衆議院

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第26号 平成27年6月30日(火曜日)

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平成二十七年六月三十日(火曜日)

    午前九時二分開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      青山 周平君    大塚  拓君

      門  博文君    門山 宏哲君

      菅家 一郎君    今野 智博君

      笹川 博義君    辻  清人君

      冨樫 博之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    若狭  勝君

      黒岩 宇洋君    階   猛君

      鈴木 貴子君    柚木 道義君

      重徳 和彦君    大口 善徳君

      國重  徹君    清水 忠史君

      畑野 君枝君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長) 山谷えり子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君

   政府参考人

   (警察庁長官官房総括審議官)           沖田 芳樹君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (消費者庁次長)     川口 康裕君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月二十五日

 辞任         補欠選任

  柴山 昌彦君     門山 宏哲君

同月三十日

 辞任         補欠選任

  宮崎 謙介君     笹川 博義君

  簗  和生君     青山 周平君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     簗  和生君

  笹川 博義君     宮崎 謙介君

同日

 理事柴山昌彦君同月二十五日委員辞任につき、その補欠として山下貴司君が理事に当選した。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 理事の補欠選任

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 まず、理事の補欠選任についてお諮りいたします。

 委員の異動に伴い、現在理事が一名欠員となっております。その補欠選任につきましては、先例により、委員長において指名するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。

 それでは、理事に山下貴司君を指名いたします。

     ――――◇―――――

奥野委員長 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房総括審議官沖田芳樹君、警察庁刑事局長三浦正充君、消費者庁次長川口康裕君及び法務省刑事局長林眞琴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局平木刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 本日は、特に証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。黒岩宇洋君。

黒岩委員 おはようございます。民主党の黒岩宇洋でございます。

 会期が大幅に延長されるということになりまして、慎重審議が求められるということだと思っておりますので、またこの刑事訴訟法についても丁寧な慎重審議をして、国民への理解を当委員会を通して求めていきたい、そのように考え、きょうは、合意制度等についての質問をさせていただきます。

 せんだって五月の代表質問で、私、この合意制度について、これは余りにもわかりづらい名称じゃありませんかと、このことを上川大臣にお聞きいたしました。そのときに上川大臣は、この名称は、国民が明確なイメージを持てるものと考えておりますと答弁されておりましたが、本気でそうお考えですか。

上川国務大臣 新しい制度が創設されるに当たりましては、その名称についてさまざまな考え方がございます。今回は、合意制度という形で、国民の皆様にも、新しい制度として御理解をしていただくことができるように、また、日本のこの状況の中での取り組みにつきましても御理解いただくことができるように、スタートとして合意制度という名称でお願いをしているところでございます。

黒岩委員 どうもわかりづらいですね。

 いいですか、大臣。大臣は、代表質問の答弁では、国民に明確なイメージができるものと考えておりますと断言したんですよ。今、何か、いただけるようにと言いながら、その後の語尾も、どうも文節もつながっていないんですけれども。

 山谷国家公安委員長、今の議論で公安委員長にお聞きしたいんですけれども、法務大臣はこう答えていますよ、明確なイメージを持てると。要するに、合意制度と聞いただけで、他人の犯罪事実を述べることによって自分の減軽や不起訴などが得られるんだ、こういうことを明確に国民がイメージできるんだと上川法務大臣はおっしゃっていますけれども、山谷国家公安委員長、これは明確に国民がイメージできるとお考えですか。

山谷国務大臣 明確にイメージできていくように、丁寧な審議を重ねていきたいと思います。

黒岩委員 今の答弁は、要するに、できていないということですからね。そういうことですね、できていない。できっこありませんよ。

 大臣も、大臣であると同時に政治家であるわけですから、国民の感覚はわかりますでしょう。この委員会でももう一月近く、総論でも議論をしてきましたよね。合意制度といったって、多くの一般の方に、百人中百人に聞いても、合意制度というのは何だかわかりますかと聞いてわかる人は、私は一人も出会ったことがありません。これは、法律の専門家ですら明確に答えることができない場合が多いんですよ。

 今、いただけるように仮に努力するにしたって、では、法務省として、この合意制度というものが一体どういう制度なのか、どのように理解いただける努力をされているんですか。具体的にお答えください。

上川国務大臣 合意制度の名称及びそれに盛り込まれている内容ということでございます。

 この制度につきましては、一定の財政経済犯罪そして薬物、銃器犯罪につきまして、検察官と被疑者、被告人が、弁護人の同意のもとで、被疑者、被告人が、共犯者等の他人の刑事事件の解明に資する供述をしたり証拠物を提出するなどの協力行為をし、検察官が、被疑者、被告人の事件において、その協力行為を被疑者、被告人に有利に考慮して、一定の軽い求刑をしたり不起訴処分にするなどの取り扱いをすることを内容とする合意をすることができるとするものでございます。

 この骨格につきましては、被疑者、被告人による証拠収集等への協力と、検察官によります訴追とに関して合意をするということでございます。(黒岩委員「大臣、聞かれたことに答えてください。どういう説明をする努力かと聞いているんです」と呼ぶ)

 この法律案におきまして、この制度について規定する章の名称につきましても「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」とし、この法律案の要綱でも使用しているものでございまして、制度の内容につきましては、ただいま申し上げたような内容を端的にあらわすものとして、国民の明確なイメージを持てるものにしていこう、こうした趣旨で合意制度ということを名称としてつけたところでございます。

黒岩委員 済みません、委員長も今お聞きになって、私が大臣にした質問、これは、今言った合意制度というものが、今、中身は説明しました。あれだけ長く説明して、これも、多くの方には、聞いただけではさっぱりわからない。こんな難しいものを、どうやって法務省として一般の国民に説明するような具体的な方策をとっているんですかと聞いた。このことに大臣は全く答えていない。

 委員長、これから、大臣の答弁が我々質疑者の聞いたことに答えていないときには、ぜひ注意を促してください。本当に、無駄な時間をとるだけですよ、大臣。

 私、法務省のホームページも全部見ましたけれども、例えば、合意制度とはとか、説明は一切書いていませんからね。私、ホームページに書いただけで足りるなんて言っているんじゃないですよ。最低でも、ホームページですら全く説明していないんですよ。それで、五月の代表質問のときに、国民に明確なイメージが持てるものと考えておりますと。こんな無責任な言い方はないじゃありませんか。

 我々委員は、この三カ月ぐらい、ついつい合意制度という言葉を使うようになって、ついなれちゃったことも問題ですよ。ただ、与党委員の先生の皆さんも、もう司法取引という言葉をばんばん使っていますよ、普通に。(葉梨副大臣「司法取引よりわかりやすい」と呼ぶ)だから、司法取引の方がよっぽどわかりやすいでしょう。(葉梨副大臣「いやいや、司法取引の方がわかりづらい」と呼ぶ)あれっ、聞いていない人が答弁しているのは、これはどういうことですか。

奥野委員長 ちょっと待って。ダイレクトに答弁してはいけませんよ。

黒岩委員 これは一体どういうことなんですか。

奥野委員長 ちょっと待って。

 黒岩さん、落ちついて。しっかり質問するべきことをしてください。

黒岩委員 取り乱して済みませんでした。

 私は落ちついているつもりですけれども、なぜか、聞かれていない人が不規則に発言し出す。こちらの方が落ちつきがないと私は感じますので、権威ある法務委員会として、落ちつきある質疑と、そして、きょうは大臣が答弁するということになっているので、大臣に答弁をしていただきたいということなんですよ。

 ですから、再度聞きますけれども、これだけわかりづらい言葉ですよ。それに対して、今、どういう具体的な方策で理解を求めているかということに対して、ノー回答でした。ノー回答だったんですよ。国民は、このまま、わからないまま、この制度について、そんなもの、賛否の示しようがない。我々は、国民の代弁者としてこれはできないわけですよ。

 国民への理解を深める具体的な方策を述べてください。

奥野委員長 黒岩君、ちょっと一度、不規則発言をした人に答弁させるのも一つだと思うんですが。(黒岩委員「いやいや、いいです。そんな必要はないです」と呼ぶ)時間がもったいない。そう。

 では、上川大臣。

上川国務大臣 先ほど、この合意制度の内容ということで述べさせていただきました。

 骨格を端的にあらわすこととして合意制度ということを申し上げているところでございまして、被疑者、被告人による証拠収集等への協力と検察官による訴追とに関して合意をするという制度でございます。

 今回、我が国で初めて取り入れる制度ということでございますので、合意制度、そしてその内容については先ほど申し上げました。そしてまた、この委員会におきましても、ただいま黒岩委員からも大変貴重な御質問をいただきましたので、そういったものを内容とする合意制度ということについて、新しい制度としてこの国に定着をさせていく、そのために今御審議をいただいているところというふうに考えております。

黒岩委員 何の答えにもなっていない。

 この審議の中で明らかにするんだったら、では、百時間でも二百時間でもやって、マスコミにも取り上げてもらって、国民が合意制度と耳で聞いただけで、ああ、こういう仕組みなんだなとわかるようにするまで、では、どんどん議論をどこまでもやっていきましょうよ。だって、大臣自身が今言ったように、具体的な方策を全く述べずに、この審議の中でやっていこうと言うなら、では、大いにやろうではありませんか。

 私はもともと、当初の総括的な質問でも、これは日本版司法取引と言った方がまだわかりやすいですよと。そして、法務省の事務方に聞いたときにも、日本版司法取引というものを決して否定するわけじゃない、確かにそういったものであると。ただ、いろいろな国の制度があるから云々かんぬんというような話はありましたけれども、こんなもの、明らかに司法取引ですよ。他人の犯罪事実を告げることによって、自分の減軽だとか不起訴だとか、有利になる、この材料との取引を合意書面で交わすわけですから、これが司法取引でなくて何なんだということですよ。

 そういうような表現を使って、国民に、今一体どういう制度が変わっていくのか、そして、一体国民がどういう利益または不利益をこうむることがあるのか、そういったことを理解してもらわなければ、この刑事司法改革というもの、刑訴法の改正というものは、国民の合意形成のもとにおいてしっかりとなされないであろうということをずっと私は指摘しているんですよ。

 にもかかわらず、明確なイメージを持てるものと考えておりますというような紋切り調の断言を、既に五月十九日の時点でしている。それでは議論が進まないんだということを最初に指摘しておかなければ、せっかく代表質問から一月以上たって、これから内容の吟味をしていく中で、そんな紋切り調の大臣の態度であったら、これは、法改正に対する詳細な中身が外に伝わらないということだけは御理解くださいよ。

 本当に、これで時間をとろうなんという気はなかったんですよ。司法取引という言葉を大臣も使ってください、堂々と。法務当局も、司法取引なんだから、司法取引と使ってください。その方がよっぽどわかりやすくなりますから。

 それで、この日本版司法取引、今、法律上、合意制度となっていますけれども、この合意制度を導入した理由は何ですかと、これはせんだっての当委員会でも質問がありまして、それに対して大臣は大変長く答弁されていたので、これを細部に切りながらお聞きします。

 もちろん、金看板である取り調べと供述調書への過度なる依存からの脱却と言いました。これについては触れませんよ。ただ、この前、参考人質疑でも、こんなことは平野教授の教科書でも三十年前に指摘されているし、もっとはるか何十年も前から刑事司法の問題だと指摘されていると。ですから、刑訴法の改正によって合意制度を導入する理由には、今時点においては、今言った金看板は全くもって時間軸において的外れです。

 そして、その次に大臣はこうおっしゃいました。証拠収集に占める取り調べの比重が低下する、このことが導入の目的であり、導入の理由だと述べました。

 本当に取り調べの比重が低下するとお考えですか。

上川国務大臣 この合意制度の導入の必要性につきましては、重ねて申し上げたいと存じますけれども、取り調べ及び供述調書への過度の依存からの脱却を図るという、今回の刑事訴訟法の一部改正をお願いしている極めて大きな趣旨にのっとりまして、証拠収集手段の適正化、多様化と公判審理の充実化を図るという中におきまして、この合意制度につきましては、主として証拠収集手段の適正化、多様化に資する方策の一つとして必要なものと位置づけられているところでございます。(黒岩委員「聞かれたことに答えてください。低下するのかしないのか」と呼ぶ)

奥野委員長 黒岩委員、黙ってください。

上川国務大臣 証拠収集手段の適正化、多様化を図るということで、その中の一つとしてこの合意制度というものを取り入れていただきたいということでございます。

 その意味では、取り調べと供述調書に過度に依存しているというこれまでの状況から相対化していくということでございますので、比重が下がるというふうに申し上げたところは、相対化するということの中での発言でございました。

黒岩委員 低下するということを改めておっしゃいましたが、大臣、もうちょっとリアルに、現実にこの手続を追って考えていただきたいんですよ。

 大臣の周りには検事もいるわけですから、当然、この制度が現実化すれば一体どういうことが起こるか。すなわち、合意がなされる、合意書面がつくられた後に、これは別件に対する供述なわけですから、これが別件の裁判で、公判でたえ得るものかどうかということを、当該被疑者、被告人に対して、これは別件に対して言えば参考人になりますけれども、この被疑者、被告人に対して合意後も綿密な取り調べを行う、こう言っているんですよ。この後の議論に出てきますけれども、このことによって、引き込みや巻き込み、すなわち虚偽供述を防ぐんだ、こう言っているわけですよ。

 すなわち、少なくとも本件に関して言えば、合意後に綿密な取り調べを確実に行う、そして行うということを法務省としても法務大臣としても答えているわけですから、どう考えても本件に関しては取り調べの比重が下がるとは思えない。増大する可能性があるとしても、取り調べの比重が下がるとは到底思えないじゃありませんか。今の私の説明で、大臣、そう思いませんか。

上川国務大臣 今、合意制度の内容につきまして御質問をいただいた上で、今回の合意制度が導入されることによって、また新たな、そうした供述調書に依存することにつながるのではないか、こういう問題意識の御質問だというふうに思っております。

 この合意制度のもとにおきまして合意が成立した後、その合意に基づきましての被疑者、被告人の取り調べにおきまして供述調書を作成することはあり得ることでございますが、しかし、合意に基づく供述につきまして他人の公判に顕出する方法につきましては、証人尋問が原則であるということでございます。その意味では、供述調書の作成ということにつきましては、この合意制度における不可欠の要素ではないというふうに考えているところでございます。

 しかも、合意に基づく供述を他人の公判に顕出させる場合におきましては、裁判所におきまして警戒心を持って受けとめられるということでございます。その意味では、法廷外の供述であります供述調書につきましては、相対的に重視をされるということではございませんので、そういう意味で、裁判官、当該他人、その弁護人もいる中での、公判廷において何をどのように供述するかという、まさに尋問ということに係る内容が重視されるという趣旨のものであるというふうに考えているところでございます。

黒岩委員 大臣、本当にそんな答弁でいいんですか。反対尋問、要するに、別件の公判にだけ頼る、すなわち直接主義にだけ頼るということは、では、今申し上げたとおり、本件において、合意後に、この合意の供述に対して、虚偽供述ではないかとか合理性があるかとか、こういう取り調べは行わないんですね。

上川国務大臣 今申し上げたことにつきましては、そうした取り調べその他については行わないと申し上げたわけではございませんで、それにつきましては、作成することがあり得るというふうに申し上げたところでございます。

 原則は証人尋問というところで明らかになるということでございます。その間に、合意をした後に、弁護士の立ち会いのもとで合意をするわけでございますので、その内容に即していろいろなことについて聞くということはあり得るというふうに思っております。

黒岩委員 そうでしょう。二転させてもらっては困るんですよ。

 いいですか。前回の國重委員の質問に対して、最後の大臣の文言が、取り調べの比重が低下しますと。これは供述調書だとかなんとか言っているんじゃない、取り調べの比重が低下します、こう言っているんですよ、証拠収集に占める取り調べの比重が低下しますと。これが最後の締めくくりの答弁ですよ。ですから、合意後に取り調べを行う可能性が高いというんだったら、取り調べの比重は本件においては全然低下しないじゃないですか。

上川国務大臣 ただいま質問をしていただきました低下をするという趣旨のところでございますが、これにつきましては、供述調書あるいは取り調べの比重につきまして、さまざまな多様な捜査に影響するということで、相対化するという中の一つとして、新しい合意制度が導入されるということを盛り込んでいるところでございます。

 その意味では、全体の中の、供述調書あるいは取り調べに過度に依存するということについては、相対化するということの中で比重は下がるというふうに申し上げたところでございます。

黒岩委員 大臣、いいですか。私、もっとわかりやすく言いますよ。いいですか、大臣。

 その司法取引というものが用いられたおかげで、合意書面をとる。いいですか。本来、被疑者、被告人は、自分の犯罪についての取り調べを受けるわけですよ。でも、司法取引なるものが存在したことによって、結局は、協議に入って、合意まで行く。その協議においてだって、取り調べの時間も長くなりますし、そして、合意した後に、別件に対する取り調べが行われる。これは、実は行われるに決まっていますよ。それで、行われる可能性があると言っている。

 私、今、一個一個分解しているんですよ。相対的というようなわかりづらい言葉をわかりやすくするために言っているんです。本件の被疑者、被告人においては、司法取引が導入されたことによって、まずは、今言った別件に対する合意前の協議、取り調べが行われますし、合意後に別件の公判にたえ得るための取り調べが行われることを認めたわけですから、ということは、すなわち、取り調べの比重は本件においては下がらない、むしろ上がる可能性があるんですねと言っているんです。これは事実でしょう。認めてくださいよ。(葉梨副大臣「別件については参考人だろう」と呼ぶ)

上川国務大臣 私が申し上げた、低下を相対的にというお話の中での御質問ということで、細かく分解してというお話でございますが、今、合意制度ということに絞って御質問があったということでありますので、その意味で申し上げたいというふうに思うわけでありますけれども、この合意制度につきましては、他人の公判に被疑者、被告人の供述を顕出するに当たりまして、供述調書を重視するということよりも、証人尋問を中心とした形での制度であるということでございます。

 その意味では、取り調べ及び供述調書への過度の依存というところを改める、そういう法律案の趣旨にも合致するものであるということでありまして、合意制度におきましても、そのように過度に依存するということがなく、また、供述調書よりも証人尋問中心の制度であるということにつきましては、御理解をいただきたいというふうに思っているところでございます。

黒岩委員 先ほど不規則発言で、参考人と。そうですよ。この被疑者、被告人は、別件からすれば参考人ですよ。

 私の言いたいのは、参考人であろうが本件の被疑者、被告人であろうが、取り調べを受けることには変わりはない。取り調べの時間も、相対的という言葉をまた総合的と置きかえてもいいですけれども、取り調べの比重は高まるんですよ。そうですよね。今の本件の取り調べの最中に、別件の参考人取り調べを受けるわけですよ、この被疑者、被告人は。そのことを大臣は認めているわけですから。

 ということは、相対的という言葉でもいいですよ、総合的という言葉でもいいですよ、今言った公判、別にA公判でもB公判でも、参考人でも被疑者、被告人でもいい、刑事司法において取り調べの比重が低下すると言ったんですから。私は、今言ったように、分解をして、本件の被疑者、被告人が、第三者の公判に対する参考人としても、取り調べについては時間も比重も高まるんでしょうと。今、大臣も明らかに、合意後ですら取り調べはあるということを認めたわけですから、比重は下がるどころか、取り調べは、比重が高まる可能性の方が高いんじゃないですか。

上川国務大臣 全体のバランスの中で、さまざまな客観的な証拠を得るために、捜査手法につきましても多様化していく、こうした流れの中で、過度に供述調書また取り調べに依存する、そしてまた、追及的な取り調べによって無実の方に対してそうではない発言を強いてしまうというようなことから脱却するということの中で、相対的にさまざまな捜査手法を取り入れていこう、こういう趣旨で提案させていただいているものでございます。

