといった問題であるとか、あるいは、幹部の捜査指揮が的確になされていなかったといった問題点が認識をされたところであります。

 こうした点などを踏まえまして、警察におきましては、警察捜査における取調べ適正化指針を策定するとともに、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の制定、犯罪捜査規範の改正を行うなど、適正な取り調べを徹底するための施策を講じるとともに、警察大学校等における教養等を通じて、捜査幹部はもちろん、第一線の警察官に対しても、その浸透、定着を図り、不適正な取り調べの防止に努めているところでございます。

國重委員 ありがとうございます。よくわかりました。個々の事件についての分析をしっかりとされている、これについては私も評価をいたします。

 ただ、個々の事件の分析はある意味当然のことであって、これらの行き過ぎた不当な取り調べの問題の根っこは何なのか、包括的に問題点を検討して対策を立てていくことも極めて大事なことだと思います。

 今後、包括的な問題点も含めて検討していくべきだと考えますが、いかがでしょうか、林刑事局長に伺います。

林政府参考人 取り調べについて、問題とされる内容につきましては、その原因、背景等、個々の事件ごとにさまざま異なるものでありますことから、そういった分析、検討というのはやはり個々の事件ごとに行っていくのが適切であろうと思います。

 いずれにしましても、そういった形で集約されたさまざまな検討結果については、今後とも、こういう適切な取り調べの遂行のために生かしていくべきことと考えております。

國重委員 林刑事局長がおっしゃっていることも一面ではわかりますけれども、そういった蓄積があれば、また、総合的、包括的にもぜひ検討していただきたいと思います。

 最後に、あと一分少々で時間ですけれども、大臣に。

 さまざまな不当な取り調べがあったことも事実でございます。検察、警察、それぞれが真剣に取り組むべき問題だと思いますけれども、上川大臣、法務大臣として、取り調べの適正化に向けた決意を最後にお伺いいたします。

上川国務大臣 刑事司法の現場の中で、取り調べというところは非常に大事なものでございます。その意味で、行き過ぎた、あるいは不当な取り調べがあるということについては、これはあってはならないというふうに思っております。

 国民に信頼していただくためにも、このことについては、個別のさまざまな事件がございまして、それについて検証を重ねながら、そこから引き出される課題については、謙虚に、それに対してどう対応するかということも含めて、体系的に検討していくべきというふうに考えております。

國重委員 以上で終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時三十一分散会


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