 合意制度の考え方につきましては、先ほど申し上げたように、あくまで、供述調書を重視する、そしてまた、そういう中で追及的な供述調書をつくり上げるというようなことではなく、証人尋問を中心とした形で事実を明らかにするという趣旨でございまして、そういう意味で、低下をするというふうに、その件につきましては申し上げたいというふうに思っております。

黒岩委員 全くかみ合わないお答えばかりいただくんですけれども、だったら、聞きますよ。では、さっきは本件のことを聞きましたから、今度は別件を聞きましょう。別件が参考人の反対尋問で、まさに直接主義に移行していこうと言っていますけれども、では、この別件の被疑者、被告人、この第三者、この人間に対する取り調べは比重が低下するんですか。

上川国務大臣 その別件の裁判、公判のケースについては、合意制度で参考人として証人尋問があるような状況というのはいろいろあろうかと思いますが、その裁判におきましては、取り調べあるいは供述調書に過度に依存することがないようにしていくということが趣旨でありますので、連携して考えるという御質問ではあるかと思いますが、ちょっとよく御質問の趣旨がわかりかねるので、もう一度、どういう趣旨、意味なのかということも、大変貴重な時間で恐縮ですけれども、よろしくお願いしたいと思います。

黒岩委員 せんだっての國重委員の質問に対して、この司法取引の制度を導入する理由は何ですかと言ったときに、大臣の答弁では、本件とか別件とか全く触れずに、最後、証拠収集に占める取り調べの比重が低下することが理由です、こうおっしゃられたので、私は、本件の場合も別件の場合も一つ一つ分解して、取り調べの比重が下がるんですかということを聞く、その第一段階として本件について聞きました。

 では、今言ったように、司法取引の導入によって、別件の捜査の証拠収集において取り調べの比重が低下するんですかということをお聞きしているんです。

上川国務大臣 主人公が誰かということによって取り調べの比重についての評価というのも少しスタンスが変わるかと思いますけれども、全体として、さまざまな捜査手法を駆使して、供述調書あるいは取り調べに過度に依存しないようにしていく、そして追及的な取り調べから脱却していくということにつきましては、この合意制度も、捜査手法の一つの新たな客観的な証拠ということも可能性があるということであります。そういう意味で、相対的に取り調べへの過度の依存ということについては低下するというふうに申し上げたところでございます。

黒岩委員 大臣、いいですか、新たな捜査手法の導入、この主体は別件を指すんですよ。別件の捜査をするときにおいて、今言ったように捜査・公判協力型というのは第三者型ですから、この第三者型、連携するに決まっているじゃありませんか。

 今、私、別件と言いましたけれども、別件からすれば、ここを本件にするとこっちが別件ですよ。この別件での合意書面、司法取引、このことによって、この本件における捜査、公判において司法取引が導入されることによって、本件の捜査、公判がスムーズにいくであろうということを想定して新たな捜査手法を導入するわけですから、新たな捜査手法ということに対しての主体は、今言った別件なんですよ。だから、連携するのは当たり前じゃないですか。

 ですから、私は、取り調べの比重が低下するという大臣の答弁の主体は別件だと理解しておったんですよ。でも、本件でもふえるかもしれないからまず本件の方から聞きましたけれども、本来は、別件の取り調べの比重が低下すると言うならば、その根拠をお聞きしたい。

 なぜこう言うかというと、そもそも、この合意書面自体に信用性が低いから裏づけ捜査もしなきゃいけない、こんなことばかり言っているわけですよ。ですから、そんな状況において、本当に別件の被疑者、被告人に対して取り調べをしなくていいとか、そんなのだったら単なる職務怠慢だし、警察も検察もしっかり取り調べをしますよ。合意書面が出たからといって、では、警察も検察も取り調べをしない、今までよりも比重が低下するなどということが、リアルに考えて、捜査の現場としてそんなことがあると思いますか。

上川国務大臣 今、本件と別件、そして別件が本件になるケースということでありましたけれども、まさに、別件が本件になるケースにおきましては、その被疑者、被告人の取り調べにおいては、客観的な証拠そのものが、公判の尋問という形で、どこまで任意性が保たれるか、いろいろな形で反対尋問するわけでありますが、その限りにおいても、本件の被疑者、被告人からすると、本件の被疑者、被告人に対してなされる取り調べと供述調書に過度に依存するというところからは少なくとも相対化するということでありますので、低下するというふうに考えていいのではないかと思います。

黒岩委員 大臣、さっきの、合意制度という名称も明確にイメージできると強弁したり、そして今も、取り調べの比重が低下すると答弁書をそのまま読むとか、私は、もっともっとリアルに、この制度が導入されたときに一体どうなっていくのか、そういった物事を積み上げてきちっと答弁をしてもらうのがこの委員会の、私は、代表質問は総括的でしたよ。そして、委員会も総括質疑です。今は違うんですよ。この合意制度、司法取引なるものを、綿密に精緻に、一体どういうものになっていくのか、どういう問題があるのか、そういうことを大臣としてきちっと説明するのが、さっき大臣が、この司法取引というものをこの議論の場で国民に理解してもらうと言いながら、私が質問したことに対して、私はかなりかみ砕いて質問しているつもりでありますけれども、答弁が抽象的なものでしかない。

 しかも、今言ったように、取り調べの比重が低下する。本当に私、国家公安委員長も聞いていますけれども、警察や検察が、今言うところの別件の取り調べ後、ではやめます、それはしませんなどということはあり得ないということは強く指摘しておきますよ。

 大臣はまた、導入の目的に続いて、こういう答弁もしています。

 今、犯罪が複雑化し組織化していく、こういう中にあって、なかなか供述が得られない、そのことによって組織犯罪の首謀者までたどり着けないということが、今回この司法取引を導入する目的であり根拠である、そのようにも答弁をされております。

 これは、言いかえれば、結局は、供述がとれない、首謀者までたどり着けない、これは明らかに真相解明機能が低下しているということが理由だとおっしゃっているわけですけれども、大臣、その真相解明機能が低下しているという客観的な事実、客観的なデータをここでお示しいただけますでしょうか。

奥野委員長 そういう質問は大臣では無理だと思いますけれどもね。(黒岩委員「局長でいいですよ」と呼ぶ)

 基本的にあなたの質問というのはミクロの質問ですよ。それから、答弁はマクロの質問……(黒岩委員「私は政府参考人の登録も認めたんですけれども、法務省の方から、なぜか知らないけれども、局長は答弁しないですねときたものだから。局長の答弁は私は何にも否定していませんから」と呼ぶ)

 だから、今の質問である限りは、僕は局長の方が妥当だと思いますから、局長に答弁してもらいます。

 林局長。

林政府参考人 昨今の捜査におきまして、例えば振り込め詐欺の事案等におきまして、出し子と呼ばれる、被害者から振り込まれた現金を金融機関等のATMで引き出す役、これらを逮捕しましても、自己の属するグループや他の共犯者の関与状況等については供述しない、そのようなことから、より上位の逮捕、起訴に至るケースというものが非常に限られたものになっている、こういったことがこれまでの事案の中でうかがわれているところでございます。

 また、実際に、取調べに関する国内調査結果報告書の中におきましても、近時、組織の全体の解明も含めまして、被疑者から真実の供述を獲得することが困難になったと考えるかどうかということについては、非常に多くの者が、困難になった、そのように述べているところでございます。

黒岩委員 だそうですね。これは別に、客観的なデータというよりは、主観的なデータです。検察官にアンケートをとったら、供述が引き出せなくなったと。ということは、真相解明機能の低下なんという言葉は、非常に格好いい言葉ですけれども、それは捜査能力の低下を示しているんじゃないんですか。

 だって、局長、大臣、この何十年の間で、犯罪というのはどんどん複雑化してくる、どんどん組織化してくる、そして供述はどんどん得られなくなってくる。でも、そこを、いろいろな知恵で供述を得たり、また、得られない部分は客観的、科学的な捜査で補って、捜査能力全体を向上させることによって、複雑化、組織化する犯罪に今まで対応してきたわけでしょう。でも、それが今、できなくなった。検察官のアンケートによったら、供述が全然得られなくなったと。これは捜査能力の低下ですよ。

 では、今回の合意制度の導入の目的、理由は、まさか、捜査能力が低下したから、そのことを認めて導入するというわけではありませんよね。まさか、捜査能力の低下が今回の立法事実であるとは言いませんよね。大臣、お答えください。

上川国務大臣 そもそも、合意制度を含めまして新しい制度を導入するという趣旨につきましては、重ねて申し上げますが、取り調べ及び供述調書への過度の依存から脱却を図るということでございまして、特に合意制度につきましては、証拠収集手段の適正化、多様化に資する方策の一つということでございます。

 先ほど局長からも答弁がございました、組織的な犯罪につきましては、真実の解明につきまして、末端の実行者など組織内部の者から供述等を得なければなかなかその真相を究明するのが困難であるということでございます。

 取り調べが主な手法ということで現行法のもとでは対応しているわけでございますが、ほかに有効な手段がなかなかない中で、それでも現場の中で努力をしているところではございますが、しかし、供述調書とか取り調べに過度に依存すると、真相究明のところにさらにまた過度の負担をかけていって、結果としてまた非常に問題が生じ得るということ、悪循環になってしまうということがあります。

 そのところから脱却をする一つの新しい制度として合意制度ということを設ける中で、末端の実行者ではなく本当の首謀者というところにいかに真相究明を図る手だてがあるのかという中に、合意制度につきましては、大変貴重な方法として新しく今回お願いするというところでございます。

黒岩委員 大臣、私は、なぜ今なのか、そしてなぜ司法取引なのかということが、国民がすとんとわかる、ああ、今だ、ああ、どうしても司法取引だと理解を得ていただかなかったら、第三者型の司法取引制度を導入するわけですから、冤罪や引き込みの危険性、この後議論しますけれども、そういった不安を払拭できないわけですから、それを端的にお答えいただきたいということで、こんな質問でこんなに長い時間をとる気はさらさらなかったですけれども、全くもって、耳で聞いただけでも、多分、答弁書を読んだだけでも、一般の国民の方にはなかなかわかりづらい。こんなやりとりを繰り返しているようでは、とてもとても、なぜ今なのか、なぜ司法取引が必要なのか、このことを国民に理解していただくことは大変難しいということを御指摘させていただきます。

 そこで、この合意制度、司法取引、非常にわかりづらい制度で、幾つかの類型に分かれますよね。まずは、自分の、まあ、この場ですからもう端的にいきましょう、自己負罪型と他人型。

 最初の質問はこうしましょう。

 我が国は、他人型だけを認める、自己負罪型を認めない司法取引ですけれども、他国においてこういうような制度を法制度上とっている国はあるんでしょうか、お聞かせください。

林政府参考人 外国の制度につきましては、委員指摘の自己負罪型というものと他人の捜査・公判協力型というもの、これを併存して認めている国が多いと考えております。

黒岩委員 局長、端的に答えてください。

 法務省が承知されている中で、今言ったように、自己負罪型は認めない、他人型だけの司法取引、捜査・公判協力型だけを認めている国というのはあるんですか。あるかないかだけでお答えください。

林政府参考人 網羅的に承知しているわけではございませんが、アメリカにつきましては、自己負罪型と捜査・公判協力型、両方がございます。それから、イギリスについても、明文上の規定があるかどうかは別にしまして、その両方が存在すると考えます。ドイツにつきましては、自己負罪型が専らであろうと承知しております。

黒岩委員 ですから、承知している範囲では、ないんですよ。他人型だけを認めている司法取引制度というのは、世界じゅう、今のところ、法務省が国際比較でいろいろ調べた分厚い文献も私も見させてもらいましたけれども、ないんですよ。

 そこで、お聞きしたいんですけれども、大臣、何で我が国は、今言った他人型、第三者型、すなわち、第三者の引き込み、巻き込み、冤罪の可能性があり得る第三者型だけを導入するんですか。教えてください。

上川国務大臣 今回初めて我が国に導入する制度ということでございまして、捜査・公判協力型と自己負罪型ということでございます。

 この捜査・公判協力型につきましては、主として組織的な犯罪等の解明を目的としているものでございますし、また、後者につきましては、主に事件の処理の効率化を図るという趣旨で導入しているということでございます。

 我が国の刑事司法制度につきまして、先ほど申し上げたように、検察官と被疑者、被告人がやりとりをした上で合意をしていくという制度でございます。この協議、合意の要素を有する手段ということで、今回初めて取り入れられるということでございまして、証拠の収集方法として特に必要性が高いと考えられる捜査・公判協力型の制度をまず導入するということが相当ではないかということでございます。

 また、自己負罪型の制度につきましては、この捜査・公判協力型の合意制度を導入した上で、その運用状況等も踏まえつつ、必要に応じて、そのような制度そのものが我が国の刑事司法手続におきましてどのような影響を与え得るかということも十分に見きわめながら検討を図っていくということで、段階的な検討の上での提案ということでございます。

黒岩委員 私は、当委員会の大臣所信の質疑からも、もともと、この刑事司法改革、刑訴法の改正の入り口の話をずっとしてきました。これは、検察の不祥事、証拠改ざん、冤罪事件、こういったものを防ごうというところからスタートしたわけですから、当然、自己負罪型とて冤罪の余地は大いに残すわけですよ。それは残します。ただ、少なくとも自己負罪型でしたら、私は別に自己負罪型を積極的に認めているわけではありませんが、ただ、自己負罪型でしたならば、少なくとも第三者を巻き込むことはないわけですよ。

 しかし、今言ったように、冤罪防止を主な柱としながら刑事司法改革を進めている途上でありながら、我が国で初めて司法取引を導入するに際して、第三者を巻き込む可能性のある第三者型から導入するというのは、私は余りにも不合理ではないかということを強く指摘しておきますよ。これは誰もが納得すると思いますよ。世界に例を見ない、言葉は悪いけれども、第三者を、他人を売る制度から入る。冤罪防止が目的の柱であった刑事司法改革のその一つの制度である司法取引が、第三者、他人を売るという制度から入るということは、これは、国民において到底納得できないものだということは強く指摘をしておきます。

 では、合意制度、司法取引について、これは逐条審査でありますので、この類型について、詳細についてもう一点お聞きしましょう。

 この第三者型も、大きく分けると二つに分かれます。一つは共犯型。これは、法文上共犯というものもありますし、自己に関連する犯罪というくくりでもいいでしょう。いわゆる共犯型と、自己の犯罪とは全く関係ない完全他人型、赤の他人と言ってもいいでしょう。赤の他人の犯罪事実を告げることによっても自己にとって利益を得るという司法取引という二つの類型があります。

 林刑事局長、聞きますよ。国際的なところですよ。世界において、この共犯型に絞った第三者型司法取引制度を導入している国はありますか。

林政府参考人 捜査・公判協力型という制度の中で、共犯者に限っているかどうか、そういう制度があるかどうかについては承知しておりません。

黒岩委員 平成二十三年でしたかね、法務省が編さんした録音、録画に関する国外調査報告書によりますと、これは地域でありますけれども、台湾で共犯に限る制度というものが存在しておるということになっています。

 また、近時の刑法学会での論文によりますと、昨年の論文でありますが、ドイツにおいて、王冠証人制度、この制度というのは本当にわかりづらいのでもう説明しませんけれども、王冠証人制度という中において、もともとは完全他人も含まれていたけれども、やはり責任主義を貫徹するという意味において、近年、法改正が行われ、これは刑法の中であって刑事訴訟法ではありませんが、刑法の中において、ドイツにおいては、自己の犯罪に関連する事件のみに限って司法取引ができる、そういう制度があるということを私は承知しております。

 そこで、お聞きしたいんですけれども、一つの考え方として、今申し上げた、赤の他人ですよ、全く知らない他人でも、その犯罪事実を告げることによって自分が不起訴になったり減軽されるという、これは、今、司法取引というものを我が国に初めて導入するにしては、余りにも冤罪等のリスクが高いと私は考えるわけです。くどいようですけれども、司法取引自体を積極的に認めるわけではありませんが、第三者型を導入するとすれば、今申し上げた、自己の犯罪に関連するもののみに限って司法取引ができる、こういう制度にする考え方というのは我が国においてはございませんでしょうか。大臣、お答えください。

林政府参考人 被疑者、被告人が証拠を提供することができる他人の刑事事件というものについては、やはり共犯者の事件である場合が多いとは思われますけれども、必ずしもそれらに限定されるわけではございません。他人の刑事事件について重要な証拠となるべき情報を提供する場面はさまざまであろうと考えられます。

 そして、その場合にどの程度の関連性を要求するのかといった場合には、その中身を規定することが必要になると考えられますけれども、この協議・合意制度が有効に機能し得る場面を過不足なく的確に定めることは、事柄の性質上、極めて困難であろうかと思います。そのために、今回の制度におきましては、解明の対象となる他人の刑事事件については、関連性という形での限定を加えておるわけではございません。

 もとより、全くの無限定ではございませんで、他人と、今回の本人、協議、合意の対象となる者がいずれも特定事件と言われる対象事件に該当していなければ、範囲としてはこの制度は使えませんけれども、その限り以上の関連性を限定しているものではございません。

黒岩委員 林局長、本当に、もっとわかりやすく御答弁いただきたいんですよ。

 それで、私は今、あえて類型を幾つか分解してここで議論をさせていただきましたけれども、初めて司法取引というものが我が国に導入されるわけですから、私は、非常に謙抑的な制度であるべきであるし、慎重な制度であるべきだと考えております、仮に導入するにしても。

 ですから、今の説明を聞く限り、私がいろいろな案を提案したにもかかわらず全てそれを否定されるようでは、そのような原案では、私は国民の理解は到底得られないと考えております。その点については、提出した政府として、法務省としても、これからの議論の中でも大いに検討していただきたいと思います。

 この類型については大変重要な点でありますから、私は今後も大きく議論を喚起していきたいと思っておりますので、その点は御留意をいただきたいと思います。

 それでは、かなり時間が限られてきたので、本来、最も私の聞きたかった、引き込み、巻き込み、いわゆる第三者の冤罪を引き起こす可能性が司法取引においてはある。これは、現実に今導入されている国でも冤罪に巻き込まれたという事例は幾つもあるわけですから、当然、我が国においてもその可能性がある。この危険性については、この委員会においても多数の委員から指摘をされてまいりました。

 そして、その防止策、抑止策として、私の代表質問においては、大臣は大きく分けて三つおっしゃいましたね。一つは弁護人の関与であると。これは、三百五十条の三に、合意においては弁護人の同意を必要とするものとするとあるわけです。そして二つ目は、これは先ほどからも議論になっていますけれども、別件、他人の公判において、その合意に至るまでの供述がオープンになる、そのことによって信用性の吟味が非常に厳しいものになるということが二点目でありました。三点目は、虚偽供述罪の導入、これが抑止、防止策になる。この三点をおっしゃられました。

 これを、時間の限りにおいて一点一点お聞きをしていきたいと思います。

 まず一点目、弁護人の関与ですけれども、弁護人は、その被疑者、被告人、クライアントの協議における供述が虚偽でないのか、合理性があるのかどうか、一体どういった基準と材料で判断することができるんですか、教えてください。

林政府参考人 基本的に、弁護人がこの協議、合意に関与するということにつきましては、あくまでも、まず当該被疑者、被告人の利益を守るためでございます。その限りにおきまして被疑者、被告人の協議、合意にかかわるわけでございますけれども、弁護人といたしましても、合意するまでの間に被疑者、被告人から、合意した場合にどのような供述をすることができるのかということについては、当然十分に話を聞くこととなります。その過程でその内容に不信を抱いた場合には、弁護人としましても、職業倫理上、当然それを指摘することになろうかと思います。

黒岩委員 要するに、判断の材料と基準は十分に話を聞くということですよね。事前に法務省の事務方に聞いたときも、答えは、十分に話を聞くということだけでした。

 これを検察側から見ると、では、いざ協議がスタートした、そして合意に至るまでの時間がどのくらいかかるのか。これは一つの予測でありますけれども、数日では無理だろうと。要するに、しっかりとした裏づけ捜査をしなければ、合意に至る、司法取引が成立することはない、最低でも一週間以上かかるということでありました。検察の組織力と捜査権限をもっても、これだけの時間がかかる。

 一方、弁護人は、複数の事件を抱えながら、時間的な制約があります。そして、巨大な組織力はありません。ましてや、捜査権限もありません。そんな中で、被疑者、被告人の供述が虚偽であるのかどうか、合理性があるのかどうか、その真偽をしっかりと確かめる材料と基準がないということが今の局長答弁からもおわかりになったと思います。

 そして、これは何度も繰り返してきましたけれども、そして今、林局長もおっしゃいましたけれども、弁護人というのは、自分の依頼主である被疑者、被告人の利益を考えるのが本旨であるわけです。そう考えた場合、別件の第三者の利益というものは直接考慮する必要はないわけですから、被疑者、被告人にとってこの司法取引が有利であるなら、この協議が有利であるなら、そして結ばれるであろう合意が有利であるならば、当然、それをとめる、抑止する、防止する動機づけが低いわけです。

 この二点において、本当に弁護人の関与というものが、私はもちろん弁護人が関与した方がいいと思っていますよ、ただ、相当なる決め手となるほどの、今言った防止策、抑止策になると、今の説明を聞いて大臣はそれを断言できますでしょうか。お答えください。

上川国務大臣 先ほど局長が答弁をしたとおりでございまして、ここは、よくよく協議をしていくという過程の中で、さまざまな話し合いを検察官と被疑者、被告人あるいは弁護人との間でするということもありますし、被疑者、被告人と弁護人との間でするということもありまして、ケースによっては時間がかかるかもしれませんけれども、そうした協議そのものが非常に大事なプロセスということになるわけでございます。

 十分に話を聞き、そしてその内容に不信を抱いたということになりましたら、職業倫理上それを指摘するという、こうしたプロセスの中で適切にこの制度そのものも推進していくということが大事でありますし、そうした過程の中で、巻き込み防止ということにつきましても、このリスクについてしっかりと何重もの制度で担保していくということが必要ではないかというふうに考えております。

黒岩委員 今のやりとりで大体皆さんおわかりになったと思いますけれども、今、司法取引という、新しく始まるかもしれない特殊な制度について議論しているわけですね。私は、虚偽供述だとか、そしてさらには冤罪というものが、多数、頻繁に起こるということを想定しているわけじゃありませんよ。ほんのわずか、そして一でもあってはいけないための抑止、防止策として何があるんですかと聞いたときの三つの柱のうちの一つであったわけですから、この柱がどれほど有効に機能するんですかと。

 そして、今の答弁で、それは別に、この合意制度、司法取引にかかわらず、弁護人というものが被疑者につけば、被疑者の利益のために法律の専門家として十分に話は聞くでしょうし、なるべくその利益のために法律的な助言はする、これは当たり前のことであります。ごくごく当たり前のことが、この司法取引という殊さら特殊な制度、そして新たな冤罪をわずかでも生む可能性が現実に世界である、この制度の抑止策として特段の効果があるかというその質問に対して、何ら特段の理由づけがなかったということは御理解をいただけたと思います。

 そして、さらに私、非常に不可思議なのは、今回の法律を読みますと、三百五十条の四のただし書きに、弁護人、被疑者、被告人に異議がないときには、協議の一部を、弁護人抜きで、検察官と被疑者、被告人で直接司法取引を行うことができるとする条文がただし書きにあります。

 このただし書きはなぜ必要なのですか。教えてください。

林政府参考人 この三百五十条の四につきまして、ただし書きで、異議のないときにはいずれか一方のみとの間で行うことができるとしていることの趣旨でございますけれども、例えば、この協議につきましては、被疑者、被告人と弁護人と検察官の三者で行うわけでございますけれども、一つには、法律的な事項というようなことを中心として行う場合に、検察官と弁護人との間で協議を行うということがございます。異議がないときにはそういう形ができるようにするための条文でございます。

 また、一つには、弁護人におきましても、緊急な場合に席を外さざるを得ないような状況がある。こういったときに、短時間であっても必ず弁護人が協議から外れてはならないというふうにする制度とするのは余りにも硬直的であろう。

 そういうことで、その両方の理由から、異議がない場合には、このいずれか一方のみとの間で行うことができるとしているものでございます。

黒岩委員 今お聞きくださって、後段の部分、皆さんよく御理解されたと思います。要は、弁護人がちょっと退席する、こういうときのためにわざわざ三百五十条の四のただし書きがあるんだそうですよ、ちょっと退席するために。そのときに、法律の専門家である検察官と被疑者、被告人だけで司法取引を行うことができるという条文になっています。

 ちょっと聞きますけれども、協議の一部という文言がありますけれども、この一部とは一体どこまでの範囲を指すのか、これもお答えいただけますでしょうか。

林政府参考人 この一部といいますのは、仮に異議がないとしても、協議の全体におきまして一方が欠けているというふうなことを防ぐためのことでございます。したがいまして、一部の範囲がどれほどなのかについては限定はございません。

黒岩委員 そうなんです、限定はないんですよ。多分、日本語上、一〇〇%ではないという意味なんでしょう、一部というのは。ですから、九九・九%でもいい。ですから、どんな司法取引も、弁護人抜きで、検察官と被疑者、被告人が行えるというただし書きが含まれているんですね。そういうことなんですよ。今の局長答弁でも御理解いただけましたでしょう。

 そこで、引き込み、巻き込みの大きな抑止、防止策として弁護人の関与だとあそこまで強調しておきながら、今申し上げた、ちょっと弁護人が退席するときだけのために、ほとんど全ての司法取引が弁護人抜きで行われてしまう。これは、引き込み、巻き込みの抑止策、防止策として弁護人の関与だとあれだけ強調してきたことと完全に矛盾するんじゃありませんか。これは大臣お答えください。

 いや、これは大臣ですよ。大臣、お答えください。

奥野委員長 ちょっと待ってください。今、刑事局長が答弁をずっと続けているんですから、まず、もう一回、刑事局長。

林政府参考人 まず、先ほど来の三百五十条の四のただし書きは、弁護人がいないときだけを想定して規定しているものではございません。いずれにしても、いずれか一方のみとの間でできる場合を想定したわけでございます。

 その上で、この場合には、被疑者、被告人及び弁護人の双方に異議がない場合のみに一方のみとの間で行うことができるわけでございまして、いずれかの異議がある場合、すなわち、こういった状態、一方のみで行うことに同意しない場合については、必ず三者で協議を行わなくてはいけない規定になっております。

奥野委員長 ちゃんと説明してくれたわけです。どうぞ。(黒岩委員「いやいや、大臣お答えください」と呼ぶ)

 では、大臣、何か追加で言ってください。(黒岩委員「矛盾しないのかということに答えてください」と呼ぶ)

上川国務大臣 この刑事訴訟法の第三百五十条の四でありますが、原則は、検察官と被疑者、被告人及び弁護人との間で行うということでございまして、そして合意をする場合においても必ず弁護人の同意が必要である、こういう制度になっております。制度上、原則として三者のもとで合意が行われる、また協議が行われる、これがこの法律の趣旨でございます。

 先ほど局長から、例外のただし書きということでございましたけれども、その場合におきましても、それは合意のもとでなされるということでございますので、だからといって、先ほど委員の方から、九九%もそれに該当するのではないかと。これはまさに、全体の趣旨として原則としてでございますので、例外につきましても、三者の合意のもとでこの例外が認められるということでございます。例外中の例外ということでございます。

奥野委員長 時間が来ていますから、短く言ってください。

黒岩委員 大臣、ちゃんと理解してください。いいですか。九九%、こんな例外があると言っているんじゃないんです。協議の内容というのは、一部と言いますけれども、では一部とは何を指すんですかと言ったら、それは、一〇〇%ではありません、どんなことも司法取引していいですよという意味で九九%と言ったということは、誰もが理解しています。大臣、ちゃんとそれは御理解ください。

 それで、本来だったら、弁護人がちょっと退席しますというときに、被疑者も、では私は異議がありますとはなかなか言えないですよ。ちょっと退席するということを例外で認めるんですよ。だから、私は、この三百五十条の四のただし書きなんというのは削除するべきだと思います。

 しかし、今、政府の提案としてこのただし書きが出されているということは、私はこれは改めて強調しますよ、今言った弁護人の関与、同席というもの自体にそんなに重要性を置いていないということの証左ですよ。皆さん、そう思いませんか。あれだけ弁護人の関与が抑止だと言いながら、ただし書きで、弁護人がちょっと席を外すときには弁護人がいなくてもいいというこの法律の法文そのものが、弁護人の関与が引き込み、巻き込みの抑止策に大きな大きな重要性を与えていることではないということを、法文が既に語っているじゃありませんか。

 まさに語るに落ちるということはこのことで、こんなただし書きがあるということは、今言った一本目の柱がいかに引き込み、巻き込みの抑止策にならないかということを指摘して、残念ながら時間ですので質問を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

奥野委員長 委員に申し上げます。

 時間はきっちりと守っていただきたい。発言内容は自分の趣旨を言っていただいて結構ですけれども、時間だけは守ってください。

 次に、鈴木貴子君。

鈴木(貴)委員 皆さん、おはようございます。黒岩先生に引き続きまして、質問に立たせていただきます。

 今の議論も聞きながら、改めて思い返したのが、上川法務大臣そして山谷国家公安委員長の就任の際の記者会見といいますか所信の中で、「世界一安全な日本」創造戦略、このために政府一丸となって頑張っていくという御趣旨のお話をそれぞれ両大臣がされていたかと思います。

 私も、もちろん、世界に誇る安全な国日本というのは、オリンピックなども控えているという点から考えても、そういった目標を掲げるということは非常に重要だと思いをともにしているところであります。その世界に誇る安全な国というのには、もちろん、法秩序の維持であるとか、犯罪自体を未然にいかに防いでいくか、水際対策をいかにとっていくか、そしてまた人権の保障など、さまざまな観点がある、このように思います。

 そこで、両大臣にお尋ねをさせていただきたいのですが、共通の思いを持っているかという確認をさせていただきたいと思っているのですが、その世界に誇る世界一安全な国日本、それを完遂するためには、間違った、不当な、もしくは違法な捜査などで無実の人間の人権を侵害してはならない、そういった思いも御趣旨の中には含まれているんでしょうか。

上川国務大臣 所信の中で世界一安全な国日本ということで、私たちの日本がこれまで大事にしてきたもの、あるいはこれからさらに大事にしていかなければならないもの、これは、命をしっかり守る、そして、自分の人権も尊重していただくわけでありますので、当然、お互いに、ほかの方の人権も尊重するあるいは大切にする、そうした意識そして行動がある社会づくりということ、こういったことが層のように厚くなってこそ初めて安全、安心な社会が実現するというふうに思います。

 一〇〇%、先ほどおっしゃった言葉ではないんですが、それに向かって努力をしていく、その気持ちを結集していかなければその実現もあり得ないということでありますし、また、先ほど委員が御指摘いただいたように、無実の方を間違ってというようなことはあってはならない事態でございますので、まさに今回の刑事訴訟法の改正につきましても、そうした大きな事態があったことを受けてのさまざまな御検討を長い間していただいた上で、捜査あるいは供述調書に過度に依存しないということの中で導き出された大変大きな知恵ではないかというふうに思うところでございます。

 今の御指摘も含めて問題を共有しているところだというふうに私は考えているところでございます。

山谷国務大臣 警察といたしましては、安全、安心な国日本のために、日々、真相解明に向けて、また能力の向上に、使命感を持って努めているところであります。

 安全、安心というのは生活の基盤だというふうに思っております。冤罪等々、そのようなことがあってはならないわけでありまして、国家公安委員会委員長といたしまして、刑事司法制度の役割の重みや、また適正捜査の重要性について思いを深くし、また、先生方の御意見、御審議をお聞きしながら、そうした構えを向上させていきたいと思っております。

鈴木(貴)委員 非常に丁寧な御答弁をいただきました。また、共通認識を持っているということを確認させていただいたかな、このように思っております。

 今、両大臣の答弁の中にも、やはり無実の者を罰してはいけない、冤罪等々あってはならない、そういったことをはっきりとおっしゃっていただきましたし、また、それがまさに今回の刑訴法一部改正案、これの一つの柱、さまざまある柱の中で大きな要素を占めているということも、これまでの委員会の答弁でも確認をさせていただいたと思っております。

 そこで、先ほどの黒岩議員の質疑を私も聞いておりながら、改めて上川大臣にお聞きをしたいんですけれども、なぜ、今回の証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等という言葉に、言葉はあれかもしれないですけれども、そこまで固執をし、司法取引という言葉を使えないのか。

 司法取引という言葉を使わない、使えない理由が何かあるのであれば、教えていただけないでしょうか。

上川国務大臣 今回、我が国におきまして初めて導入をする、新しい制度の創設になるところでございます。

 制度そのものを短い言葉であらわしていくというのは、刑事訴訟の手続の中でも大変難しいことであるし、また、目的から始めて最後まで全て言い尽くすということになりますと、極めて長い文章になろうかというふうに思います。その部分を端的に示す言葉として合意という言葉を大事にしていく必要があるのではないかということで、今回、合意制度、そういう短い略称で申し上げているところでございますが、先ほど来の御議論もございました、既にさまざまな国において導入されているさまざまな形の類似の制度があるわけでありますが、どれ一つとして、それを比較して、同じものがあるということではありません。

 そういう意味では、その名前は、ある意味では、過去もう既に取り入れられている国においては流布している、そういう名称かもしれませんが、逆に言うと、そういうものとすぐに日本の新しい制度そのものをつなげて考えていくということについては、私はそこは慎重であるべきではないかというふうにも思うところであります。

 まさに合意制度の中で、今回、形づくっている制度そのものを丁寧に皆さんに御理解いただく、そして、その中で第一段階の運用をさせていただくということ、しっかりと検証しながら、またさらにそれに向かってそうした検討もしっかりとしながら続けていくということ、あるいは改正していくということ、こうしたことをスタートする一番初めの制度になるということでありますので、そういう意味では、キーワードであります合意ということをこの制度の名称にしたところでございます。

鈴木(貴)委員 今、非常に御丁寧に答弁をいただいたんです。合意という言葉がキーワードということは、私も、今大変御丁寧に説明をいただいたと思います。

 私が伺いたいのは、司法取引という言葉を使わない、使えない理由なんですね。そこをもう少し端的に答えていただくことが可能であれば、もう一度御答弁よろしいでしょうか、大臣。

奥野委員長 林局長。(鈴木(貴)委員「だったら結構です」と呼ぶ)質問しているんだから、答えます。

林政府参考人 今回は協議・合意制度というような呼称で説明をさせていただいておりますけれども、条文でいけば、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意ということが、これが正式な制度の名前でございます。要するに、協力という部分と合意というものが入って、この証拠収集等への協力及び訴追に関する合意というもの、これが正式な法律上の制度でございます。

 その上で、ではこれは司法取引なのかどうかと言われましたときに、司法取引という制度の一つであろうかと思います。したがいまして、司法取引と称することにしてはいけないわけではございません。

 一方で、司法取引と申しますと、基本的に、一番典型的なのは米国における司法取引制度であります。米国の司法取引制度は、先ほど来もありましたが、捜査・公判協力型のみならず、自己負罪型、両方ございます。しかも、米国におきますと、専ら自己負罪型が多用されていて、その自己負罪型で合意に達しますと、取引が成立しますと、それ以上の事実認定の審理は行わなくて有罪を導くことができる。こういったことで、非常に事件の省力化、効率化に適している制度だと言われております。

 これは制度の中の一側面でありますけれども、かなりその制度の特徴をあらわしているものですから、司法取引と言った場合に、通常流布されている米国型の司法取引というものとイメージが一致してしまうという面はございます。そういった面はございます。

 だからといって、必ずしも司法取引ではないと言うつもりは全くございませんけれども、そういった場合に、やはりこういった証拠収集等への協力及び訴追に関する合意という正式な名称をさらにどのように説明するかというところで、これまでは協議・合意制度あるいは合意制度と申し上げておるわけでございます。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。もう、きょうの私の質疑分の局長の答弁時間は十分果たしていただいた、大役を今務めていただいたなと思うところであります。

 大臣、先ほど大臣が答弁いただいた部分、これは政府一致の共通見解ということでよろしいでしょうか。

上川国務大臣 今局長が海外の事例も紹介しながら説明をいたしたところでございまして、そのような認識でおります。

鈴木(貴)委員 ここに国家公安委員長記者会見要旨というものがあるんですけれども、平成二十六年十二月二十四日、国家公安委員長就任記者会見なんですが、記者とのやりとりの中で、これは山谷大臣の御答弁の中で、刑事訴訟法について警察としてどのように対応していくのかお聞かせくださいと記者の質問がありまして、その中で、可視化の問題などを答えられた後に、他方、通信傍受の見直しや、いわゆる司法取引制度の導入については、実際の運用を見る必要はあるが、振り込め詐欺、さまざまな暴力団犯罪など、悪質巧妙化する組織犯罪の脅威から国民の安全、安心な生活を守り抜くために有用であると認識しておりますと、ここで司法取引制度という言葉をはっきりと使っていらっしゃるんですね。

 今、大臣、政府は共通認識をされていらっしゃるということなんですけれども、であるならば、上川大臣も、堂々と自信を持ってこの司法取引という言葉を使うことは可能だと思うのですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 先ほど局長からお話がありましたけれども、やはり正確に、今提案している内容に即して、そこからスタートするというのが私は大事ではないかというふうに思っておりますので、大きな冠として、そうした名称につきましてはお話しになる機会もあろうかと思いますけれども、こうした法務委員会での答弁につきましては、少なくとも合意制度ということで通させていただきたいというふうに考えております。

鈴木(貴)委員 では、発言を実際にされた山谷国家公安委員長にもお尋ねをさせていただきたいと思います。

 今の大臣の答弁などもありながら、山谷国家公安委員長がいわゆる司法取引制度の導入についてとおっしゃったのは、非常に正直で、率直で、国民に対してもわかりやすい。大臣として記者会見をする、国民に対して広く、これからこういったことを政府は考えているんだ、時には国民の皆さんの御協力も必要だ、そういった発言をする立場にある大臣であれば、やはりわかりやすい言葉を使っていくというのは大臣の大きな使命であり、そこを全うされていらっしゃる、私はこのように思っているんです。

 黒岩委員との先ほどの大臣のやりとり、そしてまた今の私のこの質疑時間の中におけるやりとりを聞きながら、国家公安委員長として改めて、今回私どもが議論をしているものはいわゆる司法取引制度であるということでよろしいでしょうか。

山谷国務大臣 今、私の平成二十六年十二月二十四日の就任記者会見の一部をお読みいただいたということであります。その前後にいろいろなやりとりがあったのかどうかというのがちょっとよくわからないのでなんでございますが、いわゆる司法取引と言っているようではありますが、今は、先ほど上川大臣がおっしゃられたように、合意制度という形で統一をさせていただきたいと思います。

鈴木(貴)委員 非常に残念です。記者会見で正直に、明快なわかりやすい発言をされていたにもかかわらず、何か二歩も三歩も、こういったときだけ引き返す勇気が働いたのかと今驚愕をしているところなんですけれども、今のそれぞれ両大臣の答弁を伺いながらも、まさにこれが政府における、そしてまたこの国会における刑訴法の認識ぐあいを示しているんじゃないでしょうか。

 過去に言った発言を、ここでは、いやいや、上川法務大臣と同趣旨ですと合わせてみたり、このいわゆる司法取引制度というものへの認識もしくはリスクに対しての危機感、こういったものが若干甘いのではないのかなというような思いをしながら、次の質問に移らせていただきたいと思います。

 刑事訴訟法の二百四十八条、検察官の裁量訴追主義というものについて、これは上川法務大臣に質問させていただきたいと思います。

 現行の刑事訴訟法二百四十七条においても、「公訴は、検察官がこれを行う。」と、起訴の独占が権利として出ている。そして、同二百四十八条で、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と、いわゆる起訴裁量権というものが明記されております。

 ということは、私は、この二百四十八条を目にしたときに、この起訴裁量権を使えば、いわゆる司法取引、協議と合意というものが、被疑者、被告人と訴追側の検察官で既に行われる、そういう制度になっているのではないのかなと思うんですが、いかがでしょうか。

林政府参考人 刑事訴訟法二百四十八条は、御指摘のとおり、起訴便宜主義、起訴裁量主義というものを定めたものでございます。

 こういった条文がありながら今回のような合意制度を導入する、あるいはその必要性ということでございますけれども、これにつきましては、刑事免責制度に関しまして最高裁判所の判例がございまして、この刑事免責制度を採用するには、やはり立法的な措置を要するという判例がございます。

 この判例がどこまでこの合意制度に影響を与えるものなのかどうかはおくといたしましても、刑事免責制度についてそのような判例があるということを考えますと、やはりこういった合意が許されることを法律によってしっかりと明らかにするとともに、その合意の対象となり得る事項でありますとか対象犯罪、また要件、効果等を法律で定めておくことの方が望ましい、このように考えております。

 その意味で、刑事訴訟法二百四十八条という起訴裁量権の条文がございますけれども、その上で、今回は、別途、法律的にこの制度を定めさせていただこうと考えたものでございます。

鈴木(貴)委員 最高裁判例を出していただきましたけれども、立法措置が必要であるということは、今現在、これまでの日本の刑事司法においては、いわゆる司法取引というものは行われてこなかったし、それが可能ではなかったという認識でよろしいでしょうか。

林政府参考人 現行法上、この合意制度のような合意、特に手続に関しまして双方が約束をしてそれに拘束される、こういった制度が許されるかどうかということについては、明示的に判断した判例は見当たりません。また、文献等によっても必ずしも明らかではございません。

鈴木(貴)委員 今回の刑訴法の一部改正案、私も委員として今質疑をさせていただいて、いろいろ勉強もしているところなんですけれども、可視化から、このいわゆる司法取引から、傍受から証拠の開示と、さまざまなものが、論点が多過ぎて、国民の皆さんに説明するのもなかなかしんどいなというような思いをきっと多くの先生方もされていらっしゃると私は非常に期待をしているんです。

 そこで、あえてきょうの質疑では、具体的なケースをもってしてわかりやすい内容のまさに真相解明をちょっとしてみたいな、このように思っております。

 最近、皆さんも記憶に新しいかと思うんですけれども、全国最年少市長の美濃加茂市藤井市長が一審無罪になった贈収賄事件がありました。驚くべきことに、その一審無罪が決まったときに、検察と証人が司法取引によって証言を捏造した疑いがある、このように厳しく指摘をされたという事件であります。

 お金を渡したと自白をしたとされる社長がいるんですけれども、この社長は、悪質な非常に大きな融資詐欺によって自身も被疑者、被告人でもあるという立場と、もう一つは、美濃加茂の藤井市長の有罪立証をするための検察側の証人という立場、二つがあったんですね。

 その際に、実は、その社長が勾留されていた際に隣の房にいて仲よくなったという男性がいらっしゃって、その房を社長が出た後にも何度か文通というか手紙のやりとりをしていらっしゃったそうなんです。その手紙というものが、直筆の手紙というものが残っておりまして、公判の場においても証拠採用が認められ、証拠として使われているものであります。その手紙の内容を、少しでありますが、読ませていただきます。

 「私の公判では、検察側は、一切難しい事や批判めいた事は言わないそうです。すんなり終わらせるそうです。逆に、藤井市長の公判での尋問は、相当な事を言われる様ですが、私の判決には影響ないとのことです。検事からは、「絶対に負けないから、一緒に頑張ろう!」と言われてます」、こういった直筆の手紙が、実際にやりとりが残っている、かつ、公判廷でも証拠として採用されているんです。

 そしてまた、「藤井弁護団が私の事を悪く言えば言う程、検察は私を守りに入ります。もちろん、これが公判では私に有利に働くでしょうし、検察側からの情状も出て来ることになります。」「これが実情です(作戦でもあります)」、こういうふうに書いてあるんですね。

 裁判官は、一審無罪を告げたときに、検察と入念な打ち合わせを行ったことが考えられる、証拠に合わせ供述をそろえた可能性も否定できない、このように、はっきりと、検察によるいわゆるでっち上げ、ストーリーありきの、まさに捏造の可能性を強く示唆したものになっております。

 こういったことが今現在も、ついこの間も行われているというこの存在、実際に指摘をされておりますが、それでも、いわゆる司法取引、もしくは闇取引とも言われているようですが、そういったことは全くなかったと言い切ることはできるんでしょうか。大臣、答弁を願います。

奥野委員長 これは大臣なんかにはとても答弁できないです。そんな具体的事例で細かいことを聞かれるのは、ちょっと違うんじゃないですか。

 刑事局長。

林政府参考人 御指摘されたその事件につきましては、現在、控訴審に係属しているわけでございます。そして、一審の判決については当然公表されているわけでございますが、必ずしも、今委員が指摘されたような形での認定がなされていたとは、公表されている限りでは承知しておりません。

 いずれにしても、現在係属中の事件でございますので、それ以上のコメントは差し控えさせていただきたいと思います。

鈴木(貴)委員 委員長に質問できますか。

 今、具体的なこういったことは大臣じゃないだろうという判断の基準はどこにあったんでしょうか。

奥野委員長 えらい細かい事実について勉強を必ずしもしているとは思いませんから、それよりも、事実を知っている刑事局長に答えさせた方が妥当だと思っているから、私はそういうふうに申し上げたんです。

鈴木(貴)委員 この美濃加茂のことを今具体的に例に挙げましたが、私の質問の最後、議事録を後で見返していただければ結構ですけれども、今、日本の刑事司法において、こういったいわゆる司法取引というものは存在しないと完全に否定できるのかというのが質問の趣旨なんです。具体的に美濃加茂のことをというんじゃなくて、完全に否定することは可能なのかと。これについては、委員長、私は大臣に聞く権利があるんじゃないでしょうか。

 では、委員長、もう一つ、委員長に質問します。

 逆に言えば、法務委員会の場において法務委員たる私が大臣に質問できないのであれば、ほかのどの場所において質問ができるのか、答弁願います。

奥野委員長 こういう具体的事件についてそれだけの経験を持っているわけではないから、それは専門家に聞いた方がいいと思って、私は刑事局長にアサインしたんです。ですから、もし刑事局長の答弁でまださらに聞きたいというんだったら、今度は大臣に聞けばいいんじゃないですか。私はそう思います。(鈴木(貴)委員「大臣に」と呼ぶ)

 大臣。

上川国務大臣 個別の事件にかかわることでございまして、答弁は差し控えさせていただきたいというふうに存じます。これは大変大事なことでございますので、そのように申し上げたいと思います。

 先ほど局長の方から、委員から御質問がございました二百四十八条に関することということで、現行法上は実は明示的に判断した判例などは見当たらないということでございますし、また、文献等におきましても必ずしも明らかではない、こうした答弁をいたしたところでございます。

 まさに、そういったこともございますので、法律的な対応をしっかりとしていく、そして、適正な手続をもってこの制度そのものも運用していく、この意味で、今回提案をさせていただいているというところでございます。

鈴木(貴)委員 そうなんです。大臣がおっしゃるとおりなんですよ、やはり適正な手続、適正な運用というものが重要。今大臣おっしゃったとおり適正な運用が図られているのかを、私はこの法務委員会の場において聞いているんです。

 先ほど委員長もおっしゃいました、質問をしているんだから答えますと。さっき委員長はおっしゃいましたよね。なので、質問を私がしているんですから、ぜひとも私の質問趣旨に沿った答弁を願います。

奥野委員長 私も、先ほどから聞かれているので、前々から言いたかったんですが、この場の質問者が理解するだけの答えではだめなんですよ。国民が聞いているんです。ですから、国民にわかるような答弁をしなくてはいけないので、最初に刑事局長に説明してもらって、その上で大臣が答える方が国民もわかりやすいと思っています。このケースはそれだと思ったものですから、そう言って、やっているわけであります。

鈴木(貴)委員 全くもって異論はありません。

 そして、きょうは珍しく皆さん声を上げて元気にしていただいていることも、私、この法務委員会を今活性化することに一役買わせていただいているなと思っているところであります。

 なので、全く異議はないんです。刑事局長に答弁いただいて結構なんです。その後に大臣にも答弁を求めたいんです。

 私が言っているのは、美濃加茂の個別のことではなくて、今の日本の刑事司法において、いわゆる司法取引というものが行われていないと完全否定はできるんですかという質問なんです。

 大臣、答弁をお願いします。

上川国務大臣 今、美濃加茂の事例ではないということで、一般論ということでの御質問がございました。

 裁判に付されているさまざまな事案につきましては、最終的には裁判所によって判断をされるということでございます。あくまで刑事手続そのものが適正に行われることができるかどうか、ここについては適正にしていく必要があるということでございまして、その上で、最終的には裁判所における判断を仰ぐということになろうかというふうに思います。

鈴木(貴)委員 最後に、もうこれについて繰り返しの質問はいたしませんけれども、ぜひ大臣に、現状認識の一つとして、知識として耳に入れておいていただきたいのは、先ほど私が申し上げた美濃加茂の例を挙げますと、先ほどの手紙のやりとりを残していた社長は、結局、ふたをあけたら、四億円近くもの融資詐欺を行っていたんです。しかしながら、立件されたのはわずか二千万円。そして、また殊さらにおもしろいのが、この社長が隣の房にいて仲よくなった友達への手紙の中に、自分の件は上限でも二千万円ぐらいの分しか起訴はされないだろう、立件されないだろうということも書いていたということが記録として残っているんです。

 ただ、今大臣が、いわゆる司法取引、闇の取引というか、こういったことがまかり通っているわけではないという御答弁をいただきましたので、今後のまさに司法の判断なども私もしっかりと注視をしてまいりたい、そしてまた、その上でさらなる質問、真相解明に資する質問などをさせていただくことも出てくるのかなと思っております。

 それでは次に、山谷委員長及び大臣、御両名にお伺いをしたいんですけれども、いわゆる証人、協力者の虚偽供述というものを防止するためにどんな策を講じていらっしゃいますか。

林政府参考人 今回の制度に即して申し上げれば、これまでも説明しておりますけれども、基本的に、巻き込みの危険に対処するための手当てというものでございます。

 一つには、やはり、協議、合意に弁護人が終始関与するということ。

 それから、実際にそこで得られた、合意の結果得られた供述が他人の刑事裁判に提出された場合には、あるいはそこで証言が行われる場合には、必ず、これが合意に基づく供述であるということを裁判所に対し、また当該他人に対してオープンにして明らかにする。それによって、十分な反対尋問により、その信用性が十分に吟味されるようにすること。

 さらには、今回、合意した者が捜査機関に虚偽の供述をする場合に、新設の罰則を設けております。これまで、偽証罪というものはございましたが、捜査機関に対しての虚偽の供述を処罰するというのはございませんでしたので、これを新設する。

 こういった手当てをして、巻き込みの危険というものに対して適切に対処できるようにしているものでございます。

鈴木(貴)委員 虚偽供述罪というものを新設して対策の一つとしているということなんですけれども、先ほどの協議、合意への弁護人の関与、黒岩委員からも質問も出ておりましたけれども、そもそもとして、弁護人の関与が認められる趣旨、目的というものはどういうものなんでしょうか。

林政府参考人 協議・合意制度は、基本的に他人の刑事裁判、刑事事件に対して協力をするということの一方で、当該本人の刑事事件の行く末、起訴されるかされないか、あるいは求刑がどのようになるのか、ひいては最終的に量刑がどのようになるのか、こういったことについて合意をするものでございますので、当該本人の利害に極めて密接にかかわることでございます。

 そのために、それを単に捜査機関、検察官と本人との間での協議に任せるのではなく、必ず当該本人、被疑者、被告人の側に立って弁護する弁護人の関与を必要とすることによりまして、当該被疑者、被告人の利益を保護する、このための趣旨でございます。

鈴木(貴)委員 三者協議というものが行われるということなんですけれども、ただ、そこの協議に至るまでの過程というものは、捜査官が被疑者、被告人に対して行っている取り調べの中で既に行われる可能性というのはあるんでしょうか。協議をするということは、何らかの当たり、協議できるかなという何か思いがあると思うんですけれども、それの当たりをつける場所というのは、それは二者協議、二者の場所、空間になるんじゃないでしょうか。

林政府参考人 今回の合意制度におきます協議というものが開始されますと、さまざまな法的な効果がございます。例えば、協議で供述されたことにつきまして、その後合意に至らなければ、その証拠が証拠能力を失うというものがございますし、そういった法的な制度でございますので、必ず、協議の開始に当たりましては、被疑者、被告人と弁護人とそれから検察官、この三者による協議の開始についての意思の合致がなくてはなりません。その合致があって初めて協議が開始されるということになります。

鈴木(貴)委員 刑事局長にもう少し教えていただきたいんですけれども、ということは、協議の場所が、捜査官と被疑者、被告人が初めて会う場所になるということになるんですか。それとも、例えば任意で引っ張ってきて、任意同行ということも可能性としては考えられますよね。あと、捜査中に取り調べ室以外のところでも話をすることは捜査上必要だと思うんですね。それを私は全然否定をしているわけではなくて、協議というものが実際にどのタイミングで、どちらからの意図、意思を持って生まれることを協議の開始と定義されているのか、教えてください。

林政府参考人 協議がなされる場面といいますのは、まず、これは在宅事件であろうが身柄の事件であろうが、それを問いません。また、協議の開始するされ方につきましても、検察官側がイニシアチブをとって協議を開始しようとする場合もあれば、あるいは被疑者、被告人、弁護人側から協議を開始しようと言うこともございます。それはさまざまであろうと思います。

 また、先ほど委員の御指摘のあった、では、協議の場で初めて顔を合わせるのかということにつきましても、それは、捜査が既に進行している中で、途中で協議が開始されるということがございますので、その協議が開始される、いわゆる三者の意思の合致によって協議が開始される以前に、当然、検察官と被疑者、被告人が相対している、こういう場面もありましょうし、そうじゃない場面もあろうかと思います。

鈴木(貴)委員 双方のイニシアチブが考えられるという発言で、私もそのように理解をしていたので、共通認識を持っているなと確認もさせていただいたんですが、その際に、もちろん被疑者、被告人側から、自分は実はこういう話を持っているんです、まあ言葉はあれですけれども、そういう場合と、逆に、捜査官側の方から、おまえ、何か知らないかというふうに提示を、協議・合意制度というものがあるんだよ、おまえ、それを使わないかというふうにこの制度自体を紹介するということも考えられるわけですよね。

 多分、多くの国民の皆さんが、この捜査・公判協力型協議・合意制度なるものを一人一人の皆さんが細かく知っていらっしゃるかというと、そういうわけでもないと思いますし、そうなった場合に、双方のイニシアチブといっても、割合で考えると、やはり捜査側からイニシアチブを発揮するということが往々にして考えられるんじゃないのかなと。

 その際に、そのイニシアチブ、どのような会話があったのかということは記録はされるんでしょうか。

林政府参考人 まず、協議の開始の申し入れがどちらからなされるのか、捜査機関側、検察官からなのか、あるいは被疑者、被告人、弁護人側からなのか、その比率というものについては、私は、それについてはどちらが多いとも答えるすべを持っておりません。

 その上で、仮に協議の開始をしようとする場合に、もし検察官側が協議の開始をしようとしたときに、多くの場合は、必ず弁護人の関与と同意が要りますので、恐らくは弁護人との間でまず協議の開始ができるのかどうかということを打診するんだろうと思います。そういった場面におきましては、どういう形でそれがなされるかというのは、面会してするのか電話でするのかというのは、いろいろな場合があり得ようかと思います。

 もちろん、弁護人ではなく、協議を開始したいというようなことについて、まず先に被疑者、被告人側と話をする場合がないとは申しませんが、そういった場合になれば、通常の場合、取り調べ室で行うのか、あるいは検察官の執務室で行うのか、そういった場合が考えられます。

 いずれにしても、それは、いろいろなパターンがございましょうが、法的に特に定まっているわけではございません。(鈴木(貴)委員「記録の件。記録されるのか」と呼ぶ)

 それについて、先ほど申し上げましたように、協議の打診のような行為がどのように行われるかどうかというのは、その態様としてはさまざまなものがございましょうし、その場所もさまざまでございましょうから、また、その方法もさまざまでございましょうから、それについて記録というものをするかしないかということについても、何らその定めはございません。

鈴木(貴)委員 ちょっと関連してなんですけれども、つまり、例えば、協議をし合意が成立した、協力者へのいわゆる恩典が先なのか、証言台での証言が先なのか、これはどちらなんでしょうか。

林政府参考人 協議、合意につきましては、特に協議については、ある一定の幅のある期間でなされるわけでございます。そのときには、基本的には、弁護人も加わった形で三者で協議がなされるわけでございます。

 その場合に、例えば協議において供述を求めることができます、弁護人が立ち会った状況のもとで供述を求めることができます。それを先にして、どのような供述がなされるのかということを確認するということを先にする場合も当然ありましょうし、また逆に、先にその恩典というものを、これは幅のある形かもしれませんが、ある程度示した上で、それでさらにどのような供述があり得るのかということを求める、供述を求めるというようなことも、これはやはり協議というのは交渉でございますので、さまざまなパターンが想定されようかと思います。

鈴木(貴)委員 済みません、ちょっと私の質問も曖昧だったと思うんですけれども、恩典を得られる協力者の公判が先で、恩典が確定するのが先なのか、それとも、仲間の、第三者の人間の公判が先に行われて証言を先にしないといけないのか、それはどっちになるのか、そのどちらが先だという決まり事があるんですか。

林政府参考人 他人の刑事事件への協力行為というものと、それから自己が受ける恩典というものの先後関係については、これはさまざまなものがあります。どちらが先という形ではございません。

鈴木(貴)委員 さまざまに、まさに個々のケース、事案で変わってくるということを想定されての答弁なんだと思うんですが、ここを私は問題視していまして、取引、そしてまたその恩典、協議、合意、これはあくまでも捜査官側への協力になるわけですよね。ということは、その合意制度をちゃんと守らないと、捜査官が期待をしているというか、合意をしたその第三者の、仲間の有罪立証に資する発言をちゃんとしないといけないという見えざるプレッシャーというものは、やはり心理学的に考えても全く否定はできないと思うんです。

 強迫観念という言葉が正しいかはあれですが、そういったプレッシャーなどを考えると、どんなときにも、幾ら弁護士がそこに立ち会っていようが、法的に立法措置がとられてこの協議・合意制度ができようが、捜査官側が、訴追側の方が絶対的優位に立っている。一度この協議に足を突っ込んでしまったら、なかなか抜け出すことはできないんじゃないかなと。一回協議に入りました、自分の恩典が本当に裁判において確定になるかわからないとなった場合に、途中で、その第三者の公判で自分が証人として出るときに、引き返す勇気というものはその協力者には生まれないと思うんですね。

 そこで考えられる冤罪の可能性であるとか、まさに引っ張り込みの可能性、どのように拭うことができるんでしょうか。

林政府参考人 基本的に、合意に至るまでの間に、自分の恩典というものはどのようにして確定されるのかということは、十分に弁護人との間でも話し合って、その上で検察官に確かめて、最後には合意書面というものをつくります。

 その中で、例えば自分の事件については不起訴にするというようなことが合意書面には記載されますので、それは、その後もし検察官が履行しなかったとしても、そのことは起訴しても公訴棄却になるということが今回の制度で担保されております。そういったことから、自分の恩典というものは十分になされるであろう、こういうことを当然前提といたしまして、その上で合意をするということになります。

 また一方で、その後、合意してからの、例えば真実の供述をするということにつきましては、これはあくまでも記憶に基づいた供述ということであれば、被疑者、被告人側はそれで基本的にその合意を果たしたということになります。ですから、その意味で、記憶に基づいて証言に臨み、記憶に基づいて証言したということであれば、その結果がたまたまその検察官の望むところの内容となっていなくても、それは合意違反とはなりません。

 したがいまして、そういった意味で、合意をした場合に、心理的な圧迫、心理的なプレッシャーから、虚偽のことを、記憶に反するような証言をしてしまうということにはならないと思われます。

 その上で、その供述自体の信用性につきましては、先ほど来申し上げていますように、当然、反対尋問で厳しく吟味されますので、信用性については厳しく審査されるということになります。

鈴木(貴)委員 供述の信用性については、厳しく公判の場で反対尋問などを通して確認をされる。

 それともう一つ、今刑事局長がおっしゃった中で、恩典に関しては、協議・合意制度を受けた者とその者の弁護人が確定されるかはしっかりとやりとりをする、かつ、検察官も合意書面をつくるという話だったんですけれども、この合意書面の有用性というか、裁判で確実に合意書面どおりの、合意書面上に書かれた恩典が保障される法的拘束力というのはあるんでしょうか。

林政府参考人 被疑者、被告人の側から申し上げますと、合意書面で出された検察官側の約束、検察官側が履行すべきことにつきましては、明確に、例えば、その後、具体的な事件を特定した上で、その事件について不起訴にするというようなことの内容の合意書面になります。

 その上で、それが履行されない場合の手当てとしましては、今回の法制度で、仮に不起訴の合意に違反して検察官が起訴した場合、その場合にはその起訴自体は公訴棄却となるということが法制度の中で定められております。したがいまして、検察官の合意の履行というのはそういう形で担保されているわけでございます。

鈴木(貴)委員 恩典にもさまざまな種類があると思うんですね。起訴をしないよという恩典もあれば、起訴はせざるを得ないんだ、だけれども、二十年じゃなくてここは十年でとか、執行猶予をつけるよという恩典もあると思うんですよ。その可能性はありますよね、刑事局長。

林政府参考人 協議、合意の結果、合意等の事項の中で、自分の事件、被疑者、被告人の事件につきまして、特定の求刑を行うという形での合意が存在します。

鈴木(貴)委員 なので、私が今述べたように、仮にですが二十年を十年だとか、そういったこともあり得るという答弁をいただいたと思うんです。

 ただ、それが、その人の裁判において裁判所が、では、あなたは十年服役しなさい、そういう裁判結果になるという確約はないですよね。

林政府参考人 委員御指摘のとおりでございまして、求刑というものは、あくまでも裁判所に対する意見でございます。したがいまして、裁判所は、量刑に当たりまして、それに拘束されるわけではございません。

 そのことを前提に、何ゆえに今回の法制度で特定の求刑をすることというものを掲げているかということにつきましては、やはり実際上、検察官の求刑というものが量刑に及ぼしている影響というものは大きいものがある。これを前提といたしまして、被疑者、被告人側として、それを自分に対する恩典として大きく考えれば、それは合意に至るでしょうし、あるいは、だけれども、それは余りにも不確かであるから、あくまでも絶対の拘束力がない以上、そのような求刑をすることを約束されても合意には至らない、こういう判断をすることは当然ありましょう。

 しかしながら、検察官の求刑に重きを置く場合がございますので、そういった場合も今回の恩典の一つとして掲げているわけでございます。

鈴木(貴)委員 今の局長の答弁を聞きながら、今、私、一つの矛盾と大きな疑問にぶつかっているんです。

 結局、合意というものは、訴追側、検察側から裁判、司法の場への意見だと。日本は三権分立ですよね。そして、検察官の使命というものは真相の究明だ、事柄を明らかにすることが検察官の目的であり使命であって、この者を何年の服役、懲罰にするというものは、そこは検察官の裁量からもう逸脱をしている。

 しかしながら、今刑事局長がおっしゃったように、その合意が裁判、司法への意見なんだ、そして、これが加味されるというか、含んでもらう可能性もあるといったら、これは三権分立のそもそもが崩れてしまうことになりはしないでしょうか。これは法務大臣の答弁をいただけますか。

林政府参考人 裁判所を拘束するかどうかということにつきましては、今申し上げた特定の求刑をするという事項につきましては、それは、もともと求刑が意見でございますので、最終的な量刑を拘束するものではございません。

 他方で、先ほど来申し上げている、例えば不起訴とするという合意につきましては、今回の制度の中で法的な手当てをしておりますので、これは当然、そういった合意に反して起訴がなされた場合には公訴棄却とするということを、これは、法律が裁判所に対して、今回の法律で裁判所がそのような行動をすることを義務づけるわけでございます。

 その上で、ある意味で、特定の求刑ということについてだけ申し上げれば、特定の求刑をするというのは、検察官といたしましては、検察官が論告求刑の最後に求刑をする際に、今回の合意に基づいてこのような刑を求めるということを表明するわけでございます。その際には、今回の合意というものは、他人の刑事裁判の真相解明にこのような協力をした、そのことを検察官としては、このような本人の情状として考慮している、有利に考慮している、これを明確に裁判所に提供することによって、やはり、当該本人についての適正な量刑を図るという意味において、実態に即した正しい判決をいただくというための一つの行為となろうかと思います。

上川国務大臣 まさに、局長答弁のとおりでございまして、他人の刑事裁判におきましての真相究明に資するという中で、供述した、尋問に応じて対応したことが判断されるということでございます。そのことは真相究明に協力したということでございますので、そういう意味で御自分の方の部分については、それについて勘案するということになろうかと思います。

鈴木(貴)委員 三権分立と矛盾しないかということをちょっと大臣にお伺いしたかったんですが、それは今ちょっと一旦置かせていただいて、刑事局長に。

 結局は、訴追側が司法の場において考慮材料を提起、考慮材料なんだということですよね。なので、三権分立に抵触することはないんだ、三権分立はしっかりと守られているんだということだと思うんですけれども、ということは、協議・合意制度が、幾ら立法措置をとられても、合意書面どおりの恩典を必ずしも受けることができるという制度ではないわけですよね。この認識でよろしいでしょうか。

林政府参考人 先ほど来申し上げているように、最終的に被疑者、被告人の思うところが貫徹されるかどうかというのは、合意事項にもよります。しかしながら、合意している範囲においては、必ずそのような行為がなされることが約束されているわけでございます。いわゆる特定の求刑がなされるかどうかということは、当然、それによって合意の効果として履行されなければならないということでございます。

鈴木(貴)委員 合意書面で特定の求刑ができるということはわかったんですけれども、裁判において、裁判官が判決において合意書面どおりにするということを担保した制度ではないという認識でいいですよね。

林政府参考人 委員御指摘のとおりでございまして、その特定の求刑がなされたからといって、その求刑の範囲内での量刑判決がなされるとは限りません。

 そのときのような場合に備えて、そのように特定の求刑を超えた判決がなされた場合には、合意した相手方、被疑者、被告人側として離脱することができるというような制度が今回設けられているわけでございます。

鈴木(貴)委員 今の答弁をいただいて、私の中で新たな問題意識も出てきたんですが、であるならば、今回のこの協議・合意制度というものが、検察官とのやりとりの中で合意をされたものがあたかも必ず裁判の判決においても反映されるというような間違った認識をやはり国民に与えてはいけないと思うんですね。

 なので、求刑は合意の中でするけれども、三権分立だし、司法の裁判官の判断に、まさにいつもおっしゃっている、予断を与えてはいけないわけですから、裁判官がどう最終的に本当に判断するかということは約束できないというリスクもありますよということは、しっかりと協議に入るときに、三者協議をしている場において明らかにするということが私は重要になってくると思うんです。

 あくまでもこれは私の提案です。ぜひとも前向きに検討いただけないかと思うんですが、いかがでしょうか。

林政府参考人 今の点につきましては、まさしく、そういう意味で、法的な効果の問題でございます。だからこそ、今回、この協議・合意制度の中で、必ず協議においては弁護人の関与を求め、最後に合意するときには弁護人が同意しなければ合意が成立しない、このような制度としているわけでございます。

 したがいまして、当然のことながら、三者でその協議は行いますので、そういったところの、今回実際に自分が受けられる恩典というものが何になるのか、それが今後どのような推移をたどって実現されるのか、あるいはどの範囲では実現されない可能性があるのかということは、その三者の協議の中で確かめ合われるものだと考えております。

鈴木(貴)委員 考えておられることは重要で、大事なんですけれども、それだけじゃなくて、リスクということに対してもしっかりと三者のときに明らかにしてくださいねという私なりの非常に建設的かつ前向きな提案だったんですね。

 なので、もうちょっとそこは、林刑事局長の懐の広さで、そしてまた経験でがっつり受けとめていただいてもよかったのではないのかな、このように思うんですが、もう一度答弁をお願いします。

奥野委員長 林局長、時間が来ていますから、簡単にお願いします。

林政府参考人 いずれにしても、当然、協議で合意に達しようとしている三者の、ともに向かった行動ですので、その中で必要に応じて必ずそのような説明をする場合があると思います。

鈴木(貴)委員 ありがとうございました。

 時間が来ましたので、引き続き議論させていただきたいと思います。ありがとうございます。

奥野委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 維新の党の重徳和彦です。

 きょうから司法取引の議論に入らせていただいているんですが、私、ちょっと前回の可視化の関係で何点か確認をしておきたい点があるので、まず初めに、可視化のことについて若干おさらいみたいな形で質問をさせていただきたいと思います。

 まず初めに、可視化の例外規定です。

 三百一条の二第四項第一号、第二号について前回も問題視をさせていただきましたが、まず第一号、「記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき。」についてなんですが、機器の故障なんというのを今どき例外規定の筆頭に挙げること自体、おかしいじゃないかということを申し上げました。

 前回、局長答弁では、機器の故障等の外部的要因によって取り調べ時に録音、録画の実施ができないような場合にまでなお録音、録画を義務づけるとすると、捜査機関に不可能を強いることになるというような御答弁がございました。可視化によって、捜査側からすると、被疑者がしゃべらなくなるんじゃないか、こういう意識ばかりなんですけれども、今後は可視化をしなきゃ被疑者はしゃべらないぞという、本来、みずからの人権を守るためのそういう可視化なのでありますから、捜査機関側の都合で簡単に、不可能を強いるなんということを言うべきではないんじゃないかと思います。

 ほかにも御答弁の中では、故障の発生を完全に防止することは困難ということもありましたが、故障したらまず直してからちゃんと取り調べるというのが当然ですし、それから、別の御答弁では、他の機器も全て使用中という事態もあるということなんですが、そもそも、取り調べ室が埋まっていたらそこがあいてから入るのと同じように、使える機器が全部ふさがっていたら機器があいたら使うということではないんでしょうか。

 その意味で、このような規定には大いに異論がございます。本当に災害その他やむを得ない事情というぐらいに限定をして、やむを得ない場合にも、全部は撮れていないかもしれないけれども、最初はちょっと撮れていないけれども数分たったところからはちゃんと撮れているとか、そういうことならまだわかる。それから、せめて、録音、録画機器が故障していたとしても、ICレコーダーで音声だけでもバックアップはとれている。こういうように、非常に限定的にこの要件を設けるべきではないかと思うんですが、林局長、いかがでしょうか。

林政府参考人 本法律案の例外事由につきましては、あくまでも全過程の録画義務を解除し得る場合の例外規定という形で定めておるわけです。したがいまして、やはり外部的な要因によって録音、録画の実施ができないような場合にまで録音、録画を義務づけるということについては、これは不可能を強いることとなるから、例外事由を設けようとしたものでございます。

 その上で、例えば、今最後に、せめてICレコーダー等での録音というものはすべきではないかというような御指摘もございましたが、これにつきましては、今回、制度として録音、録画義務というものをつくる場合において、その場合の記録というのは録音と録画両方の機能を備えたもの、これによって記録をしておくことが、その後のいろいろな記録の内容をめぐる裁判での争いが生じにくいということから、制度としてやはり録音と録画というものをセットにいたしまして、その上で、今回の機器による記録というものを義務づけているわけでございます。

 そういったことから、実際に、そういった制度としての録音、録画による記録、全過程記録というものがどういう場合に義務を解除し得るのかという観点におきましては、やはり今回のように例外事由を定めさせていただいて、外部的な事情において録音、録画が実施不可能な場合にはこの義務を解除しよう、こういった考えに基づくものでございます。

重徳委員 今の御答弁は、最初からずっと一貫して今の御答弁のままで、一歩も譲っていない、そういう内容なんですが、私どもも立法者なわけでありますので、この点については物申していきたい点があるということを申し上げておきたいと思います。

 それから、例外規定の第二号なんですけれども、これもあっさりしているんですね。「被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。」と非常にあっさりしています。供述することができないやむを得ない特別な事情があると認めるときとか、もうちょっとハードルを上げるのが普通なんじゃないでしょうか。

 その一方で、前回の御答弁で、例外事由は非常にあっさりと認めている一方で、なぜこれでいいのかという理由を局長が御説明する中で、検察官側が裁判において任意性の立証の手段を失ってしまうというリスクを取り調べ官、捜査機関は負っているので、捜査機関が恣意的に運用することは困難であろうということなんです。

 つまり、この間局長がおっしゃったことは、仮にこの例外規定をあっさりと適用したとしても、裁判では非常に重たい立証責任が課されるリスクがあるんだということなんですけれども、これは検察官にとっても非常な負担になると思いますね。当然に認められる例外規定だったのに、事実上裁判における立証責任が非常に重たくなる。入り口と出口でこんなバランスの悪い規定では、私は立法論としてもおかしいんじゃないかと思っております。

 だったら、こうしたやむを得ない特別な事情があるんだということをあらかじめ例外規定に入れるべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

林政府参考人 今回の法律案の三百一条の二第四項第二号でございますけれども、「被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき。」というふうに規定しております。

 すなわち、一つには、これは、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないかどうかということがまず規定の主たる部分でございまして、これを判断、認定する事情が外部的にあらわれた被疑者の言動に限定される、このような形での規定となっております。被疑者が録音、録画を拒否するような言動をした場合に、それだけで直ちに例外に該当するわけではなくて、あくまでも、そういった言動から、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと合理的に認められる場合に限ってこの例外に該当することとなります。

 したがいまして、捜査機関といたしましては、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないということを、公判でその該当性が問題になったときには、みずからの責任でこの例外事由に該当する立証をしなくてはならないということになります。

 そうしますと、結局、例えば、捜査機関といたしましては、被疑者が録音、録画を仮に拒否するような言動をした場合、それだけであっさりと録音、録画をやめることができるのかと申し上げますと、そうではなくて、やはりそのためには、何ゆえに拒否するのかというようなことを相手に尋ねてみなくてはいけません。そうでなければ、記録をしたならば十分な供述をすることができないと合理的に認められるかどうかが判断できませんし、また、後にそれを立証することができません。

 また、被疑者がこの録音、録画に関してさまざまな不安を持っているかもしれません。そういったことについては、必要に応じて説明をしなければならないかもしれません。

 そのような説明を加えたり、あるいは被疑者に拒否の理由などを尋ねた上でも、やはり拒否するとか、あるいは録音、録画に応じにくい言動をするとか、そういった場合があって初めてこの例外事由を認定できるんだろうと思います。

 そういったことは、今回原則として取り調べの全過程の録音、録画が義務づけられておりますので、実際にそういったやりとりをしていることもまた一つ録音、録画されていると思われます。

 そういったことで初めて将来の公判での該当性の立証ができようかと思いますので、そういったことにおきまして、この例外事由というものにつきましては、捜査機関が恣意的に、またあっさりと認定できるようなものではないと考えております。

重徳委員 私が言っているのは、検察官があっさりと例外を認めるということじゃなくて、この規定があっさりとしているわけでありまして、あっさりした規定である以上は、あっさりと認めることだって可能になっている、これが問題じゃないかというふうに申し上げているわけであります。

 ですから、今局長みずからおっしゃいました、相手になぜ、何ゆえに拒むのかということをちゃんと尋ねる、確認をする、それから、不安を抱えている方にはちゃんと説明をするというようなことをやらなきゃいけないんだよと。それをやらなきゃこの例外規定を乗り越えることはできないんだよということを、だったら、最初から条文に書くべきだと思うんですね。

 さらに言えば、本来、検察官側だけじゃなくて、弁護人が被疑者に対して、あなたの権利を守るためなんだよということをきちんと説明して、そして本人が納得する、さらに弁護人が同意をした上で例外を当てはめるというような内容にするべきではないかということも思いますが、これもまた同じような御答弁でしょうから、これは質問しません。

 そして、先ほど少し申し上げましたけれども、可視化したら被疑者がしゃべらないという発想が捜査機関側、検察側の基調にあると思うんですが、むしろ、これからは、被疑者側の権利として、可視化しなきゃしゃべらないよということも想定するべきだと思うんですね。

 現に、私が以前の委員会で指摘をしました沖縄のアメリカ軍の兵士に関しては、例えば平成二十一年の読谷村のひき逃げ事件においては、実際に米軍兵は、日本のこんな密室の取り調べに応じることなんかできるかと言っているわけです。可視化もされていない、弁護人の立ち会いもない、こういうところでぺらぺらしゃべるわけにいかないと。外国から見たら、日本の常識と世界の常識は違うと思うんですよね。

 そういう観点からも、むしろ、例えば今回の対象事件になっていない痴漢とかそういう事件についても、被疑者側が希望をした場合には録音、録画を義務づける、任意じゃなくて義務づける、こういう制度だって十分あり得るんじゃないかと思うんです。

 検察側にとって何か不都合があるんですかね、これは。被疑者側がむしろ可視化、録音、録画を希望するというときにも、検察側の事情で、いや、それはだめだということはあるんですか。ないんだとすれば、それを義務づけたっていいんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

林政府参考人 まず、今回、対象事件として二つの類型を定めておるわけでございますが、それ以外の事件におきまして、例えば、被疑者側、弁護人が録音、録画を求めた場合にこれを義務づけるということについてでございますけれども、これにつきましては、録音、録画を求めたというだけで本当に録音、録画の必要性が高い事件であるのかどうかということは、必ずしもそうは言えないであろうと思います。

 他方で、被疑者、弁護人が録音、録画を求めた場合に録音、録画を義務づけるといたしますと、当然、弁護人といたしましては、取り調べ状況を把握、確認するために、念のためであっても、あらゆる事件で録音、録画の請求を行うのが通常であろうと考えられます。そうしますと、結局のところは、全ての事件について一律に録音、録画を義務づけるのと同様の事態となりかねないわけでございます。

 そういったことから、被疑者、弁護人から録音、録画を求められた場合に必ずそれを録音、録画の義務づけとすることについては、相当でないと思われます。

 その上で、検察においては、今回の制度としての対象事件以外でも録音、録画を行っているわけでございますが、そのような場合につきましては、やはり、録音、録画をすることについて、一つにはメリットであるとか、あるいは、録音、録画を求められて、それをしないとなかなか被疑者の取り調べも円滑に進まないとか、そういったことも実際の録音、録画の試行の段階では当然考えるわけでございまして、録音、録画があると必ず取り調べができないという立場に立っているわけではございません。

 その意味でも、やはり、対象事件以外でも検察において罪名を限らず録音、録画に取り組んでいるのは、そういった趣旨が一つ含まれておろうかと思います。

重徳委員 もう根本的な発想というか認識を変える必要があると思うんですね。

 前の委員会で國重委員が、弁護人というのは、ひたすら、たとえこの被疑者が絶対おかしいと思っていても、全力で被疑者を守るために活動するんだと。そういう立ち位置が余りにこれまで軽んじられていたがゆえに多くの冤罪を生んできたということでありまして、やはり公明正大に、どこに出ても恥ずかしくない、そういう環境での取り調べを行わなければ本当の公正な裁判もできないんじゃないか、こう思います。

 私、再三国際比較をさせていただいておりますけれども、やはり日本の刑事司法制度というものは根本的にその思想、哲学を変えていかなくちゃいけないんじゃないか、こう思います。改めて申し上げさせていただきます。

 さて次に、司法取引の議論に入らせていただきます。

 まず、今回は、私も最初の質疑でございますので、基本的なところを御教示いただきたいと思います。

 今回は、捜査協力型のみの司法取引導入でありまして、自己負罪型は導入しないということであります。そもそも、他人の犯罪情報を提供することによって、なぜその見返りとして起訴の見送りとか軽い求刑を求める仕組みが許される、あり得るのかということ、これは法理上どのように説明できるんでしょうか。

林政府参考人 現行の刑事訴訟法上、検察官には広範な訴追裁量権が認められております。すなわち、刑事訴訟法二百四十八条におきましては、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」と規定されておりまして、証拠上犯罪事実が認定できる場合でありましても、検察官の裁量により公訴を提起しないことが認められております。

 また、審判の対象である訴因の設定につきましても、検察官の専権であると解されておりまして、判例におきましても、検察官が、事案の軽重、立証の難易等諸般の事情を考慮して、犯罪事実の一部により、または訴因事実を選択して訴追することを認めております。

 今回の合意制度は、こういった広範な訴追裁量権を背景といたしまして、被疑者、被告人の事件についての処分の軽減等を行うことを可能にするものでございまして、被疑者、被告人が他人の刑事事件の捜査、公判に協力したことを、検察官が、刑事訴訟法二百四十八条にも規定されております犯罪後の情況といたしまして、被疑者、被告人に有利に考慮いたしまして、これを訴追裁量権の行使に反映させることができる、こういったことを法理論的な根拠とするものでございます。

重徳委員 基本的な理屈は一応わかりますが、これまでも、つまり現行制度上の検察官の訴追裁量権の一環として、さまざまな、いわゆる情状酌量といったようなことが認められてきたということだと思います。

 今の御説明をもうちょっとかみ砕いて言うと、例えば、この被疑者は十分に反省しているとか、また初犯であるとか、あるいは余罪も認めているということもあるんですかね、そういうようなことを考慮して訴追するしないというようなことも判断できるのが今の制度だということなんですね。

 ちょっと確認なんですけれども、今私が申し上げました、反省しているとか、あるいは余罪も認めているなんというのはむしろ自己負罪型でありまして、他者の犯罪の捜査協力をするということも現行法上の協力をしたということに当たるということなんですが、現行法上も、任意というか、裁量の範囲内では捜査協力型が認められているというふうに理解してよろしいですか。それを改めて制度化させるということなんでしょうか。

林政府参考人 今回の合意制度を考える上で、合意に至る手続でありますとかその効果、こういったものをこの制度で定めております。そういった手続の側面と、結果的に、これまで現行法におきまして、量刑の判断に当たりまして、犯罪後のいろいろな情況というものを考慮されて実際の量刑がなされております。

 そういった意味において、その後者であります、量刑の部分で答えさせていただければ、これまでの現行の刑事訴訟の裁判の中でも、例えば、共犯者がおりまして、自分のことのみならず、共犯者の事件の解明、あるいは自分の犯罪組織の関与に関する解明、こういったものに対する貢献をその者に有利に解してその量刑に影響させる、こういったことは、当然、刑事裁判の現場では行われてきたものと考えます。

 他方で、では、そういったものに至るまでの、協議をして合意をして、その合意の手続としてどのようなものを定めるか、そういった手続についてはこれまでの刑事訴訟法には存在しておりません。

重徳委員 ここでちょっと一つ大臣にお尋ねしたいんですが、今の現行制度との関係でいうと、自己負罪型であろうと捜査協力型であろうと、検察官の訴追裁量権の範囲内として、一応、その範囲内ではあると認められてきたものであるということなんですね。

 そういう中にあって、先ほど黒岩委員への大臣の御答弁の中でも、まず捜査協力型を導入して、必要に応じて段階的に自己負罪型も検討するというような趣旨の御答弁がありましたが、今既に捜査協力型だろうと自己負罪型だろうとやっているわけなんですよね、言ってみれば。

 なのに、なぜ捜査協力型だけ今回手続化して、自己負罪型はこれから追ってという話になっているんでしょうか。

上川国務大臣 ただいま御質問の合意制度には、二つ、捜査・公判協力型と自己負罪型があるということでございます。この捜査・公判協力型につきましては、主として組織的な犯罪等の解明を目的とするということでございます。また、自己負罪型につきましては、主として事件処理の迅速化を目的としている、こう指摘されているところでございます。

 今回、証拠収集方法として特に必要性が高いと考えられる捜査・公判協力型の制度をまず導入しようということでございますが、昨今の事犯、財政経済犯罪、あるいは薬物関係の事件ということでございますが、組織性の高いところでなかなか真相解明に至らない、こういう事案が非常に深刻化しているということにも鑑みまして、まず初めて導入するものとして捜査・公判協力型の制度を導入し、先ほども答弁させていただきましたけれども、自己負罪型の制度につきましては、この新しい制度をまず導入した上で手続をしっかりと運用していくということでありまして、その上で、必要に応じて、そのような制度について、我が国の刑事司法制度に対してどのような影響を及ぼすかということもしっかりと見きわめながら、検討を行っていくことが妥当ではないか、こういう判断でございます。

重徳委員 ただ、その捜査協力型というのは、他人のことを、他人をあげつらうと言うとあれですが、そういう制度なわけですから、今回、先ほどまでずっと議論しておりました、可視化によって冤罪を防止するんだという趣旨からすると、何か逆を行っている感もあるんですね。順序として自己負罪型の方が、自己負罪型だって、余罪を認めたりするわけですから、真相解明機能は十分あると思うんですね。

 この自己負罪型を今後追って検討する。確かに組織犯罪で薬物とかいろいろあるのかもしれませんが、そこを先にやってしまうことで、今回、冤罪防止ということのための刑訴法なのか、また新たなリスクを生んでしまう刑訴法なのか、何か、その目的が非常にすっきりしないものになるんですね。

 しかも、可視化によって冤罪を防止するというのは、明らかに国民的にも、課題があってそれに対する問題解決だというのがはっきりしていますが、この司法取引というのは、かなりイマジネーション、私のような門外漢からするとイマジネーションの世界で、一体何が起こるのかわからないというような感じがいたしております。

 もし慎重にやっていくということであるとすれば、まず自己負罪型を先にするという考え方も十分あったんじゃないかと思うんですが、それでもだめだというのはどういうことなんでしょうか。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

林政府参考人 今回、法制審議会において、この制度の問題、そういう制度について議論をされていたわけでございます。当然、その際には、捜査・公判協力型のみならず、自己負罪型ということも念頭に置いて議論がなされました。その意味において、初めから、捜査・公判協力型だけを目指してこの制度の議論がなされたわけではございません。

 その上で、自己負罪型ということにつきましては、主として事件の処理の効率化というものを目的とするものであって、一般的に、自己の犯罪を認めるかどうかということを協議の合意対象とすると、まずは否認して検察官と交渉した方が有利な取り扱いが受けられるという事態、こういったことを招く結果となるのではないかとか、あるいは、被疑者にその結果大きく譲歩せざるを得なくなって、結果としてその事案の解明、真犯人の適正な処罰というものを困難にするのではないか、こういった意見も数多く見られまして、今回、自己負罪型についてはこれを採用することなく、捜査・公判協力型でこの制度を始めるということになったものでございます。

重徳委員 ちょっとこの点はもう少し私も研究をして、また理解を深めていきたいと思っております。

 きょうは、消費者庁の川口次長にもお越しいただきました。

 実は、消費者庁が所管している公益通報者保護法という法律があるんですね。これは、趣旨としては、この公益通報ハンドブックによりますと、

  国民生活の安心・安全を損なうような企業不祥事は、事業者内部の労働者からの通報をきっかけに明らかになることも少なくありません。

  こうした企業不祥事による国民への被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきものです。

  「公益通報者保護法」は、労働者が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、

にするものであるというものなんですね。対象となる通報対象事実というのは、「犯罪行為又は最終的に刑罰につながる行為」を言うわけであります。

 だから、この公益通報者保護法の趣旨は、犯罪行為を明らかにする、暴くということ以上に、国民、消費者の利益を守る。

 具体的に言えば、例えば牛肉偽装事件がありました。場合によっては、それに手を染めてしまったような従業員が、いや、こんなことを続けてはいけない、この会社の悪い体質を世に、明るみに出さなきゃいけないということから通報する、通報したことをもって解雇だとかそういうことにならないようにする、そういう制度なわけです。

 これは若干、やはり司法取引というのは非常に空想の世界という感じがするんですが、例えば、本来であれば、世の中に犯罪行為だというふうに暴かれて、そして人が逮捕されてというような大問題になる前に、内部の人間が通報をして、つまり、この公益通報者保護法の枠組みの中で、消費者の利益のために通報する方が先であるべきですね、消費者にとっては。一刻も早くそういったことを適正化するという意味では、それがより利益になるんです。

 ところが、しかし、自分も手を染めてしまった以上、逮捕されるかもしれない、逮捕されてからこの組織的な犯罪行為について司法取引の世界で証言をした方が自分個人の利益になる、こんなような誘因があると、一刻も早くこの事態を明らかにしなきゃいけないという社会的な要請に反して、刑事事件になるまでそれが明るみに出ない、こんなこともあるかもしれない、そういう趣旨の質問なんです。

 その意味で、公益通報者保護法をもっと強化しないと司法取引に負けてしまうんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか。

川口政府参考人 お答え申し上げます。

 公益通報者保護法の立法当時の趣旨につきましては、先生ただいま御質問の際に御説明いただいたとおりでございますけれども、この法律は平成十八年に施行されたものでございます。

 ただ、その後の施行状況ということを申し上げますと、平成二十四年度に消費者庁で調査を行いました実態調査がございます。これにおきまして、中小企業あるいは労働者における制度の認知度が十分とは言えないということが判明しております。このため、昨年度、全国各地で消費者庁におきましてシンポジウムを開催し、制度の意義、重要性を、中小企業を含めて幅広く周知するということをしております。

 それから、公益通報に関する実情や実態をもっと把握しながら実効性を高めていくことが重要というふうに考えまして、ヒアリングも行ったところでございます。

 これを受けまして、今月十六日から、新たな検討会、公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会の開催を始めたところでございます。この中で、事業者等の通報処理体制の整備促進、支援策を検討するとともに、公益通報についてさまざまな要件等ございますが、制度の課題、論点の整理を行いまして、その解決の方向性について検討する、こういう趣旨で検討会の開催を始めたところでございますので、制度の周知啓発とともに、制度の実効性向上のための方策について検討を進めてまいりたいと考えているところでございます。

重徳委員 私は消費者特別委員会の理事をしておりますが、今国会はほとんど消費者特別委員会は開かれておりません、法案もないし何もないということで。ちょっと川口次長の出番をつくらなきゃいけないと思って、きょうお呼びいたしたんです。

 これから検討するという御答弁しかなかったんですが、具体的にもっと保護を手厚くするべきだという意見も各方面から出ていると思うんですね。認知度が足りないだけじゃなくて、やはり仕組みも不十分である、こういう指摘も出ていると思うんですが、そういったことにどういう方向で対応しようとしているのか、御紹介いただけませんか。

川口政府参考人 お答え申し上げます。

 そもそも制度の認知度が低いという問題につきましては、中小企業あるいは労働者を中心にしっかり周知をしていくということでございます。

 これまでの意見のヒアリング等、制度そのものの課題といたしましては、公益通報者保護制度につきまして、論点としてどういうものを認識しているかということでございます。

 公益通報の主体が労働者に限られているということをどう考えるか。あるいは、通報の対象事実の範囲につきましてどういうふうに考えるか。現在、法律で例示をした後、政令により限定列挙する方策をとっておりますが、こういうものがどうか。あるいは、三カ所に通報することになっておりますが、どういう場合に保護されるのかという要件が狭過ぎないのか。あるいは、外部通報先の範囲について、処分をする権限がある行政機関などとなっているわけですけれども、これについてどうか。あるいは、通報者保護に係る効果ということで、先生が先ほど御紹介いただきましたように、解雇の無効等を定めているわけでございますが、こういうものがどうか。

 などなどの論点につきまして、もう少し緩和すべきではないかという御意見を各方面からさまざまな形でいただいているところでございます。

重徳委員 私は、最終的に裁判なんかになる前に解決する手法というのは幾らでもあると思いますので、その方が消費者の利益になる、国民的な利益になるということでございますので、公益通報者保護法についてもずっと追いかけていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。

奥野委員長 午後二時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十分休憩

     ――――◇―――――

    午後二時開議

奥野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。きょうもよろしくお願いいたします。

 冒頭、午前中の質疑の関係で林刑事局長にお伺いしたいんです。

 重徳委員が可視化の確認をされていたときに、ICレコーダーを使ったらという指摘もあったが、制度としては録音、録画をまずやっていく、そういうお話があったかと思うんですけれども、私はICレコーダーに並々ならぬこだわりを持っておりまして、録音と録画をするか、それとも一切録画も録音もないか、この一〇〇かゼロかよりも、ICレコーダーの五〇というものは極めて重要ですし、捜査側にとってもこれは大変貴重な資料になると思うんですよ。

 これから取り調べの可視化が法律として進んでいく、運用として進んでいく。先日、視察でもいらっしゃいましたけれども、可視化のもとでしか取り調べをしたことがない検察官もいますし、山谷国家公安委員長も聞いておいていただきたいんですけれども、警察の現場でも、例えばICレコーダーを持って目撃者情報をとったときに、それが極めて貴重な証拠になる。そのときに、その上司が、ちょっとおまえ、それを録音してあるか、一応しておきました、よくやった、そういうことも十分考えられます。

 委員長は、合理的という言葉が好きでよくお使いになりますけれども、これは我ながら極めて合理的でバランスのとれた提案だと再度強く念押しをさせていただきますが、いかがでしょうか。

林政府参考人 取り調べにおける状況をいかにして記録しておくかということにおいて、別にICレコーダーという手段というのもあろうかと思います。

 他方で、今回、制度として録音、録画制度を導入するのは、やはり一つは、任意性の立証に資するということと、取り調べの適正の確保、こういった二つの面があるわけでございまして、その場合に、制度として残すべき記録については、やはり録音のみならず録画というものが必要であろうと。

 それはやはり、録音のみでありますと、実際にその後の任意性の立証の際に、録音だけではうかがわれない脅迫行為があったのではないかとか、いろいろな紛議を呼ぶことにもなりますので、制度として残しておくべき記録というのは、やはり録音と録画がセットであるものとして今回考えさせていただいておる次第であります。

 もとより、どのような形で記録をするかということについて、ICレコーダーというものが否定されるものではないと思いますけれども、今申し上げたような形で、制度として全過程を義務づけるものの手段としては、録音と録画がセットされたもの、そしてまた、そういった機器というものは今後技術の発展とともに随分と進展していきますので、いろいろなコンパクトな形のものもできてまいるでしょうし、また、録音だけが残って録画だけがその機能を停止するような故障というような、そういう機器というものも今後そんなにないであろうということでございますので、やはり録音と録画がセットされたものとして制度の上では考えていくべきだ、こう考えている次第であります。

井出委員 今、記録をする手段としては否定をしないと、初めて前向きな答弁もわずかに含まれていたかと思うんですが、撮るんだったら音も映像も撮るか、全く撮らないかという制度よりも、やはり私は、何らかの形で記録を残しておこう、そういう運用も大いにやっていただきたいと思うんですよ。

 きょうは、林刑事局長、散髪をされてぴしっとされているんですけれども、髪の毛だって、長過ぎちゃいけない、短過ぎちゃいけない、バランスというものがあるんですよ。それを切にお願いしたいと思います。これはまだまだ何度でも取り上げていきたいと思いますので、よろしくお願いをいたします。

 きょうは司法取引ということで、裁判には事前に公判前整理手続というものがあって、司法取引も取り調べの一環ではありますけれども、裁判の事前の中で新しい制度が一つ設けられます。

 この国会質疑におきましても、質疑の本番に至る前に事前通告という制度がございます。これは、公判前整理手続のようにあらかじめ争点を明確にする、そういう意味で国会質問の事前通告というものは理があるかと思いますが、仮に、国会質疑の事前通告で入念な協議を行い、ましてや合意の書面を取り交わすようなことになれば、委員会や国会の質疑は非常に見ばえのいいものになるかもしれません。しかし、そういう形では、大臣の本音ですとか林刑事局長の深い御見識とかは到底伺えない。少なくとも国会審議においては、取引なし、合意書面なし、そういうことできょうもやっていきたいと思います。

 きょうは、まず、司法取引の導入の必要性から伺ってまいります。

 平成二十四年の二月に、捜査手法、取調べの高度化を図るための研究会最終報告、そういう報告書を警察庁の方でつくられております。

 それを見ますと、取り調べの可視化をする、しかし、可視化だけを行うとすれば治安水準を落とすことになるとの懸念も踏まえ、制度全体を視野に入れて検討する必要があると。また、客観的な証拠を的確に収集していくことが必要だ、そういう趣旨のことも書いてあって、当時の資料概要を読みますと、DNAのデータベースの拡充、そして、本法案にも入っておりますが、通信傍受捜査の拡大、また、今回の法案からは落ちましたが、刑を減免する制度と、幾つか、もちろん司法取引と免責制度も入っているんです。

 この資料を読み込みますと、通信傍受の必要性、これは速やかに検討を進めるべきであると。余りはっきり言うと清水委員に怒られますので、この程度にとどめておきますが。そして、DNAのデータベースの拡充についても、これは抜本的に拡充をしていくべきだ、そういう表現がありますし、司法取引のところを見ても、刑の減免制度の方がやや前向きな評価がされている。それに対して、今回法案に出ております刑事免責そして合意制度、その司法取引の部分は、引き続きの検討が必要であると、私が最初に紹介したものに比べれば、優先度、必要度が当時の段階では若干劣っていると思うのです。

 前にも警察庁局長にお伺いをしたんですが、私は、司法取引と通信傍受の拡大、この二つをとったときに、その必要性はまず通信傍受なんじゃないのか、通信傍受の方が優先度が高くて、司法取引は、特に警察のサイドからすると、当初、大きな疑念を持って法制審の議論が進めてこられたという経緯もあります。

 警察庁に伺いますが、この司法取引の導入というものが、もともとおっしゃられていたDNAデータベースの拡充とか、そういったものに比べて優先順位が高いのかどうか、率直にお答えください。

三浦政府参考人 今回の法案で合意制度とされているものにつきましては、組織犯罪等の解明に資するという制度の目的については共感できるわけでありますけれども、当初の段階では、制度設計のあり方によっては、例えば、検察官と被疑者の間で協議が行われている間は警察において必要な取り調べができなくなったり、あるいは、捜査中の事件について不訴追合意等がなされることによって事実上警察捜査が遮断されてしまうのではないかですとか、あるいは、被害者の処罰感情が峻烈な事件等において、この制度を活用することについて必ずしも被害者の理解が得られないのではないかといった懸念があると考えていたところであります。

 ただ、その後、法制審におけるさまざまな検討の結果、この制度におきましては、検察官が警察送致事件等について被疑者との間で協議を行おうとする場合には警察と事前協議を行うこととされたこと、また、対象犯罪を、制度の対象とすべき必要性が高く、被害者を初めとする国民の理解が得られやすい一定の類型の犯罪に限定することとされたことといった工夫がなされたことから、そうした懸念は今現在では払拭をされているわけでありまして、組織犯罪等の捜査における証拠の獲得に有用な制度となり得る、そういう評価をしているところでございます。

井出委員 今回の法案は、取り調べ、供述調書に過度に依存しない、そういうために、客観的な証拠の収集を含め、新しい捜査手法の充実も必要だ、そういうことで、通信傍受の拡大とこの司法取引が入ってきたと思うんですね。

 私は警察庁に重ねて伺いたいんですけれども、供述に過度に依存しない、客観的な証拠を収集できる捜査手法であれば、通信傍受の拡大なんかは、怒られちゃいますけれども、まさにそうだと思うんですよ。そして、最初からおっしゃられていたDNAのデータベースの拡充もそのとおりだなと思うんですよ、客観的な証拠だと。なぜそれを押し通さずに司法取引になっちゃったのか。ましてや、これから指摘しますけれども、この司法取引の主体者というものはやはり検察庁なわけですよ。なぜ、DNAのデータベースの拡充とか、そういうものにもっと頑張り切らなかったのか、お気持ちをお聞かせください。

三浦政府参考人 証拠収集手段の多様化といった場合には、それはさまざまな手段があるわけでございまして、まさしく御指摘の通信傍受でありますとか、それからDNAのデータベースにつきましても、今現在、各都道府県警察におきまして積極的な取り組みを行っているところであります。

 通信傍受の関係は今御審議いただいているわけですけれども、DNAのデータベースの関係などにつきましては今現在も力を入れて推進している、そういうところでございます。また、それ以外にも、例えば防犯カメラでありますとか、そういった客観証拠と言えるようなものの手段について、できるだけ積極的にこれを導入し、捜査に利用していくといった取り組みを行っているところでございます。

 さらに、加えまして、今回の合意制度につきましては、もちろん、協議、合意の権限については訴追裁量権を持つ検察官が有するものでありますけれども、こうした制度を活用することによって、組織的な犯罪等において末端の実行者等から事案の解明に資する供述などを得ることが可能になる場合もある、そうした効果を期待しているところであります。

 例えば、振り込め詐欺に代表される特殊詐欺などにおきましては、末端の実行行為者、例えば受け子、金の出し子、そういった末端被疑者は多数検挙されるわけでありますけれども、組織の中枢、首魁と言われるような者であるとかあるいは指示役といったところまでは、なかなか検挙が難しいというのが現状でございます。

 そうした場合に、そうした末端の被疑者から、こうした合意制度を活用して、組織の上層部に関する供述あるいはその証拠などを得ることができれば、こういった組織犯罪の捜査に大いに活用する、そういった側面もあるのではないかというように期待をしているところであります。

井出委員 何だかうまく話のベクトルが違う方向に行ってしまったようにも受けとめましたが。

 山谷国家公安委員長に伺いたいのですが、この司法取引の今回の法案は、条文で、警察官の役割について、検察官が、警察から送致、送付した事件、警察が現に捜査していると認める事件についてその被疑者と協議をするときに、あらかじめ警察と協議をしなければならない、そして、その次の文章で、検察官が協議に必要な行為を警察員にかわりにさせることもできるし、検察官がするべき提案をかわりに警察の方で提示することができると。この二つの条文をもって警察がこの制度をよしとした、そういう理解でいるんですけれども、そもそも、これまでも何度もここで議題になってきましたけれども、捜査の規模、事件数、また一事件当たりの取り調べの時間、これは圧倒的に検察より警察の方が大きいんですね。

 ですから、私は、司法取引が発生するんじゃないか、司法取引になるんじゃないか、そういうむにゃむにゃっとした取り調べの段階というのは、むしろ、取り調べの量からいって、圧倒的に警察の方がそれに遭遇すると思うんですね。

 司法取引を裁判のために実行して、裁判でそれをどう証拠として使っていくかは当然検察官の裁量なんですけれども、私は、司法取引を、裁判で責任を持つところは検察の役割として書き込んでもらってもいいと思うんですが、司法取引の主体も、むしろ警察の方が主体にならなければ実態と合わないんじゃないかと思うんですよ。

 ですから、警察は最初反対された、ようやく合意した、そういうことなんですけれども、まだこれは、警察からすれば、私は警察の立場に立ってきょうは質問しているんですけれども、警察の立場からすると、非常にふぐあいが多いと言わざるを得ないんですが、山谷大臣のお気持ちを伺いたいと思います。

山谷国務大臣 今、刑事局長からいろいろ答弁がございましたけれども、制度設計のあり方でございますが、検察官と被疑者の間で協議が行われている間は警察において必要な取り調べができなくなったり、捜査中の事件について不訴追合意等がなされることにより事実上警察捜査が遮断されるのではないか、被害者の処罰感情が峻烈な事件等において、本制度を活用することについて必ずしも被害者の理解が得られないのではないかというような懸念がありました。

 しかしながら、法制審における検討の結果、本制度においては、検察官が警察送致事件等について被疑者との間で協議を行おうとする場合には警察と事前協議を行うこととされたこと、また、少なくとも制度の導入段階では、対象犯罪を、制度の対象とすべき必要性が高く、被害者を初めとする国民の理解が得られやすい一定の類型の犯罪に限定することとされたことといった工夫がされたことから、賛成することに至りまして、この改正法案となっているところでございます。

井出委員 では、局長に伺いますけれども、賛成に至ったわけですよ。しかし、この司法取引を捜査の実態に合わせてやっていく。私はきょう、大サービスで警察の立場に立って質問させていただいておりますが、そうしたら、やはり警察を主体とした制度設計にならないと、最終の公判の責任はもちろん林局長の側、検察側に持っていただくんですけれども、だけれども、その行動の主体というのは、警察の方が、司法取引に至るその取り調べの局面に遭遇している可能性は高いと思いますよ。そういう書き方にした方がよかったんじゃないですか。

三浦政府参考人 一般に、やはり取引をするためには切るべきカードを持っていなければならないわけでございますので、今回の合意制度というのは、まさに、訴追に関する権限、例えば起訴するかしないか、あるいはどうした求刑をするか、これは専ら検察官の権限に属することでございまして、警察が実際に被疑者との協議を行うという場合があるとしても、それは、個別に検察官から授権をいただいて実施をする、多分、その間においても緊密に検察官と連携をしながら実施をしていくということでありまして、警察が主体となる制度設計というのは、ちょっと現時点では想定しにくいのではないかというように考えております。

 いずれにしましても、そうした、検察官と緊密に連携をしながら組織犯罪の解明が少しでも進んでいくのであれば、警察としては、それは大いに歓迎をしたいというように考えているわけであります。

井出委員 もう少し警察が我々の役目だと言っていただけたら、私もその必要性を多少なりとも感じたんですけれども、どうもそこまで至らなかったかな、そういう思いであります。

 今度は法務大臣に伺いたいのですが、私がきょうお配りしている、ほとんど字のない資料でございます。

 これは、法務省の協力をいただきまして、司法取引の対象事件というものが過去の犯罪件数からすると大体どれだけになるか、そういう数字をいただいて、私の方で年間平均をとったら、司法取引の対象事件というものは八万件前後だ、そういう数字になりました。可視化の対象事件というものは、裁判員裁判そして検察独自捜査事件で、これも平均すると年間四千件前後だろう。約二十倍の開きがあります。この丸は、ちょっとサービスして可視化の方を大きく書いてありますが。

 そして、斜線を引いてあるところなんですが、司法取引の対象事件と可視化の対象事件が重なり合う、これは、司法取引の対象事件の中で、容疑者の身柄をとってそれが可視化の対象事件と重なり合っている、恐らく検察の独自捜査事件に限られると思うんですが、ここも、法務省に協力をいただいてちょっと数字を出してみましたら、年間大体百件前後、過去の数字を見て出すとこういう割合になります。

 これまでの議論で、可視化は裁判の立証上有効であって、取り調べの適正化にもいい、しかし、可視化をすると捜査に支障もある、捜査ばかりにも頼っていられない、そういうことで、新たな捜査手法というものが、司法取引が出てきた。

 可視化をする事件で、可視化でちょうちょうはっしの議論ができないから司法取引を導入するというなら、まだその必要性を多少なりとも理解しなくもない。しかし、図にしてみますと、可視化をする事件と司法取引の対象事件というものは全く重ならない。司法取引の対象事件に関しては、ほとんどこれまでどおり可視化しないわけですから、従前の取り調べとなってくる。

 ですから、可視化をして、可視化の導入とともに刑事捜査のあり方全体を見直す、そういうことを考えたときに、私は、この図をつくってみて、可視化の導入と同時に司法取引を導入する、その必要性は、この事件が全く重ならないというところを見ると、やはり今回は必要性がないのではないか、そういうふうに思っておりますが、法務大臣の見解をいただきます。

上川国務大臣 ただいまの、委員の方からつくっていただいたという円のイメージ図でございますけれども、そもそも取り調べの録音、録画制度の対象事件につきましては、先般来の審議の中でも御指摘をいただきましたけれども、結果として裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件ということで絞られているわけでございます。運用という段階におきましては、身柄拘束等も含めまして運用の中で展開するということでありますが、法制度の中で義務づけした形で全過程録音、録画するということについては、今申し上げた対象事件にかかわるものであるということでございます。

 また、今回、客観的な証拠をさまざまな捜査手法のもとで取り上げていこうということで御提案をしていただきました上で、今回の法制度の中で盛り込ませていただいたこの合意制度につきましては、その対象犯罪につきまして、非常に必要性の高い犯罪として、一定の財政経済犯罪と薬物、銃器犯罪に限定するものであるということでありまして、これは組織的な犯罪に係るものということでございます。

 今、円を二つ書いていただいた、まさにそのクロスしているところということでありますが、結果として見ますと、検察官の独自捜査事件の場合におきましては、この合意制度の対象犯罪であります一定の財政経済犯罪または薬物、銃器犯罪につきまして、この場合、逮捕または勾留されている被疑者の取り調べを行うときには除くわけでありますけれども、一定の例外事由に該当する場合を除きまして、その取り調べの全過程を録音、録画する、そういう仕切りになっているところでございます。

 それぞれの対象犯罪がしっかりと絞られているということでございまして、結果として、クロスしてみると、今のような独自捜査事件の場合に一部該当するものがある、これについては義務化をしておりますので、全過程の録音、録画をすることになるということでございます。

井出委員 この百件、可視化の対象事件で司法取引の対象事件でもある、ただ、この事件に関しては司法取引になる、協議になれば録音、録画は中断される、そういう説明も受けておりまして、そこは、またいずれ、各論の中の一つとして取り上げたいんですが、可視化を導入する、捜査ばかりに頼っていられない、別の捜査手法全体を含めて見直しが必要だ、そういうときに、かつての議論で見合い論という話もあったんですけれども、私が最初に紹介をしました警察庁の報告書を見ても、可視化だけを行うとすれば治安水準を落とすことになるとの懸念も踏まえ、制度全体を視野に入れて検討すると。

 きょうは相手の立場に立って質問をと思っておりますので、可視化の見合いとは言いませんが、可視化と同時に導入する新しい捜査の手法としては、私は、通信傍受、それは供述や調書とは全く関係ありませんし、DNAのデータベースの拡充なんかも客観的な証拠になり得ると思いますし、警察の報告書を見ても、通信傍受やDNAのデータベースの必要性と比べると、司法取引の必要性というものは、外国の事例を調べたものをちょっと載っけている、それで、引き続き検討が必要と。過去のものを積み上げて見てくると、そこまで必要性があるようにはなかなか感じられない。今までの議論でも出ておりますけれども、この司法取引は、やってみないとわからないというところもあるかと思います。ですから、そこは、本当にこれが必要なのかどうかというところを慎重に考えていく必要があるのではないか、そういう思いでおります。

 最高裁に伺いたいのですけれども、司法取引は、最高裁、裁判所の側からも疑念が言われてきている。それは本会議でも紹介をしましたが、昨年六月の法制審議会での最高裁の方の発言です。裁判実務ではこの種の供述は警戒するべきものと考えられてきた、そして、虚偽供述に対する刑事罰というものが今回新たに設けられているが、「そういう制度があることによって偽証を思いとどまるかについては、実際には疑問でありまして、実効性としてはいささか足りないと思わざるを得ません。」そうした証人の信用性には最初から少なくともある種の疑問符、留保というものを持ってその証言を聞くということになると言われているんです。

 この回だけではないと思うんですね、裁判所の代表の方が法制審で司法取引に疑問を呈されたのは。これ以前にも、「これまで懸念を申し上げてきたかと思います。もう一度まとめて申し上げます。」と言っているので、何回か懸念を示されていると思うんです。

 裁判所としては、今回、この司法取引の導入が盛り込まれていますけれども、疑念は晴れているんでしょうか。

平木最高裁判所長官代理者 いわゆる司法取引制度をどのように考えるかにつきましては、まさに立法事項でございますので、裁判所といたしましては発言を差し控えさせていただきたいと存じます。

井出委員 裁判所の立場に立って、裁判官には私は到底なり得ませんけれども、裁判官がこれからるる全国各地で判決を出すときに、その懸念がこの法制審の段階では語られていたわけですね。最終的には、法制審の議論でも、平木刑事局長のお立場でなくても、どこかの誰かから聞いたよ、後輩から聞いたよでも結構なんですけれども、その疑念というものが晴れて、ある程度制度が導入されてもやっていけるぞ、そういう、よく答弁で使われる共通認識みたいなものはできているのかできていないのか、伺いたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 供述が信用できるか、虚偽ではないかということにつきましては、証人尋問を実施した裁判体におきまして、個別具体的な事情を踏まえて判断するものでございます。

 もっとも、現行制度のもとでの一般論でございますけれども、裁判官の間では、第三者に罪を負わせる内容の供述につきましては類型的に警戒すべきものであるという議論がなされてきたものと承知しておるところでございます。

井出委員 司法取引の導入は、この法律の、可視化、司法取引、そして通信傍受、また保釈、証拠関係とありますけれども、その大きな幾つかのテーマがある中で一番、新しいものですから当然なんですけれども、これからやってみなければわからない、私の立場から申し上げれば曖昧な部分があります。

 また次回も、今度は各論をいろいろ質問させていただいて、引き続き議論させていただきたいと思います。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 刑事訴訟法等一部改正案、今回の法案は、捜査・公判協力型協議・合意制度、いわゆる日本で初めて司法取引の制度が導入されるというものですね。

 共産党の私が言うのも変な話ですけれども、人の罪を密告して自分の罪を軽くしてもらおうというのは、何か、日本人の持つ心の廉潔性といいますか清廉性というか、なじまないものなんじゃないかなというふうに非常に思っていまして、逆に、例えば誰かの罪をかぶって自分が悪者になるということについては美徳とされる傾向もあるのかと思うんですが、そういう点では非常に問題があるのではないか。もちろん、法案の中身にもいろいろ疑義がございます。

 もともと冤罪防止を目的とした今回の刑事司法改革ではありますけれども、冤罪事件の根絶、あるいは、この間、問題視されてまいりました違法な取り調べの防止ということと、今回の司法取引制度の導入とがどう関係するのか。言い方をかえれば、例えば村木事件、氷見事件、足利事件、布川事件、志布志事件、東電OL事件、PC遠隔操作事件、いろいろありましたけれども、この司法取引の制度があれば防げた事件なんでしょうか。国民の立場からまずこのことを聞きたいと思います。大臣。

上川国務大臣 今回の刑事訴訟法の一部改正に係る御議論ということでございまして、本法律案の趣旨ということで、その背景にさまざまな冤罪事件があって、そこからの反省も含めて、今回、取り調べ及び供述調書に過度に依存した状況から脱し、そして証拠収集手段の適正化と多様化、さらに公判審理の充実化を図るということで、これは重ねて申し上げてきたところでございます。

 検察の在り方検討会議の提言におきましても、国民の安全、安心を守りつつ、冤罪を生まない捜査、公判を行っていくためには、抜本的また構造的な改革として、追及的な取り調べによらずに供述や客観的証拠を収集できる仕組みを早急に整備していく、そして、取り調べ、供述調書に過度に依存した捜査、公判から脱却するように、こうした明確な提言をしていただいて、その上で、今回、法制審の御議論を踏まえた上で、合意制度も含めまして、取り調べの手段あるいは証拠収集手段の多様化を図るというこの目的の中で、この合意制度につきましても取り組もうということで提案をさせていただいているところでございます。

 組織犯罪にとりましては、特に首謀者の関与状況も含めまして、その全容解明が、取り調べに専ら依存しているような状況でありますとなかなか本体のところにたどり着かない、それによってさまざまな犯罪がまた連鎖していく、そうしたリスクが大変大きい状況でございますし、また、唯一今認められているというか、取り調べということで、それをどんどん追及していくと、そのこと自体がまたさらに誤判につながっていく危険性があるということもございまして、こういうことを総合的に勘案した中で、今回、さまざまな制度を含めての一体的な提案ということになったものでございます。

清水委員 一体的な提案というふうに述べられましたが、冤罪被害者の方々は、もとをたどれば、検察の在り方検討会議のときから一貫して、冤罪防止の有効な手段としては、全過程、全事件での取り調べの録音、録画、あるいは取り調べ時点での弁護人の立ち会い、さらには証拠の全面開示、あるいは、この間ずっと言われてきた代用監獄や人質司法の根絶、こうしたことが、今回、この刑事訴訟法等一部改正案には盛り込まれず、新たな冤罪を生み出す危険性のある合意制度を盛り込んだということについては、国民の皆さんには非常にわかりにくいと思うんですよね。

 今皆さんにお配りしておりますが、資料の一枚目を見ていただきたいんです。これは、今月、横浜弁護士会が出しました会長声明です。捜査・公判協力型協議・合意制度の導入と通信傍受法の改正に反対する会長声明であります。

 今月行われました参考人質疑でも、日弁連の副会長が委員の質問に答えて、司法取引や通信傍受の拡大については必要性はない、あるいは低い、このように述べたことは非常に印象的ではありましたけれども、今月に入ってもこうした会長声明が出たということは、非常に重く受けとめる必要があるんじゃないかと思うんです。

 赤い線を引っ張っておりますけれども、この合意制度について、「捜査機関が被疑者を利益誘導して虚偽の自白や証言を獲得する手段として利用されるおそれがあり、無実の第三者についての「引っ張り込み」の危険や、共犯者への責任のなすりつけといった事態、新たなえん罪を生み出す危険性が認められる。」こう述べております。

 そこで、上川大臣に改めて伺うわけですが、結局、自分は助かりたい、刑を軽くしてもらいたい、あるいは不起訴にしてもらいたい、こう考える被疑者、被告人が、他人の犯罪について虚偽の供述を行い、第三者の無実の人を犯罪者に仕立て上げる危険性をこの制度は本質的に持っているという認識はございますか。

上川国務大臣 法制審におきましてのこの合意制度の御議論の過程の中でも、そうしたことについての御指摘はあったものというふうに思っております。その上で、巻き込みの危険に対していかに対処し、そして適正な制度設計をしていくかということについて、まさにそこが大きな課題であったと思っております。

 その上で、今回の新しい制度の中では、巻き込みの危険性をなくすための対応策ということにつきまして、三段階の取り組みをしているところでございます。

清水委員 上川大臣、恐縮ですが、私がお伺いしたのは、上川大臣自身が、この制度の持つ本質的な問題として、第三者を引っ張る危険性があるかどうかというふうにお伺いしたんですね。上川大臣自身がそういう認識を持っているか。法制審でそういう議論があったということはそのとおりなんですね。

 今、大臣自身も、巻き込みなどを、引っ張り込みなどを防止するためにさまざまな手当てを設けていると。このことは、すなわち、この制度が本来的に第三者を巻き込んでしまう制度であるということのあかしだと思うんですが、大臣自身もそういう認識でよろしいでしょうか。

上川国務大臣 どの制度もそうだったと思うんですけれども、必ずさまざまなメリット、デメリットがある。また、全てリスクがゼロであるはずはないわけであります。また、それが運用された社会全体の中でも均質であるわけではございませんし、また、かかわる皆さんのさまざまな取り組みというのもあるわけでありますので、全部一律に、均質的に結果が出るというものでは必ずしもないというのが制度の持つ本質ではないかというふうに思っております。

 今回は、巻き込みの危険性ということについて、そのことのリスクがあるという判断の上でさまざまな制度設計をするということ、そしてそれが、協議の段階、合意の段階、さらには公判の段階という形の中で手続が進められる、これもトータルな仕組みに仕上げているところであるというふうに理解しております。

清水委員 よくわかりました。

 それでは、引っ張り込みの危険に対してさまざまな制度の手当てをとっているということで、法務省に具体的に伺ってまいります。

 まず、弁護人の関与についてであります。

 協議の開始から合意の成立に至るまで弁護人が関与するということなんですが、では、この弁護人にはどこまで情報が開示されるのか。被疑者、被告人が供述しようとしている他人の犯罪に関する、第三者の犯罪に関する情報、証拠、これはどれぐらい弁護人に知らされるのでしょうか。

林政府参考人 今回の協議、合意の手続に関与する弁護人は、あくまでも被疑者、被告人の弁護人であります。したがいまして、事件に関する証拠等の開示というものは、その当該被疑者、被告人の事件についての開示を受けるということでございます。したがいまして、他人の刑事事件そのものの証拠の開示というようなものを受ける立場にはございません。

 したがいまして、この協議、合意の手続に関与する弁護人といいますのは、他人の刑事事件についてのさまざまな情報というものは、必ずしも刑事訴訟手続の中で得られるものではなくて、自分の当該被疑者、被告人からの情報、あるいはその他、他人の刑事事件の関係者からの情報、こういったものを入手してその情報を得るということになろうと思います。

清水委員 今、びっくりするような答弁だと思いますよ。結局、第三者に関する証拠というのは、何一つ当該被疑者、被告人の弁護人には開示されないということですよ。

 つまり、被疑者、被告人が第三者、他人の犯罪を供述するというときに、いわゆる伝聞証拠というか、そういうものしかないわけですよ。つまり、ターゲットとされる第三者、共犯者でもいいです、その人に対する証拠が何一つないのに、どうして当該被疑者、被告人の弁護人が協議、合意できるんですか。何を材料にするんですか。それが、いわゆる被疑者、被告人の伝聞だけ、供述だけ、それだけを信用して、果たして協議、合意はできるんでしょうか。

 私は、最低でも、ターゲットとする第三者の、共犯者のある程度の証拠がなければ、協議の土台にも弁護人は着くことはできないと思うのですが、その辺の制度設計はどう考えていらっしゃるのでしょうか。

林政府参考人 そもそもこれは、協議、合意の手続がなされる場合に、他人の刑事事件というものは今後の解明の対象であります。その解明の対象であるところのさまざまな証拠でありますとか情報というものについては、当然のことながら、刑事手続の流れとして、今回、協議、合意の手続に関与する弁護人のところに、そこに証拠が開示されるような手続というのは到底つくりようがないわけでございます。

 したがいまして、まだ解明途上の段階での協議、合意の手続に関与する弁護人は、あくまでも、やはり協議、合意によってもたらされる被疑者、被告人の利益のために、それにどのようなものが恩典として与えられるのか、また、それに見合うどのような供述をするのか、そういった観点から、弁護人が被疑者、被告人との間で協議、合意に関与するというものでございます。

清水委員 大事なところなので繰り返し聞きたいんですが、弁護人が、被疑者、被告人の受ける恩恵だとか、あるいは被疑者、被告人の言い分、主張について話を聞き、協議する、これは当然わかりますよ。

 しかし、協議、合意するということは、他人の犯罪について真実を供述するということに法文上なっていますよね。それが真実の供述かどうかということについては弁護人も確認する義務があるわけで、いわゆる恩典がどれぐらいあるかとか、被疑者、被告人の供述がどうかということはありますが、対象とする第三者が本当に共犯者であり、実際に罪を犯した者であるということの判断材料はなくていいんですか。

林政府参考人 あくまでも、この協議、合意の手続に関与する弁護人といたしましては、被疑者、被告人がどのような供述をするのかということでございます。これは、記憶に従ってどのような供述がなされるのか、こういったところを確認すると思います。その際に、被疑者、被告人が供述するということについての根拠となる、この被疑者、被告人がそういった供述をできる立場にあるのか、そこに不自然さはないのか、そういった観点では、被疑者、被告人と相対して議論する中で、そういったことは、余りにも不自然な場合というものがあれば、それは職業倫理上指摘ができると思います。

清水委員 被疑者、被告人と弁護人との信頼関係だけで、他人の犯罪が実際に行われたものかどうかということを判断していいんですか。不自然でなければ信頼できると言いますが、うそをつくのがうまい人だって幾らでもいるわけじゃないですか。

 具体的にお伺いしたいと思います。

 法案には、第三百五十条の二第一項第一号イに、被疑者、被告人は、検察官と合意をすれば、合意後の取り調べにおいて、あるいは、ロにありますように、証人尋問について、「真実の供述をすること。」とあります。この「真実の供述」というのは何のことを指すんでしょうか。

林政府参考人 法律案の刑事訴訟法三百五十条の二第一項第一号のイ及びロに「真実の供述」とございますが、これは、自己の記憶に従ってする供述をいいます。

清水委員 自己の記憶に従った供述ということなんですが、ちょっと疑問に思いますのは、普通、取り調べ段階で、被疑者、被告人の供述というのは、あるいは供述調書になるものは、この合意制度のあるなしにかかわらず、必ず真実でなければならないんではないんですか。この協議・合意制度に基づく供述や供述調書だけが真実であればいいということではなくて、一般的な取り調べや供述調書であっても、本来的に常に真実でなければならないというふうに思うんです。

 わかりやすく言うと、この合意制度で協議で合意するときは真実を語り、そうでない場合は真実でなくてもよいということではないと思うんですよね。常に供述調書というものは真実でなければならないということだと思うんですが、これは確認です。

林政府参考人 こういった捜査段階での供述でありますとか、証言もそうですけれども、いずれにしても、真実であるかどうかということではなくて、自己の記憶に従ってそのまま供述するかどうか、これによって刑事司法における審判作用というものが確保されるわけでございます。したがいまして、真実の供述というのは、自己の記憶に従ってする供述ということでございます。

清水委員 刑事局長、今、真実であるかどうかではなくてなんて言っていいんですか。法律には真実を供述するというふうに書いているじゃないですか。真実であるかどうかではなくてというのは、これはちょっと、法律の根幹にかかわる問題だというふうに私は思いますよ。自己の記憶に基づいて語ることが全て真実なのか。

 では、私は改めて伺いたい。

 足利事件、氷見事件、布川事件、志布志事件、PC遠隔操作事件で自白した方は、取り調べにおいて真実の供述をしたんですか。

林政府参考人 今御指摘の点について、私、個別の事件についてお答えすることはできませんけれども、先ほど来、真実の供述と申し上げておるのは、例えば偽証罪という条文がございますけれども、偽証罪の場合におきましても、基本的に、証人というものが自己の記憶に従って供述する、これであれば偽証罪にならない、こういうふうに解釈されております。

 それと同様に、今回の真実の供述というものも、自己の記憶に従ってする供述を意味しております。したがいまして、自己の記憶に従って供述している限りにおいては、合意ができた場合での合意違反とはならないという関係になります。

清水委員 ちょっと、真実の供述というところに余り特信性や信用性を置くと、私は、道を外すと思いますし、また新たな冤罪を生み出すんじゃないかなと思うんですよね。

 仮に、冤罪事件で自白をした、これを検察や裁判所が真実の供述と認めたのであれば、なぜ真実の供述をしたにもかかわらず冤罪の被害を受けたのかということになりますし、真実の供述ではなかったとするならば、なぜ検察は起訴し、裁判所は有罪の判決を下したのかということになるじゃないですか。つまり、自白や供述調書というものは、真実かどうかではなく、刑事訴訟法で言われているところの本来の目的は真相の究明にあるべきであり、警察や検察はその職務に力を注ぐということではないのかなと思うんですね。

 私、改めて刑事訴訟法の第一条を朗読したいと思います。「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」と書いています。明らかにするのは事案の真相であり、真実を明らかにしろとは言っていないんですね。

 違う角度で聞きますが、この協議、合意における制度について、誰が真実の供述であるかどうかということを判断するんですか。

林政府参考人 基本的に、事案の真相の解明という場合に、それを最終的に確定できるのは裁判所でございます。公判において確定されます。したがいまして、そういった刑事司法の作用の中でさまざま供述を得たり証言を得たりしますけれども、その場合には、それぞれの真相解明のためには、それぞれの供述を求められている者が自己の記憶に従って供述すること、このことによって最終的な刑事司法における真相の解明に寄与する、これが期待されているわけでございます。

 したがいまして、当該そのものが真実であるかどうかが供述をしているその時点時点で求められているわけではなくて、そこで求められているのは、あくまでも、先ほど来申し上げているように、自己の記憶に従って供述すること、これが求められているわけであります。

清水委員 今、林刑事局長も言われましたように、判断するのは裁判所なんですよ。公判で有罪か無罪かということを決めるわけですね。公判でもないところで、取り調べ段階で、検察や弁護人がその被疑者、被告人の言っていることが真実かどうかなんという判断をしていいんですか。その真実かどうかという判断に基づいて、それが真実でなかった場合、無実の、無関係の第三者を引っ張り込むことになるんじゃないですか。

 みずからの記憶に基づいてと今おっしゃった。しかし、自分は助かりたい、刑を軽くしてもらいたい、そう思う人間は、みずからの記憶に基づいたストーリーの中に、第三者を引っ張り込む虚偽の供述を盛り込むんです。そこを、真実かどうか、記憶に従って述べたものかどうかということを検察官や弁護人は正確に判断できるんですか。お答えください。

林政府参考人 検察官にしても弁護人にいたしましても、その時点で得られている証拠につきましてそれぞれ攻撃防御を闘わせて、それを判断するのは裁判所でございます。

 その過程において、今回、合意に基づいて得られた供述でありましても、それについて、検察官としては、それが信用性があるという形で立証することがありましょう。それに対しては、当然、弁護側としては、反対尋問という形を駆使して、これについての信用性を弾劾しようとします。その結果、裁判所によって判定がなされるということでございます。

清水委員 裁判所で弾劾する、うそをつけば虚偽供述罪があるから制度的な手当てになると、この間、大臣も述べてこられましたので、では、その点について伺いましょう。

 二〇〇九年以降、刑事事件の証人として出廷した後、偽証罪または偽証教唆罪により起訴された人は何名いますか。

林政府参考人 法務省において調査したところによりますと、平成二十一年一月から平成二十七年五月末までの間、刑事事件の証人として出廷した後、偽証罪によって起訴された者は二十一人でございます。

清水委員 資料の三枚目をごらんください。

 今、林刑事局長がお答えになられた、二〇〇九年一月から本年五月末までの間に偽証罪によって起訴された者は二十一人、検察側証人七名、弁護側証人十四名ということですね。

 偽証罪というのは、公判でうそをつきませんという宣誓をしますよね。そしてそれが、うその証言をした場合、偽証罪に問われ、懲役三カ月以上十年以下という非常に重い刑罰を受けるわけですね。

 今回、司法取引で設けられた虚偽供述罪というのは五年以下なんです。つまり、十年以下という、虚偽供述罪よりも重い罪状で、しかも、公判で宣誓までして、虚偽の証言を行い、起訴され、有罪となった者がいるわけですよ。

 だから、虚偽供述罪を設けることによってうその供述をしないという担保にはならないし、そうしたことが行われれば、犯罪と関係ない無実の人が引っ張り込まれるのではないんですか。林刑事局長、虚偽供述罪を設けることが、虚偽の供述をしない、虚偽の合意をしないということの制度保障にはならないんじゃないですか。

林政府参考人 まず、現行法で偽証罪というものがございます。この偽証罪の存在というものも、当然、他人の引っ張り込み、あるいはいわゆる巻き込みというもの、虚偽の供述を防ぐということの一つの担保措置であろうと思います。

 その上で、今回新たに、捜査機関に対して虚偽の供述する罪を虚偽供述罪として、法定刑として五年以下の懲役という形での罪を新設したのは、これまで、捜査機関に対する虚偽の供述というものは一般的に罪に問われないという状況がございました。そのために、今回、合意制度をつくるに当たりましては、捜査機関に対して合意に違反して虚偽の供述をした者についても、それに罰則を設けたものでございます。

 これによりまして、このような虚偽の供述をして他人に不当に罪を着せてしまうような結果を招きかねない虚偽の供述というものをすることについて、そういう行為を防止するということで、今回の罰則を新設したものでございます。

 その上で、仮にこの罪に当たる行為がなされたとしましても、これによって実際に不当な刑事処分が行われるということを未然に防止するという政策的な観点から、当該合意に係る他人の刑事事件の裁判が確定する前で、かつ、当該合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは、刑の任意的な減免の対象とするという形の規定も設けているところでございます。これは、現行の偽証罪でも、やはり同様の規定が設けられているところでございます。

清水委員 確かに、虚偽供述罪を設けることによって抑制することはできると思いますよ。しかし、防止することにはならない。指摘をしておきたいと思います。

 そして、罰則を設けると言いましたが、これは、罰を受けるのは誰ですか。いわゆる被疑者と協議、合意した場合、虚偽の供述を行った被疑者、被告人は、当然、虚偽供述罪で罰則があります。その合意にかかわった検察官や弁護人、これには罰則はありませんでしょう。この委員会で、弁護人には罰則はあるんですか、ありません、安心しましたと。冗談じゃないですよ。そんなことでいいんですか。懲戒物ですよ、本来ならば。

 弁護人というのは、社会正義の実現のために、人権擁護のために仕事をされているんじゃないんですか。自分の依頼者の刑を軽くするために、依頼者の利益を擁護するために他人をおとしめる、そして、万が一それが虚偽の供述だったときにもおとがめなし。これが、私が冒頭言いました刑事司法の廉潔性、清廉性ということになじむんですか。私は強くそのことを指摘しておきたいと思います。

 警察の方にちょっと確認させてください。

 この協議・合意制度、司法取引の制度が導入されれば、これまでのような警察段階における取り調べあるいは供述調書への依存、これは軽減されると考えますか。

三浦政府参考人 証拠収集手段が多様化されるということでございますので、これまでとかく、被疑者の供述に依存しているといったようなことが指摘をされるわけでありますけれども、その限りにおいて、被疑者の取り調べ、供述だけではなく、そういった多様化された証拠収集のもとで新しい証拠が得られるということになろうかと思っております。

清水委員 いや、私がお伺いしたのは、取り調べや供述調書に依存しなくなるのかというふうに聞いたんです。証拠の多様化というのはわかりましたよ。

 では、聞き方を変えますけれども、証拠が多様化することによって取り調べや供述調書への依存度は減るわけですね、警察では。

三浦政府参考人 あくまで事件によってはということだと思いますけれども、被疑者の取り調べだけではなく、そういった新しい証拠収集手段によって、供述に頼らずとも立証が可能になるといった場合が出てくるものと考えております。

清水委員 本音のところだと思いますけれども、上川大臣がこの間述べていることとは少しずれているのかなと。事件によってはというふうにおっしゃられましたので。

 それでは、山谷国家公安委員長にお伺いいたします。

 この法案は、司法取引に司法警察員、巡査部長以上、警部補だとかそういう偉い警察官が関与するということになっていますが、もともと警察としては、この司法取引の制度の導入に私は反対していたと思うんですね。

 例えば、司法取引を議論した第一作業分科会第三回会議では、警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課長、えらい長い名前ですけれども、露木さんという幹事が、「協議・合意制度を録音・録画制度につなげるのであれば、ますます消極的にならざるを得ない」、このように、導入に非常に消極的な態度を示しておられたわけです。

 もともと警察として消極的だった、反対していたのに、これはなぜ認めるようになったんでしょうか。

山谷国務大臣 合意制度でございますが、今回、我が国に初めて導入されるものでありまして、検討の初期段階におきましては、警察内部においてもさまざまな観点から議論がなされました。

 本制度については、法制審議会における議論を経て、その内容が具体化されて本法案に盛り込まれたものでありますが、現在の制度案、取り調べによる供述証拠の収集の困難化に対応するとともに、証拠収集手段の多様化を図るとの観点から、適切な形で制度設計がなされたものと考えております。

清水委員 当初反対していたものがなぜ賛成になったのかなというところは非常に関心がありまして、例えば、法制審特別部会第二十五回の会議でもこのように述べておられるんですね。司法取引の制度の実効性確保の点では、証人保護プログラム、この導入が不可欠であろうと思います、こう述べておられるんです。

 警察庁にお伺いします。

 今回、司法取引の制度では、警察が求めていた証人保護プログラムは盛り込まれましたか。

三浦政府参考人 これは、引き続き検討すべき課題とされたと承知をしております。

清水委員 盛り込まれるのが不可欠だと言いながら、賛成をしている。

 それで、さらに言いますと、当時、警視庁副総監、種谷委員はこのようにおっしゃっていますね。司法取引で「協力した方が、関係者から口封じのために殺害されるとか、暴力団関係事件においては、暴力団の顧問弁護士から証人が威迫されるという事例が実際にありますので、そういうことを防ぐためにも、これまで証人保護プログラムの導入をお願いしてまいりました。」こういうふうに述べておられます。

 今度は法務省に聞きます。

 証人保護プログラムがないということなんですが、司法取引の制度でこうした暴力団関係者の証人が威迫されるという事態、これについてどのような制度になっていますか。

林政府参考人 我が国におきまして、刑事手続において証人等を保護するための制度といたしましては、一つ目は、証人尋問の際の付き添い、遮蔽の措置、あるいはビデオリンク方式による証人尋問、あるいは証人に加害等のおそれがある場合における関係者に対する証人等の安全への配慮要請、こういった制度が現行法上ございます。

 また、本法律案の中で、この点について、証人等の保護制度について拡充しようとしておりまして、その内容としては、ビデオリンク方式による証人尋問を拡充する、あるいは証人の氏名、住居の開示に係る措置を新たに導入するものでございます。さらに、公開の法廷における証人の氏名等の秘匿措置を導入する、こういったことを本法律案の中に盛り込んでいるものでございます。

清水委員 先日の自民党の井野委員の質問に対して、こういった暴力団犯罪者の証人について、犯罪被害者等及び証人を保護するための措置、こういったことをあわせて講じることが必要だというふうにおっしゃっておられます。ですから、司法取引の制度では、証人について暴力団構成員は対象から排除しておりません。だったらなぜ、取り調べの録音、録画では暴力団構成員を可視化の対象から外しているんですか。整合性がないんじゃないでしょうか。どうですか。

林政府参考人 録音、録画の制度につきましては、これは、取り調べにおける録音、録画義務をどのようにするかという制度でございます。その中で、指定暴力団に係る事件についてはその例外とする、今回、そういう制度で法律案を提出させていただいているわけでございます。

 他方におきまして、合意制度につきましては、これをどのようにして運用するかということにつきましては、当事者との間で合意がなされて初めて運用されるものでございます。そういったことから、今回、そのような対象となるものの範囲を定めているわけではないわけであります。

清水委員 もう終わりますけれども、井出委員から資料も出ましたけれども、司法取引と可視化のリンクする部分の話もありました。今の答弁を聞いても、整合性がないと私は言わなければなりません。

 引き続きこの問題をしっかりと深めていく決意を申し上げまして、質問を終わります。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、明七月一日水曜日午前九時、参考人として弁護士高井康行君、東京大学大学院法学政治学研究科教授川出敏裕君、郷原総合コンプライアンス法律事務所代表弁護士・関西大学客員教授郷原信郎君、甲南大学法学部准教授笹倉香奈君及び弁護士今村核君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、明七月一日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時十六分散会


